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マンガ業界の“最下層”コンビニコミックの泥沼化

サイゾー5月21日(金) 23時32分配信 / 国内 - 社会
 90年代半ばをピークに長期低落傾向が続く出版業界で、主力商品として期待されてきた“激安商品”がある。「コンビニコミック」と呼ばれる廉価版コミックスだ。90年代後半から小学館が販売を開始し、今ではほとんどの出版社で取り扱っている。ペーパーバック形式の簡素な装丁で、販売チャネルはコンビニの店頭がほとんど。中心価格は300〜500円だ。『ゴルゴ13』(リイド社)や『三丁目の夕日』(小学館)など、過去に単行本化された著名作品の再録版から、芸能ゴシップや怪談話などのユルいネタを無名作家に安く依頼して仕上げたものまで、そのラインナップは実に幅広い。

「もともと、『不況でも売れる安いマンガ本をつくってくれ』というコンビニからの要請で生まれた商品なんです。小売の立場が強くて、版元は儲けがなくても断れない。ほかの流通が抱える問題と、構図は一緒ですよ」(編集プロダクション社員)と言う通り、低コストでつくる出版社側の利益も低い。コンビニやスーパーの“強い要請”で、メーカーがプライベートブランドをつくらざるを得ない構図と同じというわけだ。

 一般にコンビニコミックに描く作家のギャラは、「ページ7000円〜1万円が相場。最低ラインで3000〜5000円くらい」(同)というから、「最低ライン」なら月に20ページ書いても6万円程度。増刷の場合の印税率も、「6%から大手で10%。無名作家なら印税契約なしも普通」(同)とのことだ。こうした「無名作家」で7〜8割の紙数をさばき、残り2〜3割を人気作家の再録作品を看板にして「抱き合わせで売る」手法も多いという。

 いかに薄利多売とはいえ、この絶望的なまでの出版不況。出版社としても手間のかからないコンビニコミックに期待をかけたいところだが……その売れ行きもここ数年は凋落傾向にあるよう。「最近は規制が厳しくてタブーが全然描けなくなった」というのは、別の編集プロダクション社長のぼやきだ。

「音事協(日本音楽事業者協会)が肖像権侵害にうるさくて、タレントの実名で芸能ネタが全然描けない。商売あがったりですよ」

 音事協とは、バーニングプロダクションやホリプロ、吉本興業といった大手から、中小の芸能プロまで100社以上が加盟している業界団体(ジャニーズ事務所は未加盟)。報道でタレントの名誉が毀損された場合、協会が主導となって民事や刑事での訴訟も辞さないというのが基本姿勢だ。その音事協がここ数年、特に注力しているのがタレントの肖像権というわけである。

 コンビニコミックといえば、古くは田代まさしの盗撮事件から、最近ではのりピー逮捕の裏側など、ゴシップをおもしろおかしくマンガ化するものも多く、怪談や都市伝説モノと並び、コンビニコミックを支える強力な商品カテゴリーだった。にもかかわらず、表紙に写真が使えなくなり、そっくりな似顔絵風マンガも危険……となれば、つくり手側にとって大きな痛手だ。

 もちろん、売り上げが悪ければ、作家のギャラも上がらない。ただでさえ安い賃金で描かされている、「売れない作家」の不満はいかばかりか。特にここ最近、人気のマンガ家が待遇への不満をブログに書き込むなど、版元とトラブルになるケースが続出している。これについて発注する側はどう考えているのだろうか。

「安いというけど、ページ5000円のギャラを8000円にしたら赤字だよ? 経営感覚ないくせに要求だけされても困る。そもそも仕事がない人に『この単価で描けるなら参加してよ』と声をかけてる。普通の社会人なら賃金の格差なんてたくさんありますよ」(前出・編プロ社長)

 結局は、絵がうまくておもしろければ売れる世界。単価に見合った仕事しかできない作家は、そこから抜け出すことも難しいようだ。
(牧島 聡)

【コンビニコミック】
廉価版コミックス、ペーパーバックタイプコミックスとも呼ばれ、過去のヒット作品を“再録”でまとめたものが中心。芸能人のスキャンダルや、ヤクザの組織構造などをオリジナルでまとめたものなども多く出版。

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  • 最終更新:5月21日(金) 23時32分
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