教員コラム 
【遊学論】 〜宇宙に学ぶ〜(前編)
三谷 宏治 主任教授
K.I.T.虎ノ門大学院 ビジネスアーキテクト専攻 専攻主任
担当科目:ビジネスマネジメント研究、戦略思考要論、戦略思考特論、戦略思考演習、ビジネスアイデア特論、CRM特論
(2008/11/19掲載)
冥王星が「惑星」でなくなった日
太陽系にある9つの惑星の中で最遠の星、冥王星が、2006年8月24日、惑星という立場から離れた。現時点で冥王星は「dwarf planet(準惑星)」であり、「海王星以遠の公転天体の代表格」とされている。
メディアによる報道も多かったから、こうなるにいたる騒動をご覧になった方も多かろう。
冥王星の歴史を簡単におさらいすると:
1. 1930年、クライド・トンボー(米)が発見。ギリシャ神話の冥府の王 Pluto(プルート)と名付けられる。
2. 1978年以降の観測により、冥王星の質量が予想の数百分の1しかないことが判明(地球の1/500、月の1/5足らず)し、惑星ではなく小惑星ではないかとの論争が起こる。
3. 2005年、冥王星より大きな公転天体が発見され「第10惑星」などと呼ばれる。
4. 2006年8月14日、国際天文学連合(IAU)総会が開かれ、惑星数を9から12に増やす原案(3増)が提出されるが、参加者から強い反対に遭う。結局、同24日、惑星数を8(1減)とする修正案が可決される。
このIAU総会では様々な珍事も見られた。
ディズニーキャラクターであるプルートは、まさに1930年、米国人による冥王星発見にちなんで名付けられたものだ。ある米国人発表者は、プルートのぬいぐるみを抱えながら、聴衆の情に訴えるという作戦に出た。
「冥王星が惑星じゃなくなったらプルートがかわいそう」
これは相当の逆効果だったらしいが、そういった人間らしいドタバタと、科学者らしい客観的議論とを経て最終的には「現時点においては最も正しい科学的定義」に落ち着いたように思う。
常識破壊の衝撃
少なくとも子どもたちにとって、これは大きな衝撃だ。学校で習ったばかりのことが、変わる。正しいと思っていたことが、否定される。
日本人は、教師の言うこと、教科書に書かれていること、本で読んだことは「正しく」つまりは「変わらないもの」と信じ込む。これは多くの日本人の「素直さ」という美徳であり、と同時に「常識否定力」のなさに繋がる悪弊だ。
企業や社会は変革のリーダーや常識破壊の志士たちを、今こそ求めているというのに…
ここでヒトが感じるべきことは「常識とは『自然』でなく『人為』なのだ」ということだ。
常識はヒトの中にある。まずは自分の中にある「常識」を意識し、理解しよう。知識や前提のない子供や他人に、キチンと説明できるだろうか。もし出来ないとしたら、それは「ウソ」なのかもしれない。
幸運の星地球
宇宙は様々なことを我々に教えてくれる。その一つは如何に我々が「恵まれているか」だ。
我々の太陽系の中の神秘の一つに「巨大惑星の存在」がある。木星と土星は各々地球の318倍、95倍の質量を持つ巨大なガス惑星だ。その強い重力のために多くは液体水素や金属水素という形をとっているが、その組成は極めて「太陽」に近く、もう何十倍か大きければ、ミニ太陽になれていたものたちなのだ。でもその存在が、我々の「幸運」とどう繋がるのだろう。
恐竜の絶滅という話はご存じだろう。2億年に渡って大繁栄を続けた恐竜が、白亜紀末 約6500万年前に絶滅した。この時期には同時に他の多くの生物種も滅んでおり、なんと地球上の生物種の9割近くが絶滅しているのだ。
その原因はまだ諸説あるが有力なのが「巨大隕石衝突」説。メキシコ ユカタン半島地下には巨大なクレーターが眠っている。直径11kmもの隕石が、衝突したのだ。それにより気候が激変し、気温や植物相が変わり、それに対応しきれなかった多くの生物種が滅びた、と。
こういった巨大隕石の地球への落下は、ある意味確率的なもので、約1億年に一度は起こるものと考えられている。太陽系内にはこの程度の小天体は数兆個も浮いるのだから仕方がない。
でも、もし、木星や土星がなかったら?
彗星などはもともと太陽系外縁に浮かび、そこから太陽に向かって「落ちて」くるものたちだ。その大部分は地球ではなく、遙かに重い木星・土星に「捕まって」しまう。
地球から見れば、それらが強固な「楯」になっている訳だ。実際、1994年にはシューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に補足され落下した。その時の落下の衝撃は原爆1億個分と言われている。
もしこの木星と土星という強固な楯(超巨大掃除機?)がなければ、地球への小天体の衝突確率は今のなんと1000倍にもなり、地球生命は10万年に一度は「大絶滅」の憂き目に合うことになる。「たった」10万年では、猿から人間への進化のヒマすらない。
実は、木星や土星がもう一個あったら、それはそれで大悲劇となる。巨大惑星の軌道が安定しなくなり、他の惑星たち(地球や火星など)を丸ごと呑み込んでしまうようになるのだ。
これで「幸運」の意味が理解できただろうか。
許される木星型巨大惑星の数は1か2のみ。0では地上で大絶滅が繰り返され、3以上では地球そのものが消滅する。ヒトは故にこの地球に生まれることが出来たのだ。我らの存在には明確な「理由」がある。ただ「たまたま」生まれたのではなく、「なんとなく」生き長らえているわけでもない。ある法則で動く環境の中で、ある適切なメカニズムを得、環境変化に応じてそれを改良し続けられたからこそ生きている。
企業も、同じだ。
今の自社の在り方には必ず理由がある。それをまずは深く理解しよう。事業環境という名の「法則」、そして自社を動かす「メカニズム」を。
こういった「仕事以外」からの発想のヒントについては拙著「観想力空気はなぜ透明か」(東洋経済新報社)、「突破するアイデア力」(宝島社新書)でも取りあげている。あわせて、読まれてのご意見ご感想、ご質問はこちらへ。筆者が直接お答えします。(これは「商工にっぽん」06年11月号掲載の原稿に加筆修正したものです)
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