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社説

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国民投票法―拙速が生んだ「違法状態」

 異常な事態である。新しい法律が、「違法状態」のなかで施行されようとしている。

 憲法改正の手続きを定めた国民投票法が18日施行される。公布から3年とされた準備期間が終わるからだが、法で義務づけられていた準備が一向に進んでいない。いまのままでは国民投票はできない。「国民投票のできない国民投票法」という、わけのわからないものが世に出ることになる。

 片付けておかなければならなかった宿題は数多い。憲法改正原案を審議する場として憲法審査会が設けられたが、参院ではその規程ができていない。規程のある衆院でも委員は選ばれていない。原案が出てきても審議する場はないのが現状である。

 国民投票法が18歳以上に投票権を与えたのに合わせ、20歳以上に選挙権を与える公職選挙法や20歳を成年とする民法を改める。これは、準備期間のうちに終えるよう国民投票法の付則に明記された大きな宿題だったが、実現のめどは立っていない。

 投票率が低すぎる場合に無効とする最低投票率を導入するかどうかも、放置されたままの課題だ。

 多くを積み残しての施行は、無責任な見切り発車と言わざるを得ない。

 この背景には、法成立のいきさつが影を落としている。

 審議の過程で、自民、民主をはじめ与野党の実務者は互いに納得できる内容にしようと歩み寄りを重ねていた。だが、当時の安倍晋三首相は改憲を参院選の争点にしようと成立を急いだ。与野党協調は崩れ、民主党は最終的に採決で反対に回った。同法は2007年の参院選を前に成立したが、憲法をめぐる議論の機運は冷え込み、いまも空気は変わっていない。

 民主党政権の対応にも疑問はある。

 国民投票法は議員立法でできたが、公選法や民法の改正には内閣が責任を負う。定められた通り法改正を進めるか、間に合いそうにないというなら、投票法そのものの施行を延期するか。なんらかの形で違法状態を避けるのが筋ではなかったか。

 憲法改正のハードルはとても高い。国会の中でも国民との間でも、時間をかけて対話を重ね、幅広い合意を探っていく丁寧なプロセスが欠かせない。

 夏の参院選を前に、自民党は憲法改正原案を国会に出すことを検討している。選挙の争点にする狙いなのだろうが、改正論議を本気で進めようとするならむしろ逆効果だろう。

 議論を動かしたいのなら、まずは話し合える環境を整えることである。

 例えば、国民投票の制度設計だけを協議するため憲法審査会を始動させる。必要なら与野党合意で投票法を改正する。そこから始めるのも一案かもしれない。

企業決算―技術生かす経営革新を

 企業の3月期決算発表で業績の回復ぶりが鮮明になったとはいえ、上昇気流をつかむには、新時代に即した経営改革が問われている。

 東証1部上場企業は、全体で最終赤字に陥った1年前の奈落を脱し、黒字に転換した。売上高が減っても、利益が増えた例が目立つ。必死のリストラが奏功した。

 自動車、電機など輸出産業は新興国経済の活況からも恩恵を受けた。半面、小売りなど内需関連はデフレに苦しむ。円高や原材料高、政府による景気対策の効果の息切れなど心配の種は尽きない。

 それでも、前向きな設備投資や研究開発など「守りから攻めへ」の動きが広がり、今年度は本格的な増収増益への期待が高まる。

 順調にいくかどうかは、経済成長が勢いを増す新興国向けビジネスの成否にかかる。だが、日本企業は売れ筋の低価格品を作るのが苦手だ。そこを克服するには、経営の革新を大胆に進めなければならないだろう。

 すでに新興・途上国の市場で浸透しているのはサムスン電子など韓国企業だ。まねのできない面もあるが、学ぶべき点は多い。

 日本企業は独自開発した製品に機能を次々と加えて高級品を作ることに熱心だが、新興国市場をよく知る韓国企業は、高級品からどんな機能を除けば売れるかという「引き算の開発」に長じている。

 もちろん日本企業に強みはある。長年にわたる研究開発で生み出した独自技術の蓄積は大きい。だが、ここでも問題を直視しなければならない。

 DVDなど日本企業が特許の大半を握る製品でも、世界的な普及期に入るとアジア企業に押されて日本製のシェアが急落するパターンが繰り返されてきた。この結果、日本の産業に閉塞(へいそく)感や疲弊感すら漂う。

 技術の粋は半導体やパネルなど基幹部品に組み込まれるようになり、これらを買えば世界中どこで組み立てても品質にほとんど差が無くなってきた。このため、経費の安いアジア企業が特許料を払ってでも優位に立てる。同様の現象は太陽光発電など環境分野にも見られ、電気自動車でも起きるのではないかと警戒される。

 巻き返すには、技術を買いたたかれないための工夫をこらす必要がある。デジタルカメラの場合、日本企業独自の技術が1台の中に完結しており、他国の企業はまねができない。高収益で、国内工場も増えている。

 こうした事例を参考に、他の分野でも勝負どころの技術を特許や契約で守りつつ、世界市場で売る製品の開発戦略を磨いてほしい。

 知的財産戦略を軸に、もうかるビジネスモデルを再構築する時だ。

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