秋田禎信BOX
(TOブックス・2009年12月24日発売)
定価(税込):完全受注生産
ISBN 978-4-904376-14-0
というわけで、こんな感じのものなんですが……
これも妙な経緯で出ることになった本でしたねー(そんなんばっかだな、わたし)。
事の発端になったのは、これに収録された『キエサルヒマの終端』という原稿で、もとは富士見ファンタジア文庫20周年の企画で『完結した作品の後日談を、複数の作家がそれぞれ書く』というような依頼を受けて書いたものでした。
昔に完結したシリーズの続編……というのは微妙に抵抗のあったわたしなんですが、まあそういうお祭りみたいなもんだったらいいかーと引き受けたんですね。
ただその企画自体が事情でなくなってしまって、わたしの原稿だけは書き上がっていて。
企画ではなく単体で刊行させて欲しいと言われたのですが、それは嫌ですと断らせていただいたのです。
で、使い道のなくなった原稿で、せっかくだからなんか遊ぶかなーと。
このサイトに掲載してみたら、別の編集者から「反響あるみたいだし、書籍にしないのってテメー逃げてんだろ」的な挑発をかまされて(やや誇張)、じゃあお祭りみたいな企画にするんならやったるわい、という流れにもどったと。
まあ冷静な部分では、実際に色々とクリアーしないとならないハードルもあるし、そういうのを人に迷惑かけない形で解決できるならOKという条件にしていたんですが、なんとかなったのでなんとかなったと。
終わってみたら容易くいけたようにも見えますが、結構面倒なものも抱えた本ではありました。
このへんの経緯は、当サイトの雑記(2008年9月〜2009年4月あたりまで)に、進行形でもう少し詳しく載っています。
読者のみなさまの御協力もあって実現にこぎ着けました。本当にありがとうございました。
収録されているのは『魔術士オーフェン』シリーズの後日談となる長編が2本、外伝的な中編が2本、『エンジェル・ハウリング』の後日談、長編2本、ミニ文庫として昔刊行された中編2本、雑誌に掲載して文庫に未収録だった短編が5本、書き下ろし短編が1本と。やけくそな分量を書き下ろしたんで相当なページ数になりました(というか、それくらいのパッケージでないと成立しないというのも事情のひとつだったんですが)。
これだとちょっと分かりにくいんでタイトルと概略並べますね。
●魔術士オーフェン
『キエサルヒマの終端』(サイトに掲載していた、シリーズ本編終了直後〜1年後あたりまでの後日談)
『約束の地で』(その20年後ほどの話)
『魔王の娘の師匠』(同上)
『魔術士オーフェンまわり道@』(ミニ文庫1・読み直すのはキツかった)
『魔術士オーフェンまわり道A』(ミニ文庫2・読み直すのはヤバかった)
『魔術士オーフェン往事編・怪人、再び』(懐かしいプレ編)
●エンジェル・ハウリング
『サーヴィル・キングス(眠る王権)』(ミズーが可愛くなってる話)
『ガールズ・ハンティング(託す幕間)』(フリウが男前になってる話)
『スィリーズ・アワーズ(どうでもいい時間)』(昔、雑誌に載ってほったらかしてた系。そういえば『意味の分からない話を書いてみやがれ』と言われて『じゃあやったるわい覚悟しとけ』と書いた話だった気がする。昔からそんなんだな、わたし)
●リングのカタマリ(雑誌ほったら系part2)
●パノのもっとみに冒険
『空を飛んでいく変なものがあったのでそれを追いかけるけど追いつかない話』
『星欲しい』
『迷子の魔女』
『ヘンテコの呪文』
(きゆづきさとこ先生のコミック『パノのみに冒険』のノベライズとして短期連載させていただいたシリーズでした。個人的には、富士見書房でやった仕事では一番出来が良かったと思うなー。『ヘンテコの呪文』だけ書き下ろしです)
完全受注生産という異常な形態で、しかも数年前のシリーズの続編という企画。
おかげさまで予想を遙かに超える受注数をいただきまして、御礼も言っても言い足りません。
だからっていうわけじゃないんですが、長期シリーズの後日談2本について、こぼれネタなどをいくつか。
ネタバラシ的なものもありますが……まあ再販しない本なので、いいですよね?
『魔術士オーフェン』の後日談設定って正味、どれくらいあるのか?
当時のあとがきでもちょくちょく触れた気がしますが、このシリーズって本編が第1部から第2部で完結しているものの、設定だけなら第4部までありました。
これは話を続ける予定で準備していたわけではなくて、単に思いついたからあったというだけで、おかげできちんと整理したものでもありません。
なのできっちり時系列を表なんかにしてみると齟齬もあろうかと思います。特に航海にかかる時間とかさっぱり未定なので。
まあ仮に話として書くことをイメージすると、こうなったんじゃないのかなー。的な。
『キエサルヒマの終端』が第2部〜第3部の橋渡し。
第3部は開拓団が新大陸に着いてからの話になります。
きっとわたしは、着いた直後1ヶ月から2ヶ月をすっ飛ばして、ある程度開拓村の基地が出来たとこからスタートさせるはず。
当面の話のメインは、先発したカーロッタちゃん率いる開拓村との抗争になるんでしょうけど、主人公は自分のいる村ですらほとんど信頼してもらえない、ちょいキツイ境遇です。
指揮系統的なものにそのへん現れてます。
開拓団はサルア君をリーダーとしていて、エドガー&ドロシーがスポンサーからの監視役としての代表。警備隊はメッチェンが隊長、管理職としてその上官がコンスタンス。
で、主人公はドロシーの直属で、開拓団の人たちからしてみると、煩い監視役の側の人間なわけです。
でもリソースとして否応なく頼られるという立場でもあり、こき使われます。
カーロッタ村と抗争してるうちに悪の権化、元祖魔王のスウェーデンボリー(主人公の名前がフィンランディなのはこの駄洒落になってるって言ったら、信じます?)や神人種族が登場して、しっちゃかめっちゃかになります。
ここらだけで、3年間くらいの話になるはずなんですよね。まあ途中たびたびすっ飛ばすでしょう。
その間に主人公、結婚してますし。あ、そうだ。多分、エドも(キエサルヒマを往復するスクルド号に紛れ込んで)やってきてます。
カーロッタ村との合流もなんとか果たしたというところで、キエサルヒマの混乱も一区切りついていて、「遅れてきた開拓団」が渡航してきます。マジクたち魔術士が大勢来て、また開拓村に火種が生じると。
ここでスクルド号が(船長もろとも)神人種族に沈められ、キエサルヒマとの連絡が絶たれます。
ヴァンパイアや神人種族に対して魔王術が編み出されていって、その決戦までが第3部。かな。まあこんな具合です。
ちなみに第4部は、『約束の地で』の3年後、マヨールやイシリーンといった「島の連中」が原大陸に再び渡ってきたところから始まる。と思います。多分。
その他、今回こぼれた設定
結構たくさんあったりはします。コンスタンスの旦那、エリオット・フェイズとか。息子、サイアン・フェイズとか(メモ書きには『ラチェットに良いように使われている下っ端』って書いてあるな……)。
第3部でマジクがガンダムばりに敵対ヴァンパイアと恋に落ちたり(きゃっ)。サファイア・エラガン・ヴァンパイア。
あ、こいつがブラディ・バースって呼ばれるようになるのはキエサルヒマの戦乱時、トトカンタ防衛で悪魔的な奮闘をしたせいです。
他にもなんかあったと思うけど、ちょっと思いつかないかな。メモ書きも思いつきで書いたり消したりしてるからあっちいったりこっちいったりで……
『エンジェル・ハウリング』その後
ちらっとあとがきで触れましたが、こっちも続きの設定だけはあったりします。
メモ書き見てみると『ウィッチング・アワー』ってネタと『マザーズ・ミラージュ』『グリーン・ゴースト』ってのがありました。
『ウィッチング・アワー』が(本編でも地名が出てきた)氷海を舞台にしていて、記憶のない少女ピアス・ウィッチクラフトが主人公。ジュディア・ホーント、ラオルスタン・メイジュという連中と、氷海の伝説に挑むという話。
『マザーズ・ミラージュ』が問題の(?)ミズーの娘アストラ・ビアンカ・ヒーティースが、伯母の霊、守護精霊アストラに導かれ、精霊アマワ抹殺に旅立つという話。アストラ・ビアンカ・ヒーティースは母の生き写しで伯母は母の双子だからと、同じ顔やら名前やらがたくさん出てくるもんだからなんだかややこしそうなお話ではあります。
『グリーン・ゴースト』は全然関係ない話です。語感が妙に気に入っていたミッショーの透明裸族。どういうものなんだよそれ! と自分でつっこみを入れて、その周辺の設定を考えてたら出来てた話。
読み返してみたらちょっと面白かったので載っけてみます。
肝心の「エサミィ」がなにかというのを書いてないんですが、要は透明になるっていうことを宇宙と一体になって消え失せることだと解釈した信仰を持った民族だというわけです。
でも奴隷として駆り出され、信仰を失ったエサミィは「透明になれる能力を持ったこそ泥」としてしか生きていけず、主人公メール・エサミィもそのひとり。
そっから先は考えてないです。
ちょっと皮肉な話でもあるんですけど、書くつもりのないネタを考えるのって楽しいんですよね。書かないで良いわけだから。気楽です。