ニューヨーク証券取引所(NYSE)はこの数年間、ハイブリッド型トレーディングを誇ってきた ─ 人間とコンピューターの双方の最善の部分を取り入れたモデルという。ただ、理論的には良さそうに聞こえるこのシステムは、常に機能するわけでは ない。6日の株価の乱高下がいい例だ。
6日の取引で株価が急落すると、このハイブリッドモデルは即座に動き始めた。NYSEは一部の銘柄についてコンピューター取引を停止し、人間(つまり、フロアトレーダー)の手に取引を委ねた。変動が大きい銘柄の適正価格を見つけるため ─ そして価格の急落に歯止めをかけるため ─ 取引を減速させる手法だ。
しかし、問題はNYSEがこのようなシステムを導入している唯一の取引所であることだ。NYSE以外のコンピューター化された取引所がトレーディングを継続したため、NYSEのフロアトレーダーらは、価格の変動を抑える本来の目的に反し、跳ね回るブロンコ(野生の馬)に跳び付くこうとするロデオ・コンテストの参加者のような役回りを演じることとなった。
各取引所と規制当局は今もって、問題を把握するための検証を続けている。NYSEは取引をスローダウンさせていなければ、状況ははるかに悪化していた可能性がある、との見方を示す。一方、競合する取引所は、NYSEのシステムは事態を悪化させただけと反論する。11日の議会公聴会を前に、各取引所の関係者は10日に証券取引委員会(SEC)当局者と協議する見通しだ。
NYSEユーロネクストのニーダーアウアー最高経営責任者(CEO)やナスダックOMXグループのグレイフェルドCEOを含む各取引所の責任者は、6日の秩序のない取引の責任を互いになすりつけ合った。ただ、いずれも価格の乱高下の原因を発見するために力をあわせるとしている。
一部の関係者は、異なる規則を持つ取引所を多く抱えることで、システムが寸断されてぜい弱になったと指摘する。
証券ブローカー、ホワイト・キャップ・トレーディングの幹部、ジェイミー・セルウェイ氏は現行の市場システムに内在する「もろさに関係者は驚いている」と述べた。
人間対コンピューターの議論において、ハイテク支持派はコンピューターの方が処理能力が速く、コストも安いと話す。これに対し、人間支持派は、経験を活かしてコンピューター(もしくはそのプログラマー)が間違いを犯した際に緊急ブレーキをかけることが可能、との見解を示す。
NYSEのハイブリッドシステムとその他の多くの取引所の電子システムが競合する現在の株取引の状況は、2007年のSEC規則の大幅改定後に生まれた。新たに導入されたレギュレーションNMSは、電子取引であれ、それ以外の取引であれ、独自の手法で顧客とビジネスを行う柔軟性を取引所に与えた。NYSEは同取引所に上場された優良株の取引をほぼ独占していたが、新規則でこうした状況が解消したことも特筆すべきことだ。
ゴールドマン・サックスとメリルチンチの幹部だったジョン・セイン氏に率いられたNYSEはこの時、ハイブリッドシステムを導入した。NYSEは、人間の介在は乱高下の抑制に役立つとしている。
NYSEのシステムは、同取引所が株取引の中心地であるかのごとく設計されているが、実際はそうではない。NYSE上場銘柄の取引シェアは数年前の80%から低下し、現在は30%を大きく下回る。ハイブリッドシステムは、孤立状態では機能する可能性があるが、他の市場で取引が続いていた6日の米東部時間午後2時40分から3時までの間、価格の下落を抑えるにはほぼ無力だったことを、シェア低下は意味している。
電子取引所BATSグローバル・マーケッツのジョー・ラッターマン会長兼CEOは市場関係者にあてた7日付の書簡で「NYSEのフロアモデルは、NYSEが同取引所の上場銘柄の取引をほぼ独占していた過去においては機能したかもしれない」とし、「同取引所のみが人間を介在させていることは価格変動を悪化させる可能性がある」と指摘した。