「首相の約束」が、こんなに軽くてよいのだろうか。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について、重ねての約束破りである。
鳩山由紀夫首相は13日、繰り返し公言してきた移設問題の「5月末決着」に関して「できる限りのことはするが」「6月以降も詰める必要があるところがあれば努力する」と語った。事実上の断念である。
移設をめぐる「時期」は先送りの連続だった。首相は昨年、オバマ米大統領に年内決着を示唆し、不可能になると「5月末決着」を言明した。「3月末」とした政府案決定を見送る一方、「5月末」はオバマ大統領にも約束し、国民に対しては、決着とは米政府、移設先地元、連立与党が合意することだと明言してきた。そして今回の先送りである。
移設先も変心を重ねた。衆院選で「最低でも県外」と公約し、今年になっても県外移設を目指す考えを強調したあげく、「抑止力を学んだ」結果、今月に入って県内移設に転換した。しかも、かつての「移設先は(沖縄県名護市)辺野古以外に」という言葉も空証文となった。
最大の懸念は、普天間飛行場が継続使用となり、周辺住民の危険と騒音など生活被害が解決されないことである。これらの除去が普天間問題の原点だが、見通しは立っていない。
日米の実務者協議で、日本側が移設先を「辺野古周辺」とし、くい打ち桟橋方式で滑走路を建設する「現行案修正」を提示したのに対し、米側は「辺野古回帰」を評価しつつ、工法に難色を示した。何より、名護市が移設受け入れを拒否している。普天間の継続使用が現実味を増している。そうなれば海兵隊8000人のグアム移転も前提が崩れる。
政府は、鹿児島県・徳之島への基地機能の一部移転や国内自衛隊基地への訓練分散、在日米軍基地の土壌汚染など環境対策をはじめとする沖縄の負担軽減策を検討している。基地が集中する沖縄の負担軽減は当然だ。が、徳之島など想定される移転先が合意する展望は開けていない。
繰り返される先送りと迷走の主因は、「県外」を繰り返し主張しながら本格的な検討もせず、最大の政治課題でリーダーシップを発揮しないまま8カ月を浪費した首相の問題解決能力の欠如にある。今や、鳩山首相の言葉は羽根のように軽い。「首相の約束」をたがえ、政治への信頼を傷つけた政治責任は極めて重い。
野党5党は、衆参両院の予算委員会で普天間問題の集中審議を行うよう求めている。首相はこれに応じ、普天間移設をめぐる現状と今後の方針、さらには在日米軍、海兵隊の抑止力、自らの責任などについて明快に国民に語るべきである。
毎日新聞 2010年5月14日 東京朝刊