アメリカに大学教員は多すぎるか? このエントリーのはてなブックマーク数 このエントリーを含むはてなブックマーク

Rionさんの経済学101のブログにアカデミアの労働市場に関する記事
が載っているので、私も現場からの意見として一言書いておきたい。

記事によると、アメリカの大学では非常勤講師の数が増え続けており
今や教員の73%にも達しているとのことである。

私は数学科の外の話は詳しく知らないが、
数学科あるいはそれに類する理論的学問分野に関して言うと、確かに
アメリカの大学のいわゆる教授、准教授、助教といったアカデミック・
ポジションの数は経営的な観点からはまだ多すぎると思う。

なぜなら、そうしたポジションの人を必要とする
大学院生向けの授業の数があまり多くないからである。
例えば、私の大学では通常、常勤の教員は
年間に4コース(2コース×2セメスター)の授業を持つ義務があるが
そのうち大学院向けのコースは多くても2コース、少なければ1コースである。
それ以外の授業は、学部生向けのもので、修士卒や博士課程学生でも
全く問題なく教えることができる。
教官の側からすれば、学部生の授業を教えるのは準備も少なくて簡単だし
教育は仕事の半分以下でしかないのだから、大した不満はないが、
高い給料を取る研究者にこれらの授業をたくさん持たせるのは
経営的には大いなる無駄だろう。

ただし、冒頭の非常勤講師が増え続けているという状態は
現状では必ずしもうまく機能していない。

問題の一つは非常勤講師の大半が大学院生であるということだ。
多くの大学院生にとっての死活問題は学位を取れるかということであり
良い授業をするインセンティブはほとんどない。
確かにクビになったら彼らも困るが、実際は
セクハラや不公正な成績評価など極端な問題を起こさない限り
クビになることはほとんどない。
必然的に授業の質は個人の労働観に依存してしまうため、
一部の人たちの仕事ぶりは本当にひどい状態だ。
2〜3分で終わる数値入力を断ったり、
忙しいからと言って宿題の採点を拒否したり、
演習の授業準備をするのが面倒だからと
宿題の答えを(期限前に!)黒板に丸写しするTAもいる。

一方で、大学院生の雇用コストは安くない。
これは通常、雇用と引き換えに院生の授業料や保険料を
学科あるいは大学が負担する慣例になっているからだ。
例えばYale 大では院生の雇用コストがポスドクのそれよりも
高くなってしまうので最近はポスドクを増やしているという。

経営上合理的な方法は、
専門的でない学部教育と専門的な教育(主に大学院)を切り離し、
前者は修士修了程度の教員を(おそらく専任で)採用することだ。
研究職の教官には大学院の授業を持たせれば住み分けができるので、
授業時間数が大きく違っても問題は起こらない。
同一科目を同一教員が多く担当するようにすれば、
現在の高校教員に近いイメージになるので、
週に20時間程度の授業を持たせることは十分可能だろう。
これは研究大学の常勤ポストの教官が教える時間数の3倍程度だ。
それでも民間企業対比では休みや自由時間は十分にある。
研究義務がなく修士卒が条件であれば、賃金は現在の常勤ポスト
平均の8割くらいでも集まると思われる
大雑把に言って年俸6〜8万ドルくらいのイメージだろう。
結果、学部向け講義のコストは現在の3割以下に出来る。

学部生は話の端々に豊富な知識が滲み出るような授業は
聞けなくなるだろうが、ルーチンという意味での
プレゼンテーションの質はむしろ上がる可能性すらあるし、
何より現在よりも安い授業料で大学に通うことができるようになる。

(もちろん、大学のコストは講義料だけではないのでそれだけで
授業料が3割になるわけではない。)

確かに、一部の学生(とその親)は高い授業料を払っても
専門家から生の話を聞ける授業を望むかもしれない。
しかし、それはほんの一部の私立大学がやればいいことだ。
多くの大学が求めるべきものは、
より合理的な経営と学生の懐を痛めない授業料であるように思う。

ほんとにそんなことやられたら自分は解雇されるかも知れないけどw

テーマ : 大学
ジャンル : 学校・教育

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。

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