弁護士開業支援 柏崎市の試みを広げたい

 「市内に法律事務所を開いた弁護士には、開設費用の一部を助成します」。柏崎市が今月からこういう制度をスタートさせた。全国でも先進的な取り組みであり、成果に注目したい。
 弁護士は医師と同様、大都市部に偏在、「弁護士過疎」が問題になっている。もう20年以上も弁護士不在が続く柏崎市では、3年ほど前から市役所内での法律相談所開設などを模索してきたが、課題をクリアできないでいた。
 いわば最後の切り札として繰り出されたのが、今回の助成制度である。300万円を上限に建物の取得費など開設経費の2分の1を補助する。
 自治体が法律事務所の開設を支援する制度は鳥取県や福島県南相馬市に先例がある。2008年10月に「法律事務所誘致推進補助金要綱」を設けた南相馬市では、2カ月後に第1号の事務所が開設され、現在は四つの事務所が市内で活動している。
 長引く不況で企業倒産が相次ぎ、多重債務など金銭の悩みを抱える人は増える一方だ。身近に法律の専門家がいれば、大きなトラブルになる前に解決できるかもしれない。
 柏崎市が弁護士や法律事務所を「安心して社会生活を送るのに不可欠な基盤」ととらえ、開業支援に乗り出したのは時宜を得た策といっていい。
 県内30市町村のうち、法律事務所があるのは新潟市、長岡市など8市だけで、町村はゼロである。全国では弁護士の70%弱は東京、横浜、大阪、名古屋の大都市圏に集中している。
 住んでいる地域によって受けられる司法サービスが大きく異なるのでは、「法の下の平等」にもとる。日弁連は弁護士過疎解消に取り組んではいるが、地方裁判所とその支部がある地域に重点が置かれているのが実情だ。
 一方、東京など大都市では司法修習を終わっても所属事務所が見つからない弁護士が生まれている。これらの人たちを地方に誘致できれば、弁護士過疎の解消につながるのではないか。
 開かれた司法は裁判制度だけを言うのではあるまい。市民が法律を身近に感じ、積極的に弁護士に相談できる環境を整えるのも大事なことだ。
 県内の市町村が月1回程度の頻度で行っている法律相談は、予約ですぐ埋まってしまうところも多い。
 司法支援センター(法テラス)やひまわり基金による法律事務所が誕生した佐渡市では、「相談は1~2カ月待ち」の状況が続いているという。
 それだけ弁護士が必要とされているということだ。県や市町村は広域的な連携を含めて、弁護士、法律事務所の誘致に力を入れてほしい。法律は政治を執行する手段でもある。市民に司法を開くのは行政の務めともいえる。

新潟日報2010年5月19日

口蹄疫非常事態 拡大阻止に手だて尽くせ

 「全国に感染が拡大する可能性を否定できない」。宮崎県の東国原英夫知事が非常事態を宣言した。
 牛や豚の感染症、口蹄疫(こうていえき)の被害が猛烈な勢いで広がっている。宮崎県で4月23日に初感染が確認されてから、県内各地で感染の疑いのある牛や豚が連日報告されている。
 約1カ月間で処分対象となったのは11万8千頭に上り、そのうち約6万5千頭が既に処分され土に埋められた。10年前に宮崎県と北海道で発生した際の処分数は計740頭だった。今回はその150倍に達している。
 隣の鹿児島県や熊本県などに飛び火する恐れが強まっている。これら国内有数の畜産県に広がれば、事態の収拾は一層困難になる。万全な防止策を講じなければならない。
 なぜこれほどまでに被害が拡大したのか。もっと早く最初の感染を確認できたはずなのに、相次いで見逃してしまったことが主な要因である。
 農家が飼っている水牛に異常が見られると獣医師から宮崎県に連絡があったのは3月末だ。口蹄疫の症状がないため遺伝子検査をしなかった。ところが後日の検査で陽性反応が出た。
 4月20日に感染の疑いが報告された1例目の牛も当初は「口蹄疫とは考えにくい」と判断され、症状の把握から遺伝子検査まで約10日もかかった。
 口蹄疫は感染力が非常に強い。いかに早く感染源を特定し、封じ込めるかが被害を最小限に抑えるための鍵となる。韓国や中国では口蹄疫がまん延しているという。この情報は県などもつかんでいたはずである。
 畜産県にしては危機感が乏し過ぎた。10年前は被害が少なくて済んだ。今回もたいしたことはあるまいと見ていたとしたら重大な判断ミスだ。
 政府は17日、鳩山由紀夫首相を本部長とする対策本部を設置した。これまでは赤松広隆農相が本部長だったが、これを格上げした。
 発覚から約1カ月後に本腰を入れた国の対応に、地元から「遅い」との批判が出ている。対策に苦慮する宮崎県からは度々支援要請を受けていた。
 既に宮崎1県の問題を超え、国内の畜産業や流通業界に不安が広がっている。風評被害の防止も含め、政府が主導力を発揮しなければならない。
 現行の対策では限界が指摘されている。政府は一定地域の全畜産農家を対象にした予防的な全頭処分やワクチン使用なども検討する方向だ。
 事は一刻を争う。ほかに有力な手法がないなら、やむを得ない。
 その際は農家への補償も十分配慮するのは当然だ。国、県は農家の声を聞きながら、迅速、果断に対処しなければならない。

新潟日報2010年5月19日