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2010年5月04日

裁判官も驚いた!空のビヤ樽泥棒

 今回は先々週木曜に行われた落合克己被告人の裁判の話。罪名は、窃盗、建造物侵入、事件の内容は、逮捕時の記事から。

 金属製の空のビア樽を転売目的で盗んだとして、警視庁は落合克己容疑者(51)を逮捕した。
 逮捕容疑は、1月26日午前1時半ごろ、東京都足立区の酒類販売業者の倉庫に侵入し、20リットル入りのアルミ製ビア樽32本(計3万2000円相当)を盗んだ疑い。軽ワゴン車に積み込んでいたところを業者の従業員に見つかった。
 落合容疑者は「都内の酒屋を回り、3年間で約1万5000本を盗んだ。買取業者に転売して、約1500万円の売り上げがあった」と供述しており、警視庁は裏づけを進めている。
 盗難に気づかれないように数箇所から少しずつ、軽ワゴン車が満杯の32本になるまで盗んでいたとみられる。落合容疑者はビア樽130~140本でいっぱいになるコンテナを自宅近くに2個借りていた。
 転売目的で鉄線やマンホールの蓋を盗むという裁判がたくさん行われている時期があったんだけど、最近は全く見かけなくなりました。それが、ビア樽という新しい手口で似たような事件が起きていたんですね。
 まずは、3月11日に行われた初公判。起訴されたのは、報道された内容とほぼ一緒。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後、営業職などを経て、平成10年に訪問販売会社を設立。しかし、2年後に倒産して借金を抱えていたという。平成18年には、運送会社を解雇されて、離婚もしたので、金属を売却して生活費や養育費を稼いでいたとのこと。
 そして、犯行当日。1月26日午前2時頃、被告人は被害店の酒屋の前に車を止め、自分の車にビア樽を積み終わり、車を駐車したまま自動販売機でミルクティーを購入。そこに、飲酒をして終電を逃した被害店従業員が店に戻ってきたという。軽ワゴンの荷台にビア樽32本が積んであるのを不審に思った従業員が問い詰めると、過去に働いていた運送会社の名刺を出してごまかそうとしたが、被告人が犯行を認めたので、警察に通報した、というのが事件の詳細です。
 調べに対して、被告人は「3年くらい前から盗みを始めて、1500件くらいやった。レンタルボックスを2つ借りていて、盗んだビア樽を保管して、まとめて売却していた。(逮捕時)ビア樽を200個くらい保管している」と供述しているという。
 酒屋さんも空のビア樽が盗まれるとは思ってないから、警戒してなかったんだろうけど、3年間もばれなかったとはね。それが、居酒屋でビールを飲んで戻ってきた従業員に、ビア樽泥棒がばれてしまうとは皮肉な話だこと。
追起訴があるということで、この日はこれで閉廷。
 そして、先々週木曜に行われた第二回公判。
 検察官が「追起訴の予定がなくなりました」ということで、結局、罪に問われるのは初公判の1件だけとなりました。
 法廷には同居していた被告人の母親が上場証人として出廷して、「犯行に気づかなかった」「申し訳ない」等々述べ、今後の監督を約束していました。
 被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人 「運送会社を解雇されてから再就職はしてなかった、と。離婚して、別れた奥さんに養育費は送ってたんですか?」
被告人 「養育費と和解金を月々9万円です」
弁護人 「他には、以前経営していた会社の借金がありますね」
被告人 「訪問販売業に失敗して、知人への借金が残っています。知人に借りたので、払えるときに払ってたんですが、月に5~10万円ほど払っていました」
弁護人 「と言うことは、ビア樽を売却して得たお金の使いみちは?」
被告人 「生活費が主です」
 遊興費として使ったり、贅沢してたわけじゃないとアピールです。
弁護人 「どんな気持ちで盗んだんですか?」
被告人 「正常ではなかったですし、安易なほうに走ってしまったなと。最初はビクビクしてましたけど、続けてしまいました」
弁護人 「罪悪感はなかったんですか?」
被告人 「そうですね。毎日(盗みを)やってたわけじゃなかったんですけど。間があくと、やめようと思うことはありました」
 バレることなく、3年も続けていたら罪悪感もなくなってくるようです。それなりの葛藤はあったようだけど。
弁護人 「事件のことを訊きますが、従業員に捕まったとき、逃げられたんじゃないですか?」
被告人 「(走って)逃げることはできたと思いますけど、車から離れていたので」
弁護人 「捕まってどう思いました?」
被告人 「終わったと思って、ホッとしました。力が抜けて。こんなことを言うと甘いと思われるかもしれませんが、誰か止めてくれる人いないのかなと考えていたので逃げませんでした」
弁護人 「社会復帰後、再就職は考えていますか?」
被告人 「運送会社を辞めてからは窃盗をやってたんですけど、多少のノウハウがありますので、運送の仕事をしたいと思います」
と、仕事を探して、再犯しないことを誓ったところで、質問終了。
 次は、検察官から。
検察官 「調べで1500件盗みをやってるというのは間違いないんですか?」
被告人 「はい」
検察官 「レンタルボックスを2つ借りてましたけど、ビア樽用なんですか?」
被告人 「私物も入れてましたが、基本的には」
検察官 「逮捕されたとき、盗んだビア樽を200本保管してたというのも間違いないですか?」
被告人 「はい」
と、起訴はしないけど余罪はたくさんあるということを確認です。そして、最後に、
検察官 「被害金額がかなりの額ですけど、今後弁済はするつもりなんですか?」
被告人 「現実的に何もできないのですが現状で、弁済は無理だと思います」
 法廷で「どんな仕事をしてでも、弁済します」と、答える被告人も多いんだけど、前妻と知人に払う金額を考えると、伝実的には厳しいでしょうからね。
正直といえば、それまでだけど、できるかぎり弁済する態度を見せた方が心証はよくなると思うのだが。
 最後は裁判官からの質問。
裁判官 「あれって何キロくらいあるの?」
被告人 「はい?」
思わぬ質問に聞き取れなかった被告人。
裁判官 「ビア樽って重いんでしょ?」
被告人 「1個6~7キロです」
裁判官 「それをひとりでね。大胆な手口ですね。誰かにとめて欲しかったって言ってましたけど、これだけ繰り返してたら、罪悪感もなくなりますよね」
被告人 「はい」
と、裁判官も夜中とはいえ、ひとりでビア樽をたくさん運んでいて3年間もバレなかったことに驚いている様子。そして、
裁判官 「親とは同居してたんですよね。生活費は渡してたんですか?」
被告人 「はい」
裁判官 「それって、ここ(売却した金)から?」
被告人 「そうです」
裁判官 「そんなことわかってたら、ねぇ」
と、眉をしかめたところで質問終了。
 この後、検察官が懲役1年6月を求刑して閉廷でした。
 今後は運送の仕事をするって話だけど、過去に経験もあるし、3年間ビア樽を運んでたんだから、問題はなさそうですね。盗品さえ運ばなければ。
 それにしても、この手の裁判を傍聴してていつも思うんだけど、買取業者の人って不審に思わないもんなんだろうか。本件の場合は、空のビア樽をまとめて持ってくるわけだし。


注目の裁判

5月18日(火)被告人・三橋歌織
<夫を殺害、遺体切断事件>06年に東京都渋谷区のマンションで、夫(当時30)を殺害し遺体を切断したとして殺人、死体損壊・遺棄の罪で逮捕。一審では鑑定医が「心神喪失だった可能性がある」との結論を出したが、一審判決は三橋被告には完全な責任能力があったと認めて懲役15年を言い渡している。

5月19日(水)被告人・小林玲欧奈、他1人(初公判、20日21日も)
<偽1万円札でタクシー運賃払った事件>09年8月に都内で別々のタクシーに乗車し、支払いの際、それぞれ偽1万円札を使った疑いが持たれている。偽1万円札計35枚を運賃の支払いなどに使用。運賃が1000円未満の場所で停車を指示し、偽札とわからないよう、4つ折りにして運転手に渡していたという。偽札は透かしがなく、赤みがかっており、紙質が厚かった。車内の防犯カメラの映像などから2人が浮上した。

5月20日(木)被告人・大坂太一(初公判)
<追われている…と女性宅に侵入し乱暴した事件>10年3月、オートロックのマンションに住む女性方の玄関から室内に上がり込み、侵入に気付いた女性に「追われている。事情を聴いて」などと懇願した後に豹変、「組織に言えばお前なんかどうにでもなる」と脅したという。女性の両手をタオルで縛り、乱暴したなどとしている。

5月21日(金)被告人・松田源治(初公判)
<87歳男が小学生女児を連れ去り未遂事件>10年3月に、台東区内の路線バスの車内で、小学2年の女児(8)に「かわいいね、どこ行くの」と声をかけ、下車後に近くのビルに連れ込もうとした。ビルの入り口付近でつえをついて腰をまげ、女児の手を引っ張ったが、女児が嫌がる姿を通行人の60代の男性が目撃していた。女児は「つえが手に当たり痛かった」と話しているという。

5月21日(金)被告人・朴宰範、沢田地平、沢田三帆子(初公判)
<海外逃亡を手助け事件>法人税法違反の疑いで逮捕されている公認会計士の男に海外でも通話可能な携帯電話を渡し、逃亡先として韓国内のホテルなど5か所を手配するなどした疑い。会計士の男は、旧グッドウィルによる人材派遣会社「クリスタル」の買収に絡み、仲介手数料を隠して法人税約17億円を脱税した疑いが持たれている。

5月21日(金)被告人・加藤智大
<秋葉原の無差別殺傷事件>08年6月に東京・秋葉原の交差点にトラックで突っ込み、3人をはねて殺害。さらにダガーナイフで4人を刺殺したほか10人にけがを負わせた。

5月21日(金)被告人・富樫修(初公判)
<JALに脅迫メール事件>「(2カ月前の)7月4日にソウル発成田行き航空機をジャックすると犯行予告をした。今後も犯行予告を継続する。必ず航空会社をつぶす。どん底に懲らしめる」などと日本航空にメールを送りつけ、同社の業務を妨害した疑い。

5月21日(金)被告人・大賀規久
<キヤノン関連工事斡旋、脱税事件>「鹿島」の約5億円にのぼる裏金づくりのほか、川崎市内のキヤノン関連工事で「九電工」がつくった約2億円の裏金の捻出(ねんしゅつ)など「腹心」に指示。この「腹心」は架空領収書を発行するなど企業の脱税に協力して手数料を得る、いわゆる「B勘屋」。B勘屋は、「ブラックマネー」の頭文字「B」と「裏勘定」をかけた“隠語”で、バブル期に相次いで摘発された。

5月21日(金)被告人・新田こと禹時充、宮田克彦
<覚せい剤密輸事件>02年6~10月、北朝鮮の貨物船から日本海に投下された覚醒剤約230キロを漁船で回収して密輸。さらに同じ手口で覚醒剤240キロを密輸しようとした。無期懲役の求刑を受けている。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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