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トヨタ、EV開発に本腰 テスラと提携、技術活用へ

2010年5月22日2時41分

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 トヨタ自動車が、電気自動車(EV)で新たな一手を打った。米国のベンチャー企業、テスラ・モーターズと、EV事業で包括提携。これまでEVに消極的とみられていたトヨタだが、テスラの技術を活用し、ハイブリッド車(HV)に続いて、EVでも優位に立ちたい考えだ。次世代環境車の開発競争は、世界的な合従連衡に発展している。

■わずか1カ月でまとまる

 トヨタとテスラをつないだのは、米カリフォルニア州フリーモントにある工場「NUMMI」だった。

 4月、26年間にわたるゼネラル・モーターズ(GM)との合弁生産を終えた。NUMMIの元社長は、トヨタの豊田章男社長に「テスラが跡地利用に興味をもっている」と報告。豊田社長は、すぐにテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の自宅を訪ねた。提携話は、わずか1カ月ほどでまとまった。

 テスラは2003年創業のEV専門メーカー。独ダイムラーやグーグル創業者らが投資している。近く株式公開を予定しており、トヨタの持ち株比率は2・5%程度になる模様だ。

 カリフォルニア州パロアルトのテスラ本社。豊田社長とマスクCEOは20日、記者会見した。豊田社長は「テスラのチャレンジ精神を学ばせてほしい。トヨタも数十年前はベンチャーだった。再びその精神を思い起こし、挑戦していきたい」と、提携への思いを熱っぽく語った。

 実際、トヨタがテスラと提携した理由の一つには、ベンチャーならではの柔軟な発想を取り込むねらいがある。

 テスラの車に搭載されるリチウムイオン電池は、自動車用に開発されたものでなく、汎用の電池を大量につないだもの。悪路や雨中を走る車への使用には安全性に疑問の声もあるが、トヨタ幹部は「我々の発想では出てこない電池の作り方だ」と強調する。

 トヨタは12年に米国で小型EVを発売する計画。しかし、次世代環境車の主役はHVと充電式のプラグイン・ハイブリッド車とみており、市場にはトヨタがEVに消極的とのイメージがある。テスラとの提携で、そのイメージは一変する可能性がある。

■米、雇用創出へ期待

 20日の会見には、カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事が同席した。テスラは、NUMMIの一部を買い取り、EVの生産拠点とする方針を示す一方、従業員も雇用する考えを表明した。知事は「何千人もの雇用が生まれる」と喜び、その姿は全米に報道された。

 シティグループ証券の松島憲之マネジングディレクターは「EVに積極的なイメージを印象づけられ、NUMMI閉鎖で悪化したカリフォルニア州との関係も改善できる」と、提携の効果を分析する。

 80年代の日米自動車摩擦をGMとの提携で乗り切ったトヨタ。いま大規模なリコール問題に直面する。この危機にも、テスラとの提携はプラスに作用しそうだ。ただ、提携の具体化はこれからで、豊田社長の手腕にかかっている。

■巨額の開発費用

 EVやHVなどの環境技術には巨額の開発費用がかかるため、自動車業界では負担軽減を狙った合従連衡の動きが活発だ。テスラのような新興EVメーカーも、無視できない存在になっている。

 今年4月、日産自動車・仏ルノー連合との資本提携を決めた独ダイムラー。EV開発を共同で進める方針を表明したが、昨年5月にはテスラに出資し、EV用電池や駆動システムの共同開発に乗り出している。今年3月には、中国の新興メーカーで、独自のEV開発を進めるBYDオートとも提携で合意した。

 今年1月にスズキと資本提携した独フォルクスワーゲンも、昨年5月にBYDオートとEVやHVの共同開発で合意している。先進国メーカーは費用軽減だけでなく、新興企業の従来の車づくりの常識にとらわれない技術に期待している面がある。

 UBS証券の吉田達生シニアアナリストは「EVはあちこちでつくっているわけではない。テスラのように、台数が少なくても販売実績がある新興メーカーは独自の技術やノウハウがあるはずで、提携すればそうした強みを生かせる。こうした提携は今後も出てくる」と指摘する。

■環境規制、テスラに追い風

 テスラのスポーツカー「ロードスター」は、10万ドル(約900万円)を超える高級車。しかし、すでに1千台超が売れた。1回の充電で約320キロを走り、高い加速性能が売りだ。2012年からは約5万ドル(約450万円)のセダンも投入予定。その生産拠点を探していたテスラにとって、NUMMIは格好の設備だった。

 米国では、テスラ以外にもフィスカー・オートモーティブ(カリフォルニア州)などのEVベンチャーがある。EVは、従来のガソリンエンジンと違い部品の点数が少ないため、参入障壁が低い。世界的な環境規制の強化は、EVには追い風だ。

 充電型のEVは自動車自体から排ガスが出ない。08年のガソリン高騰の記憶が残る消費者に、ガソリンを使わないEVは魅力的。環境規制がとくに厳しいカリフォルニア州では、IT産業に投資してきた投資家や起業家が、成長産業とみて力を入れている。

 米自動車産業には、日本勢が先行するHVの時代を早めに終わらせ、EVの時代へ移行させたいとの思いがある。GMとフォード・モーターは年内にもEVを市場投入する予定で、インフラ整備も進むとみられている。(山川一基=ニューヨーク、小暮哲夫、中川仁樹)

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