「口蹄疫は問う」

口蹄疫は問う

2010年5月18日(火)

口蹄疫、「生き地獄」の現場から

好転の兆し見えない宮崎県川南町から町職員が報告

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■5月13日(木)

 私と同じラグビークラブ「川南クラブ」に所属する後輩の実家が口蹄疫の被害を受けた。5月9日に聞いていたのだが、今日が殺処分の日になったという。心配になって後輩に電話した。

 電話では元気な様子だったが、後で送られてきたメールには「爺さんの代からコツコツ増やしてきた牛を、こんな形で失うなんて正直悔しいですが、俺はあきらめません、また復活します」と書かれてあった。返す言葉がなかなか見つからなかった。

現場の対策は、今、この瞬間も続いている

■5月16日(日)

 「同じラグビークラブのメンバーに被災したメンバーが出たのであるから、休日にでも何か自分たちでできる行動をしよう!」と、この日に参加できるメンバーが集まり、町内の2つのスーパーで「募金活動」を実施した。

 「被災した農家さんのための支援金をお願いします。この集めたお金は川南町の口蹄疫対策本部の口座に入金します」と、買い物客に呼びかけた。

 お客さんからは「暑い中ご苦労様。がんばってくださいね。口蹄疫に負けないでください。1日も早い終息を願っています」などと励ましのお声をかけていただき、この日だけで23万円ほどの寄付金が集まった。来週も同じように取り組もうと、全員で決めた。

◆  ◆  ◆

 今、川南町は「生き地獄」の状態と言っても過言ではない。

 役場の駐車場には「災害支援」という表示をつけた陸上自衛隊の物々しい車両が並んでいる。全国から集められた獣医師や、県や町、農業関係団体の職員、陸上自衛隊員らが毎朝、集結する。そして、全身白装束の防護服を身にまとい、殺処分や埋設処分の作業へと向かっていく。こんな光景は、恐らく町民の誰もが見たことのないものだっただろう。

 苦悩するこの地域の状況を少しでも多くの人に知ってもらいたい。そして、日本有数の食糧供給拠点と自負する「川南町」の畜産、農業を応援してもらいたい。この切なる思いが少しでも伝われば、うれしく思う。

 町長以下、町をあげた現場の対策は、今、この瞬間も続いている。

2010年5月17日
宮崎県川南町役場町民課住民係長 河野英樹


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口蹄疫は問う

 口蹄疫――。牛や豚、羊、ヤギなど蹄のある動物に感染する、ウイルス性の病気である。非常に伝染力が強く、蔓延を防止するためには、発生した農場で飼育された家畜はすべて殺処分するよう、法律では定められている。
 2010年4月、家畜農家を震撼させるこの伝染病への感染が宮崎県で確認された。現場では一体、何が起きているのか。そして、今回の災禍は何を我々に問いかけているのか。

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