クロマグロ:禁輸否決…日本、情報戦に勝利

2010年3月19日 22時9分 更新:3月20日 0時57分

大西洋クロマグロ禁輸案をめぐる構図 ※秘密投票につき一部は推定
大西洋クロマグロ禁輸案をめぐる構図 ※秘密投票につき一部は推定

 大西洋(地中海含む)クロマグロの国際取引禁止案は、ワシントン条約締約国会議の第1委員会で圧倒的な反対多数で否決された。日本は劣勢とみられたが、ふたを開けてみれば賛成票は可決に必要な有効票の3分の2に遠く及ばず、欧米メディアも「日本の明らかな勝利」と評価。予想を覆す結果は日本の周到な根回しに加え、自国産業への打撃を懸念する途上国の動きや「陰の主役」中国の影響力があった。

 ◇農相「勝てるなら一気に」

 「意見が出尽くしたのなら、直ちに採決すべきだ」。カタール・ドーハで18日午後(日本時間同日夜)に開かれた第1委員会。各国の意見表明が一巡したところで、マグロの蓄養が盛んなリビア代表が即時採決を求める動議を提出した。スーダンも同調し、採決の結果、賛成が72票と反対の53票を上回った。

 「5票以内ぐらいの差で決まる」。5日の会見で赤松広隆農相は情勢の厳しさを強調した。欧州連合(EU)加盟27カ国が禁輸賛成で足並みをそろえることが確実視されていたためだ。ケニアなどアフリカ23カ国も水面下で、EUに「象牙禁輸延長を支持すればクロマグロ禁輸に賛成する」と持ちかけており、否決に必要とみられる50票の確保は難しい情勢だった。

 水産庁は2月ごろから、OBら6人を政府顧問としてアフリカなど途上国を中心に派遣、多数派工作を展開した。しかし、顧問の一人は2月下旬、毎日新聞の取材に「漁業当局の人間は理解してくれても、それが政府全体の意見ではないことも多い」と漏らした。水産庁幹部は「終盤までもつれる」と長期戦を念頭に準備を進めていた。

 だが、サメ類の規制強化に関する議案が16日、日本やロシア、中東諸国などの反対により大差で否決されたことをきっかけに代表団は「この勢いならマグロ禁輸の否決も可能」との判断を強める。20日過ぎに米国が大型代表団を送り込み、多数派工作を始めるとの情報もキャッチすると、赤松農相は「おれが責任を取る。勝てるなら一気にやれ」と指示した。

 リビア動議の採択後、EU案、モナコ案が採決され、いずれも否決。モナコ案の投票総数は118で、反対した68カ国にはアフリカ諸国が目立った。一方、賛成票はEU加盟国数を下回り、棄権30カ国の多くが欧州諸国であることをうかがわせた。米国の多数派工作が成功し、アフリカ諸国などが賛成に回っていれば、禁輸が採択されかねない「薄氷の勝利」だった。

 採決の動議を提出したリビアなどに加え、同じアジアのマグロ漁業国である中国や韓国の存在も大きかった。特に中国は原油や鉱物など資源確保のため、アフリカを徹底支援。赤松農相は16日の会見で「中国も他の国に働きかけてくれている」と述べた。【行友弥、ブリュッセル福島良典】

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