アサリを食い荒らす上、博多湾沿岸では食習慣もないため“海の厄介者”扱いされてきた巻き貝の「ツメタガイ」と「アカニシ」が、和食の伝統調理法で酒の肴(さかな)になった。福岡市西区の能古島で食品販売を手がける「のこのしま自然農園」が、捨てるしかなかった巻き貝を商品化し、関東のデパートの物産展で売り込みを始めた。同島の水産業はヒトデの大発生もあって主力のアサリ漁が壊滅的被害を受けているだけに、アサリの天敵が救世主となるか期待される。
きっかけは今年3月、島の漁業者の嘆きだった。「アサリが採れん。採れるのはこんなものばっかり…」と、ツメタガイとアカニシを同園の伊高哲郎社長(47)に持ち込んだ。身は硬く独特の臭みもあるため、ツメタガイを食べる地方は全国的にほとんどない。アカニシも瀬戸内海や有明海沿岸の一部などで食材として重宝されているが、一般的に敬遠されている。
だが、伊高さんはひらめいた。「能古島のアサリは島の山からのミネラル分を多く含み『能古産』ブランドとして流通している。そんなうまいアサリを食べているのだから、(巻き貝が)まずい訳がない」。知人で板前の香月康孝さん(45)が営む日本料理店(同市博多区)へ駆け込み「うまい料理方法を見つけてほしい」と頼み込んだ。
香月さんは東京・築地の料亭で7年間修業を積むなど「和」の道一筋。板前歴25年のベテランは、癖のある食材を手に「お茶しかない」と直感し、江戸時代から伝わる調理法「茶蒸し」を試みた。ほうじ茶、酒、薄口しょうゆ、ショウガと一緒に形が崩れないよう蒸してみた。すると、お茶に含まれるカテキンで身は軟らかくなり、独特の臭みは磯の香りに。高級珍味さながらの酒の肴に仕上がった。
商品名は「熱いお茶をくぐらせる」を意味する「茶ふる」を取って「茶ぶりツメタ貝」「茶ぶりアカニシ貝」とした。伊高さんは「島の新たな特産品を目指したい。ぽん酢と一緒にいただくのがお薦め。多くの人に島に来て食べてほしい」と意気込む。
19日からの小田急百貨店町田店(東京都町田市)の物産展に出品したのを皮切りに、7月まで横浜市内の百貨店物産展でPRし、販路開拓を目指す。能古島ではこの夏から販売予定で、真空パック入りで各1050円。
=2010/05/22付 西日本新聞夕刊=