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「すずめ踊り」扇子は何本? 観光イベントに潜む矛盾 仙台

2010.5.13 03:29

 伊達政宗の命日(5月24日)にちなみ、今年は15、16日に開催される仙台市の「青葉まつり」。中でも、扇子2本で舞う「すずめ踊り」の競演は、メーンイベントとしてすっかり定着した。ところが、「正調雀(すずめ)踊保存会」を名乗り、扇子1本にこだわって踊る団体がある。前者が踊りの普及を理由に変化を求めれば、後者は伝統の継承を強調し相いれない。背景を探ると、観光イベントに潜む矛盾が浮かび上がってくる。(伊藤真呂武)

 「慶長8(1603)年、仙台城新築移転の儀式で、泉州・堺(現在の堺市)から来ていた石工らが即興で披露した」

 青葉まつりを主催する「仙台・青葉まつり協賛会」のホームページでは、すずめ踊りの由来がこう紹介されている。これに「伊達政宗の前で…」と付随されることも少なくない。

 名称については、伊達家の家紋が「竹に雀」であったこと、跳ねるように踊る姿が餌をついばむすずめに似ていたことなどと語られるのが一般的である。

 しかし、これらの根拠となる歴史的資料は存在せず、後付けであるという。市文化財課職員だった中富洋さんは平成16年、旧石切町(現在の仙台市青葉区八幡)を調査した報告書でこのように言及している。

 「地元の石工衆に伝承されていた『はねこ踊り』が昭和36年、中学校の体育の授業でアレンジして復活され、踊りの由来や『すずめ踊り』の名称もこの時期から語り始められたらしい」

 なぜ、50年前から広まった逸話が史実であるかのようにまかり通っているのか。答えを知るには、青葉まつりの成り立ちにさかのぼらなければならない。

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 協賛会によれば、明治以降、政宗を奉った青葉神社の春の大祭に合わせ、みこしを出していたが昭和40年代後半に途絶えていた。それを60年の政宗没後350年を機に復活させたのが青葉まつりなのである。

 もとより広告代理店主導で行われ、単発の観光イベントで終わるところだった。それではもったいないと、すずめ踊りを取り入れ、コンテストで競わせることで、市民参加のイベントへと変容させたという経緯をたどった。

 このとき、踊りの指導を仰いだのが、黒田虎雄さん。仙台城築城のため、泉州から移住したとされる石工衆の一人、黒田屋八兵衛の系譜を継ぐ石材店「黒田石材」の17代目で、50年前にはねこ踊りを復活させた張本人でもある。

 中富さんの報告書によれば、石工衆は昭和10年代ごろまで、地元の瀬田谷不動尊の例祭で神楽を奉納し、最後の演目がはねこ踊りだった。黒田さんは、当時の踊りを体で覚えている最後の伝承者といえる。

 すずめ踊りの逸話は、政宗や黒田さんの先祖、石工衆の神楽を掛け合わせて生まれたことが容易に想像できる。それは青葉まつりを普及させる協賛会にとっても都合が良かった。

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 さらに、普及のために踊りをアレンジする必要があった。その一つが、2本の扇子。協賛会は「はねこ踊りも即興で踊られており、少しずつ変化しておかしくない」と正当化。今では原型をまったくとどめていない踊り方も散見される。

 これに異を唱えるのが、黒田さんの二男で、正調雀踊保存会黒田屋会長の孝次さん(51)。しの笛の音色が響き渡り、太鼓のリズムが刻まれると、孝次さんが前傾姿勢を保ったまま跳ねるように踊り始めた。右手に握った扇子は時計回りに弧を描いていく。

 「私も父の踊りを見よう見まねで覚えた。ただ、これだけは守らなくてはいけないというものがある」と孝次さん。それが1本の扇子であり、扇子の回し方だという。孝次さんは、すずめ踊りとは一線を画しながらも、「まつりの中でも、本来はこういう踊り方だというのを伝えてほしい」と願って止まない。

 図らずも、中富さんはこう警鐘を鳴らしている。

 「主に自治体が主体となって進められる『まちおこし』や『観光』事業で、行事や祭礼などが持っている歴史的事実や正確な伝承が操作されていくことを危惧(きぐ)している」

【用語解説】正調雀踊黒田屋保存会

 平成12年の仙台開府400年記念事業で、伊達政宗が支倉常長らを派遣した「遣欧使節団」になぞらえ、「平成の遣欧使節団」がイタリアやバチカン市国を訪問。現地で黒田虎雄、孝次さん親子がはねこ踊りを披露したのを機に、後世に残そうと立ち上げた。

 その後、瀬田谷不動尊の例祭でも奉納を再開し、黒田家の出身地に近いとされる堺市とも交流している。メンバーは約10人。昨年10月に青葉神社の秋の例祭で初めて奉納し、現在は今月24、25日の春の大祭に向けて調整を進めている。

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