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きょうの社説 2010年5月21日
◎裁判員1年 弁護士会も組織的な対応で
丸1年を迎えた裁判員制度は、全国で500件以上の裁判が行われ、3千人を超える人
が裁判員を経験した。最高裁の調査では、裁判員の大半が経験を肯定的に受け止め、制度は軌道に乗ってきた印象も受けるが、石川県は2件、富山県は1件にとどまり、この地域に関して言えば、まだ始まったばかりの状況にある。金沢地裁では今夏に性犯罪事件の公判期日が決まったほか、被告側が「正当防衛で無罪 」と主張する能美市の殺人事件や、被告が殺意否認のまま起訴された金沢市のスーツケース死体遺棄事件など、これまで以上に難しい判断を迫られる裁判が控えている。制度の真価や法曹三者の役割が問われるのは、むしろこれからである。 全国的には、組織的な対応で分かりやすい立証を進める検察側と比べ、弁護側の主張が 見劣りするとの指摘がある。金沢地裁では懲役7年の実刑判決が言い渡された殺人事件で、弁護側が求刑意見で執行猶予を求めるケースもあったが、できるだけ刑を軽くしようと努力する弁護活動も、説得力に欠ければ裁判員の正義感との間でズレが生じかねない。その点でも弁護側には「市民感覚」を意識した取り組みが求められている。 金沢、富山地裁の3件の裁判員裁判は被告が起訴内容を認め、量刑の重さが焦点になっ た。否認事件などでは弁護力が一層問われることになろう。弁護士会も刑事弁護に専念しやすい環境づくりや、制度に適応できる人材養成など、組織的なバックアップ体制を整えてほしい。 最高裁による裁判員経験者のアンケート結果では「よい経験と感じた」は97%に上っ た。金沢、富山地裁でも判決後の会見で、「貴重な経験になった」と前向きな受け止め方が多かった。制度定着に欠かせないのは、このように裁判を通じて市民の司法参加の意義を広げていくことである。 両地裁の裁判員裁判はいずれも3日間だったが、金沢地裁で8月に行われる性犯罪は5 日間となる。全国では9日間の審理もあり、難事件ほど長期化は避けられないだろう。真相究明と審理の迅速さをどのように両立させていくか。これからが制度の正念場である。
◎沈没「北の犯行」 国家テロに高い代償を
哨戒艦沈没は北朝鮮の魚雷攻撃によるものと断定した韓国政府の調査結果を受けて、同
国内で北朝鮮に強硬な対応を求める世論の声が高まるのは間違いない。韓国は軍事報復には慎重で、全面戦争に発展するリスクは低いだろうが、日米が韓国に寄り添って行動をともにし、暴発をさせぬ慎重な配慮が必要になる。北朝鮮も負けると分かっている戦争は望んでいないはずだ。魚雷攻撃の戦果を誇るので はなく、攻撃への関与を否定しているのがその証拠である。瀬戸際外交の効き目が薄れてきた焦りと、経済難で疲弊した民心を引き締めるために危険な賭けに出たのだろうが、本気で哨戒艦を沈めようとしたのか、単なる脅しのつもりだったのか、真相は分からない。 北朝鮮はこれまで、青瓦台襲撃ゲリラ事件やラングーン事件、大韓航空機爆破事件など を起こしてきた。哨戒艦の沈没事件は、こうした過去の国家テロ事件を想起させる。危険な火遊びに高い代償を支払わせ、後悔させるために日米韓が一致協力して当たりたい。 韓国政府が安保理決議による追加制裁を提起した場合、日米がこれを支持するのは当然 であり、日韓は米国に対してテロ支援国家への再指定を求めることになろう。日本政府が追加できる経済制裁のメニューは限られているが、効果的なアイデアがほかにないか、知恵を絞ってほしい。 現場海域から回収された魚雷の破片に北朝鮮魚雷と同じハングル表記が確認されるなど 、北朝鮮の犯行を裏付ける決定的な証拠がそろった。北朝鮮は「政治、軍事目的の捏造(ねつぞう)劇だ」と批判しているが、説得力に欠ける。これだけの証拠を突きつけられたら、安保理で中国やロシアが正面切って制裁に反対するのは難しいのではないか。特に中国はこれまでと同じように北朝鮮を擁護し続ければ、国際社会の信用を失うだけである。 韓国では、南北融和を進めた金大中、盧武鉉政権の10年間で親北派が勢力を伸ばした 。今回の事件で、北朝鮮の危険な体質が改めて確認されたことにより、親北派への風当たりは強まるだろう。
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