きょうのコラム「時鐘」 2010年5月22日

 トキの飼育舎を襲ったテンに続き、今度はひな誕生が期待された巣の卵を襲う憎いカラスが現れた

お子さま向けの動物番組では、寸前に親が戻ってきて敵を撃退という運びになるのだが、現実は残酷である。カラスだって生きるのに必死。そう言い聞かせて自然のおきてを見守るしかない

襲われたトキの卵の比ではない。口蹄疫(こうていえき)の感染拡大で、数十万頭規模の命が絶たれることになる。「成仏できぬのが哀れ」と、畜産農家の嘆きが報じられる。カラスよりも怖いのはウイルスか、それとも対策が後手に回る人間の知恵なのか

いつまでたっても、出刃包丁を入れるときは「心がチクリとする」と言う料理人を知っている。骨や肝まで大事に使う。食べ残すと不機嫌な顔になる。人間サマの勝手な言い分だろうが、この国では命を育てる人も頂く人も、「成仏」を大切にする

切り身のパックが並ぶ売り場に行っても、命や成仏を学ぶのは難しい。それを諭す「反面教師」のようなウイルス感染である。飽食の時代、いいことばかりは起こらない。心痛む「教材」から、そのことをあらためて学ぶ。