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[18783] 【ネタ】亡霊と海と時々キャル(Phantom~Requiem for the Phantom × Black Lagoon)【習作】
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:c48745e1
Date: 2010/05/12 03:15
どうもはじめまして、こんにちは、こんばんはそしておはようございました

この作品は友人の家でファントムを見ていて思いつきで出来上がった作品なので過度の期待はしないでください。一応プロットは最後まで完成しているので完結させるつもりですが更新速度に期待はしないでください。

ちなみに作者は声ネタがすきなのでネタ注意です。そしてちょっとキャラ崩壊もあるのでそれでも良い方は御覧ください。

それでは・・・・

御覧の通り貴様らが挑むのは無限の厨二、妄想の極致恐れずして読んでくださいww。



[18783] プロローグ
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:c48745e1
Date: 2010/05/13 15:01
「「バカルディ!店にあるだけ持ってこい!!」」

喧騒に包まれるイエローフラッグの中で一際大きな声にツヴァイは、琥珀色をした液体の入ったグラスを傾けながらテーブルを囲む雇い主とその護衛の二人の女に視線を流した。

「まったく・・・・野蛮な所ね」

 鬱陶し気に金糸の前髪をかき上げながら、ツヴァイの雇用主・クロウディア・マッキェネンは苦笑交じりに隣の褐色の筋肉質な相方に視線を向けた。

「あんたは初めてだから知らないだろうけど、ここじゃこんなの日常茶飯事さ」

 リズィ・ガーランドは、テーブルの上に転がる何個目か数えるのも面倒になった空のジョッキの群れに新たな空ジョッキを加えながら豪快に笑った。

「あれが噂のラグーン商会の二挺拳銃(トゥーハンド)だ」

 空のグラスをテーブルに置きながら、ツヴァイは横目にロアナプラでも名うての女ガンマンに視線を向けるがすでに噂の女ガンマンは、この店どころかこの背徳の街に不釣り合いなホワイトカラーの男との飲み比べに興じていた。

「あの刺青女がねぇ・・・・あなたとどっちが強いかしらね?」

 男を魅惑する為だけに生まれてきた様な蟲惑的な笑みを浮かべ、クロウディアは店で一番高い酒を煽った。

「どうかな・・・こればかりはやりあってみないと分からないな・・・・・待て」

 独白を切り上げ、ツヴァイは店の外に蠢く影に意識を向ける。

 それは、懐かしささえ覚える感覚であった。抑え込もうとしても滲み出る殺気、引き金に掛けた指が脳からの信号を今か今かと待ち構える期待感、どれもがツヴァイ自身が幾度となく経験し、また自身に幾度となく向けられた感情だった。

「リズィ・・・」

「分かってるよ・・・・」

 ツヴァイには後れをとるが、リズィもそれなりの修羅場を潜ってきた歴戦の兵である。ツヴァイと同様に店の外の影に気付いており、肉食獣の様な殺気を纏わせた視線を店外に向けていた。

 そんな二人の様子に長年同行していたクロウディアも尋常ならざる空気を察し、いつでも動けるよう身構えていた。

瞬間。

喧騒渦巻くイエローフラッグにこぶし大の鉄塊が放り込まれる。

 それが、手榴弾と理解する前に三人は動いていた。

ツヴァイは、テーブルを盾として爆風を遮り、リズィは以前からの護衛対象であり親友のクロウディアを背後に回り込ませる。

 炸裂した手榴弾の爆風が収まるより早く、今度は窓が叩き割られそこから無数の銃口が突き出される。

 銃口から吐き出される鉛の塊に店にいた客達が次々と風通りの良い体に改造されていき、物言わぬ屍へとその存在を変えていった。

「リズィ!!」

「分かってるよ!!」

 ツヴァイが叫ぶよりも早く、リズィはクロウディアを連れカウンターに走っていた。

「逃げる奴にはケツ穴余計にこさえてやれ!!終わるときには酒場には死人しか残らねぇ!!」

 銃声の奥からは狂気と歓喜に満ちた男の声が聞こえてくる。

クロウディアがカウンターの裏に逃げ込むのを確認したツヴァイは、己の存在を闇に紛らせ事の成り行きを見届けることにした。

幸いなことに、この酒場の店主はカウンターに装甲板を仕掛けておりよほどの重火器でない限りはクロウディアの安全は保障されている。

「死んでる・・・!死んでるよ!せっかく国立出ていいとこ就職したのに!これじゃぁあんまりだぁ!!」

今にも泣き出しそうな声も聞こえたが、それもすぐに銃声の狂乱の中に消えていった。

 男の言葉通り、酒場に数人を除き死人しか残らなくなった頃、死体確認の為にゾロゾロと招かれざる男達が無遠慮に侵入してくる。

「チェックしろ、まだ声が聞こえた。俺は生きてる奴が大嫌いなんだ」

 最後に店に入ってきた襲撃者のリーダーと思しきサングラスの白人が、部下に命令を出す。

 人数は軽く二十人を超えており、誰を狙ったかは知らないが随分と用心深い奴らだなと、ツヴァイは心の中で苦笑し、同時にそれら全員を始末する算段を頭の中で組み立てながら、懐に忍ばせたベレッタに手を伸ばす。

だが、それよりも早く動く影がカウンターから飛び出した。

 影の両手に握るのは差し込んだ月明かりを跳ね返し、凶暴な光を纏う白銀の銃。

 それを自分の一部の如く操り、無駄のない動きから繰り出される銃の演武により鍛え抜かれた屈強な男達を瞬く間に屠り去っていく。

 だが、ツヴァイの注目を引いたのは影の動きではなく、その表情にあった。

 影は嗤っていた。

 人間と言う己と同じ型を持つ存在を彼女、二挺拳銃は、心底楽しみながら壊していた。

 自分の様に殺人に心をすり減らす事もなく、ただ純粋に殺人という行為を楽しんでいた。

「あれはお前らの客か?」

 闇夜に紛れ、ツヴァイはカウンターのさらに奥、裏口の前で二挺拳銃を援護する大柄の黒人に話し掛ける。

「あんなおっかねぇ連中に知り合いはいねぇよ!」

「でも心当たりはあるんだろ?」

 その言葉に男はバツの悪そうに舌打ちをし、

「あいつらエクストラ・オーダーって傭兵会社の奴らでな、俺達の持ってるモンに興味津々のご様子だ」

「あら・・・そんな物騒な物ってなにかしらね。私も興味あるわね」

 待っていたとばかりにクロウディアが口を挟む。

「・・・・なんだこの上の娼館にいそうな姉ちゃんは?」

 男の物言いにクロウディアが噛みつく。

「失礼ね!!それはゲーム版の時だけよ!!」

「落ち着きなよリンディ、いいじゃないさそんなことぐらいで・・・・・」

「そんなことって何よ!あんたなんてゲーム版じゃアマゾネスの戦士みたいな姿だったくせに!!アニメ版でワイルドになったからって調子に乗ってんじゃないわよ!!」

「なっ!!それは言わない約束だったろ!」

 理解不能な言い合いを始める二人をよそにツヴァイは男に視線を移す。

「・・・・・色々すまん」

「なに、気にするな。この街じゃよくあることだ」

「よくあるのか!?」

「くだらねぇお喋りはここまでだ、俺達がここから逃げれば奴らも俺達を追ってくるだろ。迷惑掛けたワビはいずれするってことで今日のところは失礼させてもらうぜ」

 そう言うと男は豪快に握っていたS&Wを撃ち放ち、死のダンスを踊り続ける二挺拳銃に叫び掛ける。

「レヴィ!出るぞ!!」

「あいよ」

「ちょっと待てぇ!俺はどうなるんだ!?」

 それまで膝を抱えて震えていたホワイトカラーが噛みつくように男に迫る。

「元々ない話だしよ、ここで別れるってのはどう?」

「それはないだろ!?死んじゃうよ連れてけ!!」

 本気で泣きの入ってきたホワイトカラーに男はやれやれというように肩をすくめると、

「しょうがねぇな、足だけは引っ張るなよ?」

まるで嵐のように男たちは去って行った。

 残されたのは、傭兵たちによって作られた死体が十数体にレヴィと呼ばれた女ガンマンが作り上げた傭兵達の死体が十数体、生き残りの店主とツヴァイ達三人。そして・・・・


 傭兵部隊の隊長が忌々し気に吐き捨てるも、未だ無傷のツヴァイ達を確認するなりその蛇のような顔つきをより醜悪な笑みに歪ませる。

「まぁ奴らはすぐに始末するとして、生き残りがいたとあっちゃ後々めんどくせぇ事になりかねねぇからな。悪ぃが運がなかったと思って死んでくれや」

その言葉を合図に、外で待機していた部下達が一斉に銃を構える。

 ある程度予想できたこととはいえ、実際に起きるとやはりうんざりする。深くため息を漏らすツヴァイに更なる追いうちの言葉がクロウディアにより掛けられる。

「よろしくね・・・・ツヴァイ」

 もう何度となく言われた台詞にツヴァイは再び肺が空になるほど深いため息を吐き出す。

 瞬間、十五発分の銃声と共に同じ数の傭兵達が頭や心臓など即死の痕跡を体に刻み込み物言わぬ死体となって酒場中に転がる者達の仲間入りを果たした。

「なっ!?」

 傭兵部隊の隊長が驚愕の声を上げるより早く、マガジンを交換したツヴァイが更なる死体を作り上げていく。

「何だお前・・・・・ま、まさかカシムか!?」

「大尉落ち着いてください!!」

取り乱す隊長を抑えながら撤退していく傭兵達をしり目に満足げな表情を浮かべるクロウディアが悪魔の様だったと、イエローフラッグの店主・バオは後々まで語り継ぐこととなる。




[18783] 1話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:c48745e1
Date: 2010/05/12 03:29
ここは、ロアナプラの繁華街から少し離れた港町の二階建て建物の一室。

ツヴァイ達が住居兼事務所として借りているのは3LDKの間取りに事務所として使っている部屋からは海が一望でき、物件的にはかなり良好のはずなのだがいかんせん潮風にあてられて所々錆びついており、かつてアメリカの裏社会で限りなくトップに近づいた組織の大幹部の部屋とは思えない程寂れた一室にツヴァイ達三人は難しい顔を突き合わせていた。

「クロウ・・・悪いけどもう一回言ってくれるかい?」

 頭痛を堪えるかのようにこめかみを抑えながらリズィは隣に座る親友であり護衛対象であり、雇用主のクロウディアに問いかける。

「お金がないのよ!!」

 リズィよりもさらに激しい頭痛を感じているのか、クロウディアは誰から見ても美人と言える顔の眉間に深い皺を刻んでいた。

「ロアナプラにきて数ヶ月、何の後ろ盾もない私達に仕事なんてあると思う?今まではインフェルノ時代に蓄えたお金で何とか生活してきたけどそれもそろそろ限界よ」

「ちょっと待て、それにしたって早すぎないか?アメリカならともかくここはタイだぞ、物価だって全然・・・・・」

「あんた達が毎晩毎晩飲みに行ってお金を湯水の如く使っているからでしょうが!!」

 テーブルを挟んでソファに座るツヴァイが口を挟もうとするが、怒鳴り声に一蹴される。

「そんなに行ったか?」

「あたしの記憶ではそんなに・・・」

 訝しの視線を交わらせるツヴァイとリズィの前に、一冊のノートが叩きつけられる。

 そのノートには几帳面な字で「家計簿」と書かれていた。

「「か、家計簿ぉ!?」」

 驚愕の表情を浮かべ、素っ頓狂な声を上げる二人になぜか得意気なクロウディア。

「これでも出来の悪い弟がいた身ですからね。これぐらいは当然よ」

「お、お前・・・・意外に家庭的だったんだな」

「一応、親友を自称しているあたしでもこれは予想外だったよ・・・・」

「お黙り!それよりもこの家計簿を見てみなさい!!」

 破れんばかりの勢いでノートを開き、これまた几帳面の字で描かれた数字の羅列を二人に突きつける。

「「・・・・・・・」」

 その内容にさすがに閉口せざるをえない。

 ほぼ毎日の様に酒代の項目があり、その額は平均数万ドル、酷い時には一晩で数十万ドルの金が酒代に消えていた。

「これで分かったでしょ!?うちの経済状況はあんたら二人のアル中によって切迫しているのよ!!」

「い、いや、そんなに飲んだ記憶がないんだが・・・・」

「あんたら記憶無くなるまで飲んでいるからでしょうが!!何度ゴミ捨て場で寝ていたあんたを担いで帰ってきたと思っているの!?」

「そ、そんなこともあったのか・・・?」

 自分の酒癖の悪さを認識すると共に、そこまで酒に溺れてしまうほど摩耗している自分にうんざりする。

「一人でシリアス入っているんじゃないわよ!!そんな暇があるならバイトでもして来なさい!!この駄犬!!」

 容赦のない罵倒と共に強烈な平手打ちをくらわせられ、ツヴァイは肩を落として沈黙する。

 その時、クロウディアのデスクに備え付けられていた電話が鳴り響く。

「はい、御電話ありがとうございます。こちら万屋アースラです♪」

 女の変わり身というものはいつ見ても、殺し屋のそれよりも卓越した技術だとつくづく思う。

何の訓練もなくそれを生まれつき持っている女というものは何より恐ろしいとツヴァイは改めて感じた。

「はい、ご依頼内容はどのような物でしょうか?当社は殺し屋から戦艦の艦長、マダオ(まるで駄目なオウギの略)の嫁等と幅広い人材を揃えております!!・・・・・え?」

 それまで上機嫌だったクロウディアの声色が一気にクールダウンする。

「・・・・はい・・・・はい・・・いえ、喜んでお請けさせていただきます。はい、これを機に今後も当社を御贔屓に・・・・はい、では失礼させていただきます」

 電話を切るなり、引き攣った笑みをクロウディアはツヴァイに向けた。

「あら?意外と仕事が早いのね」

 依頼主のバラライカと呼ばれるロシアンマフィアの頭目の事務所に着いたのは正午になりかけの時だった。

 ホテル・モスクワ。ロアナプラでも三合会に次ぐ勢力を誇る組織の頭目からバイトの依頼が来たのは一時間程前のことであった。

「で、依頼内容は?」

「あら?聞いてないの?」

 意外そうに顔をしかめるバラライカ。

 バイト内容はクロウディアから頑なに教えられずにいたため、直接聞くしかなかったのだが、

「なん・・・・・・・・・だと」

 その内容を聞きながら案内されたビデオ機材が並ぶ一室を前にツヴァイは愕然とした。

「聞こえなかったの?ポルノビデオの編集のバイトよ」

「・・・・・・」

 閉口するツヴァイの表情がよほどお気に召したのか、バラライカは上機嫌に続けた。

「さすがのファントムも雇用主の命令に逆らえないってわけね」

「知っていたのか?」

「仕事柄ね。この街の新参者を一通り調べるのは当然のことよ」

 考えてみれば当然のことであった、素性を知らぬ者にバイトとはいえホテル・モスクワが仕事を依頼することなどありえない。

 別に隠していたわけではないが、自分のあずかり知らぬところで自分の過去を探られるのはいい気分ではない。

 だが、ここでへそを曲げるほど子供ではないしせっかくのバイトを不意にすればクロウディアに何をされるか分からない。

「で、何本やればいいんだ?」

 極力顔に出さないように努めたが、バラライカはそのツヴァイの一連の行動に歪んだ笑みを浮かべ、機材の説明を始めた。

「船便の遅れるって?」

 葉巻を加えたバラライカがけだるそうに、来訪者の言葉を復唱する。

「電話ですむようなことをわざわざ言いに来たの?」

「ダッチに言ってくれよンな事」

 めんどくさそうに吐き捨てるのは、ラグーン商会の二挺拳銃レヴィ。

 同行しているのは先日の酒場の一件以来ラグーンに籍を置くことになったホワイトカラーの東洋人のロックと呼ばれる男はツヴァイが編集するポルノビデオの映像に気まずそうに視線を逸らしていた。

 逆にレヴィは興味津々といった様子で画面を覗き込んでくる。

「ま、なんでもいいわぁ、今日中にこれを十五本片付けなきゃいけないのよ」

「やっているのは俺だがな・・・・」

 さも、自分一人で仕事をしているかのような口調のバラライカにツヴァイは、こめかみを引き攣らせながら呟く。

「まぁ、バイトが見つかってよかったわ、あたしがやってたら頭がおかしくなりそうよ」

(バイト代の為だ、バイト代の為だ、バイト代の為だ)

 自分に言い聞かせることで目の前の機材を撃ち抜きたくなる衝動を抑えるツヴァイに、ロックだけは同情の視線を向けていた。

「夜には会合もあるのよもう・・・・・勝手にヤクを撒いてるどっかのバカの話。大迷惑よまったく」

 今にも死にそうな声を上げるロシアンマフィアの頭目を尻目にツヴァイは黙々と作業に没頭する。

「なぁ兄ちゃん、あれケツに入れてんのか?」

「・・・ケツだ」

 レヴィの問いに律儀に答えてしまう自分の性格が恨めしかった。

一通りの世間話を済ませ、ラグーンの二人が部屋を後にする。

「じゃあな兄ちゃん、続き頑張れなぁ」

「死にたくなる・・・・・」

 去り際のレヴィの言葉に、ツヴァイは誰にも聞こえない声で呟いた。

 バイトが終わったのは日が傾き始め、ロアナプラに夜の世界が訪れる手前の刻限だった。

僅かに出たバイト代を握りしめツヴァイが訪れたのは、繁華街の食堂市場。

 朝から何も食しておらず、昼食もあのようなバイト内容では喉を通らず、少し早いが夕食をとることにした。

 器に注がれたフォーを持ち、テーブルに着く。

 特に食に拘りはないが、ここのフォーは不思議とツヴァイの味覚を心地よく刺激してくれるので暇さえあれば食していた。

 半分も食べ終えたころ。市場が喧騒に包まれる雰囲気を感じ、箸を止め辺りに視線を飛ばすと、逃げ惑う人々の奥に銃を構えた見知ったポニーテールを見つける。

「またあいつか・・・・」

 うんざりしながらフォーをかき込み直すツヴァイ。

 言わずもがな、先刻会ったラグーンの二人組であった。

 トラブルメーカーと呼ばれる人種にはこれまでに何人も出会ってきたが、行く先々で面倒事を引き起こすラグーンの二人組はトラブルメーカーというよりもトラブルそのものと言ったほうが正しいのだろう。

 今回もどのような経緯でトラブルを巻き起こしたのか知らないが、レヴィがロックに銃口を向けているところを見る限り、痴話喧嘩の類であると予想がつく。

 そんなことにいちいち光りものを持ち出すあたりが、この街が常識から外れた存在であると改めて思い知らされる。

瞬間、銃声が轟く。

「ほんとに撃つのかよ・・・・」

スープも残らず飲み干し、ツヴァイはゆっくりと席を立つ。

背後からはロックとレヴィが言い争う声が聞こえてくるが、すでにツヴァイは満腹感から来る眠気を堪えるほうが重要であった。

遠くからパトカーのサイレンの音も聞こえてきたがそれもツヴァイにはどうでもいいことであった。

「よう、またあったな兄ちゃん」

 御馴染のイエローフラッグのカウンターでグラスを傾けていると、そこにレヴィがやってきた。

後ろには、顔を腫らし左のこめかみに銃痕を付けたロックがついて来ていた。

「バイトはどうだったよ?」

「・・・・・・」

それを忘れるために飲んでいるのに、一瞬にしてアルコールが体から抜けていくのがわかってしまい。

忌々し気に表情を歪めるが、レヴィは構わずツヴァイの隣に陣取る。

「そういや自己紹介がまだだったな。あたしは・・・・・」

「知っているよ、ラグーン商会の二挺拳銃だろ?そっちは最近入ったロック」

「え?俺の事も知ってるの?」

「耳は早いほうなんでね・・・・」

意外そうな表情を浮かべるロックに一瞥もくれずにグラスの中身を飲み干すツヴァイ。

「まぁ、ロックのことなんざどうでもいいさ。あんたは最近来たモンだろ?どこで仕事とってたんだい?」

「俺か?・・・・・・」

 少し考えて、ツヴァイは皮肉気に口元を歪ませ、

「俺は、殺し屋から戦艦の艦長、マダオ(まるで駄目なオウギの略)の嫁等と幅広い人材を揃えている万屋アースラの玲二だ。」

「あん?」

「あんた日本人なのか?」

 それぞれ思うところが違う疑問を浮かべる二人をよそに、ツヴァイは店主のバオにおかわりを要求した。

 後に、バイト代を使い込んだとクロウディアにこっ酷い制裁を受けることなど露知らず、ツヴァイはこの妙な街の住む、妙な二人組との出会いをどこか楽しんでいた。




[18783] 2話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:d2bcaddb
Date: 2010/05/14 17:16
焼けるような日差しの中、エアコンの効いた事務所でクロウディアはキンキンに冷えたシャンパンに舌鼓を打っていた。

誰もいないことをいいことにバスローブ一枚と言う格好に注意する者もなく、クロウディアはつかの間の幸福を堪能していた。

最近の万屋アースラの経営状態は、思いのほか良好であった。

この背徳の町ロアナプラを牛耳るマフィアへのパイプ作りもクロウディア自信が持つ交渉スキル、信じられる友人。そして、かつてファントムとまで呼ばれた伝説の殺し屋がいればこの街での成功も難しい話でないと思っていた。

しかし、思い描くシナリオが現実のものとなるのに喜びを感じない人間はいない。

今日のこのささやかな贅沢も、自分へのご褒美と見れば決して高いものでない。

ちょうど、ツヴァイもリズィも出払っており事務所にはクロウディアしかいない。この街に来てからほとんど、どちらかが自分を警護の為に付いていた。

それは、雇用主として当然と思う反面、少しでも一人になりたいという欲求がたまって来ていたのも事実である。

決して二人が煩わしいなどと思ったことはない。むしろ感謝の念を絶えず持っていた。アメリカですべてを失い、それでも自分について来てくれた二人にはこの世の全ての言語を尽くして礼を述べても足りない程である。

それでも心のどこかにはそのような欲求が溜まっていたことに僅かに嫌悪感を覚えると同時に、自分の様な者にもそのような人間らしい感情があったのだと皮肉に感じたものだ。

そんなクロウディアの幸福を木端微塵に吹き飛ばす人物がロアナプラに降り立ったことなど、当のクロウディア本人はもちろんのこと、ロアナプラに住む誰一人として知ることはなかった。




「あん?コロンビア人に会いたい?」

街中で呼び止られたリズィは、不信感たっぷりに眉をひそめる。

この街で自分に声をかける連中など片手あれば事足りる。基本的にこの街は他人に無関心なのだ。

毎日のように銃撃戦や爆破が起こる場所で自分と仲間以外に気を配る余裕など持ち合わせてはいられないからだ。

ロアナプラに来て数カ月、ようやく常識の外にあるこの街のルールにもなじみ始めたリズィに前に現れたのは、これまた常識の外にある格好をした女であった。

一言で表すならば、それはメイドだった。否、それ以外の言葉が当てはまらない。

黒を基調とした服に黒のロングスカート、それにコントラストを加えるのはシミ一つない純白のエプロン。

まさに映画の中から出てきたメイドそのものだった。

メイドは、腰まであろうかと言う長い黒髪を三つ網に結び二本の尻尾の様にうなじから垂れ下げ、顔の半分は覆う丸眼鏡をかけていた。

「はい、私本日この街に来たばかりでした右も左も分からぬ身の上、コロンビアの同国人の集まりそうな場所を御教えいただけないでしょうか?」

まるで、感情をなくした人形のようにメイドは先ほどと同じ言葉を送り返す。

「コロンビア人ねぇ・・・・・」

人種差別の概念なども持ち合わせてはいないが、コロンビア人だけは話が違う。

かつて、リズィ、クロウディア、ツヴァイが所属していた組織インフェルノ。

その大頭目はコロンビアの麻薬市場を牛耳っていたレイモンド・マグワイア。リズィは彼にあろうことか親友であるクロウディアの抹殺を命じられていた。

組織の忠義と友情の間で大いに揺れたが結局彼女は友情をとり、クロウディアと当時インフェルノ最強の殺し屋、ファントムの称号得ていたツヴァイと共にインフェルノを脱走した。

自分の選択に後悔は微塵もないが、組織を裏切ったことには変わりない。

自分はろくな死に方をしないであろうと覚悟も決めている、仮にこのメイドがインフェルノから刺客だったとしてもさしたる抵抗もしないであろう。

だがそれは、あくまで自分一人の場合のみである。今も昔も自分よりも大事な存在がある。

クロウディア・マッキェネン。自分の全てを賭けて護ると誓った親友に危害が及ぶのは何としても阻止しなくてはならない。

改めてメイドに視線を向ける。

相変わらず人形の様に無表情のメイドは時が止まったかのように身じろぎ一つせずにリズィの言葉を待っていた。

「・・・・・」

リズィは迷っていた。このメイドがインフェルノの刺客だとはどうしても思えなかった。

インフェルノの刺客ならば、自分を見つけた瞬間に発砲しているだろう。まれに自分の趣味の為に自ら名乗り決闘を申し込む馬鹿もいるが、そんな命知らずがインフェルノに所属できるはずがない。

コロンビア人を探しているのは仲間を集めて自分達を襲うのかとも思ったが、わざわざそれを自分にばらすような不手際はしないだろ。

だが、それが全て罠であったなら?

そこまで考えてリズィは思考を停止した。考えるのは自分の仕事ではない、今自分ができるのは出来るだけこの正体不明のメイドから目を離さないことだ。

「場所は知らねぇが、あたしもこの街に来たばかりでね。これも何かの縁だ、とりあえず家に来ないか?」

我ながら下心が見え見えの誘いだったが、メイドしばらくの沈黙の後、

「では、御言葉に甘えまして」

などと言って、リズィの後に付いて行った。


「悪いな・・・・・」
 
事務所に着くなり、リズィはメイドの頭に愛銃であるATMハードボーラ―を突き付ける。

事の一部始終を聞き及んでいたクロウディアはその光景を無表情で眺めていた。

「・・・・・・」

相変わらず無表情のメイドだが、リズィにはメイドの筋肉が僅かに硬直したのを見逃さなかった。

(こいつ、やはり・・・・・)

その反応にリズィの自分の中にあった疑念が確信へと変わる。

メイドの反応は修羅場を潜った者にしかできない反応であった。表情と体の反応を区別することは意図的な訓練を行わなければそうそうできることではない。

「あんた・・・・一体何モンなんだ?」

「私本日この街に来たばかりでした右も左も分からぬ身の上、コロンビアの同国人の集まりそうな場所を御教えいただけないでしょうか?と、お願いしたはずですが?」

「それはこっちの質問に答えてからよ」

心の内を読めせぬよう余裕たっぷりの笑みを作り、クロウディアはメイドに命令を下す。

「別にあたし達はあなたをどうこうしようとは思ってないわ・・・・今のところはね」

「それはどういう意味でございましょうか?」

「そのままの意味よ」

「・・・・・・」

「あんたがあたし達を狙っている奴らじゃないってわかったらすぐにでもコロンビア人の所に連れていく」

今日会ったばかりの人間とは言え、騙したことに後ろめたさの苦痛に表情を曇らせるリズィ。

「私、南米ラブレス家のメイド、ロべルタと申します・・・・これでよろしいでしょうか?」

「そうね・・・・じゃもう一つ質問。どうしてこの街に来たの?」

「・・・・・私用でございます」

「あっそ、じゃ質問を変えるわ。レイモンド・マグワイアって知ってる?」

「コロンビアの麻薬王と言うことぐらいは・・・・」

表情から内心が読めない為、クロウディアはこれまで培ってきた経験則と情報を総動員して、目の前のメイドの正体にある程度の予測を付ける。

「そう・・・・どうやらあなたは違うみたいね。ごめんなさいね」

リズィに目配せをし、ロべルタと名乗ったメイドの頭に向けられた銃口を下させる。

「・・・・・・いえ、それではおいとまさせていただきます」

そう言って、ロべルタはやうやうしくスカートの裾を広げ礼をとる。

「いやね、怒らないで。お詫びと言っては何だけど協力させてもらうから」

無理な事とは分かっているが、出来るだけ優しい声色でロべルタに語りかける。

が、次の瞬間二人の表情が凍りつく。

ロべルタのスカートの裾から零れ落ちたのは、こぶし大の黒光りする球体。

「手榴・・・・!」

気付いた時には、クロウディアはリズィに抱えられ窓から飛び出ていた。

数瞬の後、爆風と共にかつて事務所と呼ばれた建物が木端微塵に吹き飛んだ。

「あ・・・・・あ・・・・あ・・・・」

燃え盛る事務所の前にクロウディアは放心状態で立ち尽くしていた。

親友のあまりの痛々しさにリズィは思わず顔を背けてしまう、このような光景をリズィは過去に見たことがある。

それは、数年前クロウディアの抹殺指令をインフェルノから受け、それを実行しようとした光景であった。

 その時にもクロウディアはそれまで自分で築き上げた物全てを失っていた。

「あ・・・・・あ・・・」

「クロウ・・・・」

何と声を掛けてよいものか迷い、恐る恐るクロウディアに手を伸ばす。

「あンのくそメイドぉぉぉぉぉぉ!!」

「は?」

何が起こったのか理解できず、リズィは素っ頓狂な声を上げてしまった。

「あたしの事務所を見事なまでに木端微塵にしてくれちゃってまぁ!!この落とし前はどうしてくれようかしら!!」

絶望ではなく怒りで震える拳を握り締め、クロウディアは振り返るなりリズィに叫び掛ける。

「車出して!!あのなんちゃって火星の戦士を本当に火星まで吹き飛ばしてやるわ!!」

「イ、イエス。マイロード!!」



[18783] 3話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:4b5f93b9
Date: 2010/05/13 01:35
事務所が半壊したことそれにより雇用主が怒り狂っていることを露知らず、ツヴァイはいつも通りイエローフラッグのカウンターでグラスを傾けていた。

「あんたトコの会社随分景気がいいみてぇだな。」

そう言って店の店主バオは新聞に目を落としながら語りかけてきた。

「おかげさまで。」

あいさつ程度の口調でツヴァイはグラスに新しい酒を注ぎながらぶっきらぼうに答えた。

考えてみれば酒代を稼ぐために働くなどアメリカ時代には考えられないことではあったが、そうやって飲む酒は不思議と旨いと感じるようになってきた。

この変化が自分にとっていいことなのか悪いことなのか分からないが、少なくとも悪い気はしなかった。

そんなことを考えていると、いつの間にか隣に奇怪な格好をした女が座っていた。
一言で言い表すならメイドだった。

まるで映画の中でしか見たことがない本物のメイドがそこにいた。

 店どころか、この街そのものに不釣り合いなメイドをバオも一瞬驚愕の表情を浮かべるが、この手の相手には関わらない方が身のためだと瞬時に理解したのだろう。

 再び新聞に視線を落とし、

「ミルクはねぇよ」

 と、ぶっきらぼうにメイドに吐き捨てるように言った。

「では、お水を・・・・・」
 
 幽霊のような消え入りそうなか細い声で、メイドは淡々と続ける。

「この街には今日着いたばかりでして、右も左も分かりませんのコロンビア人の・・・・」

 そこまで言って、メイドの台詞は強制的に終了を余儀なくされる。

 中身が零れるのも構わず、バオがビールの入ったジョッキをメイドの前に叩きつけるように置いたのだ。

「ここは酒場だ・・・・・酒を頼め、アホタレめ」

 あからさまに「とっとと帰れ」と態度に表すバオにツヴァイは興味なさげにグラスを傾ける。

 このメイドに興味がないわけではないが、下手なことに首を突っ込めば命が危ないのはこの街の摂理ともなっているのでバオの態度も分からなくはない。

しかし、

「この街には今日着いたばかりでして、右も左も分かりませんのコロンビア人の友人を頼って来たのですが、事務所はどちらにございましょう、ご存じありませんか?」

 メイドは、何事もなかったかのように律儀に先ほど言いかけた台詞を最初から言い直す。

「姉ちゃん!ここが観光案内所や職業斡旋所に見えんのか!?」

 遂に怒鳴り声を上げるバオにメイドは眉一つ動かさず静かに、「いえ」と、呟いた。

 酒瓶を一つ空けたころ、店の外からこちらに向かってくる無数の殺気を感じ、ツヴァイは意図的にアルコールを体内の奥底に押し込める。

 それと同時に隣の座るメイドからも肉食獣の様な殺気が立ち込めていた、それはあまりにも強烈でありツヴァイの闘争本能を無自覚に刺激する。

 思わず懐のベレッタに手を伸ばしかけるが、それを遮るようにメイドに握られたジョッキが盛大な音を立てて砕け散った。

 申し合わせたように、店の入り口の扉が開き店内に数人のガラの悪い男達がズカズカと侵入してくる。

 それを見たほかの客は危険を瞬時に嗅ぎ取り、逃げるように店を後にする。

 顔つきから予測するに、男達達はメイドの探していたコロンビア人のようであったが、乗り込んできた雰囲気から察するに、メイドを歓迎する為に来店したのではないのだということは、子供でも察しがついた。

 いつの間にか店の中には、バオ、ツヴァイ、メイド、そして乗り込んできたコロンビア人の男達しか残っていなかった。

 バオとツヴァイは無関係だが、この状況で店を後にできるほど空気が読めないほどバカではない。

 願わくば、穏便に事が済めばよいのだが・・・・・。

「女、テメーに用がある。」

 男達の先頭に立つ髭面の男が掛けていたサングラスを外しながら低いドスの利いた声でメイドに詰問を口火を切る。

「おかしなメイド姿の女が一人、コロンビアマフィアの居場所を嗅ぎ回ってると聞いたんでな。
ハリウッドの時代劇でしかお目にかかれねぇイカレたナリだ。そんな服で街中を歩いてりゃあどんな馬鹿の記憶にも残らぁ・・・・・。俺達をここに呼び寄せたのは何が目的だ!!貴様何者だ!!」

 ツヴァイの予想通り男達はコロンビア人であることには間違いないようである。

 しかも、メイドが探していたコロンビアマフィアの者達であることは男の台詞から容易に想像できる。

 この背徳の街で人を探す言うこと自体常識的に考えられない、表社会からはみ出した者で作られた街にまっとうな人間などいるはずがない。

しかも、それが探し人の個人名であるならいざ知らず、コロンビア人などと酷く曖昧なものであったならばそれはマフィアの警戒心を煽るに理由には十分すぎる。

 しばしの沈黙の後、メイドは椅子の脇に置いてあった大きなカバンの取っ手と桃色の日傘を握り、立ち上がると警戒心で殺気立つコロンビアマフィア達と対峙する。

「見つけていただくのがこちらの本意でございます。マニサレラカルテルの方々でございますね。私めはラブレス家の使用人にございます。聞きたいことが幾つか」

 マフィアを前にしてもメイドの口調は変わらず淡々としたものであった。しかも、自分を見つけてもらうことを目的としていたなど狂気の沙汰としか思えないが、それでもツヴァイはこのメイドの底知れぬ威圧感ならば例えこのまま撃ち合いを始めたとしても納得してしまうだろう。

 そして、メイドはさらに信じられない事を口にした。

「失礼ながら・・・・少々御無礼を働くことになろうかとも」

 その言葉の理解するまでに数秒、その後に店内はコロンビア人の豪快な嘲笑に包まれる。

 その中でも、ツヴァイはこれから起こり得るであろう銃撃の嵐に内心うんざりしながらもそれに巻き込まれないよう僅かに体を強張らせていた。

「ぎゃははははは!おい、聞いたかよ?御無礼を働くとよぉ、このアマぁ!!」

「お笑いだぜ!はははははは」

「どうするってんだよぉ~姉ちゃん!!」

 下品な笑いを撒き上げながらカルテルの連中は、メイドに腹を抱える。

 無理もない、あくまで丁寧な口調で自分達に危害を加えると宣言するメイドなど酔っ払いの冗談にも出てこない珍事であり、それが目の前で現実に起こったとあれば笑い転げるのが当然の結果だ。

「手加減は出来かねますので、一つ御容赦を・・・・・」

 だが、それでもメイドは表情一つ変えず、静かに右手に持った傘の先を持ち上げた。

「では、ご堪能くださいまし」

瞬間、傘の先端から火花と轟音が飛び散り、その延長線上に立っていた屈強な男の体を穴だらけにしながら吹き飛ばす。

「なっ・・・・・・?」

 数秒前まで笑い転げていた男達も含め、流石にこの展開までは予測できなかったツヴァイも驚愕に目を丸める。

誰が信じられよう。屋敷で主人にお茶を汲むだけに存在するメイドがあろうことか傘の先端から銃弾を放ち人一人を穴だらけにしたのだ。

 あっけに取られる男達をよそにすでに冷静さを取り戻したツヴァイは、次に起こり得るであろう鉄火場の襲来に備え、一足でカウンターのテーブルを飛び越え身を隠す。

「や、野郎ぉぉぉぉ!!」

 ツヴァイの行動に遅れること数秒、ようやく事態を理解した男達が動揺を隠しもせずに次々と持っていた銃を握る。

「このクソッたれぇ!!てめぇら!!構うことねえ!!ぶっ殺せぇ!!」

 震える銃を片手にリーダーと思しき男が部下達に号令をかける。

 だが、それでもメイドは何も変わることはなく、淡々とした口調で言葉を紡ぎだす。

「いかようにも・・・・・お出来になるのならば」

「ほざくなぁぁ!!」

 十数個の銃口から無数の銃弾が吐き出される店内のカウンターの裏では、ツヴァイとバオが顔を合わせていた。

「俺の店は射撃場じゃねぇってんだよ・・・・」

「それは気付かなかったな、よくこの店で世界大戦が行われているのは店の小粋なイベントかと思ったよ」

「んなわけあるかぁ!!こっちだって毎回毎回迷惑してんだよ!!あいつらだってお前のダチじゃねぇのか?」

「言葉は悪いが二挺拳銃の台詞を借りるなら、ダチじゃねぇ!知らねぇよこのタコ。かな?」

 このような会話の間にもメイドの豪快な銃声がすでに数人の男達を吹っ飛ばす音が聞こえる。

「駄目だ兄貴!!どうなってやがんだ!?防弾繊維か畜生!!」

 銃声と共に聞こえる泣き出しそうな声が空しく響き、ある程度の状況を教えてくれる。

 恐らく、あの傘の布部分は防弾繊維によって編み込まれているのだろう、それにショットガンを組み合わせるなど、冗談の様にしか聞こえないが事実それがあるのだから認めるしかない。

 狙いも定めず引き金を絞れた銃口から吐き出される鉛玉が、カウンターの酒瓶を見事に打ち砕いていき、その破片が真下で身を隠していたバオとツヴァイに降り注ぐ。

「畜生!!弁償しやがれってんだ!!」

護身用のショットガンを抱えながら、バオは撃った相手も分からず吐き捨てる。

「慰めにもならんと思うが・・・・ご愁傷様バオ君とでも言っておこうか?」

「同情するなら金をくれってんだ畜生め!!」

 悪態を吐きながらバオはポケットから煙草を取り出し、おもむろに火をつける。

「ち、酒瓶の弁償一万ドル・・・調度品が同じく一万五千ドル・・・・プラス建物の修理費二万ドル・・・その他。問題は請求書の送り先だ・・・・あ、レヴィ!」

 気だるげに大まかな被害総額を検証するバオの口調が、ある人物を捕らえるなり怒りの色を帯びる。

 バオの視線の先には流れ弾に当たらぬよう姿勢を低くして裏口からでようとカウンターから顔を出したラグーンのレヴィだった。

「また、お前か・・・・」

 トラブルが生まれ変わったと言っても過言ではない女を確認すると、ツヴァイは誰に言うでもなくため息を漏らす。

だが、それツヴァイ以上に過去から被害を被っているバオは、顔を引き攣らせ、咥えていた煙草を床に落とした事すら気付かずに、レヴィを怒鳴りつける。

「てめぇ・・・レヴィ!!またテメェの仕業か!テメェのダチは何回俺の店をぶっ壊しゃ・・・・!!」

 この惨劇の原因がレヴィであるという確証はどこにもなく、むしろ良く考えなくとも原因はメイドなのだが、頭に血の上ったバオにとってはレヴィがトラブルを持って来たと考えるのが手っ取り早いのだろう。完全に八当たりに他ならないが。

「ダチじゃねぇ!知らねぇよこのタコ!!」

 当然、レヴィは苛立ち相変わらずの口汚い言葉をバオに吐き捨てる。

「ほらな?」

「・・・・・ちぃ!!」

 先ほどツヴァイがレヴィの言葉を借りたままの台詞を投げかけられ、バオは忌々し気に舌打ちをする。

「ち、静まり返るんじゃねぇよこのバカ・・・」

 レヴィの言葉通り、先ほどまでの銃声や怒号が嘘の様に収まり、店内には、むせ返る様な血と硝煙の匂いが立ち込めていた。

バオとレヴィの言い争いにあれほど銃撃の喧騒に満ちていた空間が突如静寂に包まれた。

それほど、この場には居ないはずの人物の声音は音波の波長が違っていたらしい。

「ラグーン商会!お前ら何でここにいる!!うちが頼んだ荷物の運搬はどうした!?」

 まだ生き残っていたリーダーの男がラグーンに詰問する。

それに答えたのは、レヴィの後ろに続いていたラグーンのボス、ダッチだった。

「まぁ待て!結論に飛びつくなアブレーゴ!」

 直後、幽霊の様に立ち上がったこれまたこの街には不釣り合いなほど仕立ての良い服装をした少年を確認したアブレーゴと呼ばれた男が声を張り上げる。

「あぁぁ!!?なんで荷物が何でここにいる!?テメェら契約の仕事を!!」

「だから、話を急くんじゃねぇ!!料金の件はゆっくり話を・・・!」

 荷物、契約、少年、メイド。

 これまでの話の流れとこれまでの事態の流れにキーワード当てはめ、ツヴァイはおおよその事態を掴む。

「そういうことか・・・・・まったく、やはりラグーンに絡むとろくな事がない」

 ため息混じりに呟くツヴァイの耳に、今度は意外な人物の意外な声が鼓膜を震わせた。

「若・・・様・・・・」

 それまで無機質な口調でしか言葉を発して来なかったメイドが初めて感情の籠った声をあげていた。

「ロべルタ・・・・」

 荷物と呼ばれた少年がメイドの名を呟く。

「こんな所にいらしたのですね若様、ご当主様も心配なさっております。さぁ」

 そう言って、メイドは少年に一歩踏み出そうとするが、少年の表情は強張りメイドの進んだ分だけ後退する。

 メイドの戦闘力は目の当たりにしたのは初めてなのだろう、明らかに少年は怯えていた。

それを、メイドも感じ取ったのか、僅かに悲しみの色が見える口調になり、

「怖がられるのも仕方ありませんね・・・・理由はいずれ、ご説明申し上げます」

 そこまで話したメイドの視界に、少年の後ろにしゃがむロックを捕らえる。

「そちらの方々は・・・?」

 少年に向ける慈愛の視線とは明らかに異なる気配を放ちメイドは、ロック他ラグーン商会の面子のメガネのレンズ越しに睨みつける。

「やばい・・・・目が合った」

 ダッチが強張った口調で呟いた。

「・・・・・・」

 ゆっくりとショットガン仕込みの傘(それはすでに傘ではないが、便宜上傘と呼ぶことにする)の銃口を持ち上げる。

「待って!ロべルタ、駄目だ!!」

 どういった理由なのかは知らないが、少年は銃口とロックの間に身を躍らせ、ロべルタと呼ばれる殺人メイドを制止した。

 だが、そこに余計な人物の余計な行動で事態は余計にややこしくなる。

 レヴィが少年の細首に腕を撒きつけ、銃口を突き付けた。

 当然、メイドの銃口を上げる腕が止まる。

「下がりなよ、メイド。ここにいる全員が死んでるよか、生きてる方が好きなはずだぜ。テメェだってそうだろ?」

「バカよせ!それじゃぁ悪役だ!!」

「まったくだ・・・」

レヴィを嗜めようとするロックの言葉に、ツヴァイも賛同するが、何事も力ずくで解決しようとするレヴィの辞書には「話し合い」と言う単語すら存在しないようである。

もしくは、存在しても「話し合い」と書いて「脅迫」と読むのかもしれない。

「うっせぇ!!」

二人を睨みつけ、レヴィはさらに少年の首を締めあげながらメイドに視線を移す。

「無理な撃ち合いをしなけりゃ、お前の若は五体満足で家に帰れる。床にオミソをぶちまけずにな。分かるか!?」

「・・・・・考えております」

 完全に悪役となり下がったレヴィの台詞に意外にもメイドは激昂することなく、静かに答えた。

 少なくとも、レヴィ以外の人間はメイドと一戦交える気もないようであるし、旨く事が運べばこれ以上無駄な争いも回避できるかもしれない。

ところが、

「勝手に話進めてんじゃねぇぇぇぇ!!」

 カルテルの残党の一人が背後からメイドに銃口を向け突進してきた。

「空気を読め!」

 これ以上話をややこしくされるのは面倒にも程があるので、ツヴァイはカウンターから立ち上がるなり、正確に男のこめかみをベレッタで撃ち抜く。

「・・・・・・」

「邪魔したか?」

「いえ・・・手間が省けましたわ」

 ツヴァイの軽口にメイドは律儀に返答しながらも、少年とレヴィから片時も視線を外そうとはしなかった。

 そして、沈黙。

 一秒が数時間にも感じられる重苦しい空気の中、誰一人として身じろぎ一つしようとはしなかった。

 どれくらい時間がたったのか、ようやく口を開いたのはやはりメイドだった。

「考え終わりました・・・・」

 映画の中でしか見たことはないが、もし、殺人ロボットっと言うものがこの世に存在するならば、このメイドではないだろうか・・・・。

 そんな気持ちすら起こさせる無機質な声に紡がれる次の言葉を誰もが固唾を飲んで待ち構える。

「Una vandicion por los vivos.(生者のために施しを)
Una rama de flor por los muertos.(死者のためには花束を)
Con una espode por la justicla,(正義のために剣を持ち)
Un castigo de muerta para los malwados.(悪漢共には死の制裁を)
Acl llegarmos――――(しかして我ら――――)
en elatar de los santos.(聖者の列に加わらん)」

 スペイン語で詩の様な言葉を囁くメイドに誰もが眉をひそめるが、その言葉の意味を理解している少年はどこか懐かしそうに顔を綻ばせる。

そして、

「ご威光には添いかねます。若様には五体満足でお戻りいただきますが、この家訓通り仕事をさせていただきます・・・・・サンタマリアの名に誓い」

 言いながらメイドは左手に持っていたカバンを突き出す。

「あの言葉・・・・!?」

 アブレーゴが反応するのをツヴァイは目ざとく見逃さなかった。

「すべての不義に鉄槌を!!」

 人質の意味が無くなったガルシアを小突いて離すと、そのままレヴィは当面の遮蔽物になるであろうカウンターを目指して走りながらロベルタに銃弾を浴びせた。

ロベルタもトランクに仕込んだ短機関銃をレヴィに浴びせ攻撃する。

 だが、それでもこの破壊神(メイド)はそれに夢中になり周囲への警戒を怠ることは無かった。

狙いをつけるアブレーゴにも銃弾を浴びせる。

 その僅かな隙にダッチ達は脱出を図った。

「今だ!行くぞ!!」

レヴィも駆ける。

「おい来るなぁ!来るなぁ!!」

あからさまに来る事を拒絶するパオの悲鳴に近い声にも耳を貸さず、そこに放たれたロベルタのトランクからのグレネード弾。

「あのグレネードはカバンに仕込むもんじゃないんだがなぁ」

もはや、呆れを通り越して感心の念すら覚えたツヴァイが呟くと同時に爆風がカウンターを襲う。

「おっと・・・」

 頭上から落ちてきたレヴィを受け止めるツヴァイだが、当の二挺拳銃は、その衝撃で脳震盪を起こしレヴィは床にだらしなく伸びていた。
 
手応えを感じたメイドだが、それに止めを刺すことは叶わなかった。

「くたばりやがれぇ!この、この、フローレンシアの猟犬めぇ!!」

負傷しながらもアブレーゴが激しい射撃を浴びせてきたからだ。

「フローレンシアの猟犬?」

 どこかで聞き覚えのある単語に、ツヴァイは眉を一瞬ひそめるが、今はそれどころではない。自分の腕の中で気絶する女ガンマンをどうにかしなくてはならない。

 よほど、猟犬の名が気に食わないのだろう。メイドはレヴィの止めよりもアブレーゴ達の殲滅を優先させていた。

「クソ!畜生無茶な女だ!ケサンの攻防戦がピクニックに思えるぜ!!おい、大丈夫なのかレヴィは!?」


「傷自体は大したことないが、脳震盪で気を失ってるな。しばらくは目を覚まさないだろう」
 
 一応、頬を何度か叩いてはみるがレヴィに反応はない。

「お互いここで会ったのも何かの縁だ、俺がこの女を担いで行くからお宅らの車に乗せてくれないか?」

「・・・・仕方ねぇ、足だけは引っ張るなよ?」

 ツヴァイの言葉に僅かに逡巡したダッチだったが、事は火急を要する。

 ツヴァイの同行を許可し、ラグーン商会のメンバープラス二人が裏口からイエローフラッグを飛び出した。




[18783] 4話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:a02e544c
Date: 2010/05/14 14:30
それはイエローフラッグを走り出て数秒もたたずにツヴァイ達の背後を追いかけるように噴出された。

立て続けに起きた大音響と溢れ出る炎。

辛うじて脱出したラグーン一同の背後でイエローフラッグは盛大な荼毘にふされていた。

「くそ!こいつは馬鹿にみたいに徹底してやがる!!」

 先に車の助手席に乗り込んでいたダッチが、燃え盛る酒場を見て悪夢でも見ているかのように吐き捨てた。

 ツヴァイも後部座席に乗り込んだところで、気付いた。

 本来ならば、ここにいるべきではない人物に。

「ロック、てめぇ!ガキは中に置いていけと言っただろうが!!」

 ツヴァイよりも早く、ダッチがメイドの目的である少年を連れてきたロックを怒鳴りつける。

「仕方ないだろ! 置いとけないよ、あんな中に!」

 怒るダッチにそう言い返すや、ロックは燃え盛る建物を振り返った。

「あいつ・・・今ので死んだと思うかい?」

「車に乗れ!」

 せかすダッチにロックは構わず続ける。

「聞こえるはずはないんだけど・・・・何か感じるんだ・・・・彼女の足跡が近づいてくるのが・・・・もう少しで真っ黒なメイド姿が、あの戸口に現われる・・・・」

「だったら早く車に乗れ!!」

急かすダッチの言葉に背後を気にしながらロックは車に乗り込んだ。

少々スピード狂の感があるベニーの運転で車は急発車した。

「それは同感だな・・・・・」

 ものすごい勢いで小さくなるイエローフラッグをリアウィンドから眺めながらツヴァイは誰にも聞こえない声で呟いた。

「どこへ向かえばいい?」

「問題は逃げ場があるかだ」

逃走中の車中でのダッチのその言葉にベニーが信じられないように「まさか」と否定した。

既に彼の思考は、これからのマニサレラ・カルテルとの交渉事に移っている。

スチームポットのように沸騰した頭を相手が冷やすまでの期間身を隠す程度の事だと思っている。

幾ら強いメイドとはいえ多勢に無勢、それにあの爆発で生きているとは思えない。

よしんば生きていたとしてもどうやって追いつけるのか。

「信じるよ・・・あれは未来から来た殺人ロボットだ!映画と違うのはシュワルツネッガーが演じていないことだけだ!」

だが、ロックはダッチの懸念を肯定した。

「面白くもねェし、笑えねぇよ!!」

そんなロックの下らない冗談にダッチは苛立った様に答える。

ツヴァイとしては、どちらも言い分もあながち間違いではないと思っているが、ここでは自分はあくまで部外者である。

余計な口を挟んで車を下されることだけは避けなければならない。

とにかく、こちらはロックのせいでメイドの大事な若様という爆弾を抱えている。

「とにかく港だ!ラグーン号まで突っ走れ!!」

ダッチの言う通り、とりあえずラグーン号に辿り着くしかない。

海の上なら奴も追っては来れまい。

追ってくるにしてもそれまでに時間は掛かるであろう。

問題は、ラグーン号に着くまでに充分に彼女を引き離せるれるかだが。

「映画ならここで追いつかれるのがセオリーだがな・・・・・」

「なんか言ったか?」

「いや・・・・忘れてくれ・・・・」

ロアナプラの街の明かりがこれほどまで恋しいと感じたのはこれが初めてだった。


「あ!ほんとに来た!!」

ドアーミラーに目をやったベニーがダッチの言が正しかった事に軽い驚きの声を上げる。

後方からその尋常でないスピード故にぶれながら追尾してくるのベンツがあったのだ。

そんなイカレタ運転をするのは状況から見てあのメイドだとベニーも悟っていた。
 
「ロック! レヴィを起こせ! そこでスヤスヤ健康的に寝むっている場合じゃねえ!」

ボスの命令にロックは、未だ夢の世界にいる彼女の肩を掴み揺らす。

その間にも思い切りアクセルを踏まれたベンツは一気に加速し、早くもラグーン商会の車に並んだ。

 ベンツが寄せられ、ぶつかって来る。

「畜生!!」

それに助手席のダッチが窓から銃弾で応じた。

「運賃は払わないとな」

 そう言って、ツヴァイも愛銃のベレッタを握り、ベンツとは反対側の窓から身を乗り出し引き金を絞った。

 思いがけない反撃にベンツは一旦距離を置くために離れるが、それが命取りであった。

 ダッチのマグナム弾とツヴァイの正確無比な射撃により、やがてボンネットに多数の銃弾を喰らったベンツが煙を噴き上げた。

ラジエターをやられたらしい。

「へっ!くたばりやがれ!!」

 危機を切り抜けた想いで罵るダッチ。

「まだだ!!」

ツヴァイの言葉通り、安心するには些か早すぎた。

未だスピードを損ねずベンツは再びラグーン商会と並んだ。その壊れた窓からメイドの左腕が不気味に突き出されていた。

そのままその腕は銃を握ったダッチの右腕を捕まえる。

そればかりではない。右腕はハンドルを握ったままの状態で、左腕一本で巨漢であるダッチの上半身を窓から強引に引きずり出したのだ。

「うぉぉぉぉ!離せこの野郎ぉぉぉぉ!!」

ダッチは自由の利く左腕の拳をメイドの左腕に浴びせるが、無理な姿勢で力は入らない。

尤もそれを言うならば、ハンドルを右手で握った状態でダッチを左腕で引きずり出したメイドの豪腕は賞賛されて然るべきものであろう。

だが、危機のダッチの視野に一際激しくベンツのボンネットから噴出した煙が飛び込んで来た。

失速するベンツ。その隙にメイドの手を振り解いた、ダッチを見送るように後方に流れていくベンツ。

「よし、今だ!ダッチ捕まって!!」

市街に車は入った瞬間。ベニーの判断でかなり荒っぽく車は裏道に回る。

「このまま裏道伝いに港へ向かおう。海の上に出てしまえば、相手が何者だってもう……」

 だが、そのベニーの判断にダッチが意を唱えた。

「駄目だ!この方法ではではスピードが落ちる!」

事実、裏道の狭い通路では路駐の車に道を阻まれ、何度か進路を変更せざるを得なかった。

「向こうはラジエターをやられていた。もう走れない!」

そういうベニーに対してもダッチは判断を揺るがせない。

「さっきのロックのジョークにはもう少し耳を傾けるべきだったぞベニーボーイ。奴を不死身の殺人ロボットか何かだと思え!」

追いつかれる事すら想定して、ダッチはロックにレヴィを何とか起こすように命じ、そしてベニーには大通りに出ればフルスピードで走りぬくように指示した。

ベニーはアクセルを踏み込み、車は考える限りの飛翔染みた走りをする。
 
だが、遅かった。そしてダッチの予測は正しかった。
 
瓦を撒き散らしながら住宅の屋根を動く物がある。それは迷わず空を跳躍し飛び降りた。

それも今しもそこを通り抜けようとするラグーン商会の車の鼻先に。

言わずと知れたメイドの駆るベンツ。

目の前に突如現れたベンツにベニーが悲鳴をあげた。そのままベンツはラグーン商会の車にぶつかり更にバウンドした。

その僅かな瞬間にロベルタは正確な銃弾を浴びせてきた。前輪の周辺で兆弾する銃弾が星のように輝く。

だが、それがタイヤに命中し、パンクする事態に陥らなかったのは幸いだった。
 
勢い良くバウンドしたロベルタの乗るベンツはそのまま商店街のアーケードへと逆さまの状態で激突した。

一方のラグーン側も無傷ではない。ぶつかった衝撃で飛ばされ建物の角に激突してボンネットから煙が溢れ出す。

「大丈夫かベニー!?起きろ!!」

車内で倒れていないのは巨漢のダッチのみ。その彼がベニーを必死で起こす。

一方。アーケードに激突したベンツに通行人が寄るのをツヴァイは霞む視界で確認した。

普通なら運転していた人間は確実に天に召されている。そんな想像が実に妥当な事故ぶりだ。

だが、ツヴァイの予想は当然の様に覆された。

後部のガラスが割られ、そこから現れたメイドの白い手袋をはめた手がまるで怒りのやり場に困るように拳を作る。

「来るぞ!!急げ!!」

ツヴァイの言葉にふらふらしながらも何とか気がついたベニーは急いでキーを回す。

だが、エンジンがかからない。

焦燥感に包まれながらアーケードに視線を向けたダッチの瞳に、それが当然とばかりに悠然と信じられない不死身ぶりでメイドは地に降り立っていた。

その圧倒的な威圧感を阻むものは何処にも居ない。やがて、標的を認めた彼女は駆け始めた。不気味な黒い破壊神が迫る。

額から汗を流しながらキーを回し続けるベニー。

「急げベニー!」

と、悲鳴交じりのダッチの声も更に彼の気持ちを焦らせる。
 
「やっ!!」

危機一髪ながらもエンジンは掛かり、手負いのプリマスは蘇生した。煙を吐きながら車は走り始める。

だが、メイドの疾走は化け物染みていた。

しかし、いかなる人間と言えども所詮は人間。次第に機械の前に距離は開き始める。
 
次の瞬間、ぶっそうな形をしたナイフを取り出したメイドが跳躍した。

そのまま辛うじて右手に握ったナイフはラグーン商会の車のトランクに突き刺さった。

それを支点としてメイドはトランク上に這い上がって来る。空恐ろしい超人ぶりだった。

「「伏せろ!!」」

助手席から振り返ったダッチと後部のツヴァイがガラス越しに破壊神に対して銃を向ける。

幸いトランクの面積はさほど広くは無い。その上に高速で動いている物体の上だ。彼女が避けれる範囲は少ない。

「若様……」

「ロベルタ……」

 その様子にツヴァイは動揺した。
 
 振り向いたガラスの向こう。そこに居る彼女の蒼い瞳が少年の瞳の中で映えた。

 鮮烈なまでの真っ赤な血に染まり汚れきったその中に浮かぶ一点の穢れ無き蒼玉。そこに宿る少年への誠実な想い。

何者も汚すことのできない眩しいほど純粋な意思を宿したこの瞳をツヴァイはよく知っている。

「アイン・・・・」

「伏せて!!」

呆然とするツヴァイの独白をかき消すように、慌ててロックが少年を抱えるようにして共に伏せる。

放たれる銃弾。後部ガラスの割れる音。

「駄目だ! ロベルタを撃たないで!」

 その喧騒の中で少年は夢中で叫んでいた。

「これくらいでくたばるようなら苦労しねえんだよ坊主!」

 射撃を続けながらダッチが叫ぶ。

 その視野の中でトランクから屋根に移るメイドの姿が見えた。

「おい!兄ちゃん!ボーっとしてねぇでお前も撃て!!レヴィが使えねぇ今はお前の銃も必要なんだからよ!!」

「っ!!ああ!!分かってる!!」

ダッチの言葉に我に返るツヴァイは、脳裏に浮かぶ少女の幻影をかき消し、応戦の為に銃を構える。

屋根に取り付きしゃがみ込んだメイドは両手から拳銃を取り出した。

そのまま躊躇することなく屋根越しにラグーン商会の車の運転席と助手席に銃弾を叩き込む。

尤も主である少年の事を考慮してか、それとも高速で動く車の屋根からという不安定な状態での射撃ゆえかその銃弾は幸いにもベニーに届くことは無い。

だが、撃たれる側にしてはたまったものではない。

ダッチとツヴァイの援護を受けながらではあるが、それでも自分の責務を全うし、地獄のような車中でハンドルを捌き続けるベニーだが、それもいつまでもつか・・・・・・。

その時、

「見つけたぁぁぁぁ!!このド腐れメイドぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 闇夜を切り裂く様な叫び声と共に、ツヴァイ達が乗る車を後方から追い掛けてくる一台の無骨な4WD。

 そのハンドルを握るのは、ツヴァイがよく見知った人物であった。

「クロウディア!!?・・・・・か?」

「知り合いか!?」

「ああ・・・多分・・・」 

少々自信がないのは、ハンドルを握る彼女の顔が今までツヴァイが見たどれにも当てはまらない恐ろしいものだったからである。

 一瞬別人かとも思ったが、助手席には見紛う事ないリズィの姿があり、彼女と行動を共にするのは自分を除いて、クロウディアしかありえない。

「よくもあたしの事務所を見事なまでに吹っ飛ばしてくれたわね!!どうしてくれんのよ!!」

 なにやら聞きたくない内容の様に思えるが、ツヴァイは構わず屋根にいるであろうメイドに引き金を絞る。

「ちょっと!止まりなさいよそこの車!!」

「無茶言うなよ!この状況見て分からないのか!!」

「分かってても知ったこっちゃないわよ!!ささっと止めないさい!!このエロコック!!エロガッパ!!」

 きっかりプリマスの横に車を並行に走らせ、クロウディアは運転席のベニーによくわからない罵倒を繰り返す。

頭上からは銃弾、横からは容赦のない罵倒。

先ほどより苦痛が増した車内のベニーのその視野に、右側からトラックが横腹を見せてきた。

「チキショウ!チキショウ!!」

直進コースでなく、トラックと同行する形で十字路を左折する。逃走手段であるラグーン号は遠のいた。

「ダッチ!道が逸れちまった、この先は海だ!行き止まり・・・・・デッドエンドだ!!」

ベニーの叫び声の間にも車上のメイドは射撃を続けていた。

車が何かにぶつかり横腹から火花を散らしながら進む。

その衝動に前を見るや、迫るコンテナの不気味な巨大な姿がある。

同時に車中のベニーも「ヤバい!」と悲鳴をあげていた。

コンテナと激突し、その勢いで一瞬逆立ちをして後、再び車は倒れ、そして止まった。

煙がもうもうと噴出し、周辺に広がっていく。ラグーン商会の面々はその軽くは無い衝撃を受けたが車内の中だ。

それに比べて屋根のメイドは勢い良く慣性の法則に従い前へと吹き飛ばされ、そのままコンテナに体全体を叩きつけられて逆さまに張り付く形でぶら下がった。

「信心深ぇ甲斐があるってもんだ、生きてる奴は返事しろ!」

 フロントにしたたかに頭をぶつけながらも無事だったダッチが呼びかける。

「こっちは何とか無事だ・・・・」

「レヴィは?」

「まだ気を失ってるよ・・・・安らかに・・・・」

 ロックとガルシアは無事。レヴィは未だ健康的に夢の中。

そして、ベニーはぶつけた頭を振って気をしっかりさせるかのようにして起き上がる。
 
「兄ちゃんも無事見てぇだな」

「おかげ様で」

ツヴァイは車がコンテナと衝突する瞬間に身を屈めていたので、大したダメージもなくすでに辺りに視線を飛ばし、状況確認を行っていた。

間一髪でプリマスから離れたツヴァイの雇用主の乗る車も到着し、中からクロウディアとリズィが降りてくる。

「あの女、一体何で出来てるんだ!」

ベニーの言葉の先に視線を向け、一同は唖然とした。

あの黒い服のメイドが銃を持ち、舞い降りていたのだ。驚嘆に値する不死身ぶりだった。

既に逃走の足は潰えた。遂に 目の前の猟犬は獲物を捕捉したのだ。



[18783] 5話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:0049e867
Date: 2010/05/15 19:25
「う・・・・」

その時、長い夢の中にまどろむラグーン商会の狂犬ともいうべき彼女の指が動いた。

「クソ!・・・・おい、どうなったあの女は?くたばったのか?えぇ!?」

コンテナとの激突はどうやらレヴィの夢の扉を打ち破るには足りたようだ。

頭を抑え、髪を飾るガラス片を振り落としながらレヴィが尋ねてきたのはロベルタの安否だった。

勿論、相手の身の上を心配してのことではない。自分をグレネードで吹き飛ばした屈辱を直接返すこと以外に彼女が何も考えていないことは明白だった。
 
ともあれ、今のラグーン商会の面々にとっては有難い存在である事には間違いない。

「喜べ、かっちり生きてる」
 
ダッチの喜びの混じった勢いある回答を聞いてレヴィは凄惨な笑みを浮かべて喜んだ。

「それは喜ばしいこった・・・・何よりもなぁ!!」

そのままドアを手で開ける回りくどいことはせずに足で勢いよく蹴り開ける。

「レヴィ!待て!!」

「そうだ、二挺拳銃、これ以上騒ぎを大きくして何になる!?」

ロックとツヴァイは制止しようと声をかける。

あの強靭なメイドと戦えばレヴィも危険だと言うこともある。

だが、この恐怖の逃走劇の間でもロックは特に恐ろしいとは思わなかった。それよりも傍らに居る少年を救うために遥々ロアナプラまで来たメイドにある種の畏敬すら覚えていた。

そして少年のメイドとの絆を前に、彼女に危害を加えるべきではないとの思いすら抱いていた。少年を返したからと言ってこちらの安全が決して保障はされないであろう黒いメイドに対して。

だが、それに対してのレヴィは何よりも雄弁な力を持って二人に、

「あたしはな、今、テールライト並みに真っ赤っかになる寸前なんだ。そいつが灯ったら最後、お前らのケツ穴増やす時も警告してやれねえ」

通り名通りの二挺拳銃をロックとツヴァイに銃口を突き付け、怒りで震える声でレヴィは答えた。

「「・・・・・・・・・・・」」

ロックはともかく、付き合いの極めて短いツヴァイでも理解した。

『これ以上何を言っても無駄だ』、と。

夜の波止場に狂犬と猟犬が対峙した。

「何勝手に話進めてんのよ!!」

「クロウディア!!」

怒り心頭に対峙するクロウディアにツヴァイは偽名すら忘れ制止の言葉をかける。

何にそんなに怒り狂っているかは知らないが、今のレヴィの邪魔をすれば怒り心頭の頭自体を吹き飛ばされるのは目に見えている。

「ツヴァイ!?あなたこんな所で何してるの?」

クロウディアもツヴァイの偽名を忘れ、目を丸くしていた。

説明するのは後回しに、ツヴァイは狂犬と猟犬の喰い合いに視線を注いだ。

「抜けよセニョリータ。それともぶるっちまってるのかい?」

長い沈黙の対峙の後、始めに口を開き、挑発したのはレヴィだった。

だが、ロベルタも負けてはいない。最後は嘲笑と憎悪を込めて言い返す。

「柄の悪い言葉を並べて、怯えずとも宜しゅうございますわよ。腕でかなわず、若様の頭に銃を向けて人質に取った、卑怯者」
 
舌戦はメイドの勝利だった。

腕で敵わず、で導火線に飛び火が移り、人質、と言う言葉でそれが爆発した。
 
弱いは兎も角、まるっきり悪党だ、という表現でロックは少年を人質にとった彼女に警告していたはずなのだが、レヴィには卑怯者もしくは悪役と言う言葉は己のした行為とは遠く離れた存在のようであった。

挑発にあっさりと彼女は下った。

テールランプの灯ったレヴィの拳銃が続けざまに二度吼え、メイドはその二倍の銃弾で返した。

流れ弾を少しでも避ける為に車に残ったダッチとベニーと違い、ロックは車内から出て二人の対決を見守っていた。

やがて二人は併走を始め、共に両手に拳銃を持ち、撃ち合いながら遠ざかっていく。

やがて対決を示すものは銃声と時折生じる発射光だけとなり、次第にそれすらも消えた。

静かな夜の一時を穴だらけのスクラップに近い車の中で過ごす者達が居た。

勿論、言わずと知れたラグーン商会の半分の会社員、及び今回の騒動の引き金となった少年とそれに完全に煽りをくらった万屋アースラのメンバーである。

辺りは静まりかえっている。

「さてと・・・どうするか?いい加減この車から降りるか俺達も?」

ダッチのその言葉にいままで銃声に聞き入っていたベニーが我を取り戻したかのようにその言葉に賛同してドアを開けようとした。

その時だった。

再び銃声が始まった。心なしか前のよりも騒々しい気がし、大地の揺れを感じる。

どのような原理か知らないが、放電が空を走りクレーンが豪快な音を立てて倒壊していく。

「無理だ」

ベニーはそう即座に結論を出すとそのまま開けたばかりの車のドアを閉めた。

「ああ、ありゃ無理だ。命が幾つあっても足りやしねえ。あんな中に出て行くのは御免だぞ」

ダッチは助手席から僅かにも動く事無くベニーの意見に同意した。

「始まりあるものには必ず終わりがある。いずれ決着もつくだろう」

そう言って煙草を咥えるダッチの言葉に焦燥感はなく、逆に落ち着いたものすら感じる。ならば彼の決着の勝者はすでに彼の中で決まっているのだろう。

その信頼こそがダッチなりのラグーン商会の雇用主としての従業員に対する責務なのかも知れなかった。

だが、扉が開く音がした。勿論それはベニーの居る運転席の扉ではない。後部の左のドアだった。

少年だ。

「おい、小僧!ちょっと待て!!」

ダッチの制止も聞かず少年は進み出た。

両手を筒状にして口に付け、拡声器の要領で声を出す。

「ロベルタ!頑張れ!ロベルタ!そんな女なんかに負けるな!」

まるでその声に呼び寄せられたかのように銃声が近づく。

何やら爆発の煙すらその後を追うかのように生じている。

少し白みがかってきた夜空の下、少年とロック、そしてツヴァイの前にレヴィが左から、ロベルタと呼ばれたはメイドは右から銃を撃ちながら互いに相手に向かい走りこむ。

お互い有効弾を与えないまま両者が交錯した。

その衝突の勢いでの軍配はレヴィにあがった。

吹き飛ばされたロベルタが低い姿勢で立ち直す間もなく、同時にレヴィがそのまま滑り込んできた。

結果、両者は横たわる形で互いに至近距離で銃を向け合う。

訪れた僅かな静寂・・・・。

「んちゃ!!・・・・・・じゃなかった・・・・動くな!!」

眩いばかりの照明が突如として微動だにしない二人を照らした。

ロシア語が空に響く。それも女性の声。どうやら「動くな!」と言っている様だ。

逆光の中、コートを風にたなびかせ現れた人影。

紛れも無くホテルモスクワの女傑、バラライカその人だった。

現れたのはバラライカだけではなかった。

彼女の背後にも、そしてレヴィとロベルタが死闘を演じた波止場にあるコンテナの上からも幾人もの軍服姿の男達がいずれも銃を構えて照明の先にある二人を狙っている。

ツヴァイ以外には、それはまるで突如として現れた幽鬼のように感じられたであろう。

少なくともそれほど大規模な人数の展開する動きや気配すら今までロックは感じていと驚愕に目を丸めていた。

「その辺で止めといたらお二人さん」

再びバラライカの声が響く。

「それ以上争っても一文の徳にもならないわよ。労力は惜しみなさい二挺拳銃」

「・・・・・・るせぇ、こいつはぶっ殺す!!」

だが、その言葉にも既にテールランプ状態のレヴィには届かない。

バラライカが静かに二人に歩み寄る。

彼女が次に声をかけたのはロベルタだった。どうやら彼女をレヴィよりも大人と見込んでの事らしい。

「いいことを教えてあげる、メイドさん。私達ホテルモスクワはマニサレラ・カルテルと戦争をする予定だったの、この土地での受け持ちは私だったけど、あなたのお陰で手間が省けたわ。
それに今頃はヴェネズエラの本拠地も壊滅しているはずよ。全てはノープロブレム。
ガルシア君がさらわれた件も全部チャラ。
戦う理由はなくてよ?」

「地球上で一番おっかない女の上位三人だ」

「グラウンドゼロって気分だぜ」

「いや、もう一人忘れてるな・・・」

賞賛とも畏怖ともつかないベニーとダッチの言葉に、ツヴァイは睨みあう女戦士の輪に猛然と歩み寄る影を見つめながら呟く。

「何がノープロブレムよ!!ふざけんじゃないわ!!こちとら事務所が分子レベルで崩壊させられたのよ!」

 クロウディアが両肩を震わせながら怒鳴り込む。

「あら?あなたもバオと一緒の被害者なの?」

 困ったものね、と。バラライカは溜息まじりに呟く。だが、バラライカの期待は外れた。
 
「関係ねぇだろ・・・・」

「ですわ・・・・」

ロベルタまでもがレヴィの言葉に同意したのだ。
 
「あら、そう」

その言葉は柔らかく、そして行動は苛烈だった。
 
返答を聞いたバラライカが右手を軽く上げるや、それを合図として狙撃手の正確無比な銃弾が二人の手から拳銃を弾き飛ばした。それを見届けるや、バラライカが取り出した銃を二人に向ける。

「勘違いしないでね・・・・お願いしてるんじゃないの、命令」

 凍てついた声が響き、上体を起こしたロベルタはその言葉に屈辱で身を震わせた。

 一方、ツヴァイは現れたバラライカ率いる精鋭の遊撃隊に違和感を覚えていた。

そして彼のその感覚は正しい。今まで見てきたのロシアンマフィアとは違う、まるで軍隊のような、というそれは。

その時、凍てついた空気を解きほぐすかのように声が響いた。

「ロベルタ!もう良いんだよロベルタ!僕はこの通り怪我もしてないよ!ねえ、もう帰ろう!」
 
だが、その言葉にロベルタは顔を俯かせただけだった。

「僕はもう銃を持ってるロベルタなんて見たくないんだよ・・・・」

そのガルシアと呼ばれた少年の言葉にもロベルタからの返事は無かった。答えたのはバラライカの方だった。

「同感だわ坊や、でも猟犬の方は如何かしら?」

不思議そうな表情で「猟犬?」とその謎の言葉を口にするガルシアと対照的に憎悪の視線をロベルタはバラライカに向けた。

だが、動じる事無く彼女は言葉を続ける。まるでメイドをいたぶるかのように。
 
「おや? 坊やはご存じないのね。こいつは・・・・」

「黙れぇぇぇぇ!」

 血を吐くような声でバラライカの発言を遮ろうとロベルタが絶叫した。

その額に無情にも銃が突きつけられる。

「静かにしていろ雌犬」

 冷たく鋼のような言葉がロベルタを突き放した。

「こいつはね、ワンちゃんとのお散歩が似合うあなたの家の使用人なんかじゃないの。フローレンシアの猟犬。ロザリタ・チスネロス。
キューバで暗殺訓練を受けたFARCの元ゲリラ。誘拐と殺人の多重容疑で国際指名手配を受け、テグシガルパのアメリカ大使館爆破にも関与を疑われている筋金入りのテロリストよ」

 ロベルタはうずくまり深々と頭を垂れていた。そこにはあのレヴィにすら互角以上の戦いぶりを見せた怪物染みた姿は見当たらない。あまりにも弱々しい彼女の姿だった。

「なるほど・・・・あの猟犬か」

 ツヴァイはバラライカの言葉により、過去に聞いたことのある殺人鬼の名を思い出す。

「ロべルタ・・・・本当なの?」

 彼の短い人生の中でももっとも信じがたい事に、ガルシアは呆然と言葉を紡ぐ。

「若様を、・・・・若様を欺くつもりは御座いませんでした」
 
弱々しくロベルタは言葉を辛うじて紡ぎだし始めた。

「しかし、若様・・・世の中には、知らずともよろしいことと言うものも御座います。
真実なのですよ若様・・・・私は・・・私は信じていたのですよ。
この世にある正義。
いつか来る、革命の朝のことを。
その為に私は・・・・兵士になりました。
理想の後を追おうとした私は、ありとあらゆるところで殺しました。
政治家、企業家、反革命思想の教員、選挙管理委員。女や子供もです。
幾つもの夜を血に染め、幾つもの冷酷な朝を迎え、一番最後に分かった事は、自分は革命家どころかマフィアとコカイン畑を守る為のただの番犬だったという事だけでした」

朝日が昇ったロアナプラで、闇の住人であったメイドたるロベルタは自嘲するかのように寂しく笑った。

「お笑いじゃありませんか・・・・革命軍はね、カルテルと手を組んだのですよ。理想だけでは革命など達成できない、とそう言いながら彼等はその魂を売り渡したのです」

 そこまで聞いて、ツヴァイは目の前のメイドの姿がいつぞやの自分に重なって見えて仕方なかった。

 知らず知らずのうちに握りしめていた拳から血が滴り落ちていることも気付かず、ツヴァイはロべルタの言葉に耳を傾ける。

「私は軍を抜けました。その時、私を匿って下さったのが亡き父の親友、そして若様のお父様であるディエゴ・ラブレス様、その人だったのです。
若様・・・若様の誘拐を許してしまったのは私の不覚。私に一度棄てた鋼の自分に立ち返る事、それ以外に若様をお救いする手立てはありませんでした。
猟犬。番犬。犬と呼ばれたこの私が命を懸けて行える唯一つの恩返しがそれだったのでございますよ」

「い、犬だなんて言うなよロベルタ!」

ガルシアの声が響いた。

「僕の家族だろ!僕達は家族じゃないか!犬だなんてそんな言い方するなよ!駄目だよ!猟犬なんて知らないよ!きっと何処かで死んだんだ!
ロザリタなんとかいう女も、僕の知らない遠い何処かで自分の罪を背負って・・・だからロベルタとはもう何の関係も無いんだよ!此処には僕のロベルタがいるだけなんだ!だから!だから・・・・ね、僕等の家へ帰ろう・・・」

奔流のように言葉を吐き出し、ガルシアは涙を流しながら握りしめた小さな手でロベルタの胸を打つ。

その衝撃、そして言葉も彼女の胸を打っていた。

ガルシアの頬をハンカチの感触が撫でた。

「若様。男の子は簡単に泣くものではありませんよ」

微笑んでしゃがみ込みガルシアの涙を取り出したハンカチで拭くロベルタ。そこにはフローレンシアの猟犬の姿は無かった。

「まぁこれで、一件落着ってところかしらね」

 バラライカの締めに入ろうとする台詞を二人の女傑が割ってはいる。

「ざけんじゃねぇよ・・・・こいつらお涙頂戴ハッピーエンドでそりゃあいいわなぁ。でもよ、あたしの肩に空いたトンネルはどこの誰が埋め合わせしてくるんだ、えぇ!?」

「ざけんじゃないわよ・・・・このバラ組の先生と死んでも心臓だけで物語に関わって来るようなコンビが幸せになったとしても、あたしの事務所の修理費は誰が払ってくれるのよ、えぇ!?」

「我慢したら?」

大人の対応を提案するバラライカだが、当然レヴィとクロウディアは受け入れない。

「姐御よぉ、そりゃあ臭えだろ。私らの世界じゃ落としどころってのが大事だろ。姐御だって百も承知だろうが」

「あたしらに野宿しろって言うわけ!?」

受けた借りを返さずに引っ込め、舐められっぱなしで済む世界ではないこのロアナプラの法則を持ち出す二人に、彼女達以上にそれを行ってきたバラライカもその言葉に頷かざるを得ない。

「ん~それもそうかもねぇ・・・」

「そんなん簡単じゃねえか。納得がいくまでどつき合いでもすりゃあ良い。得物なし。そんなら死ぬこともねえだろう。」

再び微かに険悪なムードの漂い始めた波止場で、ダッチがそれを解消するかのように解決策を簡単明瞭にした。

「上等!!」

やる気満々のレヴィ。

ガルシアから

「あんな女に負けるんじゃないぞ!」

と、エールを受けたロベルタ。

「で・・・どっちから行く?言っとくがあたしは譲る気はねぇぜ、おばさん」

レヴィがクロウディアにけんか腰に話し掛ける。

「お、おば・・・・・、いいわ、あなたがボロ負けしたあとにゆっくりあのメイドをいたぶってあげるから」

こめかみを引き攣らせ、クロウディアは先手をレヴィに譲る。

「じゃあ決まりね。好きなだけどうぞ」

バラライカのその言葉を合図に再び対峙した両者。

「おら、ちゃっちゃと掛かって来いよ。」

そう挑発するレヴィにロベルタは静かに語りかけた。

「靴紐が・・・・解けていますわよ」

(そんな子供騙しのような手に誰が引っ掛かるかよ)

 そう内心で呟き、睨み付ける相手から目を離さないレヴィだが、やはり気になるのか僅かに一瞬、視線を足元に向けた。

「ファイヤーソォォォォォウル!!」

その僅かな隙に踏み込んできたロベルタは火星の戦士よろしく、アッパーカットをレヴィに喰らわせていた。

まともに入ったそのパンチに唖然とするロックを他所にダッチ、ベニーは失笑する。バラライカに至っては「若いって良いわね」とはしゃいでいる。

それだけに留まらず、ますます灼熱する二人の殴り合いを見ながら、ダッチ達は今度は賭けを始める。

「どっちに賭ける?」

と、バラライカ。

「俺はレヴィに2を」

と、先程の決闘の終わりを待つ折に見せた覚悟の表情に比べれば随分と気軽そうにダッチは彼の社員に賭ける。

「だったら僕はロベルタに3を賭ける、ロックとお兄さんはどっちに?」

と、ベニーはあまつさえ、ロックとツヴァイにもどちらに賭けるのかを聞いてきた。。

「いやいや!止めようよ!!」

至極まともな意見を述べたつもりのロックだが、ラグーン商会でもっとも自分と近い人種と思っていたベニーは心底不思議そうな顔で「どうして?」とロックに尋ねてくる始末。

その言葉にこの場にまともな思考をした可能性のある人間に視線を向けるが、

「俺は、クロウディアに5だな」

「あんたもかよ!!」

最後頼みのツヴァイですら賭け始め、ロックは愕然としたものに近い思いに駆られる。

「ありゃ野蛮過ぎるし、あんた達はイカレテルよ! 幾らなんだって女の子同士でこんな・・・」

「じゃあ止めてくれば?」

「――え?」

そんなロックの悲痛の叫びもバラライカの冷徹な一言で凍結した。

「だってやなんでしょ?」

「あ、いや……」

「じゃあ止めてきなさいよ。私達は構わないわよ」

ようやく理解した。彼等は止めようとしないのでなく、止めても無駄だから、そんな事に労力を使うよりは楽しんだほうがマシだ、と踏んだのだ。

だが、それに異を唱えた手前、ロックにはそれに従う事は出来ない。彼は自分が凶暴極まりない猛獣へ鈴をつけるというドデカ地雷を踏んだ事を悟った。
 
バラライカに急かされる様にして、ロベルタに対してマウントポジションをとったレヴィという体勢での壮絶な殴り合いという暴風雨の仲裁に入るロック。

「えっと、二人とも、ほらさ、もう良いんじゃないかなぁ。あとは、ほら、朝日を眺めて互いの闘志を称えあうとか色々・・・・」

「「すっこんでろ!」」

異口同音で見るも恐ろしい形相で提案を撥ね付ける二人の女性を前に、ロックのモラルから発した言葉は跡形も無く消し飛んだ。

「・・・・・わかりました、そうします」

 肩を落としてダッチ達の元へ戻るロックに、ダッチから

「ほら見ろ」

と、呆れた声が投げられる。

ロックという脆い抑制力を失った決闘は果てる事無く続いた。

バラライカの足元には葉巻の吸殻が多数散乱し、彼女自身が、

「粘るわねぇ。飽きてきちゃった」

と、いう程までにレヴィとロベルタの決闘は泥仕合へと変わっていた。
 
「いい加減にくたばれ・・・・クソメガネ・・・・」

「お前こそ・・・早く・・・倒れろ・・・」

当事者自身、依然として倒れようとしない相手に嫌気がさしているようだ。

「クソ・・・・ぬかせぇぇぇ!!」

「うぁぁぁぁぁ!!」

最後に両者は残された渾身の力をもって、レヴィは右、ロベルタは左のストレートを互いに放った。

それは同時に相手に命中し、そして同時に彼女たちは倒れた。

「はい、ドロー」

さして面白くもなさそうにバラライカから試合の審判結果が呟かれた。

 倒れた二人に誰よりも早く駆け寄ったのは、ガルシアでもロックでもない意外な人物だった。

「誰がおばさんよこの小娘!!あんたなんて所詮、幼馴染に鋼の義手作って尽くしても弟にいいとこ持っていかれる残念な役回りがお似合いよ!!そこのメイドも火星の戦士みたいな技使ってパンチくらわしてる暇があったら神社で祈祷でもしてなさいよ!!」

 容赦のない罵倒と共に、倒れる二人の女戦士にさらに容赦のない踏みつけをするのは、万屋アースラの女社長・クロウディア・マッキェネンだった。

「賭けは俺の勝ちだな」

 そういって、バラライカ達に賭け金をもらう為に手を差し出したツヴァイにロックは渾身の溜息をもらしたのは言うまでもない。

倒れ、さらに過剰なまでの攻撃を受けたロベルタにガルシアが駆け寄った。

そのまま彼女を膝に乗せ、ハンカチでその顔を拭う。

「若様・・・申し訳ございません・・・・」

引き分けの試合内容を詫びるロベルタに

「最後まで立っていたのはロベルタだ、だから・・・・大丈夫だよ」

と、慰めるガルシア。

確かに既に意識の遠のいたレヴィに比べれば彼女の方がダメージも少なく勝者ともいえる。

傍らでは、気絶したレヴィを笑うロック以外のラグーンの面々。

「立てる?」

 そうロベルタを気遣いながらガルシアが彼女の右腕を取るや肩にかけて立ち上がった。

「手伝おうか坊ちゃん?」

というダッチの申し出をガルシアは

「ほっといてくれ」

と、きっぱりと拒否する。

「ロベルタは僕のうちのメイドだ。だから人の手なんか借りないよ。必ず僕が連れて帰る」

「流石、次期当主様」

その少年らしからぬ毅然とした言葉に、口の端に微笑を漂わせバラライカは感服したようだった。

「あら、じゃぁメイドの不始末はご主人様が償わなければねぇ・・・・・」

「え?」

 そう言って、クロウディアは凄まじい笑顔でガルシアの肩を掴む。

バラライカは、副官であるボリス軍曹に手当てをすれば空港まで送る事。カルテルの残党の襲撃があれば任意に排除せよ、と命令を下す。

その命を受けたボリス軍曹も、賞賛に値する少年への上官の思いやりある配慮に笑みを浮かべた。

車に乗り込んだロベルタはガルシアに乞う。
 
眼鏡を拾って欲しい、と。それが伊達眼鏡であり、既に両方のガラスは砕けていると言うのに。
 
訝るガルシアにロベルタは言葉を足した。
 
「いえ、あれは私が若様のロベルタでいる為に必要な物ですから」

かくしてラグーン商会と万屋アースラの最も長き夜は終わりを告げた。

その原因たる二人はホテルモスクワの車と共にラグーン商会の面々の前から姿を消した。

バラライカ率いる遊撃隊と共に。

 残された彼等は未だにのびているレヴィを起こしにかかる。

「お~い、朝だよレヴィ! 起きろ!」

 ロックのモーニングコール。

 ダッチによるバケツでの水浴び。

 だが、さしもののレヴィもロベルタとのへヴィーな決闘からかぴくりともしない。

「こりゃ暫く後を引くなぁ・・・まったく」

と、ベニーも呟く。

どこか微笑ましい光景に頬を緩ませるツヴァイの後ろでは、ガルシアからロべルタにより破壊された事務所の修理を約束され上機嫌なクロウディア、それに呆れ顔のリズィがいる。

「しかし、バラライカの飼い犬には随分やっかいな連中がいるもんだな」

 ツヴァイは、先ほどから抱いていた疑念を口にする。

「そうね、いろいろ調べてみたけど、奴ら軍人崩れらしいわよ」

「やはりな・・・・」

クロウディアの言葉に、ツヴァイはある程度予測の着いていた軍人と言う単語に溜息をつく。

あの統率された動きはマフィアのものでは決してなかった。

「降下部隊(パラ)だったか特殊部隊(スペシャル・フォース)だったかは知らないけど、バラライカを頭脳として一つの殺戮マシーンとして機能する連中は、第三次世界大戦に臨めるほどに訓練され実践を積んだアフガン帰還兵。
熱砂の地獄から帰還したバラライカをはじめとする彼等は、祖国崩壊後、このロアナプラにその生き方を選んだ・・・・・ま、よくある話よね」

興味なさげに答えるクロウディアだが、内心ではホテル・モスクワの警戒レベルを三つは引き上げているだろう。

油断ならない女だとは思っていたが、話せば教養もある人物でお茶目な面もあるあの女傑にそんな過去があった。

それは目の前でのびているレヴィにも当てはまる。いや、ダッチもベニーも多かれ少なかれそんな溝泥に足を浸してきたに違いない。

そして、自分にも。

「誰もが足元を溝の泥に浸かっている……」

同じように溝泥に浸りながらも、彷徨の果てに安住の地を見つけたロベルタという女性に、彼は幸運以上のものを見出す想いだった。




[18783] 6話
Name: ストゼロ◆b70a9ebd ID:ecbb18d3
Date: 2010/05/22 17:51
背徳の街ロアナプラ。

そこに轟音と共に一条の黒煙が立ち昇った。

つけっぱなしのTVからは爆破されたアメリカ大使館の惨状を興奮した様子でレポーターが捲くし立てている。

「物騒な世の中ねぇ~」

 ソファに寝ころび、バスローブ一枚でシャンパンを煽るクロウディア。

「そうだな・・・・・」

 なんとも言えない表情でリズィは親友のだらけきった姿を見て答えた。

「この街にも大分慣れてきたと思ったが・・・・慣れすぎだろ」

 外回りから帰って来たツヴァイも、雇用主の姿を見て溜息をつく。

「なによぉ・・・・別に私達の事務所が吹っ飛んだわけでもあるまいし、むしろアメリカの大使館なんて全部吹っ飛んでくれたって構わないっての」

 猫の様にソファの上を転がりながらクロウディアは不謹慎な事を吐き捨てる。

 ロアナプラに居を構えて早数ヶ月、一度どこぞのメイドによって事務所は全壊したが、メイドの主人に修理費以上の金額を受け取る事ができ、見事に事務所引っ越しまで行い今ではロアナプラでも名うての運送屋「ラグーン商会」の向かい側に「万屋アースラ」の事務所がある。

その時、

「すいませーん、ラグーンのロックですけど」

 気の抜けた声と共に、事務所の扉が開きそこから見事にクリーニングされたワイシャツに簡単な色のネクタイを締めた日本人が現れた。

  しかし、

「あ・・・・」

 クロウディアの扇情的な格好に顔を真っ赤にし、ロックは物凄い勢いで扉を閉める。

 「相変わらず純な子ねぇ・・・・・」

 やれやれと言ったようにクロウディアは微塵の反省もなく、グラスに注いだシャンパンを飲み干す。

「「服着ろよ!!」」

二人の突っ込みに渋々着替えるために事務所を後にする。

「悪かったな・・・・もう入ってきてもいいぞ。何か用か?」

 扉の向こうで今の光景を忘れようと辟易しているロックを呼び戻し、用件を聞く。

「あ・・・いや、レヴィここに来てないかと思って」

 ようやく頭に昇った血が下がり、紅潮した顔色が日本人特有の黄色い肌色に戻っていく。

「いや・・・・来てないが?いないのか?」

「いえ、多分下宿先だと思うんですけど、最近よくここに来ているみたいでしたから」

ここに引っ越して以来、レヴィはここを飲み屋か何かと勘違いしているのか、クロウディアのお気に入りの酒をたかりに頻繁に顔を出していた。

先日もイエローフラッグでツヴァイと飲み明かした後、二次会と称し朝までドンチャン騒ぎを巻き起こしていた。

それらの行動からロックが相方のレヴィがここにいると考えるのはある意味自然なことなのかもしれないが、ツヴァイ達からすれば迷惑以外の何物でもない。

「ねぇ!あたしのブラ知らない?」

 羽織ったバスローブすら脱ぎ捨て、パンツ一枚のクロウディアが事務所の隣の私室から出てくる。

「~~~~~~~っ!」

 せっかく下がった血がより刺激が強い物を見せつけられ、先ほどよりも凄まじい勢いで再び血が上って来る。

 遂には、盛大な鼻血を吹き出しながら事務所を飛び出していった。

「「服を着ろ!!」」

 再び二人の突っ込みが響くと同時に、事務所の電話が鳴り響く。

「はい、こちら万屋アースラです」

電話に出たのはクロウディアだった。パンツ一枚で。

「あぁ、ミスター張。お久しぶりです。えぇ、それはニュースで聞いておりますが(パンツ一枚で)。はい・・・依頼ですか?はいもちろん承ります(パンツ一枚で)。」

しばらくの会話の後、電話を切りクロウディアは悠然とツヴァイに宣言する。

「仕事よ!三合会の張からの依頼!何としても成功させなさい!!」

「その前に服を着ろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 三度二人の突っ込みが事務所に鳴り響いた。


「オタクか?張の旦那に頼まれたてチンピラは?」

 依頼主の張に指定された場所に着くなり、ツヴァイは訛りのひどい英語でチンピラ呼ばわりされた。

「・・・・・あぁ」

 バシュラン島のジャングルの奥が同じ依頼を受けた逃がし屋(ゲット・アウェイ・ドライバー)との合流場所だった。

 ツヴァイより先に来ていたのは、白いチャイナドレスに身を包んだ中国人の細目の女と、無精髭のイギリス人であった。

 イギリス人の方はすでに大麻によるリラックスモードに入っており、乗り合わせたジープ・チェロキーの運転席で焦点の定まらない視線を泳がせていた。

「・・・・・・・・・・・・お前も逃がし屋なのか?」

「へぁ~?俺がアナウンサーにでも見えんのかこの野郎~?」

 呂律の回らない口調でイギリス人の男は煙草状にした大麻の煙を吐き出していた。

「・・・・大丈夫なのか?」

「こいつそこら辺は大丈夫ですだよ。頭、火星に飛んでっても不思議と運転ミスる無いね」

 何がおかしいのか、中国人の女はにゃははっと陽気に笑いながら答えた。

一抹の不安を抱きながらも、三合会が用意したこの者達を信用する以外にツヴァイに選択肢はない。

「とにかく・・・・肝心な時に使いもんにならないようにしろよ、ファッキン・アイリッシュ」

 最近合う機会が増えた為か、どこぞの二挺拳銃の口振りが移ったらしい。

 ツヴァイは頭痛すら覚えるこめかみを押さえ、狐女の中国人とジャンキーのイギリス人の車に乗り込んだ。

 依頼内容は、ここバシュランに来るはずの荷物を持った運送屋を地元軍基地まで護衛する事。

「また、あいつらと一緒か・・・・」

 運送屋の社名を聞いた時からこの依頼が一騒動も二騒動も起こる確信にも近い予感がツヴァイにはあった。


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