佐田の富士(左)に突き落とされ負け越しが決まった普天王=両国国技館(撮影・園田高夫)
「大相撲夏場所14日目」(22日、両国国技館)
角界屈指の名門・出羽海部屋が大ピンチだ。唯一の関取、十両12枚目の普天王が佐田の富士に突き落とされ、負け越しが決定。千秋楽に9敗目を喫すれば、幕下に陥落する可能性が出てきた。その場合、高砂部屋の132年に次いで、112年間も関取を出し続けてきた出羽海部屋の輝かしい伝統が途絶える。
大関魁皇は安美錦を送り出して通算999勝として、1000勝に王手。13日目で優勝を決めた横綱白鵬は、黄金色のまわしで登場し、大関琴欧洲を寄り倒して全勝を守った。
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盛者(じょうしゃ)必衰と呼ぶには、あまりにも寂しい。出羽海部屋は三重ノ海、佐田の山ら9人の横綱を輩出した名門中の名門。理事長も3人出し、協会の中核を担い続けてきた。1931年には番付の西方を出羽海部屋の力士が独占したこともあった。
最後の関取である普天王は、攻め込みながらも土俵際で突き落としを食らい、痛恨の負け越し。部屋頭として重責はあったかと問われ「そんなこと…。分かりません」と顔をしかめた。
19代横綱・常陸山が十両に昇進したのが1898年5月場所。それ以来、途切れることなく約112年間関取を本場所に送り続けてきた。部屋創設以来の危機に、師匠の出羽海親方(元関脇鷲羽山)は「燃料が切れれば電灯(伝統)も切れる」と自虐的なジョークを飛ばしたが、内心は穏やかではないはずだ。
同じ出羽海一門の三保ケ関親方(元大関増位山)も「私の父も出羽海部屋から優勝した。寂しいこと」と声を落とした。千秋楽に玉飛鳥とぶつかる普天王に、名門の運命が託される。
(2010年5月22日)