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我が国では、BSEや事故米、食品表示偽装問題など食に関する事件・事故の発生により、消費者の食の安全への関心が非常に高まっているが、隣国の韓国においても、同じく消費者の食の安全に関する関心は非常に高い。トレーサビリティシステムは、生産から加工、流通、消費に至る全過程にわたる食品の移動を把握する仕組みであり、食の安全の確保を充実・強化させるもので、我が国や韓国、EU等で導入されている。そこで、本稿では、韓国におけるトレーサビリティに係る取り組みを紹介する。   
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アジアマンスリーニュース 2009年8月号

韓国におけるトレーサビリティに係る取り組み

1.食の安全への関心

我が国において、BSEの問題にはじまり、数々の食品表示偽装の問題、昨年の事故米問題と、食に関する事件・事故は後を絶たない。これは、国内外を問わずいえることであり、消費者の食の安全への関心は非常に高まっている。

こうした消費者の関心に応えるよう、我が国をはじめ世界各国において、食の安全を確保するための取り組みが進められている。食の安全を守るための国際的な管理手法として、生産段階のGAP(Good Agricultural Practice)や、加工段階のHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)、その他諸々のISO規格等があり、生産、加工、流通の各段階において、これらの規格が食品の衛生・安全性や品質の管理のために用いられている。中でもトレーサビリティは、生産から加工、流通、消費に至るまでの全過程の食品の移動を把握する仕組みであり、食の安全の確保を充実・強化させるため、我が国をはじめ、EU、韓国等で導入されている。

トレーサビリティとは、「生産、加工および流通の特定の一つまたは複数の段階を通じて、食品の移動を把握できること」(※注1)と定義されている。つまり、食品の取扱いの記録を残すことで、食品の移動を把握できるようにし、食品事故が発生した場合には製品回収や原因究明が容易になるほか、表示情報等の信頼性が高まることで消費者の食の安全確保の一助となる。

※注1:この定義はCodex委員会総会で合意された下記定義の訳。なお、Codex委員会とは、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1962年にFAO及びWHOにより設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の作成等を行っている。 “the ability to follow the movement of a food through specified stages of production, processing and distribution”

わが国においては、BSEの問題に端を発し、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」が平成15年12月から施行され、牛肉のトレーサビリティシステムが導入され、牛個体識別台帳の作成、牛の個体識別のための情報の管理、販売業者等による牛の個体識別番号の表示の義務化などの措置が講じられている。また、昨年の事故米の不正規流通事件の発生を踏まえ、「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」が本年公布され、米穀等のトレーサビリティシステムが導入されている。EUにおいても、2005年1月から、すべての食品に対するトレーサビリティの導入を義務化している。

一方、韓国においても、昨年のアメリカ産牛肉の輸入問題で国内が紛糾したように、消費者の食の安全に関する関心は高く、農産物の安全性を確保するシステムとしてGAP、トレーサビリティの導入が進められている。韓国では、国家単位で農産食品安全情報システムが構築されており、こうしたシステムが構築される過程を通じて、全国単位のトレーサビリティシステムも構築されている。本稿では、こうした韓国におけるトレーサビリティシステムを中心に、韓国の食の安全に関わる仕組みを紹介する。

2.韓国におけるトレーサビリティ

2.1 韓国における食の安全に関する行政組織

現在、韓国の中央行政組織は、15部の組織によって構成されており、この中で、食の安全に関わる主な部局は、農産・水産・畜産、食糧・農地・水利、食品産業振興、農漁村開発及び農水産物の流通に関する事務をつかさどる農林水産部と、安全な食品及び医薬品体系の構築・運営を通じて関連産業の競争力向上という国民の期待に応じる為に設立された保健福祉家族部傘下の食品医薬品安全庁がある(図表1)。

図表1:韓国の政府組織図(概略)

図表1:韓国の政府組織図(概略)

2.2 GAP

韓国においては、農産物の安全性を確保するシステムとしてGAP制度の導入が進められている。GAPとは、農家が、消費者に安全で衛生的な農産物を提供することができるよう、生産段階から収穫後の包装段階まで土壌・水質など、農業環境及び農産物に残留する農薬等の危害要素を管理し、その管理事項を消費者に提供する仕組みである。また、同制度は農家の任意によって取得される認証制度である。

韓国でのGAP制度の名称は「優秀農産物管理制度」という。なお、本年9月より、名称が「農産物優秀管理制度」に改められ、5年間の有効期間の設定等の補完措置が講じられる予定である。このようなGAP認証によって、農家は、自らの生産履歴を管理することとなることから、GAP認証を受けた農家については、同時に下記2.3で述べる農産物トレーサビリティの対象となる。

GAPは、2003年から2005年までの3年間の試験事業から始まり、2006年に本格的に導入された。参加農家数も、2003年の9戸から2008年には20000戸を超えるまでに増加している。GAPは、国家認証の仕組みではなく、農林水産食品部の所属機関である国立農産物品質管理院から指定された農協、公社、大学、スーパーといった専門民間認証機関による認証制度である。また、認証を受けた場合には、その旨の表示が可能となっている。なお、GAPの対象品目は105品目(農林水産食品部告示)に及ぶ。

こうしたGAPについては、農家が認証の申請、認証内容の変更、認証の延長申請、認証状況の確認などができ、また、流通業者や消費者が、GAP認証を受けた農家の情報を取得できるGAP情報サービスシステムが構築されている。

2.3 農産物トレーサビリティ

(1) 制度の経緯

韓国においても、韓国産牛肉の偽装表示の問題や、大量に農薬が使用された農産物の販売などを背景に、トレーサビリティの導入の必要性が主張されるようになり、農林水産食品部(当時は農林部)では、2004年に「履歴追跡管理ガイドライン」を作成し、同年10月から韓牛履歴追跡システム事業を実施した。

また、2003年〜2005年には、GAPの試験事業に参加した農家を対象に、農産物のトレーサビリティの試験事業を実施した(2005年の実績で、47品目965農家に実施)。

2005年8月の農産物品質管理法改正によって、農産物履歴追跡管理制が同法に盛り込まれ、2006年1月より農産物のトレーサビリティは本格的に導入されることとなった。

(2) 制度の概要

韓国のトレーサビリティは、特に一般的な定義と異なるものではなく、農産物の情報を生産から販売まで各段階別に情報を記録・管理し、問題が発生した場合には、記録・管理された情報により問題の原因究明が図られる制度である(図表2参照)。

トレーサビリティの対象農家は、GAP認証を受けた農家と、自主的にトレーサビリティシステムへの参加を希望する農家に限定されている(同システムへ登録手続きについては図表3参照)。登録者数(生産者、流通業者、販売業者合計)は、2006年末では約1万であったが、2008年3月までに4万5千まで増加している。また、GAPと同様に、管理された記録の表示が可能となっている(図表4参照)。トレーサビリティの対象農産物は、GAPと同様に105品目である。

こうした農産物のトレーサビリティについては、生産、加工、流通、販売に至るまでトレーサビリティが可能な農産物トレーサビリティ情報システム[韓国語サイト] が構築されている。

ただし、牛肉、水産物については、こうした農産物のトレーサビリティとは別に、独自のトレーサビリティシステムが構築されている。また、韓国の国産牛については、本年6月より、個体識別番号の管理や表示が、生産・加工・流通・販売のすべての段階において義務化されている。

図表2:農産物履歴追跡管理概要図

図表2:農産物履歴追跡管理概要図

出典:GAP情報サービス

 

図表3:履歴追跡管理登録及び管理手続き

図表3:履歴追跡管理登録及び管理手続き

出典:GAP情報サービス

 

図表4:農産物履歴追跡管理制度の表示事項
農産物履歴追跡管理 ※この商品は農産物品質管理法により管理された農産物履歴追跡管理品です。
区分 記載内容
原産地(市道、市郡区)  
品目(品種)   GMO可否  
重量、個数   等級  
生産者(作目班名) 名前    
住所(電話)    
       
収穫後の管理施設 施設名    
住所(電話)    
履歴追跡管理番号      

出典:GAP情報サービス

2.4 農産食品安全情報システム

韓国では、2003年当時の農林部、海洋水産部、食品医薬品安全庁などが協力して、機関別の食品安全業務の情報化を進め、共同で利用可能な体系を構築し、食の安全に関する様々な情報にアクセスできるポータルサイトとして農産食品安全情報システム[韓国語サイト] が構築されている。

当該サイトは、農林水産食品部の関係組織である韓国農林水産情報センターを中心に運営されており、食の安全に関する最新のニュースや、食品の回収情報、さらには、食の安全に関する専門家のコラム等を掲載するとともに、トレーサビリティやGAPをはじめ、BSEや鳥インフルエンザなどの動物疾病、農薬などの化学情報、栄養や健康、国内外の食の安全に関する関係法規などの最新情報にアクセスできるようになっている。

こうした食の安全に関する総合的なシステム構築の流れを受けて、2005年以降、農産物トレーサビリティシステムやGAP情報サービスが構築されており、これらのサイトは、農産物食品安全情報システムからリンクが貼られ、アクセス可能となっている。

さらに、農産物のトレーサビリティに限らず、食品全般のトレーサビリティについて、食品医薬安全庁は試験的に食品履歴追跡管理制度を開始し、2013年から国民の健康に波及効果が大きい食品から対象品目を段階的に拡大して、義務化する計画である。

なお、農産食品安全情報システムは、関係機関の垣根を越えた「食の安全」というテーマに関わる多くの情報にアクセスできるものであるが、システム自体をみると情報量が多すぎて、情報の整理が必ずしも十分になされているとはいえず、利用者にとって使い勝手が良いサイトであるとは言えない状況にある。こうしたシステムがよりよく運営されていくためには、サイトの位置づけ・目的を確認し、情報の再整理が必要であろう。

3.韓国におけるトレーサビリティの課題

3.1 制度普及の課題

(1) 参加農家の不満

現在、韓国におけるトレーサビリティは、法制上、GAP認証を受けた農家には義務化されているが、それ以外の農家のシステムへの参加は任意となっている。

農家がトレーサビリティシステムに参加することは、食の安全を確保し、消費者の信頼を構築することに貢献する一方で、生産履歴を管理するための追加的な事務の発生や、農薬や化学肥料の使用を適正に管理する必要が生じるなど、農家に対して参加前と比べて追加的なコストが発生する。こうした追加コストは、食の安全確保に貢献することへの付加価値として農産物の価格に転嫁されることが期待されるが、そうなっていないのが現状である。こうした点に、参加農家からは不満が高まっている。

トレーサビリティシステムを普及させるためには、こうした農家の不満を解消させる必要がある。そのためには、市場における農産物価格の評価を適正なものとするよう、トレーサビリティについての消費者や流通業者の認識の転換や、参加する農家への支援が必要である。

(2) トレーサビリティ、GAP制度に係るシステムの課題

また、トレーサビリティ、GAP制度については、それぞれ全国単位の一元的なシステムが構築されており、システムとしての効率性や利用する側である消費者から見た利便性は高い。しかしながら、参加する農家にとっては仕組みが難しく、使い勝手が良いものとなっているとは言えず、参加した農家のコスト増とあいまって、トレーサビリティへの参加農家は全農家の5%程度(GAP認証を受けた農家については、2%程度)にしか至っていない。食の安全を守り、消費者の信頼を確保するための有用なシステムとして機能しているとは言いがたい状況にある。

3.2 我が国の政策への示唆

まず、上述3.1(1)のような農家のコストと市場での評価の問題は、我が国においても、トレーサビリティシステムについて、広く一般に普及し、消費者の認識が高まっているとは言いがたい状況にあり、韓国と同様の問題があるといえる。

また、トレーサビリティについては、我が国では、牛肉、米と、BSEの発生や事故米の問題といった社会問題化した食品に対して、それぞれ法制化・義務化を行い、それぞれ品目ごとのトレーサビリティシステムを構築しており、韓国については、幅広い品目について、法制上、トレーサビリティの対象としており、我が国と韓国では対応が異なっている。

韓国では、幅広い品目をトレーサビリティの対象とすることで、消費者の食の安全の確保を広く図ろうとしているが、制度への参加は任意であり、参加農家も十分に確保できていないことから、トレーサビリティの実効性が十分に担保されているとは言いがたい。一方で、我が国では、法制上、制度への参加を義務化することで、制度の実効性は担保されているものの、対象品目は牛肉と米穀のみで、消費者の食の安全を守るという点で、この2品目で十分であるとは言いがたい。今後の我が国のトレーサビリティについて、例えば、鶏肉・豚肉や養殖うなぎなど、最近、食の安全で問題となった品目について、法制上の義務化を検討していく余地があると考える。

以上

【2009年8月 執筆・編集:株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータ経営研究所】

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