木語

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木語:小笠原沖海戦が怖い=金子秀敏

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 中国海軍の艦隊が宮古水道を通って西太平洋に出た問題は、その後の日中外相会談でも取り上げられた。

 日本は「中国の艦載ヘリが日本の護衛艦に異常接近した。危険だ」と抗議し、中国は「つきまとった海自艦が行き過ぎだ」と反論して、水掛け論だ。

 いずれにせよ今後、中国艦隊は国際海峡である宮古水道を通ってひんぱんに西太平洋に出るようになる。無用な紛争が起きないように日中間で協議しておく必要がある。

 が、そのまえに中国は米国と協議したのか。西太平洋は米国海軍の庭先である。うかつに入ればとんでもない荒波が立つのである。

 中国艦隊には2隻の潜水艦が加わっていた。上海からほぼ一直線に米軍基地のあるグアム島方面に向かい、途中の沖ノ鳥島付近で演習した--中国潜水艦が西太平洋で行動する日の来ることを米国が予告したのは半世紀近く前だ。

 1967年8月、東京でひそかに日米安保協議が開かれた。中国が核実験に成功してから3年後である。沖縄返還に先立つ小笠原返還交渉の一環だった。米国側は早くも西太平洋を舞台に中国の潜水艦と核兵器で対決する事態を想定していた。

 米側代表のジョンソン駐日大使は「中国と対潜水艦戦になった場合、小笠原諸島は航空機や艦船用の核兵器の貯蔵・供給基地として非常に役立つ。海上自衛隊は対潜作戦に出てくれるか」と言った。

 カズンズ太平洋軍司令官は「海での核戦争は、陸まで拡大することなく遂行可能という説があり、重要な点だ」と述べた。

 日本の牛場信彦外務事務次官は「小笠原を使ったシーレーン防衛で応分の負担をする準備がある」と答えている。

 この1年前、米軍は小笠原諸島返還に備えて、父島、硫黄島に貯蔵していた核兵器を撤去した。しかし将来中国を敵として海の核戦争になれば、核を戻すつもりだった。

 このやりとりは昨年、菅英輝・西南女学院大教授が米国立公文書館で入手した日米安全保障協議委員会(SCC)小委員会議事録で明らかになった(「毎日新聞」2009年5月5日)。

 外交研究者によれば、この小委員会の議論をもとに「68年4月10日の核配備小笠原協定」という秘密協定が結ばれた可能性があるという。西太平洋に中国潜水艦が出没するようになれば、米軍はこの秘密協定を思い出して核兵器再配備を検討するかもしれない。そんなことにならないよう、中国は米国にきちんと仁義を切っておかなければならない。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年5月20日 東京朝刊

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