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[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 00:02
作者挨拶です。



この作品は作者の趣味全開のSSです。




序~二十三話までが一章。

二十四~三十八話までが二章。

三十九話~五十三話が三章。

五十四話~六十七話までが四章、

六十八話~最終章となっております。


ネタ盛りだくさんですが、よければ読んでやって下さい。







更新履歴

6/07:初投稿。

7/11:チラシの裏より転載。二十四話投稿。

7/15:24.5話投稿。

7/15:二十五話投稿。

7/19:二十六話投稿。

7/20:二十七話投稿。

7/25:二十八話投稿。

8/01:二十九話投稿。二十八話誤字修正。

8/02:三十話投稿。

8/03:三十一話投稿。

8/03:三十二話投稿。

8/04:三十三話投稿。

8/05:三十四話投稿。

8/08:三十五話・前編投稿。

8/09:三十五話・後編投稿。

8/13:三十六話投稿。

8/15:三十七話投稿。三十六話・一部を変更。

8/16:三十八話投稿。(二章・完)

8/16:閑話の1投稿。

8/18:閑話の2投稿。

8/22:幕間の1投稿。

8/22:幕間の2投稿。(やや短め)

8/22:幕間の3投稿。

8/23:幕間の3を一部修正。

8/29:劇場版の1を投稿。

8/31:劇場版の2を投稿。

9/05:劇場版の3を投稿。

9/09:劇場版の4を投稿。

9/13:劇場版の5を投稿。

9/13:劇場版のepを投稿。

9/21:幕間の4・前を投稿。

9/21:幕間の4・後を投稿。

9/21:三十九話を投稿。

9/27:ご指摘の内容を修正。

10/04:四十話を投稿。

10/11:四十一話を投稿。

10/12:四十二話を投稿。

10/14:四十三話を投稿。

10/18:四十四話を投稿。

10/24:四十五話を投稿。

10/25:四十六話を投稿。

10/26:四十七話を投稿。

10/30:四十八話を投稿。

11/07:四十九話を投稿。

11/22:五十話を投稿。

2/12:五十一話を投稿。

2/13:五十二話を投稿。

2/14:五十三話を投稿。

2/25:五十四話を投稿。

2/28:劇場版Ⅱ その壱 を投稿。

3/5 :劇場版Ⅱ その弐 を投稿。

3/7 :劇場版Ⅱ その参 を投稿。

3/12:劇場版Ⅱ その四 を投稿。  

3/14:劇場版Ⅱ その終 を投稿。 

3/16:閑話の3を投稿。 

3/18:五十五話 「うちはイタチ」を投稿。

3/21:五十六話 「小池メンマのラーメン日誌」を投稿。

3/21:五十七話 「別れと再会」を投稿。

3/22:五十八話 「始まり」を投稿。

3/28:五十八話 「因果の果てに」を投稿。

3/28:六十話  「譲れないもの、ひとつだけ」を投稿。

4/2:六十一話  「木の葉の忍び達」を投稿。

4/4:六十二話  「地摺ザンゲツ」を投稿。

4/5:六十三話  「泡沫の光彩」を投稿。

4/6:六十四話・前 「乱戦」を投稿。

4/7:六十四話・中 「混戦」を投稿。

4/9:六十四話・後 「決戦」を投稿。

4/11:六十五話  「犠牲」を投稿。

4/17:六十六話・前 「宴の前」を投稿。

4/18:六十六話・後 「多由也」を投稿。

4/26:六十七話  「桃地再不斬×白」を投稿。

5/1:~章前~  「終わりの始まり、始まりの終わり」を投稿。

5/4:六十八話  「月は見ていた」を投稿。

5/17:六十九話  「錯綜する運命」を投稿。

5/18:七十話   「疾走する宿命」を投稿。

5/19:七十一話  「動き出した者達たち」を投稿。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 序
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 16:17
俺の名はうずまきナルト。ラーメン屋見習いである。

え、忍者じゃないのかって?違います。

そして実はうずまきナルトでもありません。

え、誰なのかって?秘密です。

気づいたらナルトになっていました。生前の名前は思い出せません。





今は小池メンマと名乗っています。ラーメン大好きです。







7年ほど前の話でしょうか。

突然です。本当は突然ではないのかもしれませんが、意識的には突然でした。

まず視界に移ったのは、血まみれになった自分の手。小さい手。

辺りを見ると、血まみれになった人達が辺りに転がっていました。

場所は森の中のようです。木々が風に揺れる音が聞こえます。

時刻は夜でしょう。暗いから。

そして向こうからやってくるは、お面の人。






その年でお面ってwww





と思っていたら何かを投げられました。刺さりました。痛いです。心の声が聞こえたのでしょうか。

それでも、こんなものを投げるとはやりすぎでしょう。






あまりにもアレな状況に、反射な思考しか浮かんでいませんでした。

身体に刺さった何か。その激痛に転がっていると、九尾が!とか化け物が!とか言いながらお面さんはドンドン投げてきます。

その尖った鉄塊が10本程、色々身体のあちこちに刺さった頃でしょうか。

それを止める人達もやってきました。

何をやっている!とか言ってます。そうそう。どんどん言ってやって。

やがて、その人達は喧嘩を始めました。仲間割れでしょうか。つか速えです。見えません。



状況が分かりません。全く分かりません。



喧嘩をやめて二人を止めて、と言った方がいいでしょうか。

ていうか、何刺さってるの?え、クナイ?忍者?九尾?



・・・ナルト?

え、どういうこと?



と頭の中の混乱が益々いい感じに。

パニックがやがて緩やかに、そして絶頂に達しようとしたときです。








吹き飛ばされました。


後で思うと、あれは起爆札だったのでしょう。


その爆風に吹き飛ばされ、意識を失いました。















その後です。

夢の中でしょうか。変な場所に立っていました。身体は痛くないようです。

立ち上がると、少し離れた所に誰か立っています。

・・整った顔立ち。でも、表情を渋いもので満たしている、金髪の兄ちゃん。年は20代くらい?

今度は、うめき声が聞こえました。

声の方向を見ると、檻が見えました。でかいです。有り得ないほどにでかいです。

冗談きつい展開に、俺は呆然としました。

小一時間ほどでしょうか。やがて俺はその金髪の兄ちゃん、おそらくは4代目火影に訪ねました。



どういうことっすか?と。



渋い表情のまま、説明を始めてくれました。

何でも、忍術の暴走とか、口寄せの暴走とか、九尾の暴走とか、初号機の暴走とか。

・・・最後のは嘘ですが。

何でもうずまきナルト少年は九尾を恨む者に、殴る蹴る刺すの暴行を受けていたらしく、執拗に繰り返されたそれに、少年の精神が壊れてしまったようです。




そしてナルト少年in九尾が暴走。

暴れるナルト少年と、立ち向かう暗部の下っ端。






精神の崩壊は九尾の封印にも影響を及ぼしたらしく、事態はあわや封印解放の憂き目に。

そこで四代目復活。精神だけらしいですが。緊急の封印をしようとしたらしいですが、失敗。

それでも何とかしようと、何らかの術を使って~、とか、辺りに漂っていた九尾のチャクラの影響で~とかなんとか。

その後、延々とうんちくを垂れ流していましたが、聞いていませんでした。

つまり、から始まる結論の言葉が予想できたからです。













「精神だけ口寄せしちゃった、テヘ(はーと)」

「死ね」










自分の頭をこつんと叩いて舌をだして笑うアホに、取りあえず全力で金的蹴りを叩き込みました。

笑みを浮かべながら。

何回も、何回も。

















「・・・で?これからの事は?」

「どうしようか」

無責任な親父の頭を拳で抉ります。厳密には親父じゃねーですけど。

つーか、どうしようかじゃねーだろ。

取りあえず、現状を把握してみます。

事態は簡単。いわゆる一つの憑依者というやつです。

いや簡単じゃねーよ、とノリツッコミしましたが、うけたのは目の前にいる阿呆のミナトだけ。

いや、こんな立派な名前はいりません。まるでダメなオッサン、略してマダオで十分です。よろしくなマダオ。

俺は空しくなり、つい、といった感じでそのマダオに目つぶしを喰らわしてしまいました。

反省はしていません。



さて、どうしようか。


自分、ぶっちゃけ原作もうろ覚えです。あまり思い出そうとしても、思い出せません。

キーワードを聞くとか、そんな場面に出くわすとか、きっかけがあれば思い出すかもしれないですけど。

まあ、大筋とか名前とか、そんなんしか分からないでしょうが。

というかナルトが殺されそうになる事、そもそも原作外のことなので。

もしかしたら、思い出しても意味ないかもしれません。




あと一つ、ここに来る前の事で直ぐに思い出せたのは。自分はここに来る前に死んだということだけ。

圧倒的な死の感触。

その強烈な印象だけが残っているらしく、それだけは今のポンコツな頭でも思い出せました。


という事はここで生きていくしかないということですか。はあ。

まあ、生まれ変わったと割り切りましょう。考えてもどうしようもないし。

さて、どうしよう。

取りあえず、痛いのは嫌です。さっきのクナイで悟りました。あんなに痛い思いをするのは、ちょっとゴメンです。

なので、変態忍者達とのガチンコバトルもしたくありません。

大蛇丸とか本当にごめんなさいです。

少年相手に「やらないか?」とかいう、むしろ大蛇○とか伏せ字にしたい発禁人間と関わり合いになりたくありません。

ていうかお前ら全員忍べよ。しのびねえよ。こっちとしては。ちくしょう。





「でも狙われると思うよ?」

「・・・分かってますよ」

事情がもうアレすぎます。このうずまきナルト、狙われない理由がありません。

取りあえずミナトさんに訪ねてみます。



木の葉?危険だろ。暗部殺したことで、更に事態というか里の忍びがヒートアップしてるかもしれんし。

砂?論外。万年寝不足狸の相手は御免被る。

霧?死ねよ。死亡フラグ満載じゃねえか。

雲?ワナビーイェイ。あのノリが無理です。それに、情報が少ない。

岩?知らんがな。でも何となく危ないイメージ。それに(ry




・・・結論。ぶっちゃけ何処にいても危険な状態。涙が出てきそうです。

もっと波風立たない人生を送れないでしょうか。

「あ、うまい」とかいうマダオには、人中突きをかましてやりました。

悶絶しています。いい気味です。





『で、ワシは無視か?』

何やら背後から、不機嫌な声が聞こえてきます。エコーが掛かってます。

振り返ると奴がいました。九尾のキューちゃんです。

「解放されそうだぜキャッホー」から一転して、また封印されたせいでしょうか。

かなり不機嫌です。




『まて』



待ちません。こっちは本当にいっぱいいっぱいです。

『・・・小僧、取りあえずだがこの封印を解いてみんか?何、お礼はするぞ』

鏡見て言え、この馬鹿。

ていうかうし○ととらの、とらのセリフじゃねえか。獣の槍?持ってませんよ。欲しいけど。

っていうかお前は敵役というかラスボスじゃあねえか。あっちいけ。

『・・・ちっ』




「ていうかホントどーすんの?」

「取りあえず、何をするにもまず、身体を鍛えるしかないね」

「・・・でも師匠おらんがな。誰も頼れないし。それともアンタ、できんの?」

この四代目はあくまでも影。本人は死んでいる・・・はず。

できるのか、と聞くと困った顔をしている・・・もしかして?


「うーん、基本的に僕は四代目の人格を込めた、喋る人形みたいなものだからねえ」


・・・で?その先が聞きたいんだよ。


「できるのか?」

「・・・本来なら直ぐにでも消える筈なんだけどね。どうも僕に関しても、さっきの暴走の影響が出ているようだから・・・・まあ、消えるまでなら、できる」

「なら、決まりだ」


思うところは色々あるが、取りあえず握手。


「よろしく」


「こちらこそよろしく」

















精神と時の部屋から出て。目覚めると、服が濡れていた。

あたりを見回す。

どうも崖下に落ちて、川に流されたらしい。生きているのは九尾の回復力の御陰だろう。

疲れた身体を起こし、取りあえず自分の身体の状態を確認する。

痛みはあるが、何とか動ける。明日には回復できそうだな。

(すぐに動けそうにないから、修行は明日からでいいか?)

(OK)



・・・なら、今日中に済ましておくか。





















少し離れた所に、一本の大きな木があった。

そこに、石碑を建ててやる。

(何してんの?)

(墓だ。うずまきナルトのな)





精神死した少年。誰も知らず、朽ち果てた少年の墓碑。

俺達だけが知っている。本来の「うずまきナルト」は死んだと言うことを。





(思うところはないのか?)

(あるよ。でもそれは君にいうべきことじゃないから・・僕には、言う資格もないよ)

(そうだな)


何もかもが筋合いじゃない。知らない俺が悲しんでも、それは違うことだろう。

でも、同情はする。運命に巻き込まれて死んだ少年の、その僅か5年ばかりしかなかった、その人生を想って。


墓に名前は刻めないけれど。・・・唯一知っている俺達だけは。そして今だけは、この少年の死を悼んでやろう。


(・・・ありがとう)


(どういたしまして)



夜の森の中。梟の鳴き声が、森に響き渡った。

空を見上げると、満月だった。












そこから先は修行の日々。

最低限、逃げられるだけの力が無いと、危なくて何処にもいけません。

ぶっ倒れるまで修行して、回復。その繰り返し。流石は、、九尾。回復力すごいです。

複雑な思いはありますが、九尾様々です。まあ使えるものは使うべきだよね。

チャクラコントロールは影分身で修行しました。チート乙。

あとは実戦経験です。

これは四代目特製の術、ありったけのチャクラをつぎ込んだ変化の術の御陰で、何とかなりました。

抜け忍にまじってあちこちでちっちゃい仕事をこなしました。

大きい仕事は何かフラグが立ちそうなので、受けていません。

まあ変化は完璧なので、そうそう俺がうずまきナルトとはわかりませんが、万が一を考えて。



そして金が貯まり、力も蓄えましたので、旅に出ました。









目的は、究極のラーメンを作るために。







生前、俺はラーメン屋を営んでいました。

ちょっと若い頃馬鹿やった後、そのつてを頼って~のパターンです。

今でもちょっと感情が高ぶると、昔の行動・思考が漏れ出ます。

不良から心機一転、一心不乱に修行しました。





そして努力の果てに何とか自分の店を持てた、その一年後でした。





交差点で事故した車が、店の中に突っ込んできたのは。




今思い出しても、悔しい思いでいっぱいになります。


ということでその悔しさを払拭するためにも、是非ともラーメン屋をしてみたい。


それに、生きる目標が欲しい。


逃げるだけの生活はまっぴらですし、どうも人生には張り合いがないとやっていけないようです。


というか、まだあの時の、生前に誓った夢を叶えていないので。












修行が一段落した後は、各地を回り、各里を回りました。事件にも遭遇しました。

忍務でもないのに、何故がフラグが立ってしまった場合もありました。迂闊でした。












数年が経った頃です。

頭の中に、新ラーメンのレシピと案は、ある程度ですが出来ていました。

が、いざ開店という前に、重大な事実に気づきました。

この世界にも似たような食材はありますが、調理器具が若干違うのです。盲点でした。

それに、食べ物の味も、若干ですが違います。調整しなければならないのですが、長い間料理から遠ざかっていたせいか、勘が戻りません。

そこで、もう一度修行する必要があると感じ、その修行先の店を探しました。



辿り着いたのは、この店でした。






「よろしくお願いします、テウチさん」

「・・・おう」


木の葉のラーメン屋、一楽

原作おなじみの店、あのです。



決めた要因は3点あります。

1、治安がいい。霧とかとは段違いどころか桁違いに治安が良いのです。

2、食材が豊富。砂とか無理です。というか、そもそも砂漠みたいな所ではラーメン屋がありません。

3、これからの事。色々と起こりそうなこれから、現状をいち早く把握していくためには、何より近い場所にいた方が良い。



まあ、ナルト少年の事とか、九尾について思うところはあります。

ありますが、木の葉にいる人全員が、あの暗部のように馬鹿ばっかりではありませんし。

総合的に考えて、この店に決定しました。もちろん、修行中は変化の術を使っていますが。

『ようやるわ』

うるさいわ、童女狐。

あ、ちなみにですが、キューちゃんは今、童女姿になっています。

あくまで心の中限定ですが。

馬鹿ミナトがやりました。

「これはあくまで心の中、と言うことはイメージ次第で出来る、出来るはずだ!」

連日連夜試行錯誤を続けての偉業(本人談)らしいです。





才能の無駄使いです。本当に。




どうせなら美女にしたら良かったのに、と聞きましたが、こっちの方が萌えるとのことです。


これでいいのか四代目・・・と頭を抱えましたが。



不意にこの馬鹿の師匠と弟子の顔が浮かびました。



















即座に納得しました。











『人間というのもアレだの・・・』

童女姿の狐にアレ呼ばわりされる人達。

シュールでした。とはいえ、可愛いので僕的にもOKですが。




同じ穴の狢?言わないで下さい、頼みますから。ただ可愛い子供が好きってだけですよ。

















今日も修行の日々は続きます。

もちろん、忍者としての修行も欠かしてはいません。

影分身乙です。

ラーメン屋の修行は、生身の方でやっています。

こっちの方でチートはしません。ポリシーです(死語?)







童女狐キューちゃんと、エロ馬鹿四代目。

むしろ四駄目といいたくなるアレな人達と一緒に。







今日も修行に励んでいます。












[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:35





いいか。ラーメンにはなあ、ラーメンにはなあ・・・っ!

男の夢そのものが詰まってるんだよっ!


          ---小池メンマ風雲伝、「ラーメン、その意味」より抜粋


・・・嘘です。







とある修行中の事です。

いかにも怪しい銀髪マスクの人が店にやってきました。

巷、といっても心の中ですが、で噂の変態さんです。

心の中のマダオが興奮していましたが、無視しました。


「いらっしゃい」


新顔の俺を見て、カカシさんは何やら驚いています。

取りあえず注文を聞きます。

カカシさんは、テウチさんと何やら話しているようです。

さりげなーく耳を傾け、会話の内容を聞きます。

・・・話の内容を要約すると、どうもテウチ師匠はナルト、というか俺が行方不明になった事で落ち込んでいるらしいとの事。

そういえば、記憶の底に、このラーメン屋に来たことがあるような光景が・・・。

時々ですが、落ち込んでいるような、曇った表情を浮かべていたのを思い出します。

(あの顔は、俺が原因だったのか)

・・・でも、まあ、取りあえずは放っておこう。今は何も言えないし。言える状況にもない。

ラーメンを食べ終わったカカシさんは、テウチさんに一言二言残して、去っていきました。




「今度、先生のもう1人の忘れ形見・・・娘さんの方を連れて、またきますから」

と言葉を残して。













・・・な、なんだってー!?








『あれ、言ってなかったっけ』

「聞いてねえよ!?」

なんでも俺とその娘は双子で。俺から見れば、妹になるらしいです。

なんじゃそりゃ。



名前は波風キリハ。父譲りの金髪碧眼の可愛い娘(マダオ談)らしいです。

ていうかお前赤ん坊の頃に一度見たきりじゃないのか?




・・・まあいいか。放っておこう。面倒くさいし。

縁があれば会うだろうし、というか次に来ると言っているし。








次の日。

来た。見た。成るほど、確かに顔立ちは整っていると言えるか。

俺みたいに猫のヒゲのようなものが付いていない、正統派美少女?

少女版の波風ミナトといった感じ。そう例えると、妙に癪に障るが。


『可愛いでしょ』

「・・・まあ、確かにな」

『手出すなよ』

「妹だろ!?」



「・・・ん?」

俺の叫びを聞いて、不思議そうな表情を浮かべる少女。

やべえ、今の聞かれてた?


「・・・妹、ですか?」

「あ、ああ。俺、妹がいてさ。ちょっと、今思い出しちゃってさ」

キュウっていうんだ、と誤魔化しの嘘をいうと、心の中のキューちゃんが暴れ出した。

すんません。後で油揚げ食べますから、というと暴れるのは収まった。

現金な童女だ。


「へえ、メンマおめえ妹がいたのか。ここの所毎日働いているようだが、顔みせねえでいいのか?」

「・・・はい。妹は今、心の中に・・・いますから」

俺がぼかすようにしんみりとした表情で呟くと、渋い顔をして悪かったと謝る親父さん。



(うう、良心が疼く)

『アホ』

『ボケ』

心の中から、親父とキューちゃんに突っ込まれました。







次の日は、3人組の親子連れが来た。特徴的な3人組だな。


・・・というか、分かりやすー。猪鹿蝶トリオですね。

親の方はどこか暗い顔をしているな。あー、もしかして俺の事か?

食べ終わった後。帰り際、子供を外に出してから、俺にある話しをした。

四代目の忘れ形見(九尾云々とは言わなかった)の息子の方の捜索を続けているが、一向に見つからないと。

九尾が顕現していないので生きている筈、とあたりを付けているとか。

初めて見る俺にも、見かけたら連絡をくれ、と頼んでくる。



・・・すいません、物理的に不可能です。鏡がない限り。



どんな顔ですか?と訪ねる。昨日見たあの少女と同じ特徴で、金髪碧眼。

年は7才くらいとの事。

そうですね、分かってます。

その人は~もしかしてこ~んな顔をしてますか~、とのっぺらぼうなノリで変化を解きたい衝動に駆られたが、

どう考えてもやっかいごとになりそうなので自重した。


『当たり前だろう』


ですよねー。








その次の日、上忍らしき人がきた。

しばらくして、仕草で分かった。上忍レベルではないだろう。そのレベルに達すると、強さをを隠すのも上手いので。ということは、特上か。

・・・あれ?顔の傷。この人って3代目の側近じゃなかったっけ?

すわ正体がばれたのか、と思ったが全然そんな事はなかった。

飯を食いにきただけらしい。その特別上忍の人はため息をついている。

何か気になるので、ちょっと聞いてみた。

「お客さん、随分不景気なため息ですね。何かあったんですか?」

「ああ・・・」

と急に事情を話し出す上忍の人。何でも、3代目の調子が良くないらしい。

うずまきナルトがどうのこうの言っていた。

・・・またか。また俺の事情が絡んでやがるのか。

面倒臭いなあ。火影なんだからすっぱりと割り切ればいいのに。まあ、思うところはあるんでしょうけど、

それで火影の仕事にまで影響が出るようじゃあ、駄目でしょう。駄目駄目でしょう。甘いなあ。

まあ、それが短所であり、長所にでもなっているんだろうけど。

・・・と思いつつも、そのまま言ったら「無礼もの!」と怒られそうなので、言わないけど。











一日の仕事が終わった後、俺は里はずれの森の中にいた。

一人で修行をしている時、少し考える。昨日、今日に会った人達の話を聞いて、どんな状況になっているか。

(・・・3代目、大丈夫かなあ。実力の低下が進んだら不味いんだけど。あの変態蛇どうすんのって話しになるし)

木の葉崩しはどうするんだろう。

『木の葉崩し?』

マダオが訪ねる。

(ああ、三忍の一人、蛇の字が音の里立ち上げて攻めてくんだよ。砂と一緒に)

『へー、そうなの』

淡泊である。冷たいもんである。見限ったか?とも思うが、お互いに突っ込まない。

割と気の利くマダオである。

(うーん、猿の爺様がそんな様子じゃあ・・・成るかもな。木の葉崩し)

象徴が負けたとなっちゃあ、木の葉の力も権威もがた落ちになるだろう。



その後の事を想像してみる。



(ホモ蛇が権勢を振る舞う世界・・・嫌すぎる)





却下である。

どう考えても平和な世界に成りそうにない。というか、生理的に駄目です。

また乱世の時代に逆戻り?忍界大戦?心底面倒臭いです。



それに、治安が荒れちゃあ、気持ちよくラーメン作れないじゃないですか。

食べる人あっての、ラーメン屋です。

『・・・結局、自分の都合に帰結するんだね』

当たり前だろ。


さあ、どうするかなあ・・・


『あ』


(ん?)


飛び上がる。


こちらに近づく気配を感知した。


(・・・数は多くないな。後方か)


振り返り、注意深く、探る。そこで、分かった事が一つ。


(ん?)


6時の方向に気配ということは、里からこちらの方角に、向かってくるということ。

『・・・暗部じゃあないね』

それは、そうだろう。

殺している気配と、殺せていない気配を感じる。

気配の主は、誰かを連れて里の外に出ようとしているのだ。暗部ならば有り得ない行動。

気配の質から、おそらくは子供を連れている、と推測する。


(拉致か)


狙いは血継限界か。


『どうする?』


「殺す」


イレギュラーは御免だ。手の届く範囲なら、手を出す。決意を言葉に出して、俺は行動へと移した。



取りあえず、待ち伏せしてみる。

だが、相手は自分がいる場所の少し手前で足を止めた。


「・・・何者だ?」


ふん、ちょっとはやるみたいだな。気づかれたか。

言葉に応えるかのように、相手の正面に姿を現す。そして苦無を構え、嘲るように笑い、答える。


「知る必要な無いだろう。今からお前は死ぬのだから」



「・・・ほざけ!」



叫びと共に、相手は一気に距離を詰めてきた。かなり早い。



そして一閃。俺の身体が切り裂かれる。

「ふん、口ほどにもない。手間を駆け寄って・・・!?」

言葉は半ばで途切れる。もう次の言葉を吐くことはないだろう。永遠に。

一瞬である。俺の影分身が傷を受け、消えるまでの一瞬。

その一瞬で、敵の背後に回り、一突き。

俺の苦無が背後から脾臓を貫いている。ショック死だ。おそらくは即死だろう。

断末魔さえ上げさせない。そんな不様は犯さない。

できるだけ静かに、そして迅速に。殺しの鉄則だ。



「・・・あー、やだやだ」



クナイを振り、血を払う。

最初のアレは影分身の囮。

上忍でも、トップクラス以下の力量だと、面白いほどに引っかかる。

分かりやすい方に意識を集中させて、気配を殺したもう一体が影から必殺の一撃。

無音にして、無情。忍者本来の殺り方である。



『お見事だね』

「・・・いえいえ。さーて、攫われたのは誰かな・・・・!」







白い眼って、いいなー。

ホワイトアンドホワ『落ち着け』





はっ?俺は今何を?


「誰です、か?」


薬で眠らされていたのだろう。

ようやく目覚めた少女は、おびえた表情でこちらを見ている。

その姿を見て、俺は頭を抱える。





『白眼、ということは日向の子だね。年からするに・・・ヒアシさんの娘かな』




/(^o^)\


『何?それ』

「地の文に突っ込むな。あー、大丈夫か?」

取りあえず、気の毒な程におびえている少女に声をかける。

なるべく柔らかい声で話しかけたのが功を奏したのか。幾分か安心したヒナタ嬢は、安堵のため息をはいて座り込んだ。

(・・・どうしようか)

迷っている時だ。また背後から強烈な気配を感じた。

距離は離れているが、ここまで気配を届かせられるというと、並の忍びではないだろう。

何か忍者として間違っている気がしないでもないが、それはそれだ。


(暗部ではない。腕が立ちそうな気配だけど・・・)

『もしかして、日向家当主かな』

「うん、さようなら、お嬢さん」

マダオの言葉に頷き、神速でそこから遠ざかる。

滅茶苦茶関わり合いになりたくない手合いだ。ああいうのは。

『きっと、娘馬鹿になってるだろうからねー』

「・・・お前がいうな」








取りあえず全速力で逃げ切った。何でこうなるの・・・?


『迂闊だね』


「だからお前が言うな!」











しばらくは騒ぎになりましたが、またもガン無視です。


そんな事よりも、ラーメンです。


(あー、癒される)

「こら、目の前の作業に集中しろ」

「はい、すいません」

戦いと違って、客にラーメン出してると癒されるんだよねー。昔を思い出して。

それに、美味しいとか言ってもらえるともう最高。

まあ、テウチさんの腕によるものが大きいけど、俺もそれを助けているのは確か。




(いつか絶対、自分の店を持とう)














そして、その日の深夜。

(・・・また、ですか?)

『また、だね』

今度は二組。どちらも分散しているため、各個撃破しなければならない。


(暗部は何やってんだ!?)

『もしかしたらだけど、うずまきナルトの捜索で忙しいのかもね』

あ、そう言うことか。

危険度で言えばS級だもんね、九尾。火影でも歯が立たないくらいだし。

強さで言えばSS付けてもいいくらいかもね。何という人間災害。

『そうじゃろうそうじゃろう』

褒めてないから。

愚痴をこぼしながら、全速で標的の元へと向かう。尻ぬぐいは嫌だが、此処で見逃せば後味悪いのも事実。

仕方ないっちゃあ、仕方ないし。

『損な性分だね』

「得な性分ではないな。それに、生粋の忍びでもないから」

あくまでラーメン屋目指してます、自分。

さて、どうするか。といっても、影分身しかないんですけどね。



昨日と同じ遣り取り。




そして背後から、サク、サク。



了。



木の葉に来てから、螺旋丸みたいな目立つ術は控えています。滅茶苦茶ばれそうですから。

今日の侵入者は、昨日のヒナタ嬢の時より腕は落ちてますので、1人あたりの戦闘時間は少なかったです。

ただ伏兵の数が多く、少し手間取ってしまいました。


(また、随分と多い・・・)

殺す以外に選択肢がありません。逃すという選択肢は、この場においてはありえない。

気絶させるというのも、無い。まだ、木の葉側にばれる訳にはいかないから。

・・・やな気分になります。

(取りあえず、また逃げるか。また追ってきてるし)

そうこうしてる内でした。薬から覚醒した子供に、顔を見られてしまいました。

あれ、ちょと前ラーメン屋で見たような。


「・・・あの、おじさん?」

おじさんはやめてー。せめておにいさんにしてー。

(っていうか、シカマルと、いのかよ・・・)


先日見た二人です。チョウジがいないのは重かったから?


いのじっと、こちらを見ています。まあ戦闘用の変化なんで、見られても構わないんですがね。

あ、シカマル君も起きそうな感じ。じゃあ、行くか。

ベストは、顔も見られないうちに去ることだったけど、まあ仕方ない。これも縁ですね。

戦闘中の変化は、また違います金。髪碧眼の姿をしています。本来のナルトの姿に年を重ねたような変化。

もちろん、マスクで口元を隠していますけどね。

こっちはあくまで囮用なので、小池の方のカモフラージュになるよう、目立つ姿にしてみました。


ちなみに、ラーメン作ってる時の小池メンマの姿は、黒髪茶眼の平凡な容姿です。



「あ、ありがとうございます」

いの嬢は現状を把握したのか、俺にお礼を言ってきました。もしかした暗部か何かと勘違いしているのかも。


まあ、成り行きなんで気にしないで、と伝えてその場を去りました。



また、後方から怖い人達が近づいてますんで。





その場を離れながら、ため息を吐く。

『損な性分だね』

「本当にね」

先をある程度知っている分、見過ごすことができない。木の葉に来たことは失敗だったかも。


(・・・まあ、悪いことは無かったし。立ち回り次第で、なるようになるか)

といいつつも、不器用なんで全て上手くいくとも思えない。


まあ、いざとなったら逃げればいいか。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:36
 



  諸君 私はラーメンが好きだ
 諸君 私はラーメンが好きだ
諸君 私はラーメンが大好きだ

しょうゆが好きだ
みそが好きだ
とんこつが好きだ
塩が好きだ
魚介系が好きだ
付け麺が好きだ
和風が好きだ
四川風が好きだ
担々麺が好きだ

北海道で 津軽で
博多で 横浜で
神戸で 大阪で
京都で 尾道で
熊本で 鹿児島で

我が祖国で作られる ありとあらゆるラーメンが大好きだ

戦列をならべたチャーシューの一斉発射が 轟音と共に舌鼓を打つのが好きだ
油を多くふくんだ焼き豚が 口の中でとろける時など心が躍る

どんぶりの端に添えられた海苔に スープにしみこむのが好きだ
ラーメンに巻いて食べてみた結果 一風変わった味付けになった時など胸がすくような気持ちだった

計算された量のニンニクの味が えもいわれる美味を生み出すのが好きだ
口の中を蹂躙しながらうまみを引き出す 絶妙なるハーモニーには感動すら覚える

給料日に好きな具をふんだんに頼み 思うがままに蹂躙するのなどもうたまらない
並び立った至高の具達が 私の降り下ろした箸とともに舌へと運ばれるのも最高だ

煮玉子がスープの上で健気にも抵抗しながらも やがて箸につかまれ
口の中でそのとろける黄身が 舌とスープによって蹂躙されるなど絶頂すら覚える

特盛りチャーシュー増し増しに 財布の中を蹂躙されるのが好きだ
必死に守るはずだった生活費が ラーメン費に食らいつくされていくのはとてもとても悲しいものだ

背脂の物量に押され 刻一刻と太っていくのが好きだ
心配するおふくろに追い回され 豚になるから走れと懇願されるのは屈辱の極みだ


諸君 私はラーメンを 天国の様なラーメンを望んでいる
諸君 私に付き従うラーメン戦友諸君
君達は一体 何を望んでいる?

更なるラーメンを望むか?
情け容赦のない 究極のラーメンを望むか?
麺風雷汁の限りを尽くし 三千世界のうどんを殺す 嵐の様なラーメンを望むか?


 「 ラーメン!! ラーメン!! ラーメン!! 」


よろしい ならばラーメンだ


我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で5年もの間 堪え続けてきた我々に ただのラーメンでは もはや足りない!!


大ラーメンを!! 一心不乱の大ラーメンを!!


我らはわずかに一個小隊 4人に満たぬ隠遁者にすぎない
だが諸君は 万夫不倒の古強者だと私は信仰している
ならば我らは 諸君と私で総兵力3万で1人の麺集団となる

我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし 眼を開けさせ思い出させよう

連中にラーメンの味を思い出させてやる
連中に麺をすする甘美な音を思い出させてやる

天と地のはざまには 奴らうどん主義者では思いもよらない事があることを思い出させてやる

3人のラーメン主義者の戦闘団で
うどん界を燃やし尽くしてやる

「最後のラーメン隊 小隊指揮官より全ラーメン主義者へ」

第二次 麺王強奪作戦 

状況を開始せよ


「征くぞ 諸君」



   ---小池メンマ少佐著 ラーメン全史第一巻 「終末を越えて」 序説第三章より抜粋




と、いうことで開店だぁ!

『ちょっとは落ち着こうね君』

『まったくじゃ。第一私はきつねうどんの方が好きだというに』

「いきなり裏切り!?」



一年の修行が終わり、無事自分の店を持つこととあいまった。

テウチのおっちゃんには世話になった。あの人の仕事は、本当に勉強になったとです。

弟子として働けた事、誇りに思います。

まあ店を持つ資金もないし、この店は屋台なんですけどね。

町中に店を出すとなると戸籍関係のチェック厳しくなるし

『偽造だしねー』

「暗部の緩さも、時には良いことを生み出すんだねー」

一部死亡フラグになりそうだが、今は置いておこう。

木の葉も平和ボケしたもんだ。

『トップがあれな状態だしね』

現役バリバリがいないというのが厳しい。

色々と中途半端過ぎます。理想しか語らない上司っていうのは大変ですね。

下の方は忍びの質を保つのに一苦労でしょう。

「まあ、今はそんなことどうでもいいか」

『よくないけどね。まあ、取りあえずはおめでとう』

テウチのおっちゃんには、太鼓判をもらった

これぞ、各地を放浪し、現代人の知識を総動員して編み出した至高のラーメン!

・・・には、ほど遠いです。まだまだ技術的に未熟なものがあるから。

色々と試行錯誤して煮詰めていくしかあるまい。ラーメンだけに。


『上手くないよ』

「だあってろ!」



店は、木の葉の里の外れ。辺りには草原が広がります。

ここならば森の中に潜んでの修行もしやすいし、人通りもそんなに多くない。

・・・多すぎるとばれそうで結構危ない感じがするからです。

それでも、少なすぎても駄目、という複雑な背景。

それらの条件を満たし、かつセーフハウスに近い場所といえば、この場所しか無かった。

『ていうか、ここ僕の実家近くなんだけど』

「そうですか・・・はやく言えよ」

まあ、四代目の家なんて、危なくて近寄れないんですけどね。


あと、修行だが、暫くは生身で行う必要が出てきた。


口寄せの術を練習するからだ。


『基本的に影分身だと口寄せできないからねー』

血、出すとボンって消えるもんね。チャクラ篭めても、数秒伸ばせるだけで。

その次は、飛雷神の術である。

そう、究極の逃走手段、ワープを修得するためである。

これがあれば、色々と行動範囲が広まるし。

『ワープっていうのが何なのか分からないけど・・・難しいよ?』

まあ、簡単に修得できるとは思っていない。

最秘奥ですしね。いざとなれば自慢の逃げ足とタフネスで逃げます。

『戦わないんだ。あくまで』

「まあ、必要な時以外は」

ぶっちゃけ、面倒くさいし、しんどい。前のあれは例外でしかないです。


必要以上にそっち側には関わりたくないし。

『一理あるね』

「大体、どっちが強いとか下らない。アミダか何かで決めればいいんだよ、そんなもん」

殺すとか、殺されるとか下らない。

そんなことよりラーメン食おうぜ!である。

『それは無理でしょ』

「分かってるよ」

人間的だものね。



そう考えると、九尾とか妖魔とか尾獣とか歪な生態だよね。殺し合いで向き合う事が前提。

本質が破壊すること、なのか。

『・・・そのための存在だからの』

長寿の獣が、陰の気、負の気を受けることによって、妖魔になるらしい。

そしてその陰の気の大半は、人間から発せられるとか。

「・・・白面の者じゃん」

尾獣という存在。それは、自然の防衛機構か。

負の気、陰の気が最も発生するのは、戦争の中で。そして戦争は、その多くが自然破壊を伴う。

それを防ぐために、陰の気を纏った尾を持つ獣、妖魔が発生し、その原因である人間を殺すことで、汚物を浄化しようとしているのか。

『・・・ふむ、面白い事を考えるの』

「元いた世界での受け売りだよ」


最初の師匠から教えられた。

全ては自然から生まれ、自然に帰る。不自然はいずれ淘汰されるか、全体を駄目に
する。

だから、その原因を見極めろ、と。

自然の食材は自然のまま、その味を活かせと。

自然に生まれたものは何か、不自然なものは何か、淘汰されるものは何か。

そう考えると答えが出てきそうな気がする。


『・・・そうかも、な』


珍しくしおらしい声を出したキューちゃん。

そういった事は考えた事も無かったのだろうか。

・・・破壊が本質って、ちょっと悲しいかな。それは。


『同情はいらんぞ』


それは分かってますよ。

最近のキューちゃん見てると、そうでもない感じがするし。

見た目もあるけど、陰のチャクラが切り離されたせいか、柔らかくなってるような気がする。

まあ、完全に童女として扱っているんですが。ま、長い付き合いもあって・・・今では、俺から見れば妹みたいなもんですから。


・・・それは、取りあえずは置いておいて。




いよいよ、開店です。

ここが、夢の一歩目。

ここから、夢が始まります。





ラーメン屋台「九頭竜」!



本日開店でございます!







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:36



やっと気づいた。貴方が私の鞘だったのですね




            ---小池メンマ著 「麺とスープ、その愛について」より抜粋



 蝶嘘です。ごめんなさい。






森の中、俺は寝ころび、空を見上げる。

風の音と、草の臭いにさそわれ、目を閉じる。

暗闇の中、今日一日の出来事を思い出す。


・・・本当に、色々な事があった。







まず最初にカカシと妹が来た。

何でも、テウチのおっちゃんが俺の店の事を言ってくれたらしい。

ありがとうございます、師匠。

取りあえずしょうゆを二つ。

というか、今はしょうゆラーメンしか置いていない。

複数作る技量が無いからだ。

鶏がらと野菜をベースにした、オーソドックスな味である。

その分、チャーシューには気を遣っている。

各地を放浪し見つけてきた豚で、スープによく合う、ほどよいこってりさ加減。

豚は遠く、霧の里近くにあり、運搬に手間が掛かるのだがそこは俺。

影分身を利用し、遠く霧の里から運んでいる。

修行の一環にもなるし、一石二鳥だ。いわゆる全部俺、というやつだ。

マンパワーって凄いよね。



二人は美味しそうに食べている。

「おいしいですね、カカシ先生」

といいながら、一生懸命食べているキリハの姿に和む・・・

『でも、カカシってばまたキリちゃん連れてきてるね・・・』

そこを怪しむのかマダオ。

まあ、俺の方が結果的にああなったし、仕方ないんじゃ?

『あやしい・・・ていうか娘の横でイチャパラ読むのはヤメロ』

最後の方は殺意が籠もっていた。

落ち着けって。

ちなみに俺にはその気持ちが分からなかった。妹などいたことないので、その感覚が分からない。

いきなり妹とか言われても・・・という奴である。

どちらかといえば親戚の子に近い感覚だ。

だが、食べ終わり、キリハから感想を聞いた時、その考えは一新された。

二人とも美味しいと言ってくれたのだが、キリハの方はそれに加え、色々とアドバイスをくれた。


(この娘できる・・・!)


その的確な助言に戦慄する。流石、腹は違えども兄妹と言うことか・・・!


(人聞き悪いこと言わないでよ!ていうか、前に勘違いされた時とかあってさあ・・・!)

心の中のマダオが引きつけを起こす。思い出しているのだろう。

(あああああああああアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・イアイア)

どんどん声が萎んでいく。てか最後何言った。

小動物のように震えている。相当に怖かったのだろう。・・・端から見るとうざいだけだが。

それにしても、そうか。うずまきクシナは恐妻家か。

過去を思い出し悶絶するマダオを取りあえず無視し、帰る二人にありがとうございました。

カカシにイチャパラの事をさりげなく言ってみるが、え、何が?とのことです。

そりゃアスマ熊にも負けるわ。もしかして彼女いない歴=年齢なんじゃね?

『そういう君は?』

「今の状況で、誰かと縁なんて持てねえよ?」

笑顔で恫喝。元妻帯者は黙ってろ!恐妻家だけど!

『それは言わないでよ。君も、いのちゃんとか、砂の・・・ほらあの子、名前なんだっけ』

「・・・あ、もしかしてテマリか?無理だろ」

風影の娘じゃないですか。我愛羅との一件でフラグっぽいの立ちましたけど、一般人を自負する俺にとって忍里トップの娘では荷が重すぎる。

『一般人は螺旋丸とか使えないと思うけど』

まあ確かに。影分身チートにより、チャクラコントロールの精度がえらいことになってるし。

原作ナルトがで吸着できなかった濡れた岩の上でも、コサックダンスが踊れる程のチャクラコントロールを持ってます。

『・・・踊ってどうする?』

「・・・自由を叫ぶ?」

童女狐の質問に首を傾げていると、また客が来た。

(ん?)

この不景気面した子供は

「・・・しょうゆラーメン一つ」

無愛想な少年だねー。でも顔立ちが整ってるし、歩き方も結構、形になっている。

この年にしては、と後ろにつくけど。


(って・・・ああ)

ぽんと手を叩く。

もしかして、あれか?

『ああ、うちはじゃないの?』

ということはサスケ少年か。もうあれ起きたんだっけ。一族の虐殺。

ということは・・・もう少しだな。原作開始は。まあ俺は横でラーメン作ってるだけだけど。

『それは無理だと思うよ?何となく』

『ワシも。それについては全面的に同意しよう』

うるさいよ!少しは現実逃避させてくれ!

介入しなければ木の葉壊滅しそう、なんて気づかなければよかった。

それにしてもこのサスケ、イケメンである。さぞ将来はモテモテ(死語)になるのだろう。

こっちは基本一人で、しかも正体明かせないから、女性とのふれあい無く独り身で寂しく過ごしているっていうのに・・・!

(もいでやろうか・・・)

『・・・手、わきわきさせて何考えてるの?』

呆れたような声を出すマダオ。くそ、腹が立つ。

そうだ。巻き込んでしまえ。

(いや、アカデミーでもキリハと一緒になりそうだし、な。キリハ、もしかしてこいつと付き合う事になるかもよ?)

キリハを見るに、忍びとしての才能はありそうだ。と言うことは、サスケとはライバル関係に成るはず。


ありがちな展開だが、男女の仲になる可能性・・・ありえないとも言い切れんな?


『さあ、もごうか?』


返答は、大量の殺気を含んだ声でした。マダオ、自重せい!

サスケ少年はマダオが声を発した瞬間、びくっと肩を跳ねさせ、辺りを見回しはじめた。

気づいたのか。良いセンスだ。

でも、手は出しません。お客さんは神様です。出来ることは祈る事だけです。

黙々と食べた後、黙って帰るサスケ少年の背中を見て、どうか大蛇○に掘られますように、と祈った。

またびくっとなった。

振り返る少年に笑顔で手を振り、見送りながら呟く。

(本当に、良いセンスだ)

『性欲をもてあます』

(だから、自重せい!)







次は眉毛が来た。

カカシに聞いたのだろうか。ガイとロック・リー、師弟セットで来た。

(生で見ると結構来るものがあるな・・・)

自己主張の激しいそれに指さし、「その海苔、入れます?」と言いたい衝動に駆られたが、何とか抑える。

表蓮華!とか良いながらレンゲを投げられてはたまったものではない。



『『・・・ッ!・・・ッ!』』


二人とも、というか二匹とも大爆笑である。

勝った。・・・いや、何にだ。

青春師弟、話して見ると割と普通の人だった。というか基本はいい人だった。

ただ青春青春、うるさいだけで。









その次は森乃イビキさんがきた。何となくさん付けである。

その溢れるダンディーオーラに、ウイスキーをロックで出しそうになった。

いや、置いて無いけどね。

この人も話してみると普通の人だった。ただ、ため息を頻繁に吐いている。

どうしたんですか?と聞くと、何でも無い、と首を振る。

うーん、ダンディー。

結構疲れているみたいだ。口には出さないが、暗部関連の事だろう。

静かにご馳走様、というと去っていった。


うーん、渋い。












次は女性コンビ。

・・・アンコと紅か。特徴的すぐる。一目で分かった。

料理を出した後、横目でその自己主張の激しい突起物を見ていると、声を掛けられた。



「何で、腕振ってるの?」

はっ?あまりの見事なブツに、思わず腕が動いてしまったか!

慌てて、誤魔化しの言葉を返す。

「・・・いえ、あまりの美しさに感激してしまいまして。それが腕の動きに出てしまったようです、お嬢様方」

そういうと、「やだ、もー」、と二人とも頬が少し赤くなっていた。

ふう、上手くごまかせたか。

『気持ちは分かるけどね。女性の前では止めた方がいいよ』

分かってるよ。

美味しかった、ご馳走様、と笑顔で去る二人の背を、見届ける。

そして遠く去った故郷の山のようなブツを思い、俺は心の中のマダオと一緒に、静かに腕を振った。

  _  ∩ 
( ゚∀゚)彡
⊂彡

『何をしているんじゃ?』

『ちっぱいには関係ねえ!』

マダオのマダオ発言。キューちゃんがそれに噛みついた。

『・・・この姿は己の趣味だろうが!』

また喧嘩するし。

この二人、仲がいいのか悪いのか。








次は病人がきた。

月光ハヤテである。言い得て妙だ。月のように顔色が白い。できれば仮面を被って欲しいが、無理だろう。

一通り食べると、色々と感想をくれた。

身体によさそうですね、といわれた。

(そういえばこの人、薬効関係にも詳しいんだろうか?)

参考になるかもしれない、と色々質問してみたところ、以下のような答が返ってきました



「えー、薬草にも色々とありましてねー」

「はあ」

取りあえず、常備薬として持っている3つを並べて説明してくれた。

右から、

1:ほとんど気休め

2:何かと引き替えに元気になる

3:何も分からなくなる

の3本らしいです。

うん、ごめんなさい。ありがとうございました。迂闊に聞いた俺が馬鹿でした。







次は何と三忍の一人、自来也が来た。

「テウチに聞いてのお」らしい。

師匠・・・有り難いのですが、この人はちょっと・・・(汗)


四代目火影の師匠だ。もしかして、だが、弟子である四代目の術が見破られるかもしれない。


それは困る。非常に困る。と言うことで、集中力を逸らさせるために色々と話しかけた。

イチャパラのネタについてである。

現代のギャルゲーの知識を総動員し、アドバイスをした。まさか、あの知識がこんな所で役に立つとは!という奴である。

ついでに、漫画のネタも話した、随分と参考になった模様。よし。

一通り話し終えると、気分良く帰っていった。

ただ帰り際に言っていた「また来ようかのお」の言葉は本気だったのかどうか。

・・・うぁれ?もしかして、やっちまった?逆効果?

・・・まあ、いいか。そんなに頻繁に木の葉に戻ってこないと思うし。

『先生、落ち込んでたね』

「そうなのか?」

『・・・』

黙るマダオ。俺には分からなかったが。でも、四代目にとっては長年接してきた師匠の事だ。

何となくふぁが、分かるのだろう。

俺にはただのエロ親父が、ネタにはしゃいでいるようにしか見えなかったが。

飽くなきエロへの貪欲さ加減には恐れ入った。エロのパイオニアとしては尊敬できそうだ。












---一日を振り返り、一言感想を呟く。




確かに美味しかったと言ってもらえたことは嬉しい。


嬉しいが・・・あれ?



「忍者しか来てねえ!?」


『そりゃ、この辺りは、一般人はあまり来ないしね。』


「先にいえよ!」






どうりで濃い面子しか来ないと思ったよ!

というか木の葉隠れの忍び、濃い面子多すぎだよ!








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:36





「俺等は神様なんかやない。だから、選ばなあかんのや・・・!」




               小池メンマ著 「戦慄の名店・七色の味を持つ店」から抜粋








「と言うことで、売り子を確保しにいきます」

『今3ステップぐらい飛び越したよね、君』

脳内会議、というか心中会議で話し合う。

例えがなんというか、自殺について語りあっているようで嫌ですね。



取りあえずだが、癒しが必要だ。拙僧、そう考えついたで候。開店から2年、営業は順調なものの、日々心が荒んでいっています。

原因は分かっています。あの濃い面子です。

『だったら場所を移せばいいのに・・・』

駄目です。リピーターを裏切ることなど出来ません。

『まあいいけど』

ようは、場所を移すことなく、心の平穏を保ってくれる人が必要。解決案に気づいてから、その決断は速かった。


つまりは、だ!




「癒し系が足りないんだよ・・・・!!」



悲痛な叫びが天を打ちました。それだけ切実なのです。変人の相手はもうこりごりなんです。本当におなかいっぱいです。

脳内原作キャラリストから、癒し系を列挙してみた所、一人の名が上がりました。

時期的にもちょうどいいし・・・っていうか癒し系少なすぎるね。

『どういう人なの?もちろん、忍びだよね』

「・・・そうだけど!」

むしろこの魔窟に一般人は立ち入り禁止です。精神崩壊でもされると後味悪い。

さて今回の癒し系、心苦しい事に男です。

『・・・で?』

「霧の抜け忍です。キューちゃんに近い、と言っていいのかもね」

『・・・は?』

「名前は白。元追い忍なので、面を持っています。ということは」

『憤!』

「ゲボァ!?」

マダオの頂心肘が、良い具合に決まりました。

『それ以上は、言わせる訳には行かないね・・・!』

「一話で言ったじゃん」

『グハァ?!』













「というわけでやってきました、波の国!」

『白い眼で見られているよ・・・』

日向家が一杯。いや、いけないね。久しぶりの休暇にはしゃいでしまったようだ。

『ただでさえ目立つ容姿してるんだから、自重してね』

そうだった。今は小池ではないのだった。赤毛がすてきな男の子でっす。

1人会話をしていると、テンション低すぎる民衆に既知の外を見る目で見られました。

まあ、声には出していないけど、1人百面相していたら引かれますね。

仕方ないので、戯れ笑います。


『誰がそのネタ分かるのさ・・・』




(来てるのかな・・・)

取りあえず、辺りの気配を探ってみました。

・・・カカシ一行はまだ来ていないようです。忍務を受けたのを確認してから来たのですが・・・

『再不斬だっけ?霧の忍刀七人衆の一人』

「ああ、ももっち?」

ガイの対極に位置する人である。眉毛的に。

『いや、そうじゃなくてね』

「カカシ居るし、多分大丈夫だと思う」

カカシと再不斬、力量の差はほとんどないと言ってもいい。

その上、白待機の状況。原作以外の展開になるとは思えない。

「こっちから介入するにも、タイミングがあるしな」

忍務の道中に合流とか無理です。怪しすぎる。







ということで、お掃除です。

「・・・・!?」

「・・・・ッ?!」

霧の抜け忍を昏倒させます。方法は簡単。

気配を殺して、背後からネギを一突き。



昔ながらの方法で、風邪を治してあげます。




・・・後は分かりますね?




『いや、それはどうかと』

「万事OK」

笑顔でサムズアップ。足下にはケツを抑えて昏倒する中忍(推定)達。

『シュールだ』

「大丈夫だから心配するねい」

『何一つ大丈夫じゃないから!』

・・・はっ?いかんいかん、心の疲労が脳にまで達したようだ。

どうも俺らしくない行動でした。

『その割には笑顔だった気がするが?』

「気のせいでしょう」








取りあえず、町を見て回る。そして一句。

「何もない どこもかしこも 何もない」

『流通が抑えられてるんなら、しょうがないね』

「そうだな」

『そういうものなのか?』

キューちゃんの言葉に、マダオが真剣に説明している。

檻越しに話し会う二人。・・・うーん、やっぱり檻ってやだなー。

どうにかするかなー。




「ん?」


途中で配置しておいた影分身から、報告が入った。


『一人芝居だね』

「まあそうだけど・・・え、戦闘中?」

ようやく激突らしい。
 
カカシ一行 対 ももっち


『介入しないの?』

「まだね」

とはいっても、

「キリハ嬢も心配だしな・・・少し、見るか」

ミニミニサイズの水晶を取り出す。

『遠眼鏡の術だね』

「その通り」

便利なんで、前にマダオに教えて貰ったやつだ。





「おー、カカシ劣勢」

『何やってんの?!』

水牢の術で囚われた所か・・・

「下忍の三人、やる気だな」

班編制は基本的に原作と変わっていない。サスケ、サクラ、俺に変わってキリハ。


(さて、どうする?)

『まあ、ねえ』

・・・そうだな。取りあえず、静観するか。それはマダオも同じ。

もう、忍びなのだ。あの3人は。そしてこれは里外での最初の任務。

ここで余計な手出しをすることはならない。忍務を果たすためには、賭けなければならないものがある。

それに、ここで育たなければ、次の中忍試験からの一連の事件が厳しいことになる。

『・・・そうだね』

「お、動くぞ」

話している間にも、状況は変わる。

まず、サスケがももっちにボコにされた。しかし、何とか防御は出来ているようだ。サスケの方は、原作より動きはいいかもしれない。

3人は体勢を立て直す。その後、今度はキリハが突っ込んだ。

サスケの手裏剣での援護を上手く利用し、再不斬の水分身を何とか撃破する。

「でも、まだ出てくるな」

水分身は本体より能力に劣る。その分、チャクラの消費は少なくて済む。

コストが安く、死んでも損がないので、次々と出すことができる。

「まるでゾンビだな」

さて、どうするか、と言った時だ。

「成るほど」

俯瞰していると、よく分かる。

キリハとサクラが水分身を引きつける。

サスケはそれを手裏剣で援護しながらも、じりじりと間合いを詰める。本命の標的は、水牢の術を使っている本体の方か。

『・・・そこだ』

間合いに入ったサスケ、即座に豪火球の術を放つ。

範囲の広いそれは、その場から動けない再不斬の本体には避けきれない。

カカシも巻き添えになるが、水が守ってくれているので問題ない。

ももっちは避ける為に水牢の術を解き、後ろに飛びさがる。



「始まるか」



やがて、解放されたカカシは再不斬を圧倒。

写輪眼の能力を活かしきったカカシは、再不斬をもう一歩という所まで追いつめるが、

「やっぱりこうなるか」

後は原作の通り。

白の千本が再不斬の首に突き刺さり、再不斬は仮死状態になる。



去る白とももっち。倒れるカカシ。


「追うぞ」


ガトーの会社に運ばれた再不斬・白を追って、瞬身の術を使い最速で向かった。















(この向こうだな)

気配を完璧に消して、扉の前に立つ。

再不斬はしばらく起きられない。でも、ここで問題だ。

『どうやって勧誘するの?』

「・・・考えてなかった」

『阿呆だの』

勢いに任せ過ぎた。

『まあ、取りあえず情報を集めてみたら?』

「あ、うん」

さすがはマダオ。伊達に元火影を名乗っていない。


助言の通り、俺は扉の向こうの会話に耳を傾けた。ついでに、短距離での遠眼鏡の術を使う。


おお、部屋の中がよく見える。


向こうでは、原作通りの会話が繰り広げられていた。

ガトーの皮肉、挑発。抜く居合い使い達。それに瞬時に反応する、白。

あー、原作通りだつまんねーと思っていた時だ。ガトーから発せられた一言に、俺は全身が凍り付いた。






「ふん、かいがいしく世話を焼き追って。流石はくの一という事か?」


(・・・は?)


「あなたには関係ないでしょう?」

綺麗な笑顔でガトーを圧倒する白。やがて、怒りの表情そのままに、部屋から出てくる3人。

身を隠しながら、今の言葉を反芻する。




「くの一・・・って、え?くの一?あれ、くの一ってどういう意味だっけ?」

『女の忍びだよ』

「そうか」








たっぷり十秒沈黙した後、俺は周りを気にせず叫んだ。



「え、えーーーーーーーーー!?」











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:37






「答えは得た。大丈夫だよマダオ。オレも、これから頑張っていくから」




俺は心からの笑顔を浮かべる。

やがて、優しい日の光に包まれて俺は---





『何処逝くの!?』




はっ?

いかんいかん。予想外すぎる展開に、昇天しそうになってしまった。

「落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない」

誰もいない森の中で1人、手をひらひらさせる。




あの後ですが、大声を上げたせいで見つかりました。

当たり前ですね。取りあえず一目散に逃げました。ちょっと考える時間が欲しかったので。




『何に驚いてるの?』

「だってよ。女の子なんだぜ?」

白が。



白×TS=∞


そう、∞です。

でんぷしーです。

やっくでかるちゃです。

わっちの歌を聞け!


・・・いけません、随分興奮していたようです。

『いつものことだと思うけどね』


「熱い血潮を持ってますから!」

MOTTO MOTTO!

『でも取りあえず、男か女かの確認はしようね』

「それは当たり前でしょう。むしろどんとこい」

wktkが止まらない。ロマンチックも止まらない。さあどうにも止まらない。

全ては売り子改め、看板娘獲得の為に!

「ジーク、白!」

キング・オブ・良妻賢母!あ、クイーンか。

『メタ過ぎるから。あと桃地君の方どうすんの?』

「眉毛を書いてあげます」

それで協力してくれるに違いない。

『ワシ、寝て良いか?』

『良いと思うよ。メンマ君、疲れてるみたいだし』

フハハハア!と笑っていたら、隣の部屋から五月蠅え!と壁を叩かれたました。

一瞬でで、正気に返りました。

その後はすぐに寝ました。どうも疲れすぎて、テンションがおかしいです。

ま、いっか。おやすみなさい。







翌朝。

「と、いうことで我が家の頭脳に期待します」

『無理でしょ』

「・・・」

ほじりだした鼻くそを見るかのような目で見つめてやる。

『いや、そんな顔されても無理なものは無理、男女云々はおいといて、霧隠れの抜け忍でしょ?』

「って俺、前に言ったよね?紹介したよね?」

何でその時言わなかったの?

『キリちゃんが心配で。てへ』

「氏ね」

まあ気持ちは分かるけど。

『最低でも、カカシ一行に白の面が割れる前、その前に何とかしないと』

「無理っぽいなあ。それに、それはそれで駄目っぽいし」

この任務で写輪眼が覚醒しないと、中忍試験やう゛ぁいですがな。大蛇○が来たときに少年の貞操が散らされそうですがな。

いや、サスケ少年はいいんですけどね。少年と一緒の班のキリハ嬢がやばそうで。

サクラ?知らんがな。

「と、いうことで最後に介入します。そっとだぜ、そっと」

『OK、それまでに何か考えとくよ』







しっかし、何もないなあ、ここ。

魚介系スープの参考にと色々歩き回ってみたけど、見事に収穫がない。

(しっかし、結構えげつないな・・・グラサン親父)

『橋が完成すればねえ、変わると思うけど』

「・・・それも、後ちょっとか」

と、いうことでカカシ班の方にいくか。







「木登り修行ですね。分かります」

『・・・何で、こう、実戦に出た後にこの基本中の基本の修行を行わしてるのかなあ・・・あの馬鹿弟子は』

お察し下さい。

『いやあ、それにしてもキリちゃん、チャクラコントロールも上手いね』

「マダオ譲りなんじゃないの?」

こっちの忍術の才能の無さはクシナ譲りらしい。金返せ。

『螺旋丸できるから良いじゃん』

「まあ、確かにこれで何とかなるけどね」

あとチャクラによる肉体強化。この二つがあれば、まあ負けない。体術も徹底的に鍛えたし。

源流は中国の北派、円華拳。後の先を狙う、捌き主体の拳法。外ではなく、内部を破壊するのを目的とした拳理。

復讐のためにでは無いですが、磨きました。

絶招はもちろん、あの技です。マダオと一緒にちょっとだけアレンジしました。

流石は腐っても、そこら辺は四代目。実戦に有効かどうかを考えながら組み立てた拳法、結構な形に仕上がっています。

「・・・しかし、忍者関係ないな。それと流派名どうしよう」

九○流じゃまんますぎるし。

『九尾流だね』

「厨二乙」

それにしてもキリハ嬢、コントロールが凄いが、チャクラ量も多い

「遺伝子だね」

『血だね』

あの分では心配いらんかもしれん。







暇なので。

「口寄せの術でも練習してよっか」

『そうだね』

と言うことでこちらも修行。

「口寄せの術」

ボン、と出てくるは一匹の狐。

いや、最初はガマにしようと思ったんだけどね?ぶっちゃけバレるし。

『しかし、何で狐が出てくるのかねえ』

『ワシのチャクラの影響じゃろう』

「むしろそれ以外考えられん」

気合い入れると、結構な大きさの狐が出てきます。

『全て、ワシの眷属じゃ』

そういうものなの?まあ、あの口寄せの巻物を最初に作った人も同じような事をしていたのかもしれんし。

深くは考えない事にしました。

(でも、これならもしかして)

『ん?何じゃ』

「いや、何でも」

(帰ってから試してみるか)




練習の続きをするか。





「イア!イア!ハスター・ウグ・ウグ・イア・イア・ハスター・クフアヤク・ブルグトム『やめい!』グフゥ!?」


一応風属性なのに。







次の日、例のシーンに出くわしました。

いや、キリハ嬢ちょっと警戒しようよ。もしかして天然なのか?

「ボクは大切な人を守りたい・・・」

「私も、だよ」

笑顔を浮かべながら、美少女二人が見つめ合っています。絵になります。ストーカーちっくな自分が少し嫌になりますが。

というか、姉さん発言否定しなかったけど、どうなんでしょう。期待していいんでしょうか。

『・・・思うところはそれだけ?』

「俺は、俺の夢を守るよ」

今、夢以外に守るものがあるとでも?木の葉隠れ?馬鹿いっちゃいけねえなあ。

「ま、割り切りって大事だよね」

それに関しての正誤云々は知らんけど。そう決めましたので。

『・・・』

マダオは珍しく、沈黙だけを返してきた。

















数日後。

『動いたね』

「そうだな。ってあ」

イナリと未亡人の方、忘れてた。護衛の4人とも橋に向かってるじゃん。

『稲荷?』

眼を輝かせるなキューちゃん。違うから。寿司じゃないから。座って座って。

「仕方ない、行きますか」

瞬身の術で急いでイナリ宅へと戻った。





あ、居合いの二人だ。

「イナリ!」

叫ぶ未亡人。名前は忘れた。




だが、その手は届かない。

半裸と頭巾のコンビから抜かれた白刃は、イナリの身体をそのまま切り裂いた。




「何?!」


かに見えた。だが、そこにあるのは刻まれたネギの切れ端。


「あぐぅ?!」


そして、馬鹿二人に突き刺さる、ネギ二つ。


「ふう危なかった、」


間一髪だった。思わず、額の汗をぬぐう。


「「・・・・」」


『二人とも呆然としてるね』


「何故だ!?」


『鏡見ろ』


鏡?客観的に見ろってこと?

えーと、いきなり現れてネギで身代わりの術、敵の尻にネギをさして、そして汗をぬぐって笑ってる人。




・・・どうみても変態です。本当にありがとうございました。



(変態は語らず、ただ去るのみ)

恥ずかしいので。


木に飛び上がり、そのまま無言で立ち去ろうとするが、未亡人の方に呼び止められた。


「あの、助けて頂いてありがとうございました・・・お名前を聞いてもよろしいでしょうか」



少し怯えているが、お礼をいってくれた。いい人だ。



でもこっちは本当の名前を言えない。偽名を名乗るしかないか。心苦しいが、これも仕方ない。
























「春原ネギです」





新しいネギを取り出し、肩に担ぎながらその場を去った。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:37


「・・・通りすがりの・・・・ラーメン屋さんよっ!」




    ---小池メンマのラーメン日誌外伝
         「死闘!砂の里~赤い狐と緑の狸~」より一文を抜粋




「うどんやがな!」

『急に何?』

いや、神からの啓示が。

『それよりも、いよいよ大詰めだよ』

白さんの魔鏡氷晶の術。凄いです。速いです。

でも、鏡の中にいる二人を仕留めきれていません。

「・・・サスケ、覚醒したか」

おたまじゃくしが目の中に。流石、天才(笑)

原作ならお荷物なナルト君がいてどうこうなりますが、いません。

むしろここにいます。

キリハ嬢とサスケ少年、二人とも何とか避けています。てかキリハ嬢、避けるの上手い。動体視力と体捌きがいい感じだね。

危なそうだったら割ってはいる気でいましたが、二人とも大丈夫そうです。

サクラ?霧で見えません。

さて、白対サスケ・キリハですが、決着がつきそうにありません。

(互いに決定打に欠けるか)


それから数分、避け続けた二人、攻め続けた1人。どちらの息も上がっています。

・・・そろそろ、辺りへの注意力が散漫になってきた頃でしょう。

『割って入るなら今だよ』

「よしきた」

影分身を一体派遣する。

気配を殺して瞬身の術で近寄り、サスケとキリハの背後を取る。

そして、一撃。

「ガッ!?」

「えっ!?」

二人を一瞬で昏倒させる。混乱した白が攻撃を仕掛けてくるが、

「なっ!?」

攻撃に来たその腕を掴む。術を出した直後ならばこうも容易く見切れなかっただろうけど。

でも、術を行使し続けたせいで、スピードはかなり落ちている。この程度ならば見切れる。

「くっ」

でも、狼狽えずに即座に反撃してくる。

掴んだ腕に、白の千本が刺さったが、効果なし。なぜならそれは本物じゃないので。

「影分身・・・っ」

攻撃を受けた影分身が消える。

同時に、背後に潜んだもう一体の影分身が白に一撃を与える。

白も昏倒。




「次はあっちか」

カカシ先生よお、忍法口寄せ・土遁追牙の術は出させないぜ!

(建設中の橋に穴開けるとか何考えてんだ)

断面欠損でもう、あれである。ぼろぼろである。

補填しても駄目なのである。そこに応力が集中して、荷重が掛かる毎にヒビが入ってしまうのである。

前世の店の常連客から聞きました。

本格的な立て直しが必要になるそうです。文字通り、危ない橋は渡れませんので。

というか、希望の架け橋っつてんだろ!穴開けるなよ!



戦う上忍二人から距離を取り、半円に囲むように影分身を複数配置する。

そして、遠くから、クナイを投げる。投げる。投げる投げる。

気配でサクラとタズナの場所は大体分かるので、そこは避けて桃地君とカカシに向けて投げる。


不意の攻撃に、二人の動きが止まった。


(それでいい)

流石にこのクラス二人を昏倒させるのには時間がかかるし。

というか、橋が傷つく。それは避けたいので、搦め手で。

仕込みは成っているし。仕上げはそろそろだろう。

それまでは投げる投げる。

「誰だぁ!?」

「チィ」

叫ぶ桃地君に、舌打ちするカカシ。

三人の気配が消えた事に、焦っているのだろう。

とにかく投げる。やれ投げる。それ投げる。

やがて、辺りに漂っていた霧が晴れはじめる。

(隠れるか)

霧が晴れると、そこには弾き飛ばされたクナイの群れがあるばかり。

「いない・・・?」

「・・・キリハ、サスケ?!」

混乱する二人。そこに、向こうから武装した一団がやってきた。

「みつけたぞ、鬼人!よくもやってくれたなあ」

「・・・何?」

「とぼけんな!ガトー社長殺ったの、てめえだろ!」

激昂しながら、汚い言葉を並べ始める。

何でも、雇われた用心棒達が依頼を受け、再不斬・白以外の抜け忍を殺して、戻ってきた時には既に社長の首と胴体は別れていたらしい。

「ッチィ、どういう事だ?」

横目でカカシを見る再不斬。だが、違うと思ったのだろう、正面の用心棒共を見る。

「取りあえず、手前らは死ね」

同時、再不斬は用心棒の群れに飛び込む。

カカシも同時に動く。このまま用心棒達が橋に殺到すると不味いと思ったのだろう。

上忍二人 対 用心棒

所詮はチャクラも使えない荒くれ者。端から勝負にもならない。

そして用心棒の最後の一人が倒されたと同時である。

(機を作り、その機を逃さず!)

「なっ?!」

そこら中に散らばっているクナイの中に、潜んだのだ。

クナイの変化を解いて、無防備になっている背後から一撃。昏倒させる。

「・・・何者だ?」

静かにこっちを見るカカシ。だが動けないだろう。

下忍の3人の方へ視線を向け、牽制する。

(これで迂闊に動けない)

クナイはまだまだある。

そのどれかに潜んでいれば、カカシ一人では対応仕切れない。

その事に気づいたのだろう、舌打ちしている。

同時に2ヶ所を守るのは無理なのだ。キリハ・サスケと、サクラ・タズナ間の距離は開きすぎている。

白はもう、移動させたのでいない。

無言で再不斬を抱えて、その場を去る。

後方で、安堵に崩れ落ちるカカシの気配がした。







ごたいめーん。睨むなって怖いから。

「で、何者だてめえ?」

「九尾の人柱力です」

いきなりぶっちゃける。再不斬はいきなりの言葉に固まった。

「あの、人柱力とは?」

知らないのだろう。白が戸惑うように訪ねてくる。

「その名の通り、人柱みたいなものかな。尾獣と呼ばれる妖魔を憑依させる事によって、莫大な
チャクラを持つ化け物みたいな忍びを作り出す・・・いわば、兵器?」

白の顔が真っ青になる。過去の事を思い出したのだろう。すまんね、嫌なこと思い出させて。

「証拠は?」

信じられない、と睨んでくる。まあ、当たり前か。

四方に結界を張り、最小限だが九尾のチャクラを引き出す。

「くっ!?」

その圧力に、二人は圧倒される。

「どうです?」

「・・・確かに。でも解せねえな。九尾と言えば木の葉の尾獣だろう。何故、木の葉のあいつらが知らない?

 そもそも、俺たちをここに連れてきた理由、そしてあそこにいた理由は何だ?」

頭の回転が早い。でも、用意していた答えを返すだけだ。

「ん?危険視されて殺されそうになったから、絶賛逃亡中なだけ。木の葉隠れの暗部とかは、今頃血眼になって俺の事を探してるだろうね」

白の顔がまたまた白くなる。うーん、傷抉っちゃうなあ。

「取りあえず盲点突いて木の葉の中で生活してるんだけど」

「・・・どうやってだ?」

「変化」

といって、また別の姿に変える。とはいっても、まだ小池の姿は見せないが。

「四代目火影特製の変化。まあ、馬鹿みたいにチャクラを食うけどね」

影分身の応用である。白眼でも見切れない影分身を応用したこの変化は、滅多な事では見破れない。

最近、札の開発も成功した。短時間だが、姿を変えられる優れものである。

「何故手前が四代目火影の忍術を使える?」

「ん?精神の中に入り込んでるから。封印術式の中に組み込んだんだろうねえ」

そこらへんは天才と言わざるを得ない。本人見ると甚だ疑問に感じる時があるが。

「何なら、教えてあげるけど?」

「・・・何が目的だ」

話がうますぎる。それに話過ぎている。チャクラが危険な色を帯びてきた。

「ちょっと頼まれて欲しい事があるんだけど」

「・・・聞くだけ聞こう」

「暁、って組織知ってる?」

「・・・いや」

やっぱりか。自来也でやっとだからな。知らないのも無理ないか。

「構成員全員がS級指名手配の化け物集団なんだけど。何とそこにはあの霧隠れの怪人も」

「何!?あの野郎が?」

水の国の大名を暗殺した、S級指名手配犯。忍び刀七人集の一人である。

「どうも人柱力狙ってるらしいんだよね。そこで、僕としては少しでも護衛が欲しい」

「断る」

即答である。誰の下にもつく気は無いということか。

「取りあえず前金で百万両(一千万円)」

「断る」

「中払いで四代目火影の術三個」
「・・・」

「そして成功報酬は・・・大名暗殺時の『水影』の正体でどない?」

「!!?」

再不斬はその言葉に強烈に反応する。一瞬で大刀を振り、こちらの首筋にぴたりと添える。

「・・・どういう事だ?何故知っている?」

「それを話す程、僕は間抜けに見えるのかな?」

カマをかけてくるが、乗らない。あえて誤解させる。

「さて、返答は?」

「・・・受けよう」

流石に乗ってくるか。まあ、依頼主のガトー社長殺したので、信用がた落ちだからね。

受けるしかないんだけどね。え、あのグラサン誰が殺したかって?お察し下さい。人身売買までやってやんの。あのグラサン。



言わず、誤魔化して~という方法もあった。だが、そうはしなかった。これは、いわば保険である。裏切らないための、保険。

「じゃあ、自己紹介といこうか。桃地再不斬と、白嬢で良いんだよね?」

さりげなく確認。

「ああ」

「はい」




キタァ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!





『でも、ねえ』


(ん?)(∀゚ )


『いや、どう見ても白ちゃん、恋する乙女にしか見えないんだけど』


(何が?誰が?誰に?)(∀゚ )



『ほら、白ちゃんと桃地君、見てみたら?』



(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)(∀~ )


「ふんぐるい」

「・・・何を言っている?」

「いえ、何にも」

SAN値が大暴落してしまいまして。

(そういうオチか!ちくしょう!)

神は死んだ orz 。

まあ、看板娘兼癒し系は確保できたから良しとしよう。修行しながらでも、店にも出て貰うつもりだし。

まあ、当初の予定はクリアした・・・血涙が止まらないが、良しとしよう。


という事で変化を解く。

そういえば、人前で元の姿になるのは本当に久しぶりだ。



「うずまきナルトだ、よろしく」




どう見ても白より年下である、子供な俺の姿を見て。

二人の新しい仲間は呆然と立ちすくんだ。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 八話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:37





「分からんか?・・・・・心じゃよっ!」



         小池メンマ・麺王への道 最終話「至高の調味料」より抜粋









「と、言うわけで新ラーメンの開発を始めます。準備は良いですね?」

「はい、師匠」

遠く、海沿いの地に派遣した影分身が戻ってきました。海産物を携えて。

究極の味を求めて三千里。望む食材は手に入れました。

次のステップに入る事としましょう。

「目指すは和の味、魚介系スープ!」

助手も出来たことですし、新しいメニューの開発に入ります。

白嬢、侮れません。エプロン姿に悩殺されますた。
・・・いや、そっちじゃなくてね。

料理の腕もパネェっす。忍びなのに凄いね、と言うと顔を真っ赤にしてました。

再不斬さんのために、ですね。分かります。

・・・あの眉無し、いつか絶対眉毛書いてやる。

え、彼?今は修行中です。セーフハウスの結界内で影分身相手に奮闘してます。

セーフハウスは作りました。影分身で。土建屋いらずの大工いらず。前世の修行時代は土方のバイトもやっていたので、ある程度の知識はありました。

後は、本借りて見よう見まね。

里はずれの森の中に作りました。幻術系罠満載の中にあるので、まず見つかりません。

再不斬氏、才能はある人ですから、鍛える場所があって、時間をかければ強くなるでしょう。白嬢も同じ。

まあ、そんな事よりも今はラーメンです。


一度二度、出汁を作りながら味見をする。

「・・・うーん、どうも、中途半端だな」
「ですね。何か、こう、バラバラといった感じです」

二人で唸り合う。

どうも違う。前世で食べたスープはもっと、こう、何と言っていいか、そう整った旨味があった。

昆布の種類が違うのか?煮干しの量が違うのか?それとも、何か足りないのか?

「・・・駄目だ。どうしても、はっきりしない味にしかならん」

面白味の無い味にしかならない。

「・・・どうします?」

いくらか、昆布の種類はあるし、量はまだまだある。

「どうしようか。うん、そうだな」

全部試す、という俺の言葉に白嬢は笑った。

「本当に、一生懸命なんですね」

「命賭けてますから、自分」

何の気負いもなく断言できる。

「それに、客に半端なもの出せないじゃん」

中途半端な品を出して、そんでもって客に不味いと言われた日にゃあ・・・死ねる。

「そうですね」

「じゃあ、悪いけど」

「いえ、こういうのも楽しいです。こんな時間、今まで無かったですから」

「・・・そういってもらえると有り難い」




その日は徹夜で魚介系スープのラーメンについて煮詰めました。




「ういー、帰ったよー」

「・・・」

こっちも疲れてるが、再不斬も疲れているらしい。座り込んで、こちらを見上げてくる。

「うい?どうしたの」

「・・・腕を上げれば上げるほど、貴様が遠くなって行く気がするぜ。護衛なんて要らないんじゃねえか?」

「まあ、そうかもね」

糞みたいに鍛えたからな。一時期はそれこそ寝るや食わずで。思い出したくない程に。それも、まあ夢の為にと思えば頑張れたんだけど。

えーと、話しがそれた。護衛の話だったな。

「それでも、多く居るに越したことはない。それに、まあ、一人は何かと不便だから」

「そうか?」

「ああ。それに・・・仲間っていうのはいいね、やっぱり。利用しあう仲でもさ」

その言葉にふん、と返しながら再不斬は家の奥へと去っていった。

「ごめんなさい、再不斬さん素直じゃないから。きっと今の言葉は嬉しかったと思います」

「そうかな」

境遇的に重なるからだろうか。思っていたより、衝突はずっと少ない。

「おやすみ」

「おやすみなさい」





それから数日間。

連日連夜の試行錯誤の果て、やっと完成した。

「・・・うん、これだ!」

「やりましたね!」

「・・・確かに、美味いな」

これだよ、この深みと旨味!

『うーん、僕たちも食べたいね』

感覚はある程度共有できるとはいっても、そのものではない。

(ああ、分かち合いたいこの感動・・・!)

試行錯誤して、努力して、報われるこの快感。食えば分かるだろうに、直接食わしてあげられないのが辛い。

「まあ、それは後で。取りあえず、店に出すか」

「そうですね」

白と頷き合う。これならば出しても恥ずかしくないだろう。







次の日。キリハ嬢が1人で来た。

「いらっしゃい!新しいラーメンありますよ」

「え、本当?じゃあ、それお願いします」

「へい」

記念すべき和風ラーメン・・・この世界では名前を変えて、木の葉風ラーメンにしている。

その木の葉風ラーメンの一番目の注文客は、キリハか。

最近、一人で来る事が多いな。

あ、ちなみに白は微妙に変化の術を使っているので、キリハにばれる事はない。

声もチャクラで変えている。戦闘時には顔を見られていないけど、一応ね。

キリハは一口食べると、驚いた表情を浮かべる。

そして、もうひとくち、こんどはスープと一緒に食べる。

感想は一言だった。

「・・・・・おいしい!」

「しゃあ!」

白とハイタッチを交わす。

うー、全身に鳥肌が立ったぜ。これだから止められないんだよな。

「あっさりしてて・・・何て言うの、旨味?塩ですか、これ」

「ご名答」

無我夢中で食べてました。うむ、良きかな。




勘定をした後、キリハ嬢がぽつりと呟きました。

「・・・でも、残念」

「え?」

味のこと?と思いきや、全然違う事だった。


「明日からしばらく来られない」

「え、何でですか?」

『中忍選抜試験だろうね。連絡用の鳩を見かけたし』

(そういえば、そんな時機か)

ちょっと、始まる前に修行しておきたいから、との事である。

残念風な顔をしながら、でも美味しかった、とだけ伝えてキリハは去った。

その後も、常連の客に新ラーメンを勧めながら、考える。

ちなみに、新味は軒並み好評だった。


『で、どうするの?』

「どうしようか。って答えは決まってるんだけどね」

『行くの?』

「ああ」

中忍試験。一応、出られるように仕込みはしているんで。

もちろん、変装は必須だが。

「大蛇○見ておきたいしなあ」

怖い者見たさである。実力計りである。あと、どうしてもキリハ嬢が心配である。

『でも、どうするの?』

「こうします」

口寄せの術。

「・・・は、え?何じゃ?」

「おー、成功」

目の前には童女姿のキューちゃんが呼び出された。

口寄せの術、成功だ。

「ってお前もかよ!」

目の前にはマダオの姿もあった。

「金魚の糞かよ」

「みたいだねえ」

何か、新鮮な感じだ。外でこうして対面するのは。でも、あまり俺から離れられないみたいだ。

「さて、と。準備は整った事だし」

と、いうことで行きましょう。



「まあ、久しぶりの娑婆じゃ。やってみるかの」

手加減しろよ?金髪美少女キューちゃんよう。


「懐かしいな~、昔を思い出すね・・・バナナはおやつに入るんですかっ!」

黙れ。姿を変えた、黒髪少年のマダオ。力は十分の一しか出せないようだが、まあ十分だろう。





「じゃあ、行くか」

試験会場へと入り込んだ。白・再不斬は留守番です。いくらなんでも危険すぎます。

担当上忍は影分身です。

よく偽造できたな?と聞くと、

マダオは、「書類って盲点があるんだよねー」と黒い笑みを浮かべて教えてくれました。

さすがは元トップ。別にそこに痺れもせんし、憧れもしないんだが。




会場に行くと、例の物体が亀の上でポージングをしていました。



「青春してるな、お前らー!」


「・・・あの、亀に乗っているのはなんじゃ?」

「よい子は見てはいけません」

「そうだな。行こうか」

関わり合いになりたくありません。

抱き合う眉毛はスルーして、通り過ぎました。

あの海苔についていけません。




「ここだな」

部屋に入ると、中にいた面々にじろりと睨まれる。


(一尾、いるね)

(ああ)

我愛羅とテマリと・・・誰だっけ?あの歌舞伎者。

カンタロウ?そうだ、そういう名前だったか。

我愛羅は、静かに視線を左右に動かしている。誰かを捜しているのだろうか。

(っていうか君でしょ)

(言わんでくれ・・・)

全力で忘れたい事なんだから。

(テマリちゃんも誰か探しているようだね)

(・・・)

俺か?と思うが、違うだろうと思い直した。

無駄な期待はもうごめんなさいである。白嬢の一件でこりました。


後は木の葉の面々。クスリメガネは全力で無視する。


(キリちゃんだー)

(迂闊な行動は控えろよ?マダオ)

今にもキリハを抱きしめに走り出しそうなマダオに、釘をさす。

それ変態行為だから。

(ってそういえば、名前なんて登録したの?)


そのままだが。


俺:春原ネギ

マダオ:長谷川泰三

キューちゃん:氷雨チルノ

(なんで長谷川?っていうか最後のはどういう意図で?)

(⑨!⑨!⑨!)

(・・・分かったよ。全然分からないけど)

取りあえず端っこに寄っておきます。目立ちたくないんで。


そして始まる試験。

我らがダンディー、森乃イビキ御大の登場です。キャーイビキサーン
















取りあえず寝ていると試験が終わりました。やべ、涎が机に。

寝起きにバナナを食べていると、妙にハイテンションなマダオが駆け寄ってきます。

ウザイ、と言って、バナナの皮をマダオの方に投げた後。






事件は起きました。







窓ガラスが割れる音。突っ込んでくる試験管。俺が投げたバナナの皮を、よけるマダオ。


着地点。ぴったり、ておいヤバイって-----






つるん、ゴン。



そのまま、滑って、転んで、しんしん。





広げられた「みたらしアンコ」の幕の下、気絶するアンコさんの姿はとてもシュールでした。
















おまけ



答案用紙を回収する。あの妙な3人組の答えだが・・・




長谷川泰三

満点。でも何で丸文字なんだ?





春原ネギ

1「出会いが欲しい」

2「彼女が欲しい」

3「切っ掛けが欲しい」

4「ロマンが欲しい」

5「π・O・2」

6「眉無し氏ね」

7「ロン、そのドラッ・・・!」

8「安西先生・・・彼女が欲しいです」

9「合コンしたい」

10「そう思いますよね?・・・・あなたも!」

・・・訳が分からない。






氷雨チルノ


全部同じ答えだ。

「1+1=3」



・・・イビキは混乱した!










[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 九話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/09 01:40
「惜しい人を亡くしました・・・」

セピア色に染まる教室。

黒板に広げられるは「みたらしアンコ」と書かれた暗幕。
そしてその下には、後頭部を打ったアンコさんが・・・まるで眠りにつくかのように・・・

そっと、胸の上で、手を組ませてやります。
そして振り返り、教室にいるみんなを見ながら、呟きます。

「嘘みたいだろ。死んでるんだぜこれ「死んでないわよ!」」

起き抜けにアンコ女史に殴られました。





「いってー」

グーで殴られました。ぶっ飛びました。受け身は取ったけど。
「まあ、しょうがないね」
「お前のせいだろ」
「どっちもどっちだと思うがの」


「あの、大丈夫ですか?」
「ん?」

振り返ると、キリハがいた。

「・・・大丈夫大丈夫。受け身も取ったしね。本気殴りだったけど」

ちっとは手加減せんかいな。いや、俺も悪いんだけどね。
あの後の失笑の嵐は、ちょっと哀れに思ったし。

空気読め、とかイビキ御大言ってたけど、空気読んだよね。
バナナトラップにわざわざ引っかかるとか。芸人の鑑だよね。
いや、偶然の産物なんだけど

「キリハ?何してるの」
「あ、サクラちゃん」

凸が近寄ってくる。そういえば近くで見るのは初めてか。
顔立ちは可愛いと言えるけど、ピンクの髪は無いわー。

「あ、さっきの人?」

と話そうとする二人を、後ろのスカした少年が止める。

「サクラ、キリハ、何やってる。試験が終わるまでそいつらは敵だぞ」
至極ごもっとも。

(ここでサスケくーん、とかイノ嬢が来る・・・あれ?こない)

前の方でシカマル、チョウジと何やら次の試験について話している。

さっきは気づかなかったけど、少しイノ嬢・・・とシカマル少年も、雰囲気が違うような。

(あれのせいじゃない?昔、助けたやつ)

(ああ、あれでか?いや、よく分からんが)

何せ白少年が白少女になっている世界だ。何がおきても不思議ではない。




そしてやってきました死の森。何ちゅう名前だ。

原作ならナルトがはしゃいであれこれなりますが、キリハ嬢はそんな事しません。
と、思ったらキバがやりました。アンコさん動きます。

・・・でも何故かこっちに飛んでくるクナイ。

「危ないじゃないですか、お返ししますよ」
とクナイを返します。

すわ世界の修正力か!と驚いている暇もありません。
直撃コースだったじゃないですか。試験前に赤い血ぶちまく所だったじゃないですか。

「ああ、ごめんなさいね・・」

怒ってます。根に持ってます。
流石、あの蛇の弟子。粘着質です。

更に、今のやりとりで他の受験生連中に警戒されました。

面倒くさいので無視しますが。

(蛇さんいるね)

気づいたかマダオ。流石マダオ。汚いチャクラが少しだけもれてます。

というか、アンコさんも気づけばいいのに。
あんな舌を持っている人、世界で一人しか知りませんよ。




最後に、試験管からアドバイスがあります。


「最後にアドバイスを一言・・・死ぬな!」


良い言葉です。何のアドバイスにもなってませんが。
と思ってると、綺麗な笑顔で言われました。


「アンタは死ね」


しどい。










森に入ってから10分後。


ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。

「殺してないでしょ」

ノリです。本当は後ろから頭を叩いただけです。
こんな所で殺しはしません。

「天の書か」

持っているのと同じです。かぶりました。
次です。



ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。


「全部天の書ってどないなっとんじゃあああああああああああああ」

「日頃の行いかの」

「そうだね」

「・・・そうかも知れないねキューちゃん。だがマダオ。お前が言うな」

くそ、何かの嫌がらせか?もしかして、木の葉の陰謀か?それともアンコ女史の呪いか?


・・・こうなったら、

「あれ、それどうするの?確か口寄せの巻物だよね。開けたら即座に発動するタイプの」

流石マダオ。一瞬で看破します。






まずは木に登ります。

「結構高いね」

そして開けます。

「ええ!?」

最後に投げます。

「そぉい!」

「「「「「おわ!?」」」」」


腐っても中忍。この程度の高さじゃあ、死にはしませんが、焦りはします。

「撤退!」

「「ちょ!」」



全速でその場を退避しました。所詮は中忍。簡単に振り切れました。

「最悪だね君」

「悪戯がしたい年頃なんで」

「精神的にはもうオッサンでしょ」

「マダオには言われたくないな」


「「・・・・」」







「あー、殴り合ってるとこ悪いが、例の娘っこ。不味い状況になってるぞ」

「「何!?」」








「くっ」


目の前には、大蛇が一匹。どこから現れたのか。
見た感じ、かなり訓練されている。
そして木の上なので、こちらより動きが速い。

「はっ!」

チャクラを込めた攻撃でも、びくともしない。
術で吹き飛ばそうにも、その隙が無い。気を抜けば丸飲みされるだろう。

「・・・不味い・・・」

決め手が無い。体力は動物であるあちらの方が圧倒的に上だろう。
このままじゃジリ貧になる。

二人の所へ逃げるか、と考えるが、先ほどから肌にひりついているこの殺気。
どうも、尋常じゃない。自来也のおじさんに匹敵するだろう。今までに任務では感じた事のない程の圧力。

ここで戻ったら事態が悪化する可能性がある。


「っと!」


間隙をぬって、蛇が突進をしかけてくるが、避ける。避けたと思った。でも、


「!?」

木に巻き付き、その遠心力でこちらにUターン。
こっちは飛んでいるから、避けられない。

(不味い・・・!)

致死のタイミング。私は眼を瞑った。


その時でした。










「パ○スト流星脚ーーーーーーーーーーーー!」




閃光のようにあの人が現れたのは。












危なかった。危機一髪だった。

もうすこしで丸飲みにされる所だったキリハを助けられた。

うん、普通のレベルじゃ無理だよね。あの口寄せ蛇。下手すれば中忍ですら危ういのに。

蛇君、全力の蹴りを入れた後にまた反撃してこようとしましたが、キューちゃんが一睨みすると逃げました。


「大丈夫?」

笑顔で語りかける。

「・・・うん、大丈夫だけど、その」

どうして助けてくれたんですか?と訪ねるキリハ嬢。

「・・・・・」

ポリポリと頬を書く。どう説明したものか。

ええい、野次馬二人、物陰から見るな!

散れ!

「・・・って、あ!戻らないと!」

キリハ嬢、仲間のピンチに気づきました。急いで戻ろうとします。

でも一瞬だけ立ち止まり、振り返ると「ありがとう」と笑顔で言ってくれました。

そして顔を凛としたものに戻した後、全速で仲間の元へと戻っていきました。

「・・・ええ子やなー」

「それはそうでしょう。だって僕とクシナの娘だよ?」

「・・・ほんとうに、ええ子やなー」

つい眼を逸らしてしまいました。

「で、助けにいかなくていいのか?」

「キューちゃん?って、あ」

発禁伝説さんがあちらにいらっしゃるじゃないですか。

「不味い!」

でも、この姿のままで行くのも不味い。ちょっと姿を変えていくか。

「キューちゃん、ちょっと」

「ん?」

手招きしたキューちゃんにチャクラを流し込み、変化の術を発動する。

「変化」







「そんな・・・・」

何やら絶望の表情を浮かべ、信じられないという顔をしているキリハ。
助けねば!



「そこまでだ」

静かに、告げる。



「・・・何者?」

俺の発す気配で、その力量を感じ取ったのだろう。

大蛇○は即座に警戒態勢に移った。流石と言っておこうか。










赤いマフラーたなびかせ、胸に宿るはただ一つ。

一心不乱の友情求め、今日も彼は世界を越える。

黒い童女を傍に置き、さあ高らかに名乗りを上げよう。














「それが世界の危機ならば、それを阻止するのが我ら影。拙者の名はロジャー。ロジャー・サスケ!
白の真珠にして少女の盾!世界忍者!」











世界観を全て置いてけぼりにして。

俺は今の自らの姿に相応しい名を、声高く名乗り上げた。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:21






「しっ!」

呼気と共に、草薙の剣による斬撃を掌で捌く。

掌で草薙の剣の横刃を捕らえ、円を描く軌道で外側に弾き、空いた隙に掌打を差し込む。

「ぐっ!?」

急所である脇腹への一撃。だが相手もさるもの。体勢を崩されながらも、咄嗟に身を捻り直撃を避ける。

内心で舌打ちする。10を越える合、こちらも少なからず傷を負っていた。

捌ききれない斬撃もあった。浅く刻まれた傷口が、動くたびに痛みを訴える。

(やる・・・・!)

流石は三忍の一人、大蛇○。今まで対峙してきた奴らとは桁が違う。

(・・・ならば!)

「ワガメちゃん!」

「・・・」

合図した声と共に、ワガメちゃんことキューちゃんは、心底疲れた顔をしながらも印を組み(実際は全然そんな事しなくてもいいのだが)帯状の炎を出す。


火遁・狐火の術。


だが、大蛇○の方も印を組み、術を発動させる。


土遁・土流壁の術。


狐火はその巨大な土の壁を焼いたが、破壊するまではいかない。

だが、まだ焔は持続している。消えるまで数秒か。

でも、これで視界は防げた。今ならば、やれる。


「もらった!」


この機は逃さない!



影分身の一体に、その土の壁を駆け上がらせる。木登りの応用だ。



本体は、そのまま詠唱に入る。



「一度殺されても 今に見る夢は同じなり 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる 
この輝きは何も奪わない。麺を想う我が意志の元、ただ愛を具現するが如く、包み込むその抱擁の意味を知れ」



焔が消えたと同時、影分身が壁を登り切って跳躍。意識を若干だが逸らさせる。

だが、その一瞬の陽動で十分。


その隙に、術を発動させる。

掌にチャクラを集中。アレンジにアレンジを重ね、あれ、それもう別物じゃね?

と言われた術、とくと見よ!


「完成せよ、精霊麺!」


手から発せられた、白く光る麺の束が大蛇○の身体を包み込んだ。

追尾型捕縛術。封印術を組み込んだ布が、先ほど掌打と共にマーキングした大蛇○の身体の方に殺到する。

上方に意識を逸らされた大蛇○。壁の左右から急に現れた布を見て、大蛇○は逃れようと跳躍する。だが遅い。布は大蛇○を追って上昇し、やがてその身体を捕まえる。


そして優しく全て、容赦なくその全身を覆い隠した。





「あの、ありがとう御座います」

「礼はいらない」

全てこっちの都合なのだから。

「あの、それであの人は・・・」

サクラは、繭に包まれた変態の方を見て、不安そうに呟く。

「あと一時間くらいなら大丈夫だろう。この隙に、逃げなさい。ここに居てはいけないよ」

繭の表面に、『発禁』の札は張っている。あれならば誰も触ろうともしないだろう。

封印術を兼ねた無駄に高性能なあの術。あと最低二時間ほどは解けない。

そのままシベリアにでも郵送したいが、この世界にはシベリアは無いのである。残念。でもあれ送りつけるって一種のテロだよね。


「あの、あなたは・・・」

おずおずと訪ねるサクラに、俺は名刺を渡す。

「天に輝く七星の元、友情の可能性を求め流離う紳士です」

キリハ嬢・サクラの二人が、さしだされた名刺を見て、不思議そうな表情をする。

「七星食品、麺'sワーカー、ロジャー・サスケですか・・・」

苦笑された。

あ、そうか。忍者に名刺は無いのか。

ちなみにうちは少年だが、あちらで絶賛昏倒中。うめいているが、無視である。そりゃあ、キスマーク付けられたら悪夢も見るだろうしなあ。


と、いうことで去ろう。

「いけません、そろそろ時間のようです」

「え?」

「それでは、美しいお嬢さん方。縁があればまた」


颯爽と、その赤いマフラーを風にたなびかせて、去る。



「ロジャー・サスケね・・・惚れたわ」

「サクラちゃん、正気に戻って!?」

サクラは混乱している!







元の姿(春原ネギ)に戻り、傷を治す。

「あー終わった、終わった、きもかった。で、どうする?」

取りあえず変態の危機は去った。まあ、キリハ嬢その他一行だけだが。

少しだけ様子をみるか。

またイレギュラーがあるかもしれない。









幕間 ~アンコの災難~



死の森の中を疾駆する。

先ほどの消写顔を使われた、草隠れの下忍の死体。あんな術を使うのを、私は一人しか知らない。

大蛇丸。

・・・戻ってきているのだ。かつての師が。

ならば、元弟子である私が始末をつけなければならない。

そう決意した。


(・・・ん?)


大蛇丸を追って森の中を彷徨っている途中、私は変な者を見つけた。


白く包まれた、蝶の繭のような塊。それが、白く発光している。


その様は、凄く綺麗だった。




数秒後、その輝きは収まった。そしてゆっくりと、繭が破ける。





「・・・蝶々?」





中から、何かが現れた。そのあまりにも神々しい光景に、私は一瞬時間を忘れた。








でも。










そこに現れたのは。























「まったく、大変な目にあったわ」

















全裸の大蛇丸だった。


























私はクナイを持ち、叫びながら突進した。



・・・色んな意味で、裏切りやがって!



大蛇丸がこちらに気づき、慌てて構える。



「なっ、アンコ!?」






だが構うことなく、私は突進する。

















「この、変態がーーーーーーーーーーーーーーーー!」
















~~~










そこから少し離れた場所。


「サスケ君・・・起きないね」

「あの大蛇丸に、何らかの術を仕込まれたんでしょ?・・・取りあえず、目を覚ますまで待つしかないね。迂闊に動かすと危険かもしれない」

「・・・えーと、キリハってあの大蛇丸って変態なおっさんと知り合いなの?」

おっさん、と呟きながら、私は苦笑を返す。

「・・・元木の葉の三忍の一人だよ?知らないの?」

「うん」

「まあ、今は抜け忍になってるからね。私も、自来也先生のおじちゃんが話しているのを聞いたことがあるだけで、よく知らないんだけど」

「・・・やっぱり、強いの?波の国で会った、あの再不斬って抜け忍よりも」

サクラちゃんは先ほどの事を思い出し、身震いをしている。

死をイメージさせられるほどの殺気だったらしい。それは、私にも分かった。遠くからでも分かる、醜悪なチャクラ。

「桁違い、と言っていいかもね。うん、強い。純粋な力量でいえば・・・今の三代目より、上かもしれない」

最盛期ならともかく・・・チャクラ量も衰え、実戦から遠ざかっている三代目火影では、きっと勝てないだろう。

数年前の事件が原因で、その衰えが進んだと言われているし。

もっとも、その事件については箝口令がしかれていて、私でもその詳細は分からなかったのだけど。




(私が知ることのないよう、特に注意を払っていたようだし)

カカシ先生も、自来也のおじちゃんも、火影のおじいさんも。

そして、いのしかちょうのお父さん達も。私の顔を見て、辛そうな顔をする時があった。



その答えが、その事件がなんだったのか。

あの大蛇丸が言っていた事が本当ならば、全ては繋がる。繋がってしまうかもしれない。

そう考えていると、サクラちゃんに大丈夫?と言われた。顔に出ていたのかもしれない。

「・・・もしかして、信じてるの?あのお大蛇丸って人が言ってた事。キリハにお兄さんがいたって」

「・・・そう考えればね。納得できる部分もあるんだ」

大蛇丸は言っていた。兄は、木の葉の暗部に殺されたのだと。

「まさか、でしょ?だって、キリハのお兄さんってことは、四代目の息子でしょ。そんな事あるわけないじゃない」

「そうだね・・・・・っ!?」

「どうしたの、キリハ?」


気配に気づいたと同時。

私は傍にある石を掴み、その方向へと投げつけた。







「・・・出てきたら?女の子の話を盗み聞きするなんて、マナーがなってないよ」






「いやいや、流石は四代目火影の御息女。バレバレでしたか」





額当てを確認。

(音の忍びか・・・力量から、恐らくは下忍)

ある程度、推測してあたりをつける。状況、時、そして言動。

予測。このタイミングで来る、ということは。

「・・・大蛇丸の差し金ね?」

相手が更なる言葉を発する直前、差し込むように言葉を入れる。

会話の呼吸を読んだその一言。三人は即座に反応できず、一瞬硬直した。


「当たり、か」


動揺を隠せていない。未熟だね。これなら、2対3でも勝機はあるか。


「キリハ」


サクラちゃんが立ち上がる。


先ほどの大蛇丸との対峙で、随分と消耗していたけど・・・その疲労から、若干だが回復はしているようだ。


無言で、私とサクラちゃんは後ろの方向をちらりと見る。

サスケ君はまだ起きる様子はない。ここは、自分たち二人で、どうにかしないといけない。



目配せをして、頷き会う。そして、二人揃って、拳を突き出す。

そして『倒す』という意志を乗せた、戦闘開始の言葉を告げる。


「「OKよ?私達に勝てると思うのなら、かかってきなさい・・・!」」



背後で未だ眠る仲間を守るために。


私たちは、武器を取り出し戦うための体勢に入った。






















「・・・・大蛇丸様、随分と怒っていたな」

「珍しくな。それよりもクソネズミ共を速く見つけようぜ、デブ。長居しても意味無いしな」

「多由也・・・女がそういう言葉をあんまり」

「いいから、行くぜ二人共」

命じられたのは一つ。

波風キリハを襲っていた、大蛇丸様の口寄せの蛇を倒した下忍。蛇は何かに怯えていたようで、尋常の様子では無かったらしい。

もしかしたら、他里の者も入り込んでいるかもしれない、とのこと。他に原因があれば、それを見つけないと。

木の葉崩しを控えている今、余計な因子は取り除いておかなければならない。


数分ほど気配を探って、森の中を探し回る。やがて、ある気配を察知した。



「お、もしかしたらあいつらか?」



何故か森の中で競歩をしている二人。

そして、ため息を吐きながらその後ろを歩く、着物を着た童女を発見した。














「おい、そこのクソ馬鹿共」


「「何でしょう」」


マダオと一緒に即答する。

突っ込み待ちだったので、その突っ込みの言葉に即座に反応してしまった。

樹上、木の枝の上に立ちながら声を発した女の子は、俺たちの返答に変な顔をする。

やがて、ため息をついた後、そこから地面に降り立った。


「親方!空から女の子が!」

「待て、パ○ー、よく見ろ。残念な事に男つきだ」

マダオの言葉に待ったをかける。

後ろに、デブと片目を髪で隠した男がいる。え、もしかして音の4人衆?何でこんなところにいんの?



「はあ、どうもやら、違うみたいだな・・・次郎坊」

「何だ?左近」

「こいつらの始末を頼む。姿を見られたからな。一応、始末しておいてくれ」


いや、姿見せたのそっちじゃん!と突っ込むが、華麗にスルーされた。


「行くぞ、多由也・・・どうも、あっちの方で戦闘をしているらしい。一応、見に行くぞ」

「ああ」



そういって、二人は去っていった。






腕を組み、俺たちと対峙するデブ。自信満々に、言い切った。




「悪いが、お前達にはここで死んでもらう。何、一対三はハンデだと思っていい」



自信満々にチャクラを解放するデブ。



「さあ、かかってこい!」



・・・・・・・・・・・・・沈黙します。


どうも彼、1対3とはいえ、下忍風情に負けるとは微塵も思っていない様子。





「どうした、怖じ気づいたか・・・って速!」






ボコ、ガス、ドカ、ドン、ゴス、ドキャ、ポン、ポカ、メメタァ!







取りあえず、しばらく起きられないように三人でボコっておきました。まあ、殺してませんよ一応。

仮にも忍びなら、相手の力量を見定めてからものを言おうね!

「どう見てもアホにしか見えなかったんじゃろ」

ごもっともだね!


じゃあ、向こうの方でドンパチしてるそうですから、俺たちも行ってみますか。

っていうかまたイレギュラーか。勘弁してくれよ。

















現場に到着。


樹上から、戦場を見下ろします。マダオとキューちゃんは下で待機中。


辿り着いた時、決着がついていたのは、一人だけでした。

○神家の一族のような格好で、音の下忍らしきものが、地面に突き刺さっています。

表蓮華が決まったのでしょう。眉毛君は術の反動か、膝を付いています。なんか、シュールです。



残りの二人は、まだ戦闘中。

キリハ 対 トンガリ。誰だっけ。

トンガリ黒髪君が、衝撃波を乱発してます。

それを華麗に避けながら、衝撃波の影響範囲をさけるように弧を描く軌道で手裏剣を放ち、当てるキリハ。

華麗です。というか、初見で影響範囲と弱点を見抜いています。

あと、キリハの華麗な立ち回りに、下のマダオが静かに興奮してます。

うるさいよ。見つかるだろ。




サクラは、女の下忍と戦闘中。地味です。





多由也、左近・右近の二人は観戦中。割り込む気は無いのか?と思っていた所です。


回復した眉毛君が、サクラの援護に入ろうとした時。


多由也、左近・右近の二人が動きました。


「くっ、新手・・・!?」

キリハがうめきます。口寄せ蛇君、大蛇○という、嫌な相手との連戦、その少し後ですから。

疲労がピークに達しているのでしょう。それはサクラも同じらしい。


そこで、新たな登場人物が。

リーのチームメイト、ネジとテンテンがやってきました。


・・・不味いことになりました。


このままでは、双方に相当な被害が出る様子。あまり、原作の展開から外れるのは不味い。



(一肌、脱ぎますか)



激突は避けた方がいい。そう思って、懐からあるものを取り出した。














「くっ、新手・・・!?」


気配の消し方を察するに、手練れ。

リーさんの仲間も来たようですが・・・この新手、どうにも不味い感じがする。

肌にひりつくような、『どこか違う』気配。先ほどの大蛇○ほどではないですが・・・強い者、そして外れた者にある特有の気配がします。

容姿から、年はそう変わらないでしょう。それでも、下忍ではない。そう直感する。

少なくとも、中忍レベル。あるいは・・・。

(まったくもう、次から次へと・・・!?)








その時です。

























ピロリーリリ、ピロリリリリー。














場が硬直しました。












「・・・・何、これは笛の音?」

サクラちゃんも気づいたようです。風に乗って、笛の音が聞こえて来ます。どこかで聞いたような・・・。


敵も、その笛の方角を見ています。ということは、新手ではないのかも。

女の方が何かを呟いています、え、何、わらび餅?




「・・・あそこです!」



リーさんが樹の上の方向を指さします。



「・・・あれは、春原さん?」




そこには、静かに笛を吹く、春原さんの姿がありました。


やがて春原さんは笛を吹くのを止め、こちらを見つめます。


そして、その場を飛び降りました。




「とうっ!」





一瞬のためらいもなく、掛け声と共に飛び降りました・・・・あんなに高いのに!
















まるでどこかの英雄のように。


















回転しながら降り立ってくる春原さん。





























やがて、着地した春原さんは、























バナナの皮を踏んで、転びました。




















「大骨折したーーーー!痛すぎるぅぅぅぅぅ!って何すんだマダオ!」


私は見ました。着地点に投げ込まれたバナナの皮を。





(見事な投擲術・・・!って違う私、落ち着け私)




「いや、ネタ振りかと思って」


「・・・・・」


喧嘩する二人と、沈痛な面持ちで眉間を抑える可愛い女の子。

あまりにも、あまりに過ぎる光景。



誰も、声を、発せません。






「何、コレ?」







サクラちゃんが、その場にいた全員の心の声を代弁しました。

























一方、三代目火影、執務室。

「何?」

部下からの報告に、三代目は狼狽える。

「それは本当か?」

「はい。何度も確認しました」

「そうか・・・」

大蛇丸がの、と呟く。

みたらし特別上忍からの報告だ。消写顔の術を使われた下忍の姿を確認。

おそらくは大蛇丸によるものと推定、と。

「覚悟を決めねばならぬか」

一時だが、4代目に火影の座を揺すり、火影を辞してから。

ワシには、何も成せなかった。うちはも、九尾も、大蛇丸も・・・そして、ナルトの事も。

(一つでも多く、片を付けねばならん)

時代に遺す者として、それだけはしておかなければならない。



猿飛ヒルゼンはその火の意志を目に宿し、来るべき時のために、すべき事を胸に刻み込んだ。












[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十一話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/11/22 16:36
「どうして分からないんだ!確かに、キューちゃんは油あげが好きかも知れない!
 だけど油あげを入れたら、それはもうラーメンでは無くなってしまうんだ!」

『何を戯れ言を!お前はあれを食べても分からなかったのか!
 麺などむしろ添え物!油あげこそが本体なのだ!美味いもの一つを求めて何が悪い!』

「違う!ラーメンは全てで一つ!メンマも玉子もチャーシューも、海苔もネギもスープも麺も!
みなスープの元に調和して合わさって初めて、一つの形になっている!その調和が無いラーメンを、俺は作る事などできない!」

『ならば、しょうゆラーメンとは別として、メニューにきつねうどんも入れればよかろう!』

「ラーメン屋はラーメン屋、そしてうどん屋はうどん屋なんだ!
 その二つの品は、同じ店では決して相容れないもの!どうしてそれが分からない!」

『ならば、メニューはきつねうどん一つにすればよかろう!』

「ラーメン屋でメニューがきつねうどんだけって、180度反対すぎるでしょ!」

『ならば油あげをワシにくれ!』

「話、変わってるよ!?」

俯き、歯を食いしばる。

「・・・どうしても分からないっていうのなら、キューちゃん、君が退かないっていうのなら・・・!」

『愚問!』





『「ならばっ!今こそ我ら、麺に一つとなる時!」』





            突発的ショートショート、「開店前のとある一シーン~相容れない運麺~」








取りあえず、音隠れの人達にはお引き取り願いました。

「次郎坊はどうした?」と聞くので、砂(フクロ)にしました、と言ったら、怪訝そうな顔をしました。

あれ、意味が通じなかったのか?坊やだからさ、と言った方が良かったか?

まあ、次郎坊がどうなったのは別として、この短時間で俺たちがここに辿り着いたのは事実。

相手にはそれが分かったのでしょう。油断無く身構える二人を見て、ため息を吐きます。

・・・どうやら、このまま大人しく退いてはくれないようですね。

面倒くさいので、俺は止めの一言を告げてやりました。


「蜘蛛の人はいないの?」と。



その言葉は、最大限の警戒心を呼び起こしたのでしょう。

二人はより緊張した面持ちになります。

周囲の状況、こっちが9人(一人昏倒中)に、あっちは実質4人という事を確認した後、忌まわしげな表情を浮かべて撤退しました。

「見逃してやる」とだけ告げ、下っ端3人を連れて退いていきました。

キリハが、へたり込みます。疲れていっぱいいっぱいのようですね。

それでもすぐに気を引き締め、気丈にも立ち上がると、俺にお礼を言ってきました。

「あの・・・先ほどの蛇の時といい、度々ありがとうございます」

「いえいえ。さっきのも、成り行きだから気にしないで・・・ってそこの3人、そろそろ出てきたら?」

茂みの向こうに声をかけます。

「・・・よく分かったわね?アンタ達、滝隠れの里の忍びにしてはやるみたいだけど」

返事と共に、苦虫を噛みつぶしたかのような表情を浮かべている、いのしかちょうの3人が出てきます。

ま、額当てのこれは偽造ですけどね。

それにしても、強気な発言。ま、木の葉隠れは自他共に認める最大の忍里ですからしょうがないでしょう。


「気配が少しだけ漏れてましたから。いや、実に見事な隠行でしたよ?」

「・・・それは、皮肉?」

いかん、警戒心を高めたか。

「いのちゃん、春原さんはさっきも私を助けてくれたんだよ。少なくとも今は、敵対する必要無いと思う」

「・・・分かったわよ。キリハ、あんたは相変わらず脳天気ねえ?」

「ぶー」

いかん、ぶーたれるキリハが蝶可愛い。

ってこらマダオ、悶えるな。クネクネするな。変な目で見られてるだろ。

「・・・で、あんたらは?これからどうすんだ?」

シカマル君はそれでも警戒を緩めていません。うーん、やっぱり先ほどの隠行といい、原作と違うっぽいなあ。放つ気配も、下忍にしては鋭いし。

「ん?天地の巻物がまだ揃って無いんで、取りあえず索敵かな」

「・・・目の前に敵がいると思うが」

「まさか。日向やうちはを敵に回せる程の力はないよ」

とネジを見た後、サスケの方に視線を向けます。

・・・起きとるがな!

やべ、目があった。

「キリハ、サクラ・・・誰だ、お前らをそんな風にしたのは」

先ほどの戦闘で、少ないですが手傷を負っている二人。

それを確認すると、サスケはクナイを手に持ち、

「危ない!」

突進してきました。傍にいたイノを咄嗟に突き飛ばし、そのクナイを手に持つクナイで受けます。

「・・・お前は、敵か?」

「違う、と言っても、聞く耳もってないようだね」

呪印の影響が、チャクラが高まっている。

力に酔っているようだ。

「ふん!」

サスケはこちらの言葉を聞こうとせず、回し蹴りを放ってくる。

取りあえず避けよう、ってぐあ!痛い!足が!マダオ!死ね!

「ぐあっ!?」

足の痛みで硬直していまい、避けきれずに横腹に蹴りを受けました。そのまま、吹き飛びます。

「次は、てめえだ!」

と、近くにいたキューちゃんに殴りかかる少年。

あー、不味いって。

「やれやれ」

とキューちゃん。下忍にしては速いサスケの拳を、片手で無造作に掴みます。見切るとかそういうレベルじゃない。ただ、其処にあるものを掴んだという風に。

掴み、動きを止めたまま、サスケの顔を凝視。その後、忌々しげな表情を浮かべて呟きました。

「・・・写輪眼、か」

心底嫌そうに呟いた後、キューちゃんはその掴んだ拳を横に引っ張り、勢いのまま、頭上に持ち上げます。

「な!?」

驚くサスケ、そしてその他全員も動揺の言葉を発する。

まあ、どう見ても自分より年下のあんな童女が、人一人を軽々と持ち上げるような怪力を持ってたら驚くでしょう。

キューちゃんは持ち上げたサスケを、そのまま軽く放り投げます。

宙に投げられたサスケは、空中で回転して着地。


キューちゃんは振り返り、サスケに背中を向け、俺たちに告げました。


「・・・行くぞ。興が殺がれた」

「「承知」」

童女に付き従う俺たち。

キューちゃん、何か機嫌悪くなった?ちょっと、声と顔が怖いよ。

ま、それはさておいて、逃げましょうか。


怪我している方と逆の足で、跳躍。ひとまず木の上に昇ります。



「待て!」

待ちません。マダオに肩を借り、そのまま逃げます。いいよいいよ、ってマダオ!お前のせいだろ!

逃げる前に、いのが何事か呟きました。

やや神妙な面持ちですが、まあここは逃げましょう。




「成り行きだから、気にしないで・・・?」










取りあえず適当に下忍を狩って、地の巻物ゲット。

そのまま目的地に辿り着き、第2の試験クリア。

もちろん、影分身と入れ替わりました。あそこ、退屈そうですし。





ま、ここは取りあえず、我が家に帰りましょう。








「はあ・・・・・」

『どうしたの?ため息なんかついて』

帰り道、二人にはひとまず戻ってもらいました。多人数だと目立つんで。足はすぐに治しました。

掌仙術。苦手ですが、軽度の怪我なら治せます。きゅーびの回復力と併用すれば、そうそう死にません。

「ため息・・・いや、ね。何も出会いが無かったなあって」

『まあねー。実質助けたのはキリちゃんだけだったし、イノちゃんには警戒されてたしね』

「はあ・・・不幸だ、気が重い」

鬱だ。今ならば獅子咆哮弾を打てる自信がある。

『猛虎高飛車!猛虎高飛車!猛虎高飛車!』

うぜえ!ちょっとネタ教えたら直ぐものにしやがって!

『でも反応が無かったら寂しいんでしょ?』

(・・・そうね・・・一人は、寂しいものね)

これも芸人としての性か・・・

『いいから、さっさと帰るぞ』

キューちゃん、先ほどからちょっと不機嫌です。サスケの写輪眼見てからですね。

何か思い出したのかな?




やがて、家の前の森の入り口に辿り着きました。侵入者防止用の罠が仕掛けてあるので、解除します。

ここの罠を解除するには、俺たち(俺と白と再不斬)のチャクラパターンと、専用の合い言葉が必要になります。

合い言葉は一応週毎に変えてあります。

さてと、今週は・・・確か、これだな。



「新たなるラーメンの器よ。願わくば宿るべきあなたのそのラーメンに幸いあれ」


封印は解かれました。別に体重80キロの童女は出てきませんが。










「ういーっす」

「・・・お前、今試験中じゃなかったのか?」

帰ってくるなり、再不斬の不機嫌な声で出迎えられました。

「あれ、何してんの?」

「・・・見れば分かるだろ」

食卓には、白と再不斬二人の姿が。美味しそうなもの食ってるな!

「ナルト君も食べますか?」

と言ってくれる白嬢。笑顔に心が癒されます。

でもね、俺は空気が読める男。

『嘘だっ!』

黙れマダオ。

これを見ろ!どう見ても再不斬専用に作られた料理!そして、エプロン姿の白嬢!

ポニーテールが眩しいぜ!

そして、白嬢は俺に笑顔でこの料理を勧めてくれてはいるが、その表情はどことなく悲しそう!

総合すると、どう見てもこれは。

「・・・うあーーーんちくしょうーーーー!眉無しなんて眉毛書かれて個性を無くしちまえーーー!」

泣きながら、おじゃま虫である俺はその場を逃走した。いつの間にか我が家は二人の愛の巣になっていました。

ちょっと家を空けたぐらいで!

でも見ていてすげえ微笑ましいので、許してしまいそうな自分が悲しい。

俺はフラグのフの字も立っていないというのに。今ならば最大級獅子咆哮弾でも放てる自信がある!


『猛虎高飛車!猛虎高飛車!猛虎高飛車!』


「だからうぜえって言ってるだろマダオォォォ!」




口寄せで呼び出したマダオと死闘を繰り広げました。





「はあ、全くこいつらは」


ため息を吐きながらも、キューちゃんはいつもの調子に戻っていました。














休息を取り、第3試験が始まる前日。俺たちは影分身と入れ替わりました。

整列している中、何やら視線を感じました。

(イノ、ヒナタ、それにシカマル?)

何で?

(ってその三人、子供の頃に助けた三人じゃないの?)

そうか・・・・・な、何だってー!?

(ばれた?いや、姿も違うし、ばれる筈ない。なら、何で?)

(さあ。まあ、変化している内はばれないから、そう慌てる事もないんじゃない?)

(そうだな)

取りあえず、当たりを見渡します。お、音の三人も揃ってるか。リーの表蓮華を喰らったあの下忍も来てるな。

カブト当たりに治療してもらったか?

勢揃いです。まあ、大したイレギュラーもなく、原作+俺たちという顔ぶれ。

(・・・のう、あのうちはの坊主がワシを睨んでるんじゃが、殺していいか?)

駄目です。我慢しなさい。

(ちっ)

うーん、どうも木の葉と音の下忍達には、警戒されているみたいですね。

まあ、本戦には出ないし、どうでもいいか。

(そういえば、第3試験まで出る必要無かったんじゃない?)

(一応、だよ。イレギュラーが多すぎて、何があるか分からないから。情報が足りないし・・・機会があるなら、情報は収集しておくよ)

















試合をする部屋の外、私はカカシ先生に声をかける。


「カカシ先生」

「ん?何、キリハ」

「サスケ君の事ですけど・・・」

「ああ・・・・」

カカシ先生は、その言葉に表情を曇らせる。

「取りあえず、俺に任せておいて。あの呪印も、どうにか抑えるから」

「はい。で、ですね。大蛇丸の事ですけど」

「・・・そういえば、知ってるんだったっけ。自来也様と同じ三忍だものね。それで?何か言われた?」

「はい。単刀直入に聞きます・・・兄は、暗部に殺されたんですか?」

その一言に、カカシ先生は硬直する。

「大蛇丸が言っていました。もしその事が本当ならば、もし兄がいて、それが殺されたのであれば、色々と「キリハ」」

言葉を遮られます。カカシ先生は、見たことが無い程に落ち込んでいる顔で、懇願するように言ってきました。

「必ず、後で話すから。だから、今はちょっとだけ待って欲しい。」

「・・・隠す、と言う選択肢は選ばないんですか?」

「鋭いからなあ、キリハは。それに、そのことについては、絶対に突き止めると決めているんでしょ?」

その問いに、私は力強く頷く。

「だったら、俺から話す。こうと決めたら動かないでしょ?キリハは。
 でも、この試験が終わるまで待っていて欲しい。俺の一存じゃあ決められないからね」

「はい」

今は追求はしない。カカシ先生に浮かんだ表情が、あまりにも悲しく見えたからだ。

それだけでも、分かる事はあった。

(少なくとも兄は居て、そしてカカシ先生が悲しむような事が合った)

立ち去る先生の背中を見つめて、私は拳を握りしめた。その時、背後から声を掛けられた。

「そこで、何をしている?」

声の方向、背後へと振り返る。其処には、着物姿をした、年下の女の子がいた。




「あなたは・・・」

確か、あの状態のサスケ君の攻撃を受け止め、無造作に投げ飛ばした少女。春原さんと同じチームの子だ。

「ううん、何でもないよ?」

「そうか」

それきり、女の子は黙った。

「春原さんは?」

「春原?・・・ああ、あやつか。一試合目、あやつら同士の組み合わせ何で、の」

と広場の真ん中を指さす。

「春原さん、と・・・」

指さされた、対戦相手を示すものには、こう書かれていた。

春原ネギ 対 長谷川泰三

広場中央で対峙する二人は、目を瞑っている。

やがて、審判である月光ハヤテ特別上忍から、開始の合図が出された。




開始の合図と同時に、二人は距離を詰めて同時に掌打を繰り出す。


(・・・速い)

交差した後、二人の口の端には、少し血が流れていた。相打ちだろう。


「それにしても、こんな所にいていいの?」


担当である上忍の所に行かなくて・・・あれ、いない?


「ああ、担当の者なら、今は厠に行っている」

そうなんだ。

「それにしても、凄いね、あの二人」

「凄いの内容にもよるがな」

と少女はため息を吐いた。

「ええと、あの、あなた・・・」

「・・・一応は、氷雨チルノという。まあ、親しい者からはキュウと呼ばれているから、そっちの名で呼んで欲しいが」

「キュウ?」

・・・あれ?その名前、どこかで聞いたような?

思い出せないな。まあ、今はいいか。

「じゃあ、キューちゃんだね」

「ごほっ」

名前を呼ぶと、キューちゃんは何故か咳き込んだ。

「どうしたの?」

「・・・何でもない」

何か、呟いている?聞こえないけど、「血だの」、とか何とか。

「二人の試合、見ていなくていいの?」

「まあ、な。どちらが勝ってもあまり変わらないからの」

「・・・?」

「しかし、あやつら。本気でやりすぎじゃ」

戦っている二人を見て、キューちゃんが苦笑する。二人の顔はもうぼろぼろだ。

(確かに、あれならば苦笑するかもね)

それにしても、それを見てキューちゃんは笑っている。どこか、嬉しそうに。

「・・・仲良さそうだね、あなたたちは」

この三人、底には信頼がある。直感だが、そう思った。私の勘はあまり外れた事が無いのだ。

そう思ったのだが、キューちゃんは首を振る。

「仲がいい、とは少し違うがの。でも、まあ」


チャクラの高まりが、会場を静かに揺らす。


「吶喊!」


「勢!」


二人は大きな呼気と共に踏みだし、掌打を互いに繰り出す。

小細工抜きの、一撃勝負。

(なんて、踏み込み)

足下の床は、少しだがひび割れている。

激烈な踏み込みと共に繰り出されたその一撃は、互いの身体を打ちすえる。



激音。



やがて二人とも、時が止まったかのように硬直した後、

(あっ)

笑いながら、長谷川さんの方が崩れ落ちる。そして、春原さんはそれを支えた。

長谷川さんは、負けたのに笑っていた。そして、春原さんの方も同じ笑顔。

勝ち負け関係なく、二人は互いに笑っていた。

そして、それはキューちゃんの方も同じだった。

あの二人と同じ種類の笑顔。見ている者の心を揺さぶるような偽りのない笑顔。


そして八重歯を見せながら、快活な声色で、言う。




「まあ、あいつらと一緒に居ると、退屈だけはせんな」




キューちゃんが浮かべたその笑顔と声。



その笑顔の可憐さに、同性ながらも、私は見惚れてしまった。










[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十二話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:23







「初勝利」

肩から離れたマダオに向かって、サムズアップ。

「ふー、負けたよ」

マダオは苦笑しています。冗談抜きでのガチンコで、勝ったのは初めてになります。

まあ自分、殺し合いは嫌いですが、殴り合いはそうでもないので、やっぱり勝つと嬉しい。昔の血が騒ぎます。

さて、キューちゃんの所へ戻りますか。



「ただいま、キューちゃん・・・って波風さんと一緒にいるんだ」

「うむ。少しこやつと話しておったところじゃ」

とキューちゃんは答えながらも、俺の背後の方へと視線をやる。

何だ?と思いながら振り返ると、こちらをじっと見つめる視線が二つ。

可視化すれば、ビーム出てるかの如く、強い視線。

(視線を感じます)

・・・我愛羅様が見てる。じっと見てる。ずっと見てる。色は赤。そんな感じ。

(絶招使ってないけど、動きでばれたのかな)

そっと、視線を逸らす。って、テマリの方も見てるがな。

(そういえば、砂の里の一件というか立ち合い、テマリちゃんにも見られたんだっけ?)

思い出す。そういえば見られてたか。微妙なタイミングだったけど。



追求されるのも面倒くさいので。逃げました。



元の場所へ戻ると、キリハが俺に向かって言ってくれました。

「おめでとう御座います、春原さん」

強いですね、お二人とも、と笑顔で褒めてくれるキリハ嬢。

だが、俺の横では

(・・・・ギリッ)

マダオが横目で睨んでくる。歯ぎしりしてる。

怖っ!怖いから!その本気目、怖すぎるから!光ってるから!そんなに娘に褒めて欲しかったのか!

・・・いかん、フォローせんと。

「いや、たいしたこと無いよ。俺が勝ったのはほとんど運だったし」

「いつもは僕の方が勝ってるからね!」

と胸を張るマダオ。どうしようもねえな、おい。

「そうなんですか・・・しかし、珍しい体術ですね。見たこと無いですが、その、流派の名前とかは何と言うんですか?」



「え?」

・・・九尾流、とか流石に言えないし・・・あ、っとそうだ!




「木連式柔です」

ラーメン屋だけに。帰ってきたプリンス・オブ・ダークネスと言って下さい。

でもボソンジャンプは未修得です。




「ちょっと、いい?」

背後から掛けられた声。いや、気づいていたんですけどね。認めたくなかったというか。無視したままでいたかったんですが。

振り返ります。ああやっぱり。

「・・・えっと、砂隠れの人ですよね」

振り返った先には、砂隠れの三人がいた。

テマリ、我愛羅、・・・・ほか。

「えっと、ちょっと聞きたい事があるんだ。今の体術の事なんだけど」

「木連式柔です」

「・・・そういう名前なんだ。で、あれは誰から習ったんだ?ちょっと、聞いたこと無いし、見たことないタイプの体術だったけど」

言えませんので誤魔化します。

「えっと、それは口外できないんですよ。一応、秘匿とされている流派ですから」

「・・・そうか、悪かったな」

それ以上は追求してきませんでした。助かった。まあ、よその里の事ですからね。一応自重しましたか。



でも、我愛羅。こっちみんな。怖いから。







次の試合、うちはサスケ 対 黒頭巾ちゃん

手からチャクラを吸引するぜ!な人です。

下忍一年目のサスケ相手に、しかも呪印の疲労が色濃いサスケに、体術で負けてます。

そして術発動。異端の能力らしいですが、まずは基礎能力から鍛え直してきなさい。話はそれからです。鍛えれば使えそうな能力なんだどなあ。

そして、頭をわし掴みです。いやいや、動き固めながら使えよ。クナイとか持ってたらサクっと刺されちゃうじゃん。それと自分からばらすなよ。

まさにヤラレ役です。かませ犬です。むしろお前がモルモット。

19号かお前は。今だ!とか言ってみい。




そして始まるスーパーサスケタイム。写輪眼って体術もコピーできるんですねー。

影舞踊から獅子連弾。

どこらへんが獅子なのか、小一時間問いつめたいです。

原作でナルトが「うずまきナルト連弾」と言っていたから、もしかして自分が獅子だと言いたいのでしょうか。

かっくいー。きゃー。しびれるー。

あと呪印ですが、自力で押さえ込みました。根性です。精神力も大したものです。

・・・っていうか、あれ見方変えれば大蛇○のキスマーク何ですよね?それが身体全体に広がる、って、おえ。

気持ち悪いこと考えちまいました。


サスケは運ばれていきました。そして、ついていくカカシ。

まあ放っておきましょう。あまりあの蛇野郎、いや、蛇女?には会いたくないですし。

会話するだけで、SAN値が減りそうです。なふるたぐん。







次は 油女シノ 対 旧ザク

腕がぼーん。虫でぼーん。

了。

っていうか、それ以外に特筆する所がない試合でした。






次は 歌舞伎者 対 タコ

掲示板に出された名前を見て、首を捻ります。

あれ、カンクロウ?カンタロウじゃ無くて?だって彼、長男なんだよね。

なんで九朗?長男だったら普通、太郎じゃないの?

テマリに確認。カンクロウでした。・・・ああ、不思議名前なんだな、と納得しました。

そして試合内容ですが、からくりサーカスでした。化粧の意味は分かりませんでした。

「っていうか剣ミスミって人、あの年で戦術も何も練らないって・・・」

情報収集用に身体を柔らかく~、と言っていますが・・・情報収集と身体の柔らかさに何の関係があるんでしょう?

あと、情報収集する忍びなら、もう少し相手の事を観察しようね。大丈夫か音の里。

(ていうかあの程度の実力で、何でカブトに偉そうにできたんだろう)

カブトってカカシ並なのに。情報収集(笑)というやつでしょうか。

それとも実力を隠しているとか。うん、きっとそうに違いない。





次は 山中いの 対 春野サクラ

(いのいちの娘だね)

そうです。しかし、いのの方は、気配が洗練されてます。

サクラの方は萎縮してます。サスケ~のやりとりがありません。やっぱり、あれが原因か。

チャクラコントロールは互角です。やっぱり、いの嬢強くなってる。

(いのちゃん、よく鍛えているね。能力的に死角がないから、サクラちゃんも攻めきれない)

いわゆる万能型というやつですか。ああいうタイプは一部でも上回っている所がないと、厳しいんだよな。

あと、一芸に特化した術とか。どっちも無いから、サクラ嬢ジリ貧になってる。

(心転身の術も使わないみたいだね)

マダオが呟く。そういえば、知ってるんだっけ。

(・・・まあ、使いようによってはすごい強力な術になるけど、博打的な要素もある術だからなあ)

俺か我愛羅、つまり人柱力相手に使われると、えらいことになりそうです。

試合はもう、ほとんど決まっていますね。キリハが応援してますけど、これは決まったでしょう。

止めは顎への掌打。左右連撃。

人体の弱点にも精通しているようです。もろに入った。脳震盪を起こしているようだ。あれは、立てない。


結果、イノ嬢が勝ちました。原作と違うぜ。


(まあ、あの二人の力量差・・・5年後は、分からないかもしれないけど)

サクラの方も、才能はあるみたいだからなあ。

(っていうか、女の子と男で露骨に扱い違わなくない?)

野郎の試合はどうでもいいです。サクラ嬢はキリハ嬢に「どんまい」と言われていました。







次は テンテン 対 テマリ

今気づいたけど、続けて言うとテンテンテマリ♪じゃないか!やってくれるぜ!

・・それはおいといて、当たりません。テンテン嬢、色々と武器攻撃を繰り出しますが、掠りもしません。お団子頭が眩しいぜ。

(チャイナ服が似合うと見た!)

くわっ!と目を開いてのマダオ発言。

小声で助かりました。自重しろマダオ。

テマリの方は、流石は風影の娘といった所でしょうか。完全に中忍レベルだよね、テマリ。

勝ったよ、と我愛羅に話しかけてます。

我愛羅の方は、「・・・・ああ」とだけ返事をしています。

(うーん、距離は縮まっているのかなあ)

会話だけではいまいち分からん。でも、そうであって欲しいなあ。何となく。






次は 奈良シカマル 対 キン・ツチ

シカマルの動きがいい。鈴の引っかけに乗らない。無傷で勝利。体術もそれなりに鍛えてるようです。

まあ、遠距離で牽制しながらよりも、接近してからの影真似が一番確実性が高いからね。

距離が近いと術の効力も高まると聞いたし。

それにしても、影真似の術って異様に使えるよね。流石は秘伝忍術ってところか。

(その分、燃費悪いけどね)

それにしてもサポートから一対一での決め技、応用範囲が幅広い。

(それでも、使う者の頭次第なんだけどね)

術者の動きが制限される分、使い所を見極める頭も必要になるからな。

木の葉の下忍の中なら、一番中忍に相応しい能力を持っているかも。







次は 波風キリハ 対 犬塚キバ

キバは開始早々四脚の術を発動。それを目で見て避けるキリハ。

地力ではキリハの方が上っぽいが。

でも流石に、速さではキバの方に分がある。でもそれを危なげなく避けるキリハ。

白の魔鏡氷晶の術ほどは速くないからか。掠りはするものの、見切りれている。うーん、体術の技量も伸びてるね。

数分後、キリハの方は避けながらの反撃に移る。目が慣れたようだ。徐々にキバへと反撃の手裏剣をかすらせている。

「ちっ、赤丸!」

不利だと悟ったのか、キバは獣人分身。でも、変わらない。

1対2となった事で防戦一方にはなったが、キバの攻撃が当たっていない。

(学習能力が凄いね)

キリハの方は、避けながら期を伺っている。隙が無い。

やがて、業を煮やしたキバが動く。赤丸の方が四脚の術で背後に回り込み、前後から挟み込む形となった。

繰り出すは獣人体術奥義、牙通牙。キリハは動かない。


やがて、牙と牙が交差し、キリハに直撃したかと思われた。


(当たらんって)


が、キリハの姿は丸太に変わる。


「変わり身!?」


驚いたキバ。そこに、隙が生じた。


(牽制も何もなしの、見え見えの一撃だしね)


十分に仕込む時間はあった、という所だろう。確かに牙通牙、威力は高いが使い所を間違えたな。

生じた隙を逃さず、キリハがキバの懐に飛び込む。変化した赤丸と、キバ。姿は同じだが、キリハにはどちらがキバか分かったようだ。

(・・・まあ、赤丸はしゃべれないからね)



「はあっ!」



キリハの、あれは掌打?

いや、違う。一瞬だけ見えたが、あれは・・・


その掌打を受けたキバは、派手に吹き飛んだ。


(簡易版の螺旋丸、といった所か)


密度も回転数も、本来の螺旋丸に遠く及ばない。が、あれは確かに螺旋丸の術理だ。


(・・・まさかね。形だけでも扱えるとは思わなかったよ)


マダオも驚いてる。馬鹿みたいな精度でのチャクラコントロールが要求される技だからな。


修行をしておきたいと言ったのは、この術のためか。試験前に、決め手となる術が欲しかったのだろう。

どうせ自来也当たりが教えたんだろうけど。

(でも、完成には至っていない。集中力と時間を大幅に割く必要があるね、あれは)

・・・それじゃあ、実戦ではそうそう使えないな。隙を見せなければ、使えなかったに違いない。

キバの短気が損気になった。刃の下に心を置けなかったキバが負けた。術の使い所が勝負を分けた。そういうことだろう。





次は 日向ヒナタ 対 日向ネジ

白眼同士の戦い。それは即ち、柔拳の激突。・・・柔らかなる拳、烈迅!とかやってくれないかな。

それはそれとして、何やらヒナタ嬢、やります。体術の練度が高い。互角とはいえないですが、ネジの方も手傷を負ってます。

でも勝敗は同じ。点穴を見切ったネジが勝ちました。

倒れるヒナタに向かって運命、運命、言ってますが・・・その年で運命論者ですか。つまらない。

横のキリハ、会場に飛び降りました。ヒナタ嬢を起こしながら、ネジの方を睨んでます。

かなり怒ってます。そりゃあ、才能が全てとか言われたらねえ。努力してる者全員をを貶める言葉ですから。

キリハも四代目の娘。才能はあるだろうけど、努力も欠かしてないのは見れば分かる。まあ立場上、色々とあったのでしょう。

ってかネジの物言いだと、運命が全て。才能があるから出来て当たり前、となるね。まあ力だけ見てればそうなるんでしょうけど。






次は 我愛羅 対 ロック・リー

ひょうたんから砂。オートガードって便利だよね。

「今まで、我愛羅を傷つけた奴なんていないじゃん」

とカンクロウが言ってますが、テマリがその言葉を否定しました。

あの時の・・・奥義の一撃、その衝撃は十分に浸透していたようですね。

やがて、眉毛の師弟愛。発揮される海苔パワー。

・・・ていうか、あれだけの重りをつけていたら、蹴りの威力がもの凄い事になりそうなんですが。え、言うなって?

後は原作の通り。我愛羅はちょっと柔らかい方向に変わっている事を期待しましたが、全然変わっていないようですね。

さて、木の葉崩しの時に、守鶴をどうするか。面倒臭いですけど、考えなくてはいけないようです。







次、秋道チョウジ 対 ドス・キヌタ

犬神家の一族ごっこをしていた彼ですが、全快しているようです。

音の増幅器で、チョウジの体内の水分に伝播させました。勝ち。

ザクとは違うのだよ、ザクとは!とは言って欲しかったですけど。







以上、第三試験が終わりました。







・・・ってあれ?キューちゃんは?

「不戦勝。試合無しの勝ち上がりだそうです」

まあ、いいですか。余計なものは見せない方がいいですしね。

どうせ出ませんし。





結果、残ったのは

俺、サスケ、シノ、カンクロウ、いの、テマリ、シカマル、キリハ、ネジ、我愛羅、ドス、キューちゃんの12人。

俺とキューちゃんは出ないので、実質10人ですか。

砂、音、木の葉。当事者だけですね。調整した甲斐がありました。

中忍試験中の事件ですから、他国の里の忍びがいると余計な事になりそうですし。

(ああ、そういう意味もあったんだ、あの下忍狩りには)

もちろん。





さあ、くじ引きです。

最終試験、トーナメントですが、組み合わせはどうなるかな・・・








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 外伝の壱 とある3匹の珍道中
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/14 20:30





空は雲一つない、快晴。

鳥の声が囀る静かな森の中、一人の少年の歌声が響き渡った。






























『go! go! Rarmen!』


「どーんーぶーりー、いーなづまはーしるー」


四川ラーメンでした。


木の葉から遠く離れた所。旅路の途中、暇なので歌う事にした。


マダオのコーラスが良い感じだ。



『・・・わしは歌わんぞ』



分かってますよ。


あの日から、もう二年あまり。

力量はある程度の域に達したので、旅に出ることにした。

いや、まだまだ足りてないのは分かるんですが、どうも修行だけだとストレスがたまっちゃって。

キューちゃんも最初の一年はつんけんしてましたけど、ここ最近はようやく構ってくれるようになりました。

ツンデレ乙!


『諦めただけだがの・・・』


キューちゃんも疲れているようだ。あ、あの町で一休みしよう。












『結構栄えてるね』


大通りに出る。人の数が多いし、建物も大きい。

これだけ大きい町だと、さぞ美味しい店ラーメン屋があることだろう。

大きい町ほど、味は洗練されている事が多い。店の味は競争して磨かれるものだからだ。


「行くぜ!!!!!!!!!!!!!!」



気合いは十分。待ってろいよまだ見ぬ麺達よ。今、同胞がそちらに行くからなーーーー



『でもちょっと待って欲しい』


なんだよ。水さすなよ。


『お金、もう無いよ?』



「何ですとーーー!?」


『いや、前の町で散々食い散らかしたでしょ。そりゃ無くなるよ』


そうだった。あまりにも久しぶりだったから、つい勢いに任せて・・・くそ。


『どうする?今日は我慢する?』


「しない。食べたい。稼ぐ」




極めて動物的な思考回路。当然の帰結といった風な面持ちで、俺は賭場のある場所へ向かった。









『え?あれってもしかして・・・』


賭場につくと、ある二人に目がとまる。

肩を落とす、黒髪の女性。美人だ。その隣には、その女性を慰めるナイスバデーなお姉ちゃんがいた。

おぱーい+背中には「賭」の一文字。




『あれはもしかして・・・!』


「知っているのか、マダオ!」


『誰だっけ』


「ズコー!」


どうみても綱手姫と付き人のシズネ女史です。


『冗談だよ。でも、どうやらまた負けたみたいだね』


流石は伝説のカモ。っていうか三忍にまともな奴はいないのか!


エロ、オカマ、バクチ狂。大三元です。親の役満です。


「あの人達の師匠である、三代目って・・・」


ため息をつく。

『まあまあ。それより、だよ。・・・行くんでしょ?』




ああ、ちょうどいいしな。






















「倍プッシュだ・・・」





俺は元岩隠れの抜け忍。今はやくざの用心棒をやっている。

そんな俺がこの雀荘に呼ばれたのは、こいつが来たからだ。

伝説のカモ相手に大きな稼ぎができた、と喜んでいたすぐ後、急にやってきた優男。

年は10代半ばだろうか。鬼のように強い。





「くそっ」



代打ちの連中は焦っている。あまりにも一方的過ぎるからだ。


俺から見ても、分かる。天から授けられたかの如き指運。魔法のように、次々に役が出来ていく。



開始から三時間。負け続け、倍、倍、倍の掛け金で、負け分がいよいよ本格的に不味い域に達している。



もう、体裁を構っている余裕は無いと、3人組のコンビ打ちで、何とか追いつめた時だ。





「オーラスです」



最終局。点差は十分にある。ここからの逆転は、役満でも上がらない限り無理だ。





そして、手は全て封殺済み。このままいったら、勝てる・・・・!?








「ロン」










優男の静かな声。場が沈黙する。ゆっくりと、牌が倒される。










まさか・・・いや、四暗じゃない、三暗刻か。どういうつもりだ?このままじゃ負けだってのに。









戸惑う俺たちをよそに、男は余裕を崩さない。口の端を上げ、山に手を伸ばす。







「ああ、俺の暗刻はそこにある・・・・・」








裏ドラ、何。






「まず一つ、ドラ3」







まさか、







「これで対子、ドラ6」









こんな逆転があるか!












「最後だ。ドラ9、数え役満。逆転だな」
















その場にいた全員が総立ちになる。


















「さあ、しめて100万両。払ってもらおうか」


「・・・・何の事だ?」


「何?」


その場にいた者のなかでは一番地位が高い。若頭のその言葉に、優男は眉をつり上げる。


「ドラ6どまりだろう。役満じゃない。お前の負けだ。お前こそ、払って貰おうか」


ドラ牌とは別の牌をつかみ、若頭はもう一度繰り返す。


驚いた表情から一転、組の者の顔が、ニヤニヤしたものに変わる。







「そういうことか」



優男はため息を吐く。随分と肝が据わっている事だ。この状況で落ち着いていられるとは。




「さあ、小僧、もう一度だけいう。払って・・・?!」




肩を掴もうとした時だ。そいつは後ろに飛び上がり、入り口まで辿り着く。

逃がすか!と距離を詰めようとした時、そいつの奇妙な行動に全員が首を傾げた。


そこらにある椅子を扉の前に置いて、まるで閉じこめるかのようにくみ上げたのだ。



そして、一言。





「これでもう、だ~れも逃げられない」





両手を広げ、嘲るかのように嬲る言葉。組員全員の頭に血が上る。それはそうだろう。

こんな小僧に舐められて、怒らない筈がない。



「てめえ「殺ァ!」がッ!?」



殴りかかった一人が吹き飛び、床に叩きつけられる。


男は振り抜いたそのネギをゆっくりと手元に戻し、やがて十文字に構えると、宣告した。













「我は麺の代理人 麺罰の地上代行者
  我が使命は麺に逆らう愚者共を その肉の最後の一片までもスープに浸すこと」









男の背後に幻視する。弁髪、細目の異人の姿を。




優男の顔は、前髪に隠れて見えない。ただその異様な眼光だけがぎらつくように輝いている。








そして最後の言葉と同時、さらに倍にふくれあがった威圧感が俺たちを蹂躙する。
























「ラーメン」

















威圧感がふくれあがる。眼光が、その場に居た全員を金縛りにする。























俺は、これでも結構腕は立つ。修羅場もいくらか潜ってきた。
























そんな者だけに働く勘がある。















俺は























ここで


























掘られる。

























アッーーーーーーーー!







































「まったくもう、酷い目にあったわプンプン!」


『お主の方が酷いと思うが・・・』


ネギ、ネギ、ネギの大乱舞。今日はヤクザ者の厄日だね。薬味だけに。

まあ生前、散々やくざには悩まされたんで。

それにイカサマやって儲けてる人には、あのぐらいの扱いでちょうど良いんですよ。


『それにしても、取り返したね』

綱手姫の負け分も取り返した。

っていうかあえて言わせて貰おう。姫って年か。

『それ絶対に本人の前で言わないでね・・・あ、噂をすれば影。綱手さんいたよ、ナイスタイミング』



店から、出てきたおっぱい+ちっぱいに声を掛ける。




先ほどの店、実はイカサマしてたんですよ、と言って、取り返してきました、と返してやる。





「あ、ありがとうございます!」


シズネさんがもの凄い勢いで頭を下げる。苦労してんだなあ。


やがて2,3言話すと、その場を去った。





いくらなんでも、まだ三忍は無理です。力量の差は歴然ですので。




例えるなら、マスターリュウとダンぐらいの差があります。


俺はダンの方が好きだけどね!










「ふいー、食った食った」




『いくらなんでも食べ過ぎでしょ・・・』




大盛り3杯、完食しました。結構やります、この店。


チャーシューとネギのバランスが良かった。あと、スープも深みがあった。


牛骨スープをベースとした、塩ラーメン。普通ならありきたりな味になるのですが、ここの店長、良い仕事してました。

チャーシューに味を付けて、ネギを多めにして、アクセントが聞いています

そうなると、スープの役割も変わってくるというものです。逆にあっさりとした方がいいので。





『で、どうするの?また野宿?』


いや、今日は宿に泊まる。

それに、


『あ・・・・』


寿司やの方に走り、そこにあった稲荷寿司を買いました。





宿で、その包装をときました。若干、ですがキューちゃんと感覚を共有します。



「好きなんでしょ?」



『ふん・・・・』



脳裏に顔が浮かびます。

キューちゃん、照れた顔を、少し横に背けています。視線は斜め上を見ています。頬は少し赤に染まって、もっっそい可愛いです。







じゃあ、いただきまーす。





















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 外伝の弐 死闘!砂の里~赤い狐と緑の狸~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/15 23:05






「麺道大原則ひとぉーつ!・・・ラーメンは、あまねく人に食べられなければならない!」






               麺王体系・汁ナイト 10話「豚骨のメンマ、信念の叫び」より抜粋 











「熱ちー」

きちー。熱すぎる。やってきました砂の里。
良い塩が取れると聞いたんで、心配事は色々とありますけどやってきました。

まあ、この里も広いんで、そうそう狸さんに会うことも無いでしょう。
気を付けていれば逃げられますし。それに、我が変化に死角はありません。
潜伏もお茶の子さいさいです。


「それにしても、熱いな」

『砂漠だからね。そりゃ熱いよ。それにしても、懐かしいなあ』

ちょっと昔を思い出しているようです。

「マダオ、この里に来たことあるのか?」

『第一次忍界大戦の時に少しだけね』

ああ、木の葉の里、砂の里とも血みどろの抗争してたんだっけ。

『この里に、守鶴のやつがいるのか?』

キューちゃんが聞く。割とどうでもよさそうだけど。

「うん。まあ、人柱力憑きだけど」

心底関わり合いに成りたくない手合いです。視線が合っただけで殺されます。
ヤンキーより酷いです。


さておき、噂の良い塩、探してみますか。
容器に入れた水で水分を補給し、里の中へと入り込んだ。



(警戒厳重だな・・・)
木の葉とはえらい違いです。入り込むのに苦労しました。

里への出入り口が少ない分、警備も其処に集中しています。まあ普通、忍の里は外からの侵入者に敏感にならないといけないですからね。
買い物とか色々しなければいけないので、商人に変化しました。本物は別の里に出張中です。


『ほら、あそこは?』
里に入ってすぐです。ちょっと大きめの商店が見えました。
「行ってみるか」
ついでに水も確保しておかないとね。さっきので全部飲んじゃったし。


(結構、良い塩だな)
店で一舐めさせてもらいました。良い具合です。鶏がらスープに合いそうです。大枚をはたいて、結構な量を確保しておこう。
「まいどあり~」



取りあえず、宿で厨房を貸してもらおう。鶏も買って、と。麺は市販のものにしますか。
あそこで買いましょう。


「え、ラーメンの麺がない?」

「はあ・・・」

おっちゃんにすいません、と言われました。うどんか、素麺しかないそうです。なんじゃそら!

『まあ、無いのは仕方ないんじゃない?第一、こんなに熱い里なのに、ラーメンとか食べないでしょ』
裏切り者!

『・・・あの、提案なんじゃが・・・ちょっと、ちょっとだけの、久しぶりにきつねうどんでもしてみんか?』
小さい声でキューちゃんが呟きます。・・・そんなに頬を赤くするんなら、素直に食べたい、と言えばいいのに。
『ええい!食べたいわ!食べたい!これでいいのじゃろ!』

腕を上げて怒っています。八重歯が剥き出しになってます。・・・何この可愛い生き物。
(じゃあ、まあちょっとだけ、って嘘。作るよきつねうどん)

その姿に胸を打たれました。ちょっとクラッと来ました。心の中のマダオは膝を付いてます。
足に来たようです。

じゃあ、うどん麺と、素麺を買って帰りましょうか。

そういえば、流し素麺とかしないのか・・・って無理だな。水は貴重だろうし。
いっそ、忍術でどうにかならないか。水遁・流し素麺の術!とか。

・・・それも無理だな。麺諸共に吹っ飛んでいる景色しか浮かばん。




宿で厨房を貸し切りします。
どうもこの店、客が少ないようで、多めの料金を渡したら、要望に快諾してくれました。世知辛いです。

出汁を煮込んでいる間、暇なのでマダオと一緒に術の案を練ります。
火影の知恵に九尾のチャクラ。夢は広がります。

とはいっても、今の自分が持っているチャクラ、何やら混ざり合っていて、純粋な九尾のチャクラとは違うようなんですけどね。
禍々しさは少し成りをひそめてます。きゅーびのチャクラ、と言った具合です。
原因は分かっています。

修行を初めてから数年、ここ最近やっと気づいたんですけど、どうも俺たち魂レベルで癒着してしまっているようです。

この身体の本来の持ち主であったナルトの精神が崩壊した後、取って代わろうとした九尾、封印術式に組み込んであったミナトの人格、そして暴走して時空間の隙間から口寄せされた俺の魂。
入り乱れ、頭と頭がごっつんこ♪負けたーらどんどこしょ。ってな具合です。
今の所、主人格は俺です。マダオは別人格みたいなものですか。キューちゃんはまた違った感じですが。
もちろん、記憶等は共有していません。何か、多重人格みたいですね。

これも、なんとなくのフィーリングで推測した事なので、詳細はまだ解明できていないのです。キューちゃんがまともな人格を有しているのも、このためと思われます。
まあ、解明次第ある事をしようと思っていますが、まだそれは先になるでしょう。


ともあれ、術の開発です。
一応砂の里の中なんで、普段の五倍は真面目にしましょう。囲まれると流石にやっかいなことになりそうなんで。


「捕縛系の術とかほしいな」

破壊系、というか正面から倒すような系統の術は、螺旋丸でどうにかなるし。背後からなら術なんて不要。機を読む目と気殺があればどうにかなります。
ここは一つ、正面から立ち向かう場合で、それでも相手を殺さないようにする術が欲しい。あまり殺しすぎると、どうなるか分からないし。
使えばあぼーんする術しか無いのはちょっと。

『うーん、でも基本は、動いている忍びが相手でしょ?捕縛術が必要となると、最低でも上忍クラスになるしね』

それ以下だと、殴って気絶させます。術は不要です。

『・・・そうか、そうだね。追尾型捕縛術とか、どうかな』

相変わらず頭の回転が速い。それに、知識も豊富。おかげさまで、次々とネタ技ができあがります。で、どんな具合?

『標的に術式をマーキングして、それを追尾するようにすればいいと思うよ。飛雷神の術の応用だね』
捕縛する網は、封印の術式を組んだ柔らかく強靱な布がいいそうです。

空間跳躍する飛雷神の術よりは簡単だそうです。

検討しましたが、何とか形になりそう。欠点は、チャクラを食い過ぎるのと、その捕縛布を作るのに時間と材料代がかかること。
これはきゅーびのチャクラでなんとかなりそうです。布はマンパワーですね。ちょっと金を食うけど、そこは我慢です。



そして、料理の方が完成しました。きつねうどん。
俺のテンションは余り高くないですが、キューちゃんの方はもう、有頂天です。

『『「いただきまーす」』』
三人でいただきますをします。ある程度、主人格である俺が意識すれば、感覚を共有できるのです。
初めてそれをやった時は、二人とも呆れていました。何で呆れていたんだろう。

『・・・・♪』
キューちゃん、すごい美味しそうです。聞きました。・・・無茶苦茶美味い、そうです。


あれですか。俺たちがもっっっっっっっっっっのすげえ美味いラーメンを食ってる時の味がするとか。
そういう感じなんでしょうね。好みの問題なんでしょう。俺は何よりもラーメンが好きだけど。

キューちゃんはラーメンを食べても、あまり美味しいとは言いません。
ラーメンは普通、だそうです。むしろきつねラーメンとかどうか、と言ってきます。それは・・・どうだろう。

くそ。いつか絶対、俺の作ったラーメンで、美味いと言わせて見せます。








「熱いなー」

夜。

熱くて寝られません。仕方ないので、窓を開けます。風がいい感じ。

『綺麗な満月だね』

そうだね。世界は違っても、月は変わらないね。
うん、いいこと言った・・・・って何か忘れているような?

(まあ、いいか。取りあえず寝よう)






やがて、小一時間過ぎた後です、ようやく、眠れそうな案配になりました。

(あ・・・いい感じ、このまま・・・・眠れそうかも・・・)

その時です。




「何だ!?」



飛び起きます。部屋の上から、もの凄い音がしました。
歯ぎしりします。

(せっっかく眠れそうだってのに、どこの馬鹿だ!)

怒りに身を任せ、窓の外から、音のした屋上へと駆け上がります。





「うるさいんだ・・・・ょ・・・・・・ぉ?」




屋上を上がった先、見たものは!






右を見ます。



砂の忍の死体。



左を見ます。



隈、ひょうたん、デコがチャームポイントの、少年。





おもいっきり目があいました。




「あ、およびでないようですね?・・・・じゃ」

手をシュタっと上げて、よっこいせ、と屋上から降りようとします。



ですが、



「みぎゃー!?」


砂が追いかけてきました。ちょっ、不味いって!


「取りあえず、撤退!」

屋上から跳躍。空中でくるりと一回転し、地面に着地します。

そして背後を見てみますが、

「ついてきてる!?」

まるでホラーです。いざ、自分の立場になってみたら分かりました。これ、怖すぎる。


「明日への撤退!」

得意の逃げ足。逃げます。断固逃げます。
そして、一歩目を踏み出した所、


「女の子?!」


砂の里の者でしょう。まだ忍びではないような、3歳ぐらいの女の子が地面に座り込んでいます。

(砂の忍びと我愛羅との、殺し合いを見てしまったのか?)

我愛羅は、親である風影にしょっちゅう命を狙われている、とは聞いています。
死んでいたのは、その暗殺の任務を受けた忍びでしょう。

そして、それを我愛羅が撃退。女の子はその時の現場を、全てでは無いようですが、見てしまったのでしょう。
恐怖のあまり、ガタガタと震えています。

(くそっ!)

咄嗟に助けに行こうとします。が、その前に、女の子の元へと飛び込む姿がありました。

速さから察するに、忍びでしょう。間一髪、砂が振ってくる前に、女の子を抱えて飛び上がります。

しかし、砂の衝撃で砕け、飛び散った外壁がその忍びの足に当たります。


「くっ・・・・我愛羅!もう止まれ!」


(テマリか!?)

服の詳細は覚えていませんが、その巨大な扇子には覚えがある。

テマリは未だ震えている女の子を抱え、膝を突きながら、必死に我愛羅に呼びかける。

「ぐっ・・・・ガアアアアアアアアアアア!」

ですが、我愛羅は止まりません。

(満月のせいか!)

満月の夜には守鶴の血が騒ぐ。そう言っていた気がします。

やがて、ゆっくりと腕状に変形した砂の塊が、二人を打ち据えようとします。



(仕方ない、か)




振り下ろされる、








(原因は俺なんだから)









その腕を、











(見過ごす訳にはいかない)









チャクラを込めた掌打で破壊しました。






「・・・・何?」







背後で、テマリの戸惑うような声が聞こえます。ですが、ここで振り返る訳にはいきません。






「取りあえず、下がってろ。こいつの相手は俺がするから、お前はその女の子を逃がしてやれ」



俺は、右手の掌に左手の拳を打ち付け、目の前の化け物を正面に、構える。


テマリは戸惑いながらも、後方に跳躍して、その場を退く。


対峙する。その異様と。


「ガキが・・・・」


『ナニモノダァ?オマエハ・・・』


化け物が問いかける。

それに、俺は笑って答えてやる。





「・・・・通りすがりの・・・・・・・・ラーメン屋さんよっ!」





震脚。大地を揺らすと同時、全身にチャクラを行き渡らせる。





俺の言葉、そして気迫。

それを見て、嬉しそうに笑う化け物。

そしてその笑いが収まったと同時、砂の飛礫が俺を打ち砕かんと殺到する。



砂時雨の術、か。



「憤!」




それをチャクラを込めた手の平でいなし、捌き、逸らす。同時、込めたチャクラで微塵に砕く。

捌ききったその後も、安堵のため息はつけない。

丸太のような大きさの、砂の塊。化け物の異様をそのまま現したかのような醜悪な腕が、俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされる。



「遅え!」



その一撃を、半歩横に出てチャクラを込めた掌で受ける。
そして力の方向を逸らし、横に受け流す。


「もらったっ・・・・!?」


その砂を横に捌き、距離を詰めようとしたが、捌いた砂が解け、またこちらを捕まえようと絡みついてくる。


「破ぁ!」


絡みつこうとする砂を、チャクラを込めた裏拳で砕く。そして、後ろに飛び下がった。


また、最初と同じ距離。今なら、逃げられるだろう。


『・・・逃げないの?女の子達、もう逃げられたみたいだけど』


「逃げるよ。でもな」


こいつ、気に入らない。

あんな小さい女の子、そして実の姉を殺そうとした。

むかついたから一発だけ、殴ってやらなければ気が済まない。




『馬鹿だね』

と嬉しそうに笑うマダオ。分かってるよ。これが馬鹿な行為だって事は。逃げた方がいいって事も分かってる。


それでも、だ。俺も理屈だけで生きてる訳じゃない。計算だけで生きてる訳でもない。

取りあえず、ぶん殴る。あの光景にむかついたから、ぶん殴る。こいつがむかついたから、ぶん殴る。

痛いのも怖いのも嫌だけど。困ったことに、それでも引けない時がある。


『不器用じゃの。人間は』


器用は綺麗だけど、つまらない。そう思うんだ。

そんで、そう思っている自分としては、ここは、





「ガアアアアアアアアアアアアア!」







「行くしかないでしょう!」




捌く、捌く、捌く。

その飛礫も、波のような砂も、その腕の一槌も。全て見定め、捌く。


心技体と誰かが言う。そしてそれはその通り。

武は技。武は体。そして何よりも、武は心。



(この場は戦うと決めた、その選択、その意地、そしてその一を、)



捌いた先の間隙。攻撃と攻撃の間。


生まれた、一瞬の機。



「貫く!」




全身を強化し、全力で踏み込む。相手から見れば、消えたかと錯覚するような速度。


腕を振り、砂を弾きながら震脚。

振った時に生まれる、腕の遠心力。そして踏み込んだ地面からの、反動。

その力を全て腰に乗せ、回転させながら、腕を突き出すその先へと集中する。

同時、腕自体も回転させる。






九尾流・絶招の壱 

「螺旋螺旋(らせんねじ)」

腰の回転と腕の回転。重螺旋を一転に集中させた一撃。

衝撃を浸透させるよりも、貫く事を重視した技である。






「グアゥ?!」






吹き飛ぶ、我愛羅+守鶴。










それを尻目に、俺は撤退を開始した。









(砂の忍びも集まってくる頃だろうから・・・・?)






視線と気配を感じて、その方向、建物の上を見るとテマリが呆然とした表情でこちらを見ていた。




(おー、落ち着いて見ると結構可愛いじゃん)









やがて俺はシュタと片手を上げると、その場を去った。








「さー、逃げるか」



『塩、忘れてるよ』



「しまった!?」





といっても、今更取りに戻れない。




「ま、いいか」




収穫はあった。塩ラーメンを作る時は、ここの塩を使おう。


しかたない、と呟いて、俺は砂の里を脱出した。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十三話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:23





「愛のない麺は、ただの麺だ」






      小池メンマ著 自伝「麺とスープと男と女」より抜粋。









くじ引き終わりました。組み合わせはこうなりました。


1 波風キリハ 対 日向ネジ

2 うちはサスケ 対 我愛羅

3 テマリ 対 山中いの

4 油女シノ 対 カンクロウ

5 奈良シカマル 対 氷雨チルノ

6 春原ネギ 対 ドス・キヌタ


うおーい。

どうなっとるんだこれは。1、2はいいけど3でずっこけました。

取りあえずまともに試合が行われそうなのは、1試合目~3試合目か。

サスケは遅刻するだろうし、カンクロウは棄権しそうだし。

俺とキューちゃんはいなくなるし。

というか、テマリ 対 いのってどうなんだ?

テマリ有利っぽいけど・・・まだ分からないかな。





組み合わせが決まり、解散前に三代目から、説明がありました。各里の戦争の縮図とか。

それはともかく、随分と老けこんだな、爺さん。

あれで、大蛇○を止められるんかいな。

(まあ、その時はその時だけど・・・・ん?)

視線を前方に固定したまま。静かに、気配を探る。すると、マダオが俺の肩をつっついて、小さな声で話しかけてきた。

(気づいた?中忍が複数、新たにこの会場にやってきたみたいだけど)

(・・・それも、こちらを気にしてるな。見られてる。目的は俺らか)

もしかして・・・ばれたか。よし、ばれたな。そのつもりで動こう。楽観はいかん。



ただ、逃げる前、一言だけ。キリハに挨拶しておこう。近寄り、話しかける。

「じゃあ、また本戦でね。波風さん」

俺たちは出ないけどね。まあ、一応は、ということで。

「春原さんに長谷川さん、ありがとうございました。キューちゃんも、また会おうね」

その言葉にぶほっと吹き出す俺とマダオ。

何を話してたんだ、君たち。しかもキューちゃんってよばれてるし。

「いやいや、いいよいいよ」

とごまかすように、キリハの頭を撫でるマダオ。

・・・あ、周りの空気が凍った。カカシが見てるよ。何か目が怖い。

「・・・あの?」

「・・・あ、ごめん。つい」

といいながら、マダオは名残惜しそうに手を離す。

(・・・・けっ、よかったなマダオ。娘に触れられてよ)

マダオのケツを蹴った後、キリハに別れの言葉を

「それじゃあ、俺達は行くから。またね」

「は、はい」

ん?反応がおかしいな、なんか。撫でられた頭を抑えてる?

咄嗟に手を払うとかの反応がなかったけど・・・何か感じ入るような事があったのか?

考えていると、マダオに肩をたたかれる。

(・・・一応、ありがとう、と言っておくよ)

(よせよ。柄じゃねえし、そういうのは)

偶然だよ、偶然。

まあ、でも、良い偶然だったな。











そして逃げます。

・・・逃げ道を確認。よし、あそこからだ。

やり残した事もないし、ラーメンも恋しい。

(引けー!引け引け、撤退だー!)








数十分後、火影の執務室にて。

「・・・申し訳ありません、三代目。例の滝隠れの忍に偽装した3人ですが・・・逃げられました」

「・・・そうか」

極めて巧妙に偽装されていた書類。気づけたのは偶然だった。

滝隠れの里に、中忍試験の参加人数の確認を取ったが・・・その参加人数と、数が合わなかった。

と、いうことは、だ。

春原ネギ以下、あの3人は滝隠れの里のものではない。どこかの里のスパイかと思われる。

「捕らえようとしたのですが、その、下忍、中忍にしては足が速くて」

と、苦々しそうに報告する。

「何か分かった事はあったのか」」

「は・・・なにやら、高笑いをしながら走っておりました。そこで、完全に距離を離される寸前、叫んだのです。

「何と言っておった」

「意味が分からないのですが・・・『ふははは、さらばだ明智君』、とだけ」

「・・・は?」

火影は顔をしかめる。

意味が分からん。明智君?誰だそれは。

「分からん事ばかりじゃの。取りあえず、警戒を強めよ。大蛇丸の配下の者かもしれん」

「承知致しました」










そして、試験会場から少し離れた森の中。

「ふう、巻いたか」

「そうだね。でも・・・」

別の忍びが追ってきてるよ、と視線だけで告げる。

「分かってるよ」

同時、クナイと手裏剣がこちらに殺到する。

「・・・音の忍びか」

ゆっくりと出てきた忍び。その額当てを確認する。

数は、1、2・・・6人。2小隊か。少ないな。

「運がなかったな・・・俺は、平和のために鬼になると誓った男」

家までついてこられたらたまらない。だから、ここで消す。

静かに、クナイを構える。マダオも同じ、そして、キューちゃんがあくびをする。

それが合図。瞬身の術で、姿を現した6人の後方、隠れていた7、8人目の首をかっ切る。6人は囮で、この二人が本命だろう。

いい手だが、隠行が甘いようでは意味がない。流石は新興の里、脇が甘い忍びもいるな。原作で、木の葉が乗り切れたのはこの脇の甘さが原因かもな。

動揺する残りの6人に対し、クナイを突き出す。

「誰も逃がさない。その命、断たせてもらう」

派手にやるか。警告の意味も含めて。先ほどの試験の時とは違う。この場は、誰一人として逃がすわけにはいかない。

チャクラと共に、濃密な殺気を全身から放つ。殺すという意志を乗せて。

中忍試験とは違う、これはいわば、木の葉崩しの前哨戦に属する。ここで手心を加える理由もない。

機を作ったのはそちらだ。遠慮もしない、全員殺す。誰一人として、逃がさない。

「・・・・・・残念だったな!」

殺戮の宴が始まった。







「ういーす」

「あ、ナルト君お帰りなさい。」

「白か。再不斬は、奥?」

「はい」

「相談があるんだけど、今日はちょっと、飲まない?みんなで」

と、酒を取り出す。




「ほら、いけますよ、その豆腐」

「ああ」

「そろそろ、最後の麺にしますか?」

「もちろん!」

5人で食卓を囲みます。せっかくだから、中華風味の鍋にしてみました。

出汁は鶏ガラ、塩、そしてこしょうを少量加えた、中華風味のスープ。

具は白菜、しいたけ、白ネギ、鶏団子、水餃子、春雨。油揚げも入れました。唐辛子はお好みで。

仕上げに入れる麺は、自家製です。中華風味に合うように、柔らかくしてみました。

この麺は、塩ラーメン用に開発した麺で、柔らかく味がよく染みこみ、するりと口に入ります。

そして、酒です。手当たり次第買ってきました。


「ほら、もう一杯!」

マダオに酒をつがれます。どうせなら白か、キューちゃんについでもらいたいなあ。

・・・しかし、久しぶりに飲んだけど、酒が美味い。

今まで、完全に安心して飲める時とかなかったからなあ。

それに、一人で酒飲むよりは、ね。大勢で騒ぐ方がずっと楽しい。

「こらこら、キューちゃん、それまだ煮えてないから」

「む、そうか」

キューちゃん残念そうに、油あげを離します。

つーか、油あげ、キューちゃん一人でほとんど食ってるな。誰も取ろうとしないし。や、怖いからなんですけど。あと、もう一つ理由が。

「出来たよ、ほら」

器に入れてあげます。

「うむ・・・・はふ、はふ」

熱そうだね・・・でも、かわええ。これが理由です。

これをつまみに酒3杯はいけます。って待て、マダオ。鼻血ふけ。垂れる垂れる。

「はい、キューさん」

台所へ行っていた白が、何かを持って戻ってきました。

お?これは・・・

「店に出している魚介系ラーメンに合うように、ちょっと工夫してみたんですよ」

白特製の稲荷寿司である。キューちゃんの目の前に置くと、キューちゃんは目を輝かせる。

「おお!」

喜色満面とは、この事を言うのでしょう。手に取り、一つ食べました。

「む?」

一口で食べました。そして何やら、驚いている様子。

直ぐ、二つ目を食べます。頷いています。そして一緒に持ってきた、魚介系のスープを飲みます。



「・・・うむ」




そして目を瞑り、黙り込みます。・・・空気が思い。







ゴゴゴゴゴゴゴ







判定は、如何に!












「美味い!」

「わー」

「やー」

拍手が飛び交います。主に俺とマダオだけですが。

満面の笑みを浮かべているキューちゃん。何その良い笑顔。見たことないぞ、そんな顔。

「ありがとうございます」

と白が床に手をついて、お辞儀をします。流れる黒髪が色っぺえやね。

関係ないけど、眉なし氏ね。

「どれどれ、俺も一つ・・・って痛い!」

店に出すので、参考までに、と伸ばした手ですが、ぺしりとたたき落とされました。

何すんのキューちゃん、と言いそうになりましたが、即座に黙りました。

だって目が赤いんだもん。

うー、と唸らないで。歯を見せないで。もう取らないから。

「麺、出来たよー」

「おう」

さあ、本番です。野菜と鶏の出汁がふんだんに出ているスープ、そして特製麺!

・・・こういう食べ方もおつなものです。

「ちょ、取りすぎ!取りすぎだから!」

「てめえ・・・!」

「ふわーははは!麺に関しては、遅れなど取らん!」



叫ぶマダオ。怒る再不斬。


その横で苦笑する白。ほっぺたにご飯を付けながら、稲荷寿司10個目に入ったキューちゃん。







(・・・懐かしいな)





前世の修行時代を思い出す。しょっちゅう仲間とこうして、馬鹿やったもんだ。

面子のは随分と違う。毛色も違う。だけど、何か楽しい。



(こういうのは、理屈じゃないね)



馬鹿騒ぎをしながら、夜は更けていった。





















そして、深夜。

「ここにおったか」

「キューちゃん」

屋上で一人、酒を飲んでいると、キューちゃんがやってきました。

森の中なので辺りは薄暗い。満月では無いので、月の光はまばら。

人の音はしません。木々が風に揺れる音と、梟の静かな鳴き声だけが聞こえてきます。

「よう飲むの。今まで酒は飲まんかったから知らなかったが」

「うん。まあ、生前から・・・酒は強い方だったからね」


キューちゃんが俺の横に座ります。


「良い夜だなあ」

空を見上げる。そこには、変わらないただ一つ、夜の象徴が。

夜空に陣取り、光を放っています。


キューちゃんも同じ。

空を見上げています。


「・・・何を見ている?」

「あれだよ」

変わらないもの。

「月は、同じなんだね・・・って前にもいったか。季節はずれだけど、月見酒というのも悪くない」

一口、手に持つ酒を飲む。

「・・・そうか」

「キューちゃんも飲む?」

飲み終えた後、杯を差し出します。

「・・・まあ、一口ならな」

「じゃあ」

酒をつぎます。なみなみと、いっぱい。

「おい、少しといったじゃろ。多すぎるぞ」

「まあいいからいいから」

文句を言いつつも、キューちゃんはクイっと飲みます。

「お見事」

一口で全部飲みました。強そうですね。

「・・・酒も結構、美味いの。ほれ、返杯じゃ」

「ありがとう」

と、こちらも並々つがれます。











~キューちゃんside~


「木の葉崩しが終わったらさ、砂隠れの里までいって、あのときの・・・塩ラーメン用の塩を取ってこようと思うんだ」

目の前には、酒に酔ったのか、赤い顔をしながら嬉しそうに離す少年。

出逢ってから数年。ワシは、この目の前の生物が不思議でならなかった。

(・・・今ならば殺せるな)

あまりにも無防備すぎる。今この場で。ワシの爪で、この牙で、目の前のこやつを引き裂き喰らえば、取って代われるかもしれない。封印が解けるかもしれない。

だがそれは思うだけ。身体は、動いてくれそうになかった。

(・・・どうしてじゃ)

分からない。

どうしてこやつは、ここまで無防備に自分に接する事ができるのか。

どうしてわしは、目の前のこやつを殺す事ができないのか。

雌であった事など忘れていた。食べる事そのものに喜びを見いだす事も忘れていた。

誰かと話すという行為、それ自体を忘れていた。破壊する事を、殺す事のみを考えていた。九尾の妖狐。

最強の妖魔。その名の通りに生きていた。いや、あれは本当に生きていたのかどうか。

(何もかも忘れたがな。このような時間は)

・・・九尾という肩書きを前提に、ではなく、ただ1人の個として話をする。妖魔に堕ちてからは、一度たりとも無かったこと。



月を見上げ、笑う少年。



馬鹿で、間抜けで、臆病で。勢い任せのノリ任せ。ギャグばかり飛ばしていて、自重する事を知らない男。

でも知っている。誰かを殺した後は、吐いている事を。

戦うのが怖いくせに。

それでも仕方ないといいながら、誰かのために戦うという選択肢を選ぶこいつの姿を。

結果、幾度も戦うことになった。砂での一件、大蛇丸との一件。あの2戦に関して言えば、状況を鑑みるに、それほど余裕は無かった筈だ。

命を張った戦い。命を秤にかける行為。

・・・肝の小さいこやつが、よく戦う事を選べたものだ。

不器用すぎる、とワシ言っても、それを笑って肯定する。

馬鹿者だ。アンバランスだ。不器用だ。どこか歪んでいると言ってもいい。

それでも、根底では崩れていない。それは、最優先すべき、自らの夢があるからか。

明るく、顧みず、前を見て走る。夢があると言った。それに向かっていると言った。

ぶれて、間違えて、馬鹿やって、失敗して。

それでも笑っているのは、夢に向かって走っているからだろうか。



(・・・思えば、ワシにそんなものがあっただろうか)


夢と呼ぶような何かが、あったのだろうか。



「あれ、キューちゃん・・・どったの?険しい顔して」

「・・・いや」

きょとんとした顔をするこいつの顔を見て、思わず笑ってしまう。





・・・そうだな。




もしかしてだが、これから先。



わしが見る夢があるとするならば、それは----



































次の日、朝。

「おはようございます」

「・・・・・おはようございます」

と俺は返事をするも、頭を抑える。

頭痛い。飲み過ぎた。

「今日は俺も店に・・・っつあっ!」

立ち上がろうとするが、襲う痛みに頭を抑える。

「いいですよ。疲れも溜まってるようですし、今日はボクと再不斬さんで開けます」

不覚過ぎる。くそう。

「ちょっと待て、白!?」

焦る再不斬。

ちょいちょい、と手招きして、小さな声で話します。

(何焦ってんだ。前、二人きりの時聞いたら「白と一緒ならな」って言ってたじゃん。今がその時だけど)

(黙れ・・・!こいつの目の前でそんなこと言えるか!)

と白の方を見る再不斬。ツンデレ乙。

ふうん。


「白ー、よかったなー、白と一緒なら喜んでって言ってるぞー」

「てめえ!?」


と叫ぶ再不斬の襟元を掴み、引き寄せる。


(・・・あのね。これ以上俺の前でのろける続けるっていうんなら、こっちとしても考えがあるよ?)


と、手元に小さな螺旋丸を発動する。白からは死角なので見えない。


(・・・・分かったよ)


(じゃあ、よろしく。ほんとに悪いけど、今日は頼むわ)


嬉しそうな白。あの笑顔、曇らせるなよ、旦那。























ラーメン屋台、九頭竜。

開店直後、すぐさま客がやってきた。

「いらっしゃいませー、ってキリハさん」

「あ、桃さん」

一応、白は桃と言う偽名を使っている。

その偽名を呼ばれた時、後ろでスープを見ていた再不斬(変化済み)の肩が揺れたが、一瞬なので誰も気づかなかった。

「久しぶりですね。お友達も一緒ですか?」

「はい」

「初めまして。山中いのです」

「春野サクラです」

「はい、初めまして。桃です」

とおじぎしあう3人。

「あれ、メンマさんは?今日は休みなんですか?」

「はい。少し体調が悪いらしくて」

「そうなんだ。お大事にって言っておいて下さい」

「はい。ありがとうございます。それで、今日は何にします?新メニューもありますけど」

「へ、何?あー、あの魚介系のラーメンと稲荷寿司のセット?」

「はい。稲荷寿司の方は、今日からの新メニューです」

「・・・美味しそうだね。じゃあ、それ一つ」

二人は?と訪ねるが、二人も同じものを頼んだ。





「・・・美味しい」

「ほんとだ。ちょっと、稲荷寿司のごはんと、あげの味付けを変えてある。ラーメンとよく合うね」

美味しいものを食べる事で、自然と笑い合う4人。

後ろの再不斬は居心地が悪そうだった。



そして食べ終わった後、談笑をする女の子4人。

「そういえば、いのちゃん・・・見つからなかったね。探し人」

「そうねー。まあ、中忍試験だから会える、なんて思ってなかったけど・・・何も無かったってのもね。へこむわー」

ほおづえをつきながら、ため息を吐く。「一人それらしいのもいたんだけど」・・・と呟くが、いややっぱりあんな馬鹿っぽくないし、と首を振っている。

「誰か、探している人がいるんですか?」

「・・・ちょっとね。まあ、悪いけど、詳細は話せないんだけどね」

ということは、忍者関連の話しか、と白は聞くことをやめる。

「大まかに言えば、小さい頃に助けてもらった人。いわば、恩人、かな?」

探してるんだけど見つからないのよねー、といのはまたため息を吐く。

「その人のこと、好きなんですか?」

白のその言葉に、いのはへっ?と驚く。

「どうして分かったの?」

「いえ、女の勘ですけど」

と笑う白。

もしここにメンマがいれば、眩しい!溶ける!と言ったことだろう。


「まあ、一目ぼれだったからねー。状況が状況だったから、勘違いなのかもしれないけど・・・」

「吊り橋効果ってやつですか?・・・でも、いのさん、ずっと探しているんでしょう?」

「そうなんだけどね・・・一向に手がかりも掴めないし、それにもしかしたら・・・」

の次の言葉は消えた。

「もう、諦めた方がいいのかもね・・・」

「本当に、それでいいんですか?」

「だって、何年も探して、それでも見つからないし」

「でも、何年も探し続けているんでしょう?だって、が付くほどに・・・忘れられないんでしょう?」

「・・・だけどねー」

「・・・私が尊敬する人に教えてもらった、良い言葉を教えてあげます」

いのが、うつむいていた顔を上げる。

「それは、何?」

「『だからどうした』です」

「・・・だからどうした?」

「あの人曰く、『それを言い続ける事から、希望が始まる』らしいです。

 私も同意します。その言葉を聞いたのは最近ですが・・・私も、その言葉には随分と助けられました」

真剣な声で、白は続ける。

「やりたい事がある。守りたい人がいる。見つけたい、会いたい人がいる。その意志を、想いを貫こうとする時に叫んでみて下さい。

その言葉はきっと何よりも強く、あなたの味方になってくれる筈です」

「・・・・」

「・・・表情を見れば、分かりますよ。それでも、見つけたいんでしょう?会いたいんでしょう?それならば、諦めたら駄目ですよ」

「・・・だからどうした、か」

「はい」

「だからどうした!」

「はい!」

そして、4人全員が立ち上がり、拳を空に突き上げて、叫んだ。


「「「「だからどうした!」」」」


空に叫び声が響いたあと、お互いの顔を見ながらおかしそうに笑う4人の笑い声が、辺りに響き渡った。






「ありがとうございました」

勘定が終わった後、白の言葉にキリハの方も頭を下げた。

「いえ、こちらこそありがとうございました」

その言葉に、白はいえいえ、と言う。

「皆さん、何か落ち込んでいたようですから」

「・・・桃さんは鋭いですね。ええ、でもまあ、私もあの言葉を言い続けてみるようにします。負けないように。くじけないように」

「はい」

「それじゃあ、また来ます。・・・あの無愛想なおじさんにも、よろしく言っておいて下さい」

「・・・はい」

と笑う白を背後に、キリハは二人のところへ走る。

そして肩越しに後ろ目で、また白の笑顔を見る。

そしてまいった、と頭をかく。

(うーん、綺麗。私も、好きな人ができたら、こんなに風に綺麗になれるのかな?)

あるいはいのちゃんみたいに。

やがて、二人は表情を変える。中忍試験を控えた下忍の表情へと。

「じゃあ、よろしくね、キリハ、サクラ」

「うん。じゃあ修行、始めよっか」





「行きましたね」

と、白は振り返る。そこには、顔を真っ赤にして照れている再不斬の姿があった。

「あれ、再不斬さん、どうしたんですか?」

「・・・うるせえ」

「???」





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十四話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:24











森乃イビキ試験官は、頭巾らしき被り物と手袋を外して、ゆっくりと椅子に腰を掛ける。

そして机の上に腕を置き、祈るように手を組んだ。

部屋にいる全員の目を見据える。




沈黙が空間を満たす中、やげて試験官は笑いながら、あくまで穏やかに宣告した。






「今からここにいる皆さんで、ちょっと殺し合いをしてもらいます」









           突発的NG集 お題「説得力(パースエイダー)というもの」










「ふー」


一息をつく。


今日も空は青く、ラーメンは今日も美味しい。

麺を愛でる事は我が人生の半分であり、麺を求める事は我が人生の意味である。

スープに愛を注ぎ、麺に情熱を注ぐ。

やがて二つは混ざり合い、至高の情愛となって世界を包みこむ。

そして全ては麺に『おい』


・・・なんでしょう、キューちゃん。


『いい加減、現実逃避は止めたらどうじゃ?』

その言葉に、ため息をつく。

そして改めて、メニューを見ている客の顔を見る。

「・・・・」

「・・・・」

『・・・・』

沈黙する2人+1人。

『僕は?』

マダオ君は欠席です。

『いや、いるから。いつも君の中に』

きめえ。

ちなみに、白ですが、今日は修行の日です。桃地君+俺の影分身と一緒に修行しています。

まあ、これから先は修羅場になりそうなんで、とのこと。目的があるのでしょう。邪魔はしませんとも。

『それより、注文聞かなくていいの?』

・・・聞くよ。聞けばいいんだろ。

「へい、お客さん何しやしょう」

と手を揉みながら言った。仏頂面をしながらメニューを睨む、テマリに向かって。

「・・・・」

てかシンキングタイムが長え。


見た目と違って、こういう時は優柔不断なのか?と思っていると、



「店主」



タン、とメニューを置き、テマリは言い放った。



「しょうゆラーメンで」



普通でした。






「・・・美味しい」

はい。その一言のために生きてます。

テマリはコクコクと頷きながら、しょうゆラーメンを食べてます。

その勢いの凄いこと。ちょっと、テマリに対する印象が変わりました。

「ふー」

豪快にスープを飲み干した後です。



彼女は笑顔でいいました。




「木の葉風ラーメン(魚介系のやつ)に、稲荷寿司のセット追加で」


なん・・・だと・・・。


『突っ込まないんだね』

結局全部食うのかよ!なんて、突っ込めません。


歯を見せて笑うテマリ。その男気溢れる笑顔に、ちょっとだけ惚れてしまいした。


やだ、この娘・・・格好良い。でも、歯にネギがついてるよ。


「へい!」

早速、作ります。

へい、の後、お嬢!とか言いそうになったが止めた。

家柄的にはぴったりなんですけどね。いや、筋モンよりも物騒な家だね。



何にしても、多く食べてもらえるというのは嬉しい。


嬉しさの余り、稲荷寿司を2個多めにしてしまったのは内緒です。







「ごちそうさま」

「ありがとうございやしたー」

テマリさん、結構礼儀正しいです。流石はいいとこの娘。

ある意味お嬢様です。でもお嬢様忍者って何だろう。

『キリちゃんも似たようなものだけど』

そうでしたね。箱入り娘忍者?それ何てスネー『それ以上言うのは止めようね?』


背筋に寒気が走りました。


あ、そうか、蛇っていったらアレだものね。


「えっと」


呼びかけられました。テマリの方を見ます。え、勘定は済んだはずですけど、何で帰らないの?

「店主」

「はい」

何でしょう。取りあえず返事しましたが、何でしょうこの緊迫感。

「あの、だな」

「はい」


「店主の知り合いに・・・ええと、その、変な体術を使う馬鹿強いラーメン屋はいないか?」


「・・・はい?」


一瞬だけ、思考が止まる。


(・・・ええと)


「はい、いないです」

本人ですから。知り合いじゃありません。

「そうか」

テマリは残念そうな顔をしながら、すまない、とだけ言って去った。

『ひゅーひゅー』

何だよマダオ。

『えー、どう見たって探されてるんじゃん。乙女に。これはあれだね、フラグたったねフラグ』

「・・・そう、かなあ」

『そうだって』

目を閉じて考えます。

少し前、白の一件で痛い目を見ましたが・・・これはあれでしょうか。期待していいんでしょうか。

Spring has come?

『ホーホケキョ!』

来たぜ、来た!俺の時代がやって来た!我が世の春が天から此処に!

『・・・だがちょっとまて、馬鹿共。もしかしたら砂隠れの一件で、指名手配になっているかもしれんぞ』

・・・えっと、キューちゃん?それはどういうことでせうか。

『何しろ、あの守鶴をぶっ飛ばしたのだからな。一尾を殴り飛ばせる程の実力者に、不様にも侵入を許し、あまつさえ気づかなかったとあってはな。

砂隠れの里の威信を損ねかねんし』

・・・ああ、そうだね。うん、きっとそうだ。

・・・短い春だったね。さよなら、リリー。

『・・・ふーん』

何?マダオ。笑ってくれよ。この哀れな道化をさ。それが仕事なんだ。指さして笑われるのが、さ。

『いやあ、そういう訳じゃないんだけど』

何だよ。何ニヤニヤ笑ってるんだよ。

『春爛漫だなあ、と』

夏だよ。熱いよ。訳分からんよ。むしろ日照りが燦々だよ。

・・・まあ、いっか。俺には麺があるし。

『MEN?』

男じゃねえから!蛇と一緒にするんじゃねえよ!さっきの仕返しか!ラーメンだよ!

『裸・MEN?』

「よしちょっと表へ出ろ」

10分ばかりマダオと死闘を繰り広げました。





「いらっしゃいー」

「こんにちはーっと・・・あれ、新メニュー」

「はい、セットもできます」

「じゃあ、それひとつ」

アンコ女史がやって来ました。何やら疲れてるご様子ですが。

・・・まあ、そりゃあ疲れるわなあ、あんな変態と遭遇したら。

『へ、アンコちゃん、会ったんだっけ?』

そうだろ。あの術、致死性は全然無いからな。あとアンコちゃんってなんだよ。

『いや、僕自来也先生の弟子だったでしょ?』

(ああ)

『ほら、アンコちゃんは大蛇丸の弟子だったし』

(そういう繋がりか。と、いうことは綱手姫の弟子?だったっけ。あのシズネ女史とも、結構面識あるのかマダオ)

『少し、だけどね』

ふーん。まあ、今はいいか。

「何やら疲れていますね」

「・・・まあね。ちょっと、あってね」

深くため息を吐くアンコ女史。哀愁を漂わせています。何があったんだろう。

取りあえず、稲荷寿司を一個サービスしてあげましょう。肩を落としたその姿が、あまりにも不憫に思えたし。

「・・あら、これ美味しいわね」

「ありがとう御座います」

「はあ、癒されるわねえ・・・あんなものを見た後だと、特に」

思い出したのか、首をものすごい勢いで横に振るアンコ女史。ちょっと乳揺れ。眼福。

「あんなもの、ですか?」

「そうなのよ。まあ詳しい事は言えないんだけどさ・・・全裸の変態、しかもおっさんをね・・・見ちゃったのよ。何の悪夢かと思ったわ」

(・・・はい?)

ちょっと、解説のマダオさん?

『うーん、組み込んだ術式に変なの混ざっちゃったかなあ』

ポケ。

そんなもん組み込んだ捕縛術があるか。まるっきりエロ技じゃねえか。ああ、女の子相手に使わなくてよかった。

しかし、麗しのおぱーいに心の傷を与えてしまったようだ。

想像してもみよう。繭から生まれた変態オカマ、しかもおっさん。加えて蛇属性。かつ全裸。

『トラウマものだね』

夢に出るわ、そんなもん。

申し訳ないので、アンコさんに特製団子をあげました。白が作ったお手製団子です。三時のおやつでしたが、詫び料としてプレゼントしました。

心の傷を埋めるには、食べるしかないということで一つ。

後で白には謝っておきましょう。

美味しい!と笑うアンコさんの姿。その眩しい笑顔を見て、何故か涙がこぼれました。








『で、だけど』

何だよ。

『真面目な話ね。木の葉崩し、どうすんの?』

若干、手は出します。守鶴だけね。猿蛇の師弟対決には手を出しません。

『何で?』

分かってるくせに聞くなよ。あの戦闘は、猿飛の爺さんのケジメなんだよ。師匠として、そして何よりも3代目火影としての最後の務めなんだよ。

大蛇○に対しての、そしてその他諸々の、な。

俺がしゃしゃりでる問題じゃあない。

『共闘はしないんだね?』

まあ、布石は打ったから、やり方によってはできるかもな。

でも、しない。

爺さん任せです。弟子のケツは師匠が拭こうね!それが責任ってやつです。

『まあ、そうだね』

それにあの戦いは・・・火影としての、最後の戦場。死に場所みたいなもんだ。

死に場所を見つけた老兵の邪魔はしない。

『木の葉崩しが起きる前に大蛇○を叩くっていうのは?』

失敗=永遠の闘争だ。いつまでも偽装がばれないとは思えん。見つかったら一巻の終わりだ。ラーメン屋としてのな。

今まで以上に周りに気を配る必要が出てくる。そんなストレスが溜まる余生はまっぴら御免だ。

それに何より、音・砂に慎重になられるのが一番怖い。大蛇○+風影相手では、流石の木の葉もやばいだろう。

あの二人に好き勝手絶頂に暴れられた場合、木の葉側の被害が洒落に成らんことになりそうだ。


イコール戦後がヤヴァイ。蝶ヤヴァイ。


仮に蛇の暗殺に成功したとしてても、後が怖い。面が割れた場合、音隠れの狂信者共に地の果てまで追われる事になるだろう。

そんなリスクは犯せない。そこまでの義理は無いし。

『まあ、そんなもんだね。よく分析できました』

(けっ、お前の受け売りだよ)

マダオのくせに、頭は回る。今まで大した危機もなく生き残れたのは、マダオの知恵による部分も大きい。

『それでも、守鶴は相手にするんだね』

あれ無理ゲーだろ。正直カカシでも勝てなさそうだぞ。例の万華鏡写輪眼でもない限り。

『確かにね。巨体、砂の防御、幅広い攻撃方法・・・先生並の3忍クラスでもないと無理だね、多分』

何より、巨体と砂の攻撃がやばすぐる。ガマ親分でも呼ばないと相手にならないのでは。

あ、でもあの巨大ドス使って、一回やってみたいなあ。『我に断てぬもの無し!』とか。

まあそれはともかく、口寄せなしの小兵サイズじゃあ無理無理だね。まともにやり合う場合、怪獣大決戦に持ち込むしかないね。

正攻法では近づけそうもないし。

『でも、目立つ術は使えないっていうか・・・ガマ口寄せは正体バレるから無理。そもそも、先生の持っている巻物持ってないし、口寄せの契約もできない。

九尾自体を呼び出すのも無理でしょ。色々と』

そんなことしたら全力で死ねる。何より、俺がそれをしたくない。キューちゃんを『使う』とか、嫌。

だからしない。うん、自分勝手。それでもよし。

だから、搦め手で行きます。真っ向からは行きません。そして、短期決戦。一瞬の隙をついて~の戦術でGO。

あんなデカブツと力勝負なんてね。馬鹿馬鹿しいし。

『ということは、裏技だね?・・・でも飛雷神の術、まだまだできそうにないけど』

あれを自由に使えれば一番速かったんだけどなあ。まあ修行してできる事はできるようになったけど、厳しい回数制限付き。

『仕込みに仕込んだ術式を使って、そして術の反動を無視してやっと、だからね。肉体に掛かる負荷を考えれば、一日一回が限度だよ』

それ以上は無理です。肉体が爆散しそう。前一回やったときとか、すごいゲロ吐いたし。いやー酔う酔う。

視界がが沙○の唄の例のアレみたいに、グチョグチョになったよ。

2回目は無理です。決行したら、死ぬことは免れん。自分がスープにになっちゃいます。

だから、良い方法考えといてね。俺も考えるけど。

『おk。でも良い方法あるかなあ』

そうそう裏技もないか。その時はその時だな。

取りあえず、頼むわマダオ。







午後、夕方過ぎ。

キリハ、いのが来店。何やらぼろぼろだ。一緒に修行でもしているのだろう。

注文を聞く。

今日はしょうゆの気分らしい。分かる分かる。あるよねー、そういう時。原点にかえるっていうの?

チャーシューを切っている最中、二人が何やら熱く語り合っている。

俺はその会話で出てきた単語を聞いて、少し驚いた。

「えっと、その・・・聞いても良いかな。『だからどうした』っていうのは」

「昨日、桃さんから聞いたんです!いいですよね、何かこう、言い続けるだけで勇気が湧いてくるような!」

まあ、言われてみれば、いのにはぴったりですね。

「ヒナタちゃんにも教えてあげたんですよ。ヒナタちゃん、嬉しそうに呟きながら、ヒアシさん相手に柔拳を練習してました」

あれ、日向家、親子の仲いいのか。意外だな。

それにしても、「だからどうした」と良いながら臓腑を抉るような掌打を繰り出す少女ってのは・・・絵面的に最強だな。

白い目だし。もしやってるのが妻だったら、タイトルは「浮気の言い訳を一蹴する鬼嫁」って所か。白い目ですね。分かります。

「はあ、それにしても、今日も収穫無かったわね」

「うーん、やっぱり避けきるのは難しいんじゃない?風遁は威力が限定される分、範囲は大きいから。避けきろうって言う方が無茶だよ」

「・・・そういうもんかなあ」

頷きます。そういうもんです。風遁は対人戦には持ってこいですからね。

「うーん、それでもなあ・・・・そうだ、駄目もとで聞いてみるけど」

「はい?」

急に話しを振られて、びっくりする。

「何か良いアイデアない?おじさん」

・・・おじさん?ああ、おじさんか。おじさんね。

まあ見た目しょうがないかもしれないけど、この年の少女相手に面と向かって言われると・・・結構、くるものがある。

泣いてない、泣いてないもんね!

『変化を解けば戻るじゃない』

まあそうだけどね。

見た目は子供!頭脳は三十路!

名探偵小南、この後すぐ!(嘘)

『えっと、突っ込む所は多々あるけどとりあえず小南って誰?』

式紙使いです。いつか紙で城を作ってもらうつもりです。ちなみに白ではありません。

空に浮かべて里の中心部に落とします。でも軽いからみんなが和むだけで済むんだぜ。そして遊び場になるんだぜ。もしくはラピュタごっこでもいい。

・・・まあそんな少年の夢はおいといて。

『少年(笑)』

マダオ、後でセッキョーな。

「お嬢さん、相手がどうでようが、構いません。むしろ構ったらだめです。相手の事ばかりを気にしすぎても駄目です。やることを決めて、そこを一点集中。

勝てる場所を探し、そこを全力で。問題は、負けない事ではありません。諦めないことです。お嬢さん、桃が伝えた言葉の中に答えはあります」

後はあなた次第です、頑張って下さいと真剣な声で答える。

「・・・そうか。そうよね。おじさん、ありがとう」

「いえいえ。あとできればお兄さんと呼んでくれると有り難いんですけど」


それと、話してみて思いつきました。

守鶴に勝つ方法。随分と仕込みに時間がかかるけど、恐らくは勝てるはず。

今日から当分、影分身達は内職に励ませます。道具と・・・後は、新術。これがあれば勝てる筈。








「ういー、帰ったよー」

と言っても、誰も出迎えてくれません。奥で修行してるのか。ちょこっとだけ寂しいのは秘密。


「・・・てめえか」

「はあっ、はあっ、ナルト・・くん・・」

二人は修行をしていました。いやしかし、字だけ見るとエロいなー。

・・・いや、ちょっと落ち着こう。話しを変えようか。それにしても白、顔が赤いな。もはや紅白だね。際だつコントラストが色っぽいね。

『繰り返しとるじゃろ。ちょっとは落ち着かんか、この馬鹿者』

拗ねたキューちゃんの声に、我に返ります。

ふー、危ない危ない。

汗をぬぐって、再不斬に向かって犬歯を剥き出しにします。理由?むかついたから。

「精が出てるねー、じゃあ再不斬君。久しぶりに、俺と手合わせしてみようか」

「・・・あ?いつもラーメンばっかり作ってるお前が、どういう風の吹き回しだ。」

「いや、ちょっと試したい事があってさー」

マダオ、準備は出来てるな?

『ほいきた』

手裏剣影分身の術って・・・別に得物が手裏剣じゃなくても使えたよな。

『まあ、一応』



ということで先制攻撃!

忍び同士の戦いに、開始の合図など在るはずもない!


俺はあるものを抜き放った後、再不斬との距離を詰める。


そして再不斬の顔めがけ、それを差し出す---!


「・・・何してやがる?」

「ちっ、惜しい」

筆で眉毛を書こうとした所、手を掴まれました。



「・・・」

「・・・」


バッ!と勢いよく離れる二人。その手には凶器が持たれている。

俺の手には、筆。墨汁のついた筆だ。

再不斬の手には、鬼切り包丁。包丁だからいーじゃん、とあの大刀を使ってチャーシューを切っていた所、眉なし君に泣かれたのは良い思い出です。


「てめえ・・・もう我慢ならねえ。ことある毎に妙なちょっかいをかけてきやがって!今日は、今日こそ俺は手前に勝つ!」


「いいだろう。来たまえ、桃地君!俺が勝ったらガイばりの海苔眉毛を、お前の身に刻んでやる!」


身体のあちこちに。刻み海苔です。


「・・・」

「・・・」


無言でにらみ合う二人。

片や、手に筆。片や、手に大刀。傍目で見る分にはどうにもあれな光景である。

もう少しこちらの筆が大きかったら、絵になったかもしれないが。

『東北宮城乙』

リバースだべ!

ネタはおいといて、行くぞ!

「嫉妬パワー!ぜんっかい!」

掛け声と同時に再不斬に向かって筆を投げ、高速で印を組む。

「食らえ!」

忍法・手裏剣影分身の術!

「って、ちょっと待てえ!」

再不斬に殺到する、筆、筆、筆。百を超える筆が、再不斬の身に黒を刻まんと殺到するーーー!

「くそ、アホらしい!」

といいながら、手に持ったクナイで、筆の流星群を弾き飛ばします。

全て弾き飛ばした後、再不斬君は印を組みました。

「水遁・水龍弾の術!」

なんと、筆についた墨汁を使って、水遁・水龍弾の術を発動。小さいながらも、墨でできた黒い龍が襲ってくる。

「おお!?」

それを跳躍して避けます。

チィ、腕を上げたな。ああいう返し方をされるとは思ってなかった。


「今度はこっちからいくぞ!」


と再不斬が手に持つ大刀を、頭上に掲げた直後です。







室内の空気が凍りました。








「・・・」

「・・・」


大刀を掲げたまま硬直している再不斬と、俺は視線で話し合います。

この空気を発している者は誰か。


・・・俺ではない。もちろん再不斬でもない。とすれば、後は1人しかいない。


恐る恐る、俺は残る1人、白の方を向きます。





そして後悔しました。





真っ黒です。墨まみれでした。どうやら再不斬が弾いた筆の墨が当たった後に、墨殺黒龍破を浴びた模様。

白黒どころじゃありません。真っ黒です。

あと纏ってる空気も。白から黒へwwとか笑ってる場合じゃありません。ドス黒いです。グロ魔術師殿も驚きの黒さ。

「・・・(汗)」

「・・・(汗)」

その冷え冷えとした殺気に、俺と再不斬は身動きが取れません。

ってあれ、足が動かない?


『足下凍ってるね』


墨で出来た氷の手が、俺の両足を拘束している。


もちろん色は黒なので怖い!





「・・・ナルトくん?再不斬さん?」




言葉と同時、部屋の壁から音が。


あれ、部屋の壁全体が魔境氷晶に包まれている!?


逃げ場がないよおとっつあん!




『まあ自業自得だね』






「誰が洗濯と掃除をすると思ってるんですかーーーーーーーーーーー!」



qあwせdrftgyふじこlp;!?







激怒した白嬢に、超高速エリアルコンボをかまされました。

もちろん再不斬も一緒に。





「俺が何をした・・・・」











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十五話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 01:59



「いくぞ、饂飩王。麺の貯蔵は十分か・・・!」






    小池メンマのラーメン日誌 第七百五十四話 
                    「最後の死闘~究極のラーメン 対 至高のうどん~」より抜粋











今日は見舞いです。

眉毛一号から、リー君の容態が安定したと聞いたので。

リー君その他大勢が世話になっているであろう、木の葉病院にお土産持ってやって来ました。

お土産、といっても白特製の稲荷寿司ですが。リー君、前に店に来たとき美味しいといっていましたからね。



「・・・ん?」

リー君の病室の前に来ましたが・・・室内に気配が3つ。

全部、知っている気配だ。

「リー君はともかくとして、シカマルと・・・」


思い出して、あちゃーと頭を抑える。我愛羅か。


シカマルが影真似の術で我愛羅を足止めしてるみたいだが・・・ちょっと、このまま見捨てると、やばいな。

仕方ない、割って入るか。


俺は周りに誰もいないのを確認すると、変化の術を使った。









~シカマルside~


「くっ・・・!」

偶然だった。

チョウジの見舞いにきたついで、面会謝絶が解けたロック・リーの様子をみるために病室の前に来た時だ。

尋常じゃない気配を察した。それが砂のひょうたん野郎と分かった時、俺は室内に飛び込んで直ぐ、影真似の術を発動させた。

めんどくせーけど、同じ里の下忍の事だ。放っておく訳にもいかねえ。

「・・・」

術は成功し、動きは止められた。

しかし、この先の手が思いつかない。こいつの防御を破るような術を持っていないからだ。

(くそ・・・!)

凍えるような殺気。こいつ、本当にヤベエ。

どうするか、とあの手この手を模索している時だった。






その男が入ってきたのは。





「待てい!」





割り込んで来た声と共に、入り口の方から煙り玉が投じられた。我愛羅の視界が遮られたそのスキに、俺は影真似と解く。

そしてベッドの横に立っていた我愛羅は侵入者に殴り飛ばされた。俺はその隙に、ベッドで寝ているリーの近くに寄る。

こいつは今、動けないし。





やがて煙は晴れた。

我愛羅を殴った人物を見る。



そこには、1人の男の姿があった。









---その風体を見て、俺は呼吸が止まった。金髪の癖っ毛に、口を覆うマスク。

忘れもしない、あの夜に見た姿そのままだ。

子供の頃、他国の忍者に攫われたあの時に助けてくれた人だ。

その人は目を瞑ると、歌うように口を開いた。












「戦争上等のこの世界。食べ物をもって相互の理解を求めんとする、我が意志の象徴。

悠久の味の広がりと、果てしなき広がりをもつもの」







目が開く。その瞳の奥には、鋼鉄の意志が込められていた。







「人、それを『ラーメン』と言う・・・!」







「「何者だ!?」」






目の前の我愛羅と一緒にハモってしまう。色々な意味で何者だアンタ。






「おまえらに名乗る名前は無い!」


返答と同時、男は我愛羅へと一歩踏み出す。

そして更に一撃。我愛羅が持つ自動防御の砂、それを上回る速度で放たれた、神速の掌打。




我愛羅は全身を覆っている砂の鎧ごと殴り飛ばされ、窓から外へ飛んでいった。

男はゆっくりと突きだした掌を修め、ため息を吐くと窓の方へと向かう。

「じゃあな、少年。里の仲間をしっかりと守れよ」

我愛羅を追って窓から出て行こうとする男に、俺は叫んだ。

「待ってくれ!・・アンタ確か、昔に俺を助けてくれた人だろ」

「・・・ああ、覚えていたのか」

「忘れるかよ・・・それであんた、何者なんだ?木の葉の忍びじゃねえ、って事は親父達から聞いて知ってるけどよ」

助けられた後、親父達が言っていた。

俺たちを助けてくれた人は、木の葉の忍びじゃないって事を。

暗部の警備の裏をかかれた形になったので、俺たちが攫われた事は、親父達も暗部も完全に気づいていなかった、と言っていた。

戦闘の気配で、俺たちが攫われたって事を察知したらしい。この人がいなければ、間に合わなかっただろう、とも。

それを聞いて、俺たちは唸った。

誰か助けてくれたのか。木の葉の者じゃない、でも木の葉近くにいた、凄腕の忍び。

正体不明のヒーローみたいな助けてくれた人について、昔はヒナタといのとよく話していたもんだ。

そして、それからは3人で探していた。

俺は一言、助けられた礼を言いたかったから。あの二人はまた別の思いがあるらしいが。




「あんたが何者かは知らねえけど・・・ありがとう。あの時、俺達を助けてくれて」



男は言葉では答えず、背中を見せたまま片手をあげて答える。


そして我愛羅を追って、去っていった。





~~~









部屋の窓から飛び降りて、追撃する。そして肉薄。防御するより速く殴り飛ばし、すぐさま反対の方向へと逃げる。

人気の無いところへ誘導するためだ。






そして、数分走ったあと、立ち止まった。

「くっくっくっ」

ゆっくりと振りかえると、俺を追って現れた我愛羅は笑っていた。

心底可笑しいというように、声を殺して笑っていた。

・・・いったい何が可笑しいのか。あんな所であんなことしちゃって。下手すりゃ、すぐにでも戦争が始まってしまいます。

(ばかかお前、ばっかじゃねえのか!もしくはアホかあ!と言いたいところだけど)

黙ります。情緒不安定すぎるので、むやみに刺激するのは良くない。

・・・しかし腹立つなこいつ。デコの右側に『ラーメン』と書いてやろうか。

筆を取り出す寸前、我愛羅が話しかけてきた。

「くっくっく・・・こんな所で会えるとはな。『通りすがりのラーメン屋』」

「こっちは会いたくなかったけどな」

即答する。やーなの、こんな砂狸さんと殺し合いするのは。

ほら、何か強い者を殺す事で~、とか生きる意味~とか言ってるし。あと、目が怖い。

それにしても。

(誰かを殺して自分が生きている事を実感するってどうだろう)

そんな生き方じゃあ、その果てに見える光景は決まっているだろうに。

殺しながら生き続けて。行き着く先?

(きまっている。先には、何も無い)

行くは煉獄、先には地獄。

こちらの複雑な心境を無視して、我愛羅は殺気を膨らませる。

「・・・さあ、殺し合おうか!」

砂を展開する我愛羅。それを、俺は止める。

「・・待て。ここは木の葉隠れの里だぞ。しかもど真ん中。ここでやり合ったとしても、余計な横槍が入るに決まっている」

「・・・」

「もうすぐに、だ。あるだろう?徹底的にやり合う機会が。そこで決着を付けてやる。だから、今日はひとまず退け」

その言葉に、我愛羅は沈黙する。そして、舌打ちし、何かに気付いたように後ろに振り返った。

(誰かが近づいてくる)

我愛羅にも、その気配が分かったのだろう。また舌打ちをした後、砂をひょうたんに戻して去っていく。

途中、背中を向けたままで言ってくる。

「・・・いいだろう。ただし、逃げるなよ」

肩越しに睨まれた視線。その全てを受け止め、俺は笑いながら返してやる。


「ああ、お前もな」









去っていった我愛羅の姿を見ていると、マダオが呟いた。

『さて、帰りますか』

ああ。でも、お客さんの応対をしてからな。

「・・・・何者だ?」

すっと目を細めて聞いてくる銀髪マスク。ああ、カカシさんじゃないですか。気づいていたけど。

俺はその問いに答えず、煙玉を放って一目散に逃げます。

やり合ってもいいですが、面倒くさい。ここはひとまず、逃げの一手。







(・・・まあ、追ってくるよな。やっぱり)

逃げは振りでもあった。追ってこなければそのまま逃げたけど。

追ってきたからにゃあ、仕方ない。人目に付かない所へ誘導して、そこで一戦した後、逃げるか。

病院近くはまずい。あそこは里の中心部に近いので、応援がやってくる可能性が高い。

流石に、複数を相手にするのは面倒だ。




(よし、ここらへんでいいか)

逃げ続けて、数分経った。この森の中なら邪魔も入らないだろう。

「しいっ!」

呼気と共に急反転し、カカシの懐へと飛び込む。

「・・・っ!?」

不意をつかれたとしても一瞬。カカシは即座に反応し、俺の一撃を防御して、距離を取る。



「・・・」

「・・・」


言葉を発せず、対峙する俺とカカシ。



そこからは激闘となった。


カカシは色々な術を使ってくるが、俺はそれを捌き、避ける。出方を見ているのか、それほど高レベルの術は使ってこない。


数十を超える合の果て、俺はカカシの力量を悟った。


(やっぱり、大蛇○ほどではないか)


万華鏡写輪眼が使えればまた違うのだろうが、今のカカシでは大蛇○に勝てなさそうだ。




そして、更に十合。こちらは術を使っていないので、コピーしようにもできない。

ガイと同じ、体術勝負である。

「・・・ここまで強いとはね。もう一度聞くけど、何者だ?」

「貴様に名乗る名前はない!」



確認は終えた。後は、この戦闘を終わらせるだけ。

きゅうびのチャクラを解放する。


出来るだけ後にダメージが残らない方法で、昏倒させる。



「!?」



膨れあがったチャクラに驚くカカシ。それを無視して、俺は構えを取って心の中に呼びかける。





(賢狼よ・・・導きを!)





手、繋いでもいいかや?と顔を赤らめる乙女を思い浮かべる。





み な ぎ っ て き た 。





全身をチャクラという名の何かで活性化する。


そして高めた脚力で一歩、カカシの元へと踏み出す。




「とああああっ!」



「速い!?」




きゅうびのチャクラによる運動力強化を上乗せして、先ほどとは段違いの速さで踏み込む。

飛翔するかの如き神速の一歩で、一気にカカシの懐に飛び込んだ。先ほどとは違い、カカシの方は反応しきれていない。



(いくぜ!)


絶招の壱・改




「雷・螺旋螺旋!」



まず、雷遁を併用した掌打をねじ込む。



「ぐあっ!?」



身体を走る雷に、カカシの動きが止まる。




「とおああ----!」




止まったカカシを逆の掌打で打ち飛ばす。


それを追って、また一歩。カカシへと肉薄する。






絶招・改、追の弐式






「神手・昇打崩!」






仰け反るカカシの腹部へ、雷を纏わせた打ち上げの掌打を叩き込む。


そして数秒、電撃を喰らわした後、吹き飛ばした。





「成敗!」






















「ただいまー」

帰ってきました我が家。カカシはあと数分は身動きが取れないはず。

まあ連絡の煙玉もあげたから、すぐにでも医療班が駆けつけるはず。

『いやー酷いことするね、君も』

いや、あれだとダメージが後残らないし、いいじゃん

サスケの修行に付き合うと、どうしてもカカシ自身の修行が疎かになりそうだからね。

実戦の勘も鈍っているようだし。緊張感を増やすためにも、というやつだ。それに、たまには負けないとね。

まあ全部ノリでやった言い訳なんだけど。

まあ、イチャパラとか遅刻の事もあるし、いいんでないの?自重しろ、という意も含めて。

『おぬしには言われたくないと思うが・・・あと、メンマ。その事とは別に、話があるのだが』

何、キューちゃん。気のせいか、声がもの凄い冷たいよ?

『先ほどお主が思い浮かべた女の顔じゃが・・・』

げ、分かるの?


『ある程度は、の・・・で、だ。何故ワシを思い浮かべん?』


綺麗に笑うキューちゃん。うん、怖い。犬歯が凄い。背後に夜叉を背負っているし。

(・・・しまったな。賢狐とかにした方が良かったか・・・!)

でも賢くなさそうだし、と言ったら怒られそうなので言わない。

後悔しても遅いか。キューちゃん、どうやらハブにされて怒っているようだ。

・・・マダオ、助けてくれ!

『只今留守にしております。ご用件の在る方は最寄りの詰め所に駆け込むか・・・』

居留守はやめろ!あと混ざってるから!

『のう、メンマ・・・ちょっと表で話しをしようか?』

・・・ぎゃあああああああ!?フラグたった!死亡フラグ!

そんなフラグはいらねえから!

『・・・まあ、これもある意味フラグと呼べるんだけどねえ』

ちょっとまてマダオ!

その旗、何の旗、気になる旗!?どう見ても赤色フラグだろ!血の色だろ!

『まあ、確かに桃色ではないね』

『返事はどうした?』

イエスマム!

・・・えっと、何もしないよね?ただお話するだけだよね?

『勿論じゃ』

とにっこり笑うキューちゃん。う、可愛い。
・・・まあ、もしかしたら単にお話するだけかも知れないし。ちょっとだけ呼び出してみようかなー?

『ピコーン』

笑い顔を信頼し、口寄せを発動させる寸前だ。

マダオが何か呟いた。それ、何の音?

『デッドエンド』

やっぱり死亡フラグじゃねえか「こっちを向かんか」・・・あ?








煙がはれたその先には、金色の夜叉がいました。



「・・・そなたの中には夜叉がいqあwせdrftgyふじこlp;!?」


誤魔化そうとネタに走った所、顔を真っ赤にして怒るキューちゃんに飛びつかれて噛みつかれました。


「うわきもの!」とか何とか言っていたのはどういう意味だろう。

ってこら、マダオ。にやにやしながら見てないで、助けろよ。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十五・五話 それぞれの一日
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/24 22:25












「つれづれなるままに、ラーメン」









    小池メンマ自伝 「ラーメンと人生」より抜粋












~白side~



目の前で、3人は眉をしかめながら話し合っている。
前に少し聞いた子について。砂の人柱力、一尾の守鶴を宿す我愛羅という少年について。



「で、どうするつもりじゃ?」

「うーん、難しいんだよなあ。話し合うだけじゃ、絶対に駄目だし」

「それには同意する。自分が持つ力に囚われてるからね。自分しか見えてないっぽいよ。話しをするにしても、それは戦闘で勝ってからの事だね」

「・・・難しいな。取りあえず殺し合いは避ける方向で行きたいんだが」

「残念ながら、それは無理だと思うよ。話すにしても、何か切っ掛けがないとね。まあ、あの怨念じみた思考だけを取り払えれば話しは別になるけど」

「俺は人は殺さない! その怨念を殺す!! 」

「それはともかく」

無視するマダオさんに、ナルト君はぶーたれています。

「無視すんなよぉ」

「それはあっちに置いといて・・・たとえば、そうだな・・・『萌え』とかどうだろう」

「「・・・は?」」

「萌は草の息吹、即ち癒し。萌は生命の発芽、即ち潤い。萌は生命、即ち魂・・・そうだろう?同胞よ」

真剣な目で訴えるマダオさんに、ナルト君は腕を組んで深く頷きます。

「・・・確かに。確かにそうかもしれん。いやそうだ。実に理に適っていボしァ!?」

神妙な面持ちで語るナルト君は、キューさんに殴られて向こうの方へ飛んでいきました。

「一理も無いわ、アホども。大体『もえ』とは何だ?」

「鏡を見れば分かると思うよ。まあ、それは後々詰めるとして、今は話しを進めるけど、何か案はない?」

「はい!はいはい!先生!」

「では、ナルト君」

しゅばっ!と戻ってきて挙手するナルト君を、マダオさんが指します。

「白のセーラー服姿とかどうだろう」

・・・・え?ボク?

と驚いている暇もありません。二人はこちらを見ながら、真剣な目で考え込みます。そして、マダオさんが呟きました。

「・・・ありだね」

「よし、それで行こう」

頷き呟くマダオさんに、膝をパシーンと叩いて決定とばかりに立ち上がるナルト君。

「行くな!」

そんな二人に、キューさんの狐火が炸裂しますが、わーとか言いながら、二人はその炎から逃げ回っている。
狐火って結構速いんですけど、二人とも余裕がありそうですね。

それはともかく、今の話しの内容がよく分からないのですが。取りあえず、これだけは聞いておきましょう。

「あの、せーらー服ってなんですか?」

「清純の象徴だよ。女学生が纏う聖衣みたいなものさ。ちなみに僕は裁縫が得意でね」

「大丈夫。きっと似合うから」

と瞬身の術で近くに寄ってきた二人に、肩を叩かれます。近くには木の葉が待っていました。無駄に速い。
そして二人は虚空を見上げ、語り始めます。


「想像して見るがいい!白×セーラー服!正しく∞じゃないか!ああ、俺は自分の発想が恐ろしい・・・」


「これで我愛羅君もいちころだね。セーラー服の白ちゃん。はにかみながら近づいてくる。やがて目の前に立つと、跪いて、頬を撫でてその後・・・」




「・・・変化が解ける。実は変化した再不斬だった」




「「ゴハァッ!!」」

キューさんがつけ加えた一言で、二人が吐血しました。もんどりうって倒れます。


何やら、マダオさんの方のダメージが大きいようですが・・・


「マダオ!しっかりしろ、マダオ!バカヤロウが、無駄に想像力豊かなお前のことだ。リアルに想像しちまったんだな・・・!」


力無く倒れ伏すマダオさんを抱え、ナルト君は必死に揺さぶります。


うっすらと目を開けるマダオさん。遺言のような言葉が、その口から零れでました。



「白ちゃん・・・良い夢を、見させて貰ったぜ・・・」



うわごとのように呟くマダオさん。

せーらー服とやらを着た再不斬さんを思い浮かべているのでしょうか。

今にも力尽きそうなマダオさんに向かって、ナルト君は悲しそうに叫びました。




「あれが・・・良い夢でたまるかよ!」




「やかましいわ」


「「モエァ!!」」


先ほどより巨大なキューさんの狐火で、寸劇を繰り広げている二人は、もろともに吹き飛ばされました。






「お疲れ様です」


「ああ・・・本当にな」


ぷすぷすと焦げた二人を見ながら、キューさんは疲れたように肩を落とします。

その姿に少し笑ってしまいます。マダオさん「すね毛が・・・」と悪夢を見たかのように呻いていますが大丈夫でしょうか。

まあ、それはともかく。

「そろそろお昼ですし、ごはんにしましょうか」








食卓を5人で囲みます。

「ちょっとキューちゃん、俺の稲荷取らないでよ」

ナルト君が、キューさんに文句を言います。先ほどの仕返しでしょうか、僕の動体視力でさえ霞んで見えるほどの速さ。
神速の箸捌きで、キューさんはナルト君の稲荷寿司を奪いました。

キューさんも凄いですが、気づくナルト君も凄い。

「はて、何のことじゃ?」

と無視して稲荷寿司を食べるキューさんのほっぺたを、ナルト君がじっと見ます。
・・・御飯粒ついてますね。急いで食べ過ぎです。

「はあ。まあいいか。後一個残ってるし。」

と視線を正面に戻した後、ナルト君の目がくわっと開かれました。

直後、

「ぐううううううううう!?」

キューさんが真っ赤な顔をして、口を押さえます。

「油断大敵、自業自得、因果応報」

にやりと笑うナルト君の手には、唐辛子が握られていました。

「うぬ、貴様・・・・!」

「えー、何のこと?取ってないんでしょ?」

睨むキューさん、クマーと言いながらとぼけるナルト君。
互いに戦闘態勢に入ろうとしますが・・・



「「!?」」





その二人の間に、僕は千本を投げつけます。


「「・・・・」」

押し黙る二人に、僕は笑顔で忠告しました。

「いい加減にして下さいね?二人とも。食事中ですよ」

「「・・・はい」」

良かった。話しを聞いてくれたようです。あれ、どうしたんですか、マダオさん。震えちゃって

え、何?ごめんなさい、もうしません、クシナ?

誰ですかそれは。










食事が終わり、皿を洗っているとキューさんが背後からこちらに近づいてきました。

肩越しに見ます。どうやら、食器を下げてくれているようです。

「ほれ、これで最後じゃ」

「ありがとうございます」

食器を運び終わったキューさん。運び終えた後、何故かその場を動きません。

数分間、何となくしゃべることもなく、二人で黙り込みます。水の流れる音と、食器を洗う音。

それを打ち破ったのは、キューさんの声でした。

「おぬしは・・・」

「はい?」

「お主達は、ワシが怖くないのか?」

いきなりの言葉に、思考が止まります。

「ワシの事は知っているんじゃろう?なのに、そういう素振りも見せんしな」

「・・・まあ、考えた事はあるんですけどね」

苦笑する。それは今更だと思えたからだ。

「色々と考えたんですけどね。なんか、あの二人と話しているキューさんを見てると、そんな事を考えているのが馬鹿らしくなったというか」

「馬鹿らしく?」

「はい。正しくは、あの二人と話している時のキューさんの顔を見て、ですけどね」

「・・・」

「それに、知識だけで人を見るのは御免ですから。僕もそうでしたしね」

外形だけで、形式だけで人を見る。だから、霧隠れのような血継限界狩りのような悲劇が起きるのだ。
人を見ないで、驚異を見る。保身のために、無情にもなり。


・・でも、それを行うものは果たして人と言えるのだろうか。
僕は違うと思う。だからかもしれない。


「昔の事は知りませんけどね。今は違うと思うんです。だから、怖くないですよ」

「そうか」

「そうです」

また、会話が途切れます。そして、食器を洗う音だけが響いて、数秒。キューさんはきびすを返して、台所の外へと去っていきます。

「・・・・じゃあ、な。ワシはあやつに先ほどの仕返しをしてくるから」

照れたんでしょうか。キューさんはこちらに顔を見せようとせず、向こうを向いてます。
その姿に思わず笑みが浮かんでしまう。

・・・ちょっと、ナルト君と似ているとこがありますね。

「頑張って下さい。食べ物を粗末にすることはいけませんからね」

背中にかけた応援の言葉に応えず、片手をあげて答えるキューさん。

(・・・ほんとに似てますね)

その可愛いともいえる後ろ姿を見て、僕は思わず笑ってしまった。






明けない夜は無いと誰かが言った。止まない雨は無いと誰かが言った。


(・・・誰が?と、あの人はいった)


導く言葉も、甘い言葉も、教えてくれなかった。


僕、いや、私には尊敬すべき人が二人いる。

再不斬さん。私を必要だと言ってくれた人。

ナルト君。運命?何それ食べれるの?と言った人。切り開くという意味を教えてくれた人。


・・・そのどちらも、手を引いてはくれないけれど。

(でも、それが正しいのかもしれない)

『それでも朝は来るんだ、絶対に』とナルト君は言った。

僕はその言葉の意味を考える。


それは、希望の言葉で、同時に絶望の言葉だと思った。

あるいは、苦しみが晴れる、清々しい朝が訪れる。

あるいは、避けようのない、照らされる日が来る。

道を往くという事は苦しみと道義。でも、暗闇を抜けるためには、必要なものだ。

(一緒に行こうと言ってくれたのは再不斬さんだった)

助けられて、ここにいる。そして、ここから行くだろう。

(自分で立つしかないと言ってくれたのは、ナルト君だった)

だから、私は此処にいる。だからどうした、と言い続けながら。

背後を振り返るのを止めた。それだけで、強くなれたように思う。

(ありがとうございます、にはまだ速いですけど)

それでも、キューさんは幸せにしてあげて下さいね?

私は手に持っている皿を拭きながら、笑った。


・・・あれ、何か向こうが騒がしいですね。



「ここで会ったが百年目!待っていたぞ再不斬!」

「・・・何でいきなりハイテンションなんだお前。それより、白を知らないか?ちっと遅れたが飯食いたいんだが」

「悪夢とは乗り越えるためにある。だから、氏ね!再不斬!俺の明日見る夢のために!」

「微力ながら助太刀致す!」

「えーい、やかましいわ静かにせんか!」


爆発音。



「ぐわあああぁぁぁ・・・!」

「熱いってー!」

「俺がなにをしたああああぁぁぁ・・・」









~シカマルside~

ラーメン屋九頭竜。ここで食うのも久しぶりだな。

「こんにちはー、メンマさん」

「あ、キリハちゃんいらっしゃい。今日は・・4人だね」

「はい」

結構キリハのやつここ通ってるのな。それにしても身体中が痛え。

「ほら、しっかり歩きなさいよシカマル」

といのが俺の背中を叩く。

「・・・うるせ。あれだけぼこぼこ殴った本人が言うなよ」

「あー、あははは。あれはごめんねー」

と手を合わせて謝る幼なじみ。はあ、まあいいか。いつもこんなんだし。

それでも、今日のはひときわ激しかったな。俺は昼の出来事を思い出す。






「えー!じゃあ、アンタ、あの人にあったの!」

「あー、一応な。一瞬だったけど」

「何で私も呼んでくれないよ!」

急に激昂するいの。う、怖ええ。

「無茶いうなって!こっちもいっぱいいっぱいだったんだから」

「・・・何で私も呼んでくれなかったの?」

泣きそうなヒナタ。・・・だから、俺にどうしろと?

「何で!?」

「何で?」

う、こら、詰め寄るな、拳を振り上げるな、白眼を発動させるな!

「ちょっとまてえええええええぇぇ・・・」






「まさかヒナタに詰め寄られる日が来ようとはな」

「う、ごめんなさい」

「まあごめんって。それより、アンタ名前も聞けなかったの?」

「一応聞いたけど・・・『おまえらに名乗る名前は無い』って言われた。まあ他国の忍びだから当たり前かもしらんけど」

「・・え?ちょっとまって、それって昨日の話し?」

「え、うんそうだけど。キリハ知ってんの?」

「カカシ先生から聞いた。里に侵入した不審人物の話しでしょ?」

「・・・まあ、一応そうなんのかな。俺は助けて貰ったけど」

「そうなんだ。カカシ先生は殴られて気絶させられたってきいたけど」

「マジ!?カカシ先生ってかなり強いんでしょ?」

「うん、いちおう、そう・・・なのかなあ?」

キリハが首を傾げる。まあ、遅刻魔にイチャパラ馬鹿だからな。気持ちは分かる。

「なんか負けた上にマスクを落書きされたみたいで。今日の朝会ったけど、かなり凹んでたよ」

「なんて落書きされたの?」

「『カミーユ参上』だって。気絶してる間に書かれたらしいけど」

「カミーユ?なんか、女の名前みたいだな」

「先生もそう言ってたけど・・・」

と、全員がこちらを見る。はあ。お前らもあのとき顔を見てんだろうに。

「・・・あの人は男だよ。顔も骨格も男のものだ。金髪の癖毛にマスク、それに・・・なんかカカシ先生に似ている声だったような・・・」

「あ、そうもいってたな」

「何者なんでしょうね。というか、何であの時病院に居たのかしら」

「わかんねえ。俺らを助けた時も、まったく意図が不明だ、とか言われてたからな」

「先生は何か言葉を濁しているようだったけどね。『いや』とか、『まさか、違うし・・・』とか、『ありえん』とかぶつぶつ言ってた」





「お、来たか」

木の葉風ラーメンと稲荷寿司のセット。あれ?何か量が多いような・・・

メンマさんの方を見ると、親指を立てて笑っていた。どうもボコられた事に同情してくれているようだ。


・・・男の情けが胸に染み渡るぜ。



「あ、シカマル多いから一個ちょうだいねー。いやー、今月実はピンチでねー」

「あ、私もー。一応、情報料ってことで」

「・・・あの、シカマル君」


・・・世の無情が胸を染めるぜ。具体的に言うと女。


あーいいよいいよ、ヒナタ。もってけ。

ったく女はこれだからよ・・・?

またメンマさんの方を見ると、渋い笑顔で首を横に振っていた。そして、メンマさんはまたスープの方を見る。

「って、あれ?」

木の葉風ラーメンの具を見ると、チャーシューが気持ち厚く切られていた。

・・・渋いサービスしてくれんじゃねーか。メンマさんよ。




また来ようかな・・・











~キリハside~




「じゃあ、また明日ね。いのちゃん」

「キリハもね。あ、そうだ。明日からの修行、シカマルとチョウジも参加したいそうだけど、良い?」

「自来也のおじちゃんに聞いて見るけど、良いと思うよ。サクラちゃんとキバ君も参加したいって言ってたし。まあ、みんな木の葉の下忍だもんね」

「自来也様直々に修行を付けてもらえる、ってんだから参加するわよ。あ、そういえばサスケ君は?」

「カカシ先生と修行だって」

「そっか。じゃあ、また明日」




「あー、月が綺麗だなーっと」

兄は満月の晩に襲撃されたそうだが。3人から伝えられた。兄の事件について。

九尾、封印、人柱力。九尾はともかく、初めて聞く情報が多かった。

皆生きている、と言っていた。もし死んでいたら、九尾が顕現している筈だと。

でも何年も探して見つかっていないって事は・・・止めよう。

きっと生きている。そう思うのだ。もしかしたら、身近にいて私を見守ってくれているのかもしれない。

(自分勝手な考えだね)

それでも、そうあって欲しいと思う。兄の気持ちを考えれば、それは忌避すべき思いなのかもしれないけど。

「家族、かあ」

友達はいるけど、父も母も兄妹も居ない。それでも、常に周りに誰か居てくれたので、1人ではなかった。

だから寂しいわけじゃないけど・・・それでも家族というものを知ってみたい。本来ならば、きっと居た筈だった兄を。

「どうしてなのかな・・・」

どうしてああいう事件が起こったのだろう。




立ち止まり、虚空に訪ねてみる。

でも、頬を撫でる風も、空に浮かぶ月もその答えを教えてはくれなかった。




「って、あれ?」

何故か、月に春原さんと長谷川さんの顔が浮かんだ。何故か、笑みが浮かんでくる。

「・・・まあ、あの寸劇は面白かったけど」

バナナで試験官を転ばすわ、樹上で笛を吹いた後飛び降りて骨折するわ。

芸人みたいな人だった。

「・・・帰ろっか」

今日は帰ろう。明日から、また修行だ。あの日向ネジに勝つために、頑張らなくてはいけない。

運命が全てという日向ネジに、『だからどうした!』を貫き通すために。





「やってみますか」



私は自分の頬を張った後、家に向かって思いっきり走り出した。


明日をもっと頑張るために。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十六話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:25








「今後も我々の志を継ぎ、戦い続ける全ての同胞に幸あらん事を・・・・・・豚骨、万歳」





  小池メンマのラーメン日誌 
 
     第九百五十六話「第四次麺界大戦・豚骨派第二基地奇襲作戦~真白のスープを越えて~」より抜粋


















「と、いうことで豚骨ラーメンの開発に取りかかります。準備はよろしいですね?」

「はい、老師」

白と一緒に、調理場に立つ。今回のコンセプトはこれだ。


「豚骨ラーメン、火の国仕様、こってりでもさっぱりね!」


名付けて、『火の国の宝麺』だ!

運麺を決定する、麺族最高の武器だね!突っ込みがないね!





「・・・と前振りしてなんですが、すでに出来ております」

この2週間で完成させました。俺の突然の完成宣言に、皆が驚く。

「・・・え、とかなり早いですね」

「・・・ああ、それにはとある事情があってな」

前世で作っていたのが、熊本風豚骨ラーメンだったのだ。

それにこの世界での食材でアレンジして、味を一段上のものに昇華させる。

そして、新しい店の看板麺とすること。

「角煮って男のロマンだよね」

「でも、太りそうなラーメンですよね・・・」

そうなのだ。豚骨かつ角煮。豚の油の二重奏である。

「大丈夫だって。忍なんだし、いっぱい動けば太らないよ」

「そうですねー」

ってあれ?誰かを忘れているような・・・・









「このラーメンはね。豚骨だとはいってもそれだけではない、と言う風な味に仕上げるつもりなんだ」

「と言うと?」

「まったりとしてそれでいてしつこくない味」

テンプレかつ王道だね。

「うーん、分かるような、分からないような」

「それでいて栄養たっぷりこってり、でもお腹と肌に優しいラーメン」

「難しそうだね」

「うん、難しかった。試行錯誤繰り返して、まあ味の形はいろいろあったんだけど・・・最終形はこれを使いました」

取り出したるは例の豚の大腿骨。通称「ゲンコツ」だね。

「この豚の骨ね。煮込むと面白い味になるんだよ。これに木の葉近郊で取れる、ある鶏の鶏ガラを一定量加えて一定時間煮込むと・・・更に面白い味に」

「試したんですか?」

「一応ね。で、これ」

白にスープが入った小皿を差し出す。

「・・・ほんとだ、味は濃いめなのに、後味がしつこくない」

「そこに、味付けした角煮を加えてみました。同じ豚から取っているので、スープとのハーモニーが凄い」



キューちゃんにお椀を差し出します。中に入ってるのは、少量の角煮と麺とスープ。



「・・・ふむ」



一口、食べる。直後、キューちゃんの動きが止まった。




(判定や、如何に!?)












ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ















「70点、という所じゃな」



 orz




「でも、まあ・・・・結構美味いぞ」


 Σorz



「まじで!?」

「ぶもぎゃ!?」



あれ、何かはねた?

まあどうでもいいか。それよりもだ!





「なっ」


キューちゃんに駆け寄り、がっしと肩を掴んで前後に揺する。



「今美味いって!美味いって言ったよな!うおっしゃあああああーーーーーーーーーー」



嬉しさのあまり、掴んだままキューちゃんを高い高いします。


そして抱き上げたまま、一緒にクルクルと回りました。





「ちょ、っとまて、この、いい加減、離さんかーーーーーー!」





顔を真っ赤にして、じたばたと暴れているキューちゃん。

掴んでいる腕をがぶりと噛みつかれました。









「えらい目におうたわ・・・」

「正直すんません」

土下座である。でもキューちゃん顔が少し赤いね。・・・かわええ。

あと、マダオが何か向こうの壁にめりこんでるが、何かあったのだろうか。

・・・ま、いいや放置しよう。

「あの、メンマさん。このラーメンなんですけど、材料足りるんですか?」

「あーいいところ気づいたね。実は、常時店に出すには、量が足りないんだよ。だから一日限定5~10食ぐらいになると思う」

「そうですか。それで、このラーメンは明日から出すんですか?」

「うん、その予定だけど」

「えっと・・・申し訳ないのですが、明日は再不斬さんとの修行の予定がありまして」

「ああ、そうだったっけ。まあ、本戦の日まで、あまり時間ないもんね・・・仕方ない、俺1人で開けるよ。」

本戦が近い、それは木の葉崩しも近いということ。激戦が予想される。

それに向けての修行です。ここのところ、二人は特に修行に力を入れている様子。

邪魔したらダメだね。





ま、俺も、新術の方の仕上げをしておきますか。












発掘したマダオと一緒に、訓練室に入る。

この部屋は常時結界で守られているので、滅多なことでは壊れたりしない。


「さてと、じゃあ行くよ?」

マダオさん、何やら怒ってらっしゃる。


「あい、水入りマース」

と口寄せの巻物でで水を呼び出す。広い部屋の床が、水で満たされた。




「じゃあ、一発目いくよ・・・水遁・水龍弾の術!」

マダオが術を発動する。

これは、我愛羅対策の訓練だ。水を砂に見立てての、模擬戦となる。

しかし・・・



「こら、マダオ、もちっと手加減しろ!」

術の規模がいつもの倍になっている。やりすぎだ、馬鹿たれ。


「だが断る」


てめえ・・・ってその術は!


「水遁・水牙弾の術!」


発動直後、急いで天井へと跳躍する。そのまま、足にチャクラをこめて天井へと吸着する。

そして逆さになったまま、マダオに向かって叫ぶ。


「マダオ、てめえ今ケツ狙っただろ!」


飛び上がる寸前、俺は見た。水の牙が、俺のケツのあった位置を通り過ぎたのを。

・・・あやうく掘られるところだった。

「大蛇○対策も兼ねて、だね。まさに一石二鳥」

「・・・嫌な想像させるなよ」

そんな貞操を守る戦いは嫌だ。負けて失うものが多すぎる。



「ま、それは置いといて・・・でかいの行くよ?」



マダオが印を組みながら、片方の腕を上げる。そして締めの印を組む。

あれは、再不斬の・・・!



「水遁・大瀑布の術!」



発動と同時、部屋にある水が集まり、全てを飲み込む瀑布となって俺に襲いかかる。

これでは、逃げ場がない。


(さあ、今日こそ・・・やってみせる!)

完成させてやる。俺の新しい術を。



意を決して、叫ぶ。




「見せてあげる・・・螺旋丸のバリエーション!」





俺の新しい術と水の大瀑布がぶつかり合い、部屋の空気が激震した。
















水しぶきが晴れた後、俺は先程のまま天井に足を吸着させながらそこに立っていた。

「・・・やったね」

「ああ。新術、これにて完成だ」

これで何とか対守鶴戦の目処は立った。あとは、来週の本戦を待つのみ。

「ま、その前に掃除だね」

「うげ」

見ると、強化していた部屋の扉と壁があちこち壊れていた。








次の日


「さて・・・やるか」

「はい、再不斬さん」

二人は、少し距離を開けて対峙する。

まずは白が動いた。千本を投擲し、距離を詰めようとする。

「甘え!」

再不斬がそれを防ぐ。千本を刀で弾き、その勢いのまま振り下ろす。

白は自慢のスピードを活かし、それを避けきると瞬時に反撃に移る。

「はっ!」

また千本を投擲する。だが、今度は正面ではなく上方へと投げる。

そして上方へち投げられた千本は、急に現れた氷の小さい壁に弾かれ、再不斬の方へと向きを変える。

それも、クナイで弾こうとする再不斬。だが、何かに気づいた様子を見せた後、大刀を担ぎなおして代わりにクナイを両手に持ち、弾く。

「時間差、か」

上に気を取られると、正面の千本が。正面の千本に気を取られると、上の千本が。

あるいは、

「後ろからも、か」

後ろから飛来した千本を、再不斬は振り返らずに掴んだ。二度弾いたのだろう。

「極小量の氷の壁を超速で展開する事により、千本を弾く壁を作るってところか」

跳弾の原理を採用した、意表をつく形となる全方位攻撃。

初見の相手には特に有効となる。何しろ、外れたと思った千本が急に方向転換して襲いかかってくるのだから。

死角からの攻撃も可能なので、千殺水翔より反応し難い術になる。

流石に魔鏡氷晶の術に比べれば速度は落ちるが、この幻鏡氷壁の術は応用次第で様々な場面に対処できる。

一瞬顕現させる事により、相手の視界を防ぐ事もできるのだ。

ただ、多大な集中力と使う場を見極める冷静な思考が必要となる。それは、白の資質と合っているので問題はないのだが。

「一対一でも使えるが、一対多の戦闘にも使えるな」

「そうなんですよ。応用次第で、どんな場面でも適用できそうですし・・・」

加えて、魔鏡氷晶よりはチャクラ消費量が少ない。決め技ではなく、戦術の要に組み込める術となる。

「後、一瞬ですが身を守る壁にもなりますので、防御にも応用できます・・・まあ、今の術のレベルでは、まだ無理なんですけど」

そこは今後の課題になるだろう。



「じゃあ、次は俺の番だな・・・と、流石に模擬戦で使うのは危ないか。白、ちょっと横に寄ってろ」

まずは水を口寄せする。そして、再不斬は包丁を片手にもったまま、反対の方の手をかざす。

「すごい・・・!」

口寄せされた大量の水が圧縮され、球の形になる。

「水甲弾の術」

そして、超圧縮された水の弾が勢いよくはじき出される。

大量の水で押しつぶすことよりも、固めた水の弾で撃ち貫く事を重視した術。四代目と共同開発した術だ。

弾の速度も速いため、避けることは困難である。

「こんなところか・・・それに、地力もあがったしな」

「あの二人、体術もすごいですもんね・・・」

影分身との組み手で、体術もレベルアップした。

「さて、来週の実戦に向けて・・・最後の仕上げだ。いくぞ、白」

「はい!」










一方その頃。ラーメン屋台九頭竜にて。


「今日もラーメン日和だな・・・」

『どんな日じゃ』

毎日です。晴れた日にはしょうゆラーメン、雨の日にはみそラーメン、暑い日に『もういい』

最後まで言わせてよ。

『お客さん来たみたいだよ』

「いらっしゃい・・・って、三代目!?」

「うむ、キリハと自来也に聞いてのう」

おでれーた。ま、取りあえず注文を聞きますか。

「うーむ、どれにしようかのう」

「お悩みのようでしたら、新メニューの『火の国の宝麺』がオススメですよ」

「うむ、じゃあそれで」

承りました。いっちょ作りますか。




至高の真白に、角煮の威容。麺は中太、やや固め。ネギは添える程度少なめで、あとは海苔を添えて、と。

「お待ち」

出てきたラーメンに、三代目は若干渋い顔をします。ま、見た目こってりですから、一応お年寄りになる三代目の反応は分からなくないですが。

一口食べると、驚きの表情を浮かべます。そして二口、三口。一通り食べると、感嘆の言葉を零しました。

「・・・美味い!最近こってりしたものは駄目じゃったが・・・これは美味い」

「ありがとうございます」

一気に食べつくしました。その笑顔のために作っています。

食後は、三代目の話しを色々聞きました。

キリハが、とか木の葉丸が、とか。そういえば、木の葉丸見たことありませんが、どんな感じになっているんでしょう。

まさか、キリハに惚の字になっていたりしてww

あと、自来也の話しをしていましたね。最近、更にいいものを書くようになった、とか。じじい、顔がエロいぞ。

俺のアドバイスが効いたってことでしょうか。後で見てみようかなあ、でも・・・

『見ると承知せんぞ』

まいがっ。まあ萌え最先進国から来た我が身。後は妄想で補えばいい!

『噛むぞ?』

嘘です。犬歯を見せつけないで下さい、キューちゃん。でもその笑顔がすてき。





小一時間経ちました。一通り話し終わった三代目は、忙しいのでしょう。こんな時間か、と急いで帰ろうとします

「あ、これよかったらお土産にどうぞ。夜食にでもしてください。美味しいですよ」

と稲荷寿司を渡します。

「・・・よいのか?」

「はい。あのラーメン、今日から出しましたので、三代目が初注文客になります。だから、その記念として」


「・・・そうか、では頂くとするか」


「ありあしたー」


またの来店をお待ちしてます。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 人物紹介 Ver.1
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/06/27 22:05
○小池メンマ
 別名、うずまきナルト=春原ネギ=ロジャー・サスケ=???
 馬鹿その一。自重をどこかに置き忘れた男。
 ラーメン至上主義者。
 彼の遺した言葉、
 「ラーメンこそ全てであり、全てはラーメンである」は第4次麺界大戦を引き起こしたことであまりにも有名である。
 嘘である。
 前世は元ヤン。切れると思考回路と言葉使いがちょっと荒くなる。
 結構言ってる事がぶれる。まだ、生活して行く上での方針を決め切れていない様子。
 昔の経験から、自分が器用に立ち回れない事は実感しているので、3割は勢いで生きている。




○波風ミナト
 馬鹿その二。
 四駄目火影。まるでだめなおっさん、略してマダオ。
 あの師匠あってこの弟子あり、そしてこの師匠あってあの弟子あり。因果は巡るのである。
 元をたどれば初代火影に行き着いてしまうが、それは言ってはいけないよ?
 その知識と発想力を活かし、日々ネタ技の開発に勤しんでいる。
 また、メンマの方から数々の漫画知識を仕入れてる模様。
 ある事で悩んでいるが、それは秘密(はーと)らしい。きめえ。



○キューちゃん
 ユニゾンデバイス、「ナインテイルズ」である。
 嘘である。
 九尾のキューちゃん。稲荷が好きな怪力八重歯童女。
 きつねうどんが好き。はふはふ油あげを食べている姿は、戦略兵器並の威力を誇る。(主にマダオに)
 最近突っ込み役が板に付いてきた。
 馬鹿二人と過ごす内に、人間についての認識が色々と変わってきた模様。
 それがいい方向なのか、悪い方向なのか。それは誰にも分からない。
 ちぱーい・・・だがそれがいい、はマダオの言。 



○波風キリハ
 オリキャラ。その名の通り、4代目の娘。うずまきナルトからみると、双子の妹になる。
 カカシ班で、ナルトの代わりに誰かいないか~と、カカシ班のつながりを持たせるために誰かいないか~、
 という作者の都合で生まれたキャラ。
 金髪碧眼の才媛。でも箱入り娘だったせいか、天然気味。思いこんだら一直線。でも、ドがつく鈍感。
 最近知った、殺されたという兄の事で悩んでいる。



○白
 再不斬一筋。再不斬ラヴな乙女。
 原作では、最高で最後の癒し系の役割を担っている。
 色々と苦労人。
 再不斬のために料理を覚えました。食べる再不斬本人はツン分が激しいので、滅多に「美味い」といわない。
 再不斬に美味いと言わせるため、再不斬をデレさせるために今日も料理の腕を磨く。
 再不斬って何回いったでしょう。
 中忍試験現在、15歳。再不斬君、手出したら犯罪だからね。


○再不斬
 ツンデレ。眉無し。そして、半裸。以上。
 現在修行中。かつニート気味。護衛もいいけど、ちょっとラーメン屋で働いてみないかチミィ、とメンマに言われている。
 その返答である「白と一緒ならな」の言葉には全メンマが喝采した。 


○テマリ
 砂隠れの里での死闘で、ちょっとフラグオン。
 でも忍者らしくない戦いをしているあの人は、今どこにいるんだろう、と悩んでいる。
 今はさりげなーく、各地のラーメン屋を巡って探している最中。
 ラーメン知識に関しては、それなりのものを持つに至った模様。
 あの一件で、少しだが弟との距離は縮まった。でも胃が痛い毎日を過ごしている。
 中忍試験現在、16歳。



○みたらしアンコ
 いや、好きなんですよ?好きなんですけど、話の流れでちょっと酷い目にあっているキャラ。
 おぱーい。


○シズネ
 黒髪美人。苦労人中の苦労人。でも綱手が好きなので、ついていってしまう。
 中忍試験現在、28歳・さそり座。
 そろそろ夫でも見つけて落ち着きたいが、そもそも綱手様の付き人やってる限り落ち着けない?
 と苦悩している。
 ちぱーい。


○大蛇丸
 オカマ忍者。赫々たるキワモノ。発禁伝説。でも強い。
 何気に名前だけの登場回数が多い人物。
 よい子は見てはいけません。




○奈良シカマル
苦労人。頭良い。子供の頃にあった事件が要因となって、原作よりはまじめに修行するようになった。
何も言わずに去ったあの背中を追いかけている。
いのしかちょうの親父トリオの縁で、キリハとはいの、チョウジと同じく幼なじみ。愚痴りながらも、キリハが起こす天然事件のフォローをしていたのは彼である。

○山中いの
恋する乙女。「だからどうした」が似合いそうな女傑候補。いのパパは心配だ!
中忍になれば里外の任務も増えそうだし~とか考えている本物の漢女。
白から教えてもらった言葉で、さらに漢女度が上がっている。
じゃまするやつはぶっ飛ばす、右ストレートでぶっとばすな勢い。

○日向ネジ
なんと生きていた父・ヒザシ。どうやら雲の国の忍び頭さん、国境付近で殺されたため木の葉には責任の追及ができなかったもよう。
でも宗家・分家の呪印の悩みは健在である。その事が原因で父とは喧嘩中。
反抗期である。才能があるゆえの悩みなので、天才というものも困ったもんである。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十七話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:25






「心に刻みたるは唯一麺。我、ただそれを行うのみ」


        小池メンマ著「信念の理・永遠の恋人」より抜粋
 
















『いよいよ、だね』

ついに当日。本戦が始まります。イコール、木の葉崩しも始まるということ。

再不斬と白は、里の外れで待機してます。潜んでいる音忍相手に、久々の実戦訓練をするということ。

『ま、命を賭ける義理もないからね。里の中心部は危ないし』

みつかったら、ややこしいことになるしな。里の外れならきっと大丈夫。二人とも間抜けじゃないし。。

『それはそうと、始まるようじゃぞ』

本戦参加者、そろい踏みです。


(ってやっぱりサスケがおらんがね)


『・・・また遅刻か。あの馬鹿弟子が・・・』


マダオさん、怒ってらっしゃる。まあ、上忍のすることじゃあないね。ま、あの写輪眼コンビは放っておこう。


遅れても、やって来るし。


『そうだね・・・一試合目は、キリちゃん対日向ネジか』


試合会場中央、二人が対峙する。






観客席で、お菓子をポリポリと食べながら観戦する。

暗部が会場のあちこちに配属されているが、無視。みんなも無視してるし。


マダオ、キューちゃんの二人は俺の中である。

外には出さない。危なすぎるし。

(さて、解説のマダオさん。この勝負、どちらが有利なんでしょう)

『3:7でネジ君優勢だね。やっぱり、白眼・柔拳・点穴の有利は大きいよ。一対一だと特にね。キリちゃんの方は、一撃受けるだけでもピンチになっちゃうし』

(あ、そういえば回天も使えるんだよなー)

『・・・じゃあ2:8、かな。うーん厳しいね、そいつは』

(やっぱり?ていうか、娘でも評価厳しいなお前)

『客観的判断だよ。予備戦までの力量じゃあ、ネジ君有利。回天を抜ける攻撃方法でもあれば別だけどね』

そうなんか。

それにしても、回天か。見たことないけど中忍レベルの術でも防ぎそうだなあ。








「開始!」







開始の掛け声と同時、キリハが距離を取る。

柔拳相手に接近戦は不利と判断したのだろう。まあ、当たり前の対応か。

手裏剣と取り出し複数、投擲する。だがネジは横、上から飛来する手裏剣を難なく避ける。

「・・・どうした、この程度か?四代目の娘」

「名前で呼んでくれる?あと判断決めるにはまだ早すぎるわよ?・・・運命馬鹿」

挑発の応酬。どちらも、相手の言葉にツボをつかれたようだ。

纏う雰囲気に、濁った感情が漂っている。


「今度は、こちらから行くぞ!」



ネジが距離を詰めようと、踏み出す。チャクラがこめられた足で踏み出すその速度は、中忍に匹敵するだろう。



キリハは後ろに下がりながら、迎撃のクナイを投擲する。



「甘い!」


だがネジは白眼でそれを見切り、手に持つクナイで払いのける。



「甘いのはそっち!」


キリハはネジが一定距離まで入り込む前に、印を組む。



「風遁・烈風掌!」



最後の印を組み、柏手を打つと同時、キリハの手から烈風が巻き起こる。

近距離まで間合いを詰めていたネジは、その風をまともに受け、吹き飛ばされた。


吹き飛ばされたネジ、後ろに転がりながらもその勢いで立ち上がり、キリハの方を見る。


「・・・成るほどな」


呟き、死角である筈の頭上から飛来する手裏剣を、無造作に弾いた。



「・・・やっぱり、死角からの攻撃も見えてるのね」



「俺が転がっている刹那に放ったのか。上手い手だが・・・言ったはずだぞ。俺の白眼に死角はないと」




ネジは構えなおし、またキリハに接近しようと走り出す。



だが先ほどと同じ、烈風が近づこうとするネジを吹き飛ばす。



「!?」

だが、そこからは先ほどと違う。キリハはネジを吹き飛ばした後、今度は手裏剣ではなく、クナイを放つ。

その直後、風遁・烈風掌を放つ。

複数のクナイは烈風の勢いに押され、通常とは倍する速度でネジに飛来する。

「くっ」

だが、そのクナイもネジの白眼によって捌かれた。だが完全に避けきる事はできなかったようだ。

ネジの頬にクナイがかすった後であろう、血が一滴浮かび上がる。





術の練度も、精度も、放つタイミングも完璧だ、とネジが唸る。

余程修行を積んだのだろう。2次試験の時より、かなり動きが鋭くなっている。

それに、今の術、風遁・烈風掌はネジの白眼をもってしても防げない。

点ではなく、面の攻撃だからだ。風を避ける事はできない。

キリハはネジの能力を見極め、戦術を選定したようだ。

クナイにも、緩急つけているので、ネジの方はタイミングが計りづらい様子。






キリハの力量を認めたネジの表情から、侮りの色が消えた。





新たに気を引き締めなおしたネジ。同じ突進を幾度か繰り返し、近接戦に持ち込もうとする。

だが、キリハには届かない。





隙のないキリハの戦法に、これでは埒があかないと判断したネジ。意を決した表情を浮かべ、また突進する。







正面から近づこうと踏み出すネジ。


だが、今度は烈風に弾き飛ばされなかった。


烈風が身を遅う直前、踏み込んで発動したのだ。


「回天!」


風をチャクラの膜と回転力で弾き、立ち止まる。一方、キリハは術の直後のため一瞬動きが止まっている。


「もらった!」


ネジが狙うのは、腕にある点穴。あの烈風掌の術を使えなくするためだ。


キリハは逃げきれないと判断したのか、左手を前にして防御の構えを取る。


好都合だ、とばかりに、ネジの白眼が強まる。そして、その指が点穴を捕らえたーーーー









「成るほど、ね」


わざとらしく前に出した左腕。チャンスに焦るネジ。普通ならば、速くて掴めないだろうその指。


誘導したのだ。全てはこの一手のために。


『肉を切らせて』







直後、キリハの右手が点穴を突いているネジの指を掴む。






「骨を断つ」









会場に、骨が折れる音が響いた。

「ぐあっ!?」

点穴は確かにキリハを捕らえた。だが、キリハは点穴を突かれた左手を囮に、右手でその指を掴み、そのまま折ったのだ。

そして痛みに仰け反るネジの足に、隠し持っていた千本を、投げる。機動力を殺ぐために。



だがネジも負けていなかった。



ネジは指を折られ、足に千本を受けた痛みに耐えたのだ。一歩踏み込み、キリハの腹目掛け、掌打を放つ。

「ぐうっ!?」

キリハはそれをかわしきれなかった。直撃ではなかったものの、脇腹に一撃を受けて仰け反る。

内臓へのダメージによる痛みを耐え、キリハはまた距離を取った。



相対する二人はにらみ合ったまま動かない。

「・・・大した戦術だ。俺はお前の掌の上で踊らされていたと言う訳か」

「指を掴むのは、正直分の悪い賭けだったけどね。練習でも半々だったし。それに、お腹に一撃受けたのも予想外だった」


キリハの唇から、一滴の血が垂れる。


「だが、これで決まりだ。点穴を突いた。もう、その術は使えまい。俺も折られた左手は使えんが、回天と残ったこの右手がある」

キリハの方は、内臓へのダメージもある。今まで通りの動きは無理だろう。

「この勝負は俺の勝ちだ。今のお前では俺に勝てない。これもまた、運命だ」

その一言に、キリハは反論する。



「・・・うるさい」




「何?」



「うるさいって言ってるの。運命がどうとか、ぴーちくぱーちく、やかましいのよ。運命?それがどうした。宿命?お呼びじゃないのよ」



キリハは口の中に残る血を、唾と一緒に横に吐き出す。


そして腰を落とし、構えを取る。


「私は、運命なんかを言い訳にしない。才能がどうとか関係ない」


ネジの目を真っ向から睨み付ける。


「諦めろと言われても、諦めない。いつだって全力で・・・自分の守りたいものの為に戦う。それが私の忍道だから」

構えた掌に、チャクラの渦が奔る。

現れたるは、螺旋の奔流。完成形に比べれば、規模、精度共に劣るがそれは螺旋丸だった。



「真っ向勝負よ、日向ネジ・・・逃げないでね?」



口の端に血を流しながらも、キリハは笑った。


そしてネジに向けて、一直線に走り出す。


ネジは腰を落とし、迎撃の構えを取る。




「いいだろう、受けて立つ・・・来い!波風キリハ!」



ネジの八卦掌回天。


キリハの螺旋丸。



二つの術がぶつかり合い、会場の大気が揺れる。


激突の余波で、周囲の地面から砂煙が舞い上がった。
















激突の後、煙の中にシルエットが浮かび上がった。





倒れている者が1人、立っている者が1人。





















やがて、煙は晴れる。


そこに、立っている者の姿が浮かび上がった。







ぼろぼろになりながらも、その親譲りの金の髪は、陽光に照らされ輝いていた。












「一試合目、勝者・波風キリハ!」











キリハは仰向けに倒れているネジの元へ近寄る。

「私の勝ちだね」

笑って言うキリハ。

「ああ。俺の負けだ」

負けたネジも笑っていた。

「まったく・・・これでは、父上にどやされるな」

晴れ晴れとした顔をする。まるで憑きものが落ちたかのように。

「・・・いいじゃない。怒ってくれる父がいるんだから。私にしたら、羨ましい限りだけどね」

キリハの返答にしまった、という顔をするネジ。

「あやまらなくていいよ?これはただの愚痴だし。あなたも、宗家と分家のしがらみとか色々あるんだろうけど・・・ま、取りあえず全力でやってみたら?」

キリハの言葉に、何故知っている?という顔をするネジ。

「そりゃあヒザシさんから聞いたからよ。ヒナタの家に遊びに行ったときにね・・・息子が分家の呪印のことで悩んでいてで困ってる、とか愚痴られたんだよ」

キリハは苦笑する。

「一回、腹を割って話し合ってみたら?まずはお互いに思うことをぶちまけて、さ。きっと、誤解している部分も多いと思うよ」

「・・・そうか、そうかもしれないな。俺も、変に意地になっていたのかもしれない」

「ヒザシさん曰く反抗期かな、らしいよ?」


その言葉に、ネジは反抗期か、と呟き苦笑する。



「じゃあね」

去ろうとするキリハの背に、ネジがちょっと待ってくれ、と声をかける。



「・・・最後に、ひとつだけ聞きたい」


「何?」



「波風キリハ、君の守りたいものとは?」





波風キリハは笑顔で答えた。






「かつて木の葉のために死んだ人と、今木の葉に生きている人。その全ての人の笑顔を」




そして、どこかにいるはずの兄、という言葉は風に消えたが。





「亡き父が望んだこと。そして今、自分の望んでいる事。これだけは、死んでも譲れないから」







そう言って立ち去るキリハの背中をみながら、ネジは空を見上げて呟いた。








「完全に、俺の負けだな」














負けを認めるネジ。

だがその目に宿る色は、見上げた空のように澄み切っていた。

















『うう、キリちゃん・・・立派になって』


「ええ話しや・・・」


マダオとナルト、二人とも号泣である。


『おぬしら、ハンカチ噛みながら泣くなよ。気持ち悪いぞ』


読唇術を発揮して、二人の会話を把握していた二人は男泣きしている。

相変わらず無駄に高スペックな二人である。


『それにしても、最後の一撃じゃが・・・あの未完成の螺旋丸、ネジの回天とやらを抜くには、威力が足りなかったように思うたが』

(あれ、見てなかったの?キューちゃん。俺らの体術の技術と併用しての一撃だったよ、あれ)

踏み込み、体重移動、そして掌打の回転。それが、未完成だった螺旋丸の威力を補ったのだ。

『まさか、予備選のあの試合で僅かながらも盗んで・・・しかも、この短期間で実用段階にまで持ってくるとはね。我が娘ながら才能が怖い』

まあキリハの才能、サスケ並っぽいし。いや、下手したらサスケを越えてるかも。

あっちには写輪眼あるし。

でも、あの体術見たろ?相当鍛錬しないと使えないと思うぞ。一朝一夕で何とかなるもんじゃないし。


『必死に修行したんだろうね』


・・・そういえば、修行中店にやってくる時はいつもぼろぼろだったなあ。

確かに、全力で挑んでたな。ああいうのは好きだな、俺。



『手、出すなよ』


だから一応妹だろ!まあ、今の試合みて、かっこかわいいなーとは思ったけど。

『・・・オレサマオマエマルカジリ?』


思っただけだよ!黒くなるなマダオ、怖いから。

『信じるよ?・・・あ、次の試合始まるみたいだね』


今の試合で、会場は良い具合にヒートアップした模様。


でも、次は確か・・・・







我愛羅 対 うちはサスケ











だがうちはサスケは現れなかった!

観客のテンションが下がる。



『『「空気読めよ」』』



3人で総つっこみ。だがサスケは来ない。カカシも来ない。

遅刻だ。ある意味忍者失格である。というか忍者以前に社会人失格である。人間失格である。




『・・・オレサマカカシマルカジリ』





マダオさん、是非やっちゃって下さい。機会があればの話しだけど。


ということで、遅刻者は待っていられない。


次である。










山中いの 対 テマリ












続く!






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十八話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 16:26
第3試合目。


山中いの 対 テマリ








「解説のマダオさん。この試合は?」

『遠距離なら圧倒的にテマリちゃん。あの風遁は上忍レベルに達しているといっても良いね。

そして近距離でも・・・ま、それは見てのお楽しみだね』












「始め!」











開始の言葉と同時である。






「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「なっ!?」


爆発したかと錯覚するような蹴り足。いのは一瞬で、テマリの懐に飛び込む。



「ッチイ!」

瞬時に反応したテマリは、カウンターの扇子を横薙ぎにする。

「ふっ!」

だがその迎撃を読んでいたいのは地面すれすれに伏せ、やり過ごす。


「ハアアッ!」

再び飛び込み、クナイでの一撃を繰り出す。

それをテマリは同じくクナイで受ける。鍔迫り合いに似た押し引きならぬ攻防が始まる。

これは、テマリが予選で見せた力に対抗するための、いのの戦術であった。

遠距離ではあの大扇子から放たれる風に吹き飛ばされる。

投擲武器も同じく。遠距離では圧倒的に不利となる。

だからこその、近接戦闘。開始直後に飛び込む。チャクラを込めた渾身の踏み込みで。

後は、離れなければ良い。後退する隙を与えず、心転身の術をたたき込めばいい。

だが、いのにとって予想外のことがあった。

(この女、近接戦闘もできるの!)

失念した、と舌を鳴らす。思えば、あの大扇子を操るテマリだ。純粋な腕力でも、相当なものを持っているのだろう。

(でも、引けない!)

彼我戦力差は明らかだ。いのは別に自分の事が強いだなんて思っていない。

キリハほどの才もない。この女のように、任務でつちえた経験も少ない。

(それでも!負けられない理由があんのよ!)

またクナイでテマリに打ち込む。それもまた防がれるが、テマリはその勢いに圧倒されていた。

「・・・お前・・・っ!」

「あの人を探しに行くのよ・・・!こんなところで、負けられるかぁっ!」

激昂する。だが、それは虚動。

『見せ』のクナイの一撃を囮に、いのは下段蹴りを放つ。

「グッ!?」

そこから上段の回し蹴りを放つ。

「木の葉旋風!」

テマリの顎先を狙った一撃。だが、それはテマリの扇子に防がれた。

「しまっ」

扇子が開く。

そこからは刹那の攻防。

テマリは、カマイタチの術でいのを吹き飛ばそうとする。

いのは至近距離でのカマイタチの術を受けてはたまらないと、止められた蹴り足を踏み台に、後方へと飛ぶ。

「はあっ!」

カマイタチの術が放たれる。離れたといえど、射程範囲内にいたいのは、身体の数カ所に傷を受けながら吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

そして空中で回転して着地。

「・・・」

「離れたな・・・はっ!」

テマリは扇子を構え、またカマイタチの術を放つ。


「くっ・・・」


いのはまた近接しようと試みるが、その術の威力を見て下がらざるをえなくなる。








『距離を取られた・・・こりゃ、決まったかな。時間がたてば経つほど、傷を負って血を流しているいのちゃんの方が不利になるし』


「いや、まだだろ。いのの目は死んでない」


『何かやるつもりじゃの』





近づこうとするいの。それを防ぎ、着実にダメージを与えていくテマリ。





開始から十分たった頃、いのの方はもう、ぼろぼろになっていた。





「どうした?・・・降参、しないのか?これ以上やると命の保証はできないぞ」

「・・・降参はしない。あの人に胸を張って会えなくなりそうだから」

「随分と私的な理由だな・・・お前も、探している人がいるのか。奇遇だな。私もだ」

「へえ、あんたも?参考までに聞くけど、どんな人?」

「まあ、お前が知っている訳もないが・・・金髪の癖毛で、マスクをしたでたらめな男だ。木連式柔とかいう体術を使う」

「・・・へ?」

「通りすがりのラーメン屋だとか何とか言いながらも・・・私が知る最も恐ろしい存在に、真っ向から立ち向かっていった男だ。何故か怒りながら、な」

「・・・・」

「化け物だろうが何だろうが関係ないと怒り、正面から立ち向かい、殴り飛ばす。あのでたらめな背中が忘れられなくてな。
この気持ちがなんなのかは分からないが・・・一度だけ会ってみたいと思った」

ま、見つからないがな、という諦めた風なテマリ。その姿を見て、いのはボルテージが最高潮に達する。






「・・・そう、所詮その程度の想いか。だったら無理ね。アンタには見つけられないわ」


「何?」


いのの一言に、テマリの眉がつり上がる。


「私も、諦めかけた。でも、忘れられなかった。忘れるには、諦めるには男がよすぎた」




思い返すは、あの人の背中。あの人の言動。・・・そして、あの人が殺した死体を見ながら、何かを呟いている時の、目。





「・・・・だったら!」




気迫の声と共に、全身をチャクラで活性化する。そして、地面にクナイを突き立てる。



「やれるだけやるだけじゃない!」



突き立てたクナイをスタート台にして、いのは疾走する。真っ正面から。





そして走り出したすぐ後、スタート台に使ってクナイについている、起爆札が爆発する。










『速い!』


「爆風を追い風にして・・・!」











「だが、甘い!」

テマリは焦らずカマイタチの術を放った。練りに練られた術。

始動から発動までのタイムラグはほとんどない。その突風が再びいのを捕らえた。






が、





「だからどうした!」



それに構わず、いのは叫びながら右手を突き出す。そこから放たれるは、失敗型の螺旋丸。キリハに教えてもらったが、修得できなかった術だ。


だが収束せず、拡散したチャクラの渦は、いの自身の腕を傷つけながらも目の前の突風を弾く役割を果たす。




傷つく腕を省みず、特攻する。そして加速した勢いのまま、跳躍。



「一点集中、一意専心・・・・・・貫く!」




足にチャクラが篭められる。速度と威力を一点に集中した跳び蹴り。


扇子を振り切った体勢であるテマリは、横にも後ろにも逃げられない。













「しまっ!「はあああああああああああああああああ!」














激突。

















カマイタチの術と失敗型螺旋丸、そして二人の激突の余波で、またも砂埃が立ち上がる。


そして先の試合と同じ、立っているのは1人だけだった。




























『・・・あと一歩、か』












審判から、試合終了の宣告がされる。









「3試合目、勝者・テマリ!」

















仰向けに倒れるいのと、横腹を押さえながらも立っているテマリ。

「・・・咄嗟に扇子を盾にするとはね」

「だが、衝撃は殺せなかった。肋骨を何本か持って行かれたよ」

「私も、無茶しすぎて足が折れたわよ・・いたた」

いのは片足で立ち上がり、痛そうに折れた足を動かす。

「・・・」


その言葉を聞いたテマリは、いのに肩を貸す。


「・・・何?何のつもり?」

「いや、ただ何となくだ・・・お前の言葉、随分と効いたしな」

自分の胸を指しながら、テマリは呟く。

「・・・へえ、じゃあ探し続ける気になったの?」

「まあな」

と笑うテマリ。その顔に、いのはしまったという顔になる。

(・・・ライバル誕生かも、ね。まあしょうがないか)

相変わらずの男前な思考で、いのは苦笑する。

「しかし、傷だらけの汗まみれだなお前。そんな姿で会ってどうするんだ?」

特に、失敗型螺旋丸を使った右腕がひどい。その姿に、テマリは呆れたような顔をする。

「それで私を疎ましく思う人じゃない。それにそんな人なら、こっちから願い下げよ。ま、絶対に違うと思うけどね」

「・・・なんか、無茶苦茶だなお前。でも、そうだな・・・そうかもな」

と虚空を見て何かを思い出すテマリ。そこに、いのの爆弾発言が。

「・・・あ、そうだ。私の探している人と、アンタの探している人、多分同一人物よ」



「・・・何?」




















『あ、肩からいのちゃん落ちたね』

急に立ち止まったテマリ。肩に捕まっていたいのがバランスを崩し、こける。

「向こうを向いているから、何を言っているのか分からんな」

試合中の言動も、カマイタチの術で立ち上がる砂埃のせいでよく分からなかったし。

こけたいのが、怪我をしているだろう足を押さえて転げ回っている。

「何か言い争いを始めたけど・・・」

そして少女二人は、ぎゃーぎゃーと出口付近で何かを言い合っている。


『あ、特別上忍の人に連れてかれたね』


見かねた特上の人が、二人を連れて行った。









「・・・何だったんだろ?」


『知るか』


「?」


何故か怒っているキューちゃんであった。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 十九話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 01:00


4試合目



油女シノ 対 カンクロウ


ですが、カンクロウ氏、






「俺は・・・棄権する!」




らしいです。めっちゃ怪しいですがな。ほら、横のテマリも怪しんでるし・・・?


『え、何で怪しんでるんだろ』


もしかして、木の葉崩しの事を知らされてない?



『分からないけど・・・どういう事だろう』


まあ、ここで考えても分からんか。

それよりも、次だ。


シカマルはシードなので、一回戦は試合がない。ということは・・・





我愛羅 対 うちはサスケ


出番が来たとたん、やってきました。木の葉を携えて。出待ちか、おうい。

でもあれ遅刻した人がやることじゃないよね。





『・・・』



もう言葉もないマダオさん。さて、そろそろ用意しときますか。






試合は、原作通りの展開。修行の成果を見せるサスケ。速さに翻弄され、守勢に回る我愛羅。




そして、場面は決定的なものに。壁に立つサスケと、砂玉子に引きこもる我愛羅の姿が。




(・・・ってここで覚醒するつもりか!?)


まさか、俺もまとめて此処で相手してヤルゥアー!とか思ってるんじゃ。




(流石にここでは相手できんぞ!)



焦る俺を尻目に、サスケ君が千鳥を放ちます。




(いけいけ、サスケ!ゴーゴー、サスケ!)



かつてない程にサスケ君を応援します。



千鳥、炸裂。破られる殻。そして、出てくる守鶴の腕。






飛び降りるテマリとバキとカンクロウ。


何やら、テマリがバキとカンクロウに言っているようだ。


(『どういうことだ』だって?テマリは知らんのか)



キバがなにがしか言い終えた後、我愛羅がテマリに連れられて試合会場から出て行く。


ということは、だ。








『来るよ』








「・・・イッツ・ア・ショウ・タイムってか?」














幻術。涅槃精舎の術。会場に白い羽が舞い踊る。





幻術に捕らえられた幾人かが、夢の中へと旅立っていく。




でも、俺には効かない。人柱力の特権だ。


キューちゃんと完全に共生しているので、幻術にかかってたとしても一瞬で元の状態に戻る。





(始まる、か)



3代目がいる展覧場から、煙幕が上がる。



その少し後、屋上へと飛び上がる火影と風影。それを追って、四人集も屋上へと辿り着く、






(そして、四紫炎陣で結界を・・・って、はあ!?)






四人集の顔ぶれを見て驚く。







「何で、ここに、君麻呂が来てんの?」






病気じゃなかったのか!ホネホネの実の能力者!





(・・・これも、考えても仕方ないか。イレギュラーばっかりだなクソ)



俺自体もイレギュラーか。まあ、これは仕方ないのかもしれないが、予測が外れるのは心臓に悪い。




それに、極めつけは・・・とクナイを懐から取り出す。





「甘い」






そして後ろから放たれる、クスリメガネの千本の一撃を弾く。







「・・・やっぱりね。君だったか」







『呟き、聞こえてたようだね』


(・・・流石に迂闊だったか!)


5秒前の自分を殴ってやりたい。





『・・・我愛羅追って、キリちゃん達いっちゃったね』


カカシとガイのいる方向を見る。下忍の幾人かが、試合会場から外へ、我愛羅を追って出て行った。



(サスケ、シノ・・・続いて、忍犬(名前忘れた)、キリハとサクラとシカマルか・・・でも、あいつらを追うその前に)


「まずはこのメガネを何とかするか」


構える。俺の後を追ってこられてもやっかいだ。


「この僕を前に、自信満々だね・・・時間がないし、君が何者か率直に聞くよ?」


メガネ君は、試合会場内で繰り広げられている修羅場を横目で見ながら、聞いてくる。


(ま、聞かれても答えないけど)



「大蛇丸様と互角にやりあったという・・・ロジャー・サスケの、手の者だね?」



「グホッ!」


思いも寄らない名前に、咳き込む。



『そんな反応したらダメだよ。知り合いだってバレバレじゃないか』


(いや、急だったから!ていうか真面目な顔して言われると、そんなもんいくらなんでも吹きだすわ!)


あー、といいながら、顔の前で手をパタパタと横に振る。



「・・・違うよ?」


「もの凄い白々しいよ?・・・それに、今一尾の人柱力の方を見ていたね。やはり、君は」



(やはり君は?)



「『暁』の手の者だね?」



「断じて違うわっ!あんな万国吃驚人間衆と一緒にすんな!不名誉な!」



『・・・ダウト』




(しまった!)





「万国吃驚人間衆、不名誉・・・」




とメガネ君は屋根の上の方を見る。俺も見る。蛇を見る。二人で見る。

そして思い出す。あの集団の面々を。








二人静かに、そして深く頷く。








「・・・まあ。・・・き、気を取り直して・・・『暁』の事を知ってるのは知っているんだね?」


咳をしながら、仕切り直しとメガネが真面目な顔をする。


「イエス!イエス!イエス!」



もう自棄だ。どうせ戦るしかないなら、早いほうがいい。これ以上時間取られると我愛羅を追っていった下忍達が危ない。


もう、こんなイレギュラーだらけの状態では、何が起こるか分からんし。


と、いうことで一刻も早く目の前のメガネ君を倒さなければならない。話しの途中で、俺は殴りかかる。



「くっ!」



だが、掌打はメガネ君の脇腹をかすめただけだった。




(ちっ、このメガネ慎重になってるな。もしかして、俺の事をを格上の相手と見ているのか?)



油断がない上に、守勢に回っている。それに、確かこいつは自動回復っぽい術を使っている筈。



(不味いな。かなり時間がかかりそうだ)



かといって、こんな場所できゅうびのチャクラは使えない。ここはまだ試合会場の中。いくらなんでも目立ちすぎてしまう。


螺旋丸も同じ。ばれますがな。





「今、一尾を奪わせるわけにもいかない。時間稼ぎをさせてもらうよ」



「誤解だっつーの!」



もう、言葉は意味をなさない。俺は叫びながら、メガネ君に殴りかかった。























~キリハside~




「パックン!サスケ君はどっちの方角へ行った?」


「あっちじゃ!」


スリーマンセル+1で、我愛羅って子を追いかけていったサスケ君を追いかける。


「絶対に、追いつく前に止めなきゃいけない。あれは、今の私達が策も無しに勝てる相手じゃない!」


先ほど、試合会場で見た禍々しい形をした砂の腕を思い出す。


「どういうこと、キリハ!何か知ってるの?」

「うん、サクラちゃん。あれ、きっと人柱力ってやつだと思う」


「・・・人柱力?」


初めて耳にする単語に、シカマル君とサクラちゃんが首を傾げる。


「・・・シカマル君。10年前、私達が生まれた頃に起きた、事件のこと知ってるでしょ?」


「当たり前だろ。九尾の妖狐が里を襲った事件だ・・・けど、それと何の関係が・・・」


とシカマル君の言動が止まる。人柱力という言葉と、今の私の言葉から色々と推測しているのだろう。


「・・・九尾の妖狐は父、四代目火影に封印されたって伝えられているよね?」

「キリハ殿!?それは「黙ってて」」

パックンの言葉を途中で遮る。

「敵を追っている今、伝えなくちゃいけない。・・・話すべき情報でしょう。敵の情報にもつながるんだから」

「・・・そう、いう、ことか。・・・ちっ!胸くそわりーな」


流石にシカマル君。今の言葉だけで答えに辿り着いた。・・・あまり、私も口に出したくないしね。


「人柱、そして、会場で見せたあの異形。・・・妖魔を宿した忍びってか。でも、何でキリハはその事を知ってるんだ?」

キリハが四代目の娘ってことだけじゃないだろう、と言外にシカマルは訪ねる。

「・・・兄が、ね」

「兄?初耳だぞ、キリハに兄がいたとか」

「・・・あの時、大蛇丸って人・・・『キリハのお兄さんは木の葉の暗部に殺された』っていってたよね」


サクラちゃんの口から出た新しい単語に、シカマル君が立ち止まる。そして、虚空を見上げたあと、何かに気づいたような表情を浮かべる。


「おいおいおいおいおい、まじかよ、くそっ・・・時々見せてた、キリハを見る親父達の目は・・・そういう訳か!」


珍しく激昂するシカマル君は叫びながら、地面を叩いた。


「シカマル君、きづいてたんだ・・・シカクさんの事とか」

「・・・何となく、だけどな・・・わりい。叫びたいのはむしろキリハの方だよな」

「ううん、ありがとう」

怒ってくれて、と私が笑いかけると、シカマル君は何故かそっぽを向いた。

(?どうしたんだろう、頬を赤く染めて)

「あー、話しを戻すと、だ」

ごほんと咳をするシカマル君。複雑な表情をしながらも、呆れた顔をしているサクラちゃん。


「いいよ。今考える事はあの我愛羅って子の事だから」

「・・・ああ。つまりは、だ。九尾ほどとは行かなくても、それに準ずる力を持ってるって訳だな。そりゃ勝てねーわ」

「と言うことはサスケ君見つけた後は一目散ね。でも、状況次第では仕掛ける事も頭に入れておいた方が良いんじゃない?」

「ほっとくわけにもいかんだろーしな。・・・と、その前に、だ」

「気づいておったか。追っ手がきとるぞ。後方に5、6人か。音か砂じゃな」

「次から次へと・・・」

頭を抱えるシカマル君。

「少なくとも中忍クラス。しかも音の忍びとなると、ここらの地形にも詳しいか・・・撒けないな、こりゃ」

「・・・と、いうことは待ち伏せは使えないわね」

「ああ。誰かが残って足止め、だろうな」

「私が「言うなって」」

抱えながらも、私の言葉を遮る。

「分かってんだろ?陽動に向いてるのが誰か、足止めできそうなのは誰か、試合をしていなくてチャクラがまだまだあるのは誰か」

「・・・」

「キリハ、お前が優しいのは分かるけどよ。今ここでのその判断は、優しさじゃねーぞ・・・ああ、泣きそうな顔するなって」

「・・・シカマル」

「サクラも。大丈夫だって。俺は臆病者だからよ。ちょっと足止めしたら直ぐに逃げっから。だからキリハとサスケの方頼むぞ」

「ええ」

「・・・うん」

「小僧・・・」

「じゃ、またな」

と3人で拳をこつんとぶつける。




そして、シカマル君は立ち止まり、地面に降り立って後方へと振り返る。私とサクラちゃんは木の枝の上で、サスケ君が居る前方の方向を見る。



私とサクラちゃんは、半身だけ振り返って、シカマル君へと声をかける。





「またね、だよ・・・絶対だよ?」

「ああ、絶対だ」

シカマル君は振り返らず、片手だけあげて答える。







「死なないでね、シカマル」

「死なねーよ。俺は、『死ぬ時には大勢の孫に囲まれながら』って決めてんだ」

そして、その手を横に振る。











「・・・行け。ここは任せろ」

「「うん」」















~シカマルside~





あー面倒くせーことになったな。胸くそ悪い事を聞いちまったし。


(俺、1人か)


援軍が期待できそうな、同班の面々を思い出す。


・・・いのは怪我、アスマとチョウジはその付き添い。恐らくは怪我したいのを守るために、会場に残ってる。


援軍は絶望的、と見ていいだろう。下手に援軍に期待しても危険だ。







(ここは、俺が何とかしなけりゃな)






仲間を守るために。






ったく柄じゃねーっての、と呟き頭をかく。でも、逃げる訳にもいかねえだろ、と気を引き締める。









(男が女に任せろ、って言ったんだからよ)







一試合目。キリハが日向ネジ相手に言った、あの言葉。あの言葉を、そしてあの笑顔を曇らせないためにも。






俺は頭をフル回転させ、『勝つ』方法を考え始めた。







(俺がここで死ぬわけにはいかねーよな・・・!)









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 00:16

~シカマルside~







「さて、どうするか」



手元の起爆札を見ながら、ひとりごちる。



1人も通す事はできない。キリハの方がどのような事態に陥っているのか。確認できない今、1人でもここを通すのは避けたい。




「影真似で動き止めて・・・相手諸共に自爆すれば一番速いんだけどな・・・」



結果だけ見れば、最善だろう。確実性も高く、後ろに音忍達を通さないを至上目的とすれば、このうえない手段だと思う。


「でも、泣くだろうな・・・」


この身は最早、木の葉の下忍。仲間を守れるならば、この命が惜しくあろう筈もない。


だが、あの金の幼なじみを泣かすのは、俺と言えど忍びない。


「でも、中忍が6人だしなあ・・・・・ん?」

ため息を付いているところ、向こうの方で煙り弾が上がるのが見える。

連絡用の煙玉。それに応じて、こっちも煙玉をあげる。






「・・・そうか。じゃあ、やってみるか」

目指すは最善。柄じゃないけど、約束を守るために、いっちょ意地を見せてみるか。










取りあえず、獣の足跡を偽装して、一定距離まで近寄る。


音の恐らく中忍だろう集団は、前方を意識しているので、影真似で捕らえるのは容易かった。

全員を捕らえた後、俺は敵の目の前に姿を現した。




「・・・これが、木の葉に伝わる影縛りの術か・・・くそっ、油断したぜ」

と零した中忍、その言葉が遺言となった。


捕まえる前、予め地面に仕込んでおいた起爆札。その爆風をを至近で受けた名前も知らない中忍は、そのまま物言わぬ肉塊へと変貌した。



「・・・貴様!」


「・・・へっ、流石に蛇オカマの手下だぜ。間が抜けてやがる」


俺が発したその言葉に、音忍達の空気が変わる。それはそうだろう。里長への侮辱は、彼らが最も怒るべき事だ。

殺気を剥き出しにして、こちらを睨み付けてくる。



(挑発は成功)




遺された5人の視線にも、俺は動じない。そんな余裕はない。

やがて、俺は手に持つ5つの手裏剣を放つ。



「・・・・!?」

だが、それは樹上から放たれたクナイに阻まれた。





「そこか」



同時、俺は影真似の術を解き、



「影縫いの術!」


影の棘を具現し、樹上の敵へとその棘を向かわす。だが、それは惜しくもかわされた。





「ふっ、甘い。これで終わりだな、影使い!」



「・・・・ああ、そうだな」



俺は、諦めたように肩をすくめる。中忍相手に、不意も討たず、じかもこれだけ距離が空いている。


捕らえられるとも思えない。手詰まり、だ。










「これで終わりだ!大蛇丸様を侮辱したこと、あの世で後悔するがいい!」






音忍が宣告する。遠距離から、攻撃するつもりだろう。大量のクナイと起爆札を取り出して、俺の方へと投げようとする。








だが、それは












「てめえがな!」












背後からの奇襲で遮られた。









牙通牙。獣人体術が奥義である。前方に集中した直後の、背後からの奇襲。


回避に遅れた中忍はその竜巻じみた一撃に吹き飛ばされ、倒れ伏した。


だが、取り出していた起爆札が地面に落ち、起動する。









「くっ!」





爆発から逃れるため、俺は後ろへと飛び下がる。同時、影真似の術が解かれ、残された4人の中忍達が動こうとする。


だが、爆発の範囲から遠ざかっていた1人が、急に血を吐き倒れ伏す。




その背後には、掌を突き出した日向ヒナタの姿があった。



「・・・柔拳」


背後からの渾身の柔拳。内臓まで浸透した一撃。

あれでもう動けまい。


(これで3対3)




俺が先ほどした挑発。冷静さを失わせる本来の挑発の意味とは別に、二つの意味があった。



一つ、全員をここに留まらせるため。1人でも、背後に通すことはできないからだ。

あの言葉を発した俺を殺すまで、音忍の誰1人として、俺らを無視してこの先に進もうとは思わないだろう。俺だけが目的という訳じゃないかもしれないから、予防線は張っておく。


二つ、俺へと意識を集中させ、背後からの奇襲への注意を逸らさせるため。

煙玉の意図は見えた。だが、ヒナタもキバも下忍である。技の威力は一撃必倒に近いが、奇襲でもなければ直撃させることは難しいだろう。

言葉も仕草も全部フェイク。見事、3対6では勝ち目が薄かったが、これならば何とか『勝つ』見込みが出てきた。





(でも、こいつらイルカ先生とかに比べると、弱いな。中忍でも下の方といったところか)



俺に追いつくまで時間がかかった事といい、何か非常事態でもあってか、または誰かの代わりとなる急な編成かもしれない。





(でも、俺らより地力が上なのは確か)



単純な速さ、力においては適わないだろう。奇襲が通じない今、ここからが本当の殺し合いとなる。



こちらに集まったキバ+赤丸と、ヒナタ。


小さい声で、作戦を話す。




(ありがとよ。話はいろいろあるけど、取りあえずこいつらを片づけてからだ)

(・・・ケッ、シカマルにしちゃあ随分と熱血してんじゃねーか・・・キリハになんか言われたか?)

(うるせーよ)

(クゥ~ン)

(二人とも、それも後で、じっくりとね。それで、どうするの?正直私達じゃあ、一対一でも分が悪いよ)

(取りあえずは・・・)


と横へと逃げる。そのふりをしながら、二人に作戦の概要を話す。

相手と距離を取ったこの状況なら、聞こえまい。


(・・・という作戦だ)

(成るほどな。確かに、それなら今の俺らでもできるな)

(でもその作戦、タイミングが肝だね。それに、私達は何とか大丈夫だと思うけど、シカマル君の方はいけるの?)

(・・・やるしかねえだろ。この状況じゃあ、めんどくせーとか言ってられないしな。じゃあ、いくぞ)

(クゥ~ン)


「散!」




皆がバラバラの方向へと逃げ出す。






それに応じて、向こうの方もばらける。


その対応は、予想していた。

そも、俺らは下忍だ。その中央に残らず、激戦区から外れた俺らを狙っている。

その理由を考えれば、すぐに分かった。

あいつは影真似の術を聞いていた風だった。ということは、狙いは奈良の秘術だろう。そして今は、犬塚の秘術か、日向の血継限界か。

大蛇丸の指示だろう。そこから、対応を考える。

俺らは連携しなれてない。ヒナタとキバなら別だが、あの二人で残りの中忍を相手できるとも思えない。

それに、相手に連携を取られたら、もうどうしようもない。ゆえに、一対一に持っていく必要があった。

(誰も逃がすつもりはないなら、散らばるか。問題は、ここからだ)

やがて、相手の1人に追いつかれた。キバの方も、ヒナタの方も、追いつかれた頃だろう。

懐にある一つの忍具を握りしめる。


(タイミングを間違えれば、全滅。でもやるしかねー)







~キバside~


「ちいっ、すばしっこい!」


「へっ、捕まるかよ!」


「ワン!」

クナイを避けつつ、反撃に移る。だが、相手の速度はこちらより少し上。

敏捷性ではこちらが少し上なので、捕まったりはしないが、こちらの攻撃もそうそう当たらないだろう。

(今は、機を伺う・・・!)

迂闊に攻撃に出て、失敗すれば死ぬ。それに、キリハ戦のような不様な失敗を二度犯すつもりはなかった。




(まだか、シカマル!)







~ヒナタside~



(速い・・・!)

相手のクナイを白眼で見切り、避ける。

その速度、精度は、流石に中忍といったもので、避けるだけで精一杯だった。

軌道を見切る事はできるが、それを捌くのは自分の腕。柔拳を当てる以上、近寄る必要があるが、近づけばそれだけクナイの対応も難しくなる。

これ以上近寄れなかった。

(でも、シカマル君の予想は当たっていたね。生け捕りが目的なのか、大きい術を使ってこない)

そこを突く。シカマル君の分析も判断も、信頼に足る内容だった。間違いはないだろう。

だから、私は私の役割をする。1人でも欠ければ、この作戦は失敗する。ならば、ここは時間まで生き残る事を優先する。

(仲間を守るため)

あの人が残していった言葉にならって。私はここで退くわけにはいかない。

(キリハちゃんにも、いのちゃんにも、サクラちゃんにも。ここで失敗したら、顔向けできないもの)

生の殺気に当てられても、もう身が竦むこともない。桃さんにもらった言葉を反芻し、私は私を保つ。



「くっ、埒があかんな・・・はっ!」



音忍が瞬身の術を使う。そして、私の背後へと回り込む。


(甘い、見えてる!)


その背後から繰り出された一撃を、私は目で捕らえて避けきる。





「外したか・・・だが、もう見切った。お前に勝ち目はあるまい。所詮は平和ボケした木の葉の里の下忍。はなからお前等に勝ち目などないのだ」


得意げに語る中忍。だが、私はそれを無視する。



「だからどうした、と言わせてもらうよ。そっちが有利だろうが、私達が下忍だろうが、死ぬ理由にはならない。

第一、もう3人もやられてるのに、どの口でそれを言うの?・・・それに、能書きが長いわよ障害物。

こっちも約束してる事があるのよ」


「何ィ?」

ギリギリと歯ぎしりする中忍を睨み付け、横の木に柔拳を打ちつながら宣告する。


「往く道がある。それをふさぐ壁は、叩いて壊す。邪魔する障害物も、叩いて壊す。この目と掌を持ってね」


「・・・小娘が!」


「だからどうした!」


挑発に乗って近接戦を挑んでくる。その一撃を捌き、柔拳を叩き込む---


「甘い!」


防御の腕を掲げる中忍。


(そっちがね!)


---だが、柔拳は虚動。警戒されている柔拳を囮として、側面に回る。だが、相手も反応に遅れながらも、こちらの方向を向く。

そこで柔拳を放とうとするが、反応した中忍はその腕を掴もうとしてきた。

(触るな!)

だが、それも虚動。伸ばそうとした腕を即座に折りたたみ、肘の一撃を横腹の急所に決める。


「ぐうっ!?」


直撃。先ほどの言動を囮とした、一撃。

そして、即座に後退する。近接戦の速度で言えば、向こうの方が若干上だろう。そう分析しての判断だった。

近接距離で長居しすぎるのは危ない。無理に、ここで倒す必要はない。




機は既に用意されている。






そう思った直後、爆発音が辺りに響きわたる。




(合図!)


空へと昇る煙を確認して、その場所へと向かう。


「くっ、待て!」
















開けた場所で、シカマルが膝を突いている。相対する中忍は、無傷だった。


「苦し紛れの起爆札、か。だが、無駄だったな。もう万策尽きただろう。諦めろ」


おとなしくすれば、命までは取らない、と言う言葉を無視して、シカマルは静かに距離を取ろうとする。

だが、足がもう動かなかった。


「お仲間も、こちらの方向へと逃げてきているようだな」


その言葉を聞き、シカマルは気配を探る。確かに、ヒナタとキバは中忍どもに追われてこっちに逃げてきているようだ。


「動くな。動けば殺すぞ」


とクナイを構える中忍。既に、シカマルは満身創痍。あちこちにクナイが突き刺さり、血を流していた。


「ああ、動かないよ・・・」


そこに、キバとヒナタ、追って中忍がやってくる。





開けた場所、集まった6人。







「俺はね」






そこに、空から玉が降ってきた。







同時、光が当たりに爆発する。









「くっ光玉か!」






目を庇う中忍。



「だが、これだけでは・・・」





そこで、言葉が止まる。






「・・・何故身体が動かない!?」






そこには、放射状に広がる影があった。




中心に、シカマルの影。そして、伸びた影の先には、3人の中忍の影があった。



シカマルはめんどうくさそうにため息をつき、そこにいる全ての者に、言った。








「王手だ」



















倒れた中忍の横で、3人と一匹は安堵のため息をついていた。

「よくやったな、赤丸!」

「ワンワン!」

キバに頭を撫でられる赤丸を見て、シカマルは苦笑する。

「ほんと、ありがとよ。光玉投げ込むタイミングも、完璧だったぜ」

こちらに意識を集中させる。そこで、木に登って隠れていた赤丸が光玉を投げ込む。

開けた場所で光玉を炸裂させる。そして、その瞬間伸びた影で、シカマルが相手の影を捕まえる。

単純な作戦だったが、上手くいった。ギリギリだったが。

「相手が油断してたのも大きいね」

油断させた所を、ドカンである。何より、赤丸への注意をそらす必要もあった。

問題点は、一対一で時間稼ぎできるかということだが、何とか乗り切れた。

「あー、でももう2度としたくねーな」

増血丸を飲み込みながら、シカマルはへたりこむ。






そしてキリハが向かった先の方角を睨み、ひとり呟いた。


(約束は守ったぞ、キリハ。ちゃんと戻ってこいよ・・・)








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十一話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/11 16:28

 目覚めよ、と呼ぶ麺あり。




        ~小池メンマのラーメン日誌、序の前 「始まりはいつもスープ」より抜粋


















走り続けて数分。ようやく、キリハ達はサスケに追いついた。でも、





「ガアアアアアアッ!」





そこには、暴れ回る我愛羅の姿もあった。異形を剥き出しにして暴れ回る我愛羅に、サスケは苦戦しているようだ。




「キリハと、サクラ!?」




そこに、二人は割り込んだ。勢いをつけた蹴りで、我愛羅を吹き飛ばす。





そこからは乱戦となった。3人は連携を駆使して幾度か攻撃をするが、尋常じゃない速度で飛び回る我愛羅を捕らえきれない。

仮に攻撃が当たったとしても、その堅い砂の壁に阻まれて、ダメージを与えることができない。

それに、回避にも気を配る必要があった。あの砂に一度でも掴まれたら、そこで終わりになるからだ。

「くそっ、こいつのチャクラは無尽蔵か?それに、何だこのチャクラの質は・・・」

「・・・サスケ君、ここは分が悪いよ。一端退こう」

「・・・断る。それに、退いたとしても追ってくるぞ、コイツは」

サスケの言葉を聞いて、キリハが呻く。確かに、今背を向けたら追ってくるだろう。この速度からいって、逃げ切れるとも思えない。

何とか、隙を見て逃げ出すしかないのだが。


「ギャハハハア!その程度かァ!?」

「くそっ、化け物が・・・!?」


サスケ君が忌々しげに呟いたと同時だった。




辺りに響く炸裂音。同時、我愛羅から、幾本もの砂の槍がこちらに向かってくる。



「っ!?」


突き出された砂の槍。それを、三人とも何とか避けきった。


「何て威力・・・!?」


だが、その威力に戦慄する。後ろにあった巨木に大穴が空いている。

あれが直撃すれば、身体にも風穴が空くことだろう。

そのまえに、何とかしなければならない。

「キリハ!サクラ!連携の五だ!」

サスケが二人に告げる。同時に、手で合図をする。





直後、サスケが我愛羅との距離をある程度詰める。

中距離で攻撃を繰り返し、我愛羅の攻撃も避ける。写輪眼を持つサスケが相応しい役どころだ。


「サスケ君!」


そして、掛け声と同時に、サクラが我愛羅に向かって光玉を投げる。

視界を眩まされた我愛羅。その動きが、一瞬だが止まる。


「そこ!」

「もらった!」


その隙を狙い、全員でクナイを投げつける。


「ソンナモノハキカネエ・・・!?」


直後、突き刺さったクナイに付けられた起爆札が爆発。


我愛羅が吹き飛んだ。




「爆発は防げても、衝撃は防げないでしょう・・・!」


「ひとまず、退くわよ!」



煙の向こうに消えた我愛羅を確認し、下がる三人。




「ああ、・・・っサクラ!上だ!」

サスケが叫んだ。





「オソイゾォ!」



サクラは、サスケの言葉に反応して、上を見上げる。



だが間に合わない。我愛羅は膨れあがった腕を振り上げ、サクラの脳天めがけ、降りおろす。




間合いと腕の速度を認識した瞬間、サクラは硬直した。避けようにも間に合わないと悟って。






我愛羅から伸びる、その振り上げられた巨腕が、サクラに叩きつけられる----





「キャッ!?」


「コレハッ!?」





寸前に、我愛羅とサクラは横から吹く風で吹き飛んだ。





「あなたは、砂隠れの!?」


いのと試合をしていた、テマリ。見れば、その姿はぼろぼろだった。



「・・・勘違いするな、お前等を助けた訳じゃない・・・っ!」



痛そうに、脇腹を押さえる。先ほどの試合で痛めた箇所だった。




「・・・我愛羅!もう止めろ!それ以上暴れると、元に戻れなくなるぞ!」



テマリが、我愛羅へ向かって必死に叫ぶ。



「ウルサイ!黙れ!今更なんのようだ!俺はもう戻れなくてもいい!強い奴をこの手で殺せれば、それで良い!」


化け物とは違った語感。化け物と混ざっていない、素の我愛羅が言っているのだろう。


「生きている実感を感じられれば、何でも良い!どうせ、お前も俺の事を化け物だと思っているのだろう!」

「違う!」

「口では何とでも言えるな!暗殺されようとした時も、姉さんは何も言ってはくれなかった!怖いんだろう、俺が、化け物だから。死ねば良いとでも思っていたんだろう」

「違う!確かに私には何もできなかったけど、そんなことは思っていない」

「は、どうだか!あの時の事を忘れたのか!?あの夜、里の少女と一緒に姉さんを殺そうとした俺を・・・憎んでいるんだろう!」

「何度も違うと言っただろう、我愛羅!話しを聞いてくれ!」

「ウルサイ!どうせ、俺は化け物だ!化け物には相応しい生き方がある!化け物の俺が、姉弟とは言ってもお前達と一緒にいれるものか」

拒絶の言葉と同時、我愛羅は術を発動する。





風遁・無限砂塵・大突破





「きゃあっ!?」

「くっ!」

「くそっ!」



二人の剣幕に硬直していたキリハとサスケ。そして、近くにいたテマリ。我愛羅と近い距離にいた、3人が吹き飛ばされ、その勢いのまま木へと叩きつけられた。



「・・・・・ッ!」


激突した衝撃に、呼吸が出来なくなる。

痛みに、全身が硬直する。








風に飛ばされて遠ざかっていたサクラが戻ってきた。そこでみた光景は、


禍々しい黒が所々に入っている、砂の塊だった。


「・・・クタバレェ!」







キリハとサスケの方向へ向け、今正に放たれんとする、砂の槍。

しかも、さっきより巨大な塊となっている。


「危ない!」

サクラが叫ぶ、2人は反応する。


サスケは反応できたようだ。回避体勢に入っている。あれならば避けられるだろう。


だが、キリハの方は違った。

先の試合で内臓を痛めているせいか、動けない。痛みにまだ硬直している。






サクラはキリハに向けて手を伸ばすが、届かない。離された距離は、あまりにも遠かった。


サスケも無理だった。避けるので精一杯。迫り来るキリハの窮地に、気づいた時は遅かった。




「キリハァ!」

「キリハ!」




~キリハside~



(あ、これ死んだかな)

どこか人ごとのように、心中で呟く。

動こうにも身体は動いてくれない。知らず、口からは血が零れていた。木に激突した衝撃で、痛めていた内臓のダメージが更に広がったみたいだ。

鈍い、だが大質量の痛みが全身を硬直させる。



世界が遅くなったかのよう。ゆっくりと、私に向けて、砂の槍が近づいてくる。






でも、目は閉じない。死ぬその時までは。





(ゴメン、シカマル君。約束、果たせそうにない)

ここにいない、先ほど約束した幼なじみに謝る。

ぶっきらぼうでも、優しいシカマル君のことだから、私が死んだらきっと泣くんだろうなあ。それに、律儀だから約束は守ってくれてるんだろうなあ。

心の中でもう一度謝り、もう一つの未練ごとを呟いた。





(・・・せめて、兄さんに一度でもいいから会いたかったなあ)



一度で良いから、会いたかったのに。その呟きも適わない事となる。



















そう、思っていた。

















































「そこまでだ!」






























どこかで聞いた、誰かの声が私の身を包むまでは。





眼前で、爆裂する衝撃。











そこで、私の意識は途絶えた。




~~~






キリハを襲う砂の槍。それを、螺旋丸で砕いた後、安堵のため息をつく。



(・・・・間に合った!)



危なかった。しつこすぎるクスリメガネに、時間を掛けすぎた。



肩で息をしながら、我愛羅を睨み付ける。





『間一髪だったね』



気配を探る。道中みつけた、シカマル、ヒナタ、キバの気配。


シノはシビさんが回収しているのを、気配で確認した。カンクロウは砂の中忍が回収していった。



そして、今ここにいる、サクラ、サスケ・・・そして、キリハ。



テマリも、いた。






(全員、生きているか)




それを確認した後、サスケとサクラに向けて、伝える。



「キリハを頼むぞ、うちは、春野」


影分身が、キリハを担いでサスケの元へと運ぶ。



「・・・キリハを助けてくれた事は感謝する。だが、てめえ、何者だ?」


「今は名乗る名は持ち合わせていない。時機がくれば、必ず話すよ。だが、今優先すべきはその部分じゃない」

「・・・ちっ」

「すいません、足止めを頼みます・・・!」


サスケがキリハを担いで、後方へと下がっていく。


「ああ、任された」




背を向ける。サクラはそれを確認したあと、サスケについて下がろうとする。



そこに、安心させる一言をつけ加える。この少年、少女が、後ろを、俺の無事を気にしないように。




「・・・だが別に、倒してしまっても構わんのだろう?」



その言葉に、背後の二人がきょとんとする気配を感じた。




















『行ったね』

「ああ。後は、こいつをどうにかする必要がある」

テマリは影分身を使って避難させた。ここから先の戦闘、近くにいれば確実に巻き添えとなる。

誇張ではなく、四方半里にいて無事にすむとは思えない。


「で、何笑ってるんだ?」

心底可笑しそうに、我愛羅は腹を抑えて笑い転げている。

「・・・ッハハハハァ!倒すだと?よりにもよって、この俺を倒すだと!?」


直後、空気が変わった。我愛羅が、更なる変質を遂げる。



「・・・ヤッテミロォォォォォォォォォォォ!」





雄叫びに似た声。





『・・・・完全に覚醒したか・・・・!』



キューちゃんの叫びが木霊する。見上げる程に大きくなった、眼前の敵。それを前にして、俺は叫ぶ。







「それがどうした!」






跳躍し、辺りでも一際高い丘へ立つ。




見上げる程に高い巨体が名乗る。





『・・・・・ワガナは尾獣ガ一尾、守鶴!ワレにアラガオウトスル、オロカシイニンゲンヨ!イチオウ、名ヲキイテオコウカ!』




「応!」







呼び声に答え、きゅうびのチャクラを放つ。



全身に、凶暴なチャクラの奔流が流れ込んだ。以前対峙した時とは違う、正真正銘の全力全開だ。









「俺の名はうずまきナルトォ!麺を追い求めるラーメン探偵!あとついでに九尾の人柱力!」












チャクラの勢いそのままに。世界よ震え、といわんばかりに全力で震脚。

開幕のベルを鳴らす。







「いいか守鶴!よく聞け、我愛羅!お前の選択は、二つに一つ!

 一、ラーメン食ってぶっとばされるか、二、ぶっとばされてラーメン食うかだ!」







異端とされる者が二人。ここに、舞台は整った。





「加え、我が友の意志を汲んで!そして、遠い昔に去った、亡き少年の代役となって!」










だから、開幕の口上を告げよう。










「麺の意志の名の元に!今からお前をぶっとばす!」












直後、世界が激震した。















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十二話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/05 22:10



狸さんの返答は、風遁・練空弾の術でした。


「危ねえ!?」



迫り来る巨大な風の砲弾。足をチャクラで強化して速度を上げ、何とか避ける。



「・・・あ、そう!回答は2だな!?それでいいんだな!?」


「フザゲルナアアアァァァ!」



「ふざけてんのは手前の方だろうが!」





激昂した守鶴が、砂を操って捕らえようとしてくる。




「・・・派手にいきますよっと!」





集まってきた砂を、四方八方にばらまいた起爆札付き手裏剣を放つ





爆発。



念入りに仕込んだ起爆札だ。その威力は、通常のものとは比較にならない。




「アマイワァ!」



と、今度は超巨大な砂の槍が、地面から隆起する。






「大玉・螺旋丸!」



迫り来る砂の暴流を、螺旋丸で打ち砕く。



「どうしたあ!?デカブツ!てめえの方こそこんなもんかあ!?」




~サスケside~



走り続けて、数分。あの化け物から、大分離れることができた。

後方から聞こえた地鳴り、あいつがいる方向だ。

振り返ると、巨大な化け物の姿と。



「あいつは・・・」


丘の上に悠然と立ち、巨大な化け物を真っ向から睨み付ける、金髪の忍の姿があった。

「誰だ・・・?」

呟きながらも、足は止めない。なにやら、嫌な予感がするからだ。



さらに走り続けて数分。


「サスケ!」

「・・・キバか。それに、シカマルとヒナタも」

肩に担いだキリハをそっと地面に降ろし、膝をつく。

「サスケ、キリハは気絶しているだけか?怪我は?」

「ああ、衝撃と痛みで気絶しているだけだ。命に別状は無いと思うが、一応、医療忍者に見せた方がいい」

「ああ、で、あれは何だ?」

「あの化け物は・・・恐らく我愛羅だ。砂を纏っているからな」

「・・・あの、戦っている人は?」

「・・・分からねえ。名前を聞いても名乗らなかった・・・!?」



地鳴りが、辺りに響き渡る。遠くで、木が吹き飛ぶのが見えた。


あれは、風の砲弾だろうか。



「何て戦いをしやがる、まるで嵐だぜ・・・!」

「・・・今は退くぞ。俺等がここにいても、あの化け物相手に出来ることなんかねえ」






~キューちゃんside~



『・・・・』

覚醒した尾獣を前に吠える馬鹿をみて、戦う馬鹿を見て、考える。


(何のために?こいつは何のためにこのような強敵と戦うのだろう)


人の身で戦うならば、守鶴は強敵だ。ワシら尾獣のような巨大な体躯を持たないのであれば、あの砂の攻撃は厄介も極まるだろうに。

返答はこうだった。



「これは、俺の戦いだからさ。それに、キューちゃんにはチャクラ借りてるし、それで十分だよ」



違うだろう。ワシは覚えている。

俺は強くなんてない、力があるから強い、なんてのは違うと思う、と零していたこいつの背中を。

力はあっても、殺し合いは怖いらしい。



「それに、ある人曰くだけど、力はすぐに裏切るから」



それは、確かにそうかもしれない。



一瞬の油断で、生と死が入れ替わる。どれだけ鍛えても、その力で人の心を動かせようもない。

力は万能ではなく、逆に巨大過ぎる力を持てば、人に疎まれる事もある。




ならば、何故鍛える。何故、力を持とうとする。そう問うた。




「力は所詮、手段に過ぎないよ。これみよがしに振るわなければ、逆に持っていた方がいい類のものだと思う。

・・・俺のような境遇だと、特にね。それに、話しを聞こうとしないきかん坊には、必要なものだから・・・悲しい事だけどね」




力が欲しいのではなく、必要だから、と言う程度。だから、人柱力についても役割程度で、どうでもいいと言う。

大事なものは其処にはないといった風に。




何故お主が、守鶴と戦う。そんな義理はないだろうにと、そう問うた。


「うーん、義理ならあるよ。ある程度はね。でも、それだけじゃない」


何?


「気にくわないんだ。親が息子を兵器にしようとするのも、不安定だから殺そうとするのも、怯えた子供が力に縋り付いたままなのも

・・・人柱力の運命とやらをそのまま体現してる境遇、そして、あの目も。それを利用しようとする、砂隠れの里の意志も、何もかも」


同情か?


「俺の勝手な我が儘。そして俺としての意地だね。だから、痛みも何もかも、俺が引き受けるから。そいつが責任ってやつだよ」


正気か?ワシは九尾だぞ。最強の妖魔だぞ?


「今は、キューちゃんだね」


その言葉に、確信した。



こいつは馬鹿だ。しかも、底なしの。ワシを九尾として見ていないのだ。


いや、九尾としても見ているのだろう。だが、それはおまけで、本質的にはただ1人の個として、見ている。


それを理解した時、世界が逆転したかのような錯覚に陥った。


陰のチャクラが封印された今。

ワタシを個と扱い、個として接する馬鹿を、どうして殺せる筈もあろうか。

それに、一緒にいても面白い。


偽善を振りかざす訳でもなく、運命など知ったことかと自分のしたい事をする。

それがラーメンなのだろう。人にはそれぞれ誇るべきものがあると聞いた。大切なものがあると聞いた。

こいつにとっては、ラーメンと、ラーメンによってもたらされる笑顔が、何よりも大切なのだろう。


(なるほど、『九尾の人柱力』はついでだな)


苦笑する。


こいつは『うずまきナルト』であって。


そしてどこまでも『小池メンマ』であろうとするのだ。


ならば、自分は応援するしかあるまい。



長い間一緒にすごしてきた、1人の友として。






そして、意地を通そうとする馬鹿な男の背を、押す。





ただ1人の女として。






~~~~






「来た」


呟く。


風の砲弾と、砂の槍を避け続けて数分。


ついに、使ってきた。


守鶴が使う攻撃方法で、口寄せを使わない今の自分にとって、最も恐ろしいものは何か。



それは、練空弾でもなく、砂の槍でもなく。



「まるで津波だな・・・!」


秘術・流砂瀑流だ。


津波のような砂が、俺を押しつぶそうとしてくる。


避けようにも、範囲が広すぎて無理。


螺旋丸だけでは、効果範囲が狭すぎて足りない。特製の起爆札でも、砂の津波の大質量では、威力が足りない。


だからこその新術だ。


だが、途轍もない大質量の砂の波が迫るのを見て、内側から本能的な恐怖がこみあげる。






だが、その恐怖は内側から発せられた、キューちゃんの一言でかき消された。



『ナルトよ!メンマよ!・・・人としてのその身、宿る意地を通そうというのなら、ただ押し通せ!』



叫ぶ。キューちゃんが叫ぶ。



『馬鹿は、馬鹿らしく!一発、ガツンと、蹴散らしてやれえ!』



キューちゃんの声。その中に篭められた気持ちを受け取ると、身体の震えは止まった。

それは、歓喜。見てくれている。1人の女性が、見てくれている。


なら、格好つけるしかないよなあ!




『手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に、だよ』


マダオはマダオらしく、的確なアドバイスをくれる。


巫山戯ては居ても、締めるところは締めるマダオ。あんがとよ。









「応!」






身体が動く。心が熱くなる。だが、頭は冷静に。

ただ成すべき事を成すと、馬鹿の最善を、馬鹿の意地をここから貫き、押し通す!







言葉と同時に、影分身を使う。

4体の影分身が、本体の俺の前方に出て、一点に手を向ける。




「「「「アイン!」」」」




俺の前方に、大玉の螺旋丸を作り出し、留める。密度は普通より若干薄め。





「ツヴァイ!」



そこに、本体である俺が、突っ込む。両手に、超大玉かつ超高密度の螺旋丸を携えて。




「「「「「ドライ!」」」」」






5人の螺旋を一つに合わせ。


指向性を前方に。五重に重ねられた螺旋の大玉が、世界を引き裂かんとばかりに荒れ狂う。





「麺・元・突・破!」






だが俺は、手が傷つくのも構わず、その反発する螺旋の巨塊を!



助走の勢いのまま、前方へと押して押して、押し通す!






「螺旋砲弾!」







天をも貫く螺旋の瀑龍が、目の前にある全ての障害物を吹き飛ばした。


























守鶴が砂の津波を被せ、これならば逃げられまいと嗤った直後だった。


本能が危険を感じ取ったのか、守鶴が両腕を前に突き出した。




「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!?」



だが、津波の向こうから発せられた風の暴流は、天を覆う砂の津波を吹き飛ばし、前に出された、山ほどにある巨大な砂の腕をも貫いた。



そして、守鶴がその風余波を受けて、倒れる。




「おらあああああああああ!」



砂煙の向こうから、馬鹿が突っ込んだ。


助走を付けて、影分身を踏み台にして、大跳躍。守鶴の所に向けて、愚直なまでの一直線。




「ツブレロ!」



空中にいる馬鹿を潰そうと、前方を覆い、そして死角である背後から砂の塊を放つ。


だが、その砂の塊も届かない。







「派手にいきますよっとぉ!」



後方にある砂は全て、馬鹿が大量にばらまいた起爆札に吹き飛ばされた。


そして前方の砂は、莫大な量のチャクラが篭められた、ただの掌打に吹き飛ばされる。




そして馬鹿は、起爆札の爆風を背に受けた勢いのまま、着地後も転がり、勢いを殺さないように疾走を始める。



倒れた守鶴の上を全力で疾走し、ただ一直線に我愛羅の所へと向かう。





「だらっしゃああああああああああああああああ!」



「ハヤイ!?」




捕まえようにも、砂が追いつかない。

前に展開した砂は、そのことごとくが逸らされ、打ち砕かれ、届かない。


止まらない。止められない。


そう悟った守鶴は、即座に憑代である我愛羅の前に砂の壁を展開する。


だが、突進は止まらない。


「それがどうしたあああああああぁぁぁぁ!」



走る勢いのまま繰り出されたラリアットは、その砂の壁をも打ち砕いて。




「目え覚ませえええええええええぇぇぇぇ!」





本体である我愛羅をぶっとばした。

















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十三話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 01:45

「俺の勝ちだな」


「ああ・・・俺の負けだ」


目の前には、仰向けに倒れる我愛羅の姿が。でも、どこか清々しそうだった。

「夢うつつに見ていたが・・・無茶苦茶だな、貴様」

我愛羅のあきれた顔に、まーね、と笑ってやる。

が、全身を駆けめぐる痛みに、笑みが崩れた。

「あいてててて」

胡座をかいて、我愛羅の横に座りこむ。

全身がぼろぼろ。経絡系も痛いし、筋肉痛で全身が痛い。

足も痛いし、爆風を受けて焼け焦げた背中も痛い。その痛みのせいで、いつの間にか変化は解けていた。


「それが、貴様の本当の姿か」

「ああ、驚いたろ」

にしし、と笑う。

「どうして・・・」

「ん?」

「どうして、お前はそんな風に笑える?九尾の人柱力といったな。お前も、化け物なんだろう?そういう扱いを、受けた事があるはずだ

なのに、どうしてお前は笑う?・・・どうして、あんなにも、真っ直ぐに怒れる。どうして、そんなに強い」

「強くなんかねえよ。ただ、決めているだけだ・・・上手く言葉にできないが、あー、そうだ、ある人の言葉を借りることになるが」

唸りながら、未来という名の少女の言葉を思い出す。


「尾獣がどうか、知らねえ。運命がどうとか、わかんねえ。人柱力がどうとか、聞いてねえ」


驚きの表情を浮かべる我愛羅。

「ただ俺は俺の望む道を往く。押しつけられた役割なんてまっぴらだ。俺は俺の好きな道を行って、そこで楽しんで笑ってやる」

「・・・・はっ」

その言葉を聞いて、我愛羅は可笑しそうに笑う。


「俺には夢がある。俺が作ったラーメンで、誰かを幸せな気持ちにする。いつか、それで争いをなくすようにする。心を満たす。

心を満たせば、いずれ争いなんか無くなると思うから。そのための、究極のラーメンを作ること。それが、俺の、麺道だ」


親指を立てて、笑う。


「・・・変な奴だな。争いを収める力があるのに、回りくどいことを。

 その理想を叶えるために、持っている人柱力の力を使おうとは思わないのか?」

馬鹿を見る目で、我愛羅は訪ねてくる。

・・・そんな目で人を見るな。

「変わっているのは悪いことじゃないぜ。そう、俺が信じているから。だから、俺はその選択肢を選ぶ。それ以外に何が必要なんだ?

 それに、争いを収める力なんて無い。誰かを傷つける正義なんてねえよ。力で押さえつけても無駄だ。力は反発しあうもんだからな。

 力に生きるものの末路は決まっているさ。ずっと昔から、変わらない。剣に生きる者は、いずれ剣によって死ぬ。

 ・・・最後には、全部無くなるだけだ。何もかもな」


人、それを『不毛』と呼ぶ・・・何てな。

そう呟くと、我愛羅は苦笑する。


「だから、力を隠し続けるのか。お前のいう、夢のラーメンを追い続けるのか」

「ああ・・・木の葉隠れの里の人の中にある、九尾への憎しみの心が消えるまでな」

「・・・だが、いずれ見つかるかもしれない。力を隠し続けて、正体を隠して逃げ続けて、その果てに見つかって殺されたらどうする?」

「全力で抵抗する。それでも死んだら、仕方ないさ。最後まで、自分の生き方に関しては嘘はつかなかったと、胸を張って・・・あの世で誇るさ」


立ち上がり、我愛羅に背を向ける。


「・・・俺を殺さないでいいのか」

「回答の2を選んだんだろ・・・ということで、ぶっとばしたからその後だ。今度、ラーメン食べにこい」

店の場所を示したメモを手渡す。

「ラーメン屋台『九頭竜』。そこの店主が俺だ。誰にもいうなよ。1人で来いよ。絶対だぞ。言ったら逃げるからな。鶏のように」

「・・・ああ」

苦笑する我愛羅を確認し、背を向ける。



指を一本立て、訪ねる。

「ひとつだけ。今度くる時に、教えてくれ。お前が今後どうするのかを」

「俺は・・・」

「風影は既に亡いだろう。音隠れの首領が風影に化けていた。本物は殺されていると見ていい。

 お前を狙う馬鹿親は消えた。つけ加えるなら、俺とお前では立場が違う。その守鶴の力を抑えきれば、砂隠れの里の者はお前を認めるだろう」

「・・・だが、どうやって。どうすればいい」

「それは、あの娘と一緒に考えるんだな」

近づいてくる、人影を指さす。

「我愛羅!」

テマリだ。倒れている我愛羅のもとに、駆けつける。そして、俺を視界に捕らえると、驚いた表情になった。

「お前は・・・」

「ちっす。じゃあ、後は頼むわ。俺はちょっと看取らなければならん人がいるし」

片手をあげて、その場を去る。



「待て!うずまきナルト!」



「何だ」


木の枝の上、振り返らないで我愛羅の言葉を待つ。



「・・・有り難う。殴り飛ばしてくれて」



背中を向けたまま、腕をあげて回す。



「通りすがりだ。成り行きだ。気にすんな。あの一撃で、目が覚めたのなら僥倖だ」




親指を立てた後、一言だけ告げてその場を立ち去る。




「・・・目が覚めて、悪夢は終わったんなら次の夢を・・・願わくば、笑っていられるような、良き夢をってな。じゃあ、また会おう、我愛羅」




あとは、姉に任せよう。


俺は、前を見て、また走り出した。




















全速力で、試合会場へと戻る。勿論、変化の術は使っている。


『・・・』

「ん?どうしたの、キューちゃん」

『いや、何でもない』

『それで、どうするの?』

「影分身が会場を見張っているんだが、どうやら大蛇○と3代目、まだ戦っているらしい。今から、そこに向かう」

『え、そこに、飛び込むの?』

「ん、大丈夫。手は打ってあるから。逃げる方法も確保しているし」

『で、そこに向かって、何をするつもりじゃ?』

「嘘をつきに、さ」







痛む全身を引きずりながらも、全速で試合会場に戻った。

そして、ついた直後だった。屋上を包む結界が解かれたのは。


『結界、今解除されたみたいだね』

「決着、か」

取りあえず、4人衆が結界を解いたのを確認。

(おー、来てるわ、来てるわ)


あの時は、君麻呂に気を取られて、他の面子が見えてなかった。


えーと、君麻呂、蜘蛛、双子、次郎坊か。名前がいまいち分からん。


・・・あれ、多由也がいないな。ま、君麻呂と仲が悪いみたいだったし・・・編成からは外されたか。


大蛇○は腕をだらんと下げている。死神に取られたか。

と、いうことはだ。


『・・・屍鬼封尽、使ったんだね3代目・・・会いに行くなら、今だよ』


ああ・・・やり遂げたか。見事だ、爺さんよ。









大蛇○と4人衆が飛び去った直後、俺はこっそりと瞬身の術で、仰向けに倒れる3代目の所へと向かった。


影分身を2体ほど、囮として離れた所に出す。



そして、ありったけの煙玉を爆発させた。時間稼ぎのために。










そして、俺は倒れる火影の前に立つ。


「・・・お主は?」


返答はしない。ただ、俺は変化を解いた。




「・・・その目、その髪、その顔は・・・もしかして、ナルトか?」

「ああ。見せて貰ったよ、爺さん。木の葉を守る火の意志ってやつをな」

「だが、ワシはお前を」

「気にするな。別に、あれはアンタのせいじゃない」

沈黙が流れる。

「だが、「許すよ」」

言葉を遮る。

「全部許す。だから、笑って逝けよ爺さん。一尾もぶっとばした。キリハも無事だ。それに、木の葉の忍び達は負けない。そうだろう?」

「・・・・」

黙る火影。しかたなく、俺は小さい声で伝える。

「言葉だけじゃ、ダメか?気持ちは、全部あのラーメンに込めた筈だ、火の国の宝麺、上手かっただろ」

悪戯をした子供のような笑みを浮かべる。

「もしかして、あれは、あの屋台の主は、お前だったのか?」

ああ、と返答しながら親指を立てる。

「ああ。木の葉に戻る事はないかもしれないが、俺にも今は夢があるんだ。世界一のラーメンを作るってな。

 ・・・だから、気に病むな爺さん。俺にも明日があるから」

「・・・そうか・・・・そうか」

「旨かっただろ?」

「ああ・・・あれの御陰で、大蛇丸に勝てたのかもしれんのう」

口から血を流しながらも、爺さんが笑う。




俺は別れの言葉を告げる。


「先に逝って待っててくれ。俺がそっちに逝った時にさ・・・鍛えに鍛えた、世界一のラーメンを食わしてやっから」

約束だぜ、と笑う。







「・・・ああ。楽しみじゃなあ・・・」




笑顔のまま。



3代目火影は、逝った。















「あばよ、爺さん」


目を閉じてやる。その直後、影分身が消されたのを確認した。


「・・・そこに居るのは何者だ!?」



そして、煙の向こうから、声が聞こえた。恐らくは暗部だろう。


時間切れか・・・逃げよう。この場所で、この姿を見せる訳にはいかない。


懐かしの我が家に帰るか。


目を瞑り、飛雷神の術を発動させた。



「ジャンプ」

























隠れ家に戻った。


無事、戻れたのを確認した後、俺は前のめりに、床に倒れ込んだ。


「っつあ~~~~、相変わらず、この術使った後はくらくらすんなあ」



使った後の疲労が酷い。あと平衡感覚も取り戻せない。これは戦闘中に使える術ではないと、改めて認識した。

全身に負った傷と合わさって、体の中がえらいことになっている。

『メンマ君・・・』

痛みにうずくまる俺の耳に、マダオの複雑そうな声が聞こえた。





ああ、悪いな。

3代目に告げた、最後の言葉について、聞きたいことがあるのだろう。ま、あの言葉は、半分が嘘で、半分が本当だったからな。

・・・何しろ、ナルト少年は死んだのだから。

死人は語らない。だから、あの言葉は本人のものではないけれど。

・・・嘘をついた事。良かったのか悪かったのか。

告げた今でも分からない。でも、こうしたかったんだ。

60年、この里を守ろうと、戦い続けた爺さん。せめて、笑顔で逝かせてやりたかったと思うのは俺のエゴか?


『・・・いや』



わりい、マダオにゃあ、辛い思いをさせたか。


長い旅路に出る爺さん。死後、あの英雄の魂どうなるのか、俺には分からない。
死神に囚われるのか、それとも大蛇丸の方は魂は腕だけだったので、違う事になるのか。そもそも、死んだ後、人がどうなるのかなんて、誰にも分からない。

でも、長い旅になるのは確か。

贈る言葉は決まっている。さようなら。ごきげんよう。いざさらば。

それは、木の葉隠れの忍びが言うだろう。看取った俺は、別の事を言って送りたかった。

(別れの時は涙の代わりに笑顔と約束をってな・・・)

意地通した爺さんを、さ。笑って逝かせてやりたかったんだ。


『・・・僕の気持ちはともかく・・・これで良かったんだよ、きっと』


『火の意志、人の意地か』


ああ、キューちゃん。すげえよな火影。今まで、色んな里を旅をしてきてさ。そんで、店を開いてみて分かった。

この里の凄さってやつを。治安の良さもさることながら、住む人々の心の豊かさも。


『そうだね・・・でも、正体は告げられないけど』


それは仕方ねえよ。正体を告げる事が、真実を晒す事が良いこととは限らないんだから。

誰にだって、憎むものがある。成り行きで、今は俺がそうだってだけだ。




『それで、お主は寂しくないのか?』



キューちゃんが、つぶやく。


(二人がいるから寂しくねえよ。今更言わすなって、そんな事)





『・・・ふん、取りあえずは及第点じゃな』

キューちゃん、顔赤いぞ。あと、目を逸らさんといて。可愛すぎるから。




『てれりこ、てれりこ』

言いながら頬染めてんじゃねえよ☆。ぶち殺すぞマダオ。あと、それは俺のセリフな。








いつもの3人。

胸に秘めた哀しみの表情を互いに隠しながらも、いつもの調子に戻る。




取りあえず、重要なポイントだけ整理する。


(うずまきナルトと名乗った事に関しては、問題ないと言える。小池メンマに化けてれば、支障ない。

 九尾が具現していないということで、生存はほぼ確実視されていただろうし。現れたという事実があるだけで、小池メンマの正体までは届かない)

今までと変わりなく、小池メンマの姿でラーメン屋を続けられるだろう。



九尾を口寄せしなかった理由も、そこにあった。木の葉の暗部と『根』を刺激するのは良くないし。

大人ナルトの姿で、マダオを出さなかった理由も同じ。

口寄せ・穢土転生で四代目を使って~とか、九尾を使って復讐~などと勘違いされたら、ヤヴァイ。俺が超ヤヴァイ。

そうなったら多分、里総勢で血眼になってうずまきナルトというか、九尾の人柱力の探索。後に抹殺にという事態に発展するだろう。

誤解からそういう事態になったら、笑えもしない。見狐必殺とか、やーなの。



まあ、今のところ、正体に関しては問題ない。

我愛羅が言わなければ、というのがあるが。まあ、言わないだろう。言わないよな。

大丈夫、大丈夫。



(再不斬と白は、戻ってないな。まだ戦っているのか)



じきに戻ってくるだろう。引き際を間違える程バカじゃないし。


(・・・まあ、取りあえず、一段落、か・・・・)






キリハも無事。と、いうことで任務完了ー。




安堵のため息をついたまま、全身を襲う疲労に身を任せ、深い眠りについた。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十四話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/14 22:22
「私はかつて在り、今在り・・・そして、あらんとする全ての麺なり」



         ~小池メンマ家、その玄関扉に書かれていた文字より抜粋~



「雨か・・・」


目覚めると、雨音が聞こえた。



「布団の上・・・ということは、誰かが運んでくれたのか」

入り口の方を見る。

すぐに、部屋の扉が開いた。

「・・・起きましたか?」

「ああ、白が運んでくれたのか。ありがとう」

重たかっただろうに。

「いえ。再不「ありがとう、白」」

白の言葉を遮る。・・・分かってるさ。でも俺だって、夢を見ていたいんだ。

「「・・・・」」

じっと見つめ合う二人。

「僕ではなく、ざ「有り難う、白!」」

また、遮る。これだけは、譲らない!

「「・・・・」」






「・・・やっと、起きたか」

「おはよーっす。無事戻れたんだ、二人とも」

「ああ。深追いする理由もないしな。適当に音隠れの奴らを狩ってきたぞ」

「ふーん、で木の葉の方、何か動きあった?」

「3代目火影が死んだらしいな・・・殺ったのは、元木の葉の抜け忍、音の首領だとよ。三忍の1人、大蛇丸だったか」

「それは知ってる。それ以外は?」

「特には無い。あれから、一日しか経っていないからな」










「それで、そっちの方はどうだった?」

「ああ。音隠れのやつらを適当に相手していただけだ。それ以外は特になにもなかた・・・どいつもこいつも、雑魚ばっかりだったのが不満だったけどな」

「まあ、新興の里だからねえ。カカシクラスの奴はそうそういないでしょ。上忍の数も少ないと思うし。層は薄いね、きっと」

「そうでしたね。せいぜいが、中忍レベルでした。妙な術を使ってくる相手もいましたが、全て対処可能な範疇でしたから」

「へえ。流石の分析力だね。でも、そこそこ戦ったんでしょ。怪我しなかった?」

「・・・まあ、流石に無傷とはいかなかったが、深い傷は負っていない」

「チャクラは?」

「・・・ああ、久しぶりってもんで、調節が緩くてな。結構、多めに使ったよ。新術も使ったしな」

「あ、使ったんだ、水甲弾の術。それで、どうだった?」

「思ったより使えるな。貫通力がある分、使い所が多い。場合によっては、複数を巻き込めるしな。まあ、味方が大勢いる場所では使いにくいだろうが」

「白は?」

「ええ。幻鏡氷壁の術、十分に役立ちましたよ。それに、体術もメンマさんに見て貰いましたからね。

この家で・・・静かな所で周りを気にせず、確実に修行できた分、基礎能力も上がりましたし。魔鏡氷晶を使うほど、追いつめらる事はありませんでした」

「よかったね」

「ええ。で、そちらの方は?確か、一尾の人柱力とやりあったんですよね。遠くから見えましたよ、あの巨体」

「・・・その巨体を倒した、馬鹿げた威力の術も見えたがな。あれは、なんだ?」

再不斬が不機嫌そうな顔をする。

「怖い顔するなって。螺旋丸の応用だよ。複数の影分身で螺旋丸を使ったの。本来の威力を殺さず、その効果範囲を広げただけ。

まあ、チャクラコントロールは激ムズだし、予備動作が大きすぎるからね。その分、貫通力と余波による制圧能力は折り紙付き。でも・・・」

そう言って、腕を見せる。そこには、治りかけではあるが、傷跡があった。

「制御しきれなかった。術の余波で腕が痛んだよ。人柱力並の回復力が無いと使えないね、この術」

今はもう治りかけているが、術を使った後は酷かった。その後の掌打も応えたね。

「隙も大きいしの。守鶴は大きい分、動きは鋭くなかったから使えたのだろう。上忍相手だと、逆に使い所が難しい術になるの」

「ていうか、あれだけの威力が必要になる場面ってそうそうないよね」

「そうですね。螺旋丸だけで事足りますもんね」



その後も、反省会を続けた。





「で、昼飯だけど。おととい作ったスープが残ってるんで、例のラーメンにしようかと」

「あ、僕作りましょうか?」


「いや、いい、白。座っておれ」


と立ち上がるキューちゃん。

「今日はワシが作る。お主等は疲れておるだろう。大人しく座って待っておれ」

「「「・・・は?」」」





「出来たぞ」

「「「おお」」」

普通に上手そうだ。


「「「いただきます」」」

一口。うん、上手い。

「まあ、いつも見ておったからの」

得意げに胸を張るキューちゃん。

「本当、美味しいですね・・・あれ、メンマさんのだけ、赤い玉のような具が入っているようですが」

「おお。色づけに少し、の。一つしか無かったので・・・メンマのラーメンに入れたのじゃ」

へえ。どこかで見た具だな・・・あれ、俺が買ったんだっけか。思い出せないな。

「まあ、いいか。いただきまーす」


その赤いブツを一噛みした瞬間。









世界が砕けた。






























ああ綺麗な星空が見える。




黒い夜の帳。

漆黒が空を占拠する中、流星が次々と流れ落ちていく。その黒を引き裂くように、光り輝いている。






(あ、降ってくる)





あまりにも、幻想的な風景。






やがて、その流星の細かな部分が見えてくる。







(ああ、ってあれは・・・・!)









戦慄する。











流星の先っちょについてたもの。












それは、マダオの顔だった。












(天から降る一億のマダオ)











わあ、綺麗とか言ってる場合じゃない。むしろ、ホラーである。



夏の夜の思い出が、一気にトラウマへと昇格する程にアレである。



絶叫しながら、俺は現世に復帰した。
















「ぶるっきゃおう、○らむに!」

「何で!?」


取りあえず、横に居たマダオを殴り飛ばす。






そして、取りあえず歌う。


「BLAZE UP 燃え上がれ、唇、焼き尽くせ~♪赤くそーめーてくー。くちーのなかーをー♪」






歌う。歌わなけりゃ、やってられない。


辛い、辛い、辛すぎる。つらい、つらい、つらすぎる。


何だこれは、『新しい世界にこんにちは』しそうになったぞ。



(・・・思い出した!これは以前、市場で・・・洒落のつもりで買った、激辛香辛料!)




色が鮮やかだったんで、思わず買ってしまったブツだ。あの時、店主は何て言ってたんだっけ。





(あ、思い出した。通称、『火の実』だったっけか。確か、口の中から尻の穴まで、全てを焼き尽くす安心保証とか何とか)


その容赦ないフレーズに心惹かれたのだ。

そういえば先の一戦に持っていった筈だったが、気絶していたせいか、忘れていた。

何かに使おうとネタで買ったのが先の戦闘で役に立ったことは嬉しい誤算だったが、今は寝たで買った事を激しく後悔している。


口の中が、火の、ようだ。(某猪風に)





「どうしたのじゃ?」



不安そうに、訪ねるキューちゃん。



正直な事を話したら・・・やめとこう。




(意地があるだろ!男の子にはよ!)




その笑顔、曇らせない!



ラーメンとスープと一緒に食べきる。


隣では、マダオ、白、再不斬の3人が静かに拍手をしていた。


(小さな同情、大きなお世話だこの野郎)

まばらな拍手は悲しいよ。


「美味かった!おかわり!」


喜色満面なキューちゃん。急いで、またラーメンを持ってくる。








だが、そのラーメンには、また例の赤いブツが乗っていた。

「よく見たらもう一つあった」らしい。

笑いながら、嬉しそうに言うキューちゃん。

・・・絶望した。

白と再不斬が俺とキューちゃんの方から、静かに目を逸らす。

マダオはどんぶりで顔を隠している。


(見てられないってか・・・・だが、麺王は、退かぬ!媚びぬ!省みぬ!)


罪なき童女の笑顔のため!私は逝く!















がぶり、どさ。

私は死んだ。スパイシー(涙)





















あれ、ここはどこだ。何か唇がひりひりするんだけど。

「目が覚めたか」

「あ、キューちゃん」

俺は布団に寝かされていた。そして、布団の横には、キューちゃんが正座をして座っていた。

「すまんかったの」

「え、何が?どうも、気絶する前後の記憶がないんだけど」

あと、唇がひりひりするんだけど、と言うと、鏡を差し出される。

「うお、なんじゃこりゃあ」

唇がタラコのように膨れあがっていた。

「ばかものが。正直に言えばよかったのじゃ」

「え、何が?」

どうも、覚えていない。脳が思い出すのを拒否しているのか。

「・・・もういい。お主は、もう少し寝ておれ。昨日の戦闘による疲労も、まだ取れておらぬのじゃろ」

「・・・ああ、ありがとう。そうするよ」

そのまま、天井を見上げる。


(でも、じっとしていたくないんだよなあ・・・どうしても、思い出してしまう)

一歩間違えれば、死。

怒りに身を任せ、意地を見せたとしても、こうして後になって思いだすと、今でも少し手が震える。


「・・・大丈夫か?」

キューちゃんが、心配そうな声を出す。

「気づいてたんだ」

「当たり前だ、ばかもの。何年一緒にいると思っている」

「・・・大丈夫、とは言い切れないかなあ。ほら」

布団から手を出す。

「やっぱり、あの巨体と真正面から戦うのは、怖かったよ。思い出すと、手が震えるんだ。情けないだろ」

「・・・いいや?」

キューちゃんは俺の言葉を笑顔で否定し、震えている俺の手をゆっくりと掴む。


「怖いものは、怖い。恐ろしいものは、恐ろしい。それは当たり前だ。人も獣も妖魔も、それは変わらぬ。何故、恐怖を感じる事を恥じる必要がある」

そして、キューちゃんはもう片方の手を、俺の手の上に被せた。

「情けない、というのはの。『怖い』という感情を、『恐怖した』という事を、誤魔化してしまう事だ。昔、お主自身が言っておったろうに」


「今は、震えればいい。身体の反応そのままに、身を任せろ」

「・・・」

「また、戦う時が来るのじゃろ?その時に備えるように、の」

その時は、また戦った後で震えればいい、とキューちゃん。・・・見透かされてるな。

「分かった、そうする。でも、キューちゃんに手を握られてたらね。何か恐怖が飛んじゃったみたいだ」

「はは、それは良かったの」


二人で笑い合う。









「ところで、襖の向こうの君達。何を聞き耳立ててやがるのかな?」

俺が言った途端、襖が揺れた。



「・・・へっ、バレちゃあ、仕方ない!」

と居直って襖を開け放つマダオ。ぶっ飛ばすぞ、おい。

あと、白。何で正座して聞いてるの。

再不斬。まだラーメン食ってるのかお前。でも、肩がびくっと跳ねたよな。それに、不自然に顔を逸らすな。もしかしてチャクラで耳強化して聞いてたんか。お前。




「っつ!・・・・お主等ァ!」

キューちゃんは握っていた手を急いで背中に隠し、入り口の方を向いて、マダオと白を睨み付ける。


だが、マダオは俺とキューちゃんの握り合った手を見たのか、ニヘラと笑った後、正座をしながら静かに襖を閉めた。




「・・・ごゆるりと」




パタン、と襖が閉まる。




「するか!待たぬか、お主等ァ!」





キューちゃんは、襖を破ってマダオ達を追いかける。




「・・・まったく」


手の震えは完全に収まった。


(相変わらず、退屈しない面子だな)








壁の向こうから、キューちゃんの放つ狐火による爆発音と、マダオと再不斬の悲鳴が聞こえてきた。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 24.5話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 01:55







※注:今回はシリアス風味&オリジナル設定(独自解釈強目)があります。








雨の中、1人の少女が木にもたれ掛かり、空を見上げている。


「ちくしょう・・・」


赤い髪を持つその少女。名を多由也といった。

多由也は顔を伏せ、地面を見つめながら悪態をついた。


「ちくしょう・・・何もかも忘れたのに・・・なにを、今更・・・何もかも忘れた筈なのに!」

地面に自らの拳を打ち込み、顔を伏せたまま叫んだ。

世界を恨む、呪いの言葉を。

「ちくしょう・・・・!」


両手を地面に打ち付ける。何度も、何度も。泥まみれになろうとも、構わない。ただ、その悲嘆を両手に乗せ、そのまま地面に打ち付ける。



やがて、多由也は顔を上げて、自分が持つ笛を見る。

(母さん・・・)

これは、母の形見。病で死んだ母が自分に託したもの。今では、これが、母と自分を繋ぐ、唯一のもの。

目を瞑る。

(・・・そういえば、母さんが亡くなった日も・・・こんな風に雨だったな)

今では思い出せる。母が自分に遺した、数々の言葉を。




『音楽を学ぶ者にとって、大切なものは一つ。それは、文字通り音を楽しむことや』

『技だけが全てやない。人同士の関係と同じで、見た目はかなり複雑なことやけど、それはあくまで外郭や。根にあるのは、すごく単純。

・・・言葉で表すには難しいけど・・・多由也にも、いずれ分かる。きっとや』

『多由也。結局、ウチはアンタに何も遺してやれんがった。あの笛だけや、うちが遺せるのは』

『・・・ごめんな』




両手で、頭を抱える。

思い出したくない。ウチは捨てた。何もかも捨てた。生き残るために、力を得るために捨ててしまった。

(何で思い出す。あの時に捨てた筈だ・・・)





多由也を除く5人衆。次郎坊、鬼童丸、左近、君麻呂は大蛇丸様の傍についた。

多由也の役割は、監視であった。一尾・守鶴の人柱力である、我愛羅を監視する任務を命じられた。


5人の中でも最も聴覚が鋭いという理由で。





そして、監視の最中だ。多由也は見た。『それ』を見てしまった。



1人の、男の姿を。巨大な怪物を眼前に置き、それでも逃げない、出鱈目な男の姿を。




前だけを見て突き進む、その姿勢。その言葉。その意志。その覚悟。昔、絵本で読んだおとぎ話のようだった。



多由也はその後の出来事を思い出し、また歯を食いしばる。

それだけでは、思い出さなかった。

きっかけは、あの言葉だ。金の髪をした少年が、九尾の人柱力が、うずまきナルトが我愛羅に向けて言った、あの言葉。




『全力で抵抗する。それでも死んだら、仕方ないさ。最後まで、自分の生き方に関しては嘘はつかなかったと、胸を張って・・・あの世で誇るさ』



その言葉を聞いた時、体中に電流が奔った。

心の中の何かに触れた。そして、思い出してしまった。





夢を捨てて、母の遺志を忘れてしまったことを。




引き替えに、生き延びるための力を手に入れた。

結果、死なずにすんだ。生き延びられた。




(・・・それで?その先は?)

自問する。

男は断言した。

『いずれ、全部無くなるだけさ』

それが事実だ、と言わんばかりに。

・・・あれだけの力を持って尚、その終わりは変えられないという。それが不可避の結末だと、言うのなら。

(うちの選択には意味が無い。捨てて手に入れたものに、意味は無かった)

生き延びるために、大蛇丸様の配下になった。生き残るために、呪印を受け入れた。その度に何かを差し出した。

(大事なモノがあった筈なのに。それでも、ウチは諦めた)

その事は覚えていた。でも、何を差し出したのか、何を忘れていたのか・・・『忘れたモノ』さえ忘れていた。


(・・・呪印と、暗示か)


死を幻視させられる程の殺気。人格を変質させる呪印、というところか。

・・・元にある人格を蹂躙するには、酷く合理的な方法。好戦的な使える駒を作成する方法。


(でも・・・・何で)


目の端から、液体が零れる。これが雨の滴なのか、それとも涙なのかは分からない。


(何で、今更、思い出す。思い出させる・・・・いまさらっ・・・いまさら!)



力より大切なものがあると。

母から何度も聞かされた事も。

音で人を幸せにすると。

音で誰かの心を癒すと。




浮かんでは消える、過去の残滓。




両手で目を覆う。止まらない。頬に流れる水滴も、胸を襲う痛みも。

戻れる筈がない。かつての自分に。正気を取り戻したが、戻れる筈もない。この手は既に血まみれだ。

戦争の中、何十人もの忍びをこの手で・・・この笛の音で屠ってきた。

(・・・ウチは、ウチは・・)


答えがでないまま、身体はある場所へと向かっていた。


音隠れの里ではなく。


向かう場所は一つだった。

あの、うずまきナルトが営んでいるという、ラーメン屋台『九頭竜』へ。









~キリハside~


3代目が亡くなった。

あの、大蛇丸と戦って。



「・・・おじいさん」

家族のいない私にとって、3代目火影は祖父のようなものだった。

同時に、尊敬すべき忍びの頭領だった。



葬式は、戦いが終わった後、少しして行われた。あれから、ずっと雨が続いている。

(空が泣いているよう・・・)

雨の中、3代目を送る人達の顔を見る。みんな、泣いていた。3代目が木の葉からいなくなった事を、悲しんでいた。

(あれが、ジジイなりのケジメの付け方じゃったんだろ・・・)

自来也のおじさんは、虚空を見上げながらそう呟いていた。

かつての戦友が、兄弟弟子が、抜け忍が。胸中に渦巻く感情。その名は憎悪か、怨嗟か、悲哀か、後悔か、諦観か。

おじさんの五分の一程度しか生きていない私では押し計れない程、膨大な質量の感情がその胸の中で暴れているのかもしれない。




雨の中、傘をさしながら、私は里の中を歩き回った。

誰もが悲しんでいた。木の葉を照らす、優しい火の影が失われた、その事を悲しんでいる。



そして夕方。私は、里の外れで一つの灯りを見つけた。

雨のせいか、辺りは既に暗くなっている。その中で、淡い提灯の光が周辺を照らしている。



「ラーメン屋、今日もやっているんだ」

私はその火の輝きに誘われ、その方向へと歩き出した。



先客が1人いた、静かに、ラーメンを食べている。


「らっしゃい」


いつもの、メンマさんの声。

明るくもなく、暗くもなく。いつもの声色だ。


「こんにちは・・・?メンマさん、その傷どうしたの!?」


「ん?ああ、かすり傷、かすり傷」

と、腕の包帯を軽く叩く。


取りあえず、私が修行している間に新しくできた、『火の国の宝麺』というラーメンを頼む。


「あいよ」


背後には雨の音。目の前には、麺を煮込む音。



「おまち」






「・・・」

「・・・」

「・・・」

雨の中、静かに時間が過ぎる。

雨音が雨の数だけ。麺をすする音が二人分。

(滅茶苦茶美味しい・・・)

静かに、食べ続ける。

「美味しいかい?」

「「はい」」

私ともう1人の客が応える

「それはよかった」





しばらくして、私はメンマさんにある事を質問した。

「何のために・・・」

「うん?」

「何のために、人は戦うんでしょう。楽しくなんかないのに」

「そうだね・・・」

メンマさんは目を瞑って応えてくれる。

「きっと、理由があるからだろうね」

「理由?」

そう、理由、といって、メンマさんは指を一本づつ立てていく。。

「曰く、誇りの為に。曰く、夢のために。曰く、死なないために」

「・・・」

「自分だけの理由に従って、あるいは自らの誇りに従って・・・退かない。だから、ぶつかり合うんだ。世界は割と狭いからね。ましてや、この情勢だ」

「・・・そうですね」

そこで、メンマさんは戯けた口調で言う。

「俺からすれば、くだらない事だと思うよ。そんな事より、互いに腹割って、旨いモンでも食って、酒呑んだらいい。そうしたら、殺し合いなんて起きない」

「確かに、そうかもしれないですね」

互いの事を知れば、殺し合いなんか起きないかもしれない。

「俺なら、敵を目の前に叫んでやるね。『俺のラーメンを食べろぉ!』って。何せ、命賭けてる自慢のラーメンだ。食べたら、いちころだぜ」

「ふふっ」

親指を立てて笑うメンマさんの姿が可笑しくて、私も思わず笑い声が零れる。

「まあ、俺はまだまだ未熟だから、そう簡単にはいかないからね。木の葉隠れの忍者さん達にゃあ、感謝してるよ」

「いえいえ、メンマさんのラーメンのおかげです」

「ははっ」






「ありがとうございましたー」





メンマさんの声を背に、家路を辿る。



雨はもう、止んでいた。





(メンマさんも戦っているんだ)

悲しい表情を見せないで、美味しいラーメンをご馳走してくれた。腕を怪我しているのに、痛む素振りもみせず、私を元気づけてくれた。

(あそこが、メンマさんの戦場なんだ)

命を賭けているという言葉に嘘はない。私は、そう感じた。

「自分の戦場、か」

呟く。

おじいさんが自ら思い、そして選択した戦場。それは、木の葉隠れの里を守るため。火影としての存在を示すため。

最後の戦場。託されたのは何か。それは、火の意志だ。

誰かの戦場を汚さないように。それぞれの役割を壊さないように。

3代目の遺志を受け継ぐというのならば。木の葉という、大きな家を守る・・・木の葉を照らす、優しい火の影になる。

そして。

(今日は、たくさん泣こう。そして、明日からはまた笑おう)

いつまでも泣くのはやめよう。それは、『おじいさん』が望む事だとおもうから。















~メンマside~




(さて、どうするか)

目の前には、1人の客。

『あの音隠れのくの一だよね』

(ああ。でも、随分とチャクラの質が変わってる)

前のような、汚いチャクラではなかった。

そのせいで、始めに方は誰だか分からなかった。注意深く探らなければ、見分けられなかっただろう。

(・・・今は、迂闊な事はできない)

あの騒動の後だ。暗部が定期的に辺りを見回っている。ばれるリスクは避けたい。

それに、多由也に正体がばれているとも思わない。

『そもそも、正体を知られているなら・・・1人でここにはこないだろうし、ね』

静寂が満ちている空間。音といえば、時折吹く風が木々を揺らすぐらい。

そんな中、変化した多由也が口を開く。



「店主さんは」

「ん?」


「店主さんは、夢を諦めた事がありますか」

「・・・夢を?」



「・・・生き延びるために、夢を諦めたことがありますか」



多由也は言葉を一端切って、また意を決するように話しかける。


「夢のために生きたとして、それでも道を踏み外して・・・夢とは大きくかけ離れた場所で・・・戻れないところまで来たら。そこで、終わりになるんでしょうか」


言葉の途中で、質問から自問に切り替わる。混乱しているようだ。

(何を言えばいいのか、分からないといったところか)

そして、答えが欲しいと叫んでいる。



取りあえず、質問には答えよう。


「起きてみる夢に終わりなんてないよ。終わらせる事はできるけど」

「え?」

「寝ている間に見る夢が終わるのは、起きた時だけど・・・起きている間に見る夢が終わるのは、諦めた時だけだから」

「・・・夢を叶えたら、終わりじゃないんですか?」

「次の夢があるだろう。次を見ないで現状に満足したまま、というのは・・・見たくないと同義だ。上を見るという事を、諦めることと同じ」

「いつになれば終わるんですか?」

「生きている限り、いつまでも」

「夢を見る資格を、無くした場合でも?」

「それは、罪を犯したから諦めるという事?うーん、どうだろうね」

罪を犯さない人間なんて、いないし、資格、というのがそもそも分からない。程度の問題か?誰が判断するんだろう、それは。

「綺麗に生きられたらいいけどね。でも、それが無理な場合もあるだろう」

誰も、殺したくなんてない。でも、生き延びるためには、という時も確かにある。それが未熟さ故の罪だというのなら、一体誰が許されるというのだろう。

それじゃあ、生まれが全てになってしまう。それは違うと思う。

「選べる道なんて、多くなかっただろう。どこを見ても、間違いだらけの選択肢。そんな中を、必死に生きてきたんだろう」

「・・・はい。あの、どうして」

「いや・・・君の瞳を見て何となく、そう思った」

これは、半分が嘘だ。推測の情報源は、昔の噂。

音の里が興される前後だったか。各地で子供、それも浮浪児や孤児が失踪する事件が多発しているという事を、風の噂で聞いたことがあった。

(大蛇○のやりそうな事だ)

「・・・ウチは、思い出した事があるんです」

「それは、夢?」

「はい。でも、ウチはそれを忘れていて・・・最近、思い出したんです。でも、今更戻る事なんて・・・」

「例え、罪を犯したとしても。過去に苛まれながらも、それでも見たい夢があるんなら」

「・・・」

「こう、シンプルに考えればいい。夢を諦めて今の道を進み続けるか・・・あるいは、過去に魘されながらも、夢を追い続ける事を選ぶか」

「二つに一つ、という訳ですか」

「シンプルだろう」


多由也は、胸の辺りを抑えた。そこに隠している何かを、確かめるように触れて、数秒間考えていた。

そして、立ち上がる。

「お客さん、お勘定」

俺がそういうと、多由也が慌ててラーメン代を出そうとする。


が。


「あ」

急に、ポケットを探り出す。どうも、お金を持って無いみたいだ。

こっちに背を向けながら、どこかにお金が無いかを、一生懸命探している多由也。

俺は苦笑した後、背中を叩いて、優しく話しかけてやる。

「いいよ。ツケにしておくから。クサイ台詞を聞いてくれた礼と思ってくれていい」

多由也は顔を真っ赤にした後、小さい声で返事をする。

「・・・すいません。それじゃあ、また来ます」



頭を下げる。そしてその後、

「決まったか?」

「・・・はい。ありがとうございます」

例え変化の術を使ったとしても、目の奥の光まで変えられる訳じゃない。

その目を見て、俺は頷いて、笑った。


「そう。じゃあ、お気をつけて」


悠然と立ち去る背中を、俺は静かに見送った。











『よかったの?』

「色々と、ケジメつけに行ったんだろう。縁があればまた会うさ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十五話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/15 21:33








何故、こんな事になったのだろう。







今の状況を歌にしてみた。







あーるーはれたー、ひーるーさがりー、やーたーいーをひらーいたらー♪


イーターチーとーキーサーメーが、ラーーメーンをたべーにきたー♪




(かーわいーいキューちゃん、さらわれていーくーよー)




『何を・・・!』



(てれくさそうーなー、ひーとーみーでー、みーてーいーるーよ♪)



『○ナドナドーナードーナー♪っておーい。いい加減帰ってこいよー』

見事なノリツッコミ。やるね、マダオ。

『主旨はそこじゃないから。って聞いてる?』

(・・・なあ、マダオ。俺、このラーメンを作ったら結婚するんだ・・・!)

『いや、無理に死亡フラグ立てなくていいから。つか誰と結婚するの!相手いないでしょ!』


・・・死のう。鬱だ。


『待って、待って、待って!戦わなきゃ、現実と!』


(つまり、現実は敵なんですね。わかります)


・・・ああ神様、神様よう。


(お前ら絶対に敵だー!)

クオ・ヴァディス・パテル!(我が神は何処!)



『いいかげん、漫才止めろ・・・もぐぞ?』

キューちゃんの声が怖かったので、元に戻りました。

(からかわれたのが分かったのか、怒り心頭のキューちゃん。赤く光った彼女の眼光は間違いなく本気を示すものでした---じゃなくて)

あまりにも、危険が危ない状況に、頭を抱えそうになる。

が、何とか思いとどまった。

(怪しまれるのはゴメンですたい)



次から次へと厄介ごとがまったくもう。そんなに俺の運を試したいのか。ハードラックとダンスさせたいのか。

今回はいくらなんでも厳しいっちゅうの。ばれたら終わりじゃないすか。

その場合の展開。流れとしてはこうだろう。


ばれる→戦闘→負ける→な、何をするきさまらー!


あるいは、こうだ。


ばれる→戦闘→勝つor逃げきる→十中八九満身創痍になる→木の葉の暗部or根に見つかる→捕まる→な、何をするきさまらー!


どうやっても、ガ○ハドの後を追う事になります。

『うずまきナルト、ゲットだぜ!』

うるせーよマダオ。誰がゲットされるか。

でも、そんな事になったらもう・・・!

(確実にジ・エンドです。ダス・エンデです。ゲームオーバーです。投了です。ありません)

もてる男は辛いぜ。本当に辛いぜ。死ぬほど辛いぜ。いっそ殺せ。

『ビークール、ビークール、ステイステイ』

あ、クをグに変えるとス○ーピーになるねー。

『誰がうまいことを言えと』

『だから落ち着け、馬鹿共』

(・・・ええと、気を取り直して。取りあえず、正体は気づかれてないよね?この二人、普通に注文しようとしてるし)

『どうやら気づかれてないようだけど・・・警戒を怠ったらダメだよ』

マダオの真面目な声。

つか、警戒しすぎても藪蛇になりかせん。

もしばれたら、逃げるしかないか。この二人が相手じゃあ、勝ち目ないし。

(世界はこんな筈じゃないことばっかりだよ・・・)



注文を聞きましょうか。


「木の葉風ラーメンで」

干柿の鬼鮫さん。注文は木の葉風ラーメン。共食いですね、わかります。いや、魚介系と言っても魚だけじゃないんですけどね。

というかこの切り裂きポチョムキンっぽい人、帰ってくれないだろうか。ガーリックトーストを3回唱えるからさ。

それと、チャクラ量が馬鹿みたいに多いんですけど。それに、この大刀。ヤヴァイ臭いがぷんぷんします。

あと、口。口が、全部とんがってる。何これ、怖い。



「・・・火の国の宝麺」

そして隣のうちはイタチさん。つか、眼、眼!隠せよ!隠れないのかよ!

いや、見せるのが目的か知らんけど、全然忍ぶ気無しだよね。ああ、だから里外れのこの店に食いにきたのか。

そういえば、相対する事考えてなかったけど、万華鏡写輪眼はどうしよう。月読はいいけど、天照が怖い。

視界に入ったら終わりって、あーた。無茶にも程がありますがね。

何というチート。大蛇丸とは別の意味で、心底やりあいたくない相手です。




取りあえず、会話、会話をしよう。空気がもたん。

「・・・注文は以上ですか?」

ああ、と返事をするお二人さん。

慎重に、慎重に、と。




食事をしている間は普通でした。

これが不味いラーメンだったら、どうだったんだろう。やっぱり、不味い、死ねとか言うんだろうか。

(いや、でもこの二人は常識人っぽいしなー)

・・・着ている服以外は。




つつがなく、食べ終わりました。普通に代金を払ってくれました。「金が無いので死ね」、とか言われなくてよかったよう。


「ありがとうございましたー」

心の底からお礼を言おう。

本当に、何事もなくてよかった。



「旨かったですよ」

見た目常識人の鬼醒さんからの賛辞。嬉しいんだけど、嬉しくない。こんな時どういう顔したらいいか分からないんだ。

『笑えばいいと思うよ』

笑いました。すると、鬼鮫さんに笑みを返されました。顔の怖さが倍増しました。

(恫喝しているようにしか見えん)

歯が怖いって。頭から囓られそうで。



「・・・」

黙って頷くイタチさん。この世界でもダントツの、不幸な生い立ちのせいでしょうか。

背中に漂う哀愁が酷い。10代には見えませんよ。





やがて、二人は里の方に消えていきました。






『ひとまず、家に帰ろうか』


(ああ)

影分身を代わりに残して、急いで家へと向かった。









「再不斬!」

「何だ?そんなに急いで」

「えーっと・・・・あった」

水晶球を出します。

そして、術を発動。

「遠眼鏡の術」

そこに、さっき去っていった二人の姿が映る。

「こいつは・・・!」

再不斬が驚く。

「しっ、静かに。落ち着いて。取りあえず、相手の動きを分析しよう」

「しかし、相手に気取られないのか?」

「気取られる。でも、見ているのが誰かまでは、分からない」

迂闊に近寄ってばれる方が怖い。

だが、この二人の戦闘は見ておきたい。

まず相手の動きを見てみない事には、対策も立てられん。S級犯罪者だ。戦術の引き出しは馬鹿みたいに多いだろう。

基礎の能力だけでも、人づてではなく実際の目で見ておきたい。

「・・・最後に会った時より、動きが良くなってやがんな。それに、隣の・・・」

「ああ、うちはイタチね。あのサスケの兄貴。同じ、S級犯罪者だ」

「印のスピードもそうだが、身のこなしが異常過ぎる・・・天才、というやつか」

「そうだな・・・お、出るぞ」

カカシは一瞬硬直した後、前に崩れ落ちた。今の一瞬で、一日中戦い続けた後のように、疲労している。

「傍目で見ていると、異様だな・・・これが、万華鏡写輪眼の特別な幻術、『月読』か」

ガイのように目をあわさずに戦うという戦法もあるにはあるが。

「そうしたら、天照を避けられないんだよなあ・・・」

尾獣の力をコントロールできる人柱力なら、月読は効かないので相手にできるが・・・。

(他には・・・同じ万華鏡写輪眼を開眼した、サスケだけか)

それ以外の忍びでは、相手の仕様がない。死角が無いのだ。数で挑むにも、隣の鬼醒が厄介すぎる。

あのチャクラ量に、チャクラを喰らう大刀。そして、多様な水遁系忍術。

「極めつけは、あの・・・水遁・爆水衝波だったっけか」

「・・・ああ」

チャクラ量に頼んだ、力業。水遁使いに有利なフィールドに変えてくる。

水場の傍とか関係なく、常に高いレベルで自分の能力を発揮できす。一定の強さを保てるわけだ。




やがて戦闘は終わり、二人はカカシに止めをささずに去っていった。

「・・・それにしても野郎、何しにきやがった」

「恐らくは、俺を捜しにきたんだろうね」

目的はそれだけじゃないと思うけど。

『木の葉にいる、ってことを嗅ぎつけたと思う?』

(それも分からん。マダオはどう思う)

『可能性の問題じゃないかな。潜伏するには最適な場所だし』

(バレるってことも想定しておいた方がいいか)




「ふいー、しかし、九死に一生でした」

店に戻って一息つきます。



ああ、愛おしラーメンよ。おお、麗しのラーメンよ。

私は帰ってきた!

うきうき気分で、昼飯分のラーメンを作る。

全力で食べて、全力で癒されよう。さっきの一件で、どうも胃が痛いし。いや、ほんとにやばかった。

『大丈夫?・・・って、あれは、サスケ君じゃない?』

ラーメンを作りかけた時です。サスケがいました。何かすごい顔しながら、全力で走ってる?・・・あ、そうか。イタチ帰ってきたのを、聞いたのか。

(・・・追うか)

イタチとサスケの事。どうするか、まだ決めているわけではなかった。

情報を売ってどうにかするか、あるいは放っておくか。

(・・・マダラ対策にも、必要になるか・・・味方につけておいた方がいいかもな)

蛇の道は蛇。写輪眼には、写輪眼。それが恐らく、一番良い方法だろう。マダラの能力が不明な現状、イタチは何とでもこっち側に引き込みたい。

共通する敵もいることだし、何とかなる・・・かもしれない。

(どっちにせよ、ダンゾウは絶対にどうにかしないといけないし)

昔の襲撃の一件。『根』の首領であるダンゾウが絡んでいないとは思えない。暗部の暴走に一枚かんでいても、なんらおかしくない。

(あの結果、引き起こされたであろう、事態・・・三代目の発言力の低下、威信の低下・・・あるいは、責任問題にまで発展させようとしたのかも)

推測にすぎない。でも、どちらにせよ同じ事だ。

いずれ、普通に暮らしていくには障害となる人物。話してどうにかなるとも思えないし。

(ま、それは置いといて)

考える猶予が欲しい今・・・あの二人は会わさない方がいいと判断した。




速いといっても、所詮は下忍、せいぜいが中忍レベル。

追って間もなく、すぐに追いついた。そして、殺気を放つ。


「・・・・っつ!?」

振り返るサスケ。でも、遅い。


「ぐあっ!?」

瞬身で背後に回って、首筋への一撃を放つ。しかし、首を捩られ、狙いがはずれた。

(反応良し。以前よりは、成長している)

「誰だ!?」

(・・・答える馬鹿はいないだろ)

そのまま、正面に立つ。


一瞬の停滞。


サスケが写輪眼を発動する。


それに構わず、俺は一歩踏み込んだ。


「喰らえ!」

こちらの動きを先読みして、サスケが拳を突き出す。

だが、俺の踏み込みは虚動だ。

放たれた拳を避けながら、また虚動の拳を見せ、上半身に意識を集中させる。

そして、下からの攻撃。

「何!?」

(足下がお留守ですよ)

足払い。サスケは避けられず、体勢を崩した。

(ああ、やっぱりか)

身体の運用は大したもんだけど、判断する思考の方が疎かだ。

誰にも師事した事が無い者、特有の状態。

(目だけ良くてもねえ)

通じるのは、格下だけだよ、それじゃあ。

ため息を吐きながら、体勢が今だ崩れているサスケに掌打を放つ。だが、それは防御された。いや、防御『させた』。

当てた手のひらを開き、防御するサスケの手を掴む。そして掴んだ手で、腕のガードをこじ開ける。

「ソーラープレ○サスブロー!」

そして、ガードが開いた先に、拳をねじこむ。本気でやるとゲロ吐くので、弱設定。

「・・・・っ!」

急所であるみぞおちへの一撃。息ができないだろう。

動きを止めたサスケに近寄り、気絶させるために掌打を放とうとするが。


「くそっ!」

予想より早く立ち直ったようだ。後方に飛び退く。そしてそのまま、逃げようと背中を見せるが---


(だが、逃がさない)


印を組む。忍具口寄せ。精霊麺。


「・・・フィッシュ、オン!」


練習用に作った時の残り。簡易版の精霊麺を放つ。先ほどの鳩尾打ちで、チャクラのマーキングは済んでいる。

封印の効力は弱いし、本数も少ないが、サスケ程度ならばこれで十分。


「くそぉ!」

簡単に捕まえられたサスケが、忌々しげに叫ぶ。

「じゃあ、おやすみ」

顎へ、左右の掌打を当て、意識を刈り取る。

呪印を解放されたら面倒になるので、早めに昏倒させました。







「疲れた・・・・」

サスケは病院前に放置してきました。お医者様、後は頼み申す。

(今日はイベントが多すぎる。それも嫌なイベント)

誰か俺に癒しをくれ・・・。

『お疲れ様』

ほんとに疲れたよ。次から次へと。





そして、ラーメンができあがった時です。

「いただきまー・・・・・おいおい」

周辺を巡回していた、暗部の気配が遠ざかる。

複数の組が一定間隔で見回っているので、この屋台の近くに来る時もあれば、少し遠ざかっている時もある。

木の葉隠れは広いので、常時全体を見張ることなどできないからだ。

だが、今は少し違った。




(不自然に、遠ざかり『過ぎて』いる・・・・!)





ぽっかりと、空いていた。この屋台の周辺だけ。








そして、そのすぐ後。






とある人物が屋台の前に現れた。









『その時、特派員が見たものは!』








三忍が1人、自来也。












このタイミングで現れるということは・・・あーあー。


「・・・厄日、決定だな」


『同意しとこうか。で、どうするの?』







さあ、どうしようか。





取りあえず、俺に優しくない神にでも、祈っておこうか。



















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十六話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/19 20:30








「・・・ニンニク風は食べ終わるまでニンニク味やで。分かっとるんか、くそトンガリ」


   ~小池メンマのラーメン風雲伝 「宿敵!狼麺牧師!~十字架と鐘の音に~」より抜粋










「火の国の宝麺」

「あい」

静かに、注文と受け答えを交わす。

(さあ、みんなで考えよう。ばれた、と仮定する。その場合、どこでばれたんだ?)

『横取り40萬!・・・じゃなくて。まあ、はっきりとは分からないね。でも、一番可能性が高いのは、木の葉崩しの時、守鶴戦の後からだろうね。

 身体の痛みと疲労のせいで、警戒が薄くなっていたあの時だろう』

通常状態ならば、気配に気づけただろう。でも、あの時は。

(・・・時間的にもぎりぎりだったからなー。まあ、それはいいとして)

問題は、これからどうするかだ。

『ばれたとして、何か不都合があるのか?』

(それも分からない。自来也の思惑もそうだけど、木の葉内で俺がどういう風に思われているか・・・同期かつ友達だったいのしかちょうの3人や、カカシとか・・・4代目に近しかった人は別として。

それ以外の忍がどう見てるかによるね)

『・・・そうだね。友好的ならば、良いかも知れないね。でも、その逆の場合も、十分に有り得る」

(その時は、木の葉を出て行くしかないな)

隙を見て逃げ出そう。留まっても泥沼になるというならば。

『でも、その場合は暁が厄介だね』

(ああ。イタチと鬼鮫を見て分かった。ありゃあ、化け物集団だ。1人で相手するには厄介すぎる)

何気ない基礎動作からして、普通の上忍とは比べものにならない。S級犯罪者の称号は伊達じゃなかった。

それに、どいつもこいつも結構な異能持ちだ。もしガチの殺し合いになったとして、再不斬と白を巻き込めるかどうかも分からないし。

『暁対策のつもりで雇ったんじゃないの?』

(鬼鮫対策のつもりだったんだけどな。でも、同じ鍋つついた中だろ?できる限り、死なせたくないとか思っちまう)

実際に戦れば、5割の確率であの二人は死ぬだろう。それほどに強い。

紳士を名乗る拙僧、白みたいな良い娘を死なせたくはないし、悲しませたくはないで御座る。・・・おまけで、再不斬もね。

『雇ったけど、巻き込みたくないってこと?本末転倒だね。まあ、それが君の良いところなんだだけど』

『ふん、ただ甘いだけだろう。お主自身の安全はどうする、お主が一番、危うい立場におるのだぞ』

(そこなんだよなあ)

『それに、あの二人も忍びだろう。受けた依頼は果たすじゃろうに』

(それでも、最終的に死なせずに『勝つ』ビジョンが浮かばない)

このままじゃあ、ダメな気がするが・・・いまいち、ふんぎりがつかないな。



ばれないのが最上なのは変わらないけど。でも、ばれた時の事も考えておかないとなあ。




ラーメンを出す。食べる自来也。


二人の間に、沈黙が横たわる。



やがて、その沈黙を切り裂くように、鋭い声色で自来也が話す。


「・・・メンマ、3代目の事は知っているな?」

「はい。みなさん、悲しそうでしたね」

「・・・」

こちらの返事に相づちをうたず、自来也が懐を探る。そして屋台のテーブルに置かれるは、蛙一匹。


「あの・・・?」

「この蛙はの・・連絡用の口寄せ蛙だ」




 空気が凍る。



だが。


「・・・はあ、それが何か?」

ひとまず、とぼける。

「前に、カカシが里に侵入した賊に倒されての」


あ、あの時か・・・う、話しの流れが不味い。


「カカシは里一番の忍びと言ってもよい。そのカカシが倒される程の相手・・・ワシは警戒して、里中にこの蛙を放っておった」

「・・・はあ」

生返事をするも、背中では冷や汗。



「そして、その中の一匹がの。あの本戦の会場におった」



その言葉に戦慄する。そのせいか。あの会話を聞かれていた。


「そして、あの時、大蛇丸が去った後に爆発した煙玉の煙の中、一匹だけ屋根の上におった・・・後は、分かるな?」


断言する口調。こちらを睨む自来也。でも、それは逆に言えば・・・


(確信には至っていないということか?)

『そうだね』

確信を得ていているなら、それこそ問答無用だろう。こういう、遠回しな方法を取る必要もない。

今の流れから、あの時の俺と3代目のやりとりを聞かれていたのは確実だろう。

だが、肝心の接点が見つからないとみた。




『木の葉にはラーメン屋が結構多いからねえ。それに、全部の言葉は拾えなかったみたいだね』

予測だが、恐らくその通りだろう。



悩む俺に構わず、自来也は決定的な問いを発してきた。






「それで・・・どうだ?いい加減、正体を現してみんか?うずまきナルトよ」


来た。






(冷静に、自然に答えろ・・・!)

動悸が止まらない。だが、ここは普通に受け答えしなければならない。







俺は極自然な動作で前髪を掻き分け、笑いながら答えた。










「そんなんちゃうで」










(いかん、動揺のあまり関西弁になってしまった・・・!)







不自然にも程がある。

あ、自来也さんが半眼でこっち見てる。






(・・・今思いついたんだけど、愛と平和に訴えるのはどうだろう)

『愛と平和?・・・いや、先生の場合だと「エロと自由」の方が効果的かと』

ですよねー。

『だが、誤魔化しが効く雰囲気では無さそうだぞ』

(まあ、流石にね)













・・・仕方ないか。














「・・・一つ。一つだけ、聞きたい事が」



「・・・なんじゃ?」



周りの空気が緊張の色を帯びる。






「アンタは、俺の敵か?」





聞きたい事を要約すれば、これに尽きる。俺を害す存在なのか、そうでないのか。

俺の言葉に、自来也は目を逸らす。

自来也は数秒沈黙した後、口を開く。


「・・・少し前までは、どう思っておったのか」

ゆっくりと、水を飲む自来也。

「姿を隠し続けるお前に、疑念を抱いていたのは確かだ。だがの」

蛙を静かに撫でる。

「あの時、3代目と・・・ジジイと交わしていた会話で、あのジジイの死に顔を見ての。お主の事が分かった気がした。だから、こう言おう」

似合わない、真摯な眼差しでこちらを見つめる。




「ワシはお前の敵ではない」






返事を受け、辺りを見回す。そして、誰かに見られていないか探る。






「そうっすか・・・じゃあ、よっと」




掛け声と共に、変化を解く。




「・・・若い頃のミナトに似ているな」


しみじみと感慨深げに呟いく。


静かに、自来也は泣いた。














その後は話し合い。いや、拳は使いませんよ?

「しかし、それだけの術を何処で覚えた?1人ではその域には辿り着けないじゃろう・・・それに、あの螺旋丸を応用した超高等忍術。師は?」

「え?この人だけど」

ど印を組んで口寄せ。

「召還、Q&M!」




ドロンと煙が立ち上る。



「お呼びとあらば即参上!」

「ぶふぅっ!」




膝を付いて両手を広げるマダオ。ポーズ取るなきめえから。

あと、自来也が呼吸困難で死にそうなんだが。




「ミミミミミナト!?」

「あ、言っとくけど、穢土転生じゃないからね」

一応、言い含めておく。



「・・・九尾の襲来で、死んだと聞いたがの」

「はい。あのとき、僕は確かに死にました。今いる僕は、封印の術式に篭められた、ただの残滓です。人格は波風ミナトそのものですが」

「ただの変なおっさんだろ」

「そうです、私が変なおっさんです・・・って酷くない!?君も人の事言えないと思うけど」

「一緒にすんな!」

「まあ、五十歩百歩じゃの」

「キューちゃん!?」

漫才をする俺等をよそに、自来也は呆然としたまま。



「あー、ゴホン、そして、童女は何者じゃ?もしかして・・・」

「九尾のキューちゃんです」

頭を抑える自来也。

「・・・はあ、何から驚いていいのやら。そういえば中忍試験に潜り込んだ忍びがおったと聞いたが・・・」

何やら考え込む自来也。

「その中に、金髪で着物を着た童女の姿をしたものがおったとか。あれは、おぬしらか?」

「その通りで御座います」

一礼をするマダオ。そのネタMエロ仙人には分からんから。




「まあ、つもる話しは後にして」

「この先の事、じゃな」

「えっと、知ってるかもしれませんが、俺は木の葉に戻る気ありません。だからどうしましょう。逃げていいですか?」

その気になれば、すぐに逃げられる。印を組んで、自来也に問うた。

「・・・むう、やはり木の葉に戻る気はないか。じゃが、この里には留まって欲しいのじゃが」

やっぱり、去って欲しくないか。まあ、四代目の忘れ形見だもんなあ。

「・・・じゃあ、条件付きということで一つ。留まるに当たって、自来也さんにはいくつか、守ってもらいたい事があるんですど」



「なんじゃ?」

「1、俺の正体を木の葉側に公表しないこと」

「それは・・・」

「俺の存在については・・・まああれこれ言ったって、暗部を含めた木の葉の忍び全員を納得させるのは無理でしょうから。

一部の馬鹿が勢いで突っ走らんとも限らんし、知っている人数は最小限でお願いしまっす・・・二度目は嫌ですし」

「・・・それは、仕方ないか」

「メンマ=ナルトは、綱手姫と自来也さんだけで。これは絶対に徹底して欲しい。生きている事実は・・・四代目と同期の面々と、カカシ」

「前半については分かった。だが、後半はもうみんな知っておるぞ」

「は!?」

「いや、三代目が事切れる時、傍におったじゃろ?色々と怪しまれておったからの・・・」


そうだったのか。危ない危ない。

「疑惑は晴らしておいた。色々とぼかしながら、の・・・そうじゃ、前半の条件についてじゃが・・・妹のキリハも駄目なのかの?」

「あー、心の準備が出来ていないので、もう少し待って欲しいっす」

「・・・そうか」

自来也もそれ以上は言ってこない。かつての事件、あの時里に居なかった事に負い目でもあるんだろう。

(まあ、こっちはもうすっぱりと割り切ってるんだけど)

向こうにはわだかまりが残っているか。



「2、俺の仲間には手を出さないで欲しい」

「仲間?」

「いや、雇った忍びが二人いるんすよ。霧の鬼人と将来有望な美少女が1人」

「忍びを雇った?何故じゃ」

「いや、『暁』対策にちょっと」

「・・・『暁』についても、知っとったか」

「ええ、まあ。さっきも暁のメンバーの二人がラーメン食いにきましたし」

「・・・先ほど、報告で聞いた。うちはイタチと干柿鬼鮫がこの里に来たそうじゃの」

「狙いは恐らく俺でしょうね」

「そうじゃろうな。で、正体は?」

「ばれてませんよ、まだ。ただ、居るならばこの里といった風に当たりは付けているでしょうね」

探索途中だろうが、いつまでも隠し通せるかどうか。



「まあ、それはおいといて・・・この二つを約束してもらえれば、逃げません。木の葉に留まりましょう。逆に、破れば二度と戻ってきません

全力で姿を隠しますから、もう二度と会うことはないでしょうね」

「・・・そうなれば、ジジイもキリハもミナトもクシナも、悲しむの・・・分かった飲もう、その条件」

横のミナトを見ながら自来也は了承の返事をする。



その回答を聞き、俺はひとまず安堵のため息をついた。

(良かった・・・一時はどうなることかと)

今更、ここから去るのも何だったし。これでいいのだろう。全てが丸く収まったとも言えないが。




「まあ、代わりといってはなんじゃが・・・一つ頼みたい事がある」

「何ですか?」

「・・・今から、ワシとキリハは綱手の探索の任務に当たる。その探索を手伝って欲しい」

「今このタイミングということは、五代目火影の要請が目的ですか?」

「ほう、よく分かるの」

「そりゃあ分かりますよ。三代目の死後、今木の葉はトップが不在。それじゃあ、色々と問題あるでしょうから。

綱手姫なら、火影になるに申し分ないでしょうね。力量も、血筋も」

三忍の1人で、初代火影の孫だ。反対の声が上がる事もないだろう。

「その通りじゃ。そこで、お主には護衛を頼みたい」

「・・・何で、俺が?」

「戦後の片づけで、皆忙しくての。それに、大蛇丸の奴が腕の怪我を治そうと、綱手に会いに行くかもしれん」

「その周りには、音隠れの忍びがいるでしょうね・・・」

十中八九、護衛の忍びがついている。

「探索は必要じゃが、大勢だと余計に目立つ。暁が動き出している今、むやみに目立つのは避けたいからの。

「少数なら、精鋭を揃えた方が良い、ということですか・・・え、それじゃあ、キリハを連れて行くのは何故ですか?」

「いや、むさい男ばかりだとあれじゃし・・・」

可愛い孫と一緒に旅をしたいんですね、わかります。

「えっと、先生?」

静かに、自来也の背後に立つマダオ。手にはクナイ。ちょっと刺さってる?

「・・・いや!見聞を広めるためにのお!」

誤魔化すように大声を上げる自来也。だが、マダオは怒っている。

「隙あり!」

「くっ!」

無駄に高度な体術を使って、自来也が危機を脱する。


(・・駄目だこのエロ仙人、早く何とかしないと)

静かに対峙する二人にため息を吐きながら、とりあえず了解ー、と返事をする。

だが。



「はあ!」

「ふっ、腕を上げたのお、ミナト!」


拳で語り合う師弟。二人とも聞いちゃいねえ。





(正直、いい加減、平穏な日々を、送りたいんだけど!)

空への叫びは、虚空に消えた。

神様のバカヤロウ。





拳で語り合う師弟を外に、俺とキューちゃんは閉店の準備をする。


「まあ、ここで要請に断ると、色々と面倒になるからの」

自来也に聞こえないよう呟いたキューちゃん言葉に、俺はそうだねと頷く。


素性については色々と納得してもらえたが、それで信頼を勝ち得たとか思ってない。まだまだ、これから油断はできない。

出した条件を確実に呑ませるためにも、ここは応と答えなければ後々に響いてしまう。


(ままならないねえ)

「ままなる人生はお主には似合わんよ。そもそも」

(それも悲しいねえ)

腕を組んで断言するキューちゃんに向かって、俺は泣いた。

「じょ、冗談じゃから泣きやまぬか!」

焦ったキューちゃんの顔に癒されました。











「と、いうことで出発!」

「あの、おじちゃん?」

「・・・何もいうなキリハ。いや、いわんでくれ」

「ラーメン食べたい」

「ワシは稲荷じゃ」


当初の予定を逸脱して、ここに5人のパーティーが組まれた。


「まあ、いいか」

それですませるあたり、キリハもキリハだった。


「いざ往かん、年齢詐欺師を迎えに!」

「・・・おまえ、それ絶対に綱手の前で言うなよ!」


前途多難の旅が始まった。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十七話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/07/25 22:43




※注 オリ設定がたくさんあります。無理な方は飛ばして下さい。









「食べたいものー食べたモン勝ちー、せーいーしゅんならー♪」

「おひさーまーみたいにーわらうー、麺ーはどこだいー♪」

「「wow、wow」」


マダオと二人、一行の先頭で歩きながら歌う。

姿は、中忍試験の時のものだ。

キューちゃんはそのまま。
マダオはグラサンかけた、黒髪の少年の姿。
俺は赤毛の少年。「春原ネギ」の姿。


「あの、キューちゃん?あの二人でかい声で歌ってるんだけど、止めなくていいの?」

「・・・馬鹿は止まらんしの、馬鹿は」


「何か、キューちゃんも苦労してるんだね」

「色々と、の」

頭痛がするのか、頭を手で抑えるキューちゃん。すまんね。でも君は良い突っ込み役だよ。後で稲荷買ってあげるから。


「・・・ワシは目立ちたくないと言ったんじゃが」

頭を抑えるエロ仙人。知るか。俺の平穏を崩しやがって。このドが付くエロ野郎。あんた今、俺の中での最低番付の大関だよ。




まあとにかく。背後から色々と聞こえてきますが、無視して歌います。

周囲の気配なんか感じねーし。隠れに隠れて8年以上、通常時ならば気配を読み間違えるような愚は犯さん。

それに、旅に歌はつきものでしょう。




「でもまた会えたねー、キューちゃん」

「まあ、の。しかし、お主はワシらの事を警戒せんの」

「え、だって自来也のおじちゃんが連れてきた人だし、それに前にも何回か助けてもらったし。それに、私には悪い人には見えないんだ」

「・・・その根拠は?」

「うーん、勘かな」

「キリハの勘はよく当たるからのう」

「それだけじゃあすまされん気がするのじゃが」

「まあまあ」


結構アバウトだよねー、木の葉隠れの里って。

素性不明のカブトとか受けいれるし、スパイもたくさん居るし。





「で、やってきました短冊街」

「おお、祭りか!」

「ラーメン食いにいこうぜ、ラーメン」

「それより宿探しの方が先でしょ・・・先生、お金持ってますよね」

「当たり前じゃろ」




取りあえず、部屋に入る。

部屋割りは男女別々だ。取りあえず部屋を確認した後、祭りを見に行こうと二人をさそう。

「あれ、残りの二人は?」

「ああ、マダオと自来也さん?何か、話しがあるとかで、部屋の中にいるよ。少し話しをした後に来るから、ちょっと待ってて、らしい」









「それで、どういう事じゃ?昨日は聞けんがったが、何故お主が存在しておる」

「いや、あの日に起きた事は先生も知っているでしょう?それで、ですね」

カクカクシカジカと、ミナトは一連の事件について、自来也に説明する。

「・・・そんな事、本当に起こり得るのか?」

「事実は小説より奇なり、っていうじゃないですか。それに、馬鹿げた量のチャクラが暴走した結果ですからね。口寄せでさえ距離を超越して呼び寄せる事ができるんです

まあ、事実起こったんですから、起こり得るんでしょうね」

「それで、あの九尾はどうなんじゃ?」

「いや、良い娘ですよ。屍鬼封尽で陰のチャクラを切り離しましたからね。それに、どうもあの暴走時に、妖魔としての核も飛んでいったみたいなんですよ」

「妖魔としての核、じゃと?」

「いや、古来より尾獣ってその数を保っていたでしょう?その理由がおぼろげながら分かった気がします。

尾獣って、長生きした獣に妖魔としての核が入り込んだ結果、生まれる存在らしいんですよね」

「・・・初耳じゃの。だが、つまり、今のあの娘は九尾ではないと言うのか」

「ええ。九尾の妖魔とは、天狐以上の格をもった狐が、その妖魔としての核を飲み込んで生まれる・・・らしい、です」

「らしい、と言うことは推測か」

「ほぼ当たっていると思いますけどね。核みたいなものが、あの暴走時に飛んでいくのをこの眼で見えましたから。本来なら、あの膨大なチャクラで覆われていて、見えなかったんでしょうけど」

確かに見ました、とミナトは腕を組む。

「だから、今のあの娘は力を持った妖狐、というか天狐でしかないでしょうね。陰のチャクラと妖魔核が消えたあの娘は、1人の妖弧でしかないです。まあ、元が天狐ですから、かなりの力を持っているのは間違いないですが」

「・・・ガマ仙人に似た存在か。年経た獣は力を持つとよく言うが」

「ええ。ガマ親分などに似た存在でしょう」



そこでミナトはいったん話しを切った。

そして、ため息をついた後、頭を抱えながら真剣な表情で話す。



「問題は、その次です」


「・・・その妖魔核は何処に行ったのか、ということか」


二人は険しい表情を浮かべる。


「ええ。間違いなく、何処かに飛んでいったんでしょうね。あのまま消えて無くなったとは考えにくいですし」

「それが、世界の何処かにいる、他の天狐に宿った可能性が高い・・・そう言いたいのか?」

天狐の総数は少ないと思えるが、キューちゃんだけども思えない、とミナトが首を縦に振る。

「ええ。それが何処にいるのか分かりませんが、まず間違いないと言えます。尾獣の総数が減ることは、存在的に有り得ないでしょうから。

・・・まったく、厄介な話しですが」

「そうじゃの・・・」

「あと、それと・・・もしかしたら」

「なんじゃ?」

「・・・・いえ、忘れてください。まだ、予想の範疇ですから。時がくれば、話します」

いっそう辛そうな顔して、ミナトは首を振った。

「そうか」

腕を組み、悩む二人。また、九尾襲来が起きる可能性もある、ということだからだ。

「そういえば、あの時に九尾が里を襲った理由はなんじゃ?お主なら何かを知っていると思っておったのじゃが」

「あの場所には、うちはマダラがいました」

「・・・やはりか」

九尾を口寄せできる存在など、1人しかいない。自来也としても、ある程度は予想していた。

「マダラが生きていて、『九尾の尾獣』が何処かに存在している以上、最悪のケースも予想しておいた方がよさそうですね」

「あやつらは知っておるのか?」

「確信には至っていないけど、うすうす気づいてはいるようです。」




「伝えるべきことは、以上です。これで、僕達については安心しましたか?」

「気づいておったか」

「ええ。この状況で同行を頼む、ということがどういうことなのかね。あの後、すぐにでも逃げると思っていたんでしょう?それに、100%信用している訳でもないでしょうから」

だからの同行依頼。綱手探索という、最優先任務もあるので、といった所だろう。

「全員気づいてましたよ」

「まあ、どうしても、なんじゃ、今のナルト・・・いや」

自来也が沈んだ表情になる。

「人格的には、メンマじゃったか。起こした事象から、色々と考えてみたのだがの。

・・・あやつの思考回路が理解できんのじゃ。力を隠して隠れきる事ができるのに、あの木の葉崩しの守鶴を相手にしたり。色々と腑に落ちん事もあった」

「うーん、基本的にラーメン命。あと、人情も大事という性格でしょうか。いまいち、僕も分かり切っていないんですけど」

「そうなのか?」

「いや、そりゃあ本人じゃないですから。10割分かる、なんて言えませんけどね。まあでも基本的に忍びじゃないですから、合理的な考えもできますけど
・・・理屈だけで全部を割り切れる程、器用な性格でもないですしね。横道にそれたり、まあ色々。一貫性はあるようで無いですね。一言でいうなら、人間なんでしょう」

その場の感情で行動指針がぶれる、ただの人間。割り切る事も知っているが、全てを割り切れる筈もない、人間。

困っている人がいれば、手を差し伸べる。

敵がいれば、倒す。必要であれば、手を汚す。

時に甘くて、時に弱くて、時に厳しい。いつも迷って、悩んでいる人間。

「人間、か」

「あとは、ラーメン、ですか」

「ラーメンか。っておい」

突っ込みを無視して、ミナトは話し続ける。

「まあ、隠れきれなかった理由は・・・寂しかった、という部分があるんでしょうね。1人じゃないとはいっても、隠れ続けるっていうのは、やっぱりストレス溜まりますし」

無意識でも、とミナトは肩をすくめる。

「それに、これだけ長期間一つ所に留まることが無かったですから。精神的なガードも下がっている部分もあります。あと、縁に飢えてる部分もありますね」

よく店に来るキリハとか、その他の一部忍びとか、テウチ師匠とか。

あと、材料を買いに行くさいに話す、八百屋のおっちゃんとか、酒屋のおっちゃんとか。

・・・彼女とか。

「あと、状況と勢いとノリに流されやすい性格してますし。彼、勢いとラーメンだけで生きてますから」

「そこまで好きか」

「『それが全部だ、他に何がいる?』って言ってました」

思い出し笑いをするミナト。


そして、表情を真剣なものに一転させる。

「・・・もちろん、木の葉に留まった理由としては、それだけじゃないですよ」

「暁、か」

「ええ」

「・・・そうじゃの。それもそうか。暁という組織を相手に、1人では勝ち目がないしのお」

「それに他国の里で暁の連中に見つかった場合の事を考えると、どうも駄目ですね。派手な戦いになるでしょうし、戦った後にその国の忍びにみつかった場合とか

・・・ほら、分かるでしょう?」

自身にとっても、愛着が湧いてしまった木の葉にとっても、良くない事態になるだろう。

同盟が結ばれているとはいえ、他国を無闇に刺激するのはうまくない。

「今のところは、木の葉に留まるのが最善の選択、というわけか」

「今じゃあ、家もありますしね・・・旅もいいですけど、帰る家があるのも良いって言ってました。だから、あの家に手を出したり、仲間に手を出すようなら、本気で抗いますよ、きっと」

「そこまで聞いておいて、そのような事はせんよ。お主を敵に回す事もせん」

「それなら良かった」














「遅いぞ、マダオ」

「いや、めんごめんご」

と手を顔の前に出して謝るマダオ。

「・・・古いのお」

「・・・何か、マダオさんってオッサン臭いねー」

「ぐはあっ!?」

少女二人の辛辣発言に吐血するマダオ。もんどりうって倒れる。

「えー、君達結構言うことがシビアだね。キューちゃんはともかく、波風さんも」

「え?そうかな」

素の発言か。いや、そうなんだけど、歯に衣着せないなあ。そういえば、ネジに向かっても色々言ってたな。

(やっぱり天然分多いなあ、この娘)

外見に似合わず。

「それより、祭りを見に行かんのか?」

「ああ、そうだそうだ」

「行こう行こう!」

としゃっきり立つマダオ。復活早いなお前。






「ん、露店が色々と並んでるねー」

「でも、ラーメン屋台がないな」

「そりゃ無いでしょ」

自来也を除く4人で、店を見て回ります。

「仕方ないな・・・って、あ、そうだ。キューちゃん、波風さん、わたあめ食べる?」

「あ、はい」

「わたあめ?」

「ほら、あれ」

と指をさす。

「どういった味じゃ?」

「甘くてふわふわした感じ。おっちゃん、わたあめ二つ」

「あいよ。お、綺麗な嬢ちゃん連れてんな、坊主・・・ほら、出来たぞ。ちょっとおまけしておいたから」

「ありがとっす。ほら、これ」

「おお、美味そうじゃの・・・どれ」

とわたあめを舐め始めるキューちゃん。

「やっぱり食べたこと無いんだ。ほら、こうやってかぶりつくんだよ」

とキリハがキューちゃんに食べ方を教える。いや、舐めるのも可愛かったけどね。

「こうか・・・・うん、甘くて美味いの」

そしてがつがつと勢いよく食べ始めるキューちゃん。

「ん、美味かった。ごちそうさまじゃ」

「早いね!ってああキューちゃん、口の周りがベタベタじゃない」

布を取り出して、口の周りを吹いてやる。

「ん、ちょっと、くすぐったいの」

「・・・」

そんな俺たちのやりとりを、キリハがじっと見ている。

「どうしたの?波風さん」

「いえ・・・何か、兄妹みたいだなあ、って」

はあ、とため息をつく。

(あー、藪蛇だったか。何て言ったらいいのか)

「え、お兄さんとかに憧れていたりするの?」

とマダオが聞く。

「えーっと、その」

と指先をちょんちょんと胸の前で合わせる。そして、小さい声だが勢いよく、何事かを呟きだす。

「えっと助けられた事お礼を言いたいとか、やっぱり家族いないと寂しいとか、お兄ちゃんってどんなもんだろうなあとか

やっぱり格好良いんだろうなあとか」

「・・・え、何?聞こえないけど」

「っていえ、何でもないです!!」

「うお!?」

いきなりの大声に驚いたのか、メンマは後ろに一歩あとずさる。そして、通行人とぶつかった。

「ってえなあ、坊主ぅ。てめえ何処に目えつけてんだ・・・・・・!?」

ぶつかったヤクザ風の男。ガラの悪い口調で文句を言ってきた直後、目を見開き硬直した。

「て、て、てめえは・・・・!?」

(あれ、誰だっけこの人)

とんと思い出せない。何かすごい怯えているけど。

「ひ、ひい勘弁して下さい!すいません、もうしませんから、もうしませんからアレだけは・・・!」

とケツを抑えて後ずさるヤクザさん。

「え、ちょ、何?」

訳がわからない俺に、マダオが小さい声で教えてくれた。

(ほら、あの時の。麻雀の時の、あのヤクザじゃない?)

ああ、いかさまヤクザの1人か(※外伝1参照)

人聞き悪いなあ。理由も無しにあんなことしないっての。

「え、春原さんって大蛇丸と同じで、そっち系の人だったんですか!?」

「ぐはあっ!?」

キリハの言葉に吐血する。

いやアレと一緒にせんといて!後生だから!

「いや、こやつは男色ではないぞ。むしろ、ワシ一筋じゃ」

と胸を張って言うキューちゃん。

・・・あれ、キャラ変わってね?

「・・・え、春原さんってそっち系の人だったんですか?」

と今度は頬を染めて、静かに驚くキリハ。キューちゃんと俺を交互に見て、小さい声できゃーと言いながら、一歩退く。

「いや、違う、違うから!逃げないで、頼むから!」

「え、ワシとの事は遊びじゃったのか?」

と、悲しそうに顔を伏せるキューちゃん。

「キューちゃんも!分かって言ってるでしょ!」

俯きながらも、肩震えてるし!

「え、僕との事は遊びだったの?」

「きめえ!」

「げふぁ!?」

頬を染めるマダオに飛び後ろ回し蹴りを喰らわす。天誅じゃ!これ以上、場を混乱させんな!

ああ、周囲の視線が痛い。



「えー、あんなに可愛い娘いるのに男同士で・・・でもそれもありかも」

「ほら、やっぱりねえ、そうじゃないかと・・・」

「きっと毎晩がフィーバーなんでしょうね・・・」

「ハアハア、着物童女、ハアハア・・・」


どうしてこうなった・・・。とがっくり肩を落とす。

あと最後の1人ですが、教育的指導を叩き込んでおきました。









「まったく、酷い目にあった。親父さん、とんこつラーメン一つ」

近くにあったラーメン屋に入り、取りあえず注文します。

「じゃあ、私も同じので」

「ワシは塩ラーメンじゃ」

「じゃあ、僕はしょうゆラーメンで」


「で、これから先どうすんの?」

「取りあえず、そこらへんの賭場回って、聞き込みするしかないだろう」

「伝説のカモだもんね」

ラーメン食べながら、会議します。

「うーん、やっぱり九頭竜のラーメンの方が美味しいなあ」

その一言に、メンマの耳がダンボのようになる。

「絶妙だったもんなあ。特に、あの角煮の味付けとスープのバランスとか」

「そ、そう?」

と頬を赤らめるメンマ。

「え、どうしたの?」

「いや、なんでも。いやー、しっかし熱いねえ」

とぱたぱたと団扇で自分を仰ぐメンマ。照れているようだ。

「ふむ、この塩ラーメン変わっておるのう。スープ自体を冷やしておる。熱いこの季節には最適じゃ」

「あ、そうなんだ。冷麺みたいなもんかな」

「食べるか?」

と箸を差し出すキューちゃん。恥ずかしいって。

「いや、俺も頼むよ。すいませーん」

「え、もう一つ頼むんですか?春原さん」

「ラーメンは別腹だから。むしろ、ラーメンが本腹で、他のものが別腹かも」

本腹ってなに、というマダオを無視し、注文をします。

「ふーん、冷やしたらこんな味になるんだ」

魚介系スープをベースとした、塩ラーメン。夏の野菜に彩られて、ただ冷たいだけでもない。バランスも良く、結構な味に仕上がっている。

多々あるメニューの中で、季節の一品にするのもいいねえ。あ、そういえば砂隠れの里に塩取りに行くの忘れてた。

ということで、木の葉に残っている影分身を一体、砂隠れに向かわせます。

「と、いうことでみそラーメン追加」

「どういうこと!?まだ食べるの!?」

いや、最近各地のラーメン屋食べ歩きツアーしてなかったもんで。

「す、すごいですね・・・」

「育ち盛りだからねー」

店員さんも驚いていました。









「ふー食った食った、そろそろ戻るか」

「そうですね・・・ってあれ、自来也のおじちゃんじゃないですか?」

「あ、ほんとだ」

こっちに気づいたのか、エロ仙人は手を振ってます。

「帰ったか。綱手の居場所が分かったぞ」

「ほんとですか?」

「うむ。ということで、急いで向かうことにする。カカシの治療の事もあるしの」

ああ、そういえば月読のせいで寝込んでいたっけ。

「嫌な予感がする。明朝、一刻も早く、出発するぞ」

「了解」


大蛇丸とカブト、やっぱり動いてるんかね。

(取りあえず、辺りに音忍を含む忍びのの気配は無いけど)

ここからは、ちょっと気を引き締めていくか。

マダオと自来也と二人、目配せをして、確認を取る。

「ところで、手に持っているものはなんじゃ?」

やまもり、といった感じの紙袋を見て、エロ仙人が訪ねてくる。

「え、稲荷寿司ですけど何か?」

「いや、いい」

横でお日様みたいに笑うキューちゃんを見たあと、自来也がため息をつく。

「まだ食べるの・・・?」

「いや、これはキューちゃんの分」

食べておかないと、外部での行動に支障を来すかもしれないし。まあ、それは建前で、この笑顔のために買いました。

ちくしょう、かわええ。







「・・・じゃあ、今日はひとまず宿で休むか」

「「「異議なし」」」





マダオと二人で、大蛇丸対策用の作戦でも立てておきましょうかね。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十八話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/01 15:05
「お?」



綱手姫が居ると聞く街へと移動する途中、その街の近くで丸々と太った豚を発見した。


(うん、美味しそうだね)


マダオと顔を見合わせ、頷き合う。


そして、素早く捕獲した。



「ブキー!?」


何故か忍犬並に動きが鋭かったが、マダオと俺にとってはなんてことない。飛ばない豚はただの以下略。まあ、ほんとに飛ばれてもそれはそれで困るんだが。


がっしと二人がかりで捕まえ、素早く紐で縛り付ける。


「あらこんな所に豚肉が♪」


歌いながら、暴れる豚の4足を木の枝にくくりつける。

そして肩に担ぎながら、はいほーはいほーとはしゃぎ街に入っていく。


「今夜は豚肉だ!」

腕を上げて、勝利宣言。宿で調理しようぜ。

「やったね!」

喜ぶ俺とマダオ。ハイタッチを交わす。

「さあ、塩で丸焼きがいいかなー、しょうゆで味付けするのもいいかなー」

「いや、ここはチャーシューの一択で」

鶏と麺とあと具を買って、即席ラーメンを作ろう。

「旨そうじゃの!」

笑いながら豚を見るキューちゃん。よだれ拭いて、よだれ。そして何故か震え出す豚。


「ふむ、しかしその豚どこかで見たような・・・」

自来也が首を傾げる。だが、豚と思い出せないといった風に、首を振る。

「何か、服着てますね。腹にサラシ巻いてるし」

キリハが首を傾げて、考え込む。

だが、「ま、いっか」と結論づけ、先を歩く二人についていく。




だが、街の入り口付近に来ると、




「ちょーーーーーー!?」




何故だが、黒髪の女性に叫ばれた。



その女性は豚を確認し、担いでいるこちらを睨んだ後、何故か上忍に匹敵する速度で襲いかかってきた。

速い。

だが、それで大人しくやられる馬鹿二人ではない。


「甘い!」


木の葉瞬身。襲撃者の攻撃を避ける。そして二人は豚を抱えたまま、屋根の上へと逃れる。


「何処の誰かは知らないが、俺たちの夕飯は奪わせな・・・・い・・?」


勝ち誇るように胸を張り、言葉を発する二人だが、泣きそうな顔をしている襲撃者の顔を確認した途端、硬直した。


「あれ?」


薄幸さがにじみ出ている顔と、



「ちっぱい?」

思わず声に出してしまいました。


「お、シズネか?」


自来也がシズネ女史を見て驚いています。その本人は、何故だが俯きながら、肩を震わしていますが。


「取りあえず、言いたいことは色々とありますけど・・・」


途端、シズネ女史の全身から、黒いチャクラが溢れ出す。怒れる鬼の背後には、棍棒を持ったパンチパーマの赤鬼が映っていた。


「チャ、チャクラが具現化するだとぉ!?」


お約束ですので、取りあえず言ってみますた。そして、チャクラが高まりきった瞬間、シズネ女史が叫びます。





「・・・誰が行かず後家シスターズの貧乳の方ですかーーーーーーーー!!」



「そこまでは言ってねえーーーーーー!?」



魂の叫びと共に、毒針の嵐が吹き荒れました。












「あー、死ぬかと思った・・・」

何とか逃げ切りましたが。いや、多分ですがあれ、当たると即死級の毒でした。色が何て言うかこう、虹色でしたし。当たるとパラレルな気持ちになれそうです。


「あー・・・・これはどういう状況だ? 自来也」

そこに、背中賭一文字のおぱーいが現れました。相変わらずの若作り。年齢不詳の綱手姫(51)。変化を駆使して、借りた金を誤魔化してるそうです。

・・・きたないさすが忍者きたない。

ちなみに『忍者』を『三忍』に入れ替えても、意味は通じます。大事なのでここテストに出ます。

「人のこと言えるの?」

「正直あまり・・・」

逃げるためじゃん、仕方ないじゃん。怪人ストーカー集団に狙われてるし。ほぼ全員、大蛇○クラスの力量持ってるし。

「そうだったね・・・」

遠い目をするマダオ。大蛇丸×9という事実を改めて認識してしまったらしい。

「いや、でも流石に大蛇丸ほどでは・・・」

一部、大蛇○に匹敵する程のキワモノはいるが・・・イタチとか、あのあたりは人格的にはまともだろう。

まあ、なめとんのか、と言いたくなる程に強いので、見つかってはいけないという意味では変わらないが。


視線を綱手の方に戻します。対する自来也は何か戸惑っている様子。

「いや、のお」

二人とも、も、何か話しづらそうな雰囲気。そりゃあねえ。シズネさん、隅っこの方で1人三角座りになってますし。

落ち込んでます。豚に慰められてます。

・・・正直すまんかった。





10数分後、居酒屋に移動してシズネさんを励ます会を開きました。

「大丈夫ですって!ほらシズネさん綺麗だし!」

宴もたけなわの頃、我が妹がシズネ女史の慰めに入りました。

「ほんとうですか?」

ぐしぐし、と泣きながら、こっちを見るシズネ女史。いや、ほんとうに正直すまんかった。

ということでフォローに入ります。良心がずきずきと痛んでますので。

「大丈夫ですって!シズネさん若いし、綺麗だし、気だてもよさそうだし!」

「・・・いやあ、それほどでもないですよ・・・」

まくしたてる言葉に照れ始めるシズネさん。めちゃめちゃ耐性無いな、おい。ほんとに出会いも何も無かったのか。

こういう美辞麗句を言われた経験もないのか・・・あ、ちょっと涙が。

「28なんて、まだまだですよ!というか、これからですよ!シズネさん程の美人なら、絶対にいいひとが見つかりますって!」

「ほんとう!?」

俺の言葉に喜ぶシズネ女史。はい、頑張ればきっと。というか、今までが今までだったんで、木の葉隠れの里に帰ればいい人が見つかる・・・・かも。

「ちなみに私はどうだ?」

笑顔で聞く、綱手姫。

「いや、それ無理」

こっちも笑顔で答えました。途端、強烈なプレッシャーを感じたと思うと、次の瞬間、俺は建物の外まで吹き飛びました。

「春原さーん!?」

叫ぶキリハ。



「・・・何をするんですか、綱手さん」

腕をさすりながら、店の中に戻ってきます。

アブねーアブねー、ガードしなきゃ死んでたぜ今の拳。


「いや、つい」

てへ、と言いながら頭をかく姫(笑)。
というか、ついで人を撲殺するのかあんたは。いや、間違いなく加減してたんだろうけど。

でも一般人なら粉砕されてますよ今の拳。



おほん、と咳をする綱手姫。笑顔で、また言いました。


「もう一度聞こう・・・私は?」

「51歳はちょっと・・・」

唸る閃光。吹き飛ぶ俺。

「春原さーん!?」

叫ぶ以下略。





そして、帰ってきた俺に向かって、綱手姫は満面の笑顔でおっしゃります。

拳に浮かぶ青筋は無視しましょう。

「これが、最後だ・・・・私は?」

どんよりと光る綱手姫の目。頬が赤いのは酔ってるからでしょうか。

(ここは、言葉を選んだ方がいいか)

所詮、この身はしがないラーメン屋。三忍の相手は無理ですたい。というか、相手したくないですたい。

「年齢詐称はちょっと・・・」

綱手から、膨大な量のチャクラが吹き上がり、腕に集中される。

だが、そのチャクラによる怪力が発揮される前に、言葉を紡ぎます。

「って自来也様がおっしゃっておりました」

「ぶほっ!?」

1人静観していたエロ仙人が、飲んでいた酒を吹き出します。

「自来也?」

笑顔の綱手姫。

「ワ、ワシは言っとらんぞ!?」

必死で弁解するも、無駄でした。怒れる乙女に慈悲の心はありません。


「ネギ、貴様・・・謀ったな!?」

「いや、ね・・・」

小声で囁きます。俺の正体を探り当てたあなたが悪いんですよ、と。

がびーん、とショックを受ける自来也。古い?いや、だってエロ仙人だし。

「だが、ワシも男だひでぶ!?」

怒れる綱手を前に、男らしく立ち上がりましたが、怪力の拳が自来也の腹部を直撃しました。チャクラと体術で衝撃は殺してるようですが、ありゃあ痛い。

そして綱手さんは、うずくまる自来也の襟元を掴み、勢いよく前後に振り始めました。

「私だってなあ、私だってなあ!」


襟元を締められ振り回され、蟹のように泡をふいているエロ仙人。

ここに、新たな英霊が1人生まれた。

自来也様、あなたの事は忘れない。

「死んど・・・らん・・・わ・・・」

大丈夫そうですね。

取りあえず、あっちは無視しましょう。見てても面白くないし。こっちの綺麗所の方が良い。

「あ、これ美味しいですねー、シズネさん・・・ってキューちゃん、どんだけ食べてるの!?」

皿を山積みにして、色々と食べてるキューちゃん。

「ん?」

「だから、口の横を拭いてって」

そりゃ、昔は作法も何もなかったのかもしれないけど。

「だが、それがいい」

「おい、マダオ!」

怒りの声を浴びせます。

「ありがとう」

そしてお礼。

今の怒りは自分に向けてでした。そう、マダオの言うとおり、口の端を汚さずに食べるキューちゃんなど、キューちゃんじゃねえ!

・・・でも、

「横で豚のトントン君が震えてるのはなんで?」

「ん? ・・・さっき、裏でちょっとお話をしただけじゃが」

それが何か?と首を傾げるキューちゃん。今はその可愛さが逆に怖え。

「・・・可愛い娘ですね。妹ですか?」

「いや、恋人じゃ」

「キューちゃん!?」

「やっぱり春原さんそっちの人!?」

「だから違うって!」

「え、僕とのグフォア!?」

先制攻撃!マダオは死んだ。

「やっぱり、私は年なんだ・・・」

「違いますって!」

「ダンはなあ、縄樹はなあ!」

「死ぬ・・・死んでしまう・・・」



「あの・・・お客様方、ちょっと・・・」

「「「え?」」」


そこには、額に青筋を浮かべた店長さんがいました。












騒いだ結果、店の外にたたき出されました。

二度とクルナ、と念を押されました。邪神みたいな睨み付けに、俺たち全員が硬直。逆らえないって。

まあ、かなり迷惑だったしなあ。悪魔みたいな客に対しては、店長も邪神になるか。

「ま、仕方ないねえ」

「誰のせいだと思っとるんじゃ」

半眼でエロ仙人が睨んできますが、無視します。

おかしい・・・とか、思ってたのと違う・・・とか、そういえば昔ミナト、というかクシナも・・・とか。

色々と呟いていますが、ガン無視です。




(・・・・っと)



「ほら、話しあるんでしょう?」

と言いながら、視線で合図します。

「ああ、分かった」

一瞬の合図。自来也は反応を返し、頷きながら綱手に話しがある、と言い出します。

ついていくキリハとシズネ。それを見送った後、俺は背伸びをしながら、マダオとキューちゃんに視線で合図します。


「食後の運動と行きますか」















と勇んで行ったはいいものの。

「この先は行けないか・・・」


監視であろうこちらを見張っていた音の忍びを追っていった先。

とある宿の中に、大蛇○と眼鏡君の姿があった。


「深追いは禁物、か」

あの様子から察するに、すでに綱手とはコンタクト済みだろう。

(ここは・・・うん、邪魔するのは駄目だな)

火影の事や戦うことなど、綱手には未だ迷いがあると見た。

それらを断ち切るためにも、大蛇○との戦闘は必要になる。


あわよくば、大蛇○護衛の音忍の戦力を削って起きたい所だが、それも無理。

気づかれると、事態がどういった方向に転がるか予測できない。

五代目火影の誕生は、できるだけ早いほうがいいしな。




恐らくは、自来也とキリハが話しをしている筈だ。

火影を尊敬するキリハにとって、迷っている綱手の言葉は許容できないものがあるだろう。

(殴り合いでしか、分からない事もある)

迷いを断ち切るためにも、一度本気でぶつかるしかないだろう。

女性同士、何か間違っている部分があると思うのだが。

(まあ、すっこんでろと言われるわなあ)

まあ、意地の張り合いを邪魔する気はない。静観しておこう。





「ちいーっす、戻りました」

肩を落とし歩いている自来也の元に駆け寄った。

「・・・戻ったか。音の忍びは?」

「いや、追いついたんですけどね」

町中でおっぱじめる訳にもいかんですし、と肩をすくめる俺に、エロ仙人は仕方ないの、と呟く。

「んーなんか、暗いですねえ。何か言われました?」

「実は、の」

先ほど、綱手と交わした言葉の内容が語られる。

三代目の死。五代目火影の要請。それを断る綱手。年甲斐も無く~とか、火影になる奴は馬鹿だ~という言葉を聞いたキリハが、切れたらしい。

ぷつん、と。


「見たこともない程の怒りっぷりですね・・・」

頭から湯気が出ている。

「当たり前です!」

激昂するキリハ。やべえ、ネジの時よりも怒ってる。


「で、勝負ですか・・・勝算は?」

「意地と努力でカバーします」

と手のひらを拳で打ち付けるキリハ。無駄に男前だ。

「いや、そこでだのう。お主に頼みたい事があるのだが・・・」

「は?」

いや、ちょっと待て。この会話の流れは不味い。




「お主も、螺旋丸は使えるだろう? 少し、キリハの修行を見てやってくれんか」


「「え?」」


互いに、驚きの表情を浮かべながら、顔を見合わせる。



驚く点は互いに違う。だが、その直後。





「「えーーーーー!?」」







俺とキリハの驚く声は重なり、青い空の下響き渡った。














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 二十九話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/01 15:37





 「・・・麺のメンマのラーメンは、銃弾よりも強いのさ」



     劇場版・小池メンマのラーメン日誌「美味という力」より抜粋













翌日。


何故か俺はキリハの修行を手伝うことになっていた。


「ワシは綱手を説得するから」らしい。あのガマじじい、いつかコロス。



(みえみえ過ぎて嫌なんだよ、あのエロ仙人の気遣いは)



「よろしくお願いします、春原さん!」


でも、勢いよく頭を下げるキリハに今更無理だとも言えない。


(・・まあ、仕方ないか)


了承はしたんだし。報酬は後でせびるが。高い酒とかで。


「うん、じゃあ始めようか、キリハ」

名字ではなく、名前で呼びます。


「名前で呼んで」と言われたので。それなんてフラグ?

それはともかくキリハさん。額当ての上に鉢巻きを巻いているけど、それはダサイのでよしなさい。


「え、でも特訓なんだから・・・」


お約束はいいから。ていうか誰が教えた。もしかしてガイか。あるいはリーか。大穴はカカシか。




「分かりました・・・」

としょぼくれて、鉢巻きを外すキリハ。やっぱり天然なのか。



ま、まあここは気を取り直して。

「じゃあ、始めようか」

・・・とは言ったものの。何を教えたらいいのやら。

(どうしようか、マダオ)

(うーん、まずはアレを教えたら?)

アイコンタクトで確認。ああ、あれか。その方が早く修得できるかもな。

「えーと、手の平の中心部に何か書いて、チャクラの集中点を示すっていう方法は知ってる?」

「はい。自来也のおじちゃんに教えて貰いました」

「で、だ。あれに工夫をこらすとこうなる」

俺はキリハにその書いた文字を見せる。



「『麺』、ですか」



「そう、麺」




頷き、俺はキリハから少し距離を取る。




「そして、これに魂を注ぎ込む感じで・・・!」




チャクラを放出し、そしてスープをかき回すかのように回転させ、その場に留める。



「凄い・・・」

「とまあ、こんな感じ。まあ、これはあくまで補助用だけど、実戦でも使えるよ。手のひらにさらされと書けばすむことだけどね」

愛用の筆を取りだして言う。

「イメージしやすいように、力を注ぎ込みやすいように、何かを書く・・・キリハも、何か書くかい?」

「えっと」

首を傾げて考えるキリハ。

「じゃあ・・・これで」

「これは、うずまき?」

螺旋ともいう。ペロペロキャンディーの中心のアレ。

「はい。『螺旋』丸ですし。あと、母と・・・兄の名字が『うずまき』だと聞いたので、私はこれにします」

少し悲しそうな顔で、それでも笑うキリハ。

うう、胸の奥が痛むぜ

あとマダオ。鼻水垂らして泣くなきめえ。

(だってだってだって!)

急に乙女になるな。え、何、キュンと来たから仕方ない?

知るかヴォケ。

「・・・それじゃあ、サラサラサラリと」

手のひらに渦巻きをかく。くすぐったいのか、キリハの肩が跳ねる。

「はい。じゃあ、乾くまでちょっと待ってね・・・あ、あと構えについてなんだけど」

「構え、ですか?」

「そう。キバ戦で使った時の構え。右脇に抱え込むかのような構えだったっけ。あれがいいね。逆に、こういう構えはよくない」

と左手で右手首を掴み、右手の手のひらを上に向ける。

これじゃあまるで操気弾。

死亡フラグになっちゃいます。あと、口に出しては言えないが某カ○シ上忍と同じになっちゃうし。

(・・・かませ犬属性?)

あ、ほんとだ。良いところに気がつきましたね、マダオ君。

「キバ君と戦った・・ああ、中忍試験予備戦の、あれですか。」

「そう長い間留められない以上、発動から当てるまでの時間は短い方がいいし。そして、抱え込む事で相手の視線を防げるから、術の正体を悟られにくい」

「そうですね」

「あと、邪道だけどこんな方法もある」

まず影分身を発動する。


「あ、影分身の術」


「そう。それで、こうやって」


原作のナルトと同じ方法だ。チャクラを出す役と、抑える役を2分する。

「分割思考、展開・・・なんちて」

「いや、思考は分割できてないでしょ。それに、本格的にやるにはミニスカニーソが必要になるけど・・・はく?」

「きめえ」

「噛むぞ?」

「すんません」

笑顔で八重歯剥き出しにするキューちゃん。即座に謝るマダオ。

「あの・・・」

あ、ゴメン話がそれたね。

「まあ、こんな方法もあるって事。おすすめはしないけどね。馬鹿みたいにチャクラ使うし、発動時に影分身が必須になるようじゃあ、使い所が限られてくるからね」

「そうですね。1人で発動できた方が、使い勝手が良いです」

不満顔で頷くキリハ。

「・・・あと、そういう方法では勝った事にならない?」

「はい。螺旋丸は以前から練習していた術ですから、1人で完全に発動できるようにならないと・・・勝った事にならないです」

真剣な表情で手のひらのうずまきを見つめる。

「意地じゃの」

「意地です」

むん、とガッツポーズをして気張るキリハ。



「じゃあ、墨も乾いたようだし、やってみようか」








「はああぁあ・・・!」

キリハ頑張ります。完成一歩手前までのレベルには至ってるけど・・・もう少しって事か。全力で放出すると、未だに留めきれてない感じ。

でも、うずまきマークが効果あるのか、前にみたアレよりは大分コントロールできている。

「全力で放出し、留める・・・!」

が、失敗。

「きゃあ!?」

抑えきれなかったチャクラが散乱し、その余波の風に弾き飛ばされる。

だが懲りずに、また立ち上がり続ける。



それを少し離れた場所で見ている。まあ、1人で集中するのが一番だからね。

チャクラコントロールが肝の術だから、これ以上こっちが教える事もできないし。

あとは、本人の感覚と技術次第。


まあ、それにしてもだ。

「懐かしいなあ・・・」

「そうだねえ・・・」

失敗して弾き飛ばされるキリハを見て、自分の修行時代を思い出す。

1人森の中、必死に頑張ったもんだ。



あと、『麺元突破・螺旋砲弾』の術の開発中の時にあったことも思い出した。

「最初、失敗して酷い目にあったもんなあ・・・」

「あれはもう局地的な台風そのものだったねえ・・・」

分かりやすくいうと空子旋だった。風龍のケツ触ってないのに・・・。

余波で部屋がえらいことになるし、もう散々だった。



「しかし、見ているだけっていうのもな。時間がもったいない」

「こっちも、何か術の開発でもする?」

「そうだなあ」

「案としては、こういうのあるんだけど、どう?」



言うと、マダオは印を組んだ後、両手を上げて術の名前を言う。



「ばーりーあー」



言葉と共に、術を発動。激しい風の壁が、マダオの周囲を包んでいく。成るほど、確かに使える事は使えるだろう。


だがしかし!


「人生守りに入ってるやんけー!」


術が切れたマダオの顔面に、ドロップキックをかます。


「チグリス!?」


反応できなかったマダオが顔面に蹴りを受け吹き飛んでいく。

俺は倒れ込むマダオに駆け寄り、襟元を掴んで引き起こす。


「てめ、そんな事で視聴率取れると思っとんのか!芸なめとんやないで!」


怒りのあまり、関西弁になってしまう。


「もっと派手に!そんでもって漢気でも女の柔肌でもええから、色気を前面に出す方向で!・・・ということで、キューちゃんが見本を見せてくれるようです」


無茶振りする俺に、キューちゃんは真っ赤な顔で「せんわ!」と怒鳴る。


「えー・・・」


俺とマダオはキューちゃん白けた視線を送る。


「そもそもこの外見でそんなこと出来るわけなかろう!」


と、自分の胸を叩くキューちゃん。


「えーっと、本来の姿ならできるの?」

「当たり前じゃろう」

ふふんと胸を張り偉ぶるキューちゃんだが、無い胸を張られても痛ましいだけだ。

おいたわしや。

(・・・ってそれどころじゃなくて!)

「マジで・・・!?」

あの大きい狐の姿で色気を出す?

え、どういう事?


「む、そういえば一度も戻った事なかったのう・・・やってみるか」



「ちょ!?」



こんなところで!?と叫ぼうとするが、時既に遅し。



「変化!」



ボンという音と共に、キューちゃんの姿が煙りにつつまれる・・・アレ?



(大きくならない・・・?)


と不思議に思う時間もなかった。




煙が晴れた先には、






「どうじゃ」


桃源郷が存在していた。




背が高くなっただけではない。

長く美しい睫に、切れ長の赤い瞳。

顔には、健康的な白い肌の上に、天上の桃のような美しさをもつ、形よく色もいい整った唇が浮かび上がっている。

腰まで伸びて風に棚引く、絹のような金の髪を手でかきわける。仕草が色っぺえなおい。

小さくなく、そして大きすぎない、着物の上からでも分かる美しい胸元の稜線。

折れるかという程に細く、たおやかな腰。





其処には、この世全ての美そのものが顕現していた。





だが、



「あ」



呟きと共に、変化が解けた。


煙が晴れた先。

そこには、子供ながらに大人なセクシーポーズを取っている童女キューちゃんの姿があった。

髪も元に戻ったので、手が空しく虚空を彷徨っている。

何か盆踊りのワンカットみたいなポーズ。


夏だなあ、って言ってる場合じゃねーや。


「「「・・・・・」」」


あまりの状況に、3人全員が固まる。


(なんか、何ていったらいいのか分からねえ・・・!)



子供セクシーポーズみたいな何かを取ったまま、赤い顔で固まるキューちゃん。

予想外の事態に驚いているのか、微動だにしない。今の自分がどう見えてるのか、分かっいるようだ。

爆発する火山の前のように赤い顔をするキューちゃん。迂闊な事はいえない。噴火は嫌で御座る。



フォローについて、マダオとまたアイコンタクトで会議する。


(お前言えよ)

(やだよ)

(俺が言うとまた噛まれるだろ)

(いいじゃない。それも一つの愛の形っていうことで)

(それは食料に対する愛なんじゃないか?)

(食べられる男。いいじゃないかちぇりーぼーい)

(ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!)

会議らしく、脱線した。意見がまとまらない。


そこに、キリハが何かあったのかと駆け寄ってきた。



「何やってるんです・・・うわー、キューちゃんかわいー」

と、キリハは顔を真っ赤にして固まるキューちゃんの頭を撫でる。

「うーん、でもキューちゃんにはちょーっと早いかなあ」

キリハは苦笑しながら、キューちゃんの頭をポンポンと叩く。


「・・・う」


「う?」



「うわーんちくしょう、全員狐のうんこ踏んで死んでしまえーー!」



キューちゃんはいつぞやの俺の口調をまねて、泣き真似をしながら森の方へ走っていく。


「え、え、どうしたんですか?」

いきなりの逃亡にキリハが焦る。

「いい。何も語るな。言ってやるな。追ってやるな。武士の情けだ」

忍者だけど。

キリハの肩をポンと叩いて、目頭を抑えながら首を振る俺とマダオ。

「え、でもここらへん熊が出るって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」

「・・・あー、それはあぶないねさがしてこよう(棒読み)」

キリハの心配を聞いて、すぐさま後を追おうと走り出す。

まあ熊より強いキューちゃんだから食われる心配はないけど、離れすぎるのもまずいしね。



「・・・って、え?」



ところが、キューちゃんはすぐに戻ってきた。



片手で何かを引きずっている。




「熊、取ってきたぞ」

「うそお!? ってか早いね!?」


襲ってきた所を、八つ当たりも兼ねて返り討ちにしたらしい。


うん、弱肉強食だね。







ということで、その日の特訓が終わった後。

夜飯は、熊を材料とした即席ラーメンとなりました。他の材料は街で購入済みです。

火力調節役はキューちゃん。昼頃から長時間煮込んでいます。

熊で元の出汁を取ってラーメン、これぞ熊元(熊本)ラーメン!

「熊本って何処さ」

「肥後さ♪」

「肥後って何処さ」

「熊本さ♪」

「だから熊本って何処さ」

「船場さ。船場山には狸がおってさー♪・・・っていらんこと思い出した」

狸を撃ったのは鉄砲どころか風の砲弾でしたが。でも砂狸さんの相手はもうしたくないでござんす。煮ても焼いても食えんし。むしろ泥団子になるし。

もう戦う事はないと思うけど、次対峙する時があれば自分、木の葉隠れの里でちょっと隠れます。

(あ、そういえば砂隠れの里で塩取ってきてないなあ)

守鶴で思い出した。

・・・いやな思い出し方だなあ。

「それ、何かの歌ですか?」

「へ? ・・・そう、童歌の一つで手鞠歌・・・って言っても分かんないか」

「テマリ歌?」

「そう、テマリの歌・・・って違う」

思わずテマリ=猟師、狸=守鶴で考えてしまったじゃないか。そんな姉弟で繰り広げられる火サスな展開は心底ゴメンです。

「手鞠ってこれさ」

忍具口寄せの応用で、自作の手鞠を口寄せする。

「これをこうやって、つきながら歌うんだ。やってみる? 息抜きも大事だからね」

「はい」

スープを煮込んでいる間、鞠つきで遊びました。



優勝は、ジョン・ウー監督作品並にアクロバティックな鞠つきを披露したマダオに決定。

歌も何故かロック風になってました。肥後ってここさー、イエイ!じゃないって。

「自重しろマダオ。動きは凄かったけど」


だがマダオは親指を立て、笑いながら歯を煌めかせ、言う。


「心はいつでも15歳。愛されるボクでいたいのザヴォィ!?」


ボディが甘いぜ! と、突っ込み待ちのマダオに一撃。


続いて、キューちゃんとのツープラトン攻撃だ。


「いくぞ!」


キューちゃんがマダオの肩を掴み、こっちに飛ばしてくる。


「ちょ、ちょ、ちょ!」


そこを。


「直径10mm! 氏ね、マダオ」


飛びつき、足でマダオの首を挟み、地面に投げる。


フ ラ ン ケ ン シ ュ タ イ ナ ー 。完全にきまった。


頭から地面に突っ込んで、マダオは死んだ。


「死んでないから・・・」

「ち」

しぶといな。


「あはは、仲いいんですねー3人とも」


一連の光景にを見た後で、俺たちの仲が良いと断定するキリハ。

やっぱり天然なのか。








さあ、出来上がったので食べましょう。

「あ、美味しいですね意外と」

「うん」

店で出される洗練された味じゃないけど、野性味があっていい。

野菜もあれこれ入れたから、栄養も抜群だ。

なんか熊鍋ラーメンみたいになったけど、旨いことは旨い。

「おかわり!」

疲れて腹が減ってたのか、キリハがもの凄い勢いで一杯目を食べ終わりました。

「はい。今日一日頑張ったから大盛りね・・・螺旋丸だけど、一週間以内に出来そう?」

「・・・正直、わかりません。ですが、やってみま・・・いえ、『やります』」

「その意気だ!」

じゃんじゃん食べて!

とどんぶりに大きい肉を入れます。




食べ終わった後、全員で寝ころびながら夜空を見上げる。

「綺麗ですねー」

「そうだねー」

マダオが星座について色々と説明している。

キリハは興味を引かれたのか、その説明を受けながら「そうなんですかー」とわくわくした声で相づちをうっている。

(『父親』っていうのは、こういうものなのかね・・・)

前世も今も親父というものを知らない俺に、二人の姿は眩しく映った。



横目で見ていた二人から目を正面に戻し、1人空の星を見続けている。



すると、



「ん?」


不意に、手が握られた。

横を見ると、キューちゃんが悪戯な表情を浮かべている。これはキューちゃんの手か。

「そんな顔をするな。似合わんぞ」

「悪かったね」

といいつつも、手を握り返す。

すると、キューちゃんはそういえば、と前置きしてある事を質問してきた。

「・・・昼前のあれ、どうじゃった?」

昼前のあれ・・・というと、童女セクシーポーズ事件?

「そっちじゃない」

「痛い」

思いだし笑いしていると、手に爪が立てられた。

そっちじゃないとすると、本来の姿という、あの美女姿の事か。

「・・・うん、綺麗だったよ。今まで出逢った誰よりも綺麗だった」

「・・・そ、そうか」

ストレートな言葉が返ってくるとは思わなかったのか、キューちゃんの頬が桃色に染まる。

でも、本当に綺麗だったし。

「・・・でも、持続はできないみたいだね」

「ん、まあ、そのようじゃのう・・・」

(・・・ん?)

何か、キューちゃんの返答に含まれたものを感じる。

(何か知っている、いや感づいている?)

それで、それを知られたくないのか、そういう感じがする。

「キューちゃん?」

「ん、なんじゃ?」

「・・・いや、なんでもない」

何を隠しているのか知らないが、言うべき時がきたら自分から言ってくれるだろう。

(ここで追求する必要はない、かな)




今は黙って、星の煌めきと手の温もりを堪能しよう。



(本当、贅沢な時間の使い方だな)



流れる風の音と共に、夜は更けていった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/02 02:08







「・・・ラーメン!」


「俺の名だ。地獄に落ちても忘れるな」





  小池メンマのラーメン風雲伝「暗闘~黒板に隠された秘密の塩」より抜粋









それから、一週間後。



訓練が終わり、4人は宿に戻ってきた。



約束の日になったので会いに来たのだが、肝心の本人がいない。

代わりに、

「・・・エロ仙人!?」

「ネギ・・・」

(っち。一服もられたか)

壁によりかかって何とか立っているエロ仙人。

(説得するって言ってたじゃん)

あまりのアレっぷりに思わずカンクロウ弁になってしまう。

「はあ・・・」

ため息を吐いてやる。何やってんですかチミは。

嫌味を言おうとすると、シズネさんが慌ててた様子でやってきた。

「自来也様!? ・・すいません、綱手様は・・・」

「すまん。ワシも一服もられて、この通りの様だ」

二人の話を聞く。

シズネさんの方は、止めようとしたが腹に一撃くらって気絶させられたらしい。

自来也の方は無味無臭の薬を飲み物に混ぜられたらしい。ま、確かにそりゃ気づけんか。


手出したら藪蛇になりそうだったし、放置しておいたけど、それが裏目に出たか。


(それも仕方ないことだな)

あれこれ手を出す気もない。

細かい所まで気にして動き回るのは性分に合わないし。それに、基本他人の俺が割り込んでどうにかなるとも思えんし。

(でも、ここはまあ俺がやるしかないか)

「・・・取りあえず、シズネさんは自来也さんの治療お願いします・・・俺は先に行ってますから」

「春原さん!?」

「キリハも、此処に残っててくれ。相手が相手だし・・・じゃあ行こうか」


「・・・いいのか、の?」

自来也が聞くが、俺は肩をすくめて答える

「まあ、仕方ないでしょ」

状況が状況だ。でも、これだけは言っておこう。


「これっきりだからな・・・いこうか、マダオ、キューちゃん」


「「応」」




これで自来也に借りは作れた。後は、約定を完全に認めさせるまでだ。

付きそうのはこれっきりにする。

隠れ家の場所もばれてはいないし、木の葉に戻ってからはラーメン屋でしか顔を合わせないようにしよう。

後は、次代火影である綱手とも約定を定めるだけだ。

頼まれたのもあるが、元々そのためについてきたのだし。


ギブアンドテイクという奴だ。それで完全に安心できる訳でもないが、留め金にはなる。




馴れ合いはゴメンだ。そもそも、俺と自来也では守るものが違う。

俺にとっては、ラーメン。自来也にとっては、木の葉隠れの里。


道の途中で接しはすれど、何れは分かたれる。

当然だろう。目指す場所が違うのだから。


接点は作るが、属しはしない。それが互いにとっての最上だろう。

俺は、忍び稼業で生きていくつもりは無い。期待されても無駄だ。

暁対策に向け、互いに協力はするが、それだけだ。三代目にも告げた。戻る気は無い、と。




そして、恐らくはピンチな状況に陥っているだろう、綱手の元へ急ぐ。

「あっちだな・・・」

場所はすぐに分かった。戦闘の余波か、何か向こうから破壊音が聞こえてくるからだ。





ちなみに、キューちゃんは幻術への対処策として、俺の中に戻っている。

外に出ているのはマダオだけだ。



「・・・ちょっと待って欲しい」

「?」

そのマダオが、何か意を決した声で俺に提案する。

「せっかくの男同士ですぞ。もったいないとは思わない?」

「・・・イヤな響きがするな。で、何が言いたい?」

「それは・・・・」












「フフフ、相変わらず、血に対する恐怖は抜け切れてないようねえ・・・」


震える綱手を見て嗤う大蛇丸。だが、急に何かに気づいたかのように、右の方を見る。


「ちっ、新手か・・・・!」

飛んできた手裏剣とクナイを、カブトが弾く。


そのまま、綱手から距離を取る。





そこに、二つの影が降り立った。







「「そこまでよ」」





「アナタは・・・!」

「君は・・・・!」


こちらの姿を見て、大蛇○とクスリメガネが驚く。






「「ロジャー・サスケ・・・!」」

ともう1人。




警戒の態勢を取る大蛇○とクスリメガネ。






「「でも・・・・」」






と前置きして、二人は俺とマダオを指さす。心なしか、その指は震えていた。









「「・・・何故、女装しているんだ(の)!?」」








「・・・は?」




背中しか見えてない綱手が、何それ?といった風に呟く。



「ついに来た、やっと来た。新世代超ヒロイン伝説でござる」

「いくわよ、ロジャー子」

別名ナル子とも言う。その口には艶やかな紅が引かれていた。

「ええ、お姉様」

マダオの口にも、紅が引かれていた。グラサンとのコラボレーションが良い感じにキモさを引き出している。




これが、マダオの提案した作戦であった。

大蛇○はキモイ。超キモイ。対峙するのに、多大な精神を使う。それに、力量も凄い。超ヤバイ。

これは、それに対抗するための画期的な策である。

化け物を倒せるのは、より強い化け物だけ。つまり、オカマを倒せるのは、より強い化け物だけ!

『いや、その理屈はおかしいんじゃ・・・』

いやだってこの世界の強い忍者って、人としての大切な何かを捧げてるの多いし。

存在の引き算ってやつで、力と尊厳を等価交したんだよきっと。

『本気か?』

全部冗談です。いや、意表をつくのと、時間稼ぎが狙いですけど。

ここで大蛇○を殺るわけにもいかんし。音の残党に破れかぶれに攻めてこられても困る。

あと、音の里はできれば対暁戦の時に利用したい。それまでのまとめ役が必要だ。



「・・・・何なのよ、アンタ達」


「いやねえ、他人行儀で。同じオカマ同士じゃない。もっと奔放になりましょう!?」


俺の言葉に、クスリメガネは大蛇○とこっちを見た後、虚空を見上げながらため息を吐く。


「・・・何か、帰りたくなってきた」


心底疲れた声を出すクスリメガネ。曇っている眼鏡が余計に哀愁を誘う。



「ふふふ、何か言っているわよお姉様」

「きっと照れているのよ」

「いや、もう、それでいいよ・・・」

諦めの声を出すメガネ君。

「それで、何のよう? いつもとは違った格好だけど・・・目的はあの死の森の時と同じかしら?」

大蛇○が聞いてくる。確かあの時は少女の盾、と言ったか。

でも。

「いや、今回は助ける相手が少女じゃないので趣向をこらしてみました・・・どう?」

といいつつ、背後の綱手に紙を投げる。



書かれている内容はこうだ。

『自来也、シズネ、キリハは後で来る』


「お前・・・・!」


こっちの正体に気づいたのか、背後の綱手が驚いた声を出す。あと殺気も出してくる。いやだって少女じゃないじゃん。




「巫山戯ているの・・・!?」

大蛇○が怒りの声と共に、殺気を放ってくる。

「いつにない真剣な声ね・・・でもアナタに言われたくないわ」

「それぐらいで怒るなんて、典雅ではありませんわね。オフォフォフォフォ」

もう誰がだれやら分からない。

『・・・はあ』

心の中のキューちゃんはまた眉間を抑えている。小じわになるよ。

『誰のせいだ』

油断した自来也のせいです。





キューちゃんと話していると、大蛇○が動き出しました。

「もう、いい・・・全員、死ね!」


宣言と共に、森の中から口寄せの蛇が現れた。

その数、3体。どれも、大きい。

(前もって潜ませておいたのか)


唸りを上げて、襲いかかってくる蛇。俺は避けようとするが、咄嗟に身体が動かなかった。


(金縛りの術か。だが!)


「甘いわ!」

大蛇の牙が届く前に、力任せに術を振り切る。

(くそ、良いタイミングで術を使ってくるな)

下忍でも使える基本忍術。下忍レベルなら拘束はされないが、カブトレベルの術者に使われると一瞬だが硬直してしまう。

今のはちょっと危なかった。

(舐めてかかれんな)

そういえば、多対多の戦闘は始めてになる。

(まずは、影分身を使っておくか)

「影分身!?」

驚く綱手の前に、護衛として一体置いておく。

(潜んでいる暗部がいつ襲ってくるとも限らんからな)

前に追撃出来なかったツケがきている。



一方、大蛇○の方は口寄せの蛇を前面に出して、自身はこっちに近づいてこない。腕を使えない今、勝ち目は無いと見たか。

慎重になっている証拠だ。力量を知られている故の対応だろう。

油断の欠片もない大蛇○。手傷を負っているにしても、そう容易く御しきれる相手ではない。

3体の蛇が織りなすコンビネーションも厄介だ。螺旋丸を使うにしても、一瞬だが溜めが必要になる。その隙もない。

(百戦錬磨ってことか)

腕が無い程度、やり方次第でいくらでもカバーできるか。引き出しの多さは現存する忍びの中でもトップクラス。

機を待つしかない。







マダオの方はカブトを抑えている。

「こっちだよ!」

「なんの!」

こちらはガチの近接戦闘だ。

基本、チャクラのメスを武器とした近接戦闘が得意なカブトは、もちろん体術のレベルも高い。

ガイみたいに体術専門の忍びほどではないが、通常の上忍よりも高い。

だが、マダオもさるもの。身体能力やチャクラ量は本来のものと比べ大分落ちているが、腐っても元4代目火影だ。

忍界大戦を生き延びた猛者。こちらも、潜ってきた修羅場の量が違う。

上忍にしても速いカブトの猛攻をしっかり目と勘でとらえ、回し受けで凌ぎ、逸らし、避ける。

(受ければ斬られるからな)

手のひらでカブトの攻撃する腕の側面を引っかけ、攻撃の軌道を外側に逸らし続ける。

あれだと、連続攻撃もし辛い筈だ。攻撃を逸らされると言うことは、重心が崩されるのだから。

防戦一方にはなっているが、時間稼ぎはできている。勝つことはできなそうだが、負けもしないだろう。



「っとお!」


森の方から飛んでくる、複数のクナイと手裏剣群を避ける。

護衛の忍びだろう。気配を察知するに・・・3、の、4人か。

木の葉崩しの後だし、音隠れの方もあの戦争における消耗が酷いということだろう。

(どれも中の上といった力量だけど、この人数なら何とかなるか・・・!?)



「春原さん!」

「綱手様!」

後方から、シズネとキリハの二人が駆けつけた。


(やばい!)


それを見た音隠れの暗部が、一斉に手裏剣とクナイを投げつける。






そこからは一瞬。




マダオと視線を交錯して、目配せだけでスイッチ。




俺がカブトを抑え、マダオはキリハの方を対処する。シズネさんの方は対処できるだろうとしての判断。



キリハに飛来する手裏剣とクナイに向け、マダオはクナイと手裏剣を投擲して弾き落とした。


投擲術の腕は落ちていないらしい。神業だ。


(そういえば、飛雷神の術を有効に使うために、投擲術は徹底的に鍛えたと言っていたな)


流石の腕である。







「隙あり!」




よそ見をしている俺に向け、カブトがチャクラのメスを突きだしてきた。




「見せたんだよ」



だが、そのよそ見はフェイクだ。


隙見せは誘い。実際は、注意を逸らしていない。


突き出された手を左手で外に逸らしながら、左足を一歩踏み出す。


そして、右の掌底で顎をかち上げる。



かこん、という打撃音。カブトの視界が上にそれる。




同時、左足を震脚しながら、左の掌打をカブトの腹に繰り出す。




「ぐっ!?」



こちらは反応され、ガードされる。だが、威力は殺せなかったのか、後方へと吹き飛ばされる。






一方、あちらではマダオが大蛇○の口寄せ蛇を抑えていた。


そして、キリハとシズネさんが近寄ってきた音の暗部と対峙。


「ふっ!」


仕込み針による毒弾を受け、1人が倒れ伏す。


そして、後方から忍び寄った1人は、気配を察知したシズネさんの忍法・毒霧の術を真正面から受けて、こちらもまた倒れた。


(やっぱり、毒使いは初見の相手だと強いな)


一撃受けたら終わり、っていうのが容赦ない。



一方、キリハの方は。




「つっ!?」


防戦一方だ。だが、手を貸せる状況ではない。シズネさんは残りの1人と対峙しているし、マダオも蛇の相手でせいいっぱい。

こっちも、カブト相手では気を抜ける状態ではない。

互いに油断なく対峙している今、一瞬の隙が致命傷になっていてもおかしくない。

ある程度のレベル、致命打を持つような力量に達する者同士の死合では、互いの地力の差など、一瞬の隙があれば埋まってしまう。

(チャクラのメスによって心筋とか肺を裂かれるのは不味いしな)

呼吸が出来ない状況では、追撃もかわせないかもしれない。

だから、俺は目の前のカブトに集中する。それに。


「死ね!」


突き出された暗部のクナイ。




「死なない!」




それを、キリハが手のひらで受け止める。






「ぐうううっ!」




血が吹き出るが構わず、そのままその暗部の腕を力任せに引き寄せる。





そして、空いているもう片方の手のひらを突き出した。






「あれは・・・・!」





成り行きを見守っていた綱手が、驚きの声を上げる。







一週間前に約束した、あの術だ。






「螺旋丸!」







正真正銘、全力全開の螺旋丸が、音の暗部を吹き飛ばした。







(本当に、やった・・・)




修行の段階では五分五分だったのに。

それを、実戦でしかも掌を貫かれ激痛に耐えながらも完成させるとは。


本番に強いというレベルじゃない。これが天性か。

思わず笑みが零れる。


『油断するな!』


(分かってるよ)


気は抜いてないから大丈夫・・・・!?


「一体、行ったよ!」

マダオが相手していた蛇が、一体こっちに来た。


(ちい、マダオの攻撃能力が乏しいと見て・・・!)

残りの二体で十分だと思ったのだろう。一体を、こちらに向けてきたか。

「だが甘え!」

と螺旋丸を繰り出そうとするが、また身体が動かない。


「同じ手を食うか!」

先ほどより速く、その拘束から抜け出る。

そして蛇の突進を跳躍して避けた後だ。

再び正面から向かい、螺旋丸を発動する。


「これで終わり・・・・!?」


そして、螺旋丸を繰り出そうとした時。







蛇の中から、残りの1人が飛び出てきた。





「大蛇丸様、万歳!」






そして俺は、音忍が全身に纏っているものを見て戦慄する。








(大量の、起爆、札、まずっ・・・・!)




避けきれない。






一瞬後、爆音と共に、視界が閃光に染まった。










~キリハside~




「春原さん・・・・!」


口寄せの蛇も巻き込んだ、自爆。

あの爆発の規模だ。避けられたとも思えない。




「他人の心配している暇はないよ!」


呆然としている私のところに、カブトさんが襲いかかってきた。


「くっ!」


まともに相対しても勝てるとは思えない。そう判断し、木の葉瞬身を使って距離を取る。


(悔しいけど、私じゃかなわない)

カカシ先生に匹敵するレベルと聞いた。

(自来也のおじちゃんが来るまではもたせないと・・・!)


と決めたが、それも無理そうだった。



(速すぎる・・・!)



瞬身後の所を捉えられた。間合いを詰めてくるカブトさんを見て、私は悟った。



(この間合い、逃げ切れない・・・!)



「殺った!」


勢いのまま突き出されたメスが、私の胸を貫いた。



「・・・・!?」


その直前、カブトさんの動きが不自然に止まる。


「隙あり!」



混乱していた私は、咄嗟に掌打を突き出す。


「ぐうっ!?」


それを避けられず、吹き飛ぶカブトさん。



「くっ、今のは、金縛りの術?」


「お返しだ」



驚くカブトさんの後方、まだ漂っている爆風で起きた煙の中から、声がする。



「春原さん!」

生きていたんだ、と安堵のため息を吐く。






だが、煙が晴れた先、現れたその姿を見て、硬直する。










「・・・・・・・・・え?」





息が止まったかのように錯覚する。







あちこち跳ねている、金髪の癖毛に、青い瞳。







「はっ!」




私の隣に降り立つ。その姿を見て、鼓動が早くなる。





小さい背丈に、何処かで見た顔立ち。





夢にまで見た人の姿が、あった。







~side out~





危なかった。発動前のなり損ないの螺旋丸を盾代わりにしないと、結構なダメージを被っていただろう。


まあ、余波で変化が解けてしまったけど。



(仕方ない、か)



隣で硬直するキリハを見て、苦笑する。



(ま、遅いか速いかの違いだし)



「説明は後だ」



取りあえず今やる事は一つ。



まず、口寄せの術で例の布を取り出す。途端、カブトが警戒の態勢に入る。



「一度殺されても」



それを聞いたカブトが、詠唱の間に逃れようと、俺から距離を取ろうとする。



(大蛇○から要注意術として、事前に詳細を聞いていたんだろうが)



「今に見る夢は同じなり、以下省略!」


「ええ!?」



事前知識が仇となったな!術の発動に、詠唱は要らないんだよ!



「精霊麺!」



不意をつかれたカブトは避けきれず、封印術を組み込んだ布に腕を拘束される。




「キリハ!」



隣のキリハに視線を送る。




「はい!」



キリハは俺の呼びかけに応える。




そして、一緒にカブトの元へと走り出す。




そして、横並びに走るキリハに、左手を差し出す。



「いくぞ!」


「・・・了解!」


握手するためではない。


キリハは俺の呼びかけに応え、怪我をしていない右手の方をこちらに差し出す。





これは、そう、訓練中に冗談で語った、双子の協力技だ!





互いにチャクラを放出し、回転させ、留める。






大きさは二人分、その更に倍だ。






喰らえ!







「「双龍・螺旋丸!!」」








螺旋の大玉が、封印の布ごとカブトを吹き飛ばした。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十一話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/03 07:50


「おーおー、でかいねえ」


自来也のガマ文太、綱手のかつゆ、大蛇○のマンダを見上げ呟く。


ちなみに先ほど吹き飛ばされたカブトも、マンダの上に乗っている。

死んではいない。拘束の封印布からの一撃だったし、あの布の防御力で、螺旋丸の威力も殺されたみたいだ。

まあそれでもかなりのダメージを受けているようだが。




状況だが、カブトが吹き飛んだ直後、遅れてきた自来也が到着。

まずは土遁・黄泉沼を使って、口寄せの蛇を沈めた。


そして大蛇○との攻防後、ガマ文太を口寄せした。


同時、大蛇○の方もマンダを口寄せ。


同じく。綱手の方もかつゆを口寄せ。


3すくみの硬直状態に陥った。




マダオはチャクラの消耗が激しかったので、俺の中に戻っている。


キリハとシズネさんは俺の隣にいる。

・・・あと、キリハの輝かんばかりに何かを期待している視線がな。

痛いぜ。


(シカマルじゃないけど、めんどくせーことになったな・・・)


深い付き合いは無理だっちゅーのに。

火影目指しているのに、木の葉ではある意味鬼門な俺と一緒にいることになるってのもなあ。

無理でしょ。


『・・・・ま、それはともかく。どうするの? 大蛇○にはばれたようだけど』

(どうもせん。暫くは戦いも無いだろうし、メンマの姿で一日過ごすよ)


後は自来也に釘を刺しておくだけだ。スタンスは変えない。

(どうも、ね。木の葉にはいらんお節介を焼く人が多そうだし)


ここ2週間に満たない付き合いだが、分かった事がある。

善意は嬉しいが、時には重荷になるってことを。

狙われる身としては、基本独りの方が気楽で良いのだ。

白と再不斬でさえ、いつかは別れる事前提の付き合い。

(ま、あの二人は一緒にいて気楽だけどな。白は基本優しいし、再不斬も同じ。それなりの過去持っているし、深くは踏み込んでこない)

触れられたくない場所があるってことは、互いに分かってる。

(でも、自来也とか木の葉の忍びは違うんだろうなあ)

俺を俺として見てない感じがする。四代目の息子ってフィルターがかかってるんだろう。

仕方ないとは言えど、ね。


正直うっとうしい。


『え、彼女欲しいんじゃ無かったの?』

(・・・暁を倒すまでは無理だよちくしょう)


屋台でイタチと鬼鮫を見て、分かったことがある。

今まで、暁の事を甘く見てたってこと。大蛇○と対峙した時点で気づくべきだった。


(どうにかなると思ってたけどな。いやー、どうにもならんわ)

一対一ならどうにかできる。イタチが絡まなければ、一対二でも何とかなる。

でも、イタチ絡んでの一対二だとアウトだ。

(それに、1人であれだけの力量だとねー)

6人いるっていうペインにも勝てない。

(・・・ペインが自来也と対峙する所まで見たんだっけか)

それ以降は分からない。勝敗の行方も分からない。

まあ、負けイコール死の世界だし。


(今までより慎重に行くしかないかあ)

『ま、そうだね』


その前に、大蛇○を無事逃がさないとな。

情報の使い方次第で、暁と音隠れを対峙させる事も可能だ。

互いの消耗を狙う俺としては、3年後までは生きていてもらう必要がある。


『じゃ、行く?』

レッツゴー、と足にチャクラをこめて跳躍する。


「・・・何のよう? 九尾のガキが」

「まあまあ蛇さん。そう怒らんと。そんで、お三方に話があるんだけど」


軽く切り出した後、告げる。




「うちはイタチと干柿鬼鮫が近づいてるんで、ここは一つ退いてくんない?」

「「・・・何?」」

自来也と大蛇○がハモる。


もちろん、嘘である。


だが、俺が出す情報だ。一部では、信じざるを得ないものがあるだろう。

俺が暁に追われる身だってのは・・・自来也と大蛇○は知っている。その対策に云々~と、良い感じに裏を考えて、納得してくれるだろう。

そして、追撃の一言。

「いや、俺としては・・・今は、対峙したくないんだよね。暁と」

「・・・へえ? そこまで知ってるのね」

言外に含ませたニュアンスも悟ってくれる蛇さん。

(うん、やりやすいな)

今は、と対峙。これだけで、俺を追う事はないだろう。暁にも情報は流さない筈。

大蛇○としては、俺が暁に捕まったら困るのだ。故に情報は流さない。

今は、という言葉から、暁という組織としての目的も知っている、という事を連想させる。

そして、俺が暁と対峙する意志を見せているならば、今もしくは3年の期間内という時間制限はつくが・・・俺を害すという選択肢は選ばない。

俺と同じく、俺と暁でつぶし合って貰うという状況が最上となるのだから。


「と、いうことで、一刻も早く退いてくれ。このままじゃ全滅する」

手負いの大蛇○と綱手、そして完調ではない自来也だと、事実そうなる可能性が高い。

(仙人モードになれば分からんけどね)

薬が抜けきってない状況で使えるかも分からんし。



「ふ、ふん、いいわ・・でもこの借りは必ず返すからね!」


大蛇○がツンデレのテンプレを発動。


俺の精神に多大なダメージ。


いや、表情はね。睨んでるし、殺気もあるし、ちょっと怖いんですけど。

でも、そういう言葉の使い方をされるとちょっと・・・連想してしまった。

自分の現代知識を憎んだのは初めてでした。


『き め え』


全力で同意する。テンションだだ下がりじゃあ、ボケ。


「・・・はあ。じゃあ解散、解散」


とやる気なく手を叩く。


gdgdな空気のまま、戦闘は終了となった。















その夜。


あの後、宿に戻った俺たちは、一泊した後木の葉に戻ることとなった。

キューちゃんは、少し話があるとのことで、離れている。どうも自来也と話をする約束をしているそうだ。

俺はといえば、キリハ待ち。


(話すと約束したからな)

綱手と話した後のことだが。

現在、窓の外ではキリハと綱手が何ごとか話している。あの首飾りを見るに、話は上手くいったのだろう。

(五代目火影の件は問題ない、か)

二人を遠目でみながら安心安心と呟いていると、声を掛けられた。



「少し、話があるのですが」

「ん? 何、シズネさん」

「・・・今日の事です。綱手様が1人で大蛇丸に会いに行ったと聞かされた時、あなたは慌てなかった」

「え? ああ、まあ、ねえ」

「大蛇丸の誘いについては、分かっていたのでしょう? 何故・・・」

と、うつむくシズネさん。

(ああ、ちょっとだけとはいえ、裏切ったと思ってしまったんだっけ。付き人なのに、とか考えているんだろうか)

うーん、何ていったらいいのか。

「えーと、綱手さんって医療忍者でしょう?」

「え、ええ」

「医療ってものは、生きている人を治すわけで」

「はい」

「つまり、ね。誰より腕が良い医療忍術の使い手である綱手さんは・・・誰より知っていると思ったんだよ」

「何を、ですか?」

「死人は蘇らない、ってことを」

その言葉に、シズネさんは息を飲む。

死人が蘇る。それは、医療忍術の存在意義を根底から覆す理だ。

それに、人体の理不尽を誰よりも熟知しているだろう綱手の事だ。

(生き返る? そんな事は有り得ない、ということは分かっていた筈だ)

死は死で。生は生だ。

覆すことなどできない。生きる者、死んだ人、その両方を冒涜することになる。

「それに、大蛇丸の目的については知っていたんでしょう? なら、協力するはず無いじゃない。木の葉を潰すってことは、大切な人の遺志を潰すって事なんだから」

ダンと縄樹の話は、5ヶ前にキリハと一緒に聞いた。

(火影は俺の夢だから、か)

今はキリハが持っているだろう、夢。木の葉を守る火の影になるという夢。

ならば、答えが出るだろうと言う。

「そう、ですね」

「まあ・・・確かに、大切な人だったんだろうね。知っていながら、それでも期待してしまう程に」

「・・・はい」

と落ち込むシズネさん。

甘く誘う夢に陥り、眠るように腐っていく。

辛い現実、それを良しとする選択もあるが、内に残る誇りが勝った。

そういう事だろう。

「はいはい、この話は終わり終わり。過ぎた事でしょ? 明日からまた頑張ればそれでOKOK」

「はい・・・」

いかん。暗い。ここは話題を変えよう。

「でも寂しいなあ。会うのは二度目だってのに、俺の事忘れてたんですか?」

「え?」

「ほら、あの時、麻の里での事覚えてません?」

「えっと・・・・・あ!」

思い出したようだ。

「あの時、お金を取り戻してくれた人ですか! 思いだしました!」

「忘れられてたんだ・・・」

やっぱり。ノーリアクションだったし。

「いや、すいません・・・恥ずかしながら、今思いだしました。えっと、あのときは本当に有り難うございました」

「ま、いいよいいよ。あの時は路銀を稼ぐついでだったし」

本命はラーメン代ですが。

「それでも、助かりましたから」

と顔を赤くしながら、頭を下げるシズネさん。

「でも、奇妙な縁ですよねえ。あの時はただ綺麗なお姉さんを助ける事が目的でしたから。まさか忍びだなんて、気づきもしなかったですよ」

「え、ええ?」

と、一部の言葉に反応して、赤い顔を更に赤くするシズネさん。

(ほんと、耐性ないなあ)

年上だってのに、からかい甲斐がある。

「ま、あの時は失礼しました。でも、木の葉に戻ったらね。心配ないと思いますよ?」

本心である。アクが強い木の葉くの一群(代表格:アンコ)の中、トップクラスの癒し系要素を持つシズネさんはもてにもてるだろう。

姑(綱手)がちと難問だが。

(でも、綱手の付き人ってだけでなあ)

ものすごい忍耐力を持っている良妻賢母、と思われるんだろう。料理の腕も立つと見た。

「そうでしょうか」

「そうですよ。保証します・・・っと」


窓の外を見ると、綱手の姿はすでに無かった。

キリハが1人、佇んでいる。俺を待っているのだろう。


「・・・じゃあ、キリハと色々話す約束してるんで」

「はい。あの、有り難うございました」

「って俺の方が年下ですって。敬語はいらないです」

「あ、そっか。じゃあ・・・ありがとうね?」

微笑むシズネさん。



「それですよ。その微笑みがあれば、男なんてイチコロです」


親指を立てながら、「笑顔を忘れずにー」とだけ言って、その場を後にした。















約束の場所に来ると、キリハが1人星空を見上げていた。

そして俺の気配を察知すると、すばっと視線を正面に戻す。


「「・・・・」」


ちなみに、変化は解いている。

背丈は同じくらい。いや、キリハの方がやや上といったところか。


「え、えっと・・・」

「ん?」

何を話していいか分からない、といった風なキリハ。

なんでか、頬が赤い。


でも、


「お、お兄ちゃん!」

その口から出た言葉に、俺の頬も赤くなった。




「な、なんでせう妹」

「お兄ちゃん!」

「いもうと」

「お兄ちゃん!」

「妹!」

『・・・な、何してるの?』

(はっ!)

マダオの突っ込みを受け、我に返る。


『いやあ、眼福眼福』

とによによした笑い顔をしているであろうマダオ。

ふと周りを見ると。


綱手:宿の扉の裏でゲラゲラと笑っている。

シズネ:宿の三階の窓の上で、微笑まし気に見守るように

自来也:屋上でにやにや笑っている

キューちゃん:同じく屋上。若干不機嫌に見える。え、何で?



つまり。

要約すると羞恥プレイだった。





(ど、どうしたら良い!?)

かつてない危機的状況に、焦る。












~キューちゃんside~


「まったく・・・」

屋上から見える、兄妹の姿に苦笑する。

(何をやっているのだあやつは)

抱きつこうとする妹と、何故かそれを避けようとする兄。

いつのまにか一進一退の攻防になっている。

(照れているのか。相変わらずあほじゃのう・・・)

傍目から見れば随分とアレな絵だ。

まあ、笑えるが。


攻防の途中、キリハから聞こえる、

「見守ってくれていたんですよね・・・・・・・ずっと」

とか

「ずっと会いたかった」

とか

「これからは一緒だよね」

とか。

一々言葉に反応しているあやつに、何故か不機嫌になる。









(まあ、不機嫌になるのは、の。それだけではないだろうが)

と、その原因を横目で見ながら、訪ねる。

「それで? 話があると言っておったが、ワシに何が聞きたい?」

「いやのお・・・」

「妖魔核の事か?」

その言葉に、自来也とやらの動きが止まる。

「気づいておったか・・・いや、思い出したと言う方が正しいのか?」

「ふん、その通りじゃ。もっとも、思い出したのは最近じゃがな・・・それで? それだけじゃなさそうだが」

「妙木山の蛙の爺様から聞いたんじゃがのお・・・本来、天狐とは気位の高いものだと」

「うむ」

その通りだ。遙かに高い霊格を持つワシ達・・・といっても、極々少数じゃがの。

そのどれもが、気位の高い奴らばかりじゃ。

「有り得ないと言われた。本来の自我を取り戻した天狐が、宿主である人間を殺さず、自由も求めないで・・・その現状を良しとするというのは」

それも然り。妖魔核が抜けた今、ワシが外に出たとしても、問題はあるまい。

すでに、新たな九尾は生まれておるじゃろう。断言しても良い。絶対にそうなっている。

(容赦など無い存在だからのう)

今宿主であるあやつを殺しても、ワシが再び堕ちる事はあるまい。

「それでも、お主は動かない。宿主を殺そうとしていない・・・それは何故じゃ?」


「そうじゃのう・・・」


満ちる月を見上げながら、呟く。




「雌として生まれ、妖魔に堕ち、災厄の権化となって生きた」




そこからは無色の日々。

ただ目の前にあるもの全てを、喰らって生きてきた。


人を、獣を、草花を。目の前に移るものすべて、動く者全てを屠り尽くした。

あるいは、己の存在でさえも。

殺さずには生きていられなかった。


あれが・・・己に根ざした妖魔核が、どこから生まれたものなのかは知らない。

妖魔に堕ちた時の記憶も曖昧だ。でも、あの殺戮の日々は肉の隅々まで、骨の芯に至るまで染みついている。


考える事もできず、いつの間にかそれを受け入れ、ただ殺すだけの日々。



「そこで、出逢った」



人でないものでも、その目で見つめ、言葉を交わし、理解しようとする馬鹿者を。

人が持つ悪意に怯え、驚異に怯え・・でも人が持つ誇りも大好きだという馬鹿者を。

損得だけで動かず、感情のままに動き、そして時に間違え、それでも諦めない馬鹿者を。

目覚める時も眠る時も、明日の事を信じている馬鹿者を。


思い出すだけで笑ってしまう。そして、胸の中の灯火が揺らぐ。

暖かい音を発しながら。



「そうじゃの。確かに。『天狐』としては、おかしいのかも知れぬな」



問うてくる人間、自来也に視線を戻し、その問いの答えを言う。




「でも、決めたのだ。あの馬鹿者の傍にいられるなら、そんな位などいらないと。そんなつまらないものなど、必要ないと」



今、ワシは笑っているだろう。誇らしげに。

出会えた幸運を思い、そしてこれからも共に在れるであろう巡り合わせに感謝しつつ。





「雌として生まれ、妖魔に堕ち・・・・・・それでも、だ」




生まれは選べない。でも、死に方は選べる。


そして、譲れないものがある。望む事がある。





「死ぬときは、女として死にたい・・・あやつを愛する女として、な」





それが、共に有る理由だと。



月の光に負けないように、いっそ輝かしく微笑みながら。



天上の美しさを持つ天狐は、歌うように告げた。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十二話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/05 22:37



「うーし、じゃあ出発するかあ」



翌日、早朝。

宿の前には、出立しようとする、一団の姿があった。




「それにしても頭が痛い・・・」

昨日の夜の事を思い出す。

あの後、キリハの攻勢を凌ぎきれず捕まった俺は、色々なことを話すはめになった。



人柱力とか、暁のこととか。

それで、木の葉には・・・木の葉の忍びには戻れない事を告げると、

「・・・仕方ないかもね」

と、悲しそうに笑いながらも、納得してくれた。考えていた事なのだろう。




そして、マダオとかキューちゃんのことを説明すると、

「ええ?!」とか「お父さん!?」とか滅茶苦茶驚いていた。

キューちゃんに向けられた視線の中、含まれている感情は複雑そうだったが、何とか納得してくれたらしい。


ちなみに、マダオのマダオっぷりについて聞いてみたところ、

「え? 別に想像の範囲内だよー」らしい。



まあなあ。



自来也(エロ仙人) → 【  】 → カカシ(遅刻王・イチャパラ狂)

という構図で、「【 】に入る答えを書きなさい」という問題の答えだからなあ。

それに、小さい頃からそういう人達に囲まれて育ってきたしなあ。


・・・キリハの常人のラインは何処にあるのか、激しく気になる出来事だった。


(我が妹に幸あれ)

強く生きてくれ。

ちなみに、好きな人はいないのか、と聞いたところ、「いない」だそうだ。

笑顔で断言された。


「サスケは?」と聞くと、「チームの仲間だよ?」らしい。

「シカマルは?」と聞くと、「幼なじみだよ?」らしい。

・・・あの二人に幸あれ。

まあ、サスケの方はどう思ってるのか知らんけど、シカマルの方はなあ。

たまにラーメン屋に来ていたが、キリハを見る視線が、こう、あれだ。

いわゆる、ばればれである。いのとかサクラとかヒナタ辺りは気づいているだろう。ああいうのは、女の子の方が聡いもんなあ。

この妹、天然入ってるし気づいてないだろうけど。


ちなみにマダオだが、キリハの「いない」発言を聞いた後、手に持っていた釘バットを静かに床に置いた。

何するつもりだった、とは聞かない。

・・・あとその赤い染みはケチャップだよね? てかどこから取りだした?





そして、テンション上がった全員で酒盛りをした。

何か色々とめでたいということで、飲めや歌えの馬鹿騒ぎ。




そして、その後、酔ったキリハが俺の部屋にやってきて、「今日は一緒に寝ようよー」と主張したが却下。




・・・キリハの背後で素振りしているマダオが怖かったし。

スイングスピードが速すぎて、バットのヘッドが霞んでたし。何をかっとばすつもりだったのだろう。あと無表情でバットを振らんでくれ怖い。


あの夏の空に消えた白球には成りたくないので、必死に説得した。

てか、その速さでジャストミートされたら、頭蓋が粉微塵に砕け散るわ。

え、何?「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」?

・・・色々な意味でふざけんじゃねえよ。


と、いうことでマダオとキリハが一緒に寝ることになった。

ま、その方が良いよ、きっと。親子水入らずってね。次の機会がいつになるかも分からないし。




だが、1人布団に入って眠った後だ。思わぬアクシデントが俺を襲った。

夜中にふと目覚め時に気づいたのだが。


・・・いつの間にか、キューちゃんが俺の布団に入り込んでいたのだ。


誇張ではなく、一瞬鼓動が止まった。

間近で見るキューちゃんの顔。すう、と静かな寝息を立てて俺の顔の真正面。

もうあれです。今まで近場でみたこと無かったので、気づかなかったですが。


・・・金糸・真白の輝きに、寒気がする程の美貌。子供ながらに、反則級の綺麗さでした。

幸せそうに笑っているその表情が倍率ドン・・・今思えば意味が分からない。それだけ錯乱していたということだろう。


大人の時の姿を思い出し、なんか、こう、今までにない変な感情が湧きでてきた。


『・・違う! 俺はペドじゃないロリじゃないんだあああぁぁあぁぁあ! はっ、これはまさか魔導探偵の罠!? おのれチョウジぃぃぃ!』


とか、一晩中心の中で錯乱していたので、眠れませんでした。

まる。




朝、起こしに来たキリハに見られて、怒られたし。

「えっと、流石にそれはどうかと思うの。ってキューちゃんもあくびしてないで聞いて!」

「眠いし今度」

床をばんばん叩いて怒るキリハと、目をごしごし擦って面倒くさそうにしているキューちゃん。


ちなみに俺は隣で悟りを開いていた。目玉は狩らんけど。

煩悩退散だ。今ならば仙人になれるかもしれない。




「えっと、現実逃避してるみたいだけど、止めなくていいの?」というマダオの言葉に、

しゃーねーなーと応えながら、口を挟む。

・・・でも何か怖かったので

「えーと、波風さん? そのへんでどうか」

と言うと、予想外の反応が。涙目になったキリハに、「名前で呼んで!」と怒鳴られたのだ。

そして何故か、今度はこっちが怒られることに。

キューちゃんはあっちの方で二度寝してるし。



(いや、こそばゆいっていうか面倒くせえな、おい)

そんな事がありました。








「ふー・・・」

色々と思い出して、また頭が痛くなる。


「なんじゃ、元気ないのう」


「ちょっとね『ナルトさん、事件です!』ん?」


「あれ、呼んだ?」

「ワシじゃないぞ」

「僕でもない」


(・・・あ、木の葉に置いてきた影分身か)


「ちっと悪い。外すわ。マダオ、キューちゃん」

「うむ」

「了解」

二人を中に。


「おい!? ちょっと・・・」

「お兄ちゃん!?」

自来也とキリハが叫ぶが、取り合わない。

事件、と言っている。急いで対処する必要がある。


「先に木の葉に戻っておいて。大丈夫、絶対に戻るから」

「・・・うん」

返事を聞いた後、俺は走り出した。







「事件、か」



呟く。

そしてふと頭をよぎった単語について、マダオとキューちゃんに聞いてみる。

「平穏ってなんだっけ?」

俺にとって、平穏とはラーメンだ。ラーメンがが恋しい。お家帰りたい。ラーメンを食べたい。

白い鳩並に平和の象徴となってもおかしくないぜ!

『疾く、過ぎ去るもの?』

・・・忍びねえなマダオ。流石は元火影。

『風と共に漂い、また何処かへと流れ伝わっていくものじゃろう・・・一つところには決して留まらぬもの』

追い続けないとすぐ無くなるし、下手に留めると濁るしの、と笑うキューちゃん。

うーん、経験談みたいで、反論できん。

でも、何か台風みたいな厄介毎が次から次へとやってくるんですがどうしたらいいんでしょう。

いっそ旅にでようかなあ。でもなあ。

「平穏はコボルトよりも弱く、トーレナ岩よりも消えやすいしなあ」

『誰が分かるのそのネタ』

反省。

でも赤宝箱は男のロマンだと思うんだ。

『白宝箱はだめ?』

リスクのない冒険は冒険とは言わないよ。危険の無いギャンブルなどちっとも面白くないしね。

『-1000000G、次ターン即死』

それでも、だ。

その果てに得られるものがあると信じて、人は挑み続ける!



『何を言っておる?』

いかん、話がそれた。



取りあえず、だ。

「これが終わったら、絶対に休暇(ラーメン三昧)取ってやるーーー!!」

小池メンマ13歳、魂の叫びだった。

このままでは「 ガ ッ ツ が 足 り な い !」という事態になりかねんし。





『そもそも、この面子で平穏に暮らせると思うのが間違いなんじゃない?』

・・・嫌な締め方をするな、マダオ。










そして、数分後。

「ここまで離れたら、十分か」

白にこちらの言葉を返す。

「何があったの?」

影分身を媒介とした連絡方法だ。

相変わらず便利すぐる。ま、維持に馬鹿みたいなチャクラ使うし、そうそう使えるもんでもないんだけどね。

『あ、はい。今木の葉の外れの・・・森の中に居るんですけど』

「うん」

『その、女の子が1人・・・こっちも、忍び・・・うん、抜け忍みたいなんですけど。4人の追忍らしき忍びに襲われてるみたいなんです』

「特徴は?」

『追われている方は・・・額当てを外してますので、どこの抜け忍かは分からないんですが・・・赤毛の、女の子です』

赤毛。

もしかして、と思ったけど、ビンゴか。

『追っているのは、音隠れの忍びですね。何やら、不穏なチャクラを纏っています。あと、面はつけていないですが・・・』

こっちもビンゴ。

「・・・もしかして、その女の子を追ってる連中の中に、デブとか麻呂とかいる?」

『ええ? ・・・はい、太っている人はいますけど、麻呂ってどういう意味ですか』

「あ、ゴメン。何か、眉毛がこう、黒丸二つみたいな」

『あ、はい。います。こっちはまだ気づかれてないみたいなんですけど、どうします?』

「再不斬は?」

『隠れ家です。留守番してます』

じゃあ、不味いな。白だけじゃ危険だ。

今の白なら、2対4でも勝てるかもしれないが、万が一があれば再不斬に顔向けできんし。

「取りあえず、すぐそっちに向かうから・・・っち、遠いな」

間に合うか?

「なるべく戦闘は避けてね。その中には、あのかぐや一族の生き残りもいるから」

『・・・』

え、何か白の空気が変わったんだけど・・・俺、地雷踏んだ?

『かぐや一族、ですか。そうですか・・・まだ、生き残りがいたんですね?』

「そう、だけど」

怖ええええ。なんだ、怒ってる?

『そうですか』

「え、ちょっと、手を出さないで欲しいなー・・・なんて」

下手に殺すと、ね。

サスケは向こうに渡す気ないし、次の転生先であろう君麻呂を殺すと、音とのあれこれが、色々とややこしいことになりそう。

『・・・はい、わかりました』

「悪いね」







通信を終えた後、マダオが言葉を挟む。

『かぐや一族って、霧隠れの・・・骨の血継限界のあの一族だよね、確か』

「そう。クーデター起こしたけど滅びたっていう・・・あ、そっか」

その事件のせいで、血継限界持ちの立場が余計に悪くなったのかも。

「そりゃ怒るわあ」

いらん事思い出させたかな。




『まあ、それはともかく』


やりますか。




「さてと」

一度止まり、屈伸する。


(それが少女の危機ならば、それを阻止するのが我ら影ってね)

格好だけじゃない。ノリで言った言葉だけでもない。心の中にある言葉だ。


見ず知らずの少女でも、目に映れば助ける。

それに、追われているということは、抜けたのだ。

・・・選んだのだ。

誇りに殉じる生き方を。



(なら、助けてやりたい)



力、有る。

機会、有る。

方法、有る。




改めて自己に問う。


(・・・見捨てるか?)


その答えは、ノーである。





さらに、問う。



ただの女の子が、それでも夢に命を賭けた女の子が、助けを必要としています。







(・・・その手を差し伸べるか?)








『「その答えは、イエスである!」』

昨日の酒が抜けきっていないのか、マダオもハイテンション。

でも、悪くない。

悪くない、酔いだ。







力に生きる道を選ばずに。

別の道で、力に頼らない道を選び、誰かを幸せにしようとする少女を。

それでも夢を諦めない、意地を通すと決めた、誇り高い馬鹿者を。

助けない道理などない。





傲慢結構。そうしたいから、そうする。俺の十八番だ。

危ない橋を渡る事になるが、今は忘れよう。


世界は優しくなんてないが、それほどでもないと伝えに行こう。


そして戦友のために血を流す勇気を、俺はまだ持っている。







「ならば俺は手を差し出しに行こう! 木の葉を駆ける麺となって!」







『応!』



マダオも、同じ気持ちなのか、応えてくれる。




「チャクラ全開!」





全速力で現場へと急行した。
















~多由也side~




うちはサスケを音に勧誘する任務の前。

ウチは、かつての仲間に追われていた。




(甘かった)

任務中の死亡、ということにして里抜けしようと思ったのだが、考えが甘かった。

ウチの思惑など、大蛇丸には既にお見通しだったらしい。





先ほどの事を思い出す。

周囲の地形を確認して、逃走経路を確認していると、いつの間にか4人に囲まれていたのだ。

「・・・任務前に、大蛇丸様からある事を伝えられた」

正面の君麻呂が、淡々と話し出す。

「多由也が、木の葉に寝返った可能性があると」

心臓が跳ね上がる。

「動揺したな?」

背後から、左近の声が聞こえる。それは確認の声じゃない、まるで裁断する時の声のよう。

正面に立つ君麻呂が、眉間に皺を寄せながら首を振る。

「妙な真似をすれば・・・また、木の葉のだれかと接触するようなことがあれば直ぐさま殺せとのお達しだ・・・僕としてはまさか、と思っていたんだけどね」

君麻呂が信じられない、と言った風に首を振る。

彼にとっては、大蛇丸を裏切る事など、既知の外の理念なのだろう。


「裏切り者には、死を」

四方から、制裁を目的とした死の一撃が繰り出された。






「くそ・・・」

走りながら、毒づく。

囲まれた状態での初撃こそ何とか避け切れたものの、浅くない手傷を負ってしまった。

(これじゃあ、血の臭いのせいで・・・)

追手を、あの4人を撒けないだろう。

かといって、木の葉に行くこともできない。せいぜいが、拷問されて情報を聞き出されて終わりだろう。

木の葉の忍びは甘いと聞くが、火影を失った直後だ。

捕まった結果どのような目にあうかなど、想像もしたくない。





走り続けながら、また毒づく。

「八方塞がり、か」

「その通り」


呟いた瞬間、上の方から返答が返ってきた。


「!?」


その声の主を視認、左近だ。


「多連拳!」


「くっ」

(左近の多連拳は、紙一重で避けても意味がない!)


掴まれる事だけはさけたいと、大きな動作で何とか避けきる。


だが、足が止められた。



(---殺気!)


瞬間、後方から飛来する何かを感じたと同時、横に跳躍する。


直前まで乗っていた木の枝が、骨の弾に貫かれた。


十指穿弾だ。


「くっ・・・」


そして、前後に挟まれる。



前には、左近。後ろには、君麻呂。




遅れ、次郎坊と鬼童丸も追いついてきた。





「くそ・・・」

また、囲まれた。

手負いの今、この包囲を抜けられるとも思えない。でも、ここで死ぬわけにはいかない。


(まだだ、諦めるな!)

弱気になる心を奮い立たせるが、状況は絶望的だ。


数十秒、硬直状態が続いた後、

「・・・何故だ、と聞いてもいいかな?」

君麻呂が後ろから話しかけてくる。

「何故、大蛇丸様を裏切った?」

声には、硬質の殺気が篭められている。

四方への警戒を消さないまま、背後の君麻呂を肩越しに見ながら、答える。



「へっ、カマヤローについていっても、先は無いと思ったんだよ」


空気が凍る。

だが、構わず続ける。

(挑発して怒らせる。怒りに我を失ってくれれば、抜けられるかもしれない)


危険な賭けだが、このままではやられる。それに、こいつらに向かって、言いたいことでもあった。


「実際、木の葉崩しは失敗したじゃねえか。それに、首輪付きで飼われている状況に嫌気がさしただけだ」




途端、ウチを囲む3人の呪印が解き放たれる。

怒号が飛ぶ。


「で、外に出て野垂れ死にたくなったのか? ・・・けっ、雌野良犬風情が、まあよくも語ってくれるもんだぜぇ!」

「ふん、飼われているんじゃないぜよ。牙を与えてくれた大蛇丸様に仕える、忠実な狼になっているだけぜよ!」

「図に乗るなカスが・・・!」

殺気とチャクラと怒声が荒れ狂う中、それでも言いたかった一言を告げる。



「へっ、野良犬で結構! 鎖で繋がれた家畜よりはな!」


同時、チャクラを解放する。でも、呪印は使わない。使えない。

精神暗示を断ち切った結果、ウチは呪印を解放できなくなっていた。


(また、殺意に、黒い感情に身を任せれば別かもしれないけどな・・・!)


でも、それはしない。

もう、堕ちないと、そう決めた。




場が沸騰しきった後、初撃がくる。


「・・・終わりぜよ!」


一つ目の攻撃。

右から、鬼童丸の蜘蛛巣花が複数飛んでくる。


(・・・狙いが甘い!)

顔を真っ赤にする程の怒りのせいか、通常時よりは狙いが甘くなっていた。


何とか避けきることができたが、安心などできない。


(そのまま左・・・次郎坊!)


「突肩!」

左に抜けようとするが、待ちかまえていた次郎坊が肩での体当たりの一撃を繰り出してきた。


だが、それは読んでいた。


「な!?」

咄嗟に次郎坊を踏み台にして跳躍。



囲いを抜けた、かと思った。



だが、その先には、



「甘いぜ!」




左近が待ちかまえていた。



(誘われた!?)



「いい音奏でろよお!」



空中なので逃げ場はない。


(呪印解放状態での多連脚!)


余裕はないと判断。チャクラを腕に全力で集め、ガードする。


衝撃。


「くっ!」


直撃は避けられた。今のを胴体部に受けていれば、危なかっただろう。

だが、

(腕が、折れたか・・・・)


痛みに耐えながらも、着地する。





直後、全身が逆立った。





「死ね」



背後から、声がする。

あまりにも簡潔な一言。

だが、全ての意志が篭められている。



先ほども感じた、骨の如く硬質で、かつ膨大な量の殺気。



振り返る直後、ウチはみた。




君麻呂は、呪印を解放していなかった。

だが怒りのせいか、そのチャクラは解放状態に匹敵する程に高まっている。


(避けられない)


既に、君麻呂の間合いに入ってしまっている。

そして、既に手には



(骨の、刀、まず・・・!)


そして、この構えから来る舞は一つだけ。




「椿の舞」




骨の刀による、連続刺突。


5つある舞の中でも威力は低めだが、その分速度に優れる舞だ。



「あああああああぁぁぁあ!?」



腕が、足が、肩が、胴体が。


貫かれ、血を吹き、その度に激痛が頭の奥を襲う。


「っ殺ぃ!」


そして止めとばかりに、後ろ回し蹴りを繰り出してきた。



「ぁあっ!」



吹き飛ばされ、背後の木へと叩きつけられる。



その拍子に、懐に隠し持っていた笛が、前方に転がる。


だが、手を伸ばすこともできない。

激痛の中、俯せに倒れ込むことしかできない。



「・・う・・・ち、の・・・・・・ふ・・・・え・・・」


痛みで意識が朦朧とする中、それでも眼前に転がる形見の笛を求めて、必死に手を伸ばす。

そして、掴んだ瞬間。


「ぐっ!?」


笛を掴んだ手が踏まれた。

折れたのだろう、更なる激痛が意識を揺さぶる。

君麻呂は、ウチを見下ろし、つまらなそうに呟く。


「ふん、急所は外したか」


椿の舞、避けきれずとも急所だけは避けられたし、最後の蹴りも受けられた。


だが、それに意味はないだろう。もう、動けないのだから。




「終わりだ」



背中から、骨が抜かれる。最硬を誇る、背骨の槍が君麻呂の手に掲げられる。


(な・・・ん・・て、顔を・・・して・・・)


その顔は、憎悪に染まっていた。



「・・・まったく、気が遠くなるよ。僕の前で、大蛇丸様へ暴言を吐くとはね」


狂おしい程の憎悪を隠そうともせず、言葉と殺気と共に叩きつけてくる。


(そう、いえ、ば)

怒る程、強くなるタイプだったな、と思い出す。

策の失態を悟るが、もう遅いだろう。




「・・・万死に値するよ」




それが、振り下ろされる。



「不様な犬が・・・這い蹲ったまま、死ね!」






ウチは地面に俯せになったまま、目を瞑った。

(・・・ダメ、か・・・・・外道は所詮、外道止まりか・・・・・・・一度堕ちたら・・・それで終わりか・・・)


元に戻ろうなどど烏滸がましい。

この結末は、一度諦めたウチへの、そしてまた戻ろうとしたウチの傲慢さゆえの、罰かもしれない。


でも。


(最後まで、嘘はつかなかった・・・だから、後悔だけは、ない・・・・・こっちの道を選らんだことを・・・・)


誇る。逆に、この選択を選ばなければ、ずっと悔やんでいたと思うから。




(でも・・・悔しいな・・・)




槍が。




(悔しい)




振り下ろされる。





(死にたくない)





背中に向けて。





(助けて)




思いながらも、分かっている。いないのは、分かっている。


それでも、言わずにはいられない。



(誰か)




ずっと前、忍びになる前も、叫んだ。

母が死んで。路頭に迷った時もだ。

だが、誰も、応えてくれるものはいなかった。誰もいなかった。


その時に悟った。

世界が優しくないって事を。見返りなしに、世界は動かないのだと。




(たすけて)


それでも、だから、きっと。


思うだけは、いいだろうと。最後まで諦めないと思い、縋る。




(だれか)






誰もいない。助けにくる者など、居はしない。このまま、骨の槍に貫かれて死ぬのだろう。






































そう、思っていた。













(?)




そこで、気づく。いつまでたっても、槍が降ってこない。




いつの間にか、手を踏んでいたままだった、君麻呂の足もない。





「・・・ううっ」



呻き声を上げながら、何とかうつぶせの状態から仰向けになるよう、横に転がる。




そこには。









「・・・何とか間に合ったか」











太陽を背に重ねながら安心したように微笑む、金髪のあの人の姿があった。

私の頭上にしゃがみ込み、傷の状態を確認している。

金髪が背後の陽光に照らされ、煌めいている。まるで後光だ。

その姿はまるで、昔母に読んで聞かされた絵本の中の英雄のよう。



『閉じ目闇に現れて。開き目光に姿を消す』



夢のような光景。


『それでも、そこにいるのよ。呼べば、必ず応えてくれるはず。だから、諦めないで』


光に、涙が溢れた。


それを見たあの人は、歯ぎしりをした後、立ち上がる。




「・・・・さて、お前等。事が前後になったけどな」




これだけは、言わせてもらう、との言葉と同時、チャクラの奔流が吹き荒れる。




警戒する4人に背を向けたまま、宣告する。
















「そこまでだ」



























[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十三話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/05 22:35



「あ・・・」

「いいから・・・しゃべるな」

傷は酷いが、何とかもちそうだ。




「何者だ・・・それに、どこから現れた?」

今し方俺に蹴り飛ばされた君麻呂が、こちらを睨みながら訪ねてくる。

うん、間一髪だった。

白からの中継で状況を聞いた後、やむを得ず使ったのだ。足止めを頼む事も思いついたが、止めた。

札は見せない方がいいとの判断だ。


(・・・飛雷神の術を使わんと、間に合わんかったな)


前にラーメンを食べに来たとき・・・背中を叩いた時、一応マーキングしておいたのが役に立った。


『・・・チャクラごっそり減ったから、短期決戦でいかないと不味いことになるかも』


(そこそこの体調で使ってもこれか。まあ、前よりは大分ましだが)

どうにかせんといかんか。それよりもまず。

(・・・白、治療を頼む)

『了解です』


多由也を安全な場所へ移す事が先決だ。


そして、背後の4人を最速で倒す。


「てめえ、無視してんじゃねえ! 質問に答えろ!」


「・・・・」


答えず、煙玉を使う。




「!?」


直後に影分身を使い、多由也を運ぶ。

見た限り、急所は外れているから、白の所まで連れて行けば大丈夫だろう。


(応急処置程度だが、掌仙術が使えると聞いていたし)


任せるしかない。いざとなれば、綱手に借りを作ってでもどうにかする。

じゃ、やりますか。




「・・・さてと」



一息いれて、意識を変える。


『負けるなよ?』


当たり前っす。・・・ちょっと、怒ってるし。


『随分と優しいことじゃのう』


賢く生きられないような・・・ああいう多由也みたいなタイプは、好きだからね。

だから。


「殺し合おうぜ、音の4人衆!」


ここはガチでぶっ飛ばします。








宣告と同時だ。


煙の中からクナイが一つ、空に向けて飛び出した。



「!?」


それに釣られ、視線を上へと移す4人。


だが、何かに気づいたのか、君麻呂が叫んだ。


「気を付けろ!」



直後、煙の中から今度は手裏剣が飛び出した。


真横から弧を描き、4人の元へと飛来する。



「くっ!」




その表面に付いている起爆札を視認したと同時に、上へと跳躍。


回避する。





「ぐうっ!?」






爆発。







「そこ、ぜよ!」



そして即座に反撃に移る。

鬼童丸が後ろに飛び退きながら、蜘蛛穿弓・凄裂を発動。


矢を番え、煙の中に佇む影へと撃ち放った。凄まじい速度で放たれた矢は、標的へと吸い込まれ、




「命中・・・!?」


爆風が消えると、そこには巨大な矢に貫かれたナルトの姿があった。


口から血を流している。



だが、



「・・・覚悟はいいか?」



一言呟いた後、ボンと煙を立てて消え去った。


「なっ」


分身体の言葉に気を取られ、しかも直後に消えた事に驚こうとした瞬間だ。


「影ぶんし「愚か者め!!」」


その頭蓋を打ち砕かんと、上から勢いよく手刀が降ってきた。




「ガっ!?」



避ける間もなかった。

落下エネルギーが上乗せされ、そしてチャクラで強化された振り下ろしの手刀が、鬼童丸の頭部に直撃。

そのまま前のめりに倒れたまま、起きあがらない。

気絶したようだ。だが、残心は怠らない。気絶を確認したあと、ゆっくりと残りの3人の方へと向き直る。



「ちっ、投げたクナイに化けてやがったな!?」



左近が叫ぶ。


フェイクで上側に投げたクナイ。注意をそらすための囮に見せたが、アレこそが本命。


手裏剣と、それに付けられた起爆札に注意を集中させて、上からだ。


裏の裏を付いたのである。


加え、爆発音と爆風がが注意力を散漫にさせてくれる。



「一人目・・・次!」



ナルト(変化モード)は左近の言葉に答えず、今度は次郎坊へと肉薄する。



「崩掌!」

まともに当たれば、大樹をも破砕する次郎坊の一撃。



だが、当たらなければどうということもない。

「見える!」


元々が、相手の攻撃を正面から受け止めず、逸らして防ぐ事に特化した拳法。

次郎坊が使う大威力低速度を信条とする羅漢拳との相性は抜群と言える。大きな力も、当たらなければ意味がない。

次郎坊の掌打、その腕の側面に掌を引っかけ、円を描く軌道で外へと逸らす。


少し前、カブトに対しても使った技。


同時、その勢いを利用して、逆の手で顎をかち上げる。


だが、ここからは、前回と違う。


「ふっ!」


かちあげられた後、もとの位置に戻った顎へ、左右の掌打を交互に叩き込む。


「・・・!?」




左右に脳が揺らされ、一瞬だが脳震盪を起こす次郎坊。


そこからは、一瞬だった。


「憤!」


まず懐に踏み込み、渾身の震脚と同時、崩拳。


「破!」


鳩尾への一撃に硬直する次郎坊。

間髪入れずにその側面に回り込み、震脚とともに鉄山靠をぶち当てる。


「覇ぁ!」


そして、とどめ。体勢を崩し、がら空きになった背中に向かい、一歩、震脚。

・・・背面は脂肪が薄く、筋肉にも守られていない。

前面よりは、背骨や臓器までの距離が近い。急所と言える。


そこに、渾身の双掌打を叩き込む。


「ガアアアッ!?」


震脚による打撃と、チャクラによる強化を併用した三連撃。



「10年早いんだよ!」


コマンドが難しい、アレである。

・・・そして、実践するのも難しい。体重移動と震脚を会わせるタイミングがシビアすぎるからだ。

少しでもずれると、手打ちだけの打撃になってしまう。



「二人目、だ」


「「・・・・」」


一瞬にして、二人を撃破したナルトに、警戒態勢を取る左近と君麻呂。



対峙しながら、数秒間にらみ合う、



そして、君麻呂が眉間に皺を寄せながら、訪ねる。



「何故、邪魔をする?」


「・・・・・」


ナルトは、答えない。


「お前が誰だかしらないが・・・多由也とは何の関係も無い筈だ。あの女に家族はいない。味方する人間などいないはずだ

・・・お前は、何者だ? 何故、僕達の邪魔をする?」


その問いに、ナルトは空を見上げる。


「・・・夢をみようと思った」


「何?」


「ゴミのような世界で・・・それでも、夢をみようと思った馬鹿者がいた。だから俺は戦う。命を賭けて」


視線を元に戻す。その中には、とある意志の光が灯っていた。


「確かにあの少女は一人なれど、今此処には似たような夢を見ている者がいる・・・同じような志を持つ友がある。だからこの一戦だけは、少女のために」


両手を広げた直後、印を組む。


「一心不乱の友情のために! 俺は少女に手を貸そう! 理由などそれで十分だ、貴様らなどに俺の心友は殺させん!」


「音隠れの里を、大蛇丸様を敵に回す事になってもか!」


「だからどうした!」



印を組み終え、術を発動する。




風遁・大突破。



「くあああああぁぁぁ!」


念入りにチャクラを篭めた、暴風に左近が飛ばされていく。

だが、君麻呂は地面に刀を突き刺し、耐えている。




そして暴風が収まった。目と目が合う。


・・・飛ばされた左近はすぐに戻ってくるだろうが、それまでは、1対1。




「さあ、踊ろうか!」


「ほざけ!」


君麻呂が呪印を発動させる。


同時、ナルトは神速で踏み込み、君麻呂へと間合いを詰める。






「舐めるな!」


迎撃に、椿の舞を繰り出す。


連続刺突。


それを、ナルトは掌で逸らす。


「どうしたあ!?」


「くっ!」


防ぎきった後、円を描くように走り、また激突。


だが、君麻呂の体術が変化する。

柳の舞。

風に揺れる柳のように、流麗かつ不規則な連続体術が繰り出される。

だが、ナルトはその流れに逆らわず、動きに合わせて運足を組み、舞の切り返しの一瞬を狙い、掌打を当てる。

「破!」

それは骨の膜に阻まれ、ダメージにはならない・・・筈だった。

「ぐっ!?」

だが、そこは九尾流。外部の硬度に関係なく、そしてチャクラを使わず、特殊な打撃法を用いることで、ダメージを与える事ができるのだ。

元より、内部を破壊するのを目的とした拳理を持つ拳法(六話参照)。その意味では、君麻呂の天敵と言える拳かもしれない。



一歩下がった君麻呂に、ナルトは追撃しようとするが、


「!?」


悪寒を感じて、飛び下がった。

直後、君麻呂の全身から、骨という骨が飛び出す。



「唐松の舞」

放射状に、骨が飛び出ていた。防御用の舞だ。その姿はまるで、

「・・・ハリネズミかよ、ちくしょう・・・でもな!」


その姿をと、戻ってきた左近を見て、ナルトはにやりと笑う。



「こういうのはどうだ!?」



印を組み、再び風遁・大突破を使う。



「またかああああああぁぁぁあ!」


左近がまた吹き飛ばされた。

戻ってきて着地した瞬間を狙われたので、避けられなかったのだろう。




「・・・僕には通じない!」


先ほどと同じ状況だ。


だが、ナルトは表情を崩さない。


「こっからがお楽しみだ!」


風が止まないうちに、「我愛羅、技を借りるぜえ!」と叫びながら、素早くまた印を組む。



「風遁・封刃縛風!」



直後、風が変化する。

ハリネズミ状に広がった骨に、風の乱流が絡みついたのだ。


「・・・なっ、動けない!?」


尖った骨に、風が複雑に絡みあう。巻き取られた君麻呂は、動きを封じられた。


「はあっ!」



そしてまた印を組み、今度は地面を両手で叩く。


同時、君麻呂の直下から、爆発するような勢いで上昇気流が吹く。




「ぐっ!?」



その下から吹き上げる爆風に耐えきれず、君麻呂が宙に浮かされる。




更に絡み合う風の中、ナルトが懐から起爆札を取り出し、叫ぶ。



「仕上げだ!」



唐松の舞を解いて骨の膜で防御してはいるが、風は未だ君麻呂を束縛している。


そして放たれた数枚の起爆札が、風に乗って君麻呂の元へと運ばれた。





そして風の中心部、君麻呂の元へと起爆札が届いた瞬間、


ナルトは両手をパンと叩き合わせ、叫ぶ。




「風・塵!封・爆・札!」





術名を叫んだと同時、幾重にも重ねられた起爆札が、一斉に爆発した。
















「くっ・・・」

爆発が収まった後、全身から煙をあげている君麻呂が、地面に倒れ伏す。


「爆発によるダメージは防げても、爆圧の衝撃によるダメージは防げないだろ」

我愛羅さんの言葉です。

骨で防御した結果、外傷はないだろうが、内部にはダメージが残っている筈だ。爆圧も、ある程度は内に向かうようにした。


四方八方の爆発による衝撃だ。脳震盪のせいで、視界は今ぐちゃぐちゃになっているだろう。


「俺の勝ちだな・・・・ん?」

と、何かに気づいたように、遠方を見る。



「暗部か。くそ、こんなときに」

呟き、焦るようにきびすを返す。



・・・全部、嘘である。


先ほどからカラータイマーが鳴っているのである。

チャクラが限界なのである。思ったよりてこずったのである。


(仕方ない、といった風に逃げよ)


これもハッタリだ。虚勢とも言う。みっともないし。

苦手意識を持ってくれれば良し。


「じゃあな」


その場をひとまず去った。






(ひとまず、白の元へと戻るか)

『そうだね』


本当に疲れたよ・・・









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十四話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/09 17:47





とある屋敷の中、女の子達の声が飛び交う。



「しっかし、ご苦労だったわねえキリハ。大変だったでしょ?」

「ううん、そうでもなかったよ?」

キリハの家の中、テーブルを中心において、3人がそれを囲むように座る。。

いのとサクラとキリハ、いつものくの一3人組で談笑している。ヒナタは本家に用事があるとかで、来れなかった。

キリハの家は、波風ミナトが四代目火影に成ったと同時に移った家だ。日向本家までとは言わないが、それなりに広い家である。

「それにしても、さあ」

果汁水を飲みながら、いのがキリハに質問する。

「五代目火影は綱手様になるんだ・・・ねえキリハ、綱手様ってどんな人?」

自来也と大蛇丸を見たサクラだ。三忍の最後の1人について、なにか心配があるよう。おそるおそる、といったふうに訪ねる。

「うん。まあ・・・・・・・・・・・いいひとだったよ?」

「その間は何!?」

突っ込むサクラに、キリハはあははと笑う。

「大丈夫だよ? ・・・・強いし」

「念押しが必要なの!? っていうか大丈夫って何に対しての保証なの!?」

あと強さと人格関係ないわよね! と叫びながら、サクラが頭を抱える。

どうも大蛇丸の一件がトラウマになってしまっているらしい。

いのがため息をつきながら、言葉を挟む。

「うるさいわよサクラ。で、キリハ・・・・強いって、実際に力を見る機会があったってことよね。あんた、またやらかしたの?」

「・・・今回は向こうから来たんだよ。音の連中だった。それにしてもまた、って人聞き悪いなあ。来るのはいつも相手のほうからだって」

正直、対忍者という状況での戦闘が多すぎる。一介の下忍では、有り得ない回数だ。普通、もっと弱い相手・・・せいぜいが、山賊を相手にするぐらいなのに。

「ふーん、でも人間相手に戦闘した後だってのにアンタ、嬉しそうにしてるわねえ。何かあったの?」

「・・・え?」

とキリハが自分の顔をつねる。

「何か嬉しいことでもあった? ・・・たとえば、待ち人に会えた、とか」

いのが悪戯な笑みを浮かべる。

「・・・うん。実は。あのね、驚かないで聞いてくれる?」

キリハが俯きながら、何か落ち行かない様子をみせる。おずおずとしているそれは、まるでヒナタのようだ。

やがて、意を決したようにがばっと顔を上げた後、言う。


「うん?」


いのは、果汁水を口に含みながら返事をする。



「・・・あのね。むしろ・・・いのちゃんの方の待ち人に会っちゃった」

てへ、と舌を出しながら、爆弾発言。



「ぶっ!?」

それを聞いて驚いたいのは、思わず口に含んでいた果汁水をはき出す。

「眼があ!? 眼があああぁぁぁ!?」

果汁水の噴射攻撃を顔面に受けたサクラが、眼を押さえて床を転がる。

眼球にグレープフルーツはきつかったようだ。水遁・愚冷腐負流痛の術。

「ど、ど、どど」

「ど?」

いのは立ち上がり、キリハの肩を掴んで、力一杯前後に揺らす。

「どういうこと!? 何で!? ホワイ!? どうやって会えたの!? ていうか何で黙ってた!?」

錯乱するいの。キリハはがっくんがっく揺らされながらも、至福の表情を浮かべてほやー、と笑いつづける。

「うふふふふふ」

「え!? 何笑ってんの!? どういうつもり!? ・・・あんた、キリハ、もしかして!?」

「え? いやあ、まあ、それはないけどねえ・・・うん、格好良かったなあ。ぬふふ」

「何で頬染めてんのよ! ああもう、いいからきりきり説明しなさい!」

「うう・・・ハンマーで頭叩かれたみたい痛い・・・」

サクラは泣きながら、ハンカチで顔を拭いていた。


カオスだった。




もう、いのの正面には座らないとサクラのみ席替えをした。

話を仕切りなおす3人。

「で、そこで助けてもらったわけね?」

「うん」

「・・・・はあ。まったく」

会えなかった無念さもあるのだろうが・・・いのが、キリハの方を向き、心配そうに声をかける。

「あんたも、もう少し用心しなさいよ? 下忍のあんたが中・上忍クラス複数相手に乱戦とか・・・正直、正気の沙汰じゃないわよ?」

「うん、確かに・・・危なかった」

と、貫かれた手の方を見る。

「うん?どうしたの・・・って、医療忍術の後じゃない。あんたまさか」

「ちょっと痛かった」

てへ、と笑うキリハに、いのの拳骨が降る。

「みぎゃ!?」

「・・・・アンタは!」

怒るいのと言い訳するキリハ。いつもの、幼なじみのやりとりだ。

昔から無防備なところがあるキリハに、いのが注意する。何十回も繰り返されたやりとり。


「シカマルに同情するわ」

「うん? いのちゃん何か言った?」

「何も言ってないわよ」

それでもこの笑顔見ると怒る気なくすよのねえ、といのがため息を吐く。

「で、その人の名前は聞いたの?」

「えーっと・・・聞けなかった」

間が空いた上での返答。それにひっかかるものを感じつつも、いのは問いつめない。

「言えないなら言えないでいいわよ。どうみてもA級ランクに匹敵するの任務だったんだし。言えないっていえば、無理に問いつめないわ」

「でも・・・」

いのに悪い、という顔をするキリハ。それに、いのが腹を立てる。

「お互い下忍になったんでしょ? そんな事もあるわよ。私としてはひっっっっっっっっっっっじょーーーーーーーーーーに聞きたいことではあるけど・・・我慢するから」

「あはは・・・」

苦笑しか返せないキリハ。


その隣で、サクラが別の話を切り出す。

「そういえば砂隠れとの休戦協定、今日だっけ?」

「そう、今日。火影就任から2日経ったし、まあ言い頃合いなんじゃない? もちろん、含む気持ちはあるけど・・・」

「それでも、今揉めるのは得策じゃないよ。そこらへんはみんな分かってるから」

「でも、使者に来るのが・・・あの、我愛羅なんだよね」

中忍試験の時に起こった出来事を思いだし、サクラがため息を吐く。

「でも、前に比べると格段に落ち着いていたってアスマが言ってたわよ? 使者を迎える時に見たらしいけど・・・人柱力だっけ。その力を随分と使いこなせていたようだって」

「へえ、何かあったのかなあ」

「それは知らないけど・・・テマリにでも聞いてみようかなあ」

「・・・へ? いのちゃん、テマリさんと仲いいの?」

「はあ!? 仲なんて良くないわよ! あんな奴と!」

「そういえば、本戦の試合終わった後・・・いの、喧嘩してたよね。何かあったの?」

サクラの質問に、いのはああと手のひらを叩きながら、答える。

「大したことじゃないわよ。言ってなかったっけ? テマリとアタシはね・・・・」

「うん」

「何?」

二人はストローでちゅーちゅー果汁水を飲みながら、答えを待つ。


「所謂、あの人を巡る恋のライバルなのよ!!」

「ぶっ!?」

と、キリハが口に含んでいた果汁水を正面に吹き出す。


「眼があ!? 眼がああああああ、あああぁぁぁ!」

果汁水・蜜柑が全力でサクラの眼球に直撃。サクラは眼を押さえながら、床の上をのたうち回る。


「ど、ど、っっどお」

「うん?」

「どういうこと!? 何てお・・・」

「・・・お?」

訝しげに、いのが呟く。

「お、お、お」

「続きをいいなさいよ」

「・・・眼・・・・柑橘・・・・全力で・・・・」

二人とも、サクラはガン無視である。

やがてキリハは、何とか答えを口に出す。

「・・・お・・・大蛇丸」

「なぁ・・・・何てこというのよ! キリハ、アンタ、ちょっとそこに直りなさい!」

嫌な想像をしてしまったのか、いのが立ち上がり激昂する。

それを見て、キリハがすばっと後退する。

「いや、御免なさい! ついノリで・・・ん?」


と、手を前にしながら、後ずさるキリハの背中に、何かがぶつかる。



「あ、シカマル君だ」

「・・・何やってんだ? お前等」


床で転げ回るサクラと、殺気を放ってこちらを睨むいの。シカマルのその明晰な頭脳をもってしても、その状況は理解できなかったらしい。











「へえ、あの人に会ったのかキリハ」

「うん。シカマル君と同じ、二回目だね」

「・・・一回目はほぼ気絶寸前だったらしいじゃねえか。しかも死ぬ寸前だったとか。サクラとサスケから聞いたぞ」

キリハの言葉に、シカマルが不機嫌そうに答える。

「そうよ、キリハ。このむっつり、随分とアンタの事心配してたんだから」

何でもない風に言うんじゃないの、とキリハを叱るいの。

「・・・ごめんなさい」

と素直にシカマル頭を下げるキリハ。

「・・・まあ、お前が無事だったらそれでいいんだけどよ」

と頬を若干染めながら横を向くシカマルを見て、いのとサクラがひそひそ話す。



「あんなに慌ててた癖に、ねえ」

「やっぱりそうなんだ。で、幼なじみのいのから見て、あの二人はどうなの?」

「暖簾に腕押し。糠に釘。柳に風に、水遁に火遁」

全て手応えなし、という意味である。



「うるせえぞ、そこ」

聞こえてはいなくても、何を言われているか、気づいたのだろう。また不機嫌そうに、シカマルが言う。

「でも、格好良かったんだよ? 大蛇丸とも渡り合ってたし」

「・・・ま、あの人だからな」

うんうん頷くシカマル。

「・・・時にシカマル君。シカマル君は、あの人についてどう思っているの?」

「え? っと・・・だなあ」

「うん」

「まあ、憧れるよな。男の俺からしても、魅力的だと思うし」

あの背中が良いよなあ、と言うシカマルに対し、キリハは慌てながら告げる。

「同性愛は駄目だよ!? 非生産的な!」

「己の言動に責任もってるのかお前・・・ていうか、そんな言葉、誰から教わった?」

「え!? お・・・」

「お?」


「お父さん、とも言えないし・・・」

極々小さい声で、キリハが呟く。



「ん? 何か言ったか? 聞こえねえぞ」

シカマルが聞き返すと、キリハは慌てながら何とか答えを探す。

「えっとね。お、お、お・・・」

「お?」

口に茶を含みながら、シカマルがからかうように笑う。

「・・・大蛇丸」

「ぶはっ!?」

「今度は熱い!?」

ほうじ茶を全身に浴びたサクラが、床の上を転げ回る。


「・・・よりによってあの大蛇丸がそんな事言うわけねえじゃねえか! むしろ推奨するわ!」

オカマの三忍は随分と有名らしい。

「だよねえ」

えへ、と困ったように笑うキリハに、シカマルはすぐ引き下がった。

「まあ、それも言いたくなかったらいいんだけどよ・・・」

「このチキンが」

「何か言ったか、いの」

「いいええ、ちっとも?」

心底おかしそうに笑ういのに、シカマルがよりいっそう不機嫌となる。


「医者をー!? 医者を呼んでー!」

隣では、火傷したサクラが空に手を伸ばしながら叫んだ。






「で!?」

「いや、でっていうか」

三人ともサクラに拳骨を喰らったのか、頭のてっぺんから煙が立ち上っていた。

怒るサクラの気を紛らわそうと、シカマルが話題を変える。

「そういえば、火影の執務室前でサスケを見たぞ?」

「・・・サスケ君が? そうなんだ、退院したんだ」

何者かの襲撃にあって、入院していたサスケの事を聞いて、サクラが安堵のため息を吐く。

見舞いに行くと、何故か面会謝絶だと言われた。肋骨が折れていただけらしいので、サクラはそれを訝しみ心配していたのだ。

「ああ。なんか、自来也様と会っていたみたいだぜ。相変わらずのつんけんした態度・・・いや、いつも以上に険悪な空気を撒き散らしてた」

「そうなんだ・・・」

サクラがため息を吐く。キリハが、ぼつりと呟いた。

「誰に襲われたんだだろう・・・それに、4日前だったっけ。木の葉の森の外れの方で、大きな爆発があったのって」

「ああ。戦闘の後らしいな。起爆札を使った後らしいのが見つかったってアスマが言ってた」

「ああ、それ私も聞いた。でも、見回りの中忍の人が爆発音を聞いて辿り着いた時には、誰もいなかったって」

「そう、なんだ」

「戦後の処理も終わっていないのに・・・あ、そういえばカカシ先生と会ったよ。今日退院だったんだね」

「ああ・・・正確には昨日だったけどね」

後半だけ、小さい声で呟く。


「何言ってるんだキリハ? 『まっくのうち!まっくのうち!』って・・・何だそれ?」

何かの名前か?と首を傾げるシカマルの隣、サクラが不思議そうに呟く。

「そういえばなんか、カカシ先生の顔に青痣ついてたけど、アレ何だったんだろ」


「まあ! それはおいといて!」

と、強引に話を断ち切って、キリハは提案をした。





「これからお昼、食べに行かない?」

九頭竜に、というキリハの言葉に、全員が頷いた。







「あれ? 無いね、屋台。」

「あ、ほんとだ。どうしたんだろう・・・」

「ここ最近、休んでる日ってあったっけ?」

「定休日は今日じゃないよ。それに休むなら前もって言ってくれてた筈だけど」

首を傾げて不思議そうにするキリハ。


「どうしたのかなあ・・・・・・っ!?」


4人とも背後に何かを感じたのか、素早く振り返った。




「っ我愛羅!?」

「・・・と、確か、テマリだったっけ?」

キリハとサクラが驚いたように呟く。

「一応年上なんだから、さんを付けろよデコ助野郎」

「そうよ、デコ助野郎うおっ、眩しっ!」

呆れたように言うテマリと、しみじみと諭す風にサクラの肩を叩き、即座に仰け反るいの。

「あんた等・・・いい加減にしないと挽肉にしてくれんゾ?」

肩を震わせながら殺気を放ち怒るサクラ。ブラッドがヒートしている様子だ。デコから火が出そうとはこのことだろう。

テマリはため息を吐きながら、言う。

「それに、一応命の恩人だろう?」

「いや、その原因が横にいる状態で言われても・・・・」

サクラがじと眼になる。


「・・・正直すまん」

急に、我愛羅が頭を下げた。

だが、すぐに頭を上げて言う、


「と謝っても、今更意味が無いことは分かっている。これからは行動で示すこととしよう」

同盟は成ったのだから、と我愛羅は真剣な表情で言う。

「・・・言いたいことは山ほどあるけど、何もかもがも・・・今更、だしね」

肩をすくめながら、いのが呟く。

「ここで俺たちが諍いをおこして、木の葉と砂の同盟を台無しにするわけにもいかないしな」

シカマルがいのの言葉に同意する。

「・・・それより、だ。ここはラーメン屋じゃ無かったのか?」

「え? そうだけど」

我愛羅の言葉に、キリハが応えた。

「小池メンマさんのラーメン屋だよ。ラーメン屋台九頭竜。あなた、知っているの?」

「知っている、というか・・・」

我愛羅が、キリハの方をじっと見つめる。

「な、何?」

聞き返すキリハに、我愛羅は首を振って答えた。

「・・・いや、何でもない。ラーメン屋だが、今日は休みなのか?」

おかしいな、と首を傾げて言う我愛羅に、テマリがフォローする。

「そんな筈ないと思うけど。前にきたときはこの曜日で開いていたから」

「臨時休業みたい。何かあったのかな」

何気ない言葉に、我愛羅が舌打ちをする。






「やはり、あの時聞こえた声は・・・」

「え、何?」

呟く我愛羅に、テマリが聞く。

「何でもない・・・まあ、休みなら仕方ない」

いくぞ、という言葉と共に、我愛羅とテマリは去っていった。








「・・・どうしたんだろ」

「知らないけど・・・なんか、最後の方、焦ってたみたいだよ?」

我愛羅の方が、と呟くキリハ。

「ここにいても仕方ないな。ひとまず、街の方に戻るか」

「うん」












「どうしたの、我愛羅?」

「・・・大至急だ。5代目火影に会う」

「え?」

「伝えなければならんことがある」

急ぐぞ、と二人は走り出した。





火影執務室


「・・・失礼する」

木の葉の忍びに通されて、我愛羅が執務室に入ってくる。

「何だ? 本日の会見をする予定は無い筈だが」

「・・・大至急、話したい事がある。『とある友人』の事で、だ。悪いが、人払いをしてほしいのだが」

一呼吸おいて、綱手が答えた。

「・・・分かった・・・下がれ、お前等」


「綱手様?」

訝しむシズネに、綱手はいいから、と退室を命じた。





「で、どういう用件だ? お前の要件、人柱力に関する事のようだが」

眉間に皺をよせながら、綱手が我愛羅に訪ねる。

「・・・先ほど、だ。2時間程前の・・・そうだな、12時ぐらいだったか」

「ああ。何でも、お前の自信のチャクラが大きく乱れたそうだな。報告には聞いている」

まったく、という風に呆れる綱手に、我愛羅は真剣な表情で答える。






「別に、言い訳をしているんじゃない。あの時、チャクラが震えたのには原因がある」

「・・・原因?」


腕を組んて聞き返す綱手に、我愛羅は自分の頭を差して、いった。







「聞こえたんだ・・・・・ただ一言」


我愛羅にしては珍しく、恐怖に震えたかのような表情になる。














「『殺す』と」

















「・・・何?」


「氷より冷たい声だった。そしてその一言で、たった一言で、俺の中にいる守鶴が・・・まるで恐怖に震え上がったかのように、暴れ出した」


「・・・それを証明するものは?」


「無い。だからうずまきナルトに会って確認しようと思ったのだが」

「そういえば、知っているんだったな」

「会いに行ったのだが、いなかった。どうも今日は店を休んでいるらしいな。臨時休業だと聞いたが」

「ああ。確かに、そうだが・・・くそ」


綱では、胸を抑えながら毒づく。


「・・・どうにも、いやな予感がするな」

「まずはうずまきナルトと至急連絡を取って欲しい。あと、こちらでも対応するが・・・他の里の人柱力にも確認を取るべきだ。あの声、ただ毎じゃない」

「たった一言で、尾獣を震え上がらす、か」

お前が、そういう事でつまらない嘘をつく奴にもみえないしな、と綱手は了承の意を示す。



「分かった、至急・・・・」


と、呟いた時だ。






遠くで、遠雷のような音が聞こえた。


「何だ!?」





「・・・爆発による揺れ、か。かなりの規模みたいだが」



急ぎ、窓の外を見る二人。






「煙が・・・あそこ、か。くそ、妙な予感が収まらん」

胸を押さえながら、綱手はシズネを呼ぶ。


「至急、現場に急行しろ。上忍も何人か連れて行ってかまわん」

「承知しました」










木の葉の少し外れの森の中。そこは、爆風によって辺りの木々が蹂躙されていた。

「ここで爆発が起きたのか・・・」

シズネとアスマと紅、他中忍複数名が、現場に到着する。


「かなりの爆発だったようね・・・何かしらの建築物・・・家、かしら。あったようだけど、全て吹き飛んだようね」

「その割には、延焼の類は起きていないようだな。不幸中の幸いだったか」

「それにしても、この辺りに家なんてあったでしょうか?」

「どうも誰かの隠れ家みたいだな。それにしても・・・この有様は、なあ。容赦ってもんが無いやり方だ。これをやった奴は、相当にアレな野郎だぜ」

「・・・まあ、火遁ではないようだけどね。何かの秘術かしら・・・・・・あれ、これは?」


紅があるものを見つけ、立ち止まった。


「箱?」

吹き飛び損ねたのだろうが、あちこちぼろぼろになっている。


その焼け焦げた箱を、慎重に開き、中のものを確認した。


「これは・・・」











「で、見つけたのはこれだけか」

「はい。他のものは全て吹き飛んでいました。手がかりになりそうなものは、これだけです」

「そうか・・・」



「失礼します!」

そこに、キリハが執務室に入ってくる。

「おお、きたか」

「はい。あの・・・皆さんは?」

「ああ。先ほどの爆発跡を調査していた者達だ」

「とはいっても、ねえ。何もかも吹き飛んでいたし」

派手すぎるわよ、とアンコが愚痴る。

綱手が頭を抑え、愚痴るように言う。

「手がかりがこれだけっていうのもな・・・・キリハ?」

どうした? という言葉は繋がらなかった。







キリハの眼は、一点だけに固定され、動かなくなっていたからだ。

蒼白になっていく顔色。驚愕に染まっていく表情。





「っ!」




焼け焦げたそれに走りより、手に持って間近で確認する。






そして変わり果てたそれを確認すると、信じられないといった風に呟く。






「嘘だ・・・・」








何とか原型を留めていた球型。









焦げた表面の隙間に残るは、星空の下で遊んだ時に見た、あの模様。






「・・・・・・嘘だ!!!!!!!!!」







慟哭が響き渡る。涙がその球に落ちた。





それは、あの時4人で遊んだ時に使った、手鞠の成れの果ての姿だった。















突然の悲痛な叫びに、その場にいた全員が狼狽える。



そして、その慟哭が冷めやらぬ内に。


「失礼します!」



1人の暗部が、慌てた様子で火影の執務室に入ってきた。


「至急、報告します!!」


「今度は何だ!」


綱手は声を荒げ応答する。



「・・・うちはサスケが失踪しました! 里内の何処にも・・・その姿を確認できません!」


「何・・・・!?」

「何だって!?」


また、その場にいた全員が驚愕する。



「・・・確かか?」

嘘であってほしいと、聞き返す綱手。

「はい」


だが、答えは覆らなかった。



「・・・分かった。下がれ」




綱手は頭を抑えながら椅子に座り、呟いた。






「何が起こっているんだ・・・?」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十五話・前編
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/08 20:40



---メンマ邸爆発より、遡ること1日前。




「この一杯のために生きてるわ~」

火の国の宝麺をすすりながら、恍惚の声を上げる。これでもう3杯目だ。

昨日の夜:しょうゆラーメン。今日の朝:木の葉風ラーメン。

そして今、火の国の宝麺を食べている。久しぶりのラーメン三昧だ。何かこう、生き返るって感じ?

「煮玉子と肉の旨味も、スープのコクも、ネギの香りも・・・そして麺も」

何もかもが懐かしい・・・と浸っている横で、マダオがため息を吐いていた。

「・・・生き返るって・・・言い得て妙だね。チャクラ回復速度がほんとに上がってるし」

キューちゃんが呆れながらも頷く。

「・・・ラーメンは有る意味こやつの魂そのものなんじゃろう」

最初からそう言ってるじゃん。

「で、戻った?チャクラ」

「いいや、まだ」

使い切る寸前までいったのは初めてだったりする。木の葉崩しの時よりもヤバイ領域まで使ってしまったし。

「やっぱり、今の状態だと飛雷神の術は危なくて使えないね」

「・・・今回は術の反動を抑えるのを、チャクラ量で補ったからなあ。相変わらずコントロールが激ムズだし」

御陰で、戦闘前にチャクラ量がごっそりと減ってしまう事態になりました。

まあ、視界がぐちゃぐちゃになるよりはマシだったけど。

「純粋なチャクラコントロールの技術で言えばねえ。もう十分使用可能なレベルなんだけど」

「それでも使いこなせていないのは、別の要因・・・コツというか、感覚が掴めていないってことか?」

「そうだと思う。要練習だね」

「・・・イメージが明確にできれば、結構形になるもんなんだけどなあ」

ワープのイメージが固まっていないのが不味いんだろう。そも、ワープってイメージするものなのか?

「イメージが無理なら、方法は一つしかないね・・・ある程度の回数使って、身体で覚えるしかないと思うよ」

「結局それしかないのな・・・ってもうこんな時間か」

時計を見ながら、立ち上がる。

多由也は白に任せてあるし。容態を聞いたが、心配ないとの事だ。

「そろそろ、エロ仙人とこ行くか」








呼ばれて着いた先。

木の葉隠れの里、その演習場に、鈍い音が響き渡っていた。


ボグシ、ドゴォ、メメタァ!、メキョ、ドコ、づがん!


拳がめり込む毎に、骨と肉がぶつかりあい、軋みを上げる。




「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」

マダオとキューちゃんが、背後から応援してくれている。



説明しよう。

事の発端は、カカシの一言だった。

自来也に連れられ、やってきたカカシ。月読の後遺症は消えたそうだ。まだ全開ではない、と言っていたが、まあそれはいい。

問題は、だ。

その初めて対面するカカシが、俺に向かって、こういったのだ。あの時、お前を守れなかったのは俺の責任だ・・・とか、どうか殴ってくれ・・・とか。

目を瞑るカカシ。俺は無言でカカシを指をさしながら、自来也に聞く。

(これ、どうすんの?)

もう過ぎた事なので・・・というか、思い出す事はあれど、あの時にリアルタイムで俺が受けたわけじゃないから。

クナイと起爆札はかなーり痛かったのだが、別に死ぬ程じゃなかった。いやほんとは致命傷だったか知らんけど。

本当に殴る権利のある人は、既に他界しているので・・・うん、正直俺にこんなこと言われても困るのだが。

(まあ、仕方ないじゃろ)

だが、自来也は殴るのを促す。

(まあ一応、ケジメは付けておきたいのか)

それも今更なんだけどなあ、と思いつつも殴ることにした。これがいのしかちょうの親父さん達だったら話は別だったろうが、なにしろ相手はカカシだ。

日頃のアレっぷりを矯正する意味も兼ねて。

またマダオの怒りを拳に篭めて、ね。

(・・・前にしこたま殴ったけど、まあそれはそれだ!)

頷き、まず右を振りかぶって

「歯あ食いしばれぇ!」

と顎を引くカカシに向けて、一歩踏み出す。

だが振りかぶった右は囮。本命は違う。

インステップしながらの踏み込み、それににより発生する地面からの反発力を腰に溜め、回転。

地面から伝わる反力+拳の推力を左の拳の先に乗せる。

稲妻の如き一撃が、カカシの肝臓を打ちすえた。

「グホォ!?」

予想外の角度からの打撃に驚いたカカシ。膝から崩れ落ちようとするが、何とか踏みとどまったようだ。

・・・それでいい。

「もういっちょ!」

「ヘグン!?」

しゃがみ込み、立ち上がるその勢いのままにアッパー。足のバネを活かしたカモシカの如き一撃が、カカシの脳を縦に揺らす。

・・・そして、ここからが本番だ!

「おお、あれは・・・!」

「知っているのか、マダオ!」


マダオとキューちゃんの解説を背後に、俺は身体を左右に揺らし始める。


最初は右、左。やがて軌道が弧を描き出す。


「ローリングトゥエンティーズ」


やがてその軌道が、∞に変わる----!


「古のブロー!」

「ろーりんぐとぅえんてぃーず? いにしえのぶろー?」

キューちゃんがマダオに聞き返す。意味が分からないのだろう。つか一度話しただけなのによく覚えてるなマダオ。何その無駄な記憶力。

てか首を傾げ、ひらがなでしゃべるキューちゃんがかわええ。

・・・テンションゲージが最高に。ボルテージがマックスに。


み な ぎ っ て き た 。


更に速度が上がる。


高速の体重移動(シフト・ウエイト)。


「っらあ!」


身体を振った反動で・・・


「っああ!」


左右の拳を叩きつける!


「さあ、皆さんご一緒に!」

マダオがコールを始める。

「まっくのうち!!まっくのうち!!」

キューちゃんも真似し始める。

「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」

更に、キリハが加わった。日頃の不満と鬱憤が溜まっていたのだろうか、ヤケにノリノリだ。

日頃の行いが悪いんだろうね。俺の中では数時間待たされる=宣戦布告だし。

そりゃ、どんなに忍耐強い人でも、いい加減キレるよなあ。

「「「まっくのうち!!まっくのうち!!」」」

3人のコールにより、テンションは最骨頂となった。

そして拳は続く。

「遅刻すんな! かつ開き直るな! 公衆の面前でエロ本読むな!」

めり込む。めり込む、めり込む。

「サスケをちゃんと見てろよ! 担当上忍だろ! あと修行の順番滅茶苦茶! ロリコン乙!」

あと遅刻を真似るのはオビトに対しての羞恥プレイか!と付け加える。

・・・流石に口に出すと不味いことになるので、心の中のみでの叫びだが。


「フィニッシュだ!」


拳を止め、一歩下がり、


「ダスヴィダーニャ」


また再度踏み込む。


さようならの言葉と共に、拳が閃光となる。


「・・・適当に!」


まずは右のアッパー。


「生きるな!」


同時、左の打ち下ろしが、カカシの顎を打ち据えた。

上下の高速コンビネーション。

下の牙を止めても、上の牙が突き刺さる・・・!(注:両方突き刺さってます)

「これは、親父さんとマダオからの一撃だと思え・・・!」

技名と中の人的に。

「・・・ありがとうございましたっ!」

カカシは前のめりに倒れ込んだ。







痙攣するカカシを放置し、俺はエロ仙人と多由也の処遇について話す。

「・・・それで? 音の抜け忍・・・たしか、多由也と言ったかの。怪我をしたと聞いたが、傷はもう良いのか?」

「ああ。掌仙術と秘薬を併用して治癒したからな。明日には歩ける程度には回復するらしい・・・ああ、言っておくけど尋問なんかさせないからな?」

完全にタメ口であるが、もういいのである。取り繕うのも面倒くさいのである。

「・・・どういう事じゃ?」

「今現在、多由也は仲間、つまり身内だ・・・最初に約束したことだよな? 身内及び仲間に手え出すなって」

覚えてる? と聞くと、自来也が渋い表情を浮かべる。

「まあ、のう」

「これで貸し借り無しって事にしていいから。大蛇○戦の手助けを含めて、これで差し引きゼロね」

忠告はしておく。

(・・・強めに言わんとなあ。これ以上近寄りたくないんだよなあ。距離を保ちたい。そうしないと、なあなあの関係になってどこまでも利用されそうだし・・・本人には自覚なさそうだけど)

良かれと思ってやっているのか分からないが・・・正直迷惑だ。うっとうしい。

元より、表向きでも関わり合いを持つ気は無かったのだから。

(自来也もなあ。基本、善人だからなあ)

良心が邪魔をするのか、すっぱりと割り切って物事を考えてくれない分、付き合いが面倒くさいのである。

非情に徹しきれないのは優しさであり美点なのでもあるが、俺に取っては有り難くない事実。

「・・・分かった。それで、あの娘の処遇はどうするつもりじゃ?」

「どうもしないよ。自分で決めて貰う。面倒見るし、可能な限り手助けはするけどね・・・あ、そうだ」

「・・・まだ他に何かあるのか?」

「明日だけどさ。うちはサスケとサシで会いたいんだけど」

「何とか上手くやってて、場を用意して欲しい」という。

自来也は渋々といった様子で、了承した。




別れた後、家に戻った。

「・・・で」

一言置き、マダオが訪ねてくる。

「サスケ君を呼ぶってことは・・・これから、動き出すんだね?」

「ああ」

「・・・このまま木の葉に潜伏するつもりじゃ無かったの?」

「それが一番安全だと思ってたんだけどなあ」

頬をかきながら、答える。

「別勢力について、考えて無かったよ。下手に留まると・・・綱手とか自来也とかキリハとかの傍にいると、ダンゾウ率いる『根』が裏から絡んでくるやもしれんし」

「確かに、ねえ。そうなると・・・木の葉が二つに割れるか」

「そうなるね。・・・手はあるし」

憂鬱そうに呟く。

「正直、木の葉隠れの里人が持っている九尾に対しての悪感情・・・あれほどまで酷いとは思わなかった。ありゃあ、情報の使い方次第で、どうとでも利用できるわ」

九尾のあることないこと色々な噂を流布すればイチコロだろう。その場合、民衆と木の葉の忍びの一部・・・暗部を含めて、だ。


確実に俺の敵に回るだろう。


(木の葉に居なかったのが不味かったな。怨敵について、想像するしかなかったんだろうなあ・・・頭の中のイメージでしか存在しなくて、それでどんどんと悪い方に印象が傾いて)

今や九尾とうずまきナルトは木の葉の者から蛇蝎の如く嫌われていると見ていい。

事情を知らない者が大半なのだから、それは仕方ない事なのだけど。

(あるいは、『根』や暗部かの仕業かもしれないが)

考えるが、すぐ止めた。探している理由なんて一々考えたくもない。

(迂闊に動きすぎたしなあ)

でもまあ色々と狙いは達成できたので、動いた事については後悔していないが。そも完璧にばれずに器用に全てを丸く収めるなんて、不可能だし。

「そうなった場合、ねえ。カカシとか先生とか」

「キリハとか・・・俺を庇うよなあ。今更見捨てるってのは無さそうだし」

「当たり前でしょ」

「そうだよなあ・・・ああくそ。近づきすぎた」

失敗した、と愚痴る。自来也もああだし、緊張感が足りてない気がする。どうも危機感にギャップがある気がするのだ。いやまあ俺もそう人の事は言えないが。

で、結論。木の葉にいると別の意味でやばい。

「内乱の出汁にされるのはなあ・・・上手くない展開だし」

擁護派VS抹殺派とか・・・まあ考えられる中では最悪のケースだけど。有り得ない事もないってのがどうもね。

ダンゾウが綱手落としに取りうる手段の中では、一番効率的な方法だという事は分かっている。

現状、5代目火影、綱手への信頼感は揺るがないものがある。何しろ、初代火影の孫だ。血統で言えば文句なし。それに、三忍としての功績もある。

火影の座を狙っているダンゾウが、現在の綱手の盤石の地位あるいは信頼感を崩そうとするために、逆に一部を味方にするために、俺が利用されるかもしれない。

材料が揃ったら、即座に実行に移すだろう。手段は選ばないだろうし。あの根暗さんなら。

「ダンゾウならやるね。昔から、そういう人だったよ」

でもその可能性についてよく気づけたね、と言うマダオに、お前に教わったんだよ、と返す。

「『考え得る限り、最悪のケースを予想して動け。それならば、最悪を上回る事態が起こっても、いくらかは耐えることはできるかもしれない』」

「『後は運だ。最悪は予想できないから最悪なのだ。だが、備えは常にしておけ。それはきっと無駄にはならない』・・・うん、よく覚えてるね」

「基本、俺はチキンだからな」

常に最悪を考えて備えてないと不安になるんだよ、と笑う。

「・・・どうだか」

俺の言うことが面白かったのか、マダオも笑った。

「ははっ・・・ん?」

起きる気配を感じた。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

多由也が寝ている部屋へと向かった。



「入るよー」

部屋に入ると、目に映ったのは放心状態の多由也だった。

まだ布団に入っている多由也は、身動きせずに天井を見上げながら硬直していた。

(現状が把握できていないのか)

「大丈夫?」

「・・・はい。ええっと」

「今はうずまきナルトでいい。それで、だけど」

「はい」

「色々と、聞きたいことがあるんだけど、話せる?」


順序だてて、色々と話してもらった。

呪印の事、施された洗脳のこと、忘れていた夢の事。驚いたのは、小池メンマ=うずまきナルト、というのを知っていた事だ。

「あの時のガアラとの会話、もしかして聞いてた?」

「はい。遠間だったんで、全部は聞こえなかったですけど」

あぶねえ、ともしかしたらの事を想像してみて、震えた。

周囲への警戒が散漫だったにしろ、もしばれていたら致命的な事態に陥ってたかもしれない。

「それで、ウチはこれからどうなる・・・んですか?」

「ああ、敬語はいいよ。一応タメなんで。タメ口でおk」

「ええ!?」

それを聞いた多由也が驚く。

「えっと・・・参考までに聞くけど、何歳ぐらいだと思ってたの?」

「・・・」

沈黙が雄弁に語ってくれた。そうか、口に出せない程、あれに見えたのか。

「・・・ま、それはおいといて、取りあえず木の葉に渡したりはしないから、それだけは安心していいよ」

「本当、か?」

「そうそう。タメ口でおk。そも、渡すつもりなら端から助けたりなんかしないって」

多由也が、安堵のため息を吐く。

「傷は明日ぐらいには完治すると思うから」

放浪中に見つけた秘薬。俺は傷薬要らずだったので、使わずに取っておいたのだが、こんな所で役に立つとは。

「それでも、体力はまだ完全には戻らないと思う。今日いっぱいは休んでた方がいいから」

「そう、か」

黙り込む多由也。やがて俺が立ち上がろうとすると、服の裾を掴まれた。

「何?」

「・・・あ」

「あ?」

「・・・あ、あり、ありがとう」

言い慣れてないのか、かなり顔が赤くなっていた。

「どういたしまして」

微笑ましすぎるので、笑みを浮かべながら一礼を返す。

「・・・・あ」

すると、多由也の腹の虫がなった。真っ赤になった後、顔を向こうに向けてこっちに見せないようにする多由也。

「何か食べる?ラーメン・・・は流石に重たすぎるか」

おかゆと薬膳スープでも作るか。前に白が得意だと言っていたな、そういえば、よし頼もう。

「・・・じゃ、適当に持ってくるよ。お大事にー」





夕食時。

「・・・では。これより、第2回ラーメン会議を始めます」

「まず始めに、宣誓の言葉」

「宣誓!我々は、ラーメンマンシップに則り!正々堂々戦い抜く事を誓います!」

「・・・ラーメンマンシップって何だ?」

「メンマさんの生き様そのもの何でしょう。つまりは勢いですね」

「というか、会議で宣誓はないと思うんですけど」

「でも会議ってそういうものだし」

「あー・・・早くもグダグダに成っておるのお」

うん、仕切りなおして。

「あー、その、ここ隠れ家な・・・放棄する」

はは、と笑うと、場が静かになった。

「そうなんだ」

「それでその、次の拠点とする場所に関してですが・・・ツテはあるんですか?」

ネタ振りは無視されました。マダオのスルー。僕ちょっと寂しい。

「・・・俺達が昔修行していた所にね。現在、木造の隠れ家を作っている最中です」

「影分身建設」に発注済みです。工期は3日らしいです。チート乙。でも使いすぎかもしれん。

「そのうち影分身に反乱とか起こされたらどうしよう」

「・・・有り得んじゃろ。なんじゃ、その1人芝居は」

1人クローン戦争である。主人公:俺、敵:俺、ヒロイン:俺。脚本:俺、監督:俺。

これがほんとの全部俺である。

「絵を想像しちゃったよ。シュールだなあ・・・ま、それはともかく、次の秘密基地だけど、山奥の中だから見つかりにくいし、周囲3里に渡って、隠蔽・遮音用の結界も配置済みだから、今よりも安全と言えるよ。

広いのもあるし、修行には最適の環境と言えるかもね」

秘密基地は男のロマンである。異論は認めない。

「それであの元音忍の・・・多由也さんでしたっけ。連れて行くんですか?」

「ああ、勿論だよ・・・・帰る場所も、ないだろうからね。それと、あともう1人連れて行こうかと思ってる。ま、こっちに関しては、ほら、気むずかしい相手だし」

話してみないことには何ともいえないんだけどね、と苦笑する。

「僕達が知っている人なんですか?」

「一度、戦ったことあるね」

うちはサスケだよ、と言うと、再不斬と白が驚いた表情を浮かべる。

「・・・正気か? うちは一族の最後の1人なんだろ。血継限界の事もあるし、連れ出すのは不可能だろ」

「大丈夫だよー。きっかり置きみやげもするし。まあサスケに関しては、木の葉に残られる方が危ないんだよね」

ダンゾウとか、ダンゾウとか、ダンゾウとか。あと大蛇○とか、オカマ○とか、お○とか。

・・・今思うとサスケも不憫だなあ。

「・・・だが、本人に聞いたとしても了承するとは思えんが。何か、考えがあるのか?」

「一応は、ある。それも含めて・・・そうだな。本人の前で話すよ。前々から聞きたかったであろう情報も含めて」

「・・・!」

では、本日はこれまで。






---次の日。

街の茶屋にて、サスケと待ち合わせ。隣には、同じく変化した影分身がいる。

ちなみに今は変化中。見事な一般人になりすましているのだ。

やってきたサスケは、俺を見るなり顔をしかめた。

「・・・アンタか? 兄貴の居場所を知っているっていう奴は」

後半は小声。まあ当たり前ですが。

「ああ」

乗ってくれたか。エロ仙人、上手く説明してくれたようです。

「で・・・」

せっかちなサスケの言葉を遮り、ひとまず提案する。

「あー、そうだな・・・まず話す前に、やることがあるんだけど」

周囲の気配を探る。

(見られてるな・・・1・・・2、と離れた所に3人目。こっちは相当な手練れだな。単独だし。『根』か)

サスケを監視しているのだろう。

「ラーメン食べてから話そうか」

「・・・ちっ」

焦っているのか、舌打ちをするサスケ。

・・・まあ原作と違って、あれっきり一度も再会してないから、焦るのも仕方ないか。




その10分後。

「・・・撒いたな」

気絶したサスケを肩に担ぎ、一息つく。

『やったね』

「ああ」

作戦は簡単だ。

まず、影分身と俺がとサスケとでラーメン食べる。食べている最中、ちょっとトイレと席を外す。

あらかじめ出していた影分身を1人残し、俺とサスケがトイレに行く・・・振りをして、サスケ気絶させる。そしてトイレの窓から脱出。

俺の姿をした影分身と、サスケの姿に変化した影分身を、元の席に戻す。残っているのは影分身だけ、という作戦だ。

「話を聞かれる訳にもいかないからな」

すぐにばれるだろうが、一瞬見失わせるだけでいい。後は影分身をばらまけばいい。数にものを言わして攪乱すれば、どれが本物が特定できまい。

・・・これからサスケに話す内容は、極秘中の極秘。木の葉のトップシークレットだ。

おいそれとそこら辺で話す訳にもいかない。




「う・・・」

「あ、目醒めた?」

「!?」

ばばっと起きあがるサスケ。即座に、俺から距離を取る。

「・・・ちっ、ここはどこだ!?」

「俺ん家」

「・・・何ぃ?」

「怒るなって。事情があるんだ」

警戒するサスケに、ここに運ばざるをえなかった事情を説明する。だが、サスケはそれを聞いても、まだ警戒体勢を解かない。

「そもそも、だ・・・お前は一体何者だ?」

「ああ。そういえば変化解いて無かったな---よっと」

変化を解き、

「!?」

更なる警戒態勢に入ったサスケを無視し

「口寄せの術」

キューちゃんとマダオを呼び出した。

「・・・お前、確か」

キューちゃんを見て驚くサスケ。あ、こらこら指ささない。キューちゃんもにっこり笑って「無礼な小僧じゃの、噛むぞ?」とか言わない。

「名乗るのは初めてだね。俺の名前はうずまきナルト。四代目火影、波風ミナトとうずまきクシナとの間に生まれた、長男坊です」

これからもよろしくね、という言葉に、サスケは驚く。

「・・・つまりは、キリハの兄貴か!?」

そんな話、聞いたことないぞ、とまだ警戒を解かない。

「で、こちら元九尾の妖魔。今は怪力八重歯油揚げ好き童女、キューちゃんです・・・痛い」

説明が不味かったのか、ものを投げられました。

「そしてこちら」

ボン、と元の姿に戻るマダオ。

「夢見るダンディー、今や引退したみんなのアイドル、波風ミナトです。ミナもしくはガッカリウルフって呼んでぐぇ」

しばらく生き返らないように、キューちゃんと俺でボコっておきました。

「・・・(唖然)」

後に、隠れて見ていた白が語ってくれた。


『その時のサスケの顔。口を開けて驚いているアホな表情は見物だった』と。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十五話・後編
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/09 18:08
「さてと。気を取り直して」

血まみれで転がるマダオを足で端によけて、話を続ける。

複雑そうに横を向くキューちゃんに苦笑して、サスケと向き合った。

「まず、俺が木の葉にいなかった理由についてだけど・・・分かる?」

「・・・いや、はっきりとは分からない。でも・・・」

サスケがキューちゃんの方を見て、呟く。

「九尾絡みってことか。それも、元九尾の妖魔と言っていたがどういうことだ?」

「九尾の伝承について、覚えてる?」

歴史の授業みたいなのがあった筈。それで習ったと思う。

「ああ」

サスケは頷き、口に出す。

「昔、妖狐ありけり。その狐 九つの尾あり。その尾一度振らば、山崩れ津波立つ。これに困じて人ども、忍の輩を集めけり

僅か一人が忍びの者、生死をかけこれを封印せしめるが、その者死にけり。その忍の者名を四代目火影と申す―――だったか。でも・・・」

血まみれで痙攣するマダオを見て、不安そうな顔をするサスケ。

「いや突っ込み所はそこじゃなくてね。確かに十分に突っ込みたい所ではあるんだけど」

腕を組んで

「うむ」

頷くキューちゃん。

「ヒント1。封印された、ってあるよね。さて問題。四代目火影は九尾を何処に封印したのでしょう」

その問いを聞いたサスケが、考え込む。

「ヒント2。九尾は、尾を持ち多大な力を誇る妖魔、尾獣の中の一体でもある」

「つまり、尾獣は一体じゃない。他にもいる・・・妖魔?」

何かに気づいたかのように、顔を上げる。

「・・・妖魔・・・化け物?」

「最近、何処かで見たことある筈だ」

気づいたのかくい、と顔をあげ、サスケが答えた。

「・・・砂瀑の我愛羅、か」

全てを理解したのか、サスケが唸る。頭の回転は早いんだよなあ。暗記力も凄いし。俺ならそんな長文、5秒で忘れる自信があるね。

「ということは、九尾を・・・息子であるお前の中に封印したのか。でも、元九尾の妖魔と言ったよな。それは、どういう理由で? 見たところ、今は違うようだが。それに、キリハが知らないのも、おかしいんじゃないのか」

「生まれてすぐキリハとは隔離されてね。ま、尾獣を宿す人柱力としては、周囲の人間から忌み嫌われるのは宿命とも言えるけど」

肩をすくめて答える。

「知っての通り、木の葉隠れの忍びは九尾の妖魔との一戦で、に多くの仲間を殺された。その恨みと憎しみは消えなかった。後は簡単だ」

単純だ。川が上から下へと流れるように、簡単な一連の流れ。問題は、その流れを止めきれる堰が無かったって事だね。

「7年前に木の葉の暗部に襲われてね。それで、九尾を封印していた術式に組み込まれた四代目火影の意識が覚醒。緊急の封印を施そうとするが失敗。術は暴走して---」

キューちゃんを見る。

「狐の変化を妖魔たらしめる、妖魔核と言われるものだけが飛んでいった。だから、ここにいるのは長年生きた狐の変化。“天狐”と呼ばれる存在だ」

「・・・気づいておったのか」

「そりゃあ、ね。ていうか、ほんとに天狐っていうんだ」

余談だが、千年を生きた妖狐のことを“天狐”と言う。前世の知識だ。この世界でも同じ意味をもつようだが。

「だから元妖魔。今は妖狐。それでも俺と魂レベルで癒着してるから・・・俺とキューちゃんの関係は、人柱力と尾獣と似たような関係となるね」

少し違うけど。それに九尾の妖魔程にチャクラが多いわけでもない。

「・・・で、だ。俺の事はともかく。ここからが本題」

「本題?」

「そう。そもそも、聞きたい事があるから、俺に会いに来たんでしょ? 拉致するような形になったけど、ここでなら答えられる」

ここにいる者に聞かれても、問題ないからね。

「さて、何が聞きたい?」

「・・・俺が聞きたい事は一つだ。兄貴は、うちはイタチは何処にいる?」

「暁という、大蛇○クラスの手練れ・・・S級犯罪者のみで構成されている組織に所属している。ちなみに今現在、その組織の主な目的は尾獣の回収。だから俺も狙われてる」

「・・・大蛇丸クラス、か。全員で何人いるんだ?」

「大蛇丸が抜けて現在9人。全員が抜け忍だ。うちはイタチ、元霧隠れ、霧の怪人の異名を取る干柿鬼鮫、元岩隠れ・デイダラ、元砂隠れ・赤砂のサソリ、元滝隠れ・角都、元湯隠れ・飛段」

「・・・今上げた名前の総数、9人に届かないけど他の構成員は?」

「それについては調査中だ。だが他の面子同様、異能染みた固有の忍術を持っているんだろうよ」

「そうか」

忌々しげに唸るサスケを見ながら、心中で呟く。

(・・・ペインと小南については伏せておくか。いまいち技とか術とかの詳細がはっきりしないし)

知っている情報を全て話す必要もない。

「しかし、組織だろ? まとめ役・・・頭はいないのか?」

「そりゃあいるさ。組織よろしく表と裏2種類のまとめ役が、な」

「それも、調査中なのか・・・なあ、表の頭と裏の頭、どちらも分からないのか?」

「実は、裏の方は分かっている。名前だけはな・・・でもなあ」

頭をかく。

「順序だてて説明する必要がある」

だからひとまず座って話そうか、とサスケの肩をたたき、促す。

「・・・ああ」

椅子に座り、対面に座る。俺は目の前に腕を組み、淡々と話し続けた。

「・・・さて。話はまず、木の葉隠れの里設立にまで遡る」

千手一族の話とうちは一族の話だ。サスケが訝しげな顔をしたが、無視して続ける。

「このとき、うちは一族の先頭に立って初代火影・・・千手柱間と戦った者がいた。その時のうちはの頭領だな。それが誰なのか知ってるか?」

「ああ。うちはマダラだろう。父上から聞いた事がある。確か、追放された後、もう一度戻ってきて木の葉の里を襲撃したとか」

「・・・補足しよう。当時のワシを瞳術で従えて、だ」

キューちゃんが不機嫌な顔で言葉を横合いから差し込む。

(あちゃー、嫌な話だったか)

後で謝ろうと思いつつも、話を続ける。

「その時の対立・・・結果、勝利したのは千手一族の方だった。その時の争いのしこりが残っているのだろう。うちはは木の葉隠れの中の忍びではあれど、木の葉自体との関係は良好とも言えないものだった。

木の葉を襲撃したマダラの件もあったしな」

千手一族とうちは一族。

木の葉設立のため手を結んだ、ともあるが、実際は千手一族が勝って、うちは一族が負けた結果の果てに、手を結んだに過ぎない。

それまで互いに争っていたという事実が消えるわけもない。木の葉の下、一緒に仲良くやりましょうなんて、出来るはずがない。

・・・それまで、互いに殺し合いをしていたのだから。

人の心は理屈だけで白黒つけられるほど、簡単なものじゃない。互いの関係を結ぶものを橋とすると

・・・その橋は急な事情で仕方なく建てられたもので、実は建設当初からあちこちに罅が入っていた、と表現するのが正しい。

「そして後年だ。四代目が死んだ時、九尾が里を再襲撃したあのとき・・・里の上層部が何を考えたか、分かるか?」

「・・・!」

疑念が橋に負荷を掛ける。疑いが疑いをよび、罅は加速度的に増え続ける。

「そう。背後にうちは一族がいたと考えた。そして、だ」

いつの間にか隣にきていたマダオが、波風ミナトが説明を引き継ぐ。

「それはある意味で正しかった。僕はあの時、対峙したんだ・・・死んだ筈のうちはマダラと」

「・・・何ぃ!?」

サスケが立ち上がる。

「有る意味だ。まだ話は続くから最後まで聞け。続きは、木の葉上層部の対応についてだ。まあ、うちは一族としては関与していなかった事だが、疑いをかけられたため、

確たる証拠もなく中枢から遠ざけられ、縮小を迫られた」

橋を壊した。壊れたのではなく、上層部側が壊したのだ。

同じ木の葉ではあれど、うちはは中央、つまり政治に携わる役職には関わるな・・・“こちらには来るな”と、そう告げたのだ。

「だが、うちはは警務部隊を任されていたはず・・・それは嘘だろう!」

立ち上がりながら叫ぶサスケ。だが、俺は間髪入れず答える。

「警務部隊。警務のみを任務とする部隊で・・・中枢には、関われない」

警察が政治に関われないのと同じ。俺は首を横に振る。

「当然、うちは側は不満を抱く。当たり前だろうな。事実、“うちは一族”としては身に覚えのない事なんだから。

・・・謂われのない罪を被せられて、不満を抱かない者などいない」

人間ならば誰でも。ここから、悲劇が始まる。俺は目を瞑り、サスケに問うた。

「・・・さて、うちはサスケ。本題はここからだ。今日この家に連れてきたのは他でもない、ここからの話を聞かせるためだ。そしてこの話は・・・お前の心を更に抉ることになるだろう」

覚悟はいいか、聞く準備は出来たか? と目を開け、真正面からその目を見据え、問う。

「・・・ああ、話してくれ」

すでに憔悴しているサスケ。若干うなだれながらも、続きを促す。

「・・・その一連の出来事が原因だった。九尾襲撃、四代目死去からいくらか経ったある日・・・うちは一族の中である事が決定された」

一息おいて、告げる。

「クーデターを起こす事だ。木の葉隠れの里を乗っ取るための計画が立案され、そして実行に移されようとしていた。革命のリーダーは当時の警務部隊部隊長・うちはフガク。

そして里側の動向を探る役として選ばれたのが・・・うちはイタチだった」

「・・・!」

二重の衝撃。だがそれだけでは終わらない。

「だが、クーデターは起こらなかった。里側が事前にその情報を察知していたからだ。それは何故か? ・・・うちはイタチが里側に情報を流したからだ」

「嘘だ!」

サスケが泣きそうな叫び声を上げる。

だが俺は無視して、続ける。

「本当だ。うちはイタチは二重スパイだった。そして役を任せられたあの時・・・あの時、もう既にうちはイタチは決断を迫られていたんだ。木の葉とうちは一族の間に立たされた状況の下、1人だけで。

・・・選択肢は二つで、選べるのは一つしか無かった」

里か、係累か。木の葉の平和か、一族の更なる発展か。

「・・・!」

あまりにも非情すぎる選択。

その結果、幼少の頃から戦争というものを嫌ほど知らされてきたうちはイタチが選んだ選択は・・・。

「後は、お前が一番知っているだろう? うちはイタチは木の葉の平和を選んだ。そしてその時里側から与えられた任務は一つ。

・・・うちは一族全員の抹殺だ」

写輪眼には写輪眼。そんな理由があるにしろ、あまりにも酷な任務だと思う。里の上層部もたいがい黒い。組織としては当たり前なのかもしれないが。

俺が木の葉に戻らない理由もここにある。血なくして平和は語れない。だが、あいつらは自身の血を流そうとしない。平和ボケしているのか、自分たちが里に必要だと思っているのか、それは知らないが。

唯一違ったのは三代目火影だったが・・・

「・・・何故・・・・なぜ、俺だけは殺されなかった?」

父さんと母さんも殺したのに、と呟くサスケに、再び俺は目を瞑る。

「それを改めて問うのは酷だと思うぞ。お前を殺さず里を抜けた理由、未だにお前が生きている理由。考えれば分かる筈だ。

・・・それに、だ。お前に何かを言っていなかったか?」


「・・・あ」


力無く、サスケが椅子に座り込む。背もたれに身体を預け、虚空を見ながら思い出した言葉を呟く。


「別れ際・・・『俺と同じ眼を持って、俺の前に来い』と言っていた。あれは・・・」


うちはイタチの取った行動として。その心境とした。殺さなかった、そして再び来いと言う言動。

続く言葉は一つだろう。

「・・・『そしてお前の手で俺を殺せ。それを手柄として』」

俺の続きの言葉にサスケは俯き、静かに言葉を発す。

「『うちはの仇を討った英雄となれ』、か」

顔を両手で覆い、サスケは呟く。

「・・・馬鹿だよ兄さん。アンタ、本当に馬鹿野郎だ。全部、自分で背負い込んで。全部、自分の、心の内にしまいこんで

・・・ほん、とうに、不器用すぎる。そしてほんと、う、に」

優しすぎる。

最後は泣くのを我慢しているのか、言葉が途切れ途切れになっていた。


「・・わる、いけど・・ひとりにしてくれないか」


頷き、静かに部屋の外へと出て行く。

マダオとキューちゃんもそれに続き、部屋の戸を閉める。


「・・・・っ・・・あ」


やがて、戸の向こうから、声を殺して泣くサスケの声が聞こえだした。





「ちょっと時間を空けるか。それと、だ」

修練部屋に入った後、ポケットから黒い札を取り出す。

「ちゃんと聞いた? ・・・・自来也さんよ」

さっき、サスケの肩を叩いた時だ。

サスケの背中についていた、服の色に紛れ込んでいた黒い札を剥がし、自分のポケットへとしまい込んだのだ。

「確かに・・・先日、影分身の有効利用については教えたけど、まさかこういう使い方してくるとはねえ。

・・・家の周囲に展開している結界が無ければ気づかなかったかもしれんよ」

『・・・』

「だんまりか。ま、それでもいいよ。それと、サスケは連れて行くから・・・抑え役だった三代目が死んだ今、ダンゾウと木の葉上層部がうちはサスケに対してどんな動きをするか分からないし」

『・・・一つだけ聞いてよいか?』

「何なりと」

『ワシですらも知らなかった、その情報だが・・・どこでどうやって知った? 』

「・・・明かすと思ってんの? ああ、明かすけどこれ貸しね? ・・・我が組織『機動食品』の努力の賜だよ」

社長:俺、参謀&ギャグ担当:マダオ、マスコット:キューちゃん、出向社員:白、用心棒の先生:再不斬、音楽家:多由也、若手のホープ:うちはサスケ(予定)

協力会社:影分身建設、影分身運送、影分身警備。

・・・何かどこかの海賊団みたいだなー。後半から突っ込み所満載になってるし。

まあようするに超嘘なのではあるが、ハッタリにはなる・・・かもしれない。

(まあエロ仙人だし・・・最早どうでもいいか)

盗聴するし。

俺の中の自来也株価、大暴落である。

「五代目になら話してもいいけど、それ以外には話さないでくれよ? ああ、それと---」







と、続きを話そうとした瞬間である。











予兆も何も無く。








声が頭の中に響いた。












『殺す』









「っっっっっっっっっっっっっっっ!?」





前触れも無く聞こえたその声に、全身が総毛立つ。


自分の奥底を鷲掴みにされたかのような感覚。だが、それは俺だけではなかった。



キューちゃんのチャクラが爆発したかのように高まる。





「ヲオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」





獣の咆哮。同時、チャクラが吹き出す。




「ぐあっ!?」


「くっ、キューちゃん!?」






余波だけで壁にまで吹き飛ばされる。くそ、何てチャクラだ。

「眼が赤く・・・!」

そして獣の眼になっている。暴走しているのか。

感じ、チャクラの質は変わっていないみたいだが・・・

「・・・くそっ!」


辺りを見回しながら、息を荒立てているキューちゃん。

(興奮状態なのか?)

取りあえず、放ってはおけないので、すぐさま駆け寄る。

「キューちゃん!」

「・・・っァア!」

間合いに入った途端、迎撃の抜き手が俺を襲った。

俺の目でも見えなかった。

神速の抜き手。

「っつ!」

俺の肩が貫かれる。

(でも、途中で軌道が逸れた?)

視線と挙動と動きから、どうみても最初は心臓を狙った一撃に見えたのだが・・・放つ前に不自然な挙動が生まれ、狙いが若干逸れたのだ。

「っ!?」

鮮血が舞い散り、それを見たキューちゃんの肩が驚いたかのように跳ねる。

(怯えている? 気が立っているのか・・・ええい、ままよ!)

一歩退いたキューちゃんに、一歩詰め寄った

「キューちゃん!」

そのまま、思い切り抱きしめる。

「・・・・・っ!」

途端、キューちゃんの全身が跳ね、その後硬直した。

「大丈夫、大丈夫だから」

声を掛ける。どうも怯えているみたいだ。あの声のせいで恐慌状態に陥ってしまったのだろう。

安心させるため、キューちゃんを抱きしめたまま、後頭部辺りを撫でる。

「・・・・」

キューちゃんは無言のまま俺の背中に手を回し、抱きしめてくる。

「「・・・・」」

無言で抱きしめ合う二人。

「あの、二人とも・・・?」

「!?」

マダオから声を掛けられた瞬間、キューちゃんが俺の腕から逃れようと後ろに下がる。

そこで、俺はキューちゃんを抱きしめたままだったので、前に引っ張られたのだ。

そして、体勢が崩れる。

「おわ!?」

更に体勢が崩れた。地面に飛び散った血で、足下が滑ったのだ。


そのまま、二人とも前方へと倒れた


「っっっつ~~~・・・?」


咄嗟に手をついてキューちゃんを潰さずにすんだが、貫かれた肩が痛む。


「・・・あ」


痛みが治まり、正面を見る。そこには、


「・・・・」


呆けた表情をするキューちゃんの顔が見えた。


眼が丸くなっているのが可愛い。


(・・・睫長えー肌きれいー・・・とか、言ってる場合じゃねえ!)


体勢に気づき、慌てて起きようとする。


(これじゃあ、押し倒しているようにしか見えん!)


だが、神様はどうにも俺の事が嫌いらしい。


「ナルトさん!? 今のチャクラは・・・・」


白登場。同時に硬直。



「・・・・・」


そして俺とキューちゃん、視線を交互に向けた後、笑顔でおっしゃった。


ただ、何故か眼だけが笑っていない。



「 な に を や っ て い る ん で す か ? 」


「え?」


何で怒って・・・いや、ちょっとまて。
現状を確認しよう。


押し倒されてちょっと涙を浮かべているキューちゃん。(何で!?あと顔が真っ赤になってるし!)
血が出ている俺。(肩が痛い)
先ほどのチャクラ。(相当な大きさだったからな。そりゃ分かるか)
壁に吹き飛んで、後頭部を押さえているマダオ。(そそくさと逃げようとしている)


あれ? 客観的に見たらこの状況・・・・やばくない?


「実は---」


と事情を説明する間もない。白の黒いチャクラが吹き荒れる。


「そんな、チャクラが具現化するなんて・・・!?」とか言っている場合ではない。


そこに、白い夜叉が顕現した。


コマンド。






「ナルトさん!!!!!」

だがコマンドを選ぶ前に先制攻撃された。不意打ちだ!

「ありがとうございますっ!」

乙女の拳が俺を吹き飛ばした。










「いちちちち」

「・・・どうしたんだ? それにさっきのチャクラは」

寝ころび、天井を見上げていたサスケが身体を起こした。

「ああいい。気にしないでくれ。白も謝らなくてもいいから」

誤解が生んだ悲しい悲劇だ。こちらは語るまでもない。

白も謝ってくれたので良しとしようか。キューちゃんにも後で謝ろう。

・・・でも一つだけ、気になる事がある。


(あの声は何だったんだ?)


初めての体験だ。


声だけで死を連想させられたのは。


(それに、あのキューちゃんをあそこまで恐怖させるとは)


他の皆には聞こえなかったようだが、俺だけの空耳では有り得ないだろう。あの声、あの感触。

耳にこびりついて離れない。

頭の深奥に刻まれたかのようだ。

それに、嫌な予感が止まらない。

(共通点は、人柱力か・・・ここを出たあと、我愛羅にも接触してみるか)

あるいは、他の人柱力にも。居場所はまだ分かっていないが、探せば分かるかも知れない。


(あの声。どこから・・・いや何より『誰が発したのか』を突き止める必要があるな・・・予想はある程度ついているけど)

それも、ここを出てからにしよう。キューちゃんが元の状態に落ち着いてからにした方がいい。


今は何故か顔を真っ赤にして、部屋の隅で三角座りしたまま、こっちを睨みながら1人唸ってるし。


(・・・後で聞こう)


話しかけたら噛まれそうだ。


(でも柔らかかったなあ)


「・・・おい? 急に黙り込んで、何か俺の顔についてるのか」

「うん。赤い眼だね」

「ああ・・・」

と、頬をかいて眼を逸らして照れるサスケ。泣いたのが丸わかりだ。気が動転していたのか、気づいていなかったようだが。

うーん、自分が泣いた、という事実を恥ずかしがっているのだろう。泣いたと悟られた=弱さを見せたとか思ってるのかねえ。

「悲しい時に泣けるのも、強さだと思うけど」

泣ける強さと泣かない強さ。二つあるが、今は泣いた方が良い状況だし。

「うるさいな」

だが怒るサスケ。反骨精神溢れる若者、青臭いのう。重畳重畳。

「おっさんくさいよ。あと君が言うな」

腕を組んでいると、マダオに突っ込まれた。ていうか心を読むなよ。

でも、少年をからかうのはここら辺にしておくか。

「で、だ。ここで、話は戻る。うちはイタチ。現在抜け忍となり、暁に所属している理由は一つだけ」

「さっきいっていた暁の裏リーダー・・・うちはマダラを見張るため、か」

「そうだ。うちは強襲の折、うちはイタチに手を貸したのもあいつだからな」

「・・・成るほどな。兄さんがいくら強くても、うちはを1人で壊滅させるのは・・・」

拳を握る。

「実際の所1人では無理だと思っていたんだが・・・謎は解けたよ。そういえば、うちはマダラは昔追放されたんだったな」

「その通り」

後、色々と現状について説明する。

3代目の死。“根”の存在。イタチが提案した、木の葉上層部との取引。

「つくづく・・・自分が情けないな。俺だけが、何も知らなかった。知らされていなかった。いや、知ろうともしなかったのか」

「反省は後だ。3代目が死んだ今・・・抑える役割を担う者がいなくなった今、サスケがこの里に残るのは危険だ。“根”の首領、ダンゾウの存在もあるしな」

「俺が邪魔なのか。はっ、それも分かる話だがな」

うーん、吹っ切ったのか、頭の回転が早いし、現実的なものの見方が出来てる。

(どうだ?)

マダオの方を見る。

「決まりだね。大丈夫だと思うよ」

「了解」

「何だ?」

座り込んだまま、サスケが訪ねる。

「えーとね・・・・!」


だが、その時。





『・・・探知結界作動』



突如鳴り響く警報音。アラームレッドだ。


「・・・何!?」


突然の警報に、場が緊張する。


俺は即座に影分身を使い、森の入り口へと向かわせる。俺のチャクラでは、罠は発動しない。


そして、1分後。


『影分身から入電中・・・結界内に入り込んだ敵を確認。練度B、数は8。チャクラ量と身のこなしから、最低でも中忍クラスと考えられる』

「・・・くそ、見つかったか」

さっきのチャクラの暴走が原因だろう。試練場とはいえ、相当な大きさだったからな。

・・・試練場に張っていた結界札も最近張り替えてなかったし、家の壁面に張っている隠避結界の上限を越えてしまったか。

ここのところ忙しくて忘れていた。うーん、失敗失敗。


「マダオ」

視線で合図する。

このタイミングで来る、しかも2小隊編成ということは。


「そうだね。恐らくは“根”だと思う。まあ森の入り口からここまで、幻術系・物理的を罠が色々と張り巡らしてあるからすぐには来られないでしょ。

・・・ここに辿り着くまで、最短でも一時間はかかると思う」

「・・・そうだな。白、多由也を連れてきてくれ」

「はい」

白が出て行く。

「そして再不斬、脱出に持っていくものは以前説明したよな?」

戸の向こうにいる再不斬へと話す。

「・・・ああ」

数秒経った後、再不斬が姿を見せた。

「・・・お前!?」

サスケが驚き身構えるが、俺は手で制して、説明をする・・・時間もないか。

「あー、あとあと。今は俺の仲間だから。別に見られただけで噛みつくわけでもないから、心配しないで」

「・・・お前には噛みつくかもしれんがな」

「いいねえ、久しぶりにガチでやってみる? でもそれは避難した後な・・・頼むわ」

「・・・はあ、分かったよ。でも貸し1だぞ」

「了解」

ため息を吐きながら、再不斬が部屋の外へと出て行った。

「サスケも、説明は後ね。ついでにいうと、さっき君がちょっと見とれてたあの美少女は白といって、波の国で戦ったお面ちゃん」

「・・・は?」

眼を点にするサスケ。どうも、あれ程の美少女だとは思っていなかった模様。



「まあ、それはおいといて、だ」


組んでいた腕を降ろし、サスケの眼を見ながら問う。




「選択の時だ、うちはサスケ君・・・・今から俺達は木の葉を出て、新しい隠れ家へと移動する。そして、対暁のため、動き出す。

再不斬も白も、それが目的で俺に協力している」


鬼鮫がマダラのことを水影と言っていたからな。大名暗殺の時の水影

・・・その詳細はまだ分からないが、水影と言われていたうちはマダラが絡んでいない筈がない。これも後で言ってやるか。


「そこで、提案だ・・・手を組まないか?」


「・・・手を組む?」


「ああ。俺にとっての今一番の強敵・・・それは暁に所属しているうちはイタチだ。万華鏡写輪眼は厄介すぎる代物だからな。それに対抗するには・・・」

サスケは頷いて答えた。

「・・・写輪眼には写輪眼。つまり俺が抑えるわけか」

「ああ。鍛えるに相応しい場を提供する。師匠も、このマダオがいる。普段はあれだが、師匠としては超一級品と言っていい。

5歳の時点では何も知らなかった俺を・・・大蛇丸とほぼ互角に戦えるまで鍛え上げたのだからな。たった7年で。腕に関しては俺が保証しよう」

やるときゃやる男だぜ、と推してやる。

実際、能力的には文句なしだ。天地共に鍛えるには、最適の人材だと言える。

「お前ほどの才能があれば、3年程鍛えれば十分だ。いや、もっと早くうちはイタチに匹敵する腕前にまで成長するかもしれない。

元々、兄を討つために鍛えてきたのだろう? 今の目的は知らないが、俺達はその手助けができる。

それに、今の木の葉にとって、お前が成長するという事態は望ましくないことだろうからな。色々と妨害があるかもしれない」

「・・・」

それも予想に過ぎないが、十分に考えられる。


「そこで、問おう・・・選択肢は二つに一つ。共に来るか、1人で木の葉に残って戦うかだ」

見下ろし、続ける。

「悪いが今この場で決めて貰う。制限時間は一分だ。時間がないからな」

「・・・ここに来るまで、後1時間はかかるって言ってなかったか?」

「ああ・・・っと白」

白が多由也と共に急いだ様子で戻ってきた。うん、流石は元追われる身。分かってるね。

「レッスン1だ、サスケ君。“動くと決めたらできるだけ早く”・・・悪戯好きな神様に足下をすくわれないよう、な」

常に余裕を持って、だ。

「それに、相手が血継限界持ちの場合もありますしね。数分の遅れが生死を分かつ状況も十分あります。

・・・逃げる場合は特に、です。ノロノロしたせいで追いつかれて、結果、後ろから討たれるって事もありえますからね」

そんな不様で間抜けな死に方はまっぴらゴメンです、と白がフォローする。



「問おう。うちはサスケ」


共に来るか、残るのか


選択を迫る。


だが、手は差し伸べない。自分で選んでもらう必要があるからだ。



「・・・俺は、今まで流されるままだった」

やがてサスケは座ったまま俯いて、ぽつりぽつりと呟きだす。

「・・・そうだな」

同意する。選択肢など無かっただろう。復讐の一択のみ。それも兄の言葉に誘導されて、だ。それはまるで運命の糸に繰られた人形。

・・・舞台で踊らされる道化だ。

「この眼に、うちは一族の力と宿命とやらに、その流れで起きた悲劇に飲まれて、流されることしかできなかった。

血の池の中で道を見失って・・・自分で道を選んだことなんて、無かったのかもしれない」

「・・・力は血を求める。才能がある者ほど余計に、な。それが力持つものの運命、そして宿命らしいが」

それを聞いたサスケが、キューちゃんと白と俺を見た後、ため息を吐く。

「・・・そう、なんだろうな。だけど・・・・それは、嫌だ」

そして面持ちを上げ、意を決したかのように一歩踏み出す。


「ああ、俺は嫌なんだ・・・そうだ。運命がどうとか、知るか。知るもんか。俺は、俺のやりたい用にやる」


自分の拳を握り、それを見つめながら宣言する。


「俺は強くなる。自分で、自分の道を選べる程に強くなってやる、そして・・・俺に何も告げないまま、1人で全てを背負う道を選んだ兄さんを!

・・・一度ぶっ飛ばして、そして一言だけ言ってやる」


「一言?」


「・・・兄弟なんだから・・・辛い事なら一緒に背負わせろと。それを言うために、殴りに行くために、俺は行く」


眼に光りが灯る。


明日何かを遂げて終わらせるという瞳ではない。



それは、生きて再び明日をみようとする瞳。



「選ぼう、うずまきナルト。俺を連れて行ってくれるか?」



サスケは座ったまま、手を差し出す。



「ああ、もちろんだ」



俺はそれを握る。



新たな仲間の誕生だ。同じ志を持つもの。運命を敵に回し、それをぶっ飛ばしに行く者。


「だけど」

一つ置いて、告げる。

「機会は用意できる。鍛えたいなら、手伝おう。だが、その中で選び勝ち取るのは自分自身だ。血反吐を吐きながらも、つかみ取るのは自分次第になるだろう。はっきりいって楽な道じゃない」

・・・それでもいいな?」

悪戯な笑みを浮かべ、サスケに問う。そしてその問いに対し、サスケは挑戦的な笑みを浮かべ、答えた。



「上等だ」


握った手を引っ張り、立たせる。



ここに、約定は成った。


俺は機会を用意する。鍛える場を用意する。

サスケはそれに答え、イタチを抑える。そして、できればだけどうちはマダラの方も抑えて貰う。

それぞれの目的のため、道を同じくする。

・・・あるいは、それ以外の何かが含まれているのかもしれないが。

(それを口に出したら、安っぽくなってしまうな)

同情でもないし、哀れみでもない。

ただ、言ってやるだけだ。



「じゃあ、決まりだな・・・一緒に行こうぜ?」


腕を振りかぶる。



「ああ!」



勢いよく、ハイタッチを交わす。












木の葉隠れに外れた場所で、警報響く家の中。


世界に抗う男二人の、始まりの音が鳴り響いた。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十六話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/16 23:02
ナルトの「40秒で支度しな!」発言の後。

一同は隠れ家から遠く離れた場所へと通じる、秘密地下通路を伝って外へと脱出。


地上に出て数分を歩いた後、立ち止まった。


「ここまで来れば大丈夫だろう・・・一旦休憩にするか」

ナルトの言葉を聞き、皆が足を止める。

「よっと・・・多由也、随分揺れたと思うけど大丈夫か? 傷は広がってない?」

「あ、ああ。傷は塞がってるから、問題は無いと思う」

「でも顔色は良くないね・・・まあ、血が足りないのかも。あれだけ出血したし。体力の方もまだ回復はしていないだろうから、無理はしない方がいいよ」

「・・・あり、がとう・・・ほんと、何て言ったらいいか」

「いいよ、別に。それに役得だったしねー」

と、ナルトは少し笑いながら、先ほどまで背負っていた背中を指す。

そのやりとりを見ていたサスケが、顎に手をやり何のことか分からないと首を傾げている。

やがて、ポンと手を叩いて解答を口に出した。

「ああ、胸が「うるせえ!」うお!?」

サスケの呟きを聞いた多由也が、顔を真っ赤にしてサスケに殴りかかる。

それを間一髪で回避したサスケが、多由也へと文句を言う。

「危ねえな、てめえ! いきなり何すんだ!?」

「お前が悪いんだろうが!?」

ぎゃーぎゃー言い合う2人の間に、マダオが入る。

「ほらほら、2人とも。今は逃げてる最中なんだし、騒がないの。できるだけ静かに争いなさい・・・ほら、ああやって」

マダオが指さす先には、静かに地面に屈み込んでいるナルトの姿が合った。

「・・・ふん、人誅じゃ。何、急所は外してある。安心せい」

「・・・てか・・・お・・もい・・・っきり急所・・・・・でしょ」

ここが急所で無かったら、どこが急所だというのか。

股間を抑えて悶絶するナルトの背中を、白が優しく叩いている。更にその背後では、再不斬が「へっ、ざまあ」と言う表情を浮かべていた。

「「・・・・」」

その光景を見て、沈黙する2人。顔を見合わせてため息をつく。

先ほどまでと違う、あまりのギャップの激しさに「なんだかなー」と思うサスケ、多由也であった。




「ありがとう、白。こんなに優しくしてくれるのはお前だけだよ・・・」

「でも、本当にいいんですか? 全部爆破しちゃって」

ナルトのボケを華麗にスルーした白が、残してきた隠れ家の処置について聞く。

「・・・まあ、急ぎだったからねえ。それに、爆破した方が後腐れなくていいよ。戻れないなら、いっそ無くなってしまった方がいい。その方が割り切れるし」

痕跡も何もかも全て吹き飛ばせるし。主に、木の葉側に見られたら不味いものとか。

ありったけの起爆札をセットしたので、何も残らないだろう。それだけの威力はある筈だ。

脱出路用として地面に掘った、あの隠し通路も全て埋まるだろうから、追跡もし難いだろうし。

「ダミーの隠し通路も作ったしねえ」

本命、つまり俺達が使った脱出路は跡形無く消えるように細工した。

ダミー用・・・今いる位置とは別方向に伸びる脱出路の方は、ある程度痕跡が残るように細工をしたのだ。これで脱出後の足取りはある程度攪乱出来るはず。

影分身に足跡も付けさせた。それも、あからさまなものではなく、細かく調査してようやく分かるといった程度のレベルのものだ。

「それにほら。秘密基地が見つかって、それで脱出する場合には・・・跡形もなく爆破するのはお約束ってやつでしょ?」

「・・・でもそれは悪の秘密基地のお約束なんじゃあ」

多由也が突っ込む。

(うむ、この世界にも漫画文化はあるようだなあ)

そういえば、自来也も書いたんだっけか。俺は読んだこと無いけど。

「でも俺達ってどっちかっていうと悪者だよね? ・・・だってほら」

みんなが、俺の指さす先・・・再不斬の方を見る。

「・・・そうだねえ」
マダオがしみじみと呟く。

「そうじゃな」
キューちゃんが頷く。

「・・そうかも」
多由也がぽつりと呟く。

「否定できないな」
サスケが顔を逸らす。

「ちょっと、皆さん! ええと、ほら、再不斬さんだって、悲しい話を聞いたら涙流すことだってあるんですよ!」
白のフォローが入った。

「・・・」
だが、容姿についてのフォローは入らなかったので、再不斬がちょっと涙目になる。

「ああ、そういえば以前、俺が○ランダースの犬の話を聞かせたとき・・・見事に泣いてたよなあ」

話し終えた後、即座に逃げていったけど。いや、しかしもしかしてとは思っていたが、まさかホントに泣いていたとは。

「・・・眼を押さえて静かに泣く再不斬さん・・・あれは、可愛かったですねえ」

白がその時の顔を思い出して、うっとりと呟く。その表情は色っぽくて綺麗でとてもとても見応えのある顔なのだ。

だが皆は眼を逸らし、おのおのの言葉を呟いた。

「鬼の目に涙だねえ」
誰がうまいこと言えとマダオ。

「でも、可愛いってなあ・・・」
想像できん、とサスケ。

「まあ、人好き好きだから」
うんうんと頷く俺。

「割れ鍋に綴じ蓋?」
割と多由也が酷い。でも合ってるかも。

「豚に真珠?」
キューちゃん、それ意味が違うから。


「・・・・・」

再不斬はじっと、屈辱に耐えているのであった。



数分後。


「そろそろ、ですか?」

「いや、まだだ20分ぐらいしか経っていない」

脱出後、ここまで移動した時間を含め、まだ予想時刻より30分は余っている。

「爆発作動まで待つか・・・一応、見届けなくちゃならんし」

「それまでじっとしているってのも芸が無いね・・・そうだ」

そこで、マダオがある事を提案した。

「ねえねえ、これだけの人数が集まったんだし・・・何か、チーム名とか決めない?」

その言葉に、皆が考え込む。

「いいな、それ」

「確かに」

夢見る少年世代(身体は)のナルトと、正真正銘の少年世代であるサスケが同意する。

「とはいってもなあ」

「僕たちに共通点ってありましたっけ?」

「ああ、有ることはあるなあ。ほら・・・『帰る場所が無い集団』」

「・・・ずばっときたね」
ちょっと切なくなる。

「直球過ぎないか?」
ど真ん中である。

「・・・そうだね。それじゃあ語呂も悪いし・・・他に何かある?」

一瞬の沈黙の後、多由也がぽつりと呟いた。

「そういえば・・・里抜けするとき、左近に野良犬とか言われた」

多由也の言葉を聞き、その言葉にある集団の言葉が浮かぶ。

「うん、それなら『リザーブ・ドッグス』何てどう?」

親父は事故死しました。

「正に俺達のフィールドだね」

「うん、意味がわからん。却下じゃ」

キューちゃんに笑顔で却下された。

まあ、そりゃ分からんか。だがマダオ反応してくれてナイスジョブ。

「それ以外だと、そうだなあ」

考え込む。目的に添う名前にした方がいいかもしれない。

「そう、『暁』に対抗して・・・『夜明けの船』なんてどう?」

絢爛で舞踏な祭りが起こるかもしれない。

「いや、船なんてないでしょ。てか何で船?」

夜明けときたら船でしょう。

「じゃあ、曙ってのは? もしくは曙光」

「ごっつぁんです! ・・・却下」

どっちなのさ。

「黎明はどう?」

マダオが言う。

「王子ものぞむーもいないので却下」

暁と一緒に太陽を支えるのは嫌です。叢雲にも進化しません。

「じゃあ、反対の意味で・・・宵闇とか」

サスケが呟く。だが、それはちょっと・・・

「サスケさん、サスケさん。それだと暗殺専門組織にしか聞こえないんで・・・」

誰を屠るの、誰を。落ち込むサスケをよそに、別角度から切り込んでみる。

「じゃあ、『傭兵騎士団』は?」

水素の心臓持ってないけど、あの団長には適わないけど、響きが好きだから。

「・・・傭兵は分かるけど、きしって何?」

遠い世界の侍みたいなものです・・・といっても分からんか。

「じゃあ、大逆転号は?」

「7つの世界最後の希望を託されるのはちょっと・・・」

大役過ぎる。荷が重い。プリンセス・ポチもいないし。

・・・プリンセス・キューちゃんはいるけど。

「・・・7、7か。そういえば、7人なんだね・・・それじゃあそのままセブンなんてのはどう?」

「コード・スクエア! ・・・でも俺が批判されるから却下」

カルバリー・ディスピアー!ってか。まあ転生とはちょっと違うけど。

もしくは魔王ナグゾスサールでも倒しに行くのか・・・いいね。

「えっと、じゃあ七星は?」

セプテントリオン?

「いや、コードネームがちょっとつけられないし」

それに名字無い人いるし。白がHになちゃーうよ。サスケがステイツになっちゃうし。

「それじゃあ、七色・・・“虹”なんてどう?」

「あ、なかなかいいね・・・でも保留」

「う~ん、何かこうびりっと来る者が無いね」

「そうだなあ。隠れ家につくまで時間があるし、それまでに少し考えておくか」


立ち上がり、時計を確認する。まだ、予定時間より10分あるが・・・ん?

「来た、か」

影分身から連絡が入った。根が隠れ家に急接近中らしい。

「・・・よっと」

足にチャクラを篭めて、岩場の上へと跳躍する。気配は消したまま、隠れ家のある方角を見て呟く。


「想定していた時間より早いけど・・・始まるか」











一方、同時刻。森の中静かに建つ、メンマ邸周辺。

そこには、“根”の部隊、2小隊が展開していた。

幾多の罠の群れを、僅か40分足らずで潜り抜けた手練れ揃い。

ハンドサインで合図。

1小隊が周囲を警戒する。

そしてもう1小隊が、メンマ邸へと静かに忍び寄る。

近接し、壁に触った後、ハンドサインを送る。

その内容はこうだ。

(隠避結界が張られている模様)

再び互いにハンドサインを交わし、頷きあう。

「・・・」

そして無言のまま、正面入り口に小石を投げつける。

数瞬置いて

「・・・!」

もう一つの窓から侵入する。


最適のタイミングでの侵入、そう思っていた。


だが侵入した直後だ。


突如、家の中から大声が発された。


『だが足りない! 足ぁりないぞぉ!!』


「!?」


驚きに硬直する4人。


『お前達に足りない物、それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さぁ、そして何よりもぉおおおおおおお!!」

同時、起爆札が一つだけ爆発した。

「く!?」

後退する4人に向け、どこかの世界のアニキの名言が告げられた。

『速さが足りない!!!』

同時、ボンと煙玉が破裂する。

そして煙の中から、アヒルのおもちゃがよちよちと歩きながら出てきた。

『・・・と、いうことで既にポックン達は脱出済みダピョーン・・・ユー達がノロノロしてっから、クスス、間抜け。アホだね。馬鹿だね。トンマだね。マダオだね。

入り口に探知結界が張ってあったの気づかなかった? 御陰でゆっくりと逃げ出せました。あと手始めの爆発だけど、驚いた? 身構えちゃったりした? ねえ今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』

ねじ巻きで動いているのだろう。変な顔をしているアヒルのおもちゃが、おちょくるように左右に動き出す。

それを見た4人が、思わずといった風に呟く。

((((・・・うぜえ))))

感情を知らない筈の『根』が心底苛立っていた。拳を力一杯握りしめている。余程むかついたらしい。

硬直したまま動かない根。

その前で踊るように歩くアヒル。

だが歩き出して数秒後、急にアヒルがその動きを止めた。

・・・あるメッセージを残して。

『尚、この家は後十秒で大爆発人生劇場になるので、お近くにいる皆様は避難の準備をして下さい・・・それでは“根”の諸君。ごきげんよう、さようなら』


突如、部屋の四方から光りが沸き上がる。


「・・・っくそ、光玉か! ・・・退け!!」

小隊長が叫び、危険を察知したのか、瞬時に外へとでる。光に防がれた視界の中でも鼻と耳は効く。

火の臭い、そして起爆札が作動するような音を感じ取ったのだろう。

察知から決断。

その間、僅か3秒。手練れ故の速さである。

「・・・ここから離れろ!」

家を脱出後、即座に外にいた小隊へ告げる。それを聞いた小隊は、何故の言葉を問わずに従い、木の葉瞬身を使い家から離れる




そしてきっかり十秒後。

家の隅々にまで仕込まれている、特製の起爆札が一斉に爆発した。




「「・・・・・・・っ!!」」


根の小隊は爆風に飛ばされないよう、地面に伏せてやり過ごす。





外壁と柱を粉砕され、屋根から崩れ落ちる隠れ家。


構造物が破砕する音がする。


「・・・まだ、か・・・!」



そして倒壊しきった直後、もう一度爆発が起きた。


「・・・・・・!!」

先ほどと同程度の爆発。それは倒壊した家屋全てを砕き、打ち壊し尽くした。


「・・・・・くそ」

崩れ落ちた瓦礫を念入りに砕くため。痕跡を無くすための細工。

二段仕掛けの爆発が起きるよう、前もって細工されていたようだ。

あまりにも念入りな仕掛け。次の目的地の地図など、見られたら不味い情報は軒並み消去されたのだろう。

それを悟った小隊長が毒づく。

「どうします? 追いますか?」

小隊員が苛立たし気に、小隊長へと訪ねる。

「・・・・・これ以上深追いすると危険だ。待ち伏せされている可能性も無いとは言い切れん」

だが、隊長は撤退を選択した。

撤退する理由・・・それは、あの置きみやげのせいだった。

「・・・我々“根”も舐められたものだ」

わざわざ爆発する事を知らせてくれた。しかも時間通りに。
それは、逃げる側の自信の現れだと感じ取ったのだ。

『別に追ってきてもいいよ。返り討ちにしてやるから』、と。

「・・・撤退だ」

不用意に追跡したとして、捕まえられるとは思えない。そして待ち伏せされていた場合、それを退けて捕獲しきれるとも思えない。

そう判断した小隊長は、撤退の選択を取った。

爆発音を聞いた暗部が調査に来る。

今、ここで顔を合わすわけにもいかない、と“根”の8人はすぐにその場を去っていった。






「・・・どう?」

「・・・退いたな。気配が遠ざかっていく」

隠れ家周辺に置いておいた影分身から、情報が入る。

「成功したみたいだな。それじゃあ」

呟き、岩場から飛び降りる。

「次の我が家へと、行こうか。このまま、国境を越えよう」

「「「了解」」」


一行は立ち上がり、並び歩き出す。




「・・・どうしたんですか?」

だがメンマだけは立ち止まっていた。それを見た白が、心配そうに話しかける。

「・・・・いや」

白の問いかけに首を振り、頬を張って自分に活を入れる。

「・・・大丈夫そうですね。じゃあ、僕は先に行ってますから」

「ああ」


白が先に行くのを見て、砕け散った・・・自分が爆破した隠れ家の方に振り返り、1人呟く。


「・・・・あばよ、今まで世話になったな」

初めて持った、自分の家。それに対しての別れの言葉。

「これで、いいんだ・・・行くか」

そして皆の方へと振り向き、その場を駆け足で去っていった。



「グッバイ、我が家」

少し寂しい。その言葉は、虚空へと吸い込まれすぐに風と消えた。







そして旧メンマ邸爆発から2時間後。


調査隊が帰還した時刻へ、時は戻る。



サスケ失踪の報が届いた直後である。

自来也が慌てた様を見せながら、火影の執務室へと入ってきた。

「・・・綱手! 少し話したい事がある。今、いいかの?」

「自来也か。悪いが今忙しい・・・・?」

不機嫌な顔をして、自来也の誘いを断ろうとする綱手。

だが、自来也の顔色を見て、何かを悟ったのか、その部屋に居る忍びに向けて、退室を促す。

「悪いな。追って命令は出すから、それまでは待機。ああ、キリハは残れ」

「「「「了解」」」」

その場にいた木の葉の上忍・中忍全員がその場を立ち去る。



「・・・で? このタイミングで話があるということは、勿論うずまきナルトの事だろうな」

「うむ」

頷いた自来也に、項垂れていたキリハが顔を上げる。

「・・・おじちゃん!? 兄さんは、兄さんは無事なんですか!?」

自来也を掴み、必死に問いかけるキリハ。手には青筋が浮くほど、力が込められていた。

「・・・どういう事じゃ?」

何故お前等が知っている? と不思議そうに呟く自来也に、一連の出来事が知らされた。

「手鞠、か。成る程のう・・・こりゃ、ナルト。お前から説明せんか」

「・・・いやあ、まさか手鞠が残ってるとは思わなかったわ」

そういえば頑丈な箱にしまってたっけと声が聞こえる。同時、自来也のポケットから一枚の白札が飛び出した。

「札が、喋った・・・・あ!?」

そしてその札は音を立てながら、仮初めの姿からとある少年の姿へと戻る。

「心配かけてすいません。今噂の人物です」

「・・・兄さん!? 無事だったんですね!?」

「ああ・・・っておーっと、掴みかかってくれるなよ。これ影分身だから。衝撃与えられるとすぐに消えちゃうから」

影分身の唯一とも言える弱点だ。外側から一定以上の強い衝撃を受けると、すぐにでも消えてしまう。

「で? 話は聞かせてくれるんだろうな」

綱手が不機嫌そうな顔のまま、ナルトへと事の次第の説明を迫る。

「ええ、勿論。そのために、影分身を潜伏させていたんだし」

サスケを拉致した後ね、と呟く。

「で、何があった?」

「はい、実は---」

と、一連の事を説明し始めるナルト。

ただ、嘘を一つ混ぜた。襲ったのは、“根”ではなく暗部なのだと。

キリハが此処にいる今、ダンゾウの事を話すのはまずいと思っての事だった。

「木の葉の暗部、か」

「そう。隠れ家は放棄して、今は新天地を求めて驀進中---じゃあ、納得しないよね」

「・・・当たり前でしょ!! いいから、今何処にいるの!?」

詰め寄るキリハに、ナルトは咄嗟に答えた。

「ええと、終末の谷近辺。そこに・・・おい!?」

ナルトの言葉が終わらないうちに、キリハが執務室を出て行った。何としても本体に追いついて、面と向かって話をするようだ。

「・・・はあ。話は最後まで聞けというのに・・・それで、だ」

自来也の問いかけに、ナルトは首を傾げる。

「はい?」

「お主を襲撃したのは“根”の者か?」

「ご明察」

「はあ、ならば仕方ないかもしれんが・・・このまま出て行く気か? せっかく兄妹、長年の時を経て会えたのだというのに」

キリハはどうするという問いに、俺は首を振りながら答える。

「どうするもないですよ。どうにかできるんだったら、どうにかしてます。それができないからの選択です。分かってないとは言わせませんよ」

「・・・だが、あいつは納得せんと思うぞ」

自来也が唸る。頑固だからの、と呟きながら。

「・・・でしょうね。まあ取りあえず、直に会って話をしてみます・・・・ああそれと」

「何だ?」

「我愛羅に、伝えておいて下さい。『約束は必ず果たすから』と。それだけ伝えたら分かる筈ですから」

「ふん、それ以外は聞いてくれるな、と言うことだな? まあ、わかった。それで、だが・・・」

綱手の表情が、真剣なモノに変わる。

「・・・分かってますよ。『あの声』に関してですね?」

対するナルトも同じ。どうやら、自分だけの空耳ではなかったようだ、と表情を真剣なものに変える。

「どうもな、我愛羅に聞いてから、心中に漂う嫌な予感が消えてくれない・・・そういえば、お前の方はどうだったんだ?」

「聞こえましたよ。たった一言。それだけで、キューちゃんが恐慌状態へと陥りました・・・俺も、聞こえました。正直、心の臓を抉られたかと思いましたよ」

「・・・それほどまで、か。それで? お前はあの声の主について、何か心当たりはあるか?」

「いえ。まだ、声の主については分からないです。ただ・・・」

「ただ?」

「どういう意図であれを発したのか、と考えましてね・・・あれ、あの言葉なんだと思います? どういう意味で繰られた言葉だと思いますか」

「・・・『殺す』か。端に脅しという訳ではなさそうだが」

「脅しではないでしょうね。他意は含まれていませんでした」

そこで、一端おき、ナルトは断言した。

「そう、本当に他意は無いでしょう。ただ、殺す。その事しか考えていないような声でした。正直、初めて聞きましたよ。含むものの無い、純粋な殺意のみで構成されている声ってやつを」

思い出しただけでも震えが来る。ナルトはそう言って、小さな声で続きを話す。


「殺す、か・・・ねえ、どういう時に『殺す』という言葉を使うと思います?」



「・・・そうだな。脅しか、苛立った時とか、敵意を示す時とか・・・・後はそう」



「宣戦布告、ですか」



「・・・ああ」


告げる言葉。お前を殺すと、亡くすと、消すと。存在の否定を示す言葉。

「それか、あるいは・・・いえ、何でもないです。今のは忘れて下さい。」

言葉を発するも、即座に否定するナルト。

「しかし、だ。その場合、宣戦布告をするにも・・・誰に向けての言葉だ? 尾獣にか? もしくは人柱力に対してか?」

明確に聞こえたであろう者、もしくは存在は、今のところその2種のいずれかとなる。

「情報が少なすぎるな。それだけでは何とも言えんだろうから・・・ワシも、ガマ仙人の方を当たってみる。お主も、それ以外の情報が掴めたら、即座に連絡をくれ」

何か嫌な予感がするからの、と自来也が肩をすくめる。

「・・・了解っす。じゃあ俺はキリハを待って「ちょっと待て」」

との言葉は途中で遮られた。

「それと、だな」

「何ですか? 綱手姫」

「気持ち悪い言い方をするな。5代目火影と呼べ」

「了解、5代目火影。それで、何かあるんですか?」


「ああ、キリハの事を含め、少し頼みたい事があるのだが・・・」

そして始まる、綱手の説明。それを聞いているナルトの顔が、徐々に不機嫌なものになっていく。


「・・・正直、そういうのは趣味じゃないんですけど・・・まあ仕方ないですか。でもこれっきりですからね。ああ、それとサスケの方ですが・・・」

と即座に交換条件を出すナルトに、綱手はお人好しめと思いながらもその条件を了承した。


やがて、時間が来る。


「じゃあな、うずまきナルト・・・死ぬなよ」

「ええ、5代目火影姫も、末長く健やかに」

それを聞いた綱手が、おかしそうに笑う。

「・・・っ、医療忍者に言う言葉か」

「・・・ああ、確かに。そりゃそうですね」



火影の執務室に、2人分の笑い声が響き渡った。



「ワシは無視なのか・・・」


との自来也の呟きは黙殺されたようだった。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十七話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/16 04:05
~キリハside~


「もっと早く・・・!」

陽が落ち真っ暗になった森の中。

足をチャクラで強化し、ただ走る。兄の元へ。

ようやく会えた兄。幼い頃生き別れになった兄。

ついこの間まで、その存在すらも知らなかった兄と再会して、色々と話をして。

見守ってくれていたという事実を知った時は、涙が出る程嬉しかったっけ。


・・・私が生まれた日に死んだという、父さんとも再会できた。

厳密には違うと言ってはいたが、私に向けられるその暖かい感情と柔らかい表情は、きっと生前の父さんそのものだったに違いない。


ずっと続くと思っていた。

九尾の事があるにしろ、木の葉の忍びに戻らないにしろ、ずっと傍に居てくれると思っていた。


「・・・行かないで、欲しいのに」

焼け焦げた手鞠を思いだし呟く。何があったかは聞かされた。

木の葉暗部の襲撃。あの手鞠の惨状を見た時に、察しはついたが実際に聞かされると、もっと堪えた。

その理由も・・・分かってはいる。他ならぬ兄さんから聞かされた事なのだから。



木の葉隠れの里、忍びにとって、九尾とその人柱力と認識されている兄さんは、憎悪の対象になっていると。

『うちはマダラの意志とはいえ、九尾が里を襲ったのは事実だから』

キューちゃんは悪くないけど、憎まれるのを止める事はできない。兄さんは悲しく笑ってそう言った。

『どう思う? 例えば、さ。九尾を目前に出して、これこれこういう理由があったから、九尾は悪くないんです・・・とか聞かされて。それで、家族を失った人が納得すると思う?』

無理だ、と首を横に振った。勿論、うちはマダラにも憎しみの感情は向く。だがそれでも九尾への憎しみは消えてくれないだろうと言った。

『もう、里の者にとって、『九尾』とはそういう存在なんだ。何よりも憎むべき対象であること。それが共通認識・・・常識になっている。12年が経過した今、言葉だけでその認識が覆るなんて、さ』

有り得ないと。

『考えてみりゃあ、暴力さ。事情を話して納得しろっていうのは。それまで憎み続けた十何年かは嘘で、こっちが本当なんだと。突きつけるのは』

ため息を吐きながら。

『いい人達なんだよ、本当に、本当に・・・本当に、そうなんだけどなあ・・・ままならないよ。生きるってのは』

どうしようもないってところが、特に悲しいね。

そういいながら、兄さんは笑みを浮かべた。何かを隠すかのように。




「兄さん・・・」

暗部に襲撃を受けた兄が、どういう選択をしたのか。さっき、兄は新天地へ~と行っていた。つまり、それは。


・・・察しはついている。

木の葉に戻れない事情、それを聞いたときから薄々と感じてはいた。予感はあった。

考えないようにしていた可能性。現実に起こってしまった事。


『里の人達に憎まれている兄が、それ故に木の葉隠れから出て行く』

考えないようにしていた。十分に起こりえる事だったのに。

そう聞かされていたのに、考えて




---現実はどうあっても現実で。夢は何処までも夢だ。



そう、誰かに笑われた気がした。


突きつけられ、目が覚めた今でも。


それでも、例え、そうだとしても。


「・・・一緒に、いてほしい」


無理だと思ってはいても、そう願わずにはいられない。














「・・・悪いけど、先に行っててくれ。影分身に案内させるから」

綱手との約束を了承した後、俺は他の皆に説明をした。

俺を追ってキリハが来ると。終末の谷といえば国境付近。そのまま帰ってこないと思っているのだろう。

それを止めに来るだろうキリハと、対峙しなければならない。キリハとしては、ようやく会えた兄である俺に行って欲しくないのだろう。

でも、それはできないから。

「・・・マダオとキューちゃんはこっち。再不斬、一応影分身は付けるけど・・・万が一敵に遭遇した場合はよろしくな」

「ああ」

「・・・キリハさんが来るんですね」

「ああ・・・でも、どう話したらいいやら」

頭を抱えて唸る俺に、サスケが訪ねてくる。

「キリハに全てを話さないのか?」

「・・・話さないっていうか、話せないよ。全部包み隠さず言った場合・・・その後、キリハがどういう動きをするのか。それを考えると、ね」

それに、“根”の事とか、うちは関連に対する木の葉上層部の暗部とか。

知るにはまだ早すぎると思う。

今頃、自来也が綱手に説明しているだろう内容を、そのままキリハに聞かせる訳にはいかない。

まだ一介の下忍でしかないキリハが知るべき内容ではない。四代目の娘だとしてもだ。

火影を目指す者として、いずれは知るべき内容なのかもしれないが、それは今ではない。

「・・・でも、話して欲しいと思っている筈だ」

イタチの事を思い出したのだろう。サスケが、真剣な顔で詰め寄ってくる。

俺はため息を返しながら、一つ呟く。

「・・・裏を知るには、まだ早い。今、“根”に食ってかかられるのも不味いしな」

戦争の傷跡が癒えていないのだ。忍びの総数は減ったままなので、今“根”と対立するのは上手くない。

内乱になるともっと不味いし。それを他国に知られたら、更に面白くない事態になるだろう。

大蛇○の襲撃後、また内部抗争でごたついているとか知られたら、木の葉の威信は地に落ちる。

戦力ダウンしている木の葉の体勢を綱手が整えるまで、ダンゾウに関する問題・・・内に抱える火種は、種のままにしておきたいのだ。

ダンゾウが暗躍を続けるのであれば、それなりの対応を取る。だが、時機が悪い。

然るべき時に処置するのが最善だ。そのための逃亡でもあるのだから。

「・・・まあ、それでも。できるだけ悲しませないようにはするよ」

「ああ」

渋々、といった表情でサスケが了承する。



「それじゃあ、行くか」

俺は1人、今から終末の谷へ向かう、

さっき綱手と自来也に教えた場所は大嘘だ。

今現在、俺達がいる場所は火の国の南西部。そして、音隠れの国境付近に存在する“終末の谷”がある場所は火の国の北側だ。

ようするに、追ってを北側に意識させる為のブラフなのだ。ちなみに脱出路が延びている方向は北側である。

「よっと」

キューちゃんとマダオを戻し、少し準備運動をした後、気配を消す。

その気配を消す時の俺の様子を見ていたサスケの顔に、驚きの表情が浮かぶ。

「・・・凄いな。全然気配を感じない。“根”の気配を簡単に察知したこともそうだ。一体、どんな修練を積んだんだ?」

「それも、新しい隠れ家についてからね・・・まあ、気配察知と気配遮断は隠密行動する際の必須スキルだから」

幼少時から数えて7年。それはもう、念入りに鍛えました。基本、遭遇戦=死亡フラグだったので。

「1人だったし、余計に鍛えたよ。頼れる誰かもいないしね・・・そんで、その鍛えた結果が、ほら。波の国のあれだよ」

再不斬の方を見る。

無音暗殺術の達人は舌打ちしたあと、全く持って情けないが、と前置いて話し出した。

「不覚にも程があるが・・・俺も、後ろを取られた事がある」

不意打ちだったしね。

「波の国って事は・・・俺とキリハを気絶させたのもお前か!?」

「ご明察・・・っと、時間が無いな」

木に登り、当たりを探る。この当たりの地形は把握している。見つからないよう、ぐるりと回り込んで終末の谷へと向かうか。



「じゃあ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

白の言葉を背中に、俺は夕焼けに染まる森の中駆け出した。








夕陽が落ちて当たりが薄暗くなってきた頃。

1人の忍びが、かなりの速度で夜の森の中を駆け抜けていた。

『・・・日が落ちたね』

「ああ・・・今日は満月なんだな」

走りながら、空を見上げる。

『でも、よく引き受けたね』

「頼まれると嫌とはいえないタチなんで。あと、俺にとっても悪い話じゃないし」

逃げた方向を勘違いさせるのにも役立つしな。ちょっと面倒臭いけど、手間をかける事で安全が買えるのなら、そっちを選ぶ。

「・・・もうすぐ・・・ついたな」

『キリハの方はまだ来ていないようじゃの』

気配を探ってみるが、キリハの気配は感じられない。というか、誰の気配も感じ取れない。

「・・・少し待つか」


チャクラを足に纏わせ、水面の上を歩く。


足下の水面には、満ちた月が映っている。






それを見ながら、頭の中で状況を整理する。



キリハの方は、こう思っている筈だ。

『木の葉暗部(根)に襲撃されたであろう兄が、この里を去るという選択肢を選んだ』と


だが、実際は違う。俺の方はこう思っているのだ。

『自分の居場所が知れた場合、木の葉内部で混乱が起こる可能性がある。“根”が現存し、時機も悪い今、自分が里にいても厄介な事態しか引き起こさない

サスケの事もあるので、この里を出て行った方が良い』と。



だが、その事は言えない。言うことができない。



どうしようかと悩んでいるが、答えはでない。互いの認識がずれている今、色々と話してもそれは無駄にしかならない。

説明できないのだから。



「ままならないよなあ」

『そうだね・・・』





「来たか・・・」


月明かりの下。



「・・・来たよ」





キリハが水面歩行を使い、俺の元へと近づいていく。



満月の夜の下。



2人は静かに対峙する。



「サスケ君を連れて、この国を・・・出て行くつもりなの?」

「・・・ああ」

「どうして?」

「サスケがそれを望んだからだ。それに、サスケを木の葉に残したままだと、色々と厄介な事になるんでな」

詳しいことは説明できないが、と首を振る。

「そのことを、あの2人は了承しているの?」

「・・・ああ。事後承諾になったけど、先ほど了承させた」

「・・・そう。それなら、私が話しを挟む余地はないね。残念だけど・・・・でも、兄さんが出て行く理由は・・・やっぱり、今日の事?」

「それもある。それだけじゃないが、今は言えない」

「・・・どうしても、出て行くの?」


ああ、と頷きため息を吐く。

そして真剣な表情を浮かべ、告げる。


「ああ、どうしても、だ。俺が木の葉に残る事で、厄介な事態に陥る可能性がある」

火種は撒かれている。爆発すれば、大勢の人にとって望ましくない事態となる。

その爆発が、他国へと飛び火する可能性・・・・無いとは言い切れないのだから。


「だから出て行く。そう出て行った方がいいんだ、きっと。誰にとっても、俺のいない方が「でも!!」」




俺の言葉を途中で遮り、駆け寄ってくる。

服にしがみついてくるキリハに手を伸ばそうとするが、止めた。


しがみついて離れない少女。そのの柔らかい髪が、風に靡く。


「私は兄さんに傍にいてほしい」

あまりにも真っ直ぐな。含むものもなにもない、ただ純粋な想いが篭められた言葉。

だが、ここで俺は頷く訳にはいかないのだ。



キリハの頭を撫でながら、優しく告げる。


「大丈夫だ、キリハ。これっきりって訳じゃないから・・・いつか必ず、戻ってくるから」



「・・・いつか何て日は、いつなの? それに、兄さんは暁に狙われているんでしょ?」


1人じゃあ、危ないよとぐずるキリハ。

何とか説得しようと、言葉をかける。



「ああ。でも俺は強いから、大丈夫だ。それに俺は1人じゃないから。だからいつか・・・必ず戻ってくるから。戻ってきたら、一番先に・・・お前に、会いに行くから」


説得しようと、連ねた言葉。それを聞いたキリハが、何故だか硬直した。

『・・・君、今自分が口に出している言葉の意味・・・ちゃんと分かってる?』

(・・・え? 俺何か不味いこと言ったか)

『『・・・・はあ』』

呆れたかのように、ため息を吐く2人。


(ん?)


キリハの方はというと、顔を少し赤くしてこちらを見つめていた。


「・・・絶対に戻ってくるって・・・約束してくれる?」



「ああ」



「・・・だったら」



とキリハは少し離れ、構えを取る。



「証明してみせて。生きて必ず帰ってくるその日まで、絶対に死なないって事を・・・誰にも負けないって事を、私と戦って証明してみせて」


「いや、だけどな」

妹との真剣な殴り合いはちょっと。正直、勘弁して欲しいのだが。

だが、キリハはそう言っても退いてはくれなさそうだ。

「・・・絶対に戻ってくるんでしょ? なら、私ぐらい簡単に倒してみせてよ。安心させて欲しいから・・・それに」

「それに?」

悲しそうに笑うキリハ。

俺は言葉の続きを訪ねる。

「・・・この模擬戦で、兄さんの強さを目に焼き付けるから・・・その背中に追いつけるよう、兄さんが戻るまで私も頑張るから・・・だから!」


叫びと共に、キリハの表情が真剣なものとなる。同時、そのチャクラが膨れあがった。


「・・・分かった」



水面の上、対峙する2人。

月が雲に隠れ、辺りがより一層薄暗くなる。


「「・・・」」



そして月が再び雲から出た瞬間。



「「・・・・!」」


2人が同時に走り出す。


「はあああああぁぁ!」

交差する手前、キリハが更に加速。拳をナルトの顔面に向け突き出す。

ナルトはそれを目で捉え、いつもの通り左手で捌く。身体の外側に弾かれるキリハの拳。

「・・・・はっ!」

だがキリハはその流れに逆らわず、体を弾かれた方向へと傾ける。向かって左、捌いた手の側へと倒れていくキリハ。

自分の左手が邪魔になり、ナルトは捌きの後の返しである、右の掌打を打つ事ができなくなる。

逆にキリハの方は、身体が傾いていくという動作を利用し、ナルトの右顔面に左足で蹴りを放つ。

「!」

だがそれは掌打を打とうとしていた、ナルトの右手で防御された。

「しっ!」

直後、キリハが身体を縮め、今度は左足の前蹴りを放つ。

ナルト、今度は左腕で防御する。キリハはその蹴りの衝撃の勢いを殺さず、後方へ跳躍。

再び水面へと降り立つ。


元の距離に戻る2人。互いの顔を見て笑い、そして互いにまた走り出す。


一合、二合、三合。

月光に照らされる水面の上で、幾十もの攻防が繰り返される。


片方が攻め、片方が凌ぐ。

攻め手の動きがどんどんと鋭さを増していく中、それでも守り手は凌ぎきる。




秒を重ね、分に届き、やがてそれが10を数えた時。




「はあっ、はあっ」

息切れしたキリハが距離をあけ、両手を自分の脇元へと引き寄せる。


それを見たナルトも、ゆっくりと掌を脇元へ引き寄せる。

発動は同時だった。

「「螺旋丸!」」

同時に走り出し、やがて距離はつまり、その距離がゼロとなった。

面前で急停止し、双方の螺旋が突き出される。



眼前で、螺旋のチャクラが衝突する。


「「ああああああああぁぁ!」」


互いに打ち消しあうチャクラの塊、それが完全に相殺された。直後、ナルトが一歩踏み出す。余力を残しての一撃だったので、体勢は小揺るぎもしない。

キリハの方は、全身全霊を篭めた螺旋丸の一撃、そしてその衝突による衝撃にチャクラコントロールを乱され、体勢を崩す。

「・・・しまっ?!」

そして突き出されるナルトの掌打。それをキリハは回避するも、完全に体勢を崩され、死に体の姿勢になる。

ナルトは避けられた掌打を手元に引き戻す動作を利用し、キリハの襟元を掴み、引き寄せる。自然、抱きしめるような体勢となった。

「・・・終わりだな」

「・・・そう、みたいだね」

一瞬の硬直。キリハは全身を弛緩させ、ナルトの元へと体重を預ける。



「・・・待ってるから。絶対に、帰ってきてね」

「ああ、承知した」


次の瞬間、ナルトの手刀がキリハの首筋を捉えた。


「・・・っ」

キリハは気絶し、ナルトの方へと倒れてくる。その顔には、涙が浮かんでいた。

キリハの身体を黙って受け止め、そのまま横抱きにするナルト。


「・・・ゴメン、な」

聞こえていないだろうが、呟かざるを得なかった。

やがて、地面に降ろそうと川の上から川岸へと移動する。



そこで、気配を察知した。


キリハが来た方向、木の葉隠れの方向からこちらに接近する気配を察知。






すぐさま変化し、面を装着した。

変化した後、髪は赤・・・春原ネギの姿だ。

面は、暗部の面。木の葉ではまず見られない狐の型。



ようやく、だ。

「来たか」


「・・・キリハ、無事か!」

「キリハ!」

「波風さん!」


気配の主。それは木の葉の下忍達だった。

シカマル、いの、チョウジ。ヒナタにキバにシノ。

サクラにネジにテンテン。

キリハを含めれば、総勢10人。





「・・・てめえ!」

シカマルが俺に横抱きにされているキリハの姿を見て、怒声を叩きつけてくる。

(・・・まあ、いいタイミングなのか)

内心で呟く。





下忍達がここに来たのは、理由があった。それは、五代目火影から与えられた任務を果たすためだった。

五代目火影から託された任務


それは、『うちはサスケ奪還任務』である。



「返すぞ」

キリハをシカマルの方向へと投げる。


「・・・っ!」

シカマルがキリハの身体を慌てて受け止め、まだ息をしているのを確認した後、静かにその身体を地面に横たえる。

その身体の各部には、青痣が浮かんでいた。

「・・・やってくれたな・・・」

下忍達の怒りがヒートアップする。やがてサクラが、「キリハ、後は任せて」と言った後、歯を食いしばり一歩前に出る。


「・・・あなたね! サスケ君を攫っていった犯人は! サスケ君を返して!」


サクラが俺を指さし、その怒りの声を俺に叩きつけてくる。





---そう、俺はサスケ拉致の犯人。そういう事になっているのだ。

・・・まあ有る意味で事実なのだがそれはおいといて。

下忍達がここにいる理由、そして今この場で俺が彼らと対峙する理由は、双方共に同じ理由だった。


理由・・・それは、綱手の依頼を果たすためであった。


五代目から俺に向けての依頼の内容は、こうだ。


『奈良シカマル以下9人の下忍と真剣勝負をして・・・そして完全に打ち負かしてくれ』


確かに、才能には溢れている者達。砂との戦争もあったので、実戦に対する緊張感も満たされてきている。

だが、まだ緊張感というか、下忍になったという事実に対する逼迫感が少し足りない。

そう感じた五代目が、その緩さをある程度ひきしめるため起案した有る意味での“模擬戦”なのである。

(まあ、本人達はそれを知らされてないけど)

俺を本当の敵だと思っているのだ。そういう意味では、実戦と変わりない。

しかし、荒療治にも程があると思う。

実戦で敗北し、自分の力の無さを自覚すれば、そして生死を賭けた勝負である実戦での本当の恐怖を知れば、気が引き締まる。

慎重な思考ができるようになるし、修行にも身が入る。そう考えての事なのだが・・・

(でも趣味が悪いし、人が悪いな・・・まあ、今の木の葉の下忍達には必要な処置なのかもしらんけど・・・正直、ようやるわ)

そしてそれは、命を賭けた本気の勝負で無くては意味がないとの事だ。

加え、仲間を取り戻せなかったという無力感が、意識向上の効果をより上げてくれる筈だと言っていた。


(・・・まあ、今の状況では俺が適任だよな・・・正直、こういうのは趣味じゃないんだけど)


原作では、シカマルとネジとキバがその事実を思い知ったであろう事件・・・・対“音の4人衆”戦は起きまい。



それを考えればこれから起こる戦闘、無くても良いとは言い切れないが。

ちなみにキリハの方は、その必要無いと言われた。この行動を予想していたのだろうか、それとも大蛇○とカブトというかなり格上の相手と対峙した経験があるせいなのか。

(確かに、自来也より数段頭がキレそうだな・・・)

五代目火影に相応しい、て事か。


(でも、こういう依頼は・・・)

本来ならば受けなかった依頼である。それでも受けたのは、二つの理由があるからだ。

一つ目は、あの声。

既に原作から筋は外れた。その上でのあの声。
すでにあった不安要素に加え、あれである。しかも、完全に常軌を逸している声で、『殺す』なのである。

・・・何が起こるのか分からない今、木の葉側の力を付けるための方策は、出来るだけ講じておいた方が良い。

まあこれはおまけだ。

そして二つ目の理由。

むしろこれが本命だといってもいい。

(・・・『縄樹と同じような死に方だけはさせたくない』ってなあ)

正直反則だろ、と思う。年齢関係なく、女の悲しい顔は反則だと。

悲しそうに言う綱手の依頼・・・断れる筈もなかった。



(・・・受けたからには、役割を果たす)

そう、ここは悪役に徹しなければ依頼を受けた意味がない。


(・・・でも、悪役か。誰かの真似を・・・・そういえば、今晩は満月だったな)


それで悪役というと・・・決めた。


(あれ行くぞ)

『了解。でも力の加減間違っちゃ駄目だよ?』

分かってるよ。ほんとに殺してしまったら、本末転倒だもんな。


(まずは広い場所へと移動しよう)


まず岩場から降り立ち、森の方へと走る。


「・・・っ待て!」

追ってくる下忍一同を確認。


目的の場所へと移動する。






そして、数分後。

あたり一帯、広い平原。

その中心に立つ俺を、下忍達が包囲する。


「・・・もう逃げられんぞ、諦めろ」

ネジが正面に回り、腰を落として構えを取る。そして掌を前に・・・柔拳の構えだ。ヒナタの方も俺の背後で、同じ構えを取っている。

「綱手様の依頼・・・何がなんでも果たさせて貰うわ」

テンテンがやや離れた距離で忍具口寄せの巻物を取りだし、構える。シノも似たような距離を保ち、静かに虫を外に出している。

「めんどくせーけど、サスケは木の葉の忍び・・・俺達の仲間だ。返してもらうぜ? それとよりにもよってな・・・キリハ、を泣かせたんだ・・・ボコボコのズタズタにしなければ気がすまねえ」

シカマルがやや離れた距離から、俺を観察している。動きを見て対策を講じ、そして封殺するつもりだろう。チョウジはシカマルの傍にいる。何か作戦があるのだろうか。

というかモノホンの殺気を放ってきてますがな。愛されてるな、キリハ。

「仲間がいる場所まで、案内してもらうわ! サスケ君は返してもらう!」

側面、いのが叫び、クナイを取り出す。サクラもそれに呼応し、クナイを取り出す。



「・・・いいだろう」


気持ち、殺気を多めに。

チャクラを開放する。


「・・・・・!?」


キバと赤丸が総毛立った。一歩後退する。

俺の力量を嗅ぎ取ったようだ。顔色が急激に悪くなっていく。

「みんな、気をつけろ! こいつ、相当ヤベえぞ・・・!」

「ワンワン!」


同時、やや近くにいた近接戦闘組も、キバの言葉と自分に降りかかってくる威圧感に気圧され一歩、後ろに下がる。



(できるだけ悪役風に、できるだけ悪役風に・・・行くぞ?)


『了解』








風が止んだと同時、俺は一歩踏みだし、地面を打ち鳴らす。


震脚。




マダオが叫ぶ。



『謳え!』





マダオのオーダーに従い、俺は静かに謳い出した。







「私は、ヘルメスの鳥」






チャクラが膨れあがる。






「・・・!?」





趣味じゃないが、仕方ない。

全員、実戦に対する本当の恐怖と、己の無力を知って貰う。


この敗北が、明日への糧となる事を信じて。









「私は、自らの羽根を喰らい」








顔の眼前で、指を十字に合わせる。


いつも使っているあの術だ。




ただ、いつもとは。







「虫達が、怯え・・・!?」

シノの呟きを無視し、俺は最後の言葉を発する。







「飼い、慣らされる」










規模が違うが。










「・・・・何!?」

「分身、いや違う?!」

「これ、多重影分身の術!? でも、何て数よ・・・!」



平原を埋め尽くす程の影分身。

それを見た全員が、驚愕の表情を浮かべる。




「・・・さて」

完全に、形勢は逆転。


数で勝っていた状況から一転、数で劣る事となった下忍集団に、俺は一歩詰め寄り、問う。


「哀れな哀れな雛鳥諸君。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? ズタズタのボコボコにやられた後、命乞いをする準備はできたか?」


殺気を含ませ、意識的に低い声を放ち、脅しの言葉を叩きつける。


「・・・っ!!」


しかし下忍達は圧倒されてはいても、その場を逃げ出す者は誰1人としていない。


「は、っははは、そうこなくちゃなあ。Aランク任務だ、あれだけじゃあ無いとは思っていたよ!」


キバが獣人体術特有の構えを取る。だが、その声は震えていた。強がりなのだろう、本心では恐怖を感じている筈だ。


だが、強がりとはいえそれだけの言葉、言えるだけでも大したものだ。


・・・俺達が思っているより、下忍達は強いのかもしれない。だがまだ足りない。

圧倒的に足りていない。そして足りなければどういう事になるのか。


実地で知って貰う。


実戦では敗北=死だ。それが、戦いに生きる者の理。


それを考えれば、これは破格の状況だと言えよう。

片方が本気で、片方は模擬戦という状況、普通ならば有り得ないのだから。




(今宵の戦闘を、貴重な経験とさせるために)



できるだけ悪役を演じきる。



「では教育してやろう。本当の“闘争”というものを」


蹂躙が、始まった。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十八話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/02 01:14




「成る程成る程。なおも正面から挑もうとするとは。仲間を取り戻したいという気持ち、素晴らしいことだな? 何とも心温まる話だ・・・おかしくて涙が止まらない」


笑う。

       ・・・
「その程度で、か細い体躯で挑もうとするとはな。は、成る程・・・命に代えてもという訳だな?」



笑い、腕を上げる。



「ならば死ね。死んで果てろ。望み通りだ。文句はあるまい? ・・・風の前の塵芥に過ぎないお前達よ」




そして腕が降ろされた。宣戦を告げる言葉と共に。






「灰は灰らしく。塵は塵らしく・・・不様に吹かれて散り消えろ!」





一斉に動き出す影分身。





「くっ!」


一瞬の状況変化に、シカマルが部隊の全員に指示を出そうとするが、間に合わない。


(まずは、散らばらせる。一対一の形に持ち込む)

放射状に展開。連携を封じ込めながら、平原の外にある森の中へと追い込んでいく。






~side日向ネジ~


「くそっ!」

森の中、対峙する相手を睨み毒付く。


先程から繰り出されるのは、クナイか手裏剣という遠距離からの攻撃のみ。

鋭く、急所ばかりを狙ってくるので、気が抜けない。


「ちっ!」

それに、クナイ自体の飛来速度が速い。

基本能力が違いすぎるのだろう。


戦い初めて数分後には、悟っていた。

絶妙な遠距離攻撃に、近接する糸口が掴めない。柔拳を振るうこともできない。

完全にこちらの得意な戦闘方法を封殺されている。

「・・・」

内心で舌打ちする。父上に逆らった結果がこれか、と。

確かに、日向にはその性質上、遠距離戦に対応する戦術がいくらか練られてきたと聞く。

だが、少し前から最近までの俺は父上の教えに逆らうことばかりで、回天や点穴の修行ばかりを重点的に行ってきた。

父上と和解した後、その戦術の話を聞きはしたが、まだまだ修行は足りていなかった。

(その結果がこれか)

近づけないのでは、点穴も柔拳もくそもない・・・・!?


その直後、クナイと手裏剣が四方八方から飛来した。

「回天!」

回避できないと瞬時に判断し、回天を使う。飛来したものを弾けはした。




・・・だが。



「悲鳴を上げろ」



直後、正面に見えたのは狐の面。

回天の終わりを、待ちかまえていたのだ。



一歩、懐に踏み込んで来る。

次の回天、いや間に合わない。




「・・・豚のような!!」



屈辱の言葉が浴びせられる。


だが、その言葉に怒る暇もない。


「ガアッ!?」



・・・まるで、内臓が破裂したかのよう。


激烈な威力の掌打が俺の腹部に叩き込まれたのだ。



「・・・グッ・・・・が、あ」


俺はそのまま前のめりに倒れ込み、意識を失った。





~~~





(・・・終わったな)

連携を封じ込められた下忍達は、次々と影分身達に打ち倒されていった。

忍術は使わない、遠距離が得意な下忍達には体術、体術が得意な下忍達に対しては、クナイ・手裏剣の投擲による遠距離を保った戦闘

長所に応じて戦闘方法を変え、打ち倒していく。


(成る程? 各員、長所は確かにあるけど・・・)

秘術に血継限界。それは確かに使えるものだろう。

適した状況で使いこなせれば、この上ない武器となるだろう。

それでも、だ。


・・・・・・・・・・・ 
出す前に打ち倒されれば、意味がない。


長所を発揮する状況があるとして、だ。

それは何時訪れるのか。相手が同じく勝利を目的として戦闘に挑んでいる以上、自分に都合の良い状況など、待っているだけでは訪れないだろう。

自分で、そういう状況を作り出すしかないのだ。



当然、それまでに倒されれば意味が無い。

例えば日向ネジ、ヒナタ。

白眼は近づかなければ、その特性を発揮しずらい。

それに、防御も同じ事が言える。回天による防御は成る程素晴らしいものだが、駒のようにグルグルと回り続けられるものでもない。

直上もしくは直下からの攻撃に対しては、防御力も落ちるだろう。

ならば、遠距離で戦えばいい。そして隙を見て、回天の直後に近接して一撃を与えるか、奇襲による直上からの攻撃を加えるか。

相手の都合に合わせる必要など無いのだ。


戦闘は、戦術次第。


どんな忍者だって、長所があれば短所もある。

近接戦闘が得意ということは、遠距離戦闘に弱いということ。その逆もまた然り。

じゃあ長所が無ければいいのかと言えば、そんな事はない。

長所が無いということは、場合によっては短所にも成りうるからだ。場合によっては、一部に特化した能力が必要になる事もある。

器用貧乏という言葉もある。それも、上手くないことだ。

まあどれもこれも得意で隙の無い、真に万能な忍者というのが理想だが、理想は理想。

そんな忍者などまず存在しない。



秘術も然り。影真似、心転身、倍化の術、成る程、場合によっては決定打と成りうる秘術だが、もちろん付けいる隙がある。

忍具口寄せによる兵器術も同じだ。ようは、出させなければいい。口寄せをする前に近接されれば、そしてその後近距離で張り付かれれば出す暇もあるまい。



・・・まあ、上忍レベルが使う術は違うのだが。

それぞれが工夫されているので、付けいる隙がほぼ無くなっているのだ。

その分チャクラを喰ってしまうので、そうそう乱発できないというのが短所と言えば短所となるが。



戦術云々に関して。

まあ、某アゴヒゲメガネの鬼指揮官が言っていた、戦術の基本の通りだと言えよう。

“こちらのしたいことをして、逆に相手にはさせない”

得意な状況、適した状況、それに持ち込むには、どうしたらよいか。どういう方策をとれば良いか。何が必要となるのか。


戦術を組むに辺り、基本として“何”を知っておかなければならないのか。


忍術を扱う者、忍者として最も大切なのは、一つ。


“自分の足りない点を自覚する”ことである。


欠点を自覚すれば、どういう状況に持ち込ませなければいいか、逆にそういう状況に陥った時、どういう対処方法をすれば良いのか。

長所がない場合は、短所を持つ人間のフォローをする。器用貧乏は器用貧乏なりに、役立てる所があるのだ。短所がないという長所があるのだから。

場合によっては弱点を囮に、相手を嵌める事もできる。

連携の大事さも再確認することだろうし。


(無力感を味合わせる事もできたな)

何もできずに倒された、という結果。その後、どう立ち上がってくれるのかは木の葉隠れの指導者次第だろう。

俺はきっかけを与えるだけだし。


後は・・・まあ基本だが、基礎能力。動体視力、投擲能力他、チャクラコントロールの修行の大事さも認識する事だろう。

忍者に取って必要不可欠な能力を鍛える事だ。基礎がきちんとしていれば、それぞれの特性も発揮しやすくなる。

基礎は全てに通じるしな。

(どうも、最近の下忍はそこらへんを蔑ろにする傾向があるらしいからな。聞いた話だけど)


俺の場合、修行を始めて最初の半年は徹底的に基礎を叩き込まれた。

思い出しただけでも吐き気がする。マダオ死ねと何回呟いた事か。

『酷っ』

・・・まあ、御陰で今の俺があるわけなのだが。気配遮断に気配察知、チャクラコントロールに基礎体術。

全てがかなりのレベルに達しているので、戦術の幅も広がった。

影分身を併用すれば、大抵の事はできるようになった。逆に、基礎能力が疎かになっていれば、何をするにも中途半端になってしまっただろう。

今でも、基礎に関する修行は怠っていない。ラーメンを作っている時でもそうだ。合間を見て鍛えてはいた。



(まあ、そこらへんの事・・・まとめるのは、5代目に任せるか)

そこからは知らん。頼まれた分は果たすけど、そこからは5代目の仕事だろうし。




『得意な分野だけの知識では、生きていくのは難しい・・・人生と一緒だね! 好きな事だけ選んで、それを行って・・・それだけを考えて生きていければいいんだけどねえ』

(そうだなあ・・・まあ、そんな事は不可能だけどな)

苦笑する。そこら辺は前世と同じだ。全くもって世知辛いぜちくしょう。


(・・・っと。終わったな)


1人を除く、8人の気絶を確認。


(残る1人は無事・・・影分身4体を退けたか・・・・うん、残ったのは、やっぱり)



「・・・・」

残った下忍の中の1人・・・満身創痍だが、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。


「よく、あれだけの影分身を消し去る事ができたな。恐れ入ったよ・・・・奈良シカマル」


そう、1体4にも関わらず、すべての影分身を消し去ってみせたのだ。シカマルは。

まさか影縫いを使っての死角から攻撃を仕掛けてくるとは思わなんだ。月光を使っての影からの攻撃は、致命には至らずとも影分身を消すには十分だった。

影分身の、少しでも攻撃を受けたら消え去るという弱点を突いた、見事な戦術と言える。


「あんたもな。よく、やるよ・・・“うずまきナルト”さんよ」


その言葉に、一瞬虚を突かれる。

「へ、気づいたんだ・・・というか、知ってるんだ」

「木の葉流の多重影分身を使った時に気づいた。あれだけのチャクラ、普通有り得ないだろ・・・キリハを殺さずにこちらに渡したのも、な。

まあ気づく要因は色々とあったから別に驚くことじゃねーだろ」

名前だけはキリハに聞いていたしなと言うシカマル。

大したものだと言うと、嫌な顔をして訪ねてくる。

「この“模擬戦”、五代目も承知の上なんだろ? ・・・めんどくせーことこの上ないし、趣味が悪すぎるぜ? ・・・あんたら」

「俺も、趣味じゃないけどな。頼まれて了承したからには手を抜くわけにもいかん。この戦闘、色々と意味があるのも分かるだろう」

「・・・ああ。でもこういうのは、相手方、つまり俺に悟られたら意味が無いんじゃないのか?」

「これがネジあたりなら話は違ったがな。お前なら別にいい。今更だしな。でも、指揮官として・・・学んだ事はあるよな?」

「・・・ああ。色々と、な」

シカマルは顰めっ面をしながら答えた。

俺が敵ならば、本来の殺し合いであれば、部隊は全滅だ。

学ぶ事なんて探そうとすれば腐る程あるはず。一々口に出したりはしないけど。

「それに、キリハも死んでいた・・・っとそう睨むな」

「うるせーよ・・・で、サスケの事に関しても、五代目は承知しているんだな?」

「ああ、それはな・・・」

と話し出す俺。内容を聞く内に、シカマルの顔がみるみる青くなっていく。

「ちょっと、ちょっと待ってくれ。色々と聞きたい事があるんだけど、まず、これだけは聞かせてくれ」

青白い顔色になったシカマルが、訪ねてくる。

この情報の秘匿度は? と。俺は笑顔で告げてやった。

「特A級。五代目と自来也、里の上層部と“根”のダンゾウしか知らない」

「それを、俺に、聞かせたってことは・・・」

「ああ、俺達の事、知っているのが1人いた方が色々と動きやすいと思って。シカマルならば情報を洩らすようなヘマはしないだろうし」

「・・・聞くんじゃなかった。ああ、ちくしょう、聞くんじゃなかった・・・」

眉間を抑えて落ち込むシカマル。

「まあ、勘弁してくれ。もう中忍なんだし、な?」

「・・・あと、一つだけ聞きたい。小さい頃俺達を助けてくれたの、アンタ・・・ナルトだったんだよな?」

「うんその通り。とはいっても、修行中偶然見つけた程度のあれだし、特別感謝されてもね。そのために助けたんじゃないし」

「・・・はあ。でも、何で助けてくれたんだ? ・・・木の葉隠れの里の忍びに対する恨みとかは、無かったのか?」

言いにくそうに視線を落とし、シカマルが訪ねてくる。

うーん、木の葉に対する恨み辛みねえ。

「うーん、有るといえば有るかもしれないし、無いといえば嘘になるかもしれない。今の状況が状況だし。いまいち自分でも複雑で分かっていないんだけど」

成り行きとはいえ、その場に出くわしてしまって。そこで、年端のいかない子供が死んでいくのを見過ごす程憎んでいるわけじゃない。

「九尾とかはほっといて・・・見てしまったし、そこで見捨てたら後味も悪いし、助けたいから助けた・・・うん、そんな感じ?」

皮肉なもんだけど、力もあったし。そう言うと、シカマルは目を丸くした後、笑った。

「・・・・はっ、案外お人好しなんだな、アンタ」

「はっ、シカマルには負ける・・・えっと、それじゃあ、な。キリハとか他の下忍に対するフォロー、頼んだ」

「・・・案外人使い荒いんだな、アンタ。でも任されたよ・・・借りは必ず返す主義だしな。めんどくせーけど。それにキリハの事に関しては、アンタに頼まれなくても・・・いや、何でもない忘れてくれ」

急におし黙り、そっぽを向くシカマル。

俺は苦笑しながらあるものを懐から取り出す。

「それでこそ、だ。じゃあこれを渡しておくから」

一切れの紙を渡す。飛雷神の術の転移先を示す術式が刻まれた紙だ。

「・・・これは?」

「内緒。でも、肌身離さず持っていてくれ。万が一の時、役に立つから」


そこで俺はきびすを返す。向かうべき方向(偽装の北側の方向だが)を向き、背中越しに別れの言葉を継げる。


「じゃあなー、未来の弟君ー」


「ちょっ!?」

『おま!?』

シカマルの慌てた声を無視し、俺は構わず走り去っていった。


『無自覚ってねえ・・・もう何ていったらいいか・・・うーん、どうしてくれよう・・・でもねえ』

『間違いなく無駄骨じゃと思うぞ。自重すればコヤツでは無いような気がするしの』

(ん、2人ともなんか言ったか? うんうん唸ってるし、何事?)

『・・・・いや、もういいよ・・・なんか疲れたし』

『疲れたの・・・』

(へえ、珍しいな。誰のせい?)

『いや、君のせいなんだけどね・・・』

『そうじゃな・・・』

珍しく意見の合う2人。


(何だよ、聞かせろよ)


『だからいいって。多分言っても無駄だし・・・それより、そろそろ方向転換したら?』

「そうだな」

森の中、針路を偽装の北側から、隠れ家のある南西側へと変更する。

目指すは皆が待つ隠れ家だ。

『・・・でも、変わったね。君も』

(うん、急になんだ?)

『いや、昔・・・木の葉に来る前の事を思い出していてね。結構、何もかも割り切って行動していたし、誰かとずっと行動を共にするとか考えもしなかったでしょ?』

『・・・そういえば、そうじゃな』

(え、そうかあ? ・・・いや、そうなのかもな。あんまり・・・特別変わったって自覚は無いけど)

『明確に変わったのは、あの時からかな? テウチさんを師事した時もそうだけど・・・ももっちと白ちゃん連れてきて、僕たちを口寄せした辺りから』

(まあ、そうかもなあ)

『他人に触れた時から? 僕たちの事もそうだけど、心の中と外とでは・・・また違った?』

(それは確かに有るな)

外部で触れあう事で、何かが変わった気がする。明確に存在を認識できるというか・・・うん、何か温もりを感じるし。

『それに、木の葉隠れの里を意識して考えるようになったけど・・・それも?』

(ああ、それに関してはちょっと違うかも。多分だけど、お前の思念というか魂的な何かが少し混じってるからそのせいじゃないか? お前も、実際に木の葉隠れの里とその人達をその目で見たろ?)

『・・・そうだね・・・うん、そうかもね・・・・でも、君はそれで良いの?』

何を心配しているのかは分かる。でも、それはある程度は予想していた事だし。根本から変わった訳じゃないし。

(それにまあ、今のところはな。力にはリスクが付きものだし、精神の浸食という観点で見れば、他の人柱力と大差ない・・・でも、悪くない浸食なのかもしれないし)

特に、キリハに対しては前より明確に妹としての意識を持つようになった。

さっき言った、マダオとキューちゃんの口寄せが成功してからは特に、かな。

明確な意識を持つようになってから、その存在を認識してから、浸食が進んだと思うが・・・

『前より積極的に戦う事を選ぶようになったのもか?』

(そうだね、キューちゃん。キューちゃんに関しても同じ事が言えるのかもしれない)

木の葉に来てからは特に・・・チャクラ消費量が段違いだしなあ。

(まあ、いいよ。“我思う故に我あり”だ。陳腐だが、それしか言えない。実際、俺自身が変わっていったのかもしれんしな)

人と接するということはそういう事なのかもしれない。変わっていくのも、当たり前なのかもしれない。

自分で違和感を感じないのは、そういう想いを元々持っていたのかもしれないし。

この肉体に刻まれた意志なのかもしれないし。そこまで細かい事は分からんけど。


(はっきりとは分からないけど・・・まあ、俺の夢は無くなっていないし、胸に確かに残ってる。何より優先すべき事としてね。

それに助けたい人を助けるというか、したいことをするという意識も別段特別変わったという訳でもないし)


割り切って夢を叶えるという目的に全部つぎ込んで。

それに徹しきれば、木の葉側に追われるとかのリスクも無く、今のような事態にはなっていなかったのかもしれないけど。


(しょうがないじゃん。色々な意味で・・・出逢っちゃったんだから)

出逢うたびに選び続けた。そのどれもを、今は後悔していない。


『まあ、そこで見捨てるっていうのも、君に関しては・・・うん、無いねえ。そういえば昔、言ってたね“人は損得と理屈だけで動くわけじゃない”って』

『“器用は綺麗だけどつまらない”とも言っていたな』

(ぐおおおおぉぉお! 頼むからむしかえすのは止めて!)

思わず頭を抱えてしまう。

改めて聞かされるとなんかすげえこっぱずかしくなるよこれ!


『はは、他にもたくさんあったねえ』

『そうじゃな、次は・・・』

(もう話さないで! 私の羞恥心ポイントはとっくにゼロよ!)

慣れていない悪役の演技とかしたし!

『HA☆NA☆SE!』

『HA☆NA☆SE!』

でも話せコールを続ける二人。

・・・・キューちゃんまで!

「聞けよこの無視野郎共!」





そんな、いつものやりとり。


心の中だが、相変わらずの笑い声が木霊していた。










・・・そう、騒ぎながらも。


3人共分かっていた。



いずれ、別れの日は来るのだと。選ぶ時はやってくるのだと。



でも、今は笑おうと。それが一番良いということも、分かっていた。



胸中に秘する互いの思い、全てが共通している訳ではないし、互いに把握している訳でもない。



だけど、3人は笑っていた。













そしてこの時、ナルトでメンマな1人の少年な男は、心の中で一つの選択肢を選んでいた。





人と接して、変え変わり。それが世の常、人の常。

平穏と同じく、いつまでも同じとは限らない。

心の中もラーメンの味も。まだまだ完成したという訳じゃない。

まだまだ未熟で、まだまだ過渡期で。分からない事は山ほどある。知らない事も山ほどある。

この選択、正しいのか、間違っているのか。


それは、終わってみないと分からないだろうけど。振り返ってみて、後悔するのかもしれないけど、もっと楽な道があるのかもしれないけど。

それでも、譲れないものがあると知ったから。


数え切れない程の戦場を共にした、親友で戦友で悪友で相方で師匠的兄的存在のマダオ。その本当の願いを知っているから、その願いを否定せずに。

数え切れない程の喜び。そして怒り、哀しみ楽しさを共にした、親友で戦友で悪友で相棒で妹的女友達的存在のキューちゃん。ようやく掴めた自分の意識持つ在り方、その在り様を誰にも汚させないように。

そして2人に誇れる自分で在れるように。



時の流れの中生まれた、血よりも濃い絆。


日々の思い出が胸に残り、自分の今を形取っているから。


思いつく限りでいい、3人にとっての最善を目指そうと思った。




選んだのだ。皆が望む結末を目指して。

この先の荒野を駆け抜けようと。

傷つき、苦しくとも、冗談を飛ばしながら行こうと誓った。




ただ、走り抜ける事を。





















――――はるか未来。



この時、この選択肢を選らんだ事を改めて思い出す事になる。


ここで拒絶すれば。

自らの変化を恐れ、かごに籠もり、隠暁の影に怯えながらも、平穏を望み隠れ暮らすような日々を望み選んでいれば。

あるいは違った結末になったのかもしれないと。







でも、こうも思うのだ。

どちらが良くて、どちらが悪かったのかは分からないが、こう思うのだ。







――――この選択を選んだ時から。



あの激動かつ極彩色な日々の全てが、本格的に始まっていったのだと。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の1:その後、それぞれの一日
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/17 01:51
閑話の1:その後、それぞれの一日
   
  ~A day in the Life~




●音隠れの里



玉座に座る大蛇丸。その全身は包帯で覆われていた。

カブトからの報告を聞いた大蛇丸が、眉をしかめる。

「・・・うちはサスケが、何者かに攫われたのね?」

「はい」

「そう・・・まあ、写輪眼は残念だったけど、今はこの君麻呂の血継限界があるしね。とりあえずだけど、今回はこれで良しとしておきましょうか・・・でも、諦めたわけじゃないわ。

うちはサスケその後の消息は聞いているの?」

「スパイからの報告では、木の葉の北側、終末の谷近辺で消息を絶ったと」

「・・・近いわね。無駄かもしれないけど、探索は続けなさい」

「了解しました・・・で、大蛇丸様、君麻呂の身体にはもう馴染まれたのですか?」

不屍転生の術である。

腕が使えなくなった前の身体を捨て、君麻呂の身体に移ったのだ。

「いいえ、まだよ・・・もう少し時間がかかるようね」

「そうですか・・・ああ、それと、抜け忍の多由也の事ですが」

「ひとまず放っておきなさい。あの九尾のガキと一緒にいるんでしょ? ・・・迂闊に手を出した所で、どうにかなる相手じゃないわ。木の葉には渡っていないようだし、機が来れば殺しなさい」

「・・・はい、了解しました」

「用はそれだけ、カブト?」

「あ、いえ。その、大蛇丸様宛へと、手紙があるのですが・・・」

「手紙? 誰から・・・いえ、どこから届いたの?」

「うずまきナルトに気絶させられた時にですね・・・その、次郎坊の服の腰元に挟まっていたようで」

「そう・・・で、中身は見たの?」

「それが白紙で・・・3枚綴りなのですが、どれも何も書いていませんでした」



「いいわ、取りあえず貸してみなさい・・・あら、文字が浮かんできたわね」


私のチャクラに反応したのかしらと呟きながら、一枚目を読み出す。





「・・・ええ、と? 『これだけは言っておきたかったんだけど』」





ぺらりと二枚目をめくる。





「『オカマで忍者って』」






オカマの下りを見た後、怒りに手を振るわせながら、3枚目をめくる。







「『どんだけ~』」






大蛇丸の空しい声が、玉座の間に響き渡った。




「「・・・・」」





場が沈黙する。






「・・・・って何よこれは!」



興奮した大蛇丸が、紙を破り捨てる。



「ってああ、怒ったせいで目眩が。うう、魂が抜けそう・・・」

「ええ、大蛇丸様!? 誰か、ええと・・・い、医療忍者ァ~~~!」

「いや医療忍者はアンタでしょ! ってああ、怒鳴ったらまた目眩が・・」

数分後。何とか容態を持ち直した大蛇○は、天井を見上げながら呟く。


「・・・ここまで私を虚仮にしてくれるなんてね・・・」


うずまきナルトいつか絶対殺す、と誓う大蛇○であった。


●木の葉隠れの里


「以上で、報告は全てです」

「そうか・・・奈良シカマル」

「へい」

「・・・そう怖い顔をするな」

「まあ、ね。まあ先の戦闘の事・・・理屈は分かるんですが、納得は出来ないっつーか」

「それでも、貴重な体験はできただろう? 前の大戦ではそんな事をしている暇も無かったからな。下忍だから、などと言い訳にもならん状況だったのは聞いているだろう」

「・・・親父達から、話を聞いてはいますが・・・」

「ふん、無理に納得しろとは言わんぞ。文句があるなら言ってくれてもいい。別に咎め立てたりはせん」

「・・・いえ、いいです。ようするに、何であれ・・・勝てば良かったんですから。負けた俺達が何を言っても・・・情けなくなるだけです。そういう事ですよね?」

あの一戦で、同期の面々の忍者としての意識が変わるのも確かだし、視野が広がるのもそうだ。強くなるんだから、特別悪いこと何て無い。

そう思っていたシカマルは、しっかりと割り切って答えた。

「・・・ふん、思考も中忍らしくなってきたな。それに、木の葉崩しの後、上がってきた報告書で見たのだが・・・慣れないチーム編成で音の中忍を相手取って、勝利を収めたそうだな?」

「あのときは・・・相手がこっちを舐めきっていたってのもありますよ。それに、運の要素が強かったですから、アレは」

二度とやりたくない、と肩をすくめるシカマル。だが、綱手はそれでも大したものだと返す。

「それでも勝てる道筋・・・あの絵図を短時間で思いつき、描ききったというのも事実だろう。無理な作戦ではなかったし、十分現実的で堅実な策だったと思うぞ」

綱手の褒め言葉に、シカマルは頭をかきながら、嫌そうに答える。

「・・・止めて下さいよ。褒めないで下さい。俺はそんなに大した奴じゃないですよ・・・それに、今回は不様に負けちまったんだから」

「なら次の場で勝てるようになればいい・・・奈良シカマル、そんなお前に任務を与える」

「・・・何でしょう」

「先の戦闘に参加した下忍達、その敗因を聞きながら、全部説明してやれ。全員だ。仲間の欠点を知っておくのも重要な事だしな」

一緒の任務に当たってもらう事が、これからも多くなっていくだろうしな、と呟く綱手。

「・・・了解。何かキリハの奴がやる気になってるんで、それに関しては心配ないと思いますけど。あいつに引っ張られて、同期の連中も色々と動き出すでしょうし」

落ち込む暇も無いでしょう、と肩をすくめる。

「引っ張るのは俺の役目じゃないです。柄じゃないし、適任でもないですから」

シカマルが頭をかきながら、答える。

「何でか、あいつに『頑張ろう』とか言われると、何かそういう気分が沸き上がってくるんですよ。不思議と。士気に関しては問題無いでしょうから、後は時間の問題ですね」

そういう気分にさせる。これも、力なのだろうか。

(そういえば、兄貴の方もそんな感じがするな)

不思議と、聞いてしまうような。疑いを持つ気持ちが薄れていくような。

「・・・そうだな。そうかもな。だが、纏め役は任せるぞ。勢いだけじゃ駄目だからな」

「了解です・・・あと、春野サクラと山中いのについてですが」

「ああ、それについては聞いている。医療忍術を学びたいと言っていた件に関してだな?」

そう、前の戦闘で場を決定できるような、自分だけの武器が足りないと気づいた2人は、あの戦闘の翌日、医療忍術を学びたいと綱手に申し出ていたのだ。

元々、くの一の方が微細なチャクラコントロールは得意だ。統計をとっても、その傾向は顕著に出ている。

前々から、2人で話には出ていた。自来也との修行でも、その事は聞いていた。

そこに、医療忍術のスペシャリストである綱手姫が五代目火影に就任したのだ。

「自来也からも話には聞いていたしな・・・分かった。そちらは私の方で面倒を見よう」

「お願いします」

「ああ。で、だ」


と退室しようとするシカマルを綱手が引き留める。




「あともう一つ、聞いておかなくてはならん事がある」



机の前で腕を組み、綱手が眼光鋭くシカマルを睨み付ける。



「・・・何ですか?」



気圧されながらも、何とか返事をするシカマル。



やがて、綱手の方がゆっくりと口を開いた。




「波風キリハとは・・・どこまでいったんだ?」



それを聞いた途端、シカマルは頭から転げ落ちた。



「な、な、な」

「いや、自来也がしつこく聞いてくるんでな。人の執務室で愚痴るし。うざいことこの上ない。お前とキリハ、山中いのと秋道チョウジは幼なじみだと聞いていたが・・・そこら辺はどうなんだ?」

「いや、俺とキリハは何でも無いですよ!」

「ほう・・・ということはAまでは行ったんだな? やるな」

自来也に報告だと呟く綱手に、シカマルは慌てたように答えた。

「何も無いって言ってるじゃないですか! まだ手を繋いだだけで・・・!」


言葉の途中、しまったとばかりに口を紡ぐシカマル。その顔が赤くなる。


綱手はいいことを聞いたとばかりにニヤリと笑みを浮かべ、更に問いつめる。


「ほう、やはりな。そこまでしか行っとらんか・・・まあキリハの奴は何処か鈍い所があるし、仕方ないのかもしれんが・・・」


うんうん、青春だなと呟く綱手にシカマルは「このババア」と思ったが口には出さなかった。本能で危機を察知したが故の英断である。

幼なじみのいのと、母ヨシノ相手に磨いた、女の逆鱗。そのラインに関しての勘は、今日も冴えわたっていた。

本人に聞けば、そんなの欲しくなかったと涙を流しそうだが。

「で、今もアタックはしているのか? ・・・まあアタックしても、全部さらっと流されていそうな雰囲気だが・・・」

「・・・そうなんですよ、聞いて下さいよ、ちょっと」


と、隣にシズネがいるにもかかわらず、色々と愚痴り出すシカマル。




小一時間愚痴った後、其処には同盟が生まれていた。


「分かります分かります!私も、ミナト兄さんにアタックしても、さらりと流されて・・・」


シズネの幼少の頃の四代目火影との出来事が、色々と話される。自来也の弟子ミナトと、綱手の弟子兼付き人であったシズネ。


四代目が生きている頃は、少しだが親交があったらしい。


そこで起きた涙なしには語れない事件の数々が、次々と場にぶちまけられる。






そして話が終わった後。

「シズネさん!」

「シカマル君!」

がっちりと交わされる握手。


「・・・・え、何だこの状況? 私が収集つけるのか?」


その横で、どうしてこうなったと呟きながら、綱手が汗を一滴流す。



自業自得であった。






●砂隠れの里


「・・・はあ」

風影の葬儀が終わった後。

その風影の長女である、テマリは物憂げに窓の外を見ながら、ため息を吐いていた。

元気が無さそうだ。


「・・・・」

風影の次男、尾獣が一尾、守鶴の人柱力である我愛羅も同じく黙り込んでいる。

こちらも元気が無さそうだ。



(・・・いったい何があったじゃん?)

元気のない姉と弟の姿を見て、長男・カンクロウが慌てる。

木の葉崩しの後、2人と話し合って何とか和解したものの、未だに信頼関係は厚いとは言えない。

そんな2人が、間近で背景に黒いものを背負われて落ち込んでいるのを見ると

(何とも落ち着かないじゃん)


そんな時、2人がほぼ同時にある言葉を呟いた。


「ラーメン・・・」

「メンマ・・・・」

直後、2人は顔を見合わせて、その後また落ち込んだ様子に戻る。



(!?!?!?)

一方、カンクロウは訳が分からないという表情になる。


(ラーメンって・・・砂隠れではまず見かけない食べ物じゃん・・・・なんかますます分からなくなったじゃん)

訳が分からないと、ため息を吐く。

そこで時計を見て呟いた。

(・・・時間じゃん)


あと数十分後、昨日里から依頼された任務が始まるのだ。

任務の内容は簡単だ。アカデミーで下忍候補である訓練生を相手に、兵器術、忍具を使った戦闘に関する講師、教官を務める事。


「そろそろアカデミーに向かう時間じゃん、2人とも・・・」


とカンクロウが2人に話しかける。


「ああ・・・」

「分かった・・・」


だが、2人とも元気が無い返事を返す。それを見たカンクロウが怒った風に言う。


「いいかげんにするじゃん! そもそもラーメンって何じゃん! そんな熱くて不味い物なんかほおっておいて、教官の、し、ごと、を・・・」

最後までは言えなかった。



「ラーメン・・・」

「なんか?」



前者の呼び声は我愛羅。俯いたまま、肩を振るわせている。あ、ひょうたんの蓋取れた。

後者の呼び声はテマリ。こちらに笑顔を向けたまま、ゆっくりと背中の鉄扇に手をかける。


(ふ、2人に一体何が!? というかこの殺気、洒落にならないじゃん! 何でここまで怒ってるじゃん!?)


急に訪れた修羅場に狼狽えるカンクロウ。

だが2人は殺気をおさめ、武器を収めた後、カンクロウの襟元を一緒に掴んで引きずりだした。


「そうだな・・・アカデミーの訓練生に手本を見せてやるか」

今日の授業は血の雨が降るな・・・と呟く我愛羅。アレ、試すか、って何を? え、最硬絶対攻撃・守鶴の矛? 何それ、怖い。


「そうだな・・・忍具の威力を知って貰うためにも、的になるのはできるだけ本物がいいよな」

知識には代償がつきものだよなあと笑っているテマリ。見えないが、目は笑っていないのだろう。そういうチャクラを発している。

等価交換、等価交換と呟いているが、何と何を交換するのだろうか。怖くて聞けなかった。




「ちょ、ちょっと待つじゃん!」

「「待たない」」

ハモる姉と弟。


(い、いつの間にそんな仲良くなったじゃん!? ていうか、このままじゃガチで殺されるじゃん!)




・・・その後アカデミーの訓練場で、3姉弟による大乱闘スマッシュブラザース的な激闘が開催されたらしい。


未来永劫語られない、砂隠れの里の恥部であったので、事実に関しては定かではないが、取りあえず風と砂が訓練場を蹂躙したらしい。


目撃者によると、人形が空を舞っていたとか何とか。



またそれを見た砂の忍び達の証言に、「我愛羅様って変わったよな・・・」という呟きがあったが、それも語られていない。



らしい。








●麺隠れ邸


~多由也side~


「らあっ!」

「甘いし遅い! 寝てんのか!」

隠れ家の外。窓から、2人の声が聞こえてくる。

毎度のごとく、うちはサスケが体術の修行をしているのだろう。とにかく攻め続けるうちはサスケと、それらを全部捌ききるナルトさん。

(・・・いや、ナルトか)

頼むからさん付けは止めてくれと言われたばかりだ。何か変な感じだから、と。


「あれ、多由也さん、仕込みは終わったんですか?」

「ああ。全部終わったよ、白」

返事をすると、早いですねと白が微笑んだ。

「それにしても昼から動きっぱなしなんだけど・・・大丈夫なんかな、あの2人」

「まあ大丈夫でしょう。サスケ君の方は知らないですが、ナルトさんの方はこの程度でバテる程、柔らかい鍛え方していないでしょうから」

「・・・それもそうか」

何せ大蛇丸様・・・いや大蛇丸に勝る迄はいかないが、それでも真っ向から打ち合える程だ。

基礎能力だけでも相当な域に達しているのだろう。

「そういえば多由也さん、例の呪印に施した封印ですが、どんな感じですか?」

「・・・ああ。封印を施してもらう前から発動は出来なくなっていたから・・・再び発動する心配は無いよ。封邪法印も、保険みたいなもんだったしな」

「そうですね。でもマダオさんが『凄い』って言ってましたよ。念入りに仕込まれた洗脳と呪印による人格変化。その両方を気力で振り切ったっていうのは」

「・・・それも、切っ掛けがあってこそだ。情けないが、自力だけでは不可能だっただろうから」

あの言葉を聞かなければ。

今でもウチは、音隠れの里で忍者を続けていたに違いない。ひょっとしてナルトと戦う事になって、結果誰かに殺されていたのかもしれない。

「それでも、ボクは凄いと思いますよ? 切っ掛けは何であれ、断ち切っれたのは自分の意志の強さによるものでしょう?」

「・・・よしてくれ、何かそんな直球の言葉・・・恥ずかしいから」

聞いているこっちの方が照れる。

「はは、すみません・・・あ、終わったようですね」

白が窓の外を見ながら言う。

「そうだな・・・あーあー、うちはサスケの奴、ぐったりして動かないぞ」

「限界ぎりぎりって所ですね。まあ数分もしたら立ち上がるでしょう・・・・それじゃあ、夕食の用意を始めますか」

「ああ」

白と2人で、下ごしらえが済んだ食材の調理に入っていく。

そこに、入り口の方から声が聞こえた。

「ただいまーっと、お・・・今日は肉か!」

「ええ。出来上がるまでもう少し時間がかかりますから、先にお風呂の方、済ませておいて下さい」

「了解。って事だけど・・・サスケー聞こえたかー」

ナルトが外でへばっているうちはサスケの方へと声をかける。

声を返す気力も無いのか、あいつは寝転がりながら手だけ挙げて答えた。

「うっし。でも多由也って料理上手いんだな」

意外だ、という顔をするナルト。

(まあそう思うだろうな)

覚えたくて覚えた訳じゃないけど、ウチは料理が得意だ。

元4人衆・・・とはいっても、次郎坊、左近・右近、鬼童丸の事だが。

忍者に成り立ての頃、まだ一緒に訓練をしていた頃は、ウチが料理担当だったのだから。

(あいつら、クソみたいに料理が下手くそだったからな)

どうせなら上手い物を食べたいということで、多少なりとも母に仕込まれていたウチが料理を担当していたのだ。

(・・・そうだな。何時からだったか)

思い出す事も無かったな。今となって振り返ってみれば・・・あいつらも、変わった、いや。

(変わり果てたといった所か)

呪印を刻まれる前と後を思いだし呟く。

(何もかもが変わっていったな・・・)

昔はもう少しまともだったと思う。少なくとも、血に飢えた猟犬のような言動も、嫌っていた筈だ。

ウチら全員、戦災孤児だったのだから。

(思い出しても、な)

どうにもならない。どうにもできなかった。

「多由也さん?」

「あ、すまん」

白の心配そうな声に返事を返し、ウチは夕食の支度を再開した。



「・・・ただいま」

「おかえりなさい、もう出来てますよ」

「ああ」

うちはサスケ・・・ああもう面倒臭い、サスケは席に着くなり、ものすごい勢いで晩飯・・・豚肉のしょうが焼きとみそ汁、野菜サラダを食べ始めた。

「・・・旨い」

まともに話す気力も無いのか、感想も単語だけだ。だが、旨い、美味しいとは言ってくれる。

(そういえば、ウチが料理できると知った時、滅茶苦茶意外そうな顔をしてたな、こいつ)

思わず殴りかかってしまった。訓練後疲れていたこいつは、ウチの拳を避けきれずに殴り飛ばされていた。

その後怒ってはいたが、ウチが作った飯を食った後何ともいえない驚いた表情を浮かべこっちを見ていたっけ。

(あの表情は笑えたな・・・あと、そうだ、アレもあったっけ)

この隠れ家に来て、初めて訓練をした日。ボロボロになりながらも、この家に帰ってきた時だ。

(白とナルトのおかえりって言葉になあ)

今思い出しても笑ってしまう。きょとんとした表情を浮かべた後、顔を赤くして「た、ただいま」とか返して、ナルトに爆笑されていたっけ。

でも互いに、ちょっと嬉しそうで。

(そうだよなあ)

実際、ウチも初めてそう言われた時はびっくりした。



おかえりなんて。ただいま、とか。

そんなの、言う相手なんかいなかったから。

迎えてくれるのは、暗い部屋。帰った部屋はいつも暗くて、明かりも点いていなくて・・・

(・・・よそうか)

考えると、どんどん暗くなっていく。よそう、今考えるのは。

その時、また入り口の方から声が聞こえた。

「帰ったぞ」

「あ、再不斬さん! おかえりなさい」

白がもの凄い綺麗な顔で、再不斬を出迎える。再不斬の方は、何かぶっきらぼうな応答を返しているが、あれは照れているのだろう。傍から見たら分かる。ばればれだ。

(ウチでも聞いたことがある、あの霧隠れの鬼人とも呼ばれている再不斬もな・・・)

白の笑顔の前では形無しである。まあウチでも見惚れる時があるもんな。


「多由也ちゃん?」

「・・・えっと、マダオさん。前から言ってるけどちゃん付けはちょっと」

「ああ、ゴメン。えっと多由也さん?」

「多由也でいいです」

「じゃあ、多由也。練習始めるよ」

「はい」

そういえば、マダオってどういう意味なんだろう?

ナルトは『まあ名前みたいなもの』って言っていたけど。





結界が張られている室内。

ウチは笛を取りだし、指にチャクラを篭める。

そして、曲を奏で始める。

室内に、音が響き渡る。

「・・・そう・・・・いや、そこはもうちょっと・・・・そう、いい感じかも」

「・・・こう、ですか?」

「そうそう、そんな感じ」

手探りしながらも、練習は続く。


ウチが何を練習しているのか。

それは、ウチが音忍になると決めた時、心に描いていた理想の忍びの形に関係している。


(この形見の笛の音で、人を癒す。そういう術を使えるようになる)

最近思い出した事。あの日までは、忘れていた事。

ウチは、そういう決意を抱いていた筈だ。

そして、大蛇丸の元でチャクラなど、必要な技術を鍛え続けていた。

(・・・いつからだったのか)

呪印が刻まれた頃かもしれない。

少しずつ、ずれていった。

確かに描いていたのに・・・例えそれが子供の戯れ言でしかなかったにしろ。

夢は砕かれ、音は赤く染まり、血へと落ちた。

(大蛇丸・・・『様』には、どうでもいいことだったのかもしれないけど)

皮肉を篭めて、揶揄する。

結局は駒だったのだ。それ意外の価値など、ウチの意志など求めていなかった。

使いやすい駒を作るため。ウチの想いを踏みにじった。

(それでも、ウチには大切な事だったんだ。何に代えても守るべき大切なものだった)

でも、いつの間にかすり替えられて。それでああいう風に落ちていった。思い出したくないけど、忘れられないだろう。

(・・・思えば、今こんな生活ができてる事自体が夢のようだ)

自分1人では、到底掴めなかっただろう。全て、ここにいる全員の御陰だと思う。


そう言った時、ナルトは笑って否定した。


・・・切っ掛けは多由也が掴んだのだと。

・・・クソみたいな世界の中、それでも足掻こうと手を伸ばす事を選んだのは多由也なのだと。

・・・俺はその手を掴んだに過ぎないと。


(その手を掴んでくれる人が、どれだけいるか)

リスクが大きすぎるのに。まあ仕方ないと言いながらも、手を差し伸べてくれた人。


(そのためにも、そしてウチの夢のためにも)

絶対に完成させる。ウチだけの術を。



~うちはサスケside~


「・・・くそ」

食後、疲れ切った身体を引きづり、何とか自分の部屋まで戻る。


「・・・ふう」

そして、着くなり布団へと倒れ込んだ。

日中、外に干していたのか陽の匂いがした。


「・・・何か、変な感じだな」

ずっと1人で暮らして・・・まあお手伝いさんとかいたけど、基本は一人きりで暮らしていた。

「おかえり、か」

笑ってしまう。そう言われただけで、涙が出そうになったなんて。

「あいつ、馬鹿みたいに笑いやがって」

(それも、嬉しそうに・・・痛え)

筋肉痛が全身を襲う。ここに来てからずっと、容赦無い体術訓練。時には水面の上で、時には樹上で。

“チャクラコントロールを鍛えると同時、体術に関しても鍛える”らしい。

実戦訓練みたいなものだ。俺は殺す気でやっているのだから。まあそれでも、掠りもしないのだが。

「・・・くそ、体力馬鹿め」

あいつは、今日も食後にラーメンの研究をしていると聞いた。何か、インスピレーションが煌めいたとか何とか。

「・・・まさか、あの屋台の親父だったなんてなあ」

告げられた時、俺はどういう表情を浮かべていたのだろう。あの『してやったり』な笑顔を思い出す。

(なんか、ムカツク)

看板を持って走り回っていたし。何だドッキリって。マイクを向けられて『今のお気持ちは?』とか聞くし。何かむかついたので、即座に殴りかかっていったのは仕方ないと言える・・・筈。

・・・まあ勿論、ひらりとかわされたのだが。

「・・・くっ」

仰向けになり、天井を見上げる。

(あー、眠い。今日も疲れた・・・・・ん?)

扉の向こうから、僅かだが笛の音が聞こえてくる。

(・・・綺麗な音色だな)

夢うつつに、その笛の音を聞く。

外の鈴虫の鳴き声と合わさって、耳そして頭へと入ってくる。

何ともいえない感情が浮かぶ。



(・・・明日も、頑張るか)


まだ走り始めたばかり。

先はまだまだ遠くても・・・それでも、ここならば、何かを諦める事なく頑張れる。


窓から流れてくる風が、頬をなでる。


その風が運ぶ、鈴虫の鳴き声と綺麗な笛の音に誘われて。


俺は目をつぶり夢の中へと旅だった。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の2:そして、そんな日々
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/18 23:35
閑話の2 




~そして、そんな日々





●キューちゃんの本名


「あれキューちゃん、畑の見回り終わったの?」

「ああ。そこらの鳥に言い聞かせておいたから、もう畑の方は襲われんじゃろ。あと野犬共が畑を狙っとるのか、周りを彷徨いておった」

「そうなんだ。で、一睨みすると?」

キューちゃんは口の端を上げ、答える。

「一目散に逃げ追ったわ。野犬共も、もう近寄ってくる事もないじゃろ」

「ありがとう。で、キューちゃん、身体の方はもう大丈夫なの?」

ナルトが心配そうに訪ねると、天狐のキューちゃん・・・本名を“九那実”というらしい。

が、大丈夫じゃと微笑みながら答える。

「まさか名を思い出しただけで、ああなるとは思わなかったがの」

木の葉を抜け、皆が待つ隠れ家に到着して間もなくの事だった。急に、キューちゃんが顕現したかと思うと、卒倒したように倒れたのだ。

「力が戻ってきた反動だって言ってたけど・・・」

その後、数日の間は高熱が収まらなかった。数日後、ようやく熱が収まったが、原因は何だったのか。未だはっきりとは分かっていない。

「まあ、恐らくはお主の決心による無意識かによる心、魂の変化と、ワシ・・・いや私に起こった変化が原因だろう」

「俺の方は分かるけど・・・キューちゃんの方は?」

「・・・さあの。名前を思い出した、いや思い出せた瞬間にアレじゃったし、はっきりとは分からんが」

「あの声と関連があるのかな」

「そうじゃろうな。何、ある程度は独立して動けるように成ったし、姿も・・・ほれこの通り」

言葉と同時、キューちゃんは今までの7、8歳ぐらいの姿から、13,4歳ぐらいの姿へと変化する。

「この程度の姿になら、数時間は元に戻れるようになったしの。便利といえば便利になったと言える」

あの姿では、小さすぎて何をするにも大変じゃったしの、と笑う。

ちなみに大人の姿・・・・人間で言えば22,3歳ぐらいの姿には、まだ戻れないらしい。戻れたとしても、数秒でまた元に戻ってしまうとか。

「白と再不斬が模擬戦相手に困っておったようだしの。ちょうど良いと言える」

「そうだねえ・・・俺としてはあまりそういう危ない事はしてほしく無いんだけど」

「何、たかが模擬戦じゃから心配するな。実戦には出んようにするしな。ほれ、あのとき・・・ワシが起きあがった時に言ってくれたじゃろう?」

悪戯な表情を浮かべ、キューちゃんは質問してくる。

「“絶対に守る”と・・・それとも、あれはその場凌ぎの嘘じゃったのか?」

少し悲しげな表情を浮かべるキューちゃん。それが嘘泣きだと分かっていても、ナルトが答えられる言葉は一つしかない。

「いや、嘘じゃないから」

「ならば良し。過保護はやめい」

童女姿に戻り、胸を張るキューちゃん。ナルトはそんなキューちゃんをさっと抱き上げ、耳元に囁いた。

「了解・・・九那実さん」

キューちゃんの顔が爆発したかのように真っ赤になった。

「な、な、何を」

「いや顔を真っ赤にする魔法・・・って痛い痛い、噛まないで!」

「うるさいうるさいうるさい!」


普段はキューちゃんで良いと念押しされたナルトであった。







●修行風景 ~忍具のお勉強~


隠れ家の広場で、ナルトとサスケの2人が座りながら忍具についての話をしている。


「ほら、これは鋼糸で、これは光玉。煙玉に起爆札」

「いや、一通りは知ってる。今更何でまたこの忍具について勉強しなきゃならないんだ?」

若干不機嫌そうな顔を浮かべ、サスケがナルトとマダオに反論する。

その反論された2人は、何も分かっちゃいないと言った風に首を振り肩をすくめながら諭すように語りかける。

「いつも、忍具が揃っていて万全な状況で戦えるとも限らないだろ? 例えば・・・」

ナルトは煙玉を取りだしながら、言う。

「クナイも手裏剣も起爆札も無い、この煙玉だけで戦わなきゃいけない場合もある」

敵の攻撃で、忍具が入った袋を落としてしまうかもしれない。

大勢の敵との戦いの後、手裏剣もクナイも全て使ってしまっているかもしれない。

「そんな時、この残った忍具をどう有効に使うか。単品でどう使って対処するか・・・まあ、その時その時で思い浮かぶかもしれないけど」

場合によっては、浮かばないかもしれない。そんな状況を防ぐ為に、今から訓練をするのだ。


「まだちょっと、頭が固いしなあ、サスケは。実戦経験が少ないのが原因だと思うけど・・・行動に余裕が無い」

一撃一撃を決める気で戦っている。虚もそれなりにあるが、僅かだけだ。十分に活かせていない。

「まあ、自分より弱い相手なら力押しで勝てるだろうけど、それが自分より強い相手の場合は?」

「・・・修行してそいつより強くなるって事だろ?」

「それが最善だけど、それは答えになってないよ。時間は待ってはくれないんだから。答えは簡単、イカサマをするのさ」

「イカサマぁ!?」

「そう。相手の弱点、苦手とするものを見つけ、そこで勝負をすればいい。自分が勝てる所で勝負をすれば、勝てる」

「・・・いや、でも、どうやって」

「まあそれは戦闘中に考えるしかないんだけどね。その為にも、思考に幅を持たす必要がある。忍具も然りだ。使いようによっては、場を決定する武器となるかもしれない」

「・・・煙玉、光玉も使ってか」

「そう。逃げるのが最善、っていう時もあるしね。ようは視点を集中させなければいいって事。冷静に全体を把握して、対処すればいい。

それができれば、戦術の幅が広がる。忍具の特性を知る事も大事だね。この2つがあれば、対処方法は色々と浮かんでくるから」

「全体を把握する・・・」

「そう。自分の死角を無くして、逆に相手の死角から攻撃する。忍者の基本でもあるしね。裏の裏っていうのは」

「そうだな・・・・っと、これは何だ?」

とサスケが箱から一つの武器を取り出す。

「ああ、それはトンファーだよ。貸して」

サスケからトンファーを受け取り、練習用の的の方へ向かう。

「これは・・・こう!」


フォフォフォカン!フォフォフォカン!

トンファーを回転させながら、的を打つ。

「突くのにも使えるし、こうやって防御するのにも使える。まあ扱いが難しい武器だから、これは止めといた方がいいけど・・・そうだな」

ナルトは何かを思いついたのか、サスケの方を向き笑う。

「どういう角度から攻撃が来るのか、一度見ておくのもいいか」


ちょっと立って、とサスケを立たした後、ナルトはサスケの方に近寄り、対峙する。




「じゃあいくよ?」

「ああ」



と対峙する2人。


「受けよ、我が必殺のトンファーを!」

トンファーが勢いよく回転し始める。


「・・・!!」

サスケはトンファーを凝視し、それに当たるまいと構えを取る。



直後、ナルトが一歩前に出て、サスケが防御しようと腕を上げる。


勝敗は一瞬にして決した。


      






















       ∧_∧  トンファーキ~ック!
     _(  ´ナ`)
    /      )     ドゴォォォ _  /
∩  / ,イ 、  ノ/      ∧ ∧―= ̄ `ヽ, _
| | / / |   ( 〈 ∵. ・ (サ  〈__ >  ゛ 、_
| | | |  ヽ  ー=- ̄ ̄=_、  (/ , ´ノ \
| | | |   `iー__=―_ ;, / / /
| |ニ(!、)   =_二__ ̄_=;, / / ,'
∪     /  /       /  /|  |
     /  /       !、_/ /   〉
    / _/             |_/
    ヽ、_ヽ













上と見せて、下である。まさに外道。きたないさすが主人公きたない。

「・・・・て、めえ・・・っ!」

予想だにしない角度からの攻撃をくらい、腹を抑えながら蹲るサスケ。

「と、こういう使い方もできる」

そんなサスケを見ながら、しれっと話を続けるナルト。

「いや、それは人としてどうかと・・・」

「いやいや、マダオさん。そう強く蹴ったつもりは無かったんだけど」

これぐらい避けて貰わないと困るなあ、と肩をすくめるナルト。

「・・・・っ」

サスケは腹を抑えながら、唸っている。どうやら前蹴りがまともに腹部へと入ったようだ。

「先入観を利用すれば、こういう事もできる。武器ってのは持っているだけで意味があるってことだね。相手は、その方向へ意識を集中するから、場合によってはわざと見せてそれを囮にするのも

・・・ん、何? トンファー貸せって?」


うずくまったままのサスケが手を差し出すので、その手にトンファーを渡す。


(ふん、同じ手は通用せんぞ)

にやりと笑うナルト。まるで悪役である。


サスケはおもむろに立ち上がったあと、一歩踏み出した直後、何故か正面から横に視線を逸らした。


そして、ポツリと呟く。

「・・・・あ、九那実さんが全裸で水浴びしてる」

「「マジで!?」」

即座に反応し、サスケの視線の方向を見る2人。



同時、サスケがニヤリと笑いながら、ナルトの懐に入り込む。


今までの修行の成果を思わせる、神速の踏み込みからの一撃。




トンファーパンチ!
                   _ _     .'  , ..∧_∧
          ∧  _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ '      ( ナ )
         , サ'' ̄    __――=', ・,‘ r⌒>  _/ /
        /   -―  ̄ ̄   ̄"'" .   ’ | y'⌒  ⌒i
       /   ノ /~/         ドゴォォォ  |  /  ノ |
      /  , イ )フ /               , ー'  /´ヾ_ノ
      /   _, \/.              / ,  ノ
      |  / \  `、            / / /
      j  / / ハ  |           / / ,'
    / ノ  ~ {  |          /  /|  |
   / /     | (_         !、_/ /   〉
  `、_〉      ー‐‐`            |_/






サスケの拳がナルトの横っ面にクリーンヒット。

だが、その直後であった。

「影分身!?」

殴られ吹き飛んだナルトの姿が、煙と共に消える。

同時、樹上の方向から声がした。

「ふははは、甘い! 甘いぞ甘すぎる! 狙いは良かったが・・・俺が今更キューちゃんの貧乳如きに、本気で釣られると思うたか!」


樹上で腕を組み、ロリとちゃうわ! といいながら高らかに笑い声を上げるナルト。


とうっ、と地面に降り立ち、また腕を組みなおしてうむうむと感心したような声を上げる。


「しかし、やるようになったものよ。おしむらくは囮にする相手が悪かったな

・・・実は隠れ巨乳であった多由也とか、清純派アイドルそのものの白ならば話は別であったろうが・・・ん?」


途中、背後に気配を感じたナルトが、言葉を止める。


「・・・ず、いぶんとまあ・・・面白い事を、いうておるのう?」


ナルトがピシリと硬直する。

地を這うように低い声。濃密なその殺気。

(・・・いる、振り返ればヤツがいる!)

「のう、こっちを振り向かんか?」

「イエス、マム!」

逆らう=死という方程式を瞬時に解いたナルト、もの凄い勢いで振り返った瞬間。


「乳がそんなに偉いのかーーー!」


目尻に涙を溜め顔を真っ赤にしたキューちゃんに、ぶん殴られた。

夜空に瞬く星となった。


ぷんぷんと怒りながら隠れ家の方へと戻っていくキューちゃん。



しばらくして、車田落ちで落下してきたナルト。

サスケはニヤリと笑いながら、告げる。



「ふっ、気配は察知していたからな・・・裏の裏だ。これで、いいんだろう?」




絶対にボロを出すと思っていたからな。やれやれだぜ言いながら笑い、ナルトに背を向ける。



その隣ではマダオが染まってきたねえ、と言いながらうんうんと頷いていた。







●修行風景その2 ~忍具と忍術~


「次は忍具を併用した術の練習を始めます」

「どうでもいいけど回復早いなお前」

「それが取り柄じゃからの」

キューちゃん酷え、と呟いた後睨まれたナルト。急いで、術の説明を始める。

「えっと、サスケは雷遁と火遁が得意だったよな?」

「ああ」

「よし、じゃあまずは俺でも使える雷遁を・・・」

メインは風遁の方だが、雷遁の方も初級限定だが、扱えるのだ。

「そして道具はこれ・・・」

ナルトは鋼糸を手に取る。そして地面に落ちてあった枝を手に取り、空中へと投げる。

「雷遁、雷華の術!」

それに鋼糸を巻き付けたまま、術を発動。雷が鋼糸を伝導して、木へと流れていく。少し焦げたようだ。

「と、こんなもん。火遁にも似たような術あった・・・・たしか、火遁・龍火の術だっけ」

「そうだな・・・大蛇丸のヤツ相手に使ったな、そういえば」



「大蛇○ねえ・・・あ、ごめんちょっとトイレ」

悪い、と手を前に出して謝る。

「まったく。早くすませてこんか」





~数分後



「よし、じゃあ次はまた鋼糸を使って・・・2人ともちょっと離れて」


キューちゃんとサスケが離れたのを確認したあと、ナルトは説明を始める。


「今から使うのは光遁といって、世界でも恐らく俺しか使えない忍術だから・・・よく見ててね」


直後ナルトはエイやっと飛び上がり、左右の木へと鋼糸を投げつける。



固定され、空中で静止するナルト。



そして足を上げて、叫んだ。







「光遁・かっこいいポーズ!」







太陽をバックに、ポーズを決めるナルト。


サスケがずっこけた。


「・・・一応聞いておくが・・・・何だ、それは?」


「え、だからほら、かっこいいポーズ」


(・・・視線がやや上を見てるのがまた妙にむかつく・・・、とかそういう事を言ってるんじゃない! ほらほら、じゃねえよ!)


「一体何の役に立つんだその術は!」


「え、見る者を惹きつけ動きを止め、熟練者になると暗黒属性の敵ならば消し去ることもできる、超高等級忍術だけど」


それに、と続ける。


「特に大蛇○相手に有効。サスケが全裸でこれをやれば・・・大蛇○を悩殺できるZE!」


キラ☆っという笑顔を浮かべるナルト。


サスケがぶち切れた。


「気持ち悪い想像させんじゃねえ!」


空中に浮かぶナルト目掛け、跳躍。


飛び蹴りを敢行するサスケ。


ナルトは空中で身動きが取れないので、その蹴りを避ける事はできない。


だが、それはナルトの読み通りであった。




「甘いわ!」


「がああ!?」


接触と同時、ナルトが爆発した。


巻き込まれるサスケ。



「・・・あほじゃの、こやつら。・・・後ろの。隠れておらんで、さっさと出てこんか」


ため息を吐きながらキューちゃんが後ろの藪に声をかける。


「ありゃ、ばれてたか。と、かっこいいポーズだけど、こういう使い方もできる。挑発した後、ボン、ね。

ちなみに今併用した忍術は“分身大爆破”といって、影分身を併用したA級難度の忍術で、うちはイタチも使えるそうだから気を付ける事ー。

今のは威力極小だったけど、本物はもっと凄い・・・ん? 何だ、この・・・鳥が泣くような音は」


直後、全身から煙りを立ち上らせながら、サスケが立ち上がった。

千の鳥を鳴らしながら。



「勝身煙・・・!?」


「いやさっきの爆発のせいじゃろ」


キューちゃんの冷静な突っ込み。それを合図として。


「死ね」


サスケが写輪眼を発動させながら特攻してきた。


右手に雷を携えて。





「あ、キューちゃんどうしたの、あの2人・・・何か映画のラストシーン並の死闘を繰り広げてるけど」


向こうでは、サスケとナルトが「俺の右手が真っ赤に燃えるぅ!」とか、「このぶわぁか弟子があぁぁ!」とかいいながら殴り合っている。


「ただの、模擬戦じゃろ。しかし成長したのうあやつ」

サスケの方を見て、キューちゃんが呟く。

「うん、元々才能はあったからねー。飲み込みが早いし、頭の回転も早いからそりゃ本格的に鍛えれば成長も早いよ」

「しかし体術の方も一から教えるとはの。ほら、写輪眼でコピーできるのじゃろう? 今また、基本から体術というか併用したチャクラコントロールを教えておるのは何故じゃ?」

「いや、体術に関してはちょっとね。忍術とはちょっと勝手が違うんだ。筋肉の問題だから、コピーしてOKというにはちょっとね・・・」

「筋、肉?」

「そう。体術とはおおまかに言うと、筋肉の運用方法だから。個人個人、肉の付き方は違って当たり前だし・・・パンチ一つ打つにも、筋肉の使い方自体が違うんだ。

コピーして無理に真似したら、いつもは使っていない筋肉に妙な負荷がかかっちゃったりして、すぐに身体が痛くなってくる」

一時的な動きとか、短期決戦なら問題無いんだけどね、と言いながらマダオは肩をすくめる。

「何をするにも体術は基本となるから。だから、素の状態・・・本人に一番合った体術を覚えさせる方が良いんだ」

「それでか。で、次は何の修行をする?」

「そうだねえ。軸となる戦術・・・今のところ、刀を使った戦術を考案してるけど」

「何か、問題があるのか?」

「ももっちのあの大刀みたいな、良い刀が無いんだよ。来週あたり、ナルト君がメンマ君に変化して砂隠れの里に赴くらしいから・・・その時に、調達しに行こうかって話してるところ」

「匠・・・おお、かなり昔に行ったあそこか。確か、忍具開発専門の里じゃったか」

「そうそう。手裏剣とかクナイとか、前に一括で購入した忍具も、使って残り数少なくなってきたから。補充も兼ねて」

ちなみに、忍具を購入する際、顧客情報は絶対に漏れないようになっている。忍具に関しては時に戦局を左右するものなので、5大国はその方針を受理。

この規定は未だ破られていないのだ。下手に手を出すと、周りの里全てを敵に回す恐れがあることから、半ば争いの無い不可侵領域と化している。

皮肉な話だが。

「しかし、金はあるのか? この家の結界を張る時、材料代とかで滅茶苦茶多く金を使ったと聞いたが」

千鳥や螺旋丸にも耐えうる結界。その強度から、この隠れ家と周囲3里程は半ば異界と化している。

煙も外には漏れない。

辿り着くにも、狐里心中を駆使した迷いの森を抜けなければならない。堅牢きわまりない隠れ里と化している。

メンマをして「パーフェクトだマダオ」と呟いてしまった程の仕事っぷりである。

だが当然、製作資金もかなりのものとなった。

「そこなんだよねえ。まあ、そっちも案があるにはあるけど」

「・・・また、抜け忍の仕事を請け負うのか?」

「信用度は特Sだったでしょ? だから、何とかなると思うよ」

「そうじゃの・・・というか、あやつらまだやっとるのか」


向こうでは手裏剣とクナイの投げ合い合戦になっている。

「あーあー、畑の方に飛んで・・・おお、さすがキューちゃん早い」


一歩で間合いを詰めて、二歩目でサスケの膝を蹴って駆け上がり、とどめの膝蹴り。

その見事すぎる手際を見て、マダオが戦慄する。

「光魔術師・・・!」

あらゆる意味で。

マダオはそんなキューちゃんをすげえ男前な顔で見ながら、「ナイス太もも」と呟いた。

キューちゃんは留まらない。返す刀でナルトにもシャイニングウィザード。一瞬にして2人とも昏倒させた。


「お疲れ様ー、キューちゃぶらほっ!?」

そして3人目、マダオにも炸裂した。


「何で・・・」

と呟くマダオにキューちゃんは着物の裾を抑えながら、顔を真っ赤にして答える。


「見るなっ!」


いや見せたのそっちの方、と呟きながらマダオは意識を失った。一瞬見えた白い理想郷を思いだしながら。

ぐっじょぶといいながら鼻血を吹く。親指だけを立てて、マダオは逝った。


薄れ往く意識の中、見えたのは自分と同じように親指を上げて気絶している2人の漢の姿だった。


ちなみに飯の時間なので3人を呼びに来た多由也がこの光景を見て、

『何がなんだかさっぱり分からない』と小一時間立ちつくしたのは別のお話である。











●男達の挽歌





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      Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
     /:彡ミヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
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     / :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄






「白、どうしたんじゃ、あの男共?」

テーブルではナルト、サスケ、再不斬、マダオの4人の男衆が落ち込んでいた。


「いや、ほら多由也さん今風邪ひいているでしょう?」

「うむ。今は寝込んでいるのじゃろ?」

「ええ。それで、ですね。風邪を引いて倒れる直前に事件が起こったんですよ」

「ふむ、事件とな?」

「ええ。練習中の笛の術ですが、ちょっと暴発しちゃったらしくて」

「ほう・・・しかしそれで何で、あの4人が落ち込んでいるんじゃ?」


「音色を間近で聞いたらしくて、ですね。・・・ボクが部屋に入った時にはもう手遅れで・・・幻術作用があったんでしょうか」



いや絶対にそうだろう、と呟いた後、白の顔が赤くなる。



「びっくりするほどユートピアってどういう意味でしょうか・・・」



白が部屋に入った瞬間、目にした光景は衝撃的だった。



おしりを両手で叩きながら白目を剥き、「びっくりするほどユートピア!」と叫びながら、椅子で踏み台昇降運動をしている4人。


それを目撃して、硬直してしまった白。それを間近で見てしまったのだろう、多由也は倒れてしまっていた。



---悲劇であった。



正気に戻った瞬間、椅子に座り・・・・30分間、あの体勢のままである。

ちなみに倒れた多由也は白に運ばれ、今は部屋で眠っている。



「うむ、私が畑に行ってる間にそんな面白い事が・・・」

「キューさん・・・今はそっとしといてやりましょう」


後生ですから、と2人はその場を立ち去った。




小一時間後。


男達は記憶から今回の事を消し去ったらしい。全てを忘れ、朗らかに笑い合ったという。

ちなみに、多由也の事は責めなかった。わざとじゃなかったし、何より彼らは紳士だから。





余談だが、この日より4人に取って『ユートピア』は○禁ワードとなったらしい。

2年後、彼らの前でその言葉を口にしたカカシがどうなったのか。




・・・それは、また、別の、お話。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の1 ~我愛羅~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/22 02:17
幕間の1


~我愛羅~




「・・・ようやく、終わったな」

2週間前から始まった任務だが、今日で終わりを迎えた。

アカデミー生相手に、忍具の使い方を教える任務。それぞれの生徒を指導し、実技の訓練も終わった。

後は専門の教官に任せるだけだ。

任務後、後片づけはアカデミーの教官の方でやてくれるらしい。

「じゃあ、俺はバキに報告してくるじゃん。テマリと我愛羅は先帰っててくれ」

「ああ、そうだな。頼むカンクロウ。じゃあ行こうか、我愛羅」

カンクロウと別れ、姉さんと2人で家に帰った。


「私は少し汗を流してくる」

今日は最後の日だったので、教導にも力が入っていたようだ。

汗を多くかいたから、と苦笑しながら姉さんが風呂に向かう。

「ああ。俺は少し休んでおく」



返事を返し、傍にあった椅子に座る。

(・・・疲れたな)

2週間に渡る任務を終え、ため息をはく。

実は長期任務を任されたのは初めてだった。今まで任された任務とは、全て短期の任務。

誰かを殺しに行くという、殺し専門の任務のみ。情緒不安定だったのが原因だろう。長期任務には向いていないと思われていたのだ。

(力を抑える事が可能になった途端、これか・・・)

木の葉崩しの後、テマリとカンクロウと色々話した。カンクロウは最初の頃はやや怖がっていたようだが、日に日に接していく内に変わっていった。

(今までが今までだったからな)

呟き、苦笑する。守鶴の力を扱えるようになった今、何故怯えられていたか分かるのだ。

最終兵器とまで呼ばれる力の、その全容を把握したから、その力が持つ怖さと異様さが分かるのだ。今でも、完全にはコントロールできていないのがその証拠だ。


だが、今までは全く抑える事が出来ていなかった。それは何故か。

その答えは酷く単純だった。

(守鶴の事・・・今まで俺はその事を、見ようともしていなかった)

力を力とだけ認識し、そう捉え、でも本質を掴もうとしなかった。

自分の中で暴れる力に対し、抗ってはいても流されるままに受け入れるだけで、その力が持つ意味を考えようともしていなかった。

流されるのを、半ば受け入れていたのかもしれない。その結果、どうなるかを考えもせず。


(あのラリアットは効いたな・・・)

あの一撃で目が覚めたのだろう。久しく感じた事の無かった、衝撃。痛み。敗北。

馬鹿みたいに真っ正面から突っ込んで。砂を吹き飛ばした後、一直線に突っ込んできた勢いのまま、いっそ清々しいまでの一撃。



その後に続けられた言葉もそうだ。荒唐無稽で馬鹿みたいだけど、馬鹿らしく一本芯の通った理念。

あいつはいった。

『尾獣がどうか、知らねえ。運命がどうとか、わかんねえ。人柱力がどうとか、聞いてねえ』

衝撃的だった。

そういう生き方があるのか、とそう思った。

そしてその在り方に憧れた。

俺は思った。俺もアイツみたいに生きてみようと。

自分が望む何かに成ろうと思った。そう、新しい夢を見たのだ。そして、生きるための目的が生まれた。


(まずは認める事だ。そう、俺の中には、確かに化け物がいる)

事実を認識する。まずは自分の足場を見る。誤魔化さず、自分の中にいる守鶴に、正面から向き合う。

そこから始める。あいつも、自分の中にいる者は認識しているだろう。ただそれに流されないだけで。あるいはもっと別の考えを持っているのかもしれないが。

認める。守鶴。お前を。

(だが、俺はお前の思い通りにはならない。守鶴、お前のような災厄を撒き散らすだけの化け物にはならない)

そして、俺が望まない全てを否定するのだ。

うずまきナルトと同じように。例え化け物と呼ばれようと。化け物だと思われていても。

俺は俺の望む在り方を目指す。

思えば、簡単な事だった。

何を認め、何を否定し、最終的に何を肯定し続けるのか。誰しもが行っている、考えている事。

・・・そう、簡単な事だったのに、それすらも見失っていた。

夢現に微睡んで・・・不抜けていたのだ。


(そういえば・・・)


その簡単な事が見えなくなったのは何時からだったろう。考える事を止めた時は何時だっただろう。

誰かを憎む事に逃げたのは、どの夜だったろうか。

(・・・ああ、そうだ。あの夜からだったな)

俺に付き人だった、母さんの弟・・・夜叉丸に殺されそうになったあの夜。

(アナタは愛されてはいなかったと言ったよな、夜叉丸・・・)

今も胸に残っている、突き刺さっている楔の言葉。

あれは、夜叉丸の憎しみが具現した言葉・・・呪いの言葉だったのかもしれない。

(俺を生んで死んだ母さん・・・加流羅が、俺の事をどう思っていたのか)

今はもう、永遠に知ることが出来ない。母は俺を生んで死んだ。我愛羅という名がもつ意味、その本当の意味は、知ることができない。


(我だけを愛す修羅、か)


呪いの言葉、呪いの名前。その事を考え無かった日など無い。

・・・思えばずっと、悩んでいたのかもしれない。


本当は愛されてなどいなかったのかもしれない。本当は愛していてくれたのかもしれない。

答えの出ない問いを延々と考え続けて。その度にどうしようも無い解答を導き出して。

誰かを憎んで。誰かに憎まれて。

力とそれにまとわりつく宿命とやらに囚われて。



俺は、誰かを憎む事に逃げた。



(だけど、それはもう昨日の事だと知った・・・過去に囚われるのはやめにしようと決めた、あの日から)

選んだ瞬間、在り方を決めた瞬間、昨日は過去になった。思い悩む事もあるが、それはどうしようも無い事だと気づいた。

明日があると知った。望めば道は開けると知った。苦悩しながらももがけば、そして立って歩き続ければ。

足下を見て、行く先を決めたならば。後は歩くだけで良いと知った。

(でも、1人だけでは無理だったろうな)

肩を貸してくれる人がいる。だから、こんな俺でも歩き続けられる。


今の俺には失いたくない人がいる。

姉がいる。兄がいる。俺を心配し、俺と共に生きてくれる人がいる。

目を覚ましてくれた人がいる。荒唐無稽かつ天衣無縫。変人の極みとも言える馬鹿がいる。

これは予想だが、あいつと一緒にいると面白い事ばかり起きるのだろう。そんな気がする。



そして、失いたくない人の中に、とある生徒の顔が浮かんだ。


(・・・マツリ)


この2週間。忍具の扱い方を教えた生徒。



・・・忘れもしないあの夜。

暴走する守鶴を抑えきれず、姉諸共に殺そうとしてしまった少女。


天井を見上げながら、任務の初日に交わした会話を思い出す。

授業の初日、まず最初に行ったのは生徒達による先生の選択だった。俺、テマリ、カンクロウと他中忍3人の計6人。

生徒のほとんどが、俺を除く5人の元へと言った。だが1人だけ、俺の元へ一直線に駆け寄ってきた生徒。それがマツリだった。

『お願いします!』

綺麗な声で、茶色の髪持つ頭を下げて、マツリはそう言った。


忍具に対するトラウマが合ったようだが、何とか自分で克服しようとするマツリ。

初日、授業が終わった後、マツリに訪ねた。

『昔の事を忘れた訳でもないだろう・・・何故、よりにもよって俺を教官に選んだんだ?』

マツリは

『・・・確かに、怖かったです。でも、あの夜・・・部屋に戻った後、なぜだか涙が止まらなかったんです』

恐怖のせいだろう。そう言う俺に、マツリはしっかりと首を振って答えた。

『怖くて、泣いたんじゃありません。悲しかったんです・・・・あの時の我愛羅先生、何だか泣いているようだったから』

『お前も、姉さんも殺そうとしていたのに?』

『・・・一瞬、留まってくれたじゃないですか。抵抗しているように、見えたんです・・・違うんですか?』

『・・・いや』

首を振り、答える。

『殺したくなかった・・・姉さんも、お前も・・・殺したくなんてなかった』

『やっぱり、そうだったんですね』

そういうと、マツリは花咲くように笑った。

『でも、私も・・・今までは、もしかしたら違うのかな、って思っていたんです。あの後、我愛羅先生荒れていたようだったから』

『ああ・・・』

『でも、今の我愛羅先生を見て、何だかあの時感じた事は間違いじゃ無かったのかなって・・・』

『ああ、確かに。最近は抑えられるようになったからな』

腹を撫でながら、言う。

『すいません。疑ったりなんかして』

申し訳なさそうに、こんな私軽蔑します? と訪ねてくるマツリの頭を撫でながら、俺は言った。

『いや。軽蔑しない・・・・むしろ礼を言いたい程だ』

『へ?』

『ありがとう、マツリ』


その後に起きた騒動を思い出し、苦笑する。

近くにいた姉さんが言っていたが、その時に俺は笑顔を浮かべていたそうだ。自分でも思い出せないのだが。

だが、俺の顔を見た姉さんが混乱のあまり、隣にいたカンクロウの顔面を殴った後、『え、嘘、痛い? 夢じゃない?』とか呟いていたので嘘では無いようだったが。

・・・とにかく色々あった。





「・・・ん?」


物思いにふけって10数分が経った頃だ。

玄関からノックの音が聞こえた。


「こんな時間に客か?」

珍しい、と呟きながら立ち上がる。元々来客自体が少ない。加え、夕方を過ぎてのこの時間だ。客が来る可能性など皆無と行ってもいい。

(カンクロウが戻ってきたのかもしれないな)

急いで帰ってきたのかもしれない。そう思い、入り口の方へと向かう。

途中、忍者の習性ともいえるべき、気配探査を行いながら。

そして玄関から感じる気配を感じた後だ。その気配に、俺は驚いた。


(・・・いや、ちょっと待て・・・この気配には覚えがある。確か・・・!)



思い出したと同時、もしかしてと入り口の扉を開ける。するとそこには。





「御麺に参りましたー」





銀色の出前用の箱を片手に携えた、うずまきナルトの姿があった。


「・・・うずまき、ナルト?」

一瞬その事実を認識できなかった。思わず、口に出してしまう。

「ういっす。ラーメン食べさせるっていう約束を果たしに来たよー。じゃあお邪魔・・・していい?」

「あ、ああ」

急な展開に、頭の中身がついていかない。即座に頷き、とりあえず家の中へと招き入れる。

「広い家だな。そういえば、姉兄のお二人さんは?」

と、うずまきナルトが入ってきた数秒後。


風呂場の方から、扉が開く音、そしてこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「ん、これ誰の足音?」

「いや・・・」

風呂場に姉さんが、と言おうとした瞬間だ。

「・・・我愛羅、今うずまきナルトって!?」

バスタオルを胸に巻いたまま出てくる姉さん。

「お邪魔してますーって・・・」

「あ・・・」

予想外の姿に硬直するナルト。そして自分の格好を認識したのか、同じく硬直するテマリ。

静止する時間。痛すぎる沈黙が、空間を満たした。

静寂のひととき、それを破ったのは、姉さんの悲鳴であった。

「1qうぇ34r5t6ゆ7いお!?」


姉さんは悲鳴を上げながら印を組み、そして拳を突き出した。


風遁・旋空破だ。


弱い威力だったが、硬直しているナルトには十分に有効となったらしい。


「風に流されて!?」

その風に飛ばされ、入り口の方へと吹き飛ばされるナルト。


俺の方は砂のオートガードが間に合ったので、飛ばされる事はなかった。同時、ラーメンの箱もガードする。

そして、玄関の扉がまた開いた

「ただいまふぅ!?」

飛ばされたナルトが、空中で回転。着地しようと足を突き出した先に、カンクロウの顔面があったのだ。

吹き飛ばされるカンクロウ。

「あれ、何か誰かにライダーキックかましちゃった!?」

慌てるナルト。

「うわぁぁぁぁー!」

悲鳴を上げながら風呂場に戻っていく姉さん。



「・・・・・・・」

大混乱だった。





「取りあえず、偽装結界張るねー」

監視を警戒し、ナルトが家の周囲に結界を張る。即席のやつなので、一晩しかもたないそうだ。

それが終わった後、取りあえず3人で挨拶をする。

「ちゃっす。うずまきナルトaka小池メンマでっす。よろしくシンタロー」

「カンクロウじゃん! ロウしか合ってないじゃん!」

「よろしく、テマリ」

「よろしく」

「聞けよ! っていうかテマリの名前は覚えてて、何で俺の名前忘れてるじゃん!?」

「え、言っていいの? どうしても、っていうなら事細かに嫌という程説明するけど。懇切丁寧に。容赦なく」

「・・・」

黙るカンクロウ。メンマはそうだろうそうだろうと言った後、脇に抱えていた紙袋を目の前に置き、袋を破り出した。

「それより、君にプレゼントあるんだー」

「え、マジで? ・・・って何これ、革ジャン?」

黒の革ジャンを差し出した後、ジェスチャーで着てみてよと言うナルト。

「・・・・着たじゃん」

即座に鏡を持って来るナルト。鏡に映る自分の姿を見たカンクロウは感想を一言。

「・・・似合わないじゃん」

「ブラボー!」

親指を立ててにかっと笑うナルト。何がしたいのかさっぱり分からないという風に首を傾げるカンクロウ。

「・・・一体、何がしたいじゃん?」

「いえいえ。それプレゼントです。耐毒性能がある優れものだがら、2年後の決戦には是非ともお試しを」

「・・・2年後? 決戦?」

不穏な言葉に、3人が黙り込む。

「いや、それはまた後で。・・・で、どう、我愛羅。あれから何か変わった事あった?」

「特には無い・・・しいていえば、約束を果たしにラーメン食べに木の葉隠れに行ったが、お前が姿を消してしまっていた事ぐらいか」

「すみません」

土下座を敢行し、謝罪するナルト。



そしてかくかくしかじかと説明を始める。

「・・・成る程。だから木の葉から脱出したのか。それならば仕方ないとも言えるな」

「そうなのよ。妹、キリハには泣かれるし、慣れない悪役演じる事になるし・・・もう散々だったよ」

「・・・えっと、我愛羅?」

初めの挨拶からずっと、硬直していたテマリが動き出す。

「何だ、テマリ」

「その、本当に、こいつが?」

「ああ、うずまきナルトだ・・・どうした?」

「いや・・・その姿だけど、変化しているのか、本当に?」

「してます」

「・・・いや、全く分からないな」

「7年間、全くばれなかったからね。日向家当主クラスの白眼でもないと見破れないよ」

隠密術も世界で五指に入るぜ! 全く嬉しくない特技だけどな!

と偉ぶるナルト。

「どういう原理の術だ? 変化のじゅつだけじゃないだろう?」

ナルトはテマリの質問に対し、口に人差し指を当てて答えた。

「禁則事項です・・・いや、それよりも早く、これ食べて食べて」

と、出前の箱の中からラーメンを取り出すナルト。

「小池メンマ特製、夏塩ラーメンでっす」

「塩ラーメン?」

「そう。砂隠れ産の塩を使った、特製冷やし塩ラーメン。味は食べてのお楽しみってね」

自慢げにずずいと突きだしてくるメンマ。

「・・・頂こう」

我愛羅が頷き、レンゲを片手にまずはスープを一口飲む。

「・・・これは何だ? 塩だけじゃない・・・この深みのあるコクは」

「魚介系の出汁・・・いや、これは・・・貝か? 添え物はトマトとレタス、夏の野菜か・・・鳥のささみも入ってるな。他は分からないが」

「貝は火の国の南にある海でとれる貝。ナルキ貝っていう。後は鳥と、玉ねぎの甘みを交えて、砂の塩をちょっとね。こういうのに、豚のような油っぽいのは合わないから。でも、ここの塩いいね。深みが合って。これなら、砂隠れみたいな、暑い地域専用って事で。これなら、このクソ暑い砂隠れの里でも、美味しく食べられるだろ?」

そして、胡麻を少しまぶしてある。栄養も抜群だ!

「・・・ああ、確かに。上手いし、何だか食べていて涼しくなる」

「何か、癖になるな。食べ始めると止まらん」

「っしゃあ!」

とメンマがガッツポーズする。

そしてそろそろとレシピを差し出した。

「これ、このラーメンのレシピ。結構簡単に作れるから、里中に広めてみるのもいいね」

「いいのか? 苦労して考えた味だろう?」

「多くの人に食べてもらえれば、一番。今はそうそう外に出られる状況じゃないし、砂隠れに頻繁に来られる訳でもないしね。ま、食べた後の感想は聞かせてくれ。

改良の余地があるかもしれないし。それだけでいいよ」

「そうか・・・ってカンクロウ、お前もう食べたのか」

「いや、だって美味しいじゃんこれ」

あうあうと一気に食べて、スープまで完食したカンクロウ。それを見たテマリが、呆れた声を出す。

「ちょっと前、ラーメンなんかとか言っていたのになあ?」

テマリが悪戯な笑みを浮かべ、カンクロウに言う。

だが。その直後である。



「ラーメン、“何か?”」


眼前の男が放った、たった一言でによって。


場が凍った。













~カンクロウside~




(体が、動かないじゃん)




---死んだと思った。




大型の獣に昆虫が蹴散らされる様に---。




(・・・・っつ)




想像を絶する深い情熱が、一瞬その灼熱の淵をのぞかせた。


眼前の男の内側から----。



全身が沸騰する。汗が止まらない。





「・・・」



直後、眼前の男の背中からするすると、とあるものが引き出された。



(ネギ?)


白と緑のコントラストが美しい、一本のネギ。だがそれは、異様な輝きを放っていた。



(冷や汗が止まらない。何故? なにゆえ---)


十字に合わせられるネギ。まるで誰かの墓標のようなそれを見て、俺は戦慄した。


・・・理解しなければ、俺はここで掘られる。これでも、幾度もの修羅場を潜ってきた忍びだ。



直感的に理解した。




(そう、俺はさっき何を言った? さっき俺は何を知られた---)



ラーメン、“何か”? ・・・そうか、それが原因か。


謎は解けたじゃん!


「いや、違うじゃん! 麺って本当に美味しいじゃん!」



その返答が正解だったのだろう。


「・・・嘘、偽り無いな?」




「おう! 素麺てほんと最高だよな」





言葉を最後まで口にする事は適わなかった。




我愛羅とテマリの2人が目を逸らし「さらば、我が兄」とか、「達者でな、愚弟」とか呟いている。







「ラーメン」








かくあれかしとばかりに、いっそ神々しい一本のネギが、とある男の肛門をするりと貫いた。











「アッーーーーーーーーーーーーーー!」












~我愛羅side~


隣で尻にネギを挟んだまま倒れているカンクロウは放置して、情報を交換しあう。

暁という組織の事。その目的。構成員。

「・・・以上だ。取りあえずあいつらに対する策とかは今考えている途中なんで・・・後日また話に来るよ」

「そうか・・・・」

俺は呟き、考え込む。取りあえずで伝えられた内容でも、十分に衝撃となる事だった。

(暁・・・)

この人柱力の力を欲しているらしい。

そして、砂隠れの抜け忍・・・“あの”赤砂のサソリと、デイダラとかいう岩隠れの抜け忍。

(・・・どうにかせねばならんな)

至急、対応策を練る必要がある。だが、3人だけでは少し厳しいとも言える。

今の俺達は下忍か、もしくは中忍程度の扱いでしかない。前風影の子という立場はあるが、それも一応の事。

(・・・この情報をそのまま上の連中に言うのは止めた方がよさそうだな)

良いように利用される可能性が無い事もない。上層部は今だ俺を疎んでいる筈だ。

迂闊に情報を渡すのはよした方がよいだろう。

そしてあるいは、情報を提供してくれたうずまきナルトへ迷惑がかかるかもしれない。

(そうしないためには・・・)

いっそ、上り詰めるか。一番、上まで。この里の頂点まで。俺のしたい事をするために。

「・・・分かった。貴重な情報、本当に感謝する」

「いやいや、どういたしまして。細部の説明に関しては・・・また後日、詰めに詰めて持って来るからその時に。こっちでも対策案まとめ中だしね」


「ああ。暁の件に関しては了承した・・・で、だ」

「ああ分かってる・・・・あの『声』に関してだな?」

「やはり、お前にも聞こえたのか・・・」

俺とナルト、2人が沈黙する。

「正直・・・俺は今までに、ああいう『質』の声は聞いた事がない。憎みもなく、怒りもない・・・ただ純粋な殺意のみで構成された声など」

本能を直撃する爆撃のような声。理性も何もあったものじゃなかった。あの声を聞いて恐怖しない者など、いはしまい。

「同じく。そして俺達にだけ聞こえたというのは・・・ねえ。やっぱり人柱力に対してのみに発せられた声なのかね」

「恐らくはそうだろうな。現状、砂の方に動きは無いが、他国の人柱力に関しての事は、五代目火影が動いてくれているらしいから。

五代目の動きに追随して、俺達も調査を始める事になるだろうが・・・」

「そうか・・・でも、あれは何だったんだろうな」

「情報が足りない今、俺には分からないとしか言いようがないが・・・」

何ともいえない危機感が消えてくれない、と2人がため息をつく。

「・・・お前達がそれほど迄に怯える、声か・・・どういう声だったんだ?」

「ん・・・そう、何て言うか・・・殺気ってあるだろ?」

「ああ」

「あれを煮詰めて煮詰めて抽出して濾過して蒸留したような声・・・殺意の結晶っていうの?」

「ああ、それに近いな」

頷き合う2人を見て、テマリがため息を吐く。

「まったく、次から次へと・・・」

「本当にね・・・」

テマリのため息に同調して、メンマがため息を吐く。


「こうなれば・・・今日はもう飲むしか!」

「ええ!?」

「あら、こんな所にお酒が」

と、紙袋から酒を取り出すメンマ。

「賛成じゃん! 明日は久しぶりの休みだし!」

その銘柄を見た瞬間、カンクロウが尻のネギをスポンと放ち、起きあがってはしゃぎだした。

直後、「恥ずかしい事をするな!」とテマリのドロップキックを喰らって吹き飛んだが。

「これは・・・確か、銘酒“乱れ雪月花”?」

俺でも聞いた事のある程に有名な酒だ。かなり高額なものだと聞いたが・・・

「そうそう。前に自来也からがめたヤツでさー」

借りを返してもらう代わりに、らしい。悪党の表情を浮かべながら言うメンマが、どことなく怖かった。


とくとくとく。酒が流れる音がする。


テマリが持ってきたグラスに、酒をそそいだあと、それぞれがそのグラスを取る。


「お、いいグラス使ってんね。・・・それじゃあ、かんぱーい」

「・・・お、うまいじゃん!」

「・・・確かに。これは凄いな」

「ああ、確かに。初めて飲むが、酒とは美味いのだな」




確かに、美味かった。美味すぎた。

・・・それが良くなかったらしい。




そこから先にあった事はあまり覚えていない。



何故かカンクロウがテマリの鉄扇の上で転がっていたのは覚えている。

テマリが赤い顔をしながら「いつもより多く回していまーす」と笑いながら、クロアリの中に入り込んだカンクロウを風で包み込み、回転させていた。

ナルトが「流石はエアマスター・・・!」とか言っていたが、意味が分からなかった。

というか腕がカクカク動いて気持ち悪かった。それを見ていたナルトが「ゲッダン~」とか歌い出したが、それも訳が分からなかった。




そして何事かを愚痴りあったのは覚えている。

「キューちゃんがさ~」とか愚痴るナルトのヤツが、急に自分の頬を殴りだしたのは驚いた。本格的に酔ったのだな、と聞くと「あー、まあそんな所」と苦笑していた。

次に俺は好きな人が居ないのか、とか聞かれたので、そういうのはいないが気になっているヤツはいると答えた。

凄い驚かれた。テマリとカンクロウに。

テマリは「赤飯、赤飯を炊かないと!」とか言い出した。酔っているのだろう。そっと忘れる事にした。

カンクロウは「いいなー彼女。いいなー・・・俺、いっつも戦化粧してるから女の子にもてないんだよなー」とか愚痴り出した。酔っているのだろう。

「いっそ男前な意味での化粧はどうだ?」とかナルトに言われていたが、「想像したが、キモイな」とテマリに断言されて、凹んでいた。今はあっちでずっと鳥のささみを毟っている・・・兄に幸あれ。

ナルトは「あー分かる分かる。俺も今までずっと流浪の日々だったし、木の葉に着いても正体もあんま明かせなかったから、縁なんて無かったし・・・って痛い!? キューちゃん何すんの!?」

と、呟きの途中、また頬を殴りだした。酔っているのだろう。



それから数時間後。酒を飲み干した後だ。

カンクロウは床に大の字になって寝ている。テマリとナルトは少し話があるらしい。向こうの部屋へと行った。


俺も、天井を見上げながら眠りにつこうとしている。




(馬鹿騒ぎだったが・・・・楽しかったな)


目を瞑り、眠りに落ちる寸前、呟く。


(夜叉丸・・・俺を愛してくれる人はいたよ)


家族に共に生徒。縁の名前に違いはあれど、それは暖かい縁。

絆という名の、縁の環。

もちろん、恨みで繋がる縁もあるだろうけど。


(顔を見たこともない母さん。俺はこれから頑張るよ)

繋がっている以上、何処かで分かり合える時が来ると思うから。例えそれが許されなくても。

ただ、憎むことは止めようと思った。憎しみからは何も生まれないと、誰よりも知っているから。



(だから、全てを愛そうと思う)


人となり、人と共に人として生きる為に、力を振るい、この里にいる人を守ろう。隣にいる人を守ろう。


故に我、人を愛す修羅。


力を使って、愛する人を守る。修羅と呼ばれようとも誰かを憎まずに、人を愛せるようになる。

“力は所詮、手段に過ぎない”

そう、教えられたから。そう在りたいと思うから。

もっと大事なものが其処にはあると、そう思うから。



---答えは無い。

未だ見つかっていない。

それはきっと、この道の先に有る。



故に、俺は行く。過去を振り切って、ただ前を見つめながら。



(・・・・だから)




さようならとの別れの言葉を告げて。




俺は眠りに落ちた。

















---悪夢はもう、見なかった。












[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の2 ~テマリ~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/22 16:23
※オリジナル設定あり。無理な方は飛ばして下さい。





~テマリ~



「で、話って?」

移動した先の部屋。

2人は、テーブル越しに対面する形で椅子に座った。

話を聞こうと切り出したナルトに、テマリは深く頭を下げる。

「まずは礼を言う。4年前のあの時・・・私たちを助けてくれてありがとう」

「・・・いや、まあ、成り行きだったし、気にしなくても・・・」

「でも、助けられたのは事実だろう? ・・・っと、そういえば、何でお前はあの時私たちを助けてくれたんだ?」

「いや、先に遭遇したのは俺の方だったし。俺が原因で、そして俺の目の前で誰かが殺されるのを見てるだけっていうのはちょっと、ね」

「それだけの理由で? 暴走した守鶴と対峙しようと決めたのか?」

「それで十分。それに、完全には暴走していなかったしね。完全体にも成っていなかったし」

「ああ・・・」

その言葉に何か思うところがあるのか、テマリが少し考え込む仕草を見せる。

「そういえば、もう眠れるんだな、我愛羅のヤツ」

「ああ・・・木の葉崩しが終わって、少し経った後でな。バキが言っていたよ。眠れるようになったのは、人柱力をコントロールできるようになった証拠だ、とな」

でも悪夢に魘されているようで、と心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトは笑いかける。

「優しいなー。俺もそんな心配をしてくれる人が居たら・・・って痛いってばよ、キューちゃん」

「・・・どうしたんだ、いきなり?」

「いや、何でもない」

「急に口調は変わるし・・・何か、病気でも持っているのか?」

心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトはありがたやありがたやと拝みだす。

「ほんまに優しい、ええ娘や・・・」との呟きを聞いたテマリの顔が、少し赤くなる。

「や、その、だから・・・お、恩人だから心配するのは当たり前だろ?」

両手を前に突き出しながら違うと動かすテマリ。

かわええと思うナルトだったが、一つの言葉に引っかかったのか、椅子に深く座り、俯きながら呟きだす。

「・・・恩人、ねえ」

そして、沈み込んだ表情を浮かべる。テマリには見せないようにしながら。

「どうなのかなあ。確かに、助けたっていうのはあるんだけど」

酒を飲みつつ、言葉を続ける。

「そんなつもりで助けたんじゃ無いんだよなあ。だって卑怯じゃん、それって。恩を売るために助けたわけでもないし・・・」

「ナルト?」

テマリの呼びかけに顔を上げ、何でもないからと返し、頭を抑える。

「・・・いかん、酔ってるな、俺。しっかしテマリは結構酒強いよな」

さっきは酔っているように見えたけど、と聞くナルトに、テマリはああ、と頷きながら返す。

「私は、回復するのは早いんだ。とはいっても、シラフの時と比べたら十分に酔ってるけどな」

「へえ、ということは結構飲んでるんだ」

「ああ・・・まあ、飲みたい事が多かったしなあ」

「そうだねえ・・・カンクロウも、そうなのか?」

「ああ。まあ、色々と見てきたしな。我愛羅の事も、死んだ四代目風影の事も・・・」

「でも、カンクロウの方も、我愛羅に結構歩み寄ろうとしてるみたいだったけど」

「話を聞かされてからはな。我愛羅も以前と比べればかなり落ち着いた状態になったし・・・元々、嫌いという訳でも無かったんだろう」

「我愛羅の方は気づいてるのか?」

「何となくはな。まだあの子は人の機微に疎い」

「浮世離れしてたって事か・・・それは、ひょっとして、自動防御する、あの砂のせい?」

文字通り、殻だろうあれは。

「ああ。あの事件があった夜。・・・まあ、内容は流石に言えないけど・・・あの夜以来、自分が傷を負う機会が完全に無くなったからな・・・他人の痛みが分からなくなったのかもしれない」

「自分が傷つけられる事も無かったもんね。他者の存在も、自分の存在も、明確に実感できなくなったのかもしれないな」

「それも、お前に殴られてから変わったよ・・・というか、話には聞いたけど、ほんと正面から殴りに行くとはな・・・」

あの時もそうだったがと呟きながら、その光景を思い出したのかテマリの顔が赤くなる。

「ああ。なるべくは、人を傷つける時でも、拳かクナイか、直接手に感触が伝わるようにしてるんだ」

殺す時は絶対に、と呟き、手を見る。

「嫌いというのもあるけど、あの感触を忘れたらいけないと思うんだ。そうしないと、変わってしまいそうだから」

止めを刺す時には必ず、拳かそれに類するものを使う。

「自分も、痛みを感じる方がいい。それを忘れると、本当のクズになってしまいそうだから」

そういいながら酒を煽り、グラスを置く。

「俺は所詮、こんなもんだ。結局は誰かを傷つける事が出来る男だ。だから、恩人とかそんな大層に言われるような存在じゃあない」

「でも・・・今まで、何人かを助けてきたんじゃないのか?」

「誰かを傷つけてな・・・自分のために」

それに、助けられなかった人も居る、とポツリ呟く。

「それは、誰だ? 木の葉の関係者か?」

「いや・・・まあ、とある昔にあった、情けない男の話だから」

言いたくないと首を振るナルト。

「そうだな・・・」

「だから、さ」

「うん?」

「恩人とか、そういうんじゃなくて。何て言うか、こう・・・」

ナルトが手を差し出す。

同時、何を思ったのか、テマリの顔が赤くなる。



わたわたと慌てるテマリに、ナルトは告げた。



「そう、友達に成ってくれないか?」


テマリはずっこけた。


『いや、それは無いわー』とか、『・・・この鈍ちんが』と誰かの声が聞こえた気がした。




テマリは何とか床から起きあがり、言葉を反芻する。


「と、友達?」


「そう。テマリってラーメン好きなんだろ?」

「ああ、まあ」

「だから、友達。正直言えば、男前にラーメン全種を食べ尽くした姐さんに少し惚れました」

喜んでいいやら旅立っていいやら~と、頭を抑えながら叫ぶテマリ。

「でもあの時言えなかったんだけど・・・」

「な、何?」

乙女の期待が高鳴る。

「あの時、笑った時ね・・・」

「あ、ああ」











「葱が前歯に挟まっていたんだ」


言えなくてゴメンと頭を下げるナルト。



「・・・・」




テマリは黙って横に倒れた。




「あれ、どうしたの・・・て痛いよキューちゃん!? 何、デリカシー? 何か言ったか俺・・・って痛い!」


自分の頬を乱打するナルトと、倒れるテマリ。






カオスだった。












いっそ殺せ・・・とか、どうしたらいいんだ・・・とか、呟きながらも立ち上がるテマリ姐さん。

漢である。

「こういう時、どんな顔をしたらいいのか・・・」

「・・・笑えばいいと思うよ? ってちょっと待ってストップストップ」

鉄扇に手をかけたテマリをどうどうと言って落ち着かす。

駄目だ、笑顔は今禁句らしいとナルトは悟った。

「それで・・・今、お前の横にはうちはサスケと・・・他に誰がいるんだ?」

「霧の抜け忍、再不斬に白。音の抜け忍、多由也」

「・・・色々とカオスだな」

「まあ、各員に共通点はあるけどね・・・今は留守番しつつ、修行中ってとこ」

「うちはサスケか・・・以前も見たが、やはり才能はあるのか?」

「うーん、はっきり言って天才だね。基礎がしっかりしてきた今、余計にそう思う。戦闘センスが段違いだし、戦えば戦う程に強くなると思う」

「そうなのか?」

「戦いながら技を開発する術にも長けているしね。出来れば実戦を経験させておきたいんだけど」

「・・・抜け忍に任務を斡旋する組織があると聞いた。そこに、任務を斡旋してもらったらどうだ?」

テマリの不意の言葉に、ナルトは驚愕の表情を浮かべる。

「・・・びっくりした。テマリ知ってるんだ、あの組織、『網』の事を」

「これでも風影の娘だったからな。弟2人があの調子だし、知っておかなければならない事は山ほどある」

「そうなんだ。“網”・・・その成り立ちについても、聞いた?」

「ああ。忍界大戦の落ち忍と、少しチャクラが使えるヤツらに任務・・・とは言っても、道の整備とか畑の開拓とかを斡旋する組織だろう?」

「そう。忍界大戦時、色んな所で戦いが起きたせいで、自然のバランスが乱れた所があったからね」

表向きは、といってもそれも裏の顔となるが、その復旧を補助する組織だ。

「その責任を負うべき立場にあった忍び達も、自分たちの勢力を早く取り戻そうと、躍起になってたからね」

国力回復というか、里の力を回復するのが優先であった。

「中途半端な血継限界も持たない奴らを追う余裕が無かったからな・・・とある人物がそれを纏めて、今の組織になったとか」

「負い目が有る分、黙認されているようだね。山賊になられるよりはマシだと考えたのかな? それに、ある程度は里側にも釘を刺されているようだし」

荒らすだけ荒らすまま里に帰っていった忍者達を見て、里の外の人間がどういう感想を持ったのか。想像するに堅くない。

「でも、無茶はしないみたいだけどね」

外部に秘密を漏らせば、必ずと言っていいほど追ってが差し向けられる。戦争と、里の暗部の冷酷さを知っている抜け忍達も、迂闊な事はしないと聞く。

「まあ、里との間との小競り合いは絶えないが・・・頭がやり手なんだろう、各国の有力者とも裏で取引をして、何とかだが存続を保っていると聞いた」

つぶすべきだという声もあるが、抑えが無くなると困ると言う声もある。

一枚岩でない組織だし、いろいろともめ事とかあるらしい。

「裏の組織だけど・・・まあ、お約束通りに、裏の仕事も持ってるから・・・潰されると困るマフィアとかヤクザとか居るんだろうね、きっと」

ガトーとか、ああいった種類の人間が必要とするのだろう。

「しかし・・・ずいぶんと詳しいな」

「一時期だけど、任務を斡旋してもらってましたから」

「・・・成る程」

テマリは納得したとばかりに頷く。

確かに、幼少時に里を抜けた・・・というか、追い出されるような形で外に放り出されたナルトが、実戦を経験するには、それしか手が無かったのだろうと納得した。

互いに、それ以上は何も言わないし、詮索もしなかったが。

「まあ、本来ならば存在さえ許されない組織なんだけど、無くなっても色々と困る点があるのは・・・まあ、否めないね」

忍び5大国って、任務依頼料が基本的にくそ高いし、と肩をすくめる。

「・・・耳が痛いな。だが、その組織に本当の面は割れていないのか?」

確か、『うずまきナルト』は指名手配されている筈だが? と訪ねる。

しかも特A級首である。オラ何にも悪いことしてないのに、というが、結構な事をやっているのである。あと、存在が存在なだけに、賞金クラスも高くなっていたのだ。

「それはほら、あの特製の変化の術だよ」

「・・・便利な術だな」

「ほんとにね。あれが使えなかったらと思うとぞっとするよ」

その場合、今以上に窮屈な日々を送る事しかできなかっただろう。


「そういえば、話は変わるけど・・・マツリって誰? どんな娘?」

ああ・・・と頷き、テマリは説明を始める。

それを聞いてナルトは大きく頷き納得したとばかりに手を叩く。

「あの時、助けた娘だったんだ・・・どうりで」

記憶にない娘だったと、ナルトは心の中で呟く。

「ああ。少し頼りないが、心の優しそうないい子だ」

「成る程ねえ・・・・世界が違えば、人も組織も違ってくる可能性があるってことか」

白もそうだったし、と呟く。

「こりゃ、情報収集を続ける必要があるな」

ため息を吐くナルトに、テマリは首を傾げる。

「そういえば、我愛羅から聞いたが・・・」

「うん?」

「お前の夢は、世界一のラーメン屋になる事じゃなかったのか? どうして、戦いに身を投じる?」

「ああ・・・そのことね」

説明し辛いんだけど、と腕を組んで考えるナルト。

「最初は成り行きだったけどね・・・ほら、あの声、あったでしょ? あれがどうも引っかかるんだ」

「そんなにか?」

「そう、何か・・・放っておけば、全て終わってしまいそうな・・・そんな予感がする」

何もかも終わってしまいそうで、と虚空を見上げ呟く。

「放っておいて・・・もしそうなったらと思うとね。怖いし、落ち着いてラーメンを作れないし。それに、お客さんが死んだら、誰にラーメンを食べてもらう?」

「そういう事か。でも、それほどまでに怯える必要は無いと思うが」

それに、そんな化け物が居るならば、噂になっている筈だろう? とテマリが訪ねる。

「まあ、準備はしておくに越したことはないよ。俺は神様なんかじゃないからね。出来る事は、来るべき事態に備えて、用意しておくことだけだから」

これからの展開は読めないし、と呟くナルト。

「目の前に映る人ならば助けてあげたいし、今隣に居る人を失いたくないし・・・そんだけだから」

と、一気に酒を煽る。グラスを置いた後、テマリを見つめながら告げた。



「だから別に夢を捨てた訳じゃない」


子供みたいな笑みを浮かべ、断言するナルト。


その笑顔につられ、テマリもはは、と笑みを浮かべた。


それを近距離で見たナルトは、指をパチンと鳴らしてはしゃぐ。


「今の笑顔! 綺麗! ナイスショット! いやー、今のは写真に収めておきたかった」

歯を見せた男前な笑みもよかったけど、今みたいな綺麗な笑みも素敵! とか身をくねくねしだす。大分酔っているようだ。

というか、今の一杯で危険度域まで達したようだ。限界突破である。

「・・・!?」

ナルトの不意打ちの言葉に、テマリ顔が爆発したかのように赤くなる。


「いや~、さっきのバスタオル姿も色っぽくて良かったけど、今の笑顔もイイ・・・ってあれ、姐さん? どうして鉄扇を持ち上げて震えてらっしゃる?」


目の前のテマリを見ながら、首を傾げるナルト。



「・・・っ、っつ!」


その眼前に、リンゴのように真っ赤な顔をしたテマリ。鉄扇を持ち上げながらプルプルと震えている。


喜びと怒りと恥ずかしさがミックスされた感情。それが何なのか分からないが、


”取りあえず今は目の前の男をぶっ飛ばす事だろう”という結論に達したようだ。傍目で見ていれば、『何故そうなる』という思考の帰結だ。



そして、もう1人。油に火を注ぐ達人が居た。


ナルトが緊張した空間の中、場を決定する致命的な言葉を吐きだしたのだ。



胸を凝視しながら、頷き、言う。




「・・・うむ、多由也と同等・・・いい胸してますね!」

サムズアップをしながら、朗らかに笑った。




普通にセクハラな発言をするナルトに、乙女の怒りの一撃が叩き込まれた。




「この、馬鹿!」




砂隠れのとある家の中に、鉄扇が頭にめりこむ音が響き渡った。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の3 ~サスケと多由也~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/23 19:42
樹上、2つの影が交差する。


同時、鉄同士かぶつかりあう、甲高い音が森に響き渡る。


それを幾度。繰り返され、やがて2つの影は地上に降り立つ。




「・・・!」

影の傍ら。写輪眼を携えた忍び。

うちはサスケが相手方へと突進する。

そして、迎撃の構えを見せた相手を見つつ、突進を止め、横へ跳躍する。


そして樹にへばりつく。足底に纏わせたチャクラで吸着し、相手の出方を警戒しながら、上の方向へと少し移動する。


そしてまた跳躍。繰り返し、高速で相手方の頭上を往復する。


サスケは飛び回る自分を捉え、警戒態勢を維持し続ける相手の姿を見ると、懐の忍具を取り出す。



「はっ!」

そして、飛び立ちながら投擲する。


縦横無尽に飛び回りながら、クナイと手裏剣を放つ。


四方八方から、鋭利な切っ先をもつ鉄塊が飛来する。

だが敵は焦らず、事もなげに手に持ったクナイで全てを弾き飛ばす。

高速で飛来する物体を目視し、チャクラで肉体を活性させ、一瞬のうちに幾十ものクナイによる斬撃を繰り出す。

修練の末身につけた、熟練の技である。


「ちっ!」

それを見せつけられたサスケは、舌打ちを放つ。

その直後であった。



「!?」

相手が飛び上がり、自分に追随してきたのは。

一瞬で近接され、高速の拳が放たれる。

だが、それは捉えている。腕で防御しながら、後ろに飛び衝撃を逃がす。

「・・・!」


その拳の威力に押され、同時に後方に飛ぶ。

身体が宙に舞った。

そのまま何もしないままだと頭から落下するような体勢。だがサスケは空中で回転して、頭ではなく両足で着地する。


そして警戒。


程なく、追撃が来る。


目に捉えたのは、直線の軌道で迫り来る拳の乱打。
                                         ・・・・・・・・・・・・
それを写輪眼で捉えて、チャクラを纏わせた腕で弾く。そう、防御するのではなく、弾く。本命の一撃に備えるために。


「・・・っ!」

そして、腕が引かれる。同時、その反動で繰り出された回し蹴りがサスケの身に迫る。

常人が受ければ、内臓が破裂するような威力を持つ蹴り。初撃は牽制で、こちらが本命である。先の拳に気を取られていれば、こちらの蹴りを避けきることはできなかっただろう。

だが連携を読んでいたサスケは、跳躍する事で回避を敢行。同時、身を捻らせ、飛び後ろ回し蹴りを相手の頭部に放つ。


衝撃。


顔を捉えた衝撃ではない。蹴りは、片腕だけでしっかりと止められていた。そして、空いている方の手が自分の蹴り足を掴む。

強烈な力で締め上げられる足。サスケはその痛みに絶えながら、全身のバネを活かして身体を持ち上げる。

足を軸に力を込め、相手の頭上へと身体を移動させる。

直後、先程まで頭が在った位置を、相手の蹴りが通り抜ける。


「はあっ!」

そして、掴まれていない方の足で蹴りを繰り出す。相手は掴んでいた腕を放し、両腕で頭部を防御する。

サスケの方は、その蹴った足に力を込めて後ろに跳躍。


また、距離を開ける。

そして着地した。だが、その時である。




「くっ!」


足の痛みに気を取られ、少し体勢が崩れた。

そして、相手はその隙を逃すような甘い存在ではなかった。


瞬時に間合いに入り、追撃。


サスケは対応に一歩遅れてしまう。

その一歩を丁寧につめ、やがて連続して繰り出される体術。

精密な猛攻は徐々にサスケを追いつめる。


距離を開ける事もできないサスケは焦りだし、やがて決定的な隙を作ってしまう。


詰めからの一撃。王手を思わせる拳の一撃が、サスケの腹部を直撃する。



「・・・ぁあっ!」

腹筋を締めることは間に合ったものの、威力が威力であった。後方へ吹き飛ばされ、背中が樹の幹へと叩きつけられる。


打たれた腹部と、打ち据えた背中。

一瞬、呼吸が止まる。そして回復したと同時に動き出そうとするが、目の前に立つ相手の姿を確認する。


終わりだった。



「俺の勝ちだな」

模擬戦の終わりを告げる声。

再不斬がサスケを見下ろしながら、口を開いた。


「・・・ああ、俺の負けだ」

サスケは不機嫌そうに舌打ちしながら、自分の敗北を宣言した。








早朝の朝練が終わった後、サスケは隠れ家へと戻る。

「ただいま」と告げた後、居間へと入る。

そこには、多由也が用意した朝食が並べてあった。

「・・・帰ってきたか」

サスケが帰ってきたのを察知したのか、台所から多由也が出てくる。

マダオと白に新しく買ってきてもらった服。

赤い髪の女性によく似合う服を知っていたマダオと、サイズを知っている白が選んだ服だ。

その上にエプロンを付けていて、まるで主婦のようだった。

加え、以前よりずっと柔和になった表情。そして吊りながらも、以前とは違う、澄んだ瞳。



今、朝食を作り終えたのだろう。赤い髪を後ろで束ねている。

サスケはその姿と、少し見えるうなじを直視した後、少し顔を赤くしながら返事する。

「・・・ああ。朝練は終わりだけど」

髪の方を見るサスケ。多由也は今気づいたとその髪を触る。

「ん? ああ、今作り終えたところだから・・・」

外すかと呟きながら束ねている髪に手をやる。そして髪を纏めていた紐をそっと外す。

髪の毛が解かれ、すっと重力に引かれ、下に落ちる。

「・・・で、今日も負けたのか?」

やや落ち込んだ表情を浮かべていたのだろう。サスケの顔を見た多由也が、率直に訪ねる。

「ああ・・・」

「ま、そうだろうな」

音に聞こえた霧の鬼人。

ナルトにも聞いた。出逢ってからまた修行を重ねる事で、更に力を付けたと。

体術が売りの大刀使い。その冴えは今や世界でもトップクラスの域に達しているだろう。

「でも、何合かは打ち合えたんだろ? 大した進歩じゃねえか」

「まあ、そうなんだけどな・・・」

多由也の仕方ないという言葉を聞いても、サスケの表情は晴れない。どこか、焦っているようにも見えた。

「・・・じゃあ、ウチはこれで。今日は結界の調子を見回らないといけないから。」

だが、それは自分で解決する問題だと判断した多由也。さっと席を立って、台所へと戻る。

「食べたら下げておいてくれ。夕方に戻ってきて、すぐに洗うから」

「ああ・・・ごちそうさま」

「早いな、お前」

食べ終わり、食器を下げるサスケ。


そして再び居間へと戻ると、包みを持った多由也の姿があった。


「ほら、これ。弁当」

包みが手渡される。


「中身は?」

と思わず聞いてしまったサスケ。直ぐ後、「俺は子供か」と思ったのだろう。顔が少し赤くなる。

多由也はそんなサスケをからかうように笑みを浮かべ、中身を告げた。


「お前の好きな“おかか”のおむすびだ」


この前の詫びも兼ねて作った、と頬をかきながら言う。


「・・・・」

確かに、自分の好物だ。あの白米とおかかのコンビネーションに適うものなどいるのかと、サスケは常々そう思っていた。

梅干し派のナルトとの抗争は小一時間に及んだ程だ。

その第一次おむすび大戦だが、白の鶴の一声によって終戦とあいなった。

「このおむすびを見なさい。全てを内包するこの母性の極みとも言えるおむすび。その中に入っている具・・・いわばその子供の事で争うなど、あってはならない事ですよ」

綺麗な微笑みを浮かべながら言う白の姿。その背中に後光を見た。その場にいた全員が泣いた。


ちなみに九那実さんは「ならばそれを更に包む、稲荷寿司は全ての頂点に立つ存在じゃな?」

とその場の空気完全無視な発言をしていたが、胸を張るその姿と鼻の頭にくっついている御飯粒、その絶妙のコラボレーション。ナルト曰く“蕩れ”クラスの至高の可愛さによって、全ては許された。

可愛いは力だと、そして正義だと知った14の夏だった。サスケは少しだけ大人になった。


・・・「空気読め」と呟いたマダオ師は九連の狐火によってあの空の向こう側まで吹き飛ばされていたが・・・それはまあ、余談である。




思わず話が脱線してしまったが、何が言いたいかというとサスケはおかかのおむすびが大層好きだった。前の8行、完全に無視である。

おかかと聞いてにやりと笑ってしまうサスケ。その顔を見た多由也がぷっと笑う。


「・・・・!」


多由也の笑い声が聞こえたのだろう。サスケの顔がまた赤くなる。


「あはは、じゃあな」


軽快に笑いながら、多由也は部屋を出て行った。



「・・・まいったな」

サスケは、頭を抑えながら恥ずかしそうに呟く。


「まいった」

これだけで頑張れそうだ。そう思った自分に呆れる声を出す。



「・・・今日も、頑張るか」


午前は基礎訓練。それからは、再不斬と白との連携術の訓練。

以前から暖めていた術だが、そろそろ実戦に使える練度まで鍛え上げなければならないだろう。


「行ってきます」

サスケは勢いよく訓練場へと走り出した。










そして夜。帰ってきた多由也と白で、再不斬の好きな料理を作った。

再不斬の好物は白から聞いていたらしい。鮎の塩焼きと、だし巻き玉子。

それを食べている途中、無表情を装おうとしている再不斬のその姿を見た全員が、笑いをこらえようと肩を振るわせていた。



思えば、最初の頃とは印象がまるで違う。

サスケと多由也は語る。

最初に見た時は、凄いヤクザ顔でほんともうどういう人なんだろうと。

サスケは特に、波の国での一戦があったので、緊張していた。


だが、日が経つに連れ、その認識は変わっていった。

遅刻しないし、修行はちゃんと見てくれるし、文句も言わずに相手をしてくれる。アドバイスも的確だった。本人曰く、『任されたからにはやり通す』だそうだ。何故だが涙が溢れた。

カカシとは大違いだ。

風呂に入っている途中、サスケが再不斬にそう告げると、何ともいえない表情をしていた。ちなみにそれを聞いていたナルトは爆笑していた。

マダオ師は憤懣やるかたないという表情を浮かべていた。

・・・遅刻はやっぱり駄目らしい。駄目駄目らしい。当たり前だが、感覚が麻痺していた。雨の中3時間待ち続けたあの日を思い、涙を流した。そういえば、あの同志達は元気にしているのだろうか。

とまれ、あれが普通だと思っていたと再不斬に言うと、直後「俺はあんなヤツに・・・」と呟きながら凹んでいた。


あと、ナルトから聞いた情報だが、というか見ていて分かるが、実は白の尻の下に敷かれているらしい。

2人は即座に納得した。というか、今更的な感があった。時たま起きるロマンス空間は正直見ていられませんと首を振りながら。




総評として抱いた感想。

基本は真面目。敵には容赦無いが、味方側にはそうでもない。


纏めてみると、割と普通の人だった。

・・・酒盛りの席ではそれが特に際立った。

「きゃっほー! まっゆなし! まっゆなし! ところで白とはどこまで行ったの? 対流圏? 成層圏? ・・・それとも、熱圏?

きゃー、熱っつーい! 恋の摩擦で焼け死ぬわー! 周りの目という重力など、ロケットみたいな情熱力で振りほどくんだね! 一直線でぶっちぎるんだね! ・・・何という純粋で一途な、悲しい機械!」

顔を真っ赤にしてまくしたてるナルト。

・・・正直、とてもうざかった。


後日、「最近マダオ師に似てきたぞお前」と伝えると凹んでいた。未だにあいつらの関係が掴めない。


ちなみにマダオ師だが、「白ちゃんにセーラー服をプレゼントしたいんだけど・・・いいかな?」

と、再不斬に真顔で詰め寄っていた。その手の中には、純白の聖衣があった。

答えは簡潔だった。

「死ね」

その後はいつもの光景。

大刀を振るう再不斬と、逃げる2人。白が微笑みながらそれを見ていた。

ちなみに、九那実さんは一心不乱に稲荷寿司を食べていた。あまりにも一生懸命で、声がかけられなかった。

そしてそのほっぺたに御飯がついていたのだが、それを見た多由也が口を押さえながら顔を真っ赤にして、「・・・かわいいな」とか呟いていた。


・・・どうやらこの口調だけど、可愛いものはとてもとても好きらしい。

俺はそう理解した。


酔った勢いで、素直にその事を伝えると、顔を真っ赤にしながら「クソネズミが!」と怒鳴られ、殴られた。

理不尽だと思う。



「女心って難しい」と呟くと、暴れていた3人がこっちに近寄ってきて、もの凄い勢いで同意してきた。そして肩を叩かれた。

・・・・向こうで笑みを浮かべている白と九那実さんの笑顔が怖かったのはここだけの話だが。




そして、一緒に過ごし始めて数ヶ月。

再不斬の真人間っぷりを理解した2人は、その再不斬に対して尊敬の念さえ抱いていた。

周りが周り故に、まともにならざるを得なかったのだと。そう悟されたから。



まあ再不斬本人も、気兼ねなく接してくるナルトとマダオ師に対して、悪い気分は抱いていないのかもしれないが。

何しろ、あの顔だ。少年期は大層荒んでいたと聞くが、それも顔が原因だったのかもしれないと・・・白が酔った勢いで語っていた。

どこまで本当かは分からないが、妙な説得力があった。これからはまゆなしさんと言うことは止めようと誓った2人であった。


ちなみに白に対しての感想だが、2人結論は同じ。

綺麗だし、基本的に優しいんだけど、怒らすと誰よりも怖いというか・・・まあ、再不斬一直線で再不斬ラヴなのは分かるけど。

ちなみに2人は白の事を心の中で『白の姐さん』と呼んでいた。








「思えば、変な関係だよな・・・・」


温泉に入りながら、空を見上げ呟く。

今日は快晴だった。秋の最中、やや澄んだ空気が夜空を照らしている。

見上げると、満点の星空が広がっていた。



「まったくだな」

問うわけでもなく零れ出た独り言に、答える声。

衝立の向こうから声が聞こえた。


多由也の声だった。



「というか、変なヤツだらけだな。この家は・・・皆、優しいが」

「まあな」

と同意し、笑いあう。


「考え方というか、思考が大人なんだよな。一体どういう人生を送ってきたのか・・・」

「まあ、色々とあったんだろう」

俺達と同じくな、とは心の中で付け足す。

互いに、それなりの過去を持っているのは分かっていた。だが、今はだれ1人としてそれを口に出そうとはしない。

今が大事だと、過去の相手と付き合う訳ではないと理解していたからかもしれない。

「あと・・・今日は、弁当美味かった」

「・・・どうした? 変なモノでも喰ったか?」

と、からかうような多由也の声。

「いや・・・っていうか、お前の作ったもの以外食べてないよ」

「・・・いや、そうか。それもそうだな」

衝立越しに会話を続ける。

「お前、本当に口が悪いよな。何か、親がそうだったのかあるのか?」

サスケが訪ねる。多由也はうーん、と呻き、何かを思い出すような声をだす。

「いや、下忍に成り立ての頃・・・女だから舐められないように、って事で始めたんだと思う・・・・大蛇○の周り、男だらけだったしな」

「やっぱり・・・そういう趣味があるのか? あのオカマ」

「いや、ウチは良く知らんけど」

知りたくないし、と首を振る多由也。水が跳ねる音と同時、温泉の水面に波紋が広がった。

「そういえば、結界の方はどうだった?」

「問題なし。いや、凄い出来だし、一応の見回りだったからな」

結界術の知識に関してだが、ナルトとマダオを除けば多由也が一番詳しい。そういう術を重点的に修行していたらしい。

「結界の整備に、家事食事か」

忙しいな、とのサスケの呟きに、多由也は笑って返す。

「逆に、ウチでも手伝える事があるってのが有り難いよ。手持ちぶさたじゃなあ・・・在る意味で、居心地が悪くなっていただろうから」

ナルトもそうだけど、マダオ師も大人の考え方が出来るよな、と呟く。

・・・持ったことも無いし、全く知らないが、父のような兄のような存在。そして、恩人だ。それを伝えると少し嫌がられたが。

恩を売るために助けたわけじゃないと、そう言っていた。その話に加え、夢とか音楽の話を聞いた多由也は、尊敬の念で2人を見ていた。

ちなみにキューちゃんは、哀れな・・・と呟いていた。少し嬉しそうだったが。


「・・・例の、笛の練習は?」

「ああ、順調だ。術は一つだけだけど、完成した。明日にはあの3人が隠れ家に戻ってくるらしいから、その時に聞かせるよ」

「・・・・」

「大丈夫だって。前のような事には成らないから」


『俺達ユートピア事件』

誰にとっても、忌まわしい記憶しか残さなかった、凄惨な事件である。

特にマダオ師の混乱が激しく、「次は腰ミノを着けながら!」と訳の分からない事を叫んでいた模様。

その傍ら、ナルトが多由也に向かって「あれは素だから心配しないで」と告げていた光景。

サスケは思い出して、笑った。シュールだった。まあ、俺達も十分に・・・

「いや・・・」

思い出したくないのだろう。サスケが急に話題を変える。

「今、口調が少し女っぽかったぞ」

「そうそう。少しづつ直していってるんだ。隠れ家の外に出るときだけど、色々と直す必要があると言われたから」

「・・・ああ、そういえば、屋台を持って全国武者修行の旅に出るとか言っていたな」

「売り娘を手伝うしな。代わりに、そのラーメンを食べに来たお客さんに笛を聞いて貰えるから」

「感想でも聞くのか?」

「それで見えてくるものもあるだろうしな。独りよがりの音を奏でるつもりはない」

多由也はサスケの問いに、力強く答えた。

「そうか・・・」

「ん? 何だ、まだ落ち込んでいるのか?」

「まあな。俺は本当に成長しているのかどうか・・・」

周りがあれ何で、実感が沸かないと呟く。

そして、何気ない仕草だったのだろうが、封邪法印で封印されている呪印を撫でる。

「もしかして、呪印の力を使おうとか考えているのか?」

「・・・」

「止めた方がいいぞ。そんな力、あったって良いことなんて一つもない」

「だが・・・」

「ナルトとマダオ師にも言われたんだろ? お前が目指す者は憎しみを積み上げたぐらいで成せるものなのかって」

「・・・」

「それに、そんなに便利なものじゃないぞ、呪印・・・大蛇丸とか、カブトとかが、自分に呪印を刻んでいないその理由を考えろ」

「・・・確かに、そうだな」


頷き、衝立に背中をもたれさせるサスケ。


「本当の目的すらも見失うぞ。その気は無くたってな。だから、今のまま頑張るのが一番良いよ」


多由也は衝立に背中をもたれさせ、星空を見上げながらその向こうにいるサスケに対して質問する。


「お前も、あの言葉を聞いたんだろ?」

「ああ・・・」




「「意地を見つけたのなら、その意地を貫き通せ・・・善いとはただそれだけだ」」


2人の言葉が響き渡る。



「九那実さんも言っていたよ。人の意地とは大したものだってな。化け物には無い、人だけが持つ立派な剣だと」

「そうだな・・・」

少し、焦っていたのかもしれない。そう呟いたあと、サスケは多由也にありがとうと返す。


「そうだったな。力に使われるのも、力が持つ運命に囚われるのもまっぴらゴメンだと・・・そして、選んだんだったな。忘れていたよ」


「・・・まあ、私もそうだったから、強くは言えないんだけどな・・・」





衝立越しに背中合わせになりながら、同じ星空を見上げる2人。




互いに抱く気持ちは同じだった。




それはかつて、ナルトが思った事。選んだこと。




自らの意志を恥じぬなら。

力持つ存在に媚びぬなら。

そして、運命とやらに抗うと決めたのならば。




同じく、やり直す機会を得た2人

その心に宿る意志は同じだった。


「多由也は、本当に音楽が好きなんだな」

「ああ。好きだ」

「明日、聞かせてくれるんだよな?」

「あの3人が帰ってきたらな。色々と、曲の案についても聞いてるし」

「・・・なんか、意外だな。あのナルトが?」

ラーメン命と思っていたが、と呟く。

「音楽も好きらしい。特に歌が好きだそうだ。自分を奮い立たせるには基本麺だが、食べられない時は謳っていたらしい」

少し前に聞いたんだ、と肩をすくめる多由也

「1人、森の中で修行している最中だけど、静かに謳っているのを聞いた」


確か、こういう歌詞だと多由也が歌い出す。


夜空の下、多由也の声が響き出す。

光が無くても、歌は歌える。夜にあって尚、歌は響く。

誰にもそれを止めることはできない、誰もが持っている偉大な力だという。

声ある者ならば、誰もが持ち得る、人が生み出した偉大な力という。

1人だけでは持ち得ない、誰かと一緒にいて始めて理解できる、最強の力だという。

相手を害するだけの力ではない、本当の力というものを謡った歌だった。


「・・・」

「・・・」


抜け忍に混ざって任務をこなしていた時代。

その任務につく前に、必ず歌っていたらしい。自分の弱さに負けないようにと。


「・・・あいつも、色々とあったんだろうか」

「そうだな。色々とあったんだろうな」



少しの沈黙。

そして立ち上がり、温泉から出る2人。



「・・・明日も早いし、もう出るか」

「ああ」






2人は、より一層頑張ることを決めた。

俺も、ウチも、意地を通すと。絶対に負けてなんかやらないと。

2人同じ思いを抱きながら。








[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 1
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/31 02:43


風が。風が吹きすさぶ。
モノクロの荒野の上、折れた矢と持ち主のいない剣の残骸がそこかしこに散乱していた。
兵共の後である。生死の残骸が、ばらまかれていた。
だが何もかもが居なくなったその中、まだ生きている人間達が居た。



その誰もが疲れ果てた顔をしていた。
弱音を吐きながら、今までの旅、その辿ってきた道程の全てを否定する言葉を吐く。
しかし、その中の1人だけは、まだ諦めてはいなかった。


「・・・道はあります。信じるのです」


膝をついていた姿勢から、言葉と共に立ち上がり、その行く先を見据える。

「しかし、姫」

「・・・諦めないで」

弱音を重ねようとした従者の1人に振り返り、凛とした表情を浮かべた姫はその眼差しのように強い言葉を重ね、見つめる。

「姫・・・」

一言。だたの一言で。空気が変わった。

風雲姫の言葉に気圧され、呟きを洩らす従者達。



その緊迫した空間

横合いから、突如笑い声が差しこまれる。



年を重ねた。そしてその年月の全てを、悪にのみ注いだ、そんな声だ。



一行の行く先の前、その荒廃した城壁後の上に、白髪白髭の老人が現れた。

「風雲姫よ。そなたらはこの先に行くことなどできんのだ」

「魔王!」


構えを取る一行。やがて始まる戦い。

魔王と呼ばれた老人の一括の直ぐ後。荒野に倒れていた死体が突如起きあがり、その眼光を白く光らせた。

その手には、各に武器が握られている。

一行へと襲いかからんと整列を始める鎧の兵士達。

そんな中、高みから全てを見下ろしている魔王、その最後の言葉が宣告される。


「諦めろ、観念するがいい」


絶対絶命の窮地。その上に更に重ねられた命令するかの如く一言は、しかし風雲姫の心を折ることは出来ない。


魔王に背を向けたまま、従者達へ語りかけるように言葉を発する。


「私は諦めない。この命ある限り、その全てを力に変え」


荒れ狂う暴風の吹く荒野に長い髪を靡かせながら、振り返り、告げる。



「必ず道を切り開いて見せる!」



やがて吹き出すチャクラの光、白黒の世界にあって鮮やかに、七色のチャクラが風雲姫の全身から溢れ出す。

「行こう」

「俺達もチャクラを燃やすんだ!」

風雲姫の勇気とそのチャクラを眼前に見せられ。奮い立った3人の従者達は、互いに顔を見合わせ、姫の元へと集結する。

『笑止!』

それをあざ笑う魔王が、手に持つ杖を回転させる。

地面の岩を吹き飛ばす、強大なる竜巻の塊。雄叫びと共に、その先から荒れ狂う暴風が放たれた。


『はあああああ!』

だが、その暴風は4人には届かない。

七色に輝くチャクラが、その暴風を消し飛ばしたのだ。


虹の奔流、その中央に立つ風雲姫。その美貌を見て、サスケは息を飲んだ。

「ああああああ・・・!」

やがて、風雲姫の雄叫びと共に、虹色のチャクラの砲弾がその前方に放たれた。


その奔流は、暴風を消し飛ばし、魔王を吹き飛ばした。

虹はその勢いを弱める事なく、前方の空へと突き進んでいく。

そしてその勢いのまま、空を覆う黒い雲の壁を突き抜けた後である。


空が、光りを発した。

何も見えなくなる。




やがて、光が収まった後。

「おおおお・・!」

観客が感嘆の声を上げる。

前方の空の彼方には、本物の虹の橋が掛かっていたからだ。


風雲姫と3人の従者は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合う。

そして、手に持つ剣を悠然とした動作で持ち上げ、次に行くべき場所。



いかなければならない場所を指して、言う。











「さあ、行きましょう・・・・あの虹の向こうへ」




立ち塞がる者全てを吹き飛ばし。



そこに行くのだ、と力強い声で、風の雲の名を持つ姫は、歩き出した。



















小池メンマのラーメン日記

 SASUKE ~大乱闘!雪姫忍法帳~












時は、昨日まで遡る。




「・・・富士風雪絵?」





ナルトから告げられた、今回の護衛任務の対象となる人物の名前だ。

サスケはその名前を自らの口で反芻しながらも、首を傾げる。


「・・・え、もしかして知らないのか? ほら、あの『風雲姫の大冒険』に出演していた女優だよ。あれはシリーズの一作目らしいけど、結構な話題になっただろ」

と、ナルトは説明をつけ加える。

「・・・ああ、映画の名前だけなら聞いた事があるが・・・」

その女優の事はよく知らないと答えるサスケに、ナルトはため息を吐く。

「その映画の主演女優を務めた、結構な有名人なんだけど・・・もしかしてサスケ、映画を見たことないのか?」

「・・・ああ、無いな」

サスケは少し考えた後、眉間に皺を寄せながら頷く。

実はサスケ、『風雲姫の大冒険』どころか映画自体、一度も見たことが無かったのだ。

それもそのはず。うちは一族が滅びたあの事件が起きるまでは、兄さんに追いつこうと、毎日修行をしていた。
事件が起きた後も同じ。復讐のため、自らの牙を研ごうと、以前より修行に割く時間は多くなっていった。
真実を知り、木の葉を出るという転機が訪れてからは。修行の日々は相変わらずだが、それ以前の問題だ。
人里そのものと縁が無かった。そんな環境では、映画など見られる筈もない。

「・・・仕方ないな。明日、依頼人と会う約束をしているんだが、その約束の時間は夕方だ。幸い、それまでに時間はあるから、一度映画を見ておくといい。いまいち反応が薄かった多由也、白、再不斬もな」

サスケと同じく、よく知らなかったようだ。

「依頼人がどういう人なのかを知っておいてくれ」

何かの役に立つかもしれないからな、とナルトは肩をすくめる。

「しかし・・・よくそんな任務が回ってきたな。有名人の護衛、下手すりゃAランク任務じゃねえか・・・以前聞いた“網”という組織、それほどまでに力があるのか?」

「五大国ほどは無いよ。でも、今はちょっと緊張状態にあるからね」

五大国でも最大の勢力を持つ、木の葉隠れの里のトップ、火影が代替わりした。加えて砂隠れのトップである風影も今は不在だ。

何が起きても即応できる体勢を保持しておきたいらしい。

「それに、依頼人の方がね。木の葉隠れには頼みたくないそうで・・・」

網の任務仲介人・・・通称エージェントの情報だ。内容は聞いていないが、どうもそういう素振りを見せていたらしい。

「で、実際の所。お前は今回の任務の事、どう思ってるんだ?」

何か裏はありそうか、との再不斬の質問に、ナルトは深いため息を吐きながら答える。

「あるだろうね。というか、俺が受け持つ任務で、裏が無かった事なんて・・・」

言葉の途中、ナルトはマダオの方を向いて、「あったっけ?」と尋ねる。

「記憶にございません」

その問いに、マダオは笑顔で返答する。

「そうだのう・・・毎回毎回、なぜだか事態がどんどんと大きくなって・・・」

哀愁を漂わせながら、キューちゃんが呟く。その視線の先にいるナルトは、慈母すら思わせる笑みを浮かべながら、ただ一言呟いた。

「大丈夫。裏があると最初から知っていれば、そうショックも受けないから」

それが、特異点の運命だ、と笑う。「ネオ・グランゾンていうか白河博士連れてきて誰か、誰かー」と切実に呟いていたが、誰も反応できなかった。

「取りあえず、だけど」

今までの任務と事件。様々な彩り溢れる過去を振り返ったナルトは、1秒で全てを諦めた。

「成るようになるさ」

サムズアップしながら、告げる。

もの凄い開き直り。最早、悟りの境地である。第3の目でも開眼したのか、ナルトは仏様のような笑みを浮かべながら告げた。

「と、いうことで。最低Aランク、段階的にSランク任務になるかもしれないけど」

みんな、その時の覚悟だけはしておいてね? と言いながらも朗らかに笑うナルトに、一同は沈黙を首肯を返す事しかできなかった。







そして、時間は現在にまで戻る。

映画館を出て、近くの空き地へと集合した7人。

昨日の会話を思い出し、ぼうっとしていたサスケを見ていた多由也がどうした、と話しかける。

「あ、ああ。すまん。考え事をしていた。で、何の話だ」

「いや、そろそろ依頼人の元へと向かうってよ」

「はーい、注目。ちょっと今から依頼人に会いに行くから・・・」

注目するみんなを見た後、ナルトは各員に指示を出した。

「キューちゃんは俺の中に戻って。マダオはそのまま、外に出たままでいい。再不斬は俺とマダオと一緒に依頼人の所へ・・・っと。そのまま“再不斬”じゃあ、不味いよな」

“桃地再不斬”という名前をそのまま使うのは不味いだろうと、俺はは首を捻らせる。

「じゃあ・・・ジェット・ブラックでよろしく」

微妙な表情を浮かべながら言うナルトに、再不斬はため息を吐きながら答える。

「・・・まあ、いい。響きは悪くないしな」

その言葉の後、黒だしと呟いたが、その場にいた全員は聞こえない振りをした。

「あと白はいつもの名前ね。桃。多由也は・・・“クシナ”でよろしく」

「ちょっ、おまっ」

マダオが騒いでいるがナルトは無視して言葉を続ける。他の5人はマダオが焦っている原因が分からない。

「まあ、私もいいよ。響きが良いし、綺麗で覚えやすそうな名前だし」

承諾する多由也。マダオは少し引っかかった表情をしていたが、多由也の褒める言葉を聞いた後はうんうん頷き、やがて仕方ないかと呟いた後納得した。

「サスケは・・・まあそのままでいいか。この世界じゃあよくある名前だしな」

「・・・そうだな」


裏の世界で、『サスケ』と名乗っている抜け忍は多いらしい。

ナルトが実戦経験を積む為に、傭兵みたいな仕事を受け持っていた頃にも、よく聞いたという。

“うちは”の姓と続け、名を呼ぶことさえしなければ、ひとまずバレる事はないだろうとのことだ。

変化の術を使っているため、その点はぬかりないといえる。


「・・・まあ、十全な隠蔽とは言えないけど、取りあえずはこれでいいか。何か気づいた事があれば、俺に言って下さい。都度、対処致しますんで」

それじゃあここはひとまず解散、と言いながらナルトはポケットに手を入れる。

「じゃあ、サスケ、多由也、白は3時間後にここに集合ね。あとついでに、昼飯代を渡しておくから」

集合場所の地図と、3人分の昼飯代を受け取ったサスケはそれを確認した後、首を傾げた。

「・・・これ、金。随分と多くないか?」

昼飯代で使う平均の金額の倍はある、と質問してくる。

サスケの質問に、ナルトはああ、と言いながら答えを返す。

「町に出て、買い食いでもしてきたら? 依頼人との話、どんなに短くても2時間はかかるだろうから。気晴らしに町に出てみるといいよ。集合する前に何かあったとしても、俺達でフォローするから」

任務に入ってからはそんな事もできなくなるだろうしね、と肩をすくめながらナルトは話す。

サスケは少し悩んだ様子を見せた後、頷いた。

「・・・分かった。多由也と白はそれでいいか?」

「ああ、いいぜ」

「はい。でも、再不斬さんはナルトさんについていくんですね」

「ああ。初対面だからね。依頼人を安心させたいし」

見た目もそれっぽい雰囲気も持っている再不斬だ。一緒に居れば、それだけで効果があるとナルトは苦笑する。

「こういう任務はね。案外、第一印象って馬鹿にならないよ」

特に、俺達のような抜け忍にとってはね、とナルトは苦笑を返す。


5大国の忍びならばその里のネームバリューもあるし、それまでの実績による信頼感も抜け忍組織とは段違いなので、そのような信頼に対する心配は要らないかもしれない。

が、ナルト達のようなはみ出し者は違う。組織の権威はあれど、信頼の重きは個人の見た目による場合が多い。

その中で信頼を得ようとするためには、第一印象が特に重要となるのだ。



信頼を得るためには色々と必要なものがあるが、外見と言動は特に大事な要素だ。

これはナルトの経験談だが、依頼人との初対面時、“頼りない”や“抜けている”などの負の方向の印象を持たれてしまうと、後々の任務の遂行にも、影響が出てくる場合が多い。

依頼人に「信用ならん!」と怒鳴られた後、代わりの者を呼べとか訳の分からない事を言われた事もあったらしい。

自分が狙われているという事に対しての危機感が薄いのか、依頼人が護衛の者に非協力的になってしまい、結果余計な所に気を遣わなければならない場合もある



だから、再不斬とマダオを一緒に連れて行くのだと、ナルトはみなに説明する。

再不斬は力。マダオは頭。

それぞれの方向において非常に優れている。

「せっかくの機会だしね。初っ端でとちる訳にもいかないから」

説明の結の言葉を聞いたサスケが、反射的に言い返してくる。

「俺達じゃあまだ役不足って訳か」

少し険のある声。

「そういうこと」

ナルトはサスケの言葉に即答を返した。

そして時刻を確認すると、空き地の出口の方へ歩いていく。

「そろそろ、依頼人の所へ向かわないと不味い」

それじゃあね、と歩き出す。


少し不満顔を見せるサスケを背に、ナルト達は依頼人の元へ向かった。












「まだ怒ってんのか?」

町中の、ラーメン屋の中。みそラーメンを食べながら、多由也はサスケに対して声を掛ける。

「怒ってねえよ」

「怒ってるって。ほら、眉間に皺が寄ってる」

多由也が自分の眉間を指さしながら、茶化すように言う。

「さっきの、ナルトの言葉のせいか? まあ現実実際そうなんだから、しょうがねえだろ」

多由也の言葉を聞いたサスケは、今以上に眉間に皺を寄せながら手元のおにぎりを食べる。

「もしかして、怒ってるわけじゃない、とか?」

その隣、稲荷寿司ときつねうどんを食べている白が、サスケに訪ねる。

多由也はそれを聞き、反芻した後そういうことかと言葉を発した。

「もしかして、今更不安になってんのか?」

「・・・」

図星だったのか、サスケは言葉を返さずに、黙ってお茶を飲む。

「大丈夫ですよ。あの3人に、お墨付きもらったんですよね? そう不安になる事もないと思います」

「いや、でもな・・・」

はっきりしない。自信が持てないのだ。以前つ比べ、自分はずっと臆病になったとサスケは思う。

負けることを知って、信じる事を知った。でも、今自分は弱くなっているのではないか、そう考えてしまう時があるのだ。

多由也にはよくある事だと苦笑されたが。

「修行は目一杯やったんだろ? なら、あとは腹を決めるだけ。今できることは、腹一杯メシを食う・・・食べるだけだ。食事を取るのも重大な任務の一つだからな」

腹が減っては戦は出来ないから、多由也は笑う。

その笑顔を見て、サスケはそうだなと同意する。あの地獄の日々を思い出し、精神状態を整える。背骨たる基礎はしっかりと鍛えた。嫌と言うほど。

とりあえずの落ち着きを見つけたサスケは、ふと白が食べているものに目がとまり、それを訪ねる。

何ですか、と首を傾げる白。

その手に持つ稲荷寿司と、置かれているきつねうどんを指さし、サスケは訪ねる。

「それ、どっちも油あげだよな。九那実さんと同じで、お前も好きなのか? 油あげ」

「いえ、これはですね。今度ナルト君が作るラーメンの資料用にちょっと」

「・・・もしかして、きつねラーメンとか作るのか?」

「そうみたいですね。以前、キューさんと一悶着あったようで」

その時の様子を、白が説明する。







『笑止! うぬは所詮そこまでの男よ!』

『・・・聞き捨てならないな。俺の麺に対する情熱が、全然足りていないだって?』

『そうだ! 何故お主はきつねラーメンを作ろうとしない?』

『いや、だからそれは邪道で・・・』

『だぁかぁらお主は阿呆なのだ! 挑戦もせずに、やる前から邪道と決めつけて、それで良いのか? 

自らの内のみで世界の枠を決めつけ、囚われているだけの小さい男だったのか・・・お前は!?』

『俺が、小さい…?!』

『そうだ。何故やる前から諦める。何故挑もうとしない。いつものお前なら、言っている筈だ。“邪道?はっ、俺の麺に邪道なんてねえ!”とな』

『…!』

『留まるな、ナルト。お前らしく、走って見せろ。その先にあるものを目指して・・・!』

空を指さすキューちゃん。その先には、太陽が映っていた。

『眩しい・・・でも、俺には・・・』

『お前ならやれる。私はそう信じている。他の誰ができるのだ。お前以外の、誰か!』

膝付くナルトの肩に手を置き、キューちゃんは優しく語りかける。

『・・・俺、俺・・・俺、やるよ! キューちゃん!』

『ああ!』

2人、空を見上げる。その先にある、太陽を見つめ、いずれは其処に辿り着いてやる、と。

そう、お日様のような、キューちゃんの笑顔を求めて---!







「と、いうことがあったんですよ」

「何か、途中から話がおかしくなってないか?」

サスケが呟く。

「微妙に、論点のすり替えがあったような。いや、でもキューさんがそんな事できるわけないしな・・・」

多少はましになったものの、キューちゃんのおつむの方はそれほど賢くもなっていない。

基本、食べる、遊ぶ、寝るしかしてこなかったので、仕方ないといえば仕方ないと言えるが。

その事を聞いたナルトは、「お化けには学校も試験も無いんだよ、きっと」と頷いていた。

「誰かの入れ知恵か・・・・はっ!」

「どうしました?」

「いや・・・」

サスケと多由也の2人は微笑む白からさり気なく目線を逸らし、顔を寄せながら話し合う。

「白って結構策士だよな・・・」

「マダオ師もだけどな。というか、何故そんな事を・・・ってそうか」

白も、キューちゃんの極上の笑顔を見たいのだ。それが故の行動だと、多由也には理解できた。

「やっぱり、白も女の子だし可愛いものが好きなんだよ、きっと」

顔にはあまり出さないけどな、と話す多由也。
サスケは今の言葉の中にあった“も”という部分に突っ込みを入れたかったが、逆に拳を突っ込まれそうだと思い、自重した。
賢い選択である。

「・・・何か、失礼な事考えてねえか?」

「・・・ん、やっぱりおかかのおにぎりは最高だな」

半眼になりながらの多由也の問いに、サスケは話題の変更を試みる。

「そういえば、サスケ君はおかかのおにぎりが好きなんでしたっけ」

「ああ」

それに、白が乗ってきてくれた。サスケは心の中でガッツポーズを決める。

「そうなんだよ。で、この前弁当でおかかのおにぎりを作って渡したんだけどな。こいつ、素直な反応を返さないでやんの」

「・・・まあ、嬉しい! とか、感激! とか言っているサスケ君は想像し辛いですね」

白の呟きに、2人は肩を振るわす。想像してしまったようだ。

「まあ、感謝されるために作ってる訳じゃねえけど。こっちとしては、こう・・・あのキューさん見たいなストレートな反応が欲しいっていうか」

それだと作った甲斐があるってもんよと頷く。

「まあ、ストレートですもんね。キューさんは」

ストレート過ぎて破壊力も凄いと白は笑う。

「・・・本人曰く、『何故嬉しいという感情を誤魔化さなければならんのじゃ?』らしいけどな」

サスケが苦笑を返す。そういう感情を隠す事が分からないと言う九那実の、その時の顔を思い出して。




(前よりは、素直になったつもりなんだが)

サスケは心中のみで呟く。

誰かに教えを請うなんて事は、何時ぐらいだったか。

いや、教えてくれてはいた。だが、肝心のサスケの方が、それを素直に受け入れていなかったのだろう。

それなりに修羅場を潜ってきたナルト、再不斬。

そして実際の戦争を経験し、本物の地獄を潜り抜けたというか本当は死んでいるのだが、四代目火影であるマダオ師の教えは深く心に響いた。

押すだけが戦いじゃない。戦術に拘るな。思考を固めるな。
基本的な事なのだが、実体験を交えて説明されるそれは、大きな説得力を持っていた。実際の窮地に立った場合での話なので、臨場感に溢れている説明は、深く頭の中へと刻み込まれた。


『皮肉なものだけどね。死を前にして初めて、人は強くなるんだ』

戦場は難問の連続らしい。間違えた場合、支払う掛け金は命。
だが、その分得るものも大きいと。
命を失うかもしれないという、危機感が人を成長させるのだと教えられた。



その点でいえば、自分の今置かれている環境は恵まれていると思えた。
荒唐無稽な人格だが、非常に優れた師である。そう認識できた。

同い年であるナルトがあれほどまでに強いその理由が分かった気がした。

そして、教えを受け手数ヶ月。

サスケの成長は早かった。ナルトとマダオ師も言っていたが、サスケ自信もそう思っていた。
1人でやっていたのが馬鹿らしく思える程に、自分でも急速な成長をしていると見て取れたからだ。

(それに・・・)

サスケが心の中で呟く。
可能性が変わった事も関係しているのかもしれない、と。

自分にはまだ取り返せるものがあるという事を知ったからかもしれない。
そして、そこに辿り着くために。

(まずは、この任務をこなす)

お茶を飲みながら、サスケはこの任務に対しての覚悟を決めた。






「まいどあり~」

会計を済ませた3人。店を出た後は、目的もなく町の中を適当に歩いていく。

そんな中、多由也がサスケに話しかける。

「そういえば、サスケ。さっきの映画だけど、お前凄い面白そうに見てたよな」

「・・・そうですね。スクリーンを前に、目を輝かせていましたもんね」

思い出したのか、白が同意する。2人のからかいの言葉に、サスケは少し頬を赤くして答える。

「そんなに、顔に出ていたか?」

サスケの問いに、白は微笑みを浮かべ答えを返す。

「出てましたよ・・・まあ、気持ちは分かりますけどね」

「凄いよなあ。特に、風雲姫。ウチ、途中からだけど完全に魅入ってたよ」

「あれが今回の護衛対象なんだよな・・・」


雑談を交わしながら、3人は町の中を進む。

「そういえば多由也、お前最近修行とかしてたっけ?」

「まあ、体力が衰えないように、ちょっとな。動かないままっていうのも、チャクラコントロールが衰えていくだけだし」

体術の方も、基本だけはやっていると答える。健全な肉体に健全なチャクラは宿るそうだ。

一理ある、とサスケは呟く。笛の術の事もあるのだろう。

サスケの言葉に、多由也は説明を補足する。

術の研究やその他の事に専念し、根本である身体の能力が衰えてはチャクラコントロール技術も鈍ってしまい、逆に成果を得られなくなるらしい。

「適当に術の方も使ってるしな」

「・・・術? 結界術はまあ使わないとして、5行の術の・・・そういえばお前、得意な術なんだったっけ」

「・・・そういえば言ってなかったか。土遁だよ。あそこに居た時は親衛隊、つまり護衛の任務を主としていたからな」

「土遁ですか・・・何か、イメージと違いますね」

「お前等はイメージ通りだけどな」

サスケは火遁と雷遁。白は主に水遁で、同時に風遁も使える。その血継限界から、氷を使った秘術も扱える。

「あの2人も、そうだな」

サスケがキリハとナルトの事を思い出し、呟く。あの2人が得意なのは風遁。恐らくだが、マダオ師もそうなのだろう。イメージ通りだと言える。

「キューさんは火ですか」

「ああ。主に火らしい。前に、無印で発動できるあの術の原理を聞いてみたけど、感覚的に扱っている所があるから、説明しずらいとも言っていたが」

以前、サスケがその術をコピーしてみようと写輪眼を発動したが、我愛羅の砂の術の時と同じで、全然コピーできなかった。

人の扱う五行の術とは、根本的に原理が違うらしい。

「再不斬は・・・まあ、別の意味で水だな」

「そうですね」

水の厳しさというものを表しているように感じる。実は真面目な所とか。

「その点でいえば、多由也もイメージ通りだけどな」

「・・・土臭い女って事か?」

半眼で睨む多由也に、サスケは真顔で否定する。

「いや・・・料理が上手いし、しっかりしてるし、実は母性的な一面を持っている・・・・とか、何とか」

考え込みながら言葉を並べていく途中、素に戻ったのだろう。何を言ってるんだ俺は、と首を振り出す。

対する多由也は、「あ~」とか気まずそうな声を上げた後、顔を背ける。その首筋がほんのり赤くなっていた、

何でしょう、この空気、と白が呟く。何とか空気を変えないと何かがいけなくなると思った白は、前方にとある店を発見し、2人に話しかける。

「あ、あの店・・・すいません、アイスを買っていいですか?」

白の言葉にびくっと反応した2人は、店の方を見るとどうしようか考え出す。

「・・・ウチも欲しいな」

アイスは久しぶりだ、と喜色満面な顔を浮かべる多由也。

「お前、甘い者が好きなんだな」

俺はいいけど、と言いながらもサスケは店の方向へと歩き出した。

財布を持っているのは自分だ。ここで財布を渡して買ってきてというのも違う気がする。

(マダオ師も言っていたしな)

女の子には優しく。そして日頃世話になっている人には、何か別の形で返す事。

その言葉を思い出したサスケは、行動に移したのだ。

「いらっしゃい」

「おっさん、アイスを2つくれ」

「はいよ」

代金と引き替えに、手渡されるアイス。

店の外に出たサスケは、待っていた2人に両手のアイスを手渡す。

「ありがとうございます」

「ありがとよ」

「毎度あり・・・って坊主~」

店主はにやけ顔を浮かべながら、サスケの肩を叩く。

「おめえ随分と色男じゃねえか~、こんな可愛い娘を2人も連れてよ」

不意打ちとなる店主の言葉に、サスケは慌てて否定の言葉を返す。


一方、多由也は「2人・・・?」と呟いていた。どうやら、昔から今にいたるまで、そんな言葉をかけられた経験がないようだ。

訳が分からないという表情を浮かべている。


ちなみに今の多由也は、活発的な服装をしている。

帽子は被っておらず、伸びた長髪を後ろで一つに纏めている。赤髪のポニーテールだ。

服は黒のTシャツに、白の素朴なジャケット。胸元は開いている。あと、動きやすいように、下は黒のスパッツをはいている。

開かれた胸元に見えるのは、14の少女という年齢を鑑みればそれなりに大きい2つの大自然の象徴。

音忍時代はサラシを目一杯、これ以上ないという程にきつく巻いていたそうだが、マダオと白の提案から今は動きの邪魔にならない程度のきつさで巻いている。


ナルトがいう隠れ巨乳の秘密はここにあった。

前隠れ家を脱出する時にあった、あのやりとり。

ナルトが怪我をしている多由也を背におぶったのだが、怪我の治療のため、通常時ならば巻かれていたそのサラシは、その時に限っては外されていたのだ。



全体的に細いが、出るところは出ている多由也の姿を見て、サスケの顔が少し赤くなる。

表情も、1年前のそれとは一変しているらしい。サスケは見た事が無かったのだが、以前は濁ったような、何処か諦めたような表情がその顔には含まれていたそうだ。

今は、しっかりとした芯を持っている女性が浮かべる顔。嫌味の無い強気な表情が現れている。

可愛いと言うよりは、綺麗。儚いというよりは、負けない。呪印で性格が変わる、その前の状態に戻っているのかもしれない。


一方、もう1人。白の方だが、こちらも同じようにナルトと出逢う前と比べて、浮かべる表情は随分と変わった。

儚さを思わせる顔は成りを潜めて、今はその心の優しさからにじみ出るような、柔らかい表情が全身に現れている。

身体の方も成長し、多由也のように胸は大きくないが、女性らしい丸みを帯びながらもほっそりとした体つきになっている。


「・・・何処見てんだよ」

「サスケ君?」

額に井の字を貼り付けた少女2人が発する言葉を受けたサスケ。


店主の指摘の後、2人の全身を見ながら物思いにふけっていたのだが、それが乙女の逆鱗に触れたらしい。

怒りを撒き散らすその姿にただならぬ威圧感を覚えたサスケは、その圧倒的な雰囲気に押されて一歩下がった。

ちなみに危険をいち早く察した店主はすでに店の中へと戻っている。振り返れど、その姿はもうない。

(あの店主・・・生きてこの場を潜り抜けられたら、覚えてろよ)

だがその前に、この2人の鬼をどうにかしないといけない。一歩一歩近づいてくる2人から後ずさりながら、何とか良い言い訳は無いかと思考を回転させる。

任務前に、とんだ苦境である。

(ええと。胸・・・って言ったら殺されそうだな・・・・・ん?)

その時である。

サスケは後方へと振り返り、耳を澄ませる。

店が建ち並ぶ広い道の向こう。

まだ遠くだが、こちらに向かって走ってくる馬の足音が聞こえた。

視線を白と多由也の方へと向けると、2人は頷きこの足音について話し出した。

「・・・先頭に1、それを追って・・・4、5、いや、もっとですね」

「チャクラは小さいな。全員が素人だぞ、恐らく・・・来た」

視認できる距離まで近づいてきた、先頭の馬を見て3人は驚いた表情を浮かべる。

「富士風雪絵?」

「それに、後方のは・・・あれ、映画で見たよな」

あの鎧姿は、先程見た映画の、その劇中に登場していたものだ。

「現状が把握できない以上、迂闊な事はできないな。追手は白と多由也で引き受けてくれ。気絶させればそれでいいと思う。俺は風雲姫・・・富士風雪絵の方を追う」

「了解しました」

「・・・分かった。でもどさくさに紛れて、風雲姫の胸とか触るなよ」

「触るか!」

「どうだか・・・よっと」


了解をした2人は、食べ終えた後のアイスの棒をくずかごに放り投げた。


視線を交わす3人。頷くと、サスケが号令を放った。


「散!」








「近いな・・・」

白と多由也と別れて数分。

サスケは風雲姫が乗っていた馬の足跡を辿りながら歩き続け、町の外れにまでやって来た。

「・・・いた」

河の横を走り、10数秒。馬の横、川縁で水の流れを見つめながら座り込む、1人の女性の姿を発見した。

まるで、名のある画家が描いた一枚絵のよう。圧倒的な存在感を持つ女優の姿が其処にはあった。

サスケは驚かせないように、わざと足音を立てながらその女性の元へと近づいていく。

驚かせて河に落ちられでもしたらコトだ。やがて、ある程度の距離まで近づくと、声を掛けた。

「・・・富士風雪絵?」

「・・・・」

サスケの声に反応するも、力無く振り返るだけ。

だが、その衣装、その美貌は先にスクリーンの中で見た、風雲姫のものだった。

サスケの呼びかけに返事を返す事無く、ゆっくりと立ち上がると、即座に馬へと駆け上がる。

「・・・っておい!」

間一髪。

横に避けたサスケの傍を、馬が駆け抜けた。


「・・・一体、どうしたってんだ」

スクリーンの中で見た姿とは、あまりにかけ離れているその姿。

困惑しながらも、サスケはその後を追った。



「・・・・」

馬上にて。風雲姫事、富士風雪絵は何の感情も浮かばせず、今見た少年の事を考える。

「撒いたようね・・・」

「誰をだ?」

答える者はいる筈の無い、問い。独り言に対しての、返答。

すぐ後ろから聞こえた声に、雪絵は驚いた表情で振り返る。

「あんた・・・?」

振り返った背後に見えたのは、馬の尻の上に悠然と立っているサスケ。

雪絵の疑問の声に、サスケはため息を吐きながら質問をしようとする。

「あんた・・・って危ない!」

前方、町の入り口の方。遊んでいる子供達の姿が映った。

「・・・・!」

手綱を引き、馬を止める雪絵。

それにより馬は確かに止まったが、余りに急な制動のため、馬は驚いたのだろう、前足を上げながら鳴き声を上げる。

「くっ・・・!」

馬の体勢に翻弄された雪絵は、そのまま馬上から放り出される。

近づく地面、来るべき衝撃に備えて目を瞑るが、その衝撃はやってこなかった。

その変わりに感じるは、自分を抱き上げる誰かの手。


「危なかったな・・・・」

「あんた・・・!」

安堵のため息を吐く少年の姿。だが、問題はそこではない。

「ちょっと・・・! 何処を触っているのよ!」

お姫様抱っこをされている姿勢で、雪絵が叫ぶ。普段には珍しく、声を怒りで染めている。

それもそのはず。

雪絵を抱き上げるサスケの手の一部が、その女性の神秘に触れていたのだ。

女性の中央に位置する、大自然を象徴する双子山。全てを包み込むその雄大さは、いかなる悪者をしても許してしまう。


かつて、マダオ師は言っていた。胸は良い。胸は歴史で、そして神秘だと。

胸は胸でそれ以上でも、以下でもない。でも、大きいに越したことないよね、とか。

白と多由也の白眼をものともせず語り続けるマダオ師の真剣な顔は、成る程4代目の火の影の名を継ぐに相応しい、確たる威厳に満ちていた。

隣ではナルトがうんうんと真剣な顔で頷いていた。でもでかすぎるのも勘弁な!とにかっと笑っていた。


ちなみに、再不斬は既に外へと逃げ出していた。経験の成せる技か、サスケには逃げる時の気配も姿も感じ取れなかった。

流石は無音暗殺術の達人。



そして、ナルトの一言・・・油に火を点ける行為が完遂されたコンマ数秒後、2人は九つに束ねられた紅蓮の炎が起こすその爆発に巻き込まれ、親指を立てたまま屋外へと吹き飛ばされていた。

サスケは、真っ赤な顔で荒い息を吐いている九那実嬢のナイムネ・・・・いや内心は如何なものだろうと思い、そっと涙を流した。

直後、サスケも殴られた。


九那実嬢曰く、“同情するなら胸をくれ”らしい。

その言葉に深く頷いた多由也も、腕をかじられていた。ざまあ。

(って現実逃避している場合じゃあない)

サスケは、首を振って唸る。覚悟して任務を受けたはいいが、こんな覚悟は持ち会わせてはいなかった。
というか、そんな覚悟を持てるのは変態だけだ。噂に聞くエロ仙人とか。そもそもそれは覚悟ではない。

現実に戻ってきたサスケはひとまずこの窮地を脱する方法を考える。
長い現実逃避を終えたのだ、次は、この現実を越えなければならない。

(よし)

まずは、現状を一言で要約しよう。話はそれからだと息巻く。
時間にしてコンマ数秒の思考。

その後、ようやく現況の分析に入ったサスケは、愕然とした。

思考に雑音が走る。解答が導き出せない。

それもその筈。

護衛対象のおっぱいをタッチしているのである。

サスケはこの状況を乗り越える知識を持たない。経験の差がここに出た。今ならばカカシを師と仰いでも良いかもしれない。

でも遅刻はやっぱりゴメンだ。


「・・・!」


静止を続けるサスケを尻目に、雪絵方は顔が真っ赤に染まっていく。
羞恥ではなく、怒りが故の赤であった。


「・・・・っこの!」

悲鳴は無かった。

静かな呼気と共に放たれた、閃光のような張り手が、ただサスケの頬に炸裂した。


乾いた音が、辺りに響き渡る。



そして、その場面を途中から見ていたものが居た。

護衛の者達を気絶させた後追いかけてきた、多由也と白である。


その光景の結のみを見て、2人は頷きあう。


胸を抑えて真っ赤になる護衛対象と、頬に紅葉を貼り付けるサスケである。




赤髪の鬼と黒髪の夜叉が、こちらを見て顔を青くしている少年を見つめながら、笑みを浮かべた。

ただ、目だけは一切決してこれっぽっちも笑っていなかったのだが。



サスケはその日、絶望を知った。






「どうも、すみません」

「いえいえ・・・」

今日の撮影の全てが終わった後。

楽屋の中で、依頼人である浅間三太夫と、変化したナルトが向き合っている。

顰めっ面をするマネージャーを前に、ナルトは先の出来事に関しての謝罪をしていた。

頭を下げるたび、身につけているコートが浮き上がった。


ちなみに今のナルトの外見は、顔は30代半ば、スーツの上にトレンチコートを着た探偵のような姿だ。むろん、変化の術である。

この姿は昔駆け出しの時代に使っていた姿で、同じ任務を請け負っていた抜け忍と組織の長からは、「土<アース>」の2つ名で呼ばれているらしい。

何でも、まだ下積みの時代信頼度を審査する段階で行われた、土木作業関係の任務を請け負っていた時に、伝説を作ったのが原因らしい。マグマ大使。

閑話休題。

謝罪と注意を終えた2人は、やがて席へと着く。

そこには、“風雲姫の大冒険”シリーズの監督であるマキノ監督と、やや年若い助監督。

そして富士風雪絵のマネージャーである浅間三太夫と、ナルト達6人の姿があった。

関係者が揃った所で、これからの事に対しての説明が成される。


護衛対象は女優、富士風雪絵。任務期間は雪の国で行われる撮影、その期間内。

「雪の国とは、随分と遠くまで撮影に行くもんだな」
多由也が不思議そうに訪ねる。

「ああ、完結編のラストシーンを、ね。その雪の国にある虹の氷壁の前で撮るんだ」
マネージャーの浅間三太夫さんのオススメでね、と助監督が説明をする。

「虹の、氷壁?」
「・・・ああ、確か、春になると七色に輝くっていう、あれ?」

マダオの説明に対し、三太夫がよく知っていますねと言いながら、説明を加える。

「ええ、完結編のトリを飾るシーンに相応しいと思いまして」

三太夫は糸目を崩さないまま、虹の氷壁と雪の国について説明を始める。


「・・・そうですか」

「はい」

笑顔を浮かべながら説明を聞いているマダオだが、少し様子がおかしかった。

その事にナルトは気づいていたが、今は話す事じゃないと依頼人との会話を続ける。

「で、その肝心の護衛対象ですが・・・」

「・・・申し訳ありません」

監督と助監督が言うには、雪の国にロケに行くことが決まってから、こうして撮影から逃げ回るという行動を取るようになったらしい。

仕事をすっぽかすような女じゃなかったとのマキノ監督の言葉を聞いたナルトは、マダオに対して視線を送る。


(・・・分かるか?)

(断片はね。でも、それも後で)


「そういえば、その雪絵さんはどうしたんですか?」

「ああ、撮影が終わったので1人で町に出ているらしい。サスケとジェット、2人が追ってるから・・・」

途中、言葉を途切れさせたナルトは、やがて応答が帰ってきたと同時、その場にいる全員に笑いかける。

「心配ない、だそうだ」









「・・・とは言ったもののな」

「する事が無いな」

表通りから少し離れた位置にあるバー。

その正面に位置する屋根の上に、サスケと再不斬2人の姿があった。

「・・・痛い」

頭とほっぺたを抑えながら、サスケは呟く。

「手ひどくやられたようだな」

再不斬が少しからかうような声を掛ける。

「思い出したくねえよ」

あの後、駆けつけた多由也を白が見たのは、自分の胸を抑えながら後ずさる富士風雪絵と、顔に紅葉を貼り付けたサスケの姿だった。

その経緯を話す間もなく、である。

まず多由也には思いっきりビンタされた。紅葉が2つに増えました。

白には何もされなかった。ただ、任務が終わったら・・・分かってますね? と綺麗に微笑まれた。

「何を分かればいいんだろう」

「取りあえずは女心だろう。俺も未だに分からんが」

「そうか・・・」

2人の間に、寒風吹きすさぶ。

そんな中、再不斬はふと考え込む仕草を見せると、サスケに話しかけた。

「・・・護衛対象から目を離し過ぎるのも不味いな。1人、至近で付いている方がいい」

「・・・もしかして、俺が?」

「他に誰がいる。それに、俺はどうもああいう女とは合わんからな」

再不斬の苦虫を噛みつぶしたかのような声を聞くが、サスケも眉間に皺を寄せて言い返す。

「いや、俺もそうだ。というか、先にやらかした件もあ「そうだ、先の失態もあるんだろう? 取り返してこい」」・・・

良い経験にもなる・・・かもしれないしな、と再不斬が言う。サスケは、ため息を吐いた後、分かったよと了承する言葉を返しながら、その指示に従う。

険のある表情を隠そうともしないサスケ。だが、離れ際に再不斬が放った一言によって、その険は取れることとなる。



「白も、怖いしな・・・」


サスケは再不斬のその言葉に成る程と言いながら頷くと、バーの中へと入っていった。


戸を開けると、そのすぐ先には、酒を飲んでいる雪絵の姿があった。

サスケはその近くにより、斜め後ろにある壁に背をもたれさせると黙り込んだ。

酒を飲んでいた雪絵はバーのマスターの訝しむような視線の先を追い、その先にあるサスケの姿を確認して、呟く。

「アンタ・・・」

「・・・護衛、だ」

バツが悪そうな顔をしたサスケ。雪絵は苦笑すると、酔った調子で手招きする。

「・・・何だ? っておい!?」

近づいた瞬間、雪絵のイヤリングから、なにがしかのスプレーが吹き出される。

挙動を察知したサスケは一歩後ろに飛び下がり、そのスプレーを避ける。

「痴漢撃退用のスプレーよ」

あんたにピッタリでしょうと言う雪絵の姿を見たサスケは、何ともいえないという表情を浮かべる。

スクリーンとは違う、其処には何かに疲れた女性の姿があったからだ。

「アンタ、酔ってるのか?」

「・・・そうよ、見て分かんない?」

「いや・・・」

サスケはその姿に、いや視線に含まれた感情を見て困惑を覚えた。何か、どこかでみたような、誰かの目。

「とにかく、俺は護衛だから」

「・・・分かってるわよ・・・」

呟きながら、雪絵は杯に酒を注ぐ。透明な酒が、小降りの陶器の中へと注がれる。

「・・・・」

音楽が流れる店の中、サスケは雪絵の背後にある席に座り、静かにその後ろ姿を見つめる。

(全然違うな・・・)

目の前に映る女性の背中を見て、サスケは呟く。自分が今日見た映画の中で目を奪われた、大女優富士風雪絵のその姿は無かった。


そして、時間にして十数分。音楽が耳を鳴らす中、小銭が置かれる音が店内に響く。

「・・・」

奥で飲んでいた客が帰るようだ。

やがて、店の奥にいた男は酔った様子で歩き出す。

(・・・・)

胸中、悟らせないように緊張を高めたサスケは、じっと動きを止める。

だが何事もなく、男はサスケと雪絵2人の間をそのまま通り、店の外へと出て行った。


(何もないか・・・)

緊張を解き、1人安堵するサスケ。

そして、ふと視線を上げた時である。



カウンターの奥にある照明を後光のようにした、富士風雪絵の横顔が目に映る。

雪絵は手元の杯を、何か悲しそうに見つめながら憂いの表情を零している。

そこには、様々な感情が見て取れた。

だが、表情を見るに、心中の大半を占めているのは、諦観が混じった悲哀。

劇中からは想像もつかない、雪絵の小さな背中を見つめるサスケは、そのように思えた。




サスケには何故か、富士風雪絵が声を殺して泣いているように見えた。

そして泣く代わりに酒を飲んでいるように見えたのだ。

(・・・いったい、何だってんだ・・・)

大女優が浮かべるような顔ではないだろう。

だが、目をこすっても映るものは変わらない。サスケの目には、相変わらずの富士風雪絵の姿が映っていた。


杯に酒が注がれる音。店内に流れる音楽。マスターがコップを布で拭く音。

薄暗い店の中、サスケはじっと動かないままでいた。

そんな途中、ふと外の気配を探ってみる。

(・・・再不斬の気配が無い?)

先程まではあった筈だ。気配を消しているのか? と思ってみたが即座に否定する。

サスケとて、修行した身。最初からそこにあるものとして気配を探れば、全く見つけられないという事はない。

だが、感じられる気配は皆無。


訝しむ表情をうかべた、その数秒後だ。

この店に入ろうとする者の気配を感知したサスケは、即座に立ち上がり、入り口の方を注視する。

が、その気配の主が分かったと同時警戒を解く。


「雪絵様!」

マネージャーの三太夫が店の中へと駆け込んできた。

2人は船に乗る、乗らない、役を降りる降りないで揉めに揉めている。




その背後には、ナルトとマダオと多由也、3人の姿があった。

言い合う2人から離れ、サスケの元へと近づくと開口一番でこう言った。

「お疲れ、エロ猿」

「・・・」

出会い頭の一言に、サスケが沈黙する。やがて、頭に手をやりながら、多由也に訪ねる。


視線を斜め前にそらし、すっとぼけたような表情で「へっエロ猿はエロ猿だろ」とか投げやりに言ってくる。

そこに、ナルトが説明をする。

「いや、俺としては最初はエロ河童にしようと思ったんだけどね。桃が、波の国の時のやりとりを思い出して」

「ああ・・・」

写輪眼と口には出さないまま、サスケはため息を吐く。

成る程、サル真似野郎とエロで、エロ猿ね。

「聞くところによると、最低接触事件前にもか弱き女性2人にセクハラを働いていたそうだね?」

最低接触事件とは先の女優の神秘に触れた事件を表しているらしい。

サスケは優しい笑顔を浮かべるナルトから目を逸らし、誤解だと呟いた。か細い声だった。

マダオはか弱い・・・と呟いていたが、多由也の笑顔を見た後、黙って一歩下がった。

そして背を向けた後、「違う、違うんだクシナ」とガタガタ震えていた。何か触れてはいけない所に触れてしまったらしい。


「・・・まあ、今はいいか。サスケ」

と、ナルトは合図を送る。

いい加減、船の時間だ。仕方ないかと呟き、多由也に合図を出す。

多由也は三太夫の名前を呼び、少しお話がと言いながら、三太夫の肩をすっと掴み、後ろに引かせる、

それと同時だ。

ナルトとマダオが三太夫とバーのマスターの視界を塞ぐ。

サスケは死角となった場所へ歩き、雪絵の方へと近づいていく。

「ちょっといいか?」

「・・・何よ」

面倒くさそうに振り返る雪絵。その目に、サスケの両眼が映る。

時間にして2秒。雪絵は写輪眼の催眠により意識を失った。起きたときは写輪眼の事を覚えていないように若干の暗示を掛けながら。

気絶し、倒れ込む雪絵の身体は、戻ってきた多由也によって受け止められた。


「行きましょうか」



出航の時間だ、とのナルトの言葉に促され、一行は店を出る。



「・・・戻ってきたか」

やがて、その場を離れていた再不斬と白が、一行に合流した。


船のある方向へと夜道を歩きながら、再不斬とマダオは2人だけ後ろに少し下がり、小さい声で話しをする。


「どうだった?」

「・・・クロだ」

2人が一連の出来事に関して話す。内容は、先程店から出ていった男の事だ。

屋上にいる再不斬に気づかず、店を出た後に怪しい動きをしていた男。

再不斬はそれを見て、こいつは何かあるかもしれないと思い、後をつけてみたのだ。結果はクロ。
夜空に向かい、通信用の鳩みたいなものを飛ばしているのが見て取れた。

夜でも使える伝書用の鳥である。

恐らくは口寄せの類で、特殊な生き物によるものなのだろう。
男は鳩らしきものを飛ばした後、人混みの中へと消えていった。
人が入り乱れている中、男の気配は何とか追えていた。だが深追いは藪蛇になりかねないし、船の出航時間の問題もある。

ここで尾行を続けるのは得策ではないと判断した再不斬は、ひとまず一行の元へと戻ってきたのだ。



「・・・ややこしい任務になりそうだな」

経験をふまえた上で分析し、再不斬は呟いた。マダオが同意する。


敵は十中八九、忍者。

平時でさえ忍者が相手に回る任務は、Bランク以上ろなる。護衛しながらと言うことは、少なくともそれ以上。

加え、相手は不明。
雪の国に忍びはいないと聞くが、それも分からなくなった。

護衛対象は有名人。厄介な任務になる事は明確だった。

一連の事を話し合った後、ため息を吐く再不斬。


マダオは、そんな再不斬に対し、笑顔で答えた。


「いつもの事だよ。普通、普通」

「・・・おまえら、一体どういう人生送ってきたんだ?」

「ごらんの通りです」

ひきつった顔を浮かべる再不斬とは対象に、マダオの顔は笑みを浮かべていた。
人間、どうしようも無い事に対しては笑うしかなくなるというが、これはその典型であろう。

ナルトの方もこっちを振り向き、棒読みでいえーといいながら親指を立てていた。同じ、笑顔である。




その胸中。ナルトは笑顔を浮かべながら、現状を分析する。

先の話でも、きなくさい所というか、うさんくさい所はあった。

マダオが言うには、雪の国には春がこないそうだ。
そして春になると虹色に輝く、虹の氷壁を撮りに行くという話。提案したのは浅間三太夫。これはマダオの推測だが、浅間三太夫は雪の国出身らしいという事。
話の途中、まるで懐かしむかのような表情が見て取れたらしい。郷愁は結構だが、それを明確にしない理由も気になる。
春がこないのにどうするつもりだ、あんた知っているだろとも言えない。依頼人に対しての余計な詮索は御法度である。
これで満貫。

そして、辺りを動き回る忍びらしき者の影というドラが乗っている。
まだ断定はできないが、おそらくはその想定は正しいだろう。

加え、今回の依頼を仲介した組織“網”の首領、地摺ザンゲツのこと。
・・・あれでかなりイイ性格をしている。
久方振りの任務に随分な内容のものを回してくる可能性は、大と考えられる。
組織加入の話を蹴ったのがいけなかったか。まあ、話して分かってはもらえたのだが、未だ思うところはあるだろう。

とどめは、砂隠れの里に行った後赴いた匠の里、その里で懇意にしていた刃物職人に聞いた“あの”噂である。


(これで到着直後に襲われでもしたら・・・数え役満だな)

リーチ一発平和ツモ、純全三色一盃口ドラ3といった所か。糞厄介な任務になる予感がする。
だが、危険を犯すに足る見返りはある。

1に経験、2にお金である。

サスケだが、そうそう外へと連れ出せない。数少ない任務で、実戦の感覚を掴んでもらうしかない。
それを考えると、困難な任務は逆に喜ばしい事なのかもしれない。

報酬もそう。契約齟齬の部分を突けば任務達成料を引き上げる事ができるかもしれない。

非常に危険な任務になりそうだと、予感はする。
それでも、今は取りあえずリーチせずにはいられないのである。
何よりもまず、お金が無いのである。仕方ないのである。最低限の賃金を得られないと割とやばい事になるのである。

サスケ専用の刀を作るのにも大金が必要なのである。
それに、これから先の事を考えると、お金は有るに越した事はないのである。
麺開発にもお金がかかるのである。きつねラーメン開発にもお金がかかるのである。キューちゃんの笑顔を見るために、いわば太陽を取り戻すために仕方がないのである。

(さて、と)

分析をまとめると、眼前には今夜乗る船が現れていた。


(凪か嵐か、鬼か蛇か)


でも蛇は嫌だなーと呟きながら、ナルトは船へと乗り込んだ。






--その数十分後。


撮影隊一同を乗せた船は、夜の闇の中、目的地である雪の国へと出航を開始した。







[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 2
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/08/31 02:52
※オリ設定多数です。











「冷えてきたな・・・」

船の甲板の上。

船の欄干に背をもたれさせながら、サスケがつぶやく。
寒さのせいで白くなる息を吐きながら、町で買った防寒用の赤いマフラーをたなびかせ、隣にいるナルトへと話しかけた。

ナルトの方は欄干に腕をついて体重を預け、少し前傾姿勢になりながら水平線の向こう側を見ている。

赤い夕陽に照らされた海面が赤く染まっている。


「・・・何を歌っているんだ?」

「・・・陽が落ちる、という題名の歌だけど」

コートを風に棚引かせながら、ナルトは鼻歌を歌っていた。特に誰かに聞かせるでもない、まるで何かを思い出すかのように。

「・・・多由、いや・・・クシナに聞いてはいたが、お前は歌が好きなんだな」

「そりゃあね」

リリンの生み出した至高の芸術だよ、とお茶らけていった後、海面に目を落として言葉をつづけた。

「それに・・・まあ、ずいぶんと遠い場所に来てしまったけど、歌は変わらずに歌えるからね」

「・・・?」

サスケは意味が分からない、という風に首をかしげる。それを見たナルトは苦笑しながら、分からないでいいよとつぶやいた。

「まあ、昔から好きだったからね」

少し哀愁を漂わせながら、ナルトは昔の事を思い出す。




---前の世界でもそうだった。

一人きりの時、悲しい時、お金は無くとも音楽だけは傍にあった時代。
土方のバイトをしていた時代も、歌が自分を支えてくれた。

金は無くても、歌は歌えたから。

そして目を閉じながら、色々な歌を教えてくれた幼馴染のことを思い出す。
それは昔の自分ならば忌わしい過去の記憶だったが、今ではそうとも思わなかった。
昔のことだ。こちらに来たばかりの時はそうでもなかったが、今は過去に対する割り切りというのは上手になったと思う。

昔。幼馴染の女の子。いいとこの令嬢だった。
音楽が好きだった。バイオリンやピアノを習わされてはいたが。本人はギターに憧れて。
親の反対を押し切って、ギターを勉強したと聞く。まだ大人に成りきっていない頃は、随分と彼女に歌を聞かされたものだ。
うたうたいになるのがわたしの夢です。そう、作文で読んだ少女がいた。親の反対という心の重荷を背負いながら、それでも歌を続けようとした少女。
親の妨害工作に遭っていた、彼女の夢は、はたして叶えられたのかどうか。


少し道に外れてからはしばらく、考えないようにしていた。
その事は長くトラウマになっていたから。
夢とその儚さについて。大人の醜さについても、面前で見せられたから。

勝気な女の子が、諦観を表情に含ませていく。徐々に、ゆるやかに、確実に。
その過程を、まざまざと見せつけられたから。

そして、別れの日。海外へと移住する時の言葉。

夢を諦めないという言葉。

それは彼女の別れ際についた、自分を安心させようとした、彼女の夢を一番きかされたであろう自分に対して見せた、優しさからくる最後の嘘だったのか。
それとも、ウソ偽りのない本心から来る言葉だったのか。

断片で残る記憶。思い出しても虚しいだけだったが、胸の奥へと塊は残った。

黒く、白く、セピア色に。

それでも、そんな事があっても、彼女の口癖だったあの言葉だけは思い出せた。


「階梯と旋律。音楽は、それを組み合わせることで、無限の世界を描く事ができるのよ。
そして色んな世界を描くために、私は想うがままに目を閉じて、ただ感じるままに、音と心と世界を思う」

そうすればほら、私は無限でしょう? と微笑む彼女は、今でも思い出せた。

印象深い言葉だった。チーズのように穴あきになった記憶の中、そんな印象深い言葉達だけは残った。
俺も同意した。彼女の歌には、それが感じられたから---





「イワオ?」
『ナルト?』

サスケとキューちゃんに偽名と名を呼ばれたナルト。我に返ると、首を横に振る。

「ああ、何の話だったか・・・」
考えるナルトに、歌が好きだという話だったがとサスケが返す。

「・・・ああ。俺は、歌が好きだよ」

ラーメンと同じように。
挫けた時には勇気の歌を、悲しい時には明るい歌を、ピンチの時はおとぎ話のような歌を

「例えどんなところに居てもね。歌は、昔と変わらずに歌えるから」

ラーメンの味もそう。
多少の差はあっても、だ。
どんな場所にいようとも、歌に込められた想いだけは変わらない。

「夕陽の時には夕陽の歌を、寒い時には寒い歌を。夏には夏の、冬には冬の」
季節が移り、景色が変わり、人が変わっていったとしても。

「歌いながら感じればね。見える景色の何もかもが、綺麗に思えてくるから」

例え、血なまぐさい、クソのような世界にあってでも。それでも、綺麗なものは変わらないだろうと。
そう言いながら、ナルトは笑った。

歌の中に勇気を見つけるも同じ。歌と思いを感じれば、戦う恐怖も少しは薄らぐ。

サスケはナルトの言葉を聞いたあと、多由也に聞かされた例の歌を思い出す。

そして、同じように欄干の上に腕をおき、夕焼けに染まる海面を見つめた。

「・・・お前の目には、色々なものが見えているんだな」

サスケの言葉に、ナルトはそれなりにね、とだけ答える。苦笑が含まれているのは、柄にでもない事を語ったからか。


その時、背後から聞き覚えのある笛の音が聞こえてきた。


「・・・そういえば、例の笛の術のことだけど」

「・・・まあ、俺も詳しくは聞いていなかったんだけどな」

驚いたよな、と二人呟く。任務のため、隠れ家から出かけるその前日の事だ。

マダオと二人完成させたという例の術について


チャクラの流れを整える作用を持つらしい。そして、回復を早める作用も持つと聞いた。

確かに、とサスケは呟く。夜な夜な聞いていた彼女の笛の音、そういう効果があるかもしれないと思ったのは、修行を始めてから数ヶ月後のことだった。
笛の音が聞こえた時の夜と、それ以外の日ではあきらかに身体・精神の回復具合が違った。

「音楽療法という言葉もあるし」

そう驚くこともないのかもね、とつぶやく。むしろそっちが本来の用途だろうと思うが故の言葉だろう。

「夕焼けの音の色を吹いているのか・・・」

どこかせつない音色が甲板の上に響き渡る。

撮影は終わったので、問題はないだろう。
むしろ、監督とかスタッフ連中も多由也の笛の音を聞いて、うっとりしているように思える。

波の音と合わさっていて、今しか存在しない、まるで映画のような風景が甲板上には現れていた。

白と再不斬は甲板の後ろの方で何やら話をしている。再不斬が頭をかいているのを見ると、そういう話をしているのだろう。
というか桃色空間が出来上がっている。

独り身と思われるスタッフの方々が胸を押さえながら苦しんでいる。
切ない音色と重なって、何やら涙を流しそうになっているのスタッフを目にした多由也が、ゆっくりと目を瞑る。

曲調が変わった。

音色の骨子は変えず、その旋律を変える。

先ほどまでは一日の終わりをあらわしているかのような。
そして今は、“明日がある”と励ましているような。

ちなみにマダオの方は、操舵士と一緒にいる。
そして船の前方に広がる海面を見ながら、腕を水平にしている。突っ込み待ちだろうが放置である。
ただ、放置する。そういう優しさもあるのだ。

旋律に耳を傾け、帽子をくるくると回転させるナルト。
サスケはそんなナルトの様子を見ながら、ふと気づいたように尋ねた。

「そういえば、その格好・・・けっこう、様になってるよな」

大人っぽいくて、違和感が少ない。
正直驚いた、との言葉に、ナルトは苦笑を返す。

「昔から、ね。正体を隠す必要があったから」
『そうさのう』

時には奇天烈な格好を、時には普通の格好を。その場に適した格好を選び、使い分けながら生きてきた、とため息混じり答えた。

「おかげで演技の方も上手くなったよ」
『まさに男狐だの』
「それは使い方が違うような気が・・・」

むしろ男狐という言葉はあるのだろうか。

「まあ、上手くなったといっても、ね・・・あの、富士風雪絵程とはいかない」

昼間の撮影現場を見た時、衝撃が走ったと呟きながら、ナルトは苦笑した。

「そうだな・・・・」

サスケも同意する。カメラが回った瞬間だ。まるで別人。

スクリーンの中で見た風雲姫の姿がそこにはあった。

撮影途中、涙を流す場面で目薬を指してもらっている様はアレだったが。そのほかの演技は、超一流に相応しいものだった。

大女優だけが持つという、華。スクリーン越しでなくても、それが分かる程の存在感。

「あれを見るとな・・・撮影をすっぽかそうとした人物にはとても見えないが・・・」
「・・・まあ、逃げる行為もどこまでが本気だったのか分からないし。どうも、本意って訳じゃあなさそうだけど」

本気で逃げようとは思っていなかっただろう、とナルトは思っていた。
逃げている時の、その格好を見ればわかる。
一目見れば風雲姫と分かる格好。名は売れている。つまり富士風雪絵とすぐにわかるのだ。
そんな姿で逃げようとする馬鹿はいない。変装もしていなかった。

逃げるけど、逃げきりたくないのだ。

何かに迷っている。ナルトは彼女の顔を見て、そう思った。

「まあな・・・」
サスケもその意見に同意する。

「そういう、撮影をすっぽかす・・・逃げるという行動を始めたのもね。雪の国でのロケが決まってからだと、マキノ監督に聞いたけど・・・」
どうも引っかかるとナルトは呟いた。

「嗅ぎまわっている連中その他、裏事情については昨日の夜聞かされたが・・・やはり、富士風雪絵本人にも何か裏があると思っているのか?」
小さい声で話す。両者、チャクラで聴覚を強化しながら、小さい声で会話を続けた。

「三太夫がな。昨日、ふとした拍子に彼女の事を雪絵“様”と言っていたんだ」
『ふむ』

「ああ、それは俺も聞いたが」

よくは知らないが、マネージャーならばそう呼ぶんじゃないのか? とサスケが尋ねる。

ナルトはその答えに首を振りながら、呼び方とその時の視線、言葉使いを見て引っかかるものがあるんだと答えた。

「それに、彼女の様子も変だ。彼女本当は演技が好きなはずなんだ」

「それは・・・・そうかもな」

昨日は女優なんて、という愚痴みたいなことを言っていたが、本気で女優の事を疎ましいと思っているわけでもないだろう。

今日の演技、他の俳優とは桁違いの存在感を演技力を発揮する彼女を見て、サスケは何となくだがそう思っていた。

「俺も同意だ。でも、実際は違う。と、いうことはだ。何か、意味が・・・背景があるんだと思う」

それに、と言葉をつけ加える。

「演技のこと、女優の事。本当は好きな筈なのに・・・好きとは言えない、言ってはいけない」

そんな感じがする、と呟いた。

昔の彼女の姿に似ているから、とはナルトの心中で零された言葉だが。

「・・・なにがしかの理由があるんだ、きっと」

相反する思いに葛藤しているだろう彼女。隠している事はいまだ分かってはいない。

「それが今回の事に絡んでいる事は、間違いないだろうけどな」
「・・・すべては雪の国の中にある、か」
「そういうこと」

帽子を深くかぶりなおしながら、ナルトは答えた。

『・・・ふん、もしかしたら本当に姫なのかもしれんのう』

演技中の姿を思い出したのか、キューちゃんが呟く。
ナルトはまさか、と言いながら笑う。

だが、今回の依頼を仲介した組織、網の首領である“奴”の性格を思い出した直後、頭を抱えだす。

「やりかねん・・・あいつならやりかねん・・・」

「・・あいつ?」

って誰だと聞くサスケに、ナルトは網の首領だよと答える。

「網、か。俺は聞いたことが無かったが」

「そりゃそうでしょ。下忍に聞かせられる内容でもないし」

中忍でも知っているのは一部じゃない? と肩をすくめる。

「隠れ里の者は知らない筈だよ。里の外の人間なら知っているかもしれないけど」

木の葉隠れとか、五大国の中での知名度は低いだろうと説明する。

「地方は特に、ね。猛獣がいる森の中を、商人が行き来する時とか・・・一々、大国の忍びを雇っていられないからね」

依頼料は基本、高い。

「それに、大国の里の忍びの場合、だ。地方かつ危険なところに長期間滞在する任務・・・土木作業者の護衛任務とかね。基本受けてくれないし」
「それはどういうことだ?」

「まず、忍術や何やらで破壊された道や橋を修復する必要があるのは分かるだろ?」
「ああ」

道がなければ荷を運べない。橋が無ければ荷を運べない。
波の国を思いだしたサスケが、うなずく。

「でも、それを護衛するとなると、どうしても長期間の滞在が必要となる。そこに、だ」

もし本国の方に、他国が戦争を仕掛けてきたら? と問いを発する。

「そうか。依頼人ほっぽり出して帰還する訳にもいかないしな」

「それに、長期間任務だと依頼料も馬鹿高くなる。そこで、だ」

「安上がりでそこそこ腕の立つ抜け忍、もしくはチャクラを扱える者達が必要になるわけか。でも、土遁の忍術で橋を建設するっていうのは・・・」

「それも不安、だとよ。忍術の精度もあるし、土で道を作ってはい終わりってわけにもいかない。それに、人の手で作った道や橋の方が安心できるらしい」

「・・・そうなのか?」

「そうらしい。直接聞いた事はないけど、気持ちは分かるよ」

人によっては毎日通る橋や道。それが一瞬で作られたものならばどうか。

「俺達なら、なんとも思わないかもしれないけどな。チャクラを扱えない者は、不安になるってさ」

原理が分かってはいても、理解できないものはお断りらしい。
皮肉な話だけどな、と苦笑を返す。

「でも、戦争の後、復旧作業が手伝われる事はなかった。各国とも、里の軍備とか人員育成の方が最優先事項だったから」

そこに、網の登場だ。
大戦で負傷し、身体の一部分を失い、帰還するにもできなかった忍びや、長く続いた凄惨な戦場の後、戦う事自体が嫌になった忍び。
チャクラを扱えるが、忍びの才能は無いと判断された忍び。才能無く、アカデミーを卒業できなかった者。
戦争で親を亡くした孤児、村を焼かれ職を失った者。

戦禍の後、何かに取り残された者達。
それを集め、組織した揚句、そのあぶれた者達に職や、生きる場所を与えた。
先代の“網”首領、地擦ザンゲツ。各農村から英雄と称えられた偉人である。


「まあ、当然裏の顔も持っているんだけど」

表の顔も裏の顔も持ち合わせている。清も濁も合わせて飲み干せる人間。故の怪物。
戦闘能力は高いとも言えない。だがナルトにとっては、かの五影以上に敵に回したくない人物だ。

「それと、一部だけどな。抜け忍と依頼人との仲介も行っているらしい」
「・・・波の国のあれは、そうなのか?」
「いや。再不斬に聞いたけど、依頼人に直接交渉しにいったってさ」

賞金首になっていた事から、網に身を置くという選択肢は選ばなかったらしい。

「今は仮名で登録しているけど」

「・・・そんな事が可能なのか?」

「まあ、ようは信用の問題だよ。登録の際の仲介をしたのは、俺だからね・・・ああいう人間は信義と約束に重きを置くから」

信頼が何よりものをいう。その点でいえば、ナルトは問題ないといえた。

渡世の仁義、ってやつだ。

苦笑しながら、ナルトは答えた。はぐれ者同士でも、いやはぐれ者ならば余計に。
徒党を組む組織を立てるならば、信義が重要になってくる。

「そうしないと、組織の人員を統制できないからね」

個人にできる事はたかが知れている。個人は組織に勝てない。人は集まればより多くの事ができる。
はぐれ者達にはそれが分かっていた。

居場所を失わないための、最低限の事は守る。それが暗黙の了解。
そして、それを守れない者、裏切りに者には相応の制裁がある。専門の処理屋もいるらしい。

「組織幹部への加入。その話を蹴ったという前科があってもね。俺にはそれまでに任された仕事に関する実績があったから。
だから、今でも多少の無茶は聞くんだよ。それに網の頭領ともね。知らない仲じゃないから」

代替わりの時にも現頭領側に立って力を貸したし、と言いながら遠い眼をするナルト。

「・・・それも、色々のうちに入るのか?」
「入るねえ・・・」

と、答えながらも内容はぼかす。
サスケはそれを察し、まあいいとだけ答える。

「あと二つだけ聞きたいことがある・・・今更だけどな。俺達7人全員をこの任務に連れてきてよかったのか?」

「ん? ・・・そりゃそうでしょ。敵対する相手の戦力・規模は不明だし、失敗が許されない以上出し惜しみは無しだ。万が一だけど、留守中に隠れ家が見つかった場合を考えてもね。
誰かを残すのは不安だよ。それに、護衛任務だから護衛に割ける人数は多い方がいい。まあ、連携その他は臨機応変に対処していくよ。マダオとキューちゃんはそもそも直接の殴り合いには参加させないつもりだし」

今回はその意味もないだろうしね、と答えるナルト。

サスケそうだな、と答えた後、もうひとつを尋ねる。

「しばらくは任務を受けていなかった・・・ブランクがあったと聞いたが・・・よく、こんな大きな仕事を任されたな」
信頼があるとはいえ、それもおかしくないかと言うサスケ。


対するナルトは、それなんだけど、と一泊おいて。

「例の、頭領にだけは、俺の正体を告げたからね・・・おっと」

大声で「はあ!?」といいそうになったサスケの口元をふさぐ。

「まあ、交換条件だよ」
「・・・いいのか? 裏切られる可能性は?」

木の葉側に漏れるかもしれないぞ、とサスケ。

「限りなく零に近いね。そういうことをするような女じゃないし」
「・・・そうなのか・・・ってちょっとまて。そいつ、その頭領って女なのか」

「ああ・・・怖い、女だよ」

各農村から英雄と呼ばれていたに先代、組織の法と在り方を作った先代に勝るとも劣らない。
幼い頃失ったと聞く独眼と合わせ、迫力のある外見。打算だけでは動かない、人情に厚く仁義を知っている頭領。

思い出し、ナルトは苦笑をする。

「リスクとリターンも分かる奴だから。そもそも、俺の情報を売るような状況になる筈がないし」

俺のことを探している連中は特にそう。網が無くなると困る連中だし、網を構成する人員も仁義に厚いやつらばかり。
報復は熾烈を極めるだろう。

暁もダンゾウも、そんな悪手は打たないだろう。

「信頼を得るには、自分の手の内と身分を明かす必要があるからね」

事情を説明すれば分かってくれたし、とつぶやく。

「その組織に取り込まれたりは?」
その問いにナルトはまさか、と言いながら首を振る。

「爆発物危険お断り、ってところだね。考えるだに恐ろしいんだろう。五大国の隠れ里が保持している筈の人柱力の一柱を、網が保持していると知れたらね」

それだけで大事になる。

それに、そんな大きすぎる力は必要ないだろう。大きすぎる力は禍を呼ぶ。
力は必要なだけあればいい、というのが組織の方針だと聞いた。

「今、網が潰されないのは、五大国にとっても、網に無くなられたら困るからだよ。地方に関しては特にね。大戦後の復興を手伝わなかったという負い目もある」

戦争に巻き込まれ死んだ者達が遺した子供、戦災孤児の一部を保護する孤児院も建設していると聞いた。
大人になってから返してもらうらしいのだが・・・それでも餓えて死ぬよりはずいぶんとましだと言える。

「そうだな・・・壊すだけの力じゃあ・・・どうしようもないし、な」
「掌を固めた拳で出来る事はひとつ。目の前の壁を打ち壊すことだけだよ」

助けるには、手を引くのは、その拳を解く必要がある。
忍者はそれが下手だ。なまじ力があるだけに。

別方向の力が必要になるのだ。

「この音色のようにね・・・・あとはラーメンとか、ラーメンとか、ラーメンとか」
『結局はそれか!』
「きつねラーメンとか」
『それならば良し!』

急に独り言を言いだすナルトを見たサスケが、溜息を吐いた。
「・・・もしかして今、夫婦漫才でもしているのか?」

サスケにはきゅーちゃんの声は聞こえない。
だが、おそらくそうだろうとナルトに尋ねてみる。

「いや・・・っておわ!」
『そ、そんなんじゃないわ!』

戯けが!とキューちゃんがナルトの体を動かす。

放たれた拳が、サスケの頭部を捕えた。


「・・・あ?」


「あ」


その不意打ちを受けたサスケは。


「ちょっとまてぇぇぇぇぇ」


間抜けな声を上げながら甲板から落ちていった。

「・・・・」
『・・・・』

ナルトとキューちゃん、二人が沈黙しながら固まった。

「面舵いっぱーい」

「よーそろー」

甲板の前方で、未だ後方の惨劇に気づいていない操舵士とマダオ。
二人の間抜けな声が、甲板上に響き渡った。


その直後である。


「っつぶねえなテメエぇぇぇえ!」


船の後方。足にチャクラを集中させたサスケが海面の上を走っていた。

波を越えながら。

海上に吹く風は強く、帆船であるこの船の船足は結構速くなっているのだが、サスケは必死に走っている。

船に追いつこうと、全力疾走で追いかけてくる。

甲板上、後方にいた白と再不斬はいきなりあらわれた光景を見て硬直した後、即座にナルトの方へと駆け寄って行く。

「・・・何をやっているんですか?」

「・・・流石にあれはあんまりだと思うぞ」

溜息混じりの二人の言葉に、ナルトは「いや、まあ・・・」としか返せない。

後方を見る。

夕陽をバックに、赤いマフラーをたなびかせながら船に追いつこうと全力疾走する、サスケの姿。

・・・確かにやりすぎたかもしれないが、ナルトは不思議な達成感を得ていた。

その時である。


「・・・何、あれ」

着替えが終ったのだろうか。甲板に上った雪絵が、走っているサスケの姿を直視する。

「はっ、はは・・・あはははは!」
何あれ~、と言った後、心底おかしそうに腹を抱えて笑っていた。


それを見たサスケは怒りに顔を真っ赤に染めた後、急激にスピードを上げた。

どんどんと迫ってくるその姿に、雪絵の表情が驚愕を表すそれに変化する。

そして近づいた直後。

サスケが、甲板の上に飛び乗ろうと、跳躍を決行した。


でも、その寸前に。

船の前方で、操舵士が舵を回した。


「取舵少しー」

「よーそろー」


面舵とりすぎたとばかりに、取舵を取って針路を調整する操舵士。

マダオもまた、操舵士の隣で号令を一緒に発していた。

二人は未だ、サスケの事に気づいていなかった。

もしかしたら、桃色空間が展開されている後方など誰がみてやるものかと考えていたのかもしれない。
操舵士は孤独な者である。



そして一方、大跳躍を決行したサスケ少年は。


「え・・・・?」

急にずれた船の針路のせいで、甲板上には降り立てなかった。


きょとんとした表情を浮かべながら、船の横を通り過ぎるように落下していく。

そして、海面に着地・・・いや着水したサスケは、肩を震わせた少しあと、「誰が諦めるかー!」と叫び、再び船に向けて走り出した。

ちなみに雪絵の方だが、甲板上で腹を抱えて転げまわっていた。先ほど見えた、海面に落ちていく際のサスケの表情が止めとなったのだろう。
三太夫が「ゆ、雪絵さま!?」と言いながら何とか立ち上がらせようとするが、彼女の笑いは止まらない。

「そういえば笑っている彼女を見たのは、これが初めてですね」
「そうだな・・・」

二人は遠い眼をしながら、何でも起こるんだなこいつの周りは・・・と呟いていた。

ナルトの方は「無茶しやがって・・・・」と呟きながら、夕陽の上にサスケの顔を浮かべる。

親指を立てながら、歯をキラリと光らせたサスケ。

一等、男前だと思った。


ここで一句。

「夕暮れの 海面走る サスケかな」
『・・・そのまんまじゃの』

季語は夕暮れ。
そして、夫婦漫才の直後である。

「勝手に纏めるんじゃねえ!」


最もと言えばごもっとも。
海面ジャンプから空中で回転。

赤いマフラーたなびかせたサスケの突っ込み蹴りが、ナルトの横頬へと炸裂した。



[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 3
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/05 02:05

錨を降ろし、船を停泊させて一夜が明けた。


朝の時。曇る空は朝日を見せず、ただ暗澹たるものを教えてくれるのみであった。

船の上では鶏もいない。さあどうして朝を感じようかと言うときだ。助監督の叫びが甲板上に響き渡った。

「か、監督! 大変っす!」

興奮する助監督に、「何でえ騒々しい」と江戸っ子みたいな返事を返しながら外へ出てくるマキノ監督。

だが爺さん、目の前に映るその光景を見て、驚愕する。

「こ、こいつは・・・!」

「朝起きたら、ここで針路が塞がれてたんですよ!」

どうしましょう、と助監督がマキノ監督聞に訪ねる。

だがマキノ監督、そんなもん聞いちゃいねえ。

「バカヤロウ! 絶好のロケーションじゃねえか!」

ここでカメラを回さないでどうする! と大声を張り上げる。

一方、ナルトだが。

「・・・無いわー」

一夜明けました。船の針路の先に氷山が出来てました。まる。で済むような事態ではない。

隣で「この映画、化ける!」と興奮しているマキノ監督とは対照的に。ナルトの方は頭を抱えていた。

敵、恐らくは忍び数名が近くにいると分かったから。

その事を告げた上で撤収を進言しようと思ったナルトだが、首を振り諦めることにした。

自分が何を言っても聞いてくれないだろうと思ったからだ。

ナルトは今のこの監督の様子を見て、分かった事があった。映画という芸術に、命を賭けている人間。骨の髄まで写真屋なのであろうと。

半端な言葉は意味がないと悟ったナルトは、もう一度ため息を吐きながら、皆の元へと向かった。取りあえず最低限の方針を決めなければならない。


「総員、上陸準備だ!」


監督の指示が下される。

撮影隊を乗せた船は、前方に見える流氷へと近づいていった。








そして上陸後。


撮影の準備が整うまで、役者とメンマ達は複数あるストーブの前で別々に暖を取っていた。

あちらのストーブには役者達と護衛のサスケ。

こちらには俺とマダオだけだ。

多由也と白は船の方に行って貰っている。

再不斬は周辺を哨戒中である。単独行動となるが、あれだけの力量を持つ再不斬だ。心配は無いだろう。
水も周りにあるから、水遁もつかいやすい場所。戦う場所としては悪くない。

それに、いざとなれば鬼斬り包丁を口寄せすればいいのだから。
初対面時より更に強くなった、今の再不斬。その上、本気で本装備のフルアーマー再不斬ならば、そこらの忍び程度なら簡単に蹴散らせるだろう。

「しっかし、何もないなあ・・・」
「そうだねえ」
『氷ばっかりじゃのう。何か、動物などはおらんのか』

3人はストーブの前、周辺に声が漏れないよう、小声で話し合っていた。
キューちゃんは相変わらずナルトの中だが。

「・・・気配は感じない。いないみたいだねえ」
「しっかし僻地も僻地。田舎だよなあ・・・そういえば、この国の君主ってどういう人なんだろう」

各地を放浪したが、雪の国には訪れた事が無かった。現君主はどんな人なのだろうか。

「そうだな・・・例えば・・・」

2人は頭の中で想像描く。

「冬と君主・・・冬と国王・・・」

そこでポン、と手を打って納得したとばかりに語り出す。

「私は王女オリゲルド・・・」
「冬将軍・・・勝てる気がしねえ・・・!」

アルディスはキリハかな、と呟くナルト。

『・・・訳が分からんぞ?』

「「馬鹿な!?」」

目を白くして驚く2人。
あの大作を知らないと!? と叫ぶが、無茶振りもいいとこだった。

『・・・だから・・・私には分からんもん、それ』

取り残されたせいか、落ち込みちょっと拗ねるキューちゃん。
ナルトとマダオはそんなキューちゃんの言葉を聞きながら胸をときめかせる。そしてテンションゲージをマックスにまで高めるのであった。
実にどうしようもない2人である。

「・・・さあ。身体も温まった事だし、別の話題に移ろうか」

これ以上、からかうというか、キューちゃんをおいてけぼりにすると後が怖い。
そう判断した2人は、即座にフォローに入る。

「・・・とはいってもねえ。何の話をしようか」
「雪の国、か。雪・・・北・・・ああ、そうだ」
「決まりだね」

ナルトとマダオは顔を見合わせ、頷きあう。

やがて手元のホットコーヒーを飲んだ後、何かを思いついたのか、虚空を見上げる。

そして、キューちゃんに向けて口笛のような歌を聞かせる。

「「ルールルルル、ルールルルル・・・・・・」」

男2人が奏でる気持ち悪いハーモニー。

だがキューちゃんは反応した。

『・・・何だ? 何か、誰かに呼ばれているような感覚が・・・』

「「マジで!?」」

目を白くして驚く2人。どうやら本当に効果があるようだ。
蛍、恐ろしい子・・・!とか呟いている。

そこに、助監督の声が聞こえた。

「はい、準備終わりましたー!」

スタンバイが終わったようだ。

「じゃあ、行くわよマヤ!」
「ええ、亜弓さん!」
『待たんかお前等』

どこへ行く、とばかりに殴られる二人。

ノリと勢いのままカメラの前に行こうとする馬鹿の顔面へ、キューちゃんの拳が炸裂した。

ナルトの身体を動かしての、鮮やかな一撃である。

「・・・いや、流石に冗談だって」
ナルトが自分の頬をさすりながら答える。

「でも、始まるようだよ」
精悍な顔つきで役者達を見つめるマダオ。だがその鼻からは血が流れていた。

「いや、拭けよ・・・」





そして間もなく。

役者の方の準備も終わり、『風雲姫の大冒険』on雪の国、最初の撮影が始まる。

「うーん」
「寒いねえ・・・」

その後方。撮影が始まりいよいよ暇となった2人は、コーヒーを飲みながら雑談を始める。
この寒さを紛らわすためだった。

「ああ、そうだ」

そこで、先程のやりとりを思い出したナルトがぽつりと呟いた。

「・・・いつか、シカマルに『妹だぞ!』とか言う日が来るんだろう、か・・・」
「いったい君は何を言っているのかな? かな?」

ナルトの呟きから、刹那の後。瞬きする間もない一瞬。
脾臓の真後ろ背中には、ヒタリヒタリと冷たい冷たい、クナイの先端が向けられていた。

「しょうじきすんませんでした」
だからそのクナイを仕舞って下さいと、ナルトが平謝りする。

「・・・まったく。そもそもそんな事許すわけないでしょ。そんなふしだらな交際は認めません。最初は交換日記が基本でしょ」

文句を言いながらも、マダオは離れていく。

ナルトはその呟きの内容に何時の時代の話だよ、と突っ込もうとする。

だが、そこであることを思い出したのか、小声で1人呟いた。

「・・・交換日記、か。そういえばキリハに聞いたことあるような、気が・・・」

「誰と?」

また脾臓。暗殺技能者真っ青のマダオの隠行である。

その道の職人が見れば、こう評したであろう。何気ない動作に忍びの業が光ります、と。

呼吸を読まれたのか、間を外されのか。相も変わらず無駄な才能を遺憾なく発揮する男である。

娘バカにゃあ適わないと判断したナルトは、素直に答えを教える。許せ、友よ。

「シカマル君です」

あの日の夜の酒の席で聞きました、とつけ加える。

ガキの頃の事らしいけど、と更に付け足すが、マダオはその言葉には反応しなかった。

「・・・」

ただ無言でナルトから離れ、持ってきた包みからバットを取り出すだけだった。そして構える

「・・そういえばお前、隠れ家で何か作ってたようだけど」

それか、と呆れた声を出すナルト。

「こんな事もあろうかと」

だがマダオはナルトの言葉を無視し、鼻歌を歌いながら、木のバットをスイングし始めた。

え、なに? ・・・キルゼムオール?

「・・・待てマダオ。さすがに皆殺しは不味い」
「大丈夫だよ? 肉体で語り合うだけだから・・・そう、何も、問題は、無い」
「・・・問題は、ない・・・って大ありだよ。この馬鹿野郎」


「・・・お二人とも、一体何をやってるんですか?」

魔空間と化したそこに、白がやって来る。

「だって、暇だし・・・ねえ」

撮影の邪魔ができない以上、カメラの前に出ることはできない。
後方で気配を探りつつ警戒を続けるしかないのだ。

「あと、船の上で真面目にしすぎたから。ギャグ分を補充しとかないと、顔が保たないんだよ」

冗談交じりに答えるナルト。だが白は成る程、と頷いた後一言告げる。

「もう、シリアスには戻れない身なんですね・・・」

「うむ、5分以上はちときついのう」

帽子を持ち上げながらかんらかんらと笑うナルト。

「じじむさいですよ?」

「ぐはっ!?」

天使の微笑で悪魔の言葉。鋭角の突っ込みである。そのあまりの威力に、ナルトは吐血した。

「何やってるんだ?」

そこに、多由也が戻ってきた。

「こっちは一段落ついた・・・あれ、サスケが居ないみたいだけど、何処にいったんだ?」

「ああ、サスケくんなら」

あそこですねと白が居場所を指さす。

多由也は白の指す方向の先を見ると、サスケの姿を見つけた。

カメラのやや後ろ側。富士風雪絵の演技がよく見えるだろう、特等席にサスケはいた。

「・・・」
それを見た多由也は、何か面白くないという空気を纏いながら、目が半眼になっていく。

「・・・ほ、ほら! 護衛ですから仕方ないかと!」
それを察した白が慌ててフォローをする。

が、多由也の半眼は直らない。

「こらこら。そんな目つきを続けているとやくざ屋さんになっちゃうよ?」

あと某グロ魔術師殿とか、といいながら、多由也にココアを渡した。

「・・・ああ、ありがとう」
砂糖とミルクありありのココアを飲む多由也。

半眼になっていた目がようやくほころぶ。

甘いものが好きなようだ。まるで猫のような表情を浮かべる多由也を見た3人が笑う。

「でも、じっとしていると身体が冷えますね」

防寒着は着ていますが少し寒いです、と言いながら両手に白くなった息を吹きかけ、手をすりあわせる。

「そうだねえ。まあ戦闘とか始まったら、そうでもないんだろうけど・・・」

「それもそうですが、口に出すのやめましょうよ。噂をすれば影って言いますし」
ただでさえリーチ状態なんですから、と白がため息を吐く。

「このまま、何事もなく撮影が終われば・・・まあ、一番良いんだよな」

「そうだねえ。サスケに実戦を経験させるっていう目的は果たせなくなるけど・・・何事もなければきっと、それが一番・・・」


なんだろうけど。という言葉は続かない。


ナルトは何かに気づいたように一瞬硬直した後、手元のコーヒーを一気に飲み干した。


そして深く、白い息を吐いて2人にだけ聞こえるように、小さい声で言葉を発する。


「まあ、ね」


コーヒーを地面に置いた後、カメラの方向から背を向け、即座に懐へと手を伸ばす。

やや遅れて察知した2人が手元の飲み物を飲み干した。

同じく、構える。



「やっぱり、そういう訳にもいかないねえ」



渋い表情を浮かべ、ナルトは懐から黒い玉を取りだした。



「・・・!」


そのナルトの背後。

海面を背に、という方向で言えば前方、雪山側にいたサスケは、突如変化したナルトの気配を察知し、振り向いた。

そして、2人と同じく、警戒体勢に入った。



ナルトはやがて黒い玉、焙烙玉を手元で一度軽く放り投げると、口の端だけで笑みを浮かべる。


そして、雪山の方に振り返った直後、助走をつける。


そして一歩踏み込む。そのまま踏ん張り、足を根に、そして腰に重心を落とし、腕は鞭のようにしならせ、そのまま振り抜く。


唸りを上げる腕。その手の先から、高速の弾丸が放たれた。




「鳥羽一郎、GO!」




チャクラで強化し、全身の筋肉を連動させた上での投擲。

放たれた弾丸は、閃光が如く。その速さを保ちながら、空気を切り裂き飛んでいく。


数秒後、氷山の一角にぶつかる。


直後、爆発した。



「なっ!?」

魔王役の役者が背後の氷山で起きた爆発に、驚きの声を上げる。


爆発跡からは、黒い煙が立ち上がった。


「何するんだ、あんた!」

撮影の邪魔をするな、と助監督の怒声がナルトへと向けられる。

「全員、下がってくれ」

だが、ナルトはそれを意に介さず、指示を飛ばす。そして、焙烙玉を投げ込んだ場所を睨み付けた。


そして、すぐさま前方へと跳躍。

撮影隊を庇える位置へと移動した。


そして。


「流石に、これ以上は近づけないか」

その爆発跡から、1人の男が姿を現した。白は出てきた男の姿を見て、その身に纏っている見慣れない鎧のようなものを見ながら、呟いた。

「黒い、鎧?」

「忍びか・・・?」

ナルトは相手を観察する。

男は氷のように鋭く冷たい視線をこちらへと向けながら、不適な笑みを浮かべている。

その頬には、大きな傷跡があった。かなり古い傷のようだ。

男は笑みを浮かべたまま、その場にいる一行を歓待するかのように両手を広げ、言葉を告げた。

「ようこそ、雪の国へ」

演技臭い男の仕草。

「歓迎するわよ、小雪姫。六角水晶は持ってきてくれたかしら」

視線の先。別の雪山からまた1人、今度は女性の忍びが現れた。

ナルトは2人が身につけている額当てを見た後、舌打ちをした。

何処の里なのか分からない。その額当てに刻まれている紋だが、ナルトが知っているどの紋にも該当しない。

女が身に纏っているのは、先の男と同じく黒い鎧。やや軽装になっているが、感知できるチャクラの大きさはそう変わらない。

女が言った名前。小雪“姫”という名前も引っかかったが、今は無視だ。まずは目の前の敵をどうにかしないといけない。

それに、だ。

「どうせ、歓迎するなら全員でして欲しいな・・・なあ、アンタ。別に恥ずかしがり屋ってわけでも無いんだろう?」

だから出てきてくれないか、と告げながら、ナルトは最小限の動作でクナイを投擲した。

一般人ならば目にも映らないだろう。
かなりの速度で放たれたそのクナイは、一直線に飛んでいく。

投げられたクナイの先。誰もいないはずの右方向の丘の上を狙った一撃は、そのまま地面に突き刺さると思われた。

だが落ちる寸前、クナイは不可視の何かに弾かれて、あらぬ方向へと飛んでいった。

「はっ!」

直後、地面から人間が出てくる。

熊のような巨体を持つ大男。

他の2人と同じ、黒い鎧を身に纏っていた。

「この距離で気配を察知されるとはな・・・それに先程の動作。抜け忍の癖になかなかやるようだ」

不適な表情を浮かべた男は、後方へと跳躍する。


それが開戦の合図だった。




悟ったナルトは即座に指示を飛ばす。

指示に従い、多由也は撤収する撮影隊を護衛。サスケと白が前に出る。

「了解!」

「ああ!」

2人が即座に応答し、各の役割を果たすべく動く。

だが、撤退していく撮影隊の方へと向かった多由也のみ、その場で足を止めた。

「おい!?」

撮影隊の中、ただ1人だけ、その場を動かないで佇んでいる者がいたからだ。


その人物は風雲姫。

最優先護衛対象である、富士風雪絵だった。


「・・・アンタ!?」

多由也が叫ぶ。

「ちっ!」

それを見たナルトは舌打ちをすると前方を向き、即座に駆け出した。
撮影隊が撤退する時間を稼ぐために、敵首領を抑えようというのだ。迎え撃つよりは打ってでる方を選ぶ。


かなりの速度で近づき、やがて一定距離まで近づくと印を組み、術を発動した。

「風遁・大突破!」

ナルトの口から全てをなぎ払う豪風が放たれる。

だが、その風は相手には届かなかった。

それなりのチャクラが込められた暴風は敵の眼前で弾かれ、後方へ逸れていくだけ。男は悠然とそこに立っていた。

そしてナルトの方を見て鼻で笑いながら、言葉を発する。

「その程度の忍術など・・・我々には通用しない!」

見れば、男の前方にはチャクラの膜のようなものが張られていた。

「その、鎧は・・・?」

「これは、雪の国が開発した最新鋭のチャクラの鎧」

聞けば、相手のチャクラを無効化する、逆位相のチャクラを発しているらしい。
そして、着ている者のチャクラを増幅してくれるとか何とか。

「つまり俺達の忍術、幻術は通じないってわけか・・・厄介な」

「そういうことだ」

男は笑みを絶やさないまま、ナルトの問いに答える。

一方ナルトの方も内心では笑みを浮かべていた。

(まさか、聞いた事に素直に答えてくれるとは・・・あと匠の里での噂話、どうやら真実だったようだ)

チャクラの鎧。一つ情報を得たナルトはどうしたものかと思考を走らせる。

そんな黙り込むナルトを見た男は、それを弱気になったと取ったのか、高らかに笑い声を上げて追撃を開始する。

「所詮は抜け忍風情! この鎧を身につけている我々には適うまい!」

敵の首領格の男が空中へと跳躍。

そして印を素早く組み、忍術を発動した。

「氷遁・破龍猛虎!」

突出しているナルトの元へ、氷で出来た巨大な猛虎が突進していく。

「水遁・水龍弾!」

だが、その直後。

横合いから水でできた巨大な龍が飛来する。荒ぶる龍はその水圧で猛虎を打ち砕かんと、その横っ面へ突っ込んでいく。

だが、水の龍は氷の虎を打ち砕く事ができない。逆に凍らされ、砕かれてしまった。

しかし、若干だけど術の圧力は猛虎の身に通ったのだろう。氷虎の軌道は逸れ、ナルトから大きく離れた場所、氷の地面を抉るだけだった。

「ダンナ・・・!」

「誰がダンナだ」

哨戒に出ていた再不斬が戻ってきた。

「こいつは任せろ。お前は後方へ」

「ああ、任せた」

「ふっ、どちらが来ようと同じ事だ!」



一方、サスケの方は。

「ここから先は行かせねえ!」

女の忍びを止めるべく、叫び前へと出る。

女はサスケの力量を見ようと、ひとまず距離を取った。

そして印を組み、術を発動する。

「氷遁・ツバメ吹雪!」

氷で出来た燕が数十羽、飛来しサスケへと殺到する。


「火遁・豪火球!」

サスケから放たれた豪火球が、燕全てを溶かし尽くした。


「・・・!」

だが、その後方。

棒立ちになっていた雪絵が、サスケの放った豪火球を見た途端、小さな悲鳴を上げる。

そして手に持っていた撮影用の模造刀を地面に落とす。

「おい、アンタ! 早く逃げるぞ!」

多由也が怒鳴りつける。
が、雪絵は何の反応も返さなかった。

「ん?」

そこで多由也は後方から、聞こえてくる誰かの声・・・三太夫の声が聞こえ、訝しげな顔を浮かべる。

それは雪絵も同じだった。

三太夫の放った一言はそれほど場違いなものであったからだ。

その言葉を聞いた雪絵は驚愕の表情を浮かべ、後方から駆け寄ってくる三太夫の方へと振り返る。

「・・・三太夫、あなた・・・!」

「爺さん、あんた・・・」

続く声は、跳躍し後方へと飛んできたサスケによってかき消された。

「・・・何をしている! さっさと行け!」

怒鳴りながらサスケは印を組む。
虎の印を締めに繰り出されるは、火遁・鳳仙火。

そして印を組んだあと、手裏剣を素早く取りだす。手裏剣に火の小花を纏わせ、同時に敵に向け放つ。

「氷遁・ツバメ吹雪!」

対するは氷燕。だが競り勝ったのは火の鉄花の方であった。
鳳仙火手裏剣は氷の燕を溶かした後、その勢いを殺さずに標的へと殺到する。

舌打ちした女は、地面へと手をつけ、告げる。

「氷牢の術!」
手裏剣は女の身体に突き刺さるその一歩手前で、防がれた。

地面から生えてきた氷の柱に弾かれたのだ。

そして柱は次々とその数と勢いを増し、今度はサスケの方へと襲いかかった。
かなりの速度で迫り来るそれを、サスケは後方へと跳躍し続ける事でかわす。

やがて、再び多由也の横まで下がったサスケは、気絶する雪絵の姿を見て驚いた。

「おい、何があった!?」

「わかんねえよ! 火を見た後急に叫びだして・・・くそっ、後だ、後! ウチが担いで撤退するから、援護を頼む!」

「ああ、分かっ・・・ってナルト!」

「おいおい、その名で呼ぶなよ」

敵首領は再不斬に任せたのだろう。
後方へと戻ってきたナルトは、多由也を見ながら指示をする。

「雪絵さんを頼む。俺は三太夫さんを運ぶから。急ごう」

「分かった」

多由也は雪絵を肩にかつぎ、後方へと下がっていった。その後方、殿としてナルトが追随する。

その光景を見ながら、サスケはよし、と一息入れる。

(これ、使えるか)

地面に落ちていたある物を見つけ、手に持つ。

そして敵、女忍者のいる方向へと走り出す。


チャクラで足を強化し、全速力。

「おおおおおぁぁ!」

「氷牢の術!」


突っ込むサスケの足下から、氷の柱が次々とせり出してくる。

サスケはそれを走りながらも視認し、左右へジグザグに走りながら回避する。

氷柱を後方へ置き去りにしながら、どんどん間合いを詰めていく。




ちなみにサスケだが、今は写輪眼を使っていない。

上陸する前にナルトから釘をさされたからだ。戦闘が起こった場合、一戦目はひとまず様子見に徹しろ、と。

初戦の方針簡単。あくまで様子見程度に抑える事だ。切り札は見せない。適当にやりあった後、多由也の合図と共に退くとのこと。

ちなみに、もし使わざるを得ない状況になったら? とサスケが問うた。

その問いに対し、ナルトはこう答えた。

『そうしなきゃ勝てないのなら、使っていいよ』と、嫌らしい笑みを浮かべながら。



思い出したサスケは、不適に笑いながらも、叫ぶ。

「誰が思うか!」

ついに距離を詰め切ったサスケ。だが女忍者は鎧の背中にあったのだろう、翼みたいなものを展開し、宙へと逃れる。

そして着地後、再び氷牢の術を発動。

先程より速い。

回避しようと、サスケは後方へと跳躍する。

だが氷柱の方が速かった。


「しまっ」


氷柱に、サスケの足の一部が捕まってしまう。それを基点に、サスケの全身が氷に覆われていく。

氷牢の術、完成。

氷で出来たの牢の中に囚われてしまったのだ。




---偽物が。



「何!?」


変わり身の術。

氷の中、囚われたと思われたサスケの姿が変化する。

代わりに現れたのは、先程サスケが拾ったストーブ。表面には起爆札が貼られていた。
直後、氷の中で起爆札が爆発した。

爆発はストーブ内の油に引火し、周辺の酸素を急激に燃焼させる。

起爆札よりも大きい規模で、爆発が起こる。


「ちっ!」

氷柱を盾に爆発を逃れた女忍者。

「あいつは・・・!?」

その後方にサスケが回り込む。

「終わりだ! 火遁・豪火球の術!」

逃げられない間合いとタイミング。サスケの豪火球の術が女忍者へ向かい放たれる。

だが、女は避けなかった。背にある翼を再び広げながら、火球に向かい突撃していった。

「なっ」

鎧から発せられた障壁だろうか。チャクラでできた膜のようなものが、火球を弾き飛ばしてしまう。


そのままクナイを取りだし突進する。術を放った後のサスケに向かい、襲いかかった。

だがサスケは焦らない。反応できる速度なので、焦る必要もないと、冷静に対処する。写輪眼を使うまでもない。

サスケは相手のクナイの軌道を見切り、自分のクナイで横に弾いた。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音が辺りに響き渡る。

「ちいっ!」

「そんな遅い攻撃で!」

余裕を持って避けきったサスケは、再び構え直す。

女忍者はそれを見た後、地上戦では分が悪いと見たのか、そのまま空中へと浮かび上がる。

そして懐から黒い玉を取りだし、サスケへと複数投じる。

投じられた玉は地面に落ちると同時に破裂し、氷の刃をはき出した。

サスケはその刃も余裕で避けながら、何とか反撃しようとする。

だが、空中に飛び回っている相手を捉えきれない。術も放たない。

中途半端な威力の術では、あの障壁を貫けないと判断していたからだ。

どうするか、と考えている最中。


背後から、笛の音が聞こえた。


「・・・合図か」




一方、白の方だが、こちらも状況は膠着していた。

熊男の攻撃は単調で、鉄製の板に乗って滑りながら突撃を繰り返してくるだけ。

鋼線のついた鉤手を飛ばしてくる事もあるが、白とマダオならばゆうゆうと避けられる速度。

最初、男は2人の間を抜け、船の方へ行こうとしていた。

そこにマダオが立ち塞がる。熊男の鉤手がワイヤードフィストよろしく、マダオに向けて発射された。

だが、マダオは「ゴーブリンバット!」の雄叫びと共に、手に持ったバットの一撃で鉤手をピッチャー返し。

まさかそういう返し方をされると思っていなかったのか、熊男は戻ってきた鉤手を顔面に受け、そのまま吹き飛んだ。

足についていたスノーボードみたいな鉄製の板も、そのままどこかに飛んでいった。


機動力を失った相手。そこにたたみかけるマダオ。


「ガトチュゼロスタイル!」とか、「ケンチャァァァァン!」とか叫びながら、熊男をたこなぐりにしようと一気に攻勢に出る。

だがその攻撃は障壁に遮られてしまう。

「舐めるな!」

色んな意味で頭に血が上った熊男が、反撃に移る。

だがそこは流石のマダオである。雪上の戦闘をも苦にしない動きで、攻撃を避ける。

そして隙を見て間合いを広げた後、遠距離戦へと持ち込む。白もそれに加わり、再び攻勢に移るが、千本やクナイは尽くが弾かれる。

鎧から発せられる障壁に防がれ、ダメージを与える事ができない。

「・・・埒があきませんね。様子見程度の攻撃では駄目なようです」

「そうだね・・・でも、そろそろ時間だよ」

初戦、この状況。目的は時間稼ぎだ。そして、十分に時間は稼げた。

「そろそろ、ですか」

2人は後方から感じる気配を確認し、呟いた。


撤収は完了したようだ。船が出ようとしている。


残っているのは、自分たち6人と敵の3人だけ。

「仕上げっと!」

マダオが起爆札が付いたクナイを複数投じる。

それも障壁に阻まれしまうが、男は爆風によって後方へと飛ばされてしまう。

その後、岸の方から甲高い笛の音が聞こえてきた。

見れば、船は既に岸を離れている。頃合いだ。

「さて、退こうか」

「了解です」






同じ時、再不斬にも撤退を知らせる笛の音は聞こえていた。

「・・・悪いが、ここいらで退かせて貰う」

「・・・ふん、させると思うか?」

笛の音を聞きながら首領格の男は不適に笑う。

直後、逃がさないとばかりに、今までとは少し違う印を組み始めた。



「氷遁・一角白鯨!」



叫びと同時、氷で出来た地面の下から、一つ角を持った巨大な氷の鯨が飛び出してくる。

だが再不斬はそれを難なく避け、そのまま船の方へと疾走する。


そこで、既に陸から離れているに出た船を見た。

全員が既に、岸まで退避しているようだ。そのやや離れた場所には、敵の姿もあったが。


「来たぞ。どうする」

「俺と再不斬が残る。他は退避。でかい術で足止め。後に撤退」

時間が無いので、簡潔に作戦内容を告げる。

「ナルト、空のやつはどうする?」

少し離れた空中、女忍者は空に浮かびながらこちらの頭上を越え、船へ向かおうと機を伺っていた。

それを、どうするかのサスケの問いに、ナルトではなくマダオが答えた。

任せて、と言いながら、あるものを頭上に掲げた。

「こんなこともあろうかと!」

バットだった。だがそのバットは普通ではない。その表面には、大量の起爆札が貼られていた。

「空を往け! ボンバー君4号!」

無能部下爆殺器、ボンバー君4号が空を飛ぶ。ちなみに火薬の量は企業秘密らしい。


やがて、ボンバー君は空中で爆発。

宙に浮いていた女忍者は強風に吹かれた蠅のように、地面へと落とされた。



「・・・撤収!」


号令と共に。

ナルトと再不斬以外の全員が船へと走り出す。



「さて、やろうかダンナ」

残ったナルトは懐から煙玉を数個取り出し、炸裂させる。そして弱めの風遁でその白い煙を広がらせ、岸当たりを白い煙りで完全に覆い隠す。

「誰がダンナだ・・・ぶちかました後、一気に退くぞ」

「一目散だね」


ナルトは親指を立てながら返事をする。再不斬は少しため息をはいた後、顔を真剣なものへと変化させ、構える。


「水遁・大瀑布の術!」


そして素早く印を組み、手をかざしたあとそれを振り下ろす。

同時、海面が急激に隆起し、そのまま螺旋を描く瀑布となって敵へと襲いかかった。

煙で視界を防いでいたので、敵から見れば白い煙を突き破って突如大瀑布が襲ってきた風に見えるだろう。

辺りに浮かんであった巨大な氷塊が組み合わさり、いつにもまして危険さを増した水の竜巻が、陸にある全てを押し流していく。


「風遁・大突破!」


加え、ナルトも通常より多くのチャクラをこめた大突破を使う。風により氷塊が飛ばされ、陸の方へと飛んでいく。



不意を打たれた形になった敵は驚き、その場に留まるのが精一杯となった。


術を放った2人は動かない敵の気配を察知した後、その場に背を向け、撤退を開始した。




















[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 4
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/09 18:46




先の撤退戦が終わり、その数時間後。

ナルトは、護衛対象である富士風雪絵の部屋を訪れていた。

未だ目を覚まさない雪絵の寝顔を身ながら、三太夫が言っていた言葉を忌々しげに復唱する。

「姫様、ね・・・・」
『うむ。ワシの勘も捨てたもんじゃないのう』
「そうだね・・・」

心中、胸を張るキューちゃんの姿を見た後、ナルトは帽子を深く被ってため息を吐く。

『お主、最近ため息を吐いてばかりだの』

「世界が俺に優しくないからねえ」

キューちゃんに冗談を返した後、ナルトは陽光に照らされる光につられ、窓の方を見る。

「ん・・・?」

そして棚の上、光に照らされ反射し、紫色に輝いている首飾りを見つけた。

「これは・・・?」

随分と変わった形の首飾りだ。まじまじと見つめるナルト。

「六角形の水晶・・・?」

紫に輝く首飾り。

そして何かを閃いたナルトは、その首飾りを手にとった。

「保険、かけとくか・・・」









やがて、撮影隊を乗せた船は、当初の目的地である雪の国の港についた。

一行は港町で予約していた宿を借り、ひとまずは休む。

しかし、あんな事があったのに、撮影隊の誰もが逃げ出さないでいるのは驚いた。
流石は音に聞こえたマキノ監督直属の撮影隊。多少の動揺はあるようだが、パニックは起こしていない。
いつもの通り撮影に使う機材をチェックし、次の撮影に備えている。

「そういえば・・・」

ナルトは思い出したかのように呟く。
彼らは映画界では有名なスタッフで、「マキノ隊」と呼ばれているらしい。
成る程、あの監督に付いていくだけあって、精神的なタフさも兼ね備えているらしい。

「職人だなあ」

彼らは彼らの仕事を全うしている。なら、こちらも仕事を全うしなければならない。
ナルトはそう思った。


宿について一段落した頃。ナルトは部屋の一室を借りて、皆そこに集まるように指示を出した。

「さて、と。三太夫さん。詳しい事情を説明してもらいましょうか」

会議室と貸した部屋の中、監督、助監督、三太夫と、ナルト達護衛の面々が集まっていた。

ナルトは黙る三太夫に質問を続ける。

「あなた富士風雪絵の事を姫、って言いましたよね。そしてあの忍らしき女も“小雪姫”と呼びました・・・今までの事から察するに、あなたは雪の国出身者だ」

何か、知っているんじゃないですか? と詰問する。

「・・・私が雪の国の出だということ・・・口には出さなかったつもりですが、あなたには気づかれていましたか」

「ええ。まあ確たる証拠は無かったですけどね。それをふまえ、今一度、問いたい。浅間三太夫さん。あなたの口から言ってもらえませんか?」

小雪姫と富士風雪絵の事を、と言う。三太夫はため息を吐き、観念したのか真実を話し出す。

「はい・・・雪絵様は、先代の雪の国の君主である風花早雪様の御息女・・・本名は風花小雪姫様と申します」

その言葉にナルトを除く一同は驚いた。

「つまり・・・次代の君主足る資格を持っていると?」

「はい」

そして、三太夫の口から色々な言葉が綴られる。昔の雪の国の事、小雪姫の事。そして、現雪の国君主である風花ドトウの事。

「雪忍・・・?」

「左様。10年前のことです。早雪さまの弟風花ドトウめに雇われたそやつらが、あの城を攻め落としたのです。あの忌まわしきチャクラの鎧を使って・・・」

敵の首領格である男も言っていた。チャクラの鎧。

聞けば、元は何処かの里の抜け忍であったやつらが、風花早雪の友人であった職人に作らせたものらしい。

特殊鉱石と六角水晶が原材料らしい。10年前の時点で完成していたとか。

「しかし、小雪姫ですが・・・そんな中よく無事でしたね?」

「はい。聞けば、木の葉隠れの忍者に助け出されたそうで」

あの時のクーデターで死んだ重臣が、死ぬ前に木の葉側に依頼していたそうだ。

しかし、雪忍の全てを屠る事はできなかった。そのほとんどがやられ、小雪姫1人を国外へ脱出させるだけで精一杯だったとか。

ナルトはその話を聞き、だから木の葉を頼らなかったのかと、ザンゲツから聞かされた事情については納得した。

「私は姫様にこの国へと帰ってきてもらうために・・・」

雪の国へ帰ろうとする素振りを見せない富士風雪絵を見た三太夫は、映画の撮影と女優ということ利用して、今回の事を考えていたらしい。

「じゃあ・・・俺達はあんたに利用されてたってことぉ!?」

助監督が驚きの声を上げる。

「すいません。皆様を騙していた事はお詫びします。ですが、それもこの雪の国の民のため・・・姫様をこの国の君主にするためでございます」

三太夫の謝罪の言葉が発せられる。だが後半の言葉はあまりにも自分勝手な都合。

「国を追われた姫様のために、力を貸していただけないでしょうか」

ナルトは一言入れようとするが、その言葉は入り口から放たれた女性の声に遮られた。

「冗談じゃないわよ・・・・」

「姫様!」

「・・・三太夫、あなた雪の国の人間だったのね・・・」

雪絵は頭を片手で抑えながら、三太夫に尋ねる。

「はい! 姫様は幼かった故、覚えられてないようですが・・・」

三太夫は現れた雪絵の元へと小走りで近づき、その前で両膝をついて話す。

だが、雪絵の三太夫を見る目は冷たい。

「そんな事はどうでもいいわ。三太夫、あなたもしかして、私に・・・」

「はい! 雪の国の民のため、ドトウをめを打ち倒し、新たな君主となっていただけないでしょうか!」

両膝をつき、懇願する三太夫。


だが、雪絵の返答はノーだった。

「いい加減諦めなさいよ! バカじゃないの? あなた1人が・・・例え協力者がいたとしても、ドトウに勝てる訳ないでしょう!」

怒鳴り声を上げる雪絵。それは、三太夫の無謀と蛮勇に対する怒りであった。一番信頼すべきマネージャー騙された、という怒りの気持ちもあったのかもしれない。

そしてもうひとつ、別のものが含まれているようだったが。

「しかし・・・姫様も、今一度、故郷に戻りたくはないのですか!?」

「・・・っ、私は・・・」

怒りの表情を浮かべていた雪絵が、三太夫の言葉を聞いて、その表情を歪ませる。

「無理よ。また、あんな事が起きるに決まってる。あんたも、今度こそ死ぬわ・・・だから、諦めなさいよ」

そして諦めの表情を浮かべ、三太夫に静かに告げる。

顔を背ける雪絵と、頭を下げ続ける三太夫。

そんな2人の間に、サスケの言葉が飛び込んだ。

「あんたは、本当にそれでいいのか? 故郷に帰れるかもしれないんだ。待ってる人もいるだろう。それを、諦められるのか?」

「サスケ・・・」

ナルトが驚きの言葉を発する。まさか、言葉を挟むとは思っていなかったからだ。

「・・・私、は」

「サスケ殿・・・」

真っ正面から告げられたサスケの言葉を聞いて視線を落とす雪絵。

その横合いから、今まで沈黙を保っていたマキノ監督の言葉が発せられた。


「・・・諦めないから、夢は見られる。夢が見られるから、未来が来る・・・いいねえ。風雲姫完結編に相応しいテーマだった」

「か、監督ぅ!? ・・・まさか、まだ撮影を続けるつもりじゃあ・・・」

「言ったろ? この映画化けるって」

「そ、そんなあ!?」

「それに、考えても見ろ。本物のお姫様を使って映画を撮れるなんて、そう滅多にあるもんじゃねえだろう」

「・・・そうか。話題性抜群! メイキングを出してもうける! これを公開したら、ヒット確実っすよ!」

「ちょっと!?」

今までの話を聞いていなかったのか、と雪絵が焦り怒鳴り声を上げる。

だが写真馬鹿の2人は聞く耳をもたない。



一方、マキノ監督の言葉を聞いたナルト。

成る程、と1人頷いていた。





雪の国に行くと決まってから、雪絵が度々脱走を繰り返していた事。

でも、本気で逃げなかった事について、謎は解けたとばかりに頷く。

(女優の意地、か)

先に見た演技の事を思い出し、納得する。
逃げなかったのは、映画の事があったからだろう。
雪絵自身、本当は映画の撮影から逃げたくはないのだ。表面上どう思っているかは知らないが、きっとそうだ。

彼女の心の奥底には両天秤があった

片方、雪の国で起こるであろう、トラブルに関する危険。対すは、女優としての意地と想い。

さぞ、葛藤していたのだろう。あの中途半端な行動にも納得できる。

(・・・幼心に、なあ。クーデターとかいう凄惨な場面を見せられたら)

その光景は、当時の少女の心を深く傷つけたに違いない。重たいものになっていたに違いない。
間違いなくトラウマになるだろう。あのイタチでさえそうだったように。

その光景を思い出してしまったのか、今は逃げ腰になっている彼女。

元の状態に戻って貰うには、どうしたらいいか。それは、映画の続行を続ける・・・というより、禍根を断つ事だ。

ドトウを倒せれば、何も問題は無くなる。危機に恐れる必要は無くなるのだから。
そのためには、この国に留まる必要がある。だが、彼女は逃げたいという。葛藤の故の言葉なのだろう。

あの光景を思い出した今、その選択を選んでしまう気持ち、分からなくもない。

それを察したのだろう、マキノ監督の言葉。

監督が映画を撮ると決定すれば、彼女も反対は仕切れまい。彼女は超一流の女優なのだから。

マキノ監督は、そんな彼女の思いを理解して、続行の決断をしたのかもしれない。

(さて、と)

そして残る問題といえば、俺達護衛の事だ。

そこまで考えた時、ナルトはふと視線を感じて、顔を上げる。すると、マキノ監督がこちらを見ていた。
何かを求めるように。同意を求めるように。

ナルトはその眼に含まれた意を察し、視線を返す。

(分かりましたよ)

そして、決断をする。心情的にも任務的にも問題はない。ザンゲツも、説明すれば分かってくれるだろう。というか、知ってたんじゃないかとも思っている。
後で問いつめよう。

「ええと、いいですか?」

まとまり、心中で意を決したナルトは、横合いから言葉を発する。

「・・・残念ながら。取れる選択肢は一つしかない。ドトウに見つかった以上はね。それに、すんなり逃がしてくれるとも思わない。
そして、例え逃げ切ったとしてもです。奴らは地の果てまで追ってくるでしょう」

それからは追われる毎日ですが、それでいいのですか、と問う。

ナルトの言葉を聞き、雪絵は顔を背ける。

一方、再不斬は少し眉を上げた。跳ね上がった任務の難易度を鑑みて、ナルトはこの任務を断ると思っていたからだ。

だが、ナルトはその言葉を撤回しない。視線を再不斬に投げかける。

(おい・・・)

(後で話すから)

視線だけの会話。

やがて、まあいいといいながら再不斬はため息を吐いた。

再不斬にしても、やられっぱなしは癪にに触るのだろう。それに、実戦を積める数少ない機会だ。このままで終わった方がいいとは思っていない。

「禍根を断ち切る為には、一つ」

「ドトウを倒すという選択肢を選ぶしかないってことか」

「ああ、そういう事」

「・・・ふざけないで!」

何でもないかのように話すナルトとサスケに、雪絵は怒鳴り声を上げる。

「映画とは違うのよ? ・・・そんな、簡単にドトウを倒せたら苦労はしないわ! 現実は、映画とは違う・・・ハッピーエンドなんて、この世の何処にも無いのよ!」

悲痛の声を上げる雪絵。だが、マキノ監督はその弱気の声を一括した。



「そんなものは・・・気合い一つで、何とでもなる!」



爺さんの芯の通った声。説得力を多大に含んだ怒声に、雪絵は眼を丸くする。

それを聞いたナルト達全員だが、その言葉に心から同意し、腕を組みながら頷きを返していた。何か感じ入るものがあったのだろう。

「三太夫さん。依頼内容の変更、受理しました。富士風雪絵の護衛から、風花小雪姫の護衛兼、復権の補助へ」

「イワオ殿・・・」

依頼途中の任務内容変更は、本来ならば御法度だ。多大な違約金が必要となる。

それを問いつめず、新たな依頼を受理したナルトに、三太夫が感極まった声を出した。

「感謝します」

「いえ・・・夢と意地を持った人間を助ける、というのは、私の・・・そう、趣味ですから」

「趣味、ですか」

「はい。命を賭けるに値する趣味ですな」

ナルトは冗談口調で笑う。

「・・・決まりだな」

マキノ監督がにやりと笑う。

「ハッピーエンドの、いい映画にしましょうね!」

助監督がはりきって答える。ナルトは苦笑を返す。



「では、私達はこれで。作戦を練りますから」








次の日。撮影隊は蒸気車である場所へと向かっていた。

三太夫と同じ、反ドトウ派の人間が隠れ住んでいる場所へと。


道中、蒸気車の中。

個室をあてがわれた雪絵は、窓の外の風景を見ながらため息を吐く。

「どうして、こうなったのかしら・・・」

1人、呟く。だがその問いの答えは分かっていた。自分が逃げなかったからだ。

「無理に決まっているのに・・・」

懐かしい故郷。戻れたはずなのに、心は浮かない。どうしても思い出してしまうからだ。

雪忍。木の葉隠れの忍者を打ち倒し、兵士達を次々と惨殺していった、強敵。

「勝てるわけないじゃない・・・」

たった6人で、雪忍、そしてドトウの手勢を相手にして、勝てる筈がない。雪絵はそう思っていた。

「勝てますよ」

「・・・アンタ?」

「すいません。ノックもなしに」

いつの間にか入り口に立っていた白が頭を下げ、謝罪する。そしてその後、手に持っていたコーヒーを雪絵に手渡す。

「・・・ありがと。それで? あんた、今・・・」

「勝てる、と言ったんです」

白は柔らかな微笑を浮かべ、雪絵の問いに答えを返す。

「確かに珍しい術を使うようですが、ただそれだけです。珍しいというだけで、手強くはありません」

「・・珍しい?」

「ああ、そうでしたね」

普通の方は知らないんでした、と説明を始める白。

「氷を操る忍術というのは秘術に該当する忍術で、その一族の系譜のみ使える術・・・血継限界と呼ばれるんですけどね」

水と風のチャクラを同時に操れ、そして合成できる者のみに扱える忍術だと言う。

「それでも、彼らは水と風のチャクラを同時に使っている訳ではないようですから。そこにある氷に干渉しているに過ぎません」

恐らくは鎧の力を借りて、操れているのだろうと白は分析していた。

「それに、見た目は派手ですが、中身がありません。あの程度の術、一度見れば十分対処できますから」

「・・・でも、あいつらにはその・・・忍術を防ぐ壁みたいなものがあるんでしょう? こっちの攻撃が通じなければ、意味ないじゃない」

「そうですね。術で破ろうとすれば、それなりに大技が必要になります。ですが、別の方法もありますから」

「別の方法?」

「はい。ボクの上司の人・・・イワオさんが言いました。“忍術が通じなければぶん殴ればいいじゃない”と」

「・・・ぶん殴る?」

「そうです。幸い、物理攻撃に対する障壁は緩そうですから。それに、昔はどうだったか知りませんが、彼らは体術の方が疎かになっていますから」

先の作戦会議でも言われていた。

チャクラの鎧から発せられる力、その利点と欠点について。

あの雪忍の能力は厄介だが、それだけ。

力に使われている感は否めない。体術が疎かになっているのが良い証拠だ。

戦術次第で何とでもなる、というのが全員の意見だった。

「それに、あの障壁を真っ正面から突き破れるような術も持ち合わせています。だから、心配しないで下さい」

「・・・なんか、にわかには信じがたいんだけど」

どうみても10代半ば程度にしか見えない、しかも綺麗な顔立ちをしている少女の言葉だ。

雪絵は半眼になりながら疑り深そうに見つめてくる。白は苦笑をしながら「そうでしょうね」と返した。

「まあ、論より証拠ですから。分析は終わりましたし、問題はありません」

「だといいけど・・・」

その言葉の途中、雪絵は窓の外を見る。

「あ、雪が・・・」

窓から見える外は、一面の銀世界。そして現在は、雪が降っていた。

「・・・」

白はその雪を見た後、眼を瞑った。

「どうしたの?」

「・・・いえ。何でもありません。それより、この国には春が来ないと聞いたんですけど、本当ですか?」

「ええ。私は昔、父から教えられたんだけどね」




雪の国は春が来ない国。雪絵自身は、小さい頃に父からそう教えられたそうだ。

その時の光景を思い出す。

その時の言葉を思い出す。




『諦めないで、未来を信じるんだ。そうすればきっと、春は来る』

何かを作っていた父。何かを成そうとしていた父。

その優しい笑顔を、私は今でも思い出せる。


だが、あの日。炎が全てを焼き尽くし、人が大勢死んだ。

今でも夢に見る事がある。何も出来なかったあの日。脱出してからの日々。
何も出来なくて、そして悲しくて。泣いているだけの毎日。やがて涙は枯れ果てた。

それからは全てに無気力になった。

悲しみから逃れるため、もう一度信じた人に死なれるのが嫌で。

やがて私は信じることをやめた。信じる事が怖くなったのだ。

そして逃げて、嘘を付いて。自分にさえ嘘をついて。
そして自分を演じ続けて。

気が付けば私は、女優になっていた。

・・・何故、女優という職業をを選んだのか。その切っ掛けは思い出せないが。

今逃げていない理由も、あるにはある。だが、迷っているのだ。

帰りたい、帰りたくない。逃げたい、逃げたくない。



やがて過去と今の自分の事を考え終えた雪絵は、何の感情も込めずに呟く。

「・・・でも、春は来ないのよ」

そんな雪絵に白は謝罪の言葉を返す。

「・・・すいません。嫌な事を思い出させてしまったようですね」

「・・・別に」

構わないわよ、と雪絵は窓の外を見る。

そして気のない風に、そういえば、アンタは? と白に問うた。

「さっき、雪を見ていたアンタ・・・一瞬だけど空気が変わったわよ?」

「・・・分かりましたか」

「それは、ね。相手の呼吸を察するのも、演技するのには必要だし」

と言ったところで、また黙り込む。

白は苦笑を返し、先の問いに答えた。

「はい、少し昔を思い出していました」

「・・・昔? あんたの故郷にも、雪が降るの?」

「はい。そして、春も一応は来ます」

「そうなんだ・・・でもあんた、暗い顔をしていたけど」

「ええと・・・話せば長くなるんですけど」

そこで白は印を組み、掌の上に蝶を発生させる。氷で出来た蝶を。

「・・・あんた、それ」

「はい。あの雪忍達とは一緒にして欲しくはないですけど・・・これはボクの血継限界です」

呟き、悲しそうに笑う。

「ボクの故郷では、この能力は戦争を引き起こす忌むべき力と認識されていまして。それで、ボクは故郷から出てきたんですよ」

「・・・そうなの」

「はい。そこでボクは、力というものがどういう事態を引き起こすのか・・・一端ですが、知りました」

詳しくは話したくないため、笑顔で誤魔化す。雪絵も深くは聞かないでいた。

「今回、護衛に携わるボクの仲間も、大抵がそういう過去を持っています。だから、ボク達は負けません」

そこで白は表情を真剣なものに変え、告げる。

「力に使われているだけのあいつらに、負ける筈が無いですから」

意地も何も無い、道具に頼っているだけで、それもその力に使われている奴らなどに負けない。白はそう言った。

「それに、ボクは、こう思うんです。力とは本来、誰かを守るために振るわれるものだと」

「それは・・・そうかもしれないわね」

あの鎧が無ければ、もしかしたらクーデターは起きなかったのかもしれない。雪絵はそう思い、同意を返す。

「その意味を知らないあいつらには、絶対に負けません」

「そう・・・そういえばあなた達、どれくらい強いの?」

雪絵の問いに、白は難しい表情を浮かべる。

「どう説明したらいいのか・・・」

「ええと、昔私を助けた忍者・・・名前は・・・そう、はたけカカシとか言う銀髪の忍者よりは強いの?」

「・・・はたけカカシ、ですか」

呟いた白は部屋の入り口に視線を向けた後、言葉を続ける。

「別名、木の葉隠れのコピー忍者と言いまして。ええと、現在の木の葉隠れの里で、1、2を争う実力を持っています」

「・・・そうなの。で、どっちが強いの?」

「ボクは勝てないでしょうけど、そうですね・・・ジェットさんとイワオさんなら、はたけカカシにも勝てると思いますよ」

と、白はそこで席を立った。

「すいません。呼ばれているようですので、これで。今の話の続きは、実際に眼で見て下さい」

「待って。あと、一つだけ」

「何ですか?」

「あの、変態痴漢芸人忍者って、強いの?」

雪絵のその言葉が放たれた途端、入り口から物音がする。

白は笑顔で物音を無視しながら、告げた。

「そうですね・・・今は、ボクより少し下ぐらいです・・・・でも、誰よりも強くなる可能性を秘めていますよ」

笑顔で返し、白はドアを開け外に出る。


そして、そこにずっこけていたサスケに冷たい視線を向け、呟く。

「レディーの会話を盗み聞きするのは、マナー違反ですよ?」

「・・・すまん」

「で、どこから聞いていたんです?」

「雪が降り始めたところからだ」

「・・・そうですか」

「スマン」

「別に、謝らなくていいです。それよりも、ナルトさんに報告を」

「・・・カカシの事だな。分かった」



その後、2人はカカシの事をナルトに報告する。が、ナルトは既に知っていたと返す。

「いや、ザンゲツに連絡を取ってね。影分身使って。・・・まあ、それで色々と情報を得られたから」

ついさっきだけどね、とラーメンを食べながら話す。

「そうなんですか・・・で、依頼の方は?」

「まあ、色々と。全体的にはうまくいったから、そういう事でよろしく」

「・・・分かりました。あと、敵の狙いについてですが・・・」

「六角水晶だね。富士風雪絵が常に身につけているあれが狙いなんだろう。ご丁寧に教えて下さったし。

まあ、それに対する対策というか、保険は既にかけてあるから、心配は要らないよ」

「そうなんですか?」

「うん。これから姫様にも説明はしてくるから。作戦内容はその後に伝える。動く時が来れば合図するから、その時まで待っていてくれ・・・っておい」

ラーメンを食べていたナルトの動きが止まる。

「・・・・くそ。少々厄介な事になったな」

「え、どうしたんですか? 急に」

「網の諜報員からの連絡だ・・・反ドトウ派の村が襲撃にあったらしい」

「間諜・・・内諜ですか?」

「ああ。覚えておくといい。五大国と隠れ里を除いた場所以外、だが・・・“網”は、何処にでもいると」

雪忍の下忍の中に、網の手の者がいる。組織の諜報部が前もって忍ばせておいたのだ。

「ドトウも、最近特にきな臭い動きを見せていたって話だからね。商人からいくらでも情報は入るし、網も懸念事項として挙げていたんだって」

「それで、今回の依頼斡旋ですか」

「そういうこと」

「で、情報は?」

「襲撃を受けて、一部が負傷。全員が捕縛されている。殺されてはいないと言っているけど、この先どうなるかは分からないな」

見せしめに、民の前で処刑を行うつもりかもしれない。あるいは、だ。別の使い道もあるだろう。

「・・・こちらに対する人質、ですか。どうします?」

「強攻策に出るのもちょっとなあ。やってやれんことはないけど、人質は死ぬだろうね・・・うん、それは不味いな。姫様にこれ以上重荷を背負わせるのも何だし」

自分のせいで人が死んだと思ってしまうだろう。それは良くない。

「そうですね・・・それじゃあ、こんなのはどうですか?」

白がナルトとサスケに策を提案する。

「・・・人質が取られている現状、それしか手はないか。一応、俺の影分身を村の方に向かわせておくから。あと、三太夫さんには内緒な」

「敵を欺くのは、ですか。承知しました」

「俺はどうしたらいい?」

「そうだな。サスケには・・・・」

ナルトがサスケに説明をする。

「・・・責任重大だな。分かった」

「これも修行と思って。絶対に依頼人を傷つけないように守りきってくれ。あと、再不斬と多由也にも作戦変更の旨を。マダオには俺から話すよ」

「了解」

そして部屋を出て行こうとするサスケに、ナルトは声をかける。

「しくじるなよ、サスケ」

「はっ、分かってるさ。こんな所で死ぬ訳にはいかないからな」

肩越しに振り返り、一瞬時間をおいて返答する。

だがその次の問いには、即答を返した。

「エロいことすんなよサスケ」
「もうしません」

敬語口調で即答しながら、顔を前に向けるサスケ。死角となったので、ナルトからは顔色を伺えないが、きっと青いのだろう。

「・・・次、やったら十倍ですからね」

「何が!?」

サスケの突っ込み。

「頼もしいな。じゃあ、頼んだぞ」

「何を!?」

それもダブルである。

二重突っ込みである。天然ボケもいけるが、突っ込みもOKとは、とナルトが唸る。

「大したヤツだ」

流石は期待の新人、と繋げようとしたが、サスケに拒否された。順調だな、とナルトが呟く。いったい何に順調なのか、白もサスケも突っ込まなかった。

「・・・それじゃあ、準備しましょうか」

白が一言入れて場を締める。ナルトはそれに頷き、呟いた。



「ああ。望む結末をこっちに引き寄せるためにな」








そして、撮影地に到着後。

蒸気車から降りた撮影隊は、しばらくしてから撮影に入る。


そして、撮影が終わった直後の事だった。

「ん? そういえば、三太夫さんは何処にいったんだ?

助監督がナルトに聞いてくる。ナルトは知りながらもとぼけた口調で嘘をいう。

「ええと、いつの間にかいなくなって・・・あ」

答えた、その時である。

丘の向こうから、縛られ猿ぐつわを噛まされた三太夫と、それを引きずっている雪忍が姿を現した。

瞬時に悟る。

「・・・ふん、人質という訳だ」

反ドトウ派の村とやらは既にドトウに知られていたのか、と悟る。

「ああ。陳腐な言葉で申し訳ないが・・・こいつの命が惜しければ、富士風雪絵をこちらに渡してもらおうか」

同時、背後から飛空挺のようなものが姿を現す。

ナルトはそれを見ながらも、こちらの意志を取りあえず示した。


「ふん、応じると思って「待って」・・・富士風さん?」



だがその途中。一歩、雪絵が前に出て自分の意志を示す。

「いいわ。私が行く。だから、三太夫を離して頂戴」

もうこれ以上。誰かが死ぬのを見たくないから。

雪絵はドトウの顔を真正面から睨み付け、答える。

「・・・ふん。いいだろう」

そして連れられていく雪絵。

「姫様~!」

その背中を見ながら、三太夫は叫んだ。

1人、事情を知らない三太夫の、迫真の演技である。本人としては、勿論演技では無いのだろうけど。

飛空挺が去った後、ナルトは1人呟く。

「敵を欺くにはまず味方からってね」

三太夫さんにはちと悪いが。

それにしても、予想通りの動きだ。反対派を全滅させるより、旗頭の方を抑えに来たか。水晶の事もあるし、一石二鳥というやつだな。

「・・・でもまあ、予定通りですか。サスケ君も、上手くいったようですね」

「ああ。後は、仕上げだな」

相変わらずの余裕をもって、2人は頷く。

そして、取るべき行動を始めたのである。






一方、雪絵を乗せた飛行船の中。

ドトウの対面に座らされた雪絵は、テーブルに置かれたワインを飲み干しながらも、叔父に嫌悪の視線を向ける。

「久しぶりだな、小雪。10年振りになるか」

「・・・ええ。こちらは心底会いたくなかったのだけれど。ドトウ叔父」

「ふん、そういうな。さて、小雪」

「・・・一体、何?」

ドトウは小雪の首に手を触れ、その首飾りを取り外す。


「おお、これが・・・!」

と感極まった声を上げるドトウ。

「・・・それが、何か?」

内心で笑いを押し殺し。だが雪絵は、表面上は演技を続け、ドトウに話しかける。

やがて、ドトウの口からあることが語られる。曰く、この六角水晶は、兄が遺した風花の秘宝を開けるために必要な鍵なのであると。

「これで、秘宝が・・・?」

手に入る、とは続かなかった。


高らかに掲げ上げたその水晶が一転、煙を上げ“スカ”と書かれた紙切れに変わったのだから。

スカのカードを掲げ上げるドトウ。それを見た雪絵と、雪忍配下の一般兵の顔が歪む。笑いをこらえようとしているのだ。


「・・・これは・・・小雪!」

「偽物、らしいわね?」

怒るドトウと、不適な笑顔を浮かべる雪絵。

やがて雪絵は、気丈にもドトウに対して挑発の笑みを返す。

「残念だったわね? お・じ・さ・ま?」

「く・・・」

屈辱に染まるドトウの顔。そして、そのスカのカードを地面に叩きつけようとする。

それと同時、スカのカードが煙を上げてまた別のものへと変化した。ナルトである。

「影分身の術・・・はっ!」

飛び上がり、高い段に上がると見習いであろう、雪忍を下に蹴り落とす。

そして、ドトウに向けポーズを取り高らかに笑い声を上げる。

「はっはっはっはっはっ!」

そして高いところから、ドトウに嘲笑を浴びせる。

「貴様・・・!」

「こんなこともあろうかと! ・・・すり替えておいたのさ!」

「くっ・・・本物は何処だ!」

「もちろん、俺の手の中さ。ただし、本体のな。いや、迂闊だったな鼻野郎・・・おっと。小雪姫には手え出すなよ? 鍵となる六角水晶がどうなっても知らんぞ?」

「・・・貴様・・・何が望みだ!・・・って何を踊っている!」

ナルトは段上で、へこへこと人を逆上させるダンスを踊っていた。とことんドトウを虚仮にしているようだ。

ドトウの方はといえば、それを見ながら憤怒で顔を赤くしていた。

そんなドトウを見た雪絵は顔を逸らしながら、忍び笑いをかみ殺していた。肩が震えている。

「ええと、望み? ・・・そうだな。俺達の望みは一つ。撮影が控えている今、お前のような身の程しらずのガキ大将には、自殺してもらいたい。でも、残念ながらその望みが叶う可能性はとても低い・・・そこで、だ」

ニヤリ、と影分身が笑う。

「今宵今晩お前の城に、しっぺい・・・じゃない。俺達7人が会いに行こう。例の水晶を携えて、だ。そこで決着をつけようじゃないか」

事実上の宣戦布告。七対数百の無謀な勝負。それを事前の宣戦ありで、真っ正面から打ち破ると。ナルトはそう言っているのだ。

「・・・まさか、逃げないよな」

「・・・ふん! ネズミ如きに我が逃げる道理があるか! いいだろう、受けて立とう」

虫は虫らしく、一ひねりに潰してやると顔を真っ赤にしたまま答える。

「貴様こそ、逃げるなよ!」

「了解。墓穴はこちらで掘ってやるから、別に墓地の予約は要らない。俺達7人でお前の墓を掘ってやるから」

「・・・ネズミ如きが、吠えるな! ナダレ!」

ドトウの叫びと同時。敵首領格である狼牙ナダレがクナイを投じる。

だがクナイが当たる寸前、ナルトの影分身は自分で姿を消した。

「・・・ちっ」

「・・・ナダレ、雪忍および私の手勢を集めろ。全員だ。ご丁寧に今夜攻め込む、との宣告だ・・・返り討ちにしてやれ!」

自信満々に答えるドトウ。それはそうだ。彼はこの後、風花の財宝を手に入れ、五大国をも制する気でいるのだから。

ここで、抜け忍風情に破れるなど、あってはならない事だ。

「承知しました」

それはこの雪忍、元雨隠れの忍者、狼牙ナダレとて同じ事だった。元雨隠れの忍者、里を抜けてから十数年。

木の葉との戦いでは、あの忌まわしきはたけカカシの雷切にこの頬を切り裂かれてはいても、野心は未だ消えてはいなかった。

体術だけしか才能がないと言われ、謂われのない差別を受けて抜けた里。それを見返してやる為にも、そしてあのはたけカカシに借りを返すためにも、こんな所で負けてはいられない。

(そうだ、このチャクラの鎧があれば・・・!)

何でもできると、そう思っていた。鎧の力を借りてでも、術が使えるようになった時は、本当に嬉しかった。

この鎧は自分に夢を与えてくれた。かつての自分には見いだせなかった夢を、この鎧は見せてくれる。

だから、負けない。負ける筈が無い。ナダレは、そう思っていた。心の底から。


誰にも指摘される事のない、誰の意見にも耳を貸さず。

外界から取り残されている、この雪の国という井戸の中で。只1人、かつて幼い頃に夢見た、そしてそのまま止まっていた。

忍びの世界の頂点に立つという夢を再び見られるのだと。本気でそう信じていた。

「ドトウ様。小雪姫はどういたしましょうか」

「ふん、牢にでも入れておけ。人質交換の際に使えるからな・・・それに、あの下郎は小雪を傷つけるなと言った。万が一もある」

「承知いたしました」

「あと、念の為だが、例の装置を牢に仕掛けておけ。あやつら、予想外にやるようだからな」

「はい。それでは、早速手配をいたします」

答えながら、ナダレが下がり、配下であるフブキとミゾレに指示を出す。

「今夜、か・・・」




そしてしばらくして。

飛空船が辿り着いたのは、ドトウの居城であった。

城の中は夜襲に備える忍び、兵士達であふれかえっていた。忍びには、例のチャクラの鎧の旧型、白いチャクラの鎧が支給されていた。

みな、厳重警戒をしいている。


そんな中、雪絵は1人牢に入れられていた。

入り口には見張りの忍び。極寒の中、雪絵は牢の中で膝をかかえ、寒さに震えていた。

入ってからしばらくして。

入り口の方で物音がしたかと思うと、とある人物が入ってきた。

「・・・遅いわよ」

雪絵はその人物、サスケに向け憎まれ口を叩く。

「そいつはすまなかった」

言葉だけの謝罪。だが、肩はすくめなかった。肩には、見張りの者を担いでいたからだ。

「・・・そいつらは?」

「ああ、見張りだ。今当て身で気絶させたんでな。あと数時間は起きないだろう」

代わりの見張りは既に立っているからバレることもない、とサスケは答え、牢の中へ気絶している見張りの忍びを横たわらせる。

一応、縄で後手に縛っておくのも忘れない。

「ふん、冗談よ。でもアンタ、随分と速かったようだけど?」

撮影していた場所から、ここまではかなりの距離がある。雪絵は最初こそ憎まれ口をたたいたものの、正直驚いていた。
ここまで短時間で自分の元へやってくるとは思わなかったのだ。

「ああ。アンタが攫われたあの時、俺は奴らの隙を突いて船の中に乗り込んでいたからな」

ドトウがどう出るか分からない以上、いざとなれば助けに入れるよう、変化の術を使って、船の中へと侵入していたようだ。

ちなみに、ナルトの影分身もいた。

「それに、あの雪忍の・・・恐らく下忍か。まるで素人同然だったしな。内諜もいたし、この牢を見つけるのは苦労しなかった」

「・・・そういえば私、さっきあいつらから聞いたんだけど」

雪絵が話しだす。今の雪忍は民の若い者から、徴兵と偽って招集していたらしい。

「まあ、そうらしいな・・・」

サスケもナルトからそれは聞いていた。作戦の方針としても、あの幹部3人以外は極力殺しはしないと言っていたと説明する。

安堵する雪絵に大丈夫だろ、とサスケは返しながら、雪絵の牢の隣にある部屋へと座り込む。

「作戦まであと数十分ある。見たところ、その牢限定で結界が張られているようだし・・・決行時間になったら破るからそのつもりでいてくれ」

「ふん、分かってるわよ。でも、この牢結界みたいなものが張られているようだけど、破れるの?」

「問題はない。何とかする」

「そう・・・」


そこで、会話が途切れる。

すきま風の音だけが聞こえる牢の中、2人は壁越しに背を向け合い、話し合った。



「・・・ねえ、アンタ。暇だし、何か話してよ」

「あんた、本当に我が儘だな」

まあお姫様なら当然か、とサスケがため息を吐きながら言った。

「・・・しかし、お姫様なアンタが、よくもまああんな危険な作戦を承知したもんだな・・・ドトウが怖くは無いのか?」

「・・・ふん、自分が原因で、これ以上誰にも死んで欲しくなかったからよ。考えた結果じゃないわ。

・・・それに、元はと言え主君である私が、自分だけ安全な所にいるなんて事、できるわけないでしょうが」

「策を了承したイワオ達も、驚いていたよ。即決だったらしいな」

「別に。私としてもドトウ叔父の間抜けな顔とか見たかったしね」

あの顔。傑作だったわと笑う。

「・・・なんともはや」

多由也といい、白といい、九那実さんといい。

女ってすげえなあ、とサスケは呟く。

「でも、声。震えてるぞ」

「それは、まあ。流石にね・・・」

怖いわよ、と小声で呟く。

サスケも、先程ちらりと見ただけだが、雪絵の手は震えていた。

「でも、アンタ達が何とかしてくれるんでしょ? 木の葉一番の忍者とかいう、あの銀髪・・・はたけカカシに勝てるっていうんだから」

だから大丈夫よね、と雪絵は答える。

「カカシか・・・」

顰めっ面でサスケは呟いた。その表情は見えなかっただろうが、その声に含まれていた複雑な感情は察知できたのだろう。

雪絵がサスケに訊ねる。

「へえ、アンタも知っているの?」

「・・・ここからはオフレコでお願いしたいんだが・・・それを承知してくれるなら、話す」

「いいわ。忍びとの契約を、それが口約束でも破らない」

雪絵もそれほど馬鹿じゃない。姫なりの知識は備えている。というか、裏の世界の常識だ。雪絵も女優として一流となった身。

それに、何故だろうか、破る気も起きない。

彼女自身、それも不思議な感じだったが。

「カカシは・・・元、だがな。俺の先生・・・だ?」

「・・・え!? というか何で疑問系なの?」

「色々あったからなあ・・・」

遠い眼をするサスケ。遅刻とか、遅刻とか、遅刻とか。色々な事を思い出してしまい、サスケのテンションが徐々に上がっていく。

主に怒りで。

「・・・まあ、俺は木の葉を抜けた身なんで、今は関係無いがな」

でも次あったら殴ろうと決めているサスケであった。

「そうなんだ・・・そういえば、あんたらは全員抜け忍なのよね?」

「あ、ああ。そうだが?」

「・・・それにしては、ねえ。あのジェットとかいうの以外は、全員脳天気だし。変に殺伐としていないし、やさぐれていないわよね」

今までも、抜け忍を何度か見る機会はあったらしい。それとは全然違う、と雪絵は言う。

「夢とか・・・ほんと、クサイ事を真顔で言い出すし。趣味とか言うし。あんたは人の胸触るし」

「本当に申し訳ありませんでした」

壁の向こうで頭を下げるサスケ。雪絵は苦笑しながら、言葉を返す。

「ほんっと。アンタ達って変わってるわよねえ」

真摯に謝るサスケと、あの時の赤鬼と白夜叉の表情を思い出したのか、雪絵が笑う。

「・・・それは、まあ。頭からして、ああだし」

サスケは話を逸らしながら、ため息を吐いた。

「やっぱりそうなんだ。あの、海面を走っていたあれも、その一部?」

「・・・それは聞かないでくれ。頼むから」

「あと、アンタもあの・・・桃って子と同じ、里を出てきた口なんでしょ?」

「ああ・・・まあ、俺は少し違うが・・・結果的には似たようなものか」

少し沈んだ声。雪絵はそれを察したのか、小さい声でサスケに訊ねる。

聞こえるかどうかの、小さい声。何となくいった言葉だったのかもしれない。だが、サスケの耳はそれを捉えていた。



「・・・故郷に帰りたい?」



突発的な雪絵の質問。それは、誰への問いなのか。

サスケはその問いに、考える事もせず。ただ今思っている事を答えた。

「・・・それは、正直・・・まあ分からないな。今思うことはその一つだな」

少し沈んだ口調で、返す。元々、と呟き、そして話し出す。

「忌み嫌われていた一族だっただろうからな。それで全員死んで、俺だけが生き残って・・・」

詳しい事は話せないが、単語だけは話す。思い浮かんでしまった言葉を羅列していくだけ。

だが、その言葉は苛烈も極まるものだった。聞いた雪絵は息を飲む程に。

「・・・アンタ、だけ?」

「ああ。父さんも母さんも死んで。兄はその犯人で。そして里を抜けて・・・」

「・・・」

思い出す度に、考えてしまう。


「・・・すまん」

これ以上思い出しても何にもならない、とサスケは言葉を切る。

「・・・」

返す雪絵も無言。

だが2人は同じ思いを抱いていた。





共に、取り返せない過去を持つ2人。失った場所がある2人。

失った時の事を思い出す2人。

大切な人達が一緒にいた、セピア色の風景を思い出して。

もし。あの時。繰り返す。思い出す度に考えてしまう。囚われているのだろう。輝かしい過去に。





「情けないっていうのか・・・この想いは」

「・・・・アンタも、か」

サスケの自問に、雪絵が言葉返す。同じではないが、似ている過去を持つ2人。白もそうだ。

だから、話を聞く気になったのだろう。話をする気になったのだろう。

同じ匂いがする3人。辛い過去を持つ3人は、過去に囚われている時があった。

もしかして、何て思いながら。辛い現実から眼をそむけ、偶像を見てしまう時がある。

「あのときもしも、か・・・それでも、何にもならないんだけどな」

「・・・確かに、ね」

はっきりとした言葉では表したくは無い。そんな、説明を省いた言葉でもある程度の意味は2人とも理解できていた。

それはそうだろう。やり直したい過去を持っている人間であれば、一度や二度は思う筈だ。



---昔に戻りたいと。

---あの風景の、その先に自分は在りたかったと。


風が吹いて、時が流れて。

それはもう、夢の中にしか無いのだけれど。






物思いにふける2人。そこに、入り口から扉をノックする音が聞こえてきた。

「・・・合図だ。時間だ、な」

「・・・」



「時間だ。続きは全部終わってから「待って」」

サスケの言葉は雪絵の言葉に遮られた。


「あんたは、何故戦うの?」


「・・・横にどいててくれ。こじ開けるから」


「アンタ・・・分かったわよ。もう」


サスケの気配の変化を感じ取ったのか、雪絵が言葉の途中で牢の端へと寄った。


サスケは牢の前に佇み、自分の右手を見つめる。





そして、先に言っていた話の続きを呟きだした。





「そうだな・・・あの時、俺は何も出来なくて。真実を知らず、父さんと母さんを殺した兄を憎むことしか出来なくて」


右手には何も乗っていない。全て、こぼれ落ちてしまった。

月が怖いくらいに綺麗だった、あの夜に。

思い出す度に考えてしまう。横たわる屍を思い出し、考えてしまう。



兄さんも。

自分が手にかけた一族の者達を見て、そう思ったのだろうか。

もっといい方法はなかったのかと。何でこんな事に、と。



「それでも・・・」


サスケの両目に映るは、虚ろな光。


でも、見つめる右の掌、その腕に左手が添えられる。


「・・・それでも!」


叫びと同時、サスケは両の手を下げる。


顔を俯かせ、だがサスケは叫び続ける。



「それでも・・・俺は真実を知って!」



鳥が。




「もう一度、やり直せる機会が出来て!」


憎しみに逃げたけど。


鳥が鳴く。



「まだ、取り戻せる人がいると知って!」


残っていた。たった1人。


更に、更に、更に。



サスケの右手の先、鳥が鳴き始める。



千の光を背負う、雷鳥の鳴き声が。




「志を共にする、仲間が出来て!」



そこでサスケは顔を上げる。

先程の様子とは一転していた。その眼光はいつもの、そして何時かの純粋な輝きを取り戻し、両眼の底に宿っていた。


雷光が地面を抉る。サスケは跳躍し、牢の正面に右手を突き出す。

一点集中。余波を殺しきるチャクラの形態変化。貫通のみを目的としたそれは、牢の結界を容易く突き破る。


雷光が牢の結界を焼き切る。

そして牢の格子を叩き切る。


囚われる必要など無いのだと。昔を思う事は大事だが、それでもまだ諦めるのには速いと。

自分で作り上げた牢に留まる必要は、何処にも無いのだと。死んだ者も、生きている者も、誰もそれを望んでいないのだと。


教わった事がある。

知った言葉がある。

見つけた意地がある。


「貫け!」



叫びと同時、その結果が訪れる。

一転集中された一撃が、結界の防護を貫いて基点を破壊した。




「さっきの質問に答えよう。俺が今戦う理由は、ただ一つだ」




囚われる何もかもを無視して、取り戻す者を取り戻す。

かつての光景、失われた人もいるけれど、それを振り向かない。


想いは此処に。ただ胸の中に。


それを礎として、ただ走るだけだ。

もう、失わないために。




力なんて関係ない。もう誰にも、俺の大切なものは渡さない。

例えそれが運命であれ、譲らない。力持つ者に付きまとう宿命であっても、それは変わらない。



俺は、俺の望むままに生きる。

そんな意地である。




「見つけた意地があるんだ。俺は、ただそれを通すため、戦っている」

あんたの、女優に対する意地と同じくだ。サスケはそう言った。


雪絵は牢の中から出てきた後、サスケのその眼光を見ながら呟く。


「そうね・・・そうだったわね」


雪絵は初めてマキノ監督に会った時のことを思い出す。

監督の言葉を思い出す。


『お前以外に、この役を演れるヤツはいねえ』


誰の代わりでも無い。自分にしか出来ない役。女優として、これ以上の誉れがあるか。

途中、様々な意図が絡んできても、それだけを信じて演じてきた。

雪の国に訪れると決まった時も、その言葉が胸に残っていたから、逃げられなかった。




“誰にも、この役は渡さない”



そんな、女優の意地である。



昔を思い出して、強がりを言って、自分を卑下して。

風雲姫と昔、過去に怯えていた自分とのギャップが激しすぎて、自己嫌悪に陥る事があった。

それを、変えられるかもしれない。全てを解決すれば、もっと良い演技が出来るかもしれない。

逃げたいという気持ちと、帰りたいという気持ち。


様々な葛藤の中、それでも、雪絵は今この国に居た。

恐らくはそれが答えなのだろう。

雪絵は、情けない自分と、それでもここに居る自分の両方を感じた。

どっちが自分なのか。分からないけど、それでもいいのだろうか。


「・・・ねえ。今からでも、やり直せると思う?」


雪絵がサスケに問う。こんな自分でも、これから先望む未来をつかみ取れるのだろうかと。


「ああ。遅すぎる何て事はない筈だ。今、あんたは此処に居て・・・それで、生きているんだから」


それはサスケが常に自分に問うているもの。そして、それに対する答えだった。


「それに、俺はアンタの演技が見たい。あの続きをな。だから、止めるなんていってくれるなよ?」


雪絵はきょとんとした表情を浮かべた後、不適に笑った。


「上等よ。絶対に死なないし、何としてもカメラの前に立ってやるわ・・・だから」


手伝ってくれる? と問う雪絵に、サスケは不適な顔を浮かべ返答した。




「勿論だ」


今、失いたくないものを見つけ、サスケはそれを守ろうと決意した。


そして、冗談の言葉を投げかけながら、手を差し出す。




「行きましょうか、風雲姫」



雪絵は笑いつつ、その言葉に応えた。




「ええ。虹の向こうにね」




極寒の牢の部屋の中、忍びと姫の両手がしっかりと結ばれた。








[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ 5
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 01:12
「喰らえ!」


「死ねえ!」



城の入り口。


ドトウ配下の雪忍、白いチャクラの鎧を着込んだ下忍達が氷遁の術を使ってくる。


一つ一つの術は大した威力ではない。

最新式の黒色のチャクラの鎧を着ている、あの幹部の忍びが放つ術に威力には、到底及ばない。



「休むな! 物量で押せ!」



だが、術の数だけは多い。

城門の前、開けた広場の真ん中に立っているナルトに向けて容赦のない氷の散弾が放たれる。

その散弾の数は百にも及ぶ。

逃げ場は無いと思われた。



「・・・・甘いな」


だがナルトは生きている。その全てをかわし、捌き、弾いてなお、そこに立っていた。

髪の色は赤。顔は狐の面で遮られて見えない。だが、その威圧感はその場にいた全員を圧倒している。


「くっ、ならばこれはどうだ!」


次に放たれるは大きな氷の槍。複数の人間で発動したのだろうそれは、大きな岩をもつらぬくほどの質量を持っていた。



「潰れろ!」



だが遅い。ナルトは構えもせず、ただ歩くだけ。前に歩くだけで、その巨大な氷の槍を交わしきる。



「遅い」



「何ぃ!?」


その動きを見た下忍、その小隊長らしき男が驚愕の声を上げる。



「喚くな」


風遁・大突破を使うナルト。その風に、下忍達は吹き飛ばされたかに見えた。

だが、チャクラの鎧がそれを阻む。

全員が突風に耐え、そこに健在していた。



それを見たナルトの口の端が歪む。



未だ戦意が消えていない相手に向け。

ナルトは手を翳す。


---少し赤を帯びたチャクラが

その手に重なる。

内なるあやかしのチャクラが鳴動し

ナルトの四肢に流れ込む。


そのチャクラの意味を、目の前の雪忍達は知らない。


---右手を握る。様々な障害を殴り飛ばしてきた右手を。

この手で何を為すべきか。未熟なる我が身は、未だこの方法でしか障害を蹴散らせなくても。

それでも為すべき事があるならば、ためらいはしない。時間は待ってはくれないのだから。


「巫山戯るな!」


氷の槍が、散弾が。

矢が剣が斧が、ナルトを貫かんと全方位から殺到する。



逃げ場などない。避けられる数ではないだろう。



---しかし、生きている。ナルトはまだ。

傷一つ無く立っている。先程までは様子見。今は世界でもトップクラスのチャクラコントロールを身につけたナルトだ。

氷の凶器群が襲ったのはナルトの残像。この程度のスピードの攻撃、避けきれない筈がない。


「く・・・だが、まだまだ! 我ら1人ではお前に適わなくても、数がある! 術を防ぐ鎧もある! ・・・怯むな、攻撃を!」


成る程。チャクラの障壁は強力だ。

しかもこの数。術を主体とした忍びならば、勝てないかもしれない。

倒すには体術による攻撃しかなく、それでは1人1人倒すのに時間が掛かりすぎる。

そもそも、正面突破を選ばない。そんな非効率、選択しはしない。



「成る程・・・確かに。並の忍びならば、お前達を倒しきる事はできないだろう」




---けれど。


けれど、けれど、けれど。



『だがどうやら、彼はただの忍びでは無いらしい』



マダオの相づちと同時。

ナルトのチャクラが更に膨れあがる。ナルトの意志に呼応して。




「麺の君・・・我が相棒、“九那実”。俺は君と共に、こう言おう」



チャクラが膨れあがる。その勢い、まるで天を貫くかのよう。




迫力に圧され、後ずさる雪忍達の目の前。



その中心で、ナルトは一言、告げた。





『「最初はグー」』













「遠くから爆音が聞こえて、数分・・・どうやら始まったようだな」

しかし、真っ正面からか、と呟く。サスケと雪絵は廊下にある棚の陰に隠れながら、会話を続ける。

「真っ正面からって・・・大丈夫なの?」

雪絵が心配そうにサスケに訊ねる。サスケは肩を竦めながら言う。

「むしろ負ける理由がみつからない・・・あいつは、強いからな。それに、チャクラの鎧についてはもう分かった」

サスケは答え、今居る廊下の曲がり角へと走る。

音も立てず忍びより、廊下の向こうから現れた雪忍に奇襲。

一歩踏み込み、軸足を回転させて回し蹴り。鳩尾へ一発、手応えを確認しながら跳躍し、回転の勢いを殺さないままもう1人の顎へと後ろ回し蹴り。踵が顎の先端を捉える。

急所への的確かつ鋭い打撃により、2人はなすすべもなく昏倒する。

「・・・ってな具合だ。術の障壁は確かに驚異だが、体術に関してはノーマーク。それに、チャクラの鎧に関しても万能じゃない。
身につけている者の任意で障壁を展開させる必要があるからな」

術のように印を組む必要は無いが、障壁を展開するには術者の意志が必要となる。

「今のように、死角からの一撃で事は足りる。気配察知とか、基本の技量が疎かになっているこいつらならば勝つのは容易い」

もし手練れの忍びが身につけていれば、それこそ驚異となるだろう。

「あとは、容赦のない強烈な一撃で粉砕するとかな。チャクラで身体能力を活性した上の一撃なら、障壁の上からでも突き破れる」

忍具や体術による衝撃を和らげるであろう障壁も、その範囲には限度がある。

「でも、そんな事が出来るの?」

「急所なら、今みたいにある程度和らげられても関係ない。まあ、力一杯打つ必要があるけど。俺とは・・桃とクシナならば、その方法で十分対処できる」

「・・・残りの2人は?」

「そうだな。例えば・・・・!」

サスケが答えようとした時だ。横の壁に亀裂が走ったかと思うと、そこから人が勢いよく飛び出してきた。

白い鎧を身につけている雪忍は、衝撃で気絶しているのかピクリとも動かない。

それを指さしながら、サスケが言う。

「・・・まあ、ああいった風に。馬鹿みたいなチャクラを篭めた拳で力一杯殴り飛ばされれば、耐える事もできない」

「ん? サスケ、呼んだ?」

壁の向こうから瓦礫を踏み越えながら、ナルトが姿を現した。

「呼んだよ。しかし、もうここまで来たのか」

速いな、と言うサスケに、ナルトはああ、と言いながら返す。

「全員倒してないからね。倒したのは、ほら・・・例の、元抜け忍の一味だけ」

あの黒い鎧を身につけた幹部3人。

網からの資料によると、首領が狼牙ナダレ、女が鶴翼フブキ、巨漢の男が冬熊ミゾレというらしい。

そして、それ以外にも僅かだが生き残りが居るとのこと。

「真っ先にそいつ倒して、後はちらほら。それだけで戦意は喪失したよ。元が雪の民って下忍も、結構多いからね」

ナルトの説明に、サスケが頷く。

どうりで速かった訳だ。あと、後方の撮影隊と三太夫の護衛には多由也が居るとしてだ。

残りの2人はどうしたのかとサスケが訊ねる。

「ん? あの2人は別行動。忍び込んで、背後から一撃ってのを繰り返してるよ。元が得意分野だしね」

「ああ、そういえばそうだったな・・・」

再不斬が得意とするのは、無音暗殺術。今回に限っては本当に殺す訳でもないが、急所を狙う業は長けている筈。

気絶させるのも容易いだろう。


「そっちも、上手く脱出できたようだね」

「ああ。牢の結界壊すのに千鳥使ったけどな。他は問題ない」

「そう・・・チャクラ残量はどのくらい?」

「・・・あと2発って所だ。まだまだ行ける」

「そうか・・・じゃあ、雪絵さんは撮影隊の所まで戻ってくれ。護衛はつけるから」

そういいながら、ナルトは影分身を使う。姿はイワオのもの。

そして本体の方は変化を解いた。金髪の少年の姿が現れる。

「・・・え?」

雪絵が驚き、イワオとナルトの姿を交互に見ながら不思議そうな声を出す。

「まあ、説明は後で。今は避難を最優先に」

「・・・分かったわ」

「あと、マキノ監督と三太夫によろしく・・・じゃあ、行こうかサスケ」

言葉と共に、2人は並びながら歩いていく。

そこに、再不斬と白が合流した。

4人は頷きあうと、城の最奥をめざし、歩を進めようとした。

その時、4人の背中に向け、雪絵が声をかける。



「・・・最後に一つだけ、聞きたいんだけど」


雪絵の言葉に、ナルトとサスケが足を止め、振り返る。


「あなた達は、ドトウに勝てるのよね?」


その問いに、4人は頷きながら答えた。





「大丈夫です。絶対に、負けませんから」
















そして最奥。

ナルトは玉座の間の扉を蹴り破る。


勢いよく開いた扉の向こうから、煙が上がった。


「煙玉?」



玉座の間にいる雪忍の幹部3人が呟く。


同時、煙の中から、1人の金髪の少年が姿を現した。


「・・・何者だ?」


ナルトの姿を見たドトウが、言う。

玉座から立ち上がり、石の階段の上、高みから見下ろすドトウが訊ねる。

背後には、護衛の抜け忍が3人。



ナルトはドトウ問いに答えず。

ただ、為すべき事を言い放つ。




「返してもらいに来た・・・・」


「何・・・?」


水晶はナルト達の手の中。「返してもらう」というのはおかしい。

疑問の声を上げるドトウに向かって、ナルトは叫んだ。






「・・・ハッピーエンドを、返してもらいに来た!」






同時、ドトウに向けて紫水晶を投げる。



「・・・貴様、これは何のつもりだ?」

先程の報告で、ドトウは既に知っている。

不様な事に、正面を破られ、敗退し戦意を喪失している部下の事を。

そして小雪に逃げられた事も知っている。

既に人質が無い今、これを何故こちらに渡そうとするのか。



その場にいる雪忍の幹部と、その他雪の下忍達から疑問符が上がる。


意図が理解できないドトウに対し、ナルトは水晶を投げたままの姿勢を崩さず、真剣な顔で言い放つ。




「・・・ひとまず、預けといてやる」



そして一拍おき、自然体に戻り何でもないように告げる。


笑うように、宣戦を布告する。




「そんで、お前達潰して奪い返してやるな?」




同時。



その正面にいたドトウ、雪忍。その全てが圧倒された。



広場の中央に悠然と立つ、4人のチャクラを目の前にして。



「くっ・・・舐めるなあ!」




ドトウが立ち上がり、腕を振り払う。


そして来ていた上着を脱ぎ捨てる。

黒く光る鎧。しかも、動力らしき陰陽を示した球が胸の中心と両腕、合計3つもついている。

紛う事なき最新型。しかも、より改良が加えられているようだ。


「氷遁・黒龍暴風雪!」


印を組んだドトウから、全てを吹き飛ばす黒龍が放たれた。

しかも三頭。威力と規模で言えば、A級に匹敵するであろう大術。

氷遁というよりは、むしろ風遁に近い。



だが、その一撃はナルト達に届かない。




「太陽の如く、溶かせ」




入り口の後ろから、それを相殺するべく、放たれたからだ。



九連の狐火。貫くまでは至らずとも、その強力な火炎は黒龍を消し尽くした。



相殺の余波で、広場に暴風が吹き荒れる。





「・・・そこの、お前等。死にたくなければ動くな!」

視界の端、怖じ気ついている下忍達に言い放つ。一連のやりとりで、既に戦意を失っているだろう。

圧倒的余裕を持つ格上。それに正面から対峙して尚立ち向かえる程、こいつらは忍びとして鍛えられていない。

意識と心の方は、まだ民である部分が大きいからだ。



「散!」



そしてナルトが号令をかける。




キューちゃんは一瞬でナルトの中に戻る。



再不斬はナダレ、白はフブキ。




そして、ナルトはミゾレを抑えながら、外へと出ていく。






「貴様・・・!」


「お前の相手は俺だ!」


そしてサスケがドトウへと突っ込んでいく。














「くっ、いい加減放しな!」

外、森の中。

白のクナイによる攻撃を防ぎ、叫びながら赤い髪の雪忍、鶴翼フブキは背中の翼を展開する。

「おっと」

対する白はフブキから手を離し、近くにあった木の枝の上に立つ。

「・・・さてと」

ここまでは作戦通り、と白が呟く。

対するフブキは木々の間を飛び回り、白の方へと手裏剣を投げる。

例の氷の刃が詰まった玉、氷玉を交えながら。

「・・・秘術」

対する白は、その飛来する凶器を前に、印を組む。


「堅牢氷壁」


直後、白の前に大きな氷の盾が現れる。見るからに分厚いそれは、飛来する攻撃の尽くを防ぎ、砕いた。



「何ぃ!?」


自分たちにしか扱えない筈の氷遁。それを使った白を見て、フブキは動揺する。


「お前、どうやって!」

「・・・一緒にしないでくれます?」


白はフブキの問いに答えず、呆れた声を出すだけ。フブキはそれを信じられず、また同じ攻撃を繰り出す。

今度は氷遁・ツバメ吹雪を交え、更に数を多くする。


「そんな力の無い攻撃、通りませんよ」

だが、氷壁の防御は貫けなかった。


「くっ・・・じゃあこれはどうだ!」


フブキは埒があかないと判断し、飛行するスピードを上げながら隙を見て、白の背後に降り立つ。

そして地面に手をつき、叫ぶ。



「氷牢の術!」


中距離で放たれた術。白は避ける間もなく、氷の柱に覆われる。



「・・・学習しませんね」


だがそれはフェイクであった。


「秘術・幻鏡氷壁。学習能力もゼロですか・・・」


呆れた声を出す白。フブキは焦りながらも、再び飛行を続ける。


飛行している限り、白は自分に攻撃を届かせる事はできない。そう考えての事だった。


再び、手裏剣とクナイ、ツバメ吹雪の攻撃。


「一緒だと思わない事ね! 氷遁・燕嵐の術!」


渾身のチャクラが篭められた、黒色の燕。

氷壁に当たる寸前、その身を針に変え、堅牢たる氷壁に突っ込み、それを貫通する。

そして、白の身体を貫いた。


「分身か!」



だがまたしても偽物。砕けたのは、氷で出来た分身でしかなかった。


分身が砕けたと同時、氷壁にも罅が入り、辺りに散乱する。




そしてその樹上に居た白は、素早く片手で印を組み、告げる。



「千殺氷礫」

千殺水翔の氷版である。

砕け宙に舞っている氷の破片がフブキに殺到する。

突如飛来し、更に結構な速度と数を持つ氷の飛礫にフブキは焦って障壁を展開する。



「くっ、術は効かないと言っただろう!」

冷静に対処すれば、負けはない。そう判断したが故の言葉だった。

だが、背後。

前方に注意を集中していたフブキは、木に張り巡らされていた鋼の糸に絡め取られる。

白が氷分身であらかじめ用意していた場所である。

絡め取られ、地に落ちるフブキ。だがその鋼糸は背後の翼によって切断された。

再び飛行し始めるフブキは、白の方を見ながら叫ぶ。


「これしきの事でやられる雪忍じゃないわよ!」

「いえ、そうでもありません」

その背後から、白の言葉。


「いつのま・・・ぐっ!?」

白の回し蹴りを受けたフブキが、今度こそ地面に落ちる。




白が行った事は簡単だ。


千殺氷礫で視界を防いだ間に、氷分身と入れ替わっただけ。

元が速度に優れる白だ。絡め取られている間に、フブキの死角から背後に回り込むのは造作もない事だった。



攻撃を受けたフブキは吹き飛ばされ、地面に降りてしまう。

そこに、白が着地する。


対峙する2人は、互いににらみ合う。



そして白が印を組んだ。こんどは両手の印である。

「馬鹿の一つ覚えかい・・・」

互いの周りに氷の壁が張られた。

木々の間に張られたそれは、まるで自分達を取り囲むが如く。



---フブキはこのとき、先程と同じ術、堅牢氷壁の術が使われたと思った。




「・・・ふん。かなり、やるようだね。でもお前ではこの鎧の障壁は破れまい」

「いえ、そうでも無いです。隙はありますから。例えば---」


と、印を組む。

フブキは話す白を無視し、隙を見て再び上方へ飛行しようと試みる。この場は離脱するしかない。そう判断しての選択だった。

だが、隙はない。だったら隙を生み出すまで、と印を組み術を発動する。



「氷遁・ツバメ---」


だが、その刹那。


白の、切り札が出された。


「秘術」


フブキが印を組み、その術をチャクラの鎧が増幅し、今正に放たれんとした刹那。

そのタイミングを狙った一撃。

フブキは気づかなかった。自分達を中心として取り囲むよう、周りの六角形の頂点である位置に氷の壁が置かれた意味を。

先程とは違い、その氷の壁は鏡のように磨かれていた事を。



「六華散魂無縫針」



白の最大の切り札、秘術・魔鏡氷晶を使っての一撃。

速度を極限まで高められた千本での、六ヶ所同時点穴である。


雪の結晶、六華の如く六芒に配置された鏡から六つの必殺が放たれた。


一カ所を防いでも残りの5つが相手を襲う、正に秘術である。




だが通常時、防御に意識されていれば、チャクラの鎧の障壁に阻まれていただろう。

だが、攻撃時であれば別である。




術が発動される刹那の六針は、弱まった障壁を貫き、フブキの身体にある点穴を貫いた。


悲鳴もなく、倒れるフブキ。


「・・・終わりです」











それとほぼ同時刻。

ナルト対ミゾレの方も決着が付いていた。

「ぐっ、馬鹿な・・・!」

「・・・馬鹿はお前だ」

ナルトの肘がミゾレの懐深く、鳩尾に突き刺さっていた。


「チャクラの基本は自然、即ち五行の性質との吸着、そして合一。分厚い鎧に身を纏い、それを忘れたお前達が・・・」


ナルトが一歩退き、そこにミゾレが攻撃を加えんと腕を振りかぶる。

「うおおおおぉぉ!」

黒い暴風を纏った豪腕の一撃。それをかいくぐって踏み込む。


「道具に頼りきり、自分の強さも分からなくなったお前達が!」


同時、交差法による一撃が放たれる。

螺旋を描いた掌打が、相手の鎧越しに衝撃を浸透させる。


「力の意味を忘れたお前達が!」


血を吐き、倒れるミゾレ。


ナルトはそれに背を向けながら、言い放った。



「・・・勝てるわきゃあねえだろう」



そう言いながら、ナルトはザンゲツから聞かされた情報を思い出す。

術が禄に使えなかった忍。

それが原因で里を抜けた忍び。体術・基礎技術の方はそれなりに高く、鎧を着けた当時は木の葉の忍びをも圧倒したと言う。

道具に頼り切り、術を使えた喜びに本来の力を見失った、哀れな忍び。


弱い、と言い切れる程弱くはない。ただ、疎かだったと言うほか無い。

さっきの体術の打ち合いを思い出す。

例のスノーボードからの攻撃は開始僅か数秒で使えなくなった。

ナルトが鋼の糸で注意をひいた後、渾身の両足蹴りでミゾレをボードからたたき落としたからだ。

そこからは体術というか、殴り合いの攻防。

ミゾレの正面から破らんとする暴風を利用した一撃は、ナルトに届く前に横に弾かれた。チャクラが篭められた掌によって弾かれたのだ。

そしてチャクラ吸着を利用した袖つかみ、同時重心を崩され、足を掛けながら投げられた。地面に叩きつけられたミゾレは、自らが持つ重量によりダメージを受けた。

衝撃は殺し切れないのだ。受け身も取れていないミゾレの身体の各所に、着々とダメージが積み重なっていった。

逃げる、という手もあっただろうに、自らより小さい、しかも少年の容貌を持つナルトだ。何処か、意地になっていた部分もあったのだろう。

相手の力量を計れなかったが故の、この短時間での敗北だとナルトは思った。

「ドトウと同じだな・・・」

この程度の戦力で五大国に勝てると思っているドトウ。

まるで相手が見えていない。自国の戦力だけしか見えていないのだ。自分しか見えていないそれは、この鎧に似通っている。

偉そうな事を言っている割に、肝心な所が抜けている。ガキの要塞だ、まるで。

相手の力も知らず、戦に勝てるわけがない。戦争は1人でやるものではないのだから。

「まあ、狼牙ナダレの方は少し違うようだが・・・」

カカシの雷切で頬を裂かれたと聞く。慢心はしまい。1人技量が勝っているのも、それが原因だろう。


「まあ、何とかなるだろ・・・!?」



その時である。

居城の一番上。天守閣に位置する場所から、煙が上がっていた。


「あれは・・・飛空挺?」


何かあったのだろう。そう判断したナルトは白の元へ急いで向かった。







一方、撮影隊もその光景を見ていた。

撮影隊に戻った雪絵、そして護衛についていた多由也が上空を見上げる。

「何かあったな・・・ってアンタ!」

多由也がマキノ監督に叫ぶ。監督が雪上車で飛空挺を追おうとしていたからだ。

危ないぞ、と言っても耳を貸さない監督と撮影隊。助監督までもが止めない。

『撮る』

その一言を主張するだけである。

「仕方ないな・・・ウチ達で守れるか?」

多由也が隣にいるナルトの影分身に訊ねる。その影分身はため息を吐きながら、仕方ないな、と返した。

既に大勢は決したと言っていい。それにドトウが向かっている方向は虹の氷壁がある場所だ。

恐らく、鍵で秘宝とやらを手にした後、逃げるのだろう。

「俺とサスケで追うから、後はよろしく」

「策は?」

「ある。問題無し」

自信満々に頷くナルト。

「ちょっといいかしら?」

それを聞いた雪絵は、私も行くと言い出した。父が残したという物を見ておきたいのだろう。

止めるべき三太夫は絶賛昏倒中である。手勢を率いて討ち入りに行こうとした所をナルトに殴られ、気絶させられたのだ。

無謀と蛮勇を止めるためではない。ただ、依頼人を死なせる訳にもいかないという理由でのことである。

もちろん、雪絵の気持ちも考えての事だが。

「・・・どうしても行くのか?」

多由也が雪絵に問う。

「・・・ええ。それに、見ておきたいの。あの少年が約束を果たすところを」

「・・・分かった。そういう事なら仕方ない」

頭をかきながらも、多由也が了承する。

「いいの?」

「いいさ。どうせ危険はないだろうし」

「・・・随分と、信頼しているのね」

「ああ。そりゃそうさ」

多由也が頷き、口の端を上げる。

「あいつらが負ける訳ないからな・・・本体も、これから直ぐ現地向かうとの事だ。行ってみようか、虹の氷壁へ」







一方、残る一組。

「あれは・・・」

城の横にある岸壁、その切れ間にある平らな場所で、再不斬と雪忍・狼牙ナダレが対峙していた。


初戦と同じ、互いに術を打ち合って数分。

膠着状態に入ったと同時、城の方から煙が上がっていた。



「ふん、よそ見していいのか? 氷遁・破龍猛虎!」

気を取られた再不斬に、氷の虎が襲いかかる。

「ちっ!」

再不斬は岩場から横に跳躍。崖を飛び回りながら、襲ってくる虎を避ける。

そして崖の下に降り立つ。



ナダレはそれを見て口の端を上げ、笑いながら新しい術を繰り出す。


「氷遁・狼牙雪崩の術!」


ナダレの背後にある雪。それが狼となり、雪崩の如く規模で襲いかかる。

氷の群狼。


再不斬は後方に跳躍しながら、親指を噛みちぎり、呟く。


「・・・仕方ねえな。口寄せの術!」


忍具口寄せ。再不斬の背後には大刀。

霧の忍び刀7人衆、その象徴である首斬り包丁が出現する。



そして腰元には3つ。

大きなひょうたんが口寄せされた。



「水遁!」


叫びと同時、ひょうたんの一つを上へ放り投げる。


そして素早く印を組み、両手を前方に突き出す。ひょうたんが壊れ、中から水が溢れ出した。



ひょうたんの中にあったのは水。だが、ただの水ではない。

再不斬は毎日チャクラを篭めていた、いわば再不斬特製の水である。

それが両の掌の前に凝縮された後、一気に放たれる。


「水甲弾の術!」


全てを貫く水の甲弾が放たれる。

後ろに下がった再不斬を襲おうと、縦一列に並んでいた群狼は、その甲弾に貫かれた。


「何!? ・・・くそっ!」


自慢の術が破られたナダレ。舌打ちをしながら、再び術を使ってくる。


「氷遁・黒狼牙雪崩の術!」


大きさは先程の倍、しかも渾身のチャクラが篭められているのか、色も黒。

そして今度は横一列になって再不斬へと襲いかかる。


「成る程・・・だが」


再不斬の方は、水甲弾では打ち漏らしが出ると判断。

背中の首斬り包丁を持ち、構える。


そして印を組んだ後。


「ふん!」


ひょうたんを包丁で叩き斬る。

同時に、首斬り包丁に水を纏わせながら、身体事勢いよく回転させる。


「水遁!」


そして、着地と同時、遠心力を活かしたなぎ払いの一撃を放つ。


「水刃翔!」


その切っ先から、水の刃が放たれる。巨大な鉄塊故の大重量、その強大な遠心力で放たれた一撃。

かつ凝縮された水の刃は、目の前の群狼全てをなぎ払った。



「馬鹿な!」


動揺したのか、叫び動きを硬直させるナダレ。再不斬はそんなナダレに向け、回転の勢いのまま大刀を投げる。

それを何とか避けるナダレ。しかし反応が遅れたせいか、隙が大きくなる。

そこを、詰められる。

隙をつき、瞬身の術により接近した再不斬はナダレの頬を殴り飛ばす。



「ぐあっ!」

吹き飛ぶナダレ。再不斬はそれを無視し、壁に突き刺さっていた愛刀を抜き取り、両手に構える。




「さてと」


そして接近。様子見ではなく、本気の踏み込み。

ナダレは反応できない。

鎧の加護で、成る程身体能力は確かに上がっただろう。

だが、状況判断力が上がる訳ではない。精神力が上がる訳ではない。

術を真っ向から破られた事、そして飛来する大刀に加え、再不斬自身が発する本物の上忍の威圧感と殺気に圧されていたせいだ。

通常時よりも、動きと頭の回転が鈍くなっている。



だが、ナダレ自身はそのことには気づけない。

何故だ、と問う暇も無く。原因を理解する時間も無く。


「こんな・・・」


首斬り包丁の柄を握る再不斬の手に、力が込められる。音を立てて軋み、白くなる再不斬の手がぶれる。


「仕舞だ、雑魚助」


鍛え、鍛えられた怪力で握られた鬼斬り包丁が、ぶれる。

渾身の踏み込みと共に。


「こんな、所で!」


「・・・ぶっ散れ!」



再不斬の渾身の斬撃が放たれた。



「ぎあああああああぁぁ!?」



ナダレの身に宿る野望も、肉体も諸共に。


その全てが両断された。


ナダレが倒れる。


「・・・つまんねえな、お前。こんなことじゃあ、どうせカカシにも勝てなかっただろうよ」


体術も技術も、お粗末に過ぎる。忍術と壁だけで勝てる程、戦闘は甘くない。

この程度の力で、カカシに勝てる訳が無いのだ。


「・・・はっ。昔の強さのまま、素直に鍛えていれば・・・分からなかっただろうがよ」


再不斬はつまらなそうに言うと、背を向けその場を後にした。












「くそ・・・」


一方、天守閣の上では、遠ざかる飛空挺を見ながら、サスケは1人失態を恥じていた。


先程の攻防、優勢なのはサスケの方であった。

黒龍暴風雪他、大技を連発してくるドトウに対し、サスケは写輪眼を駆使して回避。

その間隙を縫って近接し、攻撃を与えていたのだ。元が武人でしかないドトウ、チャクラの鎧の加護はあれど、生粋の忍びとは言い難い。

その強力な最新鋭のチャクラの鎧をして、ようやく互角に持ち込める程でしかなかった。

サスケの方も、体術その他のスキルは上がっている。修行を始める前ならばひとたまりもなくやられていただろうが、今は違う。

だが、その攻防の途中、ドトウは自分の不利を悟ったのだろう。

一際大きな術を放つと、屋上へと逃げていったのだ。そして、飛空挺に乗り込まれ、今はこの様である。


「くそっ」

「サスケ、無事か!」

そこに、ナルトが現れた。チャクラ吸着を利用して、城壁を昇ってきたのだ。

「ああ。でもすまん、ドトウに逃げられた」

「そうみたいだな・・・でも、まあ」


ナルトはサスケに笑いかける。

その背中には、冬熊ミゾレが乗っていた鉄製の板を背負っていた。

両手には、鎧の核らしき球が2つ。



「追いつけるさ」

ナルトは笑って答えながら、スノーボードらしき板を足下に置く。そして、白に合図を送った。

ナルトの意図を察したサスケは、顔を青くしながら叫ぶ。

「ちょっと待て、本気かお前!」

サスケの叫び声を無視し、ナルトは足下のボードをチャクラで吸着させる。

その具合を確認した後、手に板を持ち、遠ざかっていくドトウの方を見た。


『用意完了。風向き良し。角度良し』

『準備完了』

「発射まで、5、4、3・・・」


そして「ええい、ままよ!」と叫びながら、サスケがナルトの背におぶさる。


同時、白からの合図。ナルトは走り出した。


そして、叫ぶ。



「アイ、キャン・・・!」




同時、足を活性化させて大跳躍を敢行する。



「・・・フラーーーーーーーーイ!」



ナルトが即座に足下にボードを吸着するも、失速を続ける。


そこで、白の出番である。




「行きます! 即席秘術・氷道天翔の術!」




白の即席な秘術。

氷で出来た道がナルトとサスケの足下に出現する。



自由落下による速さを活かし、氷の道を一気に滑る2人。

加速をしながら、少し上向きの角度になった氷の道の終点にさしかかろうとした時、ナルトが印を組む。


「風遁・風龍波!」


弾というよりは波。火遁・水遁と同様の、龍を模した風遁術である。


無事術は発動し、板の下方に風の塊がぶつかった。



加速したスピード、上向きの発射台のような道。

それに上向きの風が加わった2人は。




『『「いいいいいいいいいいやっほおおおおぉぉぉ!」』』

「まじかよおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」




3人+1は叫び声を上げながら空の向こうへとすっ飛んでいった。


虹の氷壁を目指して。






一方目的地である虹の氷壁。風花ドトウは激怒していた。

かの兄王が残したという秘宝。

期待して、いざ鍵を手にして秘宝を開けてみれば。

「発熱機だと!?」


そう、発熱機だった。だが、ただの発熱機ではない。

地面にある氷をも溶かす程の発熱機である。

そして、溶かしきった直後である。


「これは・・・」


その下から草原現れた。

これこそはそう、先代君主である風花早雪が愛娘である小雪姫のために作った装置。


雪の国には来ないと言われる、春を作り出す装置である。


「こんな、こんな物・・・!」


だが、これはドトウの望んでいたものではない。

ただでさえ金がかかる鎧の開発、それを補うための資金となるべくものだった。

金と、あの鎧の設計図、そして飛空挺に詰んでいる鎧の材料さえあれば、後は何とでもなる。

雪忍共も、今頃は目障りな抜け忍共を始末している事だろう。だが万が一、やられている場合も考えたドトウは、この秘宝を優先すべくここに来たのだ。

設計図と、金。それさえあれば何とかなる。


「秘宝さえ、あれば・・・!」


何とでもなる。ドトウは心の底からそう思っていたのだ。


「・・・ぉぉ」

「?」


失意とそれに対する怒り。その対象であるのは、先王である兄・早雪である。

「くそ、春だと・・・? こんなもの、何になるのだ」

顔を真っ赤にして怒るドトウ。

確かに、侵略の役には立つまい。だが、これを利用すれば、ともすれば雪の国に春を訪れさせることが出来るかもしれない。

農作物を育てる事が出来るかもしれない。貧乏国家を脱出できるかもしれない。これはまさに、希望の塊であった。

だが、ドトウは気づかない。



平和を謳う草原、春の光景の中、1人野心に燃えている王。

何とも滑稽な絵であった。

そこに。



「何だ、気のせいか・・・?」

ドトウが後方を振り返り、呟く。



「いや、これは・・・まさか!」


そこでようやく。

ドトウは後方、遠くから聞こえてくる声を察知した。



「ぉぉぉぉぉ」



最初は豆粒だった。



「何だ・・・アレは?!」

だが声が大きくなると共に、それはどんどん近づいてきた。

信じがたいスピードだ。




「ぉぉぉぉおおおおお!」


そして豆粒が大きくなり、いよいよかなりの距離まできた所である。




ドトウはこのこみあげる怒りをぶつけんと、印を組み術を発動した。



「氷遁・七龍暴風雪!」



限界まで高まったチャクラによる、ドトウ最大の術。

七つの頭を持つ龍が、飛来するナルトとサスケの元に殺到する。



だがナルトは器用にも板を滑らし、風圧による力を利用しながら黒龍を横に捌いていく。、


正面から衝突すれば飲まれるだけだが、横を滑るだけならば問題は無い。

次々に横に上にと避けていく。



「ナルト、正面だ!」

「分かってるよ!」



だが、途中、黒龍の一頭が正面からぶつかってきた。

避けられないタイミング。だが、そこでマダオが叫んだ。



『強請るな・・・勝ち取れ! さすれば与えられん!』



板を真っ正面に立てかけ、チャクラを集中。直進していた軌道を強引に真上に跳ね上げ、空中で回転する。

空に板、地に頭。

ナルトとサスケ、2人の天地が逆転する。



『『「「いいいやっほおおおおおぉぉぉ!」」』』

そして全員で興奮の声を上げる。

サスケは飛び始めた最初は怖がっていたのだが、空を飛ぶ事にだんだん楽しくなっていったのであった。

少し壊れた、とも言う。



「何い!?」


それを見ていたドトウは、そのあまりにもデタラメな2人の行動に我が眼を疑った。



一方、跳ね上がった軌道をそのままに、ナルトとサスケはボードに乗ったままドトウの元へと急襲する。


直上からの攻撃。対するドトウは動揺するも、即座に次弾を放った。




「七龍暴風雪ぅ!」



2人を襲う黒龍。

今度は逃げようもない軌道。しかしナルトとサスケは、ボードを蹴って。





「「離脱!」



勢いよく横方向へと逃げる。


そしてボードは軌道を若干変え、黒龍の間を縫うように進む。

「しまった!?」


そこでドトウが見たのは、迫り来るボードとあと一つ。


ボード先端に鋼の糸でくくりつけられた、鎧の核の部分である。それも2つ。

赤い核の球が光り輝き、ドトウの障壁を浸食する。

「だが、甘いわ!」

避けられないと判断したドトウが、自前の障壁を全開にして、その一撃を防ぎきる。


砕け散るボードと核2つ。

だが、そのドトウの鎧についている三つの核内、その右腕の一つが破壊される。


「よっしゃ、効いたぜ!」


ナルトが叫ぶ。

相手と逆の位相のチャクラを発すると聞いた時、思い浮かんだ策だ。

2つの力が作用しあえば、どうなるのかと。

核の部分だけなので、いまいち威力が足りなかったようだが、ミゾレとフブキが持っていた2つ分の核で一つは壊せた。



「くっ・・・おのれ・・・おのれおのれ、おのれえぇぇぇぇ!」


ドトウは顔を憤怒の形相に変え、再び黒龍を放ってくる。

だが当たる2人ではない。


「影分身の術!」


ナルトは黒龍による攻勢を捌きながら、一体の影分身を出す。



「行け!」


そして特攻させる。



「そんなに死にたいか、小僧!」


至近まで近づけたが、黒龍による一撃で吹き飛ばされる。


「まだまだあ!」


多重影分身。だがその尽くが黒龍に吹き飛ばされる。


「後ろ、もらった!」

「気づいておるわ、馬鹿め!」


影分身を囮にしての、サスケの奇襲。

それを見破ったドトウは、後方へ振り返りそのチャクラ量を活かした一撃を繰り出す。


「ぐうっ!?」

「あま・・・!?」

甘い、と言おうとしたドトウ。だが、その言葉の途中に凍り付く。

サスケへの変化が、解けたのだ。


「これも影分身か!?」

「それも、おまけ付き!」


直後、分身体が爆発する。


分身大爆破の術である。


「・・・くっ、所詮は浅知恵! ワシとこのチャクラの鎧には通じぬわ!」

だが、それも障壁に阻まれ、ダメージを与える事ができない。

爆発の向こう、障壁の向こうからドトウが健在を叫ぶ。


「・・・ぬ」


だが辺り一体にはいつの間にか白い煙りが舞っていて、視界が防がれている。


そして煙の向こう。



「風花ドトウ・・・!」


後方から、鳥の音が聞こえ出す。



「偽りの君主、偽りの力・・・その全てを!」

かたや前方からは、チャクラの渦が輝き出す。




「「俺達が打ち砕く!」」


同時、術を発動したサスケが駆け出す。


千鳥は既に発動済み。

分身大爆破で硬直した時間を利用したのである。


「速い!」


チャクラによる全身の活性。鍛えられた四肢を更に活性したサスケは、上忍、いやそれ以上の速度でドトウに迫る。

赤いマフラーを風にたなびかせ、地面を削りながらまるで疾風のように接近し、突き出す。


ドトウは振り返るので精一杯で、それを避けきれない。



「千鳥!」



雷の形態変化による、貫通を目的とした高速突き。

雷遁・千鳥がドトウに炸裂する。



「ぬうううううぅぅ!」


それを防がんと、障壁をサスケの方に集中させる。

性能が上がった鎧、もしサスケ1人の千鳥ならば、通じなかったのかもしれない。

だが、サスケは今、1人ではなかった。



「螺旋丸!」



サスケの方に集中しているドトウ、その後方からナルトが螺旋丸をぶち当てる。


「く・・・・ぁっぁぁぁああああああ!」


両方の同時攻撃を防がんと、ドトウが障壁を全開にした。

だが。



「・・・鎧が!?」


限界を突破したのだろう。その前の黒龍乱発で疲弊していた事もあり、残りの鎧の核の一方が砕け散り、もう一方に罅が入る。


螺旋丸と千鳥も、障壁の霧散と核の亀裂と同時、共に吹き飛んだ。



「サスケ!」

「応!」

だがそこで終わる2人ではない。

同時、叫びながら追撃を加える。


「はっ!」


まず、2人同時に回し蹴り。サスケが写輪眼でナルトの動きに合わせているのだ。

ドトウの腹と背がまったく同時に打たれる。

「ぐう!?」

衝撃を前後に逃がせないドトウが呻き声を上げ、前方へと倒れようとする。


「はっ!」

そこに、サスケが蹴り上げを放つ。リーの蓮華、サスケの獅子連弾と同じ入りである、あの蹴りである。


「もういっちょ!」

そこを、ナルトがさらに蹴り上げる。


「更に一つ!」

サスケが今度は跳躍し、ドトウを蹴り上げる。

そしてナルトと視線を交わし、動きを写輪眼によりコピーする。

思考もある程度は読む。写輪眼の心合わせの法の応用である。




「昇竜!」

蹴り上げ。

「ぐうっ!?」

「連牙!」

更に蹴り上げ。

「あがっ!?」



多重影分身の残りが同時に跳躍する。

それを足場としたナルトとサスケが、まるで駆け上る龍の如く、ドトウを連続蹴りで上へ上へと蹴り上げていく。



そして、頂点に達したと同時、蹴りを止める。

そして2人は身体を捻りながら、ドトウにとどめの一撃。

振り下ろしの回し蹴りを放った。



「「流星脚!」」


「ぐあああああぁぁ!」


2人同時の蹴りを受けたドトウが、勢いよく地面に叩きつけられる。


「「どうだ!」」

これでもう、起きあがれまい。それだけの手応えはあったが故の宣言。


「ぐ・・・まだ、だあああああ!」

「何!?」

「馬鹿な!」


障壁が軽減したとはいえ、ダメージは相当なもの。だが、ドトウの戦意は失われてはいなかった。

爛々と輝く眼光は未だに健在。ドトウは印を組み、額についている血をぬぐわないまま、術を発動した。


「氷遁! ・・・九龍暴風雪!」


残るチャクラの全てを使い、最後かつ最大の一撃を上空にいる2人に放つ。


それを見たナルトは、サスケと視線を交わす。


(・・・やれるな?)

(応!)


その直後、サスケに蹴り出されたナルトは、勢いよく黒龍の群れへと突っ込んで行った。

一方、サスケは更に上空へと跳躍していた。

ナルトは掌にチャクラを手中。黒龍に真っ正面から突っ込んでいく。

そして発動。螺旋の奔流。


「・・・大玉、螺旋丸!」


激突する黒龍と螺旋の塊。


勝ったのはもちろん、螺旋の方だった。

九つの龍の内八つを、大玉螺旋丸で消し去ったのだ。

だが、一頭は殺し切れなかった。


「行ったぞ!」

ナルトが上空を見上げる。

残りの龍の内、一頭がサスケに向かったのだ。



「応・・・」

一方。サスケはあくまで冷静に、思考を加速させる。

(千鳥・・・はリーチが短い・・・ならば!)



同時、懐から鋼糸を取り出す。

そして足に巻き付ける。



ナルトを足場に更に上へと飛んでいたサスケが、やがて自由落下を始める。

そして途中、ナルトの影分身を足場にして、跳躍した。



そのまま、襲い来る黒龍にへと、正面から突っ込んだ。



「血迷ったか、小僧!」



だが、その暴風の龍に飲まれる寸前である。




サスケが叫び、チャクラを全身から振り絞った。



「雷よりも速く・・・強く・・・熱く!」



黒龍に飲まれた直後、空に千の光が輝いた。









「あれは・・・!」

一方、虹の氷壁近くまで来ていた撮影隊、多由也、雪絵、白、再不斬はその光景を眼にする。

虹の氷壁に輝く、七色の光。

上空のサスケは、それを背に受け虹色に輝いている。


そして直後。サスケから発せられた雷光が、空を輝かせる。


それは、まるでおとぎ話のような光景。


「・・・虹色の、翼?」















「負けるかあ!」



渾身のチャクラを篭めた雷光が、黒龍を吹き飛ばす。


サスケはその雷光を維持したまま、片方の足に鋼糸を巻き付ける。

鋼糸を締め付けようと両手を上げた直後、背後に雷が走る。


落下の勢いを殺さず、そのまま足にチャクラを集中させる。

雷光を足先に集中させたのである。



驚愕に眼を見開くドトウだが、戦意は未だ衰えず。


「くうっ、小僧おぉぉおぉ!」


最後とばかりに、迎撃せんと右腕を振りかぶる。





サスケは、ただ一点。



足先にチャクラを。

為すべき事を。

果たすべき約束を。

望む結末を。





集中させ、全てをつかみ取るそのために。


・・・邪魔する障壁を打ち抜くために、全てを篭めた右足を、ただ前へと撃ち放つ-------!





「貫けえええぇぇぇ!」





雷光の突きである雷遁・千鳥に対する、もう一つの切り札。


コントロールが難しい足先のチャクラ、弱まる威力を、鋼糸による伝導集中と落下速度で補った、必殺技である。





その名、雷遁・雷鳳。





雷の鳳凰が如く、雷の残光を背に纏った必殺の蹴りが、ドトウの一撃が届く前に突き刺さった。



均衡は一瞬。




直後、雷鳳が最後の障壁を突き破る。

ドトウの胸に残った核は、完全に破砕され、だが蹴りの勢いは衰えず。





「ぐああああぁぁぁぁ!?」





そのまま、ドトウの身体を吹き飛ばした。


地面に降り立ったサスケ。倒れるドトウを前に、赤いマフラーをたなびかせながら宣告した。




「俺達の・・・勝ちだ!」







[9402] 劇場版 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~ ep
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/13 22:52





虹の氷壁の前。


そこに、今回の関係者、全員が集まっていた。



「・・・少し、演出を手伝いますか」

カメラが回っているのを見た白が、死角に移動する。

そして多由也を見ながら、お願いします、と呟いた。

「ああ、そうか・・・・じゃあ、吹くぞ」

「はい」

多由也の笛の音が、大気を満たす。

それを聞きながら、白は印を組む。


「えい」

軽い掛け声と同時だ。

そらから、雪が降り出した。

密度は本来の雪と比べ、大分小さい。


「おお・・・!」

だが、周りから感嘆の声が上がる。


「虹色の・・・・雪?」







虹が降る氷壁前の広場。

その中心で倒れるサスケの元へ、雪絵が歩いていく。

「・・・終わったようね」

チャクラをほとんど使い果たし、力尽きて仰向けに倒れるサスケに、雪絵が話しかける。

「ああ。約束、果たしたぞ」

サスケにしては珍しい。笑顔を浮かべながら、雪絵の問いに答える。

それを見た雪絵は、サスケの横に座り込むと。

「・・・よいしょっと」

「おい!?」

頭を持ち上げて。


「どう?」

「いや・・・」

どう言えと、とサスケが口ごもる。大女優の膝まくらだ。恐れ多いにも程がある。




一方、膝まくらした瞬間だが、多由也の笛の音が一瞬だけ崩れた。

「・・・あの」

「・・・」

額に青筋を浮かべながらも、演奏を続ける多由也。無言だが、全身から発しているえもいわれぬ迫力が怖い。







「しっかし、本当にドトウ叔父をぶちのめしたわねえ」

向こうで転がるドトウを見ながら、雪絵が呟く。

まだ、死んではいないようだ。

「結構、ギリギリだったけどな・・・」

玉座の間での一対一でも、そう。サスケの修行が目的とはいえ、死線と呼べる程にぎりぎりの所での戦いだった。

その時である。

「・・・って、あれは・・・」

雪絵の固有チャクラに反応したのだろう。


氷壁が本格的に崩れだし、雪絵の昔。幼い、小雪姫だった頃の映像が流れ出す。



「・・・私、あんなこと言っていたんだ・・・」

雪絵は呟く。

幼い、今はもう思い出せない。過去の小雪姫は言っていたのである。

正義の味方のお姫様に成りたいと。

そして、もう一つの夢があった。


「“女優さんになりたい”、か・・・・そうか、そうだったわね」


雪絵の頭の中、胸の底、色々な想いが交錯する。

悔恨の日々。絶望を見た後、夢が闇に隠れた日。夢を、夢と認識できなくなった日。


「もう、叶えていたんだ・・・」

「・・・いや、たった今・・・叶ったんじゃないか?」

サスケは身体の痛みを感じながらも、何とか呟く。

「夢を、思い出したんだから」

思い出した瞬間に叶うとか、皮肉な話だけどな、と苦笑する。


「そうね・・・」


雪絵は笑いながら、空から降ってくる虹色の雪を掌に包み込む。


あれから、もう10年。

夢とか、悲しみとか。絶望とか、色々あったけれど。


「夢も望みも・・・本当に、叶ったんだ」


「・・・そう、だな・・・だって、ほら」


サスケが、雪絵の掌を指さす。





もう、虹は。


その手の中にあるんだからと。









その言葉に、雪絵はきょとんとした表情になる。


そして。



「・・・そうね」




空に映る映像。小雪姫と、何ら変わりない程に。




心の底からの笑みを、浮かべたのである。




サスケはその笑顔を見ながら、呟く。




「これで、ハッピーエンドだぜ・・・・・」





満足の笑みを浮かべたサスケは、笛の音に導かれ、そのまま意識を落とした。


















---そして、2週間後。


「色々と、本当にありがとう」

富士風雪絵、いや風花小雪が頭を下げながら、お礼を言う。

「いえいえ! ・・・任務でしたから、お礼を言われるまでも」

白が慌てたように切り返す。

「それでも、よ」

「はい」

白と小雪、2人が微笑みあう。顔立ちが整っている者どうし、非常に絵になっていた。



あの一戦が終わって。決着がついてから、二週間が経過した。

偽王ドトウは処刑され、小雪姫が新たな雪の国の君主となったのだ。

雪忍達は、首領であるナダレが再不斬との戦いで戦死。
ミゾレはナルトの一撃で気絶、フブキは白の点穴で仮死状態にされていただけなので、その2人は“網”の方に連行されていった。

そして雪の国内部の豪族の承認を得た末だ。

戦後の処理が全て終わり、本日風花小雪姫の戴冠の儀が執り行われることとなったのである。


「あの発熱機。まだ、未完成だそうですが・・・実用化できるといいですね」

「ええ。例の組織の人達が、匠の里の技師を紹介してくれるらしいし」

そう遠くない内にこの国にも春がくるようになるらしいわ、と小雪が笑う。

匠の里の技師の方だが、ナルトが裏で“網”と取引したのだ。取引材料は、雪忍の裏事情。

あの3人他、一部の抜け忍は一時期“網”に所属していたらしい。諸々の責任、その一部はドトウというか、雪の国にもある。
だが勿論、網にも責任はあるとのことで、組織お抱えの技術者を紹介するという事になった。

あと、チャクラの鎧は設計図ごと葬られる事になった。ナルトも、匠の里の技師達も、網も。全員がそれに同意した故の事である。

あれは、無い方がいいものだ。様々な観点から、そう結論づけられたのである。

「複雑な気持ちは、あるけどね・・・でもドトウ叔父にも責任があるからには、これ以上は望めないわ」

それよりも、この先である。三太夫他、一部の家臣達からは責任追及の声が上がっていたそうだが、小雪姫の一言で沈静化したらしい。

「これからが大変ですね」

「でも、やりがいがあるわ。白も、いつか見に来てね」

「はい」

白というか全員が、小雪限定で名前を明かしていた。決して他言しない、という条件付きでだ。

「で・・・あの、金髪の少年は?」

「ナルトさんですか? ええと・・・」

白が困った表情を浮かべる。何でも、ナルト曰くジモティー秘伝の味噌ラーメンがあるとかで、それを食べに町の方へと下りていってしまったのだ。






「これは・・・・!!」

ナルト(イワオ変化済み)の眼がくわっと開かれる。

流石は極寒の地、雪の国。素材は木の葉周辺に比べ劣るが、その分料理法へのこだわりは侮れないものがあった。

この味噌ラーメンだが、ともかく味が深い。塩、とんこつには無い、また違った味の深さがある。口の中に広がる味噌の風味がそれを教えてくれる。

そして、身体の芯から暖かくなる。

「これは・・・香辛料か」

「うち特製の、な。まあ、客の好み次第だが・・・辛い分、味が引き締まるぜ」

「・・・くっ、恐るべし、味噌バターラーメン・・・!」

奥が深い。かつてない強敵である、とナルトが戦慄する。

「・・・ほらよ」

その戦慄するナルトに、親父さんがあるものを渡す。

「これは・・・レシピ? おいおいオヤジさん。秘伝と書かれているぜ? ・・・・俺に、渡していいのか」

「こいつは、俺の・・・いや、俺達雪の国の民の気持ちだ・・・取っておきな」

オヤジさんが笑う。

「あんた、小雪姫の護衛だろ? ってことは、あの偽王ドトウを倒してくれた忍びの1人だ」

ここ数日、小雪の護衛についていたナルト達は、変化済みの姿だがその外見を覚えられていたのだ。

「遠慮はいらねえ。それに、海の向こうにまで俺の味が広まっていくってのもな。悪くねえぜ・・・あと、海向こうの素材と掛けあわせたら、また別の味を引き出せるかもしれねえ」

そう考えたら、わくわくしてくるだろ? とオヤジさんが男前に笑う。

「・・・有り難く。有り難く頂戴するぜオヤジさん。最高のもの、作ってみせる」

「へっ、ばっきゃろー。ラーメン屋名乗る以上、それは当たり前だあ」

「そうでしたね。それじゃあ、お元気で」

笑い、頷きあいながら、麺に命をかけている男2人は、固く握手を結んだ。






「・・・そ、そうなんだ。じゃあ、サスケ達は?」

白は、「よ、呼び捨て・・」と内心で思いながらも、小雪の問いに答える。

「サスケ君は、どうも経絡系の調子が良くないそうで。多由也さんの治療を受けてます」






「痛ってええ!」

「・・・我慢しろ」

音による秘術のよるチャクラ流の調整。かつ、無茶な酷使で痛んだ経絡系の治療である。

「まったく、もうちょっとスマートに勝てなかったのか?」

「いや、結構相手も強かったし・・・まあほとんどがあの鎧の加護だったんだろうけど」

「・・・まあ、それでも無茶しすぎだ。後ほんの一握り残っていたからよかったけど・・・チャクラを使い切っていたら、呪印の封印もやばいことになるのを忘れるなよ」

「ああ、すまん・・・で、それとは別に」

「何だ?」

不機嫌そうに片眉を上げながら、多由也が返事をする。

「お前、何を怒ってるんだ?」

「・・・怒ってないぞ」

「いや、怒ってるだろ。気絶して、意識を取り戻してから、ちょっと・・・変だぞ」

「・・・怒ってないて言ってるだろ」

「嘘だ。言ってくれ、何を怒って「怒ってない!」」

サスケの言葉が遮られる。それにむっとしたのか、サスケの方も口調が荒くなる。

「いいから、言えよ! そんなんじゃあ、どうしていいか分からないだろ!」

「怒ってないって言ってるんだ! 私がそう言ってるんだから、気にする事もないだろ!」

多由也も言わない。というか、言えない。
膝枕をしていた雪絵とサスケ、あの時の光景を思い出す度、何故か怒りがこみあげてくるなんて言えないからだ。

「・・・!」

「・・・!」

無言でにらみ合う2人。

「・・・あほらしい。白の所に戻るか」

その部屋の外、様子を見に来た再不斬がその一連のやりとりを耳にした。

そして心底呆れた風にぼやきながら、部屋に入らず去っていった。












戴冠式の翌日。

港で、出航する船を見上げる三太夫と小雪、そして船に乗り込んでいる撮影隊と護衛の面々が居た。

「本当にありがとう・・・元気で」

「いえいえ、そちらの方も。それでは、私共はこれで」

見送る小雪と三太夫に向かい、ナルトが会釈する。


「監督も。次回作が決まったら・・・私にも、一報を頂戴ね?」

「ああ、勿論だ。真っ先に連絡を入れるぜ」

渋い声でマキノ監督が返す。まるで、娘を見るかのような目で語りかける。

「しかし、君主と女優の両立とは・・・随分とまた、思い切った事を」

サスケが呟く。

「私は欲張りだからね。それに、ファンの期待は裏切れないし・・・それに、三太夫他、重臣達も協力してくれるらしいし」

「姫様・・・」

三太夫が複雑な表情で返す。

「良いと思うよー。ファンも凄い多いようだし、ね」

ナルトが複雑そうな表情で答える。

(言えない。依頼の理由が、“網”内での士気維持のため、なんて)

どうにも、想像以上にファンが多かったようである。ザンゲツの夫もそうらしい。男ってやつは・・・と呆れるザンゲツにあの時だけは同情したくなった。

(まあ、仕方ないか)

ナルトも男なので、同意できる部分もある。それを考えれば、止めて欲しくないとも思う。

「・・・まあ。それに、誰かに勇気を与える仕事なんて、そうそう無いぜ?」

「確かに、ね。まあ、両立は辛いだろうけど。みんなと頑張って、何とかするわ」

「へっ、そうこなくちゃあなあ。まあ、次回作に関しては時間がかかるだろうが、待っててくれや。それよりも先に、完結編を仕上げなくちゃあよ」

この二週間で、あらかたの部分は取り終えたらしい。後は、編集するだけだ。

「まあ、それでも撮った一部は編集してもらいますがね」

守秘義務、と一言呟く。

「そりゃあ、まあなあ・・・ちっ、それに関しては仕方ねえか」

編集無しにそのまま流されたら、正体がばれかねない。そして、雪の国にまで追求の手が及ぶかもしれない。

ナルトが監督に交渉した結果、ナルト達の素性がばれない範囲で、編集と再撮影をしてもらう事になった。

まあ、カカシやサクラ、シカマルにキリハ辺りにはばれそうな気もするが。まあ暗部というか、ダンゾウにばれなければ問題は無い。

それに、相手は世界のマキノ監督だ。そう、無茶な事もできまい。雪の国にしてもそう。確信が無い限り、迂闊な真似はできないだろう。

「それでも、最高の絵が撮れたからな・・・今回の完結編、大ヒット間違いなしだ!」

「そう、かつてない程の、最高の完結編に! 絶対、仕上げましょうね、監督!」

「応! 次回作はそれからだ!」

何でも、あの忍び同士の一戦を見たマキノ監督だが、次回作のインスピレーションが浮かんだらしい。

ともすれば命を落としていたのかもしれない時に映画の事しか考えないとは、とことん写真しか頭に無いのだと一行は苦笑した。

「あんた達は・・・変わらないわね」

雪絵が苦笑する。

「それじゃあ。船が出るようですので」

「・・・ええ。名残惜しいけど」

「さようなら、ですね」




同時、船が動き出す。


船にいるサスケと、港にいる小雪。

2人の目が交錯する。

今回の一件で、距離が近くなった2人。見つめ合いながら、視線だけで会話をする。




(・・・頑張りなさいよ?)

(はっ、言われるまでもない・・・あんたもな)


互いに、親指を立てながら、不適な笑みを交わす。

その背後、白が手を振る。


「それじゃあ、お元気でー!」

「あんたもねー! 結婚式には私も呼びなさいよー!」

『「「「ぶっ」」」』

ナルトとサスケ、キューちゃんにマダオと多由也が吹き出す。

一際大きい吹き出しをしたのは再不斬であるのは言うまでもない。

「・・・白?」

「ええと、何か?」

白の満面の笑みを前に、再不斬が目を逸らす。その頬は若干赤く染まっていた。

「・・・いや、何でもない」

(((このヘタレが)))

当事者の2人以外の全員が、内心で呟く。


「・・・ともあれ、だ」

視線を感じながらも、状況を打破すべく再不斬が動く。


「これ、手紙だ」

再不斬が懐から一枚の手紙を取り出し、サスケに手渡す。

「これは・・・・・って」



中に入っていたのは、一枚の写真と、メッセージ。


そこには、眠っているサスケの頬に口づけをする、小雪が映っていた。



『うちはサスケ殿。願いを叶えた先、いつかまた会いに来てね』


そして、写真に書かれているメッセージを読み切ったサスケの顔が、真っ赤に染まる。



「どうしたんだ・・・っておい」

素早くのぞき込んだ多由也が硬直する。


背後、それを一瞬だけ見た他の面々が、うあちゃーと呟き、頭に手をやる。


「うはー、大胆だなお姫様」

「しかも、女優・富士風雪絵のサイン付きだ。これ、ファンに見られたら殺されるねサスケ君」

『ふーむ、お姫様もやるのう・・・というかサスケのやつ、今にも殺されそうなんじゃが』

「うーむ、ボクとしてはどちらを応援したらよいやら」

「・・・やれやれだぜ」


と言いながらそそくさとフェードアウトしていく4人+1。

触らぬ神に祟りなし~といいながら、船室の中へと入っていく。



残されたのは、妙な威圧感を発する多由也と、その威圧感に呑まれたサスケだけであった。

そして多由也が顔を真っ赤にしながら、神速の手を動かす。

「・・・痛ってえ! なんで頬をつねる!?」

「・・・知るか! 手が勝手に動くんだ! ・・・ああああ、何だこの気持ちは!」

「知るか・・・ぐあっ!」



顔を真っ赤にしながら、サスケと多由也の2人はぎゃーぎゃーと言い合う。






相変わらずの一行、相変わらずの喧噪を乗せた船は、吹きすさぶ風と、波に運ばれて。

















雪の国に春と虹を呼び込んだ一行は、名前を残す事無く。











風花小雪姫の心にだけ、その名前を刻んで去っていった。












虹色に輝く氷壁を、背にして。











望む者を、その手に掴む為に。






















小池メンマのラーメン日記・劇場版

 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳・その虹の先に~







                                      了




























~次回予告~




「で、このまま帰るんですか?」

「いや。匠の里でサスケの刀を発注した後・・・」


そこで、ナルトがにやりと呟く。


「今回の任務でみんな疲れたようだし。途中にある温泉街で、一泊止まっていこうぜ」

『「「賛成!」」』

白と多由也、キューちゃん達女性陣が賛成する。

「でも、隠れ家にも温泉があるんじゃあ・・・」

サスケが口を出す。抓られた頬が赤く染まっていたが、誰も指摘しない。

「いやー、家だと女性陣が家事とかしなきゃならんでしょ? ・・・大金も入ったし、慰安だからね」

「ありがとうございます」

「いや・・・でも、何か」

「何?」

マダオが訊ねる。

「誰かと会いそうな気がしたんだ。そんだけ」

「はは、そういえば木の葉の方も、慰安旅行とか在ったねえ」

「まあ、シーズン外れてるし、問題無いだろ」

「決定~」






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の4 ~宿は道連れ湯は色気・前編~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/27 19:46

日が暮れ、少し過ぎた時間。

とある旅館に、木の葉隠れの忍び達が来ていた。

その筋では有名な宿で、ここの湯は疲労に格別効くらしい。



「ふー・・・流石に、疲れたな」

「・・・おい、チョウザ。もうちょっと端に寄ってくれ。座れんから・・・しかし、何か湯気が多いなここ」

周りがよく見えん、とシカクが呟く。

「おお、すまん。久しぶりの休みだしつい、の。ようやっと一区切りついたな・・・」

「ああ。十全とは言えんが、何とか他国の里に侮られんぐらいには回復した」

「で、何でお前はそんなに不機嫌なんだ、いのいち」

「いや、忙しくてな・・・愛しの娘に、稽古付けてあげられなかったことが・・・」

ため息を吐くいのいちに、シカクが呆れ声をかける。

「まあ、担当上忍が何とかするだろ。アスマとか紅とかガイが」

1人挙がらないが、誰も指摘しない。信頼って難しいのである。

「いや、でもカカシも、なあ。最近凄い真面目になったと聞くし・・・」

「キリハちゃんともうひとりの娘・・・何だったか、チョウジ」

「サクラだよ。春野サクラ」

「ああ、サクラちゃんか。その2人で狼狽えていたと聞いたぞ。すわ、天変地異の前触れか! ってな具合に」

とある温泉宿。木の葉隠れの里の、旧家名家の家長達が一同に介していた。

とはいっても、温泉に入っているだけだが

「そういえば、最近キリハちゃんとはどうなんだ、シカマル」

「・・・だからどうもこうもねーよ。それよりも修行風景を見てるだけではらはらするぜ」

まったく、とシカマルは1人深いため息を吐く。
こんな場違いな所に連れてこられたのと日頃のキリハの行動を思い出して。

「・・・相変わらず、無茶ばっかりでよ。俺が止めても聞きゃあしねえ。親父達からも何とか言ってくれねーか」

「ミナトに似て、人の言うことを聞かん所があるからなあ。凄い頑固だし」

「怒ると怖いのはクシナさん譲りかな。日向のヒザシさんから聞いたんだけど、あの日向ネジ君も、中忍試験本戦時のキリハちゃんの怒気は正直怖かったと言っていたらしいよ」

「・・・尻に敷かれんなよ、シカマル」

「突っ込み所が多すぎるわ! あと、キリハ本人は兄貴・・・ナルトの事で頭いっぱいだよ!」

シカマルの一言に場が凍り付く。

「・・・そういえば、お前ナルト君と話しをしたんだっけな」

「ああ? まあ、話したけどよ」

「どんな感じだった? その・・・」

シカク達の顔が少し不安気になる。

「ああ・・・何て言うか・・・」

「「「何て言うか?」」」

その場にいる親父共全員が迫ってくる。シカマルは何この拷問、と呟きながら答えを返す。

「一言で言うと・・・」

「「「一言で言うと?」」」

合唱する親父ズにシカマルはあっさりと言い切った。

「変なヤツだった」

その場にいる全員がずっこけた。

「二言でいうと・・・凄い変な奴だった」

シカマルは1人思い出す。それとなく自来也から聞いた特徴と照らし合わせて。そしてキリハから耳にタコが出来るぐらいに聞かされた活劇を思い出しても、だ。
人格が把握できない。つかみ所が無いというのか。

「・・・まあ、馬鹿に明るい奴だったのは確かだ。前もって想像していたのとは全く逆の印象だった」

助けられた時は、もっとこう、ぶっきらぼうな感じな人だと思いっていた。
キリハから人柱力の話を聞かされた時に思い浮かべた兄貴像もそうだ。もっと歪んでいるかと思っていたのに、実際は違った。

それでも、起こした数々の事件というかイベントは、明るいだけの者では到底不可能な、奇天烈かつ破天荒なものばかり。

そう考えれば、キリハにも似ている。まるで風だ。時に凪。時に嵐。気まぐれにも程があるが。

シカマルがそう語ると、親父ズは皆が苦笑を浮かべていた。

「・・・ふん、ミナトに似てやがる」

「はあ!?」

シカマルが驚く。火影の執務室にかけられていた写真とか、キリハに見せられた写真を見るに、もっと威厳があって真面目一徹な人かと思っていたのに。

「ああ。まあ、任務の時はそうだったな。私生活ではだらしがないのにも程があったが」

「ガキん頃は悪戯好きだったしなあ。色んな術を試して、暴発させて・・・当時のアカデミーの先生によく怒られていたな」

「それでも、才能は本物だったからなあ。俺らが中忍になった頃、当時のアカデミーの先生と話をした時に聞いたよ。怒るに怒れなかったって、愚痴られた」

「・・・想像とは全然違うな」

「まあ、カカシとか教え子に対しては真面目な顔しか見せてなかったからな。知っているのはそれこそ、俺達のような昔なじみの奴だけだ」

「仮にも火影だったしなあ」

「いや、仮にもとか・・・」

シカマルが突っ込むが、親父ズは昔話モードに入っていて聞いちゃくれねえ。

「・・・はあ。俺はもうあがるぞ」

これ以上つかってるとのぼせそうだし、といつものぶっちょう面をしながら、シカマルが言う。

「もっとゆっくりつかっていかねえのか?」

お前も相当に疲れてるんだろ、とシカクが訊ねる。

「シカマル、同期のみんなの修行を見ていたせいか、疲れ気味だもんね・・・ほんと、お疲れ様だよ」

「けっ、お前に言われる事じゃねーよ。同期の面々の修行を見るっていうのは、綱手様からの直々の命令だ・・・でも」

気を遣ってくれてありがとよ、と幼なじみのチョウジに告げる。

「でも、本当にのぼせそうだからあがるわ」

「あ、じゃあボクも」

つられ、チョウジも一緒に入浴場から出る。

そして服を着ようとした時だ。

「ん、これは・・・?」

脱衣所に置いてある服。その下に、何かがあるのに気づいたシカマルはそれを慎重に手に取り、呟く。

「・・・手紙?」








「それでチョウザ。シカマル君は実際どうなんだ?」

「ああ、修行の事か? チョウジが自慢げに話してたな。みんな驚いてるって。知識の豊富さもそうだけど、状況設定が秀逸だってアスマがかなり褒めてたらしい」

「・・・だ、そうだぞシカク」

「けっ、お前ン所のいのちゃんも医療忍術頑張ってるそうじゃねーかよ」

「いやいや。チョウジ君の方も頑張ってるそうじゃないか」

「まあな。シカマル君に負けたくないとかで、最近特に力が入っとるらしい。まあ、任務に失敗した下忍の全員が頑張っとるらしいが・・・」

一端話が切れる。

「それにしても、うずまきナルト、か」

その場にいる3人、上忍、山中いのいち、秋道チョウザ、奈良シカクは波風ミナトとはかなり長い付き合いだった。

戦友であり、親友でもあったミナトの忘れ形見。

「・・・クシナの妊娠が聞かされる前ぐらいだったか。約束したのは」

「ああ。一度休暇を取って、4人男同士水入らずで旅行に行こうって話な」

「きっかけは何だったか・・・ああ、お互いの結婚生活の話だ」

「愚痴りあうのが目的だったかなあ・・・子供できた後はそんな事考えなかったけど」

3人が苦笑しあう。

そして全員が、あの時九尾に立ち向かっていくミナトの背中を思い出した。

「・・・バカヤロウが。笑顔のまま、走って行っちまいやがって」

「・・・屍鬼封尽、か。あの時は相談も何も無かったな。まあ、言えば止められると思っていたのだろうけど」

「最後の言葉が笑顔だけ、っていうのも・・・あいつらしいな」

3人、様々な事を思い出し、少し顔が俯せになる。

「・・・いけねえ。辛気くさくなっちまった」

こんな顔してると、あいつに怒られちまうな、とシカクが無理にでも笑いながら呟く。

笑う時は笑おう、というのがあいつの信条だった。それに今、俺達に出来る事は思い出して悲しくなる事ではなく、あいつのやった事を誇るべきだ。

木の葉を守り死んでいった英雄達と、同じに。

「・・・でも、経緯はともあれナルト君が生きていてくれてよかったよ。もし死んでいたらミナトに顔向けできない所だった」

「自来也様から話しを聞いた時には心底驚いたが。今の、シカマルから聞いた話にも驚いたな」

「色々と助けられたらしいからな・・・何から何まで、大きすぎる借りだな」

子供達を助けられた事とか。返す借りが多すぎて、どうしたらいいのかと唸る。

もっとも、メンマ本人はそんな事気にもしていなかった。誰が悪いわけでもない、というのが彼の考えだったからだ。


「これから、返していこうか・・・いかん、これ以上入っていると本当にのぼせてしまうな。あがるか」

「ああ」










一方、女湯では。


「ふい~・・・・たまらないねえ、いのちゃん」

「オヤジか、あんたは」

相変わらずの突っ込みっぷりである。

「シカマルから聞いていたけど・・・あんた、今本当に疲れてるようだから、きっちりと休みなさいよ?」

「分かってるよ~」

「駄目だこの娘・・・」

ふやけきっている。それほどに過酷な修行を自分に強いていたのだろう。

「シカマルの胃は大丈夫かしら・・・」

心配性の幼なじみの胃を気遣ういのであった。


そこに。


「あ、こっちですね」

「九那実さん、足下気を付けて」

「うむ、すまんうおっ!?」

自分たちと同じぐらいの背丈を持つ、3人組の女の子が入ってきた。

1人は滑ったのか、一瞬体勢が崩れていた。

「あはは、気を付けてくださ・・・」

笑おうとした白が、湯船に使っている2人を見た途端、一瞬だが硬直した。

直後に何でもない風に取り繕ったので、ばれなかったが。

「あはは、多由也さんちょっと」

白は入り口、キューちゃんの手を取っている多由也の方に行くと、近づき小声で話す。

(ボクの本名禁止、九那実さんは九那実さんと呼んで下さい)

「・・・はあ?」

告げられた白の言葉にわけがわからない、という風に首を傾げながら湯の方へ歩いていく多由也。

そして2人を見たあと、白の言葉に内心で頷いた。

(了解)

(いえいえ。それにしても何ていうタイミングですかまったく・・・)

マダオが選んだ宿だが、時機が重なるとは。偶然にも程がある。

(そういう星の元に生まれておるのかもしれんのう・・・)

(すごい説得力ですね・・・ともあれ、気づかれてないようですから入りますか。今の2点に気をつければばれませんよきっと)

(うむ。キリハのやつふやけておるのう。まるでクラゲのようじゃ)

会議が終わった3人は、やがて湯船に入る。


「失礼します」

「いえいえ・・・ってあなた達肌白い~・・・綺麗だしー!」

いのが騒ぎだす。

「そうだねえ。まるで新雪のようだねえ」

白とキューちゃんを見ながら、キリハが呟く。

「だからオヤジっぽいわよアンタ。すいません、彼女ちょっと今、ふやけてて」

「ふむ。どうしたのかのう」

変わったしゃべり方をするキューちゃんにいのは驚く。

が、即座になんでもないように言葉を返す。変人の巣窟、木の葉隠れの里で花屋を経営する彼女。

日々の戦場で鍛えられた彼女の経験値は、伊達ではないようだ。

「そう、接客は戦争なのよ・・・」

思わず呟きが零れてしまう、花屋の看板娘。

ちなみに白の方は、その呟きを聞いた後、深く同意の頷きを返していた。

キリハの方は、脱力の極致にあるのか、目が糸目になっていた。その糸目で多由也達3人を見ながら、訊ねる。

「ん~・・・みんな、何処かであったっけ?」

キリハの唐突な質問。

だが、白は焦ることなく対処する。

「いえ、初対面の筈ですが・・・」

心底不思議そうに首を傾げる。

勿論、白の演技であるが、キリハはそれを見破れなかった。というかふやけているので、観察眼も鈍っているのだろう。

それに、白の容姿は前とはかなり違っている。儚さが消えた力強い容姿は、その綺麗さを増しに増している。

加え、キリハが白の顔を見たのは、白が通りすがりの一般人の格好をしていた時だ。あの橋の一戦では、白の面は割れていない。

敵として出逢った訳でもないので、自然その警戒は緩くなっている。

「そういえば私も・・・いや、やっぱ違うか」

いのは多由也を凝視しながら、呟く。だが多由也はの容姿と雰囲気は、呪印から開放された前後ではまるで別人のように変わっている。

気づける筈もない。

(・・・やっぱり、勘違いね)

そもそも、超人じみた勘の持ち主であるキリハが疑っていない。だから、大丈夫だろうと判断した。

幼い頃から様々な人間と接してきたキリハ、彼女の人間の観察眼は結構なものだ。

下心のある人物なら、そして危険な人物なら直ぐに分かる。それに、自分も花屋として結構な客と接してきた。

その経験をふまえ、この人達は別に警戒する必要は無いと結論づけたのである。

「それに、キューちゃんはもっと小さいしねえ」

糸目のまま、ぼそりとキリハが呟く。

「・・・・」

危なかった、と内心で安堵する多由也と白であった。





数分後。話をしているうちに、互いの警戒は緩くなっていた。

何というか、互いにシンパシーを感じるものがあったらしい。

「へー、旅行の帰りなんだ」

「そうですね。仲間の1人の提案で、温泉に行こうという事になりまして」

「ワシは疲れてはおらなんだがのう」

「あー・・・・まあ、そうだな」

あまり外には出ていなかったキューちゃんの愚痴に、多由也が反応した。

「あなた達も旅行ですか?」

「いや、ちょっとね。こっちの勉強が一段落ついたのと、パパ達の仕事が一段落ついたのと、タイミングがかぶってね。こうして慰安みたいな旅行に行こうかって話になったのよ」

「う~、癒される~」

「あの、こちらでふやけている方は・・・?」

「ああ、ちょっと疲れが溜まっていたそうでね。こんなになっちゃってるのよ」

「ん~」

「うおっと危ねえ」

倒れそうになるキリハを、多由也が受け止める。

「お~、大きいクッションだー」

キリハは多由也の胸にもたれかかる。そしてその双子山を枕にしながら、頭を振り出した。
金色の髪が多由也の双子山の稜線をくすぐる。

「ちょっ・・・・んっ」

「あんた、キリハ!? 何やってんの!」

慌てたいのがキリハの頭を鷲掴みにして引き寄せる。そして、ぽかり頭を叩いた。

「痛いよいのちゃん~」

叩かれたキリハだが、糸目のままだった。本当に今日は駄目モードらしい。

「だってでかいし~、やーらかいしー・・・」

「ふむ、確かに・・・・そい」

キューちゃんが頷きながら、湯の中静かに多由也に近づく。

そしておもむろに、双子山の頂上にある桃色の果実を指でつついた。

「ちょっ・・・あっ、んうっ?!」

止めようとした多由也だが、あまりにも神速かつ精緻な指捌きに防御する事あたわず。侵略を許してしまった。

「・・・エロい声ね。しかし、やっぱりでかいわー」

いのが悔しそうに呟く。

「そうですねえ」

ちなみに白は笑顔でその光景を見ていた。

「ちょっ、お前ら止め・・・!」

やがて水面下を移動しながら接近したキリハも、頂上攻略に乗り出した。目は糸目になっている。

「・・・・・っ!」

金髪コンビの2重奏に圧倒される多由也。





一方、男湯。

シカク達木の葉の忍びに気づいたメンマ一行は、姿を隠しながら入浴場を出てシカク達が出て行った後に入り直した。

・・・のだが、そこでとんでもないものを聞いてしまっていた。

女湯で始まった会話を聞こうと、耳にチャクラを集中して聴覚を強化。こちらの音は漏れないように消音結界。
これも修行だというメンマとマダオの提案にサスケが頷き、なんだかんだと言いながらも気になる再不斬も参加。


---それは当然であろう。桃源郷の会話である。

男ならば聞かないという選択肢は無い。そんな奴は男じゃねえとメンマは断言する。


だが。そこで悲劇は起こったのである。

予想以上に過激な展開とその声の艶やかさに当てられた少年が、開始僅か数分でダウンしてしまった。

「しっかりしろサスケ! 傷は浅いぞ!」

「ごぼごぼごぼ」

顔を真っ赤にしながら鼻血を出しているサスケが、湯船に沈んだ。多由也のあの声にやられたらしい。

最も接する時間が長かったサスケだ。普段とのギャップにやられたのだろう。こうかはばつぐんだ!というやつらしい。

「くっ、多由也ちゃん恐るべし。流石は音使い・・・!」

マダオが戦慄する。

「いや、違うだろ」

メンマが突っ込むが、そのメンマに再不斬が更に突っ込んだ。

「・・・お前も、鼻血を拭いたらどうだ?」

「おっと失敬」

紳士の顔をして鼻血を拭うメンマ。湯船に沈んでいたサスケだが、何とか意識を取り戻したようだ。

「・・・・」

「お~い、サスケ。生きてるかー」

「・・・」

返事が無いただの屍のようだ。

「まったく・・・・ん?」








「いい、加減、放してくれ!」

胸を抱え込んで退避する多由也。

「いやあ、大きいっていうのも一苦労ですねえ」

見ながら、笑顔を浮かべている白。

多由也はそんな白に一言、お前も大きくなったと言っていただろうがと言う。

「え? ・・・ボクのは駄目ですよ。触って良いのは」

白は、恋をしている乙女の笑顔を浮かべながら、そっと自分の胸を隠す。

そして、静かに言い放った。


「たった、1人だけです」



その、迫力。

そしてあまりにも綺麗な笑顔に、その場にいた全員が圧倒される。









一方、男湯では。

「・・・てめえら、何をしやがる!」

白の言葉を聞いた男3人。嫉妬力による高速の拳で殴られた再不斬が、鼻を押さえながら文句を言っていた。

だが、男3人の嫉妬パワーが篭められた視線を前に、それ以上は言えないでいる。

「・・・殴った事に理由はない。ただ、羨ましかっただけだ」

メンマが目を閉じながら腕を組み、渋い声で言う。

「殴りたかったから殴る。これ、正論でしょ?」

マダオは人差し指を立てながら、言う。。

「・・・いや、つい」

サスケが視線を逸らしながら答える。


「くそったれが・・・」

と言いながらも、追求してこない再不斬。よく見れば、耳が赤くなっているような気がする。


「俺はもう出るぞ」

「分かった。ちなみにトイレはあっちだぞ・・・おっと」

指さすメンマに向けて、クナイが飛んできた。下ネタは禁句らしい。

「うーん、ダンナもねえ。恥ずかしさの限界だったのかなあ」

「まあね。案外照れ屋さんだし」

「それは見てれば分かるが」

「「あ、やっぱり?」」








所、戻って女湯。

「く・・・・! これが、恋をしている乙女の力なのね!」

屋台の桃さんを思い出すわ! といのが戦慄する。ちなみにその言葉を聞いた白も内心で戦慄していたが、表情には出さない。

キューちゃんは多由也に振りほどかれた後、自分の胸をじっと見ていた。

「うーむ。ワシには平均というものがよく分からんのじゃが・・・今のワシの、これは・・・・大きいのかのう?」

キューちゃんが自分の胸部にある泰山を見ながら、呟く。

「えーっと・・・そういえば、ボクも分かりません」

「ウチもだ」

他のくの一との接点が無い白と多由也には、所謂女史の平均胸囲というものが分からなかった。

「ん~・・・私も、分からないや」

「そういえば、アンタもそういうのには疎かったわねえ」

いのが呆れ声を出す。

「えっと・・・見た目、平均より少し上ってところじゃない? それよりも形が美しすぎるわ!」

美乳にも程があるわよ! といのが悔しげな声で言う。

「将来性も抜群ですしねえ」

一度だけ大人verを見たことがある白と多由也が頷きあう。

「・・・・てい」

「んっ・・・って何をする?!」

そして、そキューちゃんの背後から静かに近寄ったキリハが、徐に肌を触り出す。

「ん~、肌も綺麗だねー」

まるで絹のよう、とキリハが呟く。それを聞いたいのも、肌の感触を確かめんとキューちゃんに近づいていく。

多由也も、先程の逆襲とばかりにキューちゃん近づき、ゆっくりと肌を触りだした。

「どれどれ」

「ちょっ、お主等やめんかっ・・・・んうっ」

静止しようとしたが、その感触に声を出してしまうキューちゃん。

「凄い・・・何これ」

「・・・ふっ・・・んっ?!」

いのは“黄金比ってレベルじゃねーぞ!”と内心で叫びながら、背中から腰のラインをゆっくりと触り出す。

「完成された造形美・・・一種の芸術だな、これは」

さっきの攻勢でテンションがおかしくなった多由也もキューちゃんの胸元の稜線を指でなぞる。

「ちょっ、たゆ・・・く、は・・・んっ・・・!!」

柔肌が蹂躙される度に、キューちゃんの声が響き渡る。

魅了の効果でもあるのか、その声は人には出せない程に艶やかだった。

その肌の触り心地と声に当てられた乙女3人の勢いは止まらない。むしろ勢いを増していく。



















そして数分後。



「ふーっ・・・!」

キューちゃんは胸元を抑えながら八重歯を剥き出しにして、全員を威嚇していた。

全身がピンク色に染まっているが、顔は真っ赤である。

多由也、いの、キリハの3人はキューちゃんから羞恥による怒りの拳骨を喰らったため、頭を抑えている。

「いたた・・・ちょっと調子に乗りすぎたようね」

威嚇のうなり声を上げるキューちゃんに、調子に乗ってしまったのを謝罪する3人。

「うー・・・・!」

だが、キューちゃんは4人を警戒しているのか、距離をおいたままだ。

だが、白を含む4人全員がその仕草に少しやられていた。


何て言うか、仕草が全て子供っぽいのだ。年にしても幼い。

天上の華とも言える程に整ったキューちゃん容姿だ。その上、こんな可愛いというか子供っぽい仕草をされたら、同姓でもたまらないというものである。

しかも、八重歯だ。

何をいわんや、である。


「こほん」

気を取り直した白が、一言入れる。

「・・・えっと、少し興奮しているようですから後でまた」

そういいながら、会話を続ける。

「・・・それにしても、いのさんも結構大きいですねえ」

「まあ、そうね。同年代でもトップクラスだし」

多由也の方を見ながら、自信を無くしたけど、と呟いたが。

「ん~、私は少し小さいね」

殴られて若干覚醒したキリハが、自分の胸を自分で鷲掴みにしながら、何でもないように言う。

「ちょっと、アンタ・・・」

少しは乙女としての恥じらいを持ちなさいよ、と言う。

だがキリハは糸目のまま「何を~」と返してくるだけであった。

「ははは・・・でも、誰かに揉んでもらえれば大きくなるそうですよ?」

白の爆弾発言。

「そうなのっ!?」

いのが食いつく。

「ええ」

「・・・ああ。でも私には心に決めた人が!」

頭を抑えながら苦悩の声を上げるいの。白が苦笑する。

「ええと、確かにねえ。それに、女同士っていうのもあれですし」

「ん~、私は別に大きくなくていいよ」

「そうそう。邪魔になるだけだぞ」

「・・・そうじゃのう」

警戒しつつもこちらに戻ってきたキューちゃん。少し距離を取りながら、呟く。

「ん? ・・・でも、大きい事に越した事はないわ! だからキリハ!」

キューちゃんの返答に首を傾げながらも、いのはくわっと目を見開く。

シカマルの為にも! と内心で叫びながら両手を湯船から出す。

「行くわよ!」

「来ないで?!」

真正面からダイレクトアタックを仕掛けるいの。

キリハはそれを見てとっさに横に逃げようとする。

「・・・しまった?!」

だが逃げられなかった。

背後から忍び寄った多由也とキューちゃんに両の肩を掴まれたため、身動きが取れなくなってしまったのだ。


「・・・ふっふっふっふ。さあ、さあ!」


ラスボスのような笑みを浮かべながら、両手をわきわきして近づく乙女、山中いの。

キューちゃんの艶やかな声が発する色気とその肌の感触に当てられて、どうもハイテンションになっているらしい。

「いや・・・!」

首を振りながら、抵抗するキリハ。



だが、その抵抗も空しく。




「・・・・・・!!」


侵略されること、火の如し。


艶やかな金の涼声が、湯気立ち上る星満天の夜空に響き渡る。




1人、白が空を見上げる。


「あ、流れ星・・・・」













一方、男湯では。




「お客様!? お客様ーーー?!」

様子を見に来た旅館の従業員が、その惨状を見て叫んでいた。





男3人は湯船の外の床を血の華で染め上げていたのだ。




「永遠はあるよ、ここにあるよ・・・・」

「はちみつくまさん・・・」

「もう・・・ゴールしてもいいよな・・・・」




だが、その顔は安らぎに満ちていた。
そして倒れながらもその掌は、天にある星を掴まんと突き上げられていた。






















後編へ続く。






・・・あと、お知らせです。

幕間4の後編の次、本編再開しますのでよろしく。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 幕間の4 ~宿は道連れ湯は色気・後編~
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/09/21 06:09




数時間後。


「で、シカマル君との話はどうったったの?」

マダオが訊ねてくる。



先程、俺は手紙で呼び出したシカマルと情報を交換していた。

こちらは暁の構成員について。前もって紙に書いていたのを渡したのだ。

シカマルの方は、最近の各地の動向についての情報をくれた。後、一つある事を依頼された。

匠の里の話を聞いたシカマルが、キリハ専用のお守り作ってくれと頼んできたのだ。材料もあるので、後は加工費だけになるだろう。

交換条件もあったし、何よりキリハの事もあるので、俺は後払いでその頼みを聞くことにしたのだ。

「お守り、か・・・どんなものを考えているの?」

「職人と相談して考えるさ。それより、だ」

一息区切って、話し出す。

「どうも、最近雨隠れの里の動向がおかしいらしい」

「雨隠れって・・・確か、あの“山椒魚の半蔵”が頭の里ですよね」

無敵の忍びとして名を馳せた程の実力者。その強さは伝説になる程だ。

「・・・少し前までは、ね。今は、暁の首領であるペインっていうのが頭張ってるらしいけど」

「ということは・・・あの半蔵を殺ったのか、そいつは」

「らしいね・・・」

それにしても、雨隠れの行動がおかしいとはどういう事だろうか。

メンマは1人、唸っていた。

(何か、変わった事があったのか? ・・・くそ。イレギュラー要因が多すぎて、何が起こっているのかさっぱり分からん)

雨隠れに侵入するという手も使えない。相手が輪廻眼である以上、迂闊な手は使えないのだ。

どんな術を使ってくるのか分からない。有り得ないかもしれないが、影分身体の逆探知でもされたら事だ。

「まあ、地道に情報収集していくしかないね・・・」

「そうだな。それで、暁の動向は分かったのか?」

「いや、分からない。けど、痕跡は見つかったらしい」

「・・・痕跡?」

多由也が訊ねる。

「ああ。どうも、三尾が狩られたらしい」

シカマルの話を聞くに、三尾がいたとされる沼で戦闘が行われた痕跡があったらしい。

「暁、と見るべきだろうね。それに、他にも奇妙な点があったらしい」

「・・・奇妙な点?」

「ああ。何でも、戦闘が行われた辺りのね・・・その一帯の植物が全部死んでいたらしい」

「・・・それはどういった風に?」

「まるで何かに吸い取られたかのように、しおれて枯れていたらしい。調査班が調べたけど、原因は不明だって」

「・・・うーん、何とも不気味ですね」

「俺が中忍試験の予備戦で戦ったグラサンのように、チャクラを吸収する能力じゃないのか?」

「違うと思う。植物そのものから生命エネルギーを吸い取るなんて、できない筈だし」

それこそ、木遁の領域になるだろう。

「加え、沼も濁っていて・・・そこにいた魚というか、水棲生物の全てが死んでいたらしい。まるで、死神が通り過ぎたかのようだと言っていたよ」

「死神・・・・と言うことは、例のあの声の主ですか?」

「残念ながら、その可能性は高いだろうね。皆殺しっていう感じだし」

声の印象と一致する。そしてその異様性を見るに、同一としていいのかもしれない。

「断定するのは危険だから、あくまで可能性としておくけどね」

「・・・それで、こちらはどう動くんだ? 暁とその死神ってやつ、関連性はあるのか?」

再不斬が訊ねてくる。

「それは帰ってから検討する。今はとにかく、食べよう。ちょうど用意もできたようだし」

麺は熱いうちに食べろという言葉もある。今はとにかく食べるべきだ。

「・・・そうですね」

海鮮の幸が並べられる。

「あと、例の味噌もらってきたから。これで、味を調整して・・・よっと」

影分身が調達してきた業務用の麺を取り出す。

「海鮮味噌ラーメンに挑みます。キューちゃんはこれ」

と、少し焦げ目がついた油揚げを取り出す。

「味噌塗り油あげ焼き~メンマ風~でございます。冷めないうちに召し上が」

瞬間、風が生まれた。

既に箸はキューちゃんの箸の中にあった。

それを見た再不斬が呟く。

「・・・この俺が、見えなかっただと?」

全員が戦慄する。

「いただくぞ」

「たべてたべて」



はむっ、とかじりつくキューちゃん。

熱いのか、はふはふと白い息を吐きながら、結構大きめな油揚げをものすごい勢いで食べ尽くす。




「・・・感想は?」








遠雷を背後に、訊ねる。










対するキューちゃんは飲み込んだ後、すぐさま答えた。









「うまい!95点!」


「っっしゃああああああああ!」


マダオとハイタッチ。

白とハイタッチ。

初めてなので分からない、という顔をするサスケと多由也にも強引にハイタッチ。

(どうでもいいけどハイタッチとパイタッチって似てるよね!)

と、思わずエロい事を考えてしまう程にテンションは最高潮になる。






「うむ、腕を上げたの」

「恐悦至極。さあ、どんどんどうぞ」









その一時間後。


「ふい~」

勢いに任せ、いつもよりハイぺースで飲んだせいかアルコールの周りが早い。

少し酩酊状態になりながら、俺は例の去り際の言葉について聞いた。

「結婚式・・・ということは、プロポーズは済んだんだね君達」

俺の唐突な断言に、再不斬が酒をはき出した。

「げほっ、ごほっ・・・突然、何を言い出す」

「えー、だって雪絵・・・じゃなかった、小雪姫が言ってたじゃん」

思い出したのか、再不斬の顔が赤くなる。


「で、プロポーズの言葉は?」

「してねえよ!」

再不斬が顔を真っ赤にしたまま怒鳴る。

「まあまあ、それぐらいで。ちなみに、どんな言葉を考えているの?」

「まだ考えてねえよ!」

マダオの言葉に怒鳴る再不斬。その一瞬後、言葉を理解した5人がにやりと笑う。

(((まだ、だって・・・)))

ちなみに白は真っ赤である。

「ふん、お前の方はどうだったんだよ」

「ええ、ぼ、僕? ・・・ええと、何だったかなあ」

焦るマダオ。矛先を逸らそうと、こちらに訊ねてきた。

「ちなみに、メンマ君はどんな言葉を考えているの?」

「え、俺? 俺なあ・・・」

アルコールの勢いのせいなのか、真剣に考えてしまう。

(うーん、やっぱり、結婚相手には麺に対する理解が欲しいし・・・)

それに、定番もやはり必要だろう。

(“毎朝俺のラーメンを作って下さい”・・・いや、やっぱり違うな。”一緒の墓に入って下さい”・・・・これも違う)

常に一緒にいて、隣にいて、それで・・・・同じ湯に・・・うん、これだ!



「俺の出汁になって下さい!」



場が静寂に包まれる。

(・・・あれ? 何か、口に出したら違う感じが・・・)


その一瞬後、酔った多由也が箸で陶器を叩く。

ちーん、という音が部屋に響いた。


「残念、不合格です」

「メンマ君、それプロポーズと違う。宣戦布告や」

マダオの突っ込み。

「ちなみに、それ誰かに言ったことある?」

「いや、そりゃ無いけど」

「「「良かった・・・」」」

再不斬とキューちゃんを除く全員が頷く。

「ん?」

例の味噌油揚げに加え、それに御飯を加えて海苔をまぶした味噌焼き油揚げ御握りをようやく食べ終わったキューちゃん。

が、顔を上げる。

「何か言ったか?」

「いいえ、何にもないですよ・・・ああ、ほら御飯粒がついてます」

さっと頬にある御飯を取る白。まるで母のようだ。

それを横目に、俺はマダオに耳打つ。

(そういえば、マダオ。こっちの結婚式ってどんなだ?)

(各地で違うようだけど・・・里によっても違うね。ちなみに、君の所は?)

「何を男同士で内緒話をしておる?」

キューちゃんが訊ねてくる。

「いや、宣誓の言葉とかどんなかなって」

「・・・ほう。ちなみにお主が知っておる言葉はどんなじゃ?」

「ええっと、確か・・・」


何とか思い出しながら、言葉を紡ぐ。

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも・・・・」

そうだ。こんなだった。


「スープを愛し、出汁を敬い、具を慰め、麺を助け、その魂のある限り・・・真心を尽くすことを誓いますか」


メンマ流のアレンジである。


直後、多由也の箸が容器を叩く。

キンコンカンコーン、という音が鳴り響いた。


「・・・韻が美しいので合格」


酔った多由也は厳しかった。


「ちなみに、元の言葉は何ていうんですか?」


「ええっと、それはねえ・・・・」


元になった言葉を教えると、白は真っ赤な顔をして頷いていた。興奮しているようだ。


(そりゃあ、なあ。白にはぴったりの言葉だもんな)

と、いうことはもう何年も前から2人は結婚していたのかもしれない。

(というと暴れるからな)

一応、自嘲しておいた。


「ふーむ・・・」

キューちゃんも思う所があるのか、腕を組んで唸っていた。

「どうしたの・・・ってそろそろ仕上げというか最後のラーメンに入るけど・・・」

食べられる、と聞くまでもない。既に全員が準備完了であった。

「じゃあ、味噌を入れましてっと」

即興の海鮮味噌ラーメンである。味噌の風味と魚の風味、それに野菜出汁の甘みが加わった今日だけの一品。

今回は味噌は薄目である。魚の風味を殺さない程度の量でいい。後は、魚の風味と合わさってくれる。

これから開発する新ラーメンへの実験を兼ねたものである。ちなみに事前に味は検討済み。


「で、近場でとれた海苔を上において、と」


完成である。

具は鍋の残り物の野菜しかないが、それでいい。出汁の味が生きているので、後は海苔を添えれば問題はない。


「ん・・・暖まるな、これ。それに、スープに深みがあっていい」

「未完成ですし、要検討と思いますが・・・面白い方向性ですね、これ」

「・・・うまい」

細かい事はわからない男連中は、ただうまいと言っていた。

「あと、キューちゃん。これ」

「ん? これは、油あげか。随分と薄いし、味付けもしていないようじゃが」

「スープに浸して、麺と一緒に食べてみて」


「ん・・・ほう、これはこれは」

「まだ完成にはほど遠いんだけどね」

「でも旨いぞ、これ」

「いや、油揚げの味がまだ勝ってるから。周りの味との調整がまだまだ。至高の一品とは言い難い・・・でも、例のラーメン。やるなら味噌ベースかな」


前に約束した、きつねラーメンの案である。

試してみるが、俺の作るしょうゆラーメンとは合わないような気がするし。

塩は・・・無理だろう。味が違いすぎる。

「・・・ふむ。約束を守ってくれるのか」

感慨深げな表情を浮かべ、こちらをじっと見るキューちゃん。

俺は照れ隠しに頭をかきながら、言う。

「・・・当たり前じゃん。何より、キューちゃんとの約束だし」

長年付き添ってきたキューちゃん。今や、家族も同然だ。
それに、麺について嘘を付くわけにもいかない。


笑顔でキューちゃんにそう告げる。


「・・・うー・・・」

すると、何故か顔を真っ赤にしながら俯き出した。


「あれ、どうしたの?」

キューちゃんも酔ったの、とのぞき込む。

「・・・何でもないわ!」

と言いながら、目をそむけられた。

そして。


「おかわり!」


鍋に残っているラーメンに向け、器を突き出すキューちゃん。

白が苦笑しながら、器におかわりのラーメンを入れていく。



「・・・ああ、そうだ、多由也。例の屋台の事なんだけど」

「え、決まったのか?」

「ああ。出来れば全国を行脚したかったんだけど、雨隠れの動向がおかしいらしいし・・・“網”の紹介で、孤児院とか、現場周りに屋台を開く事にした」

「・・・ということは、極々短期間の出店になるのか」

「時機を調整してね。安全には気を付けないといけないし」

「・・・それも、そうか。うん、ウチはそれでいい」

「工事現場とか、特に良いかもね。疲労回復にも役立つし」


夕方、もしくは宵の口。

仕事が終わった後の疲れている作業員に、スタミナ満点のラーメンを出す。

そして満腹になった後、疲労を回復する演奏会っていうのも乙なもんだ。

「孤児院も、ね。ラーメンも音楽も、子供に好かれるっていうのは大事だと思うし」

率直な感想を聞かせてくれそうだ。

「そうだな」

多由也が笑う。

「まあ、暁対策に移った時は休むようになるけど」

始まるまでは。そして終わった後は、その範囲で動いて行こう。終わった後、っていうのは気が早いかもしれないけど。


「そういえば、キリちゃんとか、木の葉隠れで言われた感想をふまえて・・・ここ数ヶ月で、整理したんだっけ」

「よりよいものを、ってね。俺もまだまだ、まだまだ未熟だし」

道はとてつもなく長い。だからこそ、やりがいがあるのだが。

「・・・ウチも、頑張るから。よろしくお願いします」

「勿論」

「俺も、だな。雪の国での一戦で、足りない所は見えた。これからも頼む」

「ああ。今以上に厳しくなると思うけど・・・まあ、諦めないか。今のサスケなら」

「ボクも、ですね。秘術に磨きをかけます」

「・・・ふん、俺もだな。まだまだ、あの鬼鮫のヤロウには勝てそうもねえ」

「・・・そうだね」

賞金クラス、A級とS級の壁は厚い。

かつてのカカシ、再不斬がA級、S級は大蛇丸クラスと言うとわかりやすいか。

鮫肌の性能も厄介に尽きる。再不斬も相当強くなったが、まだ鬼鮫の力量には届かないだろう。




「ま、それぞれの夢を・・・叶えるために、頑張りますか」

「僕も、手伝うよ」



「・・・・そうじゃの」


「じゃあ、部屋に戻りますか」








そして深夜。

俺達は男女で別々の部屋で眠っていた。

再不斬もサスケも寝入っているが、俺はというと。

(・・・眠れんな、畜生)

目を閉じても眠る事ができない。

それには原因があった。

(・・・痛え・・・)

身体の奥底に響く、痛み。

外傷でもない。内臓器官の痛みでもない。ただ、身体の芯がシクシクと痛むのだ。

数ヶ月前からだ。チャクラを特に多く使った後の数日間だけだが、全身に痛みを感じるのだ。

考えられるのは一つ。

(魂、か)

癒着している魂の連結部に異変が生じているのだろう。

心身共に酷使し続けたのが原因と思われる。

(それでも、仕方ないことだよな・・・)

他の人柱力はもっと苦しんでいるだろう。それに比べれば、軽いものだ。

(でも、眠れないのはつら・・・い?!)

背後に、気配。思考に没頭している隙をつかれてしまった。


(・・・入るぞ)

(キューちゃん!?)

キューちゃんが背後から布団の中に入ってくる。

少し離れた場所にいるサスケと再不斬との距離は遠い。気づかれていないだろう。

(しかし、すごい隠行・・・)

(元が獣じゃ。造作もない)

布団の中、小声で話し合う。

(のう、メンマ)

(何か・・・・って!?)

背後から、優しく抱きしめられる。背中に、キューちゃんの胸の感触が感じられた。

14歳バージョンになっているのだろう。そういえば声も少し違う。

とっさに何かを言いそうになる。だが、続くキューちゃんの一言に、俺は何も言えなくなった。

(・・・身体は、痛むか?)

一瞬の硬直。

直ぐ後、何のことか分からないと言うが、取り合ってもらえなかった。
身体の事、確信されているらしい。

(何で分かったの?)

上手く隠しているつもりだったのに、と訊ねる。

(何となく、な)

これでも長い付き合いだ、とキューちゃんが背後で苦笑するのを感じる。

(大量のチャクラを使うたびに・・・大きめの術を使うたびに、そうなるのだろう)

(・・・そうだけど)

(やはりな・・・・)

キューちゃんが黙り込む。

(先程、な)

(ん?)

(それぞれの夢、と言っただろう)

(・・・うん)

(多由也は音楽。サスケはイタチを取り戻す事。再不斬と白は・・・霧隠れの里を立て直すことだろう)

前に、ちらりと零していた事。思い出して、俺は同意する。

マダラの傀儡であっただろう、先代水影を殺そうとした再不斬。目的を察するに、それ以外は無いだろう。訊ねると、再不斬は否定しなかった。

少し、違うがなと返しただけで。

(それぞれに、夢がある。お主の夢と同じような、成すべき事が、叶えたい夢ある)

(そうだね)

(・・・我の夢がなんだか知っているか?)

(・・・いいや、知らない)

聞いたことが無かった。聞くのが怖かったのかもしれない。

もし、“自由になることだ”と言われたら、この上なく悲しい気持ちになるだろうから。

だが、俺のそんな考えを。キューちゃんは一言で吹き飛ばしてくれた。


(ずっと、お前と、マダオと・・・いっしょに居たいんだ)


息が止まる。


(お前と一緒にいると、な。楽しいんだ、毎日が)


感じた事も無かった。一緒に馬鹿をやれる相棒など。

孤独の中、そんな生き方があるなど、知りもしなかったとキューちゃんは言う。


(マダオも、な・・・色々抱えていて、隠している事もあって・・・今は全部は言えないけど、優しい奴だ)

(・・・隠している事?)

(ああ。最近というか、徐々に色々と分かってきた。あいつの考えが。そして分かったんだ)

(訊ねても、答えてくれなさそうだな)

(お前のためだろう。お前が隠していた痛みと同じく、な)

互いに思い合っている以上、話したくない事もある。キューちゃんは暗にそう言っているのだ。


(多くは、言えん。だが、これだけは一度問うて見たかった)

(・・・何を?)

そう返す事しかできない俺に、キューちゃんは告げた。


(あくまで、遠い未来じゃが)


一泊置いて


(・・・このまま戦い続ければ、チャクラを酷使し続ければ)


その後に続く言葉。それは、半ば予想していた事だった。

だから、その可能性を聞かされた時に、俺は驚かなかった

けれど。


(・・・お前は死ぬだろう)


言葉にして突きつけられると。

自分の弱さが見えてしまう。

死の恐怖が、俺の全身を支配した。



(・・・原因は、何て・・・分かり切っているか)

何とか声を絞り出す。


(九尾・・・いや、天狐のチャクラか。それを使うたびに、我の魂の締める範囲が大きくなっている)


名前を思い出せたのも、その影響らしい。

(・・・ちなみに、マダオの量は一定だ。元が分御魂のような存在じゃからの)

例の屍鬼封尽を使うとき、分割した魂の一部を、八卦の封印術式に組み込んだらしい。

そして、暴走時に再起動した。

(・・・あやつも大した奴じゃ。お主が呼ばれた後の数日間。あの短期間で、内部の我と己自信、そしてお主の魂に関する制御術式を描ききったのじゃから)

(・・・その結果が、あの童女姿か)

(我も、当時は気づけなかったしの)

制御術式による封印。そして、妖魔核が抜けた後、キューちゃん錯覚していた外観をあるべき姿に戻した事。

(そして、内部のチャクラ循環による、我の力の抑制までもな。まったく天才というのはあやつのような者を言うのじゃろう)

(・・・じゃあ、普段のマダオは)

(いや、あれはあやつの素じゃ)

(素なのかよ!)

思わず突っ込んでしまう。




(じゃが、最近の酷使で状況は変わってきている。我達を正しく認識した事もある。不安定な魂の揺らぎがお主を蝕んでいるのだ。

同時に、我の魂の分量も大きくなっている)

天狐の霊格は、人間の霊格より上位に位置する。
術式を利用してようやく、対等近くに持って行けるのだ。

だが、俺は違う。癒着した原因が歪だし、本来のナルトの精神、魂がほぼ死滅しているのが原因で、安定していないそうだ。
天狐のチャクラを使い、術式が揺らぐたびに天狐側の浸食が大きくなっていく。そしてそれは戻らない。

塑性を保てる限界を超えてしまうのだ。

繰り返す度に天狐の容量が増し、魂の歪みは大きくなる。

いずれ、破砕点を迎えてしまうだろう。容易に想像がついた。


(・・・歪みを止める方法は、一つしかない)


ごくり、と唾を飲み込む。





(それは・・・・)




(それは?)














(・・・ラーメンを作り続ける事じゃ)

(そうか、ラーメンを・・・っておい!)


てっきり戦いを止める事か何かだと思っていた俺は、布団の中で突っ込む。


(・・・食べる事じゃないんだ)

(うむ。まあそれもあるが、不思議な事にお主が誰かにラーメンを食べさせて、の。それを美味しいといわれるたびに・・・魂が充足するのか、満ちたりるというのか。

術式も安定して、その量を増していくのじゃ)

(そうなのか・・・)

(我だってそうだった。長き時を生きて、様々な事を経験しつつ、魂を錬磨して・・・天狐となったのじゃ)

今はほとんど忘れておるがの、と呟く。

(そういえば、納得も出来るか)

仙人も、己の魂を錬磨、充足させながらより高純度なものに変えていき、そしてその位を高めていくと聞く。

俺に取っては、“魂の充足”=“ラーメンを美味しいと言われる”、なのだろう。


うむ、隙が無い理論だ。



(・・・しかし、お主のラーメンに対する思い。そこまでのものに至らせた原因は、何じゃ?)


(・・・どん底から、救い出してくれた。生きる理由を、教えてくれた。世界が変わっても、変わらずに生きられるっていう事を、教えてくれた)

思いつく限りの言葉を並べていく。

(前も今も変わらない。俺の誇るべき夢そのものだ)

(・・・そうか)


(まあ、今は他にも守りたいものが増えたんだけどな)

キューちゃんに聞こえないよう、小さい声で、呟く。

(ん? 何か言ったか)

(いや、何も・・・で、話の続きだけど)

(まあ、回復するといっても、徐々にじゃ。その回復速度を上回る勢いでチャクラを酷使し続ければ、危ないからの)

(戦うのを止められたらいいのに、ね)

(といっても、夢を叶えるため。あと、許せない事があったらお主は戦うのじゃろう?)

(独善的に、ね。まあ夢に対する障害・・・暁なんかは、避けて通れない障害だから仕方ないんだけど)

(そうじゃの・・・力があるが故に、狙われる。じゃが、力があるが故に乗り切れる・・・何とも複雑な話じゃのう)

(隠遁生活を送れば、誰かを見殺しにすれば、あるいは狙われる事もないのかもしれないけどね)

(・・・それを選ぶお主でもあるまいに)

(いや、考えたことは考えたよ。でもね、やっぱり無理だ)

俺が馬鹿だって事は分かってる。頭の悪い選択だって事も分かってる。

突きつけられた選択肢を前に。

逃げる道が、目に浮かぶ事もある。
見捨てる事も、考える時がある。

(だけど、無理だった)

もっと綺麗に生きられたらいいのに、と思う。
もっと賢く生きられたらいいのに、と思う。

(不器用なお主らしい、というべきかな・・・どうせ、止めても戦うのじゃろ)

キューちゃんは抱きついたまま、俺の後頭部にそっと頭を押しつけてくる。石けんの香りがした。

(・・・ああ。でも、キューちゃんの夢を叶えられるよう、頑張るよ)

(・・・うん)

そういいながら、更に抱きついてくるキューちゃん。

(あの、九那実さん?)

(何じゃ?)

からかうように、キューちゃんが俺の耳元に囁いてくる。

(実はですね。先程から、ずっと言いたかったんですけど・・・)

(何を、じゃ?)

(背中に、その・・・胸が、当たっています)

(当てているのじゃ)

こうすればイチコロだと教わったんでのう、と悪戯口調で返すキューちゃん。

(何、皆は寝ておるのでこのまま・・・ん?)

そこで、異変に気づく。

(あれ、いつの間にか布団がもぬけの殻に・・・っておい)

少し開いた襖の向こうから、5対の視線がこちらを除いていた。

全員が目をチャクラで補強しているらしい。微妙に光っている。

そして、その中の一対に至ってはおたまじゃくしが浮かんでいた。

(何この才能の無駄使い・・・・「って違え!」

叫びながら勢いよく立ち上がる。


「何時から見てた・・・!」


俺が問いかける。返答がわりに、文字を書いた紙が部屋の中へと投げ入れられた。


「・・・何々、“オープン・ザ・ワールド。世界が始まるその時から、世界が終わるその時まで”・・・って何じゃこれは!」


答えになってないわ! とキューちゃんが襖の向こうに怒鳴りつける。


その直後、一枚の紙がまた投げられ、そっと襖が閉められた。


「・・・“こちらの事は気にせずに。いけいけゴーゴージャンプ”・・・・ってマダオてめえぇ!」



今日こそ決着つけたらぁ!と叫びながら俺は部屋を出て行く。

背後、キューちゃんを1人残して。


















---メンマはこの時、気づけなかった。

キューちゃんが1人、部屋に残った後。


最初に投じられた紙の裏に書かれた文字を読みながら、悲しく笑っていた事を。




「・・・“永遠になる嘘をついてくれ”、か・・・ふん、分かっているわ、そんな事」












呟きと共に紙は焼かれ、一瞬で焼失した。




そこに刻まれた言葉を、九那実とマダオの胸にだけ残して。


































~お知らせ


次回から3章本編開始です。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 閑話の3:夏祭り
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/16 00:36


―――事の発端は、キューちゃんが発した一言によるものだった。


あの、木の葉から出奔した日から数えて2年。
一心不乱に修行に励んでいたうちはサスケも、ようやく上の中クラスの力を持つに至った頃の事。

その日の修行も終わり、多由也と白が作った晩飯を食べた後、キューちゃんが居間に残っていたメンマ達に、唐突に告げたのである。

「明日は麻雀をしてみたい」と。

メンマの中にいるときは見るだけしかできなかったが、今ならば自分も参加できる。
前から興味をもっていたので、ちょうどいいからやってみようと言うのだ。

何がちょうどいいのか。
一名を除く皆は不思議に思ったが、明日の天候はひどく、今晩の様子だと豪雨になりそうなためその提案に了承を返した。




そして、次の日。この地方で催される「夏祭り」を明後日に控えたその日。

前日の予想通り、天候は朝から豪雨となった。
修行を行うのは危険と判断したメンマ達は、その日だけ修行を中断し、昨日のキューちゃんの提案を実行に移すこととなった

麻雀につかう牌だが、これは秘密箱の中にあった。
秘密箱には、木の葉に来て師匠に弟子入りをする前、まだ各地を旅してラーメンの案を求め旅している時に手に入れたモノがしまってある。
トンファーなどの武器から、特殊忍具の素材となる鉱石まで入っている不思議BOXだ。

ちなみに匠の里の職人さんの協力の元、開発された武器もある。




その一。

「唱えるもの!」

古式銃、キャスターともいう。なんつーかあれである。いわゆるひとつの魔弾銃を模したものである。
だが実態は勢い良く起爆札を射出するだけというこの武器、アウトローなスターであるならば、こういうのを持たなければならないとメンマが開発したのだが―――結果は失敗。

手元で爆破してしまうという、問答無用自決兵器に成り下がってしまった。まあ遊び半分のネタなので、それでよかったのだけれど。



その二。

「天変地異下駄占いの術!」

デカイ絵筆が使えないのであれば、と開発した――――ただの起爆札を貼り付けた下駄である。ちなみに天気は爆発のみである。
頑張れ鳥取。それゆけ鳥取。

出来ればトントンにぶちかまして、「晴れ時々ブタ!」とか言いたいメンマであった。





その三。

「魔法札・エーテルちゃぶ台返し!」

言うまでもなく起爆札を(ry

ミニサイズ。

魔装機神復活祝いに作られた、祝賀用武器である。やったぜ畜生、遂にキタ―ー! という次元を越えて集う、魔装機神ファンの歓喜の悲鳴を聞き届けた職人が作った、謹製の一品である。

シュウが好きなのはモニカではなく、セニアだと思うんだとはメンマの談である。




閑話休題。




その色々とカオスな道具袋中に、とある雀荘で手に入れた麻雀牌は眠っていた。


男たちは場の用意を始める。テーブルの上に布を被せ、即席の麻雀台を作り、その上に麻雀牌を放り込む。
じゃらじゃらという牌同士がこすりあわさる、独特の音が部屋の中へと鳴り響いた。

何も賭けないのは面白くないと、順位毎に点数をつけ、最大点を獲得したものが最低点のものに罰ゲームを指定できるという形になった。



祭りの前だ、景気よくいこうやとメンマが言うと、全員が頷いた。



―――ーかくして、場は用意された。

にやりと笑ったのは、はたさて誰だったのか。




「最初は誰にする? 取り敢えず俺は“見”に徹するけど」

タバコを吸う真似をしながら、メンマがそんなことをほざいた。
華麗にスルーされ、メンマ他6人はじゃんけんを始める。無視されたメンマは部屋の隅でいじけていた。

やがてじゃんけんの勝敗が決まる。
勝った4人は東西南北それぞれに座った。


―――さあ。戦の始まりだ。
どこかでゴングが鳴り響く。

勝った4人、最初の面子は以下の通りである。

東、再不斬。
西、キューちゃん。
南、サスケ。
北、多由也。

一戦目はこの4人で、メンマとマダオと白は後ろで観戦である。

ちなみに、復活したメンマは4人を見ながら「四方を守る四匹の守護獣……」とかほざいたが、意味が分かるマダオを含む皆に無視された。
もし元ネタを知っていれば、多由也あたりは「誰が亀だ」と怒ったことだろう。

凹むメンマをよそに、ゲームが開始される。



「カン!」

まず多由也が速攻でしかける。鳴きの多由也とはウチのことだ、とか言っているが、誰も聞いてはいない。
ただ、カンされた牌を見て驚くだけ。

「ドラ4……!?」

サスケがしまったと言う。

対する多由也は不適な笑みを浮かべていた。

だがそんな不利など、どこ吹く風。キューちゃんは涼しい顔を保ちながら、どんどんと手を作っていく。
再不斬はしかめっ面のまま。どうやら配牌が悪かったらしい。
サスケも顔だけは無表情に保ちながら、じっと牌を見つめている。だが空気が重い。唯一純粋な初心者なので、無理もないだろう。

「……」

多由也のポンを最後に、場は派手な動きはなく進んでいく。
どんどんと残り牌が少なくなっていくが、動きはない。

そのまま静かに進行し、やがて残り2巡というところまで来た、その時―――キューちゃんが、動いた。

「リーチ」

たん、と牌をおいて横にする。
ここにきてまさかのリーチである。

場にいる他の3人はわずかに動揺を見せた。

だがその後、「どうせ初心者のやることだから」と再不斬だけは冷笑を見せる。

だが、その笑みはすぐに凍りついた。

「――ツモ」

キューちゃんの明朗な声が響き渡る。

ゆっくりと、牌が倒されて行く。


「何ィ!?」

「馬鹿な……」

「くっ……」

「リーチ・一発・面前清摸和・タンヤオ・海底摸月そして―――」

裏ドラが開かれる。カンされたので、裏ドラは増える、そして――――

「裏ドラでみっつ! 倍満じゃ」


その時3人電流走る――――


(―――馬鹿な。狙ってやったのか!?)

(くっ、ウチのカンが裏目に出たか)

(――――あれ、そういえばドラが増えてるな。何でドラが増えたんだ? 裏ドラ? 何だそれは――――)

黒髪のあの子はどうやらルール理解していないようだ。自分の牌で精一杯だと見える。

理解できぬまま、疑問符で頭をいっぱいにする。




―――やがて、4人の勝負は進み、終局を迎えた。

最終の結果は以下に通り。

トップ:キューちゃん
二位:多由也
三位:再不斬
ドベ:サスケ

ていうかキューちゃん以外の皆は配牌が悪く、ドジを踏んだサスケが多由也に振り込んだこと以外、急激に点数が上下することも無かった。


そういえば俺達って幸運ランクつけるならD以下だよねー、とメンマが笑えないジョークを飛ばすが、わりと洒落にならなかったので皆が押し黙った。

口は災いの元である。


そして次の場が始まる。


面子はキューちゃん、白、メンマ、マダオ。

トリオ対白である。まず最初に白が動いた。


「―――ロン。そのドラですっ!」

「何っ」

キューちゃんが不意に出したドラに、白が飛びつく。

三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。

すーぱーづかん、炸裂。

「くっ、しまったっ!」

「―――油断大敵ですよ?」

機を見るに神速。氷の微笑を浮かべる白に、場にいる全員が凍りつかされた。

すげえ怖い、と。


白のポーカーフェイスと場の読みっぷりはハンパなく、終わって見ればダントツの首位。

白、メンマ、マダオ、キューちゃんの順位となった。

それからも勝負は続き、最終的な総合順位はこうなった。


一位、白。
二位、メンマ。
三位、マダオ。
四位、再不斬。
五位、多由也。
六位、キューちゃん。
ドベ、サスケ。


安定した白の強さは他の追随を許さず、終わってみれば圧倒的首位。

メンマはそれに追いすがるも、一歩及ばず二位。

功名な組み立てかつ神速の上がりで、マダオが三位。

地味に再不斬は四位。

鳴きに徹したがうまくいかず多由也は五位。

上り下りが激しい、キューちゃんは六位。今はふて寝するために部屋に戻っていった。

いうまでもなくというか、相手が悪い。サスケはドベ。

「…………やだ奥さん、あの子“ドベ”ですってよ?」

「まあまあ、可哀想に。しかし“ドベ”ですかあ。しかし、ダントツでドベとはねえ」

マダオとメンマは態とらしく、サスケの前でひそひそ話をしつつ、ドベを強調する。

それを聞いたサスケは怒りに打ち震え、ぷるぷると震えていた。


「くっ、もう一度だ!」

「あれあれ? 泣きのもう一勝負ですか? しかし、ねえ」

バツゲームがありますし、と白の方を見る。

ボクは良いですよ、と言ってくれた。

「そう言ってくれているようですし――――ここはどうだ。俺とタイマンでも」

「いいのか?」

「ああ。ただし――――負ければ真っ二つだぞ? もとい、罰ゲームのグレードも上がるぞ?」

当初の罰ゲームはトイレ掃除と部屋掃除一ヶ月だった。それが、更にグレードアップするが構わないかとたずねる。

「くっ…………」

「さて、どうする? ここで終わるか、続けるか! 選べ、サスケぇ!」

その言葉に、サスケは奮起する。舐められたままでは終われないと、戦意を奮い立たせる。

「――――やってやる…………やってやるさ!」

「―――やるのか」

再不斬が目を閉じる。

「サスケが燃えてるぜ………」

多由也が面白そうに笑う。

「どちらが勝つんでしょうか」

白はあくまで冷静だ。

「―――あー繰り返す。お客は今入店した。繰り返す、お客は今入店した」

マダオは向こうを向きながら、訳の分からないことを言っていた。



二人は至近距離でにらみ合う。

「―――トイレの後に、最後の勝負だ。ああ、どんな手を使っても構わんよ?」

だから逃げるなよ、とメンマが言う。

「―――上等だ」

いつもの借りを返してやると、サスケは息巻く。


そして最後の一勝負が開始された。

ルールは簡単で、三本勝負の二本先取制。終局時に点数の多い方勝ち。つまりは、二回負ければそのまま負けとなる。

序盤は二位の貫禄を見せつけ、メンマが一方的に点を積み重ねる。

タンヤオ、ピンフなどの基本的な役を連続で上がり、徐々にサスケの点棒を掠め取っていく。

そのまま、一局目が過ぎた。まずは、メンマの一勝だ。




―――だが、次の局。初手でサスケが見せる。

「ロン」

その時、歴史が動く。

「ちっ、しくじったが…………って、何ぃ!?」

三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。先程の白の手だ。

「馬鹿な………っ、それはッ!」

メンマがサスケを見て―――サスケの、目を見て、叫んだ。


「写輪眼っ!?」

目にはあの模様が浮かんでいた。

「―――どんな手を使っても良いと言ったな」

サスケが嗤い声を上げる。

「こんなこともあろうかと―――白の打ち筋を、コピーしたおいたのさ!」

その場にいる全員に電流が走った。つまりはこのエリート、自分のドベを確信していたということか―――。


ドベに容赦なく勝負を仕掛けるメンマといい、何でも使っていいからと写輪眼を使う、というか使う気満々の準備万端なサスケ。

マダオを除く3人が、こいつらもう駄目だと思った。

「―――まさか。初心者だと、甘く見ていたぜ。さすがはうちは………!」

天才だ、と戦慄くメンマに対し、サスケは不敵な笑みで返す。

「写輪眼の力を舐めるなよ………!」

ごごごご、と周囲を置き去りにして更に戦意を高める二人。


そしてサスケは相手の打ち筋を写輪眼の心移しの法で読みつつ、序盤のリードを守りきって勝利した。

二局目はサスケの圧勝に終わった。




そして、終局。

写輪眼の優位はゆるぐこと無く、また白の卓越された打ち筋は綺麗に緩やかに威力を発する。

気づけば終局。サスケとメンマの点差は実に28000点。

「どうやら、俺の勝ちのようだな」

そういいつつも、サスケは写輪眼を緩めない。まさに外道。

いつも修行でぼこぼこにされている恨みというやつでもあるが。


「―――――」

対するメンマは、黙りながら無表情のまま、黙って打つ。

場は進み、残る牌は4つ。

サスケは勝ったと確信した。心移しの法で、相手の手を大体読むことができるのだ。

間違いなく、大きい手は作れていない。そう信じ、手元に残った“中”の牌を放った。


――――そう、場に白も中も発も、2牧以上出ていないのに、だ。


メンマの口の端が上がる。


「――――昔、とある妖狐はこういった」

ゆっくりと、牌が倒される。そしてその場にいる全員が―――いや、マダオ以外の3人が、驚愕の表情を浮かべる。


「切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持てと――――至言だな」

故に先に切り札を見せたお前に、勝ち目はない。そう言いながら、笑った。

「っ、馬鹿な!」


顕にされた牌に揃うは、三元牌。

全てが刻子となっている。


つまりは、役満。


「ロン、大三元だ!」

しめて32000点。逆転だ。

予想だにしていなかった展開に、サスケが呻く。


「くっ、どうして………!?」

心移しの法が役に立たなかったのか。そう思った時、あることに気づいた。

この場にいない、誰かに思い至った。

そして、チャクラの色は―――――!

「まさか! 最後の1局は………九那実が打っていたのか!」

いつの間に合体を! とサスケが戦慄く。

「I do I do I do!」

ポーズを決めてそんなことを言うメンマ。


ここに、勝敗は決した。


「―――俺の、負けか」

「イエス、イエス、イエス、だ」

ばれなきゃあ、イカサマじゃないんだぜと不適に笑うメンマ。

ドーンという効果音がどこからともなく聞こえた気がした。


打ちひしがれたサスケは、その場に膝まついた。








「さて、罰ゲームだが………この中から選んでもらおう」

と、メンマは箱の中を指差す。この中に、罰ゲームの内容が書いた紙が入っているのだ。

「参考までに聞くが………いったいどんな罰ゲームが入ってるんだ?」

「ああ、軽いもので言えば、そうだな」

ひとつ指を立て、事も無げに言う。

「木の葉の中心で若作りと叫ぶケモノ、とか」

もちろん火影に向かって、だ。

「………ひき肉にされるんじゃないか?」

綱手のことに関しては、噂には聞いたというかメンマに聞かされた。

てかサスケ君は木の葉に行けないのでこれは不可なのだが。

「カカシの目の前でイチャパラの展開をばらす、とか」

メンマは私的見解だが、ネタバレという罪は七つの大罪に入ってもいいんじゃないかというぐらいの犯罪だと思っている。

イチャパラを神聖視しているカカシにとっては、宣戦布告と同意だろう。

これもサスケには出きないだろうが。

「そういうのなら、俺がやってもいいんだがな」

むしろリベンジできるし、望む所だと再不斬が言う。

「――――再不斬さん。もしかして…………イチャパラを、読むんですか?」

それを聞いた白が、怖い笑顔で再不斬に詰めよる。

「読むんだよ。つーか全巻読破済みらしい。ま、桃地君だって男の子だからねー」

メンマが間髪居れずに説明をする。言われた桃地は「ちょっ、おまっ!」とか叫んでいるが時既に遅し。

「―――そうですか。それではちょっとあっちに行きましょうか再不斬さんなに時間は取らせませんすぐにすみますのでほらあっちに――――」

哀れ桃地君は白さんにひきずられ連れて行かれました。まる。

「何やら悲鳴が聞こえてくるのじゃが………」

むしろあっちが罰ゲームなのでわ、とキューちゃんが哀れみの視線を悲鳴がした方へ向ける。

「まあ、それはおいといて。はい、早く引いて」

「くっ…………!」

サスケはおそるおそる箱の中に手を突っ込む。

やがて紙は取り出され、書かれた文があらわになった。




「―――まじで、か?」

「―――まじさ。てか難度低いし、いけるだろ」


その文を見た多由也は、腹を抑えてうずくまっている。

キューちゃんの目は面白そうに輝いている。

マダオは「僕の仕事が増えるねえ」と呟いた。


紙に書かれた内容は、こうである。

『罰ゲーム・その7。浴衣を着て祭りに行け! スネ毛の処理は忘れずに! …………難度:C」


沈黙が場を支配する。

やがてそれは絶叫によって破られた。


「っ女装ぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉ――――!?」


サスケの悲鳴が、嵐の中の隠れ家に響き渡った。
























祭り、当日。全員が祭りに繰り出していた。

「――――随分と。遠い所にきちまったもんだな」

目の前に映る光景を見て、サスケが呟く。

陽が落ちた夜の時間。暗くなるはずの視界だが、そこには人の灯す明かりがあった。

「ふふ、提灯って綺麗ですね」

白がぽつりと零す。その隣にいる多由也もうんうんと頷いている。二人とも着物姿だ。

白は一年前、初めて祭りに来た時と同じ、黒い着物を着ている。白い肌と黒のコントラストが見事で、年齢に似つかわしくないエロスを醸し出している。
隣の再不斬はたじたじだ。

多由也は薄い桃色の着物。少女と女性の中間点にある多由也は、独特の色気を醸し出している。特に後ろで括られた髪、その下にあるうなじがとってもエロスだ。
隣にいるサスケはそれどころではないが。

「いや、俺が言いたいことはそうでなくてな……」

ため息まじりの言葉。
心底深い心持ちで放たれたその言葉は、背後に控えるメンマを爆笑させるに至った。

「笑うな!」

美顔の美少年、かっこもとい、『女装した美少年』はメンマに怒鳴り声を撒き散らす。

「……っ……っ」

メンマは腹を抑え、痙攣を返すのみ。

「呼吸困難になるほどにうけているね。ツボったというやつだよ」

マダオが歯を光らせながらそんなことを言う。

「うむ、中々見ごたえがあるのう」

昔に集めたウィッグ。その中に黒い長髪バージョンがあったのでかぶせてみました。

「肩幅がちょっと広いけど………くく、サマになってるぜ」

多由也は顔を背けながら、ぷぷ、と笑う。

ちなみにメイク担当は多由也と白である。

「しかし、この着物はどうしたんだ? 俺のサイズにぴったりなんだが」

「マダオが一晩でやってくれました」

「実に作成意欲が湧かない一品だったけど………まあ、中々にあってるよ」

元々が美少年顔、いわゆるイケメンなので、少しメイクと詰め物をすればそれらしくなるのだ。

加え、無駄にノリ気だった多由也と白のメイクにより、サスケは見事な『美少女☆』になっていた。
マダオが縫った青い着物も見事で、一端の美少女に見えるものだから変装というものは恐ろしい。

「………泣いていいか?」

「一応罰ゲームだから駄目ー。サスケは多由也と回ってきてね。俺はちっと、運営の人と話があるんで」

「運営の人? ………ああ、“網”関連の仕事か」

「そうだ。この祭り、場を仕切ってるのが網なんでね。そんで、昔知り合いに遊び半分で提案してみたアレが親方達の努力で、どうやら形になったらしいから」

ロマンを求めて、らしい。一度見たかったからといって作り上げる網の職人さんには頭が下がる。匠の里も一枚かんでいるとか。

「一応発案者だからな。現場に行っとくわ」

「………まあ、俺達は行かない方がいいか」

というかこの格好で行くのは死んでも嫌だと、サスケが沈痛な面持ちを見せる。

「身内の恥をさらす必要もないな。いくぜ、サス子ちゃん?」

「っ多由也、てめえ………ちょっ、待て!」


二人はぎゃーぎゃー言いあいながら、人ごみの中へと消えていく。



「ちゅーことで、白と再不斬もよろしく」

邪魔する気は毛頭ないあるよー、とメンマは言う。

「ちなみに何で俺はサングラスをかけさせられているんだ?」

「気分」

サングラス強面眉なし筋肉隆々かつ浴衣。
どう見てもグレートヤクザです本当にありがとうございました。まあこれならば超弩級美少女白に手を出そうとするような、ふてえ輩は現れないだろう。

多由也とサスケ、あっちはあっちで楽しいことになりそうなので放っておくが。

「分かりました」

白が苦笑する。

「まあ、いいか。じゃ、例のあれとやらを楽しみにしてるぜ」

「ああ。がっかりはさせないつもりだ。だから――――」




一息入れて、メンマは言う。




「空を――――空を、よく見ておくといいよ」



「それは色々な意味でまずいフラグでしょ………」



マダオのツッコミと共に、3人は去っていった。
















一方、サスコと多由也。

「ったく、なんで俺がこんな目に」

「勝負に負けたからだろ? なら潔く負債を払うのが男ってもんじゃねーか」

「………潔く女装するのは男っぽいのか?」

苦悩の少年、うちはサスコは頭を抱えて悩む。

「しっかし、相変わらず人多いな。去年以上じゃないか?」

「まあ、年々戦災からの復興は進んでいるらしいからな。忍界大戦の傷跡とかどうにも知らないけど、復興も進めば祭りも賑わうし、人も増えるだろ――――っと」

サスコはそう言いながら懐から財布を取り出し、屋台に向かう。

たこ焼きを二船6個づつ買って、多由也のところへ戻ってくる。

「さんきゅ。でもお前何で凹んでんだ?」

「………べっぴんさんって、べっぴんさんって言われちまった………」

サスコは全身に立つ鳥肌に耐え、俯きながらたこ焼きをもくもくと食べる。

多由也はそんなサスコに対し、けけけと笑う。

そして歩くこと数分、二人は珍しい屋台を見かけた。祭りの時以外はみかけない店、お面屋。

「って何処かで見たことがある面が………」

「おいおい、暗部っぽいぞこの面。さすがに原料は違うようだが」

柔らかい面を手で触りながら、サスコが言う。

「曲がるな。白が持ってたあの面より断然柔らかいようだ」

「いや、暗部の面をそのまま売ってたらマズイだろ………あ、狐の面もある」

多由也が狐の面を手に取り、まじまじと見る。

「お、姉ちゃんら良い所に目をつけたな! 良い仕上がりだろ! ……何でか、火の国では一個も売れないんだが」

そりゃそうだろうよ、とサスコは心の中だけで言う。だがおっちゃんは構わず、一気にまくし立てる。商売人の口の饒舌さはとどまることを知らない。

「ま、最近ようやくひとつ売れたんだけどな。木の葉の忍者が何故かこの面を持って―――身に着けている忍者がいたら知らせて欲しいって言われたんだよ」

何言ってるか意味わからねえし、そんな変なヤツいねえよなあ? と言いながら、おっちゃんがからからと笑う。

「うーん、知らねえな。というか、そんな面をしながら戦うやつは馬鹿以外の何者でもないだろ」

「ウチも知らん。そんな変人がいたら、こっちから話のネタにするよ」


(※実はオタクのところのラーメン屋です)


そのまま二人は面屋を離れた。

しばらく歩き、二人が夜店を見回していると、何やら一箇所だけ賑わっているところがあった。

ずいぶんと広い。見れば客が向こうの方へなにかを投げているようだ。

まだ遠いためその店で何をやっているのか分からないが、「あ~おしい」とか、「ヘタクソ!」とかいう声が聞こえてくる。

興味を持った二人はそこに近づき、夜店の看板に書かれている文字を見た。

「………射的屋?」

そこにはクナイと手裏剣の絵が書かれていた。

「………面白そうだな。サスコ、やってみろよ」

「サスコっていうな!」

そうして二人は順番待ちの列に並ぶ。この射的屋、従来のものよりも標的までの距離が遠く、難易度が高いようだ。
その分、景品も豪華になっているのだが、まだ誰も的にすら当てられないらしい。

中心の赤丸(犬ではない)に当たれば100点、あとは外側に外れるにつれ20点ごと減っていくらしい。

商品も100点が一等、あとは20点ごとにグレードが下がっていく形式だ。
つまりは外れれば0点で6等、外れ。
60点ならば3等となる。

一投500円で、2投700円。ずいぶんと高いが、商品も豪華だからか、珍しいのかで客が集まっているのだろう。

やがて、二人の順番が回ってきた。

「おっちゃん、2回だ」

「おっ、今度はきれーなお嬢ちゃん達が挑戦か! はいよ。みんな、応援してやってくんな!」

おっちゃんが場を盛り上げると、祭り独特の熱気が店の前に立ち込めた。

「おい、誰だよあの美人」「横の赤い髪の娘も綺麗だなー」「でも黒髪の娘、肩幅が広くないか?」「………だがそれがいい」
という、周囲の喧騒は全て無視し、サスコは商品を熱心に見つめている多由也に話かけた。

みょーに尻に視線を感じるが、取り敢えず無視した。
触ってきたら千鳥だが。

「おい、どれがいい?」

「え、そうだな。さん―――いや」

多由也は咄嗟に口に出かけた言葉を途中で止め、首を横に振った後勿論やるからには一等だろ! と言う。

「―――分かった」

サスケはクナイの手元、わっかのところに指を入れてくるくると手元で回す。

いつものクナイならばこんな距離目を瞑ってでも当てられるのだが、この模擬クナイは刃引がされており、重心の位置もずれている。
本来のものよりずっと軽いし、いつも通りというわかにはいかなさそうだ。

だが取り敢えず投げてみないことには分からない。

サスコはクナイを構え、無造作に投げる。投げられたクナイは的に当たらず、的の横にある樹へと当たり落ちた。

「あー、大暴投! ほら、もう一回!」

頑張って、と二本目のクナイが渡される。

「さて、と」

修正完了、風の影響も考慮。投擲の軌道も確認。

分析、完了。


「よっ、と」

サスケの手が一瞬だけぶれる。直後、クナイは的に刺さっていた。

「お、当たり~!」


おっちゃんは小さい鐘をからんからんと鳴らす。


その背後で、多由也はきょとんとした表情を浮かべていた。






「ほら、お求めの品だぜ」

「って、お前、なんで――――」

多由也が息をのむ。サスケの腕ならば、的の中心に当たることなど容易かっただろう。

だが、なぜ、60点の線に当てたのか。わざわざこの“3等”の景品を選んだのか。

そう多由也が言うと、サスケは溜息をついた。

「………あんなに一心不乱に見つめてたくせに。気付かれないと思ったのか?」

と言いながら、サスケは3等の景品である、耳飾りを投げて渡す。

安物だが女の子向けの可愛いデザインをしている。

「………ちょっと、待っててくれ」

多由也はその場に立ち止まり、耳にかかる髪を払い上げ、でその耳飾りを着ける。
その後、サスケに向けて似合うか? と聞いた。

サスケは多由也の笑顔と耳飾り、そして耳飾りを付ける際に見えたうなじ、それらが折り重なって出来た桃色オーラに心撃たれ、動揺。

一歩、後ずさってしまう。

「………悪かったな。変なこと聞いてよ」

多由也はサスケの反応を見て勘違いをし、その笑顔を曇らせる。
そして早足で、人ごみの中へ逃げようとする。


「………って、待て。ちが―――」


追うサスケ。逃げる多由也。だがそこは人ごみの中。


「っつ!」

「いってえなあ!」

早足だった多由也は勢い良く、誰かとぶつかってしまう。


「っ、どこ見て歩いてんだオマエ!」

いかにもチンピラ風味な若者。怒りながら、多由也の肩を掴もうとするが、多由也はそれをすっと避ける。

「へっ、触んじゃねーよクソボケが」

「あん? 口の悪い女だな」

へっ、とチンピラが下卑た笑いを上げる。

「っつーか似合わねえ耳飾りしてよお! 何を色気づいてやがんだガキがげふぉう!?」

チンピラの言葉は、追いついてきたサスケが繰り出した前蹴りによって遮られた。

「うるせえぞチンピラ」

「ごふっ、げふっ、このアマ、何しやがんだあ!」

チンピラが叫ぶ。すると、何処からとも無く男の仲間が出てきた。その数4人。

「……っテメエら、何してんだ! おい、大丈夫か」

「ああ。しっかし、いきなり蹴りくれるたあ、酷えなおい。あーあー痛え痛え。こりゃあ、ケガしちまったよ」

男は腹を抑えながら、下卑た笑みを再び浮かべる。

「こりゃあ、慰謝料が必要かなー?」

横にいる仲間、を見ながら、にやにやと笑いあう。

「こういう場合のお礼って言ったら分かるよなあ?」

「おう、黒髪のオマエも、みりゃあキレーな面してんしよお。一緒に―――」

助平な顔を浮かべながら聞くに耐えない言葉を連発する男達。
その言葉に晒されるサスケ(男)。

ぷるぷると怒りに震える。やがて―――

「そうだなあ、口悪いそっちのねーちゃんも、身体だけはいいもん持ってんし、ちっとあっちで―――」

―――その言葉が決定的となった。

サスケの頭の中で、何かがぶつりとキレる。

「あん?」

何の音だ、という暇も無く。

「――あた!」

「へぐぉ!?」

ワンストライク。

「あたた!」

「ゲフィ!?」

「グフン!?」

ツーストライク。

「おわったあっ!」

「ほーむらんっ!?」

無頼の輩のゴールデンなボールに一撃ずつ、雷光のような踏み込みかつ蹴撃を加える。

「―――これにて、終劇」

悶絶する男たちを見下ろし、またつまらぬものを蹴ってしまった、とサスケは呟く。いい加減ストレスも限界にきているようだ。

そして、背後で呆然としている多由也に向き直り―――


「へっ!?」


―――手を握る。


そのまま引っ張り、人気の無いところへ向かって走り出した。








「お、おい!?」

「いいから、ついて来い!」


必死に走るサスケ。

だが手を握られている多由也も、別の意味で必死だった。







それを高台から見下ろしているメンマは。

「おーおー、若いっていいねえ。しかしサスケもやるもんだ」

二人を見ながら、「一目瞭然なんだけどねえ」と笑う。

「―――じじむさいぞ。ついでに我にとっての挑戦と取ってよいか?」

意味不明の怒りが去来し爆発しそうになるキューちゃん。

「え、何で?」

「ほらほら二人とも喧嘩しない。それより、もうそろそろ準備できるらしいよ」


「おう、分かった」







「………そういえば、難度:Aの罰ゲームってどんなの?」

「白にπアタックツー。再不斬の目の前で」

「 死 ぬ わ !」

「………ハリネズミにされた後、超究武神覇斬っぽいなにかでメッタ切りにそうだね………」


















祭りのある通りから、少し離れた廃寺の前。あたりにはちらほらと林があるそこで、二人は足を止めた。。

「………ここまで来ればいいか」

サスケは握っていた多由也の手をはなし、傍に誰かいないか周囲を見回す。

「って、どうしたんだよ、急に走り出して」

多由也は握られていた手を自分の胸に寄せながら、サスケに聞く。不意打ちで手を握られたせいか、顔が赤くなっていた。

(い、いきなりすぎるんだもん、コイツ)

多由也の胸の内から、何か得体のしれないもやもやが出てくる。それが頬を赤くしているのだ。

「………どうした? ああ、走ったから暑いのか」

「違うにきまってんだろ、ボケ! だいだいオマエが―――」

言いかけるが、何やら薮蛇になりそうだと思い、多由也は途中で言葉を止めた。

「―――それより、こんなところまで来てどうすんだ?」

「ん、いや………さっきの、ことだが」

耳飾りな、と言いながらサスケはぽりぽりと自分の頬をかく。

「まあ、なんだ。ちょっと、その、耳飾り………似合ってるから―――というか俺に聞くなよ! 言われても何言っていいか分かんねえんだから!」

急に怒りだしたサスケ。怒鳴られた多由也は一瞬だけ鼻白むが、即座にサスケへと怒鳴り返した。

「っ怒るなよ! というか、何でウチが怒られてんだ!?」

「知るか!」

二人は顔を真っ赤にしながら言い合う。




そして数分が経過した。




「疲れた……」

精神的に疲労しているサスケはぐでんとなっていた。

「何で怒ってるんだろうなウチら……」

あほらしい、と空を見上げる。


「全くです。怒鳴り声がこちらまで聞こえましたよ?」

聞こえた、いつもの声それにこの気配はあの二人のものだ。

「白? と、再不ざ―――」

暗がりから現れたグラサン装備の再不斬、そして白を見た二人は硬直する。

((………完っ全にヤクザとお嬢じゃん………))

思わずカンクロウ口調になってしまう程の衝撃だった。

「おふたりは何故ここに?」

「いや、ちょっとあってな」

多由也が少し頬を赤くしながら答えると、白はふふと口元に手をあてて笑う。

「………どこから聞いてた?」

「いえいえ。それよりも――――そろそろ、例のアレとやらが始まる時間ですよ?」

言われたサスケと多由也ははっとなる。そして、空を見上げた。



少し遠い喧騒。祭ばやしの音も遠い。

ここは高台にもなっているので、見晴らしもよかった。

そんな4人がいる前で――――――



夜空に、花が咲いた。




「あれは……………!?」

多由也が驚き、目を見開く。

「火遁、じゃないようだが」

サスケは夜空に神神と広がるそれに心を奪われた。心ここにあらず、うわ言のように呟く。

「――――綺麗ですね」

夜空に咲く一輪の花。生まれては消えるその儚さと、咲いた時の鮮やかさに見惚れ、白は感嘆の声を上げた。

開花は一瞬、だがその鮮烈さは心に刻まれる。

「成程。言うだけのことはある」

見事だ、と再不斬にしては珍しく、口の端だけでなく顔全体の笑みを浮かべる。




火薬と金属によって織り成される、一瞬の芸術。

『夜空にどでかい花を咲かせようぜ!』というそのロマン。

最初に考えた者は間違いなく弩級の馬鹿かつ極みにある天才であろう。


そう、夏の風物詩が一つ――――花火である。








見たことのない、掛け値なしに綺麗なものを見た4人は、知れず傍にある人と手を握り合っていた。










この温もり、できるならば失いたくはない。


来るべき戦いを備えた忍者達。


皆、心の内で同じことを願った。







































































おまけ


打ち上げ現場にて。


「ほら次い! ほら次い!」

「う~む、真下から見る花火とやらも乙だのう」

「団扇片手に優雅にひたってないで手伝ってよキューちゃん!?」

「ああ、ちょっとイワオさん! マダオさんが一個だけあった外れの、不発の、爆発に、巻き込まれ――――!」

「アフロー!」

「ララァ!」

「いやそれは何か違うと次元の彼方からツッコミが――――」

「親方、親方ー!」

「へっ………『咲かば散れ 夏の夜空と 火の大花』」

「親方が辞世の句を―――」

「いや、こっちもアフロになっただけじゃん―――」
































あとがき

忍びも息抜き。作者も息抜き。

季節外れの閑話は終り。


次は五十五話です。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 三十九話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/04 17:52
暗い、洞窟の中。


雲隠れの尾獣、生き霊と呼ばれる化け猫である二尾をその身に宿す人柱力、二位ユギトは、背後から襲い来る恐怖から逃れようと、必死に逃げていた。


齢二つで人柱力となった彼女は、その当時は忌まれる存在となったが、修行の末に尾獣の制御に成功。自ら信頼を勝ち得た程の努力家で、実力者でもある。


だが、そんな彼女でも、背後にある強敵からは逃げるしかなかった。


対峙した瞬間、理解したからだ。真正面からやりあっても勝てない、と。




「くそ・・・・何なんだ、アイツらは・・・!」


修行中、目の前に突如現れた一人と一体を思いだし、下唇を噛む。

一体は、怪物。自分の覚醒体に匹敵する程の巨躯を持つ化け物だ。
尾は無かった。尾獣では無いだろう。その身は漆黒に包まれており、形が安定していなかった。
亀のような、獣のような形状をした、黒い塊というのが正しい表現だと思われる。

そして、一人はその怪物を従える・・・恐らくは忍びであろう。フードを被っているので男か女かは分からないが、強敵だと言うことは理解できた。
相手のチャクラを感じた、正直な感想だ。今までに感じた事の無い凄みがあった。
あの化け物を従えているのを考えても、ただ者ではない事は分かる。




(この先に行けば・・・!)



少し、開けた場所がある。その広場の天井には、万が一の襲撃を考えて起爆札をセットしているのだ。
幸い、ここは雲隠れ近くの里。自分の修行場だ。地の利はこちらにある。

あいつらがいかな規格外の怪物とはいえ、洞窟の崩落による巨岩の圧殺からは逃れられまい。



全速で洞窟を駆け抜ける。背後からは、化け物の足音が聞こえるので、どうやら追い続けてくれているようだ。


(後、少し・・・かかった!)



洞窟の広場の向こう。安全地帯に逃げ込んだと同時、化け物が結界内に入る。同時、起爆札が爆発した。


自分と、あと特定の忍び以外が侵入すると同時に、爆発するように結界を組んだのだ。


獲物は罠にかかり、天井から巨大な岩が降り注ぐ。


こちらの通路は、崩落から免れていた。土遁を扱える忍びに協力してもらって作った自慢の罠だ。


逃れる術は無い。確実に殺った、と確信した瞬間だ。







怪物が吠えた。





「・・・・!?」



その、雄叫びを聞いたユギトは、一瞬意識が飛んだ。

気構えも何もない。ただ、本能に直撃するかのような、慈悲の無い鳴き声。

威嚇するための、ただの咆哮。死を告げる声。

だが、その絶望感はどうだ。忍びとしての気構え、そして人としての理性を飛び越えた音の暴力。




「な・・・・!?」




直後、黒い巨大な塊から、尾が三つ飛び出し、降り注ぐ巨岩へと突き刺さる。



そして、容易くその巨岩を打ち砕き、その上にある天井までも突き破った。



砕かれた巨岩。だが、その欠片はまだ残っている。一つでも頭部に直撃すれば、即死は免れない程の大きさの岩の数々。

それが、雨の如き規模で男と怪物に降り注ぐ。


男は、その岩の雨を避けようともしない。

ただ、手をかざして一言だけ呟いた。



印も何もない。チャクラの性質変化も、形態変化も感じられない。

ただの言葉と手掌で、岩の雨は全て弾かれた。


「なっ、馬鹿な・・・!?」


それを直視したユギトが、驚愕し、硬直する。

だが、ユギトとて熟練の忍び。見たことも無い術だが、忍びの世界ではそのような事態は珍しくもない。

一瞬硬直しただけで、瞬時に思考を回転させる。その術理、そして対処方法を考え出す。


飛んでくる岩を避けながら、ひとまず退こうと後方の通路へと跳躍する。

だが、その途中。

ユギトは男がこちらに手を向けているのを見た。また、あの弾く術だろう。
顔面を両腕で交差し、そして来るであろう衝撃に耐えようとする。


だが、起きたのはまったくの埒外の事態。



言葉と同時。ユギトの身体は後方へと弾き飛ばされず、逆に男の方へと引き寄せられていった。


「なっ!」

そして、男の刀がユギトの腹部へと向けられた。


致死のタイミング。だがユギトはその一刀を、咄嗟に上げた膝で受けた。

膝に刀が食い込む。ユギトは激痛に耐えながら、返しの一撃を入れようと拳を振り上げた。

だが、振り上げた拳は黒い獣の尾に貫かれた。


「ぐっ、ああああああああ!」

そのまま、岩壁へと叩きつけられる。

そして獣は退避路である通路にも尾の一撃を見舞う。崩れる通路。

それを見たユギトあ、広場の奥へと一端退く。



「・・・退路は防がれたか・・・・!」

もう一つ、出口はあるが、ここで背後を見せる訳にもいかない。あの奇妙な術でまた吸い寄せられてしまうだろう。

それに、この間合い。素直に逃がしてくれるとも思わない。


腹を決めたユギトは、痛めた片手を何とか動かし、印を組む。

そして、自らを尾獣化させた。


具現する二尾が尾獣。死を司り、怨霊を常に纏っている化け猫が、咆哮する。


「・・・・」

だが、相手は何の反応も示さない。

ユギトは、一瞬まるで死人を相手しているかのような錯覚に陥った。

だが、事実はどうであれ、今は関係ない。

どうみても、こいつは里に取って有害な存在にしかならない。

黒ずんだ死の具現。ここで倒さなければ、里の皆に危害が及ぶだろう。



「・・・里の仲間を、守るために! 雲隠れの二位ユギトの名に懸けて・・・お前を殺す!」






雄叫びと共に、巨躯が疾駆する。



打って出るユギト。迎えるは、黒い獣。


怪物同士が、激突しあう。






衝突と同時、その衝撃で洞窟の全てが激震した。





















----



サスケの偽造誘拐から、2年半後。

満月のあの夜から18ヶ月が経過した後。


木の葉隠れの里で、恒例の中忍選抜試験が行われようとしていた。

前回、2年前は砂隠れの里で行われたので、今回は木の葉の番だ。


町はずれ、砂から木の葉隠れへの道中。とある宿場で俺は口寄せの屋台を開きながら、我愛羅達一行の到着を待っていた。


それもこれも、数日前。

テマリが木の葉隠れへと中忍試験の打ち合わせに行っている最中、来るはずのサソリとデイダラの襲撃が無かったのだ。

俺はあらゆる可能性を考えたが、情報が少なすぎるため断定できず、戦力を分散させる事にした。

砂隠れには、サスケと再不斬と白と多由也。あと砂隠れで一番の腕を持つバキと、それに準ずる腕を持つテマリ。

俺は我愛羅と話し合い、万が一の可能性を考えてこの5人に砂隠れの里へと残ってもらったのだ。
バキにも、ある程度の情報を流してある。

元が里第一の考えを持つバキだ。顔に渋面を浮かべながらも、何とか了承してもらえた。何より、三尾の件が頭に残っていたのだろう。

不気味すぎる相手に、一時は手を組む事を選んだのだろう。








数日後。俺のいる宿場町へ、砂隠れの忍び達がやってきた。

我愛羅とカンクロウはすぐさまこちらの屋台に気づき、若干の笑顔を浮かべながらラーメン2つを頼んできた。

「あいよ、ニンニク味噌ラーメン一丁。細切れチャーシューましましだ」

スタミナ抜群の一品である。頓挫しつつあるきつねラーメンの開発の他、現場のおっちゃん達のニーズから生まれたメニューで、旅の疲れも吹き飛ぶというものだ。

「いや、でも口臭が・・・」

「案ずるな、兄弟」

カンクロウのもっともな心配を指す言葉を一蹴し、さっと取り出したるは一粒の飴。

「食後に一粒。すると、あら不思議。一時間後には口臭が消えているという、魔法の飴だ」

開発者は白である。何でも、女性のたしなみらしい。


あと、口の中でころころと飴を転がすキューちゃんを見て俺達全員が和んだのはここだけの話だ。


「まじで! 助かる」

カンクロウと我愛羅に飴を渡す。

「じゃあ、じゃんじゃん喰ってくれ」


「「いただきます」」





「それにしても、2年前の中忍試験は凄かったらしいな」

テーブルの正面でラーメンをすする我愛羅に向け、俺は話しかける。

「・・・ああ。特に、3年前の本戦予備試験まで来ていた木の葉隠れの下忍の面々はな・・・1人を除き、全員が合格した」

「1人を除き、ってああ」

サスケか、と頷く。

「正直、あいつらの成長は異常だったじゃん」

「・・・ああ、まあ、なあ」

何ともいえない罪悪感が胸を襲う。

『メンマ君、相当に酷いこと言ったもんねえ。そりゃあ、必死になって修行もするわ』

うるせえよ。仕方なかったんだよ。

『うむ。受けたからには最後まで、徹底的にというお主のスタンスは知っているが、あれは正直我も引いたぞ』

(え・・・そんなに?)

『『うん』』

2人に念押しされ、少しへこむ。そして、恐る恐るカンクロウと我愛羅に、木の葉の下忍達の様子について聞いてみた。


我愛羅とカンクロウは、渋い顔をしながら、説明をしてくれた。

何でも、木の葉無双だったらしい。


キバは「俺は狗なんかじゃねえ!」 といいながら、持ち前の勢いに虚実の内合を組み合わせた、高度な体術で相手を粉砕したらしい。

(えっと・・・あの時俺、何ていったっけ)

『“狗では私は倒せない。フェイントに容易く引っかかり、突っ込むだけの狗なぞ踏みつけて終わりだ”とか、いいながら打ち下ろしの回し蹴りで一撃昏倒』



シノは「我、虫を極めし者・・・!」とかいいながら、時間差の全方位攻撃で相手のチャクラを食らいつくしたらしい。

『“この虫野郎! 見込みが甘え!”とかいいながら、風遁で一蹴したんだっけ。その直後に頭部への掌打八閃で昏倒』 


ヒナタは豪快な踏み込みで一気に接近。「貫け、柔拳!」の掛け声と共に柔剛一体の全力全開の一撃。防御諸共、相手を打倒したらしい。

『ええと、“慎重大いに結構、だが中途半端では意味がない。何より踏み込みが浅い、浅すぎる!”といいながら、強引な剛の力と柔の技でヒナタちゃんの一撃捌いた後、カウンターで腹部に一撃。昏倒』

力無き柔に意味は無い。柔無き剛は体術とは言えない。武は剛柔一体こそが真髄だ。その意味を知ったようだね。


テンテンは「見せてあげる。これが私の全力全開・・・!」とか叫びながら口寄せによる様々な武具攻撃を容赦なく繰り出し、圧倒的制圧力で相手を完封したとか。

『“質が足りない時は手数で補え! 何より武具を使う以上、相手を傷つける事をためらうな。迷いがあるならばここから去れ!” だったっけ。武器攻撃を受け流しで弾いた後、延髄に手刀で気絶』

「一応、相手は死んでいないぞ。でも、その砂隠れの下忍からは、“木の葉の白い悪魔”と恐れられているらしい。まあ、可愛い笑顔を浮かべながら、徹底的に攻撃する姿は」

・・・すげえ怖かったじゃん、とカンクロウが呟く。

その下忍には励ましのお便りをだそうと決めた俺であった。



いのは、「腸を・・・ぶちまけろ!」の雄叫びと共にボディーブロー。弱怪力の一撃だったが、見事に急所にきまったようだ。

『まあ、あの時は特に言うこともなかったね。状況を打破する力が無いっていうのは、いのちゃんもあの戦いで気づいたようだけど・・・成る程。医療忍術と怪力を選択したか』

綱手やサクラほどの威力は出せないだろうが、いのの体術のセンスはサクラより上だ。何より、幻術も忍術もそれなりのものを持っている。

秘術もある。あらゆる状況で活躍できるだろう。



チョウジは「いのに、シカマルに、キリハ・・・僕1人だけ、置いていかれるわけにはいかないんだよ!」と、部分倍化の術で一撃。術スピードと予備動作に磨きが掛かっていたらしい。

『“遅すぎる。当たらん、当たらんなあ!”って言いながら肉弾戦車を軽く回避した後、浸透の掌打一撃で昏倒だったが・・・』

動きではなく、攻撃の速度と精度を重点的に鍛えたか。破壊力はピカイチだし、賢い選択かな。


サクラも同じ。2年前はまだ医療忍術もそれなりのレベルだったが、「しゃーんなろ!」と同時の頭突きが決まったらしい。

さすがはデコりん。デコすぎるぜ。

『意味が分からないけど・・・なんか、凄いね』

加え、今じゃあ相当の医療忍術の使い手になっているだろう。もしもの時は頼もうかね。サスケ拉致ってしまったんで、逆に殴られるかもしれないけど。

『ふむ。あの2人、一時期は喧嘩をしておったが、最近馬鹿に仲がいいのう』

年頃だしね。青春だね。ああ、そういえばリーはどうなったんだろう。


リーは相変わらずの青春パワーで相手をのしたらしい。まあ、八門遁甲の体内門があるし、努力の天才だ。

あの夜に対峙はしなかったが、問題ないだろう。






キリハは普通に勝ったらしい。相手は、木の葉隠れの別の小隊。

開始直後の相手のクナイ攻撃を、風遁・烈風掌で打ち返した後、追撃。

返ってきたクナイを避ける下忍に瞬身で接近。隙をついて、顎へのフック気味の掌打の一撃から回し蹴りへつなげ、ノックアウト。

開始数秒で決着が付いた。

「印の速さも威力も、体術のキレも格段に上がっていたじゃん・・・正直、真正面からはやり合いたくない相手じゃん」

底が見えなかった、とカンクロウが呟く。

「ああ、そういえば姉さんや日向ネジと同じく、波風キリハも上忍に昇格したらしいぞ・・・異例の速さだな」

「いや、我愛羅の方が異例だろ。その年で影を務めるとか、聞いたことないぞ」

『そうだね。最年少じゃないかな』

我愛羅の方を褒めるが、勢いよくスープを飲み込む振りをしながら、どんぶりで顔を隠してしまう。

「照れてるねえ」

「・・・聞こえてるぞ」

我愛羅は照れながらも、ドン、とラーメンのどんぶりを勢いよくテーブルに叩きつけた。


「・・・ああ、伝えておかなければならない情報が一つあるんだが・・・もしかして、既に掴んでいるか?」

「まあ、一応はな。雲隠れの二尾の人柱力が、一ヶ月前から消息不明のなっているらしいな」

俺も、それを聞いた時はびっくりしたよと肩をすくめる。

「恐らくは、暁の仕業だろう。だが、話はそれだけで終わらない」

「ん、何だ?」

昨日掴んだ情報だが、と前置いて我愛羅は話し出す。

「その、戦いがあった現場・・・崩落した洞窟のあった山を見ていた猟師から掴んだ情報なんだが」

「何か見たのか?」

「ああ、恐らくは、洞窟の天井にある岩層を、突き破ったのだろうな。轟音と土煙と共に、黒い柱のようなものが三つ。山肌に突如現れたらしい

その後、幾たびか激震が走った後、静かになったらしいが・・・」

「・・・うおい、山突き抜けるって一体どんな威力だよ。それに・・・三つ?」

「ああ、三つだ。ちょうど、消えた三尾の数と一致するな・・・これは、偶然か?」

「うーん・・・正直、それだけの情報じゃあ、分からないな。だが、可能性は高いと思う」

「そうか・・・・厄介な事になったな」

「全くだ。もしかして、その尾獣と暁がつるんでたりして」

「・・・でも、それだとおかしいな。尾獣はとにかく巨大だ。故に目立つのは避けられない。隠密を主とする暁が、尾獣を使う理由も無いのではないか?」

「そうだなあ・・・そもそも、そんなモノを使わなくても、奴らなら生身だけで倒せるだろうし」

そのような存在を使うメリットが無い。あるいは、他に何らかの理由があるのかもしれないが、手持ちの情報だけでは判断できない。

「で、お前が今回俺の護衛に回るとは・・・どういう風の吹き回しだ?」

「いや、護衛もあるけどね。雨隠れの里というか、暁の動向も探っておきたいんだ。とにかく今は情報が足りないから。
アホ面下げて爆心地っていう事態は是非とも避けたいんで」

失敗したら死である以上、それは洒落になってないのだ。

「・・・成る程な」

「ああ。あと、木の葉側にも確認したい事がある。だから、よろしく頼むよ」

「分かった・・・こちらの上忍の一人に変化していてくれ。前もって、本人には連絡してある」

「ああ、ありがとう」

「気にするな。じゃあ、行こうか」






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所変わって、木の葉隠れの里。

「お久しぶりっす」

「おお、来たか」

やってきた風影一行+メンマを迎え入れる綱手。

「風影殿も、もう少しで到着するようです」

「ああ、分かった。シズネ、お茶の用意をしてくれ」

そして数分後。一同は同じ部屋に介していた。

砂隠れは、五代目風影である我愛羅、補佐兼護衛役のカンクロウ。

木の葉隠れは五代目火影と、同じくシズネ。そして、もう一人。

「遅いぞ、自来也」

「すまん。情報収集に手間取っての」

三忍の一人、自来也。

「それじゃあ、始めようか。以前も知らせたと思うけど、まずは情報の整理を」

外部の情報提供者として、メンマ。総勢6人での会議が始まる。

「暁に関しては、以前知らせた通りだ。他の五影もこれくらいの情報は掴んでるだろうが・・・問題は」

一区切り置いて、メンマは話し出す。

「ここ数年。最近は特に動向が怪しいという、雨隠れの里にある。原因は分かっている。数年前にかの山椒魚の半蔵が殺されて、頭が交代したらしい」

恐らく、だが。
動きが変わった理由、これ以外にあるまい。ペインがどういう考えで動き出したのかは分からないが。

「まさかあの、半蔵が・・・!?」

自来也と綱手が驚く。動向がおかしい事は知っていても、その原因は知らなかったのだろう。あと、半蔵とは直接の面識もあるので、驚きの度合いも大きいのだろう。

「事実だ。クーデターの際、一族郎党皆殺しにされたらしい。とある筋からの信頼できる情報だ」

「しかし、一体誰が・・・?」

S級クラスの賞金首といえ、単体でそれを成し遂げるのは困難だ。内乱も考えにくい。半蔵はそれほどの権威を保持していた。

ということは、答えは一つ。

「暁、か」

自来也が訊ねる。

「そうだ。だが、それはたった一人によって行われたらしい」

「馬鹿な、それこそ有り得ん!」

自来也が叫ぶ。半蔵の慎重さについて良く知っている故の叫びだろう。

仙人モードの自来也とて不可能な所行だ。世界は広いとはいえ、それほどの実力者ならば顔は売れている筈。
単独で半蔵を殺害できる程の忍びの存在など、自来也も綱手も思い当たらない。

「・・・追加情報がある。これも、噂だけの眉唾ものなんだが・・・」

少し、もったいぶって話す。これは本来ならば有り得ない情報、俺でも知り得ない情報だからだ。

余計な猜疑心を生みたくない俺は、慎重に言葉を選んでいく。

「・・・何だ? 取りあえず、聞かせてくれ」

「それが、暁の頭であるということだ。そして、もう一つ」

一拍おいて、俺は自分の目を指さす。

「そいつの目には、螺旋の紋様が刻まれていたらしい」

「・・・螺旋の、紋様?」

カンクロウが首を傾げる。その問いには、我愛羅が答えた。

「三大瞳術の一つ、輪廻眼か。かの六道仙人が宿したとされる・・・だが、それはあくまで伝説ではなかったのか?」

「知らん。あくまで噂だ。でも、それだけの事をやってのける人物だ。伝説の輪廻眼、持っていてもおかしくないだろう」

「そうだな・・・どうした、自来也。顔色が悪いぞ」

「いや・・・話を続けてくれ」

「そうだな。ともあれ、暁の狙いは一つだ。人柱力の確保。これに関しては、間違いないだろう」

「雲隠れの二尾の人柱力が行方不明らしいが」

「ああ。それについては木の葉でも確認が取れている。今までは情報交換もままならなかったが、やっこさんも焦ってきているらしい。限定だが、情報交換もできた」

「・・・あの声に関してか。他の人柱力も聞こえていたのか?」

綱手は重々しくああ、と返しながら内約を話し出す。

「確認が取れているのは雲隠れの二尾、八尾。そして滝隠れの七尾・・・全員が、その声とやらを聞いたらしい」

「ええと、他の人柱力の面々は?」

「霧、岩とは接触できていない。霧に関してはいつも通りの秘密主義。岩も、連絡したが返答が無い」

「非同盟国の霧、岩とは連絡が取れていないって事っすか」

それもまあ当たり前か、と呟く。

「ああ。あと・・・ここ最近だけど、霧隠れの里近くの孤島と、岩隠れ近辺の山場で大きな戦闘の形跡があったようだ。これは、“網”からの情報だからまず間違いはないだろう」

一つ、情報を提供する。

「・・・ほう」

「だが人柱力の生死は不明らしい」

首を振りながら、肩をすくめる。

「・・・不明な点は多々ある。だが、方針は決まったな」

「確たる情報が無い今、迂闊には動けない・・・ということは、雨隠れの忍者の監視か。そういえば、今年の雨隠れの里からの中忍試験受験者、例年にくらべてかなり多いと聞いたが」

「ああ・・・去年の3倍だ」

「え、マジですかシズネさん?」

「はい、マジです」

「う~ん・・・・あ、もしかして暁のメンバー全員が受験に紛れていたりして」

「ははは、有り得んだろうそれじゃ」

「そうですよねえ、あはははは」

「あはははは・・・」

だんだん、声が小さくなっていく2人。

「・・・本当にそうだったらどうしようか」

ぼそり、とメンマが呟く。

「怖いこと言うなよ・・・」

綱手もまた顔を逸らして呟く。

「ちなみに、暁の構成員、個々のメンバーの力量はどうなんだ?実際対峙した事がないので、いまいち力量が掴めない」

と、我愛羅が訊ねてくる。

「ほぼ全員が大蛇丸クラス。かつ殺傷能力に優れた固有忍術の使い手。性格も極めて危険」

約一名を除いては、とつけ加える。

「・・・すまん、ナルト。試験の間だけ、試験会場周辺に潜んでいてくれないか」

「元よりそのつもりっす。次に狙われるのは、まず間違いなく我愛羅だろうし」

自分の存在は未だ把握されていない筈だから、判明している標的といえば、我愛羅しかない。

其処を重点的に守ればいい。木の葉の忍びもいるし、そうそうやられる事はないだろう。

「ともあれ、今最優先でやるべき事は、暁と雨隠れの関係性を確かめる事だ。明確な証拠を握れれば、後は五大国の隠れ里で連携、総力を持って叩き潰すまでだ」

「全方位に喧嘩売ってますもんね・・・尾獣を奪うとか、宣戦布告と同意ですし」

「いかな暁といえど、五大国を敵に回して勝てる筈もない。まずは、証拠を掴む事だ」

「・・・てことは、襲ってくる暁の構成員を捉えて、情報を吐かせろと?」

「そこまでできれば上出来だろう。迂闊に動いて無駄な戦争を起こす気もない。確たる証拠があれば、同盟の理由も立つ」

「了解。やれるだけやってみます・・・ああ、そういえばキリハは? 今、里にはいないんですか?」

「今は任務で出ている。一週間後には戻ってくるだろう・・・さあ、一端置くか。あと、すまんがナルトだけ残ってくれ」

「分かった。こちらは宿に戻って待っている」

「ああ。俺も直ぐに行く」

我愛羅とカンクロウが退室する。


「一週間、か。多分会えないなあ」

そのころには予備試験も終わっているので、木の葉の里を出ているだろう。

「・・・会いたいか?」

「ええ、まあ」

まだ戻れないですけど、と呟く。

「それもそうか・・・まあ、ダンゾウの影響力も、ここ数年で大分落ちてきた。キリハの、里の皆への説得も進んでいるし」

「え、説得?」

「そうだ。主に、九尾と兄を同一視するなって事だな。ダンゾウの手のモノが流した噂で、里の者も先入観に囚われていた。その先入観を解くために、一生懸命話して回っているらしいぞ」

『キリハちゃん・・・』

「そんな事して大丈夫なんですか?」

「もう、16年も前の事だ。怨恨が薄くなっている者もいる。何より、元が筋違いな話だ。キリハが正面から話せば、分かってくれるというものさ」

「そう、ですか・・・」

それでも帰る事はないと思う。

「まあ・・・お前の気持ちもあると思うがな。それでも、キリハはお前が帰れる環境を作って起きたいんだよ。それに何より、兄が忌み嫌われているのが嫌なんだろう」

「・・・・」

「加え、あいつにとっての矜持もある。だから、止めるなよ?」

「・・・分かりました。あと、ダンゾウの方は大丈夫なんですか?」

「おおっぴらに妨害もできまい。それに、現在私はあいつと根の動向を探っていてな・・・そうしたら出るわ出るわ」

火影の認可を得ていない、不正な暗部派遣の痕跡など、色々と見つかったらしい。
三代目の頃からそれは行われていたらしい。時にはあの雨隠れの半蔵にも、暗部の一部を派遣していたとか。その部隊は壊滅したらしいが。

「ん・・・? そういえば、クーデターがあったとされる時機と、暗部が壊滅した時機・・・重なりそうだな調べてみるか」

「そう、ですね。また、こちらでも調べておきます」

「頼む、シズネ。あるいはあいつを抑えられるかもしれん。これ以上、ダンゾウの好きにはさせないさ」

「・・・随分と、警戒しているんですね」

「うちはの裏事情を聞かされたんだ。それなりに警戒もするさ。上役にかんしてもな。私も正直、あのヒヒ親父と相談役の2人を甘く見ていた所もあったからな」

「ヒヒ親父、の・・・」

自来也が苦笑する。

ダンゾウも、えらい言われようである。

「それに、戦災孤児を“根”に引き入れて自分の私兵として扱っているという情報もある」

「まあ、暗部の育成など、“根”の文字通り木の葉の大樹を支えてもらっている部分もあるが・・・明らかにやりすぎたの」

火影の座に妄執し、暴走して目的を見失っているふしがあるらしい。

まあ、ダンゾウ云々は取りあえず今の俺には関係ない。

暁撃退が俺の至上目的だ。まずは、それを果たすこと。その後はもう狙われる心配も無くなる。

「・・・じゃあ、そろそろ戻ります」

「ああ・・・・ナルト」

自来也に呼び止められる。



「・・・死ぬなよ」

「エロ仙人もね。くれぐれも一人で無茶はしないように・・・・何かあれば、キリハが悲しむだろうから」

「・・・分かったわい」


肝に銘じておく、と笑う自来也に背を向け、俺は部屋を出て行った。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/04 19:20





まさか、と思った。あるわけない、と叫びたい衝動に駆られる。





まさかまさか、かの童謡のような事態が現実に起こる得るとは。様々な難事、珍事に携わってきた不肖、小池メンマ。

これだけの無茶振りな状況にはついぞ出逢ったことがない。





ある日、森の中、神様に、出逢った。

死の咲く、森の道で。



(まずいまずいまずいまずいまずい)

頭の中ではデフォルメされたマダオがどうしてこうなったと言いながら踊っている。


ありがとうマダオ。少し落ち着いたよ。

『どういたしまして』

目の前を敵を見据える。

滝のような汗が全身から吹き出ている。もうどうにも止まらない。それほどまでに目の前に映る人物が強いからだ。



通称“雨隠れの神”。

今思い出した。彼はそう呼ばれていた筈。


一人呟き、納得する。これだけの力量、神と呼ばれる筈だ。

(不味いな・・・)

対峙する相手を見据え、どうしようか、とひとりごちる。

先の会議でも名前が挙がった、というか俺が挙げた噂の人物。
最も崇高たる螺旋の目を持つ暁の首領、ペインその人である。

(・・・それよりも)

若い。それに、髪の毛の色が黒い。
(原作知識、今はもうほとんど思い出せないけど・・・)

こんな容姿をしていたか、と首を傾げる。記憶では確か金髪だったような気がするが、よく思い出せない。長門という、かつて自来也の弟子だった少年の髪は黒かったが、こいつがそうなのだろうか。

(分からない事が多すぎる)

能力に関しては印象深いものもあるし、書きためたものがあるので覚えてはいるが、人物の容姿に関してはその限りではない。

(こんな顔だったか?)

目の前の人物を見据える。黒い髪と螺旋の瞳。そして尋常ではない程に研ぎ澄まされているチャクラ。

(それに・・・一人か)

六道と言うことで、分身体のようなものが6人いるとまでは覚えているが、そいつらはいない。
気配を探ってみたが、影も形もない。

(・・・不味いなあ)

気配を隠しているのか、それとも今は周囲にはいないのか。

前者だと本格的に不味い。後者でも、安心はできないが。

(口寄せを使うんだろうなあ・・・)

もしかしたら此処にこれない、などという希望的観測は持たない。現実は非常に非情である。
来る、と想定して動かないと予想外の事態になった時に動揺してしまう。
戦闘の最中、思考と動きが止まってしまうのは不味い。

加え、不味い事がもうひとつ。

相手の能力の全容が分からないのだ。
口寄せを使うとか、螺旋丸を吸収するとか、一部分の術に関しては覚えているがその他の術については定かではない。

情報が戦場の命運を左様する昨今、108の秘技(予想)を持つであろうこのお方とのチキチキ遭遇戦ガチバトルは是が非でもお断りしたいものだが。

『・・・結界が、張られてるね』

飛雷神の術対策だろうか、それとも別の何かが目的なのか。時空間移動忍術を封じる結界が張られている。
随分と高度な結界術だ。が、目の前の人物ならば確かに可能なのだろう。

『大魔王からは逃げられない、というものか』

(そうだねキューちゃん)

しかし、大魔王との遭遇戦とか笑えない。乾いた笑いならばいくらでも出てくるが。

「どうしてこうなった・・・・」

思わず呟き、このような事態に陥った原因を探してみよう。


















会見から数日経過した。俺は朝もはよから宿の前に立ち、欠伸をしていた。

「ふわああ・・・ねむ」

昨日、エロ仙人とカンクロウ、任務を終えて戻ってきたカカシを交え、遅くまで作戦会議・・・をする訳もなく。


「語り合おう」

カカシの一言によって急遽漫談会議となったのだ。

議題は“俺の嫁”。

テーマは“イチャイチャメモリアル”に継ぐ新作漫画、“イチャイチャナイト”についてだ。互いに己の魂を主張しあい、時には殴り合い、時には肩を叩きながら激論を交わしていたのだ。

カンクロウは眼鏡お嬢様のセーラ一択。なんでも周りが気の強い女性ばっかりなので、癒しを求めたいらしい。テマリに後でちくっておこう。じゃん。

カカシはロリなロリィだった。駄目だこいつ早く何とかしないと。ちなみに自来也の書いたロリィは何故か金髪だった。こいつも何とかしないと・・・。

ちなみに俺はライズだ。それ以外有り得ん。キューちゃんに後で噛みつかれようが、それだけは譲れない。

ちなみにサスケはジーンがいいらしい。再不斬は読んでいない。読ませてからかおうと本を持っていった所、部屋から出てきた白にみつかったので。

・・・後はお察し下さい。

あと、我愛羅は読んでいないらしい。流石は風影。真面目ですな。彼女的な存在がいるし。

ちなみにマダオには聞いていない。リアル嫁がいたマダオなどに聞くことなど、一つもない。

すると、心の中のマダオが突然叫びだした。

『・・・やさしくない。やさしくない!』

・・・ちょっ、おまえ、それは。

『はやく、きえて!』

それは、まさか・・・!

『あなたには.・・・ この人の・・・ 負ける者の悲しみなどわからないのよッ』

ぐあああああ! やめろ!

『ねぇ・・・ビュウ。大人になるってかなしい事なの』

トラウマをほじくり返すなああああああ! 復讐か、復讐なのか! てめえに聞かせたのはこういう使い方をさせるためなんかじゃねえ!

『サラマンダーより、ずっとはやい!!』

「マダオぉ、表に出ろおおおおおおおお!」

最後の一言が決定打。トリガーワードを連発された俺はぶちきれた。






数分後。

「おはよー・・・って随分と疲れてるけど」

どうしたの、と背後から銀髪マスクさんがやる気のない声で聞いてくる。

「・・・何でもない。男達の慟哭について話していたのさ」

拳を交えて。主に前半はいいが、後半は許せんということで。


(・・・それはひとまずおいといて。このマスクさん時間通りに来ましたがな)

昨日自来也から聞いた話は本当だったようだ。

どうも、依然と比べて任務に対する構え・・・いうかぶっちゃけていえば遅刻に関してはましになったらしい。

でも、やる気満々というわけでもない。さもあらん、人は容易く変われないという事だろう。

『お主とマダオも似たようなものだろうに』

ごもっともで。


ともあれ、カカシと一緒に俺は試験会場である死の森へと向かった。

何でも、雨隠れの受験生を見て欲しいとのこと。2年前、砂で行われた時の受験生とは随分と様子が違っているらしい。



「じゃあ、これを」

「ん、これは暗部の面か」

「顔を隠しておいた方がいいからね。後、例の赤髪の姿には変化しない方がいいよ」

カカシに忠告された。あの時こっぴどくやられたというか俺がやってしまった面々が俺の事を探しているようだ。
“赤毛の狐面、コロス”とよなよな森の中から声が聞こえてくるらしい。

そりゃ、あんなに徹底的にぶちのめしたらなあ。温厚なヒナタでさえ怒るだろうね。

「とまれかくまれ・・・逝こうか」

都合の悪い事は忘れるに限る。何時かは爆発するのかもしれないが、その時はその時だ。


「いや、字が違う気が・・・まあいいか」

流石は面倒くさがりやナンバー1。年期の入ったスルーっぷりです。



道中。カカシはかつての生徒であったサスケの事を聞いてきた。

あの後、カカシに限ってはうちはの顛末を話すことにしたらしい。

「うちはが、ねえ・・・」

カカシは自分の写輪眼を抑えながら、ぽつりと呟く。亡き親友の事を思い出しているのかもしれない。

「それで、サスケはどうする事にしたの?」

「まずはイタチと話をするって。どうも、イタチ本人は裁かれる事を望んでいるようだから」

これは俺なりに考えた末の結論だ。万華鏡写輪眼の開眼ということもあるが、何よりイタチは殺される事を望んでいる。

本来は優しい心根の持ち主であるイタチの事だ。罪の呵責に苛まれているに違いない。

「それ以外の道は見えなくなっているだろうね。復讐される事、死ぬことしか望んでいないと思う。だから、ひとまず殴って眼を覚まさせるって」

「そうか・・・サスケは、強くなったんだな」

「あらゆる意味でね」

基礎能力を磨きに磨いた。マダオと俺の経験談を元に状況を想定した模擬戦闘を重ね、戦術にも幅ができた。
体術も血反吐が出るまで鍛えた。頭の固さも取れた。

それに、匠の里の業師に特注で作ってもらった刀もある。チャクラの形態変化、性質変化の助長を促す特殊な金属鉱を合成して作った刀。


銘を“雷紋”。


雷紋とは力の集約を意味する紋様。魔除けの意味もあるらしい。ラーメンのどんぶりに刻まれる模様としても使われている、不思議な紋様だ。

雷紋は、サスケの戦闘能力を飛躍的にとはいわないが、かなりの度合いで高めてくれる。

元が速度に優れるサスケだ。再不斬の持つ首切り包丁のような身の丈にも匹敵するような大刀ならばその速度を殺すことにもなろうが、雷紋はせいぜいが打刀程度。

刀を持つ事によって速度は多少落ちることとなったが、それよりも間合いの広がりと、忍術運用の助長という利点の方が大きい。

「・・・やっぱり呪印は、使わないんだ」

「ああ」

一時期は迷っていたようだが、多由也の気持ちの事もあるのだろう。それに何より、もう憎しみや恨みで戦うのは嫌だと言っていた。

それは甘さともいう、弱さともいう。だが、強さとも言う。

長い夜でも己を失わず、暗い闇を前にしても尚、戦う意志を維持できる心を持っている。

奪い勝つための力ではなく、守り負けないための強さだ。

「今の俺でも、サスケとは正面切って戦いたくないね」

成長したサスケを前に、再不斬も同じ感想を抱いていた。

「そういえば、あの映画じゃあその一端を見られたっけ・・・」

カカシが半眼で見つめてくる。まずい。やはりばれていたらしい。

「風雲姫の冒険・完結編・・・出てたでしょ」

「やっぱり分かる?」


あの雪の国での事件、そしてその事件後の撮影とを編集し、掛け合わせて作成した、マキノ監督渾身の作。

今も上映中の大ヒットロングラン映画、”風雲姫の冒険・完結編”に、サスケが登場するシーンが在ったのだ。

あのとき、俺の影分身体と再不斬とが担いで連れて行った監督とカメラさん。見事にあの最後の一撃のシーンをカメラの中にとらえていたらしい。

編集と合成で顔は変えてもらったが、動きを見れば分かる人には分かる。
とはいっても、はっきりとサスケと分かるのは、カカシとかサクラとかキリハなどの、日頃身近でサスケの動きを見ていた者だけなのだが。

「裏の人間には、あれが忍びの動きだって事は分かってたみたいだけどね」

だが、取り立てて追求することも無かったらしい。何しろ、富士風雪絵はいまや世界で3本の指に入る程の有名人だ。
いかな忍びとはいえ、迂闊に手を出すことも出来ない。というか、出す意味もない。
あれがうちは一族の生き残りだと分かればまた違ったかもしれないが。

「五代目にはオレが進言したからね。サスケの事云々は裏で話したから」

木の葉も静観を選んだらしい。カカシグッジョブ。

「しかし、雪の国の忍び相手にねえ・・・」

やや不機嫌そうに、カカシは頭をかきながら呟いた。
彼の中でも、12年前の雪の国での一戦は忌まわしき思い出として胸の中に残っていたようだ。

もう仇はいないが、できるなら自分で借りを返したかったのだろう。

「ま、あの鎧は厄介だったけど、中身がスカだったからね。何とかなったよ」

「・・・狼牙ナダレは?」

「用心棒の先生にばっさりやってもらいました」

「用心棒、ねえ・・・そういえば、最後の一撃。サスケのあれ、新術のようだったけど」

あれは何、と訊ねてくる。

「俺案、サスケ改良の新技です」

「そうなんだ・・・結構な術使うねえ。見栄えもいいし。サクラが映画館できゃーきゃー叫んでたよ」

「・・・というか聞きたいんだけど、あれがサスケだって気づいていたのは誰と誰?」

「まあ、キリハとサクラぐらいかな。サクラがラストのシーンを見てまた、別の意味で叫んでたけど」

「マジでか」

「真剣と書いてマジです」

映画を見た後、演習場の広場にて「しゃーんなろー!」とか言いながら赤毛の人形を殴っていたらしい。
とどめは師匠譲りの怪力拳で破砕。哀れ赤毛の人形は空に散ってしまいましたとさ

キリハはそれを苦笑して見てたそうだが。

「いや止めろよ。つーか怖いよ」

「・・・無理だね」

カカシは目を瞑ったまま首を横に振る。

「いやだってね。その後ね・・・そこらの岩掴んで握力だけで粉砕していたんだよ?」

「はっはっは」


怖い。冗談抜きで。
月のない夜の帰り道は、気を付けるようにしよう




もし、出逢ってしまったら・・・・その時の事を想像してみる。



満月の夜。

人気の無い小道。

其処には、月の光をデコで反射する女神の姿が---!


「・・・いや、女神は無いな」

『無いねえ』

『無いのう』

きっと邪神かなにかだろう。
でも桃色の邪神って・・・何か良いな。

『良いのかよ!』

「で、何で赤毛? もしかしなくても拙者の事でござんすか?」

「うん。ちなみに“赤毛の狐面の忍”を見つけたら山中花店まで連絡を~とか張り紙があったらしいよ」

その紙の端には禍々しい血痕が付いていたらしい。
みんな、良い感じに暴走しているなあ。一番暴走しているのは間違いなくサクラだろうけど。

『これで、サスケくんが最近多由也ちゃんとちょっと良い感じに仕上がってるとか悟られた日にゃあ・・・』

・・・怖いこと言うなよマダオ。
もしかしてを想像しちゃうじゃないか。

『・・・摺り下ろし林檎?』

キューちゃん、素で怖い事言わないでくれ。

いや、しかしピンクの邪神は恐ろしいな。

決めセリフはこうだ。「自慢の怪力で粉砕しちゃうぞ(星)」とか。地味に怖い。映画化決定。

『いや、お子様には見せられないでしょ』

ホラー映画なら有りだと思うけど。

『何処の世界に邪神が勝つ映画があるのさ』

つーかサクラが勝つんだ・・・。





そんなこんなを話ながら数分後。

俺達は死の森入り口に到着した。

今年も試験官の役割を任じられたアンコ女史。随分と不機嫌そうな顔をした彼女に挨拶をした後、死の森の中へと入っていく。

相変わらずの網タイツっぽいインナーに締め付けられる巨大なπO2に合掌したくなるが、何とか踏みとどまった。






森に入って数刻後。

試験開始、つまり受験生が死の森に入ってから115時間が経過したらしい。

俺とカカシは先程見た雨隠れの忍びについて話し合っていた。

「随分と珍しい術を使うヤツが多かったねえ」

「・・・そんなに珍しいのか?」

カカシ曰く、“俺でも見たことの無い術”らしい。

「・・・失伝した忍術、とかその辺りだろう。問題は、なんであの雨隠れの・・・恐らくは下忍~中忍クラスの忍び、か。
あいつらがそんな忍術を扱えているかって事だ」

しかも、よりにもよってこの時機に。

「どうにも・・・きな臭いね」

カカシがため息を吐く。

「でも、迂闊に手を出せないしね・・・このまま、調査を続ける?」

例の予備試験会場までいくか、とカカシが訊ねてくる。

「そろそろ、五代目が会場に到着する予定だし・・・?!」

カカシは最後まで言えなかった。言葉が爆音にかき消されたからだ。

「・・・受験生同士の戦闘かな」

そろそろ時間切れだし、と言おうとするが、言葉は再び爆音にかき消される。

「随分と派手だな・・・」

受験生が忍術を使ったのであろう。そう思ったと同時、森の向こうから暗部が駆け寄ってきた。

「カカシ上忍!」

「何だ、随分と慌てた様子で。何かあったの?」

「火影様が何者かに襲われております!」

「「何!?」」

話を聞くと、どうやら雨隠れの受験生の一部が、移動中の綱手とその護衛の一団を襲ったとの事。

この新米の暗部は、隊の上司に命令されて近場にいたカカシの元へと救援要請をしに来たらしい。

「分かった、護衛の忍びは?」

「名家、旧家の面々に加え、猿飛上忍と日向上忍が応戦中です」

「そうか・・・」

カカシは思案顔になる。そしてすぐに判断を下した。
自分は綱手様の元へと救援に向かうから。俺は外にいる我愛羅の元へと行ってくれ、とのことだ。

「了解」

確かに。今、俺がその襲撃場所に行くとややこしいことになりそうだし。
それに、同時襲撃の可能性もある。我愛羅の方にも刺客が向かっているのかもしれない。

「良し。じゃあ、急ぐぞ!」

俺はカカシと別れ、一人森の外へと急いだ。




そして、その道中。

森の中を全速の一歩手前の速度で走っている最中だ。

ふと見えたものに気を取られ、俺は足を止めた。

「・・・」

ほんの僅か。俺でも警戒状態でなければ分からなかったであろう、ほんの僅かな気配を感じ取ったのだ。

(・・・誰だ?)

気配の消し方から、隠れている相手は相当の手練れだという事が予想される。

だが、その刺客が何故こんな所に居る? 現在戦闘が行われているという試験会場付近から、ここは随分と距離が離れている。

此処に隠れている意味が分からない。

『襲撃実行者の撤退を支援する忍びじゃない?』

(そうかもな。だったら・・・)

倒しておくか、と思うがやっぱり止める。

『我愛羅君の方に向かうの?』

(ああ。そっちを優先する・・・・っと)

舌打ちをする。隠れていた気配が通常の濃度に戻り、それがこちらに近づいて来たからだ。

(足を止めたのが仇になったか)

俺が気配を察知した事、相手も悟ったのだろう。間違いなく俺を消しに来ている。

(速い)

尋常な速度ではない。

(・・・俺より速い、か)

逃げようにも普通に逃げるだけでは補足されそうだ。

『走って逃げるの?』

(・・・いや。煙玉使って目を眩ませた後、飛雷神の術を使う。相手の足も速いし、普通じゃ無理っぽい・・・でも)

『その前に相手の顔を見ておきたい?』

その通り。誰が動いているかを見ておきたい。

逃げるのはそれからでもできる。飛雷神の術も、前よりは安定して使う事ができる。
一日三回程度ならば副作用も起きない。


(あと少し・・・さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・っつ!?)


現れた人物を見て、俺は目を見開く。


結論から言うと神が出ました。
藪蛇ならぬ藪神です。


いきなりラスボスである。どないなっとるんじゃ。
金返せマダオ。

『いや、僕のせいじゃないけど・・・』

いや、分かってるけどね。











そして、場面は冒頭に戻る。

(何でこいつが此処にいる?)

綱手襲撃に一枚噛んでいるのは分かる。だが、それならば何故綱手襲撃に参加しない?

困惑の表情を浮かべる俺。

互いに対峙してから、分を越えたその時。
目の前の男、ペインは口を開いた。

「ふん、まさかこんな所で会うとはな」

(・・・こっちのセリフだっちゅーに・・・っていや、待て)

俺は今変化している上に、面を被っている。こんな姿をした人間、この世界の何処にもいない筈だ。

(それなのにこいつ、まさか・・・!)

俺の予想の答えは、すぐに相手の口から出された。

「影分身の原理を応用したか。成程、随分と高度な術だが・・・俺には通用しない。元の姿に戻ったらどうだ」

うずまきナルト、とペインが言い放つ。

「・・・何のことだ? いや、それにどちら様でしょう?」

ひとまず惚けてみる。だがこの相手には通じなかったようだ。

「とぼけるな。いや、なんならその姿のままでも構わないぞ」

苦心の演技も、ばっさりと一刀両断された。

何もかも見抜かれている。この変化している姿だと若干だが戦闘能力が落ちる事をも見抜かれている。

「仕方ない、か」

一言呟いた後、変化を解く。

それを見たペインはため息を吐いた後、首を振る。

「・・・イタチが分からない筈だ。まさかこれほどまでに高度な変化を身につけていようとはな」

「どうしてお前には分かった?」

「なに、簡単だ。お主の身の内に潜むものを見ただけだ」

答え、ペインは印を素早く組んだ後、告げた。



「土遁・土流槍」



地面を足で踏みつける。

同時、地面が形を変える。



「くっ!?」

俺の下にあった地面が隆起。形状が槍の姿に代わり、俺を貫かんと殺到する。

俺は目視と同時に咄嗟に飛び上がり、背後の木の枝の上へと退避する。



「・・・ほう、なかなかやるようだな」

今の俺の動作を見たのだろう。ペインは感心したように頷く。


「あんた程では無いけどね」


印の速度、そして印を組むに至るまでの造作。共に一流だ。

咄嗟に距離を詰められなかった。術を妨害する事もできなかった。

あまりに洗練された動作。間違いなく、今まで対峙した相手の中でも一番強い。


「・・・ふん、チャクラ量にものを言わせた力押しタイプだと思ったがな。どうやら違うようだ」

「・・・・」

ペインの呟きに俺は言葉を返さない。

確かに、そういう戦闘方法も・・・あるにはある。
剛で柔を断つ、という戦闘方法も小細工を要する相手など、時には有効となる場合もある。
とりわけ、人柱力みたいな莫大なチャクラを保持するタイプはその戦術を頼る傾向がある。

(でも、この相手にはその戦術は通用しないだろうな)

いなされるだけだろう。力の底が見えない。相手の戦術も見極められない。

『・・・底が知れない、ってこういう事を言うんだね』

確かに、力量差はある。確実に相手の方が上であろう事は理解できる。

それは間違いないのだが、問題はそこではない。

『どれだけの力の差があるか・・・正直、分からないね』

動作や雰囲気、術の精度からある程度の力量は測れる。修行時代、かの忍界大戦を経験した忍びほどではないが、それなりの実戦をこなしてきた。
そこそこの修羅場は潜ってきたつもりだ。

だが、そんな俺でもこのペインの力量がどの位置にあるのか、はっきりしない。

『それだけ、相手の方が上手って事だね』

マダオの呟きに、俺は頷く。

恐らくは、その推察は正しいのだろう。だが、腑に落ちない点がある。

(こいつ、これほどまでに強かったか・・・?)

一対一、いや一体六でも、仙人モードの自来也なら対峙できていた筈。

だがこの相手、どうにもおかしい点が多すぎる。力量もそうだが、存在が異様すぎる。
単純な力量を見ても、それが分かる。図抜けているというレベルではないのだ。



思考の最中、知らず俺の口から言葉が零れ出す。



「・・・お前は、何者だ?」


その言葉に、ペインらしき男は嘲笑だけを返す。


「・・・聞いて答える馬鹿がいるのか?」


「それもごもっとも」

俺は言葉を返しながら、内心で首を傾げる。


奢りも無く、稚気の欠片もない相手を前に。
油断も隙もないこの目の前で考える仕草を見せ、俺を誘っているこの神とやらに対して、俺はかつてない危機感を抱いていた。


加え、胸中にあるのは違和感。

何かが致命的に違っているという予感。何かが盛大にずれているという確信。



『・・・でも、それを考えるのは後だよ』

『今はこの場を凌ぐ事に集中じゃ』

(・・・ああ)

何とか、揺れる心を押さえつける。

だが、ペインから発せられた言葉を聞いて、俺は再び動揺した。

「ふむ・・・どうやらお前、俺の正体に関して心辺りがあるようだな。成程、成程?」

どうしたものか、と顎に手を当てる。

俺は何の事だ、という言葉を返せない。
洞察力に優れているだろうこいつに、俺程度の下手な演技は何の意味も成さないようだからだ。

これ以上話すと不味いことになるかもしれない。

そう判断した俺は攻撃に移ろうとするが、相手に機先を制された。


「ふん」


螺旋の目が輝く。そして膨れあがる莫大なチャクラ。


「・・・今更、お前の中にいる九尾の残骸などに興味は無いが」

「・・・なっ!?」

気づかれている、と狼狽える暇も無い。



異様な速度で組まれた印。直後、ペインらしき男の周りの空気が帯電し始めた。



「不穏分子には消えて貰うに限る」


だから死ね、と告げられたと同時。




「雷遁・雷流閃」



幾重にも束ねられた稲光が、視界を覆い尽くした。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十一話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/11 15:59






「風遁・風陣壁!」

雷光が見えた時点で、俺は印を組み始めていた。

性質変化の理からいうと、風は雷に勝る。

周囲に風の壁を張り巡らせる。重なった雷光の帯は、俺の身体に届く前に、全て風の壁に弾かれて消え去った。


だが、向こうの攻勢はまだ終わっていない。


風の壁の向こう、再び印を組み始めるペイン。



結の印は、虎。


つまりは、だ。


(火遁・・・!)

性質変化の理の一つ、火は風に勝る。




(まずい!)


風の壁を消し、俺の方も印を組む。

防ぐには水遁による迎撃か防御しかないが、俺は水遁系統の術は扱えないのだ。


ならば、避けるしかない。俺は瞬身の術で樹上から地上へと移動する。


だが、相手の方が一枚上手だったらしい。


俺の動作を見切るや否や、奴は先程の“土遁・土流槍”隆起した岩に向かって、その龍の形をした火を放ったのだ。

当然、炎は岩にぶつかった。


「なっ!?」

だが、炎の豪龍は二つに砕かれながらも、その勢いに衰えを見せなかった。

勢いのまま岩の周囲を沿うように走り、岩の後方にいた俺に左右から迫ってくる。


「ちっ!」


予想外のことで反応が遅れた。

(避けられない)

---ならば防ぐまで。

懐から起爆札が張られているクナイを四つ取り出し、左右に二つ、同時に投げる。


俺と匠の里の職人さんの合作。

謹製の起爆札だ。普通の数倍の威力があるその起爆札は、炎に当たると同時に爆発し、相殺した。


(・・・しかし、何だ今の術は)

豪龍火に見えた、いや火龍炎弾か?

(・・・岩にぶつかっても、消えない? 柔らかい炎とでもいうのか?)

疑問符の嵐が頭の中を駆けめぐる。

(・・・例えるならば岩炎の術と言った所か)

『って言ってる場合じゃないよ!』

(分かってるよ)

問題は、普通の豪龍火の術ならばこうは行かないという点だ。通常ならば岩に当たってそれで岩を砕くか、少し拡散して終わり。

あのように広がり、そして統制を保ちながら標的に向かってくるなど有り得ない・・・筈。

(いや、そもそもあれは豪龍火の術だったのか?)

それすらも定かではない。いったいどれだけの術を保持しているのか。

限定された能力なれば対処する方法も浮かぶといものだが・・・相手が万能に近い能力を持っていた場合、どう対処すればいいのか。

最善の戦術が分からないというのは厄介だった。気が付けば落とし穴にはまってしまいそうで。

俺は知らず、口の中で舌打ちをしながら、ひとまず状況を整理することにした。

(・・・こっちが不利だな)

口寄せの術が使えない以上、忍具口寄せも使えない。起爆札付きクナイも、先程の4つで完売だ。

(忍具を口寄せに頼りきっていた事が仇となったか)

だが、それは向こうも同じ事だ。他の六道を呼ばないということは、相手も口寄せを使えないのだろう。

それでも時空間忍術を防ぐ結界内を張った。つまり奴は、それを補ってあまりある程の忍術を駆使できるのであろう。

火・水・土・風・雷・・・五行全ての忍術を。

(カカシは・・・五代目の方を優先するだろうな)

他の可能性、木の葉からの増援を事を考えるが・・・切って捨てる。

少なくともあと数分はこちらにはこれないと考えていいだろう。

(カカシは火影護衛の方を優先するだろうし)

『里一番の忍び』というポジションにおける責任もあるし、それをほっぽってこちらに来る、なんて事はできないだろう。

自来也も、比較的手薄である我愛羅の方の護衛に回っている。つまりは里の中心部で待機中。間に合わない。

(・・・ま、それでいいんだけどね)

正直こちらの方を助けて欲しいのだけれど、そうもいかない。それぞれの位置による役割があるのだから、仕方がない。


(と、いうことは・・・やるしかないか)



横に唾を吐き、拳を握る。



対する神様は相変わらずの無表情。ペイン・・・いやもう長門と呼ぼう。


(こいつは多分、ペインじゃない)

少し、思い出した。ペインの顔には何か黒い釘のようなものが刺さっていた筈。

(こいつは・・・長門かな?)

恐らく、としかいえないが、多分・・・間違いないかもしれないけど。

『・・・はっきりしないのう』

迂闊に断定するのは危険だから・・・・まあ、ここはイレギュラーってことで一つ。

『相手も、君の事をそう思っているだろうね』

(ああ、だから消すのか)

どうにも、短絡的だね。

『死人に口無しという所じゃの』

(キューちゃんそれちょっと使い方違う)


内にいる心強い味方の声を聞きながら、気を引き締める。



「・・・」



そして無表情なままの長門に向け、クナイを取り出す。



「・・・」



対する長門も、懐から千本を取り出す。






「「・・・」」






互いに構え、動かない。



空が曇る。


朝の空は青を示していたが、今はあいにくの黒模様。

まるで現在の状況を現しているかのように。



(・・・・)


口の中に血の味が広がる。命が脅かされているという、独特の感触だ。

修羅場が生み出す空気、その味が唾液と共に口の中に広がってゆく。





いつかの、雪の国での忍び(笑い)との戦闘とは明らかに違う。


本物の忍びと対峙する事によって生まれる、独特の緊張感。




殺気によって硬質化された大気が、肌を締め付ける。





互いに動かない。





静寂が世界を支配する。








そして、風が吹き森がざわめいた瞬間。







「・・・・!」





まず、長門が動いた。





「あぐあっ!?」


動いたのは手ではなく、その瞳。



瞳孔に浮かぶ螺旋の紋様が見えたと同時だ。




『「・・・・・っ!?」』



両手と両足に、まるで杭を打ち込まれたかのような激痛が走る。



『幻術か!?』

『っち!』

瞳術による幻術だ。俺とキューちゃんの様子を悟ったマダオが、すぐさまその幻術を解除した。

しかし、随分と“深い”幻術だ。まさかキューちゃんまで囚われるとは思わなかった。

マダオがいなければ危なかっただろう。

幻術を解除した後、四肢を襲う激痛はすぐに消え去り、元の状態へと戻る。

だが、痛みによる思考の停止と幻術特有の酩酊感が、一瞬だったが五感を鈍らせた。


その間、僅か2秒。


だが隙は隙だ。


幻術を解かれた事を悟った長門は、次の行動に移った。



手に持っていた千本。そして懐から新たに取りだした手裏剣、千本を空に放り投げた。


そして印を組む。


(な、速すぎる!?)


下忍レベルであれば目視もできないような速度で印を組む長門。

複雑怪奇な印だったが、俺が元に戻って一歩踏み出すまでの時間、即ち僅か2秒で組み終わったのだろう。

結と思われる印を組んだ後、空中でボン、という音が多数、鳴り響く。


「これは・・・!」


音がした方向、上空を見上げた俺は、そこで我が目を疑う。


それぞれ一つだったはずのクナイ、千本、手裏剣が増殖していたのだ。


その上、それらはチャクラで統制されているのか、空中に浮いたまま落ちてこない。


(無機物の影分身か!?)


手裏剣影分身の術と同じ原理だろう。やがて長門は指揮者のように片手を上げた後。




「鉄雨の術」




深く静かな声で術の名前を告げた後、俺に向けて上げた片手を振り下ろした。




同時。




宙に浮かんでいた凶器の群が、俺を目掛けて降り注いでくる。

千本、クナイは真っ直ぐ、手裏剣は俺を包囲するように回り込む軌道で。


(死ぬ)


瞬時に判断した俺は、天狐のチャクラを解放した。

(・・・命は惜しいけど!)

ここで死んでは意味がない。持てる全てで抗わなければ、ここで俺は終わってしまうだろう。



降り注ぐ鉄の雨を冷静に見据える。

そして十分に引きつけた後、チャクラで身体能力を強化。

しゃがみ込み全身のバネを活かして、地面を蹴り、前方へと走り出す。






蹴った地面が、その勢いに押され爆発する。




土が宙に舞い上がった。




俺は低姿勢を保ちながらも更に加速する。

目の前に僅かだがあった凶器群を、チャクラを篭めた掌打で弾く。

背中にいくらか当たったが、防刃を施している服の御陰で、刺さりはしなかった。


守られていない腕と頬の部分をいくらか掠めたが、気にせず直進。


障害を取り除いた俺は、立ちすくむ長門へと肉迫。


(よし)


後方から、何かが地面に突き刺さる音がした。クナイ群だ。急加速した俺の動きを捉えきれなかったのだろう。



「ふっ!」


近接した俺は間合いに入ったと同時、牽制である右掌打を放った。

体重の載っていない軽い一撃だ。当然、それは片手で弾かれてしまう。

(かかった)

弾かれた手、狼狽えずにすぐさま引き戻すと同時、逆手、左手でで返しの掌打を放つ。

狙いは腹部だ。

だが、それも片手で弾かれてしまう。

『・・・其処じゃ!』

(ああ!)

両手は封じた。

初撃、牽制の掌打で出した手は、二撃目の腹部の掌打を放つ際に引き寄せている。


(裏の裏!)


二撃目も牽制。

牽制で手打ちだった初撃とは違う、倒すための一打。

至近で最速、最小限の震脚、同時踏み込みによる反動を殺さず、腰に乗せ、その腰をひねる。

全身を連動させた上で、生まれた力を作用点である掌に手中する。

最速を意識した一撃。

狙いは肋骨。相手の動きを制限するためだ。ここが折れれば、痛みにより相手の動きは制限される。

(なっ、固い!?)

だが、掌に感じた手応えは満足できるものでは無かった。


固い・・・まるで岩か何かを殴ったかのような感触。


(・・・くそ!)


心の中で叫ぶ。

恐らくは土遁による防御術だろう。

(裏目に出たな)

奥義・・・衝撃を浸透する掌打を放っていれば、あるいは幾らかのダメージを与えられていたのかもしれない。

だが、今のは速度と外部破壊という観点での威力を重視した掌打だった。土遁による防御で防がれてしまったので、ダメージはほぼゼロであろう。

俺はその事実を悟り、内心で舌打ちをする。


「しっ!」

長門は手を退いた俺に向かって、追撃をしかけてくる。

袖口から黒い刀を取りだし、俺の首目掛けて振り下ろしてきた。

「ん!」

結構な速さだったが、防げない程でもない。俺は懐から再びクナイを取り出し、その一撃を防ぐ。

合わさる刃。鉄と鉄がぶつかる音がする。

相手は刀で、俺はクナイだ。お互いに突き出し、力を篭めて押し合う。

(・・・どうする、どうする・・・)

押し合いながら、一連の攻防を思い出しながら戦術を考える。

(・・・中距離では相手の方が有利だな)

見たところ術の種類、印の速度、忍術の威力・精度・・・全てにおいて相手の方が圧倒的に上だ。

(近接戦闘に限っては・・・俺の方が有利か?)

長門の体術の練度、まあ普通の上忍に比べても高い位階にあるが・・・俺よりは若干下だ。

今の土遁による防御忍術は確かに厄介だが、浸透の一撃ならば問題は無いだろう。


それに、防御の上から打ち砕く事のできる、俺の切り札・・・螺旋丸もある。

それは相手も察したのだろう。


「くっ・・!」


長門は刀を押すのをやめ、その力を横に逸らした。

押していたクナイを横にいなされ、俺は体勢を崩した・・・かのように見せる。

フェイクによる誘いだ。だが、長門は乗ってこなかった。

取りだした黒い刀を再び袖口に収めながら、後方へと跳躍したのだ。


「・・・っ逃がすか!」

距離を離されてはたまらないと、俺は下がる長門に追いすがる。

長門は後方に着地した後、再び距離を取るために後方へと跳躍するかのように思われたが、その場に留まった。

直後の動作は予想外だった。



印を組まず、ただこちらに向かって手をかざしただけ。



「っなん・・・!?」


それだけで、俺は弾き飛ばされた。

予想外の事態に混乱し、体勢を整えることもできずに、後方の大樹へと叩きつけられる。


(・・・っつ~、今のは一体何だよ・・)

困惑する。

だが、考えている暇は無い。この中距離という間合いは不味いのだ。

背にある大樹をスタート台代わりに、勢いよく蹴りつけながら俺は再び間合いを詰めようとする。

対する長門は、後ろにさがりながら印を組みだした。

(忍術!)

迎撃の忍術だろう。

(ここは行くべきか、退くべきか)

一瞬の思考。

逡巡しながらも決断する。

(・・・肉を切らせて骨を『退け!』)


その直前、キューちゃんが俺に向かって叫ぶ。


(了解!)


距離を詰めるため、前方に体重を傾けていた俺だったが、キューちゃんの声に従い、その体重を後方にシフトさせる


後ろに跳躍。着地する。

その直後だった。


「風遁」


尋常じゃない速度で印を組んでいた長門。

複雑かつ長大な印を組み終えたと同時、両手を少し広げた。



森の中、柏手が鳴る。




「風神烈破」




手と手が合わさり、乾いた音が周囲に響いた。




同時、大気が鳴動した。



合わされた掌から生じた烈風が、全てを蹂躙したのだ。

周囲にある大気、岩、木々、地面・・・大小問わず、一定の範囲内にある全てのものが切り刻まれた。

真空の刃、恐らくはカマイタチの術と同じ原理の術。



「なんつー無茶苦茶な・・・!」


だが、威力も範囲も桁違い。真空の刃による全方位無差別攻撃だ。

極大かつ多数の烈風は勢いのまま広がり、数秒後には全てを飲み込む竜巻となった。


「くっ・・・・!」


俺はそれに呑まれないよう、地面にしがみつく。

冗談みたいな規模の術だ。突っ込まなくてよかったと心底思う。背中には冷や汗がびっしょりだ。

『冗談じゃないね、まったく』

(・・・同意)

Aランク、いやSに近いのではないかという程の風遁術。あれだけの術・・・今までお目に掛かった事がないね。

あのまま突っ込んでいたら骨も肉もなかった。挽肉にされていた。

『・・・迂闊じゃぞ!』

(ごめん、キューちゃん)

キューちゃんの怒鳴り声。俺は謝罪する。

『あれ、誘いだったね』

(・・・そうだな)

誘い込み、仕留めるつもりだったのだろう。まんまと引っかかる所だった。

『ひとまず、落ち着いて』

(ああ)

深呼吸をする。

やがて竜巻は拡散し、消え去った。

俺はしがみついていた岩を放し、立ち上がった後に長門の方を見る。

(あれだけの忍術を使ったってのに・・・!)

まるでチャクラが減っていないかのよう。無表情のまま、腕を組みこちらを見ている。どうやら、まだまだ余裕がありそうな長門を前に、俺はため息を吐いた。

(迂闊には近づけないな・・・)

まだまだ使える、と判断した方がいいだろう。

(札の枚数が見えない。切り札がいくらあるのか・・・)

予想していたより遙かに厄介な相手だ。結界の中ということもあり、口寄せの術は俺と同じで使えないようだけど・・・

『底が見えないね』

(そうだな・・・)

『不用意な踏み込み、御法度じゃぞ』

(そうだね・・・)

風遁・風神烈破。

俺はあの術の威力と範囲を思い出し、身震いする。

『・・・あれを完全に防ぐ手だては・・・・無い、ね』

マダオの呟きに同意する。火遁忍術が使えない俺には、あの術は破れない。

(そうだ、キューちゃんの狐火・・・無理か)

『・・・瞳術による幻術が厄介じゃの』

キューちゃんを外に出した直後、先程のように幻術を使われるかもしれない。

『う~ん、まず間違いなく使ってくるだろうね』

それを見越しての風遁術かもしれない。どこまで見透かされているのかわからない今、最悪を考えて行動しなければいけない。

(いよいよ手詰まりか・・・)

頭を抱え込む俺。

長門はそんな俺の様子を見た後、嘲笑を浴びせかけてくる。


「・・・どうした?」

(・・・どうしたもこうしたも)

俺は頭をぽりぽりとかきながら答える。



・・・あ、そうだ。


「・・・いや、俺一般人なんで・・・・デタラメーズのやりとりにはついていけないんで」

首を振る。

「・・・お家に帰っていいっすか?」

塾があるんで、と笑ってみるが、長門は取り合ってくれなかった。


「駄目だ・・・ふん、時間稼ぎにも付き合わんぞ」


一瞬で狙いを看破された。ちくしょう、増援を期待しての時間稼ぎも無駄か。

(・・・はははのは)

『・・・げへへのへ』

『お主ら・・・』

いや、だってねキューちゃん。もう苦笑するしかないじゃないですか。




「かくなる上は・・・」

「ふん、かくなる上は?」

俺は両手を前方に翳し、その手を踊らせる。


円を描くかのような軌道。深く呼気を発しながらチャクラを身に纏い、相手を睨み付ける。



(手詰まりな以上、取れる選択肢はたった一つ)

『・・・手は、あるのか?』

『まさか、あれを使うのかい!?』

(できれば使いたくなかったがな)


足を広げ、構えを取る。


「九尾流奥義・・・」


奥義、という言葉を聞いた長門は表情を真剣なものに替え、迎撃の構えを取った。



直後、俺は両目をキュピーンと光らせた後、片腕を腰にそえる。



「・・・敵前!」


片方の拳を前に出し、全速力で駆け出す。



「大逆走!!」



後方に。



「・・・は?」



長門の間抜けな声を尻に、俺はマジで逃げ出した。












「何とか逃げ出せた・・・ってそりゃ追ってくるよな」

遠く、後方から、長門の怒声が聞こえてくる。どうやら正気を取り直したようだ。

(・・・足はあっちの方が速いか)

振り返り、呟く。なにやら足に少量の雷を纏って移動しているようだけど。

『うーん、どこかで見たような・・・でもちょっと違うようだし・・・』

(つーか速すぎるよ・・・)


僅か数秒で結構な距離まで近づかれてしまった。


「・・・待て!」

はっきりと声が聞こえる距離まで近づかれた。

だが、無視だ。

「けっ、待てと言われて待つ馬鹿がいるか!」

尻を叩きながら答え、逃げ続ける。


方針変更だ。


ここは、時間稼ぎに徹する。自来也か誰か、この結界内に介入するまで逃げまくる。


避けと逃げに徹すれば、何とかしのげるだろう。

『かつ、戦術を考えるんだね』

(その通り。まず俺を吹き飛ばした術だけど、あれ・・・どう見た?)

『限定した対象を弾き飛ばす術だね』

確かに。地面には何の影響も及ぼしていなかったし、弾き飛ばされたのは俺だけだった。

『つまり飛び道具は不可。クナイも手裏剣も無駄。あるいは中距離術全てを防ぐ・・・しかも、無印。厄介な術だよ』

精霊麺も弾くだろう。まあ口寄せが使えない以上、それも使えないんだけどね。

『ああ、くそ・・・万能の防御忍術だね』

(全てを遠ざけるんだもんな)

マダオの呟きに同意する。単純が故に破る手段は限られてくる。

しかし、弾き飛ばす、遠ざける力とは・・・いったいどういう力なんだろうか。

(・・・斥力、みたいなもんか)

弾きとばされた様子を思い出しながら、俺は別の事を思い出していた。

昔見た漫画、タ○るーと君だ。

(確か、斥力んだったっけか)

すると、あいつは重力でも操っているのだろうか。

(・・・まあ、影を操る忍者もいる事だし)

そう珍しい事ではないのかもしれない。

(引力も操る、とかありそうだな)

『そうすると厄介だね』

(ああ。でも、近接戦は望む所だぞ?)

『・・・まあ、こちらに分はあるかもね。だけど、そんなに甘い相手ではないよ』

(それは分かってるよ)

不意を打たない限り、あるいは向こうから来ない限り、近接戦に持ち込むのは無理だろう。迂闊に近づけばやられるだけだし。

近接するにしても一瞬で懐に飛び込み、一撃加えた後は直ぐに距離を取らなければならないだろう。

(まあ、油断はしないが・・・!?)

『っ回り込まれたよ!』


一瞬だった。背後の気配、木の枝の上で止まったかと思うと、消えた。

目の前に現れたのだ。

先程とは違い、何やら全身に雷を纏っているが、あれは何かの術だろうか。

『あれは・・・・!』

マダオが叫ぶ。だが、今は取り合っている暇はない。

余裕の表情を浮かべる長門。その面に。

「克ッ!」

一発くれてやる方を優先する。

回り込んだ長門を前に、俺は止まらない。

俺がたじろぐとでも思ったのだろうか、長門の目が驚愕の色を見せる。

即座に構えるが、少し遅い。

だが、タイミング的には微妙だった。


相討ちになるか・・・こちらが若干遅いか。


(だが、ここは行く!)

先程とは違い、長門は印を組んでいない。つまり、あの風遁術は使えない筈だ。

決断した俺は最後の一歩で更に速度を上げる。


『いけ、吶喊じゃ!』

「応よ!」

大きさよりも速度重視。突っ込みながら小規模の螺旋丸を叩き込む。

「くっ!」

だが、それは後一歩の所で届かない。例の斥力を操る術だろう。当たる前に、弾かれてしまった。


(も、いっちょ!)


だけどまだまだ。

俺は弾き飛ばされながらも、後ろ手に持っていたクナイにチャクラを込めた後、無造作に投じる。

それを操襲刃の術で操り、死角から長門を襲わせる。

だが相手は手練れ。そのクナイに気づかない筈がない。

長門は飛来するクナイの軌道を見切り、たたき落とそうとクナイを振る。



だが。


「・・・ボン」

俺はつぶやきと同時に、そのクナイを爆発させる。

影分身+クナイ変化+分身大爆破の術。

禁術クラスのチャクラを消費する忍術だが、効果はあったようだ。


先に見せた起爆札付きのクナイも、フェイクとなった。直撃とはいかないが、ダメージは与えられたようだ。


「・・・くっ」


爆発する一瞬前に悟ったのか、長門は後方に飛んだようだ。だが、爆圧の影響範囲からは逃れられなかった。

そのまま吹き飛ばされ、後方にあった大樹でしたたかに背中を打ったのか、咳き込んでいる。


(まずは、一撃)

何とか、一撃だ。


まともに正面から対峙すればこちらが負けるだろうが、逃げながらの乱戦に持ち込めば何とかいける。

相手のペースに合わせる必要もないし、ここで踏ん張る理由もない。

(臨機応変に・・・追ってこなければ・・・そのまま、逃げてもいい)

何より、生き残る方を優先する。


『距離を取った方がいいよ』

(分かった)

次は煙玉を使って、距離を取ろう。

そう思った俺は跳躍し、少し離れた所に着地。

その時だった。


(・・・・・・っ!?)

鋭い殺気が相手から発せられた。

強烈な殺気に、身が竦む。


(・・・)


だが、ここで弱気を見せてはいかない。

俺は何とか余裕の表情を取り繕い、肩を竦めてやる。


「・・・・」


長門が、額に青筋を浮かべる。


そして印を組み始めた。

再び、なにがしかの術を使おうというのだろう。


だが、俺は煙玉を炸裂させる。

「・・・また、逃げるか!」

「明日への撤退だ! いい加減お家に帰れ、神様!」

煙の中、俺は再び逃げだそうと、後ろを向く---

「させるか!」

---振りをして、長門がいる方向へと全力で跳躍する。

「万象天引!」

長門の声を聞き、そして身体に作用した力を感じた俺は、ほくそ笑む。

(やっぱり!)

「なっ!?」

跳躍力に引力を加え、全速で接近。

相手にとっては予想外の速度。

迎撃も、間に合わない。

「しっ!」

黒い刀を取り出そうとしていた長門の手を払い、逆手で掌打。

長門の胴部に浸透の掌打を放つ。

「ぐあっ!?」

困惑気味の叫び声が聞こえる。

今度は、例の土遁術で防げなかったようだ。斥力で弾き飛ばされもしなかった。

掌の先、手応えを感じた俺は即座に後方へと跳躍し、距離を取る。深追いは禁物だ。

(これで、逃げられるか・・・)

手応えはあった。戦闘不能、とまではいかないが、痛撃は与えられた筈。

『逃げようか』



(ああ、そうだな・・・・・・・・・・・っ!?)


全身に悪寒が走った。


尋常じゃない殺気を感じた俺は、その発生源・・・・木の枝で俯き佇む長門の方を見る。


視線の先、長門は顔ゆっくりと上げる。

その顔には、笑みが浮かんでいた。


「・・・本気になったようだな?」

俺の問い。

それに対し、長門は笑みを浮かべながら「ああ」と答えた。

「正直、お前の事を舐めていた・・・それについて、謝罪しよう」



「・・・それは別にいいです。それより、お家に帰して下さい」

「・・・駄目だ」

笑顔で、断言された。

「眠る場所なら作ってやる・・・・だから、泊まっていけ」


---此処に、永遠に。


そう言いながら、長門は木の枝から飛び降りた。



(印、また長いな・・・!)


先程のような大威力広範囲の忍術を使うつもりなのだろう。


(目で見ながらきっちりと避けきる)


迂闊に逃げれば、やられるかもしれないと考えた俺は、防御の体勢を取った。


(さっきは風遁だったけど・・・)


見るに、どうも五行の忍術の全てを使いこなせているようだ。


(雷遁ならば風陣壁で防げる)

だが、その可能性は薄い。

雷遁はもう使ってこないだろう。五行の術全てを扱える相手が、わざわざ相性の悪い術を選んで使ってくるとは思えない。


果たして、その通りであった。


長門は地面に着地した直後、そのまま地面に両の手を叩きつけ、静かな声で告げる。



「土遁・千山峰」



手をついた箇所の地面が僅かに撓む。


直後、土は山と成り、牙となった。


最初に見えたのは、先程と同じ土の槍、その数は僅かに三つ。

だが、槍の大きさも長さも、その迫り来る速度も桁違い。

まるで先程の土流槍の術がつまようじに見えるほど。

あまりにも巨大な槍であった。



「くあっ!?」





かなりの速度で迫り来る巨大な槍を、俺は何とか斜め後ろ方向に飛び退く事で避ける。

際どいタイミングだったが、避けられた。


『まだ終わってないよ!』


マダオの叫びと同時だ。土の巨槍が僅かに蠢く。


「ってまたかよ!?」


巨大な土の槍の側面から、土の槍再び生えてきたのだ。


再び俺を貫かんと、槍が殺到する。


「くっ!」


そこからは繰り返し。

槍から槍が生まれ、繰り返し俺を貫かんと襲ってくる。

瞬身の術で大きく距離を取ろうとするが、隙がない。避ける事だけで精一杯だった。注意を術の方に逸らしてしまうと、たちまち貫かれてしまう。

跳躍しながら逃げ続ける俺に向かって、幾重にも襲ってくる土の槍。


9割9分は砕き、あるいは逸らす事で捌いていったが、全てを防ぎきるのは無理だった。


「あぐっ!」


細く尖った土の槍の先端が、左手と右足を貫いた。

だが、まだ動ける。


俺は山の頂上から、長門がいる方向とは逆の方向に飛び降りる。

そして、再び逃げようとする。


(・・・・!?)


直後、背後から熱気を感じた。


振り返る。


目の前にあるのは、幾百の土の槍が折り重なってできた山だったが、その向こうから熱風が吹いていた。


山の死角にいるせいで、長門の姿は見えなかったが・・・



「火遁・火龍槍」

声が聞こえた。

同時、山の向こうが一際大きく、更に赤く染まった。

土の槍で出来た山、その僅かな隙間から燃えさかる炎が見えた。



「なっ!?」


直後、その隙間を砕きながら二つ。

そして山の上方と左右から迂回して、八つ。

合計で十を数える炎の槍が俺目掛けて飛んできた。


(速っ!)

まず最初にやってきたのは、隙間から一直線にこちらにやってきた炎。

数は二つ。

火遁にあるまじき速度で飛来したそれを、瞬身の術で横に移動し避ける。

標的を見失った炎の槍は、俺の背後にあった大樹を焼き貫く。

(マジかよ!)

刺さった直後、一瞬でその大樹を貫通したのだ。

大穴が開き、支えである幹の部分を失った大樹が倒れていく。


(まだ!)

だが、それを見ている暇は無い。

四方八方から迫ってくる炎の槍をどうにかしないといけないからだ。


「・・・こなくそ!」


俺はほぼ同時にやってくる炎の槍を見切り、その間を何とかすりぬけ、そのまま飛び上がった。


標的を見失った炎の槍は互いに激突しあい、合わさった後爆発して四散する。


「熱ちちち!」


予想が出来た事なので、距離は十分取っていたつもりだったが、距離が足りなかったようだ。

服がある場所は無事だったし、顔は腕で庇っていたので問題はなかったが、剥き出しになっている両手部が熱い。

軽度の火傷を負ってしまったようだ。髪の毛の先も、ちりちりと焼けている。

とんでもない熱量だ。

(ってパンチパーマになってしまうがな!)

正真正銘の小池さんになってしまう。

小池さんは尊敬に値する人物だが、パンチパーマは嫌だ。
ラーメンは大好きだが、金髪のパンチパーマは嫌なのだ。
キリハが見たら卒倒してしまうことうけあいだ。

『でもパンチパーマに悪い奴はいない』

(・・・それ、天然の間違いだろ・・・っておい)

視界の端に、赤が移る。そして、再び熱気を感じた。

(まさか・・・!)

炎の槍。

再び、迫り来る。

(おかわりかよ・・・くそ!)


決断は一瞬だった。

影分身の術を使う。

チャクラを大量に消費する影分身の術はあまり使いたくないのだが、そうも言っていられない。

余波と大樹の傷痕を見て分かったが、あの火炎の槍の威力・・・ちょっと洒落になっていない。

直撃されれば即死は必死。即死せずとも、重度の火傷を負うことだろう。

(・・・それは不味い)

切り傷や擦り傷はともかく、火傷はまずい。

痛みにより集中力が下がってしまう。そうなると負けは確定だ。


「「「螺旋丸!」」」


それを防ぐため、まず俺と2人の影分身が大玉螺旋丸を使い、それを胸元で合わせる。

螺旋の大玉が合成し、超大玉の螺旋丸が出来上がる。


(螺旋砲弾の応用だ!)


失敗技の応用とも言う。


合わさった大玉を尻に、本体の俺だけその大玉から距離を取った。


制御する者が一人欠けたことで、抑えきれなくなった大玉が暴れだす。


「「「解放!」」」


留めるのを止め、解放する。

砲弾のように、留めながら相手に放つのではなく、その場で拡散させたのだ。


抑圧された大量のチャクラは拡散しながら渦を生み出す。

やがては、小規模の竜巻となる。

その竜巻は襲い来る炎の槍を全て飲み込んだ上で、消し飛ばした。



同時、竜巻の余波で影分身体も消し飛ばされた。



少し離れていた俺も吹き飛ばされるが、それが狙いでもある。


(このまま!)

弾き飛ばされた勢いを活かして、距離を離す。即ち、逃げるのだ。

結界の外まで行けば、飛雷神の術を使える。

相手の本気に付き合う義理はないし、守らなければいけない何かがある訳でもない。

相手の方も、この一戦で随分と消耗した筈だ。このまま綱手の方に行くとも思えない。


(・・・長門の位置は・・・・)


逃げる直前、俺は上空高く舞い上がりながらも、長門の位置を確かめようと振り返る。



すると。


(・・・飛んでる!?)


火遁を放った直後、飛び上がったのか。


(また・・・!)


印を組んでいるのが見える。

こちらに向けて、最後の術を放つようだ


(だが、距離は離れている・・・いける!)


この距離ならば、術を使っても辿り着くまでにいくらかの時間がかかる。

どんな術がこようとも、防御する時間は十分にある。直線でくるならば、螺旋丸で弾ける。

術の衝撃による反動を活かして、弾き飛ばされれば更に距離を稼げる。



このまま何事もなく逃げられる。

そう思った。




だが、その考えは甘かった。




印を組み終えた後、長門は両手を重ねて抱え込み、脇に添える。



(両手に・・・大気が吸い込まれてく?)


周囲の煙が、長門に集まっていくのが見えた。


(大気の、凝縮・・・・・っ来る!)


長門は両手をこちらに突き出し、何事か呟いた。


距離が遠いので音は届かなかったが、唇は読めた。



(風遁・風神砲弾?)


長門から、不可視の何かが放たれる。

大気が唸る。

空気を切り裂く音が聞こえる。

(速すぎ・・・・)

背筋に悪寒が走る。

繰り出しておいた螺旋丸を両手に展開、そのまま突き出す。

だが、核の部分が見えないため、何処に突き出せばいいのか分からない。

(優先して守るのは・・・!)

二つ。頭と、急所である。

両部を守るため、俺は螺旋丸を前に構える。


・・・手応えは、あった。

二つの螺旋丸で風の砲弾、その一部は削れたようだ。





だが、全ては防げなかった。




肝心の砲弾の核部は消せなかったのだ。




「ガアッ!?」

腹に、衝撃が走る。

大気の塊で出来た砲弾は、頭と急所を守るために突き出された螺旋丸の防御をすり抜け、腹部へと直撃した。

肋骨が折れる音が聞こえる。



直後、砲弾が破裂した。


「・・・・・・・・!?」


あまりの激痛に声も出せなかった。


腹部を中心として、全身が切り刻まれたのだ。


防刃服の上を、風の刃が蹂躙する。

風神烈破ほどの切断力はないようだが、それでもかなりの威力だった。




俺は炸裂する風の刃と激風に押され、矢のような速度で更に空中へと吹き飛ばされた。






『メンマ!?』

吹き飛ばされる中、キューちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。



『気絶しちゃ駄目だ!』


(ああ、分かって、る)

吹き飛ばされた勢いで、頭が揺さぶられた。

しかも、身体が前後左右に回転している。脳が揺れる。

体勢を整えなければ・・・

(えっと、着地、しなけりゃ、不味い、もんな)

高度が高度だし、勢いもある。

このまま受け身もとらずに地面に叩きつけられれば、ひとたまりもないだろう。




だけど、身体が上手く動かない。





『メ・・・・・』

声が遠い。

全身を襲う疲労感と激痛、そして三半規管に掛かる負担。

『まず・・・・・』

遠雷のような声が、頭のどこかで鳴り響く。



「く・・・・ゴホッ・・・・ゴボッ・・」


体勢を整えるのには成功したが、咳が止まらない。


(血が・・・・)

胸が痛い。咳に血が混じっている。

どうやら折れた肋骨が肺に刺さったようだ。


(まず・・・・)


息がはき出せない。気管が血で詰まっているのか。


(呼吸が、できな・・・・)


意識が遠ざかる。


『・・・駄目!』

『気を確か・・・・』



キューちゃんとマダオの悲痛な叫びを聞きながら。



(・・・・ごめ・・・・ん・・・)





俺は意識を失った。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十二話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/18 11:24




『ここは・・・・・?』



暗闇の中、目が覚めた俺はあたりを見回す。


『いや、夢か』

そして、現実では無いことを悟る。

今までも、何度か見たことがある。これは、夢と分かる夢だろう。


『・・・あれは・・・・キューちゃんとマダオ・・・?』


暗闇の向こう、2人の姿が見える。

マダオは本来の姿、キューちゃんも大人の姿になっている。

こちらには気づいていないようだ。


『・・・・・で・・・お主は・・・・』

『・・・・仕方な・・・・・既に・・・・・』

何やら話し合っているようだ。途切れ途切れだが、2人の話声が聞こえてくる。




『・・・・・すまな・・・・・本当に・・・・・』

『なに・・・・出来すぎ・・・・・』


謝るマダオに、ため息を吐くキューちゃん。


『・・・・それで、いいの?』

『・・・・』


そして、最後。


キューちゃんは悲しく笑いながら、言う。


『叶わなくても・・・・夢は、夢じゃろう?』


本当に綺麗な、そしてどこか儚い笑顔だった。

いつも浮かべているものとは、違う。



『ま・・・・・・』


「待ってくれ」と言おうとした。

だが、声が出ない。


手を伸ばしても届かない。


叫ぼうとするが、声にならない。


足も動かない。




『く・・・・』



唇を噛みながら、それでも手を伸ばし、叫ぶ。





『・・・・・・ま』








----------------------------------------









「・・・待ってくれっ!?」

「痛い!?」

視界に星が舞い散る。

そして、次に訪れたのは額の痛み。

だれかの頭とぶつかってしまったようだ。

「っつ~・・・」

「あいたたた・・・」

額を抑えながら呻く。


「・・・・あれ?」

そして、困惑する。

「あいたたた・・・目、覚めました?」


ぶつかった相手。額を抑えながら涙目になっている人物を見た俺は、思わず呟く。


「・・・・邪神?」

「何ですかそれは・・・」

桃色の邪神は額に青筋を浮かべながら、口をひきつらしている。


『・・・コマンド?』


「→逃げる・・・って違うよ」

余計な事言うなマダオ、と言いながら頭を振った後、状況を把握する。


「えっと、ここは・・・」

「日向の屋敷です。キリハのお兄さん」

「え・・・俺って確か・・・」

何が何だか分からない。

何で此処にいるのか、額に手を当て思い出そうとする。

(それよりも・・・日向? いや、それよりも何で・・・・・・ん?)


考え事をしている最中、襖が開く音がした。






入り口の方を見る。其処には、金髪と黒髪、2人の少女の姿があった。


「お兄ちゃん・・・・?」

声を発した金髪の少女の方の耳には、見覚えのある・・・というか俺が注文したあの緑色のイヤリングが付いていた。


「・・・まさか、キリハ?」

「・・・お兄ちゃん!」


目尻に涙を浮かべながら、こちらに駆け出そうとするキリハ。

だが。


「それは待ってねキリハちゃん」

「モルスァ!?」


キリハは足を出した直後、その足を隣にいたヒナタにすくわれた。

そして踏み出した勢いのまま、顔から畳へと突っ込む。

「ああああああああぁぁぁぁ・・・・」

そして転んだ勢いのまま、隣にある部屋まで転げ回っていく。


「・・・・」

『・・・・』

『・・・・』

地獄の様な沈黙。

そんな中、ヒナタは俺の横に座った後、話しかけてきた。

「初めまして・・・と、いうか」

あの時以来ですか、と正座しながらヒナタが、笑みを浮かべる。


キリハが転げ回っていった向こうの部屋から、どんがらがっしゃーんという音が聞こえるが、あくまで無視である。


「・・・ええと、そうだね」

俺は何とか気を取り直して、返事をした。


「まずはあの時のお礼を。助けていただいて、本当にありがとうございました」

「・・・ええと、シカマルから?」

「はい。中忍試験に合格した時に、シカマル君から教えられました」

あの時はちょっと手が滑ってしまいましたけど、とヒナタは笑う。

サクラが少し引いているが、どうしたのだろう。

「そう・・・・」

礼を言われた俺は考える。

あの行動は偶然の産物、出くわしたが故の成り行き。所謂意識しての事ではなかった。

ので、こうお礼を言われても・・・何と返したらいいのか。

『無難に言えばよかろう。どうしたしまして、で良いのではないのか?』

(そうだね、キューちゃん・・・・ん?)


キューちゃんの声を聞いた時、両肩がびくっと跳ねる。


(何か・・・・言わなければならない事が・・・)


頭をよぎる。だが、思い出せない。


(・・・後で聞くか)

ここはひとまず、ヒナタの礼に答えよう。

「・・・どういたしまして。それよりも、何で俺は此処に?」

「え、覚えていないんですか?」

ヒナタが首を傾げる。

「いたたた・・・・酷いよ、ヒナタちゃん」

その時、向こうの部屋から、キリハが戻ってきた。

「ごめんね、キリハちゃん。でも、あのままだとお兄さんも危ないと思ったから」

まだ怪我の方も完治していないしね、と笑う。

対するキリハはその笑顔から何かを感じ取ったのか、「そ、そうだね」とひきつった笑みだけを返す。

「そういえば・・・まだ、痛むな」

胸を抑える。

「一時は本当に危ない状態でした」

「・・・というか、かなり不味い状況で気絶したのに」

よく生きてたな俺、と安堵の息を吐く。

「・・・・本当に、間一髪でした。死の森の方から、急に人が飛んでくるものですから・・・」

すごく驚きました、とヒナタが言う。

「・・・えっと、ヒナタ・・・さん? が助けてくれたのか」

「そうです。あと、ヒナタと呼んで下さい」

ちょっとはにかんだような笑顔で言ってくる。

「え、でも」

「呼んで下さい」

「え、で「呼んで下さい」」

(え、何か性格違くね?)

何が彼女にあったのだろうか、と首を傾げる。

「ええと・・・ヒナタ?」

「はい!」

ヒナタは少し頬を赤くしながら、大きな声で答える。

(おおう、癒し系オーラが・・)

白に匹敵する程のほんわかオーラを感知。キューちゃん、事件です!

『・・・お主、後でセッキョーな』

(そんなご無体な!)

『・・・いや、それよりも。キリちゃんが何か言おうとしてるよ』

マダオの言葉を聞いた俺は、キリハの方を見る。キリハはため息を吐きながら、語り出す。

「・・・死の森の外で待機していたヒナタちゃんが、白眼で見つけてね」

咄嗟に追いかけ、回天で受け止めたんだよ、と言う。

それを聞いた俺は、ヒナタに向かって礼を言う。

「そうなんだ、ありがとうヒナタ・・って何で顔が赤いの?」


見れば、ヒナタの顔は林檎みたいに真っ赤になっていた。


「ああ・・・その、えっと」


ヒナタは指をもじもじさせながら、視線を下に逸らしている。

(あれ? 俺変な事いった?)


と、思った時だ。


「・・・回天でも受け止めきれず、結果的に姉上はその大きな胸で受け止めたのですよ」


入り口の方から声。見れば、ヒナタとおなじ黒髪、そして白い眼をした少女が佇んでいた。

「あれ、ハナビちゃんだ」

何処か気の強そうな少女。これが、日向ハナビか。

「いらっしゃいませ、キリハさん、サクラさん・・・・それに、初めましてうずまきナルトさん」


「ああ、初めまして・・・・ってそれよりも。

胸で、ってどういうことと、突然乱入してきた日向ハナビに聞いてみる。

「いえ、回天というか、全身から発したチャクラの膜であなたを受け止めるまでは良かったらしいのですが・・・」

そこから、まさか回転して弾き飛ばす事はできないでしょう、とため息を吐く。

「勢いを殺しきれないまま・・・それでもナルトさんを離さずに、全身で抱きしめながら転がったそうですよ」

加え、胸に常備している大きい二つのクッションが良かったようです、と呟きながら、ハナビはため息を吐いた。

何処か憂鬱な表情を浮かべているのは何故だろう。

「でも、そこで姉上は気絶したようで・・・ってすいません、姐上」

それ以上の黒いチャクラは勘弁して下さい、とひきつった笑いを浮かべる。

「2人、抱き合ったままの状態で気絶していたとか。傍から見れば、お兄ちゃんがヒナタちゃんを押し倒しているように見えたらしいよ」

俺の顔がヒナタの胸の間に挟まっていたらしい。

「ちなみに第一発見者は近くにいた父上と私でした」

その後、同じ班の忍びも追いついてきたらしい。

『・・・ええと、よく生きてたね』

マダオが言う。

(ぼそっと呟くなよ。怖いだろ)

「ちなみに父上はその光景を見た途端、八卦六十四掌の構えを取っていました」

(よく生きてたな俺・・・)

虚空を見上げながら呟く。

「えっと、それは流石に冗談だよね?」

キリハが訊ねる。

「本気と書いてマジでした。すんでの所で私がナルトさんの名前を呼ばなければ・・・」

ハナビはそこで黙りこみ、視線を逸らした。

「ハナビちゃんに話しておいてよかった・・・」

キリハが安堵のため息を吐く。

「あ、ちなみに中忍ですんで、私」

「そうか・・・ありがとう。本当にありがとう。命の恩人だよ」

『ヒアシさんも大概だねえ・・・』

『・・・・お主、キリハが見知らぬ男に押し倒されていたらどうする?』

『・・・え、螺旋丸で挽肉にするよ?』

当然じゃない、と言うマダオ。

俺とキューちゃんは、五十歩百歩ということわざを思い出していた。


「それにしてもクッション、か」


キリハの呟き。

それを聞いた俺は、思わずヒナタの方を見てしまった。


(・・・・しかし、確かに)


でかいなおい、と呟きながら小さく頷く。

(でも、覚えていないのか・・・・・・くそ、もったいねえええええええええええええ・・・え?)


心の中心で悔しさを叫んでいる最中、後頭部を誰かにぐわしと掴まれた。


「・・・何を見ているのかなお兄ちゃん。あと、何を考えてるのかな?」


「・・・今は遠き理想郷を」


富士の如く聳えるそれを、見つめながら、返答する。


ハナビやキリハ、サクラとは明らかに違う。

多由也以上かもしれぬ。多由也は日本で言えば駒ヶ岳クラス。

テマリは宝剣岳。

それすらも上回る、圧倒的な戦力だ。正に日本一。


『・・・確かに、でかいね』

『・・・・マルカジリ? スリオロス?』


その山と、隣にいるハナビを見ながら、俺は思わずとある歌を口ずさんでしまいそうになる。

直後、乙女達は何かを悟ったのかぴきぴきと額に青筋を浮かべる。

「・・・何か、失礼な事を考えていませんか?」

「いや、確かにヒナタには叶わないけど・・・でもサスケ君に手伝ってもらえれば・・・キャッ」

「お兄ちゃん? 山は分かるけど、谷を越えてって、どういう意味かな? かな?」

『・・・ちくわ、美味しいよね。鉄アレイは御免だけど』

『・・・後で説教じゃ。火の実の刑じゃ』



場は混沌の渦と化した。

その後にあった事は思い出したくない。

俺は“人には未来がある”、という言葉だけを残して、ひとまず場を沈静化させた。


『いや、それだとシズネさんとかどうするの?』

(それは言わない約束だよおとっつあん)



閑話休題。



「そういえば、誰か治療してくれたんだ?」

「応急処置はシズネさんと火影様。その後は、サクラちゃんといのちゃんかな」

「・・・えっと、いの、ちゃん? 此処にはいないようだけど」

何かあったの、と聞く。

「どうもいの、全力を出しすぎたようで」

なんでも、俺の容態が安定した直後、ぶっ倒れたとの事。

今は実家の方で静養しているらしい。

「そうか・・・後で礼を言わなければなあ」

「・・・そうですね。そうすれば、いのも喜ぶと思います」

「うん・・・・あと、お兄ちゃん。これだけは聞いておかなければいけないんだけど」

そこで、キリハは表情を変える。忍びらしい、真剣な顔。

「一体、あの場所で誰と戦ったの? 戦った後の痕跡を見たけど・・・どうにも普通じゃなかったよ」

「ああ・・・・」

『そういえば、随分と派手にやりあったもんね』

死の森、随分と破壊してしまったなあ。そういえば。でも、仕方ないとも言える。

相手が相手だし。

「・・・暁の首領だよ。輪廻眼を持った忍びで・・・・」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「暁の首領ですか!?」

「うん。というか、敬語はやめてほしいんだけど」

「ええと・・・いや、それより、あの暁・・・です・・・よな?」

「サクラちゃん、それ変だよ」

「・・・ええっと! 気を取り直して・・・それよりも!」

「はい!」

何故か背筋をただしてしまう。

「暁って、その・・・サスケ君のお兄さん、うちはイタチが居るっていう、あの?」

「・・・そう。その暁」

五代目から聞いてると思うけど、とため息を吐く。

「変態蛇・オカマ○もいた、あの暁」

「・・・元三忍の、大蛇丸ですか」

「そう。で、首領の奴は・・・それはもう凄かったよ。サシでは二度と戦りたくないね」

勝つビジョンが浮かばない。

「単純な力量で言えばあの大蛇○より確実に上だね。間違いなく。正に、変態的な強さだったよ」

「え、アレ以上・・・・ですか・・・」

大蛇○の強さと、師匠の事を思い出したのだろう。

あれ以上ですか、と呟いたサクラ。顔がどんどん青くなっていく。

「それよりも、あの後誰もあいつの姿を見てないの?」


「・・・はい。襲撃者は雨隠れと岩隠れ、それに霧隠れの中忍・上忍クラスの忍びによるものだけで」


首領のように、突出した能力を持つ忍びは、あの場には現れませんでした、とヒナタが言う。


「ちょっと。ちょっと待ってくれ。ええっと」


俺は驚いた。


「雨隠れはともかく、岩と霧もか!?」

「・・・はい。一体どこから侵入したのか・・・・襲撃班の中に、何人か混じっていました」

「何とか撃退しましたけど、かなりの被害を受けました。キバ君とシノ君、それにネジ兄さんも、少し前まで入院してましたし」

「・・・え、そんなに?」

「いえ、軽度の怪我でしたから。先週、退院しました」

「・・・先週? っていうか、あれから何日たったっけ」

どうにも、思考がはっきりしない。

「え、十日だけど・・・」

「十日・・・・じゃあ、我愛羅・・・いや、風影は?」

「砂隠れの里に帰られました。何でも、向こうでも襲撃事件があったらしくて」

聞けば、向こうも岩と霧と雨の混成部隊に襲撃されたらしい。

(・・・デイダラ、サソリは居なかったようだな)

『そうだね・・・でも、これってどういうことかな』

(・・・正直、分からん)

ため息を吐きながら、訊ねる。

「それで・・・雨はともかく、岩と霧に使者は出したのか・・・ってこれ以上聞くのは駄目か」

「いえ。火影様から、許可は出ていますので」

「そうか・・・それで?」

「・・・まだ戻ってきてないんです。もう一週間も経つのに」

ヒナタが悲しそうな表情を浮かべる。

『向こうで里の者に殺されたか、道中で暁の手の者に殺されたか・・・いずれにせよ、きな臭い事この上ないね』

「しかも、それに加えて、ね・・・・」

「何かあったのか?」

「霧と岩の方から・・・使者が来てね」

岩と霧、それぞれの使者が言うには、木の葉と砂の忍びに水影様と土影様が襲われた、らしい。

「・・・は? え、どういうこと?」

「行方不明になっていた忍びが、その・・・死体を見るに、木の葉と砂の忍びには違いないようで」

「向こうも、襲撃者の死体を見た時は随分と驚いていたようだけど」

何でも、日向ネジが白眼の洞察眼によって相手が動揺するのを察知したらしい。

「・・・それもあって、現在五大国の隠れ里は厳戒態勢に入っています」

「迂闊に動けば戦争、か」

『・・・いやはや、どうにも・・・分からない事が多すぎるね』

「ああ・・・ひとまず、綱手姫に報告するか」




そして、数時間後。

変化をした綱手が、日向邸にやってきた。


「おお、意識は回復したようだな」

「ええ、おかげさまで。それで、俺を襲った相手ですが・・・」

綱手に経緯を説明する。

今この場にいるのはシズネさん、キリハ、俺に綱手様だけだ。

ヒナタとサクラには悪いが、席を外してもらった。

「それにしても、輪廻眼か・・・」

綱手は顎に手を当てながら、忌々しげに呟いた。

「そうです。対峙して分かりましたけど、あれ尋常じゃないですよ・・・いくらなんでも強すぎる。

チャクラ量も馬鹿みたいに多かったし、忍術はどれも極めて殺傷能力の高い、厄介なものばかり」

思い出すだけで、手が震えてくる。

「ふむ・・・私も、そんな術は・・・・見たことも、聞いたこともないな」

「まあ例の、黒い何かは出てきませんでしたけど」

「・・・それは恐らく、正体を隠すためだろう。そんなデカブツを口寄せしたら、襲撃者が誰かすぐに分かるからな」

「で、しょうね。それはともかく、各里を襲った忍び達ですけど・・・どう見ます?」

「誰かが裏で糸を引いているのは間違いないだろう。だが、それが誰か・・・どうにも、確定できない」

そもそも情報が少なすぎる、と綱手は言う。

「他の里も馬鹿ではないでしょうから、すぐさま戦争・・・という事態にはならないでしょうが」

シズネさんがため息を吐く。

「まあ、今は軍備収縮の時代だからな。極めて明確な理由が無い限り、どの里も宣戦布告といった・・・まあ、迂闊な行動はできないだろう」

大名の意向もあるしな、と綱手は肩を竦める。

『それでも雷影殿あたりは迂闊に動きそうだけどね・・・』

マダオの呟きを聞いた俺は、問い返す。

(え、そんなに短絡的なのか?)

『うん』

すぐさま断言するマダオの言葉を聞き、雷影とは一体どういう奴なんだと頭を抱える。

「ん、どうした?」

「いえ、何でも雷影は短絡的だと、うちの居候が」

「・・・ああ。それだけど、な」

綱手の顔が曇る。

「・・・雷影殿がな。どうやら何者か襲撃されて・・・」

意識不明の重体らしい、と綱手が言った。

「・・・はあ!?」

俺は、驚愕の声を上げる。

「例の二尾が行方不明になった場所に雷影自ら出向いてな。そこで、何者かに襲撃されたらしい。
 雲隠れの里側はその事実を隠したかったようだが・・・どうにも動揺が大きすぎたらしい」

外まで情報が漏れていたんです、とシズネさんが苦笑する。

「・・・ああ、情報を封鎖しきれなかったのか」

二尾を失った直後、その動揺を収める立場にいる頭を更に失ったのだ。

(そりゃあ、動揺するか)

しかし、雷影って強かったのだろうか・・・ん?

(どうした、マダオ)

『ええっとね・・・あいつが使った、あの雷を身に纏う術なんだけど』

(ああ。あの移動速度が滅茶苦茶速くなる術か?)

どうにも完全には使いこなせていなかったようだけど。

『・・・うん。思い出した。あれ、雷影殿の得意忍術だよ』

(・・・は、まじで?)

・・・いや、そうか

「どうした?」


訊ねてくる綱手に、再び事情を説明する。


「・・・・頭が痛いな。あれは写輪眼でもコピーできない類の術だった筈だが・・・」

「・・・考えられるのは、輪廻眼の恩恵ですか。確かに、奴は五行の術、その全てを使いこなしてましたからね」

写輪眼のコピーとはまた違う原理を持っているのかもしれない。

「そもそも、忍術を開発したのは六道仙人。今、術が開発されて・・・昔よりその数は増えたんでしょうけど、あくまで輪廻眼によって生まれた術からの派生ですからね」

「そう言われれば、そんな気もするが・・・まあ白眼や写輪眼とは違い、今まで輪廻眼の使い手が現れた事などないからな」

そういった能力があるかもしれない、と綱手が言う。

「・・・そうですね。しかし、あの眼には何が見えているのでしょうか」

「知らんよ。私たちには理解できない何かが見えているのかもしれないが・・・」

それに共感する事はないだろうな、と綱手は言う。

「今までの行動、どうにも理解し難いものがある。何を目的としているのかは分からないが・・・」

そこでお茶を飲んで、言葉を続ける。

「どうにも、嫌な予感がする。防ぐために動かなければならないだろう」

「そうですね」

それには全面的に同意する。

「しかし、暁と雨隠れの里が此度の事件に関わっているのは間違いないようだな」

「ええ、そうですね」

「だが、暁や雨隠れ程度の大きさの組織だけで、あれだけの事が成せるとは思えない」

「・・・すると、他に協力者・・・もしくは、協力する組織がいるって事ですか? そんな、いったいどんな奴が・・・・・」

ってああ。

『・・・そういえば、いたね。』

一人、いや2人心当たりがあった。

「大蛇丸・・・音隠れと、ダンゾウ。そのどちらか、あるいは両方ですか・・・」

どちらも木の葉隠れ出身ですね、と言うと綱手姫は頭を抱えだした。

「それは言うな。頭痛が酷くなるから」

「すいません・・・・あ、そういえば我愛羅は何か言っていました?」

「ああ、例の奴らはこちらで預かっておくから、後で迎えに来てくれとのことだ」

「了解しました」

「ああ、ついでに。例の風影殿の姉・・・テマリといったか。随分とお前の事を心配していたようだぞ」

「・・・テマリが?」

「ああ。お前が意識不明の重態になっている事を伝えた時・・・あの娘、随分と狼狽えていたぞ」

「・・・そうですか」

ぽりぽり、と頬をかきながら答える。

『よ、色男』

(うっせ)

まあ、あの後も何回か会っていたしな・・・友達に成ったし。

しかし、心配してくれるとは嬉しいねえ。

『・・・まあ、初回の別れ際はアレじゃったがな・・・』

(それは言わんで下さい)

散々だった初会話。あの扇子の一撃により気を失った俺は、何を話していたのか、細部を思い出せなくなっていた。

『何忘れようとしてるの。あの後、何度も説明したでしょ』

(・・・・)

『助平な事はいかんと思うぞ』

(すんません。まじですんません)

平謝り。



だが、俺はあの後もテマリとは何度か会っていた。

例の冷製のラーメンの事とか、後は新作のラーメンの事で相談があったからだが。

『いやあ、それにつけても見事な闘牛士っぷりだったよ・・・』

『華麗にスルーとはああいう事をいうのじゃな・・・』

キューちゃんとマダオが何事か呟いている。

(ん、何か?)

『『いや、何にも』』

(?)



そして、会話は進む。


「敵の狙いは・・・恐らく、こちらの動きを硬直させる事だろう。実際、各国が緊張している今、木の葉としては迂闊に動けない状況にある」

「そうですね・・・あと敵の狙いははっきりとは分かりませんが、それでも分かっている事が一つだけあります」

「尾獣、か。しかし、ある程度は奴らに捕獲されたのだと思うのだが」

「現状、生存が確定しているのは・・・一尾の我愛羅と、滝隠れにいる七尾、あとは雲隠れにいる八尾だけですか」

「ああ。二尾、三尾は捕らえられたと見て間違いないだろう。あと、襲撃があった日に、滝隠れ付近で何やら大きな戦闘音、そして戦いの後があったらしい」

何でも、其処は七尾の人柱力である少女の家がある場所だったらしい。

「ん? らしいって、確定では無いんですね」

「ああ・・・七尾の少女は、滝隠れの里からは忌み嫌われていたそうだからな」

「・・・・」

その話を聞いた俺は思わず拳を握ってしまう。

「・・・話を戻そう。今まで得た情報から、岩にいる四、五尾と・・・霧にいる六尾。そして滝にいる七尾も恐らくは・・・」

互いに暗い表情を浮かべる。

「・・・そうですね。となると、我愛羅の方を・・・ってキリハ?」

何か言いたそうな仕草を見せるキリハに対し、俺は何かあるのか、と訊ねる。

「ええっと・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

「うん」


「えっとね。私、任務で滝隠れの里の近くに居たんだけどね」

「あ、そうなんだ・・・・え、それで?」



あの時は分からなかったんだけど、と前置いて。









「その襲撃があった二日後だけど・・・私、その七尾の人柱力の子を見たんだ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十三話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/14 01:45



「で、今お前達は滝隠れの里に向かっている訳か」

「ああ。そこで、七尾を保護する」


砂隠れの外れにある岩場群。その影で、俺は皆と話していた。

ちなみに今話している俺は影分身だ。

影分身を紙に変化させ、木の葉最速の忍鳥である鳶丸の足に括り付けたのだ。


「しかし・・・まさか、一対一でお前が負けるとは思わなかった」

「いや、まさかって・・・そりゃあ、黒星負った事は少ないけどさ」

今まで戦って負けた回数、か。まあ殺されはしなかったけど、それでも勝てなかった事は何度かあった。

「・・・決して零ではないから、そう珍しい事でもないよ」

そう言うと、我愛羅は驚いた表情を浮かべていた。

「そんなに驚くもんでもないんじゃないかなあ。そりゃあ、最近に限っては、負けは無かったけどね」

それでも今回は相手が悪かった、と愚痴りながらため息を吐く。

「・・・そいつ、それほどのものか?」

「正直、今まで戦ったどんな奴より強かった。それも一段ではなくて・・・まあ少なく見積もっても、二、三段上ぐらいの強さだった」

五行の術全て扱えるんで、弱点が無い。その上大火力の術も勢揃い。
近接戦に持ち込もうとしても斥力で弾かれるし、例の雷遁の移動術もあるんで逃げ足も速い

まるで死角が無い。今度対峙したらどうしたものか、と首を振る。

「・・・恐らくだが、写輪眼による幻術も通じないだろうな」

サスケが呟く。

「そうだな。いくら写輪眼とはいえ、相手はあの輪廻眼だ。視覚を媒介とした幻術は通用しないと見た方がいい」

「加え、正体不明の巨大な黒い“何か”を従えている、か」

我愛羅にしては珍しく、ため息を吐きながら首を振る。

「・・・厄介ですね。しかし、チャクラ量に関しては疑問の余地が残ります」

「ああ。どう考えてもおかしい。あいつのチャクラ量・・・まるで底なしだった」

「狩られた尾獣、二と三尾だったか・・・それが関係しているのかもね。あと、ナルト」

「ん、何だテマリ」

「怪我の方はもう大丈夫なのか?」

「ああ、もうばっちりだ・・・と、言いたい所だけど」

まだ完治しちゃいない、と肩をすくめる。

「そうなのか? お前、七尾の人柱力保護の部隊について行っていると聞いたが」

大丈夫なのか、というテマリの問いに、俺は苦笑をまじえながら返す。

「まあ、仕方ない。今現在、あいつらが尾獣確保に動いているのは間違いないからな。
それに、医療忍者・・・いのとサクラが随伴してくれているから、明日か、明後日には怪我はほぼ治ると思う」

「・・・山中いの、か?」

「あ、ああ。そうだけど・・・・あれ、テマリさん、何か・・・怒ってらっしゃる?」

「・・・いや。何でもない。それで、今お前はその部隊に混じっているんではなくて・・・」

「流石に、全員に俺の事を話すっていうのは無茶だからね。だから部隊の後方、姿を隠したまま、ついていっている」

前の部隊の内、何人かには話している。

「いざとなれば乱入するつもりだし。そうそう、保護部隊はシノ、キバ、ヒナタの感知系に、いの、サクラ、キリハの益荒男系。粒が揃ってるよ」

「・・・本人に言ってしまっていいですか?」

「嘘です御免なさい」

笑う白に、即座に謝る。

(ああ、そういえば三人共九頭竜の常連だったな)

思えば数奇な巡り合わせだな、と少し過去を思い出して笑う。

「ナルトさん?」

「いや、何でもない。それより、戦力は十分とは言えないけど、それぞれかなりのものを持ってるから心配は無いと思うよ」

流石、一時期一緒に修行していただけある。

キリハ曰く、連携もOK。かなりの練度を保っているらしい。

加えて、同じ目的を共にする同士だ。団結力もかなりのもの。

『えっと、その目的に関してはどう思う?』

ああ、赤い狐か。

(ノーコメントで)

悲しいけど、あれ依頼だったのよね。

「しかし・・・上忍は、キリハだけなのか?」

「いや、シカマルも・・・後からだけど、チョウジつれて合流するって言ってた」

「それにしても、随分と若い面子ですね」

「いや、七尾の人柱力・・・名前を“フウ”っていうらしい。その、俺達と同い年ぐらいの娘なんだけどね」

何でも、滝隠れの里の忍びから、村八分の酷い扱いを受けていたらしいから、と説明する。

「それは・・・えっと、それで、やっぱり・・・?」

「・・・中忍試験で怪我を負って、まだ木の葉で療養していた滝隠れの里の忍びから聞いた話なんだけど。
年上の忍・・・特に、男の忍びだと酷く警戒されてしまうらしい」

「・・・だから、か。そういえば紅上忍は身重だったな」

他に適任はいないな、とテマリが呟く。

「みたらし特別上忍は・・・・お察し下さい」

「そうだな・・・」

テマリが遠い眼をしながら再び呟く。アンコさんとの間に何かあったのだろうか。

「いや、でも他に人材は・・・って、いないか。女で上忍まで達するっていうのは少ないからな」

テマリがため息を吐く。

「まあ、仕方ないかもね。ただでさえ体格で負けてるんだから。その差を覆すためには・・・」

俺はカンクロウの方を見ながら言葉を続けた。

「・・・カンクロウが言うように、男を尻に敷けるぐらい気の強い女性じゃないと」

「ちょっと待つじゃん!?」

と叫ぶカンクロウ。

一瞬後、ぐわしと何者かに後頭部を掴まれた。

「・・・・カンクロウ。後で話がある」

「いや、今のは「ああ?」何でも無いです」

がくっと肩を落とすカンクロウ。そして、もう一組同じやりとりをしている者達がいた。

「・・・サスケ? お前今、ものすごい勢いで頷いていたけど」

多由也は「どういうことか、後でウチに説明してくれるよな?」といいながらサスケの肩を掴んでいた。

「・・・いや、今のは「あ?」何でもない」

がくっと肩を落とすサスケ。

そこに、再不斬が口を挟む。

「ああ、確かに・・・それぐらいでないと、務まらねえな」

「・・・再不斬さん?」

白の背後から、黒いチャクラが流れ出す。

「違う。お前じゃない。今の・・・恐らくは水影になっている、あの女の事だよ」

「ああ・・・あの」

納得した、といった風に白が頷く。

「え、どんな人?」

「嫁き遅れという言葉に敏感に反応する野郎でな。それ以上は言えんが」

「ちなみに野郎じゃなくてアマですよ再不斬さん」

「・・・ああ、まあ、そりゃあ、ね。しかし水影は嫁き遅れなのか・・・そういえば木の葉もそうだな」

『まあ、あの人は色んな意味で規格外だから』

え、そうなのかマダオ。

『私的には先生に頑張って欲しいんだけど』

エロ仙人に? まあ、規格外には規格外。案外、サイズがぴったりと合うかもな。

「まあ、それはともかく、話を続けるぞ」

((この野郎・・・))

とばっちりを受けたカンクロウとサスケ。

いつかやり返す、と心に誓うのであった。

「ええと、唯一適任と思われるシズネさんも、五代目火影綱手姫の護衛兼付き人兼ストッパーだから、無理。下手すれば木の葉が崩壊するから」

『そうだね』

「まあ、他の上忍達は里を守るっていう重要な任務もあるから。古参の上忍も、里の防備に回っているらしいよ」

「今は膠着状態だけど、いつ戦争が始まってもおかしくないような状況だからね」

「・・・だが、里の貴重な戦力である人柱力をこの時機に手放すとは・・・滝隠れの里は一体何を考えてやがるんだ?」

再不斬が唸る。

「いや、逆にこの時機だからだろう」

我愛羅が腕を組みながら答える。

「尾獣の力をコントロール出来ない人柱力など、人の手に余る。はっきり言ってお荷物になるだけだからな・・・正規の作戦にも組み込みにくい。とても、戦力としては数えられない」

「・・・我愛羅」

「・・・大丈夫だ。気にするな、姉さん」

少し笑い、我愛羅は話を続ける。

「滝の狙いは恐らく、現在尾獣を保持していない木の葉に人柱力を保護・・・提供して、形だけでも貸しを作る事だろうな。まあ、手に負えない危険物の厄介払いという意味もあるのだろうが」

「・・・そうですね。滝隠れと、フウという娘・・・先程の滝の下忍の話が真だとしたら、今現在の互いの関係は最悪に近い状態でしょうから」

「普段は忌み嫌っておいて・・・今更、“戦争が始まりそうだから手を貸して下さい”、なんて言えない。保護を申し出た木の葉の意図は察せず、それを口実として借りを作るだけってか・・・ちっ、胸糞悪い」

多由也が忌々しげに吐き捨てる。

他の面々も同じ思いのようだ。

「今ここで木の葉貸しを作っておけば、同盟を組んでいる他の国・・・草や砂よりは、こちらを優先して支援してくれるだろう・・・なんて。それが狙いなんでしょうけど」

「まあなんだかんだいって木の葉は大国だからな・・・それより」

一息ついて、話を変える。

「今は、滝隠れの事はどうでもいい。問題は、フウって娘が暁に襲われたって事だ」

「それは、確かなのか?」

「ああ。キリハが見たらしい」

何でも、羽根を背中に生やした少女が森の奥へと飛んで逃げていったらしい。腕には傷を負っていたとか。

「それで、追っ手の方も見たらしい。東雲の模様をした服をきている忍び2人が、その碧髪の少女を追って現れたとか」

「え、大丈夫だったのか?」

「キリハの部隊も、かなりの数がいたからな。一戦交える前に、そいつらは去っていったらしいが」

特徴を聞くに、出くわしたのは飛段と角都らしい。

「火影急襲の報を受けて部隊はそのまま帰還した。少女の行方は不明のまま」

そして綱手姫と滝の忍び頭とで話し合った結果、木の葉の方で保護する事に決まった。

「それで、木の葉の忍びが迎えに来いってか?」

「あのコンビがいつ来るか分からないからな。それで無くても戦争前だ。いらん負担は負いたくないんだろう」

「・・・分かった。そちらは任した。死ぬなよ」

「そっちもな。我愛羅、お前も狙われてるっていう事を忘れるなよ」

「ああ、もちろんだ」

「ああ、それと、多由也」

「・・・え、何だ?」

「暁と音、どうも組んだ可能性が高い。音の方も暗躍していると思うから、迂闊に一人になるなよ」

また追ってくるかもしれない、と言い含める。

「しかし、大蛇○は暁を抜けたんじゃなかったのか?」

今更手を組むとか有り得るのか、とサスケが訊ねてくる。

「先の木の葉崩しで連中、どうにも大きな被害を受けたそうだからな。背に腹は代えられないと考えたのか・・・あるいは」

「あるいは?」

「あのペインが何かをしたのかもしれない。そこら辺は調査中だ。だが、気を付けておくに越したことはないから、くれぐれも用心は怠らないように」

「了解」

「頼んだぞ、サスケ。それじゃあ後で・・・おっと。再不斬に白とは少し話があるから・・・」

「分かった。俺達は席を外そう」


俺の言葉を聞いた我愛羅とカンクロウとテマリが去っていく。


「それで、このまま巻き込む事になるけど、いいのか?」

「今更何をいってやがる。それに、何か手土産が無いことにはな」

鬼鮫の野郎の首を持っていかなければ、霧には戻れないと再不斬は言う。

「うちはマダラの事もある。それに、ここまで来たんだ。最後まで付き合うぞ」

「ありがとう。白も」

「いえ。恩もありますし、返すまでは」

「気にしなくても、というのは不粋かな。素直にありがとう、と言っておこうか」

「ああ・・・お前も、ここまできて死ぬなよ」

「へっ・・・」


予想外の言葉。再不斬が俺を心配している!?

『成る程、これがツンデレという奴だね!』

うるさいよ。


「ああ。お互いに、生き残ろうか」


笑いながら、俺は影分身を消した。






とある岩陰。

「・・・そろそろ、事態は終局に近づいているな」

「そうですね」

再不斬の問いに、白は笑みを絶やさずに答える。

「なあ、白。俺はあの野郎に勝てると思うか?」

「・・・再不斬さん?」

いつになく弱気な再不斬の言葉に、白は驚いた表情を浮かべる。

「奴は、強い。チャクラ量も去ることながら、基本能力も・・・あの頃の俺と比べても、段違いだった」

「そうですね」

再不斬を小僧呼ばわりする、霧隠れの怪人、干柿鬼鮫。

A級とS級。その差である。

「確かに、俺は強くなった。だけど、俺はあいつに勝てるのか?」

強とはある程度の指標はあれど、数値では決して表せない。

場所、天候、体調。そして能力の相性もそうだ。勝負は時の運と言うとおり、勝負の故の生死の判定も時の気まぐれが定める通り。

誰だって死は怖い。不安にならない筈がない。

「勝てます。だって、再不斬さんですから」

だが、白は断言した。

「今までずっと、再不斬さんの事を信じてきました。そして、見てきました。」

そして今、と言いながら白は笑う。

心からの笑み。いつかとは違う、本当の意味での笑みを浮かべ、女は男に伝える。

「そして今、ボクが信じています。ボクが見ています。だから、再不斬さんは絶対に勝ちます」

聞けば、何の根拠も無い言葉。

だが、絶対の自信を持って言われた言葉だ。

「・・・・・・・・ああ」

長い沈黙の後。再不斬は笑いながら、白の言葉に答えた。

「そうだな」






数分後、別の場所では。


「話は終わったのか?」

「ああ。それで、俺に話しとはなんだ?」

「いや・・・」

返す我愛羅は無表情。だが、何となく言いにくそうな事を言おうとしているのが見て取れた。

「別に、何でも聞いていいぞ。答えられない事ならそう言うから」

「・・・ああ。いや、お前も変わったなと思ってだな」

その心境の変化、どういったものか聞きたかったと我愛羅が言う。

対するサスケは苦笑しながら、言葉を返す。

「確かに、まあ・・・変わったのは否定しないな。むしろ成長したと言って欲しいもんだが」

「何が原因か、聞いてもいいか?」

「ああ・・・何」

肩肘はるのを止めただけだ、とサスケは笑う。

「以前の俺は、囚われていた。復讐とか、運命とか、目に見えないものに」

写輪眼に付随する、目に見えない黒いものを見続け、それに囚われながら生きてきた。

「それが、見えなくなった。いや、正確に言うと、無かった事に気づいたとでも言うのか・・・」

上手く言葉にできない。だが、あの雪の国での一戦。そして、修行の日々。


そして、多由也と一緒に、ナルトと一緒に、網の孤児達と接している時。


「ふと、思ったんだ。何かが分かった。俺の持つ力の意味を」

何でもない日常。


ナルトのラーメンを食べて、笑う子供達。

多由也の笛の音に酔いしれて、時には笑い、時には涙を浮かべて感動する色々な人達。

あの光景。あの笑顔。あの歓声。あの日の風の匂い。


「この力は、ああいうものを・・・守りたい何かを守るために生み出されたものなんじゃないかって」

写輪眼が生まれた、その意味。何かを壊す、それだけがのが目的、なんて思いたくないという考えもあるけれど。

「この世界は優しくない。戦う事は必要だ。確かに、平和も大事だけれど、叫ぶだけでは何も守れないから」

だから、刃を持つとサスケは腰の刀に手を添え、鯉口を切る。


「想いだけでは、何も守れない。守るためには、力が必要なんだ」


だけれども、と零してサスケは刀を抜く。


「だけど、それは守るために。恨み辛みではなく、誰かのために」


白刃に映る己の顔を見ながら、サスケは呟く。


「ナルトも言っていた。その言葉、誰かに借りた言葉だとは言っていたけど」

それでも、その言葉に篭められた意味は分かるし、その考えには全面的に同意する。

心の底から、そう思っているというナルトの顔を思い出しながら、刀を鞘にしまう。


「俺もそう思った。どうせなら、恨みも辛みもなく。ただ、大切な人のために、そして大切な場所を守るために。奪わせないために戦いたいと」

帰りたいと願った姫君の笑顔。

あまりにも酷すぎる運命の前、月光の下で泣いていた、兄の涙の滴。

理不尽なんて、掃いて捨てるほどある世界。


それを、壊す。理不尽を、ぶっつぶす。

ナルト曰く、世界が優しくなりますように。


「全てをあるべき場所に戻したい。そう、思うようになったんだ」


「・・・そうか」


「お前も、そうなんだろう?」


振り返りながら、サスケは我愛羅を見る。


思えば、話したのはいつかの中忍試験本戦の何日か前。


カカシと修行しているサスケの元へと姿を現した、我愛羅。


あれから、約3年。

一人の少年は真実を知って、戦うべき相手を知った。

一人の少年は真実を知って、守るべき何かを知った。


つまり、それは、こういう話。



「・・・ああ」


負の遺産はあまりあれど、我愛羅は風影となった。

罵倒を受け入れ、怒号を受け止め、人と人とで話をした。

そこで人を知った。誰かが其処にいることを知った。話し合える意味を知った。

同じ故郷を持つ、戦友の事を知った。砂に覆われたこの町で、賢明に生きる人達を知った。



---優しさを持つ。武器を使う事に恐怖する、心優しい少女の事を知った。


「そうだな」


我愛羅にしては本当に珍しく。

サスケの問いに笑い、答えた。






一方、別の部屋では。


「・・・話は終わったか?」

「ああ。それで、ウチに話があるらしいが」

何のようだ、と多由也はテマリに訊ねる。

「うずまきナルトの事だ。あいつ、何かおかしくないか? さっきの影分身も消してしまったようだし」

テマリが腕を組み考える。

「・・・ああ。確かに、何かあるんだろうけど」

それを3人共話してはくれないと多由也が呟く。

「それぞれに隠してる事があるんだろうけど、それをウチらに話す事は無いだろうな・・・特にナルトに関しては、誰かを頼るという発想も無いようだし」

気を遣ってはくれるけど、と多由也は愚痴る。

「見えない壁があるんだ。ウチらに対して。あくまで一歩、最後の一歩は踏み込まないというか・・・」

「・・・ああ。それは、分かるような気がする」

惚けているのか、分かっているのか。いくらなんでも鈍すぎるとテマリが愚痴る。

「いつか言っていた、助けられなかった人・・・関係があるんだろうか」

「え、あいつ、そんな事言ってたのか?」

「あ、ああ。最初、一緒に飲んだ時に零してた」

話した事は忘れたようだけど、とテマリが頭をかく。

「・・・あー。そういえば、ウチも、九那実さんから何か聞いたような・・・」

決して、口に出そうとはしない名前。一緒にいた2年間を思い出す。

「そういえば、ウチらに何も告げずに、一人隠れ家を出て行く日があったような・・・あれに関係しているのかな」

「そんな日があるのか?」

「ああ。花を持ったまま、ふっと消える日があったんだ」


「その、花の名前は?」


「えっと、たしか・・・」


考え込む多由也。

そして思い出した、と言いながらながら掌をたたく。







「紫苑だ」







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十四話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/18 11:22



一方、そのころ。

ナルトの話を聞いた自来也は、妙木山に足を運んでいた。

輪廻眼を持った忍びの事、またその能力と容姿を聞いた自来也は妙な胸騒ぎが消えないでいた。

妙木山は、古来より忍界に多大な影響を与えてきた蝦蟇達の総本山である。

ここにくれば。そしてこの妙木山の長老である大ガマ仙人に聞けば、何かが分かると思ったのだ。

だが大ガマ仙人から帰ってきた答えは、自来也をもってしても予想だにしないものであった。

「何も、見ることができないですと?」

「・・・うむ。こんな事は初めてじゃ」

渋い表情を浮かべながら、大ガマ仙人はため息を吐く。

「ううむ。しかし・・・何か、分かる事は無いのですかの?」

「そうじゃのう・・・手がかりがあるとすれば・・・あの時の夢か」

「・・・夢、ですか?」

「そうじゃ。お主が言うところの、五大国の里の同時襲撃の前日に見た夢の事じゃ」


「それは・・・一体なんですかの?」


不安そうに、自来也が訊ねる。音に聞こえたガマ仙人の頂点である長老、大蝦蟇仙人が見たことのない程に憔悴していたからだ。



「夢といっても、大層なものではない。ワシが見たのは一人の人間。とある男の姿じゃ」


「それは一体・・・」

一息ついて、大ガマ仙人は言った。


「混沌の色を帯びたチャクラを纏い、誰かの亡骸を抱え、泣きながら笑っている男の姿じゃ」





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滝隠れの里からの返事を受け取り、木の葉の里を発ってから二日後。

砂隠れにいる我愛羅とサスケ達に連絡を取ったその日の夕方である。

「あ~、やっぱり癒されるなあ」

滝隠れの里と火の国との国境線より少し離れた宿場町で、俺は口寄せ式簡易屋台を開いていた。

(テウチ師匠に会いたかったけどなあ)

なんやかんやで日向家に居候だった身。迂闊に「外に出たい」などと口に出すことはできなかった。

師匠のラーメン、今一度食べてみたかったものだけど。

『それでも、ヒナタちゃんが料理作ってくれたでしょ。贅沢な』

(ヒアシさんの眼が怖かったけどなあ)

恩があるとはいえ、娘の胸に顔を突っ込んでいた輩だ。あれで内心複雑だったのかもしれないが・・・

『ヒザシさんとかネジ君と一緒に、お礼は言われたでしょ』

(まあ、そうなんだけど)

ようするにヒアシさんは娘バカということだろう。マダオと同じく。

『ありがとう』

(褒めてないぞ。胸を張るな、鼻をかくな、頬を染めるな!)

『まあ、それはともかく。無事合流できたようだし、明日には滝隠れの国境を越えられるだろうね』

(そうだなあ・・・まあ、何事も無くというのは有り得ないだろうけど、今度はどんな奴らが出てくるのか)

前情報として、あの不死コンビが出張ってきているということは分かっているが。

(それでも、イレギュラーはあるだろうな)

『まあ、そうだね』

俺の言葉を聞いたマダオは、苦笑しながらもとある質問を投げかけてきた。

『・・・それにしても、大丈夫なの?』

(・・・ああ? 言っただろ、傷はもう大丈夫だから心配は無いよ・・・)

と、茶化そうとするが、途中でやめる。

どうせマダオの事だから、俺の内心の事についてはお見通しなんだろう。

『勿論分かってると思うけど、僕が言っているのは傷の事じゃないよ?』

(・・・大丈夫だ。次は、ちゃんと戦うさ)

『・・・・』

2人、黙り込む。
マダオの言わんとしている所は分かる。先の長門との一戦、どうも覚悟があやふやになっていた。
遭遇戦故の気の動転も多分に含まれてはいたが、どうにも集中力が続かなかったのだ。

最後の風遁・風神砲弾への対処の仕方など、戦闘思考のキレもいまいちだった。

『まあ、相手の方も強かったしね・・・殺気も凄かったし、弱気になるのは分かる。失敗するのは仕方ないかもしれないけど』

次は恐らくないよ、とため息を吐くマダオ。

そして小さい声で何事かを呟いた。

(ん、今なんか言ったか?)

『いや・・・まあ、次は大丈夫だろうと思うから。今は心の安息を優先した方がいいかもね。明日は恐らく戦闘になるだろうし』

(・・・ああ。言われなくても分かってるよ)



そして、夜。夕飯時を過ぎた後、そろそろ店を閉めようかとした時だった。


少し離れた場所にいる、一人の男がこちらの方を見ていたのだ。

男は懐を何度も探りながら、ため息を吐いていた。みれば、随分と薄汚れた格好をしている。

(何だ、あいつは・・・まあ、随分と汚い格好をしているな)

着物自体はそう悪くない。水色をした羽織に、赤い帯。俺は服に関してはからきしなのでそれがどうなのかは分からないが、それでもそれなりに映えるものだとは思う。

だが、あちこちに付いている汚れがそれを台無しにしている。まるで浮浪者のようだった。

(それなのに、パイポみたいなのをくわえているし・・・うむ、訳が分からん)

見るからに怪しい。とても怪しい。

俺としては正直関わり合いになりたくない手合いのだが、あんなにじっと見つめられると無視もできない。

『・・・どうやらあの男、お金を持って無いようだね。それでも食べたくて一生懸命ポケットを探している、と・・・・どうする?』

(いや、そりゃ、見れば分かるんけどなあ・・・というか、何度も探しては諦めを繰り返しているのは)

なんでだ、とマダオに聞く。

『あー、もしかしたらポケットのどこかにお金が入っているかもしれないっていう淡い希望にすがりたいけど世界って優しくないよね?』

(然り。切ないね。ううむ、どうしようかなあ・・・・材料もちょうど2人分余ってるし)

ちょうどいいか、と言いながら立ち上がる。

まあ、残った材料の事もあるし・・・捨てるよりはいいだろう。


そう思った俺は、周囲を見回し、近くに誰もいないのを確認した後、その男に向かって手を振りながら大声で聞く。

「おーい。ラーメン食べるか?」

すると、男は有り得ない速度でこちらに近づいてきた。

そして口のパイポのようなものを口から放し、「・・・いいのか?」と低い声で聞いてくる。

「ああ、いいよ」

あまりの男の俊敏さに、俺はびびった。だが、余程お腹が空いているのだろうと解釈し、再び言葉を返してやる。

「・・・しかし、俺には持ち合わせがない」

男は呟き俯くとパイポを加え、こちらに背を向けてその場を立ち去ろうとする。

「・・・いいよ。代金はツケで」

だが、俺の言葉を聞いて男は硬直した。

予想だにしない解答だったのだろう。一歩踏みだそうとしたままの体勢のまま、全身が硬直している。

「どうする?」

そのまま動かない男に対し問いながら、再び俺は苦笑する。

(ま、いきなりこんな事を言い出した俺に対して、不信感を抱いているのかもしれないけど・・・)

その言葉を聞いた男がどうするのかなんて、分かり切っていた。

なんせ、死角になっていてこちらからは見えないが、男が加えていたパイポから次々とシャボン玉が出てきているからだ。


『背に腹は変えられないってやつだね。一名さまご来店~』

(しかし、色が無いな)

『ほっといてよ』

『・・・・』



数分後。

「お待たせ」

塩ラーメンは嫌いだというので、豚骨ラーメンを出して遣った。

「・・・・!!!」

そのラーメンを出された男は驚き、目を見開いた。

それはそうだろう。何せ、火の国の宝麺・豪華バージョン。宝船のように具だくさんにチャーシューを多めにした、まさに至高の大盛りなのだから。

具が余っていたのと、先程の見事なリアクション芸を見せて貰ったお返しとして。また腹を空かせているだろうと思っての大盤振る舞いだ。

『おーおー、上手そうに食べてるねえ』

(だろ)

上に山盛りになった角煮にかぶりつき、その肉汁を口の中で堪能している。

この2年の間、孤児院での子供達や現場でのおっさん達から感想を聞き、修行に修行を重ねたこの腕。

砂隠れでの塩を気持ち程度にいれて出来上がったスープ。

深みがあり、しつこくなく、後味良く。この三つの点に気を配った至高のスープだ。

時間が無かったので麺は店で買ってきたものとなったが、それでも上手いこと間違いなしだ。

添え物のモヤシを食べる音。新鮮なものを選んでいるので、噛むたびに口の中にしゃきしゃきと音がしているだろう。

そして、自家製のメンマ。加え、今回は半熟玉子も加わっている。

『それでいてどの味も殺されていないんだよねえ・・・まさに職人。腕を上げたね』

それはそうだ。子供達の真っ正直な感想と、おっさん達の罵倒に耐えながら研鑽を積んだこの2年。

感想に胸を貫かれ、罵倒に全身を締め付けられながらも、俺は諦めなかった。

涙で枕を濡らしながらも、試行錯誤を加え、やがてはほぼ誰の口からも“上手い”という言葉を引き出せるようになった。

『それでも油あげラーメンは未完成なんだよね』

(そうだなあ・・・噛み合う具とスープ、そして麺。未だに未知の部分が多いから)

どうにもぴりっとくるものが無い。

だが、こちらはほぼ完成といっていいほどに極まった一品。

見れば、音を立てて麺をすする男の姿がある。一心不乱のその視線、まるでラーメン以外のなにものも見えていない様子だった。


そして、食べ終わった後。

「・・・本当にいいのか?」

「ああ、いいよ。まあ今度あった時にはきっちり取り立てるけどな」

笑いながら告げてやると、男は「・・・分かった」と頷きながら、居住まいを正した。

「・・・俺はウタカタ。店主の名前は?」

「小池メンマだ」

「・・・分かった。小池メンマ氏。この借りはいつか必ず返す」

「・・・おう。で、俺としてはこっちの方の感想を聞きたいんだけどな」

からかうように言ってやる。

すると、男は腕を組んで黙り込んだ。

「え、もしかして不味かった?」

『いや、そんな今にも死にそうな表情を浮かべなくても』

男も俺の顔を見たのだろう。慌てた様子で急に話し出す。

「いや・・・俺は、そう、人に何かを伝えるのには慣れてなくてな」

と前置いて。

ウタカタは率直な感想を言ってくれた。

「こんなに、暖かいものを食べたのは、美味しいものた食べたのは生まれて初めてだ」

本当に、美味しかった。どうも、ありがとうと頭を下げるウタカタに対し、俺は心からの笑顔を浮かべながら言った。


「ありがとう・・・まいど。また、縁があれば」

「ああ」

そう言って立ち去る男の背中を見ながら、俺は一息をつく。

「・・・行ったな」

『そうだね。しかし、随分と大盤振る舞いだったけど、良かったの?』

「ああ、景気づけだ。これから先、何があるか分からないからな」

もしかしたらラーメンを作れるのは、今日が最後になるのかもしれない。

「それに、あの笑顔と言葉は俺にとって一番の薬となるからな」

その笑みが深ければ深いほど。その言葉が喜びを帯びていれば。今度はもっと美味しいものを作ろうと、そういう想いが浮かんでくるのだ。

そして、俺の心も満たされる。そう、怖さも辛さも、つまらないもの全てが吹き飛んでしまうほどに。

『喜びは人を癒し、また人を強くする、か』

「決して一人では出来ない、人と接して分かること鍛えられる事ってな」

胸を満たすこの充足。それこそ金に換えられない、大切な感覚だ。

「・・・よし、そろそろ時間だ」

移動をする時間だ。俺は、店を閉める作業を始めだした。




そして、夜。

俺は一人で、木の枝の上にいた。

大樹の幹に背をもたれかけ、満月が輝く夜空を見ている。遙か昔に見たあの夜空より、星の数は多く、まるで賑やかな町を見ているようだ。

『星が綺麗だねー』

「そうだなあ」

マダオと2人、何も話さないまま夜空を見ている。

野郎2人で見る星空は、何処か濁って見えた。

『ちょ、それちょっと酷くない?』

「事実だろ。それより、キューちゃんの事だけど」

言葉を切って、俺はマダオにキューちゃんの事を聞く。

「なあマダオ。キューちゃんは本当に大丈夫なのか」

『うん。取りあえずはね』

考える間がない、用意していた答えを返すよう、即座の返答だった。

意識不明の状態から回復してこっち、キューちゃんの様子がどうもおかしかったのだ。

明らかに、以前より口数は少なくなった。その口調も、何処か暗いものを感じさせる。

その事についてマダオにも相談しているのだが、今みたいに「気のせいだよ」とか「疲れているんだよ」と簡潔に単語だけの言葉を返されるだけだった。

(何かがあるっていうのは間違いないんだろうけど)

落ち込み、ため息を吐く。

(そういえば、胸が痛まないな)

ふと思いついた俺は、自分の腹と胸の当たりを触る。

あれだけのチャクラを使ったというのに、その後に訪れる筈の痛みが、予想していたものよりもずっと小さかったのだ。

『まあ、この2年で随分とラーメンを作って、あちこち回ったからね』

例の魂の回復の度合いが大きいのだろう、とマダオが言う。

(だが、どうにもしっくりこないのは何故か)

この2人、何かを隠しているのだろうか。そんな事を思ってしまう俺がいた。

(しかし、直接聞いてもこの2人、答えてはくれないだろうな)

見た目に反して、根は頑固な2人だ。
おちゃらけていても、話さない事は話さない。俺が何度聞いても、それが必要でないならば、そして話したくないのであれば、決して説明をしてはくれないだろう。

(来るべき時が来たるまで、待つしかないのか・・・・ん?)

音は無い。だが、下方から人間の気配がする。

即座に構えるが、その気配の主が分かった途端、俺は警戒態勢を解いた。

「まいど、今夜も治療に来たわよ」

「いの、か」





「・・・これでよしっと」

今日の治療を終えたいのは、一息ついた後体調を説明してくれた。

「これでほぼ完治したわ。それにしてもあれだけの傷を負ったっていうのに、この数日でここまで回復するなんて」

と、いのが驚いている。

「それも体質です。それはそうと、治療ありがとう。これなら明日は戦えそうだ」

「・・・本当に大丈夫なの?」

「ん、何が?」

「いえ、あれだけの怪我・・・瀕死の重傷を負ったっていうのに、その、まだ一ヶ月も経ってないのに・・・」

随分と言いにくそうにしているいの。だが、続きの言葉を紡ぐ。

「また戦う事になるけど、怖くはないの?」

心配そうな表情でいのが聞いてくる。

『ほら、いのちゃんが心配しているのはあれだよ。戦闘恐怖症』

(ああ、あれか)

戦闘恐怖症。それは実戦に出始めの忍び、戦闘の際に大けがを負う事により発生する心の病。

程度にもよるが、場合によっては引退を余儀なくされるほどのものだ。

熟練の忍者をもってしても、怪我の痛みとかシチュエーションによっては発令する厄介な戦争病。

『そういえばいのちゃん、こうやって医療忍術を修得しているし、そのことについて心配するのは当たり前か』

「私も、あの時助けられた後は、その・・・恥ずかしいけど、修行も出来なくなるほど落ち込んだし」

一事はクナイも持てなくなるような状態だったらしい。だが、シカマル、チョウジ、キリハや親父達の助けもあって何とか克服したとのこと。

「え、ていうかあの時起きていたの?」

「少し前に目が覚めてた。パニックになったわよ」

それはそうだ。あのまま連れ去られていれば、まず間違いなく殺されていたのだから。

「だから、あの時は本当に嬉しかった。どうもありがとう」

と、いのが頭を下げる。

「どうしたしまして」

との言葉を返した俺だが、自分の頭をぽりぽりかきながらどうしようかと呟く。

(どうも、テマリに似た感触が・・・きっとそれは勘違い、あくまで吊り橋効果によるものだってのに)

テマリも、恐らくはそうなのだろう。

まあテマリの場合は、あのとき何よりも恐怖の対象であった守鶴を前に、敢然と立ち向かった俺~、とかそういった事を考えているのかもしれないけど。

でも、俺は見返りとか、そういう事を考えて助けた訳じゃない。あくまでその場にいたからだ。
だからそんな想いをぶつけられても正直困る。それにつけ込むっていうのもなんか卑怯だし。

『でも、面と向かって礼を言われて・・・悪い気はしないんでしょ? いのちゃんもテマリちゃんもヒナタちゃんも可愛いし』

(そうだなあ・・・・って言わすな。このマダオが)

それに吊り橋効果で結ばれた恋愛は長続きしないんだぞ。あのラーメン大好きなキア○・リーブスさんも言っていたんだし、間違いない。

そもそもそれは安堵の心と憧憬が混じり合った錯覚だって。

『錯覚大いに結構。恋愛自体大いなる錯覚だって倣家の長老が言ってた』

いや、確かに言ってたけど。

「・・・えっと、急に黙り込んでどうしたの?」

「え、いや考え事を・・・っていうか何を話してたっけ」

「え、あの戦うのが怖くないのか、っていうことだけど」

「・・・ああ、それ? そうだなあ。何て言うか、今更だし」

「今更ってどういう事? 見た限り大きな傷跡は無いようだし・・・負けるのはあれが初めてじゃ無かったの?」

その言葉を聞いて、俺は「ああそういう事か」と苦笑を返す。

「まさか。駆け出しの頃は、そりゃ何度か負けてるよ。死ななかっただけで。それに最近でも、無傷での勝利は少なかったしね。
それらの傷跡が無いのは体質だよ。自己治癒能力。人柱力ならばほとんどが体験していると思うけど、傷を負っても徐々に消えていくんだ」

それでも掌仙術の方がずっと治りは早いし、大きすぎる怪我は跡が少し残るんだけどね。

「だから、別に死にそうになったのはあれが初めてじゃないから心配は要らないよ」

戦うのが怖いっていうのは今でも変わらないけど、少女相手に口には出せない。格好悪いし。

「・・・そうなの。御免なさい」

いのが少し落ち込んだ表情になった。

俺は慌ててフォローをする。

「い、いや詳しい事を話して無かった俺も悪いんだし。気にしなくていいよ」

そも、正体を知ったのが一昨日ぐらい。それからあれやこれやで忙しかったため、俺が結構な戦闘を潜り抜けてきてると言うことを説明できなかったのだが。

『まあ、説明したとしても心配したと思うけどね。彼女、優しい娘だし』

今までの道程を遠目で伺っていたけれど、いのはどうやらみんなの姉貴分的な役割をこなしている。

キリハの話を聞くに、気配りも細かいし、決断力にも優れているらしい。

「心配してくれて、どうもありがとう」

「・・・どうしたしまして」

少し頬をかきながら、いのが言う。




「・・・何、2人で良い雰囲気を作ってるの?」

2人だけだった空間に、ある人物の声が入り込む。

「っ、キリハ!!」

いのが足場にしていて木の幹の裏側から、キリハが姿を現した。

「あんた、居たの!?」

「居たよ。具体的に言うとほぼ完治云々の下りからだね」

「聞く前に答えるな!」

「いたっ!」

いのがキリハに拳骨を落とす。

キリハは「いたたた」と頭を抑えながらも、俺に言葉を投げかけてくる。

「それはそうとお兄ちゃん、気づいてたでしょ?」

「・・・何の事やら」

と、頬をかきながら視線をそらす。当然、気配には気づいていたのだが空気的に声をかける事はできなかった。

「・・・お兄ちゃん冷たいなあ。いのちゃんはいのちゃんで、私に声をかけずにサクラちゃんに声をかけただけでさっさと行っちゃうし」

「・・・何の事?」

「ヒナタちゃんからの伝言。後で「お話」があるそうだよ」

「・・・・」

途端、肩を振るわせるいの。ヒナタはそんなに怖いのだろうか。

「お兄ちゃんもなあ。あのときの約束を守ってくれなかったし・・・」

「・・・あのときの約束?」

正直覚えのない俺は、キリハに聞き返す。すると、キリハの眼がきらりと光った。

「・・・覚えて、ないの?」

うん、ちっとも。

・・・と答えたかったのだが、あまりにもキリハの殺気がゴイスーでデンジャーだったので、俺は口を閉ざして貝のようにならざるを得なくなった。


「・・・一番先に会いに来てくれるって・・・言ってたのに・・・」


眼に涙を浮かばせながらキリハは詰め寄ってくる。

(そういえばそんな約束をしたような・・・!)

思い出すが、後の祭りであった。

「それなのに、帰ってくるなりヒナタちゃんの胸に顔を埋めてたそうだし」

ビックパイズ・ヒナたんですね。分かります。いや、俺は覚えてないんけど。

「いのちゃんと、今みたいに深夜満月の下でロマンチックに語り合うし」

いや、治療の後のただの雑談です。っていうか君も居たでしょ。

「カカシ先生とか自来也のおじちゃんとか、カンタロウさんと一緒に一晩を過ごしたらしいし」

人聞き悪い事を言うな! あとカンクロウね。

「・・・聞いたよ? 夜中まで、オパーイオパーイ言いながら騒いでたんだってね?」

いや、それは自来也先生のカップ講義があまりにも素晴らしかったので。おっぱいは決して怖くなーいから。
あと年頃の娘がおぱーいとか言うんじゃありません。


とかいう突っ込みも、キリハの迫力を前に口には出せなかった。


「・・・お兄ちゃん?」


ゴゴゴゴ、と背景に雷雲を携えてキリハが詰め寄ってくる。

「キ、キリハ?」

かつてないキリハの様子に、いのもたじたじだ。援軍は当てにならないだろう。

(マ、マダオ! ここはどうしたらいい?)

『・・・ピー。只今留守にしております。発信音の後に遺言を残してささっと覚悟をお決めになって下さい』

役立たず! くそ、かくなる上は・・・!


退いてはならぬ! 俺は虎、虎になるのだ!


そう、あくまで虎の如く生きるのだ。



「奥義、猛虎落地勢!」



そして虎が伏すような格好で土下座した。


踏まれた。

その上泣かれた。

痛かった。







「・・・なにはともあれ」

仕切り直して。

「・・・ええと、鼻血が出てるけど大丈夫?」

「問題ない」

と言いつつ、鼻をすする。

血が垂れた。

「・・・はい、これどうぞ」

いのは呆れた表情を浮かべながら、鼻紙を差し出してくる。

流石はいのの姉御。気配り上手に偽り無し。

「いのはきっと、いい嫁さんになるね」

鼻に紙を詰めながら、唐突に口に出す俺。

『・・・傍目で見てるとアホそのものなんだけど』

そうだね。

「・・・は? ええ!?」

でも、いのは俺の急な言葉を聞いた後、聞き返し、そして理解したと直後に驚きの声を上げる。

「・・・オニイチャン?」

「すんません。ほんとうにすんません」

眼光をギラリと光らせるキリハ。

理由は分からんが、取りあえず謝った。あのまま行けば頭からかじられそうだったので。

『・・・で。情報をまとめるんじゃないの?』

おお、そうだった。





「それで、滝隠れの動きとしてはどうなんだ?」

結界の中、地図を広げながらこれからの事、そして現在把握している状況について話をする。

「明日この場所に、人柱力のフウって娘を連れてくるらしいから、私たちはそこに向かう・・・んだけど」

「何かあるのか?」

「うん。火影様が言うに、滝隠れの里も一枚岩ではないそうだから。きっと、人柱力の保護についての案件、それに対する反対意見も出ていると思うんだ」

「まあ、一枚岩で団結している組織っていうのは少ないからな」

3人いれば派閥が出来る。木の葉でいえばダンゾウみたいなアレな立場の人が、滝隠れの中にも存在しているのかもしれない。
まあ、そこまで深くは探れてはいないのだが。

「保護についてのやりとりを交わしたのは、現滝隠れの里の長。そして、それとは別のグループがあるって事までは、把握してる。そのグループの構成員は、若い忍者達なんだけど・・・」

「ああ、才能溢れるエリート組ってやつね。それで、そいつらの派閥が今回の事について、何か反対意見を出しているとか、そういった情報はあるの?」

「・・・無い。時間が無かったから、確証は得られてはいないとのこと。あくまで推測の範疇だね。だけど、保有している人柱力を他国に大人しく引き渡すだけっていうのはちょっと、」

気性的にも、有り得ないと思うとキリハが言う。だが、それはおかしいのでは。

「・・・道中、あるいはその現場で某かの妨害があるってことか? でも、木の葉の使者相手に攻撃を行えば、今築き上げてる同盟関係もパー。
戦争を目前としているような状況で、そんな事をするかな」

報復もあるし、ただではすまないだろうと言うと、キリハは腕を組み、唸りながら話し出す。

「勿論、そうなんだけどね。だけど、どうしても何か違和感が・・・引っかかるものがあるんだ」

「・・・あんたの勘は頼りになるからね。万が一に備えていた方がいいか」

「そうだな」

「お兄ちゃんは臨機応変に対応して。何が起こるか分からないから」

「了解」

「ちょっとキリハ。そんな指示でいいの?」

「大丈夫だよ。お互いの連携を考えれば、私達だけの方が良い。それにお兄ちゃん、遊撃は得意中の得意でしょう?」

きっぱりと言い切るキリハ。成る程、判断に私情は挟まないか。

『上忍だからね』

いや、日向邸でのやりとりを見てると、とてもそう思えなかったもんで。

『どの口が言うのかな?』

この口で。いや、まあいいか。

「得意だ。あと、国境沿いの警戒だが、どの点が緩い?」

聞けば、現在は緊張状態にあるので、国境沿いの警戒が厳しくなっているとのこと。

火の国を出る者、火の国に入る者、全てを厳重に警戒しているらしい。

「ええと、ここと・・・ここらへんかな」

地図を指し、説明をするキリハ。

ふと、その耳に光るものが見えた。

「分かった。其処を抜けよう・・・で、キリハ」

「え、何?」

「その耳飾りの事だけど」

それは確かシカマルが特注した耳飾り。風遁術の制御、威力を助長する役割を担う職人渾身の作。

莫大な製作料を投入して仕上げてもらった、世界に二つと無い逸品だ。

『君も案外妹バカだね』

(いや、だって金余ってたし、シカマルの胃痛を少しでも抑えたくて)

そう思って作ったものだ。

「・・・やっと、気づいた?」

笑顔のキリハ。その頬は少し赤に染まっていた。

(・・・ああ、シカマル。お前、やったんだなーーー!)

こんな表情を浮かべると言うことは、シカマルの想いは通じたのだろう。

彼氏彼女の関係になっているのだろう。

(そう、2人は・・・ってあれ?)

ふと、違和感に気づき俺はいのの方を見た。

すると、何故か目頭を押さえながら首を振っている。

(え、何で?)

その疑問は直ぐに氷解した。


キリハが、耳にある碧色玉の飾りを触りながら、とある事を伝えてきたのだ。

「これ、お兄ちゃんのプレゼントだってね! シカマル君から受け取ったよ! 
今まで話振ってくれなくて、切っ掛けが無くて・・・どうしようかと思ってたんだけど・・・今、言うよ。どうもありがとう!」

すげえ可愛い、満面の笑顔でお礼を言ってくる妹さん。

だが、おかしいことがある。

『・・・あれ?』

あれはシカマルからのプレゼントの筈なのだが。

(・・・どういう事?)

そして、隣のいのはなにゆえ目頭を押さえたまま何かを嘆いているのだろう。

俺は分からないまま、キリハのべったり攻勢を受け続けた。



「じゃあ、また明日ね」

「ああ。おやすみ」

「おやすみー」

去っていくキリハ。そして、容態を見た後でいくからといういのと2人だけになる。

「・・・シカマル、ね」

「ああ」

「渡したんだけどね」

「うん」

「あのとき、中忍試験が終わった後だったしね。例の説得をし始めた頃でね。キリハは心身共に疲労していたから」

くっ、といのは首を振りながら話を続ける。

「それで、大好きなお兄ちゃんの事をね。薬になると思って、朗報になると思って、よかれと思ってね」

「・・・」

あとは言うまでもないだろう。

(シカマル・・・・あんた、アホや。アホすぎるで・・・・・でも、アホやけど)

思わず零れた涙を拭い、空を見上げながら心中で呟く。

((本物の漢やで))

いのと2人、瞬間心重ねて。


俺といのは夜空にシカマルの笑顔を思い浮かべながら、見続ける。



幾千の星が輝いていた。



「「シカマル・・・」」


無茶しやがってと言いながら。


2人は男泣きに泣いた。









ちなみにそんな2人の背後では、自分の名前を呼びながら空を見上げる2人に対し突っ込もうか突っ込むまいか考えている悩み多き青年。


最近は胃薬が主食となっている奈良シカマル上忍(16)の姿があった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十五話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/24 16:26

滝隠れの里の外れにある、森の中。

その最奥部にある、家。

そこら辺の木で取りあえず建てました感が一目で分かる質素というか滅茶苦茶な構造をしている家だ。

それを、少し離れた所から見ている、2人の忍びの姿があった。

2人は、東雲の模様をした服を着ている。

「・・・・あそこだな。気配がする。急ぐぞ、飛段。分かってると思うが、今度は油断するなよ」

「は、わあってるよ、角都よ。それよりもここを見つけるのに随分と時間がかかっちまったな・・・・例の、木の葉からの使者とかいう奴らがこの近くに来てるんじゃねえか?」

先の作戦の後、不測の事態により一度アジトに戻った2人は、リーダーから再び七尾回収の任を命じられた。

「だから急ぐと言ってるんだ。七尾の回収、邪魔されるわけにはいかん・・・まあ、足止めに関して、手は打ってあるのである程度余裕はあるだろうが」

「・・・ああ、あの滝隠れの若造かあ? 茶髪の・・・あれ、名前なんだっけ?」

顎に手をやって考える飛段を見た角都は、心の中だけで呟く。

(・・・相変わらず、興味の無い人間の名前を覚えられん奴だな)

「んあ、何か言ったか?」

「いや、何も言っていない」

「・・・いいけどよ。しかし、また俺らが使わされるとは」

飛段は面倒くせーな、と愚痴る。

「これは俺達のノルマだからな。仕方ないだろう。デイダラとサソリも、今は自分のノルマである一尾の回収に向かっている筈だ」

「・・・あれ、イタチと鬼鮫の野郎共はどうしてたっけ?」

「・・・イタチは相変わらずだ。お姫様の護衛で、鬼の国の外れに居る」

2年前からそこは変わらないだろう、と角都が飛段に告げる。

「あれ、それだと鬼鮫の野郎は?」

「・・・トビが失踪したからな。余った鬼鮫は、デイダラとサソリとスリーマンセルを組んで砂隠れだ。お前、聞いていなかったのか」

「ああ、忘れた・・・でも、随分と大仰な組み合わせなこって」

過剰戦力と言えるかもしれないが、念には念を入れて、とのリーダの指示に従っての新しい編成だった。

「あのペインが逃がした、九尾の抜け殻だったか。もしかしたら介入してくるかもしれん、ということでな」

用意は周到にだ、と貫禄の言葉を発する角都。

「・・・それにしてもペイン、か。いや・・・」

角都は虚空を見上げ、何かを口に出そうとしていた。

「・・・あ? 角都とよ、お前何かリーダーに含むものがあんのか?」

「いや、戯れ言だ。妄想に過ぎん、な。しかし飛段よ、お前は少し前からリーダーの事をじっと見ているようだが、お前こそ何か思う所があるのか?」

「ああ? いや、はっきりとは分からねーけどよ。あいつ、変わっただろ? それで、変わった後の姿というか雰囲気というか、何か、こう」

・・・俺に近い何かを感じるんだよ、とは口の中だけで発せられた。

「・・・お前にしては、はっきりとしない物言いだな。まあ、前と変わったというのは否定しないが」

「音隠れの糞蛇野郎共と組む、なんてなあ。以前のリーダーの性格というか、気性なら、有り得なかっただろ」

「・・・ふん、デイダラあたりは、未だに納得していないようだがな。利害の一致だ。合理的とも言える。
まあ互いの利害、利益が異なった時にはどうなるか分からんが。しかし、お前に似た雰囲気、か・・・・」

「あん? 何か言ったか角都よ」

聞かれた角都は首を振って、思い過ごしだということにした。

「いや、何も言っていない。それより急ぐぞ、相棒」

「はっ、りょーかいりょーかい。じゃあいっちょやってやりますかあ!」


飛段の鎌が、勢いよく抜かれる。



---そしてその勢いのまま、後方にある枝にぶつかった。

枝だが切り裂かれて、落ちる。


「・・・あ」

切り取られた枝は当然の事ながら自由落下。

勿論、大きな音を立てながらだ。

「え・・・・」

直後、家の中にある気配が揺れた。

「・・・あ、じゃないだろこの馬鹿。標的に気づかれただろうが!」

「のあっ!?」

こめかみに青筋を立てながら、角都は飛段のこめかみに蹴りをぶち当てる。踵だった。

ヤクザキックを喰らわされた飛段は、そのまま木の枝の上から落ちた。すわ頭から落ちようかという体勢だったが、すんでのところで回転、足から着地する事に成功する。

「危ねえなおい、死ぬところだったろうが!?」

「お前が死ぬか! いいから急げこの馬鹿!」

「うるせえ、このジジイ! 死ななくてもスーパー痛かったじゃねえか! 後で覚えてろよお!」


不死コンビは怒鳴りあいながら、フウが居る家へと向かっていった。






同時刻。

「もう大丈夫なの、キューちゃん」

『ああ・・・心配をかけたな』

「いや、まあ・・・心配したけど。それで、もう普通に話せるの?」

『ああ。大丈夫、大丈夫じゃ。それで、七尾の人柱力を迎えにいくのじゃろう?」

「今向かっている最中。それで、キューちゃんは七尾がどんななのか知ってる?」

『いや、知らん。互いに交流など無かったからの』

「そうなんだ・・・おっと」

『どうした?』

「いや、前の団体さんに気づかれそうだったんで」

『・・・しかし、まるで追い忍だね。このストーカーっぷりは』

「・・・それは言うなよ。でもまあ、遊撃だから。隠れている方が襲われたとしても不意打ちしやすいし」

不意打ちは俺の得意技です。

『・・・胸を張ってまでいう事か。しかしまあ、戦いは機先を制する者が勝つというしな』

「そうそう。それに、もう此処からは前情報なんぞ当てにならないし」

それで先日痛い目見ましたし。もう油断はしないです。

・・・いや、あれは不可抗力なんだけどね。というか想像できるか、あんなもん。偶然にも程があるだろ。

ちくしょう神様何て大嫌いだって、あれ神様じゃん。うん、納得した。

『まあ、近い能力は持っていたね。断言するけど、あれうちはマダラ並か、もしかしたらそれ以上に厄介な相手だよ』

そうだよなあ。あ、そういえば。

「砂隠れに現れるかもしれんなあ・・・残っているサスケ達は本当に大丈夫だろか」

『・・・流石に、いち組織のボスが各地をうろちょろするのは無いと思うけど。あれは木の葉襲撃の際の事態の行く末を見ていただけと思うよ。あとは、ほら・・・岩とか霧の忍びを操っていたとか』

「まあ、十中八九それだろうなあ。あの後すぐに退いたって事を考えても。まあ、砂隠れには現れないだろうって、俺も分かってはいるんだけどね」

『・・・いやいや、あやつらも2年半前より格段に強くなっているじゃろうが。そう神経質になる事はないだろうに』

「いや、まあ、そうなんだけどね」

あの長門の力を見たら、どうにも不安になってしまう。もしかしたら何でもありなんじゃないかって。

『策も練ってるみたいだしね。それにしても五大国のどの里にも悟らせないであの規模の作戦を敢行するとは・・・あの長門、暗躍も大分いける口と見たね』

「酒みたいに言うなよ・・・かくなる上は各自が対処していくしかないのかあ」

ややこしい。

『大まかな流れは里の長が決めるでしょ。僕たちは暁を削るのと、人柱力狩りを防ぐ事に専念すれば良いと思うよ』

「それだけか?」

『うん。事態が本格的に動き出すのは、雷影殿が回復してからだろうし』

聞くに、どうも雷影さん、一方的にやられてただ黙ってるような性格じゃあないらしい。

「まあ、現状俺達にできることは、この任務が無事終わるよう木の葉側の部隊をサポートすることだけだね」

『うむ。しかし、前方のあやつらも・・・以前とは見違える程に腕を上げたの』

「あ、キューちゃんもそう見た? そうなんだよ、結構きつい修行をこなしてきたみたい」

『そうじゃの。温泉でも・・・そう言っておったし』

何かを思いだしたのか、キューちゃんの顔が赤くなるのが分かった。

『うん、相当に鍛えられてるよ。キリちゃんもシカマル君も、上忍に相応しい能力を持っているね。他のみんなも、それに近い実力を持ってると見たよ僕は』

「そうだなあ・・・」

赤い狐、ばれるの怖いなあ

まあキリハとシカマル達が話さなければばれないだろうけど。

「あ、そういえば波風キリハの兄である“うずまきナルト”に関しては、全員がその情報を与えられてるんだっけ?」

『・・・中忍になったと同時に聞かされたって言ってたじゃない』

「あ、そうだったっけ。しかし、中忍か」

どうにも、中忍というと不安感があるなあ。

『いや、ただの中忍じゃあないよ。みんな独特の秘術を保持しているからね』

木の葉の旧家・名家の秘術と血継限界、か。

確かに、どれも凶悪な性能もってるな。

『まあね。それに、その秘術があるからこそ、木の葉は大陸一の忍び里で居られたんだよ』

数に質って事ね。特定の戦場では鬼のような効果を発揮するだろうしなあ。

「・・・成る程。流石は木の葉隠れの里。隙が無い」

里は古く、歴史もある。人材も豊富で、里全体の総任務回数も大陸一だろう。故に、術開発も進んでいるらしい。

ということは、人材も豊富。戦力が減ってもすぐに補充が可能って所か。

『それに木の葉は気候的にも恵まれていて、人間も動物も、等しく住みやすい環境だしね。好きこのんで離れていく人は少ない』

『・・・それでいて食材も豊富、だったか』

そうだね。前に木の葉に留まっていた要因でもあるしね。

「それ故に色々な思想を持つ人間も出てくる。派閥もできやすい、か」

『それは否定しないね。ま、木の葉の忍びには濃い性格持っている人も多いし』

「・・・それに関しては、店を開いた初日に理解したよ・・・・ん?」

歩を進めながら話をしていた途中、気配を感じた俺はその場に立ち止まり感覚を集中。

より深く、探る。

「・・・滝隠れの忍か。いや、それにしても」

『いやいや、随分と数が多い。こりゃあ一悶着あるかもね』

何かあるかもしれないから、用意だけはしておいた方がいいか。

そう判断した俺は、前を歩く木の葉一行と、それに近づく何者かの動向を注視し始めた。




一方。

キリハ達は、指定された約束の場所である虫鳴峠まで、あと少しの地点まで辿り着いた。

だが。

「もうすぐだね・・・って・・・・あれ?」

そこで、キリハは足を止めた。

「・・・気配、だね・・・誰か近づいてくる」

こちらに近づいてくる複数の気配を察知したのだ。

「警戒を。気を抜かないでね」

いつでも戦闘態勢に移れるように、と言う。

「「「了解」」」

気配を隠して接近してくる訳でもないので、敵襲という可能性は薄い。だが、場所が場所であるため、キリハは全員に注意を促す。


そして、その後。

気配の主が姿を現した。


「こんにちは」

「・・・こんにちは」

現れたのは、滝隠れの忍び。額当てを見るに間違いないだろう、とキリハは判断した。

「・・・あなた方が、木の葉の?」

「はい。木の葉隠れの上忍、波風キリハと申します。あなたが、迎えの人でしょうか? 指定の場所から、少し離れているようですが・・・」

「・・・そのことについては、お詫びします。お恥ずかしい事ですが、指定の場所に関する情報が外部に漏れてしまったようで」

「それで、この場所まで迎えにきた訳ですか・・・」

キリハは迎えに来た面々を見渡し、話を続ける。

「話では滝隠れの長様が直々にお出迎えになられるとの事ですが・・・・あなたが、シブキ様で?」

そう言うと、男は苦笑しながら首を振る。

「いえ、違います。失礼しました、私の名前はシグレと申しまして。長は、その・・・フウめやらを捕らえる際に、負傷してしまいましてね。代わりとして、私が使わされました」

「それは・・・・長様は無事で?」

「はい。命には別状ありませんが、今は安静の身でして・・・その、急な話で本当に申し訳ありません」

「はあ・・・」

そこで、キリハは考える。この滝忍の言葉を聞いて、考える。


・・・話としてはおかしくない。

“話は”おかしく、ない。

「・・・そうですか。それで、その人柱力の少女は?」

「只今、こちらに・・・・」

茶髪の、恐らくはリーダー格の男は、後ろの者に何かを命じている。



数秒の後、森の暗がりから、少女が姿を現した。


陽に当たる草原のように、黄碧の色をした髪。

そして、やや赤を帯びた橙色を灯す瞳。

赤い巻物を背に、随分と活発な服装をしている。

以前見た、少女と同じ容姿、同じ服装。

「・・・彼女が?」

一応、確認する。

「はい。彼女が七尾の人柱力で、名をフウと申します」

笑顔のまま、男は答える。

キリハも笑顔を返し、ただ心の中だけで“成る程ね”と呟いた。

「承りました。ですが、シグレ殿? お出迎えにしても・・・随分と数が多いのでは?」

「ええと・・・すみません、それには事情がありまして」

キリハの問いに、シグレは困ったような表情を浮かべる。

周りにいる者達は、シグレと同年代か、それより年下である若い忍ばかりだ。

「恥ずかしい話、滝隠れの中でも、人柱力を渡す事に反対する者が居ましてね。万が一の事を考えて、この人数でお出迎えを。木の葉の方々に何かあれば事ですから」

と、シグレが笑う。

「これ以上は、その。お耳汚しになってしまいますので。申しわけないのですが、出来れば説明は控えて頂きたく」

「いえ、当然の事です。了解しました」

キリハは滝の面々を視線だけで見渡した後、一つ息を吐き、シグレに向き直る。

「分かりました。ですが、後、一つだけ。聞きたいことがあるのですが」

「何でしょう?」

キリハは一本指を立てて訊ねる。



「“これ”は、あなた方の独断という事でよろしいのでしょうか?」



キリハが、笑顔で訊ねる。


その言葉を発するか、発しないかのタイミングで。


ザッ、と。

誰かが、土を蹴って走り出す音がした。



「・・・死ね!」

勢いよく飛び出したのは、今まで黙って俯いていた少女、フウ。

彼女はクナイを構え、シグレと会話中であるキリハの元へ迫っていく。


一歩踏みだし、走る。


そして4歩目を踏み込んだ時には、間合いの中に標的を捉えていた。

スピードで言えば中忍でも上の位階だろう。

加え、全くの不意打ち。


通常ならば“やれる”間合いだ。

警戒していなければ避けられないだろうタイミングで、刺客は手に持ったクナイで、キリハの首を突き刺そうとする。



だが。


「ぐあっ!?」


悲鳴を上げたのは、刺客の少女の方だった。


「・・・随分と、いきなりだね?」


キリハは首を目掛け突き出されたクナイを左手で横に捌き、同時に右の掌打で相手の胸部を打ち据えていた。


「それに、余りにも・・・下手すぎる!」

「ぐっ!?」

まさか不意の一撃を避けられるとは思っていなかったのだろう。刺客は、予想外の事態に身体を硬直させてしまう。

その隙を付いて、キリハは右の回し蹴りを放った。回転半径の小さい、鋭さと速さを重視した回し蹴りである。

「ぐあっ!?」

こめかみにその蹴りを受け、少女は吹き飛ばされた。


音が鳴り、煙が発生する。


---そう、“変化の術”が解けたのだ。



「やっぱりね」

呟きながらキリハは周囲にいた忍び達に向き直る。

「ひの、ふの・・・森に隠れているのを含めて、24人か。それで、あなた達? これはどういう事でしょうか」

「・・・」

言葉を受けた忍び達が目に見えて狼狽える。

だが眼前の男、シグレだけは笑顔を保持したまま、動かない。

そのまま、キリハに言葉を向ける。

「・・・一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「何なりと。あと、これは勘なんですけど」

一泊置いて。

「あなたには、敬語は似合わないかな。そんな感じがする」

さっさと本性を現したらどう? とキリハが言う。

シグレは「随分と、勘の鋭いお方で」と前置いた後、能面のような表情と共に言葉を通常のものに戻した。

「それで、奇襲に気づいたのも、お前の勘か?」

男の様子が一変した。気配も鋭くなり、威圧感を発してくる。

同時、目に見えて、周囲の忍び達の気配がより一層鋭くなった。

それに呼応し、キリハの後ろにいるシカマル達の気配も濃くなっていく。

戦闘態勢である。

「まさか。勘は勘。そんなに便利なものでもないよ。それに、勘に頼る程でもなかったから・・・・えっと、気づいた理由だっけ?」

そんな中、キリハだけは様子を変えずに肩をすくめ、相手の要望に応えその理由を説明しようとする。

「・・・簡単だよ。あなた達、ヒナタちゃんの方を意識しすぎだった。あれだけあからさまな挙動を取られたら、ねえ?」

ヒナタを気にする。つまり、“白眼が発動されていないか、また発動されるのではないか”と警戒していたのだろう。

シグレ除く、若い忍び達は、明らかにヒナタの方を注視していた。

「隠し事があるって宣伝してるようなものだよ。あと、あの人。変化の術下手すぎ。加え、辛抱足りなさすぎ。
わざと隙を見せた途端、速攻で襲ってくるとか・・・少しは気づかれてるかどうか怪しもうよ」

そこで一息、ため息を吐く。

「・・・それで、シグレ殿。これは一体、どういうことなんだ?」

是非とも説明して頂きたい、と少し後方にいたシカマルが一歩前に出て、シグレに訊ねる。
周囲への注意も怠らない。正直、いつ飛びかかられるか分からない状況だ。

飛びかかってこないで、未だ余裕を保っているのはこちらを甘く見ている証拠だ。
数で劣る俺達など、いつでも殺せると思っているのだろうが。

「どうもこうも」

その余裕を信じている男は、肩をすくめたままシカマルの問いに答える。

「木の葉にアレは渡さないと。そういう意味だが?」

「・・・アレ?」

キバは赤丸に乗ったまま、シグレに訊ねる。

「・・・あの、虫娘の事だ」

ふん、と鼻で笑って男は忌々しげに答える。

「確かに、あのような化け物など滝隠れの里には必要のないものだ。里が決定した“誰かに渡す”という点に関しては同意もしよう。だが、それも相手による」

淡々と。

「我らは弱小の里。それは理解している。だが、そんな我らのような小里にだけしか分からない事もある」

事実だけど告げる。

「・・・勝ち目に乗る、ということだ。次に起こる戦争、何処か勝つかなんて事は分かり切っている。それを、里の爺共は分かっていない。
現状の維持だけに精一杯で、視野が狭くなっているのだ」

「あんたは視野が広い、ってこと?」

いのが嘲笑を浴びせかける。

「そうだ。俺は、力を見た。あの方の圧倒的な力を、な。あれが唯一、絶対なる力というものだ」

男は、少し興奮しているようだ。

「・・・あの方? もしかして雨隠れの長の事?」

「そうだ。あのような力、俺は今まで見たことがない。正しく、神の所行だった」

その言葉には、信仰に誓い響きを感じた。力に対する信仰だろうか。男の瞳は何処か危うい光りを灯していた。

「だが、里の爺共にそれを話しても理解しようとしない。聞くこともしない。だから、俺が引っ張っていくのだ。
お前らの死体を以て新たなる同盟を結ぶ決意とする」

これは滝隠れのためだ、とシグレは傲慢に語り出す。

「フウっていう少女も、その取引の道具と言う訳?」

「勿論だ。主の言うことを聞かない兵器など、危なくて仕方がない。それに、化け物には化け物に相応しい使い方があるだろう・
・・・何、最後に人様の役に立てるのだ。あの小娘も本望だろうて」

尾獣、もしくは人柱力の“正しい”使い方だと。

言いながら、シグレは下卑た嗤いを零す。

「・・・よく口が回るな。それに、俺達にそこまで話していいのか?」

シノが無表情を浮かべたまま、男に尋ねる。

「何、冥土の土産だよ・・・どうせ、誰にも話せない」

皆殺しを宣言する男を見て、シカマルは目を細くする。

(・・・加え、背後の忍び、恐らくは同士の意志を統一し、更に強めるため、か)

包囲が狭まっていくのを感じる。まだ、増援が居たようだ。




「・・・随分と、まあ語ってくれるもんだね」

キリハは俯いたまま、2週間ほど前に見た少女の姿を思い出す。

痛みに顔を顰め、森の方へと逃げていった少女。あの苦痛を浮かべた顔、そして流れていた血の赤。

兄と我愛羅以外の人柱力を見たのは、初めてだった。

「前に、フウって娘を見たけど」

そして一目見ただけで分かった。
あの少女も同じなのだと。

あの表情。あの血。あの姿。あの瞳。

「・・・血を流して苦しんでいたよ。ああ、そうよ、人間じゃない。なのに・・・・道具? 兵器?」

キリハは血が出るほどに拳を握りしめ、歯を軋らせながら、叫ぶ。

「人柱力って言ってもさ! ・・・尾獣が封印されているだけの、“人間”じゃない! 苦しみもすれば、痛みも感じる、人間じゃないか!」

叫びと共に、キリハのチャクラと殺気が膨れあがった。

「誰も彼も人間じゃない! 人間を、道具扱いするな! 都合のいいように理屈だけならべて、さも当たりまえのように言うんじゃないわよ!」

人柱力を“そういうものだ”と決めつけて、死ねと言う。
人間を見ないで、ただ誰かが並び立てた理屈を信じて、死ねと言う。

流す涙も血も見ないで、ただ死ねと言う。
キリハはそれが我慢ならなかった。

確かに、危険な存在だ。だがそれだけで死ねと言う、道具扱いする、兵器と信じて疑わない人達。

---ふざけるな。

「そんな理屈、認めない」

「・・・な・・・・風?」

同時、キリハを風が包み込む。

チャクラに反応した耳飾りが、風を生み出しているのだ。


「・・・誰にも話せない? こちらのセリフよ」


目に見えて膨らんだチャクラを前に、滝隠れ忍び達が一歩後ずさる。

キリハはシグレを指さし、告げる。


「あなただけは許さない。これ以上誰にも、そんな巫山戯た理屈を語らせはしない!」


「・・・戯れ言を! 全員かかれ!」

シグレが号令をかける。

だが、それと同時に何かが飛来する。


「なっ、起爆札!?」

それを視認したシグレが、叫ぶ。

木の葉一行の後方から、起爆札付きクナイが複数飛んできたのだ。


「散開!」

爆発から逃れるために、散開する。


一瞬後、爆発。

滝隠れの忍び達は被害を受けなかったが、包囲が崩されてしまう。


シカマルは、クナイと同時に飛んできた、チャクラが篭められた紙飛行機を受け取り、それに書いていた文を見る。

(・・・思っていた通り。足止めの可能性が高いか)

そして、こうも書かれていた。

“こちらは先にフウの方を保護しにいくが、それでいいかと”

「・・・」

シカマルは言葉を発さず、腕を上げる。

それは“OK”の合図。


そして号令を発する。

「全員、行くぞ! ここを死守だ!」

シカマルの号令と共に、木の葉側も小隊単位で散開し、切り込んでいく。



死闘が、始まった。




一方、起爆札を投げた本人は、シカマルの合図を受け取って、森の奥深くまで入っていった。

「・・・あの野郎の物言いはかなりむかついたが・・・」

言いたいことはキリハが言ってくれた。あとは信頼して、任せよう。

『そうだね。でも、その場所が分からないけど』

「このままじゃ埒があかんな・・・ひとまず、上に昇ってみるか」

付近で一番背の高い木を見つけ、それに飛び移る。足底をチャクラで吸着、てっぺんまで登っていく。

「・・・・」

そして、フウの家があると思われる方向を見る。


「・・・・あそこだ!」

一カ所、煙が立ち上っている所を発見。

『かなり、離れてるね。絶賛戦闘中みたいだけど、このままじゃ間に合いそうにない』

どうするの、とマダオが訊ねてくる。

「手はある・・・だけど、策が無いな。いや、迷っている暇はない・・・」

『・・・それならば、こういうのはどうじゃ?』


キューちゃんが角都・飛段コンビに対する戦術案を提案。

それを聞いた俺は、成る程と頷く。

「・・・確率は五分だけど、まあ上等か。もしかしたら行けるかも。流石キューちゃん、えげつない!」

『年の功だっちゃわいねー!』

『お主ら好き勝手言ってくれるのぉ!』

ってまあ、説教は後で!

「じゃあ、行きますか! セット!」

懐から札の付いたクナイを取り出し、右手に構える。


『・・・飛ぶの?』


「応!」

まず始めに、俺は木のてっぺんに足底を吸着。

目的の方向に向け、直立。

「・・・!」

呼吸が止まる程に。その場で、全身を捻る。

ぎりぎりと筋肉が音鳴る程に、全力で全身を捻転させたのだ。


そしてねじりの果て、引き絞った果てで一瞬、硬直させる。


「・・・っ!」


そして、一気に解放する。


「いけええええええええええ!」


回転の勢いそのままに。

俺は煙が立ち上っている場所目掛け、手に持ったクナイを全力で投擲する。


「・・・・角度よし! 飛距離よし!」



先端が重くなっているクナイが、空を駆けていく。



「・・・準備よし! 覚悟よし!」


フォロースルーも束の間に。

クナイの着地点を確認した後、俺は自らの掌に拳を打ち込み、自らを鼓舞する。


これから赴く場所は、死地だ。

この目で見てはいないが、相手は恐らく暁だろう。



それをしっかりと認識し、把握して決断する。

行くか。
逃げるか。



「・・・誰が逃げるか!」


俺は選ばない方を蹴り。


選びたい方を叫んだ。




「小池メンマ、行きます!」


そして、投げたクナイに刻まれた印の元へ。



「ジャンプ!」


俺は飛雷針の術を使い、飛んだ。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十六話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/25 23:07



「・・・痛、い」

折られた肋骨が痛む。穴の開いた右足が痛む。

殴られた頬が痛む。焼かれた左手が痛む。

視界が霞む、腹に力が入らない。



---身体の各所に受けた傷が、呟いてくる。



その囁きを聞いたアタシは、意識を失いそうになった。

それも、何とか耐える。ここで意識を失ったら、何もかもが終わりだ。

だが、全身を襲う疲労は酷く、このままでは時間の問題とも言える。



---また、囁きが聞こえる。


「・・・誰が」


自然、口から出る言葉。

強がりだと自分では分かっていても、発せざるを得ない。

黙ったままだとそのまま負けてしまいそうだったから。

でも普通に立つこともできなくなったアタシは、木にもたれかかる。



そして、自分の元へと近づいてくる2人の男を睨んだ。


「・・・終わりだな七尾。諦めろ」



目の前の、眼孔鋭い男の忍びが告げてくる。

見れば、滝隠れの抜け忍らしい。


「そうそう。これ以上時間かけさせんなって」


湯隠れの抜け忍であろう、銀髪の男も、同じ事を言ってくる。

変な呪術を使う男。身体中に紋様を浮かべ、こちらをあざ笑っている。




「・・・何がおかしい?」



「・・・いや、みんながおんなじ事を言ってくるもんだから、さあ」


全身を襲う痛みが、言う。

---諦めろ。

全身を襲う倦怠感が、言う。

---諦めろ。

目の前の、男達が言う。

---諦めろ。

滝の忍び。あのいけ好かない野郎を思い出す。あの男の口癖だったな、そういえば。

---諦めろ、楽になれ、なんて。



「だ、れが・・・諦めるか」

チャクラも残り少ない。もう羽根を具現化させて飛ぶ事もできない。

勝ち目が無いなんて、分かり切っている事だ。


「最後まで・・・足掻いてやる」

だが、認めない。

今諦めてしまえば、今まで頑張ってきた意味が無くなってしまう。

それに何かを諦めて楽になれる筈なんか無い。諦めればそこで終わってしまう。次も無いし、先も無い。


「・・・仕方ないな。飛段」

「りょーかい」

地面に描かれた怪しげな紋様の上に立っている銀髪の男が、“また”自分の足に黒い刀のようなものを突き刺した。


「っあああああああっ!?」

同時、“また”自分の足に穴が開く。

今度は左足だった。

激痛に、立っていられなくなったアタシは、その場に崩れ落ちる。


「・・・これでちょこまかと逃げられなくなったな」

目の前の男が、近寄ってくる。

アタシを捕獲しようとしているのだろう。



「・・・糞。畜生。バカヤロウ」


薄れていく意識の中、あらん限りの罵倒を繰り返す。

そして、過去の思い出が頭の中を駆けめぐる。


これが、シブキ様が言っていた走馬燈というやつだろうか。



---何をした。

一生懸命、滝隠れの里のために働いた。それが悪かったのだろうか。

---アタシが何をした。

忌み嫌われようが、疎まれようが、居場所は此処にしか無かった。だから頑張ったのに。

---アタシが一体、何をした。

だが、力を付けていけば行くほどに。里の忍びから向けられる視線に含まれた色は、黒く歪んでいった。

『嫉妬』、『忌憚』、『畏怖』。

アタシの中の虫野郎、七尾は単語でしか物事を語ってくれない。

それを里長に聞くと、何故か申し訳ない顔をしていた。手を差し伸べてはくれなかったけれど。

---アタシは一体、何をしたんだ。

あの視線を思い出す。追い出された日を思い出す。

・・・暴走した日を思い出す。一体どこからきたのか分からない、たくさんの黒い感情。

衝動に身を任せたあの日。何もかもを諦めたあの日の事件。

『憎悪』だと。虫野郎は、そう言った。


当然滝隠れの里に残れる筈もなく、アタシは追放された。

そして、この家にたどり着いた。森の奥にあったこの家に。

誰が作ったのか分からない、この家。始め足を踏み入れると、虫野郎は言った

『不変』、『再帰』とだけ。

その意味は分からなかったけれど、虫野郎にしては珍しく何処か悲しげな声だった。


目の前の男が近づいてくるのが分かる。

そして、その意味も分かる。


これが所謂、アタシの結末という奴なのだろう。

全てを思い返し、考える。一体、何が駄目だったのか。何がいけなかったのか。

大人しく道具であれば良かったのか。あの野郎、シグレが言うままに兵器として在れば良かったのか。

しかし、言うとおりにしたとしても。其処には“アタシ”は居ない。それで良い筈が無いのだ。

(じゃあ、どうすれば良かったんだよ)

その問いに答えてくれる人もおらず、祈るものもなくここで終わるというわけだ。

そこで、アタシは理解した。



身体を襲う激痛と疲労感。そして目の前の男が言っている意味が。

諦めろ、と。楽になれ、と。

ああ、そうか、そういう事か。


---死んで、楽になれと言うのか。


理解したと同時、視界が黒に染まった。限界が訪れたのだ。

だが、その一瞬前、金色の何かが見えた気がしたが、あれは幻覚だったのだろうか。


確かめる事もできない。視界はとうに闇に染まっている

しかし、声は届いた。













「・・・・そこまでだ」












フウを背後に、メンマは暁の2人と対峙する。

「・・・・よくもまあ、大の大人が2人でさ。少女を相手によくやるもんだよ。拍手していいか? ぱちぱちぱちと」

「・・・時空間跳躍忍術。それに、その金髪・・・成る程、お前がうずまきナルトか」

「へっ、一尾の方には行かなかったって訳か。リーダーの予想は大外れ。まあ、どうせ結果は変わらないんだろうが」

「・・・少し黙れ、飛段。喋り過ぎだぞ」

「・・・一尾? お前ら、まさか我愛羅にも手を出しているのか」

「・・・さあな。それよりも、先のお前の問いに答えようかうずまきナルト」

角都は少女を指さして、言葉を発する。

「あいにくと、そこのそれは化け物。少女なんて可愛いものではないだろうが。ならば、どう扱おうが文句を言われる筋合いは無い」

角都の言葉。それに、メンマは嘲笑を浴びせかける。

「はっ、人間止めてんのはお前らも同じだろうが。あとそこのそれ、だと? 成る程、品性に関しても人間を止めてんのか、お前らは」

「・・・ふん、忍びに品性を求める方が間違っている。そういう意味ではお前も同じだろうが」

「俺は忍びじゃ無いってえの。ほら、額当てもしていないだろうが。正真正銘の一般人だ。
つけ加えると、一般の忍びでもお前らと一緒何てえカテゴライズはして欲しくないだろうよ」

「それは未熟だからだろう。それに、誰が一般人だ? 一般人は普通、時空間を越えて飛んでこないと思うが。
それに、ただの一般人が、あのペインに傷を負わせた上に、逃げられる筈も無かろう」

「・・・命からがら、だったけどな」

メンマは眉間に皺を寄せながら答える。そして、内心で焦っていた。

一尾と、リーダーの予想。二つの単語から、状況を導き出す。

(つまりは砂隠れに誰か向かっているのだろう)

メンマは心中でそのことを察し、状況の厳しさを悟って思わず舌打ちをしてしまう。
つまりは、この相手をどうにか凌いだ後、砂隠れの救援にも向かわなければならないと言うことだ。



「けっ、どうでもいい事をぐだぐだと、くだらねえ。リーダーから逃げおおせたとか聞いたが、何て事はない。ただの、バカガキか」

「・・・そうさ、ガキさ。お前らのようなオッサン達に比べればな。特にアンタは加齢臭が酷そうだ」

「・・・貴様」

角都の眼光がより一層鋭くなる。傍らの飛段は角都の様子を横目で見て内心で笑い転げながらも、視線は標的を捕らえたまま。

一歩踏みだし、地面に置いていた愛用の鎌を拾う。

「へっ、随分と大層な口を聞いてくれんじゃねーか。ウチのリーダー相手にして逃げ回る事しかできなかったお前が、俺達2人同時に相手にできんのかあ?」

「・・・やるさ」

背後の少女、フウを後ろ目でちらりとみて、メンマは答える。

「いや、やってやる。だから・・・かかってこいよクソヤロウ共」


最早、口上は意味を持たない。言いたいことは数あれど、それを言っても意味が無い。

2人の目を間近で見たメンマは、ある事を悟っていた。


角都の目は、まるで虚無の様。光りはあれど、何を映しているのかメンマには理解できなかった。
80年近い戦闘を経ての、この眼光。正直、メンマは角都の異様な眼光に戦慄さえ覚えていた。
何を考えているのか、さっぱり理解できない。

片や、飛段の目はまた違う意味で異様だった。どうにも別世界を見ているようにしか思えない。
旅の間にも、噂には聞いていたジャシン教の教えを狂信しているのだろうか。
曰く、『汝、隣人を殺戮せよ』。
なるほど、全てを殺すのであれば、人を人とも思えないのは道理だ。メンマには理解できない世界ではあるが、彼には彼としての視点があるのだろう。
何処か遠い世界で、独り何かを断言している。そんな風に思えた。


いつか見たうちはイタチとも、干柿鬼鮫とも違う。

俺が何を言おうが、この2人には決して届かない。
そう、悟ってしまう程の異様。

この2人、あるいは尾獣よりも化物な、正に怪物的存在ではないのか。


---人間は、時には怪物にも成れるのよ。

そう言って、悲しく笑った少女を思い出す・・・いや。

急に、頭が痛くなる。

(これは誰だ?)

---群れた人間の怖さを教えられたあの日、確かにそれは成る程、“あり”な理屈だと思った。

(・・・いや、あの日?)

思い出せない。だが、目に浮かぶこの光景は何だ。彼女はいったい、誰だ。

『集中して!』

(・・・了解)

ひとまず、後回しだ。まずはこの戦闘。

言葉が役に立たない怪物を前にして。
言葉も思想も倫理も感情も意味を成さないのであれば、後は殺し合うしかない。

戦場に、日常に。今まで数多くの人間に出逢った。
だが、殺し合うしかないと思った人間を見たのは2回目だった。

「・・・こいよ、殺してやるから」

そう、言わざるを得ない相手と出会ったのは2回目だった。
頭が痛いが、気を逸らしてはいけない。

一方。
メンマの言葉に、あまりにも見え透いたその挑発に、飛段が乗った。

「ああ、行ってやるよ!」

鎌を構え、突っ込んでいく。

「死ね!」

振りかぶられる鎌。メンマはその鎌が振り下ろされる前に、一気に懐へと飛び込んだ。

飛段とて暁の一員。暁内では最も体術の練度が低い彼だが、それでも上忍並のものは持っている。

その飛段をして、不意をつかれるような速度で踏み込んだのだ。


「なっ!?」

近づく事ができなかった先の戦闘とは違い、今度は近接戦が有効だ。

まずは、無言のまま飛段の肺に掌打を放つ。同時に、チャクラのマーキングを施す。


「ぐあっ!?」

掌打の、連撃。独特の打法により、肺へと衝撃を浸透させた上で、更に掌打を重ねる重剄だ。

心臓に打てば殺し技となる、いわば禁じ手に近い技。

だが、それでも飛段は死なないだろう。そう考えたメンマは、肺へと衝撃を集中させる。

そして目論見どおり、飛段の呼吸が止まる。


「口寄せ」

吹き飛ぶ飛段に構わず、忍具口寄せを使い、捕縛の布を呼び寄せる。

「・・・精霊麺」

マーキングをした場所、飛段の胸へと布が迫る。布は広がり、飛段を捕らえるだろう。対抗する術は、持っていない筈だ。

「これで封じた」

一体二という状況下において、飛段の能力は厄介につきる。
どれだけ攻撃しても死なず、その上、その鎌には決して傷つけられてはいけないからだ。
傷を受けたら終わり、というのは精神的にも厳しいものがある。

だから、初手で封じる。こちらの戦力が把握されない内に、一手で決める。
チャクラを相当に消費したが、これはこの2人と相対する以上、避けられない一手だ。

最善を選んだと割り切って、戦闘を続ける。
残るは、もう一人。
齢90にも及ぼうかという、不死身の戦鬼だ。

---手は抜けない。

油断すれば一瞬で持って行かれる。そう判断したメンマは、チャクラを開放。


対する角都は、見慣れない封印術に驚いていたが、それも束の間に精神を平静状態に戻す。

そしてすぐさま封印の弱点を見破り、火遁系の術で布を焼き払おうと印を組もうとする。

だが、その一瞬前にメンマが踏み込む。

地面を蹴る音に反応した角都は術を中断、迎撃の体勢に移る。

それを見たメンマは、行動の優先順位と判断の速さが尋常じゃない、と角都に対し再び戦慄を覚える。

---長引けば不利。

そう判断したメンマは、初手から全力で行くことを決める。

角都の迎撃の拳を掌で捌き、かいくぐる。

懐へと入り込んで、一撃。

「しっ!」

呼気と共に、右の掌打を放つ。

角都は常時使用している“土遁・土矛”があるので通じない、と判断していた。

だが、それはまともな打撃に対してのみである。メンマの掌打は鉄壁の外郭を浸透し、その内にある部分まで衝撃を通すのだ。

思いも寄らない衝撃に、角都の動きが止まる。

「・・・もう一つ!」

メンマは追撃を仕掛けようと、短めの印を組み、また一歩踏み出す。

---雷・螺旋螺旋。

いつかカカシに放った術。千鳥ほどの貫通力はないが、相手の動きを止めるには最適である雷遁術だ。

しかも相手は土遁で防御している。

性質変化の理により、雷は土に勝る。

その理の通り、メンマの雷の一撃が角都の土の鎧を剥がしていく。

「まだだ」

呟き、再び印を組み影分身を使う。

チャクラ消費を抑えるため、多重ではなく、一体のみの影分身。

その影分身と共に一歩踏みだし、同時に左右から回し蹴りを放つ

---偽・双竜脚。

左右から挟み込むような回し蹴り。


だが、角都はそれに対処した。全身に痺れを感じながらも後ろ向けに倒れ込み、左右の回し蹴りを回避したのだ。

そのまま転がり、後方へと跳躍。

そこで、角都はメンマの力量を悟る。ペインから話には聞いていたが、成る程あるいは暁に匹敵するかもしれないと。

長年の経験から、角都はメンマの力量についての位置付けを修正。

---この相手は、強い。

意識を切り替え、全力で戦う事を決意する。



まずは慌てず騒がず、再び土遁・土矛を行使する。雷遁でなければ、この術は破れないためだ。

実際、この術の防御力はかなりのもので物理攻撃ならば、そうそう貫かれない。
手裏剣影分身のような、数にものをいわせた投擲系の術。また、大カマイタチの術程度の威力であれば、傷無く全て防げるぐらいの堅固さがある。

それに、攻撃力も増加する術だ。雷遁によって破られる事もあるが、同じ手は二度食わない。

ようするに、近づかなければいい話だ。雷遁を放つのではなく、掌打に纏わせて放ってきたという事は、そういうことだ。

つまり、近接しなければ使えない。近距離が不利だという事も判断した角都は、中距離で戦う戦法を取る。


それは、相手も分かっているのだろう。

顔を顰めながらも、追い打ちを仕掛けてくる。


角都は突っ込んでくる敵に対し、迎撃するべく右腕の先を向けた。

そして、切り札を使う。

秘術・地怨虞による、遠隔攻撃だ。

さながらペイン六道が使うような、怪腕ノ火矢の如く。切り離された角都の腕は勢いよく飛び出し、メンマを襲う。

土矛によって硬化された拳の一撃だ。まともに当たれば骨をも砕く。

だが、メンマはそれにも驚かずに、至極当然のように避ける。

---おかしい。

角都が、呟く。今の一撃、敵は当然のように反応して、そして避けたのだ。
そこに、角都は引っかかるものを感じた。

初手で飛段を封じた事といい、今の対応といい、嫌な可能性が思い浮かんでしまう。

---こいつ、何を知っている?

ゆうに四桁を越える回数の戦闘を、それでも乗り越えてきた角都は、メンマの反応に疑念を抱く。驚いていないのだ。

今自分の身体の内から出ている触手群にも、嫌悪の念は抱いているが、そのものに驚いてはいない。

秘術・地怨虞は自分以外に使える者のいない、禁術だ。それは誰より自分が知っている。

なのに、こいつは“まるで知っているかの如く対処した”のだ。

違和感を感じた角都はひとまず距離を取った。

そして、訊ねる。

「・・・貴様、何を知っている? いや、何故知っている?」

情報は忍びの命。術の詳細を知られる、と言うことは死に等しい。

「・・・何のことか分からないな」

額に青筋を浮かべながら問うた角都に対し、メンマはとぼけた表情をしながら、視線をそらすだけ。

その様子を見た角都は、答えを返さないメンマに向け、肩口にある顔から忍術を放つ。


火遁・頭刻苦。

地面に落とした小さな火を、風遁によって活性させ、あたり一面焼け野原にする術だ。

あわよくば布に包まれて地面に転がっている飛段にぶち当て、その布を焼き払うつもりで放った一撃。

不死身を利用した、このコンビならではの戦術。

「危ねっ!」

それを、メンマは対処する。

転がっていた芋虫飛段を、思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

「てめええええええぇぇぇぇ・・・」

蹴り飛ばされた飛段は罵声を上げながら、向こうの方へと飛んでいった。
メンマの、瞬時の判断による行動だった。
行動を見た角都は、内心で舌打ちする。

---火遁の範囲の外まで逃がしたのか。しかし、あまりにも的確すぎる。

術の範囲について、あらかじめ知っていたとしか思えない程に、メンマの行動は速かった。
そこで、角都は確信する。メンマが、自分たちの能力について知っていると言うことを。

「・・・もう一度、問おうか。俺達の能力について・・・・貴様、一体誰から聞いたんだ?」









『(ひとまずは成功、か)』

マダオはメンマに聞こえないよう、胸中で一人ごちる。

情報を逆手に取った戦術。これで、相手は迂闊に動けない。

加え、仕上げはもっと極悪だ。情報源が大蛇○である事を悟らせ、反応を見る。

相手が音と結んでいるかどうかは分からないが、その反応で何かが分かるだろう。

どちらであっても、こちらはこまらない。

『(しかし、無茶をする)』

先程の大距離跳躍を思い出し、マダオは呻き声を上げる。

彼の行動理念に沿った行動だとしても、毎回毎回、冷や汗が出るような事をする。

『(自分のルールだけは曲げない、か)』

大したものだと思う。

今まで彼は、この二つのルールを破った事がない。

一つ、手を出したら最後までやる。

二つ、女の子と子供は助ける。

一つめは、彼は生来の気性からくるものだ。最初に出逢った時からそうだった。
手を出すまでは悩むが、手を出したら決して最後まで手を引かない。何があろうともだ。

二つめは、この世界に来てから出来だルールだろう。恐らく、その事を自覚していない筈だ。
確かに子供を助けたいのいう気持ちに嘘は無いだろうが、それでも命を賭けてまでと言われると、この世界にやってきたばかりの彼ならば首を傾げただろう。

出来た原因は分かっている。鬼の国での、あの時の事件によるものだろう。
だが、彼はそれを覚えていない。
覚えているのは、僕とキューちゃんだけだ。

でも、完全には忘れてきれていない。
昔一度だけ聞かされたあの娘の誕生日に、紫苑の花を持って川口で佇んでいる彼の姿を見れば嫌でも分かるというものだ。

そして酔っている時、ふと口ずさむ事もあった。

『(・・・先程は、はっきりと思いだしかけていたがな)』

思い出してしまったら、またあのような状態になってしまうと思い、今まで話題でも匂わせなかった彼女の存在。
そんな、忘れていた筈の存在を、彼は先程思い出しそうになっていた。

『(・・・記憶の共有が進んでいるのか)』

または、同じような状況を見てしまって、フラッシュバックが起きたのか。

『(そうかもしれないね。時にキューちゃん、魂の調子はどうなの?)』

『(・・・何とか持ち直した。だがあとせいぜい五度が限度だぞ)』

『(・・・何から何まで、ごめんね)』

『(なに、自分で決めた事だ。お主があやまる必要はない。伝えないと決めたのは我だ。
・・・それに、言っても止まらんだろうな、あいつは。いや、我もあいつが止まるというのを見たくないのか)』

キューちゃんが苦笑する。

『(相変わらず、じゃな。4年前のあの時以来ずっと、誰かを助けたいとか思っている時は“自分の価値を忘れる”。全身を襲う痛み、忘れたわけでもあるまいに)』

先の長門戦とは、動きもまるで違う。
相手の殺気に呑まれていないのもあるが、それにしても動きが速すぎる。

動きが鋭くなる理由について、2人は考えてみる。

『(・・・忘れた後悔を、無意識の内に背負っているのか)』

在る意味で歪んでしまった彼を見て、キューちゃんは何を思っているのか、マダオには分からなかった。
嬉しそうにも、悲しそうにも見える。

『(・・・お主、止める気はないんじゃろう?)』

『(それは、ね。彼をこの世界に呼んだ、責任もある。何をしようとも彼の選んだ事に異は唱えない)』

それがマダオのルール。呼んだ者として、最低限守らなければいけないルールだ。
アドバイスはすれど、行動を導こうとも思わない。漏れた想いが彼の考えに影響を及ぼしているのを知った時は、己を恥じたものだ。

『(我も、人の事は言えんよ)』

キューちゃんが俯く。
彼が女性を好きにならない理由。好意を受け取らない理由は、自分の想いが漏れているのでは無いかと考えているのだ。

『(いや、それは・・・)』

『(無いとも言い切れんじゃろう?)』

その言葉に、マダオは何も言えなくなる。

『(魂の歪みも酷くなっておる。言いたくはない、決して言葉に出したくはないが・・・・・・そろそろ潮時、かの)』

手に持った、血がついている短刀を見てキューちゃんが呟く。

『(まだだよ。希望は捨てないで)』

『(・・・そうだな。醒めるまで、まだ時間はあるか)』


笑えるならば、最後まで。

2人は、それだけを願っている。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十七話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/27 19:39

一方、キリハ達の方は乱戦となっていた。

各所に散らばり、敵味方入り乱れての戦闘。

そんな中、滝忍の一人が印を組む。

「土遁・土陵返し!」

突進してくるサクラに向け、滝忍の一人が土遁を使ったのだ。

手で叩きつけられた場所の地面が割れ、まるで畳のようにめくれ上がる。

だが、サクラはそれを見ても止まらない。


頑丈な土の壁に対し、真っ正面から拳を打ち付けたのだ。

激音と共に、土の壁が粉砕される。

「馬鹿なあ!?」

---桜花衝。

サクラの怪力の一撃により土の壁はあっさりと粉砕され、後ろに居た滝忍までも吹き飛ばした。

それは致命打には至らなかったものの、滝忍にそれなりのダメージを与えた。

そこに、更なる追撃を仕掛けようとする。

だが、横合いからもう別の忍びがサクラを襲う。


「土遁・土陵団子!」

上忍クラス、いわゆるランクBの土遁系の術。土で出来た巨大な、ゆうに直径10mはあろうかという団子がサクラを押しつぶさんと迫る。

だがサクラは、それも逃げずに真っ向から打ち砕く。


「痛天脚!」


師匠譲りの怪力を活かした蹴りで、巨大な団子を真っ向から“蹴り飛ばした”。

「ぐあああああ?!」

後方にいた滝忍は、跳ね返ってきた巨大な団子に真正面からぶつかってしまう。

そのまま、吹き飛んだ。

「どうしたの、こんなもん!?」

桃色の怪力娘は今日も絶好調であった。






その少し前、ヒナタと対峙している滝忍は、焦っていた。

数で囲んで優位に立っている筈だったが、なかなか仕留められないのだ。

遠間からクナイや手裏剣を投げるも、全てがその白眼で捉えられ、避けられてしまう。

瞬身の術で切り込んでも、反撃の柔拳を受けてしまう。

突破口を見つけられない。何とかしなければ、と思考に意識を割いているその時だった。

「なっ!?」

横合いから、巨大な岩塊が飛んできたのだ。その軌道上にいた滝忍は驚きながらも、瞬身の術を使う事で何とか避けきる。

だが、避けたその先には、ヒナタの姿があった。

「はっ!」

「ちぃ!」

ヒナタは瞬身の術で移動した滝忍に対して更に一歩踏み込み、牽制である抜き手を放つ。

それを防御し退いた相手を追い、間髪いれず更に踏み込む。

今度は回し蹴りを放った。

「喰らうか!」

滝忍は側頭部に来た一撃をしゃがみ込むことでかわし、そして手に持ったクナイで即座に反撃に映る。

だが。

「ぐあっ!?」

付きだした腕は、ヒナタの繰り出した一撃で止められる。

白眼で相手の攻撃の軌道を見切り、クナイが突き刺さる前にクナイを持った敵の腕部を両手の掌で挟み込み、止めたのだ。

もちろん、掌にはチャクラが篭められている。

腕に奔る激痛のせいで、身を硬直させる滝忍。

---ヒナタの間合い中にも、かからわず。

「させるか!」

そこに、もう一人の滝忍が、仲間の窮地を救おうと無造作に間合いを詰める。

白眼の視界内に捉えられている事も知らずに。

「なっ!?」

背後から仕掛けた攻撃だったが、こちらに視線を移さないまま片手だけで払われる。

そして、気づいた時には遅かった。

懐に潜り込まれていたのだ。誘いだったか、と滝忍は悟った。

体勢からいって、避けられない。ならば耐えるまでだと、来るべき衝撃に耐えて見せようと、腹筋を閉じ痛みを覚悟する。

だが、その覚悟は無意味だ。

「・・・・っぁ!?」

腹筋を意に介さず、胃へ抜けた衝撃。男は呼吸すら出来ず、その場にへたり込んだ。

ヒナタは返す刀で顎へと掌打を放ち、男の意識を刈り取る。

「・・・・!?」

そして殺気を感じ取り、振り返る。見れば、先程腕に柔拳を叩き込んだ男が、起爆札付きのクナイをこちらに投げようとしていた。

「死ね!」

それが、殺意と共に投げられる。だが、黙って爆殺されるヒナタではない。

「八卦空掌!」

軌道を見切り、クナイがこちらに届く前に八卦空掌の衝撃でそれを打ち落とす。

打ち落とされた起爆札が爆発。

滝忍はそれに巻き込まれないよう、再び瞬身の術で移動する。


だが、直後滝忍の腹部を、衝撃が襲う。



「・・・柔歩双獅拳」

白眼の少女の声を最後に。柔拳の一撃を喰らった滝忍は、意識を失った。


「・・・次は?」

拳に雌獅子の迫力を乗せたまま。

ヒナタは残る敵に向け、宣言した。

「なら、こちらから行くね?」





「・・・赤丸!」

「ワン!」

一方、キバと赤丸も頑張っていた。

シノの隣に待機し、相手がシノに近づこうとしれば、その速度を活かした体術により撃破していく。

「行け、虫達よ!」

シノは相変わらずの無表情のまま。

相手の間合い外から虫を使い、チャクラを搾り取っていた。

近接のキバと、遠距離のシノ。

その連携に隙は無く、相手は迂闊に近づく事もできない。

「そこだ!」

時間が経てば経つ程に、相手は劣勢になっていった。




一方、少し離れて。

いのの方は、複数の敵を幻術で足止めしていた。

そこに、シカマルの影縛りが決まる。

「チョウジ、肉弾戦車!」

「分かった!」

チョウジが自分の全身に鋼糸を絡ませ、倍化の術を使う。

そして鋼糸の先についた取手を、いのが掴む。

「・・・今だ、いの!」

シカマルの影縛りが解かれたと同時。

「おらあああああああ!」

いのが、取手を掴み振り回す。

秘術・回転超特球の術。木の葉の白い悪魔が使う武器を参考に開発した新術である。

影で捕らえられなかった滝の忍びが水遁とか使ってくるが、関係ない。

もの凄い勢いで振り回された肉弾が、その全てを弾き飛ばした。

「く、怪力女め! ならば上だ!」

滝忍が、死角である上からいのを襲う。

だが、それは読まれていた。

「ってえ、誰が肩幅広いのよ!」

回転の勢いを活かし、そのまま上へと放り投げたのだ。

滝忍は肉弾に直撃し、森の向こうへと吹き飛んでいった。

その隙にいのとシカマルに攻撃を加えようと、肉弾を受けて弱っていた滝忍が、何とか距離を詰めようと走り出す。

だが、2人は一目散に後退していた。

そこに。

「・・・ん、影?」

つられて見上げる滝忍。そこには。

「巨人!?」

超倍化の術を使って巨大化したチョウジがいた。


あたりに、地響きが広がっていった。








「はっ!」

「ふっ!」

鉄が交差する。チャクラが荒れ狂う。

そんな中、互いの群れ、その首領格である2人は殺意を交えていた。

邪魔する者はいない。全員が、周りで同じように戦闘を繰り広げている。

男が、訊ねる。

「く、やる・・・っ!」

クナイを手に持ち、一薙ぎ。上忍にしても速いその一撃を、キリハは目で捉えて、避けきる。

だが、避けた筈のクナイが通った後、キリハの皮膚に一筋の赤が描かれた。

「飛燕・・・!?」

見れば、男のクナイからは風の刃が生えていた。

だが、その刃の長さは木の葉の上忍、猿飛アスマにも匹敵する程だった。

切り裂かれた首筋を触る。やや余裕を持って避けたのが功を奏したようだ。動脈までは届いていない。

「・・・ならばこっちも!」

キリハも、風の性質変化を得意とする忍びだ。

相手の術に対抗すべく、クナイに風の刃を纏わせた。

「・・・面白い!」

「こっちは面白くないけどね!」

互いに打ち合う。風の刃が乱舞し、余波によって周囲の地面や木々に斬撃の跡が刻まれていく。

「はっ!」

「くっ!」

技量はほぼ互角。だが、気迫はキリハの方が上だ。

シグレは徐々に押され、後退していく。

「そこぉ!」

「甘い!」

決めの一撃、威力のある大振りの一撃をキリハが繰り出す。

だが、シグレはそれを読んでいた。大振りの隙を見極め、キリハのクナイの横腹に自らのクナイを当てる。

---武器破壊だ。滝忍の一撃は見事にクナイを捕らえた。

キリハのクナイが砕け散る。

だが。砕かれてなお、キリハの攻勢は止まらない。砕かれたクナイに構わず、腰に手を引きよせ、更に一歩踏み込んだのだ。

近接の間合い、必殺の間合いから、掌打が放たれる。

「破っ!」

踏み込み、螺旋を描く軌道の掌打。月光の下、兄との一戦で学習したキリハ。

体術の理合を自分風にアレンジし、その理の長する所を推測。自らに適するようにくみ上げたのだ。

前だけを見続けた、一撃。

対するシグレは、武器破壊の達成感に気を取られて防御が間に合わなかった。

胸に掌打を受け、吹き飛ぶ。

「・・・勝負あったね?」

キリハは掌の先から返ってきた手応えを認識し、告げる。

少なくとも数本は折った筈だ。もう満足に動けまい。

気迫に押されたシグレが、後ずさりながら喚く。

「・・・くっ、何を怒る事がある! 忍びなど所詮は国の道具だろう。あれも我も只の道具だ。怒る必要が何処にある!」

「任務のため感情を割り切って己を統制する事と、人を道具として使う事・・・違う! 絶対に違う、一緒にするな!」

都合良く理屈を並べ立てるな、と言う。

仲間の意志を無視し、仲間の意識を認識しない。
里を守る盾や矛。いわゆる“道具のような”、役割である事。

人としての尊厳を無視し、人を“道具”と決めつけ、扱う事。

同じではない。決して、同じではないとキリハは思う。

「・・・戯れ言を! あれは仲間などではない。そも、人間ですらない、生まれついての兵器だ! 兵器を兵器として扱って何が悪い!」

「・・・一体、何を見てそれを言う!」

チャクラが、ぶつかる。

互いに距離を取る。

そこで、キリハは気勢を抑える。

静かな声で、言う。

「・・・何を信じてそれを言うの? 私には、分からない」

里の者と、話していて分かった事があった。

失った者を惜しみ、その原因を憎む気持ちは分かる。

だが、年月と共に風化し、さらには歪められた情報を与えられた人達の言葉を聞いて、思ったのだ。

---何を憎んでいるのか分からない。

何かを憎むのではなく、憎む事に意義があるのだと信じているようだった。

彼らにとって、真実などどうでもよい。自分の信じた理屈に従って、それを信仰している。
そんな風に思ったのだ。

人としての何かを見ずに、情報だけで肩書きだけで人を判断する。
その目の中に、一体“誰を”映しているのか。

「分からない? 皆思っているだろうが。分からないとすれば、お前がおかしいのさ。爆薬と一緒に居たい人間など、存在はしない
・・・誰もがそう思っている筈だ」

だから、俺は間違っていないと。この解答は正しいのだと断言する。

「もう、いい」

キリハは意を決した表情になる。

対するシグレも、切り札を切る構えを見せる。

「・・・俺は、ここで負ける訳にはいかない。里の未来のため、お前達を逃がすわけにはいかない」

「・・・逃げないから、来なさいよ」

互いに構える。

距離は10間、18m余り。

そこから、互いに一歩踏み出す。互いに上忍、一歩といっても常人のそれとはかけ離れていた。

狭まり、対峙、その距離僅か。

一足一刀などと生ぬるい間合いではない、致死の間合い。

命を天秤の上にのせる距離。



「殺っ!」

掛け声と共に、抜き手を放つ。手には風の刃が在った。

素手の速度に必殺の切れ味を持つ、シグレの奥の手だ。

---風遁・飛燕斬。


「破っ!」

対するキリハは、掌打。

だがチャクラを発し、止め、威力を高めたそれ。

微量だが性質変化を織り込んだ、キリハの奥の手。

---風遁・螺旋丸。




息のかかる距離まで近づき、互いに交差した。


余波による突風が、2人の交差した地点から吹き荒れる。


「・・・くっ」

キリハが肩を押さえてうずくまる。

かなり深くまで斬られているのか、血が勢いよく噴き出していた。

飛ぶ燕の如き鋭利な一撃は、キリハを捕らえていたようだ。



---だが。

「・・・・・・かはっ」

竜巻の如き一撃を受けたシグレは、その螺旋に脇腹を抉られていた。

そのまま、前のめりに倒れる。



風の性質変化を含んだ螺旋は、その余波により竜巻を生み出した。

それは飛燕の一撃を弾き、逸れた刃が喉ではなくキリハの肩を裂いた。

竜巻は進路を変えず、標的をそのまま貫いた。



(・・・間一髪だったな)

肩の傷を見て、呟く。もしかしたら負けていたかもしれない。

(・・・まだ、遠いか)

いつかの兄の背中を思い出し、空を見上げる。

空は暗雲。キリハの今の心中を現しているかのように。


「・・・さて、と。止まっている場合じゃないや」


自分の頬をはり、周囲を見渡す。


(戦闘は終わったようだね)

満身創痍になりながらも、何とか立っている味方を見て安堵のため息を吐く。

どうやら、全員が無事なようだ。


「・・・・急がなきゃ」










先に戦っていた場所から、少しはなれたところで。

「しぶといな・・・・」

「お前がな・・・」

互いに息を切らせながら、2人はにらみ合っていた。

情報の利があるメンマだったが、相手の対応の早さと戦術の引き出しの多さに、攻めきれないでいた。
一度全速の踏み込みから、影分身の陽動を活かして螺旋丸を決めたのだが、心臓を一つ潰すことだけしかできなかった。
同じ手は2度通じない。戦術もいよいよ限定され、息も切れていた。

角都は角都の方で、全方位からの地怨虞による触手攻撃をも振り払う、メンマの卓越した動きを捉えきれないでいた。
先の踏み込みによる一撃にも、驚いていた。
スピードで劣る角都はどうしても後手に回ってしまい、守勢ぎみ。
遠間から得意の複合忍術を放つも、相手はそれを捌く。未だ、決定打を当てられないでいた。


にらみ合う双方。やがて、動かなくなってから数分が過ぎた頃。


「「っつ!?」」

2人は同時に、同じ方向を見る。
視線の先の木から、やがて男が生えてくる。


「・・・こんな所にイタノカ、角都。滝隠れの忍達、全員敗れたよ。それで、木の葉の忍び達がこっちに向かってイル」

「・・・思ったより速かったな」

角都は尖ったアロエを身に纏う男の姿に驚きもせず、その情報を噛みしめた後静かに舌打ちをする。

(・・・ってああ。暁のメンバーか)

メンマは、実物で見るにはあまりにも異様な男の姿に驚き、硬直していた。
確かにトゲトゲアロエヤローだ。メンマは原作のナルトの表現が至極正しいものだったと、今思い知った。

名前を確かゼツとかいう、情報収集専門のメンバー。あしゅら男爵みたいな顔をしているが、2人が合体しているのだろうか。
音隠れの、左近と右近みたいに。

「・・・ちっ、チャクラも残り少ない。強引に押し切ってもいいのだが・・・・」

角都はメンマを睨みつけたまま、再び舌を打つ。

メンマの手には、螺旋丸が握られていた。

「・・・数が増える。リスクが大きいか。仕方ない、撤退する」

「・・・分かったヨ。飛段は回収しておくネ」

「頼んだ・・・・おい」

角都がメンマの方を向き、言葉を投げかける。

「というわけで、決着はお預けだ。次、会った時には必ず終わらせる」

殺気も露わに、角都はメンマの心臓の方を指さし告げる。

「お前は俺が殺す。そして今奪われた心臓の代わりに、お前の心臓をえぐり取ってやる」

だからそれまで誰にも殺されるなよ、と嗤う。

「・・・あの蛇野郎と違って、心臓抜かれればふつーに死ぬ身体なんだよ、俺は。それに4つもあるならいーじゃないか、心臓の1つや2つぐらい」

「・・・蛇? 大蛇丸の事か?」

「・・・って、やべ」

それとなく、視線を逸らす。状況を見れば、わざとらしい。

芝居だと看破されるかもしれない。だが、今角都は疲労の極致に達しているはず。
獲物を目の前にして撤退するというのが良い証拠だ。

通常時程の判断力は無い筈。あとは角都の性格上、その疑念が何処まで膨らむかが、問題となってくるのだが。

『あらゆる意味で五分五分だね』

確かに、決定的ではない。これ以上やると逆に怪しまれる。

さり気なく、そっとだけ。
種火は小さくていい。派手な炎は直ぐに消える。

小さな種火でも、育つ要素はあるのだから焦る必要はない。

『・・・大蛇○だしね』

色々と各方面に信用のないオカマだしね。

「・・・まあ、今はいい。いくぞ」


渋面を浮かべたまま、角都達は去っていった。





「・・・・ふう」

緊張がゆるんだ。
俺はその場に座り、天を仰ぐ。

『しのげたね。大丈夫?』

「・・・何とか・・・・・ん、キューちゃん?」

『・・・・何じゃ?』

答えるまで随分と間があった。

「なんか、声に力無いけど・・・大丈夫?」

『・・・何とか』

「・・・そう。ああ、そういえば七尾の娘はどうしたんだろ」

気配に動きがないところを見ると、未だに気絶しているようだが。

「キリハに任せるか・・・それより、砂隠れだ。マダオ、確か飛段の方が何か言ってたよな?」

『一尾、リーダーの予想・・・僕達の事を知ってた。総合するに、砂隠れに最低でも2人、もしかしたら4人、暁が向かっているのだろうね』

「2人ならばまだしも、4人はちと最悪だな」

想像もしたくない。

「仕方ない、飛雷針の術で飛ぶ・・・・?」

立ち上がろうとした瞬間だった。


「あれ?」

視界が、急激に歪んでいく。

「あれれ?」

土の壁が、俺の顔面目掛けて迫ってくる。
避けることもできず、俺は顔面をしたたかに打ち付けた。

「・・・痛い・・・・」

咄嗟に手を前に出す事もできなかった。
というより、身体が全く動かない。

「・・・・あー、くそ。これもしかして地面か?」

顔面にぶつかってきた壁を見て、呟く。
全身が、まるで正座の後の足のように、痺れ感覚が鈍くなっている。

それに、平衡感覚も無茶苦茶だ。

『・・・まずいね。先の戦闘での傷、開いたようだ』

(・・・え、いや、それ本格的にまずくね?)

『ものすごくまずいね。救援を呼ばなければいけないんだけど・・・身体、動く?』

(腕だけなら、何とか。でも立つのは無理。声も、もう出ない)

朦朧とした意識の中、何とかマダオに答える。

『なら、僕を口寄せして。血もあるから』

俯せになりながら、地面を横目でみる。こけた拍子に額が切れたのだろうか、赤い液体が見えた。

「・・・・く」

何とか腕を動かして、指先で血を拭う。




そして、数十秒かけて、何とか発動した。

「・・・よし」

じゃあ、救援を呼ぶよ、とマダオは俺の懐から、起爆札を1つ取りだした。

(頼んだ)


居場所を知らせる爆音が鳴る。


(あー、色々とばれちゃうな)

マダオも、今は変化を使っていない。使うだけの余裕が無い。



(それでも、助けられたから良しとするか)

俺も死んでない。彼女も死んでない。

敵は去った。万々歳だ。


(少しは、修行した甲斐があったのかな)

口と信念だけで生きていける程この世界は甘くはないと悟ったあの日以来。

兼任ながらも鍛えてきたこの力、無駄ではなかったようだ。

未だ、死なせたくないと思った人は死んでいない。

理不尽に全てを奪われる少女を、一時とはいえ助ける事が出来た。

この後は木の葉がどうにかしてくれるだろう。俺が口を出さずとも。



---大丈夫じゃ。


そうだよなあ、○○。お前の口癖だったよな。根拠なんか、一切なかったけど。

これで、後は暁を倒すだけだ。これが終われば、やっと元に戻れる。


---お主には、夢があるのか?


あるとも。説明しただろう。借りものではない、頑張って初めて手に入るもの。

イカサマなんか通じない、一生懸命やった者だけが到達できる。誰も奪わず、誰かを笑わせる事ができる、偉大な力さ。


---叶うといいな。

叶えるさ。とあるハンデを背負って、見る者来る者殺しに来るだろう未来。

人外連中ぶっ倒して生き残れれば、後は何とでもなる。諦めなければ、道は開けるんだから。

だから○○。お前も、諦めるなよ。さよならなんて言うな。ガキはガキらしく、素直に甘えていればいいんだよ。

お前の事を、重荷だなんて思っちゃいない。きっと治るって。いつかきっと、俺が治してみせる。




白い霧がかかった世界。

女の子が、立ち上がる。



---だから。その術を止めろよ紫苑。

全身から、チャクラが流れる。
何か、紋様を描いてるようだ。

「大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど、お主の夢を邪魔する事など。・・・だから行け、小池メンマ」



---お前を忘れて、か?

「務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ」



---だから忘れろ、と?

「何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。あのような憎悪に囚われたお主など、正直二度と見とうない」



---勝手だな。

「お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう?」



---ああ。

「ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている」



---宿命とか・・・・そんなの、俺の知ったことか。

「ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ・・・・“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ」





それまでは大人びた顔を保っていた少女は。

最後に、年に沿った笑顔を見せた後。



「・・・ありがとう。だから、さようならじゃ」



その術の結となる印を、結んだ。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十八話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/10/30 23:47






「兄さん、起きないね・・・」

「何、治療は無事終わったんだ。じきに起きるさ」

親子2人の視線の先には、寝ているメンマの姿があった。

あの後気絶したメンマを、いのとサクラが治療しようとしたのだが、そこで急に雨が降ってきたのだ。
このまま治療すれば、身体が冷えてしまい危険だということで、何処か雨水をしのげる所を探す事となった。
メンマと同じく、大怪我をしていた人柱力の少女フウも連れて。

そして、このボロ家を見つけた。、あちらこちらに雨漏りがあり、薄汚い如何にも幽霊が出てきそうなボロ屋に、
一同は一瞬ここに留まるか迷ったのだが、時間が惜しいということで結局は留まる事にした。

もしメンマが起きていたら、「コレ、イエジャナーイ!」と叫んでいた事だろう。



その後、家の中でサクラ、いのによる治療が開始された。
いのはメンマ、サクラはフウの治療に当たったが、完全回復とはいかなかった。

いの、サクラともに戦闘後で、残っているチャクラ量が完全回復に必要な量まで至らなかったためだ。
兵糧丸を使用しても全然足りず、結局は応急処置程度の治療しかできなかたt。

だが、流石は人柱力である。
中の尾獣が容器を修復しようとしているのだろう。傷は塞がり、容態も徐々に安定していった。



そして、一通りの治療が終わった後は、メンマとマダオに向けての大詰問会となった。

未だ若い姿を保っている四代目火影、波風・・・・ミナト?
とにかくまあ、その姿に関しての説明である。

マダオはいの達の押しに耐えきれず、あれよあれよという間に色々な事を話してしまった。
サスケと行動を共にしている事。再不斬と白、そして多由也について。

サスケの事を話した時は、すわ桃色の邪神が覚醒かと思われたが、キリハの当て身により邪神復活の憂き目は無くなった。
少女は世界を救ったのである。


そんなごたごたの横で、マダオが「計画通り」と世紀末の神的な笑みを浮かべていたのは誰も気づかなかったが。



閑話休題。




「じゃあ、サスケ君達は今砂隠れにいるんですね?」

「暁襲撃に備えてね」

「・・・“暁”ですか・・・あの、サスケ君はやっぱりお兄さんを?」

「それは僕の口からは言えないね。もうすぐ会えると思うから、その時に聞いてみればいい。それより問題は、だ」

マダオが腕を組みながら、状況を説明する。

「さっき戦ってた暁のメンバー、飛段って奴から聞いたんだけどね。どうも今、砂隠れに暁のメンバーが向かっているらしいんだ」

「・・・狙いは一尾、風影様ですね」

ヒナタの言葉に、マダオが頷く。

「最低でも2人、もしかしたら4人が向かっているだろうね」

「・・・そんな! だったら、速く砂と木の葉にその事を知らせないと」

「それはキバ君とシノ君に任せたよ」

サクラといのがメンマとフウを治療している最中、その情報を聞いたキリハが二人に指示をしたのだ。
今頃は国境付近までたどり着いていることだろう。

「足が速いキバ君と、索敵が得意なシノ君だし、大丈夫だよ。さっきの戦闘での怪我も、軽いものだったからね」

ちなみにシカマルは戦闘後に青い顔を引き連れてやってきた滝隠れの長と会談中だ。
あと、チョウジと応援に駆け付けたリー、テンテン、ネジもそちらに向かっている。

「大丈夫かな・・・」

「・・・先の襲撃の件、里からすれば寝耳に水、って感じだったし。長も、悪い人ではなさそうだったから」

「そうね・・・でも、暁が2人、もしかしたら4人なんでしょ・・・あの、四代目様」

サクラが訪ねる。

「一度は死んだ身というか死人に近い存在だしね。マダオでいいよ。最近はそう呼ばれているから」

「はあ、マダオ・・・ってマダオ!? いえそれどんな意味が」

「・・・禁則事項です」

ひとさし指を上げるマダオ。それを、娘ががっしと掴む。

「話が進まないよ父さん」

折るよ? と笑う娘に、マダオは内心で「立派になって・・・クシナそっくりだなあ」と、心の中で感涙の水を全身から垂れ流していた。

「・・・いや、ごめんごめん」

一トリップを終え、なははと笑うマダオに、サクラが訊ねる。

「暁4人を相手にしたとして・・・サスケ君達、大丈夫なんでしょうか?」

「それはねえ・・・大丈夫と言えば大丈夫だけど、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないなあ・・・勝負に絶対は無いから。中忍にもなったんだから、それは分かるでしょ?」

「それは・・・そうですけど」

相性もあるし、不測の事態もある。戦場に絶対は無い。

「ただ言える事があるんだよね。サスケ君の力量、2年半前の比じゃない程に高くなっているんだ。彼、この二年半・・・ほぼ毎日、死にものぐるいで修行したから」

力量的には上忍の上クラス。カカシや再不斬に匹敵するレベルだ。
それが修行によるものでも、このような短期間にあれほど成長するとは、マダオも思っていなかった。
天才というのは居るものである。

「・・・え、もしかして父さんが鍛えたの?」

「うん、大まかな所とか基本方針は僕が決めたね。ナルト君と同じく。体術の訓練、組み手に関しては桃やんとか白ちゃんとか、ナルト君と一緒にやっていたけど」

人前ではナルト君と呼ぶマダオであった。

「・・・えっと、多由也さんは?」

キリハが訪ねる。

「料理に結界術に新術開発に。主にサポート系の能力を磨いていたね。特におかかおにぎりに関して、彼女の右に出る者はいないと思うよ」

おかかおにぎりというキーワードに反応したのか、背後でサクラの目がキュピーンと光った。
が、マダオは無視した。君子危うきに近寄らずである。

「・・・えっと、おかかおにぎりはともかく。新術って、音系の?」

「そう。3パターン開発した。それは見てのお楽しみかな・・・いや、聞いてのお楽しみ?」

腕を組みながら、マダオが首をかしげる。

「それでも、この短期間に3つも術を開発するなんて、すごいですね。毎日が修行三昧でした?」

いのが訪ねてくる。

「いや、そうでもないよ。ま、あの二人・・・サスケ君と多由也ちゃんはそうしたかったみたいだけど」

それまでは当たり前のようにあった“無理”。解消したらしたで、無くなったら無くなったで、逆に不安になる時があるらしい。
因果なものである。

「ま、限界近くまでいった時には、流石に休ませたけどね」

身体を極限状態にまで追い込むのは修行の常だが、壊れては意味がない。
そのあたりはマダオが調節していた。多由也の音韻術も併用していたので、回復は早かったのだが。

「そんな2人だから、きっと大丈夫。僕はそう信じてるよ」

笑顔で断言するマダオ。
それを見て、サクラ達はそれ以上何も言えなくなった。



それから、一時間。
眠る2人の様子をみながら、時間が過ぎていった。

「・・・雨、止まないね」

窓から外を見ていたキリハが、ぽつりとつぶやく。

「そうだね・・・」

と、話している最中、空が光った。

「雷だね・・・あ」

雷の音に反応したのか、フウがうめき声をあげている。

「えっと、起きては・・・・ないか」

雷の音で目が覚めたかと思ったが、どうやら寝返りをうっただけであった。

「・・・フウちゃんも傷の治りが速いね」

寝返りをうつ際に見えた傷。
先程まではうっすらと開いていた傷が、今ではもう塞がりかけていたのを見てキリハが呟いた。

「・・・そうね」

いのが答えるも、その声は何処か暗かった。

「ん、いのちゃん・・・どうしたの? 暗い顔して」

「いや、さっきこの娘を治療した時にね」

いのがぽつりぽつりと話しだす。
昨夜ナルトから聞いた、傷の話を交えて。

「こうやって、傷跡が消えるっていうこと・・・どうなのかなあ、って確かに、女の子としては、傷が残らないっていうのはいいことなのかもしれないけどね」

首を振るいの。鎮痛な面持ちで続ける。

「でも、跡も無くなる事実を、実際にこの目で見るとね・・・」

想像してみる。
かなりの深い傷でも、すぐに治る。そして、跡も無くなる。

でも、それを見た誰かは、傷つけた誰かは傷つけた事実を忘れるのではないかと。軽く、思ってしまうのではないかと。

傷が癒えたとして。跡が綺麗に消えたとして。
じゃあ、傷を受けた思い出は癒えるのか。傷を受けた際に、同じく傷んだ精神も、すぐに癒えてしまうのか。

「・・・“ちょっとやそっと乱暴に扱っても、容易く死なないのであれば・・・”ってことかな?」

マダオが言葉をはさむ。

「確かに、行為はエスカレートしていくだろうね。それが集団であれば尚更」

集団心理。いわゆる、責任の分割という思考である。

「それに、責める理由ってやつがわかりやすいからね。人柱力は」

「・・・それは、人で無いからですか? 尾獣を宿している。つまりは、化け物だから何をしてもいいって事ですか!?」

それを聞いたサクラが激昂する。

マダオは、その問いには答えない。

「良い悪い以前に、相手は“化け物”だ。つまりは人でなし。人でないものを人扱いする必要は無い、って考えてしまうのだろうね」

マダオは何処か遠いところを見ながら、言葉を続ける。

「・・・前に、ある男が言ったよ。“過ぎた力を持つ者、必要でない上に過剰な力を持つ者はいずれ災いを呼ぶ。
それは最早化け物だ。人でないものを、人の扱いをしなくても良いし、何より近くに居て欲しくない”ってね」

「・・・そういえば、滝の忍び、シグレも言ってたね。爆弾、とか」

そういった具体性を持つ言葉で表されるのは最悪の事態を生む。
恐れるあまり傷つけても良いと思ってしまう。そして、集団が生まれる。暴走する集団が。

「集団の中に生まれる集団心理というのは恐ろしいものでね。それまでは確実にあった筈の倫理が、綺麗さっぱり吹きとぶんだよ。
反対意見も出ない。あってもそれすら飲み込んで、ただ暴走する塊になってしまう」

そして何か切っ掛けが無いと止まれなくなる。
責任の転嫁というものもあるのだろうが、場の空気もある。

まるで雪だるま式に増えていくそれは留まる事を知らず、そぐわない対応をしたもの諸共に巻き込んでいく。
無事でいるためには、その玉の奥に引っ込んで上手く立ち回るしかなくなるのだ。

それを聞いたキリハは、そんな馬鹿なと言う。

「だって、傷つける者は多くてもさ。傷つけられるのはたった一人じゃないの!? それを道具とか・・・・要らなくなった道具は捨てるだけとか・・・」

キリハは拳を握りしめながら、地面に目を落とす。

「・・・って、父さん?」

怒りをあらわにしていたキリハが、自分の額に手をあてながら唸るマダオを見て、どうしたんですかと訪ねる。

「・・・まいったね」

いつかと同じ言葉じゃないか、というのはマダオの口の中だけで唱えられた。

「いや、あの場に残っていなくて本当に良かった。もしその言葉をナルト君が聞いていたら・・・」

「聞いていたら・・・?」

顔を掌に覆いながら首を振るマダオに、ヒナタが訪ねる。

「いや、何でもない。理由は言えないけど・・・ともかく、絶対に彼には言わないでね」

真剣な表情。皆はうなずいた。

「わ、わかりました」




「・・・でも、このまま木の葉に連れて行っていいのかな」

「キリハ?」

「だって、木の葉に保護されても一緒でしょ? このまま戦争になったりしたら、兵器として前線に送られちゃうじゃない」

「だから逃がすって訳? 暁に狙われているのに?」

「あ、そうか」

「・・・何にしろ、問題は暁ね。色々と、ケリをつけなければ何もできないわ」

「そうだね・・・いっそ、サスケ君達が返り討ちにしてくれれば楽になるのに」

「流石に全員は無理だね。あの2人だけなら、何とかなるかもしれないけど」

「あの2人?」

聞かれたマダオは、2人の能力について説明する。
そんな中、聞き慣れない単語を耳にしたサクラが、マダオに対してその事を訊ねる。

「あの、“うげー爆弾”と“閣下”って・・・何のことですか?」

「暁メンバーの暗号名。他には“オコジョ”とか、“ポチョムキン”とか“神”とか“バーロー”とか“おまる”とか色々あるけど」

「・・・一体どんな流れでそういう名前になったのさ」

「ええと、あれは確か一年前・・・」

答えながら、マダオはその時の事を回想する。








一年ほど前の事である。

夜、隠れ家で暁の事について話し合っている時だった。

おっかない暁のメンバーについて議論している最中、メンマが発案した“もっと親しみやすい感じにしてみよう”という企画に則って、皆が案を出し合った。


「じゃあうちはイタチはコードネーム“オコジョ”で」

「・・・ちょっと待て」

サスケが突っ込む。流石に兄の事だ。
うちはオコジョは勘弁して欲しいらしい。

「じゃあ“カモ”、とかにする? でも、それじゃあ綱手姫と被ってしまうよ」

「何でカモになる。それよりもっと良い名前があるだろうが」

そこから数分話し合ったが、結局はオコジョに決定された。
他に良い名前が思い浮かばなかったのである。



無論、その時点で全員が酔っている。



会議は更に加速し続けた。


「次、デイダラは・・・うげー爆弾で」

ジェニファーなのである。すごいへべれけなのである。
おえっと爆弾をはき出すのである。


「サソリ・・・人形・・・薔薇乙女・・・閣下だね」

「閣下だね。しかし本当に“それ”で攻めてきたらどうする?」

メンマは頭の中で想像してみた。襲ってくる薔薇乙女達の大群。
勝機が見いだせなかった。

「あまつさえ、青の国で造られた汎用人形が攻めてきたら・・・!」

「即刻お持ち帰りします。俺の癒しのために・・・・って成る程。おばあちゃんはチヨバアですね」
誰が分かるんだこのネタ。



「しかし、あの野郎が“ポチョムキン”っていうのは・・・あれ、何故だ畜生。違和感が全然ねえ」
“コードネームはポチョムキン”のあまりのフィット感に、再不斬が唸っている。

「顔が何て言うかポチョムキンって感じだもんね」

「切り裂いてくるしね」



そんな感じで、次々暗号名が付けられていった。
ちなみにペインが“神”、小南が“バーロー”、マダラが“タラちゃん”となった。
おまるは前と変わらずにお○であった。


酔いとうのは時に恐怖も忘れさせる恐ろしいものである。







「・・・お酒は二十歳になってから!」

現世に復帰したマダオが叫ぶ。

「わっ、急になに?」

「いや、忘れて」

流石に娘ズにそんな話聞かせられないと思ったマダオは、全力で記憶消去にかかる。

同時、柔らかくなった空気に安堵する。

こういう空気を続かせるのは心身共に良くないと思ったマダオの気配りだった。


それからも、会話は続く。

やがて話題が変わる。マダオは、隠れ家での生活を語り始めた。

笑顔で語られる様々な話を聞いたヒナタが、マダオに言う。

「平和で楽しい日々だったんですね」

「・・・いや、あれを平和というのは・・・ちょっと違うと思うな」

マダオが、この2年半の間に起きた様々な事件のことを思い出す。


---本当に、色々な事があった。

四季の変化に彩られながら、胸の中に次々と刻まれていく思い出。


“多由也女史の音楽事変~俺達とってもユートピア~”はまだ記憶に新しい。

他には、“うちはサスケ女装事件~トランスセクシャル・イン・パレード~”や、“うずまきナルトのプロジェクトX~僕がラーメンになった理由~。

“白による24時間耐久講義~ここが凄いよ再不斬さん!~や、“キューちゃん激論~揚げとTシャツと私~。

“マダオと馬鹿な男達による胸囲徹底討論~いい加減決めようぜ、最高のカップって奴をよ!~。


---本当に、色々あった。
あってしまったという方が正しいのかもしれないが。むしろ思い出ではなくトラウマなんじゃねーかというものもあった。

大抵が爆発オチで話が終わる、酷い事件ばかりだったからだ。


でも。それでも、これは断言できるだろう。

楽しい日々だった、と。



そしてふと、気づいた事をぽつり呟いた。


「そういえば、サスケ君はいつも巻き込まれてたっけねえ・・・」












同時刻、砂隠れの里の外れ。

見晴らしの良い場所に陣取っているサスケが、急にくしゃみをする。

「・・・風邪か?」

「いや、誰かが噂してるんだろ」

サスケは鼻をすりながら、多由也の言葉に答える。

「・・・そういえば、あの3人は今木の葉の連中と同行しているんだっけか」

「キリハ達だな。何もなければいいが・・・」

「やっぱり、昔の仲間だし心配なのか?」

「まあ、一応はな」

若干視線を逸らしながら、サスケが答える。

この2年半、色々な事件に遭遇し、充足を感じるに足る日々を送ったサスケ。
性格も以前とはかなり違っている。

「相っ変わらず、素直じゃねえな」

そういいながらも、多由也はクスリと笑顔を見せる。

多由也の方も、口の悪さに関しては治らなかったが、中身に関してはかなり変わっていた。

「ああそうか。もしかしたらあの3人が、お前の事件のことを、木の葉の連中に伝えてるのかもしれねえもんな」

「・・・」

サスケは無言のまま、静かに絶望した。

そんなサスケの顔を、傍らにいる多由也が面白そうに見つめていた。






「距離、近いじゃん・・・」

そしてそんな2人を、カンクロウが遠くからじっと見つめていた。

「カンクロウ? 何をそんなに落ち込んでいるんだ?」

「いや、だってあれ・・・」

指さし、更にへこむ。

「何か自然に近い距離で接しているじゃん」

カンクロウは、木の葉隠れの宿に泊まった時、でうずまきナルトに聞いたとある恋愛豆知識についてを思い出していた。

何でも、人間はパーソナルスペース、つまりは動物でいう縄張り意識というものがあるらしい。

たとえば、親密な関係の人であれば近づいて話していても不快感は感じないが、親密でない関係の人だと不快に感じる。
人と人が心を接する時の物理的距離と、実際の心理的距離は同じであるという話だ。

「・・・くそ羨ましいじゃん」

俺も彼女が欲しい、と嘆くカンクロウ。

そこで、視線を移すが、そこでまた別の2人組の姿が見えた。


再不斬と白である。

「ってあいつら近いってレベルじゃねーじゃん!」

コレが地域格差って奴か! と叫びながら暴れ回るカンクロウ。

「ちきしょう、地方はしょせん地方で、都会(イケメン)には叶わねーってやつなのか! いや、人間顔じゃないじゃん! 鬼人を見れば一目瞭然!
地方には地方の良さがあるじゃん! 帰ってこい田舎美人! 都会は危険じゃん!」

電波なセリフを叫びまくるカンクロウ。

その頭に、背後から鉄扇が振り下ろされた。

「往来で恥ずかしい事を叫んでるんじゃないよ愚弟」

「・・・」

返事がない。ただの屍のようだ。

「って死んでねーじゃん。死にかけたけど」

カンクロウは頭を抑えながら、涙目になっていた。
余程痛かったのだろう。

「うるさいよ。ちったあ真面目に見張りをしないか、馬鹿」

「いや、だってよ・・・」

理由を語り出したカンクロウに向け、テマリはため息を吐いた。

「今考える事じゃないだろうが。それに、私だってな・・・」

テマリも、愚痴りだす。
生来の気の強さが災いしてか、周りに男が近寄ってこないのだ。

「まあ、私はそれでいいんだけどな」

「・・・ああ」

そこで、カンクロウは事情を察して沈黙する。

黙る姉弟。

ふと、テマリがカンクロウに聞いてみる。

「なあ、やっぱり男っていうのはおしとやかな娘が好きなのか?」

「いや、そうに決まってるじゃん」

カンクロウの断言を聞いたテマリが、一際深いため息を吐く。

「そうか・・・やっぱり」

「どうしたじゃん?」

「いや、参考までに聞くがな駄弟。おしとやかな私っていうのはどう思う?」

「・・・ちょっと想像つかないじゃん」

カンクロウの言葉を聞いたテマリが、無言で鉄扇を振りかぶる。

「うそ! うそです姉上! いや、俺もちょっと見てみたいじゃん! ギャップ萌えってやつじゃん! きっとあいつもイチコロじゃん!」

「そ、そうか?」

弟の怒濤の褒め言葉を聞いたテマリが動揺する。

「そ、そうだ! 一回やってみればいいじゃん!」

「え、えっと・・・こうかな?」


片手を顎にそえ、ぶりっこ風のポーズ。

度重なるアタックチャンスを掴めずにいる彼女は、結構追いつめられた。
早めに良いポジションを確保しなければ、黄色のあの人に取られてしまうのである。

そんなテマリが、意を決して一言。


「わ、わたし暗闇が怖くて・・・だから、傍にいてもいい?」

ぷるぷると震えるテマリ。



何時にない姉の様子を見た弟の返答は1つだった。


「なんかキモイじゃん」



見せる相手が悪かった。普通の男ならば気が強い美人の気が弱い仕草だぜギャップ萌えー・・・とでもなったのかもしれないが、相手はよりにもよって弟だ。

弟にとっての姉に対する異性感、所謂幻想などはとうの昔にぶちこわされている。

合掌。


やっちまった感が胸を占めるカンクロウ。

じりじりと後退する弟に向けて発せられた姉からの言葉は、実にシンプルだった。

テマリは能面のような表情で、一言だけカンクロウに告げる。

「遺言はあるか?」

本気の眼光。殺人鬼のそれを見たカンクロウは腰が抜けた。

「ま、待つじゃん! ほら、謝るから!」


だが、現実は無慈悲である。


「・・・降伏は無駄だ、抵抗しろ」


鉄扇が振り上げられる。







---その時だった。

聴覚に、多由也からの合図の音が入ってきたのは。


2人共、はっとなり見張りがいる方に視線を移す。

見れば、サスケが立ち上がっている。そしてその手は、腰にある刀に添えられていた。

多由也は笛を吹いていた。特定のチャクラを持つ相手だけに聞こえる音を発しているのだ。距離はチャクラ量に比例する。


連絡用に開発した多由也の音韻術の1つ。

秘術・音遠透写。


音が、伝えるべき内容を運ぶ。それは、襲撃者が来たという音だ。

それを聞いたテマリが、後ろの方角を見る。

後方に待機している我愛羅も、この音を聞いてすぐに飛んでくるだろう。


「・・・・」


音譜の羅列による連絡は続く。

やがてその内容を全て理解した2人は、更に表情を引き締める。






「・・・どうやら、テロリスト共が来たようじゃん」

「そのようだな。しかも3人か」














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 四十九話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2009/11/07 14:45




鬼の国の外れにある一軒家の居間。

一人の少女が、お茶を飲んでいた。
湯気が立つそれに息を吹きかけ、冷ましながらゆっくりと湯飲みを口に運んでいく。

「…うむ、うまい」

口の中に広がる味に満足し、少女はこくこくと頷いた。

それもそうだ。とある組織の頭領が金にものを言わせて調達した茶葉なのだから。

「お主も、飲んでみるか?」

この味をどうか誰かに分かって欲しいと、少女が傍らに控えている護衛の忍びに声を掛ける。

「……結構です」

だが、男は表情を変えないまま、その申し出を断った。

「相変わらず無愛想な奴じゃのう」

男が断ると分かっていたのだろう。少女は動じず、また湯飲みを口に運んでいく。

その時、少し空気が揺れた。

「風が出てきたのう」

「そうですね、紫苑様」

あくまで事務的にしか答えない、愛想の欠片もない護衛の忍び。

少女紫苑は、その護衛の忍びの方を向き、ため息を吐いてやる。

「紫苑でいいと言っておるじゃろう、イタチよ。それに、つっ立っとらんで座ったらどうじゃ」

「任務ですので」

また無愛想に答える。

この対応も、2年間変わらないもの。

初めはイタチの無愛想な返答に腹を立てた紫苑であったが、それがどう対応していいのか分からない戸惑いによるものだと分かってからは腹を立てなくなった。

それに、無愛想なだけではない。退屈した紫苑が時たま隙をついて悪戯などを仕掛けると、イタチは困った風な笑顔を浮かべながらも、対応してくれる。

「うむ、しかしこの前のお主の様子は傑作じゃったぞ」

傍付きの者に作らせた蕎麦の中に、紫苑がこっそりあるものを入れたのだ。

それをイタチに食べさせたのだ。

「……しかし、火の実なんてどこから持ってきたのですか?」

「うむ、菊夜の奴が買い物をしたときにの。おまけとしてもらったそうじゃ」

菊夜は昔からの傍付きの女丈夫だ。紫苑の母の旧友かつ、弟子でもあったそうな。
齢28になる黒髪のおっとりとした美人で、昔から紫苑の世話をしている。

「お主の顔、傑作じゃったぞ」

悪戯な笑みを浮かべる紫苑に、イタチは憮然とした表情になる。

火の実を食べた瞬間思わず叫び声を上げそうになったイタチだが、何とか声も上げずに我慢していた。
だが、顔は真っ赤で心音も上がり、全身から汗がふきでていた。

その様子を察知した紫苑が、イタチに向けて何度も「どうじゃ?」と質問した。
言葉も返せないイタチであったが、何とか気を引き絞り、火の実入り蕎麦の感想を言ったのだ。

「……いいから、忘れて下さい。それに、あなたも菊夜殿に怒られたでしょう」

察知した菊夜は紫苑に拳骨をした後、「今度やったら同じ事を紫苑様にもしますよ」と説教をしたのだ。

「う、思い出させるでない。菊夜の拳骨は痛いのじゃ」

その時の衝撃を思い出した紫苑が、頭をさする。


そこに、また風が吹いた。

風は先程より強く吹き、紫苑の頬を撫でた。



何となく、沈黙が生まれる。



「……あの人が此処に現れてから、お主が此処に留まるようになってから、もう2年になるのか」

紫苑が、その時の事を思い出す。


傍付きの者と2人静かに暮らしていた所に、突如現れた男達。
暁と名乗った忍び、ペインとイタチの2人は、いきなり紫苑の素性を聞いてきたのだ。

鬼の国でも死んだ者とされていた紫苑の素性を聞き、やはりと返したペインに対して、紫苑と菊夜の警戒心は最大限にまで高まった。
だがペインは特別2人に対して危害を加えるわけでもなく、逆に「物騒だから」と護衛の忍びを置いて帰った。

その声に偽りが無いと判断した紫苑は、それを受け入れた。

そこから、珍妙な同居生活が始まったのだ。


「あのときは何事かと思ったぞ」

「………」

言葉をかけられたイタチは内心で「自分もです」と答えそうになったが、自重した。

ペインに止められているからだ。

それを紫苑が察したのだろう。ため息を吐いた後、イタチに責めるような口調で言葉を向ける。

「ふむ、やはり話してくれぬか」

感情も動揺も心の内だけで殺す事になれた忍び。

だが、その微細な針の如く揺れた心の抑揚を紫苑は感じ取っていた。

イタチは素直に、その事を称賛した。

「鋭いんですね」

「ふふん、大したものじゃろう」

「ええ、本当に」

同意するイタチ。

紫苑は、さらに言葉を重ねる。

「他には、そうじゃな。お主今日は何かあったのか?随分と落ち着かない様子じゃが」

「………ありました、というかありそうなんですが。よく分かりましたね」

「うむ、何処か焦っているように見えたからの。ひょっとしてついに待ち人が見つかったのか?」

紫苑の言葉に、イタチは内心で驚いていた。そしてイタチにしては珍しく、素直にそのことについてを問う。

「…待ち人、ですか。あなたにいった覚えはないのですが」

「お主の様子を見て、何となくだが分かった。何かを求めて成そうと動く訳でもなく、いずれ訪れるであろう運命を待っているように見えた」

        
「…本当に、鋭い」

「当たり前じゃ」


紫苑はイタチの方に顔を向けながら、言う。




「例えめしいていたとしてもな。光りが見えずとも、確かに見えるものはあるのじゃからな」

笑顔で、自信満々に紫苑は断言した。



「………強いのですね。眼が見えない事、苦痛ではないのですか?」

紫苑の言葉を聞いたイタチが、呟き眼をそむける。眩しいものから眼をそらすように。

「……“明日はきっと良い日だ”」

「は?」

紫苑の唐突な言葉を聞いたイタチは、思わず聞き返してしまう。

「とある男から聞いた言葉じゃ。明日はきっと良い日だと。昨日よりも今日よりも、明日はきっと良い日なんだと」

紫苑は、今はもう光りを映さない眼を目蓋で閉ざす。

そして、かつての思い出の中で聞いた言葉を、記憶の中から引き出す。

「そう、信じていると言った。諦めなければ、努力すればもっと良い明日に辿り着けるんだと。
報われない事もあるし、やりきれないこともあるけど、足を止めなければきっと良い明日を迎えられるんだとあやつは信じておった」

どこかの誰かの言葉で、自分はそれを借りている。自分を奮い立たせているために、その言葉を胸中で反芻しているといった。

「…明日、ですか」

「そうじゃ。だから、妾はあの事件のことを恨まんし、眼が見えなくなった今にも挫けん。そう心がけている。そして、何時か来る明日を信じている。あやつの言葉を借りて、な」

イタチは沈黙する。

「確かに、眼が見えないのは確かに不便じゃ。挫けそうになる事もある」

紫苑は、静かに首を振る。

そう、初めから強い人間などいないのだ。在るのは、強くあろうとしている人間だけ。

紫苑はそれを自覚している。だが、それでも昨日にも今日にも負けてなんかやらないと決めている。

イタチはそんな紫苑の笑顔が、眩しかった。
同胞を裏切り、両親を殺し、暁に所属している自分。弟に全てを託し、死を以て罪の決済を果たそうとしている自分。
昨日に囚われ続けている自分に対して、紫苑はあまりにも前向きであった。

そんなイタチの胸中を、紫苑が更に抉る。

「イタチ。お主が死を望んでいるのは知っている」

イタチはもう驚かない。

「そこまで、気づかれていましたか」

「うむ。何処か暗い影を背負っておったしの。恐らくは自らが犯した過ちを贖うために、命を投げ出す所存と見た」

「………」

イタチは視線を逸らし、無言のまま立ち上がった。

「別に止めよとは言っておらんよ。お主が決めた事じゃ。それをどうこう言うつもりもない。ただ、1つだけ聞かせて欲しい」

「………何でしょう」

部屋を出て行こうとするイタチの背に向け、紫苑は告げた。



「本当に、それでいいのか?」



紫苑の言葉を背に。イタチは問いに答えないまま、外へと出て行った。



「紫苑様……」

心配そうな声を掛ける菊夜に、紫苑は笑いかける。

「大丈夫じゃ。あやつも、迷っているのじゃろう」

「いえ、そのこともあるのですが……」

「……あの馬鹿の事か」

「はい」

「なに、アヤツは紳士を自負していた。自称していた。ならば来ないはずがあるまい。紳士の先駆けと名乗ったあやつの言葉を信じるのじゃ」

「ですが、その時の記憶が無いことには………」

「それも心配ない」

紫苑は嬉しそうに悲しそうに。

ただ、笑った。


「あやつは、約束を忘れない。業は、あやつを離さない。全ては流れのままに。だから、絶対に来る。思い出してしまう………ふふ、そう考えると運命とは真実、呪いのようじゃな」






そして、家の外へと出て行ったイタチは、虚空を見て一人呟いていた。

「”それでいいのか”、か……」

イタチは先程の問いをぽつり呟き、空を見上げる。

(あれだけの罪、命を以て贖う他に何があるというのか)

イタチは、考えてみた。考えてみたが、答えはでない。

今自分が思っている以外の選択肢など、選ぶことができない。

「……それに」

イタチは懐に入れてあった手紙を取りだし、一人呟く。

そこには、とある人物の遺言が書かれていた。誰に向けてという訳でもないが、然るべき相手に渡さなければいけない。

それが、少なくとも自分ではないとイタチは自覚していた。スサノオの影響により全身の細胞が痛んでいる自分に、これを受け取る資格はないと思っている。

これを元に、色々と動き出さなければいけないのは分かっている。

ペインは言った。

「既に準備は整った」と。

二~五尾までを飲み込んだ今、あいつが動き出すのは時間の問題だろう。

今も、鬼鮫たち3人が一尾強襲の任を遂行している傍ら、隠れながらそれを監視していると聞いた。




「………時間が無いんだ」

切実な言葉がイタチから絞り出される。

鬼鮫に伝言は頼む事はできたとはいえ、あいつがサスケと出逢う確率は低い。

それでも、何とか此処に来て貰わなければ困るのだ。

「………サスケ、何処にいるのか分からないが、速く来い」

手遅れになる前に、とイタチは心の中だけで言った。










「そっちにいったぞ、サスケ!」

「分かってる!」

多由也の言葉に答え返しながらも。
サスケは視線を敵から離さずに、じっと見据える。

風が吹いた。
砂煙が舞い上がり、僅かだがサスケと音忍の視界を塞ぐ。

同時、動く。

音忍が砂煙で薄れた視界の影にて瞬身の術を使う。言うまでもなく、近接するためだ。

サスケの腰にある刀を見て、至近距離の方が良いと判断したのだろう。
一瞬で懐へと飛び込む。

だが、サスケはそれを読んでいた。刀に添えていた手を迷い無く離し、至近距離での応戦を選択した。

激突。

数mはある岩場の上で2人の忍者は交差しながらも、一合二合の攻防を組み交わす。
一合目は互いに防御、しかし2合目はサスケが勝った。写輪眼で相手の動きを捉え、向けられた一撃を片手で捌きながら、音忍の顎に一撃を加えたのだ。

相手は苦悶の声を上げながら吹き飛び、岩場の上から下へと落下してゆく。
そのままでは頭から落下する体勢だったが、落下途中に体勢を立て直し、空中で回転。
あぶなげない動作で、足から地面へと着地する。


立ち位置が変わる。
岩場の上にサスケ、下に音の上忍という構図だ。

早めに決着を付けたいサスケが、攻めてこない音忍の元へと飛び降りる。
対し、跳躍する音忍。


今度は空中で交差する。

だがサスケは再び、音忍のクナイによる一撃を写輪眼避けながら、今度は懐の鋼糸を取り出した。
従来のものよりもやや太めのそれは、思いっきり握っても手が切れない代物だ。

それを相手の身体に巻き付けながら、素早く印を組む。

すぐさま発動するは、雷遁・雷華の術。

「があっ!?」

鋼糸を振りほどこうとした音忍が、その鋼糸から伝わる雷撃を受けて硬直する。

サスケは鋼糸を引っ張り、落ちてくる音忍に向けてとどめの回し蹴りを放った。

その人体急所である米神を的確に捉えたサスケの一撃を受け、音忍は気絶した。



同じように、再不斬、白、テマリ達も音忍を撃破していった。









そして、後方。

その様子を見ていた暁のメンバーが3人。

「あれは写輪眼………ということは、もしかして、うん!」

デイダラが興奮した面持ちで、頷く。

「あっちはなんと、再不斬の小僧のようですねえ。波の国で死んだものと思っていましたが」

鬼鮫が楽しそうに笑う。

「どうやらうずまきナルトはいないようだが、予想外な奴らが居たな………どうする?」

一人冷静なサソリが、2人に問う。

返答は、簡潔だった。









一方、音忍達数人を蹴散らしたサスケ達は、遠くから暁の姿を捉えていた。

「………暁はツーマンセルで動くはずじゃなかったのか?」

サスケが呆れた口調で言う。

「木の葉に来た時は2人組だったんだがな」

再不斬がため息を吐きながら答える。だが、その視線はぎらついていた。敵方に鬼鮫が居るせいだ。

「何か理由があるってことか。どうするじゃん、我愛羅?」

後方から合図の音を聞いて駆けつけた我愛羅に、カンクロウが問う。

「打ち合わせ通りにやるしかないだろう。サスケ、お前はデイダラをおびき寄せてくれ」

「ああ、了解した。そっちはサソリを頼むぞ。その名前の通り、毒による攻撃が得意な奴なんだろう? ………なら、一撃も喰らえない相手というわけだ。砂の防御を持っているお前の方が適している」

「………言われずとも、だ。そもそもあいつは砂隠れの抜け忍だ。現風影として、責務は果たす」

「私とカンクロウは我愛羅のサポートに回る」

「分かっている。白は俺に付いてこい………鬼鮫の野郎を、倒す」

「分かりました………しかし、サスケ君のお兄さんの姿が無いですね」

「………そうだな。正直、この状況下では兄さんの姿が無いのは助かるんだが、何かあったのか………」

「…今は考えていても仕方ない。まずは眼前の敵だ。白と多由也は残りの音忍を頼む。倒した後は、不測の事態に備えてくれ。多由也、お前の音韻術でな。俺達は暁の野郎共をたたむ」

一拍置いて、再不斬が皆に問う。

「………用意はいいか?」

全員がうなずいた。









かくて戦闘が始まる。



サスケは一人、近づいてきたデイダラと対峙する。

「……写輪眼、ってことはイタチの弟のうちはサスケか、うん?」

「そうだ。そういうお前は暁の………デイダラだな? 狙いは我愛羅の中に居る一尾か」

「………ああ、お前の姿を見るまではそうだったんだけどな、うん」

デイダラは目を細めながら、サスケを睨み付ける。

「………そっちはサソリのダンナに任せた。オイラの目的はお前だ」

デイダラが、サスケの“目”に指を向けて宣告する。

「オイラはその写輪眼が気に入らないんでね、うん」

その言葉と共に、サスケはデイダラの威圧感が増すのを感じた。

(………ナルトは“うげー爆弾”とか言ってたけど。そんな可愛いレベルじゃないぜ、これ)

サスケは、目の前の敵から感じられる威圧感から、相手の強さを想定する。

結論、強い。とてつもなく。

模擬戦ばかりで実戦経験の少ないサスケでも分かる程に、相手の存在感は際立っていた。
雪の国で戦ったドトウは勿論、先程気絶させた音忍でさえ比較対象にならない。

上忍の上。今の再不斬やナルトと同等の実力者だ。

サスケはそれを認識し、出し惜しみできる相手ではないと判断。
腰に下げられた愛刀、雷紋を抜く。

「………変わった刀だな、うん?」

デイダラは、その抜き放たれた刀を見た後、首を傾げる。

見た目特筆すべき所がない、簡素な造形。片刃の表面には、段平模様が浮かんでいる。

「………突き重視に、速さ優先。加え、隠し玉がありそうと見たけど、うん?」

造形師でもあるデイダラは一目で雷紋の特性を見抜き、頷く。
そして、起爆粘土で作り出した爆弾を手に持つ。

「………まずは小手調べだ!」














「おやおや、まさかここで会えるとは思ってませんでしたよ」

「それはこっちの台詞だ」

サスケ達から少し離れた場所。砂場のない平原で、再不斬と鬼鮫は対峙していた。

「いやはや、まさかあなたがイタチさんの弟君と一緒に行動していたとは。しかも砂隠れの風影の護衛にねえ?」

鬼鮫は横目でサスケがいた方向を見る。

「………何か、あいつにあるのか?」

「ええ、伝言がね。ですが、伝えるにしても見極めなければならないものがありまして。そういうあなたは、私とやりあうつもりですか?」

「ああ、依頼人の要望でな。加え、俺の目的を達成するためでもある」

「ほう、その目的とは?」

問われた再不斬が、背負っている首斬り包丁の柄を握る。
そして一息に前へと突き出す。

「手前の首だ、S級賞金首。大名殺った干柿鬼鮫の首を手土産に………俺は霧へと戻る」

「………私の首はともかく、霧に戻るというのは少し、予想外ですねえ。だが、アナタの罪は重い。何しろ水影の暗殺未遂だ。私の首だけでは足りないんじゃないですか?」

鬼鮫は笑みを絶やさないまま、再不斬に訊ねる。

だが、次の一言を聞いた瞬間、その笑みは消えることとなった。

「………何、先代の、うちはマダラの情報を持っていけば事足りる」

再不斬の言葉を聞いた鬼鮫の眼光が鋭くなる。

鬼鮫のぎらつきを帯びたものものしい気配に、再不斬は一瞬後退しそうになる。

だが、気で負けてはならぬと、再不斬はその場に踏みとどまった。

「………ほう、随分と腕を上げたようですねえ?」

それを見た鬼鮫が、面白そうだ、という表情を浮かべる。

「ああ………小僧などとはもう言わせねえ!」

その一言をもって。

対峙する空気は刃のように鋭くなった。

其処には、熟練の忍びが2人。かつては里を同じにした2人は、今殺気を眼前に押し付け合い、にらみ合っている。



「………こちらも、その情報をどこで掴んだのか………答えてもらいますよ!」


その言葉を合図に、事態が動く。

鬼鮫は目にも止まらぬ速さで印を組み、両の手を叩きつける。



「水遁・瀑水衝破!」



鬼鮫の膨大なチャクラが、その体内で性質を変化される。

そして、それは口からはき出された。

鬼鮫のチャクラと同じく、膨大な水量が一気に具現し、河も池も無い平原に荒れ狂う津波が顕現した。












「………一尾、我愛羅だな?」

「そういうお前はうちの抜け忍。赤砂のサソリで間違いないな?」

20m離れた場所で、我愛羅達とサソリが対峙している。

サソリは、カンクロウが操っている人形を見た後、表情を僅かに変える。

「………チヨばあはどうした?」

「体調が優れないんで、代役として俺が此処にいるじゃん。お前を止めてくれって頼まれた」

「どちらにせよお前が我愛羅を狙うというのなら、止めるがな」

テマリが扇子を一薙ぎする。

「まずは小手調べ、大カマイタチの術!」

そしていきなり術を発動。

風の刃がサソリに襲いかかった。

「………ふん」

だが、それをサソリは一蹴する。
我愛羅有利のこの地形と、1対3という状況から、切り札を切ることにしたのだ。

「出ろ」

地形が不利ならば、有利に変えればいい。数が足りないのであれば、増やせばいい。

サソリは、最初から全力で行くことに決めた。

「それが、三代目風影の人形………!」

カンクロウが驚きの声を上げる。

「………良く知っているな。まあ、誰から聞いたかは知らんが、それも関係ない。一尾の人柱力を除いた全員は、ここで朽ちてもらう」


そう言ったあと、サソリは三代目の人形を操る。

三代目風影の特殊能力は、チャクラを磁力に変え、砂鉄を自由自在に操る事。

加え、サソリは毒の使い手。


「……砂鉄時雨」


我愛羅達に向け、触れれば即座に動けなくなるほどの毒がしみこまされた、砂鉄の散弾が放たれた。



「砂手裏剣!」


それを、我愛羅が迎え撃つ。チャクラを篭められ、硬質化した砂は砂鉄の散弾を止め、相殺した。

三代目が操る砂鉄は堅いが、所詮は人形。生来の能力と違い、砂鉄はチャクラによって強化されてはいない。

対する我愛羅は、砂にチャクラを篭められる。

威力はほぼ互角。察したサソリが口の端を上げる。


「…面白い、砂鉄と砂、どちらが勝つか試してみようか!」


途端、大量の砂鉄がサソリの周りに浮かぶ。

対する我愛羅も、そこら中にある砂を集め始めた。


「「勝負!」」


サスケ対デイダラ。

首斬り包丁対鮫肌。霧隠れの鬼人対怪人。

砂鉄対砂。三代目風影人形とサソリ対五代目風影とその兄弟。



死闘が始まった。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十話
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:35




一方、滝隠れの里では。

「例の、シグレに付き従っていた滝隠れの忍びが………消えた?」

応援でかけつけた日向ネジ。

滝隠れの忍び達の情報を集めるため、シグレに従っていた忍び達を尋問しようとしていたのだが。

「ええ。尋問した途端、急に……」

尋問を担当していたテンテンが、青い顔で答える。

「彼らがはめていた指輪から、何か黒い塊が飛び出して………そして、それに飲み込まれて……その黒い塊は、その後地中へ逃げていったんだけど

「それは……」

見たことも聞いたこともない術。加え、人を飲み込むというあまりにも異様な術の詳細を聞いたネジが、言葉を失う。

だが何とか気を引き締めて、指示を出す。

「ここでこうしていても始まらない。報告する必要もあるから、ひとまず木の葉に戻るぞ」

























「はっ!」

鳥の形をした起爆粘土。

かなりの速度で飛来するそれを、サスケは雷紋で真っ二つにする。

雷遁による性質変化を纏わせた刀の一撃。

粘土は斬られた後、爆発せずにそのまま土塊へと還った。

「なるほど、うん。性質変化を助長する刀だな」

デイダラはサスケが持つ刀の性質を見極めた後、その場から移動しながら次々と起爆粘土を放つ。

一方で、地面に地雷を埋めてゆく。

(引っかかれば御の字だけどな、うん)

サスケは飛んでくる起爆粘土を全て写輪眼で捉え、一閃、二閃。

雷の斬撃を繰り出し、斬って落とす。


「はっ!」

そして互いの距離がある程度近づいた時だ。

全速で、デイダラへと切り込んでいく。


「………近づかれたらまずいな、うん!」


後ろへ跳躍。また起爆粘土鳥を放つ。


「っつ!」

サスケはそれも切り払おうとする。

だが、違和感を覚えたサスケは即座に行動を切り替え、横へ飛ぶ。


直後、起爆粘土が爆発。
サスケに届く少し手前の場所で爆発したのだ。

(危なかった…)

間合いの外で爆発した起爆粘土を見て、サスケが呟く。

デイダラが取った方法は簡単だ。
雷遁によって爆弾を潰されるなら、それを受ける前に爆発させる。
ようするに、爆圧だけを当てる方法だ。

サスケも、流石に爆圧までは斬れない。

「追加だ、うん!」

追加の粘土がまた飛来。また、手前で爆発するのだろう。

(ならば!)

そこで、サスケは戦法を変える。

「千鳥千本!」

刀が届かないのであれば、届く攻撃に切り替えればいい。

そう考えたサスケは、起爆粘土に向け雷遁の形質変化による千本を放ったのだ。

それは寸分違わず鳥の中心を射抜き、今までと同じように内部の爆発能力を打ち消し、普通の土塊へと還っていく。

生まれた間を、サスケは逃さない。

跳躍。

(地雷も消して!)

地面に埋められた地雷をすでに写輪眼捉えている。
サスケは、雷を纏わせた刀を下段に構えながら走り出した。


「ちいっ!?」

地雷を潰しながら猛スピードで迫るサスケを見たデイダラは、一瞬逡巡したが、後方に跳躍した。

間合いが再び開こうとする。

「千鳥流し!」

そこに、サスケは追撃。

「ぐあっ!?」

デイダラは跳躍中だったが、サスケの雷光の網にかかってしまう。

「そこだ!」

デイダラが雷撃により硬直。

サスケはそこに踏み込み、突きを放つ。

「っまだだ、うん!」

硬直が終わったデイダラだが、今度は後方に飛ばす土遁を使った。

地に潜行したのだ。

「ちいっ!」

突きを避けられたサスケは、デイダラの使った術を看破した後舌打ちをする。

---土遁・心中斬首の術。

かつて、カカシから受けた術。だが、同じではない。使っているのは、デイダラなのだ。

その危険性に気づいたサスケは、戦慄する。


(掴まれた状態で爆発を受けてしまえば!)

ひとたまりもない。

サスケはその場に留まることなく、跳躍。

空中で写輪眼による洞察眼でデイダラの位置を把握した後、着地する。


「………」


一方、デイダラは地面に出てきてサスケの位置を確認した後、すかさず起爆粘土を作り出した。

開いた距離に、生まれた一瞬の間。

そこに、デイダラはたたみ込む。

今まで使っていた、威力が比較的低いC1の起爆粘土ではなく、C2レベルのチャクラが篭められた起爆粘土を使う事を決心したのだ。

まず、C2ドラゴンを呼び出す。そして、その龍のような形状のそ起爆粘土が口を開ける。

そこから一斉に、起爆粘土が放たれた。


数が多く、四方八方から迫り来るそれを、サスケは避けた。

だが、その起爆粘土は追尾方だったのだ。

不意の軌道変更に虚をつかれた形になったサスケは、狼狽する。

「しまっ!」

咄嗟の対処が出来ない距離。間。

そこで、デイダラが、叫んだ。

「芸術は、爆発だ!」

サスケは周囲の起爆粘土の爆発から逃れられない。

爆圧に巻き込まれたサスケは、その全身をばらばらにされた。







一方。瀑水衝破によって生まれた、急造の池の上で対峙する2人、再不斬と鬼鮫。

くわっと目を見開き、印をくみ出す。


「水遁・水鮫弾!」

「水遁・水龍弾!」


2人の下にある水面が盛り上がる。やがてそれは高水圧の鮫と龍を化して、互いの敵を襲う。

つまり、軌道は同じだ。空中で龍と鮫は激突し、同時に弾け四方に散っていく。

弾けた水の先、2人は背の愛刀を手に、距離を詰める。


「オラァ!」

「ハッ!」


一閃。袈裟懸けに振り下ろされた大刀は互いにぶつかりあい、その勢いを止める。


激突の余波はすさまじく、周囲の水がその衝撃ではじけ飛んだ。


再不斬と鬼鮫は刀を振り下ろした体勢のまま、そこに留まった。

鍔迫り合いとなる。

「なるほど、単純な腕力も……!」

「てめえこそ、相変わらずの馬鹿力だな……!」

愛刀を眼前に、にらみ合う。

(ちっ、あまり近づくのも……!)

鮫肌の能力に舌打ちをする再不斬。鍔を一端押した直後に後方へと跳躍し、再び首斬り包丁を振るう。

鬼鮫はそれを鮫肌で迎え撃つ。

呼気と共に放たれる斬撃の連鎖。唐竹、袈裟、胴、逆袈裟、切り上げ、横一文字。

繰り出された大質量の鉄塊による応酬。

呼気があたりに響く回数と同じだけ、大刀と大刀がぶつかりあう。

2人の間に火花が生まれては消え、激音が鳴り響いては消える。


鬼人と怪人。

怪物の異名を取る2人はその名にふさわしく、人を越えた膂力をもって互いの敵の肉を斬り潰す、あるいは削り殺さんと手に持つ大刀を振るう。


「ここだ!」

「ぬっ!」


鬼鮫の唐竹の一撃を、再不斬が斜め方向の斬撃で打ち逸らす。

切り落としだ。

軌道を逸らされた鮫肌が、再不斬の横にある水面へと叩きつけられた。

空振りにより、鬼鮫の重心が若干だが崩れ、身体が泳ぐ。

「その首、もらった!」

再不斬は、その隙を逃さない。

切り落としのために打ち払った刀をくるりと手元で返し、鬼鮫の首へ向け横薙ぎの一撃を繰り出す。

身体の頑丈に関係なく、クナイでも受けきれない。直撃すれば即死の一撃だ。

だが鬼鮫はその一撃を、かがむことだけで回避する。上忍にしても化け物じみた反射神経である。

「次はこちらですよ!」

空振りに終わった再不斬の一撃。鬼鮫はそこで生まれた隙を、詰める。

「オラァ!」

一歩踏みだし、鮫肌を握っていない方の手で再不斬の腹を殴りつける。


「ぐあっ!」


怪力の一撃を腹に受けた再不斬の足が立っていた水面から浮き、離れる。

そこに、鬼鮫の追撃の一撃が振り下ろされた。

「くうっ!」

顔面に振り下ろされた一撃を、首斬り包丁の腹で受け止める再不斬。

だが、激突の衝撃に押され、池の底へと沈んでいった。



「水遁・五色鮫!」


鬼鮫は、更に追撃。
五匹の鮫が再不斬に向け放たれた。

だが、その鮫は再不斬には届かない。
突如現れた渦に飲まれて、消えてしまったのだ。


(これは!)



水の大渦。
その現象を把握した鬼鮫が、急いでその場から飛び退く。


直後、水の渦巻きはその勢いのまま、空へと昇っていった。まるで竜巻のように。

放ったのは再不斬。彼が得意とするA級の水遁術、水遁・大瀑布の術である。

鬼鮫はその術の範囲から逃れ、警戒態勢を取る。

「っ、そこ!」

そして背後から襲ってくる殺気を感知した鬼鮫が、振り返り様鮫肌を振り抜いた。

首斬り包丁にあたった感触もない。柔らかい手応え。


サイレントキリングの達人である再不斬だったが、相手が悪かった。

気配を気取られ、鮫肌の一撃を顔面に受けて、無惨にも削り殺されたのだ。


---そう、再不斬の水分身が。


「・・・・ああああぁあ!」

「っ上ですか!」

雄叫びと気配により、鬼鮫は再不斬の位置を察知する。

水分身はあくまでフェイクで、本物の再不斬は、水の竜巻とともに上空へと飛んでいたのだ。



そして、落下の勢いを活かし全力で唐竹の一撃を振り下ろす。


---激突。


「くうっ!」

それを鮫肌で受けた鬼鮫。だが、先程より明らかに強い斬撃の威力に押され、鮫肌の位置を維持できない。

押された鮫肌が下がり、鬼鮫の肩へと食い込む。削られた肩から鮮血が舞う。

(くっ、これは…!?)

鬼鮫の怪力を以てしても止めきれない、あまりにも重すぎる一撃。

見れば、再不斬の大刀の表面には水の塊の残滓があった。

大半は鮫肌により吸収されたのだが、未だ残っているそれを見て鬼鮫は疑問符を浮かべる。

一方、再不斬は効果があったことにほくそ笑んでいた。

再不斬が空中で使ったのは、水遁・水刃撃という術。

雪の国で見せた水刃翔の亜流術で、斬撃の切れ味を倍増させるという術だ。


だが、本来ならばこの術は鬼鮫には通じないものだった。

何しろ、鬼鮫の愛刀・鮫肌はチャクラを吸収してしまうのだ。斬撃の切れ味が上がったとして、それが鬼鮫の身に当たらなければ意味がない。

鮫肌で受けられるだろうし、その場合逆にチャクラを吸収されてしまうのがオチだ。

だが、この場面であえて再不斬が水刃撃を使ったのには、理由があった。

(刀の重量を増加させたんですか……!)

重量を増加させ、自由落下の勢いに乗せることで斬撃による衝撃力を文字通り“水増し”したのだ。

鮫肌では水による切れ味は吸収できても、その斬撃のエネルギーまでは吸収できない。

「まずは一撃…!」

してやったり、と再不斬が言う。

「かあっ!」

鬼鮫は肩に負った傷の痛みをこらえながら、力任せに鮫肌を振り上げ、首斬り包丁を押し返す。

再不斬はその押される勢いに逆らわず後方へと飛び、再び水面へと着水する。


離れた2人。元の距離である。


先程とは違い、再不斬は不適に笑っている。

対する鬼鮫は肩の傷を見たあと表情を更に真剣なものに変える。


「……成る程。数年前のアナタとは、まるで別。随聞と、強くなりましたねえ」

「…そういう手前はあまり変わっちゃいねえがな?」

「いえいえ……そうでもありませんよ!」


再び、斬撃の応酬が開始された。












「砂手裏剣!」

「大カマイタチの術!」

「喰らうじゃん!」


迫り来る風の刃と、仕込み人形による爆弾付きクナイ、砂手裏剣。

放たれたそれらは、しかしサソリには届かない。

「ソオラァ!」

---砂鉄結襲。

サソリは三代目人形を操り、砂鉄を結集させたのである。
土遁以上の硬度を持つ鉄の壁で、その攻撃を全て防ぎきる。

「くっ、あの鉄の壁は厄介だな……!」

傷もついていない壁を見たテマリが、忌々しげに舌打ちする。


「何か手が………って来るじゃん!」


結集させられた砂鉄が宙に浮かぶ。

それが、一瞬震えた直後である。



「っ、テマリ、カンクロウ!」

---砂鉄界法。

球体から棘が生まれ、放射状に広がっていった。


「くっ!」


それを、我愛羅は砂の壁で何とか防ぐ。

テマリは鉄扇で受け止め、カンクロウは腕に仕込んだ機光盾封で砂鉄を防いだ。


「砂縛牢!」

すかさず、反撃に移る我愛羅。

砂がサソリを押しつぶさんと迫る。

だが、それも派生して出来た砂鉄の槍に貫かれ、勢いを殺がれる。


「………埒があかんな」

近づいてこない我愛羅達に対し、サソリは舌打ちをする。

遠距離同士のやりあいだと、攻撃が届くまでの時間がどうしても長くなる。



(持久戦か……)

サソリは胸中だけで呟いた。そして、こちらが有利だと笑う。
あちらと違い、こちらは一撃を当てるだけでいいのだ。

(砂鉄に仕込まれた毒の麻痺、人柱力でも抗えまい)

一人一人、確実に仕留めてゆけばいい。

そう思ったサソリは、再び砂鉄時雨を放ち始めた、









一方、白と多由也は残った音忍達全てを倒した後、全員を縄で拘束していた。

残った音忍は4人いて、3人が中忍、一人は上忍クラスというかなりの戦力だったのだが、2人の連携攻撃により呆気なく撃破された。

「しかし、音忍か。大蛇○と暁が手を組んでいるという予想、当たっていたようだな」

「そうですね」

「でも腑に落ちない。大蛇○の性格上、今更暁と手を組むとかいう選択は選ばないと思うんだが」

「必要に迫られても、ですか?」

「ああ。どうも引っかかる。まあそれは後で考えるか。決着がつくまで、こいつらを見張っておこう」

「しかし、思ったより速く、かたを付けられました」
「………あの術、役に立ったか?」

「ええ、それはもう随分と」

白が、呟く。

「秘術・五音。かなり使えますね」

音韻術が2、五音(ごいん)。効果は、味覚も含めた五感が鋭くなる事である。

「そうそう、五感が鋭くなるってのもあるけどなあ。何か、こう、別の効果もあったな」

模擬戦では気づかなかったけど、と多由也が言う。

「はい。勘も、鋭くなったような気がします」

相手の戦術というか、持ち術に対する勘、いわゆる戦闘勘というものも鋭くなっていた。

「相手の攻撃を予測し、相手の次の行動を予測する能力も……高くなっていました」

今回の音忍の全員が、能力も分からない初見の敵である。にも関わらず、これだけの短時間で倒す事ができた事実に、多由也が満足そうに頷く。

「ナルト曰く、勘とか戦闘勘? いわゆる“第六感”ってのは五感と記憶・経験が組み合わさった故の、相互作用が在って初めて働くものらしいからな」

経験無くして勘は働かず、五感が鈍い奴は勘も鈍くなる。

特に、戦闘勘というものはそれまでに経験してきた五感の感触を素地に生まれるものだ。

洞察力による予想と勘は紙一重ともいうし、密接な繋がりがあるのかもしれない。

「そうですね、それも関係しているのかも……ん?」

言葉の途中、とある違和感を覚えた多由也は、違和感がした方向である、地面を見る。

「どうしました?」

「いや、何か………地面が揺れているような」

「再不斬さん達の戦闘による余波と思いますが………違うんですか?」

「……何か、違うような気がする。確かめてみるか」


幸い、術の効果によりあと数分は五感が高まったままだ。

ちょうどいいと思い、多由也はしゃがみ地面に耳を当ててみる。



「………やっぱり、地表面が揺れているんじゃない………これは、なんだ?」







吹き飛んだサスケを前に、だがデイダラは気を緩めない。

「………幻術だな、うん!」

爆発で吹き飛んだように見えたサスケだが、デイダラはそれは幻術によるものだと気づいていた。

イタチとの勝負で、写輪眼による幻術で敗れたデイダラ。
その後、写輪眼対策にと自らの眼を魚眼レンズを備えているスコープで覆うようになったのだ。

「後ろだ、うん!」

幻術を看破し、背後から忍び寄ったサスケへと爆弾を放った。

その後、眼に移るのは吹き飛ばされ、血を撒き散らすサスケの筈だった。

しかし、実際は違う。

「水、分身!?」

サスケは幻術を使った直後、爆発による煙に紛れ、忍具口寄せを使ったのだ。
口寄せされた水を使い、再不斬からコピーした水分身の術を使い、その分身体を特攻させた。
水分身は本体より能力が低下する。だから、気配を殺して近づいても気づかれる。
ならば気づかせた上で効果を出せばよいと考えた、サスケの策は見事にはまった。

撒き散らされた水が、デイダラへとかかる。

同時、水分身が持っていた鋼糸の束がデイダラの元へと落ちる。
その鋼糸の片方はサスケの元にあり、すでにまとめて雷紋の刀身へとくくられていた。

サスケは水分身がやられたのを確認した後、雷紋を地面に突き刺しながら印を組む。

「雷遁・大雷華!」

雷紋によって増幅された雷は鋼糸を伝導し、デイダラの元へと辿り着く。


「がああああああぁぁ!?」

水に濡れ、感電しやすくなっているデイダラはその電流を受け、その場に跪いた。

その余波を受け、C2ドラゴンも形を失っていった。


だが、まだ終わってはいなかった。

“ドラゴンと一緒に散ってゆくデイダラ”を見届けながら、サスケは気配がする方向へと振り返った。


「………粘土分身、か」

振り返るサスケ。そこには、デイダラの姿があった。

特別驚くわけでもない。さっき地中に潜った時に入れ替わっただろうことは、推察できた。

あの一撃で決められなかったのは残念だが、まだまだ策はある。
それより、あれほどに精巧な粘土分身を維持するにはチャクラを喰うはずだから、あれを早めにつぶせただけ有利になったと考えている。

「………」

サスケは無言のまま睨んでくるデイダラを睨み返し、再び戦闘の構えを取る。


「……来いよ自称芸術家。お前の爆弾など全部蹴散らしてやる」


サスケの、苛立ちを含んだ声。それを聞いたデイダラが、問い返す。

「何を怒っているんだ、うん?」

「お前が芸術家と名乗った事だ。芸術家ではないお前が、芸術家を名乗った事だ」

思わぬ答えに、デイダラは一瞬きょとんとなる。だが、その言葉の意味を理解した後、憤怒の表情を浮かべた。

「オイラの何処が芸術家じゃない、うん!?」

憤怒の表情と怒りが混じったチャクラがサスケに向けて放たれる。

だが、サスケは負けず劣らずの怒りの感情を盾に、答えを返す。

そう、サスケは怒っていた。
本人の前では決して口には出さないが、サスケは心の底から尊敬している芸術家が、ただ一人だけいた。
多由也だ。

「お前の芸術というのは、それか? その、爆弾か?」

「そうだ、うん!」

サスケに造形は解らない。美術というものは解らない。
だが、芸術とは須く誰かの心を満たすためにあるものだと理解している。多由也からもそう聞かされた。

ナルトも、料理人で芸術家とは言い難い。
だがその根は同じで、誰かの心を満たすためにその道で頑張っている。

その2点から、サスケは目の前の芸術もどきの忍術もどきを認めない。


『誰の心も満たさない芸術などあるものか』


その言葉をデイダラに叩きつけ、構えを取る。

目の前の相手を打ち倒すために。

サスケは構え、スピードを上げるため、通常時より更に足へとチャクラを篭めた。


---その時だった。












「あとは、お前一人だな」

サソリは、地に倒れ伏すテマリとカンクロウを一瞥した後、我愛羅へと告げる。

諦めろ、と。

「くっ……」

傷を受け倒れた2人と、その周囲に散らばっている破壊された傀儡人形を見て我愛羅が呻く。


三代目風影人形と一対一で戦っていた時は何とか無傷で済んでいたのだが、サソリが他の傀儡人形を繰り出してからは状況が一変した。

砂鉄を操る三代目風影人形を筆頭に、数の暴力をたのみに攻撃してくる人形達。その数は事前情報で得られていた100機とは至らずとも、その1/5はあった。
100機全部を繰り出してこないのは、三代目風影人形の操演を疎かにしないためであろう。

攻守両立できる砂鉄攻撃を主軸に、多角的な攻撃を仕掛けてくるサソリ。

我愛羅達は応戦し、凌ぎ、反撃し、その人形の全てを破壊する事に成功したが、その時にカンクロウとテマリ2人は一撃を喰らっていた。

毒が染みこんでいる砂鉄の飛礫を受けてしまったのだ。カンクロウは胸に、テマリは腕に一撃を受け、その場に倒れた。

「砂瀑牢!」

我愛羅は2人を砂で運び、自分の背後に庇いながら応戦を続けている。

「……砂鉄城壁」

だが、幾度攻撃しようとも文字通り鉄壁の防御力を誇る三代目風影の守りを抜く事ができない。


そこからも、2人の激戦は続く。

異能ともいえる忍術の応酬。砂対砂鉄が浸食しあうそれは、点と点ではなく、面と面の争い。

陣取り合戦じみた戦いの果て、2人を背に庇いながら戦う我愛羅の顔に、疲労の色が浮かび出す。

「はあ、はあ……」

「なかなか、しぶといな一尾。だがこれで終わりだ」


呟き、サソリが繰る糸を翻す。

同時、宙に浮かんでいる砂鉄がその形状を変えていった。


「……砂鉄の、剣?」

「くたばれ」


---砂鉄剣牢。


サソリの呟きとともに、砂鉄でできた巨大な剣が我愛羅を襲う。


対する我愛羅も、砂瀑の盾では防ぎきれないと判断し、自らがもつ術の中で最高の防御力を誇る術を繰り出す。

最硬絶対防御・守鶴の盾。


砂鉄の巨大剣は狸の形状をした砂の塊に突っ込み、だがそれを貫けず半ばで止まった。

我愛羅の防御力が砂鉄の攻撃力を上回ったのだ。

だが、我愛羅は安堵のためいきを吐かず。

目の前で変化する状況に向かい、ただ叫んだ。


「剣が!?」


見れば、砂に突き刺さっていた砂鉄の剣が崩れ出した。

そして、我愛羅を捕らえようと周囲に展開していったのだ。

このままでは捕らえられると判断した我愛羅の判断は速かった。背後の2人を抱え、瞬身の術で砂鉄がまだ覆われていない後方へと離脱したのだ。

途中、我愛羅達は砂鉄に触れそうになったのだが、身に纏う砂でかろうじて防御。紙一重だったが、無傷での離脱に成功した。



「くっ、かくなる上は……!」

退避に成功した我愛羅が、一際大きなチャクラを練り込む。

それを察知したサソリが、砂鉄群を自分の所へ戻す。

追撃するという選択肢もあったのだが、相手の術の事もある。無茶をする必要もないと考え、ひとまず防御することにしたのだ。

(それに、体力も限界だろう)

他の2人は既に倒れている。ここは賭けに出る場面ではないと判断し、砂鉄を再び結集させた。

サソリと3代目人形の前に、壁が出来ていく。黒い壁に遮られ、サソリの視界が塞がれていく。見えるのは、砂鉄だけ。



だから、見えなかった。視界が塞がる一瞬前に、我愛羅が笑みを浮かべたのを。

そして。


(いくじゃん!)

(応!)

毒を受け倒れていたはずのテマリ、カンクロウが立ち上がったのを。

2人は攻撃を受けた振りをしていたのだ。
例の、ナルトから渡された毒避けジャケット……“防刃繊維が組み込まれた服”に当たるように誘導し、わざと被弾。
傷を受け毒を受け、昏倒した振りをしていた。

チャクラの動きを察知したサソリが、少し動揺を見せる。


だが我愛羅はサソリの動揺に構わず、仕上げの最初となる大きな術を放った。

「いくぞ!」


砂瀑大葬。砂の大津波が、サソリと3代目人形に襲いかかる。


「砂鉄傘層!」

だが砂の大津波は砂鉄の傘により左右に分けられ、サソリの身をを飲み込むこと叶わず、後方へと逸らされていく。


だが、それは我愛羅達にとっては予測の内。



「……テマリ、カンクロウ、行くぞ!!」


我愛羅が最後の力を引き絞る。

足場の砂を集め、チャクラを以て締め固める。やがてそれは形状を変えていく。

先は尖っていて、後ろは平ら。まるで銃弾のような、槍のような、矛のような形状。



「お先に、行くじゃん!」

それが放たれる前に先んじて、カンクロウの絡繰り人形から攻撃が放たれる。

---とある仕込みを施すのも、忘れない。

一方、もう片手で繰られた人形から、攻撃が放たれる。毒が染みこんだ仕込み針による、全方位からの攻撃。

だが、それは砂鉄に防がれてしまう。

「甘い!」

攻撃を察知したサソリが、砂鉄の壁を広げ、カンクロウの攻撃を尽く弾き飛ばしたのだ。

だが、カンクロウはしてやったりと笑みを浮かべる。

カンクロウの役割は、壁を少しでも広く"薄く”すること。


「そこだ!」


薄くなった防御壁。そこに、我愛羅の乾坤一擲の一撃が放たれた。


---最硬、絶対攻撃。

「守鶴の矛!」

叫びと同時、矛が唸りを上げて空中を疾駆する。

「風遁・大カマイタチの術!」

その周囲に、追い風となる風刃の嵐を伴って。

風により更に速度を増した矛は風の乱流を巻き込み、急速に回転し始める。

そして、風刃と共に砂鉄の壁へと突っ込んでいく。


「っなに!?」

視線が防がれているサソリには、見えない。だが、その今までにない衝撃を伴った一撃に、驚きの声を発する。


衝突のエネルギーとは、質量×速度の二乗である。威力も増々だ。

通常よりも更に速く放たれた矛。加え、回転も加わったのだ。いわば、超高速で飛来するドリルのようなもの。

加え、我愛羅の残存チャクラのほぼ全てを篭めた矛だ。硬度も折り紙付きで、鉄の壁にぶつかったとしてもその形を崩すことなく。



「貫けぇ!」


回転しながら、砂鉄の壁を貫いていく。


そこに、更に、一撃。



「行けぇ!」


大カマイタチの術により鉄扇を振り抜いたテマリ。

その、巨大鉄扇の重量による遠心力を殺さず、更に回転。

最後の一歩を踏み込み、重心を固定する。そのまま、身体の中心軸を固定し、遠心力そのままに折りたたんだ鉄扇を、砂鉄壁に突き刺さっている矛の尻へと投げたのだ。


その壁の8割までを貫いていた矛。巨大扇子の一撃により、更に後押しされ、やがて砂鉄の壁を貫いた。


だが。


「惜しかったな…!」


壁を貫きはしたが、サソリには届かない。半ば、頭だけを出す形となった矛を見たサソリが、安堵のため息を吐こうとする。


---だが。







「いや、終わりだ」







我愛羅が呟き、砂の矛の結合を解く。



「…細工は、流々」


カンクロウが、勝利を確信し、告げる。


砂の中にある、最後の仕込みを作動させるのだ。

砂の矛の中にある仕掛け。傀儡糸は一本しか繋げられなかったが、仕込みはただ1つで単純なもの。

問題は無い。



「---仕上げをご覧じろ」


カンクロウが言葉と共に糸を繰る。砂の中に隠されていた玉が分解。その中身を砂鉄の壁の向こう側にぶちまける。


現れたのは、ナルト特性の起爆札。それも、10枚重ねだ。



「起爆ふ……!」




---その言葉の最後まで、口に出す事は叶わず。


サソリは3代目人形諸共、砂鉄の檻に囲まれたまま、爆発に吹き飛ばされた。





















あとがき

オリ術多くて申し訳ありません、と前置いて。

本編ですが、最後までの道筋、一応ですが見えました。

進路変更無しで、このまま突き進みます。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十一話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/30 00:48
ここは、とある土木現場。

道なき道に道をつくる集団、網が保持する土木部隊でも最精鋭に名を飾る「国境なき土方軍団」がその辣腕を振るう、いわば土木建築の最前線である。


そんな中、とあるバイトが無双していた。


「いや、無口だけど力持ちだなお前」

「……いえ」

ヘルメットを被ったおっちゃんに話しかけられたのは、何を隠そう霧隠れの里が保持する人柱力。

ナメクジのような尾獣、六尾を内に宿す忍び、ウタカタである。

「次、これ頼むわ」


作業員のおっちゃんに頼まれたウタカタは手渡された土嚢を難なく持ち上げてみせた。
右手に一つ、左手に一つ、寄り添うように合わせ、真ん中に一つ。
大の大人でも両手で抱えるような土嚢を、ウタカタは三つまとめて持ち上げてみせる。

「おお!」

おっちゃんが、感嘆の声を上げる。無表情ながらも今までは得られなかった感触に充実感を覚えたウタカタは、柄にもなくはりきって見せる。


「ほら、もう一個! ほら、もう一個!」

周囲を見れば、何かが間違っているノリにノリながら誰もが歓声を上げていた。
ウタカタの謎な怪力を怪しむ者は一人もいない。普通ならば尋常でない怪力を疑うところだろう。
だが、ここに居る者達は疑わなかった。
ここに居る者達は皆、組織"網”の息がかかった、特殊な土木作業団。訳ありな者も多く、誰もが一つ二つ人には言えないような過去を持っている。
人には言えない過去がある者達は、他者への無遠慮な介入を嫌う。何よりもそうされたくないと、自分自信が知っているからだ。

だがそれを知らないウタカタは戸惑っていた。

(まさか、事情を話すだけで信用を得られるとは)

胸中だけで呟く。成り行き任せの思いつきで言ってみたウタカタだが、まさか受け入れられるとは思っていなかった。

ウタカタがバイトをしたいと思った理由。それは、例の店主にラーメン代を払うためである。
外道な方法として、そこらに居る忍びから奪うという手も考えたのだが、思いついただけですぐにやめた。
何というか、あれだけの事件……そう、事件。
あまり普通でない経緯で結ばれた縁のようなもの、それを続けたいと思っていたウタカタは、最初の出足になるであろう返金に使う金に、汚れたものを付けたくなかった。

(美味かったし……あったかかったな)

生まれてからこれまで記憶にない。あれだけ、暖かくそして美味いものを食べたことなんて、無かった。
自分が無一文だったにも関わらず、見るからに怪しい格好をしているにもかかわらず、あの店主はそんなの関係ないとばかりに豪華ラーメンを振るってくれた。

(ちゃんと稼いで、きちんと返す)

掛け値なし。偶然であろうとも、本当の親切、情を受けたウタカタは汚い方法でそれを返したくなかった。
たまたま近くにいた土方らしき集団に声を掛け、慣れない敬語を使い、頼み込んだのもそのためだった。


「いや、すげえなお前。その腕っ節、あのイワオの野郎にも負けねえわ」
「…イワオ、というと?」

ウタカタにとっては、初めて耳にする名前だ。
どういう人物なのかウタカタがたずねると、親方は頭をかきながら件の人物について話をはじめる。

「いや、大分前に現れた……まあ、今はいないけどな。そりゃあもう、すげえ新人が居たんだよ。お前のように怪力だった」

そこから、その土木作業員は語り出す。
土木作業中、あまり聞いたことのない発送を用い、作業開始から完了までの時間を短縮してみせたり。
安全管理など、今まで誰もが必要だとは思っていても、あまり本腰を入れていなかった案件について、イワオは徹底的に突き詰めてみせた。
飛躍的、とまではいかない。革新的、とはまた違うだろう。

「だが、人死にがでるような事故が起きる回数は、それ以前より明らかに減ったよ」

確認作業を怠ったことが原因で事故が起こり、結果死んでしまった者は少なからずいた。

「…まあ、もともとが結構な腕持った忍者でもあったからな」
「そう、ですか」

ま、最終的には忍者の道を選んだようだがなあ、と親方が遠い眼をしながら呟く。

「……忍者になるの反対、だったんですか?」

「まあなあ。忍者ってほら、あれだろ? 強くなけりゃあ生き残れねえもんなんだろ?」

「……まあ、そうですね」

確かに、強くなければ生き残れないものだ、とウタカタは頷く。

才能の上下はあるが、戦いを経た忍び、生き残れるものは限られている。弱ければ死に、強ければ生き残るという単純なものだが、だからこそ誤魔化しがきかない世界。
強いから、強くなったから生きているのであって、弱ければ死んでいる。それをよく知る者ほど、強さには並々足らぬ執着がある。強さの価値をしっているとでもいうのか。

勿論、ウタカタも知っている。人柱力として迫害を受けてきた今までの生の中、力の価値に関してははいやというほどに、心の裏側へと刻まれていた。

「…死にたくなければ、敵より強く在らなければならない」

数週間前に自分の身に降り掛かった事を思い出し、ウタカタは震える。
突如現れた黒の塊と、それを御していた一人の男。
問答無用で襲ってきたので応戦はしたが、まるで歯が立たなかった。特異のシャボン玉による忍術を直撃させたとしても、まるで効いた風な様子がなかったのだ。
繰り出してくる攻撃も苛烈極まるもので、近くを巡回していた霧隠れの中忍4個小隊も、黒の塊から発せられた尾のようなものの一薙ぎで沈黙させられた。

こいつには適わないと思いウタカタは近くにあった河に潜り逃げたのだが、敵は追ってはこなかった。
何故追ってこなかったのか、今考えてみてもいまいち答えがでない。
思えば、攻撃も本気のそれではなかったように思う。

考え事をしているウタカタの横で、親方は何かを察したのか言いそうになる。
だが、追求はしなかった。代わりに、先のウタカタの言葉に応える。

「ああ、あの野郎も言ってたなあ。生きたければ強くなるしかないとかなんとか」

その言葉に、ウタカタは素直に頷く。その言葉はある状況においては、真理となる。
ともすれば、そのイワオという人物は結構な強者であったのかもしれない。そして、誰からか、ねらわれる立場であったのかもしれない。

死なないために、随分と鍛えたのだろう。ウタカタは自分の境遇に当てはめて、そう理解した。
チャクラの大小は生まれついてのものだが、人は鍛えれば確実に強くなる。

逆に、鍛えなければ強くもなれないだろうが。

数多の種類存在する生物の中、唯一人間だけが日々の鍛錬を経て強くなるという。
生まれ以ての力ではなく、錬磨された力を持つのも人間だけだ。

強くなる覚悟と時間があれば、誰でも力は持てる。
生きる意思があれば、そして生きていく上で譲れない何かを見つければ人はそれを守るために強くなれるからだ。
力を手に大切なものを守りたいと思えるならば、例えそれが自分の欲望だとしても、自分の命だけだったとしても、人は力を持てる。

だが、大きすぎる力は災厄を呼び寄せる。力というものは存在するだけで、誰かの脅威に成り得るからだ。

まだ若造とも呼べる年齢のウタカタにだって、巨大な力に対して人々がどのような反応をして、どのような感情を抱くのか、ということは嫌と言うほどにわかっていた。

「強さが全てでは、ない」

何気なく出た言葉。それに、親方は神妙な顔で頷いた。

「…忍者ってやつらは物騒なやつらだよなあ。なんで、あいつがその道を選んだか知らないけどよ」

「忍者について、詳しい?」

「いや、よく解らんよ。チャクラを操れるわけでもない。でも、昔な……俺も、戦争ってものを経験したんだが」
少し遠い眼。思い出すように、親方は語る。

戦争の余波で死んでいった友達の事。それを訴えても、聞き届けられなかった事。
戦災により職を失い、山賊に成り下がったもの。暴力により、金や食料を奪われていった事。
暴力、権力。色々な力が、俺達を苦しめたという事。

「…忍者のやつらみたいに、実際に戦ったんじゃねえ。でも、あれは確かに戦争だったよ。誰かの何かを奪い取って生きるって点だけは、戦争と変りなかった」

奪い、奪われる日々。思い出したくもない、と親方は首を振る。

「あれを、とんでもない規模で繰り返してるんだろ? 滅茶苦茶物騒なやつらじゃねえか」

「……そうですね」

忍者は命のやり取りを職とする者達だ。それだけが任務ではないが、彼らの存在の意義は、戦いの中にある。

「なんのために戦ってるんだか……俺にはあいつらの戦う理由ってやつが、分からねえよ。あいつら自身、分かってるのかどうかもわからねえけどな。
 繰り返して起こった戦争、里を守る、国を守るって理由だけじゃなさそうだしよ」

少なからず、奪うためという欲望が含まれているだろうと、親方は推測をしていた。
でも、そこまで。それ以上は分からない。

「結局、あいつらは戦うのが好きなだけなんじゃねえのかって思っちまう時がある。忍術とやらを使うのが好きなんじゃねえか、って馬鹿なことを考えちまう」

「そうかも、しれません」

ウタカタの脳裏に、見てきた光景、過去の惨事がめぐりめぐるる。

忌むべき力、巨大すぎる力を淘汰しようと、躍起になっていた人たち。
血継限界を疎み、憎み、迫害し、排除してきた者達。
それについての、理由はあった。血継限界が戦争の引き金になるケースも、確かにあった。

戦いたい者達と、戦いたくない者達。
互いに反発しあい、やがて血に塗れていった。
それは、人柱力に対しても言えることだろう。

力の権化である尾獣を宿す兵器。そういう扱いをされてきた。納得はできなかったが、反発してもどうしようもなかった。
いやその気力さえなかった。

自分が持つ強大なチャクラ。その力を振るうには、意志の強さが必要になる。
その強さがウタカタにはなかった。



理由は簡単。

守りたいものが無かったからだ。



生まれてからずっと一人で、無くしても困るものがなかった。

奪われても構わないものだらけだから、無くしてもその理由を憎むこともない。

大部分がどうでもいいもので構成されていたウタカタは、ただ生きていればそれでよかった。
流されるままに存在していただけだった。



たったひとつの例外はあったが………それにも、裏切られた。


むしろあれこそが始まりだった。


それももう、忘れてしまったが。



気づけば、泡のように。軽く、風が吹けば飛ばされるだけの生。
いつしか泡沫<ウタカタ>と言われるようになっていた。

何かを守ろうとは思わないし思えない。
先の敵で殺された霧隠れの忍びなど、一晩寝れば忘れるだけのもの。

ウタカタが知る内で唯一、人柱力で影に立った三代目水影は……霧の中の影に至るほどの力を持つ彼は、強靭な意志に支えられていた三代目水影は、
いったい、どういう思いをいだいていたのだろうか。

「……理解できないな」

「ん、なんかいったか?」

「いえ」

「誰かを守るには力っていうのも必要なんだろうけど……度が過ぎた力っていうのは災害にしかならんだろうなあ」

「……まあ、程度にもよりますが」

ウタカタは、視線を逸らしながら答えを返す。

答えを知らないから、答えられない。例えるならば自分がそういう類なのであろうが、暴れた記憶が無いウタカタにとっては、それは断言できることでもなかった。




「……ん?」

話が途切れた刹那。
不意に訪れた気配を感知し、ウタカタは何もない空を見上げた。

先程とは変わらない、相変わらずの蒼天。


でも、何かが違う。

決定的に違う。致命的に違う。

漂ってくる空気が違った。戦場の空気という訳でもない、だが日常とは決定的に隔絶している、そんな空気だ。


「………!?」


ばっと、顔を上げ、とある方向を見る。

直前までは小さかった気配。だが今感じる気配はそんな生易しいものではない。
ウタカタの感じたそれは、万人共通、誰もが感知できるだろう圧倒的なものを告げるものであった。

即ちそれは、一つ。死の気配。死、そのものを告るような……。

「ん、どうした?」

だが、親方は気にした様子もない。

(……チャクラ……、いや、これは)

存在するだけで他を圧倒する、そんな気配。
常の範疇に収まらない、極めて異端であり、そしてなによりも巨大である気配。

たとえるならば、圧倒的な白。

それでいて、問答無用の黒のような。

本質的に矛盾しているような、致命的な齟齬をもっているような。
根底がおかしくて、どうしようもない存在。

今一度確認しても、感知出来る気配は変わらない。

ウタカタはそれを知っていた。数週間前に感じた気配と、全く同じ。
ということは、間違いなく同一の存在だろう。あのような気配が二つあるなどとは、考えたくも無い。

内の尾獣も再び震えているようだ。
以前と全く同じ反応だ。

“アレ”に、恐怖している。

「うん、どうした?」

隣で訪ねてくる声。

「………!?」

だが、ウタカタはその言葉に応えられない。

遠方で感じていた気配が、突如膨れ上がったのだ。
同時に、地面が揺れ始める。

遠くから、遠雷のような地響きが聞こえてくる。
その音を聞いたウタカタの脳裏に、警鐘のようなものがなる。

ふと、気づく。

「……風が止んだ―――いや」



世界が死んだ、と。



不吉を告げる凶風を感知したウタカタの呟きは、誰にも聞かれることなく虚空に消えた。

































一方、再不斬と鬼鮫は我愛羅達とは少し離れた場所にいた。
術と斬撃の応酬を繰り返し互いに優位な位置取りを奪い合った末、元々いた場所から離れてしまったのだ。

砂隠れ近くの平原の上、互いの鉄と鉄がぶつかる音が響く。
再不斬めがけ振り下ろされた鮫肌を、横薙ぎに弾いたのだ。

再不斬は斬撃を受け止めたことによる手のしびれを感じながらも、鬼鮫から距離を取る。
そこで、鬼鮫は奇妙な動きを見せた。

「……成程、ねえ」

「あん?」


鬼鮫は再不斬から数間離れた間合いで、ため息を吐きながら虚空を見上げた。
何かを感じ取っているようだ。

「ふむ、イタチさんが言っていた通りですか……参りましたねえ」

再不斬と鬼鮫は、互いにすでに満身創痍の状態。
身体のあちこちに、互いの愛刀によって裂かれた傷があり、チャクラの残量も多くはない。

ここから一手読み違えると、致命傷になる。

そんな警戒したままの状態の中だというのに、突然おかしな事を呟いた鬼鮫に対して、再不斬が訝しげに問いかける。

「…何を言ってやがる?」
「いやなに。退っ引きならない事態になっただけですよ」
「…ふん、このままただで引かせると思うか?」
「そういうことを言っているのではないんですが……おっと。どうやら、来てしまったようですねえ」

言葉と同時、鬼鮫は鮫肌を肩に担ぐ。


「……?」

再不斬は鬼鮫の意味のない動作を見て、訝しむ。
明らかな隙だ。

誘いかと思ったが、違うと再不斬の感が告げる。
だが、それならば尚、今ここで隙を見せる意図が分からない。

そして、その隙をつこうともしない自分に対しても。

頭の片隅で考える。何かがおかしい。

そこで再不斬はふと気づいた。立っている地面が揺れている事に。


気づいたのと同時だった。



―――多由也からの、通信術が届いたのは。





















「終りだな」

地面に転がっているサソリに、我愛羅達は近づいていく。
身を守る鎧は謹製の起爆札による爆圧で吹き飛び、砕かれていた。
鎧の中にいたサソリもまた、大きなダメージを受けているようだ。

鉄の檻の中で、あの規模の爆発を受けたのだ。
爆圧は拡散することなく、サソリへと叩き込まれた。無事であるはずがない。

その証拠に、サソリは仰向けに倒れて空を見上げるままで、我愛羅達から逃げようともしない。
義体のあちこちが損傷しているせいで、動くことができないのだ。

「……」

サソリが自分の義体をチェックする。だが、もうどうにもならないということに気づき、ため息をはいた。
そして傍まで来た三人を一瞥し、また視線を空に戻す。

「……こんな若造どもに、な。どうやら俺の負けか」

「ああ、そうみたいだな」

テマリが答える。

「……目の錯覚ではないようだ。お前達は俺の毒を受けたはずだが」

何故動ける、とサソリが問う。

「相手の武器が分かっていれば備えられる。私とカンクロウはあんたの毒を受けた……という、振りをしたのさ。
 演技するのは大変だったけど、それに見合った効果は得られたみたいだね」

「昔の武勇伝と、チヨばあからの情報を参考にしたじゃん。成程、あんたの毒は大したもんらしいけど、逆に言えばそれが死角になる。
 自信の裏に慢心あり、ってやつじゃん。効きが即効すぎる程、誤魔化しやすかった」

「……まあ、それだけではないが」


「…どういう事だ? 他に何かあるのか?」

成程、油断を誘い一転突破で致命打を与える作戦は見事なものだった。
仕込みのギミックも分かれば易く、単純なもの。

それを見抜けなかったのはサソリの怠慢だった。
だが、それだけで、他に仕込みはなかった筈だ。

我愛羅は考え込むサソリを見下ろしながら、その答えを告げた。


「簡単だ。こっちは3人で、お前は1人だった……それだけだ」

「何?」

訳が分からない顔をしているサソリ。
それはそうだろう。今まで、大軍を相手にしても勝利を収めた来たのだ。

数の暴力というものは確かにあるが、サソリはそれを覆せるだけの力を要している。
先程繰り出した極意レベルのSランク忍術、赤秘技・百機の操演がそれだ。

「確かに、あれは数が多くて厄介だったがな。それでも、弱点はあった」
数は多かろうと、こちらを知覚しているのは所詮お前1人。ならば、お前だけを騙せばいい。砂に詳しいお前が、こちらを襲撃するのはわかっていたからな。
あとは仲間と作戦を練り、隙を生ませて、そこをついた」

百機の操演に気を取られていたせいもある。
人形を操ることだけに気を向けて、肝心の敵の機敏に疎かになっていた。

我愛羅、テマリ、カンクロウと、全くタイプの違う忍者を相手に操演を行っていたのにも原因がある。
一律の動きしかしない小国の兵隊とは訳が違う。

前準備と、サソリが使う術の理解と研究。
その上、扱うサソリの性格と性能を考えた作戦だ。

「……俺が1人というのは、そういう意味か」

諌めるべき仲間がいれば、また違った結果になったのかもしれない。

違う視点で状況を分析できる誰かが、サソリが信頼できる相棒のような者が傍にいれば、今伏している者と立っている者、その立場が逆転していたのかもしれない。

だがサソリは未だに1人で、そして勝負にもしもは無い。
この場に下された勝敗の結果が全てだ。

「そして、付け加えるならもう一つ。アンタは、私たちを舐めていた。いつも通り、繰り出す人形の一挙手一投足で容易く刈り取れる命だと思っていたのか? 
 …お生憎さま、そうはいかないよ」

それほどまでに、私たちの生命は軽くないと。テマリは笑って言ってのけた。

「……命は軽くない、だと? 忍びの言う言葉か」

呆れるようなサソリの言葉、それを聞いたカンクロウが眉をしかめる。

チヨバアが言っていた、砂隠れの悪しき風習。
命に頓着をするな、任務達成こそが最善だと思えという教え。
それを忠実に守ってきたサソリならば、確かに今の言葉は理解できないだろう。

何かを言おうとするカンクロウと、今の言葉を聞いて顔をしかめる我愛羅。
テマリはそんな二人を手で制したまま、言葉を続けた。

「……忍びだからこそだ。アンタも今までにいろんな光景を見てきたんだろう? なら、ちょっとは分からないか。命は軽くないってことが」

「……」

テマリの問いに、サソリは答えられなかった。

確かに、忍びとしていきてきたのであれば、命が失われる場面に出くわす機会も多い。

だが、人としてのあり方を捨て、人形になった彼は、答えられない。
捨てたものが実は重くて大切なものだったのか、ということは。
教え通り忘れ、完全に捨て去るために肉を捨てた。
時の彼方に置いてきたサソリには、今更そのようなものを思い返すなどということは不可能だった。

言葉を発さず、ただ空を見上げるだけのサソリに3人はゆっくりと近づいていく。

「俺を、どうする気だ?」
「…まずは、チヨばあのところに連れて行くじゃん」

約束だからな、とカンクロウが零す。

体調の優れないチヨばあから、情報や人形を貰った事。
その引換として、もう一度孫であるサソリと話したいという要望に、我愛羅は承諾を示した。
だが、抜け忍であり三代目風影を殺したサソリがその後どうなるかは火を見るより明らかだ。

チヨばあも里の重鎮、我愛羅達が生まれる遥か昔から砂隠れの忍びとして戦ってきた忍びの中の忍びだ。
よもや逃亡に手を貸しはすまい。また別の事を話したいということを、我愛羅は理解していた。

(木の葉の白い牙と戦って死んだという、チヨばあの息子……サソリの両親のことで話があるのだろう)

そう判断していた我愛羅は、特に反対の意見を出さなかった。

カンクロウの答えを聞き沈黙するサソリに、捕縛の縄をかけようと一歩踏み出す。




その時、地面が揺れた。


はじめは、微細な振動。

だが時間が経つに連れて、徐々にその振動の大きさも膨れ上がっていった。


「何が起きてる!?」

テマリが鉄扇を構え、周囲を警戒する。

カンクロウ、我愛羅もそれぞれの武器を構えた。




その時だった。

耳が震える。多由也の音韻術だった。

3人にだけ分かるように震え、その耳膜を震わせる。









『っ下だ! 全員、地面から離れろ、飛べええええええええええええぇぇぇ!!!』









多由也の、必死の叫び声。





―――同時。

横になっているサソリの全身を、何かが掴んだ。

「……あ?」



起きている現象と、言葉。二つを理解すると同時、3人は飛んだ。

正誤を疑う暇も無い、あまりにも必死な声に、考えることもなかった。

本能的に、その得体のしれない黒い何かから逃れようと思っただけなのかもしれない。






チャクラを足に込めた上での、跳躍。


地面から離れ宙にある状態で、3人は見た。





跳躍した直後、地面から生えた黒い蔦がサソリの全身を覆ったのを。


―――そして。








「……来る!」








あたり一面の地面を吹き飛ばしながら、あまりにも巨大な黒い何かが飛び出してきたのを。
















「な……何だ、これは!?」

我愛羅達と全く同じ時間の瞬間。

同じく宙に在ったサスケも、同じ光景を見ていた。
寸前まで相対していたデイダラが、不意に黒い蔦に覆われたのを。

そしてその直後に、黒い化物が地面から噴き上がったのを。

柄に無く、うろたえてしまう。それほどまでに、目の前に突如現れた存在は圧倒的であった。
数年前、木の葉で見た守鶴に匹敵する程の巨体を持つ黒い塊。

見た目からもその異様さが感じ取れる程の異物。

こんなもの、サスケはメンマやマダオからも聞いた事がなかった。
あるとすれば、ただ一つ。最近の情報だ。

打ち合わせの段階で聞いた、雲隠れの人柱力が敗れたとされる相手。
黒い尾で山肌を突き破ったとされる、正真正銘の化物の話。

「……これが、そうなのか?」

写輪眼でその化物を見据えながら、サスケは唇を震わせながら呟いた。

写輪眼だからこそ分かる、目の前の怪物の異様さ。
あまりにも高密度な、チャクラの塊。

いつか見た尾獣よりも濃いかもしれない、醜悪なチャクラの権化。

(でも、何故だ? …何故、あいつを、デイダラを捕まえる必要がある?)

立場でいえば、間違いなく敵方である筈の化物が、サスケではなくデイダラを捕まえている。
サスケはその理由を幾通りも考えてみるが、思い当たる中で適していると思える回答は一つだけだった。

(もしかして、仲間割れか?)

というか、それ以外ないだろう。これが何処かのかくれ里の切り札、ということは考えもつかない。
これは間違いなく、人の手で御せるものではない存在だからだ。

だが、サスケには腑に落ちない。狙いがこれだけとは思えなかったからだ。

わざわざ敵方に姿を晒してまですることではない。この怪物がここに在る理由は、まだ別にあるはずだ。
そして、それは考えるまでもなかった。

暁が動く理由は一つだ。
気づくと同時、サスケは我愛羅達が居る方向に視線を移す。

「……っ我愛羅!」

サスケは着地した後、周囲の警戒を保ったまま、写輪眼による遠視で護衛対象である我愛羅達を見る。




そこに移されたのは、絶望的な光景。


黒い蔦に捕まって宙に釣り上げられたテマリと、その傍らに立つ見たことも無い忍び。

そして我愛羅とカンクロウは目の前で膝をついていた。

――どうみても、万事休すな状態。

サスケは目の前に捕まっているデイダラを無視して窮地に陥っている我愛羅達を助けようと、足に力をこめて走り出した。

だがその途中、着地した地面の下から再び黒い蔦が這い出した。

見るからに悍ましい黒が、サスケを潰さんと上下左右から襲いかかってくる。






「っ、クソッタレええええええええっ!」














[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十二話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/14 13:24
「ぐっ……」

テマリが、うめき声をあげる。
不意に地面から生えた黒い蔦は、彼女の両手両足を瞬時に拘束し、宙に釣り上げた。

我愛羅とカンクロウはかろうじて黒い蔦の攻撃から逃れ、少し離れた場所に避難するのが見えた。
だが、今は無事なのだろうか、テマリにはわからなかった。

テマリがいる位置は、我愛羅達とは巨体を挟んだ対角となる位置。

巨体が視界を遮っているため、二人が今どうなっているのか、見えないのだ。

チャクラを感じるということは、まだ生きているのだろう。
その時、不意に声が聞こえた。

今までに聞いたことが無い、深く低い声。
テマリは、それが自分を拘束している忍びの声だとすぐに分かった。


「……一尾を渡せ」

忍びは、テマリの方を指差しながら、カンクロウと我愛羅に告げる。

「さもなくば、こいつを殺す。言うとおりにすれば、一尾の人柱力以外は助けてやろう」

「…なっ!」

忍びが発した言葉を理解すると同時、テマリは全身に力を込める。
こいつは、自分を人質として我愛羅の中の一尾を奪うつもりだ。
そんなことはさせないと、テマリは残り少ないチャクラを全身に行き渡らせ身体能力を強化し、蔦を振りほどいて脱出を図ろうとする。
両手は封じられているので、印は組めない。鉄扇はさっき縛り上げられた時に、落としてしまった。

頼りになるのは、この五体だけだ。顔が真っ赤になるほど力を込め、自分の手を縛り上げる蔦を引きちぎろうと試みた。
だが、蔦は見た目柔らかいくせに固く、びくともしなかった。

植物のように柔らかい上、極めて高い靱性を持っているようだ。
これでは、力を入れたとしても若干伸びるだけで、引きちぎれはしまい。

それを察したテマリは、向こう側にいる我愛羅達に向けて叫んだ。


「我愛羅、カンクロウ! こいつの言う通りにするな……アタシをおいて、お前たちは逃げろ!」

「な……そんなこと、出来るわけないじゃん!」

「バカヤロウ、状況を考えろ!」

一尾を渡したとして、目の前のこいつがテマリ達を見逃すとも思えない。


――それ、以前に。

我愛羅を引き渡すなどという選択肢は文字通り、死んでもできない。


「……先程、お前自身が言っていた言葉と矛盾するな。生命は、軽くないのではなかったのか」

テマリの言葉を耳にした忍びは、自分の目の前までテマリを釣り上げる。

皮肉を含まない、真摯な声で問いかける忍びの顔には仮面がつけられていた。
どんな顔なのかはわからなかったがテマリは、天地が逆さになり全身が動かない状況で、震えながらも言葉を綴った。

「……隠れて、聞いていたのか。覗き見が趣味とはずいぶんと女々しい趣味を持っている野郎だな」

忍びと化物が放つ威圧感を受けながらも、テマリは強気に言ってみせた。

「……この状況でそんな言葉を吐けるとは大した度胸だな。お前、自分の生命は惜しくないのか、重いのだろう?」

「ふん、軽くはないさ。誰かの生命を軽々しく扱う趣味はないし、アタシ自身死にたがりでもない。
 ……だけど、自分の生命よりも大切な事があってね」

「それが、目の前の人柱力を、里の長である風影を守ることなのか?」

「違う、間違えるな」

その言葉をはっきりと否定した後、テマリは目の前の忍びに臆さず、断言する。

「我愛羅は弟だ」

そこだけは譲れない、と睨みつけながら言う。

「……成程。手強いな」

テマリの答えを聞いた仮面の忍びは怒らず、何故か笑ってみせた。
それを見たテマリの視線が、鋭さを増す。嘲笑されたと思ったのだった。

「……何がおかしい」

「いやいや、何もおかしくはないさ。ああ、おかしくなんかない……そこのお前も、同じ答えなのか?」

「はっ、我愛羅を見捨てて逃げるぐらいなら死んだ方がマシじゃん」

「……テマリ、カンクロウ」

過去に逃げてしまった経験のあるカンクロウは、もう逃げないと決めていた。
揺れていた精神を気力で抑えて、しっかりと立つ。

身動きの取れない、死に体のテマリがあそこまで言ってみせたのだ。
ここで無様を見せる訳にはいかない。

気絶しそうな威圧感を放つ目の前の化物を見ながらも、周囲の気配を探る。
もしかしたら、この化物の姿を視認した里の忍びか誰かが助けにきたかもしれない。
助けがあれば、なんとか我愛羅だけでも逃がせるかもしれない。

だが、現実は無慈悲であった。

周囲に気配はなく、助けとなる手も無い。
ならば、とカンクロウは覚悟を決めた。

助けは無く、泣いても喚いてもどうにもならない情況ならば、自分の力でなんとかするしかない。
先の守鶴の矛でほとんどチャクラを使い果たしている我愛羅を守ろうと、まだ余力があるカンクロウが前に立って絡繰り人形を繰り出す。

「……我愛羅は機を見て逃げるじゃん。テマリ、悪いけどお前は助けられないじゃん」

「分かってるよ。優先順位を間違えるな」

気丈に笑いながら、応と示す。


「交渉、決裂だな」

仮面の忍びが片手を上げる。





――それと、同時。






「――くたばれ、うん!」


空から、デイダラが降って来た。

デイダラは奇襲と同時、手に持っていた起爆粘土を投げつける。

最速の爆弾、数は十。

鳥型の粘土は目標に近づくと同時、派手に爆発した。




















「どうやらここで潮時、ですか」

爆音が聞こえた少し後、遠くで立ち上った異様な気配と、それに伴ない現れた異形。
遠方で見えるそれにため息を吐き、鬼鮫はきびすを返した。

「…逃がさねえぞ。お前にはどうしても聞きたいことがあるからな」
と、首切り包丁を鬼鮫に向ける。

再不斬としては白達が気になるが、ここでこいつを逃がすわけにもいかない。

「ほう、何でしょうか。とはいっても、アナタ自身答えがわかっているようではありますが」

鬼鮫の言葉に、再不斬は渋面を作る。出てきたのは、呻くような低い声だった。

「やはり、手前はマダラの事を以前から知っていたのか……何時からだ?」
「答えませんよ。それに、その答えにはもう価値も意味もありませんから」
「…それはどういう意味だ?」

「どうとでも取ってください。それよりも、アナタが何故その情報を知っていたのか、誰から聞いたのかが気になります。水影様に関する情報は極秘も極秘、里を出たあなたには知り得ない情報だ。
 加え、波の国で消息を断ったこと。木の葉落としの際、音忍を相手取ったこと。どうにも不自然です」

ギロリ、と鬼鮫は自分の独特の眼で再不斬を睨みつける。

「さあな。それこそお前にとってはどうでもいいことじゃねえか」

「まあ、そうですね。ですが、私には友人から頼まれた事があります」
「友人? てめえが?」
「仕事抜きでなら、ね。まあ必要ならば殺しますが、仕事抜きではあまり戦いたくない相手でもあります……さて」

そこで、鬼鮫は問いかける。

「うずまきナルトについては知っていますか」

思いもよらなかった問いに対し、再不斬は一瞬だけ動揺する仕草を見せるが、すぐに何でもない風に答えを返した。

「……名前だけはな。九尾の人柱力、だろ?」
「やっぱり知っていますか。あそこにいる待ち伏せの人員といい、イタチさんの弟といい……彼も、裏で動いているようですね」

「だから知らねえって言ってんだろうが!」

「いえいえ、その答えだけで十分です。予想外の事ですが今この場では都合がいい」

先の再不斬の動揺を見抜いたのか、他に何らかの情報を持っているのか。
鬼鮫は再不斬とうずまきナルトがつながっていることに確信を持ったようだった。

「イタチさんから彼宛に伝言があります。伝えてもらえますか?」

「……」

再不斬は鬼鮫の言葉を断って戦闘を続け、この場で仕留めることを優先しようとも思ったが、寸前で思いとどまる。
うちはイタチの情報は欲しかったし、あの野郎が木の葉で対峙した手練の忍びの事もある。

あそこにいるあの異形のことを含め、不明な点が多すぎる。

今は、暁内部で起きていることを知るための情報が少しでも欲しいという情況だ。

それに、マダラに関する情報にはもう価値がないと言い切ったこいつの意図を知りたかった。

「……いいだろう、言ってみろ」

「“中秋の名月は、未だ枯れず”、だそうです」

「……何?」

「じゃあ伝えてくださいね。お願いしますよ」

「って、ちょっとてめえ、待ちやがれ!」

再不斬は立ち去った鬼鮫を追跡しようとする。

だが、遠方から聞こえた大きな爆発音を耳にして立ち止まる。


「……くそ!」


一瞬の葛藤のあと、再不斬は大刀を肩に担いで方向を転換、白達が居る場所へと移動を始めた。









デイダラは怒り狂っていた。

イタチの弟を仕留められず劣勢においやられた直後に、これだ。
ただでさえ苛立っていたデイダラに、先程の奇襲はそれこそ火薬に火を入れるに等しい行為だった。

味方の裏切りを何よりも許せない性質であるデイダラの胸中は今、奇襲を仕掛けた相手を殺すという意志でいっぱいになっていた。

不意に襲ってきた蔦は全て、小型粘土で吹き飛ばした。
次はあいつだとデイダラは作り出した飛行粘土に乗り、標的に向けて飛行。

そして、仕掛けた張本人を頭上から急襲したのだ。
ぶつけたのは、先程の奇襲による意趣返しの意味を含めての、最速の粘土。
反応しても避けきれないであろう一撃が炸裂した。

爆発によって辺り一面に立ち上った白煙が、風に吹かれて晴れていく。
だが、はっきりとした視界に映った光景は、デイダラが思い描いていたものではなかった。

「……とんだ邪魔が入ったものだ。いきなりとは酷いなデイダラよ」

仮面の忍びは呆れた声をデイダラに向ける。

「てめえには言われたくねえな、うん」

何事もなかったかのように、悠然と立っている仮面の忍びに、デイダラは問いかけた。
周囲に相棒となる者の姿が見当たらないのだ。

「……ペイン。サソリの旦那はどうした?」

「その眼は節穴か? 幻術が通じないのであれば、今此処に写っている光景が全てだろうに。赤砂のサソリは先程“居なくなった”よ」

「……!!」

デイダラは声にならない声で叫び、特大の起爆粘土を作り、即座に放つ。

あまりにも巨大なそれを瞬時に練り上げ、固め、放つ。一連の動作はまさに一瞬で、相当の手練でも防ぐことのできない速さを持っていた。

だが、相手も尋常ではない。

「な!?」

全身を発光させたかと思うと、瞬時に移動し、起爆粘土をその手で掴んだ。
粘土は雷を纏った手に貫かれて、その形を失っていく。

デイダラ自身、最速で放ったと自信を持てる程の、起爆粘土の一撃だ。

それを、仮面の忍びは馬鹿げた速さをもって越えてみせた。

―――そして。

「お前も、居なくなれ」

目の前で、組まれた印を見て、デイダラが叫んだ。

直後、土の天敵である雷の光が、仮面の忍びから放たれた。










一方、突然の爆発に吹き飛ばされたカンクロウと我愛羅は、衝撃に痛む身体をひきずりながらも、何とか立ちあがる。

互いの無事を確認すると、爆発が起きた方向を見た。

「……テマリ!」

あの爆発に巻き込まれたであろう姉の姿を、弟二人は必死で探した。
間違いなく、爆発の範囲に入っていたのだ。嫌な光景が、考えたくも無い姉の姿が、二人の脳裏に過ぎる。

「……呼んだ、か?」

「「うわ!?」」

背後からテマリの声。

二人が振り返れば、そこには全身から煙を発しながら横たわるテマリの姿があった。
すぐさま五体満足なままの姉の元へと駆け寄り、座り込む。

「…あの黒いのが壁になってくれたんで、直撃は避けられたんだがな……っつ」

最悪の事態にはならなかったが、至近距離で爆発による余波を受けたテマリは、我愛羅達よりも遠くに飛ばされたらしい。

「さあ、さっさと逃げるぞ。あの仮面の忍びはデイダラとやりあっているようだし、今の内に逃げるしかない」

「…そうだな」

3人ともチャクラの残量は少なく、あの化物とやりあえるような状態ではない。
万全の状態でも勝てないだろう相手に、この状況下で戦いを挑むのは自殺行為だ。

「分かったじゃん」

カンクロウはテマリの提案に頷いた。確かに、この機は千載一遇のチャンスだ。
逃せば、後はない。

「…俺も賛成だ、とっととズラかろうぜ」

「サスケ!? ってお前も焦げてるじゃん!?」

「……言うな。というかお前ら全員似たようなもんじゃないか」

カンクロウ、我愛羅もテマリ程近くはなかったが、爆発の余波を受けていたためほんのりと白い煙を纏っていた。

サスケは黒い蔦に覆われそうになった瞬間、デイダラが起爆粘土をあたり一帯に展開し爆発させたため、割と近い位置で爆風を受けていた。

そうして互いに引きつった笑みを交換している処に、残りの3人も戻って来た。
3人とも激戦の末の負傷だろう、多由也は横腹から、白は肩と太ももから血を流していた。
多由也と白は先程の黒い蔦の攻撃を受けたさい、少なからず肉をもっていかれていた。

致命傷とまではいかないが、掠り傷でもない。血は未だに止まっていないようだ。

再不斬の方は全身からうっすらと血がにじみだしているが掠り傷で、他の者よりも大きい怪我を負ってはいない。

「……何だ、あれは」

「仲間割れだ」

「この隙に撤退した方がいい」

再不斬は全員の状態を確認し、舌打ちを一つした後、撤退の判断を下した。

「そうするしかないか。うちはサスケは多由也、カンクロウはテマリだ。行くぞ」

再不斬はそれぞれに端的な指示をだした後、自分は白に近寄った。
しゃがみ込むと白の膝の裏に腕をやり、すくい上げる。

「再不斬さん、あの……」

横抱きにされた白は今の自分の体制を理解し、近距離にある仏頂面となっていた再不斬の顔を見る。
そして急激に頬を赤くしながら、再不斬の首に腕を回した。

「……急ぐぞ」

「って、ちょ!?」

「先にいきやがったじゃん……しかし、あれが噂に伝え聞く……」

「……噂、だと? あれが何か知っているのか、カンクロウ」

我愛羅がカンクロウに訪ねてみる。

「ああ。エロ仙人とその弟子曰く、所謂一つの男の夢……ブライダルお姫様だっこじゃん」

「ああ……成程な」

カンクロウの戯言に、サスケだけが反応した。
男ふたり顔を見合わせながら、うんうんと頷く。
一人残された我愛羅は意味がわからないと首を傾げている。

「ふつーに自然な流れであの大技を成功させるとは……噂通りじゃん、霧隠れの鬼人」
「どういう噂が流れているが非常に気になるが……確かに、凄い」

不意打ちのせいで頬がほんのり赤く、しかもいつもとは違う慌てた表情を浮かべていた黒髪の美少女、白のレア顔を直視してしまった二人はいい感じに混乱していた。

子曰く。
男はギャップ萌えに弱い、のである。

「……言ってる場合か。さっさと逃げるぞ」

多由也は何故かこみ上げてくる正体不明の怒りと、白の可愛さ光線を浴びせられたせいで、微妙に顔を赤くしていた。

「……」

サスケは無言で、多由也の眼を見つめる。

「……何、見てる。いっとくけどあれをウチにやったら殺すぞ」

多由也は羞恥によってさらに顔を真っ赤にさせながら、サスケを睨みつける。

「……了解した」

どうやら無理らしい、と悟ったサスケは微妙に残念な表情を浮かべながらも頷き、多由也を背負った。
戦闘中なのできつきつにサラシを巻いている多由也。ナルトが感じたという例のアレの感触は分からずじまいだった。

二重の無情を悟ったサスケは世の無常を嘆き、その場に硬直する。
そうしていると、不意に背後から頭をどつかれた。

「ほら、早くいこうぜ……この、ムッツリが」

(畜生。ナルト、後で殺す)
何故だが知らないが急にナルトにむかついたサスケは、帰ったらぶん殴ることを心に決めた。

「すまんがカンクロウ」

「分かっ……う、テマリって結構重いじゃん………って、は!?」

「……帰ったら覚えてろよお前」

瀕死の状態であるテマリだが、そこは生粋の乙女。
気力だけで女性に対する最大級の失言を零した弟に、割と本気風味な殺気を飛ばす。

「……うう、死ぬこと無く無事帰られる事を喜ぶべきか、悲しむべきか」

主に後のおしおきといった意味で。

「……喜ぶにきまっているだろう」

我愛羅が呆れたような声を出す。

「ほら、早く行けカンタロウ」
「カンクロウじゃん?!」

姉に抗議をしながら、二人は撤退を開始した。






「……サソリ」

我愛羅は振り返って、サソリが飲み込まれた場所、今はデイダラと仮面の忍びが戦っている方向を一度だけ見る。
そして無言のまま元の方向に向き直り、走り出した。



















所変わって、滝隠れの里の虫鳴峠にあるフウ・ハウス。

黒いアレが地面から飛び出したのと同じ時刻、二人の人柱力が同時に飛びるように起き上がっていた。

「ナルトくん!?」
どうしたの、とヒナタが心配そうな声をかける。

「ちょ、滅茶苦茶びっくりしたじゃない。なに、何かあったの?」

もしかして敵、といのとサクラが周囲を警戒する。だが、辺り一帯に忍びの気配は感じ取れなかった。

「いや、敵じゃない。敵じゃないけど……ん?」

メンマはふと視線を感じ、その方向を見る。顔を向けた先には、碧の髪をした少女、七尾の人柱力であるフウが驚いた表情を浮かべこちらを見ていた。
少女は自分のおかれている状況が分かっていないのであろう、顔を左右に動かし周囲を見渡す。

直後、状況は把握できないが、見知らぬ忍びであるメンマ達から距離を取ろうと後ろに飛び退く。

「くっ!?」

だが飛び上がった瞬間、フウは全身に走る激痛を感じた。
足から着地はできたが、膝が崩れ落ちた。踏ん張ることの出来なかったフウは後方に飛び退いた勢いのまま、お尻から地面に着地する。

「ちょっと、馬鹿! まだ動いたら駄目よ、完治はしていないんだから」

「完治……?」

いの達への警戒を解かないまま、フウは自分の身体に視線を向ける。
見れば、あの正体不明のコンビから受けた傷はあらかた塞がっていた。

「お前らが治療を……」

フウ自身、自分の自己治癒能力の速さは今までの経験から大体のところを把握していた。あれだけの傷を受けた場合、この状態に戻るまでどれだけ時間がかかるかわかっていた。
外から香る、雨に濡れ始めた木々の香りと、腹具合を確かめる。

「……」

気絶してから、そんなに時間は立っていないことは分かった。
――だが。

「……一体、何が狙いだ?」

「…は?」

「とぼけるな。さっきのあいつらも、どうせお前たちの差金なんだろう」

「いや、私たちは木の葉の…」

「……木の葉? 木の葉隠れの忍びが、アタシに何のようだ!」

腰にあったクナイを構えながら、フウはサクラ達に向けて叫び声を上げる。

(キューちゃん、どう思う?)
(恐らくだが、木の葉の忍びが迎えに来て保護する、という情報をじたいを、シグレといったか……あやつらが、伝えておらんのじゃろ)
(なるほど)
(納得している場合か。どうするんじゃ?)
(……警戒心が強い。今までの環境のせいか。取りうる手段は一つしかないね)

仕方ない、とメンマは全身に残る痛みを無視して立ち上がる。
そして、警戒心をむき出しにして、今にも跳びかかってきそうなフウに近づいていく。

「……お前は、あの時の」

気絶する寸前の光景を、フウは覚えていた。
突如現れ、不気味な敵の前に立ち塞がった金髪の忍びのことを。

「俺たちは敵じゃない。シグレとかいったか。あいつらから聞いてなかったのか? お前を襲った黒服が所属する組織が、人柱力を狙っている。
 滝隠れはあの組織からお前を守るために、木の葉隠れに依頼をしたんだ。木の葉の里で保護してくれ、と」

「……そんな話は聞いていない。全部、お前達の作り話じゃないのか!?」

信じられない、とフウは首を横に振る。

「違う。本当だ……俺を見ろ」

と、ナルトは天狐のチャクラを少しだけ引き出す。

「……お前。お前も、そうなのか?」

フウは驚いた表情を浮かべながら、自分と同じ存在なのかと聞いてくる。

「少し性質は違うけどな。だが、あいつら……“暁”という組織に狙われているという点では、変わらない」

「暁…」

「あいつらみたいな化物がいっぱいいる集団だ。全員が、五影に伍する力を持っている」
「……全員が、五影? ……嘘くさいな。確かにあいつらは強かったけど。証拠は、あるのか?」
「残念ながら何も無いな。俺の言を信じてもらうしかない」

「……もし。もしも、お前の言葉が本当だとして」

フウが、クナイを強く握り締める。

「暁とかいう組織が敵だとしても……お前たち木の葉が、アタシの敵にならない証拠はあるのか?」

震える声で、聞いてくる。まるで心の臓を搾り出しているかのような。

「アタシの力を利用しない証拠はあるのか? アタシを疎んじて、殺そうとしない証拠はあるのか!?」

脳裏に焼き付けられた光景を思い出しながら、フウは悲痛な声で叫ぶ。

「私がさせない!」

その叫びに、後ろにいたキリハが応えた。

「絶対に、私がさせない……そんなこと、絶対にさせないから」

言葉を紡ぎながら、キリハはフウに向かい歩いていく。
それに習い、サクラ、いの、ヒナタ達も近づいていく。

メンマは端に寄り、少女達に道を譲る。

一列に並んだ少女達は、フウの視線を正面から受け止める。

「……お前たちが? なにか、証拠でもあるのか?」

「……無い!」

虚をつかれたフウの眼が、一瞬泳ぐ。
背後では、メンマとマダオの眼が点になっていた。

「証拠はない。だけど、私の生命を賭ける」

キリハはフウに向かってゆっくりと、一歩を踏み出す。

そして突き出されたクナイに手を重ねる。

「ちょっと、キリハ!?」

重ねた手を動かし、その刃を自分の首筋に当てる。

「自分の言葉は真っ直ぐ、曲げない。あの日誓ったから。そんなことは、私がさせない。絶対にさせない。私たちが生きている限り、二度とそんなことはさせないから……」

そのまま、クナイを持つフウの手を両手で握り締める。

「私たちを、信じて」

「………!」




キリハの真摯な視線を受けたフウは、心の中だけでひどく狼狽えていた。
それは、彼女自身今までに知らなかった光景だったから。

(アタシに対して、ここまで真剣な声で語りかけてきたやつは、いなかった。
 アタシの眼を、まっすぐに見つめて来た奴なんて、いなかった。
 アタシ相手に生命を賭けるとか、そんな馬鹿な事をする奴なんて、いなかった。
 ……アタシの手を握ってくれる奴なんて、いなかった) 

尾獣を宿すモノとして恐れられ続けた。
触れる事さえ嫌がられた。誰かの肌を感じたことなんて、無かった。

人の温もりを感じるのは、返り血を浴びた時だけ。
肌と肌が触れ合う機会なんて、皆無だった。

(どいつもこいつも同じような眼で……)

目の前に並ぶ、ピンクの髪の女、金髪の女、黒い髪の女。
皆、目の前の小柄な少女と同じような視線を向けてくる。

(何だってんだ…)

フウは、もう誰も信じないと決めていた。
滝隠れを追われたあの日、一人だけで生きていくことを決断した。
信じられれば裏切られる。ならば、信じなければいい。
近づかれれば、忌避の眼を向けられる。ならば、近くなくていい。

一人ひっそりと、森の中で生きていこうと決めていた。

(………だけど)

今までとは、全く毛色の違う目の前の少女達。
その視線の中にある本気を察したフウは、もしかしたら今度こそ本当に信じていいのか、と思ってしまう。

私たちが生きている限り、ともいった。
成程、正直だ。だがそれだけ、嘘はついていないと思った。



――信じるべきか、信じないべきか。


フウは悩み、葛藤する。



そのまま、互いに言葉を発さず、沈黙のまま秒が分に変わったその瞬間。


フウはキリハの手を振りほどき、身体ごと反対側を向いた。



「……やっぱり、駄目だ。今はアンタ達を信じられない」

「そんな……」


悲しそうなキリハの声が古い家に響き渡る。

だが、そのすぐ後に。

「……アタシはそんな気持ち、忘れちまったから」

うつむいたまま、小さな小さな声でぼそぼそと呟く。

「……だけど」

いぜん、身体は振り向かないまま。

だけど、言葉の方向はキリハ達の言葉に対する、正面を向いていた。

「もしかしたら、アンタ達と居ると思い出せるかもしれない。その時まで待ってくれるなら「待つよ!」うお!?」

フウの言葉が終わるのを待たずに、キリハがその背中に飛びついた。

「って、この、重い! 重いから!」

「もう10年でも100年でも待つから、一緒に頑張ろう!」

「こら、離せ! っていうか、アタシの話を聞け!」

「聞く! 何回も聞くから!」

「そういうことを言ってるんじゃ………!」

「ちょっと、キリハ……!」

「私も混ぜなさ……!」

「ちょ、ちょっと、みんな、フウちゃんまだ怪我して……!」

なし崩し的に、少女達は喧騒に包まれた。








その、後ろでナルトとマダオは頷いていた。

「これにて一件落着だね。でも、メンマ君もやるね」
「……今までが今までだったんだろう。あの娘に対して嘘をついて誤魔化すっていうのは、致命的な選択でしかない。
 本当の事を言って、真摯に対応するしかないと思っただけだ。流れを作れば、キリハ達なら何とかしてくれると思った」

人の嘘を見抜く力には長けている筈だしな、と複雑な表情で呟く。

「しかし、無茶をする。シカマルの胃が痛くなる訳だ」
「それには僕も同意するよ。一体誰に似たのか…」

(……お主らにそっくりじゃろうに)

守鶴と真正面から戦うメンマ。
自分の生命を賭けてまで、九尾を封印したマダオ。

知らぬは己ばかりなり、である。

「ん、キューちゃんなんか言った?」

(……何も言っとらん。言っても無駄だしな)

「最初はどうなるかと思ったけど……」

「…どうにかなるもんだね」

「キリハ達がどうにかしたんだろうに。やり方は無茶だったけど、絶対に間違っていないと思うぞ……しかし、自分の言葉はまっすぐ曲げない、か」

これまた複雑そうに、メンマが呟く。








「義を見てせざるは勇なきなり、勇壮の元に弱卒無し。これが世に言う、木の葉魂ってやつか」



メンマは記憶の中にある言葉から、そんな一言を抽出していた。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十三話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:46

砂隠れの里で起きた一戦、それを偵察するように命じられたカブトは、帰ってくるなり大蛇丸の下へと報告に来ていた。

「―――大蛇丸様」

「帰ったのねカブト。で、どうだった?」

「それが……」

カブトは大蛇丸に報告を始める。

迎撃に出てきた忍びについての事。サスケの強さ、多由也の存在、霧隠れの鬼人の事。

そして、音の忍びが全滅した事。

報告が進む度に、大蛇丸の眉間の皺は深くなっていく。

―――そして。

「……デイダラとサソリが?」

「はい。サソリは風影一味に敗れたところを。デイダラは、奇襲の方は逃れたようですが、その後の戦闘で黒い塊に飲まれました……実行したのは、ペインです」

「一体何を考えているの……?」

首領自ら、貴重な手駒である筈のあの二人を手にかけるとは。何を考えての行動なのか、大蛇丸には分からなかった。
それでも、同盟関係を破棄する訳にはいかない。

今、音隠れの里の戦力は全盛期である木の葉崩しの時に比べ、1/3までに減っていた。
木の葉崩しで失った戦力が大きすぎたからだ。原因としては色々挙げられる。

後方に潜んでいた撤退支援部隊を壊滅させた、霧隠れの鬼人の奇襲もその一因だった。

「どうか、お気をつけ下さい」

「…誰に言っているの? そんな事言われなくても分かってるわよ」

元々が元々な組織だったので、大蛇丸にしても暁の事は信頼していない。
今まで通り、警戒しながらも何とか連携を取っていくだけだ。これ以外取れる手が無いというのは忌々しいが、五大国が厳戒態勢に入っている今、この機を逃せば次は無いだろう。
強力な力を持つ暁を利用して、何とか力を取り戻し、他国の戦力を削らなければ大蛇丸に未来は無い。

ペインにしても、元々が変な奴だったのである。
まあ、ここまで変というか意図の読めない行動に出るとは、大蛇丸でも思っていなかったのだが。

「裏切り者の方は?」

「はい、追跡はしたのですが、途中で多由也本人に気づかれました。気配は消していたはずなのですが」

「……おそらくは音、ね。あの子、耳だけは良かったから」

「そういえば、新しい術を使っていたようです。これはボクの推測ですが、恐らくは遠くの相手に言葉を伝えられる術かと。それともう一つ、音忍相手に使っていたようですが、そちらは詳細は分かりません」

「……具体的な効果も?」

「……いえ、動きがなんというか、鋭くなったような感じはしました。それ以上はちょっと」

「なかなか使えそうな術ね……ん、何かしら?」


話の途中、音の中忍が大蛇丸とカブトがいる部屋に入ってくる。

「失礼します。探索中の香燐から、報告です。裏切り者の尻尾をようやく捕まえた、と」

居場所が分かるまであと少しとのことです、と忍びが報告する。

「……良いタイミングね。香燐に伝えなさい。サスケ君に加え、多由也の方も捕獲しろ、と。あと、そうね」

そこで大蛇丸は少し考えこむ。

(……霧隠れの鬼人がいるってのは予想外だったわね。と、なると香燐と左近、次郎坊と鬼童丸では戦力が足りないか)

「……カブト」

「はい」

「重吾と水月を連れて、あなたもそこに向かいなさい」

「……よろしいのですか? いえ、あれだけの連中相手に、その二人を連れていけるのは大変心強いのですが」

「忌々しいけど、確かにそいつらはそれなりに強いわ。水月も、相手が霧隠れの鬼人だということで、逆らしはしないでしょう」

「……重吾の方は?」

「あなたが何とかしなさい。出来るでしょ?」

出来ないとは言わせないわ、と大蛇丸がカブトを睨みつける。

「……分かりました。何とかしてみます。しかし、ここの守りが手薄になりますが」

「ただでさえ不利なのよ。怯えてじっとしてるだけでは、得られるモノは何も無いわ」

サスケの写輪眼と多由也の新術を得られれば、切り札も増える。

不穏な動きを見せる暁や、一触即発な様子を見せている他里は確かに脅威だが、今は少しでも札が必要なのだと大蛇丸は考えていた。

「欲しいものは手にいれないと気が済まないしねえ」

舌なめずりする大蛇丸に対し、カブトが頭を下げる。

「……承知しました。あと、もう一つですが」

「何?」

「……左近達のことですが、どうします?」

「……捨駒にでも何でも、使っていいわ。呪印のせいでしょうけど、最近特に身体の方にガタが来ているみたいだから」

左近、次郎坊、鬼童丸は実験初期の素体だ。

呪印の術式が整えられていない時期だったので、寿命に関しては度外視している。データもとれたし、もう必要ないと大蛇丸は思っていた。

元々が、木の葉に潜入しサスケ君を連れ帰るという、生還率が低い捨石が必要になる時の任務に使う筈だった。


「分かりました。では、行って参ります」

「吉報を期待しているわ。分かっていると思うけど、うずまきナルトが一緒にいる時は手を出さないこと。いいわね?」

「……ええ、それはもうわかっていますよ。本当に、ね」

一度手合わせしましたから、と眼鏡の端を光らせながらカブトは答え、部屋の外へと出て行く。


(ああ、思い出す)

木ノ葉崩しの時、足止めに来たカブトに対して、ナルトが取った手段は結構笑えないものだった。
体術に関してはそれなりに自信があるのに加え、自己治癒という足止めに最適な能力を持つカブト。

このままでは間に合わない、と判断したナルトは、非常手段を取った。
カブトの一撃を受けながらも、相打ちで見た目灼熱のような赤い実をカブトの口の中にねじ込んだのだ。

毒にも耐性を持つカブトは、ナルトが取った手段に対して「そんなものは効かない」と嘲笑しようとした。

その瞬間だった。猛烈な辛味がカブトを襲ったのだ。そして、その後はまさに外道の所業だった。

口を抑えて硬直するカブトに対し、全力での金的蹴りを敢行。哀れカブトは、口と股下を抑えてその場で悶絶するのであった。
倒さなくても、隙を作ればいいと考えたナルトの妙手だったが、実行されたカブトにしてはたまらない。

守鶴の下へとナルトが向かった後も動くことができず、カブトはその場で数分間だけだが、悶絶し続けた。

……軽く跳躍しているところを、周囲の忍び(木の葉含む)が憐れむような眼を自分に向けていたのは、錯覚だと思いたい。

(………それに、重吾とか水月とか連れて追跡戦、かあ。ああ、ボクにとってうずまきナルトという名前は鬼門みたいだね)


無茶をいいつける大蛇丸も大蛇丸である。かといって、命令を断れる筈もない。


(鬼がでるか、蛇がでるかってレベルじゃないなあ。蛇は目の前にいるし、鬼もあっちに居るし)

つまりはお先真っ暗だが、今は進むしか無いのである。



薬師カブトの大きなため息が、音隠れの隠れ家の廊下に響きわたった。



















一方、ため息を吐かれた相手は。

「ああ、何はともあれラーメンが食べたいっ……!」

「ちょ、落ち着いてよ。気持ちはわかるけど他にやらなきゃいけない事が山積みなんだし」

「うるさい! ラーメン分が足りないんだよ! 具体的に言えばニケ月半分ぐらい!」

「ちょ、メタな発言禁止、禁止だから」

「ちなみにメンマ、お主が言っていたきつねラーメンはまだできんのか?」

「……絶賛研究中です。少々お待ち下さい。ああああ、それもあるけど、あああああああああラメーン作りたいいいいいい」

「落ち着いて! もうちょっと、もうちょっとだから!」

「がああああああああ!」

「ええい、静かにせんか!」

「できるか! ええい、こうなったらお前を先に食ーべちゃーうぞーぉぉぉ!」

「え……」

キューちゃんの顔が真っ赤に染まる。メンマを殴れと轟き叫ぶ。

「バカモノぉぉぉぉ!」

「へぶっ!?」

「おおーっと、メンマ君キューちゃんの一撃を喰らって宙を舞ったああ!」

しかし、暴走体は倒れない。

「くっ、エロい奴が強いんじゃねえ、強い奴がエロいんだ!」

「……先生の事か、先生の事かあああああああああぁぁぁ!」

弟子、怒る。

「今度はこっちが暴走を!?」

「くっ、ラーメン分が足りない!」




―――サスケ達が帰ってくるまでの一幕であった。

















「それじゃあ、その黒いのは逃げたところを追ってこずに?」

あちこちに絆創膏をつけたメンマが、サスケの話を聞く。

ちなみに二人ともラーメンをすすっていた。先の戦闘でかなり体力を消耗したのでがっつり食べた方が良いと、ラーメンは特性の豚骨出汁+豚角煮+にんにくだ。

豚の旨みと甘味が凝縮された、十代にはたまらない香り。豚角煮とにんにくとのコラボレーションは至高のものといえよう。

戦いに出る前から熟成させていたスープに。厚く切った豚の三枚肉は、口の中に入った瞬間、旨みと共に蕩けた。スープの上に載せられている白ネギとの組み合わせも、また良し。

麺は麺で、スープの味に殺されない程度で、自己主張しすぎない。絶妙とも言えるバランスで、小麦の風味を醸し出している。

何故か怒っていたサスケも、一口食べただけで機嫌がなおった。
それほどの一品である。

「……ああ。どうやらあの後、すぐに退いたみたいだな。いっちゃ何だが、一尾を奪う絶好の機会だと思ったんだが」

ラーメンをすすりながら会話を続ける。ちなみに、サスケのどんぶりの横にはおにぎりがある。
しかし、その形状はいびつだ。

多由也が怪我をしていておにぎりを握れなかったため、サスケが自分で握ったのだが、初めての経験だったのでうまくいく筈がなく、秘孔をつかれたモヒカンのような形状になっていた。

「……サスケ。おまえ、割と不器用なんだな」

メンマはじっとおにぎりを見ながら呟く。

「……」

子供時代はイタチ、今は多由也と料理、おにぎりに関しては任せっきりだったので、サスケは何も答える事ができなかった。

「……ま、無事で何よりだよ」

あの後、メンマの方は、落ち着いたフウを保護し、帰っていくキリハ達を見送った。

そしてその後、一時隠れ家に戻っていたのだ。

砂隠れに行っていた再不斬達も、メンマが隠れ家に帰ってほどなくして戻ってきた。
サソリの一件と、里の前に現れた怪物が原因で、今砂隠れの方は混乱の極みにいるらしい。

チヨバアとの約束を果たせなかった件もあるため、その説明と現状の把握するため、我愛羅とカンクロウは癒えていない身体を引きずり、動き回っている。
テマリは受けた傷があまりにも酷いため、砂にある病院に入院しているらしい。

「……今俺たちが我愛羅達に対してやれる事はない。厳戒態勢に入った砂隠れの里に入り込むのも、近くに潜むのも駄目だ。薮蛇になる可能性が高い。所詮俺たちは他里の人間だしな」

我愛羅達は無事戻れたし、暁の二人を撃退できたのだ。
完全では無いが取り敢えずの目的は果たせられたし、誰も欠ける事は無かったので、メンマ達にしてもひとまずは良しとするしかない。

「……出来るコトは、暁への対策だ。しかし、ペインがデイダラとサソリをやった目的、か」

「仲間割れの理由、か。マダラとは関係ないのかな」

「裏と表のリーダーとで、仲違い、か? ……いや、可能性はあるけど、確信は持てないぞ」

「……俺も分からないな。色々考えては見たが、これだという予想もできん。鬼鮫は何かを知っているかもしれん、と再不斬が言っていたが」

「その、桃地くんは?」

「白の処だ。傷、結構深かったみたいだしな」

「そうか……」

見舞いにでも行くか、とメンマは立上り白の処へと向かった。
おの途中、立ち止まりサスケに話しかける。

「ああ、そういえば多由也の方は?」

「傷塞がったし、今は寝ている……ああ、そうそう。砂の一戦だが、カブトの野郎が覗き見をしていたらしいぞ」

「……マジで?」

「マジだ。気づいたのは撤退時らしいが、多由也が睨みつけると即座に逃げたらしい」

「……あちこち動いてるなあ。分かった、気を付けるよ」

多由也にもそう言っておいてくれ、と残して、メンマは白がいる部屋へと向かった。





「あ、メンマさん」

「よ。傷は大丈夫か?」

「ええ。何とか急所は外しましたから」

白はメンマの問いに対し、笑顔で返答する。

「……無理はするな。これは、ただの傷じゃねえ」

「と、いうと?」

「……いえ、貫かれた時にですね。チャクラをごっそりと持っていかれたんですよ」

「……あの、砂のじゃじゃ馬……名をテマリといったか。あいつも、拘束された時にチャクラを吸い取られていた、と言っていた。どうやらあの黒いやつ、予想以上に厄介な性質を持っているようだぜ」

「……そうか」

「ああ、あともう一つ」

「ん、何か別の情報が?」

「いや、鬼鮫の野郎がな。お前宛の伝言があるというから、聞いてみたんだが」

「……へ? 俺宛ってどういうこと?」

「詳しくは知らん。暗号みたいな言葉だったしな。何でも、うちはイタチからうずまきナルト宛、と奴は言っていたが」

メンマは首をかしげる。うちはイタチとは会ったこともない。いや、ラーメン屋で一度会ったが、あの時だけだ。
ばれた様子も無かったし、これといった接点も思いつかない。

「……考えても仕方ないな。聞こうか」

「ああ。“中秋の名月は、未だ枯れず”だとさ」

「中秋の、名月? 枯れず?」

本当に暗号文だ。さっぱり分からん、とメンマは首を振った。

どれくらい分からないのかというと、さっぱり妖精が頭上で龍虎乱舞している程だ。

(いや、お主の例えも分からんが)

「それだけ分からない、ってことさ。仕方ない、ここは知恵者の助言を頼るか」

それじゃあ白、お大事に、との言葉を残し、メンマは居間に居るマダオの元へと向かった。










「さもなくばお前の尻は四つに割れる」

「……グレートワイズマン乙。娘が大事なのは分かったから、いいから答えを出せ」

お前が青の青なら俺はクリサリス・ミルヒだよバカヤロウ、といいつつも満更でもない俺は満面の笑みを浮かべながらマダオをどつく。

「うーん、月と枯れる、か

「関連性が無いよな……」

「枯れる、枯れる、か。水……は違うだろうし」

「いや、枯れるといったら草とか花のことじゃろう」

「月……草か……中秋の名月といったら、月見だしなあ。もしかして、月見草?」

「え、月見草って何?」

「いや、何処かで聞いた気もするんだが」

はっきりとは思い出せない、と首を横に振る。

「う~ん、埒があかないね。恐らくは枯れる、は月と関連性のある何かに懸ってるんだと思うけど」

「……草とか花とかだろうな……うん、方向性は間違ってないみたいだし、ここはいっちょプロに頼るか」













「というわけで、やってきました木の葉隠れ」

覚えるべきは飛雷神の術である。

ちなみに、ワープ先はキリハの実家。ここならば、人に見られる心配もない。

完璧だ、と修行中に編み出した飛雷神の術後専用のポーズを取っていると、妹と新しい居候であるフウがこちらを指差しながら何事かを言ってくる。

「……キリハ。この目の前の生物はなんだ? 前に見た時と随分様子が違うけど」

「え、言ってなかったっけ? 実の兄です」

何故かその言葉に衝撃を受けるフウ嬢。
引っかかるものを感じつつも、紳士スマイルを向ける。

「……いやいやどうも。無事にたどり着けて何よりです。キリハの兄です」

「……え、本当に、これが?」

冗談じゃなくて? とフウは不思議な顔でこちらを見つめてくる。

(いったいどんな説明をしたんだよ、まいしすたー)

だって、話に聞いていたのと違う、とか言われても……その、なんだ、困る。

「いや、確かにアタシを助けてくれたし……」

「いえいえ、お嬢さん。あれは成り行きです」

にこやかな笑みを浮かべながら、微妙な言葉で説明をする。

今まで危地から助けた全ての少女と同じ、一貫した姿勢である。

後々の面倒を見られない立場であるので、不用意に助けた少女達との距離をつめたりはしない。
笑わせながらも誤魔化し、一歩退いた距離を取るだけ。
ましてや相手がフウ、人柱力では狙われる確率が増えるだけだ。

二人になれば狙われる確立は2倍、いやそれ以上にもなる。
だから、あの場でも自分主導で事を進めたりはしなかった。臆病者といわれても、無責任なことは出来ないからだ。

この先、フウとキリハ達は過酷な試練に挑むことになるだろう。
フウ自身、まだ完全に心を開いていないようだし、木の葉の他の忍びへの対応も難しくなる。

一朝一夕にして信頼は成らず、崩れる時は一瞬だ。
四代目の一人娘という肩書はある程度の緩衝材になるとしても、それだけで乗り切れる筈がない。
それに、事故はどんな時でも起こりうる。

だが、俺自身この選択は最善だとも思っている。
と、いうかこれ以外なかったのではないか。

兄がああなった、という事が、少なからず他の忍びにとっては負い目になっている筈。
ましてや、後見人が恐らくは次々代火影候補である波風キリハだ。

特別な恨みもないし、同じ愚は二度繰り返すまい……と、思いたい。

(問題は根と音だな)

ダンゾウと大蛇丸がどういった動きを見せるのか、今は分からないが碌なことにならないのは確かである。
いつかの旅で得た経験と、あの二人の黒さを鑑みるに、現火影である綱手との衝突は避けられまい。

だが、現在の綱手の立場は磐石のものだ。木の葉崩しで乱れた木の葉の里を、速やかに元の状態へと復興した功績はかなり大きいらしい。

暁のような規格外集団の横槍が入らない限り、ダンゾウも大蛇丸もそうそうこの盤面は覆せないだろう。

五大国成立から何十年経過した今でも、変わらず頂点に立ち続けている木の葉の底力は、相当なものだ。
まあ、単純な軍事力、数値の上では雲隠れの里の方が上回っているかもしれないが。

(……木の葉程の恐ろしさは、そんな処にないからな)

かつての三代目の言葉とおり。
木の葉の忍びは火影という灯りの下、各々がそれぞれの信念に支えられている。
並の暴風ではこの炎は消せないだろう。

戦いという場において、いやそれ以外の場においてもだ。
信念を持った人間ほど、恐ろしいものはない。
理屈が通じない相手ほど、厄介なものはない。
限界がある筈なのに、時にはそれを信念によって越えてくる敵。恐ろしいにも程がある。
限界を限界でなくす集団、木の葉の強さは人間と同じで、単純な数値では表せない。

昔は三代目のやり方は甘いと思っていたが、ずっと木の葉を見続けてきて、考え続けてきて、やっと理解した。
火の影は里を照らし、また木の葉を芽吹く。

あの言葉の本当の意味、何となくだが分かったような気がする。


「それじゃあ、また」

混乱する二人をよそに、俺は脱兎の如く、その場を逃げ出した。




―――新しい風が、吹いている。

滝の一件で分かった。かつての下忍は皆が皆、成長した。
直接見てはいないが、ネジ、リー、テンテンも同じようなものだろう。

かつての上忍も、そんな下忍達に触発された結果、より強くなったことだろうし。

もう守り人は必要ないし、元々が部外者である俺の介入も、必要ない。

終わった後は、立ち去るだけだ。ここに、俺の居場所は、きっとない。

夢を優先することを選んだ時、その資格は消えた。そして今、穴は埋まった。
その事実に少し寂しさを覚えたが、これは自分が選んだ答えだ。後悔はすまい。
決定論をどうこう言う訳でもないが、俺には俺の夢がある。


元々が無茶な夢だった。狙われる立場であった俺が分不相応にも望んだ、我侭とも言える道。それを往く。


あるいは木の葉に従い、妹と共に生きていく選択肢もあったのかもしれない。
それでも、忍びとして生きてかず、自分の夢を追い続ける事を選んだ。

キリハは大事だが、それよりも優先することがある。それだけだ。

(……やっぱり。みんなの目の前から消えるんだね)

(……それできっと、誰も彼もが幸せになれる。それで良いと思う)

どうなるか分からない以上、断定はできないが。

(キリちゃんは泣くよ、きっと)

(……泣いて、忘れてくれると嬉しいね。でも、これ以上は互いのためにならない)

何もかもうまくいくなんて、そんな風には思えない。出来る事には限りはある。

(薄々は感づいていたが、ほんに酷い男じゃの、お主は)

(……もうちょっと、何とかなるとは思っていたんだよ。でも、ここから先は賭けになるって気づいたから)

あの無茶を見続ける事になると気づいてしまった。いやいや、我ながら臆病なことだ。

(……キリちゃんが無茶するよりは良いと?)

(と、いうか俺が見たくない)

自分勝手なのは分かっているが、これできっと良い。

多由也、サスケには、隠れ家の場所は口止めしておこう。

再不斬、白は何となく気づいていたふしがあるし、黙っててもOKだろう。一番長い付き合いだ。
鬼鮫の一件、マダラのことが分かった今、あの二人がどうするか分からないが、妙に律儀なあの二人の事だ。
少なくとも、敵には回らないだろう。


木の葉には、シカマルもいる、自来也、綱手もいる。

十分だろう、ということにする。

終わるべき事が終わったら、だが。

(……終わらせるために、行こうか)

(そうだね)

脅威を取り除けば、もう刃は握らない。元々の夢であったラーメンの道を追い続ける。

そう誓い、俺は目的地へと歩き出した。









「お、ここか」

日が暮れ始めた、逢魔が時。

着いてきたがるキリハに、「いや一緒に歩いているともの凄い目立ってしまうから」というのを理由に却下を下した俺は、山中花屋店までの道を聞いて、家を出た。

「思ったよりずっと近いんだな」

木の葉にいた時は酒屋や肉屋、野菜やなど決められたルートしか通っていなかったし、ばれるのが怖くて周囲も見渡していなかった。

花屋・山中はたどり着いてみればいつもの商店街から近く、少し離れた場所にあるだけだった。

(えっと、いのいちが出て来た場合はどうするの?)

(……どうしよう)

(迂闊な行動は駄目だよ。キリちゃんから聞いたところによると、いのいち結構な親馬鹿になっているようだから)

(お前が言うな)

(お主が言うな)

(いやいや、親馬鹿っていうのは娘を持つ者としての宿命みたいなものだよ)

マダオの戯言を無視し、俺は花屋へと近づいていく。

「ありがとうございましたー……って、ええ!?」

「どうも、こんにちは……」

(って、何て名乗ればいいのか)

ナルトでもメンマでも駄目だ。春原ネギも前にちょっとやらかしたから駄目、ロジャーはサスケだから駄目だし。

ええい、仕方ない。

「こんにちは、麺道・終太郎です」

「は? って、ああこんにちは」

「ちょっと花をみつくろって欲しいんですけど」

あくまで一般の客を装って、いのへと話しかける。
厳戒態勢の中、町の中で迂闊な動きは見せられない。
フウのことや現在の木の葉の態勢に関することはキリハから聞かされたので、あとは暗号の手がかりを探るだけだ。

「花……誰かへの贈り物ですか?」

「いや、見舞いの花なんだけど」

「あ……ああ! 分かりました」

「よろしく」

予算はこれで、と伝えると、いのは難しい顔をしながら店の花を次々と手に取っていく。

「あー、そのままでちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」

「え、何ですか?」

一応こっちはお客様なので、いのは敬語で返事をした。

「月見草って聞いたことある?」

「……月見草、ですか?」

いのは瞳を瞬かせたあと、月見草と反芻し、自分の顎に手をあてて考えこむ。

「……ああ、これですね」

と、いのは店の奥にあった白い花を持ってくる。

「これが?」

「はい」

手渡された白い花を見ながら、うーんと悩む声を心の中だけで出す。

「今は夕方ですから咲き始めで白いですけど、明日の朝には薄い桃色になるんですよ」

「……そうなんだ」

(色の変化、ねえ。いまいちピンとこないね)

夕暮れの下、白い花を見つめながらこれが何かイタチと関係のあることなのだろうか、考えてみる。

だが、答えは出なかった。

そうこうしているうちに、いのが花を両手に持ちながらまた戻ってくる。

「はい、これでどうですか?」

「あ、いいね。じゃあ、お代金」

代金を手渡した後、花を受け取る。

(……ねえ、提案なんだけど)

(なんだ?)

(思い切って単語で直接聞いてみたらどうかな。このままじゃあ、埒があかないよ。もしかしたら答えを知ってるかもしれないし)

(……そうだな)

「ありがとう。それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

え、なんですか? と首を傾げるいのに、聞いてみる。

「中秋の名月と花、または草と聞いて何を連想する?」

「中秋の名月と、草? ああ、それなら簡単ですね。ちょっと待っててください」

いのは店の奥に入り、何かを探しているようだ。


(うむ、心当たりがあるよう………あれ、は……)

(もしかしてビンゴ………って……)




マダオとキューちゃんの声色が変わる。

そして俺は、いのが持ってきた花を見て、硬直する。







―――え?









「中秋の名月と言えば、十五夜ですね。そして、これは」



いのは、美しい紫の花を手に、説明を続ける。



「あまり知られていないんですが、この花の別名を『十五夜草』といいます。またの名を、『鬼の醜草』。正式名は――」




頭の内側が叩かれる。


ここを出せと、眠った何かが俺の頭を叩いてくる。



「―――紫苑です」


どこかで聞いた名前。今は昔の、懐かしい名前。



「ちなみに花言葉は、『君を忘れない』………って、どうしたんですか、顔が真っ青よ!?」



倒れるとでも思ったのだろう。

敬語ではなくなったいのの言葉に気を止める余裕もなく、俺は頭を抑えつけた。




寝ているモノが起きる。

忘れていた光景を思い出す。


夢の中で見た光景、心の隅に僅か残る凝り。




―――忘れてくれと言ったのは誰だったか。



頭の中で、半鐘が鳴り続ける。鐘の音が鳴り響く度に、何かが解けていく。

続いていると思い込んでいた、欠けたことにすら気付かなかった、とある少女との邂逅。

忘れたことも忘れてしまったことが、鐘の音と共に流れ込んでくる。





――鐘が鳴り終わった頃。


俺は、全てを思い出した。































           第三章  了




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十四話
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/02/25 00:53





~章前~






―――雨が降る。

しんしんと、音も無く雨が降る。



「……もう少しじゃの」

雨に濡れた長い白髪を振り回し、水を切る。

かつては木の葉の切り札として恐れられた、三忍が一人自来也は雨の中を一人歩いていた。

目的地は、ここ十数年、立ち寄ったこともなかった場所。

活発で意志が強かった少年、弥彦。

紙を操る忍術を得意とした、将来は良い女になるであろう少女、小南。

――そして、輪廻眼を持つ少年。
自分の力に不安を覚えながらも、仲間を、弥彦と小南を守りたいと自来也に告げた少年、長門。

そんな弟子3人と、一時期だけ一緒に暮らしていた場所に、自来也は向かっていた。

雨隠れの里は厳戒態勢で、入り込めばまず生命は無いだろうことが見て取れた。
キリハと綱手に無茶を止められているので、雨隠れに潜入するという選択は選べなかた自来也は、それでも何かをしようと思い立ち、
何か手がかりはないかと、かつて弟子達と暮らしていた場所へと赴いていたのであった。

先の砂の戦闘で現れたという、仮面の忍び。
木の葉に現れたという、輪廻眼を持つ忍び。


砂隠れでの一戦のあと、暁の内部に関する謎はさらに深まった。

あの時現れた、化けもの。

一目見ただけで危険だと分かる、物騒極まりない黒いアレと、その化物を手足のように使う忍び。
いったいあれはなんなのだったのか、直接目にした者でさえ分からなかった。今は判断材料となる情報が少なく、あれの正体については全くといっていいほどに不明だ。

今は少しでも、あれに関する情報が必要だ。最低でも予想、あるいは推測に足るだけのカードが欲しいところだった。

暁と協力してで動いているだろう大蛇丸や、木の葉の内部で不気味に沈黙を保っているダンゾウの動向も綱手と自来也、木の葉の里としては気になったが、
それよりも今は暁をどうにかしなければならない。

今までに得た情報から、暁があの化物の力を使い尾獣の内の何匹かを確保しただろうことは、ほぼ確実といえる。
尾獣の力は強大だ。いかなる場合でも、人の手にあまる程に。
強大な兵器とも成り得る尾獣の力を暁に悪用される前に、誰かがその尾獣達を然るべきところに封印、または解放しなければならない。

もしも悪用された場合。いったいどれほどの惨事が起きるのか。
自来也はその様子を想像してみて、ふるりと身震いをした後、首を横に振った。

最悪の場合を想定する。
もしもあの力が人里、あるいは隠れ里の真っ只中で解放されれば一体どうなってしまうのか。

「……絶対に、させんぞ。もう、二度とな」

かつての九尾事件を思い出した自来也は、改めて暁の企み阻止することを胸に誓う。
木の葉の忍び達も同じ気持であろう。過ぎ去ったこととはいえ、九尾の事件の傷跡は全て消え去ったわけでもない。尾獣の恐ろしさもまた。
幾人もの忍びを犠牲に、挙句の果てには火影までを犠牲にして封印した存在、九尾。

今ナルトの中にある九那実は、確かに天狐としてそれなりの力を保持してはいるが、あの時里を襲った九尾には遠く及ばない。
火影をして、封じるしかできなかった。生命を代償にしてやっとだった。

木ノ葉崩しの日に見た一尾でも、遠く及ばないだろう。あの程度の力ならば、ガマ文太を口寄せし力を合わせれば自来也でも何とかなる。

だが、実際に目にしたうちはサスケと桃地再不斬、我愛羅曰く、あの黒い化物は果てしなくヤバイとの事だ。
少なくとも一尾以上なのは間違いないと。

我愛羅をして勝てる手段が思い浮かばなかったと言わせる程らしい。最悪九尾クラスの力を持っているのかもしれないのだ。
相手の意図が不明な以上、一刻も早く対処する必要がある。

だが、火影である綱手は根のダンゾウや緊張状態となっている他里の動向を見はるのに精一杯で、対暁戦に力を集中できない状態にあった。
たとえ暁をどうにかできたとしても、その後に攻めこんできた他里に滅ぼされては木の葉としては何の意味もない。
本来の敵国とも言える、雲や霧、岩から目を離すわけにもいかない。

中途半端に戦力を分けることも危険だった。
二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉通り、一方で敵国を抑えられるだけの戦力を保持しつつも、また一方で暁の相手をするという手も、あるにはあった。
だが、戦力の分散は戦略上あまり好ましくない手でもある。

ましてや、相手は“あの”暁。

中途半端な戦力で事にあたったとして、逆にあっさりと迎撃されるのが落ちだろう。


そこで綱手は、メンマ達に対暁に関することを任せたのだった。

フウという人柱力の少女を守ることと、我愛羅を守ることもその一貫である。

加えて、メンマ達は暁の構成員に対して色々な因縁がある。幸いにも少数精鋭で、皆が相応に頭が切れる者ばかりでもある。
極めつけは、属する組織も無く、中立の集団でもあること。
今まで裏でばかり動いていたため、全くといっていいほどその存在を知られていないのも双方にとって有利なものとなっている。

その一方で、木の葉の忍びである自来也は長年旅した経験を活かし、秘密裏に暁の情報を探るという任に当たっていた。
いざとなれば、仙人モードという切り札もある。危険な単独任務に耐えうる人材である自来也は、暁の情報を求め、歩いていた。

「……何か、手がかりがあればいいが」

雨を振り払い、自来也は目的地の手前にある、森の中を歩いていく。

あれから三日が経過した。そうそう動くこともないだろうが、情報を得るのは早い方が良い。自来也は急ぎ、歩を進める。

そうして森の中に入り、歩き続けて数時間が経過した頃。
ようやく、森が晴れ始める。自来也の視界に平原の姿が見えはじめた。

―――そして、視界が晴れた後。

そこに見えた光景は、十年以上前に見たものと、ほとんど同じ。

森は変わらずにそのまま。
住まいとしていた家は、未だ崩れる事なく建っていた。だが、森の獣にやられたのだろうか、あちこちがボロボロになっている。
十年以上経過しているのだ、時が経つに連れて形が変わっていくのは当たり前だ。

人が作り出したものは、月日が経つに連れて虚ろいゆく。それは変わらない。
そして、その家の外れ。並べて立てられた石碑の前に一人、佇む男の姿があった。

「長門……いや、違う」

男の髪の毛の色は、黒だった。長門の髪の毛の色は赤なので、長門ではない。
弥彦は金髪だ。

黒い髪を持っているのは、小南だけ。だが、そこにいる人物の骨格は紛れも無く男だ。
女体の神秘を追い求めている自来也が人の性別をを間違える筈もない。
目の前にいるのは、正真正銘の男だ。

――つまり、小南でもない。

自来也はその男に聞こえないよう、口の中だけで一体誰だと呟く。

その直後、男が振り向いた。

聞こえるはずの無い自来也の呟きが聞こえたのか、はたまた偶然か。
石碑の前に立っていた男がゆっくりと、自来也の方へと振り向いた。

男は、自来也を見て眼を細める。
そして数秒たったあと、成程とだけつぶやいた。

眉をしかめる自来也。同時に、警戒の態勢に入る。
だが男は、自来也の様子を気にした風もなく、警戒態勢に入った手練の忍びを前にしても全く心動かすことなく、淡々と告げた。

「珍客来訪だな。ここに客が来るとは思っていなかった。つまりは……お前が、あの木の葉の三忍が一人、妙木山の蛙の弟子、蝦蟇仙人の自来也か」

「……な………お主、その眼は………!」


目の前の男は、仮面をしていなかった。

だから、自来也には見えた。

「長門……!?」

目の前の男の顔を見た自来也が、思わず呟く。それほどまでに、目の前の男の顔立ちは長門の面影を残していた。

だが、これは長門ではない。

長門の名前を呼びながらも、自来也は眼前に立つ男が長門ではなないことを確信していた。
髪を赤から黒に染めたなどとは、考えもつかない。

月日は人を変えるというが、これはそんなものではない。

理屈ではなく、気配でもなく、ただの勘ともいえるものだったが、自来也にはある確信があった。


―――これは“そんな”ものではない。

今までに見たどんな忍びよりも異様。


そして、強い。とてつもなく。
今までにも、自分より力量が上の相手と対峙することはあった。
だが、ここまで力の底が測れない相手と出会ったのは、数十年に及ぶ実戦をくぐり抜けてきた自来也をもってしても、初めての経験だった。

一度油断をすれば、一飲み足まで齧られる。
そんな連想をさせる相手を、自来也は静かに睨みつける。

だが、その眼光も長くは続かなかった。
男の背後にあるものを見て、それを理解したからであった。

石碑だと思っていたものの正体。それが、墓であったからだ。

自来也は超一流の忍びである。
墓がいきなり変形したとか、そういう事態が起きたとしても、幻術か忍術の類だろうと判断するだけで、ここまでの驚きを見せるまでには至らない。

だが、自来也は今、驚愕に全身を凍りつかされていた。

自来也を驚かしたもの。
それは墓という事実ではなく、その墓標の数にあった。


「……何故、だ?」


自来也自身、ここにくる迄に長門達の現況についてのことは、ある程度の範囲で予想を立てていた。


かつての弟子、理想に燃えていた力強い意志を持つ少年・弥彦と、他には無い力を持つ、心優しい少年、長門。
そして、その二人を支えていた少女、小南。
皆それぞれが悲惨な生い立ちを持ち、そしてその生い立ちに由来する意志の強さを持っていた。
戦争を許せないという想い。仲間を守りたいという想いを持っていた。

力もあった。弥彦が持つ戦闘のセンスには自来也をして目を見張るものがあったし、小南も将来は上忍になれるであろう素質を持っていた。長門に関してはいわずもがなだ。
だからこそ、間違いなく普通には生きられないだろう事も、師であった自来也には分かっていた。


―――あの時。自来也が長門達を木の葉に連れて帰らなかった理由も、そこにあった。

輪廻眼という三眼の中でも最も崇高とされる眼を持つ長門と、人を引っ張っていく魅力を持っていた弥彦。
おとなしく木の葉の一員になる筈もない。間違いなく、木の葉の各派と揉めて、あるいは一波乱起こしていたことだろう。

内部の反応とは別に、対外的な部分に関しても問題があった。
白眼、写輪眼を持つ木の葉に、輪廻眼が加わる。即ち、木の葉に三眼の全てが揃ってしまう、ということだ。
ただでさえ木の葉の里は、各隠れ里においての切り札的存在、尾獣を意のままに操れる規格外の眼を持つうちは一族を要しているというのに、この上輪廻眼をも保持しようという状況になると、他国はどういった行動にでるのか。

間違いなく、木の葉へと攻勢を仕掛けた筈だ。輪廻眼が木の葉内部に定着し、最強の血継限界を持つ血筋をして広まる前に、その血と才能を奪うか、あるいは潰そうかとすることだろう。
時期も悪かった。あの時は忍界大戦の真っ只中。
泥沼化してきた戦況の中、木の葉に輪廻眼を持つ少年を連れて帰るということがどういう事態を引き起こすのか、馬鹿であった自来也にも理解できる。

暗部、上層部、旧家、名家。戦時の特例か何か、屁理屈じみた建前を盾に、輪廻眼を持つ長門はいずれかの派閥に組み込まれ、いいように使われることになったのだろう。
事実を知った四大国も一国だけ力を増した木の葉に対し、あるいは同盟でも組んで木の葉力を削ごうとしたかもしれない。
最悪、木の葉対四大国という事態に発展する恐れもあった。

だから、無理に連れていかなかった。
それに、大戦に加わっていた木の葉の里の忍びとしての負い目もあった。巻き込んだ一因が、どうしてそんな恥知らずな事をできようものか。

故に自来也は生きる術を教え、力を授けた。自来也自身、弥彦のいう理想の行く末を見たかったのかもしれない。
道が険しくともあるいは、と思わせるだけの何かを、あの三人は持っていた。

だが、その道は険しく遠い。だから、道半ばで生命を散らすという可能性も考えていた。

輪廻眼を持つ男の話を聞いた時、自来也は半分驚いてはいたが、半分はやはりかという気持ちもあった。
あの半蔵を相手取り、里深くへと侵入した挙句、一族諸共完殺し得る程の手練。

つまりは、半蔵以上の力を持つ忍びということである。
五影以上、あるいはそれをも上回る使い手だということは間違いない。

名を知られていない忍びで、それほどの事を成しうるだけの力を持つ者。
加え、雨隠れの里。

―――半ば、予想はしていた。
仲間を失った長門が、どういった行動を取るのかなどと。

だが、これはどういった事か。


何度も、墓石の数を数える。自分に幻術が使われていないか、確かめる。
だが現実は本当で、今自来也に幻術は使われておらず、目の前に映る光景は真実のものだった。



置かれた墓石。



――その数、三つ。




墓碑は刻まれていない。だが、そう古いものでもない。
磨かれた墓石、表面に見て取れる劣化具合からいって、今より前、10年以上前に作られたものだろう。

つまりこの墓石は、自分が弟子たちの元を去ってから建てられたものだ。



「どういう事だ………!?」


困惑する、自来也。
それを見た男は、おもむろに口を開く。




「初めまして、というべきか。自分は、ペインを名乗るもの。そして俺は―――」


途端、雨脚が強くなった。

風が吹き、自来也の背後の森を揺らす。

だがその声は自来也の耳へ確かに届いていた。

驚愕に、自来也の目が開かれる。



「……馬鹿な」


自来也が大声を上げたとたん、森の中でもひときわ高い木のてっぺんに雷が落ちた。

木の幹はうたれた雷によって真っ二つに割られ、支えとなっていた柱を失った巨木が軋む音をたてながらゆっくりと横に倒れて行く。

木々の間に倒れた巨木はそのまま地面を打ち、あたりの大地をずしんと揺らす。
それに呼応するかの如く、今までは撫でるだけだった雨が風が激しさを増していく。

空は暗い雲に覆われていて、その向こうの青空は見えない。






―――ようやくの時を、以てして。


最後の嵐が、訪れようとしていた。























いのに十五夜草、紫苑のことを聞いて忘れていた何もかも思い出した、その日の夜。

俺は隠れ家の屋根の上に昇り、一人横になりながら夜空を見上げていた。
キューちゃんもマダオも、今は家の中にいるので、ここにいるのは真実俺一人だけ。

一人見上げた空に映る月は、霞のような薄い雲に隠れてしまい、おぼろげに光を放つだけ。
まるで今の自分の気持ちを表しているかのようだ。

どうせならば、冴え冴えしい月光を浴びたかった。今日は空気が澄んでいて、月も綺麗に見えるはずなのに、雲のやつに邪魔されているとは何事か。

何か、嫌な気分になった俺は寝転びながら目を閉じる。
すると目を閉じたせいか、今度は耳の方が冴えてしまい、周囲の森から虫の音がうるさいほどに聞こえてきた。


(………うるさいな)

虫の音も煩わしく鳴り、俺は耳を塞いだ。

目を閉じて、耳をふさぐ。
訪れたのは無音の暗黒。でも、今はそれが心地良かった。
いつもならば何でもないことなのだろうが、今は何もかもが煩わしかった。

何も感じず、ほんとうに一人になった状態で考えたい事があったからだ。

これで、考えられる。そう思った時、夜風が優しく頬を撫でた。

「ああ、くそ!」

俺は何故か湧き出た怒りを押し殺さずに、そのまま表面へと出した。

耳に当てていた手をどけ、そのまま空中をぶんぶんと振り払う。
さすがに触覚だけはどうにもならない。ひとしきり暴れた後、肩で息をはいていた俺はふと背後に気配を感じ、振り返る。
振り返った先には、無言のまま佇むキューちゃんの姿があった。

いつもとかわりない、着物姿。
手入れもしていないくせに触れればさらりと解ける、錦糸のように流麗で鮮やかな金髪。
ふてぶてしい、だが恐ろしい程に整った表情も、いつものままだった。

キューちゃんは俺の目を真っ直ぐに見ながら、一言だけ告げてきた。

「……もう明日にでも、行くのか?」

赤い瞳が俺を見据える。俺はキューちゃんの視線を逸らさないまま、答えを返した。

「できるだけ早くね。イタチがいるかもしれないんで、サスケだけは連れていくけど」
「小僧の、相方の方は連れてゆかんのか?」
「いかない。蛇も動いている今、サスケの方はともかく多由也を連れて行くのは危険すぎる」

その分、隠れ家ならば結界が張り巡らされているため、安全は保証できる。
五大国全てが緊張状態に入っている。互いに監視しあっているため、迂闊には動けないだろう。そんな今、音のような小規模の里にとっては逆に、好機ともいえる。
ましてやターゲットは抜け忍。里にちょっかいをかけない限りは、木の葉も静観を保つしかないだろう。

再不斬と白をおいていくのもそのためであった。確かに、戦いがおこるかもしれないので白の医療忍術は重宝するだろうが、本来ならばあの二人は暁相手の護衛という依頼で雇ったのだ。
鬼鮫がいない上、予想できる相手方がイタチだけとあっては、無理に連れて行く理由がない。

「目的地の途中で鬼鮫が伏兵として現れる可能性、無いとはいいきれんじゃろうに」

キューちゃんはじっと俺を見たまま、小さく、こう呟いた。

『別の理由があるのじゃろう?』と。

図星をつかれた俺は、無言を答えとして返すしかなかった。

わずかの間、場を沈黙が支配する。

「……キューちゃん。ひとつだけ。いや色々と聞きたいことがあるんだ」
「何じゃ、お主らしくない。珍しく歯切れの悪いものいいで、一体何を聞きたいのじゃ」
「……あの後の事だよ。分かってるんでしょ?」
「お主の言いたいことと聞きたいこと、大体の想像はつく」

キューちゃんは一言、だが、と付け足して続きを言う。

「すまんが、それには答えられん」
「……なんで!」

「約束だ、とだけ言っておく。これ以上は言えぬ。どうしても聞きたいのなら我を殺して飲み込むしかないな」

あやつならばできるかもしれぬ、と言いながらキューちゃんは笑う。

「あの時の我にとっては、取るに足らん口約束だった。約束をすると決めたのも、あるいは気の迷いだったのかもしれん。だが守ると決めた以上、心の臓を食われてでも約束は破らん」
「……マダオの方は」
「口に出しつつも分かっているのじゃろう。あやつは馬鹿だが、クズではない」

キューちゃんはこちらに背を向け、屋根の端へと歩いていく。

「確信はない。だが、お主は行くのじゃろう。失われた巫女の元へと。ならば、実際に会ってから聞くがよい」

それだけ告げると、キューちゃんは屋根から飛び降り、家の中へと入っていった。


入れ替わりに、今度はサスケが屋根へと上がってくる。

「話ってなんだ?」

「ああ……」

取り敢えず座ってくれ、と俺は言う。

ここ数年になって着始めた、漆黒の羽織りと白い袴。
彩色に乏しい白黒の格好をしたサスケが、屋根の上へと座る。
片腕には、防刃繊維が編まれたマフラーが巻かれていた。ここと懐に、鋼糸を隠しているのだとか。

木の葉の額当てはしていない。
あの日の真実を知ったサスケは、イタチと出会うまでは木の葉の里に戻らないと決心した。

真実を知ったことで、うちは暗殺を命令した木の葉に対する想いも昔とは違い複雑になった。
原因を作った木の葉を憎めばいいのか、クーデタ―を画策したうちはの自業自得で仕方なかったことと思えばいいのか。
感情と理性が複雑に絡まり合い、本人も未だにどうすればいいのか分からないらしい。

悩みを抱えたまま、厳しい修行を経て腕前も一人前になったサスケ。
隠れ家を出て本格的に暁に対する前に俺たちの前で誓った。

何もかも、イタチと会い直接話した後で決める。それまでは、俺たちと共に居ると。

「話としては他でもない、うちはイタチの居所のことだ」

だから、俺は話をする。
元々の約束がそうであったように、サスケに力を与えて、イタチへの抑止力とする。
協力は惜しまない。この目を見るに、裏切りもしないだろう。

(多由也の言った通りだな)

会ってからこっち、多由也はつかず離れずの距離を保ちながらも、常にサスケの傍にいた。
年の近い者どうし、また気軽に話せる者どうしといったところか。
白は再不斬の嫁だったし、サスケはどうもああいう女っぽい女というのが苦手らしく、半ばツレっぽい感覚を保てる多由也の方が一緒にいて気疲れもしないらしい。

それに、サスケは真実を知ったことで視野が広まった。
必死で修行をするという点では変わりないが、復讐だけに心を囚われるということがなくなったため、周りを見ることのできる心の余裕も出てきた。
素直になったといってもいい。こうなれば、素の顔も見えてくるというものだ。

そんなサスケについて、多由也は純粋かつ単純で思い込みの激しいやつと評した。
成程、今までのサスケを見ていると納得もできる。

復讐を誓ったのもそう。あの大蛇丸をも利用してまで復讐を果たそうなどという決断は、並の決意ではできないだろう。
それだけ、イタチが憎かった。
情が深かったからこそ、純粋だからこそ、両親とイタチを愛していたからこそ、裏切ったイタチへの憎しみも深くなった。

イタチはどう思っていたのだろうか、それは本人にしか分からないのだろうが、強い意志を持っていたことだけは分かる。
あの時のイタチを取り巻く状況は、言葉だけでは言い表せないものであったはずだ。

そんな中、誰にも頼らず己の意志を貫き通したイタチは本当に大したやつだと思う。
今もそうだ。自分が死ぬことでサスケに万華鏡写輪眼を開眼させようとしている。

深く考えると、業の深いことだ。万華鏡写輪眼の開眼条件は、最も親しき者の死。
イタチは自分が死ぬことでサスケが開眼すると確信していた。つまりイタチは、自分がサスケに兄として大事に思われているのを、自覚していたということ。

(成程、イタチにしか果たせないだろうなあ。裏切ったことで繋がった絆の色を憎しみで染める。そして最後に、サスケの手でそれを斬らせるということだ)
あるいは、自分が死ねば全て丸く収まるとでも思っているのか。もしそうだとしたら、イタチは本物の馬鹿野郎ということになるのだが。

だが、イタチの性格からいって、一族を裏切ったことに罪を感じているのは確かなことだ。そうであれば、最後はサスケの手によって裁かれるのというのは、イタチにとっての最高の罪滅ぼしとも言える。
一族を復興したいと思っているサスケにとって、最高の手向けとなるだろう。裏切り者抹殺の手柄もおまけについてくる。
ならばイタチは、サスケに殺されることを最後の任務として、心に刻んでいるのか。
壮絶なまでの覚悟が、自分が生きているということを忘れさせているのかもしれない。

ならば、今のイタチは最強の忍びとも言える。力づくでは、間違いなく勝てない。
サスケ以外の者には、絶対に殺されまい。
木ノ葉崩しで散った三代目のように、何があったとしても最後の任を果たそうとするだろう。

―――何もかもが、あの国に集約している。俺たちは行かなければならない。例えそこに、とびきりの罠があったとしても。

物思いから復帰した俺は、鬼鮫の残した暗号についての説明をサスケに行った。
そして明日、目的地に向かうことを告げる。

はじめは驚きの表情を浮かべたが、腰の刀を握り締めると一言、『分かった』とだけ返した。
多由也を残して行くことについて、何か俺に質問でもしてくるかと思ったが、何も聞いてこなかった。
不思議に感じた俺がそのことを聞いてみると、サスケは視線を逸らしながら『もしもの事を考えたくない。あんな想いは二度とゴメンだ』とだけ言う。

数秒の沈黙。
その後、サスケは屋上から飛び降りて行った。

成程。サスケの人物評にこう加えておこう。
『ツンデレ』と。

つまりさっきの呟きはある意味愛の告白じゃねーか。

なんで俺に言うんだ本人に伝えてやれよこのやろうまんざらでもないだろーに、と心の中で一息に捲し立てたが、すぐに無理だということに気づいた。

なぜならば、多由也もツンデレだからだ。

(孤児院でも演奏中でもあんな顔しているのになんで気づかないかな)

照れ隠しに悪態をつく多由也と、それを真に受ける純粋なサスケ少年。
逆のパターンもあった。俺から見れば、多由也も十分に純粋だ。修行の合間、疲れているサスケに対し、イタチのことを気遣いながらも大丈夫だと話をしている姿が、幾度か見えた。
音楽に対する情熱も、純粋の一言。
こちらも、あれから随分と変わったように思える。

修行の合間、各地の孤児院に赴いた時の話だ。
屋台の横でで奏でられる多由也の笛の音は、その場にいる全ての者の心を癒してくれた。ちなみに、その時の笛の音に、あの秘術は使われていない。
チャクラが出ているのを見せれば、多由也の正体がばれる可能性があったからだ。

そのことについて、俺とサスケが秘術を使えなくてもいいのか、と聞くと二人とも多由也に笑われた。

その後、親指を立て誇るように、歯を見せ快活に笑いながら告げられた多由也の言葉は、今でも忘れることがない。
言われた俺は、笑った。サスケも笑った。マダオは猛烈に感動していた。


思えば、多由也を助けたあの一件は半ば偶然の産物でしかなかった。
今の多由也を見ていると、助けられて本当に良かったと思う。

まあ、あまりに遅々として進まない二人の展開を見せられていると、こちらとしてはもどかしくなるのだが。
だが、二人ともが素直でないため、展開の遅さは半ば必然ともいえるのだが。

(でもツンデレ×ツンデレって、それなんて新しいジャンル……)

心齢三十路となる俺にとって、少年たちのすれ違い青春期を直視する作業は正直、心に堪える。
イタチの一件が終わったら、あの二人も少しは素直になるだろう。3年越しの青春グラフィティを経て。

そんなことを考えていると、不意に背後から言葉がかけられた。

「おや、少しはマシになったね」

「何がだ。というかどっから生えたマダオ」

「普通に歩いてきたよ。随分と悪い笑みを浮かべてたから、邪悪な妄想でも浮かべて、気付かなかったんじゃないの?」

「誰が邪悪か。それで、何のようだ」

「いや、さっきはかなりシケた顔を浮かべてたから」

「心配で見にきた、とか?」

「いや、それは別の人に任せたよ」

手をひらひらと振りながら、マダオは答えてくる。

「顔色戻ったけど、何を考えてたの」

「いや、まあ、あれだよ」

と、俺は多由也とサスケの話をする。

「そっちかよ! っていうか、紫苑のことはいいのかよ!」

「そっちはキューちゃんと話したから。どうせそっちも口を割らないんだろ」

だったら会って確かめるまでだと鼻で笑ってやる。意趣返しの意味もこめて。

「まあ、割らないね。答えられるものなら答えるけど」

だがマダオは、笑顔で断言をしてくる。
その笑顔が今日はやけに腹立たしく感じた。

「……あ、別にいつもだから別にいいか。それより、これだけは聞いておきたいんだが」

「僕のスリーサイズ? どうしてもっていうんならキューちゃんのスリーサイズと引換に答えるけど」

「死ぬほどどうでもいい。むしろ死んでもどうでもいい。そこらの草木にでも語ってろ。あとキューちゃんのスリーサイズは俺も知りたい」
思わず男の本音が漏れでてしまった。しかしキューちゃんのスリーサイズってどうなんだろう。
年齢可変型だし。我のすりーさいずは百八式まであるぞ、とか言われたらどうしよう。ちょうど煩悩の数と一緒だし。

(……じゃなくて)

首を振りながら、マダオにたずねる。
「俺が聞きたいのは、紫苑にあったときどういう反応をされるか何だが……おい、何故顔を逸らす」

こっちを見ろ、というとマダオがこっちを向いた。
だが、その顔には哀切が浮かんでいる。

「まあ、常識的に考えれば殴られるだろうね。確実に。左右で」

「殴られるの?! しかもワンツー!?」

「いや、むしろ左右同時に」

「菩薩掌!?」

天才片山右京もびっくりである。

「……まじかよ」
「真剣と書いてまじです。でも実は模造刀」
「お前、いっぺん泣かすぞ?」
「残念ながら、死人は涙を流せません」
「……」
「冗談だってば。どっちもね。まあ、それよりも君が落ち込んでなくて良かったよ。サスケ君と多由也ちゃんだっけか。ここに来て人の事を考えているとは、ある意味で君らしいけど」
「見ていて微笑ましいからな。サスケには、今でもたまにもげろ、とか思っちまうけど」
「たまがもげろ!?」
「『に』、だ、『に』。だが『が』でも可」
「こわー。でも、まあ微笑ましいってのは同意だね。見ているこっちが恥ずかしくなるけど」
「若いってのは振り向かないことだと誰かに聞いた気がしたんだが」
「いいんじゃない? 太陽のように激しい恋ばかりじゃなくても」

ウインクをしながらほざくマダオ。
くささ、最高潮である。

悶えている俺をよそに、マダオは「いいんじゃない? ああいう恋があっても」と空を指差す。

「……まーな」

確かに、どっちかというと俺もそっちの方が好きだ。
燃えるような恋をしてみたいとも思うが、静かに巡るように寄り添い発展する恋があったっていい。

「どうやら晴れた、か」

その月を覆っていた雲だが、どうやら話をしている間に風に吹かれ移動したらしい。
指された空に浮かぶ上弦の月は、遮られることなくほのかな光で夜を照らしていた。

「……雪のようにしんしんと、月のように静かにね」
「自来也の受け売りか?」

詩人である。

「いや、僕だよ」

そう言うと、マダオも屋根を飛び降りて行った。


「……会えば分かる。逆に言えば、会わなければ分からない」

あの日に忘れた事について。未だ知らぬあの事件の結末について、俺は知りたい。


「明日も早いし、もう寝るか」

言い、俺も屋根の上を後にした。






[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その壱
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/02 01:12
「暗くなってきたな……」

鬼の国へ向かう途中にある、森の中。

俺は焚き火をたきながら、晩飯用のラーメンを作っていた。

日が昇らない内に隠れ家を出発して、ここまで歩き通しだったのだ。
今の俺たちは商人に扮しているため、チャクラを使って飛び回るということはできない。
もし見つかれば厄介なことになる。鬼の国まで徒歩ではかなりの時間がかかってしまうが、今は地道に歩いていくしかなかった。

周りでは、フクロウか何かが鳴いている声と、虫の囀りが響いている。
俺は丸太に腰掛けながら、まだ一人だった頃を思い出す。

あの時はまだ未熟で、こんな風に余裕を持てる状況じゃなかった。何もかもを隠してしまう、夜の闇に対して、無意味に怯えていたものだ。

「しかし……」

ふと、俺はため息をついた。

「はあ……」

サスケも同じだった。

「ん、何ため息ついてんだ?」

原因が何事かのたまう。

俺とサスケは更に深いため息を吐き、じっと多由也を見る。

「な、何見てんだよ。だって、仕方ないだろうが!」

昨日の夜。暗闇の中、サスケと二人で隠れ家を抜け出した筈が、何故かその道の先で多由也に待ち伏せされていたのだ。

「いや、言いたいことは色々とあるんだが……なんで分かった?」

「いや、だって二人とも異様に早く寝るしな。あと、サスケが挙動不審だったからすぐ分かったよ」
「うぐっ」

多由也の返答を聞いたサスケが、うめき声を上げた。
俺は、サスケを睨みつける。隠し事の出来ないやつだな。

『不器用だしねえ』

心の中のマダオが言う。全くだ。

「あの二人には?」

知らないとしたら、今頃焦っているのかもしれない。

「ああ、手紙を置いてきた。『あいつらに着いて行く』ってな」

『それなら安心じゃの。というか、ある程度予想はしていたが』

「え、してたんだ。なら言ってよ」

『まあ、いいではないか。それに、多由也も言っていただろう』

俺は、待ち伏せされていた時の事を思い出す。








―――サスケと二人、荷物を持って変化の術を使ったまま、隠れ家を抜け出た後。

山の下まで降りてきた俺達は、ふと気配を感じて立ち止まった。

もしかしたら、音隠れの追っ手かもしれない。静かに戦闘態勢に入った時、音が聞こえた。

聞き間違うはずもない、なんども効いた音色。

多由也の、笛の音だった。

「……よう。こんな夜更けに、何処に行くんだ?」

「な、多由也!? なんでここに!」

サスケが驚きの声を発する。俺も正直、驚いていた。

「アタシがここにいるとかそういうどうでもいいことは置いといて、言いたいことは一つだ。この、バカヤロウ共が」

本気も本気、見たことのない程の殺気を発しながら、多由也は俺たちを睨みつけてくる。

「ケリを付けに行くんだろう。そういう顔をしてる。でも、何でアタシを置いていく?」

「それは、大蛇丸が―――」

「それは覚悟してる。抜けたあの日からずっとな。アタシは抜け忍だ。音隠れに殺されるかもしれないなんて、わかりきってることだ。それに、あいつらを怯えて隠れたくないんだ。
 死ぬかもしれないってことは分かってるけど、したいことができず怯えて隠れているだけ何て、絶対に嫌だ………だから。大事なこの時に、今更置いていくなんて、そんなこと言うなよ」

多由也は俯きながら、言う。

「多由也……」

「それに、な」

言葉と共に、多由也は顔を上げた。
今度は困った表情を浮かべている。

「あの二人と一緒に留守番とか、辛すぎるぜ。アタシはお邪魔虫には成りたくないんでな。あのまま残っていたら、二人の周囲で無意識展開されてる桃色空間に侵食されちまう」

「……ああ、そうだな」

言っている意味を理解した俺は少し可笑しくなり、笑を浮かべた。

多由也を見ながら、互いに小さく笑みを交わし合う。

サスケは笑わず、ため息を吐きながら多由也に問うた。

「危険だぞ」

真剣味を帯びた声。
多由也は怯まず、手の中の笛をくるくると回した後、腰のホルダーにしまい、笑って答えた。

「承知の上だ」











「―――しかしまあ、よく俺たちの向かう方向が分かったね」

「音で分かった。アタシの耳は伊達じゃないよ」

「……怖いな。迂闊に悪口も言えない」

「なんか言ったか? ちなみに全部聞こえてるんだが」

多由也が笑顔で凄む。

「すみません」

サスケは素直に頭を下げた。こちらからは見えないが、余程怖い顔をしているらしい。

『……サスケ君、もう尻にしかれてるね』 

二人の夫婦漫才をよそに、俺はラーメンの出汁をとっていた釜を引き上げる。
釜の中で煮立つラーメンをすくい、用意していた器に盛っていく。

『雅な茶碗だね』

「それはつまり俺が曇なき眼を持っていると解釈していいのか?」

『……それはひょっとしてギャグで言っているのか?』

キューちゃんの容赦無いツッコミに心をえぐられつつ、俺は器に盛ったラーメンを二人に渡した。

「「「いただきます」」」

静かな森に、ラーメンをすする音が響き渡った。
普通ならば、こういういい香りをあたりにばらまいていると獣が現れるのだが、火に怯えて近づいてこない。
まあ、火をものともしない特殊な獣もいるのだが、ここいらにはいないようだ。
そういう特殊な獣、太古の昔に滅びたという妖魔じみた獣達は、生息している場所が限られている。

ザンゲツに聞いたが、遠い昔、その特殊な獣達は人間より広い支配地域を持っていたらしい。
何故か今現在では、その大半が絶滅しているらしいが。

『口寄せで現れる獣達が、跋扈していた時代か……』

口寄せで現れる生物は本来ならば我が強く、並の忍びでは協力関係を築くことができない。
口寄せの契約を交わすには、相手に忍びとしての自分の力を認めさせる必要がある。

力が強いものほどその気性は荒く、時には生命を落とす者もいた。
そんな生物がそこら中にいる時代あったらしい。

「ま、あの野郎が言ったことだし、眉唾ものだけどね」

ザンゲツは交渉を行う時の癖か、話を大きくする悪癖があった。
あることないことを混じえながら、才能の上に経験を積み重ねた巧みな話術で、人をその気にさせるのも上手かった。

「網の首領か。会ったことは無いが、どんな奴なんだ?」

「一言でいうと、怖い奴だよ。ある意味では、五影以上に、敵に回したくない奴だった。今までに出会った事のある誰より、世話になったしね」

マダオとキューちゃんを除いて、だけど。

「……奴、だった?」

「ああ、今の話は先代のザンゲツから聞いたから。今は次代に移ってるんだ。こっちは絵に描いたような女丈夫で、先代の強さを引き継いで頑張っているらしいんだけど」

「……その、先代は?」

誤魔化すような意図を察せられただろう。言いにくそうに、でもはっきりと多由也は俺に聞いてきた。

俺は視線を逸らし、焚き火に向ける。
そういえば、あの日も燃え盛る炎を見てたっけ。

「……言いたくないなら、その」

「いや、別に隠して無いから、言うよ。先代は……死んだ。鬼の国の事件の二年後に起きた、ごたごたが原因でね」

「鬼の、国」

今から向かう、国の名前でもある。

「………そうだな。一応、話しておいた方がいいか。肝心の最後は未だ思い出せないし、忘れている部分もあるんだけど」

「その、いいのか?」

「……いや、俺が誰かに話したいのかも。言い方が悪かった―――聞いて、くれるか」

焚き火の音。
ぱちぱちと、静かな夜の森を震わせる。

俺は炎をじっと見つめたまま、二人に向けて語り出した。


今から6,7年程前、鬼の国で起きた、未だ外部には知られていないだろう一連の事件のことを。

欠けた輪の中にある、紛失させられた力についての話を。






















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劇場版・小池メンマのラーメン日誌 そのⅡ

 ~輪廻の遺志を継ぐ者~


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「はっ、せっ!」

とある小国の森の中。

俺は一人、身体を動かしていた。もちろん、ただ目的もなく動かしている訳じゃない。

『踏み込み、右ストレート!』

「ふっ!」

マダオの声に反応し、俺は想定敵から放たれた右ストレートを避けるため、右方向へと身体を動かす。
―――クリア。今の反応ならば、問題はないはず。

今、俺が一人で行っているのは、影闘というやつだ。
拳闘でいう、シャドーボクシングにアレンジを加えたもの。

まずマダオが仮想的を作り上げる。今の想定敵のレベルは、体術が得意な中忍。それが、マダオの声と共に動いたと仮想する。
俺はそれに反応して、防御行動を取る。

それを、一定の時間内に百度繰り返す。
マダオの脳内で描かれた敵の一撃を、俺が百度全て避けるか、防げばクリア。

反応が遅れたり、対応を誤ったりして、攻撃が当たった場合はアウトとなり、ペナルティが課せられる。
残り回数×十の腕立て伏せか、腹筋をしなければならないのだ。

『火遁・豪火球の術!』

「くっ!」

放たれたのは、火遁術。範囲が広いため、その場にいては防げない。
瞬時に足をチャクラで強化し、樹上へと飛び上がる。

―――クリア。

実際の業火球を見たことは無いが、術の範囲ならば大体想像できる。
術無しの素手では防げない事も分かっているため、水遁を使えないので、その場から飛び退くこと以外に、攻撃を避ける方法はない。

そこら辺の知識も、マダオに与えられたもの。
相手が使う術の知識と、それに対しこちらができうる対応についてを、修行の合間も叩き込まれている。

影分身の術のおかげで、チャクラコントロールは相当な腕前になった。
チャクラによる身体強化も、結構なものになったと思う。
土木作業と共に鍛え上げた筋肉も、それなりのレベルに達しているだろう。

だが、肝心の戦闘に関する知識が俺には足りていないのだ。今までも幾度か、実戦を経験してきたが、相手は中忍でも下クラスの者ばかり。
自分より力量が上の相手とは戦った事が無く、これでは戦闘経験を積んでいるとはいえない。
それらの戦闘によって得られる経験に意味が無いとまでは言わないが、将来俺が対峙するであろう忍びは、規格外も規格外。
忍びの中でも頂点に位置する者達だ。


自分より力量が下の相手と戦い続けているだけ、つまりはぬるま湯につかっているばかりでは、暁という素敵に灼熱な忍び達と対峙した時、瞬時に焼殺されてしまうかもしれない。
だから、一人隠れて仮想訓練を行っているのだ。本当は実戦で経験を積むのが一番なのだが、その機会が少なく、また対峙する相手の力量が下ばかり無いのでは仕方がない。

一の実戦が百の練習を上回ることは、任務受けたての頃に実感していた。
任務途中に遭遇した、小里出身だろう中忍の事を思い出す。

一合攻防を交わしただけで、自分より力量が上だと分かった。
相手の攻撃は何とか全て避け切ったが、こちらの攻撃も全然当たらなかった。相手に動きの癖を見切られた俺は劣勢に陥ってしまい、このままでは攻撃を受ける。しょうたいがバレてしまうと判断して、逃げ出した。
幸い、任務を果たす前、移動途中での遭遇戦で、逃げられない状況ではなかった。相手も、懐をかばいながら戦っていたところを見るに、懐に巻物か密書を隠し持っていたのだろう。
俺を追っ手と勘違いして襲ってきたようだった。逃げると追ってこなかったし。

その一戦の後、動きが格段に良くなったとマダオに言われた。
自分でも、僅かだが実感できた。自分の生命を賭けて戦った見返りだろうか、感覚が鋭敏になったいた。
『人は、己の生命を危険にさらされると、感覚が鋭くなる』

マダオの持論だった。剣道の言葉、『人を一人斬れば初段』と、深い意味では同じなのかもしれない。
あんな綱渡りな戦闘は、二度とごめんだったが。

かといって、経験しないままでも困る。いや、経験したくても出来ないのが現状なのだが。
“網”が戦闘を主としている組織ではないので、それは仕方ないともいえる。網の任務では、五大国の忍びとやりあうことはほとんどと言っていい程に無い。
里の切り札的存在である上忍と事を構えるような機会も無い。皆無といっていい。あれば、俺は今ここにいないかもしれない。
マダオ曰く、上忍は、中忍以下の忍びとは別次元の強さを持っているらしいし。

でもその差を少しでも埋めなければならない。そこでマダオが思いついたのが、この影闘だった。
影をマダオが設定し、俺がそれと闘う。そのままの名前である。

任務が無い時以外は、ほぼ毎日行っている。
緊張感は実戦に及ぶまでも無いが、それでも視認から反射に移すまでの工程はスムーズにできるようになった。
身体の動かし方をこうして身に刻みつけておけば、いざという時に動けるものらしい。

刻みつけるまでの反復練習、実はというとすごく辛いのだが、そうはいってられない。
弱い=死という方程式がガチで成り立ってしまう、色々な者に狙われている俺は、弱いままではいられないのだ。


――それに。
それなりの腕になったとはいえど、俺には未だ克服できていない弱点がある。
それをどうにかしなければ、例えこのまま腕を上げていったとしても、上忍クラスを相手にした場合俺は馬脚を表し、負けてしまうことだろう。






幾度か、練習を繰り返す。

そして、午前の訓練が終わった後、俺は地面に座りながら、心の中のマダオに話しかける。

「しかし、なあ。もっとこう、ぱぱっと強くなれる方法が無いもんかな」

『……そんなものが実際にあるんなら、皆がそれをやってると思うよ。そして誰もが強くなる、と』

「……意味ないな、それ」

まるで自分のレベルと共に、敵モンスターのレベルも上がっていく某ゲームのようだ。

「なら、すぐに体得できる必殺技とかさあ」

『だからそんなものがあるんなら、皆がそれを体得してるって。そして誰もが必殺技を乱舞してくる、と』


―――想像してみた。


トンベリの包丁が脳内に浮かぶ。包丁を投げられれば9999のダメージ。即死だ。
それが、大量にいる。囲まれているので逃げ場はない。

「怖え……」

『……馬鹿なこと考えてないで、任務受付所に行くよ。呼ばれてるんでしょ』

「……ああ」

そんな都合よくもいかないか。
一つため息は吐きながら立ち上り、俺は任務を斡旋する場所、受付所へと向かった。











「……鬼の、国? 潜入任務ですか」

「そうだ」

受付所で待っていたのは、いつもの受付のお姉さんと、おっさんだった。

おっさんは得も知らぬ威圧感を全身から発しており、迫力もあるのでおそらく幹部だろう。
面構えも幹部っぽい。受付の女性も緊張しているように見えるし。

おっさんは俺に任務内容の経緯について説明した後、ため息をついた。

「まあ、老婆心ってやつでな。あそこで忍びが騒ぎを起こす筈が無いんだが、どうもきな臭い情報が入ってきやがる」

「あそこ? いや、そこでは忍びは大人しくなるんですか。変な処ですね」

「古来より、暗黙の了解でな。それはともかく、ちっと噂で聞いたんだが、お前ダメージを受けても解除されない、特殊な変化術を使えるらしいな」

「……ええ、まあ」

何のことか分からないが、取り敢えず返事をしてみた後、少し考える。

……はて、なんのことやら。さっぱりわからない。

確かに特殊な変化術は使えるが、クナイで刺されたり身体に強い衝撃を受ければすぐに変化は解除されるし、そもそもそういうのを目的として編み出したわけでもない。
誰にも見破られないようにするために編み出したのだ。それに、変化がどうとか、知られるようなことあったっけ。

『もしかしたら、この前の任務の時のあれじゃない? ほら、変化解いた時。かつら被って、子供の振りして町を偵察したでしょ』

(……あれか!)

思い出し、納得する。
一つ前の任務の際、俺は黒髪のカツラを被って敵方の忍びがいるであろう町中を偵察したのだ。
あまりに精度の高い変化術を見て驚いた味方側には『特殊な変化術だから』、とその場凌ぎで説明をしたんだっけ。

(ああ、その後、敵方に殴られてダメージを受けてたな、そういえば。普通、殴られれば変化は解除される。なのに、俺の変化は解けなかった。まあ変化してないので変化が解けないのは当たり前だけど)

それを見た誰かが、勘違いをしたのだろう。特殊の意味を履き違えたに違いない。

そしてその報告を受けた目の前のおっさんも、勘違いしているようだ。
くそ、あの時『此処だけの秘密だけど』って頭に付け足したのに。無視しやがったな。

「その能力、今回の任務にはうってつけだ。受けてくれるとありがたいのだが?」

命令形ではなく、頼むような口調。だが、おっさんほどの迫力があれば、遠廻しに恫喝しているようなものだった。

「……断れるはずがありません」

一瞬迷ったが、ここは応を返しておいた。任務の内容をここまで聞いた上で断れるはずもないし。何で聞いてくるかな。

『試された、とか』

(……どうだろう。まあどうでもいいけどね)

おっさんの意図は取り敢えずおいといて、俺はこの任務を受けることにした。
それに、最近生活費が苦しくなってきたのだ。聞けば任務のランクもBらしいし、この任務を達成すればしばらくの間はお金に困らずにすむ。

親方達と一緒に作業現場に出て働くのもいいのだが、もしかしたらこの任務で戦闘を経験できるかもしれない。
一刻も早くあの弱点を克服しなければならない俺に、選択の余地はなかった。

「受けます。望むところです」

「……良い返事だ。じゃ、頼んだぜ期待のルーキーさんよ」

おっさんは俺の肩をぽんぽんと叩くと、部屋を出て行った。

俺は受付の人に任務についての詳細を聞く。

(子供の姿に変化して潜入、か)

うん、都合がいい。

『子供の姿に変化をしていい……ま、元の姿のまま変装をするべきだろうね』

この世界で金髪碧眼の容姿を持っている者は目立つのだ。
年齢もあいまって、元の金髪碧眼の子供姿を見られた場合、そのまま正体がばれてしまう可能性があった。

そのため、非常用として黒髪のかつらをいつも荷袋の中に入れていた。

『でも今回に限っては、髪を染めなきゃだめだよ。眼はどうしようもないけど』

戦闘中、殴られた拍子にかつらが外れたらまずいもんな。
まあ、色々と問題はあるけど、受けたからにはやるだけだ。

俺は息巻きながら、契約書にサインをした。





受付所を出た俺は、思いっきり背伸びをする。
どうにも書類を書くのは苦手だ。面倒くさいし、肩がこってしまう。

『ん、どこに行くの?』

「長期間の任務になりそうだしな。その前に、おばちゃんに挨拶していくよ」





歩き続けて、15分あまり。俺は、とある宿のまえに立っていた。
網に入ってからしばらくして見つけた、ずっと寝床にしている安宿。
網の本拠地がある町にも近いため、遠出しない時や任務前で待機している時には、好んで利用している。

外見は、まあ、控えめに言って……………ボロ、ボロ、ボロ。

台風でも来ようものなら、たちまち風に吹かれ天に舞って竜になってしまうだろう。それって格好良いよね。
あまり懐が暖かく無い俺にとっては宿泊料金が安いというだけでありがたいし、泊まる価値がある。

だから別に外見と内装がボロボロボロでも、文句はないのだが。

それに、良い所もある。
気さくというか奇作な女将さんが宿泊客に対し、朝晩と美味しい料理をふるまってくれるのだ。


つまり、総合的に言えば……えっと、住めば、都?


『微妙に褒めてない……』

都じゃなくて旅館だし、とマダオにつっこまれる。

(……褒めるポイントが見つからないから、仕方ないだろ)

俺は言い訳を返しながら、旅館の中へと入る。

「こんにちはー」

一階は受付兼酒場になっていて、昼は定食屋になっている。
女将さん、通称『おばちゃん』は椅子に座りながらぼーっとしていた。
自称永遠の十五歳、実年齢六十歳のおばちゃんは俺の姿を見ると、よっこらしょっと椅子立ち上がる。

「ういっす、おばちゃん。相変わらず昼は空いてるねここ」

「……出合い頭になんだい、この子は。今日もこいつを喰らいたいのかい?」

と、おばちゃんが鍋を振り上げながら、凄んでくる。

「是非とも喰らいたいね。というわけで、今日もラーメン一つよろしく」

「……あいよ。ったく」

ぶつぶつ言いながら、おばちゃんは麺を沸騰した湯につける。

スープは既に温められているようだ。

「珍しい、さっき客来てたの?」

「ああ。新しい任務かなにか、受けたんだろ。若い男が一人、メシ食って帰ってったよ」

なら、任務を受けたのは昼だろう。その男も任務開始まで待機をしているといったところか。
もしかしたら、俺と同じ任務を受けているのかもしれない。あの任務には、複数であたるらしいからな。

「メシだけ、か。相変わらず宿泊客は皆無なんだね、ここ」

「そうだよ。ったく、どいつもこいつも、この宿の凄さを分かっちゃいない。どうだアンタ、いっちょ土木連のおっさんどもに、この宿の素晴らしさを伝えちゃくれないかい? 
 何十回も泊まっことがあるアンタなら、この宿の良いところは知り尽くしているだろう」

……素晴らしい、か。

Gが出ること、週に3回。百足が出ること、週に2回。
夜中、厠に行く途中の廊下で幽霊を見たこともある。

この宿が素晴らしいのなら、噂に聞いた火の国の中心部にあるという、最高級宿はいったいどういう言葉で表したらいいのだろうか。

「哲学だな……」

人には分不相応というものがある。庶民が超高級ホテルに泊まったとしても、居心地が悪くなるだけで安らげないだろう。
生活と環境に応じた場所があって初めて、人は安らぎを覚えるのだ。
俺も、裕福な暮らしに慣れているわけもないので、妙に格調高い宿よりは、ここの方がいいかもしれない。
でもGが出る宿を素晴らしいとは言いたくないのは確かで。だから他人には進められない訳で。

『……でも、ご飯は美味しいんでしょ』

そうなのだ。このおばちゃん、宿の経営手腕とかそういう点では壊滅的、むしろ破滅的だが、調理の腕は良い。
夜になると客が増えるのが良い証拠だ。昼はたいていが仕事に出ているので、少し外れた場所にあるここに客は来ないが、夜は知る人ぞ知る穴場として賑わっている。

これで宿も綺麗なら、もっと流行っただろうに。
だが、この宿のおんぼろさが良いと言う客も、居るのはいるのだ。たいていが山賊か盗賊あがりの現組織員とか、そういう類の人達。
そういう者たちは、開放的な場所よりもむしろ暗がりを好む。閉塞感がある場所で、飲みたがるのだ。
ただ、良いと感じるのは酒を飲んでいるときだけで、やっぱり泊まることはないのだが。
雰囲気を感じながら酒を飲んだ後、近場にあるここよりは綺麗な宿へと帰っていく。山賊あがりでもやっぱり、Gは嫌らしい。

「……改装すればいいのに」

何度も繰り返した言葉を、おばちゃんに言う。
だがいつもの通り、おばちゃんは首を縦には振らない。

「はっ、馬鹿もんが。これが良いってやつもいるんだよ」

そういえばちょっと前、酒を飲みにきた客、おそらく顔なじみらしいおっさんだろう。その相手に、おばちゃんは自慢げに話していた。
賭博でひと当てしたとか、なんかそんな風なことを言っていたような気がする。興味が無かったので、ちゃんと聞いていなかったのだが。

「なら、何で宿経営してるの?」

「うるさいねえ。はい、おまち」

おばちゃん特製のラーメンが出てくる。

「おっ、キタキタ」

待ちに待った、ラーメンだ。俺は歓喜に打ち震えた。
もし俺の腰に腰ミノがついていれば確実に踊っていただろう。もちろん腰の動きは、例の魔法陣の軌道を描くだろうね。
だが残念なことに、俺は腰ミノを持っていない。だから、踊れない。

自分の踊りを伝えるために半裸で全国を行脚する、ある意味真の勇者である腰ミノオヤジに一等の敬礼を捧げると、俺は椅子に置いていた荷袋の中からマイ箸を取り出す。
この辺りには割り箸なんて高価なものは置いていないので、大抵の人間が自分用の箸を常備している。
一部の者は毒を警戒して、らしいが。

「……いやしかし、相変わらず旨え」

年の功か、おばちゃんの作る料理はどれも旨い。中でも、このラーメンは格別だ。

醤油ベースのシンプルな味だが、まるで退屈をしないという不思議麺。
鶏、貝、野菜。それらの具材が持つ良さがふんだんに活かされ、また互いの持ち味を殺し合うことなく絶妙なバランスを保っている。

食べる度に深みを増していき、また日毎に微妙に使う具材を変えているため、例え毎日食べたとしても飽きることはないだろう。
おばちゃん曰く、別に特別なことをしているわけではないらしいが。これが、熟年の貫禄というやつだろうか。

「鶴は千年、亀は万年……」

継続は力なり、である。料理人は修行に重ねた年月が深ければ深い程、味も深まり広がっていくという。
おばちゃんも、長年の間料理を作り続けて腕を上げたのだ。この深みのある味わいと旨みの広がりは、木でいう年輪。
料理人として年を重ねてきたという、証のようなものだ。

「……ちょっと。誰が年増で年々皺が増えていくんだい」

「いや、言ってないし。というか年増よりむしろ老婆で…おわっ!?」

突如、包丁が飛んできた。
眉間を狙うそれを、俺は指で挟み止めることに成功した。
いつもならば「ふ、俺に飛び道具は通じない」と言うのだが、さっきの話が少しトラウマになっていたため、俺は動揺を隠せなかった。

(うう、本当の事をいっただけなのに)

『……女には、の。言われたら殺していい言葉があるそうな』

心の中のキューちゃんが、昔語りをするように、言う。
ううむ、機嫌が悪いのか心なしか声が低くなっているような。

『……いいから』

「黙って食いな」

聞こえていないはずなのに、絶妙なコンビネーションを見せる二人。これも年のこ……ゲフンゲフン。
ぐ、偶然だね?

「すんません」

怖い笑みを浮かべるおばちゃんに素直に謝った後、俺は丼の中の麺をずるずるとすする。

うむ、旨い。絶妙のコシ。のどごしも良いね。それに、今日のチャーシューは特別豪華だ。いつもの豚じゃない。
おばちゃんは俺の言いたいことを察したのか、説明をしてくれた。

「……今日は良い豚が入ったからね。タレつけて炙ってみたけど、いけるだろ」

「ああ、むしろ天国にだっていけるね。こんなものが食べられるなんて、今日はついてる」

いつもはもう少し安いグレードの豚を使っている。任務を明日に控えている今こんな良いものが食べられるなんて、幸先が良い。

『でも、随分唐突だったね。明日出発だなんて』

ああ、確かに。
普通なら、任務を受けた後、任務に入る間、数日は準備の期間がある。
急ぐ理由があるのか、はたまた別の理由があるのか。

今回の任務を決めたのはおそらく、受付で見たヒゲのおっさんだろう。
妙に迫力があるおっさんだったが、少し焦っているようにも見えた。
事情があるのだろう

「……そういえばおばちゃんって、網の内部についても詳しかったよね」

「まあ、長年ここで商売やってるからね。詳しいといえば詳しいけれど、何かあたしに聞きたいことでもあるのかい?」

「ああ、ちょっと……」

俺は受付所にいたおっさんの特徴を話し、どういう人か知らないか、とたずねる。

「……あんた、馬鹿だろ。そのおっさんは網の頭だよ」

「ってことは、あれが地摺ザンゲツか」

どうりで、と呟く。

親方や酒場のおっさん達から、ザンゲツの武勇伝については色々と聞いていた。

一つ前の忍界大戦、第三次忍界大戦で荒れた各地の村や町を、色々な意味で立て直した英雄。
畑を無くし山賊におちぶれた者達をその腕っ節でねじ伏せて配下にした後、大戦の影響でぼろぼろになった各地の道路や建物を修復していったらしい。
経済の動脈とも言える交通の便を整備したザンゲツは商人たちに恩を売り、その裏を支配した。
また、大戦後自国のことに精一杯で小国のフォローができなかった五大国にも借しを作ったらしい。
道路や建物がぼろぼろになった原因のほとんどが、忍術によるもの。場所を考えずに大きな術をぶっぱなす、馬鹿な忍びの手によるものがほとんどだった。

本当ならば、その忍びが所属する里がどうにかしなければならない問題。それを、ザンゲツが肩代わりしたのだ。
砂、霧、雲あたりはそのことについてどうにも思わなかったが、岩と木の葉に関しては別で、そのことについていくらかの恩は感じていたらしい。いくらか援助し、手を出さないことを誓約したとか。
木の葉と岩以外の隠れ里も、網に手を出せないという点については同じ。隠れ里をもつ国の面子や、忍者に対しての信用の問題もあるため、網の動向には手を出せないだろう。
そんなことをすれば、商人達がどういう手段にでるか分かったものではない。確実に報復がある。国にも影響が及ぶ。

国の軍部である隠れ里だ。そんな下手は打てない。
裏の任務中のごたごたならばともかく、表立って行動を妨げることは出来ないのだ。

しかし、商人とつながりがあるのが大きい。商人にとっての生命線ともいえる交通の便を取り計らったのが原因とはいえ、繋がりを築いたのはザンゲツの手腕によるものだろう。
表向き、商品運搬時の護衛の仕事も請け負っているし、その繋がりが解けることはないだろう。

五大国でも迂闊に手を出せない組織、か。この状況まで持ってこれたザンゲツの手腕は見事の一言だ。
ここまで全て計算づくだったら怖いな。

(しかし、本当に隠れ里は手を出せないのか?)

隠れ里に関する情報は全てマダオの受け売りなので、まず間違いない。

『まあ、無理だろうね。少なくとも、木の葉は網に対して手は出さないだろう。三代目は五影の中で唯一、忍界大戦で多くの一般人を巻き込んだことを『負い目』として感じていたし。
 木の葉の復旧に関する問題もあったから、結果的にはそれなりの援助しかできなかったけど』

(……お前は、ザンゲツに会ったことはないのか?)

『ん、ない。会ったことがあるのは三代目だけ。それも会うときは里の外だったらしいし、木の葉の里を訪れたこともない』

用心深いってことか。

「でもおばちゃん、おっさんとか言っていいの?」

「あたしとあいつは、古い馴染みでね。それに、そんな了見の狭いやつじゃないよ」

「ふーん」

食べ終えた俺はおばちゃんにごちそうさまを言い、勘定を済ました。

「まいど。今から訓練かい」

「明日の任務に向けてね。それじゃ、今晩一部屋予約しておくから」








昼からの訓練が終わり、おばちゃんの晩飯を食べた俺は、旅館の二階へと上がる。

予約したのは、一番奥の部屋。いつもの部屋だ。


「さて、と」

一息ついた俺は、マダオに話しかける。

(鬼の国って言ってたよな。マダオ、俺はその国について聞いたことがないんだけど、お前は何か知っているか?)

『……まあ、知っているといえば知っているけど』

知っている限りの事を教えて貰った。
概ねは、ザンゲツの言っていた通りであるらしい。

『初代火影が提案者でね。時の大戦の後に結ばれて、恐らくは今も五影の間で結ばれ続けている協定がある。“鬼の国”に手を出すなっていう協定がね』

なんでも、かの地には怪物が封じ込められている、らしい。
今は眠っているが、何時か目覚める時が来る、らしい。
そして、その怪物を封じ込められるのは鬼の国に居る巫女だけ、らしい。

(……“らしい”だらけだな。その怪物についての資料とか、巫女に関する情報は無いのか)

『明確なものは無かった。協定があるから、鬼の国に調査団を送ったこともない』

(それなのに、協定を守り続けているのか?)

おかしくないか、とたずねる。

『……怪物に関する伝承はあったんだよ。怪物が書かれている古書もあった。字はほとんど読めなかったけど、伝えられているものに近い記述も、確かにあったんだ』

(……怪物、か。ひょっとして、尾獣か?)

『いや、もっと悍ましいモノと書かれていた。何でも、世界を滅ぼせる程の力を持っているらしい』

(おいおい、穏やかじゃないな。でも、偽物かもしれなかったんだろ? どうして他の里は木の葉の言を信じたんだ?)

『協定を結ぶ条件が条件だったからね。協定を結ぶとことと引換にって、木の葉から他の里へと提示された“もの”が“もの”だった。一体、なんだったと思う?』

(……秘伝忍術、とか。いや血継限界かも)

『はずれ。正解はさっき、君が言っていたものだよ』

(……まさか)

『そのまさかだよ』

(尾獣!? 正気か!?)

『って思うよねえ、どうしても。僕も三代目から聞かされたとき同じ事を思った』

(そういえば、かつては千手一族の長である初代火影、千住柱間が尾獣の全てを保持していたんだっけ)

『初代火影は尾獣を操れたからね。封印もできたから、保持していたんだと思う。うちはマダラも尾獣を操れるし』

(それが、配られた。そうまでして、協定を結ばせる必要があった……?)

『主目的は、各国の力の均衡を保つためだけ、らしいけれどね。どっちが本当の目的だったのか、三代目も、その話をした二代目も、初代の意図は分からなかったらしい』

よっぽどの理由があるってことか。でもよく放置してたな。

『怪物のことも巫女の事も、調べる事さえ禁じられていた。そもそも上忍以下の忍びには、鬼の国の存在自体知らされていないんだよ』

(尾獣に並ぶ機密事項ってことか。それが今、破られようとしている?)

『いやいや、勘違いであって欲しいねえ。どうにも嫌な予感がするし』

(……キューちゃんは何か知ってる)

『ふん、知らん。知っていたとして、言う義理も無い』

あらら、つれない。

『まあ、行けば分かると思うよ』

(いやいやいやいやいやイア、地雷臭がぷんぷんするのですが。てか世界を滅ぼせる怪物ってなに)

はすたーか。くとぅるふか。それともあざとーすか。にゃるらとほてっぷか。

(どうでもいいけど邪神でもこう、平仮名で書かれると萌えられるよね。え、萌えないって? そりゃすまんかった)

少し混乱気味だった。明日、俺はそこに行かねければならないというのに。聞かなきゃよかったそんな話。
誰だ、今日はついてるとか言った馬鹿は。ああ俺か。

(“危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。踏み出せばその一歩が道となり その一足が道となる”というが………その一歩の先が地雷源と分かっている場合は、どうしたらいいんだ)

前情報は間違いなく、こう言っていた。

(『この橋わたるべからず』ってか……一体、この橋をわたってしまえばどうなるものか……)

一人、頭を抱える。そんなに危険な場所だとは知らなかった。
いや、原作ではそんなこと言ってなかったじゃんよ。そんな経緯があるとは知らなかったじゃんよ。劇場版は見たことないから知らんけど。
ひょっとして劇場版のなにかか。前情報無いからどうしたらいいか、皆目わからんぞ。

(もしかしたら、ちょっと違う世界なのか? 俺の現状が現状だしな。くそ、一体どうしたらいいと思う、マダオ)

『―――迷わず行けよ、逝けば分かるさ!』

(って不吉に纏めるんじゃねえ! 逝ったらそこで試合終了ですよ!?)

『……鳴斗、現れる所に乱あり?』

(疑問符浮かべながら嫌なフラグを立てんな! あと勝手に漢字を作るな!)

マダオとぎゃーぎゃー言いあいながら、任務前日の夜は更けて行った。

















一夜明けた、次の日の朝。俺は変化を解除し、髪を黒に染めた格好で宿を出て行った。
おばちゃんの朝飯は旨かった。必ず生きて帰ろうと思う程に。

朝、目的地につくと、この任務にあたるというもう一人の忍びがいた。
そしてしばらくして、馬車が来る。組織が用意した馬車だ。

俺たちは無言のまま馬車に乗り、そして馬車は走り出した。

この商人は網の息がかかっている商人で、表向き俺たちはこの男の弟の息子、ということになっている。
鬼の国へと侵入するための偽装だ。この商人は向こうに支店を持っているらしいので、長期間滞在しても疑われることはない。

走り始めて、数時間が経過した。そろそろ、鬼の国の国境にさしかかる頃だ。
揺られる馬車の中、俺は一人ドナドナを歌っていた。

いよいよだ。畜生、運命のくそったれという想いを篭めて、ドナドナを小さい声で歌う。
今の俺程、売られて行く仔牛の気持ちが分かるやつはいないだろう。

「……おい、うるさいんだよお前。今から任務ってときに、テンション下がる歌を歌うなよ」

「……すみません」

言われた俺は、素直に謝罪する。そういえばそうだね。
温厚な俺だとして、任務の直前にドナドナを歌われたら怒るだろう。不吉すぎるし、何よりテンションが下がってしまうし。

「ったく、上もよりにもよって何でこんな奴と組ますかねえ。もっと腕の良いやつとかいなかったのかよ」

目の前の忍びは、わざわざ俺に聞こえるような声で文句を言ってきた。
これはひょっとして、喧嘩を売られているのだろうか。

「……危険な潜入任務なんだし、もう少ししっかりしろよお前。何でも変化の術が得意らしいが、それだけじゃあ任務は果たせないぜ。
 いいか、潜入先で馬鹿な真似はするなよ。お前がばれたら俺だってやばいんだ」

「……了解」

いちいち言う事が最もなので、頷いておく。ものいいもはっきりしていて、そこらの忍びとは一線を画しているようだ。
見れば、腕もそれなりのモノを持っている。見た目15くらいで、まだあどけなさが顔立ちに残っている少年忍者だが、この年にしては強い力を持っているようだ。
顔立ちも整っている。サクラあたりが見ればきゃーきゃーと騒ぎそうな、イケメン顔だ。任務について真面目に考えている様子を見るに、中身もイケメンなのではなかろうか。

(いったいどういう経緯で、こんなヤクザ稼業に手を染めることになったのだろう)

『病気のお母さんのために薬代を……とかそういう理由じゃないかな。この仕事は危険だけど、その分身入りはいいし』

『ずいぶんと、安直じゃの』

ポツリとキューちゃんが零す。

(まあ、相手の過去がどうであれ関係ないよね)

むしろどうでもいいともいえる。知って得するわけでもなし。

それに、下手に過去を詮索するやつは嫌われるし。網の構成員の忍びは誰もが、脛に傷を持つ者だからだ。
無遠慮な介入は禁物で、人によっては宣戦布告と取られかねないのだ。

(裏切らなければ、構わない。腕さえよけりゃ、気にしないってね……ん)

そんな事を考えている時だった。


(……何だ、見られてる?)

ふと視線を感じた俺は、イケメン忍びの方を見る。
彼はじっと眼を閉じて馬車の壁にもたれかかっているだけだった。こっちではない。

(……気配がする。複数。しかも、この馬車を囲んでいる)

だが、襲ってくる様子も無い。
しばらくして、イケメンの忍びも気づいたらしい。はっと顔を上げ、周囲を警戒する様子を見せる。

「……気づいているか?」

イケメンの忍びが聞いてくる。俺は首を縦に振り、立ち上がる。
そして、イケメンの横に座った。

「囲まれてるね。数は……少なくとも二十以上。襲ってこないようだけど、何が目的なのか」

馬車を走らせている商人に気付かれないよう、俺とイケメンは近い距離、小声で話しあう。
商人さんに無理に知らせるのは不味い。

得体のしれない誰かに囲まれていると知れば、商人は動揺するだろう。商人には一般人だし、その動揺は隠せまい。それは不味い。

ここでこちらが動揺しているということを見せるのは、相手に気づいているということを知らせるようなものだ。
今は気付いていないと思わせた方がいい。相手の目的が分からないこの状況で下手に動くと、相手が勘違いをする可能性がある。
最悪、状況が進展してしまう可能性がある。

まだ国の中にも入っていないこんな所で誰かと一戦やらかすというのは、非常に上手くない。
この任務の目的は潜入。潜入任務は暗中飛躍が鉄則だ。ここで目立ってはいけない。こちらが鬼の国へと潜入しようとしているのを知られるのも不味い。
後発の忍びも潜入しずらくなる。

それをイケメン忍びも分かっているのか、黙っているだけだった。
っていうか、そうだ。

「そういえば名前、聞いてなかったな」

いつもの癖で忘れていた。普段の任務ならば『おい』とか『お前』とかで呼び合うのだが、一応イケメン忍びとは兄弟という設定になっている。
名前で呼ばないのは不自然だ。

そういうと、イケメンは顔をしかめながらも、自分の名前を言ってくる

「……俺の名前は“ハル”だ。そう呼べ」

いかにも偽名くさいが、人の事は言えない。

「俺はイワオだ。そう呼んでくれ」

自己紹介をかわしながら、周りの敵に関することを話しあう。

「……人、ではないと思う。こんな人数が動いているのもおかしいし、整然としすぎている」

「……そんなことが分かるのか?」

「俺は臆病だからね。誰かの気配には敏感なのさ。で、どうする?」

もうすぐ国境で、関所を通らなければならない。その時に、馬車から降りる必要がある。
その時に敵が襲ってくるかもしれない。

どう行動を取るべきか、俺はハルに意見を聞いてみた。

「下手に動くのはまずい。それに、関所には木の葉の忍びがいるらしいじゃないか。襲ってきたら木の葉の忍びがどうにかするさ。
 相手が馬鹿じゃなければ、天下の木の葉の忍び相手に襲ってくることはないだろうし、ここは静観するべきだ」

「……そうだね」

ハルの意見、反論するところは何もなかった。
俺は頷き、元の位置へと戻った。



その後もしばらく気配は残っていたが、関所にかかる頃には一斉に去っていった。



「木の葉の忍び、か」

実際に見るのは、あの夜以来だろうか。今も、俺を探しているに違いない。まあ、見つかってやるわけにはいかないのだけれど。
木の葉の額当てを見ながら、俺はそんなことを考えていた。

商人が、通行手形を木の葉の忍びに渡す。

「こっちの二人は? 見ない顔だが」

木の葉の忍びが、俺たちの顔を見て、怪訝な表情を浮かべる。疑っているのだろう。
商人はその顔を見ても動じた様子を浮かべず、実は~と前置いて、忍の問いに答えていく。

「私の弟の息子でしてね。将来のため、各地を見て回っとるんですよ。今日は手伝いも兼ねて――」

商人は商売道具でもある舌を華麗に回し、木の葉の忍びを説得していく。
さっきの荒事が起きそうな状況では、商人は俺たちに及ばないが、こういう場面では逆に俺たちの方が商人に及ばない。

話しだして数分が経過した。
説明を聞いていた忍びは、もういいといった顔を浮かべ、行け、と促す。

「はい。では、ごくろうさんです」

そして、馬車は走り出した。


いよいよ、国境を越えた。ここからが、鬼の国だ。




(………?)


俺はふと、不思議な感じを覚えた。








―――まるでそう、何か大きな食中植物の中に入ってしまったような。



(気のせい、であればいいんだけど……)



背後に遠ざかっていく関所を見つめながら、そんな事を考えていた。





――――この予感が、実は正しかったのだと。

全てが終わった後に、分かった。





馬車に乗る誰もが、何も知らないままに。


全てが始まった、かの国へと続く道を、馬車は走っていった。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その弐
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/02 01:16
――――メンマ達が網の任務を受ける、一か月前。

鬼の国の森の中で、一人の忍びがうめき声を上げながら倒れ伏した。

「ば……け、も」

最後まで言葉を紡げないまま。
倒れた男の瞳の光が、消えた。

黒装束の男が一人、今動かなくなった忍びと、その仲間であり同じように倒れている白衣の忍びを見下す。
クナイを一振りして表面についた血を飛ばす。

「……ふん、他愛もない。所詮は小里の忍びか」

無様にすぎる、心底つまらなさそうに、言い捨てた。
その表情は仮面に覆われているため、伺い知ることができない。
ただ仮面の合間から、鋭い眼光が垣間見えるだけである。

「……見事なお手並みで」

闘いが終わったのを察知した、男の仲間である忍びがその場に駆けつけてきた。
全く同じ格好をしている。こちらは少し若い忍びだが。

「世辞はいらんぞ。それよりも、巫女の方はどうなっている」

「……はっ。変わりありません」

「そうか。変わらず、監視を続けろ。間もなく、網の諜報員が来ると聞く。油断はするなよ」

「承知しました」

「あと、あの二人を本部から連れてこい。場合によっては、必要になるやもしれぬ」

「承知。少し時間がかかると思いますが」

「出来うる限り、急げ。これを、あやつらの最終試験とするからな」

「……随分と早い」

「片方は、それなりの才能があるからな。問題はあるまい」

「はっ」

忍びは返事をしたあと、素早く去っていった。

「……全く。この忙しい時に、あの方は何を考えておられるのか」

男は遠く、ここにいない主に向け愚痴を垂れた。
首を振り、まあいいかと零す。

「貴重なサンプルであることには間違いないか。こいつらのような下衆共が何時現れるとも限らん。奪われぬようにせんとな」

両腕を振られた。その袖口から目に見えない程細い鋼の糸が飛び出でて、地面に転がっている4人の遺体へ巻き付いた。

男は手元の鋼糸を噛み締め、素早く印を組んだ。
結びの印は、虎だ。

―――火遁・龍火の術。

糸の上を炎が走った。
亡骸がまたたく間に燃えあがるり、やがて炭となっていった。

火葬された遺体。男はそれに一瞥をくれることもなく、ただ向こう側を見る。

視線の先は、鬼の国の国境地点。そして、男が見据えているのはその向こう側にあるもの。

「………来るならば来い。例え誰が来ようとも、渡しはせん」

骨まで灰になった遺体。それを風遁で散らして、男はその場を去った。















俺たちが鬼の国に到着して、数日が経過した。

俺とハルは商人の仕事を手伝いながらも、合間を見ては国内の様子を探った。
だが、。何も見つけられない

鬼の国の規模は小さく、村や町がある場所も少なかった。
たった数日で、ほぼ全ての町を回れるほどだ。

明日行く、鬼の国最大の町である城下町が、最後となる。

「……今までの町の人間。特別、怪しいところは無かったな」

ハルが言う。

「見張りは消えていないけどね。ほんと、一体誰なんだか」

国境近くで感じたあの気配群、ここ数日の間にも数回現れた。
町を探索している時、移動中、場所を問わずにやってきた。

「目的は俺たちの監視だろう。何も仕掛けてこない、沈黙を続けているのは不気味だが……今は手を出さない方がいい。それよりも明日の事だ」

準備は出来ているか、とハルが訪ねてくる。

「一応は、ね。でも忍びは居なさそうだし、そう心配する必要もないと思うけど」

「そうだな……木の葉の忍びも、国境を越えることは無いようだし」

商売を手伝う合間、俺たちは手分けして調査にあたった。昼飯時、飯屋にいたおばちゃんやおっちゃん相手に、それとなく聞き込みをしたのだ。
町の人曰く、忍者を見かけたことは無いらしい。でも、油断はできない。
知らないだけというのはあり得るし、知って隠しているという可能性も無きにしもあらず。

もしかしたら、はいつでもありうるのだ。

「可能性だけいったってしょうがないだろ。確定情報が終わるまではおちおち帰られもしないんだから……ちっ、糞面倒くせえ」

ハルが愚痴る。俺もその意見には同意しよう。

一体どういう情報を得て、俺たちを派遣することを決めたのか。
余計な先入観は与えたくないと最低限の情報を与えられ、ここに送られた。先入観を捨て、怪しいと感じたらすぐに知らせるようにとのことだが、どうしたらいいものやら。

『巫女にもまだ会ってないし、ねえ』

そうだなあ。一応、鬼の国に巫女がいるってことは、町の人達の話で分かったけど。
今は国主に保護されていて、一人娘と一緒に城で暮らしているらしいが。

だが、その巫女の容姿までは分からなかった。それもそうだろう。国主だの巫女だのいうことは、町の人達にとっては雲上の話だ。城下町に行ったことのある者すら少ないらしいので、知らないのは当たり前だろう。
だが、一国も早く巫女というのを見つけなければいけない。この国で不穏な動きが起きているというのなら、原因か元凶かは分からないが、渦中にいるのは間違いなく巫女だ。
その巫女がどんな容姿をしているのか、それが分からなければ探れない。聞き込みができれば話は早いのだが、商家の息子がそんな事を聞いて回るのはいかにも怪しい。
人知れず容姿をつきとめ、巫女がどんな性格の人物なのかを調べた後、周囲の状況と共に“網”へ報告するのが最善だろう。

(でも、巫女っていうからにはやっぱり巫女服を着ているんだろうか)

でも巫女服の定義がこっちとあっちの世界で違うし、やっぱり巫女服は着ていないのかもな。

『変わった格好をしていることは確かだろうね』

そこから突き止めるしかないか。城下町に普通に歩いているかもしれないし。
いざとなれば、城へ忍び込むのも手だ。









翌日の、正午を少し過ぎた頃、俺たちは城下町に到着した。

手形を見せ、町の入り口にある門を潜った俺とハルは、叔父という設定である商人、名前をゴロウというらしい、そのゴロウさんが構えているという店へと足を運んだ。
そこでまずは、商品の荷降ろしと整理を手伝う。その後は、ゴロウさんにこの町の見取り図を見せてもらい、城の配置、衛兵の駐在所などを確認した。
あと、話の通り、この国に忍びはいないらしい。関所にいた木の葉の忍びも、国境からこっち側にきたことはないらしい。

俺とハルは情報を整理した後、情報収集をするため、すぐに町へと探索に繰り出した。

二手に分かれて、それぞれに町を歩きつつ町の中の様子を探るのだ。
俺は東側で、ハルは西側。



調査して、二時間が経過した。
ここは城下町といっても小さなもので、一度だけ行ったことのある火の国の城下町の1/10程度の規模しかない。
二時間もあるけば、町の大体の配置と様子は把握できた。

パッと見の流し見調査だが、今のところは何も見つからない。
網の情報では、この国の内部で、なにやら不穏分子が動いているとのことだったが……。

「何もない、な」

反乱が起こるとか、そういった類の荒事が起きそうな兆候は無く、至って平和だった。
問題など何処にも無いように見える。だが、一つだけ気がかりとなることがあった。

(見られてるな……)

視線を感じる。一体誰に見られているというのか。
露骨に視線を向けているものはいないし、それとなく背後を探って見ても不穏な人影は見当たらない。
いつも通り、居るのは通行人、もしくは犬か猫だけだ。

―――いや。

(あそこの、路地裏……?)

こちらからは死角となっている、後方にある路地裏をのぞきこんだ通行人が、顔をしかめて去っていく。

(誰か居るのか……!)

俺を監視している奴かもしれない。すぐさまきびすを返し、早足でその路地裏へと向かう。

だが。そこで俺が見た光景は、全くだに予想しないものであった。

「………」

「「………」」

『『………』』

上から、俺、路地裏で愛を育むカップル達、マダオとキューちゃん。

全員が沈黙する。

(え、えらいもん見てもうたぁ……!)

そういえば路地裏を見て顔をしかめてるのは、年配のおっさんだった。
最近の若い者は、とか思っていたのだろう。とんだ勘違いだ。

「失礼しました……」

ごゆるりと、と言い残し、キスをするあべっく達を残して俺はその場を去った。





「路地裏には危険がいっぱいだぜ……」

額の汗を拭いながら、言う。

『町の東側で、城下町以外は探索し終えたようだけど、どうするの?』

「どうしようかな……」

西側はハルの受け持ちだし、今日はこれ以上することはない。商人の店で落ち合うようにしているが、集合時間まで一時間ぐらい残ってる。

茶屋に行くお金もないし、公園で一休みするか。






公園は町の中心部にあった。
端にあったベンチに座りながら、拾ったボールをぽんぽんとお手玉する。

公園の反対側には砂場やブランコなどがあり、それら遊具の周りでは子どもたちが無邪気に笑いながら遊んでいた。

(癒されるねえ)

本当に久しぶりに見る光景。俺はほうと息をはく。
この世界にきてからこっち、主に接しているのはヤクザ風味のおっさんか、いかにも影のありそうな人ばかりで、
あまりおおぴらに街中を歩ける身分でもない俺は、このような無邪気な子供の姿を見る機会がなかった。

(しかし、ブランコとかシーソーとかあるんだな)

忍者がいる世界で、ブランコとかシーソーかどうなんだろう。

日本だと忍者が活躍した時代といえば・・・そういえばいつから存在したんだっけか。
知らないな。でも戦国時代には有名な忍者が数多く存在したと聞くし、そのちょっと前か。

風魔小太郎、服部半蔵、加藤段蔵、猿飛佐助。一部創作のものがあるようだが、忍者が存在していたというのが間違いないだろう。

(まあ、この世界の忍者とは随分と様相が違うようだけど。一国を落とす忍者とか、聞いた事ないし。それ全然忍んでねーよ)

この世界の忍者ははっちゃけすぎであると思う。人の事言えないけど。

(しかし………)

ブランコを見ながら、考える。一体どういう過程を経てこれが開発されたのか。
不自然と思うのは、俺だけなのだろうか。
話に聞いただけで実際に見たことは無いのだが、ある地方では蒸気車なるものがあるらしいし。

映画もあるらしい。以前、一度だけいった火の国の中央部。その街並みを見た時は、本当に驚いた。
元の世界でいう、昭和後期に近い街並みとなっているのだ。

(大名、国主みたいなのが居る時代に、映画とか蒸気車とか、一体この世界はどうなっているのか)

文明や文化の進度が無茶苦茶だ。

『君の言いたいことはなんとなく分かるよ。でも、こうだからねえ。なんとも言い難い。あるいは、何か別の要因があるのかもしれないけれど』

まあそれもどうでもいいか、
なにしろ妖魔みたいなファンタジーが居る世界だ。何でもありといえば何でもありかもしれない。

俺にとっては、ラーメンという食文化があるだけで正直ありがたい。
特に不都合な点も無いから、別にいいか。

文化の進化に関することなんて、ラーメンの一万分の一程の興味もない。

魔界とか天界とか、そういうアレな世界でなければオールオッケーだ。

(……別に、人間の在り方が変わったわけでもないし)

子供達を見ながら、俺は呟く。

その集団に外れ、一人いる少女に視線をやりながら。


公園の中央で遊んでいる、子どもたちの集団。そこから離れて、たった一人でぽつんと立っている少女。
遠目からでも分かる、象牙色の美しい髪を持つ少女は、寂しそうな雰囲気を漂わせながら、遊んでいる子どもたちの方を見ている。

(何処の世界でもこういうのはあるんだな)

しかし、何で仲間はずれにされているのか。

そう思っている時、こちらにボールが転がってきた。

俺はちょうどいいと、ボールを取りにきた子に訪ねてみる。

「なんであの……そう、あの娘。仲間はずれにされてんの?」

砕けた口調で聞いてみる。

「え、だっておかあさんがあの子に近付いたら駄目って言ってたもん。だから、近付いたらだめなんだよ?」

「それはどうして?」

「……そんなの知らなーい。だめっていわれたらだめなんだもん。それよりボール返してよー」

「……あいよ」

腑に落ちないものを感じつつ、ボールを投げ返す。

「ありがとー」

俺にお礼をいうと、子供はきゃははと笑いながら集団の輪の中へと戻っていった。

「ううむ」

礼儀がゆきとどいている、普通の子供だ。親も別に、変な教育はしていないことが分かる。
ならなんで、あの子に近付いたら駄目なのだろうか。

(げ、泣きそうだ)

見れば、7、8歳の幼女は、うつむきながら肩を震わせている。

(……いかん、いかんですよ)

トラウマが蘇る。この身体、ナルトの奥底に刻まれた記憶と、俺の薄ぼんやりと残っている記憶が俺の胸をぎゅっと締め付けてくる。
俺も、昔は両親がいないということで、随分とイジメられたのだ。ナルトは言わずもがな。

忘れていた記憶が、うっすらと蘇る。

思い出したくない光景が、フラッシュバックする。
過去のトラウマの言葉が反響する。

―――近づかないで。あっちにいって。あんたなんか。九尾の。何でこんな子供が。来ないでよ。触らないで。殺せ。

ナルトと俺の記憶が混じり合い、嫌な部分だけが交互に乱雑に蘇ってくる。
子供は純粋だ。親のしつけを守る。あの年の子供ならば、害意はあるかもしれないが、明確な敵意はないだろう。
だが、敵意なく何かに害を及ぼすことができる子供は、違った意味での残酷さを持っている。

未発達な心は、相手の心を思いやることができない。自分が思うがままにふるまい、知らず相手を傷つける。
駄目だといえば、駄目だ。だが、絶対に悪いというわけじゃない。

(―――小難しいことを考えるより)

俺はベンチから立上り、その少女に近づいていいく。
そして、うつむいたままの少女へと話しかけていた。

「へい、そこのお嬢さん」

「………!?」

こちらに気がついていなかったのだろう。
驚いた少女の肩が、びくっと跳ねる。

「ええと、よかったら、だけど………いっしょに、遊ばないか?」

ボールを見せながら、言う。

「……」

少女は弾けるように顔を上げ、一瞬だけ顔を綻ばせた。

だがその直後、いかにも警戒していますという疑惑の視線を俺に向けてきた。
遠くからでは分からなかったが、この娘……。

(瞳が……これは、紫か?)

赤だの青だのは町中や任務中に見たことはある。だが、紫の瞳は初めてお目にかかる代物であった。
なすびのような、濃い紫ではなく、淡く綺麗な紫色。
どことなく高貴なものを感じる。そういえば、紫って高貴を表す色だったっけ。

見たことの無い、深い紫の瞳。
その目の端には涙がにじんでいる。水の切れ端が日光を浴びて、まるで宝石のように輝いていた。

「……お主、何者じゃ?」

「お主って………」

何処かで聞いた呼び方だな。

『……そこの抜作。ワシの事を忘れたか』

冗談だってキューちゃん。しかし抜作とはまた古風な。

「まあいいや。俺はイワオっていうんだ」

君の名前は、と聞いてみる。少女は警戒を解かないまま、名前だけを告げた。

「……紫苑」

「……しおん、シオン。ああ、紫苑か。確か花の名前だったよね」

名前のとおり紫の花だったような。

「それで紫苑ちゃん、なんであの子たちと遊ばないの」

紫苑は少し驚いた表情を見せた。何で驚いているのだろうか。

「……お主、妾のことを知らぬのか?」

「わらわっ!?」

時代劇ならともかく、自分の事を妾とな。

「……お主、この町の生まれではないのか」

「うん、違う」

だから紫苑ちゃんの事は聞いたことがない、と言うと、何故だが少し残念そうな顔をする。

「……そうか。だから話しかけてきたのか」

そして、思い違いであった、と呟きながらうつむく。

「遊びたいのであれば、あそこにいるあやつらがいるじゃろう……妾は、もう帰るから」

混ざりたいのであればあちらにしろと言いながら、紫苑はこちらに背中を向けた。

言葉のとおり、家へと帰るのだろう。振り向かず、肩を落としたまま、歩き出した。

(……えい)

去っていく紫苑の頭を目掛け、俺は持っていたボール投げつける。
ボールはゆるやかな弧を描いて、紫苑の頭に命中した。

「いたっ……お、お主何をするのじゃっ!」

紫苑がこちらに振り向き、怒鳴りつけてきた。

まあ、当たり前だろう。いきなりボールをぶつけられたのだから。
紫苑は、足元に転がっているボールを拾い上げ、思いっきりこちらの顔をめがけて、ボールを投げてつけてきた。

「遅いな」

俺はその飛んできたボールを、片手で受け止めた。
その後、紫苑を見ながら、にへらと笑ってやる。

「ああ、そうか。自信がないから混ざらなかったんだな。いやー、ごめんごめん」

気がきかなくてほんとすまん、と言いながらボールをバウンドさせる。

「何じゃと……!」

紫苑顔を赤くしながら、俺を睨み、怒鳴る。

「そんな訳が、なかろう!」

「……じゃあ行くぞ、ほらよ!」

俺の言葉に反応した紫苑に、素早くボールを投げつけた。

「くっ!」

胸元に飛んでいったボールを、紫苑は両手でしっかりと受け止めた。
運動神経は悪くないらしい。

「へえ、やるじゃん」

「ふん、当たり前じゃ!」

再び、力いっぱい投げ返してくる。

「おっと」

だが、ボールは上に逸れた。
俺は咄嗟に飛び上がり、そのボールをキャッチする。

「……違う、こうだ!」

しゅっとボールを投げる。ぱしりと紫苑がキャッチする。

「………」

紫苑はボールを受け取ったあと、そのボールを見つめながら沈黙する。

「……やめるか?」

笑いながら、俺は問う。

「いや」

紫苑が不敵な笑みを返す。

「なら勝負だ。当てられボールを落としたら1アウト」

ドッチボールのルールを説明する。

「どこでも狙っていいぞ。全部受け止めてやるから」

「言ったな!」

思いっきり振りかぶって、真っ直ぐ正面に投げてくる。

「……いけ!」

先程よりやや早く、ボールが飛んでくる。だがまだまだ、クナイに比べたら遅い。
余裕で俺は受け止めた。

「へえ、けっこう良い球投げるじゃん」

球に伸びがあった。
筋がいいなと褒めると、紫苑は胸をはりながら笑った。

「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう」

投げ返された球を受け止めながら、紫苑が自慢げに言う。

その子供っぽい姿を見て、苦笑する。
沈んでいた先程とは違う、普通の“少女”の姿だ。

(なんだ、けっこうかわいい所あるじゃないか)

てっきり、ひねくれているせいで仲間外れにされていたと思っていた。
だが、どうやら違うようだ。

(……何故、仲間はずれに……子供達の様子も変だな。でもまあ、今はいいか)

「そこじゃ!」

今度は足を狙ってきた。だが、甘い。

「ほっ」

足元にきたボール。
その勢いを足で殺しながら、上へと蹴り上げる。

「っと。甘い甘い」

そして両手でキャッチする。

「そんなもんじゃ、やれないぜ」

ボールを手元で回転させながら言ってやる。
紫苑はますますムキになっていった。

「こら、早く投げぬか!」

乗せられ、その気になっている紫苑に向けて、俺は苦笑しながらボールを投げ返した。



―――それから、俺たち二人は公園の中で徹底的に遊んだ。

ちなみにドッチボール勝負は俺の完勝だった。

その後はブランコや、何故かあるジャングルジム。シーソーなどの公園にある遊具を使って遊んだ。砂場で城を作ったりもした。
少女は遊ぶということを経験したことが無かったのが、どれも最初はたどたどしく、不安気に遊んでいた。
だが時間が経つにつれ、子供らしい無邪気な笑顔を浮かべて、遊びに夢中になっていった。

ちなみに鬼ごっこはやめた。
鬼の国での鬼ごっこというのも中々おつなものだと思ったが、二人でやっても虚しいだけだからだ。
そういうものは大人になってから、砂浜で彼女とする行為だ。

『言ってて虚しくない?』

彼女いない歴=年齢の俺の臓腑を、妻子持ちであった勝ち組マダオが抉ってくる。
その痛みを無視しながら、紫苑の方を見る。

(でもこの娘、7、8歳にしてはかなりしっかりした感じだな)

この紫苑という娘、他の子供達より大人びている。親の教育の賜物だろうか。
初対面かつよそ者の俺を警戒していたのもあるし、家の者か誰かに、怪しい人には近づかないようになどということを言われていたのかもしれない。

(しっかし、良い顔で笑うなー)

可愛い顔立ちをしているのは間違いない。将来は間違いなく器量よしとなるだろう。この顔で二心ない笑顔を浮かべられれば、男はみなイチコロである。

(もし、俺に娘がいたらこんな気分になるのだろうかね)

考えたこともないが、それはきっと悪くないのではなかろうか。

『言ってて虚しくないか?』

その前に彼女を見つなければ話にならんの、と言いながらキューちゃんが笑いやがりました。

(ちくしょう、お前ら敵だ)

そんなことがありつつも遊び続けて、何時間が経ったのだろうか。

楽しい時間は、楽しければ楽しいほど疾く過ぎる。遊びはじめは青かった空、気づかぬ内に薄い橙色へと染まっていた。
カラスが飛びながら、あほー、あほー、と鳴き始める。

日が落ちた。公園が夕焼けに照らされている。さっきまでは見かけた少年達の姿も、今はどこにも見ることはできない。
それぞれの家に帰ったのだ。

『そろそろ、時間だよ』

(…あ、ああ)

マダオの声を聞いた俺は、驚いた。
今までに聞いた事の無いほどに、優しい声色だったのだ。戸惑いつつも俺は立上り、少女へと話しかける。

「……日が暮れたようだから、僕は帰るよ」

「もう、帰るのか」

紫苑が俺の顔を見ながら、残念そうに言った。

「いや、もう帰らなきゃいけない時間だから。君も、帰るの遅いとお母さんが心配するだろ」

「……そう、じゃの」

紫苑は複雑そうにしながらも、頷いた。
砂場からすっと立上り、手で服についた砂を払う。
その何気ない動作の中に、普通の子供とは思えない気品を感じた。
いいとこの娘なのだろう。

(目立つのは困るし、もう会わない方がいいのかもしれない)

そう判断した俺は、別れの言葉を告げる。

「それじゃあ、ばいばい紫苑」

「ばい、ばい?」

言葉の意味がわからなかったのか、紫苑は首を傾げながらこちらに訪ねてくる。

「ああ、さようならって意味だよ」

つまりは別離を意味する言葉。
その説明をしたとたん、紫苑の顔が少しだが、悲しみに歪んだ。

「……明日は、ここには来ないのか?」

言うつもりはなかったのだろう。思わずこぼれでたという感じの、小さい声で訪ねてくる。
顔は下に傾いた。視線の先に映るのは地面だけだろう。

(何処かで見たな………ああ、そうか)

    ・・
何時かのオレだ。

人の眼を見ない、自分の眼を相手の眼に合わせない。
諦めた仕草。何も見たくないと思う人間がする仕草だ。

(こんな、少女には。すごく、相応しくない)

俯いているせいで、顔が見えない。あんないい笑顔で笑うのに。

(駄目だな……ああ、くそ)

心の何処からか、苛立つ心が湧き出てくる。

「………」

空を見る。夕焼け空。鮮やかな茜空。

(逢魔が時ともいうし)

魔が差したのなら仕方ないな、と情けなく自分に言い訳をしながら。

俺は紫苑の方へ一歩、踏み出す。
そして心の奥底に隠していた言葉を、舌の上に滑らせた。

「……明日もまた。きっと、来る」

ふと出た言葉。曖昧なそれに、首を振り、かき消す。

見れば紫苑は顔をあげ、こちらを見ていた、

俺は紫の瞳を真っ直ぐに見つめながら、はっきりと言った。

「明日も。絶対に、来るから」

そういいながら、俺は小指を差し出した。

「………?」

紫苑はまた、首を傾げる。俺の言葉に混乱しているのか、おろおろとしていた。
挙動がすごく不信だ。俺は苦笑しながら、紫苑の手を握る。

(小さい………)

少女の手だ。柔らかく、白く、そして握れば覆い隠せてしまう程に、小さかった。

「……ほら、こうだ」

手を握りながら、俺は指きりげんまんを教えた。
これは約束を交わす時の作法なのだと、紫苑に説明をする。

「ええと、こうか?」

「そう」

小指が重なる。

「ゆーびきーりげーんまーん。嘘ついたら針千本のーます」

歌いながら、重ねた小指を上下に振る。今の俺と紫苑の背丈は一緒ぐらいなので、互いに引っ張られることもない。
俺は最後の言葉を結び、破らない約束を交わす。

「ゆーびきーったっと。これで信じたかな?」

「あ……ああ。うむ、信じたぞ」

初めてする行為なのだろう、紫苑は少し戸惑っていた。
だが、意味を理解したのか、また生意気そうな表情に戻る。

「明日は、負けぬぞ」

どうやら紫苑は、さきほどのドッチボール対決で完膚なきまでに負けたのを根に持っているらしい。

「このボールじゃが、持ってかえってもかまわぬか」

「……いいよ。練習してきたらいい」

それでも絶対に勝てないけどな、と言うと、紫苑がむきになって言い返してきた。

「その言葉、忘れるなよ!」

「おうよ」

紫苑の言葉に、親指を立てながら答える。

「ふん、それじゃあ………えっと、おい、イワオ」

「ん?」

「こういう時は、何と言えばよいのじゃ」

「ん、ああそうか。さっきとは違うし、まあ、ばいばい、じゃないか」

明日も会うのだから、別れだけではない。

「またね、だ」

「またね……」

「そう」

別離だけでなく、再会も約束する言葉。

「うむ、分かった。それじゃあイワオ、またね、じゃ」

「じゃ、はいらないよ。ほら手を振って」

紫苑は戸惑いながらも、見よう見まねで俺の動作をなぞった。なんとも幼く、可愛らしい。

「「またね」」」

重なった二人の声が、夕焼けの公園の中を木霊した。


















小さい紫苑の背中を見送った後、俺は商人の店へと向かった。

「……また、か」

溜息をつく。
何故か、先程から道行く犬犬に睨まれて、吠えられるのだ。

「なんなんだ……?」

走りながら考えるが、分からない。そうこうしているうちに、家へ到着した。

「うげ……」

今日からしばらくやっかいになる商人の家を、その家の玄関にいる男の姿を見て、俺はうめきごえを上げる。。

「めっちゃ怒ってるな、あいつ」

俺が遅れて帰ったせいだろう。
ハルの顔には、怒りの表情が浮かんでいた。

「……随分と遅かったなあ。と、いうことはなにか収穫はあったと期待していいのか?」

「ないです。ありません」

ちょっと怖かったので下手に出て謝る。

「ちっ、役に立たねえなおい。その上遅れてくるたあ――」

ハルは忌々しげに舌打ちをしながら、説教をしてくる。
その後、親指でくいと家の中を指した。

「……まあいい。こっちは、いくらか分かったことがある。話しておくから、中に入れ」

「分かった」









そこから、今後の事について話しあった。

何でも、巫女は2、3年前に患ったという病を治すために、今は城の中で静養しているらしい。

行事にも顔を出さないというので、余程酷い状態なのだろう。

そのせいで、民が少し動揺していて、それが不穏な空気の原因かもしれないと、ハルが推測していた。

「城で求人をしている。年齢もちょうどいいし、俺が城の中に潜入し、巫女の情報や軍部、国主の情報を集めてくる」

ハルはそういった。7、8歳の外見でしかない俺には無理なことだ。さすがに、7、8歳の者を雇うほど城も酔狂ではないだろう。

「お前は外で情報収集を続けてくれ。万が一の場合は、網の本部へ連絡を頼む」

まあ、万が一なんてないがな、と笑う。



翌日、ハルは城へと行った。

「俺も、遊んでいるだけじゃあな」

約束の時間は午後だ。
午前は情報収集をしなければならない。

『今日はどうするの?』

「別の商店を探ってみる。何か、流通が変わっているかもしれない」

いってきますといい、俺は商人の家を出て行った。





一方その頃、城の中。

紫苑とその付き人、菊夜が、城の奥にある特別な一室で言い争っていた。そこは国主の血族に準ずるものしか使えない、特別な部屋。もちろん広く、奥行きも深い。
その広い部屋中に響き渡る程の大声で、二人は小一時間も言い争いを続けていた。

「ええい、離さんか菊夜! 何故よりにもよって……今日に限って……っ、遊びに行ってはいかぬというのじゃ!」

「駄目なものは駄目です」

羽交い絞めにしながら、菊夜は静かに言い聞かすように、駄目な理由を説いた。

「怪しすぎます。調べによると、その子は昨日の昼、およそ初めて鬼の国にやって来たらしいのですから。国に到着した数時間後に紫苑様に近づくとか、ありえません。絶対に何か裏心があるに決まっています」

「……なっ、取り消せ! イワオはそんな奴ではないぞ!」

いくらお主でも許さんぞ、と紫苑が怒る。

「あくまで可能性の話ですが……何故怒られるのですか」

「……」

「それと紫苑様、あの話はされたので?」

「……しておらん」

「そうですか……いえ、まあ」

菊夜もなんともいえなくなる。

「良いわ。それよりその手を離さぬか!」

「いいえ、離せません。危険ですから。外に出られるより、城の中で遊べばよいのでは……」

言いかけて、菊夜は再び言葉を止めた。
捕まえられていた紫苑が、上目越しに菊夜を睨む。

「すみません。失言でした」

「……良い」

二人ともが、互いに眼を逸らす。

「……それはそれとして。妾は往くぞ、絶対に往く。あそこまで言われたのじゃ。
 たとい遊戯だとして、あのような小童に舐められたままでは終われぬ。ご先祖さまに、申し訳がたたぬからの!」

少女はムキになっていた。昨日の完敗が、余程頭にすえたそうだ。

「……それでまた、昨日のように御服を汚すのですか?」

呆れたように、菊夜が言う。

「良いではないか、良いではないか! どうせ国主様がどうにかしてくれるのじゃろう!」

国主、と言った紫苑の声に、若干黒いものがまじる。

「それに、服を汚さずどうして遊べるというのじゃ。お主の言いたいことはそんなことではなかろうに」

「……分かっているのならどうかご自愛下さい。御身に何かあってからでは遅いのです。そうなればこの菊夜、弥勒様に申し訳がたちませんゆえ」

菊夜は膝達になり、深々と頭を下げる。

「うむ、その心配はないぞ。今回は大丈夫じゃ」

下げられた菊夜の頭を、紫苑が掌でぽんぽんと叩いた。

「……そうまでおっしゃるからには、何か根拠はあるのですね」

「うむ、妾の勘に狂いは無いからの!」

紫苑が胸を張った。自信満々である。

「………」

徐々に、菊夜の紫苑を見る眼が、何かかわいそうなものを見るものに変わっていく。

「………な、なんじゃ、その鼻をかんだあとのちり紙を見るかのような眼は」

「いえ、使用後の爪楊枝を見る眼ですが」

「なお悪いわ!」

二人はにらみ合いながら、沈黙する。

その静寂はしばらく続き、やがて菊夜は盛大に溜息をはきながらあきらめの言葉を発した。

「……はあ。仕方ありませんね」

「うむ、分かってくれれば良い。それではの!」

紫苑は従者の返事をまたずに、電光石火で回れ右をする。
部屋から出ようと、一歩駆け出した。

「お待ちください」

直後、走り出した紫苑の襟首を菊夜が後ろから引っ張る。

襟元で首をしめられた紫苑の口から、巫女らしからぬ「ぐえ」という声が出た。

「な、何をするのじゃ!」

「……くれぐれも。くれぐれもお気をつけになりますよう」

「そんなことは分かっておる! ふむ、菊夜は心配性じゃのう」

「そうです。心配なんです。本当ならば、お外にはお出にならない方が良いのですが……」

今はここにいても気が暗くなるだけですか、と首を振る。

「……お気をつけていってらっしゃいませ」

「うむ!」

紫苑は元気よく返事をすると、外へと走っていった。





部屋に残された私は一人、溜息をはきながら眉間にしわを寄せる。

「一体何が目的なのか……」

昨日の昼過ぎに紫苑様と接触した少年について、考えてみる。
少年について、昨日今日と色々調べてみた結果分かったことといえば、城下町に店を構えている商人の甥だ、という表向きの身分だけ。
裏の顔が見えてこない。

あるいは、一般人かもしれない。
今更、あいつらがそのような小細工をしてくるとも思えないし……。

(もしかしてあいつらの揺さぶりか。いや……?)

情報が少ない今、断言出来る要素は何もない。その少年が何者であるか、今ははっきりとは分からない。
もしかすれば、自分たちの助けとなる存在かもしれない。ならば、すぐにどうにかするという訳にもいかない。
八方ふさがりとなっている、現在の私たちの状況、それを打開できる鍵となるかもしれない。

今はワラにでもいいから縋りたい状況なのだ。万が一の可能性を手に握り締めるためには、慎重に、そして間違いなく見極めなければならない。
一つ一つ並べ、少年の正体がなんなのか。その結果どうなるのかを、大雑把に予測してみる。

(もし、小国の忍びであれば? ―――駄目だ、あいつらにはかなわない。あっさりと殺されて終わるだけだろう。
 もし、大国の忍びであれば? ―――力はあるはず。あるいはあいつらと対峙できるかもしれないが、泥沼は免れない。最悪、鬼の国に血が流れる。
 もし、ただの一般人であれば? ―――どうにもならない)

駄目だ。あまりの希望のなさに、頭を抱える。

(……しかし、紫苑様のあの喜びようは嘘ではなかった)

巫女の血筋である紫苑様は、持って生まれた勘も鋭い。見えすぎてしまう程に。
その者に邪気があれば、紫苑様は拒絶していただろう。事実、今までも何度かそういうことはあった。
だが今回に限っては、紫苑様は拒絶せずその者と遊ぶことにした。

一縷の望み。希望。あるかもしれない。

(絶望しかないこの状況で、光をもたらす者と成り得る可能性が……)

そこまで思いついてから、盛大に笑う。
ありえない事を思いついてしまった自分を、おもいっきり嘲笑う。窮地に現れ、何の見返りもなく助けてくれる。
そんなの、まるでヒーローだ。

(あるはずが無い。そんなもの、在りはしない)

英雄、ヒーロー。強きを挫き弱きを助く。
そんなものは、お伽話の中だけだ。

(都合のいい空想だ。妄想に浸っている余裕はない)

どうにかして、紫苑様を逃がさねばならないのだ。紫苑様を死なせはしない。己の生命を賭しても、例えこの手が血に染まろうとも。
その覚悟は既にできている。問題となるは、賭けるタイミング。

(まだ、打開策は無い。口惜しいが、今は待つしかないか……)










遊びつつの情報収集。
手応えのないまま、一週間が経過した。

一週間が経過したある日、俺は紫苑と二人砂場で城を作っていた。

昨夜小雨が振ったせいで、砂場は少しの水を含み、固まりやすい状態になっていた。
絶好の機会。そう考えたと、兼ねてから考えていたことを実行に移した。

俺と紫苑はスコップを片手に、次々と城を作り上げて行く。

その日は快晴で日差しが強く、照らされた俺たち二人は作業を進めていくうちに、いつの間にか汗だくになっていた。
しんどい。暑い。だるい。

―――だが、妥協はしない。
丁寧に基礎を固め、土台を作り、外壁をスコップで叩いて固める。

やがて数時間が経過した後。城は完成した。

「終りだ! できたぜ」

「やったのう!」

二人で喜びを分かち合う。

その、一瞬だけ眼を話した時。

黒い影が、俺の脇を通り抜けた。

破砕音。

「え………」

予期せぬ出来事が起こり、俺は呆然とする。

紫苑と一緒の完成させた城、その名も、砂の城“ラ○ュタ”。
それが、突如乱入してきた少年に蹴り倒されたのだ。

『築かれた、砂上の楼閣、蹴りに散る~』
マダオ煩い。

蹴り倒した少年はいつも公園で遊んでいる少年軍団のリーダーで、つまりはガキ大将だ。
完成した途端、砂の城に「どーん」と前蹴りを放ったガキ大将。そいつはそのまま砂を踏みにじって、俺と紫苑の前に立つ。

「おれよりめだつやつはゆるせねえ」

訳が分からない。何だこいつは。

俺は少年が行った非道に対し、「子供のやることだから」と思いにこやかに応じつつ、「まあ気持ちは分かるし、砂の城があると崩したくなるよな」という、大人な対応を―――

「許さん……」

―――するはずもなく。

「……絶対に許さんぞきさまらー!」

力の限り叫ぶ。僕は怒った。嘘ではない。
マジと書いて真剣というやつである。

『世界が灰燼に帰す日……!』

すべてが厳しく、裁かれる。
怒りの日、来れり。

だが少年は俺の怒りを見ても臆すこと無く、蛮勇を振るう。

「へっ、じょうとうだ! だいたいおまえきにいらなかったんだよ! しんいりのくせにえらそうにしやがって! それにっ……」

少年は紫苑の方をちらりと見た後、またこちらに視線を向ける。

「……けっ、じじょうなんてどうでもいいから、さっさとかかってこいよ! ええと」

ガキ大将は俺を指差しながら口ごもる。

「おれのなまえはたけしだ! おまえのなまえは!」

(くっ……)

おかしくなり、口の中で笑う。

(どうやら親の教育はゆきとどいているらしい。自分の名前を名乗ってからこちらの名前を訪ねてくるとは……!)

堂々と、目の前で名乗られたのだ。

(ならば、名乗らなければなるまい……!)

立上り、俺は宣言する。

「―――天空宙心拳正統伝承者。リュシータ・トエル・ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガ!」

天空宙心拳。
それは太古の昔に天空を制したという、かのラピュ○王が編み出した、伝説の拳法であるっ………!

『シータ無双乙』

オープニングでパロを撲殺するヒロインって素敵だと思うんだ。

『あと混ざってるから。ウルムナフって誰』

(自分、一応ハーモニクサーですから)

そうだろ、甚八郎。

『だれっ!?』

そうだろ、天凱凰。

『ワシかっ!?』

(―――それはひとまずおいといて)

俺はたけしと対峙する。

「○ピュタは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 故に私に敗北は無い! 少年、君の蛮勇に敬意を表して、先手は譲ろう」

すっと構えを取る。

「3分間、待ってやる!」

全て避け切ってやる、と大人気ない本気を全開にする。

―――だが。

「すきあり!」

不意に、少年がしゃがみこむ。
そして。

「目が、目があああぁぁぁぁ!?」

地面の砂を投げつけてきたのだ。まさかの初撃目潰し。
油断をしていた俺の眼に、砂のシャワーが見事にヒットした。

俺は痛む目を抑えて転げ回る。

「みなのもの、かかれいっ!」

そこで、少年軍団が一気攻勢に出てきた。

「ふははは、かてばよかろうなのだぁぁぁ!」
「ひんじゃく、ひんじゃくぅ!」
「さいこうにはいってやつだあぁ!」

転がっている俺をぼこぼこと踏みつけてくる子供達。おい、一対一じゃなかったのか。
前言撤回、こいつら質が悪い。しかし兵法を心得ているといえよう。

『余裕があるね』

(だって全然痛くないもの)

「シータぁ!?」

紫苑が悲痛な叫び声を上げていた。しかも律儀なことに、偽名を言ってくれている。

(ああ、別に全然痛くないんだけど、やっぱり心配か)


なら仕方ないなー、と立ち上がろうとした時である。





「待てっ……!」




再び現れる、別の乱入者。

ジャングルジムの頂点で二人、兄弟らしき少年達が二人、ガキ大将を指さしていた。




「そこまでだっ! それ以上はこのオレが許さん!」


少年の金の髪は陽光に照らされ、眩しいほどに輝いていた。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その参
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/02 01:17



「くっ、おぼえてろよおまえらー!」

ぼろぼろになったたけしが、捨て台詞を残して逃げて行く。少年軍団もたけしの後をおいかけて、逃げていった。

「へっ、おとといきやがれ!」

金髪の少年が腕をあげながらたけし達に向かって叫んだ。さきほど乱入して助けれくれた少年。年は俺と紫苑の一つ二つ上だろうか。
活発で元気なやんちゃ小僧といった感じだ。

「勝ったね、兄さん」

その横では、黒髪の少年が隣にいる金髪の少年へと笑いかけていた。年の頃は俺たちと同じくらい。
兄と顔立ちも似ている。兄弟なのだろう。

「よっと」

立ち上がり、服についた砂を払う。急所は外していたので、身体は何処も痛まない。踏まれていただけなので、血もでていない。

(しかしとんだ災難だったな)

まさかあそこでああいう手を使ってくるとは。たけし、恐るべし。

「大丈夫か、イワオ」

紫苑が心配そうな顔でこちらを見る。俺は笑いながら大丈夫だと言った。

「へえ、丈夫なんだな、お前」

「それが取り柄でね……えっと」

金髪の少年に呼びかけようとするが、名前が分からない。
俺は自分の名前を名乗り、その少年の名前を聞いた。

すると少年は少し考える様子を見せたかと思うと、隣の弟に目配せをする。

「……兄さん。いくら兄さんが馬鹿でも、自分の名前は忘れたりはしないよね」

弟君が笑顔で話しかける。兄はその笑顔に何を見たのか、ぶるぶると震えだした。
つーか自分の名前を忘れるとは何事だ。記憶喪失か、記憶喪失なのか。

「はあ……まったく。えっと、僕の名前は才蔵っていうんだ。こっちの兄は真蔵」

才蔵に、真蔵ねえ。

弟は可児才蔵か、霧隠才蔵かコノヤロー。猿飛佐助は何処いったコノヤロー。
兄は服部真蔵か、天草四郎時貞かコノヤロー。

「うん、良い名前だね」

でもFoo!Foo!言わないでね、と弟君に言うと首を傾げられた。当たり前か。

「それはそうと、危ないところを助けてくれてありがとう」

「気にすんな! 弱いものいじめが大っきらいなんで、ただ見逃せなかっただけだぜ」

「正しくは見過ごす、だよ兄さん」

「うっ、そうなのか」

悪い悪いと弟に謝る真蔵。しっかりものだなこの才蔵少年。いったいどっちが兄なんだか。

横をみれば紫苑がくすくすと笑っていた。この兄弟のやり取りが面白いのだろう。
紫苑の笑顔を直視した才蔵少年の頬が、少し赤くなった。少しどもりながら話しかけてくる。

「え、えっと。よかったら一緒に遊ばない? 僕たち最近引越してきたばかりなんで、友達がいないんだ」

あ、成程。助けてくれたのはそういう訳か。

(つまり、きっかけが欲しかったのか?)

『ん、最近は二人の世界に入っていたからねえ』

マダオうるさい。あとそれは気のせいだ。

『ふ~ん』

マダオがニヤニヤと笑っている気配がする。
ちっ、このマダオ、いつかお前の額に禿と書いてやる。

『なにその微妙な嫌がらせ。三代目みたいにハゲたらどうするのさ』

いいじゃん。額で反射した光使って木の葉を照らせば。

(って三代目ハゲなのかよ)

『う~ん、でも五影って心労がもの凄いからねえ。大名と交渉したり部下の無茶をたしなめたり、時には戦争もあるし』

つまりあれか。心労のせいで前髪後退して、デコが出ている人が多いのか。

(五影ならぬ……五禿?)

今明かされる衝撃の事実………!

(そうか、だからあの人達は傘をかぶるのか)

知らなかったぜ。できれば知らぬ内に一生を終えたかったよ。寂しすぎる、そんな事実。
カゲだけにケガないなんて。

『つまらんぞ』

厳しく突っ込んでくるキューちゃん。

『……真理は常に人の心を刺すんだね』

難しいことを言いながら遠い目をするマダオ。

『うーむ。五禿か。勝てる気がせんのう』

キューちゃん、五列に並ぶ禿忍者戦隊を空想してしまったようだ。
俺だってそんなのと戦うの嫌だよ。奇面フラッシュとか使ってきそうじゃないか。

『怖っ!』

五影、不憫すぎやしないか。心身共に修行に修行を重ね、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌を備えたものが影になれるらしいが、裏ではもれなく禿がついてくるとか。
そんなの、あんまりだろ。

『仁・義・礼・智・忠・信・禿・孝・悌………』

複雑そうにマダオが呟く。混ぜるな自然。一瞬探してしまったじゃないか。ていうかこんなこと言ってると五影の人達にブッ殺されそうなんだけど。

『ちなみに麺影は?』

麺・汁・豚・鶏・魚・菜・貝・卵・腕だ。

『……難創里見八麺伝?』

伝説の麺を求めて、俺たちは往く。なんつっ亭。

『……お主ら、いい加減返事をしてやらんか』

キューちゃんのツッコミが入る。あ、そういえばそうだったね。

俺は気を取り直して才蔵に返事をした。もちろん、答えはイエスだ。

「紫苑も、それでいいかな」

聞いてみる。

「うむ。こやつら、悪しき者ではなさそうだしのう」

「じゃあ、決まりだね。人数増えたし、違う遊びをしようか」





「……帰ったか」

商人の家へ戻ると、ハルがまた不機嫌な顔を浮かべていた。何かあったのか聞くと、ハルは不機嫌な声で不機嫌になっている理由について説明をする。

「前代の巫女について、いくつか分かったことがある。名前は、弥勒という」

ハルは一端間を起き、その後はっきりと言った。


「だがその弥勒は、2年前に死んだ」


「死んだ……原因は? 静養しているのではなかったのか。それに、何故民がその事実を知らない」

「……知らせれば民が動揺すると考えたんだろうな。だから表向きは生きているということにした」

「……だけどそんなの、時間稼ぎにしかならないだろう」

このまま表に姿を見せなければ、ますます動揺は深まっていくだけ。いったい何の意味があるというのか。

「いや、そうでもない。言ったろ? 前代って」

ああ、そうか。

「今代の巫女はもういるってことか。でも何でその……今代の巫女か。そいつは表に姿を見せないでいる」

「いや、見せているさ。代替わりをしていること知らないだけだからな。今代の巫女の存在については、民は元から知っているんだ」

「存在を、知っている?」

どういうことだろうか。そう思う俺に対し、ハルは説明を続けた。

「今代の巫女は、前代の巫女の娘だよ。巫女は血筋で決まるらしいからな。それで、その娘の名前だが……」

嫌な予感がする。だが、聞かないわけにもいくまい。俺は覚悟を決め、ハルに続きを促した。


「今代の巫女、弥勒の娘の名前は……紫苑という」

「……紫苑、か」

まさか、という思いは少ない。やはり、という方が大きい。
薄々と感づいてはいた。気づく要因もあった。

(だが実際に口に出されるとな)

複雑な感情がわいてくる。
そんな俺に構わず、ハルは話を続けた。

「巫女の能力についても分かった。こちらは確定情報ではないんだがな。一つ目、大昔に大陸を滅ぼしかけたという化け物、それを封印できる程の封印術を扱えるらしい」

そういいながら、ハルは肩をすくめる。それもそうだろう。
封印術に類されるものは、どれも高等で強力。世界を滅ぼせるとかいう、規格外な化物を封じ込められる程の術となれば、それこそ表でも裏でも有名になっていてもおかしくないはず。

だが、巫女のことは一般にも、各里にも知れ渡ってはいない。
それは何故か。初代火影の功績もあるのだろうが、実際のところは違う。

「…そんな化け物なんて、誰も聞いたことがないからな」

「だから封印術についても眉唾もの、扱えるとは限らないということか」

「ああ。そして、二つ目は……こちらも怪しいんだがな。でも実際にあったことらしいので、一つ目よりは確実といえる」

「実際にあったこと……封印と何か関係があるのか」

「いや、また微妙に違う。二つ目の力は、人の死を予言するというものだ」

「……予言、か」

『ん、予言と聞くと蝦蟇仙人を思い出すね』

自来也に告げたという予言。それに類する力なのだろうか。

「そのためか、代々の巫女は民から距離をおかれているらしい。それもそうだ、誰も己の死をつげられたくはないからな」

「それには同意する」

死というのは、人間にとっては最大となる恐怖だ。それを告げる人間に対し、恐怖心を持たないはずがない。

(死神みたいなものか。だから親は自分の子供達に、紫苑や巫女には近づくなと言ったんだろうな)

予言が確実であればあるほど、告げる言葉は重みを増す。実際にあるかどうかともかく、可能性として考えるだけで怖いのだろう。

実際に予言が当たって死ねば………巫女に殺された、と勘違いして騒ぎだす者が出てくるかもしれない。
予言したから死んだ。つまり殺されたと連想してしまうかもしれない。

つじつまがあわない、正気では思いえないことだが、大切な人を亡くせば誰だって正気ではいられない。
そのごたごたを避けるために、紫苑から遠ざかるのかもしれない。

(……諦めた理由はそこか)

積極的にいけない。つまりは一人でいる事を自分で決めたのだ。
近くで見ているだけ、それだけいいと考えていたのかもしれない。

「不穏な動きについても分かった。巫女の死を知った国がある。まあ小国だが、一応は忍びを保持しているらしい」

「……代替わりの時を狙って……一体、何をしようってんだ」

その小国の忍びが何をしようとしているのか。
ある程度予想はできるが口に出したくない俺は、ハルに聞いてみた。

「小国は大国に負けたくない。だから大きな力が欲しい。今代の巫女はまだ幼く、未熟だ。前代ならば不可能だったが、今の巫女ならば容易く捕まえられる。言う事も聞かせられる」

つまりはそんなところだろう、と言いながらハルは肩をすくめた。

「……つくづぐ度し難いな。忍びってのは」

頭痛がするので、頭を抑えた。あんな小さな娘をさらって、いったい何をしようってんだ。

「あんま、俺たちが言えた義理じゃないけど。そしてまだ一つある。その巫女を護衛する者がいる」

「護衛……忍びか?」

「ああ。名前を菊夜。代々続いている、巫女を守護する忍びの家系で……何でも、忍犬を扱えるとか」

「……国境近くで俺たちを見張っていたのはそいつか!」

あれは忍犬の群れだったのだろう。見張っていたのだ。

「恐らくはそうだろうな。それで、力量について、俺が実際に見た感想をいうと……最低でも中忍クラスだ。だが恐らくは特別上忍クラスで………悪ければ上忍並の力を持っているかもしれない」

「なんか、はっきりしないな」

「俺は忍犬使いとは直接戦ったことが無いからな。力量についての勝手が分からないんだよ。身のこなしからいえば、中の上ぐらいだ」

有名どころで言えば木の葉の犬塚とかあるけど、忍犬使いが犬を使ってどこまで強くなるのか何て知らん、とハルが首を横に振った。

「襲ってくる小国の忍びも、その護衛が全部屠っているらしい。こっちは城の中の一人に金掴ませて聞き出した話だ」

「……で、俺たちはこれからどうするんだ」

「俺はもう少し、城の中を探ってみる。国主が何を考えているのか分からないからな。明確な対策も講じていないし、本心を確かめる必要がある。ボスに報告するのはそれからだ」

「ああ、こっちもそうしよう」

あと3週間。調査を混じえ、できるなら紫苑を守る。
ザンゲツは巫女をさらわれることを良しとしないだろう。あの時の声は、心配の色を帯びていた。

(まあ、それが無くても、紫苑をさらわせる気などさらさら無いけど)

つまりやることは変わらない。

良かったと思いながら、俺はハルと2、3方針を話し合い、部屋を後にした。








――次の日。
昨日約束したとおり、俺は、紫苑、真蔵、才蔵と遊んだ。

たけし率いる少年軍団と場所の取り合いになることもあった。そのたびにドッチボールや探偵で対決をした。いろはにほへと、ぬをわかよた。

特に探偵では紫苑の勘が冴え渡った。

「大丈夫じゃ」の一言、何の根拠もないのだが、ことごとく当たるのだ。
こちらは4人と少なかったが、人数の差はちょうどいいハンデとなった。

金黒兄弟もこの年齢にしてはいい動きをするので、例え相手が10人でも遅れをとることはなかった。むしろいい勝負になった。
子供の遊びなので基本俺はチャクラを使っていないし、力も十分の一に抑えている。

また勝ちすぎても角が立つので、時には負けるようにしていた。

その時は公園のベンチで色々と話をしたり、買い食いをしたりして遊んだのだが。

ちなみに3人にした話とは、俺の好きな物語のこと。
この世界に来てからは特に、ことあるごとに思い出すようになった英雄の話だ。

運命を呪いながらも、戦い抜いた女の話。ただの人間から生まれ、英雄まで上り詰めた女の話。
世界を越えていい男を追い続けた女の話。精霊回路を全身に刻み、それでも走り続けた女の話。
究極の運を持つようにと、改造された女の話。大切な人達に不幸を振りまきつつも、それでも前に進もうとする、いい女の話。

紫苑は特に3番目の話が好きだった。

「明日はきっといい日だ、か」

「“暗い夜に、どこまでもくらい時は、歩けばいい。東に行けば朝が近づく。一歩歩けば一歩分。二歩あるけば二歩分だけ”」

今の俺にとっては、本当に力になる話だ。先の見えない今の状況、そして化物のような忍者と対峙しなければならない未来。
修行の辛さもあって、たまに心がくじけそうになる。

でも、この言葉を思い出すだけで元気になれた。
世界が変わったからといって、好きな言葉の意味が変わるわけではない。
疲れ果てながらも戦った女の話や、それがどうしたと走り続ける女の話。明日は良い日だと言いながら歩き続ける女の話。
今は記憶の中にしか残らない話。でも、確かに残っている。

英雄譚はいい。負けてなるものかと、そういう風になりたいと、思い出す度に思わせてくれる。挫けそうな心を奮い立たせてくれる。
臆病な俺が玖珂光太郎のような存在に成れるはずもないが、憧れるだけなら良いと思う。

真蔵も光太郎の話が好きだと言っていた。それはそうだろう。男に生まれたのなら一度、ああいう風に生きて死にたいものだ。
あとゲンの話も好きらしい。頭の悪い所で共感できるのだろうか。そう言ったら殴られた。才蔵も頷いていたのだが、そっちはスルーしていた。
弟に頭があがらないのようだ、この兄。

才蔵は軍神タカツキの話が好きらしい。色々と共感できる所があるのだとか。
もしかしてあれか。君にとってのウラル・カナンは真蔵なのか。強く生きろよ真蔵。

「はー、でも、イワオは色々な話を知ってるんだなー」

真蔵がうんうんと頷きながら言う。

「いや、本屋の絵本とかも参考にしたけどね」

こっちの世界にも、俺の知っているものとは別だが、大昔の伝説をモチーフにした英雄譚はあった。
世界を覆う闇を払った英雄の話。山ほどある化物を一人で屠った英雄の話。

(こういうのは何処にでもあるもんだな)

『僕もね。小さい頃は初代火影様や二代目、三代目の話を聞いて、憧れたもの』

男なら、か。胸が熱くなるな。

『ん、でもこれは……六道仙人のことを書いているのかもしれない』

解釈を進めていくうちに、マダオがそんなことを呟いた。
なるほど、忍宗を広めた六道仙人ならば、化物のひとつやふたつ倒したことがあるのかもしれない。
初代火影の話や、初代火影の一族、千手一族のことかもしれないが。

「でも兄さん、聞いた物語のこと、ほとんど覚えていないでしょ」

「う」

図星をつかれたらしい。胸を抑えながら後ずさる。

「う、馬鹿にすんな! 大事なところは覚えてるぜ!」

「……本当に?」

7才児の弟に疑われる兄。見ていて少し不憫な気持ちになった。

「まあ、いいじゃん。それに今は駄目でも、何時かはきっと……頭が良くなるよ」

菩薩の笑みを浮かべながら親指を立てて、言ってやる。

「うう、励ましてくれてありがとう」

真蔵は滂沱の涙を流した。前半聞いてなかったのか。都合いいところしか聞いていなかったのか。
うん、馬鹿って素敵。だって無敵だもの。見ていて和むよね。

「でも、兄さんにも良い所はあるよ」
俺の思いに同調したのか、才蔵がそんなことを言う。言われた当人は「え、何処?」と不思議がっているが。

「お主……」

紫苑が憐れむような視線を送る。
俺も送る。才蔵は何かを慈しむような目をしていた。

「……ちくしょう、おまえら。そんな目で俺を見んな!」

真蔵が腕を振りかぶりながら、怒る。

「まあまあ。で、真蔵の良い所って?」

長く一緒にいた弟ならば、知っているのだろう。
才蔵に聞いてみると、笑いながら答えてくれた。

「うん、僕を笑わせてくれるところとか」

「「なるほど」」

紫苑と二人でうなずいた。確かに、真蔵の行動は見ていて楽しいもんな。

―――そうか。弟にとって兄は芸人という立ち位置なのか。

「うう……」

真蔵は膝をついてまた泣いた。そこに、才蔵がフォローを入れる。

「うそ、うそだよ。僕を引っ張っていってくれるところとか、見ていて楽しくなるところとか、夢いっぱいなところとか、他にも色々あるよ」

だから元気を出して、と笑いながら弟が言う。

「まあ、確かにのう」

それは俺も紫苑も認めるところだ。負けず嫌いなところや、目立ちたがりなところもあるが、真蔵の根は真っ直ぐだ。小気味よい行動は、見ているだけで心地よいもの。
ちらりと紫苑がこちらを見ているが、なんでだろうか。


――そんな、漫才を繰り広げているうちに今日も日は暮れ、帰る時間となった。

互いにまたねと言いあいながら、それぞれ帰路についた。










「夢、か」

帰る途中、俺はさっきの才蔵の言葉を思い出した。

「そうだな」

今は修行を優先していたが、たまにはいいかもしれない。

俺は帰ると、商人にあるものを取り寄せてほしいと頼み込んだ。

たまにはこんなことをしてもいいはずだ。

『ん、でも意外だったよ』

(何が? ラーメンを作りたいと思うことがか?)

『いや、あの3人。紫苑とあの兄弟とのこと。調査を優先すると思っていたし』

(ああ……まあ、一ヶ月ぐらいはな。調査もしているし、いいじゃないか)

『寂しいの?』

マダオが唐突に聞いてきた。予想していなかった言葉を聞き、身体が硬直する。

(どうしてそう思う)

『だって、君は元は一般人だからね。鍛えられた忍者ならともかく、正体を隠し続ける生活を2年も続けていたら普通、寂しいとか辛いとかいう気持ちが出てくるよ』

(……隠していたつもりだったけど)

ばれていたらしい。マダオは仕方ないよ、と言う。

『現在の状況が状況だからね。油断なく話せる相手もいない、それでも修行を続けなければならない。疲労も溜まっているだろうしね。
 そういう時は故郷か、恋人か、友達を思い出すものだし』

(それは、経験談か?)

『戦時に懐郷の念が膨らんでいくのは、普通のことだと思うけど』

だけど今の俺には帰る場所がない。
故郷は遥か遠く、異次元の彼方。それならばせめて、と思ってしまっても……いいのだろうか。考えが甘くないだろうか。

『……良い悪いで言えることじゃないかなあ。それに、みんなにご馳走するんでしょ?』

(ああ)

『だったら、僕には頑張れとしかいえないよ』

(おう、頑張るぜ。できるならばお前とキューちゃんにも食べさせてやりたいんだが)

『ん、ある程度なら、感覚は共有できるから』

『……まずいものを食べさせたら承知せんぞ』

キューちゃんがプレッシャーをかけてくる。

(うう、ブランクもあるしなあ……)

正直、今回に限っては、自信をもてない。調理具にも元の世界とは違う、なじみのない素材もあるし。

(保険は用意しておくか……)

狐と言えばあれだろう。
先程、キューちゃん用にとあるものを取り寄せてもらったのだが、きっとうまくいくはずだ。

(麺の方もなあ。ちゃんと修行できたらなあ)

積み重ねたものはあるが、十分ではない今、100%の自信が持てないのだ。屈辱である。今は忍者の技術を鍛えなければいけないので、仕方ないのだけれど。

(いっちょ、やってみますか)

頬を張り、気合を入れなおす。目標はいつも変わらない。
食べさせる全員に美味しいと言わせることだ。

その一言のため、俺は今出せる全力を尽くそうと、心に決めた。













それから、二週間あまりが経った後。
その日も俺は紫苑達と遊んだ。そして、その帰り際。

俺は紫苑達に「明日は家に遊びに来ないか」と誘った。

「う~む……菊夜が許してくれるかのう」

紫苑が呟く。

「え、なんか言った?」

聞き取れなかったため、聞き返したのだが、紫苑は何でもないと言って、首を縦に振った。
真蔵達もOKらしい。



そして、次の日。

「遊びに来たぞ!」

「遊びに気ました」

紫苑と………あと、なんかいる。

18くらいだろうか。黒髪の短髪、黒の吊目。
物腰はなるほど、忍びのそれだ。一目見て分かる。

体術もかなりの腕だろう。この人が菊夜か。

(まあ当たり前か)

家の中では何が起こるか分からないものな。別に今日何をするわけでもなし、不都合な点もないので俺は普通に紫苑に聞いてみる。

「この人は?」

「うむ、妾の護衛での。菊夜という」

「そうなんだ。こんにちは菊夜さん、初めまして」

「ええ、初めまして。それで………護衛と聞いて驚いた様子も無いけど、君は紫苑様のことを知っているのね?」

「ええ知ってますが、それが何か」

「そう……なら、いいわ。それで今日は何をするのかしら」

「いえ、俺の作ったラーメンを食べてもらおうと思いまして。あ、菊夜さんも食べます?」

言うと、護衛の人は目を点にしていた。なんか驚く要素があったのだろうか。

少し考えた後、菊夜さんは「頂くわ」と返事をする。

「お前らも食うだろう?」

「いいのか!?」

「あたりまえだろう。ていうか連れてきてそこで食べるの見てろとか言うわけ無いじゃんよ」

「それもそうですね」

4人を座らせる。仕込みは既に昨夜の内にすませていた。

ちなみに今日の朝、ハルにも食べさせたのだが、素直に旨いといってくれた。
その時のやり取りを思い出し、少し笑う。




「ゴロウ殿にに何か頼んでいたのは知っていたが……何を作ったんだ?」

「ラーメン。ハルも食べるか?」

「………いただこう」

少し考えた後、ハルはラーメンを食べだす。

「これ、もしかしてあのおばちゃんとこの?」

「ああ、真似してみた。全然あれには及ばないけどな」

「へえ、お前も常連だったんだ」

「あの人の作る料理、美味しいからね。でも、“も”っていうことはハルもか?」

「ああ。ちょうどこの任務に入る前に行ったところだ。でも、これも結構いけるな」

「………一応、俺なりのアレンジは加えたんだけどね」

でも深みが足りない、と愚痴る俺に、ハルは十分にいけると返してくれた。

「お前にこんな特技があったとはな。もしかして、将来の夢はラーメン屋か?」

ハルが笑いながら冗談交じりに言う。

「そうだ。そのために網に入ったんだよ」

「冗談きついぜ。そんな凄え変化の術を持っておきながら、ラーメン屋? いや、だからこそ有り得るのか」

苦笑を返された。一応本当のことなんだが、絶対に信じていないなこいつ。

『そりゃあねえ。信じないでしょ』

「ご馳走様。旨かったよ。出来ればまた食べたいね」

「そいつは少し難しいな。材料に限りがあるし、金に余裕も無いんでね」

「いつかでいいぜ。この任務が終わってからなら、いけるだろ」

「ああ、機会があればな」

そういうと、ハルは笑って「応」といいながら、出かけて行った。



湯の沸騰する音で、回想から覚める。

「……いつか、になるのか」

思わずつぶやいてしまった。
本格的な店を開けないのが口惜しい。金も腕も足りないからな。

そう思いながらも、スープを見る。今出来る自分の全力を出しきれたと言い切ってもいい。
あの無愛想で不機嫌になりやすいハルが旨いといってくれたのだ。
これならばいけるはず。


俺は湯をわかし、麺を湯に入れた。

一定時間経過した後、さっと湯から上げてすぐに湯切り。

(身体が小さいのでやりにくい)

四苦八苦しながらも、何とか麺と汁と具を盛り付ける。

「出来た!」

チャーシューと具と菜が入り乱れる。
ラーメンのお待ちどう。

紫苑、真蔵、才蔵、菊夜。4人の前に丼を置く。

「さあ、召し上がれ」

4人ともが食べ始める。

最初はおっかなびっくり。やがて箸が止まらなくなる。

「……旨いのう!」

紫苑がそう言ってくれた。

「旨いぜ!」

「これは………確かに」

真蔵、才蔵が言う。

「………」

菊夜は無言のままだが、箸とレンゲは止まらずに動き続けていた。

(………っしゃあ!)

心の中でガッツポーズ。この瞬間に代わるものなどない。そう思わせる、4人の感想だった。

「われながらよくできたよ……どれ」

と言いながら、俺も食べ始める。
キューちゃんとマダオのためだ。

―――だが。

『うむ、確かに形は整っておるが、あと一味足らぬのう』

『………たしかにね』

お子様評価、お友達評価ではなく、この二人は真実を言ってくれた。俺の望む最終地点を知っているからこその一言だろう。
俺は真摯に受け止める。

『確かに、味の良さは出ているが、深みが足りぬ。これではリピーターなど望めんぞ』

『同意しようか。それに、一部味が濃すぎるところがある。要検討だね』

(ふむふむ)

取り敢えず、メモする。

二人の評価を聞きながら、紫苑に聞いてみる。

「旨いか?」

「うむ………しかし」

一息ついて、紫苑は言った。

「お主にこんな技術があったとはのう………」

なんか複雑そうだ。どうしたのだろう。

『鈍感だね………』

何かまずいところでもあるのか。

『いや、そういう訳じゃあないんだけど』

はっきりしないな。そう思っていると、真蔵が横から乱入してきた。

「なあ、これなんていうんだ?」

「え、ラーメンだけど。もしかして食べたことないんか?」

「無いなあ。しっかし、旨いぜこれ」

「そうだね、兄さん」

兄弟は一心不乱にラーメンを食べていた。

「………確かに、美味しいですね。あなたはまだ子供のようですが、これだけの技術はどこで?」

怪しいのだろう。菊夜さんが訪ねてくる。

「いや、死んだ親父がね。それで」

微妙に言葉を濁しながら説明する。すると、それ以上は菊夜は追求をしてこなかった。気の毒だと思ったのだろう。こういうところは、生粋の忍者とは違う。
大国の忍びならば、怪しいと感じた点はとことん追求するだろう。ああいう連中は基本、人間を信用しない。自分なりに納得しないならば、全てを知るまで説明を要求してくる

どっちが良いといえば、菊夜さんの方がいいのだが。なにしろ美人だし。

『論点変わってない?』

気のせいだ。美人だし。

『なんか、むかむかするのだが』

キューちゃんも十分に美人だって。

『それならば良い………む!?』

いきなり驚いた声を上げる。ああ、これか。

『これは何じゃ?』

(油揚げだよ)

狐が好きだという。説明を混じえながら、俺は一口食べる。

『………☆』

星!? 一体何が!?

『旨い………うーまーいーぞーーー!?』

キューちゃんが味王に変化した。

『のうのうのうのう! これは油揚げというのか!?』

え、そうだけど。そんなに気に入ったのでしょうか。

『当たり前じゃ! うむ、これ以上無いのか、もっと無いのか!?』

ごめん、これで最後だけど。そんなに好きなんだ。

『ええい、うますぎるぞ!? もっとよく噛まぬか!』

キューちゃんのテンションが最高潮になった。こんなに効果があるとは。

(効果はばつぐんだ!)

『乗ってるね』

絶好調です。
しかし、全員美味しそうで何よりだ。





やがて、全員が食事を終える。スープも具も残っていない。
うむ、完勝じゃ。

「ふう、ご馳走様じゃ………イワオ」

「ん、何?」

真剣な目をしたまま、紫苑が話しかけてきた。なんだろうと返事をする。

「……少し、話がある。ついてきてくれぬか?」

「いいけど………菊夜さんは?」

「すまぬが………」

「はい。承知致しました。それでは、私はここで」

待機すると言う菊夜さんを残して、俺は紫苑とともに席を外した。






家の裏側まで来ると紫苑は立ち止まり、その場で俯いた。俺の眼を見ないまま、深呼吸を繰り返している。
何かを言おうとしているのだろう。

「で、どうしたの。菊夜さんをおいて」

言いたいことはある程度分かっていた。深呼吸をしている理由も。
知られたくない何かを話す時の仕草だ。俺は構えず、自然体に接した。

「言いたいことがあるんなら、言ってよ。俺たち友達だろ? 隠す必要なんか無いって」

「お主………そうか、いや」

首を振った後、紫苑はうんと頷いた。

「お主、鬼の国の巫女については知っているか?」

「……うん」

それから、俺が知っている一通りのことについて、紫苑が説明を始める。

封印術のこと。代々続く、巫女のこと。死を予言する力について。

「死をつげられるのが怖いのであろう。妾達に好き好んで近づくものなど、菊夜の他にありはせぬ。妾の力を利用しようとする者以外はのう」

「………そうだろうね」

改めてそう思う。危険すぎる力、日常からはかけ離れた力、好んで関わろうとする者などいはしないだろう。
封印術にしてもそうだ。使いようによっては、かなりの武器と成り得るだろう。状況によっては忍び以上の効果を見いだせる。

俺の返事に勘違いをしたのか、紫苑の肩が跳ねた。

(もしかしたら、このまま別れをつげられるとか思っているのだろうか)

だとしたら酷い勘違いだ。そう思った俺は、その勘違いを正す。

「でもね………それがどうしたって感じだよね」

「………え?」

「だってさ………俺たち友達だろ? それに、死を告げる予言? 一昨日きやがれだよ」

今更にすぎる。ていうか一昨日来た。むしろこの世界にきたその日に来た。
確実に訪れるであろう、そのまま何もしなければ十中八九死ぬであろう、いずれは訪れるであろう修羅場は知っている。

何も、変わりはしない。乗り越えるという点においては何も。

「―――俺は。夢を叶えるまでは、絶対に死なない。だから、紫苑もそんな顔をする必要は無いんだよ」

言うと、紫苑は泣きそうな顔をした。逃げ出したい顔をしている。なぜだろうか分からない。

そんな紫苑に、俺はできるだけ優しい声で、伝えた。

「ああ、予言については知っているさ。知っていたよ。でも、だからどうした。それがどうした。そんなもので今更友達をやめるなんて言わないでくれよ」

「でも………しかし……」

俯き、肩を震わせる。よっぽど怖いのだろう。あるいは、今までにも似たような経験をしたことがあるのか。
でも、俺は関係ない。
ただでさえこんな身だ。でもそれでも夢を目指すと決めている今、今更生命惜しさに大切なものを放り出すなど、有り得ない。

(と、口だけならなんとも言えるんだけど)

それでも死ぬのは怖いと、思いはする。

だけれども、紫苑から離れていくくらいならば、と思う。

「恐れて離れるなんて、しないよ。絶対に、傍にいるから。だから、泣かないでくれよ。紫苑に泣かれたら、俺はどうしていいのか分からなくなる」

女の涙は卑怯だと思う。それだけで、どうしていいのか分からなくなるから。
ましてやこんな女の子だ。罪悪感も伴って、どうしようもなく胸が痛んでしまう。

「本当か?」

「本当だ。嘘はない」

断言して頷くと、紫苑は再び俯き、激しく泣き出した。

そのまま、俺の胸元に飛び込んでくる。

「う………う……」

服を掴みながら泣きじゃくる。

俺はぽんぽんと紫苑の頭を叩き、しばらくそうしていた。





ひとしきり泣いた後、紫苑は顔を上げて元気よく言った。

「………うむ。そうじゃの! なに、妾は泣いておらんぞ!」

目元をごしごしと擦りながら、紫苑は強がりを見せる。

(いや、泣いていたけど)

とは言わない。なんか言ったら殴られそうだし。

「そ、そうじゃ! 顔を洗わなくてはの! じゃあ、妾はこれで!」

黙る俺に向けてしゅたっと片手をあげた後、紫苑はものすごい速い駆け足でその場を去っていった。


「………で、そこの人」

壁の向こうに立っているであろう、付き人に向けて。
俺は溜息混じりに言葉を送った。

「盗み見とは感心しませんね」

「……そんなつもりは無かったんだけどね」

これまた複雑そうな表情を浮かべながら、出てくる。

でも、さきほどとは違い互いに無言となる。そのまま、沈黙を保ったまま近づき、対峙する。

やがて、菊夜さんは俺を見下ろしながら話を切り出す。


「………あなた、何者なの」

「………は?」

とりあえずとぼけてみた。

でも菊夜さんの視線が剣呑さを帯びてきたのを感じ、俺は一言返答する。

「何者っていわれても」

はっきりと返答していいものか。でもこの人、なんか敵意薄れてるしなあ。
でもこの場で姿を現して、直接こういうことを聞いてくるということは……俺の正体を確かめるのが目的だろうか。
分からない。

その時、マダオがアドバイスをくれた。

『………』

(……え、そうなのか)

マダオの言葉を受けた俺は、菊夜さんにかまをかけてみた。

「問答無用ではない………ということは、今あなた達には助けが必要なんですか?」

「っつ!?」

息を飲んだ。マダオの受け売りだったのだが、正しかったようだ。

『いや、そうでしょ。相手を無力化しないまま正面から敵か味方かをたずねるなんて、賭け以外の何者でもないよ』

確かに。不意打ちのアドバンテージを無くすからな。奇襲で捕らえて尋問する方が手っ取り早い。
でも、何故だ。何故俺に言う。どうして賭ける必要がある。

「……あなたは優秀な護衛だと聞いた。俺でも分かる。そのあなたが、何故俺なんかを頼りにする」

何故、見た目子供の俺に頼ろうとするのか。
聞いてみると、菊夜は素直に白状をした。

「……他に、手がないのよ」

それほどに、あいつらは手強い、と下唇を噛みながら菊夜さんは言った。
唇からは血が出ている。余程、悔しいのだろう。

「中忍程度ならば……相手が一人ならば、なんとかなる。二人ならば私でも対応もできる。でも、相手が手練、しかも複数いて……」

「もしかして、上忍クラスがいるんですか。いや、そうか……」

一人同等の使い手が相手方にいれば、話は違ってくる。

「一人を足止めに、他の敵に紫苑を人質に取られる可能性がある。自分だけならばともかく、紫苑までは守り抜けないと」

全員を封じ込めなければならない。一人抜けられたらそこで終り。人質に取られればあとは降参するしかない。紫苑をまもるのが最優先事項であれば。
それじゃあ確かに、勝ち目はないだろう。いや、勝てる目はあるだろうが、紫苑が死ぬかもしれない以上は、危ない賭けになる。

「もう一度聞くけど………あなた、何者?」

「俺は網という組織の一員です。この国にきた目的は……」

手を貸さなければならない。相手方にそれほどの使い手がいるのならば、余計に。
そう思った俺は、菊夜さんに一連の説明を始めた。

網のこと。任務のこと。ザンゲツのこと。俺の目的のこと。
菊夜さんは鬼の国から外へ出たことがなく、裏事情とかには疎かった。

全てを説明し終えた後、菊夜さんは安堵の息をはいた。

「じゃあ、国つきの忍びではないのね、あいつらの仲間ではないのね……良かった」

「あいつら……?」

「さっきいった相手。巫女を狙っているどこかの国の忍者共よ。言われるとおり、かなりの手練ぞろいで正直困ってたのよ。
しかし、そっちの目的は、紫苑様の力を奪うのではなかったのね」

複雑そうに呟く。そして気を取り直したかのように、首を横に振った。

「それで……援軍や協力は要請できそうなの」

「はい。幸いにも、首領のザンゲツは鬼の国の動向について心を傾けておりましたから」

あるいは、三代目からそれとなく話をふられているかもしれない。そう判断した俺は、きっと大丈夫だという旨を菊夜に伝えた。

可能性だが、援助を得られる確率は高いと考えたのだろう。菊夜は頭を下げてお願いしますと言ってきた。

「いえいえ、俺は伝えるだけですから。礼は網の首領に言って下さい」

随分と気の早い。余程の窮地だったのか。そう思った俺はフォローを付け加える。

「良い返事をもって、すぐに帰ってきますから。その後の事は、その時に話します」

そう返すと、紫苑達が心配しているから戻ろうということを提案した。

菊夜さんは笑顔で頷き、ひとまずの安堵の溜息をはいた。






「……お,戻ってきたのう」

「遅いぜ全く。イワオ、ラーメンご馳走様」

真蔵が礼を言ってくるので、俺も返す。

「いえいえお粗末さまです。才蔵も、旨かったか」

「う、うん。ありがとう」

何故か言いよどみながら、才蔵はお礼をいった。

「どうしたんだ?」

「いや、何も……何もないよ」

俯きながら返事をする才蔵。様子がおかしい。

(何が……?)

あ、ひょっとして。

「美味しくなかったのか……すまん」

「いや、そういうんじゃないんだ。こっちこそ……本当にごめん」

「いや、謝られる意味が分からないんだけど……まあ、いいか」

聞かれたくないみたいだし。取り敢えず話を切り替えよう。

「それじゃあ、遊びにいくか」

「おう!」

真蔵が元気よく返事をする。

「今日は勝つぞ!」

紫苑も元気が良い。

「おっしゃ、行こうぜ! 今日はたけしをけちょんけちょんにするからな!」

「「承知!」」

「……うん」

そうして俺たち4人は、いつもの公園へと向かった。

















「ふう。で、話って?」

「お主、先程菊夜に呼ばれていたようじゃが……なんといわれた」

「……実はつきあってくださいと言われ……うそ。うそだからそんな顔しないでよ」

紫苑は歯を見せ「う~」と威嚇してきた。

「いや、明後日少し遠くに行くからさ。菊夜さん、国の外へ出たことないし、お土産を頼まれちゃって」

「……外へ!? それで、戻ってくるのか」

「ぐえ、ちょっと苦し」

「どうなのじゃ! どうなのじゃ!」

襟元を掴まれて前後に揺さぶられる。

「いや……戻ってくるから……死ぬ……」

「そ、そうか。うむ、すまんかった……しかしお主、しばらく来れぬのか」

咳き込む俺。その横で紫苑は、ボールを振りかぶる。

「ならば、最後に一勝負どうじゃ」

「いいねえ。もし紫苑が買ったら、とびっきり美味しいお菓子を買ってきてあげるよ」

女の子ならお菓子好きだろう。そう思って言ったのだが、予想以上の効果があったようだ。
紫苑の目が輝いている。

「ふっふっふ。ならば負けられんの」

「上等上等。さあ、かかってきたまえ。特別ボーナスとして、一発でも当たったら俺の負けでいいよ」

「言ったな!」

そして勝負が始まる。だが紫苑は相変わらずの直球思考で、胸元を狙ってくるばかり。
たまに逸れて顔面に投げてきたこともあったが。

「はい、ラスト一球ね」

「……」

紫苑は無言でボールを受け止めた後、ボールを見つめながら深呼吸をする。

「行くぞ!」

いつもと同じオーバースロー。いつもと同じ直球。
そう思っていた。

いや、思わされていた。突如ボールはその軌道を変化させる。
いつも通りだと油断していた俺は受け取れずに。

「しまった!?」

足にボールが当たった。アウトだ。

「……やった~~~~~~!」

紫苑が飛び跳ねながら喜んでいる。よほど嬉しかったらしい。

「あ~、負けたかあ」

『ん、負けたね』

頭をがしがしとかきむしる。くそ、遊びとはいえ負けるのは悔しいな。

「うむ、頭脳ぷれーというやつじゃ!」

妾の勝利じゃな! と無い胸を張る。
ああ、いつも通りに見せかけたのか。つまり前半は囮。最後の一球に賭けたというわけだ。

「お見事。完敗だよ。それで、どんなお菓子がいいの」

「……そうじゃの。お菓子はいらぬ。代わりに、といっては何じゃが」

ちょいちょいと紫苑は手招きをする。

「ん、どうしたの」

近づく。すると、紫苑は小指を突き出してきた。

「妾と約束してくれぬか。必ず、ここに帰ってくると」

「……いや、そんなことしなくても帰ってくるけど……」

『いやいや、それは紫苑ちゃんも分かってると思うよ。でも、不安なんだよ』

『……ふむ、そういうものなのか?』

(そういうものなのか?)

『駄目だこいつら、早くなんとかしないと……』

マダオがぶちぶちという。

『確かに存在する、形が欲しいんだよ。約束っていう形がね』

ううん、分からないけど、そういうものなのか。

「約束は出きぬのか?」

悲しそうな顔で紫苑が聞いてくる。ああだから女の子の涙は反則だっていうんだよ。断れはしない。
……断るつもりもないんだが。

「はい」

こちらも小指を出す。紫苑の小さい小指と絡まる。白い、綺麗な手。

柔らかく、儚い。最初に持った印象と同じ。

(でも、よく笑うようになったなあ)

たけしとの勝負とか、真蔵とか才蔵とか。遊んでいる内に思い出したのだろう。
心の底から笑うということを。

紫苑の笑顔は、初めてみたその時よりずっと、様になっている。

無理もなく、純粋な笑顔。嘘の無い笑顔だ。ずっとずっと可愛くなっている。

(女の子はこうでなくちゃな)

そう思いながら、約束を交わす。

笑顔と笑顔。見つめ合う俺と紫苑。






―――そこに、空気を読まない金髪さんが乱入してきた。


「イワオ! 俺とも勝負だ!」

「空気嫁」

「空気を読まぬか!」

「空気を読もうよ兄さん。むしろ愚兄このやろー」

間髪いれずに返された3立て。しかも全員が年下。愚兄こと真蔵は、どこぞの投手のように膝立ちになって泣いた。

『――今年は優勝できるよね。きっと……』

マダオは異世界から電波を拾っていた。
よくあることだし、そっちは放っておいたが。









「なあ、イワオ」

「なんだ真蔵。勝負なら終わっただろ」

勝負の後、真蔵と二人になった。紫苑はすでに帰った。才蔵はトイレだ。

「くそ、あとちょっとだったのになあ……いやそうじゃなくて」

真蔵にしては珍しく、歯切れがわるいものいい。何も考えずに直球思考というのが真蔵の真蔵たる所以なのに」

「聞こえてる聞こえてる。いや、そうじゃなくてさ。お前って両親とか生きてるのか? あのゴロウさんだっけ。あの人はどうも、父親じゃないっぽかったんだけど」

「ああ、あの人は叔父。本当の父親は死んだよ。戦災でね」

「……あっさりと言うんだな。いや、そうか、お前もなのか」

「……もってことは、そっちも?」

「ああ、弟以外は全員死んだんだ。そこからがまた、さ。辛くて……」

真蔵は俯く。だがすぐに首を振り、頭を上げる。

「でも、さ……才蔵がいたからな! 寂しくなかったよ。いや、寂しかったけど……兄貴がそんな顔しちゃあ駄目だもんな」

「そういうもんか」

弟も妹いないから分からんけど。でも紫苑は妹みたいなものか。

「いや、そうだな。情けない顔見せたら格好悪いもんな」

「ああ。あいつ、強くて、俺より才能もあるんだけど……ちょっと危なっかしくてさ」

どちらかというと真蔵の方が危なっかしいんだけど、兄貴が言うのならそうなんだろう。
確かに、芯の強さでいえば真蔵の方が強いだろうし。

それに真蔵には、場を明るくする先天的な才能がある。ムードメーカーというやつだ。

『……お笑い芸人的な意味で?』

(それもある)

『あるのかよ!』

マダオが盛大にずっこけた。器用なやつだ。まあそれはおいといて。

「でも才蔵、お前らと遊ぶようになってから、少し笑うようになったんだ。今までは……顔だけで笑うとか、そんなのばっかりだったんだよ。
 でも、変わった」

お前のおかげかもな、と真蔵は笑う。

「いやいや。お前のおかげだろ。今までも、弟を見守ってきたんだろ?  
 ――まだ笑えるってことは、今まで辛いことばかりじゃなかったんだ」

心が一度壊れれば、元に戻ることは無い。深くは聞かないが、戦災孤児というならば、心が壊れるような辛い目にあったことが何度かあるはずだ。
戦災とはそれほどまでに酷い。だがこの兄弟、兄も弟も心は未だ壊れず。むしろ明るさを残しているし、人間味も残している。

いつかの戦場跡近くで見た、今は網で保護している別の戦災孤児とは違う。

「それは、俺のおかげじゃない。今まで一緒にいた、お前のおかげだよ」

「そうなのかなあ……」

「きっと、そうさ。ほら顔を上げろよ。正義の英雄になるんだろ? ヒーローは泣いちゃいけないんだぜ」

「ははっ、厳しいなそれ」

「お前ならできそうな気がするよ」

そこで明るく笑えるお前ならば、とは心の中だけで付け足す。いえるかこれ以上。ただでさえ臭いセリフ連発させられてんのに。

「ほら、弟君のおかえりだ」

と、公園の中、木がある方向を指差す。こちらからは死角になっている、木の裏側。そこに、才蔵は隠れていた。

「さ、さい……ぞう!?」

「……」

気まずそうに才蔵。
どうしたらいいのか分からないのだろう、もじもじしている。

「真蔵……ゴーだ」

ぶっぱなすぜ弾丸ライナーと言いながら、真蔵の背中を思いっきり蹴る。

「おわっ!?」

蹴られ吹き飛んだ真蔵は、才蔵の元へ飛んでいった。

「ちょっ!?」

そのまま抱きつく。

「言いたいことがあったら直接話すのが一番だ。じゃあ、また明日なー」

あとは兄弟でなんとかせい、と丸投げで帰っていく。












残された二人は、抱き合ったまま言葉を交わす。

「……兄さん」

「……なんだ?」

「僕たち、どうしたらいいのかな」

「……分からない」











夜。

俺は菊夜から聞いた話を思い出し、溜息をはいていた。

「助けて欲しい、か」

そう伝えて欲しいと言われた。人員が圧倒的に足りないのだと言われた。
一人では護りきれないと、血を吐くように悔しい顔で言われた。苦渋の決断だったのだろう。

「……ちょうどいいと言えば、ちょうど良かったんだろうけど」

報告に戻らなければならないのは、ちょうど明後日だ。

『でも、気を抜いたらだめだよ。菊夜さんも言っていたでしょ』

(相手は中々姿を見せない。見せる時は、殺す時だけ、か。物騒だけど)

『忍びにとってはそれが当たり前だからね。目立つ必要は無いんだし』

つまりは殺す必要があれば、姿を見せるか………まあ俺たちのことは、敵方にばれていないだろうし、そう心配する必要はないと思うが。

『甘いよ。隠蔽したい情報が貴重であるほど、それを知りたがる人も多い。油断大敵雨あられだ。絶対に、気を抜いたら駄目だからね』

(……そうかなあ。杞憂ってことはないか?)

『あるかもしれない。でも、無いかもしれない。死にたくなければ慎重に。はい、答えは?』

「気をつけます……」

口に出して返答しながら、頷く。

『何もなければいいんだけど』

菊夜さんも、敵の正体に関しては言葉を濁していたからなあ。余程の相手なんだろうか。

『……言えば網の方が尻込みして、助けることに躊躇すると考えたかもしれないね』

触らぬ神に祟りなしと考えたかもしれない、ということか。でもそんな相手、よっぽどだぞ。

『ああ、嫌な予感がするなあ。今は取り敢えず、一刻も早く報告に戻らなくちゃ』

そうだな……っと。どうやらハルが戻ってきたようだ。



「おかえり~。収穫はあった?」

「………ああ、一応な」

そう言いながら、ハルは書類を渡す。

「見取り図と、城の中の警邏に関する資料だ」

「……随分とまあ、貴重なものを」

やるねえと返しながら、一通り資料を見る。うん、中身を見たことはないが、本物っぽいな。
今更嘘をつくこともないだろうし、これも持って帰るか。

「あ、そういえば明日俺は一端戻るんだけど……ハルはどうする?」

「俺は残る。まだひとつだけ、確かめたいことがあるからな」

「え、そうなの?」

「そうだ。あるいは、一番大事になるかもしれないことが……だから報告はお前に頼んだ。できるか?」

「ああ、出来るさ。情報を持って帰るだけだろ。それじゃあ、俺は帰るけど……すぐに戻ってくるから」

「頼む。まあ、全部俺がすませてるかもしれんが」

「ああ、それならそれでいいかも」

「……どうだか。それじゃあ、今日は山の方で雨も降ったようし、道中くれぐれも気をつけろよ?」

土砂崩れとかあるかもしれんからな、とハルが言う。

「ああ、分かってるよ。そっちもな」

「ああ……それじゃあな」

返事をした後、ハルは部屋を去っていった。

『うむ、あやつ様子が変じゃったのう。一体どうしたのか』

(大きな仕事だからね。少し焦っているのかも)

報酬も大きいから、緊張しているのかもしれない。
それよりも、明日だ。何としてでも、伝えなければならない。

俺が助太刀すればあるいは菊夜さんが言う“あいつら”に勝てるかもしれない。小国の忍び程度、今なら全力を出せれば負けないだろう。
でも、助けを呼んだ方が可能性は高まる。網の組織員はそれなりに優秀だ。俺一人でやるよりは余程、確実となる。

紫苑の生命もかかっている。万が一にも、下手を踏む訳にはいかない。

そう考えた俺は、明日に備え早めに寝ようと考え、布団をかぶって寝た。













そして、明後日。公園前。

一端戻ることになった俺を、紫苑と真蔵達が見送りに来ていた。

戻ってから再びここに帰ってくるまで、最短で3日。それまでお別れだと紫苑達に告げる。

「戻ってくるさ。だから、なくなよ」

小指を見せる。

「なっ、泣いてなどおらんわ!」

目元をごしごし擦りながら言われても……まあ、可愛いもんだ。

「お前らも、元気でな。紫苑のこと頼んだぞ。たけしに負けるなよ」

「……へっ、当たり前だろ。そっちこそ、これっきりってのは勘弁だぜ」

「………絶対に、戻ってきてね」

真蔵と才蔵と別れの言葉を交わす。


「ああ。約束もあるからな」

俺は3人に向け、小指を見せた。

「……またな」

「またね」

「おう、またな!」

「……また」


再会の約束。破るつもりはない。

一端戻るだけだと自分に言い聞かし、俺はゴロウさんへ、進んでくれと頼んだ。

商人はハルのこともあるし、今しばらくは家に残るらしい。




俺は一人、鬼の国の城下町を後にした。
















道なりに馬車が進む。鬼の国と隣国えを結ぶ道は、それぞれ一本しかない。

来たときと代わり映えのしない風景を見ながら、俺は溜息をはいた。

(……退屈すぎる)

いつもならば、紫苑達と遊んでいる時間だろうか。そう思いながら、なぜだか俺は憂鬱な気分となった。

帰れば、また修行の日々だ。生き残るために身体を鍛える日々が始まる。

「仕方ないんだけどなあ」

呟き、それでも元気はでない。こんなこと、考えたことも無かった。少しは変わったということだろうか。
紫苑、真蔵、才蔵と遊んで何か変わったのだろうか。

才蔵もそうらしい。紫苑もそうだ。互いに変わったのだろうか。

師匠曰く、“人との出会いは有益である。自分にない何かを持っている誰かと出会うことは、心の幅を広くする”らしいが。

遊び、学んで少しは変わったのだろう。きっと良い方向に。

(何事もなければいいけど………)

寝転びながら、そんなことを考えていた。











――――その時。

(……ん?)

まだ、森の中の道の途中。休憩するところは無い筈だ。
なのに突然、馬車が止まった。

「……?」

土砂崩れか何か、アクシデントがあったのか。

俺はそう思い、馬車から出て御者のゴロウさんの元へと向かった。
一本道だし、昨日は大雨が降っていたと聞く。土砂崩れが起きていてもおかしくないと、出発前にハルも言っていたのだ。

(ついてないな)

早く帰らなければいけないのに。そんな事を考えつつ、俺は馬車の布幕をめくって、表に出た。

「ゴロウさん、どうし―――」

そう、言おうとした。

―――だが。

その言葉は途中で途切れた。途切れさせられたのだ。

(声がっ………!?)

出そうとしても、全く出なくなる。
まるで見えない何かに縛られているかのよう。

見れば、ゴロウさんも同じく止まっていた。馬の手綱を地面に落とし、震えている。
いや、動こうともがいているが、全く動けない様子だ。

(これは………!)

『……金縛りの術!』


暗部が好んで使うという術。それなりの術者が使えば、相当の効果を発揮できるという術だ。

俺たち“二人”に仕掛けてきたということは………!


(正体が知られている、そして……!)

残らず片付ける。生かして返さないという意思表示だ。


「……はあっ!」

取り敢えず、俺はチャクラを経絡に巡らせて、金縛りの術を力まかせに解いた。
幸い目が届く範囲に術者らしきものの姿もない。距離が近くないため、力づくで解くのにそう力は使わなかった。

だが、それなりの精度と強度はあった。
相手が誰だが知らないが、それなりの使い手だ。弱くはない。むしろ手強いといえるレベルだ。



―――この相手。




満ちる殺気。鋭く、慈悲無く、容赦なく。

人を人と思わない気配だ。曰く、殺す。

そんな意志を大気に含ませ、こちらに叩きつけてくる。




―――舐めれば、死ぬ。



経験から。また直感でも、俺はそう感じていた。


緊張し、辺りを警戒する。

出発前に身につけた、腰元のホルダーからクナイを取り出し、構えたまま気配を探査する。









ふと、そよ風が木々を揺らした。森がざあざあと揺れる。



相手からは、何のアクションもない。



場に満ちるのは沈黙。ほんの少し前まではあったはずの、動物の気配すら今はない。




存在するのは緊張。場に満ちるのは緊迫。


この感覚は、今までに幾度も経験したもの。



―――生と死が交差する場所。戦場の空気だ。





(何処にいやがる………)





沈黙を保ったまま、俺は五感を鋭敏にして、相手の居所を探る。





その時。


呼吸の合間をぬって、そよ風の中。

鉄が風を切りさく音、何かが飛んでくる音が聞こえた。





「おっちゃん!」


即座に反応する。相手の初撃だ。得物ははクナイ。

でも狙いは俺ではない。殺気の向かう方向はゴロウさんだった。

俺はチャクラで強化した足で距離をつめ、ゴロウさんに飛来するクナイを弾いた。


直後、気配が至近に寄ってきた。


まるで降ってわいたかのような速度。


(速っ……!?)


俺がゴロウさんをかばったその一瞬の隙をついて、接近してきたのだ。

瞬身の術。タイミングはほぼ完璧だった。

咄嗟に迎撃もできない。俺はそのまま、繰り出してきた敵の一撃を腕で受けた。


(ぐっ………!?)


直感で出した腕だが、咄嗟にガードできたようだ。でも、ガードしたはずの腕に痺れを覚えた。

速度と重さに優れる一撃。そのまま俺は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされる前の位置にいる、遠ざかっていく敵の動きを見るに、それは蹴りでの一撃だと理解する。

(あの一瞬で……!)

重い上に速い。ただの蹴りがあれほどの威力と持つとは。体術のレベルは最高に近い。今までに見たことがないほど、この相手は強い。

俺は相手を分析しながら、飛ばされながらも重心を整える。

そして体勢を立て直し、両足で着地した。


―――だが、その時。


(新手、後ろ……!?)

背後に気配。

見上げれば、長刀を振りかぶったもう忍びの姿があった。

このまま留まれば貫かれる。そう判断した俺は、着地した勢いそのままに、後方へと転がった。

転がる途中、一瞬前まで俺がいた場所を、振られた刀が通っていった。


(危ねえ………!)

間一髪。白刃は僅かに服をかすめた。
身体の芯まで震える。今の判断、間違えていれば間違いなく胴を貫かれていた。

その事実に恐怖しながらも、俺は立ち上がり、構えを取る

その正面には、駆けつけてきた最初の奇襲を仕掛けた忍びと、さきほど俺目掛けて刀を振りぬいた忍びの姿があった。




「誰だ……」




小さく、呟く。だが相手が答えてくれようはずもない。

沈黙を保つ相手………二人は互いに黒装束、そして仮面を被っていた。

(……仮面ということは暗部か。何処の里の暗部だ。いや、それよりも何で俺を………)

一通り思考を巡らせた後、悟る。

(そうか、こいつらが)

紫苑を狙っている相手か。俺は納得すると、警戒を強めた。


(……これは、道理で。あの菊夜さんが助けを求めるはずだ)


今までの一連の攻防、俺は選択する機会を得られなかった。防ぐことしかできなかった。

あのまま立ち止まっていれば、俺は仕留められていただろう。それを防ぎ、避けきれたのは重畳だ。だが窮地といった点では変りない。

馬でもあれば、馬車に乗っていれば、また違う方法がとれた。逃げられることが出来たかもしれない。

だが奇襲を受け蹴りで吹き飛ばされ、馬車から離れた今。その手は使えない。ここで、この二人に勝つ以外に、俺が生き残る道はないだろう。

でも、この二人。決して甘くない。一連の動きはしくまれていた。初撃で仕留め損なっても、次に繋がっている。戦術眼も厄介だ。

それに何より、相手の地力の高さだ。


(くそ、隙が無い………!)


新手の方は、刀を振ってきた方は、そうでもなかった。
だが初撃を繰り出してきた忍びの方は、まるで隙が無い。

一瞬、起爆札を爆発させた逃げようかと考えたが、すぐにやめた。

戦術として確率していない一手、それを読まれれば、こちらも対処のしようがなくなる。
それだけで王手となりかねない。背を向けた瞬間に脊椎を折られうる。臓腑をえぐられうる。

緊張のあまり、呼吸がつまる。息が早くなる。
意識の切り替えが出来ていない。戦闘に挑む精神状態ではない。

(くそ……!)

ここに来て弱点が浮き彫りになるとは思わなかった。

(震えるな、俺の腕……!)

恐怖を制御できない。チャクラを制御できない。

感情が揺れ動いていしまう。

『我慢して……!』

マダオが叫ぶ。だが、身体はぎこちなく、上手く動いてくれない。

恐怖。そして、一瞬の逡巡。それを見逃してくれる相手ではなかった。


「くっ………!」

再び一歩、瞬身で懐に飛び込んでくる。俺は迎撃の掌打を繰り出すが、狙い打ったわけでもない、苦し紛れの一撃だった。

相手にあたるはずもなく、横に弾かれてしまう。


「しまっ………!?」

掌打を外に弾かれ、流され体も開く。

逆手で攻撃しようとするが間に合う筈も無い。


咄嗟に攻撃ができない体勢。
つまりは死に体。そこを打たれた。


「ぐあっ………!?」

拳が深く、腹筋へと差し込まれるのを感じた。
違和感。


俺は殴られた勢いのまま後方へと吹き飛ぶ。少しでも勢いを殺そうと、後ろへ跳躍したのだが、衝撃を殺し切れはしなかっった。

(折られた……!)


激痛を感じ、今の自分の身体の状況を分析する。

だがそんな暇があるはずもなく。


「しっ………!」

もう一人に忍びが追撃を仕掛けてきた。

腕の劣る方だ。俺は何とかその一撃を避け、カウンターの一撃を繰り出す。

だが相手も初撃に続いて連撃を繰り出してきた。


「……!?」

「ゲフぁ!?」

相打ちとなり、互いに吹き飛んで行く。だが今の一撃は俺の方が早かったようだ。

こっちは、それほどダメージを受けていない。

「くっ……」

相手の方はふらついていた。顎に当たったし、それなりのダメージがあるようだ。

だがジリ貧には変りない。今の一撃も、折れた肋に直撃された。傷が広がっている。痛みも酷い。

激痛に思考を乱されながら、俺は考える。





(どうする、どうする、どうする………!?)

混乱のまま、何とか逃げ延びうる索を見いださなければ。恐怖にかられながら、俺は思考にふける。

(影分身、いやだめだ。ばれたらそこで終りだし、この相手には通じない。痛みもあるし,制御しきれない。螺旋丸……それも駄目だ。正体が……)


思考がまとまりきらない。そこに、さらなる追撃がきた。

「しいっ………!」

相打ちになった忍びの方が、今度はクナイを投げてきた。

だが、今度は見えているので対処できた。一撃を受けた後の追撃でもないし、見えないところからの投擲でもない。
迫り来るクナイを掌で捉え、円の軌道で外側に捌ききる。でも、クナイは囮だ。左右から弧を描いて手裏剣が迫り来る。

「甘い!」

左右に手を突き出し、その両方をキャッチする。
そして投擲。

「ちっ!」

しかし投げた手裏剣はクナイで迎撃された。

それを見届けぬうちに、相手との距離を詰める。

「「!?」」

だが、相手も同じことを考えていたのだろう。
今さっきの互いがいた、そのちょうど中央の位置ではちあわせとなる。

互いに拳を放つ。だが、相手の方がリーチが長い。
俺の拳は届かずに、相手の拳が額を打った。

吹き飛ばされる。相手は一歩下がり、忍具袋から巨大な鉄塊を取り出す。

(……風魔手裏剣!)

巨大な手裏剣を武器にして戦うという、風魔一族が作り出した手裏剣。

「はあっ!」

それが俺の首元めがけ、放たれる。高速で回転する、巨大な刃のついた鉄塊。まともに受ければ首でも胴体でも切断されるだろう。
俺はそれをしゃがみこんで避ける。

だが、しゃがんだその先にはもう一枚の手裏剣があった。

(影手裏剣の術……!)

一枚目の手裏剣で死角となる位置に、もう一枚の手裏剣を潜ませる投擲術だ。

咄嗟にしゃがみこんだ後なので、避け切ることができない。
受けることもできず、俺は両腕を両断された。


―――かに見せた。

斬られた俺の残影が、丸太にその姿を変える。

「上だ!」

手練の方が叫ぶ。だが遅い。

「身代わり……!?」

「その通り!」

樹上から飛び降りながら、蹴りを繰り出す。だがバックステップで蹴りは避けられてしまう。

(それでいい)

着地後、さらに踏み込んで追撃する。超接近戦だ。

「しいいっ!」

「ぐううっ!」

掌打、掌打、掌打。左右の掌打を交互に打ち放つ。
防御されるが、かまわない。もとよりこれは崩しの前動作。

連撃の途中、俺は一端攻撃を止める。

「そこっ!」

すかさず反撃に移る敵。だがそれは誘いだ。

(ここだっ!)

苦し紛れの一撃など見切るのは容易。俺はその一撃を掌の外で捉え、吸着。外側へと弾いた。
相手の体が泳ぐ。先程とは全く逆の体勢だ。

そこに、俺は容赦なく掌打を繰り出した。

「はっ!」

息を吐いて震脚。倍加された体重が、突き出された掌の先へと収束する。

纒絲の動きを加えた一撃は、相手の防御を弾きながら、腹筋を貫いた。

(折った………!)

確かな手応えを感じた。間違いなく、4、5本は折れたはず。

吹き飛んでいく弱い方の忍びを見送り、俺は構えを元に戻す。

―――何故ならば。


「………!」

無言のまま、手練の方の忍びが間隙を縫うように攻撃を仕掛けてきたからだ。

一歩で接近。生死を分つ間合いへと入り込まれる。

即座に繰り出されたのは回し蹴り。軸足の左足が、地に根をはるかのように固定された。
体重の移動と共に鋭く回転。地面がえぐれる。遠心力をたっぷりと乗せられた右足が、俺の米神へと畝りを上げて襲い来る。

「………っ!?」

声にならない恐怖の叫び声を上げながら、俺は地面へとしゃがみこむ。

頭上を、足が通り過ぎた。だが、それですむはずもなく。

(連続の、回し蹴り!)

蹴りの回転を殺さぬまま、今度は下段の足払いを繰り出してくる。

しゃがんでいる俺はそれを避けきれず、足を払われた。そのまま無様に転がり、吹き飛ばされる。


(ぐっ………!?)

後頭部を樹に打ち付けてしまい、脳が揺さぶられる。そのまま、視界が掠れていった。


『気を失ったら死ぬよ!』

寸前、マダオの一言で正気を取り戻した俺は、立ち上がる。

だがダメージが消えたわけもない。肋を後頭部を抑えながら、敵を睨みつける。

「………」

「………」

互いに無言になる。この場に残っているのは二人。

ちらりと見れば、一撃を加えた刀の忍びの方は気を失っているようだった。

となると、後はこの忍びだけとなるのだが。

(最初の一撃。上段の回し蹴り……)

鋭すぎる一撃。思い出して身がすくむ。まともに米神に受けていれば、と考えてしまいその光景を想像してしまう。
心が恐怖で震えた。

(直撃すれば、それで決まっていた……くそっ)

脳を揺らされ、戦闘不能に陥っていただろう。忍びの戦闘においては、機先を制するものが勝つ。ダメージを受ければ受けるほど、動きが悪くなってしなうからだ。
先程の攻撃、避けられたのは偶然だった。意図して避けたものではない。

折られた肋が痛む。まるで溶岩を腹の中に放り込まれたかのようだ。
ずきずきと脳を揺らす。痛みにより、恐怖が助長された。

(……よりにもよってここで弱点が露呈するとは………)

意識の切り替えが出来ていない。身体がうまく動かない。
戦闘する精神状態ではない。それに何より、致命的なエラーがある。

(この相手は、殺す気でいかなければ勝てない)

今倒したのとは殺気も段違いだ。生半可な戦術では見破られ食い破られてしまう。
でも、出来るのかと思ってしまう。最後の決断が出きない。

―――何故ならば。今までに俺は、人を殺めた事がないのだ。

後回しに、後回しにしながら、機会も無く結局その決断を下せずにいたのだ。
危なくなれば逃げていた。殺すことはできなかった。殺すつもりで戦ったことなんて、一度もない。
逃げられれば逃げていた。一か八かの生命のやりとりを経験したことが無かった。



それが俺の弱点。
戦闘に挑む際の心の弱さと、臆病さと、殺人に対する忌避感。

普通の人ならば、長所とも言える。
だが生き抜くと決めた俺にとっては、戦闘においては、これ以上にない弱点といえる。

(初めて、人を殺す。それが今、俺に出来るのか……)

かつてない窮地。相手は間違いなく、強い。ひょっとすれば、今まで相対してきた中で最強かもしれない。
弱点を補うために選んだはずだった。この任務を選んだはずだった。
ならばこの状況は、壁を乗り越える好機ともいえる。

だけど、膝は震えてしまう。自分の意思の外側で。

(このヘタレが……!)

自分に対して罵倒する。まさかここまで弱いとは思っていなかった。何とかなると思っていた。だけどそれは夢物語で、絵に描いた餅だった。
行動に移す勇気、あるいは蛮勇かもしれないが、それを持てない。持つことができない。

踏ん切りがつかない。選択には代償が必要だ。でもそれを払う勇気を持てない。

「震えているな……」

そんな俺の心の内を見透かしたのだろうか。目の前の忍びが侮蔑の雰囲気を纏いながら、語りかけてくる。

「死が怖いか。殺すのが怖いか。ふん、中々にやるようだが、忍びとしては三流だな。己を汚す覚悟を持てていない」

言葉は低く、そして深く俺の心に染み入る。この状況はまずい。


「何かを成すためには、覚悟が必要だ。絶対的な覚悟が。綺麗でいたいなどと、中途半端な覚悟なぞ……無いと同じ。糞の役にも立ちはしない」

腕を振り、無造作に近づいてくる。だが俺は何の行動も起こせない。


「……子供だからとて、容赦はしない」

「っつ!?」

再び、瞬身の術。一瞬にして背後に回られた。

「後ろぉ!」

だが、今度は目で追えた。俺は振り向きざまに裏拳を放った。

しかし手応えはなく、すり抜けられるだけ。

「っ!?」

代わりに感じたのは、すれちがいざまに首に巻き付けられた、固い糸の感触だった。

「焼けて、散れ」

背後、向き直れば男は印を組んでいる。その糸の先は口元。

―――結の印は、虎。

「火遁」

(しまっ……)

理解した俺は腰元のクナイを抜き放つ。

「龍火の術」

糸に炎が走る。大蛇丸ならばともかく、今の俺がまともに受ければ一溜まりもない。
一瞬前まで迫り来る炎を見ながらも、俺はクナイで鋼糸を断ち切ることに成功した。

「飛燕!?」

クナイに僅かだが残っていた、風の刃を見て男が叫ぶ。
とっさに出したため、精度も維持も無茶苦茶だったが、何とかうまくいったようだ。繰り返しの訓練が功を奏した。
状況を見極めながらの対処ができなければ、俺は丸焼けになっていただろう。

危地を脱した俺は何とか逃げきろうと、樹上へと飛び上がる。

たがただで逃すはずもない。飛び上がった俺を、当然のように敵は追ってくる。


そして今度は樹上での攻防は始まった。チャクラを木に吸着させながらの攻防。

チャクラコントロールだけならば互角のようで、地面にいるときよりは状況がいい。

「ふっ!」

「ちいっ!」

互いに持ったクナイで切り結ぶ。純粋な筋力とチャクラコントロールによる移動は相手の方が一枚上だった。
つまりスピードは相手の方が上だ。

だが明確な差はない。
まともにやりあえば、根比べの勝負となるだろう。だがこちらは肋を折られていた。そのアドバンテージが痛い。痛みが集中を阻害する。

(機を見て逃げ出せれば……)

拮抗しながらも、今一歩を踏み出せない。踏み出せる気がしない俺は、この場から逃げることを算段していた。
準備もできていない状態、しかもこんな遭遇戦でどうして勝てようはずがあるものか。


そんなことを思っていた。



思って、しまっていた。勝つという意識を持たずに。

戦いにおいては、弱気になったものが敗北する。その理通りに。



「確かにやるようだが……」

男が印を組むのを見た俺は、術は使わせないと拳で一撃を加える。
男は腕でそれを防ぐ。そのまま、後方へと吹き飛んだ。


「………しかし!」

吹き飛んだはずの敵の姿が、消える、
見失う。

その、一瞬の隙の間に、決定的な一撃へと繋がる初撃を差し込まれた。

「んぐっ!?」

消えたと思った一瞬後、後頭部へ衝撃を感じた。

脳が揺さぶられた。意識が薄れる。


(……木の枝を持って、それを軸に回転して……!)

直感で悟った。木の枝に足をひっかけて一回転、そのまま後ろを取られたのだ。絶妙なタイミングでの地形を応用した一撃。
戦闘経験がケタ違いだ。

当然、攻撃はそれで終わらない。機を見て敏となるは戦闘の鉄則。
更なる追撃が俺を襲う。


「ふっ!」

顎と胴体を蹴り上げられた。先の一撃で視界は揺れ、意識も薄弱となっているため、防ぐことはできなかった。
そのまま、中空へと吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」

仰向けに飛ばされた俺は、体勢を整えながら敵の位置を確認しようと、飛ばされた下、敵がいるはずの方向を見ようとする。

だが、姿が見えない。

感じたのは、すぐ背後に存在する、息遣いだけだ。


(っ影舞葉……!?)

背後にいる。感じる。背中に指が当てられる。


(もしかして……!)


混乱の中、全身に立つ鳥肌。俺は咄嗟に右腕を右上にやった。


「いくぞ……!」


声と共に銅へと左腕が鋼糸が巻き付けられる。身動きが取れない。

そのまま体勢を整えることもできずに、俺は頭から落下する。

視線の先、着地の先。そこにあるものを見て俺は戦慄した。




あの攻防の途中で俺は、誘い込まれたのだ。この地面がある上空に。



―――頭が叩きつけられるであろう地面。そこは、岩場となっていた。



(っ死……!?)

頭が真っ白になる。恐怖に支配される。身体が動かない。回転が激しくなる。

でも身体は動いてくれない。動くのは――




思考が加速する。回転が加速する。

迫り来る岩場。激突する寸前、背後にいる男の声が聞こえた。







「―――表・蓮華!」







無情に告げられた声と共に。


全てが、遠ざかっていった。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その四
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/20 00:35







「くっ!」

辺りにただよう気配と匂いを感知した菊夜が舌打ちをする。

「菊夜……」

その横では、菊夜の主である紫苑が不安そうな顔をしていた。
暗い夜、森の中だからまだ年端のいかない少女でもある紫苑が不安な顔をするのは当たり前なのだが、今はまた別の理由があった。

「何処へいくのじゃ。何故……」

「……大丈夫です。必ず」

言いながら、声は優れない。
あの囮の忍びを始末するため、最も手練である忍びは近くにはいないはずだった。
その隙をついて逃げたのだが、国境を越えないうちに回り込まれてしまった。両腕に紫苑を抱えているため、全速では逃げられない。
それでも何とかなると思っていたのだが、見通しが甘かったようだ。

包囲は徐々に完成していく。迎撃と哨戒に放った菊夜の忍犬達は、敵の忍びにいとも容易く葬られた。
これが木の葉の暗部の力か、と菊夜は歯噛みしながらなおも走る。ここで捕まる訳にはいけないのだ。

だが、その時、菊夜の前方に影が降り立った。
菊夜は目の前に接近されるまで、その影の気配を全く感知できなかった。

「……貴様か」

「……この先にも罠を張った。周囲の匂いも読み取れぬわけではないだろう」

もう逃げられん、諦めろとその影がいう。

「……何故貴様がここにいる。あちらの方はどうした」

「お前にはもう、どうでもいいことだろう。あからさまにこちらへ情報を流し、囮を使い逃げようとは随分と考えたものだが……肝心の囮があの様ではな」

「……死んだのか」

「生かしておく必要がどこにある」

「……何の話をしておる」

抱えられている紫苑が、二人の会話に口を挟む。

「……知らないのか。こいつは、あのイワオとかいう忍びを囮にしたのだ」

「……イワオを……囮」

理解できないのだろう。紫苑は訝しげに言われたことを反芻するだけだった。

「……黙れ!」

「黙らぬさ……おっと、動くなよ」

影の忍びが腕から鋼糸を繰り出す。だが腕に垂らすだけで、菊夜に向けては放たない。
動けばやる、という牽制をしているのだ。菊夜は言葉を差し込むことをやめ、悔しそうに黙り込んだ。

「イワオは網という組織の一員でな。鬼の国内部を調査するという役割を背負っていた」

「……それは知っておる。妾の聞いておるのは囮という言葉の意味じゃ」

「何、簡単だ……」

男はそこで口笛を吹いた。その後、藪に潜んでいる者に告げる。

「シン。サイ。出て来い」

男の呼びかけに、近くの藪が動く。そして、人影が現れた。
小さな人影、その影は二つ。金色と黒色の兄弟だ。

「真蔵、才蔵……!?」

どうやら気付かなかったようだな、と影の男は笑う。

「……やはり、自分のこと以外にはその勘もにぶるのか」

「どういうことじゃ? 真蔵、才蔵、お主達……」

「……こいつらはな。イワオを見張っていたのさ。俺達の、命でな」

「……そう、なのか? 二人とも……」

言葉を向けられた二人は、紫苑の訴えかけるような声に耐えきれず視線を逸らした。

「……囮、イワオ……お主ら、まさか!」

紫苑は先程の菊夜と男の会話の意味を理解したのだろう。
怒鳴り声を上げ、男に詰め寄ろうとする。だがその動きは背後の菊夜に止められる。だが、声は止まらず。高ぶった感情は叫びへと変わる。

「イワオをどうした!?」

「殺した」

哀れみも侮蔑も、何の感情も無く、男は淡々と紫苑に対して答えを返した。

「高いところから、岩場へたたき落としてやったよ。その後崖下に落ちていったが……まず、生きてはいまい。全身打撲に頭蓋骨骨折、ひょっとすれば頭が割れたやもしれんな。しかもあの河の流れだ」

今頃は河の底で朽ち果てているだろう、と男は言う。

「……嘘だ! イワオが死ぬはずがない!」

紫苑は悲痛な声を上げながら、両腕を下に振った。そのまま自分の両の拳を握り締める。

「帰ってくると言った! 死なないって言ったのじゃ! 妾と、妾達と……約束を、したのじゃ!」

だが男は紫苑の叫びを意に介さない。

「約束など関係がない。死なない人間などいない。あいつは俺がこの手で殺した。それだけが事実だ……まあ、しかしな」
男は菊夜を見ながら、言う。

「この事実、知らされておらぬとは、これまた滑稽ではないか。よりにもよって、死地に向かわせる相手を約束などとは……お主の護衛はほんとうに酷いことをするなあ」

「………っ」

そう言われた菊夜は、だがそれを否定しない。それが、事実だからだ。
網という組織の実態と力が分からない以上、下手に頼ることはできない。そう考えた菊夜は、報告に戻るというイワオを囮として、紫苑を連れ他国へ逃げようとしたのだ。
今、網に知られるというのは、この忍び達の正体が外に流れる可能性が出てくるということ。それを防ぐため、『情報を渡したフリ』をすれば、こいつらは必ずイワオを消しに来るだろうと見ていた。
そのために菊夜はイワオを裏へ呼び出し、話を持ちかけた。見張りである、真蔵と才蔵の前で。二人がこいつらの見張りだということは、忍犬の報告から知っていた。

知っていて、万が一の時に使えると考えて放置したのだった。

「菊夜………それは、真なのか?」

「……はい、ですがこれも紫苑様を守るため。あなたを守るため、仕方がなかったのです」

「っ、何故じゃ! 何故知らせなかった!」

「紫苑さ……!?」

紫苑に叫ばれ、詰め寄られた菊夜。
そこに、一瞬の隙が生また。影は隙間を逃さず、刹那の間隙に入り込む。

男は菊夜が紫苑の方に意識を集中させた、一瞬の間に印を組む。
秒に届か術は完成し、瞬身の術は発動する。影と菊夜の距離が零となった。


「しまっ!?」

後悔の言葉も出せぬまま、菊夜は男が放った掌打で胴を打たれ、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

「……眠れ」
男の手刀が紫苑の首筋に当たる。紫苑は動くこともできないまま、気を失いその場に倒れ込んだ。

「くっ、紫苑様!?」

菊夜は叫びと共に印を組む、周辺に伏せているはずの忍犬を動かそうとする。
だが、忍犬は現れなかった。

「……時間稼ぎだったか!」

悔しそうに叫ぶ菊夜。やがて、忍犬の始末を終えた残りの忍び達が現れた。

「さて………どうする?」

男は紫苑の傍にしゃがみこみながら、菊夜に問いかけた。

「………」

菊夜はその問いに答えられない。

答えなど、決まっていた。

























―――夢を見た。

薄ぼんやりとした世界の中、少女が一人膝を抱えたまま泣いていた。
目の前には女性。事切れているのか、ぴくりともしない。

『母上……母上!』

少女は事切れた女性へと、必死に呼びかける。
だが動かない。呼びかけても呼びかけても、変わらない。目を閉じただ地面に横たわるだけ。
娘の必死の叫びは、届かないのだ。


『ひっ……!』

そこに、黒いもやが現れた。霧のようで形のない、でも悪しきものだとは分かる。
醜悪な気配を放つ黒い霧は、少女へと襲いかかった。少女は必死にそれを振り払おうとする。
だが黒い霧は応えたようすがなく、やがて少女を覆い隠す。

その時、倒れている女性が光を発した。全身から強力な光を放ち、黒いもやを掻き消す。
それが最後の力だったのだろう。生命の灯火が消える気配を感じた。
引換に娘の生命を救った母親は、笑みを浮かべながら消えていった。


でも、終わらない。


『っつ!?』

立ち尽くす少女の足元から、今度は蔦が伸びてきた。灰色の蔦だ。
先程の黒いもやは見るだけで胸がしめつけられ、辛い気持ちになるほどに邪悪だった。
この蔦は臭うだけで嘔吐してしまうほど、醜悪な気配を放っていた。

それが少女の全身を絡めとる。しめつける。
少女がうめき声を上がるが、蔦は構わず少女を束縛し続ける。



―――待て。


叫んだつもりだったが、声にならない。
少女のうめき声が聞こえる。





―――離れろ。


やがて蔦は少女の全身を絡めとる。
見えなくなる。何もかもが灰色に覆われてしまう。聞こえるのは少女の悲鳴。




―――離せ。

手を伸ばす。手を伸ばす。だが届かない。
俺の手がない。もぎとられたのか。でも足がある。歩いていけば良い。


―――足が。

だがいつの間にか俺の足は灰色の蔦に絡め取られていた。動かそうとするが、蔦は固くびくともしない。
冷たい感触、まるで鉄のようだ。灰色で醜悪な冷たい蔦が、俺の足を絡めとる。


――――どけ。


必死に走ろうとする。だけど足は宙を泳ぐだけ。前に進んではくれなかった。
足を叩き、前に進もうと腕でもがき、這いずってでも前に進もうとする。
少女の声がだんだん小さくなっていく。

―――後ろ?

突如、後方から少年の悲鳴が聞こえた。振り返ると真蔵が倒れていた。明るい金髪は血で赤く染まり、地面には流れた血が溜まって、赤色の池ができていた。
その傍では、手を赤に染めた黒髪の少年の姿があった。才蔵だ。だが、はっきりとは分からない。
才蔵は身体には、至る所に罅割れが出来ている。そして何より、才蔵の服も髪も肌からも、色が消失していた。
その両目には色が無く、流れている涙だけに色がついていた。涙の色は赤。血の涙だった。


―――どうして。


喪失感が心を満たす。虚脱感に身体を支配される。もう、何もかもが終わってしまった。少し前まではあった、輝いていたあの日々はもう影すら残っていない。
何故こうなってしまうのか。誰が望んでこうなったというのか。この光景を心の底から望む誰かがいたのだろうか。
あるいは、悪戯好きで性悪の神様とやらが、この結末を定めたのだろうか。



―――認めない。


気がつけば、俺は叫んでいた。

その時、光が俺の目の前に溢れた。







「……」

気がつけば、天井を見上げていた。知らない天井だ。
ここ一ヶ月滞在していた商人の家でもない。あのおばちゃんのボロ家でもない。

『大丈夫?』

考えている最中、声が聞こえた。マダオだ。心配そうな声。ようやく頭が覚醒し始める。どうやら俺は眠っていたようだ。
だが、ここは何処だろう。そもそも俺はいつどこで寝たのだろうか、全く思い出せない。
状況が全く理解できない。このまま考えても答えが出なさろうだと、俺はベッドから起き上がりながら二人にたずねようとする。

「ここは……っ!?」

だが、起き上がろうとしたその瞬間、腕に激痛が走った。
意識の外で起きた激痛により、俺は悶絶してしまう。

『……落ち着いて。自分の身体がどういう状態になっている、分かる?』

「……ああ」

マダオの声を聞いて冷静になった俺は、改めてあたりを見回してみた。どうやらここは網が経営する病院のようだ。
この部屋は個室のようで、俺以外には誰もいない。恐らくは忍者が使うという、特別病棟の中にある、特別な個室だろう。
昔、親方に聞いたことがあった……ような気がする。

だけど、なんで俺はここで寝ているんだ。

『今は駄目だよ、急に動いちゃ。腕が折れてるんだから』

(……ああ、道理で痛いわけだ)

見れば腕には包帯が巻かれていた。腹にも、巻かれているようだ。
しかし、腕の痛みが酷い。

(肋を折られたのは覚えてるけど……腕はどうしてだ。あの時俺は確かに……って、おい!)

思い出した俺は、マダオに向けて叫んだ。

「あれからどうした!? 今日で何日経っている!?」

『落ち着いて。えっと、何でここにいるかだけど……蓮華を食らったあとのことは覚えてる?』

レンゲ……ああ、表・蓮華のことか。木の葉流体術の一つで、蹴り上げた相手を回転させながら地面に叩きつける技。
確かあの時、俺は岩場へと落とされたはずだった。だが、その後はいったいどうしたのか。
いくら俺でも頭から岩場へと落とされれば死んでしまう。だが俺は腕を骨折しているだけで、死んではいないようだ。頭も無事だし、俺はあの時何をしたのか。

『……右腕で頭をかばったんだよ。岩に叩きつけられる寸前にね。それで、即死は避けられたんだけど……』

後の言葉に続くのは、これだろう。俺はじっと右腕を見る。見事に折れている。いや、折れているだけでなく、言葉にできない違和感を感じた。
関節も傷んでいるし、余程酷い折れ方をしたようだ。痛みもひどいし、一週間やそこらでは治らないだろう。

(いや、しかし、あの後は……ここは何処だ。俺はあいつらから逃げられたのか)

『……やっぱり、地面に叩きつけられたあの後した行動を覚えてないんだ』

(そのようだ)

記憶はあそこで途絶えている。
はっきりとは思い出せない。ただ、逃げなければとは思っていたのだが。

『あの後……岩場に激突して地面に叩きつけられた後、君は斜面を転がって、崖下へと転落したんだよ』

(……そういえば河があったな。そういえば雨で増水していたな)

周囲に気を配る余裕も無かったので,気付かなかったが。確かに、あのあたりには河があった。
―――だが、崖下のはずだったが。

『……敵の方は、蓮華であたえたダメージもあったし、君はあのまま死んだと思ったんでしょ。ていうか普通、右腕で頭をかばったとしても、あの蓮華を食らった時点で即死するよ』

そうだろうなと思う。それほど凄い衝撃だったから。

『死体を確認せずに立ち去ったのは、死んだと思ったから……いや、あるいは……』

歯切れのわるいものいい。何か、予想していることがあるのに言いたくないみたいな感じ。

『――いや、今はいいか。それより、その後は河に流されて……網の人に助けられたんだよ』

それでか。その後にここに運び込まれたのか。
しかし、よく溺死しなかったな

『岸には自力で這い上がったんだよ。ああ、それも覚えてないのか』

無意識にでも生きようとしたのか。まあ二度目だというのもある。一回目は2年前のあの日、あの時、起爆札の爆発に吹き飛ばされて。

(……色々考えると、複雑なあれだな)

思い出したくもないことを思い出してしまう。

(それよりも、あの状況下でよく生きて帰られたもんだ)

正直、死んだと思った。

『……生きて“帰った”んだよ』

執念のたまものだとマダオが言う。珍しく深くためいきをつきながら。
心配してくれたのだろうか。

(いやそれよりも、確かめなければならないことがある。いったいあれから何日経ったんだ。傷の回復具合と腹具合から……三日ってところか?)

『大体あってる。肋は何とか治ったようだね……ただ、腕はまだまだ酷い状態のまま、治っていないようだね』

今までで一番酷いといえるほどの大怪我だしな。


ってちょっと待て、何日経ったと言った……三日!?



「三日って……まずいじゃねえか!?」

(まずいね。ゴロウさんもあの後どうなったか分からないし。報告書も消されただろう。だからあの人は、君が起きるのを待ってたんだけど……噂をすれば影。来たようだよ)

ちょうどその時、病室の入り口にある扉が開かれた。
一ヶ月ぶりに見る姿だ。網の首領、地摺ザンゲツ。
ザンゲツは起きている俺を見ると、俺が寝ているベッドの傍まで近づいてきた。

「……ようやく、起きたようだな。ケガで苦しんでるとこ悪いが、鬼の国で一体何があったのか。そして、誰に襲われたのか。色々と報告してもらう」

「了解です」

詳細が分からないけど、一刻を争う事態になっているかもしれない。
俺は一応、網の組織員だ。一員として、任務に関することを優先させなければならない。

「実は……」

マダオの言うとおり、報告書はあいつらの手によって奪われたのだろう。
俺は、知っている情報の全てを、ザンゲツに話した。

一仕切を話し終えると、ザンゲツはまさかと首を横に振った。
何を知っているのかは知らないが、彼にとっては信じがたい話なのだろう。

「……馬鹿ばっかりか、鬼の国近くの小国どもは」

裏で五大国から手を出すなと言い含められているだろうに、と呟く。
それに反応し、聞いてみた。ここまでいけば説明してもらえるだろうと思っての質問だ。
余計なことを聞くなと言われる可能性もあったが、ザンゲツは俺の問いに頷き、話をしてくれた。

「とある人物に聞いてみた。裏はとってある」

ただ、情報についてのソースは明かさなかった。半ば予想している俺は、もう少し引き出そうと、そして動いてもらおうと、カードを切る。

「……その事で、一つ問題が」

「なんだ。今の情報だけで腹いっぱいだぞ俺は」

ただでさえ別件のごたごたのせいで、胃が痛いのによ、とザンゲツは自分の腹をさすった。
何か、精神的にくる事件でも起こったのだろうか。

だがそれに構っている場合ではない。これは状況証拠にすぎないことだが、恐らくは間違っていない。
たった今、絶対に告げなければならない情報があるのだ。

「俺は、仮面をつけた何処かの国の暗部らしき者と戦いました。そこまでは先程話した通りです」

手練の忍びと、一段腕が落ちる忍び。あの二人は仮面をしていた。仮面をするのは、忍者という裏の世界で更に裏の仕事を担うという、裏の裏、影の影と言われる暗部特有の習慣だ。
だがあの忍びは額当てをしておらず、顔は仮面で隠されていた。見ただけならば、出自は分からなかった。だが、俺は見たのだ。

「色々と腑におちない点があったのですが……俺がやりあった相手、あれのおかげで正体が分かりました」

「正体、だと? 小国の忍び連中じゃないのか」

「いいえ、違います。それならば、菊夜さんでも何とかなったはずです」

思えば、菊夜さんに聞かされた話も、菊夜さんが切羽詰っていたことも。
どこか、違和感を感じていた。一人巫女を守り続けていたのであれば、一対多の状況でも戦えるはずだ。複数の忍犬を扱える忍びであれば、何とか逃げることだけはできる。

―――相手が、忍犬使いと戦ったことがない忍びであれば。あれほどまで急に、窮地へと追い詰められたその理由が分からなかった。焦っている理由が分からなかった。
答えは簡単だ。暗部は抜け忍を始末する役割も担っている。つまりは“里内部の忍びについて、熟知しておかなければならない”

「どういうことだ……って、お前、ちょっと待て。それはまさか」

さすがは網の首領といったところか。頭の回転が速い上に、考えたくない事実まで思考を届かせることができるとは。
小国ではない忍び、つまりは大国の忍び。そして忍犬使いを知っている国。
証拠は他にもあった。他でもない、俺が食らった体術のことだ。

「まず最初に、あの暗部の忍びが使った体術ですが……あれは確か木の葉流体術の一つ、『木の葉烈風』です」

上段の回し蹴りから、流れるように繰り出された下段の足払い。あれはたしか、木の葉烈風のはず。

「そして、俺が最後に受けた体術……あれも同じく木の葉流体術。体内門を開いて発動する奥義に位置する体術、『表・蓮華』です」

思い出しても震えがくる。しかし、影舞葉の時点で気づけたのは僥倖だった。咄嗟に右腕を上げていなければ、あの鋼糸で絡め取られそのまま俺は岩場へと叩きつけられていただろう。

「………木の葉の体術を使ったからといって、相手が木の葉とは限らないだろうが」

一縷の望み、といった感じで言葉を紡ぐように小出しにしてくるが、その途中でザンゲツは頭を抱えた。
話をしている内に気づいたのだろう。

「……ああ、くそ、そうか!」

立ち上がりながら今まで自分が座っていた椅子を蹴る。

「国境の忍びもか! ……あとは、忍犬使い!」

「気づかれましたか」

「……ああ。ちっ、気づけなかったぜ。一体どこまで手を、いつから……」

ザンゲツは頭を抱えた。俺も頭を抱えたい。
よりにもよっての、一番対峙したくない相手だ。まさか今回の任務で敵になるとは、正直思ってもみなかった。

「………木の葉の暗部か」

「はい、よりにもよってです」

どう対処するか訪ねてみる。だが、ザンゲツは答えず、沈黙を保ち続けていた。
何か手はないか、色々と考えいているのだろう。
網の首領ともなれば打てる手は少なくない。それなりの戦力も保持しているし、大商人と言われるもの達とも、深いパイプを持っている。
組織力としては、大陸屈指のものを持っているのだ。

だが、今回は相手が悪い。相手は間違いなく、大陸で一ニを争うほどの規模と精強さを持つ、あの木の葉の暗部だ。
いかな網とて、まともにぶつかれば跡形も残らない。

「……駄目だ、こちらから手は出せん。木の葉の暗部というなら……この件について、一度三代目火影に問いただしてみよう。この一連の想像、間違いなく爺さんの意志ではない。あの爺さんがそんなこと許すわけないからな」

「三代目火影の人柄について……よく、知っているのですか?」

とぼけながら聞いてみた俺の問いに、ザンゲツは苦笑しながら答えた。

「ああ、商売が下手な爺さんだ……だが、忍びの中なら、他の誰よりも信用できる。それに何より、鬼の国の盟約に関しては、初代火影の時代から連綿と受け継がれ、未だ破られていないものだ。
 提案者の木の葉が、そしてあの爺さんが………破るわけ、ないからな」

「三代目火影……直接、会って問いただせるんですか」

その問いに対して、ザンゲツは問題ないと言った。

「ちょうど会う約束もしていた。そこでお前が持って帰ってきた情報を、起きている事、全部告げる。動くまで多少時間はかかるだろうが、それで解決するはずだ」

それが一番いい、とザンゲツは頷く。
確かに、三代目火影ならば暗部を止められる。間違いなくとめてくれるだろう。一度火影の座を譲ったとはいえ、まだまだ里の者からの信望は厚いはずだ。

「……色々と予定はあるが……お前は、取り敢えず休め。ほら、水だ」

「そうですね……」

コップを受け取る。一口水を飲み、生返事をしながらも、俺の気は晴れなかった。
間に合うのか、そんなことを考えてしまう。暗部が動いていること、それがどういった事態に繋がるか、うっすらと見えてくるから余計に焦ってしまうのだ。

「しかしな……」

不安な心を助長させるか如く、ザンゲツは小さく暗い声で呟いた。

「……暗い声ですね。何か、心配事でも?」

「ああ、ちっとな」

ザンゲツはぼりぼりと頭をかきながら眉間をしかめる。

「三代目の爺さん……最近、といってもここ数年だが。ちょっと、ごたごたがあってな。めっきり老け込んじまった」

何か嫌なことでも思い出したのだろうか、ザンゲツの顔はみるみるうちに不機嫌なものに変わっていく。
しかし、老け込んだとはいったいなんなのだろうか。俺は直接聞いてみた。

「んや、風の噂によるとな……と、そうだな。お前、九尾の妖魔って知ってるか」

「げふぉッ!?」

不意打ちで出た○禁ワードに驚いた俺は、口に含んだ水を吐き出してしまった。

「大丈夫か!? 傷が……」

開いたんじゃないかと言うザンゲツに、俺は大丈夫だと手を上げる。
口元の水を折れていない方の腕で吹き、続きを促す。

「はい、名前だけならば。7、8年前に木の葉の里を襲った怪物ですよね」

「その関連でちいっとばかしへまをやらかしたらしくてな。いつもは弱気なところなんて欠片も見せない爺さんが、珍しく憔悴していた」

「………そうですか」

何で、俺に言うんだろうか。ザンゲツはそんな俺の疑問に構わず、話を続ける。

「責任を追求されて権威を失墜……ってところまではいかないが、力は幾分か削がれたらしい」

きな臭い話だがな、とザンゲツは肩をすくめる。だから何で俺に言うんだろうか。
今の俺は自由人。夢を目指して飛び出した放浪者で、木の葉とは繋がりもない。
立場的に第一級の危険地帯なので、今のままでは寄り付けもしない。

しかし、三代目火影か。
確かに、里の切り札である人柱力を失ったことは、里の者からの信用を損なわせる原因になるだろう。
厳密にいえば三代目のせいではないのだろうが、責任の所在は間違いなく三代目にあるだろう。
里の戦力である人柱力の管理は火影の役割だ。過失で失ったとなれば、その管理能力を疑う者が出てきてもおかしくはない。

だが、解任または次代へと変わったという事態に推移していないのは何故だろうか。
その理由について考えてみて、思いあたったことがあった。
責任を追求する者が少ないのだろう。考えてみれば分かることだった。

ああ、そうだった。そういえばそうなのだ。


里の者は九尾を心底憎んでいるのだ。襲来からまだ10年も経っていないため、里に残っている傷跡は未だ深いのだろう。
責任を追求しないのは、本心では良くやったと思っているか、別にいいと思っているかだ。

ああ、そうだな。あの時俺には、誰も助けに来な――

「――痛っ!!」

脳と腹の底、二箇所に刺すような痛みを感じ、俺は腹を頭を抱えた。

「……大丈夫か」

「ええ」

暗い方向に思考がいったせいか。俺は首を振り、考える方向を変えてみる。
今、そのことを考えてもしかたがない。問題は、三代目の力が小さくなった件についてだ。

いずれ来るだろう、大蛇丸のことは今はおいておくとして、まだ一つ問題点がある。
今回の敵のことだ。

(どうするか………)

俺が得た情報から推測できる敵と、悪化するであろう事態。それについていくらかは推測もできる。これからこの情報、カードどう使うか、よく考えなければならない。
ひとつ間違えば、もしかしたら木の葉内部で内乱、果ては戦争になりかねないのだ。

いくらなんでもそれは不味い。だとしてもどうするのが一番いいのか。
うんうんと俺が悩んでいるとき、突如誰かが部屋に入ってきた。

「も、申し上げます!」

「何だ、騒々しい!」

「は、失礼しました! ですが急ぎの要件で……」

「……何だ!」

「……は! 木の葉の、あのうちは一族が……何者かの手により、皆殺しにされたとのこと!」

一瞬だけ、時が止まる。俺とザンゲツの息も止まった。
直後、ザンゲツが勢い良く立ち上がり、叫ぶ。

「何だとォ!?」

「げふぉ!?」

息が戻ったかと思うと、口に含んだ水を吐き出してしまった。
鼻に水が入り、咳がでる。だがそんなことは今はどうでもいい。

(……ああくそ、よりにもよってこのタイミングでかよ!?)

いつか来るとは思っていた。だがここで来るのか。
予期せぬタイミングすぎて、俺はうなだれ頭を抱える。

『……駄目だ。事後処理があるし、混乱を収める役割がある……三代目は動けないし、しばらくは会うこともできない』

『……八方ふさがりじゃの』

知ってはいた。時期的なものはあやふやで、俺程度の力量では止められるはずもないあの事件が起こることを。
知ってはいた。うちは虐殺が起こることを。今の俺には関係のないことだと思っていた。関係すれば生命は無いと思ったからだ。
そのとおり、直接的に関係することは無くなったはずだった。しかし、間接的に、こんな形で絡んでくるとは。

(紫苑……!)

左腕を握り締める。三代目はあてにできない。ならばどうするか。
どうすればいいのか。

「……それで、一体誰にやられた」

未だ半信半疑なのか、ザンゲツは流れてきた情報について、報告員に改めて問いただす。

「それが、うちはイタチとかいう木の葉の忍び………滅ぼされた、うちは一族のもので……事件後、すぐ国外に逃亡したそうです」

「……一族の内紛か、あるいは…いや、今はいい。それで、他の里は、特に雲はどうしてる。動いたのか」

「いいえ、まだ情報は流れてはいないようです」

「まだ、か。だかいずれ知る。その情報を得た各国がどうでるかなど、火を見るより明らかだが……それも、今はいい」

ザンゲツは顎に手をやり、考える。今はどう動くべきか、状況を整理しながら考えているのだろう。
やがて結論が出たのか、報告員のひとにザンゲツは俺が予想だにしていなかったことを聞いた。

「……鬼の国の国境の忍びは。あそこの木の葉の忍びはどうしている」

「……は? は、はい、今確認致します」

「急げ」

聞かれた意味が分からなかったのだろう。報告員は戸惑いながらも、迅速に対応しおうと動き出した。

「……どこもかしこもてんやわんやだな」

「……そうですね」

頷きながら、俺は考える。あるいは、これはチャンスなのではなかろうかと。
混乱の中に好機だり。死中に活あり。光路は必ずあるはずだ。

『……ちょっと待って。一体何を考えてるんだ』

(考えることなんて一つだ。この状況で何ができるかなんて、決まりきってることだろ)

『その後に訪れる結末も、決まりきってることだね』

はっきりと言われた俺は、咄嗟に言葉を返せない。あの体たらくでは仕方がない。
自覚させられてしまうと、ぐうの音も出なくなった。

『ほぼ万全の状態でも勝てなかった相手に、今の状態で勝てると……本気で思ってるわけじゃないよね』

(……片腕でもなんとかなる。一度見たし、今度は負けない)

強がりの言葉、だがそれはすぐに看破された。

『……それが武者震いだというのなら、僕も止めないけど』

(………)

見れば、自覚もないうちに左腕は震えていた。
もう一度戦う、といことを想像して、負けた時の恐怖を思い出したのだ。

『……覚悟が定まっていない今、君はあの忍びに勝つことはできない』

(……覚悟? なんだ、人を殺す覚悟か)

『違う。人を守るという意味での、覚悟さ』

謎かけのような言葉に、俺は首をかしげた。

(一体、何を言っている)

『分からないのであれば、言っても無駄だよ』

(だが……)

と、俺は小指を見る。包帯に巻かれて今は動かすこともできないが。

『……ふん、約束を果たして、その後にあの小娘の前で死ぬのか。それはまた酷なことを思いつくな』

(……そういう、つもりじゃない)

『お主は最初に言っていたではないか。戦いは嫌いでは無かったのか。死にたくないのではなかったのか。だから戦いの中では夢を見たくないと、そう思い行動してきたのではないのか』

(……ああ。ああ、そうだよ。俺は死にたくないんだ)

最低限、自分が死なないための最善を尽くす。自分で精一杯で、誰かを救おうなんて思っちゃいない。
俺は夢のために強くなり、生き延びてそれを叶えるのだ。


『ならば、諦めることを知れ。仕方ないのであろう。こちらも今、お主に死なれるのは……御免被るしの』

(……そうだよな)

腕の震えが止まらない。そうだ、俺は死にかけたんだと思い出す。頭から岩に落ちそうになったことを、あの光景を思い出すと、全身が震えだした。
思い出したくないと目を閉じても、あの光景が脳裏に焼き付いてしまっているため、震えは止まらなかった。

「席をはずす。今はゆっくりと休め」

震えている俺を心配そうに見ると、ザンゲツは部屋を出て行った。



「くっ……」

涙が溢れてくる。どうしようもない、今の状況と、自分の弱さに。

仕方ない。仕方ないんだと自分に言い聞かした。








数時間後。

「あら、シケた面してどうしたんだい」

「……おばちゃん」

病室に、ボロ旅館のおばちゃんがやってきた。果物片手ということは、見舞いに来たようだ。

「……珍しい。どうしたの、いきなり」

「何となくさね」

そう答えたおばちゃんはベッドの横の椅子に座り、リンゴの皮を向き始める。
手馴れたもので、あっという間に剥かれたリンゴが皿に並ぶ。

「ほら、食いな」

「……ありがとう」

リンゴを手に取り、食べる。
甘い味。そういえば、何時いらいだろうか。こんな、ベッドの上で果物を食べるというのは。
それに、おばちゃんも。何故俺なんかの見舞いに来たのだろうか。聞くと、頭をぽかりと叩かれた。

「ケガしたって聞けば心配するのは当たり前じゃないか。アンタ、アタシを何だと思ってんだい」

「いや……その……ごめん」

謝る。すると、おばちゃんは驚く。

「いつもの憎まれ口が出ないたあ……こりゃ余程の重症だね」

ああそりゃあね、と俺はケガの状態について説明をした。
しかしおばちゃんは、俺の説明を聞いた後「そっちじゃない」と言う。
何が違うのか、聞いてみても答えてはくれない。

しばらく俺は寝転びながら、天井を見上続けていた。

そしてふと、おばちゃんにとある事をたずねた。昔から不思議に思っていたことだ。

「なあ、おばちゃん。おばちゃんは何であの旅館を続けてるんだ? 正直、おばちゃん程の腕ならそこらの有名店でも十分に通用するだろうに」

「……ああ、そんなことかい」

言うと、おばちゃんは答えてくれた。

「そりゃああんた、あの荒くれ共に食いものを与えるためさ」

「与えるって……」

突っ込むがおばちゃんはかかかと笑うだけ。

「他に誰が居るんだい、あんないかにも「気質じゃありません」な顔をしている奴らに、酒と旨いもんを振舞うっていう物好きが」

「いないなあ」

お断りされる店も多いとか。そういえば打ち上げや何かの時、盛大に騒げる店といえばあそこしかない。

「それにあいつらも旨いもん食ってりゃ暴れないだろ。男は胃袋をおさえられると弱いからねえ」

「……まあ、確かに」

あの店で料理作ってるおばちゃんには、勝てる気がしない。
他のヤツラもそうだろう。おばちゃんの料理は実に多彩で、中には「おふくろの味」をしたものもある。
遠征工事の時には、「あの煮物が食いてえなあ」と呟くもの多数だ。

「それに、アタシも元は気質とはいえない身だからね。すくい上げられた恩もあるのさ。まあ、気が合うってことさね」

「あの空間が好きだと?」

「むしろあいつらとアタシは同類だからね。せっかく料理振舞うなら、好きなヤツら相手の方がいい。ま、腐れ縁ってのもあるけどね」

戦災のせいで田畑を焼かれ、食う者に困ったもの同士の縁だと言いながら、また豪快に笑う。

「最初期に使っていたのが、あのボロやなのさ。思い出すねえ、設立当初の時とか」

網設立時、最初は10人程度だったらしい。しかし誰にも料理が出きなかったとか。
いざといい、名乗りあげたのがおばちゃんだった。

「あの時は正式な組織員が少なかったからね。実働は5人程度。ま、それなりに戦い方はしっていたから、少なくとも何とかなったけど」

「無茶するなあ」

群れをなして襲ってくる山賊相手に、よくその数で戦えたものだ。生命は惜しくなかったのか、聞いてみるとまた笑われた。

「テメーのタマ張らないで、何を張るってんだい。それに、いつも後ろには人がいたからね」

「……農民?」

「……ガキさ。戦災孤児。特に昔はひどいもんでね。今もあるが、労働力にと子供を攫っていくやつらがいたのさ。今は火の国の北方あたりが怪しいらしいけど」

人が消える噂が流れている。十中八九大蛇丸なのだが。

「守りたいから?」

「ああ。時には……殺しもしたね」

おばちゃんは再びリンゴを手に取り、皮を剥き始める。

「許されはしないだろうね。ザンゲツのやつもそうさ。死んでいった者もいる。そんなアタシらだが、ただひとつ共通してる点がある」

それは、と聞くとおばちゃんは笑った。

「選んだ道を後悔しないことさ。死んでも殺しても、悔いはしまいと。全て背負って前に進もうと………そう、決めたのさ」

「助けるために?」

その問いに対して、おばちゃんは笑顔を返すだけ。

「きれいに生きられたら、ねえ。それでいい。だけどそれだけじゃあ、届かないものがある」

剥いたリンゴを手渡される。皮が無いので、手が汚れた。

「汚れる覚悟がいるんさ。人を助けようって行為にはね。その覚悟無しに、綺麗事だけ並べても……誰も、救えるワケがない」

じっと、おばちゃんはこちらを見る。

「あんたが、自分の正体を隠してる理由は聞かない」

「………!」

おばちゃんの唐突な言葉に、俺は驚く。

「あんたは文句を言いながらも、あの宿に泊まってくれている。料理も旨いと言う……馬鹿みたいだけど、息子のようなものだと思っている」

「……おばちゃん」

「だから、おせっかいだろうけど言っておこうか。生きるために何をしてはいけないのかっていうことを」

視線が真剣なそれに変わる。視線の強さが全く違う。
重圧すら感じた。

「―――自分の気持に嘘をつくな、生命を惜しんで大事なものを見失うな―――その、二つだけだ」

「……!」

「それさえ守れば、きっと最後には笑って死ねるさ」

そして終わりよければ全て良しさね、と笑う。

「――やれやれ、どうにも説教臭くなっちまったね」

「……いや、ありがとうおばちゃん」

「ふん、どういたしまして。こんな年寄りの説教だけど、役にたったかい?」

笑って問われた。俺も、笑って答える。



「ああ、とっても」














夜。

俺は全身が痛む中、取り寄せてもらった装備を確認していた。
体調は未だ戻らず、万全とはとても言えない。むしろ万全の半分にも満たないだろう。

―――だけど。

「よしっと………で、そこの人?」

装備を確認した後、俺は部屋の外で隠れている人物に声をかける。

「……ばれてたか」

廊下の方、部屋の入口の横に隠れていたのはザンゲツだったようだ。観念して部屋の中へと入ってくる。

まさかとは思ったがと前置いて、訪ねてくる。

「……本当に、行くのか」

「―――行きます」

「そうか……国境の忍び、今は一人だけだ。だが網としては手は貸せんぞ。増援も無いと思え」

今木の葉の暗部と正面切って事を構える気はない。そういうことか。
そんなのは分かっている。

「もとより承知の上ですよ。それよりも一つだけ、聞きたいことがあるんですが」

何だ、と言うザンゲツに、俺は聞いてみた。

「今回の木の葉の行動……あなたは正しいと思いますか」

「正しいだろうな」

迷う素振りも見せず、ザンゲツは即答する。

「話からすると、巫女の血はこの上なく貴重な血継限界となるだろうな。ならば求められることは必然。木の葉の暗部が自国を守るため、その力を求めることは何も間違いってわけじゃない」

「世界を滅ぼす化物は?」

「ここ数百年は現れたことがない。そんな事件も起きてない。忍びは現実主義だ。世界を滅ぼす化物とか、そんな非現実的な空想かもしれないことを信じるやつはいない」

「……しかし、自国を守るため、ですか」

「そうだ。自分の国の人間を守るため、忍者は最善を尽くす。自国で流れる血を防ぐため、他国に血を流すことを強いる。それは決して、おかしい考えなんかじゃないぜ。
 守るべきものを守るためには、力が必要だ……いったい何処の誰が自分の大切なものより見知らぬ相手を気遣うんだ?」

「……それが正しいと?」

「いや、正しくはないな。だが決して間違いってわけでも、ない。俺は色々な国に行ったことがあるが……どこも同じだ。誰も彼もが自分の正義のために戦っている。
 信じるべき自国の民の平穏……それこそ、お前が鬼の国で見た、子供達の日常、あの光景を保つために戦ってるんだ。
 他国に侵されないためにな――だから、何処の誰が悪いからって話じゃあ、ないんだ」

守るために己を汚す覚悟。戦いの渦に落ちて行くという覚悟。
殺し殺されに参加するという覚悟。

ザンゲツはただ、と付け加えて言葉を続ける。

「……それでも、その揉め事や戦に巻き込まれる、力のないモンはたまったものじゃないよなあ」

渦は当事者だけでなく、周囲のものを巻き込むものだ。ザンゲツは顔をしかめながらそう言った。

「それを防ぐため……それが、アンタが網を立ち上げた理由か?」

「あん? ああ、よくある、立ち上げた確固たる理由ってやつか? ……そんなもんはねえよ」

ただ俺は、復讐したかったんだと呟く。

「誰に?」

「――神様とかいうやつに復讐してえのさ。くそったれの神様に。あんたが助けなかったやつらを、俺が助けたぜって、『アンタはほんと無能だな』、って見下してやりたいんだ」

小さい男だろ、と自嘲する。それだけが理由というわけでもないだろうが、そういう思いも含まれているのだろう。
若干照れている様子を見るに、他にも何か、色々と理由があるはずだ。

仲間のためとか、正義のためとか。そういう、シラフでは話せない理由が。

「……それはまた」

「変か?」

「変だが……そういうの、嫌いじゃないです」

色々な意味で変人だと思う。とんだ意地っ張りだとも思う。
だが、その反骨心と歪みは、正直嫌いじゃない。

「俺には、何もかもを覆す力はねえ。だが、何も出きないって訳でもねえ」

事実、そうだ。手を出せない状況を作り上げ、助けられる者を助けているザンゲツ。

「一端振り上げられた力は、力でしか止められない。だから、その力を振り上げようっていう環境を――土壌を変える必要がある」

「だから生命を張って、道を作る?」

戦災孤児を、戦災で苦しむ人達をまとめ、居場所を作るのか。
そう聞くと、ザンゲツは笑って頷いた。

「道がつながれば、交流は増える。互いに互いを知れば、争いは避けられる」

古来より、戦争が起こる原因のひとつとして上げられるのは、相互の不理解だ。
それを無くすために、道をつなげて、誰かが誰かと接する機会を増やすのだ。

しかし敵も多い。賊の脅威も忍びの脅威も、未だ消え去ってはいない。

「……権力も何も持って無いんなら。張れるのはただひとつだけだぜ。そいつを惜しんじゃあ、場は動かせねえ」

――場に出せるカードはひとつ。自らの生命だけか。

「……そうなんでしょうね」

――俺は臆病だった。殺す覚悟もなく。死ぬ覚悟も無く。ただ漫然と、力を得るために戦場にでようとしていた。

(今、気づけて良かった)

知らないままであれば、いずれは殺されていたかもしれない。

(何かをしたいのであればそれを理由に言い訳をしちゃいけないんだ)

自分の身を守るだけならば、その覚悟も要らないのかも知れない。
だが、観客ではなく、自ら舞台に出ようとするならば。
一度許せないものがあって、それを許さないと叫び止めるには。守りたい何かができたのならば、身体を張って血に汚れる覚悟を持たなければならない。

俺は用意した封筒をザンゲツに渡す。

「何だ?」

「辞表です」

脱退申請の紙だ。網を巻き込む訳にはいかない。


「……却下だ。俺達には何もできねえが、知らんフリをするってのもねえ」

「しかし」

「揉め事になっても、何、どうにかしようじゃねえか」

「迷惑がかかると思いますが」

「……そうだな。ならひとつだけ、頼みごとがある」

「なんでしょう」

「生きて帰れたのなら、ひとつだけ。俺の頼みごとを聞いてくれや」

「……了解」

「あともうひとつ、お前がそこまでして巫女の娘を助けに行く理由は、いったい何だ?」

「―――そうですね」

自分の小指を見つめる。小さく、柔らかく、白い―――女の子の指。その感触が、心に刻まれている。
そしてもうひとつ。



「―――です」













そうして、少年は駆け出した。
腕を吊ったまま、痛みに顔をしかめたまま、それでも全速力で。

残されたザンゲツはひとり、夜空を見上げながら先程の少年の言葉を思い出し、笑った。


「生きて帰れよ。うずまきナルト」





















鬼の国の地下にある牢。
そこで、菊夜と紫苑は入れられていた。手足は“根”特製の捕縛用の鋼糸で縛られ、菊夜が抜けだそうといくらもがいても、びくともしない。

その横で、紫苑は自分の身体を抱きしめ、うつむいていた。
捕まったあの日から、もう4日が経過している。約束の3日は過ぎたのだ。

密かに、戻ってくるかもしれないと期待していた紫苑。だが約束の期日を過ぎても、未だ現れないイワオ。
あの忍びの告げたことは正しかったのだと、そう思い込んでしまっていた。

「紫苑様……」

「……もう、よい」

お主だけでも逃げよ、と紫苑はいう。

「そんなこと、出来ません。それに……」

「妾のことは心配するな」

あの薬もある、と紫苑は懐を叩いた。
これは、幾代か前の巫女が作り出した、自らの力を誰かに悪用されないためのもの。
薬により体内の経絡系をこじあげ、その力を以て何もかもを消し去る、いわば最後の手段だ。

「しかし、母上が死んで、2年か………」

長かったのか短かったのか、と紫苑はおよそ少女には似つかわしくない顔で嘲る。

あの日、あの夜に起きたことは当時5歳だった紫苑の脳裏に鮮烈に刻まれている。
正体不明の黒い……怪物、化物としか言いようの無い何かが封印の祠より飛び出したのだ。

母はそれの流出を防ぐため、生命を賭けて立ち向かった。
最後、決死の封印術は成功したが、母・弥勒の傷は深く、紫苑に「ごめんね」とだけ告げて、あの世へ旅立ってしまった。

「それにしても、あれはいったいなんだったのでしょうか……」

「……口伝でしか伝えられていない、忌むべき存在。妾も、その正体については知らされておらなんだ」

あまりに急な復活。
その化物について、母は知っていたようだったが、伝えられる前に死んでしまった。

「『終にして始まりを司るモノ』。母上はそういっておったが……今は考えておる場合ではないな」

「……はい。ですが、あいつらは……!」

母が死んだ後、その報を裏で知った周辺の小国の忍び達は、巫女を確保しようとした。
それを防ぐため、菊夜も護衛を強化した。だが数が多く、一年が経過した後には、事態は深刻なものとなっていた。

「初めは木の葉の忍びということで安心したのですが……」

三代目火影の人柄は、表向きでも広く知れ渡っている。
だから、力を貸してくれるという提案に、国主と菊夜は頷いた。
忍びの攻勢による人的被害はひどく、国主は特に一も二もなくその提案を受けた。

「……ですが、まさか代わりに巫女さまの能力を求めてくるとは」

「国主殿も、ようも頷いたもんじゃ」

取引は簡単なもの。

『これから先も、木の葉による鬼の国への戦力提供は続ける。だが代わりに、巫女の能力が欲しい』。

自国の戦力に乏しい鬼の国、他国への干渉も禁じられている鬼の国には、これ以上ない提案に思えたのだろう。
ただでさえ、外の国の情報が入りにくい。そんな中、随一と言われる木の葉の援助を受けられるのであれば、断る理由があろうはずがない。
現在の国主は臆病で、他国に伝え聞いた戦災のひどさに、いつ自分の国がそうなるかもしれないと怯えていた。
確かに、盟約はある。だが約束など、戦況次第で容易く破られるもの。

今までは戦略的優位性もないため、鬼の国は放置されていたが、もしもう一度忍界大戦が起きれば。
そして戦争が激化すれば、その限りではない。

「……問題は、あの者たちが木の葉暗部で……しかも“根”と呼ばれる集団だったわけですが」

“根”の悪評は、菊夜にしても伝え聞く程だ。他国の血継限界を集め、時にはつぶしもしているらしい。

「秘密裏に、この力を利用されるとも限らん。その時は……」

懐にある薬、これを何とかして飲まなければならない。だが、確実に死んでしまうだろう。
紫苑は死ぬという事実に、全身を震わせた。

「紫苑様……」

「……死ぬのは、確かに怖い。だが、今まで守り通してきた巫女の理念……妾がそれを破るわけにもいかない」






「それは困るな」






「っ、何者!?」

いつの間にか牢の入り口にいた影に対し、菊夜が叫ぶ。

「……聞かずともわかってるんじゃないか? まさかそんなモノがあるとはな」

聞けて良かったよ、と嘲るように影は言う。
その声を聞き、手練の方ではないと、菊夜は悟る。威圧感が全然違うからだ。

「それに、今更そんな事を言い出すなんて、ね」

「……何が、じゃ?」

「いや、巫女の理念とやら。君はもう、破っただろうに」

イワオを巻き込んだのは一体誰だったかねえ、と影は肩をすくめる。

「っつ、それは……!」

「薬を飲む機会なんて、いくらでもあった筈だ。だが、君は飲まなかった」

「……」

紫苑は黙り込む。

「随分と思いつめていたと聞くから、何か企んでいるとは思ったけど」

「くっ!」

悔しげに紫苑は歯噛みする。
実はといえば、紫苑はイワオと出会ったあの日、このもの達を道連れに死ぬ気だった。
囲まれる状況に誘導し、そこで薬を使い、自らの生命を以て忍び達を葬るつもりだった。

だが、出会った。出会ってしまった。


「死にたくないと思ったんだろう? ひょっとしたらと考えたのか。ま、結果はこんな風になったけど……いや、そうか」

そこで影は肩をすくめた。

「巫女の本当の能力は……ああ、そうだ! 巫女を守りたいと思うものに、巫女の死の運命を押し付けることだったね! 成程成程、そうかそうか」

「っ、違う!」

「いや、隠さなくていいよ。そうだね、巫女といっても人間だ。そう考えることも無理はないね……ま、イワオは災難だったろうけど、あの世で満足してるんじゃないか?」

何しろ守りたい者の代わりとして死ねたんだもの、とわらう。

「……違う、違う、違う!」

紫苑が叫ぶ。違うと叫ぶ。事実、紫苑にはまだそこまでの力は無い。まだ未熟で、巫女としての力は顕現していない。
だが、事実イワオは死んでしまった。自らの代わりに。発動したことの無い能力、母に聞いた力。

大昔、自らの力を利用しようと侵入してきた者たちを、尽く撃退したという巫女の力。
有り得ない被害に、人はこういった。

“あの国には鬼が棲んでいる”と。

「……ちが、う」

叫びながらも、紫苑の声は小さくなっていく。本当に“発動していないのか”と聞かれ、発動していないと返すに足る証拠がどこにもなかったのだ。

「逃げられたらそれでよかったのに。でも、捕まってしまった。はっ、これ以上ない犬死だ」

滑稽すぎて涙が出てくると、影は嗤い続ける。
巫女の心を折るために。反抗心を削ぐために。

「まあ、死んで当然だったんじゃない? 所詮あいつは……ぐっ!?」

最後の言葉を告げようとした影。その横から、何かが襲いかかった。
だが影も素人ではない。直撃する寸前に攻撃を防御し、そのまま横に飛ぶ


「――何の真似だ、お前ら」

先程までの軽さは微塵もない。忍びの殺意を以て、暴挙に出た者へと言葉を叩きつけた。



「答えろ、サイ、シン!」

「……外の者であるお前に、呼び捨てにされる筋合いはないぜ」

「はっ、一応俺は“根”の協力者だぜ? それに巫女の自殺を防いだんだ。こんなことをされる謂れわないと思うが」

「……お前と話す言葉は、ない!」

叫びながら、サイは術を発動させた。

超獣偽画。サイが持つ、特殊な忍術である。


―――だが。



「くっ!」

まだ身体も未熟で、術も未熟な二人の攻撃は、中忍レベルである影に対しては通じない。

尽く避けられ、やがて二人は追いつめられていった。

「―――くそっ」

サイは煙玉を投げ、牢屋前の狭い廊下を煙で充満させる。

「……くっ、味な真似を!」

視界が防がれた影は、攻撃を警戒し天井へ飛び上がる。

そしてチャクラで吸着し、逆さになる。


「何処だ……?」


影は超獣偽画を警戒していた。
あの術は攻撃の際の気配を読みにくく、万が一ということもあり得るからだ。


(仕掛けてこないな……、しまった!)


気づいた影が、牢屋の方を見る。



そこに、巫女と護衛の姿は無かった。

















「こっちだ!」

シンを戦闘に、サイ、紫苑、菊夜は城の中を駆ける。

「お主達……」

「……ほら早く、逃げるよ……!」

気づかれれば確実に殺されるだろう。その前に、逃げなければならない。

「お主達、どうして……」

「………」

紫苑の問い答えず、兄弟は無言のまま紫苑達を誘導する。菊夜は紫苑を抱えながら、その後に続く。
やがて、4人は城から抜け出すことに成功した。


全速で森の中に駆け込み、姿を隠す。

やがて岩陰で4人は休み、一息ついた。

「……真蔵、才蔵……」

「……何も言わないで欲しい。いや、こっちから言わなきゃね」

そうすると、二人は頭を下げた。

「ごめん、君たちを騙していて」

「……仕方がなかった、なんて言えないけど……」

イワオのことを言っているのだろうと紫苑は察した。
瞬間、怒りがこみ上げる。だが悪いのはこの二人ではない。

「あいつが死んだのは、妾のせいだ。お主らが言うような事では……」

「……でも! 俺達のせいで、あいつは死んだ! もっと前に、勇気を出して言っていれば……」

「兄さん」

「……くそ、“根”は、木の葉は……そんな組織じゃないって、信じていたのに」

人々を救うため。ダンゾウ様の手と足になる。そう聞かされていた。
だが、やっていることはなんなのか。こんな少女をさらって、本当に正しいのか。シンとサイは迷っていた。

そこで、聞いたのだ。部隊長と牢屋にいた影が交わしている話を。

「あいつら、紫苑のことをなんとも思っちゃいない……道具みたいに使って、術だけ引き出して……殺す気だ」

「……やはり、そうなのですか……」

特殊な力はそれが希少であるほど望ましい。多ければ研究され、対抗策を練られる。
だからこそ、自らの組織だけで術の秘伝を独占するつもりなのだ。

「……だが、見つかればお主達も殺されるぞ」

「……それでも、あのまま見過ごすなんてできないよ!」

シンが悲痛な叫び声を上げる。
サイも、頷いた。

「このまま逃げよう。国境を越えて、網とかいう組織の本部へ行けば……!」


きっと、なんとかなる。


―――そう、続けようとした時だった。




「―――行かせると思うのか?」


冷たい、声が鳴り響く。

そこから先は、刹那。

僅か数秒で、状況は一転した。

「ぐっ!?」

「うあっ!?」

背後から忍び寄って、一撃。それだけで、二人は戦力を削がれた。

骨の折れる音が夜の森に響きわたる。

「……っ、あっ」

「……ふ、は……」

「考えなしもここに極まれりだな。お前達程度の力でどうにかなると思ったのか?」

影は冷たく言い放つ。

「やれやれ、監視に加え、互いの絆を深めようと、一緒に連れてきたのは失敗だったか」

「……なに、が……?」

絆を深める。その意味がわからない、と兄弟は苦しみながらも疑問に思った。

「―――まさか、お前たちが我らを裏切るとはな………最終試験を早めなければならんか」

判断は間違えてなかった、と呟く。
最終試験。そう言われた二人は、言葉の意味が分からずに、しかし恐怖に震えた。

今まで、色々な敵と戦わされた二人。口寄せで呼び寄せられた化物、他国の下忍、色々な敵と戦わされた。
その最後、最終試験とはいったいなんのだろうか。

どうも反抗心を削ぐために、何かをするようだ。誰かを殺させるようだ。
しかし、いったい誰を、と考えた時、影の声が紫苑達に向けて飛ぶ。

「――そっちも、動くなよ。動けば殺す」

「くっ!」

「それとも、薬とやらを飲んで薙ぎ払ってみるか? こいつら諸共に」

兄弟を見下ろし、影は言う。そのまま殺気を全身に巡らせ、威嚇する。

「あの力のコントロールを可能とする術……それに対して、“ツテ”も出来たようだしな。反抗するとうのならば、殺す。お前と一緒に遊んでいた、あのガキ共も、一人残らず殺してやる」

影は何の感情も含めず、言う。

「なっ」

紫苑は意味を理解し、息を飲んだ。

――これは脅しだ。そんなことは、できやしない。だが、もし本当にそうならば? 
そう考えてしまい、紫苑と菊夜は硬直する。その殺意と、無機質な悪意に気圧される。

「――密約も、無しだ。ああ、そうそう、もしかしたら周辺の小国に、この国の情報が流れるかもしれんな」

脅しに脅しを重ねる影。

「お前のせいで、大勢の人間が死ぬことになる。あの小僧のようにな……どうする? ――選べ」

こちらとしては、どっちでもいい。そう、告げた。

「……代わりに、頼みがある」

「何だ?」

「この二人を、許してやってくれ」

「―――ああ、分かった」

嘘だ。菊夜は答える男、その言葉の裏に隠された悪意を感じた。
それに裏切り者を放置すれは示しがつかない。

こいつが、そんな約束を守るわけがないと、菊夜は考える。
だが、どうしようもできない。自分の忍犬の能力と特性は、共に護衛の任務にあたった時に話てしまった。今では迂闊に過ぎたと思わざるをえない。

自分がこんなに無力だとは、こんなに愚かだとは、と菊夜は己の無力と情けなさに涙を浮かべ、下唇を噛んだ。

「駄目だっ……!」

「紫苑……!」

痛みを顔をしかめながら、悔し涙を浮かべ兄弟は叫んだ。

手を伸ばすが、届かない。


面をつけた根の部隊長、影の手が紫苑へと伸びる。


(―――すまん)

紫苑はその手を見つめながら、詫びる。

自らを守るために、裏切らざるを得なかった……イワオを見捨てて逃げ出すという決断をさせてしまった、菊夜に。菊夜とて、非道の輩ではない。母上との約束のため、苦渋の決断をせざるをえなかったのだろう。あの後、随分とせめてしまったが、原因は妾にあるのだ。どうして責められようか。

骨を折られ、痛みに顔をしかめ、助けられないと悔やみ涙を見せる、真蔵と才蔵に。願わくば、彼らの未来に光あれと祈る。巻き込んでしまった。あの日、妾が死んでいれば、それで全てが丸く収まっていたのだ。すまないことをした、と心の中で詫びる。

―――そして。自らの弱さのせいで、死なせてしまった、大好きだった少年。
馬鹿で、それでも明るくて。ださくて、それでも格好良くて。
よく分からない、でも一緒にいて幸せに思えた、あの少年に。最後に、思い出をつくるきっかけをくれた、あの少年。

(イワオ……)

あの世にいったら、謝るから、許してくれ。
そう思いながら、紫苑は両の目から涙を流した。

(また、一緒に遊ぼうな)

そして、影の手が、紫苑に触れる――――――














































―――その、寸前に。














「―――そこまでだ」
















紫苑の耳に、何処かで聞いた、誰かの声が届いた。









































「イワ、オ?」


「待たせたな、紫苑」


約束を果たしに来た、と笑いながらイワオ――――メンマは言う。






















「――――馬鹿な」


あれだけのケガを受けて生きていたのもそうだし、死は免れたとしても、大怪我をしているはず。

その男が、何故この場に現れる。適わないことも分かっている筈だ。


















「恥を、そそぎに来た」


お前なんかに負けた恥を、と言う。



「たった三日程で、何かが変わったとでも?」

影は嘲り、問う。

だが、メンマはその言葉にもゆるがず答える。


「男子ならば。三日あれば、世界を揺がすには十分だ」










「それで………本当に我らに、勝てると思っているのか」

周囲には増援の影もある。全員で5人と、1人。

皆がそれなりの力を持っている、暗部の集団だ。一対一でも適わないのに、何故この場に出てくるのだろうか。隠れていればいいものを。

再び影が侮蔑の表情を見せる。










「勝てるかどうかは知らない。ただ、俺は約束したんだ。絶対に死なないと、帰ってくると約束した」


その約束を果たすだけだ。

小指の感触は鮮やかに残り、背後には涙を流す女の子。

果たすべきものは全てここにある。そして、俺の意地もある。

此処に来る前に決めた、譲らないもの………通すべき意地を。





その全てを嘲り、暗部は冷然と言い放つ。

「……理屈に合わない。そのような約束、守れるとでも思っているのか?」

理に則って行動する暗部には、理解ができないのだろう。

たった一人で、勝てるわけがない。死なないわけがないと思っているのだ。

そんなことは知っている。戦力差など百も承知だ。


だが、そんなことは問題じゃない。

理屈とか、勝算とか、見るべきところはそこじゃない。

大切なモノは理屈じゃない。


「戦場の理も忘れ、ただ己の望むままに挑むか。戦術も己の力量も、相手の恐ろしさえも見誤るとは………本当に愚かだな」


理屈ではそうだ。だけど、理屈だけでは人は動かない。

「言ったはずだ百も承知だと――――――だがな。男子が約束を守るということは…………理屈とは関係ないんだよ!」











言葉は借り物、それでも憧れることは変わらずに。

代わりに賭けるは、この生命。己の出しうる全力を以て。

己の無力を嘆かずに、無力である己を変える。


柄じゃないし、適任でもない。だが、他に代わりがいないのであれば。この場に現れないのであれば。


「果たすと言った! 俺が誓った! 正義の味方は現れず、法の守りも存在しない! ならば俺が、代役を演じよう。いつか現れる、英雄の代わりに!」

憧れを体現するため、約束をまもるため、力無き者を蹂躙しようとするこの敵を―――倒す。


「だからそこをどけ悪党共! その子達は困っている! 血に塗れた汚い手で、触るんじゃねえ!」


そうして、軛を外す。今まで使ったことのない力。

使いこなせるかどうか、分からない力を。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」









叫び、チャクラを練る。

『――――――!』

内なる叫びも、全身に走るチャクラと激痛にかき消された。

腕と肋に激痛が走る。だが、止めない。止まろうはずがない――――!

































[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 劇場版・Ⅱ その終
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/16 22:15



「あああああああああああああああああああああああっ!!!」



叫びながら、メンマはチャクラを全開にする。

疑似人柱力のチャクラ。九尾とはまた少し違う、だが人の身には強大なチャクラを。

力がみなぎる、それと同時に痛みも強くなる。常人ならば気絶しているほどの痛み。

そんな志を折るほどの痛みの中、しかしメンマは膝を折らない。


『――――』


心の中。肉体の持ち主が発する怒りを感じ、童女の狐は沈黙する。何という怒りか。

憎しみもなく、淀みも無く、卑しさも無い。

あるのはただ、許せないという、死なせないという、理不尽に対する怒りのみだけ。

『――――』

狐の心が揺れる。出発する寸前の事を思い出す。








「もって、10分?」

出発する寸前。メンマはマダオにあることを聞いていた。

「それ以上は戦えない。腕が特に酷いからね。自己治癒といっても本来のそれじゃないし、痛みの方が強くなる」

戦っている間は地獄の時間になるよ、とマダオ言うが、メンマはそんなことはどうでもいいと笑った。
聞きたいのはそこではないと。

「……やると決めたならば、方法を探すだけと言ったな。しかしお主の無茶は愚かに過ぎる。その生命、ひとつしか無いだろうに」

理由が分からない、とキューちゃんがメンマに問いかける。

「分かっているから行くんだよ。紫苑達の生命も、ひとつしかないからね」

失くした後で後悔するよりは、生きている内に何とかしにいく、とメンマは笑った。
具体的な解決策もなく、行き場任せの成り行き任せ。それでも何とかしたいという気持ちを前面に押し出して、一歩踏み出そうというのだ。

対するキューちゃんは尚更分からない、と混乱を深める。それは理屈ではないのではないのか。そう思ったのだ。

「―――分からん。お主だけは、心底分からん。怯えていないわけでもなかろうに。死ぬのが怖いのに、死地へと赴くのか。対価もなしに生命を賭けるのか」


九尾狐は理解できない。今までにも、多くの人間を見ていたが、こんな人間は見たことが無い。
知らぬものを理解できぬように、目の前にいる人間は正しく理解不能。

怖がりながらも強がりを見せる。臆病でありながら、それだけではいられないともがく。
矛盾しているように見えた。理屈ではないように見えた。

だがら再び問うのだ。

「―――いくら尊かろうと、所詮は想いだ。生命を賭ける価値はあるのか? ―――あるいは巫女の力を、利用しにいくのか」



人は、男は、メンマを名乗る誰かは、その問いかけに首を振った。

―――巫女を助けにいくんじゃない。死なせたくない、ダチを助けにいくんだと。だから、賭ける価値は十分にあると言った。

『――――』

知らず、狐は心動かされた。目の前の人間が、何を見ているのか分からない、何を思っているのか分からない。

ただそれは尊いものだと思えた。そして、自分はどう見られているのだろうか。
巫女ではなく、ダチ。ならばワシはなんなのだろうか。どう見られているのだろうか。

そう、思うようになった。





―――そして、時は冒頭に戻る。

狐は言う。女が言う。戦おうとしている、男に言う。

『―――行くのか』

「―――行くのさ」

メンマチャクラは既に全開だ。メンマの頭の奥を、激痛が鳴らす鐘の音が蹂躙する。
だが少年は拳を上げる。チャクラを足に集め、力を込める。

力の矛先である暗部達は、驚愕の表情を浮かべながら目の前の少年を、巫女を拉致するのを防ごうとする敵を、見つめていた。
部隊長である影であっても、それは例外ではない。有り得ないものを見る目で、少年の全身から立ち上る莫大なチャクラを見つめている。

『―――そうか』

ふ、と。少年の中、童女の狐が笑う。

男、いや女であっても心奪われるほどに、可憐な微笑。

己でも意識せずに、ただ心の奥から沸き上がってきた、訳の分からない喜びに身を任せての笑みだった。

『……往って来い。見ていてやる。ただ無様な姿を見せたら―――承知せんぞ?』

柔らかく、しかし凛としたものを含む声で、狐はいった。女はいった。

戦おうと言う、男の背中を押した。




押された男―――イワオは、メンマは、うずまきナルトは。

「応!」

叫び、チャクラを全力で練る。身体を活性化し、身体能力を上げる。

回れ回れと己の中のチャクラを全開にし、ぶん回す。




同時、地面が爆発した。

地面が爆発するほどに強く踏み込まれた地面が、押され弾けたのだ。そのまま跳躍した少年は、消えたかと錯覚するほどの速度で疾駆する。


「っ速――――」

肉薄する影。

予想外の速度で間合いに入り込まれた暗部は、身をかわすこともできずに、殴り飛ばされた。
ただの一撃。だが突進の速度が載せられた拳を顎に直撃された暗部の身体は、まるで蒸気車に跳ねられたかのような勢いで吹き飛ばされる。

途中大木に身体を打ちつけ、回転しながら、森の奥へと消えていった。

殴った本人、メンマは跳躍した勢いのまま地面へと着地する。

しかし突進の勢いを殺し切れなかった。地面を両足で削りながら、止まろうとする。

そこに一瞬の硬直が生まれた、逃すはずもなく、暗部がそこをつく。

周囲の4人が、硬直したメンマを包囲しながら、クナイや手裏剣、千本と鋼糸を投擲する。


だが、メンマが体勢を整え、飛び上がる方が速かったため、放たれたクナイその他はは標的に当たることなく、全て空を切った。

「―――上!」

つられ、暗部達も視線を上にあげる。
だがその直後、メンマが飛び上がった地点から爆発音が聞こえる。

爆圧もない、殺傷力もない爆発―――だが白い煙を発する。

メンマが、飛び上がる寸前に煙玉を複数放っていたのだった。

白い煙は広がりながらも、滞留し続け、たちまち森の中は白い煙に覆われていく。

地面にいた4人は視界が防がれ、敵の姿を見失ってしまう。

舌打ちをしながらも、周囲を警戒、白い煙にまぎれての奇襲を警戒する。

「何処だ………っ!」

上ならば視界が広がるかもしれない。そう判断した暗部が樹上へ跳躍。

そこで、町がある方角へと逃げていくメンマの姿を見つけた。見れば巫女とサイ、シンを抱えている。

「―――させるか!」

逃がしはしない。十分に追いつける距離でもあった。
人を抱えているせいで、走る速度が遅いためだ。背中もがら空きとなっている。

その姿を見た暗部は、所詮は子供、異様なチャクラをもってはいるが、戦術判断が甘いと考え、攻撃を決断。

二人一組となり、少年の無防備な背中へ近接、一斉に攻撃を加えようと、瞬身の術の印を組もうとする。



―――その寸前。

「俺は後ろだぜ?」

聞こえるはずの無い声。それが背後、すぐ後ろから聞こえる。

驚いた二人は術を中断し、身体ごと振り返ってしまう。

それと、同時に掛け声が森の中に鳴り響く。

「「せあっ!!」」

全身の捻転から繰り出される、遠心力がたっぷりと乗った“少年二人分”の胴回し回転蹴り。

それが、振り返った暗部の首の側部を打った。

人の腕程度の樹の枝ならば容易く折ってしまうほどの蹴りを、左右から挟まれるように受けた暗部二人はそのまま互いに頭部をぶつけ合い、気絶して地面へと落下していく。

「―――まさか、影分身か!?」

それを見た残りの暗部が叫ぶ。

木の葉流、影分身の術。しかも多重影分身。禁術を使う相手に、一層警戒を深める。
取り敢えずとして、未だ空中に在った二人の偽物らしき影分身に対しクナイを複数投擲。

空中にいた影分身は身体をクナイに貫かれ、すぐ後にぽんという音を立て消える。

「こちらも影分身……そこだ!」

だが暗部は消えた影分身に驚くこともなく、流れるような動作で次の攻撃を繰り出す。

視界の端、僅かに捉えた影に対して起爆札をくくりつけたクナイを投擲。

しゅん、とクナイが飛び、捉えた影のすぐ横に生えている樹へと突き刺さった。

―――爆発。

人一人ならば余裕で吹き飛ばせる程の爆圧と、森の動物を軒並み叩き起こす爆音が、夜の森を揺らした。

メンマはその爆発の余波を避け気れず、吹き飛ばされ地面へと転がる。

そこに、暗部が追撃を仕掛けた。

背負った刀に片手をそえ、目の前で印を組む。


―――木の葉流、三日月の舞。


そっちがそうするなら、こちらもこうするまでだと言わんばかり。

暗部の身体が3体に分かれる。

三日月の舞は、自らの影分身を使い、敵の死角、三方から同時に必殺の刃を繰り出す木の葉流忍術だ。

同時に繰り出される攻撃は避け用も無く、普通ならば逃れる術などない。

だがメンマ普通では無かった。

その必殺の刃を真っ向から吹き飛ばそうと。全身のチャクラを活性化させ、呼気と共に前方へと放つ。

「―――――カァッ!!」

チャクラが発せられる勢いだけで、人一人を吹き飛ばす程の突風を生み出す。
その突風に吹かれた2体の影分身は、音をたてて消え去った。

―――しかし。

「阿ッ!」

本体の方はその突風に耐え、再び一歩を踏み出し、刃を振る。

振り下ろされた唐竹の振り下ろしはメンマの身体を捉えた。

服が斬られ、肉が裂かれ、血が流れる。だが刃はメンマの肩を数cm切り裂いただけで、腕を断つまでには至らなかった。

それもそのはず、メンマは刃を受ける直前に相手の方向へと一歩踏み込み、刀を殺傷能力が低い鍔元で受けたのだ。

メンマは肩に食い込む刀を手で掴み、相手の動きを封じると同時、蹴りを放った。

「ちいっ!」

暗部は刀を振りほどけないと判断し、手放し後方へと跳躍。
そして空中で素早くクナイを取り出し、投擲の構えを見せる。

同じく、メンマの方もクナイを取り出した。


―――互いに視線が合う。


「シッ!」

「はっ!」


直後、対峙する二人は同時に相手へとクナイを投げ合った。

直線で結ばれた軌道はやがて重なり、ぶつかり合う。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音をたて―――


「―――!?」

―――ることもなく。

暗部が放ったクナイはメンマの放ったクナイにいとも容易く斬り裂かれ、勢いを無くし失速する。

―――飛燕。

風の刃を纏ったその一撃は、固い岩盤をも貫通する威力を秘めている。

メンマはこの術を覚えて間もないため、術の制御は未熟だった。
だが、チャクラは有り余るほどにこめられているため、術の威力は本来のそれに勝るとも劣らない。
衝突したクナイを切り裂いてなお、勢いは衰いほどに。

クナイを投擲した直後である暗部は飛来するクナイを避けきれず、右足を深く切り裂かれた。

そのまま地面へと着地。

しかし着地した時に右足が痛み、踏ん張りがきかず、重心が後方へと傾いてしまう。
そのまま背中から倒れそうになったが、咄嗟に後ろ足でで踏ん張る。


―――そこに、今度はメンマの方が追撃をしかけた。

初手のように思いっきり地面を蹴り、メンマは目の前の暗部へと疾駆する。

だが最初の時よりは距離が離れており、またこの暗部は副隊長のため、先に殴られリタイアした暗部よりは腕もたつため、仕掛けたメンマに有利ではなく、
逆に、カウンターとして対処される、不利な間合いとタイミングになる。

「はっ!」

暗部は腰元に隠していた暗器の小太刀を抜き放ち、向かってくるメンマが到達するだろう位置へと刀を振る。

「っ!?」

だが振られた小太刀から、肉を切り裂いた手応えは返ってこない。代わりに感じたのは、空を切る感触と、前足に走る激痛だけだ。


―――そう。メンマは暗部の間合いに入る最後の一歩で急加速。

肉薄し、そのまま暗部の膝の皿を踏み砕いた。そのまま砕いた膝を足場として、上方へ跳躍したのだ。

跳躍した後は重力に従い、落ちるだけ。

そしてその勢いを利用し―――

「勢っ!」

抜き放ったクナイを暗部の頭上へと振り下ろす。

暗部は振り下ろされるクナイを受け止めるため、横に振った刀をそのまま自分の頭上へと持っていく。

鉄と鉄がぶつかる、甲高い音。だが今度は飛燕は使われておらず、クナイの方が弾かれてしまった。

しかしその直後、暗部は嫌な予感に襲われる。

クナイを受けたときの衝撃だが、軽すぎたのだ。

それもそのはず。メンマはクナイを振り下ろしたが、小太刀と衝突する寸前でクナイを手放したのだ。

そのまま、暗部の目の前へと着地。暗部の刀は上を向いているため、着地したメンマに対し、攻撃できない。

つまりは頭上クナイは囮で、本命はこちらというわけだ。

メンマは一歩、前に向けて踏み込み、大地を鳴らす。呼気と共に掌打が放たれた。

「ゲグッ!?」

超至近距離からメンマが放った左手の掌打は、暗部の鳩尾を的確に捉える。

胴部最大の急所に強烈な一撃を受けた暗部が、血反吐を吐きながら前のめりに倒れた。

―――残り、二人だ。

こちらに倒れ込んでくる暗部の身体を横にかわしながら、メンマは周囲を警戒する。

直後、しゅる、という音がメンマの耳に届く。すぐ背後に誰かがいることを感知したメンマは、その場から飛び去ろうとするが――――その寸前に捕まった。

「ぐっ!?」

首に、鋼糸が巻きついたのだ。

感知しメンマは咄嗟に左腕を差し込んだものの、右側の首は閉まっている状態となった。

ぎりぎりと絞められる鋼糸、呼吸が出きないメンマの意識が徐々に遠くなっていく。

忍者が任務の際に使う鋼糸は強靭で千切れにくい。この状況において、糸を切る以外に脱出する手立てはない。

しかしメンマの右腕はうまく動かず、左腕は首と一緒に縛られたままになっている。

これで、勝敗は決したかに思われた。暗部の方は勝ったと思ったであろう。

―――しかし。

「ぐっ、があっ………ああああああああああっ!!」

強化され、渾身の力で暴れるメンマの左腕が、束縛する鋼の糸を断ち切った。

「―――馬鹿なっ!?」

有り得ないことに、暗部の判断が一瞬だけ停滞する。
危機のあとに好機あり。相手の機を予想だにしない方法でしのげば、動揺を与えられるのだ。

意図しないがそれを成したメンマは、無意識のまま振り返り、飛び後ろ回し蹴りを放つ。

「ぐっ!」

避けきれず腕で受けた暗部が、蹴りの勢いに押され、吹き飛ばされる。そのまま、すぐ後ろにある樹の幹へと叩きつけられた。

受身を取る暇もなく、強烈な勢いで背中を打ち据えた暗部。


「―――持ってけ」

咄嗟に動けない。呼吸が回復していないのだ。

動けないまま、目の前に移る振りかぶられた少年の腕を見る。

恐ろしいほどのチャクラをこめられた拳。それが、腹を撃ち据える。


「―――終いだ!」


背後の幹ほど、暗部は殴り飛ばされた。

木の枝その他もろもろを巻き込みながら吹き飛び、横回転しながら森の奥へ消えていった。


















(初撃で一人、次に二人、今ので一人と一人)

初撃に不意打ち、即座に煙玉を放ち、敵の連携を分断。同時に、白い煙にまぎれて影分身を使い、部隊長を紫苑達から引き離して、影分身に逃がさせる。

させるものかと影分身の背後から不意打ちを仕掛けようとする二人には、逆に背後から不意打ちをしかける。俺が影分身を使えるとは、初見ではまず見抜けない。

奇襲で三人を倒し、その後は近接戦で挑んだ。近接戦になれば、向こうも連携が取りにくくなると思ったのだ。こちらが小柄な点も利用できた。的が小さければ小さいほど、誤って味方を攻撃してしまう確率は高くなる。

結果、見事に戦術がはまり、5人を倒せた。肩口は出血してるし、酷使した左腕も痛い。

万全とは言い難いが、これで残るはあの部隊長………一番の手練だけとなった。

だが、その姿が見えない。煙の中、影分身を使って、部隊長の野郎を紫苑達から遠ざけられたのは確認した。

でもその後、影分身は容易く消されてしまった。今ここにいないとなると、何処にいるのだろうか。

俺は周囲を警戒し、そしてひとつの気配を感知した。






(―――これは)



「無事か?!」




背後から、声が聞こえた。この声は―――


「ハル! 生きていたのか!」

死んだと思っていたはずのハルが生きていたことに驚く。てっきり消されたかと思っていたのだ。

「ああ。しかし、こいつら………」

「木の葉の暗部だ。恐らくは“根”の一派だろう」

「……“根”か……それより、巫女はどうした?」

「ひとまず逃がしたが……ああ、どうやら部隊長が一人、追っているようだ」

影分身の後方から、あの男の気配を感じた俺は、ハルにそう返す。

「マズイな。巫女を奪われてはたまらない……急いで、行こうか」

「ああ」


俺は強く頷き、ハルに背中を見せて追撃に移ろうとする。







「時間がない。できるだけ早く―――」


ハルの声が途切れる。直後、殺気は走った。

収束するは背中。俺の、背中だ。





「―――死ね」



黒塗りのクナイが、俺の頚動脈へ振り下ろされた。




















―――だが。刃は、届かない。


「な、ぜ……」


俺は背中から迫る凶刃を左手で受け止め、そのまま払い飛ばす。


不意打ちとは、相手の心の死角から襲うこと。すでに知っていれば、それは不意打ちにならない。ただの雑な攻撃だ。
事前分かっていれば、裏切りに対し何の動揺をさらすこともない。


とはいっても、マダオが分析した予想。あくまで可能性の高い、推測だけであったのだが……今、俺はハルの顔を見ただけで分かってしまった。
いつからかは知らない。だが、こいつは裏切り者だと分かってしまった。

俺はここに来る道中、マダオに聞かされたことをハルに向け反芻する。

「……情報を制限する役割、か」

言葉と同時に掌打を放つ。

「ぎいっ!?」

手加減した一撃はそれでもハルの鍛えられた腹筋をつらぬき、横隔膜へとダメージを与える。

呼吸が困難になったハルは立っていることさえできなくなり、その場にうずくまる。

「………何故。なぜ、分かっ、た……!?」

痛みに顔を青くさせているハルが、憎々しげに俺を見あげ睨んでくる。

「―――何故といわれてもな」

憎悪の視線を気にもとめず、俺はただ溜息をついた。
答えは歴戦の知恵者の状況分析と推測ってやつだが……それを答えることはない。裏切り者に話す必要はない。

「城へ潜み、情報収集の役割を志願し、知られたくない情報を隠す。そして流してもいい情報だけを限定的にだが流し、嘘の中に真実を混ぜることで信用を得る」

時間稼ぎのための要員。目論見通り事が進んでいれば、次に網がこの国に訪れる時は全てが終わっていたことだろう。

「考えたものだが……聞こうか、ハル。お前は“いつから”裏切っていた?」

「………ぐ、っ」

「俺も久しぶりの、いや初めての―――娑婆で。思考が不抜けていたから、気づけなかったよ」

信用をしても信頼はするな。用いてもいいが、頼るな。頼り、寄りかかればそれが無くなった時、自分のバランスをが崩れてしまう。
家族のような、掛け値なしに信頼できる者のいない俺達にとっての基本、鉄則とも言える。

戦場では、所詮自分しか頼れるものがいないのだ。

自分で物事を見聞きし、判断する。情報の分析もそう。それを、怠っていた。
情報の真贋を己の目で見極めるまでは、物事を見定めてはいけない。

だが俺は信用してしまった。挙句があのざまだ。

「―――偽の情報を流し、俺を欺いて、網を裏切って……何が欲しかった?」

クナイをこれみよがしに見せながら聞くと、ハルは素直に答えた。

「……はっ、裏切ったも何も、俺は元から“根”の協力者だぜ?」

「―――そうか」

「俺は、俺の腕を買ってくれる組織を選んだ。網みたいな組織で、はした金で生命を賭ける生活なんて真平だった!」

苛立たしげに怒鳴る。だがそんなの、知ったこっちゃない。それにおそらく、利用されているのはお前の方だ。
この任務が終われば消されていただろう。

「俺はもっと上にいける! 根を利用して、そして―――」

「いや、それはどうでもいい。聞きたいことはひとつだけだ――――一昨日のあれも、嘘だったのか?」

静かに問う。ハルは顔だけで笑いながら、本当だと言った。

「―――そうか。じゃあ………」

作り物の笑顔。何かをごまかそうとしている時の笑顔だ。

問い詰める時間も、余裕余力も。全て、無い。

今の戦闘でかかった身体への負荷は予想以上に大きく、既に体力も限界にきていた。

「―――寝てろ!」

八つ当たり気味にぶん殴る。
殴られたハルはそのまま吹き飛び、気絶した。後は裏切り者として、網へ引き渡すだけだ。

「……まあ、後があれば、だけどな………っ!」

直後襲ってきた激痛。全身をクナイで刺されるかのような痛みを感じ、意識が揺らいだ。
足から力が抜けてしまい地面へ両膝を付き、そのまま前のめりに倒れそうになる。

覚悟はしていたが、今全身を巡っているのは、その覚悟を吹き飛ばす程に激しい。意識を保つことができず、視界が白くなっていく。
このままいけば倒れ、気絶してしまいそうだった。

気絶しなくても、痛いと泣き叫び、地面を転げ回りたい。そんな衝動に駆られる。

(弱気になっている………いけない)

気の緩みで、集中力が途切れてしまったようだ。このままじゃまずい。

そう思った時だった。声が聞こえたのは。

『―――もう、止めるのか?』

挑むような口調。だが楽しげに、心の中の童女が聞いてくる。
もう止めるのか、そこでおしまいか。そう聞いてくる。

「―――まさか」

残る敵はひとりだけ。相手はそこらに寝転がっているやつらとは一味違う、上忍クラスの使い手。

こっちは満身創痍で、今にも倒れそう。

(だから、どうした)

ここで逃げるわけにはいかない。行かなければならない。

『――――もう、止めるの?』

「―――まさか」

首を振り、否定する。今ここで止めるわけにはいかない。

残る力を振り絞って、俺は立ち上がる。

(大丈夫、大丈夫………ほら、もう、大丈夫)

そう、自分に言い聞かす。やせ我慢と自信のない根拠だが、それは男の子の特権。

ここで弱音ははかない。自信がないと逃げ出したりしないし、痛みに負けて、倒れはしない。

まだ、ここからが本番なのだから。

「――――!」


俺は全身の力を振り絞って叫び声を上げる。気合を入れなおしたのだ。

そのまま、紫苑達がいる場所へと走り出す。





























―――すぐに、追いつくことができた。
紫苑達に付けていた影分身は既に消されていたので、あの部隊長に追いつかれたのは分かっていた。

まだ戦いは完全に終わっていないようで、一番の手練である菊夜さんは血にまみれながらも、紫苑を背後に庇いクナイを構えている。

紫苑はその場に座り込みながら、菊夜さんの肩を揺さぶっている。真蔵と才蔵は地面に転がされていた。紫苑を守ろうとして、倒されたようだ。
怪我は軽くなかったはずなのに、敵の怖さを一番知っているはずなのに、それでもまだ立ち上がろうとしていた。

敵は冷静に3人を見据え、止めをさそうとしているところだった。しかし俺の気配を察したのだろう。

手を止め、ゆっくりとこちらに振り返る。

(―――簡単に追いつけたのは、この3人が反撃してくれたからか)

状況を理解し、3人に感謝する。

あっさりとやられていれば、俺は追いつけなかったかもしれない。
だから、3人に感謝を捧げる。そして全員が生きていることに安堵した。

―――そして。敵には、怒りを捧げよう。
だがボス野郎は、俺の怒りのチャクラを感じても動揺することなく、自然体で受け流した。

そしてその後、俺の全身を舐め回すように見て、口の端だけで笑みを浮かべた。

(―――何故、笑う?)

おかしいところなど何処にもないはずだ。だが、何故こいつは笑っているのだろうか。
感情から来るものではない。

この笑みはそう、新たな得物を見つけたかのような―――

(――ああ、そうか)

思考の途中で、浮かべられた笑みの意味を悟る。

先の攻防と影分身で、俺の正体を察したのだろう。ならばもう、俺に対して恐怖を感じることもないと見た方がいい。
恐怖は未知の存在に対して抱くもの。正体を察した敵にとって、俺は未知ではなく既知の相手となった。知っている相手であれば、どうにか対処はできると考えたのだろう。
警戒は解いていないようだが、それでも十分に倒せると考えたのだ。
それは間違いではない。事実、俺は一度こいつに負けているし、先の暗部達との戦闘で、体力は限界に達している。チャクラも残り少ない。

正直、勝てる見込みは一割もない。

だけど、上等だ。もとより負けるつもりもない。
何よりも、ここで負ければ紫苑達が死ぬ。だから絶対に、負けられない。

「―――来たか、小僧」

「―――来たぜ、おっさん」

「イワオ、殿」

紫苑を庇っている菊夜が、息を飲む。驚いているようだ。

「イワオ!?」

紫苑も同じで、驚く。もしかして俺がやられたと思っていたのだろうか。

「「イワオ……」」

真蔵と才蔵が呟く。こちらは複雑な笑みを浮かべている。まあ、状況が絶望的過ぎるので、無理もないことだろう。



「―――随分と早かったようだな、小僧」

「俺として遅かったよ。ま、さすがに5人は骨が折れた」

「ふん、ということは………お主が此処に来れた時点で、まさかとは思ったが……あいつらは全滅したか」

呟くように話す。事実に動じず、ただ確認するだけの声。そこに、感情は含まれてはいなかった。

「……だというのに、冷静だなおっさんは。あいつらは、アンタの部下じゃなかったのか?」

「我らは任務を果たすための道具。名前は無い、感情はない。任務を果たせればそれでいい」

その点でいえば、あいつらは十分に役割を果たしたようだ、と。目の前のおっさんはこちらの様子を観察しながら、そんなことを言った。

「既に、満身創痍のようだ。チャクラも残り少ないようだな?」

「………おい、あいつらは……一応は、生死を共にしてきた、一緒に戦場を駆けた仲間じゃなかったのか」

俺が言えた義理でもないが、死線を共にした仲間ならば、語れる程の思い出があった筈だ。
いつか叶えたい夢とか、互いに笑いながら話したこともあるはずだ。

だが、暗部は暗部だった。いや、この場合は根が特殊というのだろうか。
我らには過去も、未来もない。あるのはただ任務のみ。それを果たせないのであれば、意味が無い。存在している意味がない。故に思い出も夢も必要ない。
こいつは嘲りを浮かべることもなく、ただ事実だという風に告げる。

………ああ、くそ。お前達は理解できない。本当に、理解できないよ

志を以て非道を成す輩ならば、いくらか理解はできた。しかしこいつは本当に人間なのだろうか。
まるで人形。人の形をしたナニカでしかない。

「お前などに理解されようとは思っていない。また、その必要もない。今ここで、お前の生命は尽きるのだから―――いや」

首を振り、確認するかのように、呟く。

「殺しては、いかんな」

その呟きの端、言外に含まれた意志を察した俺は笑ってやる。こいつは俺を捕獲をするつもりだろう。

一度負けたとはいえ、随分と舐められたものだ。

「………さっきも言ったと思うが――――それはできない。俺にも意地がある。果たすべき約束がある。それを邪魔するというならば――――殺す」

「ふん、お主には無理だ。お主の力はもう分かった。それでは我に勝てんよ」

「―――御託はもういいか。夜ももう深いから―――いい加減、済まそうぜ?」



そして、互いの殺気が大気に充満する。

上忍クラスの殺気が、周囲の空間を軋ませる。

忍び同士が生死を賭けて争う、戦場の空気となる。




―――やがて、互いの言葉と共に。開戦の狼煙があがる。





「ゆくぞ、小僧………いや、うずまきナルト―――九尾のガキめ!」

暗部は構え、殺気を充満させて、俺を罵倒する。




「こっちも行くぜ、おっさん………いや、根の首領、ダンゾウが配下の――――腐れ暗部!」

俺は左手を横に薙ぎ、全身のチャクラを活性化させ、暗部にぶつける。




己の言葉を刃に変えながら、相手の心に撃ち放つ。

篭められた意志は否定。認めないという、拒絶の意志だ。




殺気が溢れ、空間が異界じみた鋭さで満ちる。

並の人間ならば、息もできないであろう。


満ち、張り詰め、そして―――――



「是ッ!」

「勢っ!」


互いの呼気と共に、弾けた。

正面からぶつかり合い、拳を打ち合う。

「ぐっ!」

「ぎっ!」

相打ち。だが、メンマの方は後方へと吹き飛ばされた。リーチに差があるため、暗部の攻撃の方が一瞬早く当たったのだ。

そして追撃。チャクラで強化されたメンマ、それに匹敵するほどの速度で距離を詰める。

そして間合いへと入り込み、拳を繰り出す。

メンマの方は間合いの外のため、攻撃を出せない。先のように思いっきり踏み込んで一気に間合いへ飛び込み、攻撃するならばともかく、この位置と体勢では出せる速さにも限りがあるため、迂闊に飛び込めないのだ。

先程の、弱い方の暗部ならばメンマも攻撃を払い、掻い潜り、懐に飛び込むこともできたのだが―――

「ぐっ!」

この部隊長の体術は洗練されており、反撃の機を伺えない。流れるように無駄なく、そして間断なく繰り出された体術が、メンマの体力を奪っていく。

このままではまずいと判断したメンマは、殴られた反動を利用して後方へと跳躍。そして―――


「影分身か!」

痛む右を何とか動かし、指を十字に組む。

そして影分身を使おうとするが、その寸前に印が暗部に腕で払われた。

チャクラは霧散し、影分身が出ることはなく、だが敵は目の前にある。

「せいあっ!!」

メンマは間合いに入ってきた暗部へと反撃。その場で飛び上がり、顎を蹴り上げる。

(―――浅い)

だが足から帰ってきた感触は軽い。当たる寸前に、後ろに飛んだようだ。

そして再び間合いの外へと逃げられる。


距離を離れて、再び二人は向かい合う。


「―――解せんな。影分身を使えるとは。加え、その洗練された体術。お前はそれを何処で修得した?」

「ああ、親父殿に習ったのさ。力の使い方とか、体術とか、それこそ戦闘の気構えまでな」

「戯言を!」


再び、正面からぶつかりあう。

掌打に蹴打、拳打に肘撃が互いの間で交錯し、弾け合う。流れるままに繰り出される洗練された二人の体術は、まるで演舞のよう。

互いに拳を打っては腕で払い払われ、あるいは防いで即座に反撃する。

我慢の時間。やがて二人はどちらからともなく離れ、少し距離をあけ対峙する。





「―――解せんな。お前の守りたい友達とやら……お前を囮にしたのだぞ? そんな相手に何故そこまで身を張れる」

「――――ああ、全て知っているさ。そうさせたのは、全部、お前らのせいだってこともな!」



殴り合いと、罵声の飛ばし合いが連鎖する。



「そのせいで、殺されそうになった。貴様はそれを無視するのか」

「だからどうした! それが見捨てていい理由になるのか!」

「―――何故サイやシンも庇う? あいつらはお前に黙っていたんだぞ」

「俺も人の事はいえない。サイも、シンも来てくれた! これ以上何を望む!」

「―――何故、巫女を守る? 網が、巫女の力を欲しているからか、そのために貴様は―――」

「―――おまえらのような下衆と」

憤りのまま、力いっぱい拳を振り抜く。暗部は両腕を十字に組み、後ろに飛びながら防御をするが、それでも腕が痺れるほど。
















「……一緒にすんな」

酷使したせいか、左手の指が折れたようだ。俺は痛む両腕をぶら下げ、それでも暗部を睨みつける。

「―――下衆、だと?」

「ああ。おまえら、は、下衆だ。これ以上、ないって、ほどのな」

息が上がっている、チャクラを使いすぎた。

体力ももう限界を超えている。視界が白く染まっている。これ以上はまずい。

だが、止まれない。

「力を持ってるからって、まだ子供を―――こんな、子供を! 利用しようって輩を、下衆じゃなくて何と呼ぶ!」

腕を振る。認められないという意志を、腕にこめて振り払う。

「サイも、シンもそうだ! お前たちの目論見は分かっている! 子供の内に、仲の良いものを………兄弟を殺させて! そうすることで徹底的心を砕き、いいなりになる人形を作るのだろう!」

あの血霧の里と言われた霧隠れのように。殺させることで子供の心を砕き、その残骸となった心の奥底に恐怖心を刷り込ませて、裏切らない人形を作るのだろう。

呪印で言葉を縛り、身内殺し―――まるで蠱毒のような方法で、人の心を束縛する。これで、忠実な部下の誕生だ。

背後から、シンとサイの息を飲む声が聞こえた。

「戦争などしったことか。おまえらの間で好きなだけするがいい。でも子供を――――力があるからと利用し。そして兄弟で殺し合わせ――――人格を破壊するだと? そんなこと、させるものか!」

これが意地。俺の意地。見つけた、通すべき意地だ。

戦争と止めようなどという気はない。それは否定しない。どうにかできるなどとは、思っていない。

だが、後者の2点だけは。許せないし、認めない。俺のできうる限りの力を使って、叩き潰す。戦うのは怖いが、それとは別の話だ。そうしなければ“俺が死ぬ”。見下げ果てたクズになってしまう。

だから殺す必要があるのならば殺す。中途半端な覚悟では何もできないと知った。通すべき意地を通すためには、汚れる覚悟も必要だ。その一点だけは、観客であることをやめよう。

「―――非効率的だな。理解できん」

「お前は非人道的だがな。いや、家畜にも劣るか――――下衆野郎。一応聞いておくが、紫苑をさらってどうするつもりだった」

「つもりではなくこれからするのだ。何、封印術以外に興味は無い。術の趣旨と構成、その能力の分析ができれば、それ以上広がらんように処分する。要らない道具は捨てるが必然………いや―――血を残すのも、また良しか」

使い道はいくらでもある。まるで物を扱うような物言いに、俺は憎しみすら混ざった怒りをもって否定する。

「それ以上囀るなっ、糞野郎!」

「聞いたのはお前では無かったか? ―――まあいい」


再び、戦場に殺気が充満する。空気が緊張する。そんな中、俺は言ってやった。

左腕を握り締め、目の前に突き出す。




「繰り言はおしまいだ。ここからさきはこっち。だから――――かかってこいよ」


俺の言葉と同時、暗部のチャクラが弾けた。感情がないとはいったが、舐められるのは我慢が成らんのだろう。

「―――分かった。生かしたまま送り届ける必要あるゆえ、手加減をしていたが―――」

途端、暗部の全身からチャクラが立ち上る。仮面の横から見える頬が、赤く染まっていく。


「――――それでは足りんか、ならば本気でいこう。だが――――」

死んでくれるなよ、と。そう告げた暗部の威圧感が、更に膨れ上がる。


第一門、開門。


「上等だ」


萎えたチャクラ。全力には程遠いそれを振り絞って、最後の攻防に挑む。

「第二門、休門、開。第三門、生門、開」


『そろそろ、来るよ』


体内門が開いていく。ただでさえ強い暗部は、その上限を、リミッターを外していく。


第四門、傷門、開。


そして―――――


第五門、杜門、が開けられる。


「ハアアアアアアアアアアアアアアッ!」


チャクラが目に見えるほど、高濃度になる。赤く染まった顔に、人のものとは思えないチャクラ。これこそ、まるで化物のよう。

人間の限界を越えての一撃。その初撃が繰り出された―――


「速――――」


動いたと思った次の瞬間、すでに間合いに入られていた。

――――消えた。

錯覚ではなく、そう認識される程の規格外の速さで、暗部は一歩踏み込んできた。

(こんなの、避けられるはずがない)

為す術も無く俺は顎を蹴り上げられ、宙を舞う。

蹴りを受ける寸前、迫る足と俺の顎の間に、左の腕は差し込めて衝撃は軽減できたはずなのだが、まるで意味がない。

腕ごと、吹き飛ばされる。



そして、神速の連撃が始まる。

まるで俺を包み込むかのように。

上下左右、四方八方から、暗部の打撃が俺へと叩き込まれる。

拳とも蹴りとも判別がつかない。打たれる度に骨が軋み、肉が歪む。




――――これぞ、“裏・蓮華”。

体術でありながら、Aランク―――禁術レベルに位置づけられるという、最高峰の体術。




「ぐっ、げっ、ぎっ!」




攻撃を受ける度に全身が軋む。激痛が走り、意識が霞む。

治りかけの肋は折れ、脛の骨も折られ、深刻な打撲のダメージが全身に刻まれていく。




「……ぁ! ……ィ! ……っ!」





もはや声も出せない。

襲い来る乱撃に対し、俺は耐えることしかできない。




そして、乱撃が止んだその一瞬後、身体に鋼糸が巻き付いた。

(――――最後の攻撃)


裏・蓮華の最後の一撃は、敵に巻きつけた鋼糸を引き寄せ、反動を利用して拳を蹴りを同時に叩き込むというもの。


暗部はその型に習い、鋼糸が張った瞬間に引っ張り、俺のバランスが崩れる――――――――――















―――――その、刹那。


「ここだっ!」

















戦う前のことである。どう対処するか、戦術についてマダオと話している時。

「切り札としては持ってるだろう、裏・蓮華。それを破る秘策はあるの?」

「いや………無いな」

きっぱりと無理だといえよう。
表・蓮華であの速度を出せるのなら、裏・蓮華はもっと速いだろう。
今の俺に避けられる代物じゃない。

あれは純粋な体術。防ぐには特殊な防御術か、それを上回る体術、速度を用意するしかないのだが―――現在の俺は、そのどっちも持っていない。


「しかし、手はある。逆に考えるんだ」



そう、“防ぐ”ことはできないが―――――















―――――防ぎきる必要もない。

「あああああああっ!」

俺は左手で、胴部から伸びる鋼糸をつかむ。

そして、残る全てのチャクラを振り絞り、肉体を強化してその鋼糸を引っ張った―――!




「なっ!?」



互いに宙に浮いている今、踏ん張れる足場もない。故にこの綱引は、腕力のみの勝負となる。

そして純粋な腕力のみで言えば、莫大なチャクラで強化している俺の方が上だ。

引っ張られ、最後の一撃を受ける前に、逆にこっちに手繰り寄せる。この瞬間を待っていた。

鋼糸が掌に食い込み、左手の掌が少し切れるが、そんなの知ったこっちゃない。


裏・蓮華にある、唯一の隙。それは、止めの一撃を繰り出す前の動作にある。

途中の連撃には対処できないが、この一瞬ならばどうとでもしようがある。

俺はそう思ったのだ。だからこそ攻撃を受け、黙って耐え、こちらにはなすすべもないと――――そう、思わせた。



戦術とは、戦闘の流れにおいて僅かでも勝機を生じさせ、それを手繰り寄せること。

待っているだけでは勝機はやってこない。力づくでも引き寄せるか、作り出すのだ。

そして、その過程はどうでいい。無傷にこだわる必要もないし、理屈に縛られる必要もない。

いくら傷を受けようとも、重症を負っても、最後に生き残り立っていればいいのだ。

そして今戦術は上手くはまり、最後の状況となった。


―――――全ての準備は出来たのだ。


俺の師についてのこと。俺は真をいったが、相手は嘘と思っただろう。これで、こちらが裏・蓮華を知っているということは察せなくなった。というか、普通察せないだろう。

右腕が折れているのは、相手も承知しているだろう。いかな俺の回復力とはいえ、こんな短期間に直るはずもない。事実、俺の腕は折れたままだ。

こちらが子供という点においても、相手は油断してくれている。いかな暗部だろうと、所詮は人。全てを知っているはずもないので、全てを推測できるはずもない。



状況に応じ、最後の一瞬を迎えるに必要なパーツを慎重に組み立てた。

そうして生まれた有り得ない一瞬。

人は有り得ない状況に陥ると、思考が止まる。故に敵は咄嗟の反応ができない。

心の死角をうつからこそ、不意打ちとなる。

先の先を取ることができるのだ。裏の裏をかいて、先を制す。忍びの基本だ。



(――――この機、頂戴する!)



こちらは既に準備万端。

目の前に立ちふさがっていた万難は今、排せた。


万全を期して最後に打つ一手は、折れた右腕による一撃だ。

当然うまく動かせないし、拳も打てない。打てば激痛に教われ、戦う心も奪われ、そのまま膝を屈してしまうだろう。



――――だが。

最後の一撃に限定すれば。今まで秘めに秘めていた、螺旋を生み出せる。

俺が持つ術の中で最も高威力、最も高ランク。

左手を使う必要もなく、印も必要としない忍術。





――――そう、全てはこの一撃のために。











「まさか――――!」



暗部の顔が驚愕に染まる。


乱回転させたチャクラ。手の中に圧縮させられたそれは、全てを貫く球となる。

威力あるチャクラを回転させ、尚一定の範囲に留める術。チャクラコントロールが肝となるAランク忍術。

これが最後。

これが、俺が持つ全てだ。



張るべき意地を心に秘めて、力の限り通し抜く。

そうして諦めず、求め、耐えて――――――手繰り寄せられた勝機を。




手繰り寄せた暗部の胸部へと、叩き込む――――――!








「螺旋丸!!!」






荒れ狂う螺旋の球。だがゆがまず、ひずまず、形を崩さず。

肉を抉り、骨を削り、貫き、吹き飛ばす。







そうして―――――暗部の部隊長は声を上げることなく、絶命した。





その感触を手に感じた後。誰かの生命を断つという感触を、知った後。



俺は全身から力が抜けるの感じ、そのまま地面へと落ちていった。



























































そして、7、8年が経過した今。

ぱちぱちと音とたてながら燃える木の前で、俺は覚えている全てを語りを終える。

一休みもせずに話していたので、喉が乾いた。手下の水を飲むと、ふ、一息つく。
その後のことは語れない。語らないのではなく、語れないのだ。答えは簡単、ここで、俺の記憶は途切れているからだ。

そこから先は単語だけがうっすらと残っているだけ。

紫苑、真蔵や才蔵、菊夜さんがどうなったのかは、全く覚えていない。

そう、両の手を見ながら、サスケと多由也に言う。今まで忘れていたこと、その中で、思い出せたのはここまでだった。

その後に続く記憶といえば―――全身傷だらけで、ベッドの上に寝転がっていたことだけか。

ザンゲツ、マダオ、キューちゃんには、初めて人を殺めたショックと、頭部に受けた傷により記憶を失ったと言われた。

確かに、手にはあの独特の感触が残っていたし―――。

「なんでか、すげえ悲しい、って思った」

だからその時は、納得した。真実は違ったわけだが。

「その一連の騒動を忘れたという、原因だが、心当たりはあるのか」

「いや、分からない」

そんな忍術があったのだろうか。俺の知っている限りでは、そんな忍術は存在しないのだが。

「写輪眼の瞳術か何かで、でそんな能力は………無いか」

聞くが、サスケは首を横に振った。

「―――でも、何か、取り返しの付かない状況に陥ってしまったのは覚えている。」

嫌な予感独特の、黒い淀みが胸の中に残っている。悲しみもそのせいだと思った。

思い出せないのは消えたからだと判断し、仕方ないと思った。思い出そうともしなかった。

だが、今は思い出した。そしてあれからいったい何があったのか、俺は知りたかった。

「それは、この先にあるはずだ」

中秋の名月は未だ枯れず。ならば、紫苑は生きているのだろう。何故イタチがそれを知っていて、俺に知らせたのかは分からないが。

そんな中、サスケは神妙な面持ちで、俺に聞いてきた。

「―――子供を利用するヤツは許さない。兄弟で殺し合うことなど認められない――――それが、お前の原点なのか?」

今までの俺の行動についてを言っているのだろう。記憶が確かではなかったため、はっきりとは言えないんだが―――

少女―――マツリといったか。それとテンテン、我愛羅。

ヒナタ、シカマル、いの。

キリハと、フウ。

サスケと、イタチ。

思い出せる範囲では、その通りらしい。裏に俺なりの意図が含まれているものもあるが―――

「―――どうやら、概ねはその通りらしいなあ。あの時起きた事については、すっかり忘れてしまったはずなんだが」

自分の事なのに、よく分からなかった。あるいは無意識だったのか、そうではないのか。
俺はそうしたいからそうしただけなのだが、一応の関連性はあったようだ。

「――――例え記憶が失われようとも、根ざす想いだけは消せはしない」

横合いからはさまれた声に、俺達は反応する。

「キューちゃん?」

「自らの想いを消せるのは、己のみ――――そう言ったのは誰だったか」

「………知っているのか?」

「ああ、知っているぞ。その他にも色々とな」

だが、言えない、とキューちゃんは目を閉ざした。

「―――真蔵と才蔵は。今も、生きているのか」

「それも、明日分かる―――これ以上は言えないと教えたであろう」

固くなに口を閉ざすキューちゃん。どうしても知りたいが、話してはくれなさそうだ。

「明日になればわかるはずだ。それよりも、もっと別の事を話しあう必要があるのではないか」

「―――ああ、化物か。ついぞ出てこなかったけど、どういった存在なんだろうな」

「伝承とは実際にあった事柄を元に作られているものが多いらしい。だが俺は木の葉にいた時も今も、そんな化物の話は聞いたことがないぜ」

サスケも分からないと首を振る。

「だが、ペインというやつと一緒にいた―――あの化物。あれならばそうだと納得できるかもしれん」

「ウチもだ。あの黒いアレ―――威圧感と異様なチャクラ、世界を滅ぼしてもおかしくないと思った」

「俺は見たことがないが―――そうなのかな。俺も、覚えているのは断片だけで―――詳しい話は覚えていない。だが、単語だけはうっすらと覚えている」

あの後に聞かされたのだろ言葉。


曰く、“終りにして始まりを司るもの”


「―――始まりと終り、ではないんだな」

多由也がぽつりと呟く。

そういえばそうだ。その順番には、何か意味があるのかもしれない。

「終わってから、始まる―――」

始まりから終りに向かうのではなくて、終局のあとに生まれる―――誕生する。

「人間に例えると………そうだなつまりは、死んでから、生まれる―――」

そこまで呟いた時、俺達ははっと顔を上げた。


つまりは生まれ変わり。その概念は―――



「輪廻、転生」




死の後に生まれ変わるという概念そのものだ。







「輪廻眼…………」







一連の騒動を整理してみる。

輪廻眼を持つ暁の首領、ペインのおかしな行動。味方も敵も関係ない、その破壊行動。

そして、7、8年前に現れたという化物。代々の巫女の存在。大陸を滅ぼしかけたという、怪物。

そもそも、何故輪廻眼と呼ばれたのだろうか。そこまでの力を持つに至った理由は、一体なんなのだろうか。



「―――おぼろげながら、色々と見えてきたな」



思いもよらぬところで、不可解な事柄が一本の線で繋がったかのようだ。

まだまだ分からないところはたくさんあるが、五里霧中という訳ではなくなった。






「全ては、明日か」











原点と終点。



全てが集まっているかの国に。






俺達は明日、たどり着こうとしていた。
































































あとがき


劇場版、兼、過去編、了。



続きは五十五話へ。





















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十五話 「うちはイタチ」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/18 00:52











―――――選んできた。



二択があった。


良かれと思い、片方を取った。


でもそれが正しかったかどうかなんて、今になっても分からない。

きっとずっと、分からない。








































「――――人が近づいている?」

「はい」

菊夜が伝えた事実に対し、イタチが確認を取る。

報告とは、この屋敷に人が近づいているということ。そして、その数は3であるということだ。

「随分と多いな。それで、迷い込んだ一般人という可能性はあるのか」

「無いですね。目的を持ってここに近づいているようです。それに、近づいているのは―――――」

菊夜は向こうの部屋で寝ている紫苑に聞こえないように、その人物の名前についてイタチへと告げた。

「そうか」

イタチは頷き、立ち上がる。そして玄関横にある服かけに掛けていた暁のコートを手に取った。
そのまま振り返りもせず、イタチはこの2年あまりを過ごした家を出ていこうとする。
そして靴を履き、玄関を開けたその時、まだ部屋の中にいた菊夜がイタチの背中へと話しかける。


「近づいている人物について、話があります」

「………手短に頼む」

菊夜は頷くと、近づいている人物について、分かっている一人以外、他の二人についての詳細を告げた。

一人は中忍か上忍クラスの忍び。そして女であること。言うべきことはこの二つで、イタチと菊夜にとってこちらは問題とはならない。

伝えたいのは、残る一人のことだった。

「どうしてなんでしょうかね。あなたに聞いた、その人物の境遇――――あれが正しければ、絶対に似るはずがないのに」

なのに似ている、と菊夜が呟くと、イタチは眼を見開いた。

両目に刻まれた紋様が、顕になるほどに。

「………手短に、頼む」

イタチは先程とはまた違うニュアンスで、菊夜にたずねた。

「足運び、気配、チャクラもそう――――イタチ。あなたに似ています」























「本当にこっちであってるのか」

少し後ろを歩くサスケが、先頭で歩く俺の背中に向けて心配そうな声でたずねてくる。

「ああ、大丈夫だ」

知らない山の中で、道なき道、獣道を歩いているため不安になっているのだろう。
時間に余裕のない今の状況において、俺が道を間違え時間を無駄に浪費しないか心配しているようだ。

しかし、その必要はない。

今は遠い、5年以上前の記憶で思い出すことも無かった風景だが――――この道は間違っていない。
目的地はこの先にあると、俺の勘が告げていた。

「しかし、いきなり道を逸れて森の中へ入っていった時は何事かと思ったよ」

小一時間前。鬼の国の国境を越えてから、7、8年前は馬車で通った、鬼の国中央部まで続いていく道を道なりに進んでいた時。
その道の途中、俺はふと感じるものがあり、立ち止まった。
何やら言いようの無い、違和感みたいなものを感じたのだ。

感じた先は道の森の中で、その方向を凝視すると、とあるものを見つけた。

一般人には分からない、忍びにしか分からないであろう。ごく小さな獣道がそこにはあった。

「………見たことは無いが、忍犬が使う道っぽいな。あの時の違和感も、忍犬の気配だったのかもしれない」

「………確かに、昨夜聞かされた最後の状況を考えると、巫女やおまえ達が鬼の国の中央部に戻ったとは考え難いが」

「そのまま素直に城下町へ戻ったとも思えねえ。というか………知っているんじゃないのか?」

多由也が俺の腹の方を指してくるが、俺は無言で首を横に振った。

「相変わらずだんまり、か」

今は俺の中にいるマダオとキューちゃん。二人は、国境を越えてからは、一切喋らなくなった。
それは今も変わらず、進めとも引き返せとも言ってこない。

「あれから先の事、今も思い出せないか。この光景に見覚えは?」

「無いな。覚える程に見たわけでもないだろうし」

あれから後、目覚めた時俺は全身に深い傷をおっていた。右腕の傷が特に酷かったのも覚えている。
あの怪我の状況で、外を歩けるはずもない。

(…………外?)

自然と出てきた言葉に対し、俺は首をかしげた。

外………ということは、俺はどこかの家の中に運ばれたのだろうか。
あの時は真蔵も才蔵も菊夜さんもみな、深手を負っていた。

手当てを受けるにしろ、身を休めるにしと、雨風を防げる屋根の下に入ろうと思うのは自然な考えだが――――――

その思考はサスケの言葉により中断された。

昨日話した“根”の存在について、色々と聞きたいらしい。

根は木の葉の暗部を養成する部門だ。

通常の暗部は、中忍以上の忍びから適性のあるものが選抜されるもの。
暗部となった忍びは一定期間任務に従事する。
任務をこなし、忍びとして名が売れたもの、あるいは功績をあげ表に顔を出した方が良いと判断されたものは再び表に戻るが。

「カカシなんかがその類だな」

「………カカシがぁ?」

「今はエロ遅刻ロリコン上忍だが、昔………暗部時代は相当派手にやったらしいな。三忍は別としてだが、周辺の国や他の里からは木の葉隠れの里一番の使い手と認知されている。
でもまあ、“千の術をコピーした木の葉一の業師”っていう雷名は大きい。認知度でいえば三忍に継ぐだろうな。だから表に戻ったのだと思う」

名乗るだけで、相手の心胆を寒からしめるような雷名を持っているものは、表でこそ重宝される。

直接的には、複数で戦闘を行う部隊戦や、戦争の時。
雷名の持つ威力は、その存在をさらすことだけで相手の士気に影響を与えることもできるのだ。

「あのコピー忍者のカカシ、写輪眼のカカシがいるぞ、ってなるわけだ。再不斬でいえば“霧隠れの鬼人”だな。」

周囲にある国への宣伝にもなる。うちはこれほどの忍者を揃えていますよ、と言える訳だ。そうなれば依頼も増えるし、里の収入も増える。
一般にその活動を秘匿とする暗部では、それができない。

「グループ単位で二つ名をつける場合もあるな。“霧の忍刀七人衆”なんかはその筆頭だ」

元々は特殊な忍び刀が7つあっただけらしい。それを、当時の水影がまとめてひとくくりの呼び名をつけた。

「七人衆とまとめるだけで、相手の印象は随分と違ってくるしな。こいつが死んでもあと他に6人も残っていると思わせられる。
 あとは自来也、綱手、大蛇○の三忍とかある。三忍は雨隠れの半蔵が名付けたらしいけどな。戦った相手がその技を称え、二つ名を送る場合もあるらしい」

二つ名は忍びとしての誉だから、

「よくそんなことを知っているな」

「どこで役に立つか分からなかったから、マダオから学べるものは一通り学んだ」

相手の事を知らずに相対できるはずもない。ずっと、いつか来る戦いに備えてきた。
相手を知り己を知れば百戦危うからずというのは基本だ。

逆に言えば―――――

「だからこそ、名を知られるのは恥だと考えている者もいる」

裏で動いてこそが忍者。知られず影で動き、影の中で相手を葬る者こそが忍び。
そうすれば、相手に力を知られることもない。そして相手が力を出し切る前に殺す。暗部が面をしている理由でもある。

「それが、ダンゾウか?」

「正解。まあ、ダンゾウは別格だし、また別の意味で有名だけどな」

曰く、忍の闇。
木の葉の暗部、正式名称暗殺戦術特殊部隊に足るものを“養成する”部門を束ねる長。
裏の裏。影の影とも言われる老忍。

「養成する………ということは、選抜ではなく?」

「そうだ。真蔵や才蔵みたいな戦災孤児、血継限界はあるが表からは疎まれている忍を徴収して集め、暗部になるための忍びを作り出していた………らしい」

実際は自らを裏切らず、いかなる任務も遂行するという、ダンゾウの目的に沿ったものを作り出す機関だった訳だが。

「猿飛ヒルゼンが三代目火影に就任した時、解体されたらしいけどな。そこで大人しくするタマじゃなかったってことだ」

「影の影、か…………」

サスケは顎を手にやりながら、複雑そうに呟いた。

「…………里の上役と共に、うちはの事件にも関わっていると聞いた。その過程にも…………ダンゾウが絡んでいると思うか?」

「俺は当時の木の葉は知らないのでなんともいえんが、十中八九絡んでいるだろうな。逆にいえば絡んでいない方が不自然だ」

「だとしたら………いや、まてよ」

「思い当たる節があるか………何か、予兆となる事件は無かったのか」

「ああ、ある。虐殺の数日前、うちはの中で起きた、うちはシスイが死んだ事件………兄さんが殺した、という疑惑があった。
だが兄さんは殺していないと言った。尊敬する人だと言っていたし、殺しているとも思えない」

何か関係があるのかもしれない、というサスケに、多由也がたずねた。

「………そもそも何故うちはイタチがうちはシスイを殺した、ということになったんだ? 普通ならば他所の里の仕業を疑うだろうに」

写輪眼は最高峰の血継限界。どの里からも狙われている、値千金の瞳だ。

「いや、その頃のはまだ小さかったし………でも言われてみればおかしいな」

「事件が起きる数日前だというのもな………あるいは、こうも考えられる」

多由也は情報を分析し、推測を並べた。

「例えば、ダンゾウが巫女の力のように、大蛇○と同じく写輪眼を狙っていたと仮定する。その場合、気をつけ無くてはならない点はなんだ?」

昨夜きいた話から、多由也は有り得る状況を想定する。

「写輪眼を手に入れるには、うちは一族の誰かを殺して奪うしかない。だがうちはは木の葉の一員だ。殺して奪うにしても、誰がやったのかは絶対に知られてはならない。
 ダンゾウは木の葉の忍びだからな。身内殺しが知られれば木の葉からの粛清は必死。里の者全てを敵に回す行為だからな」

「だから、事件のどさくさ紛れにシスイを殺した………そうか。ダンゾウは当時のうちは内部の状況を知る内の一人だったな」

いずれ虐殺が起きるということは知っていたに違いない。
他ならぬうちはイタチの手によって起こるということも、ダンゾウは知っていた。

前もって情報を流し、うちはシスイは裏切り者のうちはイタチに殺されたと思わせたのだ。シスイ殺害の報から虐殺まで数日。
そして、事件が起こった誰もがうちはイタチの凶行を信じたに違いない。

「木を隠すには森というわけか………つまり、ダンゾウは兄さんに罪を被せたのか」

サスケの手が怒りに震える。

「あるいは………うちは内部でも、気づいていたものがいるのかもな。うちはシスイはダンゾウ、つまりは木の葉の暗部によって殺されたのだと。
 それを知った故に、木の葉へクーデターを起こす、その意志が固まったのかもしれない」

「………兄さんはその事を知っていたと思うか?」

「どうだろうな。どっちにしろ選ばざるを得ない状況になった」

あるいはうちは一族への説得という手段も考えていたのかもしれない。だが、シスイ殺害の容疑をかけられたイタチはその言葉の説得力も失った。
下手に提案でもすれば、一族の裏切り者とされ、うちは一族の手で処断されていただろう。

その後は戦争だ。木の葉対うちは。

「………これは再不斬に聞いた話なんだけどな。その当時の水影……三代目水影だが、どうにも様子がおかしかったらしい。何でも、水面下で戦争を起こす準備を整えていた動きがあったと言っていた」

「戦争、だと?」

「ああ。前にも言ったと思うが、三代目水影の裏にはうちはマダラの影がある。そこで戦争というからには
 ………かつて自分を追い出した相手、木の葉とうちはに対する復讐のため、その両方が争っているを脇をついて、戦争を仕掛けるつもりだったのかもな」

「………最高のタイミングで横合いから殴りを入れるわけだ。霧隠れの利にもなる」

当時はまだ血霧の里と呼ばれるほど、武闘派が揃っていた時代だった。反対はすまい。

木の葉 対 うちは 対 霧。

そうなれば、木の葉もうちはも両方が壊滅していただろう。鬼鮫含む霧の忍刀七人衆。うちはマダラ。三尾の人柱力、三代目水影。うちはマダラ。暁も幾人かいたのかもしれない。
勝機は十分にある戦いだったはずだ。

「木の葉壊滅となると………霧隠れも、そのままでは済まなかっただろうけど」

最大の里、木の葉が潰れる――――それだけ大きく情勢が動けば、まず間違いなく砂、雲、岩も動く。戦う相手は木の葉との戦争で疲弊した霧。
そうして戦いが戦いを呼び、血が血を呼ぶ。

「………第四次忍界大戦に発展していた。そしてイタチは、それこそを恐れた。幾千、幾万もの人が死ぬことを認められなかった」

「だから…………父さんと母さんを、一族のみんなを殺さざるを得なかった? ………一族を殺すか。一族に味方し木の葉に戦いを挑み、泥沼の戦争を呼ぶかを………」

世界の行く末をも決める、究極の選択だ。

選んだ選択は前者。そうしてうちはイタチは一族殺しの大罪を犯すことを選んだ。
誰にも告げず、誰も頼らず、罪を全て己で背負い込み、己の手で木の葉を守ったのだ。

うちはイタチは木の葉のとうちは………いや忍び世界が持っている歪への犠牲となったのだ。

忍びには向かない、優しい性格をしているうちはイタチ。

だが彼は誰より忍びであったとも言える。究極の状況においても下すべき判断を下せる、随一の忍びだった。













「―――――そこまで大したものじゃない」


「「っつ!?」」










突然の声。

驚いた俺達は、声が聞こえた背後へと振り返る。

そこには、今話していた人物………うちはイタチの姿があった。



「………兄さん」


「…………サスケか」




8年前、あの血に染まった月夜以来の、兄弟の再会。

サスケは兄を真っ直ぐに見つめている。その視線に害意は含まれていなく、ただ真摯なもので満ちているようだった。

対するイタチは無表情を保っている。だが、イタチがサスケの名前を呼ぶ瞬間、表情を微かに和らけたのを俺は見逃さなかった。




「先程の話は聞いていた。サスケ………お前はあの事件について、全てを知っているのか」

「ああ。聞かされたからな」

「そうか……………」

イタチは眼を閉じ、顔を僅かに下へと傾ける。


「先程言った通り………犠牲になったなどと、俺はそんなに大したことをした覚えはない。ただ、俺の力不足が生んだこと。木の葉も、うちはも………俺には両方を守れるだけの力が無かった」

「だが………他の誰でも、どうにもできなかったはずだ! うちはマダラのことも、兄さんは知っていたんだろう!?」

「………知っていたが、それは関係ない。霧が攻めてこなくとも、水影の裏にうちはマダラがいなくとも、うちはと木の葉が争えば、その隙に乗じてどこかの里が必ず攻めて来る」

そしてイタチは眼を開け、写輪眼を見開いた。


「争いは忍びの常。そして勝利者だけが歴史を語れる。つまりは勝利者こそが正義。だが正しいと吠え、誰かの命を奪うことに躊躇わず、相手の痛みを思いやる気持ちすら忘れた忍びは………」

「兄、さん?」

サスケが聞くと、イタチはこちらの話だといい、首を横に振った。

「………砂隠れの一戦で、お前たちはペインと出会ったのであろう。そうすれば、あれを見た筈だ」

突然変化した話題に、俺が食らいつく。

「あの黒い化物の正体について、知っているのか」

「ああ。あれこそが鬼の国代々の巫女が封じ込めようと………復活を阻止せんと見張っていた、世界を滅に誘う化物だ」

「巫女………紫苑は! 真蔵は、才蔵は………生きているのか!?」

「巫女についてだけ答えよう。生きてはいる。本人は再会を望むまいが………会わせよう。ついて来い」


「ついて………何処にだ? それに化物正体については、知っているのか!?」

尋ねると、イタチはやはりか、と前置いて説明をしてくれた。

「完全には戻っておらず、忘れたままの部分もある、か………いいから、追いてくれば分かるはずだ。
 そう術式を組んだと言っていた。お前が全てを思い出した上で、話すべきこと全てを話す」


そして背中を向け、言葉を続けた。

「事はすでに木の葉だけの問題ではなくなった。ペインを止めなければ忍びの世界が滅びるだろう」


唐突な言葉に、俺達は黙らざるを得なくなった。忍びの世界が滅びるとはどういうことだろうか。

新たに出た疑問に構わず、イタチは俺達を背中ごしに見る。


「人の力には運命が宿る。うちは然り、巫女然り、人柱力然り。逃れられぬ定めというものは、何処にでもある。
 だがこの状況で………サスケ。お前と、うずまきナルト、そして巫女の血筋の者が揃うというのは…………一体、どういう運命なのだろうな」


「兄さん………」


「全てはあそこで話す」



そうして走り出すイタチ。

俺達は沈黙を保ったまま、その後について行った。





























「―――――サスケ………お前に託すモノについてもな」




そうして呟き、イタチは己の眼を覆った。


覆われた瞳にある紋様。万華鏡写輪眼。


そこには、ある決意が宿っていた。








あとがき


短め投稿。

ここから後は題名を載せていきます。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十六話 「小池メンマのラーメン日誌」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/21 17:38




「ふう、今日もいい天気じゃ」

紫苑は布団から出た後、顔を洗うと、まだ眠気が残る頭を覚ますために、外に出ていた。

陽の光を浴びて眼を覚ますためだ。

「イタチがおらんようじゃが………何処に言ったのかの?」

気配が感じられない、と紫苑は首をかしげた。

奇妙な縁。一年以上前に同居するようになった、あの不器用な男、うちはイタチ。

イタチ自信は紫苑や菊夜に対し、その素性について詳しくは語らなかった。だがうちは一族は有名だ。

数少ない生き残りであるうちはイタチの名も有名で、二人はイタチのことについて、大体のところは知っていた。

初めて会った時に感じたのは、果たしてこの目の前の男は本当に生きているのだろうかということ。

それほどまでにイタチは死に囚われていた。まるで自分がこの世界に存在してはいけないのだと、そう思っているようだった。

その瞳からは将来の展望も何もない。夢もなく、希望もないように思えた。ただ最後の役目を待っている老犬のようだった。

だから紫苑は悪戯をした。赤い実を食べさせたり、寝ている間その顔に落書きをしようとしたり。

死しか望まないイタチに、自分はまだ生きているのだということを、思い出させたかった。

「少しはマシになったようじゃが………」

最初に一言、次にふた言。最近になってようやくまともに会話できるようになった。

時折、弟の話もしてくれるようになった。一緒に修行をしようとせがむ、弟の話。

おにぎりの話。おかかのおにぎりだけ妙に上手く作れたわけは、そこにあったのだと、初めて知った時は腹をよじらせて笑った。


時間は人を変える。人と触れ合えば、人は変わる。その両方を経て、イタチの心の中はほんの少しだが和らいだように見えた。

しかし、自分の終わり方は既に選んでいるようだ。自らの果たすべき最後の役目を終え、その全てを弟に託し死ぬという意志は―――変えていなかったように思えた。


そんな事を考えている時だった。

道の向こうから、足音がした。


「帰ったか、イタチ…………?」




しかし紫苑はそこで足を止める。足音は複数あり、イタチ以外のどれもが聞いたことのない足音。

ひとつは分からない、ひとつはイタチによく似ていた。



そして最後、残るひとつの足音。どこかで聞いたような音だ。

紫苑はその人物がいる方向に顔を向け、たずねる。

「お主は…………誰じゃ?」





























頭が痛い。頭が痛い。

イタチの後を走っているのだが、先程から頭痛が収まらない。

サスケと多由也の大丈夫かと心配してくれる声にも、言葉を返せないでいた。

(記憶が戻ろうとしているのか)

しきりに痛む頭を叩き、奮起して走る速度を上げる。



やがて、たどり着く。獣道を登った先、そこにあるのは家だった。

木造の家で、随分整えられた作りをしている。そこらにある山小屋ではなく、しっかりと作られた住家。

別荘、というのが正しいのか。


「…………!」


そこで、俺は人影を見つけた。玄関で伸びをする少女の姿を。

髪は象牙。背丈は俺より頭ひとつぶんは小さい。だがその顔には見覚えがあった。

沈黙を保ったまま、その少女へと近づく。あたりの状況は耳には入ってこない。

視界には、ただ少女だけが映っている。やがてその少女は俺の存在に気づいたのか、こちらを見る。

変わらない、紫の瞳。美しい、宝石のような眼。だが―――――違和感を感じた。



警鐘が鳴る。頭の奥で、鐘が鳴っている。



「―――――――」


紫苑。そう言おうとしたが、言葉にはならなかった。

代わりに、少女はこちらを見ながら、言った。



「お主は、誰じゃ?」



衝撃。巨大な金槌で頭をぶん殴られたような。

こちらを見つつ、分かっていない。いや、それだけではない。

その視線は、微妙の俺の方向から外れている。


つまりは―――――眼が見えていないのだ。

何故と。どうしてと叫びたかった。しかしそれは言葉にならず、口の中で消えた。

紫苑が光を失った原因を、俺は未だ知らなかったからだ。いや、知っているのかもしれない。

ただ忘れているだけなのかもしれない。

そう思った俺は、紫苑に近づいていく。触れることで何かを思い出せるかもしれないと考えたからだ

紫苑は近づく俺の気配を感じたのか、息を止めてその場に立ちすくんでいた。


一歩前まで近寄る。

幼かったあの日の面影そのままに、美しく成長した少女の前に立つ。

「久しぶりだな、紫苑」

考えた言葉ではなかった。咄嗟に出たことば、再会を示す言葉だ。あれからもう7年だ。当時紫苑は7歳。

あの日までに生きた時間を、倍する時間が経過したのだ。どれほど長かったのだろうか。

言葉を向けられた紫苑。俺が誰だか分かったのだろうか。

息を飲み、そして――――笑った。

「久しぶりじゃの、ナルト」

俺と同じ返事。ただ、こめられている感情が違った。

歓喜に打ち震えているかのような、喩えようの無い悲しみを知ったかのような声。

その笑顔も何処かもの哀しい。そしてその顔には見覚えがある。


(そうだ、あの時もこうして――――っ!?)

悲しみを含んだ笑顔で、俺を見ていた。

――そこまで考えた瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。


(…………っ!)

頭痛の度合いが一瞬だけ強くなり、徐々に収まってゆく。

あれほど痛かった頭の痛みは嘘のように消えた。残ったのは静寂。波打っていた頭痛の名残は全て消え、残ったのは凪の海だ。

だが、実際…………頭の中で起きた変化は、劇的といっていいものだった。


(これは…………)

記憶の中、思い出せなかった光景にかかっていた、もやのようなものが消えていく。

やがて溢れてくる記憶の本流。あの時、封じ込められた記憶が、次々に頭の中に戻っていく。


去来するのは過去。忘れ“させられた”過去の話。


そうして、俺は思い出した。


あの後………鬼の国の戦闘が終わった、その後に起きた出来事を。































「知らない天井だ…………つっ!」

目覚めた俺はお約束をかましつつ、全身に走る激痛で顔をしかめる。
見れば俺の身体のいたるところに包帯が巻かれていた。誰かが手当をしてくれたのだろう。

だが、筋肉と骨に刻みつけられた傷まではどうすることもできなかったようで、気絶する前と変わらない、痛覚による鐘の音が俺の頭の奥を叩いている。

気絶………そう、気絶していたのだろう。最後にあの部隊長を殺したのは覚えているから、敵はもういないはず。

(殺した………そうだな、殺したんだ)

呟きながら、考える。

後腐れのない、最適な方法で敵を排除できた今、誰かに襲われる心配もないだろうが………ここは一体どこなのか。
身体を動かそうとするが、あちこちが痛むので諦めた。どうやら首しか動かせないようだ。

俺は寝転びながら首だけを動かし、部屋の中を見回す。
誰もいないようだが………ここは何処だろうか。

「…………どこかの家の中、か?」

木造の家。この世界では標準的な、いや少し広いか。何の変哲もない、普通の家であった。
ちょっと前にみた病院のように、医療をする所でもないようだ。また豪華絢爛な装飾もなく、至って普通の民家と言える。

(と、いうことは城の中ではないか)

そして、町の中でもないらしい。
窓の外からは鳥の鳴き声が聞こえてくるし、かすかに嗅覚訴えるこの匂いは、深い森で香るそれだ。

「………目覚めたか!」

その時、紫苑が部屋の中に入ってきた。布団で寝ている俺のもとに急いで駆けつけ、心配そうな顔でのぞきこんでくる。
大丈夫か、傷は痛むかと聞かれた俺は取り敢えず大丈夫だと返した。

死に至る傷でもない。右腕が痛みに痛むが、痛覚があるということは感覚はまだあるということ。

再起不能な傷でなければ、俺の中のキューちゃんが傷を癒してくれる。時間はかかるだろうが、じきに傷も治るだろう。
説明すると、紫苑は安心したのだろう。ひとつ安堵の息をついて、その場にへたりこんだ。

「どうした?」

「………腰が抜けたのじゃ」

頬を赤くしながら答える紫苑。俺は可笑しくてつい笑ってしまった。
すると、今度は別の意味で頬を赤くしながら、怒られた。

「そういえば………誰が俺をここまで運んでくれたんだ?」

「………菊夜じゃ」

何でも、ここは何代か前の巫女が命じ建てさせた、隠れ家。
紫苑と菊夜はこの家が建造された理由については知らなかったが、その存在だけは知っていたらしい。

俺達の傷を癒すために一時的にここに避難することを選んだ、と言った。

「紫苑は、怪我はないのか?」

「ない。お主らのおかげで、このとおり………大丈夫じゃ」

答える紫苑。本当良かったと笑いかけると、何故か紫苑の顔が赤くなる。

「どうして………」

「ん?」

「いや、何でもない」

そういうと、紫苑は顔を横に向けた。
俺は不思議に思いつつも、聞きたいことを順番に聞いていく。

「真蔵と才蔵………いや、シンとサイ、か? あいつらは大丈夫なのか」

「お主ほどの傷は負っておらんし、致命的な傷も無い。取り敢えずは安静じゃが、命に別状はない」

「そうか………」

どうやら、間に合ったようだ。あと少し遅ければ、殺されていたかもしれない。この世界で出来た、初めての友達の命が無事と知った俺は、天井を見上げながらよかったと呟く。
その時、視線を感じた俺は、視線方向………紫苑の方を見る。

すると紫苑は、不思議そうな表情でこちらを見つめていた。

「シンとサイの素性………お主は知っていたのか?」

あの時既に気づいていたのか、と紫苑が聞いてくる。

「いや、気づいていなかったよ。不覚にも、ね」

気づけたのは、あの敵の正体を知った時だ。“根”にいる兄弟、金髪と黒髪の兄弟。
あとは戦災孤児というキーワードと………名前。

(………ダンゾウの“ゾウ”を取って組み合わせたのか)

“シン”ゾウと“サイ”ゾウ。真蔵と才蔵、というわけだ。
そういえばヤマトの暗部名はテンゾウだったような。

偽名を名乗るにしても随分と安易だな、と思ったが、そもそもシンもサイも外部に名が売れているわけでもない。
どちらかといえば少しの情報を元に、有り得ない知りうるはずがない知識を以てその素性にたどり着いた、俺の方が異端なのだろう。

しかしここであの二人に会うとは思わなかった。意図せぬ対面と言えよう。
だけど兄弟殺しを防げたことは、嬉しい誤算だとも言える。

『兄さんに見せたかった…………』

儚く笑うサイの顔は、もう見ることはないだろう。それだけで、戦った価値があるというものだ。
あの絵巻物の真実を知った今、余計にそう思う。

しかし、あれだけ仲の良い兄弟を殺しあわせる暗部は………マジ外道だ。血霧の里の風習もそうだけど。
発端はマダラだろうし、木の葉って意外と黒いなしかし。長い歴史を持つ里ゆえに、裏側の闇も深くなってしまったのだろうか。

一度は全ての忍びを従えたと聞く里だし、その知恵と知識の量も半端ないのだろう。

(………だけど、今は木の葉よりこっちのことだ)

そういえば菊夜さんはどうしたのだろう。
あの人も怪我をしてたと思うけど、大丈夫なのか。たずねると、紫苑はまた変な顔をした。

「無事じゃが………」

複雑そうな顔。

俺はなんでそんな顔をするのか、聞くと紫苑からは意外な答えが返ってきた。

「あの時、菊夜は………お主を囮に使った。妾がそうさせたに等しい。それを知っているとも言った」

「ああ………」

厳密にいえば、マダオの推測なのだが。あの時、俺の死体を確認せずに去った暗部と、ラーメンを食べている時の菊夜の仕草、サイの言動から推測したらしい。
俺も、十分に有り得る話だし、事実そうかもしれないと思っていた。

「妾達はお主を見捨てたに等しい………いや、殺しかけたも同然じゃ。なのに何故…………お主は、ここに来た」

紫苑は俯きながら、震える声でそんな事を言った。
何故助けに来たのか、分からないという。

「紫苑」

そんな紫苑に対し、俺は「こっちにきて」と言う。

紫苑は涙まじりの眼を潤ませながら、顔を上げ近づく。

俺はその顔に手を伸ばし―――――

「そいやっ!」

「痛っ!?」

デコピンをかます。

紫苑がデコピンの痛みに、額を抑えながらうずくまる。
俺もデコピンをした反動が全身に広がったせいで身体がずきずきと痛むのだが、今は痛みに悶絶している場合じゃない。

俺はうずくまる紫苑に対し、あの時暗部の部隊長に言ってやった言葉を、もう一度繰り返す。

「だからといって見捨てていい訳にはならないだろう。それに、悪いのは決断させたあいつらだ」

生きるために必死だったんだろう。

「正直、少し腹が立ったけど………それでも死んで欲しくなかった。それだけじゃ駄目か?」

紫苑の肩がびくりと震える。

「それにあの時、俺は紫苑との勝負に負けて………あの約束を、したじゃん。負けたからには、賭けの負債は払わないとなー」

ハリセンボンはごめんだし、と言いながら、なははと笑う。

しかし………あの時はテンションゲージがマックスになっていたせいで分からなかったが、素面で言うと恥ずかしいぞこれ。
顔が熱くなっていくのが分かる。

『………くささ、最高潮ぉ!』

黙れマダオ。起き抜けの一言がそれか。

『ふん、よう言うわ………』

キューちゃんはなんだか不機嫌なんだだけど………なにゆえ?

考えていると、紫苑が顔を上げる気配を感じた。

見れば、紫苑は微笑を浮かべていた。
嘘のない、本心からの笑顔だ。端正な顔立ちと相まって、非常に可愛らしいと言えよう。

「本当に、すまなかった…………いや、ここはこういうべきか」

首を横に振って、紫苑は言い直した。




「たすけてくれて、ほんとうにありがとう」



あどけない少女から繰られた、本心からの礼の言葉と、満面の笑顔。



それに対して、俺は顔を逸らすことしかできなかった。












その後、やってきた菊夜と真蔵、才蔵と共に色々なことを話した。

「あなたが九尾の人柱力だったとはね………しかし、木の葉隠れの里は、あなたにとって味方となるのでは……?」

菊夜が聞いてくるが、俺はそんなんじゃないと言った。
もとはといえば、暗部に殺されかけたのが全ての発端だし、味方とはとても言えないだろう。

「俺も噂で、だけど聞いたことがあるよ。四代目火影の嫡男が九尾の人柱力で………失踪したって言っていたような」

「実際は暗部に殺されかけたんだけどね。最後は起爆札でふっとばされて崖下の河に落ちたんだけど」

あの時あった出来事に関して説明すると、全員が顔をしかめた。紫苑とシンにいたっては、何故か泣きそうになっている。
一体なぜそんなことをするのか、分からないのだろう。

「いや、だって………九尾だよ? 木の葉の里の者を大勢殺した……仇だと思ってたんじゃないかな」

事実は違うのだけれど。それに、里を滅ぼすに足る力を持った子供がいることに対しての、恐れもあったのだろう。
今までこなしてきた網の任務の中でも聞いた。

他里の人柱力も、一部の者からは人外の力を使える化物ということで、恐怖の対象になっているらしいし。
事実、紫苑達も見たはずだ。あの時の俺の異様なチャクラを。

あんな力が使える俺が怖くないのか。面と向かってたずねると、紫苑達はこう答えた。

「怖くなかったぞ。いやむしろ…………何でもない、忘れてくれ」
紫苑は首を振りながら、また頬を染めていた。これが世に言う吊り橋効果というやつだろうか。

「助けられたのです。それに、邪悪なものは感じませんでした」
菊夜はそう答えた。心なしか敬語になっているので、本心ではどう思っているか分からないが、感謝の気持ちに嘘はないようだ。

「怖くねーよ。むしろあいつらの方がずっと怖い」
シンは複雑な表情を浮かべながらそう言った。確かに、俺も他の人柱力よりは裏で下衆なことを企んでいる暗部とか、世界征服を目指している暁の方が怖いが。

「兄さんに同じ。むしろ有り難いよ。正直、僕たちだけではどうしようもなかったから」
サイはそう言いながら笑う。でも、確たる勝算もなく助けたいという想いだけで決意に振りきれたおまえらの方が凄いと思うのだが。

そう言うと、二人は驚いていた。
何故驚くのか分からん。

「いや、おまえらの奮闘が無かったら正直どうなっていたのか分からんし」

森の中、あの場に集まっていたおかげで乱戦に持ち込めた。
城の中に陣取られていたら打てる手も限られてくる。シンとサイが何もしなければ、そうなっていたはず。
その状況では、勝ち目は薄い。恐らくは負けていただろう。

しかし、あの部隊長の強さを知りながら、よく決意できたものだ。
そう言うと、シンとサイは笑って答えた。

「ほら、前に話で聞かされただろ? ………力のあるものが、チャクラを使える者が忍びではなく………誰かのために戦う心が、忍びだって」

サムライとも言うが。そうか、覚えていたのか。

そうか………俺が死んだと想い、決断したのか。
自分たちの後にはもう何も無いと想い、命を賭けるに至ったのだろう。

俺達の、そしてこいつらにとっての良い思い出………束の間であったが、失くしたくないと思えた日常を少しでも取り戻すために。


刃の下に心在り、心を以て刃を振るう者………それがこの世界の忍びなのかもしれない。

シンとサイはこの世界の忍びの在り方を体現したのだ。この小さな身体で。


『………お主も、そうじゃろうに』


キューちゃんの声が聞こえたような気がした。






その日の夕方、隠れ家に突如客が来訪した。

「あんた、ザンゲツ!?」

「………生きていたか」

ザンゲツは俺の顔を見るなりそう言い、あの後の事………木の葉の“根”に対する処置について述べた。

そしてその手際に俺は戦慄させられる。

「あの暗部の死体は、三代目………爺さんに信頼されている他の暗部に回収させた」

「どうやって………」

「うちはイタチのことに関して、少し情報を流してやっただけだ。超特急でやって来た暗部に対し、目撃情報を提供して………そのついでに、こちらで起こっている事を説明した」

鬼の国で“根”が暗躍していること。そして………

「ゴロウさん、死んだのか」

顔見知りが死ぬのはこれが初めてではないが………慣れないな。

「ああ。それについての抗議もした」

今木の葉は、うちはの事件のせいで里の戦力が大きく減った状態にある。
そこに経済の流れの一端を握る“網”に対しての暴挙が、暴露されたのだ。

しかも、今回の事件は鬼の国内部で起きたもの。盟約を結んだ国自らの破棄が、他の里に知られればどうなるか。

「権威は失墜し、木の葉の発言力は激減………任務も減って、里の収入も少なくなる、か」

あるいは代償として、血継限界をいくらかよこせと要求されるかもしれない。
泣きっ面に蜂どころの騒ぎではなくなる。

ザンゲツはそれらを取引の材料にして、“根”の国外への退去を命じた。

「下手人………俺についてのことは?」

「言えない、とだけ言った。追求はされるだろうが、まあうまくやるさ」

それが俺の仕事らしい。

まあ、木の葉には警務部隊を務めていたうちはが壊滅したことで、他に優先しなければならないこともある。
まずは警務部隊を代行するに足る部隊を編成しなければならないらしい。つまりは、木の葉側にはこちらにつきっきりになっているような余裕が無いということか。

「“根”のダンゾウは?」

「三代目の爺さまに抑えてもらっている。初代火影の盟約は、あの爺さまにとって何よりも優先されるべきものだ………いつかの、雨隠れの里の外れで起きた事件もある。
 これ以上、何かをすれば、迷いなく処断するだろうな」

「雨隠れの外れ………事件? ………ああ、あれに関係あるんですか」

少し前、その事件の現場近くにある村民から依頼された、とある奇妙な工事のこと。
現場に着いた俺達は驚いた。言われて赴いたその平野には、○めはめ波でも落ちたんじゃねーのか、と言いたくなる程に巨大なクレーターがあったのだ。

「あれにも、“根”が絡んでいると?」

まじで勘弁してくれ、と俺は頭を抱えた。手持ちの起爆札を使っても、螺旋丸を使ってもあんなことはできない。
そんな術を使える者が“根”にいるとか、考えたくも無い。

「いや、爺さまもその件に関しては確証は無いらしいが………話が逸れたか」

その後は、俺の処遇について。こちらは特に何の問題もないらしい。

「しかし、一人であれだけの暗部部隊を壊滅させるとはな………」

何で今まではその力を使わなかったのか。ジト目で見てくるが、そんな眼で見られても、どうしようもない。

「おかげでご覧の有様ですよ。“八門遁甲の陣”程とは言いませんが、乱発できるような術でもないんで」

少し誤魔化し、説明をする。

「………まあ、いいか。詮索すると逃げそうだからな………約束もある」

そう言って、話を断ち切る。これ以上、余計な詮索はしないという意志表示だろう。

「ああ、後………シンとサイ、と言ったか。あの兄弟についてだが、うちで引き取ることにした」

「………え、いや、それ………可能なんですか? 根からは何も言ってこないと………いや、そうか」

そういえば戦災孤児の登用は、三代目も心を痛ませていたと聞く。それに、根は閉鎖されたはずの部門だ。
それがハルという協力者(買収したらしい)を使って、組織の中をかき回したのだ。
ゴロウさんのこともある。

発覚した今、網に対しての代償として二人を………というわけだろう。

「お前の考えている通りだ。ま、うちと“根”との………関係は、最悪となったがな」

大体が好かん組織だったし今更別に構わんが、とザンゲツは豪快に笑った。

「問題は別にある。鬼の国のことだ」

鬼の国と根で交わされた密約、そして紫苑達の立場について説明を受ける。

「糞っ垂れが………!」

取引の材料? いった何だそれは。
俺は胸糞悪い真実に、思いっきりつばを履きたい気分になる。

「まだ終わっとらんぞ。その国主だが、今度は別の里に働きかけようとしているらしい」

「………はあ!?」

「取引材料としての巫女の価値………そこに、眼をつけたのだろうな。再び拉致して、どうにかしようとしているらしい」

真意に関しては調査中だ、とザンゲツも顔をしかめながら言う。

「下衆が………それで、紫苑達はどうすると?」

「………後は、本人から聞け。明日、話してくれるだろう」















その夜。

暗い部屋の中、俺は天井を見上げながら考えていた。

『………眠れないの?』

「ああ………」

答えながら、立ち上がる。

全身が痛むが、今はここに居たくなかった。

俺は外に出て夜空の星を見上げながら、あの時のことを思い出す。

この手で殺した、あいつらのことを。


骨をへし折る感触。肉をえぐる感触。

どれもがこの手に残っている。

(殺した………殺したんだ)

他に方法が無かった。余裕もなかった。だから殺した。
力があれば、他に選択できたのだろうが、今の俺にそんな大層な力はない。

だけど手に残る感触は、理屈ではなかった。得体の知れない感情が、俺の胸を締め付ける。


「…………っ」

そのまま俺は地面に左腕をつき、胃の中のものを戻す。

昼と夜に食べたものが出尽くし、それでも止まらない。胃液をも地面にぶちまける。

「っ、イワオ!?」

そこに紫苑が現れた。俺の背中を優しくさすってくれる。

そのまま、数分が過ぎる。



俺は隠れ家の傍にある樹に、紫苑と二人でもたれかかりながら星空を見上げていた。

俺は、余程情けない顔をしていたのだろう。紫苑が俺の手をそっと握ってくれた。

途端、俺はより情けない気持ちに襲われる。
どうしようもない、弱音に類される言葉を少女に言ってしまう。

「殺すしかなかった。取り得る最善だった…………」

あの時。最後のやり取りで抱いた憎しみはまだ消えず、胸に残っている。
でも、殺したくなかったのも本当だ。

立場が違うとはいえ、相対する敵とは言え、どうしようもなかったとはいえ、殺しあうことが正しいとは口に出したくなかった。
しかし許せないこともあった。

同じようなことをしている人間がいれば、俺はどんな手を使ってもそれを阻止するだろう。
例え命を奪うことになっても。

「なんで、こうなったんだろうな………」

発端は、巫女の死。そこから始まる奪い合い。

小国が………“根”が、力を求めたから。外敵に対抗する力を手にいれたかったから。

奪われない力を手に入れたくなかったから。戦争は終り、平和な世になったとはいえ、いつ他国と戦争になるかも分からない。
だからこその力。しかし、逆にいえば他人を………他国を信用していないとも言える。

危地に備えるという、忍びの思考は正鵠を射ている。事実世界は不穏な情勢を携え、今日も大陸に血は流れている。

誰も彼もが誰も彼もを信じていないのか………あるいは、理解しようとしていないのかもしれない。

もっと他に、力以外で理解し合えるものはあるはずなのに。

それは日々の中にあるもの。食事、音楽、芸術。

美味しいものを食べる喜び。
いい音楽を聞ける喜び。
美しいものを見られる喜び。

そして、それらを作り出す喜び。創作する喜び。

色々とあるのだ。見知らぬ誰かと誰かが理解しあえる機会が、色々とある。
断じて殺しあう………究極の否定をしあうために、人は生きているわけではない。

「だからお主はあれを………ラーメンを作るのか」

「ああ」

美味しいものに対する歓喜。作る側と、食べる側。
美味しいと言ってもらえる俺も、美味しいと感じた客も、どっちも幸せになれるじゃないか。

力でなんて、どうにもならない。

つまるところ出来るのは奪うだけ。あるいは、守るために失わないよう、そうなる前に奪うだけ。
どちらかしか幸せにならない。そういうのは、俺は嫌いだ。

誰も彼もが幸せになるために生きている。俺はそう信じている。
間違ども、人が望むものは同じであると思いたいのだ。性善説などではなく、ただそう在って欲しいという願い。

“誰も殺しあわない世界を”

それが俺の夢だ。本当の殺し合いを経験した今、切に願う。
人の汚さを直視した今、心の底から願う。

夢に夢をまぜあわせるのだ。

ラーメンだけに。

「その巨大な力で夢を叶えようとは………思わんの、お主は」

「ああ、それに………これは、借り物の力だからね」

俺は俺のために生きている。

俺は俺のしたい事をする。だから、借り物力を使って舞台に立っても、そこに意味は無いのだ。

自衛のために力を振るうことはする。許せないことに対し、断固たる行動にでることもある。
だが肝心の夢は俺の持つ俺だけの力で叶える。

借り物の力で夢を………秘めた願いを形にしたとして、そこに“俺”がいないのでは、はたしてそれが何になろうか。

それにそれは一時凌ぎにしかならない。それでは足りないのだ。

唯一、借り物ではない俺だけの力。それがラーメンに対する情熱だ。
前の世界の残滓でいだした残滓。

くだらない、人によってはとるに足りないと言われるかもしれないが、それがどうした。
この想いだけは、誰にも文句はいわせない。

本当に美味しいものは、人の心を変える力を持っている。

俺は、そう信じている。

一度振り上げられた腕、力に対して、言葉は通じまい。自らの腕でしか防げないものだ。
そして互いに傷つけあう。

それを防ぐためには、そもそも腕を振り上げようとしない心………相手のことを思う、理解しあう力が必要なのだ。

振り上げる前に話しあう、そんな世が出来たらいいなと思っている。
どだい不可能なことかもしれないし、俺の代だけでは無理だろうが………一度死んだこの身、やってみる価値はある。

「変わっておるの、お主は」

俺の言葉を聞いた紫苑は、優しく笑いながらそんなことを言った。

「………変わっているのは、悪いことじゃない」

そうしたいと願ったのだから。嘘はないので恥じる必要もない。

「そうじゃの………悪くない。本当に、悪くない………のう?」

「ん?」

「いつか………いつの日か。妾にも、その究極のラーメンとやらを、食べさせてくれるか?」

「勿論さ。まあ、時間はかかるだろうけど」

人生は短く、芸術は長し。10年やそこらで完成するとは思えない。
それに、短い人生を余計に短くしようとする輩もいることだし、まずはそいつらから身を守らなければ、俺の願いは果たせないだろう。

この危険な世界で旅を出来る力………それに対する、代償みたいなものだ。それは、眼を逸らすことはできない事実。

「ままならないのう」

「ほんとにね………」

夢だけ考えて生きたいのだけれど、現実は酷に過ぎる。
死ねばそこで終わりだし。

今は障害物を乗り越える力を。そして全てが終われば、俺は夢に向かって走り続けるのみ。

「ふむ、確かにあのラーメンは旨かった。他にはない味じゃったし………隠し味か何かがあるのか?」

「うん、あるよ。いつも考えているし、思いついたことは試すようにしている」

修行の合間とか、あとは全国を食べあるきながらネタを集めている。

今はあの宿屋に隠している、俺の日誌。

あれには、俺の夢そのものが詰まっているのだ。

「………でも、今は別に優先することがあるから、夢を最優先するってわけにはいかないんだけど」

何しろタマ狙われてるから、と俺は苦笑を返す。

「ふむ、そうじゃったの。うずまきナルト、か………そういえばイワオは偽名だったのじゃな」

「“網”の任務用のね。ラーメン屋としては別にあるよ?」

「ふむ、何というのじゃ?」

訪ねられた俺は、口の端を浮かべながら説明をする。


「俺の故郷にある漫画に登場する、ラーメンが大好きな人の名字を取って………そして、名前は本名をもじったんだ」


――――故に、“小池メンマ”。それが俺のソウルネームだと言った。



「ふむ、ということは…………お主が持っているという、その夢への道程が書き記された日誌の名前は………」



夢が詰まった、伝えるべ願いを書き記した日誌。


究極のラーメンを目指す、俺だけの日誌。














「“小池メンマのラーメン日誌”ってところだね」



















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十七話 「別れと再会」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/21 22:12




あの時、俺達はかなりの傷を負っていたはず。

俺もシンもサイも、そして………菊夜さんも。

それが何故俺達を運べたのか。何故、数日で動けるようになったのか。

気づくに足る点は、色々とあった。だが俺は気づくことができなかった。



明確な形として現れる、その時まで。




違和感を感じたのは朝。


痛む身体を引きずって、それでも昨日のお礼を言おうと紫苑を起こしにきた時だった。


「紫苑ー、朝だ………ぞ?」


見れば、すでに紫苑は起きていた。布団の上で座っている。

しかし、一向に動こうとしない。

気分でも悪いのか。そう思った俺は紫苑に近づき、肩を叩いた。


「ん………メンマか?」

「そうだよ。って、見りゃ分かるだろ」

まだ寝てるのか、と言いながら俺は紫苑の正面に回った。


――――しかし。

(ん…………?)

正面に回った俺に対し、視線を動かす紫苑。だが、その視線のさす位置は、は俺がいる位置よりずれていた。

何か、幽霊でもいるのか。そう言い、笑おうとした瞬間だった。異変に気づいたのは。

(チャクラが………?)

どうも、おかしい。昨日は全然感じられなかったチャクラが、今日は感じられるのだ。

しかもとてつもなく大きい。まるで押えきれない、といった風に、全身から溢れている。

だがその流れは何だか滅茶苦茶で、まるで増水した河のようだった。


「おい………紫苑?」

「ん、なんじゃ?」

熱でもあるのか。そう思い、額に手をやると紫苑は肩を跳ねさせた。

「おいおい、そんなに驚かれるとこっちも………」

と視線を合わせる。しかし、その瞳は俺を捕らえていない。


(―――――まさか)


そんな、まさかだろう。

だが、一度起きた疑念は消えてはくれない。嫌な汗が背中に流れる。不安は胸の鼓動を早めさせる。

俺はすっと紫苑の前に手をやり、たずねる。


「今、俺は手を広げている。出されている指は、何本だ?」







――――その問いに。紫苑は答えられなかった。
















「何でだ!!」

「落ち着いて下さい」

「これが落ち着けるか! 何で………こんなことになった!?」

「………私達のせいです」

「俺達の……?」

「あの後、私たちは傷つき………その場から動くことができませんでした。あなたは瀕死、私も動ける状態ではありませんでした。
 ―――動けるのは、紫苑様だけ」

「まさか、あの薬を!?」

「はい。全てではないですが、飲まれ………それで、私達の傷を癒されたのです」

「薬………? いや、それは何だ」

聞けば、サイが説明をしてくれた。何代か前の巫女が開発した、その力が利用されそうな時に飲むべしとされた、危険な薬。

「あれには一時的ですが、巫女としての力を高める効果もあります。それで、紫苑様は私達を癒しました」

俺は特に傷が深く、命をつなぎとめるのに精一杯で、紫苑による治療が終わった後も気絶したままだったらしい。
シンもサイもその光景を見ていたが、巫女が本来持っている術なだけで、まさか薬を飲んでまで、とは思っていなかったと言う。


「幸いにも少量だったので、死には至りませんが………」

一時的なチャクラの増量は紫苑の未熟な経絡系を傷つけた。

そして、今光を失うことになったらしい。

「視神経がどうにかなった訳ではないのか」

「はい。傷ついた経絡系が、視神経から伝わる信号を遮断しているのか…………確たる原因は不明ですが」

「あれを使われた経験が無いから、分からない?」

「はい」


その場にいる全員が、暗い顔になる。



「どうにか、方法はあるはずだ。探すぞ。鬼の国の城に、手がかりがあるかもしれない」

一刻を争う事態かもしれない。そう思った俺は痛む身体を引きずって、城へ行こうとする。

だが、それは止められた。他ならぬ、紫苑によって。

「無理じゃろう。治す方法が書いておるわけがない。利用されればそれまでなのじゃから」

「何言ってんだ! お前、目が見えないんだぞ!? これから先、何も………」

「………ふむ。そう思うと、昨日お主と一緒にみた星空が、最後の光景になるというのか。悪くないの………」

「強がりを言うな! 絶対に、治す方法はある。諦めるなよ。そうだ、いっそ木の葉に潜って………」

あそこには禁術の巻物がたくさんあるはず。もしかしたら、手がかりがあるのかもしれない。

そう言おうとした瞬間。

「それには及ばぬ」

紫苑は優しく笑い、首を横に振り――――手をかざす。


「紫苑、どうし………」


途端、身体から力が抜ける。


(こ………れ、は……?)


声も出せなくなる。見れば、俺の身体の周りに、結界のようなものが展開されていた。

シンもサイも同じなようで、動けず地面に倒れ伏していた。

身動きの取れない状況で、俺は耳に入ってくる言葉だけで、状況を把握するしかなくなる。


「ザンゲツ殿、おられるか」

「ああ…………始めるのか?」

「うむ。これ以上は引き伸ばせぬ」

「本当にそれで?」

「………これ以上、こいつらに何を望めるものか。それはいくら妾でも傲慢が過ぎる………それでは始めるぞ」




衣擦れの音。再び手がかざされたのだろうか。


「薬と共に、流れ込んできた記憶がある…………この力は、仙術と呼ばれるもののひとつ」

(――――仙術?)

「チャクラの流れを読み、未来を読み取る力もその一端だった。血と魂に刻まれた御業………それこそが、巫女達の血継限界じゃ」

(予知………ガマ仙人が可能とする、奇跡の力だったか………だが、何故そんな仙術を使える。それに、一体何をしようと………)



その時、何かが俺の頭に触れた。

「今よりお主の記憶を封じる。妾の事を思い出せないようにする」

『何故だ!』

「これ以上、お主の足かせにはなりたくないのでな。覚えていれば、お主はどうにかするであろう。一度捨てさせた命だ。これ以上は負担をかけられぬ」

『何を馬鹿な。あれは俺が望んだことだ』

「妾は誰よりお主に、傷ついてもらいたくないのじゃ」

『―――ー良い女に対して、男が身体を張るのは当たり前だ。女の言葉は男に覚悟を強いる。それに答えてこそ………』

「ふ、嘘でも嬉しいぞ。だけど、それとこれとは話が別じゃ」

そうして、地面に刻まれた紋様が発動する。

『その術を止めろ、紫苑!』

全身から、チャクラが流れる。
何か、紋様を描いてるようだ。

「大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど………お主の夢を邪魔する事など出来るはずがなかろう………だから行け、小池メンマ」

『お前を忘れて、か?』

「務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ。忘れ、笑って暮らしてくれ。それが妾の望むことじゃ」

『……だから忘れろ、と? 忘れて、俺は俺の夢だけにに生きろというのか』

「何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。それにあのような憎悪に囚われたお主など、正直二度と見とうない。それに、この隠れ家は結界で隠避する。ザンゲツ殿の協力も得られた。“鬼の巫女”に関する問題は片付きそうじゃ」

『―――勝手だな。お前も、ザンゲツも』

「お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう? 妾もザンゲツ殿もそうじゃ。己の望むがままに選んだ。それを、お主は否定しまい。そういった筈じゃ」

『ああ』

「ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている』

『歪? それはどういう……』

「いずれ知る。メンマがメンマであれば、いずれ突き当たる問題じゃからな。宿る星、汝の名は宿命なり。お主がここにきた意味も、また在ったという訳じゃ」

『さだめられた流れ………? 知らんよ。宿命とか………そんなの、俺の知ったことか』

「ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ・・・・“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ」


最後に知る。


それまでは大人びた顔を保っていた少女は、泣いていた。


そして、年に沿った笑顔を見せた後。



「お主に会えて本当に良かった。ありがとう……………だから―――――さようならじゃ」

その術の結びとなる印を組んだ。













その後は誰かの記憶。俺ではない、二人の記憶。


「………お主が九尾か」

『そうじゃの、人間。それで、ワシを呼び出した理由とやら、聞かせてもらおうか』

「その前にひとつ聞きたい。そこのそれは、一体誰じゃ」

『分類上、一応は父になるのか。こやつの名前は波風ミナト………四代目火影よ』

「――――それはまた、何と言うか奇妙な組み合わせじゃの」

『戯言に付き合うつもりはない。要件を離せ。今のワシはいらついておるでの』

幼女と幼女がにらみ合う。

「妾はお主達の記憶までは触れられん。だから、約束して欲しいのじゃ。こやつに何も話さぬと」

『たかだが人間、そのお主がワシと約束じゃと? ………聞くと思っているのか』

「いや、先程まではそう思っていなかったのじゃが………守ってくれるのだろ?」

幼女二人は視線だけで言葉をかわす。この二人にしか分からない、何かがあるのだろうか。

『………承知した。お主の意地も見事。ここで断る理由もないが………お主、寂しくはないのか?』

「とてもさびしい」

間髪いれず、紫苑は答えた。しかし、気丈にも笑顔で言葉を続けた。

「しかし、妾にも許せぬものがある。それにあれだけ言われてわの。邪魔はしたくないと………そう思った」

『ふん、お主の覚悟、しかと受け取った。しかしどいつもこいつも………』

面白そうに笑う。

『僕からもひとつ聞いていい? 先程の、仙術のことだけど』

「うむ、これは我が係累にのみ許された術じゃ。大昔の兄二人と、同じように…………父から、受継がれたもの。あの化物を封じ込めるためにな」

あくまで保険じゃが、と紫苑は複雑な笑みを浮かべる。

『仙術………?』

「兄は仙人の眼。弟は仙人の肉体。妾の先祖は仙人の術…………全ては終りを避けるために。そういうことじゃ」

『いや、さっぱり分からないんだけど』

「知るときが来ると思う。それまでは言わない方が良いから」

『薮蛇になりそうだから、了解しておくよ。それではまた、いずれ会うことになるだろうから、その時に聞くよ』

「あなたもそう思うのか?」

『うん。馬鹿だけど、譲れないものが多いみたいだから。きっと忘れても、無茶をするに違いないから。いずれ辿る、その道の先にここに再び訪れる』

巻き込むことになるかもしれないから、とマダオが笑った。

「ははっ、そうかもしれません………では」

そうして、紫苑は再び手をかざす。

『―――言霊縛り。誓うという言葉を媒介にしたのか。ふん、大したヤツじゃの』

「同意なくばできぬことですし、増幅している今しかできないことですが」

それもすぐに消えると、紫苑は首を横に振った。

『後遺症は? 眼だけとは思い難いけど』

「分かりません。詳しい者がいればまた別ですが………それは、望むべくもないこと」

『僕たちは何もできないけど……』

「その言葉で十分です。それでは、またいずれ………生きていれば。ザンゲツ、お願いします」


「分かった。とはいっても、俺は運ぶだけだがな…………それと、困ったらここに連絡をくれ。力になる」

「分かりました………あと、シンとサイはメンマと離して下さい。顔を合わせたら、封じた記憶が蘇る可能性あります」

「承知した」

ザンゲツは俺の身体とシン、サイの身体を担いで行く。


「――――こんなに、軽いのにな。それでは、いずれまた……俺は、会えんかもしれんが」

「はい。再会を望みます。しばしの別れを。それでは、これで」



そうして、紫苑は振り返った。ザンゲツはその場を去っていく。


だけど、小さな声で聞こえた。




「――――またね」


涙まじりの声。

その後、俺達が山を降りた後。

隠れ家と一帯を包み込む、隠避結界がその場に張られた。




(バカ、ヤロウ………)



そうして、俺の記憶はそこで途切れる――――――――








































「―――――――そう、だったのか」



目覚めた時、最初に見えたのは天井。7、8年前にも見た、いつかの天井だ。

「ようやく目覚めたのか」

寝かせられた布団の傍には、サスケがいた。不安気な表情でこちらを見ている。

(俺は…………そうか、あの後倒れたのか)

記憶が戻った反動で、気絶してしまったようだ。

その後は、あの隠れ家に運び込まれたらしい。俺は起き上がると、サスケにあれからどのくらい経過したのか、たずねる。

「いや、ほんの一時間程だ………ほら、来たぞ」

「ん…………」

入ってくる気配が二つ。これは、多由也と………紫苑だ。


「目覚めたようじゃの………」

何も移していない眼で、それでも紫苑は笑う。俺は喩えようも無い、胸が締め付けられるような感情を必死に押さえつける。

「全部、思い出したよ………紫苑」

「―――そのように術式を組んだ。拙い構成じゃったが、どうにか成功したようじゃの」

悪びれもせず、紫苑が笑う。

(そうまで笑われては、なあ…………畜生、何も言えねえよ)

暗くなる訳でもない。それに、最近まで忘れていた俺に果たして何がいえるというのか。

忘れて己の夢に邁進していた俺に、何が言えよう。しかし紫苑はそんな俺の思いを一蹴した。

「ふむ、あの時も言ったと思うが………あれは、いわば妾の我侭だった。お主が気にすることではないぞ」

「それで納得すると思うか?」

「知らぬよ。それに、今、来て欲しい時にお主は来てくれた。イタチの弟を連れてくるとは、夢にも思わなんだが」

「―――イタチ、か。知っているのか?」

「ここ2年程は、一緒に暮らしておった。とある人物の紹介でな」

とある人物。イタチを動かせるような人物と言うと………

「それは、うちはマダラか……?」

「いいや、違う………それも含めて、お主達には説明をせねばならんことがある。ナルト、あの二人は呼び出せるのか?」

「ああ。ようやく喋れるようになったみたいだしなっ、と!」

そうして、俺はキューちゃんとマダオを口寄せする。

その音に呼ばれ、イタチもこの部屋に入ってきた。菊夜さんもいる。


俺にキューちゃん、マダオにサスケ、多由也。

紫苑とイタチ、そして菊夜さん。


茶の間に、8人全員が集まった。


サスケがイタチの方を見ているが、見られているイタチは何処吹く風。じっと、眼を閉じ続けていた。
傍目には平静を装うとしているようにしか見えない。サスケは気づけていないようだが。

紫苑は俺の目の前に座っている。年の頃はあれから成長し、年の頃は16、7といったところか。随分と綺麗になっている。
特徴的な象牙色の綺麗な髪も、紫陽石のような淡く見事な瞳も、その輝きを失わないまま、美しく成長した。

身体のチャクラは未だボロボロ、経絡系も完治してはいないようだが………それでも、昔よりはかなりマシになっていると感じられた。

(どういうことだ………?)

あれだけの酷い状態から、ここまで回復させたのは一体誰なのだろうか。

それが、イタチを紹介した人物なのだろうか。

それに、イタチがここにいる理由とはなんだろうか。


分からない事がたくさんある。だけど、今この場で全てが明らかになる。そういう予感があった。

そして、それはそのとおりで――――やがて、紫苑の唇が動く。




「―――いったい、何から話せば良いのか」



嘆息。諦観からくる息ではなく、難しいことを、あるいは荒唐無稽なことを説明するのにどうしようか、そんな悩みからくる息だった。




「全ての発端は、9か、10年前になるのか…………うずまきナルト、お主が暗部に殺されてからだ」


―――――何故だろう。今何か、不思議な言葉を聞いたような。


「――――ってちょっと待って。殺されたって、誰が?」


「あの時、お主は一度死んだはずだ。そして今も、魂はかつての………元の形には戻ってはいない――――そうじゃの。何から説明をすれば良いのか」


紫苑はちゃぶ台にあったお茶を飲み、溜息をひとつだけはいた。


「正確には、“九尾の妖魔が死んでから”…………そういった方がわかりやすいか」


「…………何をもって、そう断言する」

キューちゃんの目が鋭く光る。だが紫苑は、困った風に笑うだけ。


「九尾の妖魔について、正しい知識を持っておる者は?」

紫苑が聞くと、マダオが手を上げた。

「昔、自来也先生から聞いたことがあるよ。何でも、負の思念が集まった時にどこからともなく現れる、災厄だとか」

「うむ、それは正しい。じゃが、それは何のために現れるのかの?」

「―――負の思念が集まって出来るのだから…………」

矛先は、生物だろう。事実、九尾の妖魔が襲うのは生物だけだと聞く。それも、人を重点的に襲うらしいが。
キューちゃんはそのほとんどの記憶を妖魔核と共に吸い取られたから、詳しくは覚えていないと………ん、ちょっとまてよ。

「九尾の“妖魔”? 妖狐ではなく?」

「妖魔じゃ。人に仇なす大災。大禍の神そのものと言われた化物のことじゃ………そこにおられる………えっと…………」

「久那実でよい」

「うむ。久那実のように、天狐………年経た妖狐のことを指すのではない。九尾の妖魔とは、人を滅ぼすことを使命とされた、自然の代行者のことを言う」

「………代行者?」

何を代行するのだろうか。

「万物にチャクラあり。故に、全てのものはチャクラがあってこそ成り立っておる。個体差はあれど、チャクラが無い生き物など存在しない」

「それはどこかで聞いたことがあるな」

「いや、アカデミーの授業で………ってお前、そういえばアカデミー行ったこと無いのか」

「…………うん」

最終学歴無し。いいもん、くじけないもん。

「………話を続けるぞ。聞くが、負の思念とは一体なんだ?」

「誰かが憎いとか。消えてしまえとか………そういったものかな」

「そうじゃ。長じれば“滅びてしまえ”というものになってしまうもの。それが溜まっては、どの生物にも良い影響を及ぼすまい。むしろ悪影響でしかない」

「それは…………そうだね。だとすれば、九尾の妖魔はそれを駆除する役目………いや、大元を絶とうとするのか。だから、生き物を襲う?」

「そうじゃ。とりわけ人に由来する負の思念が大きく、滅ぼす対象も人となるがの」

「………戦場での、負の思念はすさまじいものがあるからね。納得できるといえば、納得できる」

「そうですね………」

マダオとイタチが同時に呟く。サスケの表情が少し歪むが、紫苑は話を続けた。

「人にとっては災厄そのものだろうが、自然にとってはそうでもない。いわば世界全体が負の思念に傾かないよう、世界のチャクラを調節するものだとも言える。
 元を絶ち、その場にある負の思念を喰らい生きるもの………それが、九尾の妖魔じゃ」

「と、いうことは………他の尾獣もそうだと?」

「違う。特別なのは、九尾だけじゃ。一尾から八尾はそもそもの本質が違うし、生まれ方も違う」

「―――――え?」



そんな話は聞いたことがない。いったい、どういうことなのだろうか。



「九尾の妖魔はいわば自然の防衛機構。どうしようもないと思った自然が生み出した、防衛機構じゃ。霊格の高い天狐に憑依し、妖魔と化して人を滅ぼそうとする、最終防衛機構………そして」




紫苑はマダオの方を見る。

見られたマダオは、紫苑の言葉を引き継いだ。今までの話の流れから、何かを察したようだ。

あるいは、何か気づけるだけのものを知っていたのだ。


「最終防衛機構が人の手に敗れた………つまり、死んだ時、何が起こりうる?」



「―――――」


その場にいた、全員が息を飲む。

九尾の妖魔が死んだ時。いわば、最終の防衛機構が崩れた時。いったい何が起こるのか、想像もつかない。


だがマダオは心当たりがあるのか、話を続けた。


「あの時、僕は“九尾の妖魔”の陽のチャクラと陰のチャクラを分けたつもりだった。しかし、事実は…………妖狐を妖魔に変える核を取り除いただけというわけか。
 それを、死神に食わせた………つまりは、妖魔核が消えた………死に等しい」



天狐………キューちゃんを妖魔に変えた核そのものを消し去ったと、マダオが言う。


その先にあるものは、いったいなんなのだろうか。何も起きないということは考え難い。九尾の妖魔ほどの化物を生み出すほどの防衛本能を持っている自然が、世界が………何もしないはずがない。


続きは、マダオでも紫苑でもなく、今まで目を閉じていた人物から語られた。




「―――ここからは俺が語ろう」





そう言うと、イタチは懐から紙切れを取り出した。





「それは?」




俺がたずねる。

古文書の写しかなにかだろうか。


だが返ってきた答えは、俺の予想の遥か上をいくものだった。











「俺とサスケ。あるいは現存する忍び全てに向け送られた――――――うちはマダラの遺言だ」






全ての真実はここに記されていると、イタチはそう言った。













[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十八話 「始まり」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/22 21:09

作者注。

一部、最新刊のネタバレあり。

ネタバレいやという人は、戻った方が良いです。

あとオリ設定多々あり。劇場版とも混合しています。


















「遺言…………!?」

遺言。

死にぎわに言葉を残すこと。また、その言葉。いごん。ゆいごん。

じゃなくて。


「つまり…………どういうことだってばよ!?」

「落ち着いて落ち着けい。こんららん、こんんらんしししているいりかから」

お前こそ落ち着けマダオ。ムーンサイドみたいになってるぞ。

でもなぜだろう。大根を両手に持った妖精が騒いでいるように見えるのは。

「変わっとらんのお主は………」

紫苑が懐かしそうにあきれ果てたように言う。

「つまり、うちはマダラは死んだのか………!?」

サスケのは華麗なスルー。

「―――そうだ。話を続けるぞ。言葉の通りに………うちはマダラは死んだ。ペインに殺されたんだ」

錯乱する俺達を華麗にスルーする兄弟。

イタチは説明を続けた。

「ペインが………なるほど、それならば有り得るか」

うちはマダラは桁外れの強さを持っていたらしいが、ペインならばそれを上回っている可能性もあるだろう。
あれも規格外の強さだったからな。

「一度、戦ったことがあるのか?」

「前にね。遭遇戦だけど、サシでやりあった。感想をいうと………正直、状態が万全であっても勝てる気がしない。それのあの時、ペインはまだまだ本気を出していないようだったし」

恐らくは仙人モードの自来也でも勝てないんじゃないか。
まだまだ隠し玉を持っているようだし。

答えると、イタチはそれもそうだろうな、と頷いた。


「順序立てて説明をしなければならんな。俺も、ペインと呼ばれる忍び………新・雨隠れの里を束ねていた忍びは知っていた。暁の表のリーダーだったからな」

「新・雨隠れか………半蔵は、ペインに?」

「ああ。一度は何とか逃れたらしいが、その後に起きた戦争で一族郎党皆殺しにされたらしい。俺が暁に入る前の話だったから、その詳細は定かではないが、マダラからはそう聞かされていた」

「戦争………? そんな話は聞いたことがないな」

「一人対里。戦力差からいえば、戦争とは言えん。だが、ペインは大方の予想を覆し、一人で雨隠れの里………いや、半蔵の一族のみを徹底的に蹂躙したらしい」

「怨恨か………因縁か。余程の理由があったのかもな」

「そうだろうな。そして、マダラはその戦闘力と………輪廻眼に眼をつけた。理由は二つある」

イタチは一本、指をたてながらその理由を言う。

「ひとつ。直接的かつ純粋な戦力としてだ。五行の術を自在に操り、結界術をも駆使するペインの力はすさまじく、マダラはそれが欲しかった。そしてもうひとつ………」

そこでイタチはサスケの方を見た。

「サスケ。あの日にお前に告げた場所………写輪眼の秘密が書いている、あの石碑について覚えているか?」

「ああ、南賀の神社本堂………その右奥から7枚目の畳の下にある、一族の集会場だろ。写輪眼の本当の秘密が書かれていた、あの石碑のことか」

「そうだ。あの古の石碑には特殊な術が施されており、瞳力がなければ読むことさえできない。そして解読できる量は、写輪眼、万華鏡写輪眼、輪廻眼の順に多くなっていく」

「つまりはその石碑に書かれている内容を全て解読するために、輪廻眼を持つペインの力を欲したのか」

「そうだ。また別の思惑もあったようだが、それについては知らない。しかし石碑のことについては俺も知っていたし、事実マダラは俺に直接そう言っていた。
 しかし…………マダラの考えには、致命的な齟齬があったのだ。ペインについても、石碑についても」

「齟齬………食い違い? それはいったいどういう………」


「ここからは少し特殊な術を使う」

そういうと、イタチは遺言が書かれているという紙を広げ、印を組んだ。

一瞬だけ目が眩む。


そして次の瞬間には、俺達は石碑があるという場所に移動していた。

「………幻術か」

「そうだ。時は2年前。木の葉崩しの直後だ」

「あの日か………あれは?」

「うちはマダラと………」

続きの言葉は俺が引き継いだ。

「ペインだな。前に見た姿と同じだ」

「ああ。その二人だ。木の葉崩しにより、哨戒の忍びが少なくなった。そして結界の効き目が薄くなった隙をつき二人はここに侵入した」


説明を終えたイタチは、マダラとペインを指差し、始まるぞと言った。


直後―――時間が動き出す。

幻術の世界で、俺達の前にいる過去の二人は、会話を始めた。

石碑から読み取れたことを話しているのだ。

六道仙人が広めた忍宗のこと。しかし六道仙人は道半ばにして、死んでしまったこと。

その息子についても語った。

六道仙人の息子の、兄の方は仙人の眼と精神エネルギーを受け継いだ。写輪眼の祖といえる特別な瞳を持っていたこと。平和には力こそが大事だと思っていたこと。
弟の方は仙人の肉体………生命力と身体エネルギーを受け継いたこと。平和には愛が大事だと思っていたこと。

そして、兄弟は後継者争いが原因で殺しあったこと。

最後は、十尾について。六道仙人が倒した、世界を滅ぼす化物について。
最終手段としての――――無限月読について。

「―――以上だ。六道仙人について、ここに書かれている内容はこれが全てとなる」

「成程………しかし、十尾とはな。それに、千手と俺の先祖は兄弟だったのか………」

「ああ。六道仙人の後継者、それを巡る争いで互いに殺しあったらしいが」

「ふん、そして俺と千手も忍びの覇権を争い、殺しあった。血は争えんということか。しかし、果たすべき道は見えた。無限月読――――そのためには、完全体が必要だ」



「そうだな………」



その時、ペインの声色が変わった。



「どうした?」



「―――うちはマダラ。お前は、今の話を信じたのか?」

「ああ。事実は神話になぞらえて語られる。それらしき寓話や神話も、各地に散らばっている。俺も、ずっと昔に見た覚えがあるしな。それに、事実そこに書かれているんだろう?
 ―――いやまさか、嘘の内容を言ったのか」

マダラが険しい表情を浮かべる。

対するペインは苦笑しながら、首を横に振った。

「いや、ここに書かれている事は、今お前に語った通りだ」

「ならば、何が違う? そして………何がそんなに可笑しい」

ペインは石碑に書かれている文字を解読している間、終始笑顔を絶やさなかった。
嘲笑でもなく、単純に可笑しいからという笑み。


「いやいや。その通りだよ。事実は神話になぞらえて語られる。火のないところに煙は立たぬし、何もないところから物語が生まれるはずがない。
 ただ――――神話は神話だ。史実ではない。中には語られぬ事実、歴史があり、騙られた歴史もあるということだ」

「何………?」

「如何にこの石碑がよく出来ているとはいえ、作り残したのは人間だ。裏にある真実、汚点、都合の悪いことを全て晒し、書き残してあると………本当にそう思うのか。
 確かに、尾獣と十尾について語られた内容は、大筋では間違っていない。だが細部に違いがある。それにここには、肝心のことが書かれていないぞ」

「どういうことだ……?」

「簡単なことだ。十尾の本質と役割だよ。何故、十尾が生まれたのか。何故、十尾が世界を滅ぼそうとしたのか。それがこの石碑には書かれていない」


だから、俺がここで全てを語ってやる。


ペインはそう言いながら、微苦笑をマダラに向ける。



「そもそもの発端は、忍宗が広まったことだが………そうだな、人が力を欲するのはどんな時だと思う?」

「………突然、何を言い出す」

「答えなければ話は進まないぞ。真実を知りたいのであれば、答えた方がいい」

「………己の無力を嘆く時。あるいは、どうしようもない力が目の前にあった時だ」

マダラは、そのために弟の眼を奪ったこともある。
千手に対抗するために、万華鏡写輪眼を手にするために。

「その通りだ。そしてあの時、人間はその言葉とおりの立場にいた。人より遥かに強靭な力を持つ変化と、妖魔。いまでは口寄せでしか呼び寄せられないが、当時はああいう化物がそこら中を跋扈していた。
 誰しもが己の身を守るために、力が必要だったのだ――――生きるために」

「………」

「だから、忍宗………忍術は、爆発的な勢いで広まった。忍術が広まることについての危険性について、忍術を広めた仙人は気づいていたが、その当時は仕方ないと思っていた。
 事実、人間は妖魔共に追いやられ、絶滅の危機に瀕していたのだから」

「昔話、いや口伝やお伽話で聞いたことはある。だが、お前は………」

何故そこまで詳しく知っているのか。

マダラは聞くが、ペインは無視して話を続ける。

「強力な力を以て妖魔共を屠った。時には蝦蟇仙人のような、変化に位置する存在の味方もできた。仙人と戦士達はその戦いに勝利し、人は己の住む場所を手にいれた。
 世界には人の平和が訪れたのだ。そして、次には何が起きたと思う……?」

「戦争が終わった…………つまりは、戦士達に居場所はなかった?」

「そうだ。忍術を扱える者たち………あの当時はただ戦士といわれていたな。戦士達は、平和な世には必要なかった。
 閉じ目闇に現れて、開き目光に姿を消す。その言葉のとおり、闇………つまりは苦難の時切り開くには、力は人々に希望をもたらす光となった。人々の憧れとなった。
 しかし………平和な時、明るい時代では、その限りではない」

強力な光は、明るい場所では必要無いのだ。まぶしすぎるのも鬱陶しいらしい。
苦笑を混じえ、ペインはそう語った。

「当然、戦士達は反発する。そしてその矛先を民に向けた。妖魔ではなく、人間に向けたんだ。そして戦いは始まり、また夥しい数の人が死んだ」

裏切られた戦士たちは、戦いを挑んだのだ。自分たちの居場所を手に入れるために。

「人が死んだ。森が死んだ。多くの動物達が死んだ。色々な存在と殺し殺されあった。そうして、負の思念が世界に溜まっていくうちに、生まれた…………負の思念の集合体が。それが、九尾の妖魔だった」

「―――十尾ではないのか」

「ああ。九尾の妖魔の存在については、当時の古文書にも書かれていたので、俺達も知っていた。人を害す災厄として語り継がれていたのだ。そして、今度は九尾との戦いになった。
 最高位と言えるほどに霊格の高い天狐に、妖魔核が宿った時、九尾の妖狐は転じて九尾の妖魔となる。遠い昔、龍が存在していた時代では龍に宿り、“九頭竜”ともいわれていたらしいがな。
 九尾の妖魔は強く、倒すのに時間はかかったが………仙人はそれ以上に強かった。激戦の末、仙人は滅びの象徴ともいえる存在を倒した。そして人を越える者………忍び達の神として、崇め奉られた」

「………成程。六道仙人が今も語り継がれ、神と呼ばれている理由はそれか」


英雄には倒すべき敵が必要。人を害す怪物を滅ぼして、英雄は神になる。

そうして、初めて神話が成立するのだ。


「かつての戦士達の戦争。そして、九尾との戦いにより、当時いた人間の四割が死んだ。しかし、争いは終り、表面上は平和になった………そう、思われた時」



「黒い衣を纏い、そいつは現れたのだ…………世界を滅ぼす化物、十尾が」



ペインが虚空を見上げる。その顔には渋面が浮かんでいた。

「あれは………便宜上、“九”尾を越える者として“十”尾と呼ばれてはいる。だが、あれはそんな生易しいものじゃない。九という数字の通り、自然の最終防衛機構を………更に超えた存在だ。
 口伝にも存在しない、終末を告げる鐘のようなもの。妖魔でもなく、生物でもない、ただの現象。言葉にあてはめるとすれば、そうだな―――」

―――曰く、終りと始まりを司るもの。ペインはそういって、眼を閉じた。

「どうあがいても勝てない。初めてその化物と対峙した瞬間に、仙人はそう感じたらしい。それもそうだろう。滅びそのものを滅ぼすことなどできないのだから。
 如何な神といえど、死には抗えないのと同じだ」

どんな神話の中でも、神は死ぬこと。
死は万物に平等に降り注ぐ終りで、それを消すことはできない。

死を殺すことはできないのだ。

「初戦は惨敗。多大な犠牲を払いながら、撤退に成功した後、俺は必死にあの化物を倒す方法を探したよ。あの化物について、徹底的に調べた。そうして探せば色々と出てくるものでな。
 遠い昔にも現れた、十尾を倒すために作られた存在。空の国の空中要塞にある、十尾を模した存在、零尾や、遺跡群………気がとおくなるほど昔、十尾に滅ぼされた者達………その遺言と遺産が、世界各地に存在していた」

「――――確かに。この世界の技術体系には、突発的に発達したものもある。納得できないのも多い。非常に高度な文明を持っていたと思われる遺跡も、各地に残っている。それが、十尾に滅ぼされた人の残滓というのか」

「然り。そして古文書にはこう書かれていた。“祖は九を越えた人類に下される最後の審判。次の時代へ誘う滅びの波。満たされた十、その次の始まりである、零を司り、世界の輪廻を回す怪物。世界そのものを媒介として具現する化物”と」

「終りと始まり。死と再生………成程、世界の最終防衛機構とでもいうのか」

「その通りだ。負の思念に染まった世界が手遅れになる前に一度滅ぼし、その後再生する役割を担う………バカバカしいと思うだろう? 当時の俺達も、そう思っていた。
 強大な力を持つ戦士たちが、一太刀も浴びせられず、虫けらのように尽く殺されてしまうまではな」

「それほどまでに?」

「強い弱いの話ではないさ。戦闘が殺し合いである以上、死を司る存在に勝てるわけがないだろう。そも、立っている舞台そのものが違うのだから。
 正攻法では適わないし、消すことも出来ないと悟った仙人は――――封じ込めることを選択した」

「………」

「世界が作り出したものとはいえ、存在は存在だ。いくらでも対処しようがあると思った仙人は、己の持つ仙人の肉体と眼を駆使し――――十尾を己の内に封じ込めることに成功したのだ。
 その偉業を達成した時、それを成した仙人のことを、そして眼のことを人々はこういった」



ペインは自らの眼を指差し、言う


「世界の輪廻を司るものを、己に封じ込めし者。そして、それを可能とした、あらゆるチャクラの本質を見通す眼」


そして己の肉体を指差す。


「その封じた肉体を以て“六道”仙人。それを成した眼は“輪廻”眼と呼んだ」



「………六道輪廻、か。成程………話におかしいところはないが………」

「全て本当にあったことだ。そしてその過程で、俺は十尾の仕組みを理解するに至った。しかし、十尾はいつまでも封じ込められる存在では無かったのだ。
 六道仙人はまず、十尾のチャクラを少しでも減らそうと画策した。九尾の妖魔の戦闘の際に理解した、妖魔核の術式を模倣して、負の思念を段階的にだが、いくつかに分けた。
 それが一尾から八尾まで。今では九尾も一緒くたにされて、総じて尾獣と呼ばれているらしいがな」

「…………つまりは、九尾こそが唯一の尾獣。オリジナルで、他はただの模倣だというのか?」

「ああ。各地に散らばった擬似妖魔核は、それぞれ霊格が高い生き物に宿ったようだ」

「確かに。数十年だが、一尾は砂隠れの老僧と呼ばれた古狸の変化が、数百年前に突如凶暴化。変異し、生まれた存在だと聞いたことがある」

「妖魔核が宿ったのだろう。そして六道仙人は、それらを人の中に封印し、力を利用する術を開発した。いつか再び現れるかもしれない、十尾との戦いのために。
 同時に――――再び生まれるであろう、九尾の妖魔を封じ込める術も開発した。十尾を宿してから封印に至るまでの間にな」

「九尾を殺さず封印してしまえば、十尾は生まれないと考えたのか」

「ああ。六道仙人が十尾の本体を封じ込めたとはいえ、九尾の妖魔核は健在。負の思念が再び生まれれば、九尾の妖魔もまた生まれるだろうと、そう思った。
 その時、世界が再び十尾を生みださないとも限らなかった。だから九尾を封じ込めはしても、殺してはならない。六道仙人は息子達にそう伝えた」

そこまで語ると、ペインは歯をくいしばり、「そしてもう一人いる」と言った。

「もう一人だと………? 千手とうちは以外に、六道仙人の血を受け継いだものがいるのか。しかし、聞いたことがないぞ」

「当たり前だ。隠すように伝えたからな」

ペインが石碑を叩く。

「ここには書かれていない。仙人の眼を受け継いた兄、仙人の肉体を受け継いだ弟。その二人の――――妹。強力な仙術を授けた、末の娘には………もしもの時のため、十尾を封じ込める仙術を授けた。
 あれは覚醒後、世界の負の思念を集め、大きくなるからな。覚醒直後であれば、十年単位で封じ込めることができる。十年あれば、いくらか対策も取れるかもしれない。人柱力の力を駆使すれば、あるいは勝てるかもしれないからだ。
 しかし特殊な封印術や仙術は、使いようによっては危険極まりない術となる。そのため、その存在についての全てを秘匿するように伝えたのだ。事実、この石碑にも書かれていない。
 ――――秘中の秘である、娘の魂に刻まれた術を受け継ぐ女系の一族については」

「女………そして化物を封じ込める術を伝える、血継限界だと………まさか、鬼の国の!?」


「然り。今は鬼の国の巫女と呼ばれているらしいな。初代火影の盟約を聞くに、千手の一族の方には今も密かに語り継がれ、その存在と役割について知っていたようだが………」


そういうと、ペインは自分の拳を血管が浮き出るほどに強く握り締めた。


「それはまた別の話だ………話を戻すぞ。膨大な十尾のチャクラをいくらか切り離すことに成功した六道仙人は、そのまま自らの肉体ごと十尾を永遠に封じ込めることにした。
 一度発生した十尾は、世界を滅ぼすまで止まらないらしいからな。だから自らの肉体を巨大な岩で覆い、そのまま空へと飛んでいった………それが、月だ」


「話が大きすぎるが………本当にそんなことが可能なのか」

「六道仙人の力だけでは無理だ。それが可能となったのは、封印に十尾の力を使ったからだ。十尾の力を核として、強力な引力を生み出し、巨大な岩に包まれたまま、空へと飛んだ。
 そして太陽の光とと十尾の力をそのまま封印術を保持する力に利用し、生み出された力を循環させ半永久的に作用する
 ………地爆天星という重力を操る術と、仙術を基本とした特殊術式を併用した封印術で、十尾の本体とその大半を封じ込めることに成功した」

ペインは地下の広間の天井を指差す。

それを聞かされたマダラは未だ信じられない。

しかし話に不自然な点が無いのも事実。歴史の裏で消えていった事実など腐るほどある。それを知っているうちはマダラだからこそ、有り得ると思ってしまう。

マダラは首を横に振りながら、かろうじてといった風に、言葉を紡ぐ。

「…………ひとつだけ聞かせろ」


うちはマダラは警戒しつつ、ペインにたずねた。

「何故石碑に嘘を書いた。これは、六道仙人本人が書いたのではなかったのか」

「“忍宗を広めた結果争いが起こり、九尾が生まれた。そして九尾を滅ぼすことによって、世界を滅ぼす化物が出てきてしまった”
 ………そんな劇薬にしかならない真実そのものを、遺すと思うか? 忍びか普通の人々に知られれば、間違いなく大規模な戦争が起こる。当時の六道仙人は、それを恐れた。
 知られれば、また戦争になりかねなかったからな」

良いものなど一つもない。そういいながら、ペインは石碑を叩いた。

「そうかもしれないな………あともうひとつ。お前は話の中で、“俺”といった。“六道仙人”ともな。つまりお前は………六道仙人の生まれ変わりなのか?」

「いいや、厳密には違う。確かに、六道仙人の記憶の、その断片は持っているが、六道仙人そのものではない。肉体も普通のものだ。仙人の肉体ではない」

少し感情が入り込んだせいか、人称がばらばらになったけどな、と言いながらペインは自嘲する。

「そもそも魂の形はそれぞれが違う。外から干渉し、一度魂の形が変わりでもすれば、それは元の魂と違う存在となり、全くの別人となる。
 生命力そのものを扱う術はあるが、魂を扱える術はほぼ無いに等しい」

「………大蛇丸の不屍転生はどうだ。あれは違うのか」

「不老など………そんなものは有り得ない。さっきも言っただろう。万物はに須らく死が存在すると。無限の生など、夢のまた夢だ。あの術も同じで………本人も気づいてはいないようだがな。
 術を使い肉体を変えていく度に、魂は劣化していく。―――やがてあいつは破綻し、“元木の葉の三忍・大蛇丸”ではなくなる。すでにその兆しは出ているだろうな。そして人格が死ぬことを“死”と呼ばずになんと呼ぶ」


ペインは一歩。マダラの方へ歩を進め、告げる。


「お前が忍び世界に絶望しているのは分かっている。そのために無限月読を成そうというのだろう。人の性を悪と見極めたお前は、争いを無くすために永遠の夢の中に逃げることを選ぼうとしているが
 ………そんなことはさせない。あれは本来ならば下の下索だ。今のこの平和な世界に、無限月読は必要無い。消えるのは、忍びだけでよいのだから」

「何だと………ならば、お前は何をするつもりだ!?」

「かつて遺した、輪廻眼の定めそのままに動く。自らが封じ込めた、十尾の………世界の代行者としてな」

ペインは掌を広げながら、言う。

「あの時………十尾を永遠に封じ込めようとした時、六道仙人はとあることを危惧した。輪廻のシステムを壊すことを。だから、いつか………世界がどうしようもなくなった時。
 その時がくれば、己が十尾の代行として、世界を滅ぼし輪廻を回すと。世界が二度と生まれ変われないことを避けるために、もしもの時は自らが手を下すと誓った。言い伝えとして、残っているはずだ」

「輪廻眼を持つもの………“世が乱れた時に天から遣わされ、世を平定せし創造神となる。あるいは、遍くを無に帰する破壊神となる”だったか」

「そうだ。正しく伝わっているようだな。そして俺は死ぬ間際、こうも遺した。強力な忍術を扱うものこそを、忍者と呼ぼう。そして強力な忍術を扱えるこそ、耐え忍び………天災の時以外は、普通でいろ。権力と結びつくな。
 表に出ることは二度同じ過ちを繰り返すことになる。心を以て刃を振るう者こそを忍者。心無い、ただの刃と成り下がるな。相手の存在を知りその痛みを知り、人との繋がりこそを想えと」


ペインはしかし、首を振る。


「…………戦士の傍系、チャクラを扱う侍という監視システムをも作ったようだが、その願いは、言葉は………無駄だったようだな。今やお前たちは世界の荷物でしかない。
 大名からは恐れられ、その力も疎まれている。あの大戦と軍事力縮小が、全てを物語っている」

「…………忍界大戦か」

「三度もよく起こしたものだ。ああ、仏の顔も三度までという言葉を知っているか? そして今、四回目を起こし尾獣を集めようとする馬鹿もいるようだ。
 戦争で忍術は発展し、今では昔とは比べ物にならないほど多様を極め成長した………危険な忍術も生まれ始めた。このままでは世界そのものが滅びかねない」



それは許容できないと言い、ペインは親指の肉を噛みちぎる。



「そして今………木の葉崩しにより、また大勢が死んだ。十年を待たずに、十尾がここまで形になるほどに負の思念が集まっている………!」


「ぐっ………」


ペインの威圧感が倍増する。いつか見た、一尾の比ではないほどに。


「あの日、あの夜、あの月を見上げ――――目覚めてから十数年。各地を旅し、色々なものを見てきた上で、結論を下す。

 我、世界の意志を代行せり。
 
 あるべき循環を取り戻すため、未だ幼き十尾と共に動く。人の痛みを忘れた忍びに、世界を滅ぼす可能性を持っている忍びに――――裁定を下す!」


血にぬれた手を、地面に叩きつける。


そして煙の中、ペインはマダラの方へ手をかざす。


「――――人と世界の痛みをその身に刻め!」


ペインがマダラに向けて手をかざす。






「なにぃっ!?」





かざされた手に、マダラが吸い寄せられる。

それを見たマダオが驚く。

「触れた………!?」

「引力を操る術か………!」







「“万象天引”。その名の通り、万物をこの手に引き寄せる。位相空間だろうが擬似空間だろうが形骸化した存在だろうが、この術の前に例外はない」


そして、ペインはマダラの耳元でぼそりと呟く。すると、マダラの顔が驚愕にそまる。


「くっ―――――!!!」


マダラはペインの手から逃れようと、あらゆる術を試す。だが、それは無駄だった。

輪廻眼の能力は、チャクラの理と本質を見通すこと。

写輪眼のように忍術の術式を写し取る能力は無いが、その眼は全てのチャクラ………つまりは忍術を理解できる。



「お前の術は既にこの眼で見た。種も理解した。下準備はぬかりないぞ」


「それはっ、まさか………何故だ、九尾は死んでいない筈………!」


「いや、九尾の妖魔は死んだよ」


「なにを………」


「全てはお前の招いたことだ、うちはマダラ。時を超えた兄弟喧嘩に、よりにもよって九尾を使った報い………それが、今ここにある状況を作り出した。
 
 ――――全てはお前を発端として、始まったのだ! 因果応報とは、こういうことだ!」


煙の中から現れたのは、黒い化物。

まだ小さいが、その禍々しさは損なわれてはいない。



「これが十尾!?」

「然り!」



口寄せの術。完全体ではなく、幼生体の十尾をペインは呼び寄せたのだ。

手掌と共に、黒い塊がマダラを包み込んだ。断末魔を上げながら、うちはマダラは十尾に飲まれていく。


「くっ、ペインんんんん―――」




声は次第に小さくなっていく。数秒も経つと、広間には静寂だけが残された。






「さてと。始めようか―――」





残るペインは、十尾に触れながら虚空を見上げ、ゆっくりと口を開く。







「忍者、滅ぶべし」










ペインは虚空を見上げ、今この世に存在する忍び全てに向かい、宣戦を布告する。













「お前たちは全員、俺が―――――――殺す」


















あとかぎ

伏線回収。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 五十九話 「因果の果てに」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/28 11:12


ペインの宣言の後。

幻術は途切れ、俺達は元の場所へと戻っていた。

「………」

一度は今の遺言を見たであろうイタチを含めた、その場にいる全員が沈黙する。

衝撃のあまり、誰も言葉を発せないようだ。かくいう俺も、あまりに巨大な敵の正体を知ったせいで、頭の中が混乱の極地に達してしまっている。

六道仙人と、十尾。考えうる限り、最悪の組み合わせではないだろうか。

実は嘘でした、と言って欲しいのだが………思いをこめて、イタチの方を見やる。

しかしイタチ兄さんは、黙って首を横に振った。

「嘘はない。全て本当だ」

「………まあ、そうだろうね」

今この場でイタチが俺達に対して嘘をつく理由がないし、またその必要もない。

「………マダラ死の間際、最後の力を振り絞って、俺へ向けこの遺言を飛ばした。そこで、俺は全てを知ったんだ」

特殊な術式が用いられているらしく、写輪眼を持つ者にしか理解できないようになっているらしい。送る先も写輪眼限定だろうか。

「………写輪眼による特殊術式。ということはマダラが作ったのは確定となるね。カカシ君も写輪眼を使えるけど、こんな芸当ができる程使いこなせる訳じゃない。
 まあ、そんなことをする必要もないからね」

だから本物だろう、とマダオが首を横に振る。その手を見れば珍しく、かたかたとわずかに震えていた。

「………ちなみに、俺がこの遺言を持っているということは、未だペインには悟られていません」

「知られれば口封じに殺されるかもしれない、か。紫苑はペインの正体については知っていたのか」

「………眼が見えぬのでな。先の幻術は妾には見えぬ。だが先の遺言の内容については、イタチから口頭で説明をうけておる」

「あ………ごめん」

失言だった、と頭を下げる。

「………謝らずともよい。それよりもペインのことじゃが………」

途中で、紫苑が言葉を濁す。

「……そういえば、ペインは紫苑の現状について知っているようだったけど」

「ああ、知っておるよ。お主らと別れてから、ちょうど4年程経った時………木の葉崩しとやらが起きた時より、一年前ほど前となるか。あやつが現れたのは」

周囲に張り巡らされている結界………普通の人間や、上忍クラスの忍びでも気付けないであろう、この結界を完全に無視して、この隠れ家にやってきたらしい。
さすがは六道仙人の記憶を持っているというべきか。

「あの時は本当に驚きましたよ。遠出の買い物から帰ってきて家を見たら、見知らぬ不審人物が紫苑様の目の前にいたんですから」

菊夜さんがためいきひとつ。そりゃ驚くよなあ。
その状況で、戦いにはならなかったのだろうか。

「2秒で気絶させられました」

首筋を手刀で一打ちだったらしい。そう聞くと余計に化物じみているな。

「ペインは紫苑に対して何か言っていたのか」

「盲た妾の眼に触れた後に、の。“すまない”と一言だけ言っておった」

触れた手は震えていたらしい。いったいどういう思いで紫苑を見ていたのだろうか。どういう気持で、その言葉を吐き出したのだろうか。
あの巫女を巡る戦い、六道仙人にも責任の一端はある。他ならぬ仙術を遺したのは六道仙人本人なのだから。

後悔、悔恨かあるいは………それすらも越えた何かか。
娘の変わり果てた姿を見て、六道仙人の記憶を持つ彼は一体何を思ったのだろうか。
あるいは、“忍び滅ぶべし”の決意をさせる程に、怒り狂ったのだろうか。

「………彼の気持ち、分からないでもないかな」

マダオが呟く。キリハのことを考えたのか、はたまたナルトの事を考えたのか。
どちらを思って発した言葉なのか、俺には分からなかったが。

「菊夜さんは、ペインと話をしたの?」

「はい。あの戦いから今にいたるまで、その経緯については説明しました。ですが貴方のことは話していません。彼がどういう行動にでるか分からなかったので。
 その、紫苑さまの眼に触れた後、ほんの一瞬でしたけど………尋常じゃない殺気とチャクラを感じましたから」

死を幻視しました、と菊夜さんが自分の肩を抱え、震える。
上忍クラスの忍びに殺気だけで死を幻視させるか。

(いや、するだろうな)

対峙した時の事を思い出す。あの威圧感と殺気は、人間の範疇には収まりきらないのではなかろうか。

(それはまた、後回しにするか)

今俺達が考えてどうこうなる問題じゃない。再不斬や白、あるいは自来也や綱手の力を借りなければならなくなる。
詰めるのはその時でいい。

まず聞かなければならないこととして、俺は紫苑の容態についてを聞いた。
紫苑のチャクラの流れは、7年前の最後に見たあの時より、ほんの少しだが和らいだように見える。

「ああ、これはペインが処置してくれたのじゃ。最も、傷ついた経絡系だけは輪廻眼でもどうしようもないので、完全には治せないと言われたがの」

「………俺も試したみたが、治癒は無理だった。経絡系そのものが酷く傷ついている。幼少期に受けた傷というのも大きいな。身体の成長に伴ない、裂けた傷口が広がり続けている」

経絡系に受けた傷は治癒が非常に困難で、熟練の忍びをもってしても、完治はもほぼ不可能だといわれている。

「それに加え、紫苑が本来持っている膨大なチャクラが治癒のチャクラの働きを邪魔しているんだ。薬の副作用もあって、外から入ってくるチャクラに対し過敏に反応しているのも厄介だ」

つまりは幻術も使えないということだ。
敵意が無いとは分かっていても、紫苑の内部で燻っているチャクラは自動的に反応するらしい。
抗体に似た役割………外部から干渉しようとするチャクラの力は全て排除しようと動くらしい。

「自分のチャクラを使って治すことは………無理か。ただでさえ痛むもんな」

「一度試してみたが、痛みのせいで集中力が途切れてしまう」

「………ということは、綱手様の医療忍術をもってしても、治癒は見込めないか」

もっと別の角度からのアプローチが必要になる。

「………ちょっと待てよ? いや、もしも………」

そう言いながら、マダオは頭を悩ませている。

「………まあ、痛みは幾分和らいだからの。ペインとイタチの処置が無ければ、妾は今頃は死んでいたかもしれんし………命があるだけでめっけ物じゃ」

そう言いながら、紫苑は笑顔を見せる。

「紫苑………」

笑顔にしても痛々しい。刺されるかのような胸の痛みを覚える。

「何か他に手はあるはずだ。探すから、待っていてくれ」

今ならば綱手の協力も得られる。木の葉に戻って資料を取ってくるということもできる。

「ありがとう………じゃが、妾のことは後回しで良い。それよりも今は、話すべきものがあるのではないか?」

「………いや、今日のところは一先ず終りにしよう。明日、また情報を整理してから、対策案を練らなきゃならないけど」

だから少し休んでくれ、と俺は紫苑に向けて言う。

「ふむ、分かるのか?」

「ああ。眼が見えない分、普通より疲れやすいってことは分かるよ」

それに他のことも色々と話したい。そう言うと、紫苑は分かったと笑って頷いた。



その横から、先の俺の言葉にひっかかるものを感じたのだろう。

イタチは俺の眼を見ながら、あること聞いてきた。


「………お前は、どこかに逃げないのか?」

「はあ? 逃げるって………何で?」

心底分からない。
そう答えると、イタチは不思議そうな表情を浮かべる。

「六道仙人に十尾。お前の思っている通り、相手は間違いなく最強の存在だろう。お前なら、紫苑を助けたことや、お前の持つ事情をペインに話せば、殺されずにすむかもしれない」

「…………ひとつだけ、選ぶとして」

一本、指をたてながら、俺はその問いに対しての回答を返す。

「――――うちはイタチ。あんたは弟を見捨て、自分だけ生き残る道を選べるのか」

「それは………」

イタチが言葉に詰まる。その問いの答えは否なはずだ。

例え夢があるとして、自分の命が大切だとしても。今までに出会った全てを捨てて、人との繋がりを無視してまで生き延びて。

だが果たして、それは本当に生きているのだと言えるのか。

「俺だって戦うのは嫌だ。今回は特に相手が相手だし、逃げ出したくなる気持ちも、無いといえば嘘になる」

風の砲弾に肋をへし折られ、吹き飛ばされた時には正直死を覚悟した。

「ああ、怖いさ。めっちゃ怖いよ。だけど………ここは退けないだろう」

「何故だ?」

「思い出した、忘れていた記憶と共に蘇った気持ち………戦う理由があるからだよ」

最悪最強の敵だとして、意地を放り出してまで生き延びても、後には何も残らない。
今までであってきた人達、ほぼ全てが死に絶えると聞き、どうして逃げられるはずがあろうか。

「既に気持ちは決まっている。突拍子もない事態だけど、方針は変わらない………問題となるのは、“どう勝つか”だ」


「勝つ、だと………本当に勝てると思っているのか? 相手は古代の英雄に、世界が生み出した最強の化物だぞ」

「ああ。そいつをぶっ倒せばいいんだろ?」

「………しかも世界の意志を背負っている。忍びの神とも呼ばれた存在も、傍にある。いわば世界の意志そのものを敵に回すんだぞ」

「だから、そいつをぶっ倒せば全ては終わるんだろ?」

「………簡単に言ってくれるな」

「いや、簡単じゃない。全力を尽くしても勝てるかどうか分からないから。だけど、まあ………ペインの言動には、色々と納得できない部分が多々あるし。だから俺は逃げないよ」

立ち向かい戦った上で死んでも、それは俺の道の上でのこと。

最後だとしても、道外れ堕ちた底での終焉ではない。

だから、笑って死ねるだろう。


「とはいえ夢の旅路はまだ途中。ここで死ぬのは嫌だから、全力を尽くそうぜみんな」

敵は分かった。世界ってやつだ。
だけれども死にたくないのであれば、抗うしかない。

爺さんとの約束もある。マダオの想いもある。
何より、木の葉には死なせたくないやつらがいる。

だから戦おう。これで正真正銘、最後の戦ってやつだ。
それに世界には色々と言いたいことがあるしな。

「――――返答は?」

俺は未だ沈黙したままの、その場にいるサスケ達に対して聞いた。

戦うか、それとも逃げるのか。


答えは、すぐに返ってきた。


「戦うよ。当たり前だろうが」
何をいまさら、とサスケが言う。例え誰が相手でも、退くつもりはないようだ。

「ま、いつもと変わらんしの」
今までも確たる勝算があったわけでもなし。同じくどうにかすればよいのじゃ、とキューちゃんは男前な笑顔を浮かべる。

「ウチも、まだ夢の途中だからな。意地でも死んでやらねえ。逃げるのもごめんだ」
笛を握り締め、多由也。ここで死んでたまるか、と気合を入れている。

「…………」

マダオは俺を凝視しているだけ。何か気になることがあるのだろうか、言葉を発さず俺の様子を伺っていた。

「どうした?」

「いや………何も無いよ」

眼を閉じた後、マダオは首を横に振る。何故か口元には微笑を携えていた。

「実に我侭な、理想だ………全てをその手からこぼさないですむと、本気でそう思っているのか?」

仲間、友達、知り合い。その誰をも死なせないで、道を通せると思っているのかと聞いてくる。

――――まさか。

「戦いってのは、そんなに甘くない――――だけれども。だから死んでも構わないし仕方ないって、割り切れるハズもない」

後悔しないように、来るべき時に向けて全力で備え、最後まで抗うだけだ。
どうにかなるのではなく、どうにかする。
死にたくないのであれば、そうするしかない。戦いというのは、危機に対して備えることなのだから。

「そうか………ならば、最早何もいうまい」

俺達の答えを聞いたイタチは、唇の端だけ、だが確かに笑みを浮かべていた。

「ん、何か可笑しいことを言ったか?」

「ああ、とてもな。だが、その信念は嫌いじゃない――――俺も、果たすべき責務を果たそうか。何か、他に聞いておきたいことはあるか?」

決意を秘めた眼差しと………その言動。
俺は少しひっかかるものを感じたが、取りあえず聞いておきたいことは聞いておいた。

「ペインの正体について、新・雨隠れの長になるまでの経緯については、何か心当たりがあるか」

「いや、ペインという名前しかしらないな。そちらは何か心当たりが?」

「エロ仙人………自来也に聞いたんだけど、あの人20年以上前に雨隠れの里の近くで、3人の弟子を取ったらしくて。そんで、そのうちの一人が輪廻眼を保持していたって言ってた」

「かなり昔の話だな………雨隠れの半蔵が表に姿を出さなくなったのが、それより少し後だったか。いや、待てよ………?」

イタチは顔を少し下に傾け、考え込む。

「………一度ペインとやりあったと聞くが、その時ヤツの顔は見たか?」

その問いに、俺はああと頷く。

「歳はいくつに見えた?」

「え、20代前半か、もしくは………ああ、そうか!」

ぽん、と手をたたく。

「その通りだ。年齢と容姿が合致しない………だが、五代目火影の例もあるしな。やつも容姿を自在に変えられるのかもしれないが………」

「ああ、それもそうだなあ。容姿・偽名については、俺も人のこと言えないし」

得意技・年齢不詳。影に隠れて10数年、うずまきナルトの小池メンマです。

「かといってそうそう輪廻眼を持つ人間が現れるわけもない。エロ仙人が今、かつての弟子と輪廻眼について情報を集めているらしいからな。少し時間が経てば何か分かるかもしれないけど」

あるいは、ペインが六道仙人の記憶を持つに至った理由が分かるかもしれない。

「そうか………暁のことに関しては、何か聞きたいことはあるか?」

「………そういえば、デイダラとサソリはペインの正体について知らなかったみたいだけど、他の面々はどうなんだ?」

「ゼツは知っているだろう。マダラ亡き後でも、未だ暁に残っているところを見ても間違いはないだろう。信念の薄い、好奇心の塊みたいなやつだからな………」

面白いものが見れるとして、ペインに付き従っている可能性は大いにあり得るらしい。

「角都と飛段については、俺も会う機会が少なくてな。話しても聞く奴らじゃないから、言ってもいない」



「小南は?」


「………誰だ、それは?」


「え、暁の紅一点、紙を使うくのいちの事だけど………」

「知らないな。聞いたこともない」

不思議そうに、イタチは首を傾げる。

「そうか………偽の情報だったか」

その場はそこで誤魔化し、話題を次に移す。

「水影時代から繋がりがあると思われる、干柿鬼鮫は………知っているだろうな」

「ああ。マダラの事も含め、俺が直接話した。その時に伝言を託したんだ。紫苑から、うずまきナルトについての話は聞かされていたからな」
 
まさかサスケまで連れてくるとは思わなかったが。
イタチは苦笑を混じえ、そう言った。

「他の里には………」

「いや、何も話してはいない。そもそも抜け忍………それも一族を虐殺した俺の口から出る言葉など、どの里にも信用されないだろうからな。暁の一員だということも知れ渡っている。
 偽情報による内部撹乱の計略とみなされ、その場で殺される可能性が高かった故、今まで沈黙を保つしかなかった」

信頼に足る誰かに託すまでは、と思ったらしい。
疑念すべきは罰せよの理屈を持つ忍びだ。迂闊な行動に出ないあたりは、さすがイタチと言える。
伊達に独りで修羅場をくぐり抜けてきていないというわけか。

「ペインから頼まれた任務………紫苑の護衛もあるしな。ここから動けずにいたが、おまえらが此処に来た。結果的に吉と出たと言える」

これも巡り合わせかもしれないが、とイタチが苦笑する。

「しかし、五影には知らせるべきか………でも、正直に話したとしてもなあ」

信じてもらえるかどうか分からないのだ。

「“死んだと思われていた、齢80を越えるうちはマダラ。実は生きていたけど、存在さえ疑われている六道仙人の記憶を持つペインという忍びが、彼を殺しました。その忍びは十尾と呼ばれる怪物を操り、世界を滅ぼそうとしています”、かあ………」

「………雷影殿あたりには一笑に付されて、それで終りだね。最も本人はペインと直に会っているので分からないけど」

そう言うと、マダオは肩を竦めた。

「俺も、雷影云々の情報については把握している。ペインが各里の忍びの死体を使って、襲撃を仕掛けたのもな。その際の死体や手引きその他、大蛇丸とダンゾウに色々と協力を要請しているようだが………知っていたか?」

「ある程度予想はしていた。きな臭い場所には必ずと言っていいほど現れる奴らだからな」

しかしやはり、その二人は繋がっているのか………悪縁の妙、ここに極まれり。こうまで絡んでくるとは。

ダンゾウに至っては、全ての発端………うずまきナルト暗殺計画の一部にも手を伸ばしているはずだ。シスイを殺したと思われるあいつなら、何をしても不思議じゃない。
あるいは、九尾の妖魔の力を写輪眼で操ろうとしていたか。

この期に及んでも切れないとは、実に奇妙な因縁だ。できれば全力でぶった切りたい類の縁ではあるが。

「………ま、ダンゾウには色々と借りがあるしねえ。いつか一発ぶん殴りたい」

「同感だ。俺の方は一発だけですませる気はないけどな」

「………僕もかな。いくらなんでも、裏で色々こそこそと、やりすぎだからね」

俺とサスケとマダオが鼻息荒く拳を握り締める。

「気持ちはわかるが、それよりもまずやるべきことがあるだろう」

「そうだろうけど………あ、そういえば兄さんは、シスイさんの死因や、殺した相手とか………何か、知っているのか?」

「………あの時も言った通り、俺はシスイさんは殺してはいない。彼はむしろ俺に協力してくれた。うちはと木の葉との和解、その案を勧めようとしていた三代目と一緒に動いていた。
 動いていたのだが………ダンゾウがな」

「あいつが、殺った?」

「――――ああ。あれが、最後の一手となった。うちはと木の葉の決別、それが確定となる決定打となった」

「兄さん………」

「………それももう、過ぎたことだ。今は対処すべきコトが、別にある。マダラには言いたいことは色々とあるが………それでも、この手紙を託されたものとして。俺には今、成すべきことがある」

そう告げるとイタチは立ち上がり、サスケの方へ視線を向ける。



「大切な話がある」
















「行ったか」

イタチの提案の後。サスケは頷き、あの兄弟は隠れ家の外へ出た。

家の裏庭にある広場へ移動し、二人きりで“話”をするらしい。

「何も言わずに………良かったのか?」

見送るだけで、その場に行こうとしない俺達に対し、紫苑が聞いてくる。

「いや、僕からは無いよ。語るべきこと、教えられることは全て、修行の中に詰め込んだから」

「そうなのか………ナルト、お主は何か一言だけ告げておったようじゃが、一体何を?」

「頑張れ。絶対に負けるな、と」

「随分と簡潔じゃの………」

「色々と込めたつもりさ。全て伝わっているかどうかは分からないけど」

「………しかし、本当に行かぬでよいのか?」

「行かないというよりは、行けないよ」

「そうだな………ウチらが口を出せることじゃない」

「そうなのか………?」

「――――今この時にいたるまで。サスケに対して、やれるだけのことは全てやったから」

最後はサスケ次第だ。今更俺達がしゃしゃり出るところじゃないと、そう思っている。

「サスケはお主にとって、仲間………友達ではないのか?」

「一緒に2年。過ごしたこともあって、今は少し家族に近い感覚かな。だけど、なかよしこよしのべったりというわけでもないから、何にでも口を出すのもまた違う。それに、これはあの兄弟、二人だけで決着すべき戦いだ」

「………誰だって、手を貸して欲しくない、自分の力だけで成し遂げたい戦いがあるんだ。ウチもできれば手を貸したいけど………そればっかりは、できない」

多由也が俯き、呟く。

「………だから力足らず、あの二人が死んだとしても、それはそれで仕方ないと。そう、言うのか」

「仕方ないとは思わない。だけど俺とサスケ、互いに交わした約束があるんだ。互いに守るべき意地があるしね。それを破るというのなら、逆に俺の方が殺されてしまう」

ここで横槍を入れる俺を、サスケは決して許すまい。


「心配はいらないよ。あの二人がこれから何をするのか、ある程度は分かっているけど………きっと、大丈夫だから」


隠れ家での毎日を回想する。


約3年間、ずっと修行に明け暮れていたサスケ。

天与の才と言われるにふさわしいだけの素質を持つあいつは、しかし才能にあぐらをかかなかった。

血反吐を吐きながら自分の身体を苛め続けたのだ。

もしもサスケが死んでしまったら、この3年で蓄えた切り札………いくつかは使えなくなり、六道仙人に対する術も損なわれる。
だけど、それはここで手を貸しても同じことだ。

状況が状況ならば、あの二人は戦わなくてもすんだかもしれないが………。

「――――うちはマダラの遺言、か………思っても見なかったな」

小南に対してもそうだけど、マダラがまさか死んでいたとは露とも思っていなかった。

「でも、マダラっておっさん………どの面下げてイタチにあの遺言を託したんだ?」

言いながら、多由也が顔をしかめる。

確かにそうだ。一族を滅ぼした元凶とも言える男が、一体どういうつもりなのだろうか。生きていたら聞いてみたいものだ。
託されたイタチも、初めてそれを見た時は、さぞ複雑な気持ちになったことだろう。


しかし、彼は動いている。
良き方向になるように、動き続けている。


“人の将に死なんとする、その言うや善し”

忍びを滅ぼす危険性を持つ相手、その正体を知らせる遺言。
こめられたメッセージは、“こいつを止めてくれ”。マダラも何か、この世界に対して手を打とうとしていた。
そのメッセージと彼の真意を、不本意ながらも受け取ったからには果たさなければならないと、イタチはそう思ったのかもしれない。


あるいは、“鳥の将に死なんとするその鳴くや哀し”

単純に悲痛な最後を見た故の同情か。


うちはマダラ、あの最後の叫びは哀れみを呼ぶだろう。例え因果応報の果ての自業自得だったとしても。

「しかし、因果か………」

考えてみれば、皮肉なものだと言えよう。


最初は、鬼の国での一件。あの時、巫女が命を落としたのその発端は、九尾の妖魔の死によるもの。
つまりは、俺が絡んでいたことなのだ。因果の元となる俺が、あそこに現れたのは偶然か、はたまた必然か。


千手柱間とうちはマダラについてもそうだ。
かつて後継者の座をめぐり争った兄弟が時を越えて殺し合い、その末に滅びの引き金を引くような事態になろうとは。


命を賭けて十尾を封印した、六道仙人。
その弟の志と血を受け継いだ里、その四代目が命を賭して九尾を封印し、結果滅びの引き金を引いてしまうことになった。

だけど、あの場では仕方なかったと言える。“うずまきナルト”の原型、今は居なくなった幼き少年の心は確かに砕けていたし、どうにかしなければ九尾の妖魔は復活していただろう。

それを止められるのは一人、うちはマダラだけ。
その果てには無限月読か、あるいは………いや、もしもの話は無駄だ。



兄弟で殺しあう悲劇も、奇妙なほどに繰り返されている。

六道仙人の息子である兄弟。

シンと、サイ。

サスケと、イタチ。

まるで見えない誰かが操っているかのようだ。

忍び世界において、弟の役割は兄を殺す運命にあるというのか。


「原初から連なる宿命、とでも言うのかな、力持つ瞳の一族の末裔、その最後の兄弟………」


因果は深く、業は血に刻まれている。


「だけど、それがどうした、だ――――負けるなよ、サスケ」





















隠れ家の裏。森が少し開け、広場となっている場所にイタチはいた。

眼を閉じながら懐に腕を入れ、じっとサスケを待っていた。その胸の奥に刻まれているのは決意。

抗おうと立ち向かう者たち………その一人、弟に最後の力を託すため、彼はそこで待っていた。

イタチがあの夜を越えてから、7年が経過した。

弟に生き延びて欲しいという願いをこめたイタチの演技。
意図的につなげた、憎しみで編まれた黒い絆は、だがサスケが真実を知ったことで、いまや払拭されていた。

サスケの胸には、かつてイタチとの間に結ばれていた“兄弟”という絆を取り戻したいという、想いがある。

イタチも、それのは気づいていた。できるならば応えたいという気持ちもある。

「だが、それは出来ない…………」


あるいは、状況が許せばその選択肢を選ぶことが出来たかもしれない。

だけど、今この時において、イタチはその選択肢を選ぶことができない。




イタチの頬を、風が撫でる。




林を揺らす大気の鳴動。




その音と共に、サスケが現れた。


「――――来たか、サスケ」


「――――来たぜ、兄さん」



広場に到着するなり、二人は互いに言葉を交わす。
そして一定の距離を取り、兄弟は対峙する。


片や、腰に刀を携えた弟。その瞳に籠められた意志は強く、かつての少年時代の輝きは損なわれていない。

片や、雲の衣を纏った兄。艱難辛苦の道を経て、今ここに最後の任を果たそうとしている。








「サスケ………俺の言いたいことは分かるな?」




イタチが眼を見開き、その瞳に刻まれた紋様を顕にする。





「ああ…………」





対するサスケも、眼を見開き、その瞳に刻まれた紋様を顕にする。



「あの夜の出来事………覚えているか?」


「ああ。幼かった俺には、現実味が無く………幻術の中に迷い込んでいるとしか、思えなかったけど………」


だが、それは紛れも無い現実だった。

朝、起こしにくる母もいない。居間で食事を取る厳格な父の姿も無く、通りには誰もいない。

一日が経ち、一週間が経ち………やがて、夢は覚めた。
あの優しかった兄がみんなを殺したのだと。裏切り、全てを奪っていったのだと、悟らざるをえなかった。

だが、あの日………真実を聞かされた少し後。

そして、今この時に、サスケは真実がどこにあるのか、理解した。

「………あれは、本当に仕組まれたものだったんだな」

「どうしてそう思う? 全ては嘘で、本当は俺が裏切ているのかもしれない。あの遺言も、全て仕組まれたものかもしれないと………そうは、思わないのか?」

無表情のままに出された問い。

それに対し、サスケは黙って首を横に振る。

「………何故だ?」

「この隠れ家に来る途中だ。あの、再会の時――――」

サスケは思い出す。7年会わなかった、兄………その姿を。

「あの時、眼を見た」


交わした視線は一瞬。


けれど、一瞬で十分だった。




「―――――優しい、兄さんの眼だった」


「―――――っ」

思わぬサスケの言葉を聞いてイタチ。

呼吸を忘れ、その動きを止める。


「今の俺の眼は、復讐に囚われていた昔とは違う。何も知らなかったあの日とも違う」

自分の眼に触れながら、サスケは思い返す。

色々なものを見たこと。

戦いの中、あるいは日常の中。木の葉で、雪の国で、隠れ家に訪れる四季と共に、修行の日々。

新しいことを知り、共に戦ってきた仲間と一緒に、生きてきたこと。




「俺の眼は真実を見抜けるようになった………兄さん、あんたの瞳には、憎しみはない」


―――ー悲しみしか宿っていないと

眼を閉じ、サスケは告げる。



「――――そうか」



イタチは頷き………そして、瞳から涙を流す。

血の涙ではなく、透明な涙。

だがそれも、一瞬。


緩まった表情は即座に引き締められ、零れ出た涙はぬぐい去られる。


あの日、あの夜と同じ光景。

月の下、涙を隠そうとする兄の姿を見たサスケが、「まさか………」と呟く。


「随分と成長したんだな………仕草からも分かる。余程良い師に巡り合えたようだ

 ――――ならば、安心して託せるな。最強の敵、それを倒す可能性を秘めた、この眼を………」



告げると、イタチは己の眼を指差す。




「通常の方法では、あの化物を倒せないだろう。天狐の力を借りられたとしても、倒しきれるとは言い難い………だからこそ、必要となる」


イタチの眼の紋様が変化する。



「…………!」



「これこそが、万華鏡写輪眼………開眼条件は、覚えているな? これで、真の万華鏡写輪眼を手に入れられる。木の葉の里も滅びずにすむかもしれない」




だからこそ、と。


笑いながら告げ、イタチは己の心臓を指差す。








「サスケ。お前の手で――――」





――――俺を、殺せ。



イタチは笑いながら、サスケにそう告げた。











[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十話  「譲れないもの、ひとつだけ」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/03/28 20:53


イタチの言葉に対し、サスケはやはりかと思いながらも、眼を閉じる。

さっき呼び出された時から、こう言われるだろうということ、サスケは予測がついていた。

だから動揺することもない。用意しておいた答えを返すだけだ。


「――――断る」


イタチの言葉に対し、サスケは首を横にふる。


「サスケ………分かるだろう。今がどういう状況なのか」


「ああ、分かっている。だけど、絶対に嫌だ」


「――――嫌だ、というだけでですむ問題ではない。あの化物を倒さなければ、忍びの世界が滅びるんだ。それに………俺には居場所がない」


イタチは虚空を見上げながら、言葉を続ける。

その空では、鳥達が飛び続けていた。あの鳥のように、何の枷も無く飛べたら―――誰もが、望むことだ。

だけど、それはできない。


「一族を虐殺した裏切り者………木の葉の上層部も、今更うちはのことを………過去の失態について、公表はしないだろう。そうなれば、里が混乱するからな。
 ………木の葉崩しからようやく立ち直ることができた今、そして緊張状態となっている今、その事実を公表することはできない」


「っ、だからって…………!」


「俺を殺せばお前は万華鏡写輪眼を手に入れられる。そしてこの眼を移植すれば、あの十尾にも対抗できるだけの力を手に入れられるだろう………」


視線をサスケの方に戻し、イタチは万華鏡写輪眼についての説明を始める。


「この眼は特別………開眼した時から、特別な力を有する………使えば使うほど、封印されていくという不都合はあるがな」

「………大きな力にはリスクが伴なう」

「そういうことだ。使い続ければ、いずれこの眼は光を失う………だが、効果は絶大だ。あの九尾をも操ることが出来るのだからな。最初に万華鏡写輪眼を開眼した、あのうちはマダラのように」

「マダラ………」

「俺の相棒、師、理解者で………宿敵であり、怨敵でもある。言葉で表すのは難しいな」

「万華鏡写輪眼については、マダラから聞いたのか?」

「ああ………かつてマダラにも兄弟がいた」

イタチはマダラから聞かされた過去について、サスケに語る。

互いに競い合い、その瞳力を成長させていったこと。やがて二人は、万華鏡写輪眼を開眼させたこと。

それはうちは一族始まって以来、初となる快挙だった―――――筈だった。

「それが悲劇の始まりだったのだ。九尾をも手懐ける瞳力………それが、何を意味するか分かるか?」

「大きすぎる力は災いを呼ぶ………霧隠れでの血継限界に対する扱いや、人柱力と同じに………」

「そうだ。マダラは万華鏡写輪眼を使い、当時無数にいた忍び一族をその強大な力でねじ伏せ、束ねていった。弟の眼を奪い、永遠の万華鏡写輪眼を手に入れてからは、更に歯止めが効かなくなった
 相対する敵に対し、やりすぎることもあった」

「大きすぎる力は、自己を見失う………それほどまでに、万華鏡写輪眼は強大な力を持っているのか」

「ああ………そして、うちはは二大勢力と呼ばれるまでに膨れ上がることになる。だがその統制は、万華鏡写輪眼によるもの。力づくでのものだった。
 慈悲と寛容を以て一族を束ねる、もう一つの勢力………千手一族の長である、初代火影――――千手柱間とは違った」

やがて、その二大勢力は互いに殺し合い、ぶつかり合いながらも統合していくことになる。

「平和になったその後、うちはマダラに居場所は無かった。力を以て人々を統制しようというマダラの考えに、賛同するものはいなかった。争いの連鎖、憎しみの連鎖に、忍び達もつかれていたのだ。
 やがて、マダラは一族から追放された」

「そして、九尾を操り里に襲撃を仕掛けた………そのせいで、うちはは中央から遠ざけられたのか?」

「ああ。木の葉設立当初………黎明期では、うちはは里の中央に関われていた。しかし、マダラの木の葉襲撃の責を取らされ、その座から転がり落とされた。
 ………当たり前だ。忍び同士の争いを無くすために設立された木の葉隠れの里、そこを人々の恐怖の対象である九尾を使い攻めたのだからな」

「一体なんでそんな事を………」

「裏切りに対する報復もあっただろうが………人々から、あるいはうちはの一部からも信望を集めた信望初代火影に対する嫉妬………それが無かったとは言い難いだろう。
 どちらにせよ、あの二人は共存できない運命にあったのかもしれない」

なにせはるか昔から続く兄弟喧嘩だからな、と言いながらイタチは皮肉げに笑う。

「そして、16年前。あの事件もそうなのか………」

「あれも、マダラの妄執だ。四代目が命を賭して、里を守りきったがな。それだけでなく、相手の切り札である九尾を取り込むことにも成功した。
 自らの息子であるうずまきナルトの中に九尾を封じ込め、当代最強の人柱力として、娘と共に里の誇りになって欲しかったようだが………」

イタチは言葉を切り、隠れ家の方を見る。

「当時は人の憎しみの深さを思い知ったつもりだった。業の深さについてもな。だが、どこでどう転がるのか、分からないものだ」

「ナルトは、暗部に殺されかけたと聞いたけど………」

「表向きはな。本当のところは少し違う」

「………何か、あいつらにも知らない何かが?」

「いや、気づきながらも口に出さないだけだろうが………当時、うずまきナルトに護衛がついていたのは知っているか?」

「暗部が護衛の任についていたと聞いた」

監視も兼ねた護衛だったろうけどな、とサスケが答える

「そうだろうな。そして、護衛は二手に分かれていた。うずまきナルトと、もう一人」

「波風キリハか。しかし、何のために護衛を………ってそうか」

「ああ。九尾襲来により受けた損害は、一朝一夕で直るものではなかった。
 混乱に乗じて、四代目の才能を受け継ぐ子どもたちをどうこうしようという輩が現れる可能性もあった。それを防ぐために、護衛は“二分”された」

「………ただでさえ人が少なくなったところに、更に数が………ダンゾウは、そこをついたのか?」

「ああ。5人全てを取り込むことは難しいが、一人二人ならばどうとでもなる。三代目直属の暗部を唆し、その手で殺させて………秘密裏に九尾の力を手に入れようとしたのだ」

「そんなことが可能なのか?」

「九尾を制御する方法は、千手一族の肉体、もしくはうちはの眼に刻まれている。暗部のテンゾウさん………今はヤマトと名乗っているようだが、彼の例もあるしな。
 大蛇丸との繋がりもある。九尾を制御する方法については、ダンゾウ自身何かを掴んでいるのだろう」

「六道仙人の系譜か………」

サスケの呟きを聞いたイタチが、頷く。

そして、

「――――だが、恐らくはそこから………全てが、狂い始めた。そして今、忍び世界は破滅の危機に瀕している」


イタチは万華鏡写輪眼を見開く。

「元来、うちは一族は万華鏡写輪眼のために大切な人………恋人や親友と殺し合い。永遠の瞳力を手に入れられるならばと、家族と殺し合ってきた。
 そうして、力を誇示し続けていた一族だ。その業は深く、驕りもまた抑えきれないほどに高まっていた」

「………だからこその、クーデターか」

「父さんは一族を守りたかった。そして、己の一族の未来を守りたかったのだ。
 例え無数の屍の上に築かれた立場でも、何もせずに滅びるよりは………そう思ったのだ」

しかし、イタチは幼い頃から戦争を経験したせいで、その心の奥にトラウマを刻まれている。

だから、一族の行動を、その先にある動乱を、戦争を、夥しい数の死を、許容できなかった。

里を愛し、戦争を憎んでいるイタチだからこそ。

一族の行動を止めなければ――――そう、思ったのだ。


「それに、うちはには驕りがあったが………力を求める理由の中に、警務部隊の任を果たすためと、そういう想いも確かにあった。
 屍の上に力を手にいれようとしたのも、里を守るためだった。それも、決して嘘ではないんだ」

「だから――――里を裏切って壊滅したという汚名を、着せたくなかった。先祖さえも侮辱されることを、防ぎたかったから………兄さんが全て背負いこんで」

「ああ。止めきれなかった責任もある。死んでいった先達に申し訳が立たない………それに何より――――」

空を見上げながら、頭上に見える青空を眺めながら、イタチは言った。



「俺は、どっちも好きだったんだ。どんな理由があっても、裏の背景があっても。
 
 うちは一族のみんなも、穏やかな木の葉隠れの里も――――好きだった。失いたくなかった」



「兄さん…………っ」


「裏切り者の汚名をかぶるのは、俺一人。故に、あとは俺が死ねば、全てが事足りる――――だから、もう一度だけ言う」


サスケを見つめながら、イタチは言う。


「俺を殺し、裏切り者を倒したという誉を手にいれろ。そして万華鏡写輪眼を手にいれて十尾を倒し――――木の葉隠れの里を守る、英雄になってくれ」


それで全てうまくいくはずだ。

そう言うイタチの言葉に、だがサスケは首を縦には振らない。


「―――っ、嫌だ! それに、兄さんは既に万華鏡写輪眼を開眼している! ならば、俺達と一緒に六道仙人も倒せるという道を選べるはずだろう!?」


「それも無理なんだ、サスケ。俺は病に犯されている。ペインのおかげで休息もできたので今すぐは死なないが………あの化物と戦うだけの力は持っていない。
 身体がもたないだろう。それに比べ、鍛え、見事に育ったお前ならば、いかなる敵でも倒せるはずだ」

「それでも、他に手が………」


「神代より続く化物だ。他に手は無いし、探している時間もない。断るというならば………仕方ないか」

すっと、イタチはサスケの眼に視線を合わせる。

「…………っ、身体が!?」

「動けないだろう。万華鏡を持たない今のお前に、抗う術はない」

「くっ………!」

瞳術による金縛り。

サスケはそれを解除をしようとするが、身体はびくとも動いてくれなかった。


「強引で悪いが――――うちはの血塗られた運命を利用してでも。忍びの世界を、守ってくれ。それでこそ、うちはの死に意味ができる」

告げながら、イタチはサスケの腰の刀………雷文を抜き放ち、サスケの手に持たせる。

そして刀を持つサスケの手の上に、己の手をそえて――――首元。

雷文の刃を、自らの頚動脈に当てる。



「これでいいんだ、サスケ。あいつらと一緒に十尾を倒し、英雄になればいい。そしてうちはを再興し、二度と同じ過ちを繰り返すな。古来より続く血塗られた運命を――――断ち切ってくれ」





イタチは笑いながら、告げた。



「死にはしない。俺は、お前の万華鏡の中に生き続けるさ。それこそが、兄弟の絆となる――――」



いつかの、サスケに向けたものと同じ笑顔。




そして、空いている方の手、その人差し指と中指を、サスケの額に当てた。
















「許せ、サスケ………これで、最後だ」













そして、首元に当てられた刃を引いた――――――


































「ん………」

「どうした、ナルト?」

「いや、鳥が………」

隠れ家の外で飛んでいる鳥達が、騒がしい。

「うん、チャクラが………大きくなった?」

「そうなのか………大丈夫かの」

「…………」

先程手は貸せないといってはみたが、実は心配でたまらないナルト。



それに対し、多由也は笑顔で告げる。



「大丈夫さ――――だってあいつは、うちはサスケだぜ? 世界に運命に抗おうとする、生粋の―――――大馬鹿野郎だ」








































「巫山戯んな…………」





刃が頚動脈を切り裂き、血しぶきを上げようかという――――その直前。


引かれそうになった刃は、しかし動かない。





「巫山戯るな!!」




サスケが俯きながら叫ぶ。身体の制御を取り戻したのだ。


そして、イタチの首元に添えられた刀を、その命を断とうとしている刀の柄を、力の限り握り締める。




「っ、金縛りを………!?」


解いたのか。有り得ない事態に、イタチは動揺を隠せない。

その隙をつき、サスケは刀をイタチの首元から離し、鞘へ収める。


そのまま後ろへと跳躍し、イタチを距離を取る。


そのサスケの両の目の写輪眼は、勢い良く回転していた。チャクラも全身から吹き出ている。

今の心の内の激情………その怒りを、表すかのように。

サスケはその感情を隠さず、あますことなく声に乗せた。


「俺がっ…………俺が! あの隠れ家で鍛えてきたのは、修行を続けてきたのは………兄さん、あんたを殺すためじゃない!」


右手を横に振り払い、サスケは怒りのままに叫び声を上げる。



サスケの眼には、涙が溢れていた。


イタチが告げた一言により、昔の記憶を、失ったあの日々を思い出したからだ。


『こら、サスケ………先に宿題をしなさい!』

優しかった母を。


『さすが、俺の子だ』

厳しかったが、自分の誇りだった父を。




『なかなかやるな、サスケ………でも、残念』

『コラ! 無茶をしたら………』

兄を。

足を怪我して、背負われながら帰った、家路までの道を。

『許せ、サスケ………また、今度だ』

一緒に修行をせがんだ時の事を。




『お前と俺は唯一無二の兄弟だ。お前の越えるべき壁として、俺はお前と共にあり続けるさ………例え憎まれようともな』


それが兄貴ってもんだと………そういった、兄を思い出した。






「今も忘れない、あの日、あの夜に失った大切なものを………そして、新しくできた大切なものを! 守るために、これ以上失わせないために………」




どうしてこうなったのだろう。あの運命の日までに出会った、大切な人達は全て、両の手から零れ出てしまった。

二度とあえなくなってしまった。


―――だけど。残っている人もいる。想い出もまた、この胸の中にある。


「兄さん………俺は、あんたを失わない。そのために生きてきたんだ!」


サスケの叫び。それに対し、イタチは心を動かす。

だが、イタチも退かない。


「………他に手は無いだろう! あいつらは、犠牲もなく勝てるような相手じゃない! 俺の最後の責務だ………既にお前は俺を超えている。

 最後は万華鏡を手にいれれば、きっと勝てる!」


「そんなもの、無くたって勝てるさ! そのためだけに、鍛えてきたんだ………絶対に勝てる! それを、証明する!」


そう告げると、サスケはイタチの目の前に立った。


「月読だ………幻術世界の勝負ならば、互いに死ぬことは無い。そこで戦い、俺が兄さんに勝ったら………約束をしてくれ」


「一体、何を約束するというんだ………?」


「死なないでくれ………ただ、それだけだ!」


「………俺が勝てばどうする?」


「兄さんの遺志を継ぎ、万華鏡写輪眼を受け継いで、十尾を討つ………そうはならないけどな」


「………これ以上言っても無駄か」


「ああ。納得できないまま、あの化物とは戦えない。ここで負けるようならば、俺は俺の無力を納得して、万華鏡写輪眼を受け継ぎ………あいつらと一緒に戦う」


「――――良いだろう」



頷くと、イタチはサスケの眼を見て…………幻術世界に誘う。




――――月読。


万華鏡写輪眼を持つものだけが使える、至上の幻術。

己の精神世界へと相手を引き込む、最強の術だ。




「ここは、うちはの…………」



幻術で構成された世界。

そこは、かつて里の外れにあった、うちはの一族の居住地だった。


「この場所に誓おう。先程の約束を守ることをな」


「分かった。俺も誓おう」


「ああ………忍術も、問題なく使えるはずだ。それでいいだろう?」

「了解した」


じり、と二人は距離を離し、対峙する。








「分かった。では―――――」





受諾。

宣言と共にイタチは一歩を踏み出し―――







「――――始めるぞ」





次の瞬間には、サスケの背後に廻っていた。

そのまま、振り向きざまにサスケへとクナイを振り下ろす。

だがサスケはそれを防ぐ。上忍でも上位に入るだろうイタチの動きを、サスケはその両眼で捉えていた。

振り下ろされるクナイ、それを持っているイタチの手を掴んで止める。


「くっ………」


純粋な筋力のみで止めてみせたサスケに対し、イタチは力比べでは適わないと悟った。

握られた手を振りほどき、その反動を生かして回し蹴りを放つ。

サスケは上段、右側頭部に向けて放たれた蹴りをしゃがみこむことで避ける。

「―――木の葉旋風」

追撃の二段蹴り。

イタチは上段の回し蹴りの回転力をそのまま殺さず、更に勢いをつけて下段の足払いを放つ。

だがサスケもそれは読んでいた。

真上に跳躍することで下段の足払いを避ける。そして落下の勢いそのままに――――


「―――しっ!」

腰から抜き放った雷文を振り下ろす。

唐竹、脳天に振り下ろされる刃に。対するイタチは下段蹴りの勢いに身を任せ、更に身体を回転させる。

そのまま、横方向へと逃れるのだが――――サスケの攻撃はそれで終りではなかった。

外れた刃は地面を切り裂き、そのまま――――雷光を発する。

「千鳥流し!」

地面を雷が疾駆し――――横に逃れたはずのイタチを襲う。

「くっ………!」

瞬間にねられたチャクラ故、威力は小さいが、その雷はイタチの右足を捉えることに成功する。

イタチは右足に走る激痛を感じながらも、距離を開けることを選択する。



「………驚いたな」

つかまれた右腕をさすり、イタチが呟く。どういう修行をしたか知らないが、筋力だけならばサスケは自分の上を行く。

それが分かったからだ。


「どういう修行をしたんだ?」


「基礎をな。徹底的に叩き込まれた」

印を組む速さ、筋力、チャクラによる肉体強化。

体術を放つに相応しい間合い、刀を抜き放つ機会、瞬時に最適の戦術を選択できる思考能力。

多由也の笛に助けられながら、数えるにもバカらしいほどの組み手を繰り返した。故にサスケの肉体は今、戦うに最適な筋肉がついている。

「写輪眼を持つ俺だからこそ―――――基礎を極めれば、無敵になれる。そう教えられた」


「成程、最もだ――――ならば」


こちらはどうだ、とイタチはホルスターからクナイを抜き、投擲。

「こっちもな!」

イタチの神速の抜き打ちに対し、サスケは狼狽えることなく、反応して見極める。


同じくクナイを投擲してぶつけ、たたき落とした。


「…………」

その一連の動き、そして先程の体術。それを見たイタチは、複雑な表情を浮かべた。


「今の動きは………」

「自分だけの体術を修得する時に………手本が必要だったんでな」

だから自分が知る限り最も強い、また最も身体になじむ、兄さんの体術を参考にした。

そう言いながら、サスケは笑う。

「復讐に囚われていたあの頃ならば、その選択は選ばなかったけどな………」

「成程…………では、どこまで高められたか………」


見てやる。そう言いながら、イタチは手裏剣を、クナイを、千本を連続で投擲する。


「上等!」

対するサスケも同じく、忍具口寄せを駆使しながら、襲い来る凶器を全て撃ち落として行く。



「「はああああああああっ!」」


両者の叫び声と共に、鉄がぶつかりあう音が響く。

投げられては落とされ、ぶつかっては地面に落ちるクナイ達。

「―――――そこだ」

その僅かな隙。投擲の間、イタチが印を組むことで生まれた隙を、サスケがつく。

「ふっ!」

雷文にチャクラをこめながら、抜き放つ。

飛来するクナイ、その全てが吹き飛ばされ、イタチも襲い来る風に対し、踏ん張ることで耐える。


生まれた、一瞬の間。


サスケは振り抜いた雷文を右斜め前に突き出すように構え――――告げる。




「瞬迅・千鳥」


千鳥による肉体活性。高められた身体能力、その速度を活かして――――




「――――速い」



貫く。


次の瞬間、イタチは距離を詰め突き出された突きを躱しきれず、その胸部を貫かれていた。


「カラス分身か………」

そして、貫かれたイタチの分身が、元のカラスへと戻っていく。

サスケはイタチが印を組み術を発動する途中、風により妨害したつもりだったが、一足遅く術の方は発動していたようだ。


「それも潰されたがな………」

呟きながら、イタチは次の戦術はどうしようか、と悩んでいた。

体術は互角か、自分の方がやや下。純粋な速度ならば、サスケには及ばないからだ。



「ならば………!」



距離を保ったまま、イタチは印を組む。

一秒にも満たず印は完成する。

最後となる結の印、寅の印を眼前に突き出し、勢い良く空気を吸い込み――――放つ。

対するサスケも同じ。

寅の印の後、うちは一族が最も得意とする火遁忍術――――そして、思い出の術でもある、あの術を放つ。




「「火遁・豪火球の術!」」

まったく同時。

互いの口から、人身大の火球が放たれた。

炎は衝突し、中央でせめぎあう。だが拮抗したのは一瞬で、勢いの勝つサスケの火球がイタチの放つ火球を押しきった。


――――だが。


「カラス――――」

押し切ったはずの向こう側で、先程と同じカラスが羽ばたく。


「しまっ…………!?」


あれも分身だったのだという事実に、サスケは驚く。

「…………!」


その側面から、イタチが仕掛ける。完全に不意を打たれた形となったサスケは、咄嗟に動けず、そこで終りと思われたが――――


「―――甘い!」

サスケは思考を止めていなかった。

“想定外はあれど、硬直するな”。自らが望む戦況にはならないと、繰り返し教えられたサスケは、今更その程度の不意打ちでやられるような弱卒ではない。

組み手中も不意打ちばかり仕掛けてくるナルトとの組み手が、役に立った瞬間だった。


流れるような動作腰元の雷文を再び抜き放ち――――


「―――せっ!」


イタチの身体を袈裟懸けに斬り裂く。



――――しかし、イタチはその上をいった。

反撃を受け、切り裂かれたイタチが――――三度、カラスと成って散る。


「これは…………」


「惜しかったな」


「…………」


賞賛の言葉を送るイタチに対し、サスケは訝しげな視線を送る。


「気づいたか………そう。ここは俺の世界。故に、俺が死ぬことは有り得ない」


「成程、先程までの分身も、全て本物だったということか………」


「その通りだ。先程の約束だが………俺程度を倒してどうにかなるほど、あの十尾と六道仙人は甘くない」

「………つまりは、この幻術世界ごと、破れと?」

「ああ。だが、お前に出来るか? 写輪眼の力………この幻術世界を構成する力があるので、その能力の全ては拘束されていないようだが………」

 自由に動けるだけで、この幻術世界は破れない。すでに術中にあるお前に、勝ち目はない」



イタチはそう告げた。




だが―――――





「それはどうかな?」



サスケは不適に笑う。

万華鏡写輪眼の世界ではあるが、自分は自らもつ写輪眼の力により、その全ては拘束されていないということ。

そして、ここは幻術世界だということだが――――




「ならば逆に、出来ることもある!」


叫び――――サスケは、写輪眼の力を全開にして、手をかざす。


「これは………!?」

イタチはサスケの手の先――――空を見上げ、驚く。



いつのまにか、空に雷雲が浮かび上がているのだ。




「写輪眼による世界――――つまりは、俺も干渉が可能だということだ―――――」






言葉と共に。


指揮者のように上げられた、サスケの右腕が振り下ろされる。




「雷を従えた………この術は」


「―――“麒麟”。そして、今は未完成だが―――――この先を見せよう。ここが幻術世界ならば、躊躇う理由もない………!」


失敗すれば、死にかねない禁術。

だがここが幻術世界ならば、そのリスクも皆無だ。




「己の持つ最大のイメージでもって、この幻術世界を…………ブチ破る!」






限界までチャクラを練り上げ、サスケは高く、空へと跳躍。



そして、雷文を抜き放ち――――空に向ける。





「下れ、麒麟!」





その刀身に、猛る雷の化身が宿る。


千分の一秒の世界でチャクラをコントロールする。



―――――本来ならば不可能だ。

これは多由也の笛の効力を活かした上でも、制御しきれるかどうか分からない禁術。

この3年で編み上げた、一つの切り札。



――――だが、ここは幻術世界。


ものをいうのはチャクラコントロールではなく、この眼、写輪眼に籠められた思い。

そして――――



(ゆるがぬ意志と――――貫くべき意地を以て!)

絶対に負けるな。あの言葉を胸に、譲れないもの全てをその両手に詰め込んで。




「雷鳴と共に散れ…………!」


サスケは己の手の内で暴れる膨大な力を制御する。



「これは―――――――!?」




馬鹿げた規模のチャクラがこめられている。

非常識に過ぎるその術に、イタチは驚きを隠せない。



見上げながら――――しかし、その雷光に眼を奪われた。



雷文の刀身の内。

極限まで圧縮された雷光は、さらに増幅を繰り返し――――やがて、振り下ろされる。






「雷遁・秘術」




古事記曰く、十束剣の剣の根元についた血が岩に飛び散って生まれた三神――――火・雷・刀を司る神の内の、その一柱。




「―――――武甕槌!」



アメノトリフネと共に、荒ぶる神々を制圧した、剣の神。


タケミカヅチの名を持つ禁術。




それは正真正銘、サスケの持つ全力全開。


写輪眼による力、鍛えに鍛えた己が持つ、最強のイメージ。





それは幻術世界のイタチの身体を貫き。






幻術世界をも貫いて。









因果を破り―――――



































「俺の勝ちだ、兄さん」



「ああ…………負けたよ。本当に成長したな」


そして二人は現世に帰還する。

互いに無傷。だがどちらも精神力を使い果たしたようで、疲労困憊となっている。


「あれなら、勝てるだろう? それに、俺達は一人じゃない。共に戦う、仲間もいる」

「ああ、そうだな………」

あんな馬鹿げた術をもってすれば、勝てるかもしれない。


(死ななければならないと、そう思っていたのだが………)


イタチの思いは先程の一撃にこめられた思いにより、吹き飛ばされていた。


(すまない、父さん、母さん………もう少し、生きてみるよ。俺も、この先を見たくなった)


イタチは心の中で別れを告げて、眼を閉じる。

そのまま、月読により身体にかかる負荷のせいで、身体が傾いてしまい、そのまま地面倒れこむ。

サスケも同じく力尽き、地面へと倒れこんだ。

土煙が舞った後。

兄弟ふたりは、横に並び寝転びながら、一緒に空を見上げていた。


「一緒に生きようぜ、兄さん………俺にも背負わせてくれ」

「木の葉隠れはどうする?」

「……どうにかする!」

サスケは笑いながら答える。その選択を誇るかのように。

そう――――サスケは、宿業の全てを背負いながらも、笑うべき道を選んだのだった。

そう願い、突き進まんとするサスケの言葉と意志を受けたイタチは、サスケに感化され、心のままに笑った。





「――――ああ。生きて、みるか」










それを、決着の言葉として。





――――ここに、血塗られた運命は断たれた。









[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十一話 「木の葉の忍び達」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/02 21:58

「ふう、これで全部か………」

火影の執務室。綱手は机いっぱいに積み上げられた報告書を一通り見おわると、固まった身体を解そうと背伸びをした。
大きめな胸が更に強調される姿勢。自来也あたりが居たら、鼻の下を伸ばしていただろうが、あいにくと今は此処にはいなかった。

数日前に情報を集めてくると、木の葉隠れの里の外へ出て行ったきりだ。

「無事だといいが………」

少し暗い声。
綱手は自来也が木の葉を出立する直前に、二人きりで交わした会話を思い出していた。




「………自来也。どうしても行くのというのか」

「ワシだけ何もせんという訳にはいかぬからの。何、キリハやお前に止められているから、雨隠れに潜入するような迂闊な行動はせん。少し、思い出の場所に立ち寄ってみるだけだ」

「だが、あそこは木の葉隠れの里よりは、雨隠れの里に近い。ペインとやらに遭遇する可能性も高いはずだ。ナルトの言を信じるならば、たとえお前でもその者と戦えば危うい」

「………お主らしくないのう。忍びの任務に死の危険は付き物だろうに。何をそんなに心配している」

「嫌な予感がするだけだ………ふん、他意はない」

「相変わらず素直でないのう。任務に赴く戦友に向けて、“死ぬな”の一言ぐらい言えんのか」

「いくら叩いても殺しても死なん奴が何を言っている。私の本気の拳を受けて死ななかった奴はお前だけだぞ」

「いや、あれ本気で死にかけたのだが………」

「覗きには死を。乙女の鉄則だ」

「………乙女という歳か、ぬおっ!?」

間一髪。自来也は突き出された拳をしゃがんで避ける。

「………前にも言ったと思うが、覚えているか?」

いい笑顔の綱手に対し、自来也は震えながら答えを返す。

「乙女に対してに年齢を聞く奴には死を、だったか。やれやれ、乙女という生き物は物騒じゃのう」

「今まで知らなかったのか? どうりで振られに振られるはずだ」

「一番よく知っておるよ。なにせお主と一番長くいたのはワシなのだから」

綱手は言ってくれるな……と凄んだあと、溜息をはいて首を振った。

「行くのか?」

「………木の葉隠れの未曾有の危機とあって、一人里の中に閉じこもっているようじゃあの。あの世で待っているジジイに顔向けが出来ん」

何、上手くやるから心配はするな、という自来也に対し、綱手は胸元で腕を組みながら、また自来也に溜息を向ける。

「お前の“心配するな”、はキリハの“無茶をしないから大丈夫”と同じくらい当てにならんからな………って、何処を見ている」

「いやいや………弟子にしてやった講義を思い出していただけだ」

「ああ、あの大変態卑猥ソングか? 風影の兄とカカシ、ナルトも巻き込んで宿の中で盛大に歌っていたそうじゃないか………宿の主から苦情がきていたぞ」

鼻に詰め物をしながら苦情を言いにきた宿の主の姿を思い出し、綱手はためいきをつく。

「―――――夢は止まらぬ。浪漫もまた、止まらぬさ」

腕を組みながら虚空を見上げ、自来也は格好いいことを言い放つ。

“油”と書かれた額の被り物に日光が当たり、輝いていた。

「ちなみに横で聞いていたキリハは激怒していたぞ」

サクラは何故か私の胸を見た後、しょんぼりしていたが、と言う綱手。

「さっきの白い目はそれのせいか!?」

「知らん………」

「くっ、ここに来てワシの威厳が………!」

「そんなものは始めから無いから心配するな」

笑い、優しげな目を向ける綱手。苦悩する自来也。

やがて、ふたりはどちらともなく、笑いあう。

「………まったく。本当にお前は、あのエロガキだった昔と変わらんな」

「お前は随分と変わったがのう………あのまな板綱手が、猿飛先生の後を継いでのう。今や五代目の巨乳火影だぁ」

時の流れを痛感するの、と言う自来也に対し、綱手は苦笑を返す。

「そうだな………同期のお前を見ていると、余計に実感するな」

「――――死に別れた者達の想い上に生き続け………お互い、あの頃の猿飛先生よりも年は上となったか」

ダンや、縄樹。
猿飛先生や、他に居た同期の面々。戦場の外で出会い、戦場の中で別れを繰り返した。
もう残っているのはほんの僅かだ。彼らの名前は今、かの墓碑に刻まれている。

二人とも、死に別れた戦友達の顔は今でも覚えている。
彼らもまた、木の葉を守る英雄だったのだ。忘れるはずがあろうものか。

―――木の葉のために。
大切な守るべき玉………子供達の未来のために、死んでいった英雄達を。

「それでも過ちを重ね、それでも生きてきたのは何のためか………」

「………自来也?」

「―――綱手、話は変わるがナルトのことをどう思う?」

「………こちらを信頼してはいないな。キリハ他一部の者以外では、その在り方も接し方も、抜け忍か網の傭兵そのままだ」

「ワシも同じことを思った。大体が、多くのことを知りすぎている。それで尚悪用しないのは不思議だと思っていたが………なぜだろうな。悪いことになると思えん」

「………猿飛先生のことがあるからだろう。死ぬ間際の餞の言葉、あの時お前は聞いていたんだろう」

「まあの………」

「ふん、それになんだかんだいってお前が一番、ジジイのことを尊敬していた」

「そうだのう………まあ、あやつはワシら木の葉の忍びとは、根本から在り方が違うようじゃが」

「組織に帰属していないが故の奔放だ。属すれば人も組織人だが………あいつは違う。だから良くも悪くも、枠にとらわれない」

そのままの自分で、人と接する。肩書で人を見ないし、誰かの評判も気にしないのだと綱手は言う。

「そういえば天狐………九那実といったか。あやつもそう言っておった。自らにのみ帰属し、自らで決めた戦いであれば例え木の葉が相手でも戦うだろうと」

「ふむ、生い立ち故………私らのように隠れ里のためではなくて、自らのために死ぬというのか」

「キリハを助けたのもそうだろう。あの屋台で一番の常連客だったらしいからの」

「つまり、木の葉崩しの時は、木の葉を助けたわけではなく?」

「ついでに過ぎんだろう。あるいは我愛羅に何か思うところがあったのかもしれん。それを別とすれば、立ちふさがる者を除けば音や砂の忍びとも戦っておらんしのう」

「………それもまた生き方だろうが、羨ましいとか思うのか?」

「いくらか気持ちは分かるだろうが、羨ましいとは思わんよ。今のワシがあるのは、猿飛先生やお前………相談役のあのジジイ達もか。出会った先にここにおる。
 わずらわしく思う時もあるが、ナルトのことを聞いた時には一部の愚行に嘆きもしたが………木の葉の里の忍びであることを、心底捨てたいと思ったことはない」

霧のように血に染まらず。勇壮勇士が集い、かつ人としての在り方を忘れない、木の葉の里。
火の影の元、集う温かい灯り達。

心を残しているが故に、戦場で傷つき壊れる者達も数多くいるが、それでも自来也は木の葉隠れの里を愛していた。

英雄たちと同じように。

「………らしくないな。お前らしくない」

先のような問いを受けた場合、いつもならば言葉で誤魔化すだけなのだ。そんな自来也が、素直に言葉を返していることに綱手は驚きを隠せない。
こんな表情を浮かべているのにも、納得ができない。

「………分からないな。自来也、いったい、どういう心境の変化があったんだ?」

不安気に綱手が訪ねる。自来也は真剣な顔のまま、綱手の両肩に手をおいた。

「―――綱手。嫌な予感がするのは、実はワシも同じなのだ。何かが迫ってくるのを感じる」

「“殺す”という言葉のことか」

「そうだ。だからこそ今、ワシは木の葉隠れの里を守るために、情報を集めねばならん。行かねばならんのだ。じっとしているのも、性に合わんしの」

「それは分かっているが………恐らく敵はペインだ。ひとたび出会えば死ぬぞ。雨隠れに深く潜っていた半蔵をも屠る輪廻眼とやら……到底、一人で勝てる相手ではないだろう」

「なに、大丈夫だ。いざとなったら逃げるだけだ…………そうさな、そうだ。ならばお前はワシが死ぬ方に賭けろ!」

「………はあ?」

「いや、何、お前の賭けは外れるからのう。ワシは生きて戻る方に賭ける」

「………分かった。その通りにしようか」

そう言った後、自来也は口だけの笑みをみせる。

「うむ………そうだの。ワシが賭けに勝ち、生きて帰った時は………」

じっと綱手の顔を正面からみつめる自来也。

綱手は困惑の表情を浮かべていた。頬を少し、赤く染めながら。

「自来也…………?」

「…………ん、冗談だ冗談。何、心配せんでもワシは死にゃあせん!」

笑いながら、自来也は歩き出す。


去りゆく自来也の背中を見た綱手は、何か嫌な予兆のようなものを感じた。


「っ自来也!」


綱手の声。


だが自来也は手を振るだけで、振り返りらずに綱手の声に答えた。




「――――木の葉隠れを。キリハを、ナルトを…………頼むぞ!」








思い出したあと綱手はあの日から何日経過したのかを数える。

「………あれからもう一週間、か」

最後まで格好をつけたまま出て行った自来也。
出て行った後、期日を過ぎても何の連絡もなかった。

距離でいうのならば、もう戻ってきてもおかしく無い頃だ。場所が場所だけに慎重に行動しているので、遅れているのだろうか。
あるいは何か重要な手がかりを得たせいで、こちらにはまだ戻れないのか。

そこまで考えた綱手は自らの頬を張る。
どちらにせよ今私に出来ることは、既存の情報を分析することだけだと考えたのだ。
奮起し、山のような書類をあさる作業を再開する。

そうして一通り見た書類。

その中から、気になることが書かれているものを取り上げた。

「ふむ、こいつはあの時私を襲ってきた者の一人か。なになに、2年前の木の葉崩しの際、遭遇。戦闘した結果……………死亡?」

気になる部分の内容を読み上げると、またひとつ別の報告書を手にとった。

「―――襲撃の後詰め部隊、死の森の外れで遭遇した。だがこいつは2年前の任務の際にも遭遇した…………その時は任務のこともあり死体は確認できなかったが、確実に致命傷を与えたと思われる………」

その後もいくつか報告書を読み上げる綱手。全て確認した後には、綱手の顔色は青くなっていた。

「死亡したと思われる忍びが大半………死体の損傷具合を見るに、他の忍びもここ2、3年以内にどこかの忍びに殺害されたと思われる、だと?」

一体どういうことだと、綱手の眉間に皺が寄る。

「まさか死魂の術か………いや、それならば忍術を使えないはずだ。死魂の術とは違うはず………」

ならば一体、と綱手は腕を組みながら考える。

使われた術は極めて高度なもので、その概要は“死体を操り、かつ忍術を体術を使えるまでチャクラを補充した上で、自在に操る”という馬鹿げた効力を持つもの。
だが綱手でさえ、そんな術が存在するなど聞いたことがない。

実在するならば、確実に禁術以上に位置する忍術。
あるいは、極伝レベルに達するほどだろう。

「もしかしたら大蛇丸の新しい忍術か………いや、この術は常軌を逸している。人間の範疇ではない。かといって口寄せの妖魔が使うものでもないな。
 可能性があるとするならば………やはりペイン、あるいは輪廻眼か」

実に厄介な術だと、綱手は更に眉間の皺を深くする。

「だが明確な対処方法が無いのも事実。あるいは、術者のチャクラが尽きるのを期待するしかないが………」

これだけの術だ。膨大な量のチャクラが必要になるだろうから、用意にかかる時間も相当なはず。いくらなんでも、連続して使えるわけがない。



そう、思った時だった。

火影の執務室がノックされた。静かな部屋の中に、こん、こんという音が鳴った後、付き人のシズネが部屋の中に入ってきた。


「お客様です―――その、ナルト君が至急会いたいと」

「ナルトが………?」

うずまきナルトについての報告を思い出す。確か、山中の花屋に訪れたあと、ふらふらと隠れ家に戻っていったらしいが。

ここ数日程は音沙汰がなかったナルトが、至急会いたいということは、どういうことか。確かめるためにも会わなければならないと判断した綱手は、すぐに会うことを決めた。





「良いニュースととびっきりなニュースがある。どちらから聞きたい?」

「とびっきり………? 良いのか悪いのかどっちだ」

「どちらとも」

「………良いニュースの方から頼む」

「ならばひとつ。うちはサスケがうちはイタチと和解した」

「………本当か!?」

「サスケの力づくの説得でね」

そこから、ナルトはかくかくしかじか、一連の出来事について説明をする。

「そうか………暁はどうすると?」

「抜けると言っていた。ただ病に犯されているため、全力の戦闘は不可能らしい」

「そうか………では、とびっきりな方とは?」

「良い方は………うちはマダラが死んでいたということ――――」

そしてもう一つ、とナルトは指を立てる。



「――――ペインの正体について」











全てを聞いた後、綱手は沈痛な面持ちで火影の机をじっと見つめていた。

「………それは本当に本当なのか?」

「確かめる術は本人に会うことしかないが、間違いなく真実だと思う。あんな規格外が複数人存在すると思う方が不自然だ」

「―――六道仙人と十尾。そして“忍び滅ぶべし”、か………」

ぽつり呟き、綱手は少し黙り込む。
木の葉隠れの火影かつ、千手の直系である綱手だ。聞かされた綱手にとっては、かなり複雑な心境だろうと悟ったナルトは、しばらくの沈黙の間に付き合った。

そして分が経過した頃。ナルトは綱手に質問をした。

相談とは、紫苑の傷を治療する方法についてだ。

「難しいな。経絡系の治療だけは、流石の私でも如何ともし難い。詳細は追求しないが………聞くに、その娘の傷は、体内門解放の後に負う傷に近い。
 その分野においては、昔から幾度か研究が重ねられてきたが………方法については未だ確率されていない」

「でも、資料はあると?」

「一応は禁術書の倉庫の中に巻物があるが………まさか見せて欲しいとでも言う気か?」

「どうしても。いざというならば力づくでも取っていく」

「………分かった。持っていけ。この状況で騒ぎを大きくされてはたまらんし………どの道悪用もできんシロモノだ。それに、お前が年端もいかない女を傷つけるという光景も想像できない」

疲れたような綱手の声。ナルトはそうでもないんだけどな、とだけ返し、その後ありがとうと言った。

「言いさ。研究が役立つようならば何よりだしな。写しもあるし、極めて貴重な情報の対価としてそれは持っていっていい。今回の任務で得た情報の有用度、SSランクといえる」

「ありがとう。それで、ペインについてはどういう対応を?」

「まずは全ての影を集める。五影会談だ。この状況、時間がかかるかもしれんが、それしか道はない」

「今度仕掛けられたら戦争になると?」

「相手が六道仙人というならば、何でもありだと考えた方がいい。そいつと相対するには、まず忍び全ての力を結集する必要がある」

「………実際に何でもありだと思う。五行の術は全てSランクまで使えそうだし、仙人特有の術もあるだろうから」

「つまりは一刻を争う事態という訳だ……忍界始まって以来の、未曾有の危機だとするならば、まずは私たちが動かなければならない」

「破滅を受け入れる気は無いと………って今更の当たり前か」

「――――いくらか。耳が痛い部分もあるが………死ねと言われて素直に死ぬ程ではないな。それに何より、里には未来の宝………未だ幼き子どもたちがいる。あの子たちが大人にならず死ぬなど、認められん」

縄樹と同じにな、と綱手は顔を顰めながら言う。

「間に合うかどうかは分からないけど。あと、キリハなんだけど」

どうやら里には居ないようで、とナルトが聞く。


「ああ、キリハならば………」


























「ぶえっくしょん!」

とある道の途中。歩いていたキリハが、突然くしゃみをした。

「うわちょっ、キリハぁ!?」

キリハのくしゃみによる鼻汁噴射攻撃。それを後頭部に受けたサクラが、叫び声をあげる。

「あー、ザグラぢゃんごめん~」

「あーほら、これで拭けキリハ」

シカマルが懐からハンカチを取り出し、キリハに手渡した。

「うう、ありがとうシカマル君。花粉のせいかなあ」

ハンカチで鼻汁をふき取り、キリハはう~と唸る。

サクラの方は、いのがハンカチで拭き取ったようだ。

「もしかしたら噂されているのかもね。キリハちゃん、人気者だし」

「いや、ヒナタちゃんの方が人気者じゃない。この前もぐもがっ」

何かを言おうとしたキリハの口が、背後にいたキバの手によって塞がれる。

(この馬鹿! あいつらのことはヒナタに言うなってこの前!)

(あ、ごめん。忘れてた)

てへ、とキリハが笑うと、一同は溜息をついた。妙なところで抜けているのだ、この四代目火影の息女は。

才媛(笑)と言われる所以である。

(しかしキリハ、その事は迂闊に外に漏らさない方がいい。何故ならば、ヒナタの父がどういう行動に出るか分からないからだ)

あの事件、人気くのいち隠し撮り事件について、チョウジ、シノ、キバ、キリハはヒナタに聞こえないよう、ひそひそと話しだす。

(しかし“隠れて花を愛でる会”かあ………友達として許せないよね、キバ君)

(………ああ、まったくだ。っかしヒナタ相手に隠し撮りを敢行するたあ、無謀にもほどがあるぜ)

(隠行も見事だったから気づくまでに時間がかかってしまったがな。しかしあの言葉だけはよく分からない)

(“貴方のその胸がいけないのいだよ!”ってか。しかし面と向かって言うとは、いい度胸してたなあいつ)

無茶しやがって、とキバが虚空を見上げる。

(………180度反対だけどね。まさに“度胸”)

一人言いながらぷっ、と笑うキリハ。そこにキバのツッコミが。

(誰がうまいこといえと………ていうか、実は全然うまく言えてないぞキリハ)

驚愕に目を見開いた後しょぼんとするキリハ。

それを無視し、他一同はあの事件が発覚してからのことを思い出す。

(しかしキリハを隠し撮りしたのか運の尽きだったな。何でもその脚線美がすごくイイとのことらしいが………)

(気持ちは分か…‥げふんげふん。いやしかし、あの時のシカマルは怖かったぜ)

赤丸も恐怖で総毛立ってた、とその時の光景を思い出したキバは、ごくりとつばを生飲みする。

(うん。あの下手人、影縛りどころか、どす黒い影に呑まれそうだったもんね。シカクさんに後で聞いたけど、『あんな術、俺は知らねえぞ』って言われた)

(ヒナタの方はまさかって感じだったよなあ。ヒアシさんにばれてたら絶対に死んでたぜ、あいつら)

(うむ。俺達は悲劇をひとつふせげたという訳だ。何故ならば殺人事件を――――)

(ストップだ、シノ。それ以上言われると想像しちまうから)

ちなみにその事件、シカマルが気づいてから、事件の解決までは早かった。

犬塚のキバの鼻に、油女のシノの虫があるのだ。ヒナタの白眼がなかろうとも、察知・追跡を行うにあたり問題にはならない。

(ネジとリーに言わないのは正解だったな。あの二人、なんだかんだ言ったって似たもの同士の直情傾向だし)

(いや、ネジさんをリーさんと同列の情熱馬鹿として扱うのにはちょっとどうかと思うよ)

(うっせーよチョウジ。想像してみろ、ネジに事の詳細を話した場合を)

(………あれ、地面に太極の紋が見えるよ?)

(そういうことだ。しかしいのの奴、今日は妙に元気が無いな)

(………うん。何かあったみたいなんだけど、言ってくれないんだ)

そこまでひそひそと話していた時、先頭にいるシカマルから声がかかる。



「そろそろ到着するぞ。全員装備を再確認だ、めんどくせーけど!」



呼ばれ、前に行くキリハ。

そして残された面々で再開するひそひそ話。今度はヒナタも加わっていた。

(なあ、なんでシカマルの奴今日はあんなに張り切ってんだ? つーか、あんなポジティブな“めんどくせーけど”ってないだろ。すでに用法がちげーよ)

(確かにおかしい。何故ならばシカマルは昨日まで胃が痛いと唸っていたからだ。出立する直前に何かがあったと考えるのが正しいだろう)

(そうだね。キリハちゃんがフウちゃん連れて帰ってから、裏でこそこそ、あちこち奔走していたんだっけ)

(親父ズ総動員して上忍衆と上層部を恫喝してたぞ。フウを人柱力として扱うつもりはない、と宣言したらしい)

(表でキリハが宣言した後に、裏でシカマルがその意志の底を見せて詰めたのか。それなら、たぶんだけど大丈夫だよな。戦争になると流石にわからねーけど、平時ならば暗部にしても手は出せないはず)

(初代火影様のお達しもあるからね。“人柱力を戦争に使うべからず”と)

(九尾の方も設立当初は巻物に封じ込めるだけで、人柱力として運用していなかって聞いたね)

(だから木の葉には人柱力はいないのかったのか………っと話が逸れたな。つーか今までの話を聞く限り、シカマルの胃痛が収まる要因、どこにも無いんだけど)

(ああ、実はね。そのフウって娘、キリハが任務で留守になるからって、シカマルの家に預けてきたんだけど………)

(………そうなのか? ヒナタの家は?)

(大きすぎる家だととフウも尻込みするだろう、ってキリハが。それでね………)

(なになに? “私が一番信頼しているシカマル君の家だから、絶対に大丈夫だよ!”ってキリハがフウに言ったのか。しかもシカマルの前で)

(うん。シカクさんに対しては“顔は怖いけどすごく優しくて良い人だよ!私のもうひとりの父親みたいな人だから大丈夫”って説明したらしい。
 言われた本人、喜んでいいやら旅立っていいやらー、とか言いながら遠くを見ていたけど)

(………親父が奈良家に滞在するらしいが、理由はそれか)

(護衛はばっちりだな。ヨシノさんも居るけど………でも、キリハが出てきて大丈夫なのかな)

(こんな状況だからこそよ。これは正式な任務の上だぜ?“フウが居ますので残ります”何て言えば、やはり足かせになるとか、重箱の隅をつつく奴が現れないとも限らない。任務を果たして信を見せる必要がある)

(難しいね………でもフウちゃに手を出したら私、許さないよ?)

(ヒナタヒナタ目が怖い目が怖い)

(………でも正直なところあの二人ってどうなんだ? 幼馴染のチョウジ君よ)

(――――九尾の件でキリハが奔走してから、それをシカマルが手伝って………距離は縮まったように見えるよ。でもキリハだしね)

(キリハちゃんだしね……)

(キリハだからなあ)

(うむ、納得した)



その時、前方ではキリハがサクラの後頭部に向け、二度目となるくしゃみ弾をぶつけていた。






「それでシカマル君、今回の目的地だけど………」

しゃーんなろ! と内なるサクラ爆発の巻。
怒りの拳骨を受けたキリハは、どつかれた頭をさすりながらシカマルに今回の目的地についての説明を促す。
ちなみにキリハの頭の上には、漫画のようなたんこぶが出来ていた。

「ああ、目的地は、組織“網”の本部がある町の近郊だ!」

テンション最高潮となっているシカマルを、チョウジ、キバ、シノの男衆3人が生暖かい目で見やる。

――――こんなシカマル、正直うざいけど何故か涙が出てきちゃう。
だって男の子だもの。

「………なんでよりによって今、そんなところに行くんだ?」

「………これは暗部からの確定情報なんだけどね。」

キリハが表情を真剣な者に変え、皆に情報を話す。

網の作業員の中に、六尾の人柱力がいたらしいとのこと。
今は情勢が情勢なので霧の追い忍も動いてはいないが、いずれ国境を越えてくる可能性があること。
そうなれば戦争は必死。だから六尾と接触し、事情を話し霧に戻ってもらうよう頼み込むこと。

「………ていうか、何で土方?」

わけが分からないと、キバが情報を持っているキリハとシカマルに訪ねる。だが二人にも、その経緯については知らされておらず、ただ下された命令を復唱する。

「事情は分からないが、すべきことは分かっている。できれば戦闘は避けろと言われているんだろう?」

「ご明察。俺だって人柱力とは戦いたくないけどな………状況がそれを許さないのであれば、仕方ないと思っている」

「あんたの影縛りと私の心転身の術があれば傷つけずに捕獲できるでしょ。その後の事は霧しだいだけど………」

「五代目水影に代がかわってからは、いくらか前よりもきな臭い情報は入ってこなくなった」

「いずれにせよ、俺達にできることは限られている。まずはそれを果たそう」

「ああ。それで、網の方はどうするんだ?」

「一応は迎えを用意してくれるって。その後長のザンゲツって人に直接会って話ができればいいんだけど………それは難しいと思う」

「………それはまたどうして?」

「7、8年前か。木の葉の暗部と、網の裏の構成員がやりあった事件があったらしくてな。それでも三代目、先代火影とザンゲツとのいくらかの交渉の末、何とか友好に近い関係は保っていたんだが………」

「今は互いに代替わりしたからね。綱手様と二代目ザンゲツって人の間に、直接の面識は無いらしい」

「復興作業に使う物資の調達の際、接触する機会はあったが、互いに代理人を通じてのことだ……代替わりしてまだ間もないから、相手も“五代目火影”が信用できる人物なのか、見極めきれていなく不安なんだろう。
 リスクがある以上、直接会うような危険は犯せないという考えは分かる」

「網の裏としてもね。暗部とやりあった経験もあることから」

「確かに、一筋縄ではいかない相手だと思うけど………でも、裏といっても所詮は元抜け忍でしょ? その裏の忍びって人、木の葉の暗部を相手によく勝てたわね」

「しかも、だな。渡された死体は偽装されていたため、相手がどんな奴だったのかは分からないらしいが………綱手様曰く、死体の損傷を見るに、下手人は一人だとよ」

「………暗部を、たった一人で、5人も? ――――まじかよ。それ、7年前の話だろ? 今そいつ、どんだけ強くなってるんだって」

「だからこそのこの人数、フォーマンセルの二小隊だ。医療忍者もちょうど二人いるしな………どっちも今日はテンション低いけど」

お前がテンションたけーんだよ、とキバは思ったが口には出さないでいた。

確かにサクラといの、二人とも通常ならば有り得ないほどにテンションが低くなっていたからだ。

二人が落ち込んでいるというか、考え込んでいる理由はそれぞれ別のものに対してだった。

サクラは、サスケのことが心配だから。
あと、先日聞いたあのことが原因だった。

(Bカップって微妙なんだ………微妙なんだ………)

そりゃあヒナタほどとは言わないけど………と、サクラは自分の胸に手をあてて溜息をはく。


一方、いのの方はまた別。紫苑の花を見せた時にナルトが見せた顔が、目に焼き付いて離れないのだ。

一瞬だけ浮かべた、幽鬼の表情と――――その後の、素の表情。

その眼の奥からは、強い意志を感じられた。まるで忘れていた何かを思い出したかのような。

(………そういえば)

助けられたあの日もそうだった、といのは記憶の底を拾い、思い出す。

うずまきナルト―――いやあの人は、私たちを助けた時、何かに対して怒っていた。

人を手にかけたことに悲しみながらも、絶対に許さないと怒っていたのだ。

(怒りながらも泣いて、でも怒っていた。相反するのは何が―――「いのちゃん?」

その時。

考え事をするいのに対し、話しかけても返事がないからと、キリハは――――

「えい」

いのの大きめな胸を、両手で思いっきり掴んだ。

「ふひゃうっ!? ってちょ、キリハあんた何すんのよ!?」

変な声だしちゃったでしょーがと怒りながら、いのはキリハの頭に拳骨を落とす。

「すごく痛い!? っだってだって呼びかけても返事してくれなかったんだもん!」

「他にもっとやり方があるでしょうが………って」



集まっている一同から、離れた場所。

誰もいないはずの林の中から、一瞬だけ物音が聞こえた。


そこからは瞬間。

確認が配置につき、不審人物に対しての警戒の体勢へと移行する。


「―――ヒナタ」

「うん、白眼!」

シカマルの指示に頷き、ヒナタは白眼を使う。

「―――そこに二人、いるのは分かっているよ!」

隠れている人物を見つけ、その方向へと声をかける。これで出てこないのであれば、捉える。

出てくるならば、話しあう。



一瞬の静寂。


その後、林の闇から隠れていた人物が二人、姿を見せる。







「―――見つかってしまったからには仕方ない」

現れた一人目は、鮮やかな金髪。年はキリハ達り二つ程上だろうか。何故か鼻から血を流していたが、活発な印象を受ける好青年といったところか。

「………仕方なくないよ兄さん。このことはあとでザンゲツ様に報告するからね」

溜息をはきながら、もう一人。黒髪の青年が眉間を抑える。こちらはキリハ達と同じ年のようだ。







「―――何者だ?」

警戒を解かないまま、シカマルは二人に向けてたずねた。

「連絡は行っているんだろう? 僕たちは網の構成員だよ」

絶望に染まる兄を放っておきながら、弟である黒髪の青年の方が返事をする。


「木の葉隠れの上忍、奈良シカマルと―――波風キリハ。その他、木の葉の中忍のみなさんでよろしいですね?」

「ああ。そっちは?」

シカマルの言葉に対し、これは失礼と返しながら、黒髪の青年は自己紹介をした。



「僕の名前はサイ。こっちの兄はシン」


ザンゲツ様の命で、木の葉隠れの方々を迎えに来ましたと。

視線に真剣なものを乗せ、黒髪の青年・サイはそう言った。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十二話 「地摺ザンゲツ」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/04 18:49

「首尾はどうだ?」

「上々だ。トビからひとつ、予想外のことが起こったとの報告があったが………」

「内容は?」

「いや、今はいい。それ以外は順調だからな………そちらは?」

「七尾は木の葉の中に逃げ込まれた。あそこから七尾だけを奪うのは難しいな。流石に、木の葉全体を相手に立ち回るのは厳しい」

「………あれを使ってもか?」

「………リスクが大きすぎる。いくら俺でも、あれだけの力を使いこなすにはいくらかの時間が必要となる」

「だとしてもあまり時間はないぞ。今は磐石だとしても、五影が集うと厄介なことになる。撹乱は続けているが、ふた月ともつまい」

「いくら小蝿でも、群れられると鬱陶しいからな。その分殺戮のしがいがあるんだが」

「少し黙っていろ飛段。ということは、早々に事を進める必要があるわけか………ならば先に、六尾の人柱力を捕獲しよう」

「そちらも発見したのか?」

「ああ。だが迂闊に手を出せない状況でな。いくらか兵を借りたいのだが、可能か」

「へっ、俺達二人だけで十分だっつーの。ったく年寄りはどうしてこうも慎重になるのかね」

「黙っていろと言ったはずだぞ、飛段」

「へっ、オレにはオレのやり方があるんだよ。人形使うのはかまわねーが、俺の取り分を減らすんじゃねえぞ角都よ」

「確約はできないな。それで、どうなんだ?」

「………いいだろう。何体か回す。俺が向かえれば一番いいんだが、この傷ではそれも厳しいからな」

「ふん、流石は音に聞こえた三忍だということか………それで、自来也は殺せたのか?」

「…………」

「………答える気はないか。まあいい、俺は俺の目的が果たせればそれでいいからな。邪魔者も減ったことだし、任務遂行は容易くなった」

「へっ、イタチと鬼鮫の野郎はまだ残ってるがな。それでどうするんだ、長門さんよ?」

「その名で俺を呼ぶな………イタチの方は、今は捨ておけ。あと一手、揃えればあいつらに抗う術はなくなるからな。あと、余計な被害は出すなよ」


「分かっている。いくぞ、飛段」


「ちっ、命令すんじゃねーって言ってるだろ………角都よ」














一方、キリハ達。

ザンゲツの命で迎えに来たという、シンとサイに連れられ、木の葉の忍び一同は網の本部のある町へと案内されていた。

「わー、結構大きいね……」

本部のあるそこは火の国の首都までとはいかないがそれなりに大きな町だった。

町の中は、人々の活気に溢れ、まるで普通の町とかわらないようだ。

「………でも住人、どことなく荒くれ者というか、ヤクザ風味の顔をしている人が多いようだけど」

ぽつりサクラが呟き、サイがそれに答えた。

「それも愛嬌ってやつで。でも彼らの愛想笑いは見ない方がいいですよ………無法者多いから、滅多にはしないですけど」

「それはそれで強烈そうだしね………それで、あんた達兄弟は雰囲気が? 少し、彼らとは違うようだけど」

「ああ、僕たちは少し違うので。それ以上は言えないですけど」

答えると、サイは顔だけで笑う。

「へー、でもサイ君は綺麗な顔をしてるね」

「………ありがとう、と言えばいいのかな」

キリハの天然発言を受けたサイは、少し頬を赤らめる。

そして視線の端にいる、自分を睨む男の方を指差しながら、言う。

「ところで何で僕を睨んでいるのかな、そこの彼は」

「………あれ、シカマル君どうしたの」

キリハが首を傾げて問うと、シカマルはいつもの仏頂面で答えた。

「何でもねえよ。ねえったらねえよ。聞くな馬鹿。あと思ったことすぐ口にする癖を直せ馬鹿」

「………なっ、馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!?」

またいつもの通りぎゃーぎゃーと言い合う幼馴染二人の姿。木の葉の同期一同は、何百回目かも分からないそれを、温かい顔で見守っていた。

その一連の流れを見ていたサイが、呆れたような声で言う。

「君たちは随分と仲が良いんだね…………って兄さん、何で僕を睨むの!?」

気づけば隣、兄がこちらを睨んでいるのだ。サイは驚きながら、その理由を尋ねた。

だが返ってくるのは『ニクシミデヒトガコロセタラ』という怨嗟の声ばかり。

「黒いよ!?」

「………シンです。彼女いない歴=年齢の兄です。シンです、相変わらずカワイイ子は全て弟に持っていかれるとです。シンです、今なら螺旋を滅ぼせそうです」

どこからか電波を受信した兄は、錯乱坊となっていた。いわゆる一つのチェリーである。

「………サクラっ!」



「あの、いきなり呼び捨てにしないで欲しいんだけど」



ピンクの邪神ターン。しゃーんなろーのスタンドを召喚。



「………す、すみません」








やがて一行は、兄弟に案内されて本部の中へとたどり着いた。
キリハ達8人は兄弟から説明を受け、本部の奥にある接客用の部屋で、網の長を務めているザンゲツと会うことになった。

とはいっても部屋は狭く、また大人数での面会は無理だとのことで、3人に絞ってほしいとのことだ。

そこでキリハは同じく上忍であるシカマルと、いのを連れていくことにした。

3人は案内された場所、接客室に入る。そこで予想外の光景を見て、少し驚くこととなった。
部屋の中はそこらの裏組織とは段違いに整っていたのだ。

調度品もそれなりのものを使っているようだったし、掃除も十分になされている。
網は無駄な贅沢を嫌うと効いたが、ここは少し違うようだった。

予想外と思いつつも、シカマルはこの部屋が整えられている理由を考えた。

ここは組織の長が来客と話し合い、交渉をする場所だ。
汚いままでは“網はこんなものか”、と相手に舐められるし、余計なストレスを生んでしまう。
落ち着き、安らぎのある空間でこそ、いい交渉ができると言うものだ。

だがそれだけではなく、護衛の忍びが潜めそうな場所も多くあった。もしもの時の事を考えているのだろう。

3人は部屋を見て想像できる網の内状を考察し、評価を再修正する。
分かってはいたが、そんじょそこらの裏組織とは規模と格が違うようだと。

あとはザンゲツの人柄のことだけが分からない。
少し聞いておきたいと思った山中いのは、隣にいるサイにザンゲツのことを訪ねる。

「地摺ザンゲツ様って、どういう人なのかしら………先代は男の人だって聞いたけど?」

「ええ、その通り。ですが二代目は女性です。というか、彼の娘なんですけどね」

「………ということは、網は世襲制なの?」

「いえ、養子ですから、先代と今代の間に、血は繋がっていません。先代が彼女の素質を見出して………っと、これ以上はまずいですね」

「こちらもぶしつけにすみません」

「いえいえ、そういえば情報は秘匿されていましたし。それに、そんな事を言ったらこっちの兄なんかどうなることか」

「………いや、ちょっとサイくん?」

「全く、いくらモテないからって女性の艶声を聞いただけで鼻血を出すとか………男以前に人としてどうかしていると思うよ?」

「わ、我が弟ながら辛辣すぎるっ」

いい笑顔で毒舌を吐く弟に恐れをなす兄。

「いやでも中々いい胸してたし、声も色っぽかっ………げふんげふん。あー嘘。いまの嘘だから。だから引かないでね皆さん?」

一歩退く面々に向け、シンがうろたえながら言う。

キリハといのはシンのあまりの狼狽えっぷりが可笑しくなったのか、少し噴出する。

「………いや、いいけど。それよりもあんたたちとか、町の中とか……想像していたのと違うわねえ」

「ああ、網の事? いや、何処もこんなもんだと思うよ。町の中で視線ぎらつかせている奴なんていないって…………まあ、あいつの影響が無いとも言い切れないけど」

「へ、あいつ?」

「とある本物の馬鹿がいてね………いやいや、何でもないよ。それよりもザンゲツ様、来たようだ」

直後、部屋の扉が開く。

そして入ってきた女性の姿を見た木の葉の3人は、少し驚いた。

――――まず目についたのが、燃えるようなような赤い髪。

そして左目に付けられた黒い眼帯である。同姓のキリハ、いのから見てもその顔立ちは整っているが、陽だまりのような愛嬌のあるそれではなく、刃のような鋭利な美貌。

身体の起伏もはっきりとしており、センスのいい藍の着物がまた魅力に拍車をかけていた。

だが、切れ長の吊目。黒の瞳の奥にある輝きは強く、それを見たシカマルは火遁による激しい炎を連想させられた。

年の頃は20代後半。だが、身に纏う威圧感は熟年の忍びに勝るとも劣らない。
ただ綺麗なだけの人ではなく、若いというわけでもない。見た目だけで、そう思い知らされる程だった。

「すまない、少し遅れた………私が組織“網”の二代目頭領、地摺ザンゲツだ」

「木の葉隠れの里から参りました、上忍、波風キリハです」

「同じく上忍、奈良シカマルです」

「中忍、山中いのです」

「………波風、ということは………そうか、お前がかの英雄、四代目火影の娘か」

ザンゲツは名乗った面々のうち、キリハの顔だけを見ながら、面白そうに言った。

「え、ええそうですけど………えっと、あの?」

何でそんなにじろじろ見るんですか、と首を傾げるキリハ。

それに対し、ザンゲツは何でもないと手を横に振った。

「それで、六尾の人柱力がウチの土方軍団の中にいるとのことだが………」

「はい。そしてその方々は、現在火の国の南部にある街道に居るとの情報を掴みましたので」

「状況が状況だからな。霧の追い忍が火の国の国境内に入ってくれば、不味い事態になる、か」

「その通りです。ですが彼は今、土方の方々と一緒にいるようです。こちらとしても現在の状況で網との関係を悪化させたくなく………」

「事情は分かった。だが今、ウチは忙しいんだがなあ。お前たち大国の忍びが、あちこち破壊してくれたおかげで。その傷跡が一朝一夕で修復できないものだと、おまえたちは理解しているだろう」

木の葉崩しを忘れたわけではあるまい、とザンゲツが言う。

「………耳に痛い限りです。が、それだけで退くわけにもいきません。戦争になればまた被害が増えます。それだけは避けたい」

「それは勿論分かっている。だが網の基本理念として、来るものは拒まないというものがある。それに木の葉から依頼されただけで、はいそうですかと承諾する訳にもいかん」

「ですが、それでは………!」

キリハが立ち上がり、何事かを言おうとするが、シカマルがそれを止めた。

「戦争を止めたいというのは私も同じだ。こちらとしてもお得意様である木の葉との関係を悪化させたくない」

「ならば、どうするおつもりですか」

「私が提案するのは、もう少し待ってくれないかということ。そのひとつだけだ」

「………それはまたどうして?」

「今施工している工事、終わるのが五日後だからだ。それが終われば、六尾の人柱力………ウタカタは目的を遂げ、網を去るだろう」

「目的、ですか?」

「ああ。何でも全うに働いて賃金を得た上で、とあるラーメン屋の代金を返しに行きたいとのことだ。部下からの報告で確認はしている」

ラーメン屋のところでザンゲツとシン、サイは鼻頭を指で抑えた。見ればシカマルも同じような心境らしく、眉間に皺を寄せている。

「………えっと、あの、今何かまずいところでも?」

「いや、トラブルメイカーというのは存在するのだなということを再確認しただけだ」

「はあ………」

「それにしても五日、ですか。ぎりぎりの時間ですね………今賃金を与える訳には?」

「作業を終えてこその仕事だ。他は知らんが、うちは少なくとも途中で抜けるような奴に、賃金を与えるようなことはしていない。人数もぎりぎりだし、他に迷惑がかかるからな。
 何、終わり次第私から説得をするさ。聞くところによると、そんなに凶暴な奴でも無いみたいだしな」

「………分かりました。ですが、あちらの方にはどう対処さえるおつもりですか」

「それが、お前たちを呼んだ理由だ。襲い来る可能性がある暁、そいつらの相手はお前たちにしてもらいたい」

「なっ」

「不可能か? ならば言ってくれていい。こちらにもそれなりの力を持つものがいる。無理ならば無理と言ってくれていいぞ」

「なっ、できます! やります! 引き受けました!」

「早いわ阿呆! ちったあ考えてから発言しろ!」

シカマルの拳骨がキリハに炸裂する。

「痛い!?」

「え~すみませんが、その返事には少しお時間を頂きたく……」

「何、無論タダでとは言わない。こちらの主張をある程度受けいれもらう形になるのだからな。謝礼は出すし………以前に木の葉に“貸した”ものひとつ。それを、今回の件でチャラにしてもいい」

「………貸し? というと、8年前の」

「その通りだ。先代と三代目火影殿の間で交わされたものだが………五代目火影殿にそう言えば分かるはずだ。それに、謝礼も用意するし………こちらからも戦力を貸与する」

そう言うと、ザンゲツはシンとサイに視線を向ける。

「シン、サイ。お前たちは木の葉の忍びと共に護衛の任務につけ………今回ならば、できるな?」

ザンゲツはキリハを横目で見ながら、シンとサイに問いかけた。

「了解しました」

「引き受けたぜ姉御ごはっ!?」

弟の肘打ちを受けて悶絶する兄。それを呆れた目で見ながら、ザンゲツはキリハ達に向き直った。

「それで、返答は?」
















「お、あいつら戻ってきたぞ」

「あれ、でもシカマルだけ戻ってきてないね」

厠かな、とチョウジが首を傾げる。

「みんなおまたせ~」

「おう、それでどうだった?」

「うん………」

頷くと、キリハは皆に先の話し合いの結果を説明する。

「“暁”か………それで、引き受けたんだろ?」

「うん。尾獣を奪わせるわけにはいかないし、今の状況じゃ木の葉からの援軍も期待できない。だから五日間限定だけど、護衛につくことになった」

「他に手はないのか?」

「その当たりは今、シカマルがザンゲツさんと話しているけど。何でも裏の事情ってやつがあるらしいから、私とキリハは少し席を外して欲しいって………」

「何だそりゃ。あっちがそう言ってきたのか」

「ううん、シカマル君が最初に言ったんだ。“キリハといの”は席を外してほしいって」

「何でまた………」

「あいつ、私たちに色々と隠し事をしているらしいからねえ。キリハの兄さんのことだって、そうだったし」

「九尾か………そのうずまきナルトって人は今どうしてるんだ?」

「うん、師匠に聞いたんだけど、ナルトは今暁の情報を集めてるって言ってた」

と、サクラが答える。

「呼び捨てかよ」

「ナルトさん、とかねえ。なぜだかしっくりとこないのよ。本人にも確認取ってるし、別にいいじゃない」

「同い年だし、別にいいんじゃない?」

「そんなものか………それで、そのキリハの兄貴ってどんな奴なんだ? 確か木の葉崩しの時に顕在化した一尾を倒したとか」

「私とシカマル君、いのちゃんもね。雲隠れの忍びに攫われそうになったところを助けてもらったんだ」

「そうだったな………でもそいつ、その時俺らと同い年だろ? そんなガキの頃に、雲の忍び相手してよく勝てたよな」

「………里の外へ出て行った、いや出ていかざるをえなかった経緯を考えれば不思議ではないだろう。何故ならば一人で生きるには何者にも屈しない力が必要だからだ」

「………それもそうかもなあ。俺達みたいに、仲間がいるってこともねえだろうから………っと、すまんキリハ」

「いいよ。兄さんもそれほどは気にしていないようだったし。“それよりも明日だ! 明日はきっといい日だ!”って叫んでた」

「………それはそれで変な奴に聞こえるんだが、ってキリハの兄じゃねえか納得」

「うん、キリハの兄だしねえ」

「キリハの兄だからな」

「キリハのお兄ちゃんだからね」

「何かみんな酷くない!?」

「え、いつも通りだよ?」

「ヒナタちゃんも酷い!?」

「それよりこれからどうすんだ。シカマルが戻ってくるまでここで待つのか」

「ううん、近くに美味しい店があるからそこで待っててくれって」





かくして一行はたどり着く。

伝説級のボロ屋に。

「………キリハ。本当にここなの?」

「うん、間違いないはずだけど。ほら、裏から湯気も出てるし」

答えるとキリハはすみませ~んと言いながら、入り口の扉を開く。

「いらっしゃい………って随分と大所帯だね」

額当てを見るに木の葉の忍びのようだけど、と聞くおばちゃん。

それに対し、キリハが説明をする。

「ああ、ザンゲツのお嬢ちゃんの紹介かい。なら、そこに座って待ってておくれ」

「分かりました」

言われた一同は大人しく席についた。


そして20分後。


「待たせたね」

「って、ザンゲツさん!?」

「ん、何を驚いてんだい」

「いや、それは……」

こんなボロ屋に来るとは思わなかったので、と言いそうになったキリハ。

だが傍らにいたシカマルの姿を見て、言葉を止めた。

「どうしたのシカマル君!?」

見れば、シカマルの顔は青白くなっていた。さっきまでは元気だったのに、この変わりようは一体何事か。

そう思ったキリハはシカマルに理由を聞いてみるが、「胃が………胃が………」と言い、首を横にふるで答えてはくれなかった。

「おばちゃん、ラーメン頼みます。お前たちもそれでいいか?」

ザンゲツの言葉に、皆が頷いた。というかメニューがないので何があるのか分からないのだ。
進めてくるものならば間違いはないと、頷いた。


「ここのラーメンすげえ旨いんだぜ」

ザンゲツの隣にいるシンが、誇るように言う。

「そうなの?」

「そうだ。何しろイワオ………げふんげふん。噂のラーメン屋も通ったって店だからな」

「噂の………というと、さっきの話に出てた?」

いのが訪ねると、サイは溜息をつきながら答えた。

「どうやらそうらしい。全く、相変わらずというべきなのか………」

「え、サイ君とシン君、その人と知り合いなの?」

「サイでいいよ。うん、長いことそいつとは会っていなかったけどね」

「そうなんだ………」



「辛気臭い顔しなさんな。ほら、出来たよ」








「すげえ旨かったな」

食べ終わった後、キバが満足げに頷く。

「………木の葉の一楽に匹敵するかもしれないね」

「うん………あれ、キリハは?」

「ああ、店の中です。あのおばちゃんとザンゲツ様が、キリハさんに話があるようで」

「そうなんだ………って、まだうなってるのシカマル」

「すまんがいの、胃薬もってないか」

「………しっかりしなさいよ。一体何があったの?」

聞くが、シカマルは答えない。

ただ一言、この世には知らない方が良いってことは山ほどあるんだよな、とだけ返すだけ。












一方、店の中。

キリハはザンゲツと店主のおばちゃん、シンを

「………そうですか、兄が」

「ああ。旅に出るまでは、ここに泊まってくれたんだよ」

「シン君とサイ君も、兄さんに会ったことあるの?」

「ううん、どう言えばいいのか………ってちょ、キリハさん!?」

キリハは返答に悩むシンの襟元を両手で掴んで、前後に激しく揺さぶる。

「何処!? 今何処にいるの!? いのちゃんが言うにはもう戻ってこないかもって!?」

「ちょ、待っ、ぐえっ」

答える間もなくシェイクされたシン。首をガックンガックンさせながら脳を前後に揺さぶれられる。

「ふむ、そういうところは兄に似ているな」

横からかけらた声に、キリハはそちらの方を向く。

見れば、ザンゲツは笑っていた。

先程とはまた印象が違う、ザンゲツの目はは組織の長としてのそれではなく、一人の友人を思い出すかのようなものに変わっている。

「え、ザンゲツさんも兄さんを知っているんですか?」

思わず尋ねると、ザンゲツは笑みを深くした。

「知っているもなにも、付き合った時間だけなら、他にいる誰よりも長い自信があるぞ………例外を除いて」

「そういえばそうだねえ。網に入ってから一ヶ月後だったっけ………今から言えば11年も前になるのか。紅音ちゃんとあの子が出会ったのは」

「………アカネちゃん?」

誰のことだろう、とキリハが首を傾げながら聞く。

「ああ、私の名前だ。ザンゲツは頭領としての名でな。本名は紅音という」

「そうだったんですか………それで、兄さんとはどういう関係で?」

「悪友であり戦友であり………一時期は護衛でもあったな。あいつがどう思ってるかは知らないが、私はそう思っている………ああ、心配しなくてもあいつと私の間に恋愛感情はないぞ」

だからその眼をやめてほしいんだが、とザンゲツは顔をひきつらせながら、ジト目を向けてくるキリハに言った。

「………そうなんですか。兄さんが網に所属していたとは知っていましたが、頭領と付き合いがあるとは思ってもみませんでした」

「まあ、あいつの立場ならば普通、目立たないように努めるからな。頭領に接触するなどもっての他なんだろうが………運命という馬鹿は、悪戯をすることが無類の好事らしくてな」

そう言いながら、ザンゲツ、いや紅音は苦笑する。

「今の網を構成する者達と同じく、私も戦災孤児でね。初めに会ったのはこの店で、夜の酒盛りをしている時だった」

思い出し笑いをしながら、ザンゲツはナルト………イワオとの思い出を語った。

酒盛りをしたあとの夜道。当時13歳だったザンゲツは、同じく網の一員であった酔っ払いに襲れかけたのだ。

だがそこを通りかかったナルトが“ロリコンは病気です!”と言いながらその酔っぱらいを撃退したらしい。

だがその後、ロリコンとはどういう意味かと問いかける紅音に、イワオが素直に答えたことで乱闘に発展。

「13歳なんだからロリじゃない!」という紅音の主張に対し、ナルト、当時のイワオは「ロリは皆そう言うのだよ!」と反論。

激戦の末、「少女期って響きはいいよね」という説得に対し、紅音は同意。

ここに和睦はなされたのだという。

「――――今思い返せば、私も酔っていたのだろうな………」

「それでも突っ込みどころ満載です。っていうか、その頃から酒を飲んでいたんですか………」

「当時は忘れたいことが多かったのでね――――今は、逆に忘れたくないことが多くなったんで、酒はそうそう飲めないのだが」

「………?」

「忘れてくれていい。まあ、そこからは私と今の旦那………同じ孤児院の仲間連中と、それとなく付き合ったりしていた。だけど、あいつはいつも一人でいようとしていたな」

「え、組織の一員なのでは………?」

「心は組織の中に無かった。あいつはいつも夢ばかりを追っていたからな。属せず、信頼せず………先代ザンゲツとはまた違った繋がりをもっていたようだが」

「でもそれは許されないのでは」

「普通ならばな。だが忠はなくても、信はあった。渡世の仁義ってやつも持っている。それに、先代と私個人としては返し切れない借りがある」

「それは………?」

「7、8年前の事件に関連することでな。それ以上は、木の葉に帰ってからあのシカマルという奴に聞くと良い………いずれ火影に成りたいと言うのであれば、隠れた裏の事情を知る必要があるだろうからな」

組織の長になりたいというからには、忘れたくても忘れられない、忘れてはいけないものも知ることが必要だ。

ザンゲツは真剣な眼をしながら、キリハにそう告げた。

「………それで、今回は私たちを?」

「話には聞いていたからな。いずれ木の葉を背負って立つ8人、あいつにしても信頼のおけるという者たちを一目見たかった。組織の長としても、個人としても」

「そうだったんですか………」

「そうだ。そしてひとつ、忠告しておこうか………あいつは、一人で何でもやろうとする悪癖がある。必要となる場合以外は、誰にも頼らない。無茶をする時もある。
だから、変に優しい言葉をかけられたら注意することだ………何も言わずに去っていくぞ」

「………肝に銘じておきます」

「それでいい。ところで…………そろそろシンを放してやって欲しいのだが」

「え?」

視線を正面に戻すキリハ。そこには、土気色の顔をしてうわ言を呟くシンの姿があった。



「ああ………星が見えるよ紫苑………え、夕焼けこやけでさようなら? うんそうだね、逝こうか―――――」


見れば、シンの口からは何かもやのような白いものが抜け出ていた。


「い、逝っちゃだめー!?」

キリハはそれを口に戻そうとしながら、叫び続けた。



























あとがき

暗躍するもの達とキリハでした。

あと、オリキャラ、ザンゲツというか紅音ちんが登場。

事件云々に関しては全部終わった後、閑話形式で書くかも。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十三話 「泡沫の光彩」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/06 01:00
作者注

ここ数カ月の疾風伝のエピソードの設定がちらほらあります。

まだ見ていない方、見たくない方はご注意を。













































ここは火の国の南部。

今日もウタカタは作業員に混じり、村と村の間にある道の整備をしていた。
地山から土を運び、道が必要となる場所に敷き詰め、重しをつけた台車を使い締め固める。

地味な作業の繰り返しだが、時には横にある森の中から、猛獣が襲ってくる可能性があるので注意が必要だ。

護衛の忍びらしきものはついているので、滅多に人死はないようだが、ウタカタにしても油断はしない。

例外というのはいついかなる時でも訪れるからだ。

朝起きて飯を食べ、働いて休憩。昼と夕方にも休憩があり、その時は近くの村から弁当が支給された。
工事料金を格安で引き受ける網に対しての、村人のお礼の気持ちである。


「どんどん食べてくださいね!」

金のクセッ毛を揺らしながら、おにぎりを作業員全員に手渡していく少女。
年の頃は7、8ほどだろうか。小さい身体をめいっぱい動かしながら、皆に笑顔を振りまいていく。

「はい、どうぞ…………って、ウタカタさんじゃないですか!」

「………またお前か、ホタル」

笑顔を輝かせて近寄てくるホタルに対し、ウタカタは心底うっとうしそうに答える。

「はい! 今日こそは私に修行を!」

「またその話か………駄目だといっただろう」

何度もいったはずだ、とウタカタはホタルの要望を却下する。

発端はちょうど一週間前。

網の雑用として追従していたホタルが夜の森で狼に襲われた時、たまたまその場に居合わせたウタカタがホタルを狼から守ったのが原因だった。

その後、ウタカタの力を見たホタルは、私に忍術を教えてください、師匠になって下さいとウタカタに頼み込んだのだ。

だがウタカタの返答は否。それどころか、“師匠”という言葉を聞いたウタカタは、昔自分を裏切った師匠の事を思い出してしまい、思わずホタルに怒鳴ってしまったのだ。

師匠と呼ばれるほど馬鹿じゃない、と。

ホタルはまだ幼いため、ウタカタの突然の怒声に驚き、泣いてしまった。

10にも満たない子供に怒鳴り泣かせてしまったという事実に、ウタカタはどことなく後ろめたいものを感じていた。
ホタルの無垢な笑顔もそうだった。怒鳴られても次の日にはまたウタカタの元に訪れ、教えてくださいという少女。

ウタカタは、他人が自分に対する隔意を持たず、また距離感も考えないまま、ただ愚直に内側に入ってくるということは経験したことがなかった。

子供にしても人柱力の恐ろしさは知っている。いや子供だからこそ恐ろしいものには敏感で、ウタカタを一目みるなり逃げていったものだ。

(その点、こいつはセンスが無いな………)

恐怖に鈍い者は、忍者としての素質は無いと言われる。死の恐怖を肌で感じ、そこから逃れる術を得るというのは忍びとしての必須技術だからだ。

それにウタカタはあと数日もすれば網を去ってしまう。中途半端に教えてさようなら、というのも考えたのだが、泣かせたという負い目がそれを許さなかった。

(仕方ない………)

本当のことを言って、諦めてもらう他無い。そう考えたウタカタは、ホタルの方に向き直り、告げようとする。

だが、その時ウタカタの眼前におにぎりが突き出された。

「はい、ウタカタさん専用。塩のないおにぎりです!」

「………ああ、ありがとう」

「しかし、塩の無いおにぎりが好きだなんて、ウタカタさんは変わってますね」

「塩は苦手なんだ」

内にいるこいつのせいでな、とは心の中だけでいった。

実のところ、別に塩を食べたからどうという訳でもない。だが、どことなく塩~とかいう名前の食べ物と、塩味が主体となる食べ物は苦手なのだった。

(それよりも話すタイミングが………)

おにぎりが差し出されたせいで失ったと、ウタカタはおにぎりを食べながら思う。

(もう、いいか)

他人のことで思い煩うのもバカらしい。ウタカタは何も言わずに去ろうと心に決めた。

あとは網の連中がどうにかしてくれるだろう。

(……賃金をもらえれば、ここに用はない)

むしろ居続ければ、例の物騒な連中の襲撃に巻き込んでしまう恐れがあるし、霧隠れとしてもいつまでも自分を放っておいてくれるとは思えない。
人柱力は人柱力なのだ。人柱力として相応しい場所はあそこだけだと、ここに来てウタカタは痛感した。

それ以外の場所では、生きられない。むしろ生きてはいけないと、誰もが言っているし自分も思っている。

大きすぎる力は災いを呼ぶのだ。

いつか親方と話した内容をウタカタが心の中で反芻していると、ホタルが横から心配に声をかける。

「………ウタカタさん?」

「何だ」

「いえ………何でもないです」

胸中の葛藤のせいか、低く恫喝するかのような声で返事をしてしまったウタカタは、気まずげに沈黙する。

ホタルの方はびくつきながら、何とか話を続けようと、別の話題を振った。

「………えっと、ウタカタさんも戦災孤児なんですか?」

「………いや違う。お前はそうなのか」

“も”という言葉に反応したウタカタは、ホタルに言葉を返した。

「はい。5大国の隠れ里ほどではないですが、それなりに由緒のある家系で………」

ホタルは俯きながら、自分の物心ついてから網に入るまでの境遇について話しだした。

一族に伝わる禁術のこと。
そのせいで、里のものからは疎外されていたこと。
禁術を狙い、雲隠れの暗部と木の葉隠れの暗部が里を襲撃し、一族は皆滅ぼされてしまったこと。

別に珍しい話ではない。大戦が終わった今でも、各国の暗部はその動きを止めていない。
いつか来る戦に備えて。互いに牽制しあい、次の戦に負けて国を疲弊させないように、戦力を貪欲に求めている。

特に雲隠れの暗部は、貪欲に力を求め、今では木の葉を越えるかもしれないほどに、その軍事力を高めていた。
対する木の葉も、それに負けじと動いているようだ。霧も、岩も、そして砂も。

小国は小国で、大国に負けないようにまた同じく………まるで負の連鎖だ。
特に小国は人柱力などの切り札を持たないので、血継限界を求め忍びを動かすことが多い。

ウタカタもかつては暗部で、色々な忍びと対峙した。
影のそのまた影に隠れて敵を殺し続ける毎日。だが、昔はそれで構わないとも思っていたのだ。

――――そう。師匠に裏切られるまでは。

チャクラの使い方から、忍術の使い方まで教えてくれた師匠。
六尾の力が可能とする、シャボン玉を使ったウタカタ特有の秘術も、師匠と一緒に編み出したものだった。

(だが、あの日――――いや、止めだ)

裏切ったのか、そうでないのか。ウタカタは独り悩み考えた末に、考えないことを選んだ。
どうでもいい。師匠は既に死んだ。

だからどうとでもなれと。そう結論を出して、思考を停止した。

あれから何年たったのか。忘れていた恐怖を思い出さされた敵と、訪れた機会。いつも傍にいた監視の忍びは、あの黒い化物に全て飲み込まれた。
かろうじてあの化物から逃れたあと、気づけばウタカタは独りだった。

監視もいない。敵もいない。

(………どうしても抜けたかった………という訳でもないよな)

ただ、機会があったからそれに乗ってみただけ。
風に流される泡沫のように、自然と足は火の国へと向かっていた。

霧隠れの忍びは何故か追ってこなかった。あとで探ってみたところ、どうやら霧の中枢部に襲撃を仕掛けた馬鹿がいるようで、厳戒態勢に入っているとのことだ。

だがその途中で出会ったあのラーメン屋。
その店主は、今まで生きてきた20数年間を思い返しても記憶にないほどに、衝撃的な人物だった。

金は無いが、食べろという。
いずれ返してくれれば良いという。

普通の店ならば、そんなことは言わない。このご時世、食い逃げをしてでもという輩は腐るほどいるからだ。
それに、あの味。忘れようにも忘れられない、今までに食べたことが無いほどに美味しく、そして暖かかった。

着の身着のまま、気の向くままに旅をしていたせいで、路銀も無く空腹の極地だったこともある。
だがそれを差し置いても、美味かつ涙が出るような味だった。

――――何だ、これは。

旨いかと聞いてくる。感想を聞いてくる。
思えばいつ以来だったろうか。任務以外で人と話したのは。

考えず、条件反射的に感想を言い、気づけば頭を下げていた。
だからだろうか。柄でもない、忍びではなく土方仕事、まっとうな方法で稼ぎ、代金を返そうと思ったのは。

そしてここでも、新たな発見はあった。網と呼ばれる組織、噂には聞いてきたがずっと全うな組織だったようだ。
人には言えない過去を持つ輩も多く、山賊上がりから抜け忍まで、色々といた。

だがその誰もが笑い、前を向いて暮らしている。
互いに過去を詮索せず、ただ未来を見据えて今を生きている。



――――思えば、始めてだった。仕事をして、人に礼を言われるのは。

仕事を始めたその日、差し入れにきた村人の言葉を思い出す。

彼らはいった。『ありがとうございます』と。

任務を果たし、よくやったと言われることはあった。だが心からの礼を言われたことはなかった。

心地よい、そう思ったこともある。だが思えば思うほどに、ここに自分の居場所がないことに気づいた。

「えっと、ウタカタさん? 急に黙り込んでどうしたんですか?」

ウタカタはこちらの顔をのぞきこんでくるホタルを見て、想う。

うらやましい、と。思ってから言葉に出るまで、時間はかからなかった。

「――――駄目だ。お前に忍術は教えない」

「どうしてですか? 私はおじいちゃんの!」

ウタカタの返答を聞いたホタルは、は悲痛な叫び声をあげる。
彼女は力をつけ、一族に代々受け継がれるという禁術を受け継いで、一族の復興を遂げようというのだ。
網の中で力をつけて、皆を守れるようになり、やがて昔のような尊敬を集める一族を再興したいと。


だがそれを聞いたウタカタは、極限まで顔をしかめた。
ホタルの祖父は、孫娘に対して随分な遺言………呪いを残してくれたものだな、と。

死ぬ間際に血迷ったのか、あるいは受け継いだものを誇ればこそか。
その祖父、どちらにせよ遺言を伝えた時は、まともな思考はしていなかっただろう。

血継限界というものが起こす事態についてよく知っているウタカタは、ホタルに向かって禁術というものについて、説明をした。

「―――禁術。禁じられた術。その効果は絶大で、時には戦況をも変えられるかもしれない………だがホタル。禁術を使い、できることはひとつだけだ」

「ひとつ、だけ? それはなんですか」

「―――人を不幸にすることだけだ。お前は、自分を含む周囲すべてに不幸をばらまくことを望むのか?」

それがお前の夢か、とウタカタは問う。

そして周囲に誰もいないことを確認すると、話を続けた。

「俺はかつて、霧隠れの里にいた。かつては血霧の里と呼ばれた里だ。そこでは血継限界を持つ一族は疎まれていた………何故だか分かるか?」

「………いいえ。だって、里のみんなを守ることができる、凄い力なんじゃないですか?」

「真っ当な忍術ならば、あるいはそうかもしれない。だが、血継限界というものは特殊だ。そして例外なく、相手に凄惨な傷を与えることができるもの」

「…………」

「人を傷つければ、人は病む。与える傷の凄惨さに比例して、だ。そして人の心はもろく儚い………いつしか、心は壊れてしまう。たったひとつの例外を除いて」

「例外………?」

「考えることを止めるんだ。心を捨てれば、痛苦を感じることもなくなる。晴れて一流の、兵器になれるというわけだ………」

それを人は、“堕ちる”と言う。
あるいは“死”とも。

「そうなれば、人は正常な判断を下せなくなる。あるいは力に驕り、たしなめようとする飼い主の手を噛むこともある。かぐや一族という血継限界を持つ一族が、その典型的な例だった」

力を求め、力に呑まれ、力のために滅びた一族。骨を操る力は強大無比で、霧の中でも確固たる地位を築いていた一族だった。
クーデターに失敗し、全て滅びてしまったが。

「それに、禁術といったな………? ホタル。禁術はな。どこまでいっても禁術でしかないんだよ。確かに、効力は絶大だ。あるいは、里を守れるかもしれない。だが里の役にたとうとも、戦争が終われば疎まれてしまうだろう。
禁じられた術は例外なく、日常を生き様という人には受け入れられない。一時の栄華はあろうが、それも所詮泡沫の夢に過ぎないんだ」

風が拭けば壊れてしまう程度のものでしかないと、ウタカタは断言する。

「そんな、だって………!」

「………まあ、単純な血継限界ならば、居場所があるかもしれないがな。だが、お前が望むのは禁術だろう? 一族が長年守り続けてきたという」

「……はい」

「ならばここで断言しよう。お前には無理だ。俺も師匠になどならない………絶対に」

一介の少女には過ぎた夢。叶えるならば、尋常でない意志が必要だ。
例え血の池に沈もうとも、と思えるだけの狂気じみた意志力が必要になる。

集団の中で禁術の有用性を見せつけ、あるいは恐れられない程の意志の強さを見せつける。
時には誰かを利用して、時にはその手を血に染めなければならない。

泣くことなど許されない。負けることも許されない。
それを人は鬼の道という。

だが、目の前の少女からは、その道を貫き通せるだけの素質が感じられないとウタカタは思っていた。
修羅の道を歩き通せるような絶対なものが感じられない。

(いずれ、誰かに利用されるだけ利用されて、捨てられるだけだ………)

それよりは良いと、ウタカタはホタルの意見を真っ向から否定する。

ホタルは今まで自分が考えていたことの全てを、憧れていたウタカタに否定されたショックで、その場にへたりこむ。

そして俯き、大声で泣いた。子供のような声で。

「………やっぱりお前には無理だ………よく、考えるんだな」

ウタカタは独りで泣いているホタルの横をすり抜け、作業場へと戻る。

後方から、少女がすすり泣く声が聞こえようとも、振り返らなかった。













その夜。
作業が終わると、ウタカタは作業場近くの村でひとり、飲んでいた。

「………らしくないな」

ホタルに話した事を思い出し、ウタカタはひとり自嘲する。

そこに、横合いから声がかかった。

「よう、独りで月見酒か?」

「………ああ、そうだ」

声で誰かを悟り、ウタカタはぶっきらぼうに頷いた。

「お前もか、シン」

「いい酒が手に入ったんでね………横、いいか?」

「好きにしろ」

それじゃ、と言いながら、シンはウタカタの隣に座り込む。

「出歯亀はもうしないのか?」

「言わないでくれって。これも任務なんだから」

「ふん、お前も………護衛についている木の葉の忍びとやらも、ご苦労なことだ」

ウタカタはぶっきらぼうに返しながら、昨日の事を思い出す。

霧のことや暁のことについても全て。
その上で網は承諾し、護衛をつけたということも。

その時に尋ねたことを思い出し、ウタカタはシンに今一度聞いてみた。

「あのラーメン屋は見つかったのか?」

「見つかったといえば見つかったと言えるな。昨日言っただろ? 期日になったら言うよ」

「はっ、どうだか」

「………それよりも、聞きたいことがあるんだけど」

「内容によるな。一応聞くだけ聞いておこうか」

「今日にホタルちゃんに告げた、あの………“師匠になどならない”っていう意味が聞きたくてな」

シンが告げた瞬間、ウタカタの殺気が膨れ上がる。

「………何故お前にそんなことを言わなければならない? 理由はないから暴れはしないが………理由ができれば別だぞ」

無遠慮にこちらに入ってくるな。ウタカタは殺気にメッセージと忠告をこめて、シンへと向けた。

だがシンは何処吹く風。その殺気を受け流しながら、飄々とした様子を保っていた。

「おっと、怖いねえ」

「不躾にこちらに踏み込んでくるからだ。それを聞いたのは任務か? それとも、単純な好奇心か?」

「ああ、後者だよ―――――俺も子供の頃、師匠に殺されかけた身でね」

「何………?」

「俺は昔、木の葉の暗部………根に所属していた。そこで弟と二人、技を磨いていたんだ」

シンは何でもない様子で、自らの過去を語る。

戦災孤児だったこと。
血はつながっていないが、根で弟と呼べるほどに仲良くなった少年、サイについて。

そして、昔から続く“根”の風習について。

「子供を二人組にして育てる。そして才能があるのはどちらかを見極め、不必要な方を殺す………もう一人に殺させるんだ。そうして残った、才能のある者の心を壊し、意のままに操る」

「何処かできいた風習だな」

「本家本元がどちらかなんて、どうでもいいけどな」

本当にどうでもよさそうに、シンは手に持った酒を飲み干す。

「だけど知った当時はショックだったよ。俺達の師匠の、暗部の人………それなりに慕っていた人だったから、余計にな」

誠意など欠片も無かったわけだが、とシンは自嘲する。

「そんなお前が、よく木の葉の人間と一緒にいられるな」

「あいつから聞いていた忍びじゃなかったら、意地でも引き受けていないよ。真平御免だったさ。だけど、あいつらは違うようだ」

「………ふん。それで、それを聞かせてどうする?」

傷の舐め合いなどごめんだぞ、とウタカタは横目でじろりと睨む。

「いやいや、そうじゃなくてな。なんかアンタ、迷っているようだったから」

「俺が何を迷っていると?」

「――――師匠を憎むのを」

「…………!」

虚をつかれたウタカタの身体が、一瞬だけ硬直する。

「俺はさ。どうだっていいんだ。始めから師匠が俺を殺そうとしていたとか、今になってはほんとどうでもいい。むしろ忘れたい記憶なんだ。だけどアンタは違う。
 “忘れたくない”って気持ちが表に出てる」

「何を………!」

「憎んでいるけど、憎みたくないって気持ちが出てる。なあ、師匠は本当にアンタを裏切ったのか?」

「………師匠は、俺を殺そうとした。鍛えに鍛えた尾獣の力を奪おうとした! だが師匠は死んだ。その時に出てきたコイツの力によって」

俯きながら、ウタカタは怒声を続ける。

「俺を鍛えたのも、人柱力としての力を見極めるためだ。何が出来るのかを見極めるためだったんだ」

「………最後に、何か言っていなかったのか?」

「ああ。呪いの言葉を遺してくれた。“その力と共に生きろ”とな。つまりは俺に兵器として生きろと! 尾獣の器として生きろと、そう…………願ったんだよ」

最後には声色を低く、弱く。

力なく、ウタカタが項垂れる。

「………違う」

だがシンは、ウタカタの言葉を否定する。すべてを聞いた上で否定した。

「違うぜウタカタ。あんたの師匠はあんたを裏切っていない。あんたを殺そうとした訳じゃないんだ」

「………何故、そう言い切れる」

「だって………あんたはまともだから」

「俺が、まともだと?」

どこに眼をつけている、とウタカタは嘲笑を浴びせる。だが、シンは肯定を止めない。

「そうさ。ホタルちゃんとの話を聞いて確信したよ。アンタは狂っていない。真っ当な人間としての感性をもっているって分かった」

あいつらとは違う、とシンは首を振る。

「信じていたんだろう? 忍術の他に、色々なことを教えられたんだろう? ―――いずれ殺すっていう人間相手に、そんな接し方はできないさ」

「………油断させるために、とは考えられないのか」

おめでたいやつだな、とウタカタは顔をしかめる。

だがシンは再度首を振り、その考えを否定する。

「なら聞くけど、アンタが殺されかけた時は――――油断させられ、隙を突かれたのか?」

「………!」

「きっと正面から、大事な話があるとかで、呼び出されたんだろう? あんたの師匠は、尾獣の力をあんたの身体の中から取り除きたかったんだよ。
 人々から忌み嫌われる力を、あんたから摘出して………どこかに封じ込めたかったんじゃないかな。例え裏切り者の汚名を着ようとも」

「………違う」

それでも頑なに否定するウタカタ。シンはその言葉に否定もなにも返さず、酒をぐいっとあおった。

「間違えた時、怒られたことはあるか?」

「………」

「怒るって、かなりのエネルギーがいるんだぜ」

「……そうだな」

「これ以上は何もいえないけど………まあ」

最後の答えを決めるのはアンタさ、とシンは首を横に振る。



「………」

「………」


月を見ながら二人、沈黙が続く。

無言のまま酒を煽り続け、やがて酒瓶の中身が空になる。

「じゃあ、俺は元に戻るよ………アンタも、仕事明後日で終りなんだからな。きちっとやり遂げてくれよ」

そういいながら、立ち上がるシンに対し、ウタカタは閉ざしていた口を徐に開いた。

「何故、お前は俺にこんな話をした?」

「憎みあうってのは悲しいことさ。すれ違うことは悲しいことさ。俺はただ、するべきことをしただけだ――――まあ、アンタが人柱力だから、って理由もあるけど」

「………?」

「俺のダチもそうなのさ。そして、あいつがいたなら、こうするだろうし」

誰かと笑い合える未来は欲しい。切にそう願っていると、シンは言う。

「甘ちゃんな考えだな。それが可能だと?」

「可能かどうかは知らないけど………目指す価値があるじゃん」

「………よく、言う」

「それにほら、俺って網の人間だし?」

「それに何の関係がある」

「あんたがホタルちゃんに言った。あれと同じさ――――仲間を気遣っただけ。今は網の一員であるアンタだからな。ほら、別に特別なことでもないだろう?」

そう言いながら、シンは笑った。

「嘘を混ぜてわざときつい言い方をして………思っていたよりも優しいんだな、アンタは」

「………ほざけ」

「うん、ありがとうねー」

「ほめてねえよ!」

小走りになって遠ざかっていくシンの頭めがけ、ウタカタは地面に落ちている小石を拾い、投げた。


シンは笑いながらそれをかわし、夜の闇へと消えていった。



「………誰が優しいんだ、誰が」














そして次の日。

「………ウタカタさん」

「答えは出たのか?」

「はい………私、禁術を追い求めるのはやめます。そんなことをしなくても、一族を再興させることはできますから」

それを聞いたウタカタは顔をしかめる。随分と結論の早い、誰かに入れ知恵されたに違いないからだ。

余計なことを、とウタカタは内申で舌打ちしたが、それはそれで悪くない結論だとも思った。
まだ子供だからして、これからいくらでも道を選べるだろう。
外道を望まなければひとまずはそれでいいか、と結論づけ、笑みを浮かべる。

それを間近で見たホタルの顔が赤くなる。

ウタカタは気付いていないらしく、夜更かししたせいで風邪をひいたのだろうか、と思った。

「大丈夫か………ん、熱はないようだが」

「ひゃ、ひゃい! えっと、あの、それでですね………」

「ん?」

「あの、通りすがりの正義の味方とかいう金髪のお兄さんに聞いたんですが」

シンだな。ウタカタは自然と昨日の優男の顔を思い出していた。

「………えっと、その、一族を復興させたいのなら、ですね。その、好きな人か腕の立つ人と結婚して、子供をたくさん産めばいいじゃないって、そのお兄さんが―――」

「………は?」

顔を真っ赤にしながらしどろもどろに言葉を紡ぐホタル。

「えっと、それで?」



「あうう…………その、私子供の作り方とか分からなくて、それで………金髪のお兄さんが、ウタカタさんに教えて貰えって………」



今にも泣きそうな声。それを聞いたウタカタは顔を真っ赤にさせながら、余計なことを吹き込んだ元凶に向けて呪詛の言葉を吐いた。



「あの、野郎ッ………!」


























「それで、木の葉から援軍の目処は立ちそうなのか?」

「昨日な。綱手様から返事が来たよ………OKだとさ。流石に俺らだけじゃあ、暁の二人を相手どるには厳しいからな。綱手様もそう考えられたんだろう………二人だけだが、補充要員を回してくれるとよ」

「………その補充要員の名前は?」

「ああ、―――と―――さ」

小声で告げられた名前に、シンは驚く。

「………随分とおごるな、火影殿は。景気のいい話で」

「悪いっつーの。そっちが指定したんじゃねーか。まあ、これ以上ない援軍だけどよ………複雑だぜ」

「こっちも複雑だって。それで、暁の化物忍者に勝てる自信はあるのか、天才上忍さんよ」

「だれか天才だ、だれが………まあ、確かに駒は揃ったけど、それでも確実とは言い難い。嫌な報告も入ってきてることだしよ」

「何かあったのか?」

「国境付近に待機してた霧の追い忍部隊………2小隊が消息不明。恐らくは全滅、だとよ」

戦闘開始と思われる時間から、5分と持たずに全滅したらしい、とシカマルは沈痛な面持ちを見せる。

それはシンも同じだった。

「いやはや、霧の追い忍部隊を瞬殺とか………分かってはいたけど、暁ってーのは化物揃いだね」

「まあ相手は二人で、例の暁の首領ペインってやつではないらしいからな。それだけが救いだぜ………ん?」

そこでシカマルは林の向こうを見る。

「何か叫び声が聞こえたような………っておい、なんかシャボン玉が飛んでくるぞ」

これ、ウタカタの術じゃあ、とシカマルがそれを指差す。

気づいたシンが振り返ったと同時、シャボン玉はシンの全身を包みこんだ。

「なんじゃこれは!?」

自分をつつんでいる叩いてもびくともしないシャボン玉に、シンが驚きの声を上げる。

「あー、シン、お前………あの人に何か余計なこと言ったのか? 向こうからどぎつい殺気が飛んでくるんだけど」

「何ぃ!? 俺はよかれと思ってってってって……連れて行かれるぅ!? お、シカマルくんヘルプみーいぃぃぃ………!!!」


シンを包んだシャボン玉は、ウタカタのいる方………殺気の発生源へと飛んでいった。


「あー、めんどくせーからパス。達者でなー」


飛んでいくシャボン玉を、イイ笑顔で見送るシカマル。

そこに、護衛についていた面々がやってきた。

「どうしたの、シカマル君。何だか凄い声が聞こえたんだけど」

「いや、何もねーよ」

「え、え~と、向こうから殴打音と悲鳴が………」





















「―――アンタって人はあぁぁぁ!」

「―――お前という奴はあぁぁぁぁ!」

「わわわ、ちょっ、ふたりともやめてくださいぃ――」

少女を横にして喧嘩する、いい大人が二人。

その大人気ない喧嘩は、数十分に及んだと言う。



































あとがき

連日投稿、本日はどシリアス。ホタルはちょっとロリ補正。

次回、オチ泥棒、シンをよろしくね!(嘘)




また、ご指摘の箇所を修正しました。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・前 「乱戦」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/07 00:59

「これで完了、か」

工事が終り、整えられた道を見ながらウタカタは感慨深げにためいきをつく。

着工からかなりの時間を要して出来上がった道。ひとつの者を作り上げるのはこんなに難しく労力の要る作業なのだと、ウタカタは今回経験して初めて知った。

「ほらよ、ウタカタ」

「………確かに」

給料袋を受けとったウタカタは中身を確認した後、驚いた表情を浮かべる。

「少し多くないですか?」

「何、働きに見あってのことだ。随分と助かったよ」

いいから受けとんな、と親方は笑いながら言った。

ウタカタは分かりましたと頷き、給料懐を袋を入れる。




そしてもう一度、自分が作ったものを見届け、踵を返した。




そのまま、森の外へと抜けようと、ウタカタは歩を進める。

出口で、木の葉の護衛が待っているのだ。

あとは護衛につれられ、霧隠れに戻るだけ。

ウタカタは今回稼いだ金あのラーメン屋にでラーメンの代金を返したいと思っていたが、どうやら見つからないようで、代わりにとシンに預けることとなった。

霧隠れの部隊も壊滅したと聞くし、これ以上火の国にとどまることはできない。


「ようやく、か………ん?」

出口にさしかかったとき、その場にいる者たちの顔を見たウタカタは顔をしかめた。

木の葉の護衛と、網の護衛は分かる。何もおかしくはない。

だが混じって一人、どう見ても子供にしか見えない人物がいるではないか。

「………ついてくるなと言ったのに」

あれだけ言ったにも関わらず、とウタカタは思わず頭を抱えてしまった。



「ウタカタさん………」

「ホタル………今朝、言っただろうが」

「ですが………ウタカタさんはやっぱり、霧へ帰るんですか?」

「まあな」

「えっと、あと一日だけ………そうだ、この近くに、夜に蛍が飛び交う素敵な場所が………」

「………駄目だ。もう限界なんでね。これ以上ここには留まれない」

「そんな………」

「何、心配するな。いずれ、遊びにこれたら遊びにくるさ」

「………それは本当ですか?」

嘘だ。

だけど、こうでも言わなければ引き下がるまいと、ウタカタは嘘をつく。

「ああ。だから、待っていろ」

「………はい」


しょんぼりとうつむく少女。

一同は彼女を置いて、その場を後にした。





そうして歩き、遠ざかってからウタカタは一度だけ振り返った。


「ん………あの、馬鹿」


見れば、少女は小さな身体、その全身を使いこちらに向けて手を振っていた。



「健気だ、ね」

少し悲しそうに、キリハが呟く。

「………言うな。アンタ方も気づいているんだろうが」

「そうだね………急ごうか」

















そうして、一同は山の上へと登っていく。

木の葉の忍びが8名。

網の忍びが2名。

そして、ウタカタ。

合計11人は二手に分かれながら、それぞれの方向へと歩いていく。

「ったく………すげえ血臭だぜ」

キバが顔をしかめながら呟く。


そう、“この先にいるであろう人物に向けて”


「しかし待ってくれるとは思いませんでしたよ。聞いていた話とは、違い随分と人道的な忍びじゃないですか」

「事情があるんだろうよ。一般人を巻き込まない事情とやらが、な」

「それを知っていると?」

「知りたくはなかったけどな………そろそろだぜ」

「どうやら問答無用のようだ。何故ならば、こちらの方に殺気を向けている」

「くう~ん」

「びびるな、赤丸。一歩退けば相手の殺気に呑み込まれるぞ」


「………確認。暁のコートを着た忍び二人と、他4人が接近中。方向、このまま。距離…………っ、急速に接近、接敵までおよそ30秒!」


「ようやく来たね………!」


「俺とサイはウタカタの護衛に回る……………頼んだぜ、シカマル」



「お前こそしくじるなよ、シン。こっちもな………めんどくせーけど、やるしかない」


そうして、シカマルは全員に指示を飛ばす。


「シノ、サイは俺と一緒にあっちの銀髪の方をやる! キバはいの、シンと一緒に、横にいる二人を相手にしてくれ!」

「「「了解!」」」

「サクラちゃんとチョウジ君も周りの方を! ヒナタちゃんは私と一緒にもう一人の暁の方をやるよ!」

「「「分かったわ(よ)!」」

「俺は何もせずとも良いのか?」

「俺達を巻き込まない自信があるか?」

「無いな」

「なら一定の距離をとっていてくれ。できるなら逃げて欲しいが、伏兵が怖い」

「………分かった」

「みんな、無理はするな………っても無理か。手はず通りにやるぞ――――散!」



















「やっぱり気づかれてるぜ、角都よ」

「日向の白眼と犬塚の鼻、油女の蟲だからな。それは仕方ないが………ふん。奇襲のリスクを抱えて逃げるより、先ににこちらの動きを封じ込める気だ………身の程知らずが」

「なあ、殺していいんだよな?」

「人柱力以外はな………あと、死体を傷つけすぎるなよ。死体屋に高く売れるかもしれんからな。お前が死なん程度で、どうにかしろ」

「それをよりによって俺にいうかよ……ちっ、しかし面倒くせえな」

「我慢しろ。木の葉の忍びは金になるからな………あと、あれの使いどころを間違うなよ」

飛段は自分の指輪をこつこつと叩きながら、角都に忠告をする。

「はっ、わーってるって。霧のクソ共でコツは掴めたからな………っとお、見えた!」

そうして二人は、前方に木の葉の忍びを確認する。


「数は………11か」

多いな、と呟いた後、角都は隣の飛段にいつも通りの言葉をかける。



「死ぬなよ、飛段」


「へっ………だから、それを俺にいうかよ角都!」

叫びながら飛段は走る速度を更に上げ、突っ込む。


「ヒャぁ!」

そして、手に持つ鎌をぶん回す。

胴をなぐ一撃。

「くっ!」

「問答無用かよっ!」


間合いの中にいたシノ、キバが鎌をさけるべく跳躍する。



「行け」

角都は控えている人形へと命令。

敵方に向けて散開させる。


「はっ!」

その一瞬の隙を狙い、ヒナタが角都の懐へと入り込む。

(白眼、日向、柔拳か!)

角都は踏み込んでくる相手を見極めると同時、戦術を選択する。

迫る掌打を受け止めずに、掌で横へと逸らしながらヒナタの側面へと回りこもうとする。


「させない!」

放った掌打を懐へと戻しながら、重心を戻す。

そして向き直り、再び角都を正面に捉える。

敵の情報は知らされている。私の柔拳を以てすれば、心臓を貫かずに止められるかもしれない―――そう考えての、接近戦である。

だが、角都は80年を生きた古強者だ。体術にも死角はない。

側面に回ると同時に放った蹴りが、ヒナタの側頭部へと飛ぶ。

ヒナタは出しかけた掌を止め、防御へと腕を回し、蹴りとは逆の方向へ重心を移動する。

「くっ!?」

防御は間に合ったはず。だがガードした上から伝わる、予想外の衝撃にヒナタは驚きの声を上げる。

まるで石のように堅かったからだ。衝撃を殺していなければ、腕を痛めていたかもしれない程に。

(これが、例の……!)

土遁・土矛。身体を硬化して、攻撃力・防御力を高める術だ。

(……もらった!)

痛みに動きを硬直させるヒナタ。そこに、角都が追撃をしかけるが―――横から邪魔が入る。

「ヒナタちゃん、下がって!」

追撃をしかけようとする角都に向け、キリハがクナイを投擲。

普通のクナイならば、自分の防御は破れない。角都は迫り来るクナイを一瞥しながら、クナイを硬化した皮膚で受けつつ、追撃を続けようとする。
だがクナイの外郭を覆うチャクラを見ぬき、側面へと転がった。

(飛燕か……!)

石をも貫く風のクナイ。

まともに受ければ貫かれるだろうと判断した角都は、回避を選択。そのまま転がりつつけ、ヒナタとキリハから距離を取ろうとする。

「させないっ!」

上忍でも有り得ない、複数の系統かつ強力な忍術を使いこなす角都だ。

そんな相手に遠距離戦を挑んでも勝ち目はないということを、木の葉側は理解していた。

故の接近戦。キリハは飛燕をまとわせたクナイを手に、瞬身の術を使い、一気に距離を詰める。
近接し、角都の心臓目掛けクナイを突き出した。

「早いが……それだけではな!」

だが角都、その行動を予想していたとばかりに、クナイの一撃を受け流す。

同時に、キリハの腹へと拳を叩き込む。

「くっ?!」

キリハが苦悶の声を上げる。
すんでのところでガードはできたが、硬い拳による一撃なのでダメージは零ではない。

痛みもあるため、思わず声に出てしまう。

だが、キリハもそれだけでは終わらない。

拳の威力に押され、後方に吹き飛ばされながらも、左手でクナイを取り出し、持っていたクナイと一緒に投擲する。

そして――――印を組む。

「風遁・烈風掌!」

柏手の後、爆風が起きる。

追い風により加速したクナイが、角都の心臓目掛けて飛んでいった。

「くっ!」

角都はそれを躱しきれず、腕と頬に掠り傷を負う。

切り裂かれた傷から赤い血がにじみ出て、地面へと滴り落ちた。


だが角都はそれを無視して、今の攻防で得た情報から戦況を確認する。

(中々やるな………戦術もタイミングも見事。それに、あの日向の娘は………そうか、俺の心臓を直接狙いにきたか)

柔拳ならば、土遁・土矛の硬度も無意味。あちらの金髪の娘の方もそうだ。あのレベルの飛燕を相手にするのは分が悪い。

(ならば遠距離戦で………ん、日向の娘が前方に? ………そうか、回天を盾にして……!)

絶対防御とも呼ばれる回天を盾にしながら、機を見て近接、格闘戦へと引きずり込む。

(金髪の娘の方は速度………瞬身で一気か、クナイで防御を貫く気か)

受けながら近接するか、躱しきって近接するか。どちらにせよ遠距離戦に付き合う気はないらしい。

(七尾捕獲の際に邪魔をした男………ふん、情報がもれているか。だが、どうということはない)

角都は前方の警戒を怠らないまま、横目で人形と他の忍びとの戦闘を確認する。

(それなりに張ってはいるが、分が悪いか………ふん、いざとなればアレを使う必要がでてくるか)

戦況を把握。そして戦術を理解した角都は、相手の望む形になろうとも、それでも自らの得手を選ぶ。




秘伝忍術・地怨虞。

体内より出でた黒い触手を自在に操り、また忍びの心臓を取り込むことによって、基本5大性質の忍術を行使することができる禁術だ。

角都が里の上役を殺したあの日からずっと、彼自身を支えてきた術だ。


ヒナタは角都の表情とチャクラを白眼で観察する。

その後、後ろにいるキリハに小声で話す。

(………恐ろしいね。こっちの狙いは全て読み切られてる)

(それでも、曲げないか………余程あの術に信頼を置いているみたいだね)

(うん………あるいは、こう言っているのかも)

(………?)

(“小賢しい戦術ごと、吹き飛ばしてやる”って。チャクラもそう言ってるよ)

(たしかにね………)


一筋縄ではいかない相手だと。キリハとヒナタの二人は、戦う前にシカマルから角都のことを聞かされてはいた。
その時も“厄介な敵だな”と思っていたが、実際に対峙してみるとまた違う感想を持った。

80年を生きた、歴戦の古強者。

いわば忍び歴史とも言える角都の強さを垣間見た二人は、自らの身体に走る恐怖感を隠せないでいた。

(………厄介どころじゃない)

(厄災そのものだね………っ、来る!)


飛段の手元、高速で印が組まれ――――結の印が結ばれる。


同時、ヒナタは全身からチャクラを噴出した。


「雷遁・偽暗」

それを見届けないまま、角都は術を発動。

角都の肩に現れた仮面。そこから、雷の槍が吹き出す。



「――――八卦掌・回天!」


雷槍とチャクラの盾。

両者はぶつかり、勢い良く粉塵を巻き上げた。


















「ちっ、んだあこれはぁ!?」

飛段は自分の周りを飛び交っている奇妙なものを指差し、嫌そうに声をあげる。

蟲の群れと墨で出来た獣。愛用の鎌で切っても切っても、一切手応えがない。

「鬱陶しいんだよ!」

飛段は鎌を振り回して切払い、目の前にいたシノへと襲いかかる。

「………っ!?」

「まずは一匹ィ!」

袈裟懸け一閃。

鎌はシノの身体を切り裂き、二つに分断した………かに思われた。

だが。

「あん、蟲ぃ!?」

それはシノの蟲分身。
本体は樹の上に避難していたのだ。斬られた蟲達はばらばらに飛散し、飛段の周りに殺到する。

飛段のチャクラを奪おうというのだ。
蟲にたかられた飛段は即座にその場から飛び退き、襲い来る蟲達を再び鎌で再び振り払う。

「へっ、捕まらねえよ………っとお!?」

蟲に集中している飛段、その側面から今度は墨の化物が襲いかかる。

それは墨の狼。
サイの超獣偽画によって描かれた獣が、飛段の首筋を引き裂かんと跳躍する。

「くらうかっ!」

飛段はそれをも切り裂き、一端距離を開ける。

(くそっ、手応えの無いやつらばかりかよ………七尾の人柱力から俺の力について聞いてんのかあ?!)

遠距離限定で戦術を展開してくる相手に、飛段は苛立をつのらせる。

もっと引き裂きたいのだ。もっと切り裂きたいのだ。

もっと無残に殺さなければ、ジャシン様は認めてくれない。それに、これではだめだ。

(蟲とか墨じゃなくてよお! 人間をぶち殺さなけりゃあ意味がねえ)

清廉とした黒ではなく、鉄の臭いを漂わせるどす黒い赤をぶちまけなければ、信仰心は満たされない。

飛段はそう思っていた。

だが彼の信仰に反し、敵は距離を保ったまま近づいてこようともしない。

再び、蟲と墨、黒色の有象無象が飛段に襲いかかった。


「無駄だっつんてんだろうが!」

鎌を二閃、三閃。先程と同じように切払われ、蟲は散らされ、墨は形を失い地面に落ちて行く。



「こんなんじゃ俺は…………!?」



倒せない。そう続けようとした飛段だが、腹に感じた違和感に顔をしかめた。

「………ってーなこの野郎」

腹に感じた違和感。それを飛段は理解する。

墨が落ちた地面から黒の刺が突きでていて―――――それが、自分を貫いたのだ。




「―――秘術・影縫い」

飛段から遠く、離れた距離でシカマルは呟く。そして飛段の様子を観察し、顔を僅かにしかめた。

(肝臓、脾臓を貫いても効果無し、か…………俄には信じ難かったけど、不死ってーのは本当みてーだな)

一方、貫かれた飛段は痛みに顔をしかめるでもなく、ただそこにつったっているだけ。

腹に突き刺さった影を切払い、笑い声を上げるだけだった。

(………サイの超獣偽画と俺の影で牽制して、シノの蟲でしとめる。最初の作戦通りに進めるしかない)

あわよくば、と思っていたが、どうやらそんなに簡単じゃないみたいだ。

見せつけられた飛段の不死っぷりに、シカマルは思わず溜息をついてしまう。

「へっ、墨に紛れて、か。でもこんなんじゃ俺は殺せねー、よ!」

急所を貫かれたというのに、飛段はまったく頓着せずに手の鎌を振り回す。

常人ならば即死している程の傷なのだが、動きが衰えた様子もないようだ。

「………痛覚が無いのか、アンタは」

「見れば分かるだろうが。腹あ突き破りやがって、スーパー激痛だクソヤローが!」

「………なら大人しく死んでくれよ頼むから」

頭を抱えながら、シカマルがぼやく。

「問題はない。何故ならば、こいつはすぐに動けなくなるからだ」

シカマルの後方にいるシノが、再度蟲を展開する。

「いくら身体が不死であろうとも、チャクラが無ければ何もできないだろう………そのチャクラ、喰らい尽くす」

サイも、新たな墨の獣を展開し、周囲に配置する。

「牽制とはいえ、僕も忘れないで下さいね」

「………あんがとよ」

頼もしい味方の言葉を受けてシカマルは立ち上がり、飛段を睨む。

(………行くか。影真似で動きを止めて、シノの蟲で片をつける)

聞くところによると、飛段の体術の腕前は暁の中でも一番下らしいが、所詮は上忍クラス。

例えばリーのような体術特化型ならば、この3人では勝てないだろう。

瞬時に距離を詰められ、やられてしまう。

(その点、飛段の速度は――――対処できない程じゃねえ。3対1なら、勝てる)

耐久性と不死性、それと対象に自らの傷を移す呪術、“死司憑血”は確かに恐ろしいが、事前情報があれば打つ手はいくらでもある。

戦術を練る機会もあったし、勝つために必要な駒もある。これで負ける程、シカマルは頭が悪くはなかった。

角都のような能力を相手にするならばまた状況は難しくなっただろうが、飛段の能力には穴がある。

(いける―――やれる………が、あとひとつ)

問題となる部分をシカマルは確認する。

「………で、どうする? あっちも派手にやってるようだけど、助けを呼ばねえのか?」

爆音が聞こえてくる方向、キリハとヒナタが角都を相手にしている方向を指しながら、シカマルは飛段に聞いてみる。

合流されれば厄介なことになる。その意志があるかどうかを確認し、合流するならば妨害しようと思ったが―――

「はっ、呼ばねーよ。おまえらごとき、俺だけで十分だっつ-の」

「………そりゃまた、強気なことで」

どうやらそのつもりはないようだ。
シカマルは肩を竦めながら、内心でほくそ笑う。

飛段の能力、誰かと連携を取られるのが一番厄介なのだ。

乱戦になれば、傷を負う者は必ず出てくる。そうなれば、必ず誰かが死ぬ。

だが今のような、距離を開けての打合いならば、そうはならない。
確実に勝てるはずだ。


「………何か考えてやがんな。ま、大体のところは分かるけどよ」



飛段は地面を染めている墨を見ながら、先程の自分の腹を突き破った影の槍を思い出した。

(あれが影を使う秘術。ということは、影縛りって術もあるか………)

後衛の墨で牽制しながら、前方の影でこちらの動きを止める。その後、最後衛の蟲使いが蟲を展開させ、チャクラを食らいつくす。

(こっちの弱点見極めて、最善の策を取ってきやがる………クソ、面倒くせえ!)

苛立を心に含ませながら、飛段は標的へと距離を詰めるべく、走り出した。


















一方、いの、シン、キバの方は決着がつこうとしていた。

術を行使する人形、耐久力もあるし高い筋力も保持している。

だが、木の葉の面々は以前の襲撃の際、この人形と戦ったことがあった。一度戦った相手に負けるほど、木の葉の忍びは弱卒揃いではない。

シンも、得意の体術で相手の攻撃を撃ち落としながら、着実にダメージを与えていた。

忍術の才能でいえば弟に遠く及ばない彼だが、チャクラのコントロールと体術の練度にかけては弟のはるか上をいく。

かつては捨てられた才能。だがそれが故に、彼は強く成った。

“こなくそ”という、土台となる想いの上に積み上げた努力。そして夢のため、鍛えに鍛えた体術の冴えは、努力の天才、ロック・リーに勝るとも劣らない。


才能がない―――それがどうした。

特殊な術も使えない――――ならば拳がある。


彼も、紫苑に関する記憶は封じられていた。だがナルトと同じく、あの時の無念の気持ちは絶えず胸の隅に残り続けた。

血反吐を吐いても立ち上がり、笑って相手に立ち向かう―――いつかのどこかで聞いた、物語に習って、彼は拳を突き出した。

吹き飛び、態勢を崩す人形。シンはその隙に追撃をしかける。

「あらよっ!」

懐に入り込み、顎を力いっぱい蹴り上げた。

人形が宙を舞う――――






そのすぐ傍、いのはもう一人の人形の方を相手にしていた。

人形は間合いに入ったいのに対し、火遁術を放つ。

「甘い!」

いのは近くにある樹を盾にしながら、人形が放つ火遁術を凌ぎきる。

そして、感じた。

(………残留する思念は微かにあるようね………だけど、積極的な思考は感じられない。そんな奴にっ!)

間髪入れずに放たれた術。いのは危険を承知の上で跳躍し、その術の効果範囲ぎりぎりの場所に突っ込んで行く。

太ももと右の横腹をわずかにかすめ、痛覚が走る。

だがいのは構わず、駆け抜けた。

「そんな消極的男児にぃ!」

全速で前進。一歩ふみこむ度に、地面がわずかにえぐれる。

その勢いのまま、いのは一歩踏み込み―――――そして、拳を突き出す。

「負けるような――――」

タイミングも動作も完璧。術の範囲を見切りながら前進、間合いに入り、攻撃直後に硬直している人形の隙をつく。

「――――いの様じゃないのよっ!」

怪力のアッパーカットが、人形の顎へと叩き込まれた。

人形が、宙を舞う――――














宙を舞う人形。

それに向かい、走る影があった。

「行くぜ赤丸ぅ!」

「ワンワン!」

キバと赤丸だ。

「獣人分身!」

「ワン!」

一人と一匹は二人になり、左右に展開。宙で態勢を整えようとしている人形に向け、挟みこむような軌道で走る。

木の葉でも名高い、犬塚一族は速さならばトップクラスである。
キバと赤丸は神速に恥じぬ速さで駆け、駆け、抜けて――――跳躍。

繰り出すは獣人体術が奥義がひとつ。

「牙通牙!」

キバと赤丸。

態勢は整えても、空は飛べない人形――――挟み込む軌道で繰り出された一撃を、避ける術なし。

高速回転での体当たりを受けた。その勢いで身体が回転し、受身もとれないまま地面へと叩きつけられる。

だが、二人の攻撃はそれで終わらない。二人は鋼糸を使い、宙で互いを引き寄せる。

―――人獣一体となる、混合変化を使うために。

「準備OK!」

キバと赤丸は双狼頭、双頭の巨大な狼に変化し、回転。

すでに先程、牙通牙の時にマーキングはすんでいる。

「―――いくぜ、牙狼牙!」


地面に叩きつけられた人形に、追撃。巨大な狼が高速回転し、再度人形へと突っ込む。

止めと思われた一撃、だがその感触にキバは顔をしかめる。


(まだか! くそ、前より耐久度が上がってやがる――――ならば!)

キバは牙狼牙の進路を地面沿いから空へ向ける。

巻き込まれ、宙に舞う人形。だが途中でこぼれおち、空中から地面へと落下する。

キバと赤丸は双狼頭変化を続け、そのまま空中へと舞い上がり―――回転を止める。



(止めだ、行くぜ――――)



そして再び回転。

標的を見据え、落下する。



自由落下のエネルギーを利用した、高高度からのスパイラルアタック。





(――――天狼滅牙!)





獣人体術、秘義の壱。


天から降り注ぐ白狼の一撃が、倒れ伏す人形達を粉微塵に打ち砕いた。





































あとがき

オリ技ですみません orz。でも獣人体術は好きなんで後悔はしていない。
原作でも最近使ってないし。

ちなみに技名は声優ネタだけど、わかる人いるのかなあ。
赤丸ならぬ、行け! ○ピード! ………なんつって。

ちなみにウタカタの声は種死のあの人です。

あと飛段の性格がよう分からん。つーかどうトレースしろと………orz



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・中 「混戦」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/07 23:00

「はあ、はあ、大丈夫、キリハちゃん」

「うん、ヒナタちゃんも………」

キリハとヒナタは肩で息をしながらも、目の前の相手――――角都を睨みつけた。

「強い………」

「弱気になっちゃ駄目よ………気持ちは分かるんだけど」

人形を倒し、かけつけたサクラとチョウジも一緒になって戦っていた。

こちらは4人で、相手は一人。だがキリハ達は、角都に対して一度も致命となるダメージを与えられないでいた。

遠距離を保ちながら忍術を防ぎ、躱し、機を伺い続けている4人。

迂闊に近接すれば、あの黒い触手にとらわれてしまうし、中距離では術をまともに受けてしまう。

忍術と触手による攻撃を何とか避けながら、術と術の間に訪れる間隙をついて一気に接近して、攻撃を仕掛けるという作戦。

――――だが、その尽くが捌かれ、流されてしまう。

間合いの取り方と体術の練度、その両方とも相手の方が一枚も二枚も上なためだ。

「どうした………来ないのであれば、こちらから行くぞ?」

「くっ………」

歴戦の忍び相手に、木の葉のルーキー達は苦戦をしいられていた。
















一方、飛段と対峙するシカマル達はまったくの逆。

こちらは、シカマル達の勝利で決着がつこうとしていた。

シカマルの影が、飛段を捉えたのだ。

「捉えたぜ………シノ!」

「了解した」

シノは頷き、油女一族が秘術である蟲玉を使う。

身動きの取れない飛段に、大量の寄壊蟲が殺到する。

「うげっ、キモイぜ!」

「………」

迫り来る蟲に対し悪態をつきながら、飛段はその場を逃れようとする。

だが、飛段の影はシカマルに捉えられている。影が縛られているせいで、飛段の身体はピクリとも動かない。

「動こうとしても無駄だぜ」

シカマルは飛段の動きを全力で止めながら、にやりと笑う。

「詰みだな………なぜならばその寄壊蟲、お前のチャクラを全て喰らうまで離れないからだ」

シノは無表情を保ったまま、勝利を確信する。

「………どうやら勝ったみたいだね、兄さん」

「ま、しんどかったけどな………なんとかなったみたいだ」

シンとサイも安堵の溜息をつく。

その時、シン達の耳に爆音が届く――――キリハ達の居る方向だった。

「………向こうは苦戦しているみたいね。私とキバはキリハ達の援護に行くわよ」

言いながら、いのは立ち上がり装備の確認をする。

「分かった。行くぜ、赤丸」

「ワン」

時間が無駄になる、といのが提案し、キバ、赤丸が頷く。

共にキリハ達の援護に行こうというのだ。



―――――だが。


「………ちょっと待ってくれ」

シカマルがキバ達を止めた。

(何故あがくのをやめた………? ここから打てる手はないし、見たところチャクラも残り少ない………絶体絶命の筈だ。なのに何故、おとなしくしている?)

影縛りに抵抗せず、大人しくチャクラを吸われているだけの飛段。

聞いていた人格、言動を鑑みるに、抵抗をしないというのはおかしい。

(――――何かある。そういうことか? いや、まさか………)

有り得ない。

そう考えつつも、シカマルは内心で訝しむことをやめない。

(援軍が遅れてるな………もしかして伏兵と出くわしたのか。いや、だがこれでこちらが勝てるはず)

もう逆転の芽は無いはずだ。

「あーあ。仕方ねえなあ………おい、影使ってるお前」

蟲玉に包まれている飛段が、シカマルに問いかける。

先程から嫌な予感が止まらないシカマルは、だからこそ飛段の声に「何だ」と答えざるを得なかった。

「さっきの質問だが、答えを追加してやる………何で俺は、わざわざ角都から離れたと思う?」

「さあな………仲が悪いから、とかじゃねーのか?」

軽口で返しながらも、シカマルはその眼光を緩めたりしない。

その理由とやら、次第によっては――――不味いことになる。


動きも封じた、チャクラも残り少ないはず。なのに、嫌な予感は消えてくれないのだ。

ようすがおかしい飛段の言動を察した、他の面子――――シノ、サイ、シン、いの、キバも不可解な面持ちとなった。

そしてもう一人、いや一匹。赤丸は唸り声を上げながら、飛段を睨み続けていた。


「赤丸………?」

「ヴワゥ………!」

気づけば、赤丸は総毛立っていた。そして一歩、また一歩―――飛段から遠ざかろうと、後ろへ退いていく。

赤丸は敵のチャクラを臭いで嗅ぎ分けることができる。それによって、大体だが相手の強さが分かるのだ。

だけど赤丸も忍犬だ。相手が強いからと言って、主人であり相棒であるキバを置いて逃げたりはしない。

だがこの時に限っては、必死で逃げ出したいという衝動を我慢しているように見えた。


尋常ではない。横目で赤丸の様子を見たシカマルは、ようやく確信する。

まだ何かある、と。


「へっ、確かに仲が良いとも言えねーがよ――――不正解だ。何、答えは簡単だぜ?」


嘲わらう飛段。直後、気配が膨れ上がる。



「―――巻き込まないためだよ」



そう答えた飛段の言葉と共に――――チャクラを喰らっていたはずの、シノの蟲が爆ぜた。

空気を入れすぎた風船のように、乾いた破砕音と共に周囲へ飛び散ったのだ。

「馬鹿な………!?」

喰らえるチャクラの量にはまだまだ余裕があった。

有り得ない事態に、シノが驚愕の声を上げる。

「ぐあっ!? っ何だこの、馬鹿力は………!」

影で縛っているシカマルも、苦悶の声を出す。身体が全然動かないのだ。

「影縛りが、効かない………?!」

鍛えに鍛えた影縛り、この距離であれば例え上忍であっても止めきれる自信はある。

だが飛段は、いとも容易くシカマルの捕縛を破った。

(馬鹿力とか、そういう問題じゃねえぞ………!?)

木の葉一の体術使い、純粋な筋力でも一番である上忍、マイト・ガイを相手にしたとしても、影で縛ればある程度は止められる。

だが、今の飛段はまた別格。人間の筋力の限界を超えている。

一体何が起きているのか、シカマルは理解できなかった。

(外見の変化といえば………なんだ、あれは!?)

「………黒い、塊が………指輪のところから溢れでて……!?」

「おいおい、マジかよ!」

サイとシンが飛段を見ながら、驚きの声を上げる。


「赤丸………おいっ、赤丸!」

力いっぱい、首を横に振っている赤丸。

今にも逃げ出したい、“アレ”と戦いたくないという意思表示を見せる相棒を、キバが何とか落ち着かせようとする。




「クククク………ヒャッハアアアアアアァァァァ!」




自分の頭を抱えながら、飛段は狂ったように笑い声を上げる。


「いい気分だ、最高だぜぇ! ああ、この感じ………ったまらねえ………!」


馴染む、馴染むぜえ、と歓喜の声に打ち震えながら、飛段は自らの身体を抱え込み、震える。


汝、隣人を殺戮せよ――――ジャシン教の教え、それに最も適しているであろう、存在。


「まさか………十尾の力か!?」

シカマルが叫ぶ。

「十尾………? おい、シカマル、十尾ってなん……!」

キバが訪ねようとするが、更に膨れ上がるチャクラを感じ、言葉を中断する。

「くっふふふう、ペインもよお………いいもんくれたあああぁぁっ!」

何故シカマルが十尾のことを知っているのか―――そんなことに頓着せず、飛段はただ己の身にあふれる万能感に身を任せていた。

霧隠れの忍びを尽く惨殺した力。自分の身体に馴染む黒の本流は、彼にとって心地よいものだったからだ。

「もう手加減はできねえぜぇ!? ………する気はねえけどよぉ!」

狂ったように叫びながら、飛段は地面に落ちていた鎌を拾い上げ――――先程とは違い、まるで小枝の如く。

軽々と振られるそれを見て、木の葉一同は戦慄する。突きつけられた鎌が、まるで死神のそれに見えたのだ。


「ま、あれだ」



その眼は黒く、狂気の極みともいえるほどに歪んでいた。

そして飛段は、快活に笑いながら――――宣告をした。


「てめーら全部ぐちゃぐちゃにするけど………文句はないよな?」



































「何、このチャクラ………!?」

角都と戦っているヒナタが立ち止まり、驚きの声を上げる。

「ちっ、馬鹿が………全部無茶苦茶にする気か、あいつは」

同じく、角都も立ち止まり、飛段がいる方向を睨みつけながら、忌々しげに言う。

角都は、あちらで何があったのかが分かっているようだ。

キリハは無駄だとしりつつも、角都に異様なチャクラの正体が何なのかを聞いてみた。

「いったい、何をしたの?」

「答える義理はない………その必要も、無い。それよりも、己の身を心配したらどうだ」

「言ってくれるわね………ならばこれでどう!」

言うと、キリハは腰元の忍具袋から煙玉を取り出し、投げる。


「目くらましか………だが、甘い」

角都が印を組む。

肩の仮面が口を開き、そこから風の塊が噴出される。

風遁・圧害。

高密度に圧縮された竜巻の塊を打ち出し、対象の前で解放。

周囲にあるもの全てをなぎ倒す、Bランクに該当する上忍クラスの忍術だ。

風が解放され、周囲の煙諸共、キリハ達は吹き飛ばされた。

だが一人だけ、暴風に耐え切り、その場に踏みとどまった者がいた。

(―――回天…………今だ!)

回天で風を凌ぎ切ったヒナタ。わずかに残る白い煙に紛れながら、角都へと接近する。

キリハとは逆の位置にいたヒナタ。つまり、角都からは背後となる位置だ。

一気に踏み込み、柔拳体術奥義
――――必殺となる一撃を繰り出す。


(柔歩双獅拳………えっ!?)



間合いまであと一歩のところで、角都がこちらを振り返った。


「………甘いといったぞ」


位置取りと、キリハの行動の意図するもの。

囮と本命までの流れを、角都は全て読んでいたのだ。

わざと隙を見せ誘い、懐に引き込んだ後―――一歩だけ下がる。

(間合いが、一歩届かない…‥!)

柔拳を叩き込むまでの距離が、一歩分離れる。

ヒナタからは届かない。あと一歩踏み込まなければ届かない――――だが、角都は届く。

距離を詰めるべく一歩、ヒナタが踏み込むと同時、角都は前方に腕を突き出す。

そして、そのまま腕が振られ――――“千切れた腕”が射出された。地怨虞を利用した拳の一撃が、ヒナタを襲う。

「ぐっ!?」

土遁・土矛の硬度に、地怨虞の力。

ヒナタはその一撃を腹部受け、肋が数本折れる音が聞こえたと同時、後方へと吹き飛ばされた。

間合いを詰める一歩、それを踏み込んだせいで、今の一撃がカウンターとなってしまったのだ。

そのまま後方の樹へとぶつかり、背中を強く打ち付けたヒナタは、衝撃のあまり呼吸困難に陥る。

咳き込むヒナタ。その口から、血が僅かに零れ出た。

「まずは一人――――死ね」

角都はそこに、追撃を仕掛けた。仮面から放たれるは、風遁。

先程の圧害と同じく、圧縮された風の塊を放つ術だ。
対象を吹き飛ばすことに重点を置いている圧害とは違い、こちらは対象を切り刻むことを目的としている。


「風遁・裂苦連露!」


頭部を傷つけては不味いと考えた角都は、その風刃の乱舞をヒナタの首から下へ向けて放った。



「ヒナタちゃ…!」

「ヒナタ!」


キリハとサクラ、角都の一撃からヒナタを助けようとするも、距離が離れすぎていた。


手を伸ばしても、届かない。


風の刃は止められず、ヒナタの身体を八つに裂かんと襲い来る。





――――鮮血が、舞った。



「チョウジ、君?」

「間一髪…………くっ!」


すんでのところで間に入ったチョウジ。

倍加の術とチャクラによる強化で、風遁の一撃を止めたのだ。だがその代償は高く、死には至らないまでも戦闘を続けられない程の傷を受けていた。




「弱った仲間など放っておけばいいものを………何にせよ、これで二人だな」


仲間を助けるために身を呈した、チョウジの行動。

だが角都はそれに何の感慨も抱かず、非効率なと蔑むだけであった。



「あんたっ………きゃあっ!?」


「サクラちゃん!」


憤慨しようとしたサクラだが、放たれた火遁術に言葉を遮られた。


火遁・頭刻苦。風の性質を与えられた火球が、平原に落ちると同時に拡散。

キリハとサクラの方向に向け、広がっていく。


「くっ、ならばこれでどう!?」

サクラは体内で練った最大級のチャクラを、拳に収束。

極めて精細なチャクラコントロールがあって初めて成せる医療忍術の応用―――師匠譲りの怪力の一撃をもって、自らの拳を地面へと叩きつける。

接触と同時に衝撃が地面へと伝播し――――地面が割れた。

桜花衝という名前のとおり、桜の花びらのように地面が爆ぜ散る。

「大した怪力だ………!」

角都は後方へ飛び退きながら、サクラの怪力について賞賛する。

その裏では、チョウジとヒナタがサクラの一撃にまぎれて、後方へと避難していた。

二人ともこれ以上続けられる状態ではなく、もし人質にでも取られれば不味い状況に陥るため、一端退いたのだ。


「これ以上は――――やらせないよ!」


角都が着地すると同時、キリハが瞬身で距離を詰める。

両の手から繰り出される飛燕の斬撃が、角都の全身を僅かに切り刻んだ。


「間合いが甘い――――それではこの心臓は取れんぞ!」

角都は再び一歩間合いを開けながら、キリハに向けて己の拳を突き出す。

(さっきと同じ――――ならば!)

ヒナタに繰り出した一撃と同じだろう。そう判断したキリハは、飛んできた手を切り落とそうとクナイを強く握る。

腕を落とせば術が使えなくなるかもしれない。そう考えたのだ。

だが、角都の方も甘くない。

「甘いと言っている!」

「下!?」

見せた拳は囮。

角都は突き上げた拳を放たずに、胸元から触手の一撃を繰り出した。

(わざと、見せた、拳は、フェイクかっ!)

キリハは心の中で毒づきながら、不意打ちの攻撃を右に左に身体を捌いて、身を躱す。

(短時間に二度、同じ戦術を使う愚は侵さないってことね………!)

それどころか先の一撃を印象付けた上で“見せ”に使い、本命を別に用意していたのだ。


(何もかも相手が一枚上…………っ、この声は!?)


悲鳴が聞こえ、キリハはその声がした方向を向いてしまう。

あっちは飛段と戦っているシカマル達―――異様なチャクラがある方向。


(いのちゃんの声………って、しまっ」


「―――隙ありだ、小娘!」


触手を避けきったキリハ―――必然的に、距離が開くこととなる。

そこは致命的な距離。こちらからは攻撃が届かず、相手からは届く間合い。

遠距離ではないため躱しきることもできない。術を防げるヒナタもいない。

キリハは風遁術で対抗することも考えたが、今ので気を逸らしてしまったため、間に合わないと判断した。


(ま……ずっ!)


気づけば、角都の手に印が組まれていた。

結びの印は雷遁。

同時、仮面が開き――――


「雷遁・飛狗惨武!」


―――術名を告げると同時、角都の肩の仮面から、雷の砲弾が放たれた。

キリハは雷に勝る性質である風の壁で防ごうとする。だが、間に合わない。


「風遁・風陣へ………きゃあっ!」


中途半端な風は僅かに雷へと干渉し、その軌道を少しだけ変えることに成功する。

そのため、直撃は避けられたが、完全に回避はできなかった。キリハ雷の砲弾、その余波を全身に受けながら、後方へと吹き飛ばされる。


吹き飛ぶ途中、忍具袋から煙玉が複数飛び出し、地面へと散らばり、爆散した。

(こ…………れは、まずった、かな)

吹き飛ばされた先で、キリハは受身を取ることもできず、そのまま転がる。勢いのまま転がり続け、やがて一定の距離で止まる。

キリハは地面にうつ伏せになりながら、今の一撃で受けたダメージを分析する。

(――――何とか動かせるのは、右手だけ、か………)

両足と左手は痺れていて、うまく動かせない――――本格的にまずい。

何とかしなければとキリハ必死に動かそうとするが、雷による身体の傷は深く、身体はぴくりとしか動かなかった。

「キリハっ!」


煙に紛れ、サクラはキリハの元に駆けつける。

「っ、一端退くわよ!」

「………」

声が出ないキリハは、全身から煙を発しながらも、何とか頷く。

二人は煙に紛れ、場所を移動しながら、安全な場所を確保しようとする。
身体の動かないキリハの、応急治療を始めようというのだ。

「………完治は無理だけど………!」

治療が始まり、キリハの顔が僅かだが、やすらいぎの色を見せる。

(………あ、右足、動く。左足、動く、けど………動きが鈍い)

時間をかけて治療を受ければ、あるいはすぐ動くようになるのだろう。

深刻なダメージではないが、死に至るほどでもない。

回復すれば、また戦えるはずだ――――だが、それは、できなかった。

「くうっ!?」

「サクラちゃん!?」

治療を続けるサクラに向けて、煙の向こうから拳が飛んできたのだ。

角都の拳。

サクラは治療に気をとられていたせいで、その拳に無防備なまま腹を打たれ、そのまま吹き飛ばされた。

「―――甘い、治療などはさせんぞ」

「くっ………」

「ふん、詰みだな。しかし………中々にしぶとかったな」

「それ、は、どうも」

「それに、ここまでチャクラを使わされたのは久しぶりだぞ………その心臓、使う価値がある」

落ちたキリハに向け、角都は意味ありげに、低い声で告げる。

「な、にを………?」

苦悶の表情を浮かべながら、キリハはその角都の方を見た。

見れば――――角都は、口の端だけで笑みを浮かべていた。

「なにをっ!?」

サクラに向けて放たれた拳が、キリハの喉元を掴む。

そしてそのまま引っ張ろうとする。引き寄せ、心臓を取り出そうというのだ。


「くっ………」

絞められる首。だがキリハは踏ん張り、打開策を探そうとする。




このまま引き寄せられれば、死ぬ。


それを防ぐためには、どうすればいいのか。いくらかは治ったが、まだしびれが残っている。


(どうすれば、どうすれば、どうしよう………!)


焦るキリハ。助けはこない。むしろ、こちらから助けにいかなければならない程だ。

見れば、向こうからはシャボン玉が見えた。ということは、ウタカタが戦っているということだ。



(何か、打開策は…………!?)


何とかしなければならないのに、何も浮かばない。

このまま耐え続けても、ジリ貧だ。角都がその気になれば、すぐに自分は殺されてしまう。

どうすればいいのか。だが、考え続けても答えはでない。











――――そんな時、声が聞こえた。


声は然りと、キリハに問うた。











『―――忍歌・忍機』











何処かで聞いたような声に、キリハは驚く。


(これは…………もしかして…………!)











それは、何時かの暗号。

3年も前、中忍試験の際に交わした言葉。

角都には聞こえていないようなので、キリハはそれを一瞬、幻聴だと思った。

だが、己の勘は告げている。これは幻聴ではないと。


(どちらにせよ、賭けるしかない………!)


キリハは耐えるのをやめ、身体から力を抜いて、角都のされるがままに引き寄せられた。


「ふん、諦めたのか………?」


嘲る角都を無視し、キリハは暗号の内容を思い出す。


(――――大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家もなし………)


「錯乱したのか………意外ともろかったな」


そういうと、角都はキリハの心臓を取り出そうと、胸元の服を破く。






信じるしか無い。他に手はない。


それに、ある種の確信がある。



懐かしいチャクラ、懐かしい音を感じる。


目の前の敵には聞こえていないようだ――――不思議だが、あの人達ならば別段不思議でもないように思える。



「さらばだ、死ね―――波風キリハ。四代目火影の息女よ」


角都の黒い触手がキリハの胸を包み、心臓を取り出そうとする。



だが、その寸前。


(忍には、時を知る事こそ大事なれ)


確信を持った、キリハは右手に力を込める。


そして、いつかの時、再会の合図として交わした暗号。

いつかの歌の、終となるの叫びに。











かつての仲間――――失われた7班、最後の一人の声が重なった。








「「敵の疲れと―――――――油断する時!」」












同時、鮮血が舞った。

キリハではなく、そう――――角都の胸元で。


「なん………だと………!?」

角都が驚愕の声を出す。

硬い角都の皮膚、岩に匹敵する背中を貫かれ、胸元から腕が突き抜けていた。

―――――雷光の鳥が、己の身体を駆け抜けたのだ。


「千鳥…………!」


かつての7班の仲間――――うちはサスケの声が、角都の背後から響いた。


「っここだっ!」


全くもって不意。胸を貫かれ、驚愕に硬直する角都。

そしてもう一人――――キリハはただひとつ、確たりと動く右手を使い、己の最も得意とする術。

信じ、用意していた螺旋丸を、角都の肩口にある仮面に向けて叩き込んだ。



「ぐあっ!?」


諦めず、凝縮されていた螺旋丸――――それは角都の心臓を貫いた。

千鳥に継いで二つ目の心臓を潰された角都は、驚愕に身を染められながらも、二人を振り払う。


「っ舐めるなあっ!」


「くっ!」


「きゃっ!」


触手の爆発に吹き飛ばされ、サスケとキリハが吹き飛ばされる。


角都は新たなる乱入者であるサスケを睨みつけ、その眼を見た後に、再び驚愕する。



「貴様、その眼は………うちはサスケか!?」


「ご名答だ、角都さんよ」


「貴様………何をしにきた………!?」


「見れば分かるだろう………仲間を助けに来ただけだが?」


肩を竦め、皮肉げにサスケは答える。

その答えを聞き、角都は訝しげにサスケを睨みつける。

(………刀が………)

そこで角都はサスケの腰元の刀に気がついた。

(鞘しかない………中身はどこに………)

一方、角都の視線の方向を悟ったサスケは、笑みすら浮かべながら刀の在処を教える。



「二度あることは三度あるという………ほら………後ろだ」


「なっ、しまっ………!?」



写輪眼を警戒し、完全にサスケの方を注視していた角都。


またも背後からの強襲か、と後方へ振り返る。


だが後方にあるものは、倒れ伏している波風キリハだけだった。


他には、何もいない。


それを認識したと同時――――うちはサスケの声がかかる。






「あ、すまん――――後ろじゃない」





同時――――空から、声が聞こえた。




角都とサスケがいる場所、その上空。




こちらも恩ある身。窮地であれば加勢に行きたいと、確たる意志を以て示した――――とある七尾の人柱力。

尾獣の力を利用すれば、空をも飛べる彼女の力を借り、舞い上がる。

そして空の上で、少女の背中から飛び降りた――――馬鹿がいた。



高度度外視、ただその刀に意志を込めて―――ナルトは剣を振り下ろす。



「我に、断てぬものなし!」




雷文により増幅された飛燕の威力。それに落下の勢いを加えた、必断の一撃が、角都の肩口にある三つ目の心臓を切り裂いた。

刀が先に当たったため、落下のエネルギーはある程度低減される。だが、その勢いは完全には殺せず、着地したナルトの足が地面に埋まる。

チャクラで強化しているため折れはしないが、それでもしびれを感じたナルト。

いつまでも近づいているのはまずいと力づくで引っこ抜き、刀をサスケに返しながら、キリハの元へ跳躍する。


「………兄さんと、サスケ君!」

二人の姿を確認したキリハが、うつ伏せに倒れながらも顔を上げ、喜びの声を上げる。

「キリハ、大丈夫か………っておい!?」

ナルトは倒れていたキリハに駆けつけ、その身体を起こした後――――突如視界に飛び込んできた白い柔肌を見て、眼を丸くした。

「………むね?」

「へ? ………きゃあっ!」

つられ、キリハも自分の胸元に視線を移動させ――――そこで、気づいた。

先程、心臓を取り出そうとした角都に服を破られたせいで、胸元が顕になってしまっていたのだ。

「み、みないでっ!」

キリハは胸元を両手で隠しながら、羞恥により顔を真っ赤に染めた。余程ショックだったのか、目尻には涙さえ浮かんでいる。

『くぁwせdrftgyふじこlp;!?』

一方、状況を理解したナルトはマダオの狂乱をBGMにしながらも頷き―――キリハに訪ねる。

「…………それ、あいつにやられたのか?」

ナルトは静かに―――だが怒りを篭めて、キリハに訪ねる。

その問いに対し、キリハは真っ赤な顔で俯きながら、首を縦に振った。

肯定との返答をナルトは、キリハを横抱きにしたまま角都に向けて叫ぶ。

「………おいそこの変質者!」

「誰が変質者だ。そんなことより………よくも、やってくれたものだ……!」

霧隠れの暗部で心臓を補充しておかなければ、今の3連撃で死んでいた。だが、残りはひとつしかない。

怒りに震える角都は、目の前の金髪の兄妹を睨みつけた。

だが兄の方は別方向にショックを受けて―――怒っていた。

「乙女の胸元のぞきこんで、“そんなことより”だと………やっぱり手馴れてるのかお前は!? あっちいけ、変態! こっちくんな変態! 触手が卑猥なんだよ!」

『コロセコロセヤツザキニシロー。コゾウカライシヲトリモドセー』

『いいから落ち着かんかお主は』

怒りのあまり言葉が支離滅裂になっておるぞ、とキューちゃんがたしなめる。

だがマダオは止まらない。このまま何かに変身しそうな勢いで起こり続けていた。

一方、変態呼ばわりされた角都も、普通に怒っていた。


「だから、誰が変態だ!」

「お前」

『お主』

『○×△!!』

「女の子の服を無理やり剥ぐとか………しかも年の差何歳?」

『変態じゃな』

『◆▼●!!』

一部未知の言語を使っている者がいるが、ナルト、キューちゃん、マダオに似た何かの間で、満場一致となり、判決が下される。


「結論でいえば、大変態のロリコン犯罪者で………ファイナルアンサー?」


へっ、と笑うナルト。

その姿に角都は更に怒りのつのらせ、叫びと共に印を組み始める――――その途中。

「………っ!?」

角都は背後から襲ってくる気配を感じ、その場を飛び退いた。

「ちっ、惜しい………!」


向こうに意識が逸れた瞬間、サスケが機ありと、不意打ちを敢行したのだ。

だが刀はわずかに及ばず、避けられてしまった。

ナルトの方は「残念…!」と悲しそうに首を振っていた。

「貴様らぁ………巫山戯るな!」

不意打ちにつぐ不意打ち。その上で変態だと言う、意味の分からない敵に対して角都は激怒していた。

かの邪智暴虐な乱入者に対し、意味不明とばかりに怒りをぶつける。

角都には乙女心が分からぬ。故に何故変態と呼ばれているのかも分からない。

戦闘時には冷静である彼だが、今この時は別のようだ。

「変態とはな………怖いぜ」

呆れたように呟くサスケに対し、また叫びそうになる角都。だが挑発に乗るのもまずいと、心を平静に保とうとする。


(駄目だ、焦るな、怒るな、落ち着け………先に弱いところを狙えば………っしまった!?」


先に仕留めなければいけない者、即ち一番弱っている者は、波風キリハだ。

だが角都が再び振り返ってみれば、そこに金髪の兄妹はすでにない。

「………救出完了だ」

「ちっ、そういうことか………!」

そう、サスケとナルト、どちらも囮で、どちらも本命だったのだ。

状況に応じて臨機応変に対処し、挑発によりこちらの目的を曇らせた二人。

本命である目的――――危地に陥っていたキリハの救出を達せたサスケは、安堵の溜息をつく。

(あっちも、間に合ったようだし大丈夫だろうが…………ん?)

近づいてくる足音に、サスケが反応する。

もう一人の7班員………春野サクラが現れたのだ。

「キリハっ、大丈夫…………って、えええ!?」

目の前に映る光景、それを見たサクラは眼を丸くした。

「あれ………キリハが、サスケ君に?」

「どんなボケだ。俺だよ、サスケだよ」

「またまたご冗談を………ってえ、本物?」

夢にまで見たサスケの姿。故に、サクラは信じられなかった。

「本物だ………久しぶりだなサクラ」

「ってええっ、本物なのっ!?」

「だから本物だと言っているだろ」

「……夢にまで見たよ~、ねえ、なんで此処に? あ、そういえばキリハは無事なの?」

「無事だ。キリハはナルトが連れてった。それで、サクラには相談があるんだが………」

「えっ、なになに!?」

期待に胸をふくらませる乙女。

そこに無粋な乱入者が割って入る。

「………俺を無視するとはいい度胸だな」

落ち着こうとしていた角都が、低い声で二人に告げる。

(おいおい、随分と末期的な声だな)

声を聞き、またあふれる殺気を感じたサスケが、その額から冷や汗を流す。

角都は、先の逃げられたという事実と、不意打ちで心臓を奪われた屈辱。そして突然コントを始めたサスケ達に対して、キレそうになっていた。

だがサクラは空気を読まないことに関して定評があることで有名だ。

角都の声を完全に無視し、視線をサスケの方に集中するのみ。


「………いや、アンタはいいから」

「………」

「それで、サスケ君、お願いってなになに!?」

「いや、やっぱり後でいい。先にこいつを倒してからだ」

サスケは顔を片手で多いながら、サクラの問いに答えた。

「うん、絶対よ! って…………あれ、ぶちって………え?」


「…………」


見れば、角都は沈黙を保ったまま俯き、肩を震わせていた。

だが空気を(ry サクラは、止めとなる一言を放った。


「………もしかして、怒ってます?」


それが、合図。

何かが複数切れる音がした後、角都は無言で指輪に触れた。


「―――――まずい!」

「え!?」


同時、二人の前で黒が爆ぜた。








[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十四話・後 「決戦」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/09 23:41



消えた―――と思った次の瞬間、俺は宙に浮いていた。

飛段のとった動作は単純。地面を蹴って前進して顔を掴む、それだけだ。虚動もフェイントもくそもない、ただ実しかない、普通の動作。

だが、前の二つの動作は認識できなかった。気がつけば俺は顔面を捕まれ、宙に浮いていた。つかまれた時の衝撃が頭を襲う。

首は折れなかったが、脳が揺さぶられているみたいだ。万力のような力で締め付けられるが、それもどこか遠い世界での出来事に思えた。

そして、風切り音が聞こえる。鎌を振るうつもりだろうか。手で視界を塞がれているため、見えない。

「ワンっ!」

横から、白い巨大な犬――――赤丸だ。赤丸が、飛段目掛けてとびかかる。

「ひゃっはあ!」

奇声が聞こえた。次の瞬間、赤丸は吹き飛んだ。大の大人二人分はあろうかという巨体が、まるでボールのように宙を舞う。

「しいっ!」

逆側から呼気。誰かは知らないが、俺を助けようとしているのだろう。

顔面を掴む腕に打撃が入った。衝撃で腕が外れる。

「いてーだろうがよお!」

声の後、また吹き飛んだ。奇襲をしかけた男は、飛段の一撃を腕で防御した。していた、はずだった。防御に加え、わずかに後ろ飛んで衝撃を逃そうとしていた。
あの状況では、およそ理想的な回避行動だったはずだ。

なのに金髪の男――――シンだ。シンは、吹き飛んだ。ぼきりという音も聞こえた。
衝撃を殺した上で、腕を折られたのだ。シンはそのまま、信号ようの煙玉みたく軽々と、林の向こうへ飛んで行った。

「兄さん!」

誰かの声が聞こえる。俺は腕から逃れたものの意識がはっきりせず、地面にうつ伏せに転がっているから分からないが、何かが飛段の方に飛んでいくのは感じた。

そして飛段が何かを投げる音も聞いた。それは唸りを上げて飛んで行ったはずだ。尋常でない勢いだったのも分かる。

そのすぐ後、誰かが倒れる音が聞こえた。

(って、寝てるばあいじゃねえ!)

そこで、意識を取り戻す。

「よくも赤丸を!」

四脚の術。俺は飛段に真正面から接近し――――間合いに入る直前、側面に進路をずらす。

直後、鎌が地面に突き刺さった。あのまま進んでいれば、頭にあの一撃を受けていたことだろう。

だが鎌の一振りは神速といっていいほどに早く、足をわずかに斬られてしまった。

(こんなもん!)

だが、支障はない。俺はそのまま飛段に突進した。

「通牙!」

赤丸がいないので、これしか使えない。だが、鍛えに鍛えた獣人体術、一人でも十分に倒すには足るはずだ。

必殺の一撃が飛段の腹をえぐる。

「駄目だキバ、離れろ!」

着地した時、遠くからシカマルの声が聞こえる。どうやら完全には回復していないようで、音がぼやけている。

「ってえだろうがあ!」

衝撃。最初とは違い、反応はできた。振り上げられた蹴りの一撃、それは僅かに身体の端を掠めただけだ。

だのに俺は宙を舞った。

「ちいっ!」

宙に浮いている――――俺の、下。

シカマルの影が飛段を捉えた。だがそれも一瞬だけ、影は力任せにひきちぎられた。

いや、一瞬だけ捉えて、すぐに離したのだ。

影を振り払うべく右手を勢い良く動かした飛段、あるはずの影の抵抗を感じられず、腕を振り抜いてしまい―――バランスを崩す。

「いの!」

「了解!」

同時、いのが突進。チャクラで地面を弾きながら一気に近接し、助走のスピードそのままに怪力を叩き込む。

師である綱手やサクラほどとはいえないが、怪力は怪力。常人ならば必殺の一撃が直撃する。

「え………!?」

だが、飛段は動かない。根を張ったかのようにその場にとどまり、いのを睨みつけるだけだった。

「く………きゃっ!?」

獲物を処断すべく振り下ろされる鎌。いのはそれを側転しながら避けるが、完全には躱しきれなかったようだ。

赤が見える――――鎌が、いのの皮膚をわずかだが引き裂いたのだ。

同時、俺は地面に着地する――――脳が揺れた。


「くっ、影縫い!」


その隙を狙い、シカマルが追撃を加える。だが影の槍は飛段が無造作に払った、ただの一振りで吹き飛ばされた。

返す刀で鎌を振る。

「ぐっ!?」

わずかに身を引いたのが良かったようだ。胸を斜めに切り裂かれながらも、シカマルは後転しながら距離を離す。



「………遊びは終りだぜ………さあ、俺と一緒に最高の苦痛を感じようぜえ!?」


(あ………れ、は………?)


暗くなっていく視界の中。見えたのは、自分の身体から流れる血を使い、地面に変な方陣を書いている飛段の姿だった。









(くっ、不味い………!)

鎌を投げつけられたサイ、直接傷をつけられたキバ、シカマル、私。

全ての血を取り込み、飛段は地面に方陣を書いて―――その上に乗り、大きい針のようなものを懐から取り出した。

見れば、飛段の皮膚には特殊な呪印のようなものが浮かんでいる。

(あれが振り下ろされれば………!)

シンと赤丸を除く私たち4人は、死ぬ。

それを何とか防がなければならない。だけど、どうするか。距離は空いているし、私の怪力で殴るのもまずい。

逡巡。硬直。

そして、それを逃してくれる飛段では無かった。

針が―――足へと振り下ろされる。

「ああぁぁっ!?」

「ぐうっ!?」

「………!?」

「ぐう………!」

同時、足に激痛が走る。呪いが発動したのだ。皆の足から、血があふれ出てくる。

(…………駄目だ、私………私がなんどかしないと!)

今一番近くにいるのは私だ。キバは気絶しているし、シカマルとサイは遠い。

(迷っている暇は無い、やるしかないんだ!)

もう止まることは許されない。そう判断した私が、決意と共に走り出す。


「い……の……!」


背後からシカマルの声が聞こえる。

殴るなと言っているのだろう。それは分かる。殴れば、私達にも傷が写されるのだから。

つまり、飛段は殴れない。ならば殴れるのは――――ひとつだけだ。


「うあああああああああっ!」


鎌の間合いに入る、一歩手前。そこで立ち止まり、私は全力で跳躍する。


(出来る、出来るはず――――!)


練習中何度もためしたが、結局は一度もできなかった技。

だけど必要だ、今この時にこの技が。

(しくじれば―――みんな死ぬ。だけど、そんなことはさせない)

今までも出来なかった。失敗するかもしれない。脚だって怪我をしている。成功する確率など一割にも満たない。

(だけど、それがどうした!)

並べ立てた不利を心の中で蹴っ飛ばす。

できるできない以前に、やらなければならないのだ。ならば確率など二の次だ。

(やる、やってみせる、やってやる―――!)

失いたくない。死なせたくない。死にたくない。だって、まだあの人に何も言っていない。

私は胸中に渦巻くその想いを全て脚に載せ、血がしたたる脚を振り上げて――――地面へと叩きつけた。

これは師匠が得意とする、脚を破壊槌に見立てた必殺の踵落とし、痛天脚。

(手応えあり!)

着弾点で衝撃が膨れ上がり、破壊の波が周囲へと伝わっていく。

やがて激音と共に周囲の大地は砕かれ、粉々なる。

――――飛段の足元に敷かれた血の方陣も巻き添えにして、だ。

「クソがあ!」

あと一歩のところで陣を崩された飛段が、忌々しげに叫ぶ。

そして突進し私の前で止まり、異様な形相を浮かべたまま鎌を振り上げた。

振り下ろし、私の脳天を裂くつもりだ。躱さなければならない。その場から退かなければならない。

だけど、脚が動いてくれない。先の痛天脚の代償だろう、脚の筋肉が損傷しているようだ。

(嫌だ―――死にたくない!)

思うのと行動するのは同時だった。私は身体を前に倒し、前転、振り下ろされる鎌の内側へと入り込む。

そのまま、飛段の股の下を抜けつつ、取り出したクナイで股を斬りつける。

「このアマぁ!」



だけどそれも時間稼ぎにしかならなかった。振り返った飛段は再び鎌を振り上げる。

もう身体が動かない。ここで終りなのだろうかと、そう思った時。




飛段の振り上げた腕が、吹き飛んだ。



「…………あ?」

何か起きたか分からない。ただ、鎌を持つ腕、その周囲の空間が歪んだように見えた。

そしてその歪が、空間ごと飛段の腕を削り取ったのだ。

(いったい何が………ってこれは、シャボン玉?)

気づけば、私の身体はシャボン玉に包まれた

(これは、ウタカタの………って、みんな運ばれてる)

シャボン玉の中から周囲を見回せば、倒れている4人全てがウタカタのシャボン玉に包まれていた。そのまま、背後の森の方へと運ばれて行く。



そしてまたもう一本、飛段の腕が飛んだ。


(………っ、あれは!?)



そこでようやく存在に気づいた。

本当にいつの間にだろうか。気づけば、熟練の忍び――――上忍中の上忍が放つ独特の気配が二つ、周囲に存在していた。






「間一髪。だけど、複雑な気分だねえ」

銀髪のマスク、先の空間を歪めた忍びが、半眼になりながらためいきをついた。

「同感だ………任務じゃなければ、てめえと共闘なんざ」

心底ごめんだ、ともう一人。大刀を振り抜き、腕を斬り飛ばした忍びが、忌々しげに呟く。



「なんだぁ、てめえらは!?」

「なにって………援軍に決まってるでしょ」

「少し遅刻しちまったけどなあ」


答えると同時に二人は移動し、飛段を挟みこむ陣形を取る。

互いに十分な距離を保ちつつ、刃のような殺気を篭めた。

「例の呪術に必要な陣はもう、崩されたからな。遠慮なく行かせてもらう………しかし紅もアスマも良い生徒を持ったもんだ」

「これだから木の葉の忍びはおっかねえんだ。脚を怪我してんのに、あそこまでの破壊力……しかもあの状況で懐に飛び込むか、普通」

「………のんきに雑談してんじゃねえ! ああ!? 随分と余裕かましてんなあ!」

「腕が無いのによくそこまで吠える………ま、見たところ随分と怪我しているようだからね」

「ふん、確かに速さと力は大したもんだが………いくらなんでも、そう長く続くようなもんじゃねえのはわかってる」

「いやいや、助かったよ。流石に初見でその動きを見せられたらオレでも対処できなかったろうけど、幸か不幸か、もう見れたからね」

「………だからといって気を抜くなよ猿真似野郎」

二人と一人、周囲に殺気が充満する。

視線の動き一つでも気取られ、殺されるような緊張。下忍、中忍とは住む世界が違う、上忍特有の空間が生まれた。

「―――言われなくとも。そっちこそ、霧隠れの尻拭いっていうのもあるし、よろしく頼むよ………再不斬!」

「―――抜け忍の俺に言う事か。お前から先に殺ってもいいんだぜ、カカシよ!」

飛段を囲んで二人。

かつて波の国で相見えた二人が、現在の共通の敵に対して、その矛を向けた。
































『正攻法で角都の心臓を四つ奪うのは、至難の技だ。故に油断をつくか、怒らせて乱す』

そして敵を欺くにはまず味方から、とサスケ達はキリハ達にその存在を隠しながら、裏で動き続けていた。

思わぬ伏兵、もの言わぬ人形に足を止められたせいで、少し遅れてしまったが。

『忍者は裏の裏をつけ。生み出された間隙に、作り上げた勝機に敏となれ』

その戦訓の通りであれば、今この状況はこちらの有利にあると言えるだろう。



「でも流石にこんな状況は想定してなかったぞ………っ!」


「きゃー! きゃー!」


荒れ狂う爆炎の傍で、二人は必死に逃げ回っていた。


「怪獣だなまるで………」

サスケは巨大化した角都の姿を見ながらぼやく。

指輪から黒い塊が飛び出したかと思うと、黒い触手に融合したのだ。

そしてみるみるうちに大きく成り、巨大化した触手で襲ってくる始末。もし心臓が複数あれば、どうなっていたのだろうか。

「きっと仮面から火とか吹いてきたんだろーなー」

現実逃避しながら、遠くを見るサスケ。でもその足は止めていない。

「いやー! 黒い触手がきもーい!」

サスケは隣にいるサクラの叫びを聞きながら、さてどうしたものかと思考にふける。

結論。

「いや、これ無理………と言いたいところだけどうわっ!?」

「死ね!」

言葉と同時に放たれた槍のような触手が、サスケの頬を掠めた。

「サスケ君!?」

「いや、掠り傷だから心配ない」

すれ違いざまに一太刀喰らわせてやったし、とサスケが呟く。

「動きが止まって………? あ、元に戻った」

「手応えはあったけど、流石に図体が大きすぎるか」

雷遁を纏わせた斬撃。それを受けた角都、わずかに動きを硬直させたが、すぐに活動を再開したようだ。

サスケは執拗に繰り返される触手の攻撃を躱しながら、この相手をどう倒すか考え続ける。

(千鳥………無理だ、近寄れない。麒麟………駄目だ。雲の無い今じゃ、雷雲まで持っていけない、っと!)

頭を貫きにきた一撃を写輪眼による洞察眼で捉え、間一髪で避ける。

(色々と試してみるか!)

すれ違い様に刀を抜き、居合い抜きの要領で触手を斬りつけた。

「豪火刃」

チン、という納刀の音と共に、切り口が発火する。

「…………火、だと?!」

燃える触手を見た角都が、驚きの表情を浮かべた。

「雷だけと思ったのか? ………お生憎さま」

うちは一族がもともと得意とする系統は雷遁ではなく、火遁だ、とサスケは得意げに言う。

サスケは火遁による属性変化を雷文によって増幅、それを剣の表面に纏わせて切ったのだ。

切り口から発火した火はやがて勢いを増して、炎となった。

だが、その炎は別の触手に巻きつかれて、すぐに消されてしまった。

「やっぱり大きすぎるな………」

切り口を発火させる豪火刃、人ひとりであればそれなりの傷を負わせることはできるが、目の前の巨体が相手では意味がないようだとサスケは分析する。

(ならば、あれを使うしかないか………仕方ないけど)

胸中でひとつだけ、案を見つけたサスケ。

リスク的な意味でできれば使いたくない術なのだが、と嫌そうな顔をするが、そうも言っていられないと首を横に振る。

決めたのならば迅速に、という教えに則り、サスケは決断する。

「………サクラ!」

いつかのハンドサインを出しながら、サスケは煙玉を取り出した。

「っ了解!」

サクラも笑みを浮かべ、同じく煙玉を取り出した。どうやら忘れていないようだ、とサスケも少し笑みを浮かべた。

「一端退くぞ……!」

言葉と同時、二人は煙玉を爆発させて角都の視界塞いだ。

そして後方にいるナルトと合流するため、撤退を始めた。



「――――逃がすか!」


それを追って、角都も大きくなった自らの身体をひきずりながら、走り出した。
















サスケとサクラに角都の相手を任せ、俺は一端最後方まで戻っていた。

気絶してしまったキリハを、安全なところに預けるためだ。

服が無いのではまずいと自分が着ていた上着を被せ、横抱きにしたのだが、何故かキリハは気絶してしまった。

服をかけて横だきにした直後、顔が真っ赤になり、何事か叫んだあとにぽってりと意識を失ってしまったのだ。

『………うらやましいのう』

「ん、なんか言ったキューちゃん」

『………っなんでもない』

「………? っと、ここらへんか」

たどり着いた最後方には、網で聞いた水色の着物の人柱力・ウタカタと、木の葉の忍び達。
そして治癒に当たっている白と、多由也と―――懐かしい顔がいた。

「サイ………」

仰向けに寝転んでいる、かつての親友。
ためしに呼びかけてみたが、返事は無い。胸が上下しているため、気絶しているだけのようだ。

「再会の喜びは後にするか………白、多由也。怪我の程は?

「みなさんかなりの深手を負っていますが、命に関わるほどではありません」

「そうね………くっ、ありがとう。私も手伝うわ。シカマル、ほら起きて、足を出しなさい」

足の傷は塞がったから、といのも治療に当たる。致命傷ではないが、浅くもない傷口だ。

止血しなければ命に関わる。

「すまん………っと、キリハ?!」

シカマルが俺の方を見て、驚き、叫んだ。

「いや寝てないよ、シカマル君!」

その声に反応したキリハが、手を上げながら勢い良く身体を起こした。


「………あ」


「………え!?」


「………!?!?!?!?」







鮮血が、舞った。
































その数分後。

「ただいま~」

色々あったけど戻ってきたよ、と皆に告げる。

「遅いぞナルト」

「いや、本当にね………色々あって」

「って、その血はどうした!?」

サスケが俺の胸元にこびりついている血を見て、驚きの声を出す。

「ああ、返り血だよ。俺の血じゃない」

「後方にも敵が居たのか!?」

「敵といえば、敵かな」

偶然っていつも俺に対しては敵に回るよね、と愚痴ってみる。そして貧血に陥っているであろう、シカマルの顔を青空に浮かべた。

(無茶しやがって………)

『嫌な事件だったね………』

奈良シカマルよ、永遠に。

でもこの服のクリーニング代は後で請求するからな、と心の中で呟く。

鼻血って取れにくいし。

「それとほっぺた………それ、ビンタの後だろ」

「ああ、これはお前の嫁にやられた」

勘違いなのに、そんな趣味ないのに、と愚痴る。いや確かに白かったけど………げふんげふん。

「………嫁?」

いったい誰のことだと、サスケが首を傾げる。

「いい加減にしろふざけんなこのニブチンが!」と言いたかったが、横にいた桃色の物体から先に突っ込みが入った。

「ちょーっと待ったあ! 今の言葉は聞き捨てならないわ!」

サクラのちょっと待ったコール! 

ミス! サスケは首を傾げている!

「………いい加減、目の前の現実を見据えてくれないか?」

そこに渋い顔のイタチ兄さんが現れ、呆れた声で突っ込みを入れる。

「あ、イタチさんだ。ちわっす」

紫苑と菊夜さんをザンゲツに預けにいってもらっていたが、どうやら戻ってきたようだ。

「サスケの嫁に関する話は後で聞くが………取り敢えずは、あれだ」

イタチさんはカカシと桃地君が相手をしている、黒くどでかい物体を指差す。

「正直見なかったことにしたいんだけど………あれ、もしかして角都と飛段?」

と、角都の相手をしていたサスケに訪ねてみる。

「………気づけば、あの有様だった」

いや、どうしようも無かった、とサスケが首を振る。

「サスケを追いかけてきた角都と、飛段がな………何故か、合体した」

「合体とな!?」

なにそれ怖い、と慄く俺。ていうか合体って。

どうりで大きいはずだ。尾獣とまではいかないけど、結構なサイズになっている。

「恐らくはあいつらの中にある十尾の………欠片だろうな。それが引き寄せ合ったんだろう。あれは傍にいるもの全て喰らおうとする性質を持っているからな」

そんな暴食な、と俺は頭を抱える。

だけど十尾の在り方としては、そうあって正しいのかもしれない。

「暁の二人、どっちも驚いていたぜ。あいつらにとっても予想外の出来事だったんだろう」

「………まじですか」

聞くに、十尾の力を使ってパワーアップした二人。

「シカマル風に言うと“角”都が成って龍馬、“飛”段が成って龍王ってところかな」

それが混ざるか………厄介な。理性が無くなっていることだけが救いだろう。

あの巨体が角都の意のままに動くとしたら、勝ち目は無かっただろう。

「掲げる親玉、“玉”が玉兎からの使者だというのも笑えないねえ」

「全くだ………」

「ん、玉兎か………ならこっちは金烏で答えてみる?」

ちなみに玉兎は月、金烏は太陽の別称である。

太陽と呼ばれてもおかしくない程の威力を持つ、あの術――――この3年で積み上げてきた切り札の、二つ目だ。

切り札だけあって、リスクも高いが、生半可な術じゃあれは倒せないだろう。

「それは俺も考えていた。だが、あれは近づかなければ使えないだろう。今のあの化物の隙をつけるのか? 今はカカシと再不斬が相手をしているけど、あの触手による攻撃は想像以上に厄介だぞ」

縦横無尽に放たれる触手、確かに厄介そうだ。

「そうだな………」

大樹を穿ち、大地を削り取る威力を持つ巨大な触手。あれを掻い潜る必要があるのか。

あるいは、動きを止める必要がある。シカマルの顔が浮かんだが、影真似で抑えられそうもないように見える。

「………でも、決定打となりうる術はあれしかないな。一応、あいつに攻撃はしてみたんでしょ?」

「ああ。一通りの術は試したが、どれも効果が薄くてな。すぐに再生してしまうし、表皮も硬い。黒い塊になって目が無くなってしまったから、月読もできんしな」

と、イタチ兄さん溜息をついた。

「分かってると思うけど、天照もNGだよ。こんな森林地帯で不滅の黒い炎が延焼したりしたら、ね」

それこそ洒落にならない事態になるだろう、と首を横に振る。
近くに村があるし、もし巻き込んだら、と思うとぞっとする。
一般人を巻き込むことだけはできない。

「それは分かっている………火がついたとしても、その箇所だけを切り離されて防がれる可能性があるしな」

リスクだけが大きすぎるのでは意味がない、とイタチ兄さん溜息をつく。

溜息の多い人だ。

「………」

一方、無言で安堵の息をつくサスケであった。

「おっと、多由也と白も戻ってきたようだし………前衛できばっている二人も作戦を伝えようか」

木の葉の忍びと、シンとサイ。あの10人のおかげで、体力とチャクラは温存できている。

「案はあるのか?」

「対角都用の戦術はあって………その延長上だね。一応、あるにはある」

そうして、俺は皆に作戦について説明する。

「ぶっつけ本番で、それだけの連携が?」

「肝心なところは………ほら、写輪眼があるから何とかなると思う」

後は勇気とか気合でカバーするしかない、と言う。

あれだけの気合を見せてくれた先発、木の葉の忍びの意気に応えて見たいという気持ちもある。

「そうだな………負けていられねえ」

「私も、サスケ君と一緒ならやれると思う」

「………」

「何故睨む多由也!?」

「知らん。勝手にしろ」

揉める三角関係。そこに、白が突っ込んだ。

「……痴話喧嘩は後にしてくれませんか? 再不斬さんが頑張ってますので早くして下さい」

と、白が明るく、だが妙に通る声で3人に告げた。

「「「すみません」」

謝る3人。
こちらから白の顔は見えないが、見える位置にいる3人は震えているようだ。

きっと眼だけは笑っていないのだろう。

「では始めましょうか………ナルトさん?」

「了解………多由也、まずはあの二人に作戦内容と役割についての伝心を」

「分かった」

頷くと多由也が笛を吹く。
音遠投写の術を使い、前衛のカカシ、再不斬の二人に作戦の内容を告げるのだ。

二人は触手による攻撃を捌きながら、「OK」の合図をこちらに返す。

「白は?」

「いつでも」

「サクラは?」

「色々と聞きたいことがあるけど、サスケ君とあんた、カカシ先生がいるんなら問題はないでしょう。追求は後でするけどね」

白と再不斬の方を見ながら、サクラが複雑そうな表情を浮かべるが、一応は頷いた。

「イタチ兄さん?」

「既に準備はできている」

「サスケ?」

「笛の音があれば、問題はない――――やってやるさ」


皆の確認を取り、俺は柏手をうつ。

パン、という乾いた音で場を引き締めた。


「OKだ。ちょっとした邪神退治だけど、いっちょやってみようか――――多由也!」




「了解!」

指示に頷き、多由也が笛を吹く。

ここにいる全員の間に、流れるように綺麗で、かつ清廉とした旋律が届いた。

秘術・五音。対象の五感を高める術。チャクラの流れも高められるし、術の効力も強まる。


同時に、前衛の二人がこちらに後退してくる。もちろん敵も追いすがってくるが、問題はない。

「初手は頼むぞ、うちは兄弟!」

「了解した」

「やってやるぜ………!」

二人は下がってくる前衛とスイッチし、前方に出ながら印を組む。

結の印は虎。


「「火遁・豪火球の術!」」


兄弟二人の豪火球が合わさる。大きな豪火球は、突進してくる化物を包み込んだ。


「ヲヲヲヲヲヲ!?」


巨大な火球に化物がたじろいだ。


「白、サクラ!」

「了解しました―――サクラさん!」


白の血継限界である氷遁により、サクラの眼前に巨大な氷塊が生み出される。

そしてサスケとイタチが後方に退いたと同時、サクラが眼前のそれを殴りつける。


「どっせえい!」

圧縮された氷が怪力によって砕かれながらも打ち出される。

勢い良く打ち出された氷の散弾が、化物の各所を打ち貫いた。

「まだまだ行くわよ!」

腰を落として、正拳を打つサクラ。見た目どうかと思うが、今は黙っておこう。

しかし威力はまずまずで、氷の散弾は化物の表皮を撃ち貫けているようだ。

即席の術だけど大したものだ。

名付けるならば、“氷遁・桜花鏡咲”といったところだろうか。


「言ってる場合か、続いて行くぞ―――!」

「写輪眼!」


再不斬が忍具口寄せ、巻物を使い、大量の水を口寄せる。

即席の池ができたその上、再不斬はカカシと一緒に水の上に立ち、因縁のあの術の印を組みながら、放つ。


「「水遁・大瀑布の術!」」


巨大な水の竜巻が化物を飲み込む。

ダメージは与えられていないようだが、動きは封じ込められたようだ。


―――それでいい。これは目くらましにすぎないのだから。


「白!」


「はい――――行きます!」


打ち出された氷、大瀑布によって周囲に満たされた水を使い、白が化物の周囲に氷の鏡を作り出す。


秘術・魔鏡氷晶。遠方に設置した氷の鏡へ移動する術だ。今や上忍クラスの白が使えば、神如き速さでの移動が可能となる。

相手が人間であればこのまま千本による攻撃で串刺しにするのだが、化物相手では通じないだろう。


だけど、他の事ができる。



「ギギギィ!?」


最早人ならぬ声となっている化物、その驚愕の声が当たり一面に鳴り響く。


白がやったことは簡単なことで、鏡による移動を利用し、幾重にも束ねた鋼糸を化物に巻きつけたのだ。

鋼糸の先端には錘がある。

「―――完了です!」

鋼糸を全て巻きつけた白が先端の錘を掴み、こちらに投げる。

同時、化物が触手を四方八方に展開した。


「うあっ!?」

まず近くにいた白が吹き飛ばされた。周囲の硬質な鏡諸共、宙に吹き飛ばされる。

「白―――くそっ!」

「うあっち!?」

「危ない!」

「やられるか!」

「うおい!?」

そして同時に、こちらにも触手を放ってくる。

錘も触手に巻き込まれ、宙に放り出された。


「くっ!」

予想外の事態。だけど、まだまだ修正は可能だ。

俺は錘に向かいマーキング付きのクナイを投げつけて、飛雷神の術を使う。

そして錘を拾い、地面に着地して一歩後方に退く。

イタチ兄さん、カカシ、サスケの写輪眼組みは写輪眼で錘の軌道を予測し、鋼糸付きのクナイを投げつけた後、手元に引き寄せた。

操風車三の太刀の応用だろうか。しかし何だこのチート共は。

『――――全員拾えたぞ、今だ!』

多由也による合図。

くしくも四方に散らばれた俺、サスケ、イタチ兄さん、カカシが印を組む。

カカシは俺、イタチ兄さんがサスケの術をコピー。


3人の写輪眼が回転し、結の印が同時に結ばれる。



「「「「雷遁・雷華の術!」」」」


四人同時に雷華の術を放つ。四方から雷の火花が散り、鋼糸を伝って化物へと届く。

大瀑布によって水に濡れている化物は全身を感電させられて、その場に硬直する。


「サスケ!」

「応!」


カカシ、イタチ兄さんが雷華の術を持続させて動きを止めている間、俺とサスケは一端後方に退いた。


止めとなる術を使うためだ。

まずはキューちゃんを口寄せする。

「ようやくじゃな………行くぞ、狐火!」

キューちゃんの周りに炎が荒れ狂う。

「螺旋丸………!」

俺はその炎を螺旋丸で取り込む。

「こっちも行くぞ!」

サスケが全力でチャクラを練り込み、写輪眼に集中。

姿写し、心写しの法を使い、螺旋丸を使っている俺の動き、チャクラに同調する。


「「あああああああっ!」」


炎は風に煽られてその勢いを強くする。

俺は風の性質変化で螺旋丸の密度と風のチャクラを高める。

サスケはその風の上に火の性質変化を重ね、更なる豪炎を発生させる。







「行ける…………っ!?」







だが、そこで俺は致命的な光景を目にすることになる。




「仮面が………!?」



見れば化物の表皮に角都の仮面が浮かび上がっている。



そして、その口には水の塊が見えた。


「水の砲弾………!?」


あれを受ければ吹き飛ばされてしまうだろう。


それはまずい。この螺旋丸が暴発してしまう。一度爆発すれば、俺もサスケも焼き尽くされて骨も残るまい。


だが、どうすればいいと考える暇もなく、水の砲弾が俺達に向けて放たれた。



「サスケ君、ナルト!?」



サクラの絶叫が響く。


水の砲弾が直撃する。













煉獄の炎は解き放たれ、当たり一面地獄絵図となるはずだった。























だけど、勝機はこちらにあるようだ。















俺達に飛んできた水の砲弾、それは氷の壁によって防がれていた。

「堅牢氷壁………!」

視界の端に、吹き飛ばされた白の姿が見えた。


先の触手による一撃でダメージを負ったのだろう、頭から血を流しているようだ。

だけど状況を判断し、やるべきことをやった白。ばたりと倒れ、地面に伏せた。気絶したようだ。




「ヲヲヲヲヲヲヲヲン!」


雷撃の範囲から逃れている触手が数本、こちらを襲ってくる。



今度こそ仕留めるつもりだったのだろう。

「させるかよ!」

「しゃーんなろ!」


だがそれは再不斬の首斬り包丁と、サクラの投げた巨大な岩によって防がれた。

イタチとカカシは変わらず、雷華の術を浴びせて化物の動きを止めて続けている。


思えば、奇妙な縁だと思う。

かつては殺しあった6人が、時を経てこの場所に集り、助け合っている。


背後では応援の旋律が流れていた。





そうして、場は整った。


よって今ここに、術が完成する。








「――――光り射す世界に」


高めに高められた炎の奔流が螺旋の中で荒れ狂う。

一人では有り得ない熱量が、その中に閉じ込められている。

風によって炎が高められ、生まれた熱風をも利用して更なる高温へと登りつめて行く。






「汝ら暗黒―――――住まう場所無し!」








叫び、突進する。

迎撃は無い。全員の尽力により、万難は排された。

故に、あとはこれをぶつけるだけだ。



「「乾かず、飢えず、無に還れ!」」





叫びとともに、俺とサスケは切り札のひとつ――――“火遁・劫火螺旋球”を放つ。



火の性質変化を加えられた螺旋丸だ。


高めに高められた膨大な熱量を持って対象を焼き尽く術。

螺旋の太陽を対象にぶつけて内部で解き放つ、いわば必殺技と言えるものだ。



だけど、ジャシン教を信じる者、不老の化物と混ざった上神話の怪物となった化物を屠る術だから――――今だけはこう呼ぼうか。












「「レムリア・インパクト!!」」






















同時、抉りこまれた火球が内部で破裂して―――――化物は太陽の如き炎に包まれた。























































あとがき

カオスの一言でした。

ちなみにレムールとはキツネザルのことだそうな。台詞はチョウジさんの中の人に借りました。
ロリババアかつ魔獣の咆哮、キューちゃんが「昇華!」と叫んだかは定かではありません。

ちなみに角都の術名がモビルスーツと一緒なのは原作と同じです。
偽暗(ギャン)、圧害(アッガイ)、頭刻苦(ズゴック)、地怨虞(ジオング)は原作で使われた術だそうな。
裂苦連露(ザクレロ)と飛狗惨武(ビグ・ザム)に関してはオリ術ですが。
やり過ぎた感はあるけど作者はザクレロとドズル閣下好きなので後悔はしていない。
でもジオン一色だな………それがいいんだけど。




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十五話 「犠牲」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/11 22:16






「木の葉への連絡は完了した」

「ありがとう。これでひとまずは落ち着ける」

「他の者は?」

「今は町の病院で治療中だ………しかし、長かった」

激戦が終わった後、俺達は負傷者の応急処置をしながら、網の本部へと向かった。

本部にある連絡用の鳩を使い、木の葉側に連絡をするためだ。

飛雷神の術を使ってもよかったのだが、ここから木の葉までの距離を往復するのはとても疲れる。
何より火遁・劫火螺旋球の後遺症か、右手が少し痛いし、チャクラも回復しきっていない。
くそ、手は料理人の命だっつーのに。

「それより、本当に倒せたのか? 報告によると、丘のような巨大な化物が急に現れたとのことだが」

「………まあ、もう襲ってこないとだけ言っておこうか」

そう考えれば、倒したと言えなくもない。

ザンゲツは俺の遠回しな物言いに対し何事か感じ取ったようだが、追求はしてこなかった。

「そういえばお前、シンとサイには会ったのか?」

「いや、さっき会おうとしたんだけど………結構酷い怪我でな」

今は治療中で、この後に会う、と返す。

シンは両腕を折られ、サイは胸から肩口にかけて斬り裂かれたらしい。
治療はいのとサクラ、白が当たっている。

俺も、この報告が終われば本格的な治療を受けるつもりだ。

「まあともかく………無事に会えて良かったよ」

「先代から話には聞いていたが………まさか、あの二人がお前の友達とはな」

「おかしいか?」

「おかしいね。お前例の事件以降、誰ともかかわり合いになろうとしなかったじゃないか。先代が死んだあの事件でも、私たちからは一定の距離を置いていた」

「………それに関しては否定しない」

「自覚しているのか分からないが、お前は私の、ひいては網の恩人なんだ。だから幹部待遇で誘ったのに――――」

ザンゲツ――――紅音はそこまで言うと、「いや、よそう」と呟き、首を横に振った。

「そうしてくれ。まあ、シンとサイはあの事件の中で出会ったんだけどな」

「そうらしいな………それで、これからどうするつもりだ?」

「ああ、それは――――」

色々と今後の方針について話す。

すると、ザンゲツは意外そうに呟いた。


「あの二人を霧隠れの方に戻すと?」

「火影殿の意志でね。ほら、霧隠れの追い忍が殺されたから、その代わりとしてウタカタを霧隠れに送るんだ」

「………正気か? あの二人は霧の抜け忍だろう。確か先代水影………四代目水影の暗殺を謀り、失敗した後に里を抜けたと聞くが」

「ちょっとね。そのあたりは複雑な事情があるんだ」

表向きはそうなっている。水影暗殺を企んだのも事実といえば事実だ。だが、内実は少し違う。

再不斬は“傀儡となっていた四代目水影”を暗殺しようとしたのだ。

うちはマダラの妨害により失敗したが、その事件が起きた時、水影ひいてはマダラの存在に感づいた者がいたのではないだろうか。

事件の後、ほどなくして水影の代替りが行われていることから、その可能性は高いと思われる。
切っ掛けとなった、再不斬の行動――――それが霧の上層部に取って、どう考えられているかによるが。

「深くは言えないけど、これは必要な処置なんだ――――今は水影、いや霧隠れの説得が最優先でね」

「………五影会談か。しかし、逆効果となる可能性もあるぞ」

「いや、それは無い。今回の角都と飛段を討ち取った功績をあの二人のものとするからね。それを手土産にすればいいんだ、あの二人は里に戻れるだろう」

SかSSランクの任務をこなし、かつ霧隠れの忍び達の仇を討ったという功績。

一時抜けた里だが、裏でも表向きでも戻れるに足る功績と事情がある。
戦力も欲しいだろうし、裏切りの可能性が無いと分かれば拒む理由もない。

あの二人も承諾した。鬼鮫の首は取れなかったが、暁二人を倒したのだ。大名暗殺犯の捕縛と同程度の価値があるだろう。

「しかし功績をあの二人に渡す、というのは木の葉側の忍び達が承知せんだろう。幸い死者は出なかったようが、中々に苦しい戦闘だったと聞くが」

「そこは火影の意志だから、木の葉の忍び―――カカシ、キリハ達は納得すると思うよ」

下手すれば、いや下手しなくても戦争が起こるこの状況、防ぐためには霧隠れとの相互理解が絶対に必要となる。何が必要かが分からないほど暗愚でもない。

「………成程。それに、最近の霧隠れの里は他里との交流を促進したいと考えているらしいからな」

「悪名高い風習そのほか、全て先代の暴走のよるものだったんだろう………血霧の里のイメージを引きずりたくないんだろうなあ」

今代の水影は2種の血継限界持ちらしいから、過去の因縁はほぼ断ち切られていると考えて良いだろう。

そして血霧の里のイメージを消し去るには、他里との交流を復活すれば良いことだ。

「そうか、橋渡しする人物に足る。成程、適任だな」

砂隠れの風影、つまりは我愛羅を守る任務にも従事していたあの二人だ。橋渡しするに十分な人材と言える。

あの二人がいなくなること、考えると少し寂しいが――――という言葉は飲み込んだ。
女の前で弱音を吐くのは趣味じゃない。

『ほう………つまり我は女ではないというのか?』

(いや、キューちゃんは特別だから)

特に問題は無いと言うと、キューちゃんが息を飲む音が聞こえた。

『………お主、自分の言葉を理解しているのか?』

(へ?)

『………もう、いい』

『いいの?』

『いい!』

何故か怒るキューちゃん。
気を取り直して俺はザンゲツとの会話を再開する。

「ふむ、全て承知の上か………いいだろう。私からも口添えはしておく」

「ありがたい。あと、借りたい場所があるんだが」

前おいて場所を告げると、ザンゲツは訝しげに訪ねてきた。

「一日だけなら構わんが………何故にその場所を?」

「紫苑の治療に必要なんだ。何なら紅音――――いや、今はザンゲツか。ザンゲツも来るといい。きっといいものが見れる」

「………悪戯を企む笑みだな。ふむ、ひとまずはその件、了解しておくが………期待は出来るんだろうな?」

難しい言葉を混ぜながらも、挑発的に笑う紅音。その笑顔は、無鉄砲だった昔のままだった。

「うちの自慢の居候が提供する一大イベントも兼ねているからな………見ないと絶対に後悔するぜ」

「成程、楽しみにしておこう」
















「ういっす。もう治療は済んだか?」

「あ、ナルトさん。はい、二人の治療は済みました。流石に骨折はすぐに直せないですが」

「いや、十分だよ」

「はい………あの、本当に良かったんですか?」

「ん、功績と霧隠れに戻る件のことか………いいと言うか、それが最善の選択だからね。俺だけの意志でもないし」

「でも、口添えはしてくれたんでしょう?」

「………それは、まあ」

「それなら、是非言わせて下さい………ありがとうございました」

俺は花咲くような笑みを浮かべながら礼を言う白に一瞬だけ見惚れた。
いや、いい笑顔で笑うようになったもんだ。

「最後まで一緒に戦えないのが心残りですが………」

「いや、戦うさ。そっちは霧隠れの内部で、こっちは対十尾に向けて………最終的に目指す所は一緒だから」

戦争をおこさせない、あの化物を止めるという目的に関しては同じだ。

「………目的を同じとする同志、というわけですね」

「そっちは霧隠れを優先する状況が増えるだろうけど………まあ、これで丸く収まるさ。
 それに帰るべき場所に帰れるんだ――――これ程嬉しいことは無いだろう」

「――――はい。ですがナルト………いや、メンマさんは何処に帰るんですか?」

その問い、返答するのに一瞬だけ言葉につまった。

が、俺は初志を貫徹するのみだ。

「こっちは根無し草の風来坊だからねえ………夢に向かってあちこちに流れるさ」

全部終わった後でね。


そう残し、俺はシンとサイが居る部屋へと向かった。






「おお!!」

「ナルト!」

「おひさ~」

実に8年ぶりの再会………いや、変わってないな特に兄の方。

お~心の友よ~、と言いあいながら抱き合いたかったが、両腕を骨折しているので自重した。

『ってそれたけしじゃん………』

そういえばあの兵法家じみた子供、どうしているだろうか。

「本当に久しぶりだな………まあ、噂には聞いていたけどよ」

「でも噂だけで、実際にはあえなかったけどね」

苦笑する兄弟。

調子を少し落とし、聞きたかったことを口に出した。

「それで………紫苑は今どうしているんだ?」

「隠れ家から連れてきた。今はここにいる………ああ、来たようだ」

同時、入り口の扉が開いた。

そこには、菊夜に連れられた紫苑の姿があった。二人が駆け寄る。

「紫苑!」

「おお、その声は!」

紫苑は耳に入ってきた声を聞き、喜びの顔を浮かべ―――


「………誰だったかの?」


―――首を傾げる。


シンが盛大にずっこけた。

「感動の再会なのにこんな仕打ち!? 俺だよ、シンだよ!」

「まあ、シンだし」

「まあ、兄さんだしね」

「まあ、シン君ですし」

致し方無しと頷く3人。

「つーか菊夜さんまで!?」

打ちひしがれるシンの声が部屋に響いた。

「ふふ、冗談じゃ………久しぶりだの」

このやり取りも懐かしい、と紫苑が笑みを浮かべた。

「そもそもお前のような人間を忘れられるはずが無いだろう」

「え、それはどういった方向で……いや、言わないで下さい」

「うむ、お主の想像に任せよう………しかし、怪我をしたと聞いたが大丈夫なのか?」

「ああ、治療は受けたからね。完治とまではいかないけど、一ヶ月もすれば治るよ」

「いやしかし、あのくのいち綺麗だった………白ちゃんだっけか。なあナルト、あの娘に告白したいんだけど、手伝ってくれないか?」

「どうしてもというのなら手伝ってもいいけど………ただし、真っ二つだぞ?」

夫の首切包丁が黙っちゃいねー、と言ってやるとシンは顔を青ざめさせた。

「あ、じゃあいいです」

「ふむ、久しぶりの再会だというのに、別の女の話をするとはの………相変わらずデリカシーのないやつじゃ」

「あ、そういえば噂で聞いたような。なんでも網のとある部署に、告白戦線50連敗した金髪の猛者がいるって」

「全て真実です」

「うん、駄目駄目ですねえ」

「………」

本格的に落ち込んだシンを放置し、俺達は話を続ける。
言うべきことは一つ、紫苑の治療についてだ。

「え、光ヶ池でするの?」

「ああ」

ザンゲツの許可は取っていること、治療の内訳について説明をすると、成程と二人は頷いた。

「他には誰が参加するの?」

「主催は多由也で―――他は俺、うちは兄弟、白、ももっち、フウ、ウタカタ、ホタルにザンゲツ、あとはこの面々と」

「木の葉の忍びは?」

「すぐに里に帰るらしい。里に所属する忍びがここ、網本部に長居するのは………危険だしな」

里に所属する忍びに対し、恨みをもつ者は少なくない。今回の木の葉側からの無理な要請もある。

事情についてを公表できない以上、全員の理解を得るのは不可能だ。

『………一部で暴走する者が出てもおかしくないしの』

『ん、耳が痛いね』

というものの、別に何処か………木の葉に限った話でもない。
皆の考えが同じではないのは人の常だからして、派閥も生まれようもの。

「可能性ある以上、予防は必要だからね」

サイとシンも頷いた。どこにでも“やらかす”人間がいるということ、網に所属している二人ならばよく知っているだろう。
ここが網の本部でなければ、また違った選択肢もとれるのだが。

「うん、複雑だけどそうするのが懸命だろうね………っと、そういえば他の木の葉の忍びは?」

「今は感動の再会ってところか。話があるから俺も今から行くけど………」

「妾はここにおるぞ」

「私も、木の葉の忍びと会うのは少し………」

あの事件と、イタチの境遇についてを知っている二人だ。

良い印象は持っていないのだろう。

(………そうだよな。少し無神経だったか)

俺は二人にごめん、と残して、俺はシンだけを連れてキリハ達がいる病室に向かった。









少し離れた病室。

そこでは、かつての7班が揃っていた。

「久しぶりだな、キリハ」

ベッドに横たわっているキリハに対し、サスケが言った。

「サスケ君………うん、久しぶり」

戦闘中はじっくり話はできなかったけど、とキリハは苦笑しながら返す。

「それにしてもサスケ君………何か、変わったわ」

隣にいるサクラがサスケの顔をまじまじと見ながら、言う。

「お前の兄の―――“おかげ”というべきか、“せい”というべきか」

どちらなのかは悩むところだがな、とサスケは苦笑する。

「腕も、上げたようだしね………師匠は誰が?」

「全体の方針を決めたのはマダオ師だ」

「マダオ師?」

「ああ、ほら、えっと…………なんだっけか…………………………………………そうだ、四代目火影だ!」

ようやく思い出せた、とサスケが額の汗をぬぐう。

「………え、なんでマダオ?」

本名は波風ミナトでしょ、とカカシが突っ込む。

「そういえば何でマダオと………言いやすいから使ってたけど」

マダオの意味とはなんだろうと、首を傾げて悩むサスケであった。

「まあいいか。しかし先生の修行を受けたとはね………かな~り、厳しかったでしょ」

と、カカシは目を細めて笑った。

「………ふつーの笑顔で、鬼のような修行内容を告げてきたな」

極めて合理的だったけど、と言いながらも、サスケは厳しい修行を思い出したせいか、遠い目をする。

「あの笑顔はなあ………」

昔を思い出したカカシも、遠い目になる。

「そうなるとカカシ先生とサスケ君………兄弟弟子になるんだね」

「………」


「こらこら無言で落ち込まない。何でそんな顔するかな」


「あの雨の日、ずぶ濡れになりながら待ち続けた4時間………」

写輪眼が回りだすサスケ。右手ではチチチチと鳥が鳴いていた。

「あ、私も思い出したら………何故かチャクラが吹き上がってくるよ………?」

と、腕を振り出すサクラ。

「そうだよね、あれは無いよねほんとに………」

と、掌をかざすキリハ。


「………」

今度はカカシが無言になる。額からは冷や汗が出ていた。


「ま、まあそれは置いて! その腰の刀ってかなりの業物だなあ!」

ははは、とカカシが話の方向を転換した。命の危険を感じたようだ。

「ああ、これか。これはキリハの………その耳飾りと一緒に用立てたらしい」

「そうなんだ………」

風が封じ込められたという耳飾りを触りながら、キリハは嬉しそうに頷いた。

「そういえばキリハ、あんたその耳飾りが無かったら、どうなっていたか分からないわよ」

あの時、キリハは反射的に弱いながらも風を生み出し、わずかに雷遁の軌道を変えたのだった。
あれが無ければ直撃し、神経諸共焼かれていたかもしれないと治療にあたったサクラが説明をする。

「シカマルも本望だろうよ………その耳飾りが役割を果たせて」

「………え?」

どういうこと、とキリハがサスケにたずねる。

「いや、どういうことも何も………その耳飾りはシカマルからの依頼でナルトが用意したものだぞ。知らなかったのか?」

「えええ!? だってシカマル君、“これはお前の兄貴から”だって言って………!」

キリハの言葉を聞いたサスケが、サクラとアイコンタクト。

(どういうことだ?)

(かくがくしかじかしゃーんなろ)

(シカマル………無茶しやがって)

あまりのシカマルの男っぷりに、サスケをもってしても泣かざるをえない。
さぞそれを聞かされた時のキリハは綺麗な笑みを浮かべていたんだろう。今更撤回はできないということか。

「キリハ………確かに用意したのはナルトだが、依頼したのはシカマルだ……いわば二人からの贈り物となる」

「そうなんだ………」

と、キリハは耳飾りを触りながら、なぜだか顔を赤くした。
何かを思い出したらしい。

「………そういえばあの時、後方でなにかあったと聞いたが」

割と空気の読めないサスケが、すかさず突っ込む。
すると、キリハの顔が真っ赤になった。

「う、ううん、何もないよ何もなかったから!」

「いや、しかしシカマルが出血多量だと………」

「何もない!」

叫んだあと、キリハは布団にくるまり顔を隠した。

(………いったい何が?)

(かくがくしかじか私の拳で記憶を失えー)

(………ふむ、あの鮮血の裏にはそんな事情が)

確かに嫌な事件だ、とサスケは目を伏せた。

(でも、俺も少しだけど見えたんだよなあの時………と、これは黙っておこう。何故かカカシから殺気が出てるし)

口は災いのもとだ。赤毛の同居人で積んだ経験値を活かし、サスケは沈黙を金とした。

「そういえばあの赤毛の………中忍試験で会ったよね、音の忍びだったっけ? 多由也って娘はなんでサスケ君と一緒にいたのかな」

サクラは何でもないように取り繕いながら、ライバルになりそうな人物の詳細を訪ねる。
目は光っていたが。

「ああ、木の葉崩しの少し後にな。大蛇丸に施されていた洗脳が解けて………その後、音を抜けようとしたところを、ナルトが助けたんだ」

「サスケ君とはどういう関係?」

「………どういう関係と言われてもな。まあ、その………なんだ」

サスケは視線を少し上げ、頬をぽりぽりと掻いた。

答えに詰まっているようだ。



そこに部屋の表で待っているはずの多由也が現れた。


「おいサスケ、今から話しをするらしいから皆集まれって………な、何だよ」

何でじろじろが見るんだよ、と多由也がたじろぎながら言った。


「じ~」

「何だピンク野郎。ウチに文句でもあるのか」

「………あるといえばあるわね」

サクラは視線を多由也の胸に集中させながら、言う。

「ど、何処見てやがる!?」

「………モイデモイイ?」

「何を言ってやがる!?」

「そういえば白ちゃんと多由也ちゃんと………キューちゃんは、前に温泉で一緒になったよねー」

とても大きかったよ、と復活したキリハが昔あった出来事を思い出し、言う。

キリハの言葉、その一部分に対し、サクラは激しく反応する。

「温泉………ということは婚前旅行!? サスケ君と婚前旅行なの!? ていうか何で鼻を抑えてるのサスケ君!?」

見ればサスケは顔を真っ赤にしながら、鼻を抑えていた。

「……ってめえ、もしかしてあの時の声を聞いてやがったのか!?」

同じく多由也も顔を真っ赤にし、胸を抑えながらサスケに詰め寄った。

「い、いや………っておい、さり気なく逃げんな! 助けろカカシ!」

「いやー、先生ちょっと自分を見つめ直す旅に出てくるよ」

人生に迷っちゃったから、と背中を煤けさせるカカシ上忍。彼女いない歴=年齢の三十路は「探さないで下さい」とだけ言い残し、部屋を出て行った。

「サスケ君!?」

「サスケ!」

「い、いやちょっとま………」

混沌とする病室。

そこに、新たなる乱入者が参上した。


「何を騒いでるんだー」

「サスケ、話しがあるんだが………」

ナルトとイタチ。

「おいっす! 元気ですか………ってあ、君は!」

そしてシン。彼は多由也を指差し、驚いた。

「な、なんだよ金髪ヤロー」

「君は巷で噂の赤髪美少女!」

「………巷、噂、美少女?」

誰のことだ、と多由也が訝しげにシンの方を見る。

「いや、ね。網の花火職人の間で一時期噂になってたんだよ。すげー可愛い着物美少女二人組が、辺境の村の祭りに現れたって」

そういえば写真も出まわってたなあ、とシンが言うと、サスケが顔色を蒼くした。

「赤髪と………黒髪だと?」

「うん。あとはヤクザとお嬢がいてね………ってこれはまた別だったか」

そこでサスケは悟る――――黒髪、しかし白ではない。

ということは、あの時の光景が―――女装させられていた時のあれが、写真に撮られていたのだと。

「そしてその写真はここにあります」

話しを聞かせてもらったからには仕方ないと、ナルトが写真を取り出す。

「ちょ、おま」

神速の挙動で写真を奪い取るサスケ。

「しまったうばわれたー………なんてね!」

備えあれば憂いなしぃ! とナルトは予備の写真を取り出して、皆に渡す。

「号外~、号外~」

一人一枚、写真が行き届き――――多由也とナルトを除く皆の視線がサスケに集中する。


「「サスケ君………」」
元班員の二人は何故か顔を赤らめていた。
これはこれで………と呟く木の葉の忍びの明日はどっちだ。

「まさかそんな趣味が………」
しかしこの赤髪のねーちゃんは良い乳してんなあ、とシンが呟きながら、多由也の方を見た。
間もなく「このクソねずみが!」とぶっ飛ばされたのだが。


「サスケ………」
イタチさんはサスケと写真を見比べながら、凄い悲しそうな表情を浮かべた。しかし母さんに似ているな、と呟るあたり、心中かなり複雑なようだ。




「サスケェ…………」


「って、お前が全部仕組んだんだろうが!」


鞘付き雷文でぶんぶんとナルトに殴りかかるサスケ。

「はっはっは」

それを笑いながら躱すナルトであった。


「おい………おまえら何をやっている?」



そこに、鬼人が現れた。


鬼人のコマンド

⇒どつく。

斬る。

説得する。

逃げる。


「招集かけたのに………遅刻するんじゃねえ!」


意外と時間に厳しい桃地さん、繰り出した拳骨は二つ。

ナルトとサスケの二人は避けることができなかった。









「で、だ。いい加減真面目にやるぞ………」

「「はい……」」

待たされた再不斬、額に青筋を浮かべながら低い声で元凶の二人に一喝する。

二人の頭にはたんこぶが浮かんでいた。

今この場には全ての事情を知らされた者たち………メンマチームとカカシ、イタチが揃っていた。

シカマルは怪我でこれないため、欠席だ。

「今までの状況は整理したな?」

「ああ………しかし、十尾か」

俄には信じがたいな、とカカシが呟く。

「その時代から何百年、あるいはそれ以上の時間が経っているしな………千手の方にも、正確な口伝は残っていないと聞いた」

初代火影、仙人の肉体を正しく受け継いた彼だけが一端を理解し、対処する手を打てたのだろう。

「証拠はあの化物と、動き回る死体人形達だけだ。あんな芸当をやれるのは一人しかいない」

「六道仙人、か………それに、あの化物の力は確かに桁外れだったね」

「うちはマダラも殺されました。誰より強い瞳力を持っているでしょう」

「………そうか」

カカシが――――イタチを見ながら、複雑な表情を浮かべる。

写輪眼………カカシにとっても深い関係のある眼。その一連の事件について、木の葉の忍びでもあるカカシはどう思っているのだろうか。
色々と二人で過去の話や木の葉上層部などを話しあったらしいが、その内容についてはナルトも知らなかった。


「しかし、うちはマダラ――――無限月読か。先生はどう思われますか?」

カカシにしては珍しい敬語を使い、かつての師に可能かどうかを訪ねる。

「確かに、十尾から生み出されるチャクラがあれば可能かもしれない。だけど救われる人は限られるし―――」

と、マダオは紫苑が居る部屋の方をちらりと見る。

「所詮は夢の事。人間ならば夢だけでなく現実を見据えなきゃね」

死人の僕が言うのもなんだけど、とマダオが苦笑する。



「争いのない世界。確かに理想郷――――ユートピアと言えるかもね。でも、そんなのに意味は―――」


その時、4人の額から青筋が浮かぶ。ぶちりと言う音と一緒に。


「………あの、ちょっと、先生? サスケも、何でそんなに怖い顔を。それに今の音は………?」



無表情で「NGワード、NGワード」を連呼するナルト、サスケ、マダオ、再不斬。

トラウマを持つ4人が身を踊らせてカカシに殴りかかった。


「ちょ、ちょっと待ってアッ―――!?」


カカシの断末魔が部屋の中に響き渡る。


「嫌な事件でしたね………」

白が鎮痛な面持ちで呟く。

ちなみに多由也は白の横で顔を真っ赤にしながらうつむいていた。


ちなみにイタチは突然の展開に驚き、固まっていた。
















「カカシは犠牲になったのじゃ………あの事件のな」



キューちゃんのしみじみとした声が、大気を虚しく震わせた。






























あとがき

どギャク回。でもイタチ兄さんは崩せねえな………!

キーワードは“びっくりするほどユートピア”。(閑話の2参照)



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十六話・前 「宴の前」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/17 23:07

いつもの工程。

いつもの味。

だけど機会は一度なれば、手を抜くなど有り得ない。

屋台という形式上、また全国各地を点々としている俺の店の客は、一見さんが多くなる。

だから常に客とのやり取りは一期一会。いやさ一期一麺。


注文を受け、麺を湯掻き、チャーシューを切って――――スープの中で踊らせる。

その全てが主役で、その全てが脇役だ。ラーメンという名の元に集った同志たちは、客の舌に鼓を打たせるという目的のもと一丸となるもの。


ラーメンを部隊とするならば、指揮官は俺だ。そして敵は客。

それは初見の忍びと対峙するに似た危うさを持っており、時に上忍との戦闘よりも困難な戦いとなる。

「不味い」というひとことがでようものなら、俺の心は粉々に砕けてしまうことだろう。


――――だけど。



「美味しい! これ美味しいですウタカタさん!」

「………いいから、黙って食えホタル」

「でも美味しいんです!」

「……分かったから汁を飛ばすなバカ」

「いたっ!?」

ウタカタのでこぴんがホタルの額に炸裂した。

「うう、酷い………」

「いいから、黙って食べろ。温かいうちに食べた方が美味しいだろう」

「それもそうですね!」

(………)

屋台から少し離れた所に置かれた、急造の椅子の上。
そこで交わされる金髪の幼女ホタルと青年の会話を聞いた俺は、喜びに心を震わせた。

そう、“美味しい”。

この一言があれば――――俺はどこまででも戦えよう。例え火の中水の中、木の葉の中砂の中。

でも音は尻的な意味で怖いから簡便な!

「うん、尻的な意味?」

声に出てたようだ。でも意味がわからないと、聞いた紫苑が首を傾げた。

「いや紫苑は知らなくていいんだよ?」

むしろ知っちゃいけねえ、と屋台の前の椅子に座りラーメンを食べる紫苑に向かって、俺は手を横に振る。

「そうか………しかし、隠れ家で食べた時も思ったが、お主本当に腕を上げたのう」

目は見えないが、食事くらいは何とかなるらしい。レンゲと箸を忙しく動かし目の前のラーメンを食べる紫苑。
やがて食べ終えると、こちらを見てご馳走様と笑いながら言った。

「うむ、美味であった。あっさりとしてなおそれだけではない………塩の深み、というやつかの。それとこの………鶏肉か?」

「は、この日のために探し求めた木の葉産地鶏でございます。塩は砂隠でとれた天然の岩塩と、波の国で取れる海塩を合わせ使いました」

配合と隠し味は秘密である。

「うむ、塩と鶏とのこらぼれーしょんというやつか………」

麺道とやら侮れぬ、と紫苑が小さい声で呟く。

「ふむ、これまた美味なり。流石と言っておこうか!」

「とかいいながら大盛り3杯食べた兄さん、言っとくけどお金は貸さないからね」

弟の突然の宣言。シンが劇画調の顔になった。

「いやでも確かに美味しいね………孤児院を巡るラーメン屋の話し、噂には聞いていたけど………」

「実際は食べていないと分からないだろ? ………ってほらシン、落ち込むな。代金はツケでいいから」

「おお! 心の友よ!」

「いや確かに喧嘩百戦負け知らずだけどさ」

意味が違う、と首を振る。そもそも女でもない。

「見たとこと、シンはこってり目の味が好きみたいだけど」

「ああ、そうだなあ。あっさり塩味も味わい深くて食べ応えがあるけど………やっぱり男は豚骨系だな」

「そうだなあ。“男はスタミナだガンガン行け”、と某カメラマンの人も言っていたことだし」

ちなみに中の人は土井先生もとい、うみのイルカ。実際会った事ないけどやっぱり関ボイスなんだろうか。聞きてえなあ。

「でもサイは見たまんまだな。こってりよりは、あっさりの方が好き?」

「体質的なものもあるし、あまり筋肉質になりすぎるとね。僕は身の軽さが命だから」

重くなると墨の鳥の上に乗れなくなるし、とサイは肩をすくめた。

墨を操った遠距離戦タイプが故に、敵の接近を許さない機動力が命となるということか。

確かに鈍けりゃ距離詰められてそこで終りになるもんな。

「でも、妹さんには食べさせないの?」

あっちで待機しているようだけど、とサイが言ってくる。

「いや、一応は正体を隠している身だし」

まだ小池メンマ=うずまきナルトの方程式は解けていないようで。
知られればしばかれること請け合いなので、俺は黙ったままでいた。

本当は昨日、キバ達木の葉一行と帰る予定だったのだが、フウが残ること、また怪我が完治していないということで、キリハだけは残ったのだ。
後者に関してはほとんど口実なのでどうとでもできそうだったが、前者に関しては納得せざるを得ない俺は取り敢えずとどまることを承諾した。

「妹、かあ………いいなあ。お兄ちゃんって言われるんだろ?」

どんな気分? とシンが真顔で訪ねてくる。

「いや、妹って実感がまだね………でもあの猪突猛進っぷりには、少し参ってる」

そのうち抱き壊されるんじゃないか、と戦々恐々な俺であった。つーか胸が当たってるんだよう。小さいながらも形がいい『シヌ?』げふんげふん。
つーか筋肉あるはずなのに何処触っても柔らかいんだよう。

あと抱きしめている時のシカマルといの嬢、ヒナタ嬢の目が怖いんだよう。

「いっそ“異性に思いっきり抱きつかれたら狐に変身してしまうんだ”、とか言うのもいいかも」

『それなんて果物籠』

ちなみに狐は犬科だが、習性としては猫に近い部分があるらしいね。

「ふむ、群れず単独で狩りをするからの。確かに、猫の方が近いとは思う」

「説得力あるねファイアーフォックスもといファイアーキャット」

サンダーバード(サスケ)とウォータードラゴン(再不斬)、アースタートル(多由也)はここには居ないようだけど、と肩をすくめる。

「ふむ、しかしあの時からここまで………随分と腕を上げたものだの」

紫苑はことり、と台の上にどんぶりを置き、感慨深げに呟く。

「そりゃあいつまでも同じ所にはいられないしね。あれからごたごたも、いざこざも、色々あって………あちこち旅もしたからね。まあ、旅の甲斐があったというところかな」

別れが会ったから、と思いつつ。やや複雑ながらも、その一点だけは頷かざるを得ない。

魚介系をふんだんに使い煮詰めたスープと、鶏がら。そしてよりすぐった塩と隠し味に少量の酒を入れて混合した、味とコク、深みのあるスープ。

具として入っている鶏肉にはそのスープの味が凝縮されて入っており、一度口の中に入ればスープの旨みと肉の旨みが弾けて混ざる。

そのどれもが、旅の途中で見つけ、そして厳選した素材であった。

「ならばわらわも送った甲斐があるというもの………ふむ、いい仕事をしたの、店主」

「………は、恐悦至極でございます、姫」

「うむ、くるしゅうないぞ」

互いにふざけあいながらはっはっは、と笑いあう。

その後、空気がまったりとしてきた。


「ああ、もう十尾とかどうでもいいわあ………」


いてーしつれーしめんどくせーし。かんがえたくないかんがえたくないー。

『いやそれは流石に不味いでしょ』

幼児退行を起こしていた俺の言葉に、マダオの突っ込みが入る。

あとキューちゃんからも突っ込みが入った。

「それよりもおかわりじゃ。いなり寿司も頼むぞ主よ」

「ってもうおかわりかよ!? 相変わらず食べるの早いなあキューちゃんは」

あと呼び方変わった? と聞くと何故か「うるさい」、と返された。

気のせいだろうか、何か記憶が戻ってからのキューちゃんの俺に対する言動が変なような。

「うむ、わらわも負けておれんのう……こっちもおかわりじゃ!」

横に座っているキューちゃんの方を睨みつつ、紫苑もおかわりを要求してきた。

「うんうん、料理人冥利に尽きるなあ―――だが断る」

「何故じゃっ!?」

「何故も何も………紫苑、それ以上食べたら太るよ?」

「はうっ!?」

太り、と言われた紫苑が胸を抑えながら一歩仰け反った。
うむ、以前聞いた通り、すごい効果だなこの言葉。

“太る”、という一言は乙女に対する最終兵器のうちの一つらしい。

俺は以前に白と多由也に向かって言ってしまった時、サスケ共々教えられた。

何でも体重年齢そして胸に関して言及することは、時に宣戦布告と同じぐらいの重みを持つことがあるとのこと。
殺されても文句が言えない言葉もあるらしい。

「でもキューちゃんは太らないからいいね~。年も取らないし」

「………うむ、いきなりなんじゃ?」

「いや、ちょっとね。昔を思い出して」

変化することはあるが、基本は今の幼女姿のままでいるキューちゃん。
あれからかなりの時間が経ったというのに、最初に会った時………

(―――いや、マダオが仕組んだあの時からか。この姿はちっとも変わっていないな)

禍々しい姿から転じたこの姿、可憐な金の髪の少女は今も変わっていなかった。

――――外見上は。

「黙り込んで、どうしたというのじゃ」

「いや、変わっていないなーと思って」

中身は少し変わったけど、と俺は心の中だけで呟く。

どうしたのかと聞いてくる言葉と、その表情。
思えば柔らかく成ったものだ。出会った最初、不機嫌を振りまいていただけだったあの頃と今とでは全然違う。

「………そうじゃのう。お主は図体だけは大きくなったが」

キューちゃんがジト目で見てくる。

「まあ、背は伸びたよね。会った当初は俺まだ五歳児だったし」

そこから隠遁生活を送りつつ身体を鍛え、あるいは影分身でごまかして。
戦場に出たこともあった。そこで怪我しながらも、何とか生き延びてここまでこれた。

気づけば10年。いや、我ながらよく死ななかったものだと思う。

死にかねない、危うい状況はいくつかあったというのに、俺はまだ生きている。

(やっぱり俺、なんだかんだいいながら運が良いのかも)

『いや、そもそも度々危険な状況に陥るというのが………』

自業自得な部分もあるけど、とマダオが俺の心中の呟きに突っ込む。

「でも、あとひとつだけ――――本当にあとひとつ、だからな。ようやくここまで来たって感じだけど」

「そう、じゃの」

キューちゃんは俺の言葉に返事をしながら、どんぶりのスープを飲む。
いや、どんぶりで顔を隠しているのか。俺に顔を見られたくないようだ。

様子が変なキューちゃんを見て、俺は少し考える。紫苑のこと意外に、まだ隠していることがある。
恐らくは身体の事――――いい加減ガタが来ているこの身体のことと、何か関係があるのだろう

(それでもあとひとつだ。あと一回だけ勝てばいいんだ)

それで全てが終わる、と自分に言い聞かせた。しかしそれにしても、キューちゃん“らしく”ない様子が気になる。
最終の決戦を前に、心残りだけは残したくない。機会があれば強引にでも聞き出そうと俺は決めた。

「おかわりは諦めよう。しかし、このラーメンがわらわの治療と何か関係があるのか?」

「勿論。まずは味覚から、ってね。まあ仕上げは多由也がするから、今回に限っては俺は脇役だね」

口惜しいけど、と俺は食器を片付けながら紫苑の問いに答えた。

「そういえばあの二人は何処にいったのじゃ?」

「うん、サスケと多由也? あっちで練習中だよ」











屋台から少し離れた木陰。最後の練習をする多由也と、それを聞いているサスケがいた。

多由也は横たわった丸太を椅子替わりに座っている。サスケはその隣、少し離れた位置に座っていた。

「………緊張しているのか?」

いつもの様子でなく、少し堅い表情を浮かべている多由也に対し、サスケがたずねた。

多由也はひとしきりの節まで練習した後笛を下げ、サスケの問いに答える。

「当たり前だろ。あの紫苑って娘の怪我が治るかどうかは………ウチの腕次第なんだから」

多由也は緊張していた。

「………そうか。しかし願っても無い機会なんだろう………お前の音で人を癒せる。しかも、普通の医療忍術では治せない怪我を」

「そうだな………って、だから緊張するんだよ! もし無理だったら……それこそこの2年、やり続けてきた事が否定されそうで………」

怒鳴った後、最後になるにつれどんどんと声が小さくなっていく。サスケは多由也らしくない物言いに苦笑する。

「いや、大丈夫だと思うぜ。きっと………絶対に大丈夫だ」

「見事に根拠がねえんだけど?」

それにイマイチはっきりしない、と多由也はジト目でサスケを睨みつける。

「だけど、まあお前が言うなら………自信を持ってみるか」

実は一番多く演奏を聞いているサスケだった。

多由也はこいつがそう言うのならばそうなのかもしれない、と少し自信を持った。
裏に感じた想いは少し無視して。

「その意気だ、っつ」

笑いながら返事をするサスケ。だが言葉の途中で左手を抑えながら、うめき声を上げた。

「その左手………例の螺旋丸の後遺症か」

「ああ。まあ、俺よりもナルトの方が怪我は酷いんだけどな」

どちらも後遺症はあるが、性質変化と螺旋丸のコントロールの関係で、ナルトの方が怪我は酷くなっている、とサスケは説明をした。

「サクラの治療である程度は治ったし………と、何故に睨む」

横目でじろりと睨む多由也に対し、サスケは首を傾げた。

「知るか、バカ。それより角都とやりあった傷はどうした」

足止めした時に少し切り裂かれたんだろ、と多由也が聞く。

「ああ、それも一応は治してもらったが………」

「なんだ、何かおかしいところがあるのか?」

「いや、角都と対峙していた時だがな………身体がうまく動かなかったんだよ。月読の中ではもっと良い動きができたんだが」

「………月読ってーと、あの幻術世界で云々という?」

「そうだ。視線が合った相手を幻術世界に閉じ込める万華鏡写輪眼特有の幻術。一度捉えられたら最後、写輪眼を持たない者なら動けなくなるという最強の幻術だ。
………まあ写輪眼を持つ者だとしても、精神力や瞳力が低ければ何もできないんだが」

「なら話しは簡単だ。それだけお前の想いが強かったということだろ。それに、お前の兄貴―――イタチさんも、あるいは………」

“そうなること”。今の結末を望んでいたのかもしれない、と多由也は心の中だけで呟いた。

そう思ったのは、紫苑からとある話を聞いた後だった。

数年一緒に過ごした紫苑と、菊夜とイタチ。

紫苑はイタチに対して悪戯をしたりした。イタチは最初は無視をして、やがて苦笑しながらもそれを諌めはじめた。
数年も経てば流石に関係も変わる、そして過去の話も、ほんの少しだか聞かされたらしい。

だけど過去の話題、もっぱら弟のことについてだったと紫苑は苦笑しながら多由也とナルトに言った。


――――過去の思い出は人に語ることによって深まる。思い出す度に願ってしまうことは避けられない。
それが輝かしいことであればこそ、尚更だ。
それはイタチだって例外ではない。あの日々があったからこそ、サスケの提案を聞くようになったのかもしれない。

そのようなことを、ナルトと多由也は考えていた。

「生きることを忘れていた」、と紫苑は悲しそうにいった。伝え聞く過去から、それは真実そのままだったのだろう。
父母を、そして仲間を―――そこまで思いついた所で、多由也は首を横に振った。

かつて死に別れた母のことを思い出したからだ。今は遠い、あの温もり―――それを血に染める光景など。
例えとしても考えたくない。

それを体験したうちはイタチの心中はどうだったのだろうか。
決死の覚悟を持っていたはずだ。

「途中で止まって……どうした?」

あるいはの続きは?、と聞くサスケ。多由也はそれを見ながら、心の中でひとりごちる。










修行に修行を重ねながら鍛えてきた男、うちはサスケ。思えば奇妙な縁だ。

ウチは始めから今に至るまでの経緯を思い出す。

最初は敵だった。偶然から得た、自己を取り戻す機会。
選んだ道は奇跡的に途切れず、あるいは助けを得て。ウチハ次なる場所へと向かう権利を得た。

そこから同居することになった仲間。そして、うちはサスケ。
最初は分からなかった。だが互いに譲れぬ者があったことを知った時、何となくだが“近い”と感じた。

そしてある日の一日の終り。鈴虫が鳴いている秋の夜長。
ウチは癒しの笛を聴かせている途中、サスケにたずねた。

何となく聞いた、「どうして戦う」という問いに対し、サスケは部分的に誤魔化しながらも、自らの過去を語った。

それを聞いた時、ウチは“近い”と感じたその理由を知った。

ウチは遠き日の約束のため。血縁ではない母の遺言を果たすため、血塗られた手だとしても前に進むことを選んだ。音で人を癒すという夢を取り戻すために。
サスケは遠き日の約束のため。兄の真実を知って、その意志を知った後。必然として流れる定めを受け入れないと。
血塗られた一族の因業を断ち切らんとする道を選んだ。かつてと今、両方で大切な人を取り戻すが故に。

どちらも取り返しの付かないことがあって、そしてずっと一人だった。ただいまをいう相手もいない。おかえりを言う相手もいない。
気を許せる仲間もいない。ウチは無意識にサスケは意識的に、という点で違いはあれど、一人ということは同じだった。

再不斬には白がいる。ナルトにはあの二人がいた。

だがウチとサスケだけは、あの日あの隠れ家にたどり着くまでは、誰も居なかったと思う。

そうして似たような過去があり――――だけど諦めないと思った所も同じ。
だから励みになった。そして負けられないとも思った。

「そうだな。お前は夢を叶えたんだよな」

「………まあ、一応はな。だけどどうしようもなくなったら兄さんは自分の命を捨てても使命を果たそうとするさ」

だからまだまだ安心はできない、とサスケは首を横に振る。

「そうだな………そのためにその手の傷を、さ」

ウチはその答えを聞いた後、包帯を巻かれたサスケの手を指差しながら、言ってやった。


「その手の傷の痛みも、紫苑の経絡系の傷も、そして全部………ウチの笛で、癒す」

もう腹は決めたから、と。

多由也は笑いながらサスケに宣言した。











火の国の南。とある街道沿いに、珍獣の宝庫と呼ばれる土地があった。

そこは地理的に戦火が及びにくく、また戦略価値もない土地で、昔から今まで、一度も戦場にない場所だ。

そして戦場になったことがないから、そこに生息する生物もまた死ぬことがない。
他の土地では絶滅してしまった珍獣が、この森にはまだ形を残していた。


その中心部にあり、網の慰安地であるその場所は、秋の夜になると蛍が乱舞し、池の周辺全てが光に包まれているかのような幻想的な光景となる。
――――故に光ヶ池。網内部では有名な場所だった。






「………俺達には似合わない場所だ。そう思わねえか、根暗」

「根暗って言うんじゃねえよ、鬼人」

その池のほとりで、大刀を担いだ大男と、水色の着物を羽織った男が言葉を交わしていた。

「はっ、噂が途絶えて数年………どこぞの忍びに殺されたかと思っていたが、よく生きてたな。それも相棒と一緒によ」

「誰が死ぬか。そっちこそあの黒い化物に襲われたと聞いて、そのままおっ死んだかと思ってたぜ」

不機嫌な顔で二人は言葉を交わしている。何故不機嫌かというと、それは互いの傍にいる人物が原因だった。

「もーウタカタさん、喧嘩は良くないですよ?」

水色の羽織りの男の横に座る、年は12の少女。ウェーブがかかった金髪が美しく、また顔立ちも整っている愛らしい少女、名前はホタルと言う。
少女は霧隠れに帰ったと思っていたウタカタが一日をおいてまた網の方に戻ってきたのを知った時、大層喜んだ。

そしてこの池に一緒に来れる、と知った時もまた歓喜の声をあげた。

「ほら、再不斬さんも………そんな怖い顔をしないで」

隣の黒髪の美少女………白も、大刀の男を諌める。
その顔は女優だと言われても誰もが納得してしまう程に整っていて、物腰も柔らか。
黒い髪はまるで絹糸のようで、わずかに吹く風にもたなびき、その流麗さを周囲に振りまいていた。

「………お前ら、なんか気があってねえか」

このホタルと白の少女二人は、横の男の二人の意志を無視し、すぐに意気投合してしまったのだ。

複雑な内心を持つ男二人にとって、その当たり機嫌が悪くなる原因となっているのだが、ホタルと白は全く気づかないでいた。

「そうですね………まあ、素直じゃない男の人の相棒、といった点では気が合いますし」

「だから違うっつてんだろうが………おい鬼人、いい加減誤解を解けよ」

「いや、俺から見ても“そう”見えるが………」

と、再不斬がホタルを横目でちらりと見る。

だが幼い少女にとっては、強面のヤクザにじろりと見られたと同じ怖さがあったらしい。
ホタルはウタカタの背後に隠れ、その視線から逃れようとする。

「あー、ホタルさん。再不斬さんは確かに怖い顔をしていますが、根はとても優しい人なんで別にかみつきはしませんよ?」

「………お前も言うようになったな、白」

「ええ、愛の成せる業です」

複雑な顔をする再不斬に対し、白がにっこりと笑って返した。

「………なあ、いちゃつくなら他所でやれよ。頼むから」

「うるせえよ」

「はあ………何でこんなことに」

「裏の事情、ってやつだ。それより………なんだあの金髪の小僧は」

と、再不斬が両腕を怪我している金髪の青年を指差す。


「俺の方を睨んでくるんだが………もしかしてお前の知り合いか?」

「断じて違う」













一方、両腕を怪我している金髪と、その弟。二人も池のほとりにて腰を下ろしていた。

「ほら兄さん、危険人物にガン飛ばしてないで。それに腕を怪我してるし……大人しくしておいてよ頼むから」

「だってよ~サイ。あそこ、ほら、何かラブラブ空間展開してね?」

「いや確かにしてるけど………別におかしくないだろ。あのヤクザとお嬢の二人は昔からの相棒だって聞いたし」

「でも美女と野獣って感じだよなあ」

「あっちの二人は青年とロリコンって感じだけど………おっと、これ以上はやめようか」

聞かれたら殴られるしね、とサイは呟き口を閉じ、横にいるシンもそれに習う。

「………しかし、可愛い子多いよな。昨日帰った木の葉のあの娘達も可愛かったし」

「でも胸を凝視するのはどうかと思うよ? 黒い髪の女の子からは白い眼で見られていたし」

「いや、あの娘は何故か随時白い眼だったんだが………って日向じゃん」

納得、と頷くシンにサイは更なる突っ込みを入れる。

「いや胸をガン見されたら日向でなくても白い眼でみられるよ………それなら、あっちの碧色の髪の女の子は?」

「ん? ん~、ちっと胸が残念な感じにってぐほっ!?」

突如飛来した石が、シンの腹部に命中。
もんどりうって倒れるシン。

「やっぱり口は災いの元だね………」



くわばらくわばら、と言う声が倒れ伏す兄の後頭部に向けられた。















「あ、フウちゃん駄目だよ!」

「………気にするなキリハ。アタシはただ乙女の尊厳を守っただけだから」

額に青筋を浮かべながら、碧色の髪は隣の金髪の少女に笑いかけた。

「それに、援軍に志願するとか………無茶しすぎだよフウちゃん」

「なに、里にはお前の兄貴の影分身がいるからな………アタシがここにいるってことは奈良家の人達と火影以外には知られていない」

「そういうことを言ってるんじゃなくて………」

危険でしょ、とキリハが困った顔を浮かべながら言うと、フウは眼を閉じて首を横に振った。

「アタシにとっては木の葉に対する印象より、お前の命の方が大事だ」

「フウちゃん………」

「人柱力として、兵器みたいに使われることも嫌だけど………キリハが死ぬ方がもっと嫌だった」

だから援軍に志願したんだ、と。

フウはそっぽ向きながらもキリハに告げた。

「………ありがとう。それで、シ………シカマル君の家での生活はどうだった?」

「何故そこでどもる?」

「こっちの話! で、どうだった?」

「ん………朝起きたら朝ごはんが出てきた。薬の調合を手伝って………無茶な失敗をしたら怒られた。昼ごはんも夜ごはんも出てきた」

「………」

「布団も暖かかった。お日様の臭いがした。シカクさんは酒の飲みすぎだとヨシノさんにしばかれていた」

「そ、そうなんだ」

「将棋で勝負して、完膚なきまでに敗北した。飛車角抜きでもぼこぼこにされた」

「シ、シカクさん大人気ない………」

将棋でいえばシカマル君より強いのに、とキリハは首を横に振りながら眉間を抑える。

「………いや、それでよかったよ。手加減抜きの本気だった。そして、怒られて…………ホメられて………うん、嘘がなかったよ。愛想笑いも、遠慮も無かった」

人柱力としてではなく。

戦力としてでもなく。

「あの人達は………アタシを見ていた。ヨシノさんも、シカクさんも」

フウは本当に、心底嬉しそうに。含むものの一切ない、綺麗な笑い顔を浮かべて、キリハに告げた。

「でも、そうだな………アタシにも家族がいたらあんな感じだったのかな………」

でも、と。別の可能性を思いついたフウの顔が暗くなり、地面を見つめながらぽつりと呟いた。

キリハはその言葉を聞いたフウに、無言で抱きついた。

「キ、キリハ?」

「……いいから。女の子が暗い顔しないの。今は私とか、ほら………か、家族が居るでしょ? そりゃあ任務で一緒に居られない時もあるけど………」

「………家族か」

家族という言葉を聞いたフウは、木の葉に来た日を思い出した。

ほんの少し前だ、あれから一ヶ月も経っていない。
だけど、思い出せる光景があることに気づいた。思い出したい光景があることを知った。

それは日常の風景。キリハと一緒の布団で寝たり、家に遊びに来た山中いの、日向ヒナタ、春野サクラと一緒に寝間着で夜更かししたり。

今までにずっと知らなかった色々な事を、この僅かな時間の間で知った。
考えもつかない世界を知った。そして、人と一緒にいられるということ、その感覚を思い出した。

フウは、わずか数日の体験だけで、人の肌の温もりを思い出した。
睨みあうことなく続けられる関係があるのだと知ったのだった。

「やっぱり一人は寂しいな。一人より二人の方がずっといい。」

「うん………一人は寂しいよね。私も、友達や知り合いの人はいても………一緒に住む人はいなかったから。
私は生まれてから兄さんと再会を果たしたあの日まで、家族というものの存在を知っていたけど、実際に体感したことは無かったから」

「キリハもそうなんだ?」

「うん。私の方は友達は居たけどね。でも、無条件に甘えられる相手は居なかったから」

フウちゃんに言うと笑われるかもしれないけど、とキリハは苦笑する。

「いや、別にわらわないよ。それよりも、あのシカマルっていうのは違うのか? ―――兄妹というか、距離が一番近いって思ったんだけど」

「え、シ………シカマル君? そうだなあ………えっと………ど、どうなんだろう」

キリハは頬を少し赤く染めながら、混乱した。

色々あったせいだった。

「うう、でも見られたことなんか無かったし………ああでも小さい頃はお風呂に………わ、忘れろ私、忘れろ私!」

がんがんとキリハは自分の頭を殴り始めた。

「キ、キリハ?」

「そ、それはひとまずおいといて!」

「お、おう!」

「取り敢えず兄さんには感謝しなきゃね………私たちだけじゃ、フウちゃん助けるの、間に合わなかったかもしれないから」

「そうだな………突然現れて乱入して………登場の仕方とか色々、変な奴だけど助けてくれた」

「……え、変な奴?」

「うん」

シークエンスタイムゼロセコンド。フウはきっぱりと断言した。

「キリハを助けたいから連れて行って、って私が言うとあいつ………“あい分かった。我に任せい”って間髪入れずに答えてさ。そのまま火影の家まで走って行ったし」

「兄さん………」

何をしてるの、とキリハが頭を抱える。だけど顔には笑みが浮かんでいた。

「作戦もなあ………荒唐無稽かつ大胆も極まる。普通の忍びならば思いつかないぞ、あんなの」

ていうか普通、あの高度から飛び降りない、とフウが呆れた声を出す。

「でも助けられたからよかったよ………キ、キリハ?」

キリハは抱きついていた身体を離し、その肩を持ちながらフウの顔を正面から見つめる。

「そういえばお礼、言ってなかったね。ごめん、たすけてくれてありがとう………命拾いしたよ」

「うん、どういたしましてだ………とはいっても、アタシはキリハの兄貴を空へ運んだだけだけど」

「ううん、十分に助かったよ。あんなに高い所から飛び降りて奇襲、なんてのは相手も想定していなかっただろうし」

角都の術によって木が倒されていたから尚更だ、とキリハは説明をした。

「煙も効果的に作用していたようだしな………何にしろ、間に合ってよかったよ」

キリハに先に死なれるのはごめんだから、とフウは悲しげに笑った。

「私も、死ぬつもりはないよ。まあ死にかけてたから強くは言えないんだけどね」

「危なかったよな………服破かれて、心臓を取り出されかけてたし………っと、そういえば」

そこで、何かを思い出したかのように、フウが自分の掌をぽんと叩く。

「キリハの兄貴と一緒に助けに入った、もうひとり――――うちはサスケって言ったっけ」

フウが正面、少し離れた位置で兄と話している少年を指差しながら、言う。

「………うんサスケ君がどうかした?」

キリハの問いに対し、フウは困ったように頬をかきながら、ある意味で爆弾的な答えを返した。


「あの時な………サスケとやらも、その…………キリハの胸を見ていたぞ?」


















「っっっっっ!?」

「どうしたサスケ」

「いや、どこからともなく強烈な殺気が………」

右見て左見て。当たりを見回すサスケだが、その殺気の源が誰なのかは分からなかった。

「何も感じないが………」

気のせいではないのか、とイタチがサスケに言う。

「そうかな………つっ!」

右手を抑え、サスケが苦悶の声を上げる。

「………例の、螺旋丸に火の性質変化を加えた術の代償か」

「ああ。まあ、もうすぐ気にする必要もなくなるけどね」

「そうか………だが無理はするなよ。手は忍びに取って大事なもの。印を組むにも、刀を振るうにも必要となる」

「分かってるよ」

「それならばいいが………無茶だけはするなよ―――ーん、なぜ笑っているんだ?」

「いや、なんていうかさ………その、懐かしくて」

サスケはそっぽ向いて頬をかき、心配性なのは変わっていないんだな、と照れくさそうに言った。

「何がだ?」

「安心したってことさ。自覚が無いならいいよ。きっとその方がいい………っと、全員来たようだ」

言いながら、サスケは光ヶ池に入る道、その入口を方を見る。






――――そうして。


「すまない、待たせたな」


満を持して赤髪の少女が池に姿を現した。

右手には幼い頃よりずっと、肌身離さず持ち歩いていた笛があった。

その瞳は苛烈で、いつかのような濁った色ではなく、神神とした赤を、燃えるような赤色となっていた。

その場にいた全員が、その迫力に息を飲む。


―――本気だ。

何がどうというわけでもなく、理屈でも無い。

ただ赤の少女が本気で“何か”をやるつもりだからと察したが故に、皆は圧倒された。

それは、人の身の本気。

周囲の空気をも変えることができるほどに、混じりっけの無い意志の強さがなし得る所業だった。



「―――――」


その姿を見たサスケが笑みを浮かべる。


そして多由也の背後には紫苑達の姿もある。


後方にいたナルトは、全員が揃ったのを確認すると声をかけた。








「では、始めるとしようか――――経絡系の傷を塞ぎ、紫苑の眼に光を取り戻そう」




































あとがき

後半に続く。





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十六話・後 「多由也」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/29 05:00

紫苑の怪我、いや病気と言った方が適しているかもしれない。それは綱手の腕を持ってしても、如何ともし難いものであった。

チャクラを扱えないものでも、経絡系は存在する。血液と同じ、呼吸の動きに連動し、経絡系を伝って身体中のチャクラを循環させているのだ。
そうして、体内の陰のチャクラと陽のチャクラのバランスを保っているのだと、秘伝書には書かれていた。

そのあたりはマダオ師も白も知っていた。少し経絡系に詳しいものならば、誰もが知っている知識だ。
だが、経絡系を治療する方法は確率されていない。

それは何故かというと、他者がその者の経絡系に干渉する、ということは非情に難しいからだ。
まずは経絡系を把握する必要がある。見えなければ治療もなにもできないが故に。

だが、経絡系は普通、人には見えない。それこそ白眼や写輪眼などの瞳術が使えなければ見ることは困難となる。

その経絡系を把握して更に、だ。常時チャクラが流れている所に自分のチャクラを上乗せしなければならない。

それが可能か、と医療忍者に聞いてみたが、誰もが不可能だと答えたらしい。
精緻極まるチャクラコントロールが必要となる医療忍術―――他者のチャクラの流れまで考えた上で、行使が可能となる程、容易い術ではなかった。
それに、紫苑のチャクラは膨大も膨大。

その大河の如きチャクラの流れを全て把握し、そのまた上に誰かのチャクラを載せて治療を行うなど、およそ現実的な案ではないのだ。

つまり、他者からの干渉では、治療は不可能ということ。
ならばどうすればいいのか。

簡単だ、自らのチャクラを使い、治すしかない。
受継がれた仙術、巫女の血に流れる知識の中に、医療忍術に関するものもあった。
通常ならば、治療は可能だっただろう―――だが現状では、不可能だった。

チャクラを練ろうとしても経絡系が傷ついているため上手く練れないのだ。
また練ると同時、傷口に塩を塗るが如き激痛が襲ってくるらしい。

激痛の中、自らの経絡系を治療する―――この方法も不可能だ。

幻術を使い、紫苑のチャクラを外からコントロールしながら治療を施すという案もあった。だが、この方法も却下された。
巫女の血が成せる業だろう、紫苑のチャクラは幻術によって起きる強引なチャクラ流の制動に対し、無意識で抗ってしまうのだった。

強引なチャクラ流の制動は不可能―――ならば、と。

一人、別の方法を考えついたものが居た。

「意識的な干渉は不可だけど、音ならばあるいは可能となるかもれないね。人の無意識にも干渉出来る音ならば、紫苑のチャクラの流れを整えることができるかもしれない。
 それに、紫苑の笛には苦痛を和らげる効果がある」

そして、治療時の必要項目、もう一つある条件として五感の刺激というものがある。

味覚、触覚、嗅覚―――そして視覚と聴覚。

舌、肌、鼻、眼、耳の全てを刺激し、かつて恒常的に働いていた五感の動きも思い出させなければならないと、秘伝書には書かれていた。



「味覚は俺が。触覚は菊夜さんが。嗅覚はザンゲツに香を借りる。そして最重要となる視覚は――――聴覚、多由也の笛の奏でと相乗させる」


一晩考え、出た結論はそのひとつだけだった。






だからこその今、この場所を選んだ。

光ヶ池。蛍が多く出る場所。

ウチは夜の帳が降りた森の中の池のほとりで、ゆっくりと笛を持ち―――口に添える。

辺りには香の香りが漂っていた。ナルトがザンゲツから借りた、最高級の香の香りだ。
隣には紫苑。着物を着崩し、その背中を菊夜さんに触れられている。

失敗すれば二度目はない。一度使えば、音による干渉の耐性がついてしまうかもしれない、と言っていた。
経絡系の傷も徐々に広がっていると聞く。

この機を逃せば、恐らくはもう、治せまい。

そして治せなければ、あと数年で命が尽きる―――陰のチャクラが全身を犯し、紫苑は死ぬだろう。



あまりにも残酷な現実。ウチは治療の前にそのことを聞かされたが、震えることはしない。


(失敗すれば、ウチも一緒に死んでやる)



それだけの覚悟をもって、今この場に立っているからだ。
望んだ場がここにある。眼が見えなくなる程の重症―――それを治すのはウチの笛しかない、ということ。


かつての夢を思い出してからこの時この場に立つまでの事を思い返す。

手を抜いた覚えはない。必死で練習を重ねてきた。
これ以上ないと言える程に頑張ったこと―――あの隠れ家での修行の日々に誓おう。

あとは、自分の腕が足りるかどうかだ。


その時、視線の端に仲間の姿が見えた。

ナルトとマダオ師、九那実さんは紫苑の隣、サスケは兄と一緒に。
白と再不斬さんは池の向こう側。

みな、親指を上げていた。

“大丈夫だ”、とその笑みが告げている。


そしてウチは眼を閉じて、深呼吸をした。







演奏を、はじめよう。










~~



眼を閉じた赤髪の、元音の忍び。中忍試験の時に会ったこともある。

抜け忍である、と兄に聞かされた。呪印の呪縛を自らの意志だけで振りほどいたと言っていた。

そんな事が可能なのか、と私が思っていたが、成程確かにあの眼を見ればうなずけるものだ。

だけど、笛の音で本当に治せるのだろうか。

紫苑という女の子について、一通りは聞かされた。兄のかつての知り合いそしてシン君とサイ君と一緒で7年来の友達だと聞かされた。
大事な部分は隠しているようだったが、追求はしなかった。

本心では細部まで聞きたかったのだが、それは勘弁してくれと言われたので止めた。

ただ、病状については教えれくれた。経絡系の損傷――――サクラちゃんにも確認したが、普通ならば治せない、不治の病と同じようなものらしい。


それが、笛の音だけで可能となるのか。
正直、無理だとは思った。

幻術は五感を媒介にして、その術中に陥れることができる。

代表的なものは視覚で、写輪眼の瞳術や指の動きで相手を幻の中に引きずり込むのだ。

そして聴覚を利用した幻術は、その効果範囲もあいまって最高位と言える程に難度が高くなる。

自来也のおじちゃんでも、仙人モードにならなければ使えないと言っていた。


十年以上の修行が必要だろう。だから、無理なんじゃないかと、そう思っていた。








―――その笛の音を聞くまでは。









ゆっくりと奏でられる旋律。

夜の森の中、静寂の中で鳴り響いた笛の音は、一瞬で私の心を鷲掴みにした。



音が鳴る。笛の音一つ、またひとつ。

指の動きと連動し、清廉な音が光ヶ池を包み込む。


別に、特別難しいことをしている訳じゃない。

難解なフレーズもない。


ただ単純な曲調で繰り出される音の羅列。

だけど、どういうことだろうか。

何故、こんなにも胸が締め付けられるのだろう。




「蛍が………」






周囲の草薮に潜んでいた蛍が、光を纏いながら飛翔した。







「――――――」



誰も、一言も発せない。


皆お伽話の中に紛れ込んだと錯覚しているのだろう。




美しい旋律を背景に、闇の中光の粒が飛び回っている。


僅かに見える池は、綺麗な青色に染まっていた。






―――笛の音がより一層、高くなった。


















~~





「―――――」


紫苑の眼が開かれる。


ということは、痛みも感じているはずだ。

だが、紫苑は眼を開け続ける。眼前の光景から、眼を離せないでいる。



「紫苑」


「………ナルト」


「あとは、お前次第だ」


「――――分かった」


痛みはある。だけど、それを忘れさせる程の光景が――――




~~







着物を肌けた娘が、光りを発し始める。


だけど俺は、それを気にしてはいられなかった。


音―――綺麗な音。

一体これは何の冗談だろうか。こんな光景があるなどと、想像したこともない。

何より、音が――――美しすぎた。


素朴な旋律が、最近は思い出しもしなかった故郷を思い出させる。

過去の日、目の前で死んだ師匠を思い出させる。



「ウタカタさん………泣いているんですか」


隣にいるホタルが何事かを呟いたが、聞こえなかった。


ただ胸中にあふれるのは、師匠との修行の日々。

忍者として、そして人として生き方を教えられたあの日々が浮かんでは消え、胸の中に温もりを残して行く。

笑っていた。怒っていた。真剣に、向きあってくれた。


どうしてだろうか―――あれが、偽りだと思ったのは。あの笑顔を偽りのものだと思ってしまったのは。


『その力と共に生きろ』


「そうだな………師匠。アンタ、笑って――――逝ったよな」


拳を握り締める。裏切ったと思い込んだ過去の自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。


だけど今は、別に―――やれることがあると気づいた。


「ウタカタさん………?」


ホタルの声を背後に。



俺は池に近づき、懐から愛用のキセルを取り出した。

















想起したのは温もり。

今は昔の物語だった。


気づけばアタシは、池に向かい歩き始めていた。



「…………」


池のちょうど向こう側にいる、水色の着物を羽織った男と視線が合う。

六尾の人柱力、ウタカタという男だ。


「…………」


互いに無言のまま、頷いた。

一体、何がやりたいのか。


心に直接訴えかけてくる、この夢のような旋律のお陰だろうか。
打ち合わせることもなく、言葉を交わすこともなく、互いの視線を合わすだけで理解した。


不思議な感覚だった。
目の前の誰も彼もと、心が通じているかのような感覚を覚える。

例え錯覚だとしても、今は疑うことはしまい。アタシはきびすを返し、更に歩く。

「…フウちゃん?」

すれ違うキリハ、声に振り返ることなく、アタシはそのまま池の横にある草むらの前に立つ。


辺りはまだほの暗い。池の上にある森の傘によって月光が遮られているせいだろう。

乱舞する光の粒達―――蛍の灯りに照らされていても、まだ闇は深かった。

夜目がきくアタシ達忍びでもなければ、何も見えないほどの夜の闇の中。

だけど、それでも音は、鳴り響いている。


「――――」

誰かが息を飲む気配を感じた。ウタカタとやらが始めたようだ。

ならば、アタシも始めようか。



例え無窮の闇を以てしても、消すことなどできない謳うが如く。

鳴り響く音は暗闇の中にあってなお、その深みを増していく。


ならば、と思ったのはなぜだろうか。

この血塗られた七尾―――巨大な羽根をもつ、かつては“蟲の王”とも呼ばれていた尾獣。
その力を今この時だけ使おうと思ったのは、何故なのだろう。

夢幻の光景に、更に彩りを加えようと思ったのは何故なのだろうか。


明確な理由はなかった。きっと、こうした方が良いと思っただけだった。


そして今は、それだけで十分だと思えた。











~~








根暗野郎は何を思ったのか、池に向かいシャボン玉を吹きつけた。

六尾の人柱力特有の忍術――――霧で聞いた覚えがあるそのシャボン玉は、池に入っても割れることなく、そのまま沈んでいった。


そして、浮かび上がった時、そのシャボン玉は蒼すぎる程に青い池の水を内包していた。

蛍に照らされ、僅かに蒼く輝いた。



「――――」


闇の中、僅かに輝く青い光。

宙に浮かぶシャボン玉、そのの中に入っている池が蛍の光に照らされているのだ。

筆舌に尽くしがたい程に綺麗だった―――らしくないとは分かっているが、そう思ってしまう程に目の前の光景は鮮やかだった。

空の青よりも蒼く、水の青よりも蒼い。青の宝玉が、闇の中を駆け巡っている。


やがて数を増やし、群青色のシャボン玉が次々と宙に浮かんでいく。

目の前に映る光景との相乗効果だろうか――――多由也の演奏も、いつもより綺麗に思えた。


となりに居る白に聞いてみようと、顔を横に向ける。


「………蛍が?」


その時、白が呟いた。








~~






青の光に眼を奪われて、その少し後だった。


ばらばらに飛び回っていた蛍が、突如その動きを変えたのは。


まるで何かに操られるかのように動きを変え――――統制された動きで、シャボン玉の周りを飛び回っている。


そしてその少し後、僕はあることに気づいた。


「音に、合わせて………?」



この空間を満たす音韻、その一音一音に合わせ、蛍は飛びまわっているのだ。


リズムよく跳ね回る鮮やかな青の光と、流れ淀みなく連なる音の色彩が合わさる。




(母さんに、見せたかったな)



気づけば、僕は隣にいる再不斬さんの手を握っていた。






~~




幻視する。幸せな光景を幻視する。


兄弟は共通して、とある光景を思い出していた。

朝の食卓、そして修行。

昼のおにぎり、そして修行。

夜の食卓、そして宿題。

任務を挟んで、家族の団欒。

父、うちはフガクと母、うちはミコト。

何でもないような光景だけど、今は昔となってしまった風景――――もう二度と取り戻せないものが、二人の眼に浮かんでは消えていく。

それは幻であることには違いなかった。だけど胸の中、記憶の底に確かに残っているものだった。


それは確かに、二人の中に残っているもの。思い出して泣ける程に、大切だったもの


兄と弟は誰にも見られないように眼を伏せ、その両目の写輪眼から涙を流した。




――――流れる音色は更に重ねられ、和音となって大気を震わせる。



~~





「――――」

ザンゲツは背を岩に預け、シンとサイを両隣に置きながら―――静かに涙を流した。

ザンゲツが思い出した過去とは、孤児院の日々と――――幼馴染のこと。

網に入って数年、戦い抜いた日々中で失った、3人の親友についてだった。

初めてであったのがいつだったか思い出せない。気づけば一緒にいて、馬鹿をやって笑い合っていた。

友達というよりは家族だった。
志を同じくし、その半ばにして死なせてしまった者たちのことを幻視していた。







~~








「――――――」


池の外、森の中の暗闇で、気配を殺していた誰かが、息を飲んだ。



頭上では、月が輝いている。






~~









幻想の中、わらわは自らの傷を埋める作業を始めた。

傷だらけになった経絡系にチャクラを流しながら、その傷口を塞いでいくのだ。

(これは……)

そうして、気づく。信じがたい程にチャクラの流れが流麗になっている。

これならば、いけるかもしれない、と更にチャクラの流れを強くする。

「――――っ」

ささくれだった節を、柔らかく包み整えていく。

だがその途中、痛みを感じた。以前試した時程ではないが、その痛みによって集中力を僅かだが乱される。

その時、チャクラが霧散する、集中力が途切れたことによって、チャクラが消えてしまったのだ。

同時、わらわの視界は再び闇に閉ざされた。


再度戻った闇の中、私は顔を顰めながらも歯を食いしばり、治療を再開した。

再びチャクラを練り、自らの経絡系に流す。

当然、先程と変わらぬ痛みはあった。

辛い、痛いという想いが胸の中に充満する。だけどわらわには、それ以上に負けたくないという気持ちがあった。

(――――だから、どうした!)

いつかに聞いた、ナルトの言葉を反芻する。

痛みも何もかも関係ない、私は自らの傷を今ここで塞いで行くのだ。
痛覚が脳天に突き抜けるが、それでも耐えられない程ではない。痛みのせいか、眼からは涙が溢れてくるが、そんなことはどうでもいい

以前は痛みのあまり気絶してしまったが、今回はそこまででもない。
今この状況ならば、意識を保ったままで治療ができる――――それが分かれば、あとはどうでも良かった。

(これが、現時点での最善だということ。ならば後は、わらわが成し遂げなければならぬ)

本来ならば、あの薬を飲んだ時点で死んでいた筈だ。
だがわらわは奇跡的に生き延びた。光を失いはしたが、大きな力にはリスクが付き物となるのは当たり前――――死なせたくないという望みを成し得た代わりに、その報いを受けたのだと納得していた。

しかし今、数奇な縁と運命の果て――――あと一歩進めば治せるかもしれない、という所までたどり着いていた。

調べた者、この場を用意したものに感謝を捧ぐ。そして眼前の光景――――聴覚を媒介にした幻術のおかげで戻った、一時だけの視覚に映った光景。

美しい音楽に、美しい光景――――2度と、失ってなるものかという想いを生み出させる。

挫けぬ心が背中を押してくれる。ならば、出来ることをやらなければいけない。皆が望み、わらわも望む最善の結末を。

「――――っ!」

チャクラを練り、流し、傷を塞いでいくに連れ、それまでは薄ぼんやりとしていた視界が、徐々に視界が鮮明になっていく。


その眼に映る幻想的な光景。それをまたみたいと思ったと同時、わらわはチャクラの流れを強めた。


同時、多由也の音色も更に美しさを増した。

曲は変わらずに、音が三つ、重なったのだ。

和音だの奏でが痛みを和らげてくれる。見れば、赤髪の演奏者――――多由也も全身からチャクラを発していた。

目に見える程に高まったチャクラが、笛に集中していた。

多由也の両目は開かれ、目の前の幻想的な光景に呼応するかのように、更に音色を冴え渡らせる。



鋭いのに柔らかいという矛盾――――有り得ない音色が、大気に広がり、その場にいる者全ての心を打っていた。

見れば、誰もが一言を発せないようだ。


『―――紫苑』


(っ母上!?)

治療を続けながら、心中で叫ぶ。

ほんの僅かだが聞こえた声と、幻視した姿

呆然と、呟く。今一瞬、死んだ母の姿が視界に映ったようだった。


「………?」


そこで、気づいた。

(視界が―――――)

チャクラの流れを止めて、確認する。

チャクラの流れが、流麗に、滞りなく流れて行く。



気づけば、両の眼からは涙が溢れている。



鼻に香るは、花香の香り。嗅いでいるだけで、全身が休まるようだった。

先程食べた見事なラーメンの味は、未だ舌に鮮やかに残っている。

背中、むき出しになった肌には菊夜の手が添えられていた。護衛に家事に務めたその手は少し荒れていたが、それも全てわらわのため。だからこの手が何よりも好きであった。

始めから変わらず、耳に聞こえる―――いつまでも聞いていたいと思える程、美しい和音の奏でが心を揺さぶる。いったいどれだけの練習を重ねれば、こんな音が出せるというのだろうか。

そして7年ぶりに取り戻した視界に映る、この世のものとは思えない程綺麗なそれ。六尾、七尾の力を持つ二人が、打ち合わせもなく即興で生み出した奇跡ともいえる青の光の色彩の乱舞。
蛍が踊り、青が煌めき、粒と成って音と共に乱舞する。

それはまるでお伽話の中の光景だった。



――――そして、そのどれもが鮮明に感じられた。



全て、淀みなく――――チャクラを流さずとも、消えることはない。



今まで身体の中に感じていた違和感が、いつの間にか綺麗さっぱり消えている。





五感の全てが、正常に働いているのだ。

それを、理解した。




「やった………」


わらわは振り返り、菊夜の顔を見た。


「紫苑様、まさか………」

呟き、確かめるように掌をわらわの眼前に出してくる。

「――――ああ」

わらわ笑顔で、頷き、その手を掴み、握りしめた。

「――――っ」

すると菊夜は両手を顔に当てながら、静かに泣き始めた。

周りに迷惑をかけないよう、声を押し殺し、泣き続ける菊夜。

だけど私はその両手を掴み、下に降ろさせる。

泣くのは後でいい。ただ今は、この奇跡の光景を見ながら感謝をするべきだと思ったのだ。


菊夜は静かに頷き、傍らに立つ。



そして――――もう一人。


「やったな、紫苑」

声がかけられたと同時、頭に手をおかれる。

その声だけは聞こえていた。懐かしい気配を感じてはいた。

だけど、この眼で見るのは7年ぶりだった。


「ああ―――やったぞ、ナルト」


鮮やかな金の髪――――湖面に負けないほど、澄んだ青色の瞳。

姿形は多少変わったが、その眼に秘められた意志は7年前と変わらず、そこにあった。

気づけば、シンとサイも隣にいた。

7年も経ったのだ。いくらか大人になり、色々な所は変わっているとは思った。

だけど、二人とも背は伸びてもその根にあるものは変わっていないようだった。

ナルト、シン、サイ、そして菊夜。

7年の時を越えての再会――――本当の意味での再会が、今ここに果たされたのだと知った。











~~










(まさか…………)


私は演奏を続けたまま、横にいる5人を見る。

5人は笑い合っていた。巫女のチャクラも今は収まっている。だけど、光は取り戻せたようだ―――眼の動きで、それを確信した。




(成功か!)


演奏を続けながら、私も笑みを浮かべた。

この2年は無駄では無かったのだ。そしてあの時の選択は無駄ではなかったのだ。

心の底からそう思えた瞬間だった。


(あと、少し――――)


そして演奏の方も終りに差し掛かっていた。

最終楽章だ。


目の前い映る素晴らしい光景を見つめながら思う。


最高の舞台だったと確信する。



誰も彼もが泣いている。

誰も彼もが笑っている。

そのどれもが素の感情で、意図も含むものも無い、純粋な感情の動きだと分かる。


(つまりはウチの奏でた音が、人の感情を動かしたってことだ)



それも良い方向にだ。



―――人はそれを、“感動”と呼ぶ。

芸術を嗜む者達のとっての基本であり、最終目標とも言える。



(へっ、奏者冥利に尽きるってやべ、ウチも泣きそうだ)



まだ泣いてはいられないと、奮起する。


そしてウチは目の前の二人―――ウタカタとフウと言ったか。

その二人に視線をあわせ、最後に何をやりたいのかを視線だけで伝える。

間もなく、二人は頷きを返してくれた。


(どうやら伝わったかようだ………うん、こっちの術も成功したようだな)



今まで一度も成功しなかった術。

秘術・五音――――対象の五感を鋭敏にする術に加え、対象のチャクラ流を整える術。

そして奏でる音に術者自らの意志を乗せ、共感させる術。



(“秘術・七音”―――初成功、だな)



ちなみに曲の中に込めたのは、大切な人との思い出――――死んでしまった母との思い出だった。
かつての光景を思い浮かべながら音色に載せ、音色とした。


それを聞いた皆は、各々の心の内に投影したようだった。



見るに、それとは別とした思いもよらぬ効果を生み出しているようだ。

でもそれも悪いものではなさそうだ。




(それよりも最後――――終幕だ)



やがて、終曲を迎えた笛の音。







音が途切れると同時、ウチは視線で合図を送った。



そしてシャボン玉が弾け――――池の水は優しい霧雨となって周辺へ散った。


残る蛍は、空へと昇っていく。



シャボン玉は池へ落ちて、蛍は空へ――――天上天下に散らばる蒼の雨の光の軌跡。


どうやら思い通り、度肝を抜けたようで、皆が呆けた表情を浮かべている。



(さてさて、これにて終幕。一夜の夢も終り…………あれ?)




演奏が終わった途端、ウチの全身から力が抜ける。




(あー、チャクラ切れ寸前か。このままじゃあ―――)


倒れちまうな、と眼を閉じたすぐ後。


抱きとめる、誰かの姿が見えた。




「………危うく死んでいたところだぞ。本当に無茶をする」

サスケの声だった。チャクラが少なくなっているのを、察知したのだろう、倒れると思ってここまで駆けつけてくれたようだった。

そんなサスケに対し、ウチは小さい声で言葉を返す。

「うっせ。でも、楽しめただろ?」

「ああ、これ以上ない程にな………それに、色々と思い出せたよ」

ありがとう、とサスケは照れくさそうに言った。

「どういたしまして、だ」


ウチは礼に言葉を返し、そのまま抱きとめているサスケの肩に顎を置いた。

そしてこの2年でいくらか厚くなった背中に腕を回して――――思いっきり抱きしめた。


「多由也………?」

「しばらくは、このままでいてくれ………」


演奏の最中、思い出した母の笑顔――――演奏中は泣くまいと我慢していたが、どうやら限界のようだ。



「―――――」

初めて出会った日、別れざるを得なかった、あの日。

病床の母の最後の顔を思い出してしまったウチは、声を押し殺して泣いた。


「………っ」


あの日、ウチを置いて死んでしまったあの人を思い出す。
唐突な別れを信じられず、胸にぽっかりと空いた穴をどうにかしようと、無意味に笛を吹き続けたあの日。

ヘタクソだった笛の音。あかね色に染まった空を幻視する。
自分にも術の効果が及んでいるのだろう。妙にはっきりと思い出すことができた。

『音楽っていうのは色々な感情が含まれているんや。作曲をする者は無数にいて、その想いも様々。星の数程にある。
 せやけど演奏者は、その多くを由として受け入れて、音色の上に乗せんとあかん―――そう考えたら、あんたは音楽をするために生まれてきたのかもしれへんな』

笑い、言う。死んでごめん、と泣いた。

『すまんけど……さよならや、多由也――――できれば、その名前を誇れるような生き方を選びや』

そう言い残して、死んだ母。

血の繋がりは無かったが、一緒に過ごした数年は今でも忘れない。大蛇丸の呪縛から抜け出せたのも、あの日々の思い出があったからだと思う。
生きる方法を教えてくれた。笛を教えてくれた。

でも、あまりに呆気無く死んでしまった。もっと色々なことを教えて欲しかったのに。
どうして死んでしまったのかと、今でも思う時があるほどに、大切だった。

だけどもう、口に出しては言わないだろう。母は死んだ。そして今、ウチの中にその遺志は残っている。

それに、後ろばかりを見るのは駄目だろう。何より、今のウチを支えてくれているこの温もりに悪いだろうから。


ただ、この笛と音楽を残してくれたことに感謝をしながら、溢れてくる感情に身を任せて。


悲しいという感情を誤魔化さず、思うがままに泣いた。






ぽんぽん、と背中を叩く手が、憎らしくも心地良かった。

































あとがき

錯覚であり、錯覚でなし。

無様に泣いてわめいて強く成れ。

多くを由とする也。

そんなお話。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十七話 「桃地再不斬×白」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/04/26 00:05


紫苑の治療が終わった後、俺は再び屋台を開いていた。

夜ももう遅く、客は二人だけしかいなかったのだが、今に限ってはその方が良かった。

「はいよ、お待ち」

どんぶりに豚骨のスープを注ぎ、湯掻いた麺を放り込む。

上に載せるのは青々としたネギと、しゃっきりしたもやし。そして、油の乗った豚の角煮。

豚骨スープに豚の角煮―――火の国の宝麺を、再不斬の前に置く。


「こっちもだ」

白には、これ。

木の葉の隠れ家にいたころ共同で開発した、木の葉風ラーメン。

横にはいなり寿司も付けている。網の職人さん達もよく頼む、定番の定食だ。

「………おう」

「ありがとうございます」

無愛想な再不斬と、愛想の良い白が同時に返事をする。
やがて二人は無言のまま、食べ始めた。

麺をすする音、スープを飲む音が聞こえる。
俺はその音をBGMとして、何かを言いかけようとして―――やめた。

明日、二人は霧隠れに戻る。3年に及ぶ協同関係も、それで終りということになる。

だけど、これが今生の別れと言う訳でもない。それに、何か別れの言葉を交わしてしまえば、それっきりになってしまうような気がした。

だから、俺は黙りながら二人の食べる様子を眺める。

「………」

「………」

二人も無言のまま、一心不乱に、ラーメンを食べ続けていた。

だけど、白の眼の端には、涙がにじんでいた。それが、どんぶりの中にこぼれ落ちる。

「あ……あははっ、今日は塩辛いですね、このラーメン」

「ああ、そうだな」

俺は白の言葉に対し、笑いながら答えた。目のはしに浮かぶ水と、赤くなっている鼻には触れないでいた。

「………そういえば、客としてこの屋台で食べるのは初めてだったか」

「そう言ってみれば、そうだな。隠れ家で食べることはあっても、屋台でこうして面と向かったことはないかも」

手伝ってもらうこともあったが、この二人が屋台の椅子に座り食べているという光景は見たことがなかった。





食べ終わった後。再不斬は箸を置き、一言だけいった。

「ご馳走様だ………何がおかしい」

「いや、初めて言ってくれたなと思ってな。どうした風の吹き回しなのか、聞いていいか」

「殊更めいたもの言いをするな――――分かっているんだろうが」

「もう、立つのか」

「ああ。夜のうちに距離を稼ぎたい。お前以外の面子との別れは済ましたからな」

「そうか………サスケはなんて?」

「“今までありがとう。次に会う時は、その大刀を向けられないような戦場の外になることを祈っている”、だとよ。俺も、あの天才小僧を戦場で相手するのは正直ごめんだからな」

まあ場合によってはそれも有り得るかもしれないが、と言いながら再不斬は肩をすくめた。

「多由也さんには二人でお礼を。お陰で傷も塞がりました、何より――――素晴らしいものを見せて、聞かせてもらえましたから」

笑いながら白が言う。

「形には残らない、一夜の夢の宝物、ってところかね」

「正に夢のようだったがな。柄でもないが、あれは一生忘れられん光景になりそうだ」

「ほんと柄じゃねーな。まあ、全面的に同意するけど」

まるでどこかの国のお伽話の中に紛れ込んだようだった。

青の光の乱舞―――幻の如く光る虫の演舞。
綺麗という言葉だけではとうてい足りない、言語を絶する美しさだった。

「演奏の方も、いつもより冴えに冴え渡っていました」

「正真正銘掛け値なしの全力だったろうからな………あ、ちなみに演奏のお代は?」

俺は冗談のつもりで白に訪ねてみる。すると、白は笑いながら渡しましたよ、と答えた。
予想の範囲外だ。

「僕の秘蔵の“もの”をひとつ、それもとっておきのものを一つプレゼントしました。状況次第によっては、これ以上ない武器となりますよ?」

「おいおい、穏やかじゃないな」

「いえいえ万が一に備えて、ですよ。また生きて会うことを願って―――一番長く一緒にいた同姓、親しき友への贈り物です。
 まあ友達への初めてのプレゼントが“あれ”というのも、微妙なところなんですけどね」

「……あれ、って何?」

「秘密です。多由也さんにも聞かないで下さいね」

台無しになりますから、と白が笑う。

「りょーかいしました。あと、キューちゃんとマダオには?」

「ああ、あの金髪オヤジには一応例は言っておいたぜ。天狐の嬢ちゃんにも、別れは告げた」

「僕の白無垢姿を見たかった、と二人とも泣く真似をしていましたが」

「両親か」

「“むしろ僕が縫う”、と金髪オヤジの方は眼を血走らせていたがな」

「職人か」

「でも眉なしのセーラー服だけは勘弁な! と腕でばってんを作っていましたが」

「天丼か」

突っ込みどころが多すぎる。そう思った時、どこからかお前がいうなという声が聞こえた。

「でも、白は明るくなったよな」

「そうですか?」

「ああ。初めて会った時は、こうなんていうか………触れたら壊れそうな脆さがあった」

「………そう、かもしれませんね。でもそれはきっと、ナルトさんとか、サスケ君―――多由也さんのお陰だと思います。
 みんな我武者羅で、前を見続けて―――“それがどうした”を地で行っていましたから」

僕も、負けられないと思ったんです。
白はそういいながら、笑った。

「みんな辛い過去があって、それでも前を向くことを諦めずに――――それぞれの道を歩いていました。だから僕も、と思ったんですよ」

「ちなみに白の道は………って聞くまでもないか」

そう言いながら、俺はちらりと隣の再不斬を見る。

「はい。再不斬さんの道に寄り添って、歩いていこうと思います」

笑顔で答える白。俺はその顔と答えを見て聞き、安堵した。

彼女は再不斬にただ追従して道を進むだけではなく、寄り添って一緒に歩いていこうというのだ。
つまりは自分の道を明確に見つけたということ。自分は道具ではなく、自ら道を進みゆく人だということを思い出したのだ。

「………この果報者が」

美人かつ気立て良く、一流の忍びとしての力量も備えている。

ちくしょう、パーフェクトじゃねえかウォルター!


「………白。あの小娘………ホタルといったか。そいつが呼んでいるらしいから、少し行ってやってくれ。
 さっき聞いたんだが、あの根暗野郎が霧隠れに戻ることをまだ納得出来ていないらしい」

「………分かりました。少し、行ってきます」

僅かに一瞬。再不斬の言いつけに対し訝しむ様子を見せた白だが、すぐに元の表情に戻った後、席を立った。

「すまんな」

「謝ることはないですよ。それでは、また」

言いながら、白は去っていく。






そして屋台のカウンターを挟んで二人、俺と再不斬の二人だけとなる。

「察してくれたようだなあ。相変わらず空気を読むのが上手い」

「茶かすな――――白が戻ってくるまで時間もない。単刀直入に話すぞ」

前置き、再不斬は最短距離で話しを切り込んできた。


「何故、“今”だ」


嘘は許さない、といった眼で再不斬は問いかけてきた。
並の忍びであれば、その眼光だけで死ねるだろう。

俺はその問いに対する答えを、迷うこと無く口にする。

「何故じゃないよ。“今”しかないからさ」

深呼吸。一息吸って、俺は続きの答えを口にする。

「状況が重なった今だからこそ、二人は霧に戻ることができるんだ。今は戦の前の緊張状態………軍事力でいえば木の葉、岩、雲よりも一歩劣る霧が、二人の帰参を拒む筈がない」

平時ならばいざしらず、と俺は肩をすくめる。
だが、再不斬は険しい表情を崩さず、続きを問うてきた。

「そうじゃない、違う………誤魔化すんじゃねえ。俺が聞きたいのは、最大の敵を前に戦力を減らす――――遠ざける。その、理由だ」

「………簡単に言えば適材適所、かな」

「ああ?」

「昨日、話し合って分かっただろう………あの化物を前にして、数は意味を成さないということを」

あらゆる攻撃を遠ざける、という究極の防御術。同時衝撃を与えられるだろう、避けようもない究極の攻撃術。
加え5行、火水雷土風を自在に駆使し、手裏剣影分身などの忍術をも使いこなす。

そして今は十尾を従えているため、スタミナ、チャクラ共に底なしだろう。
極めつけは一度見た術を瞬時に理解する、輪廻眼。

紫苑から伝え聞く所によると、高度な結界術の行使も可能だとか。


それらをふまえた上で、昨日カカシが犠牲になったあと皆で十尾打倒の案を出しあったが、どれも確実性に欠けるものばかり。
小一時間話しあったが、結局のところ確たる結論はでなかった。

「確かに、相手は百戦錬磨の上、万能に近い能力を持っている。半端な小細工は通じそうにないがな」

逆にこっちが術中にはまる可能性が高い、と再不斬は忌々しげな表情を浮かべる。

「幻術の腕も超一流だからな。数で挑んだら同士討ちを誘発されそうだし、数の有利による死角も生まれる………それを逃す相手じゃないだろう」

無意識の油断が致命的になる。相手も、それを熟知しているはずだ。

「手数の多さと豊富な札の種類―――正真正銘の最強。確実に勝てる手段を講じなければ、諸共滅ぼされるぞ」

勝てるかもしれない、では駄目だ。半端に手を出せば腕ごと持っていかれかねない。
確実に心の臓を抉り込めるような、そんな戦術を使って挑まなければ相手にかすり傷ひとつもつけられないだろう。

「………これだけの面子が揃っていても不利だってのは信じられんがな。だが、それでも勝算はあるはずだ」

「だけど、な。相手は小回りがきくし………万が一挑んだとして、相手がこちらの賭けに乗ってくれるかどうかも分からない」

決死の特攻も、相手が乗ってくればこそだ。
透かし、逸らされ、逃げられればそれまでだ。最強の戦力を揃えた上でガチンコを挑んでも、肝心の相手がその勝負を受けてくれるという保証はどこにもない。

その隙に違う所を、弱った箇所を攻められれば………それこそ、最悪の状況に成りかねないからだ。

相手は一人。数では最弱。だが、強みもあるということ。
潜入も潜伏も不意の急襲も全て思いのままになり、それを成せるだけの能力も備えている。

最強かつ最凶、最悪のテロリストだ。
やっていることは世界のためかも知らんが。

「なら、どうするってんだ?」

再不斬が不機嫌に問う、その疑問に対して俺は笑みだけを返した。

予てからの草案はあった。昔から考えていた、最終手段。

絶対に避けられない――――然るべき場で、放ち得る最強の一撃を、叩き込むこと。
防御もくそもない、全ての力を押し切れるだけの、一撃を。

クリアしなければならない条件が多々あるんだが、この分だとなんとかなりそうだ。

「………お前、まさか………使うつもりか?」

俺の言いたいことに気づいた再不斬が、こちら見てくる。

視線が問うていた。

“正気か”と眼で聞いてくる。

「うん、まだどうなるかは分からないけどなあ………どちらに転ぶかは、今はまだ分からない、かな。それとは別に、しなければならないこともあるし」

俺には絶対にできないことだ、と付け加えると、再不斬は不承不承といった様子で首肯を見せる。

「今は、あの野郎に付け入る隙を与えないように、各里の内部の暴走を防ぐ」

「そのとおり」

一発で正解を言い当てる。再不斬も、頭はきれる。流石にこの状況で取るべき選択肢を誤るような間抜けではない。

「つまりは別の方向からの干渉を防ぎ、余計な手が入らないようにする。だから俺達で霧隠れの暴走を防げ、ということか」

「全部正解。それは誰かがやらなければならないことで、俺には到底実現できないことだ――――その当たりの背景は、分かってるだろ?」

対外的には未だ九尾の人柱力となっている俺だ。各方面の説得といった分野には、最も適さない人材ではなかろうか。

「人に説得を行っていう人間は、その前に必ず素性を明かさなければならない。そして俺が素性を明かして説明をすると、脅迫にも成りかねないし、余計な火種を生み出さないとも限らない」

相手の印象が不明な今、迂闊な賭けは何よりも慎むべきこと。だから俺では不可能なのだ。

「………お前は良くも悪くも、火薬のような存在だからな」

「言うに事欠いて火薬? ………でも否定できないな、くそ」

事実とも言える。

「理屈では分かっちゃいるんだがな………」



「分かってるだろう? 戦争が起こるのはこれ以上ない程に不味いんだよ。恐らくは開戦となった時点で、忍者の世界は終わるだろうから」

ペインと十尾………あの化物共を分析した後、俺達はそういう結論に出した。


“あの化物共は、戦場の中でこそ真価を発揮する”
 

戦場のような混沌とした場で、十尾の欠片と死体の人形を駆使したゲリラ戦を展開されたらどうなるか。

まず、戦線が混乱し、各勢力が入り乱れた泥沼の消耗戦になってしまう。

そのまま戦死者が増え、死体の数も増える。そして、ペインが操れる人形の数も増えるということだ。相手側の戦力がネズミ算式に増えた結果、次第に戦域は拡大していくだろう。

あちこちで戦闘が起きて、あちこちで死人が出る。ペインはどうだか知らないが、忍びという輩は非常時ならば一般人を巻き込んでも戦闘を行う。

そうすれば、必然的に負の思念は増大しようというもの。

時間と共に十尾の力は増し………最後に待っているのは、負の思念を吸収しつくした、十尾。本格的な覚醒に至る。

想像できる事態を並べた後、再不斬は忌々しげに舌打ちをした。

「そうなれば、打つ手は無くなるだろうな。太古の時は十尾を封印し得る可能性をもつ人間………仙人の肉体と眼を持つ者がいたから、滅びずにすんだんだろうけど………今はいないからな」

つまりは、十尾が完全に復活すればこちらに抗う術がなくなる、ということ。

「それに、例えペインの目論見を阻止できたとしても、第四次忍界大戦が起こってしまえば―――何もかもが台無しになっちまう」

他はどうだか知らないが、それは俺にとっての最悪の事態。なんとしても避けたい所だ。
取りうるべき策は一つ。敗北と成り得る可能性の種を潰していくこと。

「お前は―――そうして、最後に………事態を真っ当に終息させようってのか?」

無茶だ、と再不斬は言う。

強引な手を使ってでも、何とかするべきだと反論する。

「半端な方策は意味がないぞ―――あれもこれも、と望んだとして、全部すんなりと行くはずもない」

再不斬の呆れたような声。
それに対し、俺は苦笑を返さざるを得なかった。

「まあ、正直………今の事態は予想外も極まるものなんだよなあ」

事前知識も無駄になったし、前もって用意していた策も、あの規格外コンビ相手では役には立たないだろう。

「だから――――何もかも真っ当に終われるなんて、思っちゃいないさ。埒外の相手をするには、足りない部分がある………」

不足部分を埋める“もの”が必要になる。

「代わりに必要となるものがある。綺麗事だけじゃあ、人は殺せない………“分かって”、言ってるんだろうな?」

「ああ」

「なのに何故手前は、逃げるという選択肢を選ばない?」

「………今回はなあ。今までのどれより、何より、逃げられない理由があるんだよ」

だからこそのもう一方さ、と俺は視線を再不斬に合わせながら答える。

「いつだって目の前の扉二つ―――開けられるのはひとつだけだろう?」

壁についた扉―――右か左か。どちらかしか開けない。
力尽くで乗り越えるという手もあるが、今回の壁は天まで届く高さだ。
乗り越えることは不可能。ならば、あとはどちらか一方を選ぶしかないのだ。

間違えた先に待っているのは、底なしの奈落だとしても。選ばなければいけないときがある。

「………今の状況じゃあ足踏みもできねえ、か。だが、一つ腑に落ちない点がある」

再不斬は俺の眼を見据え、問うてくる。

「そこまでお前が拘る理由ってなあ、なんだ? どうも尋常じゃないことみたいだが」

「………顔見知りを死なせたくない、じゃあ駄目か?」

「だめだな。この3年、お前と一緒に居た上でそれなりに分かった事もある。それも本音だろうが、その底の下にもうひとつ理由があると見たぜ?」

「あー………なんといえばいいのか。そうだな………」

言葉を思索しながら、俺は周囲にだれもいないことを確認する。

マダオとキューちゃんがいないことを確認する。



その後、俺は再不斬に戦う理由について、その内容を告げた。




「………成程」

納得した、と再不斬が神妙な顔で頷いた。

「………糞みたいな因果だな、まるで」

理由を聞いた再不斬の顔が、わずかに歪んだ。

「―――六道仙人曰く。因果というものは、人の間で巡るものらしいぞ」

そして返ってくる。


(因果応報………上手く出来た言葉だよ全く)


何かの因子はいつかの果てに応えて、最後には以て報いとなって返ってくる。


発端の因子は人の間を駆け巡り、最終的に一因である皆の元に帰ってきたのだ。

ならばもう、逃げ場などはない。ここから逃げれば、俺は誰でも無くなってしまう。




(あるいは、もしもの話――――隠れて夢だけを追い続ける生活を続けていれば、また違った結末を迎えていたのかもしれないが)


あくまで、もしかしたらの話しなので、それを想像すること自体に意味はないのだろうが。




「あと、そうだな………」


一つ聞きたいことがあるんだが――――と、喉元まででかかった言葉を腹の中に引っ込めた。


(聞きたかったのは、悪名高き同期生殺し――――その真実)

その後、同期生同士で殺しあうという悪しき風習は廃止となった。
その後、水影を暗殺しようとした。

それに―――例え才能があるといえど、戦場の経験も無い忍者未満の下忍が、同じ境遇にある同期生を皆殺しにできるのか。
人柱力でもない、特別な血継限界も持たない子供に可能な芸当なのか。

そしてここではない何時か。

“俺は俺の道を往くだけだ”と言った鬼が居た。
雪の下で涙を流した鬼が居た。
白の横顔を見ながら散った鬼が居た。

色々と不可思議な点があり、あるいはそれらは一本の線で繋がっているのかもしれない。
その当たりの所を、いつかは聞こうと思っていたのだが―――それは止めた。


ここから先は、霧隠れに戻ってからの再不斬の働きを見ていれば分かることだろう。
無粋な言葉で問うよりも、その方がきっといいと―――そう、思ったゆえに俺は沈黙を選択した。

「いや、いいよ」

「? なら、いいが―――っと、白も戻ってきたな」



――――時間だ。



そう言いながら、立ち上がる再不斬。

俺は屋台から出て、戻ってきた白と再不斬の二人、ここで別れとなる仲間に対して向き直った。

「……もう行くぞ。お前も気をつけろよ。根とやらと大蛇丸率いる音が襲ってくるかもしれない」

「考えすぎじゃない?」

「違う。影は影だからして影故に―――死角から背中へ向けて襲い来る。油断が過ぎれば、心臓まで貫かれるぞ」

「………油断を生じさせた時。いや、油断があるからこそ、影は背中から襲い来る?」

影が影であることを忘れた時、背中は完全な死角となる。

「………忍者は裏の裏を読め。そうだったな………波の国でのことを思い出したよ」

あの時、波の国で再不斬が7班と戦った時だ。

あの最初の戦闘の時、再不斬は二段構えの戦法をとった。

水分身2体によるフェイク――――1体目は殺させるための的で、2体目は実体を思わせるための囮。

その二つがあったからこそ、再不斬はほぼ完全なタイミングでカカシの背後を取ることができたのだ。

上忍というものは一筋縄ではいかない。背後を取られたとて、警戒していれば対処のしようもある。
だけど油断があった場合、その対処も不可能となる。

本当の意味での死角と成り得るのだ。

「油断を“させて”から、襲いかかる………」

「俺らと一緒だ。それにまだ、影で動く事こそを得意とする輩が、二つ。潰されもせずに残っているだろうが」

「………ああ」

「お前が死ねば、木の葉に綻びが生まれる――――戦争になるかもしれない。確かに今のところは上手く行っている。戦力も増えた。
 だけど、肝心なところで間違ちまったら意味がない。マヌケな油断だけはしてくれるなよ」

「………ああ。肝に銘じておく」

「それでいい」

再不斬は俺の問いに答えた後、白を目配せをした。
時間だ、と行っているようだ。

つまりはこれで別れの時。

(………えっと、何といおうか)

だが俺はそんな二人に対して、かける言葉が見つからなかった。

別れの時だ。それは理解している。
一時的なもの、永遠のものを含め、別れという事象は今までに幾度も経験してきた。

紫苑然り、ザンゲツ然り、紅音然り、キリハ然り。

だがこの時に限っては、正直何を言えばいいのか分からなかった。

実を言えば、この二人が一番、一緒に居た時間が長かった。
木の葉にいた時から含め、3年。同じ屋根の下で過ごした、というのも、同じ釜の飯を食った、というのも。

四季折々の風景を共に見た、というのも全て。この二人が、初めてだったのだ。

あくまで一時的なものかもしれないし、五影会談の場で会うこともあろう。
これが今生の別れになるとは限らないし、また会える機会がある。


だけど、もしかしたら――――ということもある。


あるいは運が悪ければ、一生の別れとなるかもしれないのだ。
だから何かを言わなければ、と俺は内心で必死に焦った。


しかし気の利いた言葉も浮かばない。

どうしようもなくなった俺は、考えず、思うがままに言葉を紡ぐことにした。


「そうだ、隠れ家に置いてある…………二人の荷物な」


気掛かりだったことを、口に出す。

そしてその後は、自分の考えていること、想っていること―――望んでいることを多分に含め、正直に話した。



「ずっと、残しておくから」




過ごした痕跡。食器や服。日常の残り香。隠れ家の生活で、それなりに痛んだ鍛錬場の器具。
二人の部屋の布団その他、私生活に使っていた用具。

それら全て、取りに戻る必要がないものだ。次の土地、霧隠れの里で用意されているもの。


そして、もう一つ。
人には見せられないもの――――ここ2年で撮り貯めた、写真群。

――――隠れ家を背後に、全員で取った写真。撮影は影分身。
7人全員が、揃っている写真で、匠の里で貰ってきた後、始めて撮影した写真でもある。

――――いつかの祭りで撮った写真――――ヤクザ、お嬢、赤黒の美少女コンビ(仮)、アフログラサン、パツキン幼女、鉢巻を巻いた屋台のおっさんが映っている写真。
すげえ混沌とした写真だが、これも良い思い出として残してある。

―――笛を吹いている多由也と、近くに群がる動物達。それをじっと見つめているサスケ。
集中し、目を閉じながら笛を吹いていると、知らず動物たちが寄ってきたという。多由也は演奏の後、目を開けた驚いて、ひっくり返ったらしい。
その後、その光景を見ていたサスケをぼこったらしいが。

――――多由也の笛の音に合わせ、刀を使った即興の演舞を披露しているサスケ。
シャッターのタイミングが悪く、まるで魔界のプリンス(笑)が使う格好悪い魔法のポーズになっていたが。

―――刀を使った模擬戦をしている、再不斬とサスケ。
最初は寸止め形式で試合をしていたが、回数を重ねる毎にヒートアップ。最後にはデッドヒートとなった結果、双方ともに洒落にならない傷を負ってしまったのはいい思い出だ。
その後、心配していた白と多由也の二人の顔が般若と化したが。

―――麺を打っている俺と、隣で手伝っている白と多由也。
この二人のエプロン姿は正直いって反則だと思う。白い麺、飛び散る汗、舞い散る粉、首筋にひっついた髪―――絶妙なアングルで取られたそれは、マダオをして至高の逸品と言わしめるほどだった。
ばれた二人に、取り上げられてしまったが。ちなみに身代わりの術を発動。仲良く二人はボコられました。その後俺もキューちゃんに噛み付かれました。

―――横に並んで座り、月を見上げながら酒を飲んでいる再不斬と白。二人に秘密で撮った一枚。
白は浴衣姿で、再不斬の酌をしていた。何と言うか絵になる光景だったので、思わず撮ってしまった。

―――余計な事を言ったサスケが、多由也にアッパーカットされている写真。
誕生日関連の話をしている時に、余計な事を言ってしまったらしい。


―――真剣な顔で狐耳と狐の尻尾作っているマダオの姿。キューちゃん発見された後、諸共に火葬されたらしい。
実に惜しかった、悔恨を思い出させる一枚でもある。


何でもない光景。馬鹿をやっている光景。

隠れ家での日常を写したそれらは全て、あの秘密箱の中にしまってある。

それらが、まだ隠れ家に残っていることは二人とも知っていた。

だけど霧隠れの忍びの目があるため、それらは絶対に持っていけないということも、理解していた。
万が一のことが起きた場合、不利な材料と成りかねないからだ。“うちは”であるサスケや、九尾の人柱力である俺との繋がりは、大っぴらにしてはいけないだろう。

持っていけないもの全て。要らなくなったもの、全て。


俺はそれらの全てを、そのまま触らずに捨てないで残しておく、と二人に告げた。



―――忘れない、と。



口に出すのも恥ずかしい俺は、無言で告げた。



「………ああ」


「あ、りがとうございます」


仏頂面で頷く再不斬と、少し泣きそうになりながらも、笑顔で返事をする白。

二人の気配が僅かに揺らいだ。

俺の言いたいことを理解してくれたのだろうか、あるいは隠れ家での生活を思い出したのか。

どちらかは聞かなかった。何となく分かっていたからだ。


「思えば、木の葉崩しに始まって、次は雪の国での戦い。そして暁の鬼鮫、角都、飛段との戦い。全ての戦闘において、本当に世話になった………ありがとう、助かったよ」


そうして、俺達は無言で握手を交わす。


またなという言葉も忘れない。二人は頷き、同じ言葉を返した。


「こちらこそ世話になった。波の国のあの時、お前が介入しなければ―――俺も白も死んでいたかもしれない」

「だから互いに礼を。そして―――再会の約束を」


また会いましょう、と白が言う。


「それじゃ……またな、二人とも」

「ああ、またな」

「ええ、また」



俺達は、別れと再会の挨拶を交わした。
いつかきっと、また会おうという言葉を交換する。だから、今は別れの時だ。

言葉の後、二人は踵を返す。こちらに背中を向け、自らの道を歩いていくのだ。

それを、引き止めることはしない。再会の約束は交わしたのだ―――あとは見送りの言葉だけ。


そう思った俺は、遠ざかる二人の背中に向け、言葉を送る。




「――――登り詰めろよ!」


きっとあの二人なら色々とやらかしてくれるだろう。良い方向に導いてくれることだろう。
鬼鮫に匹敵する力を持つ再不斬と、それに近い力量を持つに至った二人ならば。

色々なことを知った二人ならば、できないことは無いはずだ。



再不斬はその呟きに対し、言葉では答えず、ただ一つの動作で応えた。


振り返らないまま、背負ったの首切包丁の柄を掴み―――それを高々と翳した。

当たり前だ、と言っている気がした。

そうして二人は一度だけ振り返った後、走っていった。

再不斬は不敵な笑みで。白は微笑で。互いに笑い顔を見せた後に、去っていった。


(―――大丈夫そうだな)


その笑顔を見た俺は、ひとつの確信を得た。

きっとあの二人はあのまま変わらず、霧隠れを変えて行くのだろうと。生まれ故郷である霧隠れの里を発展させていくのだろうと。

―――かつての血霧の里の遺恨や悪習。それら全て、古き悪しきものを全てぬぐい去っていくのだろうと。


直接には聞いていないし、確たる証拠もない。だけどそれがあの二人の望みなのだと、そう思った。


俺達と、サスケと、多由也と同じく――――きっとそれが、あの二人の忍道なのだから。





「またね、か…………そうだな。また会えるよな」




残された肌寒い森の中、夜空の下。


一人呟いた言葉は小さな風となり、木の葉を微かに震わせた。



















































――――そして。






誰もいないはずのその場で。



ただ一人、俺の問いに答える者がいた。





「………残念ながら、それは無理だろう」





背後の林、月光閉ざされた暗闇の中から、声は聞こえた。

うっすらと漂っていた気配―――半ば予想していたことでもあった。

紫苑を連れ出したその時から、覚悟していたことだからだ。





「―――だけど漸く。アンタの望むがままに踊らされて、踊らされ続けて………」






意を決して向き直る。そこに在ったのは、予想通りの姿。

俺はその人物と正面から対峙し、名前を告げた。





「何とか死なずにここまで来たぜ―――――ペインさんよ」


































――――そうして。



かつての時。古の時に約束され、忘れられた伝説。


16年前。あるいは必然的に、始まってしまった悲劇。


それらを経た12年前。半ば偶発的に発生した、喜劇。






付随する人の道と忍びの道、横並ぶそれら全てが複雑に絡まり合って、生まれた、螺旋のような物語。



その終幕が、青白い月光が輝く夜空の下、蛍のように光り瞬く星の下、この対峙の時を鈴として。







人知れずゆっくりと、上がっていった。



























































                  第四章   ―了―










あとがき

次は最終章。



[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) ~章前~ 「始まりの終わり、終りの始まり」
Name: 岳◆3d336029 E-MAIL ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/01 22:17






~ 章前 ~













目の前に映るのは、かつての師。

まだ、僕が、俺が純粋に長門であった頃の先生。


だけど、今や交わせる言葉もない。


長門は疾く消え、そして去り、今はもう何処にもいない。

だから、何者でも無くなった、俺となって、僕と成って、我と成って語るしかなくなる。



輪廻の眼の奥に刻まれた、魂の記憶を。



あの日長門が長門で無くなった、六道が廻り世界が混沌と化した、十尾が顕現した夜の事を。






視線が合わさる。

先生の白髪が雨に濡れていた。どうやら逃げる様子はないようだ。先程の言葉が気になっているらしい。




だから、僕は、俺は、私は、俺は。


しんしんと、雨が降りしきる霧の中。


輪廻の眼にかつての記憶を篭めて、かつての誰かに想いを送る。

かつて、輪廻眼をうまく使いこなせなかった頃ならば、不可能だった所業。


だけど、今は可能だ。皮肉にも、今ならば可能なのだ。



眼と眼が会う。


自来也先生の視界が歪む。自来也の意識が霞む。同時、俺の意識も薄くなった。


世界が、歪んでいく―――――




~~



















ざあざあという音が聞こえる。それは無数の雨粒が何もかもを叩きつける音だった。

何時もなら聞こえる筈の鳥の声も、雨粒の音に覆い隠されているのか、はたまたそんな元気も無くなってしまったのか、今日は聞こえなかった。

ただ、聞こえるのは雨の音だけ。





あの時と同じ、雨の音だけだった。





「………長門?」

「ん……なんだい、小南」

「いえ、夕ごはん出来たから、お皿を並べるの手伝って欲しいんだけど………」

「ああ、ごめん、すぐに手伝うから」

「それは、いいんだけれど………それより、どうしたの?」

「………ちょっと、ね。たいしたことないから。それより、弥彦を呼んでくるよ」

「ええ、ごめんなさい」





今も雨が振っている。

無数の雨音、無数の雑音に囲まれて、俺は今も生きている。






「さあ、食おうぜ!」

「うん、いただきます………でも弥彦、今日はこんなに豪盛な料理を………いいの?」

「景気付けだ。いいさ。明日からはいよいよ、本格的に夢に向かって動きだすんだ………腹が減っては戦はできないって言うしな!」

「うん、僕もそう思う。自来也先生も………そう言ってたしね」

「そうそう。それに、ゆっくり3人で食べられるのは………今日で、最後になるかもしれないからな」

「そ、んな、ことは………」

「そんな顔すんなよ、小南。大丈夫、危険はあるだろうけど、俺達3人が揃えばきっと何でも出来るって!」

「そうだよ。それに、小南の料理もあるしね」

「もう、弥彦も長門も………」

「ははは。いいじゃん、俺達らしくて………じゃあ、いっただっきまーす!」

「「いただきます」」







色褪せた光景。白黒の映像。

でも、二人の声だけは心に響いて――――











「力ではなく、話し合いで?」

「そうだ。忍者だって人間さ。きっと、きちんと話しあえば分かってくれる!」

「戦えば、きっと誰かが死ぬ。そして人は誰かを失えば、その原因を憎む………だから私たちは話し合いで――――人死を出さすに、問題と争いを解決していきたいの」

「………本当に、それが出来ると思っているのか?」

「出来るさ。いいや、やるんだ。確かに今は無理かもしれないが、俺はそれが出来るまで諦めない………それが、俺の忍道だからだ」

「………」

「………」

「………くっ、負けたよ。わかった、俺も仲間に入れてくれ」

「いいのか?」

「ああ。お前の眼をみているとな………俺も、お前と同じ夢を見たくなったよ。それに何だかお前、危なっかしくて見ていられねえし」

「………俺、そんなに危なっかしいか?」

「ああ。自覚なかったのか?」

「………小南、俺危なっかし――――なんで顔を背けるんだ? って長門もかよ!?」

「ふふ、ごめんごめん。でも弥彦はそれでいいんだよ。僕たちを引っ張っていけるのは弥彦だけだから」

「うん。それに、背中は私………達が、守るから。だから、心配は無用さ」

「ええと、イマイチ釈然としないんだが………っていうか、それじゃあ俺まるで馬鹿みたいなんじゃ!?」

「ううん、馬鹿じゃないよ、弥彦だよ」

「お、おう?」

「それよりも………用事も終わったことだし。騒ぎを聞いた誰かに見つかる前に、基地に戻りましょ?」

「それもそうだな。よし、それじゃあ急ぎ基地に戻るぞ!」

「ええ!」

「うん………ん、どうしたの?」

「………赤毛の………長門、と言ったか。お前たちはいつもこんな感じなのか?」

「いつも、といえばいつもなのかなあ………何か変なところが?」

「―――いや、面白えって思っただけだ」










馬鹿をやって。仲間も増えて。

俺達の考えについていけなくて、途中で抜ける奴もいた。起きてしまった戦いの中で、死なせてしまった奴も。

だけど俺達は諦めず、功績を上げ続けたことで次第に有名となった。

気づけば、雨隠れの半蔵――――忍びの世界で、その名の知らないものはいない程の大物――――でも無視できない程に、名のある組織になっていた。

第三次忍界大戦の真っ只中だったのも大きい。戦場で貧する人々、戦火に脅かされている人々の援助や、山賊、盗賊などといった食うにあぶれた農民達との、話し合いでの解決。

右に左に活躍する俺達に対する民の名声は高かった。里の防衛にばかり専念していて自国の農村などに防衛戦力を割り振らない半蔵よりも、名声だけでいえば高かったのだと思う。



気づけなかったのは、若さか。

――――あるいは、盲信か。





戦争は激化していった。俺達も次第に疲弊していく。そんなある日、半蔵は俺達の組織に提案してきた。

半蔵の手の者は言った。

「一緒に、木の葉、岩、砂との平和交渉―――雨隠れの周囲にある三大国との、停戦交渉の仲裁人となるつもりはないか」

一も二もなく頷いた。俺達も限界に近づいていたからだ。それに、木の葉の裏の、更に裏―――忍び闇と言われるかのダンゾウも協力してくれるという。

「戦により各里は疲弊している。このままでは共倒れになるから、その前に表と裏―――両方から、停戦の交渉をしよう」

そう、言ってきたのだ。

相手の言い分に、確かなる理があった。それに、戦争は本当に酷い状況だったのだ。



だから、思った。

“この悲惨な戦争―――それを止めようとしたいのは、誰も一緒なんだ“、と。


まさか、裏切るまいと――――そう、信じていた。


忍びも人だ。戦う事は忌むべきことで、戦い殺す事を好き好んで行う奴はいない、と思っていた。

相手も人間。同じ人間なんだから、きっと俺達と同じ事を思っていると、信じていた。




事実、その事を聞いた皆は、歓喜に打ち震えていた。嘘などとは思ってもみなかった。皆、つかれていたのだ。

地獄とくぐり抜けて、ついに、ようやくここまで来たんだと、泣いている奴もいた。

戦場の中、死んでいった仲間。寒い、と繰り返しながら冷たくなっていく仲間。

目の前で消えていった、幼い命達。母の名を呼びながら、次第に冷たくなっていく少年。

失った仲間と、助けられなかった人達の屍を越えて、それでも諦めなかった――――その甲斐が在ったと、そう想えたからだ。



疲労の極地にあった皆を休ませ、自来也先生の教えを受け、その中でも余裕が残っていた俺達――――中核の3人で出向くと、決まった。

そうして、交渉の前日。俺達は久しぶりに3人で食事をしていた。

皆は泥のように眠っている。起きている奴もいたが、そいつらは俺達3人に気を利かせてくれたのか、自分の部屋に引っ込んでいった。

「ほんとうに、長かったね………」

「ええ………だけど、これでひとまず戦争は終わる………」

「そうだな。逝っちまったあいつらに、顔向けが出来るってもんだ」

明日は交渉の場なので、酒は飲まなかった。

ただの水で乾杯をする。





俺の輪廻眼、小南の紙による偵察術と頭脳。

そして何より弥彦の持つカリスマ性。その3つの、どれが欠けても俺達はここまでこれなかっただろう、と笑い合った。



あの日より、俺達は3人で一つだった。

血の池の中で結ばれた絆は酷、血を分けた家族よりも確かにつながれていた。






ちいん、とグラスの重なる音がする。

戦いが終わる鐘の音かもしれないね、と小南は言った。

弥彦は笑った。僕も笑った。



懐から、手紙を取り出す。僕たちの悲願が達成された、その証を。

そこに書かれた文字を見る。

“明日の夜。×××の森で、平和の為に話しあおう”


「そういえば明日は中秋の名月―――お月見だね」

小南が呟いた。

「そうだったかなあ………戦いが続いたせいで、時間の感覚が分からねえよ」

「そういえば、もう秋だったんだよね………」

「うん。だから、明日の交渉が終わったら、組織のみんなで団子を食べようよ」

せめてもの贅沢だ、と小南が笑う。きっと一人一個、だとかそんな数しかないのだろうけど、それはそれで望む所だった。

串についた三つの団子を皆で分け合うのも、悪くないと思ったからだ。


(でも、僕はやめておこう)


むしろこの二人を冷やかそう、と思っていた。

弥彦が一つ、小南が一つ。あとの一つは二人で半分に、という悪戯を仕掛けようとしているのだ。

皆も満場一致で賛成してくれた。二人をからかうことも、凄惨な戦場を乗り切る元気を娯楽の一つだった。


弥彦が誰を好きか。

小南が誰を好きか。


そんなことは皆分かっていた。
弥彦と小南。僕と出会う前に、出会っていた二人。

僕と同じで雨の中、壊滅した村の中で二人は出会ったらしい。

両親の墓の前で動かない小南を、弥彦が無理やり引きずっていったらしい。

いつかの、本格的な戦争が始まる少し前。

酒の席で、酔って顔を赤くした小南が、その時にあったことをぽつり零すように話してくれた。




『なんで、ないているんだ?』

『だって、おとうさんとおかあさんが………』

『………しんだのか』

『うう………』

『でも、ここに居たらお前も死ぬぞ。だから、あっち………雨の当たらないところに行こうぜ』

『………いや! ここで私も死ぬ!』

『な、なんでそんなことをいうんだよ! お前はばかか!?』

『だって! おとうさんも、おかあさんが、ここに………!』

『もう、しんだんだよ! 二度と会えないんだ!』



「って言いながらね。ほっぺたを殴るのよ。あの拳はほんとうに痛かったわ………」

酔いが回ったのか、頬を赤に染ながら小南がやけくそ気味に呟く。

「って、ええ!? あの弥彦が、女の子を殴ったの!?」

「………その時は私の事を男の子だ、って思ってたらしいわよ」

その時も喧嘩になったけど、と小南が目を座らせる。

鈍感、とかニブチン、とかつぶやいている。

「そ、それで、続きは?」

「ええ………少し経った後、また私の所に戻ってきてね。どこで拾ってきたのか………傘を持って。墓の前で泣き続ける私の横に立つのよ」

「………弥彦らしいね」

「そうね………そして、こう言われたわ。“お前が死ぬと、お前と同じように………死んだお父さんとお母さんも泣いちまうぞ”って」




そう呟き、小南は遠い目をする。

それはいつも無茶をする弥彦――――その背中を見つめる目と同質で、同じ意味を含んでいた。



そしてそれは、食事の用意をしている小南の背中を見つめる弥彦の目と同じだ。


正に“一目”瞭然だと、組織の皆で笑いあった。



少しの蟠りはあった。

ずっと一緒にいた二人が、と少し寂しい気持ちもあるにはあったが、それよりも喜びが勝った。


きっと、明日が終われば、俺達の中の何かが変わって、また新しい何かが始まる。


そういう予感があった。












――――それは、別の意味で正しかったのだけれど。







~~






























「赤毛の小僧………この娘の命が惜しければ、お前たちの頭を――――弥彦を殺せ」


奇襲だった。不意打ちだった。

状況はよく覚えてはいない。気づけば小南は敵に捕まっていた。

翻る白刃。高台の上で、雨隠れの半蔵が哂う。





―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、皆が僕を呼んでいた事を覚えている。

「駄目! ………長門、弥彦と一緒に逃げて!」

「っそんなこと出来るか! 長門、俺を殺せ!」

「っ弥彦!」

「早くしろ!」

「長門!」





―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、クナイが人の肉に刺さる感触だけは覚えている。

「小南と一緒に………逃げろ」

「弥彦ぉ!」

「かかったな、やれ!」

起爆札が四方八方から殺到する。







―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ、僕に覆いかぶさる小南の身体の温もりだけは覚えている。

「こな、ん?」

「長門………逃げ、て。や、ひこと………」

「小南!?」












―――――そこから先は、良く覚えていない。

ただ何事か、絶望の言葉を聞かされたのは覚えている。

「お前たちの仲間も、今頃は………」


何事か、高台にいるゴミが高々と何事かを宣言している。


また一つ、殻が割れる。決定的な、罅が入る。















そこから先は、良く覚えていない。

―――――ただ、見上げる月が綺麗だったのは、それだけは、今でも忘れられない。


傍らに横たわっている弥彦の身体からは、血が流れ続けていた。

俺を庇った小南の背中は、焼け爛れ雨にうたれるままにいた。


二人とも虫の息だ。あと数分と持つまい。俺も、爆発の衝撃で脳が揺さぶられている。


覆いかぶさる小南の息が弱々しくなっていく。弥彦の息が細くなっていく。



弥彦が死ぬ。小南が死ぬ。
皆が死ぬ。全部死ぬ。



でも、目の前のこいつらは哂っていた。高台からゆうゆうと俺達を見下し、愚かだとか、若造だとか言っていた。

仕方の無いことだ、よくある若さ故の愚行だ、忍びの世界には力が、仕方ないこともある、綺麗事だけでは。

演説は妙に長かったが、要約すればそんなくだらないことでしかなかった。全部承知している。承知してなお、俺達はこの道を選んだのだから。

だが、そいつらはそれを愚かだという。間違っていると断定する。


――――そう。つまりは、こいつらは、人を殺し、奪う事を肯定している。

自らの力、チャクラ、忍術を使い、人々から大切なものを奪うことを、否としていない。


実際、忍びというものは動く度に、破壊の爪をが振るわれる。

自国では敵を倒す英雄だがどうだかしらないが、他国ではただの破壊者でしかない。

その影で非道を働く者もいる。戦場は人を狂わせる故、それは避けられないことなのかもしれない。

結果、抗う力がある大国ならば報復を。立ち向かう力も無い小国ならば、泣き寝入りを。


呪いあい、殺しあう。

そしてまた、新たな呪いが生まれて、人の間を巡り往く。


呪いあい、壊し合う人達。その巻き添えにあい、顔も知らぬ誰かを呪ったまま死んで行く人達を大勢見てきた。
小国が故に、大国に蹂躙された人達だ。何をした訳でもなく、何も悪くないのに、理不尽を受けた人達。
虫けらのように殺されていった人達。

血の赤さを覚えている。体温が奪われて行く絶望を、覚えている。
“おかあさん”とだけ残して死ぬ子供、そのつぶらな瞳に映った空虚を、覚えている。


それを止めるために、皆で戦った。

道中、志を共としようと、同じ目的地を目指そうと、腕を組んだ仲間達もいた。

一般人を守るため、志半ばで死んで行った戦友達もいる。



そして、誰よりも大切な二人。

守りたいと願った、二人との日々。





誰もが願っている筈だ。止めたいと、思っている筈。

そう、信じていた。









―――――だけどどうやら、それは間違いだったようだ。俺はこの時、確信した。


もう、どうしようもないんだと。

頭の中が空っぽになる。代わりに、黒い溶岩が内を満たす。

何かが壊れる音がして、俺はそっとその上に蓋をした。











「もう、いい」













月が綺麗だった。月が綺麗だった。月が綺麗だった。








月が―――――綺麗だった。

その中にある“黒”が見える程に。その中にいる、“誰か”と繋がる程に。

月が、綺麗だった。












「もう、どうでもいい」



















気づけば、印を組んでいた。倒れながら親指の肉を少し食い千切る。


でも、痛みは無い。

黒と繋がる。記憶が流れ込む。魂に罅が入る音。誰かの魂の欠片が隙間に入り込む。




目の前のこいつら――――痛みを感じる他者。

そんなものは存在しない。俺もそうだ。もう忘れてしまった。いや、 “忘れてしまえ”。













「お前たちなんか、どうでもいい…………どうなろうと、構うものか」













これは太古の記憶だろうか。


長門であった俺と、六道であった誰かと、“黒い何か”の破片が入り乱れる。

見たことの無い光景が思い浮かぶ。



でもそんなことはどうでもいい。今ここにある確信は一つだ。



3人全員が、同じ結論に達していた。










「――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」









声にならない叫びが、大気を震わす。

無音の爆裂が周囲を包み込む。相手が怯えていたのか、逃げようとしていたのか、覚えていない。

覚える価値もない。その前に、“見て”もいない。ただ思うがままに、動く肉塊を動かない肉塊に変えて行くだけだ。


この胸に残っている、最早意味もわからなくなった痛みを、相手に叩き込むことだけ。

黒いものを媒介とし、脳裏に浮かんでは消える森の叫びを。そして大地の叫びを、大気の叫びを両手に込めて、叩き込み、肉塊をつぶし、大地に還していく。


もう、痛みを知って相手を思いやる気持ちを育めなどとは言わない。話しあって解決しようとも思わない。


――――ただ、痛みを知り、抱きそのまま死んで行け。

救いなどは与えない。ただ、死ね。絶望に塗れて、居なくなれ。

お前たちはこの世界に必要無い。戦うことでしか存在意義を見いだせないお前たちなど、妖魔が消えたこの世界では不要となる存在だ。








だから、俺が殺す。弥彦や、小南、仲間達と同じように。

この手で、殺してやる。力いっぱい壊してやる。

だから、全部死ね。







忍びに連なるもの全て―――――この世から消し去ってくれる。









そうして、始まりは終わり、終わりが始まった。













~~





記憶同調の後。



気づけば、先生は泣いていた。


戦う意志も無くなっているようだ。いや、戦う気力すら、奪われてしまったかのようだ。


雨の中、泣いている。静かに、泣いていた。





だけど俺にとっては、それすらもう―――――どうでもよかった。













ただ俺は、目的に向かって走り続ける。




例え神と罵られようとも。


例え人を辞めようとも。




終着に向かって、這いずりまわると決めた。
















誰でも無くなった、俺として。





あの日の温もりを篝火として、突き進む。













今、ここから――――最後の終わりを、始まるために。







[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十八話 「月は見ていた」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/06 00:58

網本部、執務室。夜は更け、日付が変わる時間にもなってはいたが、ザンゲツは一人執務室で先の戦闘の事後処理を行っていた。

忍術の余波で薙ぎ倒された木々の処理や、すいとんによって緩くなった地盤の土留めなどだ。

それも終わりに近付いた頃、見張りをしていた者から報告が入る。

「失礼します! ………ウタカタ、霧隠れの鬼人他3名、先程霧隠れの里に向かったようです」

「分かった。下がっていいぞ」

「はっ!」

促され、報告員は部屋を退室する。

ザンゲツは誰もいないのを確認した後、深く息を吐いた。

「ひとまず、台風は去ったか………これで一息つけようか………ん?」

こんこん、とノックの音。

「シンです………戦場後の調査について、報告する事があって参りました」


「……分かった。入っていいぞ」

「失礼します」

と、部屋に入るシンは、後ろでにドアを閉めた途端、調子を崩した。

「いやー、やっぱり肩こりますね、こういうの」

「まあ、お前にとってはそうだろうな………それで、知らせるべきこととは何だ?」

「はい。その、例の暁の二人が火葬された所ですがね………その地面の下から、ちょっと厄介なものが見つかりまして」

「地面の、下だと?」

「はい。例のナルトとサスケの秘術、“火遁・劫火螺旋弾”ですか。そのの焼け跡からですね………穴が見つかったそうです」

「………情報であった、滝隠れのシグレとかいう裏切り者の時と、同じ類のものか?」

「はい。地表面から2m程は術の余波のせいか、土砂で埋まっていたのですが………その下に細く深い、更なる地下へと通じる穴があったとのことです」

「………つまりは、あいつの予想通りってことか」

「はい。あの二人も、砂隠れ近郊で果てたデイダラやサソリと同じく、またシグレとやら同じく………十尾に呑まれたってことでしょうね」

「ふむ………報告では、その二人………飛段と角都といったか。十尾が合体した時には、予想外という表情を浮かべていたようだが?」

「はい。うちはサスケやはたけカカシが写輪眼で捉えたようですから、見間違いといったことはないでしょうし」

「そうか………しかし、予想外か……」

呟きながら、ザンゲツは考え込む。

二人にとっては、全くの予想外だった。というならば、知らされていなかったのだろう。

しかし、ひっかかる。何故知らされていなかったのか、という点だ。

考えられるは二つ。
一つ、あの状況に陥るのが、黒幕で十尾を貸与した思われるペインにとっても、予想外であったこと。
そして、もう一つ………そのペインが、二人が呑まれるということを望んでいたということだ。

「こちらの方が可能性は高いが………しかし、奴らは仲間ではなかったのか?」

「はい。うちはイタチの言や、二人と戦った時に聞いた言葉………あの時の状況からしましても、角都・飛段の二人はペインの目的や真実を知らされていたようですが」

「………それは聞いている。ペインの目的や真実を知ったとしても、あの二人は背かず離反することも無いということはな」

角都は言われた任務を成し遂げることこそを誇りとしている。そして、その成功を認めたという証拠――――払われる金があれば、依頼人の主義主張はどうでもいいらしいということ。

飛段は殺戮が趣味の傍迷惑な変人で、忍者大虐殺というペインの目的に関しても反対せず、むしろおおいに賛成するだろうということ。

戦闘の後、イタチは皆にそう説明していたのだった。

「しかし、あの二人も死んだ………残るは、ペイン、そしてゼツとかいう偵察を主とする忍びのみか」

「はい。ペインに関しては力が強い上補足も困難、ということで………五影で会談をした後、各国が協力の元、全力で排除するという話だそうですが」

「うむ………しかし、数を揃えても意味がないというのは、どうなったのだ?」

「カカシ上忍の話を聞くに、各国の協力の元包囲網を組み、追いつめた後選りすぐった精鋭で挑むそうです。五影か、各国の筆頭クラス総出で戦えば倒せるだろうとの見解ですが」

「うむ………しかし、それはあちらも分かっているのではないか? 対処する方法も、考えているのだと思うが」

「それなんですよねえ………こういう状況も予想できたハズです。なのになんで、ペインは味方を殺したのか…………その点、ナルトから何か聞かされていないですか?」

「いいや、その点については何も言ってはおらん。違うことは聞かれたが」

「違うこと?」

「ああ、“地摺ザンゲツ”という名前の由来について聞かれた」

「由来………? ってそれ、先代の名前なんじゃあ」

「いや、頭領としての称号のようなもんだ。木の葉ならば火影、という風にな」

「え、初耳ですね………それで、その由来って何なんですか?」

「ああ………まず、地摺ってのは、地を摺るということ………転じて、網の主要目的である、道の整理のことを意味する」

「へえ………じゃあ、ザンゲツは?」



「――――斬月。月を斬る、ってことだ。チャクラを使わずに忍び達を圧倒する、ってことを意味しているらしい」


「そう言われると、何とも………深いですね。でも、なんでザンゲツではなく、斬月と表記するんですか?」

書類にサインする時、いつもザンゲツですよね、とシンが首をかしげる。


「斬月というのも剣呑な名前だしな………戦いを好まない網の首領として“斬月”と大々的に名乗るのは不味いと考えたのだろう」

「………それだけですか? 何か、先代の気性を聞くにそれだけとは思えないんですけど」

「お前、今日はやけに鋭いな………」

「いい笛を聞きましたから。それのお陰かもしれません」

「それについては同意しよう………まあ、いいか。なんでも先代が言うにはな。“ザンゲツ”という名前に関しては、もう一つ意味があるということだ。友人の名前だったらしいが、それが誰だったのかは教えられていない」

「友人………もう一つの、意味?」

「ああ。何でも、網の創設の裏に関わっていた者らしいが………確たる人物もないでな。そのもう一つの意味に関しても分からずじまいだった」


教えられる前に、逝ったからな、とザンゲツは眼を閉じた。


「そう、ですか………」



「ああ、そうだ。最も――――」



一拍置いて、ザンゲツは窓の外を見る。

浮かび上がるのは、綺麗な満月だった。




「――――ナルトは、その意味に気づいたようだったがな」







~~






「え……メンマさん!?」


「あ、久しぶりだねキリハちゃん」


懐かしい屋台、懐かしい黒髪。

私は木の葉に戻ると、そう兄さんに伝言をしようとしていた時だった。

探し、森の中を歩いた先、かつて何も言わずに消えてしまった人がいた。

ラーメン屋台「九頭竜」の店主、小池メンマ。木の葉一の業師、テウチさんに勝とも劣らない味は、里の中でも有名になっていた。

どうして、何も言わずにさったのか。どうして、今此処にいるのか。

訪ねると、少し困った顔をした後、ザンゲツとは腐れ縁だからとか、三代目にも五代目にも確認を取っている、自来也様に確認してくれてもいいとか、色々な説明をしてくれた。

「ああ、じゃああのおばちゃんが言っていた………」

「そう。それが、オレだよ」

「へええ………そうなんだ」

なんともなしに、言葉を交わす。

その少し後、私は屋台の前で静かにラーメンを食べる人に気づいた。

随分と大きな声で会話していたのだが、迷惑ではなかっただろうか。そう思った私は訪ねてみたが、返ってきたのは“気にしなくていい”との言葉。

どうやらその人は、ラーメンを食べることに夢中になっていたようだ。私は小さく頭を下げて謝罪をすると、メンマさんに兄の事を聞いた。

「いや、見てないねえ………何、見掛けたら声をかけておくよ」

「お願いします。それでは………っと。そういえば、まだ時間があるんだった」

「そうなんだ。少し、食べていくかい?」

「え、でも私お金が………」

「無いなら、後でいいよ」

そう笑って、メンマさんは食べて行くことを勧めてくれた。時間にはまだ少し余裕がある。

断る理由もない私は、屋台の椅子に座りラーメンができるのを待っていた。

隣の人は、静かにスープをすすっている。見れば、其の色は透明だった。しかし匂ってくる香りは風雅かつ彩美で、思わずヨダレがでてしまう程。

腕を上げたんだな、と私は深く頷き、ラーメンが来るのを待った。


そしてしばらくして、ラーメンが完成した。

「おまち」

夜の森の中、メンマさんの声が静かに響く。風は僅かに吹いているようだが、飛ばされるほどではない。

私は風に揺らされる森の音を楽しみながら、出されたどんぶりをこちら側に引き寄せる。

「美味しい………」

レンゲですくい、スープをすする。その直後に出た言葉は、感嘆のそれだった。
昔とは、違う。ケタ違いとまでは言わないが、段違いと言える程に、味の深みが深まっている。

一度呑めば至高。繰り返してもあきることのないそれは、今までに体験したことのない味であった。

野菜や鳥豚などの肉、加え塩や果ては香辛料まで。様々な味が組み合わされ、それぞれの特性が引き出されている。
かつて、メンマさんは言った。

ラーメンの命であるスープ、そこには多様な命が組み合わされているのだと。
時には嵐のように乱雑に、時には川の流れのように清らかに。味と味が組み合わさり、得も知れ美味を生み出す不思議。

言葉では上手く説明できない。

本当に美味しい、としか言えない。

麺も見事だ。そのままとしてもそれなりの美味を誇るだろうそれは、スープと組み合わされば無敵になる。
ずるずるといった音と共に、口の中へ。

のどごしが見事すぎたそれは、経験したことのない未知の感覚を呼び起こさせた。

具も見事で、どれも捨て材にはしていない。チャーシュー、ネギ、もやしは全てそれぞれの長所を最大限に発揮している。

チャーシューは肉として。噛んだ瞬間、口の中に広がるジューシーな風味と旨み。とろけるような味わいで、その存在を誇示している。
ネギ、もやしは野菜としての旨み。しゃきしゃきとして、また野菜としての旨み、大地の味わいを口の中でしっかと主張している。

そして、単品でも十分にやっていけるだろう彼らは、スープという大海と混ざり合うことで更なる高みに至っている。

私は何度も呟きながら、レンゲと箸を交互に、そして忙しなく動かす。
止まっている暇などないという風に。

一つ食べれば新たな発見をして、また一つ食べれば未知の光景が見える。

まるで旅をしているようだ、と私は普段なら考えることのないだろう、埒のない考えを抱いた。旅て。

だけど、なぜだろう。旅――――こういう表現が、一番相応しい気がした。
そこかしこに、色々な味がする。まるで各地方全ての特色が混ざり合っているかのようだ。

例えば、このチャーシュー。材料は火の国で取られる豚、赤華豚だろうが、調理方法は従来のものと違うようだ。
スープにしたってそう。原料がまったく分からない。それなりにラーメンの知識がある私でも知らない何か、美味しいに至るに必要な何かが厳選されて、混ざられているかのようだ。

それは小国か、あるいは辺境か。めったには表にでないであろう、その地方特有の材料や調理方法が組み合わさっているのか。

考えながらも、私は食べ続ける。

だけど、それも無限ではない。旅も、いつしか終わりを迎える。
気づけば、最後の一口となっていた。
私はどんぶりを両手で持ち、残り少ないスープを一飲みする。

最後の一滴が喉を通りすぎたあと、私はどんぶりをゆっくりと台に置いた。
ことん、という木の台とどんぶりがぶつかる音。

その音に続いて、私は両手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまです。しかし、食べるの早いね」


隣の客はまだ食べているようだ。


「だって、美味しかったから………って、懐かしいですね」


かつては“何時も”だったやり取りを交わしながら、私とメンマさんは苦笑を交わす。


その後、メンマさんは徐に屋台の外に出て頷き、私を顔をじっと見つめる。


「そうだな………昔のよしみだ」


ひとつ、深く息を吐くメンマさん。そのまま私の名前を呼んだ後、懐から紙の束を取り出した。

「これを、受け取って欲しい」

「え、これを………?」

私は急な話の転換についていけずに、首を傾げてしまう。

するとメンマさんは苦笑をしながら、説明をしてくれた。


「これは、僕が集めてきたラーメンの調理方法などが書いてあるんだ………いわば、秘伝の日誌というべきもの」

「ええ!? それって、大切なものなんじゃあ……」

何で私なんかに、と訪ねる。すると、メンマさんは困ったような表情を浮かべた。


「少し、長く――――旅に出るつもりなんだ」

もしかしたら、戻ってこれないかもしれない。

メンマさんはそう呟き、首を横に振った。

「今までに集めてきた知識………これを誰にも伝えずに、ってのは勿体無い気がしてね」

「………でも、なんで私に?」

「僕のラーメンを、ただの屋台の客として………一番多く食べてくれた君だから、かな。迷惑だった?」

「いえ、迷惑なんかじゃ!」

慌てて首を横に振る。

「なら、受け取って欲しい………っと、そろそろ時間、大丈夫?」

「え? …………あ、もうこんな時間!?」

夢中になって時間を忘れていたようだ。
これじゃあ、兄さんを探す時間が無い。

「ごめんなさい、すみませんけど用事があって!」

代金を受け渡し、頭を下げる。
できれば理由とかその他諸々聞きたいことがあったのだけれど、このままじゃ兄さんに会えないまま帰ることになってしまう。



「ああ、いいよ――――さよなら、キリハちゃん」



「―――え?」



「どうかした?」


「いえ………はい、さようなら、メンマさん!」



そうして、私は別れを交わす。


手を振るメンマさんを背に、走り出す。










――――何故、さようならだったのか。

何故、またねとは言わなかったのか。

何故、大切なもの、ラーメンの日誌を私に託したのか。



私は、これらの中に含まれた意味と気持ちを察せられず、後に悔やむことになる。









~~~





元気に走り去るキリハを見送りながら、俺は手を振り続ける。

やがて見えなくなり、結界が再び展開された後、未だラーメンを食べ続けている客に話しかけた。



「つーか食べるの遅いな、アンタ」


「元が少食でな………それにしても、あの娘が言った通りだ」


確かに旨い、と呟きながら、ペインはラーメンの一口一口噛み締めるように食べている。

キリハが去ったからだろう、その眼には輪廻眼が浮かんでいる。


「―――ところで、さっきの君と妹君とのやりとり……少々、話の展開が強引だってのでは?」

「いや、ああするしか無かったんだよ」

全部説明するわけにもいかないから、ぼかしながら説明をするとああなった。

上手くいえない以上、不思議に思われても畳み掛けて誤魔化すしかなかったのだ。



「ふむ、秘伝のラーメンか。しかし、俺用の特殊調味料として、毒が混ぜられていると思ったのだがね」


ペインは自分のどんぶりを見ながら、呟いた。


「………人には、禁句というものがある。今お前がほざいた言葉が俺にとってのそれだ――――二度、口にするなよ」

ラーメンに毒を入れてどうこうするくらいなら、自らの喉を掻っ切って死ぬ。

そう告げると、意外なことペインは謝罪を返した。

「すまない、二度というまい」

俺の眼をまっすぐに見ながら、そんな事を言ってくる。

眼の奥の光は黒くよどんではいるし、隠そうともしていない輪廻眼も見える。

だが欠片だけど真摯なものを感じ、俺はその謝罪を受け入れた。

「………ああ。しかし、意外だな」

「何がだ?」

「いや、アンタでも自分が悪いと思ったら謝罪をするんだなー、とか」

「当然だろう。過失とはいえ、犯した罪、即ち過ちは正されるべきだ」


記憶は見せた筈だが、とペインは俺に視線を向ける。

(………過ち、か)

俺は心の中で反芻しながら、見せられた光景と、それに付随する感情を思い出す。

忍び達の戦いに巻き込まれる人達。止めようとする者さえも消し去り、戦いを続けようとする者。

加えマダラの遺言で聞かされた事の考えれば、忍びは要らないという結論に達したのもうなずける。

「だから正すのか。お前の思うがままに、あるべき形へと」

「そうだ。お前も、見ただろう………俺はあの月の夜に、誓ったのだから」

自来也はそれだけで戦意を失くしたのだがな、とペインは呆れた声を出す。

「何だかんだ言って、あの人も木の葉の忍びだ………火の影に照らされる場所以外がどうなっているのか、見てはしても理解はしていなかったんだろうよ」

火影が守るのは木の葉隠れのみ。それ以外で、何が燃やされているか、蹂躙されているのか。見てはいても、本質的に理解はしていなかったのだろう。

「責任を感じているのもあるし、優しいってのもある。あるいは、木の葉が綺麗な組織なのだと思っていたのかもしれないが」

子供っぽいところがあるしな、と俺は首を横に振る。

「殺したのか?」

「いいや。戦意は失ったようだし、伝言の役割も果たしてもらうのでな………殺す価値も無いしな」

そう言ったペインの顔は、気のせいか嬉しそうに見えた。だが、問題はそこではない。

「伝言?」

「ああ。最も、イタチのお陰でその必要も無くなったようだが………マダラの遺言、か。いや気付かなかったよ」

「うん? …………自来也と会ったのは何日前だ?」

「お前らが紫苑にたどり着いた日の少し前だよ。十尾の事諸々を告げたのだ」

イタチが知っていたとは少々予想外だった、とペインは顔を無表情に戻す。

「忍びの愚かさと、迫り来る滅びについて………どうも、奴らは自力では気付けないようだからな。殺されてしか気づくことができないようだ………お前は違うようだがな、うずまきナルト」

「………何だかんだいって、俺もあの夜に弾き出されて、それから追われる立場になった――――だからこそ、見えるものがあるってのは皮肉だけどな」

「だから、殺すのか? 悔いを残しながらも。それが矛盾だと気づいているか?」

「俺も、旅の中それなりに見てきたものがある。決意したものもある。綺麗な手のまま生き延びられるとは思っちゃいねえ。だけど、それなりに矜持も持ち合わせている。不必要な殺しはしねえ」


「必要な時、だと? それは一体どんな時だ」


待ちかねていた問いに対し、俺は笑顔で告げてやる。



「無力で小さな子供の芽を摘むやつは許さないってことさ――――あの日紫苑を見殺した、アンタのような奴だよ、六道ペイン」






「………あれについては、完全に予想外だった―――と、いう言い訳は卑怯だな」


「どの辺が予想外だったんだ?」

「あの薬さ。まさか、アレほどまでに強力な効果があるとは思っていなかった。だから、治してくれたことには礼を言おう」

「抜け抜けと………あんたなら、あの状態になる前に止められた筈だろうが。あの時の鬼の国………あの場にいただろう、あんたなら防ぐことが出来た筈だ!」




拳を握り、叫ぶ。



「おかしいとは思ったんだ………入って2年そこそこの俺に、鬼の国の動向を探るなどという重大な任務が下されたのも。

 もう一人の忍びが裏切り者だったのも――――網が、鬼の国で起きていた事件に気づけたのも!」


あの時、俺が赴いた鬼の国のことを思い出す。

表向き、一見してそうと分かるものは無かった。それこそ、城内部の事情と、周辺で静かに繰り返されていた忍び同士の戦闘を知らなければ俺達を派遣できる訳もない。


「あの“根”が網程度の抜け忍に………極秘裏に進めている任務について、気づかれるような、そんな愚を犯す筈がない。最初の襲撃の後だってそうだ。あの状態の俺が、自力で河から這い上がれたはずもない。

 ――――あの時、夢の中で見せた光景――――あれも、お前の仕業なんだろう」


人の夢に干渉する―――そんなことは、普通の忍びにだって出来はしない。あれはおそらく、俺を奮起させようとこいつが行った精神干渉だ。

起きている時ならばともかく、昏睡状態であるならば幻術には抗えない。

そう、あの笛の音で、整えられた中、淀みが晴らされた時にしか思い出すことができなかった。


「………鬼の国での事件の後、事態を収拾するタイミング、俺達を訪ねた時期、紫苑を助けるタイミングもそうだ――――あまりに上手く、“出来すぎ”ている。監視でもしていなければ、出来る所業じゃあない」


僅かな疑問点どうしを結んでいくと、どうにも繋がる一つの線があった。

うまく行っているからこそ、気付けない、死角。影の影。裏の裏。仕組まれたもの。


「マダラを殺した後の宣戦布告だってそうだ。“殺す”という言葉………裏で動くのであれば、あれも必要のないものだった。むしろ害悪にしかならない。だとするならば、目的は別にあるはず――――あれは、俺に戦いの場から降ろさせないための言葉だったんだろう?」


降りるなよ――――裏の意味が籠められた言葉。

まんまと思惑にのってしまったのだが、今となってはどうでもいい。


「木の葉での遭遇だってそうだ………あんた、あの時手を抜いていたよな? 態とらしく初対面ということ、正体に気付いていないということを印象づけて、嬲った後に逃がした………」


切っ掛けを作り、調整をして、探り、導く。

全てを仕組んだ訳でもなかろうが、ある場所までもってこようとしていたのは分かる。

そう――――最初の、あの夜からだ。


「極めつけは、事の発端…………俺がこっちに来た12年前のあの夜のことだ。木の葉隠れの里には、結界が張られている。
 侵入者と脱走者を察知する結界がな」

考えれば、変なのだ。

あの結界を抜く方法は、暗部か火影クラスの忍びにしか知らされていない。

そしてその両方が手引きをしていない以上、答えは一つだ。

特殊な瞳術を持って解析をするか、暗号を聞き出す。こいつならば、問答無用で情報を引き出す能力を持っていたとしてもおかしくはない。


「………変だと思ったんだ。河に落ちたぐらいで、暗部の追跡を逃れられるはずがないのに、運が良かったから助かったと、そう思い込んでいた――――目が覚めた時、俺は既に木の葉の外だったのにな」


気が動転していたのもあるし、あの夜の事を思い出したくないのもある。

そrに確証が無かったので気づけなかった――――と言えばそれまでだが、なんとも間抜けな話だ。答えは横に転がっていたのに。


「網にしてもそうだ。忍びが無くなった後、それでも各地の混乱を収められるほどの組織力とポテンシャルを意地している。それに………」

「それに?」

「おかしい、とは思ったんだ。いくら先代ザンゲツが肝の座った英傑だとしても、それでも出来ることは限られている。

 非道を得意とする暗部の眼を掻い潜れる訳でもないし、強硬手段を防げる訳じゃない」


「………全てが仕組まれた話でも無いぞ。あいつは――-先代の斬月は頑張った。それこそ、死に物狂いでな。俺がしたことと言えば、黎明期の敵を屠った事と、忍びの習性その他について助言したことだけだ。それを踏まえ人として、あいつは意地を通した。其故に、今の網の在り方がある」

笑いもせず、怒りもせず。

ペインは俺に対し、淡々と答えを口にする。

「――――勿論、お前もな。逆境に耐え、そして耐えぬいて生き延びたからこそ、今のお前があるんだ。それを、お前は分かっているか?」


「………理解はしている。だけど、恣意的に俺達を導いたのも確かだろう。繰り糸片手に説かれても、納得はできないぞ」


「導いたこと、否定はしない………しかし、よく気づいたな。証拠は一切残していなかったはずだが」


「あの笛の音が気づかせてくれた。あとは状況証拠しかなかったがな………見たくなかったことを見た結果だ。“クソ”見事な御業だったよ、神畜生めが」

その2点を始点に、辿っていった。そうすれば、見えたのだ。



網の影に隠れ、今この状況を作り出した人物が居るのだと。


「お前の思うがまま、お膳立ては整ったぞ………一体俺に何をさせるつもりだ? 暁を殺すのを手伝わせたのはどういうつもりだ?」

俺達とぶつけ、その隙を見て殺した。

あるいは、こちらの戦力把握という目的がもあったのかもしれないが、捨駒とする程のことではない。


明らかに、殺しにかかっていた。俺達との戦闘を利用したのだ。


しかし、何故、殺したのかが読めない。その意図が全然読めない。

そして何故、俺に記憶を見せたのか、それも理解できない。あるいはこちらの同情を買おうとしたのか、と思っては見たが、どうもそれも違うようだ。

だから俺は、直接尋ねた。大声で、嘘は許さないというように。


「――――俺を、この場まで導いたのはどういうつもりだ? 何時も何時も、俺の前に厄介ごとを持ってきたのはどういうつもりなんだ?」



一つ一つ、今までのことについて、訪ねる。確たる証拠はないことを、口に出して聞いてみる。


反応は無い。だけど、手応えはあった。僅かに、ペインの様子が変化する。これは、驚きだろうか。

よく気づいたな、といった具合か。

だが俺はそれを鼻で哂う。
確かに普通では気づかない程に、諸々の事件の背景で功名に隠されていた点がある。

だけど、全ては同じ方向を向いているのに気づいていれば、そう難しいことでもない。

知り得ない知識が無ければ、気づけなかっただろうが。


それは原作を外れた組織、イレギュラーの最たる点、“網”について。


現時点で最も外れている者。そしてイタチに知らされた、月の由来と十尾について。



その2点が無ければ、気づけなかっだろう。

あるいは、角都と飛段を見なければ気付かなかったのかもしれない。

月について知っていなければ、全く気づけなかっただろう。


だけど、知った。知り得た。

それが切っ掛けだった。例えるならば、日の当る面が変わった、とでも言うのだろうか。

今までは見えていなかったものでも、日の当たる角度が違えば、それなりに見えてくるものふぁある。

功名極まる隠行でも、残った結果をたどればそれなりに分かることもある。

それらをつなげれば、見えてくるものがある。


“網”という組織の、存在意義と目的もそうだった。

平和裏に進めるという、かつての弥彦の志そのままだ。それを忘れておらず、また受け継ぐ者として動いたのだろう。

裏の裏。影の影として。

そして一切の遊びなく、正体を隠し続けた欲の無さ、目的を主とする怪物などこいつしか居ない。

見張り、あらゆる試練を課して俺を、あるいはサスケを鍛えた人物。


材料は揃っている。あとは、答え合わせだ。



だから、俺は大声で目の前の人物に問うた。




厄介ごとを持ってくる、神。

長門。

ペイン。

六道仙人。

十尾の導き手。


俺と同じ、複数の名を持つこいつの、もうひとつの名前を。









「答えろ――――――残月!」




















[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 六十九話 「錯綜する運命」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/17 00:04

一方。屋台から少し離れたところで二人、少女達が座っていた。

片や、象牙色の見事な髪をもつ少女。

片や、陽のように光を放つ、金色の髪をもつ少女。

二人は、互いの眼を見ず、夜空に浮かぶ月を見ながら言葉を交わしていた。

「………九那実殿、といったか。貴方は、ナルトの元へ行かなくてよいのか? ペインの奴が来ていると思うのだが」

「ほう、お主も、気配に気づいていたのか。我とナルト、マダオの奴以外は気づいておらぬと思っていたが」

「何、これでも巫女じゃからな――――とはいっても、気づいたのは五感が完全に戻ってからなのじゃが」

「見事な隠行じゃったしな………だが、我は行かぬよ。あやつから、サシで話したいから来るなと言われているのでな。それよりも、我に聞きたいこととは何じゃ?」

話があるのじゃろう、と九那実が紫苑に訪ねる。



「話しがあるというのは、他でもない――――メンマのことについてじゃ」

「あやつの?」

「そうじゃ。ぶっちゃけて言うが………」



これ以上無く、真剣な声色と顔で紫苑は訪ねる。




「あやつとは、したのか?」



キューちゃんはずっこけた。



「いや、ほら、その………何と言うか、ずっと一緒に居たのじゃろう? 12年間の間、つかず離れず。ずっと一緒に………」


顔を赤くしながらもじもじする紫苑に対し、キューちゃんが怒鳴り声を上げた。


「………な、何もしとらんわ! というか、我が外に出れるようになったのは3年も前の事じゃ!」

「ということは、あやつとは何でもないと、そういう事じゃな?」

「な、な、何故そうなる!?」

「いや、先程シンの奴から聞いたのじゃがな………男と女がひとつ屋根の下、好き合っているならばすることはひとつだけ、とか」

「一応聞いておくが、何をするのじゃ?」

「いや、その、ナニをするらしい。妾も詳しくは知らんのじゃが………」

「あの金髪駄目兄貴小僧は説明をしてくれんかったのか?」

したらしたで殺すが、とキューちゃんは犬歯をむき出しにしている。

「先の発言後、菊夜とサイにしばかれて、その後便所の裏へと連れていかれた」

なぜなのだろう、と紫苑は首をかしげる。

先に殺られたか、とキューちゃんは頷いた。

「というかお主、全部分かった上で言っとらんか?」

「う~ん、恥ずかしながらそういう知識は持っていないのじゃ。菊夜はそういうのは教えてくれなかったし」

「………過保護というか何と言うか………それで、我とあやつの事を聞いてどうするのじゃ?」

「いや、確認しておきたかっただけじゃ。妾の最大のライバルである貴方の事を」

「………ライバル?」

「恋敵ともいう。どうもあやつは、妾の事を妹か娘的な眼でしか見ておらぬようじゃが………」

自分の頭を触りながら、紫苑は溜息をついた。

「分かるのか?」

「うむ。というか、皆をそういう眼で見ているのじゃろうな………ただ一人違う眼で見ている貴方と、比べてみて分かった」

マダオ殿も同意したし、と紫苑が言う。

「………ちなみにあの馬鹿は何と言っておったのじゃ?」



星を指差し、紫苑は言った。


「周囲に居る女性は数多く―――」


そして、煌々と輝いている月を指さした。



「だけど彼自身が“女”として見ているのは、ただの一人しかいないと」





言葉の意味を理解するに、数十秒。

後に、九那実は変な声で紫苑に尋ねた。僅かに、声が上ずっている。


「そ、その唯一が………我だと言うのか?」

「むしろ貴方以外に居ないと思う」

「………うむ、キリハの奴は?」

「照れているにしても、いきなり近親を持ってくるのはどうかと思うが………だが、キリハその他、木の葉の面々は違うと思う」

「どうしてそう思う?」

「何と言うか、メンマと木の葉の忍び達の間には――――薄いが、壁があると思うのじゃ」

「………慧眼じゃの。確かに、木の葉の忍と話すとき――――お茶らけてはいるが、あやつは何処か一線を引いている」










~~~~









一方、屋台前では別の修羅場が繰り広げられていた。

問いただした俺の言葉―――聞いたペインの圧力が、常より増して高まっていた。


「その目的を話してもいいが………その代わりとして」


「………代わりとして?」


慎重に言葉を選び、返す。

今や正に一触即発。対応を一手誤れば、問答無用の殺し合いに発展しかねない。


―――しかし、それも杞憂に済んだ。

突き出されたのは剣ではなく――――どんぶり。


「おかわりを、貰おうか」


「………どんだけ図々しいんだ、アンタ」








しばらくおいて、俺は二杯目のラーメンを出す。

「火の国の宝麺です」

「………それは、俺に対する嫌がらせか?」

「どちらとも取って下さい。味は保証しますよ」

「………まあ、確かに旨そうだが」

僅かに顔をしかめながらも、ペインはおかわりを食べ始める。

俺は店長の顔から元の顔に戻る。

「………で、いい加減先程の問いには答えてくれるんだろうな?」

「まあ、そう急くな――――夜はまだ長いんだからな」

ラーメンをすすりながら、ペインはそうのたもうた。
………火の実を鼻に突っ込んでやろうか、この野郎。

「ってやべえ。それは流石に残酷すぎる」

その恐怖を知っているからこそ、分かる事がある。
あんなもんねじ込まれたら普通に死ねる。

大・炎・上! の叫び共に最期の時を迎えるだろう。
俺としてもこいつとしても嫌すぎる最期だ、それは。

だが目の前のペインには分からないらしい。その単語には反応しないまま、話しを続けた。

「そうだな………どこから、話すべきか」

困っている、といった風。それが演技かどうか、判断はつかないし、最早どうでもいい。
俺は答えを急かした。

「分からないなら、最初からでいい。お前が何を思って、忍びを滅ぼそうとするのか。何故俺を助けたのかを全部話してくれ」

「それは構わないが………何故、それを聞く? 聞かず問答無用で止める、という選択肢もあると思うのだが」

「いや、聞かなければ分からないだろうが。アンタが何を考えているのか、一体何を目的ににしているのかが」

不可解な部分が多すぎるので、推測もできない。

「それに、全部知った上でなら悔いも無く戦えるってもんだ。遠慮なくブチのめすことができる」

肩を竦め、問いに返す。

「………随分と、大きく出たな」

無謀とも取れる俺の言。その言葉と表情に何を感じたのか、ペインは僅かに眼を細めた。

「そうだな………あの月の夜の後から、話すか」

「ああ………いや、少し待ってくれ。そういえばアンタ、六道仙人の記憶が混じっているんだよな?」

「その通りだ」

頷き、ペインは説明をしてくれた。

あの夜、月に刻まれた術式を見上げた長門は、輪廻眼でその術式を解析したらしい。そして、わずかながらに繋がった。

そしてとある術を使って、六道仙人の記憶を得たという。

「とある術………?」

「ああ。誰もが知っている術だ。最も、今ではそのほとんどが、別の意味で使われているがな」

ペインの言葉に俺は疑問符で返す。一体、それは何だというのか。

「死者の魂そのもの―――あるいはその欠片を呼び、身に宿す術だ。危険なのも相まって、今ではもう久しく使われていない術だがな」

―――死者の魂を呼び寄せる。その単語を聞けば分かった。

「降霊………いや、“口寄せ”か」

「―――然り。今で言えば、口寄せ・穢土転生がそれに近い性質を持っているか」

ペインの、ラーメンをすする音が響き渡る。

「………最も、亀裂の入った長門の魂と融合したせいか、俺の魂としての形は、元のそれから随分と変形してしまったのだがな………」

余計なオマケもついてきてしまったのも、理由の一つとして数えられるが、とペインは言った。

「余計なもの?」

「今、現出したものではなく――――かつて六道仙人が封じた十尾だ。癒着した魂に混じり、いくらかは俺の魂の隙間に入り込んだ」

ペインは自らの胸を叩き、そう説明をする。

「古代の亡霊、古き破壊神ってところか」

「或いは月の神とも言えよう………話しが逸れたな」

続きを話すぞ、とのペインの言葉に俺は頷きを返した。

「あの後、俺はあの場に居た忍びを皆殺しにした。ただの一人を除いてな」

「ただの一人………かの雨隠れの半蔵殿か」

「ああ。奴は部下を囮にしてその場を去り、里へと逃げ帰った。そして徹底的に防備を固めた。俺が恐ろしかったのだろうな。
 ――――だけどそんなものは意味を成さない。俺は真っ向からその要塞とも言える防備を突き破り、半蔵は勿論の事、一族の者全てを皆殺しにした」

「同胞と親友の仇………つまるところは復讐か」

「そのとおりだ。ペインの中に残った長門の残滓、それが何よりも望んでいたことだからだ。あの時は、復讐の念が他のどれよりも強く、胸の内を占めていた。
 俺は女子供問わず徹底的に壊し、蹂躙し、里の忍びをも巻き込んで血に染めた――――そして、長門は壊れた」

「壊れた?」

「ああ。復讐の念が消えたと同時、長門の念は弱まり、やがてはその魂の色も薄れた―――長門としての自己意識が弱まったせいだった。
 ―――あるいは、女子供を殺す己の業をはっきりと自覚したからかもしれないが」

「他人事のように言うんだな」

「今となっては過ぎ去りしこと―――他人と成り果てた俺にとっては、真実他人事でしかないよ。今の俺は長門としては遠い」

いや、人でさえもないかもしれんとペインは真顔で言う。

「今の俺は六道仙人の意志と、十尾の持つ使命に動かされている、ただの装置に過ぎない。長門の意志の残滓と、六道仙人の義務感と、十尾の欠片の使命が合わさった、一つのシステムにしか過ぎないのだ」

「共通するのは目的だけ。いわば肉の器に集った、集合意識体というわけか………成程、人じゃあないな」

「その通りだ。そして俺は、とある目的を達するため、そしてあることを知るために、一人で旅に出た。各地を流れたのだ」

「それはまたどうして? そこは着々と忍び滅亡の計画を練るところだろ。お前の言うことが本当だとするならば、お前の人格はほぼ六道仙人を基板としている筈。
 無差別な破壊活動に出ていないのが証拠だ」

十尾はあくまで欠片だろう、と言うとペインは頷いた。

「知識も持っている。そんなお前が、今更何を? 目的とはなんだ?」


「そうだな……・まず一つ」


ペインは指を一つ立て、言葉を続けた。


「忍びは殺す。だが邪魔だからとて“ただ”壊す、という訳にもいかなかったのだ。忍びが抜けた穴を埋める存在が必要だった。
 忍びの役割そのものを果たす集団では無くても、全国各地である程度の規模を持ち、また組織力に富んでいる存在を作る必要があった。
 その後に起こるであろう混乱を収めるためにはな」


「その組織………それが、“網”か。設立に手を貸したのも?」

「裏の目的があったからに過ぎない。そこで俺は“残月”―――偽名を名乗り、組織を運営していくに相応しい人材をかき集めていった」

これでも昔は、一組織を率いていてのもあるのでな、とペインはその要望を大人びたものに変える。

「ということはつまり、先代の“斬月”―――あいつが名乗っていた名の通りだと“ザンゲツ”……あいつが、あんたの名前を借りたのか」

「ああ。借りを返すため、とあいつは言っていたが」

「借り?」

「俺は網の設立時のごく初期に起きた揉め事などの解決、忍びとの交渉、また妨害工作を秘密裏に防ぐなど、裏から手は貸した。だ
 が表の存在として、組織の裏首領として名乗りをあげるつもりはなかった」

後々の展開を考えれば、どちらにも不利益になるからな、とペインは無表情のままラーメンをすする。

「破壊するものに連なる糸は少ない方がいい。それこそ、無いことが相応しい」

「テロリストだもんな。俺も、言えた口じゃないけど」

色々とやばいことをしているのは、俺も同じだった。
多少の違いはあれど、大国側からは恨まれるようなこともある。

「だが、それではあいつの気が済まなかったらしい。俺に何かを返したかった。だから、それで何も返せないからせめて、と………あいつは俺の名前を首領としての称号にした。こちらは全然気にしていないというのにな」

「それは何故?」

「若干の問題解決には手を貸した。だが、組織の基礎と方針、運営の方法、そして大事な所での決断を下したのは全てあいつだったからだ。俺はあくまで初期限定に起こる厄介ごとを防ぐだけの、いわば補助器具に過ぎなかったんだよ」

「でも、知恵は貸したんだろ?」

「教えたにしても、忍者が何を出来るか、など小さな事に過ぎない………設立してしばらく、あそこまで大きくできたのは間違いなくあいつの手腕だ。
 チャクラも使っていないというのに、人間というのはここまでやれるのかと正直驚いたぞ」

「忍びにしろ誰にしろ、すげえやつはすげえからなあ………で、それが何年前?」

「うちは………便宜上“マダラ”と呼ぼうか。奴が九尾の妖魔を操り、木の葉隠れの里を襲せる数年前だ」


そこでペインは僅かに表情を暗くする。

もうひとつ、指を立てる。

「知りたいことがなんなのか、と言ったな。それは………忍びのことだ」

「忍者の事を?」

術や体系その他は、理解しているはずだろう。
そう問うと、ペインは首を横に振った。

「知識はあった。だが、直接触れ合ってはいない。今の俺となった現在の魂で、雨隠れの腐れ忍者とは直に話しあっても、大国の忍びとは接していなかった」

「だから、網の裏で忍者………各国の隠れ里を探ったのか。忍び達の“今”を知るために」

「そうだ」

「それで、何か分かったのか? 例えば、大戦の原因は忍びだけに在らず、といったこととか」

「………そのとおりだ」

第一次忍界大戦。その発端は、今でも不明とされている。

だが第二次忍界大戦の発端に関しては、壮年の忍びであれば誰もが知っていた。。
第一次大戦の戦後処理の果てに発生した、経済格差。貧富の差が著しくなったが故に起きた、戦争


“貧乏だが、力はある。そして力があるならば、富んでいる国があるのならば、奪えばいい”


それは果たして、大名など国の上層部の意志であったのか。
果ては、武力派と忍者達の提案で起きた事であったのか。


「そのどちらか、今となってははっきりしないが、忍びだけが原因で無いのは分かった………しかし、第三次忍界大戦は別だ」

第二次大戦で疲弊し、少なくなった人。
荒れ果てた田畑。壊れ使い物にならなくなった道。

そのどれもが、忍びの手によるもの。
戦場を選ばない忍びが原因であった。

「過去、まだ種類が少なかった忍術は戦争という養分を吸いながら発展し、強くなった。そして、その術の威力や凄惨さもまた………」

ペインが少し、遠くを見た。

俺は、綱手の弟の事を思い出していた。
見るに耐えない程になるまで、人を壊す術というものがあるらしい。

螺旋丸も使いようによっては、それが可能となるだろう。

「五つの隠れ里が設立され、そして互いに競い負けぬようにと必要の無い術を開発した。愚かさと残虐さを切磋琢磨し、挙句の果てには関係の無い人達まで巻き込む。
 結果が、長門であり弥彦であり、小南だ。そして無数の物言わぬ死体達だ――――怨念だよ、うずまきナルト」

無表情の透明であった顔を憎悪の黒に染め、ペインは話す。

「第三次大戦の初期、侵攻のため千名の忍者を投入した岩隠れ………その裏で起きた事を知っているか? 
 今でも衰えていない雲隠れの国………秘術を探索する忍びが、裏で何をやっているか知っているか?
 血霧の里と呼ばれた霧隠れの里も加え、泥沼の小競り合いが起きた事を知っているか?
 砂隠れお得意の人形細工。あれが開発されるまでに、何があったのかを知っているか?
 木の葉はいわずもがなだ。三代目火影は実に頑張ったが、大蛇丸を野に放ち、ダンゾウを暗躍させたままにした罪は重い。
 あいつらが裏でどんなことをしているか、お前は知っているか? ―――俺は知っている。各地に残った怨念達が教えてくれた。
 言葉にするにもバカバカしい、マダラが引き起こした十尾覚醒という出来事の果てに、知ることとなった」

「………成程? 十尾は全てを取り込むと聞いたな」

「そうだ。十尾はその巨大な身体の中に人を取り込み、負の思念さえ取り込み、その中に蓄える。取り込んだ者に幻術を見せ、そのの時間と止めたままにするのだ。
 
「輪廻を廻す、その力とするために?」

「その通りだ。全てを終わらした後、始まるために」

「………なんだか何処かで聞いた剣の能力と似ているな」

「ああ、イタチの持つ十拳剣のことか? ―――あれも、十尾の能力を解析して出来た結果だろうな。俺が居た時代にはもう存在していたが、まだあるのか」

十拳剣とは、別名「酒刈太刀(サケガリノタチ)」とも言われる、実体のない霊剣のことだ。

突き刺した者を酔夢の幻術世界に飛ばし、封じ込める能力を持っているという。

いわば剣そのものが封印術を帯びた、切り札とも成り得る武器で、草薙の剣の一振りでもあるらしい。

「………あるいは、他者のチャクラを飲み込み自らの力とする擬似尾獣、“零尾”とやらと同じ存在かもしれんな。巨大な力に対向するため、同質の力を解析し用いるのは別におかしい話ではない」

「“十拳”の剣だしなあ」

「言い得て妙だな」

そう言った後、ペインは手元の水を飲んだ。

「まあ、そのイタチの尽力により、大国は今何が起こっているのか、その果てにどうなってしまうのか………遅すぎるが、それを理解したようだな。今や世界の滅亡は秒読みだというのに」

「………それを隠したのは、他ならぬお前だろうが」

「それもあるが………根幹となる伝承を忘れ、今に矜じた忍びは、何をすべきなのか、そしてどうすべきだったのかを知ろうともしなかった。
 それも確かだ。あるいは、自分たちに裁きが下るなど思っても見なかったのだろうな………力による好き勝手がいつまでも通ると思ったのか」

馬鹿が、と。

ペインは嘲笑を浮かべ、吐き捨てた。
いや、これは六道仙人としての言葉だろう。俺は何となくそう思った。

そして並べ立てられた事実を認識する。

裏で何が起こっているのか、俺は理解していた。
人が10人いれば、その色も十様だ。

善なる人だけが生きていると考えるような甘ちゃんでもない。

人の道に外れ、外道に落ち、畜生に成り果てた人間に似たなにか。

そういうのも、この旅路の途中で、幾人か見たことがある。



――――しかし。そうだけれど、決してそれだけでは無い。


「だけど………戦争を防ごうとしている者もいる。平和を愛し、外道を憎む忍びも居る」

筆頭が三代目火影。木の葉の中にも数多く居る
他国にも居るだろう。

「そして今、軍事力は縮小されている。戦争によって――――死によって学び、それを繰り返さないために努力している」

それも事実だろう、と俺はペインに告げる。


間違えない人はいない。人は万能じゃない。

人は神足り得ないのだから。


「しかし、だからといって、その言葉だけで全ての間違いが許される訳じゃない。それは、理解しているか?」

「ああ、理解しているよ。だが、全てを滅ぼすという選択もまた、正しいことじゃない」


間違ったから、正す。それは正しい。だが贖罪という概念も無しに断罪を下し、存在を無くす。

いわば始めから全てを無かったことにするというのは、違う。それはまるで神の所業だ。

人の身でそれを成すというならば、これ以上の傲慢があるだろうか。

そして神様だとして、それがなんだというのだ。例え偉かろうと、無闇矢鱈に命を弄ぶことなど、それが許される訳だない


「それに………そもそも、忍術が広めたのは六道仙人だろうが。忍術を興したお前の中にいる英雄も、今の世界の現状となったその一因を担っているはずだが」


「そうだな………それも、また事実だ。しかし、反対の事実もある。それ以外の、避けえぬ事態もまた」


「それは………」


二つの相反する事実と言われ、俺は言葉に詰まる。

それもまた、確たるものだからだ。どうすれば良いのかなど、それは俺にも分からない。

だけど殺してはい終わり、などということも認められない。


(………ん?)


気づけば、迷い考え込んでいる俺の前にいるペインの、その様子が変化する。


憎しみの黒を、再び透明なそれに戻している。やがてペインはその顔をこちらに向けた。
そして、俺の眼を真っ直ぐに見る。


そこには、真摯な色が灯っていた。

ゆっくりと口を開く。




「そう―――だからこそ、お前をここまで導いたのだよ」



声が、森に響き渡った。





























―――――・


あとがき

難産過ぎました………。

後半に続く。続きは明日、明後日くらい?




[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十話  「疾走する宿命」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/18 00:03



「ふむ、木の葉の忍びだから距離を置くとな………聞いてもいいか?」

言いにくい、といった風に、紫苑は訪ねる。

「理由か? ああ何、単純な事だ………お主も知っておろう。あやつの中にあるものについて」

「………うずまきナルト。そして、小池メンマか」

「そうだ」

二つの名前を並べた紫苑に対し、九那実は頷くと、今まで誰にも話さなかったことについて、説明をした。


「今のあやつの魂は、二つで一つ………即ち――――」

途中で、切れた言葉。


その続きを、紫苑が紡いだ。


「―――つぎはぎの魂、というわけか」


「……そう。彼方より呼ばれた魂と、元から在った魂。どこかの誰かと、うずまきナルト………今のあやつの魂はその二つが合わさってできたもの」

そう言った九那実は、横目でちらりと紫苑の方を見る。

「………それにしてもやはり、お主はあの時に気づいていたのか」

「本来の巫女の力が戻るまでは、気付かなかったがのう………しかし、うずまきナルトとしての形が残っている確証はあるのか?
 本来のナルトとしての在り方からはずれているじゃろうが、その魂の全てが抜けきったとは―――」

「それは無い。我がいる限りはな」

ぽつり、呟く。

「まあ、色としての存在が残っている、などという確証も無い。確かめようもないからな………だが、そう感じる理由としては、二つ」

頷き、九那実は指を一つ立てる。

「一つ―――メンマと、マダオ。あやつらは実に似ている。性格も、ちょっとした仕草もな。そしてもう一つは―――あやつの中にいる、もう一人の名前じゃ」

「名前? そういえば聞いたことが無いな」

「それもそうじゃろう。あやつは生前の名前を未だ思い出せないのだから」

そしてそれが理由だ、と九那実は断言した。

「――――名は体を表す。そして名は魂の在り方をも位置付ける。それが思い出せないなど、本来ならば有り得ぬもの」

「それは、うずまきナルトとしての魂があるから?」

「違う。あやつが一度、“死んだ”ということを認識しているからじゃ」

最初に出会った時、ちぐはぐな話しを聞いて、だが九那実としては一つ理解していたことがあった。

「………メンマ、と呼ぼうか。あやつは、一度死んだ身じゃ。そう、死んだ“はず”の身である。それが欠片でも現世に舞い戻るなど、それも本来ならば有り得ない話じゃ。
 死者は蘇らない。千引の岩は絶対で、だからこそ生に意味がある」

死者は死者で、生者は生者。だからこそ、死に意味が生まれ、命の意味も生まれる。
それはまともに生きている者ならば、誰もが知っている理屈だった。

「そして、一度死んだあやつは――――だからこそ死に対して、常に畏怖と尊敬の念を抱いている」

いわば死ぬことに対して臆病なのじゃが、と九那実は首を横に振った。

「そして、こう考えている。俺だけが、こんな機会を与えられて良いのか、とな。そしてもう一つ。死んだ、うずまきナルトの代わりに、生きていいのか。
 それがもう一人の魂………それが持つの本来の念を弱めている」

俺は、死んだのか。
でも、俺は生きているのか。

二つの意志が葛藤していた。そして引け目を生み出していた。

「………あやつが戦いに赴く時の理由は多々ある。それには義務感や、贖罪の念。そして運を天に返すという意志も含まれている」

「運を………天に返す」

「そうだ。一人で使うには、分不相応と考えているのじゃ。だからこそ、危地を前にしても誰かを見捨てて逃げることはしなかった。こぼれ落ちた誰かを見殺しにして、自分だけがのうのうと生き残ることはしなかった。
 あまりに分不相応過ぎる、受け取った運……だが、その運を天に返すことはできない。それは自殺を意味し、あやつが最も嫌悪すべきことじゃからな」

苦笑したまま、言葉を続ける。

「だから別の場所で返す。天から落、天をも見落とした誰かを掬い上げると」

「だから、妾達を?」

「勿論、利己的な者も含まれている。だが意地もあった。今話した、想いもあった」

綺麗なものだけでは無いと、九那実は言う。

「選択する時。いつもあやつの中では多数の念が渦巻き、そして煮立っていた。それはまるでラーメンのように」

「らーめんのように………」

「そう、ラーメンだけに………」

復唱されて少し恥ずかしく成った九那実の、その陶磁器のように白い頬が僅かに染まった。

「………は、話を戻そうか。我とマダオとメンマ、その中のメンマの魂を構成する成分は二つある。
 ならば、分かるじゃろう………あやつの中には、うずまきナルトの残滓が残っておるのじゃ。“木の葉の暗部に裏切られたうずまきナルト”が」

壊れた魂の半分が宿っていると、九那実は告げた。

「だから距離はある………だが、ある意味では、無いとも言える。だが確かに存在する。これは実に複雑なことでな」

そういい、九那実は説明を続ける。

「うずまきナルトとして、木の葉に対する恨みは確かに、確固たるものとして存在している。だが、メンマとなったあやつとしては、それを理由に女子供見捨てることができない。
 相反する意志が存在している。本人が自覚していないのも、原因の一つじゃ」

そこで少し、九那実は儚い笑顔を浮かべた。自分の事を思い出したのだ。

そのまま自分のことまでも言ってしまいそうになるが、寸前でとどまった。先の話を続ける。

「………内在する魂による行動。あやつは傍から見れば、はっきりしない変な奴と思われるじゃろう。恨みを表に出さず、利だけを求めず、どちらともつかない行動を取る。
 それもそうだ。あやつは中途半端な立ち位置のまま、つぎはぎな魂の元、どちらとはっきりした行動を取ることができないのだから。それこそ、任務や己のすべき事でない限りは」

九那実の思いつく限りでは、木の葉崩しの妨害や、綱手探索が主にそれに当たる。
だがそれだけではないと、九那実は首を横に振った。

「逃げ出さず、あやつがとどまった戦場―――そこには、いつも誰かが居た。
 それはお前であり、あるいはテマリや砂隠れの小娘であり、木の葉の小娘や小僧共である」


一息つき。

そして九那実は、誇らしげに語った。


「戦う力無き子供が、理不尽に殺される事ならず。夢半ばにして、理不尽に死ぬこと許さぬ。
 あやつは常にそう叫び、戦っていたのだ、死に怯えながら、それでも――――救われなかったうずまきナルトという少年と、道半ばにして倒れた誰かの夢と、その姿を重ねて」







~~~~





「導いた………」


「そうだ。とはいっても、最初――――お前がお前になった、あの夜に助けたのに大した理由はなかった。まあ、偶然ではなかったのだが」

「知っていたと?」

「見張っていたのだよ。半ば必然とも言えるが。それもそうだろう俺は常に、九尾の残滓………いわば十尾完全復活の鍵とも成り得るお前を見守っていたのだから」

だから助けにも間に合った。ペインはそう告げ、言葉を更に重ねる。

「ただ見捨てることが出来なかったから、助けた。最初はそれだけの理由だった」

抜け殻であるお前がどう動こうと、俺にはあまり重要なことでもなかった。とペインは言う

「だから河からお前を上げた後は監視を断った………そう、お前が網に入ってくるまではな」

あの時は心底驚いたぞ、とペインは苦笑する。

「修行の内容のも驚いた。実に理にかなった内容で、とても一人では考えつくことのできないもの。加え、お前は螺旋丸を使った。この二つと、四代目が使ったという屍鬼封尽」

あれはいわば魂を切り取る、加工する術とも言える。ペインは大したものだと呟いた。

「そして、お前の中から抜けきった九尾の妖魔の残滓。今も月に封じられている十尾ではなく、新しい今代の十尾の本格的覚醒。
 それらの情報から、お前の中に誰がいて、どういったことになっているのか、大体は理解した」

「マダオ………波風ミナトのこともか」

「言っただろう。魂を操る術は極めて高度で、使える者は少ない。その術者の名前など、嫌でも覚えるさ。そして、その腹に刻まれた封印術も、この眼で見れば理解はできる」

「ならば何故放置した? 忍びを滅ぼすというお前の目的を阻む壁となるとは考えなかったのか?」

「………お前も、まだ色々と知らないことがあるようだな。それは後で九尾か、四代目にでも聞け。俺がお前を殺さなかったのは、別の理由だ」

「………?」


「お前は覚えているか? 鬼の国で、お前が初対面であった紫苑に取った行動を」


「………確か………紫苑に話しかけたんだっけか………」

そして探索途中、道中で拾ったボールを放り投げて、キャッチボールをしたのだった。

だけどそれが何だというのか。そう尋ねると、ペインは真顔で言葉を返した。


その瞳は俺と―――此処にはいない、誰かを見ているようだった。

ペインの話しは続く。

「あの時も心底驚いた。お前が紫苑に話しかけるなど、有り得ないと思った。いや、話しをすることは特別、おかしいことでもないな」

ペインはその時の事を思い出したのか、あるいは別の光景を思い出しているのか。少し遠い眼をする。

「うずまきナルトであるお前が――――同情の念を抱くこともなく。ただ、互いに楽しもうと少女に接するのは、有り得ないと思ったのだ」

「同情………いや、同情ではなくて、俺はただ単純に遊びたかっただけだが」

「そうだ。そしてそれこそが、紫苑を底から掬い上げた」

そこまで聞いて、俺は思い出した。
あの時はただ、何も考えていなかった気がする。ただ、少女の泣き顔を見たくないと、そう思っていた気がする。

「そこからの一連の行動も、そうだ。最初は事の発端の一因を担っていて、力もあるお前を派遣した。しかし、まさか根の精鋭を相手にして、負けて………それでも立ち向かうとは思っていなかった」

「一度は止めかけたけどな」

「だが、お前は来た。ザンゲツや、女将の言葉もあったのだろうが、お前は選択した。戦うことを。そして見た―――純粋なまでの、怒りのチャクラを」

「お前は傍観していた?」

「いざとなったら、助けに入れる。そして薬の効果も侮っていた。そこは俺の失態だった。だが、正直入れなかった。血まみれで吠えるお前の姿を見るとな」

「…………俺だけの力じゃない。あれは、キューちゃんの力を借りてのことだ」

「それでも不利に過ぎる戦場へ駆け込み、命を張ったのは確かだろう。木の葉崩しの時………一尾と相対した時もそうだ。お前は殺さずに、命を賭けて殴り飛ばした。
 言葉と共に殴り飛ばし、我愛羅を闇からすくい上げた」

「立ち直る意志を持っていたからだ。俺はただ気に入らなかった。だから殴っただけだ。大層な事をした覚えはない」

「だが、言葉を交わした。化物と捉えず、ただの一人の人間として」

「………買いかぶりだ。音を調子づかせたくないという、俺の目的のためでもあった」


「だが、それが全てではないだろう」



だからこそ、賭けてみたくなった。


そう告げ、ちょうど食べ終わったペインは立ち上がり、屋台から少し離れる。


そして夜空に浮かぶ月を見上げながら、言った。


「実はといえば、迷っていた。弥彦が守ろうとしていた世界を、忍びとも和解しようとしていた意志を捨て去るのを」


装置が、謳う。

装置で無くなった月の夜の下、謳う。


「だが16年前の事件………十尾が覚醒する事態は免れ得ぬこととなった。その時に決断した。俺は忍びを滅ぼそうと」


「それは何故だ?」


「十尾。それは、全てを喰らうもの。それは月に浮かぶ古き十尾をも含む。そして存在的に、十尾は世界とつながっている」



「―――――まさ、か。それは、まさか、そんな………嘘、だよな?」


そんな俺の懇願。それを無視して、ペインは告げる。


謳うように、告げる。


「世界に新しい夜が満ちた時。闇が溢れ、世界は嘆き―――――月は満ち、そして落ちる」


それは正しく、世界の終わりを意味していた。

月が落ちたらどうなるかなど、あまりにわかりきったことだからだ。


「防ぐ為には、今暴れている新しい十尾―――これを封じ、新たに空へと打ち上げる必要がある。だが、それに必要なものは二つ。
 
 一つは、膨大なチャクラ。そしてもう一つは、十尾の最大の動力源である怨念の対象――――忍び達全ての魂だ」


「………怨念の対象をつぶし、力を弱め、またチャクラを取り込み利用することによって十尾を封じ込めようというのか」


「そうだ。俺はかの、六道仙人とは違う。仙人の肉体を持たない俺が、十尾を封じ込めるには代替するものが必要になる。あるいは紫苑の巫女のチャクラを併用する方法もあるのだが―――」


言葉を途中で止めたペイン。

その続きの言葉は、嘲笑と共に発せられた。


「これには人を助けたいという、強い意志が不可欠でな。そして俺は“そんなもの”を持ち合わせていない」


誰が忍びのためになど、動いてやるものか。
ペインはその両の眼だけで、意志を告げてくる。


「そして、実現は不可能に近いが………もう一つある」


「だから………それで、何故俺を? 賭けてみるとは、その方法を手伝わせるということか?」


「その通りだ。見せて欲しい――――異邦人。贔屓目の一切ないお前が見てきたこの世界が、お前が最も多く接してきた忍び達が、本当に生きるに値するものかどうなのかを」


「何………!?」




驚きの声を上げた俺の方を向き、ペインは宣戦布告の言葉を告げた。



それは、最期の決戦の約束だった。


「来るべき、五影会談。その日俺は、忍び達を滅ぼす。隠れ里を含めた、全てを滅ぼす」


「………お前の力は知っているつもりだ。確かにお前は強い。途轍もなくな。だが、全ての忍びを敵に回して尚圧倒できる程ではない」


「そうだろうな。戦いの中、対応策をとられてしまえば、また間断なく攻められれば俺とて危うい。一つの隠れ里程度ならば撃滅もできようが、全てを隠れ里を相手取るのは難しい」

だが、とペインは口の端を上げた。

「暁の構成員のような規格外の忍びが加われば、また話は違っただろうが」

「暁を排除したのはそのためか?」

「元はマダラが集めた者たちだ。それに、デイダラ当たりは予想外の行動に出そうだったしな―――だから、可能性として、潰した。残るはイタチだけだが………俺としては、イタチを殺すつもりはない」

「それはどうし………ああ、そうかもしれないな。イタチなら、悪戯に人を害したりはしない。だけど木の葉を潰そうっていうお前を止めようとする筈だが?」

「その時はその時だ。ゼツも、単独では無害な奴だしな」

「………鬼鮫は?」

その問いに対し、ペインは無言のまま屋台の上へとあるものを置いた。

「“南”の指輪………」

「鮫肌諸共飲み込んだ。実に良い養分になったぞ」

「………だが、まだまだ手練の忍びは数多く存在するぞ。そいつらを相手どり、お前は確実に勝てるとでもいうのか?」

「正面からぶつかれば、そうだろうな。だがそんな愚を、俺が犯すと思うのか?」

「………それは、どういうことだ」


「切り札は既に、隠れ里の深奥へと入り込めた、と言いたいのだよ。今やあの死体は黄泉比良坂と同義。そこより来る黒き波濤は、全てを飲み込むだろうよ」


「………は、黄泉比良坂? それは確か、黄泉へと繋がる道―――――――――――――あ」


思わず、マヌケな声が出てしまった。


「………忍びは裏の裏を読むべし。つまりは、そういう事か」


そこまで言われて、始めて気がついた。

つまりはこう言いたいのだ。


あの死体は、黄泉とつながっていると。


「月“黄泉”とでも言いたいつもりか」


眼を伏せ、心中で叫ぶ。


(この野郎、何て策を考えつきやがる………)


実に頭がキレる、というかキレすぎる。多様な術を持っているにしても、常人ならば思いつきもしないだろう。

差し迫った危地に気づくことができなかった俺は、あまりの絶望感に嘆息することしかできなかった。


「初手の、死体人形を使い各国間を緊張させたこと。その裏にもまた、意味があったということか」


恐らくは口寄せの術式を編み込んだ符を、死体の奥深くにでも埋め込んでいるのだろう。

そして、死体調査の忍びはそれに気づくことができない。


十尾を呼び込む、必殺の爆薬とも言えるそれが潜んでいることに気付けない。


「………死体は五影会談の際の、重要な証拠だからな。厳重に保管されて―――そう、間違っても壊すことはできない」

死体の保管場所は、各国の隠れ里のそれも深部であろう。


「そして対処の支持を出すべく五影達も、出払っている――――罠の巣の中にな」


「一網打尽………まさか鉄の国にも?」


「五影会談が開かれるのも、想定の内だ。そこに罠を潜ませること、何かおかしいところがあるか?」


問われ、首を振る。悔しいが、特別おかしい所も無い。

先回りして罠を張るというのは、戦術としての常套手段だ。

里に潜ませた切り札も同じ事。実に合理的で無駄がない作戦ともいえる。

しかし、俺としては一つだけ、気に掛かることがあった。


「………何故俺に話す? 今、俺がそれを各国に知らせたら――――」

問いかける。だが、その言葉は途中で遮られた。

「勿論考えたさ。その上で言っている。そうだな………お前が気づいた時の保険だよこれは。もし、今の情報を隠れ里の誰かに話したら―――いや、その予兆が感じられた時点で、十尾を開放する」


その言葉を聞いた俺は、凍りついた。

「気づきそうなのはお前ぐらいだ。俺と同じ、裏で画策することに長けているお前ならば………分かるだろう?」

「………予防線と、警告か。だけど、それを何故俺に?」

「もし一人で忍びを滅ぼそうとしたら―――そのような想定が出来るのは、俺かお前だけだと想っている。負ければ即死のこの世界で、助力も無く一人生きてきたお前ならば、あるいは気づく可能性もあるだろう」

その言葉を前にして、俺は黙ることしかできない。

確かに、負けたとしても助けは見込めない戦場で、俺は常に最悪を想定しなければならなかった。

白と再不斬が仲間になるまではずっと、俺も一人で戦ってきた。一人、ということの弱みは、取れる対応策が限られてしまうこと。

だから常に戦場を想定し、最悪を考えて戦うことにしてきた。

「そうだな………あるいは、気づいたのかもしれないが………」

呟いた後、俺は肩を落とした。

気づいても、話すことは許さないというのは結構深刻なことだ。知らなかった、などという言い訳も封殺されるのだから。

後は隠れ里側が独力で気づくことしかなくなる。だけど、気づいたらどうなるのだろう。

そこまで考えて、俺は思考を断ち切った。それは今検討すべきことではない。問題はこいつの用意した選択肢の上を歩かなければならないことだ。

「隠れ里と、主力。それを同時に叩いて、戦力を大幅に削り取ると言うわけだな?」

「その通りだ。寡兵における戦法は、どの世界でも同じことだと思うがな」

その言葉に俺は頷きを返す。

寡兵の肝は、一点突破。奇襲という状況が絶対に必要だ。
そして相手が体勢を立て直すまでに、どれだけ相手の戦力を削れるかによる。

そう考えるならば、確かに“あり”の戦略だといえる。

いや、十尾の性質を考えれば、これ以上にない策かもしれない。というかこれは奇襲の範疇を超えている。
下手をすれば、この一撃で忍び達は壊滅的な損害を被りかねない。

「………人柱力も飲み込むのか?」

「ああ………尾獣をもう2体も確保できれば、負ける可能性は零に出来たのだがな」

「………参考までに聞くけど、尾獣をあと2体吸収したら、十尾はどうなっちまうんだ?」

「完全覚醒の一歩手前になる。忍術の全てをも吸収できるようになる」

「そうなったら対処する手立てはなくなるなあ」

ははは、と俺はやけくそ気味に笑った。

「………それが出来ないから、人形を潜ませたのか?


「想定できる事態には全て、対処が可能となる手を打っておくべきだろう。一つの行動に多重の意味を持たすべし、俺は無駄が嫌いでな」


「………つくづく。本当に、嫌になるほど優秀な奴だな。だけど、分からないな。なぜに俺にそれを告げる?」


俺はペインを睨みつけながら問うた。

ペインは少し視線を空の方へ上げながら、答える。


「紫苑への治療の礼だ。そしてこのくだらない茶番劇に巻き込んだ詫びとして―――――そして今ごちそうになったラーメンへの、礼としてな」


「それだけか?」


「あと一つ―――あの曲を聞いて、昔に捨て去った事を思い出したから、かな」


そう笑ったペインの顔は、見たことのない表情を浮かべていた。

俺は知らないが、自来也が居ればあるいはこう呟いたのではなかろうか。

“長門”と。



「だから、戦おう。異邦人よ。場所は一ヶ月後、五影会談の、その日だ」



自らとこちらを交互に指差し、ペインは告げた。




「1対1だ。他の誰にも、邪魔はさせない。戦い、お前が負ければ、俺は忍び達を滅ぼす。
 世界と人の怨念の望むがままに、痛みを知ろうとしなかった忍び達を、食い散らかしてやる」



表情は元に戻っている。

表には、痛みというものを思い知らせてやると叫んだ長門と、忍び滅ぶべしと告げた六道仙人、そして十尾の残滓が映っている。


だが言葉を告げた後、ペインは眼を閉じて続きを話した。


「だがお前が勝てば、俺はお前の言い分を認めよう。忍びは滅ぶべき存在にあらずと、そう判断しよう。
 それを認め―――生まれた新しき十尾と、俺に宿る古き十尾を、共に月へと返す」





あくまで構えず、自然体で。

挑むような半身で、ペインは告げた。





「俺は、死せる者達の声として。“忍び滅ぶべし”と叫ぶ、亡き者達の代表として、最期までこの道を往く。

 忍び世界に根ざした呪いを、忍びの存在ごと――――裁断の手を以て。痛みを刻みつけ、諸共に消し飛ばしてやる」





背後、僅かに十尾を顕現させ、ペインは真っ直ぐに俺を見た。

輪廻の瞳が、俺だけを見据えている。

俺の返答を、望んでいるのだ。



あるいは、これ以上にない茶番劇かもしれないと思う。

状況全てが、俺を道化にしている気がする。生かされたあの時。知らず、導かれていた事実。



(だけど―――それがどうした)



俺が道化であればいいのなら、それでも構わない。

忍び云々は別として、俺には戦う理由があった。


だから別に、道化でも構わない。

滑稽な道化の踊る、喜劇の主役でも構うものか。

それに紫苑を見逃したこと、俺は許した訳ではない。それに対する言い訳も、納得できていない。

だから神を語る傲慢さとかの突っ込みとか、それら全てに対して、俺は拳で突っ込んでやる。


ぶっとばしてやるのだ。



命惜しさに、逃げ出して犬以下の畜生として長らえるくらいならば。

いっそ見事に咲いて―――――散ってやる。



それに、残すもの―――託すものは、既に託した。生半可な覚悟ではこいつには勝てないだろうと思ったが故に、キリハに万が一の事を考えて、あの日誌を渡したのだ。

後悔は勿論ある。だけど、どうしようもなかったのも確かだ。神ならぬこの身としては、考えつく、そして取りうる選択肢の中から、ひとつずつ選んで行くしかない。



故に、最後の決意をしよう。

いつも俺の中で見ている、あの二人のためにも。





「俺は―――俺は。生きる者達の代弁者として。忍びという人を信じる、ただの一人の人として。亡者達と世界の叫びを止めるため、その申し出を受けよう」






戦おう、月より来る隠り世の使者よ。





「今に生ける人、そして忍びの代理として。違う解決を望む者として」







俺の前に立ちはだかるというのなら。


理不尽な死をばらまくというのなら。


俺の夢を否定するというのなら。







「お前と十尾を止めてやる」







~~~~





時を同じくして、森の外れ。


そこには、とある集団が陣を組み、話しあっていた。

その数、12名。

中心の4人と、少し離れたところに突立ているものが3名。

他、5名の中忍と上忍が控えていた。


中心の4名の間で交わされる声は喜色に満ちており、士気は上々と言えよう。

それもそうだ。目的のものが見つかったのだから。


集団の頭――――――薬師カブトが、探索担当の赤髪のくノ一、香燐へ確認を取る。


「本当に、見つかったんだね?」


「ああ。うちはサスケと、裏切り者の多由也のチャクラを感知した。この先にある網の療養地に二人は居る」

「勘違いということは?」

「………ない。多由也のチャクラパターンは、その3人と同じようなものだろ? 呪印の影響が抜けたようだが、特徴のあるチャクラを持っているからな」

「サスケ君の方は?」

「………一度、会った事があるからな。忘れねーよ」

「初耳だね、それ。まあ今はいいか。間違いないというのなら、僥倖だし」

「ふん」

「それで、他には誰か居た? 手練の忍びが周囲に潜んでいるとか、近づいてきている忍びが居るとかは?」


「ああ、ひときわ大きいのと、大きいのが二つ、さっき北の方へ遠ざかっていったよ。ああ、その少し前に三つ、こちらもひときわ大きいのと、大きいのが二つが東の方へ遠ざかっていった」


「北は木の葉だね。東は霧か。それで、残っているのは?」


「………二つ、結界のようなものの中に入り込んでいて、こちらは今どうなっているか分からない」


「中の様子は?」


「分からない。あんな結界、見たこともないし分かるわけねーだろ」


「………そちらも、後で確認しようか。それと、勿論相手に気づかれてはいないよね?」


「そんなこと、無いに決まってるだろう。ウチの神楽心眼以上の索敵能力を持っている忍びなんか、いやしねえよ」


香燐の特殊能力、突発的に生まれた血継限界とも言える神楽心眼。

それは千里眼とも言えるもので、半径数十キロもの超広範囲で特定のチャクラを探る事が出来るのだ。


「ふ~ん、それで再不斬先輩は何処に行ったの?」

香燐の隣に居た、大刀を担いだ色白の少年―――ー元霧隠れの忍び、鬼灯水月が目的でもある霧隠れの鬼人の事を訪ねる。

「はっきりとは分からねーけど、さっき遠ざかっていった3人の中に居ると思うぜ。どうもチャクラがそれっぽかったし」

「はあ!? じゃあ、僕が来た意味ないじゃん!」

「あー、それはまあ、仕方ないとして………というか、そこは喜ぶべき所だよ。流石に全員を相手するのは疲れるからね。それに―――」

と、カブトは水月の背中にある大刀を指差す。

「大蛇丸様から代わりとなる刀は貰ってるだろ。再不斬に関しては後でもいいと思わないかい? ―――それともまさか、ここで逃げるとか言わないよね」

「………まあ、サスケってのは強いって聞いたからな。再不斬先輩もそうすぐ死ぬような人じゃねーし。それに、この刀の切れ味も試したいしな」

「ほんと、高かったんだよそれ………だから、せいぜい頑張ってね。まあこれだけ揃っていれば、負けることは無いと思うけど」

「いや、分からねーぞ。結界の二人以外にも、残っている連中…………ウチが探っただけでも、一人二人化物のようなチャクラを持っている奴が居たし」

「それは、どのくらいの奴だ?」

香凛の正面に居る重吾――――今は何とかして、正気を保っている――――が、敵の強さがどれくらいのものかと訪ねる。

「上忍クラスが3人。訳の分からないのが一人。そして、大蛇丸“様”クラスが一人。あとは………それ以上の、別格とも言える奴が二人居る」

ことさらに“様”を強調して、香燐は説明をする。

「………それは本当かい?」

カブトは嘘くさい、といった視線を香燐に向ける。

だがその言葉に対し、香燐は心外だという憤りを顕にした。

「嘘を言ってどうするんだよ。ウチだって死にたくねえし、そんな馬鹿な嘘をつくわけねーだろ。ウチだって信じたくねーけど、今のあの場所には化物みたいな奴らが複数居るんだよ」

「上忍3人と、意味不明が一人。化物2体と、超化物2対かあ………正面から、ってのは流石に無謀じゃないかな?」

水月が頬をひきつらせながら、言う。

「………無謀どころか、ただの自殺行為だと思うぞ。そんな化物連中が揃っているようじゃあ、俺が暴れたとしても勝てるわけ無いぞ」

「………とすると、やっぱり正面からはやめようか。僕たちの目的はあの二人だ。だから、何も全員を倒す必要は無い。ていうか戦いたくも無いね」

どんな化物の巣窟だ、とカブトはひときわ大きい溜息をつく。


「だけど、この機会を逃す訳にもいかない………写輪眼は、是非とも欲しいからね」


そういうと、カブトは眼鏡をくいっと上げて、意地の悪い笑みを浮かべた。



「機を伺い、隙をつく――――幸いとして、勝利に足る有益な情報は揃っているんだからね。それに………」


円の外に居る、言葉を発さない3体の“人形”を見ながら、カブトはその笑みを凄惨なものに変えた。



「十分に。使える“捨て駒”も、あることだしね」



だからやり方はいくらでもある。

そう告げたカブトは、クククという暗い笑い声を、夜の森に響きわたらせた。


































あとがき

一息。名前って難しいってことば。

戦う理由として、まだあと二つ、メンマは持っています。それは後ほどに。

つーかこのSS、マダオがいないとふつーにシリアスになるな………





[9402] 小池メンマのラーメン日誌(ナルト憑依) 七十一話 「動き出した者たち」
Name: 岳◆5bf56ac5 ID:6d0af7c1
Date: 2010/05/19 00:02

「ナルトがいない?」

「ああ。そこら中探したが、何処にも見当たらない」

網の療養地にある建物の中。多由也は険しい表情を浮かべ、武器の手入れをしているサスケの正面に座りながら、ナルトがいなくなったことを伝えた。

「あちこち聞いて回ったんだが………いないんだ。昨日は確かに居たらしいが、今日の朝になって姿を見なくなったそうだ」

「………あの、二人もか」

サスケの言葉に、多由也は頷きを返す。

「白達が帰ってから、二日………何か外に出て行く予定とかあったか?」

「いや、無かった筈だ。この後は木の葉隠れの里に向かって、そこで共同での作戦を練る予定だった」

「そうだよな………それで、昨日会ったやつらは何と言っていたんだ?」

「あちこち歩きまわっていたらしくてな。色々と聞かされたが………」


そう言うと、多由也は探し回った先であったことを説明し始めた。






~ホタルの場合~


「あ、おねーさんだ」

ぱたぱたと金髪の童女は、多由也の元に駆け寄ってきた。

「お、ホタルか。なあ、昨日ナ………メンマの奴が何をしていたか、知らないか?」

「あのラーメン屋のお兄さん? うん………あ、そうだ。広場横にいる背の高い黒髪お兄さんと話をしていたよ」

「イタチさんか………分かった、ありがとう」

「どういたしまして。あ、そういえばおねーさんおねーさん」

「ん、何だ。というかおねーさんはやめてくれ。何かおねーさんとか言われると身体が痒くなるんだよ」

「えー………だって、おねーさん的なオーラを感じるし」

「どんなオーラだよ………」

肩を落とす多由也。どうもサスケ達と共に孤児院巡りをしている内に、おねーさん的オーラを身につけてしまったようだ。

「口悪いけど何だかんだいって優しいしー。それに、私が泣いている時に、あの笛………優しい曲を聴かせてくれたでしょ?」

昨日のことか、と多由也は思い出した。

「まあ、白からも頼まれていたからな………」

しかたねーだろ、と呟きながら、多由也は僅かに視線を逸らす。

「また照れちゃって、でも、おねーさんは白姐に頼まれてなくても、助けてくれたと思うんだけどな。おねーさん、何だかんだいって面倒見よさそうだし。きっと料理も上手いんだろうね」

「………それ、誰情報だ?」

「ん? ―――シンさん情報。でも、合ってるみたいたね。そうそうシンさんってばすごい物知りなんだよ。この前だって………」






~~



「その後、延々と話を聞かされた」

ざっと数えて20分、と多由也が遠くを見る。

「話題は、シンについてか?」

サスケは何処か面白くなさそうにしている。その言葉に対し、多由也はまさかと返した。

「いや、そっちは数秒で終わったよ」

「………そうなのか。じゃあ、他の話を?」

「………後の20分はウタカタの話でな」

小さくても女だなあいつは、と多由也は苦笑する。

「つまりは――――惚気か」

「ああ、惚気だ」

そのまま、互いに無言になる。

「………年の差カップル、と言っていいんだろうか」

「ウチに聞くなよ頼むから。そういうことは九那実さんあたりに聞いてみろ」

「………おい。そんなことしたら即フォックスファイアーだろ。あれ熱いから嫌なんだよ」

または狐火とも言う。

「そういえばお前、隠れ家で………ナルト除いたら、一番多く喰らってたよなあ」

50回くらいか、と多由也は呆れた視線を向ける。

「その中の9割は巻き添えだ!」

ちなみに再不斬は40回で、内10割が巻き添えであった。

「………まあ、それはそれとして」

「聞けよ。むしろ聞いてくれよ」

懇願するサスケ。少し目尻には塩っぽい水が浮かんでいた。

「次、イタチさんだが」

「そのまま続けるのか………」









~うちはイタチの場合~



「何、ナルト? ―――ああ、昨日確かに俺はあいつと話をしたが………」

どうかしたのか、とイタチは多由也に向き直った。

何処にもいないことを説明すると、なぜだかイタチは神妙そうな顔をした。

「えっと、何か?」

あったんですが、と言いながら多由也は緊張の表情を浮かべる。

それに対し、イタチはふと笑うと、遠い目をする。

一体何があったのだろうか、そう思った多由也を他所に、イタチはナルトのことについて話した。

「いや………そうだな。恐らくはもう、この療養地には居ないと思う」

「昨日、何かあったんですか?」

「………少しな。ああ、そういえば紫苑とも話をしていたようだ」

「え、紫苑と? ―――分かりました。話を聞いてきます」

ありがとうございました、とだけ残して、多由也はその場を去った。









~~





「何で兄さんに対しては敬語になるんだよ」

「なんか妙な迫力あるんだよあの人!」

「………え、そうか?」

そんなこと無いと思うけどなあ、と首をかしげるサスケを見ながら、多由也は「このブラコンが……」と呟いた。

「それよりも………兄さん、何か隠しているようだな」

「ウチもそう感じた。でも、話したくなさそうだったし………話したくないことを追求するのもなあ」

「口が堅いしな。話さないと決めているのなら、どうあっても話さないと思うぞ。他には誰か、行方を知っていそうな奴は?」

「ああ、イタチさんに言われた通り、紫苑の部屋に向かったんだけどな」


















~紫苑の場合~




「妾は知らんぞ。ああ、知ってたまるものか!」

「………何を怒ってるんだ?」

「怒ってない! ああ、怒っちゃいないとも!」

「いや、どう見ても………」

怒ってるんだけど、という言葉、多由也はその喉元で止めた。

無言のまま、怒りが収まるのを待つことにしたのだ。

その対応は正しく、数分後に紫苑は落ち着きを取り戻した。

「………本当に、行き先は知らんのだ。いや、あの馬鹿のことなど、知ったものか」

そこまで言うと紫苑はばつの悪い顔をする。

「悪いな、力になれんで。お前には返し切れない恩があるというのに」

「いや、恩とか………別にウチはただ、ウチの音を奏でただけだぞ」

「そうか…………それでも、ありがとう」

真正面から礼を言う紫苑。慣れていない多由也は、少し顔を赤くして横を向く。

「それより………本当に心当たりは無いのか?」

「――――ああ、そうだ。そういえば、あいつはこう言っていたな」


ぽん、と手を叩いて紫苑は多由也に告げた。




「“シンを倒してスピラにナギ節を取り戻す”、らしい」





~~~



「何だそれは。意味がわからないぞ。というか、またシンかよ」

「またシンだ。ウチだって分からなかったし、それでシンの所にいったんだが………」












~シンとサイの場合~


「って、ボロボロ!?」

「うう………俺が死んだら、海に骨をばらまいてくれないか」

「兄さん! しっかりして、兄さん!」

「といいつつ襟元を締めるな弟よ。トドメを刺してどーする」

そこには、コントを繰り広げている兄弟の姿があった。

「えっと………それ、一体誰にやられたんだ?」

シンとは、本当にこいつのことなのか。

そう思った多由也は、何かあったか聞いてみた。

まさかナルトは………と思った所に、意外な下手人の名前が挙げられた。

「いや、これは菊夜さんにやられたんだ」

「何で!?」

優しそうな人なのに、と多由也は驚きを隠せないでいた。

「いやいやこの愚兄が悪いんだよ。紫苑にあれこれ色々、何彼某事を吹き込んだらしくてさ。それを知った保護者が怒りの鉄拳、いや鉄爪?」

「両方だ」

「らしいよ」

「というか見ていたのに白々しいぞ弟よ」

助けろよ、とシンは半眼のままサイを見る。

「え、自業自得でしょ? それで、多由也さんはどうしてここに?」

「ああ、ナルトが今朝、居なくなったんだ。それで、何処に行ったのか手がかりを探していてな」

「居なくなった? 誰にも何も告げずにか?」

「そうらしい。それで、昨日何かおかしな所はなかったか?」

「おかしな事ねえ………ああ、そういえ昨日だったか。花火職人が居る場所について聞かれたな」

「………花火職人、ってあの夏祭りのあれか」

その時の光景と、手の温もりを思い出した多由也は、少し頬を赤く染めた。

それを見たサイが熱でもあるの、と聞くが、多由也は無言のままぶんぶんと首を横に振った。

「そうそう、聞かれたな。あいつ一応、花火関連の発案者でもあるし、そのことで色々と話があるって言ってた。だから居場所を教えたんだけど………」

「確かそこって、この森を越えて少し走った所にあったよね」

10分くらいか、と思い出したサイが、記憶にあった場所を思い浮かべる。

「ああ。でもあいつ、昨日俺がその場所を教えた後、すぐに向かってな。その後遅くに帰ってきたようだから………」

だからそこにはもう居ないと思うぞ、とシンが肩をすくめる。










~~~



「花火職人の集落か………それで、そこにはまだ行っていないのか?」

「まだ行っていない。その時サイに、言伝を頼まれてな」

お前にだ、と多由也が言った。

言われたサスケは、自分を指差し「俺?」と確認をした。

「ザンゲツさんが呼んでいる。何でも、お前と話したいことがあるらしいぞ」

だから呼びにきたんだ、と多由也はサスケに告げた。

「話があるのは、俺だけか?」

「いや、イタチさんもだ。そっちはさっき告げたから」

「そうか………それにしても、いったい何の用があるんだか」

分からない、とサスケは首を少し傾げた。

「聞いて見りゃあ分かるだろ。とにかく、伝えたからな。もうイタチさんもザンゲツさんが居る部屋に向かっているはずだ」

「ああ、分かった………多由也、お前はどうするんだ?」

サスケは手入れしていた刀を鞘に納めながら、多由也に訪ねる。

「こっちはこっちで、聞いた花火職人の所に行ってみるさ。そっちの話しは少し長引きそうだしな」


時間を無駄にはしたくない、と多由也は言う。


「そういえば、お前は昨日ナルトと話したのか?」

「ああ………負けるなよ、とだけ言われた。唐突に何事かと思ったが………」

「そっちもか。ウチもそう言われたよ。それで、これをくれたんだが………」

と、多由也は忍具入れの中を叩く。

「何を貰ったんだ?」

「………内緒だ」

「―――教えられないようなものか?」

「別の意味でな………お前には特に教えられない」


むしろ教えるようなことでもない、と苦笑しながら多由也は立ち上がる。


サスケは教えない多由也に対し、少し追求しようと少し遅れて椅子から立ち上がった。


「っと」


だが立ち上がる途中、多由也はバランスを崩した。身体が、前方へと傾く。

二日前にチャクラをほぼ使いきってしまった疲れが、まだ身体の中に残っているからだった。

だが、倒れる程ではなかった。足を前に出し、ふんばる。




だが、そこにあったのはサスケが刀の手入れ用に使っていた布。


「とおっ!?」


間の抜けた声を上げながら、多由也は思いっきり足を滑らせた。



「危な………!」


サスケは刀を素早く横に置き、転ぶ多由也の身体を受け止めた。

だが不安定な体勢のまま受け止めたのがまずかったのか、そのまま二人はもつれあい倒れ込んだ。




「っつ~」

後頭部をしたたかに打ち付けたサスケは、後頭部を抑え痛みの声を上げる。


「ってえなあ………おい、サスケ。出した布はすぐに元の所に戻せ、っていつも…………」


怒ろうとした多由也の、言葉が途中で止まる。




「う、あ…………?」



見れば、多由也の顔のすぐ近くには、サスケの顔があったのだ。


サスケの方はといえば、倒れ込んだ時の胸の感触と柔らかい身体の感触、そして触れた神から僅かに感じた香の臭いに刺激されたいたせいで、見事に顔がリンゴのようになっている。

二日前の感触も思い出したせいか、その顔はコードレッド。脳が非常事態を宣言していた。

混乱は言語中枢にまで達している。ちなみにサスケ少年の現在の脳内は下記の通りである。


(うわやべえ柔けえ良い香りってこれ森の中でザンゲツが使ってたやつじゃあくそ何でこんなことにつーかやっぱ胸でけえなこいつってか思い出すな思い出すなキリハに殴られた記憶まで思い出してうああああでもちくしょうどうすればいい)


興奮とトラウマと未知の感覚が混ざり合い、暴れ馬のように何処かへ突っ走っていった。

正気を華麗に完全放棄である。

キリハの一撃必殺とマダオの殺意の波動と多由也の阿修羅閃空によって受けた心の傷はそれほどまでに酷く、流れ出た血と共にサスケの脳裏に鮮やかと言えるほど見事に刻まれていたのだ。

鮮血の狂乱はサスケの意志を一部破壊し、大切なものを灰にした。サスケはその時、生まれた意味を知ったらしい。



閑話休題。



一方、組み敷いている方の少女の脳内は以下の通りであった。


(ああくそやべえまつげ長えこいつというかやっぱり鍛えた甲斐あって引き締まった筋肉してんなってそうじゃねえだろ戦いがあるから意識しねえようにやってきてんのにこの馬鹿阿呆トンママヌケこんこんちきのウスラトンカチ)


経験のない高揚感が胸を満たされ戸惑を隠せない、というか絶賛混乱中であった。


そして、二人の心の声が重なる。


((動けねえ…………))

いつもならこういう時は第三者がのぞきに来る訳だが、今日に限っては居ない。

二人は混乱したまま、身体を硬直させたまま見つめ合うことしかできないでいた。

視線が重なる。気づけば、二人は互いの眼の奥の光に吸い込まれていた。


いつも一緒に居た二人だ。

3年という時間は大人にしては短いが、少年少女達にして見れば長いと言えるだろう。

互いの傷も見えていたのも手伝って、心の距離が狭まっていくのも早かった。

実はといえば、今回のような“そういう”風になる状況はいくらかあった。

だがいつもどちらかが照れ隠しに離れ、悪態をついて、ここまではその繰り返しにより結局は何もなかったが、今回は違った。

心の有り様が違うのだ。

サスケはイタチを取り戻し。

多由也は悔恨の念を受け止め、そして大事な夢の一つを叶えた。

その直後の抱擁も、原因の一端を担っていると言っていいだろう。二人の心は充足をしった事で急速に成長したのだ。

故に、素直になることができた。互いにもう、眼はそらせない。


逸らしたくないという気持ちを自覚したからだった。



周囲から音が消える。目の前の光景以外、何も気にならなくなっていく。

やがてどちらともなく、顔を上げる。




10であった距離は8になり、6、4、とだんだん狭まっていく。







やがて3、ついには2となる。

二人の心臓の鼓動は、相手に聞こえるのではないか、と言うほどに高まっていた。






そして、1になった時だった。








「サスケ、遅いぞ…………!?」













空気が、凍りついた。

















~~









数分後。

「よく来てくれた………と、何だその頬の見事な紅葉は」

面白そうだな、とザンゲツは好奇心をむき出しにして訪ねる。

だがサスケは、消え入るような小さな声で呟くことしかできなかった。

「聞くな………いや、聞かないで下さい」

悲愴。それにつきた。

隣のイタチは何時もの無表情を少し崩し、どこか嬉しそうに、そして悲しそうな顔を浮かべていた。

一体何があったのか、ザンゲツは知りたかったが知ろうとするのをやめた。

彼女の勘が告げていたのだ。

“めんどくせーことになる”と。


「で、話しとは?」

停滞した空間を、イタチがその低い声で切り裂いた。

ザンゲツはそれに対し、うむと頷き話しを切り出す。


「単刀直入に言おう………二人には、網に入って貰いたいんだ」


「………何?」


「どういうことだ。うちはの名前、知らぬ訳でもあるまい」


確実に他のかくれ里に対する遺恨になるぞ、とイタチは忠告をする。


「尾獣をも操れる写輪眼の力、間違いなく他の里との取り合いになるだろう。それでも良いのか?」


「いや、ならないさ。なにせウチは非戦闘組織だからな」


ザンゲツは肩を竦め、心外だと言う。


「どの国と戦争をしようって訳じゃないんだ。むしろそんなのがごめんだね」

「ならば何故だ? 何故俺達を誘う」

「こちらでも、掴んでいる情報があってね………まずお前たち――――特にイタチの方は、木の葉に戻れるアテがあるのか?」

「………五代目と約束はしている」

そう返すサスケだが、声は少し険しくなっていた。

自分はともかく、木の葉が兄さんの方を受け入れるのは難しいと考えていたからだ。


「正直に説明をすれば芽はあろうが………それでも、うちはの先人達の名が汚れてしまうのは避けられないだろう?」

「―――それは御免だな。だが、それと網に入ることと、一体何の関係がある」

「それを説明するには、こちらも腹を割って話をするしかないが――――時に、イタチよ。お前は鉄の国を知っているか?」

「侍達の国だろう。三狼と呼ばれる三つの山からなる国で、忍び達の戦争を調停する役割を担っている中立国だ」

「そのとおり。彼らは独自の文化と権限を持っていて、忍びは古来より鉄の国には手を出せない決まりになっている………だが」

ザンゲツは視線を険しくしながら、少し声を荒げた。

「その中立国………役割を果たせていると、本当に言えるのか?」

怒りの感情を少し表に出したまま、ザンゲツはイタチに問う。

「―――とても言えないな。いざ戦争が始まってしまえば、侍の言葉など忍び達には通じん」

戦災孤児が増えたのがその証拠だ、とイタチは淡々と答えを口にする。

「そうだ。その例として………木の葉の名家、日向の嫡子である日向ヒナタが雲隠れの忍びに拉致されそうになった事件があるが、お前たちは知っているか?」

「ああ、知っている。その雲隠れの忍びは、国境近くで何者かに殺されたようだがな」

「そのとおりだ。そして、その事件の裏にはな………」

と、ザンゲツはその背景を説明する。

日向の娘をさらおうとしたこと。

成功すればそれで良し。もし返り討ちになれば“戦争を起こすぞ”と脅し、見返りに日向家当主の首を求めようとしたこと。

そこまで話すと、ザンゲツは二人に問うた。おかしいとは思わないか、と。

「“忍びこみ拉致しようとして、それで返り討ちになったから責任を取れ”。居直り強盗ってレベルじゃあない。無茶にすぎる」

「だが――――三代目は。木の葉は、それを回避しようと動いただろうな。あるいは、呪印付きの身代わり………日向ヒザシさん当たりを雲隠れに差し出しただろう」

「そうだ。だが、これは明らかにおかしい。これも中立国の威厳が、役に立っていないせいだ」

「罪を犯したとして、罰する力を持つに足る組織が存在しなければ、意味がない………そういうことか?」

「そうだ。法の元、間に立って揉め事を調停する者が必要なのだ。それを可能とする力を持つ、第三者組織が。例えば、戦場の外れで非道を行う―――裏の忍び達に対する、罰則とかな」

「不可能だ。何より五大国が納得しないだろう」

「現状では、そうだな。だがやらなければならない。これ以上、戦災孤児を増やす訳にはいかないんだから」

ザンゲツはまっすぐに、二人を見つめる。その眼は、意志の炎に満ちていた。

「私も戦災孤児だった。戦場から逃げ出した抜け忍達に、村を焼かれた。ただ食べ物が欲しかったという理由だけで、情報が漏れてはならないという理由だけで、あいつらは私の村を焼き尽くしたんだ」

そんな理不尽が許されていいのか。

―――否だ。ザンゲツは常に、そう思っていた。

「絶対の正義など、求めない。だが人として、遵守すべき一線がある。それを越えた者たちが、畜生にも劣る者たちが罰せられないまま生き延びるなど、何の処置もされないままその後の生を送るなど、私としては絶対に許せない」

「だから、力を?」

「あくまで法を守らせるためだ。戦争は止められない。それは分かっている。だが、戦うにしてもルールがあると言っているんだ」

「戦争の中の、法?」

「ああ。その内容は現在も煮詰めているが、この事に関しては鉄の国にも打診してある――――協力する、との返答を得られたよ。彼らも、何もできないでいた自分達の立場をどうにかしたいと思っていたらしい」

「それは………だが、そのような力が何処に?」

「尾獣だ――――人柱力だよ」


「人柱力を、利用すると言うのか」


サスケの声が怒りに染まる。

だがそれに対し、ザンゲツは違うと否定する。

「逆だよ。今存在している尾獣の力を、人柱力を一つの箇所に集めて、管理しようというのだ」


「管理………?」


「そうだ。尾獣は本来、人の操れる存在ではない。それは分かるな?」

「ああ。抑えられなかった人柱力は暴走し、里の者たちを襲うと聞く。そして暴れた尾獣を封じる時に、多大な人的・物的損害を被ると聞いた」

「その通りだ。だが、それは抑えるのがただの忍びだからだ」

「何を――――そうか」

得心いった、とイタチが頷く。


「暴れた尾獣、人柱力を――――他の人柱力に抑えさせようというのか」


「そうだ。聞けば、人柱力を抑えられた事例はいくつかあるらしい。そのノウハウを人柱力同士で共有し、暴走を防ぐ。あるいは万が一、暴れた時、損害無く封印を成そうというのだ。

 これには無論、人柱力の兵器としての利用を防ぐ目的も含まれている」

「その力を、網が利用しないという根拠は?」

「信用とは言葉だけで得られるものではない。今までの私達の働きを見てくれ、と言うしかないな。何にしろ、今のままではジリ貧なのだ。雲隠れの軍事力増強は聞いておろう?」

「ああ。それにつられ、一度縮小された軍事費も見直されかけていると聞いた。一度間違いがあれば、戦争が起こるだろうということもな」

「そうだ。だから、今、何とかしなければならない。穴は勿論あるだろう。だが止まっているだけでは何も得られない。修正すべき点は修正し、それでも前に進むしかないのだ」

平和に向けてのな、と言ったザンゲツは、二人の眼を見る。


「難しい事をしようという訳ではない。無意味な戦争を出来るだけ起こさない。無関係な国の民を巻き込まない。戦災孤児を無くす。人柱力という悲劇を無くす」


「――――戦時国際法を設立し、その法を遵守させるに足る機関を設立する、か。だがその最初の一歩が、どれだけ難しいが承知しているか? それに、尾獣は残り3体。六、七、八尾だけだ」


「ああ、承知している。だがこれは、一種の賭けになるのだがな………」


「賭け?」


「ああ。面目無いが………全ては、あいつにかかっているのだ」




そしてそれは、当然に彼のことだった。




~~~




一方、療養地外れの森の中。

そこには一人、顔を赤くしながら走る赤髪の少女の姿があった。


「あ~くそ、恥ずかしい。サスケの野郎っ………!」


完全に八つ当たりかつ理不尽に過ぎる理屈を並べたてながら怒る乙女。

イタチに見られた恥ずかしさから、多由也はつい、といった風にサスケにビンタしてしまったのだ。

サスケは突然の事態に眼を白黒させながら、その場に倒れ込んだ。


「ってウチが悪いんじゃねえか………」


しょんぼり、といった風に多由也は視線を地面に落とす。


「………帰ったら、謝る。よし。以上。終わり」

そして侠気あふれる思考の切り替えの末、何とか平静を保とうとした。

そして目的地である花火職人の元に向け、歩を進めていく。


だが興奮状態にあった精神は容易く収まってくれず、多由也の顔はまだ真っ赤に染まっている。


先程の出来事、そして感触の余韻が残っており、顔の熱が取れていないのだ。



「帰ったら………色々と言わなきゃ、なあ」


去来した想いと共に。多由也の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

ちなみに、本人はそのことを自覚していなかったのだが。




「それにしても、“アレ”――――使う時が来るのかな………出来れば、使いたくないが」


二日前に白から貰ったモノ、そしてその関連で昨日、ナルトからもらったものを思い出しながら、多由也は呟いた。


だが歩は止めず、森の中を走り続ける。もしかしたら、何か手がかりが得られるかもしれないからだ。



「………それにしてもあの3人は、一体何処に行ったんだ? 誰にも行き先を告げずに、とかまるで――――」







そこまで、言った時だ。






ちょうど、森の半ばに差し掛かった頃。






道の横から、不意に。



目の前に黒い玉が数個、飛び出してきた。





直後それは、猛烈な光と共に爆裂し、四散する。






(光、玉――――――!?)





即座に正体を悟る多由也。速攻で眼を閉じるが、不意をつかれたため間に合わなかった。


強い光を受けたせいで、視覚が麻痺したのだ。




塞がれた視界。多由也の眼が、暗闇におおわれた。




その直後、後方と側面から影が躍り出た。








(―――――奇襲!? まず―――――)










鈍い音が、森の奥で鳴り響いた。
























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