止まらない。中日が交流戦、無傷の4連勝だ。16日のオリックス戦(ナゴヤドーム)は、2勝目を挙げた先発の山内壮馬投手(24)が打っても活躍。4回1死満塁の好機に、木佐貫のワンバウンドのボールがバットに当たり、これが貴重な2点適時打となった。この勝利でチームは阪神を抜いて2位浮上。落合監督は節目の監督通算500勝まであと1勝とした。
型破りのプロ初安打だ。4回、敵も味方も目を疑った。打者・山内は1死満塁で登場。2ストライク1ボールからの4球目。木佐貫が投じたフォークはベースの手前で弾んだ。見逃せば“クソボール”。中途半端に手を出した山内本人さえも「ダメだと思った。バットが止まらなかった」。三振を覚悟した。
だが次の瞬間、出しかけたバットにバウンドしたボールがちょこんと当たった。フラフラ上がった打球は、あぜんとする木佐貫を置き去りにして前進守備のセカンド後藤の後ろへポトリ。打ち損ないが、追加点となる2点タイムリーに大化けした。
「ラッキーでした」と山内が無邪気に笑うのも無理はない。「高校時代は5番か6番を打っていました。打撃は好きですよ」とはいうものの、プロの1軍のゲームではこの日の第1打席まで9打数無安打。そんな男が神業級のヒットで試合を決めた。イチロー(マリナーズ)がオリックス時代に見せたような、ワンバウンド打ちだ。
試合後、落合監督は「あれは打ったんじゃない。当たっただけ」と苦笑いした。確かにヒットになったのは「偶然」。とはいえ、山内が本職の投手として、運を味方につけるピッチングをしていたのは事実だ。
内外角を広く使って打たせて取る投球はこの日もさえた。「シュートとスライダーをうまく投げ分けられた」。5回までは被安打2でつけいるスキすら与えない。
課題としている6回に突如ペースを乱して1点を失い「5回以降をもっとしっかり投げないと」と反省したが、それも“ご愛嬌(あいきょう)”。森ヘッドコーチは「合格点を与えられる」と評価した。
投げて打って破天荒なプレーぶりで2勝目を手に入れた。登板前には恒例の“必勝祈願”をしていた。練習が休みだった10日、山内は愛知県豊田市内の実家へ帰り、仏壇に手を合わせた。
「おばあちゃんの仏壇の前で手を合わせるんです。先発する日の前に欠かさずやるようにしているんです。やらないと気持ちが悪いんです」
山内が中学生のころ、父方の祖母が亡くなった。野球が好きで、幼少時から何度も応援に駆けつけてくれた。山内は現在、名古屋市内で暮らしているが、登板前には可能な限り実家へ戻って亡き祖母と向き合う。底抜けに明るい山内だが、こんなまじめな姿勢も躍進を支えている。
山内の投打にわたる奮闘で、チームは4月22日以来となる2位に浮上。貯金は今季最多の「6」に達した。さらに、落合監督の監督通算500勝にも“リーチ”がかかった。山内は「きょうはナゴヤドームで初めて勝てた。これからもずっと1軍にいたい」。大ブレークの気配漂う右腕が、竜をどんどん上昇気流に乗せていく。 (木村尚公)
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