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[16394] F REAL STORY  【スーパーロボット大戦Fっぽい】 
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/18 22:25
F REAL STORY


前書き、又は注釈。
このSSは今をさること十年以上前に書き始めたものです。『コロニー連合SRW』というサイトでの投稿から始まり、
自分のサイト、『川口代官所』というところで連載していましたが、色々な諸事情によって、消滅していました。
このサイトで、何とはなしに自サイト名を検索したところ、09年まで捜索してくれている人がいたのを見て、
終わらせないのは、やっぱり無責任だなぁと感じ再開を決意し、ここに投稿させてもらうことにしました。

元ネタは『スーパーロボット大戦F』です、がもう片鱗すら見えないくらいイジリ倒してます。
このSSの最大の売りは主人公キャラ八人を全員出していること、でしょうか?
α以降のスパロボファンには、なんだこりゃ的な設定が多数あるでしょうが(特にゲシュペンストが…)、
その手の細かい設定がでる前だったんだと暖かい目で見てくださるとありがたいです。
自分が本当に書いていたんだという証拠代わりに、何話か事に自分しか知らない裏設定的なことを
あとがきで書いていく予定です。

ちなみに主人公カップリングはリン=マオと、レナンジェス=スターロードになっております。
なんでこの二人にしたのか、自分でも謎なんですが・・・・・・

では、数年ぶりの復活、小心者ですので、チラシの裏から、様子見させていただきます。

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その他の板へ変更させてもらいました。
今後共、よろしくお願いします。





[16394] F REAL STORY  プロローグ01 【これだけR-15位】
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/22 22:20
 

カリフォルニア・べースを飛び立って、二時間あまり。
ヘクトール=マディソン少尉が操縦するガンペリー21号機は、あいにくの悪天候にもかかわらず、高度千メートルを毎時800キロで飛行している。
目的地は、北極にある連邦軍第8ベース。
そして私は、そこから宇宙に上がる。
このガンペリーに積まれた、ゲシュペンストと共に。
私はリン=マオ。連邦軍少尉。

「でもよー、リン。なんでこれ運ぶのに、俺にお呼びがかかったんだ?」
声だけ聞くと、この見事な操縦をしているとは思えなくなる。
へクトール=マディソン。士官学校同期で、私の数少ない男友達。
卒業後は北米第10師団第2飛行大隊に任官している。普段はガルダクラスを操縦しているのを、無理言って来てもらった。
「あいにく私は、お前以上のひこーき乗りを知らないんでな」
ちなみに「ひこーき乗り」という言い方はへクトールの受け売りだ。彼は自分のことを他人に紹介するときいつもこう言う。軍人はついでにやっているそうだ。
「ま、それは光栄のいたりですな」
彼独特の拍子抜けするような笑顔。
4ヶ月ぶりの再会だが、軍の風紀も彼を変えるにはいたらなかったらしい。
私は、そのことが少し嬉しいと感じている。
「それに、このPT計画に関わる人間をあまり増やしたくないと、オダ大佐は言っていたからな。今から行く北極の連中も、何を上げるかは知らないはずだ」
すると、へクトールが何か助平たらしい笑みで、こっちを見た。
「な、なんだ、その顔は」
思わず声がうわずる。
「え、あっしの顔に何かついてますかい?」
「ヘンな顔を近づけるな!前を見て操縦しろ!」
「ヘンとは失敬な。そーいやジェスの野郎、元気でやってっかなー」
「うー、どうしてそこでジェスが出てくる!」
「だって俺、ジェスに会うの久々なんだよねー。誰かさんはどうかしんないけどー」
へクトールは声まで助平たらしくなっている。
「私だって4ヶ月と3日ぶりだ!」
「で、リンちゃんは楽しみで夜も眠れなかったと」
「なな、なんで知ってる!!」
私は思わず座席から立ち上がった。へクトールは、うっ、しまった・・・
マッチョな悪魔が二ヘラと笑っている、そう見えた。
「へぇ、そうなんだ。ふーん、リンちゃんて可愛いとこあるねぇ」
私は、耳まで真っ赤だ。うぅ、この筋肉だるまが・・・事実だけに、反論ができない・・・
「まぁ、脱線しちまったけど、ジェスは知ってるのか? リンが行くってよ」
墜落覚悟で、奴を蹴飛ばそうとした矢先、急に話題を変えられた。うぅ、負けた気がする。私は乱暴に腰をおろした。
「手紙で知らせておいた。ジェスはこの積み荷については、個人的には知っている。私が言えるのはここまでだ」
で、私はそっぽを向く。これ以上、この筋肉だるまのペースに巻き込まれたら、何を口走るかわからない。
「ま、いっか。じゃ、揺れまっせ、お客さん」
ふと外を見る。いつの間にか、風に白いものが混じっていた。
さすがのへクトールも、軽口を叩いていられなくなったようだ。モニターに写る気象情報は、かなり過激になっている。普通なら、こんな悪天候で、
こんな低空フライトをやるなんて正気の沙汰ではないのだが、これも極秘プロジェクトの悲しさ、私と積み荷を宇宙に上げるまでのスケジュールは、
かなり狭い時間に限られている。
まぁ、こいつにまかせておけば、間違いあるまい。小刻みにゆれるシートが妙に心地よい、瞼がだんだん重くなる・・・
もう少しで会える、ジェスに・・・

夢を見た。
私、子供のころの私がいる。泣いている、悲しんでいる。
お母さんが死んだときの私だ。父の背中にむかって泣き叫んでいる。悲しみを少しでも伝えたくて、必死に叫んでいる。
しかし、父は振り向いてくれない。背を向けたまま、動かない。
悔しくて、悲しくて、小さい私は泣き崩れている。
「おじさんも、悲しいんだよ」
後ろから優しい腕に抱きしめられた。
場面が変わる。
ベッドに横たわっている。裸だ。私は、男の胸に顔を埋めている。
「俺は、そう思うよ。きっと、悲しくて悲しくて、そんな顔、リンに見せられなかったんじゃないかな」
納得いかない私。しかし、彼は優しい。そう、優しい。
「今は俺がそばにいる。それじゃ不満か」
私の髪を撫でてくれるその手。満たされていく、気持ちいい。
「もう少しで会えるね、ジェス」
その自分の言った言葉で、私は気づいた。これは夢なんだと・・・

「お、お客さん、起きなすったね」
目を開けると、外の景色は一変していた。
白、白、白一色。
高度は500メートル位か?雲一つない夜の中を、白い大地が続いている。
「これが、北極圏か・・・?」
神秘的な情景に、私は二の句が継げない。見とれてしまう。
「あと、五分てとこだな」
鼻歌まじりに、計器を確認するへクトール。六時間にも及ぶ単独フライトに疲れ一つ見せない。さすがひこーき乗り。感嘆してしまう。
「しかし、よく寝れたな、あの揺れで」
「え?」
そんなに揺れていたのか? 全然、わからなかった・・・
「頭がぐらんぐらんするんで、見てるこっちが心配したぞ」
と、おちゃらけて『ぐらんぐらん』と頭を振ってその様子を再現してくれる。たしかにヘクトールの言う通りなら凄いかも・・・
「あー、こちらガンペリー21、北極ベース、応答ねがいます」
返答に窮する私を無視して、通信をひらくへクトール。
「こちら地球連邦軍第八基地。ガンペリー21、パスワードを送れ」
程なくして応答があった。雑音まじりに女性兵士の声が聞こえる。
「パスワード?」
私はそんなの聞いていない。しかしへクトールはあっさりと
「そしてリンちゃんは、かぼちゃの馬車でお城に到着」
と言った。へ、今なんて・・・
「・・・パ、パスワード、照合オーケーです。ようこそ北の果てに、御到着をお待ちしております」
・・・明らかに、女性は笑いをこらえていた。
「なんだあのパスワードは!!誰が考えた!!」
通信がきれると同時に、私は怒鳴りつけた。これじゃ笑い者のさらし者だ。しかし、筋肉だるまは涼しい顔でこう言ってのけた。
「俺」
プチッ!! 何かが切れる音が私の中でした。

「ほ、北極ベース、救急車を用意してくれ・・・」
顔に碁盤の目のような赤い筋をつけたへクトールがかすれた声で通信を送っている。
当然の報いだ。
北アメリカ大陸北部旧アラスカ州あたり、北極との境に連邦軍第8ベースはある。
別に北極にあるわけではない。
ここが、連邦の基地の北限だからそう呼ばれているのだ。
「思ったより、貧相だな・・・」
使いようのない広大な土地に、古ぼけた基地の設備が点在している為だろう。
あの太陽のようなジェスには、ふさわしいとは思えない。
士官学校を優秀な成績で卒業したものが、最初に任官するところではない・・・
「お、あの妙にきびきびしたネモ、ジェスじゃないか?」
へクトールの言葉に、無意識に視線を移す。
指定された大型ヘリポートに、馬鹿でかいスコップで雪かきしているネモがいる。こちらに気がついたらしく、作業を止めブンブンと元気に腕を振りだした。
一見、簡単に見える人間的動作を、これだけ流麗に出来るのは・・・
「ジェスだ!」
間違いない、私が間違えるはずがない。
やっと、会えた・・・
視界が霞んでいく。私が、泣いている・・・
普通の女の子みたいに、嬉しくて涙を流している・・・
妙な可笑しさが、こみ上げてきた。
「着陸すんぞって言っても、聞いてないよね」
へクトールの言葉も聞こえない。今の私は、ジェスが乗っているネモがだんだん大きくなっていくのが、ただ嬉しかった。
涙は止まらなかった・・・

ネモのコックピットから、白いノーマルスーツが勢いよく飛び降りてきた。
そのまま、私のもとへ駆けてくる。
動けない。足が震えている。また、涙がこみ上げてくる。
自分が、こんなに弱いとは思わなかった。
ヘルメットを外した。
久しぶりに間近に見る愛しい顔。激情が、私の全身を炎のように駆け巡る。
もう我慢できない・・・
我が手にジェスを抱きしめたい・・・
駆けだそうと、足を前に出したその時・・・
「おおーっ!!あいたかったぜー、ジェース!!」
怒声とともに、私より先にジェスに抱きついた奴が・・・
「おぉー、我が友よー!!」
「なんだー、きさまー!その引っ掻き傷だらけの顔を近づけるんじゃねぇ!」
再会が・・・ あぁ、感動の再会が・・・
プッツン・・・
私の意識がとんだ。

「リン、久しぶりだな」
で、仕切り直し。地面に頭から突き刺さっている筋肉馬鹿は、あえて無視する。
「うん」
優しく男らしい、私の大好きな声がする。
「元気だったか?」
私とたいして違わない背丈、でも私には誰よりも大きく感じる。
「なーに泣いてるんだよ、リン」
そして、大好きな笑顔。私の髪を撫で付ける手。
ジェス、レナンジェス・スターロード。
だめだ・・・軍人としての自制が消し飛んでしまった。どんな懲罰を受けてもかまわない。
「ジェス!」
私は愛しい人を抱きしめた。そして・・・
荒々しいキスを、彼の唇に。
周りの歓声も、好奇の視線も、半死人の筋肉サボテンも気にならない。
このまま時が止まって欲しいと、本気で願った。

「リン、いやマオ少尉とマディソン少尉をお連れしました」
17分30秒にもおよぶ長いキスののち、私とジェスと他約一名は、この基地の最高責任者、ジョーダン・タケダ大佐の司令室にいた。
「リン・マオ少尉です」
にやけた顔を見ないように、なるべく平静を装って敬礼する。
さすがに・・・ 恥ずかしい・・・
「へクトール・マディソン少尉であります」
コンクリートに頭から叩きつけてやったというのに、もう回復している馬鹿も厳粛に敬礼する。しかし、こいつがやるとどーもわざとらしい。
「ご苦労、スターロード少尉」
タケダ大佐は東洋系の小柄な中年男性だ。似合わない長髪、猿みたいな顔、噂に聞いた切れ者とはどうも思えない。さらに、あのニヤけた顔。あ、これは私のせいか・・・
いくら、愛しの人との再会とはいえ、重要任務についている軍人が、あんな事をしてしまったのだ・・・下手すれば懲罰の対象になるかも・・・
しかし、私はこんなに恥ずかしいのに、その相手のジェスは平然としている。
なんか不公平な気がするぞ・・・
「マオ少尉」
独特のトーンをもつタケダ大佐の声で我にかえった私。そうだ、何があっても毅然とした態度でいよう。これ以上ジェスに迷惑をかけるわけにはいかない、うん。
「まぁ、オダからの打ち上げ要請、明朝9時に予定している。それまでの、14時間弱しかないが、恋人との逢瀬、じゅーぶん楽しんでいってくれたまえ」
私の引き締めた顔が、また赤くなって緩んでしまう。なにを言い出すんだ、この司令は・・・
「なににやけてるんだ、マオ少尉殿」
くだらない茶々をいれたマディソン少尉の足の甲踏みつけ、私は面をただす。
「お気持ちは嬉しいのですが、少官はいま極秘任務に・・・」
「そう、硬くなるなよリン」
私の言葉を、ジェスが優しくさえぎる。
「ここじゃ、タケダ司令の薫陶の賜物で、軍規なんて緩みっぱなしなんだから」
緩みっぱなしって・・・それを聞いて何故かタケダ大佐は偉そうに肯いている。威張れることじゃないだろうに・・・
「まぁ、17分も熱い接吻を交わせる基地なんて、俺のとこくらいだよ、うん」
「その件について、ジェスには責はありません。すべて・・・」
「あいや暫く」
また私の言葉が遮られた。
どうもこの司令、軍人とは思えない。オダ大佐が「変わり者の巣窟」と北極ベースを表していたが、これほどとは・・・
「俺の基地において、ああいう愛の行為は懲罰の対象にはならない。明日の今頃はお宇宙の中にいるんだ。ここで恋人に甘えたところで、罰はあたらんよ」
そこでしたり顔で肯かれても・・・うー、どうすればいいのだ。
「甘えよう、リン。俺もお前とH出来るの、楽しみだったんだから」
不意に、耳元でジェスが囁く。
「馬鹿・・・」
小声で言い返すのがやっとだ。それは少しは期待してたけど・・・
「俺も期待していいのか」
いつのまにか私の横で聞き耳をたてていやがったへクトール。そのスケベ面に渾身のラリアートを叩き込み、馬鹿を壁に叩き付ける。
そして直立不動になおり敬礼。
「では、お世話になります」
たぶん、私はにやけていた・・・

「ここが、ジェスの、部屋か」
食堂での夕食、つもる話いろいろ、へクトールの監禁拘束、そして私は今、ジェスの部屋にいる。
私の知らないジェスの部屋だ。
さすが士官の部屋、広くて安心した。
彼の宝物、樹齢二十五年の年代物の盆栽『旭』が置かれている。
机の上には、よし、私の写真がある。それと去年の夏、8人でいった海の写真も。へクトール、パット、グレース、イルム、ジェス、私、ウィン、ミーナ、
みんなナイメーヘンの同期。グレース曰く[仲良し8人組]だそうだ。
ちなみに昨年度の卒業生の上位8人でもある。
「綺麗にしてるんだな」
ベッドに腰を下ろし、最後の確認。よし女っ気なし!
「ばーか」
隣りに座り、髪を優しく梳いてくれる。私の心配事などお見通しらしい。
「ジェスは私の浮気の心配、しなかったのか?」
私は彼と二人きりの時にしか発動しない、小猫モードになっていた。
ゴロゴロと、彼にじゃれついていた。他人には見せられない二人だけの秘密だ。
「私は、毎晩毎晩、変な女がジェスにまとわりついてないか、それだけが心配で・・・」
私はジェスをベッド押し倒し、顔をぺろぺろと舐めはじめた。困った顔してもなすがままのジェス。優しく私をあやしてくれる。
「それなのにジェスから来る手紙は、海豹とのツーショットや、白熊とのツーショットの写真ばっかなんだもの。少しは遠くに離れた恋人を、心配しなかったのか?」
そうなのだ、ジェスからくる手紙は、どうやって撮ったのか不思議なのだが、野生の白熊と肩をならべてのツーショットや、海豹の群れのなかでブイサインを決めている写真に『俺は元気だ』と一言書かれているだけなのだ。
らしいといえばらしいのだが、少し物足りなかった。
「俺が心配したのは、リンが一人で夜、泣いてないかくらいだよ」
ジェスが悪戯っ子のように笑う。
「こらっ! それはもう言わない約束だろうが」
私は少しむくれてジェスの唇に乱暴にキスをした。
あぁ、少しずつ、でも確実に、私はジェスで満たされていく。
とても幸せだよ・・・ ジェス・・・

また、夢の中に私はいた。
ちょうど、ジェスの家にあずけられたころの私になっている。
私は母の死が原因で、心の病になっていた。失語症と、夢遊病、それに人間不信。自分の外とのコミュニケーションがとれなくなっていた私が、信じられたのがジェス、彼だった。
四六時中、私は彼の側にいた。朝も昼も夜もずっと一緒だった。彼の姿が視界から消えるのは、お互いがトイレにいってる時くらいだった気がする。
夢の中の私が、ベットで目を覚ました。
広いベットだ。部屋も広い。寂しい広さだ。
あたりを見回す。ジェスがいない。となりにいるはずのジェスがいない。
彼を呼ぼうとする。しかし声が出ない。私は声を出そうと、大好きな男の子の名前を呼ぼうとした。しかし、私の思いは音にならない。
私は、泣き始めた。
私には、泣くことしかできなかった。

軽い違和感を感じつつ、私は目を覚ました。
私はジェスに覆い被さったまま、いつのまにか眠ってしまったらしい。
二人とも裸で・・・あ、まだ、繋がったままだ・・・
あぁ、昨夜の記憶が跳んでいる。
でも・・・
こんなに間近でジェスの寝顔を見れるなんて、なんか幸せだ。
昔は、いつでも側にいてくれたのにな。
両手で彼の寝顔を包むようにふれる。
「おきたのか、リン」
目を開けずに、半分寝てるような声だ。
「あぁ、打ち上げ六時間前には起きるのが決まりだろ」
地球からシャトルで宇宙に上がる場合、搭乗員は6時間前に起床というのが連邦軍の決まりになっている。宇宙コロニーが数百とあるこの時代でさえ、人が宇宙に行く道のりは、色々と楽ではないのだ。
ちなみに今はここの時間で、午前三時十分前だ。
「じゃ、シャワーでも浴びてこいよ、俺はまだ寝てるからぁ」
「いやだ」
私の反抗に、ジェスは薄目を開ける。焦点があわないくらい近くに、私の顔が見えるはずだ。
「・・・リン、抜いてくれないかな」
漸くジェスも、現状に気がついたようだ。
「い・や・だ」
私は悪戯っぽく答える。
「まだ、十分あるから、もう一回・・・」

熱いシャワーを浴びながら私はある事件のことをを思い出していた。
ジェスがこの基地に配属される原因となった、あの忌まわしい事件のことを。
五ヶ月程前、まだナイメーヘンに席を置いていた私は、ある男から異常な求愛を受けていた。
相手は、サルト=ハイマンという男。運悪く、私たちの教官だった。
ハイマンは、ことあるごとに私を下らない言葉で誘ってきたが、ジェスがいる私が相手をするはずがもない。
きっぱりと断り続けた私に対し、奴は不埒にも実力行使にでた。
後で聞いた話なので、詳細は知らないのだが、奴は候補生三人と薬物を使って私と、たまたま一緒にいた友人のミーナ=ライクリングを埒して、レイプしようとしたそうだ。
ちなみに使われた薬物のせいで、私にはこの時の記憶がまったくない。
その悪辣な企みは、結局失敗に終わった。
『仲良し八人組』の、のこり六人が上手く連携して、私とミーナを助けてくれたのだ。
しかし、そこで問題が起きた。
一つはハイマンの父親が連邦軍の中将だったこと。
もう一つは、ジェスがやりすぎたことだ。
私は、裸にされ、本当に危なかったそうだ。それを見たジェスが切れてしまい、ハイマンを文字どおりボロボロにしてしまったのだ。
頚骨粉砕骨折、左眼球破損による失明、肋骨全骨折、精巣使用不能などなど、
命が良く助かったというくらいの天罰を、ジェスはあたえてしまったのだ。
同じく現場に踏み込んだイルムハルト=カザハラは、「ジェスが怖くて手がだせなかった」そうだ。
怒った父親は、やりすぎだとジェスを非難。ジェスを退学させ軍刑務所にいれろと喚きだした。この子にしてこの親ありだ。
ジェスの行為にやりすぎの感はあったが正当な行動だと弁護してくれたのが、アーウィン=ドーステン。ハイマン教官の悪事の様々な証拠を出し、ハイマン教官こそ銃殺されて然るべきと訴えた。
彼が首席で、彼の父親が連邦政府の高官であったこともあり、ジェスにはお咎めなしが下ったのだが・・・
卒業間近になって、ジェスに北極ベース配属が急に言い渡された。それまでは私と一緒にテスラ=ライヒ研への出向、ということになっていたのにだ。
あのハイマンが圧力をかけてジェスの任地をかえさせたらしい。
軍人であるがゆえ、どんなに理不尽でものでも、命令は絶対だ。
そして、私とジェスは、離れ離れになってしまったのだ。

シャワー室から出てくると、ジェスは既に制服に着替えていた。軽いストレッチなぞやっている。
「早く着替えろ、リン。飯食いにいくぞ」
「あぁ、でもどうした、ストレッチなんてして?どっか痛いのか」
「やりすぎで、腰が痛いんだよ」
ジト目で私を見るジェス。うー、やりすぎで非難されるなんて、初めての経験だ。
「おーす、ジェス、リン。飯食いに行こーぜー」
のーてんきな声と共に入ってきたのは、例の筋肉ダルマ、へクトールだ。邪魔されないように縄でグルグルグルグル巻きにして、部屋に閉じ込めておいたのだが、抜け出してきたらしい。
あん? 何故か私を見て固まっている。
「……リン、服きろ」
ジェスの言葉・・・あ、あぁ、まだ何も着ていなかったんだ、私・・・
「見るなぁーーーーーーー!!」
私は真っ赤になって、右の正拳突きでへクトールを部屋から叩き出した。
「俺が悪いのかーっ!!」
奴の悲鳴が尾を引いて遠ざかっていく。
ふん、私の美しい裸を見てその程度ですんでるんだ、有り難く思え!

「しかし、お前もタフだよなー」
がつがつと食事をとるへクトールをみて、ジェスは呆れ半分感心半分といった声を出す。
「こいつは頭足類から異常進化した怪物だからな。鎖で縛って北極海に沈めるべきだったよ」
と私。でないとこいつの回復力は説明つかんぞ、本当。
基地内にある食堂。朝早いので、私とジェスとへクトールしかいない。
私としては、好都合だ。周りに気兼ねしないでジェスといられる。
「ウィンの奴、もう昇進したのかよ」
それに色々な基地を、どさ回りのようにガルダやミデアで巡っているへクトールから、仲間についての情報が聞けた。
ティターンズとかいう新しく設立された組織に任官したウィンは、もう中尉に昇進したらしい。何の酔狂か、へクトールとつきあっているパット、パトリシア=ハックマンとミーナは、ジャブローにいて変わりなし女学生のノリのままとのことだ。グレースはルナ2にいて、これまた相変わらず誰彼と、惚れまくっているらしい。
「しかし、イルムが行方知れずとは」
一番、驚いたのがそれだ。情報部に配属されたスケコマシは、もう二ヶ月も連絡がとれなくなってるそうだ。
「任務で西アフリカにむかう途中で、ヘリごと消えちまったんだって。何やってんのかねぇ」
「女の尻をおっかけてるのは確かだろ」
「いえてる」
私も含めてだが、誰もイルムが死んだとは思ってない。へクトールとイルムを殺すには、至近距離からのハイメガ粒子砲三連射くらいしないと駄目だ。
「で、リンちゃんはロンド=ベルに転属と。考えてみれば一番の出世頭でないか」
「そーだな、あのロンド=ベルだもんな」
へクトールとジェスがわざとらしく羨望の眼差しで私を見る。
ロンド=ベルに配属。
ゲシュペンストの実戦テストを兼ねているとはいえ、あの『救国の英雄』と言われる独立部隊への配属は、羨望の対象になるものだろう。喜ぶべきかもしれない。
しかし、私の心にはある想いの方がずっと大きい。
また、ジェスと離れ離れになってしまうのだ。
もう、二人とも子供ではない、ずっと一緒といたいというのは、私の我侭だ。
でも・・・
結局、私はあの頃から全然成長していないのかも。泣きながらジェスを探したあの頃と・・・

UHHHHHH-!!


突然の警報。暗い思考の中に沈みかかっていた私を、現実に引き戻してくれた。
「敵襲!」
ジェスが言葉短く席を立つ。
「この基地で今狙われるモノったら、あれっきゃねぇ!」
「ゲシュペンストか!」
私の言葉に、ジェスは厳しい表情で頷く。
この時から、はじまったのだ。
私達の戦いが・・・

私たちはまず、司令室に向った。
基地内が俄かに活気づく。
「司令、入ります」
ジェスを先頭にノックもせずに司令室に駆け込んでいくと、タケダ司令は机に仕込まれたモニターに、矢継ぎ早に指示を与えていた
「とにかく、一分でも早く打ち上げられるようにしろ、それが最優先だ!」
そこで、漸く私達に向き直り、一息ついた。
「いやぁ、まいったことに、敵襲だ。あと五分もたたずにここは戦場だぞ」
急に緊張感がうせるような笑顔で、司令は言った。ボリボリと頭なぞ掻いている。
「敵は、潜水艦ユーコンタイプ二機、本基地の北十キロのところに浮上した。まずはミサイルの雨、次にモビルスーツによる攻撃というのがまぁ、セオリーだろう」
壁に埋め込まれたスクリーンに、基地周辺の俯瞰図がでる。敵は氷に覆われた海面をぶち破って出てきたらしい。
「で、マオ少尉。予定が繰り上がって申し訳ないが、これより打ち上げにはいる。シャトルに向ってくれ」
急に話をふられ、私は焦ってしまった。この状況での打ち上げは、無謀でしかない。
「司令!この時点での打ち上げは、無茶無謀無理です!延期してください!」
すると、ジェスが私の気持ちを声高に代弁してくれる。
「私も、貴官と同意見だ。しかし・・・」
苦虫を思いっきり噛み潰したような顔で、タケダ司令は一枚の紙切れを私達に見せる。
それは、統合作戦本部からの命令書だった。
「何があっても、Gの打ち上げの中止、延期は認めないーだぁ!」
へクトールが、問題部分を読み上げる。これは、何だ?悪意の塊、タイミングのいい嫌がらせにしか見えない。
「ロンド=ベルに輸送終了まで、Gの使用も厳禁とする、か・・・」
私が続きを読んだ。やり切れない悔しさが、全身を駆け巡る。
「この見事な先制攻撃は、ジャミトフ中将閣下が手を回したものらしい。ティターンズのやっかみ、といったとこだ」
ビリビリとヒステリックに命令書を破るタケダ司令。その言葉が私にある言葉を思い出させた。
『ジャミトフ殿の新しモノ好きにも困ったものだ。ゲシュペンストをよこせと五月蝿くてかなわんよ』
と、オダ大佐は言っていた。つまりこの敵襲は・・・
「これは、味方が敵に情報を売った、ということですか?」
ジェスが静かに問う。ジェスが本当に怒っているのが私には痛いほどわかった。
「七十点、てとこだ。ジャミトフの狙いは、敵に襲われている我が基地に、救援と押し入って、Gを保護と称してかっぱらっていくことだ。まーず、間違いない」
何てことを・・・私のティターンズに対する感情は、今攻めてくる敵よりも遥かに憎悪の対象になっていた。
「まぁ、悔しいが証拠がない。しかし、あの狐爺の陰謀をだまって見過ごすのも癪だ。マオ少尉、わかってくれたかね?」
真摯な眼差しで司令は私を見る。私はそれを瞳を見返し、敬礼する。
「了解しました」
私の心は決まった。こうなったら、意地でも宇宙に上がってやる!

私用に特別にあつらえられたパイロットスーツを着込み、モビルスーツゲージに駆け込むと、ジェスの乗った寒冷地用のネモが待っていた。これに乗ってシャトルのところにいくことになっている。確かに下手な車よりMSのほうが、速いし確実だ。
「リン、乗れ!」
歩きながら、ネモが屈んで手を差し伸べてくる。タイミング良く飛び乗るや、すぐにその手が腹のコックピットに来る。ジェスのMSの操縦能力は、本当に凄い。人間のように機械がスムーズに動くのだから。
「お邪魔!」
私がコックピットに飛び込むや、ハッチが閉まり、ネモはゲージから駆け出していく。
バーニアを噴かして飛び上がや・・・
「きた! ミサイル!」
ジェスの邪魔にならないように、リニアシートの背もたれにしがみついている私は、雨のように降ってくるミサイルに思わず声を上げる。
「わかってる! 」
気合い一発、ジェスが右手のマシンガンを連射させる。寒冷地では、ビーム兵器より実弾兵器の方が信頼が高いので、ジェスは100ミリマシンガンを装備していた。
跳び上がりながら、ミサイルを次々と撃破していくジェス。ネモの能力を十二分に発揮していた。これならガンダムクラスと張り合えるかも。
「つかまってろー、リン!!」
着地、そしてその勢いを殺さずにジャンプ。バーニア全開、急速上昇。そして再びミサイル迎撃。
「すごい、ジェス・・・」
私は感嘆することしか出来ない。ミサイルは基地に命中する前に、殆どが迎撃されているのだ。しかも、その内の四割は、多分、ジェスの乗るネモによるものだろう。私をシャトルに運んでいるというのにだ。
ナイメーヘンでも、MS操縦においてはウィンすらかなわないと認めたジェスだけど、実戦においても、ここまで凄いとは・・・
「よーし、見えてきたぁ!」
あまりに見事な操縦を目の当たりにして、私は何故、自分がジェスとここにいるのか、忘れてしまっていた。
ジェスの言葉通り、シャトルが見る間に大きくなってきた。
PT計画の為にだけ造られた、使い捨ての特別シャトル。昨日ガンペリーで運んできたコンテナに、無理矢理ブースターと翼をつけて、ロケットに乗っけただけにしかみえないけど・・・
あれで宇宙に行くのかと思うと、少し不安になるな・・・
「よーし、あと十分もかからないで打ち上げできる。へクトールも上手くやってくれてるようだし、勝ったな」
へクトールは、基地にあったファンファンに乗って、上陸してくるMSに、嫌がらせをしている手はずだ。
奴のお陰か、敵の怠慢かは知らないが、近くにMSの反応はない。
「ようし、到着」
シャトルの脇に、ネモをつけたジェス。コックピットのハッチが開く。
「・・・これでまた暫くお別れだな、リン」
ゆっくりと私に振り向く。その瞳がすごく優しい・・・
「出来れば、俺もついていきたいんだが、ここまでだ」
ジェスの言葉、私の瞳からまた涙が・・・そうだ、この先、ジェスはいないんだ、私の隣りに・・・
「ジェス・・・」
それしか言葉が出ない、ジェスに別れの言葉なんていいたくないよ。
「今度、会うときは、キスは短めに頼む。それとなるべくなら人前は止めてくれ」そして、泣いてる私を引き寄せ、彼から唇を重ねてきた。
あぁ・・・ジェスの方からからキスされたの、久しぶりだ・・・
繋がっている。
そう確信できた。不安になることなんてない。私達の心は繋がっている。
ずっと、ずっと・・・
昔も、今も。そして未来も。
「うん、私、頑張る。宇宙でも、ジェスの分まで・・・」
優しい大好きな顔を見つめながら、私は言った。もう、泣かない。私は一人じゃない。心の底からつながっていれば、距離なんか関係ない。
「いい子だ、リン。行ってこい」
その言葉に押し出されるように、私はコックピットの外に見える、シャトルの乗降ハッチに飛び移
る。ジェスを見つめながら、シャトルに乗り込もうとした時、
「すまねぇ、二人とも!! 二機そっちに行った!! 青いズゴックとハイゴック!」
へクトールのの切羽詰まった声が、私達を戦場に引き戻す。
すると、ネモのコックピットから、警告音。ジェスの顔が引き締まる。
「リン、俺が護ってやるから、心配すんな。行け!」
決意、それがジェスから溢れている。
「私の命、預けたぞ」
私の答えに満足したのか、ジェスはハッチを閉めた。ネモが駆け出していく。
相手は二機。しかも水陸両用の重MSだ。ネモでは不利だけど・・・
私は信じる、ジェスなら護ってくれると。



-プロローグ 02へ-


 後書き
 長くなりすぎるのもなんなので、一旦切ります。
 昔、サイトに掲載していた時のプロローグは150KB超だったそーな、長ければいいって
考えがあったんです、昔の自分には。
 ちなみにガンペリーが出た理由は、『MS08小隊』に出ていたGMを運んだガンペリーの
カッコ良さに自分が参っていたからだったはず。
 タケダ司令のイメージは昔の武田鉄矢さんから取ってます。



[16394] F REAL STORY  プロローグ02
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/23 23:05
シャトルを支ええている発射台は、余りにもお粗末なものだった。たしか普段は気象観測用や通信衛星用の無人ロケットを打ち上げるのにしか使われてないのだから仕方ないか。備え付けの階段を駆け登り、シャトルの唯一の入り口にたどり着いた。コンテナの横っ腹にあるそれは、これからの打ち上げに耐えられるのか多少の不安が残るが、今はそれどころではない。
私は、ポケットに突っ込んであった掌サイズの携帯端末に、開錠コードを打ち込むと、鈍い音と共にドアが横にスライドする。この携帯端末は、ゲシュペンストのメインコンピューターと繋がっている特別製で、一見すると大き目のコンパクトにしか見えない。一昔前のスパイ映画の小道具みたいだが、これはゲシュペンストの設計開発者である、私の父の趣味だ。
シャトルの中には、積み荷であるゲシュペンストが、様々な予備パーツの小コンテナに挟まれながら、窮屈そうに収納されている。
私の接近を感じ取り、腹部のコックピットのハッチが開く。乗降用のケーブルが降ろされた。私がそれを掴むと、自動で巻き上げが始まる。
ゲシュペンストのコックピット、連邦軍にもDCにも、これと同じタイプのはないだろう。
標準より二回りはでかいリニアシートに左右のことなる操縦レバーと、両足を置くペダルがついているだけなのだ。かなりあっさりしている。
私はシートにヒップアタックを食らわせるかの勢いで、ゲシュペンストに乗り込んだ。シートは衝撃を柔らかく受け止め、私の体を固定していく。こいつにシートベルトはない。
左右異なる(簡単に言うと、右が横棒、左がボール型)レバーに手を置くと、二重ハッチが閉まり、一瞬の暗闇、そして前、横、後ろと360度外部映像が映し出される。そして、ここからがゲシュペンストならではだ。
「レナン! タケダ司令と通信を開いて!それとこの基地で行われている戦闘の情報を、シャトルから近い順に出して!」
すると、私の前に四十cm位の正方形が出現した。それがさらに小さい正方形に別れ、四種類の異なる映像が映る。
空間映像投射システムによって造られた、情報表示ディスプレイ。宙に浮いているので、フライウィンドウ=FWと名づけられた、ややこしいシステムだ。音声入力によって命じられた事を、ゲシュペンストのコンピューターが最適と思われる大きさのFWを浮かび上がらせて答えていくのだ。これも父が考え出したものだが慣れるまではこのFW、えらく鬱陶しい。
ちなみに『レナン』は私がコンピューターにつけた名前だ。誰からとったなんて言わなくてもわかるだろう。
左上にタケダ司令が映っている。どうやら司令室で無事らしい。だが忙しそうだ。
「司令、Gに乗り込みました! 」
敬礼もせずに怒鳴るように状況報告、ナイメーヘンの実習でこんなことやったら即減点だろう。
それを聞いて、タケダ司令は破顔一笑、声も弾んで簡潔な指示を出す。
「よーし、カウント150で行くぞ!よろしく!」
そして、不器用なウインク一つして、
「幸運を祈る」
と通信がきれた。ふふ、何故か格好よかった。
「レナン、シャトル発射準備、カウントは150で」
すると、さっき通信に使っていたFWに『了解、マスター』と文字が出て、それが数字の150にかわり149、148と減っていく。この即席シャトルの操縦は、このコックピットからやることになっているのだ。といってもやるのはレナンだけど。
やることがなくなった私は、外の戦場の様子に目をやる。ジェスは大丈夫だろうか・・・やはり、心配だ。
シャトルの外部に取り付けられたカメラから、はっきりと映っている映像は一つだ。あとはぼやけて解りづらい。
その一つに、ハイゴックのモノアイに、ビームサーベルを突き刺しているネモが映っていた。これがジェスだ、絶対! 格好いいっ!!
「これを全面投影、後はカット!」
これ、と目当ての画像に触れると、その画像がコックピットのメインスクリーンに映し出され、他のFWが消える。大迫力だ、うん。
ジェスのネモは、ハイゴックを蹴飛ばし、ビームサーベルを引き抜いた。そして青く塗られたズゴックと対峙する。レナンのカメラワークは絶品だ。戦場の緊張感が上手く出ている。
よく見ると、ジェスのネモはシールドは欠けてるし、至る所に引っ掻き傷がある。けど、動きには支障は無さそうだ。
対するズゴック、こちらは無傷だ。今、この場に着いた所なのだろうか?
間合いは・・・ジェスに不利だ。ネモの武器はビームサーベルのみだが、ズゴックは両腕のビーム砲、頭部ミサイル、それに主武器の鋭い鉄爪、全て健在。
先に動くのは、ズゴックの方だろうか?ジェスがやっているのは、基本的に時間稼ぎなのだから、セオリーとしては・・・ん?
私の分析はあっさり覆された。ジェスが斬りかかってしまった。
バーニア全開の直線一本突き。ジェスの得意技だ。私はシュミレーションでこれで三回やられている。回避がしづらい、単純にして豪快な攻撃だ。
!? 躱された!!
戦慄と驚愕が私を貫く。ズゴックは直線突きを地面に這いつくばるようにして伏せて躱した。そして・・・左の鉄爪を下から突き上げた、危ない!
ネモの右腕が肩から千切れた!しかしジェスはまだ諦めてない。左腕がもう一本のビームサーベルを抜いていた!
よし、いける!・・・しかし私の期待は裏切られた。
ズゴックは右腕と、自らが起き上がる力を利用して、ネモを投げ飛ばした!何てことするんだ貴様!
ジェスのネモは、地面を転がっていく・・・信じられない、ジェスがあっさりやられてしまうなんて・・・
もし・・・もし、ジェスが死んだら、殺されたら・・・
私は、私は・・・
ピーピー!! 警告アラームと共に、FWが眼前に出る。私は空ろな目でそれを見た。
ズゴックのビーム砲がこの発射台を狙っている、脱出しろ、打ち上げを中止しろ、そんな事が書いてあったが・・・私はショックで思考が麻痺している、何の指示も出せない・・・
!! ズゴックが弾き飛ばされた!後ろに見えるのは、ネモ・・・ ネモだ!
ジェスが生きていた!
でも、ジェスのネモは、満身創痍、ボロボロだ・・・右腕に続いて、今のタックルで左腕も外れかかっている、もう左腕も動かないだろう・・・
それでも、ジェスは立っている。私と敵の間に。
まだ、私を護ってくれている。
「ジェスに! あのネモに通信つないで!」
私はどうすればいいんだ!! ゲシュペンストを出してジェスを助けに行きたい!しかし、そうすればこの基地の人たちの努力が、全て水泡に帰してしまう!
「ん、なんだ・・・ 」
ジェスと、通信が繋がった。あ、あぁ・・・
ジェスは、額から物凄い血を流している・・・そうだ、ジェスはノーマルスーツを着てない。あの衝撃を生身で受けていたんだ・・・
「ジェス、大丈夫か!?」
愚問だ、でも問わずにはいられない。それほどの出血なのだ。
「あんまり、だ。しかしまいったぜ、初陣の相手が、ランバ=ラルだとよ・・・」
ランバ=ラル・・・ 青い巨星。ジオンDCのスーパーエースじゃないか・・・
それなら、さっきのジェスの先制攻撃も理解できる。あれはいちかばちかの勝負に出たんだ・・・
『ひけぃ、小僧!!』
ジェスのネモに、通信が入った。野太い声だ。わかる、これがランバ=ラルの声だ。
『もう勝負はついた! 命を無駄に散らすな!』
降伏をジェスにすすめているようだ。
そうだ、そうしてくれ!でも、言葉に出来ない、ジェスの顔を見ていると、そんなこと言えるわけがない。
「嫌だ」
今にも壊れそうな、もう武器のないMSに乗っているのに、ジェスはそう言った。
『無駄死にしたいのか!』
その問いに、ジェスは笑って答えた。
「あれにゃ、大好きな女の子が乗ってるんでね」
大好きな女の子、ジェスは私をそう言った・・・
「だから、嫌だ」
私の心は、決まった。
・・・わかった、ジェス。でも、もしあなたが死んだら、仇をとって私も死にます。だからだから、頑張って、ジェス・・・
『ハッハッハ! 気に入ったぞ、若造! 名を教えてくれ!』
豪快な笑い声、青い巨星もジェスを認めたのだ。
「レナンジェス=スターロード少尉」
静かに答えるジェス、出血の為か息が荒い。けど、双眸は獣のようにギラギラしている。
私は、覚悟を決めた。そして、絶対に目を逸らさない。見届ける、この戦いを。
『行くぞ、レナンジェス!』
ズゴックが、突っ込んでくる。手加減なし、全力でジェスを仕留める気だ。
ミサイルが連射された! 四発!
ジェスは最低限の動きで躱しながら、前に出る。体ごとぶつかるつもり気?それとも自爆?いや、それはない、ジェスの瞳は死に逝く者のそれではない。
左腕から、レーザーが放たれた。避けるジェス、でも左腕を持ってかれた。
間合いが狭まった、ズゴックの右爪が唸る。狙いは、コックピット。
「ジェス!!」
ジェスは、バーニアを噴かして飛んでいた。間一髪躱した!鉄爪がコックピットを貫く寸前に!
そして、低空でバーニアと姿勢制御アポジモーターを全開にして、クルッと回って・・・これは・・・
「いけぇー!!」
ジェスの絶叫、その瞬間ネモの右脚の踵が、ズゴックの頭部に突き刺さった!
MSで踵落とし! 凄い、無茶苦茶だ!
二機のMSは崩れるように倒れていく。
ネモに至っては、右脚も壊れてしまった。あぁ、頭ももげて落ちた。
ジェスとの通信が切れてしまった、ネモの通信機が壊れたみたいだ。
『 打ち上げ二十秒前』
アラームと共に小さいFWが出現、カウントは続行されていたみたいだ。ロケットのエンジンが点火した。小刻みにシートが揺れる。
十五秒前。あ、ネモから何か転げ落ちた。これは・・・ジェスだ!
十秒前。小さくて見えないけど、間違いない、よかった生きていた・・・
五秒前。元気に両手を振っている、何か叫んでるけど聞こえない、でもいい。今度は私が頑張る番だ、そうだよね、ジェス。
0、発進、離床。
Gが急速にかかる、北極ベースがあっという間に小さくなる。
もう、ジェスは見えない。
「私は・・・ 宇宙にあがる・・・」
そうだ、一人で・・・ あの広大な宇宙に・・・
皆が護ってくれた、このゲシュペンストと一緒に・・・

-幕間へ-


 -後書き-
 スパロボSSで、まず最初に主人公が戦わないSSを書いたのは、多分自分だけじゃないだろうか……?
 ランバ=ラルを書くために『哀 戦士たち』を見直したのも、いい思い出です。
 しかし、今、読み返しますと、ゲシュペンストのOSの『レナン』、これはOSと言うよりAIですね(汗



[16394] F REAL STORY  幕間 -私がいない所で-
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/14 22:47
あっという間に見えなくなっていく特別シャトルを見上げながら、ジェスはその場に倒れ込んだ。雪の大地が背中に心地いい。
出血と、全身を強くうったせいか、まったく体が言う事を聞いてくれない。
よく、コックピットから出れたなと、我ながら感心しているジェス。半分失いかかった意識の端に、何かが動く音が響いた。
ズゴックが、ネモを押しのけ立ち上がっていた。頭が見事にひしゃげていたが、まだ動けるらしい。
六角形のハッチが開き、髭面の剛直そうな男が立っている。
「気に入ったぞ、レナンジェス! その顔と名前、しかと覚えておくぞ!ハッハッハ!」
あれが、ランバ=ラルか・・・暑苦しそうな人だなと、ジェスは思ったが、口には出さず、ただ無意識にVサインなど出している。
その意味をどうとったかはわからないが、ランバ=ラルは満足そうに肯くとズゴックに乗り込んだ。どうやら踏み潰していく気はないようだ。
そこで、ジェスの意識は途切れ、深い暗闇に引き摺りこまれていった。

目覚めたときジェスは、病室のベットに横たわっていた。どうやら、気を失ってる間に運び込まれたらしい。
「・・・凍死しなくてすんだか」
体中、ギシギシと軋んでいるが、なんとか動けそうだ。何より病院が嫌いな彼は、さっそく抜けだそうと試みる。
「まるで、錆付いた、MS動かしている、みたいだ」
自らの体に文句を言いながら、渾身の思いで上体を起こした。痛みはあまり感じないがこの様子だと思った以上に重傷らしい。
「ふふ、甘いわよ、ジェス」
聞き覚えのある含み笑いが耳に。ジェスはそこで初めて、自分に付き添いがいたことを知った。
「病院嫌いの貴方が、脱走を試みることなど、この灰色の頭脳はお見通しよ」
得意そうに蘊蓄をたれる付き添い。ジェスはどっと疲れが吹き出すのを覚えた。
「何でお前がここにいるんだ、ミーナ?」
そこには、彼のナイメーヘンでの同期生、ミーナ=ライクリングがいる。ミーナは確かジャブロー統合作戦本部に配属になっていたはずだ。
「貴方の疑問ももっともね。いいわ、説明してあげる」
説明のところを強調して、ミーナは胸をそらせ芝居がかったポーズをきめている。四ヶ月ぶりの再会だが、彼女もかわっていない。
「発端はDCの襲撃に・・・」
「おー、起きたか、ジェス」
「よかったー、久しぶり、ジェス」
「無事で何よりだ」
ミーナの言葉を遮るように、どやどやと三人の男女が、ジェスの病室に入ってきた。そこでジェスは自分が個室に入れられているのを知った。怪我と寝起きで鈍っていた頭も随分とはっきりしてきている。
「へクトールは解るけど、何でパットにウィンまでいるんだ。同窓会ってわけじゃないよな」
これまたナイメーヘンの同期生である、パトリシア=ハックマンとアーウィン=ドーステンまで姿を現した。
「そこを私が説明するとこなの、いいから聞きなさ・・・」
「お前だと無意味に話が長くなるだけだ。俺から説明する」
ミーナを押しのけ、ウィンがこれまでのいきさつを話はじめた。簡潔にして要点はしっかり押さえた、わかりやすい説明だ。
どうやら、ここ北極ベースに彼らが集まったのは、ただの偶然だった。
ウィンは、この基地に救援にきたティターンズの一団にいた。
ミーナは、統合作戦本部の命令で、この基地の被害状況を調べにきた査察員。
パットは、ミーナの乗ってきたVTOLのパイロット兼ミーナの補佐役。
そして、ジェスは自分が気絶した後、氷漬けになりそうなところを、へクトールに助けてもらい、その後、三日間眠り続けていた。
その三日間、四人が交代で付き添いのような見張りをしていたらしい。
「MSは八機あるうちの六機が大破で使えなくった。しかし基地施設への被害はそれほどでもない。戦死者もゼロ。負傷者二十二人、その筆頭がお前だ」
それで、ウィンの説明は終わった。横でミーナが『盛り上がりに欠ける』とかブツブツ言っているが、誰も相手にしてない。
「病院嫌いは知ってるけど、ジェス、今回は大人しく寝てたほうがいいよ。貴方、全身打撲に凍傷で死に掛けてたんだから」
「動くと治るもんも治らんぞ」
へクトールとパットが、ベットにジェスを強制的に寝かしつける。自分は思ったよりひどい怪我をしていることを悟り、とりあえず脱出をのばすことにしたジェスだが、ふとあることを思い出し、バネ仕掛けの人形みたいにハネ起きる。
「リンは! リンはどーなった!?」
ウィンを除く三人が、ニタァと笑った。実に含みをもった嫌らしい笑い方だ。
「リンはあの後、無事ロンド=ベルに着任した。眠りながら心配したかいがあったな」
ウィンも、にやりと笑う。この男のこういった表情は珍しい。
「そうか、よかった・・・でも寝ながら心配って何?」
どうも、話が見えない。ジェスが四人の友人に訊ねると・・・
「ジェスったら、寝てる間、何度もリンのこと呼んでたんだよぉ」
とミーナが楽しそうに額を指で小突く。
「もぅ、聞いてるほうが恥ずかしくなるくらいの、熱い呼びかたしてぇ~」
ウリウリと、肘で小突くのはパット。二人とも久々にこのネタでジェスをからかえるのが、嬉しくてしょうがないって感じだ。
『仲良し八人組』の中で、あからさまに恋人関係で肉体関係があったリンとジェスは、よくこうやって皆にからかわれたものだった。大抵、リンがキれて終わったのだが・・・
コンコン、誰かが静かにドアをノックした。
「どうぞー、開いてます」
何故かへクトールが返事をすると、ドアが開き一人の女性が入ってきた。ジェスを除く四人が面をただし、敬礼する。若く美しい女性だが、中尉であるウィンより階級が上らしい。独特の髪型が、妙に艶っぽい。制服をみるとティターンズの人らしい。
ジェスも何とか敬礼しようとしたが、いかんせん体が言うことをきかない。
「あぁ、無理しなくていい、楽にしてくれスターロード少尉」
女性士官は、ベットに近づくと、ジェスに向って敬礼する。決まっている、軍の広報ポスターに使いたいくらいの綺麗な敬礼だ。
「私はルクレツィア=ノイン大尉だ。今回は君の働きのおかげで、火事場泥棒まがいのことをやらされずにすんだ。心から礼を言う」
柔らかい笑顔とともに差し出される右手を、ジェスは無意識に握りかえた。が、
「かぁっ!!」
奇声ををあげ激痛にのたうちまわる。時間がたつにつれ、痛みがますますパワーをましている。わずかの動作でも、痛みが伴い始めていた。
「あ、すまない。大丈夫か?」
「いえ、御心配なく。で、大尉は裏事情をご存知で?」
裏事情、タケダ司令が予測していたティターンズの策謀は、大方的を射てえていたのだろう。そして、ノインはそれに賛同してはいなかったようだ。
ジェスの問いに、ノインは目で肯定した。そして、それ以上の詮索を拒否してもいた。深入りはよしたほうがよさそうだ。ウィンも無言で、肯いている。
「再襲撃はないだろうが、念のためドーステン中尉とエアリーズ三機を暫く駐留させることになった。君は安心して怪我の回復に専念してくれ」
一方的に言うと、さっと身を翻し、退室していくノイン。軍人というより騎士と言った方が似合いそうな、華麗な立振る舞いだ。
「絵になる人だなぁ」
へクトールが溜息まじりにそう言うと、
「ほんと、うっとりしちゃう・・・」
同性のパットまで、羨望の眼差しをおくっている。
「ウィンってば羨ましいんだ。上官があんな美人で」
ミーナがそう言うと、ウィンが疲れたようにボソッと一言。
「あの人厳しいんだ、部下には・・・」
と呟いた。エリートにはエリートの苦労があるらしい。
「まぁ、怪我人は養生するんだな。また来てやるから大人しく寝ていろ、ジェス。お前達も手伝え、仕事はいくらでもあるんだ」
ウィンの言葉で、久しぶりの対面は一時お開きとなった。四人が出ていった後、急に静かになった病室に一人残されたジェスは観念して目を閉じた。
そして眠りについた彼は、宇宙で恋人と機体をならべ共に戦っている夢を見た。
それは、正夢になるのだろうか?
今の彼にはわかるはずもなかった。



 -後書き-
 
このSSの売りの一つ、視点変更の幕間です。三人称書くのヘタですね、自分。 
でも、この幕間のおかげで、話を進めるのが楽になったと当時考えてましたね。
主人公が知らない情報を話に流せますので。
しかし、『仲良し八人組』ってネーミング、何とかならんかったのか?
ちなみに主人公八人全部出そうって天啓を受けたのは、河野さち子さんが描かかれた、
主人公八人が海で遊んでいるイラストを見たから。『これだ!!』って思って
このSSは始まりました。
ノインちょこっと出すのにドキドキしていたのは懐かしい思い出。



[16394] F REAL STORY  第一話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/22 22:16


私は今、地球と宇宙の狭間を、緩やかに漂っている。
よく出来たコックピットの全周囲スクリーンは、私自身が宇宙遊泳しているかのような錯覚をさせていた。
もう三時間ほど、地球の回りを新参の衛星としてグルグルと周回しているが、不思議と不安とは思わなかった。奇妙に安らいでさえいる。
私が宇宙に上がるのは、これで二度目になる。
前に宇宙に上がった時は、未知の領域への不安と恐怖で心が一杯だったのに。
前回はナイメーヘンでの宇宙航海実習だったな。北京にある基地から大型シャトルで上がって、地球軌道からサラミス級巡洋艦に乗船して、ルナ2、サイド1、そしてまた地球軌道に戻るだけの一ヶ月ほどの航海だった。
みんなと一緒にいた時より、一人きりの今の方が、遥かに落ち着いている。可笑しなものだ。
無重力による浮遊感も、母に抱かれているような心地良さだ。
「お前のおかげかな、レナン?」
するとFWが私の前に出現した。それには『?』と表記されている。私の独り言を何らかの命令と勘違いしたらしい。こういうところは融通がきかない。
「レナン、ビーコンは出しているか?」
すると『?』が『順調に発信中』にかわる。こいつも喋れればいいのにと私は思うのだが、これを造った奴はコンピューターの合成音声が嫌いなのだ。幼児期の経験によるトラウマがあると言っていたが、私事を自分が乗りもしない機械に持ち込まないでほしい。
このゲシュペンストの設計者、私の父のこと、そして私が少女の頃を思い出していた。


 

ウェイ=マオ。四十五歳。テスラ=ライヒ研におけるロボット工学の第一人者。年不相応の若々しい外見を持ち、長身、娘から見てもカッコイイと思う時もある。二十二歳のとき私の母、フランシスと結婚し、私が生まれた。そして、九年前、妻と死別・・・
母は、父親を怨んでいた男に殺されたのだ・・・私の目の前で・・・
その男は、父のせいで自分が認められないと思い込んでいたらしい。逆恨みだったそうだ。父はその男と面識などなかったのだから。
私も殺されそうになった。しかし、母が私をかばってくれた。自分は何度も刺されても、私を護ってくれたのだ。
そこに、隣りに住んでいたジェスと、ジェスの母親、カレン小母様が来てその男を取り押さえてくれた。カレン小母様は、母の学生時代からの親友で、家もわざわざ隣同士にしたほど二人は仲が良かった。
カレン小母様は武道の達人で、その道の人の間では伝説になっているほどの女傑だ。気の狂った男など、相手にすらならなかった。
でも、遅かった・・・
母は、今際のきわにこう言った。一言一句、覚えている。
「ごめんね、リン、ママ、もう・・・カレン、ジェス・・・ この子のこと・・・お願い、ね・・・ あぁ、ウェイ・・・ウェイ・・・」
父の名を泣きながら呼び続け、母は死んだ。しかし父はその時、月にあるフォン=ブラウン市に居た。そこにある民間企業によばれていたそうだ。
母の死から四日後、父は帰ってきた。今までに見たことがないほど、憔悴しきっていたのを、覚えている。
父が帰ってくるまでと、冷凍保存されていた母の亡骸、それに声もなくすがりつく父、私は父の背に向って叫んだ。意味不明の、悲しみの言葉を。でも父は振り向かない、うごかない。私は叫び続けた、叫び続け・・・言葉を失った。
そして、ジェス以外の男性を見ると、ヒステリーを起こし暴れるようになった。極度の男性不信になったのだ。父ですら、寄せ付けなかった。
そんな私を、父はカレン小母様の所に預けた。幸いといっていいのか、ジェスは私生児だったので、スターロード家には男性はジェスだけだ。
今でも思うのだが、小母様とジェスがいなかったら、私は今でも病院にいるだろう。それほど、私の心はバラバラだった。でも、二人は優しく、私の心の欠けたパーツを集め、もとに嵌め込んでくれた。だから、今の私がある。
一年ほどで、私は普通に生活できるくらいまで回復した。でも、父とは会わなかった。いや、会えなかった。父に責はないのは解っていたのだが、心の底に父を責める、暗い澱のようなものが蟠っているのだ。
私が父に再会したのは、十五歳になってから、ハイスクールに入学する前日だった。前の日、昔の自分に戻ってしまわないかと不安で、ジェスの胸にすがりつきながら、怖くて泣いていた。
「小父さんも、哀しいんだよ。哀しくて哀しくて、そんな顔、リンに見せられなかったんだよ」
昨日みた夢でジェスが言った言葉は、その時、ジェスが私に言った言葉だった。不器用な暖かい慰めに、私は心の堰が壊れたかのように号泣した。そして、泣きながらジェスと愛し合った。(ちなみにこれが初体験ではない。私の処女喪失は十三のときだ。そして小母様ばれて、二人してえらく怒られ、避妊について厳しく教えられだ。私は男嫌いのくせに、そういう方面は進んでいたのだ)
父も哀しかった、当たり前のことに漸く気付いたのだ。

 

今では父の事は憎んではいないし嫌いでもないが、苦手だ。すごい親馬鹿なのだ。鬱陶しいほど私にかまい過ぎる。再婚でもしてくれたらいいと思うのだが、もてる割にはそういう話はないらしい。
このゲシュペンストも私にあわせて設計していた節がある。公私混同もいいとこだ。父に感謝していることといえば、ジェスとの愛を応援してくれていることぐらいかな? でも、孫をつくれと五月蝿いしなぁ・・・
思考が、壮大な宇宙とはかけ離れて一人歩きしてしまっていると、不意に警告アラームがなった。FWが現れレーダースクリーンになっている。何かが接近しているのだ。次々とFWが現れ、色々な情報を私に提示してくる。
接近してくるものは二つ、一つはMS、もう一つはMSのサポートマシン。
「?」
ある情報に、私は首を傾げる。なんだこれは・・・
「レナン、このザクはなんだ?DCじゃないのか?」
映し出された情報に、連邦の識別コードをだしているザク、というのがあった。ザクと言えば、ジオンDCを象徴するようなモビルスーツだ。それを連邦が使ってるなんて聞いたことがな・・・
あっ!?
「ロンド=ベルには、ザクマニアがいるって甲児さんがいってたな」
テスラ=ライヒ研で世話になった青年の言葉を思い出した。やっと、むかえが来たようだ。

 

『こちら、連邦軍第十三独立部隊ロンド=ベル所属、クリスチーナ=マッケンジー中尉です。えーと、リン=マオ少尉、回線をひらいてください」
よく通る女性の声で通信が入った。レーザー通信で、発信はザクじゃなくサポートマシンのゲターの方からだった。
「レナン、回線開いて」
すると、FWがひらいてそこに映し出されたのは・・・わ、美人だ。
「リン=マオ少尉です、御足労おかけします」
ジェス曰く、『よそ行きの顔』で敬礼。すると、マッケンジー中尉は微笑みながら、敬礼を返す。
「こちらこそ遅れてごめんなさい。今から牽引するから、ちょっと待ってね。あ、あと・・・」
そこで中尉は悪戯っぽくウィンクして、
「変なザクが作業にあたるけど、撃たないでね」
と言った。私も思わず笑顔になる。すると
「変とは何だ、クリス! ザクはなぁ!」
中尉の通信越しに、若い男の怒声がした。この声の主が、ザクマニアの人だろう。
「はいはい、バーニィ。貴方も自己紹介しなさい。彼女、あなたより階級が上だから、そのつもりでね」
中尉はバーニィと言う人を軽くあしらって、何かのパネルを操作した。多分、通信の中継をしているのだろう。
程なくFWが増え、今度は若い男性が映った。何かふて腐れているようだ。
「えーと、バーナード=ワイズマン准尉です。以後よろしく」
実にざっくばらんな自己紹介だ。私の方が階級が上とは思えない。でも、不快には感じない、私より階級は下かもしれないが、彼には戦場を生き抜いた貫禄のようなものがあるからだ。
「これから少尉のシャトルの牽引作業に入りますんで、ちょっと我慢してください」
「よろしくお願いします」
そういうと准尉からの通信はきれた。作業に集中するためだろう。
そこでふと思い出した。ここは衛星軌道だ。一歩まちがえればザクじゃ重力に引き込まれるだろうに・・・
しかしそれは杞憂に終わった。ザクは見事な手際で私の乗るシャトルに取り付き、牽引用のワイヤーを取り付けた。ザクってこんなにサクサクと軽快に動くんだ。私は妙なことに感心している。
ワイヤーは、中尉の乗るゲターに連結された。そのゲターには加速用のブースターが増設されている。あれで一気に引っ張っていくようだ。なんて大雑把な・・・
「バーニィ、終わったらさっさと戻って。じゃぁ少尉、彼がゲターに取り付き次第、加速に入るからよろしくね」
中尉からの通信が切れる。加速方向の計算に入ったのだろう。これを間違えると私達は宇宙の迷子になってしまうが、でも中尉は信頼できそうだ。
「そういえばあの二人、ファーストネームで呼び合っていたな」
大気圏を離脱する時に比べれば、今度の加速は心地良いマッサージ位にしか感じないので、心にも随分と余裕があるらしい。先輩方のことに不遜な想像をめぐらしている。私も俗物だな・・・

 

加速から三十分程で、ペガサス級独特のの白い船影が、かすかに姿を現した。わずかな点が見る間に形になっていく。
トロイホース、僅か数隻建造されただけのペガサス級の巡航艦のうちの一隻だ。ロートルの部類に入るのだが、MS積載能力だけはかなりのモノらしい。
三十分ほどの短い時間で、私と中尉は初対面とは思えないほど意気投合していた。人見知りの激しい私にしては、かなり珍しい。私が元ロンド=ベルに席をおいていた、ある人達と親交があったのも一因になっていた。
兜 甲児、弓 さやか、ボスさん(本名不明)。マジンガーZ、アフロダイA、ボスボロットのパイロットの方々と私は、テスラ=ライヒ研で知り合った。
たしか、さやかさんは光子力エネルギーの研究のアドバイザーとして招かれていて、甲児さんはロボット工学を学びに来ていたとのことだ。ボスさんは何をしに来ていたのか、最後までわからなかったな・・・
ゲシュペンストの様々なテストに首を突っ込んでくる三人に、最初は戸惑いをおぼえたが、年が近いということもあり、自然に私達は打ち解けていった。とくに甲児さんにはゲシュペンストのテストに、随分と力を貸してもらったものだ。自分でも言っていたが、物好きなんだろう。
彼らから、ロンド=ベルについての予備知識は多少仕入れてきていたが、話以上にフレンドリーな所のようだ。でも、そういうところでこそ、自己を律するべきだとカレン小母様は言っていた。気を引き締めないと、うん。
「リン、もうすぐ着艦よ。準備できて?}
でも、中尉に優しく愛称で呼ばれるのは、嬉しい。
「はい。コンテナの回収、お願いします」
気を引き締めていかなくては。ゲシュペンストの宇宙デビューなのだから。
コンテナシャトルの余分なパーツを排除し、ガンペリーに積んでいた特殊コンテナに戻す。そして観音開きの扉を開く。宇宙が、見える。ゲシュペンストが宇宙に直に触れた。
「固定ボルト、外して」
小声でレナンに指示を出す。私も緊張しているようだ。考えてみたら無重力でMS(これはPTだけど)を稼動させるのも、初めてだ。シュミレーションは何十回とやっているけど、全然違う。
ボルトが外れた。そしてゆっくりと、優しく背を押されたような感じがして、ゲシュペンストは宇宙に、包み込まれた。
私は、私は、私は・・・凄くドキドキしている。緊張、じゃない・・・
嬉しいのだ。何故だかわからないけど、私の体内には歓喜が満ち溢れている。嬉しくて楽しくて、叫びたいのをこらえている。
「リン、ゲシュペンストを第三ハッチに入れて。出来る?」
「大丈夫です」
中尉の心配をよそに、ゲシュペンストは私自身であるかのように、宇宙を駆ける。FWも気にならない、私はこの時初めて、本当のゲシュペンストのパイロットになれたような、そんな気がした。

 

「アムロ少佐、リン=マオ少尉をお連れしました」
クリス中尉に導かれ、艦内の案内されつつ、ついた最後の場所は何故か第二格納庫だった。ここに現ロンド=ベルの最高責任者、アムロ=レイ少佐がいるらしい。しかし、ロンド=ベルの印象をどう説明すればいいか、戸惑いすら覚えている。最初に紹介されたチャック=キース少尉は洗濯をしていた。次にあったMS隊ののチーフというエマ=シーン大尉は、アナハイム・エレクトロニクス社から出向しているというニナ=パープルトンさんと食事をつくっていた。ナイメーヘンで高速戦闘の天才と称されていたコウ=ウラキ少尉は、食堂の掃除をしていた。
皆、人当たりがよくて、好感がもてるのだが、何かが違うような気が・・・
クリス中尉曰く「人手不足がひどいから」らしいが、まさか司令代行まで・・・               
「やぁ、ごくろうさん」
二十代半ばということだが、年より幼い印象のある童顔にクセのある赤毛、戦史にすでに名を残す連邦のスーパーエース、アムロ=レイ少佐が、今私の前に立っている。でも、でも・・・戦史の授業でならった姿とは、あまりにかけ離れていた。
青いツナギを着て、両手が油にまみれた姿。これはこれで働く男としてカッコイイかもしれないが、司令代行の姿とは思えない。
「リン=マオ少尉です。本日付けでロンド=ベルに配属となりました」
内面の動揺を悟られないように、努めて義務的に敬礼する。
「失望させたかな、マオ少尉。僕がアムロ=レイ少佐、一応このロンド=ベルの司令代行をやっている。握手はちょっと辞退したいな」
私の内心を見透かされたような、アムロ少佐の笑顔。でも、この人はやはり何かが他の人と違うような気がする・・・何だろう、言葉にできないな、この感じ。
これがニュータイプという人だということなのだろうか、うーん・・・
「少尉? どうかしたのかい?」
「リン、どうしたの?」
あまりにマジマジと少佐を見つめすぎたらしい。私は敬礼をもう一度する。慌ててるな我ながら・・・
「いえ、少佐が整備をしているなんて、思いもよらなかったので、多少動転していました。申し訳ありません」
失礼とは思ったが、ありのまま思ったままを口に出した。すると二人とも咎めるどころか笑顔をみせてくれた。その笑顔はナイメーヘンの仲間が見せてくれていたものと同じだった。
「そうだね、佐官がここまでする所帯、僕もみたことないよ」
「ホント、少佐は機械いじりがお好きだから」
「しかたないさ人手不足だからね。モーラの負担を少しでも軽くしなきゃ」
「とか言って、デスクワークから逃げてるだけでしょう。ブライト艦長が復帰したら驚きますよ、きっと」
二人のやり取りを見ていると、あの北極ベースの連中よりある意味凄いところのようだ。あそこには一応上下関係があったが、ロンド=ベルはそれすら感じられない。でも、それが自然に感じられる。
「おっと、失礼、少尉。君を歓迎するよ。それと、僕のことはアムロでいい。これは命令だ」
そして笑顔で出された初めての命令、私はこの部隊が一遍に好きになった。
「ゲシュペンスト共々、お世話になります」

第十三独立部隊ロンド=ベル、ここが私の新しい居場所だ。


 -一話 Bパートへ-


【後書き】
 誰か、トロイホースがどうしてグレイファントムって名前になってしまったのか、教えてください……
アムロが佐官になっているのは、第四次スパロボS仕様だったのと、何となく佐官にしてあげったかったから。
他にも原作と違う階級多いですが、そこは作者の願望だと思ってください。



[16394] F REAL STORY  第一話 Bパート&幕間
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/18 22:24
-二日後-

 

私はトロイホースのサブブリッジにいた。
ようやく時間がとれたので、北極ベースへの無事着任の報告をしようと通信パネルをいじっている。
この船というかロンド=ベルがもの凄い人手不足なもので、私はこの二日間、寝る間もおしんで、ゲシュペンストの整備をおこなっていたのだ。
あんな特殊なものの扱い、ここの整備の人達にも解るわけなどなく、説明しいしいやっていたら、思った以上に時間がたってしまった。
通信衛星を中継に使い待つこと十分、ようやく北極ベースに繋がった。
通信オペレーターに司令へ繋いでくれるように頼んだら、司令はぎっくり腰で動けないとのことだった。無理のしすぎだったようだ。
ならジェスにと思ったが、通信オペレーターが司令代行の士官に、頼みもしないのに繋いでくれた。そして姿を現したのは・・・
「ア、アーウィン、何をやっている?」
司令代行は旧友、アーウィン=ドーステンだった。ティターンズの黒い制服姿の彼は、こっちの驚きを完璧に無視して話を始めた。
「タケダ司令に頼まれて、司令の代行をやっている。お前が飛び出したあとの状況を説明してやるからよく聞け」
相変わらず、やることにソツがない奴だ。仕方無しに立て板に水と流れるような説明を拝聴する。
私の打ち上げが成功したあと、DCは即座に撤退したらしい。おかげで基地の被害もたいしたことがなく、死者も出なかったとのことだ。
加勢に来たティターンズは-タケダ司令の予想は当たってたようだ-そのまま基地に駐留している。以上がウィンの説明だ。しかしあの野郎、肝腎なことを言わないじゃないか・・・
「ジェスは、どうなった・・・」
「あぁ、忘れてたよ、スターロード少尉のことか」
モニター越しに勝ち誇った顔、こいつ、性格悪くなってないか?
「ふふん、知りたい、リンちゃん」
懐かしい声がまた聞こえた。なんであいつもあそこにいるんだ?
ウィンを押しのけ、モニター下面からニョっと顔を出したのは、友人の早とちり娘、ミーナ=ライクリングだ。
「生きているのはウィンの説明でわかった。私が知りたいのはジェスの怪我の容体だ、早く答えろ」
私は自制を必死にかけて、ゆっくりと訊いた。
「あーら、リンったら愛しの君のことが、そーんなに心配なの?」
ミーナの悪ノリがはじまった、口を引っ張って止められないのが悔しい。
「まぁ、宇宙にいるリンをからかっても、面白さ半減だからこのくらいにしておいてと、ジェスは無事よ、命に別状はないわ、でもね・・・」
そこでミーナの顔が翳る。私は固唾を飲んでその先を待つ。
「ジェスの意識はまだもどってない。出血が多く、全身を強く打っていた。今もへクトールとパットが付き添いをしている」
ミーナを押しのけ、ウィンが深刻な顔を突き出す。
「でもね、聞いてリン。ジェスったら、ジェスったら・・・」
またミーナの登場、ん?妙に喋りが芝居がかってきてないか?
「寝ながらリンリンてうるさいのよー、ミーナ聞いててやんなっちゃう!」
ガクッときた。奴等、二段構えで私をからかっていたらしい。こいつらぁ~~~!!
「ジェスのことは任しておけ、心配するな」
「ちゃんと、病院に縛り付けといてあげるから」
私の形相を見て、急に態度を改めた二人。怒りが見事に顔に出ていたのだろう、最初からそうしろ!
「司令代行、私からの報告書を送りますので、ちゃんと御検分ください!」
私は報告書をいれたディスクを乱暴に差し込み、そのまま送信する。
「では、司令代行、可愛い名探偵さん、次の再会を楽しみにしておきますので」
かすかに蒼ざめる二人を無視して、私は慇懃に応対しながら笑顔で通信を切った。この方が効果的攻撃だというのは学生時代からの経験で解っている。ふん、ささやかな復讐だ。
「でも、私の名前を呼んでくれてるか・・・」
嬉しいさがこみあげて、二やついてしまう私。駄目だな、これは・・・

 

一時間後、私はゲシュペンストのコックピットに居た。最終調整をかねたシュミレーションを行うためだ。
結果は良好、データ上では欠陥は見当たらない。あとは実戦でもこうであることを願うばかりだ。
「あら、リン。何か良いことあったの?」
コックピットを出ると、ゲシュペンストのニュートロン・ビームライフルのチェックをしてくれていたクリスさんが、不思議そうに私に訊ねてくる。
「いえ、何故ですか?」
逆に問い返す。するとクリスさんは私頬っぺたを軽く引っ張っきた。
「ニヤついてるわよ、折角の美人が台無し」
「え?」
まさか私、通信終わった後から、ずっとあのままだったのか・・・
「いえ、ゲシュペンストの調整が思った以上にスムーズに進んだもので」
咄嗟に出たわりには、ましな言い訳だと思うのだが、クリスさんは意味ありげな笑みをうかべてている。うー、ジェスのことは誰にも言ってないのだが、見透かされている気が・・・
「まぁ、そういう事にしてあげるわ。アムロ少佐が皆をお呼びよ、作戦司令室に集合」
「そういうことにしておいてください。何かあったんですか?」
「さぁ。多分、ジャブローから何か命令でもあったんじゃないの?」
ジャブローか。そういえばこのロンド=ベルもコロニーの治安維持部隊だったな。任務が下るとしたら、どこかの宙域のパトロールか何かだろうか?
行けばわかるか、私と中尉が連れ立って第三格納庫を出ていく。
「そう言えばリン、彼氏は元気だったの?」
何気ない問いかけに、私の口は自然と開いた。
「まぁ、元気とは言い難いですけ・・・・・・・・!」
そこで言葉を止める私。しまった、誘導尋問か!
・・・・・・あっさりひっかかってしまったな。
「ふーん、そうなんだぁ。リンちゃん、あとでゆっくりお姉さんに教えてね」
クリスさん、小悪魔的な笑みをうかべている ・・・あ、今の表情、一瞬へクトールの野郎とダブった。
あえて答えないで、無言でスタスタと先を急ぐ私。しかし人は何故他人の色恋沙汰に首を突っ込みたがるのだろうか?

 

「みんな、ご苦労様」
作戦司令室、通称ミーティング・ルームにロンド=ベル現段階での主要メンバーが集まっている。といってもアムロ少佐を筆頭にMSパイロットが八人。整備士長のモーラ=パシット技術少尉、トロイホースの主操縦士トーレス准尉、ハサン軍医少佐の計十一人だけだ。恐ろしいのは、これでロンド=ベルの総人員の半数になるということだ。
人手不足もここまでくれば、賞賛の対象になると思う。
ちなみにニナさんはブリッジで通信オペレーターをやってくれている。
「いい知らせが二つある」
アムロ少佐が子供みたいな笑みを浮かべている。よっぽど嬉しいことがあったみたいだ。
「まず一つはブライトのロンド=ベル復帰が決定した。これで僕も司令代理という肩書が外せるよ」
自分の立場が下がって喜ぶ人も、珍しいと思った私だが、他の皆は口々に喝采を上げている。ブライト=ノアという人はよほどの傑物なのだろう。これほどクセの強い人達に、これだけ慕われているのだから。
「よかったですね、アムロ少佐。で、もう一つの良い知らせは?」
少し落ち着いたところで、エマさんが話題を切り替える。さすが皆の纏め役だ。
「あぁ、もう一つはゲッターチームが合流することになったんだ」
「ゲッターチーム!?」
私は思わず立ち上がって絶叫していた。
・・・・・・ゲッターチームが来るということは、やはりあの人も来るんだろうな。
一人ブルーが入っている私に、皆の視線が集まっている。
「リン、ゲッターチームと何かあったのか?」
コウ先輩が、皆を代表して訊かれたくないことを訊いてきた。
「えっと、あの・・・ ですね・・・」
全員、一斉にこっちを見ている。あぁ、目が好奇心に輝いている・・・
「ゲッターチーム、というより神 隼人さんとテスラ研で色々と、ありまして・・・・・・」
私は不承不承、気の重い説明を開始した。

 

神 隼人という人に会ったのは、二ヶ月前のことになる。テスラ=ライヒ研でゲシュペンストと同じコックピットを組み込んだ特別ジェガンに乗っている時だった。会わせてくれたのはのは、兜 甲児さん、旧知の仲で戦友だそうだ。
戦士としてもそうだが、神隼人という人はそれ以上に科学者としての名声が高い人で、世界中の研究所で引き抜き合戦をしているらしい。
ゲッターロボGの長期メンテナンスをテスラ=ライヒ研で行うための技術指導に来たはずなのに、なぜか私に付き合ってゲシュペンストの開発に協力してくれていた。隼人さん曰く「こっちの方が面白い」だそうだ。
隼人さんが主に手伝ってくれたのはパイロットの熟練、つまり私の特訓だ。
隼人さんの課した課題は至ってシンプルだった。隼人さんが持参したプロトタイプゲッターロボ、そして彼の操るゲッター3を捕まえるというものだった。ゲッター2ではなく、ゲッター3だ。
その課題をこなすのに、特別製ジェガンは三週間も要した。あの非常識に伸びるゲッター3の腕をかいぐぐるのが、えらく大変だったのだ。ときには投げられ、ときには突き押しをくらって・・・おかげで私の操縦技術は格段に進歩したが、あのクネクネウネウネと伸びる腕は、夢にまで出てきた。
だからというのはなんだが、私にはゲッターチーム=神 隼人=ゲッター3の腕=苦手、という図式ができあがっているらしく、隼人さんには含むところはないつもりだが、どうも会うと首を絞めてみたくなるのは、さんざん振り飛ばされた後遺症だろうか・・・つまりなるべくなら顔を会わせたくない人なのだ。

「・・・というわけなんですが」
語り終えた私を待っていたのは大爆笑だった・・・
あ、何だか更に気が沈んでしまった、そんなに笑わなくてもいいでしょう、皆さん・・・・・・

 

かくして私の個人的感情などまったく汲み取られず、トロイホースはブライト=ノア大佐をルナ2に迎えにいったのち、サイド7に向うゲッターチームを迎えることとなった。当然だな・・・
私は今、ベットに横たわり体中の筋肉を弛緩させまくっている。この気だるさがたまらない。
私にあてがわれた部屋は、パイロット用の個室だ。広くはないが部屋の中にはベットに専用端末付きの机、シャワーまでついてるのは有り難いことだ。しかし私も意外に順応性が高い。このロンド=ベルという環境にすっかり適応している。私は無闇に男性にファーストネームを呼ばれるのが、嫌で堪らなかったものだが-故に男性嫌いとよく言われた-ここではまったくそれを感じない。
ナゼナノダロウカ・・・眠りにつく半歩前の頭でそんな事を考えていたら・・・
ぼやけた視界に何故か備え付けの時計が目に止まった。妙にはっきり見えている・・・ 何か時間で忘れていることあったか? いや、ないな・・・じゃあ、何だろう、今日なにかあったか・・・今日は何月何日だ・・・ 今日は・・・今日・・・

!!!!

しまったー!! 今日はママの!!
時間を見る、PM9:48。カリフォルニアは何時だ!?
私は慌てて机に座り、端末のスイッチを押す。
ある人にメールを送る為に。
今日はママの命日だった。

 

 


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 幕間 -私がいないところで -

 

『・・・小母様、というわけですからママのお墓参り、お願いします。父も捕まえられたら、引きずってでも連れていってください。では今度は普通の手紙を出しますから、お元気で』
下着姿で慌てながらの、我子同然に育てた娘からの映像メールを見終えて、カレン=スターロードは溜息まじりの苦笑を見せた。スイッチを押し、その前に届いたメールを再生する。
『おふくろー 俺だ!怪我してっけど、喧嘩で負けたわけじゃないからな! たしか今日、フラン小母さんの命日だよな、俺の分もたのんだぞ、じゃな!』
頭に包帯を巻いている実の子からの映像メールだ。
「私、育てかた間違ったかな、フラン?」
壁に掛けられたフランシス=ハーベル=マオの写真に、カレンは微笑みながら問い掛ける。
カレン=スターロード、自称三十九歳。見事なブロンドをポニーで纏めた、二十代前半でも通用する美貌、180cmの長身、今でも衰えない95・59・90のプロポーションを持つ女性。
これがジェスの母親だ。
「でもね、フラン。リンもジェスも、優しくて強い子に育ったよ。私なりに頑張ったんだから、文句は言わせないわよ」
写真の中の親友が微笑んだ気がした。
「じゃ、子供達の為に、もう一回お墓参りに行きますか!」
今、時刻はPM6:01。友人の墓参りはとっくにすませたが、今度は可愛い子供達の分だ。運が良ければフランの旦那が来ているかもしれない。
口笛を吹きながら、先ほどまで着ていた喪服に、もう一度袖を通す。
ふとカレンは、自分に向けられた妙な気配を感じた。
『覗きかな?』と、あたりを伺うと、その気配が急に敵意をもって膨れ上がったのを感じる。
明らかに近づいて来るのがわかる、しかも尋常ではない、抜き身の刃のような気配。只者ではない、少なくとも自分と同等かそれ以上の武術の達人が放っている。
張り詰めた、眩暈を感じそうな緊張がカレンを取り巻いた。
しかし・・・
「少し悪戯がすぎたかな」
ドアの外から聞こえた言葉とともに、剣呑な気配は霧散した。カレンも緊張を解く。声で相手の正体がわかったのだ。
「もう。ずっと前に引退した女になんてことするのよ」
彼女は喪服を着直し、居住まいを正してドアの開ける。
「すまんな」
笑いながらそう言ったのは、チャイナスーツを身に纏い、白髪を三つ編みにまとめた、屈強な体躯をもった老人だった。
「久しぶりね、キング・オブ・ハート。あれ、称号はお弟子さんに譲ったんだっけ?」
カレンは、老人に笑顔で昔の仲間を称号で呼ぶ。。
「お主も変わらんな、ブラック・ジョーカー」
老人も破顔し、カレンを昔の通り名で呼んだ。
シャッフル同盟、その名で知られる地球圏最強の五人の武闘集団のうち二人が、十数年の時を経て、再会した。
地球圏を揺るがす波乱が、人知れず始まろうとしていた。


 -第2話Aパートへ-


【後書き】
幕間が短かったので、セットで投稿。
今回から出てきた、このSSを代表するオリキャラのカレンさん。何気に
無茶苦茶な方ですが、気に入ってます。
名前はエターナルメロディに出ていたカレンから取ったんですが、
キャラのモデルは誰だったっけ? 不二子ちゃん、入ってる気もするけど、
よく覚えておりません。
しかし、第一話にも主人公の戦闘シーンを入れなかった自分に乾杯、って感じです。



[16394] F REAL STORY  第二話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/22 22:08
『・・・ちゃーんとリンの分まで、お参りしといたからね、感謝しなさい。今度帰ってくる時は、優し
い小母様にお土産を忘れないこと、以上』
相変わらず若々しい小母様が、投げキッスを決めたところで、映像が切れた。
さきほど、テスラ=ライヒ研名義で送られた映像メールを再生したら、大胆なチャイナドレスに髪を
結い上げた -第三者に見せることを意識していたことは疑いようがない- カレン小母様が映って
いた。
テスラ=ライヒ研名義で来ていたメールだったから、私信とは思わずメインブリッジの通信モニター
で再生してしまった私は・・・ 頭を抱えていた。
「い、今の誰だよっ、リン」
こういう時に限って、ブリッジには人が多い。今の映像を見たその他大勢の内の一人、バーナード
=ワイズマン氏が私に詰め寄る。
「尋常でない美人だったぞ、おい!」
これはチャック=キース氏。目が血走っているぞ、二人とも・・・
「ど、ど、独身か!? 彼氏とかいるのか!?」
さっきまでいなかったはずのハサン医師までもが、いつも間にやら湧いて出て、私に質問をあびせ
る。
お、男って奴は・・・
「あの人は、母が死んだ後、私を育ててくれた人ですよ」
きっぱりと言い切った私の言葉に、半瞬で落胆モードになる男性陣達。
私の継母とでも勘違いしたのだろう。ほっとけばいい。
「トーレスさん、しっかり操縦してくださいよ」
視線をぐるりと巡らせると、何を期待していたのか、この世の終わりみたいな顔をしているトーレス
さんが枯れ木のように操縦席にすがり付いている。
そして、その先には米粒大の小惑星が見える。
ルナ2。地球連邦軍の宇宙の要。とりあえずの我々の目的地だ。
あそこで、ロンド=ベルの司令官、ブライト=ノア大佐が我々を待っている。
「どうしたキース、バーニィ?」
珍しく連邦軍の標準制服に身をつつんだアムロ少佐が、エマさんを従えてブリッジに入ってきた。
ショックのあまりにブリッジをクラゲのように漂っているパイロット二名と医師一名は、口々に
「世の中、間違ってる」だの「俺は時の涙を見た」だのうわ言のように呟いている。
呆れてモノが言えない・・・
「まぁ、いいか。僕はこれから司令官殿を迎えに行ってくるから。留守のことはエマにまかせる。
いいね」
気のせいかアムロ少佐、はしゃいでないか?
よっぽど、大佐が復任するのが嬉しいのだろうか。
「はい、了解しました。こら、キース! 漂ってないで少佐の護衛についていくのよ」
「・・・うーす」
今にもスキップしそうなアムロ少佐と、気のないどころか魂の抜け殻状態のキース少尉-器用にも
漂ったままで-が、共にブリッジを出ていった。
「何があったの、リン?」
余りにも対照的な二人を見送ったあと、エマさんが男達の落胆の原因を、この中で唯一正常な私に訊ねてきた。
「実はですね・・・」
と、説明するのも馬鹿らしいことを小母様の映像付きでエマさんに語り終えると、エマさんまで、目
を丸くして小母様に見入っている。
これは予想外の反応だな、小母様は同性をも惹きつけるみたいだ。
「リン、この人、歳いくつなの?」
スターロード家では禁句となっている、もっともな疑問を口にした。確かに小母様は見た目はどう見ても二十代半ば、
私が初めて会ったときからまったく変わりがない。
「三十九って、本人は言い張ってますけど」
「さんじゅうきゅうー!?」
話を聞いていたらしいトーレスさんが、漂い組に新たに加わってしまった。操船、オートになっているのかな、ちゃんと?
「凄い人ねー、リンのお義母さんって。私も秘訣とかあったら教えてもらいたいわ」
エマさん、自分の肩を疲れたように揉みながら、アムロ少佐の代わりに艦長席に腰を下ろす。
何かオバサンっぽいですよ、エマさん・・・
あ、二つの光点がルナ2に向っていくのを確認。我らが司令官殿を迎えにいったようだ。

それから一時間が過ぎ・・・・・・

ニナさんが持ってきてくれたチューブコーヒーを啜りながら、二人で雑談していると、通信コールが
入った。私がブリッジにいるのは通信オペレーター業務のためだったのを思い出し、-人手不足のロンド=ベルには、
なんと専属の通信士がいないのだ-パネルを操作し、通信コード合わせる。
種別はレーザー通信か。となると発信地点は、やっぱりルナ2だ。
「エマ大尉、ルナ2から通信が入ってます」
「あら、少佐からかしら? リン、メインスクリーンに出して」
「はい、スクリーンに出します」
この時、あいつが出てくるとは、夢にも思わなかった・・・
『あのー、ロンド=ベルのみなさん、聞こえますでしょうかー?』
独特の間延びした口調、クルクル巻き毛にキラキラお目めの女の子が手をヒラヒラと振っている・・・
グレース=ウリジン、ナイメーヘンの同期生だ。
ガン!!
これは私がパネルにつっぷした音。こいつのアップと口調は心の準備無しに見ると、かなりインパクトがある。
「え、えぇ、こちらロンド=ベル、司令代行のエマ=シーン大尉です。そちらは?」
大画面一杯に広がる -ここに出したのは失敗だった・・・- 少女漫画から抜け出してきたような女の子相手に一瞬ひるんだエマさんだが、すぐに持ち直し表面上は平静にグレースに対応している。
『私はぁ、ルナ2司令部後方参事官補佐ぁ、グレース=ウリジン少尉、とってもお茶目でぷりてぃな19歳ですぅ♪』
あ、エマさんピキッと凍り付いた。こんな自己紹介した軍人、連邦軍史上こいつくらいだろうな・・・
「・・・で、ウリジン少尉、どういった御用件でしょうか?」
エマさん、強い。私やジェスやウィンだったら、冷静さを失って逆上モードにはいっているとこだ。
『ここだけのお話なんですけどぉ、他の人に言わないでくださいねぇ。実はですねぇ・・・』
エマさんのおでこに、怒りのバッテン印が見える。
軍用通信で内緒話もないだろうが! あぁ、怒鳴りつけたいが、ここは我慢我慢。私がここにいるとわかったら、あやつは確実に話を脱線衝突させるに決まっているからな・・・
『聞いて驚かないでくださいねぇ。ブライト=ノア大佐とぉ、アムロ=レイ少佐がぁ、い・の・ち、
狙われてるんですぅ』
「「「「「なにぃーーーー!!!!!!」」」」」
感嘆符の大合唱。ブリッジにいる全員が、顔にビックリマークを付けている。無論、私もだ。
「グレース、いったい全体どーいうことだ!?」
そして思わず大声で詰問してしまった。今は非常事態だ。
グレースが私を見つけた。途端に頬を薔薇色に染め感激を顔一杯に浮かべて舞い上がっている。
「きゃー、リンちゃん、お久しぶりですぅ。グレース、この再会に胸が一杯ですぅ。やっぱりぃ、私達は~、運命の赤いロープでぇ~・・・」
「だぁーっ! そんなのいいから早く言え!!」
私の忍耐力は情けないことにエマさんの十分の一もないようだ。私はすでに逆上しているが今はとにかく非常事態だ。
「うぅ、リンちゃん冷たいですぅ・・・ グレース、泣いちゃいそうですぅ」
やはり脱線が始まった。しかたない、多少の犠牲は覚悟しよう・・・
「ちゃんと説明できたら、クリームパフェ、チョコレートパフェでどうだ!」
見る間にグレースが顔を輝かせる。うぅ、仕方ないか、上官の命がかかっているのだから。
「では、説明しますねぇ。皆さん、ご静聴お願いしますぅ~」


緊迫感の欠片も感じられない語り口で始まったグレースの説明。要約するとこうだ。
グレースは昼食をとったあと午睡を決め込むべく、ルナ2内での彼女のお気に入りゾーンである、
整備士の控え室に向った。
ルナ2の士官は黒い制服を着た怖そうな人 -ティターンズの事だ- が多いので、優しい小父さんが多いところの方が落ち着つけるからだそうだ。そこですやすやと寝ていると、グレースが居ることを知らずに二人の如何にも悪人といった男が入ってきた。
男達がその時言った言葉の断片『爆弾』 『ロンド=ベル』『うまくいった』を夢現で聞いていた
グレースは瞬時に目覚め、彼女なりの仮説を幾つか立てつつ、とりあえずその悪人らしき男をそこにあったスパナで殴りたおし昏倒させた。
そして小父さん達-整備士の方々-に協力をあおぎ、アムロ少佐が乗ってきたランチとキース少尉のガンキャノンに高性能爆薬が仕掛けられているのを発見した。
グレースは見かけと言動では想像すらできないが、頭の回転が異常に速い才媛だ。
ただ、その回転後に生み出す行動は大抵常軌を逸しているが・・・
彼女は爆弾の解体が素人では無理だとわかるや、小父さんの棟梁-整備士長のこと- に爆弾を発見したことを司令部に報告してもらい、自分はブライト大佐らがいる場所に危険を報告しにいった。しかし、いくら頼んでもMPがそこを通してくれない。
ここで彼女は腹立ち紛れに、まだ手に持っていたスパナでMPを叩き倒し、通信室をこれまたスパナ一本で占拠した後、今のロンド=ベルに連絡をとったということだ。
ところで こいつ、軍法会議モンのこと、いくつやったんだ?



「爆弾の解体はできないのね、ウリジン少尉」
グレースの報告を聞いた後、エマさんはしばし瞑目したのち、そのことを確認した。
『あれはぁ時計職人さん並の人が作った爆弾でぇ、トラップもいっぱいあったのでぇ、爆弾解体のプロでもないと、ドっカーン! ですぅ』
すらっと物騒なことを言っているグレースだが、あいつがああ言ったからにはそれが確実なのは間違いない。
「リン! コウを呼び出して! トーレス、トロイホース発進準備! 各員これより第一級戦闘配備!」
エマさんが矢継ぎ早に指示を出す。皆も感じが変わった、艦全体の空気も張り詰めていく。
『こちらコウ、何があったの!? 敵襲か!?』
呼び出す間でもなく、コウ少尉の方からコンタクトをとってきた。
どうやら彼はMSデッキにいるらしい。周りを整備士連中が固めている。
「コウ、MSで今すぐ出れるの何人?」
『えーと、ここにいるパイロットは自分だけですけどMSは全機発進可能です。
何があったんですか?』
エマさんに疑問を疑問で返されてしまったので、改めて問い直している。
エマさんは簡潔にブライト大佐らの命が狙われていることだけを告げ、コウ少尉にルナ2へそのこと
を知らせに行ってくれと頼んだ。
『自分が着く前に、爆弾が爆発したらどうするんですか?』
器用にも会話しながら白いノーマルスーツを着込んでいるコウ少尉。その疑問はもっともだと思う。
するとエマさんは少し微笑んで、自信たっぷりに言った。
「その事は心配しないで、貴方はとっととルナ2へ行く!」
『了解!』
それだけで納得したようにコウ少尉は画面から消えた。エマさん、部下の信頼厚いんだな。
「グレースさん、貴方を信用してお願いします。今、そちらに向うガンダムの入港のサポート、
お願いできますか?」
『お願いされちゃいますぅ、まかせてくださいな。じゃ、リンちゃんまたねぇ』
緊張感のかけらのもない笑顔とともに通信がきれた。
何か、どっと疲れが出た・・・
「エマ大尉、敵襲ですか?」
クリスさんとファがブリッジに上がってきた。皆、さすがに行動が速いな。
ことのあらましを、再び簡潔に説明していると、
『GPー01フルバーニアン、出るぞ!』
コックピットに収まっているコウ少尉が通信スクリーンに出た。
「先輩、健闘を期待してます」
「コウ、私のガンダム壊したら承知しないわよ!」
『鋭意努力する!』
私とニナさんの激励にそう答え、GPー01は発進していく。
速い速い。さすが連邦最速のMSだ。
「で、大尉、私達は何をすればいいんですか?」
現状を把握できたクリスさんが、指示を求める。さすがに少しは動揺しているようだ。
「ジオンDCがこれから攻めてきます!」
きっぱりとエマさんは言い切った。
私達は目を丸くしてお互いの顔を見合わせている。
その頭には? 当然だ、何でそんなことわかるんだ、エマさん。
「大尉、お訊きしてよろしいですか?」
「どうしてDCが攻めてくるってわかるんですか?」
私とファが二人して質問をすると、エマさんはまたしても言い切った。今度は拳も高らかに、まるで宣誓しているみたい。
「私達がでっち上げるんです!  戦闘状態になれば、大佐達はルナ2からでてこれない。爆弾につい
ては少佐やブライト艦長達ににまかせて、私達は時間稼ぎに専念します!」
思考がブラックアウト・・・ ポカーンと間抜けに口を開け、まるでハニワのように固まってしまった。
軍規違反になるのか、これ・・・
「まぁ、それがベストかもしれませんね」
肩を竦めながらも、クリスさんが賛同の意を表した。まぬけなハニワ呪縛がやっととけたみたい。
「やるんならとっとやりましょう」
「あーあ、ばれたら大変ですよ」
バーニィ准尉とファも、エマさんに消極的賛同のようだ。そしてエマさんの視線が私に来た。
「どうやって、でっち上げるんですか?」
私も賛同。悪戯をたくらんでいるみたいで少しワクワクしてたりする。
「では、段取りを説明・・・」
「する必要なくなりました」
艦長シートより高い位置にあるオペレーター席、そこに座るキースロン軍曹がエマさんの言葉を
遮った。何故か呆れているような話し方だ。
「十一時の方向、正体不明の艦2隻接近中、多分ジオンDCの巡洋艦だと思われます。エマ大尉、占い師にでもなったらどうですか?」

再び言葉を失った一同。 嘘つく前に真が出てしまったみたいだ・・・・・・

「・・・こうなったら、この状況をフルに活用します」
僅かな時間で自失から立ち直ったエマさん、新たに指示を的確に出していく
「ニナ、このことを大袈裟にルナ2に報告して。よければ迎撃をロンド=ベルに一任してくれるよう
に要請を! 各員発進準備!」
「了解!!」
ブリッジを後にする私達。北極ベースで感じた戦場の気配が、また私を包んでいく。

十分後、私は第三デッキ、ゲシュペンストのコックピットにいた。

『敵はDCと判明。敵戦力はチべ級重巡洋艦一隻、ムサイ改級巡洋艦一隻、MS12、本艦及びルナ2
にむけて進行中です。みんな、気合い入れていくわよ!』
司令及び艦長不在のため、MSに乗れないエマさんが激をとばしている。
『リン、あなたは初陣でしょ。あいにく誰もあなたをサポートできないけど、いいわね』
第三格納庫内、ゲシュペンストのコックピットで出撃準備をする私にエマさんが
個人的に通信を入れてくれた。
「ゲシュペンストは、伊達じゃありません!」
発進準備OK! 気合も十分!
『いい返事ね。必ず無事に帰ってくること。命令よ』
そう言うエマさんの目は真剣だ。私は強く頷いた。
大丈夫、私は一人じゃない。いつでもジェスと繋がっているんだ。
「ゲシュペンスト、リン=マオ、出ます!」
バーニア全開フルスロットル!!  弾かれたようにゲシュペンストは発進した。敵の待つ、広大な戦場へ。
初陣だ。

[敵MS種別判明 ドムⅡ12機 3機4編隊でこちらに接近中]
[あと50秒ほどでニュートロンビームライフル射程に入ります]

接敵すると予想された宙域に到達。少し先行してしまった私に、僚機が追いついてきた。
FWが現れ、レナンが現状を知らせている。12対4 戦力差3対1か。
こちらのMSはクリスさんが乗るガンダムMKⅡ、ファのメタス、バーニィさんのザク改、
そして私のゲシュペンスト。
艦船を抜かし、MS戦を限定してもかなり不利だが、絶望的ではない。
ロンド=ベルの先輩達は百戦錬磨のエース揃いだ、このくらいの逆境、跳ね除けてくれるはず。
なにより私はゲシュペンストに乗っているんだ!

[敵 有効射程に入りました]

モニターには僅かな光点にすぎないが、私からは手が出せる距離に入った。
シート頭部横に付けられた精密射撃用のスコープを引き出し、覗き込む。
十字線が交差する中、僅かにドムⅡが形が見える。
「いける!」
本能が私に引き金を引かせた。
僅かな反動、ライフルから伸びる光条、そして・・・ 爆発

撃墜、したのか・・・ 私が。

『リン、ボケッとしない!』
FWが現れ、ファからの通信だ・・・ わっ! たしかにビックリ呆然してた!
「ごめん、ありがとう!!」
パンと顔を叩き、気合いを入れ直す私。ここは戦場なんだ、僅かの油断も禁物だった。
『でも、その調子よ、頑張って!』
可愛いウィンクを残し、ファが消えた。ありがとう、あとで何かおごってあげよう。
「行くぞ、DCの残党ども!」
気合いをこめてさらに引き金を引く。敵はまだ射程距離じゃない。今の内に落とせるだけ落とす。

私の初陣はこうして始まった。

-第2話 Bパートへ-


【後書き】
グレース登場。この娘がリンのサイドにいるおかげで
話作りが楽になった気がしたような覚えが。
ちなみに敵が【DC】になっているのは、昔のスパロボの
仕様ですね。自分はMSとか使うのをジオンDC、機械獣とか
使うのをヘルDCと区別しております。



[16394] F REAL STORY  第二話 Bパート&幕間
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/21 00:32
「ちぃ!」
ジャイアントバズの弾がゲシュペンストを掠めた。ライフルの銃口を向け、2連射。
しかし、ドムⅡはそれを躱した。
警告音! 右と左からも弾が来た!
「下っ!」
叫ぶと共にゲシュペンストを急速下降させた。体にかかるGを歯を食いしばってたえる。
!!
だが、そこには先客がいた。ヒートサーベルを構えたドムⅡが!
いちかばちか!
私はバーニアを全開にし、そのままそのドムⅡが斬撃を繰り出す前にぶちあたった!
すごい衝撃にコックピットが揺れる。
シートに体が沈み込んだが、何とか大丈夫。
体当たり、野蛮で原始的な攻撃だが、有効だった。ゲシュペンストにも目立ったダメージはない。
私はドムⅡ三機の連携波状攻撃から、ようやく逃れられた。
わたしが三機めのドムⅡをライフルで葬った時、油断したのだろうか、知らない間にこのドムⅡ三機に囲まれていた。
それからというもの、防戦一方、生きた心地がしなかった。
「この三人、間違いなくエースだ・・・ ん、三機のドム・・・」
私の頭に近代戦史でならったDCの三人組が浮かんだ。戦場ではあんまり思い出したくない名前だ・・・
そしてドムⅡが三機集まり、一つになった。まっすぐ私に向ってくる。これで私の悪い予感が現実のものになったようだ。
ジェットストリームアタック、そして敵は『黒い三連星』か!?
ジェスといい私といい、運がいいのか悪いのか。とんでもない敵が初陣の相手になったな。
「でも!」
私は負ける気はないし、諦めもしない。
ジェスだって青い巨星にネモで勝ったんだ。ゲシュペンストに乗った私が負けるわけにはいかない!!
ニュートロンビームライフルを、フルパワーで発射。今までとは桁違いの反動。そしてメガ粒子砲並みの光条が放たれた。
ゲシュペンストの奥の手ともいええる、対艦攻撃モードだ。
一機にしか見えなかったドムⅡが、光条を避ける為に三機に別れた。
バラバラに放射状に回避してくれた、思い通りだ!
私は一番近いドムⅡにむかってゲシュペンストを突進させた。左腕にはプラズマソードを閃かせて。
「これで、決まりだっ!」

 斬!!

やった、ドムⅡの頭をぶった切った。おまけに蹴っ飛ばしてやる。
よしっ! これで四機め! と、喜んだのも束の間、

PiPiPiPi !!

最上級の警告アラーム!
な!? しまった!
反応する前に凄い衝撃が来た! ど、どうしたっ!?
しまった、バズーカを構えたドムが目前に迫っている。今のはあれの攻撃か!?
そんなの関係ない、今どうするかを考えろ!
パニック寸前の頭の中で、ドムⅡがバズーカを発射するのがみえた、その動作が克明に感じられる。
まずいっ!! 躱せるか!
「ダーッ!!」
ジェスには聞かせたくない叫びを上げて、無我夢中で回避行動をとる。
僅かな衝撃がきた。どこに当たった!? ちっ、左の羽根を持ってかれたか!
[左スタビライザー破損 バランス調整 戦闘に支障なし]
FWが現れ、被害を自動修復したことを報告してきた。まだまだいけるということだな。
舌なめずりしながら、呼吸を整える。
戦闘開始から十分くらいしかたってないのに、かなり精神的肉体的にも疲れがきているのがわかった。
ドムⅡ二機は絶妙な距離をとって、ゲシュペンストと対峙している。
「どうでる・・・」
私は獣のような瞳で、全周囲モニターに映るドムⅡを睨んでいる。
奴等、次はどうでる、どうでる・・・
私の全神経が目前の強敵に集中している。
だが、その時・・・
視界の一部で何かが赤く光った。あれは・・・・・・ ルナ2だっ!!
爆弾が爆発したのか? 少佐達は無事なのか?
「トロイホー、しまった!」
トロイホースに連絡を取ろうとし、私の集中ががそがれた一瞬を、歴戦の強者は見逃さなかった。
一気に間合いをつめ、私に襲い掛かる。
ちっ、不覚!
スプリットミサイルを発射しながら、私は必死にゲシュペンストを操り、二機のドムⅡの連続波状
攻撃を躱し続ける!
「ちぃ、しつこい男は嫌われるぞ!」
歯を食いしばり、体にかかるGに顔を歪めながら、私の心のどこかに、妙に冷静に諦めている自分を感じていた。
『コノママジャ ヤラレル』『アキラメロ』『ラクニナレ』
そいつは私の心に甘く優しく囁き続けていた。
「え~い、うるさいぞ! 」
心の中の悪魔の死への誘いを罵りながら、自分に鞭打って回避行動を続けていた私だが、さすがにこのままではやばいのは確かだ。
反撃の糸口がつかめない。
その時、視界一杯に鋭い白光が広がった。刺すような痛みが私の瞳を襲った。
「しまった!」
目くらましの光線、ドムⅡの拡散ビームをもろにくらってしまった!
まずい、このままじゃ!
私は強烈な閃光をくらって、一時的な失明状態に陥っている。
何も見えない、このままじゃやられる。やだっ、そんなの!

・・・・・・突然、何かを感じた・・・・・・

目で見ているのではない、心で直接見ている、そんなビジョンだ。
白く輝いている神々しい世界、そこに佇んでいる裸の、ありのままの私がいる。
なんだ、ここは・・・ 私は死んだのか・・・
いや、違う、なんだここは?
黒い形を持った敵意が、迫ってくる。二つ。私自身がそれを躱していく。
その敵意の動きはまるでスローモーションのように私には感じられる。これなら避けるの
は容易い。
これは現なのか、幻なのか?
踊るように、私はそれを躱し続けた。
どのくらいたったのだろう、私の背後から圧倒的な力の塊が凄い勢いで迫っていた。
紅蓮の炎のような熱く輝く力。
悪い力ではない、その力が正義に輝いているのが、私にはわかる。

「トマホーク・ブーーーーーーーメラン!!」

天を裂くような雄叫びが聞こえ、私の意識は現実にもどった。
私はゲシュペンストのコックピットに収まっている。当たり前といえば当たり前だな。
でも、今の不可思議な体験はなんだったんだ?
痛い目をこすって、モニターを見ると、私の眼前に赤と白の巨大なものが立ちはだかっていた。
私を護るかのようにだ。
「ゲッター1・・・」
私は我知らず呟いていた。凄い存在感に圧倒されている。隼人さん一人のプロトゲッターとは、色違いだけで形は同じはずなのに何かが根本的に違いすぎる。
『リン、生きているか?』
そして通信が開いて、クールでニヒルで会いたくなかったお顔が出てきた・・・
「隼人さん、お久しぶりで・・・」
あ、笑顔が引き攣っているのがわかる・・・
神 隼人、ゲッターチームの一員にして若き天才科学者。
『なかなか良い顔をしてるな、元気そうで何よりだ』
『隼人、話は後だ。まずこいつらを片づけてからだ。えっと、リン君だったな』
FWが増え、精悍な顔つきの好男子といった感じの人が現れた。
流 竜馬、ゲッターチームのリーダー。けっこうカッコイイかも、好みのタイプだ。
『ジオンDCの増援が別の宙域に現れた。アムロ君とコウ君が迎撃に向っている。
君も行ってくれ! 僕達も後から駆けつける!』
「え!? えっと・・・」
一気にまくしたてられ、不覚にも反応できない私に隼人さんの一声が。
『いいからさっさと行けっ!』
「はい!」
あわてて弾かれたように飛び出す私。やはり苦手だ、あの人・・・
黒い三連星をゲッターチームに任せ、私は新手が出た宙域に急行する。

トロイホースに連絡を取ろうとしたが、ミノフスキー粒子が濃すぎて、通常通信がろくに出来ない。
レナンが敵味方識別コードの動きから、戦況の推移を予想して私に知らせてくれた。こいつならではの便利な機能だ。
これによると、クリスさんはドムⅡ三機を撃破、その後チべにとりついている。
ファは二機撃破ののちトロイホースに帰還している、やられたな。
バーニィ准尉は一機撃破のあと、新手に囲まれていた。ザク改で奮戦しているみたい。
新手はMS八機、ザンジバル級巡航艦一隻と出ている。
敵の詳細は不明、この距離じゃわからないらしい。
それと、ルナ2から凄い勢いでGPー01Fbが発進して、一度トロイホースに帰還するやすぐさま発進し、新手につっこんでいったみたいだ。
コウ少尉、本当によくこのスピードで戦えるな。
それとトロイホースから新たに発進したMS、リックディアス。アムロ少佐が出陣したようだ。
生きながらにして伝説になっているスーパーエースの腕前を、私は見ることができるだろうか?

「見つけたっ~~~!!」
ザクを襲っているゲルググタイプのMS二機を発見。ゲルググマリーナとかいうタイプだ。
ヒートホークを振り回して、明らかに性能が上のMS相手に互角に戦っているバーニィ准尉、このまま勇戦ぶりを見学していたいところだが、そうもいってられないので加勢する。
背後からで悪いが、スプリットミサイルで発射する。当てる気のない威嚇用だ。
ゲルググどもは慌ててそれを回避したが、生じた隙をバーニィ・ザク改は見逃さずに、ヒートホークの一撃をゲルググの頭部に叩き込む。
「どこを見てる!」
そして僚機の撃破に気を取られたゲルググを、私はプラズマソードで両断した。
『サンキュー、リン。助かったぜ』
一息ついたって感じのバーニィ准尉からの通信が入った。つい二時間まえまで小母様のことでショックを受けて放心していた人と同一人物とは思えないほど、凛々しい顔をしていらっしゃる。
「准尉、戦況わかります?」
挨拶もそこそこに私は切り出した。
私は一人で突出してしまったため、トロイホースと全然連絡がとれないでいたので、あれから少佐達がどうやって危機を脱したか、知る由もなかったのだ。
『あぁ、アムロさんや艦長がどうやって助かったかってことか。俺も詳しくはわからないよ。俺がわかるのは、この新手がシーマの性悪女の部隊だってことくらいさ』
「シーマって、あのシーマ=ガラハウですか。ジオンDCも今回の襲撃、気合い入ってますね」
私は思わず感心してしまう。黒い三連星も居るし、ただのテロ行為にしては来ているメンツが豪華すぎるな。
『リン、俺はクリスのサポートにまわるから、こっちはよろしくな!』
たしかにザクではこれ以上はきついだろうし、クリスさんのことも心配なんでしょう。
「わかりました。ご武運を!」
心で思った余計なことは言わず、私はバーニィさんと離れた。
この宙域にいるのは味方MS二機と敵MS六機、それとシーマが来ているならザンジバル級巡洋艦改が一隻のはず。
ここで私がとるべき行動は・・・
「ザンジバルを叩く! レナン、頼む!」
コンピューターに出すににしては、余りに雑で曖昧な指示だと思うかもしれないが、ここがレナンの凄いところ。私の脳波を読み取って、私が何を求めているか推測して答えてくれるのだ。
父も詳しく説明してくれなかったのが、ゲシュペンストにはサイコミュなどとは別系統の精神シンクロシステムが組み込まれているらしい。
ニュータイプなど個人的資質によらず、その気になれば誰でも使用が可能とのことだ。ただ、その下準備に二ヶ月かける覚悟があればだが。
レナンがスクリーンに様々なデータを出すまで僅か一秒。
ミノフスキー粒子が濃くてレーダー索敵がろくにできなくても、こいつならではの[予測]で[推理]しているのだ。
[推理]なので、ごくたまに外れることがあるのが欠点だが、今は信じるしかない。
父の創ったゲシュペンストを。

「あ・た・り・だっーーーーー!!」
データを信じた甲斐あって、ザンジバル級改、通称リリー・マルレーン発見。
私は小躍りしたくなるような興奮をおぼえながら、ニュートロン・ビームライフルを構えた。
この距離なら外さない、絶対!
「仕留めてみせる!」
ザンジバルが私の接近に気がついたみたいだ。ノロノロと回避運動をはじめたが今更だ。
トリガーをひく。うまくいけばこれ一撃で沈められるはずだ。
しかし・・・
「あれ・・・」
ライフルから撃ち出された光条は、私の思いとは裏腹に弱々しいものだった。
直撃したが、たいした被害になってはいない。
もしかして・・・
「エネルギー切れだ・・・」
対艦攻撃モードを使ったの忘れていた。レナン、警告くらいしてくれ!
すると視界の右端に[エネルギー充填中、注意されたし]と表示されたFWがあった。
気負い過ぎて見落としていたみたい。あ~~、不覚、迂闊、リンの馬鹿ぁ!
自分の愚かしさを呪っていると、ザンジバルの艦砲が私に向けられているのが痛いほど感じられた。
まずい、引くか? それとも懐に潜り込んで接近戦に持ち込むか。
ザンジバルのミサイル、機銃、メガ粒子砲が一斉に、私に襲い掛かってきた!
・・・しかし、この程度の対空砲火なら、いけるっ!
プラズマソードを引き抜き、接近戦を仕掛けることに決定!
このまま斬り込んで、ヒット・アンド・ウェイをかけ続ければ、撃沈は無理でもDCの連中を撤退させる契機になるはずだ!
そう思いザンジバル目掛けて、突撃をかけようとした私だが、警告アラームによって私の燃えるような決意は変更を余儀なくされた。
[MS接近中 ゲルググ二機]
FWが現れ、新たな厄介の接近を知らせてくれる。
後でで知ったのだが、この敵はザンジバルを助けにきたのではなく、アムロ少佐に追われて逃げて来た所にたまたま私がいただけだったらしい。
しかしスプリットミサイルも弾切れだ、ライフルも充填中、飛び道具なしか。
ゲルググ二機はそのことを知っているのか、ビームライフルを巧みに使って私の接近を許さない。
ゲシュペンストのビームコートを信じて、突っ込むか・・・
ゲシュペンストの装甲には連邦軍でも最高水準の対ビームコーティングが施されているのだが、それを過信するなと父や隼人さんに言われている。
攻撃をよけることを疎かにすることは戦場では死に繋がると。
確かにビームコートされていても、頭部メインカメラや関節各部は他のMSとたいして変わりない。
そこに当たってはお終いだ。
となれば・・・ 躱しながら突っ込む!
我ながら呆れるほど短絡思考だが、他に方法が思い浮かばないのでしかたがない。
私からある程度距離を開き、少し呼吸を整えて。見据えるは敵MS二機 。
「行くぞ」
敵にではなく、自分にそう言い聞かせて、バーニア全開! 突撃開始!
私の接近を阻止しようとする、狂ったような敵の乱射を、何とかぎりぎりで躱していく。
少しかすめているのは私の腕が未熟だからか?
しかし、漸く一機と接近戦できる距離に近づいた!
「もらっ・・・ え?」
凄い速さで私を抜いていった白い何か。
あれは・・・・・・ GPー01Fb、コウ先輩だ!
私に気を取られていたゲルググにあっという間にビームサーベルを突き立てた。
え、なに? いつのまにこんなに接近していたの、この人?
唖然としていると、今度は赤い影が飛び出してきた。
それがアムロ少佐あやつるリック・ディアスだとわかったのは、ゲルググが爆散してからだった。
こちらは何をやったのかすら、見えなかったぞ・・・
『リン、ご苦労さん。とりあえず終わったよ』
通信が開き、コウ少尉が笑顔を映った。
ワイヤーケーブルを使った接触通信みたいだ。
レナンからの情報でも、敵母船とMSが撤退したとの情報が出ている。
私が一人でギャーギャーしているうちに、戦いは終わっていたらしい。何だか、拍子抜けした感じだ
『遅れてすまなかった、リン。帰艦しよう』
続いてアムロ少佐から通信が。あれだけ激しい戦いがあった後とは思えないくらい、落ち着いた顔をしている。
「少佐、ルナ2では・・・」
『あぁ、そのことならトロイホースで話すよ。他にも聞きたい人が沢山いるだろうしね』
そう言って、通信が切れた。それもそうだな。
『リン、少し壊れてるけど大丈夫か? よければ引っ張っていくけど』
「ご心配なく。飾りの羽根を取られただけですので。早く帰りましょう」
そういうコウ少尉のGPー01も、よく見れば装甲のあちこちが傷だらけだ。ニナさん、怒るかな?
『そうだな、早いとこ、ここから退散しよう。ビールでもグーっと飲みたいよ』
不謹慎なことをえらく爽やかに言って、コウ少尉からの通信も切れた。
「ふぅ、終わったか・・・」
言葉に出して、戦いが終わったことを再認識している私。
今までに経験したことのない種類の疲労感が、私の体を包んでいた。
ドムⅡ四機、ゲルググ一機撃破。この戦果が賞賛されるものかはわからない。
でも・・・ 満足することにしよう。生き残れたのだから。
さてトロイホースに帰艦するとしよう!

私の初陣はこうして終わった。


 

 


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- 幕間私のいないところで -





一方、北極ベースでは、恋人が激戦の最中にあったことなど露知らず、病室のベットで惰眠を貪る
ジェスの姿があった。
その横では簡易デスクを置き、書類の山に埋もれながら自らの職務に励むミーナの姿もあった。
先日のDCの襲撃による基地側の被害報告書がようやく提出され、それが事実であることを確認し
つつ、再建プランの骨子を提出する。
これが彼女のここに来た任務であったのだが、司令代行についているウィンに書類を渡されるまで
彼女は完璧に自分の職務を忘れ、ジェスをからかって遊んでいたのである。
さぼっていたツケが雪崩のように押し寄せてきて、彼女はウィン以外の旧友を自分の配下に置き、
問答無用で手伝わさせていた。
ジェスが寝ているのは先ほどまでミーナを手伝って脳が茹ってしまい、回診にきた軍医が安静を申し渡したからだ。
ちなみにパットは算盤三段のへクトールを強制連行し別室にこもって、被害総額を必死になって計算している。
「戦況はどうだ?」
ウィンが差し入れを持ってあらわれた。時計を見ると午後三時、一息いれるには調度良い時間だ。
「事務屋って、嫌よね。数字と戦うなんて、勇者ミーナちゃんのすることじゃないわ」
「いつ、自称名探偵を辞めたんだ?」
珍しくウィンが冷やかすようなことを言ってきた。
「心ならずも休業中よ!」
そう言うや、ウィンが持ってきたトレイからコーヒーをいれた紙コップをひったくる。
「ぶー、ブラックじゃないのー。にがぁー」
悪態をつくミーナを無視して、ウィンは大口開けて寝ているジェスのベットに軽く腰をかけた。
その仕種が気障で、しかも様になっているのも、ミーナは癪にさわった。
「乙女に差し入れするなら、ロシアンティーとかレモンティーとかにしなさいよね~、まったく・・・」
不平をもらしながらも、ズズッとコーヒーをすすり続けるミーナ。
「だったら飲むな」
ウィンがそう言って自分のコップに口をつけた時・・・・・・
トントン。
軽やかにドアをノックする音がした。ここを拠点として三日たつが、ミーナはこの上品なノック音を聞くのは始めてだ。パットならドンドンだし、ヘクトールならガンガンって音のはずだ。
「どうぞ、あいてますから」
ミーナがそう告げると、ドアを開け姿をあらわしたのは、体のラインがくっきりでた黒いツナギに、
同色の皮ジャンバーを着込んだ、美しいブロンドの女性だった。
「どうも」
そして艶然と微笑まれたウィンとミーナは、思わず固まってしまった。
「あ、あの、どちらさまですか?」
ここまでうろたえたのはウィンの生涯で始めてかもしれない。彼の問いに笑顔で答え、女性はジェスの枕元に立った。
「ジェス、起きなさい!」
ジェスのパコンといい音のする頭を、奇麗に叩く女性。その手つきが手慣れている、そして顔から察する年齢と合わせてミーナは女性をジェスの姉と推理した。
しかし、その推理は寝ぼけたジェスの言葉によって一瞬でで瓦解した。
「・・・・・・あれ、お袋、なんでここに?」
ガガァーン!!
二人の脳天をこの古典的な擬音が埋め尽くした。 あまりのショックに二人は固まる。どう見ても、彼女は自分と同年の息子が居るとは思えない。
二人はジェスとリンの家庭事情を聞いて知っているので、彼女が実の母親なのは間違いないだろう。でも、目の前の実像がそれを認識するのを拒否している。
「息子の見舞いに、わざわざこんな北の果てに来るわけないよな」
すると母親、カレンが額をくっつけてきた。子供の頃、リンやジェスが病気になると、カレンがこうしてくれたのを、ジェスは思い出した。
そうされていると不思議とギスギスしてた体の違和感がなくなっていく。
「リンを護ったんだってね」
ジェスにしか聞こえないくらいの小声で、カレンが囁いた。
「フランとの約束、ちゃんと守ったね、よくやったぞ」
「当然」
リンの母親が殺されたとき、ジェスは子供だった。リンの母親を助けられなかった。
そして、リンを哀しませた。
ジェスはその時誓った。もうリンを哀しませない、哀しませるものを許さない、と。
その想いがジェスを強くしていった。青い巨星と対峙できるほどに。
「よし、起きなさいジェス。貴方を迎えに来たんだから」
一転して部屋中に響き渡る声で、カレンが言った。
その言葉でウィンとミーナの石化が解けたらしく、あたふたと二人に割ってはいる。
「あ、あのジェスのお母様、これでもこいつは全治一ヶ月の重傷なんで出来ればそこに置いといて
ほしいんですが・・・」
「それに、ジェスは連邦の士官です。勝手に任地を離れることは軍規に反します」
二人の言葉に、友人を思いやる気持ちを感じたカレン。嬉しそうにポンポンと息子の頭を叩いている。
「ミーナさんに、アーウィン君ね。うちの単純息子と仲良くしてくれてありがと」
そして必殺のウィンクと投げキッス。小さなハートが飛んできそうだ。
「そのへんに抜かりはないわよ。お偉いさんには話通してあるから」
「ま、お袋は言い出したらきかないからな」
ジェスもわかったようにベットから起き上がる。わずか数日で体の動きは随分とスムーズになってきている。
「で、その単純息子をどこに連れて行くんだ」
パジャマから連邦制服に着替えていくジェスが、美しい母親に問い掛けると、カレンは晴れやかな
声で息子に告げた。
「テスラ=ライヒ研よ! 懐かしい古巣が私たち親子を呼んでいるわ!」



1時間後、北極ベースから飛び立つカレンとジェスが乗る年代物のジェット機と、それを追いかける
パットとミーナとへクトールが乗るガンペリーを見送る、呆れ顔のウィンの姿があった。
「奴等は絶対にいつか軍法会議行きだな」
ジェスの母親が軍部にどんなコネをもっているのかは分からないが、今のままの軍部では
「面白そう」というだけで独断で行動しているジェス以外の3人には何らかの処分があるだろう。
でも、そうとわかっていてもその道を迷わず選ぶ友人達を羨ましいと思う自分がいる事を、ウィンは
自覚していた。
ナイメーヘンでの付き合いで、自分も僅かながら朱に染まったらしい。
「たく、何をやるか知らないが、頑張れよ」
しばしの別れの言葉を少しの羨望と共に、ウィンは飛び立ってゆく友人に送った。


 -第三話 Aパートへ-


【後書き】
 今回も幕間とセットです。
 初陣、主人公の初戦闘終了。ちなみに最後、リンが無駄足を踏むのは
新人らしさを狙ったからです。主人公はだんだんレベルアップしてこそ花!
って感じでいきますので。
ちなみに途中のリンの妙な覚醒はニュータイプに目覚めたとかじゃありません。
そういうカラクリがあるマシンってことだと思ってください。
Fのリアル系主人公たちにニュータイプ属性あるんで、誤解された方が
多かったので説明しておきます。
アムロがリックディアス乗っているのは、リックディアスが好きだから、以上!



[16394] F REAL STORY  第三話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/23 22:31
トロイホースに帰還してブリッジに直行すると、すでに主立った面々が顔をそろ
えていた。
皆に歓迎の挨拶を受けている人、あれがブライト=ノア大佐だろう。
あ、私に気づいたようだ。わざわざこっちに向って来てくれる。見事に着こな
された連邦の軍服を見ると、ロンド=ベルに配属されてから始めて軍人らしい
軍人に会った気がする。
「初陣、ご苦労だったな。私がロンド=ベル司令のブライト=ノアだ。よろしく頼む」
間近でみる歴戦の勇将からは、不思議な暖かみのあるインテリジェンスが感じられた。階級をひけらかさないのも、好感がもてる。
「リン=マオです。若輩者ですがよろしくお願いします」
差し出された右手を握りかえし、そして敬礼。この人ならついていっても大丈夫だと、不思議な信頼感をよせられる、そんな感じの人だ、ブライト=ノアという人は。
「無事、対面は済んだみたいだね」
するとアムロさんとコウ先輩がブリッジに戻ってきた。そして、その後に続くのは、あ・・・
「あからさまに嫌な顔をするな、リン」
早乙女研究所謹製の無骨な宇宙服に身を包んだ長身の優男、私の苦手な神 隼人氏が入ってきた。
「未熟者ですから」
私の挨拶に微苦笑を返した隼人さんは、ブライト艦長に短く挨拶をする。
「現場復帰、ご苦労さまですブライト艦長」
この人がこうも平気で下手にでるなんて、早乙女博士とこの人くらいだろう。
「大まかな事情は、アムロ君に聞きました。大変でしたね」
「まぁな」
軽く肩を竦めて見せるブライト艦長、その仕草がはまっていてかっこいい。
そうしてる内に、ブリッジにはゲッターチームの流 竜馬さんや車 弁慶さんも上がってきた。二人は隼人さんと違って宇宙服を着ておらず、竜馬さんは独特のデザインのパイロットスーツ、弁慶さんは野球のユニフォームを着ている。竜馬さんはともかく、弁慶さんは何故、あんな格好なんだ?
両者と簡単な挨拶を交わしたあと、しばし皆で再会を喜ぶ雑談が続き、頃合いを見計らってエマさんが、アムロ少佐にルナ2での事件について説明を求めた
やっぱりエマさん、皆のまとめ役だな、うん。


場所を食堂に変えて、アムロ少佐が話をしてくれることになった。ブリッジには説明のいらないブライト艦長とコウ、キース両先輩が残っている。
事件の報告を聞くにしては目を好奇心で輝かせすぎだ。ま、私もそうだけど・・・
「どう話したものかな」
と、アムロ少佐が苦笑まじりに語り始めた。
ルナ2では一体、何があったのだろうか?

アムロ少佐とブライト艦長が、爆弾騒ぎのことを知ったのはDCの襲撃があってからだそうだ。それまでは急な人事異動で転属することになったルナ2司令のワッケイン中佐と歓談していたらしく、意図的かどうかは判然としないが、グレースの乱闘騒ぎはその部屋には伝わらなかったらしい。
DC襲撃の報を受け、急ぎトロイホースに帰艦しようと部屋を出ると、何故か部屋の前でおでこに瘤をつくって失神しているMPがいたが、それを放っておいて、ランチとガンキャノンが収容されている格納庫にもどった。
するとそこではMPと整備兵たちが、コウ少尉のGP-01を入れる入れないで揉めていたところだった。そこでもグレースのスパナが唸り、MPにはかなりの犠牲者がでていたとのことだ。
その混乱はブライト艦長は一喝で収まった。さすが歴戦の司令官といったところか。そして渋るMPたちにも協力させコウ少尉を収容し、大まかな事情をコウ少尉から説明を受けた-グレースじゃ、説明が遅い、分かりづらい、聞いてて苛々するの三拍子で却下となった-ブライト艦長とアムロ少佐は、あっさりとランチとガンキャノンの放棄を決定し、なんと全員でGP-01に乗ってトロイホースに帰艦したそうだ。男のギッシリ詰まったMSのコックピット、あまり想像したくないな・・・
私が戦闘中に気を取られた爆発は、やはり仕掛けれていたものが爆発したものだった。まぁ、MS1機とランチ一隻で命が助かったと思えば安いものだ。ガンキャノンは何とか修理可能らしいし。爆弾を早期発見したグレースの活躍(?)には感謝したほうがいいのだろうな。
と、ことの顛末の説明も終わった。私は話を聞いて思うところがあったので、挙手して質問をした。
「だれが、ルナ2で爆弾なんてしかけたんでしょうか?」
さっきから、これが引っかかっていたのだ。何処のどいつが、どうやって連邦の宇宙最大の拠点に侵入して、何故にロンド=ベルだけに爆弾を仕掛けたのか?
このテロ、何か気に入らない矛盾が多すぎる
「それは多分『嫌がらせ』だろうね」
アムロ少佐が、呆れたように肩を竦めて見せる。
「憶測で物事を決め付けるのは好きじゃないからね、込み入った事は言えないけど、あれは僕達ロンド=ベルを困らせる為だけに仕組まれたことだと思うよ」
「それにDCの襲撃といった二次的な問題がおきて、大騒ぎになったと・・・」
架空のDC襲撃をでっち上げようとした人の言葉とは思えません、エマさん。
「この件で当方が被った被害といったら、ガンキャノンが壊れてモーラ達に余計な手間が増えただけだし、これで終いとしよう」
たしかにこれ以上、この件を追求すると、どうしても最後には例の『元DC』の黒制服の連中の話題となってしまう。
気にくわなくても、身内は身内、ということだな。
アムロ少佐の言葉で、場はお開きとなった。
私は、少し訊ねたいことがあったので、私の背後に座っているはずの隼人さんに振り向くと・・・
そこには、端正な顔に珍しく困惑を浮かべた隼人さんと、その腕にコアラのようにしがみついているグレース=ウリジン少尉の姿があったって、おい!?
「グレース、何故ここにいる!?」
「えへへ…… グレース幸せですぅ」
 聞いちゃいないな、まったくちょっとかっこいい男を見ると、見境なく惚れる悪癖は治ってないな…
「おい、リン。知り合いなら何とかしてくれ」
 でも、『困った神 隼人』というのもなかなか見物かも・・・
「あぁ、彼女あそこに置いておく訳にもいかないからね、ロンド=ベルで引き取ったんだ。同期だそうだね、よろしく頼むよ」
 私の疑問にはアムロ少佐が答えてくれた。あまりよろしく頼まれたくないな、正直…… でも、ロンド=ベルの為とはいえMPを何人もスパナでのしているんだから、あのままルナ2に置いておけば、まず間違いなく軍法会議で禁固5年といったところだうしな、アムロ少佐や艦長が庇って連れてきたのだろう
「だ・め・で・す! いくらリンちゃんでも、私たちの愛を、阻むことはできないのです」
 グレースは、一人幸せそうに隼人さんの腕にしがみついている。ついさっきあったばっかで、愛も何もないだろうに。心なしか隼人さんの顔に暗い縦線が入っている気が。
「隼人さん、お楽しみのところ申し訳ないですがゲシュペンストのことで御相談があるんですけど」
あえて、グレースのことは無視して隼人さんに用件を切り出した。こいつの奇行に付き合っていると私の胃がもたない。へクトールと違って壊れ物なので、殴るわけにはいかないし・・・
「別に楽しんでいる覚えはないが、何だ相談とは?」
「ここではなんですから、格納庫で」
「わかった」
かくして私と、グレースをぶら下げた隼人さんは、ゲシュペンストが格納されてる第3格納庫に向った。端から見たら一寸異様だったかも。

「・・・ここからなんですよ」
 私と隼人さんとオマケ約一名は、第三格納庫に収容されているゲシュペンストのコックピットの中にいた。このクラスの機動兵器にしては格段に広いゲシュペンストのコックピットも、3人入るとかなりきついな・・・
 今、コックピットの全周囲モニターには先程の黒い三連星との戦闘記録が映し出されている。
 私が隼人さんに訊きたかったのは、あの絶体絶命の危機に陥ってから、ゲッターロボが救援に駆けつけてくれた間に起きたことについてだ。時間にして僅か10秒だったが私は無意識のうちに、凄い回避行動をとっているのだ。
それにあの時感じた、非現実的な感覚の意味を、是が非でも知りたかった。
 隼人さんは腕にしがみついたグレースコアラの存在も忘れて、映し出される映像と、そのときの機体データ、私の身体データなどを表示したFWを見ながら少し考え込んでいる。
「確かに、おかしいな・・・」
 そう意味深に呟くと、どこで習ったのか、隼人さんはFWを使ったキーボー
ドを使い、様々なデータをレナンから呼び出している。
 そんな調子でコックピットが様々な数値を表したFWで埋め尽くされた。隼
人さん、このデータを全部理解してるのか?
 そしてそのデータ一覧を考えるように見つめること数秒、隼人さんは何も言
わずに黙ってコックピットを出てしまった。私も隼人さんの呼び出したデータ
の消去を命じた後、後を追ってコックピットを出る。あれ、まだ考え込んでる。
「俺はマオ博士ではないから詳しいことは言えないがリン」
 そこで隼人さんは私の頭にポンと手をのっける。どうも、この人には子供扱
いされてる気が、いや半人前扱いか?
「親父さんを信じろ、それだけだ」
 そう言うと、さっさと格納庫を出ていく隼人さん。その後姿、グレースが居なかったら
もっとかっこよかっただろうに・・・
「親父さんを信じろ、か・・・」
 一人残された私、先程の隼人さんの言葉を反芻してみる。それは簡単そうで
難しいかもしれません、隼人さん・・・

 それから三日後、トロイホースはサイド7ネオジャパンコロニーに寄港して
いた。ゲッターチームが宇宙に上がった目的地だ。
 半日の自由時間が貰えたので、私はファとグレースと弁慶さんと一緒にネオ
ジャパンコロニーに上陸をして、短い休暇を楽しんでいる。
 艦内じゃ手に入らない物を買いあさり、今はフルーツパーラーで艦内で
は食べられそうもない物に、舌鼓を打っている。
 無論、グレースは先日の約束を覚えていて、私のおごりで特大フルーツパフェを食べて、実に幸せそうだ。
「でも、わざわざゲッターチームが宇宙にあがってまで会いにくるなんて、カ
ッシュ博士に何かあったんでしょうか?」
聞くところによるとゲッターチームはそのライゾウ=カッシュ博士の安否を
確かめるためだけに、宇宙に上がったのだそうだ。きっと、そこまでする価値
のある人なのだろう、カッシュ博士には。
「ごくろうさまですねぇ~」
「まぁな、でも早乙女博士には考えがあるんだろうよ」
 これまた特大パフェを豪快に食べている弁慶さん、トロイホースではあまり
やることがなく、よくグレースと遊んでいたので、この二人は妙に仲がいい。
「リン、カッシュ博士ってそんなに有名な人なの?」
 チェリータルトを食べていたファが、私に訊いてきた。
「父に聞いた話だと機械工学と遺伝子工学については並ぶ者のないほどの天才
だそうだ」
 アップルパイを食べながら、私は答える。う~ん、小母様が焼いてくれたほ
うがずっと美味しいぞ・・・
「それにな、コロニー出身の高名な学者たちの消息も掴めなくなっているらし
くてな、早乙女博士の心配も取り越し苦労ならいいんだが」
 特大パフェを食らってる男とは思えない厳しい顔つきの弁慶さんが言った。
 最近のDCの活発な活動と言い、やはり私達の知らない所で何か起きている
のではと、言い知れない不安が心に宿る。
「同席してもいいか?」
 ふと気がつくと竜馬さんが立っている。竜馬さんは隼人さんと一緒にカッシ
ュ博士のいるラボに行っていたのだが、目的はかなったのかな?
「どうだった、リョウ?」
「駄目だ駄目だ、ラボに行ってもカッシュ博士のことに関してはノーコメント
だった、今ハヤトが早乙女博士に連絡を取っているよ」
 弁慶さんの問いかけに、うんざりしたって感じで答える竜馬さん。よっぽど
イヤな事があったのだろう。
そして竜馬さんはウェイトレスを呼び、特大プリンアラモードを注文された・
・・ もしここに隼人さんがいてチョコレートパフェでも頼んでいたら、私の
ゲッターチームに対する尊敬の念はきっと霧散していたことだろう・・・
「おかしいですねぇ、ノーコメントなんですかぁ?」
 金魚鉢に顔つっこんでる有様だったグレースも、彼女なりの真剣な顔で考え
込んでいるみたいだ。
「そうなんだ、ラボの職員が言うには『カッシュ博士については何もお答えで
きません』の一点張りでさ、何が起きてるのかすら、教えてもらえなかったよ」
 早々に運ばれて来たプリンアラモードを豪快にパクつきながら、竜馬さんが
不平をもらす。そりゃそうだろう、これじゃわざわざ宇宙に上がったのに完璧
な無駄足だ。
「どうも、カッシュ博士に何か起きたのだけは間違いないみたいですねぇ、そ
れを~、皆さんでかくしてらっしゃるのでは、ないでしょうかぁ」
 グレースの推理はどっかの自称名探偵の何倍も当てになる。それに彼女は確
証の無い事を滅多に口にしないので、彼女の推理はかなり当てになる。常日頃
からよく思うのだが、グレースとミーナを足して二で割らなければ、調度良い
のではないだろうかと。
「そんなことをハヤトの奴も言ってたな。で、グレース嬢は何が起きていると
睨む?」
 グレースの意外な冴えに興味を示したらしい竜馬さんが彼女に推理の続きを
訊ねるが、グレースはニコッと笑って、
「データ不足のため、お答えできませ~ん」
 と、言うやまた特大パフェに顔を埋めてしまった。これには竜馬さんも苦笑
せざるおえない。
「グレースちゃんて、意外と頭回るんだ」
 ファが小声で私に訊ねてくる。普段のひなたぼっこモードしか知らない彼女
にしてみれば、『ナイメーヘン学科トップ』のグレースは知らないから無理も
ないか・・・ 
「頭だけは良いんだよ、彼女」
 私にはこれ以上、この友人を語る言葉をもてない。これ以上グレースの事を
言うと、どうしても振り回された過去経験から悪口になってしまうからな。
 
 そして、早乙女博士からの提案を受け、ゲッターチームはロンド=ベルと行
動をともにすることになった。
 これからロンド=ベルは本格的な補給を行う為、サイド1にあるロンデニオ
ンに向かうことになったのだが、ゲッターチームも偶々そちらに向かうことに
なったので、同乗していくということだ。
 これって、詭弁じゃないのかな・・・

 それから二日後、トロイホースはロンデニオンに向け順調に航行中である。
 私は又、ゲシュペンストのコックピットにいる。今日は先の戦闘での他の人
達の記録を見せてもらっているのだ。
 アムロ少佐バーニィさんクリスさんと来て、今はコウ先輩のハイスピードの
戦闘シーンがスクリーンに映し出されている。なんか、目がまわりそう・・・
 皆さんの戦い方を分類すると、バーニィさんはザクというMSを操縦すると
いう一点に特化しすぎている気がする。この世界にMSがザクしかなかったら
トップエースになっているかもしれない。
 クリスさんはMS操縦のお手本といえるくらい基本に忠実な操縦をなさって
いる。攻守共にバランスよく、それだから信頼性も高い。ちょっと見習いたい
と思う。
 コウ先輩は、只々驚異の動態視力に脱帽。今流れている映像では、DCのシ
ーマ=ガラハウのガーベラテトラとの激戦が映し出されているのだが、シーマ
の技術に速さで対抗して、五分の勝負をしているのだがら大したもんだ。
今回のDC襲撃に対しての影の功労者はシーマを押さえたコウ先輩かもしれない。
 そして、伝説のスーパーエース、アムロ少佐の操縦は・・・
 はっきり言って全然理解できない。視界に写ってないMSに反応をするわ、敵
の攻撃を予め知っているみたいな回避行動はとるわで、何か種のないマジック
を見せられているって気分になった。私にわかったことと言えば、攻撃にしろ
防御にしろ、全く動きに無駄がないってことだ。是非、十分の一でも真似した
いな。
昨日見せてもらったゲッターチーム対黒い三連星も凄いものだったが、私には
参考にならなかった。バズーカの弾丸を3つに割れて回避なんて、ゲシュペン
ストじゃできる訳がないし。 
 気がつくともう2時間もこうやって戦闘記録ばっかり見ていた。私がご飯で
も食べようかとゲシュペンストのコックピットから出ようとした時・・・
 
 UuuuuuH!!

 耳障りな音が耳に入った。警報だ、敵襲か?
「ブリッジ、どうした!?」
 ブリッジを呼び出すと、クリスさんが出た。通信当番だったらしい。
『えーと、よくわからなないんだけど、救援信号みたいなものが出てるのよ。
ここからそう遠くない場所でね。あ、はい、ブライト艦長がお呼びよ』
『リン、出られるか?』
 実に単刀直入な問いかけが艦長から来た。
「ノーマルスーツを着ればすぐにでも」
『よし、リン。先行偵察に出てくれ。この信号、何か妙でな・・・』
 歴戦の勇将の勘に何か引っかかることがあったのだろう。そうなれば新米軍人
のやることは一つだ。
「わかりました。ゲシュペンスト、出ます」
 思いがけずに、2度目の出撃となった。

 -第三話 Bパートへ-


 【後書き】
 ゲッターチーム合流。ちなみにこのSSでのゲッターチームは、団龍彦先生
の書かれた『スーパーロボット大戦』小説版(出てくるのはダイナミック軍団
だけですが)と漫画版と真ゲッターOVAの三つを足した感じをイメージ
しています。



[16394] F REAL STORY  第三話 Bパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/24 23:37
念のため、ということで偵察にはエマさんのマークⅡが随伴することとなり、
おかげで道々、エマさんから『謎の救援信号』について訊くことができた。
 エマさんが言うには、件の救援信号は連邦の規格外信号でありながら、艦内コ
ンピューターにはちゃんと『救援信号』と認知されたこということだ。しかも
『救難』ではなく『救援』信号ということは、発信者は戦闘中である可能性もあ
るとのこと。少し、気を引き締めた方がいいな。
【信号発信源において、無数の熱反応確認】
 軽快な電子音と共にFWが開いて、レナンがなかなかの情報を提示してくれた。
「エマさん! やはり何かいます」
 レナンの連邦最優秀のセンサーが拾ったデータを、マークⅡに送ると、エマさ
んは少し考え込んでいるみたいだ。
『ねぇ、リン。この熱反応、MSじゃ無いわよね?』
 さすがエマさん、レナンもその可能性をしっかり示唆していたのだ。
「そうみたいですね、最大望遠で何とか画像でます」
 私たちが会話している間にも、発信源はどんどん近づいている。ゲシュペンス
トのメーンカメラが戦闘が行われているであろう地点の画像を捉えた。この映像
は併走するマークⅡにも送られている。
 やはり、発信源は戦場だった。ここまで来ると、飛び交う光条がしっかり確認
できる。あれは間違いなく何某かの光学兵器が使われている証だ。
「エマさん、減速してください。ゲシュペンストで現状分析かけますから」
ちょっと生意気かもしれないと思ったが、エマさんに指示をだす。このままじゃ
私達は、ほどなく戦闘空域に突入してしまうからだ。せめて、その前に正体不明
機のの頭数くらいは知っておきたい。
『了解。私は通信拾えるかやってみるわ。減速40%でいい?』
 打てば響くってこういうことを言うんだろう。改めてエマさんを尊敬してしま
う。やることに卒がない。
「お願いします、レナン、頼む!」
『・・・その前に、訊きたいことあるんだけど、いい?』
 何か、いや~な予感が・・・ エマさんの顔が或る事をするときのパットや、
ミーナ、ヘクトールの奴、最近加わったクリスさんの顔に似ているのだ。
『何でコンピューターにレナンなんて名前つけたのか、お姉さんすごく興味ある
なぁ。後でくわし~く、教えてね』
 そう一方的に宣告すると、可愛いウィンク残して、通信が切れた。
 ・・・何か尊敬して損した気分です、エマさん。

【正体不明機、数12(】
【2グループ:3対9に分かれ戦闘中】
【該当機種データ無し・全長20メートル前後の人型機動兵器】
 等々、2分程で、レナンの[推理]が終了した。レナンは光学観測によって
正体不明機のラフスケッチのようなものまで示してくれたが、こんな形状のロボ
ット、やはり記憶にないな。
「エマさん、こっちは終わりましたけど、そちらは何かひっかかりましたか?」
 謎の戦闘中集団が、電波通信という手段で連絡を取り合っているのなら、何か
引っかかっている可能性はあるはずだ。
『どうやら、また“お客さん”みたいね・・・』
 難しい顔のエマさん。私にも傍受した通信内容を転送してくれる。
「!?」
 エマさんの渋面の原因が一発でわかった。これは・・・
「レナン、わかるか?」
【該当言語は地球圏にも存在しません。よって当該正体不明機を99%以上の確
率で異星系文明人ものであると提言します】
 FWに出たレナンの推理に、やはり緊張せざるおえない。
 また、地球に異星人が来訪してきたのだ。これが来襲でないことを祈りたい。
『リン、とにかく停止して。これは私達で介入を決定できるレベルではないわ!
 トロイホースのブライト艦長に連絡を!』
「了解!」
 まったくもって同意見だった。私達の先走りで開戦なんてことになったら・・・
 想像するだに恐ろしいぞ
 あわてて母船との通信を開こうとしたが、ミノフスキー粒子のせいで、レーザ
ー通信もろくに接続できない。
 焦りばかりが私の心をおおっていく。私は何故か、あの戦闘を何とかして
止めなくてはと言う強迫観念みたいなものを感じている。
【ゲッター線特殊回線に着信。開きますか?】
 すると、FWが開いて見慣れない単語が出てきた。なんだゲッター線特殊回線
って? 出てくる人物の予測は容易にできるが、へんなもんが付いてるんだなゲ
シュペンストには。ちなみにゲシュペンストには父曰くの『後のお楽しみ』アイテム
が多数あるそうだが、これはその一つなのか? 
 レナンに任せ通信を開いてみると、やはり出てきたのは神 隼人氏だ。このあたり一万キロ
四方で、ゲッター線なんかに関係してるのは、ゲッターチームだけだから当たり前か。
『繋がったか。リン、そっちのデータをこの回線で送ってくれ。こっちでも今、
とんでもないことが起きてるんでな』
「了解、こっちもとんでもないんで送信します」
 ここでまた余計なことをいうと隼人さんの叱責が飛ぶに違いないので、まずや
れと言われたことからやっておく。
 ちなみにゲッター線特殊回線とは、ゲッター線を通信波として利用したものら
しくミノフスキー粒子にも影響されない通信手段として考え出されたものらしい。
その試作品がゲシュペンストに付いていたのは、父の趣味だろう、多分。
 でも、そのおかげで従来では交信が難しかった距離でのダイレクト通信ができ
るのはありがたいことだ。
 こっちから送信が終わると、画面には隼人さんの他に、眉間に皺を寄せたブラ
イト艦長が加わった。
 どうやらかなり深刻な問題が起きたようだな。
『リン、エマに繋げるか?』
「はい」
 ゲッター回線と通常通信回線を接続させると、私越しの会話が始まった。新入
りは黙っていよう。
『エマ、そちらの状況はだいたいわかった。でも、こちらでも大変なことが起き
てな。今さっき宣戦布告が地球連邦政府に対して行われた。異星人からだ』
 ・・・いきなりの爆弾発言だな。
 私たちの側で行われている戦闘も、何かしら関係があるのかも。
『詳しい話は後回しになるが、そちらで救援信号を出した者達と是非コンタクト
を取りたい。なんとか接触できるか?』
『敵の敵は味方・・・ ですね?』
 二人のやりとりに無駄がないな感心しきりだ。
『了解しました。エマ、リン両名はこれより威力偵察にはいります。リン、覚悟
はいいわね!?』
「はい!」
 不遜にもまたワクワクし始めた私。戦場の緊張感を心地よくすら思い始めている。
 その時、トロイホースのブリッジの声がFW越しに聞こえてきた。
『ゲッターチーム! イーグル!』『ジャガァ~~♪』『ベアー!』
『『発進!!』』
 何だか少し妙だが、ゲッターチームが発進したようだ。あれ? 隼人さんはま
だ映っているぞ?
『聞いての通りだ、リョウ達がそっちに向かった。状況次第ではアムロ君達も増
援として向かわせるそうだ。とにかく状況を掴んでくれ、我々に今必要なのは精
度の高い情報だ』
「了解しましたが・・・ 何で隼人さんがまだブリッジにいるんですか?」
 余計な詮索かもしれないが、問わずにはいられない。今、ジャガー号に乗って
いるのは誰なんだ?
『あぁ、このゲッター線通信装置を使えるのが俺しかいなくてな。俺はこれから
地球と連絡を取ったりしなくてはならんから、取りあえずジャガーにはお前の親
友に乗ってもらっている』
「・・・グレースですか?」
 頭にジャガー号のコックピットではしゃいでいるグレースの姿がえらくリアル
に浮かんだ。・・・ なんかやだ。
『大丈夫なの隼人君? ゲッターに素人の女の子なんて乗せて』
 エマさんが私の言いたいことをソフトに代弁してくれた。ちなみに私なら『何
考えてるんですか!? あんな天然ボケトンチキ娘をゲッターロボの乗せるなん
て!』と問いつめたいとこだが、我慢しとこう。
 すると隼人さん、少し楽しげな口調で言う。
『一昨日、試しにあの子にゲッターのシュミレーションをやらせたら、ミチルさ
ん以上の適正を叩き出してな、ものは試しという奴だ。ブライト艦長にも許可は
もらったし、リョウとベンケイがいれば、何とかなるだろう、エマ大尉とリンも
よろしく頼む。進展があったらこの回線で連絡しろ、以上だ』
『二人とも、頼んだぞ』
 最後にブライト艦長の声が重なり、通信が切れた。
 しかしナイメーヘン時代、MS操縦の実習で味方を撃ってたような奴に、ゲッ
ターロボの操縦ができるなんて、俄かに信じがたく複雑な気分だ。
『リン、とにかく割り込むわよ、あの中に!』
 エマさんのマークⅡがバーニア全開で光条閃く戦場に向かっていった。勇まし
いな、エマさん。
「援護、します!!」
 この場合私がやることは、交渉権を持つエマさんを目的の人物に会わせる手助
けをすることだ。
「レナン、対艦攻撃モードだ! 戦場に間をつくる!」
 ニュートロン・ビームライフルを戦場に向ける。狙いは3対9で行われている
戦闘の隙間だ。目的は両者に「第3勢力」の出現を教えることだ。
 とにかく派手にいくぞ!
「撃ち合いやめー!」
 わけのわからん気合いとともに、私はトリガーを引いた。
なかなかヘビーな反動とともに、ニュートロン・ビームライフルから大出力の
光条が放たれていった。
 ビームが、私の狙い通りに3対9の隙間に白い光のラインを引く。
 そして撃ち合いが止んだ、よし狙い通りだ!
『リン、ナイス! こちら地球連邦軍コロニー治安維持部隊ロンド=ベル!
あなた達、戦闘を即時中止しなさい!』
 お誉めの言葉の後、エマさんは通信周波全開で呼びかけた。これで救援信号を
出していた異星人が呼びかけてくれればいいが・・・
 十数秒後、私のゲシュペンストとエマさんのマークⅡは、正体不明集団の中間
に陣取っていた。応答は、まだ無い。
 言い知れぬ緊張が私を覆っている、この戦闘はまだ終わっていない、中断しているだけ
なのだ。
 今のうちに、異星人の機体の識別をやっておく。一方は金色の派手なのが一機、
青っぽい鬼顔が2機、一つ目の如何にも量産機が6機で計9機。もう一方は白い
のが一機にほぼ同型の赤いのが2機だ。「金」「鬼」「一つ目」「白」「赤」で
取りあえず登録する。
『地球の方、聞こえますか!?』
 ノイズの無いクリアな音声が飛び込んできた。男性の声だ。宣戦布告してきた
くらいだから翻訳装置くらいはあると予想はしていたが、通信装置もかなり優秀
なようだ、お客さんは。
 発信源は・・・ 「白」からだ。どうやら少数の3の方が、救援信号を出してい
たみたいだ。
『こちらロンド=ベル、聞こえてます! あなた達、救援信号を出していたのは?』
エマさんがコンタクトを開始した。私は「金」や「鬼」の方を警戒をする。こっ
ちのデザインは「白」や「赤」に比べて何か威圧的だな。
 連中は私のさっきの一撃を警戒しているのか、ビームライフルの斜線をさける
ように扇状に広く展開している。
 その間もエマさんと「白」のパイロットとの通信は続いている。彼があちらの
代表みたいだな。
 ちなみに彼との交信記録を取りながら、私はトロイホースに通信を繋ぐ、さっ
き存在が確認されたゲッター線使用の通信装置というのを使用してみる。私は知
らなかったが、レナンにはちゃんと使用方法がオートで出来るように登録されて
いた。
 あれ、トロイホースが通信に出ない。 レナンに問うと【受信サイドに何らか
の問題が発生したと思われます】と出た。
 何かあったのか、トロイホースに?
 とりあえず記録だけは継続しておく。
『・・・あなた達はペンタゴナと言う星系から、オルドナ=ポセイダルという人
物が個人的野心の為に地球に侵攻してくるのを知らせに来てくれた、独裁者に抵
抗する反乱軍なのね?』
『はい! 我々はポセイダルの驚異が地球に及んでいることを知らせる為にやっ
てきました、ですが・・・』
 エマさんと異星人の彼との交渉は、上手くいっているようだ。こういう事は年
長者に任せるにかぎる。
 しかし・・・ 緊張で喉が乾いてきたぞ・・・
 集中して聞いているわけでないので、大まかにしか話の内容はわからないが、
異星人の彼は今回の宣戦布告のことを事前に察知して、恒星間航行をしてまで
危険を知らせにきてくれたらしい。
 ちょっと遅かったけど、彼らの行為は讃えられるべきものだろうと私は思う。
【後方より高速で接近する物体あり・機数3・ゲッターチームと確認】
 軽い警告音と共に、FWが開きこれ以上ないくらい頼もしい援軍の到着をしら
せてくれた。一人不安要素が乗っているが・・・
 しかし、ゲッターチームの接近を察知したためか、今まで不気味な沈黙を続け
ていた「金」や「鬼」達が動き出した。
腕を上げている、その先についた筒みたいのがビーム兵器か!?
「エマさん、来ます!! そこの異星人の勇敢なパイロット! どの機体が一
番強い!?」
 エマさんに警戒を促すと同時に、私は異星人に突然の質問をぶつけた。
 質問の意図が伝わったか少し不安になったが、僅かな間があったが、彼ははっ
きりと答えた。
『オージェ、あの金色の機体です! 気をつけてください、あの機体のパイロッ
トはネイ=モー=ハン、ポセイダル軍の十三人衆の一人です!』
 その十三人衆とやらが何を指すのかわからないが、強敵であるのは変わりない
な、なら・・・
「竜馬さん! 聞いてのとおりです! あの金色は任せました!」
 こちらも最強の機体をぶつけるのが一番だろう。
『わかったぁ~!! いくぞ、ベンケイ、グレースちゃん!』
 竜馬さんの熱血の絶叫。やる気満々だな。
『おぅ!』『了解ですぅ~』
 それに続く弁慶さんと、・・・グレースの声。
 大丈夫なのか、本当に?
『チェェンジ、ゲッタァ~~ワン!!』
 通信越しでも総毛立つような気合いが聞こえ、イーグル号、ジャガー号、ベアー号
が激突するような勢いで一点に集まっていった。
 そして一瞬、目が眩むような閃光が走ったと思うと、すでにそこには・・・
 赤いマントを翻した、ゲッター1の姿があった。
 実際に、ゲッターチームの合体を目の当たりにしたが、その迫力は・・・
 凄い、の一言だ。
 あ、見とれてる場合じゃなかった。
「エマさん、こっちはあの鬼顔を相手しましょう! 私が長筒もったほうを
やりますから!」
「私がもう一機の相手ね、了解! リン、あなた指揮、なかなか的確よ!」
 言われて気づく。あぁ~~! 私は無意識に先輩を使うようなことをしてしまっ
たのか!  
 でも、エマさんは私の指示になにも言わずに従ってくれた、ありがとうござい
ます。
「異星人の人、あなた達は残りを何とかしてください、期待します!」
 もう、ついでだから異星人にも指示をだす、立ってるモノは何とやらだ。
『・・・・・・ あ、はい。わかりました。でも、地球のロボットは、凄いです
ね・・・』
 どうやら彼は、ゲッターの合体を見て、ショックを受けていたようだ。あれが
沢山あると思われると困るな。
「それと、よかったら名前を教えてくれないか、共に戦うんだから、名前くらい
しっておきたい。私はリン=マオ、さっきの素敵な女性がエマ=シーン、あのロ
ボットには流 竜馬、車 弁慶、グレース=ウリジンが乗っている!」
 名前を訊ねるのならこちらから名乗るのが礼儀だと思って、駆け足の自己紹介
をすます。
「わかりました、僕の名前はダバ=マイロード、あの赤い機体には僕の大事な友
人のミウラー=キャオとファンネリア=アムが乗っています!』
 私の提案を彼は受け入れてくれたようだ。名前の名乗り合いなんて些末なこと
かもしれないが、こういうことは大事だと思う。
「了解した、ダバ=マイロード! 私にはまだ紹介したい素敵な仲間が沢山いる、
だから・・・」
『お互いがんばりましょう!』
 私の言葉を彼が続けてくれた。彼はきっと好男子だな、通信が音声オンリーな
のが惜しい。
 そして私は気を引き締めて、私の相手となる「鬼」を見据えた。
 かなり出来る、強敵だろう。
 でも、私はゲシュペンストの乗っているんだ、負けるわけにいかない!
 異星人との戦闘が始まった。

『ゲッターァァァ・トマホォーク!!』
 開きっぱなしにしている通信から、竜馬さんの怒濤の気合いが聞こえてくる。
 見ると原始的なフォルムを持つトマホークを手にしたゲッター1が、オージェ
とかいう機体に斬りかかっていった! 
 どうにも避けきれる間合いじゃない、もらったなと思ったら、オージェはなん
と手に付属したビーム兵器でトマホークを撃ち落とした!
 す、すごい腕だ、あの金色のパイロットは・・・
 そして今度はゲッター1本体を続けて狙うオージェ、しかし撃ちだされた光条
は・・・
『オープンゲット!! グレースちゃん行くぞ!』
竜馬さんの掛け声と共にゲッター1が閃光包まれ、3つに別れオージェの攻撃
をかわした! でたな、ゲッターロボならではの回避方法。
『チェンジ~、ゲッタ~2ですぅ~』
 そして次は・・・ 本当にグレースで大丈夫なのか・・・
 だが3機のゲットマシンは見事なコンビネーションでオージェの背後に回りこ
むや、閃光と共に再び一つに合体した。
 そしてそこにはちゃんと白い機体のゲッター2が出来上がっている! すごい、
ほんの少し見直したぞ、グレース! 
『ドリル、全開ですぅ~』
 そして果敢にもドリル全開で突撃をかける、ゲッター2。
 さすがにこんなロボットの存在、予想もしなかっただろうオージェは、ゲッタ
ーロボ特有の変速攻撃に押され始めている。
 あっちは大丈夫そうだな。
ダバ君たちも、3対6ながら、優勢をたもっている。
 で、問題は・・・
 私とエマさんだった。エマさんはFWに映る映像を見る限りでは、かなり押さ
れている。なんとかビームサーベルとバルカンで接近戦に持ち込んではいるが、
防御に使っているシールドはボロボロだ。
 私はさっきから僅かに距離をとって、長筒構えた「鬼」に向けてニュートロン・
ビームライフルの銃口を向けている。あちらの砲身もこちらを向いている。
 どっちも動けなくなってしまったのだ。
片や不利を承知での接近戦、片や無様なにらみ合いになってしまったのには、
不本意ながらわけがある。
 敵には対ビーム兵器に対するコーティングが施されていたのだ。
 おかげでビームライフルしか装備してこなかったエマさんは接近戦を選ぶしか
なく、私は腕の未熟さから何発も「鬼」に、何発もの光弾の命中を許してしまい、
そのおかげでゲシュペンストにも対ビームコーティングがあることがばれてしま
った。で、お互いにビーム防御能力が及ばないほどの大出力のビーム兵器による
1発勝負に出ることになり、それを撃ち込むわずかな隙を求めての、睨み合いと
なってしまった。
 どうやらあの長筒は、大出力のエネルギー兵器であることは、レナンの警告で
解っている。そしてこっちのビームライフルの最大出力はさっき披露済みだ。
私の方の問題は、一発勝負が外れたときの展開だ。
 こっちはもう一発撃ったら打ち止めになる、あっちはどうだか解らないが、連
射は出来ないと予想できる。
 お互いはずしてしまったら、きっとそのままエマさんみたいな接近戦になる。
これは私はあまり迎えたくない展開だ、ゲシュペンストは「鬼」より一回り程大
きい。
 多分4:6私とゲシュペンストが不利だろう。
 ほぼ互角の今の状態で、私は勝負をつけたい。 
 私と「鬼」が待っているもの、それは拮抗状態が出来上がってしまったこの戦
場のバランスが崩れるときだ。
 その時、一気に仕掛ける!
 ただ問題は、その時崩れるバランスの天秤がどっちに傾くかだ。
 FWが私の戦闘に邪魔にならない位置で、エマさんとゲッターの戦闘映像と、
ダバ君達の3対6の戦闘状況を随時知らせてくれている。
 あ、ダバ君達の「赤」が「一つ目」を一機倒した、3対5になったぞ、ここは
心配なさそうだ。ダバ君が乗る「白」が他の2機を上手くサポートしてるし何よ
りチームワークが抜群だ。
 ゲッターロボも竜馬さんがグレースに指示を出しながら、巧みに1と2を見事
に使い分け、オージェとやらと互角以上の勝負をしている。それにさっきから竜馬さん
は何かを狙っている気がするぞ。
 となると、やはりエマさんか・・・
 エマさんのガンダムマークⅡは、「鬼」相手によくやっていると思う。
 ただ、明らかに「鬼」の方が性能が上なのだ、それに対ビームコーティングの
せいで、得意の中距離の射撃戦に持ち込めないし・・・ 
 頑張ってくださいと心で声援を送るしかできない自分がもどかしい。だが、そ
の時・・・
「あっ、エマさん!」
 ついに、敵の斬撃に捌ききれなくなったマークⅡが、一撃を喰らっていしまっ
たのだ。左腕部がシールドごと持っていかれた!
 そして私はまた眼前の敵から注意をそらしてしまった、まずい! 黒い三連星
のときといい、なんて迂闊な私!
 均衡が崩れたぁ、来る!
 私はトリガーに指をかけた、せめてこいつだけは私が何とかしてみせる!

 だけどその時、私は私以上にこの戦場全体を見据えていた存在がいたことを知った。

『今だ、ベンケイ!!』
 竜馬さんの絶叫、瞬時にオープンゲットするゲッター1。そしてそれに答える
ように弁慶さんが、叫んだ。
『おぅ! チェンジ、ゲッター3!!』
 何故ここで宇宙で不向きのゲッター3が、という疑問が沸く。
 でも、ゲッターチームの凄さを私はその時改めて知った。
 ゲッター3に変形するや、弁慶さんが再び叫んだ。
『ゲッターミサイル、全弾発射ぁ!!』
 怒濤の勢いで一気に放たれた無数のミサイルは・・・
 それはなんと、「鬼」2機を狙っている! 
 ゲッタチームはオージェと戦いながら、「鬼」2機に苦戦する私達に加勢でき
るベストタイミングを待っていたらしい。 そのベストタイミングとは・・・
 敵が優位を確信したときか!
 ゲッターチームが攻撃するなんて思っていなかった「鬼」二機は、ものの見事
に不意をつかれた。とくにエマさんに追撃をくらわせようとしていた奴は、避け
きれずに左腕と左足を破壊される。
 私の相手の「鬼」は距離も離れていたことあり、何とかミサイルをかわしたが。
「どこを見ている!」
 今度はあっちが、私の存在を一瞬失念したようだ、が、一瞬で十分!
 エネルギー全開の戦艦でも破壊出来るニュートロン・ビームライフルの光条が
放たれる。
 貰ったぁ! 命中、光条は「鬼」の両足を破壊した。よしっ!
 でもあの態勢で、上昇かけてかわしに行くなんて、このパイロット、敵ながら
いい腕だぞ。 
続いてエマさんもその隙を見逃さず、ビームサーベルを一閃させ、「鬼」の首
を斬りとった。さすが、エマさん!
 そして見事に戦況を一転させたゲッターチームは、すでにゲッター1に変形を
終え、オージェと再び相対している。
 そして、今度は3機でオージェを扇状に展開する
 だがオージェのパイロットは、戦況が5対6になるや、あっさりと撤退を決意
したようだ。
 徐々に距離をとって、急速転回し後退していく。追撃は・・・ 出来る分けな
いか。私はしばらく弾切れ、エマさんのマークⅡは小破してるし。
 それに私達はダバ君たちを保護するのが第一目標だったから、退けただけで良
しとするか。
「エマさん、大丈夫ですか?」
 多分、あれだけの動きを見せてくれれば大丈夫だと思うが、心配なので訊いて
いる。すると、FWに映ったエマさんは、肩を上下させ、すごい汗だ。ほとんど
睨みあってた私は、精神的には少し疲れていたが、前回の黒い三連星相手の時に
比べたら全然大丈夫だ。
『竜馬くんたちのおかげね、何とかなったのは・・・』
 息を切らせ、汗を拭いながらのエマさんのコメント、私も全く同感だ。
 そのゲッターロボは、油断無く逃走する敵への警戒を続けている。そのシルエ
ットは、ロボットと言うより、偉大な戦士の後ろ姿のように私には見えた。
『リンちゃん、大丈夫ですかぁ~?』
 ・・・いい感じに浸っているところを、見事にぶち壊しにする間延びした声が
聞こえた。FWが開き、顔を出したグレースは・・・ どうして隼人さんと同じ
戦闘服を着ている?
「どこで手に入れたんだ、その服?」
 問わずにはいられない。
『えへ、似合いますかぁ? 隼人さんの予備、仕立て直して作ったんですよ』
 ・・・グレース、お前に軍人としての自覚はないのか?
『これで隼人さんとの仲も、一歩前進ですぅ』
 私の眉間のしわとおでこのバッテン印に気づかずに、グレースはきゃいきゃい
はしゃいでいる。
『おぅ、何とか片づいたな』
 すると、今度は弁慶さんの姿がFWが映る。この人はこの人で、宇宙だっていうのにな
んで野球のユニフォームなんぞ着てるんだ?
「弁慶さん、さっきのミサイル、お見事でしたね」
 頭に浮かんだ疑問は後日解明するとして、まずはさっきの賞賛を伝える。
『ゲッターに乗ってるんだから、これくらいは出来ないとな』
 少し照れながらの謙遜に、私は無骨な男のかっこよさを見た気がした。やっぱ、
男は顔も大事だが中身はもっと大事だな。
 その点ジェスは、両方問題なしの合格だけどね。
『皆さん、大丈夫ですか!?』
 大事な大事な恋人のことを想いだして、ちょっと幸せなところに、ダバ君から
通信が入った。
 最初にこちらの安否を気遣うとは、やはり彼は好青年に違いないと確信する私。
『私のモビルスーツ、-あ、このロボットのことね-の腕がもげたただけ、ビー
ムが効かないって最初に教えてもらうんだったわ』
 エマさんの笑いを含んだ声に、ダバ君は少し恐縮したようだ、ちょっと言葉に
詰まっている。
『あは、冗談よ。それよりそっちは大丈夫なの?』
『え、えぇ、おかげさまで、助かりました。それにしても、凄いロボットですね・・・』
 改めてゲッターロボに感心しきりといった感じのダバ君。地球でもあんな凄い
ロボットはまれだということを、早く教えてあげなくては。   
『とりあえず、トロイホース、私達の母艦にもどりましょう。ちゃんと顔見て自
己紹介したいからね』
『そうですね』
 エマさんの提案に私も同意する。
『実はここから少し離れたところに、僕たちの母船があるんです。そこによって
からでよろしいですか?』
『ええ、いいわよ』
 と、順調に話がまとまったのだが・・・

 PiPiPiP!! 

 不意の警告アラーム! まだ残敵がいたのか!? それとも新手か!?
 私の視線が、警告音の元を探す、レナンが示した方向に、僅かな光点が視認で
きる。あいつか・・・
 レナンがFWに拡大映像を出してくれた。
 なに!? あれは、あのモビルスーツは・・・
『リン、何がいるの?』
『おい、どうしんた、新手か!?』
 まだゲッターやマークⅡのセンサーに、あれはまだ認識できないらしい。
 私は、ゆっくりと自分が目にしている物の名を口にした。
「ガンダムタイプ、ガンダムがいます」
 そう、見たことのないガンダムが、私達に巨大なライフルの銃口を向けていた
のだ。
 こいつは、敵、なのか・・・・・・?

 
 -幕間へ-

 【後書き】
 これ書いた頃、パソコンを買い換えてますね。段落前にスペース
入れるようになってるのでわかります。しかし、三点リーダーの使い方、
ヘンですね、この頃。しかし、回を追うごとに、訂正が増えていってます。
 ちなみにこのSSのゲッターロボは【OVAの真ゲッターロボ】Verとなって
おります。ゲッター1のマント最高!!
 グレースをゲッターに乗せたのは、自分では大ヒットだと信じて
います。作品を超えた乗り換えが好きなんです、自分。



[16394] F REAL STORY  幕間  -私のいない所で-
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/02/27 22:04

 テスラ=ライヒ研第8実験場では。
「ふっふっふっ・・・」
 とあるマシンのコックピットで、パットは偉そうに腕を組み瞑目なんぞしていた。
「あなたとの付き合いも長いけど、今日は手加減しないわよ、ジェス」
「そうよ、私とパットが組んだからには、あなたに万に一つも勝ち目はないわ」
 パットの言葉にこれまた妙に自信満々のミーナが続く。
「やれるもんならやってみな!」
 女性陣の挑発を、ジェスは鼻で笑って軽くあしらっている。
「お~い、程々になぁ!」
 この意味のない勝負の唯一の見学人たるヘクトールが、研究所にあった巨大メガホンを
使って、3人からかなり離れた場所から、お互いに呼びかけている。
 ちなみに状況を説明すると、場所は北アメリカ大陸西部、カリフォルニア砂漠地帯。地
平線のはてまで岩と不毛の大地しかないところだ。
 ジェスが乗っているはMSジェガン・スーパーカスタム。リンがゲシュペンストの操縦
技術獲得のために使用していたものを、お役ご免となったところでテスラ=ライヒ研有志
一同がよってたかって改造を加えたために、もはや別物と言っていいくらいの性能と外観
のMSである。
 そしてパット&ミーナの乗っているものは・・・
 なんとゲッター1であった。しかしこれまた何といっていいか、妖しげなゲッター1で
ある。
 色は黒で統一されている。亀の甲羅のような顔も心なしか凶悪だ。二の腕にあるレザー
カッターもなく、代わりにオリジナルより一回りは太くなっている。さらに隣にゲッター
1が立てばわかるが、オリジナルより5メートルは小さいのだ。
 このゲッターロボ、じつは隼人にプロトゲッターを譲り受けたテスラ=ライヒ研マオ研
究室のこれまた有志一同が、【ありし未来のために誰にでも使えるゲッターロボを】と言
う訳の分からないコンセプトに基づき、研究員が知恵と趣味を爆発させて造ったものなの
だ。
 開発コードネームは『ブラックゲッター』、後に二人のパイロットのために『かしまし
ゲッター』と呼ばれることになるゲッターロボであった。
 ちなみにこのゲッター、分離変形機能は削除されており、ずっとゲッター1のままであ
るが、代わりになる機能はある程度つけられているらしい。
 操作方法も以前マオ研究室が携わったあるロボットを参考に、頭部にモーショントレー
ス主体の主操縦席(パット担当)、腹部にサポート用の副操縦席(ミーナ担当)の二人乗
りになっている。
 2機は今、約1キロの距離を置いて相対していた。
 ブラックゲッターは、パットの姿勢を再現しているため、偉そうに腕を組んで高度50
メートルほどを、反重力マントなびかせ浮いている。
 ジェスの乗るジェガンSCは、両手に日本刀のようなヒートサーベル、通称『マサムネ
ブレード』をまるで大昔の剣豪のように構えている。
「はぁ、無事にすめばいいけど」
 ヘクトールは相対する2機からさらに2キロはなれた場所で、蓄音機のスピーカーのよ
うな巨大メガホン片手に、ここまでジェガンを運んできた旧式のドダイYSのコックピットの
上に座り込んでいる。   
「じゃあ、いくぜぃ! レディ・ゴー!!」
 メガホンに絶叫するや、合図がわりに発煙グレネードを発射。
 ブラックゲッターVSジェガンSCの「腕試し」が始まった。

 母親カレンに連れられて、テスラ=ライヒ研に来たジェスと思わず付いてきてしまった
ヘクトール、パット、ミーナ。
 この4人は、どういったコネをカレンが使ったか不明だが、即日ジャブロー軍統合作戦
本部から『テスラ=ライヒ研への出向を命じる』という辞令を受け取った。
 そして、カレンはまずジェスにジェガンSCを、パット&ミーナにブラックゲッターを
あてがい「とにかくなれなさい!」と命令するや、それ以降、姿を消してしまった。
 へクトールは上空に妙な風切り音を耳にし、上を振り返る。
 超小型の独特の形の真紅のVTOLがこちらにせまって来ていた。
「あれが、ホバーパイルダー・・・ わざわざ物好きなこって、マジンガーZのパイロッ
トも」
 見物人が一人増えたようだ。  

「もう、はじまってんのかい?」
 Tシャツにジーンズといった出で立ちで、マジンガーZのコックピットにもなる小型VTOLから
降り立ったのは兜 甲児。言わずとしれたマジンガーZのパイロットである。
 今はマジンガーZ持参で、光子力研究所をはなれこのテスラ=ライヒ研において、機械工学
の研究生として留学中なのだ。
 ヘクトールたちがテスラ=ライヒに来て、もの珍しさでウロウロしているとこに、たまた
ま甲児たちと出会い、瞬時に意気投合してしまった。人見知りという言葉とは無縁の連中だし、
ノリも似ていたからだろう。
「なんか、MSフリークとロボットフリークの趣味の戦いって感じだな」
 長期観戦を予想しているのか、ヘクトールのとなりにござを引いて、持参のバケットを
開いて水筒と握り飯をだす甲児。
「美味そうだね、甲児くん」
「ん、一個ならいいぞ」
 そんな二人が見ているなかで、口火をきったのはブラックゲッターだった。
「げった~~とまほ~く!!」
 『量産型の宿命』という訳の分からない理由から、ブラックゲッターには右肩にしかト
マホークは装備されていない。
 パットの声が高らかに響くと、ブラックゲッターがトマホークを振り上げ、低空を滑空
してくる。
「ジェス、おとなしく死になさ~い!」
 リンが聞いたら襲いかかってきそうな台詞を吐くや、ブラックゲッターがトマホークを振り下ろ
した。加減っていうものがまったく感じられない。
「甘い、熱血小娘!」
 その突進をジェスのジェガンSCは、マサムネブレードを刀身と見事な足捌きで受けな
いでかわした。おもわず甲児が口笛を吹いて賞賛する。
「うまいなぁ、ジェスのやつ。さすがリンが惚れるだけあるぜ」
「まぁ、MS実技じゃ昨年度ナイメーヘントップだもんね、お茶もらえる?」
「ほら」
 と、男二人は実にのどかだ。
「え~い、ミーナ、いくわよ!」
「えぇ!」
「「げったー・びーーーーーーーーむ!!」」
 ちょこまかと動くジェガンSCの動きをとらえられないでいたブラックゲッターが業を
煮やして必殺武器を放ってきた。地面がなぎはらわれ、土煙が吹きあがる。
「だめだな~パットもミーナも、ゲッターに振り回されてんじゃないか」
 ビームによる衝撃波をふせてやりすごし、何事もなかったように再び茶をすするヘクト
ールと甲児。
「あれ、ジェスがいないぞ、吹っ飛んだか」
 へクトールの言葉通り土煙が収まったとき、ジェガンSCの姿が消えていた。
「こういう時の定石は、っと。ほら、上だよ」
 甲児が指で上を指すと、そこにはマサムネブレードを大上段に構えたジェガンSCの姿
があった。
「もらったぁーい! 出直してこいや、二人とも!」
 ジェスの見事な峰打ちが、ブラックゲッターの頭部にヒットした。
 ごいん、と鈍い音が響きわたる。
 ちなみに頭部にはパットのコックピットがあったりもする。
「決まったな、いっぽーん! それまで!」
 一応、審判の役目をになっていたヘクトールが巨大メガホンでジェスの勝利を宣言する。
「ジェス~、少しは手加減しなさいよ~!」
 コックピットで頭をおさえて蹲っているパットが、不平をもらす。自分は微塵も手加減
してなかったのに勝手な言いぐさだ。
「さて、これで体も温まったわね」
 ふいにミーナがそんなことを言った。
「?」
 わけがわからず、目が点になっているジェス。
「いまのは練習! これからが本番よ、ジェス!」
「そうよ、勝負はこれからよ!」
 パットもちゃっかりのっている。この二人負けず嫌いの諦めが悪いという二重苦らしい。
「いくわよ、ジェス」
「今度こそ年貢の納め時よ!」
 勝手にリターンマッチを決定して、再びジェガンSCに突進するブラックゲッター。
「おい、まだやるのかよ」
 呆れ顔の甲児に、ヘクトールは肩をすくめて答えた。
「たぶん、勝つまでやるんだろ」
 この四人は場所がかわっても相変わらずのようだ。

 そしてテスラ=ライヒ研のとある一室で、ある人物と通信をおこなっているカレンの姿
があった。
「ありがとうね、四人のことで無茶頼んじゃって」
 カレンの悩殺スマイルを受けているのは、中世の貴族のような服を着こなし、若いなが
らも、静かな風格が備わっている美丈夫だった。  
『あなたの頼みを、この私が断れるはずないじゃないですか、カレンさん』
 その美丈夫は、高級そうな陶磁のティーカップで紅茶を飲みながら、人を引きつける微笑を浮かべて、
カレンに言った。その仕草一つ一つが優雅に洗練されている。
「じゃあ、もう一つ頼み事していい?」
『えぇ、私で出来ることなら何なりと。我が女神よ』
 そして、カレンが彼に尋ねたのはある人物の消息だった。
「D・O・M・E、彼はどこにいるの?」

 -第四話 Aパートへ-

 【後書き】
 ブラックゲッター登場。これのもとのイメージは、【ゲッターロボ大決戦】に
でてきた方だったりします。OVAの真ゲッターに出てきたのに似ているのは
たしか偶然だったはず。しかし、自分の書くテスラ=ライヒ研は、どんどん
魔窟になっていってる気がする。



[16394] F REAL STORY  第四話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/02 17:08
「・・・ガンダムタイプのMSが、こちらに銃口を向けています」
 ゲッターチームとエマさんにそう報告する私は、異常なまでの緊張に包まれていた。
 あいつは、あのガンダムのビームライフルは、あの距離からここまで届くのか?
『ガンダムだって!? おい、リン、それは本当か!?』
 竜馬さんの問いかけに答えようとした矢先、とんでもない情報がレナンによってもたら
された。
【ガンダムタイプ:ライフルエネルギー臨界を確認】
【推定目標:ゲッターロボ】
「竜馬さん、狙われてます! よけて!」
『なにぃ!?』
 私の絶叫のすぐ後、ガンダムタイプのライフルが凄まじい光条を放った!
 これは・・・
 こっちも危ない!?
「みんな、散れーーーー!!」
 私は至近にいた咄嗟にエマさんのガンダムマークⅡを抱え込むようにして、その場にい
たダバ君達に警告する。突然のことながら彼らもうまい具合に散開してくれた。    
『なめるなぁーーー!!』
 そしてゲッター1が、竜馬さんがとった迎撃策はもっと凄かった。
『ゲッターーービィーーーム!!』
 迫りくるビームの凶弾を、なんとゲッタービームで迎え撃ったのだ!
 なんてことをするんだ、この人は!?
 そして交錯する二条の光、衝突したエネルギーの奔流、眩い白光があたりを埋め尽くす。
 まずい、視界が!
【ガンダムタイプ:急速接近】
 やはり、来た! このパイロットはかなり出来る。
 このガンダムは私たち6機を1機だけで相手する気でいるんだ!
 そして、今度の狙いは・・・
「私か! 小賢しいぞ!」
 私は、かばっていたマークⅡを思いっきり突き飛ばし、左腕のプラズマソードを閃かす。
「そこだぁー!」
 まだモニターは完全に回復していないが、私はプラズマソードで敵が居るであろう場所に斬りかかった。
 ホワイトアウト中の視界でも、ゲシュペンストの各種センサーが、敵ガンダムの位置を的確に教えてくれている、逃すか!
 ガキィ!!
 鈍い反動、プラズマソードが何かに受け止められたようだ。
 そして、急速に回復したモニターには・・・
 分厚いシールドでプラズマソードを受け止めているガンダムタイプのドアップだった。
 ゲシュペンストはシールドが多く供えられている左側を避ける為、
白兵戦系統は左腕から斬りかかるようになっているのだが、このパイロット、
見事に対応してくれやがった。
 そして、巨大なライフルの銃口が至近でこっちに向いている!?
 まずい! こんな距離であのライフルの直撃くらったら、いくらゲシュペンストでも欠片も残らない!
「だぁ~!」
 私は握っていたプラズマソードを離すと、必死になってあいた拳でビームライフルを掴
んだ。そしてフルパワーで銃身ごとガンダムの腕を上に向ける。
 ガンダムのビームライフルが再び大光条を放った!
 間一髪、それはゲシュペンストのすぐ脇をぬけていった。
 しかし、すごいビームライフルだ。ゲシュペンストの対艦攻撃モードなみの威力の弾を撃つた
めだけに造られた動く大砲だ、これじゃ。
「こんどは、こっちの番だ!」
 至近距離のスプリットミサイル連射! 8発全部発射する。
 だが、このパイロットは避けようともせず、なんと肩に内蔵されているバルカンみたい
なもので、ミサイルの迎撃と同時にゲシュペンストに攻撃を仕掛けてきた。
 こいつ、命が惜しくないのか!
 2機の間で次々と爆発が起きる、ちぃ!
 アポジモーターで急速離脱をはかるが、何発かの銃弾が装甲を掠めた。
 レナンがFWを開き、被害を報告してくる。装甲の被害は大したことないが、発射直前
のライフルを握るという荒技をやったせいで左腕のマニュピレーターが使用不能になって
いる。これじゃプラズマソードが握れない。
 それと、至近をライフルのビームが通り過ぎたせいで、センサー系にもいくつか不具合が
生じている。
 おまけに私はというと、ほんのわずかの間に肩で息をするほどの疲労を感じている。
 ただわかるのは、このパイロットの力量は『黒い三連星』より上だ、どうするリン!?
 微妙な距離を取って相対するゲシュペンストとガンダムタイプ。
 ライフルはさっき銃身を思いっきり握ってやったから、しばらく撃てないだろう。
 げど、こっちのライフルは弾切れ中だ。本体からエネルギーを回している最中だが、あと
100秒近く発射までに時間がいる。
『でやぁーーー!』
 すると開きっぱなしにしておいた通信から、ダバ君の気合いのこもった絶叫が聞こえて
きた。
 ダバ君の白い機体がビームサーベルみたいなもので、謎のガンダムに斬りかかっていっ
た。とっさに反応したガンダムはシールドからビームサーベルを出してそれを受け止める。
 サーベルのパワーはほぼ互角だった。数合、激しく斬り結ぶ。だが、機体本体のパワー
に差があるらしく、ダバ君の『白』は後ろに弾き飛ばされた!
 しかし、ほんのわずかでも、あのパイロットに『隙』を造ることに成功したみたいだ。
 そして、彼らがそれを逃すはずがない!
『出番だ、ベンケイ!』
 竜馬さんの熱血の絶叫! と同時にオープンゲットするゲッター1!
 三機に分かれたゲットマシンが再び一つになって、あのガンダムの背後を取った。
 そこに姿を見せたのはゲッター3!
『もらったぁ~~!!』
 弁慶さんの言葉と共に、あのゲッター3の蛇腹腕が見事に巻き付きガンダムをからめとっ
た! お見事!
 そうだ、私は一人で戦っていたわけじゃないのだ、こんなに頼もしい味方がいたんだ。
なんだか無性に嬉しくなった。   
『エンジンを停止して投降しろ! でないとこのまま締め壊すぜ』
 ぎりぎりと音を立て、ガンダムを締め付けるゲッター3。しかしガンダムタイプからの
返答はない。
『弁慶君、ほどほどにね。そこのMSのパイロット、おとなしく投降しなさい。あなたの
身の安全は保証します』
 マークⅡも近づいてきて、エマさんが投降をよびかける。
 だが、パイロットからの応答はやはりない。ガンダムタイプは、脱出を試みているのか、
がんじがらめの腕の中でもがいているように見える。しかし、ゲッター3のパワーは下手
なMSが数機束になってもかなうものじゃない。
 やがて無駄だと悟ったのか、ガンダムはもがくのをやめた。一安心といったところか。
 その時、私の中に突然、戦慄のようなものが駆け抜けた!
 私は自分でもわからないうちに叫んでいた。
「弁慶さん、離れて! そいつは、自爆する気です!!」
 理由はない、ただ頭の中にあのパイロットが『自爆をしようとしている』という思考が
突然あらわれて、私を急き立てたのだ。
『え、なんだって、おい!?』
 思わぬ展開に戸惑っている弁慶さん。
「とにかく早く離脱を!」
 なんだってと言われたって、自分でもこの頭に浮かんだ危機感の理由は説明できないの
だから。
 そこに、グレースがのんびり口調で口を挟んだ。
『リンちゃんの言う通りにしたほうがいいですよぉ。何かこのガンダムさんから、妙な声
が聞こえてましたぁ』
 声ってなんだと訊きたかったが、賛同してくれたことはありがたい。
『ベンケイ、ここはリンちゃんやグレースちゃんの言うとおりにしとこうぜ』
『お、おう。オープンゲット!』
 最後に竜馬さんがリーダーらしく意見してくれて、弁慶さんも決断がついたようだ。 
 そして、分離するや、すぐに今度はゲッター1になって、私とエマさんの前を護るよう
に立ちはだかっている。この戦場で端々にに見せるゲッターチーム(というか、竜馬さん
と弁慶さん)の動きは、やはり歴戦の勇者ならではって感じだ。
 一瞬たりとも隙を見せない、さすがだ。
 今も戦闘能力が落ちている私たちをかばいながらも、戦闘不能になっているガンダムタ
イプへの警戒を怠ってない。
 もし、ガンダムが動いたら、すかさずゲッターのトマホークで切り裂かれるだろ。
 緊張と静寂が、この戦場を包み込んだ。
 謎のガンダムは、装甲もかなりへこんでいて機体から所々火花があがっている。かなり
のダメージを受けているみたいだ。
 でも、自爆する気配はない。と、いうか私が先ほど痛いほど感じていた危機感も、何故
か今は感じられない。あのパイロットは自爆するのを止めたのか、それとも私の勝手な思
いこみだったのか・・・
『おい、リョウ、リン、エマ大尉、聞こえたら応答してくれ』
 不意に隼人さんから通信が入った。  
 気が付くとFWにブースター付きのゲターが、かなりの加速で接近中とレーダーに出て
いる。そして、通信もそのゲターからだ。
 なんで、隼人さんがゲターに乗ってこっちに来るんだ? トロイホースはどうしたん
だ?
 突然の通信に応答しようとしたとき、目の前のガンダムが動いた!
 しまった、気がそれた。それにあのガンダムのパイロットは小癪にも気が付いたようだ。
 攻撃が来るかと思ったのだが、敵ガンダムは私の予想外の行動をとった。
 突然、高速で変形したのだ! その形は、なんとなく大型の猛禽類のシルエットに似ている。
 そして、急加速して、この宙域から離脱していった。
 ・・・つまり、逃げたのだな。
『あのガンダム、変形もできたのね。あんなに小型なのに、凄い性能だわ』
 エマさんも感嘆している。それだけいい逃げっぷりだったのだ。しかし、あのガンダム
パイロットもさることながら、たしかに高性能でもあったな。どこのどいつが造ったんだ?
『・・・おい、リン、自爆ってーのはどうした?』
 低い声での問いかけ・・・ 弁慶さんが通信ごしにすごんでるのがわかる・・・
 あぁ、ごめんなさい・・・
『弁慶さん、リンちゃんいぢめちゃだめですぅ。わたしもぉ、しっかり聞いたんですから
ぁ~』
 するとグレースが私をかばってくれた。コイツにフォローされるとなんか複雑だ・・・
『そういや、声がなんとかって言ってたな、グレースちゃん。なにかジャガーには聞こえ
たのかい?』
 竜馬さんも、ようやく一息ついたようだ。会話に加わってきた。
『はい、あのパイロットさん、こう言ったのが接触回線で聞こえたんですぅ』
 そこでグレースは、神妙な顔つきになって、その聞いたという言葉を真似する。
『任務失敗、脱出不可能、自爆する・・・ って、言ってましたぁ』
 真似が上手くいったらしく、グレースはキャイキャイはしゃいでいるけど、私はその言
葉に、あのパイロットの言いしれぬ恐ろしさを感じて、無言になってしまった・・・
 やはり、あのパイロットは『自分が死ぬこと』をまったく恐れていなかった。だからあ
んな無茶な攻撃もできたのだろう・・・
 もし、私の前にまたあのガンダムが現れたら・・・
 私は、ゲシュペンストは、勝てるだろか・・・
『おい、何があったか知らないが応答くらいしてくれ』
 すると、隼人さんからの通信がまた入った。しまった、すっかり忘れていたな。
私は頭を振って、気持ちを切り替えようとした。こうして助かったんだ、今は考えないで
おこう。
「こちら、リンです。隼人さん、応答してください」
 さっそく通信を繋ぐと、相変わらずニヒルに笑っている隼人さんと、ピースサインなん
ぞ出してるキース少尉が写った。
『俺も乗ってるぜ、リン』
 どうやら運転手にされたようだな、キース先輩は。
 でも、トロイホースから抜け出して、一体に何をしに来たのだろうか、二人とも?
『この通信は、みんなに聞こえてるな、リン? じつはサイド1のコロニーの一つ【シャ
ングリラ】が異星人に襲撃された。トロイホースはそちらに向かっている』
 隼人さんが一方的に状況を説明してくれた。
 どうやら、異星人との【戦争】が、再び始まってしまったようだ・・・

 -第四話 Bパートへ-

 【後書き】
 ウィングガンダム襲撃。ヒイロを客観的に表現したのに、けっこう気を
使った記憶があります。
 ついでに宣伝。
 再起動したわがブログ、【川口代官所・跡地】でコソコソ掲載していた
第三次スパロボαのアフターストーリー、α=アフターの最新話を掲載し
ました。三年以上ぶりになったりします。
ttp://black.ap.teacup.com/makusan/
です。SSのジャンルになってますので、よかったら読んでやって
くださいませ。



[16394] F REAL STORY  第四話 Bパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/06 21:49
 とりあえず、私とエマさん、竜馬さんとグレース、それとダバ君ともう一人の仲間がゲターに集まることになった。
 私が初めて出会った異星人の青年、ダバ=マイロード。
 声からして、『好青年』というイメージがあったダバ君だが、実際に会った彼は地球でもそうお目にかかれないくらい精悍な面差し、格好良い、お世辞ぬきで。グレースがふらふら~と瞳をハートマークにして近づきそうになるのを、首根っこつかんで引き留めて、私は、彼とその連れ合いの髪の長い、綺麗な少女に挨拶する。
 地球式に思わず手をだして握手を求めてしまったのだが、彼らはなんの戸惑いもなく、あっさり手をにぎり返してきた。
 あちらでも、こういう挨拶が行われているのかな?
「先ほどは危ないところを助けていただいてありがとうございます。僕がダバ=マイロー
ド、こちらはファンネリア=アムと言います。彼女の分の翻訳装置は船に置いてきてしまっ
たので、話すのは僕だけになりますが、ご容赦ください」
 ダバ君の言葉が終わると、アムという少女が愛想よく微笑んで、手をひらひら振って挨
拶してきた。その仕草もなかなか可愛くて、キース少尉なんかあからさまにニヤけている。
あとでモーラさんにご忠信しておこう。
 ダバ君の丁寧な挨拶をうけ、私たちも個々に自己紹介をする。グレースだけは私が口を
手で塞ぎながら、かわりに簡単な紹介をする。こいつに話させると、何を口走るかわかっ
たもんじゃないからな。
 しかし、ゲターのコックピットに8人はきついな・・・
 仕方ないので、私と竜馬さんとグレースが天井に座るような感じで、どうにか場所を確
保すると、隼人さんからの説明が始まった。
 異星人の【シャングリラ襲撃】、そしてそこに住むロンド=ベルゆかりが深い少年達が
その異星人たちと戦っていると・・・

 ジュドー=アーシタ、彼の名前は自分も知っている。
 ZZガンダムというガンダムに乗り、DC戦争以前から連邦軍、いやブライト艦長に協
力していたという、天才的な操縦技術を持つ少年だという。
 彼は、もともとサイド1の【シャングリラ】でジャンク屋を生業としていたそうで、今
では軍籍を抜け、もとのジャンク屋家業に戻っていたそうだ。
 そこへ突然の異星人の襲撃があり、彼は自分の仲間達と何とか稼働できるMSを引っぱ
り出して、奮戦中とのことだった。
 ちなみにコロニー守備隊は、なんの役にもたたなかったそうだ、情けない。
 ブライト艦長は、ただちにトロイホースを【シャングリラ】に向けて発進させ、メッセ
ンジャーとして隼人さんを私たちのところに派遣した。
 隼人さんの説明は、そんな感じだった。
「で、エマ大尉、どうする? 俺達は軍人じゃないんで、あなたの意見を尊重したい」
 隼人さんにも、おおまかにダバ君達のことは説明してある。そして、彼らも母船に一時
帰還したいと言っているのだ。
「二手にわかれましょう」
 エマさんはわずかに考えて、こう言った。
「私とキースで、ダバ君たちについていきます。リンとゲッターチームは、急いでシャン
グリラに向かってください。どうせ、私のマークⅡの今の状況じゃ加勢にいけないしね、
それでいい?」
 最後の問いは、私と竜馬さん隼人さんに向けられたものだ。私はゲシュペンストの自動
修復機能を携帯端末でチェックする。
【ミサイル残弾ゼロ・左腕マニピュレーター稼働率低下・他に申告するほどの問題点なし】
 と、出ている。いけそうだ。
「了解です、エマさん!」
「よっしゃー、ハヤト、グレースちゃんと交代だ! ゲッター2のスピードで一気にいく
ぜ!」
 私の返答のあと、竜馬さんが掌を拳で叩いて、そう言った。気合いがはいってるな。
「ふ、当然だな。グレースも残ってエマ大尉の手伝いだ。それでいいな」
 隼人さんの問いかけに、グレースは頬をリスみたいにぷーっと膨らませて反論しかけた
が、私がその口を閉じて、無理矢理肯かせる。
「グレースちゃん、ゲッターチームのリーダーとしての命令だ、いいね」
「う~~~~」
 竜馬さんのこの言葉に、グレースも不承不承って感じで了解したようだ。
 ・・・しかしグレース、お前、いつゲッターチームの一員になったんだ? お前はまだ
連邦軍人だろうが?
「僕も同行していいですか? 微力ながら力になれると思います」
 話がまとまったところで、ダバ君がそう提案してきた。
 アムが、なにやら母国語で抗議してるような語調で、ダバ君に何か言っているが、肩に
手を置かれ、真摯な眼差しでダバ君に一言二言説得されたら、多少の不満はあったようだ
が、了解した。
 なるほど、あの「真摯な眼差し」にアムって子も弱いらしい。女泣かせの素質十分だな、
ダバ君って。
「いいの、ダバ君? 私たちとしたら、大変ありがたい申し出なんだけど」
 エマさん遠慮が少し入った問いに、ダバ君は力強く頷いた。決意は固いようだ。
「じゃあ、ゲッターチームとリンにダバ君は、シャングリラに向かって。私たちはこの子
たちの母船よった後、トロイホースに向かいます」
 エマさんによって最終決定がなされた。
 よし、後は行動だ。

 竜馬さん隼人さんがゲッターに、私はゲシュペンストに、ダバ君が彼の機体『エルガイ
ム』(さっき聞いたのだ。いつまでも『白』じゃいけないと思って)にそれぞれ乗り込ん
だ。
 そして、あっという間にオープンゲットするや、本当に瞬く間にゲッター2にチェンジ
した。さっきまでよりずっと、速いぞ。 
 これがグレースと隼人さんの差なのかな。
『リン、ダバ君、ゲッターのアームにしがみついてくれ。その方が速いはずだ』
 隼人さんに言われて、【シャングリラ】までの最短ルートを計算中だった私は、そんな
に違うのかな、と内心思ったが、口には出さず、左腕のドリルと上腕の間に腕を回す。な
んか腕を組んでるみたいだな。
 しかし、私はすっかり隼人さんに逆らえなくなっている気がするのは、気のせいだろう
か?
 ほどなく右腕のクロー部分にエルガイムがしがみついた。
『こちら、ダバ。取り付きました』
 ダバ君には先ほど、こちらで使われている、画像も送れる携帯通信機を渡しておいたの
で、今度はちゃんと顔つきの映像が送られてきた。
『リン、データをくれ」
「えっと、今、計算終わりました。送りますね」
 先ほど頼まれていた最短距離のデータをゲッターに送る。
『ようし、ゲッターロボ』
『『『発進!!』』』
 データを受信すると、隼人さんの合図をもとに、三人の男の見事に重なった「発進」の
かけ声がするや・・・
 弾かれたような急加速!
 うぅ・・・ 凄いGが、体に・・・ 顔がひしゃげる~、だ、大事な胸が潰れる~・・・
『二人とも、大丈夫か?』
 大気圏突破した時よりも、はるかにきついGを体感していると、隼人さんが涼しい顔で通
信してきている。あなたはこのG、何ともないんですか!?
『な、なんとか・・・』
 ダバ君も苦笑しながら、けっこうきつそうだ。
『・・・プロポーションが崩れそうです』
 私は訳の分からない苦情が出てしまった。このぐらいの文句は言ってもいいだろう。
『それだけ言えれば大丈夫だな。あと、10分くらいでサイド1の領域に入る。それまで
辛抱してくれ』
 苦笑まじりにそう言うと、通信が切れた。
 10分だって・・・ 私は先ほど計算した距離と、ゲシュペンストでそこに向かったと
きの時間を思い浮かべて見た。4倍近くの時間差がある。このゲッター2、どんな推進装
置使ってるんだ?
 しかし、あと10分はきついぞ、はっきり言って・・・
 ジェス、胸が小さくなってたら、ごめんなさい・・・

『これが、この星のコロニーですか・・・』
 無数の円柱型の巨大構造物が浮かぶ宙域、サイド1についた。地獄の急加速も終わり、
今は精々『猛スピード』って感じで【シャングリラ】に、私たちは急いでいる。
 ダバ君は、宇宙コロニーに見入っている。彼らのところにはこういうのは無いらしい。
 そう言えば【シャングリラ】は、第一号の巨大居住型宇宙コロニーだったな、まさか異
星人たちはそれを知ってて最初の襲撃場所に選んだんじゃないだろうな。
 【シャングリラ】はちょうどサイド1の宙域の真ん中あたりか。このペースならあと1
0分くらいで、付くと計算で出ている。ホントに信じられない速さで着きそうだな。
『リンちゃん、トロイホースに連絡とってくれ。状況を知りたい』
 竜馬さんからそう指示される。う~ん、ゲシュペンストは通信中継基地と化している気
が、さっきからしないでもない。
「レナン、トロイホースを呼び出して」
 すると、一秒も待たずにトロイホースに繋がった。ずいぶんと近くにいると実感できる
な。
「こちら、リンです。トロイホース、応答願います」
『リン、こちらトロイホース。お疲れさまって言ってあげたいけど、まだそうもいかないのよ』
 通信に出たのは苦笑気味に笑っているニナさんだった。この人は、アナハイムから出向
している民間人でありながら、戦闘中は通信オペレーターを専属でやってくれる。人手不
足のロンド=ベルにとっては本当にありがたいことだ。
「今、ゲッターチームと異星人の青年と一緒に、【シャングリラ】の側まで来てます。状
況を知らせてほしいんですけど」
 ニナさん越しに、ブリッジの中の状況が少しわかる。なんかブライト艦長の絶叫が、絶
え間なく続いている気がする、凄い声だ。
『えぇ、今データを送るわ。アムロ少佐や、コウやジュドー君がなんとか頑張ってるけど、
芳しくないわね。この声でなんとなくわかるでしょう?』
 『この声』はブライト艦長にかかっているらしい。たしかに、ポセイダル軍の機動兵器
-ヘビーメタルというらしい-相手に、コロニー内戦闘はきついかもしれない。
 あ、データが受信された。さて、状況は・・・
「これは、たしかに芳しくないですね」
 思わず出てしまった感想。友軍7機に対して、敵は20機残っている。しかも、友軍として登録されているのはアムロ少佐のリックディアス、コウ先輩のGP-01Fb、クリスさんのアレックス、ファのメタス、それにパイロット登録がされてないけど、GMⅢとネモとガンタンク。これに私たちが加わっても戦力差2対1だな。
 でも、びっくりするのはポセイダル軍のデータもある程度入っているってことだ、何故だ? 連邦軍は前からこの異星の軍隊のことを、少しは知っていたのか?
「ゲッターチーム、ダバ君、データを送ります。とくにダバ君、よく見てくれ。どれが要注意だか教えてほしい」
『はい!』
 ダバ君の返事、人の良さがにじみ出てるような「はい」だな。
『ねぇ、リン。異星人の青年って格好いいの?』
 不意にニナさんの通信がわりこんできた ・・・ニナさん、今戦闘中ですよ。
『これは・・・ ギャブレット=ギャブレーか!?』
 ダバ君は何かしらの送ったデータを見て、顔色を変えた。怒っているって感じだな。
『え、なんだ、そのギャブレットなんとかって? なんかまずいのか?』
 弁慶さんがビックリしたらしく、目を丸くして訊いてきた。私が考えるに、その『ギャ
ブレット=ギャブレー』は人の名前とみた。
 たぶんダバ君が見ているのは、私が『鬼』と名付けた機体が、アムロ少佐と白兵戦を行
っている映像だろう。たしかに機体のスペックもあるだろうけど、アムロ少佐のリックデ
ィアスとほぼ互角の斬り合いをやってのけている、すご腕みたいだな。
『リンさん、ゲッターの皆さん、この『バッシュ』は、僕が相手します! 他の『グライ
ア』と『アローン』の性能は大したことありませんから、お願いします』
 ダバ君が、何か、メラメラって感じに燃えている・・・
『ダバ君、水を差すようで悪いが、これだけは覚えておいてくれ。コロニー内戦闘では、
威力のある飛び道具は御法度だ。地面に見える場所は、コロニーの外壁も兼ねていること
を絶対忘れるな。リン、お前もだ』
 しかし、その情熱を抑えるような隼人さんの警告。う、たしかにそうだ・・・
 隼人さんに言われて、初めて気づいた。私もコロニー内での戦闘は始めてなのだ。それ
を失念して、ビームライフルを最大出力なんかで撃っていたらと考えると・・・ あぁ、想像する
だけで怖い!
『一つアドバイス、下から上への射撃は比較的安全だ。上の大地まで5キロ近くあるからな。
お、見えてきたぞ【シャングリラ】だ』
 そして、隼人さんの言葉通りに少し外壁が黒く煤けたような感じの古い開放型コロニー
が視界に入ってきた。
 【シャングリラ】だ。
『宇宙港の2番ゲートから入ってください。戦闘においては各自の判断にまかせると、ブ
ライト艦長が言ってます。よかったら、最初にトロイホースに張り付いている一つ目を追
い払ってほしいわね。しつこいのよ、さっきから』
 如何にも辟易したって感じの表情のニナさん、戦艦で、コロニー内戦闘は確かにきつい
な。機銃くらいしか使えないだろうし。
『リョウ、これからはお前の出番だ。ゲッター2でコロニーの中を走ったら、救援に来た
のか破壊に来たのかわからなくなってしまうからな』
『あぁ、任せとけ!』
 たしかに、ゲッター2でコロニー内の地面を全速で走ったとしたら、マッハ3のソニッ
クウェーブで地面は裂け住居はなぎ倒され・・・ あぁ、また大変な想像してしまった。
 ぶんぶんと頭を振って不吉な考えを頭から追い出す。
『オープンゲット!』
『チェンジ、ゲッター1!!』
 そして、分離したと思ったら、もうゲッター1になっている。やはり先ほどのオージェ
戦より明らかに速い合体だ。
 ゲッター1が反重力マントを展開するや、それにくるまるようにして弾丸のように突き進ん
でいく、まずい出遅れた!
「ダバ君、私たちも急ごう!」
『は、はい! でも、何度見てもすごいですね、ゲッターロボって・・・』
 だから、あんなロボットはホントに希なんだって、ダバ君。
 気を取り直して、私たちも宇宙港に向かった。
 今度はコロニーの中が戦場だ。

 -第四話 Cパートへ-

 【後書き】
 前半の戦闘と後半の戦闘の繋ぎ的な話です。ゲッターロボに驚くダバが
何気に好評だった記憶があります。しかし、この頃の自分の書き方、
まだまだ稚拙ですね、修正箇所、多すぎです。
 あと、自分のブログに覗いてくださった方、どうもありがとう
ございました。



[16394] F REAL STORY  第四話 Cパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/06 21:53
 二番ゲートをニナさんが指定したわけがわかった。
 どうやらトロイホースはここから強行突入したらしい。なぜ解ったかというと、明らか
にメガ粒子砲で吹き飛ばされたと思える穴が開いていたのだ。後で聞いた話だが、この
ゲートは壊れて長年放置状態だったそうだ。ゲートを開く管制官が退避したとか何とかで
こんな乱暴な手段をとったそうだ。
 私の後を、ダバ君がついてくるような感じでその穴から入港した。このまま、直進すれ
ばコロニーという巨大な筒の、ほぼ中心に出るはずだ。
 大気の流出は思ったほどではない。中へ入るゲートはさすがに壊さなかったらしい。
艦から人手を出して開けたみたいだ。下二十五メートルくらいがまだ開いていたので
そこを通る。私たちように開けといてくれたみたいだ。ゲッターもここ通ったのかな?
 壁際の開閉装置を使い、完全遮断の操作をする。MSのアーム準拠の規格だから、外に
出ずに操作できた。
「ダバ君、コロニー内に入ったら、さっき隼人さんに言われたことを忘れないでくれ」
『はい』
 今のはダバ君にと言うより、自分に再度言い聞かせるような感じの言葉だ。
 ここは数百万人の人が住む『大地』なんだから、慎重に、慎重に。
 程なく、円筒の中心部分に出た。
「いくぞ!」
『はい!』
 ゲシュペンストとエルガイムは急加速をかけ、一気に【シャングリラ】内部に突入する。
 私の目に飛び込んできたのは、360度全周囲に広がる街並み、そしてわずかに
流れる空気の流れにそってたなびく黒煙。ちっ、誰かコロニー内に穴を空けたな!
「レナン、このコロニー全体をサーチしてくれ! どこに誰がいるか、できるだけくわし
くだ!」
【了解】
 レナンに指示しながらも、私は肉眼でも出きるだけ、周囲の状況を把握しようとあたり
を見回す。コロニー内部の中心にあたる無重力地帯で、数条の火線が飛び交っているのが
目に入った。
 私の意図をすばやく察知してくれたレナンが、そこを拡大してくれた。
 トロイホースだ、それと一つ目、グライアとかいう奴が一機、しつこくあたりを飛び回
っている。あれがニナさんがいってた『しつこい奴』だな。
「精密射撃! スコープ出して」
 私の言葉に反応し、精密射撃モードに入る。頭全体を被う精密射撃幼スコープが座席後部
からせり出し、私の眼前に固定される。
「セッティング、コロニー内出力セーブはレナン、任せる。ダバ君は、そこで待機してい
てくれ、いま、君のお目当てのギャブレットなんとかを探している最中だ。トロイホース、
こちらリンです!」
 私は、スコープを覗き込みながら次々とレナンに指示をだす。もはや、レナンと私は一
心同体みたいなもんだと、つくづく思う。
『リン、何? 異星人の人、紹介でもしてくれるの?』
 ニナさんがでた、・・・・・・何を言ってるんですか、この方は。
「いま、そちらのしつこい一つ目を打ち落とします。ブライト艦長に、合図をしたら機銃
掃射を止めてくれって言ってください。異星人の青年はその後です。けっこう、いい男で
すよ」
 私も、何を言ってるんだかって感じだが、ジョークがでるくらいの余裕はあった方が
いいだろう。
『了解、ブライト艦長、リンからです』
 そして、ブライト艦長からの許可がおりた。あとは、あのうるさいのを落とすだけだ。
 目に映るスコープの十字には、先ほどからずっと動き回るグライアを捉えている。
 動体追尾射撃システム、これもセンサー系が飛び抜けて優秀なゲシュペンストならでは
のシステムだ。これで一度ロックできれば、まず外さない!
「3、2、1、今です」
『対空射撃やめ!』
 ブライト艦長の号令がかかると、すぐに機銃掃射は止んだ、
 トリガーを引く、わずかな反動、そしてスコープには上半身と下半身がわかれたグライ
アが写っている。さすがだ、私。
『リン、ご苦労。戦況はゲッターチームのおかげで随分と好転しているが、正直、まだ厳
しい。いけるか?』
 ブライト艦長からの通信、訊かれるまでないです。
「まだまだ、大丈夫です。それと、さきほど信号を送っていた異星人のリーダーをお連れ
しました。このまま我々に力を貸してくれるそうです。今から送るデータを味方の識別信
号に加えてください」
『皆さん、僕はペンタゴナ解放同盟のダバ=マイロードと言います。挨拶は後ほど。今は
微力ながら力を貸します!』
 私の通信に会わせて、ダバ君もブライト艦長に通信を入れた。ブライト艦長はそんなダ
バ君をしばし無言で見つめ、おもむろに口を開いた。
『協力感謝します。詳しい話は後でということで』
『はい! ありがとうございます!』
 一瞬の会談は終わった。この続きは戦闘のあと、トロイホースでという事だな。しかし
本来礼を言うのは我々の方なのに、ダバ君が先に礼を言うのも何となくわかるな。この異
星で人に信頼されるということの難しさを、彼は知っているのだろう。わずかな時間でそ
の決断を下したブライト艦長にも、拍手を送りたい、さすが名将!
【アムロ少佐の位置判明 座標出します】
 軽快なアラーム音が鳴って、ダバ君お目当ての敵が見つかったようだ。
「ではリン=マオ、戦線に加わります! 行くぞダバ君! ギャブレット何とかが見つか
った!」
『え、わかりました!』
 そして、私はダバ君を伴って戦線に参加する。
 それにしても、今日は人に指示ばかり出してる気がする、柄じゃないな。

「ダバ君、君のお目当てはこのまま真っ直ぐいけばいる。赤い機体に乗っているパイロッ
トには、私の知り合いだとでも言ってくれ!」
 咄嗟に出た滅茶苦茶な言葉。ガンタンクがアローンという奴にどつかれているのが目に
入ってしまい、ダバ君をお目当ての場所まで誘導できなくなってしまったのだ。
『わかりました、そちらも気をつけて!』
 コロニーの街に着地して、すべるように街を移動していくダバ君のエルガイムを見送り
ながら、私はガンタンクを追い回しているアローンに飛びかかった。
 加速をかけて、蹴り一発!
 完璧に不意打ちになった。アローンは真っ二つに折れて動かなくなった、案外もろいな、ヘ
ビーメタルって言う割には。
『ひぃー、助かったぁ・・・ ありがとう、あんたもロンド=ベルの人?』
 追い回されて、左砲身を折られたガンタンクのパイロットから通信が入った。少年のよ
うだな。
「私はロンド=ベル所属のリン=マオ少尉だ。この機体はゲシュペンスト、そちらは?」
 すると、続けて映像が入った。なんか独特の髪型をした浅黒い肌の少年が写った。
彼がジュドー=アーシタじゃないのは直感で何となくわかった。
『俺、モンド=アカゲって言うんだ。よろしく、美人のお姉さん』
 なんか、礼儀ってもんと無縁の挨拶だな。ダバ君の方がずっと礼儀ただしかったぞ。ま
ぁ美人はあっているから、よしとしよう。
「じゃあ、モンドでいいな。さっそくで悪いがそのガンタンクの120㎜キャノン、まだ
使えるか?」         
 左は折れて使えないのは解っているが、まだ右が使えるのなら、120㎜キャノンを使
って、是非やってみたいことがあったのだ。
『ちゃっと待ってね、なんとか撃てるみたいだな』
「よし! 着弾修正データと、標準設定データをゲシュペンストに送ってくれ。やりたい
ことがあるんだ」
『はぁ、そんなのあんの、このガンタンクに?』
 モンドからは、疑問符つきの返事が返ってきた。私の頭に少し血が上った。あ、あのな
ぁ・・・ 今の二つのデータなしで120㎜なんか撃ったら、どこ飛ぶかわからないだろ
うが・・・ ひょっとして、コロニーの外壁に穴を開けたのはお前か・・・? 
「お前の乗ってるタイプのガンタンクなら、射撃管制のコンピューターのデータ表示の
ところにその項目があるはずだ。お前そんなことも知らずにガンタンクに乗っていたのか!?」
 言ってから、ちょっと言い過ぎかなと少し反省したが、モンドという少年は、
『おぉ、出た出た。道理で当たんないと思ったよ。これ使わないと駄目なんだ』
 と明るい調子で喜んでいる。反省して損した気分だ。
「とっとと、寄こせ!」
『ほい、っと。お姉さん、怒ると皺ができるよ』
 ・・・一言多いぞ、貴様。
 私が怒りを抑えている間に、データの受信が完了した。よし、これで後は、下準備に入るだけ。
「モンド、通信コードを今からいうチャンネルに合わせろ。お前に、もう一働きしてもらうぞ」
『えぇ~、まだやんのかよ』
「何か言ったか?」
 ついヘクトール&イルム曰く『魔女の微笑み』といわれる笑い方が、顔に出たらしい。
モンドは、青くなって、急におとなしくなり、ブンブンと首を縦に振る。
 ふん、最初からそうしろ。
  
「モンド、データ通信状態はどうだ!」
 私は低空を滑空しながら、出きる限りのスピードでゲシュペンストを走らせている。
 レーダーが四機のヘビーメタルに囲まれている友軍機がいると知らせてきたのだ。反応
からするとクリスさんの乗るアレックスみたいだ。急がねば!
『良好、良好。まかせてください、お姉様』
 一転、敬語を使うようになったモンドだが、お姉様ときたか・・・
 ハイスクール時代を思い出してしまうな、よく後輩の女の子にそう言われて、辟易した
ものだ。 ジェスはそれを見て、『リンは如何にもお姉様だから、しかたないさ』って
私をからかったっけ。
 あ、いかんいかん! 想い出に浸っている場合ではない。
「じゃあ、後は手はず通りに頼むぞ」
『了解!』
 おどけた感じで返事するモンド。
 まったく、調子がいいと言うか何と言うか。でも考えてみれば、彼らの行動力や実戦に参加
する勇気は大したモノだ。私なんか彼らと同じくらいの年の時は、学校でお姉様と呼ばれ
ていた、ただの学生だものな。
 警告音が響いた。
 肉眼でも確認出来る。アレックスがビームサーベルで一機のグライアと白兵戦やりながら、ガ
トリング・ガンを使ってなんとか他の三機を近づけずに頑張っている。
「クリスさん、加勢に来ました!」
 気合い一発! 勢いそのまま、ゲシュペンストでショルダータックルをぶちかます。
 グライアが吹っ飛ぶ。近場のビルにぶつかって、見事にバラバラになったグライア、ホ
ントに脆いな。あ、でもしまった、ビル壊してしまったぞ・・・ でもまぁ、気にしないでおこう。
『リン大好き! ありがとうね!』
 早速通信が入って、クリスさんが満面の笑みで迎えてくれた。
「お助けにあがりました! ここは私に任せてください!」
 私も何だか芝居がかった返事をしてしまう。連戦でテンション上がっているみたいだ。
『よかったぁ~! バルカンもガトリング・ガンも弾切れ寸前だったのよ~。 こいつら
ビームライフルもあんまり効果ないし、シールドでぶん殴ってやっと一機落としたんだけ
どね』
 見ると、シールドが突き刺さったアローンが、ビルに突き刺さっている。どうやったん
だ、いったい?
「実は私も、ミサイル切れの左腕が調子悪いんです。でも、他にちゃんと手段用
意しました!」
 話しているうちに一機のアローンが飛び上がって、私たちを上空から狙い打ちしようとしている。
 いい角度、思い通り!
「モンド撃てぇ!」
『はいぃ!』
 離れた所から、120㎜キャノンが火を噴いたはずだ。
 狙いドンピシャ! アローンが四散した。
 ・・・よかったぁ~、これがMSだったら大惨事だ。
『お姉様、どうですか?』
「当たったぞ、ご苦労!」
 これが私の策だった。私がガンタンクに正確な照準を送って、命中精度をあげる。実弾
兵器がない私がとった緊急の策、上手くいったようだな。
「これで、二対二、形勢逆転ですね」
『リン、あなた何やったの? いきなり敵が爆発したけど』
 クリスさんの唖然としている。なにかいい気分だ。手品が成功したような感じで。
 よく見ると、アローンも戸惑って近づいてこない。ガンタンクの射程は並はずれて長い
から、伏兵がいることに気がつかないようだ。
 じりじりと、距離を開いていくアローン。飛び上がってくれなきゃ、撃てないだろうが。
120mmキャノンを利用して外れたら、コロニーにまた穴が開いてしまうし。
 私が突撃して、上に追いつめるか・・・
 そんな事を考えていると、視界の端に発光信号が上がったのが見えた。意味が読みとれ
ないってことは、連邦の物ではないな。ポセイダル軍か?
 するとアローンが急転身して脱兎のごとく逃げ出していった。
 撤退信号か!? いつの間にか、全体でも形勢が逆転していたらしい。
「クリスさん、追いますか!?」
『う~ん、駄目ね。私、ビームサーベルしか武器ないし。あなただってライフルばんばん
撃つわけいかないでしょ?』
「ごもっとも、です」
 撤退していくヘビーメタルの一団が見える。私たちの入った宇宙港とは反対側のシリン
ダーにある宇宙港から逃げていくみたいだ。
 あ、ゲッター1とコウ先輩のGP-01Fbが、後ろから追い立てている。追撃っていうよ
り追い出しって感じだ。
「終わりましたね」
『お互い、ご苦労さんね。さっきのトリック、あとで教えてね』
 クリスさんがノーマルスーツのヘルメットを外して、くつろいでいる。長い髪に汗が光っている。
クリスさんも大変だったみたいだ。
『お姉様、もういいかな?』
 あぁ、一瞬忘れてしまった。ライフルがわりだったからな。
「モンドもご苦労さん。トロイホースに自力でいけるか?」
『大丈夫であります。では、モンド三等兵、帰還します!』
 明るい声で、再びおちゃらけた敬礼をするモンド。ホント、明るい少年だ。
 シートの拘束をゆるめて、肩の、全身の力を弛緩させる。
 あぁ、疲れた・・・
 緊張を解いた途端、急に疲れが、睡魔を伴って襲ってきた。自分が思っていたよりはる
かに疲労していたようだ。
 寝てはダメなのは重々分かるが、この眠気、抗いがたい。
 レナンにオートでの帰艦を命じ、ちょっとだけと自分に言い訳して目を閉じる私。
 大好きな人が、笑って私を誉めてくれた夢を見た。    
 今日も頑張ったよ、私。
 夢の中の彼に、私はそう呟いた。


 -幕間へ-

 【後書き】
 掲載当時、モンドが好評だった話。リンに最初に落とされたグライアには
ハッシャ=モッシャが乗っていました。



[16394] F REAL STORY  幕間
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/09 00:09
 五年前、カレン=スターロード宅にて

 

 カレンは不意の来客を迎えていた。
「どうしたのよ、ビアン。十年近くも音沙汰なしだったのに」
 応接間のソファに腰を下ろし、出された珈琲を飲みながら、男、ビアン=ゾルダークは
その無骨な顔に豪快な笑みを浮かべた。
 この後DCを創設し、自らの信念と正義をロンド=ベルに託し、壮絶に散っていったあ
のビアン=ゾルダークその人である。
「お前の顔が見たかった、じゃいけないか?」
 その向かいに腰を下ろし、結構挑発的なチャイナドレスを身にまといつつ、艶然と足を
組むカレンは、呆れたように笑顔を見せた。
「あなたがその顔で、そんなこと言ったって、全然似合わないわよ。で、用件はなに?」
 ビアンは浮かべていた苦笑を消し、真摯な顔でカレンに向き合う。
「お前に、頼みがあってきたのだ。近々私はある計画を実行に移す。その件に関してだ」
「何する気なの?」
 ビアンの言葉は一言。
「世界征服だ」
 カリフォルニアの一公営住宅の応接間で語られるにしては、えらくスケールの大きな計
画だが、ビアンの顔は真剣そのもの、揺らぎ一片も見せない。
 聞いているカレンも茶化すようなことはしない。この男がその気になったら、『世界征
服』も決して夢物語ではないということを、彼女は知っているのだ。
「理由は、訊いてもいい?」
 カレンの問いは短い。
「近々、必ず起こるであろう『異星人襲来』に供えるため、強大な力の統合が急務なのだ。
もはや手段を選んでいられる場合ではないのでな、多少、荒っぽくなってしまいそうだ」
 淡々と語るビアン。そのスケールの大きい話を聞いても、カレンの反応は、
「ふぅ~ん」
 の一言だった。
「わかった。力は貸さないけど、邪魔はしない。それでいい?」
「ありがたい、感謝する」
 その返答に満足げにうなずくと、深々と頭を下げてビアンは立ち上がった。彼は今の返
事を聞きたいが為に、自身でここを訪れたのだ。
「マスターには、言ったの?」
「あぁ、彼もお前と同じ事を言ってくれた。これで計画に支障はない。だが、もし私に何
かあったら、奴を、『D・O・M・E』のことを頼む」
 そう言うと、ビアンは立ち去ってしまった。
 カレンも見送りはしない。ただ一言、呆れたように、こう呟いた。
「・・・・・・馬鹿ね」
 すると、玄関先から元気な声が聞こえてきた。
「お袋、ただいまー!」
「小母様、ただいま」
 ジェスとリンが帰ってきたようだ。
 ビアンの思惑はともかく、今の自分には、世界征服よりもっと大変で面白いこと、二人の
養育があるのだ。
「あれ、小母様。誰か来てたの?」
 テーブルに置かれた来客用のコーヒーカップをめざとく見つけたリンが、カレンに訊ねる。
するとカレンは悪戯っぽく笑って、二人に言った。
「えぇ、世界征服をたくらむ悪の科学者がね」

 

-そして現在-


「D・O・M・E、彼はどこにいるの?」
 カレンの問いに、ディスプレイに写る美丈夫、トレーズ=クシュリナーダ准将に明らか
な動揺が、その面に浮かぶ。
『カレンさん、それはあのファースト・ニュータイプが生きていると考えていいのです
か!?』
 トレーズは、彼を知るのもが聞いたら驚くであろう、あからさまな興奮を声音に乗せ、
カレンに逆に質問を返してきた。
「その反応じゃ、あなたも知らないようね。う~ん、困ったなぁー、ビアンが生きていた
ら知ってたんだけど、どうしようかなぁ~」
 トレーズの質問に答えず、カレンは独り言を言いながら頭をひねっているって感じだ。
『・・・カレンさん、私を試したのですか、お人が悪い』
 知らずに身を乗り出していた通信相手のトレーズは、わずかに苦笑をうかべて座りなおす。
自分がカマを掛けられたのだということ悟った。
『しかし、カレンさん。DC戦争の時もインスペクター事件の時も静観していた貴女が、
なぜ今になって動いているのです? このくらいの質問はかまいませんか?』
 すっかり落ち着きをとりもどしたトレーズは、再び優雅な仕草で前髪を払いながら、カ
レンに訊ねる。
 カレンは年甲斐もなく舌をぺろっと出して、おどけてみせる。その仕草が意外と可愛い。
本当に年齢を超越した方だ・・・    
「トレーズ坊や、じゃなくてトレーズ君を信頼してないわけじゃないけど、ちょっと言え
ないの。ごめんね。本当にありがとうね、詳しい話が聞きたかったら、暇を作って私のとこ
ろにいらっしゃいな、お茶ぐらい出すから」
 そして、決めの投げキッス。これは定番らしい。
『わかりました、いずれ伺わせていただきますよ、我が女神よ』
 そして、通信越しであるにもかかわらず、トレーズは恭しく礼をする。そして、通信が
切れた。通信室に暗闇がおとずれ、そしてカレンのため息が聞こえた。
「もう、厭になっちゃう! このまま、しがないスポーツインストラクターでずっと生き
ていける思ったのに! なんでビアンやヒイロが残したもめ事を、私が面倒見なきゃなん
ないのよ! 自分たちだけ勝手に死んじゃって!」
 そこで再びため息一つ。
「・・・て言ってもしょうがないのよね。あと、頼りになりそうなのは・・・ 我が
義弟くらいか。早いトコ連絡しとかないとね」
 意味深な呟きを残しつつ、カレンは考え込みながらも、再び通信パネルを操作する。
「碇は、何にも教えてくれないだろうし、万丈君も知らないみたいだし、
 あれ、着信だって。誰よ、シャッフルのデータベースにメール送ってよこせるのは」
 今、カレンが使っている回線はごく一部のものしか使えない極秘データベースである。
しかも十五年以上使われてなかったのだ。そこへカレンが使い始めたのをみこしたように、
容量が大きい電子メールが送られてきた。 
「ウィルスとかじゃないわね。映像メール、誰だろう?」
 わずかな躊躇いがあったが、カレンは電子メールを開封する。
 そして、まず姿を現したのは・・・
『この映像を見ているのは、マスターかな、それともカレンかい?』
 そこには、20年ぶりに見る、ある男の姿が映っていた。年の頃は20前後、長髪で前
髪は顔にかかっていて表情はよく見えないが、口元には涼しげな微笑が浮かんでいる。
 カレンがその青年を見るのは実に二十年ぶりになる。そして最後に見たときのままの姿
だ。
 カレンが、その男の名前を呟く。
「D・O・M・E、あなたなの?」
『この映像を君たちが見ているということは、ビアンの計画は失敗したんだね。彼も重大
な決意と覚悟でやったことなんだ。もし君たちに迷惑がかかっていたら、彼を許してやっ
てほしい』
 カレンの問いに、もちろん映像は答えず淡々と話を続ける。
『この映像が、君たちのもとに届いたということは、僕の身に、それと【サテライト・シ
ステム】に何らかの不都合が生じたときのはずだ。でも僕がどこにいるか、それは僕自身
も知らないんだよ。僕を隠したビアンだけしか、正確な場所は知らないし、誰にも教えな
いでくれと頼んだのも、僕自身だしね。しかし僕を確実に捜せる人物なら、一人だけ心当
たりがあるんだ』  
 そして、あるデータが同時にモニターに写った。そこに写っているのは12歳くらいの
少女の写真だ。
『この少女、ティファ=アディールなら僕を捜せるはずだ。彼女は僕以来の『能力者』だから。
彼女なら僕を感じることができるはずだ』
 すると、『D・O・M・E』の姿が消え、少女についての様々なデータがモニターに映
し出されて、そして自動的にコンピューターに記録されていく。
『では、頼んだよ。君たちに再会できるのを少し楽しみにしている。でも、本当はこのメ
ールが永遠に君たちのもとに届かない方がいいんだけどね』
 そこでメールは終わり、先ほどの少女、ティファ=アディールのデータを記録したディ
スクが自動的に排出された。
 それをつまみ上げ、カレンは楽しそうに笑った。
「やることに卒がないっていうのは、あいかわらずねD・O・M・E。じゃ、まずこの子
を捜すところからやってもらわなきゃね、あの子たちに」

 そして、3日後。
 北極ベースでの司令代行を終え、一人単独でエアリーズに乗りティターンズ北欧基地に
帰還するアーウィン=ドーステンは正体不明の大型ロボットに追い回されていた。
「たく、なんだってんだ!」
 正体不明機は30メートル弱のロボットのようだ。黒い機体色と、どことなくゲッター
ロボという機体に似たシルエットをもっている。
 それが攻撃してきているというより、自分のエアリーズを捕まえようとしているのだ。
何の意図があっての行動か、全然わからない。
「おい、そこの正体不明機! 聞こえているなら応答しろ!」
 チェーンライフルの安全装置をはずし、戦闘態勢に入りながらアーウィンは通信
機に怒鳴りつけるように言った。全周波数で呼びかけているから、黒い機体も通信を開い
ているなら、聞こえたはずだ。
『あなたこそ、とっとと捕まりなさいよ、ウィン!』
 聞き覚えがある金切り声がして、ウィンは思わず顔をしかめた。
「そのゲッターもどきに乗っているのはパットなのか?」
 しかし、応答はなく、黒い機体の左腕が突然非常識に伸びてきて、エアリーズの首根っ
こを掴んだ。その衝撃に思わず顔を顰めるウィン
『きゃは! 捕獲成功! ウィン、あなたの身柄は預かったわ。大人しくついてきてもら
うわよぉ』
 そして、謎の襲撃者パット操るブラックゲッターは、エアリーズを掴んだまま急加速を
かけた。
「同期の友人を拉致して、なにする気だ、こら!」
 こうなると、エアリーズでは抗うことはできない。気が収まらないのでとりあえず口で
文句をいうウィン。
『ふっふっふ、知りたい、ウィン?』
 鼻歌歌いながらご機嫌のパットの声に、ミーナの声が被さった。
『あなたはこれから、私の指揮下に入って、ある女の子の捜索におもむく、ミーナ独立遊
撃隊の隊員の選ばれたのよ』
「・・・・・・何だそれは?」
『違うわよ、パットと素敵な仲間達の一員にでしょ、ミーナ!』
『なに言っているのよ、パットなんかに隊長なんて勤まるわけないじゃない、隊長は灰色
の頭脳を持った私よ』
『ぶー! ミーナだって無理よ、だったら正義に燃える熱血少女の私の方がずっと、ず~
っと適任よ!』
 ウィンを無視して、いきなり女同士の言い争いが始まった。
「・・・・・・勝手にしてくれ」
 ウィンが呆れて大人しくしていると、しばらくして前方に大型のミデアタイプの輸送
機がモニターに写った。
 ミディアムと呼ばれる、三機だけ試作されたものミデアタイプの輸送機。ミデアのカーゴを2
個積載出来るのがうりだったのだが、操縦の難しさによってお蔵入りになったはずの機体
だ。
『だから、私よりオッパイが小さいミーナに、隊長なんか無理なの!』
『だったら、パットは私よりずっとウエスト太いじゃない! そんなおデブさんに隊長は
無理!』
 いつの間にか言い争いの内容は低レベルになっていた、相変わらずだな、こいつら。
「おい、お前ら。あの輸送機に俺を連れて行くんじゃないのか?」
 カーゴが開いている所をみると、あそこが目的地に間違いないだろう。でも、いっこう
に二人の口げんかは終わる様子を見せない。
『おーい、ウィンは捕まったかぁ?』
 すると今度はヘクトールの声が通信に入ってきた。
「あぁ、捕まったぞ。何なんだ一体?」
 やはり、あのミディアムを操縦しているのはヘクトールのようだ。
『まぁ、とりあえず中に入ってくれや。お前宛に辞令が届いてるから』
 まだ、話が見えない。しかしここで何か言っても無駄になるだけだろう。話が収まるよ
うすがないので勝手に左腕の戒めを外し、ミデアのカーゴに入っていくエアリーズ。
 カーゴの中には随分と改造を施されたジェガンが係留してあった。
『ご苦労さんウィン。今、閉めて気圧を元に戻すからちょっと待ってろ!』
 そして今度はジェスの声が聞こえてくる。どうやら北極ベースでの一別以来、十日もし
ないで再会になってしまったようだ。 

「まったく、どうなっているんだ、お前ら?」
 何にもわからないまま、ジェスにコックピットに連れてこられたウィン。ミデアより格
段に広いコックピットでは、ヘクトールが一人で鼻歌を歌いながら操縦桿を握っていた。
「まぁまぁ、辞令だよ」
 ジェスから渡された一枚の紙切れ。そこにはトレーズ准将の名でテスラ=ライヒ研への
短期間出向が命じられていた。でも、まだ得心がいかないウィン。無理もない、何の説明
もないまま拉致連行されたのだから。
「あいつらは・・・」
 と、いまだにミディアムの前方を飛び回っているブラックゲッターを指して、
「ミーナ爆撃隊だのパットとおかしな仲間とか言っていたが、何をするんだ、この面子で」
 と、如何にも不機嫌そうに言うウィン。
 さっきこのコックピットに上がってくるまで、全然人に会わなかった。と、言うことは
この大型輸送機には自分たちしかいないのだろう。しかも、某かの目的があって集められ
たのも間違いないだろう。
「お袋が言うにはな、人さらいして来いって」
 ジェスが続けて一人の少女の写真を渡す。
「人さらい?」
 あからさまに顔をしかめて、写真の少女を見るウィン。写っている少女には、表情
というものが浮かんでいなかった。だが少女が着ている服に、記憶に引っかかるものが
あった。
「オーガスタ研じゃない、たしかニュータイプ第二か第三研究所の被験者が着る服だな、
第二はニューギニアだから、この進路だと、いくのは第三のあるウイグルの方か?」
 どっかの自称名探偵より確かなウィンの推理を、ヘクトールは口笛を吹いて賞賛する。
「さすがナイメーヘン主席、大当たりだ。そこに囚われている、そのお姫様を救い出し
てこいってさ」
 思いっきり深いため息をつくウィン。呆れてモノが言えないが、ちゃんと文句は口をつく。
「あのな、連邦軍人が一応軍の施設であるところに人さらいに行くのか? ばれたら銃殺
モノだぞ」
「だったら、ばれなきゃいいんじゃないの? そのへんのとこは、お前にまかせますよ」
 ウィンが深刻に眉間にしわ寄せているというのに、ヘクトールはいたって脳天気だ。ジ
ェスに至ってはやる気まんまんといった感じなのが一目瞭然である。
 しかたないか・・・
 ウィンは言葉に出さず呟いた。こいつらのお守りは士官学校以来からの自分の役目だっ
た、それに・・・
「しばらく退屈しないですみそうだな」
 ウィンはティターンズの中にいたせいで忘れかけていた自分らしさを思い出しながら、
苦笑を浮かべる。俺も、こいつらと大して変わりないな。

 こうして、5人のある意味最強チームが結成された。
 波乱の幕開けである。


 -第五話 Aパートへ-


 【後書き】
 元から変更、けっこう入ってます。こうなると『D.O.M.E』さんもオリキャラ
ですね。ちなみ輸送機、ミディアムはMSサーガってガンダムアンソロジー本みたいの
で出てきたヤツです。あのマンガに出てきたガンダム、なんだっけ? つーか、その
マンガのタイトルも思い出せない。飛行機タイプに変更するヤツだったんですが。



[16394] F REAL STORY  第五話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/11 21:19
 軽い衝撃で目が覚めた。
 ・・・何分、寝ていたのだろう?
 ノーマルスーツに付属している腕時計を見ると、なんだ、十分も寝ていないのか。
 ゲシュペンストは優秀なオート機能のおかげで、私が寝ているのにもかかわらず、無
事トロイホースの第三格納庫に帰還していた。今の目覚ましは着艦によるものみたいだ。
 ゲシュペンスト専用だった第三格納庫には、片方の砲身が無いガンタンクと、エルガイ
ム、それに頭が無いザクが並んでいる。このザクはバーニィさんのじゃないな、ザク改に
なる前の、ただのザクだ。たぶんシャングリラの少年たちが持ち込んだものだろう。
 伸びをしながら、コックピットから出ると、エルガイムの頭部が少しせり上がって、首
のちょっと下あたりが開き、バイクのような乗り物が降りてきた。
 乗っているのはもちろんダバ君だ。
 そして、彼を迎えるようにブライト艦長やアムロ少佐、コウ先輩やクリスさん、バーニ
ィさんといった面々が控えている。
 私もあわてて、そこへ加わる。
「ねぇ、異星人の彼、かっこいいわね」
 小声でクリスさんがそう言ってきたので、「同感です」と軽くかえす。もう、あいかわ
らずだな、このお姉さんは・・・
「先ほどは、通信で失礼しました。僕はダバ=マイロード、ペンダゴナ星系反ポセイダル
軍のリーダーです」
 その言葉にちょっと、ビックリした。彼自身が反乱軍のリーダーだったのか、若いのに
大した者だな。
「地球連邦軍大佐、ブライト=ノアです」
 そして、どちらともなく手が差し伸べられ、二人が握手を交わした。絵になる光景だ。
「では、こちらへ。色々とお話したいことがありますので」
 と、ダバ君とブライト艦長、それにアムロ少佐は連れだって、格納庫を出ていってしま
った。難しいお話があるのだろう。
 そして残った私たちはというと・・・
 エルガイムにもの珍しそうに張り付いていた。フレームから、コックピットシステムか
ら、全てが斬新で興味深い。
 いつの間にか、コウ先輩とさっきまで居なかったはずのニナさんまで作業着に着替えて
エルガイムに張り付いている。目が爛々と輝いているな、二人とも。
「凄いわね、この機体。ヘビーメタルっていうんだっけ?」
「うわぁ、この装甲、なにで出来ているんだ?」
 と、二人とも、子供のように好奇心を満足させているようだ。
「クリスさん、エマさん達から連絡きてますか?」
 ダバ君の乗っていたバイクみたいなものを見ていたクリスさんに、ダバ君の母船にいっ
たきりのエマさん達のことを訊いてみる。グレースが何かやらかしてなければいいんだけ
ど・・・
「あぁ、エマ大尉達ね。さっきキースから連絡あってね、彼らの船が動かせないから、迎
えに来てくれって。ジュドー達を収容したら、そこに向かうそうよ」
「なんか、ジュドー達も俺達に力貸してくれるそうだぜ。あ~あ、ビーチャのやつ、せっ
かくの06Fの美しい頭を壊しやがって」
 一人だけ、ザクに張り付いていたバーニィさん。相変わらずだな。
「これからの予定って、どうなってるんですか?」
「ん? パイロットは二時間休憩だって。ちょっと休んできたら?」
「そうですね、そうします」
 連戦でさすがに体の芯から疲れているので、ずるずると体を引きずるように格納庫をで
る私。無重力なのがありがたい。
 部屋を目指して居住ブロックを進んでいると、どっからか笑い声が聞こえてきた。食堂
からみたいだ。
 ひょこっと顔を出して覗いてみると、ファと見知らぬ少年達が談笑していた。ん、一
人だけ知っている奴がいるな、モンドだ。
「あ、リン! いらっしゃいよ、ジュドー達紹介してあげるわ」
 目ざとく私を見つけたファが、こっち来いと手招きしている。
「へぇ~、これが勇敢なシャングリラの少年たちか。私リン=マオだ。よろしくな」
 挨拶をしながら、ざっと少年たちを見回してみる。少年四人少女二人か。噂のジュドー
という少年は・・・ いた。
 写真では見たことがあったが、瞳に強い意志の光みたいなものが宿っているな。まるで
昔のジェスみたいだ。
「へぇ、これがモンドの言ってた怖い姉さんかい?」
 ・・・はい? そのニュータイプから何か聞き捨てならない言葉が耳に。
 見るとモンドがあわてて、ジュドーの口を押さえている。
「お前は何を吹き込んだのかな、モンド君」
 噂のもとの首根っこ掴んで引き寄せる。そのままヘッドロックをぐりぐりとかける私。
こういう事したのは、ヘクトールとイルム以来だな。
「いたたたたたたっっった! ゴメンなさい! 胸当たって気持ちいいけど、痛い!」
 モンドが余計なことを言いながら、悲鳴を上げている。こいつは口で自滅するタイプだ
な。
 一同に、どっと笑いが起きる。
「まぁ、リンさん。そのくらいで許してやってよ。あ、俺ジュドー。よろしく!」
「私はリィナ=アーシタです。兄共々よろしくお願いします」
「俺はビーチャ=オーレグ」「あたしはエル=ビアンノ」「僕はイーノ=アッバーブです」
 少年達が、自分を紹介していくのを、私はヘッドロックを決めながら聞いていた。これか
らは彼らも一緒か、賑やかになりそうだ。
「おねぇさま・・・ ギブアップです・・・」
 そしてモンドの奴は、ピクピクして、動かなくなった。あ、やりすぎたかな。

 結局、休憩時間を私は少年達と談笑して過ごした。
 シャングリラの少年たちは、粗野であるけど、明るくて、それに逞しい。
 少年達もどうやら私に好意をもってくれたようだ。
『士官は至急ブリッジに上がってください。繰り返します、士官は至急ブリッジに上がっ
てください』
 艦内放送が流れてきた。士官っていえば私もだな。きっとダバ君との話し合いがまとま
ったのだろう。
「じゃあ、私はこれで。ファはどうするんだ?」
「私はジュドーたちの部屋の準備とかあるから」
 ファもこうしていると、すっかり彼らのお姉さんって感じだ。
 食堂を後にしてブリッジに上がると、すでにコウ先輩やゲッターチーム、クリスさん、
それにブライト艦長とアムロ少佐、そしてダバ君がいた。
「よし、集まったな。これより本艦は彼、ダバ=マイロード君の船、ターナの救助に向か
う。どうやら自力航行が不可能になってしまったそうでな。それと、彼と話し合った結果、
彼らも我々に力を貸してくれることになった」
 みんなが集まるや、ブライト艦長が口を開いた。ブライト艦長ってば、思い切ったこと
決断したもんだな。独自の判断で異星人との共同戦線をはるのか。でも、先ほどの戦闘で
ダバ君の腕は証明ずみだし、心強いな。
「そういうことだから、以後よろしく頼むよ、みんな」
 アムロ少佐が言葉を継いだ。そしてダバ君が頭を深々と下げる。きっと彼は育ちがいい
んだろう、そんな気がする。
「僕たちの力が足りなかったせいで、地球の方にも迷惑をかけてしまい申し訳ありません。
微力ながら、お手伝いさせていただきます。よろしくお願いします」
 ダバ君の挨拶に皆が感心している。異星人というのが信じられないくらい、礼儀正しい
んだよな、彼って。
「では、トロイホース発進する!」
 話がまとまったところで、颯爽とキャプテンシートに腰を下ろしたブライト艦長の号令
はブリッジに響く。
 こうしてロンド=ベルは思わぬ補充人員を乗せて、シャングリラを後にした。

 それから一時間後。
 私と、クリスさん、コウ先輩とニナさん、それにダバ君は第三格納庫に場を移して歓談
していた。私たちにとって、ダバ君のもってきたもの全てが興味の対象になっているのだ。
 それと、ようやく私は、ポセイダル軍-正式にはペンタゴナ連合軍というそうだ-が地
球に宣戦布告した理由を聞けた。
 どうやらポセイダルという人物は大使をたてて、約三ヶ月前くらいから地球に対して交
易と国交を交えたいと交渉をしてきたそうだ。
 そして、何度目かの交渉の席で全権大使殿が何者かに暗殺され、その報復ということで、
宣戦を布告したとのことだった。
 でも、ダバ君にいわせると、ポセイダル軍は三ヶ月以上前から戦争の準備をしていたそ
うだから、暗殺事件はあちらの謀略だろうな、きっと。
 だから、交渉の時に渡されたペンタゴナ側のデータ(各種航海信号やヘビーメタルのデ
ータなど)が連邦軍のデータベースに入っていたのだそうだ。ただ、そのことを知ってい
る人がごく一部だっただけらしい。
 ブライト艦長も、噂程度しか聞いていなかったそうだから、ペンタゴナとの交渉はかな
り極秘に行われていたようだ。まったく、連邦の体質は、全然かわらないな。
「・・・でも、これが太陽エネルギーで動くんだから、ペンタゴナの技術って凄いわよね」
「まったくだ。それに、このスパイラルフローっていうバイクも。こんな小さいのに、コ
ックピットも兼ねてるんだろう?」
 先ほどから似たものコンビのニナさんとコウ先輩は、ダバ君を質問ぜめにしている。ダ
バ君も人がいいから、ちゃんとそれに受け答えしているし。
「私は、この宇宙服が気に入ったよ。首に負担がかからないし、視界も良好だしな」
 という私も、ダバ君の宇宙服のヘルメットをしげしげと眺めててたりする。ヘルメット
と言っても体の上半身がほとんど入るような感じで、このパーツに生命維持装置のたぐい
が全部入ってるみたいだ。とりつけも簡単だし、父にデータ送って、こういうの造っても
らおうかな。
『ターナ確認。ダバ君、クリス、コウ、リン準備してくれ』
 スピーカーからブライト艦長の声がした。この今呼ばれた面子とアムロ少佐とバーニィ
さんでターナに行くことになっているのだ。ニナさんが名残り押しそうにエルガイムから
離れていき、入れ替わりでアムロ少佐が入ってきた。
「バーニィがザクで出たから、僕とクリスはそっちに乗せてもらおう。リンとコウはダバ
君に頼めるかな?」
「はい、わかりました。ちょっと離れてください」
 と、ダバ君がスパイラルフローに跨って、ヘルメットを装着する。ここで私たちもノー
マルスーツのヘルメットをかぶり、お互いの通信機が良好かどうか確認した、オーケーだ。
「ドッキングセンサー、オン!」
 ダバ君がそう言って、なんらかのボタンを押した。するとスパイラルフローは急上昇し
ながら、僅かにその形を変えている。そして、自動でエルガイムの頭部がさがり、胸元
あたりが開いたと思うと、そこへ吸い込まれるようにスパイラルフローが収容された。
 私たちはその過程を見とれるように眺めていた。私達四人、パイロットでありながら揃
いもそろってメカが好きだったりするから。あぁ、でも本当にこのHM、許されるのなら
パーツの一つ一つまで、じっくり見せてもらいたい。
『リンさん、コウさん、手に乗ってください!』
 外部スピーカーから、ダバ君の凛とした声がする。すごいスムーズに片膝を立てて、手
を差し伸べて来た。MS以上に人間的だぞ、この動き。
「では、お言葉に甘えて・・・」
 と、私は上手い具合に広げられた左掌に乗る。コウ先輩は右掌だ。あれ、このHMのマ
ニュピレーターって、手袋みたいなものしてるのか? 感触が少し柔らかいぞ。
 空気が抜かれ、ハッチが開くと、ザク改がすでにそこに控えている。そして、その先に
宇宙に浮かぶ小さな点みたいなものが見えた。あれがダバ君たちの母船だろう。
 静かに、巨大な人間が宇宙に飛び出すように、トロイホースを出るエルガイム。そして、
軽く背中のバーニアを一回ふかしただけで、彼らの母船『ターナ』に接近した、けど、こ
れは・・・
 この地球圏にはない独特のフォルムの150メートルくらいの宇宙船が、すぐそばにあ
るのだが、船体上部三分の一が、削り取られたかのように無くなっている。その他
にも、ミサイルみたいな実弾兵器によって受けたと思われる痛々しい穴もチラホラと見受
けられる。
「よく爆発しなかったなぁ」
 私の独り言は、ダバ君に通信で聞こえたみたいだ。
『えぇ、パイロットの腕がよかったんです。それに僕たちには幸運の妖精もついているん
ですよ』
 苦笑まじりにそんな事を言ってきた。私はこの後すぐ、『幸運の妖精』が実在の存在だ
ということに、目を丸くしたのだった。

 私の目は点になっている・・・
 半壊して開きっ放しになっている格納庫に入ると、引っ越し作業に精を出していたエ
マさん、キース先輩、ダバ君の仲間、それとグレースがいた。
 でも、それだけで私が驚いたわけではない。私の視線はグレースとじゃれ合ってる、小
さなモノに釘付けになってしまった。『幸運の妖精』、ダバ君が先ほどそう言ったのを思い
出した。そう、妖精がそこに本当にいたのだ! しかも、ご丁寧に宇宙服みたいのを着て
いる!
 自分でも気がつかないうちに、私はグレースと妖精に近づいていった。かなり間近見る
と、それはやはり私の記憶にある『妖精』そっくりである。
「あ、リンちゃん。えへ、新しい友達のリリス=ファウちゃんですよ。こっちが私の大親
友のリンちゃんですよ、リリスちゃん」
 グレースがまだ現実感を取り戻していない私に、その妖精リリスを紹介してくれた。
 思わず無意識のうちに、自分も頭を下げる。すると、最初は人見知りするのか、グレー
スの陰に隠れていたリリスも、私を見てペコリと頭を下げる。なんかとても可愛い。
「あ、あれ、チャム=ファウか!?」
 バーニィさんが、素っ頓狂な声を上げてこっちに来る。
「やっぱりチャム=ファウだ!! どうしてこんなトコにいるんだ!? 俺だよ、バーニ
ィ、バーナード=ワイズマンだよ!」
 と、先ほどの私とは別の意味で驚いているようだ。話し方すると、なんかバーニィさん
は、妖精に会ったことより、妖精と再会出来たことに驚いているみたいだ。
「あのぅ、あたし、リリスです。さっきもエマさんって人に同じ事言われたんですけど、
人違いです」
 え、なんだ、エマさんも妖精にあったことがあるのか、どうなってるんだ、一体?
「え、人違いって・・・ ホントかよ? 信じられないくらいそっくりだぞ、チャムに」
「ホントに・・・ 信じられないくらいそっくり・・・」
 クリスさんも、バーニィさんと同様の驚き方をしている。訳がわからなくなってきたぞ・・・ 
後で、しっかり訊いておこう。
 すると、いつの間にか、私たちのまわりに全員集合になってしまった。
 そしてそのまま成り行きで、ここで簡単な自己紹介をすることになった。エマさんたち
は、もう紹介を済ませているようで、先乗りしていたキース先輩などは、何か先輩に似た
感じの青年とかなり仲良くなっているようだった。
 エマさんとダバ君が、それぞれの面子を紹介してくれた。
 如何にも、調子のよさそうな青年がミウラー=キャオ、先ほどの美少女がファンネリア
=アム、そしてもう一人、彼女よりちょっと大人目の美女がいた。ガウ=ハ=レッシィと
いうすごい響きの名前だそうだ。それに、妖精さんはグレースの紹介通りリリス=ファウ
というらしい。どうしても、彼女に目がいってしまう私だった。
 ちゃんとした歓迎や紹介はトロイホースに移ってからということで、引っ越し準備の再
開となった。
 といっても、エマさん達がもう荷造りは済ませておいてくれたらしく、私のやることは
ゲターにコンテナを固定するくらいだった。彼らの荷物はヘビーメタル三台と、独特の形
をしたトレーラーみたいな乗り物、それとでっかいコンテナが五つ、そんな感じだ。
 これをトロイホースのどこに収容するのだろうか? ちょっと心配だな。
 それにしても、たった一日で十人以上の新規参入者が入ってきたことになる。
 思えば、忙しい一日だったな。
 でも、これがホンの序の口だったことを、私は後になって思い知らされた。
 地球圏に、インスペクター事件以上の争乱が訪れてしまったのだから。

 -第五話 Bパートへ-

 【後書き】
 エマさんが、ラ・ギアスに行っていたか、記憶が定かではない・・・・・・
行っていた、ということにしといてください。



[16394] F REAL STORY  第五話 Bパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/16 21:47
 それから、二日後。
「ガンダムをベースにするんですか?」
 トロイホース第一格納庫。出来るだけMSを第二格納庫の方に回したので、ここに
あるのは、アムロ少佐の予備機であるRX-78-3、G3ガンダムと、GMⅢ、他
色々なMS用パーツがゴロゴロと。
 G3ガンダムのハンガーの前に作業台を置き、ニナさんが持ってきたA2サイズの
設計図を広げた。そこに書かれていた大文字、『ジュドー用MS改造計画』の下に線画で
描かれているのは、どっから見てもガンダムだった。
「もちろん!」
 ニナさん、凄いいい笑顔で断言してくれた。私は、ガンダムのハンガーの後ろに鎮座して
いるGMⅢを指して、控えめに意見を言う。
「あっちの方が、性能良くないですか? ムーバルフレームですし、GMⅢと言ったら、
MK-Ⅱの簡易版みたいなものですよね、たしか」
 今、ここに居るのは私とニナ=パープルトン女史、シャングリラチルドレンのジュドー、
ビーチャ、モンドの計五人。
「リン、あなたの目は節穴!? ジムとガンダムが並んでいたら、ガンダム取るに決まって
るじゃない」
 凄い感情論だ。私が呆気にとられていると、笑いながらジュドーがフォローしてくれた。
「俺が、こっちの方が良いって言ったんだよ、リンさん」
「え、そうなのか?」
 少しビックリ。ジュドーの説明によると、どっちをベースにしようかと、一応両方試乗
したところ、反応その他が、ガンダムの方がしっくりしたそうだ。全周囲モニターじゃない
しパワーも足りないところがあったけど、それを差し引いても、ガンダムの方がいいとの
こと。何か意外だ、ニュータイプにしかわからない、何かが出てるのかなガンダムには。
「じゃあ、説明するから、よく聞いてね!」
 と、作業台に広げた図面をバンと叩くニナさん。すごい気合だ。
 ニナさんの立て板に水な改造骨子の説明。間接部の強化、背面スラスターの交換、ジェネ
レーター換装による出力アップ、武装の強化、装甲の強化、これは改造のレベルじゃ
ない気がするのは私だけじゃないと思う。
 この集まり、設計図にもデンと書かれているとおり、ジュドーのMSを造るためだったり
する。
 先日のシャングリラで戦闘の時、ジュドーはネモで出撃したらしいが、そのネモ、ジュドー
の操縦技術についていけず、たった一戦で膝関節をおかしくしてしまったのだ。このまま
じゃジュドーの乗る機体がない。でも、彼の操縦技術は遊ばせていくには大変惜しい。
 最低でもMK-ⅡやリックディアスレベルのMSを用意したいのだが、今のロンド=ベル
では新規MSを要求したところで、いつになるか分からない。
 じゃあ、なければ造ろう、と誰かが言い出し、その白羽の矢がニナさんに当たり、
貫通して私にも刺さった、そんな状態なのだ、今は。
「この背面スラスターって、GMの試作品だった化物スラスターだな」
「肩につくキャノン砲は、ジムキャノンのだよね」
「うわ、この二連装ビームライフルって、どこの試作品なの」
 ニナさん入魂の設計図を見ながら、やいのやいのと我々お手伝い組。どっから集めたん
だろう、このパーツ群? 
「このガンダムは、フルアーマーガンダム・パワードと仮称します!」
 ニナさん、テンションマックスの宣誓、ダメだ、今この人に逆らう勇気、私には無い。
 こうして私は、超過労働の日々が始まることが決定してしまった。
  
 トロイホースは今、ロンデニオンに寄港している。
 いつもなら、ここで乗組員には交代で三日間くらい非番になるらしいのだが、そんな話
欠片も出てきていない。
 十人以上の新規参入者があっても、まだロンド=ベルの人手不足は解消には程遠い。
 ダバ君らペンタゴナ組は、自分たちの持ち込んだ荷物の整理に、寝る間もないくらい忙
殺されているし、シャングリラの少年達も来た早々、モーラ整備長や私にこき使われてい
るのだった。
 ブライト艦長とアムロ少佐が、このロンデニオンにあるロンド=ベル司令部に詰めっき
りで、必死に情報の収集に励んでいるのだが、まだ地球圏の混乱はひどいらしく、ジャブ
ローとすら連絡が取れない有様だ。
 でも合間を縫って色々な人から話を聞いて、リリス=ファウを見間違えた一件は、何とか説明し
ていただいた。気になってしょうがなかったのだ。
約四ヶ月ほど前、地球圏では不思議な怪事件があった。MSやスーパーロボット達が数多く
忽然と姿を消してしまったのだ。でも、それは一月もしないで、皆消えたときと同じく、突然と
帰ってきたのだが、そのときに彼らはある異世界『ラ・ギアス』という召還されていた。そこで
も色々とあったらしいが、彼らはその世界で、リリスそっくりのチャム=ファウという妖精に出
会っていたそうだ。だから、あの時、あんなにビックリしていたとのことである。以上、バーニィ
さんとコウ先輩とジュドーの話からである。
 私には『召還』だの『異世界』だの、どうも現実味にかける話だが、実際にMSが突然消えて、
その不在期間を理由に、ロンド=ベルは規模を大幅に縮小されたのだから、事実であるのだ
ろう。私はそうやって自分を納得させた。
 そして今は食事などの時間を使って、ダバ君やレッシィたちと色々な情報交換をして
いるのだが、彼らにしてもわからないことが多いらしい。
 今日も、レッシィとたまたま食堂で会えたので、ペンタゴナの事と地球の事の意見交換
している私だった。
「一番わからないのが、恒星間移動の技術なんだ」
 レッシィがフォークをハンバーグに突き刺しながら、何度も聞かされている疑問を口に
した。よっぽどわからないのが納得いってないらしい。
 聞けば彼女、ガウ=ハ=レッシィ嬢は、私とほとんど同じ年だというのに、十三人衆と
か言われる軍の高官だったそうだ。こちらで言えばブライト艦長くらいの地位があったら
しい。
 だけど戦場でダバ君に出会って、その馬鹿正直さにひかれて軍を造反し、反乱軍に入っ
てしまったとのことだ。ダバ君を見ていると何となくその説明で納得できてしまう私だった。
 彼女曰く、『恒星間移動技術』は彼女たちの星系では、開発する予定すら、軍部になか
ったらしい。ペンタゴナという星系は、二重太陽の回りを複数の有人惑星が囲んでおり、
地球のように人口飽和はおきてはいなかったので、ポセイダルとかいう独裁者も、自分の
ところだけで満足していた感があったそうだ。
 それが突然、その支配欲の矛先が我らの地球に向いてしまったのだ。その欲望の起因
かどうかはわからないが、一端をになっているのが突如でてきた、恒星間航行技術、それ
を手にいれた為からだろうと、レッシィは見ているようだった。
 彼ら反乱軍も、装置だけは手に入れることは出来たけど、使い方はわかっても、作り方
はさっぱり解明できなかったらしい。
「やっぱ、第三者からの技術提供があったんじゃないのか?」
 私は、私なりに考えたことを意見してみるのだが、レッシィはなんか納得しがたいよう
だった。
「リンはポセイダルを知らないから、そう言えるんだ。あのポセイダルが、人に借りをつ
くるようなことするようなこと、出来るわけないんだよ」
 思わずこちらが悪いことしたかと萎縮してしまう程の、剣幕だ。件のポセイダルとい
う輩、映像を見た限りでは綺麗な女としか-性別は男だそうだ-思えないのだが、内実
は地球のヒトラーとナポレオンとを足したような強力な独裁者らしい。
 でも、こうして戦争をふっかけられていても、私の頭ではどうもあの男女とポセイダル
軍が結びつかないのだ。理由を訊かれても何となくとしかいいようがないのだが・・・
 こうして私とレッシィの話は、最後にはポセイダル個人の中傷を私が一方的に聞かされ
るって感じになってしまうのだった。
「リンちゃん、レッシィさん、こんばんはぁ~。忙しいですかぁ~?」
 食事が終わりそうなころ、グレースがやってきた。こいつも、ソフト関係のプログラミ
ングとかで、私なみに忙しいはずなのだが、疲れの色なぞ微塵もでてない。この差はなん
だ?
「こんばんはって、もうそんな時間か?」
「時計、見てください、リンちゃん。標準時間でもうおねむの時間ですよぉ~」
 と、クマさんが描かれた腕時計を見せられても、ようやく今が標準時夜九時過ぎとわか
った。おねむには早いかもしれないけど、良い時間になってはいるな・・・ まったく、
忙しすぎて、時間経過がわからなくなってしまってるらしい。
 ちなみに、今ロンド=ベルには暇人という人種は一人も存在していない。大小の差は少
しはあれど、みんな多忙だ。
 私はいま、ゲシュペンストの整備と、ジュドー少年の乗機となる予定のRX-78ガン
ダムの改良と改造に忙殺されまくっているし。
 今、トロイホースの第一格納庫に行けば、私とニナさんと少年たちの努力の結晶がかな
り組み上がっているのを見ることが出来る。おかげで寝不足でしょうがないのだが。
「リンちゃんに頼まれていたMSのプログラム、なんとか出来上がりましたからぁ~、あ
とであげますねぇ~~」
 オムライスをパクつきながら、幸せそうな顔でグレースがそう言った。彼女にはそのF
AガンダムPの為の運用プログラムを作ることを頼んでおいたのだが、もう出来たらしい。
さすがに学科では主席だったアーウィンが及ばなかっただけの秀援のグレースだ。
「でも、グレースって本当にタフよね」
 レッシィが、食後のコーヒーを飲みながら、感心した風だった。そういえば、こいつだ
けは疲れたそぶりすら見せていない。なにか秘訣があるのだろうか?    
「グレース、お前いつ休んでるんだ?」
 気になったので訊いてみた。すると・・・
「普段休んでますから、大丈夫なんですよぉ~」」
 と、えっへんと得意げに胸を反らすグレース。思わずガクッとテーブルに突っ伏す私と
レッシィ。
 ・・・そうだ、こいつはこういう奴だった。

 私は、その日の作業は早めに切り上げて、とっとと休むことに決めた。これ以上疲労が
たまるとかえって作業効率が落ちてしまう。
 その事をレッシィに話すと、彼女も同感らしく、今日はこれで切り上げてシャワー浴び
て寝ることにしたらしい。
 シャワーか、いいな、後で私も浴びよう。
 格納庫に行き、現場責任者のニナさんにその旨をつげると、彼女も同意してくれた。思
いもかけず仕事が終わり、歓声をあげるジュドーにモンドにビーチャ。ホント、正直な子
達だ。ちなみにここにいないイーノとエルとリィナは、ファの下について艦内の雑用に追
われているはずだ。
「明後日くらいには、試運転出来そうですね?」
 私たちが造っているガンダムを見上げながら、赤いツナギのニナさんに話しかけてみる。
「私が設計したガンダムですもの! 絶対いい子になるわよ!」
 すると先ほどまでの疲労の濃かった顔が、急にバラ色に染まっている。さすがガンダム愛
まっしぐらな方だ。
 それにしても・・・・・・
 と、私は再びガンダムに視線を戻し、つくづくと思った。
 よく形になったなぁ・・・ と。
 このFAガンダムPで一番最初に目に付くのは、巨大な背面スラスターだろう。なんでも
GMの強化プランの一つとして試作されたワンオフ物らしい。そして、右肩にはキャノン
砲を装着している。HM対策の実弾兵器とのこと。それと間接各部を補強したため、膝や
肘、足首部分が一回り太くなっている。他にも右腕に装着された二連ビームライフル、
腰に装着したビームサーベルと元のG3からはかなり変わってしまった。
 でも、こうして形になると、何だか頼もしく見えるのは、これだけは変わらない独特の
ガンダムフェイスが見えるからかな?
「じゃあ、今日はこれでお開きにしましょうか、みんな、解散! ご苦労さまでした!」
 私の号令で、今日は解散となった。みな口々に「お疲れさまぁ」と言いながら、格納庫
から出ていく。私も今日はゆっくり寝るとしよう。あ、その前にシャワーだな。
 まだ陶然とガンダムを見つめているニナさんを放っておいて、私も格納庫を出た。
 トロイホースには共同で入る、大風呂付きシャワールームがある。私を含めて士官の個
室にはシャワーがついているんだけど、せまっくるしいので今日は大風呂にいくことにし
た。
 シャワー室につくと先客がいるようだった。ここは日替わりで男女が交代で入ることに
なっており、今日は女性の入浴日なのだが、誰が入っているのだろうか?
 脱衣室の棚には、特徴ある服がきちんと畳まれておいてあった。どうやら先客はレッシ
ィのようだった。
「あぁ、リンも来たのか、いい湯だったぞ」
 私が作業用のツナギを脱いで、下着姿になった時、レッシィが湯上がりの肌を上気させ
てシャワールームから出てきた。
 そして、私はブラを外そうと前屈みの姿勢のままで、固まってしまった・・・
 なんだ、あのプロポーションは?
 ウェストが、尋常じゃないほど、細くてしまっている、うらやましいぞ。
「どうした、リン?」
 レッシィの言葉、今の私の耳には入ってきていない。
「ちょっといいか・・・?」
 と、一応断ったものの、返事も聞かずに私のとった行動は、ちょっと常軌を逸していた
かもしれない。
 ガシッって感じで、私はレッシィのうらやましいくらい細くくびれたウエストに手をお
き、その細さを堪能していた。これは、骨格から違うのか?
 あぁ、このライン、自分に移植できないモノか?
「あ、あの、リン? な、何してるの?」
 ちなみに私の耳にレッシィの困惑は届いていない。その時の私の頭には、このスタイル
だったら、どんなデザインのドレスでも難なく入るだろうとかいった、叶わぬ想いで一杯
だったのだ。
「ねぇ、ちょっと、あの、リ、リンってば・・・・・・」
 意識が跳んでレッシィの腰元あたりに頬ずりしているあたりで、私を現実に戻す声がド
アの外からした。
「あれぇ~、みなさん、何してるんですかぁ~?」
 聞こえたのはグレースの声。暢気に誰かに質問しているようだ。しかも相手は複数らし
い。急にグレースに話しかけられ、慌てふためく気配がしている。
 って、ことは!?
 私は、下着姿だということも忘れて、ドアの方に振り返った。そこには、5センチほど
の隙間があった。
 覗きか!!!!
 ドアを勢いよく開くと、そこには、下からモンド、ビーチャ、キース先輩に、キャオ
の顔が、トーテムポールのように縦に並んでいた。4つの顔が蒼く引きつっている。私
がよっぽど怖い顔をしているのだろう。
 当たり前だ。ジェス以外の男性が私の裸を見ようとするなんて、万死にあたいする!
「リンちゃん、刺激的ですぅ~」
 私の下着姿をみて、グレースが喜んでいるようだが、放っておく。
 ・・・・・・こいつら、どうしてくれようか?
「キャオ、アンタまで一緒になってぇ~!」
 私の背後にはすばやくバスタオルを巻き付けたレッシィが、怒りのオーラを上げている
ようだ。
「いや、あの、ペンタゴナの、地球の女性の違いを、相互に確認して検証しようと・・・
な、みんな」
 と、キース先輩が、わけのわからん言い訳を始めてた。他の3人も必死にうなずいてい
るが・・・・・・
「聞く耳もたん!」
「覚悟しな!!」
 そして、トロイホースに私とレッシィの怒声が響き渡った。
 その後、医務室に4人の助平が運ばれていったのだった。ふん、当然だ。

 -第五話 Cパートへ-

 【後書き】
 過去最高の書き直し。場面がまるごと一個、増えてます。
 ちなみに自分のブログ【川口代官所・跡地】に載せている
 α=アフターが更新されていますので、よろしかったらいらして
 くださいませ。




[16394] F REAL STORY  第五話 Cパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/17 22:32
 そして、二日がすぎ、ようやく私たちが手がけていたジュドー用のMSが組上がった。
「じゃ、動かすよぉ!」
 制作に携わった私たちが見守る中、コックピットに座ったジュドーがそう言った。う~、
大丈夫だと思うけど、ドキドキする。
 すると、ガンダムの目の部分がピカッと光り、そしてジェネレーターが始動を始めた音
が響いてきた。
「今んとこ、オールオッケィ!」
 ジュドーの言葉を合図に、私たちから歓声があがる。やった、コックピットで今の段階
でエラーが出なければ、上手くいったと言っていいだろう。
「また、私のガンダムが出来上がったわぁ~!」
 と、ニナさんが喜びのあまり私に抱きついてきた。ホント、あり合わせのモノだけでよ
くやりましたよ。
「じゃあ、ジュドーはこのままコロニーの外にでて、テストを続けてくれ。コウ先輩が外
で待ってるから」
「了解! いっちょ行ってきます!」
 そして、私たちが組み上げたフルアーマー・ガンダム・パワード-結局、これが登録名
になった-がカタパルトに乗る。あわてて私たちはメカニックルームに避難する。
「ジュドー=アーシタ、ガンダム、いきま~す!」
 どことなくアムロ少佐の口調を真似して、ジュドーが発進した。
「さぁ~て、私はブライト艦長に報告にいくけど、お前達は休んでいいぞ」
 することがなくなったデッキで、私は残った少年達にそう言った。よくやったよ、本当。
「じゃあ、部屋で」「怪我の養生しま~す」
 先日の制裁でと顔中絆創膏だらけのビーチャとモンドが憎まれ口叩いて出ていった。そ
の言葉に私は思わず苦笑する。たく、しょうがない奴らだな。
 ニナさんはこの後、ブリッジでジュドーの試運転を監督することになっている。    
私は、久々に作業着から、連邦軍の制服に着替えて、トロイホースを後にした。
 上陸の理由は、ロンデニオンにあるロンド=ベル司令部に行くためだ。あまり知られてい
ないのだが、ロンド=ベルにも独立して設置された事務専門の部署があるのだ。
 そこにはジャブローとかと専用回線があるので、ブライト艦長やアムロ少佐は、そこに
詰めてずっと情報を集めているらしい。   
 エレベーターに乗り、しばし待つ。重力が身体を支配していく感覚、アースノイドの
私には、心地よさを覚える感覚だ。
 町並みを徒歩で歩く。
 ロンデニオンは緑の多いコロニーだな、こうやってのんびりと歩いていると、異星人が
攻めてきていることが、まるで嘘のようだ。
 町並みも落ち着いた雰囲気で、歩いているだけで心が落ち着いてくる。
 あぁ、そういえばジェスと最後に二人で歩いたのっていつだったっけ? 昔は、二人で
いるのが当たり前だったのにな・・・
「いい雰囲気ですねぇ~、リンちゃん」
 そうそう、こうやって優しく腕を組んでって・・・・・・ おい?
「こうやってると、二人でデートしているみたいですねぇ~。なんだかウキウキしちゃい
ます」
「グレース、なぜここに?」
 私の腕に、自分の腕をからませて、べったりうっとりしているのは、言わなくてもわか
るグレースだ。いつの間に私に追いついて来たんだ、この娘は?
「わたしも、艦長さんに頼まれていたことがあって、その報告ですぅ~。一緒にいきまし
ょ、リンちゃん!」
「イヤだと言ったら?」
「そうしたらグレース泣いちゃいます・・・」
 と、瞬間でウルウルの涙目になる。仕方ない、私はため息ついて、グレースと同行する
ことにした。
 
 二人で腕組んで歩くこと三十分。私たちは、目的地である『ロンド=ベル司令本部』についた
のだが・・・・・・
「これが我がロンド=ベルの司令本部なのか?」
「ちっこいですねぇ~~~」
 「大きくないよ」とアムロ少佐が苦笑まじりに言ってはいたけど、なんか外から見たら
普通の平屋の建て売り住宅だ。私が長く住んでいた小母様の家と同じくらいだな。ここで
あっているのか?
 ドアの横に、カードキーを差し込むところがあって、そこに渡されていたカードキーを
通すと、ピーという電子音がして、ドアのロックが外れる音がした。ここ良いらしい。
 しかし、テロを起こすとしたら、『放火』という手段で破壊されそうな司令部ってあって
いいものだろうか?

 傍からみたら、一般家屋だった我がロンド=ベル司令部だが、中に入るとかなり雑然とし
たIT企業のオフィスって感じにみえる。応接ルーム、事務室&通信室、なんか型が少し
古いスパコンがある部屋と三つならんでいた。そして、その応接室は今、使用中らしく、
三人の男性と一人の女性が、コの字に並んで座っている。
 ブライト大佐とアムロ少佐はわかるけど、他二人は初対面の方だ、服からして、軍
の関係者じゃなさそうだけど、どちらさんだ? アムロ少佐と同い年くらいの優男
の人は、どっかで見た顔なんだけど・・・・・・
「あぁ、リンにグレース、ご苦労さま」
 アムロ少佐が私たちに気づいて、声を掛けてくれたので、敬礼して返す。すると、優男
さんが口笛を吹いて私たちを物珍しげに見た。
「へぇ、ロンド=ベルでまだしっかり敬礼とかする人、久々にみたよ。コウ達以来じゃ
ないか」
 と男性は立ち上がって、私たちの前に。何だろう、この隙がない探るような視線は。
諜報関係の人か?
「カイ=シデン、フリーのジャーナリストだ。よろしく」
「リン=マオ少尉です」
 差し出された手を握り返す私。遅れてグレースと握手している時に、その男性の
ことを思い出した。
「わぁ~、あのホワイトベースのシデンさんですかぁ♪ グレースっていいます、
よろしくですぅ~」
 差し出された手をブンブンと上下に振って、喜んでいるグレースに苦笑するカイ
=シデンさん。かってブライト艦長の元でMSパイロットとして戦っていたこと
で有名な人だが、ジャーナリストなんぞに転職されていたのか。
「じゃあ、俺はそろそろ・・・・・・ ブライトさん、アムロ、気をつけてな。何かわか
ったら、ここに連絡するから」
 すると、シデンさん、立ったついでって感じでそんな事を言う。
「あぁ、ルオ商会への言伝、頼んだぞ」
「気をつけてな」
 ブライト艦長とアムロ少佐もあっさりとそれを了承。つもる話、とかもう
終わったのかな?
 了解代わりに手を振って、私たちと入れ替わりって感じでシデンさんは出て行って
しまった。
「あの、お邪魔でしたか?」
 隣でバイバイと手を振っている小娘は放っておいて、ブライト艦長たちにお伺い
を立てると、ブライト艦長は首をすくめて、
「ああ言うヤツなんだよ、気にするな」
 と言ってくれた。アムロ少佐も笑いながら頷いている。
「ねぇ、アムロ、私も紹介してよ」
 と残ったブロンドの女性が、アムロ少佐の袖を引っ張る。ム、なんか、この雰囲気は
男女の関係を思わせる気安さだぞ。
「あぁ、彼女はベルトーチカ=イルマ。ロンド=ベルの、そうだね、民間からの
協力者ってとこかな」
「ベルトーチカ=イルマです。マオ少尉にウリジン少尉ですね、以後よろしく」
 こちらも笑顔で握手を求められた。ムム、この人がアムロ少佐の噂の恋人の
一人か。
「ここは普段、チェーン=アギ少尉が常駐しているんだけど、彼女には先日、月に
いってもらったから、交代で来て貰ったんだ」
「少佐は、人使い荒いのよ。地球にいたら、いきなり来てくれ、ですもの。大変
だったわ。この埋め合わせは、ちゃんとお願いね、少佐」
「ハハ、お手柔らかに」
 この会話の流れは、こなれたカップルって感じだ。ムムム、こっちは恋人と
離れて単身赴任状態なのに。羨ましいぞ。
 イルマさんの説明によると、先ほどのシデンさんと一緒に、こちらに来られた
らしい。いきなりの宣戦布告で、地球発の航宙便は大混乱で、シデンさんの伝手で
最後の便にギリギリ乗れたとのこと。
 先日、ロンデニオンに入港した際、軽く挨拶したチェーン少尉とも、アムロ
少佐はこんな感じだった。ムムムム、アムロ少佐に二人の恋人存在の噂は
本当だったのか。なんか複雑な思いだ。
「で、リンとグレース、あっちは一段落ついたってことか?」
 するとブライト艦長に話を振られ、ここに来た目的を思い出す私。慌てて向き直る。
「はい。ジュドーのMS、努力の甲斐あって一応完成となりました。今はコロニー
の外でテスト中です」
「えっとぉ~~、艦長に頼まれたデータ~、ルナ2から盗ってきましたぁ~~」
 ・・・・・・なんか私の報告の後に、グレースが物騒なこと言っていた気がする。
 とりあえず、用意した報告書をブライト艦長に渡す。
「これで、ジュドーも戦力になると考えて良さそうだな」
 出るであろうスペックを斜め読みして、それをアムロ少佐に渡すブライト艦長。そ
れを二人で覗き込む少佐とイルマさん。
「しかし、G3をここまで改造するなんて、ニナにしかできないよ、これは」
 アムロ少佐は感嘆半分呆れ半分といった感じだ。実際、現場にいた私は、呆れ八割
泣き二割って感じだったけど。
「で、グレース、もう例のモノが手に入ったのか?」
 ブライト艦長が、グレースに訊いて来た。さっきは聞かなかったフリをしたかった
けど、また何か非合法っぽいことやってたみたいだ、この娘。しかもそれを頼んだのは
うちのトップ二人みたいだ。
「はい~~、任せてくださいですぅ~~。グレース、こういう事、とっても得意なんです
よぉ~」
 と、どこからかディスクを二枚取り出し、ブライト艦長まで持っていく。あそこで頭を
撫でてやるとグレースはとても喜ぶのだが、さすがに歴戦の勇将も、そこまでは気づかな
いみたいだ。で、仕方なく私が頭を撫でてやる。
 グレースは満足そうに喜んでいる。はぁ、よくこんな娘と友人関係やってられるな、私も。
 三人が席を立ち、となりの事務室っぽい部屋に移動するので、私たちも付いていく。
 コンピューターにディスクを差し込むと、程なく、壁に取り付けられた大型モニターに
そのディスクの中身が表示され始めたのだが・・・・・・
 私はその内容の走り部分を見ただけで、血の気が引いていくのを自覚してしまった。 
 これって、ひょっとしてペンタゴナとの交渉の記録じゃないのか?
「グ、グレース、こんなモノ、どっから手に入れたんだ?」
 訊く声が震えているのが分かる、これは、バレたらロンド=ベル解体の決定が
確実に下される軍規違反モノのだ。
 私の質問には、眉間に皺寄せたブライト艦長が応えてくださった。
「ルナ2が、連邦側とペンタゴナ側との交渉の窓口だったので、もしかしたら記録がある
のではと、グレース少尉に頼んだのだが・・・・・・ ここまで完璧なのが出てくるとはな」
 見ていると、そどのような面子がその会合に出席していたのかとか、どんどんやばい
データが後から後から出てくる出てくる。ブライト艦長や、アムロ少佐、イルマさんも出てきた
データに度肝を抜かれているって感じだ。そのデータを抜き出したグレースだけが、堂々
と胸を張っている。
「これ、ルナ2のメインコンピューターから、ハッキングで盗ってきたのか・・・・・・?」
 知りたくないが、ここまで来るとつい訊いてしまう。するとグレースは得意満面な顔で、
きっぱり言ってくれた。
「もっちろんですぅ~~! このグレース、ルナ2のコンピューターさんとは仲良しです
からぁ、まかせてくださいな!」
 あぁ、やっぱりこいつ、ことの重大さについて、自覚が微塵もない~~!!
 頭を抱える私をよそに、艦長はアムロ少佐と流れるデータに目を通しながら、意見の
交換を始めた。腹くくるの早い人たちだ。まぁ、バレない事を祈ろう。
 そのまましばし、イルマさんが淹れてくれたコーヒーを啜りながら、二人の会話が
終わるのを待つことにする。何か指示がありそうな気配だし。
 そうして、十五分も待ったろうか? 思ったより早く二人の考えは纏まったようだ。
「リン、グレース、今からお前達はトロイホースに帰って、このことを皆に伝えてくれ。
我がロンド=ベルは、三日後にロンデニオンを発ち・・・・・・」
 そして、ブライト艦長は言った。
「地球、ジャブローに向かう、とな。そのつもりで準備しておいてくれと」
「了解しました」
 かすかな驚きと共に、了解の敬礼をする私。
 地球へ・・・・・・ なんだか、事態が急速に動き始めそうな予感がしてきたぞ。
 先ほどの不正入手のデータが決め手となったのか、それとも前から考えていたのかはわから
ないけど、急展開だ。私はわずかに震えていた。緊張の為か、それとも武者震いか。
 ・・・・・・でも正直、一月もたたずに地球に戻るとは思わなかったぞ。

 そして、三日なんてあっという間に過ぎてしまった。
 その間、一日半ほど休暇を頂いたのだが、なんだかんだでダバ君達一行のコロニー見
物につき合わされて、全然休んだ気がしなかったし。 まぁ、異星人の彼らと観光す
るのは、なかなか面白い体験ではあったし、キャオやアムのはしゃぎっぷりは一緒にいる
だけで楽しかったから良しとしておこう。
 そして、野暮用とやらで、しばらく別行動をとっていたゲッターチームがトロイホース
に帰艦すると、すぐにロンデニオンを出航とあいなった。
 向かうは地球だ。

 出航してすぐ、クルーほぼ全員を食堂に集めてのブリーフィングとなった。きっとブラ
イト艦長からこれからの我々の行動についての説明があるのだろう。
「みんな集まったな」
 軍人以外にも、少年少女、研究所員、それに異星人といった多種に渡る面々を前に、ブ
ライト艦長が口を開いた。
「皆も聞いていると思うが、我々はまず地球に向かうことになった。それは、連邦政府や
統合作戦本部との連絡が、ポセイダル軍の襲撃によって、まったくとれなくなってしまっ
たからだ。わかっているとは思うが、我々は軍の組織の下にあるものだ。そして、前のよ
うに独断で動くことも禁じられている。だから私はジャブローにいるコーウェン中将の裁
可を仰ぎたいと思っている」
 ブライト艦長は続ける。
「それに地球には、甲児たちもいる。できれば彼らとも合流をはかりたい。これからの戦
いには、もっと戦力が必要になると思うのでな。みんな、質問は?」
 ブライト艦長の説明は終わったようだ。すると、隼人さんが手を上げた。意外だな。
「なんだ、隼人?」
「質問じゃありませんよ。甲児君を迎えに行くなら、彼は今テスラ=ライヒ研に居ます。
ジャブローに行く前に、彼を拾っていったほうがいいでしょう」
「甲児君、きっと手ぐすねひいて待ってますよ」
 隼人さんの提案を、竜馬さんが笑いながら支持した。
「そうだね、ブライト、そうしよう。それに、地球に降りればジャブローと通信ぐらい出
来るかもしれないし」
 アムロ少佐もその提案を了承して、ブライト艦長も少し笑いながら言った。
「早く迎えに行ってやらないと、甲児が一人で戦争はじめてしまうかもしれないしな。そ
うするか」
 私は、あのマジンガーZのパイロットの事を思い出しつつ、彼が一人でマジンガーZを
駈りポセイダル軍にとっこんでいく有様を想像した。う~~ん、甲児さんならやりかねな
いな。
「よし。ではそういう予定での航路設定、グレースに頼めるか?」
「おまかせください~~」
 グレースは、わずかな間で、このロンド=ベルのソフト部門の主任みたいな役職に収ま
っていた。順応力があるというか、抜け目ないというか・・・
「では、解散だ。大気圏突入は、七十二時間後を予定している。そのつもりで準備してく
れ」
 ブライト艦長の締めの言葉の後、正規軍人だけ起立して敬礼し、短いブリーフィングが
終わった。
 しかし、地球だけじゃなく、テスラ=ライヒにも戻るのか、私。カレン小母様に会えるかな、
難しいかな?
「あ、パイロットとダバ君たち、それにゲッターチームはまだ残ってもらえるかい?まだ
話があるんだ」
 アムロ少佐の言葉に、部屋を出て行きかけた私の足が回れ右する。話ってなんだろうか?
「話というのは、前にリン達を襲ったガンダムのことなんだ」
 あのガンダムの事を思い出した途端、私はあからさまな寒気を感じた。あのガ
ンダムとの戦闘、思い出すだけでこんな寒気を感じるのだ。正直に言って、私はあのガン
ダムが、いや、あのガンダムのパイロットが怖いのかもしれない。
「ニナにも見てもらったんだが、あのガンダムはきっと単独での大気圏突入が可能なタイ
プだと思われる。そして、ロンド=ベルを標的にしているとすれば・・・・・・」
「大気圏突入時が最大の狙い所、ってわけか」
 コウ先輩がアムロ少佐の言葉を継ぐような形で、そう言った。
 ありえるな。 あのガンダムのライフルの威力なら、一撃でトロイホースを墜とす
ことも不可能じゃない。 
「そこで対策ってわけで、リンを中心にしたシミュレーションをしようと思ってね」
 と、アムロ少佐が私を突然そんな事を言いだした。え? 私が中心にって、何をするん
だ?


凄まじいスピードで、こちらをかく乱しようとするGP-01Fb。でも、、現在のMS
で最速ともいえるフルバーニアンだが、レナンの自動追尾はこれだけの距離が離れていれば、
その姿を逃すことはない。それに速いけど、動きが直線的過ぎです、コウ先輩。
 ターゲットロック、完了。引き金を引く。
「コウ先輩、ロックオンです!」
『え、マジかよ!?』
 FWに、コウ先輩が驚きの顔をしているのが映っていた。これで本日二度目の撃墜となる。
 今、私はゲシュペンストに乗って宇宙に出ている。実機を使った戦闘シミュレーションを行
っているのだ。
 参加しているのは、アムロ少佐が乗るリックディアス、コウ先輩のGP-01Fb、ジュド
ーのFAガンダムP、ダバ君のエルガイム、レッシィのディザード、グレースが再びジャ
ガー号に乗り込んだゲッターチーム、それと最後に私とゲシュペンストだ。
 残りのメンバーはトロイホースに待機している。
 このシミュレーションの目的は、あのガンダムの驚異的なビームライフルの射程を覚
え込ませることだ。
 ニナさんとアムロ少佐が、前回の私の戦闘データをもとに、あのガンダムの戦闘データ
を検証した結果、あのビームライフルと、私のゲシュペンストのニュートロン・ビームラ
イフルの対艦モードが、射程、威力共に酷似しているという事だった。
 だから今、私のゲシュペンストを仮想敵ガンダムにしての戦闘シミュレーションとなっ
たのだが・・・
 敵としての立場をとってみると、ロンド=ベル側がとてつもなく不利だということがあ
りありとわかってきた。
 あのガンダムが高速形態で突撃してきて、あのビームライフルの射程ギリギリに陣取ら
れたら、こちらが迎え撃つとか以前の問題で、勝負は決してしまうだろう。
 大気圏突入準備中のトロイホースなんか、いい的以外の何物でもないし。
『ちっくしょ~う! これじゃ全然話になんないぞ!』
 コウ先輩が、コンソールパネルを叩いて悔しがっている。このシミュレーションを始め
て二日、先輩が一番撃墜されてるからな、無理もない。だって、レナンが一番動きを予測
しやすいのが、コウ先輩なんです。
 アムロ少佐やジュドーは、早々に間合いを把握して、私を何度か撃墜しているが、今日
参加している他のメンバーは、この長距離攻撃にかなり苦戦している。ゲッターチームは
グレースがジャガーに乗っているせいか、今回は撃ち落とされているし。
 そして、これまた敵の視点でみて初めてわかったのが、ゲッターの弱点だ。
 合体の瞬間、この時ゲッターロボはどの形態になろうが、なんの攻撃も防御も出来なく
なってしまうのだ。
 さすがにグレースじゃなくて、隼人さんが乗っている場合は私では手が出せない程の合
体技をだすが、あのパイロットならそれも捉えられるかもしれない。
 じつは先ほどから、今までのシミュレーションで得たデータをもとに、現戦力でのあの
ガンダムの最良な迎撃策をレナンに考えさせているのだが、どれも私には気が重くなるよ
うな案ばっかりだ。
 まず、早期発見。これが出来なきゃ何も出来ないとのことだ。
 そして、ゲシュペンストが、つまり私が、あのガンダムに向けて対艦モードでの射撃を
行い、あのライフルを撃たせないようにする。それが大前提だそうだ。
 つまりどうあっても私はまたあのガンダムの相手をしなきゃいけないみたいだ、本当に
気が重くなるぞ。
『今日はこれまでにしておこう。各自に自分の乗機の整備を万全にしておいてくれ。軌道
上での戦いは、かなり厳しいものとなると思うから、そのつもりでいてくれ』
 アムロ少佐からの通信が入って、実戦シュミレーションが終了となった。あとはゲシュ
ペンストに大気圏突入用のバリュートシステムを装備して、時を待つだけだ。
 ふと、スクリーンの端に輝く青く美しい星に気がついた。もうバスケットボール大に
なっている。
「レナン、拡大してくれ」
【了解:拡大投影:地球です】
 大き目のFWが現れ、そこに現れたのは、青く美しい人類の故郷、地球の姿だった。
 こんなに近くにあったのに、今まで全然気がつかなかったな、私。
 あそこから飛び出してから一ヶ月くらいしか経っていないのに、ずっと前のことのように
思える。
 ジェスは、大好きな人はあの青い星の上で、元気にやってるのかな?

 -幕間へ-

 【後書き】
 大修正第二段。前から直したかったとこなので、けっこう
直しました。
 それと自分が頭悩ませていたガンダムが分かりました。
 『NIGHT HWARKS!』という話に出ていた
 Gダミーってヤツでした。

 誤字訂正 なんで自分はシミュレーションをシュミレーションと
書いてしまうんでしょうか?



[16394] F REAL STORY   幕間
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/28 20:29
 「まず、あたしの燃え燃えの作戦を聞いてもらうわね!」
 所は大型輸送機ミディアムの内、ブリーフィング・ルーム。固定テーブルには5人の若
い男女が彼らの目的地である研究所周辺地図を囲んでいる。
 そして、まず口を開いたのはこのメンバーの自称隊長一号のパトリシア=ハックマンで
あった。
 他の四人は期待せずに聞いているようだった。
「まずあたしの操るブラック・ゲッターで急接近。そしてフルパワーのゲッタービームで
一帯をなぎ払うの!」
「却下だ!」
 握り拳で力説するパットの頭を、どこで用意したかわからないハリセンで一閃したのは
実質隊長のアーウィン=ドーステンだ。旧友と再会してから徐々に朱に染まってきている
ようだ。
「何でよぉ~!」
 パットは頭を押さえて、涙目で不平をもらす。
「お前は、大量殺戮犯になりたいのか!? それに俺たちの目的は、『第三研究所の破壊』
じゃなくて、『一人の披見少女の誘拐』だ。それにあそこを警備しているも同じ連邦軍だ
ぞ! そこのところを考えろ短絡娘!」
 冷静さが売りのアーウィンが珍しく興奮している。ティターンズ在籍で溜まっていた鬱
憤をここで晴らしているのかもしれない。
「・・・・・・でも正直な話、手駒が足らないわね」
「んだな」
「だなぁ」
「あぁ」
 ミーナ、ヘクトール、ジェス、アーウィンは、ブツブツ言いながら、床に蹲ってのの字
なんか書いているパットを放って、討議を再開する。
「陽動、侵入、誘拐、脱出、この四つの行程を5人でやらなきゃいけないのよね。陽動は
私とパットがやった方がいいとして・・・・・・」
 自称隊長2号のミーナが自慢の「灰色の脳細胞」をフル活動させているようだ。この娘、
トンチキな推理なんぞをよくするので、そうは思われないことが多いのだが、実は参謀的
な仕事をさせると意外に有能だったりする。
「あぁ、さっきのパットが言うようにゲッタービームで薙ぎ払うなんてというのはもって
の他だが、あれは機動力も高いしな」
 アーウィンもそれには同意見らしい。でも問題はその後なのだ。
「そこで手薄になった所を、俺がジェガンで斬り込んでいって、施設内への進入路確保っ
てトコか」
「えぇ、でもその後が問題なのよ。そうなるとさ、ヘクトールとウィンしか残らないのよ。
二人で施設内侵入して、お姫様奪取って、ちょっとキツイよね」
 ジェスの役回りまでは決められるのだが、そうなると残りの行程を二人でやらなきゃい
けなくなる。つまりこのメンバーの最大の悩みは、『人手不足』ということになる。
「あ~、リンかイルムがいれば、一発で解決なんだけどね。リンはともかく、あの女たら
しのスケコマシは、どこいっちゃったのよぉ~!?」
 女たらしのスケコマシことイルムカルド=カザハラは、三ヶ月ほど前から行方不明にな
っているので、この場に連れてこれなかったのだ。
 それにやることがやることなので、フリーの工作員とかは雇うわけにもいかない。
「まぁ、ヘクトールとウィンのフォローは俺が出来るだけやるよ。この作戦でいこうぜ」
 ジェスの言葉で、この作戦で行くことに決定になったようだ。     
 もっとも、実働メンバー五人では他の作戦を選びようがないだろう。
「では、次に基地の設備の確認だな。ここまで正確なデータが揃っているっていうのは有
り難いが、このデータの信憑性は?」
 テーブルには、これから彼らが襲撃する『ニュータイプ第三研究所』の内部図解、MS
配備状況だの第三者じゃ手に入れがたいデータが、プリントアウトされて乗っている。
 ウィンの指摘に、ジェスが言うには、
「お袋が持ってきたもんだから、きっと大丈夫でないの?」
 と軽く答える。
 そこでウィンの頭に浮かぶは数日前に出逢った、年齢超不詳の美女、ジェスの母親だっ
た。思えば凄く謎な人物だ。
「なぁ、お前のお袋さんって・・・」
 と、ウィンが疑問を口にしようとした時だった。  
 ブリーフィングルームに緊急警報が轟きわたった。
「何事だ!?」
 途端に色めき立つ面々。自動哨戒システムに何か引っかかったようだ。
 パットが手近にあったコンソールを叩き、警戒にあたっていたミディアムのコンピュー
ターを呼び出した。
「えっと、わ、大変! 第三研究所が襲撃されてるみたい!」
「「「「何ぃ~~~!?」」」」
 思わず声が重なる残り四人。呼び出された情報をみると、これから彼らが襲撃をかける
予定の地点で高エネルギー反応が確認されている。
 それに爆発音、機外カメラから確認できる黒煙。
 間違いない、第三研究所で何かが起きている。
「今、何時よ!?」
 ヘクトールの問いに、慌てて時計を見てパットは答えた。
「えっと、夜七時、晩ご飯時!」
 その答えを聞いて、ヘクトールは一枚のあるデータが表示されていた紙をひったくる。
「やってくれるぜ、この時間はちょうど日勤と夜勤の交代時間だぜ。一番気が抜ける時間
だぞ、きっと」
「敵の規模とかわからないか!?」
 敵、という呼称が正しいか判らないが、とりあえずウィンが聞くと、最初にコンソール
に触ったため、コンピューターの相手をさせられているパットが、慣れない手つきで情報
を呼び出す。
「えっと・・・・・・ わ、一機だって、しかもMS。拡大投影っと」
 偶然、施設を上空から強襲するところを捉えた映像があり、それを元にコンピューター
は敵機を一機と判断したらしい。
 その何とか捉えた機影を、拡大投影する。五人は顔を寄せ合うように、その映像に注目
する。
 上空から強襲降下するその機体は・・・・・・
「え?」
「マジか?」
「これって」
「ガンダム」
「だよな?」
 闇を溶かし込んだかのような漆黒のボディのガンダムタイプの、モビルスーツだった。

 少し時間を戻す。
 ここはニュータイプ第三研究所。タクラマカン砂漠のほぼ北端に設置され、開閉式ドー
ム型の、研究所というより基地を思わせるような広大な敷地と軍事設備をを揃えた、それ
でいて連邦軍でも一部の人間しかしらないという施設である。
 一応、ニュータイプ研究所という名前は持っているが、本家、第二とはまったく違った
研究をするために、その研究所は設立された。
 それは二十年前、忽然とその姿を消した『ファースト・ニュータイプ』についての研究、
そしてその『複製』である。
 その為だけに、研究の唯一のサンプルである少女を外界から完全隔離する為に造られた、
それが『ニュータイプ第三研究所』なのである。
 その研究所には、MSが八機配備されている。この規模の基地、いや研究所に配備する
には過剰とも言える数だ。
 そして、そのMSのパイロットの中に、ガロード=ランという十五歳の少年がいた。

 ガロード=ランは恋をしていた。
 いきなりこんな事を書いても誰もわからないだろうから、少し説明させていただく。
 彼が、この僻地の研究所でMSパイロットなんぞやっているのは、これでも彼がフリー
の傭兵だからだ。
 親も知らず、幼い頃から戦場を渡り歩いて育った彼は、齢十五にしてAランクの評価を
受けている傭兵なのだ。
 この研究所の特質から、連邦兵にもあまり知られたくないと考えた上層部は、MSパイ
ロットや、警備兵などをフリーの傭兵を雇うことで、その解決を図った。傭兵なら、余計
な説明をしないですむと言うことらしい。
 事実、ここを警備する警備中隊も、MS八機のパイロットも全て傭兵だ。そして、ここ
がどう言った施設かも説明を受けていない。
 二ヶ月ほど前、前に雇われていた傭兵部隊の老隊長の紹介でここのMSパイロットの職
を得たガロード=ラン。
 最初の一ヶ月は、与えられたジェガンF型での訓練や、基地内にいる荒くれ傭兵の相手
とかで過ごしていたが、そのうちに若い好奇心がムクムクと沸き上がり、勝手に基地内の
探検を始めるようになった。
 そして探検行も一週間を過ぎたとき、基地内の最も深淵部にあるところに行き着いたガ
ロードは、そこで運命の出逢いをする。
 冷凍カプセルの中で眠らされている一人の少女ティファ=アディールを、通気孔から覗いた瞬間、
彼は一目で恋に落ちてしまったのだ。
 以来、彼は傭兵の掟である雇い主への服従を、あっさり星の彼方に放り投げ、一人密か
に眠れる姫様の救出作戦を計画するようになっていた。
 だがこの研究所、何のためかは知らないが、内部セキュリティも半端じゃなく凄いのだ。
一人で人知れず、ティファを助け出すのは三日で不可能だと痛感した。
 MSで強硬手段をとも考えたが、同僚の他七人のMSパイロット相手に逃走劇を演じる
のは非常に困難だとわかったのでこれも却下。
 以来彼は悶々と考え続けている。
 眠り姫を救い出す手段を。
 彼女の騎士になるために。

 そして、今日も今日とて、ガロードは自機のコックピット調整を上の空でしながら、自
ら恋する姫様を助け出す手だてを考えていた。
 最近浮かんだ妙案としては、四人が二交代で行われる勤務態勢の間、つまり今の時間帯
に何とかして同僚のパイロット達を薬か何かで眠らせて、それからこのジェガンで少女が
隔離されている施設を強襲するという手立てだ。
 これはいけるんじゃないかと、一人ほくそ笑んでいると・・・・・・

 ドガーーーーン!!

 凄まじい爆裂音が格納庫内、いや研究所全体に轟いた。
 そして、それを追いかけるように第一級の警戒サイレンがけたたましく鳴り響く。
「ケインのおっさん、何おきたよ!!」
 コックピットで悪巧みをしていたガロードは、凄まじい爆音と振動でずり落ちてしまっ
たが、慌てて起きあがり、とりあえず近場にいた同僚の厳つい中年パイロットに大声で訊
ねる。
「知るか! でも、お仕事だ、気合い入れろよ!!」
 ケインは既に自機のコックピットに昇るワイヤーにぶら下がっていた。さすがにこうい
う時の対応は、皆一線級だ。
 とりあえず悪巧みは棚に上げて、慌ててMSのエンジンを始動させようとしたガロード
だったが・・・
『システム・ノーマル。 設定をしてください』という表示が正面コンソールパネルに出
ただけで、ウンともスンとも言わない。
 ・・・・・・・・・・・・
 どうやらさっきの衝撃で、MSの設定データがパアーになってしまったようだ。
「悪い! コックピットでトラぶった! あと五分かかる!!」
 再びコックピットから顔を出し、自分の班で一番年かさのウォーレンに大声で報告する。
「ハッハッハッ!! 無様だなチェリーボーイ!! 早く出ないと無駄飯食いになっちゃ
まうぞ!!」
 もう既に動きだしているジェガンのコックピットから体を半分だし、ウォーレンは豪快
に笑って格納庫を出ていった。
 爆発、警報から一分経たずに、すでに三機のMSが発進している。連邦正規兵には真似
できない早業だ。
「まずったなぁ・・・・・・ この機に乗じてって手もあるけど、オッサン達だけ戦わせるわけ
いかないからなぁ・・・・・・」
 このガロードという少年、擦れている割には善人みたいだ。
 スクランブルが掛かり、待機要員だったメンバーのMSも次から次へと発進していく。
 外では、相変わらず鳴り響くサイレンをと、MS同士の格闘戦が行われているらしく、
戦車が殴り合いでもしているような、重厚な金属音も響き渡っている。
「敵はいったい何機なんだよ、たく。よし、設定完了!!」
 多少手間取ったが、四分で再設定を終え、ガロードは自機ジェガンF型を発進させた。
『ジェガン隊、敵をヘリ発着場に近づけるな。繰り返す、ヘリ発着場に絶対に近づける
な!!』
 前から気に入らないと思っていた、この研究所に出向してきている軍の若い指揮官が金
切り声で叫いていた。突然の敵襲にパニックになっているようだ。
「それより、司令室! 敵の情報を教えろ! 何機で来てるんだよ、敵さんは!?」
 ガロードが通信で怒鳴っても、もとから一本に統一されていない指揮系統の脆さが出て、
なんの情報も教えてくれない。
「えーい、出ればわかるか!」
 格納庫にかけてあったガトリングライフルをひっつかみ、シールドも持たずにガロード
のジェガンは格納庫から飛び出した。
「!?」
 そして、ガロードの目に映ったものは・・・・・・
 無惨にも破壊された僚機が六機と、唯一健在だったウォーレン機。それと、死神のよう
なシルエットのMSがその光る大鎌を振り上げているところだった。
「オッサン達が五分もしないでやられちまったのかよ・・・」
 呆然として呟くガロード。そして唯一残ったウォーレン機もその大鎌の一撃で頭部から
右肩部分までを斬り飛ばされてしまった。


『・・・・・・死ぬぜぇ』


 そのガロードの耳に、敵機からと思われる通信が聞こえてきた。
 誰に向かってというわけじゃなく、その通信は研究所全体にむけて流されていた。


『俺の姿を見た者は、みんな死んじまうぜぇ・・・・・・』


 ユラユラと爆発の炎によって浮かび上がる黒い影。その機体のシルエット、そしてその
独特の頭部を見てガロードは呟く。自分の声が他人事のように空々しく聞こえた。
「ガンダムかよ、敵は」

 

 そして、ティファ=アディール誘拐部隊は、ブラックゲッター、ジェガンSC&ドダイ
改にそれぞれ分乗して、大慌てでニュータイプ第三研究所に向かっていた。
 ブラックゲッターにはパット&ミーナ、ジェガンSCにはジェス、そしてドダイ改には
ヘクトール&ウィンの組み合わせである。ウィンの乗っていたエアリーズは、足がつきか
ねないので、用心の為に使わないことにしたのだ。
『とにかく、あの黒ガンダムは俺が押さえる! お前らは、姫サンをかっさらって来
い!!』
 ジェスは既に熱血臨戦モードに入っている。やる気満々である。
『あたしとパットは?』
 自分たちの役目、突入口を造る&陽動がなくなってしまったミーナが訊いてきた。
『臨機応変! とにかく目標確保に全力だ!』
 誘拐実働部隊の為、面が割れないように特別製の黒い戦闘服を着込んだウィンが怒鳴
る。ちなみにこの戦闘服、テスラ=ライヒ研有志一同が造ったモノで、どことなく忍者服
みたいな感じになっていたりする。
『おう、もうすぐ到着だ!』
 ウィンと同じ戦闘服を着込んだヘクトールの言葉どおり、火を上げ、煙をあげるドーム
状の巨大建造物がニュータイプ第三研究所が姿を現してきた。
『みんな、気合い入れていくわよ!!』
 パットの号令に、一同、『オッーー!!』と威勢良く答える。

 夜のタクラマカン砂漠で、一人の眠り姫を巡る争いが幕を開けた。

 -第六話 Aパートへ-

 【後書き】
 ガロード登場。彼とティファは好きなので、頑張って
詰め込んだって感じです。



[16394] F REAL STORY  第六話 Aパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/03/28 20:30
【敵機確認:例のガンダムタイプです】
【ニュートロン・ビームライフル:対艦攻撃モードへ】
 ゲシュペンストのコックピット。レナンが示す様々な情報がFWに飛び交っている。
「レナン、あと標準をつけながら、エネルギーを最大に! あとで撃てなくなってもかま
わない!!」
 私の指示どうり、肉眼では視認できない距離ですでにライフルを構えているあのガンダ
ムの姿に、照準用のクロスターゲットが重なっていく。
【敵、MS、発射態勢】
「なに!!」
 出来うる限り、最速の迎撃手段を取ったはずだった。それでも、ヤツのほうが速いの
か!?
【敵、MS、ビーム発射:回避不能】
 けたたましいアラームが鳴ったと思ったら、信じられない情報がFWに映し出された。
 !?
 そして押し寄せる白い奔流。私を一瞬で蒸発した・・・

「わぁ!!!!」
 白い光を感じた途端、私は跳ね起きた。
 夢か・・・・・・
 時計を見ると、ベットに入ってからまだ二時間たっていない。体力勝負のパイロットは
睡眠を取るのも仕事だというのに。
 すごい汗をかいていた。
「シャワーでも浴びるか・・・・・・」
 一人呟いて、私は部屋備え付けのシャワールームに入っていった。寝直す気にはなれな
かた。またあの夢を見るかもしれないと思うと、再びベットに入る気にはなれない。
 汗でびっしょりのタンクトップと下着を脱いで、低重力用の強めの水流に身を委ねる。。
「 ・・・・・・なんだって言うんだ」
 先ほどの屈辱的な夢を思い出して、私はそれを追い出すかのように、頭を激しく振る。
 準備は万端、と言って良いはずなのに、私は何に不安を感じているのだ?
 そんな事を自問する。
 でも、わかっているのだ、自分が何を恐れているのかを。
 ダバ君たちと初めてあった時に遭遇したあのガンダムタイプ。私はあのパイロットを恐
れている・・・・・・
 時間が経てば経つほど、そのことが自分自身に染み渡って来ている。

 -死を恐れない-

 そう、あのパイロットはそういう戦い方をするのだ。
 人には、人間には「死への恐れ」みたいなものがある。自分の命が危険にさらされるよ
うな攻撃の仕方は普通はしない。
 だが、その自分へのリミッターが外れているような人間を相手にする時に、絶対に命の
やりとりになるような戦いになるだろう。
 ・・・・・・私は死にたくない。大好きなジェスが護ってくれたこの命、また彼に逢う事なくに
散らしたくない。
 それに・・・・・・ 私はこの【ロンド=ベル】のみんなにも誰一人死んで欲しくない。ママ
が死んでしまったあの時のような思いは、二度としたくない。
 恐れ、それにプレッシャー・・・・・・
 私の身体は知らずに震えだしていた。ギュッと自分を抱きしめる。
「・・・・・・ジェス、怖いよ」
 私の唇は、震えながら、愛しい人の名前を呼んでいた。

 シャワーを出て、わたしは身体も拭かずにしばし呆然としていた。
 自分がこんなに弱い女だと思わなかった。
 ここにこうしていると、また震えが起きそうだ。
 私はあわてて身体を簡単に拭いて、下着をつけ、ここのところ愛用していた黒の作業用
ツナギを着込んで、部屋を出た。
 あそこなら、少しは安心できるかもしれない。
 私はそんな事を漠然と考えながら、第三格納庫に向かっていく。
 ゲシュペンストのコックピット、そこはきっと私が今この宇宙の中で一番安心できる場
所だと思うからだった。
 そして、程なく第三格納庫前に通ずるドアロックの前についた時だった。   
「あれ? リンじゃないか、どうしたんだ?」
 反対側の通路から出てきたレッシィが私に声をかけてきた。彼女こそ、こんな時間にど
うしたんだ?
「いや、ちょっと眠れなくて・・・・・・」
 私は、内心の不安を悟られないように、曖昧な笑みを浮かべてそう答える。
 するとレッシィは、「ふ~ん」と意味ありげに頷いて、私が入ろうとした第三格納庫の
ドアロックを先に開ける。
「私もアムの鼾が凄くて眠れなかったんだ、よかったらちょっと付きあいなよ」
 そう言われると、私も気が楽になり、何となくレッシィの後に付いていく。
 ついこの前までゲシュペンスト専用だったこの第三格納庫も、今はダバ君たちペンタゴ
ナ解放軍のヘビーメタル三機と、ホバー式のキャリアーみたいのが一台、他必要物資諸々
などが置かれ、かなり雑然としてしまっている。
 レッシィは、キャリアーみたいのに入っていくと、手に二つの見たことない小瓶を持っ
て戻ってきた。
「上、いこう」
 そう言うと、私の答えも聞かず、さっさと床を蹴って天井の方に跳んでいってしまった。
私もそれにならって、レッシィの後を漂っていった。
 第三格納庫の天井のそばには無数のキャットウォークが備え付けられていて、その一つ
の端まで歩いていくと、そこには外を覗ける小さな展望スペースがあるのだ。と言っても
私とレッシィが並んだだけで一杯になってしまうくらいの小さなスペースでしかない。
「あ・・・・・・」
 地球が、もう窓の半分以上を占めるくらい、大きくなっていた。とても、とても美しい。
 また、あそこに降りるんだ。
 そう考えた時、さっき見た悪夢がいきなり蘇って来た。震えそうになる身体を、必死に
押さえる私。
 あの星に降りるには、あのガンダムと戦って、勝たねばならないのだ。でも・・・・・・
「私さ、こう見えても怖いんだよね・・・・・・」
 ふいにレッシィがそんな事を言いだした。ビックリして、レッシィを見ると、彼女は、
とても優しい微笑みを浮かべている。
「ここは私の知っている世界じゃない。本当の意味での味方はダバたちしかいない」
 そんなことない! と言おうとした私の言葉はレッシィの瞳で遮られた。彼女は続ける。
「無論、リンたちの事を疑ってるわけじゃないんだ。でもね、組織って言うのは大きけれ
ば大きいほど、どこにどんな危険があるか、わからないんだ。私にはそれがイヤってほど
わかっているんだ」
 そう言えばレッシィは、ペンタゴナでは軍の高官だったんだっけ。でも、彼女、なんで
私にこんな話をしてくれるんだろうか?
「私はダバみたいにお人好しじゃないから、色々と考えてしまってね。怖くて眠れなくな
る時があるんだよ。そんな時、ここに来てこれを飲んでいたんだ」
 そこで悪戯っぽくレッシィは笑って、小瓶の一つを私に放る。
「何だこれ?」
「まぁ、飲んでみな。毒じゃないよ」
 私がそれを受け取ると、レッシィはこうやるんだよと、ポキンと蓋のようなモノを折っ
て、それに口を付けて一気に飲み込んだ。
 私もそれにならってみると・・・・・・
 あ、美味しい。と思ったのは一瞬だった。その後、胸全体がカァーっと熱くなる。
 思わずむせてしまい涙目になる私。
「これって、酒か?」
「あぁ、飲み口はいいだろ。それに後に残らないんだよ」
 私は一応待機中の身だと言うのに、飲酒してしまったようだ。でも、凄いカァー
となった後、頭がポォーとなってきて凄く気持ちいいんだけど・・・・・・
「あのね、私も、怖かったんだ・・・・・・」
 いつの間にか我知らず、私の口はレッシィに語り始めていた。
「自分が死ぬんじゃないか、とか、仲間を護る事が出来るのだろうか、とか、色々考えて
いるうちに、とても怖くなって」
 言ってるうちに、不思議と気持ちが少しずつ軽くなってきていた。 
「私、あの星の上にとても大好きな人がいるんだ。その人にまた逢えないで死んでしまう
かと思うと、それが一番怖いんだ。可笑しいかな?」
 レッシィは優しい目で私を見ていた。思わず彼女の肩に頭を乗っけて甘えてしまう。
「リンの好きな男って、どんな人なの?」
「とっても強い人。それに優しくて、明るいんだ。それにね・・・・・・」
 もっと言いたいことがあるんだけど、想いが言葉にならない。頭があの異星のお酒のせ
いでかなりボーっとしてきているからかな?
「レッシィは、ダバ君が好きなのか、やっぱり?」
「馬鹿正直すぎるけどね」
 そう言うレッシィの笑顔は、とても輝いていた。
 そして地球を見ながら、レッシィに寄っかかっていたら、私はいつの間にか眠ってしま
ったらしい。
 気がついたら、自室のベットでレッシィに抱きついて二人でぐっすりと寝ていた。レッ
シィが眠りこけてしまった私を運んでくれたらしいのだが、その後彼女も眠くなってしま
ってそのまま二人でベットで寝てしまったようだ。
 二人、目を覚ますとお互い気恥ずかしくなって、笑ってしまった。でも、かなり熟睡出
来たので、疲れはとれていた。これなら、ベストの状態で戦いの場に臨めそうだ。
 私には、とても素敵な異星の友人が出来たみたいだ。

 突入予定時刻まで後三時間、既に大気圏突入の準備は全て終わり、後は突入予定地点に
トロイホースを持っていくだけとなった。
私を含めて出撃予定メンバーはブリッジでブリィーフィングを行うことになっているの
で、今ブリッジには結構な人数が集まっている。でも、ペガサス級のブリッジは無駄に広
いので二十人以上の人間が集まっていても、まだスペースに余裕があるんだよな。
 そして、それに先だって、いま四機のMSが発進するのをみんなで見送る形になってい
た。
「ビーチャ、エル、クリス、バーニィ、準備はいい?」
 通信士をかって出てくれたニナさんが、発進準備をしているメンバーに呼びかける。
『エル=ビアンノ、ネモ、準備オッケィ!』
『ビーチャ=オーレグ、変なMS、いつでもいいぜ!』
 思わず吹き出してしまう。ビーチャが今乗っているのは、彼がシャングリラで乗ってい
た頭部を壊されたザクⅡに、でっち上げで造ったレーダーシステムを乗っけた、アイザッ
クもどきだからだ。確かに『変なMS』だな。
「よし、まず二人を発進させろ」
 艦長席に座っているブライト艦長の号令で、右側の第一格納庫から、エルのネモとビー
チャのアイザックもどきが発進していった。
 右舷側に進路を取る両機。
『バーナード=ワイズマン、ザク改ウィズ・レーダーパラソル、発進準備完了です』
「クリスチーナ=マッケンジー、アレックス、いつでもいけます』
 そして、自慢のザク改の頭部に、これまたでっち上げたレーダーパラソルを乗っけたザ
ク改と、クリスさんのアレックスが、左側の第二格納庫から順次発進していった。そして
こちらは左舷に向かっていく。
「グレース、感度はどうだ?」
『はい、お~~るおっけぃですよぉ♪』
 ブライト艦長の問いかけに、サブブリッジにいるグレースが相も変わらずの調子で答え
てきた。はぁ、あいつはホントに大物だ。
 そしてサブブリッジでイーノを従えてグレースがせっせとやっているのは、二機の改造
ザクから送られてくるデータの解析だ。
 四機のMSが二手に分かれ広がっていくと、今までトロイホースのレーダーで捉えられな
かった範囲が、どんどん鮮明になり解析されていく。
「これで、いきなり狙撃されるって事態は回避できそうですね」
 コウ先輩が、ブリッジの上面パネルに映し出されたレーダーレンジを見て、そう漏らし
た。
 あのガンダムタイプのMSとの戦い不可欠な、早期発見率を少しでも上げるため、ブラ
イト艦長とアムロ少佐がとった策がこれだ。
 艦外に、大型レーダーを設置する。
 でも、色々と問題もあった。最初は無人の偵察機を造って(このへんが物資不足が慢性
化しているロンド=ベルならではの発想だ)艦外に射出しようと言う案だったのだが、確
実性を重視することになって結局、今行われたような手段をとることになったのだ。
 ちなみに二機一組になったのは、護衛、というより万が一大気圏突入前にトロイホース
に帰還出来なくなった時の保険のような役割が強い。その為に、改造ザクには装着されて
いないけど、クリスさんのアレックスと、エルのネモには大気圏突入用のバリュートシス
テムが装着されていた。
 万が一の時は、改造ザクを捨てて、二人一組で地球に降下する手はずになっているが、
バーニィさんが愚図らなきゃいいけど。
 ちなみに私はこの作戦に反対した。あのガンダムがもし偵察隊に狙いをつけたら、まず
撃破は免れないからだ。危険きわまりないと思ったからだ。
 やるなら私のゲシュペンストと、ゲッターチームでやるべきだと思ったのだが、その案
はアムロ少佐にやんわりと却下されてしまった。
 アムロ少佐曰く、こうだった。
「あの敵ガンダムは、最小限の行動で、最大の成果を狙うはずだよ。もし、レーダー隊を
見つけても、無視してこの船に突っ込んでくるさ」
「ニュータイプの勘、ですか?」
 私のその言葉には多少棘があったかもしれない。でも少佐は少し苦笑して、
「いや、戦場を駆けめぐった軍人としての予想、だよ。こういう時はこっちの方が当てに
なるんだ」
 と言った。何だか私は自分の未熟さをまた露呈したみたいで、気恥ずかしくなってしまう。
 まぁ、そんなこんなで、今から最終ブリーフィングだ。
 出撃メンバーも、当初の予定から少し変わっていた。
 第一陣がゲッターチーム、私、アムロ少佐、エマ大尉。このメンバーは、あのガンダム
の迎撃を想定した組み合わせになっている。
 第二陣はジュドー、コウ先輩、ダバ君、レッシィ、状況に応じてアムとキース先輩がそ
れに加わることになっていた。これは、不足の事態に備えるための布陣だ。ファやモンド、
それにキャオは今回は艦内の仕事に回るらしい。
 でも、なるべくなら第二陣が出るような事態は、回避したいものだ。
 もちろん、このまま何事も無く地球に戻れれば一番いいんだけど。
 そして、ブリーフィングを始めると、アムロ少佐が号令を掛けた時だった。
『大変ですぅ~~!』
 グレースなりの緊張した声がブリッジ中に響き渡った。レーダー解析班が何か見つけた
のか?
「どうした、グレース! 状況を報告しろ!!」
 ブライト艦長の声が飛ぶ。ブリッジに緊張が走った。
『ビーチャ側の方に、巡洋艦クラスの戦闘艦が三隻、確認されました!』
 この声はイーノだな。グレースより緊迫感があって、こっちにも緊張感を与えてくる、
いい声だ。
『確認、ジオンDCの巡洋艦、エンドラ、それにムサイ改級二隻です! こちらに向かっていま
す!!』
 敵襲か!?
 まずいな、巡洋艦クラス三隻ということは最低でもMSが九機出てくるってことじゃないか。
 あのガンダムだけでも頭が痛いと言うのに、最悪のタイミングだぞ。
「ブライト!」
 アムロ少佐の呼びかけに、ブライト艦長は頷き、艦長席から腰を上げ矢継ぎ早に指示を
出し始めた。
「第一級戦闘態勢! ビーチャには後退指示を出せ! クリスには警戒を怠るなと伝え
ろ! 全機発進準備!」
「「「「「はい!!」」」」」
 ブリッジにいたパイロット達は、一斉にブリッジを飛び出す。私ももちろん駆けだして
いた。先輩達に遅れをとってはいられないもの。
 初めて目の当たりにした戦闘は、私が地球から上がる為の戦闘だった。今度は、私が地
球へ降りるための戦闘だ。
 気合いをいれていくぞ!

 -第六話 Bパートへ-

【後書き】
 と言う名の宣伝。自分のブログに載せている第三次αのSS
【α=アフター】のその9、更新しました。【川口代官所・跡地】
というブログです。よろしかったら、どうぞ♪



[16394] F REAL STORY  第六話 Bパート
Name: まくがいば~◆6e47378d ID:361a872e
Date: 2010/04/02 22:08
『敵MS発進を確認!! 数は十二、機種確認中!』
 イーノの声が、ゲシュペンストのコックピットに入り込んだ私に飛び込んできた。後で
聞いたのだが、この時、偵察に出ていたビーチャは、自分の乗っていた改造ザクを機動状
態のまま放棄して、その場を撤退したのだそうだ。
 おかげでいち早く、我々はロンド=ベルは敵側の情報を次々と得ることが出来た、細かい
事によく気が付くヤツだ。
 敵さんも、こんなに早く気づかれるとは思っていないだろう。上手くいけば、早期決戦
に持ち込めるかもしれない。
『敵機照合、ガルスJ一機、ズサ五機、ガザC六機です! 後方四時方向から接近中!』
 イーノの声をレナンがデータ化して、図として私に示してくれている。
『接触まで、あと十分!』
『よし、第二班、順次発進しろ! 第一斑は発進後、トロイホースを護りながら、あのガ
ンダムに備えるんだ、いいな!』
 ブライト艦長の指示が飛んできた。
『短期決戦で行くぞ! 地球の引力に気をつけろ!』
 やっぱり、ブライト艦長は名将だ。こういう不測の事態に置いてもまるで動じずに次々
に指示を飛ばしていく。
「こちら、リン。発進準備完了した! ダバ君、レッシィ、アム、そっちはどうだ!?」
 外部スピーカーを開いて、ペンタゴナ組に呼びかけると、あちらも既にスタンバイOK
だった。さすがに早い。
『リンさん、こちらも準備完了です!』
 ダバ君の通信が入る。隣りには特製の宇宙服に身を包んだリリスもちょこんと乗ってい
る。ダバ君が言っていたのだが、彼女、とても役に立つそうだ。
「先に発進してくれ! 君たちにはバリュートが装備されてないんだから、くれぐれも無
理をするなよ!」
 実はこれが私の最大の不安要素だったりする。
 ペンタゴナ組のヘビーメタルには、規格が合わなくて大気圏突入用のバリュートを装備
して上げられなかったのだ。
 ヘビーメタルはMSより耐熱性があるのだが、それでも単機での突入は無理らしい。無
茶はして欲しくない。
『了解、リンさんも気をつけてください!』
『リン、やられるんじゃないわよ!?』
『ちゃんとお船を護ってよね!』
 ダバ君、レッシィ、アムの順番でそう言うと、ダバ君のエルガイム、レッシィとアムの
ディザードの順で発進していった。
 次は私の番だと、開いたハッチの先に視線を向けたら・・・
 地球が、ビックリするほどそばに見えた。
 ここが戦場なのか・・・・・・
 怖い、美しい、青い、明るい・・・・・・ 様々な感情が不意に乱れ居るのを頭を振って押し
出した。
「リン=マオ、ゲシュペンスト、出ます!!」
『了解、気をつけるのよ、リン』
 ニナさんのお言葉を受けて、私は発進した。
 視界の半分以上を青い星が占める戦場へ。

 と、勢い込んで発進してみたものの、私は今のところやることがない。
 私とゲッター2に変形しているゲッターチーム、それにフライングアーマーを持ったアム
ロ少佐搭乗のガンダムMkⅡ、それとリックディアスに搭乗したエマさんはトロイホース
のすぐ近くで、DC軍を迎え撃ちにいく仲間を見送っていた。
 やる事がないと、何となく不安になるもので、キョロキョロしてしまう。
『敵の情報が入って来たわ。ハマーン直属、マシュマー=セロの部隊だそうよ』
 ニナさんが、最新情報を送って来てくれた。今、ブリッジでは『私は、マシュマー=セ
ロ、ハマーン様に云々・・・』と言う正々堂々と名乗りを上げてる最中らしい。後でニナ
さんが見せてくれるそうだ、大爆笑間違いなしだと言っていた。
 しかし、DCって異星人を迎撃するという名目で創設されているらしいのに、何で私た
ちに突っかかってくるのだろうか?
【戦闘が開始されました。モニターしますか?】
 レナンがそうFWで表示してきた。すると、先ほど仲間が向かった方向から、数条の光
が交錯し始めた。
 こちらが、ジュドー、コウ先輩、キース先輩、ダバ君、レッシィ、アム、にエルの乗る
ネモが加わって計七機で、向こうが十二機か。
 数の不利はいつもの事だけど、クリスさんとバーニィさんを加えられば、五分以上の勝
負は確実だろう。でも、やはり待つだけなのはキツイ。
 あのガンダムの存在さえなかったら、と思うと、歯痒くなる。
「レナン、警戒に支障を来さない程度に、みんなの事を教えてくれ」
【了解:モニター開始】
 すると、私の視界の邪魔にならないよう左側にFWが開き、簡単な光点で戦局の実況を
初めてくれた。
 こういうファジーな性能が、レナンの一番の優秀さだと私はつくづく思う。
「グレース、そっちは変わりないか?」
『イーノ君がぁ、他の仕事に取られて大変ですけどぉ、あのガンダムさんは見つかってま
せん~~』
 レーダー担当のグレースは、相変わらずの口調で答えてくれる。
 ふぅ~、やはり待つだけというのは、私は苦手だ
 他の人達は、今、どんな思いで、この地球のすぐ真上にいるのだろうか?
 ふと、青い星に視線を落とす。調度、足元だ。
 上がるときも大変だったけど、降りる時も大変とは・・・・・・ 思わず苦笑がもれてしま
う。
 そう言えば、不思議な感じだ。私は、ロンド=ベルに配属されてから、考え方が地球中
心じゃ無くなっていた。今も『地球に帰る』じゃなくて、『地球に降りる』と考えている
し。
 私が宇宙に暮らしたいって言ったら、ジェスは賛成してくれるだろうか?
 そんな事考えながら、地球を眺めていた時だった。

 !!!!!!

 背筋を駆け抜けるような、凄まじい戦慄が私を貫いた!!
 ま、まさか!?
「グレース!、私たちの足元、地球方面を探査しろ!! 敵は、奴は、私たちを待ち伏せ
していたんだ!!」
 レナンの精密射撃モードを立ち上げながら、私は怒鳴るように通信を送った。
『え、え、えぇ~~!? リンちゃんいきなり過ぎますよぉ~』
 グレースはそう言いながらも、私の言ったことを実行してくれているだろう。私は地球
方面に銃口を向けながら、ライフルのエネルギーを急速チャージしていく。
 何故と訊かれたらわからない。でも、私には確信があったのだ。
 【敵は、下にいる】と。
『どうした、おい!?』
『リン、何があった!?』
 隼人さんと、ブライト艦長がそう訊いて来たが、答えている暇はない。
 レナンに色々な探査を命じてみるが、このクラスの機動兵器では連邦最高レベルの探査
性能を誇るこのゲシュペンストのシステムでも、ミノフスキー粒子と巨大電波、電磁波の
渦巻く地球の至近にあっては、MS単位の物体を探知するのは難しいか!?
『リンちゃんリンちゃんリンちゃん!! 大変ですですぅ!! 下下真下ぁ~~!!』
 グレースが悲鳴みたいな通信を送ってきた。やっぱり、ビンゴみたいだ!
 悲鳴を上げながらも、グレースはしっかり自分の仕事をこなしてくれたらしい。トロイ
ホースから送られて来たデータで敵の、あのガンダムの大まかな位置は特定できた!!
 しかし・・・・・・
 なんて恐ろしい奴なんだ、あのガンダムのパイロットは!! 私たちは完全に裏をかか
れた!
 誰が考える? 大気圏突入すれすれの軌道の上で、何時間も、下手したら何日も前から
敵を待ち伏せるなんて?
「少佐! エマさん、ゲッターチーム! 敵確認! 真下です、奴も発射態勢に入ってま
す!!」
 精密射撃用のスコープの覗きながら、私は僚機に敵の推定位置を通信する。
 みんなの驚く気配が通信越しに感じられた。
『リン! あのガンダムのビームライフルはあとどのくらいで火を噴く!?』
 アムロ少佐からの通信、そして少佐はフライングアーマーを前面に出し、背中のバーニア
全開にして、地球へ向かって急降下していった。
「もうすぐです! でも、私がヤツのビーム、何とかしてみせます!!」
 スコープの倍率最大で、ようやく捉えた敵のガンダムの姿を睨みながら、私はそう宣言
した。出遅れてしまったのは仕方ない。こうなったら絶対に、あのビームライフルから放
たれる光条を食い止めなくてはいけない!
 私はレナンにビームライフルの銃口の向いてる正面に機体を持っていくように命令す
る。狙いは敵の銃口。ビームを真正面から受け止める気で。
 竜馬さんは、最初のあのガンダムとの戦闘で、ゲッタービームであのガンダムのビーム
を撃ち落としたんだ! 私にだって出来ないはずはない!!
『いや、リンは敵の機体を狙え! 一発目は僕が何とかしてみせる!!』
 アムロ少佐はそう言いながら、殆ど自殺行為と言っていいスピードで、地球に向かって
急降下して行く。何をする気なんだ?
『リン、少佐の言う通りにするのよ! 私たちを信じなさい!』
 そして、それを追うように、エマさんのリックディアスが急加速で後を追っていった。
 二人が何をする気か分からない、でも!
「レナン! 目標変更、敵本体! 微調整しろ!!」
 信じよう、あの二人は私なんか全然及ばないほどの修羅場をくぐっているはずだ。何と
かするって言ったのだから、それを信じてこその【仲間】なはずだ。
 敵のガンダムがエネルギー臨界になった。光の奔流が今まさに放たれようとしていた!
 だが、その時、
『ドリルストーーーーム!!!』
 通信越しに凄い気迫の叫びがした。隼人さんだ。
 私はスコープ越しに見えたモノに我が目を疑った。
 いつの間にかゲッター2が、あのガンダムより更に下に移動していたのだ!
 そして、僅かながらに存在する大気、ジェットストリームをかき集めて、風の奔流をガ
ンダムに叩きつけたようだ。
 さすがゲッターチーム、やることが更に常識外れだ!
 ガンダムは明らかにバランスを崩し、発射のタイミングが僅かに遅れた。
 それに続いて、
『うおぉぉぉぉぉ!!』
 始めて聞くアムロさんの裂帛の気合い。そしてそのままマークⅡが乗っていたフライング
アーマーをガンダムに叩きつけた!
 敵ガンダムは、これまた更に常識外れの体当たりで、何とか持っていた軌道上でのバラ
ンスを完璧に崩したようだ。
 って、アムロさん!? そんな場所でフライングアーマーをぶち壊して、貴方はどうするん
です!?
 だが、そんなの一瞬の杞憂だった。だからエマさんは後を追っていたんだ。
 すぐ横をバリュートを展開したリックディアスが、降下していく。その陰に入るように
少佐のマークⅡが重なった。ゲッター2もそれぞれゲットマシンに分離して降下に入った
ようだ。上手い具合に2機のMSのフォローに回っているのはホントに流石だ。
 皆さんは、このままだとメキシコ湾の辺りに降下することになるみたいだけど、それくら
いの誤差は、何とでも出来るだろう。
『リン、後はお前の仕事だ!』
『先に降りてるぜぃ!』
 隼人さんと弁慶さんの通信が入った時には、もう皆さんは地球への降下に入っていた。
しばらく通信できないけど、今は!
 このチャンスを絶対に活かす!
 スコープには完全にバランスを崩したガンダムが写っている。凄いことに彼はまだ攻撃
を諦めていない。凄まじい技量を持ってバランスを立て直してかけていたのだが・・・・・・
「もらったぁ!!」
 容赦なんかしてられない! 私は何の躊躇いもなく、トリガーを引いた。放たれたのは、
戦艦でも破壊できる威力の光の矢だ。
 だが、このガンダムのパイロット、やる事が本当に桁外れだった。
「なにぃ!?」
 私は我が目を疑った。
 あのガンダムは、あの状態で何とビームライフルを放ったのだった。私の放った光条に
向かって!
 敵ガンダムの直前で、二条の光弾が衝突した! 互いの威力を殺し合い、その場に白い
閃光を咲かせる。
 咄嗟に間に合った遮光スクリーン越しに、私はあのガンダムが自機をシールドで庇いな
がら、大気圏に突入していく姿を確認していた。
 あの体勢から、あんなアクロバットが出来るなんて・・・・・・
 私は感動すら覚えていた、あのガンダムのパイロットの凄まじい技量に。
 でも、とりあえず危機は去ったみたいだ。あのガンダム、無事に地球に降りられるかど
うかなんて分からないけど、あの角度に落ちていけば、私たちの降下予想地点とは全然違
う方向に降りていっただろうし・・・・・・
 敵機発見から一分も経っていなかったのに、凄い攻防だったな。汗をビッショリかいて
いるみたいだ。
 一呼吸ついて、トロイホースに通信を繋ぐ。私以外の迎撃組は、地球に先に降下してし
まったけど、まだ戦闘は別の場所でも続いているのだから、支援に行かなくては。    
 ジオンDCとの戦闘は、一進一退のようだ。
 キース先輩のガンキャノンとエルのネモが小破して早々にトロイホースに帰還してい
た。でも、こちらもDCのMSを5機撃墜しているので、今の戦力差は5対7か。
 ジュドーはでっち上げの機体を上手く扱っているようだ。一人で巡洋艦2隻を相手に奮
戦している。
 敵エースのマシュマーの相手は、レッシィのディザードがやっていた。その隙に、コウ
先輩やダバ君が確実に他のMSを仕留めていっていて、数の差を埋めているみたいだ。
 早く加勢に行こう。ペンタゴナ組にはそろそろ船に帰還してもらわないといけないし。
「リン=マオ、DCとの戦闘に加勢しに行きます!」
『了解、頑張ってね、クリスもそちらに向かってるから』
 ニナさんの声に励まされ、いざ行かんとスロットルを吹かそうとした時、ブライト艦長
からも通信が入った。
『リン、トロイホースはペンタゴナ組とバーニィを回収次第、即時大気圏突入に入る!
あと五分ほど戦線を支えたら、お前も独自に大気圏突入に入れ。下で回収する!』
 随分急な話だけど、予定変更もやむないか。先に降りた人達をちゃんと回収しなきゃい
けないしね。
「了解しました、回収お願いします!」
 スロットルを吹かす直前、トロイホースに帰還するバーニィさんの姿が入った。独自の
大気圏突入か。 シミュレーション通りに上手く出来るか多少の不安はある。でも、
私の力量を信じてブライト艦長はそういう命令を出したんだから、それに応えるべく全力
を尽くそう!
 そうして私は、新たな戦場へ赴いていった。

 -第六話 Cパートへ-

 【後書き】
 この辺りは、ヒイロを出さずにヒイロっぽくするのに苦労
した気がします。しかし、標準→照準の誤字はけっこうショックですね。
【ひ】と【し】を間違えて打つって、自分の脳は中部弁が入って
るんですかね? ボチボチ直したいと思います。



[16394] F REAL STORY  第六話 Cパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/02 22:12
 火線飛び交う中、トロイホースに帰還するアムと入れ替わるような感じで、私はジオンDC
との戦場に到着した。
 私の接近を察知したガザCがナックルバスターの銃口をこちらに向けてきた。。
 今、残っているDC側の戦力は、巡洋艦三隻とMS六機。一番の難敵、マシュマー=セ
ロは健在だ。早くレッシィから剥がさないと。
 私は、急加速でガザC二機のビームをかわすと、うち二機に狙いをろくに付けずにラ
イフルを発射する。
 ただの牽制弾だったのだが、バランスを崩したところをコウ先輩がもの凄いスピードで
斬り込んで、頭を破壊した。お見事!
『リン、ご苦労さん!』
 激しい戦闘で、息を弾ませたコウ先輩から通信が入ってきた、返す刀でもう二機のガザC
とビームサーベルでの斬り合いを始めながらだ。
『悪いけど、マシュマーをレッシィから引き剥がしてくれ! 彼女もそろそろ戻らないと
やばい! 俺は、この後、ジュドーのフォローに行く! うぉぉぉぉぉぉーー!!』
 最後の雄叫びは、斬り合っているガザC宛だ、コウ先輩、気合いが凄いな。
『ジュドーのフォローは私がやるわ! コウは目の前に敵に集中しなさい!』
 すると割り込みで通信が入った。アレックスを駆るクリスさんもこの戦場に到着したみ
たいだ。
『ありがたい、頼みます!』
「私は、レッシィとダバ君のフォローに行きます!」
 ここは、二人の優秀な先輩に任せておけば大丈夫だろう。私はレッシィの元に急いだ。
 妙な胸騒ぎがした。
 思わずレバーを握る手に力がこもる。
 大丈夫だよね、二人とも。
 私は自分にそう言い聞かせるように、ゲシュペンストを駆った。

 レッシィとマシュマーの戦っていたのは、本当に重力に引きずられるギリギリのライン
だった、マシュマーのガルスJも大気圏投入装備していないのに、この場で自分から引く
気はないみたいだ。
 さすが騎士と名乗ってるだけあるけど、だったら女性にも優しくしろと言いたくなる。
 しかし・・・・・・
 マシュマーと言う男、さすがジオンDCのエースパイロットと言われているだけはある。レッ
シィと斬り合いながら、二人の距離を離そうとパワーランチャーを放つエルガイムの攻撃
をことごとくかわしているのだ。
「ダバ君、キミは戻れ! 後は私が何とかする!」
 そろそろダバ君も戻らないとマズイ。だが、その時だった・・・・・・
 私が来たことで、わずかに気でも緩んだのか、レッシィのディザードがマシュマーのガ
ルスJの剣撃を受けてバランスを崩してしまった!

 ・・・・・・・・・・・・

 見る間に、地球に引き込まれていく赤い機体。さすがにビームの威力はシールドで庇っ
たみたいだが、衝撃は殺せなかったみたいだ。
 その光景を呆然と見ていた私・・・・・・ 
 何かが私の中で弾けた。
「わぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
 私は絶叫と共に、ゲシュペンストをフル加速させた。
 助ける、助けてみせる!!
『リンさん、レッシィを!』                
 ダバ君から通信が入ったが、私はそれに応えることさえ出来なかった。目に映るのはた
だ一つ、地球に引き寄せられていく赤い機体のみだった。
 だが、そんな私の前に、あのガルスJが前を塞ぐように立ちはだかった。
 目の前が真っ赤になるくらい、頭に血が上った。
「邪魔するなぁ~~~~!!!!」
 そう、私の邪魔をするな!!
 私はゲシュペンストで前を塞ぐその機体を有りっ丈の憎悪を込めて殴りつける!
 右腕がぶっ壊れた、でもそんなのどうでもいい!!
 ガルスJの頭を破壊できたらしいが、それも関係ない!!
 早く、速く、追いつかないと!!
 レナンがFWで様々な警告を出してきたが、それも目に入らなかった。私の思いはただ
一つ、異星の大事な親友を助けることだけだ。
 危険高度突破、もうPTやMSでは地球の引力に抗えない高度を越えた。赤い機体は徐
々に大きくなっていた。
 あと800・・・500・・・300・・・150・・・100・・・50・・・30・・・10・・・0!!
 もう世界は空気との摩擦によって、赤く染まっていた。もう警告ブザーがうるさいほど
鳴っていた。でも、でも・・・・・・
 レッシィの乗る赤い機体を左腕に掴んだ時、私は涙が出そうな程、安堵していた。
 よかった、追いついた、追いついたよ。
 そこでハッと我に返る私。問題はこれからなんだよな・・・・・・
「レッシィ、レッシィ!! 大丈夫か!?」
 接触回線で彼女に呼びかけながら、私は現在のゲシュペンストの状況をレナンに報告さ
せる。次々と浮かぶFW。なかなかハードな現状を教えてくれる。
 ゲシュペンストは、無茶な加速とガルスJへの右ストレートの影響で、機体の各所に色
々なダメージを負っていた。
 無事に地球に降り立っても、整備できっと3日は徹夜だ。でも、死ぬより断然いい!
『うわぁ! 何が起きてるんだ!?』
 どうやら気を失っていたらしいレッシィが、いきなりの状況の変化にビックリしていた。
私はというと、ゲシュペンストを何とか動かして、背中を突入角に向けて、レッシィのデ
ィザードを庇うように前面に抱きかかえている。
 あとはバリュートを開くタイミングなんだけど、このまま開いたら、あっさり破れて私
たち二人は塵と消えてしまうとレナンはそう忠告してくれている。 
「レッシィ、大丈夫か?」
『リン!? もしかして私、ドジって落ちちゃったのか?』
「今、落ちてる最中なんだよ。でも、このままじゃ二人で心中になるだけなんだ。だから・・・・・・」
 私は、今の状況で二人とも助かる方法を、レナンに計算させていた。うん、可能性は
とても低いけど、ゼロではない。
「これから、生き残る努力に入る。協力してよ!」
『わかった、私は何をすればいい!?』
 さすがだな、レッシィは。こんな時に「すまない」とか場違いな詫びはしてこない。今
は二人で協力するのが先決なのだから。
 詫びや礼なら下についてから、何遍でもしてもらえるし。
 FWに出たレナンのプランで一番確率が高いのでも三割強の成功率。これに決めて、実行
準備を命じる。あ、今気づいた、この突入角だとテスラ=ライヒ研のけっこう傍に降りるな。
「レッシィ、脚を外せるか!?」
 二機の機体の軽量化、まずはこれからだ。現状で、不幸中の幸いだったのは、ゲシュペンスト
の左腕だけが完調なことだ。これで左腕壊してたら、ホントに二人で心中になるところだった。
『よし、外した!』
 そうレッシィが言うや、脚が腰部から左、右の順に外れていった。次は私だ。
「レナン! こっちも脚を外せ!」
【了解】
 私の命令は即座に実行され、ゲシュペンストの脚も軽い反動と共に外されていった。
「次、羽!」
【了解】
 次は背後の、すでに溶け始めていたスラスターウィングを排除する。
「よし、バリュート開け!」
【了解】
 そしてゲシュペンスト専用の大型バリュートを開く! 背中にゴツンゴツンといった感
じの反動が来たかと思ったら、大きな耐熱物質で覆われたバリュートの花が私たちの機体
を包んだ。
 機体温度の上昇が止まった。
『リン、これで何とかなるのか?』
 とりあえず収まった警告ブザーの合唱だが、安心はしてられない。レナンの計算では無
茶な突入の為、確実に途中でバリュートが破れてしまうらしい。
「このままじゃ、まだ駄目だ。レッシィ、ゲシュペンストにしがみついてくれ」
 そして私は、これだけはマニュアル読んだときから使いたくなかったシステムを、私は呼び出す。
『わかった、リン、後は任せた、頑張って』
 レッシィのディザードが腕を肩部に回して、固定した。私はFWに出されたある文字に
不安を覚えながらも、そのシステムを起動した。
【ビーム・バリュート 起動準備】
 そう、ビーム・バリュート。ビームシールドで大気圏突入が可能と知ったテスラ=ライ
ヒ研のゲシュペンスト開発スタッフが、酔狂と勢いで開発、装備してしまったモノだ。
 用途は、【バリュート装備が出来ないで、大気圏に突入してしまった時の緊急避難用】
と出ていたが、まさか使う羽目になるとは・・・・・・
 これって、まだテストもしてないんだけど、こんなモノに命を預けなきゃいけないとい
うのは、凄い複雑な心境だ。でも、決断しないと地球とペンタゴナの美女二人が散ってし
まう。
 このビーム・バリュートが装備されているのが、左腕のフレーム内なのだ。あの時、左腕
で殴らないでよかった、本当。
 これを作動させたら、ゲシュペンストは手足のないダルマさんになってしまうけど、後
でしっかり修理してあげるから。
「ビーム・バリュート用意!」
【了解】
 私の掛け声を待っていたかのように、左腕の肘からちょっと下が強制パージされた。残
ったのは黒い棒状のパーツ。
 頼むから上手く開いてくれくれよぉ~~~。
 私は祈るような思いで、この試作品を開くタイミングを計っていた。レナンがFWにあ
とバリュートが何秒持つかと表示してくれている。
 安全圏まであと五十秒、バリュート崩壊まであと二十五秒、普段なら一瞬にしか
感じない時間が凄く長く思えてしまう。
 外のスクリーンを見ていると、大気が濃くなっていく気がする。
 大事なのは切り替えのタイミングだ、上手く動いてくれよ、私のゲシュペンスト!
【バリュート崩壊まで後、10・9・8】
 ミシミシと背中に装備したバリュートパックが壊れていく音が聞こえる。
【7・6・5】
 バスン、バスンと間抜けな音を立てて、バリュートが破れていく。
【4・3・2】
 左腕のアームレイカーに掛かった手に力がこもる。掌は、いや全身汗ビッショリだ。
【1】
「ゼロ!!」
 もう襤褸きれ状態のバリュートを強制排除!
 同時に左腕を突入角に向ける、ビーム・バリュート展開!!
 カシャンカシャンとまるで折り畳みの傘が開くような感じで、そのパーツは姿を現した。
 なんか、これじゃ、まるで傘だな。
 布を張る膜の部分がビームになっている。効果は・・・ 何とかなっているみたいだ。
 ふぅ・・・と溜め息をついて安堵した私だったが、世の中そんなに甘くなかった。
【警告!!】
 凄い音のブザーと共に、レナンがFWに表示したのは、思わず開発スタッフをぶん殴り
たくなる内容だった。
【ジェネレーターが持ちません。 ビーム展開可能時間残り15秒!】
 ば、馬鹿野郎!! そんな大出力使うモンで大気圏突入させる気だったのかぁ!
「レナン! 出力のセーブとか出来ないのか!?」
【変更不可能です】
 そしてFWには死刑宣告にしか見えないカウントダウンが始まっている。
「リン、どうなってるんだ?」
 さすがに私の悲鳴に不安になったのか、レッシィが訊いてきたが、私は乾いた笑いを浮
かべることしかできない。
「こうなったら、背中のバーニアで減速をかけて・・・」
 バーニアを吹かそうとしたら、今度は【推進剤残量ゼロ】と出た。無茶な加速で殆ど使
い切ったみたいだ。
 万事休す、なのか・・・・・・
 諦めが私を支配しかけた時だった。
『リン、その傘みたいなの外せ!』
 突然の通信が入った。え、この声ってもしかして・・・・・・
「甲児さん!? 甲児さんですか!?」
 間違いない、一ヶ前程前までよく聞いた、マジンガーZのパイロット、兜 甲児さ
んの声だ。
『早くしろ!そっちまずいんだろう!』
 鋭い叱責に我に返った私は、言われたとおりにビーム・バリュートを強制排除した。
 途端に、凄い衝撃が機体をゆらした。凄い急減速が掛かった。
 もの凄いGが真上からかかって、座席から飛び出しそうになったが・・・・・・
 助かった、助かったみたいだ・・・・・・
【安全圏到達】
 レナンの報告を聞くまでもなかった。だって先ほどまで真紅と言ってよかった視界が、
今は美しい空色に包まれて居るんだから。
『助かった、のか・・・・・・』
 レッシィも放心しているみたいだ。無理もないね、本当に危機一髪だったんだから。
『ヒュ~♪ 危なかったなぁ、感謝しろよぉ』
 先ほど入った音声オンリーの通信じゃなくて、今度は顔つきの通信が入った。
 独特の形状のヘルメット越しにウィンクしているのは間違いない、甲児さんだ。
 私のゲシュペンスト&ディザードは、マジンガーZに掴まれたまま、ゆっくりと高度を
下げていた。
 でも、マジンガーZの背中に見えるのは何だ?
 マジンガーとほぼ同じ大きさのロケットみたいなのが二つと、両翼40Mはありそうな
ゴッツイ翼が付いている。マジンガーの新装備かな?
『しかしビックリしたぜ。この『ツイングレートブースター』のテスト中に、突然ゲシュ
ペンストのエマージェンシーが入ってくるんだもんな』
 後で詳しく聞いた所によると、甲児さんがこの場に駆けつけてくれたのは、本当に偶然
の産物だったらしい。
 テスラ=ライヒ研の有志一同が、ブラックゲッターという訳の分からない機体を組み上
げた後に造ったのが、今、マジンガーの背中に付いている『ツイングレートブースター』
だそうだ。
 開発コンセプトが『マジンガーZにグレートマジンガー以上の攻撃力を』 相変わらず
趣味に走った連中だ。
 それのテスト飛行中に入ったエマージェンシーコールを辿って、甲児さんは駆けつけ
てくれたらしい。奇跡のような幸運に感謝だ!
『まぁ、詳しい事は下に降りてから話そうぜ。このデカブツ、さっきからミシミシいって
るんだ』
 また不安になるような事を言ってくださる。
 でも・・・・・・
 今度こそ助かったという安堵で、全身の力が抜けていく。
 信じられない事に、あのガンダム発見から、まだ二十分たってないんだよね。でも、精
神的に滅茶苦茶疲れたよ。
『とりあえず、テスラ=ライヒ研に行くぞ。ブライトさんも来るようなこと言ってたしな』
「お願いします、甲児さん、ありがとうございました」
『いいってことよ』
 ちょっと赤くなって照れるトコも相変わらずだ、甲児さん。
 何とか生き残った外部モニターには、懐かしい北アメリカ大陸、私の生まれた大地が段
々大きくなってきている。
 一ヶ月ちょっとぶりなのに、ホントに久しぶりって感じだ。
 テスラ=ライヒ研か、小母様に逢えるといいな。
『リン』
 レッシィからの通信だ。
『本当にありがとう。私なんかの為に、命がけで頑張ってくれて。この恩、一生忘れない
よ』
 凄い優しげで、それでいて真摯な眼差しで、レッシィはそう言ってきた。
「気にしなくていいよ、友達だろ」
 そう、彼女もダバ君もアムもあの助平なキャオも、もう私に取っては大事な大事な友達
だから。
『そうか、友達か』
「そうだ、友達だ」
 そう言うと、後は何故かお互いに照れて笑い合ってしまった。ちょっと恥ずかしかった
かな?
 ゲシュペンストはボロボロになってしまったけど、友達を助ける為なんだから、許して
くれるよね。
 後でちゃんと私が治してあげるから。

 こうして私は、再び地球へと舞い戻った。
 懐かしい大地が、もうすぐそこに迫っている。

 -幕間へ-

 【後書き】
 ツイングレートブースターをゴットスクランダーにしようかとも考えたけど、
止めておきました。あれはもうちょっと後にしときましょう(笑
 あと、宣伝です。第三次αのアフターなSSのその10、自分のブログ【川口代官所・跡地】で公開してますので、よろしかったらどうぞ。



[16394] F REAL STORY  幕間
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/05 23:17
 夜。
 暗闇を焦がすかのような炎と煙が、タクラマカン砂漠にあるとある施設から立ち上って
いた。
 ニュータイプ第三研究所と呼ばれるその施設に向かう五人の一団があった。
 その施設にいる被験少女、ティファ=アディールを【誘拐】する為、烈火の如き勢いで
向かうはチーム名いまだ未定のあの五人組、ジェス・ヘクトール・アーウィン・パット・
ミーナ。乗るは怪しいゲッターロボとこれまた怪しいMSとそれを乗せるドダイ改。
 そして待ち受けるは、先に第3ニュータイプ研究所を襲った謎の黒いガンダムと、恋に
燃える『炎のMS乗り」ことガロード=ラン少年!
 さて、この三つ巴、どうなる!?

 

「・・・・・・ガンダムかよ」
 MSに乗った事ある者、そしてMSに憧れる者達の間では、今だカリスマ的存在のガン
ダムフェイス。
 それが今、自分の前にいるのだ。
 ガロード=ランは操縦桿を握る手が知らずに汗ばんでいくのを感じていた。
 そのガンダムの前には、自分の仕事仲間が乗るジェガンが七機、すでに行動不能に陥っ
ていた。
 軟弱な連邦軍人ではない、実戦の修羅場をくぐり抜けてきた傭兵たちが僅か四分の間に
みんなやられてしまったのだ。
 黒いガンダムの主武装は一目瞭然だった。
 ビームサイト、光の大鎌が怪しくその光を放っている。そして、炎によって怪しく輝く
そのガンダムの姿は、ガロードにある存在をイヤでも思い出させる。
「・・・・・・死神だよな、まるで」
 そして、死神が鎌を自分に向けてゆっくりと振り上げていく。
 金縛りにあったかのように、自分の身体が思うように動かない。ガロードが自分の運命
に恐怖した、その時だった。
『ガロード・・・・・・』
 か細い、でもしっかりとした声がガロードの耳に、いや頭の中に直接響いた。少女の声だ
った。
『来て、私のところへ・・・・・・』
 あの少女が自分を呼んでいる! その声の主がガロードが一方通行で想っていたあの少
女の声だと彼には確信できた。
 ガロードの金縛りは解けた。そして身体には例えようないくらいの力が漲っている。
「俺、がんばっちゃうよぉ~~~!!」
 ・・・・・・単純な少年だった。
 滑るように急接近してくる黒いガンダム。ガロード乗るジェガンは手に持ったガトリン
グライフルをフル斉射で迎え撃つ!
 だが、そのガンダム、ガトリングライフルの連射を避けもせずにそのまま突っ込んで来
た。    
「なに!!」
 弾は何発も命中している。だが効いていないようだ。
 この黒ガンダム、装甲も特別堅いらしい。ガトリングライフルの連射をモノともせずに
ガロード操るジェガンに斬りかかる。光の大鎌がうなりをあげて迫ってきた。
 だが、恋に燃えるMS乗りガロード=ランはひと味違った!  
「だぁりゃぁ~~~~~~!!」
 気合い一閃! ガロードは持っていたガトリングライフルで殴りかかった!!
 ゴガン!!
 凄まじい打撃音が轟き、黒いガンダムが怯む。ガロードのヤケの一撃の方がわずかに早
く決まったのだ。
 だが、黒いガンダム。あれだけの勢いの打撃を受けても、倒れずにその場で踏ん張って
いた。バランサー、装甲、フレーム、どれを取っても超一級品のMSらしい。
 ガロードは畳み掛ける! この隙しか勝機は無いと感じ取ったのだろう。
 そしてガロードの取った戦法は更にハチャメチャだった。
「どりゃあ~~~!」
 と叫ぶや、ガロード駆るジェガンはその黒いガンダムに抱きついたのだ。そのまま二機
もんどり打って倒れ込む。
『あちゃ~~、何すんだよ、おめぇ?』
 ガロードのコックピットに、敵側の黒いガンダムのパイロットの呆れたような文句が聞
こえてきた。接触回線によるものだ。
 パイロットの声にガロードはいささか驚いた。自分と同じくらいの年の少年があの黒い
ガンダムを動かしているようだ。
『俺の相棒に、傷がついちまったぞ、あたた・・・・・・』
 こうしている間にも、ジェガンは黒いガンダムをフルパワーで締め上げている。だが、
大きさではジェガンの方が一回りほど大きいのだが、ジェネレーターのパワーは黒いガン
ダムの方が上らしい。必死の抱きつき攻撃も、ジェガンの方に着実にダメージを蓄積され
ていっている。
 このままでは後一分も持たずにジェガンの両腕は内から引きちぎられてしまうだろう。
 しかしガロードにとってはこれでいいのだ。彼はコックピットに置いてあったサブマシ
ンガンと拳銃を手に取ると、あとはオート操縦にして、コックピットのハッチを強制
パージ。わずかに空いた二機の隙間から、とっとと出て行ってしまった。
『おい、アンタ!? どこ行くんだよ?』
 開けっ放しにしてあった通信回線から、黒いガンダムの声がする。声だけ聞いていると
今MS戦をやっている相手に対しての話し方としては飄々としている気がガロードにはし
た。
「悪ぃな! 可愛い姫様が俺の事を待ってるんでね。そいじゃ!」
 こちらも負けずとそう返すと、楽しそうな笑い声が返ってきた。
『へへ、それじゃ仕方ないよなぁ。縁があったらまた会おうぜ!』
「やなこった!」
 ガロードは駆けだしていった。自分を呼んだ少女のもとへと。

 一方、その少女の狙うもう一組のチームがようやくニュータイプ第三研究所に到達した。
「行くわよぉ~~! げったぁ~~~びぃ~~む甘口バージョン!!」
 パットの叫びと共に、ブラックゲッター腹部から出力を押さえられたゲッタービームが
発射された。
 その光条は、囲いの一角を見事に蒸発させた。そこへ滑り込むようにドダイ改とジェガ
ンスーパーカスタムが滑り込む。
「「「!?」」」
 内部に突入したジェス&ヘクトール&アーウィンの目にまず飛び込んで来たのは所々破
壊され、煙と炎を上げている基地施設。そして明らかに接近戦でやられた思われるジェガ
ンの残骸七つ、そして八機目のジェガンの腕を引きちぎって起き上がった黒いガンダムの
姿だった。
「襲撃わずか十分たらずで、八機のMSがオシャカかよ。凄い腕だね、あのパイロット」
「それとも、あのMSの性能、か?」
 黒いガンダムが、ゆっくりとこちらを向いた。武器は、珍しいビームサイトのようだ。
「デザインセンスも、いかしてるよなぁ」
 ジェスはそう言いながら、両腰に差してある日本刀設えのヒートサーベルを抜いた。 
 二刀流対大鎌のMS戦、世にも稀な戦いになりそうだ。       
「じゃあ、お前らは、手はずどおりに頼むわ。俺が!」
 そしてジェス操るジェガンSCは、黒いガンダムに向かって突っ込んでいった。
「こいつを押さえる!!」
 二機のMSが激突する。
 ジェガンSCが右ヒートサーベルを大上段に振り落とす!
 その斬撃を黒いガンダムは右にそれてかわした。そしてそのまま滑るように横に回り込
むと、大鎌を横薙ぎにふるって来た。
 その一撃を、ジェス操るジェガンは、滑るような足捌きで重心移動で方向転換すると、
左のヒートサーベルでその鎌の光刃を受けた。そしてそのまま右のヒートサーベルで斬り
かかる。
 だが、その一撃も黒いガンダムの見事なスウェーバックで紙一重でかわされた。
 時間にしてホンの数秒の、息詰まる攻防であった。 
『やるじゃん』
 ジェスのコックピットの中に、敵ガンダムのパイロットからの指向性通信が入った。声
からするとあのガンダムはパイロットは少年と言ってもいい年頃のようだ。
「アンタも凄いよ、そのガンダム・・・・・・ こんな近距離なのに、センサーやレーダーが敵
がいるって認識してないもんなぁ」
 そうなのだ。さっきからジェガンSCのコックピットの索敵センサーは、こんなに近く
にいる敵をいまだに捉えていないのだ。おかげで有視界で確認しながらの戦闘になってい
る。凄まじいステルス性能だ。
『へへ、俺の相棒は特別製でね。覚えておきな、デスサイズって言うんだ。ガンダム!』
 黒いガンダム-デスサイズがビームサイトを横に振りかぶった、来る!
『デスサイズ、黒い死神さ!!』
 踏み込みの速さが半端じゃない。ジェスは左腕のヒートサーベルでその斬撃を受け止め
ようとしたが、
「ちぃぃぃぃ!!」
 速すぎる、目で追えても機体が付いていってない。とっさい横にスラスターを全開にし
て避けようとしたが。左腕を肘から持っていかれた!
 真横にゴロゴロと転がっていくジェガンSC。
「まずいぞ、こりゃ・・・・・・ おい、ミーナ。ヘクトールとウィンに言ってくれ、あんまり
押さえられないぞ」
 隻腕になったジェガンSCを立て直しながら、やることがないのでヘリポートの真上で
フラフラと浮いているブラックゲッターにジェスは通信を送った。
『了解! いま二人が下のヘリポートから建物に突入したから。状況によったら私も降り
るから、あなたはそのガンダムに集中して。リンに笑われるわよ!』
『笑わないわよ。リンだったら、きっと『私のジェスに何すんのよぉ~!』って感じで怒
るに決まってるじゃない』
 続いたパットの軽口には、ジェスも思わず苦笑してしまう。でもジェスの考えは違って
いた。子供の時からずっと一緒だった彼だけが知っている一面があるからだ。
『アイツ、俺が危ないことしてると、すぐ泣いていたからなぁ・・・・・・ でも!!』
 距離を取って、ジェスはジェガンSCに独特の構えをとらせた。
『こんなことで、心配させるようじゃ、お袋や小母さんに顔向けできねぇぞ!!』
 子供の時、目の前で死んでいったリンの母親に、自分は誓ったのだ。彼女を護ると
それが彼を強くしていった原動力なのだ。
 右足を後ろに引き、腰を落とし、残った右腕に持ったヒートサーベルを弓を引くような
スタイルで構える。
 ネモでやった時より、数段自分の動きに近い構えが取れていた。
 あの『青い巨星』ランバ=ラルを相手にしたときにつかった、直線の一本突きの構えだ。
『うわぁ、ジェスの必殺技じゃん!』
 この中で唯一やることのないパットが歓声を上げている。ちなみにミーナはブラックゲ
ッターの腹にあるコ・パイロット席で、突入した二人のサポート中だ。
 デスサイズは、この構えをハッタリじゃないと感じ取ったのか、警戒して動きを見せな
い。
「パット、適当にゲッタービームをぶちかましてくれ! 俺とアイツの間を薙ぎ払うくら
いがベストだ。出来るか!?」
『え? 了解了解! まかっせてよ!』
 思いも掛けずに自分に役が回ってきて、手放しで喜んでいるパット。視線に連動してい
るターゲットセンサーを使って、ゲッタービームの標準を決める。
『いっくわよぉ~~!! げったぁ~~びぃ~~~む!!』
 パットの気合いと共にゲッタービームが放たれた! サーチライトの光のように、ジェ
スの指定したコースを光条が薙ぎ払っていく。
『なんだぁ!?』
 デスサイズのパイロットの動揺が伝わってきた。気が逸れた。
「だぁ~~~~~~!!」
 絶叫と共に背中のバーニア全開で突きを放つジェス操るジェガンSC。そう、ジェスの
狙いは隙をつくることだったのだ。
『あ、やっべぇ~~!』
 瞬きする間に、ジェガンSCが急接近している。避けられる間合いじゃなくなっていた。
「もらったぁ~~~!!」
『奥の手ぇ!』
 そして今まさに必殺の突きがデスサイズを突き破らんとした時、そのデスサイズの左腕
に装着されているシールドが発射された!
「!?」
 偶然かそれとも狙ったのか、なんとヒートサーベルの切っ先と、そのシールドが激突し
たのだった!
 爆発と閃光が、二機を包んだ。

 

 そして今度は突入班。ヘクトール&ウィンのコンビはミーナに現在位置を逐一教えても
らいながら、施設内部を走り続けていたる。
 ちなみに研究所内部はパニック真っ直中のため、怪しいスタイルの二人が駆け抜けてい
っても、誰も咎めるモノはいなかったりした。         
『次の角を右に行って!』
「了解!」
 ミーナの指示を受けながら、かなりの階層を下がったところで、二人は見るからに科学
者研究者といった風体の一団と、金切り声を上げている連邦軍の高級士官とその護衛小隊
に遭遇した。
 そして、その一団の中心には、明らかに冷凍睡眠装置と思われる機械があった。慌てて
どこかへ移送中だったらしい。
「お姫様・・・・・・」
「発見だな、手を上げろ!」
 二人で顔を見合わせると、肩から下げていたサブマシンガンを天井に向けて威嚇射撃す
るウィン。軍人をやめても、強盗で食べて行けそうなほどの、見事な恫喝だった。
「ひぃ~~~!」
「撃て、奴らを殺せぇ!!」
「やめてくれぇ! 撃たないでくれぇ!!」
 と、二人をテロリストかなんかだと思っているその一団は、威嚇射撃だけで物の見事に
混乱してくれた。
 銃をもった護衛の兵士も、慌てて逃げようとする科学者たちが邪魔になって、二人に銃
を向けられないようだ。
「チャァ~~~ンス!」
 ヘクトールがその一団にとっこんで行く。そして数回の打撃音が轟いた時、護衛の兵士
は全て当て身をくらって昏倒していた。そして、ウィンも続き、今度は拳銃の銃尻をつか
って科学者たちを一人残して昏倒させた。その間、約三十秒。本当の陸戦の特殊部隊でも
こうは出来ないだろう。見事な手練れだ。
 そして今立っているのは、佐官の階級章をつけた高級士官と、最年長と思われる白衣を
きた科学者だけだ。その二人に銃口を突きつけ、ヘクトールから口を開いた。
「い~まから、ミ~たちの質問に、サクサクっと答えてくださ~~い!」
 どんな時でもユーモアを忘れない性格は、こんな場合でも変わらないらしい。思わず頭
を抱えるウィンだが、気を取り直して銃を突きつけている老科学者に訊いた。
「この少女の覚醒にはどれくらい時間がかかる?」
「き、貴様ら、何が目的でその娘を!!」
 恐怖と屈辱で目が血走った士官が、口から泡を吹きながらそう怒鳴る。
「ミ~~達にも、わっかりませ~~ん」
 ヘクトールがそう答える。嘘は言っていないのだが、それで更に頭に血が上ったらしい
士官は、意味不明の罵声を叫び始めたが、あまりにうるさいので彼もヘクトールに首筋に
当て身をくらって昏倒させられた。
「答えてもらおうか」
 唯一残った老科学者だったが、こちらは銃口を突きつけられているうちに、恐怖で白目
をむいて勝手に気絶してしまった。残した人間の人選ミスだったようだ。  
「どうすっか、このまま運ぶかぁ?」
 二人で担ぐのはちょっと無理そうな冷凍睡眠装置を前に、二人が顔を見合わせる。覚醒
時間が短時間で済むなら、少女だけ運んでいくつもりだったのだが、その操作方法が二人
にはわからないのだ。
「エレベーターが動いていればいんだがな。とりあえずそこまで運ぼう」
 ウィンがあちこちいじって調べてみると、この冷凍睡眠装置はどうやら小型のホバーカ
ートに乗っているらしいので、二人でも移動はさせられそうだった。
「じゃ、行こう、ん?」
 と、二人が冷凍睡眠装置に取り付いた時だった。
「おおっと、お二人さん、動かないでよぉ!」
 明後日の方向から、若い少年の声がした。いきなりの伏兵にウィンがその視線を声のし
た方に向けると、そこは天井だった。天井のパネルがおちて、そこから逆さまに上半身を
だした少年が両手に銃を持ってそれを二人に突きつけていた。
「なかなか、いいタイミング」
「だな」
 二人が言うように、二人の隙をついた見事な不意打ちだった。しかも、この少年、先ほどの護衛
の兵士よりも10倍以上隙がない。
「まぁ、経験の差ってやつかな。お兄さん達、そのまま万歳しててよ。殺す気はないけど、
俺って銃だけ弾くなんて器用な真似できないから、そこんとこよろしくね」
 どことなく憎めない軽い口調でそういうと、少年はするすると器用に天井から床まで降
りてきた。言われた通り大人しく万歳しているウィンとヘクトール。
 そして、右手に持っていた銃だけ、ズボンのベルトに差し込んで、冷凍睡眠装置に付い
ていたコンソールパネルをいじり出した少年。左手の銃はちゃんとウィンの眉間にポイン
トされている。ホントに抜け目のない少年だ。
「あのさ、名前訊いていいか、少年?」
 ウィンがそう訊くと、少年はあっさり自己紹介をしてくれた。
「ガロード=ラン、この研究所に雇われていた傭兵だよ。まぁ、いまは勝手に辞めてフリ
ーターかな」
 そう言って明るく笑う少年、ガロード=ランだった。
「じゃあ、ガロード。こちらから提案があるんだけどいいかな?」
 ウィンは言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。ガロードと交渉するつもりのようだ。
「うん? まぁ聞くだけならかまわないよ」
 そう言いながらも、コンソールを叩いて、蘇生作業を続けるガロード。だてにしょっちゅう
天井から覗いてわけじゃないらしい、見事な手際だ。
「俺達は、その少女をこの施設から救出するために来たんだ」
「あれ、誘拐じゃ・・・・・・」
 余計なことを口出しそうになったヘクトールの爪先を思いっきり踏んづけて、咳払いを
して話を続行するウィン。ヘクトールは踏まれた足を抱えて、ピョンコピョンコ跳ねている。
「キミの目的も同じだと思うんだけど、どうかな、ガロード=ラン?」
「俺は、この姫様を助けたいだけだからなぁ~。でも、兄さん達は悪人じゃないって分か
るけど、どーも組織って信用できなくてね。兄さん達が連れていった先で、またこの姫様
がこんな目に会わないとは限らないだろう?」
 よし、ここからが正念場だとウィンは思ったのだが、またヘクトールが余計な口を出し
てきた。
「あぁ、そこんトコは大丈夫。うちらはその娘に人探し頼みたいだけだから」
 あっさり切り札を出してしまったヘクトールの膝裏をけっ飛ばして転ばすウィン。そして
再び咳払いを一つして、何事もなかったような顔をしてウィンが言う。
「まぁ、そういうことなんだ。私も詳しい話しを聞かされてないのだけど、その少女の関
係者らしい人物の捜索が、私たちのメインの任務でね。どうかな、手を貸してもらえない
だろうか?」
 わざと『その少女の関係者らしい』を強く言って、そう持ちかけたウィンだった。その
作戦は効いたらしく、ガロードの興味が明らかにこちらに向いた。
「この子の親か何かなの?」
「さぁ? でも、この少女にしか探せない人物、らしい。キミも一人でその子を連れて逃
げるのは大変だろう」
 そこで、ガロードの手が止まった。蘇生作業が完了したらしい。
 ブィィィーンと低い起動音がして、冷凍睡眠装置が蘇生作業を開始した。ポッドの中を
満たしていた冷凍ガスが抜かれ、蘇生ガスが変わりに満たされていく。そして、零下数十
度まで下げられていた体温を、徐々に上げていった。
 そのプロセスが始まってから、ガロードが急に落ち着かなくなってきた。気になって、
ウィンとヘクトールがポッドの中を覗いてみると・・・
「うわ、馬鹿、見るなよ!!」
 ガロードが慌てて二人の前でバタバタと手を振って、それを阻止している。そこで二人
は察しが付いた。中の少女、ティファ=アディールはきっと素っ裸なのだろう。冷凍睡眠
の時は、そうするのが普通なのだから。
 だが純情なガロード少年には、ちょっと目の毒だったようだ。
「ガロード、その子を素っ裸のまま連れましたりできないよなぁ」
 駆け引きとかそんなのとは無縁のヘクトールの一言が、ガロードの胸にはグサッときた
らしい。
「仕方ないか。じゃあ、とりあえずここ出るまでは、兄さん達と協力といくか」
 しぶしぶといった感じでそう言ったガロードだった。彼の本心としては、あくまで一人
でお姫様を救出したとい名誉も欲しかったのだが、そう上手く行かなかったみたいだ。
「ありがとう、私の名はこの建物を出てから名乗るよ。知られるとマズイ身分なんでね」
 と両者感で合意を得られたところで、ピィーと電子音が響いた。冷凍睡眠装置が蘇生処
置が完了したという合図だ。
 緊張で唾を飲みこむガロード。考えてみれば、自分の思いは本当に一方通行だったのだ。
 プシューと圧縮空気が吹き込まれる音がする。そしてゆっくりと少女が眠り姫にされて
いた棺のような容器の、その透明の蓋部分が上がっていく。
 そして、眠り姫、ティファ=アディールが目を開いた。その瞳は長い間、睡眠を強いら
れていた人物とは思えないほど、意志の光が宿っていた。
 その瞳が、自分を見つめている三人の男性を見返していた。そして、耳まで真っ赤の純
情少年ガロード=ランを見つめて止まった。
 見つめ合う二人の視線。それはティファが上半身を起こしても離れなかった。
 ガロードも何故だか引き込まれるように視線をティファの瞳から外せないでいる。ちな
みにヘクトールはティファに着せる何かがないかと、探しに出ていった。ウィンも調度、上の
ミーナから報告が入って、その応対をしている。何となく二人だけの世界になっている。
「・・・・・・ガロード」
 ティファの口が小さく、ガロードの名前を呼んだ。
 『どうして俺の名前を?』と訊こうとしただったが、その言葉をティファの言葉が遮っ
た。
「あなたを、待っていました、ガロード」
 ティファの言葉は続いた。
「私を、地下最深部にあるブロック『X』まで連れていってください。そこにあなたが乗
るべきMSがあります」
「俺が、乗る・・・・・・?」
「そうです」
 不思議なことに、その時ガロードには、ティファの言っている言葉を全て、ごく自然に
受け入れていた。
「わかったよ、えっと・・・・・・」
 そこで初めてガロードはその少女の名前を知らないことに気が付いた。
「ティファです。ティファ=アディール」
「何だよ、ガロード。嬢ちゃんの名前、知らなかったのかよ?」
 そこへムードぶち壊しって感じで割り込んできたヘクトール。手には、連邦軍の女性兵
士用の制服と下着のセットを持ってきていた。
「ほいよ、嬢ちゃん。サイズの見立ては間違ってないと思うぞ。まぁ、とりあえずここで
るまではこれで我慢してくれや」
 そう言って制服&下着をティファに渡すヘクトール。彼女もそこでようやく自分が全裸
だと思い出したらしく、顔が急速に真っ赤になっていった。やはり恥ずかしいらしい。
「はい、坊ちゃんと俺は回れ右。早く着替えてね」
 言われてガロードも慌てて回れ右をする。二人の背後でティファが着替えをする気配が
伝わってきた。
「ねぇ、兄さん?」
 気になったのか、ガロードが小声で訊いてきた。
「服はともかく下着はどうしたの?」
「売店に売ってる奴をかっぱらって来た」
 そういえば、この研究所にも女性職員は居たから、そう言う物も置いてあって当然だろ
う。だが、もう一つ疑問があった。
「じゃあ、なんであの子のその・・・・・・ サイズとかまで分かったの?」
「俺の覗き歴を持ってすれば、そんなもの、一目みれば、ミリサイズまで」
「馬鹿な事ばっかり言うな!」」
 自慢げに胸を張って答えるヘクトールに、通信を終えたらしいウィンが踵落としを食ら
わせて、発言を止める。クリティカルヒットだったらしく、バタンと倒れてヒクヒクと痙
攣するヘクトールだった。
「小耳に挟んだんだが、ガロード君。この少女は地下の施設に行くのを望んでいるのか
い?」
 踵落とし決めた後に、よくこんなシリアス顔が出来るなと妙な所で感心しながらも、ガ
ロードはウィンの言葉に頷いた。
「まずいな」
 軽く舌打ちするウィン。何かトラブル発生したようだ。
「実はな、ここに向かって降下してくる一団があるんだ。どうやら地球軌道上守備艦隊の
88艦隊のMS隊らしい。ここに何か問題があったら、即座に降下する手はずになってい
たようだ」
 先ほどのミーナからの通信は、この事を知らせる為だったのだ。ミーナ乗るブラックゲ
ッターのレーダーが、急速降下するMS八機を捉えたのだ。
「でも、ティファは下に行きたいって・・・・・・」
 ガロードの言葉に、ウィンは分かっているという風に頷いた。
「ティファさんとキミのやりとりを見ていると、言葉では上手く言えないが超然とした絆
のような物を確かに感じる。その少女がああ言ったからには、それはきっとこれからのキ
ミに必要な物なのだろう」
「はい、その通りです」
 ティファのか細い声がそれを肯定した。        
 その言葉に振り返ると、着替えを終えたティファが恥ずかしげに俯いて立っていた。
「に、似合ってるよ、その服・・・・・・」
「馬鹿か、お前。ただの軍服だぜ」
 ガロードの上がりまくった返答に、ダメージから回復したヘクトールがツッコミを入れ
た。
「最深部のXというと」
「えっと、うげぇ、地下250メートルだってよ」
 テスラ研で入手したこの研究所の見取り図には確かに、最深部ブロック『X』の存在も
表記されていた。しかし、そこへ行くには別棟のビルに行って更にそこから専用エレベー
ターに乗っていかないといけないらしい。
「その新手がここに来るまでは?」
「ミーナの報告ではおよそ二十分。ちなみにジェスはあの黒ガンダムに大苦戦中らしい」
「なら、迷ってる時間はないな」
「あぁ」
 ウィンとヘクトールはお互い頷きあうと、まずヘクトールがティファを横抱きに抱える。
「キャ!」
「おいオッさん、何すんだよ!?」
 ティファの困惑とガロードの文句を放って、二人を男はもの凄いスピードで駆けだした。
 置いて行かれる形になったガロードも慌てて二人と運ばれるティファの後を追いかける。
「ちょっと、オッさん達!?」
「だぁ、オッさん言うな! 俺はまだ二十歳前だ!」
 ティファを抱えているというのに、素晴らしい速力で駆け抜けていくヘクトールが噛み
つくように言う。
「と・に・か・く! 急がないと間に合わないだろう! その最深部のXブロックとやら
に」
 そこでようやくガロードにも、いきなり駆けだした二人の意図が理解できた。
「兄さん達、手伝ってくれるの!?」
 ガロードの問いに二人とも頼もしく頷いた。
「大丈夫です、間に合います」
 そしてヘクトールに抱えられたティファが、そう囁く。
 ティファにそう言われると、俄然やる気のでるガロードだった。
「よぉ~~~し、俺、頑張っちゃうよぉ~!!」

 こうしてティファ=アディール誘拐は、新たな展開を迎えたのだった。

 
 -第七話 Aパート-

 【後書き】
 こっちはドタバタ珍道中になりつつありますね。ちなみにブラックゲッターは
ガンバスターと同じような操縦システムという設定です。日高さんが声やってる
ミーナはお姉さまのポジションですけど。



[16394] F REAL STORY  第七話 Aパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/08 22:36

 人間の人生なんて、どこでどうなるかなんて全く予想できないものだ。
 一ヶ月程前までの勤務地、テスラ=ライヒ研に私は戻ってきた。
 ここを発つときはヘクトールが操るガンペリーでだったが、戻ってきた時は両手両足の
ないダルマ状態のゲシュペンストに乗って、となってしまった。もの凄く不本意だ。
「甲児さん、そちらは大丈夫ですか?」
 しかもダルマ状態の私のゲシュペンストはエネルギーから何からスッカラカンになっ
て、兜甲児さんの操るスーパーロボット、マジンガーZに抱っこされている状態なのだ。
『まぁ、なんとか大丈夫だな。さっきから後ろのブースターがガタピシうるさいけど』
 FWに写った甲児さんは、さっきからあちこちのスイッチやらレバーを忙しげに操作し
ている。言うほどに楽観的な状況じゃないみたいだけど。まぁ歴戦のパイロットを信用し
よう。
 高度が千メートルを切った。
 もう一つ出ているFWに映っている異星の親友、レッシィは眼下に広がる広大な大地を
物珍しげに眺めている。
 今の現状を整理するとマジンガーZが私のゲシュペンストをその鋼鉄の腕で抱え込んで
いる。そのゲシュペンストに足無しのHM、ディザードが首根っこに抱きついている。
 端から見たらどんな感じなのかな?
『こちら地上、テスラ研マジンガー特別班! 甲児くん、リンは助けられたの!?』
 音声オンリーの新たな通信が飛び込んできた。あ、この声はもしかして、
「さやかさん!」
 思わず声が弾んでしまう。
『その声、リンね!? よかったぁ~~、無事だったのね? 怪我とかない!?』
 地上が近づいてくるのに比例して、音声はクリアになっていく。さやかさんの声を聞い
たら何だか地上に戻ってきたんだと、しみじみと実感できてきた。
『おい、さやかさん! やっぱマズイ! ブースターの推進剤が保たねぇ! ボスにクッ
ションになれって言ってくれ!!』
 たが、そんな感慨を吹き飛ばしてくれる甲児さんの金切り声。ボスさんに助けを求める
ってことは、かなり切羽詰まった状況のようだ。
 血の気がサァーと音を立てて引いていくのが自覚できた。こ、ここまで来て駄目なのか?
『甲児くん、でっかいエアクッション引いてあるから! そこの真上来て! リンを傷物
にしたら承知しないわよ!!』
 クッション、と言われて下方に視線をおくると、シャトルが離発着できる程の広大な飛
行場に白い点みたいなのが見えた。FWで拡大すると一片が200メートルはあるクッシ
ョンと判明した。
『りょーかい!! リンにお客さん、しっかり捕まってろぉ!!』
 甲児さんがそう宣言すると同時に、推進剤が切れたようだ。途端に落下に加速がかかる。
『え、何?』
 地球に見とれていたレッシィは漸く異変に気がついたらしい。
「とにかくしっかりふんばる! ショックが来るぞ!」
『わ、わかった!』
 外部センサーが聞きたくもない風切り音をわざわざ拾ってくれるおかげで、加速が増す
のがよくわかった。
 甲児さん、失敗したら化けてでますよ!
 怖さのあまり目を閉じて不遜なことを思い浮かべていたら・・・
 ボスン!!
 覚悟していた衝撃の十分の一くらいのショックが来て、視界は白い何かで埋め尽くさ
れた。
 上手く巨大エアクッションの上に落下できたらしい。やれやれだ。
 最後までバタバタしてしまったけど、私はなんとか地球に降りられたようだ。

 

 出迎えが大勢いた。その九割が白衣に身を包んだ野次馬だ。
 ボスさん操る愉快なロボット、ボロットに抱き合った形になっていたゲシュペンストと
ディザードを離してもらって、やっと私はコックピットハッチを開けて外に出られた。
 あぁ、風だ・・・・・・
 わずかに吹く風が頬にあたって心地いいや。それに、この広大な研究所、そして全方位
大パノラマの地平線。
 地球だなぁ。
 私がしみじみと感じ入っていると、なんかガヤガヤと耳障りな声が複数聞こえてきた。
 そっちへ視線をやると・・・・・・
 そこには、ディザードを作業用MSで持ち上げて、どっかへ運ぼうとする怪しげな白衣
の一団があった。複数の男性がレッシィまで抱え上げて急ぎ足で運んでいっている。
 レッシィはと言うと、あまりに突然のことに「え? え?」と目を丸くするだけだ。
 あの馬鹿どもがぁ~~~!
「こらぁ、貴様ら!!」
 情緒ぶち壊しのマッドサイエンティスト共に声の限り怒鳴りつける!
 私の怒声が響き渡った途端、男共は皆ピタリと動きを止めた。作業用MSまでもだ。
「リ、リンさんじゃないですか?」
 この研究所内にある『マオ分室』、そこで父の一番弟子を自称する三十代前半の男がレ
ッシィを抱えたまま振り向いた。いま、私に気がついたって顔してるぞ、こいつ。
「どうしたんですか、いったい!? リンさんはロンド=ベルに・・・・・・」
 私は、自分が今足をかけているコックピットハッチを指した。それを見て私が何に乗っ
てここに降りてきたのかやっと気がついたらしい。
「ゲ、ゲシュペンストじゃないですか!? 何があったんですか、いったい!!」
 素で驚いているこやつらに、前蹴りを食らわしたい欲求を堪えながら私は辛抱強く言っ
た。
「大気圏のちょい上で戦闘があってな。色々あって、この様だ。言いたいことが山ほどあ
るけど、とりあえず・・・・・・」
 私はゲシュペンストから降りて、つかつかと奴らに近づいた。そして力の限り叫ぶ。
「レッシィを離せ、大馬鹿ども!!!!」

 

 ボスさんの奮闘もあって、十五分ほどでゲシュペンストとレッシィのディザードをマオ
分室専用の巨大格納庫に収容できた。そして、その格納庫内にあるちょっとした談話室で
私とレッシィは命の恩人達の到着を待っている。
 私とレッシィ、何だかどっと疲れている。これから、ロンド=ベルのみんなに連絡とった
りしなきゃいけないんだけど、ちょっと放心状態で何もする気が起きない。
 ちなみにマオ分室の連中の先ほどの奇行は、どうやら異星のテクノロジー、HMが来る
と分かって、燃える情熱を抑えられなかった結果とのことだ。
 はぁ、父があんな連中の親玉かと思うと、父をレッシィに紹介したくないぞ。
「ここさぁ・・・・・・」
 レッシィが気怠げに呟いた。
「なんか私がダバと会った場所に似てるよ。コアムって星なんだけど」
 そして少し微笑んだ。そういえばレッシィの居た太陽系って、太陽が二つあって居住可
能惑星が5つあるんだそうだ。
「少しホッとした。やっぱ大地はいいよ」
 そうだ。レッシィってダバ君の馬鹿正直さに惚れて、自分の居た軍を離反したんだっけ。
彼女、自分の苦労を話すタイプじゃないから分からないけど、色々あったんだろうな。
 コンコン。
 ドアを軽くノックする音。そして、談話室に入ってきたのは長い黒髪がとても綺麗な女
性だ。ボディラインがしっかりでるコスチュームに白衣を羽織っている。さっき声では再
会したけど、実際に会うと相変わらず綺麗な人だ。甲児さんには一寸勿体ない気がする。
「リン、ご苦労様。大変だったわね」
 穏やかに私に微笑んでねぎらってくれるのは、弓さやかさん。光子力研究所からこのテ
スラ=ライヒ研に出向している研究者だ。アフロダインAというロボットのパイロットで
もある。
「さやかさんもお元気そうで。相変わらずですね、甲児さんとは」
 一ヶ月ちょっとぶりの再会だ。この研究所でゲシュペンストのテストやっていた時は仲
良くさせてもらっていたのだ。
 このさやかさんと言う人。普段はとても理知的な美女なんだけど、甲児さんが絡むとお
転婆娘って感じになってしまうところもあったりする。
 まぁ、甲児さんの方も普段はとても優秀なロボット工学の研究生らしいけど、さやかさ
んの前だときかん坊みたくなるから、やっぱお似合いなのかもしれない。
「彼女があの赤いロボットのパイロット?」
「ガウ=ハ=レッシィです」
 レッシィを紹介して、二人で握手しているときに甲児さんも部屋に入ってきた。あの独
特のボディスーツを着ている。
「よ、リン。帰ってくんの早かったな」
 手を上げて軽く挨拶する甲児さん。あんだけの大仕事の後でもこの人は何処吹く風って
感じで自然体だ。
「しかし、派手なお帰りだったよな。ロンド=ベルはどうだった?」
「なかなかに刺激的な職場でしたよ。ゲッターチームにも会えましたし」
「ミチルさんに聞いた聞いた。リョウさん達、一足早く合流したんだろ。俺も早く合流し
たくってさ。ブライトさん達は元気だったか?」
「元気ですよ。声も大きいですし」
「『弾幕薄いぞ! なにやってんの!?』ってか?」
 こうやって話すと、しばらく離れていたとは思えないくらい、自然な感じで話している
な。やっぱり、この人たちとも、友達なんだなって実感できて、私は少し嬉しくなった。
 そして、レッシィを紹介して、四人でしばし雑談モードに入った。異星人だろうと平気
で話せるこの人達の胆力に感服するものがある。
 たしか、甲児さんにはデューク=フリードという異星人の友人もいるそうだから、別に
珍しいことではないのかもしれないけど。
 しばらく雑談していると、ノックをする音が。そしてドアをあけて入ってきたのは、父
の研究室の副室長、カネダ博士だ。三十代半ばのなかなかハンサムな人で、父の研究室で
は唯一の常識人でもある。
「リンさん、久しぶりですね。ゲシュペンスト、ガタガタだって開発の連中がぼやいてま
したよ」
 穏やかな声でレポート片手にそう言ってきた。
「いま、室長はオキナワの方に行ってるんですよ。リンさんに会えなくて残念でしょうね」
 はぁ、父は留守なのか。小言の一つへ二つ、言ってやりたかったのだけど、会えないと
なると何かホッとした部分もあるな。
「ゲシュペンストの整備と修理は突貫作業で進行中です。そちらの方の、ロボットには手
を出してませんけど、それでいいんですよね」
「はい、ありがとうございます」
 すると、カネダ博士は苦笑しながら続ける。
「うちの馬鹿所員共を押さえるのが大変でしたけどね。異星のテクノロジーは凄く魅力的
らしくて」
「あ、やっぱりですか?」
 あいつらの異常行動は、一歩間違えれば犯罪者だしなぁ。
「それから所長代理がお会いしたいと言っていますので、V棟までお越しくださいとのこ
とです」
「所長、代理ですか? そんな人いましたっけ?」
 カネダさんの言葉に、頭の中の記憶ファイルを開いてみる。父や小母様の職場だから小
さい頃からこの研究所の事はよく知っているつもりだったけど、そんな肩書きの人物がい
るなんて初耳だ。
 この研究所、今でも名目上の所長はあのDCの創設者、ビアン=ゾルダークなのだ。彼
が道を踏み外したのちは、父を含む研究所の有力者三十人で会議をして決める合議制をし
いていて、議長さんはいても所長という肩書きの人はいないはずなんだけど。
「まぁ、会えばわかりますよ。兜くんと弓さんはマオ分室に来てくれないか。さっきの実
験データをまとめておきたいんだよ」
 そう悪戯っぽく笑ってカネダさんは言うと、甲児さんとさやかさんを連れて部屋を出て
いってしまった。
 残された私とレッシィは他に選択肢もないことなので、V棟まで行くことになった。
 しかし、本当に誰なんだ、所長代理って?
 会ったことある人なのかな?

 

 V棟までは私たちが居た倉庫から、研究所の地下を通る高速サブウェイを乗り継いで、
十分ほどだ。しかし、だだっ広い研究所だな。
 事務関連の大元締めのV棟に入り、受付の女性に所長代理に呼ばれたと告げると、すぐ
に専用エレベーターの場所を教えてくれた。それに乗れば、そのまま4階の所長室にいけ
るとのことだ。
 さて所長とは誰だろうと、過去にこの研究所であった事がある人を頭の中でピックアッ
プしながらエレベーターにのると、あっという間に4階までついてしまった。
 四階のフロア全体が所長室として使われているみたいだった。
「広い部屋だなぁ・・・・・・」
 さっきから物珍しげにあたりを見回していたレッシィが思わず呟いた。まったく彼女の
言うとおりだ。トロイホースのブリッジの3倍以上の広さはあるな。
 で、お目当ての所長はとキョロキョロと見回していると、エレベーターの正反対側にあ
る窓際に机がデンとあって、そこに二人に人間の人影が見えた。
「まったく、あの陰険男は何をする気なの? こんなモノを、ベークライトで
固めてさ」
 ん? 聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「いやぁ、私の口からは何ともはや・・・・・・」
 こっちの男性の声は聞き覚えがないな。
「と・に・か・く、碇にはここには関わるなってくれぐれも伝えておいてよね。それと、
私を敵に回すようなことはするんじゃないとも、あ、リン!!!!」
 ・・・・・・やっぱりだ。でも小母様が何でここにいるんだ?
 男性との会話中に私に気がついた小母様は、自分が座っていた椅子から飛び跳ねて、机
を飛び越して私のもとまで駆けてきた。
「逢いたかったわぁ~~!!」
 そう言うや、私が口を開く前に私をギューと抱きしめる。うん、間違いない、この豊満
すぎる胸の感触、絶対小母様だ。
「もう、この子ったら、相変わらず可愛いんだから!!」
「小母様、苦しい苦しい!」
 この感触は久々で嬉しいんだけれど、さすがに息が苦しくなったので私を抱きしめる腕
を軽く叩いてタップする。
「あ、ゴメンゴメン。でも、本当に久しぶりよねぇ、リン」
 私を抱きしめる腕を緩めてから、改めて今度は私の優しく包むように抱擁してくれる
 思わずふにゃ~となってしまう。
「小母様、どうしてここに?」
 しばらく優しく抱きしめてもらってから、私は漸く口を開いた。
「あれ? カネダくんに聞かなかったの? 私が呼んでるって?」
「カネダさんには所長代理って人が呼んでるとしか聞いてないけど?」
「それが私」
 と小母様は自分を指さす。

 ・・・・・・・・・・・・

 間が空いた。きっと私はとんでもなく間抜けな顔をしていたんだろうな。
「小母様って、ここの付属のトレーニングジムのインストラクターじゃ」
 私が知っている小母様の仕事は確かそうだったはずだ。
「あぁ、リンは知らなかったんだっけ。私、ず~っとここの所長代理だったんだよ、ビア
ンが出ていってから」
「聞いてないけど・・・・・・」
 言われていつもの黒の皮系ボンテージファッションに白衣を羽織った小母様を見てみ
る。そういえば、小母様この研究所内歩くときはいつもこの格好だったっけ。
 あ、突然の再会で忘れていたけど、レッシィが居たんだ。
 成り行きについていけず立ちつくしていたレッシィを小母様に紹介する。
「小母様、彼女は・・・・・・」
 と、そこで口が止まった。
 レッシィのこと、どこまで説明していいんだろうか? 一応、小母様民間人だし。
 すると、先ほどまで小母様と話していた男性が近づいてきた。手にはもの凄く頑丈そう
なアタッシュケースを持っている。
 歳の頃は二十代後半ってところみたいだ。無精ひげが妙に印象に残る。
「お取り込み中みたいなので、私はこれで引き上げますよ。ご協力感謝します」
 男性はそう言うと、私たちをあえて無視するようにエレベーターに乗り込んでいった。
何だか、油断できない人だな。
「さっき言ったこと、くれぐれも伝えといてよね」
 格好いい男好きの小母様にしては、虫でも追い払うよう手首を振っている。
「畏まりました、では」
 わざとらしく、胸に手を当てて優雅な貴族みたいな礼をすると、そのままエレベーターの扉が
閉まった。
「小母様、今の人については訊かない方がいいんですよね?」
「そうよ。関わるとロクなことにならないっていい見本の組織の人。忘れなさい。で、こ
の子がロンド=ベルに協力しているって異星人なの?」
 あれ、小母様なんでそこまで知っているんだ?
 レッシィは自分のことを言われたと気がついて、慌てて自分から挨拶をする。
「ガウ=ハ=レッシィです」
「カレン=スターロード、リンの母親代わりみたいなものね。リンと仲良くしてくれてあ
りがとうね」
 そういうと、小母様はヒシッとレッシィを抱きしめる。そして頬ずりまで始めた。小母
様、可愛い女の子も好きだからなぁ。
 同姓とは言え、レッシィも頬を赤らめて戸惑っているみたいだ。
「じゃあ、こっちへいらっしゃい。お茶でも持ってこさせるから」
 そう言うと、ずっと彼方にみえる応接設備を指さす小母様。あとをついて歩いていくと、
レッシィがそっと耳打ちしてきた。
「カレンさんって、いくつなの?」
 私は肩をすくめて答えた。
「地球人類最高の謎の一つだと思ってくれ」

 -第七話 Bパートへ-

 【後書き】
 テスラ=ライヒ研編に突入です。自分のSSのテスラ研は
『藪を突付いて、ドラゴンが出る』みたいな感じな施設と
なっております。



[16394] F REAL STORY  第七話 Bパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/11 22:00
「え、ジェスが居たんですか!?」
 小母様にそう言われて、私はお茶をこぼさんばかりの勢いで立ち上がってしまった。
「う~~ん、そうなのよ。リンが来るって知ってたら、もうちょっと置いておいたんだけ
どねぇ」
 小母様は、ゴメンねとすまなそうに手を合わせている。
 小母様の説明によると、ジェスは今、ヘクトール、アーウィン、ミーナ、パットと組ん
でどこぞの研究所に人さらいに行ったそうだ。
 それが三日前のことだったそうだ。
 あと、三日早く、ここに来たら、逢えたんだ・・・・・・
 けっこうショックが大きい。
 ポカァ~~~ンと立ちつくしてしまった私。レッシィが少し呆然としながら小母様に訊
いた。
「ジェスっていう人が、リンの・・・・・・?」
「そ、恋人。で、私の息子もやってるの」
 と言うと小母様は、胸ポケットにいつもしまってくれている私とジェスが十七歳の時に
撮った小母様と一緒のスリーショットの写真をレッシィに見せた。      
 レッシィが何とも言えない表情になった。自分の感情が上手く表現できない、そんな顔
になっている。
「何かな、その例えようのない顔は?」
「えっと、あの、その・・・・・・ これがカレンさんの息子さん?」
 どうやら、小母様にこんな大きな、しかもまったく似てない息子がいることが信じられ
ないようだ。
「まぁね。髪の色も顔立ちも全然違うけど、私の実の息子」
「カレンさんって、あのぉ・・・・・・」
 あ、まずい! レッシィが小母様に禁断の質問-年齢を訊く-をする気か!?
「レッシィの恋人も格好いいんですよ、小母様!」
 私は慌てて会話に割って入った。大事な友人を身の危険に晒すわけにはいかない!
「なななななに言うの、リン!?」
 見事に声に動揺が出るレッシィ。でも、小母様の興味は逸れてくれたようだ。
「へぇ、女の子ってどの星でも同じように恋をするんだ。けっこうけっこう」
 その時、卓上のコールフォンが鳴った。
「何?」
 小母様が答えると、FWみたいなディスプレイが宙に映像を結んだ。
『ロンド=ベル隊の方からの通信です。お繋ぎしますか?』
 女性タイプのマシンボイスだ。ロンド=ベルからって事は私たちのお迎えかな?
「繋いで」
『了解』
 小母様は少し襟元を正してディスプレイに向き直る。誰が通信に出るにしても男性陣で
ないことを祈りたい。後々五月蠅そうだし。
『こちらロンド=ベル隊所属のクリス=マッケンジー中尉です。リンのお義母様、です
か?』
 出たのはクリスさんだった。映像を見るにドダイ改のコックピットに乗っているみたい
だ。そう言えば前に小母様から映像メールが来た時に、みんなに説明が面倒だから『私を
育ててくれた人』って言ったんだっけか。
「リンの育ての親、っていうのなら間違いないけどね。初めまして、テスラ=ライヒ研所
長代理のカレン=スターロードです」
 小母様はというと、女性から見ても魅惑的な微笑みなんか浮かべて答えている。
『この度は色々な協力の申し出、大変感謝しています。司令に代わってお礼を言います』
 クリスさん、顔を少し赤らめながら応対していた。やっぱり、小母様の微笑は効くんだ
な、同姓にも。
「いや、お気になさらずに。では、準備をさせておきますので」
『お気遣い、感謝します』
 そういうと、クリスさんからの通信は切れた。ところで協力ってなんだろうか?
「小母様、協力って?」
「あー、これもリンには言ってなかったね。ロンド=ベルさん物資不足の戦力不足なんでしょう?
だから、研究所のモノで使えそうなのあったら持っていっていいって言っておいたのよ」
 どうやら、私がここにつく前に、小母様はロンド=ベルに一報を入れていたらしい。
そこで私の無事やら現在の状況やらを報告した後に、協力を申し出てくれたそうだ。
 相変わらずやることに卒がないな、小母様は。
「カネダくん、甲児くん達にお迎えがくるから準備しておきなさいって伝えて」
 コールフォンを軽く操作して、マオ分室の格納庫を呼び出す。甲児さん達もこのままロ
ンド=ベルに合流するつもりみたいだ。
 マジンガーZが味方に加わるなら、ものすごい戦力アップ。
『了解しま、え、ちょっと待ってください、何だ!?』
 うん? カネダさんの声が突然険しくなったぞ。
『これは本当か!? 確認済み? わかった!』
 カネダさんの声と共に、研究所内で一斉に警報が鳴り響いた。
『いま、ウチの分室の特製レーダーがこちらへ迫る未確認の大型輸送機を確認しました!!
  おそらく、先日地球に宣戦布告したポセイダル軍です!!』
 その報告を聞いて、小母様は静かに立ち上がった。なんか、近寄りがたい気迫が・・・
「それ、ホントにウチの研究所を狙っているのね?」
 小母様が静かに確認する。モニターのカネダさんがコクリと頷いた。
「ふぅ~ん、いい度胸じゃない。連邦政府だって手をだせないって場所に殴り込みに来るなん
て」
 指なんぞボキボキならして、小母様は言った。殴り込みって・・・・・・ マフィアやヤクザ
じゃないんだから。
 えっと・・・・・・
 現状を整理するとポセイダル軍が攻めてきている。狙いはこの研究所。でいいはずなん
だけど、私にはあまり危機感が湧いてこない。っていうか、小母様見ていたら、この研究
所が軍事要塞か何かじゃないかと錯覚してしまっているぞ私。
 ハッと気がついた私は、カネダさんと小母様の通信に割り込んだ。敵が攻めてきたなら
軍人としての私の行動は一つだ。
「カネダさん、ゲシュペンストは出られますか!?」
『リンさん? 部品交換を突貫でやらせてますから、あと十分ほどで形になると思います』
「じゃあ、今からそっちに行きます!」
 私は立ち上がった。今からマオ分室の格納庫に急いで行っても十五分以上かかるはず。
敵が来るまでに間に合うか?
「ちっ、私のディザードは脚がないから、何も出来やしない」
 レッシィは口惜しそうだけど、私に続いて立ち上がる。何か行動を起こさずには居られ
ないのだろう。
「リン、ちょっと待ちなさい。地下の駐車場にある私のバイク使っていいから! それと、」
 そこで小母様はいつもの優しい大好きな顔に戻って付け加える。
「気をつけなさい。怪我しちゃ駄目よ」
「はい!!」

 

 小母様のバイクは電動なんかじゃなくて、旧式のガソリンエンジンのバイクだ、しかも
排気量が二リットルオーバーというお化けバイクだったりする。
 レッシィを後に乗せて、私は小母様のバイクのエンジンを掛けた。相変わらず凄い音を
だす。
「行くぞ、レッシィ! しっかり掴まっていろ!!」
「わかった!!」
 言うや急発進を掛ける。地下から地上へ飛び出した時はもうスピードメーターは200
を超えていた。我ながら無茶な運転だ。
 地上へ出ると、警報が鳴り響く中、各主要研究施設が地下へ下がっていくのが見えた。
そして、私がマオ分室の格納庫に着いた時には、整地された広大な敷地が広がるばかりだ。
高い建造物はあらかた地下へ格納されたらしい。
 ドリフトさせて急停止を掛けゲシュペンストが置いてある格納庫前に到着。あわただし
く作業員が出入りしている。
「カネダさん、状況は!?」
 格納庫内の普段は研究室との連絡に使われている部屋が、今はちょっとした作戦司令室
のようになっている。
「ああ、リンさん。いま、敵側の指揮官と思われる男から通信があって、所長代理が応対
してます!」
 カネダさんは、インカム片手に色々な情報が集まっているこの部屋の中で、もの凄く忙
しそうに動き回っている。
「通信内容聞けますか!?」
「ええ、そこの三番モニターに写ってますからご自由に! ゲシュペンストは、もうすぐ
組み上がりますから。誰か、私の部屋からあのトランクを持ってきてくれ!」
 カネダさん、この非常時において実に的確に指示を色んな所に出している。その姿は、
ブライト艦長をどことなく彷彿させた。
『・・・・・・だから、ここは連邦政府とは何の関係もない研究施設だって言ってるでしょ』
 小母様、声は押さえているけど、明らかに怒っているみたいだった。
『では、我が軍がこの場所を接収しても構いませんかな、レディ?』
 小母様の相手をしているのは、髪を肩まで伸ばした、しまりのない顔をした青年だった。
喋り方も気取っている。
「ギャブレット=ギャブレー!?」
 レッシィが通信相手の男性を知っているらしい。あれ、聞いたことある名前だな。
『いい度胸じゃないの、坊や。私の相手する気なの?』
 小母様が綺麗な金髪をかき上げる仕草を見せた後、きっと通信相手を睨み付けた。思わ
ず私も唾を飲み込んでしまうほどの静かな迫力だ。
 気圧されたのは通信相手のギャブレット=ギャブレーも同じらしい。わずかに言葉を詰
まらせてから、気を取り直して言い返した。
『・・・・・・では、私たちと一戦交えようと。美しい御方よ?』
『私が美しいのは当然のことだけど、そっちがその気なら相手になるわよ』
 小母様のこの自信、どっから来るのだろうか?
『こ、後悔されるなよ!』  
 ギャブレーとやらは、小悪党のように言い捨てると通信を一方的切った。完全に小母様
に迫力負けしていたな。
『カネダくん、やることになったから良いわね? あ、リン、ついたわね』
「小母様、あんなこと言って大丈夫なの? さっきから連邦軍にも連絡していないみたい
だし」
 小母様は敵方との通信の後、そのままこちらに会話をふってきた。私はさすがに心配に
なり小母様に訊く。それより私が怖いのは、後の方でやる気になっている研究所員の方か
もしれない。何か嬉々としているんだよな、この連中。
『あら、ここは連邦軍非干渉なのよ。ジャミトフだってここに手は出して来なかったでし
ょ? だからオダ君はここでパーソナルトルーパーの研究をやっていたのよ』
 そう言われれば、ここでゲシュペンストのテストパイロットをやっていた時にも、オダ
大佐のチーム以外の人に会わなかった。
 でも、この研究所にポセイダル軍を迎撃出来るだけの武力があるのか?
 思い浮かぶ戦力と言えば私のゲシュペンストと甲児さんのマジンガーZ、さやかさんが
乗ってきたアフロダインAくらいか? あ、ボスさんのボスボロットもあったっけ。
 ロボットとか兵器関係の研究しているのは、今はマオ分室他幾つもないはずだし。
『大丈夫よ、いざとなったら私も出るから安心して。とりあえず、リンと甲児くんに頑張
ってもらうわよ』
 安心してって言われても・・・・・・ 私がまた口を開こうとする前に忙しいのか小母様はウ
ィンクするとそのまま通信を切ってしまった。何だか私、状況に取り残されていないか?
「これは軍用トランスポーターです。それで、この飛んできているのがHM、この速度だ
とランドブースターと合体していますね。あぁ、ランドブースターというのは飛行サポー
トマシンです、武装もあります」
 隣りにいたはずのレッシィは、いつの間にかレーダーによって解析された敵の説明を所
員の一人にしていた。それによって識別がついていく。
「助かりました、あ、別方向からも一機、この研究所に接近する機影あります!」
そのレーダードームに突然映ったその機影は、接近してくる敵軍と違って低空を這うよ
うに飛んでいるみたいだ。
「連邦軍、ロンド=ベルの識別を確認!」
 テスラ研のレーダー他観測装置の精度は連邦では並ぶモノがないほどの能力を誇ってい
るおかげで、情報だけは沢山入ってくる。その中で意外な知らせが飛び込んできた。
「ロンド=ベル! 誰だ!?」
「当研究所のデータには該当機種なし、です。新兵器かなんかですか?」
 質問したら、レーダー担当の所員に逆に聞き返されてしまった。該当機種なしってこと
はダバくんのエルガイムか?
 すると、私のゲシュペンスト用の携帯端末が鳴った。
「どうした、レナン?」
【エルガイムから通信です、繋ぎますか?】
 やっぱりだ。これで頼もしい味方が増えたな。
「あぁ、繋いでくれ」
【了解】
 そう表示がでると1.5インチ液晶パネルに映ったのは・・・・・・
『あ~~あ、リンちゃん!! ご無事で何よりですぅ~~~!!』
『リン、無事だったようだな』
 100%ダバ君が出ると思っていた私のダメージは大きかった。がくっと来た。なんで
グレースと隼人さんがエルガイムから通信送って来るんだ?
「あ、あの、なんでお二人がエルガイムに乗っているんですか?」
 小さい画面を目をこらしてみると、確かにダバ君のエルガイムのコックピットだ。その
バイク型シートに二人仲良く座っていらっしゃるようだ。
『ダバ君はこのエルガイムを運んでいるスピリッツのコックピットにいる。俺達もそっち
に用があったんで便乗させてもらっているだけだ。ところで、そっちにポセイダル軍が近
づいているって本当か?』
 スピリッツって何だ、と思っているとエルガイムのサポートマシンの名前だとレッシィ
が耳打ちしてくれた。
 私は深呼吸一つして気を取り直して隼人さんに向き直った。
「はい、ギャブレット=ギャブレーなる者が指揮する一団が、この研究所に迫ってきてい
ます。えぇと、数は・・・・・・」
 私は所員の一人がまとめてくれた敵のデータを見ながら答える。
「HMが二十機、それと同数のサポートマシン、大型輸送機一機です。あと十分ほどで
この研究所の北西D棟付近から侵入してきますね」
『カネダ博士はいるか?』
「え、はい。あわただしく動き回っていますが、呼びましょうか?」
『頼む』
 私はカネダさんに隼人さんから通信が入っていると告げた。早足で近づいてくるカネダ
さんに端末を渡す。
「隼人さん、お久しぶり。ごらんの通りあわただしいんですよ」
『ご苦労様です、ところでGはどうなっていますか?』
「G、ゲッターGですか? えぇ、もうほとんど調整もすんで明日にでも早乙女研究所に
送ろうかと思っていたところです」
『ありがとうございます。では、Gを出しておいてもらえませんか。このままロンド=ベ
ルに持って帰りますので』
 おぉ、そういう事は隼人さん、ゲッターGで戦う気なのか? でも、一人で操縦できる
のかなGって?
「わかりました。二番格納庫に収納してありまので、そちらへ向かってください。用意さ
せておきます」
 カネダさんはそう言うと、私に端末を返して、すかさず近くの所員にゲッターGを準備
させるように告げる。
『ダバ君が無茶して飛ばしているおかげで、俺達だけでも先行してそちらにつけそうだ。
甲児くんは?』
 言われて辺りを見回すが、甲児さんの姿はない。さやかさんもボスさんもいない。近く
に居た所員に訊くと、別の格納庫でマジンガーZの発進準備に入っているそうだ。
「やる気十分みたいです。とこで隼人さん、Gは一人でも動かせるんですか?」
『一人じゃないだろ、ここに予備パイロットも連れてきている』
 と隼人さん、膝の上に座っているらしいグレースを指した。
『予備パイロットですぅ~~』
 グレース、お前すっかりゲッターチームの一員だな・・・・・・
「では、お待ちしていますので」
『あぁ』
『リンちゃんまたねぇ~~~♪』
 通信を切るとやっぱり軽い精神的疲労を感じた。グレースと隼人さん、苦手な人のタッ
グだったからなぁ。
「ダバがスピリッツに乗ってきているんなら、私も出れそうだ。外に行ってる!」
 そう言うとレッシィは駆けだして行ってしまった。本心はダバ君に一刻も早く逢いたい
んだろう。彼女も恋する乙女だね。
「リンさん、ゲシュペンスト準備できました! 来てください!」
 呼ばれて私は格納庫奥で整備されていたゲシュペンストのもとへと走る。
 おお!! ハンガーに格納されていた我が愛機、手足がちゃんと戻っている! でも、
手足の形が微妙に変わっているな。 
「新しい手足のことはコンピューターに訊いてください。頑張ってくださいよぉ!!」
「任しておいてくれ。レナン!」
 私の声を認識すると、コックピットのハッチが開き、昇降ワイヤーが降りてきた。
 私がそのワイヤーについた取っ手を掴むと、すぐに巻き上げが始まる。
「リン=マオ少尉に栄光あれ!!」
「ばんざぁ~~い! ばんざぁ~~~~~い!!」
 ・・・コックピットに入ろうとする私の耳に妙なノリの声援が聞こえてきた。見るとゲ
シュペンスト担当の所員が万歳して私を送り出してくれている。恥ずかしいなぁ、もう。
 気を取り直して、座り馴れたシートに腰を下ろす。やっぱりこのコックピットに入ると
私は落ち着くようだ。
「レナン、変更点は?」
 右のレバー、左のアームレーカーに手を乗せて感触を確かめながら、私は頼れる相棒に
訊いた。
【ニュートロン・ビームライフルがバージョンアップしました】
 FWにそう出ると、すぐさま隣りにライフルの性能表がでる。射程や威力は殆ど変更な
しだけど、エネルギー容量が増設されたバッテリーのおかげで倍近くになっている。
【左腕部に新たな格闘戦用装備が追加されました】
 そして今度は左腕部の追加武装が出る。今までビームサーベルのように手で携帯してい
たプラズマソードが、上腕部に固定になったみたいだ。それと他にも趣味に走った武器が
付いてるなぁ。
【脚部に地上用のホバーユニットが装備されました。】
 地上では、走る、という行為は膝関節に負担をかけるので、ホバーがついたのはありがたい。
背中のスラスターを併用すれば短時間の飛行が可能になるとのこと。
 他にも諸々の変更点を確認を終え、私はペダルを踏み込んだ。調子は上々だ。
「リン=マオ、ゲシュペンスト、出る! 足元ウロチョロしている所員、気をつけてくれ!」
 さて、今度は初めての地上戦だ。しかも思いっきり劣勢の状況。
 気合いいれていくぞ!!

 -第七話 Cパートへ-

 【後書き】
 次の話から、しばし戦闘シーンとなります。
 カネダさんに注目しといてください。



[16394] F REAL STORY  第七話 Cパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/13 18:47

 あわただしい格納庫を出ると、ちょうどダバ君隼人さんプラスおまけが乗ったエ
ルガイムとスピリッツが着陸するところだった。
 着陸直前でエルガイムと、戦闘機みたいなスピリッツが分離して、2機に分かれて着陸
した。エルガイムは隼人さんが動かしているのか、それともオートなのかな?
 レッシィがスピリッツに駆け寄ると、スピリッツのコックピットからダバくんが飛び降
りてきた。
 そして、おお!! 二人で熱い抱擁! 
 思わず拡大して見てしまう私。ダバ君、レッシィの無事を確認できて本当に感激してい
るみたいだ。
 あ、スピリッツからもう一つの影が降りてきた。アムだ。あ~~ぁ、鬼も逃げだす形相
で二人の間に割って入って。
 そして、アムとレッシィの口げんかが始まってしまった。もうすぐ戦闘なんだけどなぁ。
 エルガイムのコックピットも開いて、スパイラルフローが降りてくる。乗っていたのは
隼人さんとグレースにリリスだ。後で聞いたんだけど、エルガイムを着陸させたのはリリ
スだったそうだ。
 隼人さん達は、そのままゲッターGのある格納庫に走っていった。
「ダバ君、ご苦労様!」
 コックピットを開けて身を乗り出しいつもは止める二人の喧嘩を楽しそうに見ているダ
バ君に声を掛ける。
「あぁ、リンさん!!」
 ダバ君が駆け寄ってくる。そのまま隼人さん達が置いていったスパイラルフローに飛び
乗ると、そのまま私のところまで上昇してくる。
「ありがとうございます、レッシィを助けてくれて!!」
 誠実一直線って感じのストレートなお礼を言われ、私は思わず照れて赤くなってしまっ
た。
「私は友人を失いたくなかっただけだから・・・・・・」
「でも、レッシィを失っていたら、僕はきっと、今までの僕でいられなくなっていました。
本当にありがとうございます」
 スパイラルフローに座ったまま、そのまま深々と頭を下げるダバ君。すると、ダバ君の
肩に乗っていたリリスが、私の方に飛んできた。
「私からもお礼言うね。リン、ありがとう♪」
 そういうと、リリスは私の頬に軽くキスをしてくれた。照れくさいけど嬉しいな。
「アムもね、あんなに噛みついているけど、ホントは凄く心配してたの。きっとアムもキ
ャオも同じくらいリンに感謝してるわよ」
「うん、そうだろうね」
 二人の喧嘩を見ていれば分かる。あの二人もホントは仲がいいんだって。でも、同じ男
性を取り合っているから、ああなっているんだろうな。
「じゃあ、僕はエルガイムでお手伝いします!」
「私も!」
 二人はそう言うと、エルガイムにドッキングする。
 レッシィとアムはと言うと、二人でスピリッツのコックピットを奪いあっている。あと
五分もしないで敵が来るんだけど。
『お、リンじゃないの、久しぶりだわさ』
 通信が入った。この独特の喋り方は、テスラ研ロボット持ち込みアルバイターのボスさ
んだ。本名、未だに教わってないんだよね。
 見ると私が出てきた隣の格納庫から、ずんぐりむっくりのロボットが出てくるところだ
った。
「ボスさん、久しぶりです。で、戦う気なんですか、ボスボロットで?」
『当たり前じゃないの、俺様が出なくてどうするのよん!』
 ボスさんの意志を反映させるかのように腕を振り回してやる気をみせるボスボロット。
ハンドル操作であそこまで動くのって別の意味で凄いよな。
『おら、邪魔だよ、ボス。出るならとっとと出やがれ!』
 ゲシッ! 格納庫からマジンガーZの脚が出てボスボロットを蹴飛ばした。鞠のように
弾んで転がっていくボスボロット。あれの材質ってなんなんだ、ホント?
 そしてマジンガーZが出てきた。黒光りするボディが陽にに光って勇ましい。『鉄の城』
とはよく言ったものだ。
「甲児さん、ご苦労様です」
『おお、リンか。で、あれがレッシィの仲間か?』
 エルガイムを見つけて、手なんか振っているマジンガーZ。エルガイムも気が付いたら
しく手を振りかえしている。面白い光景だ。
 そこで気が付いた。この二機間じゃまだ通信が繋がってないんだ。
「今、通信のリレーしますね。二人ともお待ちを」
 マジンガーZとダバくんの通信を繋ぐと、二機間の通信を繋ぐ。
『お、リン、サンキューな。俺はこのロボット、マジンガーZのパイロットの兜 甲児だ。
よろしくな』
『ダバ=マイロードです。今はロンド=ベルでお世話になっています』
 よろしく、で済ませられるあたりが甲児さんの凄いトコだと思う。この人、頭いいくせ
に直感直情で動くタイプだからな。
『こちら隼人、Gはあと十分くらい発進にかかる。甲児くん、元気そうだな』
 すると通信に隼人さんが割り込んできた。
『おぉ、隼人さんか、随分と忙しいみたいだな、最近』
『まったくだ』
 本当に忙しいらしい隼人さんは、苦笑するとそのまま通信を切った。代わって、テスラ
研側から現状の詳細が送られてくる。
【敵、当研究所までおよそ十キロまで接近】
【防衛システム始動開始】
 防衛システム? と首を傾げていると、地下からせり上がってくる棟のようなものが多
数。レナンがいちいち解説してくれたところによると、対空レーザー砲台、ミサイル砲台、
メガ粒子砲まであった。
 ジャブロークラスの防衛システムだぞ、これって。
『リン、甲児くん、いい?』
 そして小母様から通信が。あ、服を着替えたみたいだ。黒基調の大昔の軍服みたいのを
着ている。
「はい」
『なんですか?』
『これから三十秒、敵を迎撃する為に斉射します。何機か取り残すと思うけど、ヨロシク
ね』
 小母様の言葉が終わるや、言葉通りの一斉射撃が敵侵攻方向に向けて始まった。火線が
空に吸い込まれていく。遠くに何個かの爆発を確認した。八個と確認。
 半分以上残ってるぞ、小母様。
『あらぁ、敵も然る者って感じねぇ。これからは対空レーザーのみでそちらに誘導するよ
うにしていくから、頑張ってね』
「小母様、なんで三十秒でやめちゃったんですか、迎撃を?」
 あの数&勢いで撃ちまくっていれば私たちの出番なんか無かったと思うんだけど。
『研究所にも【予算】っていうのがあるの。ある意味、敵さんより強敵なのがね』
 ・・・・・・納得した。仕方ない、頑張ろう。
「甲児さん、さやかさんは?」
『あぁ、アフロダインばらした後だったんで、今回はパスだ。じゃあ、とりあえずは味方
は俺とリンとダバとそこのお嬢ちゃんたちの戦闘機か。隼人さんはもうちょっと時間かか
るみたいだからな』
『兜ぉ~! 俺様を無視するんじゃないだわさ!』
「四対二十四前後、ちょっと厳しいですね」
『リンまで無視するんじゃないのぉ~~!!』
 ボスさんは放って置いてっと。とりあえず、上手い具合に対空レーザーで誘導されてい
る敵のデーターを改めてチェックする。
『ギャブレーが指揮しているんですね。これは厄介だ』
 同時に中継して送っているデータを見たダバくんが言う。思いだしたぞ、ギャブレト=
ギャブレー。シャングリラでアムロ少佐と互角に戦っていたバッシュのパイロットだ。
 まずいな、彼の相手をダバ君に任せるとなると、今度三対二十三前後になるかの。
『だからぁ、心の中でまで俺様を無視するなって~~の!!』
 ・・・・・・ボスさん、アンタはエスパーか何かですか?
  気を取り直して。
「ダバ君、ギャブレーとやらは君に任せる。レッシィとアム、そろそろ敵が来るぞ!!
いい加減にしてどっちが乗るか決めろ!」
 まだ髪をひっぱりあって席の奪いあいをしていたペンタゴナの二人に外部スピーカーで
叱りつけた。
『ご、ごめ~~ん、でもさ・・・・・・』
『隙有り!』
 アムが油断した隙に、レッシィが彼女のお尻を蹴飛ばして蹴り落とす。そのままシート
に収まるやあっという間に発進してしまった。
『コラァ~~、覚えていろぉ~~~!!』
 敗者のアムが手を振り上げて叫んでいる。面白いけど、このまま彼女を放っておくと危
険だ。
「アム、とりあえずゲシュペンストに乗っていてくれ。急いで!」
 近くで避難できそうな場所は格納庫内しかないのだが、あそこに異星人の美少女を一人
置いておいたら別の意味で凄く危ない。
 片膝をついて左掌を差し出すと、飛び乗ってきた。そのまま立ち上がりつつ、ハッチを
開いて彼女を招き入れる。
「おっじゃましまぁ~~す」
「狭いとこだけど、遠慮しなくていいぞ」
 シート脇にエアクッション製の緊急用の予備シートを出してアムを迎えいれる。ハッチ
を閉めると同時にFWが開き敵機が有視界域に入ったことを教えてくれた。      
「甲児さん、ジェットスクランダーはないんですか?」
『あぁ。この前スクランダーだけ光子力研究所に調整で返しちまったんだ。なぁに、この
マジンガーZ、例え空を飛べなくたって!』
「了解、とりあえず各個で来る敵を撃破していくしか策はないみたいです。敵数確認、戦
闘機と人型あわせて二十二機! 行きますよ、甲児さん、ダバ君、レッシィ! ついでにボ
スさん!」
『おう、まかせておけ!』
『了解』
『わかった!』
『ついでってなんだわさ!』
 ボスさんの文句はほっといてと。敵もこちらを確認したらしい。
 次々とランドブースターと分離してHMは敷地内に着陸していく。敵の機種を確認する
と鬼顔バッシュが一機、残りは全部一つ目のグライアだ。
『そこに居るのはエルガイム! ダバ=マイロードか!?』
『ギャブレット=ギャブレー!! いい加減、ポセイダルに手を貸すのは辞めろ!!』
 バッシュは着陸するやエルガイムに襲いかかった。ダバ君、後は任せた!
「なぁに、敵ってまたギャブレーだったの?」
 隣りに座るアムはすっかり呆れている。
「やっぱり馴染みなのか?」
「うん、あっちに居た頃からのね」
 何か因縁でもあるらしい。あのギャブレーとやらとは。
 様々な敵の銃口がこちらを向いているのが確認された、おっと考え事している場合じゃ
ないか。
「揺れるぞ、しっかり掴まってろ!」
「わかった」
 新装備のホバーを作動させ、滑るようにゲシュペンストを移動させる。いい感じ、動き
がとてもなめらかだ。
 ゲシュペンストを追うように上から横から火線が追いかけてくる。くぅー、この数の差、
やっぱり厳しいか!
「うわぁ、何よ、あのロボット。攻撃が効いてないわよ!」
 私が回避で手一杯なのに、アムはノンキに感心している。何かと思ったらマジンガーZ
を見ているようだ。
 甲児さん操るマジンガーZ、腕を交差させむき出しのコックピットをかばいながら、当
たるランチャーをモノともせず突進していった。
『ロケットパァーーーーンチッ!!』
 甲児さんの叫びと共に放たれるマジンガーの上腕。一撃でグライアを吹き飛ばし
た。さすが甲児さん。
「腕が飛んじゃったよ、リン!? 地球のロボットって非常識なの多くない!?」
 アム、ちょっと興奮気味だ。私はそれどころじゃない。さっきから四方八方から火線が
放たれてきて、逃げるので精一杯なのだ。
「レッシィは!?」
 私がこの有様だ。レッシィはどうなのだろうかとレナンに訊くと、何故かアムがあたり
を探してくれる。
「あれ、かな? 追われて逃げるので精一杯みたいね。ざまぁみなさいって!」
【レッシィ機、一機の敵機を撃破ののち、五機の戦闘機に追われています】
 レナンの報告をチラリと見る。レッシィは敵を1機倒しているのか。こちらもやっぱりさすがだ。
 どっちにしろ、このままじゃまずいな。何か敵の気を一瞬でも反らせないと、じり貧だ
ぞ。
『さてと、私も久しぶりに参戦させてもらおうかな』
 私の不安を打ち破るように、通信が入った。カネダさんの声だ。
 カネダさんが出るってことは、まさか、まさかまさか・・・・・・
 アレって、まだ動いたのか?
 敷地の一部が割れて、何かがせり上がってくる。あのシルエットはやっぱり、間違いないぞ!
「ねぇ、リン、何が始まるの?」
 やることのないアムはすっかり野次馬だ。
「地球でずっと昔に活躍した伝説のロボットが動く、みたいだ・・・・・・」
 敵の気もそれたみたいだが、私の気もそれてしまった。無理もないだろう、だって、ア
レが出てくるんだぞ!
 地上にせり上がったその西洋甲冑のようなシルエット、あぁ、あれは・・・
 Code-IRONMAN-28、鉄人28号だ。
 西洋甲冑を思わせるそのシルエット、間違いないな。手を振り上げて起動ポーズを決め
ている。
「カカ、カネダさん、アレってまだ動くんですか!? それよりアレで戦う気なんですか?」
 思わず興奮している私。カネダさんの姿を探すと格納庫前でアタッシュケース型のコン
トローラーを開いて鉄人を操作しているところだった。鉄人はあのコントローラーによる
遠隔操縦なのだ。
『動くのか、とは心外だね。まだまだ現役のつもりだよ、僕は』
 そういうショータロー=カネダ博士は実に楽しそうだ。ずっと前に地球を護る為に戦っていた
という伝説のロボットが動くのを見れるなんて。これは、凄いことだぞ。
『攪乱くらいは出来るだろうから。いくぞ、鉄人!』
 カネダさんの言葉にあわせて鉄人が飛び上がった。敵の気がかなり鉄人に向けられてい
る。私も思わずそっちを見そうになるけど、このチャンスを逃す馬鹿はいない!
 動きが止まっているグライアたちに、滑りながらライフルを連射していく。
 ろくに狙いをつけずにの連射だったけど、何機かに命中した。撃破できたのは1機だけ
だったけど、他の機体にも少しはダメージを与えられたようだ。
 風向きが鉄人の登場で変わった。
 数ではまだ劣勢だけど、勢いで押し返してやる!!

 だが、テスラ=ライヒ研究所を狙っていた敵はポセイダル軍だけではなかった。
 私がその想像もできないくらい恐ろしい敵に遭遇するのは、もう少し後のことになる。


 -幕間へ-

 【後書き】
 ここに出てくる鉄人28号は、太陽の使者Verの。金田正太郎は、成長して
ロボット工学を目指した、って独自設定になってます。最初これを出した時、
サイト内でどよめきのような反応が起きたのはいい思い出です(笑



[16394] F REAL STORY  幕間
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/15 21:25
 爆発が二機を包んだ。
「くぅ!!」
『うわぁ!!』
 ジェスが駆るジェガンSCと、黒いガンダム-ガンダム・デスサイズ、双方が放った必
殺の一撃が激突した為に起きた爆発だった。
 そして爆発の黒煙から弾かれるように両機が飛び出す。
「ちぃ、ヒートサーベルが!!」
『あちゃ~~、バスターシールド、おシャカかよぉ』
 そして黒煙が収まり、再び相対するジェガンSCとデスサイズ。
 ジェスは柄だけになってしまったヒートサーベルを捨てて、右腰部に装着されているビ
ームサーベルを引き抜く。
 デスサイズも再びビームの大鎌を構えなおした。
「動作環境チェック、各部負荷ががかかっているもまだ大丈夫。左腕以外オールオッケー!
仕切直しだ!」
 ジェスが素早く自機の状態をチェックする。完全白兵戦用のこのジェガンSCはジェス
が北極ベースで使っていたネモなんかより耐久値の桁が違うようだ。隻腕になってしまっ
ているが、まだいける。
『お、やる気満々だね、そうこなくっちゃ』
 繋がりっぱなしの通信回線に、相変わらず陽気なガンダムパイロットの声が入ってくる。
正面モニターに映るデスサイズの姿には目立った損傷は見られない。
 ジェス操るジェガンSCが再び必殺の直線一本突きの構えをとる。
 そしてガンダム・デスサイズは大鎌を振りかぶり、迎え撃つ構えを見せた。真っ向から
迎え撃つ気らしい。
 緊張の糸が再び両機の間に張りつめられていく。
「ではもう一戦・・・・・・」
『行きますか』
 両者が今まさに激突せんとした時だった。
『二人ともタンマタンマ!』
 緊張の糸を見事に弛ませる、パットの声が割り込んできた。もりあがったテンションが
一気に下がる。
「なんだよ、パット」
『えっとね、いまミーナが詳しく調べてるんだけど、上から88艦隊のMSがここに向か
って降下中だって!』
「マジかよ」
『マジ?』
 おもわず質問がダブってしまうジェスとガンダムのパイロット。さっきまで盛り上がっ
ていた緊張感が遙か彼方に飛んでいってしまったようだ。
「で、首尾はどうなってるの?」
 ジェスが確認しているのは、少女誘拐の実行犯たちのことだ。
『ヘクトールとウィン、両名とも目的の少女の奪取に成功したわ。でも、なんだか新たな
展開があって、地下250メートルにあるっていうXブロックって格納庫に突撃中よ』
 だがその会話はガンダムのパイロットにもジェス越しに聞こえていた。
『なんだい、あんたらの狙いもガンダムXなのか?』
 そしてあっさり会話に加わってきたガンダムのパイロットが、そんなことを訊いてくる。
「なんだよ、そのガンダムXって?」
 MSマニアでもあるジェスが、初めて聞く名前に過敏に反応する。彼の記憶にはそんな
コードネームのガンダムは存在しなかった。もっとも知らないと言えば目の前のガンダム
だってそうなのだが。
『え、違うのかよ?』
 パイロットの反応に一瞬迷ったが、ジェスは思い切って自分たちがここに来た理由を説
明することにした。
「俺達はある人に頼まれて、ここに軟禁されている少女の救出に来たんだよ。そのガンダ
ムXって言うのは初耳だ」
 言葉を選んで『人さらい』を『救出』に変えて、ジェスが説明すると、ガンダムのパイ
ロットは少し考え込むそぶりののち、意外な提案をしてきた。
『んじゃ、休戦といきますか。俺の狙いはそのブロックXのガンダムなんだ。その少女の
ことは任務に入ってないんでね』
 そう言うや、デスサイズのコックピットハッチが開いて、黒のツナギを身に纏った少年
が姿を現した。
 声の感じから少年であると予想はしていたけど、それでもあの見事な操縦を彼がやって
いたと思うとジェスは驚きを隠せなかった。
 戦意が無いことを示すつもりか、軽く両手をあげている。長髪をお下げにまとめている
のが彼を一層幼く見せていた。
 ジェスもコックピットハッチを開け、自分の姿を相手に見せる。
「俺はレナンジェス=スターロード。所属は、まぁこんな趣味なMSを作るところって言
えばいいかな?」
「俺の名前はデュオ。俺も所属は言えないけど、まぁテロリストと思ってくれて間違いな
い」
 二人は簡単で妙な自己紹介をするとお互い手を差し出し、どちらともなく握手を交わす。
休戦成立のようだ。
『あぁ、ジェス!! 隊長のあたしを差し置いて何勝手に敵と手を結んでいるのよ!!』
 その様子を見ていたパットの金切り声の通信が入る。思わず苦笑して顔を見合わせるジ
ェスとデュオ。
「あのねーちゃんが隊長やってんの?」
「まぁ、メンバーも個性的なのが多くてね。自称隊長が二人と、実質隊長が一人の計三人
隊長がいるんだよ」
「何だよ、そりゃ?」

 その実質隊長率いる潜入部隊は、、思わぬ展開を迎えまだパニック収まらぬ研究所内を
疾走していた。
「次の角、右ぃ!!」
「了解!」
「おっけぇ~~!」
 炎のMS乗りことガロード=ランがデータパットを見ながら道を示す。ティファ=アデ
ィールを抱えたヘクトールと、マシンガンを構えたアーウィンがそれに従い突き進んでい
く。
 指揮系統が壊滅しているため、所員や警備の軍人たちも右往左往と逃げまどうだけで、
走り行く一団を気に掛ける者はいなかった。
 でも、疾走の邪魔になる連中が前にいる場合は、ヘクトールが蹴り倒したり、アーウィ
ンが殴り飛ばしたりして排除していった。
「そのまま、まっすぐ!! 突き当たりぃ!!」
 ガロードがいつの間にか電子パットのナビゲーターシステムを読む係にさせられてい
た。
 そして、スタートから全力疾走すること三分、彼らは目標のエレベーターで到達した。
 エレベーターに到着したらしたで、新たな障害がやはり待ちかまえていた。世の中、そ
うは甘くはないらしい。
「網膜識別と指紋識別を併用したロックになっているみたいだな」
 エレベーター横には、アーウィンが言ったとおりの識別システムが備えつけられていた。
これをクリアしないとエレベーターに入ることすら出来ないらしい。
「どうすんだ、これ? 蹴っ飛ばして壊すか?」
「これだから、肉体労働体育会系は・・・・・・」
 ヘクトールの強行策をため息ついて退けると、こういう事もあろうかと渡されていた『万
能開錠キット』をカードスリットらしきところに繋ぎ合わせる。
「ガロード君、目と手を」
「あいよ、了解!」
 ガロードの網膜と指紋を識別しはじめたコンピューターに、すかさず贋の情報が開錠キ
ットから流し込まれる。
 軽快な電子音がピンポンと鳴り、エレベーターのドアが重々しく開いていく。すかさず
四人はエレベーターになだれ込む。
 中に入ると、ボタンも何もない。ドアが閉まると自動的にエレベーターは降下を始めた。
 そこでガロードがあることに気がついて、ヘクトールに噛みついた。
「いつまでティファを抱えているんだよ、オッサン!?」
 ヘクトールの腕の中が収まりがいいのか、お姫様ダッコされていたティファでさえヘクトールに
抱えられているのが自然に思えていたらしい。ガロードに指摘されて、途端に真っ赤にな
る。
「なに、交代したいのか、ガロード?」
 こういうシチュエーションになると、途端にからかい虫が蠢くらしいヘクトールは、イ
ッチニィ、イッチニィとティファを持ち上げ下げして、ガロードを挑発する。
「ば、馬鹿、なに言っていんだよ!?」
 そこでティファとガロードは思わず目が合う。途端に二人とも真っ赤になってうつむい
てしまう。
-フッ、若いな・・・・・・-
 ヘクトールはまだまだ初な純情少年少女二人をみてそう思った。
 からかったのがリン&ジェスだったら、ヘクトールは今頃鉄拳&踵落としを食らって屍
を晒していたに違いない。自ら危険を賭してまで人をからかう、それがヘクトールという
男だったりする。
「馬鹿やってるな、着くぞ」
 アーウィンが苦笑しながら言うと、結局ヘクトールはティファを抱えたまま、エレベー
ターの横に張り付く。その反対側にアーウィンとガロードも同じように張り付く。エレベ
ーターが開いた時にあるかもしれない不意打ちに備えるためだ。
 そして、重々しくエレベーターの扉は開いていった。

「88艦隊、来るのは、ジェガン降下兵カスタムが八機っと」
 ミーナはブラックゲッターの腰あたりにあるコックピットの中で、この研究所めがけて
降下してくる邪魔者の機体データをだしていた。
 降下兵タイプと銘打ってあるだけあって、上空からの攻撃に特化した武装がなされてい
る。狙撃用の長距離実弾ライフルなんかは特に要注意だ。
『じゃあ俺は、ミディアムとりに行って来るから!』
 片腕になってしまったジェガンSCでドダイ改に乗るジェスから、通信が入った。予定
ではドダイ改に誘拐対象たるティファも乗せて、遁走するはずだったのだが時間がおしているし、
持ち出さなきゃいけないものも増えたので、近場までミディアムを持ってくるこ
とにしたのだ。 
「了解、ちゃんと壊さず持ってくるのよ!」
『パットやグレースじゃないから大丈夫!!』
 そういうと、ジェガンにのったままドダイ改を発進させる。ジェスも肉体労働系なので、
ハード系の扱いは何でもこなせる方なのだ。
『こらぁ、ジェス! なんであたしとグレースを同じに並べるかぁ!!!』
『ナイメーヘンの時の航空機講習を思い出せや!!』   
 ジェスの言うとおり、パットは航空機のシュミレーションで、逆噴射をいきなりかまし
飛行前に追試が決定になった経験があったりした。
『うぅ、あれはシミュレーターがあたしの燃える情熱を理解してくれなかっただけ
よ』
「シミュレーターのコンピュータに、何を期待しているのよ、あんたは?」
 口にあるメインコックピットでいじけてしまったパットに、ミーナがこれからくる敵の
データを送る。
「ボケッとしてんじゃないわよ。これからは段取りが大事なんだから。えっとデュオだっ
け、どこにいるのよ?」
 先ほど共同戦線をはることになった黒いガンダムの少年を呼び出す。相変わらずこの機
体はセンサー系に映っていない。
 きっと上から降下してくるジェガン達も、この研究所を占拠しているのはブラックゲッ
ター一機だと勘違いしているだろう。
『あんた達のちょうど真下ってところかな? ちゃんと隠れているぜ』
 デュオから通信。言われた通りにコックピットを開いて覗き込むようにしたをみると、
ブラックゲッターが陣取る建物の陰に隠れるように、黒い機体のガンダムが確認できた。
「じゃあ、パット。私たちも隠れるわよ。いいわね」
『了解、げったーどりる!!』
 パットの掛け声が響くや、ブラックゲッターの右腕が、極太のドリルに変形する。ゲッ
ター鋼を使ったゲッターロボならではの、非常識な変形だ。
 この二人の娘が乗るブラックゲッター、合体変形機構は取り払われているが、そのかわ
りにゲッター2ほどの地中潜行能力はないが右腕にドリルを内蔵し、左腕はゲッター3の
ように肘から下がかなりの長さに伸びるようになっているのだ。無論、ある程度の水中活
動も可能なようになってもいる。
『うりゃぁ~~~!!』
 勇ましい気合いと共に、舗装された研究所の敷地にドリルを突き立て、そのまま土煙を
まき散らしブラックゲッターは地中へと消えた。
 つかの間の静寂が、研究所に訪れた。
 嵐の前に静けさ、その言葉がよく似合った。

 そして、ブロックXにたどり着いた四人が目にしたのは。
 半径二十メートルほどだろうか、球状のドーム型天井のそのブロックには、四つの大小様々な
コンテナが置かれていた。
 そのコンテナにも厳重なロックが掛けられている。
「これが、俺が乗るってMSなのか?」
 ガロードがこのブロックの何とも言えない雰囲気に飲まれたかのように、ゆっくりとテ
ィファに訊いてくる。
「はい、これがこの地球圏で最高のMS、ガンダムXです」
「ガンダム、X・・・・・・」
 ティファの言葉は確信に満ちている。
 ガロードは思いもかけずに聞かされた、『ガンダム』という名に、めまいにも似たもの
を感じた。静かに、興奮しているのが自分でもよくわかった。
「ガンダムでも、リーオーでもいいのだが・・・・・・」
 いち早く、このブロックをぐるりと観察してきたらしいアーウィンが水を差すような感
じでガロードに告げる。
「これを、どうやって外に持ち出す? 見たところ、このコンテナを運び出すには、後ろ
のエレベーターはいささか小さすぎるようだが?」
 アーウィンの言うとおり、このブロック内からコンテナを出すにふさわしい搬出口はみ
あたらない。すると、ここでもう一つの疑問が浮かんでくる。
「じゃあさ、このでっかい大荷物、どうやってここに運んだんだ?」
 あいも変わらずティファを抱え続けるヘクトールが、誰とはなしに聞くと、少し考え込
んだアーウィンがその疑問に答えた。
「これは推量だが、地上でこのブロックをつくっておいて、そのまま地下にこれを埋めた
んだじゃないか? つまり・・・・・・」
「このブロックはガンダムXとやらを保管するというより、封印する目的で造られた、
とアーウィンさんはお考えか」
 だとしたら大げさな話だ。
「じゃあ、どうやってだすんだよ、このコンテナ? 兄さんたちに考えは?」
 ガロードの問いに、年長者二人は顔を見合わせて、軽いため息なんかついたりした。そ
の行為の意味がわからないガロードとティファはお互いの顔を見合わせ、首を傾げる。
「まぁ、上に剣呑なオモチャをもった俺達の仲間がいるから、そいつにここまでこさせて、
運ばせるしかないだろうな」
 そう答えるアーウィン。

 そして、その剣呑なオモチャなるものを持った彼らの仲間はというと。

「はやく来なさい、悪の手先ども! この正義に燃える美少女パトリシア=ハックマンが、
あなた達に地獄を見せてあげるから!」
 と、剣呑なことを口走りながら、地中深度三十mあたりに愛機とともに潜り込んでいた。
『うわぁ、おい、問答無用でミサイル攻撃はじめやがったぞ、あいつら!』
 地上に残してきた通信ワイヤーから、地上に残るデュオから通信が入る。たしかに効果
音としてミサイル炸裂音がハデに響いていた。
「もしかして、上から降りてきた連中って、ここを守備するっていうより、ここを破壊し
て証拠隠滅するってつもりじゃない」
『かもな。おかげでこっちは冷や汗もんだぜ』
 ミーナとデュオと違って、パットは一人決めつける。
「決まったわね、奴らは悪よ! この私が正義の鉄拳を食らわすしかないわね!」
 やる気は満々だ。
『俺やあんた達がこなけりゃ、あいつら降りてこなかったんじゃねぇの』
 デュオの冷静なつっこみも、半トリップ状態にあるパットには聞こえていないらしい。
「あのね、パット。あんたのことだから気がついてないかもしれないけど、私たち、これ
が事実上の初陣なのよ!」
「人は誰でも最初の一歩があるわよ! そんなんでおののいていちゃ、正義の味方は務ま
らないわ!」
 この度胸、ある意味賞賛ものである。
『面白い漫才やってないで、ミサイル掃射おわったぜ。あ~あ、ひどいことになっている
ぞ、上は。まだ逃げ切れていない連中もいたっていうのによ。これだから連邦軍ってやつ
は』
 忌々しそうなデュオの口調。容赦ない雷撃が加えられいるようだ。さっきまでミサイルの着弾音でもその事わかる。
「もしかしなくも、そうだったのね」
 同じ連邦軍が非道を行ったという意識を、何故だかミーナには希薄だ。もともと、自分
らには連邦軍の一員という自覚が希薄だったからだろう。
 だから、躊躇いもなくミーナも言えた。
「パット、殲滅よ! 私たちの力、見せてあげなさい!!」
『お、やる気満々だね、ねぇーちゃん達♪』
 ブラックゲッター&ガンダム・デスサイズVS連邦精鋭88艦隊降下部隊のゴングが鳴
った。

 -第八話 Aパートへ-

【後書き】
 この幕間部分、掲載時には前・中・後編、転章となっていた後編部分です。
この五人組の珍道中は、この話のもう一本の柱です。



[16394] F REAL STORY  第八話 Aパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/19 21:29
テスラ=ライヒ研マオ分室副室長。
 Drショータロー=カネダ氏。
 IRONMAN-28、鉄人28号の操縦者。
 ロボット工学を齧った者ならその名を知らぬ者はいない、伝説の人。
 連邦調査機関の協力者として世界で初めて、『スーパーロボット』の称
号を与えられた鉄人28号を若干12歳で操り、様様な『世界の敵』と戦
い続けた彼も15年ほど前に一線をしりぞき、ロボッ
ト工学者としてこの研究所に招かれて、今に至る。
 あぁ駄目だ、見まい見まいと思っても視線が蒼い機体を追ってしまう!
「またなんか凄そうなロボットが出てきたよ、リン」
 ちなみに今、私のゲシュペンストは数機の敵機グライアに半分包囲され、
ビーム兵器が雨霰と降り注いでいてピンチなんてモノじゃない。
 でも、その危機感も現実的に思えないほど、私は、私は舞い上がってしま
っているのだ!
 あぁ、こんなんじゃいけない!
 集中しろ、リン=マオ!
「あぁ、背中のロケットみたいので飛びあがった! あのロボットもビーム
が全然効いていないわよ、すご~いリン!」
 しかしそんな決心をすぐに揺らがせる、隣に座るファンネリア=アム嬢の
実況。私の首は無意識に飛びあがった鉄人を追ってしまった。
 しかし、慌てて視線を私を包囲するグライアどもに戻す。
 私にとって幸運だったのは、私を半包囲していた敵ヘビーメタルも鉄人に
目を奪われていたことだ。
「余所見をしてる場合かぁ~~~!?」
 半分自分に発破かけるようにトリガーを絞る。
 追加されたマシンガン式連射システムで大まかな狙いでニュートロン・
ビームライフルを発射!
 気を反らした間抜けな一機のグライアの右腕を吹き飛ばした。同時に敵の
半包囲を突破できた。
 よっし!
「きゃ~~、なに! 飛び蹴りよ、飛び蹴り! わ、あっちのロボットは今
度は口から変な風起こしてるわよ!! すっごくない、リン!?」
 ・・・・・・
 せっかく盛り上がってきた気分をぶち壊してくれるアムの歓声。
 彼女の見ていた光景を解説すると、鉄人が飛びあがるや、急降下をかけグ
ライアに蹴りを見舞った。その後、たまたま落とした視線の先にルストハリ
ケーンを放ちグライアを牽制しているマジンガ-Zが写ったようだ。
「アム。頼むから、もうちょっと静かにしてくれないか? 集中できないん
だ」
 懇願口調になってしまう私。アムはペロッと可愛く舌をだして
「ゴメンゴメン」
 と言うけど、視線はすぐにヘビーメタルを蹴散らすスーパーロボットに戻
っている。はぁ・・・・・・ きっとまたすぐに騒ぎ出すんだろうなぁ。
「レナン! 全体状況!! できたら上のからの俯瞰で!」
 敵HMは十機以上、上には軽戦闘機的なランドブースターも同数くらい
まだ残っているはずだ。確実に見こめる増援といえばもうすぐ出てくる隼人
さん&グレースのゲッターGだけだ。
 ここらで全体の戦況を把握して作戦をたてないと、マジンガーや鉄人はと
もかく私やダバ君やレッシィが危ない。あ、ボスさんもいるか。でも、あの
人はきっと何やっても死ななそうだろうからいいか。
 視界の左端あたりに、いろんなところからデータを引き出してきたらしい
レナン作成の全体状況図がでる。ゲシュペンストを基点に研究所三キロ範囲
の俯瞰地図に敵味方を色分けして光点でしめしてくれている、いい仕事だぞ、
レナン。
 やはり、上の方にいるのがレッシィだけなのため、制空権は連中に取られ
てしまっている。さっきから、何とか避けているけど上からのパワーランチ
ャーの攻撃が厳しくなってきているし。
 やっぱり手駒が足りなすぎる。こうなったら・・・・・・
「甲児さん! 聞こえますか、リンです!」
 まるでボクサーのように腕を眼前に交差させ、グライア数機からの砲撃を
モノともせずにジリジリと前進するマジンガーZに、私は通信を送る。
『おう、リンか、大丈夫か?』
 甲児さんの声は、いつもと変わらず平静そのものだ。
「甲児さん、ゲッターGが出るまで上をお願いできますか!? 少しでも空
の連中大人しくさせたいんです!」
『上って、パイルダーでかよ?』
 甲児さんの声は驚いているというより、呆れている、そんな感じだ。無茶
を頼んでいるいるのはこちらも承知だ。でも、頼れる航空戦力は今は甲児さ
んのパイルダーしかないのだ。
『わかったよ、マジンガー頼んだぜ。パイルダー、オフ!!』
 仕方ないなぁって感じで頷く甲児さん。多くを語らなくても察してくれた
みたいだ。
 マジンガーの頭部から飛び立つ超小型VTOL、ジェットパイルダーは、
そのまま煩く飛びまわっているランドブースターに向かって行く。これで上
からの攻撃は少しは静かになってくれるだろう。
「リンリン!」
 飛び立つパイルダーを見てまたアムが興奮気味に話し掛けてきた。リンリ
ンって鈴じゃないんだぞ、私は。
「あれ、何あれ!? 頭からボーンって!」
「アレはパイルダーって言ってマジンガーのコックピット兼戦闘機みたいな
もんなんだよ。エルガイムのスパイラルフローだっけ、あれと同じような
ものだと思えばいい。レナン、隼人さん呼び出せるか?」
 カネダさん操る鉄人は、こちらがなにも言っていないのに主が抜けて超合
金ニューZ製の立像と化したマジンガーのフォローに回ってくれている。さすがだ。
 小さなFWが現れて【神 隼人呼出し中】と出た。隼人さん、Gに乗りこ
んだらしい。
『リンか、そっちはどうだ?』
 程なく、いつもの戦闘服に着替えた隼人さんが通信に出た。
「甲児さんにパイルダーで上にあがってもらってるくらい、けっこうシビア
な状況です。Gはどうですか?」
 マジンガーに駆け寄り、無人となった鉄の城を攻撃するグライアをミサイ
ルで牽制しながら、私は喋る。ああ、舌かみそうだ。
『今、ドラゴンのオート操縦のセットをしているところだ。あと、二分って
ところだな』
 憎たらしいくらいのクールな声で隼人さんが言う。ん、ドラゴンがオート
ってことはどういう組み合わせで乗っているんだ、今回は?
 頑丈なのをいいことに、マジンガーZを盾代わりにして、私はグライア五
機と射ち合っている。私の背後では鉄人が鉄拳を振りかざしグライア三機を
相手にしている。飛び道具がない機体ではやっぱり苦戦しているみたいだ。
「隼人さんがライガーで、グレースがポセイドンですか、今回は?」
『あぁ、グレースは器用だからな。俺より上手くポセイドンを扱えるだろう』
 なぜか苦笑している隼人さんがちょっと気になるっていえば気になるが、
今はそれどころじゃない。これ以上マジンガーを盾に使ったら甲児さんに上
から狙い撃ちされるかもしれないし。
「できるだけ早くお願いします。レナン、ダバ君はどうなっている!?」
 隼人さんとの通信を切ると、ここからかなり離れたところでやりあってい
るダバ君の現状確認。
「えっと、ダバはねぇ・・・・・・」
 レナンに訊いているんだけど、何故かアムがどこからか双眼鏡らしきモノ
を取り出してダバはダバはと捜してくれている。
【エルガイム確認:状況】
 と今度は右横の邪魔にならないあたり6インチくらいの映像が出て、そこ
ではバッシュと斬り結んでいるエルガイムの姿が映った。
「きゃぁ~~、ダバぁ! 頑張ってぇ!!」
 アム嬢もエルガイムを見つけたらしく、キャアキャアと喜んでいる。
 どうやらダバの上空ではレッシィがサポートしていて、二人で上手く協力
しあって上下合わせて二対十くらいの戦力差を補っているらしい。
 けど、ダバ君のエルガイム、こんな小さな映像でもわかるくらいにバッシ
ュに苦戦しているようだ。無理もない。あのロン毛のたれ目男はダバ君だけ
を狙えばいいのだけど、ダバ君の周りには他にも敵がいっぱいなのだ。
「あぁ~、ダバ、危ないってばぁ! こら、レッシィ、しっかりやれぇ!」
 手を振り上げて応援に熱を入れるアムは意識の外に放っておいてと。
 状況を簡単に整理すると、いま戦場は三つ、いや四つに分かれているのか。
 一つは私と鉄人を中心とした戦場。二つ目はここから二キロちょっと離れ
たダバ君とギャブレットとやらを中心とした戦場。三つ目は上でパイルダー
で空中戦を行っている甲児さんの戦場。そして四つ目はさっきから気になっ
ている敵大型艇が着陸したあたり。何もないところ、なんだけど、動きが見
えない分だけ少し不気味だ。あれ、ボスさんのボスボロットが居ないぞ。ど
ちらへ行ったのだ、あの御仁は?
 まぁボスさんもへクトール以上にしぶとそうだから大丈夫か。
 そして私は少し考える。ここはこのままゲッターGが出てくるまで現状を
維持するか、それとも無茶を承知で突貫するか。
 フン、考えるまでもないか。このまま現状維持なんて消極策、私らしくな
い。なんの為にゲシュペンストに乗っているんだ。
 よし、考えは決まった。
「アム、しっかり掴まっていろ! 荒っぽく行く!」
 主に格闘戦を担当する左腕のレバーに力強く握る。
「うん、わかった、いっけぇ、リン!!」
「ゲシュペンスト、GO!!」
 アムの掛け声に合わせてるように私も気合を入れる。
 脚部ホバー、フルスロットル、スラスター最大出力!
 地面からわずかに浮いているゲシュペンストは、まるで飛ぶようなスピー
ドでさっきからマジンガーを狙っていた五機のグライアに向かっていく。
「むぎゅう!」
 アムが急発進でコックピット後ろに行ってしまったようだが気にしていら
れない。こっちもGで潰れそうなのだ。
 常識はずれの急加速で近づいてくるゲシュペンストに敵は反応できないよ
うだ。チャンス!
「ゲシュペンストバイトォ、レディ!!」
 手近な敵にすれ違いざまに左腕を振り上げる。そして音声認識の接近戦用
新武装【ゲシュペンストバイト】を発動する。
「アタァーーーック!!」
 ゲシュペンストの左五指がガチンと鋭角化。それをそのまま敵頭部に叩き
こむ!!
 グシャァァァ!!!
 そのまま敵グライアの頭部を握りつぶしもぎ取る。圧縮空気を利用したら
しいけど、すごいパワーだ。
 敵HM一機撃破! そのまま加速を維持しつつ、二機目狙いをつける。ダ
ッシュをしてからまだ十秒たっていない、敵はまだ錯乱している!
 滑るように狙いを定めた二機目の右側面につく。そのまま再びゲシュペン
ストバイトを食らわせようと左腕を振りかぶったら・・・・・・
【左マニュピレター、可動不能】
 ふざけた警告が現れた。頭に血が一気に上る。
「一回で壊れるような武器をつけるなぁ!!」
 そのまま怒りを思いっきり乗せた左ストレートを、グライアに叩きつけた!
 半分以上やつ当たりが入っている。
 すごい反動がこっちにも来た。シートに固定されていてもグラングランと
身体が前後に揺さぶられる。アムなんかシートの後ろであっちこっちに身体
をぶつけて目を回している。
 左拳がグーのまま動かなくなってしまったけど、二機目のグライアも撃破
だ。
 残った三機が高速で動く私に反応しはじめた。ちっ、さっきのパンチで
速度にブレーキがかかってしまったみたいだ。
 でも!!
 この五機は私がやるって決めたんだ! 諦めるかぁ!!
「レナン、ライフルエネルギーフルチャージ!! 対艦モード!!」
 右腕のライフルを構える。狙いはつけない。
 この急速チャージシステムも一回でぶっ壊れるなんてことないだろうな。
 今までの半分以下の時間でエネルギーが溜まる。
 急制動、凄いGと共にゲシュペンストが停止する。
 グライア三機がパワーランチャーが光条を放つが無視。ビームコーティン
グは伊達ではないのだ。
 そして足裏のスパイクを地面に噛ませる。固定確認! 
「いっけぇ~~~~!!!!」
 ニュートロンビームライフルから放たれる大光条! 銃身をわずかに移動
させ三機をサーチライトで照らすかのよう薙ぎ払う!!
 一機、二機、ちぃ、三機目にはかわされたか!!
 間一髪のところで私の狙いを外したグライアは、パワーランチャーを捨て
ビームセイバーを振りかざしゲシュペンストに迫る。
 ライフル! と狙いをつけようとした私だがそれを遮る新たな警告表示が
現れた。
 しまった! 大気圏内じゃ対艦モードを放った後の銃身冷却時間が宇宙の
数倍かかるんだった!
 一瞬の躊躇の間に、敵は目前に迫ってきている。捨て身の特攻か!
「小賢しいぞ!!」
 左手甲少し下あたりに固定されたプラズマソードを起動させる!
 敵グライアがセイバーを振りかざした! こっちの方が早い!
「伸びろぉ!! プラズマジャベリン!!!」
 格闘戦用新装備その二を、私は絶叫ととも発射する。甲児さんや竜馬さん
が武器の名前を叫ぶ気持ちが少しわかった気がする。のる気合いが全然ちが
う。クセになりそうだ。   
 ジャベリンと言ったって柄が生えるわけではなく、瞬間的にソードの部分
が伸びるのだが、不意打ちとしてはいい武器だ。光の剣は敵よりわずかに早
くグライア胸部を貫いた! そのまま崩れ落ちる敵機。
 よし、五機撃破!
 ふぅ~~、とため息をつく。時間にして30秒もたっていない速攻だった。
これでダバ君のフォローに回れるか。
『リンさん、無茶しますね』
 感心したような呆れたようなカネダさんの声。この人だけはマイペースに
グライアの相手を続けている。あきらかにグライアより地上速度が遅い鉄人
で、どうしてああもパンチを当てたりできるのかな、この人は。
「いや・・・ これでもロンド=ベルの一員ですから・・・」
 応えながら呼吸を整えようとするがなかなか静まらない。汗も全身にジワ
リと滲んできて不快だ。
 あれ、目も霞んできた。ちょっとマズイぞ。
 そこで私は気がついた。私はかなり疲労している。さっきの速攻が成功し
たせいで張り詰めていた精神の箍がゆるんで、疲労が一気に噴き出してきた
ようだ。
 思えば、大気圏上でのガンダムとの勝負と無茶な大気圏突入で地球に戻っ
てきてから、まだ半日も経っていないんだよな。自分でも気づかないうちに
かなり疲労が蓄積していたのか。不覚だな。
 レナンに周囲の警戒と機体のセルフチェックを命じて、私はシート右横に
あるメディカルボックスを開け、強壮薬のピストル型無針注射器をだし、左
肘の血管に押し付け射ち込む。
 あぁ、薬液が染み渡る。
 戦場だろうというのに妙に気が抜けた私の視界に、鉄人28号がグライアの脚
に蹴たぐりを食らわして転倒させ、なおかつその脚をつかんで豪快にジャイ
アントスイングを決めている勇姿が映った。
 私のゲシュペンストであんなことやったら、まずコックピットの中の私が
目を回してダウンだな。
 あ、もう一機にグライアが旋回を続ける鉄人に斬りかかろうしている。け
ど、その敵が見えているのか鉄人はその斬りかかってきたグライアに向けて
振り回していたグライアを投げつけた。
 激突! そしてふっとぶ二機。豪快だ。
 それにしてもカネダさん、『場』の把握が凄い上手い。鉄人が戦場のどの
あたりに居て、敵がどのあたりからくるのかを完全に見切っているし。
 そこまで考えて気がついた。鉄人は無線操縦なんだ。だから無人機ならで
はの無茶な機体操縦も可能で、尚且つ離れたところからの操縦だから鉄人の
周りにも注意がいくのか。
 そういうメリットも無人機にはあるんだな。
 一方、私の無茶な頼みで空へあがった甲児さんは・・・・・・
 レナンにモニターさせると、上空五百メートルほどで超小型機ならでは
の旋回性能を発揮して、四機ほどのランドブースターを撹乱してくれている。
でも武装が悪いけど貧弱なので、撃墜までにはいたっていないみたいだ。
「甲児さん、下は片付けましたから戻ってもらって大丈夫です」
 強力強壮剤のおかげで身体が火照ってきた。疲労感もだいぶ和らいできてくれ
た。じゃあダバ君の応援にいこうかと、私は自分の頬を叩いて気合を注入す
る。
 と、甲児さんからは叱声が飛んできた。
『リンか、それどころじゃないぞ、ボスのほう見てみろ! 増援が出てきて
いるぞ!』
 え、増援? 甲児さんからの通信に私は一瞬ポカンとしてしまったが、あ
わててその増援というのを捜す。
 ・・・・・・居た、着陸していた大型輸送艇から敵機らしい機体がワラワ
ラと出てきている!
 HMか、タイプ照合、アローンとかいうタイプの量産機が五機のグライア
が一機、計六機か。
「わかりました! 私はこの増援のところに向かいます!」
 しかし、なんてタイミングで出してくるんだ、敵は! 戦術も知らない奴
が指揮官なのか?
 最初から敵があの兵力を出していたら、きっと戦況はもっと不利になって
いたはずだ。地下に降下した研究所施設に侵入を許していたかもしれない。
つまり敵は勝機をまんまと逃していたのだ。
 敵のことながら不甲斐なさに腹が立つ! 私はなめられていたのか!?
『俺は、このまま隼人さんがくるまで上で頑張るからよ。ボスのほう任せた
ぜ』
「ボスさんが、もう行っているんですか?」
 カネダさんに空のマジンガーの護衛をお願いして、私はゲシュペンストに
リスタートをかける。
 ボスさんの素早い対応、ちょっとビックリだ。
『もう行くもなにも、アイツ大物狙いで最初っからあっちに行ってたみたい
だぞ。輸送艇の蓋が開きそうなのを必死で塞いでいたらしいけど、駄目だっ
たんだな。さっき情けない声で俺んトコに泣きついてきたぜ』
 ・・・そうか。敵は出なかったんじゃなくて、出られなかったのか。
 ボスさん、凄い! この戦いでの一番の功労者かもしれないぞ。見なおし
ました!
「わかりました! 私は敵増援の方に向かいます。甲児さんはマジンガーに
再ドッキングできたら、ダバ君の手助けお願いします!」
 するとそこに割り込み通信が入った。えっと、さやかさんからだ。
『甲児くん! マジンガー借りるわよ!』
 さやかさんの甲高い声が響く。マジンガー借りるって、さやかさん、何す
る気だ?
 先ほどマジンガーが出てきた格納庫の扉が開くや、赤い超小型VTOLが
飛び出してきた。え、あれもパイルダーだぞ?
 あ、そうか。甲児さんたちジェットパイルダーの他に自分達の脚用にって
ホバーパイルダーも持ってきていたんだっけか。
『え、おい、さやかさん!?』
 甲児さんの困惑も無視して、さやかさんは『パイルダーオン!!』とマジ
ンガーZの頭部にドッキングしてしまった。
『リン! 異星人の人たちのサポートは任せて! 久々にいくわよぉ~、Z
!』
『ちょっと、おい、さやか! さやかさぁ~~ん!』
 出番がなくてストレスでも溜まっていたのだろうか。嬉々としてマジンガ
ーを走らせて行く。
 さやかさん、いきなり出てきてマジンガーかっぱらって行っちゃった。
 思わず呆然とする私と甲児さん。
『俺こいつらの相手終わったら、何すればいいんだよ?』
 上空で相変わらず四機のランドブースターから逃げ回っている甲児さんも
当惑気味だ。
 そこに再び割り込み通信。
『甲児くん、もう引っ込んでお茶でも飲んでいていいぞ』
『私たちに、お任せくださいですぅ~~♪』
 イヤミなくらいクールな声と、お花畑がみえそうなくらい脳天気な声が重
なった。
 ゲッターGがスタンバイ完了したみたいだ。
 また新たに格納庫の扉が重々しくスライドしていく。
 そして飛び出してきた3機の特異なフォルムを持った戦闘機! ライガー、
ポセイドン、ドラゴンの順で。
 いろいろ諸説分かれるけど、私がこの地球で一番の性能をもつと思ってい
るスーパーロボットの登場だ。
『チェンジ、ライガー!!』
 そのまま急上昇を駆ける三機のゲットマシン。隼人さんの掛け声とともに
その各ゲットマシンが重なるや・・・・・・
 瞬きする間に、蒼い流線型のフォルムをもつロボットが完成していた。そ
してライガーは背中のロケットバーニアを開いて凄まじい勢いで上空を飛翔
というより滑空していく。
 あ、また見惚れてしまった。
 甲児さんの周りをまとわりついていた四機のランドブースター、そのうち
二機はライガーが傍を通過しただけで羽根などがもげて、そのままグルグル
と墜落していった。   
 そしてライガーは空中で信じられない急停止をかけ、まるで宙で何かを蹴
ったかのよな凄い角度の方向転換をし更に残り二機を狙う。
『うわぁ、あぶねぇな、隼人さん!』
 ソニックブームに煽られて独楽のようにクルクル回っているパイルダーか
ら甲児さんの悲鳴混じりの声がした。よく墜落しなかったな。
 いきなり現れた最非常識ロボットの登場にいまだに回避運動もとれないラ
ンドブースター二機の合間を一瞬にしてすり抜けたゲッターライガー。
 そのままの勢いで着地し、地面を削るようにして止まったと同時に、宙で
起こる二機の爆発。決まりすぎだ。
『ふっ・・・・・・ 甲児くん、腕がなまっているんじゃないのか?』
 どこまでもクールに言う隼人さん。甲児さんも多少ムカッとは来たみたい
だ。通信に映る顔の目のあたりが多少釣りあがっている。
『リンちゃんリンちゃん、大丈夫ですかぁ~』
 そして今回ポセイドンに搭乗中脳みそお花畑娘から通信が入った。何気な
くその映ったモニターに目を移すと・・・・・・
 シートから思わずズレ落ちるほどコケてしまった。
「ぐ、ぐ、グレース・・・・・・ そのカッコは?」
 うめく様にそう口にする私。グレース、どこに用意していたのかソフトボ
ールのキャッチャーでもやるような格好をしていたのだ。
『えへ♪ こんなこともあろうかと、ちゃんと弁慶さんバージョンも用意し
てたんですよ、似合うでしょ?』
 どうやら、今度はポセイドン操縦となるから弁慶さんみたいな格好をして
いるというらしいが・・・・・・
 この娘、どうやってこんなモン用意したんだ?
「で、グレース。ポセイドンはどうなんだ、操縦できそうか?」
 気を取り直してグレースに訊く。すると彼女、身を乗り出すようにして嬉
しそうに説明してくれた。
『すっごいんですよ、このゲッターGちゃんって。ゲッターロボよりずぅ~
~~っと操縦しやすいんですぅ♪』
『Gはゲッターでのノウハウが活かされていて、操縦系が向上しているんで
な』 
 グレースの喜びの言に隼人さんの簡単な解説が続く。 これは意外だ。
Gの方がゲッターロボより操縦しやすいのか。 
『リン、和んでいないで増援の方を片付けるぞ』
 隼人さんの軽い叱責で思い出す。そうだ! 急がないとボスさんのボロッ
トがスクラップに逆戻りだ。
「了解しました!」
 そして私が気合をいれて操縦レバーを握りなおした時だった。

 ゾクッ!!

 今までに経験したことのないくらい、純粋な『恐怖』が私の全身を貫いた。
身体が金縛りにあったようにピクリとも動かない。
 ・・・・・・なんだ? どうしたんだ!?
 突然の『恐怖』に思考も一瞬にして真っ白になる。
 ほんのわずかに残った理性の断片が、その『恐怖』の発信源を探そうとす
る。
 いや、私にはわかっていた。
 それはすぐ傍にきているのが・・・・・・

 -第八話 Bパートへ-

 【後書き】
 鉄人無双中。鉄人の材質は知らんのですが、何か硬そう
なんで、こういう扱いになってます。しかし、武器のないロボット
は書くの大変です。



[16394] F REAL STORY  第八話 Bパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/21 23:11
 爆発が起こった。場所的にはポセイダル軍の大型輸送艇のあたりだ。きっ
とその輸送艇が何者かによって破壊されたのだろう。
『か、兜ぉ~~~~~!!! リン~~~!!! た、た、助けてくれぇ~
~~! あんぎゃ~~!』
 ボスさんの悲鳴そのものの通信が入って、身体がビクンと反応する。
 まだレバーを握る手が、いや身体全体が小刻みに震えているし、冷水をぶ
っ掛けられたかのように汗が全身を濡らしている。
『ボスボロットに何が起きた!?』
『なんかヤバイ気がするぜ・・・』
『ふぇ~、なぜだかグレース、鳥肌たってますぅ~・・・・・・』
 立て続けに皆から通信が入ってくれたおかげか、私の彼岸に逝きかかった
意識がかなりこちらに呼び戻された。
 しかし、返信を入れようにも、喉から上手く声が出ない。まるで幼い時の
失語症が再発したみたいだ。
 ちくしょう! どうしたんだ私は!?
「あ・・・・・・」
 何かを喋ろうとしたのか、口から声が少し出た。声は出せる、ただ私が近
づいているソレに負けてしまっているのだ。
 いや、まだ負けたわけじゃない! 戦っていないのに負けてたまるか!!
「う、う、う、うわぁ~~~~~~~~!!!!」
 身体中の空気を全部搾り出す気で、思いっきり叫んだ! 出る、声は出るぞ!  
「うわぁ!? なになに?」
 私の絶叫にシート後ろで目を回してしたアムが飛び起きた。    
「はぁはぁはぁ・・・・・・ すまないアム、ちょっと気合を入れてた、レナン、
なにが近づいているんだ!?」
 身体を蝕んでいた恐怖はまだくすぶっている。でも、身体は動く、声も出
る! 負けてられるか!
 レナンに近づいている物体の走査を命じると、一瞬、妙なことが起きた。
【敵:使徒確認】
 そんな表示が瞬きする間だけ現れて、すぐに消えてしまった。その後、
【正体不明物体:接近中】
 という表示が現れその【正体不明物体】とやらの観測データが表示された。
 なんだったんだ、さっき一瞬現れた【使徒】って表示は?
 釈然としないが今はゆっくりと近づいてきている敵のことを調べるのが先
だ。次々と現れる情報に集中する。
 モニターに点のように姿をあらわしたソレを即座に拡大する。
 ・・・・・・・・・
 なんだ、アレは?
 空飛ぶオタマジャクシ? いやプラナリアか?
 全長八十メートル前後。飛ぶ、というより宙を漂うって感じでソレはこち
らに近づいてきている。
 この私に迫るプレッシャーがなかったら、なにかの冗談かと思ってしまう
光景だ。
 でも、あれがいつの間にか現れて、瞬時に数台のHMと大型輸送艇、オマ
ケにボスボロットを破壊したのは間違いない。
『・・・・・・なんだ、アレは?』
 隼人さんもさすがに絶句しているようだ。しかもあの人の声に緊張が感じ
られる。
『う~、怪獣さんじゃないでしょうか~?』
 グレースもグレースなりに緊張しているのが長い付き合いのおかげで分か
る。
『これは、やべぇぞ! さやかさぁ~ん、マジンガー返してくれ!』
 甲児さんは本能的に危険を察知したのか、ダバ君やレッシィが戦っている
ところに割り込んださやかさん操るマジンガーZを取り返しに向かった。
 そしてカネダさんが、最後に呟くように言った。
『もしかして、アレが【使徒】なのか・・・・・・?』
 【使徒】!? カネダさんは確かにそう言った。いったいなんだソレは?
カネダさんは何か知っているのか? 
「リン、あれって地球の原住生物か何かなの? すっごいヘンな生き物じゃ
ない?」
 後ろから身を乗り出して暢気に訊いてくるアムが羨ましく恨めしい。
「アム、お前は地球をなんだと思っているんだ?」
「いや、だってゲッターロボとか造る星だから、あのくらい居てもおかしく
ないかなぁって・・・・・・」
 無茶苦茶な判断基準だぞ、それは・・・・・・ 
『リンさん、すいません。いったん下がらせていただきます!』
 さっきの使徒って言葉の意味を訊こうする前に、カネダさんが格納庫に下
がって行ってしまった。
 鉄人も先ほどせり上がってきた場所に自動的に歩いていくと、そのままゆ
っくりと格納されていく。
 何か、訊きそびれてしまった。
 謎の生物との距離はおよそ1キロほどになった。すると、どういう原理で
飛んでいるのかわからないそれが空中で停止する。
 来る! どう言う手段で攻撃してくるかわからないし、それ以前に何者な
のかもわからないけど、これだけはわかる!
 アイツは敵だ! それも人類全体の!!



-テスラ=ライヒ研・臨時作戦本部こと所長室では-

 カレン=スターロードはモニターに映るそれを見つめながら拳を震わせて
いた。
「なにが使徒は第二新東京シティにしか来ないよ! なにがその為のネルフ
ですよ、あの陰険オトコ!!」
 不必要なまでに広いこの部屋に、今いるのは怒れる美女カレンだけだ。彼
女はどこにぶつければいいかわからない怒りに全身を支配されている。
 彼女の前には巨大なFWが像を結んでおり、そこには五分ほど前に何の予
兆もしめさず突然現れたあの大型生命体が映し出されている。
 ただ、カレンの前に映し出されているFWにはリンのゲシュペンストに映
し出されている映像とは違いある表記がその映像にはされていた。
【4th ANGEL】
 と・・・
『所長代理、カネダです!!』
 先ほど戦線を離脱したショータロー=カネダから連絡がカレンのもとに入
った。
「ちょうどよかった、カネダ君。私は十五年前実際に見ていないからイマイチ
わからないんだけど、アレが使徒なの?」
 腕をくみ、指で自分の肘をトントンと叩きながら、カレンは映像から目を
離さず訊く。
『わ、私も十五年前のあの時、鉄人の目を通してしかみていませんが、この
得体の知れない圧迫感は、まず間違いなく・・・・・・』
 そこでカネダは言葉を飲み込んだ。思い出した記憶の恐怖に飲み込まれた
かのように。
「カネダくん、ブラックホールキャノンの用意をしておいて」
 呟くように言ったカレンの言葉に、通信越しでもわかるくらいカネダの驚
愕が伝わる。
『所長代理、いけません! まだブラックホールキャノン制御コンピュータ
ーは未成熟です! あれが大気圏内で暴走したら・・・・・・』
「私が出るのとどっちがマシ?」
 そのカレンの言葉に絶句するカネダ。わずかな沈黙の後、カレンが続けた。
「でもね、使うとは限らないわよ」
 カレンの言葉は先ほどまでとは打って変わって、楽しげに響いた。彼女の
前には新たなFWが複数現れている。そこにはライガーからチェンジしたゲ
ッターポセイドン。そして甲児へと再び操縦者がバトンタッチしたマジンガ
ーZ。新たな敵の出現に、争いを止めたエルガイムとバッシュ。そして彼女
の愛するリンが操縦するゲシュペンストの姿が映っていた。
「この面子なら、あのヒゲヤローが言ってた使徒は何とかじなきゃ倒せない
って言うの、覆せるかもしれないしね」
 

-ゲシュペンスト コックピット-

『行くぞグレース!』
『はいです!』
 謎の飛行物体が胴体部分をゆっくりと接地させている。さっき出た表示の
意味はよくわからないけど、仮称が必要なのでこれからはアレを【使徒】と
呼ぶことにした。
 隼人さん率いるゲッターチームがまず仕掛けた。
 ライガーが一瞬ゆがんだかと思うと、頭部のライガーが外れすぐさまドラ
ゴンの下部に回りこみドッキングした。
『チェンジ、ポセイドンですぅ~♪』
 そして姿をあらわしたのはゲッターポセイドン。メインパイロットがグレ
ースなのがちょっと不安だ。
「・・・・・・リン、あれって何? ゲッターロボ以上にショック受けたわよ、あ
たし」
 後ろに居た異星人の娘は、ゲッターGの合体シーンを目の当たりにして心
のキャパシティを越える衝撃を受けたらしく、少し静かに訊いてきた。
「あれが本来のゲッターチームの乗機、ゲッターロボGだ」
「ゲッターロボ、G、ね・・・・・・」
 私達からみると、ポセイドンの勇壮な背後、その先に不気味に立ち上がっ
た使徒ってロケーションになっている。
 先ほどまでのメカメカしい戦闘とは打って変わった雰囲気になってしまっ
た。でも、これはゲッターやマジンガーZにはマッチしているかも。
『いくです、ストロングぅ~ミサイル!!』
 桁外れに大きいミサイルバックをポセイドンは抱え上げた。それを使徒に
向かって投げつける!
 使徒は・・・・・・ まったく反応を示さない。
 そのまま避ける素振りすら見せなかった。そのまま呆気なくストロングミ
サイルが使徒に命中した。
 !?
 命中の瞬間、何か見えたぞ!?
 そして上がる爆煙。予感はあったので、私は驚かなかったけど、後ろの観
客からは驚嘆の声が上がった。
「ぜんぜん、効いてないじゃん。あのヘンなのってば」
「レナン、バリヤーの類か?」
 一瞬、私の目にも確認できたあの多重八角形、それがミサイル命中の瞬間
に使徒の目前に展開し、通常弾としては最高規模のミサイルの威力を防いだ
のだろう。
【防御シールドのようなモノの展開を確認:エネルギー、原理、共に不明】
 当たりだ。しかし、バリヤー展開なんてアイツは生体じゃないのか? あ
あ見えてロボットなのだろうか?
『う~、生意気ですぅ~』
『見掛け倒しじゃないようだな。グレース、どんどん攻めろ』
 ゲッターチームの方もミサイルを防がれたという精神的ダメージは皆無の
ようだ。
 それに、私を蝕んでいた恐怖も、今はかなり薄れている。澱のように心の
どこかに残っているけど、戦えないほどじゃない。
「私もそろそろ攻めるぞ。アム、今度は振り回されなよ」
 セルフチェックも終了した。左マニピュレーターが可動不能になっている
以外はオールオッケー。ライフルの銃身冷却も終了した。  
「了解! 頑張ってよね、リン」
 アムがシートにしがみつく気配がした。この娘が同じコックピットに居て
くれるから、私は強がれるんだろうな。
 でも、攻める、と言ってもどうやってだ? あのバリヤーってはゲシュペ
ンストのライフルの対艦モードで破れるだろうか?
 使徒は、動く気配らしきものがまだ感じられない。ムカツク。
『ゲッターサイクロンですぅ~~~!!』
 巨大竜巻発生装置、ゲッターサイクロンが発動した。ポセイドンの首回り
のファンが唸りを上げ、生じた竜巻が使徒に怒涛の如く叩きつけられた。
「なにぃ~~!」
「うっそぉ~!」
 今度はさすがに驚いた。今度は肉眼で確認できるほどの多重八角形が、竜
巻すら弾いているのだ。しかも、八角形の向こうの直立プラナリアは、ピク
リともしていない。
『リンさん!』
 ダバ君のエルガイムとタレ目男の鬼面HMが連れ立って滑走してきた。
『アレはいったい何なのだ!?』
『地球の原住生物ですか!?』
 初対面のモノに向かってえらそうにモノを訊ねるタレ目男は無視して、ア
ムと同じ誤解をしてくれているダバ君に答える。
「あのな、ダバ君。君達はいったい地球を何だと思っているんだ? あんな
不気味な生き物、地球の動物図鑑に載ってないぞ」
 私の呆れたような口調にダバ君は恐縮したようだ。
『す、スイマセン。マジンガーZやゲッターロボがある星だから、あの位い
てもおかしくないかなって・・・・・・』
『ええ~い、答えろ木っ端娘! アレは何なんだ! なぜ、我々にまで攻撃
を加えてきたのだ!?』
 ダバ君との会話に割り込んできたタレ目男。このオトコなりに先ほどやら
れた部下の心配でもしているのかもしれないが・・・・・・
 カチンと来た。
「誰が、木っ端娘だ!! このタレ目男!! 顔にもっと締まりってモンを
見せろ!」
 勢いに任せて怒鳴りつける。
『た、タレ目とは何だ、タレ目とは!! 貴様はこの私を侮辱するのか!?
ことと次第によっては婦女子と言えども容赦はせんぞ!』
「やれるモンならやってみろ!! 貴様が十人いたって私には勝てんぞ!」
 売り言葉に買い言葉。私は頭に血が一気に上ってしまった。アムが後ろで
ドードーと言っている。私をなだめているつもりなのだろうか?
『リンさん、落ち着いてください。ギャブレット、お前もだ!』
 ダバ君の一喝でピタっと止まる低次元な言い争い。し、しまった。私は何
をやっているんだ。
「あ、あの生き物の正体は分からない。でも、見えているだろうけど、あの
生き物、妙なバリヤーを張っていてあの通りだ」
 照れ隠しに咳払いして、私はダバ君に大まかに事を説明する。何時の間に
かポセイダル軍とは休戦になったみたいだ。
 ゲッターサイクロンの竜巻は今だ使徒に叩き付けられている。多重八角形
にを張った使徒には今だ動きはない。
 いや、微妙な変化はある。バリヤーのような八角形がわずかだけど揺らい
でいるのだ。
『うぅ~、もうモーターが限界ですぅ~』
 グレースが泣き言を言い始めたが、隼人さんは無言だ。なにかを見極めよ
うとしているのだろうか。
「レナン、対艦モード、フルチャージ!! グレース、あと十秒持たせろ!!」
 ペダルを踏んで使徒を攻撃しつづけるポセイドンの側面に回りこむ。
 スパイクOK、チャージ完了!
 ターゲットスコープをシート脇から引っ張り出し、中の十字を覗き込む。
 とりあえず、狙いは妙に気になる胸の球体あたりにつけた。
「いっけぇ~~!!」
 フレームが軋むような衝撃がコックピットにも伝わった。
 光の奔流が使徒に向かう。
 ぞくぅ!!
 悪寒が身体中を走った。ヤツの【意識】が私に向いた。 それが確かに感じ
られた。
 間違いない、こいつは【生命体】だ。
 ゲッターサイクロンに対して張りつづけた多重八角形が広がった。そして
命中寸前のビームの光条を遮る。
 あのヤロー、二種類のまったく違う攻撃を同じバリヤーで防ぐか!? 
 オマケに私のゲシュペンスト最大の攻撃にゲッターサイクロンを加えても
あのバリヤーは破れないのか!
 だけど、あることがはっきり確認できた。ビームが命中した時、八角形が
今にも破れんばかりに大きく揺らいだのだ。
 あのバリヤーにも攻撃を受けられる限度があるのだ。
 しかし、その限度が半端じゃなく高いらしい。
『グレース、俺に代われ! リン、甲児くんが来るまで散開して次の攻撃の
準備をしておくんだ! タイミングを合わせて三機で一斉に攻撃をかける!』
 ポセイドンが分離して、再びライガーにチェンジする。
 私もかませていたスパイクを外し、いったん使徒と距離をとる。さっきか
ら私の中でチリチリとした何かが感じられて、妙に不快だ。
 マジンガーZがドスンドスンと地響きを立てて近づいてきた。
 さぁ、コイツはどう出る・・・・・・
 胸の両横にある触手みたいのが、わずかに光を放ち始めた。
 来るのか・・・?
『リン、聞こえる? こちら弓さやか!』
 突然、さやかさんから通信が入った。マジンガーを甲児さんと変わって、
この人は今どこにいるんだろうか? 
「さやかさん、どうしたんです?」
 気だけは動きを見せ始めた使徒に集中しつつ、通信に応じる。
『気をつけて! いまボスのところに来ているんだけど、ボスボロット、切り刻ま
れているわ!』
 通信装置の規格の違いと、大気中に漂っているミノフスキー粒子のせいで
通信状態は良好とは言えないが、さやかさんが通信で知らせてくれた事の意
味は大きい。
 ヤツの攻撃は切断系か。じゃあ、あの光っているのはビームサーベルみた
いなものか?
『行くぜ、バケモノ!! マジンガーZが相手だ!』
 マジンガーZが戦闘エリアに到達。腕を突き出す。
『アイアンカッター!!』
 ゴッツイ刃が現れ、それと共発射されたマジンガーの左腕!
 そしてそれに呼応するように隼人さんのライガーも動いた。凄まじいスピード
でマジンガーがアイアンカッターを放った正反対の位置につき攻撃を仕
掛けた。
『チェーンアタック!』
 左腕の蕾のような部分が、発射された! そのスピードはマジンガーのア
イアンカッターに劣るものではない。
 上手い、隼人さん。これなら反応が遅れるはずだ。それにこれなら妙なバ
リヤーで弾かれても連続攻撃につなげられる!
 だが・・・・・・
 何かが使徒の懐で閃いた。そして次の瞬間私が見たものは・・・・・・
 使徒から伸びた光る鞭のようなモノに串刺しされたマジンガーの腕と、鎖
を切り落とされ、地に落ちたライガーの左腕だった。
 なんだ、あの常識外れのスピードは?
 さやかさんが教えてくれたのはいいけど、あれじゃ反応できませんって・・・
『ちぃ! 甲児くん、リン、ダバくん、接近戦を仕掛ける!! 援護してく
れ!!』
 しかし隼人さんはすぐさま次の手をうつ。私も呆けてないで見習え!
「了解!」
『おう!』
『わかりました!』
『な、なんだかわからんが、承知した』
 私や甲児さん、ダバ君に勢いにつられたギャブレーまで加わって、使徒に
攻撃を開始する。ダメージを与えるのが目的じゃない。ライガーの援護だ。
『ドリルミサイル!!』    
「スプリットミサイル!」
 あ、甲児さんにつられて私まで武器の名を叫んでいる。
 使徒前面に向け、小ミサイルとダバ君とギャブレーのパワーランチャーや
Sマインが雨アラレと降り注ぐ。
 予想通り使徒は前面にバリヤーを展開した。そしてライガーが視認不可能
な超スピードで背面に回りこむ。
『ライガァーーーードリル!!!』
 ライガーが背後からゲッター必殺のドリル攻撃を加えた。どうだ!?
 ち、背面にもバリヤー展開を確認。ライガーのドリルも防いでいる。
『まだまだぁ! アイアンカッター、もう一丁!!』
 残る右腕を繰り出すマジンガー。よし、これにゲシュペンストのビームラ
イフルを最大出力で繰り出せば!
 スパイクを噛ませライフルのエネルギーチャージを!
 その時、アイアンカッターとドリルを食い止めていたバリヤーが消えた。
そして瞬きにも満たない光の閃きのあとに私が目にしたのは。
 無残にも縦に切り裂かれたマジンガーの右腕と、間一髪で光の鞭の追撃を避
けつづけているライガーの姿だった。
 あの鞭はこうも簡単に超合金ニューZを切り裂けるのか? あれは、
地球人が作った中では、もっとも硬い合金なんだぞ?
 光の鞭はマッハと言うスピードで、あの鞭の攻撃をさけることが出来たよ
うだ。
 マッハスペシャル! 追撃を続ける光の鞭はライガーの移動後に出来る残
像に攻撃を加えることしかできない。
 そしてある程度の距離を離したところで、その鞭の攻撃が止んだ。   
 あそこまでが、鞭の範囲とみていいのか? 
 自分の勘を信じてレナンに計算を命じておく。あの鞭の有効範囲に入った
ら警告を鳴らすようにセットもしておこう。
 するとすぐに警告音が!
 まさか、ここも鞭の有効範囲なのか!?
「ダバ君! タレ目男! 甲児さん、引いてください! 鞭が来ます!!」
 悲鳴を上げるように皆に知らせる。私も急速後退だ。残念だけど私では、
あの鞭の攻撃に反応することも出来ない、鞭を振るわれたらお終いだ!
 超合金ニューZをも斬り裂く、あの光の鞭の前じゃゲシュペンストの装甲
など紙も同然だし。
『わかりました!』
『誰がタレ目だ!? 木っ端娘!』
 エルガイムとバッシュは私の警告にしたがって引いてくれたけど・・・・・・
 甲児さん!!
 私は我が目を疑った。甲児さん操るマジンガーが敵に向かって逆に向かっ
ていったのだ。
「甲児さん、危ないです!!」
『黙ってみてろ、リン! マジンガーにはマジンガーの戦い方があるんだ!!』
 声の迫力に思わず気圧される。で、でもマジンガーZは手がないんだぞ。
 死ぬ気なんですか、甲児さん!?
 また、光の鞭が閃いた。
 そして、次の瞬間、私が見たのは・・・・・・
 あぁ、マジンガーZの左胸と腹を光の鞭が貫いている・・・・・・
「甲児さん、甲児さん!!」
 私はライフルを構える。効かないと分かっている攻撃だけど、やらずには
いられない。甲児さんを見殺しに出来るか!
『・・・・・・かかりやがったな。マジンガーZ、フルパワー!!!!』
 甲児さんの雄たけびが轟く。そしてマジンガーZは何と、光の鞭に貫かれ
たまますごいスピードで前進を開始したのだ。
 そしてマジンガーZの胸の発熱プレートが灼熱する。
『ブレストファイヤーーーーーーーーー!!!!』
 赤熱の溶解光線が使徒を襲った。また八角形が浮き上がりブレストファイ
ヤーをも跳ね返している。
 でも!!
 来た、チャンスが!
「隼人さん、グレース!!」
『あぁ。甲児くん、よくやった!』
『はいですぅ~!』
 ライフルエネルギーフルチャージ、これで撃てなくなっても構わない!
 銃身からこぼれ出さんばかりのエネルギーが溜まって行く。リミッターも
解除したから今までゲシュペンストが放ってきたビームの中で最大の光条が
発射されるはずだ。
 そしてゲッターライガーはオープンゲットで分離して、再び三つが一つに
なる。
『チェンジ、ドラゴン!』
『スイッチオンですぅ~~♪』
 姿を見せたのは赤い巨人、ゲッタードラゴン。きっと隼人さんの操縦だろ
う。
 マジンガーZはブレストファイヤーを放ちながら、まだジリジリと前進を
続けていた。そしてついにあの八角形のすぐ前まで辿りついた。
「いきます!」
『おう、マジンガーZの底力、くらいやがれぇ~~~~~~~!!』
 ターゲットスコープを覗きながら、私はゲシュペンストを疾走させる。少
しでも近づいて、ヤツに全エネルギーを食らわせてやる!
『マジンガーZ、フルアタァーーーーーーーーック!!』
 マジンガーZから、光子力ビーム、冷凍ビーム、ルストハリケーン、ドリ
ルミサイル、そしてブレストファイヤーが一斉に発射された!
『ゲッタービーーーーーム!』
 ゲッタードラゴンからはゲッターロボの十倍の威力を持つというゲッタービー
ムが額からはなたれる!
「いっけぇ~~~、リン!!」
「これで、終わりだぁ~~~~~~!!」
 興奮したアムの歓声に後押しされて、私はトリガーを押す。
 スパイクを噛ませていなかったので反動で機体が後ろに押される。でも、
この狙いは絶対外すわけにはいかない!
 脚にかかる無茶は承知で、その場に踏みとどまる。膝の関節が壊れたみた
いだけど気にしていられるか!
 死力を尽くした私達の攻撃が使徒に叩きこまれる。これで効かなかったら
嘘だ。
 八角形のバリヤーが弾けて消えた!
 ふざけた形の本体に破壊エネルギーの奔流が叩きこまれて行く。

 そして、数百メートルにも及ぶ爆煙が巻き起こった。

 マジンガーが立ちあがる黒煙から崩れるように抜け出してきた。
 あの鉄の城もボロボロだ。
 それに私のゲシュペンストも、あっちこっち故障しちゃった。 
 右膝の間接がいかれたし、ライフルの熱量に耐え切れなかったのかセンサー
系も軒並みいかれてしまったし。
 まぁ、あんなに無茶なパワーで発射したニュートロンビームライフルは回
線も焼き切れずに無事だったのは、不幸中の幸いかな。
 私はこの時、すっかり気を抜いてしまっていた。
 もう、あの使徒を倒せた気でいたのだ。

 しかし・・・・・・

「リン! あれ、あれ!?」
 アムの悲鳴まじりの声に、気の抜けていた意識が覚醒する。
 まだ、立ち上る黒煙の中から、あの光る鞭のようなモノが悪夢のように生
え出てきたのだ。
「ま、まさか?」
 思考が真っ白になる。
 その鞭が崩れ落ちたマジンガーZを貫いて持ち上げても、私にはそれが現
実の光景に見えなかった。
 マジンガーZが、まだ地上に残っていた格納庫施設郡に放り投げられた。
凄まじい音がしてマジンガーが格納庫を壊していく。
 黒煙の中からゆっくりと、使徒が姿を表した。
 ところどころ焼け落ちて、グロテスクな姿に変わってはいるが、アイツは
健在だ。
「リン、リンってば!!」
 シート越しに思いっきり肩を揺さぶられ、私はようやく現実に立ちかえっ
た。
 所々溶けて、いまだに身体中から煙を吹き上げている使徒が、ゆっくりで
はあるが、こちらに近づいてきているのだ。
 まずい! 呆けている場合か、私。
 レバー、ペダルをガチャガチャと動かすが・・・・・・
 反応がない。右腕だけは動くけど・・・ 脚部系統はほとんど死んでしま
ったようだって・・・ どうするんだよ私!?
 使徒はゆっくりと近づいてくる。
 血の気がサァーっと引いていくのがわかった。
 動けないゲシュペンストの中、私は間近に迫る形を持った悪夢に、ただ純
粋に恐怖した。

 -幕間へ-

 【後書き】
 使徒が登場。しかも第四からです。この使徒戦、たしかこの頃読んだ
どっかのスパロボSSで、使徒が二十行足らずでやられたのを読んで、
「そんな簡単に倒せるわけねえだろう!」と思って書いた記憶があります。



[16394] F REAL STORY  幕間
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/04/24 22:58
 地球連邦軍軌道守備艦隊、通称『88艦隊』。その艦隊に表向き所属しているコロンブス型輸送艦改『シモン』には
ある特命を帯びた降下兵型MS2個小隊が常駐していた。
 そのMS部隊は地球上のとある施設が何らかの敵対勢力に襲撃されたと確認された場合、その敵対勢力の即時殲滅、
およびその施設の破壊、という二つの特命を帯び、延々と軌道上で待機を続けてきた。
 そして部隊創設以来、初の出動がかかった。
 その時のために選りすぐられた精鋭MSパイロット達が、即座に与えられている任務を遂行すべくジェガン降下兵
カスタムに搭乗し、その施設『第3ニュータイプ研究所』へと降下作戦を開始した。
 大気圏突入を果たすと、上空8000メートル地点で多弾頭ミサイルを全機発射した。
 2×8のミサイルが地上500メートル地点で分裂し、小型ミサイルを雨のように降らせ、施設内の建物を問答無
用で破壊していく。
 そのパイロット達には軽い洗脳処理でも施されているらしく、まだ残っているかもしれない研究員たちのことなど
一片も思い出さずに、忠実に任務を遂行していく。
 2連大型スラスターとパラシュートで減速をしながらも、実弾ライフルを8機が見事なフォーメーションで順繰り
に放っていく。
 8機が地上へ着地した時には、第3研究所の建物は全て瓦礫と化していた。その8機は油断なく、この研究所へ潜
入したはずの敵勢力を探す。
 ロストしてしまったが、上からの記録では30メートル級のロボット兵器がいたはずだった。
 だが見当たらない。パイロット達はそのロボットが地面の下に潜っているというところまで、まだ考えがいたらな
いようだ。

「デュオ~~、行くわよ!」
「了解、死神さまの実力、みせてやるぜぇ!!」

 そしてその降下兵部隊は、自ら築いた廃墟の中で全滅することになる。


『αリーダー、こちらα3、敵該勢力、発見できません』
 油断なくライフルを構えるジェガン降下兵カスタム一機が、ちょうどパット&ミーナが潜っている真上30メート
ルあたりを歩いていく。
 テスラ=ライヒ研謹製らしい地中ソナーはかなりの高性能で、地面の中でも音によって敵八機がどこにいるとかを
しっかり教えてくれていた。
「今よ、パット!」
 ソナー用ヘッドホンに耳をあてていたミーナが、頭部コックピットで手ぐすねひいている熱血娘パットに知らせる。
「了解! げったぁ~~アリ地獄~~!!」
 地面の中でドリルを突き上げ、そのままフルパワーで地面を攪拌する。
 もとが砂漠状の土地に造られた施設だけあって、地面は下からのドリルの回転振動によってあっさり崩される。そ
して、一機のジェガンがその上に居てどうなったかと言うと。
『こ、こちらα3、じ、地面が! ま、まるで、アリ地獄のよう、うわぁ~~~!!』
 悲鳴そのものの通信を残して、α3のコードをもつ機体は地中に引きずり込まれた。地面の下からはバキィゴキィ
と耳を覆いたくなるような破壊音がすると、手足頭部をもぎ取られた機体の残りだけ、ポイッって感じで地上に放り
出された。
 異常を聞きつけた僚機2機がその場に駆けつけた。そして胴体部のみになってしまったジェガンを発見するや油断
なくお互いの背をあわせ全方位警戒を行いながら、αリーダーに状況を報告する。
『こちらα2! 敵はどうやら地中にいるようです!!』
『地中だと!?』
 αリーダーの声が思わず上擦る。地中を移動する能力をもつ敵、きっと地球上でいまだ暗躍を続けるヘルDCの機
械獣の類だと思われる。MSで相手にするには明らかに不利な相手だ。
『全機地中からの攻撃に気をつけろ! 瓦礫の上に乗れ! バーニアを吹かして飛び続けろ! 敵は多くないぞ!』
 実戦経験豊富なαリーダーから各機に号令が飛ぶ。このリーダーの判断は的確と言えるだろ。ただし、それはまと
もな敵相手の場合だ。
『α2、りょうか、なにぃ!?』
 リーダーの返答をしようとしたジェガンの足元が再びもろく崩れていく。なんだか外部集音ソナーが『あり地獄~
~!!』という音を拾ったのが聞こえたが、その言葉の意味を考えている暇などない。
 バーニアを吹かして機体に急上昇をかける。地面から飛び上がった瞬間、足元から蛇のようなものが飛び出してき
たのを確認する。反応が早かったα2は間一髪その蛇のようなモノから逃れることが出来たが、一瞬反応が遅れた僚
機α5は、それに巻きつかれ、地中に引きずりこまれてしまった。
 バキィゴキィグシャァ!! 凄惨な音がノイズとパイロットの悲鳴とセットで通信機に入ってきた。
 そしてこれまた手足頭をもぎ取られたジェガンが地中からポイって感じで捨てられた時、ちょうど上空にいたα2
はそれを目撃した。
「あの蛇みたいに伸びるのは、う、腕なのか?」
 わかったからどうなるわけではないのだが、α2はそのままフルパワーでさらに上空へと逃げる。いくら非常識な
手とはいえ、腕ならそんなに伸びないだろうという気がしたからだ。
 その判断は正しく、腕は外へ出たときに獲物を探すようにキョロキョロとあたりを見回したのだが、上空にα2を
見つけても、一瞬飛びかかろうという仕草は見せたものの、またおとなしく地面に引っ込んでいった。
 α2がとりあえず無事だったと胸をなでおろしたのだが・・・
『あまいあまい大アマよ~~~!!!』
 地面が盛り上がったと思ったら、右手に巨大なドリルを装備した、黒いロボットが飛び出してきた。黒いマントが
らしきものがはためいたと思ったら、それがα2の機体にグルグルと巻きついていく。
「でぃやぁ~~~!!」
 そしてスゴイ勢いで機体を引っ張られるや、問答無用で地面に頭から叩きつけられる。
 あまりのショックにα2のパイロットはそのまま意識を失った。地面には逆さに突き刺さったジェガンが、間抜け
なオブジェのように立っている。
「ふふん、三機撃墜♪ さっすがあたしよねぇ~~♪」
 ブラックゲッター頭部コックピットでは、パットがまだ戦闘中だというのに自分の戦果にご満悦のようだった。
「こら、馬鹿ぁ! 後ろに敵が来てるわよ!!」
 ミーナの声がした途端、ゴンって感じでブラックゲッターの後頭部にジェガンの実弾ライフルが命中した。さすが
スーパーロボットのプロトタイプを流用しただけあって一発程度じゃ装甲がへこんだだけだったが、中のコックピッ
トはその命中の衝撃にコックピットの中で転げ廻る。
「う、後ろからとは卑怯なりぃ・・・・・・」
 地面の下から襲っていたヤツの言い草じゃないと思われるが、ジェガンのパイロット達は機械獣と思っているのだ
から手段なんか構っていられないのだろう。
『こちらα4、敵機補足!』
 残り五機が、その敵機発見の報を受け、その場所へ注意を向けた時だった。
「ねえちゃん達上等だぜ」
 動き出したのはデュオ=マックスウェル操るガンダム・デスサイズ、黒い死神だ。
『よし、全機上昇! その敵を包囲するんだ!』
 αリーダーの号令以下、一斉にジェガンが飛び上がろうとした時だった。
 黒い影が一機のジェガンの横に出現した。そのジェガンのパイロットは自分の機体の頭部が切断されても何が起き
たのか理解できていない。そして自分の機体が制御不能になって地面に叩きつけられて、初めて自分が他の敵に襲撃
されて撃墜されたことを悟った。
『α7、どうした!?』
 突然消えた機体識別信号に気がつき、αリーダーのジェガンがそのメインカメラを僚機の信号が消えた方向に向け
ると・・・・・・
 黒いMSが、自身の持つビームサイトの輝きで浮かび上がっていた。
『ま、まだ、敵が・・・』
 その黒いMSがαリーダーに向けて飛びかかってきた、速い!!
『全機気をつけろ、もう一機敵が!!』
 そこでαリーダーの通信は切れる。両足、頭部を斬りおとされ、地面に叩きつけられる。
 リーダーを失った残りのジェガンが殲滅されるまで、五分と掛からなかった。

「いえ~~い、正義は勝ぁ~~~つ♪」
「あれが正義の戦いかたかよ」
 世にも珍しいゲッターロボとMSのハイタッチなんか交わして、お互いの健闘を称えあう。
「で、ねえちゃん達、早いトコ地下に居るって連中に連絡とってくんないか? ガンダムXはどうなってるって」
 デュオの言葉に、スピーカー片手のミーナが対応する。
「地下深すぎて音声通信が出来ないのよ。いま、モールスやってんだからもうちょっと待ってなさいって」
 さすがに地下二百五十メートルでは、携帯通信機が出す電波では音声までは飛ばせないらしく、大昔の戦争時のよう
にツーツートントンとやっているようだ。
「えっと、地下二百五十メートルにあるモノは大きすぎて、搬出不可能。ブラックゲッターでの回収を頼む、だって」
 およそ十分かけて、その内容を解読したミーナ。地下二百五十メートルと聞いて眉をひそめる。
「このブラックゲッターって、そんなに地面深く潜れたっけ?」

 エレベーターを開けっぱなしにして、その中でツーツートントンやっていたヘクトールも眉をひそめて戻ってきた。
「やっぱ、この部屋の中じゃアンテナたたねぇなぁ。電波とか完璧に遮断されてるぜ」
 通信機についた液晶ディスプレィをみながら、無機質な鈍い光を放っている球状の部屋の外壁に目をやるへクトー
ル。きっと内面の素材には電波遮断の素材でも使われているのだろう。
「どうだったヘクトール?」
 一番大きなコンテナを張り付くように調べていたアーウィンが訊いてきた。爆弾などのトラップがないか調べてい
るのだ。
「あぁ、なんとかツートンやって知らせた。あっちでもブラックゲッターがここまで潜れるか検討中らしい」
「そうか」
「で、どうよ、そっちは?」
 逆にヘクトールが訊いてくる。テスラ=ライヒ研で渡された小型の万能センサーで内部を走査していたウィンが顔
を上げて答える。
「これ自体はただ頑丈なコンテナみたいだが、下がな」
「ん?」
 言われてヘクトールもコンテナ下部に視線を送る。よくみるとコンテナが床にしっかりと溶接されているのがわか
った。単純だけど効果的な盗難防止策だ。
「念がいったことで」
「まったくだ」
 二人して軽いため息なんかついているところへ、別のコンテナを同じように調べていたガロードが戻ってきた。ぴ
ったりと傍にティファが寄り添っているところが微笑ましい。
「兄ちゃんたち、こっちもコンテナには異常なしだぜ」
「あぁ、ご苦労だったな」
 これでとりあえず、この部屋で出来ることは終わってしまった。あとは上の連中しだいだ。
「上手くいくと思うか、ティファ」
 難しい顔している二人の青年をみて、ガロードが小声で横にいるティファに話し掛ける。
 するとティファは少しだけ微笑んで、でもきっぱりと言った。
「大丈夫・・・・・・」
 そんなティファを見るとさらに胸をときめかすガロードだった。

 地面下で自分より年下の少年少女がラブラブな雰囲気になりかかっている時、地上の青年たち三人とテロリスト少年
一人は愛機から降りて、ジェスが持ってきたミディアムの中で発掘作業の検討中だった。
「これは俺が聞かされたことなんだけどよ」
 ディオが自分が持参したディスクをコンピューターにかけて、ある図面をだしてそれを指差しながら説明する。
「このブロック『X』を埋めるためにさ、基礎工事の段階でこんな風に・・・」
 とデュオの『こんな風に』という言葉にあわせて、モニターに地面部分からブロックXのところまで縦線が二本降
りていく。その先は球状の形をしているブロックの下で止まり、そこに横線がひかれる。図だけみると筒の中に丸い
球が入っている、そんな感じだ。
「穴をほったようなんだよ。でさ、ブロック『X』ごとここに埋めてから土を被せた、そんな感じに作られているら
しいぜ」
 説明をきかされ、士官学校卒業の三人は三者三様にうんうんと頷く。こんなデータをどこで手に入れたとツッコム
やつが一人もいないのがらしいといえばらしい。
「しかし、ご苦労なことだなぁ」
 わざわざそんなに地下深くまで穴を掘ってまでそのブロックを埋めた手間にジェスはただ呆れてしまった。
「でも感心しているだけじゃしょうがないのよね。でデュオ、これを掘り出すいい手段知っているんでしょ?」
「へ、そうなのデュオ?」
 ブラックゲッターで地面深く潜って、このブロックごともぎ取ることしか考えてなかったパットが訊くと、ミーナ
は自分のオツムをコンコンと叩いて、得意げに語った。
「忘れちゃいけないわよ、パット。この子はね、あのガンダムだけでそのブロックの中のものを狙ったんだから。つ
まり、大型の重機なんか使わなくても、下からあのブロックを引っ張りあげる方法、あるんでしょ?」
 するとデュオは意地悪く笑う。思わずムッとなるミーナだが、デュオはかまわず続けた。
「俺の目的は、そのブロックにあるっていう、あるモノのパーツだけをかっぱらってくるか、使えなくすればいいだ
けだったんでね。あれごと持ち上げようなんて、そこまでやる必要なかったんだよ」
「うっ・・・・・・」
 自分の推理が外れて、一瞬めげるミーナ。でもこのメンバーで頭脳労働できるのはリーダーの自分だけだと言い聞
かせて、気を取り直して続ける。
「さっきスペックを調べてみたんだけど、私らのブラックゲッターでも五百メートルくらいは潜れるみたいなのよ。
でもねぇ・・・・・・」
「そこからあの大きさの物を地上に押し上げられるかは、分からないってことかい?」
 だけど脳細胞まで筋肉が進出していると思われる熱血娘だけは楽天的だった。
「大丈夫! 気合と根性があればどんな物で持ち上げられる!!」
 握り拳でそう宣言するパットだが、誰も賛同してくれないので、しぶしぶその拳をおろす。
「まぁ、完全体育会系の小娘の意見は置いておくとして、だ」
「実際問題、ブラックゲッターだけじゃキツイわよね」
「いっそデュオがいってたみたいにデータだけ吸い出して、テスラ研で再生してもらうおうか?」
 とミーナとの会話で不用意にジェスがもらした言葉を、デュオは聞き逃さなかった。
『テスラ=ライヒ研が独自に動いているのか? とりあえず、報告くらいはしておくか』
 とデュオが内心でそう思っているときだった。
 警戒警報がミディアム内に響き渡った。
 何事かとコンピューターを呼び出すと地下でエネルギー反応が確認されたとのことだ。
 そして地震なんてほとんど起きないこの不毛の砂漠が、徐々に揺れ始めていた。
「なんだぁ。地下で何が起こっているんだよ?」

 そのころ地下二百五十メートルのブロックXでは。

 コンテナを調べ終え、ついでにって感じでこの球状の部屋を調べていたガロード達。うっすらと埃がつもった床の
一部に薄い線をガロードが発見した。
「ん?」
 注意深く、その線のまわりの埃を払っていくと三十センチ四方の四角形が浮かび上がってきた。
「兄さん達、なんかあるぞここに!」
 ガロードの呼びかけにまずヘクトールが反応して駆けつける。
「なんだ、お?」
 ガロードが指差す先にある小さな四角を見つけて感心したようにヘクトールは言う。
「やるなぁ、ガロード。よし、いい子いい子♪」
 と言って頭をなでるヘクトールだが、なぜかヘクトールはティファの頭を撫でていた。ティファは赤くなって俯い
てしまう。
「あのなぁ、兄さん。なんでティファにまとわりつくかな?」
「男にまとわりついてもつまらんだろうが」
 と、当然のように言うヘクトールに、ガロードは二の句がつげない。ここで反撃に出れないところがまだ甘いなと
ヘクトールはニヤリとしながら思った。 
「で、開けられるか?」
 言われて手持ちのナイフを隙間に差し込もうとするガロードだが、その線の隙間はミリ以下の幅しかないらし
く全然間に挟まらない。
「だめだね、これ・・・・・・」
「これならどうだ?」
 諦めかかったガロードの言葉を、壁面を調べていたアーウィンが遮る。するとその部分が静かな機械音とともにゆ
っくりとせり上がって来た。
「何をいじくったの?」
 ガロードが訊きながらエレベーター付近にいるアーウィンを見ると、この部屋唯一の出入り口のエレベーター傍の
壁が一部開いていて、その中にあるボタンの一つを押したとわかった。
「いや、このエレベーターのあたりがどうも宇宙船のエアロックに似ているのでな、重点的に調べてみたら壁に切れ
目があった。そこに手を当てたらわずかにへこんだんだ。そのシステムの起動スイッチらしいな、どうやら」
 ガロードにどことなく上の空で答えているウィン。何かを考え込んでいるようだ。
「どったの?」
「いや、な・・・・・・」
 旧友の問いかけに、自分の考えをゆっくり確かめるように話しだすウィン。
「俺はこのブロックが、このコンテナの中のMSを封印するために造られたと思ったのだが」
「だが?」
「もしかしたら、このブロック『X』そのものを封印するために、地下二百五十メートルまで埋めたっていうのが正し
いのではないのかと思ってな」
 断定できる材料がないため、奥歯にものが挟まったような言い方になってしまうウィンだが、三人の聞き役は皆感
心したようにコクコクと頷く。
「疑問だったのが、このコンテナだ。どうもこの部屋にそぐわないと思わないか? コンテナだけは外部から運び込
んで、ここに組んだんじゃないのかなと。その、ガンダムXとやらを封印するために」
 語っているうちにウィンの目はいつの間にか謎の少女ティファに止まっていた。思えばこの奇妙な行動は、もとを
正せばこの不思議な少女を救い出すというジェスの母の以来から始まったのだった。
 その澄んだ瞳に吸い込まれそうな思いを感じながら、ウィンは軽く自分の頭を叩いて気分を切り替える。
「上の連中がどう言う手段でこれを引っ張りあげようとするか」
 ウィンはミーナ、パット、ジェスの三人による相談風景を思い浮かべた。パットが握り拳で「気合と根性でなんと
かなる!」的発言をしているのだけは楽に想像できた。
「ん、ティファ、どうしたの?」
 気がつけばいつの間にか、ティファが先ほどせり上がって来た石柱のような立方体に近づいていた。そしてごく自
然な動作でそのつるつるの表面に手を触れる。
 ブオン!
 部屋全体が鳴動するような響きがしたと思ったら、壁面にさまざまな意味不明の模様が浮かび上がった。
「ティ、ティファ、何やったんだよ?」
 多少うろたえるガロードが訊くが、ティファは小さく微笑むだけで答えてくれない。
「おい首席閣下の中尉殿?」
 自分が乗る飛行機が高度三万フィートでエンジントラブルをおこしても平然としていられる胆力の持ち主のヘクト
ールは、さすがに眉をしかめた程度で動じてはいない。
「どうやら眠っていたシステムが目覚めたってトコらしい。ティファによってな」
 ウィンは次から次へと予測できない事態が起きるので少し不機嫌になっている。
「お姫様と握手した程度でお目覚めとは、初心な王子様だこと」
 こんな時でも軽口が叩けるのはヘクトールの才能だろう。
「なぁ、どうなると思う?」
 ガロードの問いに投げやりな感じでウィンが答えた。
「わからんよ」

      
「あいつらいったい何やったよ!?」
 センサーが探知した謎の地下のエネルギーのレベルがシャレにならないところまで来ていた。何が起きるか想像
もつかないが、ジェスの本能がここに居ては危険だと告げている。
「おいレナンジェス、どこ行くんだよ!?」
 てっきりジェスがコックピットに行くと思ったデュオは、格納庫に走っていく彼に言う。
「俺のジェガンでもこいつはコントロールできるんだよ! どうも嫌な予感がしてなんねぇ!!」
 ジェスは昔から勘が鋭いことが自慢の一つだ。しかも悪い予感ほどよく当たるのだ。
「俺、どうすればいいかな?」
「好きにしろ!」
 怒鳴るように言ってから、格納庫に飛び込む。左腕が壊れたままのジェガンが中腰で格納されている。
 足首部分に脚をかけ飛び、膝関節に手をかけ身体を起こし、開けっ放しのコックピットに乗り込む。エンジンを起
動させるや、閉じていたカーゴを開き外へ出る。
 そのままミディアムの機体上部のある場所に脚を置き、固定する。これでドダイ改などのようにMS側からミディ
アムの操縦が可能になるのだ。
「ええい、反応が遅い!!」
 でもさすがに機体運動などはドダイ改とくらべるまでもなく、鈍いものだ。ゆっくりと上昇をかけるジェガン操作
によるミディアム。パットとミーナもブラックゲッターに乗り込んだ。
『うわぁ、ジェス! 地下の正体不明のエネルギー反応、半端じゃないわよ!! これが原子炉とかだったらとっく
に臨界越えててもおかしくない!』
 ミーナの報告が入るが、いまはここから、離れるほうが先決だとジェスの勘は告げている。残すことになるウィン
とヘクトールがちょっと心配だが、連中ならちょっとやそっとのことで死にはしないだろう。
 ジェガンを乗せたミディアムが上昇をかけ、瓦礫の山と化したニュータイプ第三研究所の敷地をあとにする。一歩
遅れてブラックゲッターが地面を蹴って舞い上がった時だった。
 ドゴーーーーーーーーーン!!
 今まで聞いたことないような大音声が轟いた。宙にいても振動で機体が揺れている。
 必死に機体を制御しつつコックピットで振り返って後ろを見ると、土柱、としか形容しようのないモノが高さ数百
メートルに渡って噴き上がっていた。
 あと数秒遅れていたら、ジェガンとミディアムはあの土柱の発生に巻き込まれていただろう。そう思うとゾクッと
する。
『ぴぎゃ~~~~~~~!!』
 だがこちらは完璧に巻き込まれたようだ。パットの悲鳴が通信スピーカーを揺らす。どこへ行ったか確認すると、
土柱に弾き飛ばされて、グルグルと廻りながら放物線を描いてあさっての方向に飛ばされていくブラックゲッターの
姿が確認できた。
『こら、パット、しっかり制御しなさい!』
『だってだってだってぇ~~~!!』
 でも元気な声が聞こえているので、無事であることは確からしい。でも一応安否を訊いておく。
「おい、大丈夫か二人とも?」
『あう~~、出会い頭だったんでビックリしたよ~』
『反重力マントで浮いていたし、かすった程度だから大したことないのよ。でもね、パットがしっかりしてくれない
から・・・・・・』
 こんな冷静に通信などしているが、ブラックゲッターは今まさに砂漠に頭から突っ込む直前だった。
『墜落寸前なんだけどね』
『でも、まっかせなさぁ~~~い!!』
 砂の大地に激突寸前、ブラックゲッターの右腕がドリルに変形した。そして地面に突き刺さるや、勢いそのまま地
面に潜ってしまった。
 地面ではブラックゲッターが通った後が、こんもりと盛り上がっている。昔アニメで観たモグラの移動をジェスは
思い出してしまう。
 そして立ち昇った土柱が研究所の敷地をすべて埋め尽くして消え、生じた土煙が視界を一切遮ってしまう。
「何にも見えないぞ、おい?」
 カメラからの映像でも、視界はゼロに近い。実際この場に生身でいたらこの土煙で窒息していただろう。
「だから俺の悪い予感はあたるんだ」
 呆れたように呟くジェスだったが、レーダーが奇妙な物体を発見したのを見て、さらにお手上げ状態で言う。
「なんだありゃ?」
『球、だよな? くすんだ銀色の』
 どうやらまだミディアムにいるらしいデュオも、ジェスと同じような口調になって見たまんまを言う。
 土煙の中、ゆっくりと上昇している銀色の球。大きさは直径五十メートル前後、どうやらこれが・・・・・・
「ブロック『X』か?」
 なにが起きたか分からないが、自分達が掘り出そうとしていたモノが、勝手に地面から上がってきたらしい。手間
が省けたと喜びたいところだが、そうもいかないようだ。
「毎分二百メートルくらいで上昇中、か」
 なんであのブロックが浮いていられるか、それすら想像がつかない。ジェガンのセンサーは相変わらず凄まじいエ
ネルギーをブロックXから確認しているが、それが何であるかまでは解明できていない。
『反重力装置かなんかか?』
 同じ疑問を感じていたらしいデュオが自分の考えを言うがジェスはそれじゃ納得できないでいた。
「おかしいぜ、それじゃ。考えてみろよ。あの球っころはよ、自分の頭上にあった何万トンもの砂を吹き飛ばしてい
るんだぞ」
『んじゃ、わかんねぇよ、俺も』
 あっさりとデュオがそう言うので、二人は黙ってなんとなくその球が上昇していくのを見つめてしまう。
『こらぁ、ジェス、何ぼけっとしているかぁ!?』
 パットのその言葉でハッと我に帰るジェス。地面に潜っていたブラックゲッターが飛び出してきたらしい。
『とにかく追っかけるわよ!』
 ミーナの言葉が続いた。そうだった、あの中には無事かどうかわからないがウィンとヘクトール、それに会っては
居ないが二人の少年少女がいるはずなのだ。
「了解! いいかデュオ?」
『好きにしてくれよ、もう』
 どこを目指しているのかわからないが、ゆっくりと上がっていく、ブロックX。それを追うブラックゲッターとミ
ディアムに乗ったジェガン。そのミディアムの中には完全に巻き込まれてしまった少年テロリストと彼が乗るガンダ
ムもある。
 少女誘拐ではじまった彼の旅路は、思わぬ波紋を各所で広げていくことになる。

 
 -第九話 Aパートへ-

 【後書き】
 五人組の珍道中、宇宙へ。



[16394] F REAL STORY  第九話 Aパート
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2010/05/19 18:48
「リ、リン~~・・・ ひょっとしてすっごくマズイ状況?」
「あぁ!! こら動けゲシュペンスト!! 動いてくれ!!」
 傷ついた使徒が、剥き出しの敵意をこちらにむけているのがありありと感じられる中、私は作動不能に陥っている
ゲシュペンストを動かそうと必死になっていた。
 並列の核融合炉は2機とも健在! 膝がオシャカになっていても脚に取り付けられた熱核ホバーがどちらかでも動
けば、この場を離れられるはずなんだ!
 なのに、無理がたたったのか腰から下のパーツがこちらのコントロールを受け付けなくなっている。
 あぁ、マズイ、やばい!
 後ろでガタガタ震えているアム。最悪、彼女だけでも助けないと!
 もう、これしかないか・・・
 私はシート左下にあるカバーを外す。その中のボタンを押すとコックピットの強制排出がされるのだ。
 ゲシュペンストを捨てたくはない・・・ でも、アムを巻き添えにするわけにはいかないんだ。
 私の指がボタンにかかったときだった。
『リン、アム!!』
『今、助けます!』
 センサー系がかなり死んでいるんで気づかなかったのだが、いつのまにかエルガイムとグライアが接近してきてい
た。そして、その2機に挟まれるや両脇を抱え上げられ、そのまま引っ張られていく。
 その引っ張られた一瞬の後、使徒の右腕部らしきところから発生した光の鞭がゲシュペンストが居た空間を薙いで
いった。
 ・・・間一髪だったな。思わず唾を飲み込んでアムと顔なんか見合わせてしまった。
『リン、無事なの?』
 左側を抱えているグライアから、レッシィの声で通信が入った。ポセイダル軍からかっぱらったのかな?
「あぁ、アム共々無事だ。ありがとう」
「レッシィ、大好き、ダバの次に愛してるわ!」
 助けられた途端にこの態度のアム。相変わらず調子いいんだから。
『アンタはオマケなんだから黙ってな、アム。でも、リンが無事でよかったよ。借り、返せたかな?』
 声オンリーの通信になっているけど、レッシィが私を心配してくれていたのはこんな状況でもうれしい。
「お釣りがくるくらいな」
『そっか、よかった』
『ギャブレー! いいぞ!』
 レッシィとの会話にダバ君の声が割り込んできた。なんとか生きているモニターで鬼面のHMに乗っているはずの
タレ目男を探す。
 居た、どっから持ってきたのか長棹のバスターランチャーとか言う大砲を構えていた。ダバ君に聞いたところ、あ
れがHMが持てる最高の威力の兵器で、A級HMでなくては撃てないモノらしい。
 ちなみにその威力は我がゲシュペンストのニュートロンビームライフルの対艦モードをわずかに上回る。
『もう何がなんだかわからんが!!』
 いつの間にか、協力してしまっているタレ目男が、その大砲で使徒に狙いをつける。
『グレース、もう一回やるぞ!』
『はいです!』
 そしてまだ健在なゲッタードラゴンが、再びゲッタービームを放つ!
 タレ目男のバスターランチャーが火を噴く!
 それぞれ別の方向、角度から、使徒に襲い掛かった二条の光の矢!
 だが、やはりそれはあのバリヤーに阻まれた、が・・・
 バリヤーが再びはじけて消えた! そしていくらか減衰したようだがゲッタービームとバスターランチャーの光条
が使徒の身体に突き刺さった!
 爆発!
 やつも弱っていたんだ、さっきの甲児さんや私の一斉攻撃によって!
『・・・やったのか?』
『いや』
『まだみたいですぅ!』
 タレ目男の言葉は、すぐさまゲッターGのパイロット二人によって否定される。
 その言葉どおり、身体のかなりの部分を溶解させながらも、使徒は再び黒煙の中から姿を現した。なんてしぶとい!
『ダバ=マイロード! どうするのだ!?』
 タレ目男が慌てて距離をとりながら、ダバ君に詰め寄った。あれを一回撃つとエネルギーがほとんどスッカラカン
になるらしいので、タレ目男の出番はここまでだろう。
『今度は僕が撃つ! ギャブレー、バスターランチャーを渡せ!』
 規格の違いとかはないらしく、エルガイムでもあのバスターランチャーは撃てるみたいだ。
 でも・・・
「細かいダメージを与えても、やつの息の根は止められないかもしれないぞ・・・」
 私の独言にアムが反応して訊いて来た。
「それってどういうことなの。けっこうやられて、もう一息って感じじゃない?」
 そのアムの問いに使徒を指差して私は答えた、さっき気がついたのだが、見ている自分でも信じられないことがあ
の使徒には起きていた。
「ホラ、再生が始まっているんだよ、アイツの身体」
 そうなのだ。損傷したヤツの身体の各所が、見る間に復活していくのだ。まるでフィルムの早回しを観ている気が
する。それほど非常識な速さの再生だ。この分じゃあと30分もしないで使徒はもとの姿に復活するだろう。
「ヤツを倒すにはきっと・・・」
『もっと強力な武器をぶつけるしかない、か・・・』
 私の独白みたいなものを聞いていたらしい隼人さんが、呟くように言葉を続けた。まったくその通りだと思うのだ
けど、そんな兵器どこにあるというのだ?
 あ・・・ そうだ! とびっきり凄いのがあっただろうが、すぐ傍に!
「隼人さん、シャインスパークは撃てないんですか!?」
 ゲッタードラゴン最大の武器、シャインスパーク。聞いた話ではジオンDCのあの空母ドロスを一撃で沈めるほど
の威力があるらしい。
『残念だが、シャインスパークだけは三人のパイロットが揃わんことには使えない』
 隼人さんの返答は無情だった。あぁ、世の中そう上手くいかないか・・・
 あぁ、ホントにどうすればいいんだ、この状況!?
『せめてリョウかベンケイのどちらかでもいればな・・・』
『大変困りモノですぅ~~』
 あの隼人さんが弱音を吐いている・・・ グレースも眉根をよせて頭を抱えているし。
 状況は本当に絶望的だ。私は、私の仲間たちはあんなわけのわからないオタマジャクシもどきにやられてしまうの
か!?
『こ、こいつを食らってもまだ立ってられるかオタマジャクシ野郎!!』
 !!
 この声、甲児さんか!?
 さきほどマジンガ-Zが放り投げられたことによって、瓦礫の山と化してしまった格納庫郡。それがゆっくりと崩
れていき、そして姿を現したのは・・・
 巨大な翼をつけた、マジンガーZ。
 あ、あれは確かツイングレートブースターとかいう・・・
『隼人さんも、リンもなに泣き言ほざいてやがるんだ! 俺たちはまだ負けちゃいねぇ!!』
 私は、正直絶句していた。
 巨大な翼本体は、格納庫の瓦解にもほとんどダメージを受けていなかったみたいだけど・・・
 マジンガーZ本体の方が、なぜあれで動けるんだと思うくらい、それはボロボロだった。左胸部と腹部に大穴があ
いているし、両腕もない。光子力ビームの発射口たる目も左側が潰れているし・・・ よくみると、コックピットの
パイルダーの強化プラスチックも砕けている。
「あ、あのロボットって・・・」
 アムもそれ以上言葉をつなげないようだ。気がつけば沈みかかっていた夕日を背に受けたその姿は、まるで神像の
ような神々しさまであった。
 そうだ、まだ負けちゃいないんだ、私たちは!
 私は、自分の両頬に気合を入れるために、思いっきり張り手をかます!
 パァ~~~~~ン!
 小気味良い音がコックピットに響き渡った。ちょっと痛いけど、おかげで気合が入った。
「ちょ、ちょっとリン、大丈夫? 手形くっきりよ?」
「レナン、自己診断! なんとしても動けるようにしろ!」
「あ、ほっぺが膨らんできた。小動物みたいで可愛い♪」
 アムの軽口は無視して、レナンに自己診断、自己修復を命ずる。さっきも慌てないでこうすればよかったのだ。
『ふっ、そうだな。らしくなかったぜ』
 隼人さんにも、それなりに活は入ったらしい。さきほどまでのどこか諦めたようなところが消し飛んでいる。
『いけいけゴーゴーですぅ♪』
 グレースも、みたいだ。こいつのノリはきっと地球が明日なくなるって言ってもかわらないだろう。
 FWに故障箇所が複数提示されていく。膝の関節フレームが一番重症みたいだな。でも、反重力システムが再起動
できそうなので、背中のバーニアを併用すれば、地面をすべって移動することができそうだ。
「ダバ君、その大砲撃つの、もう少し待ってくれ! さっき教えたヤツの鞭の範囲ギリギリを移動して牽制を頼む!」
 うっ、我ながら無茶頼んでいるのを言い終わってから気がついた。でもダバ君は何のためらいも見せずに、
『了解!』
 と果敢に突撃していく。キミはなんて素直なんだ。
 センサーも予備に切り替わって、普通のMS並くらいまで復帰した。う、首の間接がいかれて真正面しか見れなく
なっているみたいだ。
「アム、降りていろ! この中にいたら私と心中になりかねない! レッシィ、アムをもって一緒に離れていてく
れ!」」
 今のうちにと、私はアムにそう言った。私も死ぬ気はさらさらない。でも、万が一があったときに、彼女を道連れ
にはできないし。
「いやよ。レッシィと相乗りするくらいなら、リンと心中したほうがずっとまし!」
『はん! こっちだってゴメンだね!』
 こいつらは・・・・・・ 状況をわきまえているのか?
「あのな、アム、今・・・」
「それにね、ダバが頑張っているのに、私一人だけ安全なトコに逃げるなんて、イヤなの」
 私が諭そうとすると、それをアムがさえぎって言葉を続けた。う、そう言われると、同じ惚れた男を持つ身として
は断りづらい。
『こんなグライアでも何か手伝えるかもしれないだろ、リン』
 レッシィにもそう言われては。
「わかった、心中することになってもうらむなよ、二人とも!」
『了解!』
「でも、なるべく仲良く生き残りましょうね♪」
 最後に気の抜けるようなことを言ってくれるアム・・・ でも、この子が居てくれて今日はずいぶん助かっている
かもしれない。なんていうか、居てくれるだけで暗い気分を払拭してくれると気がする。
 状況は相変わらずこちらが不利なはずなのだが、なんと言えばいいのだろうか。上手くいえないのだが、追い風、
みたいな雰囲気を感じるのだ。
 そしてゲシュペンストのシステムが現状で最高まで回復して時だった。
 先ほど地下に引っ込んでしまった鉄人が、再びせり上がってきた。その両腕に何かを持っている。
 なんだろう、アレ? 長さは、20メートルくらいか。組み立て途中のレーザーキャノン砲、そんな感じがする。
そして、その砲身にケーブルが繋がれていて、それが地下へと繋がっていた。あの下って何があるんだろう?
『リンさん、ご無事ですか!?』
 カネダさんから通信。カネダさん、これを取りに一回引っ込んだのかな? でも、なんだか如何にもこの研究所謹
製の試作品、そんな雰囲気バリバリの武器だな。
「私は無事ですが、カネダさん、それなんですか?」
『詳しい説明は後です。リンさん、まずはこれをゲシュペンストに持たせてください』
 カネダさんの声、すっごく緊張しているのが分かる。なんだろうか、この武器は?
 ふと視線が使徒の方に向いた。
 ダバ君はエルガイムを滑空させて、そしてゲッターGもライガーに変形して、両機とも使徒の鞭の範囲ギリギリを
綱渡りしている。
 マジンガーZはツイングレートブースターの点火にとまどっているみたいだ。
 攻撃が出来ていないから、あの使徒はジワリジワリとその不気味な身体を再生させている。このままじゃマズイぞ。
 私は愛用のニュートロンビームライフルを離して、その長い武器を手に取る。レーザー砲かなにかかだろうか?
レッシィのグライアや鉄人に手伝ってもらって、ゲシュペンストにピッタリ合うトリガー部分に右腕をかけた時だっ
た。
 コックピットの電源がいっせいに落ちた。
 突然のことだったので、「え、え?」とアムと一緒に狼狽していると、すぐに電源は再起動し、システムが次々に明
かりを取り戻していく。
「レナン、なにが起きたんだ?」
 先ほどの停電の原因をレナンに訊く。ブレーカーが落ちたのかと思ったぞ。
 でも、いつもならすぐさまFWを発生させて説明してくれるレナンからの回答がない。
 言い知れぬ不安が・・・ レナンのシステムに何か起きたのか?
「レナン、どうした、返事をしろ!」
 だが返って来たのは、
『パスワードを入力してください』
 と表示されたFW。え、なにがどうなったんだ!?
『リンさん、聞いて下さい』
 軽いパニックになっている私に、切迫したカネダさんの声が届いた。
『いま、ゲシュペンストに新しいシステムが立ち上がったはずです』
「え、あ、はい・・・」
『そのシステムを起動させるパスワードを入力してください。そうすれば、この【ブラックホールキャノン】を撃つ
システムが立ち上がるはずですから』
「ぱ、ぱすわーどと言われても・・・」
 私は戸惑うしかない。だって私は今の今まで、私のゲシュペンストにこんな隠れたシステムがあることすら知らな
かったのだし。
 ふと初陣の時のことが頭に蘇った。
 黒い三連星との戦いのさなか、ふと意識が宇宙に跳び出してしまったかのような感覚に包まれた時。
 そしてそれを隼人さんに相談した時の言葉。隼人さんはこう言ったんだっけか。
『親父さんを信じろ』と・・・
 妙に現実感を喪失している私の意識に、カネダさんの声が飛び込んでくる。
『マオ博士は言っていました。リンさんをいつでも見守ってくれている人の名前を、パスワードに設定したと』
 私をいつでも見守ってくれる人・・・?
 そんなの一人しかいないじゃないか!
「フラン! フランシス!」
 私はその名を呼んでいた。フランシス、ママの名前・・・
 すると、【パスワードを入力してください】と出ていたFWは消え、私の座っているシートとかが妙なうなり声を
あげ始めた。
「え、え!?」
 私の横に座っていたアムの予備シートも勝手に収納されて、シートが全体的に後ろにひっつくようなトコまで後退
していった?
 なんだ、なにが起きているんだ?
「あ、あたしどうすればいいのかな?」
「わけわからないから、わたしの膝の上でも座ってくれ!」
 コックピットがこんな風に動くなんて・・・ これも説明されていなかったぞ。
 父さん! あなたはこのゲシュペンストで何をする気だったんですか!?
 静かな憤りが胸の奥に渦巻いていく。
「では、失礼しまぁ~・・・ きゃぁ!」
「むぎゅ! き、きつい」
 そしてアムが私にヨイショと乗っかった時に、シートの後ろにあったショックバーが下りてきて、私とアムをシー
トに強制的に固定してくれる。アムの長い髪の毛が顔にかかって前が見づらいぞ!
 そして、右の射撃管制用のレバーがほぼ中央に来て、50インチくらいの巨大なFWが出現して、コックピットの
変動を終了したようだ。
「な、なにが起きたのかな?」
「私に訊くな!」
 思わずアムに噛み付く。ゲシュペンストのことなら何でも知っているつもりだったのに・・・ 少し屈辱だ。
『システム変更すみましたか!?』
 カネダさんが訊いて来た。
「カネダさん、これはいったい何なんですか!?」
 こんなこと訊いている場合じゃないかもしれないけど、訊かずにはいられない。いったい、今なにが起きているん
だ?
『あとで、イヤってほど説明させていただきますから、今は勘弁してください。それより今からいうことをゲシュペ
ンストに入力してください、お願いします!』
 カネダさんは有無を言わさぬ迫力で、言ってきた。う、逆らえない・・・ 温厚な紳士だと思っていたのに・・・
こんなに激しい部分があったんですね、カネダさんってば。
「了解しました」
 気おされる形で頷く私。
『では行きます。えっと・・・』
 パラパラとマニュアルらしきモノを捲る音がするのが少し不安だ。カネダさん、どこにいるんだろうか?
『現在位置認識!』
「えっと、フラン、でいいのか?」
 なんてこのOSを呼べばいいのかわからないので、とりあえずお伺いを立てると【Yes】と返って来たので改め
て。
「フラン、現在位置認識」
【了解:現在位置:地球:北アメリカ大陸:テスラ=ライヒ研内】
 私の命令を聞くと、目の前のでっかいFWに線画で示された地球が浮かぶとすぐに北アメリカ大陸がアップになっ
て、最後はテスラ研の俯瞰図が示された。
『次、ジェネレーター作動。外部ケーブルと接続』
「はい。フラン、ジェネレーター作動、外部ケーブル接続!」
 カネダさんに言われるまま、意味もわからずそう命令する。そこで気がついた。いま私の前に現れているFWには
ゲシュペンストが持っている正体不明のレーザー砲らしきモノの線画が出て、各部の説明なども現れているのだが、
そこであるパーツに思わず目が行く。
 こ、このキャノン砲みたいの・・・ これ単体でもの凄いジェネレーター積んでいるぞ・・・ 核融合炉2基併用
4800kwのゲシュペンストほどじゃないけど、このゲージからすると3000kw前後の・・・
「カネダさん、こ、これ・・・」
 私はもの凄い物騒なモノ持たされている気がして、思わず及び腰になる。しかも伸びたケーブルからさらにエネル
ギー引っ張る気なのか、おい?
「いったい、どんな弾撃つ武器なんですか!? これじゃハイパーメガ粒子砲でも撃つみたいじゃないですか!?」
 思わず声が上ずっている。
 今の私の中では、ちょっと離れた場所で死闘を繰り広げている使徒よりもゲシュペンストが握っているこのわけの
分からない兵器の方がかなり不気味だ。
 そういえばさっきこんなこと言ったなカネダさん。ブラックホールキャノンとか・・・?
 ブラックホールといえば、伝説の凶悪機動兵器-グランゾン-がマイクロブラックホールを発射するとかいうこと
を聞いたことがある。その威力は小惑星を一撃で破壊するとかしないとか・・・
 もしかして私が手にもって発射準備を着々と進めているこれって・・・
 こんなもん大気圏内で撃っていいのか?
「・・・リン、なんか顔が青くなって面白いよ?」
 すぐそばで身体を密着させているアムが失礼なことを言ってくる。
「自分がいま持っている兵器が、もの凄く物騒みたいでな・・・」
 私が青ざめている間に、正体不明のOSは、着々と発射シークエンスを開始している。
【発射出力は何%に設定しますか?】
 そしてそんなことを訊いてくる。
「何を撃つかも知らないんだぞ、私は!?」
 思わずコンピューターに食って掛かってしまう。
【出力設定を】
 そんな私の憤りも知らずに、フランというOSは再び質問をしてくる。ママと同じ愛称のくせにむかつく。
『リン、発射準備ちょいまち』
 するといきなりFWが現れて、小母様の姿が映った。あ、なんかちょっと涙が出そうなほどホッとしちゃってるぞ
私。
「小母様ぁ~。これ何なんですか?」
「あ、こんなリン初めて・・・」
 私が妙に甘えた声を出してしまったので、アムが目を丸くしているけどこの際おいておこう。
『説明は、あとで。レーダーがね、と~っても素敵な援軍が来てくれているって言ってるからね、もうちょっと様子
見ね』
 小母様がウィンクしてそう教えてくれた。
『はぁ~、助かりましたぁ~』
 カネダさんが心底安心したって感じのため息なんぞついている。あなた私に何を撃たせる気だったんだホント?
「え、援軍、ですか?」
『うん、もう到着するころかな』
 小母様がそう言うと同時だった。
 超高速で接近する物体をゲシュペンストのレーダーもキャッチした。
 接近速度・・・ マッハ8.1!? こんな非常識な速度で飛べる機体って・・・ あっ!!
 私が気がついたのと同時に接近する機体をフランが教えてくれる。
【識別確認:ゲッターロボ】
 そして通信に勇ましい声が飛び込んできた。
『待たせたなぁ! ハヤト、グレースちゃん!!』
 一瞬、赤い閃光が頭上を通りすぎた。それが物理法則を無視しまくった急停止をし、私たちにその姿を現す。
『フッ・・・リョウ、遅かったな』
『わぁお、竜馬さんかっこいいですぅ~~♪』
『よぉ、リョウさん、久しぶり・・・』
 隼人さん、グレース、甲児さんが口々に言う。
『甲児くん、ずいぶんな有様だな、大丈夫なのか?』
『ほんとすげぇやられっぷりだな、甲児くん。マジンガーZをそこまで・・・』
 竜馬さんの言葉の後に弁慶さんの野太い声が続いた。
『やるっていうのかよ、あのオタマジャクシみたいのは』
 やはりあの使徒は万人にオタマジャクシに見えるらしい。
 でも・・・ この場面で竜馬さんと弁慶さんが来てくれたのはすごく大きい。正規ゲッターチームの精鋭3人が同
じ場所にそろったのだ。
 ゲッター1がこの場に来た途端、使徒もその攻撃を止め、その意識らしきものをあきらかにゲッター1に向けてい
る。
『リンちゃんにダバくん達も無事だな』
「あ、はい、なんとか」
『はい、流さんに車さん!』
 ゲッター1は軽く周りの状況を確認する。
 そして竜馬さんも正体不明の使徒に宙から相対する。
『遅れてすまなかったな、みんな・・・』
 竜馬さんは静かに言った。でもその声音の中の闘志に、思わず私は背筋がゾクッとした。
『リョウ、ドラゴンに乗り移れ。シャインスパークでもなければ、その化け物は倒せない』
『そうか、わかった。いくぞぉ!! ハヤトぉ、ベンケイぃ!!』
 竜馬さんの掛け声、通信スピーカーにノイズが混じるくらいの気合だ。
『あぁ』
『おぉ!!』
 その声に隼人さん、弁慶さんの声が続く。
 使徒の注意が完全にゲッター1に向いている。性能的にはゲッターGの方がはるかに上なのだが、脅威は竜馬さん
が乗るゲッター1の方が上なのだろう。
 その竜馬さんがゲッタードラゴンに乗り移れば、こっちの勝ちは確実だ。
 ん・・・? そこで気がついた。あのオタマジャクシってそういう情報をどうやって理解しているんだ? 外見と
は裏腹にアイツの知能レベルはかなり高いのでは?
『リョウさん、一分くらいなら稼いでみせるぜ・・・ いくぞぉ、マジンガーZ!!』
 高エネルギー反応! マジンガーZが覚醒した。背中の超巨大ブースターが火を噴いている。
 そのままなんのフェイントもなくマジンガーZが飛び出す! それていた使徒の気が急激にマジンガーZに戻った。
『いまだ、オ~プンゲェット!!』
 そのわずかな瞬間を逃さず、ゲッターロボ、ゲッターG計6機のゲットマシンが分離。渦をまいて急上昇をかけて
いく。
 もしかして上空で乗り移る気か、竜馬さん?
『どいてろぉ、ダバ!』
 そして、マジンガーZはそのまま一直線、矢のように使徒に突っ込んだ、が・・・
 浮かび上がる憎憎しい八角形、マジンガーZの背中に装着された凶悪な突撃用ニードルが、それに阻まれている。
『甲児さん、気をつけてください!』
 だがその拮抗状態を、ダバ君は見逃さなかった。先ほどタレ目男が使ったバスターランチャーを構え、腰のプラグ
に接続している。
『いくぞぉ!』
『いっけぇ~~~』
 ダバ君の気合にチャムの可愛い声が重なって、トリガーが引かれた。エルガイムが反動で後退していくほどの凄ま
じい光条が放たれ、マジンガーZと使徒が押し相撲状態になっている側面に突き刺さる。
 三度、バリヤーが破れた!
 そして、そしてついにマジンガーZが背負ったツイングレートブースターの突撃用ニードルが突き刺さる!
『ふっとびやがれぇ!!!!』
 甲児さんの気合と共に、ツイングレートブースターがマジンガーZから分離、そのまま単独で使徒を突き刺したま
ま中空へと飛んでいく。
 そしてマジンガーZはそのまま糸の切れた凧みたいに地面に叩きつけられた。
 甲児さん!? 思わず助けにいこうと駆け寄ろうとしたのだが・・・
 ゲシュペンスト、ピクリとも動いてくれない・・・ 先ほどから抱えさせられている謎のキャノン砲の発射体制に
移行してしまったせいか?
『かぁ~~、イテェな、さすがに』
 だけど思ったより元気な甲児さんの声が通信で入る。けどマジンガーZはさすがに動けなくなってしまったみたい
だ。というか今まであの状態で動いていただけで凄いと思う。
『あとは頼んだぜ、ゲッターチーム』
『お任せですぅ~~!』
 甲児さんの声に脳天気な声が応えた。
 そして空から白い一点。それが大きくなり現れたのは・・・ ゲッター2ぅ?
 それにはこのお気楽な声から察するに乗っているのはグレースだよな。・・・てことは、ゲッターチームは何千メー
トルか上空でグレースを旧ゲッターに乗り移らせて、皆さんはゲッターGに乗り移ったっていうのか? どんなアク
ロバットを行ったんだろうか?
『ハイハイハイハイハイハイィ~~~!』
 グレースのどっか緊張感の欠けた掛け声と共に宙にまった使徒に上空からゲッタードリルとゲッターアームのラッ
シュをかけている。あ、なんか凄い。
『じつはさっきから気になってたんだけどよぉ、リン』
 私たちはあれほど苦労したっていうのに、面白いくらい使徒にダメージを与えまくっているゲッター2を見ながら、
どこか虚ろな声で甲児さんが訊いてきた。
「なんでしょうか?」
『いつからゲッターチームに、場違いな女の子が入ったんだ?』
 私は答えに迷って、結局、こう言った。
「ちょっと一言二言では話せませんね」
 あのクルクル巻き毛の娘が私の士官学校時代の困った友人で、ルナツーで問題を起こしてロンド=ベルに引き取ら
れ、そのあと隼人さんにひっついてゲッターロボに乗らせてみたら意外な才能があって、いつの間にやら当然のよう
にゲッターロボに乗るようになっている。やっぱ簡潔に説明しづらい。
『ハイハイハイィ~~、ヤァ!!』
 ゲッター2は上空からのラッシュをかけ、最後に両アームを上にあげ、両手で思いっきり使徒を殴りつけた。
 突き刺さっていたツイングレートブースターは外れて、あさっての方向に飛んでいってしまい使徒は地面に落下し
ていく。
『これは、リンちゃんたちをいぢめた分、ですぅ~~~!』
 最後に嬉しいことを言いながら、ゲッター2は高加速で地表に激突寸前の使徒より先に地上に降り立った。そして
掲げられたドリルに、使徒が突き刺さった。
「グレースちゃん、凄くない?」
「・・・うん、凄い」
 かなり唖然としている私は、アムの意見に素直に同意した。いくら使徒が弱っていたとはいえ、いまの一連の連続
攻撃は、見事としかいいようがない。
『ドリルぅ~~~ミサイルですぅ!!』
 そしてドリルは突き刺さったまま高速回転をはじめ使徒の肉体をえぐるえぐる。飛び散った赤いのはヤツの体液か?
ゲッター2から放たれたドリルは、使徒を突き刺したままわずかにその身体を宙に浮かせる。
 そのわずかに隙間があいた瞬間に、グレースはゲッター2を移動させる。 そしてその場に今度こそ使徒は叩きつ
けられた。宙に浮けるはずのヤツが地面に叩きつけられたのだ。かなり弱っているぞ。
『オープンゲットですぅ~~!』
 う、グレース独壇場だ。ゲッター2を素早くオープンゲットさせると、今度はゲッター3にチェンジした。
 まだ動こうとする使徒に、ミサイルを連続発射して追い討ちをかけている。
 再び例のバリヤーが発生しているが、ミサイル攻撃のせいで使徒は体勢すら立て直せないでいる。
『よくやったぞぉ、グレースちゃん!!』
 そして夕闇せまる空に、超新星が発生したかのような、白い閃光が生まれていた。
『いくぞぉ~~~~、ゲッターシャァ~~イン!!』
 竜馬さんの裂帛の雄叫び。白い閃光がさらにその輝きをましたいる。
「え、なに、今度はなに!?」
 アムがかなりビックリしている。私はあることに気がついて通信で皆に呼びかけた。
「みんな、使徒から離れろ! あいつがやられる時なにが起きるか想像つかない!」
『了解です』
 ダバ君のエルガイムはすぐに反応してその場を離れるが、マジンガーZはそうもいかないようだ。
『お任せですぅ~』
 でもグレースが気がついたらしくゲッター3でマジンガーZの脚をつかむや、そのまま引きずってその場を離れて
いく。
『ちょっと、お手柔らかに、頼むぜ、おい!』
『贅沢は敵ですよぉ~♪』
 甲児さんの不平もどこ吹く風で受け流すグレース。やっぱ大物だな。
 皆だいたい1キロくらい離れただろうか。            
 肉眼では見つめられないくらい、その白光が輝きを増した。まるで間近に第二の太陽が出現したかのようだ。
『シャァ~~インスパァ~~~~~ク!!!!』
 スピーカーが飛ぶんじゃないかってくらいの竜馬さんの声が響くと、閃光が急降下してくる。
 地表でのたうつ使徒の間近で白い閃光の中から、赤いドラゴンが急上昇をかけ離脱する。そして高エネルギー体と
してすでに質量すらもっている閃光は加速そのまま、使徒に激突! そのまま閃光で使徒を包み込んだ!
 決まった、勝った!!
 と私が心の中で思わず喝采をあげた時だった。
 私の目の前にFWが現れ、こう警告してきた。
【危険】
 ずいぶんシンプルな言葉だ。
「なんて書いてあるの、これ?」
 まだ地球圏の言葉は読めないアムが訊いていたので声にだして読む。
「危険、だって。なにがだ?」
 だが、このフランってOSは私の命令を待たずに独断で行動を始めた。
【BH砲、発射スタンバイ】
 そして小母様の一言で止まっていた発射シークエンスをかってに始める。
「こら、待て! なにが危ないんだ!?」
 私の言葉も聞かずに、発射シークエンスはどんどん進み、砲身のジェネレーターが始動を始めた。なんだ、なにが
起きているんだ?
「小母様、カネダさん、こいつ勝手に動いてますよ!」
 通信で聞こうとおもっても繋がらない。う~、レナンと違って名前を呼んだだけじゃつなげないのか、このOSは!
「とにかく、なにが起きているんだ、答えろフラン!」
【却下:搭乗者生命を優先:BH砲発射シークエンス継続】
 思わず開いた口が塞がらなくなった・・・ このフランってOSは、私の命令を聞き入れないで、独断で動くのか?
父さん、あなたは何を考えてこんなAIをゲシュペンストに積んだんだ?
【エネルギー出力28%:発射可能:搭乗者はトリガーを】
 あ、あげくに私に指示まで出してきたぞ、こいつ。私は困惑しながらもその指示に従った。
「何を撃たせる気だ、フラン!」
 半ば自棄になってトリガーを握ると、目標が十字スコープに現される。
 こいつが撃てと示しているのは先ほどゲッタードラゴンが全エネルギーを込めて放った閃光だった。もう、わけが
分からない!
『ちょっと、リンさん!? どうしたんですか!?』
 ようやく鉄人を操作するカネダさんが、ブラックホールキャノンとやらを撃つスタンバイを完了してしまったこと
に気がついたようだ。
「わかりません! ゲシュペンストが危険だからといって、勝手に発射シークエンスを再開してしまったんです!」
『ゲシュペンストが勝手に、ですか・・・』
「撃つときなにが起きるか分かりませんので、射撃姿勢の保持をお願いします。レッシィも頼む!」
『了解しました』
『わかった!』
 そして、 鉄人とグライアに背中を支えるようにしてもらう。今、ゲシュペンストはかなり後ろに寄りかかるよう
な体勢になっているからだ。いまのゲシュペンストの膝関節の状態じゃこの姿勢の支持はキツイ。
 白い閃光のなかで分解し崩れていく使徒の姿が確認できる。断末魔って様相だ。
 ここでなんで撃たなきゃいけなか分からないが・・・
 私は隼人さんが言った言葉を思い出していた。
 父を信じろ、と・・・
「父さん、信じるぞ!」
 そして閃光に包まれた使徒が完全に崩れ去った時、私はフランの指示に従って、トリガーボタンを押した。いつも
より重く感じたのは気のせいか。
 ズドン! そんな感じの反動が。ゲシュペンストを支える鉄人とグライアが必死に支えてくれたのがわかる。
 そして漆黒の球体が砲身から放たれた。
 今まさに大爆発を起こさんとする白い閃光の中に漆黒の弾丸があっさり命中し、その姿を消した。
 一瞬、あっけに取られた私だったが、次の瞬間に起きたのは・・・

 いきなり現れたクレーター状な陥没ができていた研究所の敷地だった。

 瞬きする間に、先ほどの白い閃光も使徒もその場から消えてしまったのだ。
・・・これには驚いた。言葉が出てこない。魂が抜かれてしまった気がする。
『な、なんだぁ、何が起きたんだよ、おい・・・』
 甲児さんが呟くように言うが、誰も答えられない。撃った私ですらそうなのだから。
『リンが撃ったあの黒い弾が、シャインスパークのエネルギーと使徒とやらが崩壊するエネルギーを吸収して、対消
滅したってトコですか、カネダ博士』
 上空から観察していたらしい隼人さんが、そう言った。
『縮退兵器が、グランゾン以外にあるとは思いませんでしたよ。いや、もしかして・・・』
 隼人さんは何かに気がついたようだ。カネダさんの答えを待たずに隼人さんが言葉を続けようとした時だった。
『はいはい。さすがは早乙女研究所の秘蔵っ子よね』
 場を和ますように小母様が割って入ってきた。
『とにかく、みんな降りてらっしゃい。疲れているでしょ』
 あ、言われてみれば・・・ さっき強壮剤をぶちこんで持ち直したけど、身体がかなり疲れている。
 撤収しようとブラックホールキャノンを鉄人にゲシュペンストから離してもらうと、再び一時停電が起きて、コッ
クピットが元の配置に戻っていく。
「レナンか?」
 【Yes】
 返って来た簡潔な返事に私は胸をなでおろす。
「オートで格納庫に帰還してくれ」
【了解】
「よいしょっと、お疲れ、リン」
 アムがねぎらいをかけてくれる。でも、なんだか気が抜けて気が抜けて・・・
 ゆっくりと滑っていくゲシュペンスト。周りを見る。
 競りあがっていく研究所の施設。ゲッター3に引っ張られていくマジンガーZ。ゆっくりと着地するゲッタードラ
ゴン。近づいてくるエルガイム。キャノン砲をかかえて再び地下施設内に戻っていく鉄人28号。散らばっているH
Mの残骸。
 そして巨大な、でも意外と浅いクレーター。
 先ほどまでの激闘が、急激に過去のモノとなっていく。それに、あのわけの分からなかったオタマジャクシはいっ
たいなんだったんだろうか?
 あ、マズイ、眠くなってきた。シャングリラでの戦闘の時もそうだったけど、私は疲れると眠くなるのか?
「格納終了したら、起こしてくれ」
 レナンに言ったのだけどアムが、
「オッケェ~♪」
 と明るく答えてくれた。シートを倒す。目をつぶる。あっさり私の意識は眠気に駆逐されてしまった。

 -第九話 Bパートへー

【後書き】
 体調を崩して入院したせいで、しばらく更新できませんでした。
 次の更新は来月になると思います。


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