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口蹄疫:ワクチン使用検討 殺処分追いつかず

 宮崎県で猛威をふるう口蹄疫(こうていえき)について、今後の防疫対策などを審議する農林水産省の専門家委員会が18日開かれ、感染していない家畜に対し「ワクチンの使用を検討すべき時期に来たと考えられる」と提言した。感染が疑われる牛や豚の殺処分が追いつかず、感染拡大のスピードを抑えるために必要と判断した。国内で使用例はなく、委員会は「選択肢の一つで慎重な検討が必要」ともしたが、農水省はワクチンを使用する方向で検討に入った。

 委員会は非公開で開催され、終了後に寺門誠致(のぶゆき)委員長代理らが記者会見した。

 会見によると、ワクチン使用で感染を完全に防げるわけではないが、感染した場合でも家畜からのウイルス排出量を抑制できるメリットがある。感染拡大のスピードが遅くなるため、同時に殺処分の必要な頭数が減り、殺処分の時間を稼ぐことができる。流行しているO型ウイルスのワクチンは現在、70万頭分の備蓄があるという。

 一方、ワクチンによって抗体ができると、感染の広がり方をつかみにくくなるというデメリットもある。抗体ができた後に感染したとしても、ワクチンによる抗体か、感染による抗体かの識別が困難となるためだ。

 使用しない場合より処分頭数が増える可能性もある。国際獣疫事務局(OIE)から「口蹄疫清浄国」と認められるには、感染した家畜やワクチンを使った家畜がゼロになってから3カ月間病気の発生がないことが条件。ワクチンを使った家畜も処分が必要となる。最終的には、殺処分だけより解決に時間がかかる恐れもあり、使用に否定的な意見を述べた委員もいたという。

 予防的見地から感染の疑いのない家畜を含めすべての家畜を殺処分にする措置については、欠席した委員から実施の検討を求める意見が寄せられた。だが委員会では「今ですら埋却ができないのに、どんどん処分するのは大変だ」などの意見が出ただけで、議論にはならなかったという。

 また、感染が拡大傾向にあるとして、防疫措置に指導や助言を行う専門家の派遣を提言。現行の防疫措置については、移動制限区域を出る一般車両を含めた消毒の徹底のほか、ネズミなど野生動物によるウイルス拡散の防止を徹底すべきだと提言した。【佐藤浩】

 ◇なぜ殺処分必要?--感染力非常に強く

 Q どんな動物が口蹄疫に感染し、どんな症状になるのか。

 A 主に足の指が2本、4本と偶数の動物(偶蹄類)で、家畜では牛や豚などが感染する。感染後の致死率は低く、特に成長した家畜は数%程度。しかし、発熱と口の周りや足にできる水ぶくれで動きが悪くなり食欲が落ちるため、家畜としての経済的価値を失う。

 Q 人に感染するのか。

 A 口蹄疫ウイルスは人には感染しない。感染した家畜の肉や乳を口にしても、口蹄疫にはかからない。だが、人の靴や車のタイヤにウイルスが付着して別の場所に運ばれるなど、人によって感染を拡大する可能性があり、発生地域で大規模な消毒が実施される。

 Q なぜ大規模な殺処分が必要なのか。

 A ウイルスの感染力は非常に強い。水ぶくれの液や排せつ物にあるウイルスに触れるだけで感染する。風で何キロも運ばれて感染することもある。米国の調査では感染原因は幅広く、汚染した畜産物、風、野鳥など野生動物、人などが挙げられた。このため、感染した家畜や同じ農場内の動物はすべて殺され、肉なども流通しない。国際的には家畜の移動制限と殺処分が最も有効な感染防止対策と考えられている。

 Q 今回、国内で初めて家畜の豚で感染が確認された影響は。

 A 豚の排せつ物などに含まれるウイルスは牛の約1000倍と多い。豚の飼育数が多い地域で発生すると、封じ込めがさらに難しくなると言われている。【永山悦子】

毎日新聞 2010年5月19日 東京朝刊

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