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北朝鮮による韓国艦『撃沈』事件と日本
2010年05月21日21時28分 / 提供:リアリズムと防衛を学ぶ
韓国は国際社会と協力しつつ、経済的・政治的な報復にでる
韓国のリアクションについては、こう報道されています。
韓国はこれまで、経済回復への影響を懸念し、北朝鮮に軍事的な報復措置に出る計画はないことを明確にしており、国際社会と協力して北朝鮮への制裁強化などを求めていく考え。
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具体的にはどういう制裁が考えられるでしょうか? まずは国連安保理で対北朝鮮制裁決議を通すこと、韓国が単独でできることとしては南北経済協力を全面中止することです。アメリカが積極的に制裁をやってくれるならば、テロ支援国家の再指定、金融制裁などが考えられます。
軍事的対処としては米韓両海軍の共同訓練や警戒によって圧力を加えることです。攻撃は行わないにしても、再発予防のために軍事的圧力も必ずやかけられるでしょう。それは韓国だけでなく、アメリカも同盟国の信義にかけて、協調します。
その一端はすでに垣間見えます。沖縄の米軍基地にステルス戦闘機を一時的に配備するそうです。
沖縄の米空軍嘉手納基地報道部は21日、最新鋭のステルス戦闘機F22Aラプター12機が来週後半から同基地に4カ月間、配備されると発表した。平成19年以降、4回目の暫定配備となる。
米、ステルス機を嘉手納に暫定配備 - MSN産経ニュース
F22ラプターの部隊は、ここ数年、ちょくちょく沖縄にやってきています。その配備タイミングは、北朝鮮情勢が不穏になった直後が多いです。つまりは戦力増強によって「北朝鮮にとっては防ぎようが無い、ステルス戦闘機を用いた攻撃を、いつでもやれるんだぞ」と、無言のメッセージを送っているのです。
このような軍事的な圧力、報復にはでないまでも強い圧力を背景に、まずは国連安保理での制裁決議が、ひとつの焦点となるでしょう。その場合、北朝鮮を擁護する立場にある中国をいかに動かすかが鍵となるでしょう。
また、さらに先の話としては、安保理のお墨付きをもって経済制裁を行うとしても、北朝鮮がそれに反応してヤケになり、また武力行使にでてはたいへん困ります。よって制裁にあたっては、北朝鮮の出方を見きわめながら、実効性をあげつつ、過剰反応を呼ばない慎重さが必要となるでしょう。
日本は疑いもなく当事者
この事件は日本にとっていかなる意味を持つのでしょうか? まず明確なことは、日本はこの件について、思いっきり当事者の一員だということです。事件は海の向こうの朝鮮半島で起こっているからといって「対岸の火事」だと思ったら大間違いです。日本の意識がどうあれ、本来、既に当事者なのです。それには多くの理由を挙げることができます。
●北朝鮮は日本にとっても脅威
まず第1に韓国艦が撃沈され、韓国の国民が殺されたということは、日本も同様の攻撃を受けてもおかしくない、ということです。
この件では北朝鮮の攻撃力が意外と高いことが示されました。「北朝鮮が日本を攻撃して何かメリットがあるの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、韓国艦の撃沈にみられるように、北朝鮮のような独裁国家は、他国には計り知れない理由で、とんでもないことをやらかすことがあるのです。
今回の事件が示した北朝鮮の危険性は、距離的に近い日本にとっても安全保障上の脅威なのです。
●日米同盟と韓米同盟は一体
第2に、この事件への対応は被害者である韓国を先頭に、韓米同盟の枠組みで行われますが、この場合に韓米同盟と日米同盟は不可分だということです。
韓国は攻撃を受けた被害者であり、韓国への攻撃は同盟国であるアメリカへの攻撃にほぼ等しいです。同盟国はいざとなれば一蓮托生です。そしてそのアメリカと日本は同盟しています。日本は韓国とは同盟していませんが、間にアメリカを挟んで間接的に韓国の盟友です。
また、朝鮮半島有事の場合、軍事的にみれば米韓同盟と日米同盟は切り離せない1つのシステムです。例えばアメリカの戦闘機F22ラプターが、牽制のために配備されたことは前述の通りですが、その場所は沖縄県です。また、第一次朝鮮戦争の際に韓国を救った仁川上陸作戦は、海兵隊を中心とする在日米軍によって行われました。これらの事実から明らかなように、もし朝鮮半島で戦争になれば、韓国軍、在韓アメリカ軍、在日アメリカ軍は1つのシステムとして動きます。また、そうなれば日本も周辺事態法を発動し、自衛隊を後方支援へ投入する見込みは小さくないでしょう。
このようなわけで、こと半島有事において韓米同盟と日米同盟は一体ですから、万が一にも有事の可能性をみすえて動く以上、日本はとっくの昔に韓国と同じ陣営へ所属しているのです。
●日本は安保理の非常任理事国
とはいえ前述のように、できるだけ戦争は避ける方向で誰しもが動くでしょうが、そうなると変わって言葉の戦争が繰り広げられるのが、国連の安全保障理事会です。そして2010年現在、日本は日本は非常任理事国に選ばれており、その理事会の議論に参加します。日本が他人事だと思っていられない第3の理由がこれです。
北朝鮮に対して有効な制裁ができるかどうか、その鍵を握るのが安保理での議論です。そこに議席をもっている以上、日本がこの件についてどういう意見を持っていて、安保理でどういう意見を出すのかは、今後の事態に影響してきます。
このように、北朝鮮は日本にとっても脅威であり、韓米同盟と日米同盟は一体であり、そして日本は国連安保理に席を持っている以上、韓国艦撃沈事件において、日本はすでに当事者なのです。
協調、避戦、制裁
よって日本は韓国側の陣営に属する一国として、韓米に協調しつつ、有効に動くことが、本来は求められます。
とはいっても北朝鮮への制裁で「先頭に立つ」のは、被害者である韓国の役目です。日本の座る席ではありません。
ただし、事態が有効な落とし所にたどり着くよう、力を尽くすことは、日本の国益にもかないます。前述の通り、北朝鮮は日本にとっても脅威ですし、万が一にも半島で戦争再開ということになれば、日本は無関係でいることなど不可能だからです。
よってそのような意味で、韓米と協調して安保理決議と対北制裁をめざしつつ、万が一にも戦争にはならない落とし所にもっていくべく、「ある意味で先頭に立つ」くらいの意気込みで動く、ということはまさに望ましいことでしょう。地域の安定のためにも、日本国民の安全のためにも。
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