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社説:海底油田事故 海洋掘削の拡大は疑問

 米メキシコ湾の石油掘削施設の爆発事故にともなう原油流出が拡大している。1989年にアラスカ沖で発生したタンカー事故を上回る史上最悪の事故となるのではないかと懸念される。

 米国の油田開発は陸地から沖合に重点を移している。事故の起きたあたりでは昨年、石油メジャーのBPが米国の消費量の半年分の埋蔵量ともいわれる油田を見つけた。

 ただ、水深1500メートルの深海である。事故が起きれば対応は非常に難しい。だが、石油価格の上昇、エネルギー安全保障の要請から、いわばそれに目をつぶる形で開発が進んできた。掘削していたBPなどの責任は当然として、米政府も見通しが甘くなかったか、法や規制が適正だったか、厳しく問われる事態だ。

 事故のあった施設はルイジアナ州の沖合84キロのメキシコ湾上で、海底へ1500メートルのパイプを伸ばし油田探査を行っていた。その海上施設が4月20日夜、爆発炎上し作業員11人が死亡、施設は崩壊・水没した。

 これまでにロボットを使って海中の油井の弁を閉めようとしたり、金属製のテントをかぶせて原油を回収しようと試みたが、成果があがらなかった。新たに油井を掘って流出している油井の油圧を下げることなども検討されている模様だ。

 しかし、サラザール米内務長官は2日時点で「最終的な処理が終わるまで最長で90日かかる」との見通しを示しており、沿岸の環境・生態破壊、漁業や観光への被害はかつてない規模になるおそれがある。この一帯は世界有数の湿地帯が広がる水生動植物の楽園であり、同時に米国の水産物生産額の25%を産出する大漁場だ。

 今回の事故はまた、米国のポスト京都の対応にも微妙に影響しそうである。オバマ政権は3月、米議会で温暖化対策法案を通すため、保守派の懐柔を狙い海洋掘削の拡大を認めたばかりだった。

 これをうけて海洋掘削が一気に進みそうな矢先の事故だ。事故の原因が明確にならなければ、やみくもに開発を進めるわけにはいかない。米政府はすでに、月内の新規開発をストップした。温暖化対策法案には海洋掘削の拡大も含まれており、これを問題視する声が強まっている。

 米政府は石油の中東依存を減らしエネルギー安全保障を確保するためにも、海洋掘削が有効だとしている。しかし、沖合の新規油田から得られる石油は巨大な米国の石油消費に比べれば大きくはない。これ以上の海洋掘削は疑問だ。その努力を再生可能エネルギーの開発に向けるべきではないのか。世界のリーダーとして再考してもらいたい。

毎日新聞 2010年5月16日 2時31分

 

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