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北朝鮮による韓国艦『撃沈』事件と日本
2010年05月21日21時28分 / 提供:リアリズムと防衛を学ぶ
韓国の哨戒艦「天安」が沈没した事件についてです。余り時間がないので、今回は手短に、ざっと。
20日、ようやく正式な発表があり、この沈没が北朝鮮の魚雷攻撃による「撃沈」であったことがはっきりしました。
この調査は公平客観を期すため、国際的な軍民共同によって実施されました。また発表は念の入ったもので、回収された魚雷の残骸と、北朝鮮が持っている魚雷の設計図を対照させて提示しています。誰がどう考えても、これはもう北朝鮮が犯人に間違いない、そうとしか考えようが無い、というところまで証拠を揃えた上での発表でした。
国家が武力行使を行う場合、その目的は相手に何らかの行動を強要することです。例えば北朝鮮はこれまで度々弾道ミサイルを発射したり、核実験をやったりと、軍事的威嚇をくり返してきました。それは例えば経済制裁を解除させるためだったり、食料援助を得るためだったり、体制の安全保障をとりつけるためだったりしました。要は「ほらほら、ウチはこれだけの軍事力をもってるぞ。戦争になったら痛い目をみるぞ。だから○○してくれ」という交渉カードとして、武力をチラつかせてきたわけです。
ところが今回の哨戒艦撃沈は、ちょっと趣きが違うようです。何らかの明確な要求は無く、また北朝鮮はこの事件への関与を否定しています。じゃあ何を達成するための攻撃だったのでしょう。地域ウォッチャーならざる私にはよくわかりません。
幾人かの専門家によれば、北朝鮮内部の都合という見方がなされています。
つまりは「韓国艦を撃沈してやったぞ」という戦果を、外国向けには否定するとしても、自国軍内部には示して金正日体制の威信を高め、軍部を掌握するためではないか、ということです。
いかなる目的であれ、殺された韓国軍の将兵46人とそのご家族にとってはたまったものではありません。異常な武力攻撃を受けた韓国としては、国家として当然の自衛として、また類似の攻撃を予防するため、何らかの罰を北朝鮮へ与えねばなりません。
今回、北朝鮮は潜水艇から魚雷を発射して、韓国の軍艦を攻撃しました。軍隊で軍隊を攻撃したわけです。極めて戦争につながりやすい行為です。もし撃沈されたのがアメリカ軍の艦艇であれば、とっくの昔に爆撃なり巡航ミサイル攻撃なりで、北朝鮮への武力報復にでていてもおかしくありません。
先に武力を行使したのは北朝鮮ですから、攻撃された韓国の側が自衛のために武力を用いて反撃にでたとしても、それは不当なこととはいえません。ロイター通信によれば、北朝鮮は戦争をも視野にいれている旨を発表しています。
しかし韓国政府にとって、こうも明白な武力攻撃を受けても「北朝鮮の潜水艦基地を爆撃する」といった武力による報復は難しい選択肢です。それをきっかけに北朝鮮がヤケになって全面戦争にうってでかねなず、そうなれば戦場となる韓国の被害は計り知れないからです。
ですから、もし武力報復をやるとしても、北朝鮮の基地1つか2つくらいだけを爆撃するような、限定的な作戦になるでしょう。韓国の側から全面戦争に打って出ることはまず考えられません。
しかし何かの間違いで、万が一にも全面戦争(第二次朝鮮戦争)になれば、韓米軍を中心とする国連軍が恐らく圧勝するでしょう。(第一次)朝鮮戦争のときは、韓国を守るために国連軍が編成されました。韓国軍、アメリカ軍を中心とし、ほかイギリス、フランス、ベルギー、オランダなど多くの国による連合軍です。現在は休戦中となっている朝鮮戦争ですが、もし再開されれば再び国連軍対北朝鮮という枠組みで戦闘になり、そして北朝鮮は負けるでしょう。
しかしたとえ勝ったとしても、韓国の被害は甚大なものになります。韓国の首都ソウルは北朝鮮との国境線に近すぎるし、北朝鮮の特殊部隊が潜入してきて破壊活動にでる見込みも大きいといわれています。さらに戦後には、北朝鮮という恐ろしく貧しい国を韓国主体で復興せねばならなくなるでしょう。こう考えると、どれだけの人的、経済的損失が生じるかはかりしれません。
また、全面戦争時、北朝鮮との戦いには勝てるとしても、中国がどう動くかが分かりません。かつて国連軍がピョンヤン(平壌)を陥落させ、北朝鮮の全土制圧に王手をかけたとき、中国は「義勇軍」と称し、北朝鮮側に立って事実上参戦してきました。韓国によって朝鮮半島が統一されれば、アメリカ寄りの統一朝鮮が誕生することになりますが、中国はそれを容認できなかったたのです。第二次朝鮮戦争でも国連軍の完全勝利は中国を刺激せざるを得ず、何が起こるか分かりません。
そういったリスキーな事態を避けるため、韓国はたとえ限定的なものであっても、軍事報復オプションは避けようとするでしょう。また韓国世論もこれを避けたがっています。よって韓国、米国政府は報復攻撃には慎重になり、それ以外の制裁を行う方向で動くでしょう。
沈没原因は魚雷、犯人は北朝鮮で確定
20日、ようやく正式な発表があり、この沈没が北朝鮮の魚雷攻撃による「撃沈」であったことがはっきりしました。
韓国軍当局が発表したところによると、北朝鮮の新型潜水艇・ヨノ型(130トン級)が……26日夜に天安を攻撃し、28日ごろ基地に帰投した事実が確認されたという。
天安の沈没原因を調査してきた民・軍合同調査団のユン・ドクヨン共同団長は20日、国防部大会議室で、「天安艦沈没事件の調査結果」を発表、海底から回収した「決定的証拠」である魚雷後部の推進装置や、韓国軍が確保した秘密資料の分析を根拠として、「天安は北朝鮮製の魚雷による外部水中爆発の結果、沈没したという結論に到達した」と発表した。
哨戒艦沈没:北の「CHT-02D」魚雷による攻撃と断定 | Chosun Online | 朝鮮日報
この調査は公平客観を期すため、国際的な軍民共同によって実施されました。また発表は念の入ったもので、回収された魚雷の残骸と、北朝鮮が持っている魚雷の設計図を対照させて提示しています。誰がどう考えても、これはもう北朝鮮が犯人に間違いない、そうとしか考えようが無い、というところまで証拠を揃えた上での発表でした。
なぜ北朝鮮は韓国艦を攻撃したのか?
国家が武力行使を行う場合、その目的は相手に何らかの行動を強要することです。例えば北朝鮮はこれまで度々弾道ミサイルを発射したり、核実験をやったりと、軍事的威嚇をくり返してきました。それは例えば経済制裁を解除させるためだったり、食料援助を得るためだったり、体制の安全保障をとりつけるためだったりしました。要は「ほらほら、ウチはこれだけの軍事力をもってるぞ。戦争になったら痛い目をみるぞ。だから○○してくれ」という交渉カードとして、武力をチラつかせてきたわけです。
ところが今回の哨戒艦撃沈は、ちょっと趣きが違うようです。何らかの明確な要求は無く、また北朝鮮はこの事件への関与を否定しています。じゃあ何を達成するための攻撃だったのでしょう。地域ウォッチャーならざる私にはよくわかりません。
幾人かの専門家によれば、北朝鮮内部の都合という見方がなされています。
専門家の多くは、「攻撃」理由として、2009年11月、黄海の北方限界線(NLL)近くで起きた南北艦艇銃撃戦で敗北した報復を挙げる。この交戦は、北朝鮮側に複数の死傷者と艦艇の損害を出す韓国の圧勝に終わり、北朝鮮軍は威信回復の反撃機会をうかがっていたとの見方が有力だ。…
…武貞秀士・防衛研究所統括研究官も「韓国軍艦を沈没させ、完全な『勝利』を残すことで軍の士気を高めることを狙った」とみる。
……北朝鮮は昨年11月のデノミネーション(通貨単位の切り下げ)失敗で民心の急激な悪化を招いた。権力世襲を円滑に進めるためにも、軍掌握は生命線だ。哨戒艦沈没と合わせ、大量昇格で「北朝鮮軍の士気は最高の状態」との観測もある
北朝鮮の魚雷、狙いと誤算…黄海銃撃戦報復か : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
つまりは「韓国艦を撃沈してやったぞ」という戦果を、外国向けには否定するとしても、自国軍内部には示して金正日体制の威信を高め、軍部を掌握するためではないか、ということです。
戦争になってもおかしくない事態
いかなる目的であれ、殺された韓国軍の将兵46人とそのご家族にとってはたまったものではありません。異常な武力攻撃を受けた韓国としては、国家として当然の自衛として、また類似の攻撃を予防するため、何らかの罰を北朝鮮へ与えねばなりません。
今回、北朝鮮は潜水艇から魚雷を発射して、韓国の軍艦を攻撃しました。軍隊で軍隊を攻撃したわけです。極めて戦争につながりやすい行為です。もし撃沈されたのがアメリカ軍の艦艇であれば、とっくの昔に爆撃なり巡航ミサイル攻撃なりで、北朝鮮への武力報復にでていてもおかしくありません。
先に武力を行使したのは北朝鮮ですから、攻撃された韓国の側が自衛のために武力を用いて反撃にでたとしても、それは不当なこととはいえません。ロイター通信によれば、北朝鮮は戦争をも視野にいれている旨を発表しています。
北朝鮮は21日、朝鮮半島は戦争へと向かっており、韓国との合意をすべて破棄する用意がある、との見解を示した。
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とはいえ報復は困難な選択
しかし韓国政府にとって、こうも明白な武力攻撃を受けても「北朝鮮の潜水艦基地を爆撃する」といった武力による報復は難しい選択肢です。それをきっかけに北朝鮮がヤケになって全面戦争にうってでかねなず、そうなれば戦場となる韓国の被害は計り知れないからです。
ですから、もし武力報復をやるとしても、北朝鮮の基地1つか2つくらいだけを爆撃するような、限定的な作戦になるでしょう。韓国の側から全面戦争に打って出ることはまず考えられません。
しかし何かの間違いで、万が一にも全面戦争(第二次朝鮮戦争)になれば、韓米軍を中心とする国連軍が恐らく圧勝するでしょう。(第一次)朝鮮戦争のときは、韓国を守るために国連軍が編成されました。韓国軍、アメリカ軍を中心とし、ほかイギリス、フランス、ベルギー、オランダなど多くの国による連合軍です。現在は休戦中となっている朝鮮戦争ですが、もし再開されれば再び国連軍対北朝鮮という枠組みで戦闘になり、そして北朝鮮は負けるでしょう。
しかしたとえ勝ったとしても、韓国の被害は甚大なものになります。韓国の首都ソウルは北朝鮮との国境線に近すぎるし、北朝鮮の特殊部隊が潜入してきて破壊活動にでる見込みも大きいといわれています。さらに戦後には、北朝鮮という恐ろしく貧しい国を韓国主体で復興せねばならなくなるでしょう。こう考えると、どれだけの人的、経済的損失が生じるかはかりしれません。
また、全面戦争時、北朝鮮との戦いには勝てるとしても、中国がどう動くかが分かりません。かつて国連軍がピョンヤン(平壌)を陥落させ、北朝鮮の全土制圧に王手をかけたとき、中国は「義勇軍」と称し、北朝鮮側に立って事実上参戦してきました。韓国によって朝鮮半島が統一されれば、アメリカ寄りの統一朝鮮が誕生することになりますが、中国はそれを容認できなかったたのです。第二次朝鮮戦争でも国連軍の完全勝利は中国を刺激せざるを得ず、何が起こるか分かりません。
そういったリスキーな事態を避けるため、韓国はたとえ限定的なものであっても、軍事報復オプションは避けようとするでしょう。また韓国世論もこれを避けたがっています。よって韓国、米国政府は報復攻撃には慎重になり、それ以外の制裁を行う方向で動くでしょう。
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