Hatena::Diary

Apes! Not Monkeys!  本館

2009-12-07

[]ブラック社会に住んでるんだが、俺はもう限界かもしれない

f:id:apesnotmonkeys:20081226100639j:image:right

自転車の鍵」の次は「単なる私権」ですってよ。合法的に往来してよい(現に男であればとがめられない)場所に行ったり好きな衣服を身に着ける自由というのは「単なる私権」なんだそうですよ。それでいてご本人は「基本的人権」のために戦っているつもりらしいからたまらない。まるで『刑事コロンボ』かなにかで犯人がアリバイを力説するうちにボロを出しちゃう場面を観てるようですよ。「自衛」論者(そのお先棒担いだりケツをもったりしている者も含む)たちがこの社会において女性*1が現に・既に強いられている「自衛」のための自己規制を如何に過小評価したうえで「でも、自衛するって悪いことじゃないと思うんだ」とお為ごかしに吹聴しているかがよ〜くわかる。単に「男は獣」論から帰結してしかるべきことのシミュレーションとしてのみ言及されているだけの「チンコ切れ」とか「檻」とかには「基本的人権の侵害だ!」とか「人権感覚を疑う!」とか吹き上がるのに(しかし、だったら“陵辱ゲーはフィクションです”なんて言い訳も通らんわな)、現に既に生じている「基本的人権」への抑圧は「自転車に鍵」とか「単なる私権」で「それで被害を回避できるんならけっこうなんじゃないの?」って、なんなんだよ、それ。とても21世紀の“西側先進諸国”の一つに生きてる気がしないよ。


ネットの「自衛しろ」論のほとんど全て*2は「役に立たない」というだけでもう要らない理由としては十分なんだけど、もうなにがなんでも「自衛」について語りたくてたまらない、「自衛」について語りたい自分を抑えられない、というほどに性暴力の防止に関心がある人はですね、最低限「犠牲者非難と結びつくおそれのない」文脈をきちんとつくってからやりなさい。現にある「自衛しろ」論がよくても犠牲者非難への共犯にしかならない理由は blackseptember さんが2行で説明している。

それを襲われてないときに言うんではなく、襲われた人が出たときに限ってそれを出汁にしてここぞとばかりに言ってるからバカにされるんだが・・・。

で、もちろん本当に性暴力の問題に関心のある人は、曾野綾子の一文なんぞとは無関係にコツコツと情報発信しとるわけですよ。けど、そんなことするつもりはないんだろ? 性暴力の被害者がどのように選ばれるか、なんてことについては既に研究・調査の蓄積があるわけだけど、それらを踏まえることもなく「自転車には鍵かけた方がよくね?」なんてこと書いてなにか(犠牲者非難に資する以外に)役に立つと思ってる? 自分は24時間デフコン1で生きてるつもりか?

「自転車に鍵」の人はなんか自分が大発見をしたつもりになってるらしい。

それでは『「犯罪被害をふせぐためにはXXXXを避けるべきだ、XXXしよう」という議論それ自体は成り立つが、程度を超えると極論になる』という前提をみんなで共有した上で、それは行き過ぎ、いや常識の範囲だという議論をしようじゃありませんか。夜道も服装も鍵も、セコムも防弾チョッキも含めて。


何を当たり前の、というなかれ。


けっこうみんな、上の太字部分をスルーしてたと思いますよ。それに議論の質がまるで違うのではなく、おそらくは「程度の水準」について合意がないという話なのですから。

とんでもない! 「議論の質」(というか前提)がまるで違うんだよ。

*1:他の事柄が問題になればもちろん女性以外の様々なマイノリティが様々な「自衛」を強いられているわけだが。

*2:全部読んだわけではもちろんないから、「全部」と言うのは控えておく。

hokusyuhokusyu 2009/12/07 16:12 その映画、監督がインタビューで「男女平等なんて都市伝説でしょ」って答えてました。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/07 16:41 そうなんすか? だったらああいう映画になるのも無理ないですねぇ。

NakanishiBNakanishiB 2009/12/07 17:22  どうもお疲れ様です、余計なことすいません。ちょっと話がずれますが、この一連の議論で明らかなのはネットで何かを書けばそれは公開した以上それは他人に対する現実の行為であるってことをまるで真剣に自覚していない人が多いということですね。「「はてサ」が内面に踏み込んでくる」とか「心の狭い学究」のエントリーのブクマでほざいてた人がいたけれど、ブクマなんて集合ポストどころかとおりすがりの人に自分の意見をわめくレベルなんですけどね。で怒鳴り返されたら内面に踏み込まれたらわめくと言うのが今回の状況で。

 犠牲者非難は(今回の文脈では)それが公開の行為だから成立するんだがそこが共有されていません。やりたければ自分の日記でやればいいんです(どうしても他人にやりたければ2chかSNSで)。曽野綾子が産経で書けば「ああまたか」とスルーする人も怒る人もいるでしょう、つまりこれまでも彼女は批判されています。同様に批判されてるだけなんですがね。ネットだとご自分には特権があるつもりなんですかね。

 「という前提をみんなで共有した上で」議論がなされないから身勝手な被害者意識が蔓延するのが問題の大きな部分だと思います。これが「人間」と「獣」の両方の利益を享受できる意識とつながっているわけですが、もうひとつマスメディアにおける言説やコミュニュケーションとも関わっていると思います。曽野綾子の70年代以降の役割も典型ですが90年代の言葉狩り問題まで普段は言いたい放題で事件が起こると、保身で自主規制するが、問題を決してまともに引き受けない。この保身の部分が抜けた上できちんと連続しているわけです。その意味での「ブラック社会」としての連続性のもとでの問題とした考えないといけないわけですが、言葉狩りの問題が中途半端で終わったのがこの事態の兆候ではありました(このときも冷静に議論しよう的な言説が蔓延しそういう言説への批判にたいして答えがないまま終わった)。話をずらして申し訳ありませんでした。では。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/07 18:28 NakanishiB さん

>この一連の議論で明らかなのはネットで何かを書けばそれは公開した以上それは他人に対する現実の行為である

もう一つ付け加えるなら、いまのこの状況で発言すればそれは否応なく曾野綾子に紀元をもつ文脈に組み込まれることへの自覚(の欠如)、ですかね。

>ブクマなんて集合ポストどころかとおりすがりの人に自分の意見をわめくレベルなんですけどね。

あまり本質的ではないですが、ブクマ(コメント)を例えるなら「とおりすがりの人」ではなくて特定個人の家の前で自分の意見をわめく(ただし100字限定)、ではないですかね。その分、意図にかかわらず既成の文脈に接続しちゃうことが不可避になるわけです。

>やりたければ自分の日記でやればいいんです

「日記」の意味がネットではずいぶんと変化してしまいましたから、これは「プライベートの日記」という意味ですね?

> 「という前提をみんなで共有した上で」議論がなされないから身勝手な被害者意識が蔓延するのが問題の大きな部分だと思います。これが「人間」と「獣」の両方の利益を享受できる意識とつながっているわけですが

いささか事情がややこしくなっているのは、次のような理由もあるかと。「男は野獣」と積極的にうそぶくタイプの男は犠牲者非難やセカンドレイプやその正当化に走ったりせずせっせとレイプやセクハラに励んでいるわけです。「自衛」論者の多くは「男の中には野獣もいるから気をつけなさい」とは言っていても自分自身について「男は野獣」と開き直っているわけではないので(まあ「野獣」の存在を認めながら自分はそこから免れていると思うのも別種の欺瞞ではありますが)、自分自身が「「人間」と「獣」の両方の利益を享受」しているという意識はない(そして実際、彼ら自身は「両方の利益を享受」しているわけではない、と言って間違いではない)わけです。でも、この善意(そう、あのKoshianXですら悪意はないのかもしれない、悪意なしにあんなこと書ける方が「心の闇」だと思いますが)が「男は野獣」論の欺瞞に気づけなくしているのではないか、と。
「被害者意識」の方については、私自身はそこまで論じ及ぶことができていませんが、たしかに背景としては重要ですね。さもなくば「自転車の鍵」だの「私権」だのといった過小評価が生まれるはずがない。

>普段は言いたい放題で事件が起こると、保身で自主規制するが、問題を決してまともに引き受けない。

そうですね。だから何度でも同じことが起こる。事業仕分けどころか人生仕分けを提唱した阿久根のフューラーの発言だってちっとも目新しくないですからね。メディアのとりあげ方も「障害者の感情を傷付けた」とかいった視点に矮小化されちゃってますし。

NakanishiBNakanishiB 2009/12/07 19:12  かなり急いで書いたのでいろいろ軽率ですいません。

>ブクマ(コメント)を例えるなら「とおりすがりの人」ではなくて特定個人の家の前で自分の意見をわめく(ただし100字限定)、ではないですかね。その分、意図にかかわらず既成の文脈に接続しちゃうことが不可避になるわけです。
 これはまったくそのとおりですね、ただまあその特定個人が一応は公開で発言をしたということが多いわけですが。ここではそれゆえ当然今回は曽野綾子の発言が文脈を規定するわけですね。

>これは「プライベートの日記」という意味ですね?
 もちろんです、すいません。「そんなことは日記で書け」はクアトロの一号で前田塁が文学界で書いた文章をののしったときに使って以来くちぐせになってるので(^_^;)。

>この善意(そう、あのKoshianXですら悪意はないのかもしれない、悪意なしにあんなこと書ける方が「心の闇」だと思いますが)が「男は野獣」論の欺瞞に気づけなくしているのではないか
 「言葉狩り」を持ち出したのはある程度それと繋がるかなと思います、筋金入りの差別主義者(渡部昇一みたいなw)が「言葉狩り非判」をしていたわけではありませんからね。しかし「心の闇」とはまさにああいうのを見たときのための言葉ですね…。


>「被害者意識」の方については、私自身はそこまで論じ及ぶことができていませんが、たしかに背景としては重要ですね。
 この辺のかかわりは私もまるで整理できていません、それで「つながっている」としか書きませんでしたがちょっと言葉が悪かったです。パラレルな部分に注目すべきということです。「ブラック社会」の連続性を支えているのは何かどうして続いて悪化してしまったという問題でしたから。では、失礼しました。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/07 21:00 > 「言葉狩り」を持ち出したのはある程度それと繋がるかなと思います、筋金入りの差別主義者(渡部昇一みたいなw)が「言葉狩り非判」をしていたわけではありませんからね。

このあたりは渡部昇一以外の事例を想起するといろいろ複雑かなと思います。「言葉狩り」との関連では筒井康隆が「強姦してもいい場合」というエッセイで「夜に男の家に行くような女は強姦するのが当たり前」的なことを言っていた件を改めて指摘しておきます。

> この辺のかかわりは私もまるで整理できていません、それで「つながっている」としか書きませんでしたがちょっと言葉が悪かったです。

いえ、おっしゃりたいことはわかっているつもりです。

skywave1493skywave1493 2009/12/07 21:28 曽根センセイの件にせよ、自衛云々の話にせよ、実際痴漢とか性犯罪に遭う人達からすれば「そんなの分かってるよ」というのが現実ではないでしょうか。個人的に彼女とか家族の話を聞いていても夜道とか電車の中で結構嫌な思いをしているという話は聞きますが、それぞれに自衛していてもやる奴は平気で乗り越えてきたりしますし、自衛したくても出来ない状況も多い訳で、それを無視し、しかも曽根センセイの言うような動機で事件が発生した事例がどれだけあるのか確認せずに「自衛すれば良い」等と無邪気に言ってしまうのはなんだかなぁ〜と、モビルスーツwでも着るとか銃でも持てば良いんでしょうか。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/07 21:44 skywave1493 さん

そもそも「自衛策」としての実効性なんて本気で気にしてる人間なんてただの一人もいませんでしたからね。『北斗の拳』ごっこ(というか、ごっこ遊びの強要)にすぎないんですよ。というか、『北斗の拳』ですら「自衛しないやつが悪い」なんてことは悪役にしか言わせてなかったんじゃないですかね。

プップッ 2009/12/07 23:05 自衛論者は面白いですね。
別に、自衛すんなとは言ってないのに。
凌辱エロゲーはあくまでフィクションだと擁護する人達が、予防拘禁メソッドをマジメに受け取るのも面白い。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/07 23:24 煽る気満点のハンドルについてはブログ主としては歓迎いたしかねますが、

>別に、自衛すんなとは言ってないのに。

この点は極めて重要なところですよね。誰かがネットで「わたし、自衛なんてしてないけど全然平気だし」とか言ってる文脈で「いや自衛した方がいいだろ」派と「自衛を強要するのが性差別」派が対立してるわけではなくて、「自衛してなかったから自業自得」と言ってるも同然の輩が現れたという文脈で「自衛を強いるのは不当」派と「そうはいっても自衛は大事」派が対立してるわけですからね。

>凌辱エロゲーはあくまでフィクションだと擁護する人達が、予防拘禁メソッドをマジメに受け取るのも面白い。

この点については明日にでもエントリをあげる予定です。

NakanishiBNakanishiB 2009/12/08 02:05 >このあたりは渡部昇一以外の事例を想起するといろいろ複雑かなと思います。「言葉狩り」との関連では筒井康隆が「強姦してもいい場合」というエッセイで
 このエッセイは読んだ記憶がないのでそれについてはちょっとうかつにいえませんが、「言葉狩り」を出した時点で念頭にはあったわけです、あるいは(小林よしのりへつながるということで)呉智英あたりもです。ただ私は彼らは単なる鈍感で無自覚な差別者だと思うわけですが(筒井に文学的実績があっても)、それが共有された認識とは言いづらいところがあるので渡部昇一を出してきたわけです。自衛厨のかたがたは渡部昇一的に「筋金入りの差別主義者」ということではありませんから。では。

通行人通行人 2009/12/09 20:11 >管理人さん
ブラック社会という言い方は、黒人の方々に失礼では?
黒=悪い などというイメージを日本人は当たり前のように使っていますが、日本にも黒人の方は結構住んでいますよ?
軽々しくブラックという言葉は使わない方がいいと思います。

uchya_xuchya_x 2009/12/09 21:05 >ブラック社会という言い方は、黒人の方々に失礼では?
いや、だからそういうことは元ネタの人に言いなさいって。というかもしかして、元ネタを知らない?

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/09 21:12 uchya_x さん

ネタ元の映画に限らず「ブラック企業」「ブラックジャーナリズム」とか、「有罪」の意味での「クロ」とか、なんぼでも使われてますわな。で、そういう用法に関して一貫して抗議しまくっている人が言うならこちらも耳を傾ける用意はありますが、「通行人」の言うことですからなぁ。

そもそも、“黒人”って「黒く」ないですからね。われわれが「黄色」くないように。むしろ「黒人って呼ぶな」という方法だってあるでしょうに。私は主として「アフリカ系」という表現を用いるようにしてますし。

mash_plusmash_plus 2009/12/09 21:34 トピ違いになりますが、

>その映画、監督がインタビューで「男女平等なんて都市伝説でしょ」って答えてました。
>だったらああいう映画になるのも無理ないですねぇ

今朝の朝日新聞の朝刊で、その映画の監督のインタビューが載ってましたが、「最近の若者は『福利厚生が充実してない』という理由でその企業をブラック企業だという(=今時の若者にはトライアル精神がない)」という意味のことを平気でのたまわっててましたね。てか、福利厚生面が充実していないこと自体、その会社の財務基盤がいかに脆弱なのかということ以外の何物でもないんですが…。しかもインタビューの内容自体、雇われる側に事態の責任を負わせ、それをあたかも自身が事態を操ってるかのごとく錯覚させる美麗文句(「自分自身が一歩を踏み出すことが重要!」)と、その監督自身の承認願望丸出しの苦労話という、いかにも新自由主義的なデマゴーグの二点セットだったんで、うんざりしました。
正直「ブラック会社に勤めてる〜」は、結構期待してたんですが、てか、何も蟹工船までいかなくていいんですけど、しかしそれなりの収穫がありそうだと思ってたんですけど、監督がこれじゃ見ないほうが無難なのかもしれないですね…。

apesnotmonkeysapesnotmonkeys 2009/12/09 22:10 mash_plus さん

>トピ違いになりますが、

いや、結構そうでもないと思うんですよね。犠牲者非難と通じるところ、かなりあると思います。その監督はつまりは曾野綾子の役割を果たしているわけですよ。

ご参考までに、柳下毅一郎さんのレビューをば。
http://garth.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/2009-c972.html

ことのことの 2010/03/16 17:28 面白い情報ありがとうございます。
参考になりました!!

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証