ギリシャ経済の少なくとも一部は、財政危機の打撃を免れる可能性がある ─ 海運業界だ。
ギリシャ海運業界の最大手にとって、今年は好業績が見込めそうだ。原油や石油化学製品を運搬するタンカーや、小麦、石炭などコモディティーを運ぶドラ イバルク(ばら積み)船に特化していることが寄与する見通し。
ギリシャ経済で観光に次ぐ規模を誇る海運業界は、中国へのコモディティー輸出拡大の恩恵を狙っている。実際、大手業者は良い位置につけている。ひどく疲弊したコンテナ市場へのエクスポージャーがほとんどないのだ。
タンカー46隻を運営するツァコス・エナジー・ナビゲーションの最高経営責任者(CEO)兼オーナーのニコラス・ツァコス氏は「われわれは海上のトラッ ク運転手のようなものだ」と述べた。
世界貿易から恩恵を得るとともに、ギリシャ本国と戦略的な距離を維持することは、アリストテレス・オナシス氏やスタブロス・ニアルコス氏ら、20世紀の海運王が完成させた戦術だ。
ギリシャの海運業界が現在の形になったのは、同国の企業家がリバティー船(戦時中の米貨物船)800隻以上の船を破格の値段で購入した1940年代終盤だ。バルク・コモディティーや原油に特化した業者は、50年代と60年代の欧州の製造業ブームや中東の石油ブームで潤った。
ギリシャ船舶の12%が籍を置くマーシャル諸島の国際船舶登録部局マネジングパートナーのクレイ・マイトランド氏は「たとえ国が崩壊しても、海運業者は常に逃げ場がある」と述べた。
皮肉なことに、ギリシャが現在抱える財政問題は、海運業者を支援する可能性がある。国内の賃金と不動産コストが引き下げられるためだ。政府が導入するとみられる増税策により、国民の納税額は増加する見通しだが、ギリシャ国内法により、海運業者は法人税の支払いを免除されている。国際通貨基金(IMF) と欧州連合(EU)のギリシャ救済の条件として緊縮策が実施されても、海運業者は引き続き、法人税の支払いを免除される見通し、とアナリストや船主らは話 す。
アナリストによると、ギリシャの海運業者は現在、約4800の船舶を保有する。これは重量ベースで世界の海運業界の15~20%に相当する。これを超える船舶を保有するのは日本だけだ。
ギリシャの海運業者は法人税の負担を免れているものの、同国の経済活動において大きな割合を占める。業界によると、国内総生産(GDP)に占めるシェアは約5%で、雇用者数は25万人だ。
ギリシャの海運業界は08年の世界的な景気後退で打撃を受けたが、09年には他の業界に先駆けて回復した。船舶金融に関して助言を行うユーロフィン・グ ループのアンソニー・ゾラタス氏は、最も大きな打撃を受けたコンテナ市場でのプレゼンスが比較的小さかったことが主な理由、と述べた。
ユーロフィンによると、世界のコンテナ船のうちギリシャ企業の保有はわずかに5.6%。これに対し、石油タンカーは21%、ドライバルク船は18%だ。