朝日・大学パートナーズシンポジウムWho Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま


2009年6月20日(土)京都市・龍谷大学

【パネル討論】介護職場に魅力・誇りを

花園大特任教授
山崎イチ子さん

 川名 中江さんの施設は、2人のインドネシア人介護福祉士候補者を受け入れている。

 中江 やはり言葉の壁がある。細かい言い回しや記録をとるのが難しい。

 川名 入国直後の研修を担当した山崎さんの印象は。

 山崎 男性は帰国して土地を買い家を建てたいという人が多かった。研修中の6カ月で20万円仕送りした人も。10人家族で2年生活できるという。

 カルロス フィリピン人が日本で働く目的は、高い介護技術を学ぶため。キャリア形成をして最終的にはアメリカへ行きたい。給料だけではなく、ほかのフィリピン人もいて、生活しやすいから。

高齢社会をよくする女性の会理事
稲葉敬子さん

 稲葉 カナダの介護現場で働く多くはフィリピン人や黒人だった。そのため介護労働業界のコストダウンが起き、カナダ人が介護労働をしない。そんな現象が日本で起きるのが一番怖い。

 上野 日本では労働条件が悪すぎる。人災、政治災害だ。

 川名 全産業より月給が10万円も低いという。寿退社は福祉の世界では男性のこととか。とてもやっていけず転職する。

 上野 4人にお聞きしたい。中江さん、第2、3弾の外国人を迎え入れたいですか。山崎さん、どれくらいの外国人ワーカーが4年後にこの国にいい印象を持つでしょう。カルロスさん、もし今フィリピンの若い女性に「日本に行きたい」と言われたら勧めますか。稲葉さん、自分が介護を受けるならどの国に行きたいですか。

社会福祉法人神戸海星会研修責任者
中江幸一さん

 中江 この仕事はやりがいがある。でも残って働いてもらっても、日本では年金だけで暮らせない。今後の受け入れについては言葉に詰まる。

 山崎 ネックは国家試験。言葉が難しくて理解できない。日本人でさえ合格率50%のプレッシャーを受け、施設によっては4時間働いて4時間勉強させている。

 稲葉 フィリピンの日本人向けリタイアメントビレッジで話を聴いた日本人男性は「日本には入りたい施設がない。あっても金がない」と。家族の都合で「安いから行け」というのはよくないけれど、自分の意思なら、よりよく生きられる場所を探すことはいい。

龍谷大准教授
マリア・レイナルース・D・カルロスさん

カルロス (若い女性に日本行きを勧めるかとの質問は)答えにくい。フィリピンや他の受け入れ先を見ると日本はまだいい。積極的に勧めないが、米国に行けないなら日本はどうかと言う。

 川名 待遇が改善されれば、日本人ケアワーカーがどんどん増えるか。それとも外国人にケアを受ける時期が来るのか。

 稲葉 国籍に関係なく介護をする人が幸せになれなければ、介護される人は幸せになれない。北欧の国々は自国の人材では難しく、スウェーデンではトルコや東欧から介護スタッフに来てもらっている。自国で養成し、国民と同じ公務員として迎えている。日本もそういう発想が必要。安い労働力のため、との考えではうまくいかない。

 カルロス 温かい介護が受けられるなら国籍は関係ないと思う。日本も外国人受け入れの準備をした方がいい。

元朝日新聞論説委員
川名紀美

 川名 山崎さんは、今より給料が上がったとしても日本人がこの業種にどんどん来ることはないと見ている。

 山崎 インドネシアの人は、日本人と同じ給料17万円で毎月10万円を貯金や仕送りに回している。同じ給料なのに、どうして日本の若者はできないのか。

 中江 お金のことだけ言うと厳しいけれど、福祉の仕事の神髄に触れた時に「やっていける」と思う。利用者に自分が認められている、支えられているという面を日々得られると続けられる。

 上野 きつくて厳しい仕事でも、社会的地位と報酬が高ければ、志望する意欲も能力もある若い人はいる。そのぐらいのことを介護士にもしてほしい。介護者がハッピーになれない社会は年寄りいじめの社会だと思う。フィフィさんが「自分で選んだ道だから」といった。自分で選んだ道だからこそ、歯を食いしばって耐えしのぶのではなく、ハッピーな道であってほしいと思う。

 【注】外国人介護福祉士・看護師の受け入れ
 フィリピン、インドネシアと経済連携協定(EPA)を結ぶ際に盛り込んだ。それぞれ2年間で介護福祉士候補600人、看護師候補400人を上限に受け入れる。インドネシアからは昨夏に208人が来日。介護職員、看護助手として各地で働きながら資格取得をめざす。今年5月にはフィリピンからも283人が来日した。