きょうの社説 2010年5月23日

◎インフラ輸出 北陸の企業も受注戦略必要
 北陸の機械メーカーなどが、海外で拡大するインフラ整備を狙って受注獲得をめざす動 きを強めている。政府は原発や鉄道などのインフラ関連産業の振興を成長戦略の柱の一つにしており、経済産業省がまとめた「産業構造ビジョン」の骨子案にも盛り込まれた。インフラ関係の需要取り込みに攻勢をかける北陸の関連メーカーの行動は、政府の成長戦略に沿った当然の動きといえる。中期的な視点、戦略を持って受注増につなげてもらいたい。

 国内産業の将来像を示す経産省の産業構造ビジョンの骨子案は、自動車や電機に頼る従 来の産業構造を改め、インフラ産業を輸出産業に育てることを大きな狙いとしている。このため、同省は今年3月に「インフラ輸出総合戦略案」をまとめている。

 国際的な受注競争の激しさから原発や新幹線の輸出にスポットライトが当てられている が、この戦略案では、水ビジネスや石炭火力発電、送配電、廃棄物処理などの分野も取り上げられている。

 例えば、上下水道や工業用水設備、海水淡水化施設の整備など世界の水ビジネスの市場 規模は、2020年に現在の約2倍の72兆円が見込まれるといい、経産省は官民一体で事業権の獲得をめざす戦略を描いている。

 また、原発だけでなく高効率の石炭火力発電も大幅な市場拡大が予想されており、優れ た製造技術と運転・管理ノウハウを持つ日本企業の受注獲得が期待できるという。

 高成長が続く中国、アジアを中心にした今後のインフラ需要は膨大である。受注獲得競 争の先頭に立つのは大手企業であるが、技術力のある北陸の中堅中小メーカーも積極的に食い込みたい成長分野であり、そのための製品開発と販売戦略の強化が望まれる。

 また、インドで計画される次世代送電網など環境配慮型のインフラ整備事業には、横浜 市など自治体の参加も予定されている。上下水道や廃棄物処理など都市インフラの運営に関する経験とノウハウを提供するためである。インフラ輸出は民間企業だけでなく、自治体も無関係ではないことを認識しておきたい。

◎シベリア抑留 実態解明は時間との闘い
 シベリア抑留者らに給付金を支給する特別措置法案が参院本会議で可決され、衆院を経 て今国会での成立が確実となった。約60万人が抑留されたとみられる大規模な戦後補償問題で、政治的解決が図られる歴史的な転換点となるが、帰国した46万人を超える元抑留者のうち、生存者は7〜8万人、平均年齢は87歳前後と推定され、ここに至る歳月の長さを思えば、遅すぎた救済措置と言わざるを得ない。

 民主党は昨年3月、給付金の支給法案を参院に提出しながら衆院解散で廃案となった。 与野党は昨年の臨時国会で成立を目指したが、国会運営をめぐる対立の影響で持ち越されていた。意見の一致をみた法案まで政局で先送りするのは立法府の姿ではない。

 特措法案では、抑留中の死亡者に関する調査を進めるため、政府に基本方針の策定を義 務づけた。元抑留者が強く求めてきたのも、お金ではなく、政治が抑留問題に真正面から向き合うことである。

 ロシアでは2008年、抑留者の個人情報を記した約70万枚の登録カードが見つかり 、日本側に順次提供されている。当時を知る関係者が激減し、高齢化も進むなかで、調査は時間との闘いでもある。政府はロシア側に資料発掘などで一層の協力を求め、十分でない抑留実態の解明を急いでほしい。

 法案は、終戦後に旧ソ連によってシベリアやモンゴルに抑留され、労働を強いられた元 日本兵らを対象に、抑留期間に応じて1人当たり25万〜150万円を支給する内容となった。「平和祈念事業特別基金」の約200億円を財源とし、元抑留者が死亡した場合は相続人が請求できる。

 自民党政権時代は、戦後処理終結を理由に補償の議論を避け、元抑留者には10万円の 国債や銀杯などを贈ってきた。今回、法律に基づき給付金が支払われることは、補償に近い考え方であり、司法の場で請求が退けられた元抑留者の思いに沿った内容といえる。

 ただし抑留問題は立法措置で幕引きではない。実態解明に合わせて資料の保存も充実さ せ、歴史を次世代に引き継ぐ必要がある。