青森市のピアニスト、竹内奈緒美さん(27)がボランティアでクラシック音楽のコンサートを始めた。青森では敷居が高いと敬遠されがち--東京での学生時代にそう感じて以来、温めてきた夢だった。「クラシックをもっと身近に感じてもらえる日が一日でも早く来るよう、頑張りたい」。【山本佳孝】
先月末、青森市の県総合社会教育センターにあるホール。6人の音楽家がバイオリンやフルートなど六つの音色を響かせた。うす明かりの中、目をつむって頭を軽く揺らす中年の女性。「調和した音色がきれい」と笑みを浮かべる女子高生。多くの人が気持ちよさそうに聴いていた。
竹内さんは4歳の時にピアノを始めた。「音楽に触れ、友達と遊ぶ機会ができれば」という母の勧めだった。
父の仕事の関係で引っ越しが多かった。でも、転校した先々で「ピアノが弾けるよ」と言うだけでクラスの仲間が集まってきた。さみしいと感じることはなかった。
小学3年の時、初めて出場した県内のコンクールで優勝した。
「音の組み合わせで、不思議な音色が生み出されることが楽しかった」
弾くことが好きでたまらない。ぐんぐん腕を上げ、東京の国立(くにたち)音楽大学に進んだ。全国から集まった同年代と競い合い、語り合い、実力に磨きをかけた。
このころから青森にクラシックを普及させたいという思いが募っていったという。有名なピアニストの演奏会も、古里では空席が目立つ。一方で東京では、そのチケットすらなかなか手に入らない。青森の友人は「敷居が高いから」と口にする。歯がゆい思いがした。
竹内さんはクラシックコンサートを聴いた後はいつも幸せな気持ちになる。会場を出る時には観客の会話に、電車の中では交わされる感想に、聞き耳を立てた。
「やっぱりクラシックは素晴らしい」
心の中で相づちを打った。
大学を卒業した05年、海外に留学する友人もいる中、迷わず古里に戻った。募る思いは4年間で一層強くなっていた。
画用紙に「ピアノ教室」と書き、自宅2階の窓に張った。すぐに近所の子どもがやって来た。60代の女性は「(独立した)子どもが家に残したピアノを弾いてみたい」と生徒になった。青森中央短大で非常勤講師としてピアノを教えたことも。
人づてで評判が広がった。ホテルのブライダルフェアやディナーショー、コンサートの伴奏などに声がかかるようになった。
さらに「気軽にクラシックを聴ける場所を提供したい」と先日、県のボランティアを支援する事業を活用したコンサートを初めて開いた。約100人が集まり曲を楽しんだ。
出演してくれる音楽家を集め、プログラム、チラシの構成などを一人で考えた。コンサートでは春をテーマに、テレビのCMなど聞き覚えのある曲を選んだ。
だが、ボランティア活動をするにも場所やメンバーの確保、練習用の会場の確保など悩みは尽きない。
「まずはできるところからやってきたい」。これからもっと幅広く活動していくつもりだ。青森にクラシックが根付くまで。
毎日新聞 2010年5月11日 地方版