口蹄疫 治療・殺処分

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口蹄疫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2010/05/21 20:13 UTC 版)

治療・殺処分

口蹄疫の患畜死体の焼却処理。主に先進国を中心に、他の家畜への更なる伝播を防ぐために行われる(2001年イギリス)。発展途上国ではワクチン接種で終わらせることが多い。

本疾病に対して治療が選択されることは基本的に無い。

致命的な病気ではないが、前記のとおり偶蹄類が感染する伝染病の中でも最も伝染力が強い部類に入り、蔓延すれば畜産業界に経済的な大打撃を与えかねない疾病でもあるため、患畜として確認され次第、家畜伝染病予防法に基づいて全て速やかに殺処分される。

殺処分は狂犬病のような第17条第1項による都道府県知事の権限ではなく、第16条第1項に基づく家畜保健衛生所の家畜防疫員の指示により患畜と確認され次第、直ちに行われる。この指示書も第17条第1項に基づく『殺処分命令書』ではなく、第16条に基づく『と殺指示書』という形式で発せられる(命令の内容および効力に事実上差は無い)。

2010年5月現在、PCR診断が陽性だった場合に最終確認を待たずに殺処分される(もっとも処分が間に合わずに待機患畜が1週間以上生きたまま農場にいる場合も多く(5月8日現在約3万頭)、豚の感染性の高さを考えると危険である)。

診断

初めは農家や獣医師などが水疱などの症状によって疑いを持ち、各地方にある家畜保健衛生所(家畜衛生所)に通報する。家畜衛生所は立ち入り検査し、同時に血液や水泡液等の試料を採取し他の病気の可能性を排除する(流行期は逆で、まず口蹄疫を疑う)。家畜衛生所は拭い液や血液を厳重に梱包し小平市にある動物衛生研究所(NIAH)に直接持参し、RT-PCR遺伝子診断を行う。遺伝子診断全過程には約半日(行政手続きも含む)かかるが、(最強の伝染力を持つOIEリスト指定の法定家畜伝染病なので)最優先で休日や夜間にも行われる。そこで陽性となれば「疑い例(suspected case)」となる。確認にはELISA法という血清検査が行われ、陽性の場合「確認例、確定例(confirmed case)」になる(血清検査には培養期間が必要なので時間がかかる)。さらにOIEの口蹄疫国際確定診断センター(FMDWRL)である英国の「パーブライト研究所Pirbright Laboratory」に試料やデータを送付し、確認することもある。

防疫・対策

「口蹄疫防止のための規制。以下の物品のボツワナ国内への持ち込み禁止」と大きく書かれた看板。下に小さく肉類等の畜産物の一覧が書かれている。2009年8月6日ボツワナ国境。
車両消毒ポイントの例。車両の移動によって、他地域の家畜へ伝播することを予防するために設置される。「速度落とせ。消毒エリア」の表示が見える(画像右)。2001年6月15日、イギリス ノース・ヨークシャー
靴の裏を消毒する米国空軍のパイロット。これはフランスから米国に帰還する直前。自国に口蹄疫を持ち帰らないための対策。2001年4月25日、フランス イストル

日本では「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成16年12月1日 農林水産大臣公表)[10]」に基づき、各種の対策が行われている。

なお指針の発表に伴い、「要領(「口蹄疫防疫要領」)(2002年(平成14年)6月24日付け農林水産省生産局畜産部長通知)」は廃止された。「海外悪性伝染病防疫要領」(農林水産省畜産局長通達、1975年(昭和50年)9月16日付、一部改正1976年(昭和51年)7月5日)は新要領とともに廃止済み。

第3条の2(特定家畜伝染病防疫指針)

  1. 農林水産大臣は、家畜伝染病のうち、特に総合的に発生の予防及びまん延の防止のための措置を講ずる必要があるものとして農林水産省令で定めるものについて、検査、消毒、家畜等の移動の制限その他当該家畜伝染病に応じて必要となる措置を総合的に実施するための指針(以下この条において「特定家畜伝染病防疫指針」という)を作成し、公表するものとする。
  2. 都道府県知事及び市町村長は、特定家畜伝染病防疫指針に基づき、この法律の規定による家畜伝染病の発生の予防及びまん延の防止のための措置を講ずるものとする。
家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)第3条の2

対策の基本は「検疫」、「早期発見と殺処分」、「半径10kmの移動制限区域、半径20kmの搬出制限区域」である。2010年日本における口蹄疫の流行の例では、2箇所の感染中心地に対し、畜産関係車両消毒ポイント(検問所)を、24時間33箇所と日中(9ないし15時間)9箇所設定している。

前回は防疫線の半径を50kmとしたため、今回の制限は緩いのではないかという意見もある。約80km離れたえびの市を除き現在の所防疫線内であるが、5月17日、衣服等への付着を通じてウイルスが拡散する可能性もあるため、農水省のガイドラインでは獣医師に対する指導事項として、

  • b 当該農場を去る前に、身体、衣服、眼鏡その他の携行用具の消毒並びに車両の洗浄及び消毒を行い、直ちに帰宅するとともに、帰宅後は、更に車両、携行用具、衣服等の完全な消毒を行い、入浴して身体を十分に洗うこと。
  • c 異常畜が本病でないと判明するまでは、偶蹄類の動物と接触しないこと。

なお、本病と判明した場合は、異常畜を診断し、又は検案した後7日間は偶蹄類の動物と接触しないこと[10]

とし、防疫作業員に対しても同様な規制を定めている。

予防

口蹄疫ワクチン(英国製)は存在するが、基本的に使用しない。その理由は

  1. 感染の診断が不可能になるので、その後の予防が著しく困難になる。また感染した動物と抗体の区別がつかないのでワクチンが投与された個体が生きている間は輸出相手国が輸入再開の許可を出さないケースが多く、産業への長期的打撃が大きい。
  2. 100%の効果がないので、感染源になったり偽の安心を生む。現在あるワクチンは(生体内での免疫の)有効期間が6ヶ月で、個別の型にしか効かない。新たに感染した場合、排除するのではなくキャリア(潜在保菌患畜)(1-2年という論文も存在)となり危険である。またウィルスの変異速度がはやく、免疫効果が未知数。
  3. 日本での使用例がなく不安である。
  4. ワクチン接種された動物は食品に使えない。
  5. 接種範囲の決定が困難である。
  6. ワクチン接種、診断、殺処分の3つの業務ができるのは獣医師だけであり、流行期に過重な負担となり実行不可能に近い。

などである。相当程度流行した場合は考慮と議論の対象になり、法整備がされ備蓄(40万頭分)があるので利用可能である(2010年に日本における口蹄疫の流行では、同年5月19日に10km制限区域内に殺処分前提の全頭接種が決定された)。

鳥インフルエンザでは中華人民共和国(中国)でのワクチン使用により中国国内での制圧が困難になった。鳥インフルエンザの一部の流行の起源が未承認の外国産ワクチン接種である可能性がある。

「地域限定での全頭殺処分」は制圧の切り札のように見えるが、財産権や家畜伝染病予防法など法律上色々困難があり、農家や地域に与える有形無形の打撃、抜け道の存在など未経験分野であり、実行可能かどうか難しい。また処分頭数があまりにも多くなるため(2010年の日本の場合、5月中旬の10km圏では15万頭程度)、人員・資材・機材・敷地の確保や、それらの衛生確保も難しい。さらに実行した場合にウイルスが既に広範囲・高濃度で拡散済みであるので、制圧できるかどうかも疑わしいところがある。利点は、処分が間に合っていない対策として「時間稼ぎ」できる点とされる。

消毒

農水省が発表した情報を独立行政法人動物衛生研究所がまとめた「日本の口蹄疫情報」の中で、「口蹄疫防疫に使う消毒薬の作り方」として「4%炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム)(Na2CO3)液」を挙げ、ホルマリンおよび他の消毒剤と混ぜないこと、容器は金属製、ポリエチレン製いずれでもかまわないことが付記されている[11]。また、「海外悪性伝染病防疫要領」に記載されているその他の消毒薬」として、2%苛性(かせい)ソーダ(NaOH)(水酸化ナトリウム)、2%苛性カリ(KOH(水酸化カリウム)、10%ホルマリンを挙げている。

市販消毒薬で、口蹄疫ウイルスに対する明らかな効果が認められたものは下記の通り(濃度は外部リンク先参照)[12]

バイオシッド30(旧称リンドレス ファイザー)、クリンナップルA(甲陽化学)、動物用イソジン(明治製菓)、ファインホール(東京ファインケミ)、ポリアップ16(共和発酵、あすか製薬)
アンテックビルコンS(バイエル)、クレンテ(エーザイ、日産化学)、スミクロール(住友製薬、有恒薬品)
グルタクリーン(日本全薬、科学飼料研究所、ヤシマ)
  • その他
クリアキル-100(塩野義、田村)、アリバンド(甲陽科学)

地面の表面がムラなく白くなる程度の地面への消石灰の散布も奨励されている[13]




  1. ^ 山内一也 (1997年12月20日). "霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第58回)1.ウイルス発見100年記念を目前に 2.「エマージングウイルスの世紀」". 日本獣医学会. 2010年4月22日閲覧。
  2. ^ 社団法人日本獣医学会「人獣共通感染症(第96回)4/19/00」
  3. ^ "宮崎県における口蹄疫の確定診断について(平成22年4月23日 農林水産省報道発表資料)". 農林水産省 (2010年4月23日). 2010年5月8日閲覧。
  4. ^ 横浜市衛生研究所 口てい疫(口蹄疫)について
  5. ^ a b c d e f 山内一也 (2000年5月28日). "霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第99回) 口蹄疫は人に感染するか". 日本獣医学会. 2010年5月8日閲覧。
  6. ^ "Foot-and-Mouth Disease Overview" Canadian Food Inspection Agency カナダ食品検査局(2008-09-05) 2010-10-11閲覧
  7. ^ 山内一也 (2000年6月6日). "霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第99回追加) 口蹄疫は人に感染するか". 日本獣医学会. 2010年5月8日閲覧。
  8. ^ Foot and mouth 'killed people in 1800s'
  9. ^ Foot and Mouth Disease update: further temporary control zone established in Surrey
  10. ^ a b "口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成16年12月1日 農林水産大臣公表)". 農林水産省 (2004年12月1日). 2010年5月8日閲覧。
  11. ^ 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所(動衛研). "口蹄疫防疫に使う消毒薬の作り方". 2010-5-6閲覧。
  12. ^ 北海道網走家畜保健衛生所. "口蹄疫". 2010-5-6閲覧。
  13. ^ 農水省:農場への口蹄疫の侵入を防ぐために~消毒薬の作り方と使い方~(PDF:92KB)
  14. ^ Grubman M. J., Baxt B (2004). “Foot-and-mouth disease”. Clin Microbiol Rev 17 (2): 465–93. PMID 15084510.
  15. ^ Leforban Y., Gerbier G(2002). "Review of the status of foot and mouth disease and approach to control/eradication in Europe and Central Asia". Rev Sci Tech 21(3):477–492. PMID 12523688.
  16. ^ 家畜伝染病の病名は時代によって変わる
  17. ^ 파주에 괴질...가축 '비상'(坡州に原因不明の病気……家畜'非常') 朝鮮日報
  18. ^ [1]
  19. ^ [2]
  20. ^ [3]
  21. ^ 宮崎の口蹄疫、新たに11農家で疑い例 読売新聞、2010年5月11日


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