宮崎県で広がる家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」対策で、政府が同県川南(かわみなみ)町などの感染発生地から半径10キロ圏内にいる牛や豚全頭へのワクチン接種を決めたことを受け、政府の現地対策本部(本部長・山田正彦農林水産副大臣)は20日、県とともに実施準備を本格化させた。しかし、川南町などを中心とする首長らは「補償や支援策に不明点が多い」として現段階での「反対」意向を確認。現地本部は地元との意思統一が最優先課題と判断し、午後に予定していた山田副大臣の熊本市出張を中止、県庁内で首長側と意見交換した。
政府が打ち出した対策では、ワクチンを接種した上で殺処分した場合、農家に対し牛1頭につき約60万円、豚は約3万5000円を補償する。政府と県は対象となる地域から何らかの形で同意を得る方針。ただ、こうした内容が示された19日、関係自治体では「不明な点が多く、農家を説得して理解を得るのは現時点では困難」(蓑原敏朗・川南副町長)との声が続出。接種対象地域に含まれる川南町や西都市など1市5町の首長が集まり「具体的な生活保障がない段階では反対」との立場で一致したという。
こうした動きを受け山田副大臣は20日、熊本市内で蒲島郁夫熊本県知事などと面会する予定を急きょキャンセル。地元首長らとの協議を前に、記者団に「補償だけでなく、経営再開支援をどこまでやってもらえるのか、不安があるのだろう。その点を協議させてもらおうと思う」と話した。
農林水産省によると、ワクチン接種対象の家畜は計約20万頭。宮崎県によると、接種対象地域が含まれる自治体は川南町、新富町、高鍋町、都農町を中心に、隣接する宮崎、日向、西都各市にも及ぶ見通しで「現時点では飼育農家が全部で何戸あるか調べ切れていない状態」(県畜産課)だという。
山田副大臣は「接種に必要な獣医師約50人は確保できるめどがたった」と説明する一方、実際の動員には至っておらず、20日中の接種開始は「無理だろう」と述べた。
「ワクチン接種には400-500人が必要」(県幹部)との見方もあり、接種態勢がいつ整うのか見通しは立たない状況だ。
=2010/05/20付 西日本新聞夕刊=