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【社説】

カメラ監視社会 人権守る歯止めつくれ

2010年5月18日

 社会に張り巡らされた防犯カメラを犯罪捜査に積極活用しようと全国の警察が動きだした。なし崩しに利用されて市民の自由が侵害されないか心配だ。人権をしっかり守る法的歯止めをつくらねば。

 防犯カメラはすっかり日常の風景に溶け込み、増殖している。

 川崎市の繁華街では、けんかやひったくりなど不自然な行動を自動検知する警察のカメラが稼働を始めている。東京と埼玉を結ぶJR埼京線は、痴漢が頻発する一号車にカメラを付ける方針だ。フロントガラスにカメラを載せて走るタクシーやトラックも目立つ。

 社会安全研究財団の二〇〇七年の調査では、有権者の九割がカメラ設置を支持した。監視されているという抵抗感よりも、見守られているという安心感が、心情的にはまさっているようだ。

 警察庁は四月、犯罪が起きたらすぐに映像が手に入るよう自治体や民間団体のカメラの状況を事前に掌握しておけ、と全国の警察に指示した。後から周辺のカメラを探して映像を集める手間を省く。

 自白偏重の捜査が招いた足利事件に学び、冤罪(えんざい)を防ぐため客観的証拠の収集に力を注ぐ。その一環だという。もっとも、本当に反省しているなら取調室の可視化こそ優先させるべきだろう。

 映像がきっかけで解決した事件は少なくないが、犯罪が起きていないのに個人が簡単に識別できる情報を警察が一手に握るとなれば、プライバシー権や表現の自由といった人権は大丈夫かと不安がる人も出てこよう。情報が瞬時に世の中を駆け巡るネット社会でもある。外部に流出すれば大変だ。

 東京では既にまちのさまざまなカメラの画像をリアルタイムで警視庁に送り、テロリストや指名手配犯などの登録情報と自動照合させる計画が進んでいる。

 自治体であれ、民間団体であれ、多くはカメラの取り扱い指針を設けてはいる。だが、警察から画像の提供を求められれば、素直に応じているのが実情のようだ。

 実は、日本にはカメラの取り扱いを決めた法律はない。欧州連合(EU)は、個人情報を守るため、必要のない画像を同意なく集めることを厳しく制限している。例えば、ドイツなどでは国から独立した第三者機関が設置と運用をチェックしている。

 民主党の政策集には、捜査権の乱用やプライバシー権の侵害などを招かないようカメラの法規制を検討するとある。実行に移せ。

 

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