「口蹄疫は問う」

口蹄疫は問う

2010年5月18日(火)

口蹄疫、「生き地獄」の現場から

好転の兆し見えない宮崎県川南町から町職員が報告

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■4月25日(日)

 殺処分した牛の埋設作業は終了した。だが、発生農場は飼育する際に使用した(使用する予定だった)飼料や家畜の糞尿、関係用具類も地中に埋設しなければならない。そのための追加的な作業に初参加した。

 例年よりかなり涼しい日々が前日まで続いていたのだが、作業当日は天候が良く気温も上がったため大量の汗を流した。慣れない作業にかなりの疲労を感じた。

 新たな作業班の拠点を作るため、川南町で最初に発生が確認された農家(最初の対応だったので殺処分、埋設、施設消毒など、すべて終了していた農家)の自宅前まで屋外テントを取りに行った。すると、そのお宅の方々が、片付けを続けているところに遭遇した。

真っ赤に腫れ上がった農場主の目

 その農場主は深々と頭を下げられた。「ご迷惑をおかけします、我が家の牛の殺処分などでは本当にお世話になりました。本当にありがとうございます」。

 その時の農場主の真っ赤に腫れ上がった目を、私は忘れることができない。

 それは何日も眠らずに作業を続けてこられたことも理由の1つではあるだろうが、法律で定められているとはいえ、大切な牛たちを一度に処分しなければならない悲しみから人知れず泣き続けたであろう、充血の瞳であった。

 「真面目に酪農に取り組んでこられた人々が、なぜこんな被害に遭遇することになったのか、こんな苦しい思いをしなければならないのか」。その姿を目の当たりにした私たちは、すぐには何もできない無力さに、歯がゆさ、辛さを感じた悔しい1日となった。

■4月28日(水)、29日(木)

 2日間にわたり、殺処分された牛の埋設作業に従事。

 今回は、大規模肥育農場での発生であったために、処分された牛の量もこれまでよりもかなり多く、大変な作業の連続となった。そして、この頃から、大きな問題が浮上するようになった。発生農場が所有し、埋設場所とする土地が近くにないケースが出てきたのである。埋設場所を探す新たな事務的な作業や必要になった。

 家畜を殺処分することが決定していても、埋設場所が確保できていないと、農家は土地が見つかるまで飼育し続けなければならない。「いずれ殺すと分かっている家畜に、餌を与え続ける」という行為は、農家にとっては想像以上の負担である。

 また、殺処分を待つまでの間、感染した家畜が周辺農家へ新たな感染を引き起こす可能性も否定できない。今回の感染が当初の予想以上に広がっている1つの原因はここにあると思う。



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口蹄疫は問う

 口蹄疫――。牛や豚、羊、ヤギなど蹄のある動物に感染する、ウイルス性の病気である。非常に伝染力が強く、蔓延を防止するためには、発生した農場で飼育された家畜はすべて殺処分するよう、法律では定められている。
 2010年4月、家畜農家を震撼させるこの伝染病への感染が宮崎県で確認された。現場では一体、何が起きているのか。そして、今回の災禍は何を我々に問いかけているのか。

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