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【話の肖像画】歴史がはぐくむ宮さま教育(上)学習院長・波多野敬雄
■「特別扱い」はしない
学習院初等科で起きた愛子さまの不登校問題は、改めて皇室も、皇族の学びの場として長い伝統をもつ名門学園も、世間の風潮から無縁ではないことを印象づけた。学習院は新たな変革を迫られているのだろうか。自身が幼稚園から高等科まで学習院で過ごし、外交官として国連大使などを務めた波多野敬雄院長(78)は、「愛子さまが『自分は特別扱いされている』と思われないような教育を続けていく」と語る。(盆子原和哉)
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−−近ごろの愛子さまのご様子は?
波多野 お元気だと聞いています。友達とも楽しく遊んで、笑い声も聞かれ、連休明けからは体育の授業にも参加されているそうです。まだ、全授業に出席するところまではいっておらず、雅子妃殿下が付き添って登下校されているようですが、明らかによい方向へ向かっていると認識しています。愛子内親王殿下は頭は良いし、運動神経は抜群だし、周りで騒ぎすぎないのがよいと思います。
−−もともとこの問題を、院長はどのようにとらえたのですか
波多野 学習院としては、「愛子さまに対するいじめはない」という点で終始一貫しています。当初の東宮大夫(だいぶ)の発表のなかに「乱暴なことをする児童たち」という表現があったために、世間の誤解を招いた側面は否めませんし、「いじめがある」というイメージを払拭(ふっしょく)したいと考えて、私が「週刊朝日」のインタビューに答えた記事も、予期しない波紋を呼びました。
しかし、あそこで私が言いたかったのは、わんぱく坊主はどこにでも、いつの時代にもいるものだということ。私自身、4人兄弟の末っ子で幼稚園から高等科まで学習院で育ちましたが、そのころを振り返ると、結構わんぱくをしたかもしれない。
つまり、愛子さまの周辺にわんぱく坊主がいることは事実だが、それは子供の世界では当たり前で、そういう子供を含めていろんな友達を見て育っていただくことは、愛子さまにとって決して悪いことではない。ですから学校としては、いわれているわんぱくな児童をどうこうするということも考えていない、ということを言いたかったのです。
東宮側にも「愛子さまがいじめのターゲットにされている」というつもりはなかったと思います。
−−学習院は皇族を「特別扱いはしない」という伝統を守ってきました。それが今、揺らいではいませんか
波多野 確かに愛子さまの周囲をご学友で囲ってしまえば、愛子さまだって怖い思いをしなくてすむかもしれません。むしろ特別扱いをしてしまった方が、受け入れる方としてはやりやすいかもしれませんが、学習院はあえてそれをしたくない。周囲をわんぱく坊主が走り回って、「ああ、怖いな」と思われることがあったとしても、それでいいというのが基本的な考え方です。
ただ、「特別扱いしない」ということは、相当に気をつけなければいけないことでもあるんですね。今上陛下が学習院の中・高等科時代には、ヴァイニング夫人という英語の家庭教師がいましたし、護衛もいましたが、学生同士の付き合いは自由にさせて、皇太子殿下だからといって級友が遠慮しないように、環境は整えられていました。
私は学習院では陛下の2年上で、同じクラスには、直系の直宮さまとは異なりますが、伏見博明さんと賀陽文憲さん、それに李玖さん(李氏朝鮮最後の王世子=皇太子=となった李垠殿下の嗣子)と、3人の宮さまがいました。伏見さん、賀陽さんとの遠慮のないお付き合いは、今でも続いていますが、そうした自分の経験に照らしても、宮さまを「特別扱いしない」ということは、それなりの配慮を要することでもあるのです。
そして、それが学習院の伝統が培ってきた、ある意味の「知恵」であり、これは現在でも薄れてはいないと思っています。少なくとも愛子さまには、「自分は特別扱いされている」という意識を与えないようにしたいと考えています。
−−改めるべき点があるとすれば?
波多野 私は、今度のことはそれほど大騒ぎすることとは思っていません。学習院は一貫教育の学校でもあり、長い目で見ていきたいのです。「初等科は愛子さまについてのみ、こういうことをやっている」と、他の児童のご父母に思われるようなことを行ってはいけないと思います。そんなことをすれば、自然と子供たちは距離を置くようになりますから。
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【プロフィル】波多野敬雄
はたの・よしお 昭和7年、東京都生まれ。78歳。祖父は司法、宮内大臣を務めた波多野敬直子爵、父敬三氏は実業家。東大法学部中退、外務省入省、米プリンストン大卒。吉田茂元首相秘書官、人事課長、総務課長、中近東アフリカ局長、外務報道官兼昭和天皇御進講役、在ジュネーブ国際機関大使などを経て国連大使。平成15年に学習院女子大学長に就任し、18年から第25代学習院長。