さる2010年1月27日・28日の両日、JY青年部主催の「経営者育成研修」が開催され、全国から31名が参加した。
メニュー開発、環境対策、販売促進、社内教育など、多岐にわたった全カリキュラムの中から、特に関心を集めた5講座を掲載。★印の講座を掲載しています。
(詳細は情報誌やきにく 3-4月号をご覧ください。)
第4回経営者育成研修カリキュラム
第一日 ■1月27日(水)
@ 特別講演
JY会長 新井 泰道氏
『焼肉店の繁栄をめざして』
A カッティング技術による新商品開発実演セミナー
講師:(社)全国食肉学校 田中 智洋先生
B 焼肉店における女性向けお膳料理
講師:平成21年度JY焼肉料理コンクールグランプリ受賞者
『焼肉徳寿 K-place』チーフ・藤森 久統氏
C 「焼肉店・省エネ活動の展開』
講師:JY副会長・環境委員会委員長 :
田中 利明氏
:JY事務長 中井 孝次氏
E 青年部オリジナル勉強会−1
グループ・ディスカッション
『販売促進について』
F 繁盛店見学 『叙々苑・燦々亭』東池袋店
第二日 ■1月28日(水)
@ 青年部オリジナル勉強会−2
グループ・ディスカッション『社内教育について』
A 焼肉業界のための特別セミナー
第1部 基調講演『焼肉店における国産牛肉の活用』
講師:日本獣医生命科学大学 西村 敏英教授
第2部 パネルディスカッション
「元気が出る焼肉の秘密&国産牛肉の活用」
○パネラー
日本獣医生命科学大学教授
西村 敏英先生
(株)叙々苑 常務取締役
皆川 龍男氏
(株)牛心 代表取締役社長 伊藤 勝也氏
JA全農ミートフーズ(株)事業企画部長 福田 武弘氏
伊藤ハム(株)関東国内ビーフ部長 岸田 太一氏
日本ハム鞄喧k国内ビーフ課主任 川口 誠一郎氏
B 『焼肉ビジネスフェア2010』自由見学
C 「集客力UPをめざして」
株式会社叙々苑代表取締役社長
新井泰道氏
業界のトップランナーが語る「美味しさの基本」と「飲食業の本質」。そして、味付けやキムチの秘訣も披露した特別講演。
「肉の競い合い」やめて
「味の競い合い」を
私はあちこち食べ歩きますが、このごろの焼肉は横道にそれてきたように感じます。
昔は、焼肉店同士で味の競い合いをしていたものです。
ところが最近は肉の競い合い。そして美味しく「見せる」ことばかりに腐心している。
たとえば上カルビを頼むと、凍った肉にタレをさあっとかけて、フランス料理のようにして出てくる。これではタレの味が肉にのりません。
ご存じのように、焼肉は韓国・朝鮮料理が発祥です。タレを肉によくからめるのが伝統的な調理法なんです。
そして肉に9割の味付けをする。つけダレの味は1割。これが本来の焼肉です。
それがいつの間にか、本体の味付けは3割、5割で、つけダレのほうに凝る焼肉屋さんが増えてきた。
しかし、本来、つけダレは舌のやけどを防ぐためのもの。肉の本体にしっかり味を付けることを忘れないでください。
味付けがしっかりしていれば、安い肉でも美味しく出せます。利益率も上がるし、安く提供できるんです。
肉の競い合いの風潮をこしらえてしまった責任が『叙々苑』にないとは言えません。
うちは立地が立地だけに、お客さまの求めるクオリティが高かったから、肉質を追求したわけです。
しかし、すべてのお店が、高いお肉で高いお値段をいただけるとは限りません。
立地や消費層に応じたお値段があるわけですから、それぞれが研究して、肉の競い合いではなく、味の競い合いをしてください。
飲食業はボランティア
よく言われます。「焼肉屋さんは儲かるんでしょうね。俺も焼肉『でも』やろうかな」。
そんな甘いもんじゃありません。私の持論は、「飲食業はボランティア」。
お客さまの喜びを自分の喜びとして、わずかな利益で生活する。そういう仕事です。お金儲けをめざすならよしたほうがいいですよ。
「焼肉が好きだから」、「俺ならもっと美味しいものを出す自信がある」という方に入ってきてほしい。いっしょに繁盛店をめざしましょう。
会場からの質問1
「肉をもみダレに漬ける前に、下味をつけますか」
新井 つけません。日本のお客さまは繊細で、見た目も美味しくないとダメ。肉は赤くないと許さない。だからオーダーを受けてからもみダレに漬けます。
怠け者のコックさんは明日のぶんまで作ってしまいますが、それでは変色してしまう。そういうコックさんはダメですよ。会場からの質問2
「水分の多い白菜をキムチにするとき、特別な処理をしていますか」
新井 うちはしません。それよりも大事なのは、季節を問わず、漬けてすぐ冷蔵庫に入れないこと。常温で漬けて、発酵する前に冷蔵庫に入れるのがいちばん美味しいんです。
まず白菜から水が出ますね。これをもう一度、白菜が吸い取ったときがいちばん旨い。美味しさが白菜に戻るんです。
サラサラだった水分が少し濃くなります。それが漬かった証拠。そうなったら冷蔵庫に入れてください。
不景気の出口、見えた
去年は本当に不景気でした。出口の見えないトンネルの中を走ってるようでした。
ところが昨年の12月下旬から年明けにかけて、思ったより売り上げがよかった。
やっと明かりが見えてきました。春の歓送迎会シーズンにはもっと明るくなって、秋にはトンネルの出口にさしかかるんじゃないかと思います。
希望を持って、お客さまに喜んでいただけるように努力してください。
(文責・やきにく編集室)
講演 焼肉店・省エネ活動の展開
第1部
『環境にやさしい店舗づくりマニュアル』をもとに
焼肉店のエネルギー使用実態と削減対策
講師
JY環境委員会委員長
シンポ株式会社代表取締役社長
田中 利明氏
「改正省エネ法」施行で何が変わる?
近年、地球温暖化が世界的に問題視され、その原因であるCO2の削減に各国が努力しています。
わが国でも4月から「改正省エネ法」が施行されます。
「改正省エネ法」のもとでは、年間のエネルギー使用量(電気・ガス・ガソリン・灯油など)の合計が原油換算で1500キロリットル以上の企業は、国へ届け出て「特定事業者」または「特定連鎖化事業者」の指定を受ける必要があります。
指定された企業は、組織全体の「エネルギー管理統括者」を置き、「エネルギー管理企画推進者」や「エネルギー管理者」とともに、定期報告の作成、提出することを義務付けられます。
これを怠ると、50万円以下の罰金が科せられます。
この「改正省エネ法」施行に先だち、JYは昨年4月に環境委員会を発足し、対応マニュアルを作成してきました。
きょうは、その『環境にやさしい店舗づくりマニュアル』をもとに、お話しします。
自店の年間エネルギー使用量を知る
まず、焼肉店舗はどれだけのエネルギーを消費しているかを測るために、昨年4月から半年間、15店舗以上を展開中のJY会員企業11社にお願いして、データを出していただきました。
このデータをもとに、電気とガスの使用量を原油換算し、ロースター1台あたりの月間消費量を算出したものが表1です。
これによると、30台設置店の場合、ロースター1台あたり、原油換算にして0・3キロリットルのエネルギーを使います。
つまり、
30台×0.3キロリットル× 12ヵ月=108
1店舗で年間、原油換算にして108キロリットルのエネルギーを使うことがわかります。
さらに、
1500キロリットル÷108キロリットル≒13・8
ですから、30台前後設置店を13店舗展開される企業は「特定事業者」または「特定連鎖化事業者」の指定対象になることがわかります。
省エネへの取り組みが
もたらすメリット
これをもとに計算してみて、「うちは年間1500キロリットル以上、使ってないよ」というお店も多いと思いますが、だからといって省エネを心がける必要がないということではありません。
お客さまの環境に対する意識が高まっていることもありますし、省エネに取り組むことで店舗運営の固定費が下がります。
また、成果が出ると、「これだけ頑張ったんだ」とうれしいものです。職場のモチベーションのアップにつながります。
店舗運営にプラスに働くことが多いはずです。「改正省エネ法」の網にかかる、かからないに関わらず、トライしていただきたいと思います。
(文責・やきにく編集室)
第2部
「食品リサイクル法」および
「容器包装リサイクル法」への対応
「食品リサイクル法」について
「食品リサイクル法」において、食品廃棄物等の報告義務等が課せられるのは、年間100トン以上の廃棄物を出す事業所です。
ごく一部を除いて、これに該当する焼肉店はないだろうと考えております。
とはいうものの、ゴミ処理は飲食店にとって、やっかいな課題です。
加工・流通業界では、食品廃棄物を家畜の飼料にしたり、肥料にしたりと、食品リサイクルが進んでおりますが、飲食店から出る廃棄物は、量が少ないので、こういうやり方ができません。
しかも味がついているので、堆肥にすると、農地の塩害が起こるという問題もあります。
行政も、加工・流通・飲食店という流れの川下に行くほど食品リサイクルが難しいことは認識しておりまして、「食品ロスの削減に向けた検討会」を設置しました。
この検討会では、外食産業部門のメニュー開発、調理、提供、それぞれの場面でどんな工夫ができるか、また、食べ残しがの持ち帰りに方法ついて議論されています。
この報告を抜粋し、『環境にやさしい店舗づくりマニュアル』に掲載しました。
たとえば、ホールの従業員がお客さまに「ご飯は大盛りにしますか。中盛り、小盛りはいかがですか」と確かめることから始めても、食べ残しの発生をかなり抑えられるという、実践しやすい説明もあります。参考にしていただければと思います。
「容器包装リサイクル法」について
容器包装廃棄物の分別収集と再商品化についての義務を定める「容器包装リサイクル法」は、焼肉店は料理を「食器」で提供しますので関係ないと考えがちです。
しかし、この法律の「適用除外事業者」は、商業・サービス業の場合、「従業員数5人以下、かつ、年間売り上げが7000万円以下の事業者」です。
JY会員の焼肉店の7割から8割は年商7000万円以上だと思われます。従業員数5人以下も少ないでしょう。
つまり、JY会員店はすべて「容器包装リサイクル法」の定める、容器包装廃棄物の再商品化義務のある事業者に該当することになりそうです。
ただし、財団法人日本容器包装リサイクル協会と委託契約を結び、料金を支払うことで義務を果たす方法があります(左図)。
委託契約はインターネットで可能です。
料金は、JY会員店の実績で申し上げますと、年商10億円程度のお店でも年間数百円以内で納まっています。
お客さまの信頼・共感を得ながら実践を
「食品リサイクル法」は、これまで市町村のゴミ収集事業や、小さな産廃業者を利用してきた中小の事業者には酷な法律です。
焼肉店がまず始めたいのは、いかに食品ロスを発生させないかという工夫です。
さきほどお話ししたように「ご飯を大盛りにしますか。小盛りにしますか」とお客さまに確かめることでも、相当量のロスが防止できるのではないでしょうか。
お客さまとのコミュニケーションを深めれば、お店の評判を高めることにもなると思います。
これは、省エネに取り組む場合も同じです。
夏、クーラーの温度設定を28度にしたい場合、「当店は省エネに取り組んでおりますので、こういう温度設定をしておりますが、暑ければ教えてください」と、お客さまの共感、理解を得ながら実践することで、お店のコンプライアンスに対する視線が変わると思います。
省エネや食品リサイクルに取り組むことはしんどいことではありますが、結果としてお店の信頼と利益確保につながるのだということを意識していただければと思います。
(文責・やきにく編集室)
JY青年部オリジナル勉強会
グループディスカッション(抄録)
テーマ1 社内教育について
テーマ2 販売促進について
聴講スタイルのカリキュラムが主体だった「経営者育成研修」に、今回は参加型のグループディスカッションが取り入られた。
「店舗数や立地条件、客単価の違いはあるでしょうが、積極的に意見を交換して、ヒントを持ち帰っていただき、自社の中で肉付けして、今後の経営に役立てていただければと思います」とJY青年部・広川永哲副部長。
地域や、社内での役割はさまざまだが、めざすところは同じ者同士、活発に意見を交換し合った。
※A〜Eの5グループに分かれ、テーマについて55分間、自社の課題と取り組みを話し合い、その内容を各グループの発表者が報告した。以下はその抄録。
■テーマ1
社内教育について
Aグループ
・他店に行かせ向上意識を持たせている
・新人研修を行い、その修了者は名札を変えるなどのステップアップの動機付けをしている
・本人が希望する職以外のことをあえて体験させる研修をしている
Bグループ
・社内研修を定期的に行う。外部講師を招いたり、職務等級で内容を分ける
・個人面談を実施し、スタッフと考えを共有する
・社内の経験者・有資格者による講習会の実施(例)ソムリエ講習
・スタッフに通信簿をつけ、細かい指導をする
・社訓などを共有し朝礼などで復習し、また常に携帯する
・新人とベテランとのマンツーマン教育をさせる
Cグループ
・毎月2回(1時間ほど)のミーティング実施。一人一人の意識を向上させ、同じ方向性を持たせる
・2週間に1回の個人面談を実施
・接客、調理に関するしっかりしたマニュアルがある(初級、中級、上級に分かれ、約6000項目。新人は約80項目を40時間以内に覚える)
・従業員を信頼(信じて頼る)するのではなく信用(信じて用いる)する
・週1回、食事を共にしながら課題を与える
・考えさせる、失敗させる、怒られてみる、努力するの繰り返しが重要
Dグループ
・マニュアルは作らない。社長自ら店舗回りをして気付いた点をFAXで各店に送る。その積み重ねがマニュアルになるのでは。指摘した問題点をクリアできたかは何度もチェックする
・短期的な目標を達成したスタッフに大入り袋(お年玉)を出す
・経営、料理、接客を同時進行で勉強させる
・社員寮を作り、人生観・価値観を共有する場として活用する
・地元の甲子園常連出場校の練習見学。チーム育成という共通点があり参考になる
・他店舗視察で飲食の勉強をしてもらう
・料理コンクール出場などのきな挑戦をさせて意欲を向上させる
Eグループ
・地元の同業6社と合同で主にパート・アルバイトの活性化を目的にした勉強会・発表会を行う
・外部コンサルタントによる戦略・戦術の教育
・給与袋に毎月社長のメッセージを添える
・年に一度、全店休業にして接客に特化したセミナーを開催する
・系列店を毎月持ち回りで幹部社員がクリニックする
■テーマ2
販売促進について
Aグループ
・繁忙期に顧客リストを作成し閑散期にDM・営業等で活用する
・「ホットペッパー」(クーポン誌)や「ぐるナビ」(グルメサイト)の活用。早い時間帯を中心に集客活動
・期間限定、季節限定の商品開発
・テイクアウト(ギフト)の促進。お値打ちにサーロイン・フィレ等の焼肉をセット
・店内でのおすすめ商品を作り販売強化(顧客確保)
・ポイントカードでの顧客の囲い込み。キャッシュバックつきでメリットを。誕生日には20%OFF
・四半期毎に季節限定メニューをDMでアピール(リピーター確保)
Bグループ
・スローフードの実施で他店との差別化
・メルマガ、ぐるナビ等のネット広告
・観光地の利を活かし、地元ホテルへリーフレットの設置
・子どもに塗り絵とクレヨンをプレゼントし、次回来店時に見せてくれるとデザートサービス。塗り絵は店内に貼り出す
・弁当やドレッシング等の自社製品を駅、空港などで販売
Cグループ
・前菜を人数分まとめて『まな板盛』などの演出でお客さまを飽きさせないように工夫
・タレを交換する、締めの料理の前に箸を交換するなど、サービスの徹底で、お金を使わずリピートを増やす
・地元のプロサッカーチームのオフィシャルスポンサー活動や、ヤキニクボランティアでの施設園児ご招待などの地域貢献
・年末に抽選会の実施
Dグループ
・焼肉の日として8月28、29、30日に無料フェアーの実施
・冬に鍋メニューの販売
・女性向けの商品開発
・系列の回転寿司を利用しての焼肉店アピール
Eグループ
・子どもたちのためのスポーツイベントの開催
・運転代行サービスの実施。会員のお客さまには無料
・会員サービスとして入会当日10%OFF、ポイントカード・DM
・地元プロ野球チームのオフィシャルスポンサーとして、三振1つ毎に選手に食事券プレゼント。その収益は子供病院や売れない音楽家への支援活動に充てる
・テレビCMやwebでのバナーでブランディング
・季節フルーツを使用した毎月おすすめのデザートメニューの実施。売価500円前後に対してしっかり原価を掛けカップルや女性にアピール
・メール販促の実施。ランニングコストが安く費用対効果が高い
・毎週水曜日に人気の上位4品目を半額にする
・給与前の毎月第3日曜日を『お子さまデー』として大きなサイコロを振って出た目の5倍の%割引
・年1回の『地産地消フェアー』の実施
(文責・やきにく編集室)
焼肉業界のための特別セミナー
パネルディスカッション
「元気が出る焼肉の秘密&
国産牛肉の活用」(抄録)
国産牛肉の生産者、流通事業者、そして焼肉店関係者が一堂に会し、それぞれの現場の課題や最新情報を交換したパネルディスカッション。
■オブザーバー
日本獣医生命科学大学
西村 敏英教授
■パネラー
【生産者代表】
JA全農ミートフーズ(株)事業企画部長
福田 武弘氏
【流通関係代表】
日本ハム鞄喧k国内ビーフ課主任
川口 誠一郎氏
伊藤ハム滑ヨ東国内ビーフ部長
岸田 太一氏
【焼肉店代表】
鰹磨X苑 常務取締役
皆川 龍男氏
葛告S 代表取締役社長
伊藤 勝也氏
海外でも評価高い日本産牛肉
−−まずは生産者代表の福田さんと、流通関係代表の川口さんに、それぞれの現場の現況についてうかがいます。
福田 国産牛肉の自給率は、近年、40%をやや上回る水準、重量にして約35万トン前後で推移しています。
米国でのBSE発生以降、国産牛肉の出荷が増えていること、枝肉の重量が増加傾向にあることにより、国産牛肉の自給率は近年、多少、上がっています。
また、日本の牛肉の海外への輸出も増えております。
平成18年に輸入解禁を決めた米国はじめ、香港、シンガポール、マカオ、ドバイ、ベトナムなどに輸出されています。
和牛の美味しさは海外で注目されておりまして、日本食レストラン、ホテル、高級レストランで富裕層を中心にした需要が芽生えています。
一方、国内での牛肉の消費実態は、家庭消費が30%強、中食・外食は57%、加工仕向けが6%。
ただし、国産牛肉に絞りますと、60%近くが家庭消費で、外食・中食は40%強。
外食・中食では輸入牛肉中心に使われている実態があり、まだまだ飲食業界には国産牛肉を使っていただく枠が残っていると考えております。
国産牛肉は、美味しさに加えて、トレーサビリティによる「情報」という強みを持っております。
そういう価値も踏まえて、焼肉店さんには、ぜひご活用をお願いしたいです。
川口 最近は健康志向やこだわりを強調する焼肉店さんが多くなりました。
黒毛和牛一辺倒ではなく、褐毛和種や日本短角種も使われたり、ハーブや漢方草を混ぜた飼料で育てた牛を使われるお店が増えています。
また、枝肉の初期で使いやすいポーションにカットにしたものや、ミスジ・トモサンカク・シンシンなどの単品のニーズが高まっています。
原木にくらべて単価は上がりますが、人件費やロス率を考えると、トータルでは格安ではないかと考えております。ぜひ、活用していただきたいです。
−−販売のお立場から岸田さん、焼肉店さんへの提案がありましたら。
岸田 焼肉店さんは飲食業の中でも特にお肉の重要性を認識されていらっしゃいますね。
和牛の上物は、どの部位もキメが細かく、肉質がよく、全身のレベルが高いです。
ぜひ一頭、お使いになっていただきたいと思います。
一頭買いにより、産地や農家を確定することで、味の安定が図れると思います。
美味しい肉を活かすのは
焼肉店の技術
−−焼肉店の現場を代表して皆川さん、美味しく提供するために、どんな努力をされていますか。
皆川 いくら肉がよくても加工技術がないと美味しいものは提供できません。
私どもは「肉を知ろう、産地を知ろう、生産のしくみを知ろう、そして加工技術を勉強しよう」と社員を教育しております。
和牛、交雑種、乳用種、それぞれに合った料理の仕方があると思います。
煮る、焼く、蒸す。硬い肉は薄くスライスすれは美味しく食べられるじゃないですか。
工夫次第で、いろんなランクの牛肉から、いい料理が作れると思います。
一頭買いを売り切る
−−伊藤さんのお店は、一頭買いをしていらっしゃるそうですが、そのメリットとリスクをお聞かせください。
伊藤 私が一頭買いを始めたいきさつは、かつて上物はパーツ買いでは安定して確保できない時代があったんです。
そんなわけで一頭買いを始めたんですが、上質の牛であれば、一頭すべて商品化できますね。
うちは脂を除いて、赤身だけでなら97%、焼肉に使ってます。スープに入れたり、ミンチにしたりは別にしてです。
ほとんど焼肉に使ってしまいます。上質のものなら使えるんです。
昔は売れなかったモモが、今は健康ブームもあって先行して売れるくらいなんですが、こうなったらモモの値段を上げて、ロースの値段を下げる。
こういうことも一頭買いならできます。一頭トータルで利益が出ればいいんですから。
こういう、よそではできない価格設定も、お客さんを集める力になります。
一頭使いますから豊富なメニュー揃えができる反面、希少部位、人気部位がすぐ売り切れてしまうというバランスの問題はあります。
けれども、これまでロースやカルビばかり売ってきたのを、お客さまとの信頼関係で「ここも食べてみてください」とおすすめすることで、一頭ぜんぶ売れるんじゃないでしょうか。
お客さまはロース、カルビでなくても「美味しかったね、また来よう」となれば、部位は関係ないわけですから。
ただ、どんな牛でも一頭、売り切れるわけじゃありません。バランスのいい牛を仕入れないと、しくじります。そのへんが鍵だと思います。
うちの会社では、一頭仕入れることで、お客さまの信頼を得られていることをお伝えできたらと思います。
飼料選びから始まっている美味しさの追求
−−西村先生、飼料は肉質に関係が深いんでしょうね。
西村 美味しい牛肉を作るには、生産、流通、調理、すべての現場のみなさんの努力が必要です。
中でも餌は大事です。特に脂肪の香りと融点に影響するんです。
やわらかい牛肉を求めるなら脂肪の融点を下げるような餌を与えないとなりません。
このあたりは今後の課題で、研究が進んで明らかになれば、さらに美味しい牛肉ができると思います。
−−福田さん、生産者のみなさんは飼料について努力していらっしゃるんでしょうね。
福田 先日、北海道で複数の産地をまわりましたが、農協単位、あるいは生産者ごとに餌の内容が違うんですね。
いかに健康に育てるか、いかにみなさんに評価してもらえるかという思いで、工場産の配合飼料にも、いろんなものをミックスしながら努力されていますよ。
司会 西村先生、香りは味の印象を左右する重要な要素だそうですね。
西村 肉の美味しさを決めるポイントはいくつかありまして、味、香り、食感、色もあると思います。
その中でも、味や食感は短期間で忘れてしまいますが、香りは記憶に残るので重要なんです。
岸田 展示会や試食販売でも、豚肉や鳥肉は焼いても人が集まりませんね。
だから醤油ダレを焦がしたりしてアピールするんですが、牛肉は素材の香りだけでみなさん「肉だ!」と(笑)。
西村 脂肪特有の甘い香りは90度くらいのとき出やすいことがわかっています。
どんな餌で育った牛かを知れば、どう料理すれば香りが引き出せるか、わかるんじゃないでしょうか。
福田 国産牛肉のトレーサビリティシステムは餌についても確認方法がありますから、情報を集められるといいと思いますね。
低需要部位の価値を見直す
−−最後に低需要部位の有効利用について考えてみたいのですが。
西村 これまでモモ肉の需要が少なかったんですが、健康ブームに乗って消費拡大が進んでいるようですね。
正しい健康知識とセットでアピールしていけば、低需要と言われてきた部位も見直されるんじゃないかと思います。
川西 そうですね、ダイエット効果、疲労回復効果があると言われるカルニチンは、豚肉、鶏肉よりも牛肉に多く含まれています。
中でも、じつは経産牛に非常に多く含まれているんです。
焼肉屋さんではメニュー化しづらいとは思いますが、こういう付加価値を謳って商品化していただけれたら、新たな展開が見えてくるんじゃないでしょうか。
皆川 経産のホルスタインのロースはよくなっていますね。焼肉店の需要は高まってるんじゃないでしょうか。
テールも、いい和牛のであればしっかりメニュー化できるんじゃないかと。
テールスープだけじゃなくて、テール焼き、煮付けとか、調理加工すれば商品としての魅力は充分あると思います。
伊藤 低需要部位でなくなるように、僕らが流れを変えないといけないですね。
ロース、カルビのほかにもたくさんあるんですから、ぜんぶ使って、低需要と言われる部位の美味しさをわかっていただければ状況は変わると思います。
昔、自動販売機で水を売りだしたころ、「誰が買うねん!」と思いましたけど、いま、当たり前のように買ってますからね(笑)。
西村 やはり、牛肉は魅力の多い食材ですね。
美味しいですし、健康へのさまざまな機能も明らかになってきています。
これをぜひ、お店でアピールしていただきたいです。
また、低需要部位が利用されてこなかったのは、美味しくないと言われてきたからだと思います。
けれども、テールや腸管にはコラーゲンが多いですし、そういう特徴を活かして、美味しく調理することで低需要でなくなるのではないでしょうか。
そのためにも、焼肉店さんには美味しいものを作っていただきたいと思います。
家庭の技術や設備ではなかなか難しいです。焼肉店さんでないとできないことがたくさんあると思います。
きょうの情報を参考に、美味しいものを開発していただき、需要拡大に努めていただきたいと思います。
(文責・やきにく編集室)
|