「口蹄疫は問う」

口蹄疫は問う

2010年5月18日(火)

口蹄疫、「生き地獄」の現場から

好転の兆し見えない宮崎県川南町から町職員が報告

5/6ページ

印刷ページ

■5月5日(水)

 作業の割り当てが私にはなく、久しぶりの「休日」をちょうだいした。だが、この日は口蹄疫の影響が子供たちの生活にまで及んでいることを知らされる。

 午前11時頃、私の子どもが通う小学校の父母(畜産農家2件)から相談の電話がかかってきた。私がPTAの会長をしているからである。

 1件の内容は、「被害が蔓延しつつある地域にある小学校に、我が子を通わせることが妥当なのか非常に悩んでいる」というもの。この酪農家と養豚農家のお宅では、幸いなことに口蹄疫は発生していない。通学中や学校の生活の中で、そのウイルスを持って帰ってくるかもしれないという不安があるのだという。

 もう1件の相談は全く逆だった。現在、症状は出ていないが、感染している可能性は否定できない。感染に気づかず子どもを学校に通わせ、ほかの農家の子どもにウイルスを持って帰らせたら大変なことになる、と気にされていた。ほかの農家を思いやる複雑で切実な心境を相談されたのであった。

本当に、本当に、無念でならない

 私は、この相談に対して町の教育委員会のトップである教育長と、学校長らに電話で相談した。農家の子どもさんらが、前述のような理由で自主的に学校を欠席する際には「欠席」扱いにしない配慮をお願いしたのだ。それとともに、事態が収束した後に出席して来た生徒への学習面や精神面での様々なサポートをしていただきたい、と申し上げた。

 教育委員会としては、「可能な限り要望に対応していく」、とのありがたく心強い回答をちょうだいした。本当にうれしかった。早速、この結果を相談されてきた農家の方々に回答。この回答に対して、両家族ともとても喜び感謝された。

 ただ残念なことは、相談されたどちらのお宅からも、その数日後に「口蹄疫」の感染が確認された、との情報が入ったことである。

 本当に、本当に、無念でならない。

■5月8日(土)

 埋設作業に従事するため出勤した。ところが、「埋設する土地の取得調整が難航している」との情報が改めて伝えられ、その約1時間後、今日の作業班(8人)は「解散」となった。

 なお、この日は、長きに渡る外遊から農林水産大臣が帰国された日でもあった。

■5月10日(月)

 午後1時から午後6時まで、また新たに増設された消毒ポイントの消毒作業に従事した。朝から降り止まぬ雨は、私が担当する時間中も降り続いた。

 「いつになったらこんな作業が終わるのだろう」。先が見えない我が町の状況を物語るような雨の中の作業であった。

 この日、初めて国の対策本部長である農林水産大臣が来県した。

 大臣は現場である我が自治体などにはおいでにならず、県庁などで東国原知事をはじめ、口蹄疫対策で苦労し続ける当該自治体の首長や、関係農業団体等のトップらを呼び出し、現状を聞くなどの対応だったそうだ。

■5月11日(火)

 私の実質的な口蹄疫に関する作業はなし。

 当然役場での通常業務をする日を与えられた。ただ、普段の当たり前の業務をしているのに、役場の駐車場に集合して今日の埋設作業などに向かう方々の姿を見ると、なぜだか後ろめたい気持ちになっている自分に気付いた。



関連記事





Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)


Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント0件受付中
トラックバック


このコラムについて

口蹄疫は問う

 口蹄疫――。牛や豚、羊、ヤギなど蹄のある動物に感染する、ウイルス性の病気である。非常に伝染力が強く、蔓延を防止するためには、発生した農場で飼育された家畜はすべて殺処分するよう、法律では定められている。
 2010年4月、家畜農家を震撼させるこの伝染病への感染が宮崎県で確認された。現場では一体、何が起きているのか。そして、今回の災禍は何を我々に問いかけているのか。

⇒ 記事一覧

ページトップへ日経ビジネスオンライントップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

日経ビジネスからのご案内