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野球のチームをつくれば、さぞかし強かろう。いや、演技力や歌唱力もあなどれない。
参院選の立候補予定者として、民主党が五輪メダリスト3氏を擁すれば、自民党も元プロ野球選手や俳優で対抗する。国民新党、たちあがれ日本も負けていない。豪華な顔ぶれだ。政党の不人気を「有名人」人気で覆い隠そう。そんなたくらみが透けて見える。
民主党の小沢一郎幹事長は、谷亮子氏について、柔道で培った不屈の精神を「日本国民に広く培う」ことに期待を示した。俳優の原田大二郎氏の擁立では「あらゆる分野の人が政治に参加することが大事だ」と語った。
様々な経験が生きることもあろう。職業にかかわらず政治への道が開けていることは当然だ。しかし、これが歴史的な政権交代を経た新しい政治の姿なのだろうか。
自民党政権は、少子高齢化やグローバル化という大変化に手を打てずに有権者に見限られた。ピンチを「政治主導」で突破すると主張して政権の座に就いた民主党はどうか。財政問題にしろ安全保障問題にしろ、直面する問題に対処する能力を疑われている。
どの政党にも、何より日本の針路にかかわる大きな問題について、全体的な視点から考えられる政治家が少ない。射程の長い成長戦略を構想し、日本の停滞に終止符を打つ。今、最も必要とされるのはそんな人材だ。
谷氏は次の五輪をめざす考えのようだが、政治は決して片手間でできる仕事ではない。「スポーツ環境を整える」という目標は良いが、それだけならスポーツ業界の代表に過ぎない。
民主党も自民党も政党が直面する危機は感じているのだろう。参院選で政党を支えてきた業界団体や労組は、かつての集票力を失った。
しかし、地力の衰えをその場しのぎの策でごまかし切れるものではない。地域の人材との接点を増やす。候補の公募、公開討論、予備選などを積み重ね、選ぶ基準と過程を透明にする。そのあたりから信頼回復をはかり、政党の足腰を鍛え直すしかあるまい。
参院の選挙制度も見直す時ではないか。政党名か候補名のいずれかを書く非拘束名簿式が、2001年から比例区に導入された。かつて拘束名簿式のもとで名簿順位の争いが激しくなり、企業丸抱えの党員集めや党費の肩代わりを招いてしまったためだ。
しかし、それが個人でなく政党を選ぶという比例区本来の性格をゆがめ、知名度頼みを支えている。
有権者は観客ではない。政治家に求めているのは、感動ではなく問題の解決だ。人々は「有名人」候補に熱狂するより、むしろ冷ややかな視線を投げかけている。政党の的外れ。その罪は重い。
「明けの明星」「宵の明星」として親しまれる金星をめざして、日本初の金星探査機「あかつき」が種子島宇宙センターから、国産のH2Aロケットに乗って旅立った。
金星は、地球とほぼ同じ大きさ、重さで、双子の惑星といわれる。しかし、表面温度460度、地球とは似ても似つかぬ灼熱(しゃくねつ)地獄だ。大気はほとんどが二酸化炭素で、その温室効果が暴走した結果ともいわれる。
双子の運命を分けたものは何か。金星を知ることは、地球をよりよく知ることにもつながる。地球の環境を守るためのヒントも得られるに違いない。
金星の大気を調べる探査機として大いに科学的な成果を上げ、世界にも貢献してほしい。
あかつきは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した。費用は252億円。12月に金星の上空に到達すると、周囲を回りながら、2年以上観測を続ける。
大気の状態を観測するので、一言でいえば、おなじみの気象衛星ひまわりの金星版といっていい。ただし、仕事は地球での観測よりハードだ。6種類の観測装置で、金星を覆う分厚い硫酸の雲や風の動きなど、金星大気を立体的に明らかにする。
とりわけ大事な使命は、スーパーローテーション(超回転)と呼ばれる秒速100メートルもの暴風をくわしく調べることだ。目下、金星最大のなぞとされている風だ。
金星が太陽の周りを回る公転周期は、地球時間で225日。ところが1回自転するのには243日かけている。「1日」の方が「1年」より長い変わり者だが、この暴風は、赤道では、自転の約60倍もの速さで吹き荒れているという。
金星へは1960〜80年代、米ソが次々に探査機を飛ばした。しかし、89年打ち上げの米国のマゼラン探査機を最後に、探査の重点は火星に移り、忘れられた惑星になっていた。
あかつき計画は01年にスタート、その後、地球の温暖化への関心の高まりで、注目の探査計画になった。
一足先に旅立った欧州の探査機「ビーナス・エクスプレス」は06年から大気の化学成分を調べている。21世紀の金星観測は、日欧主役で始まった。
一方、宇宙帆船「イカロス」も共に飛び立った。真空の宇宙に大きく帆を広げ、太陽光を受けて進む。燃料はいらない。約100年前に提唱され、アーサー・C・クラークの小説にも登場するが、実際に成功すれば世界初だ。遠くを旅する新型宇宙船のパイオニアとして大きくはばたいてほしい。
大学生たちが作った小型衛星も積み込まれ、うち一つは金星に向かう。こちらも、先輩たちに負けない活躍ぶりを見せ、次世代につなげてほしい。