2010年5月22日(土) 東奥日報 天地人



 7年前、韓国と北朝鮮の陸の境である38度線の真上に建つ板門店の建物に入った。中央に置かれたテーブルの上にも線が引かれていた気がする。当時、両国の仲は険悪でなかったが、境界警備は物々しかった。今はその比でない厳戒ぶりか。

 韓国が陸の境の延長に設定した海の境の38度線(北方限界線)の南側で、韓国の哨戒艦が沈没し、46人が犠牲になった事件が新局面に入った。韓国は、沈没原因は北朝鮮の潜水艦から発射された魚雷以外に考えられないと発表し、軍事的挑発に断固たる措置を取ると表明した。

 北朝鮮は、そんな見方は捏造(ねつぞう)と反論し、韓国が圧力を強めれば関係を遮断すると応酬する。だが、沈没原因の調査には欧米の専門家も加わっている。朝鮮半島の緊張を高める理不尽な行為を繰り返してきた北朝鮮の言い分に、国際社会を納得させるだけの力はない。

 ただ、両国の対立が激化して休戦状態が破れ、今年で開戦60年の朝鮮戦争のような全面衝突になるのは誰も望んでいない。危機的状況をわざとつくり、自国の体制引き締めや、外交での譲歩引き出しを狙う北朝鮮の戦術にも乗せられてはならない。

 今年のサラリーマン川柳の人気投票で、景気や雇用の不透明感を嘆いた「先を読め 読めるわけない 先がない」が6位になった。沈没事件の展開も予断を許さない。だが、先はある。先を明るくするためには、日本・米国・韓国・中国が北朝鮮の揺さぶりに浮足立たないように連携する冷静さが必要ではないか。


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