各地の風力発電所の周辺で体調不良を訴える住民の苦情が相次いでいることから、環境省は来年度から4年計画で、1500基を超える稼働中の全施設を対象に、健康被害に関する初の現地調査に乗り出す。計画では、風車の回転時に出る「低周波音」と呼ばれる音波の測定や住民らの対面調査を進め、因果関係の解明を目指す。
風力発電は温室効果ガスの削減に欠かせない「再生エネルギー」として期待され、国が導入を推進。1990年代後半から各地で建設されてきた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、今年3月時点で、40都道府県376カ所に設置され、計1517基が稼働中。環境省には周辺住民らから騒音や体調不良、環境破壊といった苦情が寄せられているものの、因果関係は分からず、全国的な実態の把握にも至っていない。
このため、同省は来年4月から風車の周辺で苦情の有無を確認し、とくに体調不良を訴える住民がいる場合は症状を把握する。測定機を住宅内に設置するなどして、風車と住宅との距離や周辺地形なども踏まえ、風車と健康被害との因果関係について調べる。
風力発電所は、環境影響評価(アセスメント)法の対象から外れている。同省の中央環境審議会の専門委は11月、アセス対象事業に風力発電所を追加する中間報告をまとめた。今回の調査結果は、アセスメントで低周波音についての「規制値」を導入する場合の指標にもしたい考えだ。
同省大気生活環境室は「再生エネルギーとして風力発電の導入を促進しているわが国では、低周波音が人体に与える影響の解明は喫緊に対応すべき問題と考えている」としている。
風力発電は中小の事業者も含めると100社を超えるとされる。朝日新聞の取材に対し、複数の事業者は「低周波音について、科学的な解明がされれば、それに従いたい」と話した。(伊藤綾、武田剛)