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[17407] これはリリカル?マジカル?(リリカルなのは×仮面ライダー555)新章追加
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:8ac78899
Date: 2010/05/16 17:56
どうも、なのカブト改め、なのファイズです。


初めての方も、久々の方もこんにちわ。


腕はまだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。



物語の始まりは無印の少し手前です。



≪注意点≫


1、基本ギャク(で行きたい)です。

2、ノリで色々と進んでいるかもしれません。

3、一部のキャラが原作と設定が異なる場合(例:夜の一族関係など)が有るかもしれません。

4、仮面ライダー555の設定を使用しています。



※奏編における、校内の事件を5年前から3年前に変更。
 すいません、タイプミスです・・・。



さまざまな感想をお待ちしております。











[17407] プロローグ 第1章 朝
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:8ac78899
Date: 2010/05/04 22:36



人が人を超えた時、目覚めた力がその運命を変える。

疾走する本能、加速する魂、覚醒する力。

全てが折り合い、絡み合った時、物語は走り出す。

駆け抜けよ、ファイズ。
























朝だ、清々しいぐらい気持ちの良い朝だ。

雲一つ無い青空で、春の温かな風が気持ち良い・・・そんな晴れの日。


朝七時頃、オレこと甲斐セツナは自宅の台所で朝飯を調理している。

この家、甲斐家では毎食オレが料理を作っているからだ。


味噌汁の味噌の芳しい香り、フライパンの上で肉が焼ける香ばしい匂いと食欲を誘う音が台所を彩る。

「あー、やっぱり朝はこれだね」

そして、牛乳パックに口を付け、腰に手を当てながら一気飲みし、プハーと息を吐き、朝の清々しさをブチ壊す同居人・・・名はハルカ・フィール。



行動はおっさんだが、歳はオレと同い年の8歳だ。

光が反射して光沢を放つキャラメル色のセミロングの髪、泉のように透けた蒼の瞳、顔やスタイルは結構可愛いと思う・・・行動と発言を除けばだが。



「お前な・・・自分が小学三年生だという自覚を持てよ」

ガックリとうな垂れながら、色々とブチ壊したバカに言う。

「ああ、そういう設定だったね。めんごめんご」

口にできた白ひげを拭いながらハルカが笑う。

「設定とか言うなぁぁぁぁ!オレ達はナチュラルな存在だからな!!自然の申し子だからな!!」

初っ端からメタな発言するのマジで止めて!ネタが無いと思われるから!!。

「そういうセリフ自体がアウトだけどね。あ、フライパン焦げてるよ」

きゃー!キャベツと玉ねぎと豚肉、味付けは塩コショウの野菜炒めがー!!黒い灰になっていくー!!。



居間は和式で畳が敷かれ、テレビやテーブルが置かている。

そして、テーブルも上に並ぶ料理は白飯、ワカメと豆腐の味噌汁、少し焦げた野菜炒め、卵焼き(得意料理)だ。

「突然ですが、今日から三年生です。四月一日でエイプリルフールだけど、嘘じゃないからね」

「誰に向かって説明してんだ、飯食ってる時ぐらい静かにしろよ」

良い子はご飯を食べる時は静かに食べましょう、決して何も無い空間に向かって話しかけてはいけません、黄色い救急車が呼ばれます。

「はいはい、お母さん」

そう言ってハルカが少し焦げた野菜炒めを口に運ぶ。

・・・・・・お母さん・・・・・?お母さんとは・・・一家に一人は居る・・・たまに空気を読まずに息子の癇に障る事をする女性=お・ん・な。

「おいいいいいいいいいいいッ!!テメェ!オレを女扱いしてんじゃねぇよ!!」

オレこと甲斐セツナは黒髪黒眼の普通の8歳男児だ、それで紹介を終わらせたいのだが・・・オレには二つの特徴が有る。

背が平均以下で、女顔であるということ・・・この二つが足されることであら不思議、よく女の子と間違われる男の子の出来上がりだぁ。

もう間違えられること数百回、トラウマじゃあああああああ!!。

「わかったからテーブルに身を乗り出さない、お味噌汁に足突っ込んでるよ」

きゃー!ワカメが足に張り付いてるー!!。

「アッチ!アッチ!!」

畳の上を転がる。

「こぼれた味噌汁は甲斐くんが美味しく啜りました」

ハルカが笑顔でどこかに向けて言った。

「啜らねぇよ!美味しくいただいたけど!!」

タオルで足とテーブルを拭きながら言い返す。

だが、ハルカはオレの叫びを無視して居間のテレビを点ける。

ハルカの朝の日課、星座占いの視聴だ。

女子のたしなみらしい・・・・よくわからんが。


しかし、オレは占いを見ていてたまに思うんだが・・・こういうので表示されるラッキーアイテムって、入手しにくいモノが多いよな。

男なのに香水とか、ハンガーがラッキーアイテムとか・・・ぶっちゃけどうすれば良いんだよ。

前に一度、晴れの日でラッキーアイテムが赤のビニール傘だったことが有るオレでした・・・まる。


「あ、甲斐くん。星占い最下位だね、どんまい」

「お前はオレと同じ誕生日だけどな」

「あ、そうだった・・・」

1月31日、それがオレとハルカの誕生日だ。

だから、星座はみずがめ座だ。

ちなみに物凄く関係無い話だが、有名人ではスマップの香取君と同じ誕生日だ。



だけど、ハルカの誕生日はともかく・・・オレの誕生日は普通とは違う。

誕生日とは人の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日のこと。

日本の風習では、一歳の子供に餅を背負わせるというモノが有るとか。


この話の前に、ここでオレの簡単な昔話を一つ。

三年前に気付いたら病院の一室で寝ていた、名前以外記憶喪失でド忘れ、家族を探したけど見付からない、何故か親父に引き取られた、

唯一の持ち物は銀色の折りたたみ式の携帯電話のみ、養子生活スタート、ハルカと出会う、女の子と良く間違われる・・・女の子と良く間違われる・・・etc.

いやああああああああああああああああああああッ!オレは男だー!!。

回想終了。



「そう言えば、記憶喪失で誕生日のことも吹っ飛んでたから、私と一緒な誕生日にしようってお父さんが言ったんだったね」

そう、誕生日を失ったオレに・・・親父がくれた記念日だ。

ただし、その背景には・・・誕生日をバラバラにすると経費がかさむからという・・・知りたくない大人の事情が有った・・・・。

おかげで誕生日をくれた事に喜びたいんだけど、素直に喜べない。

その親父も今はどこに居るんだか・・・たまにおみやげで怪しげな置物とか来るけど、ぶっちゃけいらない。

「この前は石の仮面が入ってたね、何か1万2千年分っぽい黒いオーラが出てたから粗大ゴミに捨てたけど」

ああ、何かトゲとかついて危なそうだったからな。

「その前は河童のミイラだったな、なぁ・・・親父実は日本に居ないか?」

親父のおみやげという名の呪われたアイテムで、我が家の倉は一杯、あそこはもう完全に異常地帯と化しているな。

夜中に物音とか日常茶飯事だし、それに慣れているオレらも十分に異常だけど。

「居ても居なくても生活費さえくれれば私はどうでも良いんだけどね」

サラッとドン引きすることを言うな・・・。

「お前、実は親父のこと嫌いだろ・・・」

「素敵なおじ様は大好きだよ・・・。金づるになるから」

そうウフフと笑うハルカに鳥肌が立った。

「だから、お前小学三年生!!」

そこはちゃんと守って!お兄さん怖くて泣きたくなるから!!。

「はいはい、さっさとご飯食べて学校に行きましょう。みなさん、暫しお待ちください」

ごめん・・・みんな、オレには・・・この子を制御できる力が無い。



二人で朝ご飯の後片付けをしながら、今日の事を話す。

「始業式の後にオリエンテーション、その後は先生のお話だけで終わりだったよね?」

洗った皿を拭きながら、ハルカが今日の予定を確認する。

「ああ、午前中で終わりだ。あ・・・昼飯どうしよ」

考えてなかった・・・。

昨日の晩飯の残りも無いし、冷蔵庫に食材残ってたっけ?。

「久々に外食っていうのは?」

冷蔵庫を確認、材料が無いな・・・帰りに買い物してこないとな。

そして、ハルカの提案はNOだ。

「小学生二人きりで外食は厳しいだろ・・・。それに、無駄使いは控えたい」

我が家は親父が送ってくるお金ともう一つ、親父の親戚の家からもお金を・・・生活資金をもらっている。

それ以外にも小学生じゃできない家のあれこれをやってもらう他、オレ達が学校に通うための手筈も整えてもらっている。

だから、お金の使用は極力控えたい。

「へーい。ま、私は美味しいご飯さえ食べれればどうでも良いんだけど」

「精進致しますよ、お嬢様」

「はっはっは、頭が高いぞ」

「調子のんなバカ」

これが、我が家の朝の風景である。

騒がしくても、温かい・・・そんな幸せな日常だ。














***********************************************************************************


「戸締りは?」

「した。忘れ物は?」

「無いよ」

お互いに忘れ物が無いかチェックする。


朝食後、オレ達は白い学生服に着替え、鞄を手に家の門の前に立っていた。

木の門に鍵をかけ、出発準備完了。


「ま、盗まれて困る物なんて無いけどね」

「あのな、通帳とか一応家の中に有るし・・・。お前、下着とか盗まれたらどうすんだよ」

一応、本当に重要なモノは親戚の家に預けては居るが、その発言はナンセンスだ。

「新しいの買えるから良いんじゃない?」

その答えにずっこけそうになった。

「あのな、女の子としてその発言どうよ?」

オレでも他人に自分の下着を触られるのを想像しただけで鳥肌が立つぞ。

「枯れてるんじゃない?。あ、でも・・・ただで盗られるぐらいならネットで売りさばいた方が良いから、やっぱり盗まれたら困る」

「見知らぬ他人に自分の下着が触られるのは良いのかよ!!」

「う~ん」

「そこは頼むから悩まないで!!」

冗談かと思ったら、割と本気で腕を組んで考え出すハルカに頭痛を感じた。




オレ達が住む町、海鳴市。

中心部はビルが立ち並ぶが、周辺を海や山に囲まれ自然も多く残っている。

そして、オレ達が通う学校・私立聖祥大学付属小学校は、その町の中に有る学校で、小学校から大学までエスカレーター式の私立学校。

私立だからそれなりに学費は高く、それなりの学力が必要となる学校だ。

通う事三年、勉強が大変で泣きたい・・・。

だが、学費は払ってもらっている以上・・・期待には答えないといけないので必死である。

通学手段は徒歩の他にスクールバスや、お金持ちの家庭は自家用車で通学している。

オレ達は徒歩だ、家から歩いて約20分の場所に学校が有る。




春風が吹き、桜の花びらが舞う通学路をハルカと二人並んでで歩く。

あ~、何かこうポカポカしていると、春が来たって感じだよなぁ・・・オレだけかもしんないけど。

道に花びらが舞ってて綺麗だ、写真撮れないかな~。

「あのさ、今更だけど・・・。その携帯はどこの会社の携帯なのかな?」

舞い散る桜の花びらを携帯のカメラで撮れないか努力していた時、ハルカが聞いてきた。

オレが記憶喪失になる前から持っていたと思われる、携帯を見ながら。

「D○CoMoでもA○でも無い、だけど普通に電話できる不思議な携帯」

そして、この携帯の不可思議な部分を口に出す。

そう、ハルカの言う通り・・・この電話は不思議な携帯だ。

どこの会社とも契約していないのに、普通に電波を受信して通話でき、電話代もしっかり請求される。

三年間使い続けてるのに・・・傷一つできないのも不思議の一つだ。

「オレが知るかよ・・・。って、言いたいけど・・・オレの記憶の手掛かりだからなぁ」

不思議なのは別に良いけど、今時の携帯に比べてサイズがデカイから・・・そろそろ代替えしようかな。

「もしかして、甲斐くんは携帯が擬人化した存在だったりして」

「そんな訳有るかッ!そんな衝撃事実はいらん!!」

もし仮にそうなら、オレは記憶を忘れたままでいい!!。

「というかさ、甲斐くんは記憶を忘れてる事をどう思うの?」

「意気なりだな」

今まで一度もそんな質問された覚えは無いんだけど。

「ほら、三年生になったついでって奴だよ」

「意味がわからん」

ニコリと笑うハルカに苦い顔で返す。

一緒に生活すること三年、今だにコイツの頭の中が読めない。

「いいからいいから。やっぱり、寂しい?」

それは・・・家族が居ないことについてなんだろう。

「いんや」

即答ついでに首も横に振る。

「どうして?」

「だって、覚えてない事だし。まぁ、育ての親に恩返しできないのは嫌だけど」

そういうの、親不孝者って言うと思うし。

「1人で寂しくないの?」

ハルカが問いを重ねるが、オレはそれに笑ってしまう。

腹を抱えて笑うとまではいかないけど、少し笑い続ける。

「む、何で笑うかな?」

「だってオレにはお前も居れば親父も居る、悲しいなんて言うには恵まれ過ぎてるよ」

少し・・・本当に少しだけ・・・寂しいけど、それを上回る楽しさが有るから平気。

オレが今、笑えているのが証拠だ。

ま、できれば・・・本当の親に会いたいってのが本音だけど。。

「甲斐くんがそう言うなら良いんだけどね」

「そう言うお前はどうなんだよ」

ハルカも、親父の本当の子供じゃない。

オレと同じ養子だ、けど・・・オレと違って昔の記憶はちゃんと有るらしい。

昔の話は一切オレにしないけど。

「私も一緒かな、甲斐くんと同じで今が楽しいから問題無し」

ハルカもニコリと笑う。

この質問の答えで昔の事をポロッと吐くかと思ったけど、簡単にはいかないね。

何か良い思いでじゃ無いっぽいし・・・深く追求できないんだよな。

まぁ、ハルカも笑ってるから問題ないか。


そして学校に到着、いつ見ても思うけど・・・本当にバカデカイな、この学校。

グラウンドを横断しながら校舎に向かう途中。

「素朴な疑問だけど、自動販売機で当たりを出して、そのまま放っておくとどうなんだろう?」

ハルカは、思い付いた事をそのまま口にするクセが有る。

そして、それは決まっていきなりで・・・どうでも良さ過ぎる内容だ。

「確か・・・そのまま放っとけば消えるって聞いた事有るぞ」

確か・・・30秒ほどで消えるとか。

「生まれてこの方、一度も当たりを引いたことが無い甲斐くんのお話でした」

「うるせぇ!!」

そうですよーどうせ他人から聞いた話ですよー!!。

「あの当たりってどういう確立なんだろ?一分の一の確立で当たりが出るって事は無いよね」

「いや、そういう設定はやろうと思えばできるらしいぞ。そんなことしたら商売上がったりだけど」

確か・・・1~9999分の1まで設定できるらしいが、法律で最低50分の1までにしか設定できないよう、決まっているらしい。確か景品法だったかな。

「ちなみにこの数年間、当たりが一度も出ないから、ヤツあたり気味にパソコンで調べた結果です、間違ってたらゴメンね」

「甲斐くん、運悪いからね。財布落とすし、男の子に告白されたりするし、コーラ買うつもりがコーヒー出てきたりするし、男の子に告白されたりするし」

「だからその話はするんじゃねぇぇぇぇッ!!つうか嫌な事思い出させるな!!最後に同じ事二回言ってんぞ!ぶん殴るぞテメェ!!」

人のトラウマを掘り返した上に塩塗って楽しいか!!。

「やれるモノならやってみろぉぉぉッ!このバカ野郎!!」

何故か乗る気満々のバカ。

「何で逆ギレしてんだよ!お前がキレる要素一ミリも無ぇだろうが!!よしわかった!喧嘩売ってんだなお前は!!」

「今なら0,5割引きで売るよ!!」

「割引きになってねぇからそれ!!」

周りの生徒が何事かと注目しているのを無視して叫び合う。

そして、喧嘩は白熱し。


「食らえ!洗剤で微妙に荒れた拳!!」

オレは右ストレート。

「必殺!スーパーミラクルでキューティクルな膝蹴り!!」

ハルカは右足で膝蹴り。

互いの必殺技が飛ぶ。

どこらへんが必殺技なんだ、というツッコミは無しで・・・くたばれぇぇぇぇッ!このトラウマを乗せた拳でぇぇぇぇッ!!。

オレの拳とハルカの蹴りが激突する、その瞬間。



「喧嘩は止めてー!!」



オレ達の間に小さい影が割り込んだ。


ここで、全く関係無い話だが・・・。

「車は急に止まれない」という言葉をみんな知っているだろうか、知らない人は今日知ってくれ。

車は急ブレーキをかけた時、少なくともその場で停止することはできない・・・。

つまり、飛び出しは危険という事だ。

そして、みんなはもう理解していると思うが・・・何でこの話を意気なり持ちだしたかと言うと。


「「あ・・・・」」

割と本気で突き出した手足も急には止められないという事だ。

オレ達の間に割り込んだ、茶髪をツインテールにした女の子の頬にオレの拳が、みぞうちにハルカの膝が、直撃した。

こう・・・グサリと。もっと言うとクリティカルヒット。

「にゃぎゃ!!」

割とマジな悲鳴を上げ、倒れる女生徒。

そして、ピクリとも動かなくなる。

「「・・・・・・」」

ズーン。と、重い沈黙がその場に流れる。

目撃者多数、誤魔化せない・・・・。

((やべぇ・・・どうしよ))

この時、オレとハルカはシンクロしたと思う。


「にゃ~・・・・」

これが・・・これから割と長い付き合いになる、高町なのはとの出会いだった。


















[17407] プロローグ 第2章 出会い
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:8ac78899
Date: 2010/05/04 22:58



「やべー、どうしよこれ・・・」

地面にぶっ倒れ、ピクリとも動かない女生徒を前に、オレとハルカは立ち尽くす。

周囲に野次馬できてるから逃げれない・・・。

うわ・・・オレの視線に気付いたら、何かヒソヒソと耳打ちしだしたし・・・。

「甲斐くん!落ち着いて!埋めれば大丈夫だよ!!」

そして、ハルカは暴走してるし・・・。

「お前が落ちつけよ!つうかそのシャベルどこから出した!!」

何だよ!その自分の身の丈以上有るデカシャベルは!!。

「いやん、乙女のヒ・ミ・ツ」

「うぜー!コイツマジでうぜー!!」

身をくねらせるバカに頭を抱えた時。

「ちょっと!アンタ達なのはに何してるのよ!!」

怒声が飛んできた。

声がした方を向くと、金髪の女の子がこちらにズンズン歩み寄って来ていた。

一瞬、先生かと思ってビックリした。



茶色に近い金色の髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝き、瞳は蒼色で意思の強さを表すように強い眼力を発している。

容姿は整っていて、結構可愛いと思う。

だが、その顔は怒りで染まっていて少し怖いが。

名前は知っている、確かアリサ・バニングス。

校内で少し噂になっている子だ、何でもかなりの金持ちで、成績優秀で容姿端麗、男顔負けの迫力を持ってるとか何とか、だが・・・かなり友達思いな子だと。

この噂でオレとハルカはこの子をツンデレだと認定し、ツン子ちゃんと呼ぶことにした。

同じ学年だが、今まで一緒なクラスになった事が無いため、ほとんど接点は無い。



「ちょっと!話聞いてるの!!」

そんなことを思い出していると、それを無視していると判断したのか、ツン子ちゃんはオレをキッと至近距離で睨みつけてきた。

アハハ・・・どうやらオレ達がぶっ飛ばした子、ツン子ちゃんの友達らしいね・・・。

つうか、アレ・・・オレ身長負けてね?・・・いや、髪の大きさだ・・・そうに違いない!!。

「あ、いや・・・聞いてるから睨まないでくれると嬉しい。ほら、可愛い顔が台無しだよ」

軽くダメージを受けながら、何とか怒りを収めてもらおうとするが。

「シャラップ!何でなのはが倒れてるか説明しなさい!!」

何か逆鱗に触れちゃった!?。

「はい!!」

思わず敬礼で返す、みんなヘタレとか言うなよ!マジで怖いんだからな!!。

「すいません!私は止めたんですけど!この人が私に無理やりに!!」

ハルカが涙ぐみ(嘘泣き)ながらオレを指さす。

「身内売ってんじゃねぇよ!どう考えてもテメェの蹴りの方がダメージデカイだろ!!」

みぞうちにクリティカルヒットしたのオレ見たから!!。

「さて、何の事やら?」

「シラ切ってんじゃねぇ!証人は居るんだぞ!!なぁ!みんな!!」

「アンタ達!私を無視してんじゃないわよ!!」

「「サーセン」」

怖いので、さっさと状況を説明しよう。

許してくれれば良いんだけど。



ツン子ちゃんに自動販売機の話から、この子をぶっ飛ばした所までの流れを説明。

話しが進む度に火山が噴火するように、ツン子ちゃんの眉が怒りでつり上がって行くな・・・怖いよー。



「何してんのよ!アンタ達は!!」

「「サーセン」」

怒られました、もう正座させられて説教ですよ。

どうでもいいけど、なのはだっけ?長い間放置したままだけど良いのかな?。

「なのはもなのはよ!なに喧嘩を止めようとして逆にやられてるのよ!!」

ツン子ちゃんがまだ気を失っている子を睨みつける。

絶対に聞こえないだろ。とか、突っ込んだら怒られるかな。

「アンタ達、なのはを保健室に連れて行きなさい」

オレ達をビシリ!と、指差しながらツン子ちゃんが命令する。

「「了解」」

まぁ、オレ達がぶっ飛ばした事実に変わりは無いから、ちゃんとしないとな。

ぶっ倒れた子の右足をオレが、左足をハルカが持ち。

「ふざけるな!!」

そのまま引き摺ってスカートオープンと行こうとしたが、ツン子ちゃんに頭をど突かれた。

結構痛い・・・。

「冗談なのに・・・」

「ねぇ~」

オレが右から、ハルカが左から肩に手をまわして持ち上げる。

足先を引き摺っちゃうけど、担ぐにはオレの身長が足りないんだよね。

「アンタ達、反省してないでしょ」

ツン子ちゃんの眉が再びつり上がる。

「「すんませんしたー!!」」

オレ達はその場から逃げるように、保健室に向かってダッシュした。















***********************************************************************************



保健室に向かう間も、なのはって子は全く眼を覚まさない。

だけど、眼をグルグル回しながら・・・。

「にゃ~・・・」

と、うめき声を上げているので、そんなに心配をしていないが。


だけど、この子も可愛いね。白いリボンで栗色の髪をツインテールにしていて、顔も整ってるし。

しかし、何故に『にゃ~』?、よし・・・今日からこの子はにゃん子だ。



名前を決めた所で、保健室に到着。

清潔感が有る白い部屋で、消毒液の臭いが鼻を刺激した。

保険の先生は女の人で、アイちゃん先生とオレ達は呼んでいる。

年齢不詳、本人は二十代と言い張っているが不明。


アイちゃん先生に事情を説明。

「貴方達は、初日からやらかしたわね」

「「ごめんなさい」」

にゃん子をベットに横にさせた後、アイちゃん先生から説教をくらった。

にゃん子は気を失ってるだけで、身体は何とも無いようだ。


その後、そろそろ始業式が始まるから、教室に行った方が良いと言われたが。

「いや、その・・・この子が心配ですから残ります」

「気になってしょうがないですし」

という理由で居残らせてもらう。

「仕方無いか、じゃ・・・私は始業式に出るから、この子をよろしく」

「「はい」」

その子が起きたら、ちゃんと戻るのよー。と、アイちゃん先生は言い残して保健室から出て行った。


保健室の扉が閉まった後。

「これで合法的にサボれるね」

ハルカがニヤリと笑う。

「まぁ、本当ににゃん子が心配なのも有るけどな」

だが、始業式が面倒だと言う理由も確かに有る。

だって先生の話長いし、面白くない。

「ところでにゃん子って何?」

ハルカがにゃん子が眠るベットの横にイスを置き、そこに座りながら問う。

「いや、何か『にゃー』って、呻いてたし」

オレはアイちゃん先生が座っていた、回転する丸椅子に座る。

何かこれ乗ると、クルクル回りたくなるよな~。

「安直だね」

イスの上で回って遊んでいると、ハルカがにゃん子の頬を指で突きながら言う。

「いや、だって呼び名無いと不便だし」

「まぁ、いつまでも『甲斐くんが倒した女の子』って言うのも面倒だしね」

「オレに全部押し付けるな。つうか、いつまで頬を突いてんだよ」

にゃん子が寝苦しそうに眉を潜めてるぞ。

「凄く柔らかくて気持ち良いんだよ~、何かマシュマロみたい。なめたら甘いかもね」

「そんな訳ねぇだろ、しょっぱいのならまだしも」

身体から甘い成分出すって、どこの食虫植物だよ。

「え~、女の子は身体から蜜だすよ。具体的には」

「アウトォォォォォォッ!お願いだから黙れ!!」」

それ以上はアウトな話になる。

「ん、にゃ・・・?」

オレの怒声が目覚ましとなったが、いきなりにゃん子がガバッと身体を起こした。

まるでゾンビが起きるように直角に。

それにハルカがビックリして仰け反った。

オレもビックリして椅子ごとひっくり返るところだった。

「ここは・・・?」

そんなオレ達を尻目に、にゃん子は両手で眼をクシクシと可愛らしく擦りながら、保健室を見渡す。

そして、自分がベットに寝ているのを確認、最後にオレとハルカを交互に見て。

「あ・・・・」

寝ぼけ眼がハッとした表情に変わる。

もしかして、身体の具合が悪いのか・・・?。


「け、喧嘩は駄目だめだよ!!」


予想の斜め上を行く答えにオレとハルカは、さっきとは別の意味でイスから転げ落ちそうになった。

なんで今のこの状況を見て、最初の一言目がそれなんだ。

オレ達に文句を言うか、戸惑うかが普通だろう。

「???」

オレとハルカのリアクションに、にゃん子は戸惑ったように首を傾げた。


とりあえず、オレとハルカがにゃん子をぶっ飛ばしたことを話す。

それから二人で頭を下げて謝り、さっきのが喧嘩ではなく・・・いつものじゃれ合いであることを伝える。


「あ、そうなんだ。私、てっきり喧嘩してるのかと」

にゃん子が少し驚いたような、バツの悪そうな顔で言う。

悪いのはオレ達なのに、気にしてるようだ。

「割と毎日アレだよな」

「うん、甲斐くんが喧嘩売ってくるし」

同意を求めると、ハルカが頷きながら余計な事を言う。

「8割はお前が売ってんだよ!!」

それに言い返すオレもオレだが・・・。

「毎日大バーゲンだよ!さぁ、買った買った!!」

「やっぱり喧嘩売ってんだろ!だったら買ってやる!代金はこの拳だー!!」

「かかってこいやー!!」

だから、何でコイツは喧嘩腰なんだ。

「駄目だよ!喧嘩しちゃ!!」

にゃん子に怒られました。

何か、さっきの二の舞になりそうだったので互いに構えを解いた。

「すまんな、にゃん子」

「にゃん子?」

謝った時、つい口を滑らせた。

「あ、やべ・・・」

思わず口を手で隠すが遅い。

「にゃん子ってなにかな?」

にゃん子がジッとオレを見る。

別にやましい事は無いんだが、にゃん子の眼力が強いので、思わず言い淀んでしまう。

「ちょっとした呼び名だよ。あ、そうだ、みんなで名乗りっこしようか」

「うん、良いよ」

ハルカが提案、にゃん子がコクンと頷く。

内心助かったと思ったのは内緒だ。


「じゃあ、私から。ハルカ・フィールです、ハルカで良いよ」

「甲斐セツナ、呼び名は何でも良い」

「私は高町なのは、なのはって呼んで」

ハルカ、オレ、にゃん子・・・もといなのはの順で名前を言い合う。

「高町さんだね、うん・・・覚えた覚えた」

「ハルカちゃん、名前で呼んでも良いよ?」

「わかってるよ、高町さん」

なのはの言葉に、ハルカはニッコリと笑いながらそう返した。

「う、う~ん・・・」

「ああ・・・、なのは。コイツは毎回これだから・・・気にしないでくれ」

微妙な顔になるなのはに言う。


ハルカは他人を名前で呼ばない、三年間一緒に生活してきて、オレも名前で呼ばれた記憶が無い。

唯一の例外で、親父の名前だけは呼んでいるのは知ってるけど。

それが、どういう意味なのかはわからない。

そういうクセなのか、それとも・・・自分と他人を区切っているのか・・・。


「うん、わかったよ。セツナ『ちゃん』」

「・・・・今なんて?」

聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「え?、ハルカちゃんの事で」

それじゃない。と、首を横に振り。

「オレの名前言ってみて」

「セツナ『ちゃん』」

はい・・・言ったね。みんなも聞こえたね。

ちゃん付けは普通男にはしないよね。

たまにおばさんとかがちゃん付けするけど、なのははおばちゃんじゃないから違うよね。

つまり、女の子扱いである、なのでオレはこう言う。

「オレは・・・・オレは男じゃああああああああああッ!!」

全力で叫ぶ、喉から熱いパトスを迸らせる。

「え、えええええええええッ!!」

なのはが声を上げて驚く。

「なんでそこまで驚くんだよ!男の制服着てるだろオレ!!」

ズボン穿いてるだろ!ズボン!!。

「てっきり男装かと」

「んなわけあるかぁぁぁッ!!」

そんな事する奴はアニメとかゲームとか二次元の奴だけだから!!。

「甲斐くんというか、私達が言うと説得力に欠けるけどね」

ハルカの呟きはスルーで。


「どうせオレは女顔ですよー、女装とかしたら絶対に男だってバレませんよー、でも男なんですよー」

保健室の隅で膝を抱えて丸くなる。

「あーあ、落ち込みモード入っちゃった」

「ご、ごめんね!セツナくん!!」

謝らないで・・・悲しくなる。

「でも!セツナくんはカッコいいと言うより可愛い系だから!そんなに落ち込まなくて良いと思うの!!」

グサッ!!。

「高町さん、それ追い打ち・・・」

どうせオレは男っぽく無いですよー、BLとかだったら受けになる顔ですよー。

「にゃ!ご、ごめん!セツナくん!!」

完全にダウナー状態に入ったオレを、なのはが励まして(どちらかと言えば止めをさして)いた時。

「失礼します」

保健室の扉が静かに開かれた。

三人揃って扉の方を向くと、そこには綺麗な女の子が立っていた。



蒼い夜のような色で、腰まで伸びたウェーブがかかった黒髪を白いヘアバンドで留めている。

眼も同じで・・・どことなく夜に浮かぶ月を思わせるような、不思議な感じがする藍色の瞳。

さっきのツン子ちゃんとは真逆で、おしとやかで大人しそうなイメージだ。

そして、この子も美人である。

名前は月村すずか、コチラは噂とかじゃなくて・・・個人的に好みの子だったので覚えていた。

何か不思議そうというか、ミステリアスというか、人間離れしているような雰囲気が個人的に好きなのだ。

この子もオレとは三年間一緒なクラスになったことは無く、接点は無い。



「すずかちゃん?」

オレらを見て、若干戸惑った表情を浮かべる月村すずかになのはが声をかける。

「なのはちゃん、アリサちゃんから倒れたって聞いて様子を見に来たんだけど」

どうやら、彼女もなのはの友達らしいな。

「あ、うん。さっきまで寝ていたんだけど、もう元気だよ」

「そうなんだ、良かった~」

なのはが小さくガッツポーズを作り、すずかがホッと胸を撫で下ろす。

「来てくれてありがとう、すずかちゃん」

「うん」

そして、二人でほんわか雰囲気を出す。


ああ~、ハルカからは絶対に感じれない癒される空気だ~・・・・、アレはもう生けるおっさんだからな。

「甲斐くん、後で私の扱いについて話し合おうね」

ニッコリ笑顔で言われた。

「はーい・・・」

思考がだだ洩れだった・・・。

「ところで、この二人は?」

にじり寄ってくるハルカから逃げ場を確保しようとしていると、二人の話題がオレらに向いた。

「高町さんと拳で語り合った仲のハルカ・フィールです!ハルカって呼んでね」

「そんな熱い展開は無かっただろうとツッコミを入れる甲斐セツナです、オレもセツナで良いよ」

二人で自己紹介。

「私は月村すずか、すずかで良いよ。よろしくね、ハルカちゃん、セツナ『ちゃん』」

グサッ!!。

「アレ・・・どうしたのセツナ『ちゃん』、跪いて?」

グサッ!!。

「すずかちゃん、セツナくんは男の子だよ」

「ええッ!!」

またか・・・またなのか、ていうか何でだよ!男の服着てるだろ!アレか!ワザとか!!。

「脱ぐ・・・」

「「「え・・・」」」

「こうなったら最終手段じゃあああああ!脱いでやる!脱げば良いんだろ!!コンチクショー!!。

ズボンに手をかける。

もうオレが男だとわかってもらうにはこれしか無いんだ!アハハ・・・最初からこうすれば良かった!!これでオレの心が解き放たれるー!!。

「甲斐くん!解き放たれるのは貴方の醜い子供だけだから!!それと本当にやっちゃ駄目ー!男だとみんなに認識される代わりに変態の称号が付くよー!!」

「変態でも痴漢でも性犯罪者でも何でも来いじゃああああああああああ!!」

アハハハハハハハハハハハ!もうこれで女の子扱いされる生活ともお別れだー!!。

「代わりに待ってるのは軽蔑の視線と冷たい言葉だから!!」

ハルカが後ろから羽交い絞めにしてくる。

離せー!オレは解放されるんだー!!。

「何だか楽しい二人だね」

「月村さん!その感想は嬉しいけど甲斐くんの暴走を止めて!!」

オレは今!解き放たれる!!。




























***********************************************************************************






「ごめん、取り乱した・・・」

「戻って来てくれて良かったよ」

ズボンをしっかり穿き直しながら謝る。

ハルカが止めてくれなければ、オレは社会的に抹殺されていた。

「セツナくん、ごめんね」

すずかがペコリと頭を下げる。

「いや、気にシナクテイイヨ・・・」

本当に大丈夫だから、悪気が無いのはわかってるから・・・ダケド次ニ間違エタラ、オレハ自分ヲ保テル自信無イヨ。

「セツナくん、眼の艶が消えてて怖いよ・・・」

何故かなのはがオレから距離を取る、オカシイな・・・オレは笑ってるだけなのに・・・クケケケケ。


「月村さん、しつもーん」

ハルカが手を上げる。

「なに?ハルカちゃん」

「月村さんがここに来たって事は、始業式はもう終わってるの?」

ああ、そういや今学校に居るんだったな。

ちょっと心のダメージが大きすぎて忘れてた。

「うん、そうだよ。今は休み時間中で、次は教室で先生のお話だよ」

「え!始業式終わっちゃってるの!?」

すずかの答えになのはビックリ。

「高町さん、居眠りしてるからそうなるんだよ。次からは気を付けようね」

「どんまい、なのは。大丈夫、明日が有るさ」

「二人のせいだよね!居眠りしちゃったの!?」

なのはがビシリと突っ込む。

ほんわかタイプかと思いきや、意外にツッコミキャラだったな。


キンコーン、カンコーン。


なのはがツッコミを入れた直後、次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

「そろそろ行かないとな、なのは・・・歩ける?」

「うん、平気だよ」

じゃあ、ここに居る理由は無い。

さっさと教室に向かおう。

「だけど、私と甲斐くんはどこが自分のクラスか知らないのであった・・・」

「あ・・・」

そういや、クラス分けを見る前になのは吹っ飛ばしたから・・・自分のクラスがわからない。

「私も見てない・・・」

なので、なのはも見ていないと。

「なのはちゃんのクラスなら私見たよ。3年1組で、私とアリサちゃんと一緒だよ」

「ありがとう、すずかちゃん。また3人一緒だね」

「またよろしくね、なのはちゃん」

「うん!」

ああ・・・またほんわかな雰囲気が・・・。

「甲斐くん、和んでないで・・・さっさとクラス分け見に行かないと、次の授業遅刻しちゃうよ」

「わかってる、さすがにこれ以上サボるのはヤバいしな。じゃ、なのは、すずか、また今度」

「またね~、お二人さん」

「あ、二人のクラスも・・・多分私達と同じかも」

二人で保健室を急いで出ていこうとしたが、すずかの言葉で足を止める。

「始業式の時、3年1組だけイスが三つ空いてたから、きっとそうだよ」

まぁ、初日から休む奴なんてそう居ないだろうからな・・・多分、すずかの言う通りなのだろう。

しかし・・・。

「またお前と一緒なクラスか・・・」

これで、3年連続ハルカと一緒なクラスだ。

「3年連続だね、これって運命?」

「そんな運命は嫌だ・・・」

「いやん、イケず~」

身をくねらすハルカに眉を潜める。

自分だって嬉しくないクセに・・・。

「まぁ、いいや・・・。ともかく教室に行こうぜ」

さっさと教室に行かないと、これ以上怒られるのは嫌だ。

「そうだね、もう授業始まってるし」

オレの言葉にすずかが頷く。

それからオレ達は一緒に保健室を出て、3年1組の教室へ向かった。






「オチ無しだね、どうしよ?」

「1人で爆発オチでもしてろ」

「わかった。高町さん、がんば!!」

「どうして私に振るの!?」

「いいからいいから」

「わかったよ・・・。じゃあ、ど、どかーん・・・」

「「・・・・・・」」

「無視して歩き去るのだけは止めてくれないかな!!」
















[17407] プロローグ 第3章 五人揃えば騒動
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:8ac78899
Date: 2010/05/04 23:18



オレとハルカのクラスは3年1組だった、教室の扉にクラス名簿が貼ってあり、そこにオレらの名前が書いてあった。

教室に入ると既に先生が来ており、指定された席に座るよう言われ、自分の席に座った。

席はランダムで決められていたらしく、オレの席は窓際で・・・。

「よろしく」

「よ、よろしく・・・」

ツン子ちゃんの隣だった。


先生の話は明日からの予定や、クラス委員を決める話だった。

その間、ツン子ちゃんとの会話一切無し・・・。

なのはをぶっ飛ばしたことが有るから、オレからは話しかけにくい・・・。

空気が重いよー、テレビとかで芸人がスベッて客がドン引きした時の空気並に重いよー。

誰か助けてー。

とりあえず、後ろの席に座るすずかに救援要請。


親指をグッと立てられた。


誰か助けてー、この微妙に空気を読めてない子を助けてー、自分のキャラを壊す行動をしている子を助けてー。

次に駄目もとで右斜め後ろに座るハルカに救援要請。


寝ていた・・・、幸せそうに口をムニャムニャしながら。


誰か起こしてー、そして額にデコピンかましてー、幸せそうに爆睡してる顔を歪ませてー。

なのははちょっと席離れてるから助けを呼べない、つまり・・ここがオレの死に場所か・・・、思えば・・・この3年間・・・良い事無かったなぁ・・・。

「アンタ、名前は?」

軽く人生を振り返っていた時、ツン子ちゃんがオレの方を向いて聞いてきた。

「セツナ、甲斐セツナ」

条件反射で答える。

突然なので少しビックリだ。

「セツナね、私はアリサ・バニングス。よろしくね」

そう言ってツン子ちゃん、いや・・・アリサはニコリと笑った。

「よ、よろしく」

めっちゃいい人やん!。

どこかの方言が出てくるぐらいの感動だった。

ごめん、君の事はツンデレだと認識してたよ。

「それにしても、女みたいな顔してるわね」

一瞬でそんな感動失せたけど。

本日3度目の言葉、もうライフが0だった時に必殺の一撃だ、オーバキルである。

「ア、アハハハハハ・・・・」

「ど、どうしたのよアンタ?」

とりあえず渇いた笑い声を上げるオレに、アリサが引く。

だけど、そんな事を気にする余裕は無く。

「・・・・・・・・・」

オレは机に突っ伏し、声を押し殺して泣いた。

もう大泣きである、男の涙大安売りである。





















***********************************************************************************



「というアバンタイトルを終え、傷心の甲斐くんです」

先生の話も終わり、今日の授業は終了。

「・・・・・・・・・・・・」

どうせ・・・オレなんて・・・僕なんて・・・私なんて!。

もう・・・いっそオレを女にしてくれー!!。

「ああ、よしよし」

「優しくしないで!悲しくなるから!!」

頭を撫でるハルカに叫ぶ。

「面倒くさっ・・・バニングスさん、ツンツンしてないで謝って」

授業終了後、ハルカとアリサは互いに自己紹介を終えていた。

「ツンツンなんてしてないわよ!というか男が泣くな!女々しいわよ!!」

「女々しいさ・・・どうせオレなんて・・・女々しい奴なんだ・・・」

「あーあ、バニングスさん、甲斐くんに女々しいとか女装とか漢字に女が入る言葉は禁句だよ」

「面倒くさっ!どんだけ繊細なのよコイツ!!」

「少なくともバニングスさんが考える3倍は繊細だよ」

ハルカの言葉にアリサが微妙に顔になりながら『マジ?』と問う。

それに対する返答は真顔での無言の頷きだった。

「わかったわよ・・・。知らなかったとは言え、ごめんなさいね」

アリサが頭を少しかいた後、謝ってきた。

「・・・・・・ふん」

だが・・・その程度じゃオレの傷は癒えない。

「ムカつく!コイツムカつく!アンタそんなんだから女扱いされんのよ!!男ならそこは笑って流しなさいよ!!」

「うるせぇ!!オレのハートはもう傷ついてボロボロなんだ!泣いても許さねえぞ!!」

「女々しいというか!アンタ人としてどうなのよそれは!!」

「知るかバーカ!バーカ!!」

「このバカ!いい加減にしなさいよ!!」

「あーあ・・・」

口喧嘩を始めるオレ達にハルカが頭を抱えた。













「ごめん、少し調子乗った・・・」

しばらくして冷静になり、自分がどれだけ小さい事を言っていたか理解して・・・自己嫌悪に陥る。

「私もちょっと冷静さを欠いていたわ、ごめんなさい」

アレだけ酷い事を言ったのに、謝ってくれるアリサに感動。

大人だと思った・・・。


「じゃあ、話も纏まった所で帰りましょうか」

ハルカが人指し指をピンと立てて提案。

「そうだな、昼飯の材料も買って帰らないと駄目だし」

早くしないと昼飯が遅くなる。

「私、炒飯が食べたい」

「へいへい」

ハルカの要望を中心に昼飯の献立を考える。

炒飯なら、スープと・・・後はサラダで良いか、晩飯も有るから・・・ちょっと少なめで良いだろ。

なら、朝出る時に米は炊いてきたから・・・炒飯に入れる具と、スープの材料を買ってこないとな。

「?、二人は一緒な所に住んでるの?」

頭の中で買い出し表を作っていると、なのはが聞いてきた。

「ああ、色々有って二人暮らし中」


三人に親父が年中海外に出ている事を説明。

養子の話とかは省いてだが、だって空気が暗くなりそうだし、聞かれたら答えるけど・・・。


「若い男女が一つ屋根の下なんて、お父さんは認めんぞ!!」

ハルカがいつもの病気を発作させる。

たまにやる空気の読めない発言はスルーだスルー。

「へ~、じゃあ家事はアンタがやってんの?」

「ああ、料理は特に」

アリサの問いに頷く。

ハルカの料理は・・・見た目は良いんだが・・・味がな・・・。

お菓子だけはまともに作れるのは何でだろうな。

「誰カ突ッ込ンデー、寂シクテ死ンジャウヨー」

ハルカのボケに一々付き合うと日が暮れるので無視、アリサもそう考えたようだ。

後ろから抱きついてくるのにガン無視している。

「いいもん、また洗濯物に私の下着混ぜてやる」

「漂白剤で洗浄してやろうか?微妙に色が薄い下着に魔改造してやろうか?」

別に下着混ぜても良いが、色々してやるぞこの野郎。

「アンタ!まさかハルカの下着まで洗ってるの!!」

アリサが驚いた顔で叫ぶ。

教室にまだ残っていた生徒が、声の大きさと言葉の内容にビックリしてコチラを向く。

「いやん。バニングスさん、恥ずかしい~」

ハルカが頬をポッと赤らめる。

が、身をくねらせながら言っているので、全然恥ずかしそうに見えない。

「いや、一応は別々にして自分で洗濯させようとはしてるんだぞ」

オレから微妙に距離を取るアリサ達に言う。

同時に心の距離も若干開いた気がするが、ちゃんと理由が有るから聞いてほしい。

嫌なんだぞオレだって・・・・だけど。

「面倒だから甲斐くんにお任せ、ほら・・・バラバラに洗濯したら電気代とか水道代かかるじゃん」

ハルカはこれだから・・・。


小学三年生ぐらいって、こういう男女の問題に機敏になる年代ではないのだろうか?。

まぁ・・・ハルカの場合、ワザとやってオレを困らせて遊んでいるっぽいけど・・・。

ただ、好意の裏返しでは無く・・・単純に嫌がらせだが。


「ああ・・・ハルカって、そういう子なのね」

「理解してもらって助かる」

アリサと二人、微妙な眼でハルカを見る。

「えへっ!褒めても何も出ないぞ!!」

憎いぐらいの全力の笑顔で返された。

「「褒めて(ねぇ)(ないわ)よ!!」」

アリサもハルカという人間について理解してきたようだ。


ハルカという人間は、動物で例えるなら猫に似ている。

誰にも縛られずに自由気ままに生き、人になついてるようでなついていない。

『犬は人に付き、猫は家に付く』と言うが、ハルカはまさにそれだ。

コイツが執着するのは人では無く、自分の居場所だ。

まぁ、アリサにへばり付き、うざったそう足蹴にされてるのを見ると説得力に欠けるが・・・。



「ねぇ、セツナくん、ハルカちゃん。実は今日、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒にお昼食べようって約束してたんだけど。二人も一緒に来ない?」

あまりにしつこくアリサにへばり付くハルカを引き離していると、なのはが提案してきた。

「それは嬉しいんだけど、オレ達弁当も無ければ金も無いんだ」

頭にイライラマークを出すアリサをすずかと一緒になだめながら答える。

「大丈夫、お金とかもいらないから」

なのはが心配無いよ。と、言ってくれる。

まだ出会って数時間、しかも意気なり殴りばした相手を食事に誘う。

「まさか、毒殺!」

ハルカ・・・、オレも一瞬仕返しか何かだと思ったが・・・口にするのはあまりにも失礼だろ・・・しかも毒殺って何だよ。

「違うよ!もっと仲良くなろうという、なのはなりの考えだよ!!」

なのはが頬を膨らませながら怒る。

ヤベェ・・・全然怖くない。

「萌え~」

なのはに対し、ハルカはうっとりと頬を少し赤くしながら呟いた。

そんなハルカを見て、オレとアリサは『駄目だコイツ・・・、早く何とかしないと』と、思ってしまった。

オレはその後に・・・『もう手遅れだけど・・・』と、続いたが。

と、そんなことより食事のお誘いだ。

親交を深めるためのお食事会と考えて良いだろう、ただ・・・。

「なのは、その気持ちは嬉しいんだけど」

アリサとすずかを見る。

先約の相手の事を考えないと。

「なのはちゃんと同じ事思っていたから、私は別に良いよ~」

「私も別に良いわよ、アンタ達がどうしても来たいって言うならだけど」

すずかはニコリと笑いながら、アリサはフン!とそっぽを向きながらそう言った。

それに嬉しいという気持ちと、一言だけ言いたくなった。

それはハルカも同じだったらしく、オレの方を向いて一度頷いた。

ハルカに頷き返し、オレ達は声を揃えてこう言った。


「「ツンデレ~」」


やっぱりアリサはツンデレだろ、ツンツンした後にデレたし間違いない。

「アンタ達いいいいいいいいいい!!」

きゃー、ツンデレがツンギレにジョブチェンジしたー、逃げろー。

迫りくるアリサから逃走、さっきベットリくっ付かれていたストレスからか、ハルカを執拗に追いかけだした、ラッキー。

「質問、昼はどこで食べるんだ?」

アリサの視界に入らないよう、低姿勢で机の陰に隠れるように移動しながらなのはに聞く。

「喫茶翠屋だよ」

「喫茶翠屋?」

喫茶店だよな・・・店の名前は聞いた事が無いけど。

ただ、やっぱり金が必要な気がするな、喫茶店だし。



オレの頭の中では、喫茶店=高いという認識が有る。

だってコーヒーとか高いだろ、偏見だと思うけど。

まぁ、こういう考えをする奴に限ってまともに喫茶店行ったこと無いんだと思う、だってオレがそうだし。



「私の両親が開いてるんだ」

そんな事を考えていると、なのはがどこか誇らしげにそう言った。

両親がお店を開いてるのか、だからお金が要らないわけね。

もう少しなのは達と話していたい気持ちも有るし、タダ飯が食べれるなら断る理由は無いな。

炊いたごはんは晩飯に回そう、うん・・・決めた。

「オレは好意に甘えさせてもらうよ。ハルカは?」

「私も行ぐ~~!!」

アリサに首を絞められ、今にも落ちそうになりながらハルカが頷く。

「それじゃあ、出発」

「おー!」





















***********************************************************************************



「という、Aパートを終え・・・痛めつけられたハルカです。翠屋はオープンテラスとかが有る、綺麗なお店でした」

「ハルカちゃんは一体、どこに向かって話しかけてるの?」

「すずか、気にしたら負けだ」

オレとハルカは三人に案内され、翠屋というお店にやってきた。

三人は普通に、オレとハルカは少しだけ緊張して恐る恐る店に入り、店内のテーブルの一つに座った。


「今更だけど、急にお邪魔して大丈夫だったのか?」

「大丈夫、さっき携帯でメール送ったから、返事もちゃんと貰ったよ」

そんな心配は杞憂らしい、なのはがニコニコ楽しそうにしながら言う。

「みんな、いらっしゃい」

それから少しして、1人のお姉さんが店の奥から出てきた。

なのはと同じ栗色の髪で、エプロンをしているその人は、なのはをそのまま大人にしたような感じだった。

「もしかして、高町さんのお姉さん?」

ハルカが質問する。

ちょうどオレも聞こうとしていた質問だったので、なのはを見ながら答えを待つ。

「うんうん、お母さんだよ」

なのはが首を左右に振りながら答える。

時が止まった・・・・オレとハルカが一時停止。

お母さん?・・・うっそー・・・どう見ても20代・・・悪く見ても30代前半だよこの人・・・。

オレ達が驚く間になのはのお母さんは三人と挨拶を交わし、こっちに向いて。

「貴方達がセツナくんとハルカちゃんね。高町桃子よ」

そう、なのはと似た(親子だから当たり前だが)笑顔で自己紹介。

「「こんにちわ」」

少し緊張しながら返した。

他人のお母さんというものは・・・やはり緊張してしまう、凄く綺麗だし。



それから桃子さんはお昼を作りに店の奥に戻り、オレ達はお話タイムに突入。

三人が友達になった経由や、なのはに歳の離れた兄と姉が居ること、すずかには姉が居ることを聞いた。

他にもアリサが犬を、すずかは猫を飼っていることも楽しく話した。

オレ達もこの三年間で起きた話を、親父の飯がクソ不味くて料理を覚えた事や、ハルカが起こす空気の読めない事を・・・。

って・・・アレ?、オレのこれ愚痴じゃね・・・。

華やかさが何も無い3年間だったことに気付いて絶望。

ハルカも家の話題に話せる物が無い事に気付いて学校の話に移行、オレもそれに乗った。

それから携帯のメルアドと電話番号を交換。



「アンタの携帯、見たこと無い機種ね」

赤外線通信って便利だよなー。と、改めて思ってるとアリサがオレの携帯を見ながら言う。

「うん、私も知らない機種だ・・・。見せてもらってもいいかな?」

すずかも興味津津、その眼がキラキラしてるのは気のせいだろうか?もしかしなくても機械好き?。

「ああ、ちょっと特別製かも」

すずかに携帯を渡し、この不思議な携帯について話す。


とは言っても、謎の携帯・・・・一応普通の携帯として使える以外、わからないが。

あとは、たまに闇夜で紅く光ったりするぐらいか・・・。


「よくそんなの使えるわね」

オレの説明にアリサが唖然となる。

「あはは・・・、お守りみたいな物なんだ」

一応、オレという存在の唯一の手掛かりだし。

「あ・・・」

と、いきなりすずかが間の抜けた声を出した。


そっちを向くと、テーブルの上で携帯が二つに分離していた。

いや、携帯から『Φ』の文字が刻まれたメモリーが外れていた。


「ああ、気にしないで・・・それもとから外れるから」

すずかに言いながら、携帯をもとに戻す。

無駄に頑丈だから、女の子が本気で壊そうと思っても壊れないだろう。

「よ、よかった・・・」

ちょうど大切なモノだと言った後に外れたからか、ちょっと涙眼になりながらホッとするすずか。


「みんな、ご飯できたよー」

メルアドを交換した後、料理のお手伝いに行っていたなのはが料理が乗ったおぼんを手に戻ってくる。

その後ろには、黒髪のカッコいいお兄さんが続いている。

この人がなのはの言っていた、お兄さんの恭也さんか?。

「私は高町士朗だ。なのはの父親だよ」

そんなオレの疑問に答えるように、お父さんが答える。


ああ、お父さんなんだ・・・って、若ッ!夫婦揃って若ッ!!。

若さの秘訣とか有るんだろうか?。


オレが驚く間にテーブルの上に料理が並んで行く。

喫茶店らしい、スパゲティやサンドイッチなどの軽食系の料理だ。そして、デザートにシュークリーム。

「いやー、なのはが男の友達を連れてくるなんて珍しいね」

士朗さんがオレの肩を掴みながら笑う。

オレの気のせいなら良いんだが・・・・眼が笑ってない上に肩に手がくい込んで痛い。

「うん、朝に色々有って、そのまま友達になったの」

「色々?」

「うん・・・ちょっと言えないけど」

なのはさん・・・オレを庇ってくれるのは嬉しいんだけど。

それは誤解を生むよ、間違い無く。

「セツナくん、私は出来ちゃった婚は認めないからな」

士朗さんが大真面目な顔で断言する。

「貴方はいきなり何言ってんだ!!それと小学生が出来ちゃった婚なんてできるか!!」

ぶっ飛び過ぎだよこの人!。あ、思わず敬語無しで突っ込んじゃった。

この人絶対に親バカだ、娘が結婚する時オレを倒してからにしろとか絶対に言いそうだ。

「娘はやらんぞ」

「いや、いらないから」

思わず素で返す。

まだ友達になってるかどうか怪しい上に、出会って数時間で付き合うとか絶対に嫌だ。

「なのはのどこが気に入らないんだ!!」

「セツナくん!即答は酷いと思うの!!」

「アンタら親子はオレにどう答えて欲しいんだよ!!あとなのは!空気読め空気!!」

アレだ、この二人はが間違いなく親子だよ。

「みんなは食事中は静かにね、ハルカとの約束だよ」

「やっぱり美味しいね、翠屋の料理」

「そうね」

翠屋の料理はとても美味しかった。

特にシュークリームが、手作りらしいそれは・・・生地はサクサクでクリームは滑らか、お世辞無しで今まで食べてきたどのシュークリームより美味かった。















[17407] プロローグ 第4章 翠屋
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:8ac78899
Date: 2010/05/05 00:08



「ごちそうさま」

うん、とても美味しかった。

スパゲティとかもそうだけど、特にシュークリームが美味しかった。

何でも翠屋は喫茶店兼洋菓子店でも有るらしい。シュークリームやケーキなどおみやげも買えるとか、なのはが宣伝してくれた・・・・それはつまり・・・買って行けという事か?。

「お粗末さまでした」

士朗さんが食器を下げていく。

「あ、オレも手伝います」

さすがにタダ飯を食べて、そのまま帰るというわけにはいかない。

「いや、気にしなくて大丈夫だよ」

立ち上がるオレに士朗さんはやんわり笑顔で言い、食器を積んで運ぶ。

「ポイントを稼いでも娘はやらん」

そして、オレだけに聞こえるよう、擦れ違いざまにそんな言葉を吐いて・・・士朗さんは店の奥に戻った。

「貴方はまだ言いますか・・・・」

ぐったりと呟いた。


だから、そんな気はナノミクロンも無いっつーの、なのはも困るだろ。

というか、なのはが男友達を家に連れて来ないのは、こうなる事を予測してたからではないだろうか?。

いや、それだとオレを連れてくるわけ無いか・・・待てよ、これが朝のお返しなのか?いや・・・考え過ぎか・・・。

つうか、今でようやく一日の折り返し地点かよ・・・ああ・・・一日が長く感じる。


「セツナくん、どうしたの考え込んで?」

なのはがふにゃっと、首を傾げる。

「いや・・・何でも無い」

そのしぐさに癒されながら、オレは眉間をモミモミして淀んだ考えをリフレッシュ。

「甲斐くん、婆臭いよ」

ハルカが食後に出してもらったコーヒー(ミルク入り)を頂きながら言う。

「せめて爺臭いにしろよ!!」

いや、それも嫌だけど・・・でも女扱いよりはマシだ。

「セ、セツナちゃ・・・くん、そんなに怒ったら身体に悪いよ」

「おのれは今『ちゃん』付けしようとしたな・・・・」

なのはの両頬を引っ張る。

まだなのはの頭の中では、オレは男として認識されてないようだ。

「ひ、ひひゃいよー、ふぇふふん」

涙眼で抵抗されるが頬から手を離さない。

「オレが男だと言う事をその体に刻み込んでやる」

こう、なぶるようにじっくりとな・・・クケケケ。

「甲斐くん、セリフがエロいよ」

ハルカの言葉は聞こえなーい、オレはオレの精神衛生を保つために行動を起こす。

「ほう、具体的には何をするんだ?」

「そうだな、ヒーヒー言うまで『くん』付けを強要する。って、うん?」

真後ろから殺気!、なのはを突き飛ばし、イスから身を床に向かって投げる。


同時にオレが座っていたイスに。タタタン。と、何かが連続で突き刺さった。

それは長くて太い針のようなモノで、テレビで忍者が使う飛針という暗殺用の武器に似ていた。


「ちっ、避けたか」

そして、オレの真後ろに立っていた人物が舌打ちする。

その人は士朗さん?。いや・・・若い・・・、と、なると。

「避けなければ死んでるんですけど・・・、高町恭也さん」

「オレの名前は妹から聞いたか?男の友達くん?」

正解だったようだな。


高町恭也、大学一年生だったっけ?。

なのはの兄貴だ。

顔は本当に士朗さんに似ているな。多分、頭の中もだけど。


「お兄ちゃん、セツナくんに何してるの!?」

なのはがビックリしたように叫ぶ。

おうおう、もっと言ってくれ・・・そうしないと、この怖いお兄さんの右のポケットからまた何か飛んできそうなんだよ。

つうか、殺気全開なんですけど、喉元に刃突きつけられてる感覚が消えないんだけど!!。

「安心しろなのは、急所は外している」

うわ・・・真面目な顔でとんでもないこと言ったよ・・・、やっぱり当てる気満々だよ。

この人絶対に兄バカだ・・・。

「そういう問題じゃないから!!」

「そうですよ、お兄さん・・・もう少し冷静に」

ここでオレが発言したのが不味かった。

「誰がお兄さんだー!!」

キャー、彼女のお父さんに「お父さん」と言って怒られるのと同じパターンだー。


つうか、また何か飛んできた。

予備動作とか全く見えないんだけど!!。


「ギャー!!」

床を這うように飛んで回避。

オレがさっきまで居た床にまた飛針が突き刺さる。

「二度も避けた!お前!何者だ!!」

「だから避けなきゃ死ぬっつーの!アンタバカだろ!!兄バカと空気読めないバカがジョグレスして究極のバカに進化してるよ!!」

って、しまったー。いつものクセで暴言を。

「お前を殺す」

キャー、ブチ切れてらっしゃるー。

「つうか、その台詞はアウトでしょ!!」

有る意味アンタのセリフで有ってると言えば有ってるんだけど!!。

「知るかあああああああッ!!」

つうか、早っ!眼で追えない!!。


気付いたら眼の前に手刀が・・・。


「恭也」

突き出された手刀が止まる。

「・・・・・」

恭也さんがオレの背後を見て、無表情でだらだらと汗を流し始めた。

オレも喉元に突き出された手刀に冷や汗を流しながら、後ろを見ると。

「何をしているのかしら?お店に穴を開けて?」

今日見た中で一番の笑顔の桃子さんが立っていた。

「あ・・・・いや・・・これは・・・・」

クールそうな顔が一変、冷や汗だらだら流しながら戸惑い始める。

「恭也」

「はい!」

「正座」

「「はい!!」」

その場で正座・・・オレもつられて正座してしまった・・・。

怖いよー、笑顔なのに般若が背後に浮かんでいるよー、口から紫色の煙吐いてるよー。

「はっはっは、みんな元気だね。良い事だ」

士朗さんが笑う、オレを見下ろしながら・・・「娘に手を出すからこうなるんだ」と、眼で語りながら。

「あなた」

「なんだい桃子?」

「正座」

「はい!!」

士朗さんがオレの隣に座る。

男三人並んで何してるんだオレ達は。

「男はバカばっかね」

アリサが優雅にコーヒー(ブラック)を手にしながら、冷ややかな眼でオレ達を見下ろす。

おっしゃる通りで・・・。


今日の教訓。母は強し・・・いや、違うか?。


















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「恭ちゃんの攻撃を避けるなんて、君凄いね」

正座を解き、痺れた足を揉んでいると、再び背後から声をかけられた。

もとから読めないけど、全く気配を感じなかった。

「いえ、避けないと死にますから」

それに答えながら、後ろに振り向く。

三つ編みメガネなお姉さんがオレの真後ろに立っていた。

「ちゃんと手加減はしてると思うよ、多分」

「多分で死にたくないです。貴方は・・・高町美由希さん?」

「そうそう、なのはのお姉ちゃんなんだ。よろしくね」

ニッコリスマイル、やっぱりなのはに似ている笑顔だ。


高町美由希さん。17歳で、高校二年生だったっけ?。

なのはのお姉さんだ。


「よろしく・・・」

美由希さんに振り向き、腰を落とし、ジリジリと後ろに後退。

「えっと・・・何で距離を取りつつ警戒体勢?」

「あなたは姉バカですね」

「違うよ!?」

「嘘だ!!」

きっと士朗さんや恭也さんのように究極を通り越した姉バカなんだ!!。

油断するな・・・隙を見せたらやられる!!。

「ちょっと恭ちゃんにお父さん!トラウマできるよこの子!!何か可哀相なぐらいに身体がプルプル震えてるよ!!」

怖くない怖くない怖くない。


「美由希、オレはなのはを思ってだな」

「そうだぞ、恭也は良いが・・・お前はアレだから父さんは・・・」

男二人、反省の色無し。

「恭ちゃんはともかくお父さん!ちょっと酷くないかな!!それと二人のしてる事はマイナス効果だから!!」

「私も少し心配だわ、美由希・・・高校生になって浮いた噂が一つもしないから」

桃子さん、年頃の娘に男の陰が見えない事に心配。

「お母さんまで!?もう・・・私の味方はなのはだけなんだね」

「お、お姉ちゃん・・・抱きつかないで・・・重いよー」

なのはに抱きつきながら、美由希さんが涙ぐむ。


「温かな家族だ」

恭也さんや士朗さんに背中を見せないよう気を付けながらテーブルに座り直す。

高町家はみんな仲が良いみたいだ。

見ていて温かいというか、和む。



別にオレとハルカ、親父が仲が悪いというわけではないが・・・。

良いな~。と、思ってしまう。

いや、羨ましいのかな?。

オレは・・・三年間の記憶しかないから。


人生には、過去・今・未来が有る。

その三つの内、オレは『過去』を失った。

『未来』はわからないし、オレに残っているのは『今』しかない。

その今も・・・一体いつまで続くかわからない。

失った記憶が戻れば、今のオレは無くなってしまうかもしれないから。

この幸せな『今』を・・・オレが壊してしまうかもしれないから。

それは・・・怖い。

オレが臆病なだけかもしれないけど、過去を見れないオレは・・・未来も見えない。

今を・・・この幸せで・・・既に決まっている『今』しか・・・安らげない。

夢も何も無い・・・中身が無い抜け殻のようなオレは・・・何かで満たされるまで、きっと・・・未来に怯え続けるのかもしれない。



「・・・・」

嫌な考えが浮かぶ頭を振り、テーブルの上に置いた携帯を開いてカメラを起動、温かな空気を醸し出す高町家のみんなにカメラを向ける。

カメラは、料理に並ぶオレの趣味だ。

これも、やっぱりオレが記憶が無い事に理由が有る。

カメラは記憶を残せる、写真という・・・物としての記憶を残せる。

頭の中で・・・どこかまだ、記憶をまた無くすんじゃないかという怯えが有るからかな。

写真という形で、記録を・・・オレが見て、何かを感じたモノを残しておきたい。

だから、オレはカメラを向けた。

温かで、とても幸せそうな家族に・・・この温かさが失われない事を祈りながら。

日記という手も有ったが、オレはコチラを選んだ。

カメラの方が、残したい・・・記録しておきたい物をお手軽に写せるから。


カシャリ。


携帯からシャッター音が鳴り、携帯の画面に温かな家族が映し出される。

「上手く撮れたね」

ハルカが携帯を覗き込む。


オレが写真を撮る理由は誰にも言ってない、心配かけると思うし。

だけど、多分ハルカは知ってる・・・いつもカメラを向けると、ちゃんと笑顔を向けてくれるから。

その上で、ハルカは何も聞かない。

言えば聞いてくれると思うけど、決して自分からは聞かない。

他人に必要以上に干渉しない代わりに、自分に近づかせない・・・それがハルカだからだ。

けど、根は優しいから困った顔をしつつ色々と気にしてくれる。


「ああ」

写真を保存しながら頷く。

だから、オレは今を・・・この温かで幸せな今を守りたい。

力なんて無いけど、記憶が無い事が怖いけど、オレが今・・・幸せを感じる今を守りたいから。

今をずっと守り続ければ、未来に繋がるかもしれないから。

そして、今は過去として記憶になっていくから。



















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「最近の日本、どう思う?」

「いきなり過ぎだぞ、ハルカ・・・」

「ヤバいんじゃない、何かウダウダだし」

「アリサちゃん、バッサリ言い過ぎだよ。私もそう思うけど」

「すずかちゃん、それフォローになってないよ」

食後、五人でまったり話をしていると。

なのは達がそろそろ塾に行く時間だと言い、お食事会はお開きとなった。

「へ~、三人共塾通いなんだ」

ハルカが関心したように呟く。

「学校で勉強して塾でも勉強する、考えただけでちょっと嫌だな」

なおかつ家で宿題やら復習やらすると思うともう・・・。

勉強は嫌いでは無いが、進んではやりたくない。

「勉強は楽しいよ?」

「なのは、疑問系になってるぞ」

だけど、多分この三人は楽しいのだろう。

「勉強はやってて損は無いからね」

アリサさん・・・その台詞は小学三年生が言うセリフには思えないよ。


「セツナくん、ハルカちゃん、また明日」

すずかが鞄を担いでオレ達に手を振る。

なのはとアリサもそれに続く。

「ああ、三人共車に気を付けろよー、ロリコンが出たら神様を恨めよー」

「アンタは何不吉なこと言ってんのよ!!」

「アリサちゃん、落ち着いて。二人共、また明日ね」

「うん、バイバーイ」

翠屋から出ていく三人を手を振って見送る。

三人を見送った後、オレとハルカは翠屋の中に戻った。

ちょっと用事が残っているからだ。

「なのはの友達君、オレの眼の前に迂闊に出ない方が良いぞ。つい手が滑るかもしれん」

オレを出迎えるのはエプロンを付けた殺気全開の恭也さん。

どうやらまだ懲りてない様子。

「あはは・・・お兄さん。しつこいですね、そんなのではなのはに嫌われますよ。あと数年後に「お兄ちゃん、ウザい」って、言われますよ」

士朗さんは2,3割冗談だったけど、この人はマジで兄バカだ。

「なのははそんな事を言わん!!」

「言うわ!絶対言うわ!!洗濯物一緒に洗うだけでキレたり、一緒な部屋に居る時に臭いとか絶対言われるから!!」

「そんな酷い事をなのはは言わん!そう育ててきた!!」

「育てたのは桃子さんと士朗さんでしょうが!?」

ああ!何でこの人オレにここまで敵意全開なんだよ!!兄バカって言っても限度が有るだろ!何かしたかオレ!?。

「高町のお姉さん、大変ですね」

ハルカが叫び会うオレ達を見ながら、美由紀さんに言う。

「恭ちゃんがこれだから、なのはに男の友達ができても長続きしないのよね」

やっぱり会う奴全員に殺気全開にしてんだな!このお兄さん!!。

「ああ、そっちじゃなくて・・・お肌の手入れですよ。剣術とかやってると生傷絶えないですから、女の人は大変ですよね」

ハルカが美由希さんの身体を、肌が露出している手や足、首を見る。

集中しないとわからないけど、そこには細い線のような傷ができていた。

「・・・・。よく私が剣道やってるのわかったね、なのはから聞いたの?」

「いえ、見ればわかりますから」

あ、このバカ何か地雷踏んだな・・・。

一瞬、美由希さんの顔がかなり怖い真顔になったぞ。

直ぐにほんわか笑顔に戻ったけど。

「剣道とかでできるマメって特徴的なんですよね」

ハルカが美由希さんの手を掴む。


白くて・・・綺麗な手だ、だけど・・・少し皮が厚い。

それはマメが潰れて・・・手に残り、剣を握る事に手が馴染んだ証拠。


「マメは基本、肌がすれてできます。だけど、剣道の場合は竹刀や木刀を持った時に手の皮がよれ、そのよれがだんだんとマメになるんですよね」

「そうなんだよね。だから、指輪とか買う時サイズが大きくなっててちょっと悲しくなるんだ」

「あはは、大変ですね」

女子二人が笑い会う。

「あの子は、何かスポーツでもやってるのか?」

恭也さんが関心したように、顎に手をやりながら聞いてくる。

「親戚の家で剣道やってます」

たまにお世話になっている親戚の家で、二人揃って色々鍛えられている。

そしてハルカは剣道をしてるから、わかったんだろう。

「そういう恭也さんも剣道ですか?」

さっき飛針投げたりしてたし、この人も素肌が見える部分に生傷が有る。

他にも身体に重心が全くぶれないし、さっきチラリと見えたけど、この人の手の皮も厚い。


多分、長い事・・・今も継続して剣道をやっているのだろう。

生傷もそうだが、手の皮の厚さはほっとけば治るって言うし。


「まぁな、そういう君は何をやっているんだ?」

「特に何も、強いて言えば喧嘩のやり方です」

ハルカは剣の素質が有った。だが、オレには何の才能も無かった。

本当は剣道とかカッコいいからやりたかったが、オレは背が低く、体重も軽い事も有って全く剣道に向かなかった。

実際、剣においてはハルカに一勝もできないのが良い証拠だ。

親戚の人には、身体は柔らかいし、猿のように身軽だから新体操とかの方が向いてるんじゃないかと言われた。

ただ、それはかなり女っぽい感じがしたので断固拒否した。

ああ、でも新体操をやっている男の人が女みたいとかじゃないので。

個人的にアレなだけで、また女ってバカにされそうだから嫌なだけなんです。

なので、オレは喧嘩のやり方を学んだ。

理由は女みたいだからって、いじめられることが有ったからだ。

それにたまにハルカも巻き込まれることも有って、悔しかったので修行しまくった。

で、多分強くなった。

大人には勝てないけど、同年代の奴には喧嘩で負けない自信が有る。

スポーツとかルールがちゃんとしてる勝負なら負けるかもしれないけど。


「って、話がズレまくってる・・・」

オレ達は別にスポーツの話をしに来たんじゃない。

翠屋に残った理由は別に有る。

「ああ、そうだね。二人はどうしたのかな?」

美由希さんが話を戻してくれた。

「はい、やっぱりタダ飯食べてそのまま帰るのはアレなんで、お手伝いさせてください」

皿洗いぐらいならできると思う。

「別に良いんだよ、気にしなくて」

「あと、自分の趣味も兼ねて」

ズボンのポケットからメモ帳を取り出す。

「料理の勉強、させてください」

ここの料理は美味しかった、特にデザートが・・・。

レシピを聞くとか大それた事は言わないが、色々学ばせて欲しい。

「君、料理が趣味なんだね」

「はい!」

「あはは、良い笑顔だ」

だって、料理は楽しい。

献立考えるのとか、自分で新しい料理考えるの楽しいし。

「うん、わかった。お母さんに聞いてみるね。恭ちゃん、良いよね?」

「母さんが良いと言うならオレは何も言わん」

「じゃあ、聞いてくるよ」

「お願いします」

美由希さんが店の奥に戻る。

「甲斐くんも好きだね~」

「ハルカ、お前は戻ってても良いんだぞ」

これはオレのわがままだ、ハルカが付き合う理由は無い。

「私もお手伝いしたいから残るよ」

ハルカがニコリと笑う。

「そうか、ありがと」

オレも笑って返す。

「いえいえ」


「今、思ったんだが。お前達は兄弟なのか?」

恭也さんがオレ達を見下ろす。

その顔が少しだけほほ笑んでいるのは気のせいだろうか?。

「いえ、家族です」

その質問にハルカが即答する。

オレも頷いて返す。


親父が年中家を開けているので、お互いが身近に居る唯一の家族だ。

喧嘩とか良くするけど、やっぱりそこは変わらない。

互いが大切な家族で、守ろうって思う気持ちがちゃんと有る。


















[17407] プロローグ 第5章 終わる日
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 00:25



私達はポカポカ陽気の中、塾に向かってゆっくり歩いています。

アリサちゃん、すずかちゃんと一緒に話すのは今日出会った、面白いけど・・・ちょっと変わった二人のこと。


甲斐セツナくんという女の子みたいな男の子と、ハルカ・フィールちゃんという綺麗な女の子。

セツナくんは黒い髪が綺麗で、女の子みたいな顔をしています。

でも、女の子というと怒ります、可愛いのにどうしてだろ?。

ハルカちゃんはキャラメル色の綺麗な髪に、泉のような蒼い瞳が不思議な感じがする女の子。

何と言うか・・・とても自由な子です。でも、初めて会った時から良く笑っていて、笑顔がとっても綺麗です。

二人は一緒に住んでいるらしく、姉妹・・・コホン・・・兄妹に見えます。

出会いはちょっとアレだったけど、二人と仲良くなれたら嬉しいなぁ・・・。


「セツナくんにハルカちゃん、面白い二人だったね」

すずかちゃんが楽しそうに笑います。

多分、思い出し笑いです。

「二人して変わってるけどね、というか変よ変。私をツンデレ扱いするし」

アリサちゃんは少し怒ってます。

どうやら、ツンデレ扱いが相当気に入らなかったみたいです。

でも、ツンデレで間違いは無いと私は思います。

「なのは・・・」

アリサちゃんが私をジッと見る。

「な、何かなアリサちゃん?」

ギクリと身を震わせ、ぎこちない笑顔を返す。

何も写さない瞳が怖いよー、というか考えが読まれた!?。

「・・・・なんでもないわ。あー、ムシャクシャするー!!」

アリサちゃんが髪をかきむしりながら叫びます。

本当にイラついてるみたいです。

「自分だって女みたいな顔してるの認めないじゃない」

そして、セツナくんが怒るだろう一言を口にした瞬間。

アリサちゃんのスカートのポケットから音楽のメロディが鳴った。

着信音だ、誰かが電話してきたみたいです。

「ま、まさか・・・」

おっかなびっくりアリサちゃんが携帯を取り出し、通話ボタンを押します。

私もすずかちゃんも恐る恐る携帯に耳を近づけます。

『アリサお嬢様、鮫島です』

「「「ほっ・・・・」」」

誰からともなく安堵の息を吐いた。


鮫島さんはアリサちゃんの家で昔から運転手を運転手を務めている人だ。

私達が塾に行く時間だと知って、車を出すかどうか聞きに電話したらしい。


「大丈夫よ、歩いて行くわ。ありがとね」

『わかりました。では、失礼します』

電話が切られる。

「ま、当たり前よね。聞こえるわけがないわ」

強気に言いながらも、ホッとするアリサちゃん。

「心臓に悪いよね」

その肩がポンと叩かれます。

「本当よ本当。女顔だけじゃなくて、耳も良いなんてどこの化け物よ」

「「・・・・」」

私とすずかちゃんは黙っています、電話が切られてからずっと。

手も、ずっと下にさげたままです。

「ん?」

アリサちゃんもそれに気付きます。

なので、ギギギと顔を青くしながら後ろに振り向きました。

「誰が・・・誰ガ女顔ダ?」

般若が居ました。

キャシャー。と、口からキバを生やしながら煙を吐いていました。

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

両手を掲げ、般若が襲いかかってきます。

「「「きゃああああああああああああああッ!!!!!!」」」

悲鳴を上げながら私達は逃げます。

それから追い回されました。

塾に駆け込むまで、全力で走り続けました。

凄く怖かったです、泣きそうになりました・・・いえ、泣きました。

般若も泣いていました、泣きながら怒りの形相で追いかけてきました。


この時、私達は思いました。

女の子扱いは止めようと、人のトラウマを刺激したら、怖い目に遭うとこの身で実感したから。


















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「セツナくんは急にどうしたんだい?」

「ただの病気です」

「誰が病気じゃ!!」

「あ、帰ってきた。」

「すいません、士朗さん。勝手に出ていって」

「いや、気にしなくていいよ」

町内を走りまわった後、翠屋に戻って来た。

クケケケケ・・・・オレのレーダーをなめるなよ。女扱いされて3年、オレの耳は数キロメートル内でオレを女扱いする奴を察知できるように進化したのだ。

ごめんなさい・・・嘘です、ニュータイ○みたいにキュピーンと反応できるだけです。


翠屋には今、沢山のお客さんが来ている。

学校帰りの女子高生とかが一杯だ、オレが知らないだけで、翠屋はとても人気が有ったようだ。

特にシュークリームが売れており、先程から飛ぶように売れている。

オレとハルカはお手伝いを継続中、最初は皿洗いやお菓子を作る時に使った容器の後片付けだったが、お客さんが増えるのに伴い、今は注文をとるのも手伝っている。

「シュークリーム三つとモンブラン二つ、持ち帰りです」

伝票を見ながら、おみやげ用にお菓子を箱詰めしている美由希さんに言う。

「はいはい、ちょっと待ってね」

「お姉さん、シュークリーム二つとティラミス四つ、抹茶のスポンジケーキ二つもお願いします。あ、要保冷剤込みで」

「あー・・・セツナくん、箱詰めやってくれないかな?」

ハルカの追加注文に美由希さんが頼んでくる。

オレ達が頼んだ他にも注文は沢山来ており、美由希さん1人では回らない様子。

桃子さんと士朗さんは厨房だし、恭也さんはレジと接客を担当しているので他に手は空いて無い。

「いやいや、オレ素人ですよ」

さすがにそこには手を出せないって。

「大丈夫、やり方教えるから」

「わかりました。ハルカ、後よろしく」

「はいはーい」

料理の勉強とか言ってられないな、これは・・・。

というか、この人数で店を回すなんて厳しいだろ?。え?いつもはお手伝いに来てくれる子が居るんだけど、今日は来れないって?。

じゃあ、仕方ないか・・・。


ケーキを潰さないように、だけど生ものなので素早く手早く、ケーキ同士がくっつかないように緩衝材代わりの紙も詰めて、紙箱だから折れたりしないように慎重に閉じて・・・。

うー、神経使うな・・・。








それから数時間後、客入りのピークも超え、気が抜ける時間帯となった。

日も沈み出したな、店の中に差し込む光が若干赤みを帯びている。

「うーん、楽しかったね」

伸びをしながらハルカが笑う。

オレ達は厨房で休憩中、まだ桃子さんや士朗さんがお客の対応をしているが、あまりオレ達が動いても邪魔にしかならないだろうし・・・おとなしくしている。

「貴重な体験ができた」

大変だったけど、ハルカの言うように楽しかった。


やっぱり、体験したことない事をやるのは・・・新しい感覚が待っているので楽しい。

オレは・・・料理が趣味だから、なおさら楽しかった。

新しい事に手を伸ばすのはちょっと怖いけど、それを超える何かが有る。

今日の経験は色々と学べたし、何度も言うようだけど楽しかった。


「今日はありがとね、助かったよ」

美由希さんが厨房に入りながら、お礼を言う。

「邪魔にならなかったなら幸いです」

押し掛けで手伝ったみたいなものだし、邪魔になってなかったか若干心配だ。

「いやいや、大助かりだよ。ありがとう、二人共」

「こちらこそ、色々勉強させていただきました。ありがとうございます」

ペコリと頭を下げる。

盗み見る形になったけど、桃子さんや士朗さんの調理を間近かで見ることができた。

やっぱり、プロは色々違うね。

「・・・。何と言うか、最近の子供はみんな大人っぽいよね」

そんなオレを見て、美由希さんが苦い顔で呟いた。

「背伸びしてるだけですよ」

ハルカがにこやかに返す。

「その発言が十分大人びてると私は思うけど?。なのは達も子供っぽくないというか、どこか達観してるところが有るんだよね」

そう呟く美由希さんは・・・こう・・・苦い顔をしている。


確かにアリサやすずかは大人っぽい感じはした。けど、なのはは別に感じなかったな・・・年相応といった感じ。

まぁ、出会って半日でわかる事なんてたかが知れてるんだけど。

美由希さんはどこか悲しい顔をしている。

なのはに何か有るのだろうか?。

ハルカと一緒で、よく笑ってたなのはに。


「ああ・・・、気にしないで。ただ、お姉さんからのお願い、なのはと仲良くしてあげて」

苦い顔が消え、爽やか笑顔でお願いされる。

何か続けたくない話みたいだし、ここは流した方が良さそうだな。

「「はい」」

そして、オレとハルカはハッキリと頷いた。

だって三人共良い奴っぽいし、友達になれるならなりたいし。

「だが、なのははやらないからな」

意気なり会話に参加してくる鬼いちゃん(誤字に有らず)。

「だからいらないっての!アンタもしつこいな!!」

まだこの話続けるのか!?。

つうか、アンタとまともに話した記憶が一切無い気がするんだけど。

「なのはのどこが気に入らないんだ!!」

「それは士朗さんにも言われました!つうか、まだ出会って半日も経ってないのに何でそういう話に発展すんだ!類人猿もビックリする進化の速度だよ!!」

「甲斐くん、その例えわかりにくい」

人類の進化の過程と、恭也さんの話の飛躍スピードをかけただけ・・・って、説明させないで!!。

「つまり、あと少ししたらそういう話になるということかー!!」

「ちげーよ!!失礼な事言うけど!アンタバカだろ!!」

「あー、恭ちゃんにセツナくん、そろそろ静かにした方が良いよ・・・」

美由希さんがまぁまぁと間に入る。

「美由希!お前は黙ってろ!これはオレとコイツの問題だ!!」

「だから!オレはそんな気は無いと最初から言ってるじゃないですか!!」

「そう言って実はなのはの事を・・・」

「アンタはオレにどう答えて欲しいんだー!!」

駄目だ、全く話が終わらない。というか、始まってすらいないか・・・。


この人がオレとなのはをどうしたいのか全くわからない。

つうか、まだなのはのことをあまり知らないっつーの。

確かに可愛いとは思うけど、それだけだ。

彼氏彼女とか、そういうことを考えれるわけが無い。

兄バカというか・・・過保護というか、まるで温室で花でも育ててるみたいだ。

突けば壊れてしまいそうなモノを扱ってる、そんな感じが恭也さんからする。

ただの家族愛にしては行き過ぎてる、さっきの美由希さんの事もそうだし・・・本当になのはに何か有るんじゃないかと思ってしまう。


「なのはを連れてくならオレを倒してからにしろ!!」

「だから!いらねぇって!!」

ああ・・・何か全部ひっくるめて面倒になってきた・・・。

もうこのままバトルを始めようか・・・なのはは要らないけど。いや・・・でも、昼間の動きを見る限り勝てる気しないし。

色々と悩みだした時。

「恭也」

オレの背後から声が飛んだ。

凄く優しい声色なのに、やべーくらい怖い声だった。

振り向かなくてもわかる、桃子さんだ。

「は、はい」

恭也さん、顔真っ青で汗だらだら。

「まだお店は開けてるんだから、静かにね」

言葉と共に放たれるオーラに身体が押し潰されそうになる・・・これがオーラの力か!!。

桃子さんが巨大になったように感じる!!。

「「はい!」」

とりあえず、恭也さんと二人で全力で返事をした。

「男はバカばっか」

うるせいやい・・・。

























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外が暗くなり始めた頃、オレ達は家に帰ると桃子さん達に伝えた。

その時に晩御飯を食べていかないと誘われたが丁寧に断った。

さすがに、これ以上お邪魔するのは気が引ける。


「けど、おみやげ貰っちゃったね」

そして帰り道、ハルカが手にした紙箱に眼をやる。

帰り際に渡されました、笑顔全開で渡されたので・・・断れなかった。

何と言うか・・・押しが強い家族だと思った。

「良いじゃん、甲斐くんあんまりお菓子作らないんだし」

オレはお菓子作りが苦手だ、前に一度・・・平べったいスポンジケーキを焼いてから調子が悪い。

材料の分量を間違えたのか・・・いや、生地をかき混ぜ過ぎたのか・・・。

「あー、アレは微妙だったね。ギリギリ食べれる感が微妙な感じだったよ」

ハルカがその時の事を思い出したのか、微妙な顔になる。

みんなも経験したことがないだろうか、美味しくないけど、不味くもなくて、何だか微妙な感じになる料理を。


「今日会った人は、みんな良い人だったね」

「そうだな」

なのは、アリサ、すずか、桃子さん、士朗さん、美由希さん、恭也さん、みんな良い人だった。

これからずっと繋がっていければいいと思う程に。

「それに高町さん達可愛いから、お姉さん幸せだよ」

「・・・」

ウフフ。と、笑うハルカに寒気を感じた。

「お前はその歳で一体何に目覚める気だ」

やらかしても別に良いけど、オレを巻き込まないで欲しい。

「男の子にはわからない事だよ」

わかりたくもねぇよ。と、心の中でツッコミを入れた時。

ズボンの中でブルブルと何かが振動した。

着信だ、翠屋の手伝いをしていたから、マナーモードにしたままだったの忘れてた。


携帯を開くと、一通のメールが来ていた。

宛先人は不明、題名も無い。

「セールか?」

とりあえずメールを開く。









『疾走する本能

 駆け抜けよ555』











この二文だけが記されていた。

555?ゴーゴーゴー?マッハGoGoGo?。

意味わかんないな・・・。

「どうしたの甲斐くん?」

メールを見て固まるオレにハルカが声をかける。

「ああ、いや・・・いたずらメールだ」

「どれどれ?」

ハルカに携帯を見せる。

「・・・・駆け抜けよファイズ・・・か」

すると、ハルカはそう言った。

「ファイズ?」

「複数形の5だから、ファイズ。無理やりかな?」

「さぁ・・・どうせいたずらだし、どうでもいいだろ」

気にする事も無いだろう、メールを削除削除と。

「・・・・。そうだね」

ハルカがオレの前に出て笑う、辺りが暗くなり始め・・・顔が良く見えないけど、多分笑っている。

「今日から・・・始まるんだね」

「三年生がな」

「うん、あーあ・・・春休みがもう少し続いて欲しかったな~」

残念そうに、どこか寂しそうにハルカがぼやく。

「オレはちょうど良いよ、休みが長いと何か気持ち悪い」

「あはは、その感覚は私にはわからないな~。私は・・・日曜日が延々と続いて欲しいタイプだからさ」

「それは何か面白くない感じがしないか?」

ずーと休みっていうのは、退屈だとオレは思う。

「そう・・・だね、休みっていうのは忙しい時に休むから・・・ありがたみが有る。でもね」

ハルカはオレより先を歩く、歩いて・・・オレに振り向き。

「忙しいより、ずっと休みの方が・・・楽なんだよ」

そう、言った。

今度は、どんな表情なのかは全く見えなかった。

声色も無く、何も感じない言葉が耳に届いた。

「発想がおっさん臭い」

とりあえず、その言葉に対しての感想を言う。

「酷ッ!!こんな美少女に対してそんな事を言うなんて!甲斐くんどんな神経してるの!?」

「至ってまともな神経だ」

「えーん、甲斐くんが酷いよー!うえーん!!」

「バレバレな嘘泣きすんなよ」

「じゃあ!駆けっこだ!先に家に着いた方が勝ちね!!」

「話が飛躍し過ぎだし、一体何の勝負なんだ・・・つうか走るの早っ!!おい!待てよ!!」

暗闇の中、全力ダッシュするハルカを追いかける。

こっちはケーキ持ってるので、そんなに早くは走れない。

「あはは!追い付けるモノなら追い付いてみなさーい」

「待ちやがれ!!」

そして、オレ達は家まで走って帰った。









4月1日はこれで終わり、オレの3年生になって初めての1日は・・・かなり濃い一日だった。

だが、この日がオレにとっての常識有る最後の1日だった。


この日から・・・いや・・・あのメールが来た瞬間から、オレの日常はゆっくりと・・・まるで石が砂になっていくような緩やかさで・・・だが、確実に・・・








                                  壊れだした












駆け抜ける魂は・・・何を見て・・・何を感じて・・・何を紡ぐのか・・・。これはリリカル?マジカル?始まります。









[17407] 月村家編 第1章 月村家
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 01:18



月の光は、太陽の光を反射する事によって生み出される輝きだ。

月は・・・太陽の力を借りる事で、自らを輝かせ、夜を照らすことができる。

だから、月は決して太陽になれない。

自ら輝ける太陽と、光を受け取る事で輝ける月、両者の差は大きい。

真似ることはできても、決して同一の存在にはなれない。

だから、月の光は悲しいのかもしれない。

冷たくて、寂しくて、悲しくて、太陽になれないことを・・・月は嘆いているのかもしれない。

自身を認められない、褒められない、だから・・・嘆いている。

自ら輝けないことを、真似しかできないことを・・・嘆いている。






















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3年生が始まってから、早4週間が経とうとしていた。

長いようで、短い4週間だった。

なのは達と遊んだり、恭也さんと口喧嘩したり、翠屋に遊びに行ったり、恭也さんと口喧嘩したり、学校でみんなと勉強したり、恭也さんと口喧嘩したり・・・恭也さんウザいな。

新しい出会いが有った分・・・一日の密度が増し、アッと言う間に時が過ぎたように感じた。

オレとハルカは、相変わらず元気です。

ただ、最近妙な夢を見る。大雑把に説明すると、こんな感じ。



立ち並ぶビルを覆う血のような紅い光、それは・・・触れるモノを全て灰に帰しながら・・・世界を覆っていく。

ビルが、木が、人が、紅い光に触れると灰になり・・・風に吹かれて崩れる、

そして、世界が光に包まれた時、その世界は終わりを告げた。

その終わりを告げた世界で紅の戦士と金の戦士が戦い続ける。



こんな感じの夢をよく見るようになった、ストレスでも溜まってるのだろうか?。

あのいたずらメールが送られてきた夜から、この夢をよく見るようになった。

おかげで、寝起きの気分は最悪である。

最初はそんなに気にしてなかったが、週に4回もこの夢を見るようになったので、みんなに相談してみた。


とりあえずハルカに相談してみたら。

「溜まってるんじゃない、性欲とか性欲とか性欲とか」

コイツに相談したオレがバカだと理解した。


続いてなのはに相談してみた。

「救急車呼ぼうか?」

とりあえず額にデコピンをかました。


三人目、アリサ。

「どこの中二病よ」

ムカついたので、一日中ツンデレと呼びまくった。


四人目、すずか。

「うーん、同じ夢をよく見るってことは・・・それだけ印象が深い出来事じゃないのかな?」

ようやく出てきた真面目な答えに感謝感激だった。

「けど、世界が滅びる出来事に遭遇した覚え無し」

そういう映画を見た覚えも無い。

「だよね~・・・」

すずかが苦い顔で笑う。

仮に、すずかの言う通りだとしても・・・その場合はオレ死んでると思う。

だって、世界が丸々滅んでるわけだし。


まぁ、そんな感じで良い解決方法は無く。

寝起きが悪い以外、問題も無いので夢の話は終了。







今日は4月25日ちょっと曇り空の平日だ。

もう少しでゴールデンウィークの今日、オレ達はいつも通り学校に行き、グデーと授業を受けていた。


「ぐでー」

「ぐでぐでー」

そして放課後、オレとハルカはぐでぐでしていた。。

だるい・・・夢のせいであまり寝られた感が無く・・・だるい。

ハルカはオレの真似をして遊んでいる。

「ええーい!ぐでぐでうるさい!!」

机に突っ伏しながら呻くオレにアリサが吠える。

「どこか体調悪いの?」

なのはが心配して聞いてくる。

「五月病だから気にしないで」

「まだ五月じゃないの」

突っ込む場所が違うと思うの。

「アンタ、五月病がどんなのか知ってるの?」

「知ってるよ、社会人が頑張ろうと張り切ったものの・・・やっぱり自分にできることなんてたかがしれてて・・・それに絶望して戦意喪失した状態」

「微妙に当たってるけど、あえて違うと言わせてもらうわ」

オレの答えにアリサが微妙な顔になる。

「そして、最近では四月病とか六月病とかも有るんだって。みんなやる気無いねぇ、日本の大和魂は一体どこに消えたのだろう」

ハルカが日本の若者に嘆く。

ほぼ毎日食っちゃ寝しているコイツに、大和魂の何がわかるのだろう?。

つうか、四月病と五月病は意味が全く違うからな。


四月病とは、新年度の始まりと共に「今年こそは○○を本気で頑張ろう」と思ってしまう軽い躁状態や、
年度の変わり目の慌ただしさや気温の急な上昇から来る一時的な体調不良らしい。


「この間の夢の事が原因?」

「そんな所・・・」

すずかに頷く。

「甲斐くん、そんなに溜まってるんだね」

ハルカがオレに視線を合わせながら真剣な顔で呟く。

「一応聞くが、何が溜まってるんだ?」

「性欲」

即答だった、恥じらいも何も無くハッキリと言いやがった。

「帰れよマジで」

あと真顔で言うな。

「甲斐くんのイケず~」

「何がだ・・・この変態」

「変態という名の紳士と言ってくれ」

胸張って言うなよそんなこと・・・。

「世界中の紳士に土下座してこい」

「イギリスに旅行してきます」

「マジで行くな、そこにエセ外人居るから我慢しろ」

「エセ言うな」

アリサがオレの頭をグリグリしてくる。

痛いよー、地味に痛いよー。

「ハルカちゃんの言う事は違うと思うけど、ストレスとか溜まってるんじゃないかな」

「ストレスか・・・なら解消方法は一つだな。ハルカ、しばらくアリサの家に住め」

そうすれば一気にストレスが消し飛ぶ。

「「嫌だ」」

二人が同時に首を横に振った、ブンブン振った、そこまで嫌か。

「こんなの居たら私がストレス溜まるわよ!ハゲになるわハゲに!!」

ハゲのアリサ・・・ヤバい・・・ウケる。

「私もツンデレは見てるだけで良いよ!!」

「だからツンデレ言うなー!!」

「わきゃー!!」

アリサとハルカが教室から消えた。

「あの二人はよく喧嘩するな」

「火種はセツナくんだよね」

呟いたらなのはに突っ込まれた。


「そうだ、私の家に遊びに来ない?」

すずかが両手を合わせながら提案する。

「おおー、初めてのお誘い」

気が付いたらハルカが戻って来ていた。

「アリサちゃんは?」

なのはを教室を見渡しながら聞く。

「撒いてきた」

本当だ・・・廊下からアリサの怒鳴り声が聞こえてくる。

「にゃはは・・・」

なのはと共に苦笑いを浮かべる。

で、すずかのお誘いか。

「そういや、すずかの家・・・今まで行った事無かったな」

「うん、私の家遠いから」

基本、翠屋かオレの家を溜まり場にしてるからな。

他にもみんなの都合がつかなかったりとか色々理由は有る。


関係無い話だが、なのはの家とアリサの家には行った事が有る。

なのはの家は普通の一軒家だったが、アリサの家は豪邸だった。

広いしデカイし、一体どれだけ金をかければああなるのだろう?。

迎えの車リムジンだったし、あと・・・犬が一杯居た・・・ガクガクブルブル・・・。

犬は苦手だ・・・吠えられるとビクッとなる。

吠えられなかったら触れるんだけど。


「お姉ちゃんがゲーム沢山持ってるから、ストレス解消とかできるかも」

「おお、良いね」

「私も行くー」

「うん、みんなでね」

こうして、ずずかの家に遊びに行く事が決まった。

憂鬱な気分を晴らす事も有るが、すずかの家に興味が有る、あとお姉さんにも。

聞いた話では、微妙にハルカと似ている所が有るらしいから・・・若干不安だが・・・。




「ハルカー!どこ行ったのよー!!」

アレはまだ探してるのか。

「ほら、早く生け贄になってこいよ」

このままではオレも巻き込まれる。

「トラップカードオープン!生け贄封じ!!」

「ここは流す」

さっさと次の場面へ行こう。

「えー・・・せっかく第三の眼とか開眼したのに」

「閉じろ閉じろ」




















***********************************************************************************



すずかの家は結構遠かった。

学校にもバス通いしてるから、遠いのはわかっていたけど・・・本当に遠かったな。

五人で駄弁りながらバスに乗り、到着しました月村家・・・いや、月村邸だなこれは。

すずかの家は大豪邸だった、すずかはお嬢様でした。

何かデカイし、綺麗だし、森とか有るな。

アリサの家も凄かったが・・・ここも負けてないな・・・。

「ココハ本当二日本ナンデショウカ?」

「何デ片言ナンダヨ」

「甲斐クンモ片言ダケドネ」

ハルカと二人、ビックリです。

アリサの家で耐性ついたと思ったけど慣れないね。

「記念に写メ撮ろ写メ」

「観光名所、月村邸~」

「二人共、置いてくわよ」

気付いたら、三人は屋敷に向かって歩いていた。

「ちょ、遭難するって・・・」

初めて来たんだから置いてかないで。

「するわけないでしょ!!」

ですよねー。





それから、これまたデカイ玄関を通り抜けて屋敷に入った。

中に入ると真正面にはデカイ階段が。

「色々サイズがジャンボリーだ」

オレの家もデカイ方だと思っていたが、普通なのだと思ってしまう。

「洋館殺人事件」

ハルカが屋敷の中を見渡して一言。

「思い付きで物騒なこと言わない」

「はーい」

アリサの言葉に元気良く返事をするハルカ。

「・・・・反省してないだろ」

「うん!」

コイツの辞書に秩序という文字を追加してほしい・・・。





「すずかお嬢様、お帰りなさいませ」

軽く頭痛を感じていると、迎えの人が来た・・・って。

「ただいま、ノエル、ファリン」

すずかがノエルと言ったその人は、メイドさんだった。

メイド服を来ているのだから、メイドで間違いないだろう。

青い髪のショートカットで、クール&ビューティという言葉が合いそうなお姉さん。

「すずかちゃんおかえり」

そして、ファリンと呼ばれた人もメイドさんだった。

こちらは青髪ロングで、美由希さんと同い年(?)ぐらいな女の人。

あとで聞いたら15歳でした。


「おお!これは夢なのだろうか!!」

1人興奮するハルカは思考の隅にポイ捨てしよう。

メイド服・・・コスプレ?。

「本物だよ、セツナくん」

「わお・・・」

思考が洩れていたのか、なのはがオレの疑問に答えてくれた。

本職の人ですか、メイドなんてドラマとかアニメでしか見た事無いよ。

「長生きってするもんだな」

あとで写メを撮らせてもらおう。

「うんうん、お姉さん幸せの絶好調だよ」

嬉しいのはわかるが、泣くの止めような・・・みんな引いてるから。


「すずかお嬢様、こちらの方は?」

ノエルさんが感動するオレ達に視線を向ける。

「セツナくんとハルカちゃん、前に話した私の友達」

「そうですか、私はノエル・k・エーアリヒカイト。この館のメイド長をさせていただいてます」

「ファリン・k・エーアリヒカイトです。セツナ『ちゃん』、ハルカちゃん、よろしくね」

名字が同じ・・・姉妹なのか?。

「ハルカ・フィールです。お二人共よろしく」

色々聞く前に自己紹介が先だな。

「甲斐セツナ、男です・・・バリバリの男児です」

とりあえず、男だと強調・・・手遅れだったけど。

「ええっ!!」

ファリンさんのリアクションに、グサリと胸に刃が突き刺さる。

「どうせオレは執事服よりメイド服の方が似合いますよ!!ドジっ子メイド!甲斐・ハーマイオニーの誕生だよ!!」

「ご、ごめんなさい!あまりにも可愛らしい方だったのだ!!」

「ファリン、それは止めです」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

空に向かって吠えました。







ノエルさんとファリンさん、二人のメイド姉妹に案内されて屋敷の中をどんどん進んでいく。

「オレは男なんですよ・・・オレは男なのよ・・・・僕は男なのよ・・・・僕は男なんです・・・・・私は男なんです・・・・・私はおん・・・いやあああああああああああああ!!」

もう・・・立ち直れないかも・・・・。

「ああ!?セツナくん落ちついて!!」

「ごめんなさいー!!」

なのはとファリンさんが左右から声をかけるが、何を言っているのか聞こえない。

「何とかしなさいよハルカ、近所迷惑よ」

「屋敷から声洩れないと思うけどね。まぁ、わかりましたよ」

ハルカがテクテクとファリンさんに近づき。

「ほほう・・・中はこんな仕組みなのか。きゃー、凄い凄い」

ファリンさんのスカートを持ち上げ、中に顔を突っ込んだ。

「な、なななな!!」

「なにしとんじゃおのれはー!!」

ハルカの襟首を掴んでファリンさんから引き離す。

「男の夢を叶えてみた。ついでに甲斐くんを正常に戻した」

「もう少し方法を考えろよ!モロ犯罪じゃねぇか!!」

ファリンさん顔真っ赤で固まってるし!!。

「メイド服は神秘の固まりだったよ」

お前はスカートの中で何を見たんだ・・・。

「そういやお前・・・ゴスロリとか好きだったな」

「セツナ様、メイド服とゴシック・アンド・ロリータは違います。ロリータ・ファッションのモデルはヴィクトリア朝の上流階級の子供服がモデルになっていますが、
 メイド服のモデルはベルギーの民族衣装です、混同するのは間違えです」

ノエルさんが何か語り出した!!。

そしてハルカ、お前はしきりに頷く前にファリンさんに謝れ。

で、そのファリンさんは。

「え、えっちなのはいけないと思います!!」

アウトな発言を叫んでいた。

確かにアンタはメイドだが。アウトだアウト。







そんなこんなで、とある部屋に案内された。

なんでもゲーム部屋とか、凄いな色々と。

とりあえず部屋の中に入ると。

「恭也、まだまだだね」

「この!!」

良い歳した2人の大人がWiiを真剣にやっていた。

内容はテニスゲームだった。


1人は恭也さん、堅物なこの人が真剣にWiiリモコンを振るっているさまは・・・言い方は悪いが滑稽である。

もう1人はすずかをそのまま大人にしたような感じ、大人の魅力と言えば良いのか・・・凄く綺麗な人だった。が、ハルカと同じ臭いがしたので危険信号をビンビンに感じている。


「・・・・・・・」

とりあえず、リアクションに困っていると。

「私のお姉ちゃん、月村忍だよ」

すずかがお姉さんを紹介してくれた、本人はゲームに夢中でオレ達に全く気付いてないが。

「お兄ちゃん・・・」

なのはが若干恥ずかしそうだった。


それからテニスゲームが終わり、二人がようやくオレ達に気付いた。

「すずか、おかえり。みんなもこんにちわ」

「なのは、来ていたのか」

忍さんはにこやかに、恭也さんはキリッと真面目な顔で挨拶。

さっきまで真剣にWiiテニスをしていた人物には到底思えない。

「・・・・・」

ハルカが忍さんの前に一歩出る。

「・・・・・」

忍さんもハルカの瞳をジッと見る。


ガシッ。


そして、二人はまるで最愛の親友に出会ったかのように、どちらからともなく抱きしめ有った。

「お前らは一瞬で何を感じ有ったんだ・・・」

恭也さんが呆れたように左手で頭を抱える。

「恭也さん、今日から『恭也にぃ』って呼んでいい?」

自分と同じ苦労を味わっていた恭也さんに凄く親近感が湧いた。

「好きにしろ」

「わかった、恭也にぃ」

今日、恭也さん・・・もとい恭也にぃと凄く仲良くなれた気がした。

「オレを兄貴呼ばわりしても、なのはは渡さないからな」

気のせいだった。















[17407] 月村家編 第2章 幕間
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 01:28






「洋館、姉妹のメイド、猫、ヘアバンドを付けた妹、月村のお姉さん・・・もしかして魔眼とか持ってません?」

「ハルカちゃん、私はお姉さんよ。それに、ファリンはドジっ子でノエルは真面目、すずかも今はまだアレだけど将来的には凄いことになるから、あのご家庭と一緒にしたら駄目よ」

「こっちの方が萌え要素満載?」

「どちらかと言えばエロ要素かしら」

「おおー」

「恭也にぃ・・・」

この二人、出会って数分で意気投合してるんですけど!意気なりヤバい発言をしてるんですけど!すずかが面白くない顔するぐらい仲良いんですけど!!。

「捨て置け」

恭也にぃはなのはだけを見ていた、現実から妹に退避していた。

「突っ込んだら負けなのか・・・・」

















***********************************************************************************



ゲーム大会です。

みんなでゲームしまくりました。

大人数でやると、やっぱり楽しい。

忍さんと、あと意外にもノエルさんが強かった、恭也さんは予想通り弱かった・・・最近ウザいのでボコボコにした、かなりスッキリした。

残りはどんぐりの背比べかな、なのはが微妙に強かったか?。


それから少ししてノエルさんとファリンさんはメイドの仕事が有るらしく席を外し、今は何故かマリ○をやっている。

「実はマリ○の職業って、配管工ではなくて大工さんなんだって。副業しないと生きてけないのかな?」

ハルカが人差し指をピンと立てながらマメ知識を披露。

「でも、コインとか拾いまくって、お姫様とか何回も救ってるんだからお金持ちなんじゃない?」

アリサさん、そんな夢の無い事言わないで。

「噂では自分の王国とか持ってるとか、それに比べて弟は・・・」

ルイ○ジの悪口を言うなー!彼だって幽霊屋敷を制覇したり!その・・・色々やってんだぞ!!。

永遠の2番手とか緑の人気者って言われてるんだぞ!存在感が薄いから水にも浮けるんだからな!!。

自分の本とか出して生計もちゃんと立ててんだから!!。

「セツナくん、落ちるよ」

「あ・・・・」

なのはの指摘の直後、おじさんは暗闇の中に消えて行った。


テッテテ テテテテンテンテン。


しまったー!心の中でツッコミ入れてたら集中力がー!!。

「甲斐くんチェンジ」

ニコリと笑って手を差し出すハルカにリモコンを渡す。

コイツ・・・もしかしてワザと集中力が途切れる話を・・・。

「あはは、みんなで遊ぶと楽しいね」

仕返しのために、ハルカの背中に怪しい電波を送っていると、すずかがほほ笑みながらオレの隣に来る。

「そうだな、配管工のおじさんをみんなでイジると楽しいね」

ほら、おじさんがゴミのように死んでいく。

ハルカの次はアリサだな。

「違うから、おじさんだって精一杯生きてるんだから」

「つまり公園で燗酒片手にたそがれてるのに比べたら、キノコゲットして火を吐くようになった方が楽しいということか・・・?」

「スターを採ってフィーバーもしてるから、生きがい感じてフィーバーしてるから」

「ただし、その輝きは数秒しか持たないので有った」

あ、アリサも終わったな。次は恭也にぃ・・・・・終わったな。次はなのはだ。

「セツナくんはおじさんに何か恨みでも?」

「・・・・・・・・・・・・・・・無い。別に穴の中に突き落としたり、ドッス○に踏みつぶさせたりしたいとか思ってないよ」

「恨み有るよね!それも相当エグイ恨み方だよね!!」

全然そんなことナイデスヨー。

「む~、セツナくんたまにハルカちゃんと同じ方向に走るよね」

「あんなのと一緒にしないでくんない」

オレはあそこまでフリーダムじゃないよ、ちゃんと空気呼んでますよ。

「うん、セツナくんがそういうならそうなんだろうね」

すずかの顔を見る、微笑んだままだった。

「・・・・」

今のは突っ込んだ方が良いのだろうか?。

「ねぇ、セツナくんはああいうのをどう思う?」

軽く悩んでいると、すずかがそんな質問をしてきた。

その視線を追うと、なのはが敵をジャンプやら炎でボコボコにしていた。

やっぱり、何気に上手いな。

「えっと、質問の意味がわからない」

「ああいうモンスター達だよ」

まだ、今一ピンと来ない。

首を傾げるオレを見て、すずかは少し大人っぽく笑う。

何か・・・子供っぽく見られてる気がする。

「セツナくんは・・・ああいうモンスターが実際に居たらどうする?」

今度はわかった。

「警察に通報か、写真撮って売る」

うん、この二択だな。

で、何でコケてるんだすずか?。

「あはは・・・自分でどうこうはしないんだね」

「だって怖いじゃん」

草むらから意気なり飛び出して来るんだよ、勇者じゃない一般市民のオレは・・・さっさと逃げ出すよ。

「怖い・・・よね」

オレの答えにすずかは微妙な顔になる。

もしかしてモンスターのキャラとか好きなのか?。

そりゃ、ポケ○ンみたいな可愛いのだったら良いけど、ドラク○とかF○とかエグイの居るし。

「まぁ・・・ほら、ぶっちゃけ出会ってみないとわからないというか」

これ、フォローになってないな。

「うんうん、やっぱり・・・怖いっていうのが普通なんだと思うよ」

すずかが小さく首を振る。

「・・・・」

何かわからんが、悪い事したのか?。

意気消沈したというか、テンションがだだ下がりしたと言うか、すずかが微妙な感じになった。

無意識に地雷を踏んだのだろうか?。



一先ず、すずかの質問を考え直してみる。

モンスター、つまりは人外と出会ったらどうするか?。

言葉が通じなかったり、意気なり襲いかかってくるならやっぱり怖いし、逃げるだろうな。

で、モンスターをどう思うかだが・・・ぶっちゃけオレは相手の素性をどうこう言えないんだよな・・・。

記憶が無いため、オレという存在・・・甲斐セツナがどんな存在なのか、オレはそれを説明できない。

つまり、オレはもしかしたらどっかの国の王子様かもしれなければ、殺人鬼かもしれない、もしくはすずかが言うモンスターなのかもしれない。

まぁ、そんなファンタジーな存在なわけ無いと思うけど。

そんな感じだから、オレは人外相手にどうこう言える資格が無いんだ。

もしも人以外の存在がこの世に居るのなら、ちょっと病気臭いが・・・オレもその存在の仲間である可能性が出てくるんだから。

そう考えると・・・怖いな・・・。

もし自分がみんなとは違う何かだったら・・・そのせいでみんなに嫌われたら・・・嫌だな。

やっぱり・・・記憶が戻って来てほしいけど、このままで良いと思う・・・甘えた考えが出てくるよな。

現状維持、オレには・・・次へと踏み出す勇気が無いな・・・。

オレが女っぽいのは・・・こういう勇気の無さから来るのかな・・・。

あ、いかん・・・オレまでテンション下がってきた・・・。



「「・・・・」」

結局、それからオレとすずかはテンションが下がったままだった。

別に喧嘩した時みたいな険悪な空気じゃないんだけど、こう・・・微妙な感じ。

とにかく、すずかとの会話が無かった。

それにしても、すずかは何であんな質問をしたのだろう?モンスター信者なのか?それとも・・・わからん・・・。

みんなで遊んだから憂鬱な気分は飛んだんだけど、代わりにモヤッと感が出てきたな・・・。


学校帰りに来たので、日が沈むまでアッと言う間だった。

帰りはすずかの家が車を出すと言ってくれたが、オレは遠慮させてもらった。

「乗って行けば良いのに、あ・・・もしかして女の子だらけなのが恥ずかしいとか」

「今更恥ずかしいもクソもあるか、晩飯の買い出しだよ」

本当は学校帰りによるつもりだったけど、すずかの家に遊びに行くことになったからな。

「それなら、商店街まで車を出しますが?」

ノエルさんが気を使ってくれるが、遠慮させてもらった。

だって、車が高級車なんだもん・・・これで商店街まで乗って行ったら百パー注目されるよ、一種の罰ゲームだよ。

「私も一緒に行こうか?」

ハルカも気を使ってくれるが。

「お前は来んな」

「酷ッ!!」

だって、ハルカを連れていくと菓子コーナーで買う買わないのやり取りを延々続けることになる。

全くどこの子供だよと言いたくなる・・・って、オレ達二人共ガキか・・・。

「とにかく気にすんな」

まだ外は若干明るいし、バスに乗って商店街まで行って、すぐ買い物して帰れば大丈夫だろ。

「そうだ、ファリンも買い出し行くって言ってたわよね」

「はい、今仕度していると思います」

きゃー、忍さんとノエルさんの会話に不吉なモノを感じるー。

もしかしてメイドさんを連れて買い物に行けと!ご近所のみなさんから奇異の眼で見られろと!!。

「忍さん、オレ羞恥プレイは趣味じゃないんですけど」

「私は好きよ。って、なんでそんなぶっ飛んだ思考に発展してるの?。子供1人じゃ危ないと思って、ファリンと一緒に行けば大丈夫かなって思ったんだけど」

いや、確かにそれは正常な判断ですけど。

「男の子だから平気です」

とりあえず拒否ってみた。

「あら、恥ずかしいの?」

「違います」

やっぱりこの人、ハルカと性格が似ている。

そう再確認した時。

「お待たせしましたー」

ファリンさんの声と共に、パタパタこっちに走ってくる音が聞こえた。

「ほら、恥ずかしがってないで・・・年上の言う事は聞いておきましょう」

「へーい・・・」

覚悟を決めました。
























***********************************************************************************



結論から言えば・・・自分がバカでした。

メイド服を着て買い物に行くわけが無かった。

ファリンさんは年相応の普通の格好でした。

普通に考えりゃそうだよな・・・あー、アニメの見過ぎかな・・・この思考パターンは。


そういうわけでファリンさんとお買いものである。

バスに乗って商店街まで行って、スーパーにレッツゴー。


いつも買い物をしているお店に到着、ファリンさんも同じ店で買い物しているらしい。

「料理はファリンさんが?」

カゴを手に店の中に入りながら質問する、これも何かの縁だし・・・仲良くなれたら良いなと思って。

しかし、やっぱりこの時間(夕方)は人が多いな・・・レジ時間かかりそうだ。

「いえ、料理はお姉様が。私は買い出しと、すずかちゃんのお世話が主な仕事です」

少し恥ずかしそうにファリンさんは言う。

「ほえー、凄いですね」

オレにはメイドなんてできないわ、あ・・・オレの場合は執事だった。

人に仕えるというか、ご奉仕とか絶対できないと思う。

「そんなことないですよ。私失敗ばかりしてますし、お姉様やお嬢様達に迷惑かけてばかりです」

ファリンさんが少しシュンとなる。

「いやいや、ファリンさんは凄いですよ」

また地雷踏んだかな。って、焦りながら口を開く。

「無茶苦茶偉そうなこと言いますけど、失敗しても・・・何度も挑戦する勇気は凄いですよ」

そう口にして、軽く自己嫌悪する。

オレが言える言葉じゃない事に気が付いてだ。

「オレなんて、いっつも逃げてばっかりですよ」

記憶からも、自分からも、オレは逃げてばっかりで・・・立ち向かうこともせず、みんなに頼り切っている。

そんなオレが今の言葉を言う資格は無い、ファリンさんにどうこう資格が無い。

「子供は・・・それで良いと思いますよ。大人に頼っても、みんなに縋りついても」

「あはは、一応・・・オレ男ですから」

そういう・・・かっこ悪い事したくないんだよね。

男の意地ってモノが有るから、だから・・・今のオレが少し嫌いだな。

次へと進む勇気が無いオレが・・・。

こりゃ、本当に女っぽいと言われても仕方ないか・・・。

「そんなに落ち込まなくていいですよ。今、褒めてもらえて私は嬉しかったです。だから、セツナくんはそのままで良いと思います」

ファリンさんが安心させてくれるように笑ってくれる。

少しだけ、癒される笑顔だった。

「ありがとうございます。すんません、オレの方が励ましてもらって」

駄目だな・・・何か今日はすぐマイナス思考に走る。

「いえいえ、私の方がお姉さんですから」

そう言ってファリンさんは胸を張った。

あはは・・・すんませんファリンさん、凄く子供っぽく見えます。

















[17407] 月村家編 第3章 ベルトの力
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 01:56



「う~ん・・・」

野菜売り場の前で腕を組みつつ、二つの野菜を見比べる。

アスパラガスとさやえんどうの二つだ、両方とも春が旬の野菜であり・・・どちらかを副菜にするつもりなのだが、悩んでいる。

値段と量は同じくらいだ、どっちを買っても損は無い・・・損が無いから悩んでしまう。

二つ選択肢が有る場合、ぶっちゃけどうでもいい事の方が深く悩んでしまうことがないだろうか?。

そして。

「よし、たけのこにしよう」

悩んだ挙句、どちらでも無いモノを選んでしまう事が。

ちなみに、たけのこも春が旬である。

「セツナくん!落ち着いてください!!」

ファリンさんが肩を掴んで揺す振ってくる。

「はっ!危うく暴挙に出るところだった・・・・」

冷静になって、たけのこをもとの場所に戻す。

ファリンさんが居なければ余計な出費を出すところだった。

「すみません、危なくやられるところでした」

「私もよくやっちゃうんですよね。この前も夜ごはんをスパゲティにするか、もしくはマカロニグラタンにしようか悩んだ末に、何故か焼うどんに」

いやいや、その選択はかけ離れ過ぎだろ・・・小麦粉しか接点ないよ。

「というか・・・あの豪邸で焼きうどんって、シュールですね」

想像したら、なんか虚しくて涙出てきそうだった。

「お姉様に注意されなければ悲惨な夕食になってました」

ファリンさんの場合はノエルさんに止められたのね。



甲斐家の今夜の副菜は、さやえんどうの卵とじにしました。




















***********************************************************************************



買い物を終え、ファリンさんと一緒に帰る。

商店街を抜け、住宅街を通ってバス停までの道をのんびりと歩く。

辺りはもう暗く、人影は無かった。

今日は曇ってるから、月は見えないな。


「少し、時間をかけ過ぎましたね」

携帯で時間を確認すると、結構遅い時間だった。

「はい、ちょっとハシャギ過ぎました」

ファリンさんと二人、少し笑う。

うん、なんか友達同士で買い物行く見たいに騒いだから・・・いつもより時間がかかったな。

「セツナくんは、楽しい方ですね」

ファリンさんがオレを見る・・・いや、見下ろす。

「笑いのハードルを上げましたね、次からボケにくいじゃないですか!!」

「いえ!別に面白くないんですけど!!その・・・一緒に居て楽な人と言う意味です!?」

面白くないってハッキリ言われたな・・・、結構ショックだ・・・。

「セツナくん、なんで苦笑いを浮かべてるんですか?」

しかも、本人気付いて無いし・・・。

「まぁ、良いんですけどね。それで、楽な人ですか?」

「はい、一緒に居て楽でした。こう・・・よくわかりませんが」

すんません、意味がわかりません・・・。


「アリサちゃんやなのはちゃんと一緒に居て、すずかちゃんは変わりました」

話が急に変わった?。

「変わった・・・ですか?」

はい。と、ファリンさんは嬉しそうに頷いた。

「二人に出会う前のすずかちゃんは、ちょっと引っ込み思案な所が有ったんです」

ああ、そういや・・・三人の出会いの話を聞いた時に、すずかがそれっぽい事を言ってたな。



三人の出会いは喧嘩から、熱血バトルもののような殴り合いから始まったらしい・・・・・・・・すんません、嘘です。

昔、アリサがツンデレではなくツンツンだった頃、すずかの大切なモノを盗っていじめてしまったようだ、その時になのはが止めに入り、アリサにビンタを一発。

「痛い?でも大事な物をとられちゃった人の心はもっともっと痛いんだよ」

という、小学一年生が言うには凄く深い名言を残したようだ。

それから助けられたすずかはなのはを竜宮城に連れて行き、途中でいぬとさるとキジを仲間にして、山でクマとなって仕返しに来たアリサと相撲をとって・・アレ?なんの話だこれ?。

とにかく、この件をきっかけに三人は仲良くなったらしい。

なのはが言うには「今思うと、結構恥ずかしいことを言っちゃったよー」でも、後悔はしていないようだ。

アリサが言うには「あの時、私もまだまだ子供だった」らしい、今もガキだろと突っ込んだら頬をつねられた。

すずかが言うには「あの時の私は、ちょっとなよなよしてたかも」と、恥ずかしそうに笑っていた。



「はい、アレからすずかちゃんは活発・・・とまでは言いませんが、明るくなりました」

昔のすずかは知らないが、ファリンさんが言うのだから・・・そうなのだろう。

オレは、たまに大人っぽい顔をするな~。という感じの大人なイメージしか知らないから何とも言えない。

「あの二人との出会いは、すずかちゃんにとって・・・とても良いものでした」

すずかが変わった・・・いや、成長したことが嬉しいのだろう。

それは、ただ仕えるメイドじゃなく・・・友達として、お姉さんとして、家族として、嬉しいんだと思う。

だって、ファリンさんは本当に嬉しそうに笑うから。

「ですから、今度の出会いも私は良いものになればと私は思うんです」

そう、ニッコリとオレに笑みを見せるファリンさん。

ぶっちゃけ、プレッシャーが来るんですけど・・・。

これ以上すずかを成長させると頭の中お婆ちゃんになっちゃうって!頭の中一周してバカになるって!!。

「あはは・・・頑張ります」

ファリンさんから顔をそむける。


やべーよ、オレもハルカもマイナス要素しか無いよ。

あ、でもマイナスとマイナスを掛けたらプラスに・・・・ってすずかはプラスだから意味無いというか、掛け算じゃなくて足し算だし、どの道意味無いけど。

いや・・・すずかが数字のデカイプラスだったらオレとハルカを引いてもプラスのままだ・・・・って、何の話だこれ・・・。


「ですから、すずかちゃんをこれからもよろしくお願いします」

ファリンさんがオレに向けて、ペコリと頭を下げる。

やべーよ、期待度大だよ。

ただでさえ、今日とか微妙な空気になっちゃってるのにこれはヤバいって・・・。

1人冷や汗だらだら流していると、ファリンさんが頭を上げ。

「っ!!」

オレの方を見て顔を引き攣らせた。

「ファリンさん?」

一瞬、オレの方を見て驚いているのだと思って声をかけたが。

反応は無い、その顔は・・・まるで恐怖に怯えるような顔になっている。

不審に思い、背後を見ると。






曇り空で・・・街灯にのみ照らされた、暗い道の真ん中に1人の女性が立っていた。

銀色・・・いや、灰色の長髪で、武道着風の服を身に纏っている。

綺麗な・・・人だと思う、だが・・・何故か不気味さを感じた。まるで、精巧な人形を眼の前にしたような感覚だ。

そして、離れていてもわかるぐらいに大きい刃・ブレードが右腕に生えていた。

光彩が無い、感情を何も感じない紅い瞳がオレ達に向いている。






「なんだ・・・アレ?」

不気味だ、こう・・・背筋にゾクリと来る。

「何でレプリカが・・・、セツナくん・・・」

ファリンさんがようやく口を開く。

「逃げてください!!」

青を通り越し、蒼白の顔で叫んだ。


次の瞬間、人形のような女の人がオレ達に向かって飛び込んだ。

一瞬・・・一呼吸する間も無く、女の人が眼の前まで来ていた。

紅い眼がオレを見下ろす、無表情で・・・怖い・・・。

眼の前で白い何かが一閃、それが女の人の足だとわかった瞬間。

「かはっ・・・」

ファリンさんが買い物袋の中身をばら撒きながら、後ろに吹き飛んだ。

腹に膝蹴りを食らったのだと思う。

「ファリンさ・・・!!」

壁に叩きつけられ、地面に向かってズルリと落ち、動かなくなるファリンさん。

思わず名前を叫ぼうとした瞬間、女の人がオレに向かって手を伸ばしてきた。

「うわっ!!」

悲鳴を上げつつ、買い物袋を女の人に投げつけながら飛び離れる。


怖い・・・なんだかわからないが、凄く怖い。

逃げるオレに向かって、女の人は捕まえるように手を伸ばしながら近づいて来る。

オレは・・・逃げた、恐怖に怯えながら・・・女の人から逃げるために。

だが、女の人は後ろからついてきた。

夜の街を全力で走る、だが・・・女の人の視界からオレの姿は消えない。

まるで、オレを弱らせてから捕まえるかのように・・・一定の距離以上離れない。

怖い怖い怖い!!まるで機械のようにゆっくりと迫るのが怖い!右手で鈍く光る刃が怖い!!。

息が上がる、いつもはもっと走れるのに・・・心臓の鼓動が早まっていく。

頭がクラクラする、恐怖が頭を・・・身体を・・・全部を怯えさせる。

一瞬で終わらない悪夢がずっと続いてるかのようだ・・・いや、夢ならどれだけいいか!これは夢ではなく現実だ!!。


とにかくオレは女の人の視界から外れたくて、なのは達が塾の近道に使っているという脇道に飛び込んだ。

木々の中を走り抜け、木の陰に飛び込んでしゃがみ込む。


「はぁ・・・はぁ・・・」


肩を上下させ、震える身体を押さえつけるように歯を食い縛り・・・悲鳴を上げないように耐える。

いや、声を上げて助けを呼んだ方が良いのかもしれない。いや、駄目だ・・・隠れたのに居場所がバレる。


「そう・・・だ」


アレの視界から身を隠せたことで少し落ち着いたのか、少し冷静になって服のポケットから携帯を取り出す。

通話を・・・相手は誰でも良い、とにかく電話。

携帯を開いた時。ヒュン。と、何かが風が切る音が真上からした。

次の瞬間、背にした木が。バタン。と、音を立てて崩れた。


「な・・・」


上を見上げると、刃を振り下ろした体勢の女が・・・オレを見ていた。

逃げられない・・・まるで機械のように、オレを追いかけてくる。

そんな考えが頭に浮かんでくる。

恐怖に竦みながら、何とか立ち上がり、また逃げ出そうとした瞬間。


「がぁ!!」


腹に衝撃が走った。

臍の下辺りに、女の蹴りが突き刺さっていた。

オレの身体はまるでボールのように蹴り飛ばされ、別の木に叩きつけられた。

背骨がミシリと嫌な音を立て、口から酸素が吐きだされる。

身体が地面に向かって落ちる。

だが、その前に女が踏み込んできた。

右腕の刃を一閃、鈍い光を放つ刃がオレの腹を両断するように振り下ろされる。

とっさに・・・いや、運良くオレはそれを手にした携帯で受け止めた。

もとからそれほど力を込められてなかったためか、携帯は・・・斬られなかった。

だが、それを持つオレが非力過ぎて・・・再び木に叩きつけられる。

指が刃に少し触れて斬れ、血の雫が飛んだ。

銀色の携帯に・・・ぴちゃりと血の雫が付着する。



「!!」


その瞬間、まるで血のような紅い光が携帯からあふれ出し・・・それに押し出されるようにオレと女は吹き飛ばされた。














紅い光がオレの身体を駆け巡る・・・それがまるでオレの血だと言うように、身体中を這い回り蹂躙していく。

全身に熱い鉄が押し込まれたような感覚が広がり、それが頭にまで達した瞬間。

頭の中で・・・何かが弾けた。

情報が・・・知らないはずの情報が頭を走る。


紅い光・・・フォトンブラット、オルフェノク、ベルト、ファイズ、オーガ。


知らないはずの言葉が・・・浮かんでくる、脳に刻まれる、これは・・・記憶だ・・・。

灰色の化け物・オルフェノクと、紅い戦士・ファイズが戦う映像が頭を巡る・・・オレの・・・甲斐セツナの記憶が頭に流れてくる。

知らない・覚えてないが、知っているに変わる。

苦痛・・・まるで、知らない自分がオレを吐きだすような・・・オレという存在が消されるような痛みが身体を走る。


「ああああああああああアアアああああああああああアアああああアアああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


だから、オレは悲鳴を・・・痛みに、恐怖に、オレが壊れていくような感覚に悲鳴を・・・絶叫を・・・狼のような雄叫びを上げる。


紅い光・フォトンブラットが消える。

残ったのは・・・携帯・ファイズフォンだけだった。

オレは・・・携帯を拾う。

そして、正面の・・・またオレに向かって歩いて来る女を睨みつける。

頭に残ったのは・・・ファイズ、フォトンブラット、オルフェノク、オーガという単語。

それと・・・。


ファイズフォンを開き、ボタンを押す。


≪5・5・5≫


ボタンを押す度に電子音が鳴り、最後にエンターと描かれたボタンを押す。


≪Standing by≫


次の瞬間、腰にベルトが現れた。

ファイズフォンと同じ銀色と黒色のベルトだ。

ベルトの左側にはデジカメが入ったホルダーが、右側にはトーチライトが装着されている。


携帯を閉じ、頭上高く掲げる。

オレが思い出した・・・オレが思い出すのも怖くて怯えていた、オレ自身の記憶は・・・たった4つの単語と。


「変身!!」


このファイズフォンと、ベルト・ファイズドライバーの使い方だけだった。

ベルトのバックル部分にあるスライダーに、ファイズフォンの下部をはめ込み、携帯が向きを90度回転して、ベルトにぴったりとはめる。

直後、電子音声が響く。


≪Complete≫


ベルトの上下から紅い光が線となって伸び、全身を包んでいく。

そして、線が鎧の形を形成した時。


オレの姿が変わる、そう・・・変身した。


黒いアンダースーツが全身に展開。胸や肩、膝や足先に銀の鎧。全身には血管のような紅いラインが走っている。

眼の色も、金色に変わっているはず。

そう、オレのファイズの知識が告げてくる。


「ファイズ・・・・」


頭に刻まれた・・・ファイズという単語を呟く。

オレが思い出したのは・・・ファイズという力だけだった。

オレの自身の記憶も、家族の記憶も、何も出て来なかった。

出て来たのは、この・・・何もわからないファイズの知識だけ。

あんまりだと思う、確かに記憶は望んでいなかった・・・だけど。

余計にオレがわからなくなるものだけを思いだすのは、本当にあんまりだと思う。

悲しみはわかない、恐怖は消えた、代わりに湧いたのは・・・。


「・・・・・」


こんな事を思い出させた、眼の前の女に対する怒りだけだった。

















***********************************************************************************



女が変身したオレに、一瞬動きを止めたが・・・右腕の刃を振り上げながら斬り込んできた。

その動きは・・・眼で追えた。

フォトンブラットにより身体能力が強化されているのだと思う、動体視力も同じだ。

刃を身体を後ろに反らしながら避け、両足を地面から離し、背中から地面に落ちるようにしながら足を振り上げ、女の腹を後ろに向かって蹴り上げた。

今度はオレがボールを蹴るように、女を蹴り飛ばして背後の木に頭から叩きつける。

女の身体を木をへし折り、そのまま向こう側に吹き飛んだ。


「・・・・・」


立ち上がり、軽く右手をスナップさせ、倒れる女に向かって飛び込み、腹を蹴り上げる。

戦える、身体が軽い、なのに力強さを感じる。

恐怖は完全に消え、勝てるという・・・確信が湧いてくる。

だが、それと共に気持ち悪さも出てくる。

オレは・・・本当に何者なのか、さっきすずかと話した時に出てきたモンスター・・・・もしくは化け物・・・なのか、そんな嫌な考えが湧いてくる。


「くそ・・・」


さっきとは違う感覚に吐き捨てた時、女がブレードを後ろに振りかぶりながら飛び込んできた。

後ろに一歩ステップを踏み、横に払われた一閃を避け、カウンターで右の拳を突き出す。

腹に一発、さっきの蹴りのお返しも兼ねて放った一発に女の身体が後ろに揺らぐ。


だが、その表情は全く変わらない。

殴った拳も、固い感触しかしなかった。

さっき・・・ファリンさんはこの女をレプリカだと言った、まさにそうだと思う。

人形のような動作、一度も変わらない表情、一切開かない口。

生気も何も感じないコイツは・・・レプリカだ、人を模したレプリカだ・・・この女は。


ブレードが頭上から振り下ろされる、右肩に向かうそれを・・・身体を左に回転させながら避け、同時に足を振り上げて横腹に蹴りを入れる。

普通の人間なら、確実に骨が砕けるだろう一撃をレプリカは身体をメキリと凹ませただけで倒れず、再び動き出す。

また、刃が振るわれる前にレプリカの腹を蹴って吹き飛ばす。

距離が開く、三十メートル程か・・・。


「行くぞ・・・」


その距離を走る、そして跳び、空中で身体を一回転させ、起き上るレプリカに向かって右足を突き出しながら飛び蹴りをする。

もう一度レプリカを吹き飛ばす。

レプリカの身体は宙を十メートル程舞い、地面に落ちた。

だが、再び立ち上がる。


「しつこい!!」


オレは苛立ちを隠そうともせず叫び、レプリカに走り込む。

相手も右腕の刃を振るって応戦しようとするが、それより速く踏み込み、その胸に蹴りを叩き込んだ。




互いの動きが止まる。

それは・・・・一瞬。

レプリカが背中から地面に倒れ、動かなくなった。




生きているかどうかは・・・わからない・・・だが、生きてないことは確実だ。

レプリカは最初から生きていない、アレだけ強い衝撃を与えたのにも関わらず、生き一つ吐かず・・・眼を開けたまま倒れているからだ。

なにより・・・蹴りを入れた時の感触が人では無かった、まるで・・・鉄のように固いものを蹴った感触だった。


「はー・・・・」


長い息を吐く、何も・・・オレは手に入れなかった。

記憶と言うには・・・あまりに謎過ぎる単語、化け物のような力を手に入れられる・・・このベルトの力、この二つだけがオレの手の中に有る。

だが・・・それが何だと言うのだ!オレは・・・結局・・・何も・・・何も思い出していないじゃないか!!。

逆だ・・・余計にわからなくなった!!。


「オレは・・・オレは・・・一体!何者なんだあああああああああああああああああああッ!!!」


身体の奥底から湧いた怒りを声にして叫ぶ・・・獣のように・・・空に・・・世界に・・・オレの存在を問うた・・・。

だが・・・・答えは・・・帰って来なかった。

その代わりに・・・・身体の鎧が紅い光を残して・・・掻き消えた。

ファリンさんの事も・・・眼の前に倒れる女の事も・・・頭からは消えていた・・・ただ、オレは・・・空に向かって吠え続けた。














[17407] 月村家編 第4章 事情
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 02:16



気が付いたら雨が降っていた・・・。

髪から滴る水が・・・びしょ濡れの服にポタリと落ちる。

声は枯れ果て、身体は凍てつき、動く気力も無かった。

オレは・・・甲斐セツナは・・・一体何者なのか・・・。

本当に人間なのか・・・それとも化け物なのか・・・または別の何かか・・・。

ファイズとは何だ?オルフェノクとは何だ?オーガとは一体?。

疑問・・・誰も答えてくれない疑問が頭を渦巻く。

オレは・・・何者なんだ・・・。

みんなと一緒に生きていて良いのか・・・。

オレは・・・オレは・・・これからどうすれば良いんだ・・・。

ファイズフォンはオレの手の中に有る。

オレを証明できる唯一の手掛かりにして、オレという存在をあやふやにした力。

「・・・・・教えてくれ・・・・オレは・・・」

全てがわからない・・・オレは・・・甲斐セツナは・・・何なんだ・・・。



それからどれくらいの時間が経ったのか、気が付いたら雨が止んでいた・・・。

いや・・・オレの周囲だけ、雨が止んでいた。

影が・・・オレの身体に落ちる。

顔を上げると、恭也にぃが立っていた。

腕を掲げ、オレに雨が当たらないようにしていた。

「恭也・・・にぃ・・・、傘・・・忘れたのか・・・?」

声は掠れていた。

恭也にぃは・・・ずぶ濡れだった、オレと同じくらいビショビショだ。

「少し休め・・・」

恭也にぃが頭を優しく撫でてくれた。

それが・・・冷たいのに・・・凄く温かく感じて・・・。

「きょ・・・うや・・・にぃ・・・」

もう・・・訳わかんなくなって・・・恭也にぃに泣きついた。
















***********************************************************************************



「巻き込んだ・・・か」

泣いている途中で眠ったのか、ぐったりとオレに寄り掛かる・・・まだ小さい子供を抱え上げる。

その体は・・・氷のように冷たく、表情も怯えと恐怖で固まっている。


甲斐セツナ、4月の初め・・・なのはにできた新しい友達。

女の子のような顔をしていて、美由希と母さんが女の服を着せようと奮闘している。

我が家での高感度は高いと言える。

ただし、オレは違う。

オレは、コイツがあまり気に入らない。

なのはの婿候補と母さんが笑いながら言っているのに危機感を感じているわけでは無い、断じてだ。

オレは・・・コイツの眼が気に入らない。

コイツの眼は・・・淀んでいた。

周囲を見ているようで見ていない、前を見ているようで・・・下を向いている。

自分をみんなと違う何かだと思っているような、嫌な感じ。

そういう輩は危険だ・・・他の奴らを巻き込み、自分の存在を正当化させるために暴走する。

実際、オレはそういう奴を見たことが有る。

だから、オレはコイツがいつか・・・なのはの害になるのではないかと危惧していた。

相手が子供とかは関係無い、拭えないんだ・・・嫌な感覚が。

それは父さんも感じていたが、最近では警戒していないようだ。


「恭也もまだ若い」


コイツと出会ってから一週間後ぐらいに、警戒するオレに父さんはそう言った。

その時は意味がわからなかったが、今日・・・少しだけわかった気がする。

コイツが自分を他人とは違うと思っているのは、自分の事を信用していないからだ。

他人を信用せず、自分だけを信用するのとは真逆。

他人だけを信用して、自分を信用しない。

見下しているのだ・・・自分を。

迷子の子供・・・そんな表現が近いかもしれない。

弱い自分だけでは何もできず、強い他人に助けを求めてさ迷う子供・・・。

だが、コイツは迷っているのに誰にも助けを求めなかった。

そうでなければ、どうしてこんなところで雨に打たれていた?どうして必死に泣くのを耐えていた?。


「ふぅ・・・」


コイツは迷い子だ・・・誰かが支えないと、導かないと、何もできないのかもしれん・・・そこは確実だ。

だが、「何か」が助けを求めるのを邪魔しているのか・・・コイツは助けを求めない。

その「何か」まではさすがにわからない。

ただ、極限までようやく追い詰められ、コイツは泣いた。

それほどまでに深く、固い「何か」がコイツには有るのだろう。

今、手の中でぐったりしている奴は・・・それほどまでに弱っている。

子供が背負うには・・・1人で背負うには・・・あまりに重い「何か」を背負っている。


助けを求めたくても・・・求められない、自分がみんなとは違う・・・怯えが有るから、拒絶されるのが怖いから・・・。

「似ているのか・・・」

オレが・・・知る奴と・・・コイツは似ているのだろうか?。

自分の殻に閉じこもっていたが、愛情に飢えていたアイツと・・・。






答えは見付からず、セツナの身体の事を考え・・・オレは早足にこの場を去った。

もう一つ、疑問が有る。

ここに来た時、レプリカは既に破壊されていた。

オレに救援を送ったファリンが倒していないことは確実だ。

レプリカの傷・・・腹部に有った、何かで蹴りつけられたような跡。

子供の足と同じ大きさの凹み。

オレでも・・・素手でレプリカに傷は付けられない。

この場には、レプリカとセツナしか居なかった・・・なら、コイツがやったのか?。

年端もいかない子供が1人で・・・?。

もしそうなら・・・コイツが自分を見下す理由は・・・そこに有るかもしれないな。


















***********************************************************************************



平和ボケしていた・・・。

家に戻ってきた恭也に抱き上げられたセツナくんを見て、私は全身の血の気が引く感覚と共に・・・そう後悔した。

もう終わったと思っていた・・・可能性は消えてないのに。

これは・・・私の落ち度だ・・・。


「雨に長く打たれていたようだ、温めてやってくれ」

「はい!」

ファリンがセツナくんを連れ、屋敷の奥に下がる。

「恭也・・・」

「安心しろ、怪我は無かった」

恭也が頭をポンポンと撫でてくれた。

不安が少し薄れ、頭が冴えてきた。

「ノエルの方は?」

「何ともなかったわ。ハルカちゃんを連れて、今帰って来てる」

セツナくんが襲われた以上、ハルカちゃんにも何か起きる可能性は有る。

高町の家には美由希ちゃんと士朗さんが居るから大丈夫だろうし、バニングスの家も警備はバッチリだから大丈夫だと思う。

「なにより、バニングスほどの資産家をそう簡単には襲えないだろう」

「そうね」

恭也の言葉に頷く。

それに・・・相手の狙いはここに有るのだから、無用ないざこざは避けたいはず。

だから、何の守りも無く、後ろ盾も無いセツナくんを狙ったのだろうし・・・。

「あの人達に連絡は?」

「した。多分、何とかしてくれると思う」

この件の主犯は直ぐに捕まると思う。

相手は最初の一手を失敗した、レプリカという証拠も残っているし。

ただ、問題が二つ・・・。

「捕まるまでに悪あがきが来るだろうな」

もう一度・・・確実に戦いが起きる。

レプリカが起動している以上、あの子が出てくる。

「忍お嬢様、ただいま戻りました」

「お邪魔しまーす」

もう一つの問題は、巻き込んだしまった・・・この子達にどう説明するかだ。




「甲斐くんがご迷惑をかけたようで。助けてもらって、ありがとうございます」

自分の家族が倒れたと聞いたのに、酷く冷静に・・・ハルカちゃんはお礼の言葉を言う。

私には・・その言葉を受け取る資格は無い、だから・・・その言葉は重い・・・。。

「いいえ、気にしないで。多分、部屋で寝ていると思うから・・・ノエル」

「はい。ハルカお嬢様、案内いたします」

今は・・・説明できない、少しだけ・・・考える時間が欲しい。

最低だけど、時間を稼ぎたかった。

「お願いします」

ハルカちゃんがノエルと共に屋敷の奥に向かう。

「ああ・・・、月村のお姉さん」

その途中、ハルカちゃんは何かを思い出したように立ち止まり。

「私、隠し事は好きですけど」

万人が笑顔だと判断する顔で私に・・・私達に振り向き。


「嘘だけは大嫌いですから」


一切感情が籠ってない、人形のような作り笑いを浮かべながら・・・ハルカちゃんはそう告げた。

「ええ・・・、私もよ」

背筋にゾクリが悪寒が走る・・・。

子供がするような顔じゃないと思った、本当に・・・人形でも見てるような不気味さを感じた。

「良かったです、私と同じで」

今度はニコリと本当の笑みを浮かべ、ハルカちゃんはノエルと共に屋敷の奥に向かった。

「あの二人は・・・特別なようだな」

恭也が少し引き攣った表情で呟く。

「そうね・・・」

これは、ちゃんと考えて話さないと・・・後々の関係に溝ができるかも。


ハルカちゃんは、昼にも思ったけど・・・中身が凄く老成していると思う。

ずっと笑っているけど、本当は笑ってない時も有る。

普通の時の顔が笑顔なのだ、だから・・・笑顔が笑顔じゃない。

だから、私は今・・・人形と表現した。

それも凄く精巧な人形、私は・・・ちょっと特殊だからわかったけど、他の人はわからないと思う・・・恭也や士朗さん、桃子さんでさえ見抜けないと思う。

それに・・・今のあの子のセリフ、何か凄い事を隠してるかもしれないわね・・・。


「そう言えば、すずかちゃんはどうした?」

そうそう、我が妹のためにもここは慎重に話を進めないと・・・って。

「アレ~?」

そう言えば、すずかはどこに?。

さっきまで私の傍に居たはずなのに。

















***********************************************************************************



巻き込んだと、私達の問題に・・・セツナくんとハルカちゃんを巻き込んだとお姉ちゃんに聞かされた時、私は心臓が止まりそうになった。

凄く苦しくて、申し訳ない気持ちと、不安と恐怖が湧いた。


私は今、ファリンと一緒にベットで寝ているセツナくんを看ている。

ぐっすりと眠っているセツナくんが、早く起きないかと願いつつ。

「・・・・・・」

その逆の事も・・・少しだけ願いつつ。

セツナくんとハルカちゃんに私自身の秘密を話さないといけないかもしれないから・・・。

それが・・・怖い。

私の秘密を知ったら拒絶されるかもしれない、恐れられるかもしれない、嫌われるかもしれない。

せっかく友達になれた二人に、拒絶されるのが・・・怖い。

「すずかちゃん・・・ごめんなさい、私が・・・守れなかったから」

怖くて震える私に、ファリンが泣きそうな顔になりながら謝る。

「うんうん、きっと・・・いつかはこうなっていたと思うから・・・」

私は・・・何とか笑って返した。


そうだ・・・いつかはこうなった。

今日起きたことは、例え今日起きなくても・・・近い将来に起きたと思う。

そして、その時は眼の前に寝ているのはハルカちゃんかもしれない、アリサちゃん・・・なのはちゃんである可能性も有る。

私が『   』だから、普通と違うから・・・。

みんなとは・・・一緒になれないのかな・・・やっぱり・・・。


「すずかちゃん・・・」

ファリンが私の顔を見て、手を動こかそうとした時。

「やはー、お二人さん元気ー」

部屋の扉が開き、元気な声と共にハルカちゃんが入ってきた。

「ハルカ・・・ちゃん?」

いきなりでびっくりしたけど、すぐに理解した・・・そうだよね、家族が倒れたって聞いたら直ぐに駆けつけるよね。

「眠り姫は寝たまま・・・か」

私達がちょっと固まっている間に、ハルカちゃんはセツナくんの顔を覗き込み、そう・・・静かに呟いた。

「すずかちゃんは何で泣いてるのかな?」

「あ・・・」

そして、私に振り向いて・・・そっと頬を撫でた。

そこでようやく、自分が泣いていることに気付いた。


「眠り姫に涙姫、おまけにドジッ子メイドとは・・・萌え要素満載だにゃー」

涙を拭っていると、ハルカちゃんがウシャシャと笑う。

「わ、私はドジッ子なんですか?」

「はい」

「ハッキリと笑顔で言われましたー・・・」

ファリンがシクシクと崩れ落ちる。

「ハァハァ・・・写メ写メ」

それを激写するハルカちゃん、眼が本気だったので少し怖いと思った。


「あの・・・ハルカちゃん」

撮った写真を保存するハルカちゃんに声をかける。

「何かな月村さん?」

私に振り向き、小首を傾げつつニコリと笑うハルカちゃん。

その笑顔を見て、罪悪感と共に・・・一つの決意をした。

「あのね・・・私」

話さないといけない・・・二人を巻き込んだ責任として、嘘は付きたくないから・・・。

「・・・・」

ハルカちゃんは静かに待ってくれている。

「あの・・・私は・・・」

声が・・・震える、私の言葉に対する返答を想像してしまって・・・声が出ない。

嫌われたくない、怖がられたくない、友達をやめたくない・・・。

そんな・・・自分のための思いに、私は言い淀んだ。

「私は・・・私はね」

言えなかった・・・怖くて・・・言えなかった・・・、そんな私自身が・・・凄く嫌だった・・・。

「月村さん・・・」

「あ・・・」

怖くて・・・また震えて、涙が出てきそうになっていると・・・ハルカちゃんがギュッと抱きしめてくれた。

そして、落ちつけるように・・・頭を撫でてくれた。

「月村さん・・・言えない事は・・・言える時に言った方が良いよ。無理に辛いことを言うと、その分辛いだけなんだから」

子供を諭すように、ハルカちゃんは言葉を続ける。

「泣くぐらいに、震えるぐらいに怖い事を・・・私は無理に聞かないよ。私は・・・甲斐くんも、月村さんを信じてるから大丈夫。

 月村さんの気持ちがちゃんと固まってから、ゆっくり話して・・・ね」

笑ってくれた・・・優しく、それが・・・本当に嬉しくて・・・。だから、何も喋れない自分が・・・本当に嫌で・・・。

「ごめんね・・・ごめん・・・ね・・・」

「気にしない気にしない、私達友達でしょ」

抱きしめながら、頭をゆっくり撫でてくれるハルカちゃんに・・・私は泣きついてしまった。

本当に・・・手放したくないと思った・・・、大切な・・・大切な友達を。




























第9章へ続く・・・











≪あとがき≫

私事で本当に申し訳ありませんが、学校が始めるため・・・更新が遅くなるかもしれません。

最低でも一週間に一話は投稿していきたい思います。

なのファイズでした。



[17407] 月村家編 第5章 長い夜
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 02:23



(あったけー)

何か全身をふもふもした物に包まれて、何かふもふもしている、ふもっふって何か幸せだな~。

あー、なんかこのまま昇天してもいいかも・・・。


とか言っている内に花畑がー、川がー、白衣を着て△のよくわかんないの付けた人がー、やっぱりソウルソサエテ○とかグレートスピリッ○は無かったなー。

「天国行き、二十二万だよ」

川の前で何かのチケットを売るおばはんが居た。

金額が具体的過ぎるだろー、つうか地獄の沙汰も金次第って・・・こういう意味なのか・・・。

現実も厳しいけど、あの世もシビアだな。

「すんません、手持ち無いんですけど。キッズ料金とか無いですか?」

「8が付く日は二割引き、それ以外は無いよ」

パチンコかよ・・・。

「坊主、地獄の沙汰の金次第なんだ、現実も厳しいけど・・・あの世もシビアなんだよ」

「それはもう突っ込んだ。つうか金が無ぇ」

「そうか、では坊主は地獄行きだ。安心せぇ、アメあげるから」

そう言って、袋に入ったあめ玉を取り出すおばさん。

シゲキ○クスサイダー味・・・これはあめ玉なのか?。

「いきなり決めないでください、というか・・・あめ玉一つで乗り切れる地獄ってなんだよ」

アレか?シゲキ○クス10個一気食いでもやんのか?。

「AVを24時間無休で視聴」

「地味にキツイなオイ!というか子供になに見せてんだよ!!」

「AV。安心せぇ、ス○○○や(パイルダー!オン!!)も有るから」

「何で種類豊富なんだよ!つうか!死人に性欲とかあんのかよ!!」

ああ・・・いや、もういい・・・あの世に常識もクソも無いだろうし。

「坊主、人生と言うのはだな。終わった時にこそ、新しい始まりが有るんだぞ」

「本格的に人生終わってますけど!地獄のどん底に落ち続けてますけど!!ていうかもう意味わかんねぇよ!!」


























*********************



「はっ!?」

何と言う夢を見てんだオレは・・・。

病んでるのか・・・ヤンデレに突入したのか?。

というかここどこ!あ~でもふもふもだから良いか~あったけーしー、二度寝しよ~。

「甲斐くん、空気呼んで起きようね~」

「アイタタ・・・」

ハルカに頬を抓られました。

現実が地獄でした、暴力反対!!。

「あ~、おっはー」

髪をガリガリ掻きつつ、眼を開ける。

見知らぬ部屋の、デカイベットの上にオレは居た。

部屋の中には。

「死語だよそれ」

「まだ大丈夫だよ」

ハルカと。

「セツナくん、よかった・・・」

「うう、よかったです~」

マジ泣き寸前のすずかさんとファリンさん。

「ハルカ、お前何した?」

オレが寝てる間にセクハラとか痴漢とかセクハラとかしたんじゃねぇのか?。

「そこで即座に私のせいにする甲斐くんに素敵な殺意をプレゼント。あと、まだしてないよん」

ニッコリ笑顔で殺気全開は止めてくんない!怖いから!!。

つうか、まだって言ったな!いつかやる気かよ!!。

「というか泣かないで!凄く困るからさ!!」

本格的にボロボロと涙を流し始めた二人に冷や汗だらだら。

だれか助けて!!。

「ほら、甲斐くん。ここはビシッと抱きしめてぶちゅっていこー!お姉さんが許す!!そして3(ピー)まで一気に発ぐばはッ!!」

はい、下ネタ言う奴はサーチ&デストロイ。

「お前も空気読めよ!つうか隠せてねぇ!!」

とりあえず、死んでもこのバカには助けは求めないと今日決めた。


















***********************************************************************************



「すずかの家、か・・・」

三人に、どうしてオレがここに居るかを聞いた。

どうやら恭也にぃに助けられてから、ここに運ばれたようだ。

「身体は大丈夫?」

「全然平気、だから涙眼やめてほしいな」

両腕をブンブン振り回し、元気なのをすずかにアピール。

身体は本当に平気だ、指切ったのも絆創膏して有るし、ファイズになった不調も・・・。

「・・・」

変身後は少しだけ疲れるけど、それ以外は平気だ・・・。

「セツナくん、やっぱりどこか痛いのでは!?」

身を乗り出してくるファリンさん、その勢いに少し引く。

「ファリンさん、マジで元気ですから」

だから、貴方も涙眼止めて。


「ファイズフォ・・・オレの携帯は?」

「ここに有りますよ」

「ありがとうございます」

ファリンさんが差し出したファイズフォンを受け取る。

傷一つ無い・・・それを確認して、なんか微妙な気持ち。

「・・・・・・・」

これからどうしよ・・・マジで。

「「・・・・・」」

オレが黙り込むのと同時に、すずかもファリンさんも黙り込んでしまった。

「とりあえず、一から話さない?」

ハルカが指をピン立てて提案する。

話す事か・・・オレ変身、何か人っぽいの倒した、オレ本当に何者なんだろ・・・どこの変身ヒーローだよ。

やべーよ、可哀相な眼で見られるー。

「んー、じゃあ、私から質問していこうか。問い1、甲斐くんは何で倒れたのかな?」

「何か・・・変なのに襲われた」

そうとしか言えないな、人のような人形のような・・・何か変なの。

「美人だった?」

お前はまずそこなのね・・・。

「仮に美人だとしたらどうする?」

「これも何かの縁だと思って・・・お近づきに」

「もう少し選り好みしろよ!!」

「選ぶ恋なんて長続きしないよ!それに美人は貴重種なんだよ!!」

「そういう問題じゃねーよ!!」

駄目だコイツ・・・もう末期だ。


「質問2、それをどうしたの?」

「倒した・・・」

「倒したんだ・・・」

「倒したの?」

「倒したんですか!!」

すずかがビックリした顔で固まり、ファリンさんがまた身を乗り出してきた。

「ええ、まぁ・・・・」

顔が至近距離まで接近、ビクッとなりながら身を引いた。

「どうやってですか!?」

そして、質問が重ねられて・・・。

「あー、その」

返答に詰まった・・・。



言えないと言うか、言いたくない・・・。

変身した事、それを言って・・・オレがどう見られるかが怖い・・・。

拒絶されるのが怖い・・・。

家族であるハルカに、友達であるすずかに、せっかく知り合ったファリンさんに、避けられるのは・・・怖い。

でも、言わないと駄目だよな。

ファイズフォンを握りしめながら決める。

本当の事を伝えないと、みんなを騙す事になる。

嘘を言って友達を続けるより、全てを話して・・・それから・・・考えるの止めよ、言うの怖くなるし。

みんなに嘘付きたくない、それで良いじゃん。

オレが何者とか二の次だ、よし!覚悟を決めよう。



「実は・・・」

意を決し、ファイズの事を話そうとした時。

「ファリン」

扉が静かに開き、その隙間からノエルさんが声を出す。

話を遮られ、オレは口を閉ざす。

うぅ・・・少し恨みますよ、ノエルさん・・・。

「お姉様?」

だが、扉の隙間から見えるノエルさんの顔は真剣そのものだった。

ファリンさんも少し戸惑ったような表情だったが。

「・・・。今、行きます」

少しした後、ハッとした表情になり、立ち上がって部屋から出て行く。

「ファリンさん?ノエルさん?」

「セツナくん、次は必ず守って見せます」

「お嬢様方はゆっくりしていてください。あとで紅茶をお持ちします、それまで・・決して部屋を出ぬようお願いします」

なんか物騒な事を言いながら、メイド姉妹は部屋を出て行った。


「・・・・」

ハルカと二人、首を傾げる横で、すずかだけは真剣な顔で二人を見送っていた。

「セツナくん、ハルカちゃん、今から・・・少しだけ外が騒がしくなると思う」

そして、オレ達を交互に見ながら・・・そう言った。

「それって・・・」

「甲斐くんを襲った人達が来る」

マジですか・・・。

「美人さん襲来、これは萌えるね」

「お前は黙れ」

よくわかってないからフザケタ事を言ってるんだと思うけど、場の空気を読め。

「へーい」

この野郎・・・。

まぁ、いい・・・それで、オレを襲った奴が来るって・・・何でだよ。

「オレを狙ってるのか?」

もしかして・・・オレが失った記憶に何か関係が・・・。

「うんうん、二人は・・・私達の問題に巻き込まれただけ」

不安がるオレを安心させるように、そして・・・悲しそうにすずかがほほ笑みながら首を振る。

「お家の問題?」

「うん、ごめんね・・・・」

ハルカの質問に、すずかは泣きそうな顔で謝る。

「すずかの家は・・・何か有るのか?」

あまり・・・深入りしたら駄目だとわかってても、聞いてしまう。

「家もそうだけど、私達もかな」

だけど、すずかは何かを決めたような・・・強い意志を宿した眼で答えてくれる。

「親戚というのかな、その人達が問題なの」

「は・・・?。なんで身内同士で?」

「私の家は・・・縁者の中でも一番の資産持ちなの」

その資産を狙って・・・でも、そういうのは普通親が・・・って、すずかの両親について・・・聞いた事が無い。

「誘拐と脅迫、テンプレだね・・・もっとも最低な・・・」

ハルカが面白く無さそうな顔で呟く。

なんつうか・・・腐ってる。けど・・・現実なんだよな・・・、こんな繋がり方しかできない奴が居るってことが。

ドラマとかで・・・そんなの見たことあるけど、実際に見ると・・・嫌な感じだな。

「もう一つ、理由が有るんだ」

すずかが口を開こうとした時、屋敷内で・・・何かが爆発したような鋭い音が響いた。




















***********************************************************************************



「来たか・・・」

玄関の前に立ち、両手の刃を構える。

「恭也、警護装置じゃ・・・レプリカ達には傷は付けられないから」

「・・・」

背後の離れた位置、そこで身を潜める忍に無言で頷く。


屋敷の防犯カメラで敵の数を確認したところ、正面から三体のレプリカが接近中。

本体は・・・別口から来るだろうが、忍はオレが守るし、子供たちにはノエルやファリンが居る。

あの二人ならオリジナルに負けはしない。

それに・・・。


玄関が外側から吹き飛ぶ、そして・・・破片を撒き散らしながら・・・セツナを襲った奴と同機種の敵が三体、屋敷の中に踏み込む。

だが、それは同時にオレの間合いに入った事になる。

地を蹴り、一気に加速。

三体の内・・・一番眼の前に立つ奴に踏み込み、右の小太刀を一閃。

相手はオレを識別する前に、首を刈り取られて大破する。


それに・・・オレが手早く片づければ、直ぐに終わる。

迎撃態勢を整え、斬り込んでくる敵に踏み込みながら・・・そう考えた。


















***********************************************************************************



「お姉様」

「わかってます」

すずかちゃんの部屋の前、まるで門番のように私とお姉様は立っていた。

今、玄関の方で恭也様が戦っているはず。

本当は力を合わせた方が良いんだけど。

「あら、読まれてましたか・・・お姉様方」

廊下の奥から、2人の女性が出てくる。

恭也様の言う通り、やっぱり別働隊が居た。

狙いはやっぱり・・・すずかちゃんだ。



1人は私とセツナくんを襲ったレプリカ、もう1人はレプリカと同じ姿・・・うんうん・・・レプリカが似ているの。

レプリカじゃない、オリジナル。

レプリカとは違い、髪の色はブラウンで右手の手首に鞭が巻いてあるのがその証。

イレイン、それが彼女の名前・・・レプリカを操ってるのも彼女・・・・。

だから、この人を倒せば・・・終わる。



「不法侵入です、泥棒」

「こっちも仕事なのよ、ここは可愛い妹に顔を立ててくれないかしら・・・お姉様」

「姉と呼ばないでください、不出来な妹は一人で十分です」

お姉様とイレインの間で火花がバチバチと飛んでいます。ですけど、不出来だなんて・・・お姉様酷いです・・・。

確かに私はドジですけど、がんばってるんですよ・・・。

「セツナ様を狙ったのはどうしてですか?」

1人泣きそうになっていると、お姉様がイレインを睨みつけながら質問しました。

「そうです!どうして私ではなく!セツナくんを襲ったんですか!!」

私も同じ質問をします。

どうして、何も関係無いセツナくんを襲ったかを。

誘拐するなら、私でも良い筈なのに。

あの時の悔しさと、なにもできなかった自分に対する苛立ちを思い出しつつ、私は答えを待ちました。


答えは・・・笑い声でした。


「ぶっちゃけ、アンタ達の知り合いなら誰でも良かったのよ。お人よしのアンタ達なら、誰を人質に使おうが・・・誘いに乗るだろ?」

つまり・・・本当に誰でも良かったと・・・。

そんな事で・・・セツナくんを襲って、そのせいで・・・すずかちゃんが苦しんでると思うと・・・頭がカァーと熱くなった。

「・・・許しません」

「私もです!!」

「なら、次は守ってあげなよ!!」

イレインは不敵な笑みを浮かべ、左手のブレードを振り上げながら私達に襲いかかった。



























[17407] 月村家編 第6章 人とは・・・
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 03:00



「本当に襲ってきたのかよ・・・」

部屋の外から、騒がしい音・・・違うな・・・何かが衝突する音や破裂音、日常では決して聞こえないだろう戦いの音がしてくる。

「マジなんだね・・・」

ハルカも振動でガタガタと揺れる扉を、眼を細めて見据えている。

「・・・・」

すずかは黙ってる、俯いて・・・オレ達から顔を逸らしている。

「寝てる場合じゃねぇな・・・」

布団を退かし、ベットから出る。

男はオレだけなんだから、二人はオレが守らないと。

「「・・・・・」」

立ち上がったオレを見て、ハルカとすずかの眼が点になった。

「ん?」

二人の視線は・・・オレの身体を向いている。

あ・・・そういや服濡れてたはずなのに暖かい、まさか・・・裸!?。

急いで自分の身体を見下ろす。

「ぐげらッ!!」

そして、吐血した・・・。


オレの身体には・・・蒼い物が巻かれていた。

それは・・・まるで蒼くて綺麗な夜を身に纏ったかのような綺麗な色で、ふわふわしていた・・・。

上質な生地なのだろう、肌に滑らかな感触が当たる。

肩から足先まで伸びるそれは、まるでキャミソールみたいで・・・。


「それ・・・私の服。あ、そう言えば甲斐くんの服濡れてて、代わりの服が無いから・・・私の服を着せたんだった」

すずかが説明してくれた。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

悲鳴を上げつつ頭を抱え、床に膝ま付く。

女の子の服を男のオレが来ちゃってるYO、つまり・・・女装?ノオオオオオオッ!?。

全裸よりダメージがデカイぞこれ!?

「甲斐くん!グッジョブ!!」

「お前は黙れええええええええええ!!そして死んでええええええええ!底なし沼に頭から突っ込んでえええええ!!」

親指立てるハルカに渾身の叫びを放つ。

「えっと、似合ってるよセツナくん・・・」

「すずかちゃーん!私女の子でも平気でボコるからね!泣いても許さないんだからね!!」

「あう、ごめんなさい・・・。でも、甲斐くんに服のサイズがピッタリってことは・・・私成長してないんだね・・・」

「そういうこと言わないでー!!そして泣かないでー!泣きたいの私だから!出血大サービスで血涙流せるよ今なら!!」

「甲斐くん甲斐くん、口調が女の子に」

「ああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

ついに身も心も女の子に!?オレ転生しちゃったよ!女の子にジョブチェンジしちゃったよ!!もうお婿にいけない!!。

「大丈夫だよ甲斐くん、お湯被ったら男の子になれるから!!」

「何が大丈夫なんだ!?そしてオレはどこのら○まだ!?」

とりあえず服を脱ごう、全力で脱ごう!!。

「下裸だよ、甲斐くん」

「構うかあああああああッ!このままよりマシじゃ!どうせ人類は生まれた時は全裸なんだよ!地球上で服を着てる人類が歪なんだよ!!」

「きゃー!甲斐くんがご乱心~!!」

ハルカが手で顔を覆う。

「ハルカちゃん、指の間に隙間できてるよ。というか!セツナくん落ちついてー!!」

オレは今!解き放たれる!!ユニバアアアアアアアアアアアス!!。

「それ二度ネタだよ、甲斐くん」
























***********************************************************************************



「もう・・・お婿にいけない・・・・」

服を脱ぐのは阻止された・・・オレには・・・もう明日が見えない・・・・。

「安心して甲斐くん、もしお婿に行けなかったら」

ハルカがオレの肩を優しく叩く。

「ハルカ・・・」

「面倒見の良い結婚相談所を紹介するから」

「リアルアドバイス!?」

マジなアドバイスだよ!絶対実行する気だよコイツ!!つうか善意百%の顔がスッゲームカつく!!。

「あはは・・・あははははははははは!!」

もう駄目だー!本当に駄目だー!立ち直れねー!!。

「セツナくん、大丈夫?」

「ク、クケケケケケケケケケ!人類なんて滅びればいいんじゃー!!」

そうだ!人類なんて滅亡してしまえー!!。

地球なんてクシャミ一発で崩壊するんだ!簡単に大爆発だよ!ド、ド、ドリフの大爆笑だよ!!。

「甲斐くん、ネタが古いよ。今時は人類をミックミクにしてやんよ、だよ」

「二人共、ちょっと落ちつこう。一般人にはなに言ってるかわからないからそれ」

アヒャヒャヒャヒャ!人類滅びろー!マジで滅びろー!お願いだから滅ぼして神様ー!!。






(閑話休憩)






「・・・・・・・・・」

ベットに突っ伏して泣いた。

「あ~、惨めな甲斐くん・・・・」

言わないで、止め刺さないで、もう放っといて・・・・。

「二人共、結構余裕?」

すずかが苦い顔でオレ達を見る。

そういうすずかも、そこまでビビってない気がするのはオレだけか?。



オレは最悪自己防衛の手段が有るから、少し余裕が有るだけ。

すずかは慣れだろうな、なんか前にも似たような事が有るっぽいし。

ハルカは・・・そういうキャラだからな。



「む、私にもちゃんと理由が有るよ」

プクッと頬を膨らますハルカ。

「気軽にオレの頭を覗かないでくれるかな・・・。それで、理由って何だよ・・・」

どうせ、「美人さんが相手だから幸せの方が大きいのだー」とか言うんだろうけど・・・・一応聞く。

「甲斐くんと月村さんが居るからね」

「「・・・・」」

けど、帰ってきたのは結構マジな答え。

「友達が一緒に居るのって、結構心強いじゃん。1人は駄目だけど、みんなでホラー映画見ると全然平気なタイプなんだ・・・私」

いつも通りのニコニコ笑顔で、ハルカはそう言った。

友達・・・ね。

「・・・・・」

ファイズフォンを固く握りしめる。



何か・・・難しく考えていたのが、ちょっとスッキリ・・・そうだよな、友達なんだよなオレ達。

やっぱり、ちゃんと話そう。ファイズの事を。

別にヤケになったとかじゃない、今の言葉で・・・二人を信じようと思った。

怖いのは・・・二人がオレを拒絶すること、けど・・・オレは嘘を付きたくない。

二人が友達だから、今のオレを・・・ちゃんと知ってほしい、偽ったオレと付き合ってほしくないから。

怖いのは・・・二人を信用してないからだ。



「ハルカ、すずか、聞いてほしい話が有る」

二人を正面に向き直り、口を開く。

「なにかな?」

ハルカは少し首を傾げて。

「セツナくん?」

すずかは少し戸惑ったような表情で。

「オレは・・・・」


ドガアアアアアアアン。


部屋の扉が爆音を上げ、いきなり吹き飛んだ。

またかあああああああああああああ!今度は誰だよ!!。
























***********************************************************************************



お姉様とイレインが、私はレプリカと戦闘に突入します。

さっきは不意を突かれましたが、今度は負けません。



レプリカが突き出したブレードをしゃがんで避け、右足を払って足払い。

レプリカは宙に跳んで避け、着地しながら左腕のブレードを振り下ろします。

私は避けずに左手と左足で身体を支え、右足を振り上げてレプリカを蹴り飛ばしました。

壁に背中から激突する相手に、立ち上がって接近、右の回し蹴りを放ちます。

レプリカは右手で防御、なので私は左足でジャンプ、身を捻りつつ左足を振るってもう一度相手を蹴ります。



顔の側頭部に蹴りを食らったレプリカが、廊下をバウンドしながら転がりますが・・・また立ち上がってきます。

「やっぱり、止まりませんか」

操られるだけで、敵わない相手に何度も無意味な攻撃を仕掛けてくる。

可愛そう・・・そう、思ってしまいます。

きっと・・・彼女は時間稼ぎに使われている。本当に・・・可愛そう。

私も・・・仕える人が違っていればと思うと・・・同情の気持ちも湧いてきました。

「ですが、私は月村の家に仕える者。侵入者には容赦しません!」

心を鬼、とまでは言いませんが・・・止めさせてもらいます。















***********************************************************************************



「退いてくれないかしら!お姉様!!」

イレインが左のブレードを振るう。

「姉と呼ぶなと私は言いました」

私はブレードの手前、イレインの左手を掴んでブレードを止めます。

「そう!!」

イレインが突き出した拳を左の掌で受け止め、私達は力比べに突入しました。

「貴方は私の大切な人達に手を出しました、私は貴方を許しません」

すずかお嬢様の友人に手を出し、お嬢様達を傷つけた。

イレイン・・・私と同じ存在とは言え、許せない。


「人間みたいなこと言ってんじゃないわよ!『自動人形』!!」

イレインが叫びながら頭を突きだす。

「!」

額に頭突きを食らい、少しよろめきます。

その間にイレインが右手を振り、手に巻き付いた鞭を伸ばします。

鞭は蛇のように宙を跳び、私の左腕に巻き付きました。

「死ね」

そして、電気が流される。

人なら死んでもおかしくないような高圧電流、それが鞭を伝って私に流される。


『静かなる蛇』オリジナルのみに装備された、電撃鞭。


「!!!!!」

私でも、長時間受けていたらタダでは済まない。

イレインに左腕を向ける。

「ファイエルっ!!」

次の瞬間、左手の炸薬が炸裂、私の左手首が発射される。

いわゆるロケットパンチだ。

「どこ狙ってんのよ!!」

だが、それはヒョイと避けられる。

「・・・・・」

電撃は止まらず流れ続ける。

「この程度で終わり?やっぱり・・・人と群れてるアンタは弱いのよ!!」

「違います」

嘲笑うイレインを否定する。

「なにを・・・ががっ!!」

イレインに電撃が走る。


私のロケットパンチはワイヤーで繋がっており、リールで巻き戻して回収できる。

だから、回収した手でイレインを掴んだ。

私の身体は電流が流れやすい、ワイヤーを通してイレインに電気が走る。

電撃を放つイレインには電撃に対する耐性が有るだろうが、無事では済まないはず。


「この武器は忍お嬢様が付けてくれました、ですから・・・弱くなどなりません」

物理的にも、精神的にも、私は強くなりました。

「くっ・・・」

電撃が切られ、私の手から鞭が回収されます。

私も飛ばした手を左手に戻します。

互いに身体からぷすぷすと黒い煙を上げつつ、睨み合います。

「忍お嬢様が付けてくれた、この腕で貴方を倒します」

そして、この家で忍お嬢様やすずかお嬢様に頂いた・・・この守るという気持ちで。

「ちっ・・・悪いけど!アンタとやり合う気は無いのよ!!」

「お姉様!危ない!!」

「!!」

ファリンが叫ぶと共に、背中に衝撃が走りました。

顔を後ろに向けると、私の腰にレプリカが抱きつき、動きを封じていた。

イレインにだけ集中していて、背後がガラ空きだった。

「通らせてもらうよ!」

イレインが私の隣を通り抜ける。

「待ちさない」

レプリカを引き離そうとするが、死んでも離さないというように・・・渾身の力で掴みかかられて剥がせない。

「ここは通しません!!」

「退きな!!」

「ああッ!?」

イレインの前にファリンが立ち塞がりますが、蹴り飛ばされて壁に叩きつけられます。

「ファリン。・・・待ちなさい、イレイン」

「そうやって待つバカが居るわけないだろ」

イレインがすずかお嬢様達が居る部屋の扉を、蹴り砕いた。
























***********************************************************************************



扉をぶっ壊し、部屋の中に入ってきたのは・・・さっき倒したレプリカに似た奴。

だが、さっきとは違って・・・何か人っぽい。

「小娘ばかりか」

グサッ!!。

その人がオレ達を見渡して一言。

いやさ・・・女の服着てるから仕方が無いけどさ、ああ・・・また泣きそう・・・。

「甲斐くん、ショック受けてる場合じゃないよ」

「わかってる・・・わかってるさ」

さすが侵入者、精神的に大ダメージを与えてくるとは・・・・油断できん。


「すずかお嬢様、お迎えに来ました」

女は・・・すずかを見ながらそう言った。

ビクリとすずかの身体が震える。

「・・・・悪いけど、連れていかせない」

それを見て、オレが守らないと・・・って、勇気が湧いた。

すずかの前に立って、女を睨みつける。

「お嬢ちゃん、死にたくなかったら退きな」

「うるせぇよ、そっくりさん万歳。あと、オレは男だ」

睨みつけられる、多分・・・本当に殺す気なんだろう。

怖い・・・本当に怖い、情けないけど・・・膝が震える。

「セツナくん、逃げて!その人本気だよ!!」

すずかが後ろから叫ぶ。

その言葉を聞いて、怖いけど退きたくなくなった。



戦う力が有るのに・・・守る力が有るのに・・・逃げるのは・・・。

「オレは男だから、女の子を守る義務が有る」

かっこ悪過ぎだろ。

「ヒーロー気取ってんじゃないよ、ガキ」

「気取って悪いかよ、友達見捨てるより百倍マシだ」

ここで逃げたら、何も抵抗しなかったら・・・オレは絶対に後悔する。

ファイズの力を持ってなくてもそうだ、甲斐セツナは・・・今のオレは・・・何もしないと後悔する。

「友達・・・か、お前!そいつが何なのか知ってるのか?」

引かないオレを見て、女が笑う。

オレをあざ笑うような、バカにした笑みを浮かべる。

「そいつは人じゃないんだよ!『夜の一族』っていう化け物なんだよ!!」

そう、部屋の中に聞こえるように・・・女は叫んだ。

「化け・・・物?」

オレが呟くと、すずかが震えた気がした。

「そうだ、化け物さ。お前達に自分の本性を隠した、化け物なんだよコイツらは!!」

女が言葉を続ける、すずかは黙ったまま・・・きっと事実なんだろ。

だから、オレは・・・。


「で?」


そう聞いた。

「は?」

場の空気が固まった。

アレ?、オレ空気読めてない?。

「月村さん、もしかして口から火を吐いたり、夜な夜な人の血肉とか求めるの?」

「ち、違うよ!そんなことしないよ!!」

背後で女の子同士の騒がしい声が聞こえる。

だが、その中でオレの聞きたいことが有った。



いやさ、例えばすずかが話を聞かない化け物で、ゲームに出てくるようなモンスターみたいな感じだったら・・・付き合いたくないけど。

ただ、人とは違う・・・それだけなら全然大丈夫だ。

だって、オレも似たようなもんかもしれないし。



「すずか、オレさ・・・記憶喪失なんだ」

ファイズフォンを開く。

「え・・・」

いきなりだから、すずかビックリ顔。

「3年間の記憶しか持ってないんだ、それから昔はサッパリ」

すずかが昼間にモンスターの話をしたのは、きっと本当の自分を話した時に・・・オレが何と言うか気になったからだろう。

そう考えると、オレのアレは失言だったね。反省、反省。

「だから、それ以上の昔は・・・どんな人間だったかわかったもんじゃないんだ」

オレの秘密を話していく、さっきから話そうとしていたし、すずかの秘密聞いちゃったから・・・おあいこという形で。


≪5≫


「もしかしたら、どこにでもいる普通の子供かもしれない」

まぁ、それはファイズの力を持ってる時点で望み薄だけど。


≪5≫


「もしかしたら、化け物かもしれない」

その可能性が高いかもな、一番嫌だけど。あ・・・すずかに失礼か?いや、でもすずかは化け物には見えないし・・・まぁいいか。


≪5≫


「普通じゃないかもしれないんだ。オレは・・・オレ自身が何者かもわからない、そういう奴なんだ」

変身コードを打ち込み、エンターボタンを押す。


≪Standing by≫


「そんなオレで良ければ、友達で居てほしい」

ファイズフォンから着信メロディのようなモノが流れ、腰にベルト・ファイズドライバーが現れる。

「変身!!」


ベルトのバックル部分にあるスライダーに、ファイズフォンの下部をはめ込み、携帯が向きを90度回転して、ベルトにぴったりとはめる。


電子音声が響く。


≪Complete≫


ベルトの上下から紅い光が線となって伸び、全身を包んでいく。

そして、線が鎧の形を形成した時。

オレは変身した。



「オレは・・・こんな力を持ってんだ、わけわかんねぇ奴だろ・・・オレは」

銀と黒の鎧、金色の瞳をもって・・・オレは二人に、家族と友達に話しかける。

二人は・・・オレを見て驚き顔。


・・・・・・・・・・・・・・・


二人の言葉が出るまでが・・・永遠のように長く感じた。

信じるとか言っときながら、やっぱり怖い・・・。


先に口を開いたのは、ハルカ。

「甲斐くん、私は・・・甲斐セツナの家族だから」

笑ってくれた、いつものように。

甲斐セツナの家族で居ると、オレが・・・どんな奴でも・・・甲斐セツナの家族で居てくれると言ってくれた。

その言葉が、本当に嬉しくて涙が出そうになる。

「セツナくん、私は・・・」

すずかがオレを見る、泣きそうな・・・涙眼の顔で。

「セツナくんと、ハルカちゃんと・・・友達でいたい!」

そして・・・そう、言ってくれた。

「ありがと」

怖がることなんて無かったんだな。

二人は・・・大切な家族と友達、変わる事なんて無かった。


「って事で、空気読んで帰ってくれない?」

このままおしまい、チャンチャンで終わらせようよ。

「ふざけるなよ、ガキ」

あはは・・・やっぱりそうはいかないよね。

「じゃあ、勝負だ」

大切な友人を背に、オレは敵と向かい合う。

オレが誰かなんて、考えるのは後だ・・・。

今は・・・大切な友達を守る!!。

ファイズには・・・その力が、守る力が有る。

「行くぞ」

右手を軽くスナップした後、拳を作って相手に殴りかかる。

「殺してやるよ!!」

敵がブレードを振り上げながら、迎え撃つ。



逃げない、負けない、通さない、大切な友達を・・・絶対に守ってやる。

甲斐セツナが、そう決めた!!。


















[17407] 月村家編 第7章 繋がり
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 03:07



突き出した拳は掌で受け止められ、振るわれたブレードは相手の手を掴んで止めた。

「恩を売るために戦うにしては、相手が悪いよ。お譲ちゃん」

「さっきの話、聞こえてなかったの?。ああ、こういう人を耳年増って言うんだ・・・ゴメンね」

力比べに突入しながら、互いに相手を睨みつける。

「お譲ちゃん、あんまり生意気言ってると・・・楽に殺さないよ」

「三度も女扱いしてんじゃねぇ!!つうか!セリフがチンピラ臭ぇんだよ!!」

頭を前に突き出す、相手も同じだ。


ゴチン。


鈍い音を立てて額が激突する。

クラッと来た・・・・頭は固い方だと思ったが、負けたな。

軽い目まいを感じ、後ろにフラリと後退りした瞬間。

「はっ!!」

「ぐっ・・・」

横腹に蹴りが来た。

抉り込むような感じで・・・グサリと。

だが、何とか踏みとどまって足を掴み。

「せぇの!!」

振り回して投げ飛ばす。

相手は壁に激突するかと思いきや、両足で着地、壁を踏み台にして突っ込んできた。


ブレードが一閃、首に向かって迫る。

後ろに向かって身を逸らし、回避。

鼻先を刃が掠め、ちょっと心臓に悪い。

そのまま背後へエビ反りになりながら倒れ、両手を頭上に伸ばして床に手を付けてバク転。

一気に体勢を整え、攻撃を空振り・・・床に着地しながら振り向こうとしている女に向かって走り、飛び蹴りを放つ。

相手は身を横に投げて蹴りを回避、床を蹴り砕いたオレに向かって右手の鞭を伸ばす。

左手を横に一閃、鞭を弾こうとしたが・・・腕に巻きつかれた。


「食らえ!!」

「あががががが!!」


鞭を伝って何かが来る、電流だ。

全身に火傷を負ったような痛みが走る。

視界は真っ白に染まり、身体は電撃のせいで震える・・・これはヤバい!!。


「そのまま死にな!!」

「こ、断る!!」


手に巻きつく鞭を掴み、力一杯引き寄せる。


「なっ!!」


鞭が限界まで引き延ばされ、それに釣られるように女の身体が宙に浮く。

そのまま、こっちに向かって引き寄せ、飛んでくる女に向かって右の拳を突き出した。


「ごふっ・・・」


直撃、右の拳が相手の腹にめり込む。

それと共に女が埋めき声を上げながらうずくまる。

同時に放電も止まり、身体から黒い煙がぷすぷすと・・・。

ああ・・・視界がチカチカする・・・。

左手に巻き付いた鞭を解き、フラフラしながら相手から離れる。

次の瞬間、ブレードが一筋の光を生み出した。


「油断し過ぎだよ、お譲ちゃん」

「うるせぇ・・・」


腹を手で抑えながら、ブレードを振り上げた女から飛び離れる。

手の間から、熱い物が流れる・・・赤い液体、血だ。

やべ、腹に一発入った・・・内臓まで届かなかったのは鎧の固さと運だな・・・。

つうか、痛い・・・。

膝を着きそうになるのを耐えつつ、正面で立ち上がる女を睨む。

殺す気の攻撃・・・さっきの人形っぽい奴とは違う、殺すための攻撃。

当たり前だけど、手加減は無い・・・。


「ほら、こんな奴らを守ろうとするから・・・そういう眼に遭うんだよ」


そんなオレを女はあざ笑う。

バカにした眼で、笑ってくる。

オレのやってることはバカなことだと、笑ってくる。


「奪うことしか知らねえ、テメェよりマシだ」

「知った口聞いてんじゃないよ!!」


女が踏み込む、ブレードが右上から左下に向かって振り下ろされる。

後ろに一歩下がって避ける。

だが・・・二閃、三閃と迫る刃に反撃の糸口を見いだせず、壁際まで追い詰められる。


「じゃあ!お前は何かを守った事が有るのかよ!?」

「無いね!私はアンタ達のような!群れなきゃ生きれない弱い奴らとは違うんだよ!!」


背中が壁に付く、同時にブレードが突き出された。

身体を前に曲げて避け、女の腰に抱きついて押し出す。


「弱くなんかない!!」

「じゃあ、私に勝ってみせなよ!!」


背中に拳が振り下ろされる。

その衝撃で腕の力が緩み、腹に膝蹴りを叩き込まれた。


「ごほっ・・・げほっ・・・」

「助け合うとか言っておきながら・・・アンタ達人間は蹴落とし合う、見ててムカつくんだよ!」


咳き込みながら後ずさるオレに拳が突き出される。

右頬に一発、左胸にも一発、それ以降もガンガン殴りつけられる。


「どうせアンタも友達とか言っときながら、恩を売って金や権力が欲しいだけなんだろ!!」


一発殴られる度に、勝手に身体が後ろに下がる。

踏ん張れない・・・されるがままオレは殴られ続ける。


「まやかしなんだよ!言葉だけなんだよ!アンタの言ってる事は結局、他人に縋りつかないと生きいけない弱者の言葉なんだよ!!」

「じゃあ、強者って・・・何なんだよ・・・」


口の中を切ったのか、血のキナ臭い味を感じつつ問う。


「私だ!!」

「ぐがっ!!」


おもいっきり殴られた・・・、床に身体が転がる。

痛い・・・メッチャ痛い。


「死にな、見ててヘドが出そうになる」


倒れるオレにブレードが、振り下ろされる。


「ッ!!」


左手で受け止めた。

もちろん、盾とか何も付いてないから・・・腕に刃が突き刺さり、更に貫通した。

けど、軌道が逸れて・・・顔の直ぐ横に刃が突き刺さる。

腕と、頬から血が飛んだ。


「いっ!てえええええええええええええッ!!」


痛みに絶叫を上げながら、左手を動かし、女の腕を掴んで引き寄せる。

そして、倒れこむようにのしかかる女に頭を突き出した。


ゴンッ!!。


二度目の激突、今度は勝った。

女がオレから離れながらよろめく。

オレは頭と言うより、左腕が痛い。

栓代わりのブレードが抜けたことで、血がドボドボと流れだした。


「ああああ!!」


まるで左腕に焼き鉄が差し込まれたような激痛、脂汗が止まらない。

痛みも、頭の中が真っ白になるぐらいに・・・バチバチ言ってる。


「甲斐くん!!」

「セツナくん!!」


だけど、ハルカとすずかの・・二人の声を聞いて立ち上がる。

痛い・・・死ぬ程痛い!けど!!ここで倒れたら・・・今よりもっと痛いものが永遠に続く!!。

だから立つ、立って・・・女に拳を向ける。


「だから!どうしてアンタは立つんだ!!」


意識をハッキリさせるように頭を振った後、女が叫ぶ。

苛立った表情で、オレを睨みつける。

友達のためと、立ち上がるオレを・・・決して認めないように。


「友達だから・・・だ」

「嘘だ!!」

「嘘じゃねぇ!!」


踏み込む、床を蹴り、右拳を突き出す。

ブレードの刀身で受け止められた。


「算段とか!思惑とか!わけわかんねぇことを言ってんじゃねぇよ!!」

「じゃあ!アンタは何で立つんだ!!」


ブレードが横に払われ、拳と共にオレの身体も後ろに弾かれる。

踏鞴を踏む間にブレードが迫る。


「さっきから何度も言ってんだろ!友達のためだ!!」


女の右側面に跳び、回り込むように斬撃をかわして背後を取ろうとする。


「だから!それは嘘だ!!」


相手も身体を回転させながら刃を振るい、回転斬りをする。

後ろにジャンプ、防御のために突き出した左腕をブレードが掠めた。


「テメェの考えを!オレに押し付けるな!!」


足を床に着けると共に、踏み込む。

女もブレードを横に構えながら迎え撃つ。

拳と刃が交錯、オレ達は擦れ違う。

右の拳から血が飛び、相手はブレードの刀身に亀裂が走った。

そのまま立ち止まらず、同時に振り向きながら、また激突する。


「お前が今日まで見てきたものと、オレが見てきたものは違う!!」


拳が女に当たると共に、オレの身体にも斬撃の痕が刻まれ、血が飛び散る。


「だから、お前が正しいかもしれないし!オレが正しいかもしれない!!」


互いに一歩も引かず、攻撃を浴びせ合う。


「けどオレは!お前の言葉が間違ってると思う!!」


確かに、この女の言うように・・・蹴落とし合う人間は居る。

自分のために相手を邪魔したり、傷つけたり、そういう酷い事をする人間は確かに居る。

月村家の縁者もそうだ・・・お金のために、すずかを誘拐しようとしている。

だけど、人と人が繋がれないのは違うと思う。


「オレは今日まで支えられて生きてきた!!」


記憶を失ったオレを、親父がハルカが・・・助けてくれた。

今を楽しい、生きていたいって・・・思えるようにしてくれた。

だから、人同士の繋がりは・・・嘘でもまやかしでも無い。

女が言うような、酷い人間だけじゃない!!。


「だから、強くなれた!」


今、拳を振るえているのは・・・守りたい人達が居るからだ。

オレを認めてくれて、家族で・・・友達で・・・守りたいと思えるから、オレは今・・・戦ってる。


「人と人は繋がれんだよ!一人で強がってるだけなんだよ!お前は!!」

「気持ち悪いんだよ!ガキが!!決めた!お前を殺して・・・ここに居る人間を全て殺す!!」

「させるかよッ!!」


鞭が伸ばされる、だけど・・・距離が近いから、しなる前に避けられる。

避けて、右足で女の横腹を蹴り上げた。


「かはっ・・・」


窓際まで女が吹き飛ぶ、その距離約5メートル。

ファイズフォンから『Φ』の文字が刻まれたメモリーを引き抜く。


「お前はきっと、一種類の人間しか見てこなかったんだ」


右腰のトーチライトを90度左に下から回転させて、取り外す。

それを眼の前に持ってきながら、スロットにメモリーを差し込む。



≪Ready≫



挿入した瞬間、トーチライトが伸びた。

その形は銀の細長い懐中電灯・ファイズポインター。


「オレは・・・お前が知る人間と逆の人間を沢山見てきた」


可能性の一つ、もし・・・オレが親父やハルカと出会わず、そういう種類の人間だけを見てきたなら・・・きっと女のような考えを持ったと思う。

けど、それはIfで・・・オレは親父とハルカに出会った!支えてくれる家族に出会った!!。

だから、オレとこの女の価値観は違う。決定的なまでに違う。


右足には、腰にファイズポインターを付けるためのスロットと、同じ形のスロットが有る。

そこにしゃがみながらファイズポインターを接続、90度回すと、ファイズポインターが足と平行になった。


「否定してやる、オレの理屈で・・・お前を否定してやる!!」


話が合わない、何故なら・・・話が合う時は、自分を曲げた時だから。

だから、倒すという・・・最低な手段でオレは否定する。

相手の理屈を!破壊する!!。


「私とアンタ!どっちが正しいか!!」

「勝負だ!!」


女がブレードを突き出しながら突進してくる。

オレは腰のファイズフォンを・・・メモリーが抜かれたことで銀一色になったそれを開き。

エンターキーを押した。


≪Exceed Charge≫


ファイズフォンを閉じる。その瞬間、ベルトの紅い装飾が輝き、その光が身体のラインを通って右足に向かう。


オレはすずかを守るために、女はすずかを誘拐するために、やってる事は真逆で・・・考えてる事も真逆・・・唯一同じなのは。

互いの考えを真っ向から否定して喧嘩を売る、子供じみた反発心だけだ。


紅い光がファイズポインターに宿った直後、オレは右足を女に向けて突き出す。

その瞬間、紅い矢が放たれた・・・・一筋の紅い光の矢だ。


「!」


女はブレードで受け止めるが、受け止めきれずに押し出される。

そして、女は背後の窓を突き破り、今だ雨が降りしきる闇の中に消えた。

もちろん、それで終わったわけじゃない。


「オレは・・・人同士の繋がりを信じている」


暗闇の中に紅い螺旋が生まれる、光の矢は紅い円錐に変わり・・・女を捕縛しながら、回転し続ける。

右手を軽くスナップ、腰を落とす・・・右足を前に出した状態、それからスタートを切る。

暗闇の中へ、窓を飛び越え、空中で一回転・・・右足を突き出しながら螺旋の中に飛び込む。


右足のブーツの底、前部分に刻まれた『Φ』の文字が紅く輝く。


「はああああああああああああッ!!」


螺旋に飛び込んだ瞬間、オレは紅いドリルと化し・・・相手に突き刺さる。


「繋がりなんて無いんだよ!それはまやかしだ!!」


女がブレードで螺旋を受け止めながら叫ぶ。

オレの言葉は幻だと、子供の戯言だと。

ブレードから火花が大量に舞うが、均衡を保つ。


「お前は諦めてるけど!オレは信じてる!!」


押し込む、ここで倒せなかったら・・・オレは負ける。

相手のブレードに亀裂が走っていく。


「ガキが!甘いんだよ!!」

「お前が絶望し過ぎなんだよ!!」


そして、砕かれた。

ブレードが粉々に砕け、女の胸に螺旋が回転しながら突き刺さる。

女の身体が震え、オレの姿が吸い込まれるように消えた。

次の瞬間、その背後に着地する・・・。

紅い螺旋も消え、貫いた女の背中に赤い『Φ』のマークが刻まれた。



















***********************************************************************************



「終わった・・・・」


そう呟いた瞬間、ようやく全身に当たる雨の感触を感じることができた・・・。


「ああああああああああああああッ!!」

「!!」


だが、突然背中を殴りつけられ、前のめりになりながら踏鞴を踏む。

驚いて振り向けば、叫び声を上げながら・・・刻まれた『Φ』の文字を振り払い、まるで壊れたおもちゃのように手足を振り回す女が居た。


「おいおい、クリムゾンスマッシュはAクラスの攻撃だぞ・・・・非殺傷が不味かったか?。ん?」


思わず呟いた言葉に、オレは首を傾げた。

Aクラス?非殺傷?何の事だ?。

自分で言っといて意味わかんねぇ・・・。


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


だが、深く考える余裕は無く・・・女がオレに殴りかかってきた。


「いい加減!沈め!!」


ボロボロ過ぎて暴走してるんだと思うが、こっちもボロボロ・・・。

フラフラの身体に鞭を打ち、今の全力を・・・叩きだす。

互いの攻撃は・・・何の捻りも無い、ただの拳。

ただ・・・真っ直ぐ、前に突き出すだけのパンチ。

それが交錯し、お互いの顔にクリーンヒットした。


「「・・・・・」」


それでお互いのライフは0、後ろに向かってバタリと倒れる。

が・・・。


「セツナくん!しっかりしてください!!」


オレの身体は、いつの間にか居たファリンさんに抱きとめられた。

その後ろには恭也にぃに、ノエルさんも居るな・・・。

で、何でノエルさんは美味しく焼けました的な感じで軽く焦げてんの?。

つうか疲れた・・・ああ、ファリンさん温かくて柔らかくて・・・このまま寝そうだ~。


「セツナくん!起きてください!寝たら死にますよ!!」

ファリンさん、揺さぶらないで・・・死んじゃう、割と本気で死んじゃう!!。

「真冬の登山じゃ有るまい。今は休ませてやれ」

恭也にぃ、ツッコミ入れる前に止めてくれないかな!?。

「また服が濡れましたね、着替えを用意しなければ」

ノエルさん、女の服だけは勘弁を・・・マジで勘弁を!!。


そんな感じで、オレの事を心配してくれてるけど空スベりなお姉さんと、そんなに心配していない気がする二人にオレのライフはマイナスに突入。

お願い・・・誰でも良いからオレに手当てを、安静な場所で寝かせて・・・・。

だけど・・・。



「・・・・・・・」



地面に倒れ、全身にただ雨を浴びている女よりは・・・数倍、いや・・・何億倍もマシだと思った。

人は・・・絶対に繋がれる、この温もりを知ったなら・・・二度と手放せないと思うから・・・。























[17407] 月村家編 第8章 夜の一族
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 03:10



「ファリンさん・・・痛いです・・・」

ジワッ。と、身体に広がる感触に眉を潜める。

「大丈夫ですよ、直ぐに良くなりますから」

声を震わせるが。ギュッ。と、ファリンさんが縛りながら微笑む。

「う・・・ぁ・・・」

その感覚にオレは、何とも言えない声を出してしまう。

「セツナくんは、ここが痛いんですか?」

「あ、いや・・・そこはッ!!」

ファリンさんがオレの身体に触れていく、その指の細かく・・・冷たい感触に・・・オレはもう。

「そして、甲斐くんはメイドの妹さんを押し倒し・・・」

「はい、終わりましたよセツナくん」

ファリンさんが救急箱を片付ける。

「ありがとうございます、ファリンさん」

包帯が巻かれた左腕を少し動かす・・・痛い・・・これは当分動かせないかも・・・。

まぁ、骨を真っ二つにされなかっただけマシなのだろうか・・・?いや、そういう問題じゃないか。

「みなさんが待ってますから、ロビーに向かいましょうか」

「はい」

足は怪我してないし、歩くだけなら大丈夫・・・か?。

あ、駄目だ・・・無茶苦茶痛い!?。

そう思ってると、ファリンさんが身体を支えてくれた。

「すんません」

「いえいえ、行きましょう」

ファリンさんに付き添ってもらいながら、オレは歩きだした。

「私は無視!?」

無視無視。


















*********************************



ロビーに向かうと、オレ達を除いた全員が揃っていた。

外に出て、雨に濡れたオレと恭也にぃ、ノエルさん、ファリンさんは服装が変わっている。


着てきた服が渇いていて良かった・・・マジで良かった!!。

ハルカが携帯片手に残念そうにしていた・・・一度チねばいいのに!!。


恭也にぃは月村家に代えの服が有ったようだ、昼に忍さんと仲良さそうにwiiで遊んでたのを見る限り・・・そういう関係なんだろうか?え、反応が遅過ぎる!?。

ノエルさんとファリンさんはメイド服だった、予備とか有るんだな。もしや噂の保存用、観賞用、布教用!?・・・違うか。

「ぶっちゃけどうなんですか?」

「メイドのたしなみです」

「です」

メイド姉妹、胸を張って誇らしげ。

メイドの心得って、何なのだろうか・・・。

「メイド七不思議ね」

「なんだよそれ・・・」

「だから、メイド七不思議だよ」

「・・・・・・」

ハルカが両手をポンと叩いて呟いた、コイツもコイツで意味がわからないので無視しよう。

























***********************************************************************************



「ごめんなさい」

忍さんがいきなり頭を下げた。

本当にいきなりだから、ビックリした。

「月村家当主として、君達を巻き込んでしまって・・・本当にごめんなさい」

ケジメ・・・とは違うのか?とにかく凄く真剣に忍さんは頭を下げていた。

「あ、いや・・・」

動揺中、こういう時は何と言えば・・・。

「月村のお姉さん、私達は気にしてないですよ。ちゃんと守ってもらいましたし、甲斐くんの怪我は自業自得ですから。ね、甲斐くん」

そう、ちょっと苦笑い気味にハルカが言う。

ただ、最後の方はお前が言うな・・・。

「忍さん、本当に大丈夫ですから・・・頭を上げてください」

その・・・肩身が狭い。

忍さんの後ろに控えるノエルさんとファリンさんも頭を下げてるから、本当に肩身が狭い。

「うん。それともう一つ、大切な友人として・・・お礼を言わせてもらうわ。すずかを・・・妹を守ってくれてありがとう」

忍さんが顔を上げ、今度は優しく笑ってくれた。



「あの・・・質問しても良いですか?」

お礼を言われて、何だか心が熱くなるのを感じながら聞く。

「うん、何でも聞いていいわよ」

「じゃあ・・・あの女、オレとやり合った。アイツはどうなるんですか?」

「あの女・・・イレインの事ね」

ああ、イレインって言うのね・・・つうか、お知り合いですか?。


ファリンさんに屋敷に連れて行ったもらった時、恭也にぃとノエルさんがあの女を連れて後ろから着いてきたので・・・気になった。

あんだけ派手にやり合っておいてアレだが、殺されたりとかされたら後味が悪過ぎる。


「今は眠ってもらってるわ、ちょっと深めの眠りだけど・・・。安心して、貴方の思うような悪い事にはならないわ。約束する」

そう・・・少し面白く無さそうに呟き、オレを安心させるように忍さんは約束してくれた。

「それでね。イレインの事、ああ・・・ノエルやファリンの事にもなるんだけど・・・」

忍さんが、少し言い淀む。

「あの・・・言いにくいなら聞きませんが」

オレがそう言うと、忍さんは少しだけ思い出し笑いをして・・・何故かハルカを見てクスリと笑い。

「私は・・・嘘も隠し事もしない凄い女なのよ」

何故か不敵な笑みを浮かべた。

「きゃー、お姉様のそこに痺れる憧れるー!」

対してハルカは楽しそうに笑っている。

やっぱり・・・この手の人間はよくわからん・・・。

「う~、お姉ちゃんが取られる・・・」

誰か・・・微妙にいじけてるこの子を慰めて!?。



「さて・・・冗談はここまでにして、少しは気付いてるんでしょ?」

忍さんが試すような眼で見てくる。

「あはは・・・」

それに苦笑いで返した。


木を片手で両断したり・・・電撃を発する人間なんて居る訳無いから・・・薄々は。

それと、コンクリの壁に叩きつけられたのに擦り傷一つ無いファリンさんとか見て・・・違和感を感じた。

ただ・・・それは本当に薄く小さい違和感で、忍さんが言わなければ・・・オレは知らないままで終わる。


「三人と・・・ここに来る前に君を襲ったレプリカを含めて、人じゃないんだ。『自動人形』って呼ばれる、一種のロボット」

一種のロボット・・・つまり、メイドロボ・・・・。

「「リアルまほ○さん!?」」

ハルカと同時に叫んだ、瞬間・・・全員がすっ転んだ。

「いや、三人居るからここは・・・来栖川重○?」

「最近だったら、○らのおとしものじゃない?ほら、アレなら量産型っぽいのも出てるじゃん」

ああ、EDとか印象的だったアレね・・・。

「ちょっと!君達はまずそこからなの!?」

復活した忍さんが叫ぶ。

「「だって、メイドロボですよ!!」」

まさかロボだったとは・・・燃え要素満載だよ!いや・・・ここは萌え要素なのか!?。

やべー、何か興奮してきた。だってロボだよ!しかもメイドだよ!ダブルで男のロマンだよ!!。

あだだだ・・・興奮し過ぎて傷が・・・傷が!!。

「メイドのお姉さん、ミサイルとかついてませんか?胸とかに?」

「ついていません、ロケットパンチはついていますが」

「マジッすか、スゲーな月村家・・・」

ああ・・・ノエルさんが了承してくれたらだけど、リアルロケットパンチ・・・見てみたい。

「あの、何で私には聞かないんでしょうか?」

ファリンさんが恐る恐る手を上げて質問する。

「「・・・・・」」

「顔を背けないでください!?」

いや、何かついてないな~。と、色んな意味でわかるので・・・。



「酷いですよー!二人して!!。それに・・・何だか楽しそうですし、私は・・・気にしてたんですよ!!」

ファリンさんが涙眼で怒る。

「二人の事を・・・騙してて、嘘をついてて・・・」

あー、ちょっと空気読んでなかったかも・・・オレら。

「嘘なんかついてないですよ、ファリンさん」

「話せない事と騙す事は全然違いますよ」

だから、ちょっと真面目にいこう。

「話せないこと、オレにも有りますから・・・」

記憶のこと、オレは隠している。

後で話そうとは思うけど、今現在・・・隠している。

「えへへ、私も結構秘密いっぱいですから・・・気にしないでください」

コイツもコイツで、何を隠してるかわかったもんじゃねーしな。

「私は・・・人じゃないんですよ・・・。怖くないんですか?」

ファリンさんが・・・少しビクビクと怯えながら問う。

ノエルさんも、オレ達の反応をジッと見ている・・・気がする・・・多分。

「なんか、ウサギみたいで可愛いかも・・・ハァハァ・・・」

「お前は黙ってろ・・・」

ハルカを押しのけ、ファリンさんをジッと見る。

「怖くないですよ、だってファリンさんですし」

そして、笑う。安心させるように、笑ってみる。

「オレにとってファリンさんはファリンさんで、人とかロボットとか関係無いです」

オレ自身の事も有る、だから・・・そんなに気にしない。

「もちろんノエルさんも・・・ですから後でロケットパンチを見せてください!!」

やっぱり、この誘惑からは逃れられない!!。

「ありがとうございます。それと、危険なので遠慮します」

断られた・・・地味にショック・・・。

でも、少しだけ微笑んでる気がするから良いか・・・。

「ハルカちゃんは?」

ファリンさんがハルカを見る。

「私が萌え(燃えも込み)要素満載なお二人を嫌いになるわけないじゃないですか!!」

なんか燃えていた、そして萌えていた。

壊れたエンジンがフルスロットルしていた。

「コイツは無視して構いません。二人共・・・これからも末長くお願いします」

ペコリと頭を下げる。

「はい、セツナ様、ハルカお嬢様・・・これからもよろしくお願いします」

ノエルさんの声は聞こえた。

けど、ファリンさんの声は聞こえなくて・・・顔を上げると。

「セツナ・・・くん・・・、ハルカ・・・ちゃん・・・」

マジ泣きしていた。

「ちょっ!何で泣いてんすか!?」

「あーあ、甲斐くん泣ーかしたー」

「オレのせい!?」

「あー、ファリンは気にしないで・・・感極まってるだけだと思うから」

ノエルさんとすずかになぐさめてもらうファリンさんを戸惑いながら見てると、忍さんが面白そうな顔でそう言った。

「そう、なんすか・・・」

ハルカが驚くぐらい泣かないのも有り、女の子に泣かれたらどうすれば良いか全くわからなくなる・・・。

男と違って放っておくわけにはいかないし・・・でも、なんて声かければいいかわからないし・・・。

ああ!!マジで泣かないでファリンさん!!凄く困る!?。


「君達は・・・本当に特別なんだね」

忍さんがオレ達を交互に見て、しみじみと呟く。

「「特別?」」

ハルカと二人、首を傾げる。

「恭也とも話してたんだけどね。二人は・・・色々特別なんだと思う。大人びてるけど、ちゃんと子供をやってたり、けど・・・強い何かを持っている」

「つまり、私は素敵って事ですか?」

「お前な・・・」

たまにネガティブな思考してくれないかな、コイツ。

「うん、そうだね。二人は素敵なんだよ」

「・・・・・」

よくわからん。

「えへへ・・・」

ハルカは嬉しそうに笑っている。

ぶっちゃけ、コイツもよくわかってないと思う。

「ところで・・・他に質問は無いかな?」

「はいはーい、質問です」

ハルカが挙手、また空気読まない質問しないだろうな・・・。

「今日の出来事、月村さんから色々聞いてるんですけど。ぶっちゃけ、どれくらいドロドロなんですか・・・このお家は?」

うわー、無茶苦茶聞きにくい事聞きやがったー。

おまっ、忍さんの顔が引き攣ってるじゃねーか・・・。

「えぇと、お金とか技術とかで・・・泥沼」

それから・・・忍さんが掻い摘んで説明してくれた。



それをさらに掻い摘んで、ぶっちゃけて説明する。

何故なら忍さんが、オレらの今後も考えて・・・かなり言葉を選んで遠まわしに説明してくれたからだ。

下手をすれば、オレ達も真っ黒な世界へ・・・ああ、オレの平和な日常はいつから壊れ出したのだろう・・・まぁ、面白そうだし良いか。


問題1、すずかも言っていた・・・お金の問題。

月村家は本当にお金持ちらしい、後はすずかと話した通り・・・知らない人は第9章を読んで。


問題2、ファリンさんとノエルさん・・・最高傑作と呼ばれる『自動人形』の技術。

まぁ、喋ったり・・・本当に人のように生きているから、オレなんかじゃ考えられない凄い技術がてんこ盛りなのだろう。

その技術を使用して、金を稼ごうとしたりなんだりと・・・。

イレイン、あの女もファリンさんとノエルさんと同じで最高傑作らしい。

ただし、人間に近づけ過ぎたせいで感情が自由というか・・・やんちゃになったらしい。

首輪が付けられない獣、そんな感じだとオレは考える。

感情のコントロールができず、子供のように暴走する・・・ただし、その力は人を簡単に壊す事ができる。

だから、危険と判断され・・・封印・処分されたらしいのだが、金目的のバカ野郎が掘り出してきたらしい。

そのイレインは忍さんが調整や教育を行い・・・ファリンさんやノエルさんのような、ちゃんとした子にしていくつもりのようだ。

それにかかる時間は、短くて数年、長くて十年はかかるらしい・・・それぐらいに心を構築するのは大変なようだ。


で、襲撃犯は・・・今日・明日中に忍さんと恭也さんの頼もしいお友達の方が捕まえてくれるらしい・・・。

そこら辺の話は・・・絶対聞いてはいけない感じだったので聞いていない。

恭也にぃが、そこは聞いたら引き返せないと真顔な視線で訴えていたので・・・。

とりあえず、このたった一日の事件はこれで終わり。

だけど、やっぱり一つ疑問が出てくるわけで・・・。



「それだけの巨大な資産、怖い怖いお友達、そして・・・メイドさん達、月村のお家は魔境ですね~」

「お前さ・・・それ喧嘩売ってるように聞こえるからやめてくんない!?」

けど、ハルカの疑問もわかる・・・イレインが言った言葉。

すずか達が化け物だと・・・『夜の一族』と呼ばれる存在だと。

これは・・・引き返せない話だ、色々推測できる言葉を聞いちゃってるから・・・。

「これは、長い話になるかな・・・」

そう・・・前置きを置いて、忍さんは話を始めた。



忍さんが話してくれた『夜の一族』の事を。

それは・・・人では無い存在、わかりやすく言うと吸血鬼。

人より身体的にも頭脳的にも優れた存在。

だが、大きな問題が二つ有る。


一つは吸血行動が身体の正常な発育に不可欠ということ。

高い能力には、やっぱり代償はつきものということで・・・普通の食事だけでは栄養が足りず、身体が成長しないらしい。

それを解決できるのが『血』らしい。

『夜の一族』にとって、血は栄養満点な食事ということだ。

ちなみに、噛まれた人間には何の影響も無いらしい。


「輸血パックとかで代用聞くけどね」

「何かマンガみたいですね」

ハルカ、しばらく黙ってろ・・・。

「ちなみに、美味しいんですか?」

「お前な!!そういうこと聞くか普通!?」

いや、確かにオレも気になってるけどさ!!。

「ハルカちゃん、新鮮な生肉と冷凍保存されたお肉・・・どっちが美味しいと思う?」

「ごめんなさい・・・・」

怖いぐらい真面目な顔で質問され、ハルカが思わず謝った。


二つ目、こっちの方が重要らしい・・・それは・・・その・・・・発情期が有るらしい・・・・。

『夜の一族』は出生率が低いらしく・・・周期的に来るらしい・・・・その間、妊娠確立が上がるとか・・・・。


「甲斐くん、顔が赤いよ」

「うるせぇ・・・」

聞いといてアレだけど、そこは聞きたくなかった・・・。

「えっと、驚かないの?」

「「いえ、特に」」

血を吸う。と、言っても輸血パックをチューチューしてるだけだし、火を噴いたり毒吐いたりするわけでも無いから・・・それ程。

発情期についてはノーコメントです・・・。

「う~ん、これは喜んで良いのだろうか・・・・」

忍さんが凄く複雑そうな顔をしていた。


「それでね、君達にはちょっと選択してほしい事が有るの」

不意に、忍さんがまた真面目な顔になった。

「君達や恭也のような、部外者の人間が私達の秘密を知った時・・・・契約をするの」

「「契約?」」

オレ達は首を傾げた。




「勝手だけど・・・君達に選択してほしいの」

月村家の・・・『夜の一族』の1人として、忍さんが言葉を紡ぐ。

「選択肢は二つ、一つ・・・この事を忘れて今まで通りにしていくこと」

全ての繋がりを切り、知らず、存ぜず、永遠に関わりを断つ。

「二つ・・・一生私達と、この秘密を共有しあう盟友になること」

繋がり続ける、友として・・・信頼が断ち切られるまで共に生き続ける。

「選んでもらえるかな?」

忍さんは優しく、だが・・・ジッとオレ達の答えを待った。

この場に居る全員の視線がオレ達に向く。


「オレは決めた・・・」

というか、考える必要も無い。

「私も大丈夫だよ」

ハルカも同じ感じで直ぐに頷き。

「私、ハルカ・フィールと」

「甲斐セツナが誓います」

二人同時に・・・契約の言葉を紡ぐ。

「友として、仲間として、秘密を共有する者として・・・」

「これから先、貴方達と共に生きることを」

「「ここに誓います。この言葉・・・この思い、貴方達を信じるこの気持ちがその証です」」

おお、何かシンクロした。

それがちょっと嬉しくて、二人でニヤリとしていると。

何故か全員が苦笑した。

「即答か・・・もうちょっと考えても良いんじゃないのかな?」

みんなの気持ちを代弁するように、忍さんが言う。

「答えは変わりません。オレの気持ちが、みんなを信じるこの気持ちを嘘にしたくないので」

うん、考える事なんて無い。

オレは月村家のみんなを信じてる。それは一方的かもしれないけど・・・オレの本音だ。


「そっか・・・うん、君達っぽいね」

「出会って半日でオレ達が見透かされている事について」

「透視能力!?いやー!私の心を覗かないで!!月村さん!メイドの妹さん!私を見ないでー!!」

ハルカが悶え苦しむ。

どれだけ心が汚れてたらこんな反応ができるのだろう・・・。

「えっと、マズかったですか?」

やっぱり契約とか重そうな雰囲気だし、何かドロドロとして儀式なようなものとか有るのだろうか?。

「うんうん、ありがとう。これからもよろしくね」

だけど、忍さんは笑みを浮かべて手を差し出した。

「はい、よろしくお願いします」

ハルカがアレなので、オレがその手を取った。

これで、契約は終わりのようだ。


ようやく、全部が終わったって感じがした・・・犯人とかまだ捕まってないけど。

なんか・・・ホッと一息を吐けた。























[17407] 月村家編 第9章 今後の付き合い
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 03:14



(私達を信じる。その気持ちが証・・・か)

二人の契約の言葉を思い出し、小さく笑う。

私達の契約は・・・ハッキリ言って押し付けで、自分達を守るための約束事だ。

二人には何のメリットも無い、だけど信じていると言ってくれた。

相手を信じてないから結ぶ契約で、私達を信じていると。

(私も君達を信じているよ)

私の家族を、大切な妹を守ってくれた君達の事を。











「うう・・・何か気持ち悪い・・・」

色々と騒いでいたからか、セツナくんが顔を青くして座りこむ。

「ッ!?セツナくん!大丈夫ですか!?傷が開いたんですか!?」

「ファリン、揺さぶったら余計に駄目だよ!」

ファリンが弾かれたようにセツナくんの肩を掴んで揺さぶるが、すずかの言う通り逆効果だね、顔が青から蒼白になってる・・・。

う~ん、どうやってイレインを倒しかとか聞きたかったんだけど・・・今日は無理そうだね。

というかファリンはセツナくんにフラグ立てられてるわね、うん・・・間違い無い、女の勘が告げている。

「今日はもう遅いし、話はここまでにしようか。セツナくんにハルカちゃん、今日は泊まっていってね」

まだ犯人も捕まってないし、安全が確認されるまではここに居てもらわないと。

「はーい」

セツナくんがグロッキーなので、ハルカちゃんが代わりに元気良く答えた。


「そういえばハルカちゃん、少し意外だったわ」

ハルカちゃんだけに声が聞こえるよう、少しだけ声を落として言う。

「なにがですか?」

ハルカちゃんも私に合わせて声を落とす。

「契約の事よ」

二人揃って即答するとは、ちょっと思ってなかった。

セツナくんは少しだけ・・・ああ言ってくれるかなと思ってたけど、この子は正直意外だった。

「君の場合は、もうちょっと色々考えるかと思って」

何か腹黒っぽいから、アレだけアッサリと答えるとは思わなかった。

「む~、私もちゃんと考えてますよ」

プクッと頬を膨らますハルカちゃん、可愛いわね・・・。

「切り捨てればいいだけの私達を助けてくれましたから、良い人達だと思ったんですよ。それに、断ったら断ったで話がややこしくなりそうでしたし・・・」

あらら、本当に考えてたんだ・・・。

しかも、遠まわしにお人よしと言われてる気がするのが私だけかな?。あと、メリットとデメリットで判断してるわね、この子。

やっぱり可愛く無いわ・・・私が言うのもなんだけど・・・。

「まぁ、それは少しだけの理由なんですけどね」

そう言って、ハルカちゃんがすずかを見る。

まだファリンが暴走しているのか、だんだん顔色が紫になるセツナくんから引き離そうとするすずかを見ながら・・・。

「やっぱり、友達が・・・・大切な人が・・・居なくなるのは・・・悲しくて辛いですから・・・・」

今にも泣きそうな、私が初めて見た暗い表情で呟いた。


それは、孤独を知っている言葉で・・・表情だと思った・・・。

なんで分かるかと言うと、私も・・・同じだったから・・・。

恭也に、ノエルに、すずかに出会う前の私・・・『夜の一族』の事を誰にも話せず。自分の殻に閉じこもって、孤独を演じていた私と・・・。

うん、ハルカちゃんと同い年ぐらいだった時の私・・・可愛くなかった。

それはもうツンツンだった、誰にも近づかないで・・・距離を取って・・・。

そうして・・・1人が良かったから1人になった、自分でそうしたのに・・・それが凄く悲しかった・・・。

でも、家族が出来て・・・1人じゃなくなって、大切な人が出来て、怖いぐらい今が幸せになって・・・。


「んにゃ?」

ハルカちゃんの頭を撫でる。

柔らかい、女の子の髪の感触がした。

「何かゴメンね、嫌な事を思い出させたみたいで」

「・・・・・。大丈夫ですよ」

ちょっとビックリしたような顔で私を見た後、そう・・・ムキになったように私から顔を背けた。

あ、今の表情は子供っぽい感じだ。

「ほらほら、ゲロッちゃった方が楽だよ~」

これは経験からの言葉、私は実際そうだった。

何かを抱え込んでる時は、誰かに喋った方がスッキリする。

ハルカちゃんに。むぎゅー。と後ろから抱きつきながらご忠告。

「酔い止め呑んでるから大丈夫です、家に帰ってから1人で吐きます」

話す気は有るけど、今は話さないって事だね。

「じゃあ、背中擦ってあげるね」

よしよしと頭を撫でる。

「あう・・なんでこんな事に・・・」

こういうことをされ慣れて無いのか、若干戸惑い気味のハルカちゃん。

「けど、ありがとう・・・ございます」

前に回した私の腕が、ギュッと握られた。

これで、少しでも楽になってくれれば良いんだけど・・・。


私はみんなと出会えて、成長できた。

だから、私達との出会いが・・・この二人にとってプラスになれば良いな~。

怖いぐらいに今が幸せになれたら、きっと・・・可愛くなれる。

だって、私がそうだしさ。

自分で言うのはアレだけど、私は今輝けてる・・・凄く幸せを感じて、擦れ違った誰もが振り返る・・・素敵な笑顔を浮かべている。



































***********************************************************************************



セツナ達も泊まる事になったが、オレも泊まる事になった。

安全を考えて一応だ。

「おうぇ・・・・」

「大丈夫か?」

先程ファリンに揺さぶられていたせいで、床に四つん這いになって吐きそうになっているセツナに問う。

「大丈夫そうに見えますか?」

「すまん、愚問だった」

だからオレに吐きそうな顔を向けるな。


女性陣は寝巻に着替えに行っており、先に着替えたオレ達はリビングで待っている状態だ。

やはり、脱いで着るだけの男と違い・・・女性には色々と時間がかかるようだ。

たまに思う、女性の服は・・・アレは一体どんな構造になっているのかと・・・。


「・・・・・」

「何だよ恭也にぃ」

セツナを見る、もっと言えば着ている服を・・・。

「似合っているぞ」

「あはは・・・殴るよ」

またすずかちゃんの服を借りたのか、女物の服を着ているセツナが拳を握りしめる。

「またかよ、つうか二度目・・・精神的にオレに死ねと・・・精神崩壊起こして女になれと?そういうことか神様・・・だったら地獄に堕ちろゴッド!!」

かと思ったら再び四つん這いになり、何やら呪詛を吐きだした。

その背中には黒いオーラが発生しており、眼は完全に死んでいた。



「・・・・。セツナ、一つ聞かせろ」

「なんだよ・・・恭也にぃ」

誰も居ない、今の内に一つの質問をする。

「お前は、どうして戦った?」

「すずかを守るために」

即答だった。

真っ直ぐに、オレの眼を見ながらセツナが答える。

「それは・・・お前のためか?」

「自分のためだよ。すずかを守るために、あの女を潰した」

今、コイツは倒した・・・ではなく、潰したという表現を使った。

「相手の意思を、すずかを誘拐するという考えをへし折った」

乱暴な言い方、だが・・・それで正解だとオレは思う。



戦いはスポーツでも、遊びでもない。

自分の意思を貫くために、自分の願いを叶えるために、敵を潰す。

そんな醜い争い、それが戦いだ・・・。

褒められるモノでも、称えられるモノでも、誇るモノでもない、そうやって・・・戦う自分を持ち上げてはならない。

戦いはいつだって何かを壊す。それは相手の願いだけではない、時には命をも奪う。

その重さを忘れ、当たり前の事だと・・・戦いだから仕方ないと割り切った瞬間、そいつは人ではなくなる。

英雄という名の、希代の人殺しとして名を残す。

それ以外はまだ殺『人』者・・・人として残れる。

英雄は世界のために人を殺し、殺人者は自分のために人を殺す。

世界のためと人を殺す英雄と、自分のために・・・何かを奪った恐怖と共に・・・先へ進む殺人者。

どちらが人間らしいか・・・オレは殺人者を選ぶ、理由は・・・罪を償えるから。

英雄は罪に問われず、殺人者は罪を問われる。

そして、殺人者は殺した罪を償うことができる。

罪も償えず、名誉という名の殺しの証を立てられる英雄より・・・オレはそちらの方が遥かに人らしく生きれると思う。

セツナは、まだ・・・人の重さを感じることができている。

乱暴な発言がその現れだ。



「セツナ、お前にとって力とは何だ?」

もう一つ、問いを重ねる。

戦いには必ず必要となる、力について聞く。

「道具」

これも正解だと思う。

力は道具、自分だけが使える・・・自分専用の道具。

「なら、その力をお前は何に使う?」

「・・・・」

オレの問いにセツナは黙る。

黙って、服の中に入っている携帯を握りしめる。

「今を・・・守るため・・・」

そして、絞り出すように答えた。

「平和で・・・温かで・・・みんなが幸せで・・・そんな今を守るために、オレは力を使う」

「だから、その今を覆そうとしたイレインを倒した?」

セツナは黙って頷いた。

「それで、自分が傷つくとしても?」

「そうしないと・・・後悔する。どっかの侍が言ってたんだ『この剣が届く範囲はオレの国だ』って、だから・・・オレの今を・・・オレの国に手を出す奴は・・・潰す」

多分、セツナは本当にそうするのだろう・・・実証は既にしてある。

そして、コイツにはそれをするだけの力が有る。

「わかった、怪我が治ったら・・・オレの所へ修行に来い」

「いきなり過ぎて話が見えない」

首を左右に振られた。

「お前に力の使い方を教える、それだけだ」

「?。まぁ、ありがたいから良いんだけど」

どこか納得いかなげな表情でセツナは頷いた。



今の所は・・・危険じゃない、二つの問いをしてオレはそう判断した。

セツナは多分、守ると決めたモノのためなら・・・いかなる者も敵に回すタイプだ。

だから、今の所・・・・危険じゃない。かと言って、将来的に安全とも言えない。

危険となるのはセツナの守る者が『時』から『人』へ、守る相手が『個人』に変わった時だ・・・。

その時、コイツはその『個人』以外を敵に回す。

特別な人とは、それだけの魅力が・・・魔性の力が有る。

・・・・全てが考え過ぎ・・・なら良いのだが・・・。


































***********************************************************************************



「あのさ、何でこうなった?」

私の、月村のすずかの部屋で・・・甲斐くんが眉を潜めながら唸った。

その眼の前には、部屋に最初から置いてあるベットと・・・布団が一つ敷いてある。

「すみません、侵入者のせいで部屋がいくつか使用できない状態になりました・・・。と、忍お嬢様におっしゃるよう言われました」

ノエルがセツナくんに言う。

「それってつまり・・・」

「すみません、忍お嬢様のいつもの悪いクセです」

「・・・・・」

ああ、セツナくんの額に青筋がピキピキと。

「さすがお姉様、良い趣味してるわ」

ハルカちゃん、お姉ちゃんは渡さないから・・・。

「では、ごゆっくりと」

ノエルが部屋を出て行く。

「ちょ!ノエルさん!?この状況放置!?」

「末長く、すずかお嬢様をよろしくお願いします」

「お願いしてんじゃねぇよ!つうか余計に空気悪くしてんじゃねぇ!!」

あ、セツナくんがキレた・・・。

けど、叫ぶ間にノエルは部屋から出て行ってしまいました。

「ああ!だからハルカみたいな人間は苦手なんだー!!」

「本人眼の前にしてよく言えるね」

「本人を眼の前にしてるから言ってんだよ」

「OK、喧嘩なら買うよ」

そして、ハルカちゃんも静かにキレて・・・喧嘩を始めちゃった。

うん、元気一杯だね二人共。


さて、私はどうしようかな?。

あ、そうだ・・・こういう場合は・・・まずベットに腰かけて・・・。

「あの、今夜はよろしくね・・・」

上目遣いに二人を見る。

一緒に寝るわけだから、ちゃんと言っておこう。

う~、でも・・・誰かと一緒に寝るなんて久々だから恥ずかしいかも・・・。

「すずかちゃん!君天然だね!間違い無く天然だね!?」

セツナくん、酷い・・・。

私は天然じゃないよ、天然はなのはちゃんの領分だよ・・・。

「今夜どころか朝までお願いします!!」

ハルカちゃんがガッツポーズを作りながら叫びます。

「お前はテンション上げてんじゃねぇ!!」

「あの上目遣い+火照った顔に何も感じないの甲斐くんは!!」

「感じるか!!」

「感じてよ!!」

えっと、二人共・・・そんなに叫んだら声が枯れちゃうよ・・・。







********************





「オレは間違ってないオレは間違ってない・・・」

布団に入ったセツナくんがうわ言のようなことを言いつつ、眠りについた。

やっぱり・・・怪我とかまだ痛いんだね、凄く寝苦しそうにしている。

「あのね、月村さん・・・私、初めてなんだ」

そして、一緒なベットに入っているハルカちゃんがモジモジしながら頬を赤らめる。

「ハルカちゃん、私信じてるから・・・大切な友達だって・・・」

ハルカちゃんにこう言われたら・・・セツナくんがこう言えと言ってた。

「はっ!?うっ、う~~~~~~~~~~~~!!」

えっと、どこからかハンカチを取り出し・・・涙ながら噛みしめるハルカちゃんに私はなんて声をかければ良いのかな?。



それから誰も喋らず・・・私も含めて眠りに入ったんだけど・・・。

一時間くらいかな、時間が経ったと思うんだけど・・・眠れない・・・。

「ハルカちゃん、起きてる?」

私の直ぐ横で寝ているハルカちゃんに、小声で聞く。

「・・・・起きてるよ」

眼をつむったまま、ハルカちゃんは答えてくれた。

「眠れないのかな?」

「うん、ごめんね・・・」

やっぱり、ちょっと・・・モヤモヤしてて・・・眠れない。

「大丈夫だよ、私は平気」

ハルカちゃんが眼を開け、私に向かってニコリと微笑む。

「ありがとう・・・」


セツナくんはやっぱり疲れていたのか・・・ぐっすりで、寝息も立てずに静かに眠っていた。

だから、起こさないように静かに・・・話しあう。

「本当に・・・今日はごめんね」

「ていっ・・・」

謝ったら、額にいきなりデコピンをされた。

い、痛い・・・。

「ハルカちゃん?」

額を抑えながら、ハルカちゃんを見る。

「何回も謝らなくて良いよ」

そう、少し頬を膨らませながら・・・言われた。

「あう、ごめんなさ・・・」

「ていっ・・・・」

い、痛い!?。

「三度目は中指でやるよ」

ニッコリ笑顔で忠告、うう・・・少し怖いよ~。

「それに迷惑をかけたのはバカな襲撃者なんだから、月村さんが謝る理由は無いよ」

「でも、セツナくんが・・・怪我をしたのは私のせいだよ・・・」

ハルカちゃんの家族を傷つけた原因は・・・私だ・・・。

「甲斐くんのこと、気にしてるんだね・・・」

「うん」

二人を巻き込んで、セツナくんに至っては怪我までさせて・・・その事が・・・凄く苦しい。

それで・・・眠れなくなっちゃった・・・。

私が頷くと、ハルカちゃんは苦笑いを浮かべた後。

「お姉さんと主人公は言っていた『「命と引き換えに金を要求するのが強盗  では、その両方を請求するのは?」 「女」』だと」

何故か天井に・・・天に向けて右手の人差指を伸ばしながら、そう言った。

「えっと、意味がわからないかな?」

「つまり、女の子はわがままを言える権利を持ってるんだよ」

手を下げ、ハルカちゃんが笑う。

「わがまま?」

「うん、わがまま。そして、無条件で男の子に守ってもらえる特権が有るんだよ」

「・・・ずるいね、女の子って・・・」

少しだけ、笑ってしまう。

「その分ね、女の子は男の子のことを・・・甘えさせてあげる事ができるんだよ」

「甘えさせる?」

「そうだよ、男の子が男の子に甘えるって・・・字にすると気色悪いじゃん。あ、私はBLいけるからね」

そう言われても困るんだけど・・・。

「だけど、女の子に甘えるって・・・何か綺麗でしょ。絵にもなるし」

「そうだね」

絵になるかはわからないけど、普通って感じがする。

親で考えた時・・・お母さんは優しくて、お父さんは厳しい、そんなイメージが出るからだと思う。

「だからね、月村さんは甲斐くんに守ってもらっていいんだよ」

「代わりに、甘えさせる?」

「うんうん」

ハルカちゃんは首を横に振った・・・アレ?上の会話の意味が半分ぐらい無くなった気が・・・。

「甘えさせるかどうかを決めるのは月村さんだよ。ほら、好きでもない男の子を慰めるのって嫌じゃん」

「女の子って、わがままだね」

ハルカちゃんが言う女の子は・・・凄くわがままだ・・・。

「そうだね。そういうわけで・・・私は気にしてないよ、甲斐くんも気にしてないと思う」

「どうして・・・?」

私は・・・二人に迷惑をかけた・・・。

怪我をさせて、傷つけた・・・。

隠し事も・・・していた。

「友達だから、そして・・・私達がそう望んだから・・・」

だけど、ハルカちゃんは首を振りながら・・・そう、優しく言ってくれる。

私を友達と言ってくれる・・・。

「優しいね・・・二人共・・・」

涙が出てくるぐらい、その言葉が嬉しくて・・・。

二人に迷惑ばかりかけて、何もしてあげられない事が・・・本当に悔しい・・・。

「女の子が女の子に甘えるって、絵にならない?」

ハルカちゃんが質問する。

「友達に甘えるじゃ、駄目かな?」

私は・・・そう返した。

「駄目じゃないよ」

私は・・・また泣いてしまった・・・。

この二人と・・・友達を続けられることが、本当に嬉しくて・・・。






























[17407] 月村家編 第10章 エピローグから始まるプロローグ
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 03:18



「甲斐くん、起きてるよね」

「ああ・・・。すずかは寝たか?」

「うん、ちょっと涙眼だけど」

「そうか・・・」

「・・・・。泣かせちゃったね」

「そうだな」

「後悔してる?」

「してない」

「大丈夫、月村さん・・・きっと明日は笑ってくれるよ」

「ああ」

「・・・・お休み、甲斐くん」

「お休み」




















***********************************************************************************



翌朝。

「速報です、犯人がボコられた上で捕獲されました」

朝食をごちそうになっていた時、ノエルさんが伝えてくれた。

つうかボコられたって・・・この人、無表情だったけどキレてたのか?。

「そう、ありがと」

忍さんがお上品に口をフキンで拭った後、ノエルさんにお礼を言う。


この町は・・・いつの間にか魔境になってたんだな・・・。

一日で犯人を捕まえられる人間が居るんだもの・・・これから夜道には気を付けよう・・・。


「それと、お伝えしなければならない事が一つ」

「なに?」

「レプリカが一体、行方不明になっています」

「レプリカが!?」

少しだけ真剣な顔でノエルさんが言い、忍さんが声を荒げた。


「レプリカって、オレが昨日倒した」

「はい、イレインのコピー機です」

オレの問いにファリンさんが答えてくれた。


「昨日の襲撃前・・・人質を捕まえに二体町に送り出していたようです」

「人質・・・」

全員の視線がオレに向く。

「倒したのは一体ですよ」

首をブンブン振る。

そうだ、倒したのは一体だし・・・見たのも一体だけだ。

「だよね、ハルカちゃんはノエルが迎えに行ってるから・・・そうなると・・・」

忍さんが腕を組んで頭を捻らす。

「結構ヤバい状況ですか?」

もし、レプリカが町で暴れたりとかしたら・・・相当な被害が出るのではないだろうか・・・。

「危険は無い筈よ、レプリカはイレインの指示で動いてるから・・・イレインが停止した時点で機能は停止してるはず。問題はレプリカが世間に知られた場合よ」

今の社会には無い、秘密の技術が山盛りだから・・・。と、忍さんは付け足す。

「地道に探すしかないだろう」

「そう・・・よね」

恭也にぃの言葉で、その件については終了。


レプリカ一体の消息は不明だが犯人は捕まったし、事件は解決した。

これ以上は、もうオレが首を突っ込める事じゃない・・・迷惑をかけるだけだ。

なので、ようやく家に帰る事ができる。筈なのだが・・・・。


「セツナくん、恭也に聞いたんだけど。変身したんだって?」

朝食後、オレがどうやってイレインを倒したか・・・そういう話になった。

すずかにハルカ、恭也にぃにファリンさん、ノエルさんにも変身した姿は見られてるので隠せるわけもなく・・・。

なにより月村家の秘密を知った以上、オレの秘密も話さなければならないだろう。

オレはファイズの事を自分が知る限り話した。

と、言っても・・・携帯・ファイズフォンを使って変身できる事しかオレも知らないんだけど。


「ねぇねぇ、変身できるのはセツナくんだけなの?」

話を終えた後、忍さんが眼をランランに輝かせながら質問してきた。

その眼は・・・新しい玩具を見付けた子供の眼だった。

「えっと、試してみないとわかりません」

「試させてもらって良いかな!!」

「あ、はい・・・」

身を乗り出してきた忍さんにファイズフォンを渡す。

「コードは『555』だったわね」

忍さんがファイズフォンを開き、コードを入力していく。

「忍、そんな得体の知れない物・・・何かあったらどうする気だ?」

「そうだよ、そんな不気味な物で・・・お姉ちゃんに何か遭ったら私嫌だよ」

恭也にぃとすずかが不安げに声を上げるが、おのれら人の大切なモノをそんな風に言うなよ。

「大丈夫大丈夫。それで、エンターっと」


≪Standing by≫


忍さんの腰にベルトが現れる。

ちゃんと忍さんのサイズに合わせてベルトが大きくなっていた。

まるで髪が伸びる呪い人形のようだ・・・気味悪ッ!。


「変身!」

忍さんがベルトにファイズフォンを差し込む。

次の瞬間、ベルトから紅い光が伸びてその体を包む。





≪Error≫





一歩手前で停止。バチバチ。と、何かヤバそうな音を立て出す。

「ふにゃ!!」

直後、忍さんがベルトから弾かれるように吹き飛ばされる。

同時にその腰からベルトが飛んで・・・。

「ふぎゃ!!」

オレの顔面に激突した。

さっき気味悪いとか思ったからだろうか・・・。

「おうち!おうち!!」

顔を覆いながら床を転がる。

痛い!眉間にクリーンヒットしたよ!!おまけに鼻先がグニャってなったグニャって!!ジャッ○ーなら鼻折れてるよ今の!!。

地面に落ちたベルトが揺らいで消える。

消えるならオレにぶつかる前に消えてほしかった・・・。


「大丈夫か忍?」

「うん、何とか・・・」

そして、吹っ飛ばされた忍さんは・・・恭也にぃがいつの間にかお姫様抱っこして抱きかかえられていた。

いつの間に・・・全然見えなかったぞ・・・。この人も若干人間止めてる気がするのはオレだけか?。

「変身できなかった・・・」

恭也にぃから離れ、若干落ち込みながら忍さんが呟く。

そんなに変身したかったのか・・・。

「だって!だって!子供の頃に誰もが思う夢じゃない!!シュワッチよ!超変身よ!!目覚めよその魂よ!!」

いや・・・そんな必死に言われても・・・。

それと混ざってる混ざってる・・・二大ヒーローが混ざってるから、夢の共演を果たしているから。

「大人は変身できないの!?これが現実なの!?」

「だから、何でそんなに変身したいんだアンタ!!」

「夢だからよ!!」

即答された。

あと服を掴まないで!瞳孔を開かないで!凄く怖いんだけど!後ろ髪が前に垂れさがってて『きっと来る~』みたいになってるんだけど!!。

「何で変身できなかったのかな?」

そんな忍さんを励ましつつ、すずかが聞く。

「さぁ・・・?誰か試す?」

オレはファイズフォンを拾い、みんなに差し出すと全員が首を横に振った。

まぁ、アレみたら誰もやりたがらないか・・・。

「よし、ハルカ試せ」

「上の思考で何でそうなるのかな!?でも、甲斐くんが助けてくれるなら・・・私頑張る!!」

ハルカがファイズフォンを手に持ち、気合を入れる。

「よし!全員退避!!」

「助ける気無し!?」

だって、ハルカだし。

あだ、ファイズフォン投げつけられた・・・。

「条件とか有るのかしら?」

「子供限定とかでは?」

ファリンさんが挙手しながら言う。

「多分、違うと思うわ」

「ベルトのサイズが変わってましたしね・・・」

装着者に合わせてベルトのサイズが変わっていた、なら・・・子供限定である可能性は薄いはず。

「年齢・・・」

ハルカがぼそりと呟く。ピキーン。と、場の空気が凍る。

「ハルカちゃん、ちょっとお姉さんと良い所行こうか?」

「わーい、どこですかー?」

それから、ハルカを見た者は居ない。



「ねぇ、セツナくん・・・それ分解していい?」

「駄目です」

戻ってきた忍さんが開口一番そんな事を言う。

「ぶ~」

子供みたいに頬を膨らませても駄目・・・。

一応、オレの大切なモノなんだから・・・万が一壊されたりでもしたら非常に困る。

「じゃあ、分解はしないから解析させて」

お願い~。と、両手を合わせて頼まれる。

「まぁ、それだけなら・・・」

解析だけなら問題は無い筈。

少しでも・・・何かがわかるなら預けよう。

記憶の手掛かりになればいいんだけど・・・。

「お願いします」

「はいはーい」

忍さんが満面の笑顔でファイズフォンを受け取る。

「「忍(さん)・・・・」」

恭也にぃとハモった。

「あはは、わかってるわよ」

う~む、不安になってきた・・・。











***************************************










それから3時間後、昼前の時刻。

屋敷の奥に消えていた忍さんが、残念そうな表情で戻ってきた・・・。

「解析無理だった・・・」

そう言ってオレにファイズフォンを返す。

「分解しようとしても無理だった・・・・」

「聞き捨てならないんですけど、分解しようとしたんですかアンタは・・・」

「だって私から見ればそれはお宝の固まりよ、小さい身に沢山の希望が詰まった蟹みたいなものよ」

「例えの意味がわからないんですけど、つうか謝るどころから開き直りかよ」

駄目だこの人、もう信用ならねぇよ・・・。

「オカシイ・・・この家の技術は現代技術の33歩くらいは先に行ってるのに、手も足も出ないなんて」

「この家の技術どんだけ凄いんすか・・・」

そして、この携帯も一体なんなんだよ・・・マジで呪いがかかったアイテムか何かなのか?。

教会とかに持っていった方が良いのだろうか?ムンクとか呼んだ方が良いのだろうか?。

「う~・・・」

それから本当に悔しいのか、忍さんは昼食の間・・・終始ふて腐れていた。
























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昼食後、忍さんは恭也にぃと共にイレインを見に行き。

ノエルさんとファリンさんは昨日破壊された屋敷の修繕へ。

オレ達は・・・。

「甲斐くんよ、私は帰ってきたー!!」

「そのままくたばれば良かったのに・・・」

「酷いね、セツナくん」

三人でお話中だ。

ソファーに三人並んで座りながら、まったりとだ。

昨日は雨降ってたけど、今日は晴れで温かく・・・ポカポカ日差しが窓から差し込んで気持ちいい。



「セツナくん、私・・・頑張ろうと思うんだ」

そのままユルユルと幸せな時が過ぎるのを感じていると。すずかがいきなりそう言った。

「突然なんだよ?」

すずかは何かを決心したような、決意を固めた眼でオレを見る。

「守られるだけじゃない、守れるようになりたい・・・。私・・・強くなりたいんだ、強くなるために頑張りたいんだ」

「いきなりだな・・・」

ちょっとたじろぐ、それぐらい・・・すずかは強い眼をしていた。

「うん、いきなりだよ。昨日決めた事だからね・・・。守られて、何も返せなくて、そんな私が嫌だから・・・決めたんだ」

「それは・・・」

すずかのせいじゃない、そして・・・オレは気にしていない。そう言おうとしたら、すずかは首を振って・・・。

「ッ・・・」

オレの怪我した部分に触れた。

「痛い?」

包帯越しに、冷たい指の感触がした。

「ああ・・・」

だが、触られた個所は熱くて・・・痛い。

「その痛みの原因は・・・私なんだよ」

すずかが・・・泣きそうな眼でオレを見つめる。

「その痛みは・・・苦しみは・・・間違い無く私のせいだよ」

「違う」

そこは・・・絶対に違う、オレは・・・そう思ってない。

悪いのは・・・すずかじゃない。きっと、全員がそういうはずだ。

「違わないよ。ごめんなさい・・・、そういうことにさせて」

「どうして?」

なんで、自分から苦しもうとする?。


「私がセツナくんの友達だからだよ、友達だから・・・甘えるだけじゃ駄目なんだ・・・。もらってばっかりなのは・・・友達じゃない」

すずかがオレから手を離し、自分の胸の前に持っていく。

「私が二人の友達で居続けるために・・・私は強くなりたい。二人を助けられるぐらいに・・・強くなりたいの」

そして・・・。

「だから、私のせいにさせて・・・。そうしないと、私は二人に甘え続けちゃう・・・強くなれない」

オレの眼をジッと見ながら・・・。

「ごめんね、私・・・女の子だから凄くわがままなの」

笑顔を浮かべた。

「わがままで、甘えん坊で、なにかで釘を刺しとかないと・・・すぐに甘えちゃうんだ」

何かを決めて、真っ直ぐ貫こうとする、強い笑顔をすずかは浮かべた。

その笑顔は・・・本当に綺麗だった。


「そっか・・・」

顔が熱くなるのを感じた。

やばい、すずかの顔を直視できない。

真っ直ぐ、本当に真っ直ぐな笑顔が・・・眩しくて・・・心が熱くなって・・・何かドキドキした。

「甲斐くん、顔が茹でタコだよ」

「うるせぇ・・・」




その日からすずかは強くなったんだと思う。

だって、それぐらい強くて・・・綺麗で・・・カッコいい笑顔を浮かべていたから・・・。



























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『速報です、昨晩。海鳴市の河川敷にて、不審火が確認されました。火は直ぐに沈下されましたが、焼け跡から全身を斬り裂かれた人のようなモノが発見されました。

 損傷が酷いため、何かはまだわかっていませんが・・・精巧に作られた人形だと警察は判断しています。

 放火した人物は今だ見付かっておらず、目撃者の話では・・・紅い何かを身に纏った何かが居た・・・。とのことです。

 続報が入り次第お伝えします。それでは・・・次のニュースです』




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≪次章へ続く≫























[17407] 出逢い編 第1章 それは不思議な出会いなの?(前編)
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 14:51



突然ですが、6月です。

「ハァ・・・ハァ・・・」

突然ですが、逃走中です。

「にゃああああああああああああッ!!」

なのはも一緒です。

「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!」

追跡者はけむくじゃらの化け物です、正直気持ち悪いです。

「二人共!逃げてください!!」

なぜか・・・喋る動物と一緒です。

「ああ・・・・なんだよこの状況・・・」

オレはこの・・・あまりにもカオスな状況に眩暈を感じた、酸欠かも。





























それは出逢いの物語。

広い空の下で起きた、星の光の誕生と・・・運命が涙する物語。

これは・・・願いが交錯する、魔法の物語。

~これはリリカル?マジカル?。無印編、始まります~





























話は・・・一日前に遡る。

すずかの家で起きた一件から、少しだけ時間が経った。

オレの日常にそこまで劇的な変化は無い。

恭也にぃに特訓と言う名のイジメを受けている事を除いて・・・。。

「恭也にぃ・・・いつかぶっ倒す・・・」

深夜の鳴海市、裏山の山中にて・・・地面にぶっ倒れながら怨嗟の言葉を吐く。

「あはは、大丈夫?」

美由希さんが手を差し出してくれる。

「何とか・・・」

手を借りつつ、身体を起こす。


あの一件の後、何故か恭也にぃが稽古を付けてくれる事になった。

詳細は教えてくれなかったが、オレに力の使い方を教えてくれるらしい。


「じゃあ、もう一本行こうか」

「はい」

だが、何か必殺技を教えてくれるわけでもなく、基礎を固めるためにトレーニングを積むわけでもない。

やる事はただ一つ。

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

美由希さんに突っ込みながら、右の拳を突き出す。

「ほいっ」

だが、左手で弾かれながら、拳は後ろに受け流される。

「にぎゃああああああああッ!!」

更に足を引っ掛けられ、全力で前に向かって走っていたオレは派手にすっ転んだ。


やる事はただ一つ、美由希さんに一撃を入れる。

お互いに素手で、もちろんファイズへの変身も無し。

オレのみ、反則・不意打ち・その他もろもろ有り。

ただし・・・美由希さんはただのお姉さんではなく、恭也にぃの弟子だった・・・御神だっけ?そういう剣術を学んでいるらしい。

前に一度、こっそりと二人だけで特訓しているところを覗いてみたら・・・真剣でガンガン斬り合ってました。

しかも、空でも飛んでるかのように上下左右の空間を足場に跳び回っていた。残像とか普通に見えたよ。

感想・・・軽く人間を辞めていると思った、そうとう危ない剣術のようで・・・オレは一切詳細を聞かされていない。

もとより背が低かったり、体重が軽かったりなどの身体的な特徴により、オレは剣術の一切が合わないので関係無いんだが。

話がズレた・・・。そんなわけで、美由希さんを特訓相手にぶつかっているわけだが、一撃どころか・・・自分から触れることもできなかった。

今まで頑張ってきたモノが無意味に感じられ、非常に泣きたくなった・・・泣かないけど・・・もの凄い我慢をしたけど。


「美由希さん・・・手加減して・・・」

今度は一人で起き上りながら頼む。

「一応、手加減はしてるんだけど。セツナくん、微妙に強いから・・・ついつい」

あはは・・・。と、美由希さんが笑う。

駄目だ・・・この修行絶対に終わらねぇ・・・。

そして!微妙って酷いから!褒めてるつもりだけど褒めてないからそれッ!!。

「じゃあ、具体的には・・・ライオンに追いかけられているシマウマ並」

「どんな例えっすか!?オレはサバンナの生態系に適応できないって事ですか!!」

「そうだねー、セツナくんガブリと食べられちゃいそうだし」

そこは否定してほしかった!冗談だって言ってほしかった!!。

「チクショー!生き残ってやるぞおおおおおッ!!食物連鎖がなんだー!オレは人間だー!頂天なんだー!!」

美由希さんに突貫。

「てい」

「にゃぎゃああああああああああッ!!」

軽く避けられ、また足払いをかけられた。

地面を転がりながら、オレは思った。


シマウマだって・・・必死に生きてるんだ・・・。

あの派手な模様で、必死に擬態したりしてるんだ・・・。

・・・・・・・・・・・疲れと疲労から、頭のネジが緩んでいたんだと思う・・・。






























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誰か・・・僕の声を聞いて・・・力をかして・・・魔法の・・・力を・・・。



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「「病院行きなさい」」

アリサちゃんとハルカちゃんに同時に言われました。

その眼は・・・何だか可哀相なモノを見る眼だった。

「ひ、酷いよー!!」

私、高町なのはは二人の辛辣な言葉と視線に両手を振り上げながら怒ります。


昨日、変な夢を見て・・・学校でみんなに相談したらこれです。

ちょっと泣きそうです・・・。


「友達の愛に涙ボロボロ?」

「友達の言葉に心ボロボロだよ・・・」

てへっ。と、笑うのはハルカちゃん。

私は真剣なのに、ちょっと酷い。

「セツナも変な夢見てるって言うし、ハルカは常日頃からぶっ飛んでるし、なんで私の周りにはこんな奴ばっかなのよ」

そう、グサリと来ることを言うのはアリサちゃん。

私は頭飛んでないよ・・・。

「アリサちゃん、私は含まれてないよね・・・それ」

心配そうに聞くのはすずかちゃん。

ですけど、私達はそれ扱いですか・・・。

「・・・・・・」

そして、この場にはもう一人居るのですが・・・。

「なんでセツナくんは寝てるんですか?」

机に頭を乗っけて、寝息も立てずに寝ているセツナくんを見下ろす。

「正しくは気絶してるとも言う」

ハルカちゃんが指をピンと立てて訂正、そして・・・その指でセツナくんの頬をつき出します。

つんつん・・・。

「・・・・・」

全く起きません、気絶してるかどうかはわかりませんが・・・熟睡してるみたいです。

「なんで気絶してるのよ・・・」

アリサちゃんもハルカちゃんの真似をして指でつき出します。

ぐさぐさ・・・。

「・・・・」

アリサちゃん、爪が頬にめり込んでて痛そうだよ。

「あ、私もやる~」

すずかちゃんも二人の真似をして、つき出します。

ざくざく・・・。

「・・・」

すずかちゃん!何か掘ってる!大切なモノを掘ってるよ!!。

「三人共、セツナくん起きちゃうよ・・・」

それに何だか痛そうだし・・・。

三人で突いてるから頬以外にも眼とか突いちゃってるから・・・見ててエグイことになってるから。

「朝の早くから寝ているコイツが悪いのよ」

確かにアリサちゃんの言う通り、学校に来てそうそう寝ている事は悪い事なんだけど・・・。

「甲斐くんね、高町兄妹さんと夜中に遊んでて・・・その疲れでこれなの」

「「え・・・?」」

ハヤレヤレと肩をすくめながらハルカちゃんが言うと、アリサちゃんとすずかちゃんが固まった。

「ち、違うからね!いかがわしいことなんて何もしてないからね!!」

両手をブンブン振る、おまけに首もブンブン振って誤解を解く。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんがやってる特訓に、セツナくんが参加してるだけだからね」

少し前からかな、お兄ちゃんとお姉ちゃんの剣術の特訓にセツナくんが参加しているみたい。


それと全く関係の無い話なんですが・・・最近、二人とセツナくんの仲が凄く良い気がする・・・。

すずかちゃんも忍さんがハルカちゃんと仲が良いって言って落ち込んでたから、・・・・これは兄妹の危機なのかな!?。


「そうよね、あ~ビックリした」

アリサちゃんがホッと一息吐く。

「特訓は別に良いんだけどね、それで料理が食べれなくなるのは困るよ」

あ~、そう言えば・・・たまにお兄ちゃんがセツナくんをおぶって帰って来ることが有ったから、それぐらい疲れてるんだと思う。

「じゃあ、料理はハルカちゃんが?」

すずかちゃんの質問にハルカちゃんは首を横に振り。

「甲斐くんが半分意識失いながら家事やってるよ。ほら、お弁当もこの通り」

その手には・・・紅色のハンカチで包まれたお弁当が・・・。

私達がコケる横で、ハルカちゃんが「職業病って奴だね」と、感心したように頷く。

「アンタ・・・止めなさいよ・・・」

「ええ~、だって見てて面白いんだもん。こう・・・ゾンビみたいに白眼剥いて家事やってるの。それにご飯無いと困るし」

(((鬼だ・・・)))

三人起き上りながら、微妙な顔でハルカちゃんを見る。

「自分で作るという考えはないのかな?」

確か、ハルカちゃんも料理が微妙にできると聞いたことが有る。

「無い」

断言した・・・。真面目な顔で断言した・・・・。

そして、またセツナくんの頬をつき出した。

「ハルカちゃん、気持ち良いの?」

さっきみんなで突いてたから、つい聞いてしまう。

「うん、何かマシュマロみたい。高町さんもどうぞどうぞ・・・」

ハルカちゃんがニッコリ笑顔で頷き、私に勧めてきます。

「・・・・・。ごめんなさい、セツナくん」

誘惑に負け、謝りながら。えいっ。と、頬をつきました。


ぷに・・・。


本当だ・・・なんだか柔らかいんだけど、弾力も有って・・・何だか気持ち良い。

「女の子みたい・・・」

「「「あ・・・・」」」

私がそう呟くと、三人が机から離れました。

「みんな、どうしたの?」

私が首を傾げた瞬間。

「女って言うなああああああああああああああああああ!!」

「にゃああああああああああああああああああああああ!!」

セツナくんが飛び起き、掴みかかってきました。

その後、思いっきり頬を抓られました。

寝ぼけてたらしく、手加減無しで凄く痛かったです。



















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「将来かぁ・・・」

お昼休み、屋上でみんなとお弁当を食べつつ・・・私は呟きました。

「なんだ・・・絶望してるのか?」

「してないから。セツナくん、授業中ずっと寝てたでしょ」

私は首を振りながら半眼で振り向きます。

「ああ、テストに関係無い授業は睡眠時間だ・・・」

寝むそうに欠伸をするセツナくん、授業中に休み時間もずっと寝てて・・・お昼休みにようやく起きました。

「なんの授業してたんだ?」

「この前、お仕事見学会したでしょ?。それのまとめ」

「ああ、そういやそんなんしたな・・・」

ハルカちゃんの説明を聞いて、セツナくんが思い出したように頷きます。

「それで、お仕事の話をして・・・将来どんなお仕事に就くかっていう話になったんだよ」

すずかちゃんが補足説明を行い。

「へ~・・・」

セツナくんは気の無い声を上げながら、空を見上げました。

晴れていて、温かい・・・青い空をです。

私も真似をして、空を見上げながら考えます。


将来・・・つまり夢や目標。

今はまだ子供だけど、大人になったら私達は社会に出て、仕事をする。

どんな仕事をするか・・・その選択肢は沢山有るんだけど、う~ん・・・。


「アリサちゃんとすずかちゃんは、もう大体決まってるんだよね」

視線を戻し、二人に質問する。

前に一度、それっぽいことを聞いたことが有る。

「家は・・・お父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強して・・・ちゃんと後を継がなきゃ。ぐらいだけど」

そう言ってアリサちゃんはおにぎりをパクリ。

「私は機械系が好きだから、工学系で・・・専門職が良いなぁって思ってるけど」

すずかちゃんも、そう答えながらオカズをパクリ。

「二人共凄いよねぇ~」

思わず感嘆の声がもれる。

二人共・・・ちゃんと先を見て決めている。

「お前ら本当に小学生か?」

「見た目は子供、頭脳は大人!?」

対して・・・私はコチラの二人と一緒です。

「失礼ね、人生設計は早めに立てておいて損は無いでしょ」

「そんな小学生見たことねぇよ。ガキは遊んでなんぼだろ、早めに人生決めて何が楽しいんだ?」

「そう言って人は無意味な時を過ごして堕落してくのよ。いつまでも楽しい時間が続くと思わないの、早く大人になりなさい」

「人生ってのは楽しくてなんぼだろ、大人の遊びには興味が有るけど・・・オレはガキの遊びが良い」

「二人共、会話が小学生じゃないよ」

アリサちゃんとセツナくんの間に割り込みます。


「でも・・・なのはちゃんは、喫茶翠屋の二代目じゃないのかな」

私を挟んで睨みあう二人に困っていると、すずかちゃんが話題を振ってくれた。

「う~ん、それも将来のビジョンの一つではあるんだけど」

でも、何だか違う気がするんだ・・・。

「やりたいことは、何か有るような気がするんだけど。まだ、それが何なのかハッキリしないんだぁ・・・」

私は・・・やりたい事がわからない。翠屋の二代目も、確かに進路の一つだけど・・・どうしてもそれがやりたいわけじゃない。

「私、特技も取り柄も・・・特に無いし・・」

だからと言って、私にできる事を考えると・・・ちょっと絶望。

「「このバカチン!!」」

左頬にアリサちゃんの輪切りレモンが、右頬にはハルカちゃんの輪切りトマトが張り付いた。

「自分からそういうこと言うんじゃないの!」

「そうだよ、なのはちゃんには天然で真面目という萌え要素が詰まってるんだよ!」

「アンタは黙る!シャラップ!!」

「サーセン」

アリサちゃんが私と余計な事を言うハルカちゃんに怒る。

「そうだよ、なのはちゃんにしかできないこと・・・きっとあるよ」

すずかちゃんも怒る・・・というよりは悲しそうに言います。

「それにアンタ」

アリサちゃんが。ズビシ。と、私に指を突き出します。

「うっ・・・」

それにビックリして身を引くと、両頬からレモンとトマトが落ちました。

「理数の成績はこの私より良いじゃないの、それで取り柄が無いとかどの口が言うわけぇ~」

アリサちゃんが私に覆いかぶさりながら両頬を引っ張ってきます。

さっき甲斐くんにも抓られたから痛さ倍増だよー!。

「だって・・・なのはは文系苦手だし、体育も苦手だし~」

目尻に涙を溜めつつ、反論してみましたが・・・アリサちゃんは離してくれません。

「二人共、駄目だよ~」

すずかちゃんが止めようとしてくれますが・・・それより早く、先程から黙ってたセツナくんが動きました。

「テメェら・・・」

スッ。と、音も無く私達に近づくと。

「「にゃあ!」」

私達の頬を引っ張って持ち上げました。

「食いもん粗末にしてんじゃねぇよ!!」

そして、怒りの眼差しで地面に落ちたレモンとトマトを見下ろします。

「「そっち!?」」

私とアリサちゃんの言葉が重なりました。

「セツナくん、新しい火種持ちこんでどうするの・・・」

「このトマトはな・・・農家のおっさんが手と脇に汗を掻きつつ頑張って作ったんだぞ!このレモンもだ!!それをお前らは!!
 オレのこの怒りはべジタブーとおっさんの怒りだあああああああ!!」

「その言い方少し気持ち悪いから!食べる気無くすから!!それとレモンはベジタブルじゃなくてフルーツだから!!」

すずかちゃんがセツナくんを後ろから羽交い絞めにして引き離します。

だけど、甲斐くんの意味不明な怒りは頂点らしく・・・暴れ続けます。

「ハルカちゃんも止めてよ!」

すずかちゃんが助けを呼びますが。

「うにゅ~」

ハルカちゃんは既にセツナくんの制裁を受けたらしく、頭にタンコブを作ってのびていました。

「アンタ、よくもやってくれたわねー!」

羽交い絞めにされたセツナくんに、アリサちゃんが飛びかかります。

「アリサちゃん!落ちついてぇー!!」

その腰に抱きついて止めますが。

「もとわと言えばアンタのせいでしょうがー!!」

「にゃー!!」

逆に襲われました。

「もう!みんな落ち着いて~!!」

すずかちゃんの叫び声が屋上に木霊しました・・・。



そんな感じの・・・賑やかなお昼になりました。

だけど、自分にしかできないことかぁ~。

私には・・・何ができるんだろ?。
























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放課後です。

日も暮れ、鳴海の町は・・・紅くて綺麗な夕日色に染められています。


私達は学校帰り、塾に行くために歩いています。

「お前、今日デザート抜きな」

「トマト一枚でそこまで!?」

普段はアリサちゃんとすずかちゃんの三人ですが、今日はセツナくんとハルカちゃんも一緒です。

二人は塾には通っていませんが、夕飯の買い出しに行くための道が私達の塾に行く道と一緒なので、たまに一緒に行くことになります。

「・・・」

「どうしたのセツナ、微妙な顔して?」

「いや、気にすんな・・・。行こう、アリサ」

そして、アリサちゃんが見付けた塾への近道を歩いていた時。



『助けて・・・』



「!」

・・・それは聞こえました。

確かに・・・『助けて』と聞こえました。

私は立ち止まりますが・・・アリサちゃん、すずかちゃん、セツナくんは話しながら歩いて行く。

「・・・・」

ただ1人・・・ハルカちゃんだけは頭を押さえ・・・顔をしかめています。

「なのはちゃん?ハルカちゃん?」

「「ん?」」

立ち止まった私達にすずかちゃんが気付いて立ち止まり、アリサちゃんとセツナくんも立ち止まって首を傾げます。。

「どうしたのよ?」

「なにか・・・声がしない?」

アリサちゃんの質問にそう答えると、三人は周囲を見渡し始めます。

私も、周囲を見ますが・・・何も・・・。



『助けて!!』



「!」

今度は間違えなく、ハッキリと聞こえた。

向こう・・・この道の先!。

私は走りだしました。






















***********************************************************************************



「なのは?」

なのはが急に走り出す。

「ぐ・・・ぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

それに合わせるように、ハルカが耳を押さえてしゃがみ込んだ。

「ハルカ!!」

慌ててハルカに駆け寄り、その肩を掴む。

「おい!どうした!おい!!」

「雑音が・・・痛い・・・」

声をかけるが、ハルカは頭を抱えたまま。

何かをぶつぶつ呟きながら、痛みに耐えるように顔を強張らせるだけだ。

「ちょっと!どうしたのよハルカ!?」

アリサがハルカの様子に気付くが。

「なのはちゃん!どうしたの!」

すずかは気付かず、なのはの後を追って行った。

「ちょ!すずか!!」

「アリサ、二人を追ってくれ。オレはハルカを見てる」

「わ、わかったわ。すぐに連れ戻してくる!!」

アリサもすずかの後を追い、自分達から離れる。

「おい!ハルカ!!しっかりしろ!おい!!」

「・・・・・・・」

三人が戻ってくるまでハルカに声をかけ続けたが・・・ハルカは耳を塞ぎ、痛みに耐えるように黙り込んでいるだけだった。
















***********************************************************************************



「はぁ・・・・はぁ・・・・」

どれくらい走ったか、息が切れてもなお私は走り続け・・・私はその子を見付けた。

道の真ん中で倒れる、ハニーブロンドの綺麗な色の・・・一匹のフェレットさんを。

ですが、その子は毛並みが汚れてて・・・何だかぐったりしています。

私が近づくと、弱弱しく顔を上げました。

首には・・・首輪?がついていて・・・赤くて丸い宝石がくっ付いています。

その子は私を見上げると、ホッとしたように倒れました。


「なのはちゃん、いきなり走りだしてどうしたの!」

フェレットさんを抱き上げた時、すずかちゃんが走りながら私に近づいてきました。

あ・・・みんなのこと忘れてた・・・。

「二人共!待ちなさい!!」

続いてアリサちゃんも追い付きました。

「どうしたのよなのは、急に走り出して」

「この子が・・・」

私はフェレットさんを二人に見せます。

「動物?」

アリサちゃんは少しビックリ顔で。

「怪我・・・してる?」

すずかちゃんは動かないフェレットさんを心配そうに見つめます。

「うん、そうみたい・・・どうしよう?」

「どうしよう・・・って、とりあえず病院?」

「獣医さんだよ」

「この近くに獣医さんなんてあったっけ?」

「えっと、この辺りだと確か・・・」

「私、家に電話してみる」

私とアリサちゃんは慌ててましたが、すずかちゃんは割と冷静でした。



















[17407] 出逢い編 第1章 それは不思議な出会いなの?(後編)
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:00



「怪我は無いけど、随分衰弱してるみたいねぇ。きっと、ずっと一人ぼっちだったんじゃないかなぁ?」

それから、すずかちゃんが電話で聞いた獣医さんにフェレットさんを連れて行きました。

そこの先生は女の人で、急に押し掛けたのにも関わらず直ぐにフェレットさんを診てくれました。

「「「先生、ありがとうございます」」」

「先生、ついでにこっちも見てくれませんか?」

私達がそれを聞いてホッとしながらお礼を言う横で、セツナくんが背中に背負ったハルカちゃんを指さします。


私が声を聞いた時、ハルカちゃんが体調を崩したらしく・・・私達が道を戻ると、甲斐くんにおんぶされてました。

ハルカちゃんは平気だと言いますが、顔色が凄く悪いです。


「えっと・・・私は獣医なんだけど」

「人間も獣じゃないですか、特に夜とか」

「確かに獣にもなれるけど、人間は理性が有る限り人間なのよ」

「二人共・・・なに話してるの・・・」

本当に体調が悪いらしく、顔を青くしながら・・・ハルカちゃんが珍しくツッコミを入れました。

「甲斐くん・・・私は平気だから・・・下ろして・・・」

そう、弱弱しくハルカちゃんが声を上げます。

正直・・・全然大丈夫そうに見えません。

「本当に体調が悪いなら、救急車呼ぶけど?」

セツナくんがイスにハルカちゃんを座らせると、その様子を見ながら先生が聞きました。

「大丈夫です・・・ちょっと耳鳴りがするだけです・・・」

それだけ言ってハルカちゃんはイスに背中を預け、眠るように眼を閉じました。

「セツナくん・・・」

「大丈夫だろ、多分・・・」

私が不安そうに聞くと、セツナくんは安心させるようにニコリと笑って返してくれました。

「それよりも、お前ら時間は良いのか?」

セツナくんが時計を見上げます。

「やっば!塾の時間!!」

アリサちゃんが時計を見て声を上げます。

本当だ、ちょっと急がないとヤバいかも。

「でも・・・」

すずかちゃんがハルカちゃん、フェレットさんを見て微妙な顔になります。

「「あ・・・」」

さすがに、このまま置いていくというわけには・・・。

「大丈夫」

私達が顔を見合わせた時、セツナくんがそう言いました。

やっぱり、男の子はこういう時に頼りになるな~と思いました。


「ここには獣医さんが居る」


全員でコケました。

「アンタねぇ・・・」

アリサちゃんが起き上って半眼でセツナくんを見ます。

「「アハハ・・・」」

私とすずかちゃんは苦笑いです。

何と言うか・・・セツナくんらしい言葉です。


「フェレットは私が見ておくから、明日にでも様子を見に来てくれないかな?」

先生は安心させるように私達に微笑みます。

「ハルカは・・・オレが頑張るよ」

だんだんと顔色が良くなってきたハルカちゃんの頭を撫でつつ、セツナくんがそう言いました。

先生も居るから、大丈夫かなぁ?。

それに・・・私達が居てもできる事は無さそうだし・・・。

「じゃあ・・・、明日また来ます。セツナくん、後でメールするね」

私達は、セツナくんと先生に見送られて病院を後にしました。





























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「これ、フェレットなんですよね?」

「フェレットなのかな?変わった種類してるけど・・・」

なのは達が出て行った後、オレはなのはが保護したフェレットを見に行った。


診察台の上には、包帯が巻かれたフェレットが眠っており・・・先生が小首を傾げつつ手を伸ばした。

すると、気配を感じとったようにフェレットが眼を開け・・・翡翠色の瞳をキョロキョロと周囲に彷徨わせた。

そして、オレと先生を交互に見た後。

「・・・」

いつの間に起きたのか、壁に手を付きながらに歩いてくるハルカを見て・・・その動きを止めた。

「・・・」

ハルカもジッとフェレットを見返す。

それは・・・見つめ合っているような、睨み合っているような、よくわからない一瞬で・・・。


バタン。


「「ちょッ!!」」

直後、ハルカとフェレットが同時にぶっ倒れた。








*******************








「しばらく安静にした方が良さそうだから、とりあえず明日まで預かっておこうか?」

「お願いします。明日、みんなで様子を見に来ます」

ハルカを背負いつつお願し、オレは家に帰った。


「お前さ、本当にどうしたんだよ」

帰り道、背中のハルカに声をかける。

風邪とかこじらせた事が無い。と、言えば嘘になるが・・・いきなり体調を崩すことなんて無かった。

なのはも何か変だったし、なにか起こってるのかね~?。

「このバカ野郎・・・」

とりあえず、心配させた分のお返しとして毒づく。

「潰すぞこの野郎~」

寝てもムカつく奴だった。










それから真っ直ぐ家に帰って、ハルカを布団に寝かせ・・・お粥を作りに台所に立つ。

「あ、そうだ・・・そうだ・・・」

鍋に水と米を入れ、沸騰させるまでにメールを打つ。


内容はフェレットの事とハルカの事の二つ。

多分、返事は塾が終わった後だろうけど・・・早めに送っとけ送っとけ。

『ハルカは二度蘇る。フェレットは先生が預かってくれるらしい。明日、みんなで様子を見に行こう』

三人に送信。


そして、メールの返事が来たのは、ハルカにお粥を食わせている時だった。

「メール、なにが書いてあるの?」

一睡したからか、少し顔色が良くなったハルカが聞く。

「えっと・・・」

メールの文面に眼を走らせる。

「三人を代表してなのはからのメールだ。まずはお前へのお見舞いの言葉、その次にフェレットをどうするか」

飼い主が見付かるまで預かる気らしいな・・・。

「三人の内、すずかとアリサはペットを飼ってるからアウト・・・」

すずかは猫、アリサは犬を飼っている。

「なのはちゃんの家も飲食店だから駄目なんじゃない?」

「いや・・・家族と相談した結果、OKもらったらしいよ」

というわけで、フェレットはなのはの家で預かることに。

「もしアレだったら、この家で預かるっていうのも」

「嫌だ・・・」

珍しく、バッサリと切り捨てたな・・・。

「そうですか。それで・・・明日フェレットを一緒に迎えに行こうだと」

「うん、それは行く」

じゃあ、オレ達も行く旨をメールに書いて送信。

「飯食い終わったら軽くシャワー浴びて寝ろ、夜更かしとかすんなよ」

体調が悪化して風邪になったら面倒だ。

「はいはい、お母さん」

「両頬腫らしておたふく風邪にしてやろうか」

ハルカの両頬に手を添える。

今日は頬を引っ張りまくったからコツとか覚えたぞ。


「それは勘べ・・・・ッ!!」

ハルカが身を退いた時、ビクリと肩を震わせた。

そして、また頭を抱え出した。

「おいおい・・・またかよ。大丈夫か?」

心配してハルカに声をかけるが・・・。

「・・・・聞こえますか?・・・僕の声が?・・・聞こえますか?・・・」

今度はハッキリと・・・だが、意味不明な事を呟きだす。

頭痛がするのか頭を抱え、集中するように眼をギュッと閉じている。

「聞いてください・・・僕の声が聞こえるあなた・・・お願いです・・・僕に少しだけ・・・力を貸してください・・・お願い・・・僕の所へ・・・
 時間が・・・危険が・・・もう・・・」

交信が途切れたのか、ハルカが俯けに倒れる。

「電波にしては・・・冗談に聞こえねぇよな・・・」

とりあえずハルカの肩を掴んで揺する。

説明をさせないと、オレは救急車(黄)を呼ぶことになる。

「鬼かアンタは・・・」

顔面蒼白にしながらハルカが睨んでくる。

「大丈夫なのか?」

一応・・・心配なので問う。

「大丈夫・・・頭痛いけど・・・それよりも甲斐くん、行って・・・」

ハルカが頭を手で抑えながら頼む。

「行くってどこに?なんのために?」

頼むからオレに説明してくれ?。

「行けばわかる・・・獣医さんの所・・・、きっと・・・ファイズの力が必要になると思う・・・」

「いや・・・わけわからん」

ハルカが感じているモノがわからない。

「お願い・・・行って」

頼む、頭を下げる勢いで・・・。

「・・・」

ハルカがなにを感じているかはわからない。

だけど・・・何か必死だし・・・、ファイズの力が・・・人外の力が必要とか言ってるし。

「おとなしく寝てろよ」

女の子かつ家族の頼みだし、断ったら男じゃねぇよな。

「うん、ありがと」

オレは、ファイズフォンを手に家を飛び出した。



























***********************************************************************************



また、声が聞こえた・・・。

助けを呼ぶ声が、だから・・・私は家を飛び出した。

街灯に照らされた町を、声がする方に向かって全力で走った。


そして、ここだっ!て、場所に到着した。

動物病院、もう閉まっているのか・・・明かりは点いていない。

だけど、感じる・・・何かを・・・感じる。

「あの・・・フェレットさんなの?」

夕方に出会ったフェレットさん、あの子が私を呼んでいる気がする。

病院の敷地内に入ろうとした時。

「!!」

耳に鋭い音が・・・ガラスを引っ掻いたような音が響いた。

その音が頭に直接響き、私は堪らず耳を塞ぎ・・・眼を閉じる。

「ッ・・・・」

少しして音が消えたと思うと、何だか周りから変なモノを感じた・・・。

まるで、何かに包まれているような・・・そんな感じがする。


次の瞬間、病院の二階の窓が内側からいきなり割れた。

「な、なに!?」

ビックリする間に、二つの影が眼の前に落ちてきた。

一つはフェレットさんで・・・、もう一つは毛むくじゃらの・・・気持ち悪い化け物・・・。

フェレットさんは化け物に追われているらしく、私の方に向かって地面を駆けてくる。

私が思わず両手を伸ばすと、フェレットさんは私の手の中に飛び込んだ。

毛むくじゃらの化け物もそれに続きますが、そっちはさすがに無理なので・・・私は逃げました。


「なになに!?一体なに!?」

私はフェレットさんを抱きかかえながら夜の道を走ります。

化け物は後ろから這うように追ってきます、怖いよ~。

「来て・・・くれたの」

逃げている時に声がしました、発生源は私の胸からで・・・下を向くとフェレットさんが私の方を向いていました。

「喋った!?」

思わずフェレットさんを落としそうになりますが、何とか落とさずに走り続けます。

「なにが起きてるの~!?」

高町なのは、今までで一番混乱しています。

「君には・・・素質が有る。お願い、僕に少しだけ・・・力を貸して」

やっぱり喋っているのはフェレットさんで、落ちついた声で私に話しかけます。

「資質?」

頑張って走りつつ、フェレットさんに問い返します。

「僕は・・・ある探しモノのためにここではない世界から来ました。
 でも、僕1人の力では思いを遂げられないかもしれない・・・。
 だから、迷惑だとわかっているんですが・・・資質を持った人に協力してほしくて・・・」

何だか・・・話が大きい事になってる?。

「お礼はします、必ずします。僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです。僕の力を・・・魔法の力を」

「魔法・・・?」

その言葉に思わず立ち止まった時。

「危ない!!」

「うにゃ!!」

叫び声と共に後頭部を思いっきり蹴り飛ばされました。

地面をズザーと滑ると共に、私がさっきまで立っていた場所に何かが轟音を上げて落ちた。。

それは化け物で・・・コンクリートで固められた道を粉々に砕き、地面に突き刺さっている。

あのまま立っていたら私はペチャンコだった。


「危なかったな」

私を助けてくれたのは、セツナくん・・・。

何故か携帯片手に私に喋りかけてきます。

「ちょっとセツナくん!いきなり蹴りはないんじゃないかな!?」

後頭部と鼻が凄く痛いよ!?。

「助けたんだから問題無いだろ」

だけど、セツナくんはどこ吹く風といった感じで化け物を睨んでいます。

「大有りだよ!!」

助けてくれたのは感謝してるけど!全然お礼を言えないよ!!。

「うるせぇな・・・現状わかってんのかよ?」

叫ぶ私に甲斐くんがイライラした表情で振り向きます。

「セツナくんのせいで余計に混乱してるんだよ!!」

「叫ぶな、つうか・・・それ大丈夫なのか?」

「ふぇ?」

セツナくんが私のお腹を指さし、下を見ると。

「ペラーン・・・」

フェレットさんがペッタンコになって張り付いていた。

さっき地面を滑った時にお腹で潰しちゃったみたいです。

「実写版ど根性カ○ル・・・エグイな」

「言ってる場合!?フェレットさん!しっかりしてー!!」

誰かボンベを!もしくは空気入れを!!。

「とか言ってる内に何か来たな・・・・」

フェレットさんを介抱しているとセツナくんが呟き、顔を上げると化け物が私達に襲いかかって来ていた。

「とりあえず逃げよう!!」

私はフェレットさんを抱きかかえ、また逃げだした。





















***********************************************************************************



「回想終了。それで、今どんな状況!?」

「私が聞きたいよー!!」

ハルカに言われて来てみたらこれだよ・・・。

なのはに化け物に喋る動物のトリプルコンボに、オレの常識という名のライフはゼロだよ。

「もう!どうすればいいのー!!」

なのはがオレの分まで叫ぶ、本当に元気だな・・・オレはもう驚き過ぎてぶん投げに入ってるのに・・・。

「これを!!」

なのはの言葉に答えるように、フェレットが首輪から赤い宝石を外し、口に加えて持ち上げる。

「これは・・・?」

なのはがフェレットから赤い宝石を受け取る。

「温かい・・・」

それを手にし、なのはが呟く。

赤い宝石は、自らの存在を強調するように・・・赤く光っていた。

「とりあえず・・・時間稼ぎか?」

フェレットがなのはに何かをさせようとしているのはわかった。

なら、オレがやることは一つ。

足を止め、迫る化け物に振り向く。

「セツナくん!?」

「危ないです!力を持たないあなたじゃ!!」

なのはとフェレットが口々に叫ぶがオール無視。

(ハルカはこの化け物を倒させるために、オレをここに差し向けたのか?)

ファイズフォンを開き、変身コードを入れる。



≪5・5・5≫



「まぁ、いいか・・・」

考えるのは後にしよう、この化け物をなんとかしないと・・・落ちついて話もできない。

続いてエンターボタンを押す。



≪Standing by≫



腰にファイズドライバーが現れる。

怖いか怖くないかで言えば怖い、なんたって正体不明の化け物が相手だ。

だけど、オレには何とかする力が有る・・・。

なにより・・・。


「ここで逃げたら・・・絶対に後悔する」


想像する、化け物に怯え・・・這うように逃げる自分の姿を・・・。

それは・・・凄くかっこ悪かった。

オレはなのはが見ているのにも関わらず、ファイズフォンを振り上げ。


「変身!!」


ベルトのバックル部分にあるスライダーに、ファイズフォンの下部をはめ込み、携帯が向きを90度回転して、ベルトにぴったりとはめる。


≪Complete≫






















***********************************************************************************




セツナくんが腰に現れたベルトに携帯を差し込んだ瞬間、夜を照らすような紅い光が迸った。

「嘘・・・これは、魔法!?」

フェレットさんが驚いて声を上げますが、私は眩い光から眼を離しませんでした。

血のような・・・紅くて鋭い光、とても・・・力強い何かを感じる光。

それが収まった時、黒と銀の鎧を身に纏ったセツナくんが居た。

「なのは、美味しいところ全部持ってくから」

セツナくんは右手をスナップさせながら私に振り向き、いつものように笑います。

黒じゃない、金色の瞳を輝かせながら・・・。

「・・・・」

私は・・・声が出せませんでした・・・。

「・・・・。そんじゃ」

そんな私にセツナくんは静かに眼を閉じつつ、正面に向き直った。

「あ・・・、違うの!」

私は声を上げたが、遅かった・・・セツナくんは化け物に殴りかかる。


驚いた・・・うんうん、少しだけ怖かった・・・。

セツナくんもいきなり姿を変えたから・・・知らない人になっちゃったんじゃないかと思って・・・。

でも、さっきの言葉はセツナくんの言葉で・・・。

それに気付いた時には・・・既に傷つけていた。


「・・・どうすれば良いの?」

早く、セツナくんと話がしたい。

言葉を伝えたい、今戦う・・・友達を助けたい。

「それを手に、眼を閉じて、心を澄ませて。僕の言葉を繰り返して・・・」

フェレットさんが頷き、指示を出してくれる。

私は言う通りに眼を閉じ、赤い宝石を握りしめて集中する。


「いい?いくよ!!。われ・・・使命を受けし者なり」

「われ・・・使命を受けし者なり」


言葉を紡ぐと握りしめた宝石の温かみが増した気がした・・・。


「契約のもと、その力を解き放て」

「えっと・・・契約のもと、その力を解き放て」


脈打つ、私の言葉を受け・・・その子は脈打った。


「風は空に、星は天に。そして、不屈の心は・・・」

「風は空に、星は天に。そして、不屈の心は・・・」


わかる・・・その子の事が、その力が・・・欲する言葉が!!。


「「この胸に!この手に魔法を!!レイジングハート!セット!アップ!!」」

≪Standby ready Set up≫


光が満ちた、桜の色の光が・・・空に向けて迸る。


「なんて魔力だ・・・」


空に上がる光の柱を、フェレットさんが驚いた眼で見上げる。


「落ちついてイメージして、君の魔法を制御する魔法の杖の姿を。そして、君の身を護る、強い衣服の姿を!!」


そして、光に戸惑う私に声をかける。


「そんな・・・急に言われても・・・えっと・・・えっと」


想像する・・・魔法の杖を、そして・・・衣服は動きやすいので・・・・。


「とりあえずこれで!」


次の瞬間、私は桜色の光に包まれた。

赤い宝石がステッキのような、魔法の杖に変わる。

続いて服も、白い・・・学校の服をイメージした、白色で長袖のジャケットに変わる。

胸元には赤いリボン、靴もブーツに変わる。


「成功だ」


光が収まった時、フェレットさんが呟いた。


「ふぇ!ふぇ~!?」


自分の身体をキョロキョロ見下ろし、戸惑いの声を上げます。

変身・・・しちゃいました・・・。


「嘘!?なんなの・・・これ?」


私に・・・一体なにが起きたのでしょうか!?。

これから、どうなるのでしょうか!?。

もちろん・・・答えは帰ってきません。


「ふぇ~・・・・」


私はただ、戸惑いの声を上げるだけでした。
























[17407] 出逢い編 第2章 初めての魔法
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:08



それは・・・温かい光だった・・・。

「すげぇ」

化け物を殴る拳を止め、空へと上がる光の柱を見上げた。

それは綺麗な桜色で、温かくて、幻想的で、とにかく凄かった・・・。

「あだっ・・・」

どれだけ見惚れていたのか、後頭部に衝撃が走った。

なのはの遠まわしな仕返しだろうか、化け物はオレを踏み台にして光の柱に・・・なのは達に跳びかかった。

「オレを踏み台にした!?」

なんてバカやってる場合ではない、左腰のホルダーからデジカメを取り出す。

次にファイズフォンからメモリーを引き抜き、デジカメのスロットに差し込む。



≪Ready≫



デジカメからグリップが現れ、パンチングユニット・ファイズショットに変わる。

それを右手に装着し、化け物の後を追う。


桜色の光が収まると、そこには白い制服(?)を着て、先端に赤い玉が付いた魔法の杖のような物を構えたなのはが居た。

「ふ、ふぇ!?これなに!?」

格好は決まっていたが、本人は混乱中だった。

眼を点にして作画崩壊を起こしている。

「来ます!!」

オレが声を上げる前にフェレットが叫ぶ。が・・・一歩遅い。

化け物はなのはの前で大きく跳ね、その小さな身体を押しつぶそうとのしかかってくる。

「!!」

なのはがとっさに杖を化け物に突き出すが、あんな細腕で受け止められるはずが・・・。



≪Protection≫



受け止めやがった・・・。

杖から女性っぽい合成音がしたかと思うと、なのはとフェレットを囲むように桜色の障壁が生まれ、化け物の攻撃を防ぎ。

「げっ!!」

あまつさえ弾き返しやがった、それもピッチャー返しのようにオレに向けて真っ直ぐにだ。

「キモッ!!」

毛をワキワキさせながら飛んでくる化け物に軽く悲鳴を上げつつ、ファイズショットを装着した右拳を突き出した。


化け物の身体に拳が突き刺さる。

(重い・・・)

化け物の重さに肩を持っていかれそうになったが・・・。

「はああああああああああああッ!!」

根性と気合で振り抜いた。

ファイズショットから化け物に向かって衝撃が走り、化け物が吹っ飛ぶ。

「テメェ!危ないだろうが!!」

化け物がゴロゴロ転がっているいくのを確認した後、なのはに向かって怒鳴る。

「えっと、なにがどうなって!?」

が、杖を手にプルプルと震えていた!涙眼が可愛いぞこの野郎!!。

「二人共!気を抜いたら駄目だ!!」

「「!!」」

フェレットが声を張り上げる。

瞬間、オレが殴り飛ばした化け物が破裂した。


まるで炸裂地雷というか、クレイモアと言えば良いのか・・・。

とにかく破裂した、風船が割れるように化け物の身体が弾け・・・その肉片が周囲に殺到した。

それは弾丸のような勢いで、地面や壁を粉砕する。



「きゃ!?」

≪Protection≫



なのはは防いだ、また桜色の障壁が現れ、その身を守った。

フェレットも障壁の内側に居るから大丈夫だ。



「うわっ!ちょっ!!」



が、防御手段の無いオレは頭を抱えて身を伏せることしかできなかった。

周囲の地面が化け物の破片によって砕け、土やコンクリートの破片が身体に降り注ぐ。

大きな破片が当たらなかったのは運である、何か一生分の幸運を使った気分になった・・・。



「セツナくん!大丈夫ー!?」

「ダイジョブダイジョブ・・・」



なのはに答えながら、身体を起こす。

身体に乗っかった破片がパラパラと落ちた。

周りを見ると、本当に爆弾か何かが炸裂したような惨状になっていた。

そして、壁や地面に化け物の破片らしき物が突き刺さっており・・・。



「なんだ・・・これ・・・」



蠢きながら、一か所に戻り始めていた。

どこの魔人ブ○だよ・・・。



「僕達の魔法は発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です。そして、その方式を発動させるために必要なのは・・・術者の精神エネルギーです」



フェレットが説明をする間にも、化け物は再生を始めている。



「そして、アレは忌まわしい力のもとに生みだされてしまった思念体。アレを停止させるには、その杖で封印して、もとの姿に戻すしかないんです」

「それは、どうすれば良いんだ?」



なのは達の所に走り、フェレットに問う。

フェレットの言葉通りなら、破壊ではなく封印をしないとコイツは倒せない。



「さっきみたいに攻撃や防御の魔法は心に願うだけで発動しますが、より大きな力を必要とする魔法には呪文が必要なんです」

「呪文・・・」



つまり、思うだけでさっきの障壁は発動できるけど・・・それよりレベルの高い魔法は起動キーが必要なのか?。



「心を澄ませて、あなたの中に・・・あなたの呪文が浮かぶはずです」



フェレットがなのはを見る。

多分、オレにはその封印は無理な気がする。

オレにできるのは、多分・・・破壊だけ。

フェレットも自分でできるならやってるだろうし。

なら、この場で封印ができるのは・・・なのはだけか。



「え?」

「「・・・・」」



ポカーンとした顔になるなのは。

私?。と、自分の顔を指さしてる。

オレとフェレットの頭上に暗雲が立ち上った・・・。

まぁ、急な展開に付いていけないのはわかるんだけど。



「お前な!空気読んでパパッと封印しろよ!魔法とかパッて出せよ!もうケツからでも良いから出してお願い!!」

「急にできないよ!それとお尻からは出せないよ!!」

「そんなの解らねぇだろ!ケツからは色々出るんだよ!?一発で場の空気を色々乱してくれるんだよ!静かな場所でブーとやったら一生笑い者だよ!!」

「どんな失敗談!?もう話題が変わってるよ!!」

「うるせぇ!とにかく頑張って!!」

「そんな事言われても・・・う~ん」



なのはが杖を握り締め、眼をギュッと閉じる。

その間に化け物の再生が終わる。

そして、真っ直ぐ自分達に襲いかかってくる。



「おまっ!早くしろよ!!ここでなにもできなかったら一生ノミの心臓と言うぞ!!」

「落ちついてください!心を静かに!集中してください!!」

「落ちつくな!!パパッと行け!もう思い付きでテクマクマザコンとか言ってしまえ!!」

「あなただけの呪文を、心の中の呪文を!!」

「うー!二人共うるさい!!それとセツナくん!マザコンじゃなくてマヤコンだから!!」



なのはが杖を振り上げてキレる。

だが、こっちもこっちで命が掛かってるので必死だ。



「逆ギレする前に呪文だよ!呪文!!」

「耳元でアレだけ騒がれたら出るモノも出ないよ!!」

「言い訳してんじゃねぇよ!!」

「言い訳じゃないもん!!」

「二人共!落ち着いて!!」

「うるせぇ!!」
「うるさい!!」

「あ、はい・・・すみません」

「これだから最近の若い奴は駄目なんだよ!入社して直ぐに会社辞めて『まるで、駄目な、大人』=マダオになんだよ!!」

「なのははマダオじゃないよ!!それにセツナくんだって私に文句言うだけでなにもしてないよね!!『まるで、駄目な、男』=マダオだよね!!」

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「うるせぇ!!」
「うるさい!!」



オレは蹴りを、なのはは障壁を張って化け物を弾き返す。

もう良い!コイツには頼らん!!。


メモリーを抜いたことで銀色一色になったファイズフォンを開き、エンターボタンを押して閉じる。



≪Exceed Charge≫



ベルトから紅い光が走り、身体の紅いラインを通ってファイズショットに届く。

ファイズショットに差し込まれたメモリーが金色に輝く。



「行くよ、レイジングハート!!」

≪all right≫



なのはもオレは頼りにしないらしい、起き上って突進してくる化け物に杖を向ける。

化け物はオレ達の眼の前で跳躍、その全身から触手なようなものを伸ばして攻撃してくる。



≪Protection≫



桜色の衝撃がそれを防ぐ、迫りくる触手は障壁に弾かれ・・・光りとなって消える。



「キシャアアアアアアアアアアアアッ!!」



化け物が仰け反った瞬間、障壁が消え・・・オレは跳ぶ。

跳んで、化け物に向かって右拳を腰だめに構えながら突っ込む。


一閃。


振り抜いた拳が化け物の身体に突き刺さる。

ファイズショットから大気を歪ませるほどの衝撃が化け物に向かって走る。



「はああああああああああああああッ!!」



そして、そのまま地面に向けて拳を振り下ろす。

ダメージが大きいのか、化け物は一切動かず地面に叩きつけられた。

地面が砕け、化け物が埋まる。

その背後には紅い『Φ』の字が刻まれている。



「リリカル・・・マジカル!!」



地面に落ちた化け物に向かって、なのはが呪文を唱える。



「封印すべきは!忌まわしき器!ジュエルシード!!」

「ジュエルシード!封印!!」



フェレットの助言を受け、なのはが杖を振るう。



≪Sealing mode Set up≫



杖の形が変わる。

杖の先が少し伸びたかと思うと、そこから三枚の桜色の翼が伸びた。


次の瞬間、杖の先端から光の帯が伸びた。

それは化け物に巻き付き、縛り上げる。

苦悶の声を上げるその額に『ⅩⅩⅠ』の文字が浮かび上がる。



≪Stand by Ready≫

「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21。封印!」

≪Sealing≫



なのはの言葉を受け、光の帯に縛り付けられた化け物に桜色の矢が突き刺さる。

そして、その身体は光に包まれ・・・消えた。

残ったのは、化け物が破壊した町の傷跡だけだった。
























***********************************************************************************



化け物が最後に居た場所に、青く光る物が落ちていました。

「これが、ジュエルシードです」

フェレットさんの言葉を聞き、二人で近づくと・・・そこには小さな宝石が、ダイヤのような形をした青い宝石があった。

「レイジングハートで触れて」

私はフェレットさんに言われた通り、レイジングハートの先端を青い宝石・ジュエルシードに向けます。


≪Receipt Number XXI≫


すると、ジュエルシードはふよふよと浮かびながら、レイジングハートの先端にある赤い弾に吸い込まれて消えました。

直後に、私の身体が・・・服と杖が光の粒子を残しながら消え、もとの服に戻ります。

杖を持っていた右手に、赤い玉・レイジングハートだけが残りました。


「・・・・」

セツナくんもベルトから携帯を外すと、ベルトと鎧が紅い光を発してから消えました。

眼も、私の知る黒色に戻ります。

「アレ?終わった・・・の?」

服や杖が消え、セツナくんがもとの姿に戻ったのを見た後・・・私は茫然と呟いた。


だって、まるで夢のように現実感が無かったから・・・。

それに色んな事が一度に沢山起きて・・・思考が追い付かない。

私今・・・凄く混乱しています・・・。


「はい、あなたのおかげで・・・。ありがとう・・・」

戸惑う私を安心させるようにフェレットさんが呟き、パタリと地面に倒れた。

「ちょっと!大丈夫!?」

フェレットさんの前にしゃがみ込み、声をかけるが・・・返事は無い。

もしかして、怪我がまだ痛いのでは・・・?。

「あ・・・・」

フェレットさんを抱きかかえた時、セツナくんが声を上げた。

「どうしたの?」

私の質問に答えたのはセツナくんではなく、サイレンの音だった。

パトカーの・・・ウオ~ン。って、音が・・・遠くからこっちに向かって近づいてくる。


そこで私は気付きました。

破壊された道、折れた街灯、崩れた壁。

壊したのは化け物ですが、ここには私達しか居ません。

「も、もしかしたら・・・私、ここに居たら大変アレなのでは・・・」

どう考えても私達が何かしたのは明白ですし、こんな時間に外に居るのも問題です。

警察に逮捕されるのは、非常に困ります。

良い言い訳も思いつきません。

「セツナくん、どうし・・・」

困ったので助けを求めるようとセツナくんに振り向くと。


既に逃げていました・・・。

それも凄い勢いで、こう・・・ビューと。

もう、背中が小さく見えています。

「逃げるの早っ!?えっと・・・ごめんなさ~い!!」

私も逃げました、待ってーセツナく~ん。










*************************************










「はぁ・・・はぁ・・・」

私達は公園に駆け込んで、ベンチに二人並んで座って呼吸を整えます。

「くそっ、厄日だ厄日・・・」

セツナくんがベンチにもたれかかり、空を見上げながら吐き捨てます。

ちょっと苛立ってるのかな、雰囲気がちょっと怖いです。

「すいません・・・」

そんなセツナくんに声をかけるのは、私の膝の上で眠っていたフェレットさん。

起き上って、セツナくんに申し訳なさそうに頭を下げています。

「ああ・・・いや、気にすんな・・・」

セツナくんがバツの悪そうな顔でフェレットさんに返します。

「ですが、僕はあなた達を巻き込んでしまいました」

フェレットさんは頭を下げたまま・・・セツナくんに、私にも向けて謝罪の言葉を言います。

本当に申し訳無さそうに、謝ってくれました。

「えっと・・・多分、私平気」

フェレットさんを抱き上げ、ニコリと笑う。

怖かったけど怪我もしなかったし、それに・・・フェレットさんを助けられたから。

うん、私は大丈夫。

「・・・・」

そんな私を、セツナくんが微妙な顔で見ていた気がするのは気のせいかな?。

「オレも大丈夫だ。自分で決めてここに来て、勝手に戦った・・・だから気にすんな」

けど、直ぐにフェレットさんを真っ直ぐ見ながらそう言いました。

「はい・・・」

ちょっと納得いかなげにフェレットさんは頷きました。


きっと、真面目で優しいんだと思う。

だから、私達を巻き込んだことが本当に心苦しいんだ。


「怪我は大丈夫なのか?」

セツナくんが別の話を振りました。

そう言えば、さっきも倒れましたし・・・大丈夫なのかな?。

「怪我は平気です、もうほとんど治っていますから」

そう言ってフェレットさんが身体を震わせて包帯を外すと。

「本当だ・・・怪我の痕がほとんど残ってない、すご~い」

持ち上げてよく見ても、怪我一つ有りませんでした。

「助けてくれたおかげで、残った魔力を治療に回せました」

「よくわかんないけど、そうなんだ」

『魔法』に『魔力』、絵本やゲームに出てくるような言葉・・・う~ん、後で色々聞こう、もちろん・・・セツナくんの事も。

だけど、その前に・・・。

「ねぇ、自己紹介していい?」

「う、うん」

フェレットさんが頷いた後、私はエヘンと小さく咳払いをして。

「私、高町なのは。小学校三年生、家族や仲良しな友達は・・・なのはって呼ぶよ」

そう、自己紹介した。

「僕は、ユーノ・スクライア。スクライアは部族名だから、ユーノが名前です」

「ユーノくんかぁ、可愛いなま・・・にゃっ!!」

後頭部をいきなり叩かれた。

「ちょっと!何するのかな!?」

頭を擦りながら、手を上げたセツナくんを睨みます。

「いや、何かトラウマが・・・」

セツナくんが首を傾げながら呟きます、理由の無い暴力は止めてほしいです。

それとトラウマって、私はただ名前が可愛いって言おうとしただけなのに・・・。

「セツナくん酷い」

頬をプクッと膨らませます。

「オレはセツナ、甲斐セツナ。なのはと同じ小学三年生、セツナで良い。よろしく、ユーノ」

無視されました・・・。

「ユーノ怪我してるし、こんな所じゃ落ちつかないだろ。まずはオレの家に行こう、あとはそれからだ」

シクシク泣いている間に、セツナくんがユーノくんを持ち上げて歩きだします。

「あ、待ってよセツナくんー!」

今日は何だか、セツナくんの私に対する扱いが酷い気がします。

どうしてだろ?。
























[17407] 出逢い編 第3章 緩やかな始まり
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:21



なのはに感心というか・・・違和感というか・・・。

涙眼で後ろからついてくるなのはを尻目に考える。


毛むくじゃらの化け物に襲われ、喋るフェレットに出会い、オレがいきなり変身して、自分も変身して、魔法を発動。

こう・・・言葉だけ並べてみると、凄いラインナップだと思う。

だけど、なのはは笑って平気だと、逆に巻き込んで落ち込むフェレットに気を使ったりした。

オレは・・・混乱して、ちょっとイラついてるのに。

魔法とか意味わかんねーし、ディズ○ーとかジブ○よろしく喋る動物とかもトラウマになりそうだし、また常識が音を立てて崩れていくよ・・・本当に。

なんか・・・オレが記憶喪失だということが、そんなに変に感じなくなってきた・・・。

一応、オレは月村家の出来事が有るから・・・多少の耐性はできていたつもりなんだけどな~。


そう考えたら、なのはが凄いような・・・変なような・・・。

普通の女の子なら怯えるなり泣くなり、助けを求めるなりすると思う。つうか、男のオレもそうする。

だけど、なのはは全部1人で片付けた。

オレが助けに行かなくても、きっと1人で頑張っていた。

ハルカと同じように声を・・・ユーノの助けを求める声に応じ、よくもわからない世界に足を踏み込んでいた。

それは・・・勇気が有る、正義感が強い。と、言ってしまえばそれだけだが・・・。

恭也にぃの異常なシスコンぶりや、美由希さんの悲しそうな表情など、なのはの家族の心配ぶり・・・。

それが引っ掛かって、そういうのとは違うと思った・・・。

別にオカシイことじゃないのに、違和感を感じる。

けど・・・その正体がわからないから、イライラする。

(あ~、そうか・・・)

違和感の正体はわからないが、わからない理由はわかった。

(オレ、なのはの事・・・そんなに知らないや・・・)

そうなんだ・・・一緒に遊んだり、勉強したりしてるだけで・・・オレはなのはを知らない。

すずかのように、深い所までわかっていない。

いや、それが当たり前なんだけど。すずかの事が特殊なだけだし。

そうか・・・・オレとなのはが出会ってから2ヵ月、それは長いようで短い時間。

そんな短い時間で、なのはの事が全部わかるわけ無いんだ。

(わからないって、難しいな・・・)

当たり前な事だけど、オレはそう思った。


つうか・・・ファイズの事、どう話そう・・・。

月村家の事件は話せないし、騙し騙し話すしかないか。

あと、恭也にぃに連絡もしないとな・・・なのははきっと無断で出てきただろうし・・・。

そうじゃなかったら、あの鬼いさんが付いてこない筈がない。

こっちもこっちで、化け物に襲われた事とか隠した方が良いのか?。

だぁー!面倒臭ッ!!。
























***********************************************************************************



「もしもし、高町さんのお宅ですか?甲斐セツナです」

家に戻った後、オレはさっそく高町家に電話した。

『もしもし、セツナくん?』

電話は直ぐに繋がった、相手は美由希さんだった。

「夜分遅くにすみません」

『あ、ちょっとごめん。恭ちゃん!!完全装備でどこ行くの!誘拐とかじゃないからさ!!父さんも止めて・・・って父さんも小太刀片付けて!!』

あー、何か大変な事に・・・。

本当に過保護だなアンタら、いや・・・今回に関しては当たり前か。

さっきテレビ着けたら、化け物が破壊した町の事が速報ニュースで放送されていたから・・・そりゃ心配もするな。

『ごめんごめん、なのはが家から出て行っててね』

「あ、なのははオレんちに居ますよ」

『え?セツナくんの家になのは・・・って、恭』

電話越しが少しだけ騒がしくなり、回線越しに殺気が飛んでくる。

『なのはああああああああああああああああああああああああッ!!!!』

電話を耳から遠ざけてなかったら、鼓膜が破れていたと思う。

シスコン&親バカの渾身の叫びが、我が家に響き渡った。

「ひっ!」

なのはが男達の叫びに顔を引き攣らせる。

「スクライアくん、骨は海にばら撒くから・・・」

ユーノと自己紹介を終えたハルカは、ユーノの行く末を予想して合掌。

「ぼ、僕はどうなるんですか?」

電話越しから漂う不穏な気配にユーノがドン引きしながら聞く。

「「鍋?」」

ハルカと顔を見合わせ、同時にユーノに振り向いてそう答えた。

「ぼ、僕は食べても美味しくない!!」

割と本気で答えたため、ユーノが部屋の隅で丸くなって震えた。

「とりあえず、なのはチェンジ」

「え!?」

なのはに電話を投げ渡そうとしたら、物凄く驚かれた。

「当たり前だろ、この怒れる魔人達を沈められるのはお前だけなんだ」

オレが喋ったら逆効果な気がするし、とても疲れそうな気がする。

「えっと・・・ちょっと遠慮したいかな」

「気持ちはわかるが代われ、オレも怖いんだ」

「あぅ・・・わかった」

なのはに向かって電話を投げ渡す。

「仕方ない、ここは私が・・・」

だが、横合いからハルカが手を伸ばして電話を掴み。

「もしもし、お宅のお子さんは預かった・・・無事返してほしいなら身代金を」

鼻を掴みながら・・・だみ声でそう言いやがったので、後頭部を思い切り踏んづけて床に叩きつけた。

「お前はバカか!?空気読めよ空気!!あの二人に冗談でもそんな事言ったら・・・」

『あ・・・ごめん、二人そっち行ったわ』

電話から美由希さんの声が聞こえた。

「いやあああああああああああああああああああああッ!!」

殺されるーマジで殺されるー!17分割されてサメのエサにされるー!!。

「「なのはあああああああああああああああああああッ!!」」

「来るの早っ!!」

マジで人辞めてるよこの人達!?。










****************************









「成程、フェレットが心配で見に行ったのか」

なのはが家を出たのは、フェレットが心配で様子を見に行ったという事にした。

化け物については黙ったまま。話をまだよく聞いていないため、関係者を増やして良いかわからないからだ。

「そうなんです、それと身代金云々はハルカの空気の読めない冗談なんで・・・刀を収めてください」

あと殺気も収めてください、怖くてファイズフォンが手放せないんですけど。

「刀ではない、小太刀だ」

その言葉に、本日溜まり気味だったストレスが爆発する。

「どっちも同じじゃあああああああああああ!警察呼んでやろうか!銃刀法違反で逮捕させてやろうか!?」

くそっ!マジで変身してやる!!今のオレなら勝てる気するぞ!マジで!!。

「甲斐くん、どうどう・・・落ちつかないと進む話も進まないよ。そして勝てないから」

「話を後退させてんのはお前なんだよ!この事態の原因はお前なんだよ!!」

「え?マジで!!」

「なんでそのリアクション!?マジでぶっ飛ばすぞ!!」

「ふ、二人共・・・喧嘩は駄目だよ」

なのはがオレをなだめるが。

「全ての元凶が口出しすんなー!!」

もとはと言えば全部なのはのせいである。

なのはが電話を素直に受けとっていればこんな事態にはならなかった・・・・いや、どの道この二人はここに来そうだな・・・。

「ごめんなさい・・・」

なのはがシュンとなった、それを見て・・・多少頭が冷えた。

とりあえず落ちつこう、色々な事が有り過ぎて・・・頭がパンクしそうになってキレやすくなってる。



「これがなのはの言っていたイタチ・・・じゃない・・・バレットか」

ようやく恭也にぃが小太刀を収めた時、士朗さんがユーノを持ち上げた。

ユーノ、ガチガチに緊張して硬直。

「士朗さん、イタチでもバレットでもなくフェレットです」

とりあえず間違えを正す。

「そうか。・・・・」

ジー。と、士朗さんがユーノを見据える。

「・・・・・」

ユーノの全身から冷や汗がダラダラと流れている気がする。

もしかして、普通のフェレットじゃないってバレてる?。

この人なら本気で見破りそうで怖い・・・。

だって恭也にぃの剣の師匠は士朗さんって言うし、今は引退して喫茶店のマスターをやってるけど。

「お・・・お父さん、どうしたの?」

なのはが恐る恐る質問する。

「あー・・・」

士朗さんが言い淀む、が・・・その視線はユーノから一切離れない。

え・・・マジでバレた?。


「中々可愛いな・・・」


次の瞬間、士朗さんは真顔で・・・そうコメントした。

オレとなのははその場でコケた。

ユーノは全身の力が抜け、ぐったりとなった・・・。

「えっと・・・明日は学校も有りますので、そろそろ帰った方が良いのでは?」

ハルカが苦笑いを浮かべつつ提案する。

「そうだね。夜分遅くにお邪魔した、ハルカちゃん、セツナくん。恭也、なのは、帰るぞ」

「ああ」

「うん」

ユーノをなのはに渡し、士朗さんが立ち上がった。









******************************










「なのは、また明日・・・学校で」

「みなさん、お休みなさい」

「うん、二人ともお休み」

家の外に出て、三人と一匹を見送る。



「・・・・。甲斐くん、ごめんね」

その後ろ姿が見えなくなった後、ハルカが唐突に謝った。

「なんで謝るんだ?」

「だってほら、ファイズの事・・・高町さんに話さないといけなくなったでしょ?」

「・・・まぁな」

多分明日、ユーノの話を聞くことになる。

その時に、ファイズのことを話す事になるだろう。

「だから、高町さんにどう思われるか・・・。不安じゃないかって・・・」

「そう・・・だな」

ユーノの事をそこまで変に見てないし、大丈夫だとは思うけど・・・少しだけ不安なのは確かだ。

「私がそうさせちゃったから・・・。だから、ゴメン」

「謝る必要は無いだろ。オレが自分で決めて、そうしたんだし」

ハルカの言葉に従ったのもオレ自身、なのはの前で変身したのもオレ自身、うん・・・ハルカが謝る理由なんて無い。

「・・・・。お人よし」

短くため息を吐かれ、そう言われた。

「うるせぇ」

少しカチンと来て、唸るように返す。

「でも、ありがと」

「どういたしまして・・・。それより、立ち歩いて平気なのか?」

ハルカがニコリと笑い、オレは顔を逸らしながら聞く。

オレが帰ってくるまで、寝込んでいたんだし。

「うん、何か大丈夫」

・・・・顔色が良いから、本当に大丈夫そうだな。

「結局、なにが原因なんだ?魔法とかジュエルシードとかが関係してるのか?ああ・・・もうなにがなにやら・・・」

ちょっと・・・頭痛くなってきた。

「甲斐くん。理解できない時はね、感じれば良いんだよ」

ハルカが両手を広げ、夜風を感じるように眼を閉じる。

「考えるのを放棄しろと?」

「ぶっちゃけるとね」

「まぁ、明日になりゃ・・・色々わかるか・・・」

「だね」

魔法の事、ジュエルシードの事、わからないのは面倒だから・・・全部わかればいいなぁ~。

「だが、謎は深まるばかりだった・・・。果たして甲斐セツナは無事に事件を解決することはできるのか!来週へ続く!!」

ハルカが腕を組み、顎に手を当てながらそう言った。

「・・・・。寝るか」

無視しよ無視。

「そうだね」

お前は自分のボケを片付けろ。





























***********************************************************************************



翌日。

「なのは、昨夜の話聞いた?」

学校に行くと、三人娘が集まって話をしていた。

「ふぇ?昨夜って?」

「昨日行った病院で、車の事故か何かが有ったらしくて・・・壁が壊されてたんだって」

「あのフェレット、無事かしら?」

すずかとアリサが心配そうに顔を俯かせる。

「あ~、えっと・・・その件はその~」

こっちを見るな、そんな困った顔でオレらを見るな・・・。

オレとハルカが黙って首を左右に振ると、泣きそうな顔になった。


なのはがたどたどしく、昨日のことをすずかとアリサに説明した。

昨日の事故で壊れた壁から、たまたまフェレットが抜け出し、心配で様子を見に行ったなのはと運良く合流。

そう、少しだけ真実を曲げて説明した。

もちろん化け物の話はカットで。

安心して微笑む友人二人に対し、凄く心苦しそうに笑うなのはでした。


「それでね、ユー・・・じゃなくてフェレットさん、買いフェレットさんじゃないみたいで、少しの間家で預かることになったんだ」

「そうなんだ~」

「名前とか決めないとね、もう決めてる?なのは」

「うん、ユーノくん。って、名前」

「ユーノくん?」

「うん、ユーノくん」

「へぇ~、ところで・・・なんでアンタ達はさっきから一言も喋らないの?」

アリサがオレとハルカに振り向く。

「「いや、なんか面白そうだから」」

他人の百面相って、見てて面白いし。

「二人共酷いよ!!」

なのはがキレた。









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昼休み、アリサとすずかを除いた三人で秘密のお話をする。

「念話ね・・・」

「うん、レイジングハートを身に付けて、心で話すと通じるみたい。さっきも授業中にユーノくんと話してたんだ」

どうやら魔法使いというものは遠い所に居ても話ができるらしい。

魔法って凄いな・・・。

「えっと、ユーノくんが言うには・・・ハルカちゃんもお話ができるかもしれないって」

「あ、そうなんだ」

「ユーノくんが言ってたんだけど、昨日の声が聞こえた人には・・・魔法の資質が有るんだって」

魔法の資質か・・・オレは声なんて聞こえないし、関係無さそうだな。

ファイズの力は魔法なんていうファンタジーな雰囲気と無関係そうだし、アレはどちらかと言えば機械とか・・・そう・・・メタリックな感じだ。

「でも、私はちゃんと聞こえなかったよ。一応、話の内容はわかるけど・・・凄く頭痛かった」

ハルカの不調の原因は魔法・・・なのか?。

「そこはユーノくんも不思議がってたよ、ハルカちゃんだけじゃなくて・・・セツナくんのことも」

「え?オレも?」


なんでもユーノが言うには・・・ハルカからは素質を持たない人間と、なのはのように素質を持つ人間、その二つの中間のような感じがするらしい。

そして、オレの場合は変身前の段階では魔法の力を感じなかったのに、変身した後には高い魔法の力を感じたらしい。

ハルカの場合は、魔法の資質が完全に覚醒していないから・・・念話が変な風に伝わって頭痛がするのではないかとユーノは考えたようだ。

で、一番わからないのはオレらしい・・・変身前と後で真逆の反応。

ファイズフォンに魔力が込められていて、変身時に全身に広がる。もしくはオレ自身に未覚醒の魔法の素質が有って、変身するとファイズの力で覚醒状態になるのか。

詳しくは調べてみないとわからないようだ。


(ファイズの力は魔法の力、なら・・・オレは)

ユーノは別の世界からこの世界に来たと言っていた、なら・・・オレも別世界から?。

それなら、親を探しても見付からない理由は・・・説明が付く。

だが、もしそうなら・・・なんでオレはここに居るんだ?。

「ねぇ、セツナくん。セツナくんは魔法使いなの?」

オレの考えの結論と、なのはの言葉が同じだった。

「さぁ・・・、オレもわからないんだ」


なのはに話した、ファイズの力を。

オレがファイズの力を手に入れたのは偶然で、その力はオレ自身もよくわからないということを。


「そう・・・なんだ」

「そうなんだ」

なのはに頷いた。

反応は考え込むような感じで、怯えとか・・・そんな感じはない。

それに、ちょっとホッとしていると。

「ところで、ジュエルシードだっけ?そのことは聞いたの?」

ハルカが質問した。

「うん、ユーノくんから色々聞いたよ」

なのはが授業中にユーノから聞いた話を教えてくれた。





ジュエルシード。

それはユーノの世界の古代遺産らしい。

本来は、人の願いを叶える魔法の石。

だが、その力は不安定で・・・昨夜みたいに勝手に暴走することも有るらしい。

また、使用者を求めて周囲に被害を出す場合や、たまたま人や動物が間違って使用して・・・それを取り込んで暴走することも有る。

なんでそんな物騒なモノがこの町に有るかと言うと。


まずはユーノの話をすることになる。

ユーノは故郷で遺跡発掘の仕事しているらしい・・・うん?ユーノって何歳だ?。

その仕事の途中、古い遺跡でユーノはジュエルシードを見付けたらしい。

それが危ないモノだと感じたユーノは調査団に依頼して、安全な場所に運んでもらっていた。

だが、その途中・・・ジュエルシードを運んでいた時空艦船(世界と世界の間には普通では渡れない空間が有り、そこを渡ることができる船)が事故か、人為的な災害に遭って・・・。

この世界の、この町に落ちてしまったらしい。


ジュエルシードは全部で21個、回収できたのはユーノが自分で封印したのと、昨晩なのはが封印した物の計2つ。

つまり、残り19個のジュエルシードが・・・この町に散らばっている。



「それでね、ユーノくん・・・その事を気にしてるみたいなの」

「はい?なんで?」

気にする理由がわからない、話を聞く限り・・・ジュエルシードがばら撒かれたのはユーノのせいじゃないだろ。

「ジュエルシードを見付けたのは自分だから・・・だから、全部回収して封印しないとって・・・」

なんつうか・・・真面目だな。

「魔力が回復するまで私の家で休んで、それからは・・・一人で全部探すつもりだったらしい」

「だった?」

「うん。私、手伝うことにしたんだ」

「マジか?」

「マジだよ」

オレにコクンと頷くなのは、その顔はマジな表情だった。

「危ないんじゃない?」

ハルカが聞く。

そうだ・・・危ない事だ、昨日だって・・・運が悪ければ怪我、いや・・・もしかしたら死んでいたかもしれない。

「でも、知り合っちゃったし・・・お話も聞いちゃったから、ほっとけないよ。それに、昨日見たいなことが何度もご近所で起きたら・・・みんな困るでしょ?。
 それにユーノくん一人ぼっちだし、一人ぼっちは寂しいから・・・だから、私は手伝うよ」

『みんな』のため、『ユーノくん』のため、『自分』のためじゃなくて『誰か』のために。

「困っている人が居て、助けてあげられる力が自分に有るなら・・・その時は迷っちゃいけないって・・・。これ、お父さんの教えなんだ」

他人のために、頑張れることは立派な事だ・・・。

士朗さんの言葉も、凄く良い事を言っていると思う。

「ユーノくんは困ってて、私にはユーノくんを助けてあげられる力が・・・魔法の力が有る」

だけど、オレは・・・少し違うんじゃないかと、変なんじゃないかと、そう感じてしまう・・・。

「まだ魔法使いとして全然だけど、私・・・頑張ろうと思うんだ」

立派なんだけど、変に感じる・・・。

なのはは自分のためとは言わなかった、全部・・・誰かのため・・・ユーノが助けを求める『誰か』になっている。


今の話を聞いて、オレが感じた違和感を言葉にできた・・・。

なのはは『他人が求める高町なのは』になっている。

怪我をするかもしれない、最悪・・・死ぬかもしれない、それなのに手伝うと。

自分の全てを捨てるかもしれないのに・・・・。

オレは・・・その事が・・・何だかオカシイと思った。

『自分』のためにじゃない『他人』のためのなのはの言葉に。























[17407] 出逢い編 第4章 最初で最後の
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:33



「「あ・・・」」

学校からの帰り道、アリサとすずかと別れて・・・なのはとハルカとオレの三人になった時。

二人が突然立ち止まった。

「どうした?」

一歩遅れて立ち止まり、二人に問う。

「これって・・・高町さん」

「うん、多分」

二人が顔を見合せながら頷き合う。

「仲間外れか・・・」

この二人だから、魔法関係で何かを感じているのだろう。

オレには全くわからない。

うん・・・寂しい・・・。

こういう時に『相棒』が居てくれれば・・・『相棒』って誰だ?。























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二人が感じた何かはやっぱりジュエルードらしく、オレは二人に導かれるままに走り出した。

ユーノも現場で合流するようだ。

(・・・・・)

ジュエルシードが発動したのは小山の上の神社だった。

左右を林に挟まれた長い石段を駆けあがる途中、オレは思い出す。

親父がオレを見付けたのは、ここの森の中らしい。



なんでも親父が酔っぱらって、森の中に入ったところ・・・たまたまオレを見付けたようだ。

その時に倒れるオレを思い切り踏みつけたらしく、ひょっとしてオレの記憶喪失は親父のせいでないかと疑っている。

この話を笑いながらされたオレは、このおっさん富士の樹海にピクニックに行ってくれないかなと切に願った。



「甲斐くん!!」

そんな事を思い出し、1人で苦笑いを浮かべていると、後ろを走るハルカに呼ばれた。

「なに!?」

足を止めて振り向く。

「おんぶ!!」

「帰れ!!」

一応、危ない所に向かってるわけだからさ!本気で帰って!!。

「だって、甲斐くんの事心配だし」

「お前が一番危険だけどな・・・」

心配してくれるのは嬉しいけど、ファイズの力が有るオレや、魔法が有るなのはとユーノと違い、ハルカには自衛の手段が無いので一番不安だ。

「二人共、先に行くよ!」

「ああ!今行く」

先を行くなのはに叫び、再び走りだすが・・・。


「危険なのは、みんな一緒だよね」

後ろ手を掴まれた。

「いきなり何だよ・・・」

立ち止まり、オレの手を掴んで止めるハルカに向き直る。

「高町さんやスクライアくんに、任せれば良いんじゃないかな?」

「そして、オレは帰れと?」

「そうだよ、私達・・・違う・・・甲斐くんが戦う理由は無いよ。月村さんの時とは違う、今の甲斐くんにはそういう選択肢が有る」

ハルカがオレを見る、今までに見たこと無いような・・・凄く真剣な眼で。

すずかの時は、戦わなければ死んでいたかもしれない・・・オレしかあの場に戦う者が居なかったから・・・戦った。

今回は違う、なのはとユーノが居る、率先して事態を収めようとする人が居て・・・オレは戦わない選択肢を選べる。

「でもな、オレが戦わなくて。それでなのはやユーノが怪我とかしたらどうすんだよ」

それも、理由を知ってて・・・どうにかできる力が有ってだ。

それは・・・オレからすれば見殺しだ。

もし、なのはやユーノがどうにかなったら・・・オレは絶対に後悔する。

だから、オレは自分のためにここに来た。

ユーノのためでも、なのはのためでも無い、オレ自身が満足するために。

誰にも縛られず、自分の意思でだ。

「自分が怪我したらどうするの?」

「それは・・・」

関わらなければ、オレは無傷だ・・・代わりになのはが怪我をする確立が高まる。

関われば、オレが怪我をするかもしれない・・・代わりになのはが怪我をする確立が下がる。

「私は・・・本音を言えば、友達より家族を取るよ。甲斐くんが大切な家族だから、怪我とかしてほしくない」

ハルカの中で、なのはとオレを比べたら・・・オレの方が大切らしい。

それは・・・まぁ、正直嬉しい。

「私は、戦ってほしくない。今からでも前のような生活に戻ってほしい。普通の生活に」

ファイズとか、魔法とか、そういうのとは関係無い・・・少し前までと同じ、ただただ幸せな生活。

「楽しいし、安全だな」

「そうだよ、今みたいなことや・・・物騒なことも無い。今なら、まだ帰れるよ」

ハルカが手を離し、オレに差し出した。

「平和・・・ね」

その手を見る。


この手を掴めば、ハルカの言う・・・普通の生活に戻れる。

その逆は戦いで・・・選ぶのは・・・きっとバカだ。

わざわざ危険な所に自分から飛び込んで、それで怪我して・・・最悪死んだら一生の笑い者だろう。

そして、コイツは間違いなく悲しんでくれる。

オレの選択は、戦うか平和の二つ。


「悪い、オレ・・・バカなんだ」

「バカじゃない・・・大馬鹿よ」

ハルカが手を下げ、罵る。

オレも・・・なのはの事を言えないな・・・。

「知ってしまったから、見て見ぬフリはできないから・・・。後悔したくないから」

そんな自己満足のために、オレはコイツを・・・家族を心配させる、悲しませる。

「だから・・・危険な事に足を突っ込むの?。たったそれだけの理由で?お人よしのレベルとしては、地雷原に目隠しして突っ込むのと同じレベルだよ」

「それでも後悔したくないんだ。・・・・ハルカの言う選択肢は選べない、オレは・・・自分をねじ曲げた世界で・・・夢は作れないと思うから」

オレには・・・夢が無い、やりたい事も見付からない。

ただ・・・今を守りたい、そんな望みしかない。

この前アリサとすずかに食いかかったのだって、羨ましいという気持ちが何割か有ったからだ。

だから、だからこそ・・・夢もなにも無い段階で・・・自分を曲げたくない。

今、オレが自分の望みさえ捨ててしまったら・・・きっと何も残らない。

「夢も、やりたい事も、未来も、何も決めてないのに・・・自分を偽るなんてできない」

偽りの自分で決めた夢は・・・きっと偽りの夢で、いつか・・・崩れる。

最初に思う夢を・・・偽りで固めたくない。

「だから、オレは踏み込む。魔法の世界に」

自分を崩さないために、オレはハルカの手を掴まない。

それだけの、何度も言うけど・・・『今を守りたい』それだけのために・・・オレは行く。

「私は・・・それを正しい選択だとは認めない。むしろ大嫌い。
 自己満足で、自分のことがどうなっても良いから・・・自分を貫こうとする考えは・・・本物のバカな考えだと思うから」

「ああ、だから・・・オレは謝らない」

バカな考えでも、オレはオレだから・・・甲斐セツナだからその選択を選ぶ。

オレがそう決めたから、そう選んだから。

「甲斐セツナは大馬鹿だ、甲斐セツナは大馬鹿だ」

ハルカが俯きながら言う。

「二回言うなよ・・・」

「甲斐セツナは大馬鹿だ、甲斐セツナは大馬鹿だ、甲斐セツナは大馬鹿だ、大馬鹿でアホで女顔だ」

「連呼された!」

しかも最後女顔って言ったなコイツ!!。

「ハァ・・・ハァ・・・」

しかも息切れしてるし・・・。

「私は・・・泣くよ」

次の瞬間、真顔で言われた。

「甲斐セツナの望みは叶わないよ。知ってる?あなたの望みは・・・戦うことを選んだ瞬間に叶わない。あなたが戦えば私は心配する、あなたが怪我をすれば私は悲しむ、
 あなたが死ねば・・・私は泣き叫ぶ」

「ずる・・・」

「ずるくない、これは・・・私だけじゃない。月村さんやメイドの妹さん、他にも・・・沢山の人が悲しむ」

オレの望みが・・・このままでは叶わないと、ハルカは言ってくる。

「あなたは矛盾してる、それだけは・・・絶対に忘れないで」

「覚えとく・・・」

今のオレには・・・そう返すしかなかった。

ハルカを納得させる言葉が無かった。

「私、ここに居る」

「ああ・・・」

立ち止まるハルカから、オレは逃げるように石段を駆け上がった。

























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「本当にバカだね・・・」

平和と戦い、その最後の選択肢をアッサリと決めた。

本当に・・・変わらない。

自分のためとか言っておいて・・・結局は誰かのため、それを自己満足だと・・・他人のためじゃないと理由を付けて・・・。

昔から・・・そう言って人助けしてた・・・。

「ツンデレだよね~」

そうしないと、本当の願いを叶えられない。

理由を付けないと、違うか・・・自分自身・・・本当の願いに気付いていないんだ。

だから、バカだ・・・それも本物の。

「バカは死んでも治らない・・・か・・・」

本物のバカって、結構沢山居るんだね。

「私は・・・守れないから、守ってあげて・・・」

例えバカでも、どうしようもないバカでも、家族だから・・・守ってあげてほしい。




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「待たせた」

石段を駆け上がると、鳥居の下になのはと、合流したユーノが並んで立っていた。

「ハルカちゃんは?」

「下で待ってる」

「セツナ、本当に良いの?」

なのはの質問に答えた時、ユーノがオレを見上げた。

「なにが?」

「君を巻き込んで・・・なのはもだよ、これは本当に危険な事なんだ」

ユーノがオレ達を交互に見ながら、今からでも退けと言ってくる。

「ユーノ、しつこい」

オレはさっき・・・その話をハルカとしてたから、もう答えは出てる。

今思えば・・・ハルカはオレに覚悟を決めさせるために、いきなりあんな話をしたのかもな・・・わからないけど。

「しつこいって・・・」

ユーノが戸惑ったような声を出すが。

「オレは決めた、そして選んだ、だから・・・ここに居る」

ファイズフォンを取り出し、オレの意思を言葉と共に伝える。

「私もだよ、決めたからここに居るんだ」

なのはも待機状態のレイジングハートを取り出すことで、ユーノに答える。



ジュエルードが取り込んだのは、犬のようだ・・・それも飼い犬だな、飼い主らしき女の人が境内に倒れている。

ただ、ジュエルシードの影響で狼のような凶悪な牙を生やし、熊のように黒く大きくなっている。

犬というか・・・狼は嫌いだけど、やってやる・・・さっきアレだけ見栄切ったんだから。



「わかった・・・二人共ありがとう。アレは現地生物を取り込んでる分、実体が有るから気を付けて」

つまり、手強くなってるのか。

「なのは、変身するまでの時間稼ぎ頼む」

オレの変身は、少しだけ時間がかかる。



≪5・5・5≫



変身コードを打ち込み、エンターキーを押す。



≪Standing by≫



腰にベルトが現れた時、ジュエルシードの暴走体が突っ込んできた。

やっぱり犬というか狼っぽいだけあって、そのスピードは速い。

だけど、こっちにはなのはが居る。

昨日みたいに障壁で防げれば、時間は稼げる。


「なのは、レイジングハートを起動して」

ユーノが指示をする。

「うん!。って、起動って・・・どうやるんだっけ?」

「「えええええええええええええええええええッ!?」」

小首を可愛らしく傾げながら、頭上に?マークを浮かべるなのは。

思わずユーノと共に声を上げる。

「起動パスワードを!!」

そういや、昨日長々と何か唱えてたな。

「あんな長いの覚えてないよ!」

涙眼でなのはが言う。

「このアホッ!?」

ファイズフォンを閉じ、ベルトに突き差しながら叫ぶ。

くそっ!カッコつけてないで早く変身すれば良かった。

「アホって酷くないかな!?」

「二人共!前ッ!!」

げっ!もう眼の前まで来てる!!。

変身は・・・間に合わない。

(ヤバい・・・)

とっさに顔を両腕で覆った。















次の瞬間、うめき声が聞こえた。

オレじゃない、なのはでもユーノでもない・・・眼の前の暴走体からだ。

腕を下ろして前を向くと、暴走体の横腹に一台のバイクが突っ込んでいた。


「な・・・」


それは・・・鋼色に黒と赤の装飾がしてあるバイクだった。

その後ろには誰も乗っていない。

だが・・・エンジンは動いており、アクセルも回っていた。

一瞬、別の暴走体かと思ったが・・・。


「ファイズ・・・」


そう・・・ファイズのベルトと、その装飾が似ていることから違うと思った。

それに、どこか・・・懐かしいような、頭にこう・・・イラッとくるような・・・変な感じがする。

無人のバイクは暴走体を吹き飛ばした後、その場で停止した。


「変身!!」


なにがなんだかよくわからないが、オレはベルトに差したファイズフォンの向きを90度回転させた。



≪Complete≫



電子音声が響き、ベルトから紅いラインが伸びて鎧の形を構築し、オレは変身する。



≪Standby ready Set up≫



なのはの方も、レイジングハートが突然輝き・・・杖とバリアジャケットが展開された。

パスワード無しでも変身できるのかよ・・・。


「凄い、起動パスワード無しでレイジングハートを」

「できるならさっとやれよ!!」

ユーノが驚き、オレは右手をスナップさせながら怒鳴る。

「そんなこと言われても・・・」

どうやら、自分の意思でやったわけじゃなさそうだな。


弾き飛ばされた暴走体が起き上がるが、またバイクが横腹に突っ込んで暴走体を弾き飛ばした。

二度目の体当たりだが、そのボディに傷一つ付かない。


「アレはセツナの物なの?」

「いや、わからん・・・」


ユーノにそう返した時、暴走体を吹き飛ばしたバイクがオレの所に来た。

ちなみにこの神社の境内には石畳や砂や石が敷いてある。

なんでそんなことをいきなり言ったかと言うと・・・バイクがオレを轢いたからだ。

タイヤを滑らせたのだろう、そうだと信じたい。


「ぐへっ・・・」

「「ええええっ!!」」


きりもみ状に宙を飛んでいると、なのはとユーノの驚く声が聞こえた。

グシャ・・・。

地面に落ちた時、バイクがようやく停止した。


「お前は何すんじゃー!!」


ムクリと起き上って、その車体を蹴りつける。

無茶苦茶固くて・・・蹴ったこっちが痛かった。

一瞬仲間かと思ったがコイツ敵か!?いや、落ち付け・・・きっと砂とか石でタイヤが滑ったんだ・・・そうに違いない!!。


「セツナくん、大丈夫なの?」

「奇跡的にな!!」


下手したら死んでたよ!マジで!!。

オレの怒りにバイクは何も言わない、当たり前だけど。


「二人共!来るよ!!」


ユーノが叫び、正面を向くと暴走体が迫っていた。



≪Protection≫



桜色の障壁が展開され、暴走体の突進を防いだ。

牙を食い込ませようと大口を開けているが、障壁はビクともせず。



≪Protective condition , All Green≫



ノーダメージで体当たりを弾き返した。

石段を滑るように弾き返された暴走体は、直ぐに起き上ったと思うと・・・いきなり逃げ出した。

オレ達から姿を隠すように、林の中に飛び込んだ。


「マズイ、ここで逃げられたら」


ユーノの言う通り、マズイ。

この近くにはハルカも居るんだ、逃がす訳にはいかない。

アイツに・・・怪我をさせる訳にはいかないんだ、心配させて、泣かせるかもしれないアイツを、オレは守らないと駄目なんだ!!。


「オートバジン!!」


そう思ったら、オレは叫んでいた。

コイツならきっと追い付けると、オレの頭が訴えていたから。

オレの言葉に答えるように、オートバジンはアクセルを噴かせる。

懐かしい・・・何故だが、昔の悪友と再会したような高揚感が胸を満たす。


「なのは、石段降りてハルカを頼む」

「えっ!?セツナくんは?」

「アイツを追いかける」


なのはが驚くのを背に、オートバジンのシートに飛び乗る。

もちろん、ハンドルやペダルに手足は届かないから・・・跨るだけで、後はオートバジンによる自動走行だ。

うん、凄くカッコ悪いなこれ・・・・。


「待って!僕も行く!!」


バイクが走り出す直前、ユーノがオレの肩に乗る。

直後、ギアをトップにしてオートバジンが走り出した。










*********************************









林の中にオートバジンが飛び込み、木々の間をすり抜けながら山を下っていく。

風は鋭い音を立てて切り裂かれ、周りの景色は滝が流れるような速さで後ろに流れて行く、スピードーメーターを見ると・・・軽く100キロを超えていた。

そのスピードと木々にぶつかりそうな恐怖は、遊園地のジェットコースターを遥かに超えていた。


「は、速い!?」

「スピード落としてぇぇぇぇッ!?」


ユーノが顔を強張らせ、オレは悲鳴を上げた。

だが、そんなことはお構いなしにオートバジンは速度を上げつつ林の中を突き抜け・・・正面に暴走体を捉えた。


「これからどうするの?」


風の音や、エンジンの音に負けないようにユーノが耳元で叫ぶ。


「こうする!!」


ユーノをシートの上に下ろし、オレはシートの上に両足で立つ。

バランスはオートバジンに全任せだが、風で身体が倒れないように注意しつつ右腰からトーチライトを外す。

続いてファイズフォンからメモリーを外し、スロットに差し込む。



≪Ready≫



トーチライトが伸び、それを右足に装着。

この速度で体当たりは不可能、そして・・・今のオレには遠距離から暴走体を倒せる武器は無い。

だから、相手の足を止めるしかない。

木々の間をジクザクに動くのを、スケボーを乗りこなすように身体のバランスを左右に動かして取る。

暴走体は速度を維持、こちらも速度を上げるが・・・距離は縮まらない。

ファイズフォンを開き、エンターボタンを押す。



≪Exceed Charge≫



もうすぐ林を抜けてしまう。

だから、速く!!。

ベルトから紅い光が、ラインを通って右足に向かう。


「オートバジン!!」


紅い光がファイズポインターに宿った直後、オレは叫びながら右足を暴走体に突き出した。

紅い光の矢がファイズポインターから放たれ、逃げる暴走体の背中に突き刺さる。

そして、紅い矢は紅い円錐に変わり・・・暴走体を捕縛しながら、回転し続ける。

だが、拘束は長くは持たない・・・凄まじい速度で動いていた相手を急に止めたその衝撃に・・・紅い螺旋が耐えられないからだ。

だから、一瞬で蹴りを入れるために・・・オレは叫んでいた。


制止する。


オートバジンが・・・急ブレーキをかけ、地面を削りながら停止する。

こちらもかなり速い速度で走っていたため、その衝撃はとてつもない。

そして・・・その衝撃は、慣性の法則によってオレに伝わり・・・シートの上から前に向けて、身体が撃ち出された。


「はあああああああああああッ!!」


紅い螺旋に飛び込む。

回転する螺旋は暴走体に突き刺さり、その身体を宙に浮かしてくの字に曲げる。。

直後、オレの身体は暴走体を突き抜けた。

両足で地面に着地した時、暴走体に紅い『Φ』の字が刻まれ、その体が灰になって崩れた・・・。


「封印・・・した・・・」


停止時の衝撃で吹き飛ばされたのか、シートからハンドルにしがみ付きながらユーノが呟く。

そう・・・封印した、オルフェノクにするのと同じように・・・その力の全てを奪って灰に帰した。

高みから大地に突き落とす、それは・・・死よりも厳しい罰だ・・・。

灰の中から、一匹の子犬と青い宝石・XVIというナンバーを刻まれたジュエルシードを拾う。


(・・・)


だけど、変な感じだ・・・。

オレは封印できると確証を持って、今の攻撃方法を選んだ。

知っているはずが無いのに・・・。


(身体が覚えてるのか・・・)


記憶が無くても、身体が戦い方を覚えているのだろうか・・・?。

わからん、まぁ・・・上手くいったから良いか。


「ユーノ、帰ろうぜ」

「あ、うん・・・」


ユーノが頷き、オレがオートバジンの所に戻ろうとした時。


「それがファイズの力か」

「「!!」」


声がした、驚いて振り向くと・・・木々の間から1人の男が姿を現した。

青いジャケットを着た、恭也にぃと同い年ぐらいの黒髪の男。

どうしてここに居るとか、今のを見られたとか、そう聞く前に。


「なんで、ファイズの事を知ってるんだ!?」


オレは叫んでいた。

この男は今、間違い無くファイズと言った・・・。

こんな男は知らない、この三年間の記憶の中で・・・出会った事は無い。

なのに、どうしてファイズを知っている?オレの知らない・・・オレを知っているのかコイツは?。


「お前は知らないのか?なら、そのベルトを寄越せ」


オレの言葉に答えず、男がそう言った。

次の瞬間、その瞳が灰色になり、顔に魚のような模様が現れ・・・その姿が変わった。



その全身が人骨を思わせる灰色の外殻に鎧われ、人間のシルエットからかけ離れた姿に変わる。

化け物と呼べる存在に・・・。

本に出てくる魚人のような姿をした、灰色の・・・骸骨のような化け物。



「オルフェノク・・・・」



それを見て・・・無意識に、オレは呟いていた・・・。























[17407] 出逢い編 第5章 オレの『存在』
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:37



「ユーノ、さがっ・・・くっ!!」


ユーノに子犬とジュエルシードを投げ渡し、逃げるよう叫ぶが・・・その途中でオルフェノクがオレに向かって拳を突き出す。

両手をクロスして拳を防ぐが、重い・・・。


「ガキには・・・そのベルトは勿体ない」


踏鞴を踏むオレにオルフェノクが言う。

だが、声はその足元の影・・・まるで死体のように蒼白くなった男が影となって声を発していた。


「なにを知ってんだ!お前は!!」

「話す必要は無いな」


痺れた両手を払いながら問うが、オルフェノクは拳で答える。

右手を上げて拳を弾き、左フックを入れるが片手で受け止められ・・・相手は腕を掴んだまま回転、オレを投げ飛ばす。


「くっそ・・・」


尻もちを付きながら毒づき、右拳を振りかぶりながら殴り込む。

だが、相手は右手をオレに向けて開く。

次の瞬間、掌から黒い靄が生まれ・・・それは三又の槍・トライデントになり、真っ直ぐオレの胸に向かって伸びた。


「ぐっ!?」


走り込んでいた勢いも有り、突き出されたトライデントは真っ直ぐオレの胸に当たり、オレは強く弾き飛ばされた。

くそ・・・コイツは何を知ってんだ!ベルトの事をどこまで知ってるんだ!?オレを・・・『甲斐セツナ』を知っているのか!?。

オレは・・・この化け物とどう繋がってんだ!!。

中途半端に蘇る記憶、それが・・・オレの苛立ちを掻き立てていた。

























***********************************************************************************



「ハルカちゃん!!」

私はバリアジャケットを維持したまま、石段を駆け下りて・・・その途中で立ち止まっていたハルカちゃんと合流した。

「ハルカちゃん・・・?」

だけど、ハルカちゃんは私に背を向けたまま・・・森の奥をジッと見ている。

「ハルカちゃ・・・」

再三声をかけようとした時、森の奥で高速で動いていた・・・二つの大きな力の内、一つが消えた。


消えたのは、黒く濁った感じがする力・・・多分、ジュエルードだと思う。

もう一つの、力強いけど・・・怖いぐらい刺々しい感じがするのが、多分セツナくんだ。

封印できたんだ・・・。その事にホッとした時。


「え・・・・?」

突然、もう一つの大きな力が出てきた。

冷たくて・・・怖い、そんな力・・・。

「高町さん!」

ハルカちゃんも気付いたのか、慌てた様子で私に振り向く。

けど、どうしてだろ?何だか焦っている感じもした。

うん・・・セツナくんは家族だから当たり前だよね。

「私、行ってくるよ」

「お願い、甲斐くんを助けて・・・」

頷いて、魔力を感じる方向に駈け出した。

セツナくん、ユーノくん、お願いだから無事で居て!!。




























***********************************************************************************



「セツナ!落ち着くんだ!!」

「うるせぇ!!」


セツナは僕の声を振り切り、突然現れた化け物・セツナが言うにはオルフェノクに殴りかかる。

だけど、焦りが攻撃のキレを鈍らせ・・・突き出した拳は簡単に避けられ、カウンターでトライデントの一撃を食らって弾き飛ばされる。

その工程を、何度も繰り返している。



セツナの事についてはよく知らない、だけど・・・あのオルフェノクが彼の何かを刺激したのは確かだ。

完全に冷静さを欠いている。

まるで獣のように、ただ噛みつくことだけを考えてセツナは突っ掛かる。

でも・・・それじゃ駄目だ、あのオルフェノクは強い・・・セツナの攻撃を完全に見切って反撃している。

自分の間合いと言えば良いのか、そこに入らなければ攻撃しないが、入った瞬間に重い一撃を食らわせている。

一気に勝負を決めようとせず、相手に手傷を負わせて・・・確実に仕留める戦い方だ。

感情に任せて突進しているだけの今のセツナじゃ・・・・負ける。



「逃げるんだ!!」

本当なら、どうにかして止めた方が良い。

だけど、僕には何もできない・・・まだ、魔力が戻っていないから・・・。

だから、こうして声を張り上げることしかできない。


「友達が呼んでるぞ」

「うるせぇ!さっさとベルトについて話せ!!いや・・・知ってることを全部話せ!!」


けど・・・僕の言葉は届かず、相手の口車に乗ってセツナは更に感情を高ぶらせる。

駄目だ・・・このままじゃ駄目だ。


「ベルトを渡せ、そうすれば・・・見逃してやっても良いんだが」

「調子に乗るんじゃねぇ!!」


セツナが踏み込む。

オルフェノクがトライデントが突き出す。


「何度も食らうか!!」


セツナは足を振り上げ、踵落としをするように切っ先を踵で踏みつぶして地面に叩きつけ・・・。

さらに前に進んで拳を打ち出す。

だけど、弾かれた・・・突き出した拳を平手打ちで後ろに弾かれ、さらにトライデントを地面を削りながら振るわれて足を払われた。


「あぐ・・・」


セツナがオルフェノクの後ろに転がる。


「死ね・・・」


起き上ろうとするセツナの腹を踏みつけ、オルフェノクがトライデント振り下ろす。


「駄目ー!!」


だが、その一撃はオルフェノクに体当たりしたなのはによって反らされた。

その小さな身体じゃ、相手を吹き飛ばす事はできないけど。



≪Protection≫

「ぐおっ!?」



レイジングハートが零距離でシールドを張り、オルフェノクを押し出した。

同時にセツナから足が退けられる。



≪Ready≫



仰け反るオルフェノクに、起き上ったセツナが右手にパンチングユニットを装着しながら突撃する。


「ふんっ!!」


だけど、気合を込めるようにオルフェノクが声を上げた瞬間、その下半身が魚の下半身に変わり・・・宙に浮いた。

そして、セツナの攻撃を宙に浮いて避け、空中で一回転、尾びれを後頭部に叩きつける。


「あぐっ!!」

「セツナくん!!」


セツナがなのはの足元に転がる。

うつむせの体勢から起き上ろうとするが、オルフェノクの方が速い。

空中からトライデントを振り下ろしながらダイブしてくる。


「レイジングハート!!」

≪all right≫


なのはがセツナの前に立ち、シールドを展開して攻撃を防ぐ。

だけど・・・。


「駄目だ!逃げて!二人共!!」

「えっ・・・」


なのはの強固なシールドを、空中で身を浮かばせ何度もトライデントを突き出して砕いた。

シールドを砕かれた反動でなのはが後ろに体勢を崩す、そこに向かってトライデントが伸びる。


危ない。


そう思った瞬間、セツナがなのはの後ろから左手を伸ばし、手を掴んで後ろに引き摺る。

なのはを狙ったトライデントは・・・。


「!!」


セツナの左肩を掠めた。

肩の装甲をトライデントが削り、火花が飛び散る。



≪Exceed Charge≫



だけど、セツナもカウンターで右の拳を打ち出す。

そのベルトから紅い光が伸び、右の拳に向かう。

トライデントがセツナの背後に突き刺さると同時に、セツナの拳がオルフェノクの脇腹を掠めた。


「「ちっ・・・・」」


セツナとオルフェノクが同時に舌打ちする。

前にジュエルシードを攻撃した時に出た『Φ』の文字は出なかった、多分・・・外したんだと思う。

二人の動きが一瞬止まる、それは・・・本当に一瞬で。


「ぐっ!!」

「きゃっ!!」


オルフェノクが身体を回転させて尾びれを二人に叩きつけ、僕の所まで吹き飛ばす。


「二人共、大丈夫!?」

「うん、大丈夫だよ・・・ユーノくん」


二人のもとに駆け込むと、なのはは痛みに顔を歪めながらも微笑み。


「・・・・・」


セツナは歯を剥き出しにして、低い唸り声を出しながら、オルフェノクを睨みつけていた。

まるで、獣のように恐ろしい表情だった。

そして、睨みつけられたオルフェノクは宙で一回転した後、足を元の二本脚に戻して地面に降り立ち。


「今日は顔見せだ、次は奪う」


そう、短く言った。


「テンプレなセリフ吐いてんじゃねぇよ!!」


セツナが起き上り、オルフェノクに殴りかかろうとするけど。


「駄目だよ!セツナくん!!」


なのはに後ろから羽交い絞めにされて止められる。


「放せよ!!おい!ベルトについてなに知ってんだ!!お前は・・・オレを知ってるのか!!」

「さぁな・・・」


暴れるセツナを嘲笑うようにオルフェノクは呟き、森の奥に紛れるように・・・その姿を消した。

同時に魔力も感じなくなった・・・。

多分、あの禍々しい力を解除したんだと思う。

だけど、アレは何なんだ・・・。

バリアジャケットと似ているようで違う、どちらかと言えばセツナの鎧に近い。

それに、まるで人間じゃないような・・・あの力は・・・。


ドン。


そんな事を考えて居た時、鈍い音が聞こえた。

前を向くと、セツナがなのはを振り切ろうとして・・・その頬に肘打ちを入れていた。

なのはがセツナを放してよろめく。

だけど、セツナはなのはのことは一切気にせず・・・オルフェノクが消えた後に向かって走ろうとして。


「追い掛けても無駄だよ・・・」


殴られた時に口の中を切ったのか、口の端から血を流すなのはに止められた。


「何で・・・止めた」


セツナがなのはを睨みつける、まるで敵を睨みつけるように。


「無駄だと思ったから」


そんなセツナをなのははスッと見据える。

その言葉に更にセツナは苛立ちを強め、眉を潜める。


「そんなのわかんねぇだろ!!」

「わかるよ、今のセツナくんじゃ・・・私にも勝てない」

「・・・・・。やってみるか?」


セツナから表情が消えた。

そして、両の拳を構える。


「それで、甲斐くんの頭が冷えるなら・・・うんうん、違うか・・・。少し・・・頭冷やそうか?」


なのはもレイジングハートを構える。

二人共・・・本気だ。


「ちょっと二人共!こんな事しても意味が無いよ!!」


慌てて二人の間に入る。

二人が戦っても何の意味も無い。

そんなこと、二人なら分かっているはずなのに。


「うるせぇ・・・」

「大丈夫、意味は有るよ」


だけど、二人は止まらなくて。

今にも激突しようとした時。


「天の道を行く人のお婆ちゃんは言っていた『男はクールであるべき、沸騰したお湯は蒸発するだけだ』」


森の中から、ハルカが出て来て・・・右手で天を指さしながらそう言った。

突然出てきたハルカになのはとセツナは固まって・・・。


「どういう意味?」


僕が茫然と聞くと。


「こういう意味」


ボゴッ。


するとハルカはセツナの頭を木の枝でぶっ叩いた。

多分、そこら辺で拾ったんだと思う。

鎧が有るから素手じゃダメージが無いと思ったんだろうけど・・・・やり過ぎだ。


「少し落ちつきなさい、カッコ悪いわよ」


背中から倒れるセツナに、木の枝を捨てながらハルカはそう言い。


「天の道を行く人のお婆ちゃんはこうも言っていた『美味しい料理とは粋なもの、さりげなく気が利いていなければならない』」


もう一度天を指さしながら、今度はそう言った。


「どういう意味?」


僕がもう一度聞くと。


「やり過ぎ」


ペチリ。


今度はなのはに近づいて、その頬を軽くはたいた。


「・・・・」


なのはは叩かれた頬を抑えながら俯いた。


「・・・・」


セツナは地面に大の字に寝転がったまま、紅い光を発して変身を解き、空を見上げる。


「喧嘩両成敗、V」

「空気読めよテメェ」


Vサインを作るハルカにセツナが呻く。


「今現在、超カッコ悪い甲斐くんよりはマシだよ」

「マシじゃねぇよ」

「マシだよ」

「マシじゃねぇよ」

「ぶっちゃけどっちでも良いや。それで、頭冷えた?」

「たんこぶできた・・・」


よっ。と、セツナが上半身を起こし。


「すまん」


なのはと僕に向かって頭を下げた。


「にゃはは・・・私もごめんね」

「あ、僕も大丈夫」


なのはがレイジングハートを待機状態に戻し、笑う。

僕は首を振ってセツナに言う。

きっと、セツナにとってさっきのアレは・・・感情的になるぐらいの出来事なんだと思うから。


「高町さん、言う時に言わないと・・・またやらかすよ」


だけど、ハルカが首を左右に振りながらなのはに返す。


「オレは悪ガキか・・・」

「ガキでしょう?あと、しばらく黙れ」


ハルカが怖い顔でセツナを睨む。


「ハルカちゃん、私は」

「良い子ちゃんは好きだけど、八方美人は嫌いかな?」


なのはが声を上げるが、ハルカにそう言われて押し黙った。


「今の甲斐くんは、私も大嫌いなんだ。自分の事だけしか頭に無くて、なのはちゃんに怪我させたのに逆ギレしてる・・・ガキみたいな甲斐くんが」


ハルカ・・・セツナの胸にグサグサと何かが突き刺さってるよ。


「スクライアくんは良いよ、まだ甲斐くんと知り合って間もないから。だけど、高町さんは違うでしょ?甲斐くんの人となりは知ってるはず。
 なのに、なんで甲斐くんを笑って許せるのかがわからないな~」

「・・・・・・じゃあ、一言だけ」


ハルカが眼を細めながら言うと。

なのはが笑みを消して、僕が初めて見る・・・泣きそうな、悲しそうな顔で。


「もう、あんな事はしないで。セツナくんがどうしてアレだけ怒っていたのか、私にはわからない。だけど、それで怪我をするのはいけないと思う。
 セツナくんには家族が居る、だから・・・心配掛けたら駄目だと思うの。私も・・・セツナくんが怪我をしたら、悲しいから」

「・・・・すまん」


なのはの言葉に、セツナは顔を俯け・・・もう一度謝った。




























***********************************************************************************




(カッコ悪ぃ・・・)

日が沈み出し、夕日が空に顔を出した頃、オレは神社の石段に腰かけながら・・・自己嫌悪に陥っていた。


ジュエルシードに取り込まれた子犬は、無事飼い主と共に帰っていた。

それを遠目から見送るなのはとユーノ、そしてハルカ。


なのはの頬は少し腫れていた、オレが傷付けた。

オレの自分勝手なわがままでだ・・・。

オレにとっては大切な事でも、なのはには何にも関係無いのに・・・怒りをぶつけた、やつ当たりだ・・・。

本当にカッコ悪い・・・後でもう一回謝ろう。

ハルカにもさっそく心配かけた。

アレだけカッコつけたのに、数分でドボンだ。

これも・・・本当にカッコ悪い。


「相棒、オレを笑ってくれ・・・」

オレの背後に停まるオートバシンに声をかけた。

もちろん、答えは無い。

コイツも・・・オレの記憶に関係有るんだろうか?いや・・・有るだろうな。

もう、口が勝手に相棒って言ってるし、隠された記憶覚醒だよ。

本当にどんな中二だよ、魔眼とか隠された人格が出てきても、もう驚かない。

あー、駄目だ、最近暗いなオレ。

「よし!!」

両頬を。パン。と、叩き。

自分で気合を入れる。


考えてもわかんねぇんだ、オレの記憶にベルトやオルフェノクについては・・・また出てきた時に考えよう。

今はジュエルシードだ、これを最優先事項に置いて動こう。

それ以外はマジで考えるな、思考の迷宮に突入してしまう。

オレは『未来』や『過去』でも無く、『今』を重視するんだ。

今を生きる、良し!なんかカッコイイ!!。


「それは気のせいだよ」


ハルカうるせぇ・・・。




































≪あとがき≫


暗い・・・基本ギャク(?)のつもりが、ここ最近暗いです。

ここまでが無印序章のつもりです、これから明るくなるよう頑張ります。



[17407]  奏編   第1章 怪談VS魔法
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:49



ファイズフォンを開き、ボタンを押す。


≪5・5・5≫


変身コードを入力、最後にエンターと描かれたボタンを押す。


≪Standing by≫


次の瞬間、腰にファイズドライバーが現れる。

ファイズフォンを閉じ、頭上高く掲げる。


「変身!!」


ベルトのバックル部分にあるスライダーに、ファイズフォンの下部をはめ込み、携帯が向きを90度回転して、ベルトにぴったりとはめる。

電子音声が響く。


≪Complete≫


ベルトの上下から紅い光が線となって伸び、全身を包んでいく。

そして、線が鎧の形を形成した時。

紅い光が夜の闇を切り裂き、オレの姿が変わる。


「行くぞ」


右手を軽くステップ、正面の敵に殴りかかった。



相手は・・・肌色の肉体、その表面に青と赤の浮き出る血管、顔の半分は骨が剥き出しになった異形の怪物。

学校のみんなからは『剥き出しちゃん』という、恐怖と冗談と遊び心から付けられた名を持つ。

その本名は・・・人体模型。

学校の七不思議には必ず入っているだろう『動く人体模型』、それが今のオレの対戦相手だった。

戦いの場所は夜の私立聖祥大学付属小学校。

細かく言えば二階の廊下。

四つ目のジュエルシードを求め、オレ達はここに来ていた。


「気持ち悪い!!」


カクカク動く人体模型にオレは右ストレートを叩き込んだ。

あ~、何でこんなことに・・・。























***********************************************************************************



「私立聖祥大学付属小学校・七不思議、聞きたくない?」

とある平日の、とある休み時間にて・・・ハルカが突然聞いてきた。

「聞きたくない」

机に突っ伏していたオレは顔を上げずにそう答えた。

ジュエルシード集めが始まってからも恭也にぃの特訓は続いているので、休み時間は寝ていたい。

「いつの間にか作られたこの七不思議は代々在学生に受け継がれて来たんだ、だけど・・・その不思議の全てを知った者は闇に消えるんだ」

語り出すハルカ。

「話聞けよ」

「私も六つ目までしか知らないんだ」

「おーい、聞こえてますかー?」

「一つ目『動く人体模型』、二つ目『飛び立つ図書室の本』、三つ目『体育館でひとりでにドリブルするボール』、四つ目『音楽室に現れる銀髪の少女』、
 五つ目『夜に一段多くなる階段』、六つ目『鏡に写る未来の自分』。七つ目は・・・怖くて聞けないわ!」

ベタだなー。

「ていうか、オレ七つ目知ってるぞ。『ひとりでに鳴るピアノ』だろ」

「きゃー!!呪われたー!!」

「アホらし・・・」

悲鳴を上げるバカに呟く。



オレは幽霊というものを信じていない、見たこと無いものは信じない主義だからだ。

だから、吸血鬼や魔法も出会うまでは信じてなかった。

ちなみに宇宙人は信じてない。



「へー、ハルカはそういうの苦手なんだ」

三人娘が集まってくる。

で、そう言ってニヤリと笑うのはアリサ。

こういう話、好きそうだな。

「あう・・・」

「・・・」

対して、微妙に顔が青くなるなのはとすずか。

こうゆう言い方は非常にアレだが、魔法使いと吸血鬼のクセに怖いのか・・・?。


「私、怖いの嫌いだけど好きなんだ~」

ハルカは幽霊とか平気そうで凄く苦手だ。

けど、ホラー映画は見たがるし・・・心霊番組も良く見る。ようは・・・怖いもの見たさの心理だ。

「つうか、そんな怪談有るわけ無いだろ。それに・・・本当に闇に葬られてたら大問題だ」

話が胡散臭過ぎる。

「それが・・・あまり笑い話にならないのよ」

アリサが指を立てる。

そして、オレを怖がらせるように不気味に笑う。

「実際に怪我をした人間が何人か居るのよ」

「そんな話、聞いたことが無いんだけど」

もし、その通りならテレビか何かで騒ぐだろ。

ただでさえ、世間ではそういう学校の話題に敏感なんだし。

「そりゃ、大人は子供が夜の学校に侵入して・・・勝手に怪我したって思ってるからよ」

「へぇ~」

「だけど、実際に怪我をした生徒が言うにはね」

ちょっと、面白い話になるか?。



アリサの話では・・・3年前から、1年事に一人もしくは二人の生徒が夜の学校で怪我をするらしい。

ただし、何で怪我をしたかは誰もわからない。

怪我をした生徒が言うには、突然眼の前が真っ暗になって、気が付いたら階段から突き落とされてたり、いきなり机が頭上から落ちてきたりしたらしい。

そりゃ、そんな現実味の無い話、大人は誰も信じないな・・・。

だけど、子供の好奇心を刺激するには充分な話だ。

謎を確認、もしくは解決するために別の生徒達が何人かで集まって夜の学校に入り、運悪く怪我をする。

その連鎖が3年前から続いているらしい。

で、事故が年単位で必ずと言っていいほど確実に起きるので、生徒達の間で七不思議やら呪いの話ができたようだ。

これは・・・アホらしいの一言で片づけられる話じゃないかな?。



「ちなみに、ハルカの言う七不思議の呪いは?」

「ああ・・・それはガセね、いつの間にか生徒達の間で作られてたらしいわ」

「じゃあ『動く人体模型』、『飛び立つ図書室の本』、『体育館でひとりでにドリブルするボール』、『音楽室に現れる銀髪の少女』、
 『夜に一段多くなる階段』、『鏡に写る未来の自分』、『ひとりでに鳴るピアノ』は全部嘘か」

「なんでわざわざ全部復唱するのかな!!」

「いや、面白そうだから」

「面白くないよ!!」

なのはが涙眼で怒る。

今、ガセだと言ったばかりなのに怖いんだな・・・。

「うぅ・・・全部聞いちゃった・・・」

すずかも落ち込んじゃった・・・。

「あはは、二人共怖がりだね~」

ハルカ、その強気なセリフはオレの手を離して言え。


アリサが知ってるのはここまでで、詳しく知るには他の生徒に聞くしかないようだ。

3年前からの話だし、オレ達より上の学年は全員知ってるだろ。

運が良ければ、怪我をした本人からも話が聞けるかもしれない。

しかし、ジュエルシードとこの話は関係無いか?なんせ5年前だし、でも・・・一応後でユーノを交えて話し合った方が良いかな?。












*****************************










「一応、調べた方が良いとオレは思う」

「うん、僕もそう思う」

学校帰り、オレとハルカは高町家にお邪魔していた。

そして、今日話した幽霊話をユーノに話した。

結論、わからないから調べてみよう。

「「・・・・・」」

怖がり二人、無言で首を左右に振る。

そんなに嫌か・・・。

「じゃあ、オレとユーノだけで行くか?」

ユーノが居れば魔力を感知できるし、オレも1人で封印できるから・・・問題が無いと言えば無い。

「それは駄目!?」

そう提案したら、なのはが声を上げた。

「ユーノくんを手伝うって決めたから、私も手伝う」

と、やる気満々のなのは。

「じゃあ、なのはも夜の学校に来るという事で」

「・・・・・・・・・・・。なんで夜なのかな?」

「昼に怪奇現象が起きるか?」

「・・・うぅ・・・」

今さっきアレだけ威勢を張ったので、引き返せないなのは。

とりあえず高町なのは、参加決定。

涙を拭いながら参加を決意するその姿は、可愛いの一言だった。

「ハルカは?」

「面白そうだから行くー」

やっぱり怖いもの見たさの心理だった。

その場の空気で参加を決意するその姿は、ハルカらしいの一言だった。


こうして、甲斐セツナ調査団が結成された。

夜の学校に侵入、何かドキドキしてきたな。

肝試しみたいで楽しみだ。






















***********************************************************************************



「ねぇ、もう十分でしょ・・・。ほら、なにも無かったじゃない、諦めて帰ろうよ」

「うん、私達・・・沢山調べたよ」

「まだ校舎に侵入してすらいないんだけど・・・」

だって~。と、抱き合う怖がり二人に頭を抱える。

「お前らな、こっちには喋るフェレットが居るんだぞ。こっちの方が有る意味ホラーだ」

もう犬とか猫とか見る度に喋りだしそうで怖いんだからなオレ。

「僕を引き合いに出さないでくれるかな」

「そうだよ甲斐くん、可愛いは正義なんだよ。可愛ければ何でも有りなんだよ」

「意味わからねぇよ、つうかハルカ・・・実は余裕だろ」


校門前で集合し、柵を越えてグラウンドを横断、昼間に鍵を開けておいた窓から校内に侵入する・・・手筈だったのだが。

今現在、グラウンドの真ん中でハルカとなのはが臆病風に吹かれて足止めを食らっている。

まぁ、気持ちはわかる・・・夜の学校ってなんか不気味だから。

非常灯が中途半端に光ってるし、あと・・・何か雰囲気が気持ち悪い。


「はぁ・・・やっぱりユーノと二人で行ってくるか?」

「そうだね、二人はここで待ってて」

ユーノを肩に乗せ、校舎に向かって歩く。

ユーノは怖いの平気らしい、なんでも古代遺跡の方が数倍怖いとか・・・ミイラにでも襲われたのだろうか?。

「こんな所に置いてかないで~・・・セツナくんのイジワル~」

「甲斐くんの薄情者ー!爆発しろー!!」

「末代まで呪うぞテメェら」

人聞きの悪い事を言いながら、二人が追いかけてきた。

声が涙声だな・・・。



「一応さ、1人で色々調べてみたんだ」

校舎に侵入、三人と一匹で足音を廊下に響かせながら歩く。


調べた・・・というか聞いてきただな。

怪我をした生徒と学校に忍び込んだ生徒達に。

本当に意味不明な現象で怪我をした生徒は本当に居た、その生徒の言ってる事が正しければ・・・何でも黒い霧(もや)に覆われて、気が付いたら怪我をしていたらしい。

そして、その場に一緒に居た生徒達が言うには、黒い靄に覆われたのは同じで、その靄が晴れた時・・・生徒が怪我をしていた。

怪我は軽いものばかりらしい、捻挫や打ち身、酷くて骨に罅が入るだけらしい。


「黒い靄・・・」

ユーノが考え込むように呟く。

「ジュエルシードには関係無さそうなんだよな、3年前から起きてる事件だし」

「ああ、そうだったね。でも、こんな室内で突然靄とか霧が出るなんて変だよ」

そうだよな・・・そこが謎だ、火事でも無いし・・・発煙筒とか消化器なわけでも無い。

「もしかして、本当に出るのか・・・?」

「あはは、幽霊なんて居る訳ないでしょ。バカだな~、甲斐くん」

ガクガクブルブルしながら言われてもな。

「ひょんにゃきゅおにゃにひゃにゃにひにゃいひぇ」

「セリフを全部噛むと、こうなるんだな」

なに言ってるかわからないな、つうか舌噛んで痛そうだ。

「なのは、落ち着いて」

ユーノが苦笑いを浮かべつつなのはを落ち着かせる。

このメンバーの中で魔法使いというある意味幽霊と同じレベルの存在なのに、一番ビビっているなのはだった。

とりあえずユーノを抱かせて落ち着かせる。

思い切り抱きしめているので、ユーノが白目剥いているが無視しよう。

「そう言えば、今年はまだ事件起きてないんだよね」

ハルカがオレの隣に並ぶ。

「ああ、今年はまだ何も。って、何か聞こえないか?」

その質問に答えた時、廊下の奥から何か聞こえた。

こう、ポーンポーンと。

「ジュ、ジュエルシードの反応だ!」

苦しそうにユーノが言い、オレはファイズフォンを取り出して構える。


廊下の先は夜の闇で見えない、だが・・・音だけは段々と大きくなっていく。

オレ達の間に緊張が走る、詳しく言えばハルカとなのはがマジでビビり・・・二人に挟まれたユーノの口から魂が洩れ出ている。

次の瞬間、廊下の向こうからテニスボールが転がってきた。

コロコロとゆっくり・・・ただ、それだけだ。

ひとりでにバウンドしたりも無く、まるで誰かが転がしたような軽い感じだった。


「・・・・」

足元まで転がってきたので、とりあえず拾って投げ返した。

テニスボールは闇の中に消えた。

「なんなの?」

なのはがおっかなびっくり声を上げた時、またコロコロと何かが転がってきた。

転がってきたのは野球ボール。

拾って投げ返した。

しばらくして、サッカーボールが転がってきた。

蹴り返した。

次はバレーボール、アタックした。

その次はバスケットボール、シュートした。

「ねぇ、甲斐くん・・・。だんだんと大きくなってない?」

「わかってるよ・・・っと!!」

ハルカに言いながらボウリングのボールを投げ返した。

これでもう無いだろ、ボウリングの球以上に大きな物は・・・。


ゴロゴロ。


音が変わった、巨大な何かが転がる音がする。

直後、闇の中から出てきたのは・・・紅い玉。

運動会で使う、大球転がしの紅白玉。

それが廊下を物凄い勢いで転がってきた。

「甲斐くん!ガンバ!!」

「無理!逃げろ!!」

「きゃー!!」

ハルカがガッツポーズを作るのに叫び返し、なのはの悲鳴を聞きながらオレ達は逃げた。

「これが七不思議の一つ『体育館でひとりでにドリブルするボール』か~」

「呑気に言ってる場合かよ!つうかここ体育館じゃねぇし!ドリブルもしてねぇ!もっと言えばそれガセだろ!!」

「突っ込んでる場合じゃないと思うよ!!なのは!レイジングハートを起動するんだ!!」

「いやあああああああああ・・・・」

「えええええええええええ・・・・」

運動音痴とは思えない速度で、なのはは廊下の奥に消えた・・・早っ!!。

ていうか後ろから迫ってるー!雰囲気的に潰されたらただじゃ済まなそうだし!どうするよこれ!!。

「甲斐くん!このままじゃ高町さんと逸れちゃうよ!!」

「逃げるのが先だ!教室に飛び込め!!」

ハルカに叫び返し、オレ達は同時に一番近い教室の扉を体当たりで外して中に飛び込んだ。

教室を転がるオレ達の後ろで、大玉が廊下の向こうに転がっていった。

「逸れたか?」

起き上り、教室から顔を出して廊下の向こうを見るが・・・大玉しか見えなかった。

まぁ、なのはにはユーノが付いてるし・・・大丈夫か?。


ポンポン。


そんな事を考えていると、肩を叩かれた。

「ハルカ、これからどうする?」

後ろに居るであろうハルカに振り向く。

だが、そこにはハルカは居なかった、なら・・・誰がオレの肩を叩いたかと言うと。

人間の中身が半分出ている人の模型、人体模型が口をパカパカしながらオレの肩を親しげに叩いていた。

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

滅茶苦茶気持ち悪かったので、思わずその顔面に拳を叩き込んだ。

吹っ飛ぶ人体模型から眼を逸らし、教室を見渡す。

棚の中に在るホルマリン漬けの生物、清潔なビーカー、そう・・・理科室だ。

学校の怪談ご定番の理科室だ。

で、眼の前で起き上ろうとしているのは七不思議の一つ『動く人体模型』だろう。

そして、ハルカはと言うと、教室に飛び込んだ瞬間にこれを見たのか・・・。

「きゅ~・・・」

床でのびていた。

「キモッ!!」

床を這いながら襲ってくる人体模型に、オレは這うように科室から抜け出す。

あのプラスチックなのがブリキ人形よろしくギギギと動くのはかなり気持ち悪かった。










************************










そんな感じで回想終了・話は最初に戻る。

殴り飛ばした人体模型は、バラバラ殺人事件のように身体のパーツを撒き散らしながら闇に消えた。

さっきのボールやこの人体模型はジュエルシードの仕業で間違い無いだろう。

ユーノが魔力を感じてから怪奇現象が起きているわけだし、そこは絶対だ。

(だけど・・・)

なら、5年前から起きている事件は何だろう。

(まさか・・・マジで幽霊?)

理科室に戻り、ハルカを揺さぶって起こしながら・・・そんな事を思った。

やべぇ、ちょっと怖いかも・・・。




















***********************************************************************************



「今夜は妙な客が多いな」

窓に腰かけ、階下の光景を眺める。

しかし、風が強いな・・・。

腰まで伸びた髪を抑え、髪型が崩れないように注意する。

「まぁ、いい・・・」

誰が来ようが私には関係無い、この短い時間だけが・・・私に与えられた唯一の時間なのだから。

「さぁ、今日も奏でようか・・・」

なら、始めよう・・・私だけの夢の時間を。
































≪あとがき≫

ジュエルシード四つ目って、夜の学校だったんですね。

アニメを再確認して初めて知りました、最初・・・病院かと思ってた自分が恥ずかしいです(;一_一)



[17407]  奏編   第2章 ロボVS555
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:52



「・・・・何か聞こえない?」

ハルカを起こし、理科室を出てなのはとユーノを探して校内をさ迷っていると・・・ハルカが聞いてきた。

「何が?」


≪CONNECTIONING≫


ベルトからファイズフォンを外し、なのはの携帯に電話しながら聞き返す。

先に答えたのはファイズフォン、電波が届かないと言われた。

「おかしいな・・・」

ファイズフォンをベルトに戻しながら呟く、校内で通話はできるはずなのに。

これもジュエルシードの影響か?。

「ピアノの音、聞こえない?」

首を傾げていると、ハルカが天井・・・いや・・・上の階を見ながら質問する。

「『ひとりでに鳴るピアノ』か・・・?」

ピアノと言われ、怪談の一つを思い出す。

そういや、三階の音楽室にピアノが置いてあったな。

今回のジュエルシードは、七不思議を再現している可能性が高いから・・・多分それだろ。

「それと『音楽室に現れる銀髪の少女』かな」

ハルカがそう呟いた時、オレにもようやくピアノの音が聞こえた。

眼を閉じて、集中しないと聞こえないけど。

それは凄く小さい音だった・・・、風の音と窓が揺れる音で大半が掻き消されてほとんど聞こえないけど。

「綺麗だ・・・」

なのに、綺麗で心地良い音色だった。



オレは音楽なんて知らない、でも・・・上手だと思った。

耳から全身に広がるように・・・温かなモノが流れてくる感覚がして、心が安らぐ。



「そう・・・だね」

ハルカがそう呟き、静かに耳を澄ませる。

オレ達はしばらく、奏でられるメロディに聞き惚れていた。

いや、聞き惚れていたかった。



耳を澄ませていたからか、闇から突然それが現れた事に・・・それ程驚きはしなかった。

「「・・・・」」

だが、その姿を見てオレとハルカは口をアングリと開けた。

体長約3メートル、頭は中華鍋、胴体はコピー機、右手は木材で手がノコギリ、左手はイスで先端にカッター、右足は竹棒で足首からしたが一輪車、左足は箒で足先はチリトリ。

そんなゴチャゴチャした継ぎ接ぎだらけのロボ(?)がオレ達の前に現れた。

「夏休みの工作か・・・・」

「完成度高いね、自由研究の参考にしよ」

思わず二人で呻いた。

ジュエルシードの暴走体でいいのか?とにかく学校の用具で作られたロボを見上げる。

「合体ロボ、用具将軍」

「いや、ここは用具ンダーZでしょ」

怖いというより、滑稽なロボ(?)を指差しながら二人で名付け合う。

「いやいや、用具と怪談だから・・・用怪?」

「まんま過ぎだよ、ここは稲川淳○と名付けようよ」

「お前は失礼過ぎだ、本人に謝ってこい」

とか話してたら、ロボ(?)がオレ達に向かって右手を振り下ろした。





「ほら、やっぱり稲川淳○が良いんだよ」

「違うだろ!!」

ハルカを抱き上げ、後ろに跳んで避ける。

直後、鼻先を掠めた右手のノコギリが床を貫いた。

普通のキレ味じゃない・・・魔法で強化されているのだろうか?。

「ハルカ、下がってろ」

ハルカを下ろし、右手を軽くスナップしながら言う。

「気を付けてね」

「ああ」

ハルカが離れると共に、ロボ(?)が前進してくる。


そして左腕を横に薙ぐ。

左手の先にはカッターが装備されているため、オレは身を沈めて回避。

立ち上がりながら前に踏み込み、ロボ(?)に向かって拳を打ち出した。





















***********************************************************************************



「なのは、大丈夫?」

「うん、大丈夫・・・ちょっと落ち着いた」

紅白玉から必死に逃げて、気付いたら私は三階の廊下で息切れを起こしていた。

全力全開で走ったから、疲れたよ・・・。

「二人と逸れちゃったね」

「うん・・・」

真っ暗な校舎の中で一人ぼっち、あ・・・ユーノくんが居るから1人じゃないけど。

でも・・・あの二人が居ないと雰囲気が暗い気がします。

何だかんだで口数が多く、明るい二人が居なくなっただけで怖さが倍増です。

うぅ・・・寂しいよ~。

「二人と合流しよう。大丈夫、なのはには僕とレイジングハートが付いてるよ」

≪all right≫

落ち込む私をユーノくんとレイジングハートが励ましてくれます。

ちょっとだけ、恐怖が和らいだ気がしました。

「うん!二人共ありがとう!!」

声を上げて気合を入れ直す。


大丈夫、二人が励ましてくれれば・・・私はきっと大丈夫だ。

こんな事で怖がってたら、ユーノくんの手伝いなんてできない。

だから、頑張らないと。


ドン。


「ふにゃ!!」

気合を入れた時、突然頭に何かが落ちてきた。

それは、凄く固くて尖ったモノだった。

刺さりはしなかったけど、凄く痛かった。

「い、痛い・・・・」

頭を擦りながら眼の前に落ちたモノを拾う。

「本・・・?」

「本だね」

ユーノくんが私の肩に乗り、私が手にしたモノを見下ろします。

それは普通の本でした、多分・・・これの角が頭にぶつかったんだと思います。

「でも、なんでこんな所に?」

本を良く見ると、裏側にここの学校の名前が書いてあった。

そして・・・『図書室』とも。

「ま、まさか・・・」

血の気がサッと引きました。

何故なら、昼間聞いた怪談を思い出したからです。


『飛び立つ図書室の本』


今、私は三階の廊下に居ます。

図書室は一階に在るので、図書室の本がここに有るのは変ですし、空から降ってくる事も凄く変です。

つまり・・・。

「な、なのは!後ろ!!」

ユーノくんが声を上げ、私が恐る恐る後ろを振り向くと。

沢山の本が鳥のように、パカパカと表紙を開け閉めしながら羽ばたいてました。

それも一つじゃありません、数えきれないぐらい沢山です。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

「なのは、落ち着いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

私はまた逃げ出しました。

本達は後ろから追いかけてきます。

バタバタと羽ばたく音が更に恐怖心を掻き立てます。

「追い掛けて来ないでぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

「なのは!アレはジュエルシードのせいなんだ!!だから、お化けでも幽霊でも無いから!落ち着いて!!」

「わかってても怖いの!身体が自然に逃げちゃうの!!」

確かに本からは魔力を感じますが、怖いものは怖いんです!!。

「でも、なんで図書室でもないのに飛び立ってくるんだろう?」

「『飛び立つ図書室の本』であって『図書室で飛び立つ本』じゃないからじゃないかな!!と言いますか!そんな冷静に疑問に思ってる場合じゃないと思うの!!」

「あ、成程」

首を傾げるユーノくんにツッコミを入れると、ユーノくんは手をポンと叩きました。

怖くないのはわかるんですが、冷静過ぎるのも問題だと思いました。

「とにかくレイジングハートを起動するんだ!」

「わ、わかった!。レイジングハート!お願い!!」

レイジングハートを手に、念じます。


≪Standby ready Set up≫


レイジングハートは私の言葉に答えてくれました。

桜色の光が私を包み、バリアジャケットが展開され、レイジングハートが杖に変わります。


「お願い!レイジングハート!!」

逃げるのを止めて後ろに振り向き、レイジングハートを迫る本達に向けて突き出しました。


≪Protection≫



桜色の壁が私と本達の間に現れます。

そして、体当たりしてくる本を全て防ぎます。

本は魔法で強化されているのか・・・障壁にぶつかる度に強い衝撃が来ました。

が、何とか耐えて全て弾き返しました。



「ほっ・・・」

地面にバタバタと落ちる本を見て、ホッと一息吐きますが。

「う~ん・・・」

落ちた本を見て、ユーノくんが首を傾げます。

「どうしたの?ユーノくん」

「うん・・・。今回のジュエルシード暴走体は複数居ると思って」

「あ、そうだね」

『体育館でひとりでにドリブルするボール』と『飛び立つ図書室の本』、ジュエルシードによって起きた現象は二つ。

それ以外にも、学校の中から複数の魔力を感じる。

だけど、初めて見た暴走体や犬の暴走体に比べると・・・とても小さく弱い魔力だ。

「多分、この学校の七不思議が再現されていると思うんだ。その場合、本体はどこに居るんだと思って」

「七不思議のどれか一つかな?」

「どうだろ?、最初の『体育館でひとりでにドリブルするボール』という怪談が微妙に変わっていたから・・・違うか・・・も・・・」

ユーノくんの口調が途中で歯切れが悪くなり、私の後ろを見て固まりました。


ゴロゴロ。

カタカタ。


同時に何かが転がるような音と、何かが走る音が聞こえました。

「・・・・」

嫌な予感を感じながら、私が後ろを見ると。


紅白玉と人体模型がコチラに向かって来ていました。

いえ・・・人体模型の後ろから大きな紅玉が迫り、人体模型が逃げていました。


「いやああああああああああああッ!!」

私はまた逃げ出しました。

「どうして人体模型が追いかけられてるの!?紅白玉だけで良いと思うんだけど!!」

意味わからない所が逆に怖いよ!凄く怖いよ!!。

「多分、二つ出てきたらもっと怖くなると思ったんじゃないかな?」

「どんな理屈!?発想が小学生以下だよ!!」

「ジュエルシードだから、仕方ないよ」

「その納得の仕方もどうかと思うよ!!」

とにかくどうしよ!?シールドで全部防げるかな!?。

「なのは、前!前!!」

とにかくレイジングハートを向けようとした時、ユーノくんが正面を指差しながら叫びます。

「えっ!?」

前を見ると、紅白玉の白玉が迫って来ていました。

「紅が出てきたから、白も出てきて当然だったね」

うんうん。と、ユーノくんが納得して頷きます。

「納得してる場合じゃないと思うの!!にゃあああああああああああああああああッ!!」

ツッコミを入れている間に、私は左右から大玉に挟まれました。



















***********************************************************************************



「!!高町さんの悲鳴が・・・言葉が走った!!」

「なに意味不明な事言ってんだ!!」


ロボ(?)との勝負はまだ続いていた。

最初に入れた拳は・・・胴体のコピー機に傷を付けただけだった。

やっぱり魔法で強化されているらしく、さっきから攻撃を避けながらパンチやらキックを入れてるけど・・・大きなダメージは与えていない。


「ちょっとヤバいかもな・・・」


振るわれる腕をかわし、後退しながら呻く。

こっちの攻撃に相手は仰け反る事も無い、ロボ(?)が用具の固まりだから当たり前だけど。

だから、重い一撃を入れようとしたら・・・その分隙が出てカウンターが飛んでくる。

相手の方がパワーが有るだろうから、できればノーダメで行きたい。

そうなると、一撃で決めるしかないか・・・。


「甲斐くん!!眼には眼を!ロボにはロボだよ!!」


その一撃をどう決めようかと悩んでいると、ハルカが叫んだ。

なんか興奮してんな・・・。と、思いながらその言葉に納得。

相手が横に薙いだ腕を、右足で蹴り上げて弾き。

ベルトから携帯を外してコードを入力。


≪5・8・2・1≫


エンターボタンを押す。


≪AUTO VAJIN  Come Closer≫


携帯から電子音声が発せられる。

今入力したのはオートバジンを呼ぶコード。

これでアイツが来るはずだ。


「来い!オートバジン!!」


そして、タイミングを見計らい。

パチン。と、指を鳴らしながら声を上げる。

直後、オートバジンが廊下の奥から出て・・・・・来なかった。










シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。










「シーーーーーン」

「口に出して言うなあああああああああああッ!!」


ほらっ!?ロボ(?)が気を使って攻撃躊躇ってんじゃねぇか!!。

ヤベェよこの空気!完全に痛い人だよ!!。

お願いだからロボ(?)攻撃して!!今なら防御も何もしないから!!良い感じでダメージ食らわせて!お願いだから!!。

ああー!カッコ付けるんじゃなかった!!。


「おぶし!!」


今更だがこの学校は今、大掃除期間で床にワックスが塗られている。

なんでそんな事をいきなり言ったかというと。

廊下の奥からエンジン音を響かせながらオートバジンが現れ、後悔するオレを後ろから撥ねたからだ。

きっと滑ったんだと思う、そうに違いないんだ・・・。


(だから、後で絶対分解してやる・・・)


きりもみ状に宙を飛びながら、そう決めた。

決して罰とかじゃない、そう・・・整備のためだ・・・ゆっくりと整備するためだ・・・・・・クケケケケケケ。

以上、宙を舞う数秒間内の思考。


「ひでぶっ!!」


オレが床に激突すると共に、オートバジンがロボ(?)に体当たりした。

が、重量とパワーはアチラが上らしく・・・押し返され、足払いを食らって車体を倒された。


「はっ!ざまーみろ!!」

「甲斐くん、味方味方・・・」


あ・・・、あまりの殺意に忘れてた。

ロボ(?)がオートバジンを踏み潰そうと足を上げたので、不意打ちで体当たりを食らわせて転ばせる。

で、オートバシンを起こそうとして・・・やっぱり止めて倒したままにして、ファイズフォンからメモリーを外す。

そして、この前見付けたハンドルのスロットにメモリーを挿入する。


≪Ready≫


続いてハンドルを引き抜いた。

ハンドルの先に輝く紅い光が現れ、闇夜を照らした。

紅い光は直ぐに収縮し、光刃となる。


「おー、ビームサーベル」

「黙ってろ」


ハンドル・ファイズエッジを右手で持ち、軽く振るいながらロボ(?)を見据える。

相手は起き上り、ノコギリを振り下ろしてきた。

ファイズエッジで防ぎ、そのまま刃を振り上げてノコギリを根元から両断する。

そして、右斜め上に振り上げた状態から左に動かしてロボ(?)の胴体を斬り付ける。

コピー機に一閃、黒く焦げる音と共に深い傷跡が残る。



この武器は他の二つと違い、必殺技専用の武器じゃないようだ。

斬撃で斬ると言うより、焼いて溶断すると言った感じ。




「はあッ!!」


そこから攻めまくった。

こちらの攻撃を相手が防ごうとするが、ロボ(?)のパーツの大半は木材なので防御ごと焼き斬る。

私怨を込めて斬撃を加え、ロボ(?)に無数の傷を付けていく。


が、相手もただ食らうだけでなく反撃の一撃を繰り出す。

突き出された左拳を跳んで避け、地面に叩きつけられた左腕に着地・・・ファイズエッジを逆手に持って腕に突き刺す。

それから横に刃を動かし、左腕を半ばから斬り落とす。


そして、床に落ちる腕を足場にに跳び、ロボ(?)の胴体に蹴りを入れる。

身体の一部を失ったのと、蹴りの衝撃でロボ(?)が背中から地面に倒れる。

それに巻き込まれないように後ろに跳び、着地と共に銀一色のファイズフォンを開いてエンターキーを押す。


≪Exceed Charge≫


ファイズフォンを閉じると、ベルトから右手に持ったファイズエッジにラインを通って紅い光が走る。

光が到達すると、光刃の輝きが増し・・・オレは地面を削るようにファイズエッジを振り上げる。

それに合わせて紅いウェーブが刀身から放たれる。

波は地面を伝い、今起き上ろうとするロボ(?)に物凄い速さで向かう。

それが命中すると周囲に円を描くように紅い光が浮かび上がり、ロボ(?)は紅い円錐の中に閉じ込められ、宙に浮かぶ。


「うおおおおおおおおおおッ!!」


拘束から逃れようともがくロボ(?)に斬り込む、紅く輝くファイズエッジを横に一閃、更に斜め下から斬り上げる。

ファイズエッジを振り抜くと共にロボ(?)に『Φ』の字が刻まれ、バラバラになった。

だけど、ジュエルシードは出て来ない。

これが本体だと思ったが、違うようだ。


(本体はどこだ?)


だとすると、本体はどこに?。


「にゃああああああああああああああああああッ!!」


首を傾げた時、上の方からなのはの悲鳴が響き渡った。

同時に何か固い物同士が激突する重い音が聞こえた。


「アタリはアッチか」

「みたいだね」


オレ達は上の階に向かって走った。




















***********************************************************************************



「さて、どうしたものか?」

思わず助けてしまったツインテールの子を見下ろす。

紅白玉に潰されそうになっていたのを音楽室の中から手を伸ばし、襟首を掴んで引きずったわけだが・・・。

この魔法少女チックな服は何だ?コスプレか?。

しかも、ご丁寧に小動物も一緒に居る。これはネズミ・・・違うな、イタチの仲間か?。

魔法使いは黒猫が相場だと思っていたが、今は何でも有りなようだな。

「きゅ~・・・」

それにしても、助けてやったのに人の顔を見て悲鳴を上げ、あまつさえ気を失うとは失礼な奴だ。

「銀髪~・・・」

何やらブツブツ呟いているな。

「銀髪?」

私は自分の髪を、月の光を受けて輝く銀色の髪を手に持つ。

これに驚いたのか?ますますわからないな・・・。






























≪あとがき≫

次回遭遇編?

高町なのはの扱いに対し、なのはファンから苦情が来ないかビクビクしています(・*・)



[17407]  奏編   第3章 奏
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:55



「女の子の悲鳴って、そそられるよね」

「誰か警察呼んで!!」

オートバジンを二階に残し、オレ達は三階に駆け上がった。


そして・・・。

「こ、これは・・・」

「酷い・・・」

音楽室の前で、無残に潰された残骸を見下ろす。

「誰が・・・誰がこんな事を!!」

「人間のすることじゃ無いね・・・」

オレがそいつを抱き上げると、ハルカが苦い顔で吐き捨てた。

そいつの身体は左半身がペシャンコで、内臓は廊下に散らばり・・・腕はひしゃげ、右足が無くなっていた。

その瞳には既に光が無く、虚ろな眼差しが天井を見つめていた。

もう・・・手遅れだった。オレ達は・・・遅かったんだ・・・。

オレにも・・・ハルカにもそいつを助ける手立ては無い。

「くそが・・・」

だから吐き捨てる。救えない事に、助けてやれない事に。

「人生って、残酷だよね・・・」

ハルカが両手で顔を覆う、その眼には涙が光っているだろう。

オレはその亡き骸を抱きかかえながら声を張り上げる。

「「人体模型さああああああああああああん!!」」

ハルカも叫んでいた、それぐらい悲しいからだろう。

悲痛な・・・耳に残る痛い声だった。

既に旅立った人体模型さんは何か壁のようなモノで挟まれたらしく、バラバラになっていた。

「ごめん・・・、オレが昼間・・・小腸の一部を外したから・・・」

授業中。ポキッ。と、音を立てて外れたパーツを懐にしまった事を思い出す。

「違うよ、私が血管Bパーツを外したから」

ハルカと共に懺悔する、自分達の罪を・・・。


「「・・・・・・」」

ふと、ハルカと眼が合う。

「あのさ、甲斐くんがボケに回ったら収拾がつかないんだけど」

「オレだってボケたい時が有るんだよ」

気持ち悪いので、人体模型を廊下の隅に押しやる。

散らばったパーツは拾うの面倒なので蹴る。

「でも良かったね、これでイタズラの証拠隠滅になる」

「そうだな、ラッキーラッキー」

いやー、パーツの一部を取って無くした時は焦ったよ。

「って、オレ達何しに来たんだっけ?」

「さぁ?魔法の気配も無いし、そろそろ帰らない?夜更かしはお肌の大敵なんだよ」

オレが問うと、ハルカが両頬を触りながら言う。

「「・・・・」」

また、ハルカと眼が合う。

「だからさ、甲斐くんがボケに回ったら駄目だって」

「自覚有るならボケるなよ」

「そっちもね」



















***********************************************************************************



「悲鳴、ここからだよな?」

音楽室の扉の前に、ハルカと並んで立つ。

なのはの悲鳴と共に、ピアノの音も消えたし。

「うん、私のセンサーもビンビンに反応してるよ」

「何のセンサーだ」

「女の子センサー」

真顔かつ即答で答えられた・・・。

「・・・・」

こいつはどこで何を間違ったのだろう・・・。

そんな事を考えながら音楽室の扉を開けた。










まず、最初に感じたのは風だった・・・優しくて、冷たい風だ・・・。


窓が開いていて、夜風が部屋の中に入っていた。


次は匂いだ、良い匂いと言えば良いのか・・・シャンプーの良い匂い、それが風に運ばれて来る。


そして、銀色・・・窓から差し込む月の光を受け、美しく輝く銀色の髪。


それは長く、風に吹かれて舞っていた。


その綺麗な髪を持つのは、端正な顔立ちの少女。


オレ達と同い年ぐらいで、青の瞳と灰色の腰まで届く長い髪を持っている。


銀色に見えたのは月の光のせいと、オレがそう幻視したからだと思う。


それぐらい、幻想的な雰囲気を持つ美少女だった。










少女は、音楽室に置いてあるグランドピアノの前に座っており、入ってきたオレ達を一眼見て・・・。

「魔法少女の次は特撮ヒーローか、最近はコスプレでも流行ってるのか?」

最近の若い奴はわからん。と、肩をすくめながらそう言った。

あ、変身したままだった・・・。って・・・。

「お前、何者だ?。こんな夜中に、しかも学校で何してる?」

「こんな夜中にコスプレしてる奴よりは怪しく無いさ」

「・・・・・・それもそうだな」

「こらこら、納得してどうする」

最初、ジュエルシードで再現された怪談『音楽室に現れる銀髪の少女』かと思ったが・・・違うのか?。

なら、コイツがジュエルシードを?。

む~、魔力を感じれないからわからん。

「おい、ハルカ」

確実では無いが、魔力を感じれるハルカの意見を聞こうとするが。

「・・・・」

ハルカは顎に手を当て、なめ回すように少女を見つめていた。

男なら通報されるぐらいの勢いだった。

「なんだ、そいつは・・・」

少女が軽く引きながら聞いた時。


ジュルリ・・・。


そんな舌舐めずりの音がした。

「聞かなかった事にしてやるから、涎を拭け」

「あ、めんごめんご」

涎を拭うハルカに少女と二人、ドン引きする。

本当にコイツ、どこで道を違えたのだろうか・・・。

「名前は何て言うの?」

過去を思い返しながら、遠い空を眺めていると、ようやくまともな事を言うハルカ。

「奏(かなで)、一島(いちじま)奏だ」

少女・奏がオレ達を真っ直ぐ見ながら答える。

「私はハルカ・フィール。よろしくね、一島さん。ほら・・・甲斐くんも」

「甲斐セツナだ」

ハルカに促され、オレ達は名乗り合う。

「この学校の制服着てるけど、ここの生徒なのかな?というか何歳?」

奏はウチの学校の制服を着ていた。

「私立聖祥大学付属小学校、3年2組だ」

つまり、8~9歳か。

「あ~、私達と一緒だ~。しかも隣のクラス」

ハルカが嬉しそうに笑う。


こんな奴、ウチの学校に居たっけ?。

廊下で擦れ違うだけでも印象に残りそうなんだが・・・覚えが無いな。

けど・・・ハルカは何も言わないから、魔法とは関係無いのだろう・・・。

一応、そういう所はちゃんとしている奴だし。


「先程から質問してばかりだな。私からもさせろ、お前達はこんな所で何をしている?」

「「映画の撮影」」

「二人だけで何が撮れる・・・」

頭を抱えられた。


しかし、どう説明してものか・・・魔法と無関係の可能性も有るから、色々と喋るわけにはいかないし。

かと言って、コチラが何も喋らずに相手だけが話してくれるなんていう甘い話は無い。

魔法抜きにして、ファイズの事だけでも話すか?。

それなら大丈夫だろう、多分。


「まぁいい・・・。そこで寝ている奴を連れて帰ってくれ」

話そうとした直前、奏がオレ達から視線を逸らし・・・ピアノに向き合う。

もうオレ達には興味無いと言った感じだ。

って・・・寝ている奴?。

「あ、高町さん」

先に気付いたのはハルカだった、音楽室の隅に・・・壁に背中を預ける形でなのはが座り込んでいるのを見付けた。

「お前が何かしたのか?」

ハルカはなのはの様子を見に行ったが、オレは奏を見据えた。

「何もしてない・・・。そいつは私の髪を見て、勝手に気を失っただけだ」

そう・・・少しだけ落ち込んだように奏は言う。


あ~、怪談と勘違いしたのか?。

最初の紅白玉とか、音楽室の前でバラバラになっていた人体模型から考えるに・・・ビビりまくった末に止め刺された。って、感じだな。

なのはが逃げ惑う様を想像し、苦笑いを浮かべているとハルカが戻ってきた。

その腕にはユーノが抱かれている。

「ユーノ、大丈夫だったか?」

小声で問う。

「うん、大丈夫。それより・・・」

ユーノも小声で返しつつ、視線は奏に向く。

奏はピアノに向き合い、楽譜を捲っていた。

完全にオレ達から意識は外れているようだ、見向きもしない。

一つの事に集中したら、周りの事が見えなくなるタイプなのだろうか?。

「ジュエルシードの反応は?」

「なのはが音楽室に入ってから反応が消えちゃって・・・。あの子が怪しいと思ったけど、魔法の反応が無いから」

「私も変な感じはしないよ」

オレの問いにユーノとハルカは首を左右に振る。

ここまで来て手掛かり無しかよ・・・。

「とりあえず怪しいのは・・・」

オレ達は奏を見る。

怪し過ぎるだろ、どう考えても・・・。

「これからどうする?」

ハルカが呟き、オレとユーノは首を傾げる。



その直後、音が聞こえた。

ピアノの音色だ、オレ達が作戦会議をしている間に奏が弾き始めたようだ。

綺麗な・・・音色だった、ガラスのように透き通った・・・澄んだ音が耳の中に入ってくる。

「やっぱり・・・コイツのピアノか」

二階に居た時に聞こえたピアノの音と同じ、とても上手いと思える・・・心に来る音色。

「聞き惚れるね」

ハルカが眼を閉じ、耳を澄ませる。

「ユーノ、今回のジュエルシードは一番最初の奴と同じで・・・ジュエルシード単体での暴走体だと言う可能性は?」

「それは無いよ。誰かの意思を反しているから、ああいう怪談の形になったと思うし」

「やっぱり?」

「うん」

ユーノがハッキリと頷き、オレの小さな希望は砕かれた。



こんな綺麗な音を出せる奏とジュエルシードが関わって欲しくない、ピアノの音色を聞いて・・・オレはそう思った。

だって、本当に綺麗な音なんだ・・・。

頭が空っぽになるというか、憂鬱な考えとか全部無くなっていく。

それに、奏は本当に楽しそうにピアノを弾いている。

楽しそうと言っても、もちろん集中してるし、凄く真剣だけど・・・それでも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

その感じが音を通して、ちゃんと心に伝わってくる。

これが・・・感動するという事なんだろうか、心が一杯になって・・・あふれ出しそうになる。

本当に、オレ達と関わってほしくないと思った。



だけど、人生って言うのは・・・本当に残酷だった。

悲しいぐらいに・・・。










****************************










「!!」

異変に最初に気付いたのは奏だった。

ピアノの演奏が中断され、イスを倒しながら後ろに飛び離れる。

直後、ピアノが音を出した・・・。ただし、奏の手は鍵盤から離れている。

そして、その音色は奏のモノとは真逆、非常に不愉快な音だった。

「「ジュエルシード!!」」

それに遅れてハルカとユーノが叫ぶ。

直後、ピアノが動く・・・嫌な雑音を撒き散らしながら宙に浮き、奏に襲いかかった。

「危ない!!」

ピアノが勝手に演奏を始めた瞬間、オレは駆け出していた。

奏を突き飛ばし、代わりにピアノの体当たりを食らう。

「あぐっ・・・」

脇腹に衝撃、ピアノに撥ねられて壁に叩きつけられる。

同時に全身に紅い光が走り、変身が解けた。

「やべ・・・」

痛みに顔をしかめながら呻く。

今の衝撃でベルトが外れたようだ。

「おい!大丈夫か?」

脇腹を押えてうずくまっていると、奏が駆け寄ってくる。

「バカ!危ない!!」

その背後からピアノが飛んでくる。

奏がそれに気付き、オレに肩を貸して逃げようとするが間に合わない・・・。

ピアノはオレと奏を壁と挟んで潰そうとする。

「うっ・・・」

奏を押し出そうとするが、身体に痛みが走り・・・無理だった。

潰される・・・そう思い、オレと奏が身構えた時。



≪Complete≫



音楽室を、紅い光が満たした。


















***********************************************************************************



私の足元にファイズフォンが転がってくる。

当たり所が悪かったみたい、神様も人が悪いね。


眼の前では、甲斐くんと一島さんがジュエルシードの力を受けたピアノに潰されそうになっている。

高町さんはまだ寝てるし、スクライアくんは戦力外。

で、私の足元にはファイズフォンか・・・。


(仕方ない・・・か・・・)


ファイズフォンを拾う。

賭けをしよう、分の悪い賭けは嫌いだけど・・・そうは言ってられない。

最悪吹き飛ぶだけだし、やるだけやろう。

そうしないと、死んじゃうかもしれないし。



≪5・5・5≫



変身コードを入力し、エンターキーを押す。



≪Standing by≫



腰にファイズドライバーが現れる。

私はファイズフォンを頭上に放り上げながら閉じ・・・。



「変身・・・」


空中で掴んでベルトのバックルに突き刺した。



≪Complete≫

(悪いけど、その二人は殺させないよ)



瞬間、私は紅い光に包まれた。













***********************************************************************************



紅い光、鋭く・・・激しい光。

それが眼の前を、音楽室を、学校の中を駆け抜けた。

ファイズの・・・変身時の光だ。

ハルカが変身した・・・ファイズに。

それは夢や幻覚でも無い、紅い光が収まると・・・ファイズの鎧を身に纏ったハルカが立っていたから。

だから、驚いた・・・。

キャラメル色の髪は黒髪へ、瞳の色も金色に変化する。

変身したハルカが天を指差す。


「とあるヤクザが言っていた『三借りたら七返せ』と」

「「は・・・?」」


その言葉にオレと奏が間の抜けた声を出す。

意味がわからん。


「つまり、凄く良いピアノを聞かせてもらったから・・・その分頑張るよ」


ピアノが方向を変える、ファイズの光に誘われるようにハルカへ襲いかかる。

ハルカは軽く右ステップを踏んで避け、左腰からデジカメを取り出し、ファイズフォンからメモリーを引き抜いて差し込む。

パンチングユニット・ファイズショットに変わったそれを右手に装着、ファイズフォンを開いてエンターキーを押す。



≪Exceed Charge≫



紅い光が走る、ベルトから右手に向かってだ。

その間にピアノがUターンして戻ってくる。

「ワン、ツー、スリー」

それに動じず、ハルカはタイミングを計るようにカウントしながら拳を構える。

「グラン・・・」

そして、迫るピアノに合わせて拳を振るう。

「インパクト!!」

金色の光を宿した拳がピアノを捉える。


硬直は一瞬、ファイズショットから衝撃波が走り、ピアノが吹き飛ばされる。

木の破片を撒き散らしながら、背中に『Φ』の文字を刻みながら・・・。

ピアノが音を立てて床に落ち、粗大ゴミと化す。

瞬殺だった、オレが驚いている間に勝負はついていた。



「誰でも変身できるモノなのか?」

その光景を茫然と見ていると、同じく茫然とした顔で奏が聞いてきた。

「知らねえ・・・」

誰でもできない無いはずだ・・・忍さんは変身できなかったから、それは絶対だ。


人間しか変身できないのだろうか・・・?いや、それならオルフェノクがベルトを狙う意味がわからねぇな・・・。

ああ・・・また謎が増えた・・・。

もう、つまらねぇギャグ並に難解だぞこれ。


1人頭を抱えていると、ハルカがベルトからファイズフォンを外して変身を解除。

「ほい」

オレにファイズフォンを投げて返す。

「お前さ、もしかしてわかってて変身した?」

それをキャッチしながら問う。

「いやいや、ぶっつけ本番っすよ」

嘘くせぇ・・・。

ハルカを問いただそうとするが。

「色々と聞かせてもらって構わないか?」

先にこっちだな・・・。

奏がオレ達を見ながら聞いてきた。

もう、隠し事はできない状況だよな。

「んにゃ・・・?」

で、タイミングが良いような悪いような感じでなのはが眼を覚ました。


とりあえず、その頬を引っ張ったオレは悪くない。






























≪あとがき≫


超展開は諸刃の剣~、良いじゃん良いじゃんスゲ~じゃん~。




[17407]  奏編   第4章 未来
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:57



「魔法か・・・。存外、私の常識は脆いモノだったんだな」

奏に魔法の事を話した後の第一声がこれだった。

そして、それだけだった。

まるで、知らない事を知って。ふ~ん。と、納得するような感じだった。

「それだけかよ・・・」

だから、思わず呻いてしまった。

「なんだ?驚かなければいけない掟でも有るのか?」

「いや、無いんだけどさ・・・」

もうちょっとこう・・・なぁ・・・。

何のリアクションも無いって、どうよ?。

気味悪がったり、怖がったりするのが普通じゃないか?。

もちろん、そうされるよりは全然良いんだけど。

「女は強いんだよ」

意味不明な事を言いながら、うんうん頷くハルカは無視しよう。


「そうだな・・・。お前は神様を信じているか?」

オレが不思議がる事に気付いたか、奏が突然聞いてきた。

「はぁ?」

いきなり何言ってんだコイツ?。

「良いから答えろ。そうだな、神様が嫌なら幽霊やUFOでも良い・・・信じているか?」

「オレは自分の眼で見たモノしか信じない」

だから、神様も幽霊もUFOも信じていない。

魔法も、出会うまで信じていなかったな・・・そういや。

「そうか。けど、私は全部を信じているんだ」

ハッキリと奏が言う。

「マッドだったのか・・・」

「ぶっ飛ばされたいか?」

「すんません。それで、どうして?」

平謝りしつつ聞く。

「その方が面白いからだ」

奏が笑う、子供のように・・・楽しそうに。子供だから当たり前なんだけど。



「人の眼で見えるのは、少し遠い所までだ。だけどそれは、世界のほんの少しだけだとは思わないか?」

世界は広いのに、人間は小さいという事か?。

「その少しだけが、全てと言うのは面白く無い。もっと遠い所が有るのなら、想像だけでも良い。感じてみたくないか?」

想像するのは・・・感じるのは・・・夢や希望。

1人の人間の・・・自分だけの常識というものは、他人から見ればとても小さいかもしれない。

いや・・・人間の常識というのも、世界からすれば案外小さいかもしれない。

だから、夢や希望も・・・人という小さな枠に縛られる。

「もしも魔法の世界が有るのなら、もしもドラゴンが実在したら・・・」

その枠を除けば、待っているのは遠い世界・・・夢の話、未来への希望の話。

「想像だけだけど、信じているだけだけど。ちっぽけな自分の常識や考えに囚われるより、ずっと面白いし楽しいじゃないか」

未来を想い、そして夢見る。

オレには・・・ちょっとできない考え方だ。

オレにとって・・・未来は怖いから、暗闇に包まれた未来より、光に照らされた今が好きだから。

「世界は広い。うん、昔の人は良い事を言うな。だから、私は信じていた・・・魔法という奴を。だから、それ程驚かない」

沢山の可能性を信じている、だから・・・驚かない。

もしもな世界の可能性、それを奏は信じているのか・・・。

夢を持って、希望を持って、未来へ進んでいるのだろうか?。

「いや、違うな。嬉しいんだ、私の世界がまた広がった事が」

新しい出会いっていうのは、オレからすれば・・・やっぱり怖い事も有るし、慎重になる事も有る。

例えるならそうだな・・・初めてのクラスで、知らない誰かと話す時とか。

オレは少し緊張する、実際・・・アリサと初めて話した時とかそうだったし。

けど、奏は楽しんでる。新しい出会いを望んで、自分の視野が・・・世界が広がる事を喜んでいる。

「自分が変わっていける事が嬉しい。私は成長できているんだって実感できるからな」

本当に嬉しそうに、自分を誇るように、奏は言う。

オレは変わるのが怖い、だから・・・本当に奏のような考え方はできない。

『未来』を望む奏の考え方は、『今』を望むオレとは違う。

それが嫌なわけでも、理解できないわけでもない。

ただ・・・。

「成長か・・・」

オレも・・・進まないと駄目なのか・・・。という、ちょっとした焦りが出てきたり。

「夢・・・か・・・」

なのはも考える事が有るのか、黙考していたり。



「一島さんは大人っぽいねぇ~」

「夢が有るだけさ」

「そこに痺れる憧れる~」

「お前は・・・適当だと言われないか?」

「よく言われるけど何か?」

「いや・・・なら、何も言うまい」

小首を傾げるハルカに、窓から遠い景色を見ながら答える奏。

「ところで奏はこんな所で何をしてたの?」

魔法の紹介と共にユーノの説明もしたので、ユーノが奏の前に出て質問する。

そういや、まだ聞いてなかった。

こんな夜遅くに学校に居る理由。

「ピアノだ」

視線をユーノに移し、直ぐにピアノへ向けながら奏が答える。

「ピアノか・・・」

「ピアノね・・・」

オレとユーノは見る、見事に粉砕されたピアノを。

「ひゅーひゅひゅー」

口笛を吹きながらそっぽを向くハルカ。

「いや、仕方の無い事さ。全てはジュエルシードのせいなんだろう?」

そう・・・残念そうに奏が言う。自分に言い聞かせるように言う。ピアノの残骸を撫でながら言う。背中に暗い影を落としながら言う。

「ハルカ・・・」

「サーセン」

謝るまでコンマ0.1秒だった。

「それで・・・ピアノをどうしてたの?」

ズレた話をユーノが正す。

「弾いていた。私はピアノが好きなんだ」

奏が嬉しそうに笑う。

「こうサラサラーとだな、そしてシャシャーとだな、もっと言えばパラパラーとだな」

ピアノの話をするのが本当に嬉しいようだ。

意味は全くわからないが、かなり饒舌に喋る奏を見て思う。

「ああ、そうだ。今度ピアノの演奏会が有るんだが、聞きに来ないか?」

そう言って、奏が制服のポケットから一枚のチラシを取り出した。

「うん?」

「どれどれ?」

「見えないよ~」

「お前ら詰め寄って来んじゃねぇ!!」

暑苦しいかつ鬱陶しいわ!!。

ハルカ達を追っ払い、チラシを見る。


そこには○○ホールにてピアノの演奏会をやると書いてあった。

開催は二日後の昼過ぎからだ。

場所は・・・家からバスで10分ぐらいだな。


「良いのか、いきなり知り合ったオレらを呼んで?」

チラシを他の三人に渡す。

「問題無い、無料公演だから誰でも来れるしな。なにより私は自分の演奏を沢山の人に聞いてほしいんだ」

「さっき聞かせてもらったけど、上手かったよ。凄く」

少し聞いただけだけど、本当に感動した。

「ありがとう。うん、これも何かの縁だ。これからもよろしくな」

奏が右手を差し出した。

「ああ、これからもよろしく」

その手を掴んだ。

(冷たいな・・・)

驚くぐらい、奏の手は冷たかった。

「お前の手は温かいな」

奏がビックリしたような顔でオレを見る。

「いやいや、お前の手が冷たいんだ」

「知っているか?手が冷たいほど、その人の心は熱いんだぞ」

「知るか・・・」


これが・・・奏との出会いだった。

この後、夜も遅いので解散となった。

ジュエルシードは結局見付からず、ベルトの新しい謎と、奏との約束だけで終わった。

うん?何か聞き忘れているような・・・。
















***********************************************************************************



「そうだ・・・奏があんな夜更けにピアノを弾いてた理由を聞きそびれた」

翌日、昼休みの学校にて・・・自分の失態を思い出す。

ふぅ、上手い具合に話を逸らされたぜ・・・やるな奏、お兄さん全然気付かなかったよ。


この場にはオレを含め、なのはとアリサしか居ない。

ハルカとすずかは二人でクラスの外へお出かけ中、多分連れショ・・・・アリサに殴られた。


「夜更け~?」

オレの呟きにアリサが眉を潜める。

「昨日の夜、この学校で騒ぎが有ったのに・・・アンタ関係してるんじゃないでしょうね」

昨晩のジュエルシード騒動で壊れた人体模型や、ロボの破片、壁や床の傷などはそのままである。

ウルト○マンのように一週間経ったら壊れた町や戦闘機が元通りに修繕されている、なんていう都合の良い事は無かった。

「イエイエ、ワタシハナニモシラナイデース」

アリサの視線に対し、オレは後頭部を向けて答える。

ふっ・・・これで表情が読まれる事は無いぜ。

「・・・。まぁ、良いわ。ところで、奏って・・・一島奏の事?」

呆れたような沈黙の後、アリサが訊く。

「アレ?アリサちゃん、奏ちゃんの事を知ってるの?」

「まぁね、有名人だし・・・。それに、朝ハルカが騒いでたから」

なのはに、アリサが何か含みの有る言葉で返す。

「有名人?」

「そう、有名人よ。天才少女と奇跡の少女、二つの言葉を持つね」

なんだそりゃ・・・。

「一島奏は三年前まで普通の少女だった、だけど・・・とある事故で才能を開花させたのよ」

「邪気眼開花?」

「黙って話を聞きなさい」

わかりましたから睨まないで怖いから・・・。



アリサの話では、一島奏は三年前まで普通の子供だった。

だが、とある事故を境に天才と呼ばれるようになった。

その事故は絶対に助からないような大きな事故だったのに、生還した事で奇跡の少女とも言われるようになった。

勉強はもちろんスポーツも優秀になり、ピアノの才能も開花。

普通から天才へ・・・か。

それは・・・本当に奇跡のような話だな。



「ところで事故って?」

「原因不明の大事故よ、図書室に行けば記事の切り抜きが有ると思うわ。って、なのは・・・どうして震えてるの」

「本怖い飛ぶの怖い!パタパタ嫌ー!!」

今、なのはの脳裏に・・・忘却の彼方へ飛び立っていったはずの本達が里帰りしてきたようだ。

幼心に刻まれたトラウマは・・・とても深いモノらしい・・・。

とりあえず合掌しておこう。

「アンタ、今日何か変じゃない?」

「寝不足なんだ・・・」

もう・・・眠くて眠くて仕方がないです。

「あっそ・・・」












それから、オレは図書室にアリサが言っていた記事を探しに行った。

記事は・・・直ぐに見付かった。

アリサの言う通り、3年前の事故だ。

電車の事故だったらしく、百数十人が乗っていた乗客の内・・・生き残ったのはたった二人。

その内の一人が一島奏、当時6歳。

もう一人は・・・初老の男性、名前は小・・・漢字が難しくて読めない。

事故の原因は不明、事故現場の写真が有ったが・・・相当酷いな・・・。

電車が横倒れになり、車体がボコボコに凹み、窓ガラスが全て割れている。

警察は脱線事故という事で話を終わらせているが、ゴシップ記事などは・・・怪奇現象だと騒ぎたてている。

何でも・・・電車が事故を起こす直前に、窓から人のような何かが飛びだしたのを見た奴が居るとかで・・・。

それも気になったが・・・オレが一番気になったのは、当時の奏の写真だった。

「『奇跡』ねぇ・・・・」

黒髪、黒眼の・・・今よりずっと子供っぽい感じの・・・奏の写真を見ながら、オレは呟いた。















***********************************************************************************



「一島さ~ん!!」

「ハルカちゃん、声が大きいよ」

私はハルカちゃんに連れられて、隣の3年2組に来ています。

なんでも、新しいお友達の紹介をしたいとか・・・。

でも、それなら・・・なんで私だけなんだろう?。

というか教室の扉を開きながら叫ぶから、視線が凄い・・・。

「ねぇねぇ、一島さんがどこに居るか知らないかな?」

1人疑問に思っている間に、ハルカちゃんがクラスを見渡して・・・近くの席に座る男子生徒に聞いた。

どうやら、私に紹介したい子は教室には居なかったようだ。

「一島?知らないなぁ・・・」

男子生徒が首を振る。

「そっか~、どこら辺に居るかもわからない?」

「さぁ?。それより、一島とあんまり関わらない方が良いぜ」

「どうして?」


「アイツ、悪魔に取り憑かれる。って、噂だから」


男子生徒が小声で話す。

悪魔って・・・なにそれ?。

「へぇ~、どうしてどうして?」

私が固まる間に、ハルカちゃんが興味深そうに聞く。

「だってさ、3年前に大事故に遭って・・・急に天才って言われるようになって、しかも髪の色も変わったんだぜ。絶対何かに取り憑かれてるよ」

思いだした・・・。

一島奏さん・・・二年生の時、私と一緒なクラスだった。

銀色の髪が綺麗で、少ししか話せなかったけど・・凄く良い人だったのを思い出した。

だけど、一島さんはクラスで孤立していた・・・。そう、イジメを受けていた。

私は良く知らないけど、他のクラスの子から不気味がられたりしていた。

その理由は、今眼の前の子が言ったような理由・・・。突然の変化が・・・イジメの理由。

「あははー、幽霊なんて居るわけないじゃない」

「それもそうだけど、気持ち悪いぜ・・・アイツ」

そう、嫌悪感を露わに吐き捨てる。

「ねぇ・・・」

それが・・・ちょっと許せなかった。

私自身が特別なのもそうだけど、こうハッキリと気味悪がるその子が・・・許せなかった。

有りもしない事で、イジメするこの子が・・・許せなかった。

「わかった、情報ありがとね~」

だけど、私が声を上げようとする前に・・・ハルカちゃんが私の腕を掴んで教室を出た。

私の力なら、その手を簡単に振り払えたたけど。

「面白く無いな~」

ハルカちゃんの冷たい表情が・・・少し怖くて、されるがままになっていた。




私はハルカちゃんに手を引かれるまま校内を歩きまわる。

「ねぇ、どうしてハルカちゃんは何も言わなかったの?」

その途中、私は聞いた。

ハルカちゃんは怒ってるのに、どうしてあの場で何も言わなかったのかを。

「1人だけ潰しても意味は無いでしょ、それに・・・一度広まった噂はそう簡単には消えないし」

「そう・・・だね」

噂というモノは生き物だ、人から人へと噂が飛ぶ度に・・・大きく・・・そして醜く成長する。

「悪い噂は・・・良い噂に食われないと消えないわ。一島さんならまだしも、私達が何を言っても無駄よ」

ハルカちゃんがそう言いながら、特別授業用の教室に足を踏み入れた。

「みーつけた」

そして、誰も居ない教室の中、窓際の席に座り・・・小説を読む一島さんを見付けた。

「君達は・・・」

一島さんは本から顔を上げ、驚いた顔で私達を見る。

「やほー、元気してる?今日も可愛いぜ、ベイビー」

ハルカちゃんが一島さんへ近づいて行く。

「意味がわからないぞ、ハルカ。それで・・・君は?」

一島さんの視線が私に向く。

「月村すずか、二年生の時・・・一緒なクラスだったの覚えてる?」

「月村・・・ああ、覚えてるよ。何度か本を紹介してくれた人だね」

「うん」

私が読む本に興味を持って、いくつか紹介した事が有る。

「なにー!いつの間にか一島さんによる、月村さんルートが始まっているぅ!!」

ハルカちゃんが頭を抱えて身をくねらせる。

「くっそぉ!今日まで立ててきたフラグは全部おじゃんなのかー!!」

「そんなフラグ立ってないから」

「なにー!!」

どうしてそんなに驚くかな・・・。

「まぁ、いいや。フラグはまた立てれば良いし」

そんなフラグは未来永劫立ちません。

「ところで一島さんて、イジメ受けてるの?」

「って、ハルカちゃん!?」

いきなり何を聞いちゃってるのかな!!。

「ああ、そうみたいだな」

こっちはこっちで平然と答えてるし!!。

「一島さんは、どうしてイジメを受けてるの?」

「ハルカちゃん、そんな聞き難い事を・・・」

「いや、私は気にしてないよ」

どストレートなハルカちゃんをどう止めようか悩んでいると、苦笑いを浮かべながら一島さんがそう言って。

「私は・・・今を失ったんだ」

理由を教えてくれた。



3年前、大きな事故が遭って・・・大きく変わってしまった事を。

それまでは・・・誰とでも話せて、遊んで・・・普通に生きていたのに。

・・・事故を境に変化してしまったこと。

それが外見的にも内面的にも変わり過ぎて、周りのみんなから不気味がられて・・・それを理由にイジメを受けた。



「他の人は・・・奇跡の生還と言うが、私はアレで一度死んだ」

一島さんが笑う、自嘲気味に笑う。

「家族を失って・・・姿も中身も変わった。私は零になった、『今』を失ったんだ」

そして、自分の髪を面白く無さそうに撫でる。

太陽の光を受けて、綺麗に輝く髪を・・・。

本当は黒色だったのに、事故のショックで髪の色が変わったらしい。

それにしても・・・事故が原因でイジメを受けるなんて。

それって・・・酷い、一島さんは何も悪く無いのに。

「天才と最強は孤独の代名詞って奴だね」

それは微妙に違うと思うよ・・・ハルカちゃん・・・。

「どうして、何も言わなかったのかな?」

「言いたい奴には言わせておけばいい。私はそれほど気にしてない」

私の言葉に、一島さんはそう答える。

その表情は・・・読めない。

「それほどって事は・・・少しは気にしてるんだね?」

「少しだけな。人に嫌われて喜ぶ人間なんていないさ」

一島さんが私達から視線を逸らす。

本当は・・・辛くて悲しいはず。

「だから、私は変わっていくんだ。強く、そして綺麗にな・・・未来へ向けて」

でも、それを超える強さを・・・一島さんは持っているのだと思う。

私達に向かって笑う一島さんからは、力強い何かを感じたから。

・・・・ハルカちゃんが私を一島さんと会わせたの理由、少しわかったかも。

どんな状況からも前へ進む、そういうの・・・憧れるなぁ。

私も・・・一島さんのように、変われる努力をしないと。

「ねぇ、一島さん。奏ちゃん、って・・・呼んで良い?」

「ああ、構わない。私もすずかと呼んで良いか?」

「うん!。これからもよろしくね」

「こんな私で良ければ、これからもよろしく」

私達は握手をし合う、これから仲良く、ずっと友達で居られるように。










































≪あとがき≫

奏の紹介編です。

久々にアニメのスクラン見たら面白いな~。



[17407]  奏編   第5章 問題
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/05 15:58
「うぃーす」

「あ、甲斐くんだ」

図書室を出た後、奏を探し、何人かの生徒から居場所を聞きだして何とか奏の元に辿り着いた。

教室には奏の他にハルカとすずかも居た。

「今日は千客万来だな、茶も出ないがくつろいでくれ」

「甲斐くんが初めての男の子だね、ようこそ・・・この美少女率百%の楽園へ」

「セツナくん、どうしてここに?トイレなら隣だよ」

「テメェらボケ過ぎだ」

どれから突っ込めば良いかわからねぇぞ、この野郎。

「9歳で呆けてたまるか、失礼な奴だな」

そっちの呆けじゃねぇよ、この大ボケ。

「セツナくん、私はボケてないよ。至って真面目だよ」

はいはい、わかってますよ・・・お嬢様。

頭を掻きながら、文句を言う二人に背を向ける。


「奏、悪いけど・・・勝手に色々調べた」

とりあえず謝る、勝手に詮索したわけだから。

「女の子の過去を調べる奴は嫌われた」

「わかってる、これ以上嫌われないように。って、嫌われた!?」

ガーン。

振り向いたら奏そっぽ向いてるし!?。

「あーあ、甲斐くん嫌われちゃった」

「セツナくん、そういう事したら駄目だよ」

二人が非難の眼でオレを見てくる。

「オレが悪いのか!?いや、オレが悪いんだな・・・」

あーあ、どうしよ・・・。

とりあえず謝れば良いか?。

「まぁ、今回だけは特別に許してやろう・・・。私は良い女だからな、懐が広いんだ」

「そうかい」

腕を組んで偉そうに告げてくる奏に、オレは肩をガックリと落とす。

コイツ、もしかして傲慢な性格なんだろうか?。

「ところで甲斐くん、何を調べてきたのかな?」

「ああ・・・、それは」

ハルカが聞いてきたのに、モゴモゴと返す。

言っていいのか迷う。

やっぱり、プライバシーとか有るし。

「さしずめ事故の事だろう?。それならもうハルカとすずかに話した」

かと思ったら、アッサリとバラしてるな・・・。

「調べたのは事故の事だけだ。他は何にも」

「なんだ、つまんない」

「そうか、では・・・また今度までに新しいネタを作るか」

落胆するハルカに、奏が腕を組みつつ返す。

「もう突っ込まないからな」

「アレ?奏ちゃんとセツナくんは知り合いなの?」

すずかが首を傾げながら聞いてくる。

「遅いなオイ!!」

確かに知り合いとは言ってないけどさ、こう場の空気で察してくれ。

「「「あ・・・突っ込んだ」」」

うるせぇよ。










*********************










「それで、私に何の用だ」

「いや、用という用は無いんだけどさ。つうか、用がないと会いに来たら駄目なのか?」

奏が見据えてくるので、オレも視線をぶつけて返す。

用と言っても、昨日ピアノを弾いていた理由を聞きに来ただけである・・・。

「そうだな、茶菓子さえ持ってくればいつでも良いぞ」

「土産いるのかよ・・・」

「男ならそれぐらいの気遣いを見せろ」

「お前にだけは絶対に見せない。つうか、話を反らすな」

オレが何を聞きに来たのか知っているからか、話題を逸らしにかかる奏に釘を刺す。

「昨日、ピアノを弾いてた理由・・・どうして隠すんだ?」

「別に隠しているつもりは無かったんだが・・・」

奏が両手を掲げる。

そして、疲れたように小さく息を吐く。

「予想だけど。やっぱり・・・イジメが理由?」

「そんな所だ・・・」

ハルカが口を開き、奏が頷く。

「イジメ?」

オレ、そこら辺は知らないんだけど。

「ああ、うん・・・実は」

すずかが手短に説明してくれた、奏はイジメを受けている事と・・・その理由を。


(悪魔ねぇ・・・)

ふざけた理由だ・・・けど、いきなり知っている人が別人のように変われば、そりゃ変に思うよな。

そして、奏の場合はそれが大きく間違った方へ転んだといった感じか。

オレも記憶喪失になるタイミングが悪かったら、奏と同じような事になっていたかと思うと・・・ちょっとゾッとするな。


「私は居場所を無くしたんだ、ここでの」

奏が窓の外を見る、この学校を・・・この町を見下ろす。

そして、夜に1人でピアノを弾いていた理由を話す。

「事故を境に、私はここでの居場所を失った。ただ・・・みんなと普通に話して、ピアノを弾いて、それだけで良いのに」

「それなら、クラブとか入れば良いんじゃないのか?」

この学校には合唱クラブが有る、そこなら先生も居るし・・・イジメの問題も無いだろう。

「腕が良過ぎるというのも問題でな・・・拒否された。学校でピアノを弾いてるより、どこかのピアノ教室で練習した方が良いと先生に言われてな」

そう来るか・・・。

本当に上手いからな、奏の演奏。

腕を上げると言う意味なら、その選択は正しいんだろうけど。

奏はただピアノを弾いていたいだけだしな。

「だからって、夜な夜な学校に弾きに来るのは問題じゃないかな?」

「そうだな・・・」

ハルカがもっともな事を言い、奏が苦笑いを浮かべる。

その瞳は・・・悲しみと苦しみで揺れている。

「家族の人にお願いはできないのかな?」

そうだな、すずかの言う通りだ。

学校の先生からお墨付きを貰ってるんだし、家族に頼めば。

「アイツらには頼まない」

だが、奏は静かに首を振りつつ・・・断言する。

それは絶対に無いと。

「どうして?」

「アイツらにだけは・・・絶対に嫌だ」

そう、視線を鋭く・・・怒りを露わに奏が吐き捨てる。

どこの家庭にも、問題というモノは有るようだな・・・。

つうか、オレの周りにはまともな家庭は無いのだろうか?。

「学校も家族も駄目、だから夜の学校に来て・・・1人でピアノを弾いていたんだね」

「つうか・・・それって事故に遭ってからだろ?。なら、3年間ずっと通ってるのか?」

「そうだ」

オレとハルカが微妙な顔で聞くと、素直に頷かれた。

「もしかして・・・音楽室の怪談はコイツのせいなのか?」

「かもね・・・」

笑えねぇな・・・オイ。

「だが、そんな私にもチャンスが来た」

オレとハルカが渇いた笑い声を上げていると、奏が嬉しそうに言う。

「演奏会か?」

「そうだ。とある人が私の才能を買ってくれたんだ、なおかつ・・・演奏会でピアノを弾かせてくれるようにしてくれた」

ああ・・・よく考えれば、子供1人の力で演奏会にエントリーできるわけ無いな。

「あの人のおかげで私はピアノを弾ける、上手くいけば・・・ピアノを弾き続けれるかもしれない」

そこで認められて・・・音楽教室にスカウトとかそんな感じか?。


(・・・・何か・・・輝いてるなぁ・・・)


嬉しそうに演奏会の事を話す奏を見て・・・そう思う。

夢のある話じゃないか・・・、自分の腕を売り込んだり、夢のために真っ直ぐだったり、凄く努力したり。

イジメとかに遭いながらも夢に向かって一直線に進む姿勢とか、男のオレから見ても凄くカッコいいと思う。

それに、夢を語る奏からは・・・何か熱いモノを感じる、それはとても熱くて・・・胸が燃えるような感じになる。

幸せそうに夢を語る奏は、オレから見れば輝いていた。

















***********************************************************************************



昼休みも終わり、オレ達は奏と別れて教室に向かう。

「ねぇ、セツナくん、ハルカちゃん」

その途中、先を進むすずかが足を止めて振り向く。

「昨日の夜、学校に居たんだね」

「「・・・・・」」

あはは・・・隠すの忘れてた。

「それに最近、なのはちゃんと3人で何かしてしてるよね」

放課後とか・・・ここ数日3人で行動してるからなぁ・・・。

感づかれても仕方が無いか。

「何をやってるか・・・話せないかな?」

すずかはジッとオレ達の眼を見る。

誤魔化しは・・・効かないよなぁ・・・。

それに、それは嘘になる・・・。

でも、魔法の事を話せない・・・。

「悪いな、すずか」

「ごめんね、月村さん」

嘘も真実も話せないから、オレ達は謝る。

「話せないんだね・・・」

すずかは悲しそうに、視線を下げる。

それを見て、胸が痛くなるんだけど・・・。

やっぱり・・・巻き込みたくない。


昨日、ピアノがジュエルシードの暴走体になった時・・・下手をしたら奏は大怪我をしていた。

ハルカがファイズに変身できたから良かったけど、もし出来なかったら・・・それを考えるだけでゾッとする。

あの時思った、この件には誰も巻き込めないと。

運悪くじゃ済まされない事が・・・有るから。


「・・・わかった。話してくれるまで待つよ。でも、何か力になれるなら言ってね」

すずかがニコリと笑ってくれる。

オレ達に気にしないで大丈夫だと笑ってくれる。

「ああ・・・」

「ありがとね、月村さん」

本当に、オレにはもったいない友達だよ。

この調子じゃ、多分アリサも感づいてるんだろうなぁ。

隠し通すにしろ、話すにしろ、早目に決着付けないと・・・。


「頑張るしかないね」

「そうだな」

残るジュエルシードは18個、できるだけ誰も巻き込まないように・・・頑張らないと。
















***********************************************************************************



「アリサ、もし自分がイジメを受けたら・・・アリサはどうする?」

放課後、教室で集まりながら話す。

「元凶をしばいて泣くまで謝らせる」

女の子がその答えで即答ってどうよ・・・。

「そういうと思いました・・・」

貴重な意見どうもありがとうございます。

「む・・・。そういうアンタはどうすんのよ」

「無視する」

膨れっ面のアリサに答える。

「まぁ、ああいう輩は他人が嫌がる様を見るのを面白がってるからね」

アリサのようにビシバシ抵抗できるなら良いけど、下手な抵抗は逆効果だ。

前に女みたいだからっていじめられた時、まだ弱いのに反抗したら逆効果で・・・ハルカを巻き込んだ事が有るから・・・ちょっと思い知ってる。

「二人共、意見が極端だよねぇ~」

「そういうハルカはどうなのよ」

「私?私は相手の悪い噂をばら撒く」

オレの周りの女子は・・・やられたらやり返すタイプばっかりだな。

ちなみになのはとすずかは、相手の出方によるそうだ。

「それで、どうしてそんな質問するのよ」

「奏ちゃんの事だよね」

「ああ、奏の事だ」

すずかに頷き返す。

「やっぱり、一島さん事だよねぇ」

「えっ?奏ちゃんに何か有ったの?」

ハルカの言葉に、なのはビックリ顔。

「アレ?私だけのけ者?」

アリサが微妙な顔で呟いた。

そういや、このメンバーで奏に会ってないのアリサだけだな。










*****************************










「そういうわけで連れてきた」

「初めまして、一島奏です」

隣のクラスから奏を連れてきた。

「初めまして、アリサ・バニングスよ。って、まさかそういうわけ?」

アリサが奏を指差しながらオレに向く。

この子のイジメ問題を解決する気?。と、視線で聞いてくる。

無言で頷く、頭を抱えられた。

「アンタ、下手したらミイラ取りがミイラになるわよ」

「だって、可哀相じゃん」

アリサと顔を突き合わせ、奏に聞こえないようにコソコソと話す。

「そりゃそうだけど・・・。あの子の問題、わかってるんでしょ」

「知っちまった以上、見て見ぬフリはできない」

問題の解消は難しい、それはわかってるけど・・・できるだけ力になりたい。

やっぱり、今あってこその未来だとオレは思うから。

「アンタ甘過ぎ。絶対に将来で損するわよ」

「良いだろ別に・・・」

頬に指を突き刺してくるアリサに唸る。


・・・奏の事を知ってしまった、それも理由に有る。

でも、他にも理由は有ったりする。

ピアノを弾き続けたいという、思いというか・・・夢というか・・・それを語る奏が凄く輝いてて、熱く感じたから。

それを壊したくない、何とかしたい、そう思った。


「他人の事より、自分の夢はどうなのよ」

「う・・・」

そこを突かれると痛い・・・。



オレには・・・やっぱり夢が無い、ぼんやりとしたモノは有るんだけど・・・それが夢なのかどうかがわからない。

料理が好きだからと言って、コックになりたいわけじゃないし・・・。

人助けがしたいというか・・・困っている人を何とかしたいという気持ちが有るから、警察や救急隊に入りたいわけでもない。

固まって無いんだ、自分の中の思いが夢という形に。

奏の件も、自分の夢が生まれるキッカケになれば・・・。という気持ちも少しは有ったり・・・。



「人の夢に口出し・・・は、してないわね。でも、関わるなら・・・それなりの覚悟を持ちなさい」

頬をグサグサ突きながらアリサが忠告してくる。

「アンタの行動で、あの子の夢が潰れる可能性だって有るんだからね」

オレ達の行動が逆効果だった場合は・・・そうなるんだろうな・・・。

うっ、考えたら鳥肌立ってきた。

「ハァ・・・良いわ。あの子、悪い子には見えないし・・・私もイジメは嫌いだから、知恵だけは貸してあげる」

「ありがと」

「ふん、アンタのためじゃないんだからね」

そっぽ向きながら言われた。

やっぱり、アリサはツンデレだな。再確認した。



「じゃあ、第一回・イジメ殲滅作戦を始めるわよ」

「殲滅したら駄目じゃないかな」

「すまない、話が見えないんだが・・・」

アリサによる開幕の言葉に、なのはと奏が突っ込む。

「黙りなさい、ここでは私がルールなのよ」

横暴が始まるな・・・これは・・・。

「アンタだって、このまま居心地悪い状態が続くの嫌でしょ」

「それはそうだが・・・」

「なら、問題無いわね」

「セツナ、コイツ・・・強引過ぎないか?」

「今に始まったことじゃないから問題無し」

「・・・」

オレがそう答えると、奏は押し黙ってしまった。

迷惑がっては無いけど、ちょっと戸惑ってると言った感じだ。

「イジメの理由は妬みね、他にも有るだろうけど・・・それが一番多いはず」

髪の色ぐらいだったら・・・無理やりだけど、髪を染めたって感じで済むだろうから。と、最後に付け加えるアリサ。

つうか、この場に居る黒髪はオレとすずかだけだな。

まぁ、それは置いといて。やっぱり・・・いきなり頭が良くなったり運動ができるようになったら、それまで地道に努力してきた奴が妬んだりしても仕方ないと言えば仕方ないよな。

だからって、イジメの理由にはならないけど。

「そうだ!」

ハルカが手を。ポン。と叩く。

期待はしてないけど、全員の視線がハルカに向く。

「バカになれば良いんだよ、馬に頭蹴られたりして」

「もしくはクシャミで頭の歯車が壊れて・・・って。どこのバカボ○だ!懐かし過ぎて涙出てくるわ!!」

「二人共、話がズレてるなのだ」

((すずか(月村さん)が微妙に乗った・・・))

でも、直ぐに恥ずかしくなったのか・・・顔を紅くして俯いた。

何か悪いことをした気がしたので、ハルカと二人で慰める。

「先生に相談するのはどうかな?」

「普通過ぎる、却下」

「えぇー!!」

なのはが挙手するが、アリサに瞬殺されてしまう。

「先生の言葉で上から押さえつけても、本当の解決にはならないもの」

「『臭い物に蓋』の理論か?」

「どんな理論よ・・・」

奏の例えにアリサが頭を抱える。


まぁ、先生に相談すれば・・・解決はするだろう。

でも、やっぱりそれはアリサの言う通り・・・一時的な物だし、根本的な解決にはならない。


「生徒会とかボランティアに入って、みんなのために何かをするとかどうかな」

「忙しくなってピアノが弾けなくなるのは困る」

すずかの提案は効果的だと思う、良い噂で悪い噂を消す方法だし・・・。

だけど、それだと奏のやりたい事ができないか。


う~ん、オレがいじめられていた時のような・・・力づくで解決するには、噂が広がり過ぎてるし・・・。

校内中に噂が広がっている以上、根本を潰しても意味が無い。

噂そのものを何とかしないと、イジメは無くならないだろう。

難しいな・・・、これは・・・。


































≪あとがき≫

音楽を奏でるから『奏』です。

オリキャラ三人目~。




[17407]  奏編   第6章 先生
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/07 00:01



「イジメの解決方法は明日までに考えてきなさい」

「宿題かよ」

なのは達が塾の時間となり、イジメ殲滅作戦の会議は中断。

「じゃあね、みんな」

「ああ、車には気を付けろよ~」

塾に行く3人娘を見送る。


そして、教室にはオレとハルカと奏が残った。

「奏はこれからどうするんだ?」

「先生・・・ピアノの先生の所へ行く」

ああ、演奏会に出るのを手伝ってくれた人か。

なら、ここで解散か・・・。晩飯の買い出しは昨日してあるし、今日はこのまま帰るか。

「暇ならお前達も来るか?」

「え?良いの?」

奏の提案にハルカが反応する。

「お前、ピアノに興味なんか有るのかよ?」

少なくとも、オレは知らないんだが。

「失礼な、女の子はみんなピアノが好きなんだよ。特に最近では四人組の女の子の奴とか」

「それはバンドだ、しかもピアノじゃなくてキーボードだし」

やっぱり信じられねー。

「つうか、お邪魔して良いのか?」

完全にオレとハルカは部外者だろ。

「ああ、部外者立ち入り可だから大丈夫だ」

「私、行くー」

奏がニコリと頷くと、ハルカが挙手して意思表明。

「セツナはどうするんだ」

「じゃあ、行かせてもらう」

オレも興味は有る。

そういうとこ言った事無いし、どんな事をしているか気になる。

「では、行こうか」

「あ、ごめん・・・ちょっと待っててくれない?」

「?、どうした」

「トイレ」

そう言って席を立つ。

作戦会議中、ずっと我慢していたんだ。

会議中に席を立とうとすると、アリサが睨んできたから行けなかったんだよな・・・。

「お尻は拭くのよー」

「黙れよテメェ!!」










*************** m(__)mしばらくお待ちくださいm(__)m ***************










「おい、お前」

トイレを終え、手を洗ってハンカチで拭いていた時、突然後ろから声をかけられた。

「何?」

後ろ向くと、1人の男子生徒が立っていた。

顔に見覚えは無いから、同じクラスじゃないな・・・隣のクラスか?。

「一島奏と付き合うのは止めた方が良いぜ」

そんな事を考えていると、そいつは忠告してくる。

「どうして?」

「アイツの噂、知らないのか?」

「知ってるけど」

「じゃあ、わかるだろ。アイツと一緒に居ると、お前も取り憑かれるぜ」

その言葉にイラッと来た・・・。

でも、抑えろ・・・オレがこんな所でキレたって、奏の迷惑にしかならないんだから。

「オレは悪魔なんて信じてない、それにアイツ・・・そんな悪い奴じゃない」

付き合いは短いけど、そこは断言する。

「お前は知らないんだよ、アイツはおかしいぜ。3年前から急に勉強できたり、運動できたり、ピアノの腕もあんなに良くなって・・・オカシイだろ!」

オレの言葉に苛立ったようにそいつは言い返す。

「努力もしないで急にできるようになって・・・。どう考えても変だ」

段々と言葉がオレに言うモノから、自分に言い聞かせるようなモノへ変わっていく。

何かに焦るように、そいつは奏の悪口を言い続ける。

「そうだ、だから・・・アイツは取り憑かれてるんだよ。きっとみんなを見下したいからって、色んなモノに手を付けたんだろ」

その内容はどんどん最低に、意味がわからないものに変わっていく。

最後の方は小声でほとんど聞こえず、ブツブツと呟くようになっていた。

まるで、自分を安定させるように悪口を続ける。

「そうじゃなきゃ、何の努力もしてないアイツが僕より上手く・・・」

「お前さ、黙れよ」

我慢は・・・無理だ、友達になってるかは微妙だけど、知り合いをこれだけバカスカ言われて我慢なんてできるかよ。

そいつは悪口を止めてオレを見ると。ひっ・・・。と、小さく悲鳴を上げて後ずさった。

オカシイな、オレは笑っているだけなのに・・・どうしてそんな怯えた顔をするのかな?。

「僕は善意で忠告してるだけだ!。そうだ、僕は君を助けようと思って」

「黙れ」

これ以上の話は無意味だ、オレはこの男より奏を信じている・・・だから、これ以上の会話は苛立つだけだ。

「後悔するからな、絶対に」

オレの態度に男子生徒は、そう吐き捨ててトイレから出て行った。

「いつの時代の捨てセリフだよ」

頭を掻きながら呟く。



他の生徒もあんな感じなんだろうか?。

だとしたら、イジメの原因はアリサの言う通り妬みだな・・・。

あういう奴の言葉が校内に浸透しているのだろう。

それに、奏自身が何も言わないのが・・・この場合裏目に出ている。

否定をしているなら、ここまで噂が広がることは無かっただろう。

だけど、奏は否定も肯定もしない・・・。

火の無いところに煙は立たぬ。とは言うが、今回の場合は奏に髪の色などの変化が出ているため、自然に噂が消える事は無いだろう。

だから、何も言わないのは・・・無視するのは不味かった。

水も何もかけられなかった火は、まだ燃え続けている。

いつかは沈静するかもしれない、だけど・・・それはずっと後だ、奏が居なくなるまで続くだろう。

状況は、悪化し続けていると思って間違い無い。

とはいえ、途中から首を突っ込んだオレが奏にとやかく言うのは筋違いだ。

何とかするには、本当にどうすれば良いんだか・・・。





















***********************************************************************************



学校を出て、奏に案内されること約20分。

海鳴市の中心部、ビル群の中に奏が通うピアノ教室は在った。

「ここだ」

奏が一つのビルの前に立ち止まる。

『小路音楽教室』そう名前が書かれてあった。

「デカ・・・」

ビル一つが丸ごとピアノ教室だった。

てっきり・・・1階だけ借りて教室を開いているのかと思ったんだが・・・。

「ここの校長、私の先生は有名なピアニストでな。少し前まではコンクールで賞を沢山取っていたんだ」

ビルの中に入りながら、奏が誇らしげに先生の事を語ってくれた。



その先生はピアノ界では名が知られるほど有名だったようだ。

でも・・・怪我のせいで引退して、今はこのピアノ教室を開いているらしい。

名前は小倉一郎先生。



「こんにちわ奏、今日は友達も一緒かい?」

優しい笑顔をした、初老の男の人だった。

オレ達が1階の教室に入ると、直ぐに出迎えてくれた。

「はい。今日もお願いします、先生」

奏が嬉しそうに答える。

本当に尊敬しているみたいだな、頬が紅潮しているのが傍目から見てわかる。

「「こんにちわ」」

「こんにちわ、今日はゆっくりして行きなさい」

オレとハルカが頭を下げると、柔和な笑みを浮かべて対応してくれた。

急に来たのに、全く嫌な顔をしなかった。

「明後日は演奏会だ、気を抜かずに頑張りなさい」

「はい!」

「良い先生っぽいな」

「恩師って感じだね」

ハキハキと受け答えする奏を見ながら、ハルカと小声で話す。


それから奏は直ぐに教室の中に置いてあるピアノの所に行き、ハルカもそれについて行った。

オレは適当に教室内を見て歩く。

1階ごとにピアノが数台ずつ置いてあるらしく、奏や先生以外にも沢山の人がピアノを弾いていた。

みんな真剣で、集中しているのがよく見える。

ここには・・・夢や願いが詰まって、みんなやりたい事をやってて輝いている。

だから、こう思ってしまう・・・羨ましいと。

嫌な感じじゃないんだけど・・・色々とな。

そんな事を考えていると、部屋の隅に賞等が飾ってある棚を見付けた。

「凄いな・・・」

棚の中には所狭しと色んな賞が置かれている、この教室の生徒が取ったモノも飾っているのか・・・その数はとてつもなく多い。

その中にはウチの学校の生徒の名前が入った物も有った、どうやら奏以外にも通っている生徒は居るようだな。

しかし、奏の先生が一番多く賞を取っているな。

奏がアレだけ自慢げなのが納得が行く、本当に凄いピアニストだったようだ。

「若い時の思い出だよ」

ジー。と、賞を見ていると・・・先生が後ろから声をかけてきた。

「この中には私の人生が詰まっているんだ。そして、他のみんなの夢も飾られている」

「夢・・・か」

本当に、凄いな・・・。

「君は・・・何か無いのかい?」

「・・・無いんですよね・・・。こう、やりたい!って・・・思う事が」

ここにいる人達のような、熱い思いも・・・成し遂げたい夢も無い。

「そうか・・・。君はまだ若いんだ、焦る事は無いよ」

「けど、奏や・・・ここの人達を見てると、何か焦ります」

自分も早く何かをしないと駄目なんじゃないかと、置いて行かれそうな・・・そんな不安が出てくる。

「焦って転んでは意味が無いだろう。それに、奏を引き合いに出すのは少し間違いだよ」

「どういう意味ですか?」

「あの子は特別だよ。ああ、悪い意味じゃないんだ。ただ、奏は急ぎ過ぎているんだよ・・・先へ先へと、まるで私達なんて遠い後ろに置いて行くように」

先生が眼を細める、そこには・・・いたわりの感情が混ざっているように見えた。

「急ぎ過ぎ・・・ですか?」

「ああ、奏にはピアノの才能が有る。この教室の中でも一番のな、それは・・・私さえも越えてしまう才能だ」

そう、偽りなく先生は褒める。

「だが、それで彼女は決めてしまっている。ピアニストになることを」

「それは・・・駄目なんですか?」

まるで先生が、奏がピアノを弾く事が間違いだと言っているように聞こえる。

「そうだな・・・。例えば君に料理の才能が有るとしよう、だから・・・君はコックになる。この言葉に違和感は無いかい?」

「・・・・少しだけ」

才能が有るから、その才能を生かせる職業に付く。

極端に言えば、サッカー選手の才能が有るから・・・サッカー選手以外になる、それ以外は無理。

そういう意味なんだろうか・・・?。

「才能が有るからその職業に就く、才能が無いからその職業を諦める。違うようで、似ている言葉だと私は思う。
 奏はね、自分にピアノが才能が有ると知った時点で・・・他の夢を捨ててしまっているんだよ」

「だから、急ぎ過ぎですか?」

先生は小さく頷き。

「夢は一つじゃない、沢山の選択肢を・・・自分の経験や想いから選ぶ。才能が有るからと、その選択を決めると言うのは・・・少し間違いだと思うのだよ」

他の事なんて眼中に無いのは確かだ、イジメとかも無視してるし、今更だけど・・・もしかして友達居ないんじゃねぇのアイツ。

「でも、奏は自分から望んでピアノを弾いていますよ」

オレより付き合いが長い先生に言うのはアレだけど・・・。

でも、奏がピアノを弾くのを見ていてオレはそう思った。

なにより夜の学校に侵入するぐらいの熱の入れようだし。

「そうなら良いんだが・・・。一つの事に集中して、それが駄目になった時・・・その反動は死ぬほど辛いからね」

「・・・・・」

そう、先生は自分の右腕を撫でながら後悔の言葉を呟いた。

そういや、先生は怪我でピアノが弾けなくなった・・・・かはわからないけど。

プロを辞めて、ここの先生になったんだったな。

自分の夢が崩れた、その心境は一体・・・どういうモノなんだろうか・・・。

凄く苦しい、それだけで言い表せれるモノじゃないはずだ。

きっと、先生の言うように・・・死ぬほど苦しいんだろう。

(こんな人だから、良い先生になれるんだろうな)

生徒の事をこうして気にかけたり、心配したり、自分の経験から注意したり、本当に良い先生だ。

オレなら自分の夢が崩れたら・・・それに関係するものには近づかないだろう。

器が小さいんだろうな・・・オレの場合・・・。

「はぁ・・・」

「?」

思わずため息を吐くと、先生が首を傾げた。










********************************










「ありがとうございました」

「ああ、また明日もおいで」

今日の練習は終了、オレ達は先生に見送られてビルを後にする。

もう日は暮れ、空には月が上がっている。

「デレデレだったな・・・」

「う、うるさい」

「一島さん、可愛い~」

「抱きつくな!」

帰り道を三人で歩きつつ、奏をからかう。

「そういや、先生がお前のことベタ褒めしてたぞ」

「本当か!?」

「ふぎゃ」

奏がハルカを突き飛ばし、詰め寄ってくる。

「あ、ああ・・・才能が有るって」

その剣幕に引きながら、先生が褒めていた事を話した。

「そ、そうか・・・先生が。ふ、ふふふふふうふふふふ・・・」

あ、壊れたな・・・。

完全に緩みきった表情で、不気味に笑い出す奏。

眼の前で手を振るが反応は無い。

「茹っちゃってるね」

腰を擦りながら起き上がるハルカ。

「顔舐めたら戻ってくるかな?」

そして、舌をチロチロさせながら奏に近づいて行く。

「やってみれば?」

「うん」

ペロペロ。

うわ・・・本当にやりやがった・・・。

「うふふふふふ・・・」

無反応かよ。

「むぅ・・・ここはディープな方で行こうか」

コイツはコイツで何か意地になりだしたな。

「とりあえず、止めとけ」

「私のプライドが許さないんだよ!セクハラしてるのに女の子が無反応な事に!!」

「その歪なプライドは置いといて、セクハラしてるという自覚は有るんだな・・・」

「当たり前でしょ」

胸を張られた・・・。ここで、なら止めろよとか言っても無駄なんだろうなぁ・・・。

「とりあえず、人が居ない所に連れて行こう」

不気味に笑い続ける奏を見ながら提案。

町中でこの状態は人の眼を集める。

「そうだね」

オレが右腕を、ハルカが左腕を掴んで引き摺った。

















***********************************************************************************



「はっ!ここはどこだ!?」

「「ベタやな~」」

学校周辺まで戻ってきた所で、奏が現実に戻ってきた。

「でも、そんな所が萌えるよ!一島さん!!」

「お前は意味わからねぇな~」

親指を立てるハルカ。

コイツは一体どこまで行けば気が済むのだろう・・・。


「ここでお別れだ・・・」

学校の前で奏が立ち止まる。

「お前、また侵入する気?」

「一島さん、マンガのように一週間でピアノが修復することなんて無いんだ。現実はシビアなんだよ」

「いや、ハルカのは意味がわからんぞ。そして、侵入する気だ」

素直だなオイ・・・。

「家には帰らないの?」

当然の質問をするハルカ。

「帰らない」

「即答すんなよ、親が泣くぞ」

「アイツらが泣くか、むしろ喜ぶぞ」

奏が吐き捨て、オレとハルカは顔を見合わせる。


できれば昨日のジュエルシードが見付かるまで、夜中の学校への侵入は控えてほしい。

その旨を伝えると、奏は本当に嫌そうな顔をしながら・・・渋々頷いてくれた。

(本当に仲が悪いんだな・・・)

それがお互いに、もしくは奏が一方的にかは知らないが・・・本当に奏は嫌っているようだ。

けど、万が一が有ると困るので・・・そこは納得してもらう。

「う~ん、よし!奏ちゃん、私の家に泊まろう」

「はあっ!?」

奏が本当に嫌がるのを見兼ねて、ハルカが手をポンと叩いて提案した。

ハルカの家、つまりは・・・オレ達の家だ。

まだ、ハルカが家事全般をやっているなら文句は言わないが・・・家事全般をやっているのはオレだ。

つまり・・・負担は全部オレに来る。

「おまっ!勝手に決めてんじゃ!!」

かなり面倒なので、その言葉を取り下げようとするが。

「うん、世話になる」

それより速く奏が即答した。

「テメェはもうちょっと遠慮しろよ!!」

「人の好意は素直に受け取るようにしているんだ」

「オレもそうだよ!この野郎!!」








一島奏、我が家にお泊り決定。





























≪あとがき≫

色んなフラグを立てつつ物語を進行~。




[17407]  奏編   第7章 幕間その二
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/09 21:50



その日は、何の変哲もない・・・普通の日だった。

父さんと母さんと弟の文隆(ふみたか)、そして私を加えた四人で買い物に行った。

文隆の新しい服を買いに行くのが目的で、そのついでに私は新しい靴を買ってもらった。

父さんと母さんにおねだりして買ってもらった、白くて綺麗な靴だった。

それ以外にも父さんがCD屋から離れられなくて母さんに怒られたり、文隆が買ってもらったクレープを落として・・・泣きだしたから私のクレープを半分上げたり・・・。

そんなどこの家庭にも有る、楽しい時間を過ごした。

私は笑っていた、文隆も、母さんと父さんもだ。

帰りは電車で、文隆は疲れたのか私に寄り掛かって眠っていた。

その右手は母さんを、左手は私の手を握っていた。

私も疲れていて、あくびをしながら窓に背中を預け・・・目を閉じようとした時。


それは・・・起きた。


まず悲鳴が上がった。

この世のモノとは思えない、耳が壊れそうなぐらいに大きな声だった。

私は飛び起き、文隆もビックリして席から立ち上がろうとして・・・文隆は母さんに、私は父さんに抱きしめられて席に押さえつけられた。

二人は私達を守ろうとしてくれたんだと思う、何から・・・?。

その何かを父さんの身体で視界が塞がれる前に、私は見た。

灰色の・・・骸骨みたいな化け物が、手から触手みたいなモノを伸ばして・・・男の人の胸に突き刺していた。

その光景が眼から離れなくて、怖くて、私が声を上げようとした時・・・身体が浮いた。


次の瞬間、視界が点滅した・・・同時に上がる無数の悲鳴、窓ガラスが割れる音、揺れる身体、空を飛ぶ人達が見えた。


そして・・・私は何か固い物に叩きつけられた。

凄く・・・痛かった、身体の上に鉄球でも落ちてきたんじゃないかというぐらいの衝撃と痛みだった。

痛みで閉じた眼を開けると・・・そこは地獄だった。

さっきまで背中を預けていた窓が床になっていた・・・電車が倒れたんだ・・・。

周りには沢山の人が倒れていて、その体には電車の破片が突き刺さり・・・ビクリとも動かない。

私は、父さんに呼びかけた・・・。


ずっと抱きしめてくれていた父さんは、背中に巨大な窓ガラスを生やしていた・・・。

もう・・・動いて無かった、いつもこれだけくっ付いていたら聞こえる、心臓の音がしなかった・・・。


次に、母さんと文隆を探した。

いや・・・探す必要は無かった。

私はずっと隆文の手を握っていたのだから・・・。

左手には文隆の手の感触が有る。

私の左手は、文隆の腕を掴んでいた。


『腕』だけを。

肩から先が・・・無かった・・・。

私は文隆の『腕』だけを掴んでいた。


二人を探した、左右を見ても二人は居ない。

不意に・・・額にポタリと雫が落ちた、きな臭い・・・ドロリとした液体だ。

上を見上げると、母さんと文隆が串刺しになっていた。

電車が倒れた時の衝撃で、鉄のフレームが裂けて・・・その身体を貫いていた。

私の真上に二人は居た・・・だから、二人の身体から流れる血が私に降り注いだ。

顔に血が垂れる・・・。

私は・・・叫び声を上げようとして、血を吐いた。


どうして・・・?。


胸が・・・熱かった、そこでようやく私は気付いた・・・父さんの身体に生えたガラスは・・・私の後ろから生えていることに。

私の身体は・・・裂かれていた。

痛みが・・・走る、声は・・・出ない、身体も・・・動かない、何も・・・できない・・・。



痛い・・・痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイィィィィィィィィィィ!!!!!!!!早く早く早く早く早く早く早くはやくはやくはやく

!!!!!!!!!!!私だけどうして長いの!苦しいくるしいくるしいいいいいイイイイイイイイ!!息ができない身体が痛い寂しい苦しい壊れる狂う誰か助けて早く終わらせてええ

えええええええええ!!どうして終わらないの長いよ私は何も悪い事をしてないのにこの地獄はいつまで続くの?痛い痛い痛い痛い・・・い・・・・た・・・・・い・・・・・・・・・



『 』が訪れるまでの一瞬が長い、身体は動かない、痛みだけが私を苦しめる。

もがき苦しむ事も、声を張り上げて叫ぶ事もできなかった・・・磔にされた死刑囚のように心が壊れそうになる。

だけど、私の身体は生きつづけようともがく・・・その痛みは言葉では言い表せれない。

頭の中が真っ白になって、脳がドロドロに溶けるような感覚に襲われる。

それは一瞬だが、私には永遠のように感じられた。

溶けるんだ・・・身体が、心が、まるで泥になって溶けていくように・・・ゆっくりと私は無くなっていくんだ。

次の瞬間、天井が崩れた・・・。

文隆と母さんが瓦礫の山と一緒に落ちてくる・・・その瞬間、私は笑っていた。

この苦しみから・・・地獄から解放されることに・・・その事が嬉しくて笑っていた。


そして、一島奏は死んだ・・・。


奇跡なんて無い、それは・・・まやかしだ・・・。

この世に有るのは・・・地獄だけだ。

家族と瓦礫に押しつぶされながら、私はそう悟った。
























***********************************************************************************



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

布団から飛び起きる、全身が汗でビショビショに濡れていた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・うっ・・」

荒い呼吸と共に、胃の中の物が逆流しそうになるのを必死に耐える。

気分は考えるまでも無く最悪だ・・・。

(気持ち・・・悪い・・・)

口を手で押さえながら呻く。


あの大事故の記憶、もう3年前のできごとなのに・・・忘れられない・・・。

五感の全てに記憶がこべりついて、離れない。

あの痛みが、あの恐怖が、私を離してくれない。

前へ前へ進んでも、あの記憶は追い付いてくる。

もう・・・この夢を何回見たのだろう、私は何度・・・家族の死に目を思い出せば良いのだろう・・・。

私は何度・・・死ねば良いのだろう。

あの身体を貫く刃の感覚を・・・夢を見る度に思い出す。


「!」

だから、錯覚してしまう・・・。

私はパジャマの胸元を広げた。

汗に濡れた肌が外気を浴びる。

傷は・・・もちろん無い、なのに・・・まだ傷が有るんじゃないかと頭と体が錯覚してしまう。

夜の冷たい外気が汗だくの身体を冷やす、同時に・・・頭も心も冷えていく。

「もう・・・私を介抱してくれ・・・」

あの地獄から、死の痛みから、苦しみから、助けてくれ・・・。

(誰か・・・助けて・・・)

自分の両肩を抱きしめる。

だけど・・・私には誰も居ないんだ、私を助けてくれる人なんて・・・誰も。

私がそれを選んだのに・・・なのに・・・悲しい・・・。

前へ進めば逃げられると思った・・・未来に向かって走れば忘れられると思った。

だけど、無理だった・・・忘れられない。

あの地獄からは・・・逃げられない。



そんな時、バタバタと足音が近づいてくる音がした。

「奏!どうした!!」

「一島さん!?」

同時に部屋の扉が開き、セツナとハルカが顔を出した。

そういえば・・・ここは二人の家だったな、私が寝ている部屋は客室で・・・このパジャマはハルカの物を借りた。

「ぶっ!!」

セツナが私を見た瞬間、唾を噴き出しながら後ずさった。

どうやら、パジャマの胸元が開いている私を見たらしい・・・まだ深夜だから暗いのに良く見えるな、そして汚い。

「一島さん!写真撮って良い!?」

「断る」

携帯を取り出すハルカに枕を投げつけた。

「おまっ!早く服着ろ服っ!!」

セツナが顔を手で覆いながらブンブン腕を振りつつ指差してくる。

暗闇でも分かるぐらいに顔が真っ赤だな。

「うわっ・・・汗だくだね。タオルで身体拭いた方が良くない?だから脱いで」

ハルカが携帯片手にそう言う。

「それは私に気を使ってくれているのか?それともお願いか?」

「・・・・・。お願いします!脱いでください!!」

正直な奴だった・・・。

それと土下座されても困る。

「テメェは部屋帰って寝てろ!話がややこしくなる!!」

「私を部屋に戻して・・・一島さんをどうする気!?」

「どうもしねぇよ!お前の頭の中はそれしかないのか!!」

「それしかないよ!!」

「即答してんじゃねぇ!!」

そして、二人は私の前で言い合いを始める。

まるで漫才でもやってるんじゃないかと思うぐらいの騒がしさで、ずっと続くんじゃないかと思うぐらいの低レベルな言葉の応酬で。

「ふふふ・・・」

それがとても微笑ましくて、つい笑いが口から漏れる。

さっきまでの最悪の気分が、少しだけ良くなった気がする。

忘れていたな・・・こういう感覚を・・・。

騒がしくて、楽しくて、温かい感覚。

ああ・・・どうして、忘れていたんだろう・・・。

家族とは・・・こういうモノなんだと、見ているだけで心が暖かくなるものなんだと。

素晴らしく・・・美しくて・・・。

「奏、どうして泣いてんだよ!」

「あ・・・」

言われて気付いた・・・私・・・泣いている。

二人のやり取りを見て、泣いている。

「手で顔隠してる割にはちゃっかり見てるね」

「・・・・・。タオル取ってきます!!」

「あ、逃げやがった・・・。一島さん!貴女の貞操は私が守る!!」

「お前に奪われそうだがな・・・」

セツナが眼の前から消え、ハルカがガッツポーズを作りながらそういうので・・・私は涙を拭いながらそう返した。

「大丈夫、私・・・女の子には優しいから」

「何が大丈夫なんだ?」

「色々、それよりも本当に大丈夫。汗だくで涙ボロボロと言うかなり面白い事になってるけど」

「本当に正直な奴だな・・・」

パジャマで顔を拭う。



「嫌な夢でも見たの?」

ハルカが私の前に来て座る。

「ああ・・・とびきりの悪夢だった・・・」

「それは不運だね」

「凄く・・・苦しかった」

「だから、泣いてた?」

「違う、お前達が凄く・・・その・・・面白いからだ」

「いつか腹上死させてあげるね」

「意味を間違えてないか・・・、せめて笑い死にだろ」

「あはは、私は至ってマジだよ」

「お前は真面目に私の貞操を奪う気か」

「えへへ」

「笑って誤魔化すな・・・」

「「・・・・・・」」

会話が止まる、ハルカは私を見ながらニコニコと笑うだけだった。

「なにも・・・聞かないのか?」

どんな悪夢だったとか、本当はどうして泣いていたとか、聞きたい事は山ほど有るだろう。

「私、女の子には優しいから」

「そうか・・・」

聞いては来ないが、言えば・・・聞いてくれるのかもしれない。

私は・・・話さなかった、一刻も早く・・・あの記憶を忘れたかったから。

別の話を・・・違う事を考えたかった。


「ハルカ、お前はセツナをどう思っている?」

そう思って振った話題は家族の事。

二人は本当の家族ではないと聞いた、なら・・・この二人はどういう関係なんだろうと疑問に思った。

「血は繋がってないと聞いている、なら・・・お前とセツナの関係は何だ?」

友達ではないだろう、恋人でもないだろう、なら・・・なんなのだろう。

「家族だよ」

ハルカは私の眼を見ながら、真剣にそう答えた。

「私達は血が繋がってない赤の他人、それは事実だよ。でも、私は・・・そして甲斐くんも・・・自分達を家族だと言い切るよ」

「どうして?」

「家族の定義ってなんだと思う?。親の血が繋がっているかどうかで決まるのかな、私は違うと思う。家族は血じゃなくて心が繋がるモノなんだと私は思うから。

 今の時代は・・・家族を平気で傷つける者も居る、殺す人も居る。

 それは・・・そんな家族は・・・本当に家族と言うのかな?。

 一日に一言も話せない、うるさいから無視する、顔を合わせれば暴力。そんな事をする人を・・・私は家族だと思わない」

「なら、ハルカの思う家族の定義は何だ?」

「家族だと思える事」

ここにきて、えらくあやふやな答えだと思った。

「家族って、心が許せる存在だと思う。一緒に居たら安らげて、甘えたり、喧嘩できたり」

「それは・・・友達や恋人でもできるんじゃないか?」

「そうだね、でも・・・その友達や恋人から家族ができるんだよ。

 お父さんとお母さんは最初は友達で、それから付き合って恋人になって、それから結婚して家族になる」

家族は人の繋がり方の最上級だね。そう最後に付け加え、ハルカは笑う。

「家族は血じゃなくて、心か・・・」

「うん」

「けど・・・それは家族じゃないと私は思う。家族のような存在だ」

「うん」

「悪い意味で言ってるんじゃないんだ・・・。お前が言うように酷い家族と言うモノも有る、けど・・・それはやっぱり家族なんだ」

アイツらと私も家族だ・・・いや、家族にされている・・・。

だから、家族という言葉は良い意味でも悪い意味でも使われると私は思う。

なら、家族とは何だ?。

「家族のような存在、それで私は良いと思うんだ。それが有れば、ハルカの言うように心を許せたりできる。自分を制御できる」

「それが・・・一島さんの考え方?」

「ああ・・・」

そうか・・・家族は本当の家族でなくてもいい。仲間でもいいんだ、家族のような存在があればいい。

「なら、私達は家族になれるね」

ハルカが不意にそう言った。

「・・・・」

多分、今の私は凄く間の抜けた顔をしているだろう。

不意打ちだ、凄くズルイ言葉だ。

「惚れてしまいそうだぞ・・・」

心の動揺を悟られたくなくて、茶化すようにそう言う。

直後、息を呑む気配が伝わってきた。

ハルカの真後ろから。

「・・・・・」

部屋の入口でタオルを持ったセツナが固まっていた。

「・・・・・」

私も固まってしまった。

「一島さん、末長くお願いします」

ハルカは正座して深々と頭を下げていた。

「ああ・・・いや、悪かった・・・邪魔したな・・・。その・・・頑張れ・・・陰ながら見守る」

「気を使うな!誤解だ誤解!!」

立ち去ろうとするセツナを必死に止める。

「オレの事は気にしないでくれ、きっと二人なら良い仲になれるさ、お父さんは電柱の陰でハァハァしてるから」

「どんな優しさだ!それとハァハァするな変態!!」

そしてそんな生易しい眼で私を見ないでくれ!!。

「甲斐くん、私は大人の階段を上るよ・・・。いや、駆け上がるよ」

「そのまま足を滑らせて落ちてくれないか頼むから!!」

セツナの言う通り、本当に話をややこしくする奴だな。

「オレはさ、当人同士が大丈夫なら・・・それで良いと思うんだ」

「私と一島さんの相性はバッチシだよ!」

「二人共、私の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


























***********************************************************************************



「落ち着いたか?」

「落ち着いたからその顔は止めろ」

生易しい目で私にコーヒーカップを渡すセツナを睨みつける。

汗だくだった私はシャワーを浴びさせてもらい、ハルカから別のパジャマ(クマさん柄)を借りた。


現時刻は真夜中の3時、私は・・・あの夢のせいで全く眠くないが・・・この二人は違う。

私を心配して起きてくれてる。


「一島さんの髪って、綺麗だよね~」

濡れた髪をドライヤーで乾かしながらハルカが言う。

風呂上がりに髪を直したいと言ってきたので、頼んでみた。

「そうか・・?」

正直、私はこの髪が嫌いだ・・・。けど、褒められて悪い気はしない。

「ああ、オレもそう思う。何か幻想的で好きだ」

そう言って、セツナが自分のコーヒーを口に付ける。

少し・・・嬉しいな。

「甲斐くん、神秘的なのに弱いからね。だから、月村さんの事が好きなわけだし」

「ぶっ!!」

コーヒーを鼻と口から噴き出すセツナ。

「ごほっ!げほっ!!鼻に入った鼻に!!」

「セツナ、汚いぞ」

もがき苦しむセツナに言う。

「うるせぇ!つうかテメェ!何言ってんだよ!!」

涙眼で顔を赤くしながらハルカに詰め寄っていくセツナ。

「何って・・・月村さんの事が好きなんでしょ?」

「そうなのか?」

知らなかった。でも、すずかは綺麗だからな、惚れるのも無理は無い。

「違う!!」

「そう否定するな、私達はちゃんとわかってるぞ」

「そうだよ、ここはお姉さんにドーンと話してみなさい」

「うぜぇ!テメェら滅茶苦茶うぜぇ!!」

頭を掻き毟るさまが怪しいな。

「そりゃ、綺麗だし・・・何か雰囲気が好きだけどさ。そんなんじゃねぇからな!!」

それはもう『好き』だと言っているのと変わらないぞ。

「違うんだああああああああああああッ!!」

「近所迷惑だよ、甲斐くん」

「そうだぞ、セツナ」

雄叫びを上げるセツナに注意する。

「テメェらのせいだからな!!」




そんな感じで・・・私達は朝までずっと騒いでいた。

ずっと付き合ってくれた二人に私は心の底から感謝の言葉を述べる。


二人と友達になれて良かった・・・・・


この気持ちなら、きっと良いピアノが弾ける。

演奏会は明日、この気持ちを活かせれるように頑張ろう。











































≪あとがき≫

リリカル成分が足りない・・・。

気付いたらオリキャラしか喋ってないという罠・・・。

リリカル成分どころかファイズ成分も足りてないという二重の罠・・・。

キャラを掘り下げれば掘り下げるほど、本当に成分不足になっていく・・・。

次の話から物語が佳境になる・・・かな?。

そういうわけで、幕間その二でした。



[17407]  奏編   第8章 声(編集)
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/14 00:19


眼を覚ますと、そこは天国でも地獄でもない・・・ただの病院の一室だった。

海鳴大学病院、私は事故の後・・・ここに運ばれた。

私は・・・助かった。

全身に怪我を負いながら、私は生き残った。

地獄からの生還、それは・・・また別の地獄の始まりだった。

意識が有る限り続く激痛、たった一人ぼっちの孤独感との戦い。

一人だった、家族も失い、親戚は私の事を見ておらず、たった一人で私は戦っていた。

起きては傷の痛みと孤独感に身体と心を蝕まれ、眠ろうとしても痛みで眠れず、眠る時はいつも気を失うようにして眠っていた。

だが、それはそれで良かったんだ・・・戦う事ができたから、怪我を治すというやる事が有ったから。

半年、怪我の完治にかかった時間だ・・・そして私の戦いの記録だ。

そして、私が本当に全てを無くした瞬間だった。

家族を失い、怪我の後遺症で髪と眼の色も変わり、私は『今』を無くしてしまった。

私には何も残って無かった、これから何をすれば良いか・・・何もわからなかった。

時間だけが無意味に過ぎて行く、それは・・・苦痛の日々。

まるで自分が死んでいるんじゃないかという・・・そんな心の痛みを毎日感じた。

何かをしないと、何かを見付けないと、私は壊れそうだった。

心が寒いんだ、空っぽで・・・何も無い部屋のように寂しいんだ。



私は『生きがい』を無くしていた・・・。



何かをしなければと思った私は、まずペンを手に取った。

足はまだリハビリが必要だったが、手は自由に動いたからだ・・・。

久々に書いた自分の字は酷い有様だった、まるでピラミッドの古代文字のようなグチャグチャな字だった。

だから、私はまずは文字の書き方を始めた。

ひらがな・カタカナ・漢字やローマ字も練習していった。

それから算数や理科等にも移っていったが、心は満たされなかった。

これは・・・私のしたいことでは無かったようだ。

そのことに気付いたのは、何十冊ものノートは黒く書き連ねた後だった。


次に私はスポーツにに手を付けた、リハビリついでに身体を動かし続けた。

マラソンや球技、水泳やヨガや体操、色々やった。

だけど・・・身体は熱くなったが、心は冷えたままだった。

これも違った。


「そんなに頑張って凄いな~」


走り終えた後、病院前のベンチで火照った身体を冷やしていた時・・・声をかけられた。

顔を上げると、茶色い髪で車椅子に乗った少女が私を見ていた。


「私に何か用か?」

「用って程やないんやけど、よく走っているのを見てたから声をかけてみたんや」

「そうか・・・」

「なぁなぁ、お話せぇへんか?」

「・・・構わない」


今にして思えば、事故に遭ってから人と普通の話をしたのがこれが初めてだった・・・。

医者とは義務的な会話、親戚とはほとんど話なんてしてなかった。

私は気付かないうちに心を閉ざしていたんだ。


「走るの好きなん?」

「好きでも嫌いでもなかった・・・」


今日確信した事だ、私は走る事に何の生きがいも感じなかった。

他のスポーツも同じ、ただ身体が熱くなるだけだった。


「じゃあ、何で走ってたん?」

「それが生きがいになると思ったからだ」

「生きがい?」

「ああ・・・、私にはすることが無いんだ。心が空っぽで、それを満たす方法がわからないんだ」

「寂しいん?」

「・・・・そうかもしれないな」


私は家族を無くした事を話した、そして・・・今日までやってきた事を。

自分のやるべき事が見付からなくて探し回っている事を、何もしない自分は死んでいるじゃないかという事を話した。

何故だか、この少女からは自分と同じ感じがしたからだ。

寂しさを・・・誰にも言えない寂しさを持っているような、そんな感じを・・・。


「なんか、それは違うんやないか・・・?」


話終えた後、その子はムスリとした表情でそう言った。


「違う?」

「そうや、そりゃ・・・家族を失った事は苦しい事や。寂しいし、泣きたくなるし、凄く苦しくなる事も有る。

 そやけど、私達は生きてる。そこは絶対や、死んでなんておらへん。その真逆や、凄く生きとる」

「凄く生きてる?」

「そうや、亡くなった家族の分の命も貰ってるんやから、凄く長生きして幸せになる義務が私らには有るんや。だから、自分が死んでるなんて思ったらアカン」


車椅子の少女が私に手を伸ばす、手が短くて届かなかった・・・・。なので、私はベンチから立ち上がって近づく。

ピタ。っと、頬に少女の手が触れた・・・凄く温かかった。


「それに、そんな苦しい顔してたら天国のみんなが心配するで。

 確かに何もできない事や何もしたい事が無い事は苦しい事や、そやけど・・・そんな必死になってたら心が満たされる前に身体が壊れる」

「だが、冷たいんだ・・・寂しいんだ・・・心が空っぽなのは嫌なんだ!」


涙が出てくる・・・、それは頬を伝って少女の手に流れる。

身体が壊れても良い、私はこの冷たくて・・・苦しい心を満たしたい。


「そうやな、何かで満たさないと・・・空っぽは空っぽなままや。そやけど、中身の無い器で無理したら・・・割れるだけやで。やかんや鍋と一緒や、空焚きしたら壊れてまう」


少女の手が私の頬から頭に移動して、ゆっくりと撫でる。

その感覚は・・・人と触れ合うその感覚は・・・本当に久々な感覚だった。


「本当に身体には気を付けんとアカンで・・・。そうせんと、やりたい事が見付かっても長続きせぇへんよ」


私を気遣うように、車椅子の少女は言葉を続ける。

私のために向けられたその言葉は、本当に久しぶりだった・・・。


「胆に銘じておく・・・」


約束はできなかった。


「ほな、身体には気ぃ付けてなぁ」


そして、車椅子の少女は帰っていった。

久々の人の温もりと、忠告を残して・・・。


「名前・・・聞けばよかったな」


入院しているわけでは無さそうだし、今後会えるかどうかわからなかいから・・・。

少し心残りだった。



















***********************************************************************************



翌朝・・・違うか、奏が悪い夢見たらしくて眠れなくなって朝まで一緒に起きてたから・・・うん?翌朝で良いのか?。

つうか眠い・・・。

朝食を作る前にコーヒーを入れながら眼を擦る。

ハルカと奏は居間で寝ている、とは言っても・・・そろそろ起こさないとな・・・。

学校に行かないと駄目だし、3人揃って睡眠時間は2時間程度か?。


「朝だぞ、起きろー!!」

コーヒーを一気飲みし、鍋に水と煮干しを入れてダシを取る間に二人を起こす。

「母ちゃん、今日は日曜だぜぇ。ったくおっちょこちょいなんだから」

「誰が母ちゃんだ!!」

カコン。

寝ぼけるハルカの頭をお玉で叩く。

「いにゃあああああああああッ!!」

頭を抱えて畳の上を転がるハルカ、あ・・・眠くて手加減無しで叩いてしまった。

「奏起きろ」

ハルカが喚いていても全く起きない奏の肩を掴んで揺する。

30秒ほど揺すっても起きないので、再びお玉を手にした時、奏がようやく眼を開けた。

「お前は誰だ?」

すっごい細目で聞いてきた。

「寝ぼけてんじゃねぇよ・・・」

思わず頭を抱える。

「どこだ、ここは?お前は誰だ?」

「記憶喪失!?」

朝から賑やかだった。










********************










三人で登校する。今日は晴れの日、良い天気だ。

「ん・・・?」

校舎に入った後、靴を履き替えた奏が周囲を見渡す。

「どうした?」

「今日は視線が多いな」

あ、本当だ・・・みんながコソコソとオレら、違うか・・・奏を見ている。

一瞬、イジメかと思ったが・・・悪い雰囲気じゃない。

何か「へぇ、あの子が・・・凄いね~」という言葉がボチボチ聞こえてくる。

「何なんだ?」

「オレに聞くなよ」

奏が戸惑い気味に聞いてくるが、オレに聞かれても困る。

「あ、甲斐くんアレアレ」

ハルカが何かに気付き、玄関の中に有る掲示板を指差す。

「「ん・・・?」」

そこにはいつも新聞の切り抜きが貼ってあったり、先生からの連絡事項や生徒会やクラブからのお知らせが貼ってある。

稀に新聞部の生徒が面白い記事を書いたりする事が有るが、今回はそれで・・・。


「天才ピアニスト、演奏会に参加」

そんな見出しで、奏が明日出る演奏会の情報が書かれており。

記事の中心には奏がピアノを弾く写真がバッチリと張ってあった。


「・・・新手の嫌がらせか・・・」

奏が顔を引き攣らせながら呻く。

「良い写りだな」

良いアングルだ、奏の指が鍵盤を弾く様子が綺麗に撮られている。

「突っ込む場所が違う」

「誰が写真売ってないかな」

ハルカが写真を舐め回すように見ながら呟く。。

「お前に至っては意味不明だ」

「でも、良かったじゃん。沢山の人に聞いてもらえるぞ、これで」

「確かにそうだが、・・・これでは晒し者じゃないか」

オレの言葉を聞いても、奏は苦い顔のままだ。

「ピアニストなんてそんなもんじゃん」

「お前は全国のピアニストに謝れ」

シレッ。と、失礼な事を言うハルカに言い。

「しっかし、誰がこれを?」

腕を組みつつ考える。

「新聞部だろ・・・」

完全に意気消沈している奏。

それはそうだが、新聞部がいきなりこんな記事を書くとは思えない。

しかも、この記事は奏を擁護している内容だ。

まぁ、本人は微妙な反応だが。

奏が新聞部に友達が居て、頼んだりしているならまだしも・・・奏を見る限りそれは無いし。

「ふっふっふ、効果大ね」

首を傾げていた時、そんな不敵な声と共にアリサが姿を現した。

「これはお前の仕業か」

奏が恨みがましそうな視線をアリサに向ける。

「ええ、イジメ殲滅作戦その一よ」

その視線を無視しながら、アリサはそう言った。










*******************************










みんなで集まって長く話せる昼休み。

「PRよ、プロモーションよ、宣伝よ!!」

屋上で6人集まった時、アリサがそう話を切り出した。

「何でこんなに張り切ってんだコイツ・・・」

興奮するアリサから顔を隠しながら問う。

「アリサちゃん、こういうの好きなの」

「あぁ、そうなんだ・・・」

なのはが苦笑いしながら答えてくれた。

つまり、お祭り好きなんだな。

「先生、今朝の広告はどういう作戦だったんですか?」

ハルカが挙手しながら質問する。

「よく聞いてくれたわ。昨日帰る時、こんなことも有ろうかと新聞部に奏の記事を書かせたのよ」

『こんなことも有ろうかと』の使うタイミングが違うと思う・・・。

「よく書かせれたな、しかも一日で」

「それは弱み・・・コホン、人徳よ」

奏が感心したように言うと、アリサが胸を張った。

(何を握ってるんだコイツ・・・)

うっかり口を滑らせたのはバッチリ聞きとれた。


「イジメは何回も言うけど、悪いイメージが積み重なっている状態よ」

今新聞部で問題を起こしそうな奴が言うセリフか・・・?。

まぁ、それは置いといて・・・アリサの言う通りだな。

本当に嫌な奴なら別だけど、本人が潔白ならそうなる。

「そこで、私はまず奏のイメージアップを図ることにしたのよ」

「ああ、すずかが昨日言ってた事か」

ボランティアや生徒会の活動をやって、良い噂で悪い噂を消す方法。

「そう、その方法を奏に合わせてみたのよ」

「それでピアノ?」

すずかにアリサはYESと答えた。

「奏の演奏をみんなに聞かせるのよ」

「それでイメージアップ?もしくはヤック・デ・カルチャー?」

ハルカの言葉に、奏がマイク片手に『キラッ☆』とやっている絵が浮かんだ。

ヤベェ・・・メッチャウケる。

「アンタの例えは意味わかんないけど、奏の演奏は上手いんでしょ」

「「上手い(よ)」」

ハルカと声を揃えて答える。

胸に来るものが、奏のピアノには有る。

「なら、これでイメージが多少なりとも上がるでしょ」

「そんな簡単に行くのか?」

「初めの一歩はこんなモノよ」

若干疑問顔の奏に、アリサはそう言って流した。

「少しでも誰かが聞きに来て、その子の心に多少なりとも変化が有るならきっと変わってくわよ」

そして、そう安心させるように言った。

「わかった・・・、ありがとう。私のために色々と考えてくれて」

「私がやったのはお膳立てだけよ、後はアンタが頑張りなさい」

素直に礼を言う奏に、アリサがそっぽを向けながらそう言った。

「奏ちゃん、頑張ってね」

「私も応戦するよ」

「ああ、ありがとう」

なのはとすずかの声援に、奏は笑いながら答えた。


「ふーん、普通に笑うじゃない。てっきり、堅物かと思ってたわ」

「ハッキリと言うなよ」

バッサリと言うアリサに頭を抱える。

確かにパッと見は冷たい印象だけど、よく笑うぞ奏は。

「それにしても、よく一島さん無しでああいう記事書けたね」

奏の記事なのに本人が一切協力してないしな、ハルカのその疑問はもっともだ。

「って、そういやピアノ教室にウチの学校の生徒の名前が入った賞が飾ってあったな」

「そう、アンタが知ってるその子から色々と聞いたわ」

成程、だから奏無しで記事が書けたのか。

・・・・奏の事をちゃんと見ていて・・・協力的な奴もちゃんと居るんだな。

「・・・・」

「?、どうしたハルカ」

一人嬉しくなっていると、ハルカが首を貸しげていた。

「あ、うん・・・何でもない」

首を左右に振るが、何だか腑に落ちない顔をしていた。



まぁ、何も言わないって事はそんなに重要な事じゃないだろ。

今は、明日やるピアノの演奏会が成功することを祈るだけだ。

なのはとすずかの声援を受けて、奏もやる気出てきたみたいだし・・・そんな心配することも無いだろうけど。

これで、奏へのイジメが減れば良いなぁ・・・。



















***********************************************************************************



放課後。

「初めてのメンバーだな」

今日も奏に引っ付いてピアノ教室に行く事にしたのだが、今日はハルカの代わりになのはが一緒に来ている。

今はピアノ教室に向かうため、人気の無い公園を横断している。

最近は遊具が危ないからと、遊ぶのを禁止されているせいで・・・人気が全く無かった。

「ハルカちゃんはどうしたのかな?」

「ナンパだとよ・・・」

「え・・・」

なのはが固まった。

本人がそう言って姿を消したんだから、そう言うしかないだろ・・・。

つうか、今頃何してんだろ・・・若干、いや・・・かなり不安だ。

「そう言えば、ジュエリーケースは集まったのか?」

「ジュエルシードだ。それがサッパリなんだ、お前に会った日から一個も見付けてない。だよな?」

一応確認のため、なのはに話を振る。

「うん、私もユーノくんも見付けてないよ」

ジュエルシードが発動するまで、見付けられないってのは厳しいよな。

一応、ユーノが町内を走りまわって捜索はしているらしいが・・・成果は〇との事。

「そうか、私も暇が有ったら探しておこう」

「断る」

「どうしてだ?」

オレが即答すると、奏が不満顔になる。

「あのな、一応危険なんだからな」

奏も一度襲われてるのに、どうしてそういう事が言えるんだろう?。

「それはお前達も一緒だろう」

「オレらには自衛の手段が有る。もしなにか有っても、オレ達はヒーローのように颯爽と現れる事はできない」

「そこは男なら見栄を張る所じゃないか?」

「男だから張って良い見栄と悪い見栄を知っている」

本当に、誰かが巻き込まれて傷つくのが嫌なんだ。

「奏ちゃん、私もあまり関わらない方が良いと思うよ。本当に危険な事だし」

なのはもオレと同意見で、奏にそう注意する。

「私だけ仲間外れか・・・まぁ、良い。納得しよう」

全然納得してない顔で奏は頷いた。

「だが、お前ら・・・人に危険だ危険だと言っておいて、自分達が突っ込むのはオカシイぞ。お前らはそれをやる義務が有るわけでもないだろうに」

「それは・・・私達にはそれをすることができる力が有るから、それに・・・困っている人は見過ごせないし」

「私も困っていたから見過ごせかった、お前の理由と同じだ。なんだ、お前も明確な理由が無いんじゃないか」

「あ・・・」

奏の言葉に、なのはが固まった。

(つうか、本当に人助けのためだけになんだな・・・)

人の事は言えないけど、少し呆れる。

オレもなのはと似た理由だけど、記憶の手掛かりが見付かるんじゃないかと言う理由が最近追加されている。

ファイズの力は魔法の力、なら・・・魔法に関わっていれば記憶の手掛かりが出てくるんじゃないかというわけだ。

他は・・・なのはと似たり寄ったりだな、だから・・・オレも奏答えられないで黙る。

「!」

場の空気がちょっと悪くなった時、なのはがハッとした顔になる。

「ジュエルシードか?」

「うん」

「ちっ・・・タイミングが悪い」

舌打ちしてんじゃねぇよ。


つうか、どっから来る?。

ファイズフォンを取り出しながら辺りを見渡す、周囲には誰も居ない。

「来るよ・・・」

だけど、なのはは感じているようで、レイジングハートを取り出しながら呟く。

「「!!」」

次の瞬間・・・、公園の遊具が浮いた。

ブランコやジャングルジムが地面からズッポリと抜ける

奏と出会った日に起きた現象と同じ現象だ。

「お化けが出るにはまだ早くないか?」



≪5・5・5≫



ファイズフォンに変身コードを入力し、エンターキーを押す。



≪Standing by≫



直後、腰にファイズドライバーが現れる。


「レイジングハート!セッートアッープ!!」


なのはがレイジングハートを掲げながら叫ぶ。


「変身!」


オレもファイズフォンを掲げて叫び、ベルトに差し込む。



≪Complete≫

≪Standby ready Set up≫



オレは紅い閃光に、なのはは桜色の光に包まれた。

オレは銀と黒の鎧、なのはは白い服に変わり・・・その手には魔法の杖が握られる。


「奏、動くなよ」

「ああ、そうさせてもらう」


奏がオレの後ろに退がると共に、浮いた遊具が突っ込んできた。

それも物凄い勢いで、オレやなのははともかく・・・奏はひとたまりもないだろう。


「お願い!!」


なのはがレイジングハートを前に突きだす。



≪Protection≫



その先端の紅い球に文字が浮かぶ。

同時に発生する桜色の障壁、それはオレ達を包み込み、遊具の突撃を防いだ。


「今回のジュエルシードは怪談の再現じゃなかったのかよ!!」

「私に怒鳴られても困るよ」


障壁に遊具が跳ね返されるのを見ながら叫ぶ。

てっきり夜の学校にしか出ないと思ったのに・・・。

(もしかして、奏と会った時に出たジュエルシードとは別物か?)

そう思った時。


「誰か居る」


後ろに居る奏が、そう言って・・・とある方向を指差した。


「「え・・・?」」


オレとなのはは同時に奏に振り向いた。


「あそこの木の後ろ、見えないのか?」


奏が指を差すのは・・・100メートル以上離れた場所に有る雑木林の中、木々の間に日差しは入り込んでおらず、その中は全く見えない。

なのに、奏は確信を持ってそう言った。

どんなに眼が良いと言っても、限度が有る・・・。


「本当だ・・・、魔力を感じるよ」


だが、なのはがそれを裏付けした。

眼を閉じて、集中するように眉を潜めながら・・・奏と同じ方向を示す。


「マジ?」

「「マジ」」


ハモんなよ・・・。

とにかく、二人はあっちにジュエルシードが有るっていうし・・・信じるか。

少なくとも、オレの勘よりはかなりアテになるし。


「なのは、障壁を一瞬解け」

「飛び込む気?危ないよ!!」

「なら、お前は障壁を張ったまま移動できるのか?」


その方法なら安全だ。


「無理です」


正直で結構。

やっぱり・・・オレが単体で突撃するしかないだろ。

走るの速いし、攻撃手段も有る。


「なら決定!ほら行くぞ!!」

「もう!怪我したら怒るよ!!」


もう一度、障壁が遊具の突撃を防いで弾く、それと共に障壁が消える。

オレは右手を軽くスナップさせ、走った。

進行を防ぐように左右から遊具が飛んでくるが、右から来たベンチは蹴りで叩き折り、左から来た滑り台は登って避けた。


「行ける!」


二人が指差した場所までもう少し・・・だったんだが・・・。

オモイッキリフラグを立ててしまった・・・。


「危ない!!」


奏が叫んだ。

同時に、オレの身体に影が落ちる。

上から何かが振ってきた。

三本槍のトライデントが・・・。


「っ!!」


後ろに跳ぶと共に、さっきまでオレが居た場所にトライデントが突き刺さる。


「あ、あぶな・・・」


奏の忠告が無ければ、今頃脳天から串刺しだった。

その光景を想像し、背筋に冷たい物を流す。

つうか、この武器は・・・。


「漁夫の利を得させてもらう」


青いジャケットを着た、黒髪の男が姿を現す。


「テメェは・・・」


いきなりの登場に驚く間に、男はその姿を変貌させる。

瞳が灰色になり、顔に魚のような模様が浮かぶと共に・・・その輪郭が歪んで変わる。

骸骨のような灰色をした怪物、魚人のような姿をしたオルフェノクへと。


「今日こそベルトを頂く」


オルフェノクは地面に突き刺さったトライデントを抜き、オレに襲いかかる。

狙いはベルトだ。


「チッ!!」


拳を構えて迎撃する。

突き出されるトライデントをかわしつつ後ろに退く。


(ジュエルシードから離される・・・)


どんどん目的地から離される事に舌打ちしながら攻撃を避け続ける。

タイミングが悪過ぎだ。

なのはは奏を守りつつ遊具の突撃を防ぐので手一杯だし、オレも・・・無傷でコイツを倒す自身が無い。

やばい、手詰まりかも・・・。

そんな焦りが出てきて、反撃の糸口が見えない。


「くそが!テメェはストーカーか!!」


トライデントの突きをかわしながら拳を振るう。


「男の子に興味は無い!!」


だが、相手は攻撃を軽くいなして防いでいく。

くっそ、空気読めよこの野郎!!。
















***********************************************************************************



「奏ちゃん!絶対に動かないでね!!」


なのはが私に向かって何かを叫ぶ。

が、私の眼に写るのは灰色の化け物だけ・・・。

忘れたくとも忘れられない記憶に刻まれた化け物に似た、灰色の・・・骸骨のような怪物。





私に地獄を見せ・・・


                                ユルセナイ


私から家族を奪い・・・


                                ゼッタイニ


私を『  』・・・


                                コロシテヤル


私の全てを奪った・・・





脳が・・・沸騰する、感情が・・・走る。

あの化け物を壊せと全身が命令してくる・・・私の全てを奪った化け物から全てを略奪しろと命令してくる。

復讐しろと!全てを奪えと!そう・・・殺せと!!。

どうやって?こうやってだ・・・!!!!。



「あ・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」



私は悲鳴を、叫び声を、鳴き声を発した。

身体が変わる、変貌していく、変化していく。

(殺シテヤル!私カラ全テヲ奪ッタ・・・アノ化物ヲ殺シテヤル!!)



















***********************************************************************************



「「!!」」


オレとオルフェノクは同時に動きを止めた。

声に・・・迸る感情に、覚醒の波動に。

奏の声・・・『鳴き声』に反応して、オレとオルフェノクは拳を止めた。


「え?奏ちゃん!?」


なのはの戸惑いの声が聞こえた。


(これは・・・アーク!?)


全身に鳥肌が立つのを感じながら振り向くと、奏の姿が・・・輪郭がボヤけていた。

頭が全身に警告してくる、覚醒させてはいけないと!『 』を目覚めさせてはいけないと!!。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!」



瞳が灰色に変わり、顔に虫のような模様が浮かぶ。

そして、その姿が変わった。

全身は骸骨のような灰色の鎧に覆われ、両肩に突起物、頭にも角のようなモノが三つ生えた。

そして、顔の部分は大きな複眼が二つ。

その外見は『バッタ』のようだった。


(違う・・・?)


『何か』と奏が変貌した姿を比べて・・・違う?と判断した。

勝手に身体が反応して、勝手に静まった・・・。

つうか、奏がオルフェノクにって・・・はあ!?。

わけわからねぇぞ!!。


「はああああああああああああああああッ!!」


混乱する間に、オルフェノクとなった奏が敵対するオルフェノクに突撃していった。

その速度は常人を逸脱しており、本当に奏がオルフェノクになったのだと嫌でも確認させられた。

オルフェノクは・・・一体だけじゃないのか?つうか・・・何で奏が?それよりも今は魚のオルフェノクか?いや・・・ジュエルシードもどうにかしないと・・・。

だあああああああああああああああッ!面倒だ!!。

ジュエルシードに、オルフェノクに、もうわけわからねぇぞ!!。

何から手を付ければ良いんだ!誰か教えてくれ!!。





























≪あとがき≫



奏、オルフェノク化。

命名・ホッパーオルフェノク。

参考、カブトのキックホッパー&パンチホッパー。


サーセン、地獄兄弟大好きなんですm(__)m。

終盤、早送り感が・・・あとで読みやすいように編集しました。




[17407]  奏編   第9章 狭間
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/16 17:55


もう少しで病院を退院しようという時、私は風邪を引いてしまった・・・。

40℃近い高熱だ。

原因は無理のし過ぎ、あの車椅子の少女の忠告を無視した結果がこれだった。


身体が熱い、息をする度に喉が焼けるように痛む、頭がズキズキして・・・凄く痛い。

とても苦しい・・・。

視界がグルグルする、汗のせいで服がベッタリと身体に引っ付いて気持ちが悪い。

寝ようと思っても眠れない・・・。


病室には私の荒い呼吸音と咳の音だけが響いている。

私、一人だけだ・・・。

いや・・・ベットの隅にクマのぬいぐるみが置いて有るから一人じゃない。

とても可愛い奴だ、どれくらいかと言うと・・・私の次に可愛い奴だ。

このクリっとした眼と、やる気の欠片も感じない無表情な顔がとても愛らしい。


うん、可愛い・・・。


クマは私を見下ろすだけで、動かない。


うん、寂しいな・・・。


母さんならきっと、付きっ切りで看病してくれただろう。

父さんなら、仕事帰りにアイスでも買って来てくれただろう。

文隆は・・・心配して何かをしようとして逆効果といった感じだろうな。

ああ・・・何て魅惑的な光景なんだろう。

その光景を、私は二度と味わえない・・・その事に気付いて・・・泣きたくなった。

当時はそれが当たり前だった、けど・・・今の私には当たり前じゃない。

そうなって私は気付いた、家族という・・・私を温かく包んでいたゆりかごの存在に。

失ってから気付くには、あまりに大きい存在に。

人は失ってから、そのモノの大切さに初めて気付くと言うが・・・本当だった。

その存在が日常で当たり前のモノで有るほど、その辛さは大きくなる。


(寂しいな・・・)


私が埋めようとしていた穴は・・・今だにポッカリと空いたまま。

埋められないかもしれない、それぐらいに・・・私の失ったモノは大きいんだ。


(何で・・・私がこんな目に・・・)


その辛さは、悲しみは、耐えがたい孤独感は、怒りに変わる。

私が何か悪い事をしただろうか・・・こんな酷い目に遭うような・・・悪い事をしただろうか?。

してない。私は、そう断言する。

だから理不尽だと思った、不条理だと思った、強い怒りを覚えた。

あの化け物に、私から全てを奪った・・・あの灰色の怪物に。





















***********************************************************************************



奏が変身したバッタのようなオルフェノク・ホッパーオルフェノクが、男が変身したオルフェノク・スティングフィシュオルフェノクに突撃する。


「うおっ・・・」


進路上に居たオレを突き飛ばし、地を蹴って右足を前に突き出しながらスティングフィシュオルフェノクに向かって跳び蹴りを放つ。

スティングフィシュオルフェノクは蹴りを槍を地面に突き立てて受け止める。が、奏は身を捻りながら左足を横に薙いで槍を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた槍は回転しながら宙を飛び、地面に突き刺さる。

地面に着地した奏に向かってスティングフィシュオルフェノクが拳を振り下ろす。

それに対して奏は両手を地面に付けながら、右足を横に薙ぎ、踵で拳を蹴り上げる。

続いて両手を地面に突き出し、身体を支えながら両足を左右に開き、コマのように回転しながら蹴り付ける。

胸に蹴りを数発受けてスティングフィシュオルフェノクが踏鞴を踏む。が、その下半身が変化、魚の尾となって宙に浮く。

そして、身体を振るって尾を奏に叩きつけて吹き飛ばす。


奏が地面を転がる間に槍を回収し、スティングフィシュオルフェノクが宙を飛びながら攻撃を仕掛ける。


「させるかよっ!!」


それに割り込む、スティングフィシュオルフェノクの背後から掴みかかる。

その尾に抱きついて引っ張る。

相手はオレから離れようともがくが、離さないようにしっかりと腰を下げて踏ん張る。

次の瞬間、逃げられないと悟ったスティングフィシュオルフェノクが槍をオレに向かって突き出してきた。

手を離して身を後ろに反らすが、槍が胸の装甲に当たり・・・衝撃で後ろに仰け反ってしまう。

オレが体勢を立て直す間にスティングフィシュオルフェノクが身体を反転させ、攻撃を仕掛けようとするが、その背後にまた奏が蹴りを入れる。

飛び蹴りを食らったスティングフィシュオルフェノクが宙を横滑りする。

そこにまた奏が飛び蹴りを放とうとジャンプのに対し、スティングフィシュオルフェノクは宙を泳ぐように身体を回転させながら尾を振るって応戦。

蹴りと尾が激突する、軍配はスティングフィシュオルフェノクに上がった。

やはり、空中での勝負は宙を自在に跳び回れるスティングフィシュオルフェノクの方が有利のようだ。

奏が地面に叩きつけられるのを見ながら、オレは左腰からデジカメを取り出し、腰のファイズフォンからメモリーを引き抜いてデジカメに差し込む。



≪Ready≫



現れたグリップを引き出し、パンチングユニット・ファイズショットに変わったそれを右手に装着する。

そして、奏に止めを刺そうと槍を突きだすスティングフィシュオルフェノクに殴りかかる。


「ベルトはオルフェノクを殺す力だと聞いていたんだが、そいつを助けるのか?」


槍の柄で拳を受け止めながら、スティングフィシュオルフェノクの影・・・男の姿が浮かんだ蒼白い影が聞いてくる。

また、オレの知らないベルトの事を話してくる。

それにまた苛立ちと不快感が湧くが、落ち付け・・・オレが怪我したら悲しむ奴が居るんだから。


「なら、テメェを倒してやるよ!!」


左手で銀一色になったファイズフォンを開き、エンターボタンを押す。



≪Exceed Charge≫



ファイズフォンを閉じると共に、ベルトから紅い光が右手に向かって走っていく。

それがファイズショットに届き、金色の光を放った所でオレは渾身の力で拳を振り抜いた。

ファイズショットから衝撃が走り、拳は槍を真ん中から折って、スティングフィシュオルフェノクの胴体に向かって拳を伸ばす。


「倒される気は無い!」


拳がその身体に突き刺さる瞬間、尾を下から打ち上げられ・・・拳を下から弾かれた。


「くっ!!」


更に相手は宙で身体を回転しながら尾を叩きつける。左手で防いだが、身体が浮き上がるぐらいの衝撃が来る。

肺から酸素を吐き出し、フラフラと地面に立っていると、また尾による攻撃が迫る。

今度は両手で防御しようとするが、それより先に両肩に衝撃が走った。


「なっ!?」


いつの間にか奏がオレの両肩の上に立っていた。

それに驚く間に、奏が前に跳ぶ。

踏み台にされたオレは、奏が飛ぶ時の足の力を受け・・・勢いよく背中から地面に倒れた。

だが、そのおかげで尾の攻撃を避けれた。

宙を跳ぶ奏がスティングフィシュオルフェノクの真上で身体を回転させ、遠心力を加えた強烈な蹴りを振り下ろす。


「ぐおっ!!」


攻撃をした直後で隙だらけだったスティングフィシュオルフェノクは蹴りをまともに受け、地面に向かって打ち落とされる。

地面に横たわる相手に向かって奏が両足を突き出しながら落下する。

が、スティングフィシュオルフェノクは下半身を二本脚に戻し・・・身体を横に転がして奏の蹴りを避けた。

外れた蹴りは地面を穿ち、土煙を舞い上げる。

その土煙に紛れるように姿勢を低くしながらスティングフィシュオルフェノクが奏の背後に回って拳を突きだすが、奏は後ろに振り向きながら右の回し蹴りを放って拳を蹴り上げた。

拳と蹴りが激突した衝撃で土煙が一気に晴れた。


「いきなり襲われるような事をした覚えは無いんだが」

「・・・・してやる」


男の軽い口調に、奏が答える。

ホッパーオルフェノクの影、蒼白い影に奏の姿が浮かんだ。


「ん?」

「殺してやる!!」


そして、怒りを剥き出しにした表情で叫んだ。

今までに見たことも無い表情、強い殺気を帯びた表情と声だった。


「奏・・・」


辺り一帯の温度を下げるような強い殺気に身震いしながら、奏の名前を意味も無く呟いた。

奏が右足を振るって拳を弾き、その足を地面に叩きつける。そして、それを軸に身体を回転させながら左足を横に薙ぐ。


「見ず知らずの相手に殺されるようなことをした覚えはまだ無いんだが!」


スティングフィシュオルフェノクはまた足を変化させ、宙に飛んで蹴りを避ける。

そして、そのまま急上昇していく。


「お前がどうかは覚えてない・・・」


奏が左足を前に出しながら腰を下げる。

そして、空へ駆け昇っていくスティングフィシュオルフェノクを睨みつけた。


「だが・・・お前と似ていた」


その左足側面にバッタの足のようなくの字の物体が現れる。

多分、ジャッキだ・・・車を持ち上げる時に使ったり、工事現場で重い物を持ち上げる時に使うアレだ。


「だから、殺す!!」


奏が上に跳んだ。

高く、そして速く。

その姿が表しているバッタのように、高く空へと飛び上がる。


「酷いやつ当たりだな!!」


スティングフィシュオルフェノクが下に向かって高速落下しながら奏に突撃する。

奏が左足を横に薙ぎ、その突撃に対抗するが・・・落下スピードを受けた体当たりを防げず、撥ねられた。


「ああ・・・これは私の自己満足だ」


撥ねられた奏の身体は宙を回転しながら、空に向かって上がっていく。

その上昇は唐突に終わる、壁に当たったかのように突然にだ。

奏は何も無い宙に『立っていた』。


「だが、それで良い!!」


スティングフィシュオルフェノクを睨みながら、奏が言葉を吐き出す。

奏が空を蹴りながら空中で一回転、左足を突き出しながら真下で滞空するスティングフィシュオルフェノクに飛び込んだ。

その動きは、雷が落ちるような速度で・・・正確にスティングフィシュオルフェノクの腹に左足をめり込ませた。

体重と落下速度が合わさった強烈な蹴りだ。が、相手は耐え・・・折れた槍を奏に向かって突き出す。


ガシャン・・・


次の瞬間、奏の左足に有るジャッキが作動した。くの字だったモノが一の字へ、アンカーが打ち込まれるように力強く作動し、大気を歪ませる程の衝撃を相手に伝えた。

本当に雷でも落ちかとというような衝撃音と共に、スティングフィシュオルフェノクの身体が地面に突き刺さる。

が、強い衝撃を受けながらも宙を浮こうとしてダメージを軽減したようだ・・・まだ生きてる。


「油断・・・したな・・・」


地面を這うようにスティングフィシュオルフェノクが動く。

その背を奏が踏みつけ、もう一度アンカージャッキを作動させようとする。


「ちょい待ち!」


それを止めた、奏を突き飛ばす形になったけど・・・とりあえず止めた。


「助けるなんて、どういう風のふき回しだ?」

「誰が助けるかアホ、テメェには聞きたいことが山ほ・・・ど!!」


全部を言い切る前に身を逸らした、瞬間・・・鼻先を奏の蹴りが掠めた。

避け無ければ、間違い無く当たっていた。


「何すんだよ・・・」

「邪魔をするな」


奏と正面から睨み合う。


「人の上で喧嘩をしないでくれないか?」


スティングフィシュオルフェノクを踏みつけながら、逃げられたら困るので。

まぁ、今はコッチだ・・・邪魔するならオレごとって感じで強い殺気をぶつけてくる奏を止めないと。


「とりあえず落ち付けよ、凄い形相になってるぞ」

「黙れ、そして退け、私はコイツを殺す!」

「そんな軽々しく殺すって言うなよ」

「殺すつもりで言ってるんだ、問題無い」


駄目だこりゃ・・・頭に血が昇ってる。

話ができるだけ、まだ良いんだけど。


「殺してどうすんだよ、つうか・・・何で殺すんだよ」

「お前には関係ない」

「眼の前で友達が殺しをやろうとしてんのに、関係無いわけねぇだろ」

「コイツは・・・私の家族を殺した」


ということは・・・三年前の電車の事故はオルフェノクによって起きたのか、そして・・・その犯人がコイツ?。


「人違いだ」


即答するスティングフィシュオルフェノク。


「奴に、似ている奴だ」

「そんな理由で殺そうとしてんじゃねぇよ、ボケ」


事故の犯人はオルフェノクだが、コイツじゃないと・・・。

最悪な逆恨みだぞ、それ。

別に・・・この男が焼かれようが身を裂かれようが潰されようが溶かされようが刺身にされようが全くもってどうでも良いんだが、友達が人を殺すのを眼の前で見てられるか・・・。


「だが、私は・・・コイツを殺したい!そうすれば・・・埋められるかもしれないんだ!!」

「埋められる?」


奏が頭を振り回しながら叫ぶ。

その声には怒りと・・・こっちが苦しくなりそうな悲痛な悲しみが混ざっている。


「ああ、そうだ!このどうしようもない怒りを・・・悲しみを・・・埋められるかもしれない!!」


そうか・・・奏は事故で失ったんだ、家族を・・・『今』を失ったんだ。

その悲しみと怒りはオレにはわからない。

オレも似たような状態だ、記憶を失い・・・『過去』を無くした。けど、オレには新しい家族ができた、ハルカと親父だ。

それがオレの救いだった、けど・・・奏にはその救いが無かったんだ。

新しい家族は馴染めず、イジメで友達ができなかった。

だから、奏の心にはまだ開いているんだ・・・家族を失った事でできた大きな穴が。

それを・・・殺す事で・・・復讐で埋めようとしているんだ。


「止めろよそんな事!そんな事で紛らわそうとしてんじゃねぇよ!!」


そう考えたら、オレは叫んでいた。

奏を止めるように。


「どうして止める!どうして邪魔をする!!」

「決まってんだろ!友達だからだ!!」

「なら!私は友達なんていらない!一人で十分だ!!」

「なら!甲斐セツナとして止める!!」

「止めるな!!」

「止める!!復讐や恨みで心が満たされるかよ!!それで一人になって!そっからどうすんだよ!!」


確かに・・・復讐で心は満たされるかもしれない、けど・・・それだけだ・・・絶対に何も得られない。

だってそうだろ・・・、復讐して何か変わるのかよ。

それどころか、奏に残った『未来』さえ無くしてしまう。


「なら私はどうすれば良いんだ!!」

「それは・・・」


ヤベェ・・・返せない。

考えずに喋ってたから、後が無かった。

オレはただ漠然と奏を止めたくて、でも・・・その感情が走っていただけだった。

復讐は止めろ、そんな言葉だけで・・・今の奏を止められるはずが無い。

一体どう言えば・・・。


「にゃあああああああああああああああ!!」


冷や汗をだらだら流していると、横から何かが飛んできた。


「「おぐっ!!」」


なのはだった。何かに吹き飛ばされるように凄い速度で飛んできて、オレと奏にダブルラリアットをかました。


「お前は何してんだ!このボケ!!」


地面を三人して転がった後、オレと奏の上に乗っかって眼を回すなのはに怒鳴る。

心の中で少しだけ助かったと思ったのは内緒だ。


「ふにゃ~・・・」


眼を回すなのはは再起不能といった感じで返事が無い。

つうか、誰だよなのはを投げた奴。

そう思ってなのはが飛んできた方を見上げると・・・ジャングルジムがコッチに向かって飛んできていた。

あ、ジュエルシード忘れてた。


「「どけっ!!」」


奏と共になのはを蹴り飛ばし、起き上って飛んでくる遊具を迎撃する。

オレは拳を、奏は足による連続蹴りでジュングルジムを粉々に粉砕した。

その破片が辺りに舞って、視界が塞がる。

それが晴れると、地面に倒れていたはずのオルフェノクの姿が消えていた。

浮いていた遊具も気付いたら地面に落ちているし、これは・・・ジュエルシードを持っている奴も逃げたようだ・・・。


「逃げられたか・・・」


そう呟きながら、内心・・・少しだけホッとする。

このままだったら、奏を止められなかったから。


「・・・・」


ただ、オレの真横で・・・指が肉に食い込むほど強く拳を握りしめる奏を見て、そんな気持ちは一瞬にして無くなったが。

いつの間にか普通の人間の状態に戻ってるな。だから、その表情が怒りに染まっているのが良く分かった。


(復讐か・・・)


変身を解きながら考える。

奏が心を満たす方法は、本当にそれしかないのだろうか?。

だとしたらそれは・・・悲しいと思う。

悲しみによって、怒りによって、満たされた心は・・・きっと悲しいままだ、怒ったままだ。

幸せな心は・・・幸せな感情でしか作られないと思うから。




















***********************************************************************************



とにかく、オレ達は公園から逃げた。

遊具とか色々とグチャグチャだったし・・・。

多分、誰にも見られなかったと思う・・・いや、思いたい。

なのはは叩いて起こし、半ば引き摺って逃げた。


「オルフェノクとは何だ?」

ピアノ教室の前、三人で呼吸を整えていると・・・奏が聞いてきた。

「オレも名前しかしらない」

だから、どうして奏がオルフェノクになったとか・・・全然わからない、むしろ聞きたい。

「私にもわからない・・・。ただ、アイツを殺したいと思ったら・・・」

奏が握り拳を作りながら、そう答えた。

感情がキーなのか?いや、それはキッカケだろう。なら、一体奏はどうしてオルフェノクになったか・・・オルフェノクになれる条件とは何だ?。


「殺したいって・・・どういう事?」

オレが考えていると、なのはが奏に聞いた。

「私をこんな目に遭わせた、あの化け物が憎いだけだ」

多少冷静になったか、少しだけ言葉を柔らかくしながら奏が答える。

「私と同じ目に遭わせるだけで良い、ああ・・・殺すなんて生易しい方法じゃない、全てを奪って・・・生の苦しみを味あわせるだけだ。私が味わった、この痛みと悲しみを」

勘違いだった・・・冷静になった分、考えが纏まってる。

このままじゃ、奏はきっとあのオルフェノクを潰すだろう・・・復讐のために。

「それは・・・悲しいね」

それを聞いたなのはが、気の毒そうに奏を見つめる。

「悲しい?」

「そうだよ、悲しいよ。悲しい気持ちをそんな方法でしか解決できない奏ちゃんは、悲し過ぎるよ」

「貴様に・・・何がわかる?」

その言葉を聞いた奏が、なのはに近づき・・・その襟を掴んで引き寄せる。

そして、怒りの感情を剥き出しにした表情でなのはを睨みつける。

「悲しいんでしょ・・・。誰にも相手にされなくて、一人でただ無意味に時間を過ごすだけなのが悲しいんだよね」

対してなのはは表情を変えない、奏を気の毒そうな眼で見ているだけだ。

「家族に相手にされなくて、友達もできなくて、ただ一人で広い部屋の中で何もしないで居るのが悲しいんだよね?辛いんだよね?自分には何もできない・・・やることがない。
 それが辛くて、悲しくて、自分は要らない子なんじゃないかって思っちゃうんだよね」

「・・・・」

なのはの言葉に奏が固まる。

それは・・・なのはの言葉が的を得ているからだろうか?。

「だけどね、それでもね・・・誰かにその気持ちを・・・辛さを悲しみをぶつけるのは間違ってる。この気持ちは誰かに向けたら駄目なんだよ。
 自分に向けないと駄目なんだよ・・・自分が変わるために、強くなるために使わないと駄目なんだ」

「強く・・・なるために?」

「そうだよ。今の奏ちゃんは弱いよ、自分の怒りを・・・悲しみを相手にぶつけて、それで満足しようとしているだけだから・・・。
 それじゃ変わらないよ、絶対に変われないよ。相手を変えるんじゃなくて、自分を変えない限り・・・その怒りと悲しみは消えないんだよ」

なのはの言葉を聞いて、奏はなのはを掴む手の力を緩める・・・いや、力が抜けたようにフラフラと揺れ出す。

「奏ちゃんは変えようとしてたよ、自分のやりたい事を・・・夢を叶えようとして変わろうとしてた。それで良いんだよ、復讐なんかで自分を変えたら絶対に駄目なんだ」

なのはの言葉に圧されるように、奏が一歩ずつ後ろに下がっていく。

「復讐なんかじゃ、奏ちゃんの怒りと悲しみは抑えられないよ。自分が変わらない限り、強くならない限り、絶対にその悲しい気持ちは無くならない」

「私が・・・弱い・・・」

奏の瞳が揺れ出す、そして・・・自分を見下ろす。

自分の考えが、行動が間違っているのかと・・・深く考え出す。


(凄ぇ・・・)

捲し立てるように喋ったなのはを驚きの眼で見る。

奏を抑え込んだというか、叩き潰したというか・・・。

気持ちをわかった上で、諭したというか・・・。

(でも・・・)

オレにはわからなかった奏の悲しみを、なのははわかっていた。

家族が居ない辛さを、自分が必要とされない痛みを、なのはは知っていた。

それは・・・なのはも奏と似たような感じだったということなんだろうか?。

高町家の風景を見ている限り、そんな風には見えないんだけど。

まぁ、今はそんな事より・・・。


「私が・・・弱い・・・」

放心状態で呟く奏をどうするかだ・・・こんな状態で、ピアノをまともに弾けるのだろうか?。




・・・・・オレのこの予想は的中していた。

この後行ったピアノ教室で奏が弾いた曲は、何か違った。

ちゃんとは弾けていた、それも・・・上手いと思えるぐらいに。

だけど、オレが感じた・・・胸に来る熱い想いが消えていた。

切ない・・・そう・・・今の奏を表現しているような、凄く切ない思いが伝わってくるだけだった。

奏は今、揺れている・・・。

けど、オレには何もできない・・・奏の悲しみを理解できないから、なのはのように言葉はかけられない。

なら、オレには・・・一体何ができるんだろう?。

奏のピアノが奏でる、切ない音色を聞きながら・・・考えた。

































≪あとがき≫


ホッパーオルフェノクの使徒再生方法、アンカージャッキで衝撃を心臓に叩き込んで破壊、消失させる。


更新が遅れてすいませんm(__)m

奏の心境と、ホッパーオルフェノクの蹴りの描写を何度も書き直してたら遅くなりました(それでも違和感が有るかも・・・)。

何か変だと思ったら遠慮無く言ってくだせぇ・・・(;_;)/


今回悩んだ点。

ちょっとだけなのはの過去についても触れてみました、今回セツナは語りができる話じゃないんですよね。

失ったけど、恵まれているセツナは奏とはある意味真逆の立ち位置のキャラですし。

なのでなのはさんに語ってもらいました・・・・それが吉と出るか凶と出るか・・・。

寂しさと痛みを知っていて、それを持ちながらも変われたなのはさんは強いですよね~。歪んでますが・・・。

うだうだと書いてて申し訳ありません、それでは失礼します(シュタタ・・・)



[17407]  奏編   第10章 それぞれの決意
Name: なのファイズ◆53d8d844 ID:ba4fe846
Date: 2010/05/19 23:44



甲斐くんと高町さん、それと一島さんが学校を出た後・・・私はとある空き教室に来ていた。

バニングスさんにお願いして、一人の生徒に会わせてもらうために。

「初めまして、君がハルカちゃんか?」

扉を開けて直ぐに、その人は私に気付いた。

窓から外を眺めているのに、背中に眼がついているようだ。

「はい。耳が良いんですね、先輩」

私は教室に入り、その人に答えた。

教室には一人の男子生徒と、オルガンが一台置いてある。

「これでも『もと』音楽家を目指した人間だからな」

男子生徒の名前は唐橋充(からはしみつる)、私より三つ上の学年・・・6年の最上級生さん。

私がバニングスさんに頼んで、呼んでもらった人。

ちょっと跳ねた髪型をしていて、少しガラが悪そうな感じがする。

制服のネクタイ外したりしてるし、余計にその感じが強い。

「それで、オレになんの用?。もしかして告白?後輩に告白されるなんて、オレも罪な人間だね~」

先輩がコチラに振り向く、イスの背もたれに顔を乗せながらニヤニヤと笑いかけてくる。

「あはは、冗談は顔だけにしてくださいよ先輩」

「あはは、お前喧嘩売ってるだろ」

いや、カッコいい顔をしてると思うけど・・・タイプじゃないのと性格が軽そうなのが・・・。

「私、白馬の王子様みたいなタイプが好きなんですよ」

こういう、憧れですよ・・・。

一度は夢見る理想郷。

「寝言は寝てから言え」

鼻で笑われた。

う~、本気なのに。

「それで、何の用だよ?。オレ、結構忙しいんだけど」

「じゃあ、手短に。一島奏を貴方は知ってますか?」

そんなに話を聞いてくれなさそうなので、さっそく本題に入る。

「知ってる。昨日も新聞部に散々話を聞かされたよ・・・、で・・・それが何?」

「先輩は・・・一島さんが通うピアノ教室に通ってましたよね」

「ああ、そうだ」

胡散臭そうに先輩は話を聞く。。

「だけど、先輩・・・怪我で音楽家の道を閉ざしちゃったんですよね。ピアノ教室も辞めたと」

バニングスさんから、その辺りを色々と聞いた。

「それがどうした?」

私が先輩に会いに来た理由は、一島さんに関係有るけど関係無い事だ。


昨日の甲斐くんとバニングスさんの会話を聞いて私は一つの疑問を持った。

バニングスさんが一島さんの記事を書いた時、どうして甲斐くんがウチの学校の生徒の中に・・・一島さんと一緒なピアノ教室に通う人が居る事を知っていたか。

それは甲斐くんがピアノ教室で先輩が取った賞を見たからだ。

不思議なのはそこだ・・・。どうして甲斐くんが、ピアノ教室に置いてある賞を見て・・・ウチの学校の生徒・眼の前に居る先輩だと気付いたかだ。

全校生徒の名前を覚えているなら話は別だが、そんなことができる人はそうそう居ないだろう・・・もちろん甲斐くんもできない。

なら、どうして甲斐くんは気付いたか・・・。

それは・・・名前を聞いたことが有ったからだ。

一島さんに初めて会った日、甲斐くんは怪談騒ぎで怪我をした人達に色々と聞きまわっていた。

その中の一人に、先輩の名前が有った。

それは・・・甲斐くんに怪談騒ぎの被害者の名前を教えたバニングスさんから確認済み。


「実はですね、先輩みたいに怪我をして・・・夢が壊れちゃった人、沢山居たんですよ」

「へぇ・・・」

私の言葉に、先輩は全く興味が無さそうだった。


三年前の電車の事故を調べていて、私はその事に気付いた。

学校内から、市内に視野を広げて調べてみて・・・怪奇現象、もしくは不慮の事故によって怪我をした人はかなりの数だと私は知った。

電車の事故を調べようとしたきっかけは、甲斐くんがこの事故を調べた時だ。

目撃情報の中に灰色の怪物、多分『オルフェノク』らしきモノを見たという証言が有った事。

せっかく記憶の手掛かりになるかもしれないのに、甲斐くんはみんなのためにと自分の事を後回しにしたから・・・代わりに調べてあげたらこれだ。

本当に・・・一つのことに集中すると、他の事が抜けるんだから。


「三年前ぐらい前からですね、名前が広がる前の・・・先輩みたいに才能を持つ人が次々に事故に遭ってるんですよ」

ただ・・・事件性は無く、警察も詳しくは調べて居ないらしいけど。

世間的にも、それほど騒がれてはいない。

その業界にとっては大打撃だが、世間的には才能が開く前の人物が死んだって・・・新聞のおくやみにでも乗るだけだから。

「それで?」

「運が悪ければ死んじゃう人も居ました、運良く生き残った人は・・・黒い靄に襲われた、灰色の怪人を見た。そんな所です。

 だけど、先輩はダンマリを決め込んでいる。何も話さないで、ただ・・・偶然怪我をしたと言っている。先輩ただ一人だけが・・・」

他の人はみんな証言している・・・誰も信じてくれないような、魔法・・・違うね・・・怪奇の話を。

「その通りだからだ」

「嘘・・・ですよね。先輩、何を隠してるんですか?」

とある確証を持って、私は先輩に聞く。

私の答えはまだ正確ではない、だけど・・・先輩はその答えを確実にしてくれると思った。

「お前、夢を持った事が有るか?」

先輩が私から視線を外した、外して・・・オルガン・・・楽器に眼をやった。

「有りません」

私は・・・他人に語れる程の夢は無い。

「オレに言わせればなぁ、夢ってのは・・・呪いと同じなんだよ。呪いを解くには夢を叶えなければならない」

先輩が、自分の右手を握り締める。

怪我をして、数分間しか演奏が出来なくなった手を。

「でも・・・途中で挫折した人間は呪われたままなんだよ」

その眼は・・・暗い。

「オレ達の苦しみは・・・お前にはわからない」

先輩の言う通り、私には・・・一島さんのように熱い思いを持った事も、先輩や・・・怪我をした人達のように・・・夢を挫折した苦しみもわからない。

だから・・・、私は確証を持てなかった。

先輩達の心が・・・苦しみがわからないから。

「それが真実ですか?」

「ああ、それが真実だ」

先輩は頷いた後、『帰る』と・・・短く言って教室から出て行った。


「夢は呪い・・・か」

一人教室に残った後、私は呟いた。

私にとって夢とは・・・一島さんのように温かいモノだと思っていた。

けど・・・やっぱり夢も、人と同様に様々だった。

私にはわからない、一島さんの熱い気持ちも、先輩達の苦しみも・・・。

だから、私が今からやろうとすることは・・・正しいかどうかはわからない。
























***********************************************************************************



「奏ちゃん、大丈夫かなぁ?」

ピアノ教室の前、「今日は自宅に帰る」と言い・・・オレ達と違う道で帰る奏の背中を見送りながら、なのはが心配そうに呟く。

今の奏は・・・誰から見てもボロボロだ、日が暮れて背中が暗く見えるから余計にそう見える。


家族の仇・・・とは行かないまでも手掛かりが出て来て、でも・・・それをどうにかしようとすると・・・今度は自分の夢が壊れそうになる。

夢と復讐、その二つの狭間に奏は漂っている。

けど、オレにはやれる事は無い。

ただ、明日・・・何も起きない事をただただ祈るだけだ。



「ジュエルシードにオルフェノク、何だか大変な事になってきたね」

薄暗い帰り道、なのはが苦笑いを浮かべながら言う。



何でも、今日のジュエルシードは最後の方では障壁の内側からなのはを持ち上げて投げ飛ばしたようだ。

それで、障壁に頭を思い切りぶつけてなのはは気を失って、そのまま投げ飛ばされてオレと奏の方に飛んできたと。

どうやらジュエルシードは怪談の再現と言うより、ポルターガイスト・・・物を浮かす力を発動していたようだ。

それも・・・無機物だけを操作できると思ったら、有機物も操作できるようになったみたいだ。


「けど、今回のジュエルシードは暴走と言うよりは・・・ちゃんと操作されているって感じだったよな」

「それは無いよ」

モッサリ。

頭の上に何かがいきなり乗った、そして喋った。

「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!!」

「おぐっ!!」

ビックリして地面に叩き落とす。

「ゆ、ユーノくん!!」

なのはが慌てて地面に激突した物体を広い上げる。

「な、なんだユーノか・・・ビックリさせんじゃねぇよ」

ギリギリ視界が効く中に、一匹のフェレットが見えた。

「いきなり殴るのは酷い・・・」

ぐったりしつつジト目で見てくるユーノ。

「いや、いきなり飛び乗るお前が悪い」

まだ心臓がバックンバックン鳴っている。

「にゃはは、ところでユーノくん。ジュエルシードについて何か言ってなかった?」

「あ、うん。ジュエルシードを完全に操作するのは不可能だよ」

ユーノがなのはの肩に移動する。

「多分、ジュエルシードに取り込まれているのに関わらず。その人の願いが叶ってるから、そういう風に見えるんだよ」

「つまり、暴走した状態が・・・ジュエルシードを持った奴の願いという事か?」

「多分ね。けど、ジュエルシードの影響を少なからず受けてるから・・・何かしらの影響は出ていると思うよ」

どこの麻薬だよ・・・。内心毒づいた。


「それで、奏がオルフェノクになったって・・・なのはから念話で聞いたんだけど。本当なの?」

「ああ、マジだ」

魔法関係者、この場に居る三人の他に・・・ハルカにも奏がオルフェノクになったと話すつもりだ。

もちろん、奏からの了承は得ている。

あの状態で、まともに考えて答えてない気はするけど・・・・。

話したのは、もし今後・・・またオルフェノクが出てきた時、奏がまた飛びだす事を考えてだ。

ハルカはファイズに変身できるし、ユーノもそろそろ魔力が回復してきて魔法が使えるようになるらしいから・・・同士討ちを避けるため。

「えっとね、ユーノくん。奏ちゃんは・・・オルフェノクになっても奏ちゃんだったよ。だから・・・」

「わかってるよ。大丈夫、僕は色々な世界で色んな生物を見て来てるから、そうそう驚かないよ」

遺跡の発掘のために、色々な世界を見てきたって言ってたな・・・。

なのはの心配は杞憂に終わったわけだ。



なのは自身は・・・いきなり襲われたわけでもないので、奏に怯えたりは無しだった。

それに・・・あの時、奏に説教みたいなことをした時に何かを感じたのか・・・凄く擁護的になってる。

オレはすずかの時と同じ、話は通じるし・・・襲われたりしてないので平気。

ハルカも多分一緒。

ただ、あの男のオルフェノクは別だ。

アレは・・・話はできるけど通じない。



「けど、奏からは魔力は感じなかったのに。オルフェノクになるなんて」

「男の時も、オルフェノクに変身しないと魔力を感知できなかったよな」

「うん、そう言えばそうだったね」

ユーノが頷いて、オルフェノクについて考えだす。

(変身しないと、魔法を感知できない)

確かファイズもそうだった筈。

それにあの男がベルトを狙う理由。

・・・・・。

(ああ・・・止めよ、今はジュエルシードに奏の事で精一杯なんだ。考えるのは後々)

オレは考えを中断した、考えたくなかったから・・・。


「そうだ、ユーノくん。明日は連れて行けなさそうなんだ」

「動物だからね」

思い出したように謝るなのはに、ユーノが苦笑いで返す。

明日演奏会をやる場所は、ペット等動物の出入りは禁止だった。

「奏の演奏を聞けないのは残念だけど、仕方が無いよ。ルールはルールなんだから」

「知ってるかユーノ、ルールは破るために有るんだぜ」

「それで身を滅ぼすつもりは無いよ・・・、保健所に連行されるなんて嫌だからね」

それはそれで面白そうだけどな・・・、ベイ○とか1○1匹わんちゃんのように感動的なエピソードができそうだし。

「ユーノ、保健所へ行く。もしくは101匹ユーノちゃん」

題名はこれで決まりだな。

「僕は豚でも犬でもない」

「わかってるよ。・・・・・そういやさ、発掘作業の仕事って・・・ユーノの夢なのか?」

からかうのはここまでにして、ちょっと話を振る。

少し・・・相談も含め。

「うん?まぁ、そうだね。ただ・・・発掘も好きだけど、僕は考古学が好きなんだ」

「「考古学?」」

考古学って、遺跡とかから・・・その時代の事を調べる、みたいな事だっけ?。

「世界は広い、だから・・・その世界事に沢山の生物が生きている。その生物達の中には文化を持っている生物も居て。そして、その文化も沢山の数が有る。
 
 それを見て、調べるのが好きなんだ。どういう時代に、どういう人が、どういう文化の下で生きているか。人の・・・違うか、世界の歴史を見てみたいんだ」

ユーノが語る、自分の夢を。

「子供の時・・・って、今も子供なんだけど。一つの世界の歴史を見たんだ、そこには花畑のように様々な色・・・形の文化が有った。
 そして・・・、滝のように激しい流れの歴史が有った。昔の事なのに、ずっと昔の事なのに・・・生きているように見えたんだ。
 僕は・・・それに魅入られた。僕には想像もできない・・・世界を見てみたいと思ったんだ」

熱く、そして・・・湧きあがる鼓動を伝えるように・・・。

「それが僕の夢の始まり。それでね、本を読むだけじゃなくて・・・やっぱり自分の眼でも見てみたいから。発掘の仕事をやっているんだ」

「「・・・・・」」

何か、ユーノかっけぇ。と、思った。

「何だかユーノくんが遠い存在に・・・」

「ユーノ、いや・・・ユーノ先生だな」

それに比べてオレ達は・・・思わず、なのはと二人で夕日を淀んだ目で見る。もう沈んでいた。

「大げさだよ二人共、僕なんてまだまだ未熟者なんだから」

「「オレ(私)なんて・・・」」

ユーノが未熟者なら、オレ達なんて・・・オナラぷーだ。

「面倒臭いなぁ~・・・」

「あはは、ごめんごめん」

「良いんだけどね。それで、奏の事?」

お見通しのようで・・・。

まぁ、オレ自身の質問でも有るんだけど。

下手な遠まわしをするより、どストレートに質問した方が良いかな?。


「オレにはさ、奏とかユーノのような・・・、その・・・夢に対して持ってる熱い気持ちがわからないんだ」

奏のように熱く夢を語ってると思いきや、いきなり苦しそうになったり。

「夢ってのが・・・わからないんだ。奏のように苦しくなったりするものか?別の事が入り込んだりして・・・悩んだりするものなのか?」

本当にわからない・・・まるで、靄を掴もうとしているような・・・そんな感じがする。

「・・・・。セツナは他人の心って・・・わかる?」

「わからない」

「夢はね・・・形なんて無いんだよ。人それぞれで、個人によって違う・・・それこそ心と一緒だよ。だから、わかろうとしてわかるモノじゃないよ。

 夢はその人だけのモノだから」

「そう・・・か」

オレがその答えを望むのは・・・傲慢か、他人の心を知ろうとするような・・・そんな無理な望み。

「けどね、たった一つだけ共通するモノが有る。夢はね、時々凄く熱くなるんだけど・・・時々凄く切なくなるんだ」

それは・・・感じた、奏のピアノがそうだったから。

初めて聞いた時、熱いモノを感じたと思ったら、今日は・・・凄く切なかった。

「きっと、セツナ・・・なのはにもわかる時が来るよ。絶対に」

そう、ユーノは断言してくれた。

オレ達にも・・・いつか、心の奥底から打ち込める夢ができると。

「ありがとう、ユーノくん」

なのはが嬉しそうに笑う。

「うん。セツナ、僕には・・・これしか言えないよ」

「ああ、十分だ・・・」

奏のために何ができるか・・・、その答えをユーノから聞こうとしていた。

そして、夢は人それぞれだと・・・違うんだと教えてもらった。

なら、答えは一つしかない・・・。

オレが奏の夢を手伝うことはできない、奏の夢は奏のモノだから。

だったら、オレが奏にできることは・・・。



「あ、そういえばお兄ちゃんが・・・最近セツナくん修行に来ないから、これ渡してって言われてたの」

「あ、忘れてた・・・」

奏に出会ってから一度も行ってない気が・・・、しかも無断欠席だ・・・。

ヤベェ・・・怒ってるかも、いや・・・大丈夫だ、恭也にぃ大人だから・・・許してくれるはずだ。

なのはが差し出す封筒を受け取る。

この封筒もきっと、何かの招待状だよ・・・・・地獄への招待状だったらどうしよう・・・・。

「・・・・・・」

封筒の中身は、小さな空の封筒、真っ白な紙が一枚、筆が一本。

えっと・・・空の封筒に無駄に達筆な字で『遺書』って書いてあるんだけど・・・。

「えっと・・・ナノハサン?今日、恭也ニィ様ハ何カ言ッテマセンデシタ?」

アレ~?、全身がガクガク震え出して来たんだけど。

「お兄ちゃんが珍しく笑いながら言ってたよ、今日が楽しみだって」

なのはが良い笑顔でそう言った。

その背後に鬼ぃちゃんの幻覚がバッチリと見えた。

これはアレか?遺書を書けと?今日オレが死ぬと?。

「お兄ちゃんが言うには、家族に向ける大切なお手紙らしいよ」

やっぱり遺書かよ!いやああああああああああああああッ!殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!。





















***********************************************************************************



「・・・・・・」

自室・・・ただ、寝るためだけの部屋。

私物は無く、服が仕舞ってある箪笥だけが置いてある。

ああ、いや・・・一つだけ私物が置いてある。

くまのぬいぐるみだ、やる気の欠片も無いその瞳が可愛い奴だ。

ただ、今日は相手をしてやる気分じゃない。

私は上着を脱ぎ、シャツとパンツ姿になってベットに横になった。

家には・・・私一人だけだ、親は夜遅くまで仕事、台所に晩御飯用のお金が置いてあったけど・・・貯金箱に仕舞った。

何も食べる気は無かった・・・。

ベットに倒れ込んで、眼を瞑った。



私は・・・家族の仇の手掛かりを手に入れた。



今日起きた事を言えば・・・そんな所だ。

そして、私自身も変わった。

親の仇と同じ、灰色の化け物に。

『オルフェノク』というらしい、名前以外・・・何もわかってない。

私が・・・どうしてそれになったかはわからない。

いや、家族の仇とか・・・自分が『オルフェノク』になったとか・・・そんなことはどうでもいい。

家族の仇は・・・まだ見付かっていないから、今日のは似た奴だった・・・。

『オルフェノク』化についても、仇を直接討てる力が手に入ったと言えばそんな所だ。


そんなことより、私は今日、復讐しようとした・・・私をこんな目に遭わせた奴に復讐するために。

ただ、それだけを考えていた・・・。

家族の復讐より、自分の復讐を優先して・・・私が負った全てをぶつけようとした。

明日は・・・ピアノの演奏会なのに、身体のことを考えずに・・・戦った。

私は・・・自分の夢を自分で潰そうとした。

セツナが言っていたように、下手をしたら・・・大怪我をしていたかもしれないのに・・・戦った。

私の夢は・・・復讐で潰れるような安いモノなんだろうか?。

その疑問が・・・私を苦しめる。

私は生きる意味を・・・ピアノに見付けたのに、過去を全部振り切って・・・前に進めると思ったのに。

たった一目、『オルフェノク』を見ただけで・・・私は立ち止まり・・・引き返した。

私は・・・進んでなんて居なかった。

昔のままだ・・・いや、なのはの言うように・・・弱くなった。



「いや・・・違う・・・」

私は変われた筈なんだ、ピアノに・・・先生に・・・夢に出会って・・・変われた筈なんだ。

うん、そうだ・・・私は進めてる。

今日は・・・頭がこんがらがっただけだ。

だから・・・明日には・・・きっと・・・。


もとに戻れているはず・・・。


私は・・・そう自分に言い聞かせた。





































≪あとがき≫


決戦前のそれぞれの決意(?)。

最近気が付いた事、これギャグ(?)になってない。どちらかと言えばファイズ(笑)な感じに・・・。

そして、このペースで言ったら無印終了は一体何話(現在、アニメで言うと三話の冒頭)になっているのだろう・・・。



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