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発信箱:えっ、ルーピーは誤訳?=布施広(論説室)

 「ルーピー騒ぎは誤訳事件の一種」と金子秀敏記者が書いている(5月13日「木語」)。先月14日、米紙ワシントン・ポストのコラムニストが鳩山由紀夫首相について「loopy」という言葉を使い、日本で「愚か」「クレージー」などと報じられたことへの反応だ。「頭がおかしい」と訳した(4月18日「反射鏡」)私も再検討してみたが、どうも誤訳説には賛成できない。

 事の次第はこうだ。ポスト紙のコラムニストは日本での反響に驚いてか、2週間後のコラムで、ルーピーとは「奇妙に現実から遊離していること」と説明した。例えば不倫が発覚した州知事がテレビで会見した後、別居中の妻に電話して「会見での言動、どうだった?」と聞く。こんな神経の人をルーピーと形容するそうだ。

 これを受けて金子記者は「宇宙人」と訳すのが正確だと説く。「愚か」と訳したので「首相の資質問題」になったというのだが、「愚か」の意味もいろいろだ。その知事について人々が「無神経な」「頭がおかしいよ」「バカじゃないの」「クレージーだ」と言っても不思議ではないと私は思う。従来の訳は誤りではない。知事の例はむしろ、そのことを実証したのではないか。

 それに14日のコラムには「ルーピー」に続いて「ああユキオ、米国の盟友だろう? 米軍の核の傘の下で何十億ドルも節約しただろう?」というくだりがあるのを忘れてはならない。これが米名門紙の日本観なのかと驚くが、冗談にせよ「シャレにならない」たぐいであり、つまりルーピーの一形態ではないのかと真剣に考えてしまう。

 この辺になると、日本の論客たちは奇妙に静かである。米側に何か言われると、ろくに反論もせず「それも一理ある」と内向してしまう。それが日本人の特質でないことを祈りたい。

毎日新聞 2010年5月20日 0時18分

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