実践ビジネススクール
2010年 5月 17日

日本企業の新常識「国内採用抑制、海外採用増」

大前研一の日本のカラクリ

世の中の大半は、景気が戻れば雇用も戻ると信じているのだからおめでたい。

何の効果もないのに始まった「高校無償化」

これまで数々の日本のカラクリを紐解いてきたが、特に民主党政権になって以降、説明不能なことが次々と起こるものだから、外国人相手にどう解説したものか困る。最近は諦めの境地というか面倒臭いので、「ディス・イズ・ニッポン(これが日本なんだ)」の一言で済ませることが少なくない。

まともに考える力があったら、少しは反発なり異論があってもいいと思うのだが、一つも出てこないのが今の日本社会である。たとえば「高校の無償化」。法案がすんなり成立して、今年4月から公立高校の授業料が無料(私立高校生は年額約12万円を助成)になった。

義務教育でもない高校教育を、なぜ無償化しなければならないのか。莫大な教育費を税金で賄ってまで無償化する目的は何か、どういう効果が期待できるのか。いっそ高校まで義務教育にしてはどうか――。普通の国ならこうした議論が当然あってしかるべきだが、この国では何の議論も起こらない。

八ツ場ダム建設中止の理由ならわかる。要らないからである(しかし、これとても初めの勢いはどこへやら、高架橋は建設するという意味不明のことになっている)。しかし、高校無償化のメリットについては議論も何もない。行かなきゃ損だから、無償化によって進学率は上がる。ところが学力低下に歯止めがかからない状況で無償化すればどうなるか。高校教育やその先にある大学教育をどうするかという視点が欠落しているのだ。

全入時代に突入して、大学は学生を確保するために推薦枠をどんどん増やして、今や入学者の50%は推薦入学という状況だ。結果、どうなったか。日本の高校生は全然勉強しなくなった。私が調べたところ、高校生の家庭での学習時間は1日平均1時間を切っている。韓国の高校生の平均は9時間。これがそのまま今の日韓の人材格差に表れている。

私が大学を受験した時代は「四当五落」と言った。睡眠を4時間しか取らずに勉強すれば合格、5時間寝たら不合格。4時間睡眠ということは1日で起きている時間は20時間。そこから学校で過ごす時間や通学、食事などの時間を差し引けば、家での学習時間は実質、9時間程度になる。昔は日本も当たり前のように9時間勉強していたのだ。

日本が強かったときには、やはり強くなる理由があった。大量生産にふさわしい、工業化社会にふさわしい、加工貿易にふさわしい勤勉で均質な人間を育てるカリキュラムがあり、勉強もしたのである。

それを今の日本人は忘れてしまった。勉強の内容は時代で変わっていくにしても、半分が推薦で合格するような緊張感のない受験状況ではガムシャラになって勉強するわけがない。だから今や大学の教育に堪えない人材が圧倒的に増えて、工学部では高校数学と物理の基礎をやり直さなければ大学の授業が始められない有様だ。

インド、中国、韓国より明らかに劣る日本人

今年3月、米ハーバード大学のドルー・ファウスト学長が来日して、ハーバード大への日本人留学生の減少に懸念を表明した。今年の1年生のうち韓国人は200人、中国人は300人いるのに、日本人はわずか一人だという。かつてアジア代表のように留学生を送り込んできた日本は一体どうしてしまったのか、と学長自ら奮起を促したわけだが、今時、ハーバードに受かる日本の高校生は皆無に等しいのが現実だ。

私が1960年代後半、MIT(マサチューセッツ工科大学)に通っていた頃、日本人留学生は70人いた。韓国人は一人。中国人に至ってはゼロである(中国系アメリカ人はかなりの数いた)。それが今や完全に逆転してしまった。同じアメリカでも三流大学に行けば、日本人はゴロゴロしている。

マッキンゼーにいた頃、私はハーバードやMITによくリクルーティングに行っていたし、スタンフォードやUCLAでも教えていたから、アメリカの一流大学やビジネススクールにどういう人材が来るかよく知っている。ラテンアメリカからやってくるエリートは皆優秀だし、ヨーロッパなら北欧、イギリス、ドイツ、最近は東欧からも凄まじい秀才がやってくる。アジアではまずインド。それから中国、韓国。そういう人材を国際的な鍋釜に入れてごった煮したら、日本人など微塵も残らない。

グローバル企業のアジア太平洋地区における課長、部長、本部長クラスの経営人材を見ると、日本はアジアでも最弱だ。アジアで順位を付ければインドがダントツ。欧米人と対等に渡り合える人材が大勢いる。次がオーストラリア、台湾と韓国。台湾や香港は自国がどうなってもしたたかに生き残る国際人が昔から多い。また国を挙げて人材育成に力を注ぐ韓国では、TOEICのスコアが800点以上でなければ一流大学に入れないし、サムスンに至っては920点以上でなければ課長にすらなれない。

一方、日本を代表するグローバル企業・ソニーのカットオフ基準が650点なのだから勝負にならない。今やインドネシアあたりのマネジャーのほうが、日本人マネジャーよりはるかに優秀で手強いのだ。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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