―突破口は、どこにあるでしょうか。
私は、あるとき一気に崩れるのではないか、と思っています。
今は、大企業の男の正社員という旧来の既得権を持つ人々が社会の主流派です。ですが、働いている人々の構成はどんどん変化しています。
例えば、この10年間で男性の非正規社員が一気に増えました。その理由の一つは、技術革新とりわけIT化です。それらは、長時間労働や体力を要求する仕事から、対人能力、文章表現能力、技術力、データ解析能力、創造的能力などを要求する仕事に、仕事の中身を変えました。これらの仕事には、女性の方が得意とするものがたくさんあります。
そうして、男性優位が崩れ、女性の活躍の場が広がります。つまり、労働市場を出たり入ったりする労働者が主流になる時代がきます。そのとき、彼女らが不利になるような労働条件の会社はだめになってしまいます。経営者も正社員も、能力ある非正規社員の労働条件を考慮せざる得なくなるでしょう。
―しかし、他方、ITを中心とする技術革新は、頭脳労働=高所得と単純労働=低所得という新たな二極化を生みます。例えば、コンビニの店員は、商品を店頭に陳列し、顧客が購入した商品をスキャンすることだけが仕事です。その商品データは本部に送られ、頭脳部隊によって分析され、戦略に生かされます。かつては、両者の間にさまざまな仕事がありました。商品の売れ具合をチェックし、受発注を行なうといった業務です。それらを、ITが代替しました。中間的仕事をITが中抜きした結果、労働者が二極化し、最初から単純労働に就いたものは、日々努力すれば習熟し、スキルが身に付き、給料も上がる、といった仕事が与えられる機会がなく、貧困に堕ちるという危険が高じています。
それは、認めざるを得ません。グローバリゼーションにも同じような問題があります。だからと言って、IT化もグローバリゼーションも避けることはできませんし、それらによって日本の社会全体が豊かになっていることは間違いありません。
とすれば、社会全体で彼らを助けなければなりませんし、IT化やグローバリゼーションのおかげで、私たちが彼らを助けてもお釣りがでるくらいの豊かさを手にしているのです。若者がコンビニの店員として生涯滞留してしまわないように、教育制度や職業訓練制度を工夫する必要があります。一方で、貧困対策として社会保障制度の充実が必要です。
IT化やグローバリゼーションの進展の光と影という観点からも、日本は「自由な市場経済+政府によるセーフティネット」という先進国の経済政策の常識を理解しなければならないのです。