子供の性的行為を過度に描いた漫画を規制する「都青少年健全育成条例改正案」について、都議会総務委員会は18日、賛成と反対2人ずつの学識経験者を参考人として呼び、意見を聞いた。賛成派は「子供の性の倫理観を曲げないため販売上の年齢制限は必要」、反対派は「表現規制となる恐れがある」とそれぞれ主張した。今後、6月議会へ向けた各会派の対応が注目される。【真野森作】
未成年の性の相談に対応してきた赤枝恒雄・赤枝六本木診療所院長は「夜の六本木を見てもらえば、子供たちがいかに危険な遊びをしているか分かる」と断言。「性の知識は個人差が大きく、不特定多数に情報が流れると弊害が大きい。漫画やビデオに刺激されて男の子が行動に移し、女の子が被害者になる」と訴え、改正案の必要性を訴えた。
改正案の基になった都青少年問題協議会の答申に携わった前田雅英首都大教授(刑法)も賛成の立場で意見を述べた。「条文には分かりにくい部分もあるが、他の条例と比べて突出しているとは言えない。業界とやり取りして運用のガイドラインを定めればいい」と主張。一方で、答申作成の過程で漫画家らの意見を聞かなかった点については「不明を恥じる」と反省を述べた。
宮台真司首都大教授(社会学)は、改正案が「都には『青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでない』との機運を醸成する責務がある」とする点を問題視した。「規制範囲を超えた悪書狩りの危険がある」とし、規制範囲自体も「不明確で表現規制に近い」と指摘。「メディアの良しあしを親子がコミュニケーションする環境こそが大切」と述べた。
この条例に詳しい田中隆弁護士は「これまでの不健全図書指定は性的非行などを引き起こす具体的な危険を伴う表現に限定され、それなりに厳格に運用されていた。今回の改正は性的成長を阻害する抽象的なおそれで指定でき、運用は恣意的になる」と危惧(きぐ)。さらに、繰り返し不健全図書指定を受けた出版社に対する知事の勧告制度や公表制度が新設される点を指摘し、「出版の自由の制約に結びつきかねない」と述べた。
また、宮台、田中の両氏とも、改正案の誤解を解くため都が公表した「質問回答集」について、法的拘束力はなく無意味と指摘した。
〔都内版〕
毎日新聞 2010年5月19日 地方版