コラム
オシム「3試合全部落とすことも覚悟しておいた方がいい」
前日本代表監督イビチャ・オシム氏インタビュー
5月20日 14時17分配信
論スポ(スポーツナビ)
日本代表について語るオシム氏 【高須力】
前日本代表監督であるイビチャ・オシム氏から岡田JAPANへの厳しく、そして愛情の溢れる緊急提言。『論スポ』誌上でのスペシャルインタビューの一部を抜粋した。
(聞き手:ウラジミール・ノバク)
――代表の23人が発表されました。オシムさんが、かねてから強調していた“高さ”のあるFWとして矢野貴章も選ばれました
1人だけ高い選手を選んだが、基本的にはアジリティー、運動量を中心に選ぶことが日本代表を活気づけるための日本のトレンドなのだろう。今回、選ばれた23人のメンバーは、その使命として、長い期間、日本代表として素晴らしいプレーヤーであることを示さねばならない。しかし、ここで油断をして考えることをやめてはならない。そして日本代表には、ほかにも重大な問題がある。
――それは何でしょうか?
創造性に富んだ選手がいないことと、ウイングからプレッシャーをかける選手がいないことだ。サイドを突破することのできる選手がいないし、逆に相手のサイド攻撃に対して鍵を掛けることのできる選手もいない。そこが最大の問題なのだ。
――中村俊輔ではなく本田圭佑をチームの中心にすべきだという意見が強く出ています。『論スポ』も、今回の発売号誌上で、そういう議論をしています
わたしは、日本でなぜそのような考えが出てきたのかが理解できない。性格とこれまでの実績、経験値などを考慮すれば中村俊輔が中心選手になるべきだ。システム変更など、あらゆる局面に対応できる選手である。本田が中心になれば、中村俊輔という一種のスター主義が、消えるということでは意味深い。しかし、南アフリカで勝つためのチームを作るならば経験ある選手たちでチームを作らねばならない。岡田監督が信頼できる選手たちでだ。古い井戸に水があるのに新しい井戸を掘るのはやめた方がいい。チームは、もっと中村を信じるべきだと思う。
――ワールドカップ(W杯)の戦い方についておうかがいしたい。初戦はカメルーンです
このグループを突破することは特別に難しくもないが、簡単だという結論からは遠くかけはなれている。だが、ここで決して冒してはならない間違いは、デンマーク、カメルーンを過小評価することだ。カメルーンは、いくつかのアドバンテージを持っている。ひとつは、アフリカ大陸で開催されているW杯であるということ。彼らにとってホームのゲームなのだ。もうひとつはモチベーションの高さ。2大会ぶりの出場となった今大会では、「何かを達成するんだ」という気持ちが強いはずである。誰1人として無視できる選手はいないが、ひとつのチームや特定の選手に対して時間や精神的なモノをつぎ込むことは良くない。例えばサミュエル・エトーかもしれないが、ほかにも手ごわいプレーヤーがいる。
――弱点はありますか?
1月のアフリカ選手権でのカメルーンには失望させられた。まるで以前の自分たちのサッカーを忘れているような内容だった。おそらくカメルーンは日本に勝てると思っているだろう。カメルーンは1990年のイタリアW杯でベスト8までいき、その後も、アフリカの中では、結果も内容もトップグループにいるチームだ。
彼らは今なお、誇りを保っている。だが、その一方で自分たちのペースでゲームを支配できない、コントロールができない、あるいは計画していたゲームプランが計算通り運ばなかったときには、彼らは慌てふためく。過小評価してはならないが、リスペクトし過ぎる必要もない。
――初戦は大事です
初戦は後に何が起こるかを示すことができる試合でもある。重要な位置にある試合だ。これはサッカーのセオリーともいえる観点だが、カメルーンだけに集中してほかの2試合を忘れることは、もっと危険なのだ。仮定の話として、もしカメルーン戦に負けた時に、その影響はあまりに大きい。そうなると、ただの1試合の敗戦ではすまなくなる。ひとつの試合だけに固執することにプラスはない。
――チャンスはあるが、3戦全敗の可能性もあります
日本は、3試合全部を落とすことも覚悟しておいた方がいい。デンマークは、2006年に日本が1-3で敗れたオーストラリアよりもベターだし、カメルーンの潜在能力は高い。負ける覚悟も含めて、もうこれ以上はできないというほどの準備をしなければならないのだ。相手チームの戦術を含め、すべてを丸裸にして長所と短所を並べる。相手が嫌なことが何かを知り徹底して、それをやるのだ。その上でメンタルの心得が必要になってくる。敗北は想定しておかねばならないのだ。負ける可能性もあるという心理的な準備がなければ、何もかもが駄目になる。サッカーでは、いかなることも起きるのだ。敗北の覚悟を口すれば、この国に限らず「ペシミスト(悲観主義者)」であるとの批判を受けるだろう。すべてをポジティブに考えねばらないが、一方で人間は客観性を持たねばならないのだから。
<論スポでは本インタビューの全文をお読みいただけます>
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