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所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
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Military Analyst

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日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2010.05.21

 北に配慮・・・ 日米韓とも協調 中国、対応に苦慮 6か国協議再開は遠のく 

カテゴリ北朝鮮出典 産経新聞 5月21日 朝刊 
記事の概要
韓国哨戒艇沈没は「北朝鮮の魚雷攻撃」との調査報告を受けて、中国は対応に苦慮している。中国外務省の馬報道官は20日、定例記者会見で「各国が冷静。適切に問題に対処し、緊張激化を回避すべきだ」と述べ、いかなる制裁にも強硬措置を取ると主張する北の立場に配慮した。

一方で、中国は韓国や日米との協調関係を維持しなければならず、今後予測される事態に頭を悩ませている。

中国は今回の報告書に対して、馬報道官は「調査結果を評価中」とし、国際社会の北朝鮮非難と距離を置く姿勢を示した。これは中朝関係が修復軌道に乗った直後という事情による。

中国の最大の関心事は、自国の安全も脅かす北朝鮮核の核問題で、核廃棄を目指す6か国協議の再開である。金総書記の訪中を再三要請してきたのもそのためだ。

しかし哨戒艦事件で南北の緊張が高まり、激高する韓国を日米が支持する状況下で、6か国協議の再開はさらに遠のいた。

今後、国連安保理で制裁決議が討議された場合、北朝鮮が強く反発するのは必至で、中国の立場は一層困難になる。

中国で北朝鮮をやっかいな存在とする意見は、中国の専門家や当局者の間にも普遍的だが、中国政府としては、北の国内状況を安定化させ、過激な行動を押さえることが最優先の課題で、今回も北の立場を擁護し、影響力を保持する方針と見られる。

中国は当面、事態の推移を見守るとみられ、24,25日の米中戦略・経済対話で訪中するクリントン国務長官との意見交換で、どのような対応策を打ち出すかに注目が集まっている。
コメント
以前、イラクへの自衛隊派遣を議論するメディア関係のシンポジュームで、私が「イラク戦争は国連の承認を受けていない」と発言すると、「国連など何の役にも立たない。国連の決定を尊重するなど国際関係の現状を理解していない」と反論した外務省の職員がいた。

今回、もし国連という国際機関がなければ、いくら中国の擁護があっても朝鮮半島は一気にきな臭い雰囲気になったと思う。

米本土から米軍機が日本各地の自衛隊基地に集結し、米海軍の空母機動部隊が北東アジアの海域を目指して集まっていただろう。

自衛隊も北海道や東北の部隊を首都圏や九州北部に機動させ、朝鮮半島で始まる戦争に備えたはずである。

何しろ休戦状態の国が、海中に潜水艇を忍ばせ、待ち伏せで相手国の哨戒艦を撃沈させ、46名の兵士を戦死させたのである。これほど明かな休戦協定の違反はない。

これは朝鮮戦争を再開させる明確な理由となる。

しかし国連安保理は、韓国の提訴をうけて、魚雷攻撃を行った北朝鮮への制裁を議論する。そのことに日米韓3国は不満や不安を持っていない。

中国がどのように対応するかに関心を示している。これほど国家間の戦争を起こすことが難しくなったのだ。(ゲーツ国防長官が2月1日の記者会見で、「今、国家間の戦争を想定するなど古くて不効率だ」と発言した)

そのことは当事者である北朝鮮も承知で、北朝鮮軍にも戦争再開に備えた動きは一切見られない。

今後、今回の北朝鮮潜水艇による韓国哨戒艦攻撃事件は、中国とアメリカの米中戦略・経済対話と、韓国で開催される日中韓の大臣級対話が焦点となる。そして国連安保理での議論が始まる。

21世紀を戦争の世紀にさせないためにも、北朝鮮に対しては冷静で断固たる制裁措置を国際社会が取ることが大事と思う。
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