広島市中心部を通る国道2号をめぐり、沿道住民ら76人と企業2社が高架道路延伸工事(4.2キロ)の事業者の国と広島市を相手取り、工事と車両通行で生じる騒音の差し止め、総額約1億7千万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が20日、広島地裁であった。橋本良成裁判長(植屋伸一裁判長代読)は騒音による睡眠妨害などを認め、原告のうち36人に計約2160万円を賠償するよう命じた。工事と道路使用の差し止め請求は棄却した。
国土交通省によると、道路の騒音被害をめぐって国の賠償責任が認められたのは、兵庫県の国道43号をめぐる最高裁判決(1995年)に次いで2例目。今回の判決は、現在もなお続く騒音被害について国や自治体により厳格な環境対策を求めるものと言え、今後の道路行政に影響を与えそうだ。
今回の訴訟では、自動車騒音や排ガスについて、差し止め請求や賠償責任が認められる受忍限度(我慢しなくてはならない程度)が主な争点となった。
原告側は賠償責任が生じる騒音の受忍限度を「距離の遠近にかかわらず騒音65デシベル以上、道路から20メートル以内では60デシベル以上」と示した国道43号訴訟最高裁判決を基準にした。一方、国側は「昼間(午前6時〜午後10時)70デシベル以下、夜間(午後10時〜午前6時)65デシベル以下」と定めた国の環境基準(1998年改正)を大幅に超えていない限り、受忍限度は超えないと主張した。
判決は、昨年5月に広島地裁が選任した鑑定人が広島市内の国道2号沿線の26地点で調べたところ、夜間の騒音は屋外でおおむね70デシベルを超え、パチンコ店や1メートル離れた電動カンナに相当する80〜90デシベルに達した地点もあったと指摘した。
これを踏まえ、騒音が住民に及ぼす影響を検討。国道2号の公共性と公益性の一部は沿道住民の犠牲の上に実現されており、道路の利益を享受する一般国民と比べて不公平があると指摘した上で、テレビを視聴しづらいなどの受忍限度を超える「生活妨害」が認められ、「国などの環境対策に目立った効果はなく、住民の一部は睡眠妨害など相当の被害を被っている」と判断した。難聴などの「健康被害」は認められないとした。
一方で、広島市や同市周辺地域の交通や産業経済活動に重要な役割を果たしているとも指摘。「便益は日常生活の維持・存続に必要なものを提供している」「代替措置がないまま、その通行に支障が生じた場合は産業経済活動や日常生活に重大な影響を及ぼす」などと述べ、差し止め請求は退けた。(村形勘樹)